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特表2023-548065二軸延伸ポリプロピレン-シクロオレフィンポリマーフィルムを誘電体として用いたコンデンサとその使用方法
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  • 特表-二軸延伸ポリプロピレン-シクロオレフィンポリマーフィルムを誘電体として用いたコンデンサとその使用方法 図1
  • 特表-二軸延伸ポリプロピレン-シクロオレフィンポリマーフィルムを誘電体として用いたコンデンサとその使用方法 図2
  • 特表-二軸延伸ポリプロピレン-シクロオレフィンポリマーフィルムを誘電体として用いたコンデンサとその使用方法 図3A
  • 特表-二軸延伸ポリプロピレン-シクロオレフィンポリマーフィルムを誘電体として用いたコンデンサとその使用方法 図3B
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-15
(54)【発明の名称】二軸延伸ポリプロピレン-シクロオレフィンポリマーフィルムを誘電体として用いたコンデンサとその使用方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/32 20060101AFI20231108BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
H01G4/32 511L
C08J5/18 CES
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023524863
(86)(22)【出願日】2021-09-28
(85)【翻訳文提出日】2023-06-09
(86)【国際出願番号】 EP2021000113
(87)【国際公開番号】W WO2022089771
(87)【国際公開日】2022-05-05
(31)【優先権主張番号】102020006588.0
(32)【優先日】2020-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519382363
【氏名又は名称】トパス・アドバンスド・ポリマーズ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】ゲルリッツ・ヴォルフラム
【テーマコード(参考)】
4F071
5E082
【Fターム(参考)】
4F071AA14X
4F071AA20
4F071AA86X
4F071AF38
4F071AF39
4F071AH12
4F071BB06
4F071BB08
4F071BC01
4F071BC12
4F071BC16
5E082AB04
5E082BC23
5E082BC35
5E082EE07
5E082FF05
5E082FG06
5E082FG35
(57)【要約】
二軸延伸ポリプロピレン-シクロオレフィンポリマーフィルムを誘電体として用いたコンデンサとそのフィルムの使用方法に関する。
ポリプロピレンとシクロオレフィンポリマーの混合物を含む二軸延伸フィルムを誘電体として使用したコンデンサで、混合物中のシクロオレフィンポリマーの割合は3~18質量%である。
これらのコンデンサは、耐熱性が高く、室温で高い絶縁耐力を持つことが特徴である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレンとシクロオレフィンポリマーの混合物を含む二軸延伸フィルムを誘電体として含むコンデンサであって、ここで、混合物中のシクロオレフィンポリマーの割合が3~18質量%である前記コンデンサ。
【請求項2】
混合物中のシクロオレフィンポリマーの割合が3~14質量%であることを特徴とする、請求項1に記載のコンデンサ。
【請求項3】
混合物中のシクロオレフィンポリマーの割合が6~12質量%であることを特徴とする、請求項2に記載のコンデンサ。
【請求項4】
混合物中のシクロオレフィンポリマーの割合が7~9質量%であることを特徴とする、請求項3に記載のコンデンサ。
【請求項5】
前記二軸延伸フィルムが、室温でシクロヘキサンで24時間処理した後の走査電子顕微鏡検査において、相構造を示さないことを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載のコンデンサ。
【請求項6】
前記二軸延伸フィルムが、光学顕微鏡で検査したときにフィブリルのない表面構造を示すことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載のコンデンサ。
【請求項7】
前記シクロオレフィンポリマーが、シクロオレフィンコポリマーであることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載のコンデンサ。
【請求項8】
前記シクロオレフィンポリマーが、130~170℃、好ましくは140~160℃、特に145超~160℃のガラス転移温度を有することを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載のコンデンサ。
【請求項9】
前記シクロオレフィンポリマーは、エチレンおよびノルボルネンに由来する構造単位から成るシクロオレフィンコポリマーであることを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載のコンデンサ。
【請求項10】
ポリプロピレンが、プロピレンホモポリマーまたは他のα-オレフィンとのプロピレンコポリマー、特に結晶融点が100~170℃の半結晶ポリプロピレンであることを特徴とする、請求項1~9のいずれか1項に記載のコンデンサ。
【請求項11】
前記ポリプロピレンがコンデンサグレードポリプロピレンであることを特徴とする、請求項1~10のいずれか1項に記載のコンデンサ。
【請求項12】
前記二軸延伸フィルムが金属化されていることを特徴とする、請求項1~11のいずれか1項に記載のコンデンサ。
【請求項13】
前記二軸延伸フィルムは、添加剤を含まないことを特徴とする請求項1~12のいずれか1項に記載のコンデンサ。
【請求項14】
前記二軸延伸フィルム中の鉄、コバルト、ニッケル、チタン、モリブデン、バナジウム、クロム、銅、マグネシウム、および、アルミニウムの合計含有量が10ppm未満であることを特徴とする、請求項1~13のいずれか1項に記載のコンデンサ。
【請求項15】
前記二軸延伸フィルムは、DIN53370に従って測定した厚さが0.5~20μm、好ましくは1~15μmであることを特徴とする、請求項1~14のいずれか1項に記載のコンデンサ。
【請求項16】
コンデンサにおける誘電体として、ポリプロピレンと混合物の総量に基づき3~18質量%のシクロオレフィンポリマーの混合物を含む二軸延伸フィルムの使用。
【請求項17】
室温において24時間シクロヘキサンで処理した後、走査型電子顕微鏡検査で相構造を示さず、光顕微鏡検査でフィブリルのない表面構造を示す、二軸延伸フィルムを使用することを特徴とする、請求項16に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、選択された二軸延伸ポリプロピレンフィルムに誘電体としてシクロオレフィンポリマーを少量添加したコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
コンデンサ(キャパシタ)における誘電体として使用するための二軸延伸PPフィルム(BOPPフィルム)は、いくつかの特許文献、例えばWO2015/091829A1、US5,724,222AおよびEP2481767A2に記載されている。シクロオレフィンポリマーを含む二軸延伸ポリオレフィンフィルムは、WO2018/197034A1より知られている。
【0003】
シクロオレフィンポリマーを含むBOPPフィルムや二軸延伸ポリオレフィンフィルムは、優れた電気的および機械的特性を有する。後者は、100℃を超える温度での耐性が向上し、熱収縮率が低いことが特徴である。
【0004】
ポリオレフィンフィルムはWO2018/197034A1から既知であり、これは好ましくはコンデンサフィルムとして使用することができ、電気特性の抵抗が増加し、高温での収縮が低いことを特徴とする。本明細書の例に記載されているフィルムは、少なくとも20質量%のシクロオレフィンコポリマー含有量を有する。
【0005】
WO2018/210854A1は、ポリプロピレンとシクロオレフィンコポリマーを含むフィルムを有するコンデンサを記載しており、このコンデンサは、高温での電気特性の耐性が向上することを特徴としている。この文献に記載されているコンデンサフィルムは、少なくとも20質量%のシクロオレフィンコポリマー含有量を有する。
【0006】
このようなフィルムのさらなる特性は、W. Goerlitzによる論文、A New Approach for High Temperature Polypropylene Film Capacitors, in Research Disclosure Journal, Nov. 2018, DB no.655030に報告されている。
【0007】
ポリプロピレンとシクロオレフィンコポリマー製の従来公知のフィルムの場合、改善された特性を得るためには比較的多量のシクロオレフィンコポリマーが必要であると想定された。これらの文献では、少なくとも10質量%、好ましくは20~30質量%とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO2015/091829A1
【特許文献2】US5724222A
【特許文献3】EP2481767A2
【特許文献4】WO2018/197034A1
【特許文献5】WO2018/210854A1
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】W.Goerlitz、A New Approach for High Temperature Polypropylene Film Capacitors, in Research Disclosure Journal, Nov. 2018, DB no.655030
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
入手可能な文献の調査で明らかになる欠点は、このようなフィルムは、純ポリプロピレン製のフィルムと比較して、室温での破壊電圧が低下するという事実である。
【0011】
驚くべきことに、ポリプロピレンフィルムは、低含量のシクロオレフィンポリマーを有する場合、特性が向上することが見出された。当業者であれば、熱特性を向上させるにはシクロオレフィンポリマーの含有量を多くする必要があり、破壊電圧が低くなるというデメリットがあると考えられていたため、これは当業者にとって明白なことではありません。
【0012】
本発明の1つの課題は、優れた耐熱性に加えて、高い破壊電圧を有するコンデンサを提供することである。
【0013】
本発明の他の課題は、従来のOPP製造用装置で製造可能な、耐熱性に優れ、高い破壊電圧を有するポリプロピレンフィルムを提供することである。
【0014】
本発明のさらなる目的は、重要な特性において、コンデンサに使用するために以前に提案されたPP/COCフィルムよりも、既知のOPPコンデンサフィルムにより近いポリプロピレンフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、ポリプロピレンとシクロオレフィンポリマーの混合物を含む二軸延伸フィルムを誘電体とするコンデンサに関し、ここで、この混合物中のシクロオレフィンポリマーの割合が3~18質量%である。
【0016】
本発明によって使用されるポリプロピレンフィルムは、ポリプロピレンと、小さな割合、すなわち3~18質量%のシクロオレフィンポリマーの混合物を含む。この割合は、ポリプロピレンとシクロオレフィンポリマーの混合物の総質量に基づく。
【0017】
好ましくは、混合物中のシクロオレフィンポリマーの割合は、3~14質量%、より好ましくは4~14質量%、特に好ましくは5~14質量%、非常に好ましくは6~12質量%、極めて好ましくは7~9質量%である。
【0018】
本発明によって使用されるポリプロピレンフィルムは、シクロオレフィンポリマーの割合が増加したポリプロピレンフィルムと比較して、ポリマーマトリックスおよび表面のより良い均質性によって特徴付けられる。したがって、本発明によって使用されるポリプロピレンフィルムは、重要な特性において、コンデンサに使用するためにこれまでに提案されたPP/COCフィルムよりも、既知のOPPコンデンサフィルムに近づいている。
【0019】
本発明によって使用されるポリプロピレンフィルムの改善された均質性は、走査型電子顕微鏡によって実証することができる。
【0020】
本発明によって使用されるポリプロピレンフィルムの改善された表面構造は、光学顕微鏡検査によって実証することができる。
【0021】
走査型電子顕微鏡の場合、ミクロトームでフィルムを切断する。得られた切片を、室温で24時間、シクロヘキサンと接触させる。これにより、フィルムからシクロオレフィンポリマー相が除去され、これらの部分は走査型電子顕微鏡検査で暗く見える。
【0022】
本発明によってシクロヘキサンで処理したポリプロピレンフィルムは、走査型電子顕微鏡検査において、いかなる相構造も示さないが、シクロオレフィンポリマーの割合が増加したポリプロピレンフィルムは、シクロオレフィンポリマーの分離した相を示すことがわかった。
【0023】
本明細書において、「相構造がない」という用語は、シクロヘキサン処理したフィルムを0.1μmの分解能の走査電子顕微鏡で観察しても、シクロオレフィンポリマー相の存在を示すような暗い構造が見えないことを意味すると理解されるものとする。
【0024】
さらに詳細に調べるために、フィルムの表面を光学顕微鏡で観察する。本発明によって使用されるポリプロピレンフィルムは、OPPコンデンサフィルムに典型的な表面構造を示す。不規則なラインパターンが見られ、個々のラインの長手方向の寸法は最大で100μmである。一方、シクロオレフィンポリマーの比率を高めたポリプロピレンフィルムは、明らかにフィブリル状(原繊維状)の表面構造を示す。ここでは、互いに平行に走る構造が現れ、個々の構造の長手方向の寸法は数ミリメートルにもなる。
【0025】
このように、本発明で使用するフィルムは、光学顕微鏡で観察すると、フィブリルのない表面構造を示す。
【0026】
本明細書において、「フィブリルのない」という用語は、フィルム表面の光顕微鏡検査において、1mm以上に延びる平行構造が見えないことを意味すると理解される、これは図3Aに例として見ることができ、一方、図3BはPP/COCブレンドからなる従来のフィルムのフィブリル状表面構造を示す。以下の撮影条件を使用した:実体顕微鏡、開口数0.2、斜入射光、視野約2mm、倍率64倍。
【0027】
本発明によって使用されるシクロオレフィンポリマーは、既知のポリマーである。それらは、1つのモノマーから誘導されるポリマーであっても、2つ以上の異なるモノマーから誘導されるポリマーであってもよい。
【0028】
シクロオレフィンポリマーは、開環重合または特に環保持共重合(ring-maintaining polymerization)、好ましくはノルボルネンなどの環状オレフィンとα-オレフィンなどの非環状オレフィン、特にエチレンとの環保持共重合により製造される。
【0029】
触媒の選択により、重合中に環状モノマーのオレフィン環が保持されるか開環されるかを公知の方法で制御することができる。シクロオレフィンの開環重合プロセスの例は、EP0827975 A2に記載されている。環保持重合に主に使用される触媒の例は、メタロセン触媒である。シクロオレフィンから誘導されるポリマーの可能な化学構造の概要は、例えば、Pure Appl.Chem.,Vol.77,No.5 pp.801-814(2005)に記載されている。
【0030】
本明細書では、「シクロオレフィンポリマー」という用語は、重合後に水素化を行い、まだ存在する二重結合を減少させたポリマーを意味するものであると理解される。
【0031】
本発明によって使用されるシクロオレフィンポリマーは、非常に高い透明性を特徴とする熱可塑性プラスチックである。
【0032】
シクロオレフィンポリマーのガラス転移温度(以下、「T」とも示す)は、モノマーの種類および量、例えば環状モノマーおよび非環状モノマーの種類および量を選択することにより、当業者にとってそれ自体公知の方法で調整されることができる。例えば、ノルボルネン-エチレン共重合体から、共重合体中のノルボルネン成分の割合が高いほど、ガラス転移温度が高くなることが知られている。他の環状モノマーと非環状モノマーとの組み合わせも同様である。
【0033】
本明細書において、ガラス転移温度とは、示差走査熱量測定(DSC)法を用いて、ISO 11357に従って、加熱速度10K/分で測定した温度をいう。
【0034】
本発明によって使用されるポリマーフィルムによれば、ガラス転移温度が30℃を超えるシクロオレフィンポリマーを使用することができる。好ましくは、ガラス転移温度は100~170℃、より好ましくは120~165℃、最も好ましくは130~160℃、さらに好ましくは140~160℃、最も好ましくは145超~160℃である。
【0035】
本発明によって使用されるポリマーフィルムのさらに好ましい実施形態では、一般式(I)の少なくとも1つのシクロオレフィンと式(II)の少なくとも1つのα-オレフィンとの環保持共重合から得られるシクロオレフィンコポリマーが使用される。
【化1】
【0036】
ここで、
nは、0または1を意味し、
mは0または正の整数であり、特に0または1である、
、R、R、R、R、Rは、互いに独立して、水素、ハロゲン、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、および、アルコキシ基であり、
、R、R、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16は、互いに独立して、水素およびアルキル基を表し、
17、R18、R19、R20は、互いに独立して、水素、ハロゲン、アルキル基を表し、
ここで、R17およびR19は、それらが単一の環または複数の環を有する環系を形成するように互いに結合することもでき、ここで、環または複数の環は飽和または不飽和であってもよく、
【化2】
ここで、R21、R22は独立して水素、アルキル基である。
【0037】
特に好ましい実施形態では、nが0であり、mが0または1であり、R21およびR22がともに水素であるか、またはR21が水素であり、R22が1~8個の炭素原子を有するアルキル基であり、R、R、R~RおよびR15~R20が好ましく水素である、式IおよびIIの化合物に由来するシクロオレフィンコポリマーが用いられる。
【0038】
特に好ましい実施形態では、式Iの化合物がノルボルネンまたはテトラシクロドデセンであり、式IIの化合物がエチレンである、式IおよびIIの化合物に由来するシクロオレフィンコポリマーが用いられる。
【0039】
非常に好ましくは、上記で定義したタイプのコポリマーを使用し、その共重合はメタロセン触媒の存在下で行われたものである。
【0040】
シクロオレフィンコポリマーの好ましいタイプは、DE10242730A1に記載されている。特に好ましいシクロオレフィンコポリマーは、Topas(登録商標)6013、Topas(登録商標)6015およびTopas(登録商標)5013(Topas Advanced Polymers GmbH、Raunheim)のタイプである。
【0041】
異なるシクロオレフィンポリマーの混合物も使用でき、特に異なるシクロオレフィンコポリマーの混合物を使用することができる。
【0042】
本発明によって好ましいシクロオレフィンコポリマーは、環保持重合によって製造され、すなわち、使用されるモノマー単位の二環式または多環式構造が重合中に保持される。触媒の例は、チタノセン、ジルコノセンまたはハフノセン触媒であり、これらは通常、共触媒としてアルミノキサンと組み合わせて使用される。この製造方法は、例えば前述の特許文献に既に何度か記載されている。
【0043】
シクロオレフィンコポリマーの典型的な例としては、ノルボルネンまたはテトラシクロドデセンとエチレンとのコポリマーが挙げられる。このようなポリマーは、例えばAPEL(登録商標)またはTOPAS(登録商標)という商品名で市販されている。
【0044】
他の例としては、シクロペンタジエンまたはノルボルネンの開環重合に由来するシクロオレフィンポリマーがある。このようなポリマーは、例えばARTON(登録商標)、ZEONEX(登録商標)またはZEONOR(登録商標)の商品名で市販されている。
【0045】
シクロオレフィンコポリマーは、上述の式IおよびIIのモノマーに由来するものが使用されることが好ましく、これらのモノマーI:IIは、95:5~5:95のモル比で使用され、任意に、プロピレン、ペンテン、ヘキセン、シクロヘキセンおよび/またはスチレンなどのさらなるモノマー由来の、モノマーの総量に基づいて小さな割合、例えば最大10モル%の構造単位を有するものであることができる。
【0046】
特に好ましくは、ノルボルネンとエチレンから本質的になり、プロピレン、ペンテン、ヘキセン、シクロヘキセンおよび/またはスチレンなどの他のモノマーに由来する構造単位をモノマーの総量に基づき、小さな割合、例えば5質量%まで有することもあるシクロオレフィンコポリマーである。
【0047】
他の特に好ましいシクロオレフィンポリマーは、2.16kgの荷重下で230℃の温度で測定したメルトフローインデックスが0.3~4g/10分の間である。
【0048】
主成分として、本発明によって使用されるフィルムは、1つまたは複数のポリプロピレンを含む。これらは本質的にプロピレンホモポリマーまたはコポリマーである。これらは、好ましくは160~165℃の結晶融解温度を有する半結晶性プロピレンホモポリマーおよび/または好ましくは100~160℃の結晶融解温度を有する半結晶性プロピレン-C-C-α-オレフィンコポリマーであり得る。
【0049】
本明細書の文脈において、結晶融解温度とは、ISO 11357に準拠した示差走査熱量測定法(DSC)により、加熱速度20K/分で測定した温度をいう。
【0050】
-C-α-オレフィンの例として、ブテン-1、ヘキセン-1、オクテン-1が挙げられる。
【0051】
ポリプロピレンは、直鎖状または分岐状のタイプである。これらのポリプロピレンにおける異なるモノマー単位の配列は、ランダムであってもブロックの形であってもよい。個々のモノマー単位は、異なる方法、例えばアイソタクチック、シンジオタクチックまたはアタクチックに立体的に配置することができる。
【0052】
ポリプロピレンは、立体特異的に作用する触媒の助けを借りて製造されるアイソタクチック、シンジオタクチックまたはアタクチックポリプロピレンである。特に好ましくは、本発明によって使用されるフィルムの主成分として、すべてのメチル基が架空のジグザグ分子鎖の片側に配置されているアイソタクチックポリプロピレンである。
【0053】
溶融状態から冷却すると、アイソタクチックポリプロピレンの規則正しい構造により、結晶領域の形成が促進される。しかし、鎖状分子は、アイソタクチックでない、つまり結晶化しにくい部分も含んでいるため、その全長で結晶子に組み込まれることは殆どない。また、特に重合度が高い場合には、溶融物中の鎖の絡み合いにより非晶質部分が形成される。結晶部分は成形品の製造条件によって異なり、50%~70%になる。部分的な結晶構造は、結晶子内の高い二次力により、ある程度の強度と剛性をもたらし、一方、凝固温度を超える鎖セグメントの高い移動度を持つ無秩序な領域は、柔軟性と強靱性をもたらす。
【0054】
好ましいポリプロピレンの例は、WO2020/127861A1において見出すことができる。
【0055】
ポリプロピレンの密度は非常に低く、0.895g/cm~0.92g/cmの間に位置する。ポリプロピレンは、0~-10℃のガラス転移温度を有する。結晶融解範囲は160~170℃、特に160~165℃の間である。これらの温度は、共重合によって変更することができ、そのための手段は当業者に知られている。
【0056】
本発明によって使用されるフィルムの好ましい主成分は、プロピレンホモポリマー、4~8個のC原子を有する1-アルケンに由来する構造単位が1~10質量%のプロピレンコポリマー、プロピレンに由来する構造単位が60~90質量%のプロピレン・エチレンコポリマー、およびこれらの2つ以上の組み合わせである。
【0057】
特に好ましい半結晶性プロピレン系ポリマーは、2.16kgの荷重下で230℃の温度で測定したメルトフローインデックスが2~6g/10分、好ましくは2~5である。
【0058】
特に好ましくは、本発明によって使用されるポリプロピレンフィルムは、金属含有量が低い。誘電体中に微量の金属が含まれているだけでも、コンデンサの電気的特性に悪影響を及ぼすため、これはコンデンサ用フィルムとして使用する場合には好ましい。
【0059】
好ましくは、本発明によって使用されるフィルム中の鉄、コバルト、ニッケル、チタン、モリブデン、バナジウム、クロム、銅、マグネシウムおよびアルミニウムの合計含有量は、10ppm未満である。
【0060】
シクロオレフィンポリマーがシクロオレフィンコポリマーであるコンデンサが好ましい。
【0061】
さらに好ましくは、シクロオレフィンポリマーが130℃~170℃、好ましくは145℃超~160℃のガラス転移温度を有するコンデンサである。
【0062】
非常に特に好ましくは、シクロオレフィンポリマーが、エチレンとノルボルネンに由来する構造単位から成るシクロオレフィンコポリマーであるコンデンサである。
【0063】
また、特に好ましくは、ポリプロピレンがプロピレンホモポリマーまたは他のα-オレフィンとのプロピレンコポリマー、特に結晶融点が100~170℃、好ましくは150~165℃の半結晶性ポリプロピレンであるコンデンサである。
【0064】
さらに好ましくは、ポリプロピレンがコンデンサグレードポリプロピレンであるコンデンサである。
【0065】
また、二軸延伸フィルムが金属化されているコンデンサも好ましい。
【0066】
特に、二軸延伸フィルムが添加剤を含まないコンデンサが好ましい。
【0067】
特に好ましくは、二軸延伸フィルム中の鉄、コバルト、ニッケル、チタン、モリブデン、バナジウム、クロム、銅、マグネシウム、および、アルミニウムの合計含有量が10ppm未満であるコンデンサである。
【0068】
本発明によって使用されるポリプロピレンフィルムの厚さは、広い範囲にわたって変化することができる。典型的な厚さは、0.5~50μmの範囲、特に0.5~20μmの範囲、非常に好ましくは1~15μmの範囲である。成形品の厚さは、DIN 53370に従って決定される。
【0069】
本発明によるコンデンサに使用されるポリプロピレンブレンドは、基本的に個々の成分を適切な装置で混合することによって製造することができる。混合は、有利には、ニーダー、圧延機(ローリングミル)または押出機で実施することができる。
【0070】
ポリプロピレンブレンド中のシクロオレフィンポリマーの量は、全混合物を基準として、3~18質量%、好ましくは3~14質量%、より好ましくは4~14質量%、特に5~14質量%、非常に好ましくは6~12質量%、最も好ましくは7~9質量%である。
【0071】
ポリマーブレンド中のポリプロピレンの量は、通常、全混合物を基準として97~82質量%、好ましくは97~86質量%、より好ましくは96~86質量%、特に95~86質量%、非常に好ましくは94~88質量%、最も好ましくは93~91質量%である。
【0072】
必須のシクロオレフィンポリマーおよびポリプロピレンに加えて、ポリマーブレンドは、それ自体慣用の添加剤を含むこともできる。これらの添加剤の総割合は、混合物の総量を基準として、通常5質量%まで、好ましくは2質量%まで、特に1質量%までである。
【0073】
添加剤は、補助剤または添加材料とも示され、特定の特性を達成または改善するために、例えば、使用段階中および使用後の製造、貯蔵、加工または製品特性に好影響を与えるために、ポリマーブレンドに少量添加される物質である。
【0074】
添加剤は、油やワックスなどの加工助剤、または本発明によって使用されるポリマーブレンドまたはポリオレフィンフィルムに特定の機能を与える添加剤、例えば可塑剤、紫外線安定剤、艶消し剤、防腐剤、殺生物剤、抗酸化剤、防腐剤、難燃剤、補強剤、充填剤、顔料、色素または他のポリマーなどでありえる。
【0075】
本発明によって使用されるポリプロピレンフィルムは、上記のポリマーブレンドを熱成形することによって得られる。OPPフィルムの製造から知られている製造条件および装置を使用することができる。既存の設備で、既知のプロセスパラメータを使用してプロセスを実施することができるため、これは大きな利点となる。押し出されたフィルムは、二軸延伸され、必要に応じて弛緩(熱固定)される。
【0076】
二軸延伸では、予備成形された延伸性フィルムを縦方向と横方向に同時に延伸することも可能であり、または、任意の順序で順次延伸することもできる(例えば、最初に縦方向、次に横方向)。さらに、延伸は、単一工程で行うことも、複数の工程で行うこともできる。製造条件、特に延伸条件は、工業的に製造される二軸延伸ポリプロピレンフィルムの通常知られている条件に基づく。
【0077】
機械方向の伸張比は、一般に少なくとも1:2、好ましくは少なくとも1:3、特に1:3~1:8であり、機械方向に直交する伸張比は一般に少なくとも1:5、好ましくは少なくとも1:8、非常に特に好ましくは1:8~1:12である。
【0078】
延伸したフィルムは、延伸後に熱固定することができる。これにより、特に高温での高い寸法安定性が達成される。熱固定は、一般的な方法で行うことができる。
【0079】
本発明によれば、共押出多層フィルムも使用することができる。これらは、上述したポリプロピレンフィルムの複数が互いに組み合わされた多層フィルムであり得る。しかし、これらは、上述のポリプロピレンフィルムの1つまたは複数が他のフィルムと組み合わされた多層フィルムであることもできる。
【0080】
好ましくは、ポリプロピレンフィルムは、単層または2層、3層、4層または5層であり、それによって多層ポリプロピレンフィルムは、上記のポリプロピレンフィルムの少なくとも1つを含む。
【0081】
本発明によって使用されるポリプロピレンフィルムは、好ましくは、従来使用されているポリプロピレンフィルムから知られているような電気破壊強度、好ましくは、23℃で直径50mmの円形電極を使用してDC電圧下でDIN EN 60243-2に基づき測定して、>500V/μmの電気破壊強度を有する。
【0082】
本発明によって使用されるポリプロピレンフィルムはまた、好ましくは、25℃の温度で1kHzおよび1GHzの範囲の周波数で測定した誘電損失係数が0.002以下である。
【0083】
本発明によるコンデンサは、すべての一般的なタイプのコンデンサとすることができる。それらは、交流または好ましくは直流での使用のために設計することができる。コンデンサタイプの例としては、フィルムコンデンサが挙げられる。これらは通常、金属化箔(金属化誘電体)のみ、または非金属化箔(非金属化誘電体)が薄い金属箔と一緒に巻かれている巻線コンデンサである。通常、フィルムコンデンサ、丸巻コンデンサ、平巻コンデンサ、リングコンデンサに区別される。コンデンサの標準的な製造工程は、当業者であれば既知である。
【0084】
また、本発明は、混合物中のシクロオレフィンポリマーの割合は3~18質量%である、ポリプロピレンとシクロオレフィンポリマーの混合物を含む二軸延伸フィルムのコンデンサ用誘電体としての使用に関するものである。
【0085】
以下の例は、本発明をこれに限定することなく説明するものである。
【実施例
【0086】
例V1、V2および例1~5
ポリプロピレンおよびポリプロピレン-シクロオレフィンコポリマーブレンドの二軸延伸フィルムを6μmの厚さで製造し、金属化して密閉型丸巻コンデンサを製造した。
【0087】
電気破壊強度は、DIN EN 60243-2に従って、23℃のフィルムに直流電圧をかけ、直径50mmの円形電極を用いて測定した。使用したフィルムとコンデンサの詳細と測定結果を以下の表1に示す。
【0088】
【表1】
【0089】
これらの例は、本発明によって使用される例1~5のPP/COCフィルムが、コンデンサに使用するために従来提案されていたPP/COCフィルムよりも優れた絶縁耐力を有することを示す。
【0090】
さらに、ポリマーマトリックスと表面の均質性が改善される。このように、本発明によって使用されるフィルムは、重要な特性において、コンデンサに使用するためにこれまでに提案されたPP/COCフィルムよりも、既知のOPPコンデンサフィルムに近づいている。
【0091】
図1は、例V1、1、2、3、4、5によるフィルムの横断面の走査電子顕微鏡写真であり、図2は、例V2によるフィルムの横断面の走査電子顕微鏡写真である。
【0092】
図1および図2を作成するために、フィルムをミクロトームで切断し、シクロヘキサンに室温で24時間接触させてCOC相を除去した。ポリマーが除去された部分は、この手順により黒くなっている。使用した走査型電子顕微鏡は、日立S-4700である。
【0093】
例V2によるフィルムの走査型電子顕微鏡写真から、COCが別個の相としてポリプロピレンマトリックス中に存在することが分かる。PPマトリックス中のそのようなCOC相は、既に知られており、2018年11月の研究開示DB no.655030に記載されている。一方、本発明によって使用される例1~5のフィルムおよび例V1のOPPフィルムは、可視的な相構造を示さない(解像度約0.1μm)。
【0094】
図3の上半分は、例V1、1、2、3、4または5によるフィルムの表面の光顕微鏡画像を示す これらの画像のために、フィルムは準備されなかった。フィルムは、斜入射光照明または暗視野および適切な倍率の下で観察された。図3の下半分は、例V2によるフィルムの表面の光顕微鏡画像である。本発明によって使用される例1~5のフィルムは、OPPコンデンサフィルムに典型的な表面構造と同じものを示す。対照的に、より高いCOC含有量を有する例V2のPP/COCブレンドから作られたフィルムは、異なるフィブリル状の表面構造を示す。
【0095】
このように、本発明で使用するフィルムは、OPPコンデンサフィルムと同様の表面構造を示している。比較例V2のフィルムでは、PP/COCブレンド構造に由来する表面構造が見える。PP/COCブレンド構造の表面構造は、すでに知られており、2018年11月の研究開示DB no.655030で説明されている。
【0096】
絶縁耐力の温度依存性
DIN EN 60243-2に従い、異なる温度での絶縁耐力を測定する試験を実施した。単層フィルムを使用し、直径50mmの電極を使用した。結果は以下の表2に記載する。
【0097】
【表2】
【0098】
絶縁耐力は、通常、室温で測定される。高温での測定は、本発に従って使用される例2のフィルムが、標準的なOPPフィルムよりも高い絶縁耐力を有することを示す。
【0099】
高温下での長期測定
表1に示す配合で製造したコンデンサについて、電圧印加下での高温での長期の絶縁耐力を測定した。一連の測定の開始時および約250時間の後、室温で50Hzでの静電容量および散逸係数を測定し、その後も高温下での貯蔵を継続した。
【0100】
最初の試験では、例V1、3、4のコンデンサが試験された。温度曲線と測定結果を以下の表3、表4に示す。
【0101】
例V1のコンデンサがすべて故障した後、試験を終了した。
【0102】
【表3】
【0103】
【表4】
【0104】
この結果から、本発明によるコンデンサは、既知のOPPコンデンサと比較して、温度の影響下での特性の安定性が著しく改善されていることが明確に分かる。
【0105】
別の同様の長期試験において、例V1、1、2および5に従ってコンデンサを試験した。例1、2および5のコンデンサは、COCの含有量が少なく、COCのガラス転移温度が5℃高いPP/COCブレンドを使用して製造した。
【0106】
温度曲線と測定結果を以下の表5、表6に示す。
【0107】
【表5】
【0108】
【表6】
【0109】
この結果から、例2によるコンデンサは、低COC含有量においてでさえ、温度安定性が向上していることがわかる。
【0110】
油中におけるコンデンサの絶縁耐力
油含侵コンデンサの絶縁耐力試験を実施した。これらを適切なフィルムとアルミニウム箔を巻き、菜種油を含浸させた。電極の表面は2mであった。測定は、DC電圧で、室温で行った。測定結果を以下の表7に示す。
【0111】
【表7】
【0112】
公知のOPPフィルムから作製された含油コンデンサも、本発明によって使用されるフィルムから作られたコンデンサも、同じ絶縁耐力を示した。
図1
図2
図3A
図3B
【国際調査報告】