(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-15
(54)【発明の名称】エマルジョンポリマー及びその調製方法
(51)【国際特許分類】
C08F 220/18 20060101AFI20231108BHJP
C08F 212/08 20060101ALI20231108BHJP
C08F 2/24 20060101ALI20231108BHJP
C09D 133/04 20060101ALI20231108BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20231108BHJP
C08L 25/08 20060101ALN20231108BHJP
C08L 33/08 20060101ALN20231108BHJP
C08K 5/42 20060101ALN20231108BHJP
C08K 5/09 20060101ALN20231108BHJP
【FI】
C08F220/18
C08F212/08
C08F2/24 A
C09D133/04
C09D5/02
C08L25/08
C08L33/08
C08K5/42
C08K5/09
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023517745
(86)(22)【出願日】2020-09-25
(85)【翻訳文提出日】2023-04-14
(86)【国際出願番号】 CN2020117695
(87)【国際公開番号】W WO2022061703
(87)【国際公開日】2022-03-31
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】502141050
【氏名又は名称】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
(71)【出願人】
【識別番号】590002035
【氏名又は名称】ローム アンド ハース カンパニー
【氏名又は名称原語表記】ROHM AND HAAS COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】110000589
【氏名又は名称】弁理士法人センダ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リン、ダオシュ
(72)【発明者】
【氏名】ウー、ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ピャオ、チャンクン
(72)【発明者】
【氏名】タン、ジア
(72)【発明者】
【氏名】ユン、ドン
(72)【発明者】
【氏名】レン、フア
(72)【発明者】
【氏名】フー、ジェンウェン
(72)【発明者】
【氏名】チェン、バオチン
【テーマコード(参考)】
4J002
4J011
4J038
4J100
【Fターム(参考)】
4J002BB071
4J002BC041
4J002DE027
4J002EF096
4J002EV236
4J002FD020
4J002FD070
4J002FD090
4J002FD180
4J002FD316
4J002FD340
4J002GH00
4J002HA07
4J011AA05
4J011KA06
4J011KA14
4J011KA25
4J011KB04
4J011KB05
4J011KB08
4J011KB14
4J011KB22
4J011KB29
4J038CG141
4J038MA10
4J038PB07
4J100AB02P
4J100AB02Q
4J100AJ02S
4J100AL03P
4J100AL03Q
4J100AL03R
4J100AL04P
4J100AL04R
4J100AL08R
4J100AL08T
4J100BA32T
4J100BC04R
4J100CA03
4J100CA06
4J100DA09
4J100EA07
4J100EA09
4J100FA03
4J100FA08
4J100FA20
4J100FA28
4J100JA01
(57)【要約】
(a)特定の重合性界面活性剤の構造単位、(b)エチレン性不飽和アニオン性モノマーの構造単位、及び(c)エチレン性不飽和非イオン性モノマーの構造単位、を含み、エチレン性不飽和アニオン性モノマーの構造単位及びエチレン性不飽和非イオン性モノマーの構造単位を共に含むエマルジョンポリマーのポリマーセグメントが、特定のハンセン溶解度パラメータを有する、エマルジョンポリマー。このようなエマルジョンポリマーを含む水性コーティング組成物は、良好な初期耐水膨れ性を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)式(I):
【化1】
[式中、R
1はフェニル基又は
【化2】
(式中、Rはアルキレン基である)であり、m1は1、2、3又は4であり、R
2はアルキル又は置換アルキルであり、m2は、0又は1であり、Aは、2~4個の炭素原子を有するアルキレン基又は置換アルキレン基を表し、nは1~30の範囲の整数であり、Xは-(CH
2)
a-SO
3M又は-(CH
2)
b-COOM(式中、a及びbはそれぞれ独立して0~4の整数であり、Mは1つのエチレン性不飽和結合を有するアミニウムイオンである)を表す]の構造を有する重合性界面活性剤の構造単位と、
(b)エチレン性不飽和アニオン性モノマーの構造単位と、
(c)エチレン性不飽和非イオン性モノマーの構造単位と、を含み、
前記エチレン性不飽和アニオン性モノマーの構造単位を含むポリマーセグメント及び前記エチレン性不飽和非イオン性モノマーの構造単位を含むポリマーセグメントが、共に以下のハンセン溶解度パラメータ:
16.42≦δD≦16.64、2.87≦δP≦3.79、及び3.94≦δH≦4.57を有する、エマルジョンポリマー。
【請求項2】
式(I)において、R
1が、
【化3】
であり、m
1が、2又は3である、請求項1に記載のエマルジョンポリマー。
【請求項3】
式(I)において、Aが、
-CH
2CH
2-を表し、Xが、-SO
3Mを表し、Mが、
【化4】
である、請求項1又は2に記載のエマルジョンポリマー。
【請求項4】
前記エチレン性不飽和非イオン性モノマーが、スチレン、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、メチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、又はこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載のエマルジョンポリマー。
【請求項5】
前記エマルジョンポリマーの重量に基づいて、0.5重量%~3重量%の前記重合性界面活性剤を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のエマルジョンポリマー。
【請求項6】
前記エマルジョンポリマーの重量に基づいて、
構造:
【化5】
[式中、m1は、2又は3であり、nは、1~30の範囲の整数である]を有する前記重合性界面活性剤の構造単位と、
前記エチレン性不飽和アニオン性モノマーの構造単位と、
30重量%~50重量%のスチレンの構造単位と、
35重量%~45重量%のブチルアクリレートの構造単位と、
シクロヘキシルメタクリレート、メチルメタクリレート、又はこれらの混合物の構造単位と、を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のエマルジョンポリマー。
【請求項7】
前記エマルジョンポリマーの重量に基づいて、
構造:
【化6】
[式中、m1は、2又は3であり、nは、1~30の範囲の整数である]を有する前記重合性界面活性剤の構造単位と、
前記エチレン性不飽和アニオン性モノマーの構造単位と、
30重量%~40重量%のスチレンの構造単位と、
30重量%~39.5重量%の2-エチルヘキシルアクリレートの構造単位と、
シクロヘキシルメタクリレート、メチルメタクリレート、又はこれらの混合物の構造単位と、を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のエマルジョンポリマー。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の前記エマルジョンポリマーを調製するための方法であって、重合性界面活性剤の存在下において、エチレン性不飽和アニオン性モノマー及びエチレン性不飽和非イオン性モノマーを含むモノマー混合物の乳化重合を含み、前記重合性界面活性剤が、式(I):
【化7】
[式中、R
1はフェニル基又は
【化8】
(式中、Rはアルキレン基である)であり、m1は1、2、3又は4であり、R
2はアルキル又は置換アルキルであり、m2は、0又は1であり、Aは、2~4個の炭素原子を有するアルキレン基又は置換アルキレン基を表し、nは1~30の範囲の整数であり、Xは-(CH
2)
a-SO
3M又は-(CH
2)
b-COOM(式中、a及びbはそれぞれ独立して0~4の整数であり、Mは1つのエチレン性不飽和結合を有するアミニウムイオンである)を表す]の構造を有し、
前記エチレン性不飽和アニオン性モノマーの構造単位を含むポリマーセグメント及び前記エチレン性不飽和非イオン性モノマーの構造単位を含むポリマーセグメントが、共に以下のハンセン溶解度パラメータ:
16.42≦δD≦16.64、2.87≦δP≦3.79、及び3.94≦δH≦4.57を有する、方法。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか一項に記載のエマルジョンポリマーを含む、水性コーティング組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エマルジョンポリマー及びその調製方法に関する。
【0002】
序論
水性又は水系コーティング組成物は、工業用コーティング用途、例えば、貨物コンテナコーティング(freight container coating、FCC)における外装トップコートとして広く使用されている。耐水性、特に初期耐水膨れ性(early water blister resistance)は、典型的には、中国南部の地域における外装コーティングに必要とされる。トップコート組成物を噴霧し、摂氏60度~80度(℃)で一定期間乾燥させた後、一部のコーティングされた貨物コンテナは倉庫で乾燥させ、他のコンテナは空気乾燥のために屋外に移動させる。コーティングされたコンテナを屋外で乾燥させる場合、膨れはコーティングされた貨物コンテナの外観及び耐食性能にも悪影響を与えるため、雨によって引き起こされる膨れを回避するための十分な初期耐水膨れ性を有する合成トップコートが必要である。
【0003】
したがって、初期耐水膨れ性を有するコーティングを提供することができる、特にコーティングに適したポリマーを提供することが望ましい。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、前述のような問題がなく、コーティング用途に特に適した新規なエマルジョンポリマーを提供する。特定の重合性界面活性剤の存在下で調製されたエマルジョンポリマーは、特定のハンセン溶解度パラメータを有するポリマーセグメントを含む。本発明のエマルジョンポリマーを含む水性コーティング組成物は、以下の実施例の項に記載される試験方法に従って、10と評価される優れた初期耐水膨れ性を有するコーティングを提供することができる。
【0005】
第1の態様において、本発明は、
(a)式(I)、
【0006】
【0007】
【化2】
(式中、Rはアルキレン基である)であり、m1は1、2、3又は4であり、R
2はアルキル又は置換アルキルであり、m2は、0又は1であり、Aは、2~4個の炭素原子を有するアルキレン基又は置換アルキレン基を表し、nは1~30の範囲の整数であり、Xは-(CH
2)
a-SO
3M又は-(CH
2)
b-COOM(式中、a及びbはそれぞれ独立して0~4の整数であり、Mは1つのエチレン性不飽和結合を有するアミニウムイオンである)を表す]の構造を有する重合性界面活性剤の構造単位と、
(b)エチレン性不飽和アニオン性モノマーの構造単位と、
(c)エチレン性不飽和非イオン性モノマーの構造単位と、を含み、
エチレン性不飽和アニオン性モノマーの構造単位を含むポリマーセグメント及びエチレン性不飽和非イオン性モノマーの構造単位を含むポリマーセグメントが、共に以下のハンセン溶解度パラメータ:
16.42≦δD≦16.64、2.87≦δP≦3.79、及び3.94≦δH≦4.57を有する、エマルジョンポリマーである。
【0008】
第2の態様において、本発明は、第1の態様のエマルジョンポリマーを調製する方法である。本方法は、重合性界面活性剤の存在下において、エチレン性不飽和アニオン性モノマー及びエチレン性不飽和非イオン性モノマーを含むモノマー混合物の乳化重合を含み、重合性界面活性剤が、式(I)、
【0009】
【0010】
【化4】
(式中、Rはアルキレン基である)であり、m1は1、2、3又は4であり、R
2はアルキル又は置換アルキルであり、m2は、0又は1であり、Aは、2~4個の炭素原子を有するアルキレン基又は置換アルキレン基を表し、nは1~30の範囲の整数であり、Xは-(CH
2)
a-SO
3M又は-(CH
2)
b-COOM(式中、a及びbはそれぞれ独立して0~4の整数であり、Mは1つのエチレン性不飽和結合を有するアミニウムイオンである)を表す]の構造を有し、
エチレン性不飽和アニオン性モノマーの構造単位を含むポリマーセグメント及びエチレン性不飽和非イオン性モノマーの構造単位を含むポリマーセグメントが、共に以下のハンセン溶解度パラメータ:
16.42≦δD≦16.64、2.87≦δP≦3.79、及び3.94≦δH≦4.57を有する。
【0011】
第3の態様では、本発明は、第1の態様のエマルジョンポリマーを含む水性コーティング組成物である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書における「水性」分散液又は組成物は、粒子が水性媒体中に分散していることを意味する。本明細書において「水性媒体」とは、水、及び媒体の重量に基づく重量基準で0~30%の、例えば、アルコール、グリコール、グリコールエーテル、グリコールエステルなど水混和性化合物を意味する。
【0013】
本明細書で使用される「アクリル」には、(メタ)アクリル酸、アルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、及びヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートなどのこれらの変性形態が含まれる。この文書全体を通して、「(メタ)アクリル)」という語の断片は、「メタクリル」及び「アクリル」の両方を指す。例えば、(メタ)アクリル酸とは、メタクリル酸及びアクリル酸の両方を指し、メチル(メタ)アクリレートとは、メチルメタクリレート及びメチルアクリレートの両方を指す。
【0014】
指定されたモノマーの「重合単位」としても知られる「構造単位」は、重合後のモノマーの残部、すなわち、重合したモノマー又は重合した形態のモノマーを指す。例えば、メチルメタクリレートの構造単位は、以下のとおりである:
【0015】
【化5】
(式中、点線は、構造単位のポリマー骨格への結合点を表す)。
【0016】
本明細書で報告される「ガラス転移温度」又は「Tg」は、Fox式(T.G.Fox,Bull.Am.Physics Soc.,Volume 1,Issue No.3,page 123(1956))を使用して計算されたものである。例えば、モノマーM1及びM2のコポリマーのTgを計算するために、
【0017】
【数1】
が用いられ、式中、T
g(計算値)は、コポリマーについて計算されたガラス転移温度であり、w(M
1)は、コポリマー中のモノマーM
1の重量分率であり、w(M
2)は、コポリマー中のモノマーM
2の重量分率であり、T
g(M
1)は、モノマーM
1のホモポリマーのガラス転移温度であり、T
g(M
2)は、モノマーM
2のホモポリマーのガラス転移温度であり、全ての温度は、Kである。ホモポリマーのガラス転移温度は、例えば、J.Brandrup及びE.H.Immergut、Interscience Publishersによって編集された「Polymer Handbook」に見出すことができる。
【0018】
本明細書で使用される場合、「ハンセン溶解度パラメータ」は、δD、δP、及びδHによって示され、δDは分散を表し(ファンデルワールス力に関連する)、δPは極性を表し(双極子モーメントに関連する)、δHは水素結合を表す。
【0019】
本発明のエマルジョンポリマーは、重合性界面活性剤の存在下でモノマー混合物を重合することによって調製することができる。エマルジョンポリマーは、(a)1つ以上の重合性界面活性剤の構造単位を含む。重合性界面活性剤は、式(I)、
【0020】
【0021】
【化7】
(式中、Rはアルキレン基である)であり、m1は1、2、3又は4であり、R
2はアルキル又は置換アルキルであり、m2は、0又は1であり、Aは、2~4個の炭素原子を有するアルキレン基又は置換アルキレン基を表し、nは1~30の範囲の整数であり、Xは-(CH
2)
a-SO
3M又は-(CH
2)
b-COOM(式中、a及びbはそれぞれ独立して0~4の整数であり、Mは1つのエチレン性不飽和結合を有するアミニウムイオンである)を表す]の構造を有し得る。
【0022】
式(I)において、Rは、例えば、-CH2-、-CH(CH3)-、又は-C(CH3)2-のような、1~4個の炭素原子、好ましくは2~3個の炭素原子を有するアルキレン基であり得る。
【0023】
好ましいR1は、
【0024】
【化8】
である。好ましくは、m1は2又は3である。
【0025】
式(I)において、Aは、エチレン基(-CH2CH2-)であり得る。nの値は、2~20又は5~20の範囲の整数であり得る。
【0026】
式(I)において、好ましいXは、-SO3Mである。好ましくは、Mは、
【0027】
【0028】
本発明において有用な重合性界面活性剤は、典型的には両性界面活性剤である。「両性界面活性剤」は、「双性イオン性界面活性剤」としても知られており、酸性官能基及び塩基性官能基の両方を有する界面活性剤を指し、当該技術分野において周知である(例えば、Amphoteric Surfactants,ed.B.R.Bluestein and C.L.Hilton,Surfactant Series Vol.12 Marcel Dekker NY,NY(1982))。両性界面活性剤としては、pH=3~pH=8に等電点を有するものを挙げることができる。等電点は、各両性界面活性剤に特徴的なpHで生じ、界面活性剤分子上の負電荷が同じ分子上の正電荷によって正確に平衡するpHである。両性界面活性剤としては、酸性官能基、特にスルホン化官能基を有するものを挙げることができる。スルホン化部分は、完全にプロトン化された(スルホン酸)形態で、少なくとも1種のカチオンとの塩として、又はプロトン化形態と塩形態の混合物として存在し得る。スルホン酸部分は分子内塩の一部であり得る。本明細書中で使用される場合、分子内塩とは、アニオン性荷電部分を有する分子を指し、その対イオン(すなわち、カチオン)もまた、同じ分子に結合した部分である。
【0029】
本発明において有用な重合性界面活性剤の具体例としては、以下の構造:
【0030】
【化10】
(式中、m1は2又は3であり、nは上記で定義したとおりである)が挙げられる。
【0031】
本発明のエマルジョンポリマーは、エマルジョンポリマーの重量に基づいて、0.5重量%以上、0.6重量%以上、0.7重量%以上、0.8重量%以上、0.9重量%以上、又は更に1重量%以上、かつ同時に、5重量%以下、4重量%以下、3重量%以下、2重量%以下、又は更に1.5重量%以下の重合性界面活性剤の構造単位を含み得る。本発明における「エマルジョンポリマーの重量」とは、エマルジョンポリマーの乾燥重量を指す。
【0032】
本発明のエマルジョンポリマーは、(b)1つ以上のエチレン性不飽和アニオン性モノマー(重合性界面活性剤と異なる)の構造単位、を含み得る。本明細書における「アニオン性モノマー」という用語は、pH1~pH14のアニオン性の電荷を有するモノマーを指す。アニオン性モノマーのアニオン性荷電部分は、典型的には、1つのエチレン性不飽和結合を含有する。好適なエチレン性不飽和アニオン性モノマーの例としては、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、又はフマル酸などの酸含有モノマーを含むα,β-エチレン性不飽和カルボン酸;又は無水物、(メタ)アクリル酸無水物、又は無水マレイン酸などの酸基を生成するか、又はその後酸基に変換可能な酸形成基を有するモノマー;スチレンスルホン酸ナトリウム(SSS)、ビニルスルホン酸ナトリウム(SVS)、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(AMPS)、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸のナトリウム塩、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸のアンモニウム塩;アリルエーテルスルホン酸のナトリウム塩;ホスホエチル(メタ)アクリレート、ホスホプロピル(メタ)アクリレート、ホスホブチル(メタ)アクリレート、これらの塩、及びこれらの混合物などのホスホアルキル(メタ)アクリレート;CH2=C(Rp1)-C(O)-O-(Rp2O)p-P(O)(OH)2[式中、Rp1=H又はCH3、Rp2=アルキル及びp=1~10]、例えばSolvayから全て入手できるSIPOMER PAM-100、SIPOMER PAM-200及びSIPOlMER PAM-300;ホスホエチレングリコール(メタ)アクリレート、ホスホジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ホスホトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ホスホプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ホスホジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ホスホトリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、アリルエーテルホスフェート、ビニルホスホン酸などのホスホアルコキシ(メタ)アクリレート、それらの塩、又はそれらの混合物が挙げられる。好ましいエチレン性不飽和アニオン性モノマーは、ホスホエチルメタクリレート(PEM)、アクリル酸(AA)、メタクリル酸(MAA)、又はこれらの混合物である。本発明のエマルジョンポリマーは、エマルジョンポリマーの重量に基づいて、0.1重量%以上、0.3重量%以上、0.5重量%以上、0.75重量%以上、又は更に1重量%以上、かつ同時に、8重量%以下、7重量%以下、6重量%以下、5重量%以下、4.5重量%以下、4重量%以下、3.8重量%以下、3.5重量%以下、又は更に3.3重量%以下のエチレン性不飽和アニオン性モノマーの構造単位を含み得る。
【0033】
本発明のエマルジョンポリマーは、(c)モノエチレン性又は多エチレン性不飽和モノマーであり得る、1つ以上のエチレン性不飽和非イオン性モノマー(重合性界面活性剤とは異なる)の構造単位、を含み得る。本明細書における「非イオン性モノマー」という用語は、pH1~pH14でイオン電荷を持たないモノマーを指す。好適なモノエチレン性不飽和非イオン性モノマーとしては、例えば、ビニル芳香族モノマー、C1~C20-アルキル(メタ)アクリレート、アクリロニトリル(AN)、(メタ)アクリルアミド、又はこれらの混合物を挙げることができる。C1~C20-アルキル(メタ)アクリレートは、1~20個の炭素原子を有するアルキルを含有する(メタ)アクリル酸のアルキルエステルを指す。C1~C20-アルキル(メタ)アクリレートとしては、C1~C3-アルキル(メタ)アクリレート、シクロアルキル(メタ)アクリレート、及びシクロアルキル(メタ)アクリレートとは異なるC4~C20-アルキル(メタ)アクリレートが挙げることができる。好適なアルキル(メタ)アクリレートの例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート(methcyclohexyl(meth)acrylate)、ジヒドロジシクロペンタジエニル(メタ)アクリレート、トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)シクロヘキシルアクリレートなどのシクロアルキル(メタ)アクリレート;ヒドロキシエチルメタクリレート及びヒドロキシプロピルメタクリレートなどのヒドロキシ官能性(メタ)アクリル酸アルキルエステル;グリシジル(メタ)アクリレート;又はこれらの混合物が挙げられる。ビニル芳香族モノマーとしては、スチレン、α-メチルスチレン、トランス-β-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、エチルスチレン、ブチルスチレン、及びp-メトキシスチレンなどの置換スチレン;o-、m-、及びp-メトキシスチレン;並びにp-トリフルオロメチルスチレン;又はこれらの混合物が挙げることができる。好ましいモノエチレン性不飽和非イオン性モノマーとしては、メチルメタクリレート、スチレン、シクロヘキシルメタクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ブチルアクリレート、又はこれらの混合物が挙げられる。エチレン性不飽和非イオン性モノマーの構造単位の含有量は、得られるエマルジョンポリマーが所望のハンセン溶解度パラメータを有するように調整することができる。例えば、エマルジョンポリマーは、エマルジョンポリマーの重量に基づいて、好ましくは35重量%以上、36重量%以上、又は更に37重量%以上、かつ同時に、45重量%以下、44重量%以下、又は更に43重量%以下の量のブチルアクリレートの構造単位と、30重量%以上、31重量%以上、32重量%以上、33重量%以上、又は更に34重量%以上、かつ同時に、50重量%以下、49重量%以下、48重量%以下、46重量%以下、又は更に45重量%以下の量のスチレンの構造単位とを含み得る。あるいは、エマルジョンポリマーは、エマルジョンポリマーの重量に基づいて、好ましくは30重量%以上、31重量%以上、又は更に32重量%以上、かつ同時に、40重量%以下、39重量%以下、又は更に38重量%以下の量の2-エチルヘキシルアクリレートの構造単位と、30重量%以上、31重量%以上、32重量%以上、33重量%以上、又は更に34重量%以上、かつ同時に、39.5重量%以下、39重量%以下、38重量%以下、又は更に37重量%以下の量のスチレンの構造単位を含み得る。エマルジョンポリマーは、エマルジョンポリマーの重量に基づいて、19重量%未満のアクリロニトリルの構造単位、例えば、15重量%未満、10重量%未満、5重量%未満、1重量%未満、又は更に0重量%のアクリロニトリルの構造単位を含み得る。本発明において有用な多エチレン性不飽和非イオン性モノマーとしては、ジ-、トリ-、テトラ-、又はそれ以上の多官能性エチレン性不飽和モノマーが挙げられる。好適な多エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、アリル(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、ブチレングリコールジメタクリレート、又はこれらの混合物を挙げることができる。エマルジョンポリマーは、エマルジョンポリマーの重量に基づいて、0~3.0重量%、0.05重量%~0.8重量%、又は0.1重量%~0.5重量%の多エチレン性不飽和非イオン性モノマーの構造単位を含み得る。
【0034】
本発明のエマルジョンポリマーは、重合によって上記モノマーから誘導される複数のポリマーセグメントを含み、例えば、エマルジョンポリマーは、重合性界面活性剤から誘導されるセグメント、エチレン性不飽和アニオン性モノマーから誘導されるポリマーセグメント、及びエチレン性不飽和非イオン性モノマーから誘導されるポリマーセグメントを含む。各ポリマーセグメントは、モノマーの1つ以上の構造単位を含有する。これらの中で、(b)エチレン性不飽和アニオン性モノマーの構造単位、を含むポリマーセグメント、及び(c)エチレン性不飽和非イオン性モノマーの構造単位、を含むポリマーセグメント(すなわち、エチレン性不飽和アニオン性モノマーから誘導されるか、又はエチレン性不飽和非イオン性モノマーから誘導されるかのいずれかである全てのセグメント)は共に、以下のハンセン溶解度パラメータを示す:
16.42≦δD≦16.64、2.87≦δP≦3.79、及び3.94≦δH≦4.57。
【0035】
本明細書で報告されるポリマーセグメントのハンセン溶解度パラメータは、以下の式を使用して計算されたものである。モノマーの構造単位を含む特定のポリマーセグメント(すなわち、重合によってモノマーから誘導されるポリマーセグメント)のハンセン溶解度パラメータを計算するために、以下の式が使用される。
【0036】
【数2】
式中、δD(計算値)、δP(計算値)、及びδH(計算値)は、ポリマーセグメントについて計算されたハンセン溶解度パラメータであり、w(M
k)は、ポリマーセグメント中のモノマーMkの重量分率であり、δD(M
k)、δP(M
k)、及びδH(M
k)は、モノマーM
kのハンセン溶解度パラメータであり、nはポリマーセグメント内のモノマーの数である(本明細書において、nは全てのアニオン性及び非イオン性モノマーの数を指す)。本明細書において、構造単位(b)及び構造単位(c)を含むポリマーセグメントは、典型的には、エマルジョンポリマー中の重合性界面活性剤の構造単位を含むセグメントを除いたものである。モノマーのハンセン溶解度パラメータは、HSPiPソフトウェア及びデータベース(https://www.hansen-solubility.com/HSPiP/)を用いて得ることができる、又は「Hansen Solubility Parameters in Practice-Complete with eBook,software and data」第5版、Steven Abbott,Charles M.Hansen及びHiroshi Yamamoto編、Hansen-Solubility.com刊を参照することができる。モノマーについてのハンセン溶解度パラメータがHSPiPデータベースで利用できない場合は、HSPiPソフトウェアの官能基寄与に基づく「Y-MB」法(https://pirika.com/NewHP/Y-MB/Y-MB.html)を使用して、このようなモノマーのハンセン溶解度パラメータを計算することができる。
【0037】
一般的に使用されるいくつかのエチレン性不飽和アニオン性又は非イオン性モノマーのハンセン溶解度パラメータを以下に列挙する。
【0038】
【0039】
驚くべきことに、重合性界面活性剤の構造単位と(b)及び(c)の構造単位との組み合わせを含み、これらの構造単位を含む上記のハンセン溶解度パラメータを有するポリマーセグメントを与えるエマルジョンポリマーは、以下の実施例の項に記載される試験方法に従って、10と評価される優れた初期耐水膨れ性を有するこのようなエマルジョンポリマーを含むコーティングを提供することができる。
【0040】
本発明のエマルジョンポリマーは、重合性界面活性剤の構造単位、エチレン性不飽和アニオン性モノマーの構造単位、スチレンの構造単位、及びアルキル(メタ)アクリレートの構造単位を含み得る。例えば、エマルジョンポリマーは、エマルジョンポリマーの重量に基づいて、
好ましくは構造:
【0041】
【化11】
[式中、m1及びnは上記で定義したとおりである]を有する重合性界面活性剤の構造単位と、
エチレン性不飽和アニオン性モノマーの構造単位と、
30重量%~50重量%のスチレンの構造単位と、
35重量%~45重量%のブチルアクリレートの構造単位と、
シクロヘキシルメタクリレート、メチルメタクリレート、又はこれらの混合物の構造単位と、を含む。
【0042】
あるいは、エマルジョンポリマーは、エマルジョンポリマーの重量に基づいて、
好ましくは構造:
【0043】
【化12】
[式中、m1及びnは上記で定義したとおりである]を有する重合性界面活性剤の構造単位と、
エチレン性不飽和アニオン性モノマーの構造単位と、
30重量%~39.5重量%のスチレンの構造単位と、
30重量%~40重量%の2-エチルヘキシルアクリレートの構造単位と、
シクロヘキシルメタクリレート、メチルメタクリレート、又はこれらの混合物の構造単位と、を含む。
【0044】
エマルジョンポリマー中の構造単位の総濃度は100%に等しい。上述のモノマーの種類及び濃度は、異なる用途に適したガラス転移温度(Tg)を有するエマルジョンポリマーを提供するように選択され得る。エマルジョンポリマーは、0~60℃、10~50℃、15~45℃、又は20~40℃の範囲のTgを有し得る。エマルジョンポリマーのTg値は、示差走査熱量測定(differential scanning calorimetry、DSC)を含む様々な手法によって測定するか、又はFox式を使用することによって計算することができる。
【0045】
本発明のエマルジョンポリマーは、典型的には、水性分散液中に存在し、エマルジョンポリマー粒子は、50ナノメートル(nm)~500nm、80nm~400nm、又は90nm~300nmの平均粒径を有し得る。本明細書の粒径は、Brookhaven BI-90 Plus Particle Size Analyzerによって測定することができる。エマルジョンポリマーを含む水性分散液は、水を更に含み得る。水の濃度は、水性分散液の総重量に基づいて、30重量%~90重量%、又は40重量%~80重量%の範囲であり得る。
【0046】
本発明のエマルジョンポリマーは、重合性界面活性剤の存在下で、エチレン性不飽和アニオン性モノマー及びエチレン性不飽和非イオン性モノマーを含むモノマー混合物の乳化重合によって調製され得る。エマルジョンポリマーを調製するための重合性界面活性剤を含むモノマーの総濃度は、100%に等しい。エマルジョンポリマーを調製するためのモノマーの混合物は、そのままで、若しくは水中エマルジョンとして添加するか、あるいは、エマルジョンポリマーを調製する反応期間にわたって1回以上に分けて、若しくは連続的に、直線的に若しくは非直線的に、又はこれらの組み合わせで添加することができる。乳化重合プロセスに適した温度は、100℃未満、30~95℃の範囲、又は50~90℃の範囲であり得る。
【0047】
エマルジョンポリマーを調製するプロセスでは、フリーラジカル開始剤を各段階で使用することができる。重合プロセスは、熱的に開始されるか、又はレドックスにより開始される乳化重合であってもよい。好適なフリーラジカル開始剤の例としては、過酸化水素、t-ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、過硫酸アンモニウム及び/又は過硫酸アルカリ金属、過ホウ酸ナトリウム、過リン酸、及びこれらの塩;過マンガン酸カリウム、及びペルオキシ二硫酸のアンモニウム塩又はアルカリ金属塩が挙げられる。フリーラジカル開始剤は、典型的には、エマルジョンポリマーを調製するために使用されるモノマーの総重量に基づいて、0.01~3.0重量%の濃度で使用され得る。適切な還元剤と結合した上記の開始剤を含むレドックス系を重合プロセスで使用することができる。好適な還元剤の例としては、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム、アスコルビン酸、イソアスコルビン酸、イオウ含有酸のアルカリ金属塩及びアンモニウム塩(亜硫酸塩、重亜硫酸塩、チオ硫酸塩、ヒドロ亜硫酸塩、硫化物、水素硫化物又は亜ジチオン酸塩、ホルマジンスルフィン酸(formadinesulfinic acid)、重亜硫酸アセトン塩など)、グリコール酸、ヒドロキシメタンスルホン酸、グリオキシル酸水和物、乳酸、グリセリン酸、リンゴ酸、酒石酸、及び前述の酸の塩が挙げられる。金属用のキレート剤を任意選択で使用することができる。
【0048】
エマルジョンポリマーを調製するプロセスにおいて、重合性界面活性剤が使用される。重合性界面活性剤は、モノマーの重合前又は重合中に、又はこれらの組み合わせで添加することができる。重合性界面活性剤の一部は、重合後に添加することもできる。重合性界面活性剤は、エマルジョンポリマーを調製するために使用されるモノマーの総重量に基づいて、0.5重量%~5重量%、0.6重量%~4重量%、0.7重量%~3重量%、0.8重量%~2重量%、又は1重量%~1.5重量%の量で使用され得る。本明細書における「エマルジョンポリマーを調製するために使用されるモノマー」には、重合性界面活性剤が含まれる。
【0049】
好ましくは、エマルジョンポリマーを調製するプロセスは、重合性界面活性剤とは異なる追加の界面活性剤を実質的に含まずに行われる。追加の界面活性剤としては、アルキル、アリール若しくはアルキルアリールの硫酸塩、スルホン酸塩、又はリン酸塩のアルカリ金属塩又はアンモニウム塩;アルキルスルホン酸;スルホコハク酸塩;脂肪酸;及びエトキシル化アルコール又はフェノールを挙げることができる。「実質的に含まない」とは、追加の界面活性剤が、エマルジョンポリマーを調製するために使用されるモノマーの総重量に基づいて、0.8重量%未満、好ましくは0.6重量%未満、0.5重量%未満、0.1重量%未満、又は更に0重量%であることを指す。
【0050】
エマルジョンポリマーを調製するプロセスにおいて、連鎖移動剤を使用することができる。好適な連鎖移動剤の例としては、3-メルカプトプロピオン酸、メチルメルカプトプロピオネート、ブチルメルカプトプロピオネート、n-ドデシルメルカプタン、ベンゼンチオール、アゼライン酸アルキルメルカプタン、又はこれらの混合物が挙げられる。連鎖移動剤は、エマルジョンポリマーの分子量を制御するのに有効な量で使用することができる。連鎖移動剤は、エマルジョンポリマーを調製するために使用されるモノマーの総重量に基づいて、0~3重量%、0.01重量%~1重量%、又は0.1重量%~0.3重量%の量で存在し得る。
【0051】
得られた水性エマルジョンポリマー分散液のpH値は、中和によって、少なくとも5、例えば6~10又は6.5~9に制御することができる。中和は、多段ポリマー粒子のイオン性基又は潜在的イオン性基の部分的又は完全な中和をもたらし得る1つ以上の塩基を添加することによって行うことができる。好適な塩基の例としては、アンモニア;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、炭酸ナトリウムなどのアルカリ金属若しくはアルカリ土類金属化合物;トリエチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、モノイソプロピルアミン、モノブチルアミン、ヘキシルアミン、エタノールアミン、ジエチルアミン、ジメチルアミン、ジ-n-プロピルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン、ジメトキシエチルアミン、2-エトキシエチルアミン、3-エトキシプロピルアミン、ジメチルエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、モルホリン、エチレンジアミン、2-ジエチルアミノエチルアミン、2,3-ジアミノプロパン、1,2-プロピレンジアミン、ネオペンタンジアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、ヘキサメチレンジアミン、4,9-ジオキサドデカン-1,12-ジアミン、ポリエチレンイミン、若しくはポリビニルアミンなどの一級、二級、及び三級アミン;水酸化アルミニウム、又はこれらの混合物が挙げられる。
【0052】
本発明のエマルジョンポリマーは、例えば、木材コーティング、金属保護コーティング、建築コーティング、及びトラフィックペイントを含む多くの用途において有用である。本発明はまた、エマルジョンポリマーを含む水性コーティング組成物に関する。エマルジョンポリマーは、水性コーティング組成物の重量に基づいて、10重量%~80重量%、20重量%~70重量%、又は30重量%~60重量%の量で存在し得る。
【0053】
本発明の水性コーティング組成物は、1種以上の顔料を含み得る。本明細書で使用される場合、「顔料」という用語は、コーティングの不透明度又は隠蔽能力に具体的に寄与することができる粒子状無機材料を指す。このような材料は、典型的には、1.8を超える屈折率を有する。好適な顔料の例としては、二酸化チタン(TiO2)、酸化亜鉛、硫化亜鉛、酸化鉄、硫酸バリウム、炭酸バリウム、又はこれらの混合物が挙げられる。水性コーティング組成物は、1種以上の増量剤を含み得る。「増量剤」という用語は、1.8以下でかつ1.3より大きい屈折率を有する粒状無機材料を指す。好適な増量剤の例としては、炭酸カルシウム、酸化アルミニウム(Al2O3)、粘土、硫酸カルシウム、アルミノシリケート、シリケート、ゼオライト、雲母、ケイソウ土、固体若しくは中空ガラス、セラミックビーズ、及び不透明なポリマー、例えば、The Dow Chemical Companyから入手可能なROPAQUE(商標)Ultra E(ROPAQUEはThe Dow Chemical Companyの商標である)、又はそれらの混合物が挙げられる。水性コーティング組成物は、5%~70%、10%~60%、又は15%~40%の顔料体積濃度(pigment volume concentration、PVC)を有し得る。コーティング組成物のPVCは、以下の式に従って求めることができる。
PVC=[体積(顔料+増量剤)/体積(顔料+増量剤+エマルジョンポリマー)]×100%。
【0054】
本発明の水性コーティング組成物は、1種以上の艶消し剤を含み得る。本明細書における「艶消し剤」は、艶消し効果をもたらす任意の無機又は有機粒子を指す。艶消し剤は通常、ASTM E2651-10に従って5.5マイクロメートル以上の平均粒径を有する。艶消し剤は、シリカ艶消し剤、ポリ尿素艶消し剤、ポリアクリレート、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、又はそれらの混合物から選択することができる。艶消し剤は、水性コーティング組成物の総重量に基づいて、0~10重量%、0.1重量%~7.5重量%、又は0.5重量%~5重量%の量で存在し得る。
【0055】
本発明の水性コーティング組成物は、1種以上の消泡剤を含み得る。「消泡剤」は、本明細書では、泡の形成を減少させ、妨げる化学添加剤を指す。消泡剤は、シリコーン系消泡剤、鉱油系消泡剤、エチレンオキシド/プロピレンオキシド系消泡剤、アルキルポリアクリレート、又はそれらの混合物であってもよい。消泡剤は、水性コーティング組成物の総重量に基づいて、0~2重量%、0.001重量%~1.5重量%、又は0.01重量%~1重量%の量で存在し得る。
【0056】
本発明の水性コーティング組成物は、1種以上の増粘剤(「レオロジー改質剤」としても知られる)を含み得る。増粘剤には、ポリビニルアルコール(PVA)、粘土材料、酸誘導体、酸コポリマー、ウレタン会合型増粘剤(UAT)、ポリエーテル尿素ポリウレタン(PEUPU)、ポリエーテルポリウレタン(PEPU)、又はそれらの混合物が含まれ得る。好適な増粘剤の例としては、ナトリウム又はアンモニウム中和アクリル酸ポリマーなどのアルカリ膨潤性エマルジョン(ASE)、疎水変性アクリル酸コポリマーなどの疎水変性アルカリ膨潤性エマルジョン(HASE)、疎水性変性エトキシル化ウレタン(HEUR)などの会合性増粘剤、並びにメチルセルロースエーテル、ヒドロキシメチルセルロース(HMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、疎水性変性ヒドロキシエチルセルロース(HMHEC)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(SCMC)、カルボキシメチル2-ヒドロキシエチルセルロースナトリウム、2-ヒドロキシプロピルメチルセルロース、2-ヒドロキシエチルメチルセルロース、2-ヒドロキシブチルメチルセルロース、2-ヒドロキシエチルエチルセルロース、及び2-ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース増粘剤が挙げられる。好ましい増粘剤はHEURをベースにしている。増粘剤は、水性コーティング組成物の総重量に基づいて、0~3重量%、0.05重量%~2重量%、又は0.1重量%~1重量%の量で存在し得る。
【0057】
本発明の水性コーティング組成物は、1種以上の湿潤剤を含み得る。本明細書における「湿潤剤」とは、コーティング組成物の表面張力を低下させ、水性コーティング組成物が基材の表面全体に広がるか又は浸透することをより容易にする化学添加剤を指す。湿潤剤は、ポリカルボキシレート、アニオン性、両性イオン性、又は非イオン性であり得る。湿潤剤は、水性コーティング組成物の総重量に基づいて、0~3重量%、0.05重量%~2重量%、又は0.1重量%~1重量%の量で存在し得る。
【0058】
本発明の水性コーティング組成物は、1種以上の造膜助剤(coalescent)を含み得る。本明細書における「造膜助剤」は、周囲条件下でポリマー粒子を連続フィルムに融着させる遅い蒸発性溶媒を指す。好適な造膜助剤の例としては、2-n-ブトキシエタノール、ジプロピレングリコールn-ブチルエーテル、プロピレングリコールn-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールn-プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールn-プロピルエーテル、n-ブチルエーテル、テキサノールエステルアルコール、又はそれらの混合物が挙げられる。好ましい造膜助剤には、テキサノールエステルアルコール、ジプロピレングリコールn-ブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、n-ブチルエーテル、又はそれらの混合物が含まれる。造膜助剤は、水性コーティング組成物の総重量に基づいて、0~8重量%、0.5重量%~6重量%、又は1重量%~5重量%の量で存在し得る。
【0059】
本発明の水性コーティング組成物は、例えば、水性コーティング組成物の総重量に基づいて、30重量%~90重量%、40重量%~85重量%、又は50重量%~80重量%の量の水を更に含み得る。
【0060】
上述の成分に加えて、本発明の水性コーティング組成物は、以下の添加剤:緩衝剤、中和剤、分散剤、湿潤剤、殺生物剤、皮張り防止剤、着色剤、流動剤、酸化防止剤、可塑剤、凍結/解凍添加剤、均染剤、チキソトロピー剤、接着促進剤、アンチスクラッチ剤及び粉砕展色剤(grind vehicles)のうちのいずれか1つ又は組み合わせを更に含み得る。これらの添加剤は、水性コーティング組成物の総重量に基づいて、0~5重量%、0.001重量%~3重量%、又は0.01重量%~2重量%の合計量で存在し得る。
【0061】
本発明の水性コーティング組成物は、エマルジョンポリマーを上記のような他の任意の成分と混合することを含む、コーティング分野において公知の技術を用いて調製され得る。水性コーティング組成物中の成分は、本発明の水性コーティング組成物を提供するために任意の順序で混合され得る。上述の任意成分のいずれも、混合中又は混合前に組成物に添加して、水性コーティング組成物を形成することもできる。
【0062】
本発明の水性コーティング組成物は、ブラッシング、浸漬、圧延、及び噴霧を含む義務的手段(incumbent means)によって、基材に適用され得る。水性コーティング組成物は、好ましくは噴霧によって適用される。空気霧化噴霧、空気噴霧、無気噴霧、大容量低圧噴霧、及び静電ベル塗布などの静電噴霧などの噴霧のための標準的な噴霧技術及び設備、並びに手動又は自動のいずれかの方法を使用することができる。水性コーティング組成物が基材に適用された後、水性コーティング組成物を5~30℃の温度で7日以上乾燥させてもよく、又は乾燥するようにしてもよい。あるいは、水性コーティング組成物を5~30℃の温度で5~30分間乾燥させ、次いで高温、例えば40℃超~80℃で20~180分間乾燥させ、続いて5~30℃の温度で更に乾燥させて、フィルム(すなわちコーティング)を形成することができる。本発明の水性コーティング組成物は、それから得られるコーティングフィルム、すなわち、基材に適用された水性コーティング組成物を乾燥させた後のコーティングに、実施例の項に記載される試験方法に従って10と評価される優れた初期耐水膨れ性を付与することができる。
【0063】
本発明の水性コーティング組成物は、様々な基材に適用され、接着することができる。好適な基材の例としては、コンクリート、セメント質基材、木材、金属、石、エラストマー基材、ガラス、又は布地が挙げられる。水性コーティング組成物は、建築コーティング、海洋及び保護コーティング、自動車コーティング、木材コーティング、コイルコーティング、及び土木コーティングなどの様々なコーティング用途に適している。水性コーティング組成物は、単独で使用してもよく、又は他のコーティングと組み合わせてトップコートとして使用して、多層コーティングを形成することができる。例えば、多層コーティングは、ベースコートとしての2成分エポキシコーティング及びトップコートとしての水性コーティング組成物を含む2層コーティングであり得る。多層コーティングはまた、プライマーとしての亜鉛含有コーティング、ミッドコートとしての2成分エポキシコーティング、及びトップコートとしての水性コーティング組成物を含む3層コーティングであり得る。
【実施例】
【0064】
次に、本発明のいくつかの実施形態を以下の実施例において説明するが、全ての部及び百分率は、特に指定しない限り、重量による。
【0065】
メチルメタクリレート(MMA)、ブチルアクリレート(BA)、2-エチルヘキシルアクリレート(EHA)、アクリロニトリル(AN)及びスチレン(ST)は、Langyuan Chemical Co,Ltd.から入手可能である。
【0066】
シクロヘキシルメタクリレート(CHMA)は、BASFから入手可能である。
【0067】
メタクリル酸(MAA)、tert-ブチルヒドロペルオキシド(t-BHP)、イソアスコルビン酸(IAA)、及び過硫酸アンモニウム(APS)は全て、Sinopharm Chemical Reagent Co.,Ltd.から入手可能である。
【0068】
日本乳化剤株式会社から入手可能なAMINOION RE1000(「RE1000」)界面活性剤(活性含量:30%)は、反応性双性イオン性フェノールエトキシレート界面活性剤である。
【0069】
第一工業製薬株式会社から入手可能なHITENOL AR-1025(「AR-1025」)界面活性剤(活性含量:25%)は、重合性アルコキシル化トリスチリルフェノールスルホネート界面活性剤である。
【0070】
Adeka Co.,Ltd.から入手可能なREASOAP SR-1025(「SR-1025」)界面活性剤(活性含量:25%)は、重合性アルコキシル化スルホネート界面活性剤である。
【0071】
Solvayから入手可能なSOPROPHOR WA 1802(「WA 1802」)非反応性界面活性剤(活性含量:31%)は、アンモニアアルコキシル化トリスチリルフェノールスルホネートである。
【0072】
Solvayから入手可能なRHODAFAC RS-610(「RS-610」)非反応性界面活性剤(活性含量:25%)は、分岐鎖アルコールエトキシレート系ホスフェートである。
【0073】
BASFから入手可能なDISPONIL FES 32(「Fes-32」)非反応性界面活性剤(活性含量:30%)は、アルコキシル化スルホネート界面活性剤である。
【0074】
The Dow Chemical Companyから入手可能なTRITON(商標)XN-45S(「XN-45S」)非反応性界面活性剤(活性含量:60%)は、アルコキシル化スルホネートオクチルフェノール界面活性剤である(TRITONはThe Dow Chemical Companyの商標である)。
【0075】
実施例において、並びに本明細書に記載される特性及び特徴を求める際には、以下の標準的な分析機器及び方法を使用する。
【0076】
初期耐水膨れ性試験
ASTM D714-02法(塗料の膨れ度を評価するための標準試験方法)に従い、初期耐水膨れ性試験を実施した。コーティング組成物試料を、Q-Panels(リン酸鉄、R-46)上に100μmの湿潤膜厚でドローダウンした。室温で10分間(min)フラッシュ乾燥させた後、これらのパネルを75℃のオーブンに30分間入れ、次いで室温で45分間乾燥させた。得られたコーティングされたパネルを脱イオン(DI)水中に7日間浸漬し、次いで表面変化について観察し、水膨れのサイズ及び面積に基づいて評価した。
【0077】
サイズ参照標準は、10~0の数値スケールで4段階のサイズが選択されており、No.10は膨れがないことを表し、No.8は肉眼で容易に確認できる最小サイズの膨れを表し、No.6、No.4、及びNo.2は徐々に大きくなるサイズを表す。
【0078】
周波数参照標準は、サイズの各段階で周波数の4つの段階に対して選択され、密(「D」)、中密(「MD」)、中(「M」)、及び少(「F」)として指定されている。
【0079】
粒径測定
水性ポリマー分散液中のエマルジョンポリマー粒子の粒径は、光子相関分光法(試料粒子の光散乱)の技術を用いるBrookhaven BI-90又は90Plus Particle Size Analyzerを使用して測定した。この方法では、試験される2滴のポリマー分散液を、20mLの0.01MのNaCl溶液で希釈し、更に、得られた混合物を試料キュベットにおいて希釈して、所望の計数率(K)を達成した(例えば、Kは、直径10~300nmの範囲では250~500カウント/秒、直径300~500nmの範囲では100~250カウント/秒である)。次いで、粒径を測定し、強度により平均直径として報告した。
【0080】
水性ポリマー分散液の固形分含有量
固形分含有量は、0.7±0.1gの試料(試料の湿重量を「W1」と表記する)を量り、150℃のオーブン内のアルミニウムパン(アルミニウムパンの重さを「W2」と表記する)に試料を25分間入れ、次いで、室温まで冷却して、乾燥した試料が入っているアルミニウムパンの重さを量り、総重量を「W3」と表記して測定した。「W3-W2」は、試料の乾燥重量又は固形分重量を指す。固形分含有量は以下のように計算される。
(W3-W2)/W1*100%。
【0081】
実施例(Ex)1水性ポリマー分散液
モノマーエマルジョンの調製:BA(636グラム(g))、MMA(305g)、ST(525g)、MAA(60.3g)、RE1000(30%活性、18g)及びDI水(440g)を混合し、次いで撹拌しながら乳化することにより、モノマーエマルジョンを調製した。
【0082】
ケトル充填:次に、DI水(1,030g)及びRE1000(30%活性、36.7g)を、機械的撹拌機を備えた5リットルの多口フラスコに充填した。
【0083】
モノマーの供給及び重合:フラスコの内容物を窒素雰囲気下で91℃に加熱した。撹拌フラスコに、DI水(4g)中のアンモニア(25%活性、2.1g)、リンスDI水(43g)を含むモノマーエマルジョン(95g)、APSの水溶液(17gのDI水中の2.89gのAPS)を反応器に添加した。残りのモノマーエマルジョン、別のAPS水溶液(55gの水中に1.79gのAPS)、及び水(45g)中のアンモニア溶液(25%活性、9g)を120分かけて徐々に添加した。フラスコ温度を88℃に維持した。次いで、DI水(40g)を使用して、フラスコへのエマルジョン供給ラインをすすいだ。その後、水(10g)中のFeSO4・7H2O(0.02g)及びエチレンジアミン四酢酸(EDTA)(0.07g)の溶液をフラスコに添加した。15gの水中の1.48gのt-BHP(70%活性)、15gの水中の0.67gのIAAをフラスコに投入した。次いで、水(27.2g)中のt-BHP(70%活性、3.36g)及び水(30g)中のIAA(1.76g)の水溶液を、撹拌しながら30分かけてフラスコに供給した。フラスコの内容物を室温まで冷却した。最後に、水(20g)中のアンモニア(25%活性、10g)を中和剤として10分間かけて添加して、水性ポリマー分散液を得た。
【0084】
実施例2
BA(636g)、MMA(153g)、ST(678g)、MAA(60.3g)、RE1000(18g、30%活性)及びDI水(440g)を混合し、次いで撹拌しながら乳化することによってモノマーエマルジョンを調製したことを除いて、実施例1と同じ手順に従って実施例2を行った。
【0085】
実施例3
EHA(546g)、MMA(395g)、ST(528g)、MAA(60.3g)、RE1000(18g、30%活性)及びDI水(440g)を混合し、次いで撹拌しながら乳化することによってモノマーエマルジョンを調製したことを除いて、実施例1と同じ手順に従って実施例3を行った。
【0086】
実施例4
BA(636g)、CHMA(305g)、ST(525g)、MAA(60.3g)、RE1000(30%活性、18g)及びDI水(440g)を混合し、次いで撹拌しながら乳化することによってモノマーエマルジョンを調製したことを除いて、実施例1と同じ手順に従って実施例4を行った。
【0087】
比較(Comp)例1
モノマーエマルジョンの調製工程及びケトル充填工程が以下のとおりであったことを除いて、実施例1と同じ手順に従って比較例1を行った。
BA(636g)、MMA(153g)、ST(678g)、MAA(60.3g)、AR-1025(21g、25%活性)及びDI水(440g)を混合し、次いで撹拌しながら乳化することによってモノマーエマルジョンを調製した。次に、DI水(1,000g)及びAR-1025(60g、25%活性)を、機械的撹拌機を備えた5リットルの多口フラスコに充填した。
【0088】
比較例2
モノマーエマルジョンの調製工程及びケトル充填工程が以下のとおりであったことを除いて、実施例1と同じ手順に従って比較例2を行った。
BA(636g)、MMA(153g)、ST(678g)、MAA(60.3g)、SR-1025(25%活性、21g)及びDI水(440g)を混合し、次いで撹拌しながら乳化することによってモノマーエマルジョンを調製した。次に、DI水(1,000g)及びSR-1025(60g、25%活性)を、機械的撹拌機を備えた5リットルの多口フラスコに充填した。
【0089】
比較例3
モノマーエマルジョンの調製工程及びケトル充填工程が以下のとおりであったことを除いて、実施例1と同じ手順に従って比較例3を行った。
BA(636g)、MMA(305g)、ST(525g)、MAA(60.3g)、WA-1802(31%活性、17.42g)及びDI水(440g)を混合し、次いで撹拌しながら乳化することによってモノマーエマルジョンを調製した。次に、DI水(1030g)及びWA-1802(31%活性、35.5g)を、機械的撹拌機を備えた5リットルの多口フラスコに充填した。
【0090】
比較例4
モノマーエマルジョンの調製工程及びケトル充填工程が以下のとおりであったことを除いて、実施例1と同じ手順に従って比較例4を行った。
BA(636g)、MMA(305g)、ST(525g)、MAA(60.3g)、RS-610(25%活性、21g)及びDI水(440g)を混合し、次いで撹拌しながら乳化することによってモノマーエマルジョンを調製した。次に、DI水(1,030g)及びFes-32(32%活性、34.4g)を、機械的撹拌機を備えた5リットルの多口フラスコに充填した。
【0091】
比較例5
BA(636g)、ST(830g)、MAA(60.3g)、RE1000(30%活性、18g)及びDI水(440g)を混合し、次いで撹拌しながら乳化することによって、モノマーエマルジョンを調製したことを除いて、実施例1と同じ手順に従って比較例5を行った。
【0092】
比較例6
BA(636g)、MMA(458g)、ST(372g)、MAA(60.3g)、RE1000(30%活性、18g)及びDI水(440g)を混合し、次いで撹拌しながら乳化することによってモノマーエマルジョンを調製したことを除いて、実施例1と同じ手順に従って比較例6を行った。
【0093】
比較例7
BA(636g)、MMA(710g)、ST(220g)、MAA(60.3g)、RE1000(30%活性、18g)及びDI水(440g)を混合し、次いで撹拌しながら乳化することによって、モノマーエマルジョンを調製したことを除いて、実施例1と同じ手順に従って比較例7を行った。
【0094】
比較例8
EHA(587g)、ST(653g)、MMA(326g)、MAA(60.3g)、RE1000(30%活性、18g)及びDI水(440g)を混合し、次いで撹拌しながら乳化することによってモノマーエマルジョンを調製したことを除いて、実施例1と同じ手順に従って比較例8を行った。
【0095】
比較例9
モノマーエマルジョンの調製工程及びケトル充填工程が以下のとおりであったことを除いて、実施例1と同じ手順に従って比較例9を実施した。
EHA(687g)、AN(299g)、ST(457g)、MAA(60.3g)、XN-45S(60%活性、9g)及びDI水(440g)を混合し、次いで撹拌しながら乳化することによってモノマーエマルジョンを調製した。次に、DI水(1,350g)及びXN-45S(60%活性、18.4g)を、機械的撹拌機を備えた5リットルの多口フラスコに充填した。
【0096】
比較例10
モノマーエマルジョンの調製工程及びケトル充填工程が以下のとおりであったことを除いて、実施例1と同じ手順に従って比較例10を行った。
EHA(687g)、AN(299g)、ST(457g)、MAA(60.3g)、RE1000(30%活性、18g)及びDI水(440g)を混合し、撹拌しながら乳化してモノマーエマルジョンを調製した。次に、DI水(1,350g)とRE1000(30%活性、36.7g)を、機械的撹拌機を備えた5リットルの多口フラスコに充填した。
【0097】
比較例11
BA(731g)、MMA(512g)、ST(219g)、アクリル酸(29.9g)、RE1000(30%活性、18g)及びDI水(440g)を混合し、次いで撹拌しながら乳化することによってモノマーエマルジョンを調製したことを除いて、実施例1と同じ手順に従って比較例11を行った。
【0098】
比較例11で使用したモノマー組成物は、米国特許出願公開第2015/0166474(A1)号の実施例2と実質的に同じであった。
【0099】
得られた実施例1~4及び比較例1~11の水性ポリマー分散液の特性を表1に示す。
【0100】
【表2】
1固形分含有量及び
2粒径は、上記の試験方法に従って求めた。
3粘度は、ブルックフィールド粘度計DV-I Primer(60rpm、スピンドル#2)によって求めた。
【0101】
コーティング組成物
調製したままの水性ポリマー分散液を、表2に示す配合に基づいてコーティング組成物を調製するためのバインダーとして使用した。高速Cowles分散機を使用して、粉砕物を調製するための配合成分を1,200rpmで30分間混合して、粉砕物を形成した。次に、従来のラボ用ミキサーを使用してレットダウン用の成分を粉砕物に添加して、コーティング組成物を得た。各コーティング組成物について、レットダウン段階で使用されるバインダー及び水の用量を調節して、バインダーの固形分重量を23.14g、コーティング組成物の総重量を100gに保った。得られたコーティング組成物を上記の試験方法に従って評価し、得られたコーティングフィルムの初期耐水膨れ特性を表3に示す。
【0102】
【0103】
表3に示すように、アニオン性モノマー及び非イオン性モノマーから誘導されたポリマーセグメントを有する実施例1~4のバインダーは、必要なハンセン溶解度パラメータ(HSP)(δD16.42~16.64、δP:2.87~3.79、及びδH:3.94~4.57)を有していた。これらのバインダーを含むコーティング組成物(実施例1~4)は全て、評価10の優れた初期耐水膨れ性を有するコーティングフィルムを提供した。対照的に、AR 1025重合性アニオン性トリスチリルフェノール界面活性剤(比較例1)、SR 1025重合性アニオン性アリル界面活性剤(比較例2)、又は非反応性界面活性剤(比較例3、4及び9)の存在下で調製されたバインダーを含むコーティング組成物は全て、望ましくない不十分な初期耐水膨れ性を提供した。更に、アニオン性モノマー及び非イオン性モノマーから誘導されたポリマーセグメントが、必要とされる範囲外にある1つ以上のハンセン溶解度パラメータを有するバインダーを含むコーティング組成物(比較例5~8及び10~11)は全て、不十分な初期耐水膨れ性を有するコーティングフィルムを提供した。
【0104】
【国際調査報告】