(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-13
(54)【発明の名称】エタンの酸化的脱水素化のための固定床反応器システム
(51)【国際特許分類】
C07C 5/48 20060101AFI20231106BHJP
C07C 11/04 20060101ALI20231106BHJP
B01J 8/04 20060101ALI20231106BHJP
B01J 8/06 20060101ALI20231106BHJP
B01J 8/02 20060101ALI20231106BHJP
B01J 27/057 20060101ALI20231106BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20231106BHJP
【FI】
C07C5/48
C07C11/04
B01J8/04 311A
B01J8/06
B01J8/02 A
B01J27/057 Z
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023526540
(86)(22)【出願日】2021-11-05
(85)【翻訳文提出日】2023-05-01
(86)【国際出願番号】 IB2021060286
(87)【国際公開番号】W WO2022097099
(87)【国際公開日】2022-05-12
(32)【優先日】2020-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505382548
【氏名又は名称】ノバ ケミカルズ(インターナショナル)ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】グーダルズニア、シャーヒン
(72)【発明者】
【氏名】シマンゼーンコフ、ヴァシリー
(72)【発明者】
【氏名】オレイーウォラ、ボラジ
(72)【発明者】
【氏名】ゲント、デイヴィッド
【テーマコード(参考)】
4G070
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G070AA01
4G070AB05
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4H039CA20
4H039CB10
(57)【要約】
エタンの酸化的脱水素化のための固定床反応器システムであって、触媒床を備え、触媒容量プロファイルは、上流端から下流端に向かって触媒床の長さに沿って増加する。触媒床は、1つ以上の固定床反応器にわたって、触媒容量の変化によって識別される1つ以上のセクションを含むことができる。触媒容量、又はエタンをエチレンに転化する能力は、希釈比、空隙率、又は35%転化温度を変えることによって変更することができる。触媒容量を増加させた状態で固定床反応器に装填する方法も記載されている。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エタンからエチレンへの酸化的脱水素化(ODH)のための固定床反応器システムであって、触媒床を含み、触媒容量プロファイルが、触媒床の上流端から下流端に向かって、徐々に又は段階的に増加する、固定床反応器システム。
【請求項2】
触媒床が、触媒床の長さに沿って直列に配置された少なくとも2つの重なり合わない触媒床セクションを含み、触媒床セクションが、触媒容量の変化によって識別され、各触媒床セクションが、前の上流の触媒床セクションよりも高い触媒容量を有する、請求項1に記載の固定床反応器システム。
【請求項3】
1つ以上の触媒床セクションが、前の触媒床セクションよりも低い35%転化温度を有する、請求項2に記載の固定床反応器システム。
【請求項4】
1つ以上の触媒床セクションが、前の触媒床セクションよりも1~20℃低い35%転化温度を有する、請求項3に記載の固定床反応器システム。
【請求項5】
1つ以上の触媒床セクションが、前の触媒床セクションよりも2~10℃低い35%転化温度を有する、請求項4に記載の固定床反応器システム。
【請求項6】
1つ以上の触媒床セクションが、前の触媒床セクションよりも低い希釈比を有する、請求項2に記載の固定床反応器システム。
【請求項7】
1つ以上の触媒床セクションが、前の触媒床セクションよりも2~100%低い希釈比を有する、請求項6に記載の固定床反応器システム。
【請求項8】
1つ以上の触媒床セクションが、前の触媒床セクションよりも5~70%低い希釈比を有する、請求項6に記載の固定床反応器システム。
【請求項9】
1つ以上の触媒床セクションが、前の触媒床セクションよりも10~50%低い希釈比を有する、請求項6に記載の固定床反応器システム。
【請求項10】
1つ以上の触媒床セクションが、前の触媒床セクションよりも2~15%低い希釈比を有する、請求項6に記載の固定床反応器システム。
【請求項11】
1つ以上の触媒床セクションが、前の触媒床セクションよりも低い空隙率を有する、請求項2に記載の固定床反応器システム。
【請求項12】
1つ以上の触媒床セクションが、前の触媒床セクションよりも2~57%低い空隙率を有する、請求項11に記載の固定床反応器システム。
【請求項13】
1つ以上の触媒床セクションが、前の触媒床セクションよりも5.0~45%低い空隙率を有する、請求項11に記載の固定床反応器システム。
【請求項14】
1つ以上の触媒床セクションが、前の触媒床セクションよりも10~25%低い空隙率を有する、請求項11に記載の固定床反応器システム。
【請求項15】
エタンからエチレンへの酸化的脱水素化(ODH)のためのプロセスであって、
エタン及び酸素を含む供給物流を、固定床反応器システム内に導入する工程であり、ここで、固定床反応器システムが、触媒床を含み、ODH触媒の触媒容量プロファイルが、触媒床の長さに沿って上流端から下流端に向かって増加する、工程、
エタンとODH触媒を、酸素の存在下で触媒床の長さに沿って接触させて、エタンの少なくとも一部をエチレンに転化する工程、
エチレンを含む生成物流を、触媒床の下流端に近接してODH反応器から除去する工程、
を含む、プロセス。
【請求項16】
少なくとも1つの混合金属酸化物触媒から構成される酸化的脱水素化反応器触媒床の第1のセクション内の最高反応温度を低下させる方法であって、
前記酸化的脱水素化反応器は、少なくとも1つの供給物流と少なくとも1つの出口流とを含み、
前記触媒床は、少なくとも2つの触媒床セクションから構成され、第1の触媒床セクションは、後続の触媒床セクションの上流にあり、ここで、第1の触媒床セクションは、前記触媒床の50体積%以下であり、
前記方法は、
i)後続の触媒床セクションよりも第1の触媒床セクションにおける希釈比を高くして、後続の触媒床セクションのそれぞれにおける希釈比を、第1の触媒床セクションにおける希釈比で割った値が、0.3~0.98の範囲にあるようにすること;及び
ii)後続の触媒床セクションよりも第1の触媒床セクションにおける空隙率を高くして、後続の触媒床セクションのそれぞれにおける空隙率を、第1の触媒床セクションにおける空隙率で割った比が、0.3~0.98の範囲にあるようにすること;
の1つ以上を含む、方法。
【請求項17】
触媒床が、熱放散粒子を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
熱放散粒子が、不活性金属棒から構成される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
熱放散粒子が、DENSTONE(登録商標)99粒子から構成される、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
熱放散粒子が、SS316から構成される、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
熱放散粒子が、0.5~20mmの範囲の粒子サイズを有する粒子から構成される、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
熱放散粒子が、0.5~15mmの範囲の粒子サイズを有する粒子から構成される、請求項17に記載の方法。
【請求項23】
熱放散粒子が、0.5~5mmの範囲の粒子サイズを有する粒子から構成される、請求項17に記載の方法。
【請求項24】
触媒床が、0.5~20mmの範囲の粒子サイズを有する粒子から構成される、請求項16に記載の方法。
【請求項25】
触媒床が、0.5~15mmの範囲の粒子サイズを有する粒子から構成される、請求項16に記載の方法。
【請求項26】
触媒床が、0.5~5mmの範囲の粒子サイズを有する粒子から構成される、請求項16に記載の方法。
【請求項27】
混合金属酸化物触媒が、0.5μm~20μmの範囲の粒子サイズを有する粒子から構成される、請求項16に記載の方法。
【請求項28】
後続の触媒床セクションのそれぞれにおける希釈比を、第1の触媒床セクションにおける希釈比で割った値が、0.75~0.98の範囲にある、請求項16に記載の方法。
【請求項29】
後続の触媒床セクションのそれぞれにおける希釈比を、第1の触媒床セクションにおける希釈比で割った値が、0.85~0.98の範囲にある、請求項16に記載の方法。
【請求項30】
後続の触媒床セクションのそれぞれにおける空隙率を、第1触媒床セクションにおける空隙率で割った比が、0.35~0.55の範囲にある、請求項16に記載の方法。
【請求項31】
後続の触媒床セクションのそれぞれにおける空隙率を、第1触媒床セクションにおける空隙率で割った比が、0.40~0.50の範囲にある、請求項16に記載の方法。
【請求項32】
混合金属酸化物触媒が、長さ対直径の比が1:1から5:1の粒子から構成される、請求項16に記載の方法。
【請求項33】
混合金属酸化物触媒が、各粒子を通る少なくとも1つの通路を含む粒子から構成される、請求項16に記載の方法。
【請求項34】
混合金属酸化物触媒が、円筒形の粒子から構成される、請求項16に記載の方法。
【請求項35】
混合金属酸化物触媒が、各円筒の各端に最大3つのノッチを有する粒子から構成される、請求項19に記載の方法。
【請求項36】
混合金属酸化物触媒が、各粒子の長さを延長する少なくとも1つの連続的な外部隆起を含む粒子から構成される、請求項16に記載の方法。
【請求項37】
酸化的脱水素化反応器が、少なくとも1つの混合金属酸化物触媒から構成される触媒床の少なくとも2つのセクションを含み、酸化的脱水素化反応器への少なくとも1つの供給物流が、酸素及び20体積%以上のエタンを含み、少なくとも1つの出口流が、1つ以上のエチレン、エタン、1つ以上のカルボン酸、水及び酸素を含む、を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項38】
少なくとも1つの供給物流が、酸素及び20体積%以上のエタンを含み、少なくとも1つの出口流が、エチレン、エタン、酢酸、水及び酸素を含む、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
酸化的脱水素化反応器触媒床の第1のセクション内の最高反応温度と後続の触媒床セクション内の温度との温度差が、1~50℃である、請求項16に記載の方法。
【請求項40】
酸化的脱水素化反応器触媒床の第1のセクション内の最高反応温度と後続の触媒床セクション内の温度との温度差が、2~40℃である、請求項16に記載の方法。
【請求項41】
酸化的脱水素化反応器触媒床の第1のセクション内の最高反応温度と後続の触媒床セクション内の温度との温度差が、5~20℃である、請求項16に記載の方法。
【請求項42】
最高反応温度が、300℃~450℃である、請求項16に記載の方法。
【請求項43】
最高反応温度が、300℃~425℃である、請求項16に記載の方法。
【請求項44】
最高反応温度が、300℃~400℃である、請求項16に記載の方法。
【請求項45】
最高反応温度が、310℃~350℃である、請求項16に記載の方法。
【請求項46】
酸化的脱水素化反応器が、0.5~100psigの圧力にある、請求項16に記載の方法。
【請求項47】
酸化的脱水素化反応器が、15~50psigの圧力にある、請求項16に記載の方法。
【請求項48】
酸化的脱水素化反応器が、0.002~72秒の滞留時間を有する、請求項16に記載の方法。
【請求項49】
酸化的脱水素化反応器が、0.1~10秒の滞留時間を有する、請求項16に記載の方法。
【請求項50】
酸化的脱水素化反応器が、50~10,000h
-1のガス毎時空間速度を有する、請求項16に記載の方法。
【請求項51】
酸化的脱水素化反応器が、500~3,000h
-1のガス毎時空間速度を有する、請求項16に記載の方法。
【請求項52】
少なくとも1つの酸化的脱水素化反応器が、固定床型反応器を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項53】
少なくとも1つの酸化的脱水素化反応器が、多管型(シェルアンドチューブ)反応器設計を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項54】
少なくとも1つの酸化的脱水素化反応器が、管型反応器設計を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項55】
混合金属酸化物触媒が、以下からなる群から選択される、請求項16に記載の方法:
i)次式の触媒:
Mo
aV
bTe
cNb
dPd
eO
f
(式中、a、b、c、d、e、及びfは、それぞれ元素Mo、V、Te、Nb、Pd及びOの相対原子量であり;a=1、b=0.01~1.0、c=0.01~1.0、d=0.01~1.0、0.00≦e≦0.10で、fは触媒の原子価状態を満たす数である);
ii)次式の触媒:
Ni
gA
hB
iD
jO
f
(式中、gは0.1~0.9、場合によっては0.3~0.9、他の場合には0.5~0.85、場合によっては0.6~0.8の数であり;hは0.04~0.9の数であり;iは0~0.5の数であり;jは0~0.5の数であり;fは、触媒の原子価状態を満たす数であり;Aは、Ti、Ta、V、Nb、Hf、W、Y、Zn、Zr、Si及びAl又はそれらの混合物からなる群から選択され;Bは、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Sb、Sn、Bi、Pb、Tl、In、Te、Cr、Mn、Mo、Fe、Co、Cu、Ru、Rh、Pd、Pt、Ag、Cd、Os、Ir、Au、Hg、及びそれらの混合物からなる群から選択され;Dは、Ca、K、Mg、Li、Na、Sr、Ba、Cs、Rb及びそれらの混合物からなる群から選択され;Oは、酸素である);
iii)次式の触媒:
Mo
aE
kG
lO
f
(式中、Eは、Ba、Be、Ca、Cr、Mn、Nb、Ta、Ti、Te、V、W及びそれらの混合物からなる群から選択され;Gは、Al、Bi、Ce、Co、Cu、Fe、K、Mg、V、Ni、P、Pb、Sb、Si、Sn、Ti、U、及びそれらの混合物からなる群から選択され;a=1;kは0~2;l=0~2、ただし、Co、Ni、Fe及びそれらの混合物のlの合計値は0.5未満であり;fは、触媒の原子価状態を満たす数である);
iv)次式の触媒:
V
mMo
nNb
oTe
pMe
qO
f
(式中、Meは、Ta、Ti、W、Hf、Zr、Sb及びそれらの混合物からなる群から選択される金属であり;mは0.1~3であり;nは0.5~1.5であり;oは0.001~3であり;pは0.001~5であり;qは0~2であり;fは触媒の原子価状態を満たす数である);並びに
v)次式の触媒:
Mo
aV
rX
sY
tZ
uM
vO
f
(式中、Xは、Nb及びTaの少なくとも1つであり;Yは、Sb及びNiの少なくとも1つであり;Zは、Te、Ga、Pd、W、Bi及びAlの少なくとも1つであり;Mは、Fe、Co、Cu、Cr、Ti、Ce、Zr、Mn、Pb、Mg、Sn、Pt、Si、La、K、Ag及びInの少なくとも1つであり;a=1.0(正規化);r=0.05~1.0;s=0.001~1.0;t=0.001~1.0;u=0.001~0.5;v=0.001~0.3;fは触媒の原子価状態を満たす数である)。
【請求項56】
混合金属酸化物触媒が、以下の式からなる群から選択される混合金属酸化物を含む、請求項1に記載の方法:
Mo
1V
0.1-1Nb
0.1-1Te
0.01-0.2X
0-0.2O
f
(式中、Xは、Pd、Sb、Ba、Al、W、Ga、Bi、Sn、Cu、Ti、Fe、Co、Ni、Cr、Zr、Ca、及びそれらの酸化物及び混合物から選択され、fは触媒の原子価状態を満たす数である)。
【請求項57】
エタンの酸化的脱水素化のために固定床反応器に触媒床を装填する方法であって、固定床反応器が上流端及び下流端を有し、当該方法は、
ODH触媒を含む、2つ以上の触媒床組成物を調製する工程、
触媒床組成物のそれぞれについて触媒容量を決定する工程、
触媒床組成物を、固定床反応器に、高密度でランダムな充填を可能にするのに十分遅い速度で、順に、別々に注ぐ工程であり、最も低い触媒容量を有する触媒床組成物を上流端に注ぎ、最も高い触媒容量を有する触媒床組成物を下流端に注ぐ、工程、
注がれた触媒床組成物を固定床反応器内に固定して、装填された触媒床を形成する工程、
を含み、
ここで、触媒床組成物は、別個の触媒床セクションを形成し、触媒床セクションは、触媒容量の変化によって識別され、触媒容量は上流端から下流端に向かって増加する、
方法。
【請求項58】
1つ以上の管を備える固定床反応器に触媒床を装填する方法であって、各管が上流端及び下流端を有し、当該方法は、
ODH触媒を含む、2つ以上の触媒床組成物を調製する工程、
触媒床組成物のそれぞれについて触媒容量を評価し、触媒床組成物を最も低い相対触媒容量から最も高い相対触媒容量まで順序付ける工程、
触媒床組成物を、固定床反応器の1つ以上の管に、高密度でランダムな充填を可能にするのに十分遅い速度で、順に、別々に注ぐ工程であり、最も低い触媒容量を有する触媒床組成物を上流端に注ぎ、最も高い触媒容量を有する触媒床組成物を下流端に注ぐ、工程、
注がれた触媒床組成物を1つ以上の管内に固定する工程、
を含み、
ここで、触媒床組成物は、別個の触媒床セクションを形成し、触媒床セクションは、触媒容量の変化によって識別され、触媒容量は上流端から下流端に向かって増加する、
方法。
【請求項59】
触媒床組成物のそれぞれについて35%転化温度を決定し、最も低い相対触媒容量を有する触媒床組成物に対応する最も高い相対35%転化温度を有する触媒床組成物を順序付けることによって、触媒容量を評価する、請求項57又は58に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(優先権の主張)
この出願は、2020年11月6日に出願された米国仮出願第63/110,385号に対する優先権を主張し、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
(技術分野)
本明細書は、エタンからエチレンへの酸化的脱水素化(ODH:oxidative dehydrogenation)のための反応器システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ODHの概念は、少なくとも1960年代後半から知られていた。それ以来、触媒の効率や選択性の改善など、プロセスの改善に多大な努力が払われてきた。ODHが商業的な選択肢の主流になるためには、経済的な利益が、ODH反応の潜在的な熱暴走に関連するリスクを上回らなければならない。熱暴走(thermal runaway)は、エタンの発熱を伴う転化によって触媒床の温度が急激に上昇し、冷却機構が温度低下に対応するのに不十分な場合に発生する。触媒床の温度が急上昇すると、エタンの転化率が上昇し、その結果、触媒床の温度がさらに上昇し、エタンの転化率などが上昇する。このリスクを最小限に抑えるために、オペレータは、反応器内の触媒容量を制限したり、反応器のサイズを大きくしたりすることを選択する場合がある。これらの選択肢は費用対効果が高くない。第1の選択肢は、エチレンの収率を低下させるし、第2の選択肢は、より大きな反応器を建設するための設備投資を増加させる。本明細書で提供されるのは、転化率及び収率を犠牲にすることなく、最高触媒床温度を低下させる反応器システムである。
【発明の概要】
【0003】
触媒床の長さに沿って上流端から下流端に向かって触媒容量の増加を提供するように触媒床を装填することによって、エタンの酸化的脱水素化のためのプロセスにおける固定床反応器内の最高触媒床温度の低下が達成できることが発見された。
【0004】
第1の態様では、エタンからエチレンへの酸化的脱水素化(ODH)のための固定床反応器システムであって、触媒床を含み、触媒容量プロファイルが、触媒床の上流端から下流端に向かって、徐々に又は段階的に増加する固定床反応器システムが提供される。
【0005】
追加の態様では、触媒床が、触媒床の長さに沿って直列に配置された少なくとも2つの重なり合わない触媒床セクションを含む。触媒床セクションは、触媒容量の変化によって識別され、各触媒床セクションは、最初の触媒床セクションを除いて、直前の触媒床セクションよりも高い触媒容量を有する。
【0006】
触媒容量、又はエタンをエチレンに転化する能力は、35%転化温度を決定することによって評価することができる。この35%転化温度は、どの触媒がどれだけ存在するか、触媒床内で触媒添加剤及び/又は熱拡散粒子を用いて触媒がどの程度希釈されているか、並びに触媒床内の空隙率に依存する。
【0007】
第2の態様では、エタンの酸化的脱水素化のためのプロセスが提供され、当該プロセスは、エタン及び酸素を含む供給物流を、触媒床を含む固定床反応器内に導入する工程を含み、触媒床は、エチレンを含む生成物流を形成するために、上流端から下流端に向かって徐々に又は段階的に増加する触媒容量を有する。
【0008】
第3の態様では、酸化的脱水素化のプロセスで使用するための固定床反応器の触媒床を装填する方法が提供され、当該方法は、ODH触媒を含む、2つ以上の触媒床組成物を調製する工程、触媒床組成物のそれぞれについて触媒容量を決定する工程、触媒床組成物を、固定床反応器に、高密度でランダムな充填を可能にするのに十分遅い速度で、順に、別々に注ぐ工程であり、最も低い触媒容量を有する触媒床組成物を上流端に注ぎ、最も高い触媒容量を有する触媒床組成物を下流端に注ぐ、工程、注がれた触媒床組成物を固定床反応器内に固定して、装填された触媒床を形成する工程、を含み、触媒床組成物は、別個の触媒床セクションを形成し、触媒床セクションは、触媒容量の変化によって識別され、触媒容量は上流端から下流端に向かって増加する。
【0009】
(図面の簡単な説明)
特定の要素又は行為の説明を容易に識別するために、参照符号の最上位の数字は、その要素が最初に導入された図の番号を参照する。本開示の実施形態による触媒床の概略図は、異なる触媒床装填シナリオの理解を容易にすることを意図している。当業者であれば、図中の触媒粒子及び熱放散粒子のサイズ及び形状が例示目的のためであり、粒子が一定の縮尺ではなく、実際にはサイズ及び形状が変化することを理解するであろう。簡略化のため、ラベル付けは、各図における触媒粒子と熱放散粒子の単一の例に限定されている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】均一な触媒容量を有する典型的な触媒床の概略図を示す。
【
図2】一実施形態による、触媒容量が徐々に増加する触媒床の概略図を示す。
【
図3】一実施形態による、同じ触媒で異なる希釈比を有する2つのセクションを備える触媒床の概略図を示す。
【
図4】一実施形態による、異なる触媒組成を有する2つのセクションを備える触媒床の概略図を示す。
【
図5】一実施形態による、異なる触媒組成を有する2つのセクションを備える触媒床の概略図を示す。
【
図6】一実施形態による、異なる空隙率を有し、異なる長さの2つのセクションを備える触媒床の概略図を示す。
【
図7】一実施形態による、異なる触媒組成を有し、触媒のない領域によって分離された2つのセクションを備える触媒床の概略図を示す。
【
図8】一実施形態による、触媒のない領域によって第3のセクションから分離された2つの連続するセクションを備える触媒床の概略図を示し、これらのセクションは、空隙率又は触媒組成が異なる。
【
図9】一実施形態による、第2の反応器に収容されている第3のセクションから分離された、第1の反応器に収容されている2つの連続するセクションを備える触媒床の概略図を示し、これらのセクションは、空隙率又は触媒組成が異なる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書で提供されるのは、エタンからエチレンへの酸化的脱水素化(ODH)のための反応器システムである。本反応器システムの実施形態は、反応器システムの触媒床の長さに沿って増加する触媒容量プロファイルを対象とする。具体的に、本明細書に開示されるのは、触媒床の上流端から下流端に向かって触媒容量が増加することを特徴とする触媒床を含む、反応器システムである。触媒床の長さに沿って触媒容量が増加する触媒床の配置は、上流端での触媒床の最高プロセス温度を最小限に抑えるためのメカニズムを提供し、その上流端は、エタンと酸素が最初にODH触媒に接触する場所であり、制御不能な温度急上昇(temperature spike)のリスクが最も高い場所である。
【0012】
操作例における、又は他に指示がある場合を除き、本明細書及び特許請求の範囲で使用される成分の量、反応条件などを指すすべての数字又は表現は、すべての場合において「約」という用語によって変更されると理解されるべきである。したがって、反対に示されない限り、以下の明細書及び添付の特許請求の範囲に記載される数値パラメータは、本開示が取得することを望む特性に応じて変化し得る近似値である。少なくとも、均等論の適用を請求項の範囲に限定する試みとしてではなく、各数値パラメータは、少なくとも報告された有効桁数に照らして、通常の丸め手法を適用することによって解釈されるべきである。
【0013】
<定義>
本明細書で使用される場合、「触媒容量(catalyst capacity)」という用語は、エタンをエチレンに転化する触媒床の能力を指し、触媒床全体、個々の触媒床セクション、又は触媒床の長さに沿った点を説明するために使用することができる。触媒容量は、触媒組成、希釈比、空隙率に依存する。
【0014】
本明細書で使用される場合、「触媒床(catalyst bed)」という用語は、触媒粒子と、存在する場合は熱放散粒子とによって占められる1つの領域又は複数の領域を指し、当該領域は、それらの粒子間の空間も含む。領域とは、反応器システムの長さに沿って始点と終点を有することを意味することを意図している。
【0015】
本明細書で使用される場合、「触媒床の長さ」という用語は、エタンと酸素が最初にODH触媒と接触する上流端から始まり、最終生成物の流れが形成されてエタンと酸素が活性なODH触媒と接触し得る点を過ぎる下流端で終わる触媒床の長さを指し、触媒のない領域を除く。例えば、複数の反応器システムでは、触媒床の長さは、第1の反応器の第1の触媒床セクションの上流端から、一連の最後の反応器の最後の触媒床セクションの下流端までの全長を含むことを意図しているが、触媒のない介在セクションを除く。また、ODH触媒のない領域によって分離された複数の触媒床セクションを有する単一の反応器システムの場合、触媒床の長さは、第1の触媒床セクションの上流端から、最後の触媒床セクションの下流端までをカバーすることを意図しているが、ODH触媒のない介在セクションを除く。
【0016】
本明細書で使用される場合、「触媒床セクション」という用語は、隣接する触媒床セクションとの関係で、触媒容量の変化によって識別できる触媒床内のセクション又は領域を指す。隣接する触媒床セクションは、それらが共通の境界を共有するという点で連続していてもよいし、触媒のない領域によって分離されていてもよい。共通の境界を共有する隣接する触媒床セクションは、一般に重なり合わないが、触媒床の装填中及び触媒床への沈降中に、各セクションから触媒粒子の一部が浸透し、境界を越えて隣接するセクションに落ちることがある。触媒床セクションは、触媒粒子と、存在する場合、同様のサイズ及び組成の熱放散粒子とを含む触媒床組成物の均一な分布を有し、したがって、均一な希釈比及び均一な空隙率を有する。
【0017】
本明細書で使用される場合、「触媒粒子」という用語は、触媒床内に装填され、活性なODH触媒を含む粒子を指し、存在する場合、結合剤、支持体、及び担体を含むがこれらに限定されない任意の触媒添加剤を含有する。ODHプロセスで使用するための触媒粒子の調製は、当業者の専門知識の範囲内である。
【0018】
本明細書で使用される場合、「転化率」という用語は、炭素質生成物に転化される供給物中のエタン炭素原子の割合を指し、次の式に従って計算することができる。
式中、転化されたC
2H
6の正味の質量流量は、生成物流中のC
2H
6の質量流量から、供給物流中のC
2H
6の質量流量を差し引いたものに等しい。
【0019】
本明細書で使用される場合、「希釈比」という用語は、触媒床全体又は個々の触媒床セクションにおいて、熱放散粒子及び触媒添加剤(結合剤、担体、及び支持体など)で触媒が希釈される程度を指す。希釈比は、次の式に従って計算される。
【0020】
本明細書で使用される場合、「可燃性エンベロープ(flammability envelope)」という用語は、燃料(例えばエタン)、酸素、及び熱除去希釈ガスの混合物における可燃性ゾーンを定義するエンベロープを指す。
【0021】
本明細書で使用される場合、「ガス毎時空間速度」という用語は、触媒床内の活性相の体積に対するガスの体積流量の比を指し、ここで、ガスには、標準条件(すなわち、0℃、1bar)での、反応ガス種と任意の熱除去希釈ガスとが含まれる。
【0022】
本明細書で使用される場合、「熱放散粒子」という用語は、不活性な非触媒粒子を指す。当該粒子は、触媒床又は1つ以上の触媒床セクション内で使用することができ、触媒床又は触媒床セクションから直接反応器の壁への半径方向の熱伝達率を高めることにより、冷却の均一性を改善し、ホットスポットを減らすことができる。熱放散粒子は、触媒粒子と比較して、同じかそれよりも高い熱伝導率を有する。
【0023】
本明細書で使用される場合、「熱除去希釈ガス」という用語は、流れを希釈し、流れから熱を除去することができるガスを指す。
【0024】
本明細書で使用される場合、「不活性金属棒」という用語は、反応器の内径よりも小さい少なくとも1つの寸法を有し、ほぼ円筒形の形状で、触媒的に活性でない金属棒を指す。不活性金属棒は、ヒートパイプを含むことができる。不活性金属棒は、フィンを有することができる。
【0025】
本明細書で使用される場合、「ODH触媒」は、酸素の存在下で、エタンからエチレンへの転化を触媒する触媒を指す。この用語は、触媒添加剤を除去する前の、触媒合成の最終生成物をカバーすることを意図しており、触媒添加剤には、結合剤、担体、及び支持体が含まれるがこれらに限定されない。触媒には、当技術分野で知られているすべてのODH触媒、特に本明細書に記載の混合金属酸化物触媒が含まれる。「触媒(複数を含む)」への言及は、別段の指示がない限り、それぞれODH触媒(複数を含む)を意味することを意図している。ODH触媒への言及は、異なるODH触媒(又は触媒種)の混合物を含んでもよく、これらはすべて、酸素の存在下で、エタンをエチレンに転化することができる。「触媒種」という用語は、特定の実験式を有する触媒を指す場合に使用することができる。
【0026】
本明細書で使用される場合、「触媒容量プロファイル」という用語は、触媒床の長さに沿った、触媒容量の変化を指す。
【0027】
本明細書で使用される場合、「空隙率」という用語は、触媒粒子又は熱放散粒子によって占められていない触媒床内部の空隙空間又は不活性空間の体積を、触媒床の総体積で割った値を指す。全体としての触媒床、又は触媒床全体の個々のセクションは空隙率を有する、と記載され得る。
【0028】
本明細書で使用される場合、「滞留時間」という用語は、ある体積を流れる物質がその体積内でどれかでの時間を費やすかの尺度を指す。
【0029】
本明細書で使用される場合、「重量毎時空間速度」という用語は、ガスが反応ガス種及び任意の熱除去希釈ガスを含む場合のガス質量流量と触媒床の活性相の質量との比を指す。
【0030】
<固定床反応器システム>
エタンのODHは、エタンからエチレンへの酸化的転化を促進する条件下で、1つ以上のODH反応器内でエタン及び酸素の混合物を1つ以上の混合金属酸化物触媒と接触させることを含み、従来の固定床反応器、多管型(シェルアンドチューブ)反応器、管型反応器など、さまざまな種類の反応器で実行することができる。
図1は、同様のサイズの触媒粒子2(暗い灰色の円)と熱放散粒子3(明るい灰色の円)がほぼ同じ数で均一に分布しているODH反応器の触媒床1を示しており、触媒床の各側面には、触媒粒子のない領域4(ハッチングで示される)が設けられている。触媒粒子2及び熱放散粒子3は、反応器又は管の側面及び領域4によって固定化され、収容される。エタンプロセスのODHでは、エタン及び酸素(中空の矢印で示される)は、反応器又は管の上流端5で導入され、転化が起こる触媒床1を通過し、生成物流又は出口流は、反応器又は管の下流端6で取り出される。管型反応器では、触媒床は単一の管(反応器)内に含まれているが、多管型(シェルアンドチューブ)の反応器では、触媒床はシェルに包まれた複数の管にまたがって含まれており、管と管の間に冷却材が流れる。
【0031】
本明細書に開示される反応器システムとの使用に適した固定床反応器を設計することは、このタイプの反応器について知られている技術に従うことができる。当業者であれば、形状及び寸法、反応物の入力、生成物の出力、温度及び圧力制御、並びに触媒を固定化するための手段に関して、どの特徴が必要とされるかを知っているであろう。エタンのODHに使用することが知られているが、流動床は本開示に関連しない。
【0032】
<最高プロセス温度>
エタンのODHは熱を発生させ、エタンと酸素が最初に触媒に接触する上流端では、通常、触媒床内で最大の温度の急上昇を示す。触媒床の長さに沿って下流に移動するにつれて、触媒床の温度が低下し、一定の温度(等温線)に落ち着く。最高プロセス温度は、流量及び/又は流速に応じて、典型的には、触媒床の長さの最初の10~40%内で発生する。触媒床の中心から反応器の壁まで、温度勾配又は温度差が存在し得る。反応器の壁の温度は、反応器を取り囲む冷却材の温度と類似しており、反応器から熱を除去する冷却材の能力は、より大きな温度勾配がある場合に試験される。温度勾配が大きいほど、熱暴走のリスクが高くなる。本開示の目的は、温度差を最小化することにより、熱暴走のリスクを最小限に抑えることである。
【0033】
ODH反応器システムは、運転中に、熱を取り出し、触媒床の温度を定常状態又は定常状態に近い状態に維持するための冷却機構を備えて設計されている。しかし、温度の急上昇が冷却能力を上回り、熱暴走に至るリスクは依然としてある。このリスクを回避するために、オペレータは、反応器に装填される触媒の量を考慮して、供給物中のエタン及び酸素の一方又は両方の量を減らすことを選択することができる。その効果は、転化されるエタンが少なくなるため、触媒容量が低下することであり、その結果、発生する熱が少なくなる。しかし、残念なことに、これによりエチレンの収率が低下して、費用対効果が低下する。同じ収率を達成するために、同様の開始量のエタンを用いて反応器をより大きくした場合、理論的には、体積がより大きいため、供給物がより希釈されて、リスクは低くなるが、設備投資とダウンタイムが過大となる可能性がある。別の方法として、より少ない同じ触媒を用いて、又はより活性の低い触媒を用いて、反応器に再装填することもできるが、それでも効果は依然として同じである。活性が低ければ、収率も低くなる。
【0034】
図1に関連して上記で説明したセットアップでは、上流端から下流端に向かってエタンの転化率が低下するが、反応器の長さに沿った触媒容量、又はエタンをエチレンに転化する能力は、比較的一定であり、これは、同様のサイズの触媒粒子と同様のサイズの熱放散粒子が均一に分布しているため、触媒粒子はすべて、同様の量の同じ触媒を含んでいるからである。触媒粒子及び熱放散粒子が均一に分布している触媒容量プロファイルは、触媒床の長さに沿って一定、又は比較的一定になるであろう。
【0035】
本開示の実施形態は、エチレンへのエタンの酸化的脱水素化のための固定床反応器システムを対象とし、ODH触媒を含む触媒床を備え、触媒床の長さに沿って触媒容量が増加する。いくつかの実施形態では、触媒容量は、触媒床の上流端から下流端に向かって徐々に増加する。別の実施形態では、触媒容量は、1つ又は複数の段階で増加する。触媒床の長さに沿った触媒容量の変化、又は触媒容量プロファイルは、装填設計(loading design)、又は触媒粒子がどのように触媒床内に装填及び充填されるかの関数である。反応器システムは、単一の反応器又は複数の反応器を含むことができる。
【0036】
<触媒>
触媒床の触媒容量を変更するために、使用者は、存在する触媒の量を変えるか、又は触媒の組成を変えることができる。触媒の量を変えるのは簡単である。組成を変えるには、触媒を構成する触媒種を変える必要がある。単一の種を含む触媒の場合、異なる活性を有する異なる触媒種で単純な置換をすることもできるし、1つ以上の触媒種を追加して複数の種を含む触媒を形成することもできる。2つ以上の触媒種の混合物を含む触媒の場合、混合物中に存在する各々の種の寄与を調整したり、混合物から特定の種を除去したり、前に存在しなかった触媒種を追加したりすることもできる。
【0037】
実験式が異なる触媒種は、同じ条件下で異なる転化率を有する場合がある。エタンをエチレンに転化する能力について異なる触媒を比較することは、エタンの35%転化が生じる温度を決定することによって達成できる。35%転化の決定は、試験すべき触媒を反応器に装填すること、エタン及び酸素を含む供給物を典型的なODH運転条件下で触媒上に通過させて生成物流を形成すること、並びに、エタンの35%が生成物に転化される温度を特定すること、によって実行することができる。大型の商業サイズの反応器、特に数1000本の管を備えた多管型(シェルアンドチューブ)反応器に装填するのは時間がかかり、触媒の35%転化温度を確認する目的では、経済的に実現可能でない。さまざまな触媒種の35%転化温度の決定や比較には、小規模反応器、又はマイクロ反応器ユニット(MRU)が最適である。触媒種間の比較には、同様の量、サイズ、形状の触媒種を同様の体積で装填し、同一のODH運転条件(例:供給物組成、圧力、流量)を用いて試験することが必要である。詳細なMRU設定を以下に説明する。これを用いて、個々の触媒種、1つ以上の触媒種の混合物、触媒粒子、又は触媒床若しくは触媒床セクション(触媒床組成物)の代表的な試料について、35%転化温度を評価することができる。
【0038】
35%転化温度が低い触媒は、35%転化温度が高い触媒に比べて、エタンをエチレンに転化する能力が高くなる。2つの異なる触媒床を比較する場合であって、それぞれ異なる触媒が均一に分布しているが、希釈比と空隙率が同一又はほぼ同一である場合、最も低い35%転化温度を有する触媒床の方が、より高い触媒容量を有することになる。
【0039】
<希釈比(Dilution Ratio)>
触媒は、触媒と、支持体及び/又は結合剤などの触媒添加剤とを組み合わせて触媒粒子を形成することにより、触媒床で希釈することができる。また、触媒床には、触媒又は触媒粒子だけでなく、熱放散粒子も充填することができる。希釈比、すなわち、触媒が触媒添加剤及び熱放散粒子の一方又は両方で希釈される程度は、触媒容量に影響を与える。希釈比は、熱放散粒子及び触媒添加剤(支持体、結合剤など)の総質量を、触媒床の総質量(触媒の質量と熱放散粒子及び触媒添加剤の総質量)で割ることによって計算される。触媒床の希釈比を変えることは、触媒床に存在する熱放散粒子に対する触媒の量を変えること、及び触媒粒子の形成において触媒に対する触媒添加剤の量を変えること、の一方又は両方を含むことができる。
【0040】
本明細書に開示される固定床反応器システムでの使用に適用可能な希釈比は、理論的には0.0~約0.95の範囲であってもよい。ただし、いくつかの例外を除いて、ほとんどの触媒種は、構造的特性を維持するために結合剤を必要とする。結合剤の最小量は、一般に、結合剤を含む完全な触媒の約5重量%であり、触媒床に熱放散粒子が存在しない場合、希釈比は0.05になる。
【0041】
熱放散粒子の例としては、例えば、DENSTONE(登録商標)99(Saint-Gobain Ceramics & Plastics,Inc.)アルミナ粒子、若しくはSS316粒子、又は触媒床内に不活性空間を作るために挿入できる不活性金属棒が挙げられる。不活性な非触媒熱放散粒子は、1つ以上のODH反応器内で使用することができる。熱放散粒子は、触媒床内に存在することができ、反応の温度上限制御限界よりも少なくとも約50℃高い融点を有する1つ以上の非触媒不活性粒子を含み、いくつかの実施形態では、反応の温度上限制御限界より少なくとも約250℃高く、さらなる実施形態では、反応の温度上限制御限界より少なくとも約500℃高い。熱放散粒子は、約0.5~約15mmの範囲、いくつかの実施形態では約0.5~約7.5mmの範囲、いくつかの実施形態では約1.0~約5.0mmの範囲の粒子サイズを有することができる。熱放散粒子は、反応温度制御限界内で約30W/mK(ワット/メートルケルビン)を超える熱伝導率を有することができる。いくつかの実施形態では、熱放散粒子は、反応温度制御限界内で約50W/mK(ワット/メートルケルビン)を超える熱伝導率を有する金属合金及び化合物である。これらの実施形態で使用できる適切な金属の非限定的な例には、銀、銅、金、アルミニウム、鋼、ステンレス鋼、モリブデン、及びタングステンが含まれるが、これらに限定されない。熱放散粒子は、触媒床の総重量に基づいて、約5~約95重量%、いくつかの実施形態では、約30~約70重量%、他の実施形態では約45~約60重量%の量で触媒床に添加することができる。粒子は、熱を反応器の壁に直接伝達することにより、冷却の均一性を改善し、触媒床内のホットスポットを減らすために使用される。熱放散粒子は、任意に、触媒粒子の形成において、触媒と共にプレス又は押出成形することができる。
【0042】
触媒床の希釈比を下げると、触媒容量が増加する効果がある。2つの異なる触媒床の比較において、それぞれ同じ触媒が均一に分布して、同一又はほぼ同一の空隙率を有する場合、希釈比が低い触媒床の方が、触媒容量が高くなる。
【0043】
<空隙率(Void Fraction)>
触媒粒子と、場合によっては熱放散粒子を、触媒床に充填すると、粒子間に空間が生じ、すなわち空隙率が生じる。空隙率は、触媒粒子及び/又は熱放散粒子のサイズ及び形状を変えることによって変更することができる。例えば、粒子が大きいほど空隙空間が多くなる。また、リング形状の触媒粒子は、同様の直径と厚さのディスクよりも空隙率が高くなる。空隙率の決定は、当業者の権限に属する。触媒床組成物を比較する際に同じ方法を使用するのであれば、空隙率を測定するための選択される方法は重要ではない。
【0044】
空隙率は、触媒床内の各成分の大きさ、形状、量を用いて計算により求めることができる。粒子のサイズと形状がわかっている場合、ランダムな充填を仮定して、空隙率を計算するためのソフトウェアプログラムが利用可能である。空隙率は、触媒床の試料を、室温及び大気圧で、容器の全容量まで容器内に分注し、次いで容器を低粘度流体で満たすことによって、測定することもできる。次いで、空隙率は、容器を満たすのに必要な低粘度流体の量を容器の体積で割ることによって、決定することができる。触媒床の構成要素にあまり進入しない(細孔に吸収される)、又は触媒床の構成要素を溶解する低粘度の流体を選択することは、当業者の専門知識の範囲内である。適切な例には、油(吸水性の触媒床成分用)及び水(疎水性の触媒床成分用)が含まれるが、これらに限定されない。低粘度の液体の場合、材料全体に拡散する時間、及び気泡が触媒床から離れるようにする時間が必要である(典型的には約15分)。反応器内での装填及び充填を模倣する容量まで、触媒床が容器を満たすことが重要である。容器のサイズは、反応器と同様の充填を可能にする限り、任意のサイズの容器を使用することができる。例えば、内径0.5インチの反応器管に触媒床を充填する場合、内径0.5インチの円筒形容器が理想的であり得る。円筒の長さは、理想的には6インチ以上である。
【0045】
本開示のいくつかの実施形態では、空隙率は0.30~0.70である。本開示のいくつかの実施形態では、空隙率は0.30~0.60である。本開示のいくつかの実施形態では、空隙率は0.40~0.50である。
【0046】
空隙率を変更することにより、オペレータは、触媒床の固定体積当たりの触媒の表面積を減少させる。その効果は、エタンからエチレンへの転化の大部分が発生する触媒の表面上の活性部位の数を減らすことであり、これにより触媒容量が減少する。2つの異なる触媒床を比較する場合であって、それぞれ同様の触媒粒子が均一に分布し、同様の希釈比を有するが、空隙率が異なる場合、空隙率が低い触媒床の方が、より高い触媒容量を有することになる。
【0047】
<徐々に増加(上昇)(Gradual Increase)>
図2は、希釈比が触媒床の長さに沿って徐々に減少する触媒床1を示す。
図2に示すように、上流端5から下流端6まで触媒床に沿って、熱希釈粒子3の頻度が徐々に減少し、触媒粒子2の頻度が増加する。その効果は、上流端から下流端に向かって触媒容量を増加させることである。
【0048】
本開示のいくつかの実施形態では、触媒床の長さに沿って希釈比が徐々に減少するため、触媒床の長さに沿って触媒容量が徐々に増加する。
【0049】
35%転化温度が上流端から下流端に向かって徐々に上昇する触媒床を提供することも考えられる。それぞれが異なる35%転化温度を有する触媒粒子の混合物を使用することによって、35%転化温度を徐々に上昇させることができる。上流端から下流端に向かって、より高い35%転化温度を有する触媒粒子の頻度が減少し、より低い35%転化温度を有する触媒粒子が増加してもよい。触媒床セクションの35%転化温度は、触媒床セクションの長さに沿った各点における、重量分率を考慮した、異なる触媒粒子タイプの35%転化温度の平均値である。
【0050】
本開示のいくつかの実施形態では、触媒床の長さに沿って触媒粒子の35%転化温度が徐々に低下するため、触媒床の長さに沿って触媒容量が徐々に増加する。
【0051】
空隙率が上流端から下流端に向かって徐々に減少する触媒床を提供することも考えられる。それぞれ異なるサイズ及び/又は形状を有する触媒粒子の混合物を使用することによって、空隙率を徐々に減少させることができる。上流端から下流端に向かって、より密に充填されない触媒粒子(より多くの空隙空間を作り出す)の頻度が減少し、より密に充填された触媒粒子が増加してもよい。
【0052】
本開示のいくつかの実施形態では、触媒床の長さに沿って空隙率が徐々に減少するため、触媒床の長さに沿って触媒容量が徐々に増加する。
【0053】
<触媒容量の段階(Catalyst Capacity Steps)>
多管型(シェルアンドチューブ)反応器は、数千本の管を備える場合があり、各管の長さに沿って触媒容量を徐々に増加させながら触媒床を装填することは、実現可能で有益と思われるが、ロジスティックス的に難しく、費用がかかる。費用対効果の高い方法で、触媒容量プロファイルを増加させながら数千本の管に装填する方法を開発することは有益である。しかし、実際には、触媒床を異なる均一な触媒容量を有するセクションに分割する方が簡単で費用効率が高い可能性がある。これは、触媒床を異なる均一な触媒容量を有するセクションであって、第1の上流セクションに続いて1つ以上の後続セクションがあり、各セクションには上流端と下流端があり、最後の下流セクションで終わるものである。第1の上流セクションと最後の下流セクションを除いて、各セクションは、隣接するセクションとの関係で、上流セクション又は下流セクションとすることができる。例えば、4-セクションの触媒床では、第2のセクションは、第1の上流セクションに対する下流セクション及び第3のセクションに対する上流セクションであり、第3のセクションは、第2のセクションに対する下流セクション及び最後の下流セクションに対する上流セクションである。セクションは、連続していてもよいし、触媒のない領域によって分離されていてもよい。
【0054】
いくつかの実施形態では、触媒床は、触媒床の長さに沿って直列に配置された少なくとも2つの重なり合わない触媒床セクションを含み、各触媒床セクションは上流端及び下流端を有し、第1の上流触媒床セクションの後に1つ以上の下流セクションが続き、最後の触媒床セクションは触媒床の下流端で終わり、触媒床セクションは、触媒容量の変化によって識別され、各触媒床セクションは、前の上流の触媒床セクションよりも高い触媒容量を有する。
【0055】
図3は、単一の反応器内に収容され、上流セクション7と下流セクション8(括弧で示される)を含む触媒床1の概略図である。セクションは連続しているが、破線で示すように触媒容量が変化している。各セクションは、触媒床の長さの約半分に及び、同様のサイズで同様の総数の触媒粒子及び放熱粒子で充填されている。上流セクション7の希釈比は、下流セクション8よりも高く、その理由は、そのセクションの触媒粒子2と比較してより多くの熱放散粒子3が存在するためである。上流セクション7の触媒容量は、下流セクション8よりも低くなる。
【0056】
本開示のいくつかの実施形態では、1つ以上の触媒床セクションは、前の触媒床セクションよりも低い希釈比を有する。
【0057】
本開示のいくつかの実施形態では、1つ以上の触媒床セクションは、前の触媒床セクションよりも低い希釈比を有し、それらの触媒床セクションは、同様の量の同じ触媒を含む。
【0058】
触媒床セクションの希釈比は、0(熱放散粒子や触媒添加剤がない場合)から、0.95(熱放散粒子や触媒添加剤が触媒床セクションの質量の95%を構成する場合)までの範囲とすることができる。触媒床に触媒だけを充填することは可能であるが、技術的には制限される場合があり、好ましくは、触媒床セクションの希釈比は、0.30~0.9の範囲であり、より好ましくは0.50~0.80の範囲である。
【0059】
本開示のいくつかの実施形態では、反応器システムは、0.00~0.95の希釈比を有する1つ以上の触媒床セクションを含む。
本開示のいくつかの実施形態では、反応器システムは、0.30~0.90の希釈比を有する1つ以上の触媒床セクションを含む。
本開示のいくつかの実施形態では、反応器システムは、0.50~0.80の希釈比を有する1つ以上の触媒床セクションを含む。
【0060】
触媒床セクション間の希釈比の差が大きいほど、対応する最高プロセス温度、ひいては温度差に、大きな影響を与えることが予想される。最も大きな影響は、0.75の希釈比を有する上流触媒床セクションの後に、0の希釈比(熱放散粒子なし)を有する下流触媒床セクションが続く場合に発生し、これは100%低い。2%程度の差を含め、わずかな差でさえも有益であることが判明する可能性があると考えられる。
【0061】
いくつかの実施形態では、1つ以上の触媒床セクションは、前のセクションよりも2~100%低い希釈比を有する。
いくつかの実施形態では、1つ以上の触媒床セクションは、前のセクションよりも5~70%低い希釈比を有する。
いくつかの実施形態では、1つ以上の触媒床セクションは、前のセクションよりも10~50%低い希釈比を有する。
【0062】
<35%転化温度>
図4は、単一の反応器内に収容され、上流セクション7と下流セクション8を含む触媒床1の概略図である。セクションは連続しているが、破線で示すように触媒容量が変化している。それらのセクションは同様のサイズであり、それぞれに触媒粒子及び熱放散粒子が同様の総数で充填されており、触媒床の長さの約半分をカバーしている。上流セクション7の35%転化温度は、下流セクション8よりも高い。その理由は、触媒粒子2よりも低い35%転化温度を有する強力な触媒粒子9(黒丸)が下流セクション8に存在するためである。触媒粒子2と、より強力な触媒粒子9との混合物を含む、下流セクション8における35%転化温度は、平均して、触媒粒子全体が触媒粒子2である上流セクション7における35%転化温度よりも低い。この装填設計により、下流セクション8は、より高い触媒容量を有する。
【0063】
本開示のいくつかの実施形態では、1つ以上の触媒床セクションは、前の触媒床セクションよりも低い35%転化温度を有する。
【0064】
本開示のいくつかの実施形態では、1つ以上の触媒床セクションは、前の触媒床セクションの触媒よりも低い35%転化温度を有する触媒を有し、それらの触媒床セクションは、同様の希釈比及び空隙率を有する。
【0065】
いくつかの実施形態では、反応器システムは、上流床セクション及び下流床セクションからなり、上流床セクション及び下流床セクションは、同様の希釈比及び空隙率を有し、下流床セクションの触媒は、上流床セクションの触媒よりも高い35%転化温度を有する。
【0066】
いくつかの実施形態では、反応器システムは、上流床セクション及び下流床セクションからなり、上流床セクション及び下流床セクションは、同様の希釈比及び空隙率を有し、下流床セクションの触媒は、上流床セクションの触媒よりも高い35%転化温度を有し、上流床セクション及び下流床セクションの一方又は両方の触媒は、2つ以上の触媒種を含む。
【0067】
図5は、単一の反応器内に収容され、上流セクション7と下流セクション8を含む触媒床1の概略図である。セクションは連続しているが、破線で示すように触媒容量が変化している。それらのセクションは同様のサイズであり、それぞれに触媒粒子及び熱放散粒子が体積当たりの同様の数で充填されており、触媒床の長さの約半分をカバーしている。上流セクション7の35%転化温度は、下流セクション8よりも高い。その理由は、触媒粒子2よりも低い35%転化温度を有する強力な触媒粒子9(黒丸)が下流セクション8に存在するためである。この装填設計により、下流セクション8はより高い触媒容量を有する。上流セクション7と下流セクション8は、触媒床の長さの割合が2つのセクション間で不均等に分割されるように、異なるサイズであってもよい。
【0068】
いくつかの実施形態では、反応器システムは、上流床セクション及び下流床セクションからなり、上流床セクション及び下流床セクションは、同様の希釈比及び空隙率を有し、
下流床セクションの触媒は、上流の床セクションの触媒よりも高い35%転化温度を有し、
上流床セクション及び下流床セクションの一方又は両方の触媒は、2つ以上の触媒種を含み、
上流床セクションと下流床セクションは、触媒床の長さの0.2~0.8を構成する。
【0069】
図6は、単一の反応器内に収容され、上流セクション7と下流セクション8を含む触媒床1の概略図である。セクションは連続しているが、破線で示すように触媒容量が変化している。それらのセクションはサイズが不均等であり、上流セクション7は、触媒床の長さの約3分の1に及び、下流セクション8は、触媒床の長さの最後の2/3に及ぶ。上流セクション7は、下流セクション8の触媒粒子及び熱放散粒子よりも大きなサイズの触媒粒子及び熱放散粒子を含む。さらに、下流セクション8の触媒粒子及び熱放散粒子は、小さいだけでなく、さまざまなサイズを含む。その結果、下流セクション8は、より密に充填され、はるかに小さい空隙率を有する。体積当たりの触媒量とセクションの希釈比は同様であるため、下流セクション8の触媒容量は上流セクション7よりも高くなる。
【0070】
本開示のいくつかの実施形態では、1つ以上の触媒床セクションは、前の触媒床セクションよりも低い空隙率を有する。
【0071】
いくつかの実施形態では、反応器システムは、上流床セクション及び下流床セクションからなり、上流床セクション及び下流床セクションは、同様のタイプ及び量の触媒並びに同様の希釈比及び空隙率を有し、上流セクションの空隙率は、下流セクションの空隙率よりも高い。
【0072】
希釈比と同様に、触媒床セクション間の空隙率の差が大きいほど、最高プロセス温度と温度差により大きな影響を与えることが予想される。最大の効果は、0.7の最大空隙率を有する上流触媒床セクションの後に、0.3の可能な限り最も低い空隙率を有する下流触媒床セクションが続く場合に発生し、これは57.1%低い。2.0%程度の差を含め、わずかな差でさえも有益であることが判明する可能性があると考えられる。いくつかの実施形態では、1つ以上の触媒床セクションは、前のセクションよりも2.0~57%低い空隙率を有する。
【0073】
本開示のいくつかの実施形態では、1つ以上の触媒床セクションは、前の触媒床セクションよりも5.0~45%低い空隙率を有する。本開示のいくつかの実施形態では、1つ以上の触媒床セクションは、前の触媒床セクションよりも10~25%低い空隙率を有する。
【0074】
触媒床セクションは、触媒のない領域によって分離されていてもよい。
図7及び
図8は、単一の反応器内に収容された触媒床の概略図である。
図7には、上流セクション7と下流セクション8があり、
図8には、上流セクション7と下流セクション8に隣接して設けられた追加の中間セクション10がある。
図7では、触媒のない介在領域11が2つのセクションを分離し、
図8では、介在領域11が上流セクション7と中間セクション10を分離している。介在領域11は、構成要素を固定することによって触媒床セクションを支持し、運転中のずれを防止できるという点で、領域4と同様である。介在領域は、供給ガス及び生成物ガスが反応器を通過し、ある触媒床セクションから次の触媒床セクションへと通過することを可能にする任意の材料であることができる。介在領域の例には、熱放散粒子のセクション、仕切板、スタティックミキサー、又は触媒粒子及び熱放散粒子がセクション間を通過するのを防ぐ任意の材料又は構造が含まれるが、これらに限定されない。例えば、垂直方向に配置された反応器では、触媒粒子が通過するには小さすぎる直径を有する穴を備えた仕切板が、プロセスガスを通過させながら、触媒粒子が下部セクションに落下するのを防止する。介在領域の適切な材料又は設計を選択することは、当業者の専門知識の範囲内である。
【0075】
触媒床は、1つ以上の反応器にわたって広がる触媒床セクションを含むことができ、各反応器は1つ以上の触媒床セクションを含む。
図9は、2つの反応器(点線のボックスで示される)にわたって広がる触媒床の概略図であり、第1の反応器12は、2つの触媒床セクション(上流セクション7及び中間セクション10)を含み、第2の反応器13は、下流セクション8を含む。このシナリオでは、中間セクション10は、第1反応器と第2反応器との間の接続によって下流セクション8から分離される。
図9のセクションは直列であり、上流セクション7は、中間の触媒容量を有する中央セクション10よりも空隙率が大きいため、最も低い触媒容量を有する。下流セクション8は、中間セクション10と同様の空隙率を有し、より強力な触媒粒子9を含むため、最も高い触媒容量を有する。
【0076】
いくつかの実施形態では、反応器システムは、2つ以上の反応器にわたって広がる2つ以上の触媒床セクションを含む。
【0077】
いくつかの実施形態では、反応器システムは、2つ以上の触媒床セクションを含み、これらの触媒床セクションは、異なる触媒を含む。
【0078】
<固定床反応器の調製方法>
反応器に固定床を装填することは、当業者の知識の範囲内である。オペレータは、典型的には、触媒粒子の特定のタイプ、サイズ、及び形状(触媒粒子が触媒添加剤を含むかどうかを含む)を選択し、熱放散粒子のタイプ、サイズ、及び量を選択する。装填する前に、すべての成分を混合して均一な分布を促進することにより、触媒床組成物を調製する。典型的には、ODH用の固定床反応器は垂直方向に配置され、触媒床組成物が、手で、又はロボット手段を使用して、高密度充填を可能にするのに十分遅い速度で、管に、又は多管型(シェルアンドチューブ)反応器の複数の管に、単純に注がれる。触媒床の構成要素である触媒粒子と熱放散粒子は、自然に沈降する。その結果、触媒粒子と熱放散粒子が均一に分布した触媒床を備えた固定床反応器が得られ、触媒床は均一な触媒容量を有する。このような方法で反応器に装填する専門知識は一般的である。
【0079】
本明細書で提供されるのは、固定床反応器に触媒床を装填する方法であり、ここで触媒床は、触媒床の上流端から下流端に向かって触媒容量が増加するように順に配列された、1つ以上の重なり合わないセクション(複数)を含む。
【0080】
本明細書で提供されるのは、エタンの酸化的脱水素化のために固定床反応器に触媒床を装填する方法であって、固定床反応器が上流端及び下流端を有し、当該方法は、
ODH触媒を含む、2つ以上の触媒床組成物を調製する工程、
触媒床組成物のそれぞれについて触媒容量を決定する工程、
触媒床組成物を、固定床反応器に、高密度でランダムな充填を可能にするのに十分遅い速度で、順に、別々に注ぐ工程であり、最も低い触媒容量を有する触媒床組成物を上流端に注ぎ、最も高い触媒容量を有する触媒床組成物を下流端に注ぐ、工程、
注がれた触媒床組成物を固定床反応器内に固定して、装填された触媒床を形成する工程、を含み、
ここで、触媒床組成物は、別個の触媒床セクションを形成し、触媒床セクションは、触媒容量の変化によって識別され、触媒容量は上流端から下流端に向かって増加する。
【0081】
本明細書で提供されるのは、1つ以上の管を備える固定床反応器に触媒床を装填する方法であって、各管が上流端及び下流端を有し、当該方法は、
ODH触媒を含む、2つ以上の触媒床組成物を調製する工程、
触媒床組成物のそれぞれについて触媒容量を評価し、触媒床組成物を最も低い相対触媒容量から最も高い相対触媒容量まで順序付ける工程、
触媒床組成物を、固定床反応器の1つ以上の管に、高密度でランダムな充填を可能にするのに十分遅い速度で、順に、別々に注ぐ工程であり、最も低い触媒容量を有する触媒床組成物を上流端に注ぎ、最も高い触媒容量を有する触媒床組成物を下流端に注ぐ、工程、
注がれた触媒床組成物を1つ以上の管内に固定する工程、
を含み、
ここで、触媒床組成物は、別個の触媒床セクションを形成し、触媒床セクションは、触媒容量の変化によって識別され、触媒容量は上流端から下流端に向かって増加する。
【0082】
触媒床組成物の調製は、当業者の知識の範囲内である。異なる触媒容量を有する1つ以上のセクションを有する固定床反応器を設計するために、オペレータは、触媒組成、希釈比、及び/又は空隙率の関連要因を変えることができる。触媒床組成物の触媒容量の違いを評価するために、オペレータは、特性を比較し、どの組成物がより高い触媒容量を有するかを予測することを検討することができる。これは、要因のうちの2つが同一である場合は、簡単なことかもしれない。例えば、同じ触媒組成及び希釈比を有するが、空隙率が大きく異なる触媒床組成物は、触媒容量が異なることが明らかであり、最小の空隙率を有する触媒床組成物がより大きな触媒容量を有することは明らかであろう。特に、1つの関連要因で差が大きい場合、予測は簡単かもしれない。しかし、2つ以上の要因が異なる場合、予測は信頼できる場合とできない場合がある。触媒床組成物の相対35%転化温度を全体として比較することが好ましい。
【0083】
本開示のいくつかの実施形態では、相対35%転化温度によって触媒床組成物を順序付けることによって、触媒容量を評価し、最も高い相対35%転化温度を有する触媒床組成物が、最も低い相対触媒容量を有する触媒床組成物に対応する。
【0084】
触媒床組成物の35%転化温度を評価することには、触媒床組成物の試料を小型反応器ユニットに装填し、反応器内の温度及びエタンの転化率をモニターしながら、供給物流を反応器に通すことが含まれる。供給物組成、圧力、及び流量などのプロセス条件が異なると、特定の触媒床組成物の35%転化温度が、異なる値になる可能性がある。「相対(relative)」触媒容量とは、実際の35%転化温度は関連するが、2つ以上の触媒床組成物を比較するためには必須でないことを意味する。それよりも、各組成物の35%転化温度を、他の組成物と相対的に比較することが重要であり、それによって順序付けを確立することができる。
【0085】
MRUは、ステンレス鋼管(例えば、SWAGELOK(登録商標)Tubing)から作製された反応器管を含んでもよく、ODHプロセスで使用するために触媒床組成物を装填することを意図している固定床反応器内への充填を反映した触媒床組成物の充填を可能にするサイズを有する。理想的には、MRU反応器管は、対象の固定床反応器の管又は複数の管と同じ内径及び外径を共有する。必須ではないが、MRU管の長さは、定常状態の運転を可能にするのに十分な長さであることが必要である。6インチ~3フィートの範囲の長さが理想的であろう。可動熱電対又は多点熱電対(例えば、WIKA Instruments Ltd.の6点Kタイプ熱電対)をMRU反応器管に挿入し、触媒床内の温度を測定及び制御するために使用することができる。室温のステンレス鋼コンデンサーをMRU反応器管の後に配置して、水と酢酸凝縮物を収集することができる。ガス生成物の流れをガスクロマトグラフ(例えば、GC;Agilent 6890N Gas Chromatograph, Using Chrom Perfect-Analysis, Version 6.1.10 for data evaluation)に導き、生成物の流れに存在するさまざまな化学種のレベルを測定することによって、転化及び選択性をモニターしてもよい。
【0086】
触媒床組成物の試料は、別々に試験される。試験は、組成物を、確実に密に装填するためにゆっくりとMRU反応器管に装填することによって行う。エタン及び酸素、場合によっては不活性希釈剤を含む予め混合した供給ガスを、流量及び圧力の標準化された条件で反応器に供給することができる。供給物組成と標準化された条件は、典型的なODHプロセスの条件に近似するようにオペレータが選択することができ、その条件は、「相対」35%転化温度を適切に評価するために、すべての触媒床組成物の試験において同一でなければならない。典型的な供給物組成は、20モル%のエタン、10モル%の酸素、及び70モル%の不活性希釈剤(例えば窒素)を含んでもよい。圧力は大気圧でもよく、流速は2.0~3.5h-1のWHSVで一定に保ってもよい。温度は、エタンの転化率をモニターしながら、制御して徐々に上げてもよい。35%転化温度は、定常運転時の35%転化時の温度である。
【0087】
本明細書に記載の固定床反応器に装填することにより、定常運転条件下で最高プロセス温度を制御又は制限する方法が可能になる。ODHプロセスの冷却システムは、典型的には、プロセスの等温線を基準にして設計されており、等温線に近い温度は容易に制御される。多管型(シェルアンドチューブ)反応器において、管の直径が小さいものに比べて大きいものは、エチレンの収率を増加させる可能性を有する。しかし、管を大きくすると、触媒床の内部コア(温度が最も高い場所)と管の壁との間の温度差が大きくなる。冷却材温度は等温線温度に近づき、管の壁の温度とほぼ同じになる。温度急上昇、又は触媒床温度が等温線温度を超える領域は、その温度差が、冷却システムが熱を除去する能力を超えた場合、熱暴走のリスクが生じる。典型的には、最高プロセス温度は触媒床の長さの最初の20%で観察され、そこでは発熱転化が最も高くなり、熱が放出される。酸化的脱水素化反応器触媒床の第1のセクション内の最高反応温度と、後続の触媒床セクション内の温度との間の温度差は、約1~約50℃、又は約2~約30℃、場合によっては、約5~約20℃とすることができる。典型的に言えば、反応器管の直径が大きいほど、温度差は大きくなる。より大きな直径の管は、収率を向上させる機会を提供するが、大きな温度差に伴う熱暴走のリスクを伴う。大きな直径の反応器管に増加させた触媒容量を装填することで、熱暴走のリスクなしに収率を向上させる機会が得られる。
【0088】
上流セクションの触媒容量を減らすと、転化とそれに伴う発熱による熱の放出が減少し、制御不能な温度急上昇のリスクを最小限に抑えることができる。さらに、上流セクションが同様の触媒容量を有し、供給エタンが下流のセクションに到達する前に低レベルまで枯渇するシナリオと比較して、より多くのエタンが利用できるため、下流セクションが転化により多く寄与することができる可能性がある。最後に、別の潜在的な利点は、下流端でより高い触媒容量を有することで、残留酸素を消費する機会が得られ、生成物流の酸素レベルを下げ、酸素の存在下での処理に関連するリスクを回避できる可能性があることである。生成物流は、典型的には、酸素に敏感なアミン塔を備えた二酸化炭素除去段階を含む分離トレインを通過し、分離トレイン内に酸素が蓄積すると爆発性混合物を形成する可能性がある。
【0089】
多管型(シェルアンドチューブ)反応器内の異なる管の間で、触媒容量プロファイルを変化させることは、管と管の間の等温線の変動がオペレータに冷却制御の困難さを課すことになるため、考えられるが実際的ではない。
【0090】
<ODHプロセス>
本明細書に記載の固定床反応器システムは、ODHプロセスに利用することができ、その典型的な条件を以下に記載する。反応器内の条件はオペレータによって制御され、温度、圧力、及び流量などのパラメータが含まれるが、これらに限定されない。条件はさまざまであり、特定のエタン/酸素供給物組成、又は特定の混合金属酸化物触媒、又は反応物の混合に熱除去希釈ガスを使用するかどうかについて最適化することができる。エタンをエチレンに脱水素化するODH反応器は、酸素と20体積%以上のエタンを含む少なくとも1つの供給物流と、エチレン、未反応のエタン、1つ以上のカルボン酸、水、及び酸素を含む少なくとも1つの出口流とを含む。
【0091】
本開示に一致するODHプロセスを実施するためのODH反応器の使用は、当業者の知識の範囲内である。エタンのODHは、以下のように実施することができる。すなわち、最高プロセス温度を、約300℃~約450℃、場合によっては約300℃~約425℃、他の場合には約300℃~約400℃、場合によっては、約310℃~約350℃とすることができ、圧力を、約0.5~約100psig(3.447~689.47kPag)、場合によっては、約15~約50psig(103.4~344.73kPag)とすることができ、活性混合金属酸化物触媒の体積を分子とし、供給ガスの流量(flow rate)を分母とした場合のODH反応器内の滞留時間を、約0.002~約30秒、場合によっては約1秒~約10秒とすることができる。
【0092】
実施形態では、ODHプロセスは、約85%を超えるエチレンに対する選択性を有し、場合によっては約90%を超える。反応物及び熱除去希釈ガスの流れは、当技術分野で知られている任意の数の方法で説明することができる。典型的には、流れ(flow)は、1時間に活性触媒床の体積を通過するすべての供給ガス(反応物及び希釈剤)の体積、又はガス毎時空間速度(GHSV)に関連して記述及び測定される。GHSVは、約50~約10000h-1の範囲とすることができ、場合によっては、その範囲は約500h-1~約1000h-1である。流量は、重量毎時空間速度(WHSV)として測定することもでき、これは、熱除去希釈剤を除いて、1時間当たりの活性触媒の重量を超えるガスの流れを、体積ではなく重量で表したものである。WHSVは、約0.5h-1~約18.75h-1、場合によっては約1.0~約10.0h-1の範囲であってもよい。
【0093】
ODH反応器を通るガスの流れは、ガス流の線速度(m/s)として記述することもでき、これは、当技術分野では、ガス流の流量を反応器の断面積で割ったものをすべて混合金属酸化物触媒床の空隙率で割ったものとして定義される。流量は一般に、反応器に入るすべてのガスの標準温度及び標準圧力(すなわち、0℃及び1bar)での体積流量の合計を意味し、酸素とエタンが最初に混合金属酸化物触媒に接触する場所で、その地点の温度及び圧力で測定される。ODH反応器の断面も、混合金属酸化物触媒床の入口で測定される。線速度は、約5cm/秒~約1500cm/秒の範囲とすることができ、場合によっては約10cm/秒~約500cm/秒の範囲とすることができる。
【0094】
混合金属酸化物触媒1kg当たりのg/時間におけるエチレンの空時収量(生産性)は、約350~約400℃で、多くの場合、約200以上、場合によっては約500以上、他の場合には約900以上、場合によっては約1500を超え、他の場合には約3000を超え、状況によっては、約3500を超える。混合金属酸化物触媒の生産性は、選択率が低下するまで、温度の上昇とともに増加することに留意する必要がある。
【0095】
エタン及び酸素の混合物は、多くの場合、可燃性エンベロープの外にある比で構成される。例えば、酸素に対するエタンの比は、可燃性エンベロープの上限の外にある可能性がある。この場合、混合物中の酸素の割合は、約30体積%以下、場合によっては約25体積%以下、他の場合には約20体積%以下である。混合物中の酸素のこの割合は、反応器入口までの温度に依存し、多くの場合、反応器管に入る前に可燃性限界の外に留まることが条件であるからである。反応器管内では、酸素は可燃性エンベロープの範囲内にある可能性があるが、触媒床自体が火炎防止器として機能する可能性がある。予熱が反応温度まで完全に行われる場合、酸素は約10%まで低くすることができる。
【0096】
酸素の割合が高い場合、混合物を可燃性エンベロープの外に保つために、エタンの割合を選択することができる場合がある。当業者であれば適切なレベルを決定することができるが、エタンの割合は40体積%を超えないことが推奨される。ODH前の混合ガスが20体積%の酸素と40体積%のエタンを含む場合、残りは、熱除去希釈ガス(窒素、二酸化炭素、及び蒸気のうちの1つ以上など)で補う必要がある。熱除去希釈ガスは、反応器入口及び反応器内の条件で、気体状態で存在する必要があり、反応器に添加される炭化水素の可燃性を増加させるべきでなく、どの熱除去希釈ガスを採用するかを決定する際に、当業者が理解する特性であろう。熱除去希釈ガスは、ODH反応器に入る前に、エタン含有ガス若しくは酸素含有ガスのいずれかに添加することができ、又はODH反応器に直接添加することができる。
【0097】
可燃性エンベロープの範囲内に入る混合物は理想的ではないが、爆発事象の伝播を防ぐ条件下で混合物が存在する場合に採用されることがある。すなわち、可燃性混合物は、着火が即座に消される媒体内で生成される。例えば、ユーザーは、酸素とエタンが火炎防止剤に囲まれた点で混合される反応器を設計することができる。いかなる着火も、周囲の火炎防止剤によって消される。火炎防止剤には、ステンレス鋼の壁やセラミック支持体などの金属又はセラミック部品が含まれるが、これらに限定されない。別の可能性は、着火しても爆発に至らないような低温で酸素とエタンを混合し、温度を上げる前に反応器に導入することである。混合物が反応器内の火炎防止材によって取り囲まれるまでは、可燃性条件は存在しない。
【0098】
<ODH触媒>
当技術分野で知られているODH触媒として使用される混合金属酸化物触媒のいずれも、本明細書に開示される方法での使用に適している。適切な酸化的脱水素化触媒の非限定的な例には、以下から選択される1つ以上の混合金属酸化物触媒を含むものが挙げられる:
i)次式の触媒:
MoaVbTecNbdPdeOf
(式中、a、b、c、d、e、及びfは、それぞれ元素Mo、V、Te、Nb、Pd及びOの相対原子量であり;a=1、b=0.01~1.0、c=0.01~1.0、d=0.01~1.0、0.00≦e≦0.10で、fは触媒中に存在する金属の原子価状態を少なくとも満たす数である);
ii)次式の触媒:
NigAhBiDjOf
(式中、gは0.1~0.9、多くの場合0.3~0.9、他の場合には0.5~0.85、場合によっては0.6~0.8の数であり;hは0.04~0.9の数であり;iは0~0.5の数であり;jは0~0.5の数であり;fは、触媒中の金属の原子価状態を少なくとも満たす数であり;Aは、Ti、Ta、V、Nb、Hf、W、Y、Zn、Zr、Si及びAl又はそれらの混合物から選択され;Bは、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Sb、Sn、Bi、Pb、Tl、In、Te、Cr、Mn、Mo、Fe、Co、Cu、Ru、Rh、Pd、Pt、Ag、Cd、Os、Ir、Au、Hg、及びそれらの混合物から選択され;Dは、Ca、K、Mg、Li、Na、Sr、Ba、Cs、Rb及びそれらの混合物から選択され;Oは、酸素である);
iii)次式の触媒:
MoaEkGlOf
(式中、Eは、Ba、Be、Ca、Cr、Mn、Nb、Ta、Ti、Te、V、W及びそれらの混合物から選択され;Gは、Al、Bi、Ce、Co、Cu、Fe、K、Mg、V、Ni、P、Pb、Sb、Si、Sn、Ti、U、及びそれらの混合物から選択され;a=1;kは0~2;l=0~2、ただし、Co、Ni、Fe及びそれらの混合物のlの合計値は0.5未満であり;fは、触媒中の金属の原子価状態を少なくとも満たす数である);
iv)次式の触媒:
VmMonNboTepMeqOf
(式中、Meは、Ta、Ti、W、Hf、Zr、Sb及びそれらの混合物から選択され;mは0.1~3であり;nは0.5~1.5であり;oは0~3であり;pは0.001~5であり;qは0~2であり;fは触媒中の金属の原子価状態を少なくとも満たす数である);並びに
v)次式の触媒:
MoaVrXsYtZuMvOf
(式中、Xは、Nb及びTaの少なくとも1つであり;Yは、Sb及びNiの少なくとも1つであり;Zは、Te、Ga、Pd、W、Bi及びAlの少なくとも1つであり;Mは、Be、Fe、Co、Cu、Cr、Ti、Ce、Zr、Mn、Pb、Mg、Sn、Pt、Si、La、K、Ag及びInの少なくとも1つであり;a=1.0(正規化);r=0.05~1.0;s=0.001~1.0;t=0.001~1.0;u=0.001~0.5;v=0.001~0.3;fは触媒中の金属の原子価状態を少なくとも満たす数である)。
【0099】
触媒が、従来の水熱プロセスを用いて作製された場合、以下の式を有し得る:
Mo1.0V0.25-0.45Te0.10-0.16Nb0.15-0.19Od
(式中、dは触媒中の金属の原子価状態を少なくとも満たす数である)。
【0100】
ODH触媒材料の実施態様は、以下の式を有する混合金属酸化物である:
Mo1V0.1-1Nb0.1-1Te0.01-0.2X0-0.2Of
(式中、Xは、Pd、Sb、Ba、Al、W、Ga、Bi、Sn、Cu、Ti、Fe、Co、Ni、Cr、Zr、Ca、及びそれらの酸化物及び混合物から選択され、fは触媒中に存在する金属の原子価状態を満たす数である)。
【0101】
ODH触媒材料の実施態様は、Mo、V、O、及び鉄(Fe)を含む混合金属酸化物である。Mo対Vのモル比は、1:0.25から1:0.50、又は1:0.30から1:0.45、又は1:0.30から1:0.35、又は1:0.35から1:0.45とすることができる。Mo対Feのモル比は、1:0.25から1:5.5、又は1:3から1:5.5、又は1:4.25から1:4.75、又は1:4.45から1:4.55、又は1:0.1から1:1、又は1:0.25から1:0.75、又は1:0.4から約1:0.6、又は約1:0.4、又は約1:0.6、又は1:1.3から1:2.2、又は1:1.6から1:2.0、又は1:1.80から1:1.90とすることができる。さらに、酸素は、少なくとも存在する金属酸化物の原子価を満たす量で存在する。触媒は、Fe(III)として存在する触媒材料中のFeの少なくとも一部を有することができる。触媒は、アモルファス鉄として存在する触媒材料中のFeの少なくとも一部を有することができる。触媒は、酸化鉄、酸化鉄水酸化物、又はそれらの組合せとして存在する触媒材料中のFeの少なくとも一部を有することができる。酸化鉄は、ヘマタイト(α-Fe2O3)、マグヘマイト(γ-Fe2O3)、マグネタイト(Fe3O4)、又はそれらの組合せから選択される酸化鉄を含むことができる。水酸化酸化鉄は、針鉄鉱(ゲーサイト)、アカゲナイト、レピドクロサイト、又はそれらの組合せから選択される水酸化酸化鉄を含むことができる。触媒は、鉄の少なくとも一部を針鉄鉱として、鉄の少なくとも一部をヘマタイトとして含むことができる。
【0102】
ODH触媒材料の実施態様は、以下の式を有する混合金属酸化物である:
Mo1V0.1-1Nb0.1-1Te0.01-0.2X0-0.2Of
(式中、Xは、Pd、Sb、Ba、Al、W、Ga、Bi、Sn、Cu、Ti、Fe、Co、Ni、Cr、Zr、Ca、及びそれらの酸化物及び混合物から選択され、fは触媒中に存在する金属の原子価状態を満たす数である)。
【0103】
ODH触媒材料の実施態様は、Mo、V、O、及び鉄(Fe)を含む混合金属酸化物である。Mo対Vのモル比は、1:0.25から1:0.50、又は1:0.30から1:0.45、又は1:0.30から1:0.35、又は1:0.35から1:0.45とすることができる。Mo対Feのモル比は、1:0.25から1:5.5、又は1:3から1:5.5、又は1:4.25から1:4.75、又は1:4.45から1:4.55、又は1:0.1から1:1、又は1:0.25から1:0.75、又は1:0.4から約1:0.6、又は約1:0.4、又は約1:0.6、又は1:1.3から1:2.2、又は1:1.6から1:2.0、又は1:1.80から1:1.90とすることができる。さらに、酸素は、少なくとも触媒中に存在する金属の原子価状態を満たす量で存在する。触媒は、Fe(III)として存在する触媒材料中のFeの少なくとも一部を有することができる。触媒は、アモルファス鉄として存在する触媒材料中のFeの少なくとも一部を有することができる。触媒は、酸化鉄、酸化鉄水酸化物、又はそれらの組合せとして存在する触媒材料中のFeの少なくとも一部を有することができる。酸化鉄は、ヘマタイト(α-Fe2O3)、マグヘマイト(γ-Fe2O3)、マグネタイト(Fe3O4)、又はそれらの組合せから選択される酸化鉄を含むことができる。水酸化酸化鉄は、針鉄鉱(ゲーサイト)、アカゲナイト、レピドクロサイト、又はそれらの組合せから選択される水酸化酸化鉄を含むことができる。触媒は、鉄の少なくとも一部を針鉄鉱として、鉄の少なくとも一部をヘマタイトとして含むことができる。
【0104】
ODH触媒材料の実施態様は、実験式 Mo1V0.25-0.5Od を有する混合金属酸化物であり、dは触媒中に存在する金属の原子価状態を満たす数である。Mo対Vのモル比は、1:0.25から1:0.5、又は1:0.3から1:0.49とすることができる。
【0105】
ODH触媒材料の実施態様は、Mo、V、O、及びアルミニウム(Al)を含む混合金属酸化物である。Mo対Vのモル比は、1:0.1から1:0.50、又は1:0.25から1:0.50、又は1:0.3から1:0.49、又は1:0.30から1:0.45、又は1:0.30から1:0.35、又は1:0.35から約1:0.45とすることができる。Mo対Alのモル比は、1:1.5から1:6.5、又は1:3.0から1:6.5、又は1:3.25から1:5.5.5、又は1:3.5から1:4.1、又は1:4.95から1:5.05、又は1:4.55から1:4.65、又は1:1.5から1:3.5、又は1:2.0から1:2.2、又は1:2.9から1:3.1である。酸素は、少なくとも触媒中に存在する金属の原子価状態を満たす量で存在する。触媒材料中のAlの少なくとも一部は、酸化アルミニウムとして存在することができ、酸化アルミニウムは、水酸化酸化アルミニウムとすることができる。水酸化酸化アルミニウムは、ギブサイト、バイヤライト、ベーマイト、又はそれらの組合せから選択される水酸化酸化アルミニウムを含むことができる。触媒材料中のAlの少なくとも一部は、ガンマアルミナとして存在することができる。
【0106】
ODH触媒材料の実施態様は、Mo、V、O、Al、及びFeを含む混合金属酸化物である。Mo対Vのモル比は、1:0.1から1:0.5、又は1:0.30から1:0.45、又は1:0.30から1:0.35、又は1:0.35から1:0.45とすることができる。Mo対Alのモル比は、1:1.5から1:6.0とすることができる。Mo対Feのモル比は、1:0.25から5:5とすることができる。酸素は、少なくとも触媒中に存在する金属の原子価状態を満たす量で存在する。Mo対Feのモル比は、1:0.1から1:1とすることができ、Mo対Alのモル比は、1:3.5から1:5.5とすることができる。Mo対Feのモル比は、1:0.25から1:0.75とすることができ、Mo対Alのモル比は、1:3.75から1:5.25とすることができる。Mo対Feのモル比は、1:0.35から1:0.65とすることができ、Mo対Alのモル比は、1:3.75から1:5.25とすることができる。Mo対Feのモル比は、1:0.35から1:0.45とすることができ、Mo対Alのモル比は、1:3.9から1:4.0とすることができる。Mo対Feのモル比は、1:0.55から0:65とすることができ、Mo対Alのモル比は、1:4.95から1:5.05とすることができる。Mo対Feのモル比は、1:1.3から1:2.2とすることができ、Mo対Alのモル比は、1:2.0から1:4.0とすることができる。Mo対Feのモル比は、1:1.6から1:2.0とすることができ、Mo対Alのモル比は、1:2.5から1:3.5とすることができる。Mo対Feのモル比は、1:1.80から1:1.90とすることができ、Mo対Alのモル比は、1:2.9から1:3.1とすることができる。触媒材料中のFeの少なくとも一部は、Fe(III)として存在することができる。触媒材料中のFeの少なくとも一部は、非晶質Feとして存在することができる。触媒材料中のFeの少なくとも一部は、酸化鉄、水酸化酸化鉄、又はそれらの組合せとして存在することができる。いくつかの実施形態では、酸化鉄は、ヘマタイト(α-Fe2O3)、マグヘマイト(γ-Fe2O3)、マグネタイト(Fe3O4)、又はそれらの組合せから選択される酸化鉄を含む。水酸化酸化鉄は、針鉄鉱(ゲーサイト)、アカゲナイト、レピドクロサイト、又はそれらの組合せから選択される水酸化酸化鉄を含むことができる。触媒材料中のFeの少なくとも一部は、針鉄鉱として存在することができ、触媒材料中のFeの少なくとも一部は、ヘマタイトとして存在することができる。触媒材料中のAlの少なくとも一部は、酸化アルミニウムとして存在することができる。酸化アルミニウムは、水酸化酸化アルミニウムを含むことができる。水酸化酸化アルミニウムは、ギブサイト、バイヤライト、ベーマイト、又はそれらの組合せから選択される水酸化酸化アルミニウムを含むことができる。触媒材料中のアルミニウムの少なくとも一部は、ガンマアルミナとして存在することができる。
【0107】
ODH触媒材料の実施態様は、Mo、V、Be、及びOを含む混合金属酸化物である。
Mo対Vのモル比は、1:0.25から1:0.65、又は1:0.35から1:0.55、又は1:0.38から1:0.48とすることができる。Mo対Beのモル比は、1:0.25から1:0.85、又は1:0.35から1:0.75、又は1:0.45から1:0.65とすることができる。酸素は、少なくとも触媒中に存在する金属の原子価状態を満たす量で存在する。
【0108】
ODH触媒材料の実施態様は、Mo、V、Be、Al、及びOを含む混合金属酸化物である。Mo対Vのモル比は、1:0.25から1:0.65、又は1:0.35から1:0.55、又は1:0.38から1:0.48とすることができる。Mo対Beのモル比は、1:0.25から1:1.7、又は1:0.35から1:0.75、又は1:0.45から1:0.65とすることができる。Mo対Alのモル比は、1:1から1:9、又は1:2から1:8、又は1:4から1:6とすることができる。酸素は、少なくとも触媒中に存在する金属の原子価状態を満たす量で存在する。触媒材料中のアルミニウムの少なくとも一部は、酸化アルミニウムとして存在することができる。酸化アルミニウムは、水酸化酸化アルミニウムを含むことができる。酸化水酸化アルミニウムは、ギブサイト、バイヤライト、ベーマイト、又はそれらの組合せから選択される水酸化酸化アルミニウムを含むことができる。触媒材料中のアルミニウムの少なくとも一部は、ガンマアルミナとして存在することができる。
【0109】
ODH触媒材料の実施態様は、約20重量%~約50重量%、又は約25重量%~約45重量%、又は約45重量%~約75重量%、又は約55重量%~約65重量%、又は約50重量%~約85重量%、又は約55重量%~約75重量%、又は約60重量%~約70重量%の非晶質相を有する。
【0110】
ODH触媒材料の実施態様は、約50nmを超える、又は約75nmを超える、又は約100nmを超える、又は約125nmを超える、又は約75nm~約150nm、又は約75nm~約250nm、又は約125nm~約175nmの平均微結晶サイズを有する。
【0111】
ODH触媒材料の実施態様は、約0.5μm~約10μm、又は約2μm~約8μm、又は約3μm~約5μm、又は約0.5μm~約20μm、又は約5μm~約15μm、又は約7μm~約11μmの平均粒子サイズを有する。
【0112】
ODH触媒材料の実施態様は、6.5±0.2、7.8±0.2、8.9±0.2、10.8±0.2、13.2±0.2、14.0±0.2、22.1±0.2、23.8±0.2、25.2±0.2、26.3±0.2、26.6±0.2、27.2±0.2、27.6±0.2、28.2±0.2、29.2±0.2、30.5±0.2、及び31.4±0.2から選択される少なくとも1つ以上のXRD回折ピーク(2θ度)を有することによって特徴付けられ、XRDはCuKα放射線を用いて得られる。ODH触媒材料の実施態様は、6.6±0.2、6.8±0.2、8.9±0.2、10.8±0.2、13.0±0.2、22.1±0.2、26.7±0.2、27.2±0.2、及び28.2±0.2から選択される少なくとも1つ以上のXRD回折ピーク(2θ度)を有することによって特徴付けられ、XRDはCuKα放射線を用いて得られる。
【0113】
ODH触媒材料の実施態様は、約0.8重量%~約30重量%のカルシウムを含むことができる。触媒材料は、約0.15重量%~約2.8重量%のカルシウムを含むことができる。触媒材料は、約0.5重量%~約75重量%の炭酸カルシウムを含むことができる。触媒材料は、約5重量%~約15重量%の炭酸カルシウムを含むことができる。
【0114】
触媒は、結合剤、担体、希釈剤又は促進剤を用いて担持又は凝集させることができる。いくつかの結合剤には、TiO2、ZrO2、Al2O3、AlO(OH)、及びそれらの混合物の酸性、塩基性又は中性の結合剤スラリーが含まれる。別の有用な結合剤には、Nb2O5が含まれる。凝集した触媒は、固定床反応器で典型的に使用されるサイズの適切な形状(リング、球、サドルなどの形状)に押出成形することができる。触媒を押出成形する場合、当技術分野で知られているさまざまな押出助剤を使用することができる。場合によっては、結果として得られる担持体は、BETで測定して300m2/gという高い累積表面積を有することができ、場合によっては約35m2/g未満、場合によっては約20m2/g未満、他の場合には約3m2/g未満であり、累積細孔体積は、約0.05~約0.50cm3/gである場合がある。
【0115】
触媒は、単独でもよいし、組み合わせてもよい。また、いくつかの実施形態では、触媒は、触媒活性を高めるためにPd、Pt又はRuなどの促進剤と共に使用してもよい。相対的に言えば、反応物の流れの方向における触媒床の最初の長さの40%までに最初に使用される触媒は、触媒床の残りの長さにおける平均触媒容量の反応性の約90%以下、場合によっては、約80%以下の反応性を有する。
【0116】
混合金属酸化物触媒は、担持触媒とすることができる。支持体は、チタン、ジルコニウム、アルミニウム、マグネシウム、イットリウム、ランタン、シリコン、ゼオライト及び粘土の酸化物、並びにそれらの混合組成物又は炭素マトリックスから選択することができる。混合金属酸化物触媒はまた、触媒粒子間の凝集力を高め、存在する場合には支持体への触媒の接着を任意に改善する結合剤を添加することもできる。混合金属酸化物触媒は、DENSTONE(登録商標)99アルミナ粒子やSS316粒子などの不活性材料で希釈することができる。
【0117】
支持体の有無にかかわらず、混合金属酸化物触媒は、1:1から10:1の長さ対直径の比を有することができ、場合によっては1:1から5:1の長さ対直径の比を有することができる。支持体の有無にかかわらず、混合金属酸化物触媒は、球形、円筒形、スラブ形状、又は任意の他の形状にすることができる。支持体の有無にかかわらず、混合金属酸化物触媒は、各円筒(cylinder)の各端にノッチを有する粒子を含むことができ、いくつかの実施形態では各円筒の端に最大3つのノッチを有する粒子を含むことができる。支持体の有無にかかわらず、混合金属酸化物触媒は、連続的で、粒子の長さを延長することができる1つ以上の外部「バンプ」又は隆起を含むこともできる。混合金属酸化物触媒は、中空の円筒又はリングの形状にすることができる。支持体の有無にかかわらず、混合金属酸化物触媒は、各粒子を通る少なくとも1つの通路を含むことができる。当業者であれば、混合金属酸化物触媒の形状及び寸法に関して、どの特徴が必要とされるかを知っているであろう。
【実施例】
【0118】
固定床反応器ユニット(FBRU)装置を使用して、エタンの酸化的脱水素化に関する実験を行った。FBRU装置は、直列に配置された2つの垂直方向の固定床管型反応器で構成され、各反応器は、外径1インチ、長さ34インチのSS316L管であり、電気加熱ジャケットで包まれ、セラミック絶縁材料で密閉されていた。各反応器には、143gの触媒からなる同一の触媒床が含まれていた。当該触媒の化学式は、PIXE分析によって測定されるように、MoV0.30-0.40Te0.10-0.20Nb0.10-0.20OXであり、ここで、Xは、この触媒に存在する金属酸化物の最も高い酸化状態に基づいて計算され、Moの相対量1に対する各成分の相対原子量が、下付き文字で示されている。触媒の35%転化温度は、2gの触媒と、それぞれ36/18/46体積%のエタン、酸素、及び窒素の供給物組成を使用し、154sccmの供給ガス流量と大気圧出口圧力で、MRUセットアップで測定した場合、約380℃であった。
【0119】
実験中に触媒床が動くリスクを最小限に抑えるため、両方の反応器の触媒床の上下に石英粉末を充填し、ガラスウールで所定の位置に固定した。
【0120】
実験には、エタン、二酸化炭素、及び水の成分を含む供給物流を使用する実験運転(run)が含まれ、最初の反応器に導入する前に、予め混合し、約220℃以下の温度に加熱した。第1の反応器からの生成物を、さらなる成分を添加することなく第2の反応器に移し、各反応器について同じ温度を維持した。各反応器内の各触媒床の温度は、各触媒床の長さに沿って等間隔に配置された4つの熱電対を用いてモニターした。各触媒床の熱電対点間の最高温度を用いて、反応器の温度を制御し、その際に、各反応器を取り囲む反応器水ジャケット内の水の圧力と沸騰温度を制御するのに対応する背圧調整器を使用した。各反応器の反応温度は、全8点の平均値として計算した。
【0121】
ODH反応器のシミュレーションを、gPROMS ProcessBuilder(登録商標)1.2.0を用いて開発した。SRK状態方程式を用いて、Multiflashのコンポーネントプロパティを定義した。ODH反応の動力学モデルはgPROMS ProcessBuilder 1.2.0で開発し、動力学パラメータは、上記のFBRU実験からの固定床反応器データを用いて推定した。使用した混合金属酸化物触媒は、MoaVbTecNbdOe(式中、a、b、c、d、及びeは、それぞれ元素Mo、V、Te、Nb、及びOの相対原子量であり;a=1、b=0.01~1.0、c=0.01~1.0、d=0.01~1.0、0.eは触媒の原子価状態を満たす数である)であった。表1は、360℃でのFBRU実験データとモデル予測との比較を示している。モデルの予測は、反応器のデータとよく一致している。
【0122】
【0123】
以下の例は、希釈比又は空隙率を変えることによって触媒容量プロファイルを変更した場合の、最高プロセス温度への影響を示すものである。各シミュレーション例において、シミュレーションされたODH反応器への各成分の供給の質量流量は一定であり、表2に示す。シミュレーションされた供給物温度及び圧力も一定であり、それぞれ350℃と196.5kPaであった。表3は、ODH触媒のシミュレーションされた熱物理特性を示している。各シミュレーション例の結果を表4に示す。反応器の寸法を変更して、触媒床全体で同じ量の触媒(g)を維持した。各例における触媒の総量は197.9gに設定した。
【0124】
【0125】
【0126】
[例1](比較例1)
例1のシミュレーション条件は、活性触媒197.9g、希釈比0.55、触媒粒子は、平均長さ及び直径がそれぞれ5mm及び3.175mmの円筒形状であった。空隙率は0.421に設定した。シミュレーションされた反応器の長さは2.7m、外径は25.4mm、壁の厚さは2.1mmであった。冷却材の入口温度は、供給物の温度と同様、すなわち350℃に設定し、出口温度は352℃であった。壁面冷却材の熱伝達係数は1000W/m2Kに設定した。結果を表4に示す。
【0127】
[例2](比較例2)
例2は、例1と同じシミュレーション条件、空隙率、及びODH触媒の形状及びサイズに従った。シミュレーションには197.9gの活性触媒も含まれていたが、触媒床の40体積%しか占めていなかった。同じ量の触媒活性相を維持しながら活性触媒の体積%を減少させるために、外径を25.4mm、壁厚を2.1mmに維持しながら、反応器の長さを3.0mに増加させた(実際には希釈比を増加させた)。冷却材の入口温度は、供給物の温度と同様に設定し、すなわち350℃に設定し、出口温度は352℃であった。この場合、壁冷却材の熱伝達係数は470W/m2Kに設定した。結果を表4に示す。
【0128】
これらの比較例の結果は、より大きな反応器に同様の量の触媒を装填することによって、最高プロセス温度及び温度勾配を減少させることができることを示している。両方の比較例は、同じ量の触媒を含むが、例2(比較例2)では、触媒はより大きな体積内に分布している。反応器の体積を大きくすると、建設費が増加する可能性がある。
【0129】
[例3]
例3も、例1と同じシミュレーション条件、空隙率、及びODH触媒の形状及びサイズを使用した。シミュレーションには、触媒床を2つのセクションに分割することが含まれていた。上流セクションは、触媒床の長さの最初の70%をカバーし、133.5gの触媒と0.40の希釈比を有し、下流セクションは、触媒床の長さの最後の30%をカバーし、64.4gの触媒と0.55の希釈比を有する。反応器内の総触媒量を、例1と同じ量に維持するために、反応器の長さを2.7mから2.9mに増加させた。外径と肉厚は同じままである。冷却材の入口温度は、供給物の温度と同様、すなわち350℃であると想定され、出口温度は352℃である。この場合、壁冷却材の熱伝達係数は1000W/m2Kに設定した。表4に示す結果から、上流セクションで見られる最高プロセス温度は、例1及び例2の両方と比較して、それぞれ約10.8℃及び2.6℃低下していることがわかる。
【0130】
[例4]
例4では、希釈比は、触媒床の長さにわたって0.55に設定した。例3と同様に、触媒床を2つのセクションに分割し、上流セクションが触媒床の長さの最初の70%をカバーし、下流セクションが触媒床の長さの残りの30%をカバーした。触媒形状を長さ7.5mm、直径4.8mmの粒子に調整することにより、上流部の空隙率を、下流部の0.421と比較して、0.436に増加させた。下流セクションには、長さ5.0mm、直径3.2mmの触媒粒子を設定した。上流セクションには137.5gの触媒を含むように設定し、下流セクションには60.4gの触媒を含むように設定し、合計197.9gであった。触媒床の長さは2.7mに設定し、外径は25.4mmに設定し、壁の厚さは2.1mmに設定した。冷却材の入口温度は、供給物の温度と同様、すなわち350℃であると想定され、出口温度は352℃である。この場合、壁冷却材の熱伝達係数は1000W/m2Kに設定した。結果を表4に示す。
【0131】
【0132】
前の例とは異なる触媒容量プロファイルが、シミュレーションされたODH反応器内の温度プロファイルに及ぼす影響を、
図10に示す。特に、
図10は、記載された例の温度プロファイルを示している。例1~例4の4つの例の線はすべて、寸法・反応器長さ(x軸)として示されるように、触媒床の最初の10%内で発生するプロセス温度(y軸)の最大値を示している。
【0133】
希釈比又は空隙率のいずれかを操作することにより、実際には触媒中の活性相の体積分率を変え、触媒の寸法を変えることにより、温度プロファイルが変化することがわかる。希釈比(上流部から下流部にかけて8.3%減少)又は空隙率(上流部から下流部にかけて3.5%減少)を少し変えても、最高プロセス温度の変化が観察され、それぞれ10.8℃及び12.9℃低下した。また、温度差は、希釈比及び空隙率の変化に対して、それぞれ10.2℃及び13.7℃減少した。セクション間の触媒容量がより大きく変化すると、最高プロセス温度と温度差はさらに低下する可能性がある。
【0134】
管型反応器の軸方向温度プロファイルを考慮すると、最高プロセス温度は反応器の入口付近で発生し、反応器の長さの0~20%にある。温度プロファイルは、管型反応器の端に向かって徐々に等温線まで低下する。管型反応器内で達成されるエタン転化の約70%は、シミュレーションされた反応器の入口から20%以内で発生する。この最高プロセス温度は、エチレンの選択性にも影響を与える。最高プロセス温度と等温線温度との差が大きくなると、エチレンの選択性が低下する可能性がある。上記の例では、選択性は比較的変化していないが、触媒容量の変化が大きくなると、最高温度と等温線の差がさらに減少し、選択性が向上する可能性が高いと予想される。また、最高プロセス温度を適切に制御しないと、反応器内にホットスポットが発生する可能性がある。この最高プロセス温度を制御するために、反応器のシェル側の冷却材の流れを操作することができる。
【0135】
これらの例は、酸化的脱水素化反応器触媒床の第1のセクション(50体積%まで)内の最高プロセス温度を制御又は低下させる方法を例示しており、酸化的脱水素化反応器が、エタンの供給物流の一部をエチレンに転化し、最高プロセス温度の位置を、反応物と熱除去希釈ガスの供給の流れとは反対の方向にシフトする方法を例示している。これは、反応器の第1のセクションにおいて、より低い触媒容量を有する触媒床(触媒床の残りのセクション(複数可)よりも低い体積当たりの反応性を有する)を使用することによって行うことができる。
【0136】
本明細書で提供される詳細な説明、実施形態、及び例は、例示のみを目的としており、本開示の範囲を限定することを意図するものではなく、当業者には明らかなさまざまな追加の態様、修正又は変更を含むと理解されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本開示は、エタン酸化的脱水素化プロセスで使用するための固定床反応器システムに関する。
【国際調査報告】