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特表2023-547624液晶ポリマー組成物、物品及び製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-13
(54)【発明の名称】液晶ポリマー組成物、物品及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/04 20060101AFI20231106BHJP
   C08L 67/03 20060101ALI20231106BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20231106BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20231106BHJP
   C08K 3/38 20060101ALI20231106BHJP
   C08K 7/14 20060101ALI20231106BHJP
   C08G 63/60 20060101ALI20231106BHJP
【FI】
C08L67/04
C08L67/03
C08K3/013
C08K3/22
C08K3/38
C08K7/14
C08G63/60
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023525024
(86)(22)【出願日】2021-10-21
(85)【翻訳文提出日】2023-06-26
(86)【国際出願番号】 EP2021079214
(87)【国際公開番号】W WO2022090051
(87)【国際公開日】2022-05-05
(31)【優先権主張番号】63/105,416
(32)【優先日】2020-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】21150658.9
(32)【優先日】2021-01-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512323929
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ ユーエスエー, エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】アニム-ダンソ, エマニュエル
【テーマコード(参考)】
4J002
4J029
【Fターム(参考)】
4J002CF161
4J002DE107
4J002DK007
4J002DL006
4J002FA046
4J002FD016
4J002FD017
4J002GN00
4J002GQ00
4J029AA02
4J029AA04
4J029AA05
4J029AA07
4J029AB01
4J029BB04A
4J029BB05A
4J029BB09A
4J029BB10A
4J029BB13A
4J029BB13B
4J029BC05A
4J029BC06A
4J029BF13
4J029BH02
4J029CB05A
4J029CB06A
4J029CB10A
4J029CB12A
4J029CC05A
4J029CC06A
4J029CF08
4J029CH02
4J029DB07
4J029DB11
4J029EB04A
4J029EB05A
4J029EB08
4J029EC05A
4J029EC06A
4J029JB171
4J029JF041
4J029JF131
4J029KD02
4J029KD07
4J029KE02
4J029KE05
(57)【要約】
少なくとも20重量%の液晶ポリマー(「LCP」)と、10重量%~40重量%の扁平ガラス繊維と、15重量%~50重量%の窒化ホウ素及び/又は酸化亜鉛とを含有するポリマー組成物が本明細書において記載される。扁平ガラス繊維と窒化ホウ素及び/又は酸化亜鉛との組合せと共にLCPを含有するポリマー組成物は、扁平ガラス繊維の代わりに円形ガラス繊維を有する類似したポリマー組成物に対して、改良された熱伝導率及び曲げ特性を有することが驚くべきことに発見された。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー組成物であって、
- 以下のモノマー:テレフタル酸、芳香族ジオール、第1の芳香族ジカルボン酸、芳香族ヒドロカルボン酸の重縮合から形成される液晶ポリマー(「LCP」)少なくとも20重量%と、
- 扁平ガラス繊維10重量%~40重量%と、
- 窒化ホウ素及び酸化亜鉛の全濃度が15重量%~50重量%である、窒化ホウ素及び/又は酸化亜鉛とを含む、ポリマー組成物。
【請求項2】
前記芳香族ジオールが4,4’-ビフェノールであり、前記芳香族ヒドロカルボン酸が4-ヒドロキシ安息香酸であり、前記第1の芳香族ジカルボン酸がイソフタル酸である、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項3】
前記酸化亜鉛を含まない、請求項1又は2に記載のポリマー組成物。
【請求項4】
前記窒化ホウ素を含まない、請求項1又は2に記載のポリマー組成物。
【請求項5】
窒化ホウ素及び酸化亜鉛を含む、請求項1又は2に記載のポリマー組成物。
【請求項6】
窒化ホウ素の、酸化亜鉛に対する相対濃度が0.5~2である、請求項5に記載のポリマー組成物。
【請求項7】
ASTM E1461-13に従ってレーザーフラッシュによって測定される、0.20W/m-K~0.9W/m-kの面貫通熱伝導率を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
【請求項8】
ASTM D790に従って100MPa~250MPの曲げ強さを有する、請求項1~7のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
【請求項9】
ASTM D790に従って測定される100MPa~190MPaの曲げ歪を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
【請求項10】
ASTM D3835に従って測定される、100s-1の剪断速度において90Pa・s~300Pa・s、500s-1の剪断速度において35Pa・s~150Pa・s、又は1000s-1の剪断速度において25Pa・s~100Pa・sの見掛粘度を有する、請求項1~9のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
【請求項11】
円形ガラス繊維を含まない、請求項1~10のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
【請求項12】
電気部品である、請求項1~11のいずれか一項に記載のポリマー組成物を含む物品。
【請求項13】
電気モーター部品である、請求項12に記載の物品。
【請求項14】
スロットライナーである、請求項12又は13に記載の物品。
【請求項15】
自動車部品、航空宇宙部品及び船舶部品からなる群から選択される、請求項12~14のいずれか一項に記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2020年10月26日出願の米国特許第63/105416号及び2021年1月8日出願の欧州特許第21150658.9号に対する優先権を主張するものであり、これらの出願のそれぞれの全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
ポリマー組成物が提供される。ポリマー組成物はすぐれた熱伝導率を有し、液晶ポリマー(「LCP」)、扁平ガラス繊維、及び窒化ホウ素及び酸化亜鉛のどちらか又は両方を含む。ポリマー組成物を導入する物品並びにポリマー組成物及び物品の製造方法もまた提供される。
【背景技術】
【0003】
電気部品の電力密度が増加するとき、少なくとも一つには電流キャリアの抵抗のために、電気部品の熱出力もまた増加する。結果は、電気部品の著しく増加した蓄熱である。例えば、より高い能力を発揮する車に対する消費者需要の増加に伴って、電気車(例えば自動車、モーターサイクル、船及び飛行機)のための電気モーターの電力密度を増加させる要求が継続的に高まっている。しかしながら、電力密度が増加するとき、電気モーター内の及びその周りの蓄熱も増加し、これはモーター効率を著しく低下させ得る。
【発明の概要】
【0004】
第1の態様において、は、以下のモノマー:テレフタル酸、芳香族ジオール、第1の芳香族ジカルボン酸、芳香族ヒドロカルボン酸の重縮合から形成される液晶ポリマー(「LCP」)と、10重量%~40重量%の扁平ガラス繊維と、窒化ホウ素及び酸化亜鉛の全濃度が15重量%~50重量%である、窒化ホウ素及び/又は酸化亜鉛とを含むポリマー組成物が提供される。いくつかの実施形態では、芳香族ジオールが4,4’-ビフェノールであり、芳香族ヒドロカルボン酸が4-ヒドロキシ安息香酸であり、第1の芳香族ジカルボン酸がイソフタル酸である。
【0005】
いくつかの実施形態では、ポリマー組成物は酸化亜鉛を含まない。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物は窒化ホウ素を含まない。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物は窒化ホウ素及び酸化亜鉛を含む。このような一実施形態では、窒化ホウ素の、酸化亜鉛に対する相対濃度が0.5~2である。
【0006】
いくつかの実施形態では、ポリマー組成物は、ASTM E1461-13に従って測定される0.20W/m-K~0.9W/m-kの面貫通熱伝導率を有する。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物は、ASTM D790に従って100MPa~250MPの曲げ強さを有する。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物は、ASTM D790に従って測定される100MPa~190MPaの曲げ歪を有する。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物は、ASTM D3835に従って測定されるとき、100s-1の剪断速度において90Pa・s~300Pa・s;500s-1の剪断速度において35Pa・s~150Pa・s、又は1000s-1の剪断速度において25Pa・s~100Pa・sの見掛粘度を有する。
【0007】
いくつかの実施形態では、ポリマー組成物は円形ガラス繊維を含まない。
【0008】
別の態様において、電気部品である、ポリマー組成物を含む物品が提供される。いくつかの実施形態では、物品は、電気モーター部品である。いくつかの実施形態では、本物品はスロットライナーである。いくつかの実施形態では、物品は、自動車部品、航空宇宙部品及び船舶部品からなる群から選択される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
少なくとも20重量%の液晶ポリマー(「LCP」)と、10重量%~40重量%の扁平ガラス繊維と、15重量%~50重量%の窒化ホウ素及び/又は酸化亜鉛とを含有するポリマー組成物が本明細書において記載される。扁平ガラス繊維と窒化ホウ素及び/又は酸化亜鉛との組合せと共にLCPを含有するポリマー組成物は、扁平ガラス繊維の代わりに円形ガラス繊維を有する類似したポリマー組成物に対して、改良された熱伝導率及び曲げ特性を有することが驚くべきことに発見された。本明細書で用いるところでは、重量%(「wt.%」)は、特に明記しない限り、ポリマー組成物の総重量に対するものである。
【0010】
任意の記載が、具体的な実施形態に関連して記載されるとしても、本開示の他の実施形態に当てはまる及びそれらと置き換え可能であり、要素又は成分が、列挙された要素又は成分のリストに含まれる及び/又はそのリストから選択されると言われる場合、本出願で明確に熟慮される関連実施形態では、要素又は成分は、また、個別の列挙された要素若しくは成分の任意の1つであることができるか、或いは明確にリストアップされた要素若しくは成分の任意の2つ以上からなる群から選択することもでき;要素又は成分のリストに列挙されたいかなる要素又は成分も、そのようなリストから省略され得;終点による数値範囲の本明細書におけるいかなる列挙も、列挙された範囲内に含まれる全ての数値、並びに範囲の終点及び同等のものを含む。
特に具体的に限定しない限り、用語「アルキル」並びに「アルコキシ」、「アシル」及び「アルキルチオ」などの派生用語は、本明細書で用いる場合、それらの範囲内に直鎖、分岐鎖及び環状部分を含む。アルキル基の例は、メチル、エチル、1-メチルエチル、プロピル、1,1ジメチルエチル、及びシクロプロピルである。
【0011】
特に具体的に記述しない限り、各アルキル及びアリール基は、非置換であっても、ハロゲン、ヒドロキシ、スルホ、C1~C6アルコキシ、C1~C6アルキルチオ、C1~C6アシル、ホルミル、シアノ、C6~C15アリールオキシ又はC6~C15アリールから選択されるが、それらに限定されない1つ以上の置換基で置換されていてもよく、但し、置換基が立体的に適合性であり、且つ化学結合及び歪みエネルギーの規則が満たされていることを条件とする。用語「ハロゲン」又は「ハロ」には、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素が含まれ、フッ素が好ましい。
【0012】
同様に、特に具体的に限定しない限り、用語「アリール」は、フェニル、インダニル又はナフチル基を指す。アリール基は、1つ以上のアルキル基を含み得、この場合に「アルキルアリール」と呼ばれることもあり;例えば芳香族基と、2つのC1~C6基(例えば、メチル又はエチル)とから構成され得る。アリール基は、また、1つ以上のヘテロ原子、例えば、N、O又はSを含み得、この場合に「ヘテロアリール」基と呼ばれることもあり;これらのヘテロ芳香環は、他の芳香族系と縮合し得る。そのようなヘテロ芳香環には、フラニル、チエニル、ピロリル、ピラゾリル、イミダゾリル、トリアゾリル、イソオキサゾリル、オキサゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、ピリジル、ピリダジル、ピリミジル、ピラジニル及びトリアジニル環構造が含まれるが、それらに限定されない。アリール又はヘテロアリール置換基は、非置換であっても、ハロゲン、ヒドロキシ、C1~C6アルコキシ、スルホ、C1~C6アルキルチオ、C1~C6アシル、ホルミル、シアノ、C6~C15アリールオキシ又はC6~C15アリールから選択されるが、それらに限定されない1つ以上の置換基で置換されていてもよく、但し、置換基が立体的に適合性であり、且つ化学結合及び歪みエネルギーの規則が満たされていることを条件とする。
【0013】
ポリマー組成物
ポリマー組成物は、LCPと、10重量%~40重量%の扁平ガラス繊維と、15重量%~50重量%の窒化ホウ素及び/又は酸化亜鉛とを含有する。扁平ガラス繊維と窒化ホウ素及び/又は酸化亜鉛との組合せと共にLCPを含有するポリマー組成物は驚くべきことに、扁平ガラス繊維の代わりに円形ガラス繊維を有する類似したポリマー組成物に対して、改良された熱伝導率及び曲げ特性を有する。更に、いくつかの実施形態では、ポリマー組成物は、薄肉物品の射出成形のための特に望ましい見掛粘度を有した。
【0014】
ポリマー組成物は、驚くべき改良された熱伝導率を有した。上記の通り、高電力密度の電気部品用途(例えば電気車のための電気モーター)において特に、著しく増加した熱出力があり、それは電気部品内に及びその周りに蓄熱をもたらす。したがって、これに伴い、冷却を改良する必要がある。本明細書に記載されるポリマー組成物は、電気モーター部品から熱を伝導するのを助ける著しく改良された熱伝導率を有する。もちろん、同じことが、かなりの電流を送るか又は大きい電力密度要件を有する任意の物品(例えば電源)に当てはまる。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物は、少なくとも0.20ワット/メートルケルビン(「W/m-K」)、少なくとも0.25W/m-K、少なくとも0.3W/m-K、少なくとも0.35W/m-K、少なくとも0.4W/m-K、少なくとも0.45W/m-K、少なくとも0.5W/m-K、少なくとも0.55W/m-K又は少なくとも0.6W/m-Kの面貫通熱伝導率を有する。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物は、0.9W/m-K以下又は0.85W/m-K以下の面貫通熱伝導率を有する。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物は、0.2W/m-K~0.9W/m-K、0.25W/m-K~0.9W/m-K、0.3W/m-K~0.9W/m-K、0.35W/m-K~0.9W/m-K、0.4W/m-K~0.9W/m-K、0.45W/m-K~0.9W/m-K、0.5W/m-K~0.9W/m-K、0.55W/m-K~0.9W/m-K又は0.6W/m-K~0.9W/m-Kの面貫通熱伝導率を有する。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物は、0.2W/m-K~0.85W/m-K、0.25W/m-K~0.85W/m-K、0.3W/m-K~0.85W/m-K、0.35W/m-K~0.85W/m-K、0.4W/m-K~0.85W/m-K、0.45W/m-K~0.85W/m-K、0.5W/m-K~0.85W/m-K、0.55W/m-K~0.85W/m-K又は0.6W/m-K~0.85W/m-Kの面貫通熱伝導率を有する。面貫通熱伝導率は、実施例の項に記載されている通りに測定することができる。
【0015】
また、ポリマー組成物は強化された曲げ特性を示した。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物は、100MPa~250MPa、120MPa~250MPa、130MPa~250MPa、140MPa~250MPa、150MPa~250MPaの破断点引張強さ(「引張強さ」)を有する。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物は、100MPa~250MPa、120MPa~220MPa、130MPa~220MPa、140MPa~220MPa又は150MPa~220MPaの引張強さを有する。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物は、100MPa~200MPa、120MPa~200MPa、130MPa~200MPa、140MPa~200MPa又は150MPa~200MPaの引張強さを有する。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物は、100MPa~190MPa、120MPa~190MPa、130MPa~190MPa、140MPa~190MPa又は150MPa~190MPaの引張強さを有する。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物は、1%~3%、1.5%~3%又は1.8%~3%の破断点引張歪(「引張歪」)を有する。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物は、1%~2.5%、1.5%~2.5%又は1.8%~2.5%の引張歪を有する。引張強さ及び引張伸びは、実施例の項に記載されている通りに測定することができる。
【0016】
いくつかの実施形態では、ポリマー組成物は、100秒-1、(「s-1」)の剪断速度において90Pa・s~300Pa・s、120Pa・s~300Pa・s又は150Pa・s~300Pa・sの見掛粘度(「η」)を有する。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物は、100s-1の剪断速度において90Pa・s~250Pa・s、120Pa・s~250Pa・s又は150Pa・s~250Pa・sのηを有する。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物は、500s-1の剪断速度において35Pa・s~150Pa・s、70Pa・s~150Pa・s、35Pa・s~120Pa・s、又は70Pa・s~120Pa・sのηを有する。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物は、1000s-1の剪断速度において25Pa・s~100Pa・s、50Pa・s~100Pa・s、25Pa・s~90Pa・s又は50Pa・s~90Pa・sのηを有する。ηは、実施例の項に記載の通りに測定することができる。
【0017】
いくつかの実施形態では、ポリマー組成物は、少なくとも300℃、少なくとも320℃、又は少なくとも340℃の融解温度(「Tm」)を有する。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物は、430℃以下、410℃以下、又は400℃以下のTmを有する。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物は、300℃~430℃、320℃~410℃、又は340℃~400℃のTmを有する。Tmは、ASTM D3418に従って測定することができる。
【0018】
液晶ポリマー
LCPは、以下のモノマー:テレフタル酸、芳香族ジオール、テレフタル酸と異なる第1の芳香族ジカルボン酸、及び芳香族ヒドロキシカルボン酸の重縮合から形成される。いくつかの実施形態では、第1の芳香族ジカルボン酸及び芳香族ヒドロキシカルボン酸の少なくとも1つがナフチル基を含まない。
【0019】
いくつかの実施形態では、芳香族ジオールは、以下の式の群:
HO-Ar-OH、及び(1)
HO-Ar-T-Ar-OH、(2)
(式中、Ar~Arは、ハロゲン、C~C15アキル(akyl)、及びC~C15アリールからなる群から選択される1つ以上の置換基で任意選択的に置換された、C~C30アリール基から独立して選択され;Tは、結合、O、S、-SO-、-C(=O)-、及びC~C15アキル(akyl)からなる群から選択される)
から選択される式で表される。いくつかの実施形態では、芳香族ジオールは、1,3-ジヒドロキシベンゼン、1,4-ジヒドロキシベンゼン、2,5-ビフェニルジオール、4,4’-ビフェノール、4,4’-(プロパン-2,2-ジイル)ジフェノール、4,4’-(エタン-1,2-ジイル)ジフェノール、4,4’-メチレンジフェノール、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタノン、4,4’-オキシジフェノール、4,4’-スルホニルジフェノール、4,4’-チオジフェノール、ナフタレン-2,6-ジオール、及びナフタレン-1,5-ジオールからなる群から選択される。好ましくは、芳香族ジオールは4,4’-ビフェノールである。
【0020】
いくつかの実施形態では、第1の芳香族ジカルボン酸は、以下の式の群:
HOOC-Ar-COOH、及び(3)
HOOC-Ar-T-Ar-COOH、(4)
(式中、Ar~Arは、上記のように与えられ、独立して選択され;Tは、結合、O及びSから選択される)
から選択される式で独立して表される。いくつかの実施形態では、第1の芳香族ジカルボン酸は、イソフタル酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、4,4’-オキシ二安息香酸、4,4’-(エチレンジオキシ)二安息香酸、4,4’-スルファンジイル二安息香酸、ナフタレン-2,6-ジカルボン酸、ナフタレン-1,4-ジカルボン酸、ナフタレン-1,5-ジカルボン酸、及びナフタレン-2,3-ジカルボン酸からなる群から選択される。好ましくは、第1の芳香族ジカルボン酸は、イソフタル酸、ナフタレン-2,6-ジカルボン酸、ナフタレン-1,4-ジカルボン酸、ナフタレン-1,5-ジカルボン酸、及びナフタレン-2,3-ジカルボン酸からなる群から選択される。最も好ましくは、第1の芳香族ジカルボン酸はイソフタル酸である。
【0021】
いくつかの実施形態では、芳香族ヒドロキシカルボン酸は、
HO-Ar-COOH、及び(5)
HO-Ar-Ar-COOH、(6)
(式中、Ar~Arは、上で与えられており、独立して選択される)
からなる群から選択される式で表される。いくつかの実施形態では、芳香族ヒドロキシカルボン酸は、4-ヒドロキシ安息香酸、3-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、6-ヒドロキシ-1-ナフトエ酸、2-ヒドロキシ-1-ナフトエ酸、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、5-ヒドロキシ-1-ナフトエ酸、及び4’-ヒドロキシ-[1,1’-ビフェニル]-4-カルボン酸からなる群から選択される。好ましくは、芳香族ヒドロキシカルボン酸は、4-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、6-ヒドロキシ-1-ナフトエ酸、2-ヒドロキシ-1-ナフトエ酸、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、及び5-ヒドロキシ-1-ナフトエ酸からなる群から選択される。最も好ましくは、芳香族ヒドロキシカルボン酸は4-ヒドロキシ安息香酸である。
【0022】
いくつかの実施形態では、前述のモノマーから形成されるLCPは、繰り返し単位RLCP1~RLCP4を有する。繰り返し単位RLCP1は、以下の式:
【化1】
繰り返し単位RLCP2は、以下の式:
-[-O-Ar-O-]-、及び(8)
-[-O-Ar-T-Ar-O-]-;(9)
のどちらか1つで表され、
繰り返し単位RLCP3は、以下の式:
-[-OC-Ar-CO-]-、及び(10)
-[-OC-Ar-T-Ar-CO-]-;及び(11)
のどちらか1つで表され、
繰り返し単位RLCP4は、以下の式:
-[-O-Ar-CO-]-、及び(12)
-[-O-Ar-Ar-CO-]-(13)
のどちらか1つで表され、
式中、Ar~Ar、T及びTは、上で与えられており、独立して選択される。当業者は、式(7)に従ったRLCP1がテレフタル酸から形成され;式(8)及び(9)に従ったRLCP2が、それぞれ、式(1)及び(2)に従ったモノマーから形成され;式(10)及び(11)に従ったRLCP3が、それぞれ、式(3)及び(4)に従ったモノマーから形成され;式(12)及び(13)に従ったRLCP4が、式(5)及び(6)に従ったモノマーから形成されることを認識するであろう。したがって、式(1)~(6)のモノマーについてのAr~Ar、T及びTの選択は、また、繰り返し単位RLCP2~RLCP4についてのAr~Ar、T及びTを選択する。好ましくは、繰り返し単位RLCP1~RLCP4は、それぞれ、テレフタル酸、4,4’-ビフェノール、イソフタル酸、及び4-ヒドロキシ安息香酸の重縮合から形成される。
【0023】
いくつかの実施形態では、繰り返し単位RLCP1~RLCP4の合計濃度は、少なくとも50モル%、少なくとも60モル%、少なくとも70モル%、少なくとも80モル%、少なくとも90モル%、少なくとも95モル%、少なくとも99モル%、又は少なくとも99.9モル%である。いくつかの実施形態では、テレフタル酸の濃度は、5モル%~30モル%、好ましくは10モル%~20モル%である。いくつかの実施形態では、芳香族ジオールの濃度は、10モル%~30モル%、好ましくは15モル%~25モル%である。いくつかの実施形態では、第1の芳香族ジカルボン酸の濃度は、1モル%~20モル%、好ましくは1モル%~10モル%である。いくつかの実施形態では、芳香族ヒドロカルボン酸の濃度は、35モル%~80モル%、好ましくは45モル%~75モル%、最も好ましくは50モル%~17モル%である。いくつかの実施形態では、RLCP1~RLCP4は、それぞれ、テレフタル酸、4,4’-ビフェノール、イソフタル酸及び4-ヒドロキシ安息香酸に由来し、ここで、各繰り返し単位についての濃度範囲は、上で与えられた範囲内である。本明細書で用いるところでは、各々の繰り返し単位のモル%は、特に明記しない限り、ポリマー中の繰り返し単位の総モル数に対するものである。明確にするために、「に由来する」は、例えば、式1~6と8~13との間の関係に関して上で記載されたような、列挙されたモノマーの重縮合から形成される繰り返し単位を指す。
【0024】
いくつかの実施形態では、LCPは、少なくとも310℃、少なくとも320℃、又は少なくとも330℃のTmを有する。いくつかの実施形態では、LCPは、390℃以下、380℃以下、又は370℃以下のTmを有する。いくつかの実施形態では、LCPは、310℃~390℃、320℃~380℃、又は330℃~370℃のTmを有する。
【0025】
いくつかの実施形態では、LCPは、少なくとも5,000g/molの数平均分子量(「Mn」)を有する。いくつかの実施形態では、LCPは、20,000g/mol以下のMnを有する。いくつかの実施形態では、LCPは、5,000g/mol~20,000g/molのMnを有する。数平均分子量Mnは、ASTM D5296に従って及びヘキサフルオロプロパノール溶媒及びポリ(メチルメタクリレート)標準を使用してゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定することができる。
【0026】
いくつかの実施形態では、ポリマー組成物中のLCP濃度は、少なくとも20重量%、少なくとも30重量%、少なくとも35重量%、又は少なくとも40重量%である。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物中のLCP濃度は、80重量%以下、75重量%以下又は70重量%以下である。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物中のLCP濃度は、30重量%~80重量%、30重量%~75重量%又は30重量%~70重量%である。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物中のLCP濃度は、35重量%~80重量%、35重量%~75重量%又は35重量%~70重量%である。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物中のLCP濃度は、40重量%~80重量%、40重量%~75重量%又は40重量%~70重量%である。
【0027】
本明細書で記載されるLCPは、LCPの合成に適応した任意の従来法によって調製することができる。
【0028】
窒化ホウ素又は酸化亜鉛
ポリマー組成物は窒化ホウ素及び/又は酸化亜鉛を含む。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物は窒化ホウ素又は酸化亜鉛のどちらかを含む。このような一実施形態では、ポリマー組成物は窒化ホウ素を含み、酸化亜鉛を含まない。他の実施形態では、ポリマー組成物は酸化亜鉛を含み、窒化ホウ素を含まない。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物は窒化ホウ素及び酸化亜鉛の両方を含む。本明細書中で用いられるとき及び特に明記しない限り、成分「を含まない(free of)」は、ポリマー組成物中の成分の濃度が1重量%以下、0.5重量%以下、0.1重量%以下又は0.05重量%以下であることを意味する。
【0029】
ポリマー組成物中の窒化ホウ素及び酸化亜鉛の全濃度は、15重量%~50重量%である。いくつかの実施形態では、窒化ホウ素及び酸化亜鉛の全濃度は、少なくとも20重量%である。いくつかの実施形態では、窒化ホウ素及び酸化亜鉛の全濃度は、45重量%以下又は40重量%以下である。いくつかの実施形態では、窒化ホウ素及び酸化亜鉛の全濃度は、15重量%~45重量%又は15重量%~40重量%である。いくつかの実施形態では、窒化ホウ素及び酸化亜鉛の全濃度は、20重量%~50重量%、20重量%~45重量%又は20重量%~40重量%である。窒化ホウ素及び酸化亜鉛の両方を含む実施形態では、窒化ホウ素の、酸化亜鉛に対する相対濃度(ポリマー組成物中の窒化ホウ素の重量/ポリマー組成物中の酸化亜鉛の重量)は0.5~2、0.75~1.3、0.80~1.2又は0.90~1.1である。窒化ホウ素又は酸化亜鉛のどちらかを含む実施形態では、窒化ホウ素濃度又は酸化亜鉛の濃度は、それぞれ、窒化ホウ素及び酸化亜鉛の全濃度に対して上に提供されたものと同じ範囲内である。
【0030】
フラットガラス繊維
ポリマー組成物は、扁平ガラス繊維を更に含む。ガラス繊維は、様々なタイプのガラスをもたらすように調整することができるいくつかの金属酸化物を含むシリカ系ガラス化合物である。主な酸化物は、ケイ砂の形態のシリカであり、カルシウム、ナトリウム及びアルミニウムなどの他の酸化物は、溶融温度を低下させ、結晶化を妨げるために組み込まれる。ガラス繊維は、エンドレス繊維又はチョップドガラス繊維として添加され得る。A、C、D、E、M、S、R、Tガラス繊維などの全てのガラス繊維のタイプ(Additives for Plastics Handbook,2nd ed,John Murphyの5.2.3章、第43~48頁に説明されている)、又はそれらの任意の混合物又はそれらの混合物を用いることができる。例えば、R、S及びTガラス繊維は、典型的には、ASTM D2343に従って測定して少なくとも76、好ましくは少なくとも78、より好ましくは少なくとも80、最も好ましくは少なくとも82GPaの弾性モジュラスを有する高モジュラスガラス繊維である。
【0031】
E、R、S及びTガラス繊維は、当技術分野で周知である。それらは、特に、Fiberglass and Glass Technology,Wallenberger,Frederick T.;Bingham,Paul A.(Eds.),2010,XIV,chapter 5,pages197-225に記載されている。R、S及びTガラス繊維は、ケイ素、アルミニウム及びマグネシウムの酸化物から本質的に構成される。特に、それらのガラス繊維は典型的には、ガラス繊維の全重量を基準として、62~75重量%のSiO2、16~28重量%のAl2O3及び5~14重量%のMgOを含む。ポリマー組成物中に広く使用される通常のE-ガラス繊維に反して、R、S及びTガラス繊維は、10重量%未満のCaOを含む。
【0032】
一般に、ガラス繊維は、少なくとも5、少なくとも10、少なくとも20又は少なくとも50の、長さと幅及び厚さの最大のものとの間の平均比として定義されるアスペクト比を有する。いくつかの実施形態では、ガラス繊維は、3mm~50mmの平均長さを有する。いくつかのそのような実施形態では、ガラス繊維は、3mm~10mm、3mm~8mm、3mm~6mm、又は3mm~5mmの平均長さを有する。代わりの実施形態では、ガラス繊維は、10mm~50mm、10mm~45mm、10mm~35mm、10mm~30mm、10mm~25mm又は15mm~25mmの平均長さを有する。ガラス繊維の平均長さは、ポリマー組成物に組み入れられる前のガラス繊維の平均長さとして考えることができるか或いはポリマー組成物中のガラス繊維の平均長さとして考えることができる。
【0033】
扁平ガラス繊維は、卵形、楕円又は矩形などの非円形断面を有するガラス繊維である。
【0034】
いくつかの実施形態では、ガラス繊維は、少なくとも15μm、好ましくは少なくとも20μm、より好ましくは少なくとも22μm、より一層好ましくは少なくとも25μmの断面最長径を有する。更に又は代わりに、いくつかの実施形態では、ガラス繊維は、最大で40μm、好ましくは最大で35μm、より好ましくは最大で32μm、より一層好ましくは最大で30μmの断面最長径を有する。いくつかの実施形態では、ガラス繊維は、15μm~35μm、好ましくは20μm~30μm、より好ましくは25μm~29μmの断面最長径を有する。いくつかの実施形態では、ガラス繊維は、少なくとも4μm、好ましくは少なくとも5μm、より好ましくは少なくとも6μm、より一層好ましくは少なくとも7μmの断面最短径を有する。更に又は代わりに、いくつかの実施形態では、ガラス繊維は、最大で25μm、好ましくは最大で20μm、より好ましくは最大で17μm、より一層好ましくは最大で15μmの断面最短径を有する。いくつかの実施形態では、ガラス繊維は、5μm~20μm、好ましくは5μm~15μm、より好ましくは7μm~11μmの断面最短径を有する。いくつかの実施形態では、ガラス繊維は、少なくとも2、好ましくは少なくとも2.2、より好ましくは少なくとも2.4、より一層好ましくは少なくとも3のアスペクト比を有する。アスペクト比は、ガラス繊維の断面における最長直径と、その最短直径との比として定義される。いくつかの実施形態では、ガラス繊維は、最大で8、好ましくは最大で6、より好ましくは最大で4のアスペクト比を有する。いくつかの実施形態では、ガラス繊維は、2~6、好ましくは、2.2~4のアスペクト比を有する。
【0035】
ガラス繊維の断面の形状、その長さ、その断面直径及びそのアスペクト比は、光学顕微鏡法を使用して容易に決定することができる。例えば、繊維断面のアスペクト比は、Euromex光学顕微鏡及び画像解析ソフトウェア(Image Focus 2.5)を使用して、繊維断面の最長(幅)及び最小(高さ)寸法を測定し、1番目の数を2番目の数で除すことによって決定することができる。
【0036】
いくつかの実施形態では、ガラス繊維は、ASTM C1557-03に従って測定して少なくとも76GPa、好ましくは少なくとも78、より好ましくは少なくとも80、更により好ましくは少なくとも82、最も好ましくは少なくとも84GPaの弾性モジュラスを有する。いくつかの実施形態では、ガラス繊維は、ASTM C1557-03に従って測定して少なくとも3.5GPa、好ましくは少なくとも3.6、より好ましくは少なくとも3.7、更により好ましくは少なくとも3.8、最も好ましくは少なくとも3.9GPaの引張強さを有する。弾性モジュラス及び引張強さのこのレベルは典型的には、ガラス繊維を製造するために使用されるガラスの特定の化学組成を使用する場合に達せられる。ガラスは、異なるタイプのガラスを生成させるために調整され得るいくつかの金属酸化物を含有するシリカ系ガラス化合物である。主な酸化物は珪砂の形態のシリカであり、カルシウム、ナトリウム及びアルミニウムなどの他の酸化物を導入して融解温度を低下させ、結晶化を妨げる。Alの高負荷を有するガラスを使用する場合、それから誘導されるガラス繊維は高い弾性モジュラスを示すことが当技術分野において周知である。特に、それらのガラス繊維は典型的には、ガラス組成物の全重量を基準として、55~75重量%のSiO、16~28重量%のAl及び5~14重量%のMgOを含む。ポリマー組成物中に幅広く使用される通常のE-ガラス繊維に反して、高モジュラスガラス繊維は、ガラス組成物の全重量を基準として、5重量%未満、好ましくは1重量%未満のBを含む。
【0037】
ポリマー組成物中の扁平ガラス繊維濃度は、10重量%~40重量%である。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物中の扁平ガラス繊維濃度は、ポリマー組成物の全重量を基準として、10重量%~35重量%、10重量%~30重量%、15重量%~40重量%、15重量%~35重量%又は15重量%~30重量%である。
【0038】
添加剤
いくつかの実施形態では、ポリマー組成物はまた、追加の補強剤、強化剤、可塑剤、着色剤、顔料、帯電防止剤、染料、潤滑剤、熱安定剤、光安定剤、難燃剤、核形成剤、及び酸化防止剤からなる群から選択される添加剤を含む。
【0039】
幅広く選択した追加の補強剤をポリマー組成物に添加することができる。追加の補強剤は、繊維補強剤及び微粒子補強剤から選択することができる。繊維補強剤は、平均長さが幅及び厚さの両方よりも著しく大きい、長さ、幅及び厚さを有する材料であると本明細書では考えられる。一般に、そのような材料は、少なくとも5、少なくとも10、少なくとも20又は少なくとも50の、長さと幅及び厚さの最大のものとの間の平均比として定義されるアスペクト比を有する。いくつかの実施形態では、繊維補強剤は、3mm~50mmの平均長さを有する。いくつかのそのような実施形態では、繊維補強剤は、3mm~10mm、3mm~8mm、3mm~6mm、又は3mm~5mmの平均長さを有する。代わりの実施形態では、繊維補強剤は、10mm~50mm、10mm~45mm、10mm~35mm、10mm~30mm、10mm~25mm又は15mm~25mmの平均長さを有する。繊維補強剤の平均長さは、ポリマー組成物中への組み入れ前の繊維補強剤の平均長さと解釈することができるか、或いはポリマー組成物中の繊維補強剤の平均長さと解釈することができる。繊維補強剤の例としては、追加のガラス繊維(例えば円形ガラス繊維)、炭素繊維、合成ポリマー繊維、アラミド繊維、アルミニウム繊維、チタン繊維、マグネシウム繊維、炭化ホウ素繊維、ロックウール繊維、及びスチール繊維が挙げられるが、それらに限定されない。円形ガラス繊維は、略円形断面(例えば断面内に長さが5%未満、1%未満、又は0.5%未満で異なる垂直軸を有する断面)を有するガラス繊維である。粒状補強剤としては、タルク、マイカ、カオリン、炭酸カルシウム、珪酸カルシウム、炭酸マグネシウム及びウォラストナイト)が挙げられるがそれらに限定されない。
【0040】
いくつかの実施形態では、ポリマー組成物中の補強剤の濃度は、少なくとも15重量%、少なくとも20重量%、少なくとも25重量%、又は少なくとも30重量%である。いくつかの実施形態では、補強剤の濃度は45重量%以下である。一部の実施形態では、補強剤の濃度は、20重量%~45重量%、又は30重量%~45重量%である。
【0041】
いくつかの実施形態では、ポリマー組成物は補強剤を含まない。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物は追加のガラス繊維を含まない。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物は円形ガラス繊維を含まない。補強剤(例えば追加のガラス繊維又は円形ガラス繊維)に対して、を含まない(free of)は、補強剤の濃度が10重量%未満、5重量%未満、1重量%未満又は0.5重量%未満であることを意味する。
【0042】
ポリマー組成物は、また、強化剤を含み得る。強化剤は、一般に、例えば室温未満、0℃未満又は-25℃未満さえのTgの、低いガラス転移温度(Tg)ポリマーである。その低いTgの結果として、強化剤は、典型的には、室温でエラストメリックである。強化剤は、官能化されたポリマー主鎖であり得る。
【0043】
強化剤のポリマー主鎖は、ポリエチレン及びそれらのコポリマー、例えばエチレン-ブテン、エチレン-オクテン;ポリプロピレン及びそれらのコポリマー;ポリブテン;ポリイソプレン;エチレン-プロピレンゴム(EPR);エチレン-プロピレン-ジエンモノマーゴム(EPDM);エチレン-アクリレートゴム;ブタジエン-アクリロニトリルゴム、エチレン-アクリル酸(EAA)、エチレン-酢酸ビニル(EVA);アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンゴム(ABS)、ブロックコポリマースチレンエチレンブタジエンスチレン(SEBS)、ブロックコポリマースチレンブタジエンスチレン(SBS);メタクリレート-ブタジエン-スチレン(MBS)タイプのコア-シェルエラストマー、又は上記の1つ以上の混合物を含むエラストメリック主鎖から選択することができる。
【0044】
強化剤が官能化されている場合、主鎖の官能化は、官能化を含むモノマーの共重合から又は更なる成分でのポリマー主鎖のグラフト化から生じることができる。
【0045】
官能化された強化剤の具体的な例は、とりわけ、エチレンと、アクリル酸エステルと、グリシジルメタクリレートとのターポリマー、エチレンとブチルエステルアクリレートとのコポリマー;エチレンと、ブチルエステルアクリレートと、グリシジルメタクリレートとのコポリマー;エチレン-無水マレイン酸コポリマー;無水マレイン酸でグラフトされたEPR;無水マレイン酸でグラフトされたスチレンコポリマー;無水マレイン酸でグラフトされたSEBSコポリマー;無水マレイン酸でグラフトされたスチレン-アクリロニトリルコポリマー;無水マレイン酸でグラフトされたABSコポリマーである。
【0046】
いくつかの実施形態では、強化剤の濃度は、少なくとも1重量%、少なくとも2重量%又は少なくとも3重量%である。更に又は代わりに、いくつかの実施形態では強化剤の濃度は、30重量%以下、20重量%以下、15重量%以下、又は10重量%以下である。
【0047】
また、ポリマー組成物は、可塑剤、着色剤、顔料(例えば、カーボンブラック及びニグロシンなどの黒色顔料)、帯電防止剤、染料、潤滑剤(例えば、直鎖低密度ポリエチレン、ステアリン酸カルシウム若しくはマグネシウム又はモンタン酸ナトリウム)、熱安定剤、光安定剤、難燃剤、核形成剤及び酸化防止剤などの、当技術分野において一般に使用される他の従来の添加剤も含み得る。
【0048】
ポリマー組成物の調製
ポリマー組成物は、LCP及び特定成分(例えば扁平ガラス繊維及び窒化ホウ素又は酸化亜鉛)、並びに任意の他の添加剤を溶融ブレンドすることによって調製することができる。
【0049】
当技術分野に公知の任意の適した溶融ブレンド方法を用いてポリマー成分と非ポリマー成分とを混合してもよい。例えば、ポリマー成分及び非ポリマー成分は、一軸スクリュー押出機若しくは二軸スクリュー押出機、撹拌機、一軸スクリュー若しくは二軸スクリューニーダー又はバンバリーミキサー等の溶融ミキサーに供給することができ、添加するステップは、全ての成分の同時添加又はバッチ式の段階的添加であり得る。ポリマー原料及び非ポリマー原料がバッチ式に徐々に添加される場合、ポリマー原料及び/又は非ポリマー原料の一部がまず添加され、次いで、十分に混合された組成物が得られるまで、その後に添加される残りのポリマー原料及び非ポリマー原料と溶融混合される。補強剤が長い物理的形状を示す場合(例えば、長いガラス繊維)、補強された組成物を調製するために延伸押出成形が用いられ得る。
【0050】
物品及び用途
ポリマー組成物は、望ましくは物品へ組み入れることができる。本物品はとりわけ、ポリマー組成物から薄肉物品が成形される(例えば射出成形される)適用環境において使用することができる。
【0051】
本明細書中で用いられるとき薄肉物品は、(測定が行われる表面に垂直な線に沿う)最大厚さが1mm以下、0.9mm以下、0.8mm以下又は0.7mm以下である部分を有する物品である。好ましくは、この部分は、面積が少なくとも1mm、少なくとも10mm、少なくとも100mm、又は少なくとも1000mmである物品の表面上の領域である。
【0052】
いくつかの実施形態では、本物品は、自動車部品、航空宇宙部品又は船舶部品(船及びジェットスキーが挙げられるがそれらに限定されない)である。前述の実施形態を含むがそれらに限定されないいくつかの実施形態では、物品は、電気部品(例えば電気自動車部品)である。いくつかの実施形態では、電気部品は、電流キャリアと接触しているか、又はこれを含む。前述の実施形態を含むがそれらに限定されないいくつかの実施形態では、本物品は、電気モーター部品(例えば電気自動車モーター部品)である。いくつかの実施形態では、本物品はスロットライナーである。スロットライナーを電気モーター(発電機を含む)のステーター又はローターに組み込む。スロットライナーは、ステーターコア又はモーターコアと、ステーター巻線又はローター巻線それぞれとの間の絶縁を提供する。上記の通り、本明細書に記載されるポリマー組成物は、少なくとも、著しく改良された面貫通熱伝導率のため、高電力密度モーター用途に特に望ましい。明確にするために、上述の物品は、薄肉物品又は非薄肉物品であり得る。好ましくは物品は薄肉物品である。
【0053】
溶融押出は、溶融ポリマー又はポリマー組成物をダイ又はオリフィスを通して押し出す工程を含む。溶融ポリマーは、上で記載されたような、溶融ブレンディング中に形成することができるか、或いはそれは、例えば、ペレットの形態であらかじめ形成されたポリマー又はポリマー組成物を溶融させることによって形成することができる。射出形成応用については、溶融ポリマーは、金型中へ押し込まれ、金型においてそれは固化し、その後外に出される(金型から取り出される)。溶融ポリマーが溶融ブレンディング(例えば押出)によって形成されるいくつかの実施形態では、ポリマー組成物が有意に冷える前に金型中へ押し込まれるように、金型は、溶融ブレンディング装置(例えば押出機)と直接に又は間接的に連結することができる。他の実施形態では、ポリマー又はポリマー組成物の固体ペレットは、溶融させることができ、溶融装置は、溶融ポリマー又はポリマー組成物を金型中へ供給できるように、金型と直接に又は間接的に連結することができる。金型は、形成される物品の形状に対応している。上記の通り、ポリマー組成物は、特に、射出成形によって形成される薄肉物品に対して射出成形用途に非常に望ましい溶融粘度を有する。
【0054】
物品は、ポリマー組成物から、例えばフィラメントの形態にある、材料の押出のステップを含むプロセスによって、又はこの場合には粉末の形態にある、材料のレーザー焼結のステップを含むプロセスによって印刷することができる。
【0055】
3次元(3D)物体を付加製造システムを用いて製造する方法であって、ポリマー組成物を含む部品材料を提供する工程と、部品材料から3次元物体の層を印刷する工程とを含む方法もまた提供される。
【0056】
ポリマー組成物は、それ故、3D印刷のプロセス、例えば、熱溶融積層法(「FDM」)としても知られる、溶融フィラメント製造法に使用されるスレッド又はフィラメントの形態にあることができる。
【0057】
ポリマー組成物は、また、3D印刷のプロセス、例えば選択的レーザー焼結(SLS)に使用される、粉末の、例えば実質的に球状の粉末の形態にあることができる。
【0058】
参照により本明細書に援用される任意の特許、特許出願、及び刊行物の開示が用語を不明瞭にさせ得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合、本記載が優先するものとする。
【実施例
【0059】
以下の実施例は、本ポリマー組成物のフィルム形成能力並びに誘電性能及び機械的性能を実証する。
以下の原料を実施例において使用した:
- LCP:以下のモノマー:イソフタル酸;テレフタル酸;4,4’-ビフェノール、p-ヒドロキシ安息香酸から形成される液晶ポリマー
- 扁平ガラス繊維(「FGF」):Nitto Boseki Co.,LTDから商業的に得られた(CSG 3PA-830)。
- 円形ガラス繊維(「RGF」):Saint-Gobainから商業的に得られた(910)。
- 潤滑剤:商品名Polymist(登録商標)F5AとしてSolvay Specialty Polymers Italy,S.p.A.から商業的に得られた。
- 窒化ホウ素:Momentiveから商業的に得られた(CF600 Boron Nitride])。
- 酸化亜鉛:Dryteckから商業的に得られた(Pana-Tetra)。
【0060】
実施例1:LCPの合成及び試料の形成
LCPを合成するために、ジカルボン酸モノマー(テレフタル酸(167.0g、Flint Hills Resources)、イソフタル酸(55.7g、Lotte Chemicals)、p-ヒドロキシ安息香酸(555.5g、Sanfu)、4,4’-ビフェノール(201.6g、SI Group)及び無水酢酸(769.2g、Aldrich))を、2Lのガラス反応器へ装入した。酢酸カリウム(0.07g、Aldrich)及び酢酸マグネシウム(0.2g、Aldrich)を触媒として使用した。混合物を165℃に加熱し、還流条件下でのアセチル化反応を1時間進行させた。次いで、反応器から酢酸を留去しながら、加熱を0.5℃毎分の速度で300℃まで続行した。プレポリマーを排出し、冷却させた。材料を、次いで固相重合のために粉末へすり潰した。樹脂を、以下のプロファイル:連続的な窒素パージング下で、220℃で1時間、290℃で1時間、及び310℃で12時間。結果として生じた高分子量樹脂は、370℃で60~140Pa-sの溶融粘度を有した。
【0061】
試料は、押出機内でポリマー組成物を溶融ブレンドすることによって形成され、ペレットに切断された。加熱冷却試験及び機械的試験、物理試験のための試料は射出成形によって形成された。サンプルパラメータを表1に示す。表1の全ての値は重量%単位であり、ポリマー組成物の全重量を基準としている。
【0062】
【表1】
【0063】
実施例2:熱的性能、機械的性能及びレオロジー性能
この実施例は、試料の熱的、機械的及びレオロジー性能を実証する。
【0064】
熱的性能を実証するために、面貫通導電率は、Netzsch LFA467ハイパーフラッシュ計測器を用いて及びASTM E1461-13、“Standard Test Method for Thermal Diffusivity by the Flash Method”に従ってフラッシュ方法によって測定された。機械的性能を実証するために、曲げ強さ及び曲げ歪はASTM D790に従って測定された。レオロジー性能を実証するために、η(見掛粘度)は、ASTM D3835に従って測定された。熱的、機械的及びレオロジー性能の結果を表2に示す。
【0065】
【表2】
【0066】
扁平ガラス繊維と窒化ホウ素との組合せを有する試料は、円形ガラス繊維と窒化ホウ素との組合せを有する試料に対して、改良された面貫通導電率、破断点曲げ強さ、及び破断点曲げ歪を有した。表2を参照して、C1とE4との比較は、扁平ガラス繊維入りのLCP組成物への窒化ホウ素の添加(E4)が0.38W/m-Kの面貫通導電率をもたらし、窒化ホウ素を含まない類似したLCP組成物(C1)に対して約90%の改良を示すことを実証する。C2とC3との比較は、円形ガラス繊維入りのLCP組成物への窒化ホウ素の添加(C3)がたった約0.35W/m-Kの面貫通導電率をもたらし、これはE4の面貫通導電率よりも小さく、窒化ホウ素を含まない類似したLCP組成物(C2)に対してたった約21%の改良を示すことを実証する。更にまた、C1に対してE4の、及びC2に対してC3の窒化ホウ素の添加は破断点曲げ強さ及び破断点曲げ歪を減少させるが、E4は、C3に対して改良された破断点曲げ強さ及び破断点曲げ歪を有する。
【0067】
同様に、扁平ガラス繊維と酸化亜鉛との組合せを有する試料は、円形ガラス繊維と酸化亜鉛との組合せを有する試料に対して改良された面貫通導電率、破断点曲げ強さ、及び破断点曲げ歪を有した。表2を参照して、C1とE5との比較は、扁平ガラス繊維入りのLCP組成物への酸化亜鉛の添加(E5)が0.25W/m-Kの面貫通導電率をもたらし、酸化亜鉛を含まない類似したLCP組成物(C1)に対して約25%の改良を示すことを実証した。C2とC4との比較は、円形ガラス繊維入りのLCP組成物への酸化亜鉛の添加(C4)がたった約0.24W/m-Kの面貫通導電率をもたらし、それはE4の面貫通導電率よりもわずかに小さく、酸化亜鉛を含まない類似したLCP組成物(C2)に対して約17%の低下を示すことを実証する。
【0068】
更にまた、C1に対してE5の、及びC2に対してC4の酸化亜鉛の添加は破断点曲げ強さ及び破断点曲げ歪を減少させるが、E5は、C4に対して改良された破断点曲げ強さ及び破断点曲げ歪を有する。
更にまた、扁平ガラス繊維と窒化ホウ素及び酸化亜鉛の両方との組合せを有する試料は、扁平ガラス繊維と窒化ホウ素だけとの組合せを有する試料に対して、すぐれた面貫通導電率を維持しながら、改良された曲げ特性を有した。表2を参照して、E1とE6との比較は、前者がより高い面貫通導電率を有したのに対し、後者は、著しく改良された破断点曲げ強さ及び改良された破断点曲げ歪を有したことを実証する。
【0069】
上記の実施形態は、例示的であり、限定的ではないことを意図する。追加の実施形態は、本発明の概念内にある。加えて、特定の実施形態の説明が提供されるが、当業者は、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態及び詳細における変更がなされ得ることを認識するであろう。上記の文献の参照によるいかなる援用も、本明細書での明白な開示に反する主題が援用されないように限定される。
【国際調査報告】