(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-16
(54)【発明の名称】原子炉における炉心溶融物の局在化および冷却のためのシステム
(51)【国際特許分類】
G21C 9/016 20060101AFI20231109BHJP
【FI】
G21C9/016
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023512474
(86)(22)【出願日】2021-11-09
(85)【翻訳文提出日】2023-04-10
(86)【国際出願番号】 RU2021000492
(87)【国際公開番号】W WO2022103301
(87)【国際公開日】2022-05-19
(32)【優先日】2020-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】RU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516233088
【氏名又は名称】ジョイント ストック カンパニー アトムエネルゴプロエクト
【氏名又は名称原語表記】JOINT STOCK COMPANY ATOMENERGOPROEKT
【住所又は居所原語表記】ul. Bakuninskaya,7,str.1 Moscow,105005 Russia
(71)【出願人】
【識別番号】520514768
【氏名又は名称】サイエンス アンド イノヴェーションズ - ニュークリア インダストリー サイエンティフィック デベロップメント,プライベート エンタープライズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001900
【氏名又は名称】弁理士法人 ナカジマ知的財産綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】シドロフ, アレクサンドル・スタレビッチ
(72)【発明者】
【氏名】シドロワ, ナデジダ ヴァシリエフナ
(72)【発明者】
【氏名】ズバノフスカヤ, タチアナ・ヤロポルコフナ
(72)【発明者】
【氏名】バデシュコ, クセニヤ・コンスタンチノフナ
【テーマコード(参考)】
2G002
【Fターム(参考)】
2G002BA07
(57)【要約】
本発明は、核エネルギーの分野、特に原子力発電所(NPP)の安全を保証するシステムに関し、原子炉圧力容器および格納容器の破壊をもたらす重大な事故に適用できる。請求項に係る発明の技術的結果は、原子炉における炉心溶融物の局在化および冷却のためのシステムの信頼性を高めることである。特許請求の範囲に記載された発明によって達成されるべき目的は、原子炉圧力容器からの炉心溶融物の非軸対称流出の状況下で、炉心溶融物の受け取りと分配のための容器と片持ちトラスとの接続領域における当該システムの破壊を防止することであり、炉心溶融物の水冷の初期段階で原子炉圧力容器の底部の破片が容器内に落下し、その結果、容器の外側の冷却を意図した冷却水の容器への侵入が防止される。さらに、当該システムが、片持ちトラスに吊り下げられた熱保護と、片持ちトラスと容器間に取り付けられた膜と、当該膜の外側と内側のそれぞれに取り付けられた包帯プレートを備えることにより達成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉における炉心溶融物の局在化および冷却のためのシステムであって、
ガイドプレートと、
片持ちトラスと、
炉心溶融物の受け取りと分配を目的としたフィラーを備えた容器と、を含み、
さらに、前記片持ちトラスのフランジに吊り下げられた熱保護と、
前記片持ちトラスに取り付けられた上部熱伝導要素に接続されている上部フランジと前記容器のフランジに取り付けられた下部熱伝導要素に接続されている下部フランジとを備えた凸状膜と、
前記凸状膜の外側と内側のそれぞれに取り付けられた各包帯プレートを含み、
前記各包帯プレートの各上端部が前記上部フランジにしっかりと固定され、前記各包帯プレートの各下端部が前記下部フランジに、当該下部フランジに対して縦方向および垂直方向に可動できるように固定されていることを特徴とするシステム。
【請求項2】
前記各包帯プレートの各上端部が溶接部により前記上部フランジに取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記各包帯プレートの各下端部と前記下部フランジに孔部が設けられており、当該孔部に、調整ナットとリテーナーを備えたファスナーが取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核エネルギーの分野、特に原子力発電所(NPP)の安全を確保するシステムに関し、原子炉圧力容器および格納容器の破壊をもたらす重大な事故に適用できる。
【0002】
炉心冷却システムに複数の故障が生じた場合に起こり得る炉心メルトダウンを伴う事故は、最大の放射線障害を引き起こす。
【0003】
このような事故では、炉心溶融物(コリウム)が原子炉圧力容器と炉心構造を溶かすことによって容器から流出し、その残留熱放出は、NPP格納容器の完全性を壊す可能性がある。NPP格納容器は、環境への放射性物質の放出経路における最後の障壁である。
【0004】
これを防ぐためには、原子炉圧力容器から流出した炉心溶融物(コリウム)を局所に留め、それが完全に結晶化するまで継続的な冷却をする必要がある。この機能は、原子炉における炉心溶融物の局在化および冷却のためのシステムによって実行される。これにより、原子炉の格納容器への損傷が防止され、原子炉の重大事故での放射線被爆から公衆と環境が保護される。
【背景技術】
【0005】
原子炉における炉心溶融物の局在化および冷却のためのシステム〔1〕として、原子炉圧力容器の下に設置され、片持ちトラスの上にあるガイドプレートと、コンクリート立坑のベースの埋め込み部品に取り付けられ、熱保護が備え付けられたフランジを備える多層容器、および互いに積み重ねられたカセットのセットで構成されている多層容器内のフィラーを備えるものが知られている。
【0006】
このシステムは、次の欠点により信頼性が低いものになっている。
- 原子炉圧力容器からの炉心溶融物の非軸対称流出の場合(圧力容器の横側の溶融)、内圧の影響下で、原子炉圧力容器内でガイドプレート、片持ちトラスおよび熱保護がセクター破壊され、原子炉圧力容器から炉心溶融物とともに流出したガスの衝撃波が多層容器の容積内および多層容器とフィラーと片持ちトラスとの間に位置する周辺容積内を伝播し、多層容器と片持ちトラス間の接続領域内で当該システムの破壊をもたらし、周辺機器に影響を与える可能性があり、その結果、多層容器の外側からの冷却を意図した冷却水が多層容器内に流れ込み、蒸気爆発や当該システムの破壊につながる可能性がある。
- 原子炉圧力容器の底部の破片の落下または炉心溶融物の残留物が原子炉圧力容器から多層容器内に落下した場合、炉心溶融物表面の水冷の初期段階で、衝撃による圧力上昇が起こって周辺機器に影響を与える。その結果、多層容器と片持ちトラス間の接続領域内で当該システムが破壊され、多層容器の外側からの冷却を意図した冷却水が多層容器内に流れ込み、蒸気爆発や当該システムの破壊につながる可能性がある。
【0007】
原子炉における炉心溶融物の局在化および冷却のためのシステム〔2〕として、原子炉圧力容器の下に設置され、片持ちトラスの上にあるガイドプレートと、コンクリート立坑のベースの埋め込み部品に取り付けられ、熱保護が備え付けられたフランジを備える多層容器、および互いに積み重ねられたカセットのセットから構成されている多層容器内のフィラーを備えるものが知られている。
【0008】
このシステムは、次の欠点により信頼性が低いものになっている。
- 原子炉圧力容器からの炉心溶融物の非軸対称流出の場合(圧力容器の横側の溶融)、内圧の影響下で、原子炉圧力容器内でガイドプレート、片持ちトラスおよび熱保護がセクター破壊され、原子炉圧力容器から炉心溶融物とともに流出したガスの衝撃波が多層容器の容積内および多層容器とフィラーと片持ちトラスとの間に位置する周辺容積内を伝播し、多層容器と片持ちトラス間の接続領域内で当該システムの破壊をもたらし、周辺機器に影響を与える可能性があり、その結果、多層容器の外側からの冷却を意図した冷却水が多層容器内に流れ込み、蒸気爆発や当該システムの破壊につながる可能性がある。
- 原子炉圧力容器の底部の破片の落下または炉心溶融物の残留物が原子炉圧力容器から多層容器内に落下した場合、炉心溶融物表面の水冷の初期段階で、衝撃による圧力上昇が起こって周辺機器に影響を与える。その結果、多層容器と片持ちトラス間の接続領域内で当該システムが破壊され、多層容器の外側からの冷却を意図した冷却水が多層容器内に流れ込み、蒸気爆発や当該システムの破壊につながる可能性がある。
【0009】
原子炉における炉心溶融物の局在化および冷却のためのシステム〔3〕として、原子炉圧力容器の下に設置され、片持ちトラスの上にあるガイドプレートと、アーチ型コンクリートのベースの埋め込み部品に取り付けられ、熱保護が備え付けられたフランジを備える多層容器、および互いに積み重ねられたカセットのセットで構成されている多層容器内のフィラーを備えるものが知られている。
【0010】
このシステムは、次の欠点により信頼性が低いものになっている。
- 原子炉圧力容器からの炉心溶融物の非軸対称流出の場合(圧力容器の横側の溶融)、内圧の影響下で、原子炉圧力容器内でガイドプレート、片持ちトラスおよび熱保護がセクター破壊され、原子炉圧力容器から炉心溶融物とともに流出したガスの衝撃波が多層容器の容積内および多層容器とフィラーと片持ちトラスとの間に位置する周辺容積内を伝播し、多層容器と片持ちトラス間の接続領域内で当該システムの破壊をもたらし、周辺機器に影響を与える可能性があり、その結果、多層容器の外側からの冷却を意図した冷却水が多層容器内に流れ込み、蒸気爆発や当該システムの破壊につながる可能性がある。
- 原子炉圧力容器の底部の破片の落下または炉心溶融物の残留物が原子炉圧力容器から多層容器内に落下した場合、炉心溶融物表面の水冷の初期段階で、衝撃による圧力上昇が起こって周辺機器に影響を与える。その結果、多層容器と片持ちトラス間の接続領域内で当該システムが破壊され、多層容器の外側からの冷却を意図した冷却水が多層容器内に流れ込み、蒸気爆発や当該システムの破壊につながる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】ロシア特許第2575878号
【特許文献2】ロシア特許第2576516号
【特許文献3】ロシア特許第2576517号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
請求項に係る発明の技術的結果は、原子炉における炉心溶融物の局在化および冷却のためのシステムの信頼性を高めることである。
【0013】
特許請求の範囲に記載された発明によって達成されるべき目的は、原子炉圧力容器から非軸対称に炉心溶融物が流出し、炉心溶融物を水冷する初期段階で原子炉圧力容器の底部の破片が容器内に落下するという状況下において、容器と片持ちトラスとの接続領域での当該システムの破壊を防止することであり、その結果、容器の外側の冷却を目的とする水の当該容器への浸入が防止される。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的は、本発明に係る、原子炉における炉心溶融物の局在化および冷却のためのシステムによって達成される。すなわち、当該システムは、ガイドプレートと、片持ちトラスと、炉心溶融物の受け取りと分配を目的としたフィラーを備えた容器と、を含み、さらに、前記片持ちトラスのフランジに吊り下げられた熱保護と、前記片持ちトラスに取り付けられた上部熱伝導要素に接続されている上部フランジと前記容器のフランジに取り付けられた下部熱伝導要素に接続されている下部フランジとを備えた凸状膜と、前記凸状膜の外側と内側のそれぞれに取り付けられた各包帯プレートを含み、前記各包帯プレートの各上端部が前記上部フランジにしっかりと固定され、前記各包帯プレートの各下端部が前記下部フランジに、当該下部フランジに対して縦方向および垂直方向に可動できるように固定されていることを特徴とする。
【0015】
さらに、本発明によれば、前記各包帯プレートの各上端部が溶接部により前記上部フランジに取り付けられている。
【0016】
さらに、本発明によれば、前記各包帯プレートの各下端部と前記下部フランジに孔部が設けられており、当該孔部に、調整ナットとリテーナーを備えたファスナーが取り付けられている。
【0017】
また、本発明の重要な特徴の1つは、片持ちトラスのフランジから吊り下げられた熱保護の存在である。この熱保護により、炉心溶融物からの直接的な影響と、原子炉圧力容器から流出して容器と片持ちトラスの接続領域に影響を与えるダイナミックなガス流からの直接的な影響を防止できる。
【0018】
請求項に係る発明の別の本質的な特徴は、システム内に凸状膜が存在することであり、その上部フランジと下部フランジは、片持ちトラスと容器のフランジにそれぞれ接続された上部と下部の熱伝導要素に接続されており、凸状膜の外側と内側には、各包帯プレートが取り付けられ、それらの各上端部が凸状膜の上部フランジにしっかりと固定され、それらの各下端部が凸状膜の下部フランジに、これに対して縦方向および垂直方向に可動できるように固定されている。
【0019】
凸状膜のこの配置により、片持ちトラスの独立した半径方向および方位角方向の熱膨張と、炉心溶融物の局在化および冷却のためのシステムの機器の構成要素への機械的衝撃の影響下における片持ちトラスと容器の独立した動きと、容器の軸方向および半径方向の熱膨張を可能にし、その結果、外側の冷却を目的とする冷却水の容器内への浸入が防止される。
【0020】
包帯プレートは、原子炉圧力容器が破壊された場合の衝撃波の影響下において凸状膜の完全性を維持することを可能にし、また、原子炉圧力容器の底部の破片または炉心溶融物の残留物が落下した場合に炉心溶融物表面の水冷の初期段階で発生する衝撃波の影響下において、凸状膜の完全性を維持することを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明に係る、原子炉における炉心溶融物の局在化および冷却のためのシステムの構成を示す図である。
【
図3】包帯プレートが取り付けられた当該膜の構成を示す図である。
【
図4】各包帯プレートの動きと、各包帯プレートと当該膜の間のギャップの調整とを提供するファスナーの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1~
図4に示すように、原子炉における炉心溶融物の局在化および冷却のためのシステムは、原子炉圧力容器(2)の下に設置されたガイドプレート(1)を備える。ガイドプレート(1)は、片持ちトラス(3)上に置かれている。コンクリート立坑のベースにおいて片持ちトラス(3)の下には、埋め込み部分に取り付けられた容器(4)が配置されている。
【0023】
容器(4)のフランジ(5)には熱保護(6)が装備されている。容器(4)の内側には、炉心溶融物を受け入れて分配するように意図されたフィラー(7)が配置されている。容器(4)の上部(フィラー(7)と容器(4)のフランジ(5)の間の領域)の周囲に沿って、各枝管に取り付けられた複数の給水バルブ(8)が配置されている。
【0024】
多層容器(4)のフランジ(5)と片持ちトラス(3)の下面との間に凸状膜(11)が設置されている。凸状膜(11)の凸面は、容器(4)の外側を向いている。
【0025】
包帯プレート〔bandage plate〕(18)、(19)は、凸状膜(11)の両側に設けられている。包帯プレート(18)、(19)の各上端部は、例えば溶接部(20)を使用して、凸状膜(11)の上部フランジ(14)にしっかりと固定されている。包帯プレート(18)、(19)の各下端部は、凸状膜(11)の下部フランジ(15)に、当該凸状膜(11)の下部フランジ(15)に対して縦方向および垂直方向に可動できるように取り付けられている。
【0026】
凸状膜(11)の下部フランジ(15)への包帯プレート(18)、(19)の取り付けは、凸状膜(11)の下部フランジ(15)に対する包帯プレート(18)、(19)の縦方向および垂直方向の動き、および包帯プレート(18)、(19)と凸状膜(11)との間の各ギャップの調整を提供するファスナー(21)、(22)を使用して行われる。ファスナー(21)、(22)は、安全な包帯ギャップ(24)、(25)を形成できるように取り付けられている。熱保護(9)は、容器(4)の内側に取り付けられている。熱保護(9)は、片持ちトラス(3)のフランジ(10)に吊り下げられている。吊り下げは、例えば耐熱ファスナーを使用して行うことができる。熱保護(9)は、容器(4)のフランジ(5)の熱保護(6)の上部に重なるように設置されている。
【0027】
請求項に係る、原子炉における炉心溶融物の局在化および冷却のためのシステムは、次のように作動する。
【0028】
原子炉圧力容器(2)が破損すると、炉心溶融物の静水圧と原子炉圧力容器(2)内の残留過剰ガス圧の作用下で、炉心溶融物が片持ちトラス(3)に保持されたガイドプレート(1)の表面に流れ始める。ガイドプレート(1)上を流れ落ちる炉心溶融物は、容器(4)に入り、フィラー(7)と接触する。炉心溶融物のセクター非軸対称流動により、熱保護(9)の部分的な溶融が発生する。熱保護(9)は、部分的な破壊により、一方では、保護された機器に対する炉心溶融物の熱的影響を減らし、他方では、炉心溶融物自体の温度と化学的活性を低下させる。
【0029】
容器(4)のフランジ(5)の熱保護(6)は、炉心溶融物がフィラー(7)に入った瞬間から、炉心溶融物とフィラーとの相互作用が完了するまで、すなわち炉心溶融物表面のクラストの水冷が開始するまでの間、炉心溶融物表面の熱影響からその上部の厚い壁の内側部分を保護する。容器(4)のフランジ(5)の熱保護(6)は、フィラー(7)との相互作用の過程で容器(4)内に形成される炉心溶融物よりも上に位置する当該容器(4)の内面、すなわち容器(4)の円筒部分よりも厚い当該容器(4)の上部を保護するように取り付けられており、炉心溶融物から容器(4)の外側の水への通常(プール沸騰モードで臨界熱流束なし)の熱伝達を提供する。
【0030】
炉心溶融物とフィラー(7)との間の相互作用の過程で、容器(4)のフランジ(5)の熱保護(6)が加熱され、炉心溶融物表面からの熱放射を遮蔽して部分的に破壊される。容器(4)のフランジ(5)の熱保護(6)の幾何学的および熱物理的特性は、どのような条件下でも炉心溶融物表面からの遮蔽を提供するように選択され、これにより、炉心溶融物とフィラー(7)との物理的および化学的相互作用が完了する時点からの保護機能の独立性が保証される。したがって、容器(4)のフランジ(5)の熱保護(6)の存在は、炉心溶融物表面のクラストへの水の供給を開始する前の保護機能の性能を保証する。
【0031】
容器(4)のフランジ(5)の熱保護(6)よりも上に位置する片持ちトラス(3)に吊り下げられた熱保護(9)は、その下部で容器(4)のフランジ(5)の熱保護(6)の上部を覆い、片持ちトラス(3)の下部だけでなく、容器(4)のフランジ(5)の熱保護(6)の上部も、炉心溶融物表面からの熱放射の影響から保護する。熱保護(9)の外面と容器(4)のフランジ(5)の熱保護(6)の内面との間の距離、および熱保護(6)、(9)間のオーバーラップの高さなどの幾何学的特性は、そのオーバーラップによって形成されるスリットが、移動する炉心溶融物と原子炉圧力容器(2)から流出する動的なガス流の両方から、容器(4)と片持ちトラス(3)間の漏れのない接続領域への直接の影響を防止するように選択される。
【0032】
構造的に熱保護(9)は、様々な要素、例えばシェル、ロッド、シート、および炉心溶融物表面の熱放射からの保護を提供する環状構造を配置することを可能にする他の要素で構成することができる。
【0033】
図1と
図2に示すように、凸状膜(11)は、垂直に方向付けされたセクター(12)を複数個、溶接部(13)により互いに接続して構成されている。凸状膜(11)は、容器(4)のフランジ(5)と片持ちトラス(3)の下面との間であり、熱保護(9)の外面の周囲空間に設置され、容器(4)を密閉して、外部冷却用に供給された水の流入を防止する。
【0034】
さらに、凸状膜(11)は、片持ちトラス(3)の独立した半径方向および方位角方向の熱膨張と、容器(4)の軸方向および半径方向の熱膨張を保証し、当該システムの機器の構成要素への機械的衝撃の影響下において、片持ちトラス(3)と容器(4)の独立した動きを提供する。
【0035】
原子炉圧力容器(2)から容器(4)への炉心溶融物の流れとこれに伴う圧力上昇の初期段階において凸状膜(11)がその機能を維持するために、凸状膜(11)は、容器(4)のフランジ(5)の熱保護(6)および片持ちトラス(3)に吊り下げられた熱保護(9)によって形成される保護空間内に配置されている。
【0036】
容器(4)内のそのクラスト上への冷却水の供給を開始する前に、容器(4)のフランジ(5)の熱保護(6)が徐々に破壊され、熱保護(6)、(9)間のオーバーラップする領域が、そのオーバーラップするゾーンが完全に破壊されるまで徐々に減少する。炉心溶融物表面から凸状膜(11)への熱放射の影響がこの瞬間から始まる。凸状膜(11)は内側から加熱され始めるが、凸状膜(11)が冷却水位より下にある場合、凸状膜(11)は、その厚さが薄いために、放射熱流束によって破壊されることはない。
【0037】
同じ期間中に、ガイドプレート(1)と、これによって保持されている原子炉圧力容器(2)の底部が、炉心溶融物の残留物でさらに加熱される。給水バルブ(8)から容器(4)内に炉心溶融物表面上のクラストへの冷却水の供給が開始された後、凸状膜(11)は、容器(4)の内部空間を密閉し、容器(4)の内部と外部を分離する機能を果たし続ける。容器(4)の外面を安定的に水冷するモードでは、凸状膜(11)は、外側の水で冷却されるため破壊されない。ただし、原子炉圧力容器(2)の底部とその内部の少量の炉心溶融物の状態が変化する可能性がある。これにより、原子炉圧力容器(2)の底部の破片が炉心溶融物の残留物とともに容器(4)内に落下し、容器(4)のフランジ(5)の熱保護(6)およびフランジ(5)自体にその炉心溶融物が動的な影響を与え、炉心溶融物と水との相互作用による圧力上昇を引き起こす可能性がある。
【0038】
炉心溶融物と水との相互作用は、炉心溶融物表面に固いクラストがまだ形成されておらず、原子炉圧力容器(2)の底部に炉心溶融物の残留物(開始された蒸気冷却によりまだ硬化していないもの)が存在しているという条件下であり、炉心溶融物表面が水で冷却される最初の段階で、炉心溶融物表面上の薄いクラストの表面を覆っているスラグキャップの表面にほとんど水がなく、30分を超えない時間内にのみ可能である。これらの条件下では、上部からスラグキャップに供給された冷却水の全量が蒸発し、上部にある構造物を冷却する。
【0039】
スラグキャップに水が蓄積し始めると、つまり蒸発する水の流量が容器(4)への水の供給に遅れをとり始めると、炉心溶融物表面のクラストが急速に成長し始める。クラストの成長は不均一であり、最も厚いクラストは容器(4)の内面近くに形成され、薄いクラストは容器(4)の中央部における炉心溶融物表面に形成される。これらの状況では、原子炉圧力容器(2)の底部の落下破片が薄いクラストを突き破り、その衝突の結果としてクラスト表面へ放出された炉心溶融物が水と反応して衝撃波を発生させる可能性があり、または、原子炉圧力容器(2)の底部の崩壊は発生しなくても、炉心溶融物の残留物が、水で覆われた炉心溶融物のクラストに注ぎ込まれ、蒸気爆発による衝撃波の発生を引き起こす可能性もある。
【0040】
図3に示すように、容器(4)内の圧力が上昇した場合に凸状膜(11)を破壊から保護するために、凸状膜(11)の外側と内側に、外側の包帯プレート(18)と内側の包帯プレート(19)が取り付けられており、外側の安全包帯ギャップ(24)、内側の安全包帯ギャップ(25)による制限の範囲内で、凸状膜(11)の幾何学的特性の一定の変化を保証する。圧力上昇時の衝撃波は、容器(4)の軸に対して非対称に伝播し、破壊された熱保護(9)と容器(4)のフランジ(5)の熱保護(6)との間のギャップ(破壊または溶融による破裂)が方位角方向に(例えば、面積、深さ、構造に関して)、ランダムに変化する。凸状膜(11)への衝撃波の影響には、外側の包帯プレート(18)および内側の包帯プレート(19)がそれぞれ直面する前方および後方の両方の圧力波が含まれる。外側および内側の包帯プレート(18)、(19)は、凸状膜(11)の両側に対称的に配置され、前方および後方の圧力波の影響下で振動する凸状膜(11)の腹の大きさを大幅に減少させて、凸状膜(11)の振動プロセスと共鳴現象の発生を防ぐ。
【0041】
衝撃波の動きの特徴は、下から上向きに動くことである。これらの条件下では、凸状膜(11)の下部フランジ(15)、凸状膜(11)の下部、外側および内側の包帯プレート(18)、(19)の下部が最初に衝撃荷重を引き受ける。凸状膜(11)の変形は下から上に向かって増加する。外側および内側の包帯プレート(18)、(19)の各上端部は、凸状膜(11)の破壊を防止するために、一定の外側、内側の安全包帯ギャップ(24)、(25)を備えた凸状膜(11)の上部フランジ(14)にしっかりと(例えば溶接部(20)によって)、固定されており、衝撃波が下から上に移動するときの凸状膜(11)の形状変化の振幅が減少する。
【0042】
炉心溶融物がフィラー(7)に入ると、容器(4)が徐々に加熱され、凸状膜(11)に圧縮圧力がかかる。凸状膜(11)がその補償機能を実行するためには、外側および内側の包帯プレート(18)、(19)の動きに対して凸状膜(11)の軸方向と半径方向の動きが独立していることが保証される必要がある。動きの独立性の要件は、衝撃波の影響から凸状膜(11)を保護する必要による、凸状膜(11)の剛性と、外側および内側の包帯プレート(18)、(19)の剛性との大きな違いに関連している。動きの実際的な独立性は、例えば、外側および内側の安全包帯ギャップ(24)、(25)を有する凸状膜(11)の下部フランジ(15)上に存する外側および内側の包帯プレート(18)、(19)の自由な動きを提供する外側のファスナー(21)と内側のファスナー(22)の取り付けによって達成される。
【0043】
安全包帯ギャップ(24)、(25)は、容器(4)と片持ちトラス(3)が熱膨張した場合の凸状膜(11)の自由な動き、片持ちトラス(3)が膜振動した場合の凸状膜(11)の機械的な動き、および容器(4)のフランジ(5)の方位角と半径方向の振動を提供し、原子炉圧力容器(2)の底部が炉心溶融物で破壊された場合に、原子炉圧力容器(2)側からの衝撃波に晒されたときの凸状膜(11)の半径方向における交互運動を阻止し、原子炉圧力容器(2)の底部の破片または炉心溶融物の残留物が容器(4)内に落下した場合に、炉心溶融物表面の冷却の初期段階で発生する衝撃波の影響下での凸状膜(11)の半径方向における交互運動を阻止する。
【0044】
図4に示すように、包帯プレート(18)、(19)の各下端部の移動範囲は、ファスナー(21)、(22)に設けられた調整ナット(27)、(28)の各リテーナ(26)によって制限される。リテーナー(26)、(26)は、調整ナット(27)、(28)と包帯プレート(18)、(19)間の調整ギャップ(29)、(30)を設計位置に調整する過程で調整ナット(27)、(28)のネジを緩めたときのその位置で調整ナット(27)、(28)を確実に固定する。固定された調整ギャップ(29)、(30)により、凸状膜(11)は、許容される機械的および熱的変位の範囲内で、包帯プレート(18)、(19)とは独立した動きが可能になる。
【0045】
許容値を超える凸状膜(11)の動きが生じた場合、例えば直接的な衝撃波に晒された場合には、外側の包帯プレート(18)が外側のファスナー(21)に沿って調整ギャップ(29)の大きさ分を完全に移動して外側の調整ナット(27)に当接し、凸状膜(11)が外側の安全包帯ギャップ(24)の大きさ分を動いて外側の包帯プレート(18)に当接することで、その破壊が防止される。凸状膜(11)に後方向への衝撃波が衝突した場合には、内側の包帯プレート(19)が内側のファスナー(22)に沿って調整ギャップ(30)の大きさ分を完全に移動して内側の調整ナット(28)に当接し、凸状膜(11)が内側の安全包帯ギャップ(25)の大きさ分を動いて内側の包帯プレート(19)に当接することで、その破壊が防止される。
【0046】
輸送および取り扱い作業の過程では、凸状膜(11)の損傷を防ぐために、外側および内側の包帯プレート(18)、(19)が外側および内側の調整ナット(27)、(28)を使用してしっかりと固定され、設計位置への取り付け時には、外側および内側の調整ナット(27)、(28)がそれぞれに対応するリテーナー(26)に当たるまで完全に緩められる。これにより、外側および内側の調整ギャップ(29)、(30)が形成される。調整ギャップ(29)、(30)は、容器(4)の熱膨張の間、凸状膜(11)の下部フランジ(15)に従って、外側および内側の包帯プレート(18)、(19)がスライドすることによる、凸状膜(11)の下部フランジ(15)の自由な上向きの移動を提供する。
【0047】
凸状膜(11)が衝撃波の影響を受けたときに、凸状膜(11)の、片持ちトラス(3)と容器(4)への確実な固定が確保されている必要がある。この目的のために、凸状膜(11)の上部フランジ(14)が片持ちトラス(3)に固定された上部熱伝導要素(16)に取り付けられており、上部フランジ(14)と上部熱伝導要素(16)が一種のポケット(23)(
図3)を形成し、外部媒体(冷却水または蒸気と水の混合物)との効率的な熱交換を提供する。対流熱交換用のポケット(23)は、炉心溶融物表面の冷却開始前に上部フランジ(14)と上部熱伝導要素(16)を過熱から保護するために必要であり、これにより、これらの部品の強度特性を維持して衝撃荷重に耐えることができる。
【0048】
凸状膜(11)の下部では、下部フランジ(15)および下部熱伝導要素(17)から熱除去が行われ、内側の包帯プレート(19)を支える内側のファスナー(22)から熱除去が行われる。
【0049】
このように、片持ちトラスの領域に設置された熱保護と容器のフランジの熱保護、および包帯プレートを備えた凸状膜を、原子炉における炉心溶融物の局在化および冷却のためのシステムに使用することにより、炉心溶融物を水冷する初期段階で、非軸対称に炉心溶融物が原子炉圧力容器から流出し、原子炉圧力容器の底部の破片が容器内に落下するという状況下で、容器と片持ちトラスの間の接続領域内において、当該システムの破壊を防止して、その信頼性を高めることができる。その結果、容器の外側の冷却を目的とした水が容器内に浸入することが防止される。
【国際調査報告】