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特表2023-547999低分子リガンドの相乗的取り込み及び保持のための方法及び組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-15
(54)【発明の名称】低分子リガンドの相乗的取り込み及び保持のための方法及び組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/06 20060101AFI20231108BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231108BHJP
   A61P 13/08 20060101ALI20231108BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20231108BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20231108BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20231108BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20231108BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20231108BHJP
   A61K 47/64 20170101ALI20231108BHJP
   A61K 51/10 20060101ALI20231108BHJP
   A61K 51/08 20060101ALI20231108BHJP
   A61K 33/244 20190101ALI20231108BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
A61K45/06
A61P35/00
A61P13/08
A61P25/00
A61P15/00
A61P7/00
A61P35/02
A61K47/68
A61K47/64
A61K51/10 100
A61K51/08 100
A61K33/244
A61K39/395 D
A61K39/395 N
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023520041
(86)(22)【出願日】2021-09-28
(85)【翻訳文提出日】2023-05-16
(86)【国際出願番号】 US2021052271
(87)【国際公開番号】W WO2022072293
(87)【国際公開日】2022-04-07
(31)【優先権主張番号】63/086,216
(32)【優先日】2020-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513249770
【氏名又は名称】コーネル ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】バンダー ニール エイチ.
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076CC27
4C076EE41
4C076EE59
4C084AA20
4C084MA02
4C084NA05
4C084NA13
4C084ZA011
4C084ZA012
4C084ZA511
4C084ZA512
4C084ZA811
4C084ZA812
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZB271
4C084ZB272
4C084ZC75
4C085AA13
4C085AA14
4C085AA26
4C085BB11
4C086AA01
4C086AA02
4C086HA03
4C086HA13
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA13
4C086ZA01
4C086ZA51
4C086ZA81
4C086ZB26
4C086ZB27
4C086ZC75
(57)【要約】
本出願は、がんの対象を治療する方法に関する。本方法は、第1のがん治療成分に連結された第1の標的化成分を含む第1の剤を提供する工程、ならびに第2のがん治療成分に連結された第2の標的化成分を含む第2の剤を提供する工程を含む。第1の標的化成分及び第2の標的化成分は、対象において異なる体内分布及び/または薬物動態を有する。第1の剤及び第2の剤は、がんを治療するために、互いに8時間以内の間隔をあけて対象に投与される。投与の結果として、腫瘍内に内在化し保持される第1のがん治療成分及び第2のがん治療成分の量は、第1の剤及び第2の剤のそれぞれが単独で投与された場合における、腫瘍内に内在化し保持される第1のがん治療成分及び第2のがん治療成分の合計よりも多い。まとめて混合された第1の剤及び第2の剤を含む併用治療剤もまた開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象のがんを治療する方法であって、
前記方法が、
第1のがん治療成分に連結された第1の標的化成分を含む第1の剤を提供する工程

第2のがん治療成分に連結された第2の標的化成分を含む第2の剤を提供する工程であって、前記第1の標的化成分及び第2の標的化成分が、前記対象において異なる生体内分布及び/または薬物動態を有する、前記提供する工程、ならびに
がんを治療するために、前記第1の剤及び前記第2の剤を、互いに8時間以内の間隔をあけて前記対象に投与する工程
を含み、前記投与の結果として、腫瘍内に内在化し保持される第1のがん治療成分及び第2のがん治療成分の量が、前記第1の剤及び前記第2の剤のそれぞれが個別に投与された場合における、腫瘍内に内在化し保持される第1のがん治療成分及び第2のがん治療成分の合計よりも多くなる、前記方法。
【請求項2】
前記第1の剤及び前記第2の剤が、互いに6時間以内の間隔で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の剤及び前記第2の剤が、互いに4時間以内の間隔で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の剤及び前記第2の剤が、互いに2時間以内の間隔で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の剤及び前記第2の剤が、同時に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の標的化成分及び前記第2の標的化成分が、抗体またはその抗原結合フラグメントもしくは誘導体、タンパク質、ペプチド、及び低分子からなる群から独立して選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の標的化成分及び前記第2の標的化成分が、同じ分子標的を標的とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の標的化成分及び前記第2の標的化成分が、同じ細胞上の異なる分子標的を標的とする、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記第1のがん治療成分及び前記第2のがん治療成分が、それぞれ最大耐性用量を有し、前記最大耐性用量の前記第1のがん治療成分及び前記第2のがん治療成分が、前記投与の間に与えられる、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記第1のがん治療成分及び前記第2のがん治療成分が、それぞれ最大耐性用量を有し、前記最大耐性用量より少ない前記第1のがん治療成分及び前記第2のがん治療成分が、前記投与の間に与えられる、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記第1のがん治療成分及び前記第2のがん治療成分が、放射性核種及び細胞傷害剤からなる群から独立して選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記第1のがん治療成分及び/または前記第2のがん治療成分が、86Re、90Y、67Cu、169Er、121Sn、127Te、142Pr、143Pr、198Au、199Au、161Tb、109Pd、188Rd、166Dy、166Ho、149Pm、151Pm、153Sm、159Gd、172Tm、169Yb、175Yb、177Lu、105Rh、111Ag、131I、177mSn、225Ac、227Th、212Pb、211At、及びそれらの組み合わせからなる群から独立して選択される放射性核種である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記第1のがん治療成分及び/または前記第2のがん治療成分が、ブスルファン、シスプラチン、カルボプラチン、クロラムブシル、シクロホスファミド、イホスファミド、ダカルバジン(DTIC)、メクロレタミン(窒素マスタード)、メルファラン、カルムスチン(BCNU)、ロムスチン(CCNU)、5-フルオロウラシル(5-FU)、カペシタビン、メトトレキサート、ゲムシタビン、シタラビン(ara-C)、フルダラビン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、イダルビシン、ミトキサントロン、パクリタキセル、ドセタキセル、カバジタキセル、エトポシド(VP-16)、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビノレルビン、プレドニゾン、デキサメタゾン、タモキシフェン、フルベストラント、アナストロゾール、レトロゾール、酢酸メゲストロール、ビカルタミド、フルタミド、ロイプロリド、ゴセレリン、L-アスパラギナーゼ、トレチノイン、メイタンシン、アウリスタチン、ピロロベンゾジアゼピン、デュオカルマイシン、及びそれらの組み合わせからなる群から独立して選択される細胞傷害剤である、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記がんが、前立腺癌である、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記第1の標的化成分及び前記第2の標的化成分が、前立腺特異的膜抗原(PSMA)受容体を標的とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記第1の標的化成分が、PSMA受容体抗体またはその抗原結合部分であり、前記第2の標的化成分が、PSMA受容体結合ペプチドまたはPSMA受容体阻害剤である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記第1の標的化成分が、J591、J415、J533、及びE99からなる群から選択される抗体であり、前記第2の標的化成分が、PSMA 617、PSMA I&T、DCFBC、DCFPyL、グルタミン酸-ウレア-リジン類似体、ホスホルアミデート類似体、2-(ホスフィニルメチル)ペンタン二酸類似体、及び他のPSMAリガンド/阻害剤/ペプチドからなる群から選択されるペプチドである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記第1の剤が、J591-177LuまたはJ591-225Acであり、前記第2の剤が、PSMA 617-177Lu、PSMA I&T-177Lu、PSMA 617-225Ac、またはPSMA I&T-225Acである、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記対象が、ヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記がんが、神経内分泌癌である、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記第1の標的化成分及び前記第2の標的化成分が、ソマトスタチン受容体を標的とする、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記第1の標的化成分及び前記第2の標的化成分が、ソマトスタチン受容体-2(SSTR-2)アイソフォームを標的とする、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記神経内分泌癌が、カルチノイド腫瘍、ガストリノーマ、インスリノーマ、グルカゴノーマ、ビポーマ(VIPoma)、ソマトスタチノーマ、甲状腺癌、皮膚のメルケル細胞癌、下垂体前葉の腫瘍、髄様癌、副甲状腺腫瘍、胸腺及び縦隔カルチノイド腫瘍、肺神経内分泌腫瘍、副腎髄質腫瘍、褐色細胞腫、神経鞘腫、傍神経節腫、神経芽細胞腫、及び尿路カルチノイド神経内分泌癌からなる群から選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
前記がんが、乳癌である、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
前記第1の標的化成分及び前記第2の標的化成分が、HER受容体ファミリーを標的とする、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記がんが、非ホジキンリンパ腫である、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
前記第1の標的化成分及び前記第2の標的化成分が、CD20を標的とする、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記がんが、ホジキン病である、請求項1に記載の方法。
【請求項29】
前記第1の標的化成分及び前記第2の標的化成分が、CD30を標的とする、請求項28に記載の方法。
【請求項28】
前記第1の剤及び前記第2の剤が異なる、請求項1に記載の方法。
【請求項29】
前記第1の標的化成分及び前記第2の標的化成分が、がん細胞膜分子を標的とする、請求項1に記載の方法。
【請求項30】
第1のがん治療成分に連結された第1の標的化成分を含む第1の剤と、
前記第1の剤と混合された第2の剤であって、第2のがん治療成分に連結された第2の標的化成分を含む、前記第2の剤と
を含む、治療用組成物であって、
前記第1の標的化成分及び前記第2の標的化成分が、対象において異なる生体内分布及び/または薬物動態を有する、前記治療用組成物。
【請求項32】
前記第1の標的化成分及び前記第2の標的化成分が、抗体またはその結合フラグメント、タンパク質、ペプチド、及び低分子からなる群から独立して選択される、請求項31に記載の治療用組成物。
【請求項33】
前記第1のがん治療成分及び前記第2のがん治療成分が、放射性核種及び細胞傷害剤からなる群から独立して選択される、請求項31に記載の治療用組成物。
【請求項34】
前記第1のがん治療成分及び/または前記第2のがん治療成分が、86Re、90Y、67Cu、169Er、121Sn、127Te、142Pr、143Pr、198Au、199Au、161Tb、109Pd、188Rd、166Dy、166Ho、149Pm、151Pm、153Sm、159Gd、172Tm、169Yb、175Yb、177Lu、105Rh、111Ag、131I、177mSn、225Ac、227Th、212Pb、211At、及びそれらの組み合わせからなる群から独立して選択される放射性核種である、請求項33に記載の治療用組成物。
【請求項35】
前記第1のがん治療成分及び/または前記第2のがん治療成分が、ブスルファン、シスプラチン、カルボプラチン、クロラムブシル、シクロホスファミド、イホスファミド、ダカルバジン(DTIC)、メクロレタミン(窒素マスタード)、メルファラン、カルムスチン(BCNU)、ロムスチン(CCNU)、5-フルオロウラシル(5-FU)、カペシタビン、メトトレキサート、ゲムシタビン、シタラビン(ara-C)、フルダラビン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、イダルビシン、ミトキサントロン、パクリタキセル、ドセタキセル、カバジタキセル、エトポシド(VP-16)、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビノレルビン、プレドニゾン、デキサメタゾン、タモキシフェン、フルベストラント、アナストロゾール、レトロゾール、酢酸メゲストロール、ビカルタミド、フルタミド、ロイプロリド、ゴセレリン、L-アスパラギナーゼ、トレチノイン、メイタンシン、アウリスタチン、ピロロベンゾジアゼピン、デュオカルマイシン、及びそれらの組み合わせからなる群から独立して選択される細胞傷害剤である、請求項31に記載の治療用組成物。
【請求項36】
前記第1の標的化成分が、PSMA受容体抗体またはその抗原結合部分であり、前記第2の標的化成分が、PSMA受容体結合ペプチドまたはPSMA受容体阻害剤である、請求項31に記載の治療用組成物。
【請求項37】
前記第1の標的化成分が、J591、J415、J533、及びE99からなる群から選択される抗体であり、前記第2の標的化成分が、PSMA 617、PSMA I&T、DCFBC、DCFPyL、グルタミン酸-ウレア-リジン類似体、ホスホルアミデート類似体、2-(ホスフィニルメチル)ペンタン二酸類似体、及び他のPSMAリガンド/阻害剤/ペプチドからなる群から選択されるペプチドである、請求項36に記載の治療用組成物。
【請求項38】
前記第1の剤が、J591-177LuまたはJ591-225Acであり、前記第2の剤が、PSMA 617-177Lu、PSMA 617-225Ac、PSMA I&T-177Lu、またはPSMA I&T-225Acである、請求項36に記載の治療用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年10月1日に出願した米国仮特許出願第63/086,216号の優先権を主張し、その全体が参照により本明細書に援用される。
【0002】
分野
本出願は、低分子リガンドの相乗的取り込み及び保持のための方法及び組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
併用療法は、事実上すべての種類のがんに対して一般的に承認されている治療アプローチであり、数十年にわたって標準治療的アプローチとなっている。併用療法を用いる根拠は、単剤のみを使用した場合にがんの突然変異率が高いことで、腫瘍細胞の耐性株が急速に発生し得ると判断された初期の化学療法の経験であった。併用療法の目標は、有効性を向上させ、腫瘍への抵抗性または腫瘍の逃避の発生を最小に抑えることである。これは一般に、それぞれが異なる作用機序を有する2つ以上の抗がん剤を使用することによって達成され、これにより、耐性腫瘍細胞の発生が困難になり、その可能性を低下させる。2つ以上の剤を組み合わせることによる相加効果または相乗効果は、患者の治療の奏功と失敗との差になり得る。
【0004】
腫瘍学の分野では、多くの併用治療レジメンが周知されている。一例として、MOPP(メクロレタミン、ビンクリスチン、プロカルバジン、プレドニゾンの頭字語)は、ホジキン病の治癒的治療法である。いくつかの異なる併用レジメン(すべてシスプラチン、ビンブラスチン、及びブレオマイシンを含む)が精巣癌の治療において承認されており、診断された症例の最大98%で治癒可能である。全部で300以上の異なる併用レジメンが使用されている。
【0005】
併用療法の主な欠点は、多くの場合、毒性の増大ももたらされることである。例えば、外部照射及び化学療法などの非外科的がん療法のほとんどの形態は、正常な組織及び細胞に対する有毒な副作用、及びがん細胞に対するこれらの治療モダリティの特異性が制限されていることにより、その有効性が制限されている。
【0006】
この制限は、抗がん抗体が、同位体、薬物、及び毒素などの毒性剤をがん部位に標的化するために使用される場合にも重要であり、これは、全身作用剤として、それらが骨髄などの高感受性の細胞コンパートメントにも循環するためである。急性放射線障害では、敗血症及びその後の死の発症の主因として、リンパ及び造血コンパートメントの破壊がある。したがって、有効性を維持するか、さらには増強しながら、がん療法の毒性作用を低下させる方法が強く求められている。
【0007】
さらに、低分子は依然として臨床で使用される重要な薬物であるが、多くの場合、それらの治療的影響は、標的に到達する能力が不十分である、特異性が欠如している、毒性をもたらす高用量を必要とする、主要な副作用があることにより限界に達している。これらの分子の薬学的効力は、インビボでの安定性が不十分であること、急速な排除、及び細胞内への取り込みが少ないことによって依然として制約されている。したがって、「送達」は、治療パズルの決定的なピースとなり、以下の送達戦略を検証するための新しいマイルストーンが確立されているところである:(a)毒性がないこと、(b)インビボにおける低用量での効率が高いこと、(c)治療用途での取り扱いが容易であること、(d)迅速にエンドソームから放出されること及び(e)標的に到達する能力。ウイルス送達戦略は、遺伝子及び細胞療法に多くの希望を与えていたが、それらの臨床応用は、副作用及び毒性作用の欠点を有する(Glover et al.,「Towards Safe,Non-viral Therapeutic Gene Expression in Humans」Nat.Rev.Genet.6:299-310(2005)(非特許文献1);Whitehead et al.,「Knocking Down Barriers:Advances in siRNA Delivery」Nat Rev Drug Discov.8:129-138(2009)(非特許文献2))。研究者らは、主に非ウイルス戦略の開発に焦点を当てており、脂質、ポリカチオン性ナノ粒子、及びペプチドベースの製剤など、様々な方法が提唱されているが、これらの技術のうち、インビボで効率的であり、臨床に至っているのはごくわずかである。
【0008】
本出願は、当該技術分野におけるこれらの欠点及びその他の欠点の克服に向けられたものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Glover et al.,「Towards Safe,Non-viral Therapeutic Gene Expression in Humans」Nat.Rev.Genet.6:299-310(2005)
【非特許文献2】Whitehead et al.,「Knocking Down Barriers:Advances in siRNA Delivery」Nat Rev Drug Discov.8:129-138(2009)
【発明の概要】
【0010】
概要
本出願の第1の態様は、対象のがんを治療する方法に関する。本方法は、第1のがん治療成分に連結された第1の標的化成分を含む第1の剤を提供する工程、ならびに第2のがん治療成分に連結された第2の標的化成分を含む第2の剤を提供する工程を含む。第1の標的化成分及び第2の標的化成分は、対象において異なる体内分布及び/または薬物動態を有する。第1の剤及び第2の剤は、がんを治療するために、互いに8時間以内の間隔をあけて対象に投与される。投与の結果として、腫瘍内に内在化し保持される第1のがん治療成分及び第2のがん治療成分の量は、第1の剤及び第2の剤のそれぞれが個別に投与された場合における、腫瘍内に内在化し保持される第1の剤及び第2のがん治療成分の合計よりも多い。
【0011】
本出願の第2の態様は、第1のがん治療成分に連結された第1の標的化成分を含む第1の剤と、第1の剤と混合された第2の剤とを含む、治療用組成物に関する。第2の剤は、第2のがん治療成分に連結された第2の標的化成分を含む。第1の標的化成分及び第2の標的化成分は、対象において異なる体内分布及び/または薬物動態を有する。
【0012】
本出願は、その毒性を増加させずに減少させる機会を与えて有効性の改善を達成するために、標的化剤の最大耐性用量(MTD)を克服するための方法について記載する。本出願は、それぞれが同じ分子または同じ細胞型を標的とする、1つではなく2つの個々の標的化剤を使用することを提唱する。このアプローチでは、2つの標的化剤のそれぞれが、他方と異なる体内分布及び/または薬物動態を有する。重要なことに、これらのそれぞれの剤が異なる体内分布及び薬物動態を有することにより、2つのそれぞれの標的化剤の各々の重複しない異なる毒性がもたらされる。2つの標的化剤を治療戦略において組み合わせた場合、結果として、両方の薬物が所望の標的部位に同時にまたは順次集まり、その結果組み合わされた治療効果がもたらされる。
【0013】
それぞれが異なる生体内分布及び/薬物動態を有する2つの異なる標的化剤を使用した併用標的化は新規のものであり、これまでに、本明細書に記載のように考慮されたことまたは利用されたことはない。例えば標的放射性医薬品の分野におけるこれまでの試みは、次のいずれか一方で投与される単一の標的化剤(例えば、ソマトスタチン受容体2型(SSTR-2)リガンド)の使用に限定されていた:(1)サイクルとサイクルの間に最低6週間間隔おいて、2つの異なる治療剤部分を交互に担持するサイクル(Villard et al.,「Cohort Study of Somatostatin-Based Radiopeptide Therapy With[90Y-DOTA]-TOC Versus[90Y-DOTA]-TOC Plus[177Lu-DOTA]-TOC in Neuroendocrine Cancer」、J Clin Oncol 30:1100-1106(2012)、これは、その全体が参照により本明細書に援用される)または(2)単一の標的化剤を2つの治療剤とまとめて投与する、ここで、各治療剤は、用量を50%減少させて投与する(Kunikowska et al.,「Clinical Results of Radionuclide Therapy of Neuroendocrine Tumors with90Y-DOTATATE and Tandem90Y/177Lu-DOTATATE: Which is a Better Therapy Option?」、Eur J Nucl Med Mol Imaging 38:1788-1797(2011)、これは、参照によりその全体が本明細書に援用される)。これらの引用刊行物では両方とも、2つの放射性医薬品治療薬を使用しているが、1つの標的化剤のみ使用することによる制限があった。この単一の標的化剤は、定義上、標的分子への結合に関して、それ自体と競合するため、同時に投与するためには、それぞれの放射性核種を1サイクルおきに交互に使用するか、または各コンジュゲートさせた治療剤の投薬量を減少させる必要があった。本明細書に記載のアプローチでは、本明細書に例示している両方の治療剤部分を放射性医薬品と同時にかつ全用量で投与できるようにすることによって、この問題を解決する。本方法ではまた、より高い治療剤用量を標的部位(例えば、がん)に到達させることが可能になり、したがってより有効性が高い。これは、2つのそれぞれの剤の体内分布が異なり、正常組織に相加的毒性を引き起こすことはないため、達成され得る。この利点により、2つの放射性医薬品のうちの一方または特に両方が最大耐性用量である場合に、2つの放射性医薬品を同時投与できないこれまでの問題を初めて克服することもできる。別の選択肢として、一方または両方の剤の用量を実際に下方に調節することができ、それでも標的部位に一方の剤を個別に送達するよりも多くの治療用量が送達されるが、一方または両方の剤のそれぞれの用量を低下させることによって副作用も軽減させる。
【0014】
さらに、以下に示すとおり、腫瘍への追加投与のそれ自体が単に利点を達成するのみでなく、このアプローチによる腫瘍への総投与量が、個々の剤の合計を超える場合に相乗効果が得られることがわかっている。これは、抗体が低分子リガンドの生理学的プロセシングを変化させ、これにより、後者の腫瘍への取り込みの改善及びその腫瘍保持の延長が両方とも得られ、それによってさらに多量の有効用量が腫瘍に送達されるためである。
【0015】
治療効果の重要な決定要因は、意図した部位に送達される用量と対応することから、記載されているアプローチでは、用量制限毒性及び患者の忍容性を超えることなく、より高い用量を腫瘍に送達できるため、有効性が改善される利点をもたらす。さらに、治療の毒性及び忍容性を改善するために、一方または両方の成分の用量を減少させる選択肢を提供すると同時に、一方の剤を個別に投与する場合と比較して、投与の改善ももたらされる。
【0016】
また、2つの標的化剤を使用することにより、さらなる潜在的な治療的利点をもたらす2つの異なる細胞傷害剤の使用が可能になる。例えば、2つの異なる放射性医薬品を使用し、そうした場合、O’Donoghue et al.、「Relationships between Tumor Size and Curability for Uniformly Targeted Therapy with Beta-Emitting Radionuclides」、J Nucl Med 36:1902-1909(1995)(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)によって説明されているとおり、治療の治癒性を高めることができる。同様に、2つの標的化剤を使用することにより、異なるクラスの2つの細胞傷害剤、例えば、放射性医薬品及び化学療法剤、プロドラッグ及びプロドラッグの活性化剤、薬物及びそのエンハンサーまたはモジュレーターの使用が可能になる。当業者は、他の複数の併用を考案することができる。
【0017】
本明細書に記載のアプローチでは、2つの剤が協調して蓄積する身体内の唯一の部位が標的部位であるため、治療作用の特異性を高めることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】617-Lu177及びJ591-Lu177の両方による治療を受けたマウスは、エクスビボイメージングによって測定した場合、一方の剤のみを受けた腫瘍の合計を超える最大カウント数を有することを示す。
図2】617-Lu177及びJ591-Lu177の両方による治療を受けたマウスは、治療後72時間の剖検により測定した場合、いずれかの剤のみを受けた腫瘍中でのカウントの合計を超える最大数の放射活性カウントを有することを示す。
図3】抗体及び低分子リガンド標的放射性医薬品の併用により、個別に投与された場合の2つの個々の剤の合計よりも44~65%多い放射線量を腫瘍に送達させたことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
詳細な説明
本出願の第1の態様は、対象のがんを治療する方法に関する。本方法は、第1のがん治療成分に連結された第1の標的化成分を含む第1の剤を提供する工程、ならびに第2のがん治療成分に連結された第2の標的化成分を含む第2の剤を提供する工程を含む。第1の標的化成分及び第2の標的化成分は、対象において異なる体内分布及び/または薬物動態を有する。第1の剤及び第2の剤は、がんを治療するために、互いに8時間以内の間隔をあけて対象に投与される。投与の結果として、腫瘍内に内在化し保持される第1のがん治療成分及び第2のがん治療成分の量は、第1の剤及び第2の剤のそれぞれが個別に投与された場合における、腫瘍内に内在化し保持される第1の剤及び第2のがん治療成分の合計よりも多い。
【0020】
本明細書で使用されるとき、「対象」という用語は、ヒト及び非ヒト動物を含むように意図される。非ヒト動物には、非ヒト霊長類、ヒツジ、イヌ、ウシ、ニワトリ、両生類、爬虫類などの全ての脊椎動物、例えば、哺乳動物及び非哺乳動物が含まれる。
【0021】
本明細書で使用される場合、「治療する」という用語は、対象、例えば患者への本願の第1の剤及び第2の剤の適用または投与を指す。治療は、がん、がんの症状またはがんに対する素因を治癒させる、治す、弱める、緩和する、変化させる、軽減する、和らげる、緩和する、改善する、または影響を与えることであり得る。
【0022】
本明細書で使用される場合、「がん」という用語は、組織病理学的タイプまたは侵襲性の段階に関係なく、すべてのタイプの癌性成長または発癌過程、転移組織または悪性に形質転換された細胞、組織、または器官を含む。
【0023】
本明細書で使用される「生体内分布」という用語は、薬物が身体内で分布する器官及び組織を指す。
【0024】
本明細書で使用される「薬物動態」という用語は、薬物が体内にどのぐらい長く滞留するかを指す。
【0025】
ある実施形態では、第1の剤及び第2の剤は、互いに7時間以内、6時間以内、5時間以内、4時間以内、3時間以内、2時間以内、または1時間以内の間隔をおいて投与される。一実施形態では、第1の剤及び第2の剤は、同時に投与される。
【0026】
両方の剤の選択された投与時間に関係なく、この時間は、腫瘍内に内在化し保持される第1のがん治療成分及び第2のがん治療成分の量が、第1の剤及び第2の剤のそれぞれが個別に投与された場合における、腫瘍内に内在化し保持される第1のがん治療成分及び第2のがん治療成分の合計よりも多くなるものとする。
【0027】
ある実施形態では、がんは、前立腺癌、神経内分泌癌、乳癌、または非ホジキンリンパ腫、またはホジキンリンパ腫である。いくつかの実施形態では、がんは、原発腫瘍であり、他の実施形態では、がんは、二次または転移性腫瘍である。
【0028】
本明細書で使用される場合、「標的化成分」は、分子標的、例えば、膜成分、細胞表面受容体、例えば、前立腺特異的膜抗原(PSMA、これらは葉酸加水分解酵素1、グルタミン酸カルボキシペプチダーゼII、NAALADaseとしても知られている)などに結合するか、そうでなければ会合することができる成分である。標的化成分を含む第1の剤及び第2の剤は、特定の標的部位、例えば、腫瘍、疾患部位、組織、器官、細胞の種類などに局在化するかまたは集まる可能性がある。そのため、第1の剤及び第2の剤は、「標的特異的」であり得る。場合によっては、第1の標的化成分及び第2の標的化成分に連結された治療成分は、第1の標的化成分及び第2の標的化成分から放出される必要なく、その抗がん効果を発揮し得る。他の場合では、治療成分は、第1の剤の及び第2の剤から放出され得、特定の標的部位において局所的に相互作用することが可能になり得る。
【0029】
例えば、企図される標的化成分としては、核酸、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、糖タンパク質、炭水化物、または脂質が挙げられ得る。標的化成分は、細胞表面受容体、例えば成長因子、ホルモン、LDL、トランスフェリンなどの天然または合成リガンドであり得る。標的化成分は、抗体であり得、この用語は、抗体フラグメント及び/または誘導体、抗体の特徴的な部分、例えばファージ提示などの手順を使用して同定できる単鎖標的化部分を含むことを意図する。標的化成分はまた、標的化ペプチド、標的化ペプチドミメティック、または低分子であってもよく、これらは、天然であるかまたは(例えば、化学合成によって)人工的に生成される。
【0030】
一実施形態では、第1の標的化成分及び第2の標的化成分は、抗体またはその結合フラグメント、タンパク質、ペプチド、及び低分子からなる群から独立して選択される。
【0031】
腫瘍上の分子標的に対する抗体は、知られている。例えば、腫瘍によって産生されるか、または腫瘍に関連するマーカーに特異的に結合する抗体及び抗体フラグメントは、とりわけ、Hansenの米国特許第3,927,193号、ならびにGoldenbergの米国特許第4,331,647号、同第4,348,376号、同第4,361,544号、同第4,468,457号、同第4,444,744号、同第4,818,709号、及び第4,624,846号に開示されており、これらの内容はすべて参照により本明細書に援用される。特に、抗原、例えば胃腸、肺、肝臓、乳房、前立腺、腎臓、膀胱、卵巣、精巣、脳、造血またはリンパの腫瘍、肉腫または黒色腫に対する抗体が有利に使用される。がん関連抗原に対する抗体は、当業者に周知である。
【0032】
本出願の抗体は、例えば、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、細胞内抗体(「イントラボディ」)、抗体フラグメント(例えば、Fv、Fab及びF(ab)2)、半抗体、ハイブリッド誘導体、及び一本鎖抗体(scFv)、キメラ抗体、及びヒト化抗体などの様々な形態で存在し得る(Ed Harlow and David Lane,USING ANTIBODIES:A LABORATORY MANUAL(Cold Spring Harbor Laboratory Press,1999);Houston et al.,「Protein Engineering of Antibody Binding Sites:Recovery of Specific Activity in an Anti-Digoxin Single-Chain Fv Analogue Produced in Escherichia coli」Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879-5883(1988);Bird et al,「Single-Chain Antigen-Binding Proteins」Science 242:423-426(1988)、そのそれぞれは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。
【0033】
本出願の抗体は、合成抗体であってもよい。合成抗体は、例えば、バクテリオファージによって発現される抗体など、組換えDNA技術を使用して生成される抗体である。あるいは、合成抗体は、本出願の抗体をコードして発現するDNA分子の合成、または抗体を特定するアミノ酸配列の合成によって生成され、ここで、DNAまたはアミノ酸配列は、利用可能であり、当技術分野で周知である合成DNAまたはアミノ酸配列技術を使用して得られたものである。
【0034】
モノクローナル抗体を産生するための方法は、本明細書に記載されているか、または当技術分野で周知の技術を使用して実施され得る(MONOCLONAL ANTIBODIES-PRODUCTION,ENGINEERING AND CLINICAL APPLICATIONS(Mary A.Ritter and Heather M.Ladyman eds.,1995)、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)。一般に、このプロセスは、インビボまたはインビトロのいずれかにおいて、目的の抗原で事前に免疫した哺乳動物の脾臓から免疫細胞(リンパ球)を得ることを含む。
【0035】
あるいは、モノクローナル抗体は、Cabilly et alの米国特許第4,816,567号に記載の組換えDNA法を使用して作製することができ、これは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。モノクローナル抗体をコードするポリヌクレオチドは、成熟B細胞またはハイブリドーマ細胞から、例えば、抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子を特異的に増幅するオリゴヌクレオチドプライマーを使用するRT-PCRによって単離される。次いで、重鎖及び軽鎖をコードする単離されたポリヌクレオチドを好適な発現ベクターにクローニングし、E.coli細胞、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、または他の方法では免疫グロブリンタンパク質を産生しない骨髄腫細胞などの宿主細胞にトランスフェクトしたときに、モノクローナル抗体が、宿主細胞によって生成される。また、所望の種の組換えモノクローナル抗体またはそのフラグメントは、ファージディスプレイライブラリーから単離することができる(McCafferty et al.,「Phage Antibodies:Filamentous Phage Displaying Antibody Variable Domains」 Nature 348:552-554(1990);Clackson et al.,「Making Antibody Fragments using Phage Display Libraries」Nature 352:624-628(1991);及びMarks et al.,「By-Passing Immunization.Human Antibodies from V-Gene Libraries Displayed on Phage」J.Mol.Biol.222:581-597(1991)、これらは、その全体が参照により本明細書に援用される)。
【0036】
モノクローナル抗体をコードするポリヌクレオチド(複数可)は、組換えDNA技術を使用してさらに修飾して、別の抗体を生成することができる。例えば、ヒトモノクローナル抗体の軽鎖及び重鎖の定常ドメインをマウス抗体のそれらの領域に置換して、キメラ抗体を生成することができる。あるいは、マウスモノクローナル抗体の軽鎖及び重鎖の定常ドメインを非免疫グロブリンポリペプチドで置換して、融合抗体を生成することができる。他の実施形態では、定常領域を短縮させるかまたは除去して、モノクローナル抗体の所望の抗体フラグメントまたは誘導体を生成する。さらに、可変領域の部位特異的または高密度変異誘発を使用して、モノクローナル抗体の特異性及び親和性を最適化することができる。
【0037】
本出願のモノクローナル抗体は、ヒト化抗体であり得る。ヒト化抗体は、可変領域内に非ヒト(例えば、マウス)抗体からの最小配列を含む抗体である。そのような抗体は、ヒト対象に投与された場合に抗原性及びヒト抗マウス抗体応答を低下させるために治療的に使用される。実際には、ヒト化抗体は、典型的には、非ヒト配列が最小であるかまたは全くないヒト抗体である。ヒト抗体は、ヒトによって産生される抗体、またはヒトによって産生される抗体に対応するアミノ酸配列を有する抗体である。
【0038】
抗体全体に加えて、本出願は、そのような抗体の結合部分を包含する。そのような結合部分には、一価のFabフラグメント、Fvフラグメント(例えば、単鎖抗体、scFv)、単一の可変V及びVドメイン、及び二価のF(ab’)フラグメント、Bis-scFv、ダイアボディ、トリアボディ、ミニボディなどが含まれる。これらの抗体フラグメントは、以下に記載のタンパク質分解断片化手順などの従来の手順、または当該技術分野で知られている他の方法よって作製できる;James Goding,MONOCLONAL ANTIBODIES:PRINCIPLES AND PRACTICE 98-118(Academic Press,1983)及びEd Harlow and David Lane,ANTIBODIES:A LABORATORY MANUAL(Cold Spring Harbor Laboratory,1988)、これらは、参照により本明細書に援用される。
【0039】
特に抗体フラグメントの場合、その血清半減期を延長させるために抗体を修飾することがさらに望ましい場合がある。これは、例えば、抗体フラグメント中の適切な領域の変異によるサルベージ受容体結合エピトープの抗体フラグメントへの組み込みによって、またはエピトープをペプチドタグに組み込んだ後、いずれかの末端または中間で抗体フラグメントに融合させることによって(例えば、DNAまたはペプチド合成による)、達成することができる。
【0040】
抗体模倣物も、本出願に従って使用するのに好適である。複数の抗体模倣物が、当技術分野で知られており、これらに限定されないが、以下が挙げられる;10番目のヒトフィブロネクチンタイプIIIドメイン(10Fn3)に由来する、モノボディとして知られるもの(Koide et al.,「The Fibronectin Type III Domain as a Scaffold for Novel Binding Proteins」 J.Mol.Biol.284:1141-1151(1998);Koide et al.,「Probing Protein Conformational Changes in Living Cells by Using Designer Binding Proteins:Application to the Estrogen Receptor」 Proc.Natl.Acad.Sci.USA 99:1253-1258(2002)、そのそれぞれは、参照によりその全体が本明細書に援用される);及びブドウ球菌プロテインAの安定したαヘリックス細菌受容体ドメインZに由来するアフィボディとして知られているもの(Nord et al.,「Binding Proteins Selected from Combinatorial Libraries of an alpha-helical Bacterial Receptor Domain」 Nature Biotechnol.15(8):772-777(1997)、これらは、参照によりその全体が本明細書に援用される)。
【0041】
本出願と併せて使用されるペプチドは、天然源から既知の単離及び精製プロトコールによって得ることができ、ペプチドの既知のペプチド配列に従って標準的な固相または液相ペプチド合成法によって合成することができ、または利用可能な調製物から商業的に入手することができる。本明細書には、ネイティブペプチドの生物学的結合特性を呈し、ネイティブペプチドの特異的結合特徴を保持するペプチドが含まれる。本明細書で使用されるペプチドの誘導体及び類似体には、ペプチドがネイティブペプチドの特異的結合特性を保持するという条件で、ペプチドの個々のアミノ酸の組成、同一性、及び誘導体化における修飾が含まれる。そのような修飾の例としては、D-立体異性体を含むようにアミノ酸のいずれかの修飾、芳香族アミノ酸の芳香族側鎖における置換、側鎖中にそのような基を含むアミノ酸の側鎖におけるアミノ基またはカルボキシル基の誘導体化、ペプチドのアミノ末端またはカルボキシ末端の置換、ペプチドの第2のペプチドまたは生物学的活性部分への連鎖、及びペプチドの環化が挙げられる((G.Van Binst and D.Tourwe,「Backbone Modifications in Somatostatin Analogues:Relation Between Conformation and Activity」Peptide Research 5:8-13(1992)、これは、参照によりその全体が本明細書に援用される)。
【0042】
一実施形態では、第1の標的化成分及び第2の標的化成分は、同じ分子標的を標的とする。例えば、第1の標的化成分及び第2の標的化成分は、同じ細胞型によって発現する同じ受容体(例えば、PSMA)に結合し得る。
【0043】
別の実施形態では、第1の標的化成分及び第2の標的化成分は、同じ細胞型上の異なる分子標的を標的化する。例えば、第1の標的化成分及び第2の標的化成分は、同じ細胞型上に発現する異なる受容体(例えば、HER1及びHER2)に結合し得る。
【0044】
本明細書で使用される場合、「がん治療成分」は、細胞、組織、または対象と接触したときに、治療法を必要とする状態を有する細胞、組織、または対象を治療する剤、または剤の組み合わせである。がん治療成分は、例えば、治療用放射性核種、化学療法剤、細胞毒素、ホルモン、ホルモンアンタゴニスト、受容体アンタゴニスト、別の剤、生物製剤、オートクリンまたはサイトカインによって活性化される酵素またはプロ酵素であり得る。毒素も本出願の方法で使用することができる。本出願において有用な他の治療剤としては、抗DNA、抗RNA、放射性標識オリゴヌクレオチド、例えば、アンチセンスオリゴデオキシリボヌクレオチド、抗タンパク質及び抗クロマチン細胞傷害剤または抗微生物剤が挙げられる。他の治療剤は、当業者に公知であり、本出願によるそのような他の治療剤の使用が具体的に企図される。
【0045】
一実施形態では、第1のがん治療成分及び第2のがん治療成分は、放射性核種及び細胞傷害剤からなる群から独立して選択される。
【0046】
一実施形態では、第1のがん治療成分及び/または第2のがん治療成分は、86Re、90Y、67Cu、169Er、121Sn、127Te、142Pr、143Pr、198Au、199Au、161Tb、109Pd、188Rd、166Dy、166Ho、149Pm、151Pm、153Sm、159Gd、172Tm、169Yb、175Yb、177Lu、105Rh、111Ag、131I、177mSn、225Ac、227Th、212Pb、211At、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される放射性核種である。
【0047】
放射性同位体で剤を標識する手順は、一般に当技術分野で知られている。例えば、キレートリガンドとして機能することができ、本願の標的化成分に誘導体化できる広範囲の部分がある。例えば、キレートリガンドは、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン四酢酸(DOTA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、及び1-p-イソチオシアナト-ベンジル-メチル-ジエチレントリアミン五酢酸(ITC-MX)の誘導体であり得る。これらのキレート剤は、典型的には側鎖上に基を有し、それによってキレート剤を本出願の標的化成分へ付着させるのに使用することができる。このような基としては、例えばベンジルイソチオシアネートが挙げられ、それによってDOTA、DTPA、またはEDTAを、例えば標的化成分のアミン基に連結させることができる。抗体、その結合部分、プローブ、またはリガンドなどの生物剤をヨウ素化するための手順は、Hunter and Greenwood,「Preparation of Iodine-131 Labelled Human Growth Hormone of High Specific Activity」 Nature 144:496-496(1962),David et al.,「Protein Iodination With Solid State Lactoperoxidase」 Biochemistry 13:1014-1021(1974)、及びLingの米国特許第3,867,517号及びDavidの同第4,376,110号に記載され、これは、その全体が参照によって本明細書に援用される。生物剤をヨウ素化するための他の手順は、以下によって記載されており;Greenwood et al.,「The Preparation of I-131-Labelled Human Growth Hormone of High Specific Radioactivity」 Biochem.J.89:114-123(1963);Marchalonis,「An Enzymic Method for the Trace Iodination of Immunoglobulins and Other Proteins」 Biochem.J.113:299-305(1969);及びMorrison et al.,「Use of Lactoperoxidase Catalyzed Iodination in Immunochemical Studies」 Immunochemistry 8:289-297(1971)、これらは、その全体が、参照によって本明細書に援用される。99mTc標識の手順は、Rhodes,B.et al.in Burchiel,S.et al.(eds.),Tumor Imaging:The Radioimmunochemical Detection of Cancer,New York:Masson 111-123(1982)及びそこに引用されている参考文献に記載されており、これらは、その全体が参照によって本明細書に援用される。111In標識生物剤に好適である手順は、Hnatowich et al.,「The Preparation of DTPA-coupled Antibodies Radiolabeled With Metallic Radionuclides:an Improved Method」J.Immul.Methods 65:147-157(1983),Hnatowich et al.,「Coupling Antibody With DTPA--an Alternative to the Cyclic Anhydride」Int.J.Applied Radiation 35:554-557(1984)、及びBuckley et al.,「An Efficient Method For Labelling Antibodies With 111In」F.E.B.S.166:202-204(1984)に記載されており、参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0048】
別の実施形態では、がん治療成分は、ブスルファン、シスプラチン、カルボプラチン、クロラムブシル、シクロホスファミド、イホスファミド、ダカルバジン(DTIC)、メクロレタミン(窒素マスタード)、メルファランカルムスチン(BCNU)、ロムスチン(CCNU)、5-フルオロウラシル(5-FU)、カペシタビン、メトトレキサート、ゲムシタビン、シタラビン(ara-C)、フルダラビン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、イダルビシン、ミトキサントロン、パクリタキセル、ドセタキセル、カバジタキセル、エトポシド(VP-16)、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビノレルビン、プレドニゾン、デキサメタゾン、タモキシフェン、フルベストラント、アナストロゾール、レトロゾール、酢酸メゲストロール、ビカルタミド、フルタミド、ロイプロリド、ゴセレリン、L-アスパラギナーゼ、トレチノイン、メイタンシン、アウリスタチン、ピロロベンゾジアゼピン、デュオカルマイシン、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される細胞傷害剤である。
【0049】
生物剤を化学療法剤などの細胞傷害剤とコンジュゲートさせる手順は、当技術分野で周知である。がんの治療において現在使用中の化学療法剤のほとんどは、本出願の第1の標的化成分のアミン基またはカルボキシル基と直接化学架橋しやすい官能基を有する。例えば、遊離アミノ基は、メトトレキサート、ドキソルビシン、ダウノルビシン、シトシンアラビノシド、シスプラチン、ビンデシン、マイトマイシン、及びブレオマイシンで利用可能であり、遊離カルボン酸基は、メトトレキサート、メルファラン、及びクロラムブシルで利用可能である。遊離アミノ酸及びカルボン酸であるこれらの官能基は、これらの剤を第1の標的化成分の遊離アミノ基に直接架橋できる様々なホモ二官能性及びヘテロ二官能性化学架橋剤の標的である。標的化成分を化学療法剤とコンジュゲートするための特定の手順が記載されており、当技術分野で知られている。例として、クロラムブシルと抗体のコンジュゲートは、以下によって記載されている;Flechner,「The Cure and Concomitant Immunization of Mice Bearing Ehrlich Ascites Tumors by Treatment With an Antibody--Alkylating Agent Complex」 European Journal of Cancer 9:741-745(1973);Ghose et al.,「Immunochemotherapy of Cancer with Chlorambucil-Carrying Antibody」 British Medical Journal 3:495-499(1972);及びSzekerke et al.,「The Use of Macromolecules as Carriers of Cytotoxic Groups(part II)Nitrogen Mustard--Protein Complexes」 Neoplasma 19:211-215(1972)、これらは参照によりその全体が本明細書に援用される。ダウノマイシン及びアドリアマイシンを抗体にコンジュゲートさせる手順は、Hurwitz et al.,「The Covalent Binding of Daunomycin and Adriamycin to Antibodies,With Retention of Both Drug and Antibody Activities」 Cancer Research 35:1175-1181(1975)及びArnon et al.Cancer Surveys 1:429-449(1982)に記載されており、これは、参照によりその全体が本明細書に援用される。カップリング手順は、EP86309516.2にも記載されており、その全体が参照により本明細書に援用される。
【0050】
本願の第1の剤及び第2の剤の正確な投与量は、治療される患者を考慮して個々の医師によって選択されることは、理解されるであろう。一般に、投与量及び投与は、治療される患者に有効量の薬剤を提供するように調整される。本明細書で使用される場合、剤の「有効量」は、所望の生物学的応答を誘発するのに必要な量を指す。当業者によって理解されるように、剤の有効量は、所望の生物学的エンドポイント、送達される薬物、標的組織、投与経路などの要因に応じて変動し得る。例えば、抗がん薬を含有する剤の有効量は、所望の期間にわたって所望の量分、腫瘍サイズの縮小をもたらす量であり得る。考慮される可能性のある追加の要因としては、病状の重症度;治療を受けている患者の年齢、体重、性別;食事、投与の時間及び頻度;薬物の組み合わせ;反応感度;及び治療に対する寛容/応答が挙げられる。
【0051】
一般に、用量は、単剤として投与される場合、標的化剤のMTDの約25%から約100%の範囲であり得る。組成物に基づいて、用量は、連続ポンプなどによって連続的に、または定期的な間隔で、一度に送達させ得る。投与量は、局所的または全身的に所望の薬物レベルを達成するために適切に調整することができる。そのような用量において対象における応答が不十分である場合、患者の耐性が許容する範囲で、さらに高い用量(または別の、より局所化された送達経路による効果的なさらに高い用量)を使用してもよい。化合物の適切な全身レベルを達成するために、例えば24時間にわたる連続IV投与または1日あたり複数回の投与も企図される。
【0052】
一実施形態では、がん治療成分は、最大耐性用量を有し、最大耐性用量のがん治療成分が対象に投与される。2つの標的化成分の生体内分布及び薬物動態は異なるため、個々の薬物としての毒性は重複しないか、最小限に抑えられる。結果として、標的部位への用量を相加的に増加させても、それに相応する毒性の増加は伴わない。
【0053】
代替的実施形態では、最大耐性用量より少ないがん治療成分が対象に投与される。本出願の2つの剤が治療戦略において組み合わされる場合、結果として、両方の剤が所望の標的部位に(同時にまたは順次)集まり、それによって相乗的治療効果がもたらされ、第1の剤及び第2の剤の治療成分が、そのMTD未満で投与されるため、対象が経験するのはより低い毒性である。
【0054】
一実施形態では、第1の剤及び/または第2の剤は、放射性核種Lu177にコンジュゲートした低分子であり、2週間のサイクルで約300~900mCi(11.0~33.3GBq)の合計用量、例えば、2週間のサイクルで合計300、325、350、375、400、425、450、475、500、600、700、800または900mCiの用量で投与される。別の実施形態では、放射性核種Lu177にコンジュゲートされた低分子は、6週間間隔で、または4~8週間サイクルまたはそれ以上長いサイクルで投与される。この場合、各線量の範囲は、5.0~9.0GBq(135~243mCi)である。
【0055】
本出願の方法を実施する際には、投与ステップは、対象において、がんを治療するために実施する。一実施形態では、がんを有する対象は、投与ステップ前に選択される。このような投与は、腫瘍部位に対して、全身、または直接、または局所投与によって実施できる。例えば、適切な全身投与方法としては、経口投与、局所投与、経皮投与、非経口投与、皮内投与、筋肉内投与、腹腔内投与、静脈内投与、皮下投与、もしくは鼻腔内注入による投与、腔内注入による投与もしくは膀胱内注入による投与、眼内投与、動脈内投与、病巣内投与、または粘膜への塗布が挙げられるが、これらに限らない。適切な局部投与方法としては、カテーテル法、埋入、直接注射、皮膚/経皮塗布、該当組織への門脈投与、または当該技術分野において概ね知られているいずれかの他の局部投与技法、方法もしくは手順による方法が挙げられるが、これらに限らない。剤の送達に影響を与える方法は、治療剤の種類(例えば、抗体または阻害性核酸分子)及び治療される疾患に応じて変動するものである。
【0056】
本出願の剤は、例えば不活性希釈剤もしくは同化可能な食用担体と共に経口投与してもよいし、またはハードシェルカプセルもしくはソフトシェルカプセルに封入してもよいし、または圧縮して錠剤にしてもよいし、または治療食の食物と直接混ぜ合わせてもよい。本出願の剤は、徐放性のカプセルまたはナノチューブなどのデバイス内に組み入れて、徐放方法で投与してもよい。このようなデバイスにより、時間及び投与量に対する柔軟性が得られる。経口薬を投与するには、本出願の剤は、賦形剤とともに組み込んでよいとともに、錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、懸濁剤、シロップなどの形態で使用してよい。このような組成物及び調製物は、本出願の剤を少なくとも0.1%含む必要があるが、それよりも低い濃度が有効である場合があり、実際に最適である場合がある。これらの組成物中の剤の割合は、当然ながら変動し得るとともに、利便的には、その単位の約2重量%~約60重量%であってよい。このような治療上有用な組成物中での本出願の剤の量は、好適な投与量が得られるような量である。
【0057】
本出願の剤を非経口投与する場合には、ヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤と好適に混合した水で、その剤の溶液または懸濁液を調製できる。グリセロール、液体ポリエチレングリコール、及び油中のこれらの混合物で、分散液を調製することもできる。例示的な油は、石油、動物油、植物油または合成由来の油、例えば、ラッカセイ油、大豆油または鉱油である。一般的に、水、生理食塩水、デキストロース水溶液及び関連する糖溶液、ならびにプロピレングリコールまたはポリエチレングリコールなどのグリコールは、特に注射溶液にとって好ましい液体担体である。これらの調製物は、通常の保存条件及び使用条件下で、微生物の発育を阻止するための保存剤を含有する。
【0058】
注射用途に適する医薬製剤としては、滅菌水溶液または滅菌分散液、及び滅菌注射液または滅菌注射用分散液を即座に調製するための滅菌粉末が挙げられる。いずれの場合でも、その形態は、滅菌されていなければならず、注射針を容易に通す程度に流体でなければならない。その形態は、製造条件及び保存条件下で安定していなければならず、細菌及び真菌のような微生物の汚染作用から保護されていなければならない。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレングリコール)、それらの好適な混合物、ならびに植物油を含有する溶媒または分散媒であり得る。
【0059】
本出願の剤を全身送達するのが望ましい場合には、それら剤は、注射、例えばボーラス注射、または持続注入による非経口投与用に製剤化してよい。注射用の製剤は、単位剤形で、例えばアンプル中で提供してもよいし、または多用量容器に、保存剤を加えて提供してもよい。本願の組成物は、油性ビヒクルまたは水性ビヒクル中の懸濁液、溶液または乳濁液のような形態を取ってもよく、懸濁化剤、安定剤及び/または分散剤などのような製剤化剤を含んでもよい。
【0060】
本出願の剤の腹腔内投与または髄腔内投与は、注入ポンプデバイスを用いて行うこともできる。このようなデバイスにより、複数回の注入及び複数回の操作を回避しながら、所望の化合物を持続注入が可能になる。
【0061】
先に記載した製剤に加えて、本剤は、デポー調製物として製剤化することもできる。このような長期作用型製剤は、適切なポリマーまたは疎水性材料(例えば、許容される油中の乳剤として)、またはイオン交換樹脂と、または難溶性誘導体として、例えば難溶性塩として製剤化され得る。
【0062】
一実施形態では、がんは、前立腺癌である。
【0063】
本出願のこの態様の別の実施形態では、がんが前立腺癌である場合、第1の標的化成分及び第2の標的化成分は、PSMA受容体を標的とする。
【0064】
本明細書で使用される場合、「PSMA」または「前立腺特異的膜抗原」タンパク質は、哺乳動物PSMA、好ましくはヒトPSMAタンパク質を指す。PSMAは、葉酸加水分解酵素1としても知られている。PSMAの長い転写産物は、分子量約100~120kDaのタンパク質産物をコードし、トランスフェリン受容体と配列相同性を有し、NAALADase活性を有するII型膜貫通受容体であることを特徴とする(Carter et al.,「Prostate-Specific Membrane Antigen is a Hydrolase With Substrate and Pharmacologic Characteristics of a Neuropeptidase」 Proc.Natl.Acad.Sci.USA93:749-753(1996)に記載されており、これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。
【0065】
代替的実施形態では、第1の標的化成分は、PSMA受容体抗体またはその抗原結合部分であり、第2の標的化成分は、PSMA受容体結合ペプチドまたはPSMA受容体阻害剤である。
【0066】
PSMA受容体抗体は、PSMA、好ましくはヒトPSMAタンパク質と相互作用する(例えば、結合する)抗体である。好ましくは、PSMA受容体抗体は、PSMAの細胞外ドメイン、例えば、ヒトPSMAの約アミノ酸44~750にあるヒトPSMAの細胞外ドメイン(アミノ酸残基は米国特許第5,538,866号(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)に開示されたヒトPSMA配列に対応する)と相互作用、例えば結合する。PSMA受容体抗体は、当技術分野で知られている((Goldsmith et al.,「Targeted Radionuclide Therapy for Prostate Cancer」 Therapeutic Nuclear Medicine 617-628(R.Baum ed.2014)、これは参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。例示的なPSMA受容体抗体としては、これらに限定されないが、J591、J415、J533、及びE99が挙げられる(Tykvart et al.,「Comparative Analysis of Monoclonal Antibodies Against Prostate-specific Membrane Antigen(PSMA)」、The Prostate 74(16):1674-90(2014)、これは、その全体が参照により本明細書に援用される)。
【0067】
PSMA受容体阻害剤は、PSMA受容体の機能を阻害する任意の脂質、炭水化物、ポリヌクレオチド、ペプチド、ポリペプチド、または任意の他の生物学的分子、有機分子または無機分子を含み得る。例示的なPSMA受容体阻害剤は、当技術分野で公知であり、これに限定されないが、PSMA 617、PSMA I&T、DCFBC、DCFPyL、グルタミン酸-ウレア-リジン類似体、ホスホルアミデート類似体、及び2-(ホスフィニルメチル)ペンタン二酸類似体が挙げられる(Lutje et al.,「PSMA Ligands for Radionuclide Imaging and Therapy of Prostate Cancer:Clinical Status」Theranostics 5(12):1388-1401(2015);Haberkorn et al.,「New Strategies in Prostate Cancer:Prostate-Specific Membrane Antigen(PSMA)Ligands for Diagnosis and Therapy」 Clin.Cancer Res.22(1):9-15(2016)、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。
【0068】
一実施形態では、第1の標的化成分は、J591、J415、J533、及びE99からなる群から選択される抗体であり、一方、第2の標的化成分は、PSMA 617、PSMA I&T、DCFBC、DCFPyL、グルタミン酸-ウレア-リジン類似体、ホスホルアミデート類似体、2-(ホスフィニルメチル)ペンタン二酸類似体、及び他のPSMAリガンド/阻害剤/ペプチドからなる群から選択されるペプチドである。
【0069】
一実施形態では、第1の剤は、J591-177LuまたはJ591-225Acであり、第2の剤は、PSMA 617-177Lu、PSMA 617-225Ac、PSMA I&T-177Lu、またはPSMA I&T-225Acである。いずれの剤も、アルファまたはベータ放出放射性核種を担持することができ、その結果、アルファ/アルファ、ベータ/ベータ、アルファ/ベータ、またはベータ/アルファなどの様々な対が得られる。別の実施形態では、標的化剤は、当業者に周知の他のクラスの細胞傷害剤(例えば、薬物または毒素)を担持することができる。
【0070】
本出願の別の実施形態では、がんは、神経内分泌癌である。神経内分泌癌としては、これらに限定されないが、カルチノイド腫瘍、ガストリノーマ、インスリノーマ、グルカゴノーマ、ビポーマ(VIPoma)、ソマトスタチノーマ、甲状腺癌、皮膚のメルケル細胞癌、下垂体前葉の腫瘍、髄様癌、副甲状腺腫瘍、胸腺及び縦隔カルチノイド腫瘍、肺神経内分泌腫瘍、副腎髄質腫瘍、褐色細胞腫、神経鞘腫、傍神経節腫、神経芽細胞腫、及び尿路カルチノイド神経内分泌癌が挙げられる。
【0071】
本出願のこの態様によれば、一実施形態では、第1の標的化成分及び第2の標的化成分は、ソマトスタチン受容体を標的とする。
【0072】
少なくとも5つのソマトスタチン受容体サブタイプの特徴が明らかになっており、腫瘍は、様々な受容体サブタイプを発現可能である(Shaer et al.,「Somatostatin Receptor Subtypes sst1,sst2,sst3 and sst5 Expression in Human Pituitary,Gastroentero-Pancreatic and Mammary tumors:Comparison of mRNA Analysis With Receptor Autoradiography」 Int.J.Cancer 70:530-537(1997)、これは、参照によりその全体が本明細書に援用される)。天然に存在するソマトスタチン及びその類似体は、これらの受容体サブタイプに対する異なる結合を呈し、これにより、特定の疾患組織へのペプチド類似体の正確な標的化が可能になる。
【0073】
本出願のこの態様によれば、第1の標的化成分及び第2の標的化成分は、ネイティブソマトスタチンの少なくとも1つの生物学的活性を有する。好ましくは、この活性は、ソマトスタチン受容体保有細胞上のソマトスタチン受容体に特異的に結合する能力である。生物学的活性を有する多くのそのような類似体が知られており、例えば、Hornik et al.の米国特許第5,770,687号;Coy et al.の米国特許第5,708,135号;Hoeger et alの米国特許第5,750,499号;McBride et al.の米国特許第5,620,675号;Coy et alの米国特許第5,633,263号;Coy et alの米国特許第5,597,894号;Taylor et alの米国特許第5,073,541号;Coy et alの米国特許第4,904,642号;Deanの米国特許第6,017,509号;Hoffman et al.のWO98/47524号;及びBogdenの米国特許第5,411,943号に記載されており;これらの特許の各々は、その全体が参照により本明細書に援用される。
【0074】
一実施形態では、第1の標的化成分及び第2の標的化成分は、ソマトスタチン受容体-2を標的とする。
【0075】
本出願の別の実施形態では、がんは、乳癌である。
【0076】
本出願のこの実施形態によれば、がんが乳癌である場合、第1の標的化成分及び第2の標的化成分は、HER受容体ファミリーを標的とする。
【0077】
第1の剤及び第2の剤、ならびに標的化成分及び治療成分は、上記に記載されている。
【0078】
本出願の別の実施形態では、がんは、非ホジキンリンパ腫である。
【0079】
この実施形態によれば、がんが、非ホジキンリンパ腫である場合、第1の標的化成分及び第2の標的化成分は、CD20を標的とする。
【0080】
本出願の別の実施形態では、がんは、ホジキン病である。
【0081】
この実施形態によれば、がんが、ホジキン病である場合、第1の標的化成分及び第2の標的化成分は、CD30を標的とする。
【0082】
本出願の別の態様は、第1のがん治療成分に連結された第1の標的化成分を含む第1の剤と、第1の剤と混合された第2の剤とを含む、治療用組成物に関する。第2の剤は、第2のがん治療成分に連結された第2の標的化成分を含む。第1の標的化成分及び第2の標的化成分は、対象において異なる体内分布及び/または薬物動態を有する。
【0083】
第1の剤及び第2の剤、ならびに標的化成分及び治療成分は、上記に記載されている。
【0084】
本出願の方法において使用するための剤を含む医薬組成物は、後述の薬学的に許容される担体、1つ以上の活性剤、及び好適な送達ビヒクルを含むことができる。好適な送達ビヒクルとして、これらに限定されないが、ウイルス、細菌、生分解性ミクロスフェア、微粒子、ナノ粒子、リポソーム、コラーゲンミニペレット、及びコクリエートが挙げられる。
【0085】
本出願の一実施形態では、その全体が参照により本明細書に援用されるSemple et al.,「Rational Design of Cationic Lipids for siRNA Delivery」 Nature Biotech.28:172-176(2010)、Bumcrot et al.,のWO2011/034798、Bumcrot et al.,のWO2009/111658及びBumcrot et al.,のWO2010/105209に記載されているように、阻害性核酸分子(例えば、siRNA分子)を含む医薬組成物または製剤を、脂質製剤に内包化して核酸-脂質粒子を形成する。
【0086】
本出願の別の実施形態では、送達ビヒクルは、ナノ粒子である。様々なナノ粒子送達ビヒクルが当技術分野で公知であり、本願の阻害剤の送達に好適である(その全体が参照により本明細書に援用される、例えば、van Vlerken et al.,「Multi-functional Polymeric Nanoparticles for Tumour-Targeted Drug Delivery」 Expert Opin.Drug Deliv.3(2):205-216(2006)を参照のこと)。適切なナノ粒子として、限定されないが、ポリ(βアミノエステル)(その全体が参照により本明細書に援用されるSawicki et al.,「Nanoparticle Delivery of Suicide DNA for Epithelial Ovarian Cancer Cell Therapy」Adv.Exp.Med.Biol.622:209-219(2008)、ポリエチレンイミン-alt-ポリ(エチレングリコール)コポリマー(その全体が参照により本明細書に援用されるPark et al.,「Degradable Polyethylenimine-alt-Poly(ethylene glycol)Copolymers As Novel Gene Carriers」 J.Control Release 105(3):367-80(2005)及びPark et al.,「Intratumoral Administration of Anti-KITENIN shRNA-Loaded PEI-alt-PEG Nanoparticles Suppressed Colon Carcinoma Established Subcutaneously in Mice」 J Nanosci.Nanotechnology10(5):3280-3(2010))、及びリポソーム捕捉siRNAナノ粒子(その全体が参照により本明細書に援用されるKenny et al.,「Novel Multifunctional Nanoparticle Mediates siRNA Tumor Delivery,Visualization and Therapeutic Tumor Reduction In Vivo」 J.Control Release 149(2):111-116(2011))が挙げられる。本出願での使用に適した他のナノ粒子送達ビヒクルとして、その全体が参照により本明細書に援用されるPrakash et al.,の米国特許公開第2010/0215724号に開示されたマイクロカプセルナノチューブデバイスが挙げられる。
【0087】
本出願の別の実施形態では、医薬組成物を、リポソーム送達ビヒクルに含有させる。用語「リポソーム」とは、球状の二重層(複数可)内に配置された両親媒性脂質から構成される小胞を意味する。リポソームは、親油性物質及び水性内部から形成される膜を有する単層または多層の小胞である。水性部分は、送達する組成物を含有する。陽イオン性リポソームは、細胞壁に融合できるという利点を有する。非陽イオン性リポソームは、細胞壁と効率的に融合することはできないが、インビボでマクロファージに取り込まれる。
【0088】
リポソームのいくつかの利点として以下が挙げられる:それらの生体適合性と生分解性、広範囲の水溶性及び脂溶性薬物の取り込み;ならびにそれらがカプセル化された薬物を代謝と分解から保護すること。リポソーム製剤の調製における重要な考慮事項は、脂質の表面電荷、小胞のサイズ、及びリポソームの水性容量である。
【0089】
リポソームは、有効成分を作用部位へ移動及び送達するうえで有用である。リポソーム膜は生体膜と構造的に類似しているため、リポソームを組織に投与すると、リポソームは細胞膜と融合し始め、リポソームと細胞の融合が進行するにつれて、リポソームの内容物は細胞に移って空となり、細胞内で活性剤が作用し得る。
【0090】
本出願で使用するためのリポソームの調製方法として、その全体が参照により本明細書に援用されるBangham et al.,「Diffusion of Univalent Ions Across the Lamellae of Swollen Phospholipids」 J.Mol.Biol.13:238-52(1965);Hsuの米国特許第5,653,996号;Lee et alの米国特許第5,643,599号;Holland et al.の米国特許第5,885,613号;Dzau&Kanedaの米国特許第5,631,237号;及びLoughrey et al.,の米国特許第5,059,421号に開示されている方法が挙げられる。
【0091】
本出願の別の実施形態では、送達ビヒクルは、ウイルスベクターである。ウイルスベクターは、siRNAまたはshRNA分子などの阻害性核酸分子の送達に特に好適であるが、抗インテグリン抗体をコードする分子の送達にも使用可能である。好適な遺伝子療法ベクターとしては、限定されないが、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、及びヘルペスウイルスベクターが挙げられる。
【0092】
アデノウイルスウイルスベクター送達ビヒクルは、Berkner,「Development of Adenovirus Vectors for the Expression of Heterologous Genes」 Biotechniques 6:616-627(1988)、Rosenfeld et al.,「Adenovirus-Mediated Transfer of a Recombinant Alpha 1-Antitrypsin Gene to the Lung Epithelium In Vivo」 Science 252:431-434(1991)、Curiel et al.,のWO93/07283、Perricaudet et al.,のWO93/06223、及びCuriel et al.のWO93/07282(これらは参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に記載のとおり容易に調製し利用することができる。アデノ随伴ウイルス送達ビヒクルを構築し、以下に記載のとおり本出願の阻害性核酸分子を細胞に送達するために使用することができる;Shi et al.,「Therapeutic Expression of an Anti-Death Receptor-5 Single-Chain Fixed Variable Region Prevents Tumor Growth in Mice」 Cancer Res.66:11946-53(2006);Fukuchi et al.,「Anti-Aβ Single-Chain Antibody Delivery via Adeno-Associated Virus for Treatment of Alzheimer’s Disease」 Neurobiol.Dis.23:502-511(2006);Chatterjee et al.,「Dual-Target Inhibition of HIV-1 In Vitro by Means of an Adeno-Associated Virus Antisense Vector」 Science 258:1485-1488(1992);Ponnazhagan et al.,「Suppression of Human Alpha-Globin Gene Expression Mediated by the Recombinant Adeno-Associated Virus 2-Based Antisense Vectors」 J.Exp.Med.179:733-738(1994);及びZhou et al.,「Adeno-associated Virus 2-Mediated Transduction and Erythroid Cell-Specific Expression of a Human Beta-Globin Gene」 Gene Ther.3:223-229(1996)(これらは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。これらのビヒクルのインビボでの使用は、Flotte et al.,「Stable in Vivo Expression of the Cystic Fibrosis Transmembrane Conductance Regulator With an Adeno-Associated Virus Vector」 Proc.Nat’l.Acad.Sci.90:10613-10617(1993)及びKaplitt et al.,「Long-Term Gene Expression and Phenotypic Correction Using Adeno-Associated Virus Vectors in the Mammalian Brain」 Nature Genet.8:148-153(1994)に記載されており、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。アデノウイルスベクターのさらなるのタイプは、Wickham et al.の米国特許第6,057,155号;Bout et al.の米国特許第6,033,908号;Wilson et al.の米国特許第6,001,557号;Chamberlain et al.の米国特許第5,994,132号;Kochanek et al.の米国特許第5,981,225号;Spooner et al.の米国特許第5,885,808号;及びCurielの米国特許第5,871,727に記載され、これらは参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0093】
感染性形質転換系を形成するように修飾させたレトロウイルスベクターも、核酸分子を標的細胞に送達するために使用することができる。そのようなタイプのレトロウイルスベクターの1つが、Kriegler et al.の米国特許第5,849,586号に開示されており、これは、参照により本明細書に組み込まれる。本出願での使用に好適である他の核酸送達ビヒクルとして、その全体が参照により本明細書に援用されるLu et al.,の米国特許出願公開第20070219118号に開示のものが挙げられる。
【0094】
使用される感染形質転換系のタイプに関わらず、所望の細胞型へ核酸を送達するために標的化されるものとする。例えば、細胞クラスター(例えば、がん細胞)への送達のために、感染性形質転換系の高力価をそれらの細胞の部位内に直接注射して、細胞感染の可能性を高めるようにすることができる。次いで、感染細胞は、インテグリンの発現の阻害を標的とする阻害性核酸分子を発現する。発現系は、標的組織または細胞中での核酸分子の発現の強度及び特異性を制御または調節するためのプロモーターをさらに含むことができる。
【0095】
本出願の組成物の有効用量は、がんの種類及び病期、投与手段、標的部位、患者の生理学的状態、投与される他の医薬品または療法、及び他の医学的合併症と比較した患者の身体的状態など、多くの異なる要因に応じて変化する。治療投薬量は、安全性及び有効性を最適化するために滴定される必要がある。
【実施例
【0096】
下記の実施例は、本出願の実施形態を例示するために提供されているが、本出願の範囲を限定するようには意図されていない。
【0097】
実施例1.617-Lu177及びJ591-Lu177の両方により治療されたマウスは、エクスビボイメージングによって測定された最大カウント数を有し、一方の剤のみを得た腫瘍の合計を超える
この動物研究では、マウスの3つの群に、1群あたり6~8個の腫瘍を含むLNCaP腫瘍(マトリゲル中)を移植した。腫瘍の樹立後、1つの群には、J591-Lu177を注射し、第2の群にはPSMA-617-Lu177を注射し、第3の群にはPSMA617-Lu177及びJ591-Lu177の両方を注射した。

1. J591-Lu177 150μCi/200μL/マウス
2. PSMA-617-Lu177 400μCi/200μL/マウス
3. J591-Lu177+PSMA-617-Lu177 150μCi+400μCi/200μL/マウス

PSMA-617及びJ591の両方を放射性標識することにより、両方を個別に、及び組み合わせたときにそれらの合計を追跡することもできた。すべてのマウスは、Siemens Inveon専用の動物マルチモダリティSPECT/CTで画像化した。各SPECT取得の前に、注射後1、4、24及び72時間の時点で腫瘍内の放射活性を測定するために、解剖学的及び減衰情報について、同軸CT画像を取得した。SPECT画像は、Siemens OSEMアルゴリズムを使用して、散乱、減衰、崩壊、及び177Lu発光スペクトルを補正して再構築した。各群及び時点における腫瘍内の平均カウント数を計算し、プロットした。イメージングデータにより、腫瘍の活性濃度(Bq/mL)を測定した。
【0098】
PSMA-617-Lu177のみを与えられたマウスは、図1にプロットされているとおり、1時間で高い取り込みを有し、その後経時的に減少した。逆に、J591-Lu177により治療された腫瘍は、最初は比較的少ないカウントであったが、72時間の時間枠全体で時間の経過とともに継続的に増加した。点線は、617-Lu177及びJ591-Lu177腫瘍中のカウントの合計を表す。617-Lu177及びJ591-Lu177の両方により治療された動物の第3の群は、実際には一方の剤のみを投与された腫瘍の合計を超え、部分を合計したものよりも大きい、相乗効果の定義を満たす最大のカウント数であった(図2)。エクスビボイメージングに基づいたこの実験の精度を確認するために、針剖検時に腫瘍を採取し、その後、以前に画像化された腫瘍内の放射活性を直接カウントし、腫瘍1mgあたりのカウントを計算することによって判定した。
【0099】
3日目の腫瘍採取時に、群のそれぞれにおける腫瘍1mgあたりの平均カウントを以下の表(及び図2)に示し、画像化結果をさらに確認する。
【0100】
実施例2.617-Lu177及びJ591-Lu177の両方により治療されたマウスは、一方の剤のみを得た腫瘍の合計を超える最大カウント数を有する
実施例1に記載の画像化試験の続きであるこの動物試験では、画像化が72時間で完了したとき、動物の針剖検を行い、腫瘍を採取し、重量を測定し、シンチレーションカウンターでカウントして、腫瘍1mgあたりの放射活性量(cpm/mg)を導出した。J591-Lu177による治療を受けた腫瘍は、PSMA-617-Lu177のみを受けた腫瘍の2.2倍のカウントを有していた(図2)。併用による治療を受けた腫瘍は、その個々の成分のそれぞれの合計よりも48%多いカウントを有し、これは、相乗効果の定義を満たしていた(図2)。腫瘍放射活性を物理的にカウントすることにより、画像化によって得られた結果を確認した。
【0101】
実施例3.抗体及び低分子リガンド標的放射性医薬品の併用により、個別に投与された場合の2つの個々の剤の合計よりも44~65%多い放射線量を腫瘍に送達させた
一連の実験を行って、3つの異なるヒト前立腺癌モデル(LNCaP、CWR22Rv1q、及びPC3-PSMA-pos(トランスフェクションによる))に送達される放射線量を測定した。3つの異なる治療レジメン:617-Lu177単独、J591-Lu177単独、及び併用を使用した。本明細書に記載されているすべての実験と同様に、各動物は、1回投与された。線量測定の計算は、(上記実施例1に記載のとおり)、連続腫瘍画像化に基づいて行った。Medical Internal Radiation Dose(MIRD):Radionuclide Data and Decay Schemesからの177Lu線量情報を使用して、累積放射活性を計算し、吸収線量を推定した。この知見は、3つの異種移植モデルにおいて、抗体及び低分子リガンド標的放射性医薬品の併用により、個別に投与された場合の2つの個々の剤の合計よりも44~65%多い放射線量を腫瘍に送達させたことを示す(図3)。
【0102】
本明細書では好ましい実施形態を図示して詳細に説明してきたが、当業者には明らかなように、本発明の趣旨から逸脱することなく種々の変更、追加、置換などを行うことができ、したがって、これらは添付の特許請求の範囲に規定される本発明の範囲内であると考えられる。
図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2023-06-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0017
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0017】
本明細書に記載のアプローチでは、2つの剤が協調して蓄積する身体内の唯一の部位が標的部位であるため、治療作用の特異性を高めることが可能になる。
[本発明1001]
対象のがんを治療する方法であって、
前記方法が、
第1のがん治療成分に連結された第1の標的化成分を含む第1の剤を提供する工程

第2のがん治療成分に連結された第2の標的化成分を含む第2の剤を提供する工程であって、前記第1の標的化成分及び第2の標的化成分が、前記対象において異なる生体内分布及び/または薬物動態を有する、前記提供する工程、ならびに
がんを治療するために、前記第1の剤及び前記第2の剤を、互いに8時間以内の間隔をあけて前記対象に投与する工程
を含み、前記投与の結果として、腫瘍内に内在化し保持される第1のがん治療成分及び第2のがん治療成分の量が、前記第1の剤及び前記第2の剤のそれぞれが個別に投与された場合における、腫瘍内に内在化し保持される第1のがん治療成分及び第2のがん治療成分の合計よりも多くなる、前記方法。
[本発明1002]
前記第1の剤及び前記第2の剤が、互いに6時間以内の間隔で投与される、本発明1001の方法。
[本発明1003]
前記第1の剤及び前記第2の剤が、互いに4時間以内の間隔で投与される、本発明1001の方法。
[本発明1004]
前記第1の剤及び前記第2の剤が、互いに2時間以内の間隔で投与される、本発明1001の方法。
[本発明1005]
前記第1の剤及び前記第2の剤が、同時に投与される、本発明1001の方法。
[本発明1006]
前記第1の標的化成分及び前記第2の標的化成分が、抗体またはその抗原結合フラグメントもしくは誘導体、タンパク質、ペプチド、及び低分子からなる群から独立して選択される、本発明1001の方法。
[本発明1007]
前記第1の標的化成分及び前記第2の標的化成分が、同じ分子標的を標的とする、本発明1001の方法。
[本発明1008]
前記第1の標的化成分及び前記第2の標的化成分が、同じ細胞上の異なる分子標的を標的とする、本発明1001の方法。
[本発明1009]
前記第1のがん治療成分及び前記第2のがん治療成分が、それぞれ最大耐性用量を有し、前記最大耐性用量の前記第1のがん治療成分及び前記第2のがん治療成分が、前記投与の間に与えられる、本発明1001の方法。
[本発明1010]
前記第1のがん治療成分及び前記第2のがん治療成分が、それぞれ最大耐性用量を有し、前記最大耐性用量より少ない前記第1のがん治療成分及び前記第2のがん治療成分が、前記投与の間に与えられる、本発明1001の方法。
[本発明1011]
前記第1のがん治療成分及び前記第2のがん治療成分が、放射性核種及び細胞傷害剤からなる群から独立して選択される、本発明1001の方法。
[本発明1012]
前記第1のがん治療成分及び/または前記第2のがん治療成分が、 86 Re、 90 Y、 67 Cu、 169 Er、 121 Sn、 127 Te、 142 Pr、 143 Pr、 198 Au、 199 Au、 161 Tb、 109 Pd、 188 Rd、 166 Dy、 166 Ho、 149 Pm、 151 Pm、 153 Sm、 159 Gd、 172 Tm、 169 Yb、 175 Yb、 177 Lu、 105 Rh、 111 Ag、 131 I、 177m Sn、 225 Ac、 227 Th、 212 Pb、 211 At、及びそれらの組み合わせからなる群から独立して選択される放射性核種である、本発明1011の方法。
[本発明1013]
前記第1のがん治療成分及び/または前記第2のがん治療成分が、ブスルファン、シスプラチン、カルボプラチン、クロラムブシル、シクロホスファミド、イホスファミド、ダカルバジン(DTIC)、メクロレタミン(窒素マスタード)、メルファラン、カルムスチン(BCNU)、ロムスチン(CCNU)、5-フルオロウラシル(5-FU)、カペシタビン、メトトレキサート、ゲムシタビン、シタラビン(ara-C)、フルダラビン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、イダルビシン、ミトキサントロン、パクリタキセル、ドセタキセル、カバジタキセル、エトポシド(VP-16)、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビノレルビン、プレドニゾン、デキサメタゾン、タモキシフェン、フルベストラント、アナストロゾール、レトロゾール、酢酸メゲストロール、ビカルタミド、フルタミド、ロイプロリド、ゴセレリン、L-アスパラギナーゼ、トレチノイン、メイタンシン、アウリスタチン、ピロロベンゾジアゼピン、デュオカルマイシン、及びそれらの組み合わせからなる群から独立して選択される細胞傷害剤である、本発明1011の方法。
[本発明1014]
前記がんが、前立腺癌である、本発明1001の方法。
[本発明1015]
前記第1の標的化成分及び前記第2の標的化成分が、前立腺特異的膜抗原(PSMA)受容体を標的とする、本発明1014の方法。
[本発明1016]
前記第1の標的化成分が、PSMA受容体抗体またはその抗原結合部分であり、前記第2の標的化成分が、PSMA受容体結合ペプチドまたはPSMA受容体阻害剤である、本発明1015の方法。
[本発明1017]
前記第1の標的化成分が、J591、J415、J533、及びE99からなる群から選択される抗体であり、前記第2の標的化成分が、PSMA 617、PSMA I&T、DCFBC、DCFPyL、グルタミン酸-ウレア-リジン類似体、ホスホルアミデート類似体、2-(ホスフィニルメチル)ペンタン二酸類似体、及び他のPSMAリガンド/阻害剤/ペプチドからなる群から選択されるペプチドである、本発明1016の方法。
[本発明1018]
前記第1の剤が、J591- 177 LuまたはJ591- 225 Acであり、前記第2の剤が、PSMA 617- 177 Lu、PSMA I&T- 177 Lu、PSMA 617- 225 Ac、またはPSMA I&T- 225 Acである、本発明1016の方法。
[本発明1019]
前記対象が、ヒトである、本発明1001の方法。
[本発明1020]
前記がんが、神経内分泌癌である、本発明1001の方法。
[本発明1021]
前記第1の標的化成分及び前記第2の標的化成分が、ソマトスタチン受容体を標的とする、本発明1020の方法。
[本発明1022]
前記第1の標的化成分及び前記第2の標的化成分が、ソマトスタチン受容体-2(SSTR-2)アイソフォームを標的とする、本発明1021の方法。
[本発明1023]
前記神経内分泌癌が、カルチノイド腫瘍、ガストリノーマ、インスリノーマ、グルカゴノーマ、ビポーマ(VIPoma)、ソマトスタチノーマ、甲状腺癌、皮膚のメルケル細胞癌、下垂体前葉の腫瘍、髄様癌、副甲状腺腫瘍、胸腺及び縦隔カルチノイド腫瘍、肺神経内分泌腫瘍、副腎髄質腫瘍、褐色細胞腫、神経鞘腫、傍神経節腫、神経芽細胞腫、及び尿路カルチノイド神経内分泌癌からなる群から選択される、本発明1020の方法。
[本発明1024]
前記がんが、乳癌である、本発明1001の方法。
[本発明1025]
前記第1の標的化成分及び前記第2の標的化成分が、HER受容体ファミリーを標的とする、本発明1024の方法。
[本発明1026]
前記がんが、非ホジキンリンパ腫である、本発明1001の方法。
[本発明1027]
前記第1の標的化成分及び前記第2の標的化成分が、CD20を標的とする、本発明1026の方法。
[本発明1028]
前記がんが、ホジキン病である、本発明1001の方法。
[本発明1029]
前記第1の標的化成分及び前記第2の標的化成分が、CD30を標的とする、本発明1028の方法。
[本発明1028]
前記第1の剤及び前記第2の剤が異なる、本発明1001の方法。
[本発明1029]
前記第1の標的化成分及び前記第2の標的化成分が、がん細胞膜分子を標的とする、本発明1001の方法。
[本発明1030]
第1のがん治療成分に連結された第1の標的化成分を含む第1の剤と、
前記第1の剤と混合された第2の剤であって、第2のがん治療成分に連結された第2の標的化成分を含む、前記第2の剤と
を含む、治療用組成物であって、
前記第1の標的化成分及び前記第2の標的化成分が、対象において異なる生体内分布及び/または薬物動態を有する、前記治療用組成物。
[本発明1032]
前記第1の標的化成分及び前記第2の標的化成分が、抗体またはその結合フラグメント、タンパク質、ペプチド、及び低分子からなる群から独立して選択される、本発明1031の治療用組成物。
[本発明1033]
前記第1のがん治療成分及び前記第2のがん治療成分が、放射性核種及び細胞傷害剤からなる群から独立して選択される、本発明1031の治療用組成物。
[本発明1034]
前記第1のがん治療成分及び/または前記第2のがん治療成分が、 86 Re、 90 Y、 67 Cu、 169 Er、 121 Sn、 127 Te、 142 Pr、 143 Pr、 198 Au、 199 Au、 161 Tb、 109 Pd、 188 Rd、 166 Dy、 166 Ho、 149 Pm、 151 Pm、 153 Sm、 159 Gd、 172 Tm、 169 Yb、 175 Yb、 177 Lu、 105 Rh、 111 Ag、 131 I、 177m Sn、 225 Ac、 227 Th、 212 Pb、 211 At、及びそれらの組み合わせからなる群から独立して選択される放射性核種である、本発明1033の治療用組成物。
[本発明1035]
前記第1のがん治療成分及び/または前記第2のがん治療成分が、ブスルファン、シスプラチン、カルボプラチン、クロラムブシル、シクロホスファミド、イホスファミド、ダカルバジン(DTIC)、メクロレタミン(窒素マスタード)、メルファラン、カルムスチン(BCNU)、ロムスチン(CCNU)、5-フルオロウラシル(5-FU)、カペシタビン、メトトレキサート、ゲムシタビン、シタラビン(ara-C)、フルダラビン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、イダルビシン、ミトキサントロン、パクリタキセル、ドセタキセル、カバジタキセル、エトポシド(VP-16)、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビノレルビン、プレドニゾン、デキサメタゾン、タモキシフェン、フルベストラント、アナストロゾール、レトロゾール、酢酸メゲストロール、ビカルタミド、フルタミド、ロイプロリド、ゴセレリン、L-アスパラギナーゼ、トレチノイン、メイタンシン、アウリスタチン、ピロロベンゾジアゼピン、デュオカルマイシン、及びそれらの組み合わせからなる群から独立して選択される細胞傷害剤である、本発明1031の治療用組成物。
[本発明1036]
前記第1の標的化成分が、PSMA受容体抗体またはその抗原結合部分であり、前記第2の標的化成分が、PSMA受容体結合ペプチドまたはPSMA受容体阻害剤である、本発明1031の治療用組成物。
[本発明1037]
前記第1の標的化成分が、J591、J415、J533、及びE99からなる群から選択される抗体であり、前記第2の標的化成分が、PSMA 617、PSMA I&T、DCFBC、DCFPyL、グルタミン酸-ウレア-リジン類似体、ホスホルアミデート類似体、2-(ホスフィニルメチル)ペンタン二酸類似体、及び他のPSMAリガンド/阻害剤/ペプチドからなる群から選択されるペプチドである、本発明1036の治療用組成物。
[本発明1038]
前記第1の剤が、J591- 177 LuまたはJ591- 225 Acであり、前記第2の剤が、PSMA 617- 177 Lu、PSMA 617- 225 Ac、PSMA I&T- 177 Lu、またはPSMA I&T- 225 Acである、本発明1036の治療用組成物。
【手続補正2】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図1
【補正方法】変更
【補正の内容】
図1
【手続補正3】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図2
【補正方法】変更
【補正の内容】
図2
【手続補正4】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図3
【補正方法】変更
【補正の内容】
図3
【国際調査報告】