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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-14
(54)【発明の名称】機構における非接触力の管理
(51)【国際特許分類】
   G06C 15/00 20060101AFI20231107BHJP
   B81B 3/00 20060101ALI20231107BHJP
   B82Y 10/00 20110101ALI20231107BHJP
【FI】
G06C15/00
B81B3/00
B82Y10/00
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023518998
(86)(22)【出願日】2021-09-22
(85)【翻訳文提出日】2023-03-31
(86)【国際出願番号】 US2021051411
(87)【国際公開番号】W WO2022066681
(87)【国際公開日】2022-03-31
(31)【優先権主張番号】63/083,265
(32)【優先日】2020-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/083,276
(32)【優先日】2020-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519063358
【氏名又は名称】シービーエヌ ナノ テクノロジーズ インク.
【氏名又は名称原語表記】CBN NANO TECHNOLOGIES INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】ライリー, ジェイムズ, エフ., ザ・サード
(72)【発明者】
【氏名】ジョブズ, マーク, エヌ.
(72)【発明者】
【氏名】マッカーサー, ジェイムズ
(72)【発明者】
【氏名】センプレボン, ジェフリー, イー.
【テーマコード(参考)】
3C081
【Fターム(参考)】
3C081AA02
3C081BA21
3C081BA29
3C081DA03
3C081DA05
3C081EA14
3C081EA45
(57)【要約】
機構は、エネルギー消費量を削減するため及び/又は部品間の相互作用を制御するために、非接触力を管理するように設計されることが可能である。非接触力を管理することは、機構の部分間におけるファンデルワールス引力が機構の動作にとって顕著であり得るマイクロスケール及びナノスケールの機構において、特に有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機構であって、
第1部品と、
第2部品と、を備え、
前記第2部品は、規定した動作範囲において前記第1部品に対して可動であり、前記第1部品に対して、引力性の非接触力を有し、
前記第1部品と前記第2部品は、部品間の前記非接触力が前記規定した動作範囲に亘って実質的に変化しないように、互いに関連して構成され、
前記機構は、位置によって値を符号化する1つ以上の機械式入力の形態でデータを受け入れ、位置によって値を符号化する1つ以上の機械式出力の形態でデータを出力するように構成され、
前記機構は、前記入力の少なくとも1つに論理演算を行うことによって少なくとも1つの出力の前記位置が決定されるように構成され、前記論理演算が、組み合わせ論理演算、順序論理演算及びブール論理演算からなる群のなかの少なくとも1つの演算を含む、機構。
【請求項2】
請求項1に記載の機構であって、
前記第1部品が、少なくとも非活性位置と活性位置との間で動くことができ、
前記非活性位置では、前記第2部品が部品間の前記引力を実質的に変化させずに前記第1部品に関連して相対的に可動であり、
前記活性位置では、前記第1部品に関連する前記第2部品の動きは、前記引力の著しい変化に打ち勝つことを必要とする、機構。
【請求項3】
請求項2に記載の機構であって、
前記第1部品は、前記第1部品がその活性位置にある場合に、少なくとも1つの方向において前記第2部品の動きを阻止する、機構。
【請求項4】
請求項1に記載の機構であって、
前記第1部品及び前記第2部品は、少なくとも前記機構の活性動作状態において、前記第1部品の動きが、前記第1、2部品間の前記引力を実質的な変化なく維持するために前記第2部品の対応する動きを必要とするように、互いに関して構成される、機構。
【請求項5】
請求項4に記載の機構であって、
前記機構は、非活性動作状態に設定可能であり、
前記非活性動作状態において、前記第1、2部品間の前記引力を実質的な変化なく維持するために前記第2部品の動きを必要とせずに前記第1部品の動きを収容可能である、機構。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1つに記載の機構であって、
被駆動要素を備え、
前記入力(複数可)の前記位置(複数可)が、前記被駆動要素の変位が複数の前記出力のうち選択された1つに伝達されることなく収容可能であるか否かを決定するための前記機構内の許容動作範囲を決定する、機構。
【請求項7】
機構であって、
可動である第1部品と、
可動である第2部品と、を備え、
前記第2部品は、前記第1部品に対して可動であり、前記第1部品と前記第2部品との間に非接触力を生成するように前記第1部品と相互作用し、
前記第1部品と前記第2部品とが、部品間の前記非接触力が前記第1部品に対する前記第2部品の許容動作範囲を規定するように互いに関して構成され、そのような許容動作は前記部品の間の前記非接触力を実質的に変化させない、機構。
【請求項8】
請求項7に記載の機構であって、
前記第1部品に少なくとも1つの有効エッジが形成され、
更に、前記第2部品の前記動作範囲は、前記第1部品と前記第2部品との間の非接触力に実質的な変化が引き起こされるように前記有効エッジ(複数可)に関連して前記第2部品を動かすことのない動作範囲として規定される、機構。
【請求項9】
請求項8に記載の機構であって、前記有効エッジは、前記有効エッジを越えて続く表面の下に存在する構造によって提供される、機構。
【請求項10】
機構であって、
可動である第1部品と、
可動である第2部品と、
少なくとも1つの活性面と、
少なくとも1つの係合要素と、を備え、
前記少なくとも1つの活性面は、前記第1部品及び前記第2部品のうち一方に設けられ、前記活性面(複数可)は少なくとも1つの有効エッジを持ち、
前記少なくとも1つの係合要素は、前記第1部品及び前記第2部品のうち他方にあり、前記係合要素(複数可)は、前記活性面(複数可)の少なくとも1つと相互作用してその間に非接触力を生成し、且つ前記活性面(複数可)に対して可動であり、
前記第1部品及び前記第2部品は、前記第2部品の動きが前記第1部品の動きにより制御されるように構成され、前記第2部品は、前記係合要素(複数可)が前記有効エッジ(複数可)に関連して動くことに起因する前記非接触力の変化を最小化するように動く、機構。
【請求項11】
機構であって、
可動である第1部品と、
可動である第2部品と、
少なくとも1つの活性面と、
少なくとも1つの係合要素と、
被駆動要素と、を備え、
前記少なくとも1つの活性面は、前記第1部品及び前記第2部品のうち一方に設けられ、前記活性面(複数可)は少なくとも1つの有効エッジを持ち、
前記少なくとも1つの係合要素は、前記第1部品及び前記第2部品のうち他方にあり、前記係合要素(複数可)は、前記活性面の少なくとも1つと相互作用してその間に非接触力を生成し、且つ前記活性面(複数可)に対して可動であり、
前記被駆動要素は、前記第2部品を動かすように作用し、
前記第1部品及び前記第2部品は、前記被駆動要素の動きの結果として生ずる前記第2部品の動きが前記第1部品の位置により制御されるように構成され、前記第2部品は、前記係合要素(複数可)が前記有効エッジ(複数可)に関連して動くことに起因する前記非接触力の変化を最小化するように動く、機構。
【請求項12】
請求項10又は請求項11に記載の機構であって、前記第2部品は、前記第1部品と前記第2部品との間の前記非接触力の実質的な変化を回避するように動く、機構。
【請求項13】
請求項10又は請求項11に記載の機構であって、前記第2部品は、前記第2部品が動かない場合よりも前記第2部品と前記第1部品との間の前記非接触力の固さの変化がより小さくなるように動く、機構。
【請求項14】
請求項10又は請求項11に記載の機構であって、
前記機構は、活性動作状態と非活性動作状態とに選択的に構成されることが可能であり、
前記活性動作状態では、前記有効エッジ(複数可)に関連する前記係合要素(複数可)の動きに応答して前記第2部品が動き、
前記非活性動作状態では、前記第2部品が動くことを必要とするであろう部品間の非接触力の実質的変化を生じさせることなく、前記係合要素(複数可)の動きを収容可能である、機構。
【請求項15】
請求項10から請求項14のいずれか1つに記載の機構であって、
前記第1部品と前記第2部品とのうち少なくとも一方は、少なくとも1つの入力によって位置決めされる、機構。
【請求項16】
請求項15に記載の機構であって、
前記有効エッジ(複数可)に関連する前記係合要素(複数可)の動きに応答する前記第2部品の動きは、1つ以上の入力の位置に対して行われるブール関数で決定される、機構。
【請求項17】
請求項16に記載の機構であって、
前記機構は、NORゲート、NANDゲート及びXORゲートからなる群から選択した論理ゲートの機能を提供する、機構。
【請求項18】
請求項15に記載の機構であって、
前記機構は、機械式のクロック信号により駆動され、前記クロック信号のサイクル間に前記第1部品と前記第2部品とのうち少なくとも一方の位置が記憶されるように構成される、機構。
【請求項19】
請求項1から請求項18のいずれか1つに記載の機構であって、
前記第1部品と前記第2部品とのうち少なくとも一方は、カーボンナノチューブで構成される、機構。
【請求項20】
請求項10から請求項19のいずれか1つに記載の機構であって、
前記機構は、前記第2部品を動かすために、1μNを超えない力を要する、機構。
【請求項21】
機構であって、
機械式の第1入力と、
機械式の第2入力と、
少なくとも1つの、機械式の出力と、を備え、
前記機構は、前記入力の位置により前記出力(複数可)の結果位置が決まるように構成され、
前記結果位置では、前記入力の位置の何れかの変更に応答した前記機構の構成要素の間における非接触力の変化に対する抵抗が最小となる、機構。
【請求項22】
請求項21に記載の機構であって、前記第1入力の位置決めは、前記第2入力の位置決めよりも先に行われる、機構。
【請求項23】
請求項22に記載の機構であって、
前記機構は、少なくとも1つの制御要素を備え、
前記制御要素は、非接触力を介して前記第2入力の動きを前記出力(複数可)に選択的に伝達し、
前記制御要素(複数可)が前記第2入力の動きを伝達するか否かを前記第1入力の位置によって少なくとも部分的に決定するように、前記機構が構成される、機構。
【請求項24】
請求項23に記載の機構であって、
少なくとも1つの前記制御要素(複数可)は、非接触力により前記第2入力に引き寄せられ、
前記第1入力の前記位置が、少なくとも部分的に、前記第2入力により前記制御要素(複数可)を動かすように作用する前記非接触力がそのような動きに抵抗する非接触力よりも固いか否かを、決定する、機構。
【請求項25】
請求項24に記載の機構であって、
機械式の第3入力を、更に備え、
前記第3入力が、前記第1入力との組み合わせにおいて、前記第2入力により前記制御要素(複数可)の少なくとも1つを動かすように作用する前記非接触力がそのような動きに抵抗する非接触力よりも固いか否かを、決定可能である、機構。
【請求項26】
請求項23に記載の機構であって、
前記入力の前記位置が、非接触力の変化を最小化するために前記出力(複数可)を動かさずに前記第2入力の動きを収容可能であるか否かを、決定する、機構。
【請求項27】
請求項21から請求項26のいずれか1つに記載の機構であって、
前記入力は、カーボンナノチューブで構成される、機構。
【請求項28】
請求項21から請求項26のいずれか1つに記載の機構であって、
前記機構は、前記出力を動かすために、1μNを超えない力を要する、機構。
【請求項29】
請求項21から請求項26のいずれか1つに記載の機構であって、前記機構の体積は0.001mmを超えない、機構。
【請求項30】
機構であって、
第1部品と、
第2部品と、を備え、
前記第2部品は、規定した動作範囲を通じて前記第1部品に対して可動であり、且つ前記第1部品に対して引力性の非接触力を持ち、
前記第1部品及び前記第2部品は、それらの間の前記非接触力が前記規定した動作範囲に亘って実質的に変化しないように互いに関連して構成され、
前記機構の体積は0.001mmを超えない、機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、非接触力を受ける作動部品に関し、そのような非接触力に打ち勝つことに関連する問題を回避し及び/又は部品間の動きの調整にそのような非接触力を採用するように構築された機構に関する。
【背景技術】
【0002】
ファンデルワールス力、及び静電気力や電磁力などの接触に依存しない同様の力は、非結合の力又は「非接触力」として特徴付けることができ、ここでは「NCF」と略記する。静電気力は、ロンドン分散力、双極子-双極子力(以下、まとめてファンデルワールス力又は「VDW」と呼ぶ)を含み、短い距離(オングストロームオーダー)で作用する。機構内のマクロな部品では、これらの力は機構の動作に影響を与えないのが一般的であり、何故なら重力、慣性、摩擦その他の力が支配的だからである。しかし、短い距離で隔てられた小さな部品においては、VDWが顕著となり得る。例えば、根元で固定された平行な2本のカーボンナノチューブが数オングストローム離れていると、VDWによって互いに曲がって付着し一体化する。VDWは小さな部品を曲げられるほど強いだけでなく、VDWが2つの表面を引っ張り合うことで作動部品の抗力に寄与し得る。MEMS/NEMSの分野では、これを"スティクション"と呼び("sticking"と"friction"の合成語)、マイクロスケールのデバイスで問題になることがある。
【発明の概要】
【0003】
以下の概要は、添付の特許請求の範囲に記載された新規かつ発明的な特徴の理解を助けるために提供され、発明的な特徴の完全な説明を提供することを意図していない。したがって、特許請求の範囲を適切に解釈するために、本開示全体を考慮すべきであることが理解されるべきである。
【0004】
開示される様々な機構は、適切に機能するための非接触力(NCF)の管理に依存している。そのようなNCFは、ファンデルワールス引力、磁気引力、及び静電引力を含むことができるが、これらに限定されるものではない。特定の機構の機能は、その意図された使用に依存し、典型的には、当該機構の1つ以上の構成要素の動きを制御及び/又は制限するためのNCFの管理に依存する。
【0005】
機構は、第1部品と第2部品とを有しこれらの間で引力性のNCFを前記第2部品が有してもよく、前記第2部品は、規定した動作範囲において前記第1部品に対して可動であり、これらの部品は、それらの間の前記NCFが前記規定した動作範囲に亘って実質的に変化しないように互いに関連して構成されている。このような機構は、位置によって値を符号化する1つ以上の機械式入力の形態でデータを受け入れ、位置によって値を符号化する1つ以上の機械式出力の形態でデータを出力し、前記入力の少なくとも1つに論理演算を行うことによって少なくとも1つの出力の前記位置が決定されるように機構が構成されてもよく、論理演算は組み合わせ論理演算、順序論理演算及びブール論理演算からなる群のなかの少なくとも1つの演算を含む。幾つかのそのような機構では、前記第1部品が、少なくとも非活性位置と活性位置との間で動くことができ、前記非活性位置では、前記第2部品がそれらの間の引力を実質的に変化させずに前記第1部品に関連して相対的に可動であり、前記活性位置では、前記第1部品に関連する前記第2部品の動きは、前記引力の著しい変化に打ち勝つことを必要とする。前記第1部品は、前記第1部品がその活性位置にある場合に、少なくとも1つの方向において前記第2部品の動きを阻止してもよい。幾つかの機構では、前記第1部品及び前記第2部品は、(少なくとも前記機構の活性動作状態において)前記第1部品の動きが、前記第1、2部品間の引力を実質的な変化なく維持するために前記第2部品の対応する動きを必要とするように、互いに関して構成される。幾つかのそのような機構は非活性動作状態に設定可能であり、前記非活性動作状態において、前記第1、2部品間の前記引力を実質的な変化なく維持するために前記第2部品の動きを必要とせずに前記第1部品の動きを収容可能である。機構は被駆動要素(これはと他の"入力"として考慮され得る)を備えてもよく、前記(データ)入力(複数可)の前記位置(複数可)が前記機構内の許容動作範囲を決定してこれにより前記被駆動要素の変位が複数の前記出力のうち選択された1つに伝達されることなく収容可能か否かが決定されるように機構が構成されてもよい。規定した動作範囲に亘ってそれらの間のNCFが実質的に変化しないように互いに関連して構成された第1部品と第2部品を有する機構は、一辺100μmの立方体の体積に収まってもよい。
【0006】
機構は、第1及び第2部品を備えてもよく、前記第1及び第2部品は互いに関して可動であり、それらの間にNCFを生成するように相互作用し、これらの部品は、部品間のNCFが前記第1部品に対する前記第2部品の許容動作範囲を規定するように互いに関して構成され、そのような許容動作は部品間のNCFを実質的に変化させない。幾つかのそのような機構では、前記第1部品に少なくとも1つの有効エッジが形成され、更に、前記第2部品の前記動作範囲は、前記第1部品と前記第2部品との間のNCFに実質的な変化が引き起こされるように前記有効エッジ(複数可)に関連して前記第2部品を動かすことのない動作範囲として規定される。そのような有効エッジは、前記有効エッジを越えて続く表面の下に存在する構造によって提供可能である。
【0007】
機構は、可動である第1及び第2部品を備え、少なくとも1つの活性面と少なくとも1つの係合要素とを伴い、前記少なくとも1つの活性面は、前記活性面(複数可)は少なくとも1つの有効エッジを持ち、これらの前記部品のうち一方に設けられ、前記少なくとも1つの係合要素は、前記部品のうち他方に設けられ、前記係合要素(複数可)は、前記活性面の少なくとも1つと相互作用してその間にNCFを生成する。そのような機構において、前記第1及び第2部品は前記第2部品の動きが前記第1部品の動きにより制御されるように構成可能であり、前記第2部品は、前記係合要素(複数可)が前記有効エッジ(複数可)に関連して動くことに起因する前記NCFの変化を最小化するように動く。代替的に、そのような機構は、被駆動要素を具備可能であり、前記被駆動要素は前記第2部品を動かすように作用し、前記第1部品及び前記第2部品は、前記被駆動要素の動きの結果として生ずる前記第2部品の動きが前記第1部品の位置により制御されるように構成され、前記第2部品は、前記係合要素(複数可)が前記有効エッジ(複数可)に関連して動くことに起因する前記NCFの変化を最小化するように動く。そのような機構の何れにおいても、機構は、前記第2部品が前記第1部品と前記第2部品との間の前記非接触力の実質的な変化を回避するように動くように構成されてもよく、又は、前記第2部品が動かない場合よりも前記第2部品と前記第1部品との間の前記非接触力の固さの変化がより小さくなるように前記第2部品が動くように構成されてもよい。幾つかの機構では、前記機構は、活性動作状態と非活性動作状態とに選択的に構成されることが可能であり、前記活性動作状態では、前記有効エッジ(複数可)に関連する前記係合要素(複数可)の動きに応答して前記第2部品が動き、前記非活性動作状態では、前記第2部品の動きを必要とするそれらの間の非接触力に実質的な変化を生じさせることなく前記係合要素(複数可)の動きを収容可能である。機構は、前記第1部品と前記第2部品とのうち少なくとも一方は、少なくとも1つの入力によって位置決めされてもよく、そのような場合、前記有効エッジ(複数可)に関連する前記係合要素(複数可)の動きに応答する前記第2部品の動きは、1つ以上の入力の位置に対して行われるブール関数で決定され得るであろうし、そのような機構は、NORゲート、NANDゲート及びXORゲートからなる群から選択した論理ゲートの機能を提供し得るであろう。前記機構が機械式のクロック信号により駆動される場合、前記クロック信号のサイクル間に前記第1部品と前記第2部品とのうち少なくとも一方の位置が記憶されるように構成されてもよい。
【0008】
機構は、第1及び第2入力と、少なくとも1つの出力と、を備え、前記入力の位置により前記出力(複数可)の結果位置が決まるように構成され、前記結果位置では、前記入力の位置の何れかの変更に応答した前記機構の構成要素の間におけるNCFの変化に対する抵抗が最小となる。幾つかのそのような機構では、前記第1入力は、前記第2入力の位置決めよりも先に位置決めされ、そのような機構は、制御要素(或いは複数の制御要素)を備えてもよく、前記制御要素は、NCFを介して前記第2入力の動きを前記出力要素(複数可)に選択的に伝達し、前記制御要素(複数可)が前記第2入力の動きを伝達するか否かを前記第1入力の位置によって少なくとも部分的に決定するように、前記機構が構成される。そのような機構は、前記制御要素(複数可)がNCFにより前記第2入力に引き寄せられることが可能に構成されてもよく、前記第1入力の前記位置が、少なくとも部分的に、前記第2入力により前記制御要素を動かすように作用する前記NCFがそのような動きに抵抗するNCFよりも固いか否かを決定可能に構成されてもよい。そのような機構は、第3入力を備えてもよく、前記第3入力が、前記第1入力との組み合わせにおいて、前記第2入力と共に前記制御要素(複数可)の少なくとも1つを動かすように作用する前記NCFが、そのような動きに抵抗するNCFよりも固いか否かを決定可能である。幾つかの機構では、前記入力(複数可)の前記位置(複数可)が、NCFの変化を最小化するために前記出力(複数可)を動かさずに前記第2入力の動きを収容可能か否かを決定する。
【0009】
NCFを使用することで、機械的な接続がなくても部品の相互作用が可能になるので、比較的少ない部品で機構を構成できることが多い。その結果、マイクロスケールで製作される機構は、0.001mm(一辺が100μmの立方体の体積)を超えない体積に収まるはずであり、幾つかのそのようなデバイスが要する作動力が1μNを超えないことも期待される。10μmや1μmの立方体の体積に収まるような小型の機構を作れば、100nNや10nNのような低い作動力で済むであろう。さらに小さなデバイスは、ナノスケールの製造技術によって作製可能であろうし、一辺100nmの立方体の体積内に収まり得るであろうし、いくつかのナノスケールの論理機構は、50nm立方体、25nm立方体、あるいは10nm立方体と同じくらい小さく作ることが可能であろう。本明細書で議論される多くの機構について、言及された第1及び第2部品、入力、及び出力などの構成要素は、カーボンナノチューブ又はダイヤモンド、ロンズデーライト、又はダイヤモンドイド材料の構造から構成され得る。ナノスケールの機構では、作動力は1nN又はそれ以下である可能性があり、分子力学シミュレーションは、構成要素の動きを調整するためにNCFを採用する論理ゲートなどのいくつかの機構が、100pN未満、又は10pN未満の作動力で機能すべきことを示す。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A-D】図1A及び図1Bは先行技術のヒンジを示し、これは、ナノ又はマイクロスケールの機構で実装される場合、部品が動くときにNCFの変化を受ける可能性がある。図1C及び図1Dは円形の延長パッドを採用したヒンジを示し、ヒンジにジョイント付近の回転対称性が付与され、それによって部品が動く際のVDWの大きな変化を回避できる。
図1E-J】図1E図1Jは、スライドする物体の図であり、並進運動により引力が変化する場合と、並進運動により引力が変化しない場合とを図示している。
図2A-B】図2A及び図2Bは機構を図示しており、当該機構では、トラック要素が力伝達要素に係合するための連続的な表面を提供する役割を果たし、その要素が残りの要素との整列状態に入る又はそこから離脱する際にNCFを克服する必要性を回避する。
図3A-D】図3A図3Cは滑らかな表面を例示する図であり、下層構造の不連続性により、部品が表面上を移動するとNCFが変化し、有効エッジが提供される。図3Dは、異なる材料が有効エッジを提供する、別の滑らかな表面を示す図である。
図4A-G】図4A図4Fはロック機構を例示し、当該ロック機構では、或る位置では入力が作用することで、動くために部品間の引力に打ち勝つことを必要とすることで被駆動要素の前進を妨げるとともに、他の位置においては入力がインピーダンスなしに動きを許容するものである。図4Gは、当該原理を、2系統の可動テープを用いる機構に採用したものである。
図5A-D】図5A図5Dは、エッジのインピーダンスが、被駆動要素に応答する出力の動きを選択的に抑制する役割を果たす機構を示し、これらの例に示すように、2つの入力が設けられる場合、NOR論理関数が提供される。
図6A-F】図6A図6Fは、2つの入力に基づいて選択的に並進運動を阻止又は許容するための同心回転要素を採用する機構の、2つのバリエーションを示す図である。図6A図6Cは、ナノスケールの製造に適した機構を示し、ファンデルワールス引力がNCFとして機能し、このNCFは入力の何れかが角度変位される場合に中央要素の並進運動を阻止する。図6D図6Fは、より大規模な類似の論理機構を図示し、磁石によりNCFを提供する。
図7A-L】図7A図7Lは各入力が制御要素(成形板として形成される)の位置を決定する機構を図示し、制御要素は、被駆動要素の動きを収容するか又はそれと共に動かされるかの何れかであり、被駆動要素と共に動かされると出力を動かす。図7A及び図7Bは、動きを収容するか又は伝達するトランスミッションゲートを示し、図7Cは、このようなゲートを使用して形成可能な3入力のNORゲートを示している。図7D図7Fは、NANDゲートとXORゲートを示す図である。図7G図7Iは採用され得る代替のトランスミッションゲート構成を図示し、板がピボット運動可能に入力に取り付けられる。図7Jは拡大した足部を示す図であり、この拡大した足部は、ピンとエッジによって囲まれた表面との間の相互作用によって伝達され得る力の大きさを増加させるために採用され得る。図7K及び図7Lはスイッチゲートを図示し、スイッチゲートは2つの対向するトランスミッションゲートを採用し、スイッチゲートは、入力位置に応じて、変位信号を2つの出力の何れかに向ける役割を果たす。
図8A-C】図8A及び図8Bはトランスミッションゲートの2つの例を示す図であり、図7H及び図7Iに示されるゲートと同様の機能を提供し、分子集合によるナノスケール製造によく適するように設計される。図8A及び図8Bに示されるゲートは、成形CNTを使用して作製可能であり、この成形CNTは、ダイアモンドブロックに固定されたCNTから形成されたチューブ内でスライドする。図8Cは代替トランスミッションゲートを示す図であり、被駆動要素の動きに関連する出力の動きに機械的利得を提供する。
図9A-D】図9A図9Dは、被駆動要素及び出力に取り付けられた成形板を有する機構を示し、板と係合するコネクタが1つ以上の入力により位置決めされる。
図10A-D】図10A図10Dは、ヒンジと、NCFを介してピンで係合される成形板とを組み合わせたトランスミッションゲートを示し、板のエッジがヒンジの作用を制限することができる。
図11A-H】図11A図11Hは、NCFエネルギー障壁の乗り越えを避けるために、1つの部品の動きが他の部品の動きを強制する機構の例を示している。図11A及び図11Bはカム状連結を図示し、第1部品は板を有し、板は第1部品が動かされるときに第2部品の動きを強制し、そのような動きは第1部品に関連する第2部品の最低エネルギー位置に機構を維持する。図11Cは、部品間で類似方向の動きを提供するために、ピンとスロットを採用する従来の機構を示す図である。図11D図11Gは、機械式データストレージ及び読取機構を示す図である。データリボンがビットを符号化し、垂直リーダがそのビットを読み取る。ビットの読み取りは、図11A及び図11Bに示される部品の動きと同様の動きを引き起こし、ビットリーダが作動された後のデータリボンの位置が、そのリーダに関連付けられたビットの値を決定する。図11Hは、各リーダに対して2つのビット値を提供するための2つのデータリボンを有する類似の機構を示す。
図12A-F】図12A~12Dは、値を記憶するために採用することができる機械式ラッチを示している。このラッチはコピー要素を成形板と共に採用し、成形板は入力の値を表す位置にコピー要素を動かすことが可能であり、その後、コピー要素は、入力がリセットされる間、値を保持する位置にロック可能である。図12Eは、フリップフロップを形成するために一緒に接続された2つのラッチを示す図である。図12Fはグリッドメモリアレイの一部を示す図であり、ラッチとトランスミッションゲートアレイとから形成されこれらはメモリアドレスを選択するために接続されており、そのメモリアドレスにおいて値を書き込むか取り出すことができる。
図13A-E】図13A図13Eは、回転運動を生成又は伝達するためにNCFを採用する機構の例を示す。図13Aは、被駆動部品の並進運動に応答して螺旋状のねじ山を有する部品を回転させるためのカム方式を採用する回転モーターを示す。図13B図13Dは、単一の入力から複数の出力のうちの1つに回転運動を伝達する機構の2つの例を示す図である。図13Eはベルト駆動装置の一例を示す図であり、一方のプーリーから他方のプーリーへ回転運動を伝達するために、プーリー上の対応エッジとベルトとを採用する。
図14A-D】図14A図14Dは、成形板と1つ以上の引力要素との間の相互作用が、部品の動きを導くのに寄与する機構を示す図である。相対的な運動は、部品間の引力に打ち勝つ必要がないように、エッジによって制限される経路に沿って方向付けられる。
図15A-C】図15A図15Cは、内側部品と外側部品との間の自由な動きを制限するためにNCFを採用するガイドを示す図である。図15A及び図15Bでは、部品が互いに関して自由に回転することを可能にしながら、部品間の軸方向運動が制限される。図15Cは、回転が妨げられ、並進運動が許容されるガイドを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本願は、参照による取り込みが適切な法域において、Efficient and Manufacturable Mechanical Computing(Docket nos COMP-002-PCT and COMP-003-PCT)と題する、本出願人が並行して提出した出願の開示を参照により取り込む。
【0012】
非結合又は非接触の力(この用語は互換的に使用される)には、ファンデルワールス(VDW)、ロンドン分散力、静電気力、電磁気力、及びカシミール効果によって生じる力などの力が含まれる。このような力はナノスケール及びより小さなマイクロスケールの機構において特に懸念されるものであり、VDWのような力は同等の大規模な機構では看取されない効果を生み出す可能性があり、部品を所望の方法で動かすためのエネルギー要件の増加などの悪影響を避けるために考慮されなければならない。同様に、ナノスケール及びより小さなマイクロスケールの機構では、NCFの活用により、単純な構造を使用して部品の相互作用を制御することができ、NCFの相互作用が、ある部品と別の部品の相対的な動きを制御する障壁や連結などの機械的構造に取って代わる。機械式デバイスでは、要素間のNCFを採用して、1つ以上の入力位置(被駆動要素を採用する場合、それを含む)に関連する出力位置を定義するように要素を相互作用させることができる。ナノスケールの機構に特別な利点を有する一方で、磁気引力又は静電引力など、より大きなスケールで動作するNCFを採用することができ、教育、研究、開発及び分析の目的でナノスケールの機構の動作をモデル化する際に特別な利点を有し得る。同様に、磁力や静電気もナノスケールデバイスで使用可能であり得るが、しかし、多くの場合、機構の適切な機能を保証するために、VDWの引力を考慮する必要がある。特定の原理及び/又は例に関して本明細書で使用されるNCF及びVDWは、ほとんどの場合、交換可能であると考えるべきである。
【0013】
なお、「非接触」は部品同士の接触がないことを意味するものではない。そのような接触が、ある場合もあれば無い場合もある。むしろ、「非接触」は、機構の所望の挙動を実現するために使用される力を指す。例えば、2つの部品が互いに接触し、互いにスライドしていても、その形状や動作経路により、VDWや磁界などのNCFによって、機構が所望の動作を実現可能となる。いずれか1つの例の部品が接触していても、機構が所望の動作をすることを可能にする力は、依然として非接触又は非結合力である。
【0014】
本明細書で教示されるいくつかの機構では、互いに関連して動く部品は、非接触力(NCF)の変化を著しく低減又は消滅させて所望の動きを収容するように設計される。低減された変化は、頻繁な動きに晒される機構において特に価値があり、部品間のNCFを増加及び減少させることは、そのような機構を採用するコンピュータシステムなどのデバイスを操作するのに必要なエネルギーを、大幅に増加させる可能性がある。
【0015】
幾つかの場合には、NCF変化の低減は、予想される運動範囲と同等の範囲に構成される表面を有する部品を設計することで達成可能である。典型的には、これは、ある部品の運動が、それが引き付けられる隣接部品の有効エッジ(エッジを使うことが便利である理由については本明細書の議論に従うが、必ずしも必須ではない)に近接したり、それを超えたりすることがないように保証する。例えば、第1部品が第2部品に近接する大きな平坦面を有する場合、それらの相対運動が第2部品を第1部品の表面の有効エッジを越えて動かさない限り、NCFに実質的変化はない筈である。幾つかの場合には、回転軸に関する対称性を利用可能である。例えば、接触又は近接する2つの部品が互いに回転する場合、少なくとも一方の部品の近接部分が回転軸に関して対称である限り、部品間のNCFは部品の回転に伴って大きく変化することはないであろう。
【0016】
有効エッジは、物理的なエッジであるかどうかにかかわらず、典型的に、部品間のNCFの影響によって変化が生じる場所であることに留意すべきである。例えば、VDWの影響を受ける小さな部品の場合、VDWは一般的にエッジに近づくにつれて減少するので、有効エッジは実際には物理エッジの数オングストローム内側に存在し得る。ファンデルワールス引力が懸念される主要NCFである多くの場合、エッジは物理エッジから約1nm又はそれ以下の距離を含むと考えることができる。VDWは距離の増加とともに急速に先細りになるため、部品が近ければVDWが変化するような可動部品は、少なくとも約2~3nmは離しておく必要がある。有意とみなされる特定の距離は特定の状況に依存して決まり、当該特定の状況は、VDW引力に対して部品を動かすための作業という形でどれだけのエネルギー消費を許容できるかを含む。別の例では、部品は、表面の下にある下部構造にエッジを有してもよく、当該表面はそのようなエッジを超えて伸張し、下にあるエッジを有する当該面の上又は近傍にある部品のNCFが、たとえ当該面が有効エッジを超えて続いていても、当該面に有効エッジを作り出す。典型的には、有効エッジは、ある部品の上の位置であって、そのような位置を越えて他の部品を動かすと、部品間の既存のNCFの程度を乗り越えるための仕事を必要とするであろう場所のことである。エッジはまた、異種材料の領域の間でそれらの引力が著しく異なる場合に発生し得る。
【0017】
幾つかの場合には、1つ以上のスペーサ要素を隣接する部品の間に介在させて、本明細書に記載の技術の1つを実施するための伸張面を提供することが可能である。例えば、2つの部品が互いに関して回転する必要があり、それらが回転軸の周りで対称でない場合、1つ以上の対称的なスペーサ要素が部品間に介在され得る(例えば、シャフト上のワッシャーに似ているが、分子スケールである)。同様に、並進要素の場合、並進軸に伸張するスペーサを採用し得るであろう。このような場合、スペーサの有効性は、それが可動部品間のNCFを分離するのに十分な厚さであることに依存する。幾つかの場合には、部品の動きに伴うNCFの変化を著しく減少させるが効果的に除去することはできないスペーサでも、有益であり得る。
【0018】
いくつかの場合には、流体(気体や液体を含む)を使用して、VDWを相殺することができる。例えば、2つの部品が互いに近接する場合、真空中では部品間に引力が発生するはずである。しかし、この機構に流体を加えると、流体もVDWによって部品に引き寄せられることになる。流体が部品同士の引力よりも強く引き寄せられれば、流体は部品間の空間に引き込まれ、流体圧がVDWを相殺することになる。幾つかの場合には、流体圧が部品間のVDWを上回り、実際に部品を互いに遠ざけることになる(Pitaevskii, L. (2010). "On the problem of van der Waals forces in dielectric media." URL: https://arxiv.org/pdf/1011.5591.pdf)。これにより、実際にはVDWは常に引力であるにもかかわらず、マイナスのNCF又は反発性のNCFという効果がもたらされ得る。
【0019】
上述の技術は、部品が互いに関連して動く際に部品のNCFに打ち勝つために必要な仕事を減らすためのものであり、これらは適切な場合に組み合わせ可能である。例えば、機構は、有効エッジを越えて部品を押すことを避けるために、少なくとも可動範囲と同程度のひろがりを持つ表面を有する部品及び/又はNCFに関して対称な部品を組み合わせたり、部品を分離するスペーサを組合せたり、及び/又は流体を使用して部品間のVDW引力を相殺するか又は部品を互いから遠ざけたりしてもよい。
【0020】
前述の例では、NCFが存在しないわけではなく、また、必ずしも減少するわけでもないことに留意されたい。実際、部品は接触していることがあり、そこではVDW引力を原因としてNCFが最も強く働く。接触している部品は、VDWエネルギー井戸の底にある。しかし、両者の相対運動がそれらをVDWエネルギー井戸から持ち上げようとしない限り、VDWに対して仕事は行われない。このように、機構の動作中にVDWが変化しないことを、ここでは「VDWニュートラル」と呼び、同じコンセプトが他のNCFにも当てはまる。抗力はまだ存在する可能性があるが、NCFに対して行われる仕事を無くすことで、実質的なエネルギー節約が可能となる。多くの場合、NCFの変化に要する仕事が機構の適切な動作にとって実質的ではない程度に小さくなるように、部品を設計することが目的である。そのような実質性は、機構の意図する目的や、どの程度のエネルギー損失を許容できるかといった設計基準に応じて決まるであろう。多くの場合、必要な仕事が"非実質的"というのは、機構の意図した動作を著しく損なわない程度の仕事として定義される。一般的なガイドラインの一例として、部品を動かすために必要なNCFエネルギーが、(摩擦や抗力などによる)その動きの全エネルギー散逸の約50%未満である場合は、「実質的ではない」とみなしてもよい。エネルギー損失が特に懸念されるような幾つかの場合、NCFの「実質的」変化は、機構の構成要素が動くことによるエネルギー散逸の20%を超えないか、10%を超えないか、又は5%を超えないとみなされ得る。場合によっては、「非実質的な」仕事は力によって定義されてもよく、ナノスケールの機構では、NCFに対して部品を動かすために加えられる「非実質的な」力は、1nN未満、100pN未満、又は10pN未満であってもよい。
【0021】
ある部品を隣接する部品の有効エッジに近接させるか又はそれを越えるように強制することで生じる作動抵抗(部品間のNCFに打ち勝つためのエネルギーが必要)を、ある部品の別の部品に対する動きを制御するために採用可能である。
【0022】
本明細書で教示されるいくつかの機構では、1つの部品の位置がNCFを介して別の部品の動きを制御可能又は制限可能であり、且つそれらの間のNCFに変化を生じさせないよう、これらの部品を設計可能である(他の機構では、結果的に生ずる部品の動きは、部品間のNCFの変化に対する最小固さ抵抗によって決まる場合があることに留意されたい)。これは、VDWニュートラル設計のもう一つの側面と考えることができる。例えば回転軸を中心とした対称性に起因して動きがNCFの変化を引き起こさない機構とは対照的に、制御を採用する機構は、そのようなVDWニュートラル設計の特徴を特に回避することができる。部品形状によってVDWニュートラルになるよりもむしろ、VDW相互作用が部品の制御と論理に使用される場合に、VDWニュートラル性を維持するために部品を強制的に動かすことが可能(又は動きを阻止可能)である。つまり、設計は依然としてVDWニュートラルに行われる可能性はあるが、VDWニュートラル性を達成する方法は、部品の形状というよりもむしろ、1つ以上の他の部品に反応する1つ以上の部品の動き(これは一般的に、部品をエネルギー井戸の底に維持する)によるものであり得る。
【0023】
例えば、第1部品は、有効エッジで囲まれた活性面(即ち、NCF引力の対象となる表面)を有するように形成可能である。このとき、活性面に引き付けられる係合要素を有する第2部品は、その可動範囲が第1部品のエッジによって制限されるが、なぜなら、エッジを越えて係合要素を動かすには、VDW力の少なくとも一部に打ち勝つ必要があるからである(前述のように、「エッジ」とは、しばしば実際の境界に近い領域を指し、エッジが存在すると部品の間のVDWに大きな影響を及ぼす)。このように、第1部品の位置が、第2部品の位置を制御したりその可動範囲を制限したりすることが可能である(このような力は双方向に働くため、逆もまた成り立つ)。
【0024】
例えば幾つかの場合、第1部品のエッジは、第2部品の動きを阻止するように配置され得る。幾つかの場合、第1部品のエッジは、第2部品の動きを引き起こすように配置され、効果的に第2部品は、VDW引力を通して第1部品と一緒に引っ張られるように配置される。幾つかの場合、第1部品のエッジは、第2部品の自由な動きを制限するように配置され得る。幾つかのそのような場合、別の機構(即ち、クロック信号又は入力信号、典型的には「被駆動要素」の運動を介して加えられる)を介して第2部品に力が加えられると、第2部品は、それが自由に動ける場合には動く。しかし、第1部品が第2部品の動きを制限するように配置され、第1部品と第2部品の間で乗り越えなければならないNCFが、例えばクロック信号や入力信号によって加えられる力よりも固い場合、第2部品は動かないことになる。このようにして、スイッチや論理回路を作製できる。多くの場合、第1部品は、非活性位置(第2部品の動きに影響を与えない)又は活性位置(第2部品の動きに影響を与える)のいずれかに選択的に配置可能である。同様に、多くの機構は、部品間のNCF相互作用により別の部品の動きに応じて1つの部品の動きが生じる活性動作状態と、別の部品の動きなしに1つの要素の動きが収容される非活性動作状態とに選択的に設定可能である。このような機構は、1つ以上の要素の自由な動きの制約を決定するために考慮することもでき、このような制約は、1つの要素の動きが、その動きが別の部品に伝達されることなく収容されることができるかどうかを決定する。部品の動きが被駆動要素の動きに応答するものである場合、そのような被駆動要素は、機構を構築するために以前に動かされた他の1つの入力に加えて、入力として考慮され得る。
【0025】
選択的に動きを伝達又は非伝達するこのような仕組みを用いる機構は、論理ゲート、メモリ構造、及び機械式又は電気機械式コンピューティングシステムの追加コンポーネントを提供するようにアレンジされることができ、そこでは1つ以上の出力値が1つ以上の入力値によって定義される。加算器、シフトレジスタなどの高次構造は、(電子論理ゲートを組み合わせて高次構造を形成する方法に類似した方法で)論理ゲートから形成可能であるか、又は、他の部品の位置に基づいて部品の動きを管理するためのNCF相互作用を使用して、1つ以上の入力値に基づいて1つ以上の出力値を得るための本明細書に教示されるパラダイムを用いてより直接に形成可能である。
【0026】
幾つかの場合、動くか動かないかではなくむしろ、何れにしても部品は動くが、他の部品とのNCF相互作用に応じて異なる動き方をする。例えば、上皿秤に似た機構は、2本のクロスバーの交点にロータリージョイントがあるだけの"T"形状をしていることがある。T字の縦棒を押し上げ、横棒の片側を固定化すると、縦棒の上昇に伴ってもう片側も上昇する。このようなバランス機構の片側又はもう片側を固定化することは、NCF相互作用によって行うことができる。左側をNCFで固定すると「T」が押し上げられると右側が上昇し、逆も成り立つ。この単純なメカニズムは、機械式ロジックやデータルーティングを含むデバイスの基礎として機能することができる。このような「ロック&バランス」方式(ただし、部品間のNCF相互作用を介してよりもむしろ、機械式リンク及び/又はケーブルを介して実装される)を使用する論理及びコンピューティング機構の例は、米国特許10,481,866、10,664,233、10,949,166、及び米国公開2021/0149630に教示されており、そのように組み込むことが適切な法域では、すべてが参照により本明細書に組み込まれている。上述したような動きあり/動きなしの場合と同様の方法で、このような動き制御は、論理ゲート、メモリセル、加算器、シフトレジスタなどの論理構造を構築するために採用され得るであろうし、そこでは1つ以上の出力値が1つ以上の入力値によって定義される。
【0027】
部品間のVDWの強さについて述べる場合、NCF曲線の形状にかかわらず、NCFの大きさ(文脈に応じて、距離で平均化され得る)を指すことに留意されたい。仕事=力×距離であるため、仕事を計算する上で強さは重要である。一方、「固さ」は、距離に対するVDWの大きさの変化を指す。言い換えると、NCF曲線の傾きである。短い距離でVDWの変化が大きければ、固い力ということである。同じVDWの変化でも距離が長いものであれば、同じ量の仕事を要するが、それほど固くはない。これは重要な区別であり、なぜなら、2つの力が互いに対向する場合、最も強い力ではなく、むしろ最も固い力が優先されるからである。多くの機構では、機構の部品間でのNCFの変化を最小にするための部品の動きは、NCFの固さの変化が最も小さくなるような動きである。
【0028】
エネルギー井戸の底(又は少なくとも井戸の下側)から始動した部品が、エネルギー井戸の上方に部分的に移動した場合、部品を井戸の下方に引き戻すように作用する復元力が生まれる。この挙動は、不要な仕事をする機構を避けるために本明細書では使用されないことが多いが、バネとして利用することも可能である。例えば、カーボンナノチューブが入れ子になっている場合、NCFはナノチューブを最大に重なる位置に引き寄せようとする。重なりがより少ない位置へとナノチューブの1つが引き寄せられると、NCFの引力により復元力が生じる。このようなバネは、機構の部品にバイアスを与えたり、柔軟な部品(グラフェンのリボンやテープなど)に張力を与えたり、同様の機能を持たせるために使用可能である。入れ子にしたCNTは、一定力のバネを提供する方法の一例である。しかし、部品がエネルギー井戸を上るように強制される他の機構も、バネ効果を提供するために採用可能であろう。本明細書で教示する機構の多くでは、1つ以上の部品に対し利用可能な動きに制限を加えると、別の部品を押してNCFエネルギー井戸に押し付けることになる。
【0029】
本明細書で述べる設計は、マイクロ及びナノスケールの機構においてファンデルワールスに起因する問題を回避するために特に有用なものであり、VDWはしばしば例示的な力として使用されるものの、同じ原理が組み込まれるが例えば電磁力又は静電力を採用する、より大規模な機構もまた有用であり得る。
【0030】
より大規模の機構は、少なくとも設計、訓練及び教育目的のために有用なものであり、そのような力がマイクロスケール及びナノスケールの機構においてどのように有利に扱われ得るかをより完全に理解することを容易にする。静電気や磁力などの力を用いるこのような大規模の機構は、従来の技術で容易に作製でき、複雑な観察装置を採用しなくても試験や分析が可能な機構を用いて、NCFの効果や使用方法を研究するのに有益である。VDWが言及される場合、そのような力が所定の機構に適切であろう場合、本明細書で既に言及されたような他の力もカバーするものと想定される。
【0031】
ここで提示する例では、部品表面のエッジについて話すことが多い。これは、教訓的に、隣接する部品の運動限界を示す明確な方法であるためである。しかし、NCFは典型的には固体材料を伝搬するため、平面の下にある構造が均一でない場合、均一な平面の中央でも力が変化する可能性がある。例えば、中央に穴の開いたダイヤモンドイド立方体を作り、その片面に立方体の面と同じ大きさのグラフェンシートを敷いたものと仮定すると、その面はグラフェンの張り板によって均一な立体に見える。しかし、近くの部品に対しては、均一な固体のようには作用しない。グラフェンは、ダイヤモンドと重なっている部分ではNCFが高くなり、穴と重なっている部分では力が弱くなる。これは、部品がグラフェンを含まないモノリシックなダイヤモンドであったとしても同じことが言えるだろう。例えば、立方体の穴が表面まで伸張せず、表面から1単位セル離れたところで止まっている場合を考えてみる。表面は均一に見える。しかし、表面における幾つかの部位の下側にはダイヤモンドが多く存在し、表面における別の部位の下側には空洞が存在する。それに応じて、VDWも異なる。このような概念は、磁場を使って簡単に説明できる。例として、紙、木、プラスチックなどの下に磁石を置き、その上に磁性部品を置くと、明らかに、少なくとも材料の厚みに対して十分な強度を持つ磁石では、磁性部品は磁界の影響を受けることがわかる。実際、磁石が十分に強力であれば、介在するシートや層は鉄系金属であることさえある。したがって、部品表面にある物理的なエッジは、典型的には境界として機能する必要はない。むしろ、多くの場合、重要なのは、力が所望のとおりに変化することであり、エッジはこれを達成する便利な方法であるが、所望の機能を提供するためにNCFを管理するための他の技術が本明細書の教示から構築可能である。
【0032】
本明細書ではNCF引力に着目しているが、その原理は反発力にも拡張されることが明らかであり、そのような反発力は、電磁力又は静電気力によって達成されるようなものであり、且つ大きなVDWを受けるのに十分に小さな機構において気体又は液体の適切な組み合わせで模倣されるようなものである。真空以外で部品が分離された場合、VDWが部品間の反発力をもたらす能力は確立されている。Pitaevskii, L. (2010). "On the problem of van der Waals forces in dielectric media."(URL: https://arxiv.org/pdf/1011.5591.pdf)を参照されたい。
【0033】
図1A図1Dは、部品が動く際にNCFが大きく変化するのを回避するように部品を構成する方法の一例を示す。この場合、図1A及び図1Bに示す先行技術のヒンジ100は第1部品102及び第2部品104を有し、これらはピボットジョイント106で共に接続されてピボット運動可能である。各部品(102、104)は、ピボットジョイント106を囲むベース部分108と、ピボットジョイント106から間隔を隔てた遠位部分110を有する。このような部品(102、104)は、低エネルギー計算能力を提供するための米国特許10,481,866号及び関連登録特許/関連特許出願に教示されているような、機械式リンクロジック機構の構成要素であり得る。部品(102、104)が互いに関してピボット運動すると、遠位部分110の間の間隔Sが変化する。部品(102、104)が十分に小さい場合、ファンデルワールス引力は十分な大きさを有し、その十分な大きさは部品(102、104)の動きに対する抵抗を生じ得る大きさであり、その抵抗はヒンジ100を図1Aに示す位置から図1Bに示す位置に戻すために遠位部分110を一緒に引っ張るようなものである。部品(102、104)を関連させて動かすときにそのような抵抗に打ち勝つのに要する消費エネルギーは、省エネルギー消費で計算能力を提供するためにリンク及びピボットジョイントを使用する幾つかの利点を無効にし得る。
【0034】
NCFのそのような変化を著しく低減するために、図1C及び図1Dは、再び、ピボットジョイント126でピボット運動可能に接続された第1部品122及び第2部品124を有するヒンジ120を図示する。しかしヒンジ120では、部品122のベース部分128が伸張した円形パッド128として形成されており、その結果、部品(122、124)の遠位部分130は、ファンデルワールスの変化がデバイス操作に重要でない程の量に減少するように、ピボットジョイント126から十分に遠くに離間される。図1Dに示すように、部品が互いに対して最小角度にピボット運動される場合でさえ、遠位領域130間の最小間隔Sは、VDW引力が僅かとなる程度に十分に大きい。パッド128はピボットジョイント126の近傍で部品124に対称面を提供するので、距離変化はピボットジョイント126から離れて、NCF引力が大幅に減少するのに十分な大きさの分離がある位置へと効果的に移動させられる。
【0035】
図1E図1Jは、NCFの変化を生じさせることなく互いに関連して可動である部品の例を示している。図1Eにおいて、第1部品130は、第2部品132に対して動く。図示の第1部品130は長方形であり、したがって、X軸134又はY軸136のいずれかに沿って連続したプロファイルを有する。しかし、第2部品132は台形である。第1部品130がY軸136に沿って動く場合、第2部品132に重なる領域138(第2部品132に接触又は近接)は形状を変えず(この動き方向は、一定のプロファイルを有する第1部品130の軸に沿っているので)、部品(130、132)間の力は(第1部品130の端が第2部品132に近接するほど遠くまで第1部品130が動かない限りは)変化しない。しかし、第1部品130がX軸134に沿って動かされる場合、第2部品132の形状が一定ではない軸に沿った動きであるため、重複領域138が変化する。第1部品130がマイナスX方向に後退して左側に移動するにつれて重複領域は小さくなり、プラスX方向に前進して右側に移動するにつれて大きくなる。この場合、部品(130、132)間のNCFは重複領域138の変化に伴って変化するので、その変化する力に打ち勝つための仕事が必要となる。行われる仕事が負になることもあるが、これは、部品が位置エネルギーの変化を保存して戻すシステムに結合されていない限り、例えば往復運動システムにおけるエネルギーの浪費の問題を解決しない。このようなシステムは、カウンターバランス(反力やバネを含む)のように確かに実現可能であるが、機構の複雑さが増す。
【0036】
これに対して、図1F及び図1Gは、外形が長方形の第2部品140を採用する場合を示している。図1Fでは、部品(130、140)は直交配置され、X軸134又はY軸136のいずれかに沿った動きは、部品形状が一定である軸上で一方の部品(130、140)を他方の部品と関連させて単に動かすので、重なり領域142には変化が生じない。図1Gは同様のケースを示すが、部品(130、140)が互いに関して、また軸(134、136)に対して傾いている場合である。しかしながら、軸(134、136)に沿った動きが部品(130、140)とは整列していないにもかかわらず、部品(130、140)のプロファイル変化は大きさではなく位置のみが変化し、重複領域144は部品が移動すると再び一定となり、部品が軸(134、136)に沿って並進すると再びNCFは一定となる。
【0037】
図1Hは、第1部品146が第2部品140に沿って転がりながら移動する場合を示しており、転がり部品がその回転軸の周りに対称であると仮定すると、並進運動に加えて、動きを引き起こす回転運動(並進運動滑りの有無にかかわらずあり得る)も力の実質的変化なしに行うことができることを説明するものである。
【0038】
図1Iは、より実用的な用途を模式的に示しており、互いに平行に伸張する脚部(154、156)を有する第1部品150と第2部品152である。このような平行部品は、機構に対する入力又は出力として使用され得るであろう。第1部品脚154は第2部品脚156よりかなり長く、脚(154、156)の方向へと互いに関連させて部品を並進運動させても、横断する距離が十分に短くて第2部品脚156が第1部品脚154の端に接近しない場合には、NCFは実質的に変化しない。図1Jは、異なるアプローチを示しており、部品170及び172は、長さが等しい脚部(174、176)を有し、何れかの部品(170、172)が他方の部品と関連してする動きは、重なりが減少する位置へと脚部(174、176)を動かす。真空中(一例であり、同様の効果は多くの流体環境でも起こり得る)では、このような重なりの減少は、部品(170、172)を最大重なり位置まで引き寄せるNCF引力に抗してそれらの部品を動かすことが必要となるだろう。しかしながら、この場合、その部品(170、172)は流体180で満たされた密閉環境178に存在しており、流体180は部品(170、172)が互いに有するものよりも大きな引力を有し、脚(174、176)の間の流体圧力が重なりの変化を相殺する。流体170は、脚部(174、176)の重なりの変化に起因するNCFの変化を低減するが、流体内で部品(170、172)を動かすことによって生じる摩擦/抗力を犠牲にしてそうなっている可能性があることに、留意しなければならない。しかし、流体の使用は他の利点を提供し得るものであり、例えば真空中で機構を動作させるのに比べて機構からの熱伝達を容易にするなどの利点である。
【0039】
図2A及び図2Bは機構200を示し、機構の部品が互いに関連して動く際にNCFの実質的変化を回避するための伸張接触面の使用の一例を示す。機構200は、被駆動要素204と出力206との間に介在する位置(入力値(0,0)について図2A参照)から離すように力伝達要素202を変位させるためにNCFに打ち勝つ必要性を回避しながら、被駆動要素204から出力206に動きを伝達するように、NORロジック関数を提供可能である。力伝達要素202は、それが被駆動要素204の運動伝達のために介在しない多数の位置に変位可能である(入力値(0、1)について図2B参照;これらは、出力206を動かすことなく被駆動要素204の運動を収容することができるので、運動収容位置とみなし得る)。力伝達要素202の位置は、2つの入力208によって決定され、各入力は、力伝達要素202が取り付けられているヒンジ210の一方の側を動かすように作用する。力伝達要素202がその運動伝達位置へと動いたりそこから離脱したりする際にNCFが変化するのを避けるために、被駆動要素204及び出力206にはトラック要素212が設けられている。ガイド214内での被駆動要素204及び出力206の回転により、入力208の一方又は両方が変位したときに、入力(複数可)208の何れが動かされたかにかかわらず、可動体202の動作経路に沿ってトラック要素212が差し向けられる。トラック要素212は力伝達要素202の運動経路に沿ってのびるので、力伝達要素202とトラック要素212との間のNCFは一定に保たれる。これにより、被駆動要素204及び出力206から力伝達要素202を引き離すためにNCFの力に打ち勝たなければならない、という状況を回避できる。
【0040】
本開示の図面は、例示のために要素の物理的エッジを示しているが、NCFは、有効エッジを提供する基礎構造がある場合、実際のエッジではなく、表面の有効エッジに反応し得る。例として、図3A図3Cはリンク体300を例示しており、第1部品302及び第2部品304が相互作用し、第1部品302が連続表面306で形成されるが、図3Aの部分分解図に示すように、表面306のわずかに下に位置する不連続部308を有する。不連続部308はエッジ310によって境界付けられており、エッジ310は、上に重なった表面306が連続的であるにもかかわらず、第1部品302の周辺領域と比較して減少したNCFをもたらし、有効なエッジを提供する。第2部品304は係合要素として機能するピン312を有し、この構成では、図3Bに示すように、NCFを変えることなく不連続部308のエッジ310に平行に移動可能であるが、図3Cに示すようにエッジ310に対して動くと、幾らかのNCFに打ち勝つ必要があり、したがって、かかる抵抗の固さが、ピン312をエッジ310に対抗して又はこれを越えて押し出そうとする動力よりも大きい場合には、その動きが阻止され得る。図3B及び図3Cは、動きに対するエッジの効果を論じる場合に、動きの方向に関連するエッジの位置がエッジの効果を決定することを示す。
【0041】
図3Dは、有効なエッジを提供するための1つの代替アプローチを採用するリンク体350を示す。リンク体350は第1部品352を備え、第1部品352は第1材料354で構成され第2材料356の挿入領域が設けられる。これらの材料(354、356)は、著しく異なる原子分極率を有するように選択され、したがって、VDW引力の程度も異なる。例として、第1材料354はシリコンのブロック(原子分極率37.3±7)とし得るであろうし、第2材料356は炭素のブロック(ダイヤモンド又はロンズデーライト)(原子分極率11.3±2)とし得るであろう。第2材料356は、著しく低い原子分極率を有し、ピン312に対してはるかに弱いVDW引力を及ぼし、したがって、材料(354、356)間の境界によって形成された有効エッジ358を越えてピン312を押すことは、ピン312を引力が減少する位置へと動かす必要があるので、ピン312をエネルギー井戸の上側に動かすことが必要となる。
【0042】
幾つかの状況では、ある位置ではNCFを大きく変化させることなく第2部品の動きを収容できるが異なる位置ではそのような動きを阻止又は方向転換するように、第2部品に関連して位置決めされることが可能な第1部品を採用することが有益な場合がある。このような機構は、典型的には1つ以上の入力に応答して、機構の利用可能な自由運動に制約を設けると考えることができ、このような制約は、効果(NCFエネルギー井戸を乗り越える必要があり、したがって動きを潜在的に阻止するか或いは動きを1つ以上の追加の要素に伝えるなど)を引き起こすことなく要素の運動を収容可能かどうかを決定する。このような条件付き動作の1つの応用例として、機械式コンピューティング用途のロックがあり、第1部品は、第2部品の動きを阻止するか又は阻止しないように配置される。このようなロックは、Drexlerによって教示されたロッドロジック及び米国特許第10,481,866号、第10,664,233号、第10,949,166号、及び米国公開第2021/0149630号に示されたケーブルロジックに見られるが、しかしながらナノスケールのアプリケーションで実装する場合、そのようなロックは、阻止要素を引き離すべくVDW引力に打ち勝つために大きなエネルギーを要することがある。
【0043】
図4A及び図4BはNCFロックとして機能する機構400の一例を示しており、NCFロックは要素を接触状態に保持するものであり、動きの阻止を解除するために要素を引き離す必要がないので摩耗及びエネルギー散逸が低減される。図示の機構400は、第1部品402と第2部品404の間で作動する。第1部品402は、切り抜き408(これが有効エッジを有する有効面を提供する)を有する板406を備えており、第2部品404は、係合要素として機能する引力要素410を備えている(板と引力要素との位置を逆にし、板を第2部品にして引力要素を第1部品にすることができることを理解されたい)。より大規模なデバイスの場合、板406を強磁性材料で形成可能であり、引力要素410を磁石により提供可能である。ロックが分子スケールのものである場合、板406及び引力要素410は、磁気、静電気力、VDW、又は本明細書で議論するような他の適切なNCFを介して機能し得る。相対的な力によっては、引力要素410は、板406と接触し得るであろうし、或いは単に板406に対して間隔を置いて近接し得るであろう。図4Aに示すように第1部品402がアンロック位置にあるとき、板406が第2部品404に対して位置決めされて、板406において切り抜き408を有しない部位に並ぶように引力要素410が配置される。そのような位置では、(機械式クロック信号に応答するような形で)第2部品404を動かすと、単に引力要素410が板に沿って動きし、それらの間のNCFは一定のままなので、(板406と引力要素410とが接触している場合には)第2部品404の動きに対する唯一の抵抗は摩擦によって生じる。これは、第1部品402の「非活性位置」、又は機構400の「非活性動作状態」若しくは「動作収容形態」と考えることができる。対照的に、第1部品402がそのロック位置にあるとき(図4B参照)、第2部品404の動きが切り抜き408で形成されたエッジに隣接して引力要素410を動かすように、板406を位置決めする。切り抜き408には引力がないので、第2部品404のそのような動きは、引力要素がエッジに接触し且つエッジを越えるように動かすために引力要素410と板406との間のNCFに打ち勝つ仕事を必要とし、したがって、この位置にある第1部品402は第2部品404の動きに対して抵抗力を生じさせる。第2部品404に加えられる駆動力が、抵抗力よりもより低い固さである場合、第2部品404は、動かないように効果的に阻止される。これは、第1部品402の「活性位置」、又は機構400の「活性動作状態」若しくは「動作阻止形態」と考えることができる。板406は、第1部品402の位置(これはデータ入力と考えられ得る)に基づいて、第2部品404の許容運動を決定する制御素子と考えられ得る。部品(402、404)の機能は逆にもなり得ることに留意する必要がある。第1部品402が図4Aに示す下方位置にあるときに第2部品404を右方向に動かすと、第1部品402の上方への動きを阻止する位置に引力要素410が置かれることとなり、このような動きは、切り抜き408を引力要素404に抗して動かすことになるだろう。切り抜き408の有するエッジが、被駆動要素404の動きの経路に垂直であることも注目される(X軸412によって表される)。図4Bに示されるように、第1部品402が持ち上げられると、被駆動要素404を動かそうとして加えられる力は、切り抜き408のエッジに垂直に向けられ、第1部品402を動かすように作用するであろう力の垂直成分(Y軸414に沿って並進)を一切生じない。これとは対照的に、もし仮に切り抜き408のエッジが傾斜していた場合、そのような傾斜は、第1部品402において垂直方向の力を発生させるランプ又はカムとして作用する傾向があるだろう(傾斜エッジから生じるそのようなランプ又はカム作用の例は、図11A~12Fで後述する)。
【0044】
ロック機構400は平面板402を採用しているが、代替の構成も採用可能である。特に有用な形状の1つは、例えば、CNT、ダイヤモンドロッド又は類似の円筒形要素を採用することができるナノスケールの機構に対して、円筒形要素を採用することである。多くの場合、平面要素を有する機構は、軸を中心に転がして円筒を形成する1つ以上の類似の要素を採用するように変形可能であり、円筒要素を有する機構は、平面要素を提供するために1つ以上の円筒要素を平坦化することで変形可能である。また、球形、プリズム形などの他の形状も、特定の用途に合うように採用することができる。そのような変形の一例として、図4Cは、機構400と機能的に類似しているが、第1部品402'が切り抜き408'を有するシリンダ406'で形成されている機構400'を示している。その機能は機構400と本質的に同様であるが、ただし、第1部品402'が、切り抜き408'を第2部品404に関連して動かすために並進運動するのではなく、X軸412を中心に回転することが異なる。図4Dは機構400''を示し、第1部品402''が再び切り抜き408''を有するシリンダ406''を有する。しかし、この場合、シリンダ406''はX軸412ではなくY軸414に関して対称であり、第1部品402''の動きはY軸414を中心とする回転である(第2部品404が動かされるときに引力要素410とシリンダ406''の間の距離を変える影響を低減するために、シリンダを図示よりも大きな直径で作製し得ることに留意されたい)。この場合、第2部品404を動かすために加えられる力は、シリンダ406''の接線方向に加えられ、したがって、第1部品402''の回転運動と同じ方向に作用する。この場合、第2部品404の動きに対する効果的な阻止機能を第1部品402''が提供可能となるために、第1部品402''に何らかの力が加わっていなければならず、第2部品404を後方に動かすように作用するそのような力を防ぐために、第1部品402''及び/又は第2部品404の動きを制限する追加の構造が必要であり得る。このような「後退」力は、複数の機構を採用するシステムにおいて蓄積される可能性があり、したがって、このような力を回避するように、及び/又は複数の機構にわたるその伝播を阻止するように機構を設計することが頻繁に望まれる。阻止要素の利用可能な動きとそれらが阻止している動きとが垂直になるように阻止要素を配置することは、そのような力を回避するための1つの一般的なアプローチである。
【0045】
図4Eは、ロック機構400と同様に動作するロック機構430を示すが、第1部品432が、その上に取り付けられた板434の位置を変えるために、並進運動するのではなく回転し、再び第2部品404の後退力に晒され得る。板434は切り抜き436を有しており、切り抜き436は、引力要素410の運動経路に入らないか(仮想線参照)又は当該運動経路に入る(図参照)ように配置される。しかしながら、第2部品404が動く方向は第1部品432の回転に対して接線方向であるため、第2部品404の動きを阻止するために第1部品432に加えられる何らかの反力が必要となり、そのような力は第2部品404に印加される後退力をもたらすことがある。示された特定のタイプの機構においてそのような後退力を防止するための1つのアプローチは、第2部品404の動きがもはや接線方向を向かないように、構成部品を再配置することである。図4Fは機構430'を示し、ここでは、第2部品404の動きが第1部品430'の回転する軸438を通じて導かれるように、板434'を有する第1部品432'が第2部品404と関連して位置決めされるようになっている。引力要素410により第1部品432'に加わる力が、第1部品432'にトルクを発生させるような偏心した力を生じさせないように、切り抜き436'が構成されている。
【0046】
図4Gは、上記のロックの選択的阻止機能を利用したより複雑な構造の一例であるテープ機構450を示す。このような機構は、Drexlerによって教示されたロッドロジックと同様に機能し、ロジック、メモリ及び同様のアプリケーションに使用され得る。テープ機構450は、一連の垂直テープ452、454、及び456と、一連の水平テープ458、460、及び462を有する。垂直テープ(452、454、456)にはそれぞれ垂直テープギャップ464が設けられ、水平テープ(458、460、462)には水平テープギャップ466が設けられる。ナノスケールの機構の場合、当該テープはグラフェンで形成され得る。
【0047】
図4Gは、垂直テープ(452、454、456)の非変位位置を示し、そこから1つ以上のテープが下方に変位し得る(どの一連のテープが他のテープの動きを阻止する役割を果たすか、及びそれらが変位する方向は、具体的な用途に依存しており、ここでは説明の目的のために方向を任意に選択している)。非変位時には、垂直テープ(452、454、456)は、それらのギャップ464が水平テープ460、462の水平テープギャップ466と整列するように配置される。水平テープ460又は462のいずれかの動きは、テープのギャップ(464、466)が整列する前に、そのギャップ466を垂直テープ(452、454、456)の僅かな太さの向こうにのみ動かすように働き、そこで水平テープ(460、462)の更なる動きは垂直テープ(452、454、456)の残りの太さによって阻止されるであろう。図示の特定の構成では、垂直テープ454が変位しない場合に最上部の水平テープ458の動きが阻止されるが、これは、垂直テープ454の持つオフセット垂直テープギャップ464'が、テープ454が下方に変位した場合にのみ、対応するギャップ466'と並んで整列するからである。もし仮にテープ454がそのように変位した場合、その残りのギャップ464はもはやテープ460、462のギャップ466とは整列せず、それ故に、垂直テープ454における中身のある部位を越えてギャップ466を動かすにはかなりのVDWエネルギー障壁に打ち勝つ必要があるので、テープ454はこの場合にはこれらのテープの動きを阻止するであろうことに留意されたい。このように、垂直及び/又は水平テープのギャップは、特定の垂直テープの変位を異なった組み合わせで用いて動きの阻止を所望に選択できるように構成可能である。垂直テープ456には代替ギャップ464''が図示されていて、これは、垂直テープ456の変位位置又は非変位位置の何れにおいても水平テープ460の動きを阻止しないように大きく設けられている。
【0048】
図5A及び図5BはNORゲート機構500を例示する断面図であり、NORゲート機構500は、エッジを選択的に位置決めする効果を利用して、エッジによって囲まれた表面に引き寄せられる要素の相対運動を妨げたり妨げなかったりする論理機構の一例を提供する。ゲート500は、NCFを介して接続要素506と相互作用する入力502及び504を有する。図示されたゲート500では、引力は磁気である。しかしながら、分子スケールのゲートでは、ファンデルワールス、又は他の任意の適切な非結合力が採用され得るとともに、いくつかのスケールでは静電気力が採用され得るであろう(図5C及び図5DはVDW引力が採用されたナノスケールのゲートを示す)。入力(502、504)は、各々、磁石508(引力要素として機能する)を備え、接続要素506は、強磁性金属などの磁気的に引きつけられる材料から形成され、エッジ512によって囲まれた凸部510(活性面を提供)を有する。各入力(502、504)が退いている(典型的には0を表す)とき、その磁石508は、それらの間のNCFが実質的に生じないように凸部510から距離を置いて位置し(図5A参照)、凸部510が磁石508からさらに離れる方向に動くことができる(これはその入力に対する非活性位置とみなすことが可能)。被駆動要素514は、接続要素506内でスライドするとともに、1つ以上の磁石516を備えており、磁石516は突出部510の内面(又は接続要素506上の他の構造)に引き付けられるように配置される。接続要素506が動きの抵抗を受けない限りは、機械式クロック信号などにより被駆動要素514が変位したときに、磁石516の接続要素506への引力によって被駆動要素514と一緒に接続要素506も動かされる(図5Aの仮想線参照)。出力518は、接続要素506に取り付けられ、典型的には、変位していないときに0の出力値を符号化し、変位したときに1の値を符号化すると考えられる。
【0049】
入力(502、504)の何れか又は両方が伸長("活性")位置に進められると(典型的には1の入力値を表す)、その磁石508は、凸部510と並んでエッジ512に近接して配置される(入力504に関して図5B参照)。この位置は接続要素506の動きに対してインピーダンスを作り出すが、何故なら、そのような動きが、磁石508をエッジ512に関連して動かすために磁石508と凸部510との間の引力に打ち勝つことを必要とするからである(ただし、この場合には、磁石508が所定の位置に留まる一方で、エッジ512が動くであろう)。所望の論理機能を提供するために、磁石508及び516の相対的な強さは、突出部510と並んで配置されたときの磁石508の何れかの引力が、接続要素506に対する磁石516の集合的な引力より強くなるように選択される。当該強さがそのように選択されると、入力(502、504)の何れもが伸長していない場合(即ち、入力が両方とも非活性位置にある場合)には、接続要素506は被駆動要素514と共に動くだけである。入力(502、504)の一方又は両方が伸長している場合(即ち活性位置にある場合)には、そのような伸長により磁石508の一方が凸部510と並べて配置され、より大きな引力によって、接続要素506が被駆動要素514とともに動くことが抑制される(即ち、運動に対するインピーダンスが接続要素506を動かそうとする力よりも大きく、運動への抵抗力が運動を強制する力よりも固い)。これらは、出力518を動かすことなく被駆動要素514を動かせるかどうかを決定するので、入力(502、504)の運動収容位置とみなすことが可能である。接続要素506は制御要素であるとみなすことが可能であり、当該制御要素は、2つの入力(502、504)の位置に基づいて、被駆動要素514(別の入力とみなすことが可能)の動きを出力518に選択的に伝達する。出力518が接続要素506に固定されている場合、ゲート500は4つの可動部品を必要とするだけである。機構500は2入力NORロジック関数を提供するように構成されているが、同様の機構を、ロックとして機能するように単一入力を用いて形成したり、多入力NORゲートを提供するために追加入力(放射状に配置する等)を用いて形成したりすることが可能であろう。もし仮に、両方の入力(502、504)が変位した場合にのみ接続要素の動きが阻止されるように磁石(508、516)の相対的な強さを選択した場合、出力518の応答はNAND関数となるであろう。
【0050】
図5C及び図5Dは、ゲート機構500と同様に動作する分子スケールNORゲート機構550の一例を示し、被駆動要素554に応答する出力552の動きを選択的に抑制するために引力NCFを採用する。しかしながら、この例では、NCFは構成部品間のファンデルワールス引力によって与えられる。図示された特定の例では、出力552は、15-15及び20-20カーボンナノチューブの組み合わせから形成され、出力拡大部556(20-20CNT)を有する略管状(15-15CNT)に形成されており、その一方で、被駆動要素554は、5-5及び10-10カーボンナノチューブの組み合わせから形成され、2つの被駆動要素狭窄部558(5-5CNT)を持つ略筒状(10-10CNT)を有し、この2つの被駆動要素狭窄部558に挟まれることで被駆動要素拡大部560が規定される。両構成要素(552、554)におけるサイズ間の接合は、カーボンナノチューブの構造を変更するために当技術分野で知られている方法で、炭素原子の他の六角形の配列に五角形及び七角形を挿入することによって形成可能である。出力552に対する被駆動要素拡大部560のVDW引力は、出力拡大部556において有効エッジを作り出すが、これは、被駆動要素拡大部560が出力拡大部556の中に動くためには被駆動要素拡大部と出力552との間の引力に打ち勝つ必要があり、出力拡大部556が被駆動要素拡大部560からさらに離れていてあまり引力を発揮していないからである。もし仮に、出力552の動きへの抵抗が無い場合、出力552は、変位時に被駆動要素554と共に動き(そのような動きは典型的には1の出力値を示し、動きがないことは0の出力値を示す)、被駆動要素拡大部560と出力552の間のVDW引力に打ち勝つための必要な仕事を生じないようにする。
【0051】
2つの入力562が設けられ、これらは被駆動要素554と同様に5-5及び10-10カーボンナノチューブで形成されている。各入力562は入力拡大部564(10-10CNT)で形成され、入力562の何れかを動かす(典型的には1の入力値を示すような変位)と、その入力562の入力拡大部564を出力拡大部556と並べるように作用する(上側の入力562について図5D参照)。拡大部(556、560、564)の構成は、入力562の一方又は両方がその入力拡大部564を出力拡大部556に直接対向させて配置されるときに、それらの間の引力が被駆動要素拡大部560と出力552との間の引力よりも固い変位抵抗を生み出し、その大きな抵抗が、被駆動要素554の動作時に出力552を所定の位置(出力値0)に拘束するように作用するようなものとすることができる。そのように拘束されない場合、被駆動要素554と出力552との間の引力は、出力552の変位時(出力値1)に被駆動要素554とともに出力552を動かす。この例に係るエッジ抑制の効果は、いずれかの要素に明確なエッジがなくても有効であることに留意されたい。拡大部(556、560、564)の何れもが、有効エッジを有する活性面を提供するとともに、そのような活性面と相互作用する係合要素としても機能するが、このような特徴を定義するために選択された基準枠に依存している。この例では単一の拡大部が採用されているが、一致した間隔を有する要素上の複数の拡大部が採用され得るとともに、これにより被駆動要素が出力に関連する1つ以上の安定位置を持つようになる。この例では2つの入力が採用されているが、単一の入力を採用する同様のデバイスにより図4A図4Fに示す機構(400、400'、400''、430、430')と同様のロック機能が提供され得るであろうし、或いは複数の入力が採用され得るであろう(出力の周りに放射状配置する等)。
【0052】
図6A図6Fは、エッジに引き寄せられる要素に対してのエッジの整列又は不整列に基づいて、被駆動要素の運動収容又はその運動妨害をするようにエッジを配置可能な機構を示す。図示された例では2つの入力が提供され、各入力は、被駆動要素の運動を収容するか妨害するかの何れかである。図6A図6Cは、円筒形の入力602及び604を有するロジック機構600を例示しており、入力602及び604は並進運動ではなく回転によって位置決めされる。各入力(602、604)は、伸長した入力タブ606、608を有する。被駆動タブ612を持つ円筒形の被駆動要素610が入力(602、604)の間に配置され、各入力は被駆動要素610に対して回転可能である。入力(602、604)及び被駆動要素は、カーボンナノチューブから形成され得るであろう。入力(602、604)は、図6A及び図6Bのように、入力タブ(606、608)が被駆動要素610の被駆動タブ612と整列するような角度で配置可能である。この配置は、各入力(602、604)の非変位位置又は非活性位置として指定され得るであろうし、入力値(0、0)を表す。このように配置されると、被駆動要素610の並進変位は、入力タブ(606、608)に沿って何れのエッジにも遭遇することなく被駆動タブ612を単にスライドさせるものとなり、引力の変化に打ち勝つ必要が生じないので、図6Aの初期位置から図6Bの変位位置まで、被駆動要素610が自由に変位可能となる。入力は、活性面とみなすことが可能であり、被駆動タブ612は、このような活性面の各々と相互作用する係合要素とみなすことが可能である。被駆動要素610には、出力が取り付けられ得るであろう。
【0053】
図6Cは、入力604が回転して入力タブ608と被駆動タブ612の位置がずれたときの機構600を示し、入力値(0、1)に対応する。この位置では、被駆動要素610の並進運動のためには、入力604のエッジ614を越えて被駆動タブ612を押すために引力に打ち勝つことが必要となり、その引力は被駆動要素610の並進運動に対して抵抗となる。これは、入力タブ608の活性位置と考えることができる。被駆動要素610の駆動力がこの抵抗力よりも、より低い固さである場合、被駆動要素610は変位しないように阻止される。入力602が変位してその入力タブ606と被駆動タブ612との位置がずれた場合にも、同様の阻止効果が発生する。両方の入力(602、604)が非変位である場合にのみ、被駆動要素610は変位する。要素(602、604、610)の非変位位置と変位位置とに0と1のそれぞれの出力値が割り当てられると、力が加えられたときの被駆動要素610の応答は、入力(602、604)のNOR論理関数を与える。このような応答は、被駆動要素610に取り付けられるか又は被駆動要素610の変位時にこれにより動かされる出力によって、符号化することが可能であろう。これに代えて、被駆動要素610によって入力(602、604)が変位させられた場合に入力(602、604)によって出力が並進運動するように、機構600が他の要素に接続されることも可能である。この場合、入力タブ(606、608)各々は、被駆動タブ612と整列可能となるか(従って非活性動作状態となり、被駆動要素610が変位しても、その入力タブに対応付けられた出力には伝達されない)、又はこれと不整列となる(従って活性動作状態となり、被駆動要素610が変位すると、非整合タブに対応付けられた出力も変位する)かのいずれかである。事実上、入力タブ(606、608)の各々の外形は、図4Cに示すロック機構400''におけるシリンダ406''及び切り抜き408''と同様の機能を提供し、(第2部品404と類似の)被駆動要素610の動きを収容するか又は収容しないかの何れかの役割をする。
【0054】
図6D図6Fはロジック機構650を示す図であり、図6A図6Cに示されたものと同様に動作するが、より大規模な機構で選択的阻止機能を提供するために、磁石及び強磁性材料を採用して構成要素間にNCFを提供する。機構650は再び2つの入力652及び654を有し、各々の入力は伸長タブ(656、658)を有し、当該タブ(656、658)の角度位置は被駆動要素660に対する回転によって決定されるものであり、被駆動要素660は、入力(652、654)の間に同心に存在し、それに対して並進的に変位することができる。図6Dに示すように、この場合の被駆動要素660は一組の引力要素662を有しており、各引力要素662は、タブ(656、658)が非変位位置にあるときにタブ(656、658)のうちの1つと整列するように配置される。この例では、引力要素662は磁石によって提供され、入力(652、654)は強磁性材料で形成される。図6Dに示されるように、タブ(656、658)がそれぞれ引力要素662の1つと整列するように両方の入力(652、654)が配置される場合、被駆動要素660が変位すると引力要素662がタブ(656、658)に沿って単にスライドし、引力の変化に打ち勝つ必要がない。図6E及び図6Fはそれぞれ、入力の一方(図6Eの652及び図6Fの654)が回転してそのタブ(656、658)を対応する引力要素662からずらした場合を図示しており、そのようにすることで、被駆動要素660が並進運動するには入力の一方(652、654)の端を越えて引力要素662を押し出すべく引力に打ち勝つことが必要となり、したがって当該引力は被駆動要素660の並進運動に対する抵抗となる。
【0055】
図7A及び図7Bはトランスミッションゲート機構700を例示し、被駆動要素704から出力706に対して動きの伝達又非伝達の何れかを行うために板702が採用される。板702は切り抜き708を有しており(従って板702は、切り抜き708で規定される有効エッジにより囲まれた活性面を提供する)、被駆動要素704は、板702に引き付けられる被駆動引力要素710を有する。出力706はまた、出力引力要素712を有する(従って引力要素710及び712は係合要素として機能し、板702によって提供される活性面と相互作用する)。再び、板702が強磁性材料で形成される場合、引力要素(710、712)は磁石によって提供され得るか、又はファンデルワールス引力が有効なナノスケール構造における他の材料であり得る(図7H及び図7I図8A、及び図8Bの例を参照)。板702は入力714に並進運動可能に取り付けられ、入力714は当該並進運動方向に対して垂直に動き、入力714の位置によって、切り抜き708が変位時に被駆動要素704(或いはより正確には、被駆動引力要素710)の経路に配置されるか否かが決定される。被駆動要素704の経路を遮らないように切り抜き708が配置される場合(入力値1の図7A参照)、被駆動要素710が何らの影響も受けずに単にのびることができるが、その理由は、被駆動引力要素710が板702を横切って動く際に、被駆動引力要素710と板702との間のNCFが変化しないからである(したがって、板702が非活性位置にあるとみなすことが可能であり、機構700が非活性動作状態又は動作収容状態とみなすことが可能)。切り抜き708が被駆動要素704の経路を遮るように位置決めされた場合(入力値0の図7B参照、これは板702の活性位置、及び機構700の活性動作状態又は運動伝達状態とみなすことが可能)には、NCFにより、被駆動要素704がそれ自身と一緒に板702を動かすこととなる。切り抜き708はまた、出力引力要素712と板702との間の引力が出力706を動かすのに役立つようにも配置されていて、これは、その位置のまま動かないためには出力引力要素712が切り抜き708を越えるためにNCFに打ち勝たなければならないからである。このように、入力714の位置は、被駆動要素704の変位を出力706に伝達するかしないかを制御する。板702は制御要素とみなすことが可能であり、(第1)入力714の位置に基づいて、被駆動要素704(これは第2入力とみなすことが可能)の動きを出力706に選択的に伝達する。注目すべき点は、板702の作用が被駆動要素704の動きを収容自在又は非収容というものであり、当該作用がロック400の板406の作用と本質的に類似していることであるが(且つ機構600の入力タブ(606、608)に類似し、これはゲート700と同様の機能を提供するように再設計可能である)、しかし、ここでの板702は入力714に対して可動なので、板702がその活性位置にあるときに被駆動要素の動きは阻止されるのではなく、出力706に伝達される。
【0056】
図7Cは、直列接続された3つのトランスミッションゲート700A~700Cを採用する3入力NORゲート720を示し、各々入力714A~714Cを有する。図7Cに示すように、すべての入力714A~714Cが非変位(入力値0)であり、したがって、被駆動要素704Aから出力706Cに動きを伝達するための経路が存在する。もし仮に入力714A~714Cの何れかが伸長すると(入力値1)、これによりそのゲート(700A~700C)が運動収容状態となり(図7Aと同様)、その結果、被駆動要素704Aから出力706Cへの伝達の連鎖が分断される。
【0057】
図7D及び図7EはNANDゲート機構730を示し、これはゲート機構700と共通する多くの特徴を有するが、しかし異なる板732を採用し、天秤736に接続された2つの入力734の複合作用によって板732が位置決めされる。板732は、入力734の何れも変位しないか又はその1つ若しくは両方が変位するかに応じて、3つの高さに位置決め可能である。板732は切り抜き738を備えており、この切り抜き738は、板732が低位置(入力値が(0,0))と図示のような中間位置(入力値が図示のように(0,1)、又は(1,0))との何れかに位置するときに被駆動要素740と出力742の間に介在するように配置される。説明のために、被駆動要素740と出力742の位置は、図7Dの3つの位置で板732に関連して示されるが、垂直方向に動くのは板732であり、被駆動要素740と出力742は一定の高さにとどまる。両方の入力値が1である場合にのみ、板732がその上部位置まで持ち上げられ、そこで切り抜き738はもはや被駆動要素740の経路に位置しない。代わりに、この上部位置では、被駆動要素740の動きは、板732上の空き経路744によって収容可能であり、板732は、被駆動要素740の動きを出力742に伝達しない。その結果、被駆動要素740の動きに応答する出力値は、入力値(0,0)、(0,1)、(1,0)については1であり、入力値(1,1)については0である。板732が、2つの活性位置又は運動伝達位置と、1つの非活性位置又は運動収容位置とを有するものとみなすことが可能である。活性位置(図7Eの中間位置など)にあるとき、板732は「第1部品」とみなされ得るものであり、当該第1部品は、板732が動くときに、出力742(「第2部品」として動作)の動きを強制して、出力742が切り抜き738内に移動しないようにする(したがってNCF引力が変化しないようにする)。
【0058】
図7FはXORゲート機構730'を示しており、機構730に類似しているが異なる板732'を採用する。それ以外は、上記の説明が機構730'に同様に適用される。板732'は、より小さな切り抜き738'を有しており、これにより、板732'がその上部位置であって入力位置(1、1)に対応する位置にあるときに、空き経路744のみならず、被駆動要素740の動きを収容可能な第2の空き経路746も得られる。その結果、被駆動要素740の動きに応答する出力値は、板732'がその中間位置(図示参照)にある入力値(0,1)及び(1,0)については1であり、板732'がその下部位置にある入力値(0,0)又は板732'がその上部位置にある(1,1)の何れかについては0である。この場合、板732'は1つの活性位置と2つの非活性位置とを有する。
【0059】
図7Gは板702'の構成が異なる代替トランスミッションゲート700'の一例を示し、板702'は切り抜き708'を備えており、且つ板702'の形状により、板702'が入力714'にピボット運動可能に設置された場合に、並進的に設置された場合と比べて、より信頼できる動作が提供される。
【0060】
図7H及び図7Iは、別の例としての、ナノスケールの製造によく適しているトランスミッションゲート750を示し、成形板752を有しており、これはダイヤモンドイド材料で形成可能であり且つ摩擦低減のためのグラフェン面754を具備可能であり、更に円筒形ソケット756を(この例ではグラフェン面754とは反対側に)有しており、これは(ソケット756と同様に)CNTから形成可能な入力760上の入力ピン758と係合する。被駆動ピン764を持つ被駆動要素762及び出力ピン768を持つ出力766は、板752に係合し、ファンデルワールス力を介して板752に係合するCNTから形成可能である(ピン764及び768は係合要素として機能し、板752及びグラフェンシート754で与えられる活性面と相互作用する)。留意する点は、ピン(764、768)は、被駆動要素762及び出力766の残りの部分を板752から分離するように十分な距離をのびており、板752と被駆動要素762及び出力766の当該部分との間にあるVDW力が無視できるほどに小さいことである。多くの用途では、グラフェン表面754は、成形板752の上に塗布されファンデルワールス引力によって成形板752上に保持されるグラフェンの単一原子厚層によって提供可能である。ゲート750を高速及び/又は高温で動作させる場合には、グラフェン表面754を板752に接着することが望ましい場合がある。しかし、グラフェンシートを接着しないままにしておくと、グラフェンシートがわずかにずれるので、ピン(764、768)がエネルギー井戸を越えて導かれるのではなく、エネルギー井戸の周りを滑ることができる。被駆動要素762及び出力766は、ガイドスリーブ770によって誘導可能である。ピン(764、768)をスリーブ770に対して動かすために必要なエネルギーを低減するために、構成要素(762、766、770)は、何れかの非対称部分(ピン(764、768)など)がスリーブ770の約2~3nm以内には接近しないように構成可能である。似たような間隔を設けることは、ガイドスリーブを採用する同様の機構においても必要エネルギーを低減するはずである。しかし、そのような追加の間隔は、結果として生じる機構のサイズを増加させる。
【0061】
本明細書で議論される例示的な機構の多くでは、1つの要素は、1つ以上の有効エッジを有する活性面に接触又は近接する伸長ピン(係合要素として作用)の端部などの相互作用点で別の要素と相互作用する(本明細書の他の場所で議論するように、かかる有効エッジは、露出面から凹んだ構造によって提供可能である)。伸長ピンの使用により、部品の残部を活性面から十分に離間して、表面とのNCF相互作用をピンとの相互作用のみに効果的に制限することができる。NCFが主にファンデルワールス引力である分子規模の機構では、ピン(典型的にはカーボンナノチューブから形成)の端部形状を、所望の用途に合わせて調整可能である。多くの分子スケール機構では、丸い端の5-5又は10-0CNTをピンとして採用可能であり、ロンズデーライト又はグラフェンの表面と相互作用させることができる。このような丸みを帯びた端部は、ピンが表面と接触している場合に摩擦を減らすのに役立ち、このような接触は一般にピンを安定させるのに役立つ。丸みを帯びた5-5及び10-10CNTは、炭素原子の五角形リングで終端しており、この五角形配列は、それらの原子がロンズダライト又はグラフェンの下地表面における炭素原子の六角形配列と整列するのを防ぐ働きをする。
【0062】
幾つかの場合、ピンに拡大面又は「足部」を提供することが望まれるが、これはピンと表面との間の引力を増加させ、結果的に機構の要素を動かすために利用可能な力の量を増加させるためである。図7Jは、板752'がピン(764'、768')と係合するゲート750'の一部を図示していて、各々のピン(764'、768')が拡大した足部772を有しており、これがピン(764'、768')と成形板752'との間のNCFを増加させる。ピン(764'、768')が変性CNTによって形成される場合、各足部772は、CNTに取り付けられたグラフェン延長部によって形成可能である。板752'は板本体774を具備可能であり、板本体774は、ロンズデーライトのような六角形原子配列を有するダイヤモンドイド材料で形成され、摩擦低減のためのグラフェン表面被覆754'を有する。足部772が板752'と接触しているときに、足部772の六角形格子は、その炭素原子の六角形配列が下地の面754'の六角形配列に対して約90度回転されるように構成可能であり、炭素原子が整列して結合を引き起こす状況を回避できる。
【0063】
図7K及び図7Lは、一組のトランスミッションゲート782及び784を採用するスイッチゲート780の一例を示し、各々のゲートはトランスミッションゲート700'及び750と同様の態様で動く。ゲート(782、784)は、互いに反対向きに配置され、何れも入力786によって動かされる。各ゲート(782、784)は、成形板788と出力790とを有する。両方のゲート(782、784)は、被駆動要素792によって係合される。入力786の位置に応じて、ゲート(782、784)のうち一方は、被駆動要素792がNCFの変化なしに板を横切って動くことを許容するように板788が位置決めされることとなり、それらのうち他方は、被駆動要素792の動きがそれをエッジに突き当てて板788を動かし、かかる動きが今度は対応付けられた出力790を通して伝達されるように位置決めされる。図7Kはスイッチゲート780を示す図であり、この図では、トランスミッションゲート782の板788がNCFの変化を避けるために被駆動要素792の動きをその出力790に伝えるような位置に、入力786が置かれており、その一方で、トランスミッションゲート784の板788は、NCFの変化なしに被駆動要素792の動きを収容するように位置決めされている。図7Lは、入力786の代替位置を示し、ここでトランスミッションゲート782は現在、被駆動要素792の動きを収容するように位置付けられ、トランスミッションゲート784は、その出力790に動きを伝達するように配置されている。入力786の位置によりどの経路に沿って運動が導かれるかが決まるので、スイッチゲート780の基本方式は、多数の入力値に基づいて出力値を提供するロックアンドバランス方式を採用するロジック機構の形成に採用可能である。高次コンピュータ構造を形成するために、どのように(代替要素を用いる論理機構のための)そのようなロックアンドバランス論理機構を組み合わせ可能であるかの例は、米国特許第10,481,866号、米国特許第10,664,233号、米国特許第10,949,166号及び米国特許公開2021/0149630号で教示されている。
【0064】
本明細書で教示されるメカニズムの多くは、米国特許第8,171,568号、米国特許第8,276,211号、米国特許第9,676,677号、米国特許第10,067,160号、同第10,072,031号、同第10,138,172号、米国特許第10,197,597号、米国特許第10,308,514号、米国特許第10、309,985号、米国特許第10,822,229号、米国特許第10,822,230号で教示されるようなメカノシンセシス技術による分子製作を含めて、ナノスケール製作に良く適しており、これらの文献は組み込みが適切な法域において参照により本明細書に組み込まれる。図8A及び図8Bは、そのような製作に適した機構の2つの例を示す。一例として、図8Aは、図7H及び図7Iに示されたゲート750と同様に機能するトランスミッションゲート800を示し、摩擦低減のためのグラフェン面804を具備可能な成形板802を備え、更に、CNTで形成可能な入力810の入力ピン808に係合する円筒状ソケット806を有する。被駆動ピン814を持つ被駆動要素812及び出力ピン818を持つ出力816は、共に板802に係合し、ピン(814、818)がファンデルワールス引力を介して板802に係合するようにCNTでの形成も可能である。分子モデリングは、図示のようなゲートが30nmの立方体内に収まるように製作され得ることを指摘する。
【0065】
入力810、被駆動要素812及び出力816は、何れもガイドスリーブ820にスライド可能に取り付けられる。これらのスライド要素(810、812、及び816)が10-0CNTから形成される場合、スリーブ820は18-0CNTから形成可能である。スリーブ820は順に支持体822に取り付けられ、支持体822はアンカー824(これらは単一の剛性構造の部品であり得る)に貼付される。アンカー824は、例えばロンズデーライト等のダイヤモンドイド材料の表面であり得る。被駆動要素812の支持体についてラベル付けしたように、支持体822は、9-0CNTで形成されたベース部826を採用してアンカー824に結合可能であり、ロンズデーライトの六角形配列に密接に一致する炭素原子の配列を提供する。支持体822はそれぞれ、18-0CNTの短部分によって形成された遷移部828と、10-0CNTの部分によって形成されたスリーブ取付部830とを有する。10-0CNTは、スリーブ820として機能する18-0CNTと安定したT分岐を形成し、10-0及び9-0CNTの両方が遷移部828の18-0CNTに移行可能である。さらに、遷移部828の18-0サイズは、スリーブ820の18-0CNTのサイズと一致するので、各組のスリーブ820を互いに接触させて配置すると、遷移部828が互いに接触することにもなり、支持体822の間隔を安定させる役割を果たす。
【0066】
図8Bは、分子規模の製造にも適した代替トランスミッションゲート840を示す。ゲート840は、再び、グラフェン面844及び円筒状ソケット846を持つ成形板842と、ソケット846に係合する入力ピン850を持つ入力848とを備える。ゲート840はまた、被駆動ピン854を持つ被駆動要素852と、出力ピン858を持つ出力856とを備え、被駆動ピン854及び出力ピン858は、板842のグラフェン面844に係合する。ゲート800よりも単純でコンパクトな機構を提供するために、ゲート840は、各スライド要素(848、852、856)を単一のガイドスリーブ860に取り付けており、これらは支持体864によってアンカー862に取り付けられ、アンカー862上に形成されたトラック868に係合するガイドピン866によって安定化される。トラック868は、ガイドピン866とスライド可能に係合するためのグラフェン面870を有してもよい。対応するガイドスリーブ860内で要素(848、852、856)がスライドすることで生じる動きの制限と組み合わせて、トラック868は、後述する図14A図14Cで示すガイド(1404、1432)と同様の方法でガイドピン866を導くのに役立つほどの狭さに形成可能である。
【0067】
図8Cはトランスミッションゲート880を示しており、上述したゲート(750、800、840)と同様に動作するが、しかし、板886が入力888によって活性位置に置かれたときに、被駆動要素884の動きに関連する出力882の変位に機械的利得を提供する。被駆動要素884が板886に係合する位置は調整可能であり、エッジ890が被駆動要素884の経路内に位置するように板886が配置されたときに、板886が入力888にピボット運動可能に係合する位置からの距離の違いによって被駆動要素884と出力882とで変位に差が生じる。出力882が被駆動要素884の2倍ほど入力888から離れている場合、被駆動要素884の約2倍の変位が生じる。入力888はまた、連続経路892が被駆動要素884の動く経路と整列する位置へ板886を配置可能であり、板886が、上述のゲート(750、800、840)で説明したのと同様の方法で、いずれのエッジも越えることなく、被駆動要素884の動きを収容可能となる。そのような位置では、非接触力エネルギー障壁を乗り越えることなく、したがって、動きを出力882に伝達することなく、被駆動要素884の動きを収容可能である。
【0068】
図9A及び図9Bは機構900を示し、上述の機構(700、750、800、840)と同様の、被駆動要素902から出力904への動きを収容又は伝達する原理を使用するものである。機構900は、コネクタ908の位置を制御する入力906を有し、このコネクタは、被駆動板910及び出力板912と非接触力(NCF)を介して係合し、これらの何れか又は両方は、入力906の位置に対して望ましいロジック応答を提供するように成形可能である。被駆動要素902の動きが出力904に伝達されるか否かは、コネクタ908の位置及び板(910、912)の構成により決定される。機構900において、被駆動板910は、エッジ914と経路領域916を有するL字形である。コネクタ908が図9Aに示すように(被駆動要素902及び出力904の動き経路に垂直な方向に関して)その非変位位置にあるとき(典型的には入力値0を符号化)、被駆動板910の変位は、コネクタ908の方向にエッジ914を動かすように働く。コネクタスリーブ918を介して入力906とスライド可能に係合するコネクタ908は、被駆動板910と共に動き、これによりエッジ914を越えて動くためにNCF障壁に打ち勝つことを必要としない。同様に、コネクタ908と出力板912との間のNCF力は、出力板をコネクタ908と共に動かすように作用し(仮想線参照)、被駆動要素902の動きは、出力904に伝達される。コネクタ908には、板(910、912)に係合するための拡大端部920が形成されている。
【0069】
入力906の変位によりコネクタ908が変位すると、図9Bに示すように、(典型的には出力値1を符号化する)。被駆動板910の経路領域916と整列させられ、経路領域916がコネクタ908を通り過ぎて動くだけでNCFが変化せず、被駆動板910の動きを収容可能である。コネクタ908が動かないので、出力板904に動きが伝達されることがない。
【0070】
入力がコネクタを複数の位置に位置決めするように構成されている場合、被駆動板及び/又は出力板は、そのような各位置に適切な応答を提供するように構成可能である。図9Cは、NANDロジック関数を提供する1つの考えられうる機構930を図示しており、NANDロジック関数は2つの入力932で実行され、2つの入力932は天秤934に接続しており、天秤934は、入力932の組み合わされた位置に基づいてコネクタリンク936及びコネクタ938を順に位置決めする。被駆動板940はエッジ942と経路領域944を有し、機構930は、両方の入力932の変位時にのみコネクタ938が経路領域944に整列するように構成される。入力値(1、0)について図9Cに示されるような、入力932が何れも変位しないか又はその一方のみが変位する場合には、エッジ942は、被駆動板940が変位するときにコネクタ938の動きを強制するように位置し、出力板946も変位させる。両方の入力932が変位すると、コネクタ938は経路領域944と整列して位置決めされ、コネクタ938に関連する被駆動板940の動きを収容する。この場合、コネクタ938は動きを強いられることがないので、出力板946も動かない。入力値に対する機構の応答は、被駆動板及び/又は出力板の構成によって決定され、代替的な応答を提供するように構成可能である。一例として、2つの経路領域をエッジ両側に設けた板は、XOR論理関数(図7FのXORゲート730'に類似)を提供可能であろうし、又は短いエッジと広い経路領域(1つ又は両方の入力が変位した場合にコネクタが当該経路領域と整列するようなもの)を有する板は、NOR論理関数を提供可能であろう。
【0071】
図9Dは、機構900と機能的に類似する機構950を示すが、しかし、出力板952が被駆動板910の上に部分的に重ね合わされており、コネクタ956の拡大端部954が板(910、952)の間に配置される。板(910、952)を重ね合わせることで、機構900と比較して機構950の全体的な体積を縮小可能である。
【0072】
NCFを管理することにより(望ましくない動きに対して選択的に妨害を生じさせて)要素の動きを制限のためにエッジを使用する効果は、他の運動制限構造と組み合わせ可能であり、機構を設計する上でより大きな柔軟性を提供する。一例として図10A図10Dは機構1000を示し、ヒンジを形成するピボット運動可能に接続したリンクの動きを選択的に制限するために、NCFとエッジを採用する。そのような拘束は入力1002の位置に基づくものであり、被駆動要素1006が動かされたときに出力1004の位置を決定する役割を果たす(この例では、トランスミッションゲートの機能を提供する)。被駆動要素1006は、出力1004と整列し、ヒンジ1008によって出力1004に接続される。ヒンジ1008は、伸長ピン1010及び1012(ここでは出力1004と一体的に形成)を有し、これらはNCFを介して成形板1014と相互作用する(ただし、ピン1010及び1012は板1014と接触してもよい)。ピン1010及び1012は、板1014によって提供される活性面と相互作用する係合要素としての役割を果たす。板1014は、入力1002によって位置決めされ、図示のように第1位置(図10A及び図10B参照)と第2位置(図10C及び図10D参照)の間を移動する。成形板1014は制御要素又は制限構造とみなすことが可能であり、当該要素又は構造は、(ピン1010及び1012を介して)ヒンジ1008の許容運動を決定して、出力1004の動きを強いることなしに被駆動要素1006の変位を収容可能かどうかを決定する。
【0073】
板1014がその第1位置にあるとき(図10A及び図10B)、ヒンジ1008の屈曲は、ピン1010が板第1エッジ1016に近接していることによって阻止される。被駆動要素1006が変位すると、ピン1010が板第1エッジ1016に近接していることで、ピン1010の動きを制限し、ヒンジをさらに曲げるためにピン1010が動くこと(図示方向では上向きの動き)を妨げる。被駆動要素1006の変位は、ヒンジ1008全体を並進させることによって収容され、これにより出力1004をも動かす(図10B参照)。板第1エッジ1016は、利用可能な動きを、出力1004の可動方向に制限すると考えることができる。板1014は板第2エッジ1018を有するように構成され、板第2エッジ1018は、ヒンジ1008の残りの部分の動きを収容するようにピン1012に関連して位置決めされる。板1014の当該位置は、機構1000を活性動作状態又は運動伝達状態に置くとみなすことが可能であり、そこでは被駆動要素1006の動きに応答して出力1004が動く。
【0074】
板1014が第2位置にあるとき(図10C及び図10D)、板第1エッジ1016はピン1010から離れた位置にあり(図10C参照)、その一方で、板第3エッジ1020は、ヒンジ1008が単に並進するのを防ぐためにピン1012の動きを制限するように位置決めされ、したがって出力1004の動きが阻止される。この場合、被駆動要素1006の変位は、ヒンジ1008の屈曲によって収容され、ピン1010を板第1エッジ1016に近づくように動かす(図10D参照)。板第3エッジ1020は、利用可能な動きを、出力1004の利用可能な運動方向とは非整列な方向へと制限すると考えることができる。板1014の当該位置は、機構1000を非活性動作状態又は運用収容状態に置くとみなすことが可能であり、そこでは被駆動要素1006がNCFの変化なしに出力1004に関連して動くことができる。板1014が両方の位置でピン(1010及び1012)と相互作用することは注目すべきことである。ヒンジ1008及び板1014は制御要素とみなすことも可能であり、そこではヒンジ1008は、入力1002の位置で設定される機構1000の構成に応じて、(第2入力とみなし得る)被駆動要素1006の動きを出力1004へ選択的に伝達する。
【0075】
板1014は板傾斜エッジ1022を任意的に具備可能であり、板傾斜エッジ1022は板第3エッジ1020に隣接し(図示の板1014では板第2エッジ1018までのびる)。板傾斜エッジ1022は、入力1002が板1014を第2位置に動かすときに、(図10Bのように既に非変位位置にいない場合に)出力1004を非変位位置に動かすようにピン1012に作用することとなり、ピン1012のそのような動きは、板傾斜エッジ1022を越えてピン1012を動かすのに生じうるピン1012と板1014との間のNCFの引力に打ち勝なたくともよくするために役立つ。この動きは、本明細書で議論される他の機構(図11A図12F参照)と同様であり、そこでは、NCFが、エッジを有する第1要素の動きが別の要素の動きを強制することを可能とする。機構1000は、板1014用にダイヤモンドイド材料(摩擦低減のためにグラフェンで覆われる可能性がある)から作製可能であろうし、残りの要素は変性CNTから形成可能であろう。
【0076】
板傾斜エッジ1022に関して指摘したように、1つの部品は、別の部品の動き方向に対して傾いた有効エッジを伴って構成可能であり、それ故に、動きを本質的に方向転換又は強制するカムとして機能する。典型的には、引力NCFを採用する場合、第1部品の動きは引力部分又は要素をエッジに向かって動かすので、第1部品の動きが第2部品を強制的に動かし、その結果、引力部分又は要素がエッジに接触するか又はエッジを越えて動くのを防ぐように第2部品が動くことが必要となる。
【0077】
図11A図11Bは可動リンク機構1100を示し、被駆動部品1104を動きに応答する応答部品1102を動かすためにNCFに頼るものである。リンク体1100において、被駆動部品1104は、それに貼り付けられた成形板1106(活性面を提供)を有し、応答部品1102は、そこに組み込まれた引力要素1108(係合要素として機能)を有する。ナノスケールの構造では、引力要素は応答部品1102上の単に拡大領域又は伸長ピンであり得るとともに、ファンデルワールス引力がNCFを提供するのに十分である。より大規模な構造の場合、図示されるように、引力要素1108は磁石とすることが可能であり、成形板1106は、引力を与えるための強磁性材料で形成可能である。この機構における応答部品1102と被駆動部品1104は、並進運動に限定されている(図11A及び図11Bにおいて、応答部品1102は水平方向の動きに制限され、被駆動部品1104は垂直方向の動きに制限され、当該制限はガイドによって又は動き制限用の同様の手段によって行われるとともに、この場合、板1106は斜め方向にのびるように形成される)。被駆動部品1104が(垂直方向に)並進運動するとき、部品(1102、1104)間の引力の変化を避けるために、応答部品1102が対応する(水平方向の)動きをする必要がある。もし仮に応答部品1102が動かなかった場合、被駆動部品1104の動きは、板1106を引力要素1108から離す(必然的に引力要素1108を板1106のエッジを越えて動かす)ことになり、これは引力要素1108と板1106を共に引くような引力に打ち勝つことを要する。引力に打ち勝つための必要エネルギーを生じさせないために、板1106の動きにより、引力要素1108が板1106に沿って引き寄せられ、応答部品1102が動かされる。板1106と引力要素1108との間の引力は、板1106の形状が引力要素1108の動きをガイドすることを可能にし、図11Cに示される従来の可動リンク体1100'のように、斜めスロット1106'にガイドされるピン1108'の効果と似た効果をもたらす。部品の機能は、引力要素が被駆動部品に設けられ、板が応答部品に設けられるように、逆にすることが可能なことを理解されたい。
【0078】
図11D図11Gは、図11A及び図11Bに示すリンク機構1100に採用される基本的な運動強制原理を拡張した一つの例を示している。データリーダ機構1150はデータリボン1152と一連のビットリーダ1154とを採用しており、一連のビットリーダ1154各々は引力要素1156を有し、引力要素1156はデータリボン1152に引き付けられる(且つ係合要素として機能する)。今度はデータリボン1152に一連の対応する切り抜き1158が形成されていて、当該切り抜き1158は、ビットを符号化するように機能し、ビットリーダ1154の1つが動いた後におけるデータリボン1152の位置が符号化ビットを示すように構成される(一連の活性面として機能し、引力要素1156で提供される係合要素と相互作用する)。データリボン1152上で符号化された各ビットは、対応するビットリーダ1154を動かすことで読み取り可能である。そのビットの切り抜き1158の形状は、基準線1160に対して非変位位置(図11Gのように、図示例ではそのビットの0値を示す)、或いは下降位置(図11E又は図11Fのように、そのビットの1値を示す)の何れかの位置に、データリボン1152を置くように設計されている。図示されたデータリボン1152は、値(1、1、0、0)を符号化する切り抜き1158を有する。ビットで符号化された正規位置にデータリボン1152が既に置かれている場合、対応するビットリーダ1154が変位しても、その位置に留まることができる。データリボン1152が正規位置にない場合、ビットリーダ1154とこれに対応する切り抜き1158との相互作用により、符号化ビットの正しい位置にデータリボン1152が動かされることとなるが(値0の場合は基準線1160に位置し、或いは値1の場合は基準線1160を越えてのびる)、これが図11A及び図11Bに示す板及び引力要素の場合と同様の手法で、しかし被駆動部品と応答部品とが逆にされて(及び被駆動要素が左側にずらされて)実現されている。
【0079】
ビットリーダ1154を順次動かすことによって、図11E図11Gのように切り抜き1158によって符号化されたビットの読み取りが可能であり、第1~第3のビットリーダ1154が対応するビットを読み取るために個別に順次動かされた際に結果的に生じるデータリボン1152の位置及び出力値がそれぞれ図示される。図11Eは、第1のビットリーダ1154-1の動きに応答するデータリボン1152の変位を示す。ビットリーダ1154-1が左に動かされると、切り抜き1158-1によって形成されたエッジを越えて引力要素1156-1が動かないようにするために、データリボン1152が強制的に下方へ動かされる。留意すべき点として、切り抜き1158はデータリボン1152が非妨害垂直領域を持つように構成され、非妨害垂直領域は残りの引力要素(1156-2、1156-3及び1156-4)に対して垂直方向に移動可能であり、データリボン1152が垂直下方に動く際に非移動の引力要素(1156-2、1156-3及び1156-4)のいずれもがエッジに遭遇することがない。切り抜き1158-1は、ビットリーダ1154-1が初期位置に戻されたときにデータリボン1152を初期位置に戻すように構成され得るか、或いは引張ばねなどの独立した手段によってデータリボン1152が戻され得る。代替的には、データリボン1152は、ビットリーダ1154-1が戻されると単にその場に留まり得るとともに、その場に放置されるか、或いは次のビットリーダ1154-2の移動時に上方移動して基準線1160の上部位置に戻るか(図11F参照)の何れかとされる。図11Gに示す切り抜き1158-3の場合のように、特定のビットに対する切り抜き1158が0値出力を提供するように設計されている場合、対応するビットリーダ1154-3の動き方は、第3ビットを読む前に下部位置にあった場合はデータリボン1152を上部位置に動かすか、既にその上部位置にあった場合はその場所に残留するかの、何れかである。切り抜き1158-2、1158-3を図示したように切り抜きが隣接している場合、対応するビットリーダ(1154-2、1154-3)の動きに応答してデータリボン1152を適切に配置するように切り抜き(1158-2、1158-3)のエッジが構成されている限り、それら切り抜き1158-2、1158-3は単一の切り抜きに統合され得る。切り抜き1158-4は、切り抜き1158-3と同様に設計されており、第4のビットリーダ1154-4が動かされたときに、データリボン1152を同じ上方位置に配置する役割を果たす。図示の目的で4ビットのデータリボンが示されているが、任意の数のビットをこのような方法で符号化し得るであろう。同様に、図示した例は、上方位置で0値を表し下方位置で1値を表すものを採用しているが、代替的な方向及び割当て値を採用可能である。幾つかの場合、或る方向に動く部品は異なる方向に動く部品と相互作用する可能性があり、したがって、特定の方向に割り当てられた値は特定の部品に依存する。例えば、下方位置にあることで出力値1を表す部品は、左方位置にあることで出力値1を表す別の部品と、相互作用してもよい。さらに、データリボンは、中立位置から何れかの方向に動いて-1、0、又は+1の出力値を符号化するように設計可能であろう。
【0080】
図11Hはデータリーダ機構1170の例を示しており、この機構はデータリボン1152に加えて第2のデータリボン1172をも採用し、一度に複数のビットを読み取ることができるようにしている。2個のデータリボン(1152、1172)が示されているが、任意の個数を採用可能である。データリーダ1170は再び一連のビットリーダ1174を有するが、この場合、各ビットリーダ1174は、各データリボン(1152、1172)に対して1つずつ設けられた一組の引力要素1176、1178を有する。引力要素1176は、データリボン1152に設けられた切り抜き1158と相互作用してデータリボン1152を位置決めするように構成され、その一方で、引力要素1178は、第2のデータリボン1172に設けられた切り抜き1180と相互作用して第2のデータリボン1172を位置決めするように構成されている。この場合、各行の切り抜き(1158及び1180)はビットに対応し、列は4バイト(バイト数はビットリーダ1174の個数で定義される)に対応し、各バイトは、各データリボン(1152、1172)に対して1つずつ設けられた2ビットの情報で構成される。図11Hは、切り抜き1158-2、1180-2によって定義されるように第2のバイトを読み取るために、第2のビットリーダ1174-2が動いたときのデータリーダ1170を示すものである。この場合、切り抜き1158-2は、下側位置にデータリボン1152を配置するために引力要素1176-2と相互作用するように構成され、当該下側位置は(先に示した図11F参照)出力値1を表しており、一方、切り抜き1180-2は、引力要素1178-2に作用して、データリボン1172を(未だそこに位置していなければ)上方位置に配置するように構成され、当該情報位置は出力値0を表している。データリボン(1152、1172)は、メモリの第2のバイトについて(1、0)の値を記録する。
【0081】
図12A図12Fは、クロック位相間の値を記憶するように作用するラッチ機構1200の一例を示している。ラッチ機構1200は、コピー要素1206によって接続される入力1202及び出力1204を有する。図示のように、入力1202は入力ピン1208を有し、入力ピン1208はNCFを介してコピー要素1206と相互作用し、その一方で、出力1204は、コピー要素1206とピボット運動可能に係合される。コピー要素1206は、今度はコピーピン1210(図示では出力1204と一体的に形成)を有し、コピーピン1210はNCF(ナノスケールの機構におけるファンデルワールス引力、又はより大規模な機構における強磁性など)を介してロック板1212に係合する。ロック板1212はU字形であり、ロックアクチュエータ1214によってロック位置(図12A及び図12C参照)と非ロック位置(図12B及び図12D参照)との間で動かされる。ロック板1212が自身のロック位置にあるとき、ロック板のエッジは、コピーピン1210の動きを制限し、入力1202及び出力1204の動き方向におけるコピー要素1206の並進運動を阻止するように作用するが、これは、出力1204がその0値位置(図12A及び図12B参照)にあるか又はその1値位置(図12C及び図12D参照)にあるかにかかわらない。留意すべき点として、機構1200は、フローティング又は非フローティングの何れかであり得る部品間における接続を提供するために、ロック板1212なしで採用され得る。
【0082】
ロック板1212が非ロック位置にあるとき、コピー要素1206及びこれに接続された出力1204は、出力1204の0値位置と1値位置との間を自由に並進運動するが、このときコピーピン1210はロック板1212のエッジに遭遇することはない。このとき、コピー要素1206はコピーアクチュエータ1216によって出力1204に関連してピボット運動可能であり、(下側の)自由位置(図12A及び図12C参照)と(上昇した)コピー位置(図12B及び図12D参照)との間をコピー要素1206が動くこととなる。コピー要素1206は三角形のコピー板1218を有し、コピー板1218はエッジ1220及び1222を有し、エッジ1220及び1222は、コピー要素1206がそのコピー位置に対してピボット運動する際に、入力1202の位置で決まる位置にコピー要素1206及び出力1204を動かすために入力ピン1208と相互作用する(コピー板1218は、有効エッジ1220及び1222を有する活性面を提供し、且つ、係合要素として作用する入力ピン1208と相互作用するが、その一方で、コピーアクチュエータ1216は被駆動要素又は第2入力とみなされ得る)。入力1202が0値位置にある場合、エッジ1220は、コピー要素1206がピボット運動する際にコピー要素1206及び出力1204を動かして、出力1204を(未だその位置にない場合に)0値位置に配置するように作用する。同様に、入力1202が1値位置にある場合、エッジ1222は、コピー要素1206及び出力1204を動かして、コピー要素1206がピボット運動する際に(未だその位置にない場合に)出力1204を1値位置に配置するように作用する。コピー要素1206は制御要素とみなされ得るものであり、当該制御要素は、入力1202の位置(同様に出力1204の現在位置)に部分的に基づいてコピーアクチュエータ1216の動きを出力1204に選択的に伝達する。入力1202及び出力1204の相対位置は、機構1200を(入力1202が現在の出力1204の位置に合致し、且つ、出力1204を動かすことなくコピーアクチュエータ1216の動きを収容可能な場合の)非活性動作状態若しくは運動収容状態に置くか、又は、機構1200を(入力1202が現在の出力1204の位置と合致せず、且つ、入力ピン1208がエッジ1220又は1222の一方に逆らって動こうとするときに生じうるNCF変化が生じないようにするために、コピーアクチュエータ1216の動きを出力1204に伝達する場合の)活性動作状態若しくは運動伝達状態に置くと、みなし得る。
【0083】
一旦、出力1204が入力1202の値を反映するために正規位置に(必要に応じて)動かされた状態になると、ロック板1212がロック位置に戻ることが可能となり、コピーピン1210のさらなる並進運動が防止され且つ出力1204を現在位置に効果的にロック可能となる。コピー要素1206は、その後、コピーアクチュエータ1216を後退させることによってその自由位置にピボット運動で戻ることができ、このとき入力1202はその0値位置と1値位置との間で自由に動くことが可能であり、その一方で、前回値は出力1204のロック位置によって記憶される。機構1200は、入力1202、出力1204、ロックアクチュエータ1214及びコピーアクチュエータ1216のような要素にはCNTを用いて、ロック板1212及びコピー板1218のような平面的要素にはダイヤモンド、ロンズデーライト又はダイヤモンドイド構造を用いて、分子規模で形成可能である。
【0084】
このようなラッチ1200の1つの使用法は、図12Eに示されるように、2つのラッチ1200を連鎖させてD型フリップフロップ1230を提供することであり、各ラッチ1200の出力1204は他のラッチの入力1202を定義し、ロック板1212は順次動かされる。束縛を避けるために、各ラッチ1200のロック板1212は、対応する入力1202を自由に運動可能とする非ロック位置に動かされるが、その前に、他のラッチ1200のコピーアクチュエータ1216が、コピー要素1206をピボット運動するために活性状態に置かれ、このコピー要素1206は、対応する出力1204と非対応ラッチ1200の自由に動く入力1202とを設定するように作用する。
【0085】
順次、第1ラッチ1200-1のロック板1212-1がその非ロック位置に配置され(図12E参照)、第1コピー要素1206-1がそのコピー位置にピボット運動させられて第1出力1204-1がセットされる。一旦設定されると、第1ロック板1212-1はそのロック位置に動かされ、出力1204-1を設定して(これは入力1202-2も設定する)、第1コピー要素1206-1はその自由位置に戻され、第1入力1202-1の動きが可能になる。次に、第2ロック板1212-2はその非ロック位置に動かされ、第2コピー要素1206-2はそのコピー位置に動かされ、これらが作用することで、第2出力1204-2(これは第1入力1202-1も決定する)が、第2入力1202-2(第1出力1204-1により決まる)により決定される位置に置かれる。
【0086】
図12Fはラッチ1200を採用する機構の別の例を示しており、グリッドメモリ1250の一部である(図示は、メモリ構造全体における4列のうちの2列である)。この場合、ラッチ1200は、トランスミッションゲート1252の配列と組み合わせて使用され、トランスミッションゲート1252は、図7H図7I図8A図8Bに示されるゲート(750、800、840)と同様の構成が可能である。メモリ1250において、ラッチ1200は、これらの値がデータ線1254に「読み返される」まで、一組のデータ線1254から受け取った値を記憶することができる。この方式では、出力1204の位置は読み取られず、出力1204はコピー要素1206の動きを制限するためだけに機能する。図12Fは、2つのメモリアドレス(00及び01)を図示しており、同様の追加のメモリアドレスの組(10及び11であり、右側の省略部分に配置される)は図示されていない。各メモリアドレスは2ビットのデータを格納できる。各メモリアドレスは、2つのデータ入力1202を有する一組のラッチ1200を有し、各々がそのビットの情報のためのデータ線1254に接続される。各データ線1254は、メモリアドレスの各々について、そのビットのためのデータ入力1202を一緒に接続する。
【0087】
トランスミッションゲート1252は、各々がメモリアドレスの1ビットを識別する2つのアドレスバー1256の位置に基づいて、現在の動作のためにメモリアドレスの一つを選択するように配置される。アドレスバー1256-0の位置は、現在活性なメモリアドレスの第1ビットを決定し、アドレスバー1256-1の位置はその第2ビットを決定する。図示のように、両方のアドレスバー(1256-0、1256-1)は、それらの0値位置にあるので、メモリアドレス00が現在選択される。各々の場合、アドレスバー(1256-0、1256-1)の位置によって、非活性メモリアドレス用のトランスミッションゲート1252における少なくとも1つの伝達板1258が、メモリ選択バー1260からセル選択器1262内のトランスミッションゲート1252への運動伝達を中断する位置に配置される(図7Cに示すNORゲート720における鎖状のトランスミッションゲート700A-700Cと同様の方法による)。そのような位置では、伝達板1258は、伝達板1258を動かすことなくメモリ選択バー1260自体又はメモリ選択リンク1264の何れかの動きを収容するように配置される。例として、図示の位置では、現在は非活性なメモリアドレス01について、下側の伝達板1258はメモリ選択バー1260の動きをメモリ選択リンク1264に伝達するように配置されるが、しかし上側の伝達板1258は、かかる動きをセル選択器1262に伝達することなくメモリ選択リンク1264の動きを収容するように配置される。メモリアドレス10及び11用の伝達板は、アドレス00及び01用の伝達板と同様に配置されているが、アドレスバー1256-0がその0値位置にあるときにメモリセレクトバー1260の動きを収容可能となるように下側の伝達板が配置されており(したがって図示の状況ではそれらは非活性である)、しかしアドレスバー1256-0がその1値の位置にあるときにメモリ選択リンクに動きを伝達し、(アドレスバー1256-1によって位置決めされる)上側の伝達板の位置により、何れのメモリ選択リンクが収容可能であり何れが動きを伝達するように作用するかが決定される。メモリ選択バー1260が上方に変位すると、トランスミッションゲートを通る1つの経路のみが存在し、アドレスバー(1256-0、1256-1)の位置に基づいて活性メモリアドレスが定まる。
【0088】
セル選択器1262において、被選択経路におけるトランスミッションゲート1252の変位は、結合された一組のトランスミッションゲート1252に作用する。このような作用は、一組のゲート1252を非活性位置(図示のように、伝達板1258を動かすことなくロック解除バー1266及びコピーバー1268の動きを収容可能)から活性位置へと動かし、そこでは伝達板1258の作用により、ロック解除バー1266の動きがロック解除リンク1270へと伝達され、コピーバー1268の動きがコピーリンク1272へと伝達される。動かされると、ロック解除リンク1270は、活性メモリアドレス内のラッチのロック板1212を動かすロックアクチュエータとして機能し、その一方で、コピーリンク1272は、コピー要素1206を動かすコピーアクチュエータ(又は被駆動要素)として機能する。
【0089】
データ線1254の現在位置によって符号化された値を、現在の被選択メモリアドレスのコピー要素1206に格納するために、データ線は、まずデータロック1274によって固定される。次に、ロック解除バー1266が上げられて、被選択アドレスのコピー要素1206における並進運動が自由になる。次に、コピーバー1268が上げられて、コピー要素1206がコピーリンク1272によって上方にピボット運動させられることで、コピー要素1206と入力1202(データロック1274により位置が固定)との相互作用によりコピー要素1206が入力1202の位置(データ線1254の位置で設定される)に対応する位置まで動かされる。次に、ロック解除バー1266が下げられて、コピー要素1206が位置間で並進運動することが防止され、符号化された値が記憶される。その後、コピーバー1268が下降可能となり、データロック1274を解除して、データ線1254を新しい値にリセット可能となる。
【0090】
記憶した値を取り出すために、コピーバー1268とロック解除バー1266との動作を逆にすることが可能である。データ線1254のロックを解除して入力1202を動かせるようにし、次にコピーバー1268を上げる。ロック解除バー1266はまだ上げられていないので、被選択メモリアドレスのコピー要素1206は並進運動しないように阻止され、したがって各々のコピー要素1206は、それらの現在値(対応する入力1202の値をコピーした後に、前回記憶した値)を反映する位置を保持する。コピーバー1268が上げられると、各コピー要素1206のピボット運動は、コピー要素1206によって現在符号化されている値(この場合、入力1202は実質的に出力として機能する)と合致するように、対応する入力1202を0値又は1値の何れかの位置に動かすように作用する。次に、入力1202は、データロック1274を作動させることによって所定位置にロックされ、次にコピーバー1268が下降可能となり、その後に、メモリ選択バー1260が下げられて、値を取り出すための新しいメモリアドレスの選択が可能となる。
【0091】
シンプルなモーターを提供するために、NCF相互作用を用いるカム作用を利用可能である。図13Aは回転子機構1300の一例を示しており、並進運動を回転運動に変換するためにNCF相互作用が採用される。回転子機構1300は、駆動体1302と被駆動要素1304を有する。駆動体1302は引力要素1306を有し、その一方で被駆動要素1304は螺旋ねじ山1308を有し、螺旋ねじ山1308はエッジ1310によって境界付けられ、螺旋ねじ山1308に引力要素1306が引き付けられる。図示の機構では、引力要素1306は磁石であり、螺旋ねじ山1308は強磁性材料で形成されている。被駆動要素1304は、軸1312を中心に回転するように設置され、駆動体1302は、軸1312と平行に並進運動可能である。駆動体1302が並進運動するとき、並進運動する引力要素1306と螺旋ねじ山1308との間のNCFを一定に保つために、複数のエッジ1310の何れかを越えて引力要素1306を動かさないように、被駆動要素1304が回転する。螺旋ねじ山1308は活性面を提供しており、係合要素としての引力要素1306が複数のエッジ1310の一方に押し付けられるのを避けるために強制的に動かされる。実際には、螺旋ねじ山1308は、もし仮に成形板1106が細長く且つ円筒状に巻かれていたとする場合における、図11A及び図11Bに示される機構の成形板1106と、同様のカム動作を提供する(先に記したように、多くの機構は平板又は円筒を用いて同様の方法で機能し、幾つかの用途では球形又は半球形などの他の形状への適用も実用的であり得る)。また、回転要素が動かされるようにして他方の要素の並進運動を生じさせるなど、動きを逆にすることも可能である。
【0092】
図13B及び図13Cは回転体機構1350を示しており、回転体機構1350は単一の入力1352と複数の出力1354との間で回転運動を選択的に伝達する役割を果たし、機械式マルチプレクサとして採用され得る。伝達方式を逆にし、複数の入力が単一の出力に回転運動を選択的に伝達することも可能である。入力1352は、入力シャフト1356と細長い入力ヘッド1358を有する。同様に、出力1354の各々は、出力シャフト1360および細長い出力ヘッド1362を有する。複数の出力1354がそれらの出力ヘッド1362を整列させつつ配置された場合、出力ヘッド1362と平行に入力ヘッド1358がのびるように入力1352を配置可能であり、選択した1つの出力ヘッド1362に並べて入力ヘッド1358を配置するように入力1352を(図示しない手段によって)動かすことが可能である。出力ヘッド1362が形成するラインには小さな途切れがあるだけなので、入力1352のそのような動きは、入力ヘッド1358が対応する出力ヘッド1362のエッジを超えて移動する時に打ち勝つべき僅かなVDW障壁をもたらすだけである。選択された出力ヘッド1362に一旦整列すると、入力1352は回転可能となり(図13C参照)、ヘッド(1358、1362)を互いの整列から外すために必要となるであろうヘッド間のVDW引力に打ち勝たないように、VDW力によって出力ヘッド1362が入力ヘッド1358と共に回転させられる。回転運動は、選択された出力シャフト1360に伝達される。機構1350は、出力ヘッド1362の整列位置で入力ヘッド1358及び整列した出力ヘッド1362が静止するように、増加幅180°で入力1352を回転させるように設計可能である。次に、入力1352は、入力ヘッドを別の出力ヘッド1362と対向させるように移動可能であり、その後、入力1352の回転によりその出力1354が強制的に回転させられる。
【0093】
入力ヘッドを1つの出力ヘッドと並んだ状態から別の出力ヘッドと並んだ状態へと動かすために打ち勝つべきVDW力をさらに低減するために、入力ヘッド又は出力ヘッドの形状は、出力ヘッド間の移動時の障壁を低減するように調整可能であろう。一例として、図13Dは、出力ヘッド1372の形状においてのみ機構1350と異なる回転体機構1370を示しており、複数の出力ヘッド1372が面取りされて、出力ヘッド1372の隣接部位が重なるようになっている。入力ヘッド1358が複数の出力ヘッド1372の間を移動する際に、出力ヘッド1372間のギャップを横切る移動に対するVDW障壁がより緩やかになり、VDW力の抵抗に打ち勝つために必要な力がより少なくなる筈である。
【0094】
図13EはNCFエネルギー障壁の他の使用法を示し、有効エッジを越えて要素を動かすためにエネルギー障壁に打ち勝つ必要のないように部品を動かすための使用法である。ベルト駆動機構1390は一組の滑車1392を採用し、滑車歯1394が形成されたエッジを有している。ベルト1396はベルト歯1398のエッジを有しており、ベルト1396は滑車1392に係合する。ベルト歯1398は、滑車歯1394と合致し且つ滑車歯1394の上に重ねられており、滑車歯1394のエッジを越えて動かされることに対するNCF障壁を作り出す。このエネルギー障壁は歯(1394、1398)の整列を保つように作用し、滑車1392の一方を回転させるとベルト1396が動いて歯(1394、1398)の整列を保ち、ベルト1396のそのような動きにより他方の滑車1392も共に動かされる。分子スケールの機構の場合、滑車1392をCNTから形成可能であろうし、ベルト1396をグラフェンから形成可能であろう。滑車1392の間隔がより大きい場合、ベルト1396の側面が互いに引き合うことを打ち消すために、ベルト1396に沿ってのびるCNTガイドを使用可能であろう。
【0095】
NCFは、部品の動きをガイド又は制限することにも採用可能であり、或る部品のNCFに反応する部分又は要素が別の部品のエッジに接触することが回避されるようにする(議論の意図のために、このような第2部品は動かないものとみなす)。図14A及び図14Bはガイド機構1400を図示し、図11A及び図11Bに示したリンク体1100の部品と同様の部品を採用する。ガイド1400は、再び、成形板1404(活性面を提供)を持つ第1部品1402と、引力要素1408(係合要素を提供)を持つ第2部品1406とを有する。しかし、ガイド1400では、第1部品1402は固定されており、第2部品1406は、その伸長軸に沿った並進運動に限定されない(図示の例では、第2部品1406の動きはピボット運動及び移動の両方であり、左側視界外にある軸を中心にピボット運動し、このピボット軸が並進運動する際に移動をする)。第2部品1406のピボット軸を並進運動させる力が加えられると(図14B参照)、引力要素1408と成形板1404との間のNCFが作用して第2部品1406の動きをガイドし、成形板1404のエッジに引力要素1408が接触することが回避される。図14Cは、同じ原理を拡張するガイド機構1430を示しており、ガイドトラック1432が、所定位置に固定される第1部品として機能する。ガイドトラック1432は、また、第2部品1406の動きをガイドして、引力要素1408とガイドトラック1432の間のNCFに打ち勝つことが必要となるであろう引力要素1408とガイドトラック1432のエッジとの接触を回避するために、第2部品1406を所望運動経路に沿って導く役割を果たす。この場合、ガイドトラック1432は、第2部品1406のピボット軸が並進運動する際に、曲線を含む経路に沿って引力要素を導く。
【0096】
トラックが動き且つトラックに追従する要素が固定されるように、構成部品の相対位置を変更することによって、同じガイド効果を達成することができる。そのような方式の一例として、図14Dはデータリーダ機構1450を図示しており、データリーダ機構1450に組み込まれた構成部品は、図11Hのデータリーダ機構1170の構成部品と機能的に類似しているが、NCFとしてファンデルワールス引力を採用するナノスケール製作用に設計されている。機構1450は、2組の引力垂直ガイド要素1452(ロンズデーライト等のダイヤモンドイド材料で形成され得る)を有し、各々が、2つのデータリボン1454(グラフェンテープから形成され得る)の1つと係合するように位置決めされる。ガイド要素1452は、データリボン1454の動きが本質的に垂直な動きに制限されるように、データリボン1454における障害物無しの垂直領域とは反対の側に固定及び配置されるが、その理由は、軸から外れた動きをするにはデータリボン1454のエッジの1つをガイド要素1452の1つに接触させてNCFに打ち勝つ力が必要となるからである。データリーダ1450において、ガイド要素1452のガイド効果は、4つのビットリーダ1456(変性CNTから形成され得る)に対してデータリボン1454がドリフト移動する問題を回避するのに役立つ。図14Dはまた、スリーブ1458(これはより大きなCNTで形成され得る)に取り付けられたビットリーダ1456を示す。ファンデルワールス引力が要素を最大重なり位置に向かって引き寄せる傾向があり、重なりを減少させる動きに対して復元力をもたらすので、各ビットリーダ1456が対応するスリーブ1458内を動くことで両要素の重なり深さが変化する場合、入れ子式CNTがばねとして採用され得る。このような復元力は、図示のスリーブ1458を用いて、或いはビットリーダ1456の別の部位に重なる別のスリーブのセットを用いて、ビットリーダ1456に張力を与えるのに使用され得る。
【0097】
部品がNCFの変化なしに一方の種類の動きが可能であるが他方の種類の動きを可能とするにはNCFに打ち勝つ必要があるように構成されている場合、同様のガイド作用を利用して2つの部品の間の動きを回転運動又は並進運動のいずれかに制限することができる。これは、動きを所望の種類及び/又は範囲に制限するための必要部品数を減らすことによって機構を簡素化する目的で採用可能であり、また、部品が回転運動と並進運動との両方の動きを可能とするものの一方の場合は自由に動くが他方の場合は動くために力を必要とするような機構を設計することもできる。図15Aは、内側部品1502と外側部品1504を有するロータリージョイント1500を示す。内側部品1502は軸1506に沿って細長であり且つ内側部品軸受部1508を有し、内側部品軸受部1508は軸1506まわりに拡径し且つ対称な形状である。外側部品1504は、外側部品通路1510を有するとともに、その通路1510の端部付近に配置された引力要素1512を備えている。部品(1502、1504)は軸1506を中心にして互いに関して回転自在であるが(接触している場合は摩擦力を受ける)、これは、そのような回転運動が内側部品軸受部1508と引力要素1512との間のNCFを変化させることがないからである。しかしながら、軸1506に沿った並進運動をするためには引力要素1512と軸受部1508との間のNCFに打ち勝つことが必要であり、その理由は、そのような運動により、通路1510の一端における引力要素1512が、軸受部1508の終端する有効エッジと接触することになるからである。NCFに打ち勝つための十分な力が加わらない限り、部品(1502、1504)は回転可能であるが、互いに関して並進運動ができない。留意点として、並進運動に対するこのような制限は、機構を複雑にするような追加の運動制限部品なしで達成されている。ナノスケールの機構では、変性CNTが、回転ジョイントの内側要素及び外側要素(図5C及び図5Dに示す要素552、554及び564と同様であり得る)に使用可能であり得るとともに、VDW力が内側部品をその軸方向位置に保持するNCFsを提供する。留意点として、軸受部1508と通路1510の相対的な長さは、回転運動と限定範囲の並進運動とを可能にするために、変更可能であろう。図15Bはロータリージョイント1530を図示し、内側部品1532と、同じ外側部品1504とを採用している。この例の内側部品1532は、拡径した2つの軸受部1534を有し、その何れかが外側部品通路1510によって回転係合可能である。外側部品1508は、内側部品1532に関連する2つの異なる位置の間で強制的に並進移動可能であり、何れかの長手方向位置にあるときに回転自在である。
【0098】
図15Cはスライドジョイント1550を図示しており、図15Aのロータリージョイント1500と機能を逆にしたものであり、(限られた範囲内で)自由並進運動を可能とするが、回転運動には抵抗する。スライドジョイント1550では、内側部品1552及び外側部品1554が、軸受部1556及び通路1558をそれぞれ備え、部品(1552、1554)はNCFに打ち勝つことなく軸1560に沿う並進運動が可能となるように構成されるが、部品(1552、1554)が互いに関して回転運動するためには力を必要とする。スライドジョイント1550では、このような構成は、外側部品1554に引力要素1562を配置するとともに、引力要素1562に対向して位置する軸受面1564により軸受部1556を構成することによって、達成される。部品(1552、1554)の並進運動は、NCFを大きく変化させることなく、軸受面1564を引力要素1562に沿って動かすが、その一方で、部品(1552、1554)の回転運動は、引力要素1562を軸受面1564のエッジに接触させて有効に動かすことが必要であろうし、かかる回転には抵抗が生じる。引力要素1562と4つの軸受面1564とにより4つの組が設けられているので、部品(1552、1554)は、互いに関して4つの角度位置の間を強制的に回転可能であり、当該4つの位置の何れかにあるときに限られた距離を自由に並進運動可能である。
【0099】
説明のために特定の例を採用した上記の議論は、添付の特許請求の範囲の精神及び範囲を限定するものとして理解されるべきではない。
図1A-D】
図1E
図1F
図1G
図1H
図1I
図1J
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図4G
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図6F
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図7F
図7G
図7H
図7I
図7J
図7K
図7L
図8A
図8B
図8C
図9A
図9B
図9C
図9D
図10A
図10B
図10C
図10D
図11A-C】
図11D
図11E
図11F
図11G
図11H
図12A
図12B
図12C
図12D
図12E
図12F
図13A
図13B
図13C
図13D
図13E
図14A
図14B
図14C
図14D
図15A
図15B
図15C
【手続補正書】
【提出日】2022-12-20
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機構(200, 400, 600, 700, 750, 900, 1000, 1200)であって、
第1部品(212, 406, 602, 702, 752, 910, 1014, 1218)と、
第2部品(200, 400, 600, 700, 750, 900, 1000, 1200)と、を備え、
前記第2部品は、規定した動作範囲において前記第1部品(212, 406, 602, 702, 752, 910, 1014, 1218)に対して可動であり、前記第1部品(212, 406, 602, 702, 752, 910, 1014, 1218)に対して、ファンデルワールス力に起因する、引力性の非接触力を発生させ
前記第1部品(212, 406, 602, 702, 752, 910, 1014, 1218)と前記第2部品(200, 400, 600, 700, 750, 900, 1000, 1200)は、前記規定した可動範囲に亘って動いても、一方の部品の何れの部分も、ファンデルワールス引力の実質的変化を引き起こすように他方の部品の有効エッジに近接するようには動かされず、且つそれ故に部品間の前記非接触力が前記規定した動作範囲に亘って実質的に変化しないように、互いに関連して構成され、
前記機構(200, 400, 600, 700, 750, 900, 1000, 1200)は、位置によって値を符号化する1つ以上の機械式入力の形態でデータを受け入れ、位置によって値を符号化する1つ以上の機械式出力の形態でデータを出力するように構成され、
前記機構(200, 400, 600, 700, 750, 900, 1000, 1200)は、前記入力の少なくとも1つに論理演算を行うことによって少なくとも1つの出力の前記位置が決定されるように構成され、前記論理演算が、組み合わせ論理演算、順序論理演算及びブール論理演算からなる群のなかの少なくとも1つの演算を含む、機構。
【請求項2】
請求項1に記載の機構(200, 400, 600, 700, 750, 900, 1000, 1200)であって、
前記第1部品(212, 406, 602, 702, 752, 910, 1014, 1218)が、少なくとも非活性位置と活性位置との間で動くことができ、
前記非活性位置では、前記第2部品(200, 400, 600, 700, 750, 900, 1000, 1200)が部品間の前記引力を実質的に変化させずに前記第1部品に関連して相対的に可動であり、
前記活性位置では、前記第1部品(212, 406, 602, 702, 752, 910, 1014, 1218)に関連する前記第2部品(200, 400, 600, 700, 750, 900, 1000, 1200)の動きは、前記引力の著しい変化に打ち勝つことを必要とする、機構。
【請求項3】
請求項2に記載の機構(200, 400, 600, 700, 750, 900, 1000, 1200)であって、
前記第1部品(212, 406, 602, 702, 752, 910, 1014, 1218)は、前記第1部品(212, 406, 602, 702, 752, 910, 1014, 1218)がその活性位置にある場合に、少なくとも1つの方向において前記第2部品(200, 400, 600, 700, 750, 900, 1000, 1200)の動きを阻止する、機構。
【請求項4】
請求項1に記載の機構(200, 400, 600, 700, 750, 900, 1000, 1200)であって、
前記第1部品(212, 406, 602, 702, 752, 910, 1014, 1218)及び前記第2部品(200, 400, 600, 700, 750, 900, 1000, 1200)は、少なくとも前記機構の活性動作状態において、前記第1部品(212, 406, 602, 702, 752, 910, 1014, 1218)の動きが、前記第1、2部品間の前記引力を実質的な変化なく維持するために前記第2部品(200, 400, 600, 700, 750, 900, 1000, 1200)の対応する動きを必要とするように、互いに関して構成される、機構。
【請求項5】
請求項4に記載の機構(200, 400, 600, 700, 750, 900, 1000, 1200)であって、
前記機構(200, 400, 600, 700, 750, 900, 1000, 1200)は、非活性動作状態に設定可能であり、
前記非活性動作状態において、前記第1、2部品間の前記引力を実質的な変化なく維持するために前記第2部品(200, 400, 600, 700, 750, 900, 1000, 1200)の動きを必要とせずに前記第1部品(212, 406, 602, 702, 752, 910, 1014, 1218)の動きを収容可能である、機構。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1つに記載の機構(200, 400, 600, 700, 750, 900, 1000, 1200)であって、
被駆動要素を備え、
前記入力(複数可)の前記位置(複数可)が、前記被駆動要素の変位が複数の前記出力のうち選択された1つに伝達されることなく収容可能であるか否かを決定するための前記機構内の許容動作範囲を決定する、機構。
【請求項7】
機構(300, 1400, 1450, 1500, 1550)であって、
少なくとも1つの有効エッジが形成される第1部品(320, 1406, 1454, 1502, 1552)と、
可動である第2部品(304, 1404, 1452, 1504, 1554)と、を備え、
前記第2部品は、前記第1部品(320, 1406, 1454, 1502, 1552)に対して可動であり、前記第1部品と前記第2部品との間にファンデルワールス引力に起因する非接触力を生成するように前記第1部品(320, 1406, 1454, 1502, 1552)と相互作用し、
前記第1部品(320, 1406, 1454, 1502, 1552)と前記第2部品(304, 1404, 1452, 1504, 1554)とが、部品間の前記非接触力が前記第1部品(320, 1406, 1454, 1502, 1552)に対する前記第2部品の許容動作範囲を規定するように互いに関して構成され、
前記第2部品(304, 1404, 1452, 1504, 1554)の前記動作範囲は、前記第1部品(320, 1406, 1454, 1502, 1552)と前記第2部品(304, 1404, 1452, 1504, 1554)との間のファンデルワールス引力に実質的な変化が引き起こされるように前記第1部品の前記有効エッジ(複数可)に関連して前記第2部品(304, 1404, 1452, 1504, 1554)を動かすことのない動作範囲として規定され、且つそれ故に前記動作範囲内における前記第2部品の動きは前記部品間の前記非接触力を実質的に変化させない、機構。
【請求項8】
請求項に記載の機構(300, 1400, 1450, 1500, 1550)であって、前記有効エッジは、前記有効エッジを越えて続く表面の下に存在する構造によって提供される、機構。
【請求項9】
機構(550, 700, 750, 900, 1100, 1150, 1170, 1300, 1350, 1390)であって、
可動である第1部品(552, 702, 752, 910, 1104, 1152, 1304, 1352, 1392)と、
可動である第2部品(554, 704, 762, 908, 1102, 1154, 1302, 1354, 1396)と、を備え、
前記第1部品(552, 702, 752, 910, 1104, 1152, 1304, 1352, 1392)及び前記第2部品(554, 704, 762, 908, 1102, 1154, 1302, 1354, 1396)のうち一方が少なくとも1つの活性面を持ち、前記第1部品(552, 702, 752, 910, 1104, 1152, 1304, 1352, 1392及び前記第2部品 (554, 704, 762, 908, 1102, 1154, 1302, 1354, 1396)のうち他方が少なくとも1つの係合要素を持ち、前記活性面(複数可)は少なくとも1つの有効エッジを持ち、
前記係合要素(複数可)及び前記活性面(複数可)は、ファンデルワールス引力に起因してそれらの間に非接触力を生成し
記第1部品(552, 702, 752, 910, 1104, 1152, 1304, 1352, 1392)及び前記第2部品(554, 704, 762, 908, 1102, 1154, 1302, 1354, 1396)は、少なくとも前記機構の活性動作状態において、前記第2部品(554, 704, 762, 908, 1102, 1154, 1302, 1354, 1396)が前記第1部品(552, 702, 752, 910, 1104, 1152, 1304, 1352, 1392)の動きに応答して強制的に動くように構成され、前記第2部品(554, 704, 762, 908, 1102, 1154, 1302, 1354, 1396)が動かなかった場合に前記有効エッジ(複数可)に関連して前記係合要素(複数可)が動く結果生じるであろう、前記第1部品(552, 702, 752, 910, 1104, 1152, 1304, 1352, 1392)と前記第2部品(554, 704, 762, 908, 1102, 1154, 1302, 1354, 1396)との間に生ずる前記ファンデルワールス引力の実質的な変化を回避するように、前記第2部品(554, 704, 762, 908, 1102, 1154, 1302, 1354, 1396)が動く、機構。
【請求項10】
請求項に記載の機構(550, 700, 750, 900, 1100, 1150, 1170, 1300, 1350, 1390)であって、
前記機構は、活性動作状態と非活性動作状態とに選択的に構成されることが可能であり、
前記活性動作状態では、前記第1部品(552, 702, 752, 910, 1104, 1152, 1304, 1352, 1392)の動きに応答して前記第2部品(554, 704, 762, 908, 1102, 1154, 1302, 1354, 1396)が動き、
前記非活性動作状態では、部品間の非接触力の実質的変化を回避するために前記第1部品(552, 702, 752, 910, 1104, 1152, 1304, 1352, 1392)の動きに応答して前記第2部品(554, 704, 762, 908, 1102, 1154, 1302, 1354, 1396)が動くことを必要とするであろう部品間の非接触力の実質的変化を生じさせることなく、前記係合要素(複数可)の動きを収容可能である、機構。
【請求項11】
請求項9又は請求項10に記載の機構(550, 700, 750, 900, 1100, 1150, 1170, 1300, 1350, 1390)であって、
前記第1部品(552, 702, 752, 910, 1104, 1152, 1304, 1352, 1392)と前記第2部品(554, 704, 762, 908, 1102, 1154, 1302, 1354, 1396)とのうち少なくとも一方は、少なくとも1つの入力によって位置決めされる、機構。
【請求項12】
請求項11に記載の機構(550, 700, 750, 900, 1100, 1150, 1170, 1300, 1350, 1390)であって、
前記第1部品(552, 702, 752, 910, 1104, 1152, 1304, 1352, 1392)の動きに応答する前記第2部品(554, 704, 762, 908, 1102, 1154, 1302, 1354, 1396)の動きは、1つ以上の入力の位置に対して行われるブール関数で決定される、機構。
【請求項13】
請求項12に記載の機構(550, 700, 750, 900, 1100, 1150, 1170, 1300, 1350, 1390)であって、
前記機構(550, 700, 750, 900, 1100, 1150, 1170, 1300, 1350, 1390)は、NORゲート、NANDゲート及びXORゲートからなる群から選択した論理ゲートの機能を提供する、機構。
【請求項14】
請求項11に記載の機構(550, 700, 750, 900, 1100, 1150, 1170, 1300, 1350, 1390)であって、
前記機構は、機械式のクロック信号により駆動され、前記クロック信号のサイクル間に前記第1部品(552, 702, 752, 910, 1104, 1152, 1304, 1352, 1392)と前記第2部品(554, 704, 762, 908, 1102, 1154, 1302, 1354, 1396)とのうち少なくとも一方の位置が記憶されるように構成される、機構
【請求項15】
求項1から請求項14のいずれか1つに記載の機構(550, 700, 750, 900, 1100, 1150, 1170, 1300, 1350, 1390)であって、
前記第1部品(552, 702, 752, 910, 1104, 1152, 1304, 1352, 1392)と前記第2部品(554, 704, 762, 908, 1102, 1154, 1302, 1354, 1396)とのうち少なくとも一方は、カーボンナノチューブで構成される、機構。
【請求項16】
請求項から請求項15のいずれか1つに記載の機構であって、
前記機構は、前記第1部品(552, 702, 752, 910, 1104, 1152, 1304, 1352, 1392)の動きに応答して前記第2部品を動かすために、1μNを超えない力を要する、機構。
【請求項17】
請求項1から請求項16のいずれか1つに記載の機構(550, 700, 750, 900, 1100, 1150, 1170, 1300, 1350, 1390)であって、前記機構の体積は0.001mm を超えない、機構。
【請求項18】
機構(750, 900, 1000, 1200)であって、
第1部品(752, 910, 1014, 1218)と、
第2部品(762, 908, 1010, 1208)と、を備え、
前記第2部品は、規定した動作範囲を通じて前記第1部品(752, 910, 1014, 1218)に対して可動であり、
前記第1部品(752, 910, 1014, 1218)及び前記第2部品(762, 908, 1010, 1208)は、部品間で、ファンデルワールス引力に起因する引力性の非接触力を発生させ、
前記第1部品(752, 910, 1014, 1218)及び前記第2部品(762, 908, 1010, 1208)は、前記規定した動作範囲に亘って、VDW引力が実質的に及ばない程の十分に大きな距離を離間した前記第1部品(752, 910, 1014, 1218)及び前記第2部品(762, 908, 1010, 1208)の部分だけが互いに対して距離を変化させるように、互いに関連して構成され、
前記機構の体積は0.001mmを超えない、機構。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、非接触力を受ける作動部品に関し、そのような非接触力に打ち勝つことに関連する問題を回避し及び/又は部品間の動きの調整にそのような非接触力を採用するように構築された機構に関する。
【背景技術】
【0002】
ファンデルワールス力、及び静電気力や電磁力などの接触に依存しない同様の力は、非結合の力又は「非接触力」として特徴付けることができ、ここでは「NCF」と略記する。静電気力は、ロンドン分散力、双極子-双極子力(以下、まとめてファンデルワールス力又は「VDW」と呼ぶ)を含み、短い距離(オングストロームオーダー)で作用する。機構内のマクロな部品では、これらの力は機構の動作に影響を与えないのが一般的であり、何故なら重力、慣性、摩擦その他の力が支配的だからである。しかし、短い距離で隔てられた小さな部品においては、VDWが顕著となり得る。例えば、根元で固定された平行な2本のカーボンナノチューブが数オングストローム離れていると、VDWによって互いに曲がって付着し一体化する。VDWは小さな部品を曲げられるほど強いだけでなく、VDWが2つの表面を引っ張り合うことで作動部品の抗力に寄与し得る。MEMS/NEMSの分野では、これを"スティクション"と呼び("sticking"と"friction"の合成語)、マイクロスケールのデバイスで問題になることがある。
【発明の概要】
【0003】
以下の概要は、添付の特許請求の範囲に記載された新規かつ発明的な特徴の理解を助けるために提供され、発明的な特徴の完全な説明を提供することを意図していない。したがって、特許請求の範囲を適切に解釈するために、本開示全体を考慮すべきであることが理解されるべきである。
【0004】
開示される様々な機構は、適切に機能するための非接触力(NCF)の管理に依存している。そのようなNCFは、ファンデルワールス引力、磁気引力、及び静電引力を含むことができるが、これらに限定されるものではない。特定の機構の機能は、その意図された使用に依存し、典型的には、当該機構の1つ以上の構成要素の動きを制御及び/又は制限するためのNCFの管理に依存する。
【0005】
機構は、第1部品と第2部品とを有しこれらの間で引力性のNCFを前記第2部品が有してもよく、前記第2部品は、規定した動作範囲において前記第1部品に対して可動であり、これらの部品は、それらの間の前記NCFが前記規定した動作範囲に亘って実質的に変化しないように互いに関連して構成されている。このような機構は、位置によって値を符号化する1つ以上の機械式入力の形態でデータを受け入れ、位置によって値を符号化する1つ以上の機械式出力の形態でデータを出力し、前記入力の少なくとも1つに論理演算を行うことによって少なくとも1つの出力の前記位置が決定されるように機構が構成されてもよく、論理演算は組み合わせ論理演算、順序論理演算及びブール論理演算からなる群のなかの少なくとも1つの演算を含む。幾つかのそのような機構では、前記第1部品が、少なくとも非活性位置と活性位置との間で動くことができ、前記非活性位置では、前記第2部品がそれらの間の引力を実質的に変化させずに前記第1部品に関連して相対的に可動であり、前記活性位置では、前記第1部品に関連する前記第2部品の動きは、前記引力の著しい変化に打ち勝つことを必要とする。前記第1部品は、前記第1部品がその活性位置にある場合に、少なくとも1つの方向において前記第2部品の動きを阻止してもよい。幾つかの機構では、前記第1部品及び前記第2部品は、(少なくとも前記機構の活性動作状態において)前記第1部品の動きが、前記第1、2部品間の引力を実質的な変化なく維持するために前記第2部品の対応する動きを必要とするように、互いに関して構成される。幾つかのそのような機構は非活性動作状態に設定可能であり、前記非活性動作状態において、前記第1、2部品間の前記引力を実質的な変化なく維持するために前記第2部品の動きを必要とせずに前記第1部品の動きを収容可能である。機構は被駆動要素(これはと他の"入力"として考慮され得る)を備えてもよく、前記(データ)入力(複数可)の前記位置(複数可)が前記機構内の許容動作範囲を決定してこれにより前記被駆動要素の変位が複数の前記出力のうち選択された1つに伝達されることなく収容可能か否かが決定されるように機構が構成されてもよい。規定した動作範囲に亘ってそれらの間のNCFが実質的に変化しないように互いに関連して構成された第1部品と第2部品を有する機構は、一辺100μmの立方体の体積に収まってもよい。
【0006】
機構は、第1及び第2部品を備えてもよく、前記第1及び第2部品は互いに関して可動であり、それらの間にNCFを生成するように相互作用し、これらの部品は、部品間のNCFが前記第1部品に対する前記第2部品の許容動作範囲を規定するように互いに関して構成され、そのような許容動作は部品間のNCFを実質的に変化させない。幾つかのそのような機構では、前記第1部品に少なくとも1つの有効エッジが形成され、更に、前記第2部品の前記動作範囲は、前記第1部品と前記第2部品との間のNCFに実質的な変化が引き起こされるように前記有効エッジ(複数可)に関連して前記第2部品を動かすことのない動作範囲として規定される。そのような有効エッジは、前記有効エッジを越えて続く表面の下に存在する構造によって提供可能である。
【0007】
機構は、可動である第1及び第2部品を備え、少なくとも1つの活性面と少なくとも1つの係合要素とを伴い、前記少なくとも1つの活性面は、前記活性面(複数可)は少なくとも1つの有効エッジを持ち、これらの前記部品のうち一方に設けられ、前記少なくとも1つの係合要素は、前記部品のうち他方に設けられ、前記係合要素(複数可)は、前記活性面の少なくとも1つと相互作用してその間にNCFを生成する。そのような機構において、前記第1及び第2部品は前記第2部品の動きが前記第1部品の動きにより制御されるように構成可能であり、前記第2部品は、前記係合要素(複数可)が前記有効エッジ(複数可)に関連して動くことに起因する前記NCFの変化を最小化するように動く。代替的に、そのような機構は、被駆動要素を具備可能であり、前記被駆動要素は前記第2部品を動かすように作用し、前記第1部品及び前記第2部品は、前記被駆動要素の動きの結果として生ずる前記第2部品の動きが前記第1部品の位置により制御されるように構成され、前記第2部品は、前記係合要素(複数可)が前記有効エッジ(複数可)に関連して動くことに起因する前記NCFの変化を最小化するように動く。そのような機構の何れにおいても、機構は、前記第2部品が前記第1部品と前記第2部品との間の前記非接触力の実質的な変化を回避するように動くように構成されてもよく、又は、前記第2部品が動かない場合よりも前記第2部品と前記第1部品との間の前記非接触力の固さの変化がより小さくなるように前記第2部品が動くように構成されてもよい。幾つかの機構では、前記機構は、活性動作状態と非活性動作状態とに選択的に構成されることが可能であり、前記活性動作状態では、前記有効エッジ(複数可)に関連する前記係合要素(複数可)の動きに応答して前記第2部品が動き、前記非活性動作状態では、前記第2部品の動きを必要とするそれらの間の非接触力に実質的な変化を生じさせることなく前記係合要素(複数可)の動きを収容可能である。機構は、前記第1部品と前記第2部品とのうち少なくとも一方は、少なくとも1つの入力によって位置決めされてもよく、そのような場合、前記有効エッジ(複数可)に関連する前記係合要素(複数可)の動きに応答する前記第2部品の動きは、1つ以上の入力の位置に対して行われるブール関数で決定され得るであろうし、そのような機構は、NORゲート、NANDゲート及びXORゲートからなる群から選択した論理ゲートの機能を提供し得るであろう。前記機構が機械式のクロック信号により駆動される場合、前記クロック信号のサイクル間に前記第1部品と前記第2部品とのうち少なくとも一方の位置が記憶されるように構成されてもよい。
【0008】
機構は、第1及び第2入力と、少なくとも1つの出力と、を備え、前記入力の位置により前記出力(複数可)の結果位置が決まるように構成され、前記結果位置では、前記入力の位置の何れかの変更に応答した前記機構の構成要素の間におけるNCFの変化に対する抵抗が最小となる。幾つかのそのような機構では、前記第1入力は、前記第2入力の位置決めよりも先に位置決めされ、そのような機構は、制御要素(或いは複数の制御要素)を備えてもよく、前記制御要素は、NCFを介して前記第2入力の動きを前記出力要素(複数可)に選択的に伝達し、前記制御要素(複数可)が前記第2入力の動きを伝達するか否かを前記第1入力の位置によって少なくとも部分的に決定するように、前記機構が構成される。そのような機構は、前記制御要素(複数可)がNCFにより前記第2入力に引き寄せられることが可能に構成されてもよく、前記第1入力の前記位置が、少なくとも部分的に、前記第2入力により前記制御要素を動かすように作用する前記NCFがそのような動きに抵抗するNCFよりも固いか否かを決定可能に構成されてもよい。そのような機構は、第3入力を備えてもよく、前記第3入力が、前記第1入力との組み合わせにおいて、前記第2入力と共に前記制御要素(複数可)の少なくとも1つを動かすように作用する前記NCFが、そのような動きに抵抗するNCFよりも固いか否かを決定可能である。幾つかの機構では、前記入力(複数可)の前記位置(複数可)が、NCFの変化を最小化するために前記出力(複数可)を動かさずに前記第2入力の動きを収容可能か否かを決定する。
【0009】
NCFを使用することで、機械的な接続がなくても部品の相互作用が可能になるので、比較的少ない部品で機構を構成できることが多い。その結果、マイクロスケールで製作される機構は、0.001mm(一辺が100μmの立方体の体積)を超えない体積に収まるはずであり、幾つかのそのようなデバイスが要する作動力が1μNを超えないことも期待される。10μmや1μmの立方体の体積に収まるような小型の機構を作れば、100nNや10nNのような低い作動力で済むであろう。さらに小さなデバイスは、ナノスケールの製造技術によって作製可能であろうし、一辺100nmの立方体の体積内に収まり得るであろうし、いくつかのナノスケールの論理機構は、50nm立方体、25nm立方体、あるいは10nm立方体と同じくらい小さく作ることが可能であろう。本明細書で議論される多くの機構について、言及された第1及び第2部品、入力、及び出力などの構成要素は、カーボンナノチューブ又はダイヤモンド、ロンズデーライト、又はダイヤモンドイド材料の構造から構成され得る。ナノスケールの機構では、作動力は1nN又はそれ以下である可能性があり、分子力学シミュレーションは、構成要素の動きを調整するためにNCFを採用する論理ゲートなどのいくつかの機構が、100pN未満、又は10pN未満の作動力で機能すべきことを示す。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A-D】図1A及び図1Bは先行技術のヒンジを示し、これは、ナノ又はマイクロスケールの機構で実装される場合、部品が動くときにNCFの変化を受ける可能性がある。図1C及び図1Dは円形の延長パッドを採用したヒンジを示し、ヒンジにジョイント付近の回転対称性が付与され、それによって部品が動く際のVDWの大きな変化を回避できる。
図1E-J】図1E図1Jは、スライドする物体の図であり、並進運動により引力が変化する場合と、並進運動により引力が変化しない場合とを図示している。
図2A-B】図2A及び図2Bは機構を図示しており、当該機構では、トラック要素が力伝達要素に係合するための連続的な表面を提供する役割を果たし、その要素が残りの要素との整列状態に入る又はそこから離脱する際にNCFを克服する必要性を回避する。
図3A-D】図3A図3Cは滑らかな表面を例示する図であり、下層構造の不連続性により、部品が表面上を移動するとNCFが変化し、有効エッジが提供される。図3Dは、異なる材料が有効エッジを提供する、別の滑らかな表面を示す図である。
図4A-G】図4A図4Fはロック機構を例示し、当該ロック機構では、或る位置では入力が作用することで、動くために部品間の引力に打ち勝つことを必要とすることで被駆動要素の前進を妨げるとともに、他の位置においては入力がインピーダンスなしに動きを許容するものである。図4Gは、当該原理を、2系統の可動テープを用いる機構に採用したものである。
図5A-D】図5A図5Dは、エッジのインピーダンスが、被駆動要素に応答する出力の動きを選択的に抑制する役割を果たす機構を示し、これらの例に示すように、2つの入力が設けられる場合、NOR論理関数が提供される。
図6A-F】図6A図6Fは、2つの入力に基づいて選択的に並進運動を阻止又は許容するための同心回転要素を採用する機構の、2つのバリエーションを示す図である。図6A図6Cは、ナノスケールの製造に適した機構を示し、ファンデルワールス引力がNCFとして機能し、このNCFは入力の何れかが角度変位される場合に中央要素の並進運動を阻止する。図6D図6Fは、より大規模な類似の論理機構を図示し、磁石によりNCFを提供する。
図7A-L】図7A図7Lは各入力が制御要素(成形板として形成される)の位置を決定する機構を図示し、制御要素は、被駆動要素の動きを収容するか又はそれと共に動かされるかの何れかであり、被駆動要素と共に動かされると出力を動かす。図7A及び図7Bは、動きを収容するか又は伝達するトランスミッションゲートを示し、図7Cは、このようなゲートを使用して形成可能な3入力のNORゲートを示している。図7D図7Fは、NANDゲートとXORゲートを示す図である。図7G図7Iは採用され得る代替のトランスミッションゲート構成を図示し、板がピボット運動可能に入力に取り付けられる。図7Jは拡大した足部を示す図であり、この拡大した足部は、ピンとエッジによって囲まれた表面との間の相互作用によって伝達され得る力の大きさを増加させるために採用され得る。図7K及び図7Lはスイッチゲートを図示し、スイッチゲートは2つの対向するトランスミッションゲートを採用し、スイッチゲートは、入力位置に応じて、変位信号を2つの出力の何れかに向ける役割を果たす。
図8A-C】図8A及び図8Bはトランスミッションゲートの2つの例を示す図であり、図7H及び図7Iに示されるゲートと同様の機能を提供し、分子集合によるナノスケール製造によく適するように設計される。図8A及び図8Bに示されるゲートは、成形CNTを使用して作製可能であり、この成形CNTは、ダイアモンドブロックに固定されたCNTから形成されたチューブ内でスライドする。図8Cは代替トランスミッションゲートを示す図であり、被駆動要素の動きに関連する出力の動きに機械的利得を提供する。
図9A-D】図9A図9Dは、被駆動要素及び出力に取り付けられた成形板を有する機構を示し、板と係合するコネクタが1つ以上の入力により位置決めされる。
図10A-D】図10A図10Dは、ヒンジと、NCFを介してピンで係合される成形板とを組み合わせたトランスミッションゲートを示し、板のエッジがヒンジの作用を制限することができる。
図11A-H】図11A図11Hは、NCFエネルギー障壁の乗り越えを避けるために、1つの部品の動きが他の部品の動きを強制する機構の例を示している。図11A及び図11Bはカム状連結を図示し、第1部品は板を有し、板は第1部品が動かされるときに第2部品の動きを強制し、そのような動きは第1部品に関連する第2部品の最低エネルギー位置に機構を維持する。図11Cは、部品間で類似方向の動きを提供するために、ピンとスロットを採用する従来の機構を示す図である。図11D図11Gは、機械式データストレージ及び読取機構を示す図である。データリボンがビットを符号化し、垂直リーダがそのビットを読み取る。ビットの読み取りは、図11A及び図11Bに示される部品の動きと同様の動きを引き起こし、ビットリーダが作動された後のデータリボンの位置が、そのリーダに関連付けられたビットの値を決定する。図11Hは、各リーダに対して2つのビット値を提供するための2つのデータリボンを有する類似の機構を示す。
図12A-F】図12A~12Dは、値を記憶するために採用することができる機械式ラッチを示している。このラッチはコピー要素を成形板と共に採用し、成形板は入力の値を表す位置にコピー要素を動かすことが可能であり、その後、コピー要素は、入力がリセットされる間、値を保持する位置にロック可能である。図12Eは、フリップフロップを形成するために一緒に接続された2つのラッチを示す図である。図12Fはグリッドメモリアレイの一部を示す図であり、ラッチとトランスミッションゲートアレイとから形成されこれらはメモリアドレスを選択するために接続されており、そのメモリアドレスにおいて値を書き込むか取り出すことができる。
図13A-E】図13A図13Eは、回転運動を生成又は伝達するためにNCFを採用する機構の例を示す。図13Aは、被駆動部品の並進運動に応答して螺旋状のねじ山を有する部品を回転させるためのカム方式を採用する回転モーターを示す。図13B図13Dは、単一の入力から複数の出力のうちの1つに回転運動を伝達する機構の2つの例を示す図である。図13Eはベルト駆動装置の一例を示す図であり、一方のプーリーから他方のプーリーへ回転運動を伝達するために、プーリー上の対応エッジとベルトとを採用する。
図14A-D】図14A図14Dは、成形板と1つ以上の引力要素との間の相互作用が、部品の動きを導くのに寄与する機構を示す図である。相対的な運動は、部品間の引力に打ち勝つ必要がないように、エッジによって制限される経路に沿って方向付けられる。
図15A-C】図15A図15Cは、内側部品と外側部品との間の自由な動きを制限するためにNCFを採用するガイドを示す図である。図15A及び図15Bでは、部品が互いに関して自由に回転することを可能にしながら、部品間の軸方向運動が制限される。図15Cは、回転が妨げられ、並進運動が許容されるガイドを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本願出願人はここに、Efficient and Manufacturable Mechanical Computing(Docket nos COMP-002-PCT and COMP-003-PCT)と題する、本出願人が並行して提出した出願を付記する。
【0012】
非結合又は非接触の力(この用語は互換的に使用される)には、ファンデルワールス(VDW)、ロンドン分散力、静電気力、電磁気力、及びカシミール効果によって生じる力などの力が含まれる。このような力はナノスケール及びより小さなマイクロスケールの機構において特に懸念されるものであり、VDWのような力は同等の大規模な機構では看取されない効果を生み出す可能性があり、部品を所望の方法で動かすためのエネルギー要件の増加などの悪影響を避けるために考慮されなければならない。同様に、ナノスケール及びより小さなマイクロスケールの機構では、NCFの活用により、単純な構造を使用して部品の相互作用を制御することができ、NCFの相互作用が、ある部品と別の部品の相対的な動きを制御する障壁や連結などの機械的構造に取って代わる。機械式デバイスでは、要素間のNCFを採用して、1つ以上の入力位置(被駆動要素を採用する場合、それを含む)に関連する出力位置を定義するように要素を相互作用させることができる。ナノスケールの機構に特別な利点を有する一方で、磁気引力又は静電引力など、より大きなスケールで動作するNCFを採用することができ、教育、研究、開発及び分析の目的でナノスケールの機構の動作をモデル化する際に特別な利点を有し得る。同様に、磁力や静電気もナノスケールデバイスで使用可能であり得るが、しかし、多くの場合、機構の適切な機能を保証するために、VDWの引力を考慮する必要がある。特定の原理及び/又は例に関して本明細書で使用されるNCF及びVDWは、ほとんどの場合、交換可能であると考えるべきである。
【0013】
なお、「非接触」は部品同士の接触がないことを意味するものではない。そのような接触が、ある場合もあれば無い場合もある。むしろ、「非接触」は、機構の所望の挙動を実現するために使用される力を指す。例えば、2つの部品が互いに接触し、互いにスライドしていても、その形状や動作経路により、VDWや磁界などのNCFによって、機構が所望の動作を実現可能となる。いずれか1つの例の部品が接触していても、機構が所望の動作をすることを可能にする力は、依然として非接触又は非結合力である。
【0014】
本明細書で教示されるいくつかの機構では、互いに関連して動く部品は、非接触力(NCF)の変化を著しく低減又は消滅させて所望の動きを収容するように設計される。低減された変化は、頻繁な動きに晒される機構において特に価値があり、部品間のNCFを増加及び減少させることは、そのような機構を採用するコンピュータシステムなどのデバイスを操作するのに必要なエネルギーを、大幅に増加させる可能性がある。
【0015】
幾つかの場合には、NCF変化の低減は、予想される運動範囲と同等の範囲に構成される表面を有する部品を設計することで達成可能である。典型的には、これは、ある部品の運動が、それが引き付けられる隣接部品の有効エッジ(エッジを使うことが便利である理由については本明細書の議論に従うが、必ずしも必須ではない)に近接したり、それを超えたりすることがないように保証する。例えば、第1部品が第2部品に近接する大きな平坦面を有する場合、それらの相対運動が第2部品を第1部品の表面の有効エッジを越えて動かさない限り、NCFに実質的変化はない筈である。幾つかの場合には、回転軸に関する対称性を利用可能である。例えば、接触又は近接する2つの部品が互いに回転する場合、少なくとも一方の部品の近接部分が回転軸に関して対称である限り、部品間のNCFは部品の回転に伴って大きく変化することはないであろう。
【0016】
有効エッジは、物理的なエッジであるかどうかにかかわらず、典型的に、部品間のNCFの影響によって変化が生じる場所であることに留意すべきである。例えば、VDWの影響を受ける小さな部品の場合、VDWは一般的にエッジに近づくにつれて減少するので、有効エッジは実際には物理エッジの数オングストローム内側に存在し得る。ファンデルワールス引力が懸念される主要NCFである多くの場合、エッジは物理エッジから約1nm又はそれ以下の距離を含むと考えることができる。VDWは距離の増加とともに急速に先細りになるため、部品が近ければVDWが変化するような可動部品は、少なくとも約2~3nmは離しておく必要がある。有意とみなされる特定の距離は特定の状況に依存して決まり、当該特定の状況は、VDW引力に対して部品を動かすための作業という形でどれだけのエネルギー消費を許容できるかを含む。別の例では、部品は、表面の下にある下部構造にエッジを有してもよく、当該表面はそのようなエッジを超えて伸張し、下にあるエッジを有する当該面の上又は近傍にある部品のNCFが、たとえ当該面が有効エッジを超えて続いていても、当該面に有効エッジを作り出す。典型的には、有効エッジは、ある部品の上の位置であって、そのような位置を越えて他の部品を動かすと、部品間の既存のNCFの程度を乗り越えるための仕事を必要とするであろう場所のことである。エッジはまた、異種材料の領域の間でそれらの引力が著しく異なる場合に発生し得る。
【0017】
幾つかの場合には、1つ以上のスペーサ要素を隣接する部品の間に介在させて、本明細書に記載の技術の1つを実施するための伸張面を提供することが可能である。例えば、2つの部品が互いに関して回転する必要があり、それらが回転軸の周りで対称でない場合、1つ以上の対称的なスペーサ要素が部品間に介在され得る(例えば、シャフト上のワッシャーに似ているが、分子スケールである)。同様に、並進要素の場合、並進軸に伸張するスペーサを採用し得るであろう。このような場合、スペーサの有効性は、それが可動部品間のNCFを分離するのに十分な厚さであることに依存する。幾つかの場合には、部品の動きに伴うNCFの変化を著しく減少させるが効果的に除去することはできないスペーサでも、有益であり得る。
【0018】
いくつかの場合には、流体(気体や液体を含む)を使用して、VDWを相殺することができる。例えば、2つの部品が互いに近接する場合、真空中では部品間に引力が発生するはずである。しかし、この機構に流体を加えると、流体もVDWによって部品に引き寄せられることになる。流体が部品同士の引力よりも強く引き寄せられれば、流体は部品間の空間に引き込まれ、流体圧がVDWを相殺することになる。幾つかの場合には、流体圧が部品間のVDWを上回り、実際に部品を互いに遠ざけることになる(Pitaevskii, L. (2010). "On the problem of van der Waals forces in dielectric media." URL: https://arxiv.org/pdf/1011.5591.pdf)。これにより、実際にはVDWは常に引力であるにもかかわらず、マイナスのNCF又は反発性のNCFという効果がもたらされ得る。
【0019】
上述の技術は、部品が互いに関連して動く際に部品のNCFに打ち勝つために必要な仕事を減らすためのものであり、これらは適切な場合に組み合わせ可能である。例えば、機構は、有効エッジを越えて部品を押すことを避けるために、少なくとも可動範囲と同程度のひろがりを持つ表面を有する部品及び/又はNCFに関して対称な部品を組み合わせたり、部品を分離するスペーサを組合せたり、及び/又は流体を使用して部品間のVDW引力を相殺するか又は部品を互いから遠ざけたりしてもよい。
【0020】
前述の例では、NCFが存在しないわけではなく、また、必ずしも減少するわけでもないことに留意されたい。実際、部品は接触していることがあり、そこではVDW引力を原因としてNCFが最も強く働く。接触している部品は、VDWエネルギー井戸の底にある。しかし、両者の相対運動がそれらをVDWエネルギー井戸から持ち上げようとしない限り、VDWに対して仕事は行われない。このように、機構の動作中にVDWが変化しないことを、ここでは「VDWニュートラル」と呼び、同じコンセプトが他のNCFにも当てはまる。抗力はまだ存在する可能性があるが、NCFに対して行われる仕事を無くすことで、実質的なエネルギー節約が可能となる。多くの場合、NCFの変化に要する仕事が機構の適切な動作にとって実質的ではない程度に小さくなるように、部品を設計することが目的である。そのような実質性は、機構の意図する目的や、どの程度のエネルギー損失を許容できるかといった設計基準に応じて決まるであろう。多くの場合、必要な仕事が"非実質的"というのは、機構の意図した動作を著しく損なわない程度の仕事として定義される。一般的なガイドラインの一例として、部品を動かすために必要なNCFエネルギーが、(摩擦や抗力などによる)その動きの全エネルギー散逸の約50%未満である場合は、「実質的ではない」とみなしてもよい。エネルギー損失が特に懸念されるような幾つかの場合、NCFの「実質的」変化は、機構の構成要素が動くことによるエネルギー散逸の20%を超えないか、10%を超えないか、又は5%を超えないとみなされ得る。場合によっては、「非実質的な」仕事は力によって定義されてもよく、ナノスケールの機構では、NCFに対して部品を動かすために加えられる「非実質的な」力は、1nN未満、100pN未満、又は10pN未満であってもよい。
【0021】
ある部品を隣接する部品の有効エッジに近接させるか又はそれを越えるように強制することで生じる作動抵抗(部品間のNCFに打ち勝つためのエネルギーが必要)を、ある部品の別の部品に対する動きを制御するために採用可能である。
【0022】
本明細書で教示されるいくつかの機構では、1つの部品の位置がNCFを介して別の部品の動きを制御可能又は制限可能であり、且つそれらの間のNCFに変化を生じさせないよう、これらの部品を設計可能である(他の機構では、結果的に生ずる部品の動きは、部品間のNCFの変化に対する最小固さ抵抗によって決まる場合があることに留意されたい)。これは、VDWニュートラル設計のもう一つの側面と考えることができる。例えば回転軸を中心とした対称性に起因して動きがNCFの変化を引き起こさない機構とは対照的に、制御を採用する機構は、そのようなVDWニュートラル設計の特徴を特に回避することができる。部品形状によってVDWニュートラルになるよりもむしろ、VDW相互作用が部品の制御と論理に使用される場合に、VDWニュートラル性を維持するために部品を強制的に動かすことが可能(又は動きを阻止可能)である。つまり、設計は依然としてVDWニュートラルに行われる可能性はあるが、VDWニュートラル性を達成する方法は、部品の形状というよりもむしろ、1つ以上の他の部品に反応する1つ以上の部品の動き(これは一般的に、部品をエネルギー井戸の底に維持する)によるものであり得る。
【0023】
例えば、第1部品は、有効エッジで囲まれた活性面(即ち、NCF引力の対象となる表面)を有するように形成可能である。このとき、活性面に引き付けられる係合要素を有する第2部品は、その可動範囲が第1部品のエッジによって制限されるが、なぜなら、エッジを越えて係合要素を動かすには、VDW力の少なくとも一部に打ち勝つ必要があるからである(前述のように、「エッジ」とは、しばしば実際の境界に近い領域を指し、エッジが存在すると部品の間のVDWに大きな影響を及ぼす)。このように、第1部品の位置が、第2部品の位置を制御したりその可動範囲を制限したりすることが可能である(このような力は双方向に働くため、逆もまた成り立つ)。
【0024】
例えば幾つかの場合、第1部品のエッジは、第2部品の動きを阻止するように配置され得る。幾つかの場合、第1部品のエッジは、第2部品の動きを引き起こすように配置され、効果的に第2部品は、VDW引力を通して第1部品と一緒に引っ張られるように配置される。幾つかの場合、第1部品のエッジは、第2部品の自由な動きを制限するように配置され得る。幾つかのそのような場合、別の機構(即ち、クロック信号又は入力信号、典型的には「被駆動要素」の運動を介して加えられる)を介して第2部品に力が加えられると、第2部品は、それが自由に動ける場合には動く。しかし、第1部品が第2部品の動きを制限するように配置され、第1部品と第2部品の間で乗り越えなければならないNCFが、例えばクロック信号や入力信号によって加えられる力よりも固い場合、第2部品は動かないことになる。このようにして、スイッチや論理回路を作製できる。多くの場合、第1部品は、非活性位置(第2部品の動きに影響を与えない)又は活性位置(第2部品の動きに影響を与える)のいずれかに選択的に配置可能である。同様に、多くの機構は、部品間のNCF相互作用により別の部品の動きに応じて1つの部品の動きが生じる活性動作状態と、別の部品の動きなしに1つの要素の動きが収容される非活性動作状態とに選択的に設定可能である。このような機構は、1つ以上の要素の自由な動きの制約を決定するために考慮することもでき、このような制約は、1つの要素の動きが、その動きが別の部品に伝達されることなく収容されることができるかどうかを決定する。部品の動きが被駆動要素の動きに応答するものである場合、そのような被駆動要素は、機構を構築するために以前に動かされた他の1つの入力に加えて、入力として考慮され得る。
【0025】
選択的に動きを伝達又は非伝達するこのような仕組みを用いる機構は、論理ゲート、メモリ構造、及び機械式又は電気機械式コンピューティングシステムの追加コンポーネントを提供するようにアレンジされることができ、そこでは1つ以上の出力値が1つ以上の入力値によって定義される。加算器、シフトレジスタなどの高次構造は、(電子論理ゲートを組み合わせて高次構造を形成する方法に類似した方法で)論理ゲートから形成可能であるか、又は、他の部品の位置に基づいて部品の動きを管理するためのNCF相互作用を使用して、1つ以上の入力値に基づいて1つ以上の出力値を得るための本明細書に教示されるパラダイムを用いてより直接に形成可能である。
【0026】
幾つかの場合、動くか動かないかではなくむしろ、何れにしても部品は動くが、他の部品とのNCF相互作用に応じて異なる動き方をする。例えば、上皿秤に似た機構は、2本のクロスバーの交点にロータリージョイントがあるだけの"T"形状をしていることがある。T字の縦棒を押し上げ、横棒の片側を固定化すると、縦棒の上昇に伴ってもう片側も上昇する。このようなバランス機構の片側又はもう片側を固定化することは、NCF相互作用によって行うことができる。左側をNCFで固定すると「T」が押し上げられると右側が上昇し、逆も成り立つ。この単純なメカニズムは、機械式ロジックやデータルーティングを含むデバイスの基礎として機能することができる。このような「ロック&バランス」方式(ただし、部品間のNCF相互作用を介してよりもむしろ、機械式リンク及び/又はケーブルを介して実装される)を使用する論理及びコンピューティング機構の例は、米国特許10,481,866、10,664,233、10,949,166、及び米国公開2021/0149630に教示されている。上述したような動きあり/動きなしの場合と同様の方法で、このような動き制御は、論理ゲート、メモリセル、加算器、シフトレジスタなどの論理構造を構築するために採用され得るであろうし、そこでは1つ以上の出力値が1つ以上の入力値によって定義される。
【0027】
部品間のVDWの強さについて述べる場合、NCF曲線の形状にかかわらず、NCFの大きさ(文脈に応じて、距離で平均化され得る)を指すことに留意されたい。仕事=力×距離であるため、仕事を計算する上で強さは重要である。一方、「固さ」は、距離に対するVDWの大きさの変化を指す。言い換えると、NCF曲線の傾きである。短い距離でVDWの変化が大きければ、固い力ということである。同じVDWの変化でも距離が長いものであれば、同じ量の仕事を要するが、それほど固くはない。これは重要な区別であり、なぜなら、2つの力が互いに対向する場合、最も強い力ではなく、むしろ最も固い力が優先されるからである。多くの機構では、機構の部品間でのNCFの変化を最小にするための部品の動きは、NCFの固さの変化が最も小さくなるような動きである。
【0028】
エネルギー井戸の底(又は少なくとも井戸の下側)から始動した部品が、エネルギー井戸の上方に部分的に移動した場合、部品を井戸の下方に引き戻すように作用する復元力が生まれる。この挙動は、不要な仕事をする機構を避けるために本明細書では使用されないことが多いが、バネとして利用することも可能である。例えば、カーボンナノチューブが入れ子になっている場合、NCFはナノチューブを最大に重なる位置に引き寄せようとする。重なりがより少ない位置へとナノチューブの1つが引き寄せられると、NCFの引力により復元力が生じる。このようなバネは、機構の部品にバイアスを与えたり、柔軟な部品(グラフェンのリボンやテープなど)に張力を与えたり、同様の機能を持たせるために使用可能である。入れ子にしたCNTは、一定力のバネを提供する方法の一例である。しかし、部品がエネルギー井戸を上るように強制される他の機構も、バネ効果を提供するために採用可能であろう。本明細書で教示する機構の多くでは、1つ以上の部品に対し利用可能な動きに制限を加えると、別の部品を押してNCFエネルギー井戸に押し付けることになる。
【0029】
本明細書で述べる設計は、マイクロ及びナノスケールの機構においてファンデルワールスに起因する問題を回避するために特に有用なものであり、VDWはしばしば例示的な力として使用されるものの、同じ原理が組み込まれるが例えば電磁力又は静電力を採用する、より大規模な機構もまた有用であり得る。
【0030】
より大規模の機構は、少なくとも設計、訓練及び教育目的のために有用なものであり、そのような力がマイクロスケール及びナノスケールの機構においてどのように有利に扱われ得るかをより完全に理解することを容易にする。静電気や磁力などの力を用いるこのような大規模の機構は、従来の技術で容易に作製でき、複雑な観察装置を採用しなくても試験や分析が可能な機構を用いて、NCFの効果や使用方法を研究するのに有益である。VDWが言及される場合、そのような力が所定の機構に適切であろう場合、本明細書で既に言及されたような他の力もカバーするものと想定される。
【0031】
ここで提示する例では、部品表面のエッジについて話すことが多い。これは、教訓的に、隣接する部品の運動限界を示す明確な方法であるためである。しかし、NCFは典型的には固体材料を伝搬するため、平面の下にある構造が均一でない場合、均一な平面の中央でも力が変化する可能性がある。例えば、中央に穴の開いたダイヤモンドイド立方体を作り、その片面に立方体の面と同じ大きさのグラフェンシートを敷いたものと仮定すると、その面はグラフェンの張り板によって均一な立体に見える。しかし、近くの部品に対しては、均一な固体のようには作用しない。グラフェンは、ダイヤモンドと重なっている部分ではNCFが高くなり、穴と重なっている部分では力が弱くなる。これは、部品がグラフェンを含まないモノリシックなダイヤモンドであったとしても同じことが言えるだろう。例えば、立方体の穴が表面まで伸張せず、表面から1単位セル離れたところで止まっている場合を考えてみる。表面は均一に見える。しかし、表面における幾つかの部位の下側にはダイヤモンドが多く存在し、表面における別の部位の下側には空洞が存在する。それに応じて、VDWも異なる。このような概念は、磁場を使って簡単に説明できる。例として、紙、木、プラスチックなどの下に磁石を置き、その上に磁性部品を置くと、明らかに、少なくとも材料の厚みに対して十分な強度を持つ磁石では、磁性部品は磁界の影響を受けることがわかる。実際、磁石が十分に強力であれば、介在するシートや層は鉄系金属であることさえある。したがって、部品表面にある物理的なエッジは、典型的には境界として機能する必要はない。むしろ、多くの場合、重要なのは、力が所望のとおりに変化することであり、エッジはこれを達成する便利な方法であるが、所望の機能を提供するためにNCFを管理するための他の技術が本明細書の教示から構築可能である。
【0032】
本明細書ではNCF引力に着目しているが、その原理は反発力にも拡張されることが明らかであり、そのような反発力は、電磁力又は静電気力によって達成されるようなものであり、且つ大きなVDWを受けるのに十分に小さな機構において気体又は液体の適切な組み合わせで模倣されるようなものである。真空以外で部品が分離された場合、VDWが部品間の反発力をもたらす能力は確立されている。Pitaevskii, L. (2010). "On the problem of van der Waals forces in dielectric media."(URL: https://arxiv.org/pdf/1011.5591.pdf)を参照されたい。
【0033】
図1A図1Dは、部品が動く際にNCFが大きく変化するのを回避するように部品を構成する方法の一例を示す。この場合、図1A及び図1Bに示す先行技術のヒンジ100は第1部品102及び第2部品104を有し、これらはピボットジョイント106で共に接続されてピボット運動可能である。各部品(102、104)は、ピボットジョイント106を囲むベース部分108と、ピボットジョイント106から間隔を隔てた遠位部分110を有する。このような部品(102、104)は、低エネルギー計算能力を提供するための米国特許10,481,866号及び関連登録特許/関連特許出願に教示されているような、機械式リンクロジック機構の構成要素であり得る。部品(102、104)が互いに関してピボット運動すると、遠位部分110の間の間隔Sが変化する。部品(102、104)が十分に小さい場合、ファンデルワールス引力は十分な大きさを有し、その十分な大きさは部品(102、104)の動きに対する抵抗を生じ得る大きさであり、その抵抗はヒンジ100を図1Aに示す位置から図1Bに示す位置に戻すために遠位部分110を一緒に引っ張るようなものである。部品(102、104)を関連させて動かすときにそのような抵抗に打ち勝つのに要する消費エネルギーは、省エネルギー消費で計算能力を提供するためにリンク及びピボットジョイントを使用する幾つかの利点を無効にし得る。
【0034】
NCFのそのような変化を著しく低減するために、図1C及び図1Dは、再び、ピボットジョイント126でピボット運動可能に接続された第1部品122及び第2部品124を有するヒンジ120を図示する。しかしヒンジ120では、部品122のベース部分128が伸張した円形パッド128として形成されており、その結果、部品(122、124)の遠位部分130は、ファンデルワールスの変化がデバイス操作に重要でない程の量に減少するように、ピボットジョイント126から十分に遠くに離間される。図1Dに示すように、部品が互いに対して最小角度にピボット運動される場合でさえ、遠位領域130間の最小間隔Sは、VDW引力が僅かとなる程度に十分に大きい。パッド128はピボットジョイント126の近傍で部品124に対称面を提供するので、距離変化はピボットジョイント126から離れて、NCF引力が大幅に減少するのに十分な大きさの分離がある位置へと効果的に移動させられる。
【0035】
図1E図1Jは、NCFの変化を生じさせることなく互いに関連して可動である部品の例を示している。図1Eにおいて、第1部品130は、第2部品132に対して動く。図示の第1部品130は長方形であり、したがって、X軸134又はY軸136のいずれかに沿って連続したプロファイルを有する。しかし、第2部品132は台形である。第1部品130がY軸136に沿って動く場合、第2部品132に重なる領域138(第2部品132に接触又は近接)は形状を変えず(この動き方向は、一定のプロファイルを有する第1部品130の軸に沿っているので)、部品(130、132)間の力は(第1部品130の端が第2部品132に近接するほど遠くまで第1部品130が動かない限りは)変化しない。しかし、第1部品130がX軸134に沿って動かされる場合、第2部品132の形状が一定ではない軸に沿った動きであるため、重複領域138が変化する。第1部品130がマイナスX方向に後退して左側に移動するにつれて重複領域は小さくなり、プラスX方向に前進して右側に移動するにつれて大きくなる。この場合、部品(130、132)間のNCFは重複領域138の変化に伴って変化するので、その変化する力に打ち勝つための仕事が必要となる。行われる仕事が負になることもあるが、これは、部品が位置エネルギーの変化を保存して戻すシステムに結合されていない限り、例えば往復運動システムにおけるエネルギーの浪費の問題を解決しない。このようなシステムは、カウンターバランス(反力やバネを含む)のように確かに実現可能であるが、機構の複雑さが増す。
【0036】
これに対して、図1F及び図1Gは、外形が長方形の第2部品140を採用する場合を示している。図1Fでは、部品(130、140)は直交配置され、X軸134又はY軸136のいずれかに沿った動きは、部品形状が一定である軸上で一方の部品(130、140)を他方の部品と関連させて単に動かすので、重なり領域142には変化が生じない。図1Gは同様のケースを示すが、部品(130、140)が互いに関して、また軸(134、136)に対して傾いている場合である。しかしながら、軸(134、136)に沿った動きが部品(130、140)とは整列していないにもかかわらず、部品(130、140)のプロファイル変化は大きさではなく位置のみが変化し、重複領域144は部品が移動すると再び一定となり、部品が軸(134、136)に沿って並進すると再びNCFは一定となる。
【0037】
図1Hは、第1部品146が第2部品140に沿って転がりながら移動する場合を示しており、転がり部品がその回転軸の周りに対称であると仮定すると、並進運動に加えて、動きを引き起こす回転運動(並進運動滑りの有無にかかわらずあり得る)も力の実質的変化なしに行うことができることを説明するものである。
【0038】
図1Iは、より実用的な用途を模式的に示しており、互いに平行に伸張する脚部(154、156)を有する第1部品150と第2部品152である。このような平行部品は、機構に対する入力又は出力として使用され得るであろう。第1部品脚154は第2部品脚156よりかなり長く、脚(154、156)の方向へと互いに関連させて部品を並進運動させても、横断する距離が十分に短くて第2部品脚156が第1部品脚154の端に接近しない場合には、NCFは実質的に変化しない。図1Jは、異なるアプローチを示しており、部品170及び172は、長さが等しい脚部(174、176)を有し、何れかの部品(170、172)が他方の部品と関連してする動きは、重なりが減少する位置へと脚部(174、176)を動かす。真空中(一例であり、同様の効果は多くの流体環境でも起こり得る)では、このような重なりの減少は、部品(170、172)を最大重なり位置まで引き寄せるNCF引力に抗してそれらの部品を動かすことが必要となるだろう。しかしながら、この場合、その部品(170、172)は流体180で満たされた密閉環境178に存在しており、流体180は部品(170、172)が互いに有するものよりも大きな引力を有し、脚(174、176)の間の流体圧力が重なりの変化を相殺する。流体170は、脚部(174、176)の重なりの変化に起因するNCFの変化を低減するが、流体内で部品(170、172)を動かすことによって生じる摩擦/抗力を犠牲にしてそうなっている可能性があることに、留意しなければならない。しかし、流体の使用は他の利点を提供し得るものであり、例えば真空中で機構を動作させるのに比べて機構からの熱伝達を容易にするなどの利点である。
【0039】
図2A及び図2Bは機構200を示し、機構の部品が互いに関連して動く際にNCFの実質的変化を回避するための伸張接触面の使用の一例を示す。機構200は、被駆動要素204と出力206との間に介在する位置(入力値(0,0)について図2A参照)から離すように力伝達要素202を変位させるためにNCFに打ち勝つ必要性を回避しながら、被駆動要素204から出力206に動きを伝達するように、NORロジック関数を提供可能である。力伝達要素202は、それが被駆動要素204の運動伝達のために介在しない多数の位置に変位可能である(入力値(0、1)について図2B参照;これらは、出力206を動かすことなく被駆動要素204の運動を収容することができるので、運動収容位置とみなし得る)。力伝達要素202の位置は、2つの入力208によって決定され、各入力は、力伝達要素202が取り付けられているヒンジ210の一方の側を動かすように作用する。力伝達要素202がその運動伝達位置へと動いたりそこから離脱したりする際にNCFが変化するのを避けるために、被駆動要素204及び出力206にはトラック要素212が設けられている。ガイド214内での被駆動要素204及び出力206の回転により、入力208の一方又は両方が変位したときに、入力(複数可)208の何れが動かされたかにかかわらず、可動体202の動作経路に沿ってトラック要素212が差し向けられる。トラック要素212は力伝達要素202の運動経路に沿ってのびるので、力伝達要素202とトラック要素212との間のNCFは一定に保たれる。これにより、被駆動要素204及び出力206から力伝達要素202を引き離すためにNCFの力に打ち勝たなければならない、という状況を回避できる。
【0040】
本開示の図面は、例示のために要素の物理的エッジを示しているが、NCFは、有効エッジを提供する基礎構造がある場合、実際のエッジではなく、表面の有効エッジに反応し得る。例として、図3A図3Cはリンク体300を例示しており、第1部品302及び第2部品304が相互作用し、第1部品302が連続表面306で形成されるが、図3Aの部分分解図に示すように、表面306のわずかに下に位置する不連続部308を有する。不連続部308はエッジ310によって境界付けられており、エッジ310は、上に重なった表面306が連続的であるにもかかわらず、第1部品302の周辺領域と比較して減少したNCFをもたらし、有効なエッジを提供する。第2部品304は係合要素として機能するピン312を有し、この構成では、図3Bに示すように、NCFを変えることなく不連続部308のエッジ310に平行に移動可能であるが、図3Cに示すようにエッジ310に対して動くと、幾らかのNCFに打ち勝つ必要があり、したがって、かかる抵抗の固さが、ピン312をエッジ310に対抗して又はこれを越えて押し出そうとする動力よりも大きい場合には、その動きが阻止され得る。図3B及び図3Cは、動きに対するエッジの効果を論じる場合に、動きの方向に関連するエッジの位置がエッジの効果を決定することを示す。
【0041】
図3Dは、有効なエッジを提供するための1つの代替アプローチを採用するリンク体350を示す。リンク体350は第1部品352を備え、第1部品352は第1材料354で構成され第2材料356の挿入領域が設けられる。これらの材料(354、356)は、著しく異なる原子分極率を有するように選択され、したがって、VDW引力の程度も異なる。例として、第1材料354はシリコンのブロック(原子分極率37.3±7)とし得るであろうし、第2材料356は炭素のブロック(ダイヤモンド又はロンズデーライト)(原子分極率11.3±2)とし得るであろう。第2材料356は、著しく低い原子分極率を有し、ピン312に対してはるかに弱いVDW引力を及ぼし、したがって、材料(354、356)間の境界によって形成された有効エッジ358を越えてピン312を押すことは、ピン312を引力が減少する位置へと動かす必要があるので、ピン312をエネルギー井戸の上側に動かすことが必要となる。
【0042】
幾つかの状況では、ある位置ではNCFを大きく変化させることなく第2部品の動きを収容できるが異なる位置ではそのような動きを阻止又は方向転換するように、第2部品に関連して位置決めされることが可能な第1部品を採用することが有益な場合がある。このような機構は、典型的には1つ以上の入力に応答して、機構の利用可能な自由運動に制約を設けると考えることができ、このような制約は、効果(NCFエネルギー井戸を乗り越える必要があり、したがって動きを潜在的に阻止するか或いは動きを1つ以上の追加の要素に伝えるなど)を引き起こすことなく要素の運動を収容可能かどうかを決定する。このような条件付き動作の1つの応用例として、機械式コンピューティング用途のロックがあり、第1部品は、第2部品の動きを阻止するか又は阻止しないように配置される。このようなロックは、Drexlerによって教示されたロッドロジック及び米国特許第10,481,866号、第10,664,233号、第10,949,166号、及び米国公開第2021/0149630号に示されたケーブルロジックに見られるが、しかしながらナノスケールのアプリケーションで実装する場合、そのようなロックは、阻止要素を引き離すべくVDW引力に打ち勝つために大きなエネルギーを要することがある。
【0043】
図4A及び図4BはNCFロックとして機能する機構400の一例を示しており、NCFロックは要素を接触状態に保持するものであり、動きの阻止を解除するために要素を引き離す必要がないので摩耗及びエネルギー散逸が低減される。図示の機構400は、第1部品402と第2部品404の間で作動する。第1部品402は、切り抜き408(これが有効エッジを有する有効面を提供する)を有する板406を備えており、第2部品404は、係合要素として機能する引力要素410を備えている(板と引力要素との位置を逆にし、板を第2部品にして引力要素を第1部品にすることができることを理解されたい)。より大規模なデバイスの場合、板406を強磁性材料で形成可能であり、引力要素410を磁石により提供可能である。ロックが分子スケールのものである場合、板406及び引力要素410は、磁気、静電気力、VDW、又は本明細書で議論するような他の適切なNCFを介して機能し得る。相対的な力によっては、引力要素410は、板406と接触し得るであろうし、或いは単に板406に対して間隔を置いて近接し得るであろう。図4Aに示すように第1部品402がアンロック位置にあるとき、板406が第2部品404に対して位置決めされて、板406において切り抜き408を有しない部位に並ぶように引力要素410が配置される。そのような位置では、(機械式クロック信号に応答するような形で)第2部品404を動かすと、単に引力要素410が板に沿って動きし、それらの間のNCFは一定のままなので、(板406と引力要素410とが接触している場合には)第2部品404の動きに対する唯一の抵抗は摩擦によって生じる。これは、第1部品402の「非活性位置」、又は機構400の「非活性動作状態」若しくは「動作収容形態」と考えることができる。対照的に、第1部品402がそのロック位置にあるとき(図4B参照)、第2部品404の動きが切り抜き408で形成されたエッジに隣接して引力要素410を動かすように、板406を位置決めする。切り抜き408には引力がないので、第2部品404のそのような動きは、引力要素がエッジに接触し且つエッジを越えるように動かすために引力要素410と板406との間のNCFに打ち勝つ仕事を必要とし、したがって、この位置にある第1部品402は第2部品404の動きに対して抵抗力を生じさせる。第2部品404に加えられる駆動力が、抵抗力よりもより低い固さである場合、第2部品404は、動かないように効果的に阻止される。これは、第1部品402の「活性位置」、又は機構400の「活性動作状態」若しくは「動作阻止形態」と考えることができる。板406は、第1部品402の位置(これはデータ入力と考えられ得る)に基づいて、第2部品404の許容運動を決定する制御素子と考えられ得る。部品(402、404)の機能は逆にもなり得ることに留意する必要がある。第1部品402が図4Aに示す下方位置にあるときに第2部品404を右方向に動かすと、第1部品402の上方への動きを阻止する位置に引力要素410が置かれることとなり、このような動きは、切り抜き408を引力要素404に抗して動かすことになるだろう。切り抜き408の有するエッジが、被駆動要素404の動きの経路に垂直であることも注目される(X軸412によって表される)。図4Bに示されるように、第1部品402が持ち上げられると、被駆動要素404を動かそうとして加えられる力は、切り抜き408のエッジに垂直に向けられ、第1部品402を動かすように作用するであろう力の垂直成分(Y軸414に沿って並進)を一切生じない。これとは対照的に、もし仮に切り抜き408のエッジが傾斜していた場合、そのような傾斜は、第1部品402において垂直方向の力を発生させるランプ又はカムとして作用する傾向があるだろう(傾斜エッジから生じるそのようなランプ又はカム作用の例は、図11A~12Fで後述する)。
【0044】
ロック機構400は平面板402を採用しているが、代替の構成も採用可能である。特に有用な形状の1つは、例えば、CNT、ダイヤモンドロッド又は類似の円筒形要素を採用することができるナノスケールの機構に対して、円筒形要素を採用することである。多くの場合、平面要素を有する機構は、軸を中心に転がして円筒を形成する1つ以上の類似の要素を採用するように変形可能であり、円筒要素を有する機構は、平面要素を提供するために1つ以上の円筒要素を平坦化することで変形可能である。また、球形、プリズム形などの他の形状も、特定の用途に合うように採用することができる。そのような変形の一例として、図4Cは、機構400と機能的に類似しているが、第1部品402'が切り抜き408'を有するシリンダ406'で形成されている機構400'を示している。その機能は機構400と本質的に同様であるが、ただし、第1部品402'が、切り抜き408'を第2部品404に関連して動かすために並進運動するのではなく、X軸412を中心に回転することが異なる。図4Dは機構400''を示し、第1部品402''が再び切り抜き408''を有するシリンダ406''を有する。しかし、この場合、シリンダ406''はX軸412ではなくY軸414に関して対称であり、第1部品402''の動きはY軸414を中心とする回転である(第2部品404が動かされるときに引力要素410とシリンダ406''の間の距離を変える影響を低減するために、シリンダを図示よりも大きな直径で作製し得ることに留意されたい)。この場合、第2部品404を動かすために加えられる力は、シリンダ406''の接線方向に加えられ、したがって、第1部品402''の回転運動と同じ方向に作用する。この場合、第2部品404の動きに対する効果的な阻止機能を第1部品402''が提供可能となるために、第1部品402''に何らかの力が加わっていなければならず、第2部品404を後方に動かすように作用するそのような力を防ぐために、第1部品402''及び/又は第2部品404の動きを制限する追加の構造が必要であり得る。このような「後退」力は、複数の機構を採用するシステムにおいて蓄積される可能性があり、したがって、このような力を回避するように、及び/又は複数の機構にわたるその伝播を阻止するように機構を設計することが頻繁に望まれる。阻止要素の利用可能な動きとそれらが阻止している動きとが垂直になるように阻止要素を配置することは、そのような力を回避するための1つの一般的なアプローチである。
【0045】
図4Eは、ロック機構400と同様に動作するロック機構430を示すが、第1部品432が、その上に取り付けられた板434の位置を変えるために、並進運動するのではなく回転し、再び第2部品404の後退力に晒され得る。板434は切り抜き436を有しており、切り抜き436は、引力要素410の運動経路に入らないか(仮想線参照)又は当該運動経路に入る(図参照)ように配置される。しかしながら、第2部品404が動く方向は第1部品432の回転に対して接線方向であるため、第2部品404の動きを阻止するために第1部品432に加えられる何らかの反力が必要となり、そのような力は第2部品404に印加される後退力をもたらすことがある。示された特定のタイプの機構においてそのような後退力を防止するための1つのアプローチは、第2部品404の動きがもはや接線方向を向かないように、構成部品を再配置することである。図4Fは機構430'を示し、ここでは、第2部品404の動きが第1部品430'の回転する軸438を通じて導かれるように、板434'を有する第1部品432'が第2部品404と関連して位置決めされるようになっている。引力要素410により第1部品432'に加わる力が、第1部品432'にトルクを発生させるような偏心した力を生じさせないように、切り抜き436'が構成されている。
【0046】
図4Gは、上記のロックの選択的阻止機能を利用したより複雑な構造の一例であるテープ機構450を示す。このような機構は、Drexlerによって教示されたロッドロジックと同様に機能し、ロジック、メモリ及び同様のアプリケーションに使用され得る。テープ機構450は、一連の垂直テープ452、454、及び456と、一連の水平テープ458、460、及び462を有する。垂直テープ(452、454、456)にはそれぞれ垂直テープギャップ464が設けられ、水平テープ(458、460、462)には水平テープギャップ466が設けられる。ナノスケールの機構の場合、当該テープはグラフェンで形成され得る。
【0047】
図4Gは、垂直テープ(452、454、456)の非変位位置を示し、そこから1つ以上のテープが下方に変位し得る(どの一連のテープが他のテープの動きを阻止する役割を果たすか、及びそれらが変位する方向は、具体的な用途に依存しており、ここでは説明の目的のために方向を任意に選択している)。非変位時には、垂直テープ(452、454、456)は、それらのギャップ464が水平テープ460、462の水平テープギャップ466と整列するように配置される。水平テープ460又は462のいずれかの動きは、テープのギャップ(464、466)が整列する前に、そのギャップ466を垂直テープ(452、454、456)の僅かな太さの向こうにのみ動かすように働き、そこで水平テープ(460、462)の更なる動きは垂直テープ(452、454、456)の残りの太さによって阻止されるであろう。図示の特定の構成では、垂直テープ454が変位しない場合に最上部の水平テープ458の動きが阻止されるが、これは、垂直テープ454の持つオフセット垂直テープギャップ464'が、テープ454が下方に変位した場合にのみ、対応するギャップ466'と並んで整列するからである。もし仮にテープ454がそのように変位した場合、その残りのギャップ464はもはやテープ460、462のギャップ466とは整列せず、それ故に、垂直テープ454における中身のある部位を越えてギャップ466を動かすにはかなりのVDWエネルギー障壁に打ち勝つ必要があるので、テープ454はこの場合にはこれらのテープの動きを阻止するであろうことに留意されたい。このように、垂直及び/又は水平テープのギャップは、特定の垂直テープの変位を異なった組み合わせで用いて動きの阻止を所望に選択できるように構成可能である。垂直テープ456には代替ギャップ464''が図示されていて、これは、垂直テープ456の変位位置又は非変位位置の何れにおいても水平テープ460の動きを阻止しないように大きく設けられている。
【0048】
図5A及び図5BはNORゲート機構500を例示する断面図であり、NORゲート機構500は、エッジを選択的に位置決めする効果を利用して、エッジによって囲まれた表面に引き寄せられる要素の相対運動を妨げたり妨げなかったりする論理機構の一例を提供する。ゲート500は、NCFを介して接続要素506と相互作用する入力502及び504を有する。図示されたゲート500では、引力は磁気である。しかしながら、分子スケールのゲートでは、ファンデルワールス、又は他の任意の適切な非結合力が採用され得るとともに、いくつかのスケールでは静電気力が採用され得るであろう(図5C及び図5DはVDW引力が採用されたナノスケールのゲートを示す)。入力(502、504)は、各々、磁石508(引力要素として機能する)を備え、接続要素506は、強磁性金属などの磁気的に引きつけられる材料から形成され、エッジ512によって囲まれた凸部510(活性面を提供)を有する。各入力(502、504)が退いている(典型的には0を表す)とき、その磁石508は、それらの間のNCFが実質的に生じないように凸部510から距離を置いて位置し(図5A参照)、凸部510が磁石508からさらに離れる方向に動くことができる(これはその入力に対する非活性位置とみなすことが可能)。被駆動要素514は、接続要素506内でスライドするとともに、1つ以上の磁石516を備えており、磁石516は突出部510の内面(又は接続要素506上の他の構造)に引き付けられるように配置される。接続要素506が動きの抵抗を受けない限りは、機械式クロック信号などにより被駆動要素514が変位したときに、磁石516の接続要素506への引力によって被駆動要素514と一緒に接続要素506も動かされる(図5Aの仮想線参照)。出力518は、接続要素506に取り付けられ、典型的には、変位していないときに0の出力値を符号化し、変位したときに1の値を符号化すると考えられる。
【0049】
入力(502、504)の何れか又は両方が伸長("活性")位置に進められると(典型的には1の入力値を表す)、その磁石508は、凸部510と並んでエッジ512に近接して配置される(入力504に関して図5B参照)。この位置は接続要素506の動きに対してインピーダンスを作り出すが、何故なら、そのような動きが、磁石508をエッジ512に関連して動かすために磁石508と凸部510との間の引力に打ち勝つことを必要とするからである(ただし、この場合には、磁石508が所定の位置に留まる一方で、エッジ512が動くであろう)。所望の論理機能を提供するために、磁石508及び516の相対的な強さは、突出部510と並んで配置されたときの磁石508の何れかの引力が、接続要素506に対する磁石516の集合的な引力より強くなるように選択される。当該強さがそのように選択されると、入力(502、504)の何れもが伸長していない場合(即ち、入力が両方とも非活性位置にある場合)には、接続要素506は被駆動要素514と共に動くだけである。入力(502、504)の一方又は両方が伸長している場合(即ち活性位置にある場合)には、そのような伸長により磁石508の一方が凸部510と並べて配置され、より大きな引力によって、接続要素506が被駆動要素514とともに動くことが抑制される(即ち、運動に対するインピーダンスが接続要素506を動かそうとする力よりも大きく、運動への抵抗力が運動を強制する力よりも固い)。これらは、出力518を動かすことなく被駆動要素514を動かせるかどうかを決定するので、入力(502、504)の運動収容位置とみなすことが可能である。接続要素506は制御要素であるとみなすことが可能であり、当該制御要素は、2つの入力(502、504)の位置に基づいて、被駆動要素514(別の入力とみなすことが可能)の動きを出力518に選択的に伝達する。出力518が接続要素506に固定されている場合、ゲート500は4つの可動部品を必要とするだけである。機構500は2入力NORロジック関数を提供するように構成されているが、同様の機構を、ロックとして機能するように単一入力を用いて形成したり、多入力NORゲートを提供するために追加入力(放射状に配置する等)を用いて形成したりすることが可能であろう。もし仮に、両方の入力(502、504)が変位した場合にのみ接続要素の動きが阻止されるように磁石(508、516)の相対的な強さを選択した場合、出力518の応答はNAND関数となるであろう。
【0050】
図5C及び図5Dは、ゲート機構500と同様に動作する分子スケールNORゲート機構550の一例を示し、被駆動要素554に応答する出力552の動きを選択的に抑制するために引力NCFを採用する。しかしながら、この例では、NCFは構成部品間のファンデルワールス引力によって与えられる。図示された特定の例では、出力552は、15-15及び20-20カーボンナノチューブの組み合わせから形成され、出力拡大部556(20-20CNT)を有する略管状(15-15CNT)に形成されており、その一方で、被駆動要素554は、5-5及び10-10カーボンナノチューブの組み合わせから形成され、2つの被駆動要素狭窄部558(5-5CNT)を持つ略筒状(10-10CNT)を有し、この2つの被駆動要素狭窄部558に挟まれることで被駆動要素拡大部560が規定される。両構成要素(552、554)におけるサイズ間の接合は、カーボンナノチューブの構造を変更するために当技術分野で知られている方法で、炭素原子の他の六角形の配列に五角形及び七角形を挿入することによって形成可能である。出力552に対する被駆動要素拡大部560のVDW引力は、出力拡大部556において有効エッジを作り出すが、これは、被駆動要素拡大部560が出力拡大部556の中に動くためには被駆動要素拡大部と出力552との間の引力に打ち勝つ必要があり、出力拡大部556が被駆動要素拡大部560からさらに離れていてあまり引力を発揮していないからである。もし仮に、出力552の動きへの抵抗が無い場合、出力552は、変位時に被駆動要素554と共に動き(そのような動きは典型的には1の出力値を示し、動きがないことは0の出力値を示す)、被駆動要素拡大部560と出力552の間のVDW引力に打ち勝つための必要な仕事を生じないようにする。
【0051】
2つの入力562が設けられ、これらは被駆動要素554と同様に5-5及び10-10カーボンナノチューブで形成されている。各入力562は入力拡大部564(10-10CNT)で形成され、入力562の何れかを動かす(典型的には1の入力値を示すような変位)と、その入力562の入力拡大部564を出力拡大部556と並べるように作用する(上側の入力562について図5D参照)。拡大部(556、560、564)の構成は、入力562の一方又は両方がその入力拡大部564を出力拡大部556に直接対向させて配置されるときに、それらの間の引力が被駆動要素拡大部560と出力552との間の引力よりも固い変位抵抗を生み出し、その大きな抵抗が、被駆動要素554の動作時に出力552を所定の位置(出力値0)に拘束するように作用するようなものとすることができる。そのように拘束されない場合、被駆動要素554と出力552との間の引力は、出力552の変位時(出力値1)に被駆動要素554とともに出力552を動かす。この例に係るエッジ抑制の効果は、いずれかの要素に明確なエッジがなくても有効であることに留意されたい。拡大部(556、560、564)の何れもが、有効エッジを有する活性面を提供するとともに、そのような活性面と相互作用する係合要素としても機能するが、このような特徴を定義するために選択された基準枠に依存している。この例では単一の拡大部が採用されているが、一致した間隔を有する要素上の複数の拡大部が採用され得るとともに、これにより被駆動要素が出力に関連する1つ以上の安定位置を持つようになる。この例では2つの入力が採用されているが、単一の入力を採用する同様のデバイスにより図4A図4Fに示す機構(400、400'、400''、430、430')と同様のロック機能が提供され得るであろうし、或いは複数の入力が採用され得るであろう(出力の周りに放射状配置する等)。
【0052】
図6A図6Fは、エッジに引き寄せられる要素に対してのエッジの整列又は不整列に基づいて、被駆動要素の運動収容又はその運動妨害をするようにエッジを配置可能な機構を示す。図示された例では2つの入力が提供され、各入力は、被駆動要素の運動を収容するか妨害するかの何れかである。図6A図6Cは、円筒形の入力602及び604を有するロジック機構600を例示しており、入力602及び604は並進運動ではなく回転によって位置決めされる。各入力(602、604)は、伸長した入力タブ606、608を有する。被駆動タブ612を持つ円筒形の被駆動要素610が入力(602、604)の間に配置され、各入力は被駆動要素610に対して回転可能である。入力(602、604)及び被駆動要素は、カーボンナノチューブから形成され得るであろう。入力(602、604)は、図6A及び図6Bのように、入力タブ(606、608)が被駆動要素610の被駆動タブ612と整列するような角度で配置可能である。この配置は、各入力(602、604)の非変位位置又は非活性位置として指定され得るであろうし、入力値(0、0)を表す。このように配置されると、被駆動要素610の並進変位は、入力タブ(606、608)に沿って何れのエッジにも遭遇することなく被駆動タブ612を単にスライドさせるものとなり、引力の変化に打ち勝つ必要が生じないので、図6Aの初期位置から図6Bの変位位置まで、被駆動要素610が自由に変位可能となる。入力は、活性面とみなすことが可能であり、被駆動タブ612は、このような活性面の各々と相互作用する係合要素とみなすことが可能である。被駆動要素610には、出力が取り付けられ得るであろう。
【0053】
図6Cは、入力604が回転して入力タブ608と被駆動タブ612の位置がずれたときの機構600を示し、入力値(0、1)に対応する。この位置では、被駆動要素610の並進運動のためには、入力604のエッジ614を越えて被駆動タブ612を押すために引力に打ち勝つことが必要となり、その引力は被駆動要素610の並進運動に対して抵抗となる。これは、入力タブ608の活性位置と考えることができる。被駆動要素610の駆動力がこの抵抗力よりも、より低い固さである場合、被駆動要素610は変位しないように阻止される。入力602が変位してその入力タブ606と被駆動タブ612との位置がずれた場合にも、同様の阻止効果が発生する。両方の入力(602、604)が非変位である場合にのみ、被駆動要素610は変位する。要素(602、604、610)の非変位位置と変位位置とに0と1のそれぞれの出力値が割り当てられると、力が加えられたときの被駆動要素610の応答は、入力(602、604)のNOR論理関数を与える。このような応答は、被駆動要素610に取り付けられるか又は被駆動要素610の変位時にこれにより動かされる出力によって、符号化することが可能であろう。これに代えて、被駆動要素610によって入力(602、604)が変位させられた場合に入力(602、604)によって出力が並進運動するように、機構600が他の要素に接続されることも可能である。この場合、入力タブ(606、608)各々は、被駆動タブ612と整列可能となるか(従って非活性動作状態となり、被駆動要素610が変位しても、その入力タブに対応付けられた出力には伝達されない)、又はこれと不整列となる(従って活性動作状態となり、被駆動要素610が変位すると、非整合タブに対応付けられた出力も変位する)かのいずれかである。事実上、入力タブ(606、608)の各々の外形は、図4Cに示すロック機構400''におけるシリンダ406''及び切り抜き408''と同様の機能を提供し、(第2部品404と類似の)被駆動要素610の動きを収容するか又は収容しないかの何れかの役割をする。
【0054】
図6D図6Fはロジック機構650を示す図であり、図6A図6Cに示されたものと同様に動作するが、より大規模な機構で選択的阻止機能を提供するために、磁石及び強磁性材料を採用して構成要素間にNCFを提供する。機構650は再び2つの入力652及び654を有し、各々の入力は伸長タブ(656、658)を有し、当該タブ(656、658)の角度位置は被駆動要素660に対する回転によって決定されるものであり、被駆動要素660は、入力(652、654)の間に同心に存在し、それに対して並進的に変位することができる。図6Dに示すように、この場合の被駆動要素660は一組の引力要素662を有しており、各引力要素662は、タブ(656、658)が非変位位置にあるときにタブ(656、658)のうちの1つと整列するように配置される。この例では、引力要素662は磁石によって提供され、入力(652、654)は強磁性材料で形成される。図6Dに示されるように、タブ(656、658)がそれぞれ引力要素662の1つと整列するように両方の入力(652、654)が配置される場合、被駆動要素660が変位すると引力要素662がタブ(656、658)に沿って単にスライドし、引力の変化に打ち勝つ必要がない。図6E及び図6Fはそれぞれ、入力の一方(図6Eの652及び図6Fの654)が回転してそのタブ(656、658)を対応する引力要素662からずらした場合を図示しており、そのようにすることで、被駆動要素660が並進運動するには入力の一方(652、654)の端を越えて引力要素662を押し出すべく引力に打ち勝つことが必要となり、したがって当該引力は被駆動要素660の並進運動に対する抵抗となる。
【0055】
図7A及び図7Bはトランスミッションゲート機構700を例示し、被駆動要素704から出力706に対して動きの伝達又非伝達の何れかを行うために板702が採用される。板702は切り抜き708を有しており(従って板702は、切り抜き708で規定される有効エッジにより囲まれた活性面を提供する)、被駆動要素704は、板702に引き付けられる被駆動引力要素710を有する。出力706はまた、出力引力要素712を有する(従って引力要素710及び712は係合要素として機能し、板702によって提供される活性面と相互作用する)。再び、板702が強磁性材料で形成される場合、引力要素(710、712)は磁石によって提供され得るか、又はファンデルワールス引力が有効なナノスケール構造における他の材料であり得る(図7H及び図7I図8A、及び図8Bの例を参照)。板702は入力714に並進運動可能に取り付けられ、入力714は当該並進運動方向に対して垂直に動き、入力714の位置によって、切り抜き708が変位時に被駆動要素704(或いはより正確には、被駆動引力要素710)の経路に配置されるか否かが決定される。被駆動要素704の経路を遮らないように切り抜き708が配置される場合(入力値1の図7A参照)、被駆動要素710が何らの影響も受けずに単にのびることができるが、その理由は、被駆動引力要素710が板702を横切って動く際に、被駆動引力要素710と板702との間のNCFが変化しないからである(したがって、板702が非活性位置にあるとみなすことが可能であり、機構700が非活性動作状態又は動作収容状態とみなすことが可能)。切り抜き708が被駆動要素704の経路を遮るように位置決めされた場合(入力値0の図7B参照、これは板702の活性位置、及び機構700の活性動作状態又は運動伝達状態とみなすことが可能)には、NCFにより、被駆動要素704がそれ自身と一緒に板702を動かすこととなる。切り抜き708はまた、出力引力要素712と板702との間の引力が出力706を動かすのに役立つようにも配置されていて、これは、その位置のまま動かないためには出力引力要素712が切り抜き708を越えるためにNCFに打ち勝たなければならないからである。このように、入力714の位置は、被駆動要素704の変位を出力706に伝達するかしないかを制御する。板702は制御要素とみなすことが可能であり、(第1)入力714の位置に基づいて、被駆動要素704(これは第2入力とみなすことが可能)の動きを出力706に選択的に伝達する。注目すべき点は、板702の作用が被駆動要素704の動きを収容自在又は非収容というものであり、当該作用がロック400の板406の作用と本質的に類似していることであるが(且つ機構600の入力タブ(606、608)に類似し、これはゲート700と同様の機能を提供するように再設計可能である)、しかし、ここでの板702は入力714に対して可動なので、板702がその活性位置にあるときに被駆動要素の動きは阻止されるのではなく、出力706に伝達される。
【0056】
図7Cは、直列接続された3つのトランスミッションゲート700A~700Cを採用する3入力NORゲート720を示し、各々入力714A~714Cを有する。図7Cに示すように、すべての入力714A~714Cが非変位(入力値0)であり、したがって、被駆動要素704Aから出力706Cに動きを伝達するための経路が存在する。もし仮に入力714A~714Cの何れかが伸長すると(入力値1)、これによりそのゲート(700A~700C)が運動収容状態となり(図7Aと同様)、その結果、被駆動要素704Aから出力706Cへの伝達の連鎖が分断される。
【0057】
図7D及び図7EはNANDゲート機構730を示し、これはゲート機構700と共通する多くの特徴を有するが、しかし異なる板732を採用し、天秤736に接続された2つの入力734の複合作用によって板732が位置決めされる。板732は、入力734の何れも変位しないか又はその1つ若しくは両方が変位するかに応じて、3つの高さに位置決め可能である。板732は切り抜き738を備えており、この切り抜き738は、板732が低位置(入力値が(0,0))と図示のような中間位置(入力値が図示のように(0,1)、又は(1,0))との何れかに位置するときに被駆動要素740と出力742の間に介在するように配置される。説明のために、被駆動要素740と出力742の位置は、図7Dの3つの位置で板732に関連して示されるが、垂直方向に動くのは板732であり、被駆動要素740と出力742は一定の高さにとどまる。両方の入力値が1である場合にのみ、板732がその上部位置まで持ち上げられ、そこで切り抜き738はもはや被駆動要素740の経路に位置しない。代わりに、この上部位置では、被駆動要素740の動きは、板732上の空き経路744によって収容可能であり、板732は、被駆動要素740の動きを出力742に伝達しない。その結果、被駆動要素740の動きに応答する出力値は、入力値(0,0)、(0,1)、(1,0)については1であり、入力値(1,1)については0である。板732が、2つの活性位置又は運動伝達位置と、1つの非活性位置又は運動収容位置とを有するものとみなすことが可能である。活性位置(図7Eの中間位置など)にあるとき、板732は「第1部品」とみなされ得るものであり、当該第1部品は、板732が動くときに、出力742(「第2部品」として動作)の動きを強制して、出力742が切り抜き738内に移動しないようにする(したがってNCF引力が変化しないようにする)。
【0058】
図7FはXORゲート機構730'を示しており、機構730に類似しているが異なる板732'を採用する。それ以外は、上記の説明が機構730'に同様に適用される。板732'は、より小さな切り抜き738'を有しており、これにより、板732'がその上部位置であって入力位置(1、1)に対応する位置にあるときに、空き経路744のみならず、被駆動要素740の動きを収容可能な第2の空き経路746も得られる。その結果、被駆動要素740の動きに応答する出力値は、板732'がその中間位置(図示参照)にある入力値(0,1)及び(1,0)については1であり、板732'がその下部位置にある入力値(0,0)又は板732'がその上部位置にある(1,1)の何れかについては0である。この場合、板732'は1つの活性位置と2つの非活性位置とを有する。
【0059】
図7Gは板702'の構成が異なる代替トランスミッションゲート700'の一例を示し、板702'は切り抜き708'を備えており、且つ板702'の形状により、板702'が入力714'にピボット運動可能に設置された場合に、並進的に設置された場合と比べて、より信頼できる動作が提供される。
【0060】
図7H及び図7Iは、別の例としての、ナノスケールの製造によく適しているトランスミッションゲート750を示し、成形板752を有しており、これはダイヤモンドイド材料で形成可能であり且つ摩擦低減のためのグラフェン面754を具備可能であり、更に円筒形ソケット756を(この例ではグラフェン面754とは反対側に)有しており、これは(ソケット756と同様に)CNTから形成可能な入力760上の入力ピン758と係合する。被駆動ピン764を持つ被駆動要素762及び出力ピン768を持つ出力766は、板752に係合し、ファンデルワールス力を介して板752に係合するCNTから形成可能である(ピン764及び768は係合要素として機能し、板752及びグラフェンシート754で与えられる活性面と相互作用する)。留意する点は、ピン(764、768)は、被駆動要素762及び出力766の残りの部分を板752から分離するように十分な距離をのびており、板752と被駆動要素762及び出力766の当該部分との間にあるVDW力が無視できるほどに小さいことである。多くの用途では、グラフェン表面754は、成形板752の上に塗布されファンデルワールス引力によって成形板752上に保持されるグラフェンの単一原子厚層によって提供可能である。ゲート750を高速及び/又は高温で動作させる場合には、グラフェン表面754を板752に接着することが望ましい場合がある。しかし、グラフェンシートを接着しないままにしておくと、グラフェンシートがわずかにずれるので、ピン(764、768)がエネルギー井戸を越えて導かれるのではなく、エネルギー井戸の周りを滑ることができる。被駆動要素762及び出力766は、ガイドスリーブ770によって誘導可能である。ピン(764、768)をスリーブ770に対して動かすために必要なエネルギーを低減するために、構成要素(762、766、770)は、何れかの非対称部分(ピン(764、768)など)がスリーブ770の約2~3nm以内には接近しないように構成可能である。似たような間隔を設けることは、ガイドスリーブを採用する同様の機構においても必要エネルギーを低減するはずである。しかし、そのような追加の間隔は、結果として生じる機構のサイズを増加させる。
【0061】
本明細書で議論される例示的な機構の多くでは、1つの要素は、1つ以上の有効エッジを有する活性面に接触又は近接する伸長ピン(係合要素として作用)の端部などの相互作用点で別の要素と相互作用する(本明細書の他の場所で議論するように、かかる有効エッジは、露出面から凹んだ構造によって提供可能である)。伸長ピンの使用により、部品の残部を活性面から十分に離間して、表面とのNCF相互作用をピンとの相互作用のみに効果的に制限することができる。NCFが主にファンデルワールス引力である分子規模の機構では、ピン(典型的にはカーボンナノチューブから形成)の端部形状を、所望の用途に合わせて調整可能である。多くの分子スケール機構では、丸い端の5-5又は10-0CNTをピンとして採用可能であり、ロンズデーライト又はグラフェンの表面と相互作用させることができる。このような丸みを帯びた端部は、ピンが表面と接触している場合に摩擦を減らすのに役立ち、このような接触は一般にピンを安定させるのに役立つ。丸みを帯びた5-5及び10-10CNTは、炭素原子の五角形リングで終端しており、この五角形配列は、それらの原子がロンズダライト又はグラフェンの下地表面における炭素原子の六角形配列と整列するのを防ぐ働きをする。
【0062】
幾つかの場合、ピンに拡大面又は「足部」を提供することが望まれるが、これはピンと表面との間の引力を増加させ、結果的に機構の要素を動かすために利用可能な力の量を増加させるためである。図7Jは、板752'がピン(764'、768')と係合するゲート750'の一部を図示していて、各々のピン(764'、768')が拡大した足部772を有しており、これがピン(764'、768')と成形板752'との間のNCFを増加させる。ピン(764'、768')が変性CNTによって形成される場合、各足部772は、CNTに取り付けられたグラフェン延長部によって形成可能である。板752'は板本体774を具備可能であり、板本体774は、ロンズデーライトのような六角形原子配列を有するダイヤモンドイド材料で形成され、摩擦低減のためのグラフェン表面被覆754'を有する。足部772が板752'と接触しているときに、足部772の六角形格子は、その炭素原子の六角形配列が下地の面754'の六角形配列に対して約90度回転されるように構成可能であり、炭素原子が整列して結合を引き起こす状況を回避できる。
【0063】
図7K及び図7Lは、一組のトランスミッションゲート782及び784を採用するスイッチゲート780の一例を示し、各々のゲートはトランスミッションゲート700'及び750と同様の態様で動く。ゲート(782、784)は、互いに反対向きに配置され、何れも入力786によって動かされる。各ゲート(782、784)は、成形板788と出力790とを有する。両方のゲート(782、784)は、被駆動要素792によって係合される。入力786の位置に応じて、ゲート(782、784)のうち一方は、被駆動要素792がNCFの変化なしに板を横切って動くことを許容するように板788が位置決めされることとなり、それらのうち他方は、被駆動要素792の動きがそれをエッジに突き当てて板788を動かし、かかる動きが今度は対応付けられた出力790を通して伝達されるように位置決めされる。図7Kはスイッチゲート780を示す図であり、この図では、トランスミッションゲート782の板788がNCFの変化を避けるために被駆動要素792の動きをその出力790に伝えるような位置に、入力786が置かれており、その一方で、トランスミッションゲート784の板788は、NCFの変化なしに被駆動要素792の動きを収容するように位置決めされている。図7Lは、入力786の代替位置を示し、ここでトランスミッションゲート782は現在、被駆動要素792の動きを収容するように位置付けられ、トランスミッションゲート784は、その出力790に動きを伝達するように配置されている。入力786の位置によりどの経路に沿って運動が導かれるかが決まるので、スイッチゲート780の基本方式は、多数の入力値に基づいて出力値を提供するロックアンドバランス方式を採用するロジック機構の形成に採用可能である。高次コンピュータ構造を形成するために、どのように(代替要素を用いる論理機構のための)そのようなロックアンドバランス論理機構を組み合わせ可能であるかの例は、米国特許第10,481,866号、米国特許第10,664,233号、米国特許第10,949,166号及び米国特許公開2021/0149630号で教示されている。
【0064】
本明細書で教示されるメカニズムの多くは、米国特許第8,171,568号、米国特許第8,276,211号、米国特許第9,676,677号、米国特許第10,067,160号、同第10,072,031号、同第10,138,172号、米国特許第10,197,597号、米国特許第10,308,514号、米国特許第10、309,985号、米国特許第10,822,229号、米国特許第10,822,230号で教示されるようなメカノシンセシス技術による分子製作を含めて、ナノスケール製作に良く適している。図8A及び図8Bは、そのような製作に適した機構の2つの例を示す。一例として、図8Aは、図7H及び図7Iに示されたゲート750と同様に機能するトランスミッションゲート800を示し、摩擦低減のためのグラフェン面804を具備可能な成形板802を備え、更に、CNTで形成可能な入力810の入力ピン808に係合する円筒状ソケット806を有する。被駆動ピン814を持つ被駆動要素812及び出力ピン818を持つ出力816は、共に板802に係合し、ピン(814、818)がファンデルワールス引力を介して板802に係合するようにCNTでの形成も可能である。分子モデリングは、図示のようなゲートが30nmの立方体内に収まるように製作され得ることを指摘する。
【0065】
入力810、被駆動要素812及び出力816は、何れもガイドスリーブ820にスライド可能に取り付けられる。これらのスライド要素(810、812、及び816)が10-0CNTから形成される場合、スリーブ820は18-0CNTから形成可能である。スリーブ820は順に支持体822に取り付けられ、支持体822はアンカー824(これらは単一の剛性構造の部品であり得る)に貼付される。アンカー824は、例えばロンズデーライト等のダイヤモンドイド材料の表面であり得る。被駆動要素812の支持体についてラベル付けしたように、支持体822は、9-0CNTで形成されたベース部826を採用してアンカー824に結合可能であり、ロンズデーライトの六角形配列に密接に一致する炭素原子の配列を提供する。支持体822はそれぞれ、18-0CNTの短部分によって形成された遷移部828と、10-0CNTの部分によって形成されたスリーブ取付部830とを有する。10-0CNTは、スリーブ820として機能する18-0CNTと安定したT分岐を形成し、10-0及び9-0CNTの両方が遷移部828の18-0CNTに移行可能である。さらに、遷移部828の18-0サイズは、スリーブ820の18-0CNTのサイズと一致するので、各組のスリーブ820を互いに接触させて配置すると、遷移部828が互いに接触することにもなり、支持体822の間隔を安定させる役割を果たす。
【0066】
図8Bは、分子規模の製造にも適した代替トランスミッションゲート840を示す。ゲート840は、再び、グラフェン面844及び円筒状ソケット846を持つ成形板842と、ソケット846に係合する入力ピン850を持つ入力848とを備える。ゲート840はまた、被駆動ピン854を持つ被駆動要素852と、出力ピン858を持つ出力856とを備え、被駆動ピン854及び出力ピン858は、板842のグラフェン面844に係合する。ゲート800よりも単純でコンパクトな機構を提供するために、ゲート840は、各スライド要素(848、852、856)を単一のガイドスリーブ860に取り付けており、これらは支持体864によってアンカー862に取り付けられ、アンカー862上に形成されたトラック868に係合するガイドピン866によって安定化される。トラック868は、ガイドピン866とスライド可能に係合するためのグラフェン面870を有してもよい。対応するガイドスリーブ860内で要素(848、852、856)がスライドすることで生じる動きの制限と組み合わせて、トラック868は、後述する図14A図14Cで示すガイド(1404、1432)と同様の方法でガイドピン866を導くのに役立つほどの狭さに形成可能である。
【0067】
図8Cはトランスミッションゲート880を示しており、上述したゲート(750、800、840)と同様に動作するが、しかし、板886が入力888によって活性位置に置かれたときに、被駆動要素884の動きに関連する出力882の変位に機械的利得を提供する。被駆動要素884が板886に係合する位置は調整可能であり、エッジ890が被駆動要素884の経路内に位置するように板886が配置されたときに、板886が入力888にピボット運動可能に係合する位置からの距離の違いによって被駆動要素884と出力882とで変位に差が生じる。出力882が被駆動要素884の2倍ほど入力888から離れている場合、被駆動要素884の約2倍の変位が生じる。入力888はまた、連続経路892が被駆動要素884の動く経路と整列する位置へ板886を配置可能であり、板886が、上述のゲート(750、800、840)で説明したのと同様の方法で、いずれのエッジも越えることなく、被駆動要素884の動きを収容可能となる。そのような位置では、非接触力エネルギー障壁を乗り越えることなく、したがって、動きを出力882に伝達することなく、被駆動要素884の動きを収容可能である。
【0068】
図9A及び図9Bは機構900を示し、上述の機構(700、750、800、840)と同様の、被駆動要素902から出力904への動きを収容又は伝達する原理を使用するものである。機構900は、コネクタ908の位置を制御する入力906を有し、このコネクタは、被駆動板910及び出力板912と非接触力(NCF)を介して係合し、これらの何れか又は両方は、入力906の位置に対して望ましいロジック応答を提供するように成形可能である。被駆動要素902の動きが出力904に伝達されるか否かは、コネクタ908の位置及び板(910、912)の構成により決定される。機構900において、被駆動板910は、エッジ914と経路領域916を有するL字形である。コネクタ908が図9Aに示すように(被駆動要素902及び出力904の動き経路に垂直な方向に関して)その非変位位置にあるとき(典型的には入力値0を符号化)、被駆動板910の変位は、コネクタ908の方向にエッジ914を動かすように働く。コネクタスリーブ918を介して入力906とスライド可能に係合するコネクタ908は、被駆動板910と共に動き、これによりエッジ914を越えて動くためにNCF障壁に打ち勝つことを必要としない。同様に、コネクタ908と出力板912との間のNCF力は、出力板をコネクタ908と共に動かすように作用し(仮想線参照)、被駆動要素902の動きは、出力904に伝達される。コネクタ908には、板(910、912)に係合するための拡大端部920が形成されている。
【0069】
入力906の変位によりコネクタ908が変位すると、図9Bに示すように、(典型的には出力値1を符号化する)。被駆動板910の経路領域916と整列させられ、経路領域916がコネクタ908を通り過ぎて動くだけでNCFが変化せず、被駆動板910の動きを収容可能である。コネクタ908が動かないので、出力板904に動きが伝達されることがない。
【0070】
入力がコネクタを複数の位置に位置決めするように構成されている場合、被駆動板及び/又は出力板は、そのような各位置に適切な応答を提供するように構成可能である。図9Cは、NANDロジック関数を提供する1つの考えられうる機構930を図示しており、NANDロジック関数は2つの入力932で実行され、2つの入力932は天秤934に接続しており、天秤934は、入力932の組み合わされた位置に基づいてコネクタリンク936及びコネクタ938を順に位置決めする。被駆動板940はエッジ942と経路領域944を有し、機構930は、両方の入力932の変位時にのみコネクタ938が経路領域944に整列するように構成される。入力値(1、0)について図9Cに示されるような、入力932が何れも変位しないか又はその一方のみが変位する場合には、エッジ942は、被駆動板940が変位するときにコネクタ938の動きを強制するように位置し、出力板946も変位させる。両方の入力932が変位すると、コネクタ938は経路領域944と整列して位置決めされ、コネクタ938に関連する被駆動板940の動きを収容する。この場合、コネクタ938は動きを強いられることがないので、出力板946も動かない。入力値に対する機構の応答は、被駆動板及び/又は出力板の構成によって決定され、代替的な応答を提供するように構成可能である。一例として、2つの経路領域をエッジ両側に設けた板は、XOR論理関数(図7FのXORゲート730'に類似)を提供可能であろうし、又は短いエッジと広い経路領域(1つ又は両方の入力が変位した場合にコネクタが当該経路領域と整列するようなもの)を有する板は、NOR論理関数を提供可能であろう。
【0071】
図9Dは、機構900と機能的に類似する機構950を示すが、しかし、出力板952が被駆動板910の上に部分的に重ね合わされており、コネクタ956の拡大端部954が板(910、952)の間に配置される。板(910、952)を重ね合わせることで、機構900と比較して機構950の全体的な体積を縮小可能である。
【0072】
NCFを管理することにより(望ましくない動きに対して選択的に妨害を生じさせて)要素の動きを制限のためにエッジを使用する効果は、他の運動制限構造と組み合わせ可能であり、機構を設計する上でより大きな柔軟性を提供する。一例として図10A図10Dは機構1000を示し、ヒンジを形成するピボット運動可能に接続したリンクの動きを選択的に制限するために、NCFとエッジを採用する。そのような拘束は入力1002の位置に基づくものであり、被駆動要素1006が動かされたときに出力1004の位置を決定する役割を果たす(この例では、トランスミッションゲートの機能を提供する)。被駆動要素1006は、出力1004と整列し、ヒンジ1008によって出力1004に接続される。ヒンジ1008は、伸長ピン1010及び1012(ここでは出力1004と一体的に形成)を有し、これらはNCFを介して成形板1014と相互作用する(ただし、ピン1010及び1012は板1014と接触してもよい)。ピン1010及び1012は、板1014によって提供される活性面と相互作用する係合要素としての役割を果たす。板1014は、入力1002によって位置決めされ、図示のように第1位置(図10A及び図10B参照)と第2位置(図10C及び図10D参照)の間を移動する。成形板1014は制御要素又は制限構造とみなすことが可能であり、当該要素又は構造は、(ピン1010及び1012を介して)ヒンジ1008の許容運動を決定して、出力1004の動きを強いることなしに被駆動要素1006の変位を収容可能かどうかを決定する。
【0073】
板1014がその第1位置にあるとき(図10A及び図10B)、ヒンジ1008の屈曲は、ピン1010が板第1エッジ1016に近接していることによって阻止される。被駆動要素1006が変位すると、ピン1010が板第1エッジ1016に近接していることで、ピン1010の動きを制限し、ヒンジをさらに曲げるためにピン1010が動くこと(図示方向では上向きの動き)を妨げる。被駆動要素1006の変位は、ヒンジ1008全体を並進させることによって収容され、これにより出力1004をも動かす(図10B参照)。板第1エッジ1016は、利用可能な動きを、出力1004の可動方向に制限すると考えることができる。板1014は板第2エッジ1018を有するように構成され、板第2エッジ1018は、ヒンジ1008の残りの部分の動きを収容するようにピン1012に関連して位置決めされる。板1014の当該位置は、機構1000を活性動作状態又は運動伝達状態に置くとみなすことが可能であり、そこでは被駆動要素1006の動きに応答して出力1004が動く。
【0074】
板1014が第2位置にあるとき(図10C及び図10D)、板第1エッジ1016はピン1010から離れた位置にあり(図10C参照)、その一方で、板第3エッジ1020は、ヒンジ1008が単に並進するのを防ぐためにピン1012の動きを制限するように位置決めされ、したがって出力1004の動きが阻止される。この場合、被駆動要素1006の変位は、ヒンジ1008の屈曲によって収容され、ピン1010を板第1エッジ1016に近づくように動かす(図10D参照)。板第3エッジ1020は、利用可能な動きを、出力1004の利用可能な運動方向とは非整列な方向へと制限すると考えることができる。板1014の当該位置は、機構1000を非活性動作状態又は運用収容状態に置くとみなすことが可能であり、そこでは被駆動要素1006がNCFの変化なしに出力1004に関連して動くことができる。板1014が両方の位置でピン(1010及び1012)と相互作用することは注目すべきことである。ヒンジ1008及び板1014は制御要素とみなすことも可能であり、そこではヒンジ1008は、入力1002の位置で設定される機構1000の構成に応じて、(第2入力とみなし得る)被駆動要素1006の動きを出力1004へ選択的に伝達する。
【0075】
板1014は板傾斜エッジ1022を任意的に具備可能であり、板傾斜エッジ1022は板第3エッジ1020に隣接し(図示の板1014では板第2エッジ1018までのびる)。板傾斜エッジ1022は、入力1002が板1014を第2位置に動かすときに、(図10Bのように既に非変位位置にいない場合に)出力1004を非変位位置に動かすようにピン1012に作用することとなり、ピン1012のそのような動きは、板傾斜エッジ1022を越えてピン1012を動かすのに生じうるピン1012と板1014との間のNCFの引力に打ち勝なたくともよくするために役立つ。この動きは、本明細書で議論される他の機構(図11A図12F参照)と同様であり、そこでは、NCFが、エッジを有する第1要素の動きが別の要素の動きを強制することを可能とする。機構1000は、板1014用にダイヤモンドイド材料(摩擦低減のためにグラフェンで覆われる可能性がある)から作製可能であろうし、残りの要素は変性CNTから形成可能であろう。
【0076】
板傾斜エッジ1022に関して指摘したように、1つの部品は、別の部品の動き方向に対して傾いた有効エッジを伴って構成可能であり、それ故に、動きを本質的に方向転換又は強制するカムとして機能する。典型的には、引力NCFを採用する場合、第1部品の動きは引力部分又は要素をエッジに向かって動かすので、第1部品の動きが第2部品を強制的に動かし、その結果、引力部分又は要素がエッジに接触するか又はエッジを越えて動くのを防ぐように第2部品が動くことが必要となる。
【0077】
図11A図11Bは可動リンク機構1100を示し、被駆動部品1104を動きに応答する応答部品1102を動かすためにNCFに頼るものである。リンク体1100において、被駆動部品1104は、それに貼り付けられた成形板1106(活性面を提供)を有し、応答部品1102は、そこに組み込まれた引力要素1108(係合要素として機能)を有する。ナノスケールの構造では、引力要素は応答部品1102上の単に拡大領域又は伸長ピンであり得るとともに、ファンデルワールス引力がNCFを提供するのに十分である。より大規模な構造の場合、図示されるように、引力要素1108は磁石とすることが可能であり、成形板1106は、引力を与えるための強磁性材料で形成可能である。この機構における応答部品1102と被駆動部品1104は、並進運動に限定されている(図11A及び図11Bにおいて、応答部品1102は水平方向の動きに制限され、被駆動部品1104は垂直方向の動きに制限され、当該制限はガイドによって又は動き制限用の同様の手段によって行われるとともに、この場合、板1106は斜め方向にのびるように形成される)。被駆動部品1104が(垂直方向に)並進運動するとき、部品(1102、1104)間の引力の変化を避けるために、応答部品1102が対応する(水平方向の)動きをする必要がある。もし仮に応答部品1102が動かなかった場合、被駆動部品1104の動きは、板1106を引力要素1108から離す(必然的に引力要素1108を板1106のエッジを越えて動かす)ことになり、これは引力要素1108と板1106を共に引くような引力に打ち勝つことを要する。引力に打ち勝つための必要エネルギーを生じさせないために、板1106の動きにより、引力要素1108が板1106に沿って引き寄せられ、応答部品1102が動かされる。板1106と引力要素1108との間の引力は、板1106の形状が引力要素1108の動きをガイドすることを可能にし、図11Cに示される従来の可動リンク体1100'のように、斜めスロット1106'にガイドされるピン1108'の効果と似た効果をもたらす。部品の機能は、引力要素が被駆動部品に設けられ、板が応答部品に設けられるように、逆にすることが可能なことを理解されたい。
【0078】
図11D図11Gは、図11A及び図11Bに示すリンク機構1100に採用される基本的な運動強制原理を拡張した一つの例を示している。データリーダ機構1150はデータリボン1152と一連のビットリーダ1154とを採用しており、一連のビットリーダ1154各々は引力要素1156を有し、引力要素1156はデータリボン1152に引き付けられる(且つ係合要素として機能する)。今度はデータリボン1152に一連の対応する切り抜き1158が形成されていて、当該切り抜き1158は、ビットを符号化するように機能し、ビットリーダ1154の1つが動いた後におけるデータリボン1152の位置が符号化ビットを示すように構成される(一連の活性面として機能し、引力要素1156で提供される係合要素と相互作用する)。データリボン1152上で符号化された各ビットは、対応するビットリーダ1154を動かすことで読み取り可能である。そのビットの切り抜き1158の形状は、基準線1160に対して非変位位置(図11Gのように、図示例ではそのビットの0値を示す)、或いは下降位置(図11E又は図11Fのように、そのビットの1値を示す)の何れかの位置に、データリボン1152を置くように設計されている。図示されたデータリボン1152は、値(1、1、0、0)を符号化する切り抜き1158を有する。ビットで符号化された正規位置にデータリボン1152が既に置かれている場合、対応するビットリーダ1154が変位しても、その位置に留まることができる。データリボン1152が正規位置にない場合、ビットリーダ1154とこれに対応する切り抜き1158との相互作用により、符号化ビットの正しい位置にデータリボン1152が動かされることとなるが(値0の場合は基準線1160に位置し、或いは値1の場合は基準線1160を越えてのびる)、これが図11A及び図11Bに示す板及び引力要素の場合と同様の手法で、しかし被駆動部品と応答部品とが逆にされて(及び被駆動要素が左側にずらされて)実現されている。
【0079】
ビットリーダ1154を順次動かすことによって、図11E図11Gのように切り抜き1158によって符号化されたビットの読み取りが可能であり、第1~第3のビットリーダ1154が対応するビットを読み取るために個別に順次動かされた際に結果的に生じるデータリボン1152の位置及び出力値がそれぞれ図示される。図11Eは、第1のビットリーダ1154-1の動きに応答するデータリボン1152の変位を示す。ビットリーダ1154-1が左に動かされると、切り抜き1158-1によって形成されたエッジを越えて引力要素1156-1が動かないようにするために、データリボン1152が強制的に下方へ動かされる。留意すべき点として、切り抜き1158はデータリボン1152が非妨害垂直領域を持つように構成され、非妨害垂直領域は残りの引力要素(1156-2、1156-3及び1156-4)に対して垂直方向に移動可能であり、データリボン1152が垂直下方に動く際に非移動の引力要素(1156-2、1156-3及び1156-4)のいずれもがエッジに遭遇することがない。切り抜き1158-1は、ビットリーダ1154-1が初期位置に戻されたときにデータリボン1152を初期位置に戻すように構成され得るか、或いは引張ばねなどの独立した手段によってデータリボン1152が戻され得る。代替的には、データリボン1152は、ビットリーダ1154-1が戻されると単にその場に留まり得るとともに、その場に放置されるか、或いは次のビットリーダ1154-2の移動時に上方移動して基準線1160の上部位置に戻るか(図11F参照)の何れかとされる。図11Gに示す切り抜き1158-3の場合のように、特定のビットに対する切り抜き1158が0値出力を提供するように設計されている場合、対応するビットリーダ1154-3の動き方は、第3ビットを読む前に下部位置にあった場合はデータリボン1152を上部位置に動かすか、既にその上部位置にあった場合はその場所に残留するかの、何れかである。切り抜き1158-2、1158-3を図示したように切り抜きが隣接している場合、対応するビットリーダ(1154-2、1154-3)の動きに応答してデータリボン1152を適切に配置するように切り抜き(1158-2、1158-3)のエッジが構成されている限り、それら切り抜き1158-2、1158-3は単一の切り抜きに統合され得る。切り抜き1158-4は、切り抜き1158-3と同様に設計されており、第4のビットリーダ1154-4が動かされたときに、データリボン1152を同じ上方位置に配置する役割を果たす。図示の目的で4ビットのデータリボンが示されているが、任意の数のビットをこのような方法で符号化し得るであろう。同様に、図示した例は、上方位置で0値を表し下方位置で1値を表すものを採用しているが、代替的な方向及び割当て値を採用可能である。幾つかの場合、或る方向に動く部品は異なる方向に動く部品と相互作用する可能性があり、したがって、特定の方向に割り当てられた値は特定の部品に依存する。例えば、下方位置にあることで出力値1を表す部品は、左方位置にあることで出力値1を表す別の部品と、相互作用してもよい。さらに、データリボンは、中立位置から何れかの方向に動いて-1、0、又は+1の出力値を符号化するように設計可能であろう。
【0080】
図11Hはデータリーダ機構1170の例を示しており、この機構はデータリボン1152に加えて第2のデータリボン1172をも採用し、一度に複数のビットを読み取ることができるようにしている。2個のデータリボン(1152、1172)が示されているが、任意の個数を採用可能である。データリーダ1170は再び一連のビットリーダ1174を有するが、この場合、各ビットリーダ1174は、各データリボン(1152、1172)に対して1つずつ設けられた一組の引力要素1176、1178を有する。引力要素1176は、データリボン1152に設けられた切り抜き1158と相互作用してデータリボン1152を位置決めするように構成され、その一方で、引力要素1178は、第2のデータリボン1172に設けられた切り抜き1180と相互作用して第2のデータリボン1172を位置決めするように構成されている。この場合、各行の切り抜き(1158及び1180)はビットに対応し、列は4バイト(バイト数はビットリーダ1174の個数で定義される)に対応し、各バイトは、各データリボン(1152、1172)に対して1つずつ設けられた2ビットの情報で構成される。図11Hは、切り抜き1158-2、1180-2によって定義されるように第2のバイトを読み取るために、第2のビットリーダ1174-2が動いたときのデータリーダ1170を示すものである。この場合、切り抜き1158-2は、下側位置にデータリボン1152を配置するために引力要素1176-2と相互作用するように構成され、当該下側位置は(先に示した図11F参照)出力値1を表しており、一方、切り抜き1180-2は、引力要素1178-2に作用して、データリボン1172を(未だそこに位置していなければ)上方位置に配置するように構成され、当該情報位置は出力値0を表している。データリボン(1152、1172)は、メモリの第2のバイトについて(1、0)の値を記録する。
【0081】
図12A図12Fは、クロック位相間の値を記憶するように作用するラッチ機構1200の一例を示している。ラッチ機構1200は、コピー要素1206によって接続される入力1202及び出力1204を有する。図示のように、入力1202は入力ピン1208を有し、入力ピン1208はNCFを介してコピー要素1206と相互作用し、その一方で、出力1204は、コピー要素1206とピボット運動可能に係合される。コピー要素1206は、今度はコピーピン1210(図示では出力1204と一体的に形成)を有し、コピーピン1210はNCF(ナノスケールの機構におけるファンデルワールス引力、又はより大規模な機構における強磁性など)を介してロック板1212に係合する。ロック板1212はU字形であり、ロックアクチュエータ1214によってロック位置(図12A及び図12C参照)と非ロック位置(図12B及び図12D参照)との間で動かされる。ロック板1212が自身のロック位置にあるとき、ロック板のエッジは、コピーピン1210の動きを制限し、入力1202及び出力1204の動き方向におけるコピー要素1206の並進運動を阻止するように作用するが、これは、出力1204がその0値位置(図12A及び図12B参照)にあるか又はその1値位置(図12C及び図12D参照)にあるかにかかわらない。留意すべき点として、機構1200は、フローティング又は非フローティングの何れかであり得る部品間における接続を提供するために、ロック板1212なしで採用され得る。
【0082】
ロック板1212が非ロック位置にあるとき、コピー要素1206及びこれに接続された出力1204は、出力1204の0値位置と1値位置との間を自由に並進運動するが、このときコピーピン1210はロック板1212のエッジに遭遇することはない。このとき、コピー要素1206はコピーアクチュエータ1216によって出力1204に関連してピボット運動可能であり、(下側の)自由位置(図12A及び図12C参照)と(上昇した)コピー位置(図12B及び図12D参照)との間をコピー要素1206が動くこととなる。コピー要素1206は三角形のコピー板1218を有し、コピー板1218はエッジ1220及び1222を有し、エッジ1220及び1222は、コピー要素1206がそのコピー位置に対してピボット運動する際に、入力1202の位置で決まる位置にコピー要素1206及び出力1204を動かすために入力ピン1208と相互作用する(コピー板1218は、有効エッジ1220及び1222を有する活性面を提供し、且つ、係合要素として作用する入力ピン1208と相互作用するが、その一方で、コピーアクチュエータ1216は被駆動要素又は第2入力とみなされ得る)。入力1202が0値位置にある場合、エッジ1220は、コピー要素1206がピボット運動する際にコピー要素1206及び出力1204を動かして、出力1204を(未だその位置にない場合に)0値位置に配置するように作用する。同様に、入力1202が1値位置にある場合、エッジ1222は、コピー要素1206及び出力1204を動かして、コピー要素1206がピボット運動する際に(未だその位置にない場合に)出力1204を1値位置に配置するように作用する。コピー要素1206は制御要素とみなされ得るものであり、当該制御要素は、入力1202の位置(同様に出力1204の現在位置)に部分的に基づいてコピーアクチュエータ1216の動きを出力1204に選択的に伝達する。入力1202及び出力1204の相対位置は、機構1200を(入力1202が現在の出力1204の位置に合致し、且つ、出力1204を動かすことなくコピーアクチュエータ1216の動きを収容可能な場合の)非活性動作状態若しくは運動収容状態に置くか、又は、機構1200を(入力1202が現在の出力1204の位置と合致せず、且つ、入力ピン1208がエッジ1220又は1222の一方に逆らって動こうとするときに生じうるNCF変化が生じないようにするために、コピーアクチュエータ1216の動きを出力1204に伝達する場合の)活性動作状態若しくは運動伝達状態に置くと、みなし得る。
【0083】
一旦、出力1204が入力1202の値を反映するために正規位置に(必要に応じて)動かされた状態になると、ロック板1212がロック位置に戻ることが可能となり、コピーピン1210のさらなる並進運動が防止され且つ出力1204を現在位置に効果的にロック可能となる。コピー要素1206は、その後、コピーアクチュエータ1216を後退させることによってその自由位置にピボット運動で戻ることができ、このとき入力1202はその0値位置と1値位置との間で自由に動くことが可能であり、その一方で、前回値は出力1204のロック位置によって記憶される。機構1200は、入力1202、出力1204、ロックアクチュエータ1214及びコピーアクチュエータ1216のような要素にはCNTを用いて、ロック板1212及びコピー板1218のような平面的要素にはダイヤモンド、ロンズデーライト又はダイヤモンドイド構造を用いて、分子規模で形成可能である。
【0084】
このようなラッチ1200の1つの使用法は、図12Eに示されるように、2つのラッチ1200を連鎖させてD型フリップフロップ1230を提供することであり、各ラッチ1200の出力1204は他のラッチの入力1202を定義し、ロック板1212は順次動かされる。束縛を避けるために、各ラッチ1200のロック板1212は、対応する入力1202を自由に運動可能とする非ロック位置に動かされるが、その前に、他のラッチ1200のコピーアクチュエータ1216が、コピー要素1206をピボット運動するために活性状態に置かれ、このコピー要素1206は、対応する出力1204と非対応ラッチ1200の自由に動く入力1202とを設定するように作用する。
【0085】
順次、第1ラッチ1200-1のロック板1212-1がその非ロック位置に配置され(図12E参照)、第1コピー要素1206-1がそのコピー位置にピボット運動させられて第1出力1204-1がセットされる。一旦設定されると、第1ロック板1212-1はそのロック位置に動かされ、出力1204-1を設定して(これは入力1202-2も設定する)、第1コピー要素1206-1はその自由位置に戻され、第1入力1202-1の動きが可能になる。次に、第2ロック板1212-2はその非ロック位置に動かされ、第2コピー要素1206-2はそのコピー位置に動かされ、これらが作用することで、第2出力1204-2(これは第1入力1202-1も決定する)が、第2入力1202-2(第1出力1204-1により決まる)により決定される位置に置かれる。
【0086】
図12Fはラッチ1200を採用する機構の別の例を示しており、グリッドメモリ1250の一部である(図示は、メモリ構造全体における4列のうちの2列である)。この場合、ラッチ1200は、トランスミッションゲート1252の配列と組み合わせて使用され、トランスミッションゲート1252は、図7H図7I図8A図8Bに示されるゲート(750、800、840)と同様の構成が可能である。メモリ1250において、ラッチ1200は、これらの値がデータ線1254に「読み返される」まで、一組のデータ線1254から受け取った値を記憶することができる。この方式では、出力1204の位置は読み取られず、出力1204はコピー要素1206の動きを制限するためだけに機能する。図12Fは、2つのメモリアドレス(00及び01)を図示しており、同様の追加のメモリアドレスの組(10及び11であり、右側の省略部分に配置される)は図示されていない。各メモリアドレスは2ビットのデータを格納できる。各メモリアドレスは、2つのデータ入力1202を有する一組のラッチ1200を有し、各々がそのビットの情報のためのデータ線1254に接続される。各データ線1254は、メモリアドレスの各々について、そのビットのためのデータ入力1202を一緒に接続する。
【0087】
トランスミッションゲート1252は、各々がメモリアドレスの1ビットを識別する2つのアドレスバー1256の位置に基づいて、現在の動作のためにメモリアドレスの一つを選択するように配置される。アドレスバー1256-0の位置は、現在活性なメモリアドレスの第1ビットを決定し、アドレスバー1256-1の位置はその第2ビットを決定する。図示のように、両方のアドレスバー(1256-0、1256-1)は、それらの0値位置にあるので、メモリアドレス00が現在選択される。各々の場合、アドレスバー(1256-0、1256-1)の位置によって、非活性メモリアドレス用のトランスミッションゲート1252における少なくとも1つの伝達板1258が、メモリ選択バー1260からセル選択器1262内のトランスミッションゲート1252への運動伝達を中断する位置に配置される(図7Cに示すNORゲート720における鎖状のトランスミッションゲート700A-700Cと同様の方法による)。そのような位置では、伝達板1258は、伝達板1258を動かすことなくメモリ選択バー1260自体又はメモリ選択リンク1264の何れかの動きを収容するように配置される。例として、図示の位置では、現在は非活性なメモリアドレス01について、下側の伝達板1258はメモリ選択バー1260の動きをメモリ選択リンク1264に伝達するように配置されるが、しかし上側の伝達板1258は、かかる動きをセル選択器1262に伝達することなくメモリ選択リンク1264の動きを収容するように配置される。メモリアドレス10及び11用の伝達板は、アドレス00及び01用の伝達板と同様に配置されているが、アドレスバー1256-0がその0値位置にあるときにメモリセレクトバー1260の動きを収容可能となるように下側の伝達板が配置されており(したがって図示の状況ではそれらは非活性である)、しかしアドレスバー1256-0がその1値の位置にあるときにメモリ選択リンクに動きを伝達し、(アドレスバー1256-1によって位置決めされる)上側の伝達板の位置により、何れのメモリ選択リンクが収容可能であり何れが動きを伝達するように作用するかが決定される。メモリ選択バー1260が上方に変位すると、トランスミッションゲートを通る1つの経路のみが存在し、アドレスバー(1256-0、1256-1)の位置に基づいて活性メモリアドレスが定まる。
【0088】
セル選択器1262において、被選択経路におけるトランスミッションゲート1252の変位は、結合された一組のトランスミッションゲート1252に作用する。このような作用は、一組のゲート1252を非活性位置(図示のように、伝達板1258を動かすことなくロック解除バー1266及びコピーバー1268の動きを収容可能)から活性位置へと動かし、そこでは伝達板1258の作用により、ロック解除バー1266の動きがロック解除リンク1270へと伝達され、コピーバー1268の動きがコピーリンク1272へと伝達される。動かされると、ロック解除リンク1270は、活性メモリアドレス内のラッチのロック板1212を動かすロックアクチュエータとして機能し、その一方で、コピーリンク1272は、コピー要素1206を動かすコピーアクチュエータ(又は被駆動要素)として機能する。
【0089】
データ線1254の現在位置によって符号化された値を、現在の被選択メモリアドレスのコピー要素1206に格納するために、データ線は、まずデータロック1274によって固定される。次に、ロック解除バー1266が上げられて、被選択アドレスのコピー要素1206における並進運動が自由になる。次に、コピーバー1268が上げられて、コピー要素1206がコピーリンク1272によって上方にピボット運動させられることで、コピー要素1206と入力1202(データロック1274により位置が固定)との相互作用によりコピー要素1206が入力1202の位置(データ線1254の位置で設定される)に対応する位置まで動かされる。次に、ロック解除バー1266が下げられて、コピー要素1206が位置間で並進運動することが防止され、符号化された値が記憶される。その後、コピーバー1268が下降可能となり、データロック1274を解除して、データ線1254を新しい値にリセット可能となる。
【0090】
記憶した値を取り出すために、コピーバー1268とロック解除バー1266との動作を逆にすることが可能である。データ線1254のロックを解除して入力1202を動かせるようにし、次にコピーバー1268を上げる。ロック解除バー1266はまだ上げられていないので、被選択メモリアドレスのコピー要素1206は並進運動しないように阻止され、したがって各々のコピー要素1206は、それらの現在値(対応する入力1202の値をコピーした後に、前回記憶した値)を反映する位置を保持する。コピーバー1268が上げられると、各コピー要素1206のピボット運動は、コピー要素1206によって現在符号化されている値(この場合、入力1202は実質的に出力として機能する)と合致するように、対応する入力1202を0値又は1値の何れかの位置に動かすように作用する。次に、入力1202は、データロック1274を作動させることによって所定位置にロックされ、次にコピーバー1268が下降可能となり、その後に、メモリ選択バー1260が下げられて、値を取り出すための新しいメモリアドレスの選択が可能となる。
【0091】
シンプルなモーターを提供するために、NCF相互作用を用いるカム作用を利用可能である。図13Aは回転子機構1300の一例を示しており、並進運動を回転運動に変換するためにNCF相互作用が採用される。回転子機構1300は、駆動体1302と被駆動要素1304を有する。駆動体1302は引力要素1306を有し、その一方で被駆動要素1304は螺旋ねじ山1308を有し、螺旋ねじ山1308はエッジ1310によって境界付けられ、螺旋ねじ山1308に引力要素1306が引き付けられる。図示の機構では、引力要素1306は磁石であり、螺旋ねじ山1308は強磁性材料で形成されている。被駆動要素1304は、軸1312を中心に回転するように設置され、駆動体1302は、軸1312と平行に並進運動可能である。駆動体1302が並進運動するとき、並進運動する引力要素1306と螺旋ねじ山1308との間のNCFを一定に保つために、複数のエッジ1310の何れかを越えて引力要素1306を動かさないように、被駆動要素1304が回転する。螺旋ねじ山1308は活性面を提供しており、係合要素としての引力要素1306が複数のエッジ1310の一方に押し付けられるのを避けるために強制的に動かされる。実際には、螺旋ねじ山1308は、もし仮に成形板1106が細長く且つ円筒状に巻かれていたとする場合における、図11A及び図11Bに示される機構の成形板1106と、同様のカム動作を提供する(先に記したように、多くの機構は平板又は円筒を用いて同様の方法で機能し、幾つかの用途では球形又は半球形などの他の形状への適用も実用的であり得る)。また、回転要素が動かされるようにして他方の要素の並進運動を生じさせるなど、動きを逆にすることも可能である。
【0092】
図13B及び図13Cは回転体機構1350を示しており、回転体機構1350は単一の入力1352と複数の出力1354との間で回転運動を選択的に伝達する役割を果たし、機械式マルチプレクサとして採用され得る。伝達方式を逆にし、複数の入力が単一の出力に回転運動を選択的に伝達することも可能である。入力1352は、入力シャフト1356と細長い入力ヘッド1358を有する。同様に、出力1354の各々は、出力シャフト1360および細長い出力ヘッド1362を有する。複数の出力1354がそれらの出力ヘッド1362を整列させつつ配置された場合、出力ヘッド1362と平行に入力ヘッド1358がのびるように入力1352を配置可能であり、選択した1つの出力ヘッド1362に並べて入力ヘッド1358を配置するように入力1352を(図示しない手段によって)動かすことが可能である。出力ヘッド1362が形成するラインには小さな途切れがあるだけなので、入力1352のそのような動きは、入力ヘッド1358が対応する出力ヘッド1362のエッジを超えて移動する時に打ち勝つべき僅かなVDW障壁をもたらすだけである。選択された出力ヘッド1362に一旦整列すると、入力1352は回転可能となり(図13C参照)、ヘッド(1358、1362)を互いの整列から外すために必要となるであろうヘッド間のVDW引力に打ち勝たないように、VDW力によって出力ヘッド1362が入力ヘッド1358と共に回転させられる。回転運動は、選択された出力シャフト1360に伝達される。機構1350は、出力ヘッド1362の整列位置で入力ヘッド1358及び整列した出力ヘッド1362が静止するように、増加幅180°で入力1352を回転させるように設計可能である。次に、入力1352は、入力ヘッドを別の出力ヘッド1362と対向させるように移動可能であり、その後、入力1352の回転によりその出力1354が強制的に回転させられる。
【0093】
入力ヘッドを1つの出力ヘッドと並んだ状態から別の出力ヘッドと並んだ状態へと動かすために打ち勝つべきVDW力をさらに低減するために、入力ヘッド又は出力ヘッドの形状は、出力ヘッド間の移動時の障壁を低減するように調整可能であろう。一例として、図13Dは、出力ヘッド1372の形状においてのみ機構1350と異なる回転体機構1370を示しており、複数の出力ヘッド1372が面取りされて、出力ヘッド1372の隣接部位が重なるようになっている。入力ヘッド1358が複数の出力ヘッド1372の間を移動する際に、出力ヘッド1372間のギャップを横切る移動に対するVDW障壁がより緩やかになり、VDW力の抵抗に打ち勝つために必要な力がより少なくなる筈である。
【0094】
図13EはNCFエネルギー障壁の他の使用法を示し、有効エッジを越えて要素を動かすためにエネルギー障壁に打ち勝つ必要のないように部品を動かすための使用法である。ベルト駆動機構1390は一組の滑車1392を採用し、滑車歯1394が形成されたエッジを有している。ベルト1396はベルト歯1398のエッジを有しており、ベルト1396は滑車1392に係合する。ベルト歯1398は、滑車歯1394と合致し且つ滑車歯1394の上に重ねられており、滑車歯1394のエッジを越えて動かされることに対するNCF障壁を作り出す。このエネルギー障壁は歯(1394、1398)の整列を保つように作用し、滑車1392の一方を回転させるとベルト1396が動いて歯(1394、1398)の整列を保ち、ベルト1396のそのような動きにより他方の滑車1392も共に動かされる。分子スケールの機構の場合、滑車1392をCNTから形成可能であろうし、ベルト1396をグラフェンから形成可能であろう。滑車1392の間隔がより大きい場合、ベルト1396の側面が互いに引き合うことを打ち消すために、ベルト1396に沿ってのびるCNTガイドを使用可能であろう。
【0095】
NCFは、部品の動きをガイド又は制限することにも採用可能であり、或る部品のNCFに反応する部分又は要素が別の部品のエッジに接触することが回避されるようにする(議論の意図のために、このような第2部品は動かないものとみなす)。図14A及び図14Bはガイド機構1400を図示し、図11A及び図11Bに示したリンク体1100の部品と同様の部品を採用する。ガイド1400は、再び、成形板1404(活性面を提供)を持つ第1部品1402と、引力要素1408(係合要素を提供)を持つ第2部品1406とを有する。しかし、ガイド1400では、第1部品1402は固定されており、第2部品1406は、その伸長軸に沿った並進運動に限定されない(図示の例では、第2部品1406の動きはピボット運動及び移動の両方であり、左側視界外にある軸を中心にピボット運動し、このピボット軸が並進運動する際に移動をする)。第2部品1406のピボット軸を並進運動させる力が加えられると(図14B参照)、引力要素1408と成形板1404との間のNCFが作用して第2部品1406の動きをガイドし、成形板1404のエッジに引力要素1408が接触することが回避される。図14Cは、同じ原理を拡張するガイド機構1430を示しており、ガイドトラック1432が、所定位置に固定される第1部品として機能する。ガイドトラック1432は、また、第2部品1406の動きをガイドして、引力要素1408とガイドトラック1432の間のNCFに打ち勝つことが必要となるであろう引力要素1408とガイドトラック1432のエッジとの接触を回避するために、第2部品1406を所望運動経路に沿って導く役割を果たす。この場合、ガイドトラック1432は、第2部品1406のピボット軸が並進運動する際に、曲線を含む経路に沿って引力要素を導く。
【0096】
トラックが動き且つトラックに追従する要素が固定されるように、構成部品の相対位置を変更することによって、同じガイド効果を達成することができる。そのような方式の一例として、図14Dはデータリーダ機構1450を図示しており、データリーダ機構1450に組み込まれた構成部品は、図11Hのデータリーダ機構1170の構成部品と機能的に類似しているが、NCFとしてファンデルワールス引力を採用するナノスケール製作用に設計されている。機構1450は、2組の引力垂直ガイド要素1452(ロンズデーライト等のダイヤモンドイド材料で形成され得る)を有し、各々が、2つのデータリボン1454(グラフェンテープから形成され得る)の1つと係合するように位置決めされる。ガイド要素1452は、データリボン1454の動きが本質的に垂直な動きに制限されるように、データリボン1454における障害物無しの垂直領域とは反対の側に固定及び配置されるが、その理由は、軸から外れた動きをするにはデータリボン1454のエッジの1つをガイド要素1452の1つに接触させてNCFに打ち勝つ力が必要となるからである。データリーダ1450において、ガイド要素1452のガイド効果は、4つのビットリーダ1456(変性CNTから形成され得る)に対してデータリボン1454がドリフト移動する問題を回避するのに役立つ。図14Dはまた、スリーブ1458(これはより大きなCNTで形成され得る)に取り付けられたビットリーダ1456を示す。ファンデルワールス引力が要素を最大重なり位置に向かって引き寄せる傾向があり、重なりを減少させる動きに対して復元力をもたらすので、各ビットリーダ1456が対応するスリーブ1458内を動くことで両要素の重なり深さが変化する場合、入れ子式CNTがばねとして採用され得る。このような復元力は、図示のスリーブ1458を用いて、或いはビットリーダ1456の別の部位に重なる別のスリーブのセットを用いて、ビットリーダ1456に張力を与えるのに使用され得る。
【0097】
部品がNCFの変化なしに一方の種類の動きが可能であるが他方の種類の動きを可能とするにはNCFに打ち勝つ必要があるように構成されている場合、同様のガイド作用を利用して2つの部品の間の動きを回転運動又は並進運動のいずれかに制限することができる。これは、動きを所望の種類及び/又は範囲に制限するための必要部品数を減らすことによって機構を簡素化する目的で採用可能であり、また、部品が回転運動と並進運動との両方の動きを可能とするものの一方の場合は自由に動くが他方の場合は動くために力を必要とするような機構を設計することもできる。図15Aは、内側部品1502と外側部品1504を有するロータリージョイント1500を示す。内側部品1502は軸1506に沿って細長であり且つ内側部品軸受部1508を有し、内側部品軸受部1508は軸1506まわりに拡径し且つ対称な形状である。外側部品1504は、外側部品通路1510を有するとともに、その通路1510の端部付近に配置された引力要素1512を備えている。部品(1502、1504)は軸1506を中心にして互いに関して回転自在であるが(接触している場合は摩擦力を受ける)、これは、そのような回転運動が内側部品軸受部1508と引力要素1512との間のNCFを変化させることがないからである。しかしながら、軸1506に沿った並進運動をするためには引力要素1512と軸受部1508との間のNCFに打ち勝つことが必要であり、その理由は、そのような運動により、通路1510の一端における引力要素1512が、軸受部1508の終端する有効エッジと接触することになるからである。NCFに打ち勝つための十分な力が加わらない限り、部品(1502、1504)は回転可能であるが、互いに関して並進運動ができない。留意点として、並進運動に対するこのような制限は、機構を複雑にするような追加の運動制限部品なしで達成されている。ナノスケールの機構では、変性CNTが、回転ジョイントの内側要素及び外側要素(図5C及び図5Dに示す要素552、554及び564と同様であり得る)に使用可能であり得るとともに、VDW力が内側部品をその軸方向位置に保持するNCFsを提供する。留意点として、軸受部1508と通路1510の相対的な長さは、回転運動と限定範囲の並進運動とを可能にするために、変更可能であろう。図15Bはロータリージョイント1530を図示し、内側部品1532と、同じ外側部品1504とを採用している。この例の内側部品1532は、拡径した2つの軸受部1534を有し、その何れかが外側部品通路1510によって回転係合可能である。外側部品1508は、内側部品1532に関連する2つの異なる位置の間で強制的に並進移動可能であり、何れかの長手方向位置にあるときに回転自在である。
【0098】
図15Cはスライドジョイント1550を図示しており、図15Aのロータリージョイント1500と機能を逆にしたものであり、(限られた範囲内で)自由並進運動を可能とするが、回転運動には抵抗する。スライドジョイント1550では、内側部品1552及び外側部品1554が、軸受部1556及び通路1558をそれぞれ備え、部品(1552、1554)はNCFに打ち勝つことなく軸1560に沿う並進運動が可能となるように構成されるが、部品(1552、1554)が互いに関して回転運動するためには力を必要とする。スライドジョイント1550では、このような構成は、外側部品1554に引力要素1562を配置するとともに、引力要素1562に対向して位置する軸受面1564により軸受部1556を構成することによって、達成される。部品(1552、1554)の並進運動は、NCFを大きく変化させることなく、軸受面1564を引力要素1562に沿って動かすが、その一方で、部品(1552、1554)の回転運動は、引力要素1562を軸受面1564のエッジに接触させて有効に動かすことが必要であろうし、かかる回転には抵抗が生じる。引力要素1562と4つの軸受面1564とにより4つの組が設けられているので、部品(1552、1554)は、互いに関して4つの角度位置の間を強制的に回転可能であり、当該4つの位置の何れかにあるときに限られた距離を自由に並進運動可能である。
【0099】
説明のために特定の例を採用した上記の議論は、添付の特許請求の範囲の精神及び範囲を限定するものとして理解されるべきではない。
【0100】
Efficient and Manufacturable Mechanical Computingと題する出願人の同時出願(ドケット番号COMP-002-PCT及びCOMP-003-PCT)、米国特許10,481,866号、同10,664,233号、同10,949,166号、同8,171,568号、同8,276,211号、同9,676,677号、同10,067,160号、同10,072,031号、同10,138,172号、同10,197,597号、同10,308,514号、同10,309,985号、同10,822,229号、同10,822,230号、及び米国特許出願公開2021/0149630号は、組み込みが適切な法域において参照により本願に組み込まれる。
【手続補正書】
【提出日】2023-03-31
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構であって、
第1部品と
第2部品と、を備え、
前記第2部品は、規定した動作範囲において前記第1部品に対して可動であり、前記第1部品に対して、ファンデルワールス力に起因する、引力性の非接触力を発生させ、
前記第1部品と前記第2部品は、前記規定した可動範囲に亘って動いても、一方の部品の何れの部分も、ファンデルワールス引力の実質的変化を引き起こすように他方の部品の有効エッジに近接するようには動かされず、且つそれ故に部品間の前記非接触力が前記規定した動作範囲に亘って実質的に変化しないように、互いに関連して構成され、
前記機構は、位置によって値を符号化する1つ以上の機械式入力の形態でデータを受け入れ、位置によって値を符号化する1つ以上の機械式出力の形態でデータを出力するように構成され、
前記機構は、前記入力の少なくとも1つに論理演算を行うことによって少なくとも1つの出力の前記位置が決定されるように構成され、前記論理演算が、組み合わせ論理演算、順序論理演算及びブール論理演算からなる群のなかの少なくとも1つの演算を含む、機構。
【請求項2】
請求項1に記載の機構であって、
前記第1部品が、少なくとも非活性位置と活性位置との間で動くことができ、
前記非活性位置では、前記第2部品が部品間の前記引力を実質的に変化させずに前記第1部品に関連して相対的に可動であり、
前記活性位置では、前記第1部品に関連する前記第2部品の動きは、前記引力の著しい変化に打ち勝つことを必要とする、機構。
【請求項3】
請求項2に記載の機構であって、
前記第1部品は、前記第1部品がその活性位置にある場合に、少なくとも1つの方向において前記第2部品の動きを阻止する、機構。
【請求項4】
請求項1に記載の機構であって、
前記第1部品及び前記第2部品は、少なくとも前記機構の活性動作状態において、前記第1部品の動きが、前記第1、2部品間の前記引力を実質的な変化なく維持するために前記第2部品の対応する動きを必要とするように、互いに関して構成される、機構。
【請求項5】
請求項4に記載の機構であって、
前記機構は、非活性動作状態に設定可能であり、
前記非活性動作状態において、前記第1、2部品間の前記引力を実質的な変化なく維持するために前記第2部品の動きを必要とせずに前記第1部品の動きを収容可能である、機構。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1つに記載の機構であって、
被駆動要素を備え、
前記入力(複数可)の前記位置(複数可)が、前記被駆動要素の変位が複数の前記出力のうち選択された1つに伝達されることなく収容可能であるか否かを決定するための前記機構内の許容動作範囲を決定する、機構。
【請求項7】
構であって、
1部品と
可動である第2部品と、を備え、
前記第2部品は、前記第1部品に対して可動であり、前記第1部品と前記第2部品との間にファンデルワールス引力に起因する非接触力を生成するように前記第1部品と相互作用し、
前記第1部品と前記第2部品とのうち一方が、少なくとも1つの活性面を持ち、前記活性面(複数可)は少なくとも1つの有効エッジを持ち、
前記第1部品と前記第2部品とが、部品間の前記非接触力が前記第1部品に対する前記第2部品の許容動作範囲を規定するように互いに関して構成され、
前記第2部品の前記動作範囲は、前記第1部品と前記第2部品との間のファンデルワールス引力に実質的な変化が引き起こされるように前記第1部品と前記第2部品とのうち何れか一方の部分が前記活性面の前記有効エッジ(複数可)へと十分に近傍に近づくように前記第1部品に関連して前記第2部品を動かすことのない動作範囲として規定され、且つそれ故に前記動作範囲内における前記第2部品の動きは前記部品間の前記非接触力を実質的に変化させない、機構。
【請求項8】
請求項7に記載の機構であって、前記有効エッジは、前記有効エッジを越えて続く表面の下に存在する構造によって提供される、機構。
【請求項9】
構であって、
可動である第1部品と
可動である第2部品と、を備え、
前記第1部品及び前記第2部品のうち一方が少なくとも1つの活性面を持ち、前記第1部品及び前記第2部品のうち他方が少なくとも1つの係合要素を持ち、前記活性面(複数可)は少なくとも1つの有効エッジを持ち、
前記係合要素(複数可)及び前記活性面(複数可)は、ファンデルワールス引力に起因してそれらの間に非接触力を生成し、
前記第1部品及び前記第2部品は、少なくとも前記機構の活性動作状態において、前記第2部品が前記第1部品の動きに応答して強制的に動くように構成され、前記第2部品が動かなかった場合に前記有効エッジ(複数可)に関連して前記係合要素(複数可)が動く結果生じるであろう、前記第1部品と前記第2部品との間に生ずる前記ファンデルワールス引力の実質的な変化を回避するように、前記第2部品が動く、機構。
【請求項10】
請求項9に記載の機構であって、
前記機構は、活性動作状態と非活性動作状態とに選択的に構成されることが可能であり、
前記活性動作状態では、前記第1部品の動きに応答して前記第2部品が動き、
前記非活性動作状態では、部品間の非接触力の実質的変化を回避するために前記第1部品の動きに応答して前記第2部品が動くことを必要とするであろう部品間の非接触力の実質的変化を生じさせることなく、前記係合要素(複数可)の動きを収容可能である、機構。
【請求項11】
請求項9又は請求項10に記載の機構であって、
前記第1部品と前記第2部品とのうち少なくとも一方は、少なくとも1つの入力によって位置決めされる、機構。
【請求項12】
請求項11に記載の機構であって、
前記第1部品の動きに応答する前記第2部品の動きは、1つ以上の入力の位置に対して行われるブール関数で決定される、機構。
【請求項13】
請求項11に記載の機構であって、
前記機構は、機械式のクロック信号により駆動され、前記クロック信号のサイクル間に前記第1部品と前記第2部品とのうち少なくとも一方の位置が記憶されるように構成される、機構。
【請求項14】
請求項9から請求項13のいずれか1つに記載の機構であって、
前記機構は、前記第1部品の動きに応答して前記第2部品を動かすために、1μNを超えない力を要する、機構。
【請求項15】
構であって、
第1部品と
第2部品と、を備え、
前記第2部品は、規定した動作範囲を通じて前記第1部品に対して可動であり、
前記第1部品及び前記第2部品は、部品間で、ファンデルワールス引力に起因する引力性の非接触力を発生させ、
前記第1部品及び前記第2部品は、前記規定した動作範囲に亘って、VDW引力が実質的に及ばない程の十分に大きな距離を離間した前記第1部品及び前記第2部品の部分だけが互いに対して距離を変化させるように、互いに関連して構成され、
前記機構の体積は0.001mmを超えない、機構。
【国際調査報告】