(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-15
(54)【発明の名称】操作Tregの凍結保存方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/12 20060101AFI20231108BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20231108BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20231108BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20231108BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20231108BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20231108BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231108BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20231108BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20231108BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
C12N15/12
C12N5/10 ZNA
C12N15/62 Z
A61K35/17
A61P37/06
A61P37/08
A61P43/00 105
A61P25/28
A61P21/00
A61P3/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023527414
(86)(22)【出願日】2021-11-09
(85)【翻訳文提出日】2023-07-07
(86)【国際出願番号】 EP2021081101
(87)【国際公開番号】W WO2022096744
(87)【国際公開日】2022-05-12
(32)【優先日】2020-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(32)【優先日】2021-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522164226
【氏名又は名称】クウェル セラピューティックス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】マックギル、イアン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BD09
4B065CA24
4B065CA44
4C087AA01
4C087BB37
4C087CA04
4C087CA12
4C087NA14
4C087ZA15
4C087ZA94
4C087ZB08
4C087ZB13
4C087ZB21
4C087ZC35
(57)【要約】
本発明は、凍結保存を経た制御性T細胞(Treg)集団におけるCD62L発現を保存する方法であって、FOXP3ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを、凍結保存前に前記Treg集団に導入することを含む方法に関する。本発明はまた、凍結保存後のTreg集団におけるCD62Lを保存する方法であって、FOXP3ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドをTreg集団に導入すること、および前記Treg集団を凍結保存することを含む方法に関する。さらに、本発明は、凍結保存後のTreg集団におけるCD62L発現の保存のための、FOXP3をコードする外因性ポリヌクレオチドの使用、ならびに、凍結保存された操作Treg、前記凍結保存された操作Tregを含む医薬組成物、およびこれらの治療的使用に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
凍結保存を経た制御性T細胞(Treg)集団におけるCD62L発現を保存する方法であって、FOXP3ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを、凍結保存前に前記Treg集団に導入することを含む、方法。
【請求項2】
前記Treg集団は、対応する非操作Treg集団の凍結保存後のCD62L発現よりも高いCD62L発現を、凍結保存後に有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記FOXP3ポリペプチドが、配列番号1と少なくとも80%同一であるアミノ酸配列またはその機能的断片を含む、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
前記FOXP3をコードする前記ポリヌクレオチドが、発現ベクター内にある、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
外因性T細胞受容体(TCR)をコードするポリヌクレオチドまたはキメラ抗原受容体(CAR)をコードするポリヌクレオチドを、前記Treg集団に導入することをさらに含む、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記FOXP3ポリペプチドをコードする前記ポリヌクレオチドおよび前記外因性TCRまたはCARをコードする前記ポリヌクレオチドが、単一の発現ベクターによって提供される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ベクターが、前記FOXP3ポリペプチドをコードする第1のポリヌクレオチドおよび前記外因性TCRまたはCARをコードする第2のポリヌクレオチドを含み、前記第1のポリヌクレオチドおよび前記第2のポリヌクレオチドが同一プロモーターに作動可能に連結されており、前記第1のポリヌクレオチドが前記第2のポリヌクレオチドより上流にある、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記FOXP3をコードする前記ポリヌクレオチドと前記外因性TCRまたはCARをコードする前記ポリヌクレオチドとの間に、内部自己切断配列(internal self-cleaving sequence)が存在する、請求項5から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記FOXP3をコードする前記ポリヌクレオチドおよび/または前記外因性TCRもしくはCARをコードする前記ポリヌクレオチドが、ウイルス形質導入、好ましくはレトロウイルス形質導入またはレンチウイルス形質導入によって、前記Treg集団に導入される、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
凍結保存後のTreg集団におけるCD62L発現を保存する方法であって、
(a)FOXP3ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドをTreg集団に導入する工程、および
(b)前記Treg集団を凍結保存する工程、を含む方法。
【請求項11】
以下の工程をさらに含む、請求項10に記載の方法:
FOXP3ポリペプチドをコードする前記ポリヌクレオチドを前記Treg集団に導入する前に、当該Treg集団を試料から単離する工程;および/または
凍結保存後に前記Treg集団を融解する工程。
【請求項12】
前記試料が、全血、臍帯血、白血球コーン(Leukocyte cones)、血液コーン(blood cones)、末梢血単核細胞(PBMC)、または1つ以上のロイコパックからなる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記工程(b)が、以下の工程を含む、請求項10から12のいずれか一項に記載の方法:
(bi)前記Treg集団を凍結保存用培地に懸濁させる工程;
(bii)前記工程(bi)のTreg集団を凍結させる工程;および
(biii)前記工程(bii)のTreg集団を-130℃より低い温度で保存する工程。
【請求項14】
以下の工程をさらに含む、請求項10から13のいずれか一項に記載の方法:
前記工程(b)に先立って、前記Treg集団、および/または前記凍結保存工程で使用されるいずれか1つ以上の試薬およびデバイスを予め冷却する工程;
前記Treg集団を、前記工程(b)において、およそ-1℃/分の制御された凍結速度で凍結保存する工程;および/または
前記工程(biii)に先立って、前記Treg集団を-80℃で最大24時間保存する工程。
【請求項15】
前記Treg集団の融解が、前記Treg集団を、-130℃よりも低い温度からおよそ0℃から10℃の間の温度に昇温させることを含み、前記Treg集団の昇温が、およそ37℃に保たれたウォーターバス中に前記Treg集団を置くことを任意選択で含む、請求項11から14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記Treg集団が、下記の(i)または(ii)を選択することによって単離される、請求項11から15のいずれかに記載の方法:
(i)CD4
+CD25
+CD127
-細胞および/もしくはCD4
+CD25
+CD127
low細胞;または
(ii)CD4
+CD25
hiCD127
-細胞および/もしくはCD4
+CD25
+CD127
low細胞。
【請求項17】
前記Treg集団が、CD45RA
+細胞、好ましくはCD4
+CD25
+CD127
lowCD45RA
+細胞を選択することによって単離される、請求項11から16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
凍結保存後のTreg集団におけるCD62L発現の保存のための、FOXP3をコードする外因性ポリヌクレオチドの使用。
【請求項19】
FOXP3ポリペプチドをコードする外因性ポリヌクレオチドを含む凍結保存された操作Treg集団であって、前記操作Treg集団が、対応する非操作Treg集団の凍結保存後のCD62L発現よりも高いCD62L発現を、凍結保存後に有する、凍結保存された操作Treg集団。
【請求項20】
前記FOXP3ポリペプチドが、配列番号1と少なくとも80%同一であるアミノ酸配列またはその機能的断片を含む、請求項19に記載の凍結保存された操作Treg集団。
【請求項21】
前記FOXP3をコードする前記外因性ポリヌクレオチドが、発現ベクター内にある、請求項19または20に記載の凍結保存された操作Treg集団。
【請求項22】
外因性T細胞受容体(TCR)をコードするポリヌクレオチドまたはキメラ抗原受容体(CAR)をコードするポリヌクレオチドをさらに含む、請求項19から21のいずれかに記載の凍結保存された操作Treg集団。
【請求項23】
前記FOXP3ポリペプチドをコードする前記ポリヌクレオチドおよび前記外因性TCRまたは前記CARをコードする前記ポリヌクレオチドが、単一の発現ベクターによって提供される、請求項22に記載の凍結保存された操作Treg集団。
【請求項24】
前記ベクターが、前記FOXP3ポリペプチドをコードする第1のポリヌクレオチドおよび前記外因性TCRまたはCARをコードする第2のポリヌクレオチドを含み、前記第1のポリヌクレオチドおよび前記第2のポリヌクレオチドが同一プロモーターに作動可能に連結されており、前記第1のポリヌクレオチドが前記第2のポリヌクレオチドより上流にある、請求項23に記載の凍結保存された操作Treg集団。
【請求項25】
FOXP3をコードする前記ポリヌクレオチドと前記外因性TCRまたはCARをコードする前記ポリヌクレオチドとの間に、内部自己切断配列が存在する、請求項22から24のいずれかに記載の凍結保存された操作Treg集団。
【請求項26】
請求項1から17のいずれか一項に記載の方法によって得ることができるTreg集団。
【請求項27】
請求項19から26のいずれかに記載のTreg集団を含む医薬組成物。
【請求項28】
疾患の予防および/または治療に使用するための、請求項19から26のいずれかに記載のTreg集団または請求項27に記載の医薬組成物。
【請求項29】
疾患の予防および/または治療のための薬剤の製造における、請求項19から26のいずれかに記載のTreg集団または請求項27に記載の医薬組成物の使用。
【請求項30】
請求項19から26のいずれかに記載のTreg集団または請求項27に記載の医薬組成物を対象に投与することを含む、疾患の予防および/または治療方法。
【請求項31】
前記疾患が自己免疫疾患またはアレルギー性疾患である、請求項28に記載の使用のためのTreg集団もしくは医薬組成物、請求項29に記載のTreg集団の使用、または請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記疾患が移植拒絶反応または移植片対宿主病である、請求項28に記載の使用のためのTreg集団もしくは医薬組成物、請求項29に記載のTreg集団の使用、または請求項30に記載の方法。
【請求項33】
免疫応答の抑制における、請求項28に記載の使用のためのTreg集団もしくは医薬組成物、または免疫応答の抑制における請求項29に記載のTreg集団の使用。
【請求項34】
前記疾患が神経変性疾患であり、任意選択的に筋委縮性側索硬化症(ALS)である、請求項28に記載の使用のためのTreg集団もしくは医薬組成物、請求項29に記載のTreg集団の使用、または請求項30に記載の方法。
【請求項35】
前記疾患が糖尿病であり、任意選択的にI型糖尿病である、請求項28に記載の使用のためのTreg集団もしくは医薬組成物、請求項29に記載のTreg集団の使用、または請求項30に記載の方法。
【請求項36】
対応する凍結保存されていないTregまたはTregの集団と同等のCD62Lのレベルを有する凍結保存されたTregまたはTregの集団の製造方法であって、
(a)FOXP3をコードするポリヌクレオチドをTregまたはTregの集団に導入すること、および
(b)前記TregまたはTregの集団を凍結保存すること、を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御性T細胞(Treg)を凍結保存する方法に関する。特に、本発明は、凍結保存後のTregの抑制機能を保存するため、凍結保存前にTregにおけるFOXP3発現を増加させる方法に関する。本発明はまた、凍結保存された操作Treg、凍結保存された操作Tregを含む医薬組成物、およびそれらの治療的使用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、種々の異なる病態を治療する養子細胞療法(ACT)のための臨床設定において、制御性T細胞(Treg)を使用することへの関心が高まりつつある。Tregは、その免疫抑制機能に基づき、望ましくない免疫反応の制御における使用が提案されてきた。例えば、Tregは、自己免疫疾患またはアレルギー疾患の治療、移植における免疫調節、ならびに炎症性疾患における免疫介在性の臓器障害の改善および/または予防に用いられてきた。加えて、新たな特異性を有するT細胞受容体(TCR)またはキメラ抗原受容体(CAR)を発現させるようなTregの遺伝子操作が行われ、これにより、標的化された免疫抑制という利点がもたらされた。種々の第I相試験により、Treg療法の安全性と有効性が示され、現在、いくつかの第II相試験が進行中である。
【0003】
治療用途のTregの主な供給源は、患者自身の血液(血管から直接採取したもの、もしくは白血球除去の産物)または臍帯血である。これらの供給源から得られるTregは数が少ないが、免疫系を効果的に抑制するためには相当数が必要とされる。したがって、患者への注入に十分な数のTregを得るためには、エクスビボ増殖(ex-vivo expansion)が必要となる。適正製造規範(Good Manufacturing Practice:GMP)のガイドラインに従った典型的な単離および増殖プロトコルには、およそ9日から21日までの日数がかかる。これらの細胞を十分な量で加工および凍結し、必要な時にすぐに患者に使用できる状態とすることができれば、Tregの品質に悪影響を与え得る長時間の加工を避けることができ、非常に有利であろう。このアプローチは、療法のプラニング、注入のタイミングに関してより柔軟な対応を可能とし、後に行われるTreg注入および薬理学的療法前の細胞の採取を可能にするであろう。したがって、Tregを凍結保存する能力は、極めて重要である。
【0004】
凍結融解がTreg細胞集団に及ぼす影響は、はっきりとは定義されていない。いくつかの研究グループにより、凍結保存はTregに有害な影響を及ぼす可能性があり、Tregの生存率を低下させ、サイトカインの異常分泌を引き起こし、Tregの適切な抑制機能および移動に不可欠な表面マーカーの発現を変化させ得ることが報告されている。
【0005】
特に、Florekら(Florek et al, PLoS One, 2015, DOI: 10.137/journal.pone.0145763)は、Tregの凍結融解により、CD62L(L-セレクチン)の発現が失われ、移植片対宿主病(GvHD)に対する保護能が損なわれることを明らかにした。融解されたTregでは、CD62Lの結合パートナーであるMADCAM1への結合能が低下し、かつ、二次リンパ器官へのホーミングが損なわれることがわかった。また、他の研究により、T細胞上におけるCD62L(L-セレクチン)およびCCR5の発現が、凍結保存後に失われることがわかっている(De Boer et al, Bone Marrow Transplant, 1998, 22:1103-10 and Hattori et al, Exp Hematol, 2001, 29:114-22)。CD62Lの発現が欠失したTregは、輸送能および局在性の低下を示し、この結果、Treg制御性の免疫応答の区画化が低下していた(Sakaguchi et al, Cell, 2008, 133:775-87)。融解後のCD62L発現の喪失は、一晩培養することで回復させることが可能である(De Boer et al., 1998 and Hattori et al., 2001)。しかしながら、この方法で細胞を休ませることは、臨床応用では融解は通常ベッドサイドで行われ、よってさらなる培養が不可能であるため、実用的ではない場合がある。
【0006】
Golabら(Golab et al, Oncotarget, 2018, vol.9,(No.11),pp:9728-9740)は、Treg療法のための2つの細胞バンク化戦略、すなわち、後に行われるTregの単離/増殖のためのCD4+細胞の凍結保存、およびエクスビボ増殖Treg(CD4+CD25hiCD127lo/-細胞)の凍結保存の評価を行った。エクスビボ増殖Tregは、CD4+細胞よりも凍結保存プロセスへの感受性が高く、融解後の細胞生存率が大幅に低下すると共に、Tregマーカー発現が減少する(すなわち、表現型がCD4+CD25hiCD127-およびCD4+FoxP3+の細胞の頻度が減少する)ことが判明した。融解後のTreg生存率の低さおよび表現型の障害は、続いて行われた13日間のエクスビボ増殖中にTregを再刺激することによって克服された。同様に、Petersら(Peters et al, PLoS One, 2008, 3:e3161)は、融解後のTregの抑制能は、10日間の刺激および増殖によって回復可能であることを示した。
【0007】
しかしながら、上述のように、臨床現場では、これらの追加の培養工程および増殖工程は実施可能ではなく、しかも、時間がかかる上に追加のリスクを伴うため、新たに単離された細胞の使用と比較した凍結保存Tregの使用の利点が打ち消される。したがって、凍結保存Tregを、現在研究室で必要とされている長時間にわたる融解後のレスキュー工程を行うことなく、融解後、直ちに患者に投与することを可能とする、改良された凍結保存方法が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0008】
これに関し、本発明者らは、驚くべきことに、外因性FOXP3の発現が、凍結保存後のTreg表現型に対して保護効果をもたらすことを見出した。本発明者らは、FOXP3を形質導入したTregが、凍結融解後もCD62L(すなわちL-セレクチン)の発現を維持することを確認した。CD62Lの発現は、Tregの移動機能およびホーミング機能に不可欠であり、したがって、Tregの免疫抑制機能にとって重要である。このため、凍結保存に先立って、(例えば、必要な細胞のプロセッシングの一部として)FOXP3をTregに形質導入することにより、融解後にもTregの免疫調節機能および抑制機能が維持され、当該細胞を直ちに患者に使用することが可能となる。本発明者らは、これにより、Tregの凍結保存に関連する問題に対し、当該細胞のさらなる培養を回避するような解決策を与え、さらに、臨床で効果的に使用できるTreg療法をもたらすための道筋を提供した。
【0009】
したがって、本発明は、凍結保存後もその免疫抑制特性を維持し、よって、臨床的有効性および安全性が高められた操作Tregを提供するものである。凍結保存Tregは、様々な治療用途に使用することができ、このような用途としては、対象における移植片に対する寛容誘導、あるいは移植拒絶反応、移植片対宿主病、炎症、自己免疫疾患、アレルギー疾患、筋萎縮性側索硬化症(ALS)等の神経炎症性疾患、I型糖尿病等の代謝性疾患の治療および/または予防、あるいは免疫反応の抑制が挙げられる。
【0010】
第1の態様において、本発明は、凍結保存を経た制御性T細胞(Treg)集団またはTregにおけるCD62L発現を保存する方法であって、FOXP3ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを、凍結保存前に前記Treg集団またはTregに導入することを含む方法を提供する。
【0011】
前記Treg集団またはTregは、対応する凍結保存後の非操作Treg集団またはTreg(すなわち、FOXP3をコードするポリヌクレオチドを形質導入していないTreg集団またはTreg)よりも高いCD62L発現を凍結保存後に有してもよい。
【0012】
前記方法は、前記Treg集団またはTregを凍結保存する工程をさらに含んでもよい。よって、本発明は、凍結保存用の制御性T細胞(Treg)集団またはTregにおけるCD62L発現を保存する方法であって、(a)FOXP3ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドをTreg集団またはTregに導入する工程、および(b)前記Treg集団またはTregを凍結保存する工程を含む方法を、さらに提供し得る。
【0013】
あるいは、本発明は、Treg(またはTregの集団)の凍結保存方法であって、(a)FOXP3をコードするポリヌクレオチドをTregまたはTreg集団に導入すること、および(b)前記TregまたはTreg集団を凍結保存することを含み、当該凍結保存されたTregまたはTreg集団が、対応する非操作TregまたはTreg集団と比べて、より高いCD62L発現レベルを有する方法を提供し得る。
【0014】
別の態様では、本発明は、対応する凍結保存されていないTregまたはTregの集団と同等のCD62Lのレベルを有する凍結保存されたTregまたはTregの集団の製造方法であって、(a)FOXP3をコードするポリヌクレオチドをTregまたはTregの集団に導入すること、および(b)前記TregまたはTregの集団を凍結保存すること、を含む方法を提供する。
【0015】
当業者であれば、本明細書に記載される方法の工程は、典型的にはこれら工程が作用する順に設けられていること、例えば、工程(a)は工程(b)に先立って行われるべきであることを理解するであろう。
【0016】
本発明の方法は、下記の追加の工程のいずれか1つ以上をさらに含んでもよい:FOXP3をコードするポリヌクレオチドをTregまたはTreg集団に導入する前に、試料からTregまたはTreg集団を単離する工程;前記TregまたはTreg集団を融解させる工程;および/または前記融解したTregまたはTreg集団を対象に投与する工程。前記方法は、凍結保存に先立って、Treg集団またはTregを増殖する工程をさらに含んでもよい。代替的な見方によれば、本発明のTregまたはTreg集団は、増殖されるまでは凍結保存されなくてもよい。本発明の凍結保存されたTregまたはTreg集団は、オフザシェルフ(off-the-shelf)の治療用製品として、さらなる増殖、改変、または代替的な追加の培養工程を必要とすることなく、直ちに使用し得る。
【0017】
これに関し、本発明は、凍結保存状態から融解されたTregまたはTreg集団におけるCD62L発現を保存するための方法であって、FOXP3ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを、凍結保存および融解に先立って、前記TregまたはTreg集団に導入することを含む方法をさらに提供する。
【0018】
代替的な見方によれば、本発明は、凍結保存状態から融解した後のTregまたはTreg集団におけるCD62L発現を保存する方法であって、(a)FOXP3をコードするポリヌクレオチドをTregまたはTreg集団に導入すること、(b)前記TregまたはTreg集団を凍結保存すること、および(c)前記TregまたはTreg集団を融解させること、を含む方法を提供する。前記TregまたはTreg集団は、追加の増殖を行うことなく、融解直後/融解中に使用し得る。前記方法は、(i)前記工程(a)の前に、Tregを含有すると推測される試料からTregを富化し、Treg富化試料を製造する工程、および(ii)前記工程(a)の後かつ前記工程(b)の前に、前記Treg富化試料から前記TregまたはTreg集団を増殖させ、操作増殖TregまたはTreg集団を製造する工程、をさらに含んでもよい。前記工程(i)は、CD8+細胞を枯渇させることをさらに含んでもよい。
【0019】
別の態様では、本発明は、対応する凍結保存されていないTregまたはTregの集団とCD62Lのレベルが同等である融解されたTregまたはTregの集団の製造方法であって、(a)FOXP3をコードするポリヌクレオチドをTregまたはTreg集団に導入すること、(b)前記TregまたはTreg集団を凍結保存すること、および(c)前記TregまたはTreg集団を融解させること、を含む方法を提供する。前記TregまたはTreg集団は、追加の増殖を行うことなく、融解直後/融解中に使用し得る。前記方法は、(i)前記工程(a)の前に、Tregを含有すると推測される出発細胞試料からTregを富化し、Treg富化試料を製造する工程、および(ii)前記工程(a)の後かつ前記工程(b)の前に、前記Treg富化試料から前記TregまたはTreg集団を増殖させ、操作増殖TregまたはTreg集団を製造する工程をさらに含んでもよい。工程(i)は、CD8+細胞を枯渇させることをさらに含んでもよい。
【0020】
前記試料(Treg細胞含有試料または単に細胞含有試料としても知られる)は、全血、臍帯血、白血球コーン(Leukocyte cones)、血液コーン(blood cones)、末梢血単核細胞(PBMC)、もしくはロイコパックを含むか、またはこのような成分からなってもよい。典型的には、前記試料は、白血球コーンまたは1つ以上のロイコパックを含むか、またはこのような成分からなってもよい。典型的には、前記試料は、ヒトのドナー由来である。前記ドナーは健康であってもよいし、疾患、例えば、神経変性疾患(neurogenerative disease)(ALS等)または自己免疫疾患(I型糖尿病等)を有していてもよいし、あるいは移植患者であってもよい。
【0021】
前記Treg集団(またはTreg)の凍結保存は、以下の工程を含んでもよい:(bi)前記Treg集団を凍結保存用培地に懸濁させる工程;(bii)前記工程(bi)のTreg集団を凍結させる工程;および(biii)前記工程(bii)のTreg集団を-130℃より低い温度で保存する工程。好適な凍結保存培地は、以下に詳述するように、当該技術分野で公知の任意の凍結保存培地であってもよい。前記凍結保存培地は凍結保護剤を1種以上含むことが好ましく、好適な凍結保護剤については後述する。前記凍結保存培地および前記凍結保護剤(1つまたは複数)は、適正製造規範(GMP)基準に準拠していることが好ましい。
【0022】
本発明の方法は、以下の工程のいずれか1つ以上をさらに含んでもよい:凍結保存(前記工程(b))に先立って、前記Treg集団(またはTreg)、および/または凍結保存の任意の工程で使用されるいずれか1つ以上(好ましくは全て)の試薬またはデバイスを予め冷却する工程;前記Treg集団(またはTreg)を、(前記工程(b)において)およそ-1℃/分の制御された凍結速度で凍結する工程;および/または前記工程(biii)に先立って、前記Treg集団(またはTreg)を-80℃で最大24時間保存する工程。「試薬」は、例えば、凍結保存培地を含んでもよく、「デバイス」は、例えば、制御された凍結速度を維持する任意の凍結デバイスを含んでもよい。好適な試薬およびデバイスは、凍結保存に使用される、当該技術分野で公知の任意の試薬またはデバイスであってもよい。そのような試薬およびデバイスは、GMP基準に準拠していることが好ましい。
【0023】
前記工程(biii)は、前記Treg集団を液体窒素中で保存することを含んでもよい。液体窒素の温度は、およそ-196℃であってもよい。
【0024】
前記Treg集団(またはTreg)を融解させる工程は、前記Treg組成物を、-130℃よりも低い温度からおよそ0℃から10℃の間の温度に昇温させることを含み、任意選択で、前記Treg集団の昇温は、およそ37℃に保たれたウォーターバス中に前記Treg組成物を置くことを含む。
【0025】
前記凍結保存工程および/または融解工程は、GMP基準に従って、閉鎖系またはグレードA環境下で実施してもよい。
【0026】
前記Treg集団は、CD4+CD25+CD127-細胞および/またはCD4+CD25+CD127low細胞を選択することによって、あるいはCD4+CD25hiCD127-細胞および/またはCD4+CD25+CD127low細胞を選択することによって、試料から単離されてもよい。前記Treg集団は、CD45RA+細胞、好ましくはCD4+CD25+CD127lowCD45RA+細胞を選択することによって単離されてもよい。このように、本発明の凍結保存Treg集団は、CD4+CD25+CD127-Treg細胞、CD4+CD25+CD127lowTreg細胞、および/またはCD4+CD25+CD127lowCD45RA+Treg細胞を、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%含んでもよい。
【0027】
さらに、前記凍結保存Treg集団は、20%未満のCD8+細胞、10%未満のCD8+細胞を含んでもよく、好ましくは5%未満のCD8+細胞、より好ましくは2%未満のCD8+細胞を含んでもよい。この点に関して、本発明の方法は、前記形質導入工程の前(すなわち、FOXP3をコードするポリヌクレオチドをTregまたはTreg集団に導入することを含む、上述の方法の前記工程(a)の前)に、CD8+細胞を枯渇させる工程を含んでもよい。
【0028】
第2の態様において、本発明は、凍結保存を経たTreg集団もしくはTregまたは凍結保存用のTreg集団もしくはTregにおけるCD62L発現を保存するための、FOXP3をコードする外因性ポリヌクレオチドの使用を提供する。特に、上述のように、前記外因性ポリヌクレオチドは、Treg集団またはTregに導入され、その発現は、当該Treg集団またはTreg内のCD62L発現レベルに保護効果をもたらす。
【0029】
本発明の第3の態様は、FOXP3ポリペプチドをコードする外因性ポリヌクレオチドを含む凍結保存された操作Treg集団またはTregであって、前記操作Treg集団またはTregが、対応する凍結保存後の非操作Treg集団よりも高いCD62L発現レベルを凍結保存後に有する、凍結保存された操作Treg集団またはTregを提供する。
【0030】
本発明はさらに、本発明の方法によって得ることができるか、または得られたTreg集団またはTreg(例えば、凍結保存された細胞または融解された細胞)を提供する。代替的な見方によれば、本発明は、FOXP3ポリペプチドをコードする外因性ポリヌクレオチドを含む融解されたTregまたはTreg集団であって、前記操作TregまたはTreg集団が、対応する融解後の非操作TregまたはTreg集団よりも高いCD62L発現レベルを融解後に有する、融解TregまたはTreg集団を提供する。
【0031】
FOXP3ポリペプチドは、配列番号1と少なくとも80%同一であるアミノ酸配列またはその機能的断片を含んでもよい。FOXP3をコードするポリヌクレオチドは、発現ベクター内にあってもよい。
【0032】
前記方法は、外因性T細胞受容体(TCR)をコードするポリヌクレオチドまたはキメラ抗原受容体(CAR)をコードするポリヌクレオチドを前記Treg集団またはTregに導入することをさらに含んでもよいし、あるいは、前記凍結保存された操作Treg集団またはTregが、外因性T細胞受容体(TCR)をコードするポリヌクレオチドまたはキメラ抗原受容体(CAR)をコードするポリヌクレオチドを含んでもよい。前記FOXP3ポリペプチドをコードする前記ポリヌクレオチドおよび前記外来性TCRまたはCARをコードする前記ポリヌクレオチドは、単一の発現ベクターによって提供されてもよい。
【0033】
前記TCRまたはCARは、任意の所望の標的分子、特に、標的細胞上に発現した標的分子に対するものであってもよい。好適なTCRおよびCARについては後述する。ある実施形態では、前記CARは、HLA抗原、例えば、HLA-A2に対して向けられたものである。
【0034】
前記ベクターは、前記FOXP3ポリペプチドをコードする第1のポリヌクレオチドおよび前記外因性TCRまたはCARをコードする第2のポリヌクレオチドを含んでもよく、前記第1のポリヌクレオチドおよび前記第2のポリヌクレオチドが同一プロモーターに作動可能に連結されており、前記第1のポリヌクレオチドが前記第2のポリヌクレオチドより上流にある。FOXP3をコードする前記ポリヌクレオチドと前記外因性TCRまたはCARをコードする前記ポリヌクレオチドとの間に、内部自己切断配列(internal self-cleaving sequence)が存在してもよい。好適なプロモーターおよび自己切断配列については後述する。
【0035】
本発明の方法は、自殺部分を含む安全スイッチをコードするポリヌクレオチドを前記Treg集団またはTregに導入することを含んでもよいし、あるいは、本発明の凍結保存された操作Treg集団または操作Tregが、自殺部分を含む安全スイッチを含んでもよい。よって、一実施形態では、FOXP3をコードするポリヌクレオチド/核酸分子および任意選択的にCAR/TCRをコードするポリヌクレオチド/核酸分子は、自殺部分を含む安全スイッチをさらにコードしていてもよい。特に、核酸分子および構築物は、単一の核酸分子内または構築物内で別個の構成要素(例えば、3つの構成要素(例えば、FOXP3、外因性TCRまたはCAR、および安全スイッチ))をコードするように設計してもよく、これにより、前記構成要素が、個々の構成要素、すなわち、別々の実体(すなわち、互いに連結しておらず、物理的に異なっている)として前記細胞内で産生されてもよい。よって、核酸分子によってコードされた構成要素は、発現後、別個の異なる、または別々の機能的ポリペプチドとして、細胞内または細胞上に別個に位置し得る。これは、核酸分子内に切断配列、特に自己切断配列を、それぞれの構成要素をコードするヌクレオチド配列の間にコードすることによって達成される。
【0036】
本明細書に開示されるポリヌクレオチド(例えば、FOXP3および/または外因性TCRもしくはCARおよび/または前記安全スイッチをコードするもの)は、ウイルス形質導入、好ましくは、レトロウイルス形質導入またはレンチウイルス形質導入によって、Treg集団またはTregに導入してもよい。
第4の態様において、本発明は、本明細書に記載の凍結保存された操作Treg集団もしくはTreg、または融解TregもしくはTreg集団、を含む医薬組成物を提供する。
【0037】
第5の態様において、本発明は、疾患の予防および/または治療に使用するための、本明細書に記載の凍結保存された操作Treg集団もしくはTreg、融解TregもしくはTreg集団、または本明細書に記載の医薬組成物を提供する。
【0038】
第6の態様において、本発明は、疾患の予防および/または治療のための薬剤の製造における、本明細書に記載の凍結保存された操作Treg集団もしくはTreg、融解TregもしくはTreg集団、または医薬組成物の使用を提供する。
【0039】
第7の態様において、本発明は、本明細書に記載の凍結保存された操作Treg集団もしくはTreg、融解TregもしくはTreg集団、または本明細書に記載の医薬組成物を対象に投与することを含む、疾患の予防および/または治療方法を提供する。
【0040】
前記疾患は、自己免疫疾患、アレルギー疾患、移植拒絶反応、移植片対宿主病、炎症、筋委縮性側索硬化症(ALS)等の神経炎症性疾患、または糖尿病(例えば、I型糖尿病)等の代謝性疾患であってもよい。本発明はまた、免疫応答の抑制における使用のための本明細書に記載の凍結保存された操作Treg集団もしくはTreg、または免疫応答の抑制における使用のための本明細書に記載の医薬組成物、あるいは、本明細書に記載の凍結保存された操作Treg集団もしくはTregまたは医薬組成物の免疫応答の抑制における使用、に関するものである。
【0041】
ある実施形態において、凍結保存後のTregまたはTreg集団の二次リンパ器官へのホーミング能力を、凍結保存後の対応する非操作TregまたはTreg集団と比較して向上させる方法であって、FOXP3ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを、凍結保存前に前記TregまたはTreg集団に導入する工程を含む方法が提供される。
【0042】
さらなる実施形態では、FOXP3をコードする核酸分子/ポリヌクレオチド、発現構築物、またはベクターと、安全スイッチとを含む、本明細書に定義された凍結保存TregまたはTregの集団を除去する方法であって、前記凍結保存TregまたはTreg集団を、前記安全スイッチ内の自殺部分を認識する別個の細胞除去剤(抗体等)に曝露する工程を含む方法が提供される。細胞除去剤は、前記自殺部分に結合することによって、除去されるべき細胞を標的とすることができる。前記方法は、インビトロの方法であってもよい。
【0043】
本発明はまた、凍結保存後のTregまたはTreg集団の安定性および/または抑制機能を高める方法であって、本明細書中で提供する核酸分子/ポリヌクレオチド、発現構築物、またはベクターを、凍結保存前に前記細胞に導入する工程を含む方法を提供する。
【0044】
本発明の方法は、融解後、さらなる増殖なしに、凍結保存前の増殖操作TregまたはTreg集団に見られるような高生存率、純度、および効力を維持する、エクスビボ増殖され凍結保存された治療用TregまたはTreg集団を提供する。よって、本発明の細胞は、オフザシェルフの治療薬として使用し得る。
【0045】
本発明に求められる保護は、特許請求の範囲に定める通りである。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図1】-生存率-
図1は、FOXP3を発現する構築物(C1)を形質導入した、新鮮Treg(すなわち、非凍結Treg)および凍結Tregの生存率を、形質導入していない、すなわち非遺伝子改変(Non-GMO)の、新鮮Tregおよび凍結Tregの生存率と比較して示している。形質導入Tregおよび非形質導入Tregの両方において、75%前後の細胞が凍結後も生存可能なままである。
【
図2】-形質導入-
図2は、C1を形質導入した新鮮Tregおよび凍結Tregの両方がFOXP3を発現することを示している。
【
図3】-CD62Lの細胞表面発現-
図3は、FOXP3を発現する構築物(C1)を形質導入した、新鮮Treg(すなわち、非凍結Treg)および凍結TregにおけるCD62Lの細胞表面発現と、形質導入していない(Non-GMO)新鮮Tregおよび凍結TregにおけるCD62Lの細胞表面発現とを示している。CD62L発現のパーセンテージは、凍結形質導入Tregにおいて、凍結非形質導入Tregと比べて有意に増加している。
【
図4】-異なる凍結保存液での生存率-
図4は、FOXP3を発現する構築物(C1)を形質導入しているか、または形質導入していない(Non-GMO)(非形質導入Tregは外因性FOXP3を発現しない)、新鮮Treg(すなわち、非凍結Treg)(「凍結前」の列)および凍結Tregにおける生存率を示している。凍結Tregは、3種類の異なる凍結保存溶液である溶液1、溶液2、および溶液3中で、溶液ごとに5つの異なる細胞密度で凍結させた。全ての条件において、生存率は100%に近かった。
【
図5】-異なる凍結保存液での形質導入-
図5は、FOXP3を発現する構築物(C1)を形質導入しているか、または形質導入していない(Non-GMO)新鮮Treg(「凍結前」の列)における形質導入、ならびに、C1を形質導入しているか、または形質導入していない(Non-GMO)Tregであって、次いで、凍結保存液1、2、または3中で、溶液ごとに5つの異なる細胞密度で凍結させたTregにおける形質導入を示している。新鮮な状態および凍結状態のいずれにおいても、C1を形質導入したTregは、高レベルのFOXP3を発現していた。この高発現レベルは、凍結Tregにおいて、3種類の異なる凍結保存液1、2、および3の全て、5つの異なる細胞密度の全てにわたって維持されていた。
【
図6】-異なる凍結保存液におけるCD62Lの細胞表面発現-
図6は、FOXP3を発現する構築物(C1)を形質導入しているか、または形質導入していない(Non-GMO)新鮮Treg(「凍結前」の列)におけるCD62Lの細胞表面発現、ならびに、C1を形質導入しているか、または形質導入していない(Non-GMO)Tregであって、次いで、凍結保存液1、2、または3で、溶液ごとに5つの異なる細胞密度で凍結させたTregにおけるCD62Lの細胞表面の発現を示している。CD62L発現のパーセンテージは、C1で形質転換したTregでは、非形質転換Tregと比べて増加しており、3種類の凍結保存液全て、5つの異なる細胞密度の全てにわたって同等であった。
【0047】
[詳細な説明]
本発明者らは、驚くべきことに、外因性FOXP3を制御性細胞に形質導入すると、凍結保存後にも調節機能を維持できるレベルでのCD62L発現が保存されることを見出した。したがって、本発明は、凍結保存を経た制御性T細胞(Treg)集団(またはTreg)においてCD62L発現を保存する方法であり、FOXP3ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを、凍結保存前に前記Treg集団へと導入することを含む方法を提供する。代替的な見方によれば、本発明は、対応する非凍結保存TregまたはTregの集団と同等のCD62Lのレベルを有する凍結保存TregまたはTregの集団の製造方法であって、(a)FOXP3をコードするポリヌクレオチドをTregまたはTregの集団に導入すること、および(b)前記TregまたはTregの集団を凍結保存すること、を含む方法を提供する。本発明はまた、FOXP3ポリペプチドをコードする外因性ポリヌクレオチドを含む凍結保存された操作Treg集団(または操作Treg)であって、前記操作Treg集団が、凍結保存後の対応する非操作Treg集団よりも高いCD62L発現(あるいは、対応する非凍結保存TregまたはTreg集団と同等レベルのCD62L発現)を凍結保存後に有することを特徴とする、凍結保存された操作Treg集団(または操作Treg)を提供する。
【0048】
[制御性T細胞]
「制御性T細胞(Treg)またはT制御性細胞」は、細胞障害性免疫応答を制御する免疫抑制機能を有する免疫細胞であり、免疫寛容の維持に不可欠である。本明細書中で使用するTregという用語は、免疫抑制機能を有するT細胞を指す。
本明細書中で使用するT細胞とは、αβT細胞(例えば、CD8またはCD4+)、γδT細胞、メモリーT細胞、またはTreg細胞等の任意のタイプのT細胞を含むリンパ球である。
【0049】
好適には、免疫抑制機能および「免疫応答」という用語は、病原体、同種抗原、または自己抗原等の刺激に反応して免疫系によって促進される多数の生理学的効果および細胞効果の1つ以上を低減または阻害するTregの能力を指す場合がある。このような効果の例としては、従来のT細胞(Tconv)の増殖の強化および炎症性サイトカインの分泌が挙げられる。このような効果はいずれも、免疫応答の強さの指標として使用し得る。Tregの存在下でTconvによる免疫応答が相対的に弱くなることは、Tregの免疫応答抑制能を示していると考えられる。例えば、サイトカイン分泌の相対的な減少は、免疫応答が弱まることを示すものと考えられ、よって、Tregの免疫応答抑制能を示していると考えられる。Tregはまた、B細胞、樹状細胞、およびマクロファージ等の抗原提示細胞(APC)上の共刺激分子の発現を調節することによっても免疫応答を抑制することができる。CD80およびCD86の発現レベルを使用し、活性化Tregの共培養後のインビトロでの抑制効力を評価することができる。
【0050】
免疫応答の強さの指標を測定し、これによりTregの抑制能を測定するためのアッセイは、当該技術分野において公知である。具体的には、抗原特異的Tconv細胞をTregと共培養し、対応する抗原のペプチドを共培養物に添加してTconv細胞からの応答を刺激すればよい。Tconv細胞の増殖の程度および/またはペプチドの添加に反応してTconv細胞が分泌するサイトカインIL-2の量を、共培養したTregの抑制能の指標として使用し得る。
【0051】
本明細書に開示のTreg(またはTreg集団)と共培養された抗原特異的Tconv細胞は、当該Tregの非存在下で培養された同Tconv細胞と比べて、その増殖が5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、90%、95%、または99%少ない場合がある。例えば、本発明の凍結保存Tregと共培養された抗原特異的Tconv細胞は、非操作凍結保存Tregの存在下で培養された同Tconv細胞と比べて、その増殖が5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、または99%少ない場合がある。
【0052】
本明細書に記載のTregと共培養された抗原特異的Tconv細胞は、当該Tregの非存在下(例えば、非操作凍結保存Tregの存在下)で培養された対応するTconv細胞と比べて、エフェクターサイトカインの発現が少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、または少なくとも60%少ない場合がある。エフェクターサイトカインは、IL-2、IL-17、TNFα、GM-CSF、IFN-γ、IL-4、IL-5、IL-9、IL-10、およびIL-13から選択されてもよい。好適には、エフェクターサイトカインは、IL-2、IL-17、TNFα、GM-CSF、およびIFN-γから選択されてもよい。
【0053】
いくつかの異なるTregの亜集団が同定されているが、これらは異なる特定のマーカーまたは異なるレベルの特定のマーカーを発現する場合がある。Tregは、一般的には、CD4、CD25、およびFOXP3というマーカーを発現するT細胞である(CD4+CD25+FOXP3+)。Tregはさらに、CTLA-4(細胞傷害性Tリンパ球関連分子-4)またはGITR(グルココルチコイド誘導性TNF受容体)を発現する場合もある。
【0054】
Treg細胞は、末梢血、リンパ節、および組織に存在し、本明細書に記載の使用のためのTregは、胸腺由来の天然Treg(nTreg)細胞、末梢で産生されたTreg、および誘導性Treg(iTreg)細胞を含む。
【0055】
Tregは、細胞表面マーカーCD4およびCD25を、表面タンパク質CD127の非存在下で、または低発現レベルのCD127と組み合わせて使用することで同定し得る(CD4+CD25+/hiCD127-またはCD4+CD25+CD127low)。Tregを同定するためのこのようなマーカーの使用は、当該技術分野では公知であり、例えば、Liuら(JEM; 2006; 203; 7(10); 1701-1711)に記載されている。
【0056】
Tregは、CD4+CD25+FOXP3+T細胞、CD4+CD25+CD127-T細胞、またはCD4+CD25+FOXP3+CD127-/lowT細胞であってもよい。
【0057】
好適には、Tregは、天然Treg(nTreg)であってもよい。本明細書中で使用する「天然Treg」という用語は、胸腺由来Tregを意味する。天然Tregは、CD4+CD25+FOXP3+Helios+Neuropilin1+である。iTregと比較して、nTregは、PD-1(プログラム細胞死(programmed cell death)-1、pdcd1)、Neuropilin1(Nrp1)、Helios(Ikzf2)、およびCD73が高発現である。nTregは、Heliosタンパク質またはNeuropilin1(Nrp1)の個別の発現に基づいて、iTregと区別され得る。
【0058】
Tregは、脱メチル化されたTreg特異的脱メチル化領域(TSDR)を有してもよい。TSDRは、Foxp3の発現を調節する重要なメチル化感受性因子である(Polansky, J.K., et al, 2008.European Journal of immunology, 38(6), pp.1654-1663)。
【0059】
さらに好適なTregとしては、Tr1細胞(Foxp3を発現せず、IL-10産生が高い)、CD8+FOXP3+T細胞、およびγδFOXP3+T細胞が挙げられるが、これらに限定されない。
【0060】
Tregには、ナイーブTreg(CD45RA+FoxP3low)、エフェクター/メモリーTreg(CD45RA-FoxP3high)、およびサイトカイン産生Treg(CD45RA-FoxP3low)を含む、異なる亜集団が存在することが知られている。「メモリーTreg」は、CD45ROを発現するTregであり、CD45RO+であると考えられる。これらの細胞は、ナイーブTregと比較して、CD45ROのレベルを増加させ(例えば、CD45ROが少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%多い)、好ましくは、ナイーブTregと比較して、CD45RA(mRNAおよび/またはタンパク質)を発現しないか、あるいはそのレベルが低い(例えば、ナイーブTregと比較して、CD45RAが少なくとも80%、90%、または95%少ない)。「サイトカイン産生Treg」とは、ナイーブTregと比較して、CD45RA(mRNAおよび/またはタンパク質)を発現しないか、あるいはそのレベルが非常に低く(例えば、ナイーブTregと比較して、CD45RAが少なくとも80%、90%、または95%少ない)、かつ、メモリーTregと比較して、FOXP3のレベルが低い、例えば、メモリーTregと比較して、FOXP3が50%、60%、70%、80%、または90%未満であるTregである。サイトカイン産生Tregは、インターフェロンガンマを産生し得るTregであり、かつ、ナイーブTregと比較して、インビトロでの抑制力が低い(例えば、ナイーブTregと比較した抑制力が50%、60%、70%、80%、または90%未満である)Tregでもよい。
【0061】
本明細書中での発現レベルとは、mRNAまたはタンパク質の発現を指す場合がある。特に、CD45RA、CD25、CD4、CD45RO、CD62L等の細胞表面マーカーに関しては、発現とは、細胞表面発現、すなわち、細胞表面に発現されるマーカータンパク質の量または相対量を指す場合がある。発現レベルは、当該技術分野で公知の方法により決定し得る。例えば、mRNAの発現レベルは、ノーザンブロッティング/アレイ解析によって決定してもよく、また、タンパク質の発現は、ウェスタンブロッティングによって、または好ましくは細胞表面発現用抗体染色を用いたFACSによって決定してもよい。
【0062】
特に、Tregは、ナイーブTregであってもよい。本明細書中で同義に用いられる「ナイーブ制御性T細胞、ナイーブT制御性細胞、またはナイーブTreg」とは、CD45RAを発現する(特に、CD45RAを細胞表面に発現する)Treg細胞を指す。よって、ナイーブTregは、CD45RA+と記載される。ナイーブTregが、一般に、ペプチド/MHCによって内因性TCRを介して活性化されていないTregを表すのに対し、エフェクター/メモリーTregは、刺激により内因性TCRを介して活性化されたTregに関する。典型的には、ナイーブTregは、ナイーブ以外のTreg細胞(例えば、メモリーTreg細胞)よりも、CD45RAを少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%多く発現しうる。代替的な見方によれば、ナイーブTreg細胞は、非ナイーブTreg細胞(例えば、メモリーTreg細胞)と比較して、少なくとも2倍、3倍、4倍、5倍、10倍、50倍、または100倍の量のCD45RAを発現しうる。CD45RAの発現のレベルは、当該技術分野の方法、例えば、市販の抗体を用いたフローサイトメトリーによって、容易に決定することができる。典型的には、非ナイーブTreg細胞は、CD45RAを発現しないか、もしくはCD45RAを低レベルで発現する。
【0063】
特に、ナイーブTregはCD45ROを発現しなくてもよく、CD45RO-と考えられてもよい。よって、ナイーブTregは、メモリーTregと比較して、CD45ROの発現が少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%少なくてもよく、あるいは、代替的な見方によれば、メモリーTreg細胞と比較して、CD45ROの発現が少なくとも1/2、1/3、1/4、1/5、1/10、1/50、または1/100であってもよい。
【0064】
ナイーブTregは、上述のように、CD25を発現するが、ナイーブTregの由来によっては、CD25の発現レベルが、メモリーTregにおける発現レベルと比べて低くなってもよい。例えば、末梢血から単離されたナイーブTregの場合、CD25の発現レベルは、メモリーTregと比べて、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%低くてもよい。このようなナイーブTregは、中レベルから低レベルのCD25を発現すると考えてもよい。しかしながら、当業者であれば、臍帯血から単離されたナイーブTregでは、このような差異が見られない場合があることを理解するであろう。
【0065】
本明細書中で定義するナイーブTregは、典型的には、CD4+、CD25+、FOXP3+、CD127low、CD45RA+であってもよい。
【0066】
本明細書中で使用するCD127の低発現とは、同一の対象またはドナーからのCD4+非制御性細胞またはTcon細胞と比較して、CD127の発現レベルが低いことを指す。詳細には、ナイーブTregは、同一の対象またはドナーからのCD4+非制御性またはTcon細胞と比較して、CD127の発現が90%、80%、70%、60%、50%、40%、30%、20%、または10%未満であってもよい。CD127のレベルは、抗CD127抗体で染色した細胞のフローサイトメトリーを含む、当該技術分野で標準的な方法によって評価することができる。
【0067】
典型的には、ナイーブTregは、CCR4、HLA-DR、CXCR3、および/またはCCR6を発現しないか、または低レベルで発現する。詳細には、ナイーブTregは、メモリーTregと比較して、CCR4、HLA-DR、CXCR3、およびCCR6をより低いレベルで発現してもよく、例えば、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%低いレベルで発現してもよい。
【0068】
ナイーブTregは、さらに、CCR7+およびCD31+を含む、さらに別のマーカーを発現してもよい。単離されたナイーブTregは、当該技術分野で公知の方法によって同定すればよく、そのような方法としては、単離された細胞の細胞表面における、上述のマーカーのいずれか1つ以上の一団の有無を決定することが挙げられる。例えば、CD45RA、CD4、CD25、およびCD127lowを使用して、ある細胞がナイーブTregであるかどうかを決定することができる。単離された細胞がナイーブTregであるか、または所望の表現型を有するか否かを決定する方法は、実施してもよい追加の工程に関連して後述するように実施することができ、また、細胞マーカーの存在および/または発現レベルを決定する方法は、当該技術分野では周知であり、例えば、市販の抗体を用いたフローサイトメトリーが挙げられる。
【0069】
好適には、前記TregまたはTreg集団は試料から単離され、前記試料は、対象から得られた全血、臍帯血、白血球コーン、血液コーン、末梢血単核細胞(PBMC)、または1つ以上のロイコパックを含むか、あるいはこのような成分からなる。前記Tregは、対象から得られたPBMCから単離してもよい。前記Tregは、対象から得られた白血球コーンから単離してもよい。前記Tregは、対象から得られた1つ以上のロイコパックから単離してもよい。好適には、前記試料を得る対象は、哺乳動物、好ましくはヒトである。典型的には、試料は、採血またはアフェレーシスによって得てもよい。
【0070】
好適には、前記Tregは、操作Tregが投与される対象に対し、一致(例えば、HLA一致)しているか、または、自己由来である。好適には、治療される対象(すなわち、操作細胞が投与される対象)は、哺乳動物、好ましくはヒトである。同種Tregは、例えば、前記細胞が拒絶反応またはGvHDを予防するために遺伝子編集技術に供されている場合に使用し得る。よって、前記Treg細胞は、患者自身の末梢血(第1当事者)、または、造血幹細胞移植の場合、ドナーの末梢血(第2当事者)、もしくは血縁関係のない(unconnected)ドナー(第三者)からの末梢血、のいずれかから、エクスビボで生成されてもよい。
【0071】
好適には、Tregは、細胞の集団の一部である。好適には、Tregの集団は、Tregを少なくとも60%含み、例えば、Tregを少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、または99%含む。一実施形態では、Tregの集団は、Tregのみを含んでもよい。このような集団を、「Treg集団」または「富化Treg集団」と称することがある。「Treg集団」および「Tregの集団」という用語は、本明細書中で同義に用いられる。試料からTregの集団を得るまたは単離する方法については後述する。当業者であれば、Tregの集団は、制御性の表現型を有さない他の細胞型を含んでもよいことを理解するであろう。さらに、FOXP3をコードするポリヌクレオチドの導入により、本発明の方法の実施中に、Treg集団におけるTregの割合が増加する可能性がある。Treg集団は、Tregの異なる亜集団を含んでもよいし、あるいは、Tregの単一の亜集団、例えば、ナイーブTregを含んでもよい。
【0072】
いくつかの実施形態では、高純度のTreg集団を提供するために、本発明の方法における単離/富化工程は、CD8+細胞を枯渇させることを含む。CD8を発現する細胞の枯渇は、前記集団におけるこのような細胞の割合または個数を減少させることに関するものであるが、CD8を発現する全ての細胞が完全に除去される結果とならなくともよい。いくつかの実施形態では、CD8細胞の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または100%が、前記Treg集団から枯渇されればよい。CD8の枯渇は、CD8ビーズを標準的なプロトコルに則して使用することで達成できる。
【0073】
いくつかの態様において、Tregは、誘導性前駆細胞(例えば、iPSC)または胚性前駆細胞のTregへのエクスビボ分化(例えば、Tregへの直接的な分化、または後述のような、Tcon細胞への分化やTregへの転換を介した間接的な分化)に由来していてもよい。本明細書に記載の核酸分子またはベクターは、Tregへの分化前または分化後の誘導性前駆細胞または胚性前駆細胞に導入してもよい。分化の好適な方法は、当該技術分野で公知であり、Haque et al, J Vis Exp., 2016, 117, 54720(参照により本明細書に組み込む)に開示されている方法が挙げられる。
【0074】
本明細書中で使用する「通常型T細胞」またはTconもしくはTconv(本明細書中で同義に用いられる)という用語は、αβT細胞受容体(TCR)ならびに分化抗原群4(CD4)または分化抗原群8(CD8)であってもよい共受容体を発現し、かつ免疫抑制機能を有さないTリンパ球細胞を意味する。従来のT細胞は、末梢血、リンパ節、および組織に存在する。好適には、前記操作Tregは、FOXP3をコードする配列を含む核酸を導入することによってTconから生成されてもよい。あるいは、前記操作Tregは、IL-2およびTGF-βの存在下でのCD4+CD25-FOXP3-細胞のインビトロ培養によってTconから生成されてもよい。
【0075】
本発明は、本明細書中に定義または記載するTreg、またはTregを含むTreg集団を提供する。本明細書中で使用する「Treg」は、「細胞」または「Treg細胞」と称することもあり、また、本明細書中で使用する「Treg集団」は、「細胞集団」または「Treg細胞集団」と称することもある。Treg集団は、本明細書中で定義する核酸分子/ポリヌクレオチド分子、ポリペプチド分子、発現構築物、またはベクターを含む本発明のTreg細胞と、本明細書に記載の核酸分子/ポリヌクレオチド分子、ポリペプチド分子、発現構築物、またはベクターを含まないTreg細胞、例えば、形質導入またはトランスフェクトされていない細胞と、の両方を含んでもよいことが理解されるであろう。好ましい実施形態では、集団中の全てのTreg細胞が本明細書に記載の核酸分子/ポリヌクレオチド分子、ポリペプチド分子、発現構築物、またはベクターを含んでもよいが、本発明の核酸分子/ポリヌクレオチド分子、ポリペプチド分子、発現構築物、またはベクターを含む細胞を少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、または99%有する細胞集団が提供される。
【0076】
ナチュラルキラー(NK)細胞は、調節作用があることが報告されている免疫細胞である。特に、CD56brightであるNK細胞が、調節特性を示し得る。この点で、本発明は、本発明のあらゆる方法におけるNK細胞またはNK細胞集団の使用を提供する(すなわち、Treg細胞またはTreg集団をNK細胞またはNK集団に置き換える)。FOXP3ポリペプチドをコードする外因性ポリヌクレオチドを含むNK細胞またはNK集団も提供され、前記NK細胞またはNK集団は、凍結保存後の対応する非操作のNK細胞またはNK集団と比べて、より高いCD62L発現を凍結保存後に有する。
【0077】
[フォークヘッドボックスP3タンパク質(FOXP3)]
本発明では、TregにおけるFOXP3の発現を、当該細胞にFOXP3ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(本明細書では第1のポリヌクレオチドと称することがある)を導入することによって増加させる。
【0078】
「FOXP3」は、フォークヘッドボックスP3タンパク質の略称である。FOXP3は、転写因子のFOXタンパク質ファミリーのメンバーであり、制御性T細胞の発達および機能における調節経路の主要制御因子として機能する。本明細書中で使用する「FOXP3」は、FOXP3の変異体、アイソフォーム、および機能的断片を包含する。
【0079】
細胞(または細胞の集団)におけるFOXP3 mRNAおよび/またはFOXP3タンパク質のレベルを、改変されていない対応する細胞(または細胞の集団)と比較して増加させてもよい。例えば、本発明に係る改変を加えた細胞(またはこのような細胞の集団)におけるFOXP3 mRNAおよび/またはFOXP3タンパク質のレベルは、本発明に係る改変を加えていない対応する細胞(またはこのような細胞の集団)におけるレベルの、少なくとも1.5倍、少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも50倍、少なくとも100倍、少なくとも150倍に増加してもよい。前記細胞はTregである、または、前記細胞の集団はTregの集団である。
【0080】
好適には、本発明により改変された細胞(またはこのような細胞の集団)におけるFOXP3 mRNAおよび/またはFOXP3タンパク質のレベルは、本発明による改変を行っていない対応する細胞(またはこのような細胞の集団)におけるレベルの、少なくとも1.5倍、2倍、または5倍に増加してもよい。前記細胞はTregである、または、前記細胞の集団はTregの集団である。
【0081】
特定のmRNAおよびタンパク質のレベルを測定するための技術は、当該技術分野において周知である。Treg等の細胞の集団におけるmRNAのレベルは、Affymetrix eBioscience PrimeFlow RNAアッセイ、ノーザンブロッティング、遺伝子発現連鎖解析(SAGE)、または定量的ポリメラーゼ連鎖反応法(qPCR)等の技術によって測定してもよい。細胞の集団におけるタンパク質のレベルは、フローサイトメトリー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、液体クロマトグラフィー/質量分析法(LC/MS)、ウェスタンブロッティング、または酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)等の技術によって測定してもよい。
【0082】
「FOXP3ポリペプチド」は、FOXP3活性を有するポリペプチド、すなわち、FOXP3標的DNAに結合し、かつTregの発達と機能を調節する転写因子として機能することができるポリペプチドである。特に、FOXP3ポリペプチドは、野生型FOXP3(配列番号1)と同じまたは類似の活性を有していてもよく、例えば、野生型FOXP3ポリペプチドの活性の少なくとも40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、100%、110%、120%、130%、140%、または150%を有していてもよい。転写因子活性を測定するための技術は、当該技術分野において周知である。例えば、転写因子DNA結合活性を、ChIPによって測定してもよい。転写因子の転写調節活性を、それが調節する遺伝子の発現レベルを定量化することによって測定してもよい。遺伝子発現は、ノーザンブロッティング、SAGE、qPCR、HPLC、LC/MS、ウェスタンブロッティング、またはELISA等の技術を使用して、遺伝子から産生されるmRNAおよび/またはタンパク質のレベルを測定することによって定量化してもよい。FOXP3によって調節される遺伝子としては、IL-2、IL-4、およびIFN-γ等のサイトカインが挙げられる(Siegler et al.Annu.Rev.Immunol.2006, 24: 209-26、参照により本明細書に組み込む)。以下に詳述するように、FOXP3またはFOXP3ポリペプチドは、その機能的断片、変異体およびアイソフォームを含み、例えば配列番号1の、機能的断片、変異体およびアイソフォームを含む。
【0083】
「FOXP3の機能的断片」とは、FOXP3ポリペプチドの一部もしくは領域、またはFOXP3ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの一部もしくは領域であって、全長FOXP3ポリペプチドまたはポリヌクレオチドと同じまたは類似の活性を有するものを指し得る。前記機能的断片は、全長FOXP3ポリペプチドまたはポリヌクレオチドの活性の、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または100%を有していてもよい。当業者であれば、FOXP3の既知の構造的および機能的特徴に基づいて機能的断片を生成することができるであろう。これらは、例えば、Song, X., et al., 2012.Cell reports, 1(6), pp.665-675;Lopes, J.E., et al., 2006.The Journal of Immunology, 177(5), pp.3133-3142;およびLozano, T., et al, 2013.Frontiers in oncology, 3, p.294に記載されている。さらに、N末端およびC末端が短縮されたFOXP3断片が、国際公開第2019/241549号パンフレット(参照により本明細書に組み込む)に記載されており、例えば、後述する配列番号5の配列を有する。
【0084】
「FOXP3変異体」は、FOXP3ポリペプチドまたはFOXP3ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに対し、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、または少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列またはヌクレオチド配列を含んでもよく、好ましくは、少なくとも95%または少なくとも97%または少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列またはヌクレオチド配列を含んでもよい。FOXP3変異体は、野生型FOXP3ポリペプチドまたはポリヌクレオチドと同じまたは類似の活性を有していてもよく、例えば、野生型FOXP3ポリペプチドまたはポリヌクレオチドの活性の少なくとも40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、100%、110%、120%、130%、140%または150%を有していてもよい。当業者であれば、FOXP3の既知の構造的および機能的特徴に基づいて、かつ/または保存的置換を使用して、FOXP3変異体を生成することができるであろう。FOXP3変異体は、野生型FOXP3と比較して、Treg細胞内の代謝回転時間(もしくは分解速度)が類似または同じであってもよく、例えば、Tregにおける野生型FOXP3の代謝回転時間(もしくは分解速度)の少なくとも40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%または100%であってもよい。いくつかのFOXP3変異体は、野生型FOXP3と比較して、代謝回転時間(もしくは分解速度)が減少していてもよく、例えば、配列番号1のアミノ酸418位および/または422位にアミノ酸置換を有するFOXP3変異体、例えば、国際公開第2019/241549号パンフレット(参照により本明細書に組み込む)に記載のS418Eおよび/またはS422Aが挙げられ、配列番号2~4に記載する。これらの配列番号2~4は、aa418変異体、aa422変異体、ならびにaa418およびaa422変異体をそれぞれ表す。
【0085】
好適には、本明細書に記載の核酸分子、構築物またはベクターよってコードされるFOXP3ポリペプチドは、UniProtKBアクセッションQ9BZS1(配列番号1)等のヒトFOXP3のポリペプチド配列、またはその機能的断片もしくは変異体を含んでもよい。
【0086】
本発明のいくつかの実施形態では、前記FOXP3ポリペプチドは、配列番号1に対して少なくとも70%の同一性を有するアミノ酸配列またはその機能的断片を含む。好適には、前記FOXP3ポリペプチドは、配列番号1に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列またはその機能的断片を含む。いくつかの実施形態では、前記FOXP3ポリペプチドは、配列番号1またはその機能的断片を含むか、あるいは、配列番号1またはその機能的断片からなる。
【0087】
いくつかの実施形態では、上述の通り、前記FOXP3ポリペプチドは、配列番号2、配列番号3、または配列番号4に記載のように、配列番号1の残基418および/または残基422にミューテーションを含んでもよい。
【0088】
本発明のいくつかの実施形態では、前記FOXP3ポリペプチドがN末端および/またはC末端で短縮され、それにより機能的断片が得られてもよい。特に、N末端およびC末端が短縮されたFOXP3の機能的断片は、配列番号5のアミノ酸配列または当該アミノ酸配列に対して少なくとも80%、85%、90%、95%もしくは99%の同一性を有するその機能的変異体を含んでもよく、あるいは、このようなアミノ酸またはその機能的変異体からなってもよい。
【0089】
好適には、前記FOXP3ポリペプチドは、配列番号1の変異体、例えば自然変異体であってもよい。好適には、前記FOXP3ポリペプチドは、配列番号1のアイソフォームである。例えば、前記FOXP3ポリペプチドは、配列番号1に対して、アミノ酸72位~106位の欠失を含んでいてもよい。あるいは、前記FOXP3ポリペプチドは、配列番号1に対して、アミノ酸246位~272位の欠失を含んでいてもよい。
【0090】
好適には、前記FOXP3ポリペプチドは、配列番号6またはその機能的断片を含む。配列番号6は、例示的なFOXP3ポリペプチドを表す。
【0091】
好適には、前記FOXP3ポリペプチドは、配列番号6と少なくとも70%同一であるアミノ酸配列またはその機能的断片を含むか、あるいは、このようなアミノ酸配列またはその機能的断片からなる。好適には、前記FOXP3ポリペプチドは、配列番号6と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一であるアミノ酸配列またはその機能的断片を含むか、あるいは、このようなアミノ酸配列またはその機能的断片からなる。いくつかの実施形態では、前記FOXP3ポリペプチドは、配列番号6またはその機能的断片を含むか、あるいは、配列番号6またはその機能的断片からなる。
【0092】
好適には、前記FOXP3ポリペプチドは、配列番号6の変異体、例えば自然変異体であってもよい。好適には、前記FOXP3ポリペプチドは、配列番号6のアイソフォームまたはその機能的断片である。例えば、前記FOXP3ポリペプチドは、配列番号6に対して、アミノ酸72位~106位の欠失を含んでいてもよい。あるいは、前記FOXP3ポリペプチドは、配列番号6に対して、アミノ酸246位~272位の欠失を含んでいてもよい。
【0093】
好適には、FOXP3ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、配列番号7に記載のポリヌクレオチド配列を含むか、または、配列番号7に記載のポリヌクレオチド配列からなる。配列番号7は、例示的なFOXP3ヌクレオチド配列を表す。
【0094】
本発明のいくつかの実施形態では、前記FOXP3ポリペプチドまたは変異体をコードするポリヌクレオチドは、配列番号7と少なくとも70%同一であるヌクレオチド配列、または機能的FOXP3ポリペプチドをコードするその断片を含む。好適には、前記FOXP3ポリペプチドまたは変異体をコードするポリヌクレオチドは、配列番号7と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%同一のポリヌクレオチド配列、またはその機能的断片を含む。本発明のいくつかの実施形態では、前記FOXP3ポリペプチドまたは変異体をコードするポリヌクレオチドは、配列番号7または機能的FOXP3ポリペプチドをコードするその断片を含むか、あるいは、配列番号7または機能的FOXP3ポリペプチドをコードするその断片からなる。
【0095】
好適には、前記FOXP3ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、配列番号8に記載のポリヌクレオチド配列を含むか、または、配列番号8に記載のポリヌクレオチド配列からなる。配列番号8は、別の例示的なFOXP3ヌクレオチドを表す。
【0096】
本発明のいくつかの実施形態では、前記FOXP3ポリペプチドまたは変異体をコードするポリヌクレオチドは、配列番号8と少なくとも70%同一であるポリヌクレオチド配列、または機能的FOXP3ポリペプチドをコードするその断片を含む。好適には、前記FOXP3ポリペプチドまたは変異体をコードするポリヌクレオチドは、配列番号8と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%同一であるポリヌクレオチド配列、または機能的FOXP3ポリペプチドをコードするその断片を含む。本発明のいくつかの実施形態では、前記FOXP3ポリペプチドまたは変異体をコードするポリヌクレオチドは、配列番号8または機能的FOXP3ポリペプチドをコードするその断片を含むか、あるいは、配列番号8または機能的FOXP3ポリペプチドをコードするその断片からなる。
【0097】
好適には、前記FOXP3ポリペプチドまたはその機能的断片もしくは変異体をコードするポリヌクレオチドは、コドン最適化されていてもよい。好適には、前記FOXP3ポリペプチドまたはその機能的断片もしくは変異体をコードするポリヌクレオチドは、ヒトの細胞での発現のためにコドン最適化されていてもよい。
【0098】
本明細書中で使用される「変異体」という用語は、結果として得られるタンパク質またはポリペプチドが所望の機能を保持することを条件として、配列からの、または配列への、1つ(または複数)のアミノ酸残基の任意の置換(substitution)、変異、改変、置き換え(replacement)、欠失、および/または付加を含む。代替的な見方によれば、本明細書中でいうところの変異体または誘導体は、機能的変異体または機能的誘導体である。
【0099】
典型的には、アミノ酸の置換は、改変後の配列が所要の活性または能力を保持することを条件として、例えば、1個、2個、または3個から10個または20個までの置換が行われてもよい。アミノ酸の置換は、天然に存在しない類似体の使用を含み得る。
【0100】
タンパク質またはペプチドはまた、サイレント変化を生じてその結果として機能的に同等なタンパク質をもたらすアミノ酸残基の欠失、挿入、または置換を有していてもよい。内因性機能が保たれる限り、意図的なアミノ酸の置換を、残基の極性、電荷、溶解性、疎水性、親水性、および/または両親媒性の類似性に基づいて行ってもよい。例えば、負の電荷を有するアミノ酸としてはアスパラギン酸およびグルタミン酸が挙げられ、正の電荷を有するアミノ酸としてはリシンおよびアルギニンが挙げられ、親水性値が類似する非荷電極性頭部基を有するアミノ酸としてはアスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、およびチロシンが挙げられる。
【0101】
保存的置換を、例えば、下記表1に従って行ってもよい。
【表1】
【0102】
同一性の比較は、目視で実施することもでき、または、より一般的には、容易に入手可能な配列比較プログラムを利用して実施することもできる。これらの市販のコンピュータプログラムは、2つ以上の配列の同一率(%)を計算することができる。
【0103】
配列同一率は、連続する配列にわたって計算してもよい。すなわち、一方の配列を他方の配列と整列させ、一方の配列中の各アミノ酸を他方の配列中の対応するアミノ酸と一残基ずつ直接比較する。これは、「ギャップなし(ungapped)」アラインメントと呼ばれる。典型的には、このようなギャップなしアラインメントは、比較的短い残基数に対してのみ行われる。
【0104】
これは、非常に単純かつ一貫した方法ではあるが、例えば、他の点では同一である配列のペアにおいて、ヌクレオチド配列中の1個の挿入または欠失により、後続のコドンがそろわなくなる場合があり、よって、大域アラインメント(global alignment)を行ったときに相同率が大幅に低下する可能性があるということを考慮できない。したがって、ほとんどの配列比較方法は、全体的な相同性スコアを過度に不利にすることなく、起こり得る挿入や欠失を考慮した最適なアラインメントを作成するように設計される。これは、配列アラインメントに「ギャップ」を挿入して局所相同性を最大化することによって達成される。
【0105】
しかしながら、これらのより複雑な方法は、アラインメントに生じる各ギャップに「ギャップペナルティ」を割り当て、それにより、同数の同一のアミノ酸に関して、比較される2つの配列間の関連性がより高いことを反映する、可能な限りギャップの少ない配列アラインメントが、ギャップの多い配列アラインメントよりも高いスコアを達成するようにする。通常、ギャップの存在に対して比較的高いコストを課し、そのギャップ内の後続の各残基に対してはより低いコストを課す「アフィンギャップコスト」が使用される。これは、最も一般的に使用されているギャップスコアリングシステムである。ギャップペナルティが高いと、当然ながら、よりギャップの少ない最適化されたアラインメントが作成される。ほとんどのアラインメントプログラムでは、ギャップペナルティを変更することができる。しかしながら、このようなソフトウェアを配列比較に使用する場合には、デフォルト値を用いることが好ましい。例えば、GCG Wisconsin Bestfitパッケージを使用する場合、アミノ酸配列に対するデフォルトのギャップペナルティは、ギャップについては-12、各伸長部については-4である。
【0106】
したがって、最大相同率/最大配列同一率の計算には、まず、ギャップペナルティを考慮した最適なアラインメントを作成することが必要である。このようなアラインメントを実行するための1つの好適なコンピュータプログラムは、GCG Wisconsin Bestfitパッケージ(University of Wisconsin, U.S.A.; Devereux et al.(1984) Nucleic Acids Res.12: 387)である。配列比較を行うことができる他のソフトウェアとしては、例えば、BLASTパッケージ(Ausubel et al.(1999)、同書-第18章を参照)、FASTA(Atschul et al.(1990) J.Mol.Biol.403-410)、およびGENEWORKS社の比較ツール一式が挙げられるが、これらに限定されない。BLASTおよびFASTAは、両方とも、オフライン検索およびオンライン検索に利用可能である(Ausubel et al.(1999)、同書、7-58から7-60頁を参照)。しかしながら、用途によっては、GCG Bestfitプログラムを使用することが好ましい。BLAST 2 Sequencesと呼ばれる別のツールも、タンパク質配列およびヌクレオチド配列を比較するために利用可能である(FEMS Microbiol.Lett.(1999) 174: 247-50; FEMS Microbiol.Lett.(1999) 177: 187-8を参照)。
【0107】
最終的な相同率は同一性の観点から測定することができるが、アラインメントプロセス自体は、典型的には、オール・オア・ナッシングのペア比較に基づくものではない。その代わりに、化学的類似性または進化的距離に基づいてそれぞれの対比較にスコアを割り当てる、調整された(scaled)類似性スコアマトリクスが一般に使用される。一般的に使用されているこのようなマトリクスの一例として、BLOSUM62マトリクスがある。これは、一連のBLASTプログラムのデフォルトマトリクスである。GCG Wisconsinプログラムは、一般に、公開デフォルト値または供給されている場合はカスタムシンボル比較表のいずれかが使用される(詳細はユーザーマニュアルを参照)。用途によっては、GCGパッケージ用の公開デフォルト値を使用することが好ましく、または、他のソフトウェアの場合は、BLOSUM62等のデフォルトマトリクスを使用することが好ましい。好適には、同一率は、参照配列および/または問い合わせ配列の全体にわたって決定される。ソフトウェアが最適なアラインメントを作成すると、相同率、好ましくは配列同一率を計算することが可能になる。ソフトウェアは、典型的には、これを配列比較の一部として行い、数値結果を生成する。
【0108】
変異体および断片は、部位特異的変異誘発等の標準的な組み換えDNA技術を使用して調製することができる。挿入を行う場合には、インサート(挿入部分)をコードする合成DNAを、挿入位置の両側の天然に存在する配列に対応する5’フランキング領域および3’フランキング領域とともに作製してもよい。各フランキング領域には、前記天然に存在する配列中の部位に対応する便利な制限部位が含まれ、それにより、当該配列が適切な酵素(1つまたは複数)で切断されて前記合成DNAがその切断部にライゲーションされるようになっている。次に、本発明に従ってDNAを発現させ、コードされたタンパク質を作製する。これらの方法は、DNA配列操作のための当該技術分野で公知の多数の標準的技術の例示に過ぎず、他の公知の技術を使用してもよい。
【0109】
当業者であれば、Treg内のFOXP3発現は、FOXP3の転写および/または翻訳を増加させるタンパク質をコードするか、あるいはFOXP3の半減期を(例えば、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%)増加させるか、またはFOXP3の機能(例えば、先に述べたように測定される、形質導入Tregの抑制能によって決定される機能)を高めるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを、細胞内に導入することによって間接的に増加させ得ることを理解するであろう。例えば、内因性FOXP3の転写を増加させるポリヌクレオチドのTregへの導入は、内因性FOXP3プロモーターまたはコード領域の上流に見出される非コード配列(CNS、例えばCNS1、CNS2、またはCNS3)と相互作用させることによって行い得る。特に、c-Rel、p65、Smad3、またはCREBのいずれか1つ以上をコードするポリヌクレオチドを導入することによって、FOXP3発現をTreg内で増加させてもよい。
【0110】
この態様において、本発明は、凍結保存を経た制御性T細胞(Treg)集団におけるCD62L発現を保存する方法であって、FOXP3の転写および/または翻訳を増加させるタンパク質をコードするか、あるいはFOXP3の半減期または機能を増加させるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを導入することを含む方法をさらに提供する。
【0111】
代替的な見方によれば、本発明は、凍結保存するための制御性T細胞(Treg)集団またはTregにおけるCD62L発現を保存する方法であって、(a)FOXP3の転写および/または翻訳を増加させるタンパク質をコードするか、あるいはFOXP3の半減期または機能を増加させるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを、Treg集団またはTregに導入する工程、および(b)前記Treg集団またはTregを凍結保存する工程、を含む方法をさらに提供する。
【0112】
あるいは、本発明は、Treg(またはTregの集団)の凍結保存方法であって、(a)FOXP3の転写および/または翻訳を増加させるタンパク質をコードするか、あるいはFOXP3の半減期または機能を増加させるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを、TregまたはTreg集団に導入すること、および(b)前記TregまたはTreg集団を凍結保存すること、を含み、当該凍結保存TregまたはTreg集団が、対応する非操作TregまたはTreg集団と比べて、より高いCD62L発現レベルを有する方法を提供してもよい。
【0113】
別の態様では、本発明は、非凍結保存TregまたはTregの集団と同等のCD62Lのレベルを有する凍結保存TregまたはTregの集団の製造方法であって、(a)FOXP3の転写および/または翻訳を増加させるタンパク質をコードするか、あるいはFOXP3の半減期または機能を増加させるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを、TregまたはTregの集団に導入すること、および(b)前記TregまたはTregの集団を凍結保存すること、を含む方法を提供する。
【0114】
当業者であれば、CD62Lを直接コードするポリヌクレオチドを、本明細書に記載の細胞(例えば、Treg)に導入することで、凍結保存後において、機能(例えば、抑制機能)または安定性を保存し得ることも理解するであろう。この態様において、本発明は、凍結保存中/凍結保存後のTregまたはTreg集団(または他の細胞、例えばNK細胞)の機能または安定性を保存する方法であって、凍結保存に先立って、CD62Lをコードするポリヌクレオチドを当該細胞または細胞集団に導入する工程を含む方法をさらに提供する。本発明は、外因性CD62Lをコードするポリヌクレオチドを含む凍結保存細胞(特に、Treg)をさらに提供するものであり、前記細胞は、対応する非凍結保存細胞と同等の機能または安定性を有する。前記ポリヌクレオチドは、配列番号9のアミノ酸配列またはその機能的断片もしくは機能的変異体(すなわち、配列番号9のCD62Lの機能の少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、または95%を保持する断片または変異体)を含むCD62Lをコードしてもよい。変異体は、配列番号9に対し、少なくとも60%、70%、80%、90%、または95%の同一性を有していてもよい。
【0115】
[表現型マーカーの発現]
L-セレクチンとしても知られるCD62Lは、ある種のTリンパ球(例えば、Treg)の細胞外表面、および好中球等、ある種の他の免疫細胞の細胞外表面に存在する、ホーミング受容体または細胞表面接着分子である。CD62Lは、シアリル化炭水化物基を認識する、タンパク質のセレクチンファミリーに属する。CD62Lは、ADAM17によって切断される。
【0116】
CD62Lは、リンパ球と内皮細胞との相互作用において重要な役割を果たし、CD62Lの発現は、Tregの増殖後に得られる、より抑制的な集団と関連付けられている。CD62Lは、Tregが高内皮細静脈を介して二次リンパ組織に入るための「ホーミング受容体」として作用する。内皮細胞上に存在するリガンドは、CD62Lを発現しているTregに結合し、血液を介したTregの輸送の速度を落とし、この点において、二次リンパ器官への進入を促進する。
【0117】
本明細書中で使用する「ホーミング」または「ホーム」という用語は、標的、例えば、結合標的を含む部位または場所へと移動することを意味する。CD62Lを発現するTreg細胞について述べる場合には、これは、CD62Lの結合パートナーであるMADCAM1が発現している場所へと移動することを意味し得る。
【0118】
CD62Lは細胞表面マーカーであり、数あるマーカーの中でも特にCD62Lの存在は、増殖した細胞がTregの表現型を保持していることを示すものである。Tregの表現型を保持している細胞は、これら細胞の通常の抑制機能も保持している可能性が高い。
【0119】
CD62Lは、典型的には、下記のアミノ酸配列を有する。
MIFPWKCQSTQRDLWNIFKLWGWTMLCCDFLAHHGTDCWT YHYSEKPMNW QRARRFCRDNYTDLVAIQNKAEIEYLEKTLPFSRSYYWIGIRKIGGIWTW VGTNKSLTEE AENWGDGEPNNKKNKEDCVEIYIKRNKDAGKWNDDACHKLKAALCYTASCQPWSCSGHGECVEIINNYTCNCDVGYYGPQCQFVIQCEPLEAPELGTMDCTHPLGNFSFSSQCAFSCSEG TNLTGIEETTCGPFGNWSSPEPTCQVIQCE PLSAPDLGIM NCSHPLASFS FTSACTFICS EGTELIGKKKTICESSGIWS NPSPICQKLD KSFSMIKEGD YNPLFIPVAV MVTAFSGLAF IIWLARRLKK GKKSKRSMND PY(配列番号9)
【0120】
本明細書に記載の凍結保存された操作Treg(またはTreg集団)は、外因性FOXP3を含まない凍結保存Tregと比較して、細胞表面マーカーの発現、特に、CD62Lの細胞表面発現を保存していてもよい。本明細書中で使用する「保存された(preserved)」、「保存する(preserving)」、または「保存(preservation)」という用語は、細胞表面マーカー(例えば、CD62L)の発現量が、対応する新鮮(fresh)な(すなわち、非凍結保存または非凍結の)Treg上での細胞表面マーカーの発現量と同程度または同等のままであることを意味する。すなわち、細胞表面マーカーの発現が、新鮮Treg上での細胞表面マーカーの発現量と同じ(すなわち、著しく異なっていない)であればよい、あるいは、新鮮Treg上での発現よりも、1%のみ少なくてもよく、最大でも30%少なくてもよいことを意味している。細胞表面マーカーの発現は、5%以下、10%以下、15%以下、20%以下、または25%以下だけ少ないことが好ましい。典型的には、細胞表面マーカー(典型的には、CD62L)の発現レベルの比較に用いられる凍結保存Treg細胞および新鮮Treg細胞は、同種の細胞であるか、または同種の細胞由来であることが理解されるであろう。例えば、凍結されたナイーブCD45RA+TregにおけるCD62Lのレベルは、新鮮または凍結されていないナイーブCD56RA+TregにおけるCD62Lのレベルと比較すべきである。典型的には、対応する非凍結保存細胞(Treg)は、本発明の細胞または本発明で使用される細胞と同じ方法で加工または処理されており、かつ、同じポリヌクレオチド配列が、前記対応する非凍結保存細胞に導入されているであろう。ただし、凍結保存工程(および、任意の融解工程)は実施されない。よって、対応する非凍結保存細胞は、典型的には、対応する操作非凍結保存細胞である。
【0121】
代替的な見方によれば、本明細書中で使用する「保存された(preserved)」、「保存する(preserving)」、または「保存(preservation)」とは、本明細書に記載の凍結保存された操作Treg上の細胞表面マーカーの量が、対応する非形質導入凍結保存Treg上の細胞表面マーカーの量よりも高い(特に、有意に高い)ことを意味する。好ましくは、細胞表面マーカーの発現量は、非形質導入凍結保存Treg上の細胞表面マーカー発現量より、少なくとも10%高い、少なくとも15%高い、少なくとも20%高い、少なくとも25%高い、少なくとも30%高い、少なくとも35%高い、少なくとも40%高い、少なくとも45%高い、少なくとも50%高い、少なくとも55%高い、少なくとも60%高い、少なくとも65%高い、少なくとも70%高い、または少なくとも80%高い。本明細書中で使用する「保存された(preserved)」または「保存する(preserving)」という用語は、「維持された(maintained)」または「維持する(maintaining)」という用語と同義である。
【0122】
本明細書中で使用する「より高いCD62L発現」という用語は、本明細書に記載の凍結保存された操作Tregが、外因性FOXP3を含まない凍結保存Tregと比較して、CD62L発現レベルの増加(または上昇)を示していることを意味する。よって、本明細書中で対応する非操作細胞またはTregと言及した場合、典型的には、本発明の細胞もしくはTregまたは本発明中で使用される細胞もしくはTregと同じ凍結保存工程(および任意の融解工程)を施された、または施される予定であるが、FOXP3をコードする外因性ポリヌクレオチドは導入されていない細胞またはTregを指す。
【0123】
本明細書中で定義するポリヌクレオチド、ポリペプチド、発現構築物、またはベクターを含む(よって、本明細書中で定義するCD62L発現レベルを保存している、および/または、より高いCD62L発現レベルを有する)凍結保存TregまたはTreg集団は、本明細書中で定義する非操作凍結保存TregまたはTreg集団と比較して、抑制活性が増加(例えば、抑制活性が少なくとも5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%増加)していてもよい。
【0124】
CD62Lの発現は、フローサイトメトリーを含む、当該技術分野において周知の任意の方法によって決定することができる。CD62Lの検出および発現レベルの決定のための抗体が市販されており、例えば、Thermofisher CD62L(L-セレクチン)モノクローナル抗体(MEL-14またはDREG-56)が挙げられる。
【0125】
本明細書に記載のように、FOXP3ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、凍結保存に先立ってTregに導入される。「凍結保存に先立って」という用語は、Tregを凍結保存する前(すなわち、Tregを凍結する前)に、という意味である。よって、本明細書に記載のTregは、FOXP3ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの導入前に、凍結保存の工程に供されることはない。典型的には、前記ポリヌクレオチドは、単離後および増殖前のTreg(単離および増殖は、いずれも凍結保存前に行い得る)に導入される。
【0126】
[凍結保存]
本明細書中で使用する「凍結保存(cryopreservation)」、または「凍結保存する(cryopreserving)」という用語は、TregまたはTreg集団の凍結を、(例えば、凍結中、およびそれに続く任意の融解工程後に)細胞が生存可能なままである条件下で行うことを意味する。細胞の生存率は、当該技術分野において周知の任意の方法、例えば、生/死染色(例えば、LIVE/DEAD(商標)Fixable Near-IR-Dead Cell Stain(Thermofisher))を使用したフローサイトメトリーによって測定することができる。典型的には、少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、または95%の細胞が、凍結保存中および凍結保存後にも生存可能なままである。よって、生存率とは、生細胞を指す。当業者であれば、凍結保存では、細胞死を効果的に阻止できると共に、細胞の構造を維持できる1つ以上の条件の適用(例えば、特定の温度、凍結/融解速度、および/または凍結保存剤の使用)により、細胞を生存可能なままとし得ることを理解するであろう。このような条件は、当該技術分野で公知であり、以下に記載している。
【0127】
「凍結保存されたTreg」または「凍結保存されたTreg集団」とは、先に定義したような細胞が生存可能なままである条件下で凍結保存に供され、凍結保存されている(例えば、凍結保存状態または凍結状態にある)TregまたはTreg集団を指す。先に述べた通り、「凍結保存されたTreg」は、外因性FOXP3を含む。「凍結保存されたTreg」は、「凍結保存された治療用TregまたはTreg集団」、あるいは「凍結保存された操作TregまたはTreg集団」という場合もある。
【0128】
「凍結保存を経たTregまたはTreg集団」とは、上記のような凍結保存を経たTregまたはTreg集団であって、凍結保存されている(例えば、凍結保存状態にある)か、あるいはもはや凍結保存されていない可能性のあるTregまたはTreg集団、すなわち、融解状態にある(すなわち、以前は凍結保存されていた)TregまたはTreg集団を含むもの、を指す。
【0129】
本明細書中で使用する「凍結保存後」とは、凍結保存プロセスが実施されたことを意味する。凍結保存後のTregまたはTreg集団は、凍結保存状態(例えば、保存中)であってもよいし、あるいは、融解されているか、または融解中であってもよい。
【0130】
「非凍結保存Treg」または「非凍結保存Treg集団」とは、凍結保存を経ていない、すなわち、一度も凍結保存または凍結されたことがないTregまたはTreg集団を指す。このような細胞を、代替的に「新鮮な(fresh)」と表現する場合がある。
【0131】
「凍結する(freezing)」、「凍結した(frozen)」、または「凍結状態」とは、当該技術分野における通常の意味を有し、液体が固体へと変化するプロセス、またはプロセスの結果を指す。TregまたはTreg集団を凍結させるとは、当該TregまたはTreg集団の温度を、その粒子が、粒子間の引力に打ち勝てるだけの十分なエネルギーを保てなくなる温度まで低下させることを意味する。
【0132】
凍結保存された操作TregまたはTreg集団は、典型的には、-196℃で保存される。しかしながら、凍結保存された操作TregまたはTreg集団は、上述のように細胞(または、一部の細胞)が生存可能なままである、凍結温度より低い任意の温度(すなわち、0℃より低い任意の温度)で保存すればよく、例えば、-50℃から-196℃まで、-80℃から-196℃までの任意の温度、または、-55℃未満、-60℃未満、-65℃未満、-70℃未満、-75℃未満、-80℃未満、-85℃未満、-90℃未満、-95℃未満、-100℃未満、-105℃未満、-110℃未満、-115℃未満、-120℃未満、-125℃未満、-130℃未満、-135℃未満、-140℃未満、-145℃未満、-150℃未満、-155℃未満、-160℃未満、-165℃未満、-170℃未満の任意の温度で保存すればよい。凍結保存TregまたはTreg集団は、凍結温度より低い温度から-196℃までの任意の温度、例えば、-175℃より低い温度、-180℃より低い温度、-185℃より低い温度、または-190℃より低い温度で保存してもよい。好ましくは、凍結保存TregまたはTreg集団は、-80℃で保存してもよく、-130℃より低い温度で保存してもよく、またはおよそ-196℃の液体窒素の気相で保存してもよい。より好ましくは、凍結保存TregまたはTreg集団は、液体窒素中で保存してもよい。
【0133】
本発明の凍結保存工程では、TregまたはTreg集団、使用されるいずれか1つ以上(好ましくは全て)の試薬(例えば、凍結保存培地)およびデバイス(例えば、制御速度デバイスおよびフリーザー、これらデバイスの多くが当該技術分野で公知である、例:ThermoFisher社のCryoMed)を、凍結保存プロセスの開始時に予め冷却してもよい(または、予め冷やしてもよい)。本明細書中で使用する「予め冷却した(pre-chilled)」または「予め冷却する(pre-chilling)」は、温度をおよそ4℃から8℃の間に下げることを意味する。これにより、細胞への温度衝撃が、確実に最小限に抑えられる。前記予め冷却する工程は、例えば、およそ5分間、10分間、15分間、20分間、または30分間行ってもよい。
【0134】
凍結保存中、Treg集団は、典型的には、本明細書に記載の凍結保護剤を1種以上含む凍結保存培地(凍結保存溶液としても知られる)と接触することにより保護される。これは通常、TregまたはTreg集団の温度を、凍結保存温度、すなわち、TregまたはTreg集団を保存する温度まで低下させる前に行われる。温度を下げる前に、Treg集団を遠心分離して細胞ペレットを形成し、凍結保存培地に再懸濁させてもよい。
凍結保存培地は、典型的には、完全増殖培地を、上述のように凍結保護剤と共に含んでおり、前記完全増殖培地は、融解時に生存細胞を提供するように特異的に最適化されていてもよい。多くの異なる種類の凍結保存培地が市販されており、例えば、ImmunoCult-XF T細胞培地(StemCell)が挙げられる。好ましくは、前記凍結保存培地は、GMP基準に適合した任意の培地であってもよい。凍結保護剤は、氷晶の形成に起因する凍結損傷から生体組織を保護するために用いられる物質である。凍結保護剤は、細胞膜を通過できる透過性凍結保護剤と、非透過性凍結保護剤という、2つの一般的なカテゴリーに分類され、いずれの凍結保護剤も、本発明の方法の凍結保存工程に従って使用することができる。透過性凍結保護剤の例としては、ジメチルスルホキシド(DMSO)、グリセロール、スクロース、および1,2-プロパンジオールが挙げられるが、これらに限定されない。非透過性凍結保護剤の例としては、ヒドロキシエチルスターチ、アルブミン、およびポリビニルピロリドンが挙げられるが、これらに限定されない。最もよく使用される透過性凍結保護剤はDMSOであり、DMSOは、多くの場合、自己血漿、血清アルブミン、および/またはヒドロキシエチルスターチ等の非浸透性物質と併用される。当該技術分野で公知の任意の凍結保護剤を、本発明の方法に使用し得る。好ましくは、本発明の方法に使用される凍結保護剤は、適正製造規範(Good Manufacturing Process:GMP)基準に適合した凍結保護剤であることが好ましい。
【0135】
当業者であれば、凍結保存培地(すなわち、凍結保護剤を1種以上含む培地)に再懸濁させてもよいTregの数は、対象に提供する用量に左右され得ること、前記用量は、Treg製品間、および治療対象の疾患または状態によって異なることを理解するであろう。Treg集団は、任意の所望の細胞密度で凍結保存し得る。
【0136】
TregまたはTreg集団を凍結させる最適速度は、Treg細胞膜の水に対する透過性、細胞表面と体積の比、使用される凍結保護剤の種類および濃度を含む、いくつかの要因によって決定し得る。TregまたはTreg集団は、約4℃から-80℃の間の範囲内で連続的に冷やしてもよく、詳細には、制御された凍結速度(例えば、およそ-1℃/分)を使用してもよい。あるいは、前記制御された凍結速度は、例えば、およそ-2℃/分、-3℃/分、-4℃/分、または-5℃/分としてもよい。制御速度での凍結を達成するために、当該技術分野で公知の任意の好適な制御速度凍結デバイスを使用してもよい。当業者であれは、任意の好適な手段により、氷核形成(すなわち、細胞外液における氷晶形成による前記集団の凍結の誘導)を、およそ-5℃で開始させ得ることを理解するであろう。温度がおよそ-80℃に達すれば、Tregまたは集団を、保存のための液体窒素(-196℃)に直接移すことができる。
【0137】
TregまたはTreg集団は、-80℃で任意の所望の時間にわたって保存すればよく、例えば、およそ4時間から48時間まで、好ましくは4時間から16時間まで、または最大24時間までの任意の時間保存してもよく、その後、-130℃よりも低温の液体窒素保存に移してもよい。あるいは、TregまたはTreg集団が-80℃に達すれば、直ちに-130℃より低温の液体窒素保存に移してもよい。液体窒素での保存は、任意の所望の期間行ってもよい。保存は、任意の日数または週数行ってもよい。典型的には、長期間にわたって保存してもよく、すなわち、任意の月数、1年間、または任意の年数、例えば、2年間、5年間、10年間、20年間、50年間、または100年間保存してもよい。
【0138】
あるいは、TregまたはTreg集団は、ガラス化により凍結保存してもよい。ガラス化は、非常に迅速な凍結保存方法であり、これにより、TregまたはTreg集団を、短時間(典型的には、1秒未満)で約37℃から-196℃に移行させることができ、極めて早い速度で冷却がなされる。
【0139】
TregまたはTreg集団は、凍結保存後に融解させてもよい。「融解させる(thawing)」「融解された(thawed)」、または「融解状態」とは、当該技術分野における通常の意味を有し、固体が液体に変化するプロセス、またはプロセスの結果を指す。TregまたはTreg集団を融解させるとは、当該Tregまたは集団の温度を、その粒子が、粒子間の引力に打ち勝つだけの十分なエネルギーを有する温度まで上昇させることを意味する。よって、Treg、またはTreg集団を融解するために、通常、熱が加えられる。典型的には、融解された細胞は、増殖が可能、および/またはTregとして機能することが可能(例えば、その免疫抑制機能を発揮することが可能)である。したがって、融解TregまたはTreg集団とは、凍結保存および融解プロセスの両方に供されたTregまたは集団を指す。当業者であれば、融解されたTreg集団または融解のプロセスが、当該集団の完全な融解をもたらさなくてもよく、前記集団内の細胞の一部が凍結したままであってもよいことを理解するであろう。例えば、融解されたTreg集団は、凍結または凍結保存された細胞を少なくとも10%、20%、30%、40%、または50%含んでいてもよい。代替的な見方によれば、融解されたTreg集団は、凍結または凍結保存された細胞を50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、または10%以下含んでいてもよい。
【0140】
最適な融解速度は、使用する凍結保存条件によって異なる。一般に、凍結保存Treg細胞に対して急速加熱を適用してもよく、これは、およそ37℃の温度のウォーターバス中に前記組成物を配置するか、または前記ウォーターバス中で撹拌する(例えば、振盪する)ことによって達成できる。TregまたはTreg集団は、小さな氷晶が残存するまで冷却温度(およそ0℃から10℃)に温めてもよいし、または、患者に直接投与するために、例えば、ヒトの体温である約37℃まで温めてもよい。
【0141】
一実施形態では、凍結保存TregまたはTreg集団は、固体から液体に変化する温度まで温めて、患者に直接投与してもよい。
【0142】
本明細書に記載のTregまたはTreg集団は、非経口投与することができ、例えば、静脈内投与または注入技術によって投与することができる。本明細書で使用する非経口投与とは、経腸投与および局所投与以外の投与方法を意味し、通常は注射によるものであり、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、嚢内、眼窩内、心臓内、関節内、経気管、皮内、腹腔内、皮下、嚢下、くも膜下、脊椎内、および大槽内(intracisternal)注射および注入が挙げられる。
【0143】
[T細胞受容体(TCR)およびキメラ抗原受容体(CAR)]
好適には、本発明のTregまたはTreg集団は、外因性TCRまたはCARをさらに含んでもよい。
【0144】
TCRは、免疫応答指示の一環として、抗原提示細胞上で主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子に結合している抗原の断片に結合する細胞表面分子である。好適には、TCRは組換えタンパク質であってもよく、換言すれば、TCRは、本発明の本Tregによって自然に発現されることはない外因性タンパク質であってもよい。
【0145】
本明細書中で使用する「TCR」および「CAR(キメラ抗原受容体)」という用語は、抗原特異性をTreg細胞(例えば、Treg)に付与できる、操作された受容体を指す。
【0146】
CARは、人工T細胞受容体、キメラT細胞受容体、またはキメラ免疫受容体としても知られている。CARは、典型的には、本明細書において抗原結合ドメインと称する抗原特異的ターゲティング領域を含む細胞外ドメインと、膜貫通ドメインと、1つ以上の共刺激ドメインを任意選択的に含むエンドドメインと、細胞内シグナル伝達ドメインとを含む。抗原結合ドメインは、典型的には、ヒンジドメインによって膜貫通ドメインに結合される。CARおよびCARが含み得る種々のドメインの設計は、当該技術分野において周知である。
【0147】
CARの抗原結合ドメインは、所望の標的抗原、より一般的には所望の標的分子に結合する(すなわち、親和性を有する)任意のタンパク質もしくはポリペプチドに由来してもよく、またはこのようなタンパク質もしくはポリペプチドから得られてもよい。これは、例えば、リガンドもしくは受容体、または、標的分子に対する生理学的結合タンパク質、もしくはその一部、または、合成タンパク質もしくは誘導タンパク質(derivative protein)であってもよい。標的分子は、一般には、細胞、例えば、標的細胞または標的細胞近傍の細胞(バイスタンダー効果のため)の表面に発現していればよいが、必ずしもそうである必要はない。抗原結合ドメインの性質および特異性に応じて、CARは、可溶性分子を認識してもよく、例えば、抗原結合ドメインが細胞受容体に基づくかまたは由来する場合に、可溶性分子を認識してもよい。
【0148】
抗原結合ドメインは、最も一般的には抗体可変鎖に由来する(例えば、一般にscFvの形態をとる)が、T細胞受容体可変ドメイン、または、上述のように、リガンドもしくは他の結合分子のための受容体等の、他の分子から生成されてもよい。
【0149】
CARは、典型的には、シグナル配列(リーダー配列としても知られる)を含む、ポリペプチドとして発現し、特に、CARを細胞の原形質膜に向かわせるシグナル配列を含むポリペプチドとして発現する。これは、一般に、概して抗原結合ドメインの上流で、抗原結合ドメインの隣または近くに配置される。よって、CARの細胞外ドメイン、つまりエクトドメインは、シグナル配列と抗原結合ドメインとを含んでいてもよい。
【0150】
抗原結合ドメインは、CARに、目的の所定の抗原に結合する能力を与える。抗原結合ドメインは、臨床的に目的とする抗原、または疾患部位の抗原を標的とすることが好ましい。
【0151】
上述のように、抗原結合ドメインは、生体分子(例えば、細胞表面受容体またはその構成要素)を特異的に認識して結合する能力を有する任意のタンパク質またはペプチドであってもよい。抗原結合ドメインは、目的の生体分子に対する任意の天然に存在する結合パートナー、合成結合パートナー、半合成結合パートナー、または組換え産生結合パートナーを含む。例示的な抗原特異的ターゲティングドメインとしては、抗体または抗体断片もしくは抗体誘導体、受容体の細胞外ドメイン、細胞表面分子/細胞表面受容体に対するリガンドまたはその受容体結合ドメイン、および、腫瘍結合タンパク質が挙げられる。後述するように、抗原特異的ターゲティングドメインは、好ましくは抗体または抗体由来であってもよく、他の抗原特異的ターゲティングドメインも包含され、例えば、抗原特異的ペプチドとMHCまたはHLAとの組み合わせであって、移植部位、炎症部位、または疾患部位において活性なTcon細胞のTCRに結合することができる組み合わせから形成される抗原特異的ターゲティングドメインが包含される。
【0152】
抗原結合ドメインは、抗体であるか、または抗体由来であってもよい。抗体由来の結合ドメインとは、抗体の断片、または抗体の1つ以上の断片の遺伝子操作産物であり得、断片は抗原との結合に関与する。例として、可変領域(Fv)、相補性決定領域(CDR)、FabもしくはF(ab’)2、または、単鎖において(例えば、ScFvとして)どちらかの向きで(例えば、VL-VHまたはVH-VL)結合することができる軽鎖可変領域および重鎖可変領域が挙げられる。VLおよび/またはVH配列は改変されていてもよい。特に、フレームワーク領域が改変されていてもよい(例えば、置換されていてもよく、例えば抗原結合ドメインをヒト化するために置換されていてもよい)。他の例としては、重鎖可変領域(VH)、軽鎖可変領域(VL)、ラクダ抗体(VHH)、および単一ドメイン抗体(sAb)が挙げられる。
【0153】
典型的には、前記結合ドメインは単鎖抗体(scFv)である。scFvは、マウスscFvであってもよく、ヒトscFvであってもよく、ヒト化scFvであってもよい。
【0154】
抗体またはその抗原結合断片に関して「相補性決定領域」または「CDR」とは、抗体の重鎖または軽鎖の可変領域の中の超可変ループ(highly variable loop)をいう。CDRは、抗原の高次構造(conformation)と相互作用でき、抗原への結合を大きく決定する(ただし、いくつかのフレームワーク領域が結合に関与することが知られている)。重鎖可変領域および軽鎖可変領域はそれぞれ3つのCDRを含有する。「重鎖可変領域」または「VH」とは、フレームワーク領域として知られるフランキングストレッチ(flanking stretches)間に挿入された3つのCDRを含有する抗体の重鎖の断片をいう。フレームワーク領域は、CDRよりもより高度に保存され、CDRを支持する足場を形成する。「軽鎖可変領域」または「VL」とは、フレームワーク領域間に挿入された3つのCDRを含有する抗体の軽鎖の断片をいう。「Fv」とは、完全な抗原結合部位をもつ、抗体の最も小さい断片をいう。Fv断片は、単一の重鎖の可変領域に結合した単一の軽鎖の可変領域からなる。「単鎖Fv抗体」または「scFv」とは、直接またはペプチドリンカー配列を介してどちらかの向きで互いにつながった軽鎖可変領域および重鎖可変領域からなる、操作された抗体をいう。所定の抗原に特異的に結合する抗体は、当該技術分野で周知の方法を用いて調製できる。このような方法には、ファージディスプレイ、ヒト抗体もしくはヒト化抗体を生成する方法、またはヒト抗体を産生するように操作されたトランスジェニック動物もしくは植物を使用する方法が含まれる。部分的合成抗体または完全合成抗体のファージディスプレイライブラリーが利用可能であり、標的分子に結合できる抗体またはその断片を求めてスクリーニングすることができる。ヒト抗体のファージディスプレイライブラリーも利用可能である。同定後、前記抗体をコードするアミノ酸配列またはポリヌクレオチド配列を単離および/または決定することができる。
【0155】
CARは、任意の所望の標的抗原または標的分子に向けられてもよい。この抗原または分子は、意図する療法や、治療を所望する状態に応じて、選択してもよい。例えば、特定の状態に関連付けられる抗原または分子であってもよく、当該状態を治療するために標的としたい細胞に関連付けられる抗原または分子であってもよい。典型的には、前記抗原または分子は、細胞表面抗原または細胞表面分子である。
【0156】
「に対して向けられた(directed against)」という用語は、「に特異的な(specific for)」または「抗(anti)」と同義である。別の言い方をすれば、CARは標的分子を認識する。したがって、指定された抗原または所与の抗原、つまり標的に対してCARが特異的に結合可能であることを意味する。特に、CARの抗原結合ドメインは、標的分子または標的抗原に対して特異的に結合可能である(より詳細には、CARが細胞の表面、特に免疫エフェクター細胞の表面に発現した場合)。特異的結合は、非標的分子または非標的抗原に対する非特異的結合と区別することができる。よって、CARを発現している細胞は、標的分子または標的抗原を発現している標的細胞、特に、標的抗原または標的分子を細胞表面に発現している標的細胞に対して特異的に結合するように向けられる、またはリダイレクトされる。
【0157】
CARの標的とされ得る抗原としては、移植された臓器、自己免疫疾患、アレルギー疾患、代謝性疾患(例えば、糖尿病)、および炎症性疾患(例えば、神経変性疾患)に関連付けられる細胞上に発現した抗原が挙げられるが、これらに限定されない。
【0158】
臓器移植に関連付けられる抗原、および/または移植された臓器に関連する細胞に関連付けられる抗原としては、移植された臓器には存在するが患者には存在しないHLA抗原、または、移植拒絶反応時に発現が上昇する抗原、例えばCCL19、MMP9、SLC1A3、MMP7、HMMR、TOP2A、GPNMB、PLA2G7、CXCL9、FABP5、GBP2、CD74、CXCL10、UBD、CD27、CD48、CXCL11等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0159】
ある実施形態では、CARは、HLA抗原、特にHLA-A2抗原に対して向けられたものである。
【0160】
このような抗原に対する抗体は当該技術分野において公知であり、好都合なことに、公知のまたは入手可能な抗体に基づいてscFvを取得または生成することができる。この点に関して、VH配列およびVL配列、ならびにCDR配列は、このような抗体結合ドメインの調製を支援するために公開されており、例えば国際公開第2020/044055号パンフレットにおいて、公開されている。この文献の開示を参照により本明細書に組み込む。国際公開第2020/044055号パンフレットに開示されている抗原結合ドメイン、またはCDR配列、VH配列、および/もしくはVL配列のいずれをも使用することができる。
【0161】
ある実施形態では、抗原結合ドメインは、配列番号10、11、および12にそれぞれ記載されたVH CDR1、VH CDR2、およびVH CDR3配列と、配列番号13、14、および15にそれぞれ記載されたVL CDR1、VL CDR2、およびVL CDR3の配列とを含む。
【0162】
CDRがアミノ酸配列改変を含む場合、これは、上述の配列番号に記載のCDR配列のアミノ酸残基の欠失、付加、または置換であってもよい。より詳細には、前記改変は、アミノ酸置換、例えば、上記に記載したもの等の保存的アミノ酸置換であってもよい。CDRが長いほど、許容されるアミノ酸残基の改変が多くなる。5アミノ酸残基長または7アミノ酸残基長のCDRの場合、1残基または2残基、例えば1残基が改変対象となり得る。一般に、任意の特定のCDR配列に対して0個、1個、2個、または3個の改変が加えられ得る。さらに、ある実施形態では、CDR1とCDR2とが改変されて、CDR3が改変されなくてもよい。別の実施形態では、3個のCDRの全てが改変されてもよい。別の実施形態では、当該CDRの全てが改変されない。
【0163】
前記抗原結合ドメインは、上記のVHドメイン配列とVLドメイン配列とをどちらかの順序、例えばVH-VLの順序で含むscFVの形態であってもよい。VH配列とVL配列とはリンカー配列によって連結されてもよい。
【0164】
好適なリンカーは、容易に選択することができ、1アミノ酸(例えば、Gly)から30アミノ酸まで等、任意の好適な長さとすることができる。例えば、2アミノ酸、3アミノ酸、4アミノ酸、5アミノ酸、6アミノ酸、7アミノ酸、8アミノ酸、9アミノ酸、または10アミノ酸のいずれか1つから、12アミノ酸、15アミノ酸、18アミノ酸、20アミノ酸、21アミノ酸、25アミノ酸、または30アミノ酸のいずれか1つまでの長さであってもよく、例えば、5~30、5~25、6~25、10~15、12~25、15~25等であってもよい。
【0165】
また、好ましくは、CARは、細胞外ドメイン、特に抗原結合ドメインを細胞表面から遠ざけて保持するためのヒンジドメインも含み、かつ、膜貫通ドメインを含む。ヒンジドメインおよび膜貫通ドメインは、I型、II型、またはIII型の膜貫通タンパク質のうちのいずれかをはじめとする、ヒンジドメインおよび/または膜貫通ドメインを有する任意のタンパク質に由来するヒンジ配列および膜貫通配列を含み得る。
【0166】
CARの膜貫通ドメインは、人工疎水性配列も含み得る。CARの膜貫通ドメインは、二量体化しないように選択してもよい。さらなる膜貫通ドメインは当業者に明らかであろう。CAR構築物において使用される膜貫通(TM)領域の例としては、以下が挙げられる:1)CD28 TM領域(Pule et al, Mol Ther, 2005, Nov;12(5):933-41; Brentjens et al, CCR, 2007, Sep 15;13(18 Pt 1):5426-35; Casucci et al, Blood, 2013, Nov 14;122(20):3461-72.)、2)OX40 TM領域(Pule et al, Mol Ther, 2005, Nov;12(5):933-41)、3)41BB TM領域(Brentjens et al, CCR, 2007, Sep 15;13(18 Pt 1):5426-35)、4)CD3ゼータTM領域(Pule et al, Mol Ther, 2005, Nov;12(5):933-41; Savoldo B, Blood, 2009, Jun 18;113(25):6392-402.)、5)CD8a TM領域(Maher et al, Nat Biotechnol, 2002, Jan;20(1):70-5.; Imai C, Leukemia, 2004, Apr;18(4):676-84; Brentjens et al, CCR, 2007, Sep 15;13(18 Pt 1):5426-35; Milone et al, Mol Ther, 2009, Aug;17(8):1453-64.)。使用し得るその他の膜貫通ドメインとしては、CD4、CD45、CD9、CD16、CD22、CD33、CD64、CD80、CD86、またはCD154に由来するものが挙げられる。
【0167】
ヒンジドメインは、膜貫通ドメインと同じタンパク質から便利に得ることができるが、これは必須ではない。
【0168】
あるいは、CARは、CD8α膜貫通ドメインに由来するドメインを含んでいてもよい。
【0169】
本明細書に記載のCARのエンドドメインは、抗原結合時に、エフェクター機能シグナルを伝達し、CARを発現している細胞にその特殊な機能を実行するように指示するのに必要なモチーフを含んでいる。特に、エンドドメインは、免疫受容体チロシン活性化モチーフ(ITAM)を1つまたは複数(例えば、2つもしくは3つ)含み得、ITAMは、典型的にはアミノ酸配列YXXL/I(Xは任意のアミノ酸である。)を含む。細胞内シグナル伝達ドメインとしては、例えば、T細胞受容体のζ鎖エンドドメイン、またはその相同体(例えば、η鎖、FcεR1γおよびβ鎖、MB1(Igα)鎖、B29(Igβ)鎖等)のいずれか、CD3ポリペプチドドメイン(Δ、δ、およびε)、sykファミリーチロシンキナーゼ(Syk、ZAP70等)、srcファミリーチロシンキナーゼ(Lck、Fyn、Lyn等)、ならびに、CD2、CD5、およびCD28等のT細胞形質導入に関与する他の分子が挙げられるが、これらに限定されない。細胞内シグナル伝達ドメインは、ヒトCD3ゼータ鎖エンドドメイン、FcyRIII、FcsRI、Fc受容体の細胞質尾部、細胞質受容体をもつ免疫受容体チロシン活性化モチーフ(ITAM)、またはこれらの組み合わせを含んでもよい。
【0170】
使用し得る他のシグナル伝達ドメインとしては、CD28もしくはCD27またはその変異体のシグナル伝達ドメインが挙げられる。さらなる細胞内シグナル伝達ドメインは、当業者には明らかであり、本発明の代替的な実施形態に関連して使用され得る。
【0171】
CARは、例えばCD3ζの細胞内部分に対してT細胞共刺激分子の細胞内部分が融合したものを含む複合エンドドメイン(compound endodomain)を含んでもよい。このような複合エンドドメインは、抗原認識後に活性化および共刺激シグナルを同時に伝達できる第2世代CARと称してもよい。最も一般的に使用されている共刺激ドメインは、CD28の共刺激ドメインである。これは、T細胞の増殖を誘発する最も強力な共刺激シグナル、すなわち免疫学的シグナル2を供給する。CARエンドドメインはまた、OX40、4-1BB、ICOS、またはTNFRSF25のシグナル伝達ドメイン等のTNF受容体ファミリーシグナル伝達ドメインを1つ以上含んでもよい。
【0172】
[安全スイッチ]
安全スイッチポリペプチドは、当該安全スイッチポリペプチドが発現している細胞内または該細胞上に自殺部分を提供する。これは、対象に投与された凍結保存細胞を、万一必要が生じた場合に、実際、より一般的には希望または必要に応じて、例えば、細胞の治療効果が発揮されるか、もしくは治療効果が切れた後に、除去することを可能にする安全機構として有用である。上述のように、本発明のTregまたは本発明で使用されるTregは、安全スイッチポリペプチドを追加で含んでいてもよい。
【0173】
自殺部分は、細胞死、またはより一般的には細胞の消失もしくは除去、を導く誘導能を有する。自殺部分の一例は、自殺遺伝子によってコードされる自殺タンパク質であり、これは、本明細書に記載の通り、Treg内またはTreg上に発現し得る。本明細書中の自殺部分は、許容条件下、すなわち、誘導またはオンされた条件下で細胞を除去させることができるポリペプチドである自殺ポリペプチドをいう。
【0174】
前記自殺部分は、対象に投与される活性化剤によって活性化され、細胞除去活性を発揮し得るポリペプチドもしくはアミノ酸配列、または対象に投与され得る基質の存在下で細胞除去活性を発揮する活性を有するポリペプチドもしくはアミノ酸配列であってもよい。特定の実施形態では、前記自殺部分は、対象に別途投与される細胞除去剤の標的となり得る。細胞除去剤は、前記自殺部分に結合することによって、除去されるべき細胞を標的とすることができる。特に、前記自殺部分は、抗体によって認識され得るものであり、安全スイッチポリペプチドが細胞の表面に発現すると、その安全スイッチポリペプチドに抗体が結合することによって、当該細胞が消失する、または除去される。
【0175】
前記自殺部分は、HSV-TKまたはiCasp9であってもよい。しかしながら、前記自殺部分は、細胞除去抗体もしくは細胞の除去を誘発可能な他の結合分子によって認識されるエピトープであるか、またはこのようなエピトープを含むことが好ましい。このような実施形態では、安全スイッチポリペプチドは、細胞の表面に発現する。
【0176】
特に、前記自殺部分は、抗体リツキシマブによって認識されるCD20エピトープであってもよい。よって、前記安全スイッチポリペプチドにおいて、前記自殺部分は、抗体リツキシマブによって認識されるCD20由来のエピトープに基づく最小エピトープを含み得る。この配列を含む安全スイッチポリペプチドを発現する凍結保存細胞は、抗体リツキシマブ、またはリツキシマブの結合特異性を有する抗体を用いて、選択的に死滅させることができる。安全スイッチポリペプチドが細胞表面に発現し、発現したポリペプチドがリツキシマブまたは同じ結合特異性を有する抗体に曝露されるかまたは接触すると、結果として細胞死が起こる。
【0177】
例えば、国際公開第2013/153391号パンフレット(参照により本明細書に組み込まれる)の自殺構築物を、本明細書に記載のTregまたはTreg集団において使用し得る。
【0178】
[ポリヌクレオチド]
本明細書中で定義され、かつ本明細書中で同義に用いられる核酸分子およびポリヌクレオチド/核酸配列は、DNAまたはRNAを含んでもよい。それらは、一本鎖であってもよく、二本鎖であってもよい。当業者には、遺伝コードの縮重の結果として、多数の異なる核酸分子/ポリヌクレオチドが同じポリペプチドをコードし得ることが理解されるであろう。
【0179】
前記核酸分子/ポリヌクレオチドは、当該技術分野において利用可能な任意の方法を用いて改変することができる。このような改変は、本明細書中で定義する核酸分子/ポリヌクレオチドのインビボ活性または寿命を向上させるために実施されてもよい。
【0180】
DNA核酸分子/ポリヌクレオチド/配列等の、核酸分子/ポリヌクレオチド/ヌクレオチド配列は、組換え、合成、または当業者が利用可能な任意の手段により、作製することができる。標準的な技術によってクローニングすることもできる。
【0181】
より長い核酸分子/ポリヌクレオチド/ヌクレオチド配列は、一般に組換え手段を用いて作製され、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)クローニング技術を用いて作製される。これは、クローニングしたい標的配列を挟むプライマー対(例えば、約15~30ヌクレオチド)を作成し、当該プライマーを動物細胞またはヒト細胞から得られたmRNAまたはcDNAと接触させ、所望の領域の増幅を起こさせる条件下でポリメラーゼ連鎖反応を行い、増幅断片を単離し(例えば、アガロースゲルで反応混合物を精製することにより)、増幅DNAを回収することを含む。前記プライマーは、増幅DNAを適切なベクターにクローニングできるように、適切な制限酵素認識部位を含有するように設計されてもよい。
【0182】
本明細書に記載の核酸分子/ポリヌクレオチドは、選択マーカー(selectable marker)をコードする核酸配列をさらに含んでもよい。好適な選択マーカーは、当該技術分野において周知であり、GFP等の蛍光タンパク質が挙げられるが、これらに限定されない。好適には、前記選択マーカーは、蛍光タンパク質、例えば、GFP、YFP、RFP、tdTomato、dsRed、またはそれらの変異体であり得る。いくつかの実施形態において、蛍光タンパク質は、GFPまたはGFP変異体である。選択マーカーをコードする核酸配列は、本明細書中の核酸分子と組み合わせて核酸構築物の形態で提供されてもよい。そのような核酸構築物は、ベクター中で提供され得る。
【0183】
好適には、選択マーカー/レポータードメインは、ルシフェラーゼベースのレポーター、PETレポーター(例えば、ナトリウム・ヨウ素共輸送体(NIS))、または膜タンパク質(例えば、CD34、低親和性神経成長因子受容体(LNGFR))であってもよい。
【0184】
FOXP3と1つ以上の他のポリペプチド(例えば、CAR、安全スイッチ、および/または選択マーカー)とをコードする核酸配列は、単一の構築物内に含まれる場合、各ポリペプチドが別々の実体として発現することを可能にする1つ以上の共発現部位によって、互いに分離されていてもよい。好適な共発現部位は、当該技術分野において公知であり、例えば、配列内リボソーム進入部位(IRES)や、本核酸分子に含まれる、下記に定義するものを含む自己切断部位が挙げられる。ある実施形態では、これは、以下に述べるように、2A切断部位であってもよい。
【0185】
好適な自己切断ドメインとしては、P2A配列、T2A配列、E2A配列およびF2A配列が挙げられる。
【0186】
選択マーカーを使用すると有利であるが、これは、核酸分子、構築物、またはベクターが、(コードされたFOXP3ポリペプチドと、場合によってはCARおよび安全スイッチポリペプチドとが発現するように)首尾よく導入された細胞(例えば、Treg)を、一般的な方法、例えば、フローサイトメトリーを用いて、出発細胞集団から選択および単離することが可能となるためである。
【0187】
本明細書に記載のポリヌクレオチド、例えば、FOXP3をコードするポリヌクレオチドの発現は、典型的にはプロモーターによって制御されるであろう。「プロモーター」とは、遺伝子の転写の開始を導くDNAの領域である。プロモーターは、DNAの上流側(センス鎖の5’領域寄り)で、遺伝子の転写開始点付近に位置する。任意の好適なプロモーターを使用することができ、その選択は、当業者によって容易になされ得る。プロモーターは、どのような供給源からのものでもよく、ウイルスプロモーター、または、哺乳動物もしくはヒトのプロモーター(すなわち、生理学的プロモーター)を含む真核生物プロモーターであってもよい。ある実施形態では、前記プロモーターはウイルスプロモーターである。具体的なプロモーターとしては、LTRプロモーター、EFS(またはその機能的短縮物(functional truncations))、SFFV、PGK、およびCMVが挙げられる。ある実施形態では、プロモーターは、SFFVまたはウイルスLTRプロモーターである。「同じプロモーターに作動可能に連結された」とは、前記各ポリヌクレオチド配列の転写が同じプロモーターから開始され得る(例えば、前記第1、第2、および第3のポリヌクレオチド配列の転写が同じプロモーターから開始される)ことと、転写が当該プロモーターから開始されるように前記各ヌクレオチド配列が位置決めおよび方向付けされていることとを意味する。あるプロモーターに作動可能に連結されたポリヌクレオチドは、そのプロモーターの転写調節下にある。
【0188】
[ベクター]
本発明のいくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドは、発現ベクター内にある。本明細書で使用される用語「発現ベクター」は、FOXP3ポリペプチド(または、保存レベルのCD62Lをもたらす別のポリペプチド)の発現を可能にする構築物を意味する。
【0189】
ベクターは、ある実体の、1つの環境から別の環境への移入を可能にする、または容易にするツールである。本明細書中で使用するように、また、例として、組換え核酸技術で用いられるいくつかのベクターは、核酸のセグメント(例えば、異種性のcDNAセグメント等の異種性のDNAセグメント)等の実体を標的細胞に移入させることを可能にする。
【0190】
ベクターは、非ウイルスベクターであってもよく、ウイルスベクターであってもよい。組換え核酸技術で用いられるベクターの例としては、プラスミド、mRNA分子(例えば、インビトロ転写mRNA)、染色体、人工染色体、およびウイルスが挙げられるが、これらに限定されない。ベクターは、例えば、裸の核酸(例えば、DNA)であってもよい。最も単純な形態では、ベクター自体が目的のヌクレオチドであってもよい。
【0191】
本明細書中で使用するベクターは、例えば、プラスミド、mRNA、またはウイルスベクターであってもよく、核酸分子/ポリヌクレオチドの発現のためのプロモーター(後述の通り)と、任意選択的に、当該プロモーターの制御因子とを含み得る。本明細書中で使用する「核酸分子」という用語は、ポリヌクレオチドを含む。
【0192】
ある実施形態では、前記ベクターはウイルスベクターであり、例えば、レトロウイルスベクターであり、また、例えば、レンチウイルスベクターまたはガンマレトロウイルスベクターである。
【0193】
ベクターは、追加のプロモーターをさらに含んでもよく、例えば、一実施形態において、前記プロモーターは、LTR、例えば、レトロウイルスLTRまたはレンチウイルスLTRであってもよい。長末端反復(long terminal repeats)(LTR)とは、レトロウイルスRNAの逆転写によって形成されたレトロトランスポゾンまたはプロウイルスDNAの両端に見られる、数百回または数千回繰り返すDNAの同一配列である。LTRは、ウイルスによって、遺伝物質を宿主ゲノムに挿入するために利用される。LTRには、エンハンサー、プロモーター(転写エンハンサーと調節エレメントとの両方を有し得る)、転写開始(キャッピング等)、転写ターミネーター、およびポリアデニル化シグナル等の、遺伝子発現のシグナルが存在する。好適には、前記ベクターは、5’LTRおよび3’LTRを含んでもよい。
【0194】
前記ベクターは、転写前または転写後に作用し得る1つ以上の追加の制御配列を含んでもよい。「制御配列」とは、前記ポリペプチドの発現を促進する、例えば、転写物の発現を増加させるかまたはmRNA安定性を高めるように作用する、任意の配列である。好適な制御配列としては、例えば、エンハンサーエレメント、転写後調節エレメント、およびポリアデニル化部位が挙げられる。好適には、前記追加の制御配列は、LTR(1つまたは複数)に存在してもよい。好適には、前記ベクターは、例えば、プロモーターに作動可能に連結された、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)を含んでもよい。
【0195】
本明細書に記載の核酸分子/ポリヌクレオチドを含むベクターは、形質転換および形質導入等の当該技術分野で公知の種々の技術を使用して細胞に導入することができる。いくつかの技術が当該技術分野において公知であり、例えば、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、バキュロウイルスベクター、および単純ヘルペスウイルスベクター等の組換えウイルスベクターへの感染、核酸の直接注入、およびバイオリスティック法による形質転換が挙げられる。
【0196】
非ウイルス送達系にはDNAトランスフェクション法が含まれるが、これらに限定されない。ここで、トランスフェクションは、非ウイルスベクターを使用して遺伝子を標的細胞に送達するプロセスを含む。非ウイルス送達系は、好ましくは核酸分子または構築物と複合体を形成した、リポソームを用いた細胞膜透過性ペプチドまたは両親媒性細胞膜透過性ペプチドを含み得る。
【0197】
典型的なトランスフェクション法としては、エレクトロポレーション法、DNAバイオリスティック法、脂質媒介トランスフェクション法、圧縮DNA媒介トランスフェクション法、リポソーム法、イムノリポソーム法、リポフェクチン法、カチオン性薬剤媒介トランスフェクション法、カチオン性界面両親媒性物質法(cationic facial amphiphiles)(CFA)(Nat.Biotechnol.(1996) 14: 556)、およびこれらの組み合わせが挙げられる。
【0198】
操作Treg細胞は、ウイルスベクターによる形質導入やDNAまたはRNAを用いたトランスフェクションをはじめとする多くの手段のうちの1つによって本明細書中で定義する核酸分子、構築物、またはベクターを導入することによって生成してもよい。
【0199】
本明細書中で定義するTreg細胞は、本明細書中で定義する核酸分子/ポリヌクレオチド、構築物、またはベクターを、(例えば、形質導入またはトランスフェクションによって)細胞に導入することにより作製してもよい。
【0200】
好適な細胞については先に詳述した通りであるが、前記細胞は、対象から単離された試料由来であってもよい。前記対象は、ドナー対象であってもよいし、または治療の対象であってもよい(すなわち、前記細胞は、自己由来細胞であってもよいし、または別のレシピエントに導入するためのドナー細胞、例えば同種細胞であってもよい)。
【0201】
前記細胞は、以下の工程を含む方法によって生成することができる:
(i)Treg細胞含有試料を対象から単離する工程、または、細胞含有試料を用意する工程;および
(ii)前記Treg細胞含有試料に、本明細書中で定義する核酸分子、構築物、またはベクターを(例えば、形質導入またはトランスフェクションによって)導入し、操作Treg細胞の集団を得る工程。
【0202】
標的Treg細胞が富化された試料を、本方法の工程(ii)の前および/または後に、前記細胞含有試料から単離、富化、および/または生成してもよい。例えば、工程(ii)の前および/または後に、Treg(または他の標的細胞)の単離、富化、および/または生成を行い、Treg富化試料を単離、富化、または生成してもよい。細胞含有試料からの単離および/または富化を工程(ii)の後に行い、本明細書に記載された、FOXP3をコードする核酸分子/ポリヌクレオチド、構築物、および/またはベクターを含むTreg(もしくは他の標的細胞)を富化してもよい。
【0203】
Treg富化試料は、当業者に公知の任意の方法、例えば、FACSおよび/または磁気ビーズソーティングによって単離または富化することができる。Treg富化試料は、当業者に公知の任意の方法によって細胞含有試料から生成されてもよく、例えば、FOXP3をコードするDNAもしくはRNAを導入することによってTcon細胞から、および/または、誘導性前駆細胞もしくは胚性前駆細胞のエクスビボ分化から、生成されてもよい。その他の標的細胞を単離および/または富化する方法は、当該技術分野において公知である。
【0204】
好適には、操作された標的細胞は、以下の工程を含む方法によって生成することができる:
(i)標的細胞が富化された試料を単離する工程、または、標的細胞が富化された試料を用意する工程;および
(ii)前記標的細胞が富化された試料に、本明細書中で定義する核酸、構築物、またはベクターを(例えば、形質導入またはトランスフェクションによって)導入し、操作された標的細胞の集団を得る工程。
【0205】
前記標的細胞は、Treg細胞、またはその前駆体もしくは前駆細胞であってもよい。Treg細胞の単離は、以下の工程を含んでもよい:
(i)CD4+T細胞を単離する工程;および
(ii)前記CD4+T細胞からTregを単離する工程。
【0206】
前記単離は、免疫磁気ビーズまたは蛍光活性化セルソーティング(FACS)を用いて前記T細胞またはTreg細胞を選択することを含んでもよい。
【0207】
「操作(engineered)細胞」、「操作(engineered)Treg」、または「操作(engineered)Treg集団」とは、天然にはその細胞内に存在しないポリヌクレオチドを含むかまたは発現するように改変された細胞を意味する。当業者であれば、TregがFOXP3を発現する一方で、本明細書に記載の操作細胞は、FOXP3をコードする天然に存在しないポリヌクレオチド配列(例えば、天然に存在しないプロモーター、調節配列、CAR、TCR等を含む)を含むであろうことを理解するであろう。細胞を操作するための方法は、当該技術分野において公知であり、例えば、上述のように、レトロウイルス形質導入またはレンチウイルス形質導入等の形質導入法、リポフェクション法をはじめとするトランスフェクション法(DNAまたはRNAベースの一過性トランスフェクション等)、ポリエチレングリコール法、リン酸カルシウム法、およびエレクトロポレーション法による細胞の遺伝子改変が挙げられるが、これらに限定されない。任意の好適な方法を使用して核酸配列を細胞に導入することができる。両親媒性細胞膜透過性ペプチド等の非ウイルス技術を使用して核酸を導入してもよい。
【0208】
非操作Tregまたは細胞は、FOXP3をコードする外因性ポリヌクレオチド/核酸分子を含有しないものである。よって、非操作Tregまたは細胞は、他の外因性ポリヌクレオチド(すなわち、FOXP3以外のもの)を含んでいてもよい。一実施形態では、非操作Tregまたは細胞は、いかなる外因性ポリヌクレオチド/核酸分子も含有しない。
【0209】
好適には、操作細胞は、改変された細胞であり、例えば形質導入またはトランスフェクションによって改変された細胞である。好適には、操作細胞は、例えば形質導入またはトランスフェクションによって、改変されたか、またはゲノムが改変された細胞である。好適には、操作細胞は、レトロウイルス形質導入によって、改変されたか、またはゲノムが改変された細胞である。好適には、操作細胞は、レンチウイルス形質導入によって、改変されたか、またはゲノムが改変された細胞である。
【0210】
本明細書中で使用する「導入された(introduced)」という用語は、外来の核酸、例えばDNAまたはRNAを細胞に挿入するための方法を指す。本明細書中で使用するこの「導入された」という用語は、形質導入法およびトランスフェクション法の両方を含む。トランスフェクションは、核酸を非ウイルス的方法によって細胞に導入するプロセスである。形質導入は、外来のDNAまたはRNAをウイルスベクターを介して細胞に導入するプロセスである。操作細胞は、ウイルスベクターによる形質導入やDNAまたはRNAを用いたトランスフェクションを含む多くの手段のうちの1つによって、本明細書に記載の核酸を導入することにより、生成され得る。
【0211】
細胞は、本明細書に記載の核酸/ポリヌクレオチドの導入前または導入後に、活性化および/または増殖させてもよく、例えば、抗CD3モノクローナル抗体での処理または抗CD3モノクローナル抗体と抗CD28モノクローナル抗体との両方での処理によって活性化および/または増殖させてもよい。前記細胞は、また、IL-2と組み合わせた抗CD3モノクローナル抗体および抗CD28モノクローナル抗体の存在下で、増殖させてもよい。好適には、IL-2をIL-15と置き換えてもよい。細胞(例えば、Treg)増殖プロトコルで使用し得る他の構成要素としては、ラパマイシン、全トランス型レチノイン酸(ATRA)、およびTGFβが挙げられるが、これらに限定されない。本明細書中で使用する「活性化された(activated)」という用語は、細胞の増殖が起こるように細胞が刺激されたことを意味する。本明細書中で使用する「増殖させた(expanded)」という用語は、細胞または細胞の集団が増殖するように誘導されたことを意味する。細胞の集団の増殖は、例えば、集団内に存在する細胞の数を数えることによって測定することができる。細胞の表現型は、フローサイトメトリー等の当該技術分野において公知の方法によって決定することができる。
【0212】
[組成物]
医薬組成物とは、治療上有効量の、薬学的に活性な薬剤、すなわち、前記TregまたはTreg細胞集団を含むか、またはこのような薬剤からなる組成物である。医薬組成物は、薬学的に許容可能な担体、希釈剤、または賦形剤(それらの組み合わせを含む)を含むことが好ましい。治療用途のための許容可能な担体または希釈剤は、製薬分野において周知であり、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Co.(A.R.Gennaro編、1985)に記載されている。薬学的担体、賦形剤、または希釈剤の選択は、意図する投与経路と標準的な薬務とを考慮して選択できる。前記医薬組成物は、担体、賦形剤、もしくは希釈剤として、またはそれらに加えて、任意の適切な結合剤、潤滑剤、懸濁剤、コーティング剤、または可溶化剤を含んでもよい。本発明の医薬組成物は、凍結保存された医薬組成物であってもよいことが理解されるであろう。
【0213】
「薬学的に許容可能」には、製剤が無菌かつパイロジェンフリー(発熱物質を含まない)であることが含まれる。担体、希釈剤、および/または賦形剤は、前記細胞またはベクターと適合し、そのレシピエントに対して有害でないという意味で、「許容可能」なものでなければならない。典型的には、前記担体、希釈剤、および賦形剤は、無菌かつパイロジェンフリーである生理食塩水または輸液媒体であるが、他の許容可能な担体、希釈剤、および賦形剤を使用してもよい。
【0214】
薬学的に許容可能な担体の例としては、例えば、水、塩類溶液、アルコール、シリコーン、ワックス、ワセリン、植物油、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、リポソーム、糖、ゼラチン、ラクトース、アミロース、ステアリン酸マグネシウム、タルク、界面活性剤、ケイ酸、粘性パラフィン、香油、脂肪酸モノグリセリド、脂肪酸ジグリセリド、ペトロエスラル脂肪酸エステル(petroethral fatty acid esters)、ヒドロキシメチルセルロース、およびポリビニルピロリドン等が挙げられる。
【0215】
本明細書に記載のTreg、Treg集団、または医薬組成物は、所望の疾患または状態を治療および/または予防するのに適した方法で投与し得るものであり、適切な投与経路が本明細書中に記載されている。投与量および投与頻度は、対象の状態ならびに対象の疾患または状態の種類および重症度等の各種要因によって決定されるが、適切な用量は臨床試験によって決定されてもよい。医薬組成物はそれに応じて製剤化され得る。
【0216】
本明細書に記載のTreg、Treg集団、または医薬組成物は、非経口投与、例えば、静脈内投与することもできるし、輸液技術により投与してもよい。前記Treg、Treg集団、または医薬組成物は、無菌水溶液の形態で投与されてもよく、該無菌水溶液は、他の物質、例えば、該溶液を血液と等張にするのに十分な塩類またはグルコースを含んでもよい。前記水溶液は、適切に緩衝(好ましくは、pH3~9に)されてもよい。医薬組成物はそれに応じて製剤化され得る。無菌条件下での好適な非経口製剤の調製は、当業者に周知の標準的な製薬技術によって容易に成し遂げられる。
【0217】
前記医薬組成物は、輸液媒体中に、例えば、無菌等張液中に、細胞を含んでもよい。前記医薬組成物は、ガラス製またはプラスチック製の、アンプル、使い捨て注射器、または複数回投与バイアルに封入してもよい。
【0218】
前記Treg、Treg集団、または医薬組成物は、単回投与で投与してもよく、複数回投与で投与してもよい。特に、前記Treg、Treg集団、または医薬組成物は、単回で、1回限りで投与されてもよい。医薬組成物はそれに応じて製剤化され得る。
【0219】
前記医薬組成物は、1種以上の活性剤をさらに含んでもよい。医薬組成物はさらに、リンパ球枯渇剤(例えば、サイモグロブリン、キャンパス-1H、抗CD2抗体、抗CD3抗体、抗CD20抗体、シクロホスファミド、フルダラビン)、mTORの阻害剤(例えば、シロリムス、エベロリムス)、共刺激経路を阻害する薬剤(例えば、抗CD40/CD40L、CTAL4Ig)、および/または特異的なサイトカイン(IL-6、IL-17、TNFalpha、IL18)を阻害する薬剤等の、1つ以上の他の治療薬を含んでもよい。
【0220】
治療する疾患/状態および対象、ならびに投与経路に応じて、前記Treg、Treg集団、または医薬組成物を様々な投与量(例えば、細胞数/kgまたは細胞数/対象で測定)で投与し得る。いずれにしても、医師が、任意の個々の対象に最も適した実際の用量を決定し、その用量は、当該特定の対象の年齢、体重および反応によって異なる。しかしながら、典型的には、本明細書中の細胞については、1対象当たり5×107~3×109個の細胞、または1×108~2×109個の細胞が投与され得る。
【0221】
本明細書中のTreg、Treg集団、および医薬組成物は、疾患または状態の治療または予防に用いるためのものであってもよい。前記細胞およびそれらを含む組成物は、養子細胞療法(ACT)のためのものである。Treg細胞、例えば、TCRまたはCARを発現するTreg細胞の投与によって、様々な状態を治療し得る。上述のように、これらは、免疫抑制、特にTreg細胞の免疫抑制効果に応答する状態であってもよい。よって、本明細書に記載の細胞、細胞集団、および医薬組成物は、対象において免疫抑制を誘導または達成するために使用されてもよい。投与されたTreg細胞、またはインビボで改変されたTreg細胞は、TCRまたはCARの発現によって標的化され得る。このような治療に適した状態としては、感染症、神経変性疾患、炎症性疾患、または代謝性疾患、あるいはより広範には、任意の望ましくないもしくは不必要なもしくは有害な免疫応答に関連付けられる状態が挙げられる。
【0222】
特に、前記Treg細胞、Treg集団、および組成物は、移植片に対する寛容を誘導する手段、細胞性移植拒絶反応および/または液性移植拒絶反応を治療および/または予防する手段、移植片対宿主病(GvHD)、自己免疫疾患もしくはアレルギー疾患、筋萎縮性側索硬化症(ALS)等の神経変性疾患、I型糖尿病等の代謝性疾患を治療および/または予防する手段;あるいは、組織修復および/または組織再生を促進する手段;あるいは、炎症を寛解させる/免疫応答を抑制する手段を提供する。前記細胞、細胞集団、および組成物は、本明細書に記載の細胞、細胞集団、または組成物を対象に投与する工程を含む方法において使用されてもよい。
【0223】
本明細書中、「移植片に対する寛容を誘導する」とは、レシピエントにおいて、移植された臓器に対する寛容を誘導することを指す。言い換えれば、移植片に対する寛容を誘導するとは、ドナーの移植臓器に対するレシピエントの免疫応答のレベルを低下させることを意味する。移植された臓器に対する寛容の誘導は、移植レシピエントが必要とする免疫抑制薬の量を減少させ得、あるいは、免疫抑制薬の使用の中止を可能とし得るものである。これに関し、本発明はさらに、対象において移植臓器に対する寛容を誘導する方法であって、本明細書に記載のTreg、集団、または組成物を前記対象に投与することを含む方法を提供する。
【0224】
例えば、前記Tregは、黄疸、暗色尿、痒み、腹部膨隆、腹部圧痛、疲労、吐き気、嘔吐、および/または食欲不振等の疾患のうちの少なくとも1つの症状を軽減、減少、または改善させるために、疾患を有する対象に投与されてもよい。上記少なくとも1つの症状は、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、または少なくとも50%軽減、低減、または改善されてもよいし、あるいは、当該少なくとも1つの症状は、完全に緩和されてもよい。
【0225】
前記Tregは、疾患の進行を遅延、低減、または阻止するために、疾患を有する対象に投与されてもよい。疾患の進行は、前記操作細胞が投与されない対象と比較して、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、または少なくとも50%遅延、減少、または阻止されてもよし、あるいは、疾患の進行が完全に停止されてもよい。
【0226】
一実施形態では、前記対象は、免疫抑制療法を受けている移植レシピエントである。
【0227】
好適には、前記対象は哺乳動物である。好適には、前記対象はヒトである。
【0228】
移植は、肝臓移植、腎臓移植、心臓移植、肺移植、膵臓移植、腸管移植、胃移植、骨髄移植、血液柄付複合組織移植(vascularized composite tissue graft)、および皮膚移植から選択され得る。
【0229】
本発明のTreg、Treg集団または医薬組成物は、融解直後/融解中に、さらに増殖させることなく患者に投与し得る。前記Treg、Treg集団または医薬組成物は、融解後、約5分、10分、15分、もしくは30分以内、または約1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、9時間、10時間、11時間、または12時間以内に、患者に投与してもよい。
【0230】
疾患または状態を治療するためのある方法は、本明細書中の細胞の治療的使用に関する。この点に関して、細胞は、既存の疾患または状態を有する対象に対し、その疾患または状態に関連する少なくとも1つの症状を軽減、低減、または改善させるため、かつ/あるいは、疾患の進行を遅延、低減、または阻止するために、投与されてもよい。好適には、細胞性移植拒絶反応および/または液性移植拒絶反応を治療および/または予防するとは、移植レシピエントに必要な免疫抑制薬の量が減少するように有効量の細胞(例えば、Treg)を投与することを指す場合もあるし、あるいは、免疫抑制薬の使用の中止を可能にする場合もある。
【0231】
疾患または状態を予防することは、本明細書中の細胞の予防的使用に関する。この点に関して、細胞は、疾患または状態をまだ罹患も発症もしておらず、かつ/あるいは、当該疾患または状態の症状を何ら呈していない対象に対し、当該疾患または状態を予防するため、あるいは、当該疾患または状態に関連する少なくとも1つの症状の発症を低減または予防するために、投与されてもよい。前記対象は、前記疾患または状態の素因を有しているか、あるいは、前記疾患または状態を発症するリスクがあると考えられる対象であってもよい。
【0232】
自己免疫疾患またはアレルギー疾患は、乾癬および皮膚炎(例えば、アトピー性皮膚炎)を含む炎症性皮膚疾患;炎症性腸疾患(クローン病および潰瘍性大腸炎等)に関連する応答;皮膚炎;食物アレルギー、湿疹、および喘息等のアレルギー症状;関節リウマチ;全身性エリテマトーデス(SLE)(ループス腎炎および皮膚ループスを含む);糖尿病(例えば、1型糖尿病またはインスリン依存性糖尿病);多発性硬化症;神経変性疾患、例えば、筋萎縮性側索硬化症(ALS);慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIPD)、ならびに若年性糖尿病から選択され得る。
【0233】
いくつかの実施形態では、治療対象の疾患または障害は、神経性/神経変性疾患または障害/状態である。いくつかの実施形態では、神経性/神経変性疾患または障害は、炎症と関連している。よって、いくつかの実施形態において、本発明は、神経炎症または関連する疾患もしくは障害を治療または予防(例えば、そのリスクを低減)することに有用性を見出し得る。神経炎症は、慢性または急性であってもよく、好ましくは慢性である。神経炎症は、中枢神経系または末梢神経系の神経炎症であってもよく、中枢神経系の神経炎症であることが好ましい。
【0234】
いくつかの実施形態において、前記神経性疾患、神経性障害、または神経性傷害は、筋委縮性側索硬化症(ALS)、認知症、前頭側頭型認知症、アルツハイマー病、血管性認知症、混合型認知症、クロイツフェルトヤコブ病、慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)、ハンチントン病、タウオパチー疾患、那須・ハコラ病、中枢神経ループス、パーキンソン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症(シャイ・ドレーガー症候群)、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症(cortical basal ganglionic degeneration)、急性散在性脳脊髄炎、発作、脊髄損傷、外傷性脳損傷(例えば、虚血および外傷性脳損傷)、うつ病、自閉症スペクトラム症、および多発性硬化症から選択される。いくつかの実施形態において、前記神経性疾患、神経性障害、または神経性傷害は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症、虚血および外傷性脳損傷、うつ病、ならびに自閉スペクトラム症である。
【0235】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)(運動ニューロン疾患またはルー・ゲーリッグ病としても知られる)は、急速に進行する脱力感、筋萎縮および線維束性収縮、筋痙縮、会話の困難性(構音障害)、嚥下の困難性(嚥下障害)、呼吸の困難性(呼吸困難)を特徴とする、様々な病因の衰弱性疾患である。
【0236】
よって、本発明は、療法に使用するための、本明細書中で定義するTreg、Treg集団、または医薬組成物(例えば、本発明の方法によって得られる、凍結保存、融解、またはTreg集団)を提供する。
【0237】
好適には、前記Tregは、自己由来であってもよい。好適には、前記Tregは、同種異系であってもよい。
【0238】
好適には、前記Treg(例えば、前記操作Treg)は、1種以上の他の治療薬、例えば、リンパ球枯渇剤(例えば、上述のもの)等と組み合わせて投与されてもよい。
【0239】
前記Tregは、前記1種以上の他の治療薬と同時にまたは順次(例えば、前記1種以上の他の治療薬の前または後に)投与されてもよい。Tregの活性化および/または増殖は、本明細書に記載の核酸分子の導入前または導入後に、例えば、抗CD3モノクローナル抗体によって処理するか、または抗CD3モノクローナル抗体および抗CD28モノクローナル抗体の両方で処理することにより行ってもよい。増殖プロトコルは、上述の通りである。前記活性化および/または増殖プロセスは、凍結保存の前に行うことが好ましい。融解後には、さらなる活性化および/または増殖が必要とされないことが好ましい。
【0240】
前記Tregは、前記方法の各工程後、特に増殖後に、洗浄してもよい。
【0241】
Treg細胞の集団は、当業者に公知の任意の方法、例えば、FACSまたは磁気ビーズソーティングによって、さらに富化されてもよい。
【0242】
本製造方法および凍結保存方法における各工程は、閉鎖された無菌細胞培養系で行われてもよい。
【0243】
先に述べたように、本発明はさらに、凍結保存後のTregまたはTreg集団の二次リンパ器官へのホーミング能力を、凍結保存後の対応する非操作TregまたはTreg集団と比較して向上させる方法であって、FOXP3ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを、凍結保存前にTregまたはTreg集団に導入する工程を含む方法を提供する。
【0244】
TregまたはTreg集団の「ホーミング能力を向上させる」とは、FOXP3をコードする外因性ポリヌクレオチドを含まないTregまたはTreg集団と比較して、インビボ投与後に二次リンパ器官にホーミングまたは位置する能力が増加(例えば、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%増加)することを指す。ホーミング能力は、任意の公知のイメージング技術によって測定可能である。
【0245】
さらに、本発明は、凍結保存後のTregまたはTreg集団の安定性および/または抑制機能を高める方法であって、本明細書中で提供する核酸分子/ポリヌクレオチド、発現構築物、またはベクターを、凍結保存前に細胞に導入する工程を含む方法を提供する。安定性を高めるとは、(例えば、対応する凍結保存された非操作Tregと比較して)少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%の安定性の増強を指す。安定性は、当該技術分野で公知の方法を用いて、存在するTreg数を経時的に測定することによって決定できる。Tregの抑制機能を高めるとは、(例えば、対応する凍結保存された非操作Tregと比較して)少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%の抑制機能の増強を指す。抑制機能は、本明細書に記載のものを含む、任意の周知のアッセイによって決定することができる。代替的な見方によれば、本発明は、凍結保存後のTregまたはTreg集団の安定性および/または抑制機能を保存するための方法であって、本明細書中で提供する核酸分子/ポリヌクレオチド、発現構築物、またはベクターを、凍結保存前に細胞に導入する工程を含み、前記安定性および/または抑制機能が、対応する非凍結保存の操作Tregと同等である方法を提供する。同等の機能/安定性とは、機能または安定性が、対応する非凍結保存の操作Tregと同程度または同一であってもよく、例えば、少なくとも70%、80%、または90%の安定性または機能を有することを意味する。
【0246】
本開示は、本明細書中で開示する例示的な方法および材料に限定されず、本明細書に記載の方法および材料と類似または同等の任意の方法および材料を、本開示の実施形態の実施または試験において用いることが可能である。数値範囲は、当該範囲を定義する数を含む。特に示さない限り、いずれの核酸配列も左から右へ5’から3’の方向に、また、アミノ酸配列は左から右へアミノからカルボキシの方向に、それぞれ書かれている。正確な核酸配列およびアミノ酸配列は、本発明者らから直接入手したものである。
【0247】
値の範囲が提供される場合、その範囲の上限と下限の間にある、文脈上明らかにそうでない場合を除き下限の単位の10分の1までの、各介在値も具体的に開示されていると理解される。記載された範囲内の任意の記載値または介在値とその記載された範囲内の任意の他の記載値または介在値との間にある、より小さい範囲は、それぞれ、本開示に包含される。これらのより小さい範囲の上限および下限は、独立して、当該範囲に含まれてもよく、当該範囲から除外されてもよく、上限および下限のどちらかがより小さい範囲に含まれる場合、上限および下限がどちらもより小さい範囲に含まれない場合、または上限および下限の両方がより小さい範囲に含まれる場合の各範囲も、記載された範囲における任意の具体的に除外された上限または下限を除いて、本開示に包含される。記載された範囲が上限および下限の一方または両方を含む場合、それらの含まれる上限および下限の一方または両方を除外した範囲も、本開示に含まれる。
【0248】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用する単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈上明らかにそうでない場合を除き、複数の指示対象を含むことに留意されたい。
【0249】
本明細書中で使用する「含む(comprising)」、「含む(comprises)」、および「から構成される(comprised of)」という用語は、「含む(including)」、「含む(includes)」、または「含有する(containing)」、「含有する(contains)」と同義であって、包括的またはオープンエンド(open-ended)であり、記載されていない追加の部材、要素、または方法の工程を除外するものではない。「含む(comprising)」、「含む(comprises)」、および「から構成される(comprised of)」という用語には、「からなる(consisting of)」という用語も含まれる。
【0250】
本明細書に記載の刊行物は、単に本願の出願日以前の開示内容を示すものであり、参照により本明細書に組み入れられる。本明細書中のいかなる内容も、そのような刊行物が添付の特許請求の範囲に対する先行技術を構成すると認めるものと解釈されるべきではない。
【0251】
開示されている本発明の方法、細胞、組成物、および使用に対する種々の改変および変更が、本発明の範囲および趣旨から逸脱することなく、当業者には明らかであろう。本発明を、特定の好ましい実施形態に関連して開示したが、請求項に記載されている発明は、このような特定の実施形態に過度に限定されるべきではないものと理解されるべきである。実際に、当業者にとって明らかな、本発明を実施するために開示された形態に対する種々の改変もまた、下記の特許請求の範囲内であるものと意図されている。
【0252】
ここで、本発明を、実施例によりさらに説明するが、これらの実施例は、当該技術分野の通常の技術者による本発明の実施を助けることを意図したものであり、本発明の範囲を何ら制限するものではない。
【実施例】
【0253】
<材料および方法>
[クローニング]
構築物1(C1)を社内で設計し、全配列を、ヒト細胞での発現のためにコドン最適化し、製造した。前記構築物をpMP71バックボーンにクローニングし、D5a高効率細菌をプラスミドで形質転換し、選択剤アンピシリンと共に生育させた。Miniprep Kit(Qiagen)を用いてDNAを抽出した。PCRクローニングにより、インサートをレンチウイルスバックボーンに移入した。構築物1(C1)は、特許請求の範囲に記載される本開示の構築物を表す。
【0254】
[PBMCの回収]
白血球コーン(Leukocyte cones)は、NHS Blood and Transplantによって供給され、ロイコパックは、BioIVTから入手した。密度遠心分離プロトコルを用いて、PBMCをコーンから単離した。簡単に説明すると、血液を1×PBSで1:1希釈し、Ficoll-Paque(GE Healthcare)上に重ねた。試料を遠心分離し、白血球層を取り出してPBSで洗浄した。
【0255】
[Treg単離プロトコル]
血液コーンおよびロイコパックを、RosetteSep(商標)Human CD4+ T Cell Enrichment Cocktailを用いたネガティブセレクションによるCD4富化に供した。その後、密度遠心分離を用いてCD4+細胞を単離した。次いで、CD25 MicroBeads II(Miltenyi)を用いたポジティブセレクションにより、CD4+CD25+T細胞を単離した。CD4+CD25+画分を、フローサイトメトリー抗体CD4 FITC(OKT4,Biolegend)、CD25 PE-Cy7(BC96,Biolegend)、CD127 BV421(A019D5,Biolegend)、CD45RA BV510(HI100,Biolegend)、およびLIVE/DEAD(商標)Fixable Near-IR Dead Cell Stain(Thermofisher)で染色した後、FACSソーティングを行った。CD4+CD25+CD127low CD45RA+(CD45RA+ Treg)を選別し、使用した。
【0256】
[Tregの培地および増殖]
ヒトの制御性T細胞を、Human T-Activator CD3/CD28 Dynabeads(商標)(Gibco)で活性化し、IL-2および5%ヒト血清(Sigma-Aldrich)を添加したXVIVO(Lonza)中で培養した。Treg培地を2~3日ごとに細胞に再供給した。Dynabeads(商標)による2回目の刺激を行い、Treg細胞のさらなる増殖を促進した。
【0257】
[トランスフェクションおよびウイルス粒子の製造]
(レンチウイルス)
HEK293T細胞をDMEM(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium)+10%ウシ胎児血清(FBS)に播種し、24時間培養した。トランスフェクション試薬を室温に戻し、目的のDNA構築物/プラスミド、パッケージングプラスミド(pD8.91)、およびウイルスエンベロープ(pVSV-G)と混合した。希釈したDNAにPEIを加えて混合し、HEK293Tに添加した。トランスフェクションの48時間後に上清を回収し、ろ過し、ウイルスを濃縮した。
【0258】
[T細胞の形質導入]
Treg細胞を抗CD3および抗CD28 Dynabeads(Gibco)で活性化し、T細胞培地に再懸濁した。非組織培養処理した24ウェルプレートをRetroNectin(タカラバイオ(Takahara-bio)、大津、日本)でコーティングして調製し、細胞懸濁液をレンチウイルス上清と共に添加した。細胞をインキュベートし、1日おきに培地交換を行った。形質導入の12日後に、細胞を実験に使用した。
【0259】
[形質導入およびFOXP3の発現を測定するためのフローサイトメトリー染色]
Treg細胞を、培養物から取り出し、次いで洗浄し、その後、まずPBS中のLIVE/DEAD(商標)Fixable Near-IR Dead Cell Stain(Thermofisher)で染色し、次に、FACS染色緩衝液中で抗CD4 AF700(RPA-T4,BD)、抗CD34 FITC(QBEND/10,Thermofisher)、および抗CD3 PE-Cy7で染色した。FOXP3の細胞内染色のために、細胞を固定し、透過処理し、抗Foxp3 PE(150D/E4,Thermofisher)抗体で染色した。Attune NxTフローサイトメーターで細胞を解析した。
【0260】
[フローサイトメトリーによる形質導入細胞の表現型決定]
培養物からTreg細胞を取り出し、デキストラマーとLIVE/DEAD(商標)Fixable Near-IR Dead Cell Stainとを用いて、上記のとおり生細胞について染色を行った。抗CD62L BV650(Biolegend)を用いて、細胞の表面染色を行った。細胞を透過処理し、抗Foxp3 PE(150D/E4,Thermofisher)で染色した。
【0261】
[ヒトTreg細胞の凍結保存および融解]
14日間のインビトロ増殖の後、磁力を用いてDynabeadsをTreg細胞から取り除き、前記細胞を、1%ヒト血清を含む細胞培養培地中で、1×10^6/mL密度で休ませた。翌日、前記細胞の半分を凍結保存し、残りの半分を新鮮な状態で表現型解析に使用した。凍結保存は、休ませたTreg細胞を凍結保存用培地に再懸濁し、0.5~10×106細胞/mLの細胞懸濁液を得ることで行った。次に、細胞を、滅菌パスツールピペットを用いてクライオバイアルに移し、当該クライオバイアルを、予め冷却した冷凍容器内にて-80℃で4時間~6時間凍結させた。最後に、クライオバイアルを、液体窒素タンクへと移した。Treg細胞の融解は、クライオバイアルを37℃のウォーターバスに2分間~3分間浸漬することにより行った。融解した細胞懸濁液を、20%ウシ胎児血清(FBS)を含有する細胞培養培地を含むコニカルチューブに静かに注ぎ、細胞を300×gで10分間遠心分離した。遠心分離後、細胞を計数し、表現型解析に使用した。
【0262】
[異なる凍結保存液および異なる細胞密度の試験方法]
自社製の構築物である構築物1(C1)は、標準的なプロトコルを用いて設計および製造した。この構築物は、特許請求の範囲に記載される本開示の構築物を表す。
ナイーブTregをロイコパックから単離し、標準的なプロトコルに従って選別した。単離した細胞を、CD3/CD28ビーズで活性化し、IL-2およびヒト血清を添加したXVIVO(Lonza)中で培養した。細胞に2~3日ごとに培養培地を再供給した。CD3/CD28ビーズによる2回目の刺激を培養中に行い、Treg細胞のさらなる増殖を促進した。
Treg細胞は、形質導入を行わないか、あるいは、培養中に、レンチウイルスベクター(レンチウイルスベクターは、標準的なプロトコルに従って製造した)を用いてC1を形質導入した。ベクターおよびIL-2は、培養中のTreg細胞に直接添加した。
増殖後、計数およびフローサイトメトリー解析(「凍結前(Pre-freeze)」)のため、細胞の一部を採取した。残りの細胞を、5つの異なる細胞容積で分注した。細胞をスピンダウンし、細胞ペレットを1mlの凍結保存液1、2、または3に再懸濁し、凍結保存液ごとに5つの異なる細胞密度(1×元の細胞密度から00×元の細胞密度までの範囲)を得た。その後、細胞をクライオバイアルに分注し、-80℃に24時間置いた後、液体窒素へと移した。Tregの融解は、クライオバイアルを37℃のウォーターバスに入れ、小さな氷の結晶が残るまで行った。
その後、細胞をフローサイトメトリーで分析し、形質導入、FOXP3発現、および表現型を評価した。これは、自社製の「健全性(health)」フローサイトメトリーパネルと自社製の「成熟性(maturation)」フローサイトメトリーパネルとを使用して行った。簡単に説明すると、前記健全性パネルは、生/死、CD4/CD25、FOXP3、RQR8(抗CD34抗体を使用、形質導入を示す)、およびアポトーシスマーカーを測定するものである。前記成熟性パネルは、生/死、CD4、CD45RA(ナイーブ/SCM)、CD45RA-CCR7+(セントラルメモリー)、CD45RA-CCR7-(エフェクターメモリー)、およびCD62Lを測定するものである。結果を
図4~
図6に示す。
【0263】
[データ解析]
フローサイトメトリーデータは、Flow Cytometry Analysis software FlowJo (Flowjo、LLC)を用いて解析した。統計解析は全て、Graphpad Prism v.8(Graphpad,Software)を用いて行った。
【0264】
(実施例1-生存率評価)
上述のように、新鮮な状態および凍結された状態の非形質導入Treg、すなわち外因性FOXP3を含まない非遺伝子改変Treg(Non-GMO)と、新鮮な状態および凍結された状態の、FOXP3を発現する構築物(C1(構築物1))を形質導入したTregとを回収し、フローサイトメーター解析のために、固定可能な生死判別色素で染色した。8人の異なるドナー由来の細胞を評価した。構築物1(C1)は、FOXP3、安全スイッチ、およびCD34選択マーカーを含む構築物である。抗CD34抗体(QBEND等)を使用してCD34選択マーカーを検出することにより、形質導入細胞の同定が可能となる。C1は、特許請求の範囲に記載される本開示の構築物を表す。
図1は、凍結形質導入Tregの生存率のパーセンテージが、凍結非形質導入Tregの生存率のパーセンテージと同等のおよそ75%であることを示している。
【0265】
(実施例2-形質導入およびFOXP3の発現)
FOXP3を発現する構築物(C1)を形質導入した新鮮Tregおよび凍結Tregにおける形質導入効率を、上述のように評価した。形質導入細胞を、抗CD34抗体を用いて選択した。6人の異なるドナー由来の細胞を評価した。
図2は、C1を形質導入した新鮮Tregおよび凍結Tregの両方において、FOXP3が発現していたことを示している。
【0266】
(実施例3-表現型評価(CD62Lの細胞表面発現))
新鮮な状態および凍結された状態の非形質導入Treg(Non-GMO)、すなわち、外因性FOXP3を含まないTregと、新鮮な状態および凍結された状態の、FOXP3を発現する実験的構築物(C1(構築物1))を形質導入したTregとを回収し、フローサイトメトリー解析のために、上述のように、フルオロフォアにコンジュゲートさせた抗CD62L抗体で染色した。8人の異なるドナー由来の細胞を評価した。
図2は、FOXP3形質導入Tregおよび非形質導入Tregにおいて、これらの細胞が凍結されていない場合には、CD62Lの発現レベルが100%に近いままであることを示している。CD62Lの発現レベルは、形質導入細胞および非形質導入細胞のいずれにおいても、凍結保存後に低下する。しかしながら、極めて重要なことに、FOXP3を形質導入したTregでは、非形質導入Tregと比べて、凍結融解後も有意に高いレベルのCD62L発現が維持されている。
【0267】
(実施例4-異なる凍結保存液での生存率評価)
Tregは、FOXP3を発現する構築物(C1(構築物1))を形質導入したもの、または、形質導入していないもの、すなわち、外因性FOXP3を含まない非遺伝子改変Treg(Non-GMO)とした。これらのTregの一部を新鮮な状態で生存率解析に使用し(
図4の「凍結前」の列)、残りは3種類の異なる凍結保存溶液である溶液1、溶液2、および溶液3中で、溶液ごとに5つの異なる細胞密度で凍結させた。上述のように、新鮮Tregおよび凍結Tregを回収し、フローサイトメトリー解析のため、生死判別色素で染色した。C1を形質導入した細胞を、抗CD34抗体を用いて選択した。5人の異なるドナー由来の細胞を評価した。
図4は、凍結形質導入Tregおよび凍結非形質導入Tregの生存率のパーセンテージは、新鮮形質導入Tregおよび新鮮非形質導入Tregと同等のほぼ100%であり、また、形質導入細胞および非形質導入細胞のいずれにおいても、3種類の異なる凍結保存液1、2、および3、さらに5つの細胞密度の全てにわたり、生存率のパーセンテージにほとんど変化がないことを示している。
【0268】
(実施例5-異なる凍結保存液での形質導入およびFOXP3発現)
形質導入効率を、上述のように、FOXP3を発現する構築物(C1)を形質導入しているか、または形質導入していない(すなわち、外因性FOXP3を含まない非遺伝子改変Treg(Non-GMO)である)新鮮Treg(
図5の「凍結前」列参照)において評価し、ならびに、C1を形質導入しているか、または形質導入していない、凍結保存溶液1、2、または3中で、溶液ごとに5つの異なる細胞密度で凍結された凍結Tregにおいて評価した。C1を形質導入した細胞を、抗CD34抗体を用いて選択した。5人の異なるドナー由来の細胞を評価した。
図5は、C1を形質導入した新鮮Tregおよび凍結Tregの両方において、高レベルでFOXP3が発現し、FOXP3発現のパーセンテージは、3種類の凍結保存液の全て、5つの細胞密度の全てにわたって一定であったことを示している。
【0269】
(実施例6-異なる凍結保存液での表現型評価(CD62Lの細胞表面発現))
Tregは、FOXP3を発現する構築物(C1(構築物1))を形質導入したもの、または、形質導入していないもの、すなわち、外因性FOXP3を含まない非遺伝子改変Treg(Non-GMO)とした。これらのTregの一部を新鮮な状態で表現型解析に使用し(
図6の「凍結前」の列)、残りは3種類の異なる凍結保存溶液である溶液1、溶液2、または溶液3中で、溶液ごとに5つの異なる細胞密度で凍結させた。上述のように、新鮮Tregおよび凍結Tregを回収し、フローサイトメトリー解析のため、フルオロフォアにコンジュゲートさせた抗CD62L抗体で染色した。5人の異なるドナー由来の細胞を評価した。
図6は、FOXP3(C1)を形質導入したTregでは、3種類の凍結保存液1、2、および3の全て、ならびに5つの細胞密度にわたって、CD62Lの発現レベルが90%近くに保たれているのに対し、非形質導入Tregでは、CD62L発現は、全ての条件においてかなり低くなっていることを示している。
【配列表】
【国際調査報告】