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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-16
(54)【発明の名称】事象の受動検知のためのデバイス
(51)【国際特許分類】
   H01M 6/32 20060101AFI20231109BHJP
   H01M 6/36 20060101ALI20231109BHJP
   G08B 25/08 20060101ALI20231109BHJP
【FI】
H01M6/32 A
H01M6/36 A
G08B25/08 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023518429
(86)(22)【出願日】2021-09-20
(85)【翻訳文提出日】2023-05-16
(86)【国際出願番号】 ES2021070679
(87)【国際公開番号】W WO2022058639
(87)【国際公開日】2022-03-24
(31)【優先権主張番号】P202030949
(32)【優先日】2020-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】ES
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511000083
【氏名又は名称】コンセホ スペリオール デ インベスティガシオネス シエンティフィカス(セエセイセ)
【氏名又は名称原語表記】CONSEJO SUPERIOR DE INVESTIGACIONES CIENTIFICAS(CSIC)
【住所又は居所原語表記】C/Serrano,117,E-28006 Madrid,Spain
(71)【出願人】
【識別番号】518244482
【氏名又は名称】インスティツシオ カタラナ デ レセルカ イー エスツディス アヴァンカッツ
(71)【出願人】
【識別番号】523100249
【氏名又は名称】フエリウム,エセ.エレ.
(71)【出願人】
【識別番号】523100250
【氏名又は名称】インスティトゥト デ フィシカ ダルテス エネルギーズ(イエフェアエ)
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】カステラルナウ,マルク
(72)【発明者】
【氏名】マシアス,ホセ ガブリエル
(72)【発明者】
【氏名】サバテ,ネウス
(72)【発明者】
【氏名】エスキベル,フアン パブロ
【テーマコード(参考)】
5C087
5H025
【Fターム(参考)】
5C087AA02
5C087AA03
5C087DD04
5C087EE07
5C087FF01
5C087FF04
5H025AA11
5H025CC11
5H025KK01
5H025KK03
(57)【要約】
デバイスは、警報事象が起こるまでは電力を消費しない。PCM材料(相変化材料)(2)の相転移を利用して、関連する物理的/化学的事象をモニタリングするからである。(i)PCM材料(2)がイオン伝導性である場合にあっては、当該デバイスは、液体活性化バッテリ(1)と、前記液体活性化バッテリ(1)と接触した状態で配置されたイオン伝導性PCM材料(相変化材料)(2)と、前記液体活性化バッテリ(1)に接続された電子部品モジュール(4)であって、当該液体活性化バッテリ(1)により起動される電子部品モジュール(4)と、を備える。(ii)PCM材料(2)が非イオン伝導性PCM材料(2)である場合にあっては、当該デバイスは、イオン伝導性液体をさらに備え、前記非イオン伝導性PCM材料(2)は、前記イオン伝導性液体と前記液体活性化バッテリ(1)との間の障壁として配置されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
受動的事象検知デバイスであって、
支持基板(5)と、
前記支持基板(5)に連結された液体活性化バッテリ(1)であって、単回使用の紙バッテリである液体活性化バッテリ(1)と、
イオン伝導性液体と、
前記イオン伝導性液体と前記液体活性化バッテリ(1)との間の物理的障壁として配置された非イオン伝導性PCM材料(相変化材料)(2)であって、環境の物理的または化学的な量が強度および/または持続時間において閾値を超えたときに固体から液体に変化する非イオン伝導性PCM材料(2)と、
前記液体活性化バッテリ(1)に接続された電子部品モジュール(4)であって、前記液体活性化バッテリ(1)が活性化したときに起動する電子部品モジュール(4)と、
を備える、デバイス。
【請求項2】
前記支持基板(5)に連結された容器(3)であって、前記イオン伝導性液体を収容するための容器(3)をさらに備え、
前記非イオン伝導性PCM材料(2)は、前記イオン伝導性液体を前記液体活性化バッテリ(1)から隔てる障壁として配置されている、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記非イオン伝導性PCM材料(2)は、前記イオン伝導性液体を収容する複数のマイクロカプセルの形態をとり、
複数の前記マイクロカプセルは、前記液体活性化バッテリ(1)と接触した状態にあり、かつ/または、前記液体活性化バッテリ(1)に挿入されている、請求項1に記載のデバイス。
【請求項4】
前記非イオン伝導性PCM材料(2)は、多孔性基板の形態をとり、
前記イオン伝導性液体は、前記非イオン伝導性PCM材料(2)の細孔に挿入されており、
前記非イオン伝導性PCM材料(2)は、前記液体活性化バッテリ(1)と接触した状態で配置されており、かつ/または、前記液体活性化バッテリ(1)に挿入されている、請求項1に記載のデバイス。
【請求項5】
支持基板(5)と、
前記支持基板(5)に連結された液体活性化バッテリ(1)であって、単回使用の紙バッテリである液体活性化バッテリ(1)と、
液相ではイオン伝導性でありかつ固相では非イオン伝導性であるイオン伝導性PCM材料(相変化材料)(2)であって、前記液体活性化バッテリ(1)と接触した状態で配置されており、環境の物理的または化学的な量が強度および/または持続時間において閾値を超えたときに固体から液体に変化して、前記液体活性化バッテリ(1)を活性化するイオン伝導性PCM材料(2)と、
前記液体活性化バッテリ(1)に接続された電子部品モジュール(4)であって、前記液体活性化バッテリ(1)が活性化したときに起動する電子部品モジュール(4)と、
を備える、受動的事象検知デバイス。
【請求項6】
前記イオン伝導性PCM材料(2)は、前記液体活性化バッテリ(1)の外側に配置されており、かつ、前記液体活性化バッテリ(1)と直接的に接触した状態で配置されている、請求項5に記載のデバイス。
【請求項7】
前記イオン伝導性PCM材料(2)は、前記液体活性化バッテリ(1)の内側に配置されており、かつ/または、前記液体活性化バッテリ(1)と直接的に接触した状態で配置されている、請求項5に記載のデバイス。
【請求項8】
前記電子部品モジュール(4)は、当該電子部品モジュール(4)が起動したときに信号を生成するエミッタ(6)をさらに備える、請求項1または5に記載のデバイス。
【請求項9】
前記エミッタ(6)は、無線周波数信号、光、音および振動の内から選択される信号を生成する、請求項8に記載のデバイス。
【請求項10】
前記電子部品モジュール(4)は、当該電子部品モジュール(4)が起動したときに環境の物理的または化学的な量を記録する1または複数のセンサ(8)をさらに備える、請求項1または5に記載のデバイス。
【請求項11】
前記電子部品モジュール(4)は、当該電子部品モジュール(4)が起動したときに情報を記録するメモリをさらに備える、請求項1または5に記載のデバイス。
【請求項12】
前記電子部品モジュール(4)は、当該電子部品モジュール(4)が起動したときに作動する1または複数のアクチュエータをさらに備える、請求項1または5に記載のデバイス。
【請求項13】
前記基板(5)は、コンポスト化可能な材料から作製されており、
前記電子部品モジュール(4)は、
前記基板(5)上に印刷されたアンテナ(6)と、
前記アンテナ(6)と前記液体活性化バッテリ(1)とに接続されたカプセル化されていないチップと、
を備える、請求項1または5に記載のデバイス。
【請求項14】
前記PCM材料(2)は、温度、機械的応力、静水圧、電磁場、電場、放射線、および放射能等の物理的パラメータから、気体組成、吸水率、およびpH等の化学的パラメータまでで選択される量のときに固体から液体に変化する材料である、請求項1または5に記載のデバイス。
【請求項15】
前記電子部品モジュール(4)は、当該電子部品モジュール(4)が起動したときに前記デバイスの地理的位置を特定する地理的位置特定装置をさらに備える、請求項1または5に記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔発明の対象〕
本発明の対象は、物理的/化学的パラメータを継続的にモニタリングし、受信機へ遠隔的に通信する、無線センサノードの領域に属する受動的事象検知デバイスである。このデバイスによって、温度等の物理的な量を継続的にモニタリングするための現行の電力消費が回避される。このデバイスでは、周囲(環境)からの関連情報の記憶および/または報告のいずれかが必要となるときまで電力を全く消費しない、自己トリガ戦略が採られる。
【0002】
〔発明の背景〕
モノのインターネット(Internet of Things:IoT)のシナリオの実現が、デジタル化された新しい時代へ向けて、社会を導いていることは否定できない。モノのインターネットのシナリオは、感知(センシング)、判断、決定および作動を、コミュニケーティブかつ協調的に、包括的に行うことができる、複数のエネルギー自律システムによって可能になる。
【0003】
IoTは、まだ成長の初期段階にあるが、現在の推定値が示すところでは、接続デバイスの数は、世界中で90億を超えている。この数は、指数関数的に増加するものと予想されており、2025年には、接続デバイスの数が250億から500億にもなるとの推定がある。
【0004】
感知ノードのエネルギー自律性は、デジタルシナリオを可能にするキー(鍵)となる特徴であると、広く考えられている。環境(光、熱、および運動)からエネルギーを取り入れることができるサステナブルな電源を得るために、これまでの過去10年にわたり、財政的および技術的な著しい努力が注がれてきた。
【0005】
依然として、従来技術に係る自律的感知デバイスには、バッテリが利用されている。それらは、信頼できる方法で十分な電力出力をもたらす類のない候補であるのに対して、エネルギー取り入れ要素(太陽電池、熱電発電機、圧電発電機等)は、かかるバッテリの限られた動作時間を拡大するために用いられる。しかしながら、電力に飢える何十億ものデバイスのエネルギー需要が、現行のバッテリ技術で満たされるのかどうかは不透明である。なぜなら、輸送およびコンピューティング等の成長分野における需要が予測されており、リチウムおよびその他のキーとなるバッテリ材料の利用可能性が危ぶまれているからである。
【0006】
特に、モノのインターネットは、物理的な量および化学的な量をモニタリングし、個人(個体)および商品の安全性に関する関連情報を提供し、必要に応じて作動を行うことができる、複数のノードのネットワークとして定義することができる。このため、安全性に関連する量が警報閾値に達していないことを評価するため、継続的なモニタリングが必要となる。それゆえ、周囲(環境)をモニタリングするために、エネルギーが継続的に消費されることとなる。
【0007】
低電力の感知通信電子デバイスの開発に向けた全ての努力にもかかわらず、モノのインターネット(IoT)シナリオの来るべき実現には、ポータブルバッテリの単独使用では満たされないエネルギー需要の劇的な増加が必然的に伴う。さらに、IoTシステムの多くでは、デバイスの動作寿命の間にはめったに起こることのない、洪水、火災、真空の破れ、有毒ガスの存在等の、望ましからぬ単一の事象を監視することが意図されている。このことは、これらのシステムのほとんどで、関連する事象がないことを継続的にモニタリングするために電力が利用されることを意味する。
【0008】
信頼できる安定的な電源は、数カ月から数年のモニタリングシナリオを保証するためのキーファクターである。環境からエネルギーを継続的に取り入れるための多大な努力が、過去10年間にわたって行われてきた。太陽光、流れシステム(風力および水力)、熱および機械的な取り入れは、制御された環境条件下で無線通信を可能にするのに十分な電力を提供するように発展してきた。
【0009】
それにもかかわらず、環境条件へのそれらの依存によって、それらの適用は非常に限られた範囲の状況に制限されている。このため、一次電池が、無線センサネットワークにとって最も好ましい電力となっている。今日では、低電力消費モジュールの最適化によって、無線ノードの電力自律性を最大数年間拡張できるようになっている。
【0010】
しかしながら、IoTシナリオにおける一次電池の現行の優位性、および感知モジュールの予想される市場への強力な浸透からは、バッテリコンポーネントの大量生産、大量使用および大量廃棄を予見することができ、環境にとってあまり好ましくない光景が描き出される。さらに、電源が必要であるため、遠隔地に設置されたセンサについては、その自律性に関して大きな制限があることが想像される。
【0011】
検知を実行するために用いられる技術も、(受信機までの距離に応じて)記録された信号を送るために利用される通信戦略も、様々である。さらに、それらのいずれについても、継続的に機能するためのエネルギーが必要となる。これらのデバイスのうちの一部は、電力網に接続される一方、他のデバイスには、それが置かれる場所のため、独立型のバッテリが必要となる。電源の必要性はこれらに共通の特徴である。
【0012】
具体的な例として、森林における火災の検知およびモニタリングは、3つの主要な方法によって実現される:(i)光学カメラを使用すること、(ii)無線センサネットワークを用いて、空気の湿度、組成および温度を感知すること、ならびに(iii)15分または30分ごとに、3kmの限られた空間分解能で静止衛星からの赤外画像データを分析すること。建物内の火災検知は、各部屋の天井に通常、設置される能動的火災検知システムを通じて、煙および/または非常な高温を検知することによって実現される。
【0013】
したがって、これらのデバイスのすべてがスタンバイ状態で常に動作するため、非常に大量のエネルギーが無駄になる。さらに、非常に正確な測定が必要な場合、これらのシステムは、常に周囲をチェックしている。あまり正確な測定がシステムに必要とされない場合には、システムは、一定時間に1度だけチェックするため、使用するエネルギーがより少なくなるが、関連する測定を逸してしまう。
【0014】
バッテリからの電力を絶えず消耗することと関連する任意の測定を逸してしまうこととが回避されるよう、ゼロエネルギー廃棄物(zero energy waste)と永続的なモニタリングとを両立するデバイスが必要とされている。
【0015】
ところで、図6に示すように、液体活性化(作動)バッテリ(liquid-activated battery)は、流体11を保持することができる親水性および/または多孔性の材料(またはレセプタクル/キャビティ)14によって接続された、少なくとも2つの電気活性電極(electroactive electrode)からなるデバイスである。それらのうちの少なくとも1つは、酸化性であり(アノード12)、それらのうちの少なくとも1つは、還元性である(カソード13)。流体11を加えると、バッテリが機能し始める。この流体が、バッテリの電解液として作用するからである。バッテリを作動させるために使用される液体は、一般に、水ベースの流体である。
【0016】
これらのバッテリは、電極のうちの1つが使い果たされると機能しなくなる一次電池である。それらの限られた動作時間、ならびに、構造および使用材料の点での単純性は、それらを、診断デバイスまたはウェアラブルデバイス等の短期用途に特に適したものにしている。
【0017】
〔発明の説明〕
本発明の対象に係る受動的事象検知デバイスは、環境における物理的/化学的変化に応答する相変化材料(phase-change material:PCM)を備える。これにより、感知(センシング)中の電力消費がゼロの無線感知ノードの開発が可能になる。液体活性化バッテリのエネルギーは、憂慮すべき変化が環境に起きたときにのみ使用される。
【0018】
デバイスは、PCMの固相から液相への変化を利用して、周囲環境の物理的/化学的パラメータにおける変化を電気エネルギーに変換する。液体活性化バッテリを活性化(作動)するために、生成された液相を用いることが好ましい。バッテリの活性化によって、電子部品モジュールを起動するために使用できる電力のパルスが生成できるようになる。
【0019】
かかる電子部品モジュールは、デバイスおよびその周囲環境の状態について、感知、作動および/または通知することができる。例えば、電子部品モジュールは、無線周波数、光、音、または他の任意のデータ伝送方法によって、警報信号を生成し、任意選択的に、当該警報信号を遠隔の受信機へ送ることができる。あるいは、バッテリで生成された電力を使用して、情報ディスプレイを点灯させることができ、または、デバイスの地理的位置を特定することができる。
【0020】
このように、PCM材料が相転移を行う(すなわち、液体になる)のに十分なエネルギーを環境から取り入れるまで、バッテリとPCMとの組合せは、不活性のままである。現行のIoTパラダイムとは対照的に、このデバイスは、警報事象が起こらない限り、電力を消費することがないだろう。このように、報告すべき関連情報をシステムが集めるときにのみ、液体活性化バッテリに蓄えられた電気化学エネルギーが使用される。
【0021】
提案されるデバイスは、PCMの相変化転移の原因となるパラメータに応じて、複数の用途において適合および使用できるだろう。このパラメータは、温度、機械的応力、静水圧、電磁場、電場、放射線、および放射能等の物理的パラメータから、気体組成、吸水率、pH等の化学的パラメータにまで及ぶ。
【0022】
かかる相変化材料によって、最も関連性のあるものの中でも、建物、駐車場、研究施設、工場、輸送および森林において、関連する物理的/化学的パラメータを検出するための、受動的警報システムがつくり出せるだろう。それは、例えば、特に、包装のモニタリング(温度、場所、および湿度)、小売部門におけるコールドチェーンのモニタリング(製薬、化学、食品)、民間もしくは公共の建物もしくは開放空間(森林)における火災検知、または、専門的環境(研究室、クリーンルーム)におけるガス検知、個体における安全目的のための温度、放射線レベル、ガス濃度のモニタリング(消防士もしくは過酷な熱ストレス、放射線ストレスもしくは化学的ストレス下にあるその他の労働者)にも使用できるだろう。
【0023】
このデバイスは、低コストで、環境に優しく、しかもスマートであるという利点を有する。なぜなら、このアプローチによって、製造が単純化され、長期間にわたって広い空間をユビキタスにモニタリングできるようにするために必要となる材料および電気部品の量および多様さが最小限に抑えられるからである。
【0024】
特に、デバイスは、液体活性化バッテリと、前記液体活性化バッテリと接触した状態で配置されたPCM材料と、を備える。また、デバイスは、前記液体活性化バッテリに接続された電子部品(エレクトロニクス)モジュール(electronics module)を備える。これにより、前記PCM材料が固体から液体に変化すると、前記液体活性化バッテリが活性化し、前記電子部品モジュールが起動する。
【0025】
前記電子部品モジュールは、内部メモリもしくは外部メモリに情報を記憶することができ、環境(温度、湿度等)を感知することができ、アクチュエータ(バルブ、エンジン等)を作動することができ、または、外部から知ることができもしくは外部デバイスに送ることができる信号を生成することができる。例えば、電子部品モジュールによって提供される情報は、無線周波数、光、音、振動のような任意の手段によって送信されてもよく、または、電子部品モジュールに含まれるメモリに記憶されてもよい。
【0026】
前記液体活性化バッテリ、前記PCM材料および前記電子部品モジュールは、リジッドであり(剛性があり)またはフレキシブルであり(可撓性があり)得る支持基板上に配置されていてもよい。前記デバイスは、任意の表面に取り付け可能なタグの形態で製造されてもよい。
【0027】
前記液体活性化バッテリに対する前記PCM材料の配置および属性に関して、複数の実施形態がある。第1に、前記PCM材料は、(固体状態では、非イオン伝導性であり、)液相ではイオン伝導性を有する材料(電解性)であってもよく、前記PCM材料は、前記液体活性化バッテリの外側または前記液体活性化バッテリの内側のいずれかにおいて、前記液体活性化バッテリと直接的に接触した状態にあってもよい。当該PCM材料は、固体から液体に変化する相変化事象の結果、バッテリの電解液として働くようになるだろう。
【0028】
第2に、PCM材料は、非イオン伝導性PCM材料であってもよい。この場合において、前記デバイスは、前記液体活性化バッテリを活性化するものであることが意図されたイオン伝導性液体をさらに備える。この場合において、前記非イオン伝導性PCM材料は、前記イオン伝導性液体と前記液体活性化バッテリとの間の障壁として働く。これにより、前記非イオン伝導性PCM材料が固体から液体に変化し、前記イオン伝導性液体が前記液体活性化バッテリに接触したときに、その活性化が可能になる。
【0029】
この場合においても、2つの可能な実施形態がやはり存在する。前記イオン伝導性液体および前記非イオン伝導性PCM材料は、前記液体活性化バッテリの外側にある。例えば、前記イオン伝導性液体が、容器内に蓄えられており、前記非イオン伝導性PCM材料が、前記液体活性化バッテリから前記イオン伝導性材料を隔てる障壁として配置されている。
【0030】
別の実施形態では、前記非イオン伝導性PCM材料は、前記イオン伝導性液体を収容する(含む)複数のマイクロカプセルを形成していてもよい。複数の前記マイクロカプセルは、前記液体活性化バッテリと接触した状態で(その外側に)配置されており、かつ/または、前記液体活性化バッテリに挿入されている。この結果、前記非イオン伝導性PCM材料が固体から液体に変化すると、前記イオン伝導性液体が放出され、前記液体活性化バッテリが活性化される。
【0031】
あるいは、前記非イオン伝導性PCM材料は、多孔性材料の基板であってもよい。ここで、前記イオン伝導性液体は、前記非イオン伝導性PCM材料の細孔内に配置されている。前記非イオン伝導性PCM材料は、前記液体活性化バッテリの外側に、当該液体活性化バッテリと接触した状態で配置されていてもよく、または、前記液体活性化バッテリに挿入されていてもよい。
【0032】
感知されるべき環境からの情報は、PCM材料の諸特性でコード化される。これは、材料相転移をトリガするように調整および設計することができる。PCM材料の体積、幾何学的形状、ならびに固有の物理的特性および/または化学的特性は、PCM材料が相転移を行うために必要な周囲(環境)エネルギーの調整を可能にする変数である。これを利用して、あらかじめ設定された条件が満たされたときにPCM材料が相転移を行うように、周囲(環境)パラメータの特定の強度および/または持続時間に合致するようPCM材料の諸特性を調整することができる。
【0033】
〔図面の説明〕
なされた説明を補足するため、また、本発明の諸特性のより良い理解の助けとなるよう、その実用的な実施形態の好ましい一実施例に従って、一組の図面が、その説明の一体的部分として添付されている。これらの図面は、例示的かつ非限定的な特徴を有しつつ、以下の事柄を表す。
【0034】
図1‐非イオン伝導性PCM材料によって液体活性化バッテリから隔てられたイオン伝導性液体を収容する貯蔵器の図を示す。
【0035】
図2‐本発明の一実施形態における、デバイスの全体図を示す。
【0036】
図3‐種々の温度でトリガされる、種々のPCM材料を有する感温PCM-バッテリアセンブリの出力電圧を示す。
【0037】
図4‐デバイスの一実施形態に組み込まれた電子部品モジュールの種々の電子コンポーネントの図を示す。
【0038】
図5‐周囲温度の憂慮すべき上昇が起きた時のデバイスの活性化の実験的検証結果を示す。
【0039】
図6‐従来技術に係る液体活性化バッテリの図を示す。
【0040】
図7図2に示すデバイスの電子部品モジュールの種々の電子コンポーネントの図を示す。
【0041】
〔発明の好ましい実施形態〕
図1図7を用いて、受動的事象検知デバイスの好ましい一実施形態について説明する。
【0042】
本発明の対象である受動的事象検知デバイスは、液体活性化バッテリ(1)と、液体活性化バッテリ(1)と接触した状態で配置されたPCM材料(2)と、を備える。液体活性化バッテリ(1)は、単回使用(使い捨て:single use)の紙バッテリである。また、デバイスは、液体活性化バッテリ(1)に接続された電子部品モジュール(4)を備える。
【0043】
これにより、PCM材料(2)が固体から液体に変化すると、液体活性化バッテリ(1)が活性化し、電子部品モジュール(4)が起動する。電子部品モジュール(4)は、メモリと、エミッタ(6)と、当該電子部品モジュール(4)が起動したときに作動するアクチュエータもしくは1または複数のセンサと、を備えてもよい。
【0044】
これにより、電子部品モジュール(4)は、メモリに情報を記憶することができ、アクチュエータにより動作を実行する(バルブを開く、エンジンを始動する)ことができ、環境(温度、湿度等)を感知することができ、または、外部から見ることができもしくは外部デバイスに送ることができる信号を送ることができる。
【0045】
例えば、電子部品モジュール(4)が発する信号は、無線周波数信号、光、音、振動であってもよく、または、電子部品モジュール(4)に含まれるメモリに記憶されてもよい。
【0046】
固体から液体へのPCM材料(2)の変化を生み出した事象は、温度、光、圧力、ガス濃度、放射能等における変化であってもよい。このケースでは、温度の変化を、PCM材料(2)のトリガとして検討することとする。
【0047】
液体活性化バッテリ(1)、PCM材料(2)および電子部品モジュール(4)は、支持基板(5)に配置されていてもよい。
【0048】
液体活性化バッテリ(1)に対するPCM材料(2)の配置に関して、複数の可能な実施形態がある。第1に、PCM材料(2)がイオン伝導性PCM材料(2)である(液相でのみイオン伝導性であり、固相では非イオン伝導性である)場合にあっては、PCM材料(2)は、液体活性化バッテリ(1)の外側において、あるいは、液体活性化バッテリ(1)の内側において(例えば、液体活性化バッテリ(1)に挿入された複数のマイクロカプセルの形態で)、液体活性化バッテリ(1)と直接的に接触した状態で配置される。この場合において、PCM材料(2)は、溶融時に液体活性化バッテリ(1)を活性化できるよう、イオン伝導性を有する材料である。
【0049】
この実施形態の一実施例は、図2に見ることができる。ここでは、デバイスは、可撓性基板(5)と、液体活性化バッテリ(1)と、液体活性化バッテリ(1)と直接的に接触した状態にあるイオン伝導性PCM材料(2)と、を備える。また、デバイスは、バッテリ(1)が活性化したときに信号が外部デバイスに送信されるよう、アンテナ(6)および液体活性化バッテリ(1)に接続された電子部品モジュール(4)を備える。
【0050】
第2に、PCM材料(2)が非イオン伝導性PCM材料(2)である場合にあっては、デバイスは、液体活性化バッテリ(1)を活性化するものであることが意図されたイオン伝導性液体をさらに備える。この場合において、PCM材料(2)は、イオン伝導性液体と液体活性化バッテリ(1)との間の障壁として働く。これにより、非イオン伝導性PCM材料(2)が溶融し、イオン伝導性液体が液体活性化バッテリ(1)に接触したとき、その活性化が可能になる。
【0051】
この場合においても、2つの可能な実施形態がやはり存在する。図1に示す第1の実施形態は、イオン伝導性液体および非イオン伝導性PCM材料(2)が液体活性化バッテリ(1)の外側にある場合のものである。例えば、容器(3)(この場合は、ブリスター(blister))内に、イオン伝導性液体が蓄えられており、液体活性化バッテリ(1)からイオン伝導性液体を隔てる、容器(3)を封止する薄層として、非イオン伝導性PCM材料(2)が配置されている。周囲温度が非イオン伝導性PCM材料(2)の相転移温度を超えると、ブリスターはイオン伝導性液体を放出し、液体活性化バッテリ(1)が活性化され、電子部品モジュール(4)が起動する。
【0052】
第2の実施形態では、非イオン伝導性PCM材料(2)は、イオン伝導性液体を収容する複数のマイクロカプセルを形成している。複数のマイクロカプセルは、液体活性化バッテリ(1)の外側に、当該液体活性化バッテリ(1)と接触した状態で配置されており、かつ/または、液体活性化バッテリ(1)に挿入されている。この結果、非イオン伝導性PCM材料(2)が溶融すると、イオン伝導性液体が液体活性化バッテリ(1)を活性化する。
【0053】
あるいは、非イオン伝導性PCM材料(2)は、多孔性材料の基板であってもよい。ここで、イオン伝導性液体は、非イオン伝導性PCM材料(2)の細孔内に配置されている。非イオン伝導性PCM材料(2)は、液体活性化バッテリ(1)の外側に、当該液体活性化バッテリと接触した状態で配置されていてもよく、または、液体活性化バッテリ(1)に挿入されていてもよい。
【0054】
図3に示すように、PCM材料(2)は、種々の相転移温度を有し種々の温度範囲で機能するように選択されてもよい。この図は、異なる3つの温度で活性化するようにカスタマイズされた感温(temperature sensitive)バッテリの動作を示す。図から分かるように、各デバイスにおけるバッテリの測定電圧は、周囲の温度によってPCM材料(2)が相転移を達したときに上昇する。PCM材料(2)の選択に基づいてトリガ温度を定めることができるため、このアプローチは、温度がキーファクターとなる種々の用途のための汎用的なソリューションとなっている。
【0055】
具体的には、図3では、実線が、バッテリ電圧の時間変化を表し、点線が、バッテリ付近の測定された温度を表す。大きな点でプロットされた温度値は、種々のPCMを有するバッテリが活性化される周囲温度を示す。
【0056】
図4に示す電子部品モジュール(4)は、3つの主要機能を実行する。第1に、バッテリ(1)の電圧調整、および、モジュール内に含まれる商用部品にバイアスを与えるための3.3Vまでの昇圧である。第2に、デバイスの温度および湿度のモニタリングである。第3に、専用のポイントツーポイント通信プロトコルを用いる主局(マスタステーション:master station)(外部デバイス)への接続である。
【0057】
図4に示すように、バッテリ管理セクションは、すべての電子部品に同期的に電力が提供されるよう、バッテリレベルの遅延を可能にする、バッテリ(1)の活性化ダイナミクスに適合するスイッチを備える。マイクロコントローラ(7)によって、完全な電子部品モジュール(4)の動作が管理される。2秒ごとに、マイクロコントローラ(7)は、基板(5)に配置された温湿度センサ(8)の測定値を読み取り、2.4GHzのISM帯域(ISM band)でマスタに通信するRFトランシーバ(10)に、その読み出し値を送る。
【0058】
図2に示すように、デバイスの基板(5)は、可撓性表面を有するタグ形態であってもよい。当該基板(5)は、コンポスト化可能な材料から作ることができる。これにより、森林火災をモニタリングするためにデバイスが使用される場合に、デバイスが森林を汚染することがなくなる。さらに、紙包装をモニタリングするためにデバイスが使用される場合には、紙包装はリサイクル可能なままとなり、確立されたリサイクルプロセスの妨げとなり得るプラスチック材料が回避される。
【0059】
図7に示すように、電子部品モジュール(4)のハイブリダイゼーションを含む、すべてのデバイスコンポーネントは、ロールツーロールプリンテッド製造で製造することができる。コスト、面積、消費、複雑さ、および処分時の環境への影響が低減されるように、これは、単一のマイクロエレクトロニクスチップに組み込まれることとなる。
【0060】
デバイスがコンポスト化可能である実施形態では、液体活性化バッテリ(1)は、紙ベースのバッテリであり、基板(5)は、コンポスト化可能な材料から作製され、電子部品モジュール(4)は、図7に示すように、生分解性基板(5)上に印刷された1または複数の(カーボンナノチューブまたはそれと同様のものを有する)薄膜アンテナ(6)と、当該アンテナ(6)と液体活性化バッテリ(1)とに接続されたカプセル化されていない特定用途向け集積回路(application specific integrated circuit:ASIC)と、を備える。
【0061】
ASICは、バッテリ管理ユニットと、メモリバンクを有する専用デジタルコントローラと、物理的および化学的感知回路と、チップIDと、クリスタルレス(crystal-less)UHFトランシーバと、送信のための電力増幅器および受信のための低雑音増幅器を有するユニットと、を備える。
【0062】
デバイスの動作の検証を、図5に示す。受動的事象検知デバイスを、温度が25℃から70℃に上昇するように設定した炉の内部に配置した(炉温度は、「熱電対周囲」と表示されている)。試験目的のため、バッテリ(1)電圧を測定し、温度変化を記録するために外部熱電対をデバイス内部に挿入した。(「プロトタイプ内部の熱電対」と表示された、よりソフトな連続線)。
【0063】
デバイスを、その内部の温度が55℃を超えたときにトリガされるようカスタマイズした。図から分かるように、デバイスが設定温度に達すると、バッテリ(1)電圧が上昇する。いったん活性化されると、電子部品モジュール(4)に埋め込まれたセンサ(8)が、温度の記録、情報の処理およびデータの無線送信を開始する。デバイスによって送られた情報は、カスタムメイドのデータ受信機によって処理される。
【0064】
(「プロトタイプモジュール由来のTセンサ」と表示された)点線は、受信された温度データを表す。これは、外部熱電対によって記録された温度と一致する。図中の挿入図は、スタンバイ時、データ取得時およびデータ送信時における、回路の電力消費によるバッテリ(1)電圧の変動を示す。
【0065】
このデバイスは、複数の分野に適用することができる。それらの分野のうちの一部を、以下に説明する。火災検知のシナリオでは、デバイスは、警報事象(温度の急激な上昇)によってPCM材料(2)が固体から液体に変化したときにのみ、バッテリ(1)からのエネルギーを使用することとなるだろう。バッテリ(1)が活性化すれば、電子部品モジュール(4)から当該事象から遠距離に設置された受信機へ、信号を送ることが可能になるだろう。例えば、中規模の森林火災では、森林に分布する一群のデバイスが、消防隊が航空機器を使用できない夜間における火災の動態に関する正確な情報を、火災の方向および強度を評価するために提供することができる。かかる情報は、より成功の可能性が高い消火行動を計画するために、非常に重要である。
【0066】
建物における火災検知の場合、引火する確率がより高い戦略的な場所に設置したデバイスが利用できれば、非常に早い段階で火災を検知することが可能になるだろう。デバイスは、ごみ箱または電気パネル等の、火元となる可能性が最も高いものの近くに設置することができる。当該デバイスは、天井にある煙感知器または火災検知器よりも、はるかに早くトリガされるだろう。
【0067】
包装に適用する場合には、デバイスは、所望でない熱的条件に包装が曝されたときにトリガされ得る。例えば、冷凍品の場合には、0℃を超える温度、または腐敗しやすい化学反応物の場合には、30℃を超える温度である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
図1】非イオン伝導性PCM材料によって液体活性化バッテリから隔てられたイオン伝導性液体を収容する貯蔵器の図を示す。
図2】本発明の一実施形態における、デバイスの全体図を示す。
図3】種々の温度でトリガされる、種々のPCM材料を有する感温PCM-バッテリアセンブリの出力電圧を示す。
図4】デバイスの一実施形態に組み込まれた電子部品モジュールの種々の電子コンポーネントの図を示す。
図5】周囲温度の憂慮すべき上昇が起きた時のデバイスの活性化の実験的検証結果を示す。
図6】従来技術に係る液体活性化バッテリの図を示す。
図7図2に示すデバイスの電子部品モジュールの種々の電子コンポーネントの図を示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】