(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-13
(54)【発明の名称】細胞製剤、造血幹細胞を特徴付けるためのタンパク質の使用、及び造血幹細胞を判定するための方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20231106BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20231106BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20231106BHJP
A61K 35/28 20150101ALI20231106BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20231106BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/53 D
G01N33/543 541A
G01N33/543 575
A61K35/28
A61P7/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023527448
(86)(22)【出願日】2021-09-29
(85)【翻訳文提出日】2023-06-21
(86)【国際出願番号】 CN2021121702
(87)【国際公開番号】W WO2022095642
(87)【国際公開日】2022-05-12
(31)【優先権主張番号】202011208703.5
(32)【優先日】2020-11-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522242362
【氏名又は名称】▲広▼州▲輯▼因医▲療▼科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】EDIGENE (GUANGZHOU) INC.
【住所又は居所原語表記】Building 10, No.6, Nanjiang Second Road, Zhujiang Street, Nansha District, Guangzhou City, Guangdong 510000, China
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】方 日国
(72)【発明者】
【氏名】▲馬▼ 奎▲瑩▼
(72)【発明者】
【氏名】李 超
(72)【発明者】
【氏名】袁 ▲鵬▼▲飛▼
【テーマコード(参考)】
2G045
4C087
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CA25
2G045CA26
2G045DA36
2G045FB03
2G045FB12
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB63
4C087NA14
4C087ZA51
(57)【要約】
本発明は、細胞製剤、造血幹細胞を特徴付けるためのタンパク質の使用、及び造血幹細胞を判定するための方法を提供する。前記細胞製剤は、選別対象細胞から選別されたCD34+、CD90+、CD45RA-と、CD48、CD66a、CD66c、CD66d、CD66e及びCD200から選択される1種又は2種以上のタンパク質とが陽性である造血幹細胞である。本発明の前記タンパク質を用いて造血幹細胞を特徴付けることにより、目的細胞をインビトロでより正確に標識、評価することができるだけでなく、造血幹細胞移植を受けた後の造血系再構築能を長期的に維持する患者の能力を向上させ、より良い治療効果を達成することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
造血幹細胞を特徴付けるためのタンパク質の使用であって、
前記タンパク質は、
(1)CD34、CD90及びCD45RAと、
(2)CD48、CD66a、CD66c、CD66d、CD66e、及びCD200から選択される1種又は2種以上と、を含む使用。
【請求項2】
前記タンパク質は、
(1)CD34、CD90及びCD45RAと、
(2)CD66a、CD66e及び/又はCD200、好ましくはCD66eと、を含む、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
被検細胞がCD34陽性であるか否かを検出することと、
被検細胞がCD90陽性であるか否かを検出することと、
被検細胞がCD45RA陰性であるか否かを検出することと、
被検細胞がCD48、CD66a、CD66c、CD66d、CD66e及びCD200から選択される1種又は2種以上のタンパク質陽性であるか否かを検出することと、を含み、
被検細胞が、CD34陽性、CD90陽性、CD45RA陰性であり、かつ、CD48、CD66a、CD66c、CD66d、CD66e及びCD200から選択される1種又は2種以上のタンパク質陽性である場合、造血幹細胞であると判定する、造血幹細胞を判定するための方法。
【請求項4】
前記被検細胞は、臍帯血、動員末梢血、又は骨髄由来である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記タンパク質は、CD66a、CD66e及び/又はCD200、好ましくはCD66eである、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
単離対象細胞からCD34+、CD90+、CD45RA-と、CD48、CD66a、CD66c、CD66d、CD66e及びCD200から選択される1種又は2種以上のタンパク質とが陽性である造血幹細胞をスクリーニングすることを含む、造血幹細胞をスクリーニングする方法。
【請求項7】
前記分離対象細胞は、臍帯血、動員末梢血、又は骨髄由来である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記タンパク質は、CD66a、CD66e及び/又はCD200、好ましくはCD66eである、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
選別対象細胞から選別されたCD34+、CD90+、CD45RA-と、CD48、CD66a、CD66c、CD66d、CD66e及びCD200から選択される1種又は2種以上のタンパク質とが陽性である造血幹細胞を含む、細胞製剤。
【請求項10】
前記選別対象細胞は、臍帯血、動員末梢血、又は骨髄由来である、請求項9に記載の細胞製剤。
【請求項11】
前記タンパク質は、CD66a、CD66e及び/又はCD200、好ましくはCD66eである、請求項9又は10に記載の細胞製剤。
【請求項12】
選別対象細胞からCD34+、CD90+、CD45RA-と、CD48、CD66a、CD66c、CD66d、CD66e及びCD200から選択される1種又は2種以上のタンパク質とが陽性である造血幹細胞をスクリーニングすることを含む、細胞製剤を調製する方法。
【請求項13】
前記選別対象細胞は、臍帯血、動員末梢血、又は骨髄由来である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記タンパク質は、CD66a、CD66e及び/又はCD200、好ましくはCD66eである、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
造血系再構築能を向上させるための薬物であって、
請求項9~11のいずれか1項に記載の細胞製剤、又は請求項12~14のいずれか1項に記載の方法により調製された細胞製剤を含む、薬物。
【請求項16】
被験者の造血系を再構築する方法であって、
請求項9~11のいずれか1項に記載の細胞製剤、又は請求項12~14のいずれか1項に記載の方法により調製された細胞製剤を被験者に投与することを含む、方法。
【請求項17】
被検細胞がCD34陽性であるか否か、被検細胞がCD90陽性であるか否か、被検細胞がCD45RA陰性であるか否か、被検細胞がCD48、CD66a、CD66c、CD66d、CD66e、及びCD200から選択される1種、2種、3種、又は4種以上のタンパク質陽性であるか否かの各々を検出するための化合物を含む、造血幹細胞を検出するキット又は製品。
【請求項18】
前記タンパク質は、CD66a、CD66e及びCD200のうちの1種、2種又は3種、好ましくはCD66eである、請求項17に記載のキット又は製品。
【請求項19】
前記単離対象細胞は、臍帯血、動員末梢血、又は骨髄由来である、請求項17又は18に記載のキット又は製品。
【請求項20】
前記化合物は抗体である、請求項17~19のいずれか1項に記載のキット又は製品。
【請求項21】
前記抗体は、化学的に標識された抗体、例えば、発光性化合物で標識された抗体、例えば、蛍光で標識された抗体である、請求項20に記載のキット又は製品。
【請求項22】
前記抗体は磁気ビーズに付着される抗体である、請求項20に記載のキット又は製品。
【請求項23】
選別又は富化対象の細胞から、CD34+、CD90+、CD45RA-と、CD48、CD66a、CD66c、CD66d、CD66e及びCD200から選択される1種、2種、3種、又は4種以上のタンパク質とが陽性である造血幹細胞を選別又は富化するための化合物を含む、造血幹細胞を選別又は富化するキット又は製品。
【請求項24】
前記タンパク質は、CD66a、CD66e及びCD200のうちの1種、2種又は3種、好ましくはCD66eである、請求項23に記載のキット又は製品。
【請求項25】
前記単離対象細胞は、臍帯血、動員末梢血、又は骨髄由来である、請求項23又は24に記載のキット又は製品。
【請求項26】
前記化合物は抗体である、請求項23~25のいずれか1項に記載のキット又は製品。
【請求項27】
前記抗体は、化学的に標識された抗体、例えば、発光性化合物で標識された抗体、例えば、蛍光で標識された抗体である、請求項26に記載のキット又は製品。
【請求項28】
前記抗体は磁気ビーズに付着される抗体である、請求項26に記載のキット又は製品。
【請求項29】
スクリーニング対象培地を用いて造血幹細胞を培養した後、CD34+、CD90+、CD45RA-と、CD48、CD66a、CD66c、CD66d、CD66e及びCD200から選択される1種、2種、3種、又は4種以上のタンパク質とが陽性であることにより特徴付けられる造血幹細胞の割合の維持又は上昇下降を検出することを含む造血幹細胞用培地をスクリーニングする方法であって、
上記のように特徴付けられた造血幹細胞の培養後の割合が維持又は上昇していると、スクリーニング対象培地は適切な造血幹細胞用培地であることを示す、方法。
【請求項30】
請求項29に記載の方法によりスクリーニングされた造血幹細胞用培地。
【請求項31】
請求項9~11のいずれか1項に記載の細胞製剤、又は請求項12~14のいずれか1項に記載の方法により調製された細胞製剤の有効量を被験者に投与することを含む、被験者の疾患を治療する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオテクノロジーの技術分野に関し、特に、細胞製剤、造血幹細胞を特徴付けるためのタンパク質の使用、及び造血幹細胞を判定するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
造血幹細胞(HSCs:Hematopoietic stem cells)は骨髄と血液に存在し自己複製能を有し、すべてのタイプの血液細胞に多方向に分化する幹細胞である。造血系において、造血幹細胞はすべての細胞の分化のもとであり、多能性及び自己複製能を有する。造血幹細胞には、長期(LT:Long-term)と短期(ST:Short-term)の2種類があり、LT-HSCは数が少なく、主に静止状態を維持し、主に造血系の長期再構築能を担当する。ST-HSCは強い増殖能を持ち、さらに造血前駆細胞(HPCs:hematopoietic progenitor cells)に分化できる。これらの前駆細胞は造血系の系統分化能を部分的に保持し、さらに成熟したリンパ細胞、骨髄系細胞、赤血球などにコミットして分化(directed differentiation)することができる。
【0003】
最近40年来、造血系に対する理解が深くなるに伴い、造血幹細胞はますます多く臨床に応用され、血液疾患や免疫不全症などに対して細胞治療と遺伝子治療を行っている。細胞由来により、HSCは臍帯血(CB:Cord blood)、動員末梢血(mPB:Mobilized peripheral blood)、及び骨髄(BM:Bone marrow)HSCに分けられる。現在の造血幹細胞移植の適応症は以下を含む。
(1)血液系悪性腫瘍、例えば、慢性顆粒球性白血病、急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性骨髄球性白血病、慢性リンパ性白血病、急性前骨髄球性白血病、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、骨髄腫、多発性骨髄腫、骨髄線維化及び骨髄異形成症候群、バーキットリンパ腫、B細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、T細胞リンパ腫、形質芽球性リンパ腫、皮膚T細胞リンパ腫、原発性マクログロブリン血症、形質細胞白血病、形質芽球性リンパ腫、有毛細胞白血病、全身性肥満細胞症、芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍及びその他の血液系悪性腫瘍。
(2)血液系非悪性腫瘍、例えば、再生不良性貧血、ファンコニー貧血、地中海貧血、鎌状赤血球貧血症、骨髄線維化、重度の発作性夜間ヘモグロビン尿症、無巨核球性血小板減少症及びその他の血液系非悪性腫瘍。
(3)固形腫瘍、例えば、乳癌、卵巣癌、精巣癌、腎臓癌、神経芽細胞腫、小細胞肺癌、生殖細胞腫、ユーイング肉腫、軟組織肉腫、ウェルムス腫瘍、骨肉腫、髄芽細胞腫、悪性脳腫瘍及びその他の固形腫瘍。
(4)免疫系疾患、例えば、重症複合免疫不全症、重症自己免疫疾患、原発性中枢神経系リンパ腫、湿疹血小板減少合併免疫不全症候群、慢性肉芽腫、IPEX(免疫調節異常、多腺性内分泌障害、腸疾患、X連鎖性)症候群、ALアミロイドーシス、POEMS症候群、血球貪食症候群、関節リウマチ、多発性硬化症、全身性硬化症、全身性エリテマトーデス、クローン病、多発性筋炎と皮膚筋炎及びその他の自己免疫、免疫失調及び免疫不全疾患。
(5)他の遺伝疾患又は代謝系疾患、例えば、ムコ多糖症、先天性角化異常症、リソソーム病、クラッベ病、異染性白質ジストロフィー、X連鎖副腎白質ジストロフィー及びその他の遺伝疾患又は代謝系疾患など。
【0004】
倫理や研究モデルの制限により、ヒト造血幹細胞に対する理解は、マウスHSCの機序を参考にした研究と、ヒトHSCを免疫不全マウスモデルに移植した研究に限られている。しかし、マウスの発育機序はヒトとは多くの違いがある。そのため、ヒト成体造血幹細胞の表現型と機能に対する理解はまだ比較的に限定されており、今まではヒト成体造血幹細胞の真の免疫表現型を定義する最も権威ある研究はまだ1つもない。
【0005】
CD34は未熟な造血細胞に広く発現しており、現在臨床で移植用にヒトHSCの同定とスクリーニングに最も広く応用されている。しかし、CD34陽性細胞は不均一性が存在し、HSCを含むだけでなく、巨核球-赤血球系前駆細胞(MEP)、リンパ-骨髄系前駆細胞(LMP)、多能性前駆細胞(MPP)、多能性リンパ系前駆細胞(MLP)、骨髄系共通前駆細胞(CMP)、顆粒球-単球前駆細胞(GMP)、リンパ系共通前駆細胞(CLP)などの特定の系統にしか分化できないHPCsを含んでいる。これらの造血幹細胞/前駆細胞には、表現型、幹細胞性、及び分化能に関して多くの類似点と相違点がある。その中で、生体内で長期自己更新を維持しつつ、すべての血液系の系統を再構築できるのは長期造血幹細胞(LT-HSCs:Long-term HSCs)のみである。移植後の被験者の造血系の長期再構築能を維持し、より良く安全な治療効果を達成するために、表面マーカータンパク質でヒトHSCsを定義するためのより好適な方法が期待される。
【0006】
現在、いくつかの研究は異なる方法でヒトHSCsを定義できるマーカータンパク質を見つけた。例えば、最も典型的なCD90(Thy1)はヒト胎児の骨髄で最初に発見され、現在まで使用されている。HSCはCD90陽性とされているが、CD90陰性の細胞には自己複製と多方向分化能を有するHSCsが含まれていることが報告されている。
【0007】
CD38は、T細胞、B細胞、NK細胞など、さまざまな免疫細胞の表面に発現する糖タンパク質である。非HSCsに発現することが報告されているため、CD34+CD38-は複数の研究においてHSCの定義に応用されている。しかし、本発明者ら及びその他のプロジェクトグループの研究により、HSCをインビトロ培養した後、CD38の発現量は急激に減少し、そのため、CD38はHSCを確実に定義できる表面マーカータンパク質ではないことを発見した。
【0008】
その後、ある研究グループはCD34+CD38-CD90+に加えて、CD45RAも同様にHSCsとHPCsを区別することができることを発見した。Lin-CD34+CD38-CD45RA-CD90+は、mPB又はCB由来のいずれの細胞においても、より多くのヒトHSCsが濃縮されている。
【0009】
HSPCsにおける異なるアドヘシンをスクリーニングすることにより、CD49f(ITGA6:integrinα6)はHSCsの特異性マーカーとして使用できることが発見された。Lin-CD34+CD38-CD45RA-細胞をさらにCD90+CD49f+とCD90+CD49f-に分けて生体内機能の検証を行った結果、CD90+CD49f+はCD90+CD49f-細胞よりも6倍以上高い移植効率を示し、CD90+CD49f+のみは連続移植中に長期造血再構築効果を示す。
【0010】
別の報告によると、CD166はマウスとヒトの両方のHSCにおいて機能マーカータンパク質であることが明らかになった。ヒトCB CD34+HSPCsの多くはCD166陽性であった。これに加えて、造血微小環境でHSCに重要な影響を及ぼす骨芽細胞(OB:osteoblasts)もCD166を発現している。Lin-CD34+CD38-細胞において、CD166+亜集団はCD166-亜集団より高い移植効率を示し、この移植上の優位性はHSCとOBにおけるCD166のアイソタイプの相互作用によって実現され得る。
【0011】
CD105(endoglin)は内皮細胞のマーカータンパク質として広く認められているが、ヒトCD34+HSPCsの30~80%にも高発現している。CD34とともに造血細胞上でTGF-beta1をポジティブレギュレーションし、細胞周期を抑制し、幹細胞/前駆細胞のより原始的な状態を維持する役割を果たしている。CD34+CD105+は発育初期の、より幹細胞性のヒト造血幹細胞を標識した。
【0012】
別の研究では、CD34とCD45RAにCD201(EPCR:endothelial protein C receptor)を組み合わせて培養後のヒトHSCを定義した。EPCR/PAR1経路は一酸化窒素の産生制限やCdc42活性の制御により、LT-HSCの骨髄中での残存を促進することが報告されている。また、マウス骨髄においてもEPCRはマウスHSCを定義するために用いられる。
【0013】
さらに、同研究グループは、培養後のCBのCD34+CD45RA-EPCR+細胞には2つの機能性亜集団が存在しており、その中でLT-HSCsは主にIntegrin-a3(ITGA)+亜集団に集中していることを見出した。ITGA3+細胞はより強い多系統分化能を示し、免疫不全マウスモデルに連続移植すると、再構築能とHSCの特異性遺伝子発現を示す。したがって、EPCR+CD90+CD133+CD34+CD45RA-ITGA3+細胞はHSCの真の定義に近いと考えられる。
【0014】
別の研究では、ヒト骨髄サンプルの遺伝子発現解析により、糖タンパク質(EMCN:endomucin)がヒトHSCのもう1つの潜在的マーカー分子として機能することを同定した。ヒトHSCで高発現し、前駆細胞に分化する過程で発現量が低下する。これまでにも、EMCNは、胚発生過程において、赤血球系前駆細胞では発現せず、マウスHSCに特異的に発現することが明らかとなり、EMCNがHSCの潜在的表面マーカーとして機能し得ることが明らかとなった。
【0015】
単細胞シーケンシングの発展に伴い、いくつかの研究グループはヒトHSPCsの各段階の幹細胞と前駆細胞をさらに亜集団化し、その遺伝子系統を解析した。研究により、CD164は造血系の最も早い系統に発現し、早期と末期の幹細胞/前駆細胞を明らかに区別できることを発見した。CD34+CD164hi亜集団はCD34+CD164low亜集団より強いクローン形成能、インビトロ分化能、増幅能及びインビボの全系統分化能がある。また、CD164はLT-HSCを定義する従来のCD90+やCD38-に比べて、より認識性が高い。
【0016】
さらに、HLA-DR、c-Kit、Tie2、IL-3Rなどの表面タンパク質もHSPCsで高発現していることが報告されているが、Lin-CD34+CD38-CD45RA-CD90+細胞において乾細胞性のより良い亜集団を定義するためには使用できない。
【0017】
以上の研究は、異なる方法でヒトHSCsのマーカータンパク質を発見したが、HSCs免疫表現型の真の定義は依然として様々なであり、一致しておらず、これは造血幹細胞移植の臨床開発及びその治療効果と安全性の評価にも大きく影響した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
上記課題に対して、本発明は、CD34、CD90及びCD45RAと、CD48、CD66a、CD66c、CD66d、CD66e、及びCD200から選択される1種又は2種以上とを含むタンパク質によって造血幹細胞を特徴付ける方法を提供する。タンパク質を用いて造血幹細胞を特徴付けることにより、目的細胞をインビトロでより正確に標識、評価することができるだけでなく、造血幹細胞移植を受けた後の造血系再構築能を長期的に維持する患者の能力を向上させ、より良い治療効果を達成することもできる。
【0019】
上記タンパク質を用いて造血幹細胞を定義する意義は次のとおりである。
(1)インビトロでは、様々な由来のHSCの細胞の純度と品質をより効果的に評価して制御することができる。
(2)ヒト体内で得られ得る造血幹細胞の数は限られており、臨床移植に要求される最低数量基準に達しないことが多いため、インビトロ増幅培養が必要となる。しかし、多くの培養系では乾細胞性が良好に維持されず、培養後のHSC割合が低下する。マーカータンパク質によりHSCをより正確に標識することにより、インビトロ培養系をより良く評価、最適化することができる。
(3)造血系全体を再構築する能力に基づいて、HSCは遺伝子編集による多種の血液及び免疫疾患の治療に用いられている。遺伝子修飾において、マーカータンパク質によりHSCをより正確に標識することで、標的とする目的細胞をより正確に特定し、標的を絞ってHSCの遺伝子修飾を行うことができる。
(4)HSCマーカータンパク質は造血系の生理的発育を理解する上で極めて重要であるだけでなく、多くの難治性悪性血液腫瘍はHSCで発癌するため、標的化と根治が困難である。マーカータンパク質によりHSCをより正確に標識することはこれらの腫瘍疾患の発症機序をよりよく理解し、治療標的を増加させることに役立つ。
(5)HSCマーカータンパク質については、HSCsを富化(濃縮)するための抗体、検出ビーズ、検出キットなどの対応する検出製品を開発することができ、科学研究と臨床応用に有用なHSCを多く提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0020】
したがって、本発明の具体的な技術的解決手段は以下のとおりである。
【0021】
1.造血幹細胞を特徴付けるためのタンパク質の使用であって、
前記タンパク質は、
(1)CD34、CD90及びCD45RAと、
(2)CD48、CD66a、CD66c、CD66d、CD66e、及びCD200から選択される1種、2種、3種,4種又は4種以上と、を含む使用。
2.前記タンパク質は、
(1)CD34、CD90及びCD45RAと、
(2)CD66a、CD66e及びCD200のうちの1種、2種又は3種、好ましくはCD66eと、を含む、項1に記載の使用。
3.造血幹細胞を判定するための方法であって、
被検細胞がCD34陽性であるか否かを検出するステップと、
被検細胞がCD90陽性であるか否かを検出するステップと、
被検細胞がCD45RA陰性であるか否かを検出するステップと、
被検細胞がCD48、CD66a、CD66c、CD66d、CD66e及びCD200から選択される1種、2種、3種,4種又は4種以上のタンパク質陽性であるか否かを検出するステップと、を含み、
被検細胞が、CD34陽性、CD90陽性、CD45RA陰性であり、かつ、CD48、CD66a、CD66c、CD66d、CD66e及びCD200から選択される1種、2種、3種,4種又は4種以上のタンパク質陽性である場合、造血幹細胞であると判定する、方法。
上記の検出ステップは、検出が必要な項目を説明することを意図しており、検出の実施の順序を限定することを意図していない。すなわち、本願の実施形態は、上記の検出ステップが順に行われる、順に行わない、及び同時に行われるようなすべての技術的形態を網羅している。
4.前記被検細胞は、臍帯血、動員末梢血、又は骨髄由来である、項3に記載の方法。
5.前記タンパク質は、CD66a、CD66e及びCD200のうちの1種、2種又は3種、好ましくはCD66eである、項3又は4に記載の方法。
6.造血幹細胞をスクリーニングする方法であって、
単離対象細胞からCD34+、CD90+、CD45RA-と、CD48、CD66a、CD66c、CD66d、CD66e及びCD200から選択される1種、2種、3種,4種又は4種以上のタンパク質とが陽性である造血幹細胞をスクリーニングすることを含む方法。
7.前記分離対象細胞は、臍帯血、動員末梢血、又は骨髄由来である、項6に記載の方法。
8.前記タンパク質は、CD66a、CD66e及びCD200のうちの1種、2種又は3種、好ましくはCD66eである、項6又は7に記載の方法。
9.選別対象細胞から選別されたCD34+、CD90+、CD45RA-と、CD48、CD66a、CD66c、CD66d、CD66e及びCD200から選択される1種、2種、3種,4種又は4種以上のタンパク質とが陽性である造血幹細胞を含む、細胞製剤。
10.前記選別対象細胞は、臍帯血、動員末梢血、又は骨髄由来である、項9に記載の細胞製剤。
11.前記タンパク質は、CD66a、CD66e及び/又はCD200のうちの1種、2種又は3種、好ましくはCD66eである、項9又は10に記載の細胞製剤。
12.細胞製剤を調製する方法であって、
選別対象細胞からCD34+、CD90+、CD45RA-と、CD48、CD66a、CD66c、CD66d、CD66e及びCD200から選択される1種、2種、3種,4種又は4種以上のタンパク質とが陽性である造血幹細胞をスクリーニングすることを含む、方法。
13.前記選別対象細胞は、臍帯血、動員末梢血、又は骨髄由来である、項12に記載の方法。
14.前記タンパク質は、CD66a、CD66e及びCD200のうちの1種、2種又は3種、好ましくはCD66eである、項12又は13に記載の方法。
15.造血系再構築能を向上させるための薬物であって、項9~11のいずれか1項に記載の細胞製剤、又は項12~14のいずれか1項に記載の方法により調製された細胞製剤を含む、薬物。
16.被験者の造血系を再構築する方法であって、項9~11のいずれか1項に記載の細胞製剤、又は項12~14のいずれか1項に記載の方法により調製された細胞製剤を被験者に投与することを含む、方法。
1つの実施形態では、本願はまた、被験者の造血系を再構築するための薬物の製造における、項9~11のいずれか1項に記載の細胞製剤、又は項12~14のいずれか1項に記載の方法により調製された細胞製剤の使用にも関する。
17.造血幹細胞を検出するキット又は製品であって、
被検細胞がCD34陽性であるか否か、被検細胞がCD90陽性であるか否か、被検細胞がCD45RA陰性であるか否か、被検細胞がCD48、CD66a、CD66c、CD66d、CD66e、及びCD200から選択される1種、2種、3種、4種又は4種以上のタンパク質陽性であるか否かの各々を検出するための化合物を含む、キット又は製品。
18.前記タンパク質は、CD66a、CD66e及びCD200のうちの1種、2種又は3種、好ましくはCD66eである、項17に記載のキット又は製品。
19.前記単離対象細胞は、臍帯血、動員末梢血、又は骨髄由来である、項17又は18に記載のキット又は製品。
20.前記化合物は抗体である、項17~19のいずれか1項に記載のキット又は製品。
21.前記抗体は、化学的に標識された抗体、例えば、発光性化合物で標識された抗体、例えば、蛍光で標識された抗体である、項20に記載のキット又は製品。
22.前記抗体は磁気ビーズに付着する抗体である、項20に記載のキット又は製品。
23.造血幹細胞を選別又は富化するキット又は製品であって、選別又は富化対象の細胞から、CD34+、CD90+、CD45RA-と、CD48、CD66a、CD66c、CD66d、CD66e及びCD200から選択される1種、2種、3種、4種又は4種以上のタンパク質とが陽性である造血幹細胞を選別又は富化するための化合物を含む、キット又は製品。
24.前記タンパク質は、CD66a、CD66e及びCD200のうちの1種、2種又は3種、好ましくはCD66eである、項23に記載のキット又は製品。
25.前記単離対象細胞は、臍帯血、動員末梢血、又は骨髄由来である、項23又は24に記載のキット又は製品。
26.前記化合物は抗体である、項23~25のいずれか1項に記載のキット又は製品。
27.前記抗体は、化学的に標識された抗体、例えば、発光性化合物で標識された抗体、例えば、蛍光で標識された抗体である、項26に記載のキット又は製品。
28.前記抗体は磁気ビーズに付着する抗体である、項26に記載のキット又は製品。
29.スクリーニング対象培地を用いて造血幹細胞を培養した後、CD34+、CD90+、CD45RA-と、CD48、CD66a、CD66c、CD66d、CD66e及びCD200から選択される1種、2種、3種、4種又は4種以上のタンパク質が陽性であることにより特徴付けられる造血幹細胞の割合の維持又は上昇下降を検出することを含む造血幹細胞用培地をスクリーニングする方法であって、
上記のように特徴付けられた造血幹細胞の培養後の割合が維持又は上昇していると、スクリーニング対象培地は適切な造血幹細胞用培地であることを示す、方法。
30.前記タンパク質は、CD66a、CD66e及びCD200のうちの1種、2種又は3種、好ましくはCD66eである、項29に記載の方法
31.項29又は30に記載の方法によりスクリーニングされた造血幹細胞用培地。
32.被験者の疾患を治療する方法であって、項9~11のいずれか1項に記載の細胞製剤、又は項12~14のいずれか1項に記載の方法により調製された細胞製剤の有効量を被験者に投与することを含む、方法。
33.前記疾患は、被験者の造血系を再構築するために造血幹細胞治療を必要とする疾患である、項32に記載の方法。
34.前記疾患は、悪性腫瘍、血液系疾患又は免疫系疾患である、項33に記載の方法。
35.前記疾患は、
(1)慢性顆粒球性白血病、急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性骨髄球性白血病、慢性リンパ性白血病、急性前骨髄球性白血病、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、骨髄腫、多発性骨髄腫、骨髄線維化及び骨髄異形成症候群、バーキットリンパ腫、B細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、T細胞リンパ腫、形質芽球性リンパ腫、皮膚T細胞リンパ腫、原発性マクログロブリン血症、形質細胞白血病、形質芽球性リンパ腫、有毛細胞白血病、全身性肥満細胞症、芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍及びその他の血液系悪性腫瘍。
(2)再生不良性貧血、ファンコニー貧血、地中海貧血、鎌状赤血球貧血症、骨髄線維化、重度の発作性夜間ヘモグロビン尿症、無巨核球性血小板減少症及びその他の血液系非悪性腫瘍。
(3)乳癌、卵巣癌、精巣癌、腎臓癌、神経芽細胞腫、小細胞肺癌、生殖細胞腫、ユーイング肉腫、軟組織肉腫、ウェルムス腫瘍、骨肉腫、髄芽細胞腫、悪性脳腫瘍及びその他の固形腫瘍。
(4)重症複合免疫不全症、重症自己免疫疾患、原発性中枢神経系リンパ腫、湿疹血小板減少合併免疫不全症候群、慢性肉芽腫、IPEX(免疫調節異常、多腺性内分泌障害、腸疾患、X連鎖性)症候群、ALアミロイドーシス、POEMS症候群、血球貪食症候群、関節リウマチ、多発性硬化症、全身性硬化症、全身性エリテマトーデス、クローン病、多発性筋炎と皮膚筋炎及びその他の自己免疫、免疫失調及び免疫不全疾患。
(5)ムコ多糖症、先天性角化異常症、リソソーム病、クラッベ病、異染性白質ジストロフィー、X連鎖副腎白質ジストロフィー及びその他の遺伝疾患又は代謝系疾患などを含む、項34に記載の方法。
36.本願は、上記疾患を治療する薬物の製造における、項9~11のいずれか1項に記載の細胞製剤、又は項12~14のいずれか1項に記載の方法により調製された細胞製剤の使用にも関する。
【発明の効果】
【0022】
本発明により提供されるタンパク質は、造血幹細胞を特徴付けるもので、目的細胞をインビトロでより正確に標識、評価することができるだけでなく、造血幹細胞移植を受けた後の患者の造血系再構築能を長期的に維持する能力を向上させ、より良い治療効果を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】実施例3における表面タンパク質発現検証のフローチャートである。
【
図2】実施例3におけるフローサイトメトリーを用いた異なる表面タンパク質のLT-HSCs及びHSPCsにおける発現量の差を初期スクリーニングする概略図である。
【
図3A】実施例3におけるフローサイトメトリーを用いたヒトHSPCs及びLT-HSCsにおけるCD66(a、c、d、e)、CD48及びCD200の発現の検出の概略図である。
【
図3B】実施例3におけるフローサイトメトリーを用いたヒトHSPCs及びLT-HSCsにおけるCD66(a、c、d、e)、CD48及びCD200の発現の検出の概略図である。
【
図3C】実施例3におけるフローサイトメトリーを用いたヒトHSPCs及びLT-HSCsにおけるCD66(a、c、d、e)、CD48及びCD200の発現の検出の概略図である。
【
図4】実施例4におけるインビトロ培養又は未培養HSPCsに含まれるLT-HSCsの差を比較した概略図である。
【
図5】実施例4におけるさまざまな由来のHSPCsでの表面マーカータンパク質の再スクリーニングの概略図である。
【
図6】実施例4におけるHSPCsの異なる亜集団を目的タンパク質で区分し、それに含まれるLT-HSCsの割合を解析した概略図である。
【
図7】実施例4におけるCD200、CD66a及びCD66e亜集団に含まれるLT-HSCsの割合の培養時間による変化を比較した概略図である。
【
図8A】実施例5におけるCD34+CD90+CD45RA-CD66e-又はCD34+CD90+CD45RA-CD66e hi細胞(CD66e hiはCD66eが高発現していることを意味する)のフローサイトメトリーによるソーティング、及びソーティング後のフローサイトメーターによる細胞純度解析の概略図であり、AはCD34+CD90+CD45RA-CD66e-又はCD34+CD90+CD45RA-CD66e hi細胞のフローサイトメトリーによるソーティングの概略図であり、Bはフローサイトメトリーによるソーティング後の細胞純度の検出の概略図である。
【
図8B】実施例5におけるCD34+CD90+CD45RA-CD66e-又はCD34+CD90+CD45RA-CD66e hi細胞(CD66e hiはCD66eが高発現していることを意味する)のフローサイトメトリーによるソーティング、及びソーティング後のフローサイトメーターによる細胞純度解析の概略図であり、AはCD34+CD90+CD45RA-CD66e-又はCD34+CD90+CD45RA-CD66e hi細胞のフローサイトメトリーによるソーティングの概略図であり、Bはフローサイトメトリーによるソーティング後の細胞純度の検出の概略図である。
【
図9】実施例5におけるqRT-PCRを用いたCD34+、CD34+CD90+CD45RA-CD66e-、CD34+CD90+CD45RA-CD66e hiの3種類の細胞のHSC関連遺伝子発現量の検出の概略図である。
【
図10】実施例6におけるマウスへの細胞移植後の4週目、12週目、16週目に末梢血への細胞移植効率を検出した統計図である。
【
図11】実施例6において、2つの細胞群における再構築能を有するHSCを限界希釈法により計算した概略図である。
【
図12】実施例6における移植後16週目の骨髄及び脾臓への移植の概略図である。
【
図13】実施例7におけるマウスの末梢血、骨髄、脾臓への移植の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面に記載された実施形態を参照して本発明について詳細に説明し、ここで、すべての図面における同じ数字は、同じ構成を表す。本発明の具体的な実施例が図面に示されているが、本発明は、本明細書に記載された実施例に限定されるものではなく、様々な形態で実施され得ることが理解されるべきである。むしろ、これらの実施例は、本発明をより完全に理解することを可能にし、かつ、本発明の範囲を当業者に完全に伝えることを可能にするために提供される。
【0025】
なお、明細書及び特許請求の範囲では、特定の構成要素を称するためにいくつかの用語が使用されている。当業者は、同じ構成要素を異なる名詞で呼ぶことがあることを理解する。本明細書及び特許請求の範囲では、名詞の差異を、構成要素を区分する方式とするのではなく、構成要素の機能上の差異を区分の基準とする。明細書及び特許請求の範囲を通じて言及されている「含む」又は「備える」は開放的な用語であるため、「含むが、限定されない」と解釈すべきである。本明細書の以下の記載は、本発明を実施するための好ましい実施形態であるが、この記載は本発明の範囲を限定するためのものではなく、本明細書の一般的な原則を目的とするものである。本発明の特許範囲は、添付の特許請求の範囲によって定義されるものに準ずるものとする。
【0026】
本発明は、造血幹細胞を特徴付けるためのタンパク質の使用であって、該タンパク質はCD48、CD66a、CD66c、CD66d、CD66e及びCD200のうちの1種又は2種以上を含む、使用を提供する。
【0027】
いくつかの実施形態では、本発明は、造血幹細胞を特徴付けるためのタンパク質の使用であって、前記タンパク質は、(1)CD34、CD90及びCD45RAと、(2)CD48、CD66a、CD66c、CD66d、CD66e、及びCD200から選択される1種、2種、3種、4種または4種以上と、を含む使用に関する。
【0028】
CD48は免疫グロブリンファミリーのCD2サブファミリータンパク質の一種である。CD48は膜貫通タンパク質ではないが、GPIを介して細胞膜にアンカーされることができ、そのC末端ドメインが切断されて可溶性タンパク質になり得る。CD48は多種の免疫細胞及び内皮細胞などに発現し、NK細胞上の2B4受容体と高親和性で連結し、CD2と低親和性で連結する。CD48は活性化リンパ球間の相互作用を促進し、T細胞の活性化に関与する可能性がある。
【0029】
CEAファミリーは2つのサブファミリーとしてCEA細胞接着因子及び妊娠特異的多糖類を含み、19番染色体の長腕にある。CEACAMタンパク質は、細胞膜にアンカー可能であり、Igドメインに34個のアミノ酸からなるシグナルペプチドを含むことを特徴とし、12個のメンバータンパク質(CEACAM1、CEACAM3、CEACAM4、CEACAM5、CEACAM6、CEACAM7、CEACAM8、CEACAM16、CEACAM18、CEACAM19、CEACAM20、CEACAM21)を含む。
【0030】
CD66a(CEACAM1)はCEACAMファミリーの中で最も広く分布するメンバーであり、分泌型と膜貫通型の2種類の形態を含み、その機能は主にN末端ドメインに依存して実現される。CD66aは最初に胆汁糖タンパク質として肝臓胆管に発見された。その後の研究により、リンパ細胞、上皮細胞、内皮細胞などにも発現していることが報告された。細胞間コヘシンとして、ホモフィリック又はヘテロフィリックな結合を通じて細胞機能の調節を実現し、細胞分化、組織構造形成、血管新生、アポトーシス、腫瘍抑制、代謝、自然免疫と獲得免疫に関与する。
【0031】
CD66c(CEACAM6)はCEAファミリーに属し、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)を介して細胞膜に結合する。生理的な環境では、CD66cは一連の上皮細胞、好中球及び単球細胞に顕著に高発現している。また、CD66cは悪性腫瘍に対する血清検出にも一般的に用いられている。
【0032】
CD66d(CEACAM3)はCEAファミリーのメンバーであり、ヒト染色体19q13.2に位置する。多種の細菌性病原体はこのタンパク質を介して宿主細胞に結合及び侵入する。そのため、CD66dはヒト自然免疫の病原体感染抵抗の制御において重要な役割を果たしている。
【0033】
CD66e(CEACAM5)はCEAファミリーのメンバーであり、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)を介して細胞膜に結合する。CD66eの発現はヒト胚胎及び胎児発育の初期段階(9~14週)から始まり、しかも特定の細胞で発現を終身維持する。成人組織では、CD66eは腸管、胃、舌、食道、子宮頸部、汗腺、前立腺のいずれにも発現している。CD66eも同様に腫瘍識別マーカーとしてよく用いられているが、その機序や機能は不明である。
【0034】
CD200分子はI-型膜糖タンパク質であり、分子質量が(41~47)kDaであり、典型的なV/C2構造を有し、細胞外シグナルペプチド、ジヒドロキシ脱水素酵素領域、V領域、C2領域、膜貫通領域、及び細胞内領域から構成され、免疫グロブリンスーパーファミリー(IgSF)のメンバーである。CD200は、ヒトでは染色体3q12-q13に位置し、6つのエクソンと5つのイントロンから構成され、転写後のmRNAは全長2.14kbで、269個のアミノ酸のポリペプチド鎖をコードすることができ、マウスでは16番染色体B5領域に位置し、全長2.20kbで、278個のアミノ酸のポリペプチド鎖をコードすることができる。
【0035】
本発明の好ましい特定の実施形態では、前記タンパク質は、CD66a、CD66e及び/又はCD200、好ましくはCD66eである。
【0036】
本発明は、造血幹細胞を判定するための方法であって、
被検細胞がCD34陽性であるか否かを検出するステップと、
被検細胞がCD90陽性であるか否かを検出するステップと、
被検細胞がCD45RA陰性であるか否かを検出するステップと、
被検細胞が、CD48、CD66a、CD66c、CD66d、CD66e及びCD200から選択される1種又は2種以上のタンパク質が陽性であるか否かを検出するステップと、
被検細胞がCD34陽性、CD90陽性、CD45RA陰性であり、かつ、前記タンパク質陽性である場合、造血幹細胞であると判定するステップと、を含む方法を提供する。
【0037】
上記の検出ステップは、検出が必要な項目を説明することを意図しており、検出の実施順序を限定するものではない。
【0038】
本発明では、被検細胞の由来は限定されず、例えば臍帯血、動員末梢血、又は骨髄由来であってもよい。
【0039】
前記被検細胞とは、臍帯血、動員末梢血、又は骨髄由来の造血幹細胞を選別して得られる細胞をいう。
【0040】
本発明では、その操作方法は限定されず、特異的抗体を用いた染色後のフローサイトメトリーによるソーティング、磁気ビーズソーティングなど、当業者に周知の方法に基づいて選別することができる。
【0041】
本発明の好ましい特定の実施形態では、前記タンパク質は、CD66a、CD66e及び/又はCD200、好ましくはCD66eである。
【0042】
本発明は、上記タンパク質を用いて造血幹細胞を特徴付けることにより、目的細胞をインビトロでより正確に標識、評価することができるだけでなく、造血幹細胞移植を受けた後の造血系再構築能を長期的に維持する患者の能力を向上させ、より良い治療効果を達成することができる。
【0043】
本発明は、造血幹細胞をスクリーニングする方法であって、
単離対象細胞から、CD34+、CD90+、CD45RA-と、CD48、CD66a、CD66c、CD66d、CD66e及びCD200から選択される1種又は2種以上のタンパク質とが陽性である造血幹細胞をスクリーニングすることを含む、方法を提供する。
【0044】
前記造血幹細胞とは、CD34陽性、CD90陽性、CD45RA陰性であり、かつ、CD48、CD66a、CD66c、CD66d、CD66e、及びCD200から選択される1種又は2種以上のタンパク質が陽性である造血幹細胞をいう。
【0045】
本発明では、上記のスクリーニング方法は限定されず、必要に応じて当業者に周知の方法で行うことができ、例えば、フローサイトメトリーによるソーティング法、磁気ビーズソーティング法などを用いてスクリーニングすることができる。
【0046】
本発明の好ましい特定の実施形態では、前記単離対象細胞は、臍帯血、動員末梢血、又は骨髄由来である。
【0047】
本発明の好ましい特定の実施形態では、前記タンパク質は、CD66a、CD66e及び/又はCD200、好ましくはCD66eである。
【0048】
本発明は、単離対象細胞から選別されたCD34+、CD90+、CD45RA-と、CD48、CD66a、CD66c、CD66d、CD66e及びCD200から選択される1種又は2種以上のタンパク質とが陽性である造血幹細胞を含む細胞製剤を提供する。
【0049】
本発明の好ましい特定の実施形態では、前記選別対象細胞は、臍帯血、動員末梢血、又は骨髄由来である。
【0050】
本発明の好ましい特定の実施形態では、前記タンパク質は、CD66a、CD66e及び/又はCD200、好ましくはCD66eである。
【0051】
本発明は、細胞製剤を調製する方法であって、
選別対象細胞からCD34+、CD90+、CD45RA-と、CD48、CD66a、CD66c、CD66d、CD66e及びCD200から選択される1種又は2種以上のタンパク質とが陽性である細胞製剤をスクリーニングすることを含む、方法を提供する。
【0052】
前記細胞製剤とは、CD34陽性、CD90陽性、CD45RA陰性であり、かつ、CD48、CD66a、CD66c、CD66d、CD66e及びCD200から選択される1種又は2種以上のタンパク質が陽性である造血幹細胞をいう。
【0053】
本発明の好ましい特定の実施形態では、前記選別対象細胞は、臍帯血、動員末梢血、又は骨髄由来である。
【0054】
本発明の好ましい特定の実施形態では、前記タンパク質は、CD66a、CD66e及び/又はCD200、好ましくはCD66eである。
【0055】
本発明は、造血系再構築能を向上させるための薬物であって、上記の細胞製剤又は上記の方法により調製された得られた細胞製剤を含む、薬物を提供する。
【0056】
本発明は、造血幹細胞を選別する方法であって、
CD34抗体、CD90抗体、CD45RA抗体と、CD48、CD66a、CD66c、CD66d、CD66e及びCD200から選択される1種又は2種以上であるタンパク質の抗体とを用いて、単離対象細胞からCD34+、CD90+、CD45RA-と、前記タンパク質とが陽性である造血幹細胞を選別することを含む、方法を提供する。
【0057】
本発明の好ましい特定の実施形態では、前記単離対象細胞は、臍帯血、動員末梢血、又は骨髄由来である。
【0058】
本発明の好ましい特定の実施形態では、前記タンパク質は、CD66a、CD66e及び/又はCD200、好ましくはCD66eである。
【0059】
本願はまた、被験者の造血系を再構築する方法であって、上記細胞製剤又は上記方法により調製された細胞製剤を被験者に投与することを含む方法に関する。
【0060】
本願はまた、造血幹細胞を検出するキット又は製品であって、
被検細胞がCD34陽性であるか否か、被検細胞がCD90陽性であるか否か、被検細胞がCD45RA陰性であるか否か、及び被検細胞がCD48、CD66a、CD66c、CD66d、CD66e、及びCD200から選択される1種、2種、3種、又は4種以上のタンパク質陽性であるか否かの各々を検出するための化合物を含む、キット又は製品に関する。
【0061】
いくつかの実施形態では、前記タンパク質は、CD66a、CD66e及びCD200のうちの1種、2種又は3種、好ましくはCD66eである。本願では、前記単離対象細胞は特に限定されず、臍帯血、動員末梢血、骨髄、又は培養細胞に由来するものであってもよい。本発明では、上記の検出方法は限定されず、特異的抗体による検出、フローサイトメトリー検出など、当業者に周知の方法に基づいて検出することができる。
【0062】
本願はまた、造血幹細胞を選別又は富化するキット又は製品であって、CD34+、CD90+、CD45RA-と、CD48、CD66a、CD66c、CD66d、CD66e及びCD200から選択される1種、2種、3種、又は4種以上のタンパク質とが陽性である造血幹細胞を選別又は富化するために使用される、キット又は製品に関する。
【0063】
本願では、選別又は富化対象の細胞は特に限定されず、臍帯血、動員末梢血、骨髄、又は培養細胞に由来するものであってもよい。本発明では、上記の選別方法は限定されず、例えば特異的抗体による選別、例えばフローサイトメトリーや磁気ビーズソーティングなど、当業者に周知の方法に基づいて選別することができる。
【0064】
本願はまた、スクリーニング対象培地を用いて造血幹細胞を培養した後、CD34+、CD90+、CD45RA-と、CD48、CD66a、CD66c、CD66d、CD66e及びCD200から選択される1種、2種、3種、又は4種以上のタンパク質とが陽性であることによって特徴付けられる造血幹細胞の割合の維持又は上昇下降を検出することを含む、造血幹細胞用培地をスクリーニングする方法であって、上記のように特徴付けられた造血幹細胞の培養後の割合が維持又は上昇していると、スクリーニング対象培地は適切な造血幹細胞用培地であることを示す、方法に関する。本願はまた、該方法によりスクリーニングされた造血幹細胞用培地に関する。
【0065】
本願はまた、被験者の疾患を治療する方法であって、上記細胞製剤又は上記方法によって調製された細胞製剤の有効量を被験者に投与することを含む方法に関する。いくつかの実施形態では、前記疾患は、被験者の造血系を再構築するために造血幹細胞を投与することを必要とする疾患である。
実施例
【0066】
本発明は、試験に使用される材料及び試験方法の一般的及び/又は具体的な説明をしており、以下の実施例では、特に断らない限り、%はwt%、すなわち重量パーセントを表す。使用した試薬又は器具は、製造メーカーが明記されていない場合、いずれも市場で購入することができる通常の試薬製品である。
【0067】
実施例1 造血幹細胞の単離
使用したヒト造血幹細胞は主に臍帯血由来である。臍帯血サンプルを病院から回収した後、室温で0.5~1時間放置して温度を回復し、血液サンプルを血液バッグから50ml遠心管に移し、軽く均一に混合した。ピペット銃を用いてそれぞれサンプル100μlを、白血球計数及びフローサイトメトリーによるCD34陽性割合の検出に用いた。残りの血液サンプルを1%HAS含有生理食塩水により1:1で希釈し、ピペットで軽く均一に混合した。混合液を別の50ml遠心管に入れて、適量のリンパ球単離液を管底まで添加し、3加速0減速で400g、30分間遠心分離した。遠心分離後に遠心管をゆっくりと取り出し、液面を水平に維持した。ピペッターを用いて白膜層細胞を慎重に吸引し、別の遠心管に移し、1%HASの生理食塩水で細胞を洗浄し、9加速5減速で500g、10分間遠心分離した。
【0068】
遠心分離後に細胞を再懸濁させ、CD34陽性細胞の選別を行った(CD34+細胞磁気ビーズ選別キット、ミルテニーバイオテク社、130-046-703)。まず、1×106総細胞ごとに、FcR Blocking Antibody 100μlとCD34-Beads 100μlを加えて4℃に置き、30分間インキュベートした。インキュベート後に1%HASの生理食塩水40mlで洗浄し、400g、8分間遠心分離し、3mlあたり1×109細胞を再懸濁させた。
【0069】
CD34+細胞選別カラムをMACS磁気分離ラックに置き、選別カラムの上に40μm細胞篩を置き、選別カラムの下に15ml遠心管を置いた。ろ過篩を1%HASの生理食塩水3mlで濡らして洗浄し、細胞懸濁液を加え、滴下完了後、1%HASの生理食塩水3mlで3回洗浄した。吸着カラムについて磁場を除去し、1%HASの生理食塩水を加えて細胞を遠心管に捕集し、これを1回繰り返した。細胞を均一に混合して計数し、培養又は凍結保存を行った。細胞の一部を採取してフローサイトアッセイを行い、CD34の発現を検出し、その純度を確認した。
【0070】
実施例2 造血幹細胞の培養
まず、造血幹細胞の完全培地を調製し、その成分と使用量を以下に示す。
【0071】
【0072】
実施例1の計数結果によれば、24ウェルプレートの各ウェルにそれぞれ5×104CD34+細胞を加え、完全培地1mlで細胞を培養した。3日間培養した後、採取した細胞をフローサイトアッセイに用いた。
【0073】
実施例3 表面タンパク質発現の初期スクリーニング
本検出にはヒト表面タンパク質検出パネル(BD Lyoplate-Human cell surface marker screening panel、BD Biosciences、品番560747)を用いた。この検出パネルには、それぞれ96ウェルプレートの各ウェルに242個のヒト表面マーカータンパク質と9個のアイソタイプ対照抗体が被覆されていた。
【0074】
フローサイトメトリー染色液としてPBS+0.5%BSA+5mM EDTAを調製した。新鮮/培養ヒトHSCsをフローサイトメトリー染色液で再懸濁させ、それぞれ1ウェルあたり50000細胞/50μlで検出パネルに加え、4℃で30分間染色した後、1ウェルあたりフローサイトメトリー染色液100μlを加え、400gで遠心分離して除去した。パネル中の一次抗体のタイプがマウス抗体又はラット抗体であることから、それぞれAlexa Fluor(登録商標)647-conjugated goat anti-mouse Ig又はgoat anti-rat Ig(使用濃度はいずれも1:200倍希釈)を用いて4℃で光を避けて30分間染色し、1ウェルあたりフローサイトメトリー染色液100μlを加え、洗浄して2回遠心分離した。
【0075】
その後、Brilliant Violet 510 anti-human CD34 Antibody(Biolegend、品番:343528)とFITC anti-human CD90(Thy1)Antibody(Biolegend品番:328108)を用いて、細胞100μlあたりの使用濃度5μlで、4℃で光を避けて15分間染色した。1ウェル当たりフローサイトメトリー染色液100μlを加え、400gで遠心分離して上澄みを除去した。フローサイトメトリー染色液100μlを用いて細胞を再懸濁させ、ハイスループットフローサイトメーターで検出した(BD LSRportessa Flow Cytometry)。
【0076】
その流れを
図1に示す。
表面タンパク質発現の初期スクリーニング結果を
図2に示す。
フローサイトメトリー法を用いたヒトHSPCs及びLT-HSCsにおけるCD66(a、c、d、e)、CD48及びCD200の発現の概略図を
図3Aから
図3Cに示す。
【0077】
図2より、LT-HSCs(CD34+CD90+CD45RA-)におけるCD48、CD200、及びCD66(a、c、d、e)の発現量がHSPCs(CD34+)よりも有意に高く、かつ、他の測定されたタンパク質よりも著しく差があることが明らかになり、CD48、CD200、CD66a、CD66c、CD66d、及びCD66eがLT-HSCsの新規表面マーカータンパク質として期待されることが示唆された。
【0078】
図3Aから
図3Cから明らかに、LT-HSCs(CD34+CD90+)では、CD48、CD200、及びCD66(a、c、d、e)の発現量がHSPCs(CD34+)よりも有意に高く、CD48、CD200、CD66a、CD66c、CD66d、及びCD66eがLT-HSCsの新規表面マーカータンパク質として期待された。
【0079】
実施例4 表面タンパク質発現の検証
ヒトHSCs表面タンパク質の初期スクリーニング抗体に対して、それぞれ凍結保存又は単離したばかりの臍帯血CD34+HSPCs及び3日培養後の対応する細胞でそれぞれ再スクリーニングによる同定をさらに行った。以下の候補マーカータンパク質の抗体(表2)をそれぞれ細胞表現型同定用抗体(表3)と組み合わせて、100000細胞/100μ1の条件で細胞を蛍光抗体で染色した。4℃で光を避けて15分間染色した後、1ウェルあたり7AAD(Biolegend、品番:420404)2μlを加え、さらに4℃で光を避けて5分間染色し、細胞の生存率を同定した。染色後に1本あたりフローサイトメトリー染色液1mlを加えて洗浄し、400g、5分間遠心分離した後、フローサイトメトリー染色液100μlで細胞を再懸濁させ、フローサイトメータに注入して蛍光発現(Beckman Coulter CytoFLEX)を検出し、陽性細胞割合と平均蛍光強度(MFI)で各表面タンパク質の発現をそれぞれ示した。
【0080】
【0081】
【0082】
なお、
図4は、インビトロ培養及び未培養ヒト造血幹細胞/前駆細胞に含まれるLT-HSCsの差の概略図である。
図5は、さまざまな由来のHSPCsでの表面マーカータンパク質の再スクリーニングの概略図である。
図6は、HSPCsの異なる亜集団を目的タンパク質で区分し、それに含まれるLT-HSCsの割合を解析した概略図である。
図7は、CD200、CD66e、及びCD66a亜集団に含まれるLT-HSCsの割合の培養時間による変化を比較した概略図である。
【0083】
図4より、HSPCsはインビトロ培養系では成長を維持しているが、乾細胞性をうまく維持できず、このため、3日培養後にはLT-HSCsの割合が低下していることが分かった。
図5より、凍結保存及び新鮮由来の臍帯血細胞をインビトロで3日間培養する前後では、目的タンパク質の発現が変化しており、LT-HSCsでのCD66eとCD66aの割合はインビトロ培養に伴って低下し、LT-HSCsの低下傾向と類似しており、CD200についても、非常にわずかな低下が見られたことを見出した。
図6より、凍結保存及び新鮮由来の臍帯血細胞では、CD66a、CD66e及びCD200の発現量が高い亜集団ほど、多くのLT-HSC(CD34+CD90+CD45RA-)が富化されていることが分かった。
図7より、インビトロ培養されていないCD34+HSPCsには10~25%のLT-HSCsが含まれ、CD34+CD200+とCD34+CD66a+細胞には、LT-HSCsの割合は似ているか、やや上昇していることがわかった。一方、CD34+CD66e+には、LT-HSCsの割合は明らかに高く、新鮮臍帯血細胞には40%よりも大きいこともある。
【0084】
実施例5 HSC関連遺伝子発現の検証
まず、フローサイトメトリーによる細胞選別により特定の細胞亜集団を得た。臍帯血CD34+細胞に蛍光抗体染色(表4)を行い、4℃で光を避けて15分間染色した後、1ウェルあたり7AAD(Biolegend、品番:420404)2μlを加え、さらに4℃で光を避けて5分間染色し、細胞の生存率を同定した。染色後、1本あたりフローサイトメトリー染色液1mlを加えて洗浄し、400g、5分間遠心分離した後、フローサイトメトリー染色液100μlで細胞を再懸濁させ、CD34+CD90+CD45RA-CD66e-とCD34+CD90+CD45RA-CD66e hiの2群の細胞(CD66e hiはCD66e高発現細胞を指す)をフローサイトメーター(BD、Aria III)で選別した。
【0085】
次に、選別された細胞をフローサイトメーター(Beckman Coulter CytoFLEX)で細胞表現型純度の同定を行った。
得られた細胞をRNA抽出した後、cDNAに逆転写し(TransGen社製のワンステップ用cDNA逆転写キット、AT311-03)、表5の反応系(表5)と反応手順(表6)に従ってqRT-PCT反応(Roche 6402712001)を行い、その結果について、GAPDHを参考遺伝子とし、各遺伝子の発現状況を2^-△△CTで示した。
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
図8A、
図8Bは、CD34+CD90+CD45RA-CD66e-又はCD34+CD90+CD45RA-CD66e hi細胞のフローサイトメトリーによるソーティング及びソーティング後のフローサイトメーターによる細胞純度の概略図である。
図9は、qRT-PCRを用いたCD34+、CD34+CD90+CD45RA-CD66e-、CD34+CD90+CD45RA-CD66e hiの3種類の細胞のHSC関連遺伝子発現量の検出の概略図である。
【0090】
図8A、
図8Bより、フローサイトメトリーによるソーティングによりCD34+CD90+CD45RA-CD66e hiの純度は97.5%に達することが分かった。
図9より、検出したHSC関連遺伝子はいずれもCD34+CD90+CD45RA-CD66e hi細胞で最も発現量が高く、CD34+CD90+CD45RA-CD66e hiがより多くのHSCを富化していることが分かった。
【0091】
実施例6
ヒトCD34+HSPCを蘇生させ、造血幹細胞の完全培地で一晩培養した後に細胞を収集し、抗ヒトCD34、CD90、CD45RA及びCD66eの蛍光抗体で染色した後、フローサイトメーターを用いて2群の細胞:CD66e+群:CD34+CD90+CD45RA-CD66e+とCD66e-群:CD34+CD90+CD45RA-CD66e-を選別した。2群の細胞をそれぞれ1.0Gy放射したNPG(NOD-scid Il2rg-/-)免疫不全マウスに、マウス1匹あたり300、1000又は3000個の細胞で移植し、群あたりマウス8匹にした。移植後4週目、12週目、16週目にマウス末梢血への細胞移植効率を検出し、16週目にマウス骨髄及び脾臓への移植効率も検出した。移植効率=hCD45+割合/(hCD45+割合+mCD45+割合)×100%であり、限界希釈法は、ELDAオンラインツールhttp://bioinf.wehi.edu.au/software/elda/を用いて、各細胞亜集団に含まれる再構築能を有するHSCの割合を算出することである。
【0092】
図10は、マウスへ細胞移植後に4週目、12週目、16週目に末梢血への細胞移植効率を検出した統計図である。
図11は、2つの細胞群における再構築能を有するHSCを限界希釈法により計算した概略図である。
図12は、移植後16週目の骨髄及び脾臓への移植の概略図である。
【0093】
図10の結果より、CD34+CD90+CD45RA-CD66e+細胞の移植効率はCD34+CD90+CD45RA-CD66e-細胞より有意に高く、移植効率は移植細胞数の増加に伴い向上した。
図11の結果より、CD34+CD90+CD45RA-CD66e+細胞はCD34+CD90+CD45RA-CD66e-細胞よりも60倍高い1/529個の再構築能を有するHSCを含むことが限界希釈法により算出された。
図12の結果により、移植後16週目の骨髄及び脾臓においても、CD34+CD90+CD45RA-CD66e+の移植効率はCD34+CD90+CD45RA-CD66e-細胞よりはるかに高かった。
【0094】
実施例7
実施例6において移植16週後のマウス骨髄を採取し、1.0Gy放射したNPG免疫不全マウスに二次移植した。移植後16週目にマウスの骨髄、末梢血、脾臓への移植状況を検出した。ここで、移植効率=hCD45+割合/(hCD45+割合+mCD45+割合)×100%であった。
【0095】
図13は、マウス末梢血、骨髄、及び脾臓への二次移植16週目の移植の概略図である。
【0096】
図13の結果により、CD34+CD90+CD45RA-CD66e+細胞は二次移植後に長期造血系再構築機能を示し、しかも、移植効率はCD34+CD90+CD45RA-CD66e-細胞より有意に高かった。
【0097】
以上の通り、本発明では、上記のタンパク質、特にCD66e、CD66a及びCD200はすべて造血幹細胞例えばLT-HSCsを特徴付けることが期待でき、さらに、CD66eはヒトLT-HSCsの新規表面マーカータンパク質として有用であることを見出した。
【0098】
上記は、本発明のより好適な実施例に過ぎず、本発明を他の形態で限定するものではなく、当業者であれば、上記で開示された技術的内容を変更又は変形して同等変化の等価実施例にすることができる。ただし、本発明の技術的解決手段の内容から逸脱することなく、本発明の技術的本質に基づいて上記の実施例に対して行われたいかなる簡単な修正、均等な変化及び変形は、本発明の技術策の保護範囲に属する。
【手続補正書】
【提出日】2023-06-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
造血幹細胞を特徴付けるためのタンパク質の使用であって、
前記タンパク質は、
(1)CD34、CD90及びCD45RAと、
(2)CD48、CD66a、CD66c、CD66d、CD66e、及びCD200から選択される1種又は2種以上と、を含
み、
好ましくは、
(1)CD34、CD90及びCD45RAと、
(2)CD66a、CD66e及び/又はCD200、好ましくはCD66eと、
を含む、使用。
【請求項2】
被検細胞がCD34陽性であるか否かを検出することと、
被検細胞がCD90陽性であるか否かを検出することと、
被検細胞がCD45RA陰性であるか否かを検出することと、
被検細胞がCD48、CD66a、CD66c、CD66d、CD66e及びCD200から選択される1種又は2種以上のタンパク質
に陽性であるか否かを検出することと、を含み、
被検細胞が、CD34陽性、CD90陽性、CD45RA陰性であり、かつ、CD48、CD66a、CD66c、CD66d、CD66e及びCD200から選択される1種又は2種以上のタンパク質陽性である場合、造血幹細胞であると判定
し、
好ましくは、前記被検細胞は、臍帯血、動員末梢血、又は骨髄由来であり、
更に好ましくは、前記タンパク質は、CD66a、CD66e及び/又はCD200、好ましくはCD66eである、
造血幹細胞を判定するための方法。
【請求項3】
単離対象細胞からCD34+、CD90+、CD45RA-と、CD48、CD66a、CD66c、CD66d、CD66e及びCD200から選択される1種又は2種以上のタンパク質とが陽性である造血幹細胞をスクリーニングすることを含
み、
好ましくは、前記単離対象細胞は、臍帯血、動員末梢血、又は骨髄由来であり、
更に好ましくは、前記タンパク質は、CD66a、CD66e及び/又はCD200、好ましくはCD66eである、
造血幹細胞をスクリーニングする方法。
【請求項4】
選別対象細胞から選別されたCD34+、CD90+、CD45RA-と、CD48、CD66a、CD66c、CD66d、CD66e及びCD200から選択される1種又は2種以上のタンパク質とが陽性である造血幹細胞を含
み、
好ましくは、前記選別対象細胞は、臍帯血、動員末梢血、又は骨髄由来であり、
更に好ましくは、前記タンパク質は、CD66a、CD66e及び/又はCD200、好ましくは、CD66eである、
細胞製剤。
【請求項5】
選別対象細胞からCD34+、CD90+、CD45RA-と、CD48、CD66a、CD66c、CD66d、CD66e及びCD200から選択される1種又は2種以上のタンパク質とが陽性である造血幹細胞をスクリーニングすることを含
み、
好ましくは、前記選別対象細胞は、臍帯血、動員末梢血、又は骨髄由来であり、
更に好ましくは、前記タンパク質は、CD66a、CD66e及び/又はCD200、好ましくはCD66eである、
細胞製剤を調製する方法。
【請求項6】
造血系再構築能を向上させるための薬物であって、
請求項
4に記載の細胞製剤、又は請求項
5に記載の方法により調製された細胞製剤を含む、薬物。
【請求項7】
被験者の造血系を再構築する方法であって、
請求項
4に記載の細胞製剤、又は請求項
5に記載の方法により調製された細胞製剤を被験者に投与することを含む、方法。
【請求項8】
被検細胞がCD34陽性であるか否か、被検細胞がCD90陽性であるか否か、被検細胞がCD45RA陰性であるか否か、被検細胞がCD48、CD66a、CD66c、CD66d、CD66e、及びCD200から選択される1種、2種、3種、又は4種以上のタンパク質
に陽性であるか否かの各々を検出するための化合物を含
み、
好ましくは、前記タンパク質は、CD66a、CD66e及びCD200のうちの1種、2種又は3種、好ましくはCD66eであり、
更に好ましくは、単離対象細胞は、臍帯血、動員末梢血、又は骨髄由来であり、
更に好ましくは、前記化合物は抗体である、
造血幹細胞を検出するキット又は製品。
【請求項9】
前記抗体は、化学的に標識された抗体、例えば、発光性化合物で標識された抗体、例えば、蛍光で標識された抗体であ
り、好ましくは、前記抗体は磁気ビーズに付着される抗体である、請求項
8に記載のキット又は製品。
【請求項10】
選別又は富化対象の細胞から、CD34+、CD90+、CD45RA-と、CD48、CD66a、CD66c、CD66d、CD66e及びCD200から選択される1種、2種、3種、又は4種以上のタンパク質とが陽性である造血幹細胞を選別又は富化するための化合物を含
み、
好ましくは、前記タンパク質は、CD66a、CD66e及びCD200のうちの1種、2種又は3種、好ましくはCD66eであり、
更に好ましくは、単離対象細胞は、臍帯血、動員末梢血、又は骨髄由来であり、
更に好ましくは、前記化合物は抗体である、
造血幹細胞を選別又は富化するキット又は製品。
【請求項11】
前記抗体は、化学的に標識された抗体、例えば、発光性化合物で標識された抗体、例えば、蛍光で標識された抗体であ
り、好ましくは、前記抗体は磁気ビーズに付着される抗体である、請求項
10に記載のキット又は製品。
【請求項12】
スクリーニング対象培地を用いて造血幹細胞を培養した後、CD34+、CD90+、CD45RA-と、CD48、CD66a、CD66c、CD66d、CD66e及びCD200から選択される1種、2種、3種、又は4種以上のタンパク質とが陽性であることにより特徴付けられる造血幹細胞の割合の維持又は上昇下降を検出することを含む造血幹細胞用培地をスクリーニングする方法であって、
上記のように特徴付けられた造血幹細胞の培養後の割合が維持又は上昇していると、スクリーニング対象培地は適切な造血幹細胞用培地であることを示す、方法。
【請求項13】
請求項
12に記載の方法によりスクリーニングされた造血幹細胞用培地。
【請求項14】
請求項
4に記載の細胞製剤、又は請求項
5に記載の方法により調製された細胞製剤
を被験者の疾患を治療するための使用。
【国際調査報告】