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  • 特表-架橋ゲル配合物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-14
(54)【発明の名称】架橋ゲル配合物
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/00 20060101AFI20231107BHJP
   C08G 73/04 20060101ALI20231107BHJP
   C09K 9/02 20060101ALI20231107BHJP
   G02C 7/10 20060101ALI20231107BHJP
   G02B 5/23 20060101ALI20231107BHJP
   G09F 9/30 20060101ALI20231107BHJP
【FI】
C08G73/00
C08G73/04
C09K9/02 A
G02C7/10
G02B5/23
G09F9/30 380
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023523157
(86)(22)【出願日】2021-10-11
(85)【翻訳文提出日】2023-04-14
(86)【国際出願番号】 EP2021078004
(87)【国際公開番号】W WO2022078935
(87)【国際公開日】2022-04-21
(31)【優先権主張番号】20306209.6
(32)【優先日】2020-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518007555
【氏名又は名称】エシロール・アンテルナシオナル
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】サミュエル・アルシャンボー
(72)【発明者】
【氏名】クロディーヌ・ビヴェール
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-ポール・カノ
(72)【発明者】
【氏名】マリオン・メカ
(72)【発明者】
【氏名】マリオン・アリベ
【テーマコード(参考)】
2H006
2H148
4J043
5C094
【Fターム(参考)】
2H006BE02
2H148DA04
4J043PA15
4J043PB14
4J043PC065
4J043PC066
4J043QA04
4J043QB21
4J043QB64
4J043QC21
4J043RA05
4J043RA08
4J043RA17
4J043RA24
4J043SA21
4J043SA33
4J043SB01
4J043TA11
4J043WA02
4J043WA03
4J043WA05
4J043WA13
4J043WA22
4J043XA03
4J043ZA31
4J043ZB21
4J043ZB47
5C094AA36
5C094AA43
5C094BA52
5C094FB01
5C094FB04
5C094JA01
(57)【要約】
本発明は、少なくとも1種の非水性溶媒;架橋反応を受けることができる少なくとも2つのカルボキシル部位を含む多官能性ポリマーであって、2,000g/mol~3,000,000g/mol、好ましくは10,000~1,000,000g/mol、より好ましくは25,000g/mol~400,000g/molの分子量を有する多官能性ポリマーと、ポリカルボジイミド又はポリアジリジンから選択される架橋剤との反応により得られる架橋ポリマー;を含有するゲル媒体に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
・ゲルの総重量に対して少なくとも30重量%、さらに好ましくはゲルの総重量に対して少なくとも50重量%で前記ゲル媒体中に存在する少なくとも1種の非水性溶媒;
・架橋ポリマーであって、
- 架橋反応を受けることができる少なくとも2つのカルボキシル部位を含む多官能性ポリマーであって、2,000g/mol~3,000,000g/mol、好ましくは10,000~1,000,000g/mol、より好ましくは25,000g/mol~400,000g/molの分子量を有する多官能性ポリマーと、
- ポリカルボジイミド又は非毒性のポリアジリジンから選択される架橋剤と、
の反応により得られる架橋ポリマー;
を含有するゲル媒体。
【請求項2】
前記多官能性ポリマーが、本発明に有用な少なくとも2つのカルボキシル部位を含むものから選択され、カルボン酸官能性ポリエステル、カルボン酸官能性ポリエーテル、カルボン酸官能性ポリウレタン、カルボン酸官能性ポリアクリレート、カルボン酸官能性ポリメタクリレート、カルボン酸官能性ポリビニルアセテートコポリマー、イオン液体から作られたコポリマー、それらの組み合わせ、イオン液体、それらの反応生成物若しくはコポリマーから選択することができる、請求項1に記載のゲル媒体。
【請求項3】
前記多官能性ポリマーが、
a.(メタ)アクリル酸モノマー又はC~C置換(メタ)アクリル酸モノマーと、
- ポリ(アクリル酸-co-マレイン酸)、ポリ(アクリル酸-co-フマル酸)、ポリ(アクリル酸-co-クロトン酸)などの、3~9個の炭素原子及び少なくとも1つのカルボキシル基を含む少なくとも1種のエチレン性不飽和有機カルボキシルモノマー、又は
- ポリ(メチルメタクリレート/メタクリル酸)などの、少なくとも1種のC~C12アルキル(メタ)アクリレートモノマー、又は
- 少なくとも1種のエチレン性不飽和C~C12アルケン、又は
- スチレンなどの少なくとも1種の芳香族モノアルケニルモノマー
とから調製されたコポリマー;
b.酢酸ビニルとフマル酸とのコポリマー、酢酸ビニルとクロトン酸とのコポリマー、酢酸ビニルとマレイン酸とのコポリマーなどの、酢酸ビニルモノマーと、3~9個の炭素原子及び少なくとも1つのカルボキシル基を含む少なくとも1種のエチレン性不飽和有機カルボキシルモノマーとから調製されるコポリマー;
c.ポリ(メチルビニルエーテル-alt-マレイン酸)などの、C~C12 アルキルビニルエーテルモノマーと、3~9個の炭素原子及び少なくとも1つのカルボキシル基を含む少なくとも1種のエチレン性不飽和有機カルボキシルモノマーとから調製されるコポリマー;
d.PEG-ジプロピオン酸、PEG-ジ-コハク酸、PEG-ジ-グルタル酸、PEGビス[2-(スクシニルアミノ)エチル]などの、カルボキシ二官能性PEG又はPPG誘導体;
e.ペンタエリスリトールコアを持つ4アームPEG-カルボン酸、ペンタエリスリトールコアを持つ4アームPEG-ジカルボン酸-ジオール、下記式のカルボン酸末端PEGデンドリマーなどの、マルチアームPEG又はPPGカルボン酸末端誘導体:
【化1】
(式中、nは200~20000の整数である);
f.酸基でエンドキャップされたポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)(PLGA二酸)などのポリ(ラクチド-co-グリコリド)(PLGA)カルボン酸末端誘導体;
g.ペンタエリスリトールコアを持つ4アームPLGAカルボン酸などのマルチアームPLGAカルボン酸末端誘導体;
h.ポリ(ε-カプロラクトン)-PEGカルボン酸末端誘導体、
i.PLGA-PEGカルボン酸末端誘導体;
j.PLA-PEGカルボン酸末端誘導体;
k.PCL-PEGカルボン酸末端誘導体;
l.
【化2】
などの、コアとして2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロパン酸(ビス-MPA)、トリメチロールプロパン、又はペンタエリスリトールを有するポリエステルデンドリマー;
m.ポリオールとアルキレンオキシドイソシアネート化合物との反応から得られる、少なくとも2つのカルボキシル部位を含むポリウレタンマトリックス;
又はこれらの混合物若しくは反応生成物;
である、請求項1~3のいずれか一項に記載のゲル媒体。
【請求項4】
前記ポリカルボジイミドが、カルボジイミド官能基と、カルボジイミド官能基に対する反応性を有さない親水性セグメント基とを含むオリゴマー系材料から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載のゲル媒体。
【請求項5】
カルボジイミド官能基を含む前記オリゴマー系材料が、少なくともアルキルアルコキシシラン基又はアルコキシシラン基によってさらに置換されており、好ましくはトリメトキシシラン又はトリエトキシシランによってさらに置換されている、請求項4に記載のゲル媒体。
【請求項6】
1種の色素又は色素混合物をさらに含み、前記色素が、好ましくはフォトクロミック色素、エレクトロクロミック色素、二色性色素、及び固定色色素から独立して選択され、より好ましくはフォトクロミック色素及びエレクトロクロミック色素から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載のゲル媒体。
【請求項7】
前記ゲルが、エレクトロクロミックゲル媒体であり、前記溶媒中の溶液中で前記架橋ポリマー中に前記散在するレドックス化学混合物をさらに含み、前記混合物が、少なくとも1種のエレクトロクロミック還元性化合物と少なくとも1種のエレクトロクロミック酸化性化合物とから構成され、及び印加電圧の存在下では活性化状態にあり、印加電圧の不存在下では不活性化状態に退色する、請求項1~6のいずれか一項に記載のゲル媒体。
【請求項8】
前記エレクトロクロミック還元性化合物が、エチルフェロセン、t-ブチルフェロセン、フェノキサジン、及びそれらの誘導体、例えばN-ベンジルフェノキサジン、フェナジン、及びそれらの誘導体、例えば5,10-ジヒドロフェナジン、N,N,N’,N’-テトラメチル-p-フェニレンジアミン、フェノチアジン、及びそれらの誘導体、例えば10-メチルフェノチアジン及びイソプロピルフェノチアジン;チオアントレン;チオフェン及びテトラチアフルバレンから選択される、請求項7に記載のエレクトロクロミックゲル媒体。
【請求項9】
前記エレクトロクロミック酸化性化合物が、モノビオロゲン又はビスビオロゲン(すなわち4,4’-ビピリジニウム塩又はビス[4,4’-ビピリジニウム]塩)、例えばアルキルビオロゲン、アリールビオロゲン、アリールアルキルビオロゲン、アルキルアリールビオロゲン、アントラキノン、ベンザゾール、イミダゾ[1,2-α]ピリジン、2,1,3-ベンゾチアジアゾール、イミダゾール、ベンゾセレナジアゾール、ベンゾセレナゾール、及びそれらの誘導体から選択される、請求項7又は8に記載のエレクトロクロミックゲル媒体。
【請求項10】
前記レドックス化学混合物が、1種の還元性化合物と少なくとも1種のエレクトロクロミック酸化性化合物とから構成され、前記少なくとも1種のエレクトロクロミック酸化性化合物が、式(Ia)の化合物又は式(IIa)の化合物のいずれかである、請求項7~9のいずれか一項に記載のエレクトロクロミックゲル媒体:
【化3】
(式中、R及びRは、独立して:
【化4】
から選択され、Xは、ハライド、テトラフルオロボレート、テトラフェニルボレート、ヘキサフルオロホスフェート、ナイトレート、メタンスルホネート、トリフルオロメタンスルホネート、トルエンスルホネート、ヘキサクロロアンチモネート、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、パークロレート、アセテート、及びスルフェートから選択される対イオンである)
【化5】
(式中、Zは、-CH-、-(CH-、-(CH-、-(CH-、-(CH-、-CH-CH(CH)-CH-、-CH-CH(CHフェニル)-CH-、-(CH-CH(CH)-CH-、-(CH-CH(CH)-CH-、-(CH-、及びCH(CH)-(CH-であり、
及びRは、アルキル及び任意選択的に置換されていてもよいフェニル基から選択され、好ましくは、
【化6】
から独立して選択される置換フェニル基である)。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載のゲル媒体を含むデバイスであって、前記ゲル媒体が、
(a)前記デバイスの外部で、
- 前記少なくとも1種の非水性溶媒と、
- 前記少なくとも1種の任意選択的な色素であって、好ましくはフォトクロミック色素、エレクトロクロミック色素、二色性色素、及び固定色色素から選択される色素と、
- 架橋反応を受けることができる少なくとも2つのカルボキシル部位を含む前記多官能性ポリマーであって、分子量が2,000g/mol~3,000,000g/mol、好ましくは10,000~1,000,000g/mol、より好ましくは25,000g/mol~400,000g/molであり、酸価が1~50mgKOH/g、好ましくは3~40mgKOH/g、好ましくは4~15mgKOH/gである多官能性ポリマーと、
- ポリカルボジイミド又は非毒性のポリアジリジンから選択される前記架橋剤と、
を混合することによって液体組成物を形成する工程;
(b)工程(a)の液体組成物を前記デバイスに入れ、前記多官能性ポリマーと前記ポリカルボジイミド又はポリアジリジンとを重合させ、それによって架橋ポリマーを形成し、化合物と溶媒が架橋ポリマー含有マトリックス中に保持されたゲル媒体を形成する工程;
によって形成されるデバイス。
【請求項12】
前記ポリカルボジイミド又はポリアジリジンのそれぞれの含有量が、前記液体組成物中の多官能性ポリマーの総重量に対して0.2~30重量%、好ましくは0.5~15重量%、より好ましくは1.0~10.0重量%である、請求項11に記載のデバイス。
【請求項13】
前記多官能ポリマーの含有量が、前記液体組成物の総重量に対して2~60重量%、好ましくは5~40重量%、より好ましくは10~30重量%である、請求項11又は12に記載のデバイス。
【請求項14】
前記デバイスが、電池又はエレクトロクロミックデバイス又はフォトクロミックデバイスであり、好ましくは、前記デバイスが、エレクトロクロミックデバイス又はフォトクロミックデバイスであり、光学レンズ、光学フィルター、減衰器、窓、バイザー、鏡(バックミラーなど)、及びディスプレイなどの光学物品から選択され、好ましくは光学レンズ、より好ましくは眼科用レンズ又はゴーグル用光学レンズである、請求項11~13のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項15】
- 架橋反応を受けることができる少なくとも2つのカルボキシル部位を含む多官能性ポリマーであって、10,000g/mol~3,000,000g/mol、好ましくは30,000~1,000,000g/mol、より好ましくは50,000g/mol~400,000g/molの分子量を有する多官能性ポリマーと、
- デバイスの変形時に媒体の変形が制限されるか強く低減されるように強い凝集性の媒体を得るために、前記デバイス内で電解質として機能するゲル媒体を系内で調製するためのポリカルボジイミド又は非毒性のポリアジリジンから選択される架橋剤と、
の混合物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1種の非水性溶媒;架橋反応を行うことができる少なくとも2つのカルボキシル部位を含む多官能性ポリマーと、ポリカルボジイミド又は非毒性のポリアジリジンから選択される架橋剤との反応により得られる架橋ポリマー;を含有する新規なゲル媒体に関し、そのようなゲル媒体は、電池又はエレクトロクロミックデバイス又はフォトクロミックデバイスなどの物品の製造に適している。
【背景技術】
【0002】
エレクトロクロミズムは周知の物理現象であり、これは電圧が印加されると可逆的に色が変化する特定の分類の化合物で観察される。この材料は、酸化と還元によって光学特性が可逆的に変化する。
【0003】
エレクトロクロミック系は、様々な用途に利用することができる。例えば、眼科分野においては、UV照射の下で受動的に暗くなり、さらにUV照射を停止したときに再び退色するのに一定の時間を要するフォトクロミックレンズとは異なり、エレクトロクロミックレンズでは、使用者が、ある照明条件下でレンズの暗色化を能動的に制御して目を保護し、これらの条件が変化したときに迅速に切り替えることができる。エレクトロクロミックガラスは、「スマートウィンドウ」又は「バックミラー」の製造にも使用されている。通常、エレクトロクロミックデバイスは、エレクトロクロミック化合物に加えて、液体電解質又は固体電解質のいずれかを含むエレクトロクロミック組成物から製造される。
【0004】
液体電解質は、通常、エレクトロクロミックデバイスの予め組み立てられた機能性エレクトロクロミックセルに表面毛細管現象によって導入され、例えば、充填が大気圧で行われる場合には、2つの小さな開口部が対向する角に配置される。液体電解質が開口部の1つと接触すると、セル内部の空洞を上昇する。しかしながら、充填が進むのに伴い電解質のポテンシャルエネルギーが大きくなることに起因して上昇しにくくなるため、この方法ではデバイスのサイズが制限され、気泡のリスクが高くなる。さらに、前記液体電解質を含む層は、エレクトロクロミックデバイスに導入されると、変形に対して低い機械的抵抗を示すことがある。逆に、固体電解質を剛直な電極基板に組み付けることは、それらの非変形性のため非常に困難である。このため、電極基板とエレクトロクロミック材料との電子的接触が制限され、着色状態で無色の領域が生じ、これは大面積のエレクトロクロミックデバイスの場合により顕著になる。さらに、固体電解質の別の欠点は、イオン伝導度が低いこと、色の変化が遅い若しくは不均一であることである。
【0005】
液体又は固体状態のいずれかのフォトクロミック系の場合においても、非常に類似した問題に遭遇する可能性がある。
【0006】
パッシブフォトクロミックデバイスは、UV光の有無のみに依存する吸光度を持つフォトクロミック色素を含むデバイスである。フォトクロミック色素は、通常、眼科用基材には適さない吸収(又は含浸)又はコーティングプロセスによって眼科用レンズに組み込まれる。そのような色素は、典型的には急速な活性化(すなわち着色)を示すが、フォトクロミックデバイスが不活性(すなわち無色)状態に戻るためには、通常は数分、さらには数十分を要する。
【0007】
光学レンズの場合、フォトクロミック眼鏡の使用者は、明るい環境から暗い場所に急に移動する際に眼鏡を外さざるを得ないため、この遅い失活(すなわち退色)が問題になる。他の光学物品の場合にも、不活性化が遅いため最終使用者が満足できない長時間の待機時間が生じるという同じ問題が発生することがある。フォトクロミック色素の不活性化速度は、それらの化学構造のみならず、それらが存在するマトリックスにも少なからず依存する。したがって、フォトクロミック色素の退色は、固体媒体中でよりも液体媒体中での方が事実上常に速いことを示すことができた。しかしながら、液体媒体の使用は、最終物品内で組み立て後に欠陥が発生したり、変形に対する機械的抵抗が低かったりするなど、複数の欠点を有している。
【0008】
したがって、活性色素を含む系内の望ましいイオン伝導性を確保したままでありながらも、活性色素を含む層又は組成物の変形、すなわちエレクトロクロミックデバイス内のエレクトロクロミック層若しくはエレクトロクロミック組成物の取り扱い時の変形、又はフォトクロミックデバイス内のフォトクロミック層若しくはフォトクロミック組成物の取り扱い時の変形を回避するために、強い凝集性媒体を得ることが必要である。これは、例えばスキー用ゴーグルのようなゴーグルなど、フレキシブルでありその結果変形可能なデバイスの場合に特に重要である。そうでない場合には、デバイスがアクティブになったときに、白欠陥や気泡などの光学的欠陥が発生することがあり、これは使用者に美しくないとみなされる。
【0009】
良好なイオン伝導性と耐変形性の両方を示す電解質系を提供するという同様のニーズには、電池においても遭遇する。実際、全固体電解質は通常イオン伝導度が低いため、電池として実用化されることはほとんどない。
【0010】
ゲル又は半固体電解質は、液体電解質よりも取り扱いが容易であり、固体電解質よりも電極との相互作用が優れているため(粘着性及び/又は接着性のため)、これらを使用すると上述した懸念は回避され、工業化段階への新しい可能性が開かれる。
【0011】
ゲル電解質又はオールインワンゲルに基づくエレクトロクロミックデバイスについては、科学的なレビューであるAll-in-One Gel-Based Electrochromic Devices:Strengths and Recent Developments(Alesanco Y.et al;.Materials(Basel).2018;11(3):414.Published 2018 Mar 10)において言及されており、複数製造されている。
【0012】
特に、あらゆる表面に適応可能な(つまりフレキシブルな)透明材料に関連して、オールインワンゲルに基づくエレクトロクロミックデバイスは、2つの主な強みのため柔軟性の要件を満たすことが証明されている。第1に、組み立てプロセスに高温工程が含まれないため、プラスチック電極基板(スズドープ酸化インジウム(ITO)/PETなど)と適合性を有している。第2に、液体エレクトロクロミック混合物と比較したゲルの高い粘性及び/又は自立性の特徴のため、漏れのリスクが回避され、デバイス領域全体にエレクトロクロミック混合物がより規則的に分布(厚さ)し、それによってより優れた均一性が得られ、またフレキシブルな、その結果変形可能な系で生じやすい電極基板間の短絡が回避される。
【0013】
そのようなゲルを得る可能性のある方法の中でも、著者らは、UV光重合又はホウ砂を用いたポリビニルアルコールのイオン架橋について言及している。この後者は水中で行われる。主な欠点は、ホウ砂がほとんどのエレクトロクロミック配合物で使用されるプロピレンカーボネートなどの通常の非水系溶媒に溶けないため、使用できないことである。
【0014】
もう1つの欠点は、UV光重合はゲルを得る効果的な方法であるものの、重合を開始するには光開始剤分子の存在が必要なことである。そのような分子は、エレクトロクロミック色素と望ましくない相互作用をし、エレクトロクロミック特性を劣化させる可能性がある。
【0015】
米国特許第7,001,540号明細書、米国特許第8,928,966号明細書、及び米国特許第6,057,956号明細書の文献は、全て架橋エレクトロクロミック配合物に関する。架橋ポリマーは、イソシアネート官能基又はイソチオシアネート官能基などを有する好ましい架橋剤と、ヒドロキシル(又はチオール、ヒドロキシル、アセトアセチル、尿素、メラミン、ウレタンなどの活性水素を有する任意の反応性基)を有する任意のプレポリマーとの間で得られる。例えば、反応性ヒドロキシル(OH)基を含むポリオールなど、ヒドロキシル基を有する幅広いポリマーが利用可能である。したがって、前記反応性ヒドロキシル基はイソシアネート(NCO)基と反応してポリウレタンを形成することができる。得られた架橋ポリマーは、その後、最終的なゲルを得るために熱硬化プロセスを受けるか、室温で長時間硬化される。
【0016】
主な欠点はイソシアネートの使用である。これは、イソシアネートに基づく架橋剤の使用がその化学の高い毒性により制限されるためである。
【0017】
濃縮ポリマー組成物に架橋剤がない場合、固体状態を達成するのに十分な量のポリマーを有する層が得られるが、良好な機械的特性を達成する試みは失敗した。したがって、サンプルを曲げた後、時間の経過とともに、ピンチゾーンからの配合物の流れが観察されることがある。組成物が非常に粘性を有していたとしても、層は均一な厚さを維持しない。
【0018】
したがって、高品質の物品、特に高品質の電池又はエレクトロクロミックデバイス又はフォトクロミックデバイスを形成するための透明な媒体として使用するために、改良されたゲルを得ることが必要とされており、前記ゲルは、低毒性の成分からできており、曲げたときに柔軟性を示し、その特性を乱すことなく物品を形成する他の成分と適合性を有する一方で、そのようなゲルの調製プロセスは比較的低い温度、好ましくは150℃未満の温度で1時間未満でかなり迅速に実施され得るものである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0019】
広範囲にわたる調査を行った後、第1の態様によれば、本発明者らは、ゲル媒体であって、
・ゲルの総重量に対して少なくとも30重量%、さらに好ましくはゲルの総重量に対して少なくとも50重量%で前記ゲル媒体中に存在する少なくとも1種の非水性溶媒;
・架橋ポリマーであって、
- 架橋反応を受けることができる少なくとも2つのカルボキシル部位を含む多官能性ポリマーであって、2,000g/mol~3,000,000g/mol、好ましくは10,000~1,000,000g/mol、より好ましくは25,000g/mol~400,000g/molの分子量を有する多官能性ポリマーと、
- ポリカルボジイミド又は非毒性のポリアジリジンから選択される架橋剤と、
の反応により得られる架橋ポリマー;
を含有するゲル媒体を提供する。
【0020】
好ましくは、前記多官能性ポリマーは、1~50mgKOH/g、好ましくは3~40mgKOH/g、好ましくは4~15mgKOH/gの酸価を有する。
【0021】
ゲル媒体は、電池又はエレクトロクロミックデバイス又はフォトクロミックデバイスなどの物品の電解質として特に有用である。
【0022】
一実施形態によれば、ゲル媒体は、1種の色素又は色素の混合物をさらに含み、前記色素は、好ましくはフォトクロミック色素、エレクトロクロミック色素、二色性色素、及び固定色色素から独立して選択され、より好ましくはフォトクロミック色素及びエレクトロクロミック色素から選択される。
【0023】
本発明の別の目的は、第1の態様で定義されたゲル媒体を含むデバイスであって、前記ゲル媒体が、
(a)前記デバイスの外部で、
- 前記少なくとも1種の非水性溶媒と、
- 前記少なくとも1種の任意選択的な色素であって、好ましくは少なくとも1種のフォトクロミック色素又は少なくとも1種のエレクトロクロミック色素から選択される色素と、
- 架橋反応を受けることができる少なくとも2つのカルボキシル部位を含む前記多官能性ポリマーであって、2,000g/mol~3,000,000g/mol、好ましくは10,000~1,000,000g/mol、より好ましくは25,000g/mol~400,000g/molの分子量を有する多官能性ポリマーと、
- ポリカルボジイミド又は非毒性のポリアジリジンから選択される前記架橋剤と、
を混合することによって液体組成物を形成する工程;
(b)工程(a)の液体組成物を前記デバイスに入れ、前記多官能性ポリマーと前記ポリカルボジイミド又はポリアジリジンとを重合させ、それによって架橋ポリマーを形成し、化合物と溶媒が架橋ポリマー含有マトリックス中に保持されたゲル媒体を形成する工程;
によって形成されるデバイスである。
【0024】
好ましくは、前記多官能性ポリマーは、1~50mgKOH/g、好ましくは3~40mgKOH/g、好ましくは4~15mgKOH/gの酸価を有する。
【0025】
前記デバイスは、例えば電池又はエレクトロクロミックデバイス又はフォトクロミックデバイスであり、好ましくは、デバイスは、エレクトロクロミックデバイス又はフォトクロミックデバイスであり、光学レンズ、光学フィルター、減衰器、窓、バイザー、鏡(バックミラーなど)、及びディスプレイなどの光学物品から選択され、好ましくは光学レンズ、より好ましくは眼科用レンズ又はゴーグル用光学レンズである。
【0026】
本発明の別の目的は、
- 架橋反応を受けることができる少なくとも2つのカルボキシル部位を含む多官能性ポリマーであって、10,000g/mol~3,000,000g/mol、好ましくは30,000~1,000,000g/mol、より好ましくは50,000g/mol~400,000g/molの分子量を有する多官能性ポリマーと、
- デバイスの変形時に媒体の変形が制限されるか強く低減されるように強い凝集性の媒体を得るために、前記デバイス内で電解質として機能するゲル媒体を系内で調製するためのポリカルボジイミド又は非毒性のポリアジリジンから選択される架橋剤と、
の混合物の使用に関する。
【0027】
好ましくは、前記多官能性ポリマーは、1~50mgKOH/g、好ましくは3~40mgKOH/g、好ましくは4~15mgKOH/gの酸価を有する。
【0028】
ゲル媒体
本明細書で使用される「ゲル」は、柔らかくて弱いものから硬くて丈夫なものまでの範囲の特性を有することができる半固体を意味する。前記ゲルは、実質的に希薄な架橋系、又は定常状態では流動性を示さないポリマーとして定義される。
【0029】
本発明のゲルは、機械的強度を有する、言い換えれば自己支持性であるという利点を有する。
【0030】
本発明のゲルはヒドロゲルではない(すなわち、膨潤剤が水であるゲルではない)。言い換えると、ゲルは水を含まない。これは水を欠いている。
【0031】
ゲル媒体は非水性溶媒を含み、好ましくは前記溶媒はゲルの総重量に対して少なくとも30重量%、さらに好ましくはゲルの総重量に対して少なくとも50重量%で前記ゲル媒体中に存在する。
【0032】
ゲルは、少なくとも2つのカルボキシル部位を含む多官能性ポリマーと架橋剤との反応から得られる架橋ポリマーを含む。
【0033】
架橋ポリマー:
少なくとも2つのカルボキシル部位を含む多官能性ポリマー
化学架橋は、共有結合によってポリマー鎖を連結し、構造の可動性を低下させる三次元ネットワークを形成するプロセスである。
【0034】
本発明に有用な少なくとも2つのカルボキシル部位を含む多官能性ポリマーは、2つ以上の官能基又は反応性基を含む。
【0035】
本明細書で使用される「ポリマー」という用語は、ホモポリマー(例えば、単一のモノマー種から調製される)、コポリマー(例えば、少なくとも2つのモノマー種から調製される)及びグラフトポリマーを意味する。
【0036】
少なくとも2つのカルボキシル部位を含む多官能性ポリマーは、「分岐」、「直鎖」、「フォーク形」、「多分岐」、又は「マルチアーム」、「デンドリマー」、「櫛形」など、任意の数の様々な構造又は形状をとることができる。
【0037】
ポリマーの形状又は全体構造に関しての「分岐した」とは、分岐点から伸びる2つ以上のポリマー「アーム」を有するポリマーを指す。分岐ポリマーは、2つのポリマーアーム、3つのポリマーアーム、4つのポリマーアーム、6つのポリマーアーム、8つのポリマーアーム、又はそれ以上を有し得る。分岐ポリマーのサブセットは、マルチアームポリマー、すなわち中心コアから伸びる3つ以上のアームを有するポリマーである。
【0038】
理論に拘束されることを望むものではないが、マルチアームポリマーのアーム間に立体障害がないことにより、架橋剤による効率的な架橋が可能になると考えられる。したがって、前記アーム内に位置するカルボキシル部位の立体障害を回避するために、マルチアームポリマーのアームは十分に離れていることが好ましい。
【0039】
「デンドリマー」という用語は、限定するものではないが、内部コアと、この内部コアに結合してそこから延びている繰り返し単位の層(又は世代)と、最も外側の世代に結合した末端基の外表面とを有する分子構造を含むことが意図されており、各層は1つ以上の分岐点を有する。デンドリマーは、規則的なデンドリマー又は「スターバースト」分子構造を有する。
【0040】
「分岐点」は、ポリマー又は連結基が直鎖構造から1つ以上の追加のポリマーアームに分割又は分岐する地点となる1つ以上の原子を含む枝分かれする点を指す。本明細書で使用される用語「官能基」又はその任意の同義語は、その保護された形態及び保護されていない形態を包含することが意図されている。
【0041】
「保護された形態」の官能基は、保護基を有する官能基を指す。本明細書で使用される用語「官能基」又はその任意の同義語は、その保護された形態を包含することが意図されている。
【0042】
ポリマーを定義する際の「マルチ官能性」又は「多官能性」などの用語は、少なくとも2つの官能基が含まれるポリマーを意味し、その官能基は同じであっても異なっていてもよい。
【0043】
本出願に有用な多官能性ポリマーは、架橋反応を受けることができる少なくとも2つのカルボキシル部位と共に、限定するものではないが、アリル、ビニル、(メタ)アクリレート、チオール、ヒドロキシル、イソシアネート、エポキシ、エピスルフィド、アミン、シラン、及び/又はイミン、又はそれらの任意の組み合わせなどの少なくとも1つの反応性基を有し得る。
【0044】
いくつかの実施形態では、及び非限定的な説明の目的で、前記多官能性ポリマーは、架橋反応を受けることができる少なくとも2つのカルボキシル部位と共に、(メタ)アクリレート基と、アリル、ビニル、エポキシ、シラン、又はそれらの任意の組み合わせの少なくとも1つの追加の基とを有し得る。
【0045】
少なくとも2つのカルボキシル部位を含む前記多官能性ポリマーは、2,000g/mol~3,000,000g/mol、好ましくは10,000~1,000,000g/mol、より好ましくは25,000g/mol~400,000g/molの分子量を有する。
【0046】
本明細書において、重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)などのポリマーの分子量値は、適切な溶離液(テトラヒドロフランなど)の存在下でポリスチレン標準などの適切な標準を使用してゲル浸透クロマトグラフィーによって決定される。いくつかの例では、及び言及されている場合には、Mn値を決定するために核磁気共鳴(NMR)分光法(1H NMRなど)が使用される。
【0047】
好ましくは、少なくとも2つのカルボキシル部位を含む前記多官能性ポリマーは、1~50mgKOH/g、好ましくは3~40mgKOH/g、好ましくは4~15mgKOH/gの酸価を有する。
【0048】
別段の指示がない限り、本明細書で開示される全ての範囲は、それに含まれるあらゆる部分範囲を包含すると理解されるべきである。例えば、「1~10」の言及された範囲は、最小値1から最大値10の間(両端値を含む)のあらゆる部分範囲、すなわち、限定するものではないが、1~6.1、3.5~7.8及び5.5~10など、最小値が1以上で始まり、最大値が10以下で終わる全ての部分範囲を含むとみなすべきである。
【0049】
本明細書で使用される「酸価」という用語は、重縮合物1gを中和するのに必要な水酸化カリウムの質量(KOH、mg)として定義され、標準のエタノール性水酸化カリウム溶液を用いた直接滴定によって測定される。
【0050】
別段の明示的な記載がない限り、少なくとも2つのカルボキシル部位を含む多官能性ポリマーなどに関してなどの本明細書で使用される「酸当量」という用語は、「カルボン酸当量」を意味し、例えばNMR分析などにより分子量又は平均分子量及び1分子当たりのカルボン酸基の平均数を決定し、分子量を1分子当たりのカルボン酸基の数で割ることによって酸当量を計算することによって決定される。
【0051】
本発明に有用な少なくとも2つのカルボキシル部位を含む多官能性ポリマーは、カルボン酸官能性ポリエステル、カルボン酸官能性ポリエーテル、カルボン酸官能性ポリウレタン、カルボン酸官能性ポリアクリレート、カルボン酸官能性ポリメタクリレート、カルボン酸官能性ポリビニルアセテートコポリマー、それらの組み合わせ、又はそれらの反応生成物若しくはコポリマーから選択することができる。
【0052】
多官能性ポリマーは、当該技術分野で認識されている方法に従って選択又は調製することができる。
【0053】
いくつかの実施形態では、及び非限定的な説明の目的で、カルボン酸官能性ポリマー(又は多官能性ポリマー)として選択することできるカルボン酸官能性ポリエステルは、少なくとも2のカルボン酸官能基数(又は環状無水物及びカルボン酸エステルの場合などでは有効なカルボン酸官能基数)を有するカルボン酸官能性材料(及び/又はその環状無水物及び/又はそのエステル)と、少なくとも2のヒドロキシ官能基数を有するポリオールとを反応することによって調製される。反応物のヒドロキシ基に対するカルボン酸基のモル当量比は、得られるポリエステルがヒドロキシル官能基及び望まれる分子量を持つように選択される。
【0054】
本発明の硬化性フォトクロミック組成物のカルボン酸官能性材料として選択することができるカルボン酸官能性ポリエステルの調製に有用な多官能性カルボン酸の例としては、限定するものではないが、ベンゼン-1,2,4-トリカルボン酸、フタル酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、エンドビシクロ-2,2,1,5-ヘプチン-2,3-ジカルボン酸、テトラクロロフタル酸、シクロヘキサン二酸、コハク酸、イソフタル酸、テレフタル酸、アゼライン酸、マレイン酸、トリメシン酸、3,6-ジクロロフタル酸、アジピン酸、セバシン酸などの多官能性カルボン酸(任意選択的にはその適切な環状無水物及び/又はそのエステルを含む)が挙げられる。
【0055】
本発明の硬化性フォトクロミック組成物のカルボン酸官能性ポリマーとして選択することができるカルボン酸官能性ポリエステルの調製に使用可能なポリオールの例としては、限定するものではないが、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、トリスヒドロキシエチルイソシアヌレート、ペンタエリスリトール、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3-、1,2-、及び1,4-ブタンジオール、ペンタンジオール(限定するものではないが、1,5-ペンタンジオールなど)、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール(限定するものではないが、1,6-ヘキサンジオールなど)、オクタンジオール、4,4’-(プロパン-2,2-ジイル)ジシクロヘキサノール、4,4’-メチレンジシクロヘキサノール、ネオペンチルグリコール、2,2,3-トリメチルペンタン-1,3-ジオール、1,4-ジメチロールシクロヘキサン、2,2,4-トリメチルペンタンジオール、4,4’-(プロパン-2,2-ジイル)ジフェノール、4,4’-メチレンジフェノールなどのポリオールが挙げられる。
【0056】
いくつかの実施形態では、カルボン酸官能性ポリエステルが選択され、これは、少なくとも3つの末端カルボン酸基を含むカルボン酸官能性のオリゴマー状若しくは分岐状若しくは超分岐状のポリエステルを含むか、又はこれらのポリエステルである。カルボン酸官能性のオリゴマー状若しくは分岐状若しくは超分岐状のポリエステルは、少なくとも3つのヒドロキシル基を有するポリオールと環状カルボン酸エステルとの反応からなど、当該技術分野で認められている方法に従って調製することができ、いくつかの実施形態では、ヒドロキシル官能性ポリエステル中間体の形成が含まれ、この中間体はその後カルボン酸基を含むように修飾される。カルボン酸官能性のオリゴマー状若しくは分岐状若しくは超分岐状のポリエステルを調製する原料とすることができるポリオールの例としては、限定するものではないが、グリセロール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジグリセロール(α,α’-ジグリセロールなど)、ジ(トリメチロールエタン)、ジ(トリメチロールプロパン)、ジ(ペンタエリスリトール)、及びそれらの2つ以上の組み合わせが挙げられる。カルボン酸官能性のオリゴマー状若しくは分岐状若しくは超分岐状のポリエステルを調製する原料とすることができる環状カルボン酸エステルの例としては、限定するものではないが、エステル酸素とカルボニル炭素とが互いに直接結合している環状環に4~8個の原子を有するラクトン、例えばβ-プロピオラクトン、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、ε-カプラクトン、及びそれらの2種以上の組み合わせが挙げられる。
【0057】
いくつかの実施形態によれば、カルボン酸官能性のオリゴマー状若しくは分岐状若しくは超分岐状のポリエステルの調製がヒドロキシル官能性ポリエステル中間体の形成を伴う場合、ヒドロキシル官能性ポリエステル中間体は、限定するものではないが、無水コハク酸などの環状無水物との反応によってカルボン酸官能基を含むように修飾することができる。
【0058】
本発明の組成物のカルボン酸官能性ポリエステルの調製に使用可能なポリオールの市販の例としては、限定するものではないが、以下のものが挙げられる。直鎖脂肪族ポリエステルポリオールとしては、限定するものではないが、Stepan Companyから市販されているSTEPANOL PCポリエステルポリオールが挙げられる。以下のポリオールはDIC Corporationから市販されている:OD-X-286、OD-X-102、OD-X-355、OD-X-2330、OD-X-240、OD-X-668、OD-X-21068、OD-X-2547、OD-X-2420、OD-X-2523、OD-X-2555、及びOD-X-2560ポリエステルポリオール;OD-X-2155及びOD-X-640ポリカプロラクトンジオール;及びOD-X-2586トリオール。以下のポリオールはMilliporeSigmaから市販されている:CAS番号36890-68-3のポリカプロラクトンポリオール;CAS番号37625-56-2のトリオール。以下のポリオールはTriiSOから市販されている:PERSTORP BOLTORN H2004超分岐ポリエステルポリオール;及びINGEVITY CAPAポリカプロラクトンポリオール。
【0059】
いくつかの実施形態では、及び非限定的な説明の目的で、カルボン酸官能性ポリエーテルは、最初にヒドロキシル官能基を有するポリエーテル中間体を調製し、次いでカルボン酸基を含むようにポリエーテル中間体を修飾することによって調製される。
【0060】
いくつかの実施形態では、及び非限定的な説明の目的で、ポリエーテル中間体は、多価開始剤又は多価開始剤の混合物と共に酸又は塩基触媒を使用して、アルキレンオキシド及び/又はテトラヒドロフランなどの(ただしこれらに限定されない)環状エーテル又は環状エーテル混合物の開環重合によって調製することができる。多価開始剤の非限定的な例としては、本明細書で前述したポリオールが挙げられる。例示的なアルキレンオキシドとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、アミレンオキシド、スチレンオキシド、及びハロゲン化アルキレンオキシド、例えばトリクロロブチレンオキシドが挙げられる。ポリエーテルポリオールの例としては、限定するものではないが、ポリ(テトラメチレンエーテル)グリコールとしても知られているポリ(テトラヒドロフラン)ジオールが挙げられる。
【0061】
いくつかの実施形態では、及び非限定的な説明の目的で、カルボン酸官能性ポリウレタンは、最初にヒドロキシル官能基又はイソシアネート官能基を有するポリウレタン中間体を形成し、次いでカルボン酸基を含むようにポリウレタン中間体を修飾することによって調製される。ポリウレタン中間体は、限定するものではないが、ジオールなどのポリオールとジイソシアネートなどのポリイソシアネートとの反応など、当該技術分野で認識されている方法に従って調製することができる。ポリウレタン中間体を調製するために使用可能なポリオール及びポリイソシアネートは、いくつかの実施形態では、本明細書で前述したポリオール及びポリイソシアネートの分類及び例から選択することができる。
【0062】
ヒドロキシル官能性ポリウレタン中間体は、当該技術分野で認識されている方法に従って、カルボン酸官能基を含むように修飾することができる。いくつかの実施形態では、ヒドロキシル官能性ポリウレタン中間体は、限定するものではないが、無水コハク酸などの環状無水物と反応し、その結果カルボン酸官能性ポリウレタンが形成される。いくつかのさらなる実施形態では、ヒドロキシル官能性ポリウレタン中間体は、限定するものではないが、アルキル3-イソシアナトプロパノエートなどのイソシアネート官能性カルボン酸エステルと反応し、その後当該技術分野で認められている後処理手順を受け、その結果カルボン酸官能性ポリウレタンが形成される。イソシアネート官能性ポリウレタン中間体は、当該技術分野で認められている方法に従って、カルボン酸官能基を含むように修飾することができる。いくつかの実施形態では、イソシアネート官能性ポリウレタン中間体は、ヒドロキシル官能性カルボン酸エステル、例えば限定するものではないが、3-ヒドロキシプロピオン酸の適切なカルボン酸エステルと反応し、カルボン酸エステル官能性ポリウレタンを形成する。いくつかの実施形態では、カルボン酸エステル官能性ポリウレタンは、当該技術分野で認められている後処理手順を受けることでカルボン酸官能性ポリウレタンに変換される。
【0063】
いくつかの実施形態では、及び非限定的な説明の目的で、前記多官能性ポリマーは、(メタ)アクリル酸モノマー又はC1~C4置換(メタ)アクリル酸モノマーと、3~9個の炭素原子及び少なくとも1つのカルボキシル基を含む少なくとも1種のエチレン性不飽和有機カルボキシルモノマーとから調製されたコポリマー、例えばポリ(アクリル酸-co-マレイン酸)、ポリ(アクリル酸-co-フマル酸)、ポリ(アクリル酸-co-クロトン酸)から選択することができる。
【0064】
本明細書で用いるところでは、「(メタ)アクリレート」及び「(メタ)アクリル酸エステル」という用語などの同様な用語は、メタクリレート及び/又はアクリレートを意味する。本明細書で使用される「(メタ)アクリル酸」という用語は、メタクリル酸及び/又はアクリル酸を意味する。
【0065】
そのようなエチレン性不飽和有機カルボキシルモノマーの例としては、限定するものではないが、コハク酸又はその置換体、3-ブテン酸;6-ヘプテン酸;6-メチル6-ヘプテン酸;2-メチル6-ヘプテン酸;3-メチル6-ヘプテン酸;3-エチル6-ヘプテン酸;5-メチル6-ヘプテン酸;4-メチル6-ヘプテン酸;6-オクテン酸;2-プロピル6-ヘプテン酸;及び2,4-ジメチル6-ヘプテン酸;並びにこれらの2つ以上の組み合わせが挙げられる。
【0066】
本発明のゲル媒体と共に使用することができるそのような市販のコポリマーの例としては、限定するものではないが、SigmaAldrich又はCarbosynthによるポリ(アクリル酸-co-マレイン酸)が挙げられる。
【0067】
前記多官能性ポリマーは、(メタ)アクリル酸モノマー又はC1~C4置換(メタ)アクリル酸モノマーと、少なくとも1種のC1~C12アルキル(メタ)アクリレートモノマーとから調製されるコポリマー、例えばポリ(メチルメタクリレート/メタクリル酸)から選択することができる。
【0068】
「アルキル」という用語は、1~12個の炭素原子を含む直鎖又は分岐の炭化水素鎖の任意の一価ラジカルを表す。C1~C12アルキル基の例としては、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、s-ブチル、又はt-ブチルなどのC1~C4アルキル基、n-ヘキシル、n-ヘプチル、又はn-オクチルなどのC6~C8アルキル基、並びにn-ペンチル、2-エチルヘキシル、3,5,5-トリメチルヘキシル、n-ノニル、n-デシル、n-ウンデシル、n-ドデシル、又はn-オクタデシルが挙げられる。
【0069】
C1~C12アルキル(メタ)アクリレートモノマーの例としては、限定するものではないが、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、及び2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、並びにこれらの2つ以上の組み合わせが挙げられる。
【0070】
本発明のゲル媒体と共に使用することができるそのような市販のコポリマーの例としては、限定するものではないが、Sigma Aldrich又はPolysciencesによるポリ(メチルメタクリレート/メタクリル酸)が挙げられる。
【0071】
前記多官能性ポリマーは、(メタ)アクリル酸モノマー又はC1~C4置換(メタ)アクリル酸モノマーと、少なくとも1種のエチレン性不飽和C1~C12アルケンとから調製されるコポリマーから選択することができる。
【0072】
「アルケン」という用語は、炭素-炭素二重結合を含む1~12個の炭素原子を含む、任意の不飽和炭化水素の直鎖又は分岐の炭化水素鎖を表す。
【0073】
エチレン性不飽和C1~C12アルケンの例としては、限定するものではないが、1-オクテン、1-ウンデセン、1-オクタデセン、5-メチル1-ヘプテン、及びこれらの2種以上の組み合わせが挙げられる。
【0074】
前記多官能性ポリマーは、(メタ)アクリル酸モノマー又はC1~C4置換(メタ)アクリル酸モノマーとスチレンなどの少なくとも1種の芳香族モノアルケニルモノマーとから調製されるコポリマーから選択することができる。
【0075】
前記多官能性ポリマーは、酢酸ビニルモノマーと、3~9個の炭素原子及び少なくとも1つのカルボキシル基を含む少なくとも1種のエチレン性不飽和有機カルボキシルモノマーとから調製されるコポリマー、例えば、酢酸ビニルとフマル酸とのコポリマー、酢酸ビニルとクロトン酸とのコポリマー、酢酸ビニルとマレイン酸とのコポリマーから選択することができる。
【0076】
そのようなエチレン性不飽和有機カルボキシルモノマーの例としては、限定するものではないが、コハク酸又はその置換体、3-ブテン酸;6-ヘプテン酸;6-メチル6-ヘプテン酸;2-メチル6-ヘプテン酸;3-メチル6-ヘプテン酸;3-エチル6-ヘプテン酸;5-メチル6-ヘプテン酸;4-メチル6-ヘプテン酸;6-オクテン酸;2-プロピル6-ヘプテン酸;及び2,4-ジメチル6-ヘプテン酸;及びこれらの2つ以上の組み合わせが挙げられる。
【0077】
好ましくは、前記コポリマーは、酢酸ビニルモノマー80重量%~99.95重量%と、3~9個の炭素原子及び少なくとも1つのカルボキシル基を含む少なくとも1種のエチレン性不飽和有機カルボキシルモノマー0.05重量%~20重量%とを含む。
【0078】
より好ましくは、前記コポリマーは、酢酸ビニルモノマー90重量%~99.95重量%と、3~9個の炭素原子及び少なくとも1つのカルボキシル基を含む少なくとも1種のエチレン性不飽和有機カルボキシルモノマー0.05重量%~10重量%とを含む。
【0079】
本発明のゲル媒体に使用できるそのような市販のコポリマーの例としては、限定するものではないが、Vinnapas C501などのWackerのVinnapas Cグレードが挙げられる。
【0080】
前記多官能性ポリマーは、C~C12アルキルビニルエーテルモノマーと、3~9個の炭素原子及び少なくとも1つのカルボキシル基を含む少なくとも1種のエチレン性不飽和有機カルボキシルモノマーとから調製されるコポリマー、例えばポリ(メチルビニルエーテル-alt-マレイン酸)から選択することができる。
【0081】
そのようなエチレン性不飽和有機カルボキシルモノマーの例としては、限定するものではないが、コハク酸又はその置換体、3-ブテン酸;6-ヘプテン酸;6-メチル6-ヘプテン酸;2-メチル6-ヘプテン酸;3-メチル6-ヘプテン酸;3-エチル6-ヘプテン酸;5-メチル6-ヘプテン酸;4-メチル6-ヘプテン酸;6-オクテン酸;2-プロピル6-ヘプテン酸;及び2,4-ジメチル6-ヘプテン酸;及びこれらの2つ以上の組み合わせが挙げられる。
【0082】
C1~C12アルキルビニルエーテルモノマーの例としては、限定するものではないが、メチルビニルエーテル、エチルメチルビニルエーテル、プロピルメチルビニルエーテル、イソプロピルメチルビニルエーテル、ブチルメチルビニルエーテル、イソブチルメチルビニルエーテル、tert-ブチルメチルビニルエーテル、及び2-エチルヘキシルメチルビニルエーテル、並びにこれらの2種以上の組み合わせが挙げられる。
【0083】
前記多官能性ポリマーは、カルボキシ二官能性PEG又はPPG誘導体、例えばPEG-ジプロピオン酸、PEG-ジ-コハク酸、PEG-ジ-グルタル酸、PEGビス[2-(スクシニルアミノ)エチル]から選択することができる。
【0084】
カルボキシ二官能性PEG又はPPG誘導体の例は、一般構造:X-PEG-Y又はX-PPG-Yを有することができ、式中、X及びYは同じであっても異なっていてもよく、少なくとも1つのカルボキシル基と、C1~C5アルキレン、C1~C5アミド、又はC1~C5エステルから選択される追加の基とを含む残基から選択することができ、例えば
【化1】
である。
【0085】
本明細書で使用される「PEG」という用語は、ポリエチレングリコールに対応する。
【0086】
本明細書で使用される「PPG」という用語は、ポリプロピレングリコールに対応する。
【0087】
本発明のゲル媒体と共に使用することができる市販のカルボキシジ官能性PEG又はPPG誘導体の例としては、限定するものではないが、NanoSoft Polymersから販売されているAA-PEG-AA(カルボキシルメチル-PEG-カルボキシルメチル)、GAA-PEG-GAA(PEGとカルボキシCOOH基との間にC3アミド結合を有する)、SA-PEG-SA(コハク酸-PEG-コハク酸)()、SAA-PEG-SAA(PEGとカルボキシCOOH基との間にC2アミド結合を有する)、PolyureによるPEG Diacid、(O,O’-ビス(2-カルボキシエチル)ドデカエチレングリコール(又はPEG-ジプロピオン酸)、Jenkem Technologyの、Specific PolymersのPEO Bis Carboxylic Acidが挙げられる。
【0088】
前記多官能性ポリマーは、ペンタエリスリトールコアを持つ4アームPEG-カルボン酸、ペンタエリスリトールコアを持つ4アームPEG-ジカルボン酸-ジオール、下記式のカルボン酸末端PEGデンドリマー:
【化2】
(式中、nは200~20000の整数である)
などのマルチアームPEGカルボン酸末端誘導体から選択することができる。
【0089】
別のマルチアームPEGカルボン酸末端誘導体は、次の化学構造を有し得る:
【化3】
(式中、nは20~20000の整数である)。
【0090】
マルチアームPEGカルボン酸末端誘導体の例は、下記一般構造を有し得る:
・ C-[CH-O-(PEG)-R-COOH](式中、Rは、C1~C5アルキレン、C1~C5アミド、又はC1~C5エステル、例えばペンタエリスリトールコアを持つ4アームPEG-カルボン酸から選択される);
[OH-R’-(PEG)-CH]-C-[CH-O-(PEG)-R’-COOH]4-x
(式中、xは1又は2であってよく、R’はC1~C5アルキレン、例えば4アームPEG-ジカルボン酸、ペンタエリスリトールコアを持つジオールから選択される)。本発明のゲル媒体と共に使用できる市販のマルチアームPEGカルボン酸末端誘導体の例としては、限定するものではないが、NanoSoft Polymersから販売されている4アーム-PEG-AA、4アーム-PEG-GA、4アーム-PEG-GAA、4アーム-PEG-SA、4アーム-PEG-SAA、Jenkem Technologyによる4アーム-PEG、2アームHydroxyl、2-アーム-Acetic Acidが挙げられる。
【0091】
前記多官能性ポリマーは、酸基でエンドキャップされたポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)(PLGA二酸)などのポリ(ラクチド-co-グリコリド)(PLGA)カルボン酸末端誘導体から選択され得る。
【0092】
「エンドキャップされた」という用語は、本明細書では、エンドキャップカルボキシル部位を有するポリマーの末端又は終点を指すものとして使用される。
【0093】
本発明のゲル媒体に使用できるそのような市販の誘導体の例としては、限定するものではないが、NanoSoft Polymersから販売されているPLGA DIACIDが挙げられる。
【0094】
前記多官能性ポリマーは、ペンタエリスリトールコアを持つ4アームPLGAカルボン酸などのマルチアームPLGAカルボン酸末端誘導体から選択することもできる。
【0095】
カルボキシ二官能性PEG又はPPG誘導体の例は、下記一般構造:
【化4】
を有することができ、式中、nは2~20000の整数であり、x及びyは、1~150の範囲の同じ又は異なる整数であり;
Rは、C1~C5アルキレンから選択される。
【0096】
マルチアームPLGAカルボン酸末端誘導体の例は、一般構造:C-[CH-O-(PLGA)-R-COOH]を有することができ、式中、Rは、C1~C5アルキレン、C1~C5アミド、又はC1~C5エステルから選択される。
【0097】
本発明のゲル媒体と共に使用することができる市販のマルチアームPLGAカルボン酸末端誘導体の例としては、限定するものではないが、NanoSoft Polymersから販売されている4アームPLGA-COOHが挙げられる。
【0098】
前記多官能性ポリマーは、ポリ(ε-カプロラクトン)-PEG(PCL-PEG)カルボン酸末端誘導体から選択することができる。
【0099】
前記多官能性ポリマーは、PLGA-PEGカルボン酸末端誘導体から選択することができる。
【0100】
前記多官能性ポリマーは、PLA-PEGカルボン酸末端誘導体から選択することができる。
【0101】
前記多官能性ポリマーは、PCL-PEGカルボン酸末端誘導体から選択することができる。
【0102】
前記多官能性ポリマーは、
【化5】
などの、コアとして2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロパン酸(ビス-MPA)、トリメチロールプロパン、又はペンタエリスリトールを有するポリエステルデンドリマーから選択することができる。
【0103】
本発明のゲル媒体に使用することができる市販のデンドリマーの例としては、限定するものではないが、Polymer Factoryからのビス-MPAカルボキシルデンドリマー、世代1、TMPコア、又はビス-MPAカルボキシルデンドリマー、世代2、TMPコアが挙げられるが、これらに限定されない。
【0104】
前記多官能性ポリマーは、少なくとも2つのカルボキシル部位を含むポリウレタンマトリックスから選択することができ、前記ポリウレタンマトリックスは、ポリオールとアルキレンオキシドイソシアネート化合物との反応から得られる。
【0105】
したがって、ポリオール、アルキレンオキシド、イソシアネート化合物のいずれか又は両方は、少なくとも1つのカルボキシル部位をさらに含む。
【0106】
ポリウレタンマトリックスは、当該技術分野で認められている方法に従って調製することができる。ポリウレタンは、ジオールなどのポリオールとジイソシアネートなどのポリイソシアネートとの反応から調製することができる。
【0107】
アルキレンオキシドイソシアネート化合物におけるアルキレンオキシドの例としては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、及びスチレンオキシドが挙げられる。
【0108】
ポリウレタンマトリックスを調製するために使用できるポリオールの例は、それぞれヒドロキシル部位とカルボキシル部位の両方でエンドキャップされた4アームPEGであってよい。
【0109】
前記多官能性ポリマーは、上述した多官能性ポリマーの混合物又は反応生成物から選択することができる。
【0110】
アクリレートと、メタクリレート又はスチレンアクリレート又はスチレンメタクリレートとのコポリマー、イオン液体から作られたポリマー又はコポリマーの例も使用することができる。SOLVIONICによって開発されたこのようなイオン液体モノマーは、熱的手段又はUV重合によって容易にポリマーに変換することができる。その例としては、限定するものではないが、1,4-ブタンジイル-3,3’-ビス-1-ビニルイミダゾリウムジ-ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド又は3-エチル-1-ビニルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミドが挙げられる。
【0111】
架橋剤:
本発明のゲルの製造には架橋剤が用いられる。
【0112】
架橋剤が使用されない場合、固体状態を達成するのに十分な量のポリマーを有する層が得られるが、良好な機械的特性を得ることができない。 したがって、サンプルを曲げた後、時間の経過と共に、ピンチゾーンからの配合物の流れが観察され得る。
【0113】
本発明に有用な架橋剤は、ポリカルボジイミドであってよい。
【0114】
ポリカルボジイミドは、多官能性(又はマルチ官能性)ポリマーのカルボン酸(-COOH)基と選択的に反応する。このタイプの架橋反応により、古典的な3Dポリマー架橋剤ネットワークが形成される。
【0115】
本発明に有用なポリカルボジイミドは、少なくとも2つのカルボジイミド基、例えば少なくとも3つのカルボジイミド基、又は少なくとも4つのカルボジイミド基を含む。
【0116】
ここで前記ポリカルボジイミドを含む得られる架橋ポリマーの合成経路の模式図を示す。不安定な中間体の形成後、ここで示す安定なN-アシル尿素が形成される。ポリカルボジイミドには複数の-N=C=N-基が含まれていることから、1つのポリカルボジイミド分子が異なるポリマー鎖上のカルボン酸残基と反応して、それらを一体に結び付けて3次元ネットワークを形成することができる。カルボン酸とカルボジイミドとの反応は、周囲条件又は穏やかな熱硬化条件下で非常に速い場合がある(Derksen,Andre.(2017).Polycarbodiimides as classification-free and easy to use crosslinkers for water-based coatings.Pci Journal)。
【化6】
【0117】
本発明のいくつかの実施形態では、ゲル媒体の架橋ポリマーを調製するための架橋剤は、多官能性イソシアネートの縮合を含む反応によって得ることができるポリカルボジイミドであり、各多官能性イソシアネートは、脂肪族多官能性イソシアネート、脂環式多官能性イソシアネート、ヘテロ脂環式多官能性イソシアネート、アリール多官能性イソシアネート、アリール脂肪族多官能性イソシアネート、及びそれらの2つ以上の組み合わせからなる群から選択される。
【0118】
本明細書で使用される「多官能性イソシアネート」という用語は、少なくとも2つのイソシアネート基を有する物質を意味する。ポリカルボジイミドを形成するために使用される多官能性イソシアネートは、2~10個のイソシアネート基、又は2~8個のイソシアネート基、又は2~6個のイソシアネート基、又は2~5個のイソシアネート基、又は2若しくは3個のイソシアネート基を有することができ、それぞれの場合において列挙された値は含まれる。
【0119】
好ましくは、得られるポリカルボジイミドはフリーのイソシアネート官能基を含まない。
【0120】
別の実施形態では、ポリカルボジイミドは、カルボジイミド官能基と、カルボジイミド官能基に対する反応性を有さない親水性セグメント基とを含むオリゴマー系材料から選択される。
【0121】
カルボジイミド官能基を含むオリゴマー系材料は、少なくともアルキルアルコキシシラン基又はアルコキシシラン基によってさらに置換されており、好ましくは、さらに置換されたトリメトキシシラン又はトリエトキシシランである。
【0122】
本発明のゲル媒体に使用することができる市販のポリカルボジイミド材料の例としては、限定するものではないが、Stahl HollandのPICASSIAN(登録商標)XL-701、XL-702、XL-725、XL-721、及びXL-732、EX-5558;Rhein Chemie Staboxolから市販されているSTABAXOL P、STABAXOL P100、及びSTABAXOL P200ポリカルボジイミド;DSM Coating Resinsのカルボジイミド架橋剤XL-1 V及びCX-300(登録商標);GSI Exim Americaのカルボジイミド架橋剤CARBODILITE(登録商標)V-02、V-04、E-02、及びSV-02 CARBODILITE V-02B、CARBODILITE V-04K、CARBODILITE V-05、CARBODILITE E02、CARBODILITE E04、CARBODILITE V-02、CARBODILITE V-02-L2、CARBODILITE V-04、及びCARBODILITE V-SV-06;NISSHINBO INDUSTRIESから市販されているポリカルボジイミド;Nicca Chemical Co., Ltdから市販されているNK ASSIST CIRポリカルボジイミド;ANGUSのZOLDINE;並びにUnion Carbide Corporationのカルボジイミド架橋剤UCARLINK(登録商標)XL-29SEが挙げられる。好ましくは、ポリカルボジイミドは、その純粋な形態で、又は有機溶媒をさらに含む組成物で使用される。
【0123】
重要なことには、この架橋剤は、毒物学的調査で確認されたように、有害でも刺激性でも有毒でもない。
【0124】
或いは、本発明によるゲル媒体の架橋ポリマーを調製するための架橋剤は、非毒性のポリアジリジンである。
【0125】
米国特許第9500888号明細書には、ゲル電解質の硬化性官能基としてアジリジンを使用することが概略的に言及されている。
【0126】
本発明のゲル媒体に使用することができる市販の非毒性ポリアジリジン材料の例としては、限定するものではないが、DSMによるNeoAdd(商標)PAX521及びNeoAdd(商標)PAX523が挙げられる。
【0127】
前記ポリアジリジンを含む架橋された得られたポリマーの合成経路の概略図をここで示す。この反応は、求核剤として酸を用いる求電子性アジリジンの開環ステップを含む。
【化7】
【0128】
別の架橋剤は、欧州特許第0507407号明細書に記載されているような、一分子内でアジリジン官能基をカルボジイミド官能基と組み合わせたものである。
【0129】
本発明によるゲルは、有利には、0.1:1~10:1、好ましくは0.2:1~5:1の、ポリカルボジイミドのカルボジイミド当量対前記多官能性ポリマーのカルボン酸当量の当量比を含む。
【0130】
色素
ゲル媒体は、好ましくはフォトクロミック化合物(二色性又は非二色性)、二色性化合物、エレクトロクロミック化合物、及び固定色色素、並びにこれらの混合物から選択される、パッシブ(又は永久)色素、活性色素、又はそれらの混合物、より好ましくは少なくとも1種のフォトクロミック化合物又は少なくとも1種のエレクトロクロミック化合物、好ましくは少なくとも2種のエレクトロクロミック化合物である少なくとも1種の色素をさらに含むことができる。
【0131】
したがって、ゲル媒体は、少なくとも1種の色素又は色素の混合物を含むことができ、前記少なくとも1種の色素は、例えば以下から選択される:
・エレクトロクロミック化合物(エレクトロクロミック色素)又はエレクトロクロミック色素の混合物;
・フォトクロミック色素(二色性又は非二色性)又はフォトクロミック色素の混合物;
・二色性化合物又は二色性化合物の混合物;
・本明細書に記載の固定色色素;
・及び上のいずれかの混合物。
【0132】
二色性化合物又は二色性化合物の混合物が使用される場合、溶媒は好ましくはメソゲン化合物(液晶相)である。液晶相とは、液晶が等方性の状態にある等方性相とは反対に、液晶メソゲンが秩序化した相であると本明細書では理解され、液晶相は、典型的にはネマチック相及びスメクチック相のうちの1つである。
【0133】
エレクトロクロミック色素
本発明のゲル媒体がエレクトロクロミックゲル媒体である場合、前記ゲルは、非水性溶媒中の溶液中で架橋ポリマー中に散在するレドックス化学混合物をさらに含むことができ、前記混合物は、少なくとも1種の還元性化合物から、好ましくは少なくとも1種のエレクトロクロミック還元性化合物と少なくとも1種のエレクトロクロミック酸化性化合物とから構成され、これは印加電圧の存在下では活性化状態にあり、印加電圧の不存在下では不活性化状態に退色する。
【0134】
本発明の溶液の少なくとも1種の還元性化合物は特に限定されない。少なくとも1種の還元性化合物は、エレクトロクロミック化合物である必要はない。しかしながら、少なくとも以下の特性を有する化合物の中から選択すべきである:退色状態における可視光の少ない吸収(還元性化合物がエレクトロクロミック化合物でもある場合)、良好な安定性、特に酸素に対する良好な安定性、及びプロピレンカーボネートなどの従来のエレクトロクロミック溶媒への良好な溶解性。
【0135】
エレクトロクロミック還元性化合物は、エチルフェロセン、t-ブチルフェロセン、フェノキサジン、及びそれらの誘導体、例えばN-ベンジルフェノキサジン、フェナジン、及びそれらの誘導体、例えば5,10-ジヒドロフェナジン、N,N,N’,N’-テトラメチル-p-フェニレンジアミン、フェノチアジン、及びそれらの誘導体、例えば10-メチルフェノチアジン及びイソプロピルフェノチアジン;チオアントレン;チオフェン、及びテトラチアフルバレンから選択することができる。
【0136】
少なくとも1種のエレクトロクロミック酸化性化合物は特に限定されない。少なくとも1種のエレクトロクロミック酸化性化合物は、モノビオロゲン又はビスビオロゲン(すなわち4,4’-ビピリジニウム塩又はビス[4,4’-ビピリジニウム]塩)、例えばアルキルビオロゲン、アリールビオロゲン、アリールアルキルビオロゲン、アルキルアリールビオロゲン、アントラキノン、ベンザゾール、イミダゾ[1,2-α]ピリジン、2,1,3-ベンゾチアジアゾール、イミダゾール、ベンゾセレナジアゾール、ベンゾセレナゾール、及びそれらの誘導体から選択される。
【0137】
そのようなビオロゲン化合物又はビオロゲン誘導体の非限定的な例、より具体的には、置換ジアルキル、ジアリール4,4’-ビピリジニウム塩、置換ジアルキル、ジアリールビス[4,4’-ビピリジニウム]塩、及びそれらの混合物の例は、欧州特許出願公開第2848667A1号明細書、欧州特許出願公開第2848668A1号明細書、欧州特許出願公開第2848669A1号明細書、欧州特許出願公開第2848670A1号明細書、欧州特許出願公開第3115433A1号明細書、及び欧州特許出願公開第3345981A1号明細書に記載されており、これらの教示は本明細書に組み込まれる。好ましい例についてここで言及する。
【0138】
好ましい一実施形態では、レドックス化学混合物は、少なくとも1種の還元性化合物、好ましくは1種の還元性化合物(10-メチルフェノチアジンなど)と、少なくとも1種のエレクトロクロミック酸化性化合物、好ましくは少なくとも2種のエレクトロクロミック酸化性化合物、例えば2種又は3種のエレクトロクロミック酸化性化合物とを含み、好ましくは、各エレクトロクロミック酸化性化合物は、置換ジアルキル4,4’-ビピリジニウム塩、置換ジアリール4,4’-ビピリジニウム塩、置換ジアルキルビス[4,4’-ビピリジニウム]塩、又は置換ジアリールビス[4,4’-ビピリジニウム]塩から独立して選択され、より好ましくは、少なくとも2種のエレクトロクロミック酸化性化合物は、少なくとも置換ジアリール4,4’-ビピリジニウムと少なくとも置換ジアリールビス[4,4’-ビピリジニウム]である。
【0139】
好ましくは、以下の一連の化合物から少なくとも1種の酸化性化合物が選択されるか、又は少なくとも2種のエレクトロクロミック酸化性化合物が独立して選択される。
【0140】
【表1】
【0141】
【表2】
【0142】
【表3】
【0143】
【表4】
【0144】
【表5】
【0145】
【表6】
【0146】
【表7】
【0147】
【表8】
【0148】
【表9】
【0149】
【表10】
【0150】
【表11】
【0151】
【表12】
【0152】
より好ましくは、以下の一連の化合物から少なくとも1種のエレクトロクロミック酸化性化合物が選択されるか、又は少なくとも2種のエレクトロクロミック酸化性化合物が独立して選択される。
【0153】
【表13】
【0154】
【表14】
【0155】
【表15】
【0156】
【表16】
【0157】
【表17】
【0158】
【表18】
【0159】
【表19】
【0160】
【表20】
【0161】
【表21】
【0162】
特に好ましい一実施形態では、レドックス化学混合物は、
・1種の還元性化合物及び
・少なくとも1種のエレクトロクロミック酸化性化合物、好ましくは少なくとも2種のエレクトロクロミック酸化性化合物、
から構成され、
前記少なくとも1種のエレクトロクロミック酸化性化合物は、式Iaの化合物又は式IIaの化合物のいずれかであり、前記少なくとも2種のエレクトロクロミック酸化性化合物は、式Iaの化合物と式IIaの化合物とからなる群から選択される:
【化8】
(式中、R及びRは、独立して:
【化9】
から選択され、Xは、ハライド、テトラフルオロボレート、テトラフェニルボレート、ヘキサフルオロホスフェート、ナイトレート、メタンスルホネート、トリフルオロメタンスルホネート、トルエンスルホネート、ヘキサクロロアンチモネート、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、パークロレート、アセテート、及びスルフェートから選択される対イオンである)
【化10】
(式中、Zは、-CH-、-(CH-、-(CH-、-(CH-、-(CH-、-CH-CH(CH)-CH-、-CH-CH(CHフェニル)-CH-、-(CH-CH(CH)-CH-、-(CH-CH(CH)-CH-、-(CH-、及びCH(CH)-(CH-であり、
及びRは、アルキル及び任意選択的に置換されていてもよいフェニル基から選択され、好ましくは、
【化11】
から独立して選択される置換フェニル基である)。
【0163】
好ましい実施形態によれば、レドックス化学混合物は、10-メチルフェノチアジンと、式I-10及びII-10並びにI-38及びII-10の化合物からなる群から選択される少なくとも2種のエレクトロクロミック酸化性化合物とから構成される混合物から選択される。
【化12】
【0164】
フォトクロミック色素
本発明のゲル媒体がフォトクロミックゲル媒体である場合、前記ゲルは、少なくとも1種のフォトクロミック色素(又はフォトクロミック化合物)をさらに含む。
【0165】
原則として、非水性溶媒又は上述したゲル媒体に使用される溶媒に可溶性である任意の安定なフォトクロミック色素を使用することができる。活性化状態と不活性化状態との間で透過率の大きな差を示すフォトクロミック色素を選択することが好ましい。フォトクロミック色素は、不活性化状態で無色であることが有利である。
【0166】
本明細書で使用される「二色性」という用語及び「二色性の」などの同様の用語は、放射(透過及び/又は反射した放射を含む)の2つの直交平面偏光成分の1つを他の直交平面偏光成分よりも強く吸収する能力を意味する。
【0167】
フォトクロミック色素は、ナフトピラン、ベンゾピラン、フェナントロピラン、インデノナフトピラン、スピロ(インドリン)ナフトキサジン、スピロ(インドリン)ピリドベンゾキサジン、スピロ(ベンズインドリン)ピリドベンゾキサジン、スピロ(ベンズインドリン)ナフトキサジン、スピロ(インドリン)-ベンゾキサジン、フルギド、フルギミド、ジアリールエテン、及びそのようなフォトクロミック化合物の混合物からなる群から選択することができる。
【0168】
フォトクロミック色素は、好ましくは、スピロオキサジン、スピロインドリン[2,3’]ベンゾオキサジン、クロメン、ホモアザアダマンタン、アゾベンゼン、スピロフルオレン-(2H)-ベンゾピラン、ナフト[2,1-b]ピラン、及びナフト[1,2-b]ピラン、及びそのようなフォトクロミック化合物の混合物から選択される。
【0169】
本発明の硬化性フォトクロミック組成物において使用することができる他のフォトクロミック化合物のさらなる例には、米国特許第9,028,728B2号明細書の第34欄第20行目から第35欄第13行目に開示されているものなどが含まれるがそれらに限定されず、その開示は本明細書に参照によって具体的に組み込まれる。
【0170】
二色性化合物
本発明のゲル媒体は、エレクトロクロミック特性又はフォトクロミック特性を示さない二色性色素を含み得る。
【0171】
二色性色素の例としては、限定するものではないが、アゾメチン、インジゴイド、チオインジゴイド、メロシアニン、インダン、キノフタロン色素、ペリレン、フタロペリン、トリフェノジオキサジン、インドロキノキサリン、イミダゾトリアジン、テトラジン、アゾ及び(ポリ)アゾ色素、ベンゾキノン、ナフタキノン、アントラキノン及び(ポリ)アントラキノン、アントラピリミジノン、ヨウ素、ヨウ素酸塩、又はそれらの2つ以上の組み合わせが挙げられる。
【0172】
固定色色素
本発明のゲル媒体は、固定色色素などのパッシブ色素から選択される色素を単独で、又はフォトクロミック色素若しくはエレクトロクロミック色素に加えて含むこともできる。
【0173】
本明細書で使用される「固定色色素」という用語は、「固定着色剤」、「静的着色剤」、「固定色素」、及び「静的色素」、「永久色素」と同等である。そのような用語は、視覚的に観察されるその色に関して電磁放射に物理的又は化学的に応答しない非フォトクロミック材料又は非エレクトロクロミック材料である色素を意味する。本明細書で使用される用語「固定色色素」及び関連する用語は、用語フォトクロミック化合物、エレクトロクロミック混合物、及び関連する用語に含まれず、それらと区別可能である。
【0174】
フォトクロミック化合物又はエレクトロクロミック化合物が活性化されていないときに固定色色素の少なくともベース(又は第1)の色特性を有し、任意選択的に化学線又はリーク電流にさらされるなどして活性化されたときに固定色色素とフォトクロミック化合物又はエレクトロクロミック化合物との組み合わせの第2の色特性を有する最終的な物品が得られるように、1種以上の固定色色素をゲル媒体中に存在させることができる。
【0175】
用語「活性な」又は「活性化された」は、ゲル組成物の特定の状態又は条件と併せて使用される場合、フォトクロミック又はエレクトロクロミック色素などの色素が化学線又はリーク電流にさらされたゲル組成物の活性化状態又は条件を指す。これらの用語は、フォトクロミック又はエレクトロクロミック色素などの色素が化学線又はリーク電流にさらされないゲル組成物の不活性状態又は条件を示す「不活性」又は「不活性化」という用語とは対照的である。
【0176】
任意選択的な固定色色素は、アゾ色素、アントラキノン色素、キサンテン色素、アジメ色素、ヨウ素、ヨウ化物塩、ポリアゾ色素、スチルベン色素、ピラゾロン色素、トリフェニルメタン色素、キノリン色素、オキサジン色素、チアジン色素、及びポリエン色素のうちの少なくとも1つを含む。
【0177】
固定色色素は、総固形分重量を基準として0.001~15重量パーセント、又は0.01~10重量パーセント、又は0.1~2.5重量パーセントの量でゲル媒体中に存在することができる。
【0178】
溶媒:
上述したように、本発明のゲルは、非水性溶媒を含むオルガノゲルであり、好ましくは、前記溶媒は、ゲルの総重量に対して少なくとも30重量%、さらに好ましくはゲルの総重量に対して少なくとも50%で前記ゲル媒体中に存在する。
【0179】
本明細書で使用される「非水性」溶媒という用語は、本明細書に記載の配合物に特に水が添加されないことを意味する。「非水性」という用語は、ゲル媒体の総重量に対して10重量%未満、好ましくはゲル媒体に対して1重量%未満、より好ましくはゲル媒体に対して0.5重量%未満など、配合物中に存在する微量の水の存在を排除するものではない。
【0180】
ゲル媒体は、ゲル媒体の総重量に対して10重量%未満、好ましくはゲル媒体の総重量に対して1重量%未満、より好ましくはゲル媒体の総重量に対して0.5重量%などの微量の水を含み得る。
【0181】
好ましくは、ゲル媒体は水を含まない。適切な溶媒は、本発明によるゲル媒体の他の化合物に対して、及び前記ゲル媒体を受け入れるデバイスを形成する材料に対して化学的に不活性であるものである。
【0182】
さらに、適切な溶媒は、架橋したポリマーを除いたゲル媒体の他の化合物が溶解するものである。特に、本発明に有用な非水性溶媒は、色素(特にエレクトロクロミック色素又はフォトクロミック色素)を可溶化する一方で架橋ポリマーを可溶化しないための液体である。
【0183】
本発明のゲル媒体の非水性溶媒は、有機溶媒又は溶媒混合物及び/又は少なくとも1種のイオン液体から選択することができる。
【0184】
本発明のゲル媒体の非水性溶媒は、特にエレクトロクロミック色素が存在する場合、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、1,2-ジメチルエチレンカーボネート、エチルブチルカーボネート、メチルブチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、トリフルオロメチルエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ジ-n-プロピルカーボネート、ジイソプロピルカーボネート、メチルエチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、エチルイソプロピルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル、グルタロニトリル、メチルグルタロニトリル、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、スルホラン、3-メチルスルホラン、プロピオン酸メチル、エチレングリコール、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、1,3-ジオキソラン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、4-メチル-1,3-ブチロラクトン、γ-ブチロラクトン、ギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、酪酸エチル、プロピレングリコールジアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルジアセテート、プロピレングリコール、プロパンスルトン、エチレンサルファイト、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、メチルエーテルアセテート、メチルエチルケトン、アセトン、エタノール、テトラヒドロフルフリルアルコール、N-メチルピロリドン、2-メトキシエチルエーテル、キシレン、シクロヘキサン、3-メチルシクロヘキサノン、酢酸エチル、フェニル酢酸エチル、メトキシフェニル酢酸エチル、プロピレンカーボネート、ジフェニルメタン、ジフェニルプロパン、テトラヒドロフラン、メタノール、プロピオン酸メチル、高沸点又は低融点のフタル酸エステル誘導体(そのようなフタル酸エステル誘導体は、ビス(フタル酸2-エチルヘキシル)(DEHP)、フタル酸ジイソノニル(DINP)、フタル酸ジn-オクチル(DNOP)、フタル酸ジイソデシル(DIDP)、フタル酸ジプロピルヘプチル(DPHP)、テレフタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DOTP又はDEHT)である)、高沸点又は低融点のポリエチレングリコールジベンゾエート又はポリプロピレングリコールジベンゾエート、ハロメタン、ジクロロメタン;環状エーテル、テトラヒドロフラン、及びジオキサン;酢酸アルキル、酢酸エチル;乳酸アルキル、乳酸エチル;アルキルニトリル(又はシアン化アルキル)、アセトニトリル(又はシアン化メチル);ジアルキルホルムアミド、ジメチルホルムアミド;ジアルキルスルホキシド、ジメチルスルホキシド;ケトン、アセトン、及びメチルエチルケトン;N-置換環状アミド(ラクタム)、N-メチル-2-ピロリドン、及びN-ブチル-2-ピロリドン;芳香族化合物、ベンゼン、トルエン、キシレン、アニソール、安息香酸ブチル、ジアルキルベンゼン、トリアルキルベンゼン、及びそれらの混合物から選択することができ、特に、エレクトロクロミック色素が存在する場合には、好ましくは溶媒はプロピレンカーボネートである。
【0185】
溶媒は、プロピレングリコールアセテート又はプロピレングリコールメチルエーテルアセテートのような複数のアセテート系化合物の混合物であってもよい。そのような溶媒又は溶媒混合物は、カルボジイミドの希釈のために特に有用である。
【0186】
フォトクロミック色素が存在する場合のゲルに適した溶媒の例は、ジクロロメタンなどのハロメタン;テトラヒドロフラン及びジオキサンなどの環状エーテル;高沸点又は低融点のフタル酸誘導体(そのようなフタル酸エステル誘導体は、ビス(フタル酸2-エチルヘキシル)(DEHP)、フタル酸ジイソノニル(DINP)、フタル酸ジn-オクチル(DNOP)、フタル酸ジイソデシル(DIDP)、フタル酸ジプロピルヘプチル(DPHP)、テレフタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DOTP又はDEHT)である);高沸点又は低融点のポリエチレングリコールジベンゾエート;酢酸エチルなどの酢酸アルキル;乳酸エチルなどの乳酸アルキル;アセトニトリル(又はシアン化メチル)などのアルキルニトリル(又はシアン化アルキル);ジメチルホルムアミドなどのジアルキルホルムアミド;ジメチルスルホキシドなどのジアルキルスルホキシド;アセトン及びメチルエチルケトンなどのケトン;N-メチル-2-ピロリドン及びN-ブチル-2-ピロリドンなどのN-置換環状アミド(ラクタム);トルエン、キシレン、アニソール、安息香酸ブチル、ジアルキルベンゼン、トリアルキルベンゼン、C9~C10ジアルキル-及びトリアルキル-ベンゼンの市販混合物であるAROMATIC 100 Fluid、並びにC9~C11アルキルベンゼンの市販混合物であるAROMATIC 150 Fluidなどの芳香族化合物;などの非プロトン性有機溶媒であってよい。
【0187】
好ましくは、溶媒は、複数のフタレート系化合物及び/又はアセテート系化合物の混合物であってよい。
【0188】
二色性化合物又は二色性化合物の混合物が使用される場合、溶媒は好ましくは液晶性溶媒(ネマチック又はコレステリック)である。有機溶媒は、ベンゼン、トルエン、メチルエチルケトン、アセトン、エタノール、テトラヒドロフルフリルアルコール、N-メチルピロリドン、2-メトキシエチルエーテル、キシレン、シクロヘキサン、3-メチルシクロヘキサノン、酢酸エチル、フェニル酢酸エチル、メトキシフェニル酢酸エチル、プロピレンカーボネート、ジフェニルメタン、ジフェニルプロパン、テトラヒドロフラン、メタノール、プロピオン酸メチル、エチレングリコール、及びそれらの混合物からなる群からさらに選択され得る。
イオン液体も、本発明において溶媒として使用することができる。そのようなイオン液体は、例えば、国際公開第2009/115721号パンフレットに記載されているものであり、好ましくは、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミド、1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミド、N-ブチル-N-メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミド、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミド、1-メチル-1-プロピルピペリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミド、1-オクチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミド、2,3-ジメチル-1-プロピルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミド、N-プロピル-N-メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミド、N,N,N-トリブチル-N-メチルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミド、N,N,N-トリメチル-N-ブチルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミド、N,N,N-トリメチル-N-ヘキシルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミド、N,N,N-トリメチル-N-プロピルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミド、1-フェニルエチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミド、(フェニルエチル)-ジメチルベンジルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミド、エチルジメチルベンジルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミド、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1-(2-ヒドロキシエチル)-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、N,N,N-トリメチル-N-ブチルアンモニウムテトラフルオロボレート、N,N,N-トリメチル-N-ヘキシルアンモニウムテトラフルオロボレート、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムの酢酸塩、臭化物、塩化物、ジシアナミド、ヘキサフルオロホスフェート、硫酸水素塩、メタンスルホン酸塩、テトラクロロアルミン酸塩、及びトリフルオロメタンスルホン酸塩、1-ブチル-1-メチルピロリジニウムの酢酸塩、塩化物、臭化物、ジシアナミド、ヘキサフルオロリン酸塩、硫酸水素塩、及びトリフルオロメタンスルホン酸塩、1-(2-ヒドロキシエチル)-3-メチルイミダゾリウムの臭化物、塩化物、ジシアナミド、及びヘキサフルオロリン酸塩、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムの臭化物、塩化物、ヘキサフルオロリン酸塩、テトラクロロアルミン酸塩、及びトリフルオロメタンスルホン酸塩、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸塩、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホネート、又はヒドロメチルイミダゾリウムの塩酸塩若しくはメタンスルホン酸塩から選択される。
【0189】
したがって、前記イオン液体は、「イオン溶媒」の形態で、本発明によるゲル媒体に配合することができる。ここでのこの用語は、「イオン液体」よりも広い意味を有し、融点が20℃未満であり、合計で少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも70重量%の1種以上の上で定義した「イオン液体」(融点が100℃未満の有機塩)含む任意の液体を包含する。
【0190】
電池に組み込まれるように構成された本発明によるゲルに適した溶媒の例は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、1,2-ジメチルエチレンカーボネート、エチルブチルカーボネート、メチルブチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、トリフルオロメチルエチレンカーボネート、ジ-n-プロピルカーボネート、ジイソプロピルカーボネート、メチルエチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、エチルイソプロピルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、1,3-ジオキソラン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、4-メチル-1,3-ブチロラクトン、γ-ブチロラクトン、ギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、酪酸エチル、ビニレンカーボネート、プロパンスルトン、亜硫酸エチレンであってよい。
【0191】
電解質:
本発明の組成物は、不活性な通電性の電解質をさらに含み得る。不活性な通電性の電解質は、組成物の他の成分と適合性を有する必要がある。特に、不活性な通電性の電解質は、エレクトロクロミック化合物と反応すべきではない。
【0192】
不活性な通電性の電解質の例としては、限定するものではないが、アルカリ金属塩、リチウム、ナトリウム、又はテトラアルキルアンモニウム塩、塩化アルミニウム及びホウ化アルミニウム、過硫酸塩及びビス(フルオロスルホニル)イミドが挙げられる。不活性な通電性の電解質は、好ましくは、塩化物、テトラフルオロホウ酸塩、ヘキサフルオロホウ酸塩、及び過塩素酸塩から好ましくは選択される不活性なアニオンと組み合わされた、ナトリウム、リチウム、及びテトラアルキルアンモニウムイオンから選択される。
【0193】
不活性アニオンの他の例は、限定するものではないが、テトラフェニルボレート、シアノ-トリフェニルボレート、テトラメトキシボレート、テトラプロポキシボレート、テトラフェノキシボレート、パークロレート、クロライド、ナイトレート、サルフェート、ホスフェート、メタンスルホネート、エタンスルホネート、テトラデカンスルホネート、ペンタデカンスルホネート、トリフルオロメタンスルホネート、パーフルオロブタンスルホネート、パーフルオロクタンスルホネート、ベンゼンスルホネート、クロロベンゼンスルホネート、トルエンスルホネート、ブチルベンゼンスルホネート、tert-ブチルベンゼンスルホネート、ドデシルベンゼンスルホネート、トリフルオロメチルベンゼンスルホネート、ヘキサフルオロホスフェート、ヘキサフルオロアルセネート、又はヘキサフルオロシリケートである。最も好ましい不活性な通電性の電解質は、テトラ-n-ブチルアンモニウムテトラフルオロボレートである。
【0194】
ゲル媒体中に存在する場合、不活性な通電性の電解質の濃度は、典型的には0.005~2M、好ましくは0.01~1M、より好ましくは0.05~0.5Mである。
【0195】
場合によってUV光(<400nm)に対する保護が望まれるエレクトロクロミック媒体のための適切な追加の添加剤は、例えばUV吸収剤である。例は、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン(UVINUL(登録商標)3000、BASF)、2-ヒドロキシ-4-n-オクチルオキシベンゾフェノン(SANDUVOR(登録商標)3035、Clariant)、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-ドデシル-4-メチルフェノール(Tinuvin(登録商標)571、Ciba)、2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシ-ベンゾフェノン(Cyasorb24(商標)、American Cyanamid Company)、エチル2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリレート(UVINUL(登録商標)3035、BASF)、2-エチルヘキシル2-シアノ-3,3-ジフェニル-アクリレート(UVINUL(登録商標)3039、BASF)、2-エチルヘキシルp-メトキシシンナメート(UVINUL(登録商標)3088、BASF)、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-ベンゾフェノン(CHIMASSORB(登録商標)90、Ciba)、ジメチル4-メトキシベンジリデンマロネート(SANDUVOR(登録商標)PR-25、Clariant)である。
【0196】
本発明の自己支持性ゲル媒体が得られる多官能性ポリマーと架橋剤との間の架橋反応は、能動素子、特に電気制御が可能なデバイス又はエレクトロクロミックデバイスの「リザーバー」ゾーンで起こる。
【0197】
このゲル媒体は、縦向きで使用され、媒体が自重でリザーバー内を移動する大型の可能性のあるデバイス(グレージングなど)に特に満足できるものであり、そのため、2枚の基材が周囲のシールで十分に機械的に補強されていない場合には、グレージングに「膨れ」を起こす静水圧のため、グレージングに開口部が生じるリスクがある。
【0198】
このゲル媒体は、ゴーグルなどのフレキシブルでそのため変形可能なデバイスにも特に満足できるものである。そのようなゴーグルは、例えばスキー、又はサイクリング、又はオートバイなどの活動のために使用することができる。
【0199】
本発明によるゲル媒体は、有利には、10-5S/cmよりも良好な導電率を有する。
【0200】
さらに、前記ゲルは、好ましくは
・色の欠如、
・透明性、特に可視光に対する透明性、
・熱的及び光化学的安定性、
・任意選択的な色素に関する化学的慣性、及び能動素子の壁を形成する材料に関する化学的慣性、特に電気的に制御可能なデバイス又はエレクトロクロミックデバイスに対する化学的慣性、
を示す。
【0201】
デバイス
別の態様によれば、本発明は、第1の態様で定義されたゲル媒体を含むデバイスに関し、前記ゲル媒体は、
(a)前記デバイスの外部で、
- 前記少なくとも1種の非水性溶媒と、
- 前記少なくとも1種の任意選択的な色素であって、好ましくはフォトクロミック色素、エレクトロクロミック色素、二色性色素、及び固定色色素から選択され、より好ましくはフォトクロミック色素及びエレクトロクロミック色素から選択される色素と、
- 架橋反応を受けることができる少なくとも2つのカルボキシル部位を含む前記多官能性ポリマーであって、2,000g/mol~3,000,000g/mol、好ましくは10,000~1,000,000g/mol、より好ましくは25,000g/mol~400,000g/molの分子量を有する多官能性ポリマーと、
- ポリカルボジイミド又は非毒性のポリアジリジンから選択される前記架橋剤と、
を混合することによって液体組成物を形成する工程;
(b)工程(a)の液体組成物を前記デバイスに入れ、前記多官能性ポリマーと前記ポリカルボジイミド又はポリアジリジンとを重合させ、それによって架橋ポリマーを形成し、化合物と溶媒が架橋ポリマー含有マトリックス中に保持されたゲル媒体を形成する工程;
によって形成される。
【0202】
混合工程の後、有利には、液体組成物から酸素及び水を除去するために脱気工程を行うことができる。
【0203】
本発明のゲル媒体に関連して前述した全ての特徴は、デバイスにも適用される。
【0204】
好ましくは、前記多官能性ポリマーは、1~50mgKOH/g、好ましくは3~40mgKOH/g、好ましくは4~15mgKOH/gの酸価を有する。
【0205】
ポリアジリジンは、有利には、前記組成物の総重量に対して40~100%の固体ポリアジリジン材料を含む非水性組成物の形態である。
【0206】
適切な非毒性のポリアジリジンはDSMのNeoAdd(商標)PAX-521であり、酢酸エチル中の80%溶液として供給される。別の適切なポリアジリジンは、DSMのNeoAdd(商標)PAX-523であり、酢酸メトキシプロピル中の80%溶液として供給される。
【0207】
ポリカルボジイミド又はポリアジリジンのそれぞれの含有量は、それぞれ液体組成物中の多官能ポリマーの総重量に対して0.2~50重量%、好ましくは0.5~15重量%、より好ましくは1.0~10.0重量%である。
【0208】
多官能ポリマーの含有量は、液体組成物の総重量に対して2~60重量%、好ましくは5~40重量%、より好ましくは10~30重量%である。
【0209】
デバイスは、ゲル媒体を機械的に安定した環境に保持するための機構を含む。
【0210】
前記デバイスは、電池又はエレクトロクロミックデバイス又はフォトクロミックデバイスであり、好ましくは、デバイスはエレクトロクロミックデバイス又はフォトクロミックデバイスであり、光学レンズ、光学フィルター、減衰器、窓、バイザー、ミラー(バックミラーなど)、及びディスプレイなどの光学物品から選択され、好ましくは光学レンズ、より好ましくは眼科用レンズ又はゴーグル用の光学レンズである。
【0211】
エレクトロクロミックデバイスは、互いに向き合いギャップを形成する一対の対向する基材を含む少なくとも1つの透明エレクトロクロミックセルを含み、ギャップは上で定義したゲル媒体で満たされる。
【0212】
より一般的には、ゲル媒体に関連して上述した全ての特徴がデバイスにも適用され、前記デバイスは本発明の別の目的である。逆に、デバイスに関連して以下で説明する全ての特徴は、ゲル媒体にも該当する。
【0213】
眼科用レンズの非限定的な例には、単焦点レンズ又は多焦点レンズ(すなわち、アフォーカル、ユニフォーカル、バイフォーカル、トリフォーカル、及び累進レンズ)などの矯正レンズ及び非矯正レンズ(これらはセグメント化されていてもいなくてもよい)、並びにコンタクトレンズ、眼内レンズ、拡大レンズ(拡張現実デバイス又は仮想現実デバイスのコントラスト強化用レンズなど)及び保護レンズ(サングラスやサンレンズなど)などの視力の補正、保護、又は強化のために使用される他の要素、又はバイザーが含まれる。ディスプレイ用の要素及びデバイスの非限定的な例としては、画面及びモニターが挙げられる。窓の非限定的な例には、自動車、船舶、及び航空機の窓フィルター、減衰器、シャッター、及び光スイッチが含まれる。ミラーの非限定的な例は、サイドミラー、バックミラー、及びその他の車両ミラーである。
【0214】
デバイスは、偏光層、フォトクロミック層、反射防止コーティング、可視光及びUV吸収コーティング、耐衝撃コーティング、耐摩耗コーティング、防汚コーティング、防曇コーティング、防塵コーティングなどの機能層を含み得る。これらは全て当業者によく知られている。
【0215】
本発明のデバイスは、組成物を機械的に安定した環境に保持するための機構を含み得る。例えば、本発明のエレクトロクロミックデバイスは、互いに対向する2つの基板を含むエレクトロクロミックセルを含む。基板は、好ましくは、光学分野で一般に知られており使用されている任意の無機ガラス又は有機ガラスなどの光学基板である。これは、例えばソーダ石灰ガラス又はホウケイ酸無機ガラスであってもよい。これは、熱可塑性ポリカーボネート(PC)、PET、PEN、PMMA、COC、COP、PVDC、セルローストリアセテートなどの熱可塑性樹脂であってもよく、或いはポリウレタン、ポリウレタン/ポリウレア(TRIVEX(登録商標)など)、又はポリチオウレタンなどの熱硬化性又は光硬化性樹脂であってもよい。エレクトロクロミックデバイスが眼用レンズとして使用される場合、セルを製造するために使用される基板は、球状であっても非球状であってもよい。基板の内部の側面は、透明な導電性電極でコーティングされていてもよい。導電性電極は、一般に、酸素原子と少なくとも2つの他の元素とを様々な割合で含む式を有するドープされた金属酸化物であり、透明導電性酸化物(「TCO」)、例えばインジウムスズ酸化物(「ITO」)、フッ素ドープ酸化スズ(「FTO」)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(「AZO」)、ガリウムドープ酸化亜鉛(「GZO」)、インジウムドープ酸化亜鉛(「IZO」)、アルミニウムガリウム酸化亜鉛(「AGZO」)、インジウムガリウム亜鉛酸化物(「IGZO」)、アンチモンドープ酸化スズ(「ATO」)、アルミニウムスズ亜鉛酸化物(「ATZO」)、インジウムスズ亜鉛酸化物(「ITZO」)などの透明導電性材料、又はインジウムスズ酸化物/銀/インジウムスズ酸化物(「ITO/Ag/ITO」)などの絶縁体-金属-絶縁体(「IMI」)、又は銅、金、銀、若しくはグラフェンに基づく金属ナノグリッド、ナノメッシュ、若しくはナノワイヤから形成されていてもよく、及び/又は有機導電性ポリマー(PEDOT又はその誘導体(例えばPEDOT:PSS)、他のポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセチレン、又はそれらの混合物など)から形成されていてもよく、或いは金属ナノ粒子、金属酸化物ナノ粒子、カーボンナノチューブ、グラフェンナノシート、グラフェン酸化物ナノシート、及びそれらの混合物から選択されるナノ粒子を含んでいてもよく、好ましくは、前記金属酸化物ナノ粒子は、ITOナノ粒子、SnOナノ粒子、ZnOナノ粒子、AZOナノ粒子、WOナノ粒子、又はそれらの混合物、或いは界面活性剤、ポリエチレングリコール(PEG)、エチレングリコールオリゴマー、エチレングリコール、DMSO、有機イオン液体、又はそれらの混合物から選択することができる添加剤である。基材は、エレクトロクロミック組成物が導入されるギャップを形成するために、例えば10μm~400μm、好ましくは20~250μm、より好ましくは150μmのスペーサーを用いて、互いに固定距離で保持することができる。
【0216】
本明細書で定義されるように、ナノメッシュはナノワイヤの相互接続されたネットワークである。ナノワイヤは、長さと幅の比が少なくとも10であり、幅が1~100nmの範囲であるナノ構造体である。許容できる透過率を得るためには、薄い金属層は、典型的には、50nm未満の厚さを有する必要がある。ナノメッシュは、溶媒中のナノワイヤの懸濁液の層の堆積と、その後の溶媒除去、例えば乾燥による溶媒除去を含む、当該技術分野で公知の方法によって得ることができる。ナノグリッドは、通常、フォトリソグラフィー技術によって作られる。
【0217】
ゲル媒体は、例えば真空逆充填プロセス又は滴下注入プロセスのいずれかを使用することによって、その液体状態でデバイスに注入することができる。セルに溶液を注入するために真空逆充填(buckfilling)プロセスが使用される場合、1つの穴のみを有するセルを製造することが好ましい。
【0218】
本発明の別のデバイスは、国際公開第2006/013250号パンフレットに開示されているような、その表面に平行な方向に並置された少なくとも1つの透明なセル配列を備えた光学部品を含み、各セルは密閉されており、前記流体と、メソ形態又はゲルホスト媒体と、本発明の前記少なくとも1種の化合物とを含む。本発明による別のデバイスは、本発明の少なくとも1種の化合物を含む仏国特許第2937154号明細書又は仏国特許第2950710号明細書に記載のデバイスとすることができる。
【0219】
使用
別の態様によれば、本発明は、
- 架橋反応を受けることができる少なくとも2つのカルボキシル部位を含む多官能性ポリマーであって、10,000g/mol~3,000,000g/mol、好ましくは30,000l~1,000,000g/mol、より好ましくは50,000g/mol~400,000g/molの分子量を有する多官能性ポリマーと、
- デバイスの変形時に媒体の変形が制限されるか強く低減されるように強い凝集性の媒体を得るために、前記デバイス内で電解質として機能するゲル媒体を系内で調製するためのポリカルボジイミド又は非毒性のポリアジリジンから選択される架橋剤と、
の混合物の使用に関する。
【0220】
このような混合物の使用により、曲げ時の非常に良好な機械的特性と、その内部での高いイオン伝導性とを示すゲル媒体が系内で調製される。
【0221】
好ましくは、前記多官能性ポリマーは、1~50mgKOH/g、好ましくは3~40mgKOH/g、好ましくは4~15mgKOH/gの酸価を有する。
【実施例
【0222】
本発明は、以下の非限定的な実施例によってさらに説明されるが、これらは例示目的で示されているにすぎず、添付の特許請求の範囲を限定するものではない。
【0223】
配合物は以下の通りに調製される:
エレクトロクロミック混合物(3.1%)、WackerからVinnapas(登録商標)C501として販売されている酢酸ビニルとクロトン酸とのコポリマー(19.4%)、プロピレンカーボネート(77.5%)を、全ての成分が溶媒に完全に溶解するまで室温で一緒にブレンドする。
プロピレンカーボネート、及び過塩素酸エチルビオロゲンと10-メチルフェノチアジンとから形成されるエレクトロクロミック混合物は、全てSigma Aldrichから販売されている。
【0224】
得られた粘稠な液体を、液体組成物中の多官能性ポリマーの総重量に対して2%のカルボジイミド架橋剤と混合する。カルボジイミド架橋剤は粘度の高い液体である。得られた組成物は、エレクトロクロミックデバイスを作製するために直ちに使用される。周囲温度で1時間後、又は50℃で数分後、液体は光学的欠陥を生じることなくこのようにして得られたデバイスを動かせるのに十分であるように少なくとも部分的にゲル化する。したがって、前記デバイスは、例えばオーブン内で後硬化工程を受けるために、組立機から移動させることができる。デバイスは、例えば、50℃で一晩後硬化される。
【0225】
使用したポリカルボジイミド架橋剤は、Stahlから商品名Picassian(登録商標)XL725として販売されている。
【0226】
図1に示されている曲線は、室温における時間の関数としての混合物の粘度の変化を示す。
【0227】
24時間後、エレクトロクロミックデバイスを曲げ、100時間活性化する。欠陥は見られない。より正確には、機械的変形は着色の均一性に影響を与えない。
【図面の簡単な説明】
【0228】
図1】室温における時間の関数としての混合物の粘度の変化を示す図である。
図1
【国際調査報告】