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特表2023-547992二重グリカン結合AAV2.5ベクターのための方法および組成物
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  • 特表-二重グリカン結合AAV2.5ベクターのための方法および組成物 図1
  • 特表-二重グリカン結合AAV2.5ベクターのための方法および組成物 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-15
(54)【発明の名称】二重グリカン結合AAV2.5ベクターのための方法および組成物
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/005 20060101AFI20231108BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20231108BHJP
   C12N 15/35 20060101ALI20231108BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20231108BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20231108BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20231108BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20231108BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20231108BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20231108BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
C07K14/005
C12N15/864 100Z
C12N15/35 ZNA
C12N5/10
A61K48/00
A61K35/76
A61P25/28
A61P25/00
A61P25/04
A61K31/7088
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023518264
(86)(22)【出願日】2021-10-26
(85)【翻訳文提出日】2023-05-19
(86)【国際出願番号】 US2021056582
(87)【国際公開番号】W WO2022093769
(87)【国際公開日】2022-05-05
(31)【優先権主張番号】63/106,733
(32)【優先日】2020-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500093834
【氏名又は名称】ザ・ユニヴァーシティ・オヴ・ノース・キャロライナ・アト・チャペル・ヒル
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100180231
【弁理士】
【氏名又は名称】水島 亜希子
(72)【発明者】
【氏名】サムルスキ,リチャード・ジュード
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C086
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065BA02
4B065CA44
4C084AA13
4C084MA52
4C084MA55
4C084MA57
4C084MA58
4C084MA59
4C084MA60
4C084MA63
4C084MA65
4C084NA05
4C084ZA02
4C084ZA08
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA52
4C086MA55
4C086MA57
4C086MA58
4C086MA59
4C086MA60
4C086MA63
4C086MA65
4C086NA05
4C086ZA02
4C086ZA08
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087MA52
4C087MA55
4C087MA57
4C087MA58
4C087MA59
4C087MA60
4C087MA63
4C087MA65
4C087NA05
4C087ZA02
4C087ZA08
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA01
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
置換がAAVカプシドタンパク質中に新たなグリカン結合部位を導入する1つまたは複数のアミノ酸置換を含む(例えば、AAV2.5のアミノ酸267に対応する位置に置換を含まない、またはAAV2.5のアミノ酸267に対応する位置にセリンを含まない)アデノ随伴ウイルス2.5(AAV2.5)カプシドタンパク質を含む方法および組成物が本明細書で開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
新たなグリカン結合部位を導入する1つまたは複数のアミノ酸置換を含む(例えば、AAV2.5のアミノ酸267に対応する位置に置換を含まない、またはAAV2.5のアミノ酸267に対応する位置にセリンを含まない)AAV2.5カプシドタンパク質を含むアデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドタンパク質。
【請求項2】
前記アミノ酸置換が
a)SQAGASDIRDQSR464-476SXAGXSXQXR(X1~7は任意のアミノ酸であってよい)、および
b)EYSW500-503EXW(X8~9は任意のアミノ酸であってよい)
のうちの1つまたは複数を含む、請求項1に記載のAAVカプシドタンパク質。
【請求項3】
がVもしくはその保存的置換であり;
がPもしくはその保存的置換であり;
がNもしくはその保存的置換であり;
がMもしくはその保存的置換であり;
がAもしくはその保存的置換であり;
がVもしくはその保存的置換であり;
がGもしくはその保存的置換であり;
がFもしくはその保存的置換であり;および/または
がAもしくはその保存的置換である
請求項2に記載のAAVカプシドタンパク質。
【請求項4】
がVであり、XがPであり、XがNであり、XがMであり、XがAであり、XがVであり、XがGであり、XがFであり、およびXがAであり、前記新たなグリカン結合部位がガラクトース結合部位である、請求項3に記載のAAVカプシドタンパク質。
【請求項5】
前記AAV2.5カプシドタンパク質のアミノ酸配列が、配列番号1またはその機能的誘導体である(例えば、AAV2.5のアミノ酸267に対応する位置に置換を含まない、またはAAV2.5のアミノ酸267に対応する位置にセリンを含まない)、請求項1~4のいずれか1項に記載のAAVカプシドタンパク質。
【請求項6】
前記アミノ酸配列が、配列番号2またはその機能的誘導体である(例えば、AAV2.5のアミノ酸267に対応する位置に置換を含まない、またはAAV2.5のアミノ酸267に対応する位置にセリンを含まない)、請求項1~5のいずれか1項に記載のAAVカプシドタンパク質。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のAAVカプシドタンパク質を含むウイルスカプシド。
【請求項8】
(a)請求項7のウイルスカプシド、および
(b)少なくとも1つの末端反復配列を含み、ウイルスカプシドによりカプシド封入されている核酸
を含むウイルスベクター。
【請求項9】
薬学的に許容される担体中に、請求項1~6のいずれか1項に記載のAAVカプシドタンパク質、請求項7に記載のウイルスカプシドおよび/または請求項8に記載のウイルスベクターを含む組成物。
【請求項10】
請求項8に記載のウイルスベクターと細胞を接触させるステップを含む、細胞に核酸を導入する方法。
【請求項11】
前記細胞が神経系組織中に存在する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記細胞がニューロンまたはグリア細胞である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記グリア細胞が星状細胞である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ウイルスベクターが、AAV1、AAV2、AAV9、またはAAV2.5ウイルスベクターと比べて、神経系組織への増強された形質導入を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記細胞が対象中に存在する、請求項10~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記対象がヒト対象である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記対象が子供である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記子供が乳児である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記対象が子宮内にいる、請求項15または16に記載の方法。
【請求項20】
前記対象が、請求項8に記載のウイルスベクターに接触させた場合に、AAV1、AAV2、AAV9、またはAAV2.5ウイルスベクターに接触させた場合と比較して低下した免疫性プロファイルを有する、請求項15~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
請求項8に記載のウイルスベクターおよび/または請求項9に記載の組成物を、治療核酸が対象の細胞において発現される条件下で前記対象に投与することにより、治療核酸を前記対象の細胞中に導入するステップを含む、それを必要とする対象において疾患または障害を治療する方法。
【請求項22】
前記対象がヒトである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記対象が子宮内にいる、請求項21または22に記載の方法。
【請求項24】
前記対象が、中枢神経系(CNS)疾患もしくは障害を有するまたはそれらのリスクがある、請求項21~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記対象が、先天性神経変性障害を有するまたはそのリスクがある、請求項21~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記対象が、成人発症型常染色体優性白質ジストロフィー(ADLD)、アイカルディ・グティエール症候群、アレキサンダー病、CADASIL、カナバン病、CARASIL、脳腱黄色腫症小児運動失調症および脳ミエリン形成不全症(CACH)/白質消失病(VWMD)、ファブリー病、フコシドーシス、GM1ガングリオシドーシス、クラッベ病、L-2-ヒドロキシグルタル酸尿症、皮質下嚢胞をもつ大脳型白質脳症、異染性白質ジストロフィー、多種スルファターゼ欠損症、ペリツェウス・メルツバッヘル病、Pol III関連白質ジストロフィー、レフサム病、サラ病(遊離シアル酸蓄積症)、シェーグレン・ラルソン症候群、X連鎖副腎白質ジストロフィー、ツェルウェガー症候群スペクトル障害、ムコ多糖症I型、ムコ多糖症II型、ムコ多糖症III型、ムコ多糖症IV型、ムコ多糖症V型、ムコ多糖症VI型、ムコ多糖症VII型、ムコ多糖症IX型およびそれらのいずれかの組合せを有するまたはこれらのリスクがある、請求項21~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記対象が、疾患または障害に伴う疼痛を有するまたはそれを有するリスクがある、請求項21または22に記載の方法。
【請求項28】
前記ウイルスベクターまたは組成物が、経腸、非経口、くも膜下腔内、嚢内、脳内、脳室内、鼻腔内、耳内、眼内、眼周囲、直腸内、筋肉内、腹腔内、静脈内、経口、舌下、皮下および/または経皮経路を経て送達される、請求項21~27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記ウイルスベクターまたは組成物が、頭蓋内におよび/または脊髄内に送達される、請求項21~27のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[優先権の申立]
本出願は、米国特許法第119(e)の下で、その全内容が参照により本明細書の一部をなす2020年10月28日出願の米国仮特許出願第63/106,733号の利益を主張する。
【0002】
[政府支援の明示]
本発明は、国立衛生研究所によって授与された助成金第HL085794号およびOD011107号の下で、政府の支援により行われた。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【0003】
[配列表の電子ファイリングに関する記載]
ASCIIテキスト形式での配列表は、37 C.F.R.§1.821のもとで提出され、5470-891WO_ST25.txtと表題付きの、13,047バイトのサイズで、2021年10月25日に作成され、EFS-Web経由で提出され、ハードコピーの代わりに提供される。本配列表は、これによって参照により本明細書のその開示用の特許明細書中に組み込む。
【0004】
[発明の分野]
本発明は、アデノ随伴ウイルス(AAV)由来の改変カプシドタンパク質、それを含むウイルスカプシドおよびウイルスベクター、ならびにそれらの使用法に関する。
【背景技術】
【0005】
代謝の先天的なエラーは、単一遺伝子が神経機能の発達および維持ならびに神経生存に必要な機能不全酵素を産生する一群の多様な先天的疾患の原因となる。不幸なことに、これらの多くは、10歳以前または10歳代に早期死亡をもたらす急速に進行する神経変性障害である。これらの酵素遺伝子での機能喪失型突然変異は典型的には、常染色体劣性またはX染色体連鎖型の遺伝に続いて起こり、そのためにこうした遺伝子は単一遺伝子置換戦略にとり魅力的である。こうした群の疾患のための遺伝子治療の開発にとっての大きな難問は、損傷が潜在的に不可逆的であるために、治療介入が成功するには、成長の極めて早期に行われなければならない点である。ここ20年にわたる研究により、成功の最大の機会は、神経変性過程の開始に先立って介入する場合に存在することが一貫して実証されてきた。例えば、ムコ多糖蓄積症(MPS)および白質ジストロフィーは、炭水化物分子または脂肪酸の障害性代謝から生じる稀な小児科神経変性障害であるが、細胞療法および酵素置換戦略により治療可能である。いくつかの研究では、介入は、行動または身体症状が顕在化した後では疾患進行を遅くするまたは逆転させることはできないことが実証されている。しかし、治療の時期に無症状であった子供は介入から最も利益を受けており、生存の確率が最大であった。
【0006】
臨床的には、MPSおよび白質ジストロフィーの発病は典型的には、幼児期および小児期早期に観察され、進行性の中枢および末梢神経系が関与している。主要症状は、細かい運動および粗大運動の喪失、感覚障害、遠位筋力低下、ならびに腱痙縮を含む。罹患患者は多くの場合、車椅子依存的、聴力および視力障害性になり、こうした疾患は2~8歳までに致命的になることが多い。白質ジストロフィーに関与していることが公知の遺伝子は、異染性白質ジストロフィーの原因となるアリルスルファターゼA(ASA)における突然変異;クラッベ病の原因となるガラクトシルセラミダーゼ(GALC)における突然変異;カナバン病の原因となるアスパルトアシラーゼ(ASPA)における突然変異;およびX連鎖副腎白質ジストロフィーの原因となるペルオキシソームATP結合カセット(ABCD1)における突然変異を含有する。アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターは、ヒトでは非病原性であり強力な安全性プロファイルを有するので、効率的で標的化された遺伝子治療に魅力的な選択肢を提供する。天然に存在するAAV血清型は、複数の組織に対してトロピズムを示しており、したがって、AAVベクターを特に所望の標的組織に向け、オフターゲット発現を最小限にする方法の開発の必要性が当該分野には存在する。
【0007】
ウイルス-グリカン相互作用は、宿主細胞侵入の重大な決定因子である。シアル酸、ガングリオシドまたはヘパラン硫酸などの細胞表面炭水化物は、インフルエンザ、ヘルペスウイルス、SV40、ポリオーマウイルス、パピローマウイルスおよび他の病原体などの膨大な数のウイルスに利用されている。大半の場合では、単一クラスのグリカンがウイルスにとって細胞表面結合因子として主に役立っており、細胞侵入のための他の受容体/共受容体の逐次または平行結合をもたらす。アデノ随伴ウイルス(AAV)は、ヘパラン硫酸(HS)、ガラクトース(Gal)またはシアル酸(Sia)を細胞表面結合のための主要受容体として利用するヘルパー依存パルボウイルスである。例えば、AAV血清型2および3bはHSを利用し;AAV1、4および5は異なる連鎖特異性でSiaに結合し、AAV9は宿主細胞結合にGalを利用する。異なるAAV株は、細胞内取込みのためには、インテグリンαVβ5またはα5β1、線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)、血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)、上皮増殖因子受容体(EGFR)、肝細胞増殖因子受容体(HGFR)、またはラミニン受容体などの共受容体とのその後の相互作用も必要とする。
【0008】
特定のAAV株と単一クラスの炭水化物の間の1対1の関係に対する顕著な例外は、AAV血清型6であり、これはSiaとHSの両方を認識する。しかし、ウイルス形質導入に不可欠であることが明らかにされたのはSiaのみであった。AAV1、AAV4、AAV5およびAAV6に対するSia結合フットプリントはまだ決定されてはいない。つい最近、AAV9カプシドによるGal認識に関与している肝要なアミノ酸残基が、分子ドッキングと部位特異的変異誘発の組合せを使用することにより特定された。必要なのは、細胞侵入および形質導入のために代わりの経路を利用する複数のグリカン結合能力を有するウイルスベクターである。
【0009】
本発明は、複数のグリカン結合部位を有する改変カプシドタンパク質、これらのカプシドタンパク質を含むAAVベクターならびに神経変性白質ジストロフィーおよびMPSなどの障害において治療ベクターとしてのそのベクターの使用のための方法を提供することにより当技術分野における以前の欠点を克服する。
【発明の概要】
【0010】
本発明の態様は、新たなグリカン結合部位を導入する1つまたは複数のアミノ酸置換を含むAAV2.5カプシドタンパク質を含むアデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドタンパク質に関する。(例えば、AAV2.5のアミノ酸267に対応する位置に置換を含まない、またはAAV2.5のアミノ酸267に対応する位置にセリンを含まない)。一実施形態では、1つまたは複数のアミノ酸置換はA267Sを含まない(本明細書ではAAV2.5G9 A267と呼ばれることもある)。
【0011】
本明細書中に記載されるカプシドタンパク質、カプシド、ウイルスベクターおよび方法の実施形態では、1つまたは複数のアミノ酸置換は、A267S、SQAGASDIRDQSR464~476SXAGXSXQXR(X1~7は任意のアミノ酸であってよい)、およびEYSW500~503EXW(X8~9は任意のアミノ酸であってよい)を含む。
【0012】
本明細書中に記載されるカプシドタンパク質、カプシド、ウイルスベクターおよび方法の実施形態では、XはVもしくはその保存的置換であり;XはPもしくはその保存的置換であり;XはNもしくはその保存的置換であり;XはMもしくはその保存的置換であり;XはAもしくはその保存的置換であり;XはVもしくはその保存的置換であり;XはGもしくはその保存的置換であり;XはFもしくはその保存的置換であり;および/またはXはAもしくはその保存的置換である。
【0013】
本明細書中に記載されるカプシドタンパク質、カプシド、ウイルスベクターおよび方法の実施形態では、XはVであり、XはPであり、XはNであり、XはMであり、XはAであり、XはVであり、XはGであり、XはFであり、およびXはAであり、新しいグリカン結合部位はガラクトース結合部位である。
【0014】
本明細書中に記載されるカプシドタンパク質、カプシド、ウイルスベクターおよび方法の実施形態では、AAV2.5カプシドタンパク質のアミノ酸配列は配列番号1またはその機能的誘導体である(例えば、AAV2.5のアミノ酸267に対応する位置に置換を含まない、またはAAV2.5のアミノ酸267に対応する位置にセリンを含まない)。
【0015】
本明細書中に記載されるカプシドタンパク質、カプシド、ウイルスベクターおよび方法の実施形態では、カプシドタンパク質のアミノ酸配列は配列番号2またはその機能的誘導体である(例えば、AAV2.5のアミノ酸267に対応する位置に置換を含まない、またはAAV2.5のアミノ酸267に対応する位置にセリンを含まない)。
【0016】
本発明の態様は、上記のAAVカプシドタンパク質を含むウイルスカプシドに関する。
【0017】
本発明の態様は、上記のウイルスカプシドおよび少なくとも1つの末端反復配列を含む核酸を含むウイルスベクターに関し、核酸はウイルスカプシドによりカプシド封入されている。
【0018】
一部の実施形態では、本明細書に記載されるAAV2.5G9は、既存の抗体、例えば、AAVrh10を認識する抗体またはAAV2.5G9を除く他のAAV血清型を認識する抗体により誘発される免疫応答を回避する。
【0019】
本発明の態様は、薬学的に許容される担体中に、上記のAAVカプシドタンパク質、上記のウイルスカプシド、および/または上記のウイルスベクターを含む組成物に関する。
【0020】
本発明の態様は、細胞を上記ウイルスベクター(例えば、配列番号2のカプシドタンパク質またはその機能的誘導体を含むAAV2.5G9)と接触させることを含む、核酸を細胞内に導入する方法に関する。本明細書中に記載される方法の一部の実施形態では、細胞は神経系組織中に存在する。本明細書中に記載される方法の一部の実施形態では、細胞はニューロンまたはグリア細胞である。本明細書中に記載される方法の一部の実施形態では、グリア細胞は星状細胞である。本明細書中に記載される方法の一部の実施形態では、ウイルスベクターは、AAV1、AAV2、AAV9、またはAAV2.5ウイルスベクターと比べた場合、神経系組織の増強された形質導入を有する。本明細書中に記載される方法の一部の実施形態では、細胞は対象中に存在する。本明細書中に記載される方法の一部の実施形態では、対象はヒト対象である。本明細書中に記載される方法の一部の実施形態では、対象は子供である。本明細書中に記載される方法の一部の実施形態では、子供は乳児である。本明細書中に記載される方法の一部の実施形態では、対象は子宮内にいる。本明細書中に記載される方法の一部の実施形態では、対象は、AAV1、AAV2、AAV9、またはAAV2.5ウイルスベクターに接触させた場合と比べてウイルスベクターに接触させた場合、低下した免疫性プロファイルを有する。
【0021】
一部の実施形態では、AAV2.5G9は、核酸を対象(例えば、ヒト、児童、幼児、子宮内)の細胞中に導入する方法において治療薬の反復投与のために使用される。一部の実施形態では、AAV2.5G9(例えば、配列番号2のカプシドタンパク質またはその機能的誘導体を含む)は方法において一投与のために使用され、AAVrh10は別の投与のために使用される。一部の実施形態では、方法において反復投与のために使用されるAAV2.5G9(例えば、配列番号2のカプシドタンパク質またはその機能的誘導体を含む)および他のAAVベクターは、同じウイルス力価で使用される。一部の実施形態では、方法において反復投与のために使用されるAAV2.5G9(例えば、配列番号2のカプシドタンパク質またはその機能的誘導体を含む)および他のAAVベクターは、異なるウイルス力価で使用される。
【0022】
本発明の態様は、本明細書中に記載されるウイルスベクターおよび/または本明細書中に記載される組成物を、治療核酸が対象の細胞において発現される条件下で対象に投与することにより、治療核酸を対象の細胞中に導入することを含む、それを必要とする対象において疾患または障害を治療する方法に関する。本明細書中に記載される方法の一部の実施形態では、対象はヒトである。本明細書中に記載される方法の一部の実施形態では、対象は子宮内にいる。本明細書中に記載される方法の一部の実施形態では、対象はCNS疾患もしくは障害を有するまたはこれらのリスクがある。本明細書中に記載される方法の一部の実施形態では、対象は先天性神経変性障害を有するまたはこれのリスクがある。本明細書中に記載される方法の一部の実施形態では、対象は、成人発症型常染色体優性白質ジストロフィー(ADLD)、アイカルディ・グティエール症候群、アレキサンダー病、CADASIL、カナバン病、CARASIL、脳腱黄色腫症小児運動失調症および脳ミエリン形成不全症(CACH)/白質消失病(VWMD)、ファブリー病、フコシドーシス、GM1ガングリオシドーシス、クラッベ病、L-2-ヒドロキシグルタル酸尿症、皮質下嚢胞をもつ大頭型白質脳症、異染性白質ジストロフィー、多種スルファターゼ欠損症、ペリツェウス・メルツバッヘル病、Pol III関連白質ジストロフィー、レフサム病、サラ病(遊離シアル酸蓄積症)、シェーグレン・ラルソン症候群、X連鎖副腎白質ジストロフィー、ツェルウェガー症候群スペクトル障害、ムコ多糖症I型、ムコ多糖症II型、ムコ多糖症III型、ムコ多糖症IV型、ムコ多糖症V型、ムコ多糖症VI型、ムコ多糖症VII型、ムコ多糖症IX型およびそれらの任意の組合せを有するまたはこれらのリスクがある。本明細書中に記載される方法の一部の実施形態では、対象は、疾患または障害に伴う疼痛を有するまたはそれを有するリスクがある。本明細書中に記載される方法の一部の実施形態では、ウイルスベクターまたは組成物は、経腸、非経口、くも膜下腔内、嚢内、脳内、脳室内、鼻腔内、耳内、眼内、眼周囲、直腸内、筋肉内、腹腔内、静脈内、経口、舌下、皮下および/または経皮経路を経て送達される。本明細書中に記載される方法の一部の実施形態では、ウイルスベクターまたは組成物は、頭蓋内におよび/または脊髄内に送達される。
【0023】
一部の実施形態では、AAV2.5G9(例えば、配列番号2のカプシドタンパク質またはその機能的誘導体を含む)は、治療薬の反復投与/投薬(例えば、ヒト、児童、幼児、子宮内への)のため疾患または障害の処置方法において使用される。一部の実施形態では、AAV2.5G9(例えば、配列番号2のカプシドタンパク質またはその機能的誘導体を含む)は一投与のために使用され、AAVrh10は別の投与のために使用される。一部の実施形態では、方法において反復投与のために使用されるAAV2.5G9(例えば、配列番号2のカプシドタンパク質またはその機能的誘導体を含む)および他のAAVベクターは、同じウイルス力価で使用される。一部の実施形態では、方法において反復投与のために使用されるAAV2.5G9(例えば、配列番号2のカプシドタンパク質またはその機能的誘導体を含む)および他のAAVベクターは、異なるウイルス力価で使用される。
【0024】
2020年4月23日提出のPCT/US2020/029493中のいかなる開示も、本出願の特許請求の範囲のうちのいずれか1つもしくは複数で定義される本発明内に、または本出願においてもしくはそこから派生する任意の特許において将来提出される可能性のある修正された特許請求の範囲に定義される任意の発明内に収まる限り、およびそのまたはそれらの特許請求の範囲が適用される任意の関連する国または国々の法律が、2020年4月23日提出のPCT/US2020/029493の開示が、そのまたはそれらの国々においてまたはについてそのまたはそれらの特許請求の範囲に対して最先端の技術の一部であると規定する限り、我々はこれによって本出願またはそこから派生する任意の特許の特許請求の範囲からの前記開示を除外する権利を、本出願またはそこから派生する任意の特許の無効化を妨げるのに必要な程度に留保する。
【0025】
本発明のこれらのおよび他の態様は、下記の本発明の説明においてさらに詳細に扱われる。
【0026】
[定義]
単数形「a」、「an」および「the」は、文脈が明らかに他を示さない限り、複数形も同様に含むことが意図される。
【0027】
さらに、用語「約」は、本明細書中で使用する場合、ポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列の長さ、用量、時間、温度などの量などの測定可能な値をいう場合、特定された量の±20%、±10%、±5%、±1%、±0.5%またはさらには±0.1%の変動を包含することを意味する。
【0028】
また、本明細書中で使用する場合、「および/または」は、関連する列挙された項目のうち1つまたは複数の、任意のおよびすべての可能な組合せ、ならびに代替として解釈される場合(「または」)には組合せの欠如をいい、かつこれらを包含する。
【0029】
文脈が他を示さない限り、本明細書中に記載される本発明の種々の特徴が任意の組合せで使用され得ることが、具体的に意図される。
【0030】
さらに、本発明は、本明細書中に示される本発明のいくつかの実施形態、任意の特徴または特徴の組合せが排除または割愛できることも企図している。
【0031】
さらに説明すると、例えば、特定のアミノ酸がA、G、I、Lおよび/またはVから選択できることを本明細書が示す場合、この表現は、例えばA、G、IまたはL;A、G、IまたはV;AまたはG;Lのみなどの、これらのアミノ酸(複数可)の任意のサブセットからアミノ酸を選択できることも、各かかる下位の組合せが本明細書中に明示的に示されるかのように示す。さらに、かかる言葉は、1つまたは複数の特定されたアミノ酸が除外され得ることもまた示す。例えば、特定の実施形態では、各かかる可能な除外が明示的に示されるかのように、アミノ酸は、A、GまたはIではなく;Aではなく;GまたはVではない、など。
【0032】
用語「トロピズム」とは、本明細書中で使用する場合、ある特定の細胞もしくは組織型へのウイルスもしくはウイルスベクターの優先的侵入またはある特定の細胞もしくは組織型への侵入を促進する細胞表面との優先的相互作用のことをいい、任意選択的におよび好ましくは、それに続いて細胞においてウイルスゲノムが保有する配列が発現される(例えば、転写および、任意選択的に、翻訳)。
【0033】
用語「標的細胞」は、本明細書中に記載されるウイルスベクターが感染する細胞をいうために使用される。いくつかの実施形態では、「標的細胞」は、ウイルス/ウイルスベクターが感染し、内部の異種核酸上の調節エレメントが発現を促進する細胞型をいうのでもよい。
【0034】
用語「保存的置換」または「保存的置換突然変異」とは、本明細書中で使用する場合、アミノ酸が類似する特性を有する別のアミノ酸の代わりに使われるので、ペプチド化学の分野の当業者であれば、ポリペプチドの二次構造、化学的特性、および/またはヒドロパシーの性質が実質的に変化しないと予期できる突然変異をいう。アミノ酸の以下の群は、保存的変化として歴史的に互いに置換されてきた:(1)ala、pro、gly、glu、asp、gln、asn、ser、thr;(2)cys、ser、try、thr;(3)val、ile、leu、met、ala、phe;(4)lys、arg、his;および(5)phe、tyr、trp、his。他の一般的に受け入れられる保存的置換は下に列挙されている:
【0035】
【0036】
本明細書中で使用する場合、用語「低下する(reduce/reduces)」、「低下」および類似の用語は、少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、35%、50%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、99%、100%またはそれ以上の減少を意味する。
【0037】
本明細書中で使用する場合、用語「増強する(enhance/enhances)」「増強」および類似の用語は、少なくとも約10%、20%、25%、50%、75%、100%、150%、200%、300%、400%、500%またはそれ以上の増加を示す。
【0038】
本明細書中で使用する場合、用語「ポリペプチド」は、特に示さない限り、ペプチドおよびタンパク質の両方を包含する。
【0039】
「ポリヌクレオチド」、「核酸」または「核酸分子」は、本明細書中で使用する場合、ヌクレオチド塩基の配列であり、RNA、DNAまたはDNA-RNAハイブリッド配列(天然に存在するヌクレオチドおよび天然に存在しないヌクレオチドの両方を含む)であり得るが、代表的実施形態では、一本鎖または二本鎖のいずれかのDNA配列である。
【0040】
本明細書中で使用する場合、「単離された」ポリヌクレオチド(例えば、「単離されたDNA」または「単離されたRNA」)は、天然に存在する生物またはウイルスの他の成分、例えば、そのポリヌクレオチドと一般的には関連して見出される細胞もしくはウイルスの構造成分または他のポリペプチドもしくは核酸の少なくともいくつかから少なくとも部分的に分離されたポリヌクレオチドを意味する。代表的実施形態では、「単離された」ヌクレオチドは、出発材料と比較して、少なくとも約10倍、100倍、1000倍、10,000倍またはそれ以上富化されている。
【0041】
同様に、「単離された」ポリペプチドとは、天然に存在する生物またはウイルスの他の成分、例えば、そのポリペプチドと一般的には関連して見出される細胞もしくはウイルスの構造成分または他のポリペプチドもしくは核酸の少なくともいくつかから少なくとも部分的に分離されたポリペプチドを意味する。代表的実施形態では、「単離された」ポリペプチドは、出発材料と比較して、少なくとも約10倍、100倍、1000倍、10,000倍またはそれ以上富化されている。
【0042】
本明細書中で使用する場合、ウイルスベクターを「単離する」もしくは「精製する」(または文法的等価物)とは、そのウイルスベクターが、出発材料中の他の成分の少なくともいくつかから少なくとも部分的に分離されることを意味する。代表的実施形態では、「単離された」または「精製された」ウイルスベクターは、出発材料と比較して、少なくとも約10倍、100倍、1000倍、10,000倍またはそれ以上富化されている。
【0043】
「治療的分子」(例えば、核酸またはポリペプチド)は、細胞もしくは対象中のタンパク質の非存在もしくは欠損から生じる症状を緩和、低下、予防、遅延および/もしくは安定化できる分子ならびに/または利益を他の方法で対象に付与する分子である。かかる治療的分子は、本明細書中に記載されるウイルスベクターに存在し、核酸の発現を促進する調節配列下にある異種核酸によりコードされ得る。
【0044】
用語「治療する(treat/treating)」または「~の治療」(およびその文法的な変形)は、対象の状態の重症度が低下され、少なくとも部分的に改善または安定化されること、および/あるいは少なくとも1つの臨床症状における幾分かの緩和、軽減、減少または安定化が達成されること、および/あるいは疾患または障害の進行の遅延が存在することを意味する。
【0045】
用語「予防する(prevent/preventing)」および「予防」(およびその文法的な変形)とは、対象における疾患、障害および/または臨床症状(複数可)の発症の予防および/または遅延、ならびに/あるいは本発明の方法の非存在下で生じるものと比較した、疾患、障害および/または臨床症状(複数可)の発症の重症度における低下をいう。予防は、疾患、障害および/または臨床症状(複数可)の完全な非存在のように、完全であり得る。予防は部分的でもあり得、その結果、対象における疾患、障害および/または臨床症状(複数可)の出現ならびに/あるいは発症の重症度は、本発明の非存在下で生じるものよりも低くなる。
【0046】
「治療有効」、「治療的」または「有効」量は、本明細書中で使用する場合、ある程度の改善または利益を対象に提供するのに充分な量である。言い換えれば、「治療有効」、「治療的」または「有効」量は、対象における少なくとも1つの臨床症状におけるある程度の緩和、軽減、減少または安定化を提供する量である。ある程度の利益が対象に提供される限り、治療効果は完全である必要も治癒的である必要もないことを、当業者であれば理解するであろう。
【0047】
「予防有効」量は、本明細書中で使用する場合、対象における疾患、障害および/または臨床症状の発症を予防および/または遅延するのに充分な量、ならびに/あるいは本発明の方法の非存在下で生じるものと比較して、対象における疾患、障害および/または臨床症状の発症の重症度を低下および/または遅延させるのに充分な量である。ある程度の利益が対象に提供される限り、予防のレベルが完全である必要がないことを、当業者は理解するであろう。
【0048】
用語「異種ヌクレオチド配列」、「異種核酸」、または「異種核酸分子」は、本明細書中では互換的に使用され、ウイルス中に天然に存在しない配列をいう。一般に、異種核酸は、治療分子または診断分子などの目的(例えば、細胞または対象への送達のため)のポリペプチドまたは非翻訳RNAをコードするオープンリーディングフレームを含む。
【0049】
本明細書中で使用する場合、用語「ウイルスベクター」、「ベクター」または「遺伝子送達ベクター」とは、核酸送達ビヒクルとして機能し、ビリオン内にパッケージングされたベクターゲノム(例えば、ウイルスDNA[vDNA])を含む、ウイルス(例えば、AAV)粒子をいう。あるいは、いくつかの文脈では、用語「ベクター」は、ベクターゲノム/vDNA単独をいうために使用され得る。
【0050】
本明細書中で使用する場合、ウイルスに言及するとき、用語「ベクター」、「粒子」、および「ビリオン」は互換的に使用され得る。
【0051】
本発明のウイルスベクターは、例えば、国際特許公開公報WO 00/28004に記載されるように、「標的化された」ウイルスベクター(例えば、指向性トロピズムを有する)および/または「ハイブリッド」パルボウイルス(すなわち、ウイルスTRおよびウイルスカプシドが異なるパルボウイルスに由来するもの)がさらに可能であり、前記特許文献の開示は、その全内容が参照により本明細書の一部をなす。
【0052】
本発明のウイルスベクターは、さらに、国際特許公開公報WO 01/92551(その開示は、その全内容が参照により本明細書の一部をなす)に記載される二重鎖パルボウイルス粒子がさらに可能である。したがって、いくつかの実施形態では、二本鎖(二重鎖)ゲノムは、本発明のウイルスカプシド中にパッケージングされ得る。
【図面の簡単な説明】
【0053】
図1】体重に対するAAV投与の効果を示している。AAV治療を受けた(組み合わせたAAV9、AAV2G9、およびAAV2.5G9;N=9)および対照胎児(N=36)の胎児脳および体重が比較された。群間で有意差は観察されなかった(p<0.05)。データは平均値±平均値の標準誤差として示される。有意性は、スチューデントt検定解析によりp≦0.05で決定された。
図2】生物発光によるAAV媒介ホタルルシフェラーゼ形質導入および発現の検出を示している。AAV9、AAV2G9、およびAAV2.5G9を投与された胎児由来の右および左半球(前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉)の個々の切片が生物発光を撮像された。それぞれの画像は、表3に記述される動物番号に対応する。全生物発光はそれぞれの画像の下にフォトン/秒(p/s)で記述されている。データは平均値±平均値の標準誤差として示される。有意性は、スチューデントt検定解析によりp≦0.05で決定された。
【発明を実施するための形態】
【0054】
本発明は、本発明の代表的実施形態が示された添付の図面を参照してここに記載される。しかし本発明は、異なる形態で具体化してもよく、本明細書中に示される実施形態に限定されると解釈すべきではない。むしろ、これらの実施形態は、この開示が徹底的かつ完全となり、本発明の範囲を当業者に完全に伝達するように提供されるものである。
【0055】
特に規定しない限り、本明細書中で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書中で発明の説明において使用される術語は、特定の実施形態だけを記載することを目的としており、本発明を限定することを意図しない。本明細書中で言及されるすべての刊行物、特許出願、特許および他の参考文献は、その全体が参照により本明細書中に組み込まれる。
【0056】
2020年4月23日付のPCT/US2020/029493中のいかなる開示も、本出願の特許請求の範囲のうちのいずれか1つもしくは複数で定義される本発明内に、または本出願においてもしくはそこから派生する任意の特許において将来提出される可能性のある修正された特許請求の範囲に定義される任意の発明内に収まる限り、およびそのまたはそれらの特許請求の範囲が適用される任意の関連する国または国々の法律が、PCT/US2020/029493の開示が、そのまたはそれらの国々においてまたはについてそのまたはそれらの特許請求の範囲に対して最先端の技術の一部であると規定する限り、我々はこれによって本出願またはそこから派生する任意の特許の特許請求の範囲からの前記開示を除外する権利を、本出願またはそこから派生する任意の特許の無効化を妨げるのに必要な程度に留保する。
【0057】
本発明の態様は、グリカン認識フットプリントを規定するAAVカプシドタンパク質上の「ポケット」の発見およびかかる認識フットプリントの異種カプシドタンパク質上への移植とそれによる新規AAVカプシドタンパク質を産生することに関する。このポケットを規定する特定のアミノ酸は同定されており、例えば、AAV9のガラクトース結合部位について本明細書中に記載されている。したがって、本発明は、カプシドタンパク質上への新たなグリカン認識フットプリントの分子移植(例えば、ドナーAAV株カプシドの分子移植)とそれによりカプシドタンパク質を改変することを対象とする。かかる移植は構造モデル研究により導かれ、部位特異的変異誘発により達成される。導入遺伝子(例えば、レポーターカセット)を保有する組換えベクター(かかる移植に由来するカプシドを有する)は細胞培養および動物モデルにおいて急速な作用発現および増強された導入遺伝子発現を示す。この戦略から生み出されるウイルスベクターは、ヒト遺伝子療法臨床試験において観察される用量依存的免疫毒性などの難問に取り組むことができる。
【0058】
いくつかの実施形態では、置換は、第1のAAV血清型(「ドナー」)のカプシドタンパク質由来のグリカン結合部位を前記第1のAAV血清型とは異なる第2のAAV血清型(「鋳型」)中に導入する。したがって、一態様では、本発明は、置換がグリカン結合部位をAAVカプシドタンパク質中に導入しそれによって「改変されたカプシドタンパク質」または「改変されたAAV2.5カプシドタンパク質」を産生する、1つまたは複数のアミノ酸置換を含むAAV2.5カプシドを含むアデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドタンパク質に関する。
【0059】
いくつかの実施形態では、グリカン結合部位はヘキソース結合部位が可能であり、ヘキソースはガラクトース(Gal)、マンノース(Man)、グルコース(Glu)またはフコース(Fuc)である。いくつかの実施形態では、グリカン結合部位はシアル酸(Sia)結合部位が可能であり、Sia残基はN-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)またはN-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)である。いくつかの実施形態では、グリカン結合部位は二糖結合部位が可能であり、二糖は、Sia(アルファ2,3)GalまたはSia(アルファ2,6)Galの形態でガラクトースに連結しているシアル酸である。
【0060】
いくつかの実施形態では、グリカン結合部位はガラクトース結合部位である。いくつかの実施形態では、AAV9ガラクトース結合部位(ドナー)はAAV2.5カプシドタンパク質鋳型中に移植され、移植された(改変された)AAV2.5カプシドタンパク質鋳型に新たなグリカン結合部位を導入する。新たなグリカン結合部位は、1つまたは複数のアミノ酸置換をAAV2.5カプシド鋳型中に導入することにより生成される。
【0061】
所与のAAVウイルスの免疫原性は、アミノ酸配列(例えば、カプシドタンパク質の)のわずかな変化からでさえ変更することができる。このようにして、所与のAAVベクター治療薬に曝露された対象の中和抗体応答は、変更されたアミノ酸配列を有する同じAAVベクター治療薬の中和抗体応答とは劇的に異なることもある。一般に、わずかなアミノ酸置換しかない突然変異体は免疫学的な理由で好ましい。なぜならば、わずかな突然変異では反応性抗体が少なくなるからである。一部の例では、同じ表現型を示す異なるアミノ酸置換および/または挿入からカプシド突然変異体を生み出す能力があるので、医師は、複数のそのような合理的に設計されたウイルスベクターを利用することもできる。これは、投与された治療薬への既存の中和抗体の影響を減らすのに有利であると考えられ、異なるベクターを使用すれば反復治療薬投与が可能になる。
【0062】
一部の実施形態では、AAV2.5G9は、既存の抗体、例えば、AAVrh10を認識する抗体またはAAV2.5G9を除く他のAAV血清型を認識する抗体により誘発される免疫応答を回避する。一部の実施形態では、既存の抗体は中和抗体である。一部の実施形態では、AAV2.5G9は、治療薬の反復投与のために使用される。一部の実施形態では、AAV2.5G9は一投与のために使用され、AAVrh10はもう一方の投与のために使用される。一部の実施形態では、反復投与のために使用されるAAV2.5G9および他のAAVベクターは、同じウイルス力価で使用される。一部の実施形態では、反復投与のために使用されるAAV2.5G9および他のAAVベクターは、異なるウイルス力価で使用される。
【0063】
一部の実施形態では、アミノ酸置換は、a)SQAGASDIRDQSR464-476SXAGXSXQXR(X1~7は任意のアミノ酸であってよい)、およびb)EYSW500-503EXW(X8~9は任意のアミノ酸であってよい)を含む。一部の実施形態では、こうして得られた改変AAV2.5カプシドタンパク質は267位に置換を含まない。一部の実施形態では、こうして得られた改変AAV2.5カプシドタンパク質は267位にアラニンの代わりにセリンの置換を含まない。
【0064】
いくつかの実施形態では、アミノ酸置換は、AAV2.5(配列番号1;VP1番号付け)中のアミノ酸464~476、および/またはアミノ酸500~503にある。
【0065】
いくつかの実施形態では、XはVもしくはその保存的置換であり、XはPもしくはその保存的置換であり、XはNもしくはその保存的置換であり、XはMもしくはその保存的置換であり、XはAもしくはその保存的置換であり、XはVもしくはその保存的置換であり、XはGもしくはその保存的置換であり、XはFもしくはその保存的置換であり、および/またはXはAもしくはその保存的置換である。
【0066】
いくつかの実施形態では、XはVであり、XはPであり、XはNであり、XはMであり、XはAであり、XはVであり、XはGであり、XはFであり、およびXはAであり、それによってガラクトース結合部位である新しいグリカン結合部位が生じる。
【0067】
AAV2.5カプシド鋳型は、配列番号1のアミノ酸配列、またはその機能的誘導体を有し得る。アミノ酸配列の機能的誘導体は、アミノ酸置換、挿入または欠失を有してもよく、この誘導体では最初の配列の1つまたは複数の特性または機能を実質的に保持している。一部の実施形態では、機能的誘導体は、AAV2.5のアミノ酸267に対応する位置に置換を含まない。一部の実施形態では、機能的誘導体は、AAV2.5のアミノ酸267に対応する位置にセリン置換を含まない。
【0068】
機能的誘導体は、タンパク質機能に実質的な影響を及ぼさないアミノ酸置換、挿入および/または欠失を有し、例えば、誘導体は、最初のタンパク質の活性と比べた場合、1つまたは複数の活性(特性または機能)を保持する(例えば、配列番号1)。かかる誘導体は、最初のタンパク質の1つまたは複数の活性に関して少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%を保持するまたは区別がつかない(有意差がない)。かかる活性は、限定なしに、1つまたは複数の細胞型トロピズムおよび/または組織トロピズムを含む。
【0069】
いくつかの実施形態では、機能的誘導体は、配列番号1の1つまたは複数の保存的アミノ酸置換から生じる。保存的アミノ酸置換の例は本明細書中に提供されている。一部の実施形態では、機能的誘導体は、AAV2.5のアミノ酸267に対応する位置に置換を含まない。一部の実施形態では、機能的誘導体は、AAV2.5のアミノ酸267に対応する位置にセリン置換を含まない。
【0070】
いくつかの実施形態では、AAVカプシドタンパク質鋳型/骨格は、AAV2.5(配列番号1;VP1番号付け)由来であり、アミノ酸置換は、任意の組合せでの、Q465V置換、A468P置換、D470N置換、I471M置換、R472A置換、D473V置換、S475G置換、Y501F置換および/またはS502A置換である。したがって、いくつかの実施形態では、本発明は、置換がAAV2.5カプシドタンパク質中にグリカン結合部位を導入する、Q465V置換、A468P置換、D470N置換、I471M置換、R472A置換、D473V置換、S475G置換、Y501F置換およびS502A置換を含むAAV2.5(配列番号1;VP1番号付け)由来のAAVカプシドタンパク質骨格を含むAAV2.5カプシドタンパク質を提供する。一部の実施形態では、AAV2.5カプシドタンパク質は、AAV2.5のアミノ酸267に対応する位置に置換を含まない、および/またはAAV2.5のアミノ酸267に対応する位置にセリン置換を含まない。
【0071】
鋳型としての役割を果たすAAV2.5カプシドタンパク質は、米国特許第9,012,224号に記載されるAAV2カプシド配列への特定の突然変異に起源を持っており、前記特許文献の内容は参照により本明細書の一部をなすものとする。これは、それらの特定の位置(Q263A;265insT;N705A;V708A;T716N)でAAV1に似ているAAV2中の5つのアミノ酸を変えることにより生成された。こうして得られたアミノ酸改変は下の配列(配列番号1)に大文字で示されている。こうして得られたAAV2.5カプシドタンパク質からウイルス粒子に与えられた特性はよく特徴付けられている(米国特許第9,012,224号)。以下に限定されないが、AAV2.5カプシドがウイルス粒子に与える特性は、AAV2と比べて、増強された骨格筋トロピズム、低下した肝臓-肝細胞トロピズム、神経トロピズム、およびグリアトロピズム(例えば、星状細胞)、ならびに、既存のAAV2およびAAV1中和抗体からの中和を回避する能力を含む。本明細書中に記載される本発明のいくつかの実施形態では、AAV2.5カプシドタンパク質のアミノ酸配列は、配列番号1に示される配列であり、これはVP1番号付けを利用している。いくつかの実施形態では、AAV2.5カプシドタンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列を有するカプシドタンパク質の機能的誘導体である。一部の実施形態では、機能的誘導体は、AAV2.5のアミノ酸267に対応する位置に置換を含まない、および/またはAAV2.5のアミノ酸267に対応する位置にセリン置換を含まない。
【0072】
<配列番号1 AAV2.5カプシドタンパク質>
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481 gpcyrqqrvs ktsadnnnse yswtgatkyh lngrdslvnp gpamashkdd eekffpqsgv
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601 vlpgmvwqdr dvylqgpiwa kiphtdghfh psplmggfgl khpppqilik ntpvpanpst
661 tfsaakfasf itqystgqvs veiewelqke nskrwnpeiq ytsnyAksAn vdftvdNngv
721 eprpigtr yltrnl (AAV2.5)
【0073】
いくつかの実施形態では、AAV2.5カプシドは、配列番号1に示される配列に少なくとも約70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、または99%類似するまたは同一であるアミノ酸配列を有する。一部の実施形態では、AAV2.5カプシドタンパク質は、AAV2.5のアミノ酸267に対応する位置に置換を含まない、および/またはAAV2.5のアミノ酸267に対応する位置にセリン置換を含まない。
【0074】
例えば、特定の実施形態では、「AAV2.5」カプシドタンパク質は、配列番号1に示されるアミノ酸配列、ならびに配列番号1のアミノ酸配列に少なくとも約75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、または99%類似するまたは同一である配列を包含し、AAV2.5カプシドタンパク質は、AAV2.5のアミノ酸267に対応する位置に置換を含まない、および/またはAAV2.5のアミノ酸267に対応する位置にセリン置換を含まない。
【0075】
2つ以上のアミノ酸配列間の配列類似性または同一性を決定する方法は、当該分野で公知である。配列類似性または同一性は、当該分野で公知の標準的な技術を使用して決定され得、この技術には、SmithおよびWaterman.Adv.Appl.Math.2:482(1981)の局所配列同一性アルゴリズム、NeedlemanおよびWunsch.J.Mol.Biol.48:443(1970)の配列同一性アラインメントアルゴリズム、PearsonおよびLipman.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:2444(1988)の類似性検索方法、これらのアルゴリズムのコンピュータ化実行(Wisconsin Genetics Software Package、Genetics Computer Group、575 Science Drive、Madison、WIにおけるGAP、BESTFIT、FASTAおよびTFASTA)、Devereuxら、Nucl.Acid Res.12:387-395(1984)に記載されるBest Fit配列プログラム、または検査が含まれるがこれらに限定されない。
【0076】
別の適切なアルゴリズムは、Altschulら、J.Mol.Biol.215:403-410(1990)およびKarlinら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873-5787(1993)に記載されたBLASTアルゴリズムである。特に有用なBLASTプログラムは、Altschulら、Methods in Enzymology 266:460-480(1996);;blast.wustl/edu/blast/README.htmlから得られるWU-BLAST-2プログラムである。WU-BLAST-2は、任意選択的にデフォルト値に設定されるいくつかの検索パラメータを使用する。これらのパラメータは、ダイナミックな値であり、特定の配列の組成および対象の配列がそれに対して検索されている特定のデータベースの構成に依存して、プログラム自体によって設定されるが、これらの値は、感度を増加させるために調整されてよい。
【0077】
さらに、追加の有用なアルゴリズムは、Altschulら、Nucleic Acids Res.25:3389-3402(1997)により報告されているギャップドBLASTである。
【0078】
一部の実施形態では、本発明の改変AAVカプシドタンパク質は、配列番号2に示されるアミノ酸配列を有する、またはその機能的誘導体である(例えば、AAV2.5カプシドタンパク質は、AAV2.5のアミノ酸267に対応する位置に置換を含まない、および/またはAAV2.5のアミノ酸267に対応する位置にセリン置換を含まない)。
【0079】
いくつかの実施形態では、改変AAVカプシドタンパク質は、配列番号2のヌクレオチド配列またはそれに少なくとも約70%同一である、例えば、それに少なくとも約70%同一である、例えば、それに少なくとも約70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、もしくは99%同一であるヌクレオチド配列を含む、から本質的になる、またはからなる(例えば、AAV2.5カプシドタンパク質は、AAV2.5のアミノ酸267に対応する位置に置換を含まない、および/またはAAV2.5のアミノ酸267に対応する位置にセリン置換を含まない)。
【0080】
<配列番号2 AAV2.5G9カプシドタンパク質>
1 maadgylpdw ledtlsegir qwwklkpgpp ppkpaerhkd dsrglvlpgy kylgpfngld
61 kgepvneada aalehdkayd rqldsgdnpy lkynhadaef qerlkedtsf ggnlgravfq
121 akkrvleplg lveepvktap gkkrpvehsp vepdsssgtg kagqqparkr lnfgqtgdad
181 svpdpqplgq ppaapsglgt ntmatgsgap madnnegadg vgnssgnwhc dstwmgdrvi
241 ttstrtwalp tynnhlykqi ssAsTgasnd nhyfgystpw gyfdfnrfhc hfsprdwqrl
301 innnwgfrpk rlnfklfniq vkevtqndgt ttiannltst vqvftdseyq lpyvlgsahq
361 gclppfpadv fmvpqygylt lnngsqavgr ssfycleyfp sqmlrtgnnf tfsytfedvp
421 fhssyahsqs ldrlmnplid qylyylsrtn tpsgtttqsr lqfSVAGPSN MAVQGRnwlp
481 gpcyrqqrvs ktsadnnnsE FAWtgatkyh lngrdslvnp gpamashkdd eekffpqsgv
541 lifgkqgsek tnvdiekvmi tdeeeirttn pvateqygsv stnlqrgnrq aatadvntqg
601 vlpgmvwqdr dvylqgpiwa kiphtdghfh psplmggfgl khpppqilik ntpvpanpst
661 tfsaakfasf itqystgqvs veiewelqke nskrwnpeiq ytsnyAksAn vdftvdNngv
721 yseprpigtr yltrnl (AAV2.5G9 A267)
【0081】
本明細書中で提供される例は、AAV9ドナーからのガラクトース結合部位の導入のためのAAV2.5鋳型での可能なアミノ酸置換を示している。これらの例は、限定的であることが意図されておらず、ドナーAAV血清型由来のグリカン結合部位は、本明細書中に記載される「ポケット」を規定する残基を改変することにより、異なるAAV血清型のカプシドタンパク質鋳型中に導入することができるという原理を実証している。
【0082】
新たなグリカン結合部位を含むかかる改変されたまたはキメラカプシドタンパク質は、増加した細胞表面結合およびインビボでのさらに迅速で増強された導入遺伝子発現という有益な表現型を有するウイルスベクターとして使用可能であるウイルス粒子を作り上げるカプシドに組み立てることが可能である。
【0083】
表2は、本発明が包含し得る非限定的な例となるAAVの血清型ならびにゲノムおよびカプシド配列の受託番号を列挙している。ドナーおよび鋳型のAAV血清型はヒトAAVに限定されず、非ヒトAAV、例えば、トリまたはウシAAV、ならびに非ヒト霊長類AAVを含んでいてもよく、その例は表1に示されている。本明細書中で使用する場合、用語「アデノ随伴ウイルス」(AAV)には、1型AAV、2型AAV、2.5型AAV、3型AAV(3A型および3B型を含む)、4型AAV、5型AAV、6型AAV、7型AAV、8型AAV、9型AAV、10型AAV、11型AAV、トリAAV、ウシAAV、イヌAAV、ウマAAV、ヒツジAAV、クレードF AAVおよび現在公知のまたは後に発見される任意の他のAAVが含まれるが、これらに限定されない。例えば、BERNARD N.FIELDSら、VIROLOGY、第2巻、第69章(第4版、Lippincott-Raven Publishers)を参照のこと。多数の比較的新しいAAV血清型およびクレードが同定されている(表1参照のこと)。
【0084】
AAVの種々の血清型のゲノム配列、ならびにネイティブ末端反復(TR)、Repタンパク質およびカプシドサブユニットの配列が、当該分野で公知である。かかる配列の例示的であるが非限定的な例は、文献中またはGenBank(登録商標)データベースなどの公的データベース中で見出され得る。例えば、GenBank(登録商標)データベース受託番号NC_002077.1、NC_001401.2、NC_001729.1、NC_001863.1、NC_001829.1、NC_006152.1、NC_001862.1、AF513851.1、AF513852.1を参照でき、その開示は、パルボウイルスおよびAAVの核酸配列およびアミノ酸配列を教示するために、参照により本明細書の一部をなすものとする。例えば以下もまた参照のこと:Srivistavaら(1983)J.Virology 45:555頁;Chioriniら(1998)J.Virology 71:6823頁;Chioriniら(1999)J.Virology 73:1309頁;Bantel-Schaalら(1999)J.Virology 73:939頁;Xiaoら(1999)J.Virology 73:3994頁;Muramatsuら(1996)Virology 221:208頁;Shadeら(1986)J.Virol.58:921頁;Gaoら(2002)Proc.Nat.Acad.Sci.USA 99:11854頁;国際特許公開公報WO 00/28061、WO 99/6160、WO 98/11244;および米国特許第6,156,303号;これらの開示は、パルボウイルスおよびAAVの核酸配列およびアミノ酸配列を教示するために、参照により本明細書の一部をなすものとする。
【0085】
自律的パルボウイルスおよびAAVのカプシド構造は、BERNARD N.FIELDSら、VIROLOGY、第2巻、第69章および第70章(第4版、Lippincott-Raven Publishers)中により詳細に記載されている。AAV2(Xieら(2002)Proc.Nat.Acad.Sci.99:10405~10頁)、AAV4(Padronら(2005)J.Virol.79:5047~58頁)、AAV5(Waltersら(2004)J.Virol.78:3361~71頁)およびCPV(Xieら(1996)J.Mol.Biol.6:497~520頁およびTsaoら(1991)Science 251:1456~64頁)の結晶構造の説明もまた参照のこと。
【0086】
本発明の他の態様は、本発明の改変AAVカプシドタンパク質を含むカプシドであって、例えば、改変AAV2.5カプシドタンパク質は、AAV2.5のアミノ酸267に対応する位置に置換を含まない、および/またはAAV2.5のアミノ酸267に対応する位置にセリン置換を含まない、カプシドに関する。
【0087】
本発明の他の態様は、(a)本発明の改変AAVカプシド(例えば、AAV2.5カプシドタンパク質は、AAV2.5のアミノ酸267に対応する位置に置換を含まない、および/またはAAV2.5のアミノ酸267に対応する位置にセリン置換を含まない)、および(b)少なくとも1つの末端反復配列を含む核酸を含むウイルスベクターまたは粒子に関し、核酸はカプシドによりカプシド封入されている。
【0088】
本発明の他の態様は、薬学的に許容される担体中に、改変AAV2.5カプシドタンパク質、ならびに/または改変AAV2.5カプシドタンパク質を含むAAVカプシドおよび/もしくはウイルスベクターを含む組成物に関する(例えば、AAV2.5カプシドタンパク質は、AAV2.5のアミノ酸267に対応する位置に置換を含まない、および/またはAAV2.5のアミノ酸267に対応する位置にセリン置換を含まない)。
【0089】
本発明は、改変AAV2.5カプシドタンパク質(例えば、AAV2.5カプシドタンパク質は、AAV2.5のアミノ酸267に対応する位置に置換を含まない、および/またはAAV2.5のアミノ酸267に対応する位置にセリン置換を含まない)を含むウイルスベクターと細胞を接触させることを含む、核酸を細胞中に導入する方法をさらに提供する。細胞は対象中に存在し得、いくつかの実施形態では、対象はヒト対象が可能である。いくつかの実施形態では、対象は子宮内にあってもよい。いくつかの実施形態では、細胞は神経系細胞(例えば、神経細胞またはグリア細胞、例えば、神経組織の細胞)でもよい。いくつかの実施形態では、結果としてのウイルスベクターは、細胞に接触させた場合のドナーおよび鋳型血清型のウイルスベクターの形質導入レベルと比べて、細胞に接触させた場合に増強された形質導入(例えば、細胞(例えば、神経系細胞、例えば、神経細胞)での核酸発現の増強されたレベル)を有する。例えば、AAVカプシドタンパク質ドナーがAAV血清型9であり、AAVカプシドタンパク質鋳型がAAV血清型2.5(AAV2.5)である場合、得られたウイルスベクターはAAV1、AAV2、AAV9、またはAAV2.5と比較される。
【0090】
[ウイルスベクターを生成する方法]
本発明は、本発明の改変されたカプシドタンパク質およびカプシドを含むウイルスベクターもまた包含する。特定の実施形態では、ウイルスベクターは、パルボウイルスベクター(例えば、パルボウイルスカプシドおよび/またはベクターゲノムを含んでいる)、例えば、AAVベクター(例えば、AAVカプシドおよび/またはベクターゲノムを含んでいる)である。代表的な実施形態では、ウイルスベクターは、本発明の改変カプシドタンパク質サブユニットを含む改変AAVカプシドと、ベクターゲノムとを含む。
【0091】
例えば、代表的実施形態では、ウイルスベクターは、(a)本発明の改変されたカプシドタンパク質を含む改変されたウイルスカプシド(例えば、改変されたAAVカプシド)と、(b)末端反復配列(例えば、AAV-TR)を含む核酸とを含み、この末端反復配列を含む核酸は、改変されたウイルスカプシドによってカプシド封入されている。核酸は、2つの末端反復(例えば、2つのAAV-TR)を任意選択的に含み得る。
【0092】
代表的な実施形態では、ウイルスベクターは、ウイルスのゲノムが目的の異種核酸を含む組換えウイルスベクターである。異種核酸は、目的のポリペプチドまたは機能的RNAをコードし得る。組換えウイルスベクターは下にさらに詳細に記載されている。異種核酸は、標的細胞での発現を促進する適切な制御配列に作動可能に連結されることが可能である。例えば、異種核酸は、転写/翻訳制御シグナル、複製起点、ポリアデニル化シグナル、配列内リボソーム進入部位(IRES)、プロモーター、および/またはエンハンサー、および同類のものなどの発現制御エレメントに作動可能に結合することができる。
【0093】
特定の実施形態では、本発明のウイルスベクターは、改変されたカプシドタンパク質なしのウイルスベクターによる形質導入のレベルと比べた場合(例えば、AAV2.5カプシドタンパク質を有するウイルスベクターと比べた場合)、肝臓の変更された(例えば、低下した)形質導入を有する。特定の実施形態では、ウイルスベクターは、筋肉に対して全身的形質導入を有し、例えば、ベクターは体全体を通じて複数の骨格筋群を形質導入し、任意選択的に心筋および/または横隔膜筋を形質導入する。いくつかの実施形態では、本発明のウイルスベクターは、適切な対照と比べた場合(例えば、他の組織と比べた場合、および/または、他のウイルスベクター、例えば、改変されたカプシドタンパク質のないベクター、例えば、AAV1、AAV2、AAV9、AAV2.5、もしくは表1に列挙されている任意のAAV血清型、を用いた形質導入のレベルと比べた場合)、神経系(例えば、ニューロン、星状細胞などのグリアまたはオリゴデンドロサイト)組織において増強された形質導入(例えば、増強されたレベルの核酸発現)を有する。適切な対照は、移植されたグリカン結合部位を組み入れられていないことを除き、他の点では同一のウイルスベクターでもよい。
【0094】
一部の実施形態では、AAV2.5G9は、AAVrh10と比べた場合、所与の細胞型での形質導入では実質的な増加(例えば、10X、20X、30X、40X、50X、60X、70X、80X、90Xを超える、または100Xを超える)を示す。例えば、AAV2.5G9は、相対的ルシフェラーゼ単位RLU Lucにより測定した場合、AAVrh10と比べてヒト皮膚線維芽細胞GM16095細胞では10Xを超えるから100Xを超える形質導入を示すことがある。AAV2.5G9は、相対的ルシフェラーゼ単位RLU Lucにより測定した場合、AAVrh10と比べて神経細胞またはグリア細胞(星状細胞または乏突起膠細胞などの)では10Xを超えるから100Xを超える形質導入を示すことがある。
【0095】
本発明の改変されたカプシドタンパク質、ウイルスカプシドおよびウイルスベクターは、その天然の(すなわち、グリカン結合部位を導入する本明細書中に記載される置換で「改変されて」いない)状態で特定された位置に指示されたアミノ酸を有するカプシドタンパク質、カプシドおよびウイルスベクターを除外することは当業者であれば理解する。
【0096】
本発明は、本発明のウイルスベクターを生成する方法をさらに提供する。1つの代表的実施形態では、本発明は、ウイルスベクターを生成する方法を提供し、この方法は、(a)少なくとも1つのTR配列(例えば、AAV-TR配列)を含む核酸鋳型と、(b)核酸鋳型の複製およびAAVカプシド中へのカプシド封入に充分なAAV配列(例えば、本発明のAAVカプシドをコードするAAVのrep配列およびAAVのcap配列)とを、細胞に提供するステップを含む。任意選択的に、核酸鋳型は、少なくとも1つの異種核酸配列をさらに含む。特定の実施形態では、核酸鋳型は2つのAAV ITR配列を含み、これらは、(存在する場合)異種核酸配列に対して5’側および3’側に位置するが、異種核酸配列と直接隣接している必要はない。
【0097】
核酸鋳型ならびにAAVのrepおよびcap配列は、AAVカプシド内にパッケージングされた核酸鋳型を含むウイルスベクターが細胞中で生成されるような条件下で提供される。この方法は、細胞からウイルスベクターを回収するステップをさらに含み得る。ウイルスベクターは、培地からおよび/または細胞を溶解することによって回収され得る。
【0098】
細胞は、AAVウイルスの複製を許容する細胞であり得る。当該分野で公知の任意の適切な細胞が使用され得る。特定の実施形態では、細胞は哺乳動物細胞である。別の選択肢として、細胞は、複製欠損ヘルパーウイルスから欠失した機能を提供するトランス補完性(trans-complementing)パッケージング細胞株、例えば、293細胞または他のE1aトランス補完性細胞であり得る。
【0099】
AAV複製およびカプシド配列は、当該分野で公知の任意の方法によって提供され得る。現在のプロトコールは典型的に、単一のプラスミド上のAAVのrep/cap遺伝子を発現する。AAV複製およびパッケージング配列は、一緒に提供される必要はないが、一緒に提供するのが簡便であり得る。AAVのrepおよび/またはcap配列は、任意のウイルスベクターまたは非ウイルスベクターによって提供され得る。例えば、rep/cap配列は、ハイブリッドアデノウイルスまたはヘルペスウイルスベクターによって提供され得る(例えば、欠失型アデノウイルスベクターのE1a領域またはE3領域中に挿入される)。EBVベクターもまた、AAVのcapおよびrep遺伝子を発現するために使用され得る。この方法の1つの利点は、EBVベクターがエピソームであるが、連続する細胞分裂を通じてずっと高コピー数を維持する(すなわち、染色体外エレメントとして細胞中に安定的に組み込まれ、「EBVベースの核エピソーム」と呼ばれる)ことである。
【0100】
さらなる代替として、rep/cap配列は、細胞中に安定に取り込まれ得る。
【0101】
典型的には、AAVのrep/cap配列は、これらの配列のレスキューおよび/またはパッケージングを防止するために、TRと隣接していない。
【0102】
核酸鋳型は、当該分野で公知の任意の方法を使用して細胞に提供され得る。例えば、鋳型は、非ウイルスベクター(例えば、プラスミド)またはウイルスベクターによって供給され得る。特定の実施形態では、核酸鋳型は、ヘルペスウイルスベクターまたはアデノウイルスベクターによって供給される(例えば、欠失型アデノウイルスのE1a領域またはE3領域中に挿入される)。別の例として、AAV TRが隣接するレポーター遺伝子を保有するバキュロウイルスベクターを使用可能である。EBVベクターもまた、rep/cap遺伝子に関して上記したように、鋳型を送達するために使用され得る。
【0103】
別の代表的実施形態では、核酸鋳型は、複製するrAAVウイルスによって提供される。なお他の実施形態では、核酸鋳型を含むAAVプロウイルスは、細胞の染色体中に安定に組み込まれる。
【0104】
ウイルス力価を増強するために、増殖性AAV感染を促進するヘルパーウイルス機能(例えば、アデノウイルスまたはヘルペスウイルス)が、細胞に提供され得る。AAV複製に必要なヘルパーウイルス配列は、当該分野で公知である。典型的には、これらの配列は、ヘルパーアデノウイルスベクターまたはヘルペスウイルスベクターによって提供される。あるいは、アデノウイルス配列またはヘルペスウイルス配列は、例えば、効率的なAAV生成を促進するヘルパー遺伝子のすべてを保有する非感染性アデノウイルスミニプラスミドとして、別の非ウイルスベクターまたはウイルスベクターによって提供され得る。
【0105】
さらに、ヘルパーウイルス機能は、染色体中に埋め込まれたまたは安定な染色体外エレメントとして維持されるヘルパー配列を有するパッケージング細胞によって提供され得る。一般に、ヘルパーウイルス配列は、AAVビリオン中にパッケージングすることはできない、例えば、ヘルパーウイルス配列にTRは隣接していない。
【0106】
単一のヘルパー構築物上のAAV複製およびカプシド配列ならびにヘルパーウイルス配列(例えば、アデノウイルス配列)を提供することが有利であり得ることを、当業者は理解するであろう。このヘルパー構築物は、非ウイルス構築物でもウイルス構築物でもよい。1つの非限定的説明として、ヘルパー構築物は、AAVのrep/cap遺伝子を含むハイブリッドアデノウイルスまたはハイブリッドヘルペスウイルスであり得る。
【0107】
1つの特定の実施形態では、AAVのrep/cap配列およびアデノウイルスヘルパー配列は、単一のアデノウイルスヘルパーベクターによって供給される。このベクターは、核酸鋳型をさらに含み得る。AAVのrep/cap配列および/またはrAAV鋳型は、アデノウイルスの欠失した領域(例えば、E1a領域またはE3領域)中に挿入され得る。
【0108】
さらなる実施形態では、AAVのrep/cap配列およびアデノウイルスヘルパー配列は、単一のアデノウイルスヘルパーベクターによって供給される。この実施形態によれば、rAAV鋳型は、プラスミド鋳型として提供され得る。
【0109】
別の例示的実施形態では、AAVのrep/cap配列およびアデノウイルスヘルパー配列は、単一のアデノウイルスヘルパーベクターによって提供され、rAAV鋳型は、プロウイルスとして細胞中に取り込まれる。あるいは、rAAV鋳型は、染色体外エレメント(例えば、EBVベースの核エピソーム)として細胞内で維持されるEBVベクターによって提供される。
【0110】
さらなる例示的な実施形態では、AAVのrep/cap配列およびアデノウイルスヘルパー配列は、単一のアデノウイルスヘルパーによって提供される。rAAV鋳型は、別個の複製するウイルスベクターとして提供され得る。例えば、rAAV鋳型は、rAAV粒子または第2の組換えアデノウイルス粒子によって提供され得る。
【0111】
上述の方法によれば、ハイブリッドアデノウイルスベクターは典型的に、アデノウイルスの複製およびパッケージングに充分なアデノウイルスの5’および3’のシス配列(すなわち、アデノウイルス末端反復およびPAC配列)を含む。AAVのrep/cap配列および存在する場合にはrAAV鋳型は、アデノウイルス骨格中に埋め込まれ、5’および3’のシス配列がそれに隣接しており、その結果これらの配列は、アデノウイルスカプシド中にパッケージングされ得る。上記のように、アデノウイルスヘルパー配列およびAAVのrep/cap配列には一般に、これらの配列がAAVビリオン中にパッケージングされないように、TRとは隣接していない。
【0112】
Zhangら(Gene Ther.18:704-12(2001))は、アデノウイルスならびにAAVのrepおよびcap遺伝子の両方を含むキメラヘルパーを記載している。
【0113】
ヘルペスウイルスもまた、AAVパッケージング法においてヘルパーウイルスとして使用され得る。AAVのrepタンパク質(複数可)をコードするハイブリッドヘルペスウイルスは、拡大縮小可能なAAVベクター生成スキームを有利に促進し得る。AAV2のrepおよびcap遺伝子を発現するハイブリッド単純ヘルペスウイルスI型(HSV-I)ベクターが記載されており、例えば、PCT公開番号WO 00/17377があり、前記特許文献は参照により本明細書の一部をなす。
【0114】
さらなる代替案として、本発明のウイルスベクターは、rep/cap遺伝子およびrAAV鋳型を送達するバキュロウイルスベクターを使用して昆虫細胞において生成することができる。
【0115】
混入するヘルパーウイルスを含まないAAVベクターストックは、当該分野で公知の任意の方法によって得られ得る。例えば、AAVおよびヘルパーウイルスは、サイズに基づいて容易に識別され得る。AAVはまた、ヘパリン基質に対する親和性に基づいて、ヘルパーウイルスから分離され得る。任意の混入するヘルパーウイルスが複製コンピテントにならないように、欠失型複製欠損ヘルパーウイルスが使用され得る。アデノウイルス初期遺伝子発現のみがAAVウイルスのパッケージングを媒介するために必要なので、さらなる代替として、後期遺伝子発現を欠くアデノウイルスヘルパーが使用され得る。後期遺伝子発現が欠損したアデノウイルス変異体は当該分野で公知である(例えば、ts100Kおよびts149アデノウイルス変異体)。
【0116】
[組換えウイルスベクター]
本発明のウイルスベクターは、インビトロ、エクスビボおよびインビボで細胞に核酸を送達するために有用である。特に、ウイルスベクター(改変カプシドタンパク質AAV2.5を含み、例えば、改変AAV2.5カプシドタンパク質は、AAV2.5のアミノ酸267に対応する位置に置換を含まない、および/またはAAV2.5のアミノ酸267に対応する位置にセリン置換を含まない)は、例えば、哺乳動物細胞を含む動物細胞に核酸を送達するまたは移入するように有利に用いることができる。
【0117】
目的の任意の異種核酸配列(複数可)は、本発明のウイルスベクター中で送達され得る。目的の核酸には、治療的(例えば、医療用途または獣医学用途のため)および/または免疫原性(例えば、ワクチンのため)ポリペプチドを含む、ポリペプチドをコードする核酸が含まれる。
【0118】
治療的ポリペプチドには、嚢胞性線維症膜貫通制御タンパク質(cystic fibrosis transmembrane regulator protein(CFTR))、ジストロフィン(ミニジストロフィンおよびマイクロジストロフィン)が含まれる、例えば、Vincentら(1993)Nature Genetics 5:130頁;米国特許公開公報2003017131号;PCT公開番号WO/2008/088895号、Wangら Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97:13714~13719頁(2000);およびGregorevicら Mol.Ther.16:657~64頁(2008)を参照のこと)、ミオスタチンプロペプチド、フォリスタチン、アクチビンII型可溶性受容体、IGF-1、抗炎症性ポリペプチド、例えば、IκB優性変異体、サルコスパン、ユートロフィン(Tinsleyら(1996)Nature 384:349頁)、ミニユートロフィン、凝固因子(例えば、第VIII因子、第IX因子、第X因子など)、エリスロポエチン、アンジオスタチン、エンドスタチン、カタラーゼ、チロシンヒドロキシラーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ、レプチン、LDL受容体、リポタンパク質リパーゼ、オルニチントランスカルバミラーゼ、β-グロビン、α-グロビン、スペクトリン、α1-アンチトリプシン、アデノシンデアミナーゼ、ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ、β-グルコセレブロシダーゼ、スフィンゴミエリナーゼ、リソソームヘキソサミニダーゼA、分岐鎖ケト酸脱水素酵素、RP65タンパク質、サイトカイン(例えば、α-インターフェロン、β-インターフェロン、インターフェロン-γ、インターロイキン-2、インターロイキン-4、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、リンホトキシンなど)、ペプチド増殖因子、神経栄養因子およびホルモン(例えば、ソマトトロピン、インスリン、インスリン様増殖因子1および2、血小板由来増殖因子、上皮増殖因子、線維芽細胞増殖因子、神経増殖因子、神経栄養因子-3および-4、脳由来神経栄養因子、骨形態形成(bone morphogenic)タンパク質[RANKLおよびVEGFが含まれる]、グリア由来増殖因子、形質転換増殖因子-αおよび-βなど)、リソソーム酸α-グルコシダーゼ、α-ガラクトシダーゼA、受容体(例えば、腫瘍壊死増殖因子α可溶性受容体)、S100A1、パルブアルブミン、アデニリルシクラーゼ6型、カルシウムハンドリングをモジュレートする分子(例えば、SERCA2A、PP1のインヒビター1およびそれらの断片[例えば、PCT公開番号WO 2006/029319およびWO 2007/100465])、短縮型の構成的に活性なbARKctなどのGタンパク質共役型受容体キナーゼ2型ノックダウンをもたらす分子、IRAPなどの抗炎症性因子、抗ミオスタチンタンパク質、アスパルトアシラーゼ、モノクローナル抗体(単鎖モノクローナル抗体が含まれ;例示的なMabは、Herceptin(登録商標)Mabである)、ニューロペプチドおよびその断片(例えば、ガラニン、ニューロペプチドY(米国特許第7,071,172号を参照のこと)、バソヒビンなどの血管新生インヒビターならびに他のVEGFインヒビター(例えば、バソヒビン2[PCT公開番号WO JP2006/073052を参照のこと])が含まれるが、これらに限定されない。他の例示的な異種核酸配列は、自殺遺伝子産物(例えば、チミジンキナーゼ、シトシンデアミナーゼ、ジフテリア毒素、および腫瘍壊死因子)、がん療法において使用される薬物に対する耐性を付与するタンパク質、腫瘍抑制遺伝子産物(例えば、p53、Rb、Wt-1)、TRAIL、FAS-リガンド、およびそれを必要とする対象において治療効果を有する任意の他のポリペプチドをコードする。AAVベクターは、モノクローナル抗体および抗体断片、例えば、ミオスタチンに対する抗体または抗体断片を送達するためにも使用され得る(例えば、Fangら Nature Biotechnology 23:584~590頁(2005)を参照のこと)。
【0119】
ポリペプチドをコードする異種核酸配列には、レポーターポリペプチド(例えば、酵素)をコードする異種核酸配列が含まれる。レポーターポリペプチドは当該分野で公知であり、緑色蛍光タンパク質(GFP)、β-ガラクトシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ルシフェラーゼおよびクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子が含まれるが、これらに限定されない。
【0120】
任意選択的に、異種核酸は、分泌型ポリペプチド(例えば、そのネイティブ状態で分泌型ポリペプチドであるポリペプチド、または例えば当該分野で公知の分泌シグナル配列との作動可能な関連によって分泌されるように操作されたポリペプチド)をコードする。
【0121】
あるいは、本発明の特定の実施形態では、異種核酸は、アンチセンス核酸、リボザイム(例えば、米国特許第5,877,022号に記載される)、スプライソソーム媒介性のトランススプライシングをもたらすRNA(Puttarajuら、Nature Biotech.17:246頁(1999);米国特許第6,013,487号;米国特許第6,083,702号を参照のこと)、遺伝子サイレンシングを媒介するsiRNA、shRNAまたはmiRNAを含む干渉RNA(RNAi)(Sharpら、Science 287:2431頁(2000)を参照のこと)および「ガイド」RNAなどの他の非翻訳RNA(Gormanら、Proc.Nat.Acad.Sci.USA 95:4929頁(1998);Yuanらに対する米国特許第5,869,248号)などをコードし得る。例示的な非翻訳RNAには、多剤耐性(MDR)遺伝子産物に対するRNAi(例えば、腫瘍を治療および/もしくは予防するため、ならびに/または化学療法による損傷を予防するために心臓に投与するため)、ミオスタチンに対するRNAi(例えば、デュシェンヌ型筋ジストロフィーのため)、VEGFに対するRNAi(例えば、腫瘍を治療および/または予防するため)、ホスホランバンに対するRNAi(例えば、心血管疾患を治療するため、例えば、Andinoら J.Gene Med.10:132~142頁(2008)およびLiら Acta Pharmacol Sin.26:51~55頁(2005)を参照のこと);ホスホランバンS16Eなどのホスホランバン阻害分子またはドミナントネガティブ分子(例えば、心血管疾患を治療するため、例えば、Hoshijimaら Nat.Med.8:864~871頁(2002)を参照のこと)、アデノシンキナーゼに対するRNAi(例えば、癲癇のため)、ならびに病原性生物およびウイルス(例えば、B型および/またはC型肝炎ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、CMV、単純ヘルペスウイルス、ヒトパピローマウイルスなど)に対するRNAiが含まれる。
【0122】
さらに、選択的スプライシングを指示する核酸配列が送達され得る。説明するために、ストロフィンエクソン51の5’および/または3’スプライス部位に相補的なアンチセンス配列(または他の阻害配列)が、このエクソンの読み飛ばしを誘導するためにU1またはU7低分子核内(sn)RNAプロモーターと合わせて送達され得る。例えば、アンチセンス/阻害配列(複数可)に対して5’側に位置するU1またはU7 snRNAプロモーターを含むDNA配列は、本発明の改変されたカプシド中にパッケージングされて送達され得る。
【0123】
ウイルスベクターは、宿主染色体上の遺伝子座と相同性を共有し、宿主染色体上の遺伝子座と組み換わる異種核酸もまた含み得る。このアプローチは、例えば、宿主細胞中の遺伝的欠陥を修正するために利用され得る。
【0124】
本発明は、例えばワクチン接種のための免疫原性ポリペプチドを発現するウイルスベクターもまた提供する。核酸は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、サル免疫不全ウイルス(SIV)、インフルエンザウイルス、HIVまたはSIVのgagタンパク質、腫瘍抗原、がん抗原、細菌抗原、ウイルス抗原など由来の免疫原が含まれるがこれらに限定されない、当該分野で公知の対象の任意の免疫原をコードし得る。
【0125】
ワクチンベクターとしてのパルボウイルスの使用は当該分野で公知である(例えば、Miyamuraら、Proc.Nat.Acad.Sci USA 91:8507頁(1994);Youngらに対する米国特許第5,916,563号、Mazzaraらに対する米国特許第5,905,040号、米国特許第5,882,652号、Samulskiらに対する米国特許第5,863,541号を参照のこと)。抗原は、パルボウイルスカプシド中に存在し得る。あるいは、抗原は、組換えベクターゲノム中に導入された異種核酸から発現され得る。本明細書中に記載されるおよび/または当該分野で公知の対象の任意の免疫原は、本発明のウイルスベクターによって提供され得る。
【0126】
免疫原性ポリペプチドは、免疫応答を惹起するのに適した、ならびに/または微生物、細菌、原生動物、寄生生物、真菌および/もしくはウイルスの感染および疾患が含まれるがこれらに限定されない感染および/もしくは疾患に対して対象を保護するのに適した任意のポリペプチドであり得る。例えば、免疫原性ポリペプチドは、オルソミクソウイルス免疫原(例えば、インフルエンザウイルスヘマグルチニン(HA)表面タンパク質もしくはインフルエンザウイルス核タンパク質、またはウマインフルエンザウイルス免疫原などの、インフルエンザウイルス免疫原)もしくはレンチウイルス免疫原(例えば、HIVもしくはSIVのエンベロープGP160タンパク質、HIVもしくはSIVのマトリックス/カプシドタンパク質ならびにHIVもしくはSIVのgag、polおよびenv遺伝子産物などの、ウマ感染性貧血ウイルス免疫原、サル免疫不全ウイルス(SIV)免疫原またはヒト免疫不全ウイルス(HIV)免疫原)であり得る。免疫原性ポリペプチドは、アレナウイルス免疫原(例えば、ラッサ熱ウイルス核カプシドタンパク質および/またはラッサ熱エンベロープ糖タンパク質などのラッサ熱ウイルス免疫原)、ポックスウイルス免疫原(例えば、ワクシニアL1またはL8遺伝子産物などのワクシニアウイルス免疫原)、フラビウイルス免疫原(例えば、黄熱病ウイルス免疫原または日本脳炎ウイルス免疫原)、フィロウイルス免疫原(例えば、NPおよびGP遺伝子産物などの、エボラウイルス免疫原またはマールブルグウイルス免疫原)、ブニヤウイルス免疫原(例えば、RVFV、CCHFおよび/またはSFSウイルス免疫原)、またはコロナウイルス免疫原(例えば、ヒトコロナウイルスエンベロープ糖タンパク質などの感染性ヒトコロナウイルス免疫原、またはブタ伝染性胃腸炎ウイルス免疫原またはトリ感染性気管支炎ウイルス免疫原)でもあり得る。免疫原性ポリペプチドはさらに、ポリオ免疫原、ヘルペスウイルス免疫原(例えば、CMV、EBV、HSV免疫原)、ムンプスウイルス免疫原、麻疹ウイルス免疫原、風疹ウイルス免疫原、ジフテリア毒素もしくは他のジフテリア免疫原、百日咳抗原、肝炎(例えば、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎など)免疫原、および/または当該分野で現在公知のまたは免疫原として後に同定される任意の他のワクチン免疫原であり得る。
【0127】
あるいは、免疫原性ポリペプチドは、任意の腫瘍またはがん細胞の抗原であり得る。任意選択的に、腫瘍抗原またはがん抗原は、がん細胞の表面上に発現される。例示的ながんおよび腫瘍細胞の抗原は、S.A.Rosenberg(Immunity 10:281頁(1991))に記載されている。他の例示的ながん抗原および腫瘍抗原には、BRCA1遺伝子産物、BRCA2遺伝子産物、gp100、チロシナーゼ、GAGE-1/2、BAGE、RAGE、LAGE、NY-ESO-1、CDK-4、β-カテニン、MUM-1、カスパーゼ-8、KIAA0205、HPVE、SART-1、PRAME、p15、メラノーマ腫瘍抗原(Kawakamiら(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:3515頁;Kawakamiら(1994)J.Exp.Med.180:347頁;Kawakamiら(1994)Cancer Res.54:3124頁)、MART-1、gp100 MAGE-1、MAGE-2、MAGE-3、CEA、TRP-1、TRP-2、P-15、チロシナーゼ(Brichardら(1993)J.Exp.Med.178:489頁);HER-2/neu遺伝子産物(米国特許第4,968,603号)、CA125、LK26、FB5(エンドシアリン)、TAG72、AFP、CA19-9、NSE、DU-PAN-2、CA50、SPan-1、CA72-4、HCG、STN(シアリルTn抗原)、c-erbB-2タンパク質、PSA、L-CanAg、エストロゲン受容体、乳脂肪グロブリン、p53腫瘍抑制因子タンパク質(Levine、(1993)Ann.Rev.Biochem.62:623頁);ムチン抗原(PCT公開番号WO 90/05142);テロメラーゼ;核マトリックスタンパク質;前立腺酸性ホスファターゼ;パピローマウイルス抗原;および/または現在公知のまたは以下のがんに関連することが後に発見される抗原:メラノーマ、腺癌腫、胸腺腫、リンパ腫(例えば、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫)、肉腫、肺がん、肝臓がん、結腸がん、白血病、子宮がん、乳がん、前立腺がん、卵巣がん、子宮頚がん、膀胱がん、腎臓がん、膵臓がん、脳がん、および現在公知のまたは後に同定される任意の他のがんまたは悪性状態(例えば、Rosenberg、(1996)Ann.Rev.Med.47:481~91頁を参照のこと)が含まれるが、これらに限定されない。
【0128】
さらなる代替として、異種核酸は、インビトロ、エクスビボまたはインビボで細胞中において生成されることが望ましい任意のポリペプチドをコードし得る。例えば、ウイルスベクターは、培養細胞中に導入され得、発現された核酸産物がそこから単離される。
【0129】
対象の異種核酸(複数可)が適切な制御配列と作動可能に関連し得ることが、当業者に理解されよう。例えば、異種核酸は、発現制御エレメント、例えば転写/翻訳制御シグナル、複製起点、ポリアデニル化シグナル、配列内リボソーム進入部位(IRES)、プロモーターおよび/またはエンハンサーなどと、作動可能に関連し得る。
【0130】
さらに、目的の異種核酸(複数可)の調節された発現は、転写後レベルで、例えば、オリゴヌクレオチド、小分子および/または特定の部位におけるスプライシング活性を選択的に遮断する他の化合物(例えば、PCT公開番号WO 2006/119137に記載される)の存在または非存在によって、異なるイントロンの選択的スプライシングを調節することによって、達成され得る。
【0131】
種々のプロモーター/エンハンサーエレメントが、所望されるレベルおよび組織特異的発現に依存して使用され得ることを、当業者は理解するであろう。プロモーター/エンハンサーは、所望の発現パターンに依存して、構成的または誘導性であり得る。プロモーター/エンハンサーは、ネイティブまたは外来であり得、天然配列または合成配列であり得る。外来とは、転写開始領域が、その転写開始領域が導入される野生型宿主において見出されないものであることを意図する。
【0132】
特定の実施形態では、プロモーター/エンハンサーエレメントは、標的細胞または治療される対象にとってネイティブであり得る。代表的実施形態では、プロモーター/エンハンサーエレメントは、異種核酸配列にとってネイティブであり得る。プロモーター/エンハンサーエレメントは一般に、対象の標的細胞(複数可)において機能するように選択される。さらに、特定の実施形態では、プロモーター/エンハンサーエレメントは、哺乳動物のプロモーター/エンハンサーエレメントである。プロモーター/エンハンサーエレメントは、構成的でも誘導性でもよい。
【0133】
誘導性発現制御エレメントは典型的に、異種核酸配列(複数可)の発現の調節を提供することが望ましい適用において有利である。遺伝子送達のための誘導性プロモーター/エンハンサーエレメントは、組織特異的プロモーター/エンハンサーエレメントまたは好ましいプロモーター/エンハンサーエレメントであり得、筋特異的または好ましい(心筋、骨格筋および/または平滑筋特異的または好ましいものが含まれる)、神経組織特異的または好ましい(脳特異的または好ましいものが含まれる)、眼特異的または好ましい(網膜特異的および角膜特異的なものが含まれる)、肝臓特異的または好ましい、骨髄特異的または好ましい、膵臓特異的または好ましい、脾臓特異的または好ましい、および/または肺特異的または好ましいプロモーター/エンハンサーエレメントが含まれる。他の誘導性プロモーター/エンハンサーエレメントには、ホルモン誘導性エレメントおよび金属誘導性エレメントが含まれる。例示的な誘導性プロモーター/エンハンサーエレメントには、Tetオン/オフエレメント、RU486誘導性プロモーター、エクジソン誘導性プロモーター、ラパマイシン誘導性プロモーターおよびメタロチオネインプロモーターが含まれるが、これらに限定されない。
【0134】
異種核酸配列(複数可)が標的細胞において転写され、次いで翻訳される実施形態では、特異的開始シグナルが一般に、挿入されたタンパク質コード配列の効率的な翻訳のために含まれる。ATG開始コドンおよび隣接配列を含み得るこれらの外因性翻訳制御配列は、天然および合成の両方の、種々の起源のものであり得る。
【0135】
本発明に従うウイルスベクターは、分裂細胞および非分裂細胞を含む広範な細胞中に異種核酸を送達する手段を提供する。ウイルスベクターは、例えば、インビトロでポリペプチドを生成するために、またはエクスビボの遺伝子療法のために、対象の核酸をインビトロで細胞に送達するために使用され得る。ウイルスベクターは、例えば、免疫原性および/もしくは治療的ポリペプチドならびに/または機能的RNAを発現するために、それを必要とする対象に核酸を送達する方法において、さらに有用である。この様式で、ポリペプチドおよび/または機能的RNAは、対象中においてインビボで生成され得る。対象は、ポリペプチドの欠乏症を有するので、そのポリペプチドを必要とし得る。さらに、対象におけるポリペプチドおよび/または機能的RNAの生成は、ある程度の有益な効果を付与し得るので、この方法が実施され得る。
【0136】
ウイルスベクターは、(例えば、スクリーニング方法と合わせて、例えばポリペプチドを生成するためおよび/または対象に対する機能的RNAの影響を観察するためのバイオリアクタとして対象を使用して)培養細胞または対象において対象のポリペプチドおよび/または機能的RNAを生成するためにも使用され得る。
【0137】
一般に、本発明のウイルスベクターは、治療的ポリペプチドおよび/または機能的RNAを、例えば、それを必要とする対象、例えば、対象は疾患状態または障害を有するまたはそのリスクがある、に送達することが有利な任意の疾患状態または障害を治療および/または予防するために、ポリペプチドおよび/または機能的RNA(例えば、治療的ポリペプチド、例えば、治療的核酸)をコードする異種核酸を送達するために使用され得る。いくつかの実施形態では、疾患状態はCNS疾患または障害である。いくつかの実施形態では、対象は、疾患または障害に関連する疼痛を有するまたはこれを有するリスクがある。いくつかの実施形態では、対象はヒトである。いくつかの実施形態では、対象は子宮内にいる。
【0138】
例示的な疾患状態には、嚢胞性線維症(嚢胞性線維症膜貫通制御タンパク質)および他の肺の疾患、血友病A(第VIII因子)、血友病B(第IX因子)、サラセミア(β-グロビン)、貧血(エリスロポエチン)および他の血液障害、アルツハイマー病(GDF;ネプリライシン)、多発性硬化症(β-インターフェロン)、パーキンソン病(グリア細胞株由来神経栄養因子[GDNF])、ハンチントン病(反復を除去するためのRNAi)、筋萎縮性側索硬化症、癲癇(ガラニン、神経栄養因子)および他の神経学的障害、がん(エンドスタチン、アンジオスタチン、TRAIL、FAS-リガンド、インターフェロンを含むサイトカイン;VEGFまたは多剤耐性遺伝子産物に対するRNAiを含むRNAi、mir-26a[例えば、肝細胞癌腫のため])、真正糖尿病(インスリン)、デュシェンヌ型(ジストロフィン、ミニジストロフィン、インスリン様増殖因子I、サルコグリカン[例えば、α、β、γ]、ミオスタチンに対するRNAi、ミオスタチンプロペプチド、フォリスタチン、アクチビンII型可溶性受容体、抗炎症性ポリペプチド、例えば、IκB優性変異体、サルコスパン、ユートロフィン、ミニユートロフィン、エクソン読み飛ばしを誘導するためのジストロフィン遺伝子中のスプライスジャンクションに対するアンチセンスまたはRNAi[例えば、PCT公開番号WO/2003/095647を参照のこと]、エクソン読み飛ばしを誘導するためのU7 snRNAに対するアンチセンス[例えば、PCT公開番号WO/2006/021724を参照のこと]、およびミオスタチンまたはミオスタチンプロペプチドに対する抗体または抗体断片)およびベッカー型を含む筋ジストロフィー、ゴーシェ病(グルコセレブロシダーゼ)、ハーラー病(α-L-イズロニダーゼ)、アデノシンデアミナーゼ欠乏症(アデノシンデアミナーゼ)、糖原貯蔵障害(例えば、ファブリー病[α-ガラクトシダーゼ]およびポンペ病[リソソーム酸α-グルコシダーゼ])および他の代謝障害、先天性肺気腫(α1-アンチトリプシン)、レッシュ・ナイハン症候群(ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ)、ニーマン・ピック病(スフィンゴミエリナーゼ)、テイ・サックス病(リソソームヘキソサミニダーゼA)、メープルシロップ尿症(分岐鎖ケト酸脱水素酵素)、網膜変性疾患(ならびに眼および網膜の他の疾患;例えば、黄斑変性症についてPDGF、および/あるいは例えばI型糖尿病における網膜障害を治療/予防するためのバソヒビンもしくはVEGFの他のインヒビターまたは他の血管新生インヒビター)、固形臓器の疾患、例えば脳(パーキンソン病[GDNF]、星状細胞腫[エンドスタチン、アンジオスタチン、および/またはVEGFに対するRNAi]、膠芽腫[エンドスタチン、アンジオスタチン、および/またはVEGFに対するRNAi]が含まれる)、肝臓、腎臓、うっ血性心不全または末梢動脈疾患(PAD)を含む心臓(例えば、プロテインホスファターゼインヒビターI(I-1)およびその断片(例えば、I1C)、serca2a、ホスホランバン遺伝子を調節するジンクフィンガータンパク質、Barkct、β2アドレナリン受容体、β2アドレナリン受容体キナーゼ(BARK)、ホスホイノシチド-3キナーゼ(PI3キナーゼ)、S100A1、パルブアルブミン、アデニリルシクラーゼ6型、短縮型の構成的に活性なbARKctなどのGタンパク質共役型受容体キナーゼ2型ノックダウンをもたらす分子;カルサルシン(calsarcin)、ホスホランバンに対するRNAi;ホスホランバンS16Eなどのホスホランバン阻害分子またはドミナントネガティブ分子などを送達することによる)、関節炎(インスリン様増殖因子)、関節障害(インスリン様増殖因子1および/または2)、内膜過形成(例えば、enos、inosを送達することによる)、心臓移植物の生存の改善(スーパーオキシドジスムターゼ)、AIDS(可溶性CD4)、筋消耗(インスリン様増殖因子I)、腎臓欠損症(kidney deficiency)(エリスロポエチン)、貧血(エリスロポエチン)、関節炎(IRAPおよびTNFα可溶性受容体などの抗炎症性因子)、肝炎(α-インターフェロン)、LDL受容体欠乏症(LDL受容体)、高アンモニア血症(オルニチントランスカルバミラーゼ)、クラッベ病(ガラクトセレブロシダーゼ)、バッテン病、SCA1、SCA2およびSCA3を含む脊髄性大脳性運動失調症(spinal cerebral ataxias)、フェニルケトン尿症(フェニルアラニンヒドロキシラーゼ)、自己免疫疾患、先天性神経変性障害(例えば、単一遺伝子神経変性障害)例えば、ムコ多糖症(ムコ多糖症I型(ハーラー症候群、ハーラー・シャイエ症候群、またはシャイエ症候群としても公知である、IDUA、アルファ-L-イズロニダーゼ)、ムコ多糖症II型(ハンター症候群としても公知である、IDS、I2L酵素)、ムコ多糖症III型(サンフィリポ症候群としても公知である、GNS[N-アセチルグルコサミン-6-スルファターゼ]、HGSNAT[ヘパラン-アルファ-グルコサミニドN-アセチルトランスフェラーゼ]、NAGLU[アルファ-N-アセチルグルコサミニダーゼ]、および/またはSGSH[スルファミダーゼ])、ムコ多糖症IV型(モルキオ症候群としても公知である、GALNS[ガラクトサミン(galatosamine)(N-アセチル)-6-スルファターゼ]および/またはGLB1[ベータ-ガラクトシダーゼ])、ムコ多糖症V型(シャイエ症候群としても公知である、現在ではI型のサブグループ、その上IDUA、アルファ-L-イズロニダーゼ)、ムコ多糖症VI型(マロトー・ラミー症候群としても公知である、ARSB、アリルスルファターゼB)、ムコ多糖症VII型(スライ症候群としても公知である、GUSB、ベータ-グルクロニダーゼ)、ムコ多糖症IX型(Natowicz症候群としても公知である、HYAL1、ヒアルロニダーゼ)を含むがこれらに限定されない)および/または白質ジストロフィー(成人発症型常染色体優性白質ジストロフィー(ADLD;LMNB1、ラミンB1)、アイカルディ・グティエール症候群(TREX1、RNASEHSB、RNASEH2C、および/またはRNASEH2A)、アレキサンダー病(FRAP、グリア線維酸性タンパク質)、CADASIL(Notch3)、カナバン病(ASPA、アスパルトアシラーゼ)、CARASIL(HTRA1、セリンプロテアーゼHTRA1)、脳腱黄色腫症(「CTX」、CYP27A1、ステロール27-水酸化酵素)小児運動失調症および脳ミエリン形成不全症(CACH)/白質消失病(VWMD)(eIF2B、真核生物翻訳開始因子2B)、ファブリー病(GLA、アルファ-ガラクトシダーゼA)、フコシドーシス(FUCA1、アルファ-L-フコシダーゼ)、GM1ガングリオシドーシス(GLB1、ベータ-ガラクトシダーゼ)、L-2-ヒドロキシグルタル酸尿症(L2HDGH、L-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼ)、クラッベ病(GALC、ガラクトセレブロシダーゼ)、皮質下嚢胞をもつ大脳型白質脳症(「MLC」、MLC1および/またはHEPACAM)、異染性白質ジストロフィー(ASA、アリルスルファターゼA)、多種スルファターゼ欠損症(「MSD」、SUMF1、すべてのスルファターゼ酵素に影響を与えるスルファターゼ変更因子1)、ペリツェウス・メルツバッヘル病(「X連鎖痙性対麻痺」としても公知である、PLP1[X連鎖プロテオリピドタンパク質1]および/またはGJA12[ギャップ結合タンパク質12])、Pol III関連白質ジストロフィー(POLR3Aおよび/またはPOLR3B)、レフサム病(PHYH、[フィタノイル-CoA水酸化酵素]および/またはPex7[ペルオキシソーム中へのPHYHインポーター])、サラ病(「遊離シアル酸蓄積症」としても公知である、SLC17A5、シアル酸トランスポーター)、シェーグレン・ラルソン症候群(ALDH3A2、アルデヒドデヒドロゲナーゼ)、X連鎖副腎白質ジストロフィー(「ALD」、ABCD1、ペルオキシソームATPアーゼ結合カセットタンパク質)、ツェルウェガー症候群スペクトル障害(ペルオキシソーム形成異常症としても公知である、PEX1、PEX2、PEX3、PEX4、PEX5、PEX10、PEX11B、PEX12、PEX13、PEX14、PEX16、PEX19、PEX26))などが含まれるが、これらに限定されない。本発明はさらに、移植の成功率を増加させるためおよび/または臓器移植もしくは補助療法の負の副作用を低下させるために、臓器移植後に使用され得る(例えば、サイトカイン生成を遮断するために免疫抑制剤または阻害核酸を投与することによって)。別の例として、骨形態形成タンパク質(BNP2、7など、RANKLおよび/またはVEGFを含む)が、例えば、がん患者における破壊(break)または外科的除去後に、骨同種移植片と共に投与され得る。
【0139】
したがって、いくつかの実施形態では、本発明は、治療的核酸が対象において発現される条件下で、本発明のウイルスベクターおよび/または組成物を対象に投与することにより対象の細胞中に治療的核酸を導入することも含む、それを必要とする対象において疾患を治療する方法を提供する。
【0140】
本発明は、誘導多能性幹細胞(iPS)を生成するためにも使用され得る。例えば、本発明のウイルスベクターは、例えば成人線維芽細胞、皮膚細胞、肝臓細胞、腎細胞、脂肪細胞、心臓細胞、神経細胞、上皮細胞、内皮細胞などの非多能性細胞中に、幹細胞関連核酸(複数可)を送達するために使用され得る。幹細胞に関連する因子をコードする核酸は、当該分野で公知である。かかる幹細胞および多能性に関連する因子の非限定的な例には、Oct-3/4、SOXファミリー(例えば、SOX1、SOX2、SOX3および/またはSOX15)、Klfファミリー(例えば、Klf1、Klf2、Klf4および/またはKlf5)、Mycファミリー(例えば、C-myc、L-mycおよび/またはN-myc)、NANOGおよび/またはLIN28が含まれる。
【0141】
本発明は、糖尿病(例えば、インスリン)、血友病(例えば、第IX因子または第VIII因子)などの代謝障害、ムコ多糖障害(例えば、スライ症候群[β-グルクロニダーゼ]、ハーラー症候群[α-L-イズロニダーゼ]、シャイエ症候群[α-L-イズロニダーゼ]、ハーラー・シャイエ症候群[α-L-イズロニダーゼ]、ハンター症候群[イズロン酸スルファターゼ]、サンフィリポ症候群A[ヘパランスルファミダーゼ]、B[N-アセチルグルコサミニダーゼ]、C[アセチル-CoA:α-グルコサミニドアセチルトランスフェラーゼ]、D[N-アセチルグルコサミン 6-スルファターゼ]、モルキオ症候群A[ガラクトース-6-硫酸スルファターゼ]、B[β-ガラクトシダーゼ]、マロトー・ラミー症候群[N-アセチルガラクトサミン-4-スルファターゼ]、など)などのリソソーム蓄積症、ファブリー病(α-ガラクトシダーゼ)、ゴーシェ病(グルコセレブロシダーゼ)、または糖原貯蔵障害(例えば、ポンペ病;リソソーム酸性α-グルコシダーゼ)を治療および/または予防するためにも実行され得る。
【0142】
遺伝子導入は、疾患状態のための療法を理解および提供するためのかなり有望な用途を有する。欠損した遺伝子が既知でありクローニングされている多数の遺伝性疾患が存在する。一般に、上記疾患状態は2つのクラスに入る:(劣性様式で一般に遺伝する、多くは酵素の)欠乏状態、および(調節タンパク質または構造タンパク質が関与し得、典型的には優性様式で遺伝する)バランスを欠いた状態。欠乏状態の疾患について、遺伝子導入は、補充療法のために罹患組織中に正常な遺伝子をもたらすため、ならびにアンチセンス変異を使用して疾患の動物モデルを創出するために使用され得る。バランスを欠いた疾患状態について、遺伝子導入は、モデル系において疾患状態を創出するために使用され得、このモデル系は次いで疾患状態に対抗するための試みにおいて使用され得る。したがって、本発明に従うウイルスベクターは、遺伝疾患の治療および/または予防を可能にする。
【0143】
本発明に従って改変AAV2.5カプシドタンパク質(例えば、改変AAV2.5カプシドタンパク質は、AAV2.5のアミノ酸267に対応する位置に置換を含まない、および/またはAAV2.5のアミノ酸267に対応する位置にセリン置換を含まない)を含むウイルスベクターは、細胞にインビトロまたはインビボで機能的RNAを提供するように用いてもよい。細胞における機能的RNAの発現は、例えば、細胞による特定の標的タンパク質の発現を減殺し得る。したがって、機能的RNAは、それを必要とする対象において特定のタンパク質の発現を減少させるために投与され得る。機能的RNAはまた、遺伝子発現および/または細胞生理学を調節するため、例えば、細胞もしくは組織培養系を最適化するために、またはスクリーニング方法において、インビトロで細胞に投与され得る。
【0144】
さらに、本発明に従う、改変AAV2.5カプシドタンパク質(例えば、改変AAV2.5カプシドタンパク質は、AAV2.5のアミノ酸267に対応する位置に置換を含まない、および/またはAAV2.5のアミノ酸267に対応する位置にセリン置換を含まない)を含むウイルスベクターは、診断方法およびスクリーニング方法において用途を見出し、それにより、対象の核酸が、細胞培養系において、あるいはトランスジェニック動物モデルにおいて、一過的にまたは安定に発現される。
【0145】
本発明のウイルスベクターは、当業者に明らかなように、遺伝子の標的化、クリアランス、転写、翻訳などを評価するためのプロトコールにおける使用が含まれるがこれらに限定されない種々の非治療的目的のためにも使用され得る。ウイルスベクターは、安全性(伝播、毒性、免疫原性など)を評価する目的のためにも使用され得る。かかるデータは、例えば、臨床的有効性の評価の前に、通常の承認プロセスの一部として、米国食品医薬品局によって検討される。
【0146】
さらなる態様として、本発明のウイルスベクターは、対象において免疫応答を生成するために使用され得る。この実施形態によれば、免疫原性ポリペプチドをコードする異種核酸配列を含むウイルスベクターが対象に投与され得、その免疫原性ポリペプチドに対する能動免疫応答が、対象によって開始される。免疫原性ポリペプチドは、本明細書中で上記した通りである。いくつかの実施形態では、防御免疫応答が惹起される。
【0147】
あるいは、ウイルスベクターは、エクスビボで細胞に投与され得、変更された細胞が対象に投与される。異種核酸を含むウイルスベクターが細胞中に導入され、その細胞が対象に投与され、ここで、免疫原をコードする異種核酸が発現され得、対象においてその免疫原に対する免疫応答を誘導し得る。特定の実施形態では、細胞は抗原提示細胞(例えば、樹状細胞)である。
【0148】
「能動免疫応答」または「能動免疫」は、「免疫原との遭遇後の宿主組織および細胞の関与」を特徴とし、「これは、抗体の合成もしくは細胞媒介反応性の発生またはそれら両方を導く、リンパ細網組織における免疫担当細胞の分化および増殖に関与する。」Herbert B.Herscowitz、Immunophysiology:Cell Function and Cellular Interactions in Antibody Formation、IMMUNOLOGY:BASIC PROCESSES 117(Joseph A.Bellanti編、1985)。言い換えれば、能動免疫応答は、感染またはワクチン接種による免疫原への曝露後に宿主によって開始される。能動免疫は受動免疫と対比され得、受動免疫は、「能動免疫された宿主から非免疫宿主への、予め形成された物質(抗体、トランスファー因子、胸腺移植片、インターロイキン-2)の移入」を介して達成される(同文献)。
【0149】
「防御」免疫応答または「防御」免疫は、本明細書中で使用される場合、疾患の発生率を予防するまたは低下させるという点で、免疫応答が対象にある程度の利益を付与することを示す。あるいは、防御免疫応答または防御免疫は、疾患、特にがんまたは腫瘍の治療および/または予防において有用であり得る(例えば、がんまたは腫瘍の形成を予防することによって、がんまたは腫瘍の退縮を引き起こすことによって、および/あるいは転移を予防することによって、および/あるいは転移性小結節の増殖を予防することによって)。防御効果は、治療の利益がその任意の不利益を上回る限り、完全でも部分的でもよい。
【0150】
特定の実施形態では、異種核酸を含むウイルスベクターまたは細胞は、本明細書中に記載される免疫原的有効量で投与され得る。
【0151】
本発明のウイルスベクターは、1つまたは複数のがん細胞抗原(または免疫学的に類似の分子)あるいはがん細胞に対する免疫応答を生成する任意の他の免疫原を発現するウイルスベクターの投与によるがん免疫療法のためにも投与され得る。説明するために、例えば、がんを有する患者を治療するために、および/または、対象においてがんの発生を予防するために、がん細胞抗原をコードする異種核酸を含むウイルスベクターを投与することによって、対象においてがん細胞抗原に対する免疫応答が生成され得る。ウイルスベクターは、本明細書中で記載されるように、インビボでまたはエクスビボ方法を使用することによって対象に投与され得る。あるいは、がん抗原は、ウイルスカプシドの一部として発現され得るか、またはウイルスカプシドと他の方法で関連し得る(例えば、上記されるように)。
【0152】
別の代替方法として、当該分野で公知の任意の他の治療的核酸(例えば、RNAi)またはポリペプチド(例えば、サイトカイン)が、がんを治療および/または予防するために投与され得る。
【0153】
本明細書中で使用する場合、用語「がん」は、腫瘍形成がんを包含する。同様に、用語「がん性組織」は腫瘍を包含する。「がん細胞抗原」は腫瘍抗原を包含する。
【0154】
用語「がん」は、当該分野で理解される意味を有し、例えば、身体の離れた部位に伝播する能力を有する組織の制御されない増殖(すなわち、転移)である。例示的ながんには、メラノーマ、腺癌腫、胸腺腫、リンパ腫(例えば、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫)、肉腫、肺がん、肝臓がん、結腸がん、白血病、子宮がん、乳がん、前立腺がん、卵巣がん、子宮頚がん、膀胱がん、腎臓がん、膵臓がん、脳がんならびに現在公知のまたは後に同定される任意の他のがんまたは悪性状態が含まれるが、これらに限定されない。代表的実施形態では、本発明は、腫瘍形成がんを治療および/または予防する方法を提供する。
【0155】
用語「腫瘍」もまた、例えば、多細胞生物内の未分化細胞の異常な塊として、当該分野で理解される。腫瘍は悪性または良性であり得る。代表的実施形態では、本明細書中に開示される方法は、悪性腫瘍を予防および治療するために使用される。
【0156】
用語「がんを治療する」、「がんの治療」および等価な用語は、がんの重症度が低下されもしくは少なくとも部分的に排除されること、ならびに/または疾患の進行が減速されるおよび/もしくは制御されること、ならびに/または疾患が安定化されることを意図する。特定の実施形態では、これらの用語は、がんの転移が予防もしくは低下もしくは少なくとも部分的に排除されること、ならびに/または転移性小結節の増殖が予防もしくは低下もしくは少なくとも部分的に排除されることを示す。
【0157】
用語「がんの予防」または「がんを予防する」および等価な用語は、その方法が、がんの発症の発生率および/または重症度を、少なくとも部分的に排除または低下および/または遅延させることを意図する。言い換えれば、対象におけるがんの発症は、尤度もしくは確率において低下され得る、および/または遅延され得る。
【0158】
特定の実施形態では、細胞は、がんを有する対象から取り出され得、本発明に従うがん細胞抗原を発現するウイルスベクターと接触され得る。次いで、改変された細胞が対象に投与され、それにより、がん細胞抗原に対する免疫応答が惹起される。この方法は、インビボで充分な免疫応答を開始できない(すなわち、充分な量で促進抗体を生成できない)易感染性対象と共に有利に使用され得る。
【0159】
免疫応答は、免疫調節性サイトカイン(例えば、α-インターフェロン、β-インターフェロン、γ-インターフェロン、ω-インターフェロン、τ-インターフェロン、インターロイキン-1α、インターロイキン-1β、インターロイキン-2、インターロイキン-3、インターロイキン-4、インターロイキン5、インターロイキン-6、インターロイキン-7、インターロイキン-8、インターロイキン-9、インターロイキン-10、インターロイキン-11、インターロイキン12、インターロイキン-13、インターロイキン-14、インターロイキン-18、B細胞増殖因子、CD40リガンド、腫瘍壊死因子-α、腫瘍壊死因子-β、単球走化性因子タンパク質-1、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子およびリンホトキシン)によって増強され得ることが、当該分野で公知である。したがって、免疫調節性サイトカイン(好ましくは、CTL誘導性サイトカイン)が、ウイルスベクターと合わせて対象に投与され得る。
【0160】
サイトカインは、当該分野で公知の任意の方法によって投与され得る。外因性サイトカインが対象に投与され得るか、あるいはサイトカインをコードする核酸が適切なベクターを使用して対象に送達され得、サイトカインがインビボで生成され得る。
【0161】
[対象、医薬製剤および投与様式]
本発明に従って改変AAV2.5カプシドタンパク質を含むウイルスベクターおよびカプシド(改変AAV2.5カプシドタンパク質を含む(例えば、改変AAV2.5カプシドタンパク質は、AAV2.5のアミノ酸267に対応する位置に置換を含まない、および/またはAAV2.5のアミノ酸267に対応する位置にセリン置換を含まない))は、獣医学と医学応用の両方に用途がある。適切な対象には、トリおよび哺乳動物の両方が含まれる。用語「トリ」には、本明細書中で使用する場合、ニワトリ、アヒル、ガチョウ、ウズラ、シチメンチョウ、キジ、オウム、インコなどが含まれるがこれらに限定されない。用語「哺乳動物」には、本明細書中で使用する場合、ヒト、非ヒト霊長類、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ネコ、イヌ、ウサギなどが含まれるがこれらに限定されない。対象は完全に成長した対象(例えば、成人)または発生過程を経験中の対象(例えば、子供、幼児または胎児)が可能である。ヒト対象には、子宮内(例えば、胎児)、新生児、幼児、青少年、成人および老人対象が含まれる。
【0162】
代表的実施形態では、対象は、本発明の方法「を必要とする」、したがっていくつかの実施形態では、「それを必要とする対象」が可能である。
【0163】
特定の実施形態では、本発明は、薬学的に許容される担体中に本発明の、改変AAV2.5カプシドタンパク質(改変AAV2.5カプシドタンパク質を含む(例えば、改変AAV2.5カプシドタンパク質は、AAV2.5のアミノ酸267に対応する位置に置換を含まない、および/またはAAV2.5のアミノ酸267に対応する位置にセリン置換を含まない))を含むウイルスベクターおよび/またはカプシドを含み、任意選択的に、他の薬剤、医薬品、安定化剤、緩衝剤、担体、補助剤、希釈剤などを含む、医薬組成物を提供する。注射について、担体は典型的には液体である。他の投与方法について、担体は固体または液体のいずれかであり得る。吸入投与について、担体は呼吸用であり、任意選択的に、固体または液体の粒状形態であり得る。
【0164】
「薬学的に許容される」とは、毒性でなくその他の点でも望ましくない材料、すなわち、その材料が、望ましくない生物学的影響をいずれも引き起こすことなしに対象に投与され得ることを意味する。
【0165】
本発明の一態様は、核酸をインビトロで細胞に移入する方法である。ウイルスベクターは、特定の標的細胞に適した標準的な形質導入法に従って、適切な感染多重度で細胞中に導入され得る。投与するウイルスベクターの力価は、標的細胞の型および数、ならびに特定のウイルスベクターに依存して変動し得、過度の実験なしに当業者によって決定され得る。代表的実施形態では、少なくとも約10感染単位、任意選択的に少なくとも約10感染単位が、細胞に導入される。
【0166】
ウイルスベクターを中に導入する細胞(複数可)は、神経系細胞(末梢および中枢神経系の細胞、特に、ニューロンなどの脳細胞ならびに星状細胞およびオリゴデンドロサイトなどのグリア細胞を含む)、肺細胞、眼の細胞(網膜細胞、網膜色素上皮、および角膜細胞を含む)、上皮細胞(例えば、腸および呼吸器上皮細胞)、筋肉細胞(例えば、骨格筋細胞、心筋細胞(cardiac muscle cells)、平滑筋細胞および/または横隔膜筋細胞)、樹状細胞、膵臓細胞(島細胞を含む)、肝細胞、心筋細胞(myocardial cells)、骨細胞(例えば、骨髄幹細胞)、造血幹細胞、脾臓細胞、ケラチノサイト、線維芽細胞、内皮細胞、前立腺細胞、生殖細胞、などを含むが、これらに限定されない、いかなる型でも可能である。代表的実施形態では、細胞はいかなる前駆細胞でも可能である。さらなる実施形態として、細胞は幹細胞(例えば、神経系幹細胞、肝幹細胞)が可能である。さらなる実施形態として、細胞はがん細胞または腫瘍細胞が可能である。さらに、細胞は、上で示されるように、いかなる起源の種由来でも可能である。
【0167】
ウイルスベクターは、改変された細胞を対象に投与する目的で、インビトロで細胞中に導入することができる。特定の実施形態では、細胞は対象から取り出されており、ウイルスベクターがその中に導入され、次に細胞は対象中に投与されて戻される。エクスビボでの操作のために対象から細胞を取り出し、続いて対象中に導入して戻す方法は当該分野では公知である(例えば、米国特許第5,399,346号を参照のこと)。あるいは、組換えウイルスベクターをドナー対象由来の細胞中に、培養細胞中に、または任意の他の適切な供給源由来の細胞中に導入することができ、細胞はそれを必要とする対象(すなわち、「レシピエント」対象)に投与される。
【0168】
エクスビボ核酸送達に適した細胞は上記の通りである。対象に投与する細胞の投薬量は、対象の年齢、状態および種、細胞の型、細胞が発現する核酸、投与様式などに応じて変動する。典型的には、少なくとも約10~約10細胞または少なくとも約10~約10細胞が、1投薬当たり薬学的に許容される担体中で投与される。特定の実施形態では、ウイルスベクターで形質導入された細胞は、医薬担体と組み合わせて、治療有効量または予防有効量で対象に投与される。
【0169】
いくつかの実施形態では、ウイルスベクターが細胞中に導入され、その細胞が、送達されたポリペプチド(例えば、導入遺伝子として発現されたまたはカプシド中の)に対する免疫原性応答を惹起するために、対象に投与され得る。典型的には、免疫原的有効量のポリペプチドを発現する細胞の量が、薬学的に許容される担体と組み合わせて投与される。「免疫原的有効量」は、医薬製剤が投与される対象において、そのポリペプチドに対する能動免疫応答を誘起するのに充分な、発現されたポリペプチドの量である。特定の実施形態では、投薬量は、(上で定義した)防御免疫応答を生成するのに充分である。免疫原性ポリペプチドを投与することの利益がその任意の不利益を上回る限り、付与される保護の程度は、完全または永続的である必要はない。
【0170】
いくつかの実施形態では、対象は、対照と比べた場合、例えば、別のAAVウイルスベクター(例えば、AAV1、AAV2、AAV9、AAV2.5、または表1に列挙されている任意のAAV血清型)と接触させた場合、本発明のウイルスベクターと接触させた場合に低下した免疫原性プロファイル(例えば、免疫原性応答、例えば、抗原交差反応性)を有し得る。
【0171】
本発明のさらなる態様は、ウイルスベクターおよび/またはウイルスカプシドを対象に投与する方法である。本発明に従ったウイルスベクターおよび/またはカプシドを、それを必要とするヒト対象または動物に投与することは、当該技術分野で公知のいかなる手段によっても可能である。任意選択的に、ウイルスベクターおよび/またはカプシドは、薬学的に許容される担体中治療有効用量または予防有効用量で送達することができる。
【0172】
本発明のウイルスベクターおよび/またはカプシドは、免疫原性応答(例えば、ワクチンとして)を誘発するためにさらに投与することができる。典型的には、本発明の免疫原性組成物は、免疫原的有効量のウイルスベクターおよび/またはカプシドを薬学的に許容される担体と組み合わせて含む。任意選択的に、投与量は防御免疫応答(上で定義される)を生み出すのに十分である。
【0173】
対象に投与されるウイルスベクターおよび/またはカプシドの投薬量は、投与様式、治療および/または予防される疾患または状態、個々の対象の状態、特定のウイルスベクターまたはカプシド、ならびに送達される核酸などに依存し、慣用的な様式で決定され得る。治療効果を達成するための例示的な用量は、少なくとも約10、10、10、10、10、1010、1011、1012、10、1014、1015形質導入単位、任意選択的に約10~1013形質導入単位の力価である。
【0174】
特定の実施形態では、1回より多い投与(例えば、2回、3回、4回またはそれ以上の投与)が、例えば、毎日、週1回、月1回、年1回などの種々の間隔の期間にわたって、所望のレベルの遺伝子発現を達成するために使用され得る。
【0175】
「反復投与」、「反復服用」もしくは「反復投薬」または同類のものは、同じまたは類似する物質の以前の服用または投薬に続いて対象に投与される少なくとも1回の追加の服用または投薬を意味する。例えば、ウイルスベクターおよび/または治療薬の繰り返される服用は、同じ物質の先の服用後のウイルスベクターおよび/または治療薬の少なくとも1回の追加の服用である。物質は同じでもよいが、繰り返される服用での物質の量は以前の服用とは異なっていてもよい。例えば、本明細書で提供される方法または組成物のいずれか1つの実施形態では、繰り返される服用中のウイルスベクターおよび/または治療薬の量は、以前の服用のウイルスベクターおよび/または治療薬の量よりも少なくてもよい。代わりに、本明細書で提供される方法または組成物のいずれか1つの実施形態では、繰り返される服用は、以前に服用中のウイルスベクターおよび/または治療薬の量に少なくとも等しい量であってもよい。反復服用は、先の服用後数週間、数か月または数年投与してもよい。本明細書で提供される方法のいずれか1つの一部の実施形態では、反復服用または投薬は、反復服用または投薬の直前に起きた服用または投薬の少なくとも1週間後に施される。本明細書で提供される方法のいずれか1つの一部の実施形態では、反復服用または投薬は、反復服用または投薬の直前に起きた服用または投薬の少なくとも1カ月後に施される。反復投薬は、それが対象にとり有益な効果をもたらす場合、有効であると見なされる。好ましくは、有効な反復投薬は、ウイルスベクターにとりおよび/またはコードされたトランス遺伝子にとりなどの、減少した免疫応答と併せて有益な効果をもたらす。
【0176】
例示的な投与様式には、経口、直腸、経粘膜、鼻腔内、吸入(例えば、エアロゾルを介して)、頬側(例えば、舌下)、膣、髄腔内、眼内、経皮、子宮内(または胚内)、非経口(例えば、静脈内、皮下、皮内、筋内[骨格筋、横隔膜筋および/または心筋への投与が含まれる]、皮内、胸膜内、脳内および関節内)、外用(例えば、気道表面を含む皮膚表面および粘膜表面の両方への、ならびに経皮投与)、リンパ内など、ならびに直接的な組織または臓器への注射(例えば、肝臓、骨格筋、心筋、横隔膜筋または脳への)が含まれる。投与は、腫瘍への投与であり得る(例えば、腫瘍またはリンパ節の中または近傍)。任意の所与の場合における最も適切な経路は、治療および/または予防される状態の性質および重症度、ならびに使用されている特定のベクターの性質に依存する。
【0177】
本発明に従った骨格筋への投与には、これに限定されないが、手足(例えば、上腕、前腕、大腿部、および/または下腿)、背部、頚部、頭部(例えば、舌)、胸部、腹部、骨盤/会陰部、および/または指での骨格筋への投与が含まれる。適切な骨格筋には、小指外転筋(手における)、小指外転筋(足における)、母趾外転筋、第五中足骨外転筋、短母指外転筋、長母指外転筋、短内転筋、母趾内転筋、長内転筋、大内転筋、母指内転筋、肘筋、前斜角筋、膝関節筋、上腕二頭筋、大腿二頭筋、上腕筋、腕橈骨筋、頬筋、鳥口腕筋、皺眉筋、三角筋、口角下制筋、下唇下制筋、二腹筋、背側骨間筋(手における)、背側骨間筋(足における)、短橈側手根伸筋、長橈側手根伸筋、尺側手根伸筋、小指伸筋、総指伸筋、短指伸筋、長指伸筋、短母指伸筋、長母趾伸筋、示指伸筋、手の短母指伸筋、手の長母指伸筋、撓側手根屈筋、尺側手根屈筋、短小指屈筋(手における)、短小指屈筋(足における)、短指屈筋、長指屈筋、深指屈筋、浅指屈筋、短母指屈筋(flexor hallucis brevis)、長母指屈筋(flexor hallucis longus)、短母指屈筋(flexor pollicis brevis)、長母指屈筋(flexor pollicis longus)、前頭筋、腓腹筋、オトガイ舌骨筋、大殿筋、中殿筋、小殿筋、薄筋、頚腸肋筋、腰腸肋筋、胸腸肋筋、腸骨筋(illiacus)、下双子筋、下斜筋、下直筋、棘下筋、棘間筋、横突間、外側翼突筋、外側直筋、広背筋、口角挙筋、眼窩下筋、上唇鼻翼挙筋、上眼瞼挙筋、肩甲挙筋、長回旋筋(long rotators)、頭最長筋、頚最長筋、胸最長筋、頭長筋、頚長筋、中様筋(手における)、中様筋(足における)、咬筋、内側翼突筋、内直筋、中斜角筋、多裂筋、顎舌骨筋、下頭斜筋、上頭斜筋、外閉鎖筋、内閉鎖筋、後頭筋(occipitalis)、肩甲舌骨筋、小指対立筋、母指対立筋、眼輪筋、口輪筋、掌側骨間筋、短掌筋、長掌筋、恥骨筋、大胸筋、小胸筋、短腓骨筋、長腓骨筋、第三腓骨筋、梨状筋、底側骨間筋、足底筋、広頚筋、膝窩筋、後斜角筋、方回内筋、円回内筋、大腰筋、大腿方形筋、足底方形筋、前頭直筋、外側頭直筋、大後頭直筋、小後頭直筋、大腿直筋、大菱形筋、小菱形筋、笑筋、縫工筋、最小斜角筋、半膜様筋、頭半棘筋、頚半棘筋、胸半棘筋、半腱様筋、前鋸筋、短回旋筋(short rotators)、ヒラメ筋、頭棘筋、頚棘筋、胸棘筋、頭板状筋、頚板状筋、胸鎖乳突筋、胸骨舌骨筋、胸骨甲状筋、茎突舌骨筋、鎖骨下筋、肩甲下筋、上双子筋、上斜筋、上直筋、回外筋、棘上筋、側頭筋、大腿筋膜張筋、大円筋、小円筋、胸郭、甲状舌骨、前脛骨筋、後脛骨筋、僧帽筋、上腕三頭筋、中間広筋、外側広筋、内側広筋、大頬骨筋、および小頬骨筋、ならびに当該技術分野で公知の任意の他の適切な骨格筋が含まれるが、これらに限定されない。
【0178】
ウイルスベクターおよび/またはカプシドは、静脈内投与、動脈内投与、腹腔内投与、四肢灌流、(任意選択的に、脚および/または腕の分離式肢灌流;例えば、Arrudaら、(2005)Blood 105:3458~3464頁を参照のこと)および/または直接筋肉内注射により骨格筋に送達することができる。特定の実施形態では、ウイルスベクターおよび/またはカプシドは、四肢灌流、任意選択的に、分離式肢灌流により(例えば、静脈内または動脈内投与により)、対象(例えば、DMDなどの筋ジストロフィーを有する対象)の肢(腕および/または脚)に投与される。本発明の実施形態では、本発明のウイルスベクターおよび/またはカプシドは、「流体力学」技法を用いなくても有利に投与することができる。ベクターの組織送達(例えば、筋肉へ)は、流体力学技法(例えば、静脈内/大量の静脈内投与)により増強されることが多く、この技法は脈管構造において圧力を増加させ内皮細胞バリアーを通過するベクターの能力を促進する。特定の実施形態では、本発明のウイルスベクターおよび/またはカプシドは、大量注入および/または上昇した血管内圧力(例えば、正常な収縮期血圧よりも高い、例えば、正常な収縮期血圧よりも血管内圧力の5%、10%、15%、20%、25%増加より低いまたはこれに等しい)などの流体力学技法の非存在下で投与することができる。かかる方法は、浮腫、神経損傷および/またはコンパートメント症候群などの流体力学技法に関連する副作用を低下または回避し得る。
【0179】
心筋への投与には、左心房、右心房、左心室、右心室および/または隔膜への投与が含まれる。ウイルスベクターおよび/またはカプシドは、静脈内投与、大動脈投与などの動脈内投与、直接心臓注射(例えば、左心房、右心房、左心室、右心室中に)、および/または冠動脈潅流により心筋に送達することができる。
【0180】
横隔膜筋への投与は、静脈内投与、動脈内投与、および/または腹腔内投与を含む任意の適切な方法によっても可能である。
【0181】
標的組織への送達は、ウイルスベクターおよび/またはカプシドを含むデポーを送達することによっても達成され得る。代表的実施形態では、ウイルスベクターおよび/またはカプシドを含むデポーは、骨格筋、心筋および/または横隔膜筋組織中に移植され、あるいは組織が、ウイルスベクターおよび/またはカプシドを含むフィルムまたは他のマトリックスと接触され得る。かかる移植可能なマトリックスまたは基材は、例えば、米国特許第7,201,898号中に記載されている。
【0182】
特定の実施形態では、本発明に従うウイルスベクターおよび/またはウイルスカプシドは、(例えば、筋ジストロフィー、心臓疾患[例えば、PADまたはうっ血性心不全]を治療および/または予防するために)骨格筋、横隔膜筋および/または心筋に投与される。
【0183】
代表的実施形態では、本発明は、骨格筋、心筋および/または横隔膜筋の障害を治療するおよび/または予防するために使用される。
【0184】
代表的実施形態では、本発明は、ジストロフィン、ミニジストロフィン、マイクロジストロフィン、ミオスタチンプロペプチド、フォリスタチン、アクチブンII型可溶性受容体、IGF-1、IカッパB優性突然変異体などの抗炎症性ポリペプチド、サルコスパン(sarcospan)、ユートロフィン、マイクロジストロフィン、ラミニン-α2、α-サルコグリカン、β-サルコグリカン、γ-サルコグリカン、δ-サルコグリカン、IGF-1、ミオスタチンもしくはミオスタチンプロペプチドに対する抗体もしくは抗体断片、および/またはミオスタチンに対するRNAiをコードする異種核酸を含む本発明のウイルスベクターの治療または予防有効量を哺乳動物対象に投与することを含む、それを必要とする対象において筋ジストロフィーを治療するおよび/または予防する方法を提供する。特定の実施形態では、ウイルスベクターは、本明細書中の他の所に記載されている骨格筋、横隔膜筋および/または心筋に投与することができる。
【0185】
あるいは、本発明は、骨格筋、心筋または横隔膜筋に核酸を送達するために実行することができ、これらの筋肉は、障害(例えば、糖尿病[例えば、インスリン]、血友病[例えば、第IX因子または第VIII因子]などの代謝障害、ムコ多糖障害[例えば、スライ症候群、ハーラー症候群、シャイエ症候群、ハーラー・シャイエ症候群、ハンター症候群、サンフィリポ症候群A、B、C、D、モルキオ症候群、マロトー・ラミー症候群、など]またはゴーシェ病[グルコセレブロシダーゼ]もしくはファブリー病[α-ガラクトシダーゼA]などのリソソーム蓄積症またはポンペ病[リソソーム酸性αグルコシダーゼ]などの糖原貯蔵障害)を治療するおよび/または予防するために、血液中を正常に循環するポリペプチド(例えば、酵素)もしくは機能的RNA(例えば、RNAi、マイクロRNA、アンチセンスRNA)の生成のためのまたは他の組織への全身的送達のためのプラットホームとして使用される。代謝障害を治療するおよび/または予防するための他の適切なタンパク質は、本明細書中に記載されている。目的の核酸を発現するためのプラットホームとしての筋肉の使用は、米国特許出願公開第20020192189号に記載されている。
【0186】
したがって、一態様として、本発明は、ポリペプチドをコードする異種核酸を含む本発明のウイルスベクターの治療または予防有効量を対象の骨格筋に投与することを含む、それを必要とする対象において代謝障害を治療するおよび/または予防する方法をさらに包含し、代謝障害はポリペプチドの欠乏および/または欠損の結果である。実例となる代謝障害およびポリペプチドをコードする異種核酸は本明細書中に記載されている。任意選択的に、ポリペプチドは分泌される(例えば、その天然の状態での分泌されるポリペプチドであるポリペプチド、または、例えば、当該技術分野で公知である分泌シグナル配列と作動可能に会合することにより分泌されるように操作されているポリペプチド)。本発明のいかなる特定の理論にも限定されることなく、本実施形態に従えば、骨格筋への投与により、ポリペプチドは体循環中に分泌され標的組織(複数可)に送達され得る。ウイルスベクターを骨格筋に送達する方法は本明細書中にさらに詳細に記載されている。
【0187】
本発明は、全身的送達用にアンチセンスRNA、RNAiまたは他の機能的RNA(例えば、リボザイム)を生成するためにも実行することができる。
【0188】
本発明は、例えば、筋小胞体(sarcoplasmic endoreticulum)Ca2+-ATPアーゼ(SERCA2a)、血管新生因子、ホスファターゼインヒビターI(I-1)およびその断片(例えば、I1C)、ホスホランバンに対するRNAi;ホスホランバンS16Eなどのホスホランバン抑制またはドミナントネガティブ分子、ホスホランバン遺伝子を調節するジンクフィンガータンパク質、β2-アドレナリン受容体、β2-アドレナリン受容体キナーゼ(BARK)、PI3キナーゼ、カルサルカン、β-アドレナリン受容体キナーゼインヒビター(βARKct)、プロテインホスファターゼ1のインヒビター1およびその断片(例えば、I1C)、S100A1、パルブアルブミン、アデニリルシクラーゼ6型、短縮型の構成的に活性なbARKctなどのGタンパク質共役受容体キナーゼ2型ノックダウンをもたらす分子、Pim-1、PGC-1α、SOD-1、SOD-2、EC-SOD、カリクレイン、HIF、サイモシン-β4、mir-1、mir-133、mir-206、mir-208および/またはmir-26aをコードする異種核酸を含む本発明のウイルスベクターの治療または予防有効量を哺乳動物対象に投与することを含む、それを必要とする対象において先天性心臓麻痺またはPADを治療するおよび/または予防する方法も提供する。
【0189】
いくつかの実施形態では、本発明は、ポリペプチドをコードする異種核酸を含む本発明のウイルスベクターの治療または予防有効量を対象の神経系組織(例えば、神経細胞)に投与することを含む、それを必要とする対象において先天性神経変性障害(例えば、単一遺伝子神経変性障害)を治療するおよび/または予防する方法をさらに包含し、先天性神経変性障害はポリペプチドの欠乏および/または欠損の結果である。実例となる先天性神経変性障害およびポリペプチドをコードする異種核酸は本明細書中に記載されている。任意選択的に、ポリペプチドは分泌される(例えば、その天然の状態での分泌されるポリペプチドであるポリペプチド、または、例えば、当該技術分野で公知である分泌シグナル配列と作動可能に会合することにより分泌されるように操作されているポリペプチド)。いくつかの実施形態では、対象はヒトである。いくつかの実施形態では、対象は子宮内にいる。いくつかの実施形態では、対象は、先天性(例えば、単一遺伝子)神経変性障害を有するまたはこのリスクがある。いくつかの実施形態では、対象は、ムコ多糖蓄積症または白質ジストロフィーを有するまたはこのリスクがある。
【0190】
注射剤は、液体溶液または懸濁液、注射に先立つ液体中での溶解もしくは懸濁に適した固体形態として、または乳濁液として従来の形態で調製することができる。あるいは、本発明のウイルスベクターおよび/またはウイルスカプシドを全身的ではなく局所的方法で、例えば、デポーまたは徐放性製剤で投与してもよい。さらに、ウイルスベクターおよび/またはウイルスカプシドは、外科的に移植可能なマトリックスに付着させて送達することができる(例えば、米国特許出願公開第20040013645号に記載されている)。
【0191】
本明細書中に開示されるウイルスベクターおよび/またはウイルスカプシドは、いかなる適切な手段によっても、任意選択的に、ウイルスベクターおよび/またはウイルスカプシドで構成されている呼吸可能粒子のエアロゾル懸濁液を投与し、それを対象が吸引することにより、対象の肺に投与することができる。呼吸可能粒子は液体または固体が可能である。ウイルスベクターおよび/またはウイルスカプシドを含む液体粒子のエアロゾルは、当業者には公知である圧力駆動エアロゾルネブライザーまたは超音波ネブライザーを用いてなどのいかなる適切な手段によっても生成することができる。例えば、米国特許第4,501,729号を参照のこと。ウイルスベクターおよび/またカプシドを含む固体粒子のエアロゾルは同様に、製薬分野で公知の技法により、任意の固体粒子薬剤エアロゾル発生装置を用いて生成し得る。
【0192】
ウイルスベクターおよびウイルスカプシドは、中枢神経系(CNS)(例えば、脳、眼)の組織に投与することができ、本発明がない場合に観察されるよりも広い分布のウイルスベクターまたはカプシドを有利にもたらし得る。
【0193】
特定の実施形態では、本発明の送達ベクターは、遺伝性障害、神経変性障害、精神障害および腫瘍を含む、CNSの疾患を治療するために投与され得る。CNSの実例となる疾患には、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、カナバン病、リー症候群、レフサム病、トゥレット病、原発性側索硬化症、筋萎縮性側索硬化症、進行性筋萎縮症、ピック病、筋ジストロフィー、多発性硬化症、重症筋無力症、ビンスワンガー病、脊髄または脳損傷による精神的外傷、テイ・サックス病、レッシュ・ナイハン症候群(Lesch-Nyan disease)、癲癇、脳梗塞、気分障害(例えば、うつ病、双極性感情障害、持続性情動障害、二次気分障害)を含む精神障害、統合失調症、薬物依存性(例えば、アルコール中毒症および他の物質依存症)、ノイローゼ(例えば、不安、強迫性障害、身体表現性障害、解離性障害、悲嘆、産後うつ病)、精神病(例えば、幻覚および妄想)、痴呆、妄想性障害、注意欠陥障害、精神性的障害、睡眠障害、疼痛性障害、摂食または体重障害(例えば、肥満、悪液質、拒食症、および過食症)、CNSのがんおよび腫瘍(下垂体腫瘍)、ならびに先天性神経変性障害、例えば、ムコ多糖症(ムコ多糖症I型(ハーラー症候群、ハーラー・シャイエ症候群、またはシャイエ症候群としても公知である、IDUA、アルファ-L-イズロニダーゼ)、ムコ多糖症II型(ハンター症候群としても公知である、IDS、I2L酵素)、ムコ多糖症III型(サンフィリポ症候群としても公知である、GNS[N-アセチルグルコサミン-6-スルファターゼ]、HGSNAT[ヘパラン-アルファ-グルコサミニドN-アセチルトランスフェラーゼ]、NAGLU[アルファ-N-アセチルグルコサミニダーゼ]、および/またはSGSH[スルファミダーゼ])、ムコ多糖症IV型(モルキオ症候群としても公知である、GALNS[ガラクトサミン(N-アセチル)-6-スルファターゼ]および/またはGLB1[ベータ-ガラクトシダーゼ])、ムコ多糖症V型(シャイエ症候群としても公知である、現在ではI型のサブグループ、その上IDUA、アルファ-L-イズロニダーゼ)、ムコ多糖症VI型(マロトー・ラミー症候群としても公知である、ARSB、アリルスルファターゼB)、ムコ多糖症VII型(スライ症候群としても公知である、GUSB、ベータ-グルクロニダーゼ)、ムコ多糖症IX型(Natowicz症候群としても公知である、HYAL1、ヒアルロニダーゼ)を含むがこれらに限定されない)および/または白質ジストロフィー(成人発症型常染色体優性白質ジストロフィー(ADLD;LMNB1、ラミンB1)、アイカルディ・グティエール症候群(TREX1、RNASEHSB、RNASEH2C、および/またはRNASEH2A)、アレキサンダー病(FRAP、グリア線維酸性タンパク質)、CADASIL(Notch3)、カナバン病(ASPA、アスパルトアシラーゼ)、CARASIL(HTRA1、セリンプロテアーゼHTRA1)、脳腱黄色腫症(「CTX」、CYP27A1、ステロール27-水酸化酵素)小児運動失調症および脳ミエリン形成不全症(CACH)/白質消失病(VWMD)(eIF2B、真核生物翻訳開始因子2B)、ファブリー病(GLA、アルファ-ガラクトシダーゼA)、フコシドーシス(FUCA1、アルファ-L-フコシダーゼ)、GM1ガングリオシドーシス(GLB1、ベータ-ガラクトシダーゼ)、L-2-ヒドロキシグルタル酸尿症(L2HDGH、L-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼ)、クラッベ病(GALC、ガラクトセレブロシダーゼ)、皮質下嚢胞をもつ大脳型白質脳症(「MLC」、MLC1および/またはHEPACAM)、異染性白質ジストロフィー(ASA、アリルスルファターゼA)、多種スルファターゼ欠損症(「MSD」、SUMF1、すべてのスルファターゼ酵素に影響を与えるスルファターゼ変更因子1)、ペリツェウス・メルツバッヘル病(「X連鎖痙性対麻痺」としても公知である、PLP1[X連鎖プロテオリピドタンパク質1]および/またはGJA12[ギャップ結合タンパク質12])、Pol III関連白質ジストロフィー(POLR3Aおよび/またはPOLR3B)、レフサム病(PHYH、[フィタノイル-CoA水酸化酵素]および/またはPex7[ペルオキシソーム中へのPHYHインポーター])、サラ病(「遊離シアル酸蓄積症」としても公知である、SLC17A5、シアル酸トランスポーター)、シェーグレン・ラルソン症候群(ALDH3A2、アルデヒドデヒドロゲナーゼ)、X連鎖副腎白質ジストロフィー(「ALD」、ABCD1、ペルオキシソームATPアーゼ結合カセットタンパク質)、ツェルウェガー症候群スペクトル障害(ペルオキシソーム形成異常症としても公知である、PEX1、PEX2、PEX3、PEX4、PEX5、PEX10、PEX11B、PEX12、PEX13、PEX14、PEX16、PEX19、PEX26))などが含まれるが、これらに限定されない。
【0194】
CNSの障害には、網膜、後方路(posterior tract)および視神経に関与する眼科障害(例えば、網膜色素変性症、糖尿病性網膜症および他の網膜変性疾患、ぶどう膜炎、加齢性黄斑変性症、緑内障)が含まれる。
【0195】
全部ではないが殆どの眼科の疾患および障害は、3つの型の指標のうち1つまたは複数と関連する:(1)血管新生、(2)炎症および(3)変性。本発明の送達ベクターは、抗血管新生因子;抗炎症性因子;細胞変性を遅延させ、細胞温存(sparing)を促進し、または細胞増殖を促進する因子、および上述の組合せを送達するために使用され得る。
【0196】
例えば、糖尿病性網膜症は、血管新生によって特徴付けられる。糖尿病性網膜症は、眼内(例えば、硝子体中)または眼窩周囲(例えば、テノン下領域中)のいずれかに、1つまたは複数の抗血管新生因子を送達することによって治療され得る。1つまたは複数の神経栄養因子もまた、眼内(例えば、硝子体内)または眼窩周囲のいずれかに同時送達され得る。
【0197】
ぶどう膜炎は炎症に関与する。1つまたは複数の抗炎症因子が、本発明の送達ベクターの眼内(例えば、硝子体または前房)投与によって投与され得る。
【0198】
比較として、網膜色素変性症は、網膜変性によって特徴付けられる。代表的実施形態では、網膜色素変性症は、1つまたは複数の神経栄養因子をコードする送達ベクターの眼内(例えば、硝子体投与)によって治療され得る。
【0199】
加齢性黄斑変性症は、血管新生および網膜変性の両方に関与する。この障害は、1つまたは複数の神経栄養因子をコードする本発明の送達ベクターを眼内(例えば、硝子体)に、および/あるいは1つまたは複数の抗血管新生因子をコードする本発明の送達ベクターを眼内または眼窩周囲(例えば、テノン嚢下領域中)に投与することによって、治療され得る。
【0200】
緑内障は、眼圧の増加および網膜神経節細胞の喪失によって特徴付けられる。緑内障の治療には、本発明の送達ベクターを使用して興奮毒性損傷から細胞を保護する1つまたは複数の神経保護剤の投与が含まれる。かかる薬剤には、眼内に、任意選択的に硝子体内に送達される、N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)アンタゴニスト、サイトカインおよび神経栄養因子が含まれる。
【0201】
他の実施形態では、本発明は、発作を治療するため、例えば、発作の発症、発生率および/または重症度を低下させるために使用され得る。発作の治療的処置の効力は、行動的手段(例えば、眼または口の震え、チック(tick))および/または電気記録手段(殆どの発作は、顕著な電気記録の異常を有する)によって評価され得る。したがって、本発明は、経時的な複数の発作を特徴とする癲癇を治療するためにも使用され得る。
【0202】
一代表的実施形態では、ソマトスタチン(またはその活性断片)は、下垂体腫瘍を治療するため本発明の送達ベクターを使用して脳に投与される。この実施形態によれば、ソマトスタチン(またはその活性断片)をコードする送達ベクターは、下垂体中への微小注入法により投与される。同様に、かかる治療は、先端巨大症(下垂体からの異常な成長ホルモン分泌)を治療するために使用することができる。ソマトスタチンの核酸配列(例えば、GenBank受託番号J00306)およびアミノ酸配列(例えば、GenBank受託番号P01166;処理された活性ペプチドソマトスタチン-28およびソマトスタチン-14を含有する)は当該技術分野で公知である。
【0203】
特定の実施形態では、ベクターは、例えば、米国特許第7,071,172号に記載される分泌シグナルを含むことができる。
【0204】
本発明の代表的実施形態では、ウイルスベクターおよび/またはウイルスカプシドは、CNSに(例えば、脳にまたは眼に)投与される。ウイルスベクターおよび/またはカプシドは、脊髄、脳幹(延髄、脳橋)、中脳(視床下部、視床、視床上部、下垂体、黒質、松果体)、小脳、終脳(線条体、後頭葉皮質、側頭葉皮質、頭頂葉皮質および前頭葉皮質、基底核、海馬ならびに扁桃体(portaamygdala)を含む大脳)、辺縁系、新皮質、線条体、大脳および/または下丘中に導入され得る。ウイルスベクターおよび/またはカプシドは、網膜、角膜および/または視神経などの眼の異なる領域にも投与され得る。
【0205】
ウイルスベクターおよび/またはカプシドは、送達ベクターのより分散した投与のために、脳脊髄液中に(例えば、腰椎穿刺によって)送達され得る。ウイルスベクターおよび/またはカプシドはさらに、血液脳関門が撹乱された状況(例えば、脳腫瘍または脳梗塞)において、CNSに血管内投与され得る。
【0206】
ウイルスベクターおよび/またカプシドは、くも膜下腔内、脳内、脳室内、静脈内(例えば、マンニトールなどの糖の存在下で)、鼻腔内、耳内、眼内(例えば、硝子体内、網膜下、前眼房)、および眼窩周囲(例えば、テノン嚢下領域)送達、ならびに、運動ニューロンへの後退送達を伴う筋肉内送達が含まれるが、これらに限定されない当該技術分野で公知のいかなる経路によってもCNSの所望の領域(複数可)に投与され得る。
【0207】
いくつかの実施形態では、本発明のウイルスベクターまたは組成物は、経腸、非経口、くも膜下腔内、嚢内、脳内、脳室内、鼻腔内、耳内、眼内、眼窩周囲、直腸内、筋肉内、腹腔内、静脈内、経口、舌下、皮下および/または経皮経路を経て送達され得る。いくつかの実施形態では、本発明のウイルスベクターまたは組成物は、頭蓋内におよび/または脊髄内に送達され得る。
【0208】
特定の実施形態では、ウイルスベクターおよび/またはカプシドは、CNS中の所望の領域または区画への直接的注射(例えば、定位注射)によって、液体製剤で投与される。他の実施形態では、ウイルスベクターおよび/またはカプシドは、所望の領域への外用適用によって、またはエアロゾル製剤の鼻腔内投与によって提供され得る。眼への投与は、液滴の外用適用によるものであり得る。さらなる代替として、ウイルスベクターおよび/またはカプシドは、固体の持続放出製剤として投与され得る(例えば、米国特許第7,201,898号を参照のこと)。
【0209】
なおさらなる実施形態では、ウイルスベクターは、運動ニューロンに関与する疾患および障害(例えば、筋萎縮性側索硬化症(ALS);脊髄性筋萎縮症(SMA)など)を治療および/または予防するための逆行性輸送に使用され得る。例えば、ウイルスベクターは、筋肉組織に送達され得、そこからニューロン中に移動し得る。
【0210】
本発明は、以下の番号付けされたパラグラフのいずれか1つに定義され得る。
1.新たなグリカン結合部位を導入する1つまたは複数のアミノ酸置換を含む(例えば、AAV2.5のアミノ酸267に対応する位置に置換を含まない、またはAAV2.5のアミノ酸267に対応する位置にセリンを含まない)AAV2.5カプシドタンパク質を含むアデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドタンパク質。
2.1つまたは複数のアミノ酸置換が、
a)SQAGASDIRDQSR464~476SXAGXSXQXR(X1~7は任意のアミノ酸であってよい)、および
b)EYSW500~503EXW(X8~9は任意のアミノ酸であってよい)
を含むパラグラフ1のAAVカプシドタンパク質。
3.XはVもしくはその保存的置換であり;
はPもしくはその保存的置換であり;
はNもしくはその保存的置換であり;
はMもしくはその保存的置換であり;
はAもしくはその保存的置換であり;
はVもしくはその保存的置換であり;
はGもしくはその保存的置換であり;
はFもしくはその保存的置換であり;および/または
はAもしくはその保存的置換である
パラグラフ2のAAVカプシドタンパク質。
4.XはVであり、XはPであり、XはNであり、XはMであり、XはAであり、XはVであり、XはGであり、XはFであり、およびXはAであり、新しいグリカン結合部位はガラクトース結合部位である、パラグラフ3のAAVカプシドタンパク質。
5.AAV2.5カプシドタンパク質のアミノ酸配列が、配列番号1またはその機能的誘導体である(例えば、AAV2.5のアミノ酸267に対応する位置に置換を含まない、またはAAV2.5のアミノ酸267に対応する位置にセリンを含まない)、パラグラフ1~4のいずれか1つのAAVカプシドタンパク質。
6.アミノ酸配列が、配列番号2またはその機能的誘導体である(例えば、AAV2.5のアミノ酸267に対応する位置に置換を含まない、またはAAV2.5のアミノ酸267に対応する位置にセリンを含まない)、パラグラフ1~5のいずれか1つのAAVカプシドタンパク質。
7.パラグラフ1~6のいずれか1つのAAVカプシドタンパク質を含むウイルスカプシド。
8.(a)パラグラフ7のウイルスカプシド、および
(b)少なくとも1つの末端反復配列を含み、ウイルスカプシドによりカプシド封入されている核酸
を含むウイルスベクター。
8a.相対的ルシフェラーゼ単位により測定した場合、AAVrh10と比べてヒト線維芽細胞、ニューロンおよびグリア細胞のうちの1つまたは複数での形質導入の実質的な増加を示す、パラグラフ8のウイルスベクター。
8b.対象において既存の中和抗体を回避する(evade)パラグラフ8または8aのいずれか1つのウイルスベクター。
9.薬学的に許容される担体中に、パラグラフ1~6のいずれか1つのAAVカプシドタンパク質、パラグラフ7のウイルスカプシドおよび/またはパラグラフ8~8bのいずれか1つのウイルスベクターを含む組成物。
10.細胞をパラグラフ8~8bのいずれか1つのウイルスベクターと接触させることを含む、核酸を細胞内に導入する方法。
11.細胞が神経系組織中に存在する、パラグラフ10の方法。
12.細胞がニューロンまたはグリア細胞である、パラグラフ11の方法。
13.グリア細胞が星状細胞である、パラグラフ12の方法。
14.ウイルスベクターが、AAV1、AAV2、AAV9、またはAAV2.5ウイルスベクターと比べた場合、神経系組織の増強された形質導入を有する、パラグラフ11の方法。
15.細胞が対象中に存在する、パラグラフ10~14のいずれか1つの方法。
16.対象がヒト対象である、パラグラフ15の方法。
17.対象が子供である、パラグラフ16の方法。
18.子供が乳児である、パラグラフ17の方法。
19.対象が子宮内にいる、パラグラフ15または16の方法。
20.対象が、パラグラフ8のウイルスベクターに接触させた場合に、AAV1、AAV2、AAV9、またはAAV2.5ウイルスベクターに接触させた場合と比較して低下した免疫性プロファイルを有する、パラグラフ15~19のいずれか1つの方法。
21.パラグラフ8~8bのいずれか1つのウイルスベクターおよび/またはパラグラフ9の組成物を、治療核酸が対象の細胞において発現される条件下で対象に投与することにより、治療核酸を対象の細胞中に導入することを含む、それを必要とする対象において疾患または障害を治療する方法。
22.対象がヒトである、パラグラフ21の方法。
23.対象が子宮内にいる、パラグラフ21または22の方法。
24.対象が、CNS疾患もしくは障害を有するまたはこれらのリスクがある、パラグラフ21~23のいずれか1つの方法。
25.対象が、先天性神経変性障害を有するまたはこれのリスクがある、パラグラフ21~23のいずれか1つの方法。
26.対象が、成人発症型常染色体優性白質ジストロフィー(ADLD)、アイカルディ・グティエール症候群、アレキサンダー病、CADASIL、カナバン病、CARASIL、脳腱黄色腫症小児運動失調症および脳ミエリン形成不全症(CACH)/白質消失病(VWMD)、ファブリー病、フコシドーシス、GM1ガングリオシドーシス、クラッベ病、L-2-ヒドロキシグルタル酸尿症、皮質下嚢胞をもつ大脳型白質脳症、異染性白質ジストロフィー、多種スルファターゼ欠損症、ペリツェウス・メルツバッヘル病、Pol III関連白質ジストロフィー、レフサム病、サラ病(遊離シアル酸蓄積症)、シェーグレン・ラルソン症候群、X連鎖副腎白質ジストロフィー、ツェルウェガー症候群スペクトル障害、ムコ多糖症I型、ムコ多糖症II型、ムコ多糖症III型、ムコ多糖症IV型、ムコ多糖症V型、ムコ多糖症VI型、ムコ多糖症VII型、ムコ多糖症IX型およびそれらの任意の組合せを有するまたはこれらのリスクがある、パラグラフ21~23のいずれか1つの方法。
27.対象が、疾患または障害に伴う疼痛を有するまたはそれを有するリスクがある、パラグラフ21または22の方法。
28.ウイルスベクターまたは組成物が、経腸、非経口、くも膜下腔内、嚢内、脳内、脳室内、鼻腔内、耳内、眼内、眼周囲、直腸内、筋肉内、腹腔内、静脈内、経口、舌下、皮下および/または経皮経路を経て送達される、パラグラフ21~27のいずれか1つの方法。
29.ウイルスベクターまたは組成物が、頭蓋内におよび/または脊髄内に送達される、パラグラフ21~27のいずれか1つの方法。
29a.ウイルスベクターが対象において反復投薬のために使用される、パラグラフ15~29のいずれか1つの方法。
30.組成物または方法であり、そこでは出願者による除外は以下の通りである、パラグラフ1~29aのいずれか1つのAAVカプシドタンパク質、ウイルスカプシド、ウイルスベクター:2020年4月23日提出のPCT/US2020/029493中のいかなる開示も、本出願の特許請求の範囲のうちのいずれか1つもしくは複数で定義される本発明内に、または本出願においてもしくはそこから派生する任意の特許において将来提出される可能性のある修正された特許請求の範囲に定義される任意の発明内に収まる限り、およびそのまたはそれらの特許請求の範囲が適用される任意の関連する国または国々の法律が、PCT/US2020/029493の開示が、そのまたはそれらの国々においてまたはについてそのまたはそれらの特許請求の範囲に対して最先端の技術の一部であると規定する限り、我々はこれによって本出願またはそこから派生する任意の特許の特許請求の範囲から前記開示を除外する権利を、本出願またはそこから派生する任意の特許の無効化を妨げるのに必要な程度に留保する。限定せずに、我々は、除外の権利の上記留保は、少なくとも、本出願に収載される特許請求の範囲1~29aおよび上に明記されるパラグラフ1~29aに適用されることを明言する。
【0211】
本発明を記載してきたが、以下の実施例では本発明をさらに詳細に説明することになり、実施例は説明目的でのみ本明細書中に含まれ、本発明を限定することを意図されていない。
【実施例
【0212】
[実施例1]:AAV2G9およびAAV2.5G9のアカゲザル子宮内治療
ムコ多糖症および白質ジストロフィーなどの先天性一遺伝子性神経変性障害は、標的化遺伝子療法の有力な候補であるが、疾患の身体的および行動的徴候に先立って首尾よい介入が行われなければならない。いくつかの場合、疾患開始は発生中の初期に起こり、したがって、治療は誕生よりも前に考慮されなければならない。本研究では、超音波誘導下で、初期の第2三半期における霊長類中への子宮内頭蓋内投与に続いて、天然に存在するAAV血清型(AAV9)の安全性、効率、および細胞トロピズムを2つの新規のキメラAAVベクター(AAV2G9およびAAV2.5G9(カプシドのアミノ酸配列は配列番号2に示されている))と比較する。組織は出産近くで回収し、導入遺伝子発現はエクスビボ生物発光イメージング(BLI)およびqPCRにより評価した。BLIは、試験したすべてのベクターを用いた大脳半球および脊髄において高レベルのホタルルシフェラーゼ発現を示した。qPCRはBLI所見と高度に相関していた。胎仔発育または成長に対する有害作用は観察されなかった。組織は正常範囲内であり、ニューロン、星状細胞、およびオリゴデンドロサイトの予想される集団が免疫組織化学により確かめられた。これらの研究は、遺伝子置換戦略を受け入れることができる先天性神経変性障害に対する標的化遺伝子療法用のキメラAAVベクターの安全性、効率、およびトロピズムを実証している。
【0213】
超音波組織的にも胎仔組織回収時にも有害作用は検出されなかった。組織回収時の胎仔の身体と器官重量は、歴史的対照と比べた場合、正常範囲内であった(N=36)(平均465.1±16.8 歴史的対照平均484.1±14.2g;図1)。脳重量(平均53.8±1.7g)も、同時対照(平均55.5±1.9g)および歴史的対照(平均56.1±0.6g)に匹敵していた。
【0214】
生物発光イメージング(BLI)結果。AAVベクターを投与されたすべての胎仔において大脳半球内での高レベルのホタルルシフェラーゼ発現が観察され、ベクター投与のそばにおいて主に相関していた(図2)。AAV9を投与された胎仔は、すべての大脳葉において2.8×10p/sおよび6.6×10p/sの全生物発光を示し、AAV2G9を投与された胎仔では7.9×10p/sおよび8.6×10p/sが観察された。AAV2.5G9を投与された胎仔は、1.4×10p/s~5.3×10p/sを示した。個々の大脳葉での生物発光は、AAV9と比べた場合、キメラベクター(AAV2G9、AAV2.5G9)のほうが一般的に大きかった(表3)。ホタルルシフェラーゼ発現は脊髄でも顕著であった。中枢神経系以外の組織では検出された生物発光は極めて低いか全くなかった。
【0215】
ベクター体内分布結果。ベクター体内分布は、組織回収時に胎仔脳(大脳半球、小脳のすべての葉)、脊髄および末梢組織におけるホタルルシフェラーゼコピー/50,000細胞のqPCRにより評価された(表4)。ベクターの存在は、すべてのAAV治療脳(9/9)においておよび脊髄のすべての領域において検出された。ベクターの存在は、すべての脳および脊髄領域においてAAV2G9およびAAV9と比べてAAV2.5G9のほうが大きかった。全体で、ルシフェラーゼコピー数は個々の動物間で変化した(表4)。生物発光と比べて、脊髄において高ベクターゲノムコピーが観察された。中枢神経系以外の組織ではqPCRにより増幅されたベクターゲノムは極めて低いか全くなかった。
【0216】
本研究は、AAV9ならびに2つの新規のキメラAAVベクター、AAV2G9およびAAV2.5G9の形質導入効率および生体分布について検討した。胎仔脳の発生は、頭蓋内投与後正常な発生パターンに従うことが明らかにされており、本アプローチおよび研究されたAAVベクターの安全性を実証している。試験されたキメラベクターは、単一部位投与で、すべての大脳葉、小脳、および脊髄において左右されない形質導入効率を有することが明らかにされた。
【0217】
子宮内へのAAV投与は、マウスの発生中の眼および耳において安全であることが実証されており、これら眼および耳は、有糸分裂後であり再生しない感覚光受容体および感覚有毛細胞を含有する。視覚機能および聴覚機能の出産後評価により、GFPレポーター遺伝子をコードするAAVベクターの子宮内注入が感覚閾値に対して及ぼす影響は無きに等しいことが明らかにされた。これは重要である。なぜならば、これらの感覚細胞の小集団でも死亡または機能不全は機能分析により容易に検知可能であり、したがって、有利な安全性プロファイルを実証するからである。さらなる組織学的分析により、正常な感覚細胞密度および形態が明らかにされた。
【0218】
アカゲザル。動物福祉法とプロトコールの要件に従ったすべての動物手順は、実行に先立って、Davisにあるカルフォルニア大学の施設内動物管理および使用委員会の承認を受けた。動物管理(食餌、収容)に関係する行動は、カルフォルニア国立霊長類研究センター標準操作手順により実施された。先の妊娠の履歴がある正常に循環している成獣雌アカゲザル(Macaca mulatta)(N=9 遺伝子導入;3対照)を飼育し、確立した方法に従って妊娠中と確認された。アカゲザルの妊娠期間は55日単位で三半期、第1の三半期(0~55日妊娠)、第2の三半期(56~110日妊娠)、および第3の三半期(111~165日妊娠)に分けられる。出産は典型的には、165±10日妊娠期間で起こる。
【0219】
ベクター投与および胎仔モニタリング。雌親は、研究課題として血清陰性の雌を選択するためにAAV抗体についてスクリーニングした。AAVベクターは第2三半期初期(65±5日)に超音波誘導下、脳室内アプローチを使用して投与した。ベクター上澄み(0.1ml容積中1×1012ゲノムコピー)は右または左側脳室中に頭蓋内投与を経て注入された(N=9)。すべての妊娠は、確立した手順に従って、妊娠期間中10~14日ごとに超音波検査的にモニターした。
【0220】
組織回収。子宮切開は確立されたプロトコールに従って出産近くで実施した。すべての組織を取り除き、ホタルルシフェラーゼ発現について撮像した。胎仔脳を秤量し、次に、右および左半球(前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉)、小脳、および中脳を切開した。脊髄の領域(頚部、胸部、腰部)も、分子的および組織学的分析のためにBLI後に評価した。すべての組織の試料は、組織学的分析のためにホルマリンに固定するまたは分子的分析のために液体窒素に瞬間凍結した。凍結試料は分析まで≦-80℃で保存した。
【0221】
BLI。ルシフェラーゼ発現についてのBLIは、D-ルシフェリン(100mg/kg)(Living Imageソフトウェア付きのIVIS 200(登録商標)イメージングシステム、Xenogen、Alameda、CA)の静脈内注射直後に実施した。生物発光は、目的の領域をポジティブ発光の切片の周辺に置くことにより半定量的方法(フォトン/cm;P/S)を使用して評価した。
【0222】
ベクター体内分布。ベクター体内分布を数量化するため、ゲノムDNAをGentra Puregene Tissueキット(Qiagen、Valencia、CA)を使用して瞬間凍結組織から単離した。qPCRは、ベクター存在を数量化するためにホタルルシフェラーゼ用のプライマーを用いてならびにハウスキーピング遺伝子イプシロン-グロビン(Life Technologies)をDNA単離およびPCR反応用の内部標準として用いて実行した。リアルタイムqPCR分析は、7900 ABI Sequence Detection SystemおよびTaqMan Universal PCR Master Mix(Applied Biosystems)を使用して96ウェル光学プレートで実行した。ゲノムDNA発現は、試料DNAの量を正規化するためハウスキーピング遺伝子と比べて定量化された。
【0223】
免疫組織化学。小脳ならびに右および左前頭葉、頭頂葉、側頭葉、および後頭葉のホルマリン固定パラフィン切片を、ヘマトキシリン・エオシン(H&E)染色により評価して組織形態を調べた。IHCは、確立されたプロトコールに従って、ニューロン(Neuro-Chrom(商標)汎ニューロンマーカー、EMD Millipore)、星状細胞(グリア線維酸性タンパク質、Abcam)、またはオリゴデンドロサイト(環状ヌクレオチドホスホジエステラーゼ、Abcam)のマーカーを用いて実施した。簡潔に述べると、切片はキシレンで脱パラフィンし、次に、段階的エタノールで脱水した。熱媒介抗原検索は、4℃、一晩の一次抗体とのインキュベーションに先立ってクエン酸バッファーで実施した。可視化のために二次抗体(AlexaFluor-488、Life Technologies)を室温で1時間適用した。4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール,ジヒドロクロリドを有するProLong Gold退色防止試薬(DAPI;Life Technologies)をマウンティング用および核を特定するために使用した(Molecular Probes)。
【0224】
RNAインサイツハイブリダイゼーション。ルシフェラーゼレポーターRNAを、製造業者により記載されるプロトコールに従ってRNAscope(登録商標)2.5 Assayシステム(Advanced Cell Diagnostics、Hayward、CA)を用いて可視化した。標的プローブには、ベクター存在を可視化するルシフェラーゼ(luc2)およびニューロンを可視化するFOX3が含まれていた。負の対照プローブは、標的として細菌遺伝子dapBに向けられ、正の対照プローブはハウスキーピング遺伝子Polr2aおよびPPIBを標的にした。切片は、VectaMount(Vector Laboratories Inc、Burlingame、CA)を用いてマウントされ、Olympus BX61顕微鏡を用いて可視化された。
【0225】
[実施例2]:AAV2.5G9キメラはAAV2.5の活性を保持する
実施例1に示される予備解析は、AAV2.5G9キメラが、骨格筋の形質導入、ヘパリン結合、異なる免疫学的プロファイルの獲得、低下した肝臓トロピズム、および神経学的細胞トロピズム(星状細胞などのニューロンおよびグリア細胞)などの、AAV2.5キメラの種々の活性を保持することを示していた。この予備的な分析は、さらなる実験により確かめられることになり、その例が下に提供されている。
【0226】
<骨格筋を形質導入する>
AAV2.5G9 A267変異体(例えば、配列番号2)は、以下の実験により骨格筋を形質導入する能力について評価される。ウイルス粒子を含有する1×1010ゲノムのBALB/cマウスの腓腹筋中への注入に続いて、対照AAV血清型AAV2.5およびAAV2と比較された。それぞれのマウスは注入後7、14、28、42、および95日目に撮像される。この実験で使用されるウイルスは、ヘパリンHPLCまたは塩化セシウム勾配を使用して精製される。それぞれの動物から発せられる光の量は、CMIRイメージソフトウェアを使用して計算される。それぞれの脚由来の目的の領域(ROI)が規定され、放たれる全フォトンを計算するのに使用される。データは、6つの肢すべての平均として表されることになる。AAV2.5G9 A267変異体は、AAV2.5および/またはAAV2.5G9 A267Sよりも大きな筋肉形質導入に匹敵することを示しており、AAV2.5G9 A267とAAV2.5の両方がAAV2よりもはるかに高い筋肉形質導入を示している。
【0227】
<ヘパリン結合>
異なる変異体がヘパリンにより精製され得る能力も、以下の実験により調べることになる。AAV2.5G9 A267は、AAV2.5、AAV2.5G9 A267SおよびAAV2血清型と比較される。それぞれのAAV変異体の同等の粒子をヘパリンアガロース1型にアプライして、結合させておく。カラムはPBSで洗浄し、続いて塩化ナトリウムに溶出させる。次に、通過画分、洗浄液および溶出液に存在する粒子の数は、ドットブロットハイブリダイゼーションを経て決定される。データは、非結合粒子(洗浄および通過)および結合粒子(溶出)の百分率として描かれることになる。先の実験(米国特許第9,012,224号)と同じく、AAV2.5変異体はAAV2に類似するヘパリン結合プロファイルを示す。AAV2.5G9 A267も、AAV2およびAAV2.5に類似するヘパリン結合プロファイルを示し、これはGal結合ポケットをAAV2.5血清型上へ移植してもこの結合活性を保持し、細胞トロピズムに関与している受容体結合も保持することを示している。
【0228】
<免疫学的プロファイル>
他の無エンベロープウイルスに類似して、高用量のAAVは繰り返し投与を阻む中和抗体を産生する。新しい血清型の到来と共に、反復投与が可能になる。AAV1、AAV2および/またはAAV9に対する前から存在する免疫応答を回避する能力を調査するため、以下の実験による異なるAAV血清型(それぞれ1、2、および2.5、9)に前もって曝露された動物由来の血清への曝露後、キメラAAV2.5G9 A267ベクターをインビトロでの導入遺伝子発現について試験する。
【0229】
AAVビリオンシェルに対する頑強な免疫応答を有する動物を作製するため、AAV血清型1、2、2.5、2.5G9、および9ベクターの4×1010粒子をC57blk6マウスの筋肉内に独立して注射する。注射4週間後、血液が単離され血清が収集される。次に、これらの動物由来の血清を、レポーター遺伝子としてGFPを発現する293細胞およびAAV特異的血清型ベクターを使用して中和抗体アッセイにおいて使用する。このアッセイでは、血清は順次希釈され、次に、4℃で2時間、血清型特異的ベクターの公知の量(1×10粒子)と混合させる。次に、血清とベクターのこの混合物を、アデノウイルスヘルパーウイルスの存在下、感染多重度5で24ウェルプレートの293細胞に添加する。これらの条件下では、緑色蛍光タンパク質(GFP)発現は、中和抗体の存在下、細胞に感染する血清型特異的ベクター能力の尺度である。次に、中和抗体力価を、GFP発現が対照ベクターよりも50%またはそれよりも少ない最も高い希釈度として計算する(血清型特異的血清との予めの混合なし)。
【0230】
結果は、AAV1に前もって曝露された動物がAAV1GFP形質導入を中和できる(例えば、1対1000もの希釈度で)ことを示す。しかし、この血清型1型特異的中和抗体のほうが、AAVキメラ2.5(例えば、1対100希釈度)、およびAAVキメラ2.5G9 A267を中和するのに多くのマウス血清を必要とする。さらに重要なのは、この知見は、AAV血清型2型ビリオンシェルに前もって曝露された動物から得られたマウス血清に当てはまる。このアッセイでは、血清が1対10,000で希釈された後でのみ、AAV2対照と比べた場合、50%GFP形質導入が観察される。しかし、キメラ2.5および2.5G9では、50%GFP形質導入は、このマウス血清のはるかに低い希釈度(例えば、1対100希釈度のみ)で観察される。このキメラベクターではアミノ酸変化の0.6%がAAV2とは異なるだけなので、これらの変更は、AAV2.5およびAAV2.5G9 A267カプシドシェルを認識する前から存在するAAV2中和抗体の能力に重大な効果を及ぼす。2.5およびAAV2.5G9 A267に前もって曝露され、次にAAV1、2、および2.5、2.5G9 A267、および9に対する中和活性についてアッセイされている動物は予想通りの結果をもたらし、それぞれ最も高い希釈度は2.5および2.5G9 A267ベクターに必要であり(例えば、1対8000)続いてAAV2にはより低い希釈度(例えば、1対1000)、AAV血清型1についてはさらに低い希釈度(例えば、1対100)が必要であった。
【0231】
同様に、AAV9に前もって曝露された動物は、1対1000もの希釈度でAAV9GFP形質導入を中和することができる。しかし、この血清型9特異的中和抗体は、AAVキメラ2.5G9 A267を中和するにはもっと多くのマウス血清を必要とする(例えば、1対100希釈度)。さらに重要なことに、この知見は、AAV血清型9ビリオンシェルに前もって曝露された動物から得られるマウス血清に当てはまる。このアッセイでは、血清がかなり希釈された後でのみ(例えば、1対10,000)、AAV9対照と比べた場合、50%GFP形質導入が観察される。しかし、キメラ2.5および2.5G9では、50%GFP形質導入は、このマウス血清のはるかに低い希釈度(例えば、1対100希釈度のみ)で観察される。2.5およびAAV2.5G9 A267に前もって曝露され、次にAAV1、2、2.5、2.5G9 A267、および9に対する中和活性についてアッセイされている動物は予想通りの結果をもたらし、それぞれ最も高い希釈度は2.5および2.5G9ベクターに必要であり(例えば、1対8000)続いてAAV2にはもっと低い希釈度(例えば、1対1000)、AAV血清型1およびAAV9についてはさらに低い希釈度(例えば、1対100)が必要であった。
【0232】
これらの研究から予想された結論は、キメラAAV2.5G9 A267を生成するためにAAV2.5に加えたアミノ酸変更は、数は少ないが、AAV2、AAV2.5、およびAAV9に対して特異的な中和抗体でチャレンジした場合、このビリオンについての免疫プロファイルに著しい影響を与えるのに十分であることである。
【0233】
これらの研究により、AAV2.5G9 A267ベクターが、AAV1、AAV2、AAV2.5、AAV9、またはこれらの組合せに予め曝露された個体を形質導入するのに適しており、したがって、入手可能なベクターではるかに大きな多用途性を提供することが示される。例えば、このキメラベクターは、AAV1、AAV2、AAV9またはAAV2.5に予め曝露された動物および患者での再投与が可能になると考えられる。さらに、これにより、免疫応答を著しく変更する選択されたアミノ酸をAAV2.5カプシドアミノ酸配列において変えることができることを実証している。
【0234】
<脳および肝臓の形質導入はAAV2.5G9変異体でも保持される>
細胞型および組織トロピズムも以下の実験により確かめられる。6~8週齢雄C57b1/6マウスは、肝臓でのAAV2および2.5ベクター形質導入の効率を決定するのに利用される。マウスは、300μLの2.5%アバチンを使用して麻酔をかけ、ヒト第IX因子(hFIX)導入遺伝子ウイルスを保有するAAV2、AAV2.5、AAV2.5G9 A267およびAAV9ベクターの1×1011粒子を250μLのPBSに溶解し、門脈中にゆっくりと注入する。ベクターは国際特許公開WO 01/92551に記載される二重鎖ウイルス粒子である。1週間および6週間後、それぞれのマウス由来の100μLの血液を、ヘパリン被覆ガラス毛管を使用して尾静脈から収集する。血清は、血液試料を4℃、8000rpmで20分間遠心分離することにより収集される。血清を試験するまで-80℃で貯蔵した。血清中のhFIXの発現は、標準ELISA法により試験される。hFIXレベルが5μg/mLである正常なヒト血清の段階希釈を標準として使用する。このアッセイを使用すれば、2.5およびAAV2.5G9ベクターがそれぞれ、AAV2ウイルスと比べた場合、肝臓を形質導入する能力が低下していることが見出される。この実験により、AAV2.5G9 A267変異体が2.5ベクターの筋肉トロピズムを示しており、AAV2に特徴的である肝臓特異的トロピズムと比べた場合に2.5ベクターがその結果失った肝臓特異的トロピズムの喪失も保持することが実証される。
【0235】
別の実験では、二重鎖AAV2.5ベクター、二重鎖AAV2.5G9 A267ベクター、二重鎖AAV9ベクター、および二重鎖AAV2ベクターは、それぞれが緑色蛍光タンパク質(GFP)レポーター導入遺伝子カセットを含有しており、AAV2について以前確立された条件下でマウス脳の皮質領域中にそれぞれ注入される。次に、ベクターは、ニューロン特異的形質導入についてアッセイされる。AAV1およびAAV2はニューロン形質導入に特異的であり、AAV2.5ベクターは、非ニューロン(星状細胞などのグリア細胞)と同様にニューロンに形質導入することは十分に確立されている。
【0236】
インビボでの組織特異的形質導入についてAAV2.5G9 A267ベクターを試験する場合のこれらの実験の概要は、AAV2.5(AAV血清型1親由来であるとして以前報告されている)の得られた組織特異的トロピズム(例えば、筋肉、骨格または心臓)を保持するおよびAAV2.5の失われた細胞型特異的形質導入(例えば、肝臓-肝細胞-特異的形質導入)を保持することに加えて、AAV2.5G9 A267ベクターは、ドナー親(AAV1)にもレシピエント親カプシド(AAV2)にも存在せずキメラ2.5ベクターに全く特有であるAAV2.5の新しいトロピズム(非ニューロン/星状細胞)も保持していることを同様に実証する。
【0237】
ヘパリン結合実験。ヘパリンアガロースへのrAAVのバッチ結合は以前記載された通りに実施する(Rabinowitz(2004)J.Virology 78巻:4421~4432頁)。簡潔に述べると、rAAVビリオンの同等の粒子を1×PBS中ヘパリンアガロース1型(H-6508、Sigma、St.Louis、Mo.)にアプライし、室温で1時間結合させておき、低速で2分間遠心分離し、次に上清(通過画分)を取り除く。5総容積の1mMのMgCl/PBSで6回洗浄し、続いて0.5MのNaCl(ステップ1)、1.0MのNaCl(ステップ2)、または1.5MのNaCl(ステップ3)を含有する5総容積の1mMのMgCl/PBSの3ステップ溶出を行った。洗浄液および3ステップ溶出液中に存在するrAAV粒子の数は、ドットブロットハイブリダイゼーションにより決定される。
【0238】
動物イメージング。粒子(vg)を含有する1×1010ウイルスゲノムを、6週齢の雄BALB/cマウスの腓腹筋中に注入する。合計で6肢に、25μlのウイルスを使用してウイルス型ごとに注入する。動物は、Roper Scientific Imaging(Princeton Instruments)を使用して注入後異なる日に撮像する。簡潔に述べると、動物を麻酔し、ルシフェリン基質をIP注射する。注射10分後、動物をチャンバーに置き、次に、光発光を判定する。目的の領域あたりの全画素の平均数をCMIR_Imageソフトウェア(Center for Molecular Imaging Research、Mass.General)を使用して決定し、経時的にプロットする。
【0239】
[実施例3]:AAV2.5G9は二重グリカン結合を示す
<AAV2.5G9はAAV2G9に類似してHSとGal受容体をインビトロで互換的に利用する>
競合的阻害アッセイは、以下の実験によりAAV2.5G9変異体による二重グリカン受容体の利用の証拠を提供する。これらのアッセイは、ウイルスが末端ガラクトシル化グリカンに選択的に結合する、可溶性ヘパリンおよびECLを含む細胞表面上のウイルス結合を利用する。突然変異CHO細胞株である、CHO-Lec2は、CMPシアル酸のゴルジ体領域から細胞表面への輸送が不十分である(Deutscherら、Biol.Chem.261:96~100頁(1986))。したがって、CHO-Lec2表面上の末端グルカン部分の大多数がガラクトースである。CHO-Lec2の表面上のこの独特のガラクトシル化パターンおよび野生型CHO-Pro5細胞のシアリル化は、AAV-ガラクトース/AAV-シアル酸相互作用を研究するのに有用であり得る(Shenら、J.Virol.86:10408~10417頁(2012);Shenら、J.Biol.Chem.286:13532~13540頁(2011))。HSはCHO-Lec2細胞におけるAAV2形質導入を著しく阻害するがECLは阻害せず、ECLはほぼ2つのログユニットによりAAV9形質導入を選択的に遮断する。これらの結果は、AAV2およびAAV9について予想される形質導入プロファイルと一致している(Shenら、J.Biol.Chem.286:13532~13540頁(2011);Summerfordら、J.Virol.72:1438~1445頁(1998);Bellら、J.Clin.Invest.121:2427~2435頁(2011))。これとは対照的に、AAV2G9およびAAV2.5G9は、ECLとHSの両方の組合せでの前処置によってのみ効果的に中和される。ECLでは小さいが著しい阻害効果が観察されることがある。
【0240】
AAV2、AAV2.5G9 A267、AAV9、およびAAV2G9についての形質導入プロファイルは、ECLまたはHSを使用してそれぞれの株の細胞表面結合を阻害することによりさらに確証される。キメラAAV株の独特の細胞表面付着は、もっぱらECLとHSの組合せのみによりAAV2.5G9の細胞表面付着が競合的に阻害されるが、どちらの試薬も単独では阻害しないことによりさらに支持される。これはAAV2G9に類似しており、AAV2G9に類似して2つの異なるグリカンに互換的に結合するAAV2.5G9 A267の能力を示す。
【0241】
二重グリカン結合AAV2.5G9キメラのインビトロ特徴付け。FITC-ECLおよび可溶性ヘパリンを用いたCHO Lec2細胞上でのAAV2、AAV2.5G9 A267、AAV2G9、およびAAV9形質導入の阻害についてのアッセイを実施する。CHO Lec2細胞は4℃で前冷却し、CBA-ルシフェラーゼレポーター導入遺伝子カセットをパッケージングしているAAV2、AAV2.5G9 A267、AAV2G9、またはAAV9での感染に先立ってFITC-ECL、可溶性ヘパリン、または両方と一緒にインキュベートする。形質導入効率は、相対的光ユニットでのルシフェラーゼ活性として感染24時間後に測定される。導入遺伝子発現の百分率は、対照からの相対的光ユニットに形質導入効率を正規化することにより計算される。細胞表面結合の阻害についてのアッセイは、FITC-ECLおよび可溶性ヘパリンを有するCHO Lec2細胞上でAAV2、AAV2.5G9 A267、AAV2G9、およびAAV9を用いて実施される。異なるAAV粒子を4℃で前冷却していた細胞に結合させ、非結合ビリオンは冷PBSでの洗浄により取り除かれる。結合しているビリオンは、ウイルスゲノム抽出後qPCRを使用して定量化される。結合ビリオンの百分率は、結合ビリオンの数を対応する対照の数に正規化することにより決定される。
【0242】
インビトロ結合および形質導入アッセイ。CHO-Pro5およびCHO-Lec2細胞は、10%のFBS、100ユニット/mlのペニシリン(Cellgro)、100μg/mlのストレプトマイシン(Cellgro)、および2.5μg/mlのアンホテリシンB(Sigma)を補充したα最小イーグル培地(Thermo Scientific)で培養される。細胞は24ウェルプレートに1×10細胞/ウェルの密度で播種される。
【0243】
競合的阻害アッセイ。CHO-Lec2細胞は4℃で30分間前冷却し、α最小イーグル培地において4℃で1時間100μg/mlのFITC標識アメリカデイゴ(Erythrina crista-galli)レクチン(FITC-ECL、Vector Laboratories)と一緒にインキュベートする。あるいは、異なるウイルスカプシドを、室温で1時間、100μg/mlの可溶性ヘパリン(Sigma)または1×PBS(対照)と一緒にインキュベートする。次に、モック処置またはFITC-ECL-処置細胞に、1000vgコピー/細胞のMOIでCBA-Luc transgeneカセットをパッキングするHS-結合またはモック処置AAV2、AAV2.5G9 A267、AAV2G9、またはAAV9カプシドを感染させる。低温室でも1時間のインキュベーションに続いて、非結合ビリオンは、氷冷1×PBSでの3回の洗浄により取り除かれる。細胞表面結合アッセイでは結合ビリオンの数は、定量的PCRを使用して、それぞれのウェルにおけるベクターゲノムコピー数/細胞を定量化することにより測定する。形質導入アッセイでは、感染したLec2細胞は37℃まで移し、細胞可溶化物からのルシフェラーゼ導入遺伝子発現の定量化に先立って24時間インキュベートする。
【0244】
[実施例4]:AAV2.5G9はAAVrh10よりも予想外に高い形質導入を示す
ヒト皮膚線維芽細胞GM16095細胞にAAVrh10ルシフェラーゼレポーターおよびAAV2.5G9ルシフェラーゼレポーターのどちらかを形質導入した。感染多重度(MOI)は10,000であった。相対的ルシフェラーゼ単位RLU Lucにより測定した場合、AAVrh10と比べてAAV2.5G9でのGM16095細胞の形質導入のほうが実質的に高かった(118倍)(データは省略)。種々の型のニューロンおよびグリア細胞を用いて類似する実験を実施し、AAVrh10とAAV2.5G9の形質導入を比較した。AAVrh10と比べた場合、AAV2.5G9のほうがニューロンおよび/またはグリア細胞では有意に高い形質導入を示すことが予想される。
【0245】
前述のものは本発明を説明するものであって、これを限定するものと解釈するべきではない。
【0246】
【0247】
【0248】
【0249】
図1
図2
【配列表】
2023547992000001.app
【国際調査報告】