(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-14
(54)【発明の名称】量子ドットの表面を修飾する方法および表面修飾量子ドットの分散体を調製する方法
(51)【国際特許分類】
C01G 15/00 20060101AFI20231107BHJP
C01B 25/08 20060101ALI20231107BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20231107BHJP
B82Y 20/00 20110101ALI20231107BHJP
H01L 31/10 20060101ALI20231107BHJP
H01L 31/0352 20060101ALI20231107BHJP
【FI】
C01G15/00 B
C01B25/08 Z
B82Y40/00
B82Y20/00
H01L31/10 A
H01L31/04 342A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023522979
(86)(22)【出願日】2021-10-14
(85)【翻訳文提出日】2023-06-13
(86)【国際出願番号】 EP2021078513
(87)【国際公開番号】W WO2022079198
(87)【国際公開日】2022-04-21
(32)【優先日】2020-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514185611
【氏名又は名称】ユニベルシテイト ゲント
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITEIT GENT
【住所又は居所原語表記】Sint-Pietersnieuwstraat 25, B-9000 Gent, Belgium
(74)【代理人】
【識別番号】110003971
【氏名又は名称】弁理士法人葛和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヘンス,ツェガー
(72)【発明者】
【氏名】レーマンス,ヤリ
【テーマコード(参考)】
5F149
5F251
【Fターム(参考)】
5F149AA01
5F149AB07
5F149DA33
5F149LA01
5F149XB18
5F149XB24
5F251AA08
5F251DA11
(57)【要約】
本発明は、III-V量子ドットの表面を修飾する方法に関する。外表面にX型リガンドおよびL型リガンドが提供されるIII-V量子ドットを、追加の化合物を含む溶媒中に分散させる。追加の化合物は、式RYHで表される有機酸または式RYH+Z-で表される有機塩を含み、水中で16以下のpKaを有する少なくとも1つの酸性プロトンH+を有する。分散中に酸性プロトンH+がL型リガンドの少なくとも一部をプロトン化し、X型リガンドの少なくとも一部が置き換えられる。本発明はさらに、表面修飾量子ドット、かかる表面修飾量子ドットを含む分散体、およびかかる分散体の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子ドットの表面を修飾する方法であって、方法が、
-III-V量子ドットを提供し、量子ドットはX型リガンドおよびL型リガンドをその外表面に有し、X型リガンドはX型リガンドが結合する量子ドットに1電子供与可能なリガンドを含み、およびL型リガンドはL型リガンドが結合する量子ドットに2電子供与可能なリガンドを含み、
-前記量子ドットを追加の化合物をさらに含む溶媒に分散させ、修飾量子ドットを形成し、前記追加の化合物は式RYHで表される有機酸または式RYH
+Z
-で表される有機塩を含み、前記追加の化合物は水中で16以下のpKaを有する少なくとも1つの酸性プロトンH
+を含み、および前記追加の化合物は少なくとも1つの炭素原子を含むR基を含み、前記式RYHで表される有機酸は、カルボン酸、スルホン酸、チオールおよびフェノールからなる群から選択され、前記式RYH
+Z
-で表される有機塩は、有機アンモニウムイオンRYH
+および負に帯電した対イオンZ
-を含み、
これにより、前記分散中に、前記追加の化合物の前記酸性プロトンH
+は、前記L型リガンドの少なくとも一部をプロトン化し、プロトン化されたL型リガンドを形成し、および前記X型リガンドの少なくとも一部は、前記式RYHで表される有機酸の脱プロトン酸RY
-または前記式RYH
+Z
-で表される有機塩の対イオンZ
-および/または前記式RYH
+Z
-で表される有機塩のイオンRYH
+の脱プロトン化共役塩基RYによって置き換えられる、
ステップを含む、前記方法。
【請求項2】
プロトン化されたL型リガンドの少なくとも一部が、好ましくはX型リガンドの置き換えと同時に、量子ドットの外表面から除去される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
X型リガンドがハロゲン化物、カルボキシレートおよびチオレートからなる群から選択され、および/または前記L型リガンドがアミン、ホスフィンおよびチオールからなる群から選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
X型リガンドがハロゲン化物を含み、および/またはL型リガンドがアミンまたはホスフィンを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
プロトン化されたL型リガンドとX型リガンドとの塩が分散中に形成される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
溶媒が非極性溶媒または極性溶媒を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
方法が、
-修飾量子ドットを分離する
ステップをさらに含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の方法により得られる量子ドット。
【請求項9】
量子ドットが、チオレートおよびカルボキシレートからなる群から選択されるRY
-リガンドが提供される、請求項8に記載の量子ドット。
【請求項10】
表面修飾量子ドットを含む分散体を調製する方法であって、方法が、
-第1の溶媒に量子ドットを含む第1の溶液を提供し、前記第1の溶媒は非極性溶媒であり、量子ドットは、その外表面にX型リガンドおよびL型リガンドが提供され、X型リガンドはX型リガンドが結合する量子ドットに1電子供与可能なリガンドを含み、およびL型リガンドはL型リガンドが結合する量子ドットに2電子供与可能なリガンドを含み、
-第2の溶媒、追加の化合物、および任意に少なくとも1つの安定化剤を含む第2の溶液を提供し、前記第2の溶媒は極性溶媒であり、前記追加の化合物は式RYHで表される有機酸または式RYH
+Z
-で表される有機塩を含み、前記追加の化合物は水中で16以下のpKaを有する少なくとも1つの酸性プロトンH
+を含み、および少なくとも1つの炭素原子を含むR基を含み、前記有機酸は、カルボン酸、スルホン酸、チオールおよびフェノールからなる群から選択され、前記式RYH
+Z
-で表される有機塩は、有機アンモニウムイオンRYH
+および負に帯電した対イオンZ
-を含み、
-第1の溶液と第2の溶液とを混合し、修飾量子ドットを提供し、前記修飾量子ドットには、前記式RYHで表される有機酸のRY
-リガンド、または前記式RYH
+Z
-で表される有機塩の対イオンZ
-リガンド、および/または前記式RYH
+Z
-で表される有機塩のイオンRYH
+の脱プロトン化共役塩基RYリガンドが提供され、および
前記第1の溶液の前記第1の溶媒から前記第2の溶液の前記第2の溶媒中に表面修飾量子ドットを抽出し、
-前記第1の溶媒を除去する
ステップを含む、前記方法。
【請求項11】
R基が水素結合に関与できる少なくとも1つの追加の官能基を含み、および/またはR基が1~20個の炭素原子を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
安定化剤がアミン、好ましくは1~5個の炭素原子の短鎖の鎖を有する一官能性または二官能性アミンを含む、請求項10または11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
第1の溶媒がアルカンを含み、および/または第2の溶媒がN,N’-ジメチルホルムアミド、ホルムアミドおよびジメチルスルホキシドから選択される、請求項10~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
請求項9または10に記載の量子ドットを含む、または請求項11~14のいずれか一項に記載の方法によって得られる分散体。
【請求項15】
請求項15に記載の分散体の、フィルムを堆積させるための使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野
本発明は、量子ドットの表面を修飾する方法、特に量子ドットの表面終端を修飾する方法、および/または、量子ドット、特にIII-V量子ドットの表面を不動態化する方法に関する。本発明はさらに、表面修飾量子ドット、特に表面修飾III-V量子ドット、表面修飾量子ドットを含む分散体を調製する方法、およびかかる分散体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
コロイド量子ドット(QD)は、サイズおよび形状に依存する波長にて光を吸収する半導体ナノ結晶である。それらは、可視領域だけでなく、(近)赤外領域においても用途を有する。可視領域における量子ドットの主な用途は、色変換および発光の用途を含む。赤外線コロイド量子ドットは、低コストの近赤外線(NIR)光検出器の有望な候補である。量子ドット光検出器は、典型的に、電荷輸送層と電極との間に埋め込まれたナノ結晶材料の層を有する。量子ドット層(例えば、InAs量子ドット層)における吸収の後、可動電荷キャリアは、測定可能な電子信号を生成するそれぞれの電極に分離され得る。
【0003】
量子ドットフォトダイオードまたは太陽電池などの、光信号を電気信号に変換するために量子ドットを使用するデバイスは、典型的には、十分な電子伝導性を有する高密度に詰め込まれた量子ドットの薄膜を使用する。これを達成するために、合成されるとおりの量子ドットの表面を不動態化する長い絶縁リガンドは、より短い吸着剤に置き換えられなければならない。
【0004】
量子ドットの表面を不動態化する第1の手順は、より短いリガンドを含む化学浴への曝露によって堆積膜から長いリガンドを抽出することを含む。長い/短いリガンド交換によって引き起こされる体積収縮は量子ドット膜の破裂や亀裂につながるため、かかる手順は、通常、層ごとの堆積プロトコルにつながり、連続する量子ドット層が堆積され、化学的に処理され、光活性層を構築する。
【0005】
代替手順は、元の長いリガンドの代わりに、意図された短いリガンドによって量子ドットが安定化される量子ドット分散の配合を含む。InAs量子ドットインクなどのかかる量子ドットインクを配合することに向けられる主な課題は、表面交換された量子ドットの分散が、滑らかな量子ドットフィルムの形成などのその後の処理を可能にするために十分な安定性を確保しながら、元の表面リガンドをどのように交換できるかを特定することである。
【0006】
例えば光検出器における光活性層として使用され得る電子伝導性量子ドットフィルムの形成を可能にするために、量子ドットの表面を不動態化する改善された方法を提供する必要性が依然として存在する。
【発明の概要】
【0007】
発明の概要
本発明の目的は、量子ドットの表面を修飾する方法、特に量子ドットの表面終端を修飾する方法および/または量子ドットの表面を不動態化する方法を提供することである。
【0008】
本発明の別の目的は、量子ドット、特に例えばInP、InAsまたはIn(As,P)量子ドットなどのIII-V量子ドットのリガンドのための交換プロトコルを提供することである。
【0009】
本発明のさらなる目的は、X型リガンドとL型リガンドが同時に置換される、量子ドット、特にIII-V量子ドットのリガンドを交換するための交換プロトコルを提供することである。
【0010】
さらにまた、本発明の目的は、量子ドットのリガンドを交換するための交換プロトコルを提供し、それによって量子ドットのリガンドを除去し、それらの少なくとも一部を選択したリガンドで置き換えることである。
【0011】
本発明のなおさらなる目的は、強酸を必要とせず、量子ドットの表面を修飾および/または不動態化する方法を提供することである。
【0012】
本発明の目的は、量子ドットの表面終端を修飾し、それにより外表面で最終リガンドを選択することを可能にする方法を提供することである。最終リガンドは、長いものでも短いものでも、極性でも無極性でもよい。本発明に従う方法は、表面を設計する高い自由度を提供する。表面は、最終用途に応じて最適化されてもよい。
【0013】
また本発明の目的は、表面修飾量子ドット、すなわち選択されたリガンドが提供される量子ドットを提供することである。
【0014】
本発明のさらなる目的は、量子ドットを含む分散体、例えば量子ドットを含むインクを調製する方法を提供することである。
【0015】
本発明の第1の側面に従って、量子ドットの表面を修飾する方法、特に量子ドットの表面終端を修飾する方法が提供される。方法は、
-III-V量子ドット、量子ドットはX型リガンドおよびL型リガンドをその外表面に有し、X型リガンドはX型リガンドが結合する量子ドットに1電子供与可能なリガンドであり、およびL型リガンドはL型リガンドが結合する量子ドットに2電子供与可能なリガンドである、を提供し、
-追加の化合物をさらに含む溶媒中に量子ドットを分散させる。追加の化合物は、式RYHで表される有機酸または式RYH+Z-で表される有機塩を含む。追加の化合物は、水中で16以下のpKaを有する少なくとも1つの酸性プロトンH+を有し、少なくとも1つの炭素原子を含むR基を含む。式RYHで表される有機酸は、好ましくは、カルボン酸、スルホン酸、チオールおよびフェノールからなる群から選択される。式RYH+Z-で表される有機塩は、好ましくは、有機アンモニウムイオンRYH+および負に帯電した対イオンZ-を含む。式RYH+Z-で表される有機塩の負に帯電した対イオンZ-は、好ましくはハロゲン化物、例えばフッ化物、塩化物、臭化物またはヨウ化物を含む。
分散ステップ中、追加の化合物の、すなわち式RYHで表される有機酸または式RYH+Z-で表される有機塩の少なくとも1つの酸性プロトンH+は、L型リガンドの少なくとも一部をプロトン化し、プロトン化されたL型リガンドを形成する。好ましくは、プロトン化されたL型リガンドの少なくとも一部が量子ドットの表面から除去(脱着)される。さらに、分散ステップ中、X型リガンドの少なくとも一部が量子ドットの表面から除去され、例えば脱プロトン化された追加の化合物によって置き換えられる。
追加の化合物が式RYHで表される有機酸を含む場合において、X型リガンドは、例えば、式RYHで表される有機酸の脱プロトン酸(RY-)によって置き換えられる。
追加の化合物が式RYH+Z-で表される有機塩を含む場合において、X型リガンドは、例えば、式RYH+Z-で表される有機塩の対イオンZ-および/または式RYH+Z-で表される有機塩のイオンRYH+の脱プロトン化共役塩基(RYリガンド)によって置き換えられる。
追加の化合物が式RYH+Z-で表される有機塩を含む場合において、X型リガンドは、好ましくは式RYH+Z-で表される有機塩の対イオンZ-によって置き換えられる。かかる場合において、リガンドRYはL型リガンドとして機能することができ、量子ドットの表面に結合することができる。
好ましくは、式RYHまたは式RYH+Z-で表される追加の化合物の酸性プロトンH+は、L型リガンドのすべてまたは実質的にすべてをプロトン化する。好ましくは、プロトン化されたL型リガンドは、量子ドットの表面から除去される。好ましくは、L型リガンドのすべてまたは実質的にすべてが量子ドットの表面から除去される。
好ましくは、X型リガンドのすべてまたは実質的にすべてが、式RYHで表される化合物の脱プロトン酸(RY-)、または式RYH+Z-で表される有機塩の対イオンZ-、および/または式RYH+Z-で表される有機塩のイオンRYH+の脱プロトン化共役塩基(RYリガンド)によって置き換えられる。
【0016】
方法の第1ステップにおいて提供される量子ドットは、それらの外表面にL型リガンドおよびX型リガンドが提供される。量子ドットは、かくしてハイブリッド表面終端によって特徴付けられる。L型リガンドは、量子ドットの表面にしっかりと結合していることが好ましい。これは、2D核オーバーハウザー効果分光法および/または2D-DOSY実験で1H-NMRによって実証され得る。ハロゲン化物などのX型リガンドの存在は、X線光電子分光法(XPS)、ラザフォード後方散乱分光法(RBS)、および分光測光法によって実証され得る。
【0017】
好ましくは、量子ドットの表面に存在するL型リガンドの量に対する量子ドットの表面に存在するX型リガンドの量の比は、10:1と1:10の間の範囲である。より好ましくは、量子ドットの表面に存在するL型リガンドの量に対する量子ドットの表面に存在するX型リガンドの量の比は、5:1と1:5の間、2:1と1:2の間、または1.5:1と1:1.5の間の範囲である。いくつかの態様において、量子ドットの表面に存在するX型リガンドの量は、量子ドットの表面に存在するL型リガンドの量と等しい、または実質的に等しい。
【0018】
L型リガンドは、L型リガンドが結合する中心元素/量子ドットに2電子供与可能なリガンドをいう。したがって、L型リガンドはリガンド-量子ドット結合に2電子供与可能である。L型リガンドの例は、NH3、アミン、例えば第一級アミン、ホスフィンおよびチオールを含む。
【0019】
X型リガンドは、X型リガンドが結合している中心元素/量子ドットに1電子供与可能なリガンドをいう。かくして、X型リガンドはリガンド-量子ドット結合に1電子供与可能である。X型リガンドの例は、フッ化物、塩化物、臭化物およびヨウ化物などのハロゲン化物、カルボキシレートおよびチオレートを含む。
【0020】
好ましい量子ドットは、ハロゲン化物、例えばX型リガンドとしての塩化物およびL型リガンドとしてのアミンが提供される。好ましくは、量子ドットの表面に存在するアミンの量に対する塩化物の量の比は、10:1と1:10の間、より好ましくは5:1と1:5の間、2:1と1:2の間、または1.5:1と1:1.5の間の範囲である。
【0021】
量子ドットは、異なるL型リガンド、異なるX型リガンド、または異なるL型リガンドと異なるX型リガンドとが提供され得ることは明らかである。量子ドットは、例えば、L型リガンドとしてアミンおよびホスフィンを、および/またはX型リガンドとして塩化物および臭化物が提供され得る。
【0022】
追加の化合物、例えば式RYHで表される有機酸または式RYH+Z-で表される有機塩は、水中で16以下のpKaを有する少なくとも1つの酸性プロトンを有する。好ましい追加の化合物、例えば、式RYHで表される有機酸または式RYH+Z-で表される有機塩は、水中で10未満、6未満、または5未満のpKaを有する少なくとも1つのプロトンを有する。追加の化合物が2つ以上の酸性プロトンを含み得ることは明らかである。式RYHで表される有機酸の脱プロトン形態はRY-である。式RYH+Z-で表される有機塩の脱プロトン体はRYである。
【0023】
上述のとおり、追加の化合物は、式RYHで表される有機酸を含んでもよい。有機酸は、酸性の性質をもつ有機化合物である。有機酸の例は、カルボン酸(その酸性度はカルボキシル基-COOHに関連付けられている)、スルホン酸(-SO2OH基を有する)、アルコール(-OH基を有する)、チオール(-SH基を有する)、およびフェノールを含む。
【0024】
RY-は、脱プロトン化有機酸RYHを指す。好ましくは、RY-はRCOO-、RSO2O-、RO-またはRS-を含み、R-は有機基を含む。いくつかの好ましいR基は以下に述べられる。
【0025】
式RYHで表される追加の化合物の例は、ドデカンチオール、オクタンチオール、ヘキサデカンチオール、エタンジチオールおよび3-メルカプト-1,2-プロパンジオールなどのアルカンチオール、またはオレイン酸、ミリスチン酸および2-エチルヘキサン酸などの脂肪酸を含む。さらなる例は、フェノール、3-メルカプトプロピオン酸、コハク酸、チオグリコールおよびチオグリコール酸を含む。
【0026】
追加の化合物はまた、RYH+イオンおよび対イオンZ-を含む、式RYH+Z-で表される有機塩を含み得る。有機塩の例は、例えばアンモニウム塩、例えば第一級、第二級または第三級アンモニウム塩を含む。
【0027】
第1級アンモニウム塩は、1つの有機基R1を有する第1級アンモニウムイオンを含み、第2級アンモニウム塩は、2つの有機基R1およびR2を有する第2級アンモニウムイオンを含み、第3級アンモニウム塩は、3つの有機基R1、R2およびR3を有する第3級アンモニウムイオンを含む。アンモニウム塩/イオンが1より多くの有機基を含む場合において、有機基は互いに独立して選択され得る。有機基は同じでも異なっていてもよい。いくつかの好ましいR基、例えばR1-、R2-またはR3-基は以下に述べられる。
【0028】
RYは、式RYH+Z-で表される有機塩のRYH+イオンの脱プロトン化形態を指し、RNH2、R1R2NHまたはR1R2R3Hを指し得る。いくつかの好ましいR基、例えばR1-、R2-またはR3-基は以下に述べられる。
【0029】
対イオンZ-は、好ましくはハロゲン化物、例えばフッ化物、塩化物、臭化物またはヨウ化物を含む。
【0030】
第一級アンモニウム塩の好ましい例は、塩化ブチルアンモニウム、臭化ブチルアンモニウム、塩化トリエチルアンモニウム、塩化オレイルアンモニウムを含む。
【0031】
追加の式RYHで表される化合物または式RYH+Z-で表される化合物のR基として、任意のタイプの有機基が考慮され得る。R基は、少なくとも1個の炭素原子を含む。R基の炭素原子の数は、最終用途に応じて選択することができる。原則として、炭素原子の数は制限されない。好ましいR基は、1~20個の炭素原子、例えば1~10個の炭素原子、例えば2、3、4または5個の炭素原子を含む。R基は、極性または非極性であり得る。
【0032】
非極性R基のいくつかの例は、オレイル-;ミリスチル基、ドデシル基および分岐アルカン、たとえば2-プロピルヘキサンを含む。R基が1つ以上の二重結合を含み得ることは明らかである(例えば、R基がオレイルを含む場合など)。
【0033】
極性R基のいくつかの好ましい例は、-NH2、-OH、-O-、-SHの官能基の少なくとも1つを含む、短い炭素骨格(例えば、1から10個の炭素原子、例えば2、3、4または5個の炭素原子を有する)を含む。より具体的には、R基は、-プロピルアルコール、-プロピルアミン、-プロパンチオール、-ジエチレングリコールおよび-チオグリコールを含む。
【0034】
溶媒が、式RYHおよび/または式RYH+Z-で表される1より多くの追加の化合物を含み得ることは明らかである。溶媒は、式RYHで表される1より多くの追加の化合物、式RYH+Z-で表される1より多くの追加の化合物、または式RYHで表される1より多くの追加の化合物と式RYH+Z-で表される1より多くの追加の化合物の組み合わせを含んでもよい。
【0035】
本発明の方法において使用される溶媒は、極性溶媒または非極性溶媒を含んでもよい。溶媒の極性は、最終リガンドの極性、すなわち、分散ステップ後の量子ドットの外表面に存在するリガンドの極性に応じて選択されてもよい。
【0036】
交換後に導入され、量子ドットの表面に結合されるリガンドRY-またはRYが、極性官能基を含まず、好ましくは少なくとも8または9個の炭素原子を有する脂肪族R基を含む場合において、非極性溶媒が好ましい。かかるR基は、1つ以上の二重結合を含んでもよい。
【0037】
非極性溶媒は、例えば、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサンなどのアルカンを含む。他の例は、ベンゼン、トルエン、およびクロロホルム、テトラクロロエチレンおよび四塩化炭素などのハロゲン化溶媒を含む。
【0038】
交換後に量子ドットの表面に導入および結合されるリガンドRY-またはRYは、1以上の極性官能基を有するR基を含み、および好ましくは最大8個の炭素原子、例えば最大4個の炭素原子を有する場合において、極性溶媒が好ましい。
【0039】
極性溶媒の例は、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、水、およびアミン、好ましくはn-ブチルアミン、ペンチルアミンまたはエタノールアミンなどの短いアミンを含む。メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコールは極性溶媒として考慮されてもよいが、アルコールに量子ドットを分散させることは(表面に極性で短いリガンドをもっていても)困難であるかもしれない。
【0040】
用語「量子ドット」(QD)または「半導体ナノ結晶」は、サイズ依存の光学的および電子的特性を示すことができる半導体のナノメートルサイズの微結晶を指す。ナノメートルサイズの粒子には、ナノメートルスケールの直径、長さ、幅、または厚さなどの寸法の少なくとも1つを有するすべてのタイプの粒子が含まれ、結晶性または非晶質のナノ粒子、ナノクリスタル、量子ドット、量子ロッド、テトラポッド、ナノチューブ、ナノスフェア、ナノディスクなどを包含する。ナノメートルサイズの粒子は特定の形状に限定されず、球状および非球状の粒子を包含してもよい。
【0041】
量子ドットは、均一または実質的に均一な組成を有してもよく、または不均一な組成を有してもよい。例えば均質な組成を含む量子ドットはコアからなる。不均一組成を含む量子ドットは、例えば、量子ドット中心から量子ドット表面までのラインに沿って組成勾配を有するか、またはコア/シェル量子ドットを含む。
【0042】
量子ドットの材料は、例えばIII-V族材料、例えば、Gaおよび/またはInをIII族元素として含み、N、P、Asおよび/またはSbをV族元素として含む、例えば2成分(binary)、3成分(ternary)または4成分(quaternary)のIII-V族材料を含む。好ましいコア材料は、InP、InAs、InSb、GaP、GaAs、GaSb、In(As,P)、In(As,Sb)、(In(P,Sb)、(In,Ga)P、(In,Ga)Asおよび(In,Ga)Sbを含む。さらにまた、コアは、例えば(In,Zn)PなどのV族プニクタイドと組み合わせにおける合金化されたII族/III族材料を含んでもよい。
【0043】
本発明に従う方法は、III-V材料を含む量子ドット、例えばInP、InAs、InSb、GaP、GaAs、GaSb、In(As,P)、In(As,Sb)、In(P,Sb)、(In,Ga)P、(In,Ga)Asおよび(In,Ga)Sbを含む量子ドットの表面終端を修正するために特に好適である。
【0044】
追加の化合物が式RYHで表される有機酸を含む場合、式RYHで表される化合物の酸性プロトンH+は、L型リガンド(またはL型リガンドの少なくとも一部)をプロトン化する。これにより、プロトン化されたL型リガンドは、量子ドットの表面から除去(脱着)されることが好ましい。さらに、好ましくは同時に、X型リガンド(またはX型リガンドの少なくとも一部)が量子ドットの表面から除去され、式RYHで表される化合物の脱プロトン酸(共役塩基)RY-によって置き換えられる。入ってくるRY-リガンドは、量子ドットの表面を不動態化し得る。
【0045】
したがって、本発明に従う方法は、X型リガンド(またはX型リガンドの少なくとも一部)およびL型リガンド(またはL型リガンドの少なくとも一部)を同時に(またはほぼ同時に)置換することを可能にする。より具体的には、式RYHで表される追加の化合物の酸性プロトンH+がL型リガンド(またはL型リガンドの少なくとも一部)をプロトン化し、それによってL型リガンドを除去し、式RYHで表される追加の化合物のRYがX型リガンド(またはX型リガンドの少なくとも一部)を置換する。X型リガンドとL型リガンドは同時に置換されることが好ましい。X型リガンド(またはX型リガンドの少なくとも一部)は、式RYHで表される化合物のRYリガンドによって置き換えられ、それによって、修飾量子ドットの表面を不動態化する。
【0046】
好ましくは、プロトン化されたL型リガンドおよびX型リガンドの塩は、分散ステップ中に形成される。
【0047】
追加の化合物が式RYH+Z-で表される有機塩を含む場合、式RYH+Z-で表される化合物の酸性プロトンH+は、L型リガンド(またはL型リガンドの少なくとも一部)をプロトン化する。さらに、好ましくは、式RYH+Z-で表される有機塩の対イオンZ-および/または式RYH+Z-で表される有機塩のイオンRYH+の脱プロトン酸(共役塩基)RYにより、同時に、X型リガンド(またはX型リガンドの少なくとも一部)が量子ドットの表面から除去されおよび置き換えられる。入ってくるZ-リガンドおよび/または入ってくるRYリガンドは、量子ドットの表面を不動態化することができる。
【0048】
したがって、本発明による方法は、X型リガンド(またはX型リガンドの少なくとも一部)およびL型リガンド(またはL型リガンドの少なくとも一部)を同時に(またはほぼ同時に)置換することを可能にする。より具体的には、式RYH+Z-で表される追加の化合物の酸性プロトンH+は、L型リガンド(またはL型リガンドの少なくとも一部)をプロトン化し、それにより、式RYH+Z-で表される化合物のL型リガンドおよび対イオンZ-および/またはRYリガンドを除去すると、X型リガンド(またはX型リガンドの少なくとも一部)が置換される。好ましくは、式RYH+Z-で表される化合物の対イオンZ-は、X型リガンド(またはX型リガンドの少なくとも一部)を置換する。かかる場合において、RYはL型リガンドとして量子ドットの表面に結合することができる。
【0049】
X型リガンドおよびプロトン化されたL型リガンドは、好ましくは同時に置換される。X型リガンド(またはX型リガンドの少なくとも一部)は、式RYH+Z-で表される化合物のZ-リガンドおよび/またはRYリガンドによって置き換えられ、それによって修飾量子ドットの表面を不動態化する。
【0050】
好ましくは、プロトン化されたL型リガンドおよびX型リガンドの塩は、分散ステップにおいて形成される。
【0051】
アミンおよび塩化物リガンドを有するハイブリッド表面終端を有する量子ドットを含む分散体が使用される場合、式RYHまたは酸性プロトンH+を有する式RYH+Z-で表される追加の化合物(例えば、有機チオール、第一級脂肪酸または第一級アルキルアンモニウム)を量子ドットを含む分散体に追加することによって、アミンリガンドと塩化物リガンドとが置換され、および、アンモニウム塩(塩化アンモニウム)を形成してもよく、および共役塩基RY-またはZ-対イオンおよび/またはRYリガンドが表面を不動態化してもよい。
【0052】
本発明による方法は、さらに、
-修飾量子ドットを分離する、特に溶媒および/または塩から修飾量子ドットを分離する
ステップを含んでもよい。
【0053】
原則として、修飾量子ドットを溶媒および/または塩から分離するために当技術分野で知られている任意の技術は使用されてもよい。好ましい技術は、沈殿および遠心分離を含む。電気泳動やカラムクロマトグラフィーなどの他の手法も考慮されてもよい。
【0054】
修飾量子ドットを分離するための好ましい技術は、第1の溶媒(=量子ドット分散物が提供される溶媒)と混和性であるが第1の溶媒とは異なる極性を有する第2の溶媒を添加することによる修飾量子ドットの沈殿である。量子ドットが非極性溶媒中の分散体として提供される場合、非極性溶媒と混和性のより極性の高い溶媒が好ましくは使用される。
【0055】
量子ドットは、例えば、非極性溶媒、例えばヘキサンまたはオクタン中の分散体として提供され、修飾量子ドットは、より極性の高い溶媒、例えばエタノール、アセトニトリル、イソプロパノール、酢酸メチルまたはアセトン中で修飾量子ドットを沈殿させることによって分離される。
【0056】
第2の態様によれば、上記の方法によって得られる表面修飾量子ドットが提供される。量子ドットは、極性または非極性RY-リガンドによって、または極性または非極性Z-リガンドおよび/またはRYリガンドによって不動態化される。
【0057】
非極性RY-リガンドは、例えば、チオレート、好ましくはアルカンチオレートおよびカルボキシレート、好ましくはアルカンカルボキシレートからなる群から選択される。アルカンチオレートは、例えば、オクタンチオレート、ドデカンチオレートまたはヘキサデカンチオレートを含む。アルカンカルボキシレートは、例えば、ミリステート、オレエートおよびデカンエートを含む。チオラートまたはカルボキシラートのアルカンは、分枝していても(例えば2-プロピルヘキサノエートのように)、分枝していなくてもよい。
【0058】
極性RY-リガンドは、例えば、3-メルカプトプロピオネート、エタンジチオレートおよびチオグリコレートからなる群から選択される。
【0059】
基Y-は、好ましくはチオレート、カルボキシレートまたはアルコキシドを含み、基R-は、好ましくは1~20の炭素原子を含み、任意に、例えば-OH基、-SH基および/または-NH基などの1以上の官能基をさらに含む。
【0060】
量子ドットは均一な組成を含んでもよく、または不均一な組成を含んでもよい。均一な組成を含む量子ドットは、例えばコアからなる。不均一組成を含む量子ドットは、例えば量子ドット中心から量子ドット表面までの線に沿った組成勾配を有するか、またはコア/シェル量子ドットを含む。
【0061】
量子ドットの材料は、例えば、III-V族材料、例えば、2成分、3成分、または4成分のIII-V族材料は、例えば、III族元素としてGaおよび/またはInを含み、V族元素としてN、P、Asおよび/またはSbを含む。
好ましい材料は、InP、InAs、InSb、GaP、GaAs、GaSb、In(As、P)、In(As、Sb)、In(P、Sb)、(In、Ga)P、(In、Ga)As、または(In、Ga)Sbを含む。
【0062】
本発明の第3の態様によれば、表面修飾量子ドットを含む分散体を調製する方法が提供される。方法は、
-第1の溶媒に量子ドットを含む第1の溶液を提供し、第1の溶媒は非極性溶媒であり、量子ドットは、その外表面にX型リガンドおよびL型リガンドが提供され、X型リガンドはX型リガンドが結合する量子ドットに1電子供与可能なリガンドであり、およびL型リガンドはL型リガンドが結合する量子ドットに2電子供与可能なリガンドであり、
-第2の溶媒、追加の化合物、および任意に少なくとも1つの安定化剤を含む第2の溶液を提供し、第2の溶媒は極性溶媒であり、追加の化合物は式RYHで表される有機酸または式RYH+Z-で表される有機塩を含む。追加の化合物は水中で16以下のpKaを有する少なくとも1つの酸性プロトンH+を有し、および少なくとも1つの炭素原子を含むR基を含む。式RYHで表される有機酸は、好ましくはカルボン酸、スルホン酸、チオールおよびフェノールからなる群から選択される。式RYH+Z-で表される有機塩は、有機アンモニウムイオンRYH+および負に帯電した対イオンZ-を含む。式RYH+Z-で表される有機塩は、有機アンモニウムイオンRYH+および負に帯電した対イオンZ-を含む。有機アンモニウムイオンRYH+は、例えば第1級、第2級または第3級アンモニウムイオンを含む。式RYH+Z-で表される有機塩の負に帯電した対イオンZ-は、好ましくはハロゲン化物、例えばフッ化物、塩化物、臭化物またはヨウ化物を含む。式RYHで表される有機酸のRY-または式RYH+Zで表される有機塩のRYは極性である。第1溶媒および第2溶媒は、互いに非混和性である;
-第1の溶液と第2の溶液を混合し、修飾量子ドットを提供し、修飾量子ドットには、式RYHで表される有機酸のRY-リガンド、または式RYH+Z-で表される有機塩のZ-対イオンリガンドおよび/または式RYH+Z-で表される有機塩のRYリガンド(すなわち、式RYH+Z-で表される有機塩のイオンRYH+の脱プロトン化された共役塩基)が提供され、および
前記表面修飾量子ドットを前記第1溶液の第1溶媒から前記第2溶媒へ抽出し、
-第1の溶媒を除去する
ステップを含む。
【0063】
本発明に係る分散体の調製方法によれば、第1溶液と第2溶液とを混合することにより、X型リガンドの少なくとも一部とL型リガンドの少なくとも一部とが量子ドットの表面から置換される。式RYHで表される化合物または式RYH+Zの化合物の酸性プロトンH+は、L型リガンドの少なくとも一部、例えばL型リガンドのすべてをプロトン化する。プロトン化されたL型リガンドは、量子ドットの表面から除去(脱着)されていることが好ましい。同時に(またはほぼ同時に)、X型リガンドの少なくとも一部、好ましくはすべてのX型リガンドが量子ドットの表面から除去され、式RYHで表される有機酸のRY-リガンドによる、または、式RYH+Z-で表される有機塩の対イオンZ-および/または式RYH+Z-で表される有機塩のイオンRYH+の脱プロトン化された共役塩基(RYリガンド)によって置き換えられ、表面修飾量子ドットが提供される。RY-リガンドまたはRYリガンドは極性リガンドであるため、表面修飾量子ドットは第2の溶媒である極性溶媒に抽出される。
【0064】
好ましくは、追加の化合物のR基は、水素結合に関与することができる少なくとも1つの追加の官能基を含む。かかる追加の官能基の例は、-OH官能基、-SH官能基、または-NH官能基を含む。式RYHで表される化合物が1より多くの追加の官能基を含み得ることは明らかである。
【0065】
好ましくは、式RYHで表される化合物のR基は比較的短い有機基を有し、好ましくは1~20個の炭素原子、例えば1~10個の炭素原子、例えば2、3、4または5個の炭素原子を含む。
【0066】
最も好ましくは、式RYHで表される化合物は、水素結合に関与することができ、1~20個の炭素原子、例えば1~10個の炭素原子を有する少なくとも1つの追加の官能基を有するR基を含む。
【0067】
式RYHで表される好ましい化合物は、エタンジチオール、メルカプトプロピオン酸、チオグリセロール、チオグリコール酸、グリコール酸およびコハク酸を含む。
【0068】
好ましくは、第2の溶液は安定化剤を含む。安定化剤は、好ましくは、アミン、例えば、好ましくは短い炭素原子鎖(例えば、2、3または4個の炭素原子など、1~5個の炭素原子を有する鎖)を有する、単官能性、二官能性または多官能性アミンを含む。
【0069】
安定化剤の好ましい例は、ブチルアミン、エチレンジアミンおよびエタノールアミンを含む。他の例は、トリエチルアミンおよびピリジンを含む。
【0070】
安定化剤は、修飾量子ドットの表面に残っているX型および/またはL型リガンドを交換することを可能にする。さらにまた、安定化剤は塩を形成する塩基として機能し得る。
【0071】
上述のとおり、第1および第2の溶媒は、好ましくは非混和性である。非混和性の第1および第2の溶媒の好ましい例は、第1の溶媒としてヘキサン、ヘプタンまたはオクタンなどのアルカンを含み、第2の溶媒としてN,N’-ジメチルホルムアミド(DMF)、ホルムアミドまたはジメチルスルホキシド(DMSO)を含む。
【0072】
本発明による量子ドットの分散体を調製する方法は、別の溶媒における量子ドットの再分散をさらに含んでもよい。極性溶媒中の修飾量子ドットは、例えば修飾量子ドットを含む極性溶媒に非極性溶媒を添加することによって沈殿させられてもよい。沈殿した量子ドットは、選択した溶媒に再分散されてもよい。溶媒は、例えば、量子ドットを堆積するための堆積技術に応じて、および/または量子ドットの層の用途に応じて選択されてもよい。
【0073】
本発明の第4の態様によれば、量子ドットを含む分散体が提供される。分散体は、上述したように修飾量子ドットを含む。分散体は、量子ドットの分散体を調製するための上記の方法によって得られる分散体を含んでもよい。
【0074】
かかる分散体は、例えば、量子ドットの薄膜を形成するために堆積するために好適である。上述のとおり、量子ドットのリガンドは、薄膜の特性を最適化するために選択されてもよい。リガンドは、例えば、短くても長くても、極性でも非極性でもよい。リガンドは、量子ドットの薄膜の望ましい特性に応じて選択されてもよい。量子ドットに短いリガンド(10個未満の炭素原子、例えば2、3、4または5個の炭素原子を有する)を提供することによって、量子ドットを含む高密度に充填されたフィルムを得ることができる。さらに、電子伝導性層を得るためにリガンドを選択することができる。
【0075】
フィルムを形成するために、本発明による分散体は、当技術分野で知られている任意の技術によって堆積されてもよい。分散体を堆積させフィルムを形成するための好ましいコーティング技術には、スピンコーティング、ドクターブレードおよびディップコーティングを含む。
【0076】
本発明による修飾量子ドットを含む分散体は、インクとして特に好適である。インクは、例えばスピンコーティング、ドクターブレードまたはディップコーティングによって、量子ドットを含む薄膜を形成するために堆積され得る。
【0077】
本発明のさらなる態様によれば、上述の分散体から得られる量子ドットを含む層またはフィルムが提供される。修飾量子ドットのリガンドの選択は、層またはフィルムの特性に影響を与え得る。
【0078】
好ましい態様において、量子ドットは、良好な電子伝導性を有する高密度に充填された量子ドットの層を形成するために、短いリガンド(10個未満の炭素原子の数、例えば、2、3、4、または5個の炭素原子を有する)を有する。層またはフィルムは、例えば、電荷輸送層および/または電極の間に埋め込まれる。
【0079】
さらに別の態様によれば、上述のような量子ドットの層または膜を含むデバイスが提供される。好ましいデバイスは、フォトダイオード、フォトトランジスタ、光伝導体、または太陽電池を含む。このデバイスは、例えば、電荷輸送層および/または電極の間に埋め込まれた上述の量子ドットの層またはフィルムを含む。
【図面の簡単な説明】
【0080】
本発明は、添付の図面を参照して以下でより詳細に説明される。
【
図1】
図1は、本発明による修飾量子ドットを調製するための量子ドットの表面からのX型リガンドおよびL型リガンドのリガンド交換および除去の概略図である。
【
図2】
図2は、本発明による抽出プロセスを使用した分散体の調製の概略図である。
【
図3】
図3は、本発明による方法による非極性相から極性相への量子ドットの抽出中に起こるリガンド交換反応の概略図である。
【
図4】
図4は、オレイルアミンリガンドシェルによって安定化されたトルエン-d8中の精製In(As,P)量子ドットの1DH-NMRスペクトルを示す。
【
図5】
図5は、1、2.5、および4当量のUDAをOlAmでキャップされたIn(As,P)量子ドットの溶液に徐々に添加する際のH-NMRスペクトルを示す。
【
図6】
図6は、精製InAs量子ドットと、UDA添加および1サイクルの沈殿/再分散後のInAs量子ドットの重ね合わせたH-NMRスペクトルを示す。
【
図7】
図7は、In(As,P)量子ドットの定量的ラザフォード後方散乱分光分析スペクトルを示す。
【
図8】
図8は、UDAの添加とその結果としての量子ドットの精製の前後のX線光電子分光スペクトルを重ねて示す。
【0081】
態様の説明
本発明は、特定の態様に関して特定の図面を参照して説明されるが、本発明はそれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。図面は概略的なものにすぎず、限定するものではない。図面内の一部の要素のサイズは、説明の目的で誇張されており、および正確な縮尺で描かれていなくてもよい。寸法および相対寸法は、本発明の実施に対する実際の縮小に対応するものではない。
【0082】
範囲の端点に言及する場合、範囲の端点の値が包含される。
【0083】
本発明を説明する際、使用される用語は、特断の示されない限り、以下の定義に従って解釈される。
【0084】
2以上の項目を列挙する場合の用語「および/または」は、列挙される項目のいずれか1つを単独で使用できること、または列挙された項目の2つ以上の任意の組み合わせが使用できることを意味する。
【0085】
用語「リガンド」は、例えば共有結合相互作用、イオン相互作用、ファンデルワールス相互作用、または量子ドットの外表面との任意の他の分子相互作用によって、量子ドットと弱くまたは強く相互作用することができる任意の分子またはイオンを指す。用語リガンドは、X型リガンドおよびL型リガンドを包含する。
【0086】
用語「表面終端」は、量子ドットの表面に存在するリガンドを指し、例えばL型リガンドおよびX型リガンドなどの全ての型のリガンドを包含する。
【0087】
用語「修飾量子ドット」または「表面修飾量子ドット」は、交換されたリガンドを提供される量子ドットを指す。本発明の目的のため、修飾量子ドットおよび表面修飾量子ドットという用語は互換性がある。
【0088】
「2D-NOESY」は、2D核オーバーハウザー効果分光法を指す。「2D-DOSY」または「2D-DOSYNMR」は、2D拡散秩序分光法を指す。2DNOESYスペクトルでは、いわゆる負の核オーバーハウザー効果(nOe)クロスピークの存在は、化合物と量子ドット表面との相互作用を示す。量子ドットの分散の2D-DOSYNMRスペクトルにより、量子ドットの拡散係数が得られる。強く結合したリガンドは、この拡散係数は単一の量子ドットの拡散係数と一致する-リガンドは量子ドットと一緒に拡散する-一方、動的リガンドは、結合状態および自由状態のリガンドの拡散係数の母集団平均である拡散係数を呈する。
【0089】
「XPS」は、X線光電子分光法を指す。
【0090】
「RBS」は、ラザフォード後方散乱分光法を指す。
【0091】
図1は、修飾量子ドットを調製するための、本発明による量子ドットの表面からのリガンド交換およびX型リガンドおよびL型リガンドの除去の異なるステップを示す。四面体形状のInAs量子ドットがトルエン中に分散されている。In-リッチ(
図1のブロブで示されている)の量子ドットには、塩化物リガンド(X型リガンド)とオレイルアミンリガンド(L型リガンド)が提供されている。式RYHで表される化合物(例えば、カルボン酸、チオールまたは水)を添加すると、酸塩基反応が起こり、その後オレイルアミンリガンドおよび塩化物リガンドが置換され、塩化アルキルアンモニウム塩が脱着し、入ってくるRYリガンドが量子ドットの表面に配位する(ステップi))。かくして得られたRY
-リガンドが提供される量子ドットは、表面修飾量子ドットと呼ばれる。かかる表面修飾量子ドットの特性は、とりわけRY-リガンドの長さおよび極性に依存する。したがって、表面修飾量子ドットの特性は、RY-リガンドの選択によって影響を受け得る。
【0092】
表面から塩を完全に置換するために、方法は、例えばエタノール(EtOH)などの極性溶媒を添加することによって、溶液をより極性にして、表面修飾量子ドットを沈殿させる追加のステップを含んでもよい(ステップii)
【0093】
続いて、形成された塩を含む上清を廃棄し、および表面修飾量子ドットを非極性溶媒、例えばトルエン中に再分散させる(ステップiii))。
【0094】
図2は、本発明による量子ドットを含む分散体を調製するための異なるステップを示す。方法は、抽出プロセスを使用する。塩化物リガンド(X型リガンド)およびオレイルアミン(OlAm)リガンド(L型リガンド)が提供されるInAs量子ドットは、非極性溶媒、例えばオクタンなどのアルカン中に分散されて、第1の溶液を形成する。
【0095】
極性溶媒、例えばN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)中に式RYHで表される化合物を含む第2の溶液を調製する。式RYHで表される化合物は酸性プロトンを有する。式RYHで表される化合物のRY-基は、水素結合に関与できる官能基、例えば-OH、-SHまたは-NH基をさらに含む。RY基は好ましくは1~20個の炭素原子を含み、および/または前記R-基は1~20個の炭素原子を含む。式RYHで表される化合物は、例えば、1,2-エタンジチオール、3-メルカプトプロポン酸またはチオグリセロールを含む。
【0096】
好ましくは、第2の溶液は、安定化剤、例えばブチルアミン、エチレンジアミンおよびエタノールアミンなどの単官能性または二官能性アミンをさらに含む。
【0097】
第1の溶液を第2の溶液の上に置き、二相系を形成する。第1の溶液および第2の溶液を十分に振盪する。リガンド交換は最初と2番目の溶液の界面で起こり、InAs量子ドットの表面は2番目の溶液に加えられた2つのリガンドによって装飾される。
【0098】
量子ドットの表面上に存在する小さな極性リガンドRY-は、InAs量子ドットを極性溶媒(DMF)中に分散可能にし、量子ドットを非極性相(アルカン)から極性相(DMF)に抽出する。
【0099】
アルカン相を廃棄した後、極性溶媒(DMF)中に極性リガンドを有する修飾量子ドットが残る。この分散体は、例えばインクとして好適である。この分散体は、例えばスピンコーティングによって量子ドットの層を形成するために堆積することができ、その結果、短い有機リガンドを有するInAs量子ドットの均一な層が得られる。
【0100】
修飾量子ドットが別の溶媒に再分散できることは明らかである。したがって、極性溶媒中の量子ドットは、例えばトルエンなどの非極性溶媒を添加することによって沈殿させることができる。続いて、量子ドットの層を堆積する堆積技術に応じて、または量子ドットの層の用途に応じて、沈殿した量子ドットを選択した溶媒に再分散させてもよい。量子ドットを含む分散体は、例えばスピンコーティングによって堆積され、量子ドットの表面上に新しいリガンドRY-を有するInAs量子ドットの層を形成する。
【0101】
図3は、非極性溶媒(例えばヘキサンなどのアルカン)から極性相(例えばDMF)へのInAs量子ドットの抽出中に起こるリガンド交換反応の概略図である。DMF中のリガンドの二官能性、極性の性質により、下にある量子ドットが極性溶媒に可溶になる。
例:InAs量子ドット材料の合成と特性評価
【0102】
トルエン(無水99.8%)およびエタノール(無水)をVWRから購入し、N2グローブボックスに入れる前に凍結ポンプ解凍法によって精製した。
【0103】
オレイルアミン(OlAm)(>96%第一級アミン、80~90%のC18含量)をAcrosOrganicsから購入し、CaH2で乾燥させ、その後真空蒸留した。
【0104】
トリス(ジエチルアミノ)ホスフィン(97%)、10-ウンデセン酸(98%)は、Sigma-Aldrichから購入した。
【0105】
トリス-ジメチルアミノアルシン(99%)をStremchemicalsから注文した。
【0106】
トルエン-d8は、Eurisotopから購入した。
合成および特性評価
【0107】
In(As、P)量子ドットを湿式化学経路を介して合成した。25mLの三口フラスコ中で、InCl3とOlAmを脱気し、およびその結果反応温度まで加熱する。トリス(ジメチルアミノ)アルシンをInに対して1:1の比で注入し、その後トリス(ジエチルアミノ)ホスフィン(TDEAP)を3:1:1の比で注入してアルシンを還元し、およびIn(As,P)量子ドットを生成する。TDEAPの二重反応性は、いくつかのP合金化につながる。反応、精製、および特性評価を包含する合成のすべてのステップを、酸化を避けるために窒素雰囲気下で実行した。
【0108】
透過型電子顕微鏡写真により、合成された量子ドットが四面体形状を有することが確認された。
【0109】
InAs量子ドットを安定化するリガンドを特性評価するためにH-NMR分光法を使用した。
図4は、トルエン-d8中の精製InAs量子ドットの1D1H-NMRスペクトルを示し、
図4の挿入図のOlAm分子に従って注釈が付けられた共鳴を示す。
【0110】
有機リガンド間のリガンド交換反応を調べるためにもまた
1H-NMRを使用した。OlAmとウンデカ-10-エン酸(UDA)のリガンド交換は、過剰なUDAを段階的に添加することによって調べられた。末端の不飽和性は、1H-NMRで簡単に同定できる。
図5において、1、2.5、および4当量のUDAをOlAmキャップInAs量子ドットの溶液に徐々に添加している間の1H-NMRスペクトルを示す。元のトレースのOlAmからのアルケン共鳴5、および約7ppmの残留トルエンに加えて、1当量のUDAを添加は、3つの追加のピークを与える。5.20、6.05、および7.75ppmのもので、それぞれUDAの末端オレフィン性CH
2U
1、およびCHU
2、ならびにプロトン化オレイルアンモニウム種OlNH
+
3に対応する。
【0111】
注目すべきことに、UDAのオレフィン共鳴は、1当量添加ですでに非常に広範囲かつ鋭い寄与の両方を含む。プロトンU1およびU2の幅広い共鳴は、UDA分子の量子ドットへの表面結合を示し、同時にOlNH3
+塩が形成される。さらなるカルボン酸の添加は、7.75ppmのOlNH+
3ピークに目に見える変化は生じないが、最初に10.2ppmに別のピークが生じ、これは4当量のUDAの後に11.5ppmに発展する。10ppmを超える幅広いピークはカルボン酸の典型である。
【0112】
図6における交換され精製されたInAs量子ドットを特性評価するためにもまた
1H-NMRを使用した。7.75ppmで形成されたO1NH
3
+塩は、
図6に存在しないことから分かるように、沈殿/再分散のサイクル中に除去される。
UDA分子のU1およびU2の幅広い共鳴は精製中持続し、UDAが量子ドットに結合していることを示す。OlAmシグナル5の強度の低下は、リガンド交換中に塩の形で除去されるOlAmの割合を示す。
【0113】
塩化物表面リガンド(X型リガンド)の存在を同定するために、
1H-NMR分析を補完する技術が必要である。
図7は、上記のIn(As,P)量子ドットのラザフォード後方散乱分光測定スペクトルを示す。ラザフォード後方散乱分光法は、組成を決定できる定量的手法である。ラザフォード後方散乱分光法によれば、組成はInAs
0.76P
0.15Cl
0.26と等しいと測定され、量子ドットがIn-豊富であり、大量の塩化物を蓄積していることが証明された。提示された
1H-NMRデータ(上記参照)と併せて、量子ドットの表面終端はL型リガンド(OlAm)とX型リガンド(Clイオン)を含むと結論付けることができる。
【0114】
同定されたX型リガンドが表面上にあり、L型OlAmと並列して置換されていることを確認するために、X線光電子分光法(XPS)を使用して、UDA滴定の前後の相対的なCl含有量をモニターした。
図8において、200keV付近のXPSスペクトルの領域が提示され、Cl/As比の明らかな低下が示される。これは、OlNH
3Clの形でのClイオンの損失から生じる。H-NMRからのOlAm共鳴の相対的な減少とXPSでのClピークの低下により、量子ドット上の元のCl:OlAm含有量の推定が可能になり、この場合において1.45:1を与える。
【0115】
第2の実験でにおいて、上記と同じ量子ドット、すなわちオレイルアミンおよび塩化物リガンドを有するIn(As,P)量子ドットが、最大30当量のヘキサデカンチオール(HdSH)によって滴定される。HdSHを添加する前の1H-NMRスペクトルは、In(As,P)にしっかりと結合したオレイルアミンの特徴的な共鳴を示す。
【0116】
最初の当量のHdSHの添加後、1H-NMRにおいてアンモニウムプロトンの存在が同定され、HdSHが表面結合オレイルアミンをプロトン化することが示される。30当量のHdSHを添加した後、量子ドットをEtOHで沈殿させ、トルエン-d8に再分散させることによって精製する。
【0117】
廃棄された上清および再分散された量子ドットの定量的1H-NMRスペクトルから、オレイルアミンがオレイルアンモニウム塩として表面から除去されたが、総リガンド密度は一定のままであると結論付けることができ、滴定されたHdSHが共役塩基HdS-として結合することを示唆する。
【0118】
塩化物イオンの分光光度試験による上清の分析は、塩化物の脱着を示す。
【0119】
要約すると、オレイルアミンおよび塩化物リガンドが提供されるIn(As,P)量子ドットにHdSHを添加することによって、表面に結合したオレイルアミンリガンドがプロトン化され、脱プロトン化されたチオレートHdS-が量子ドットの表面に結合し、塩化物は量子ドットの表面から置き換えられる。
【0120】
さらなる実験において、In(As,P)量子ドットは、InCl3がInBr3で換えられるという顕著な違いを除いて、上述の第1の例と同じ方法に従って合成される。
【0121】
1Dの1H-NMR実験において、合成された量子ドットの有機リガンドは、強く結合したオレイルアミンであることが確認される。蛍光X線実験から、上記のX線光電子分光法で同定された塩化物リガンドと同様に、臭化物が精製量子ドット上に存在することが同定された。したがって、合成方法のわずかな変更により、臭化物がX型リガンドとして機能し、オレイルアミンがL型リガンドとして機能するハイブリッド表面化学も得られる。
【0122】
1H-NMRスペクトルは、1当量のUDAの添加後に再び記録される。1H-NMRスペクトルは、8ppmで同じアルキルアンモニウム塩の出現を示し、この場合も、表面結合L型リガンドのプロトン化によってリガンド交換が促進されることを確認する。
【0123】
結果は、L型リガンド(オレイルアミン)およびX型リガンド(臭化物)がオレイルアミンのプロトン化および脱プロトン化カルボン酸の結合を介して置換されるものと同じ化学を示唆する。
【0124】
さらに第3の例は、ジメチルホルムアミド(DMF)中でのメルカプト-1,2-プロパンジオールとn-ブチルアミンとの二相交換を示す。
【0125】
まず、オレイルアミンおよび塩化物リガンドを有する精製In(As,P)量子ドットをn-オクタン中に分散させる。
【0126】
50マイクロリットルの3-メルカプトー1,2-プロパンジオールおよび10マイクロリットルのn-ブチルアミンを3mLのジメチルホルムアミド(DMF)に溶解することによって、第2の溶液を調製する。
【0127】
オクタン中の量子ドットの分散体を、ピペッティングによってDMF溶液の上に置く。n-オクタンとDMFの極性の違いにより、2つの溶液は2相系を形成する。オクタンは密度が低いため、最上相を形成し、その下にDMFが存在する。
【0128】
バイアルを振った後、In(As,P)量子ドットの黒色が下側のDMF相に移され、量子ドットがDMF相に抽出されたことが証明された。ピペッティングによって2つの相を注意深く分離することで、それぞれの内容を注意深く分析することができる。
【0129】
オクタン相の定量的1H-NMR分光法は、最初にL型リガンドとして存在したオレイルアミンが、量子ドットがDMFに抽出された後もオクタン相に残ったことを示す。DMF相の1H-NMR分光分析は、表面結合3-メルカプト-1,2-プロパンジオールおよびn-ブチルアミンに特徴的な幅広い共鳴を示す。
【0130】
2DのDOSY分光法は、小さな極性リガンドが量子ドットの直径に対応する拡散係数を特徴とするため、それらが量子ドットに結合していることを確認する。
【0131】
DMF相の吸収分光法は、量子ドットが定量的に抽出されることを示す。
【0132】
小さな極性リガンドである3-メルカプトー1,2-プロパンジオールの結合により、量子ドットがDMF相に抽出されるが、オレイルアミンはオクタン相に残る。ここでは、オレイルアミンと比較して過剰な安定化剤ブチルアミンがプロトンを吸収するように作用し、オクタン相中にオレイルアンモニウムが存在しないことを説明する。
【0133】
DMF中の分散体を、トルエンで沈殿を誘導することによって精製する。
【0134】
デカンテーションおよびDMFへの再分散後、DMFからのリガンド交換QD分散体を金属接点を備えた基板上にスピンコートすることによって導電性薄膜を生成し、膜の電気的特性を測定する。
【国際調査報告】