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特表2023-548294IGF補充を調節するためのインスリン様増殖因子受容体変異体の過剰発現
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-16
(54)【発明の名称】IGF補充を調節するためのインスリン様増殖因子受容体変異体の過剰発現
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/113 20100101AFI20231109BHJP
   C12N 15/85 20060101ALI20231109BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20231109BHJP
   C07K 16/22 20060101ALI20231109BHJP
【FI】
C12N15/113 120Z
C12N15/85 Z ZNA
C12N5/10
C07K16/22
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023525494
(86)(22)【出願日】2021-11-01
(85)【翻訳文提出日】2023-06-22
(86)【国際出願番号】 US2021057606
(87)【国際公開番号】W WO2022094418
(87)【国際公開日】2022-05-05
(31)【優先権主張番号】63/108,084
(32)【優先日】2020-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500049716
【氏名又は名称】アムジエン・インコーポレーテツド
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ダリス,クリスティン・マリー
(72)【発明者】
【氏名】レイ,ファイデス・ドウィーナン
【テーマコード(参考)】
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA93Y
4B065AB01
4B065BA03
4B065CA25
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045DA76
4H045FA72
4H045FA74
(57)【要約】
目的の組換えタンパク質を発現させるための哺乳類細胞培養方法が提供される。様々な実施形態では、方法は、構成的に活性なIGF1R変異体を発現する哺乳類細胞に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳類細胞培養プロセスから目的のタンパク質を発現させる方法であって、細胞培養培地中で哺乳類細胞を培養することを含み、前記哺乳類細胞は、構成的に活性なインスリン様増殖因子受容体1(IGF1R)変異体をコードする核酸を含み、前記目的のタンパク質をコードする異種核酸をさらに含む方法。
【請求項2】
前記細胞培養培地が、0.03mg/L未満のインスリン様増殖因子(IGF-1)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記細胞培養培地が、IGF-1を含まない、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記IGF1R変異体が、前記哺乳類細胞のゲノムに安定的に組み込まれる核酸によってコードされている、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記IGF1R変異体が、編集された内在性IGF1R配列である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記哺乳類細胞が、0.1mg/LのIGF-1を含む細胞培養培地中で、前記IGF1R変異体を含まない同系統の哺乳類細胞と同等の増殖率を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記IGF1R変異体が、配列番号2、4、6、8、10、12、14又は16のいずれかのアミノ酸配列を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記IGF1R変異体が、配列番号2又は配列番号4のアミノ酸配列を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記IGF1Rが、配列番号1又は配列番号3のヌクレオチド配列を含む核酸配列によってコードされている、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記発現された組換えタンパク質の力価が、前記培養の10日目で少なくとも50mg/Lである、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記目的のタンパク質が、抗原結合タンパク質である、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記目的のタンパク質が、モノクローナル抗体、二重特異性T細胞エンゲージャー、免疫グロブリン、Fc融合タンパク質及びペプチボディからなる群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記哺乳類細胞培養プロセスが、流加培養プロセス、灌流培養プロセス、及びそれらの組み合わせを利用するものである、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記哺乳類細胞培養が、0.03mg/L以下のIGF-1を含む無血清培養培地中の少なくとも0.5×10~3.0×10細胞/mLを、少なくとも100Lのバイオリアクターに播種することによって構築される、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記哺乳類細胞が、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記CHO細胞が、ジヒドロ葉酸レダクターゼを欠損している(DHFR-)か、又はグルタミンシンテターゼノックアウト(GSKO)である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記方法が、前記目的のタンパク質の回収工程をさらに含む、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記回収された目的のタンパク質が、精製され、薬学的に許容される製剤中で製剤化される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
精製され、製剤化された請求項18に記載の目的のタンパク質。
【請求項20】
1)構成的に活性なIGF1R分子を発現するIGF1R変異体をコードするヌクレオチド配列を含む第1の異種核酸と、2)目的のタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む第2の異種核酸とを含む、遺伝子改変された哺乳類細胞。
【請求項21】
前記IGF1R変異体をコードする前記ヌクレオチド配列が、配列番号1又は配列番号3のヌクレオチド配列を含む、請求項20に記載の哺乳類細胞。
【請求項22】
前記第1の異種核酸が、宿主ゲノムに安定的に組み込まれる、請求項20又は21に記載の哺乳類細胞。
【請求項23】
前記第1の異種核酸が、編集された内在性IGF1R配列である、請求項20又は21に記載の哺乳類細胞。
【請求項24】
前記哺乳類細胞が、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である、請求項20~23のいずれか一項に記載の哺乳類細胞。
【請求項25】
前記CHO細胞が、ジヒドロ葉酸レダクターゼを欠損している(DHFR-)か、又はグルタミンシンテターゼノックアウト(GSKO)である、請求項24に記載の哺乳類細胞。
【請求項26】
前記細胞株が、0.03mg/L以下のIGF-1を含む細胞培養培地中で増殖することができる、請求項20~25のいずれか一項に記載の哺乳類細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、組換えタンパク質を生産するための哺乳類細胞株及び細胞培養におけるそれらの使用に関する。
【0002】
配列表
本出願には、開示の別の部分として、コンピュータ可読形式の配列表(ファイル名:A-2711-WO-PCT Seq List_ST25.txt、2021年11月1日作成、サイズ127KB)が含まれており、参照によりその全体が組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
生物学的製剤は、その幅広い用途から、治療及び診断などの様々な用途で世界中で使用されている。主流の細胞工場であるチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を含む哺乳類細胞株が、これらの生物学的製剤の主流の発現系である。Lalonde et al.,2017,J Biotechnol 251:128-140を参照されたい。特にバイオシミラーの出現により、現在では、市場投入までのスピード及びコスト効率が以前にも増して重要なものとなっている。
【0004】
生物学的製剤の製造コストは、最適な細胞株の選択、大量の生産細胞の培養、細胞回収物からの所望の生物学的形態の精製に関与する多段階のプロセスを利用する、それらの生産が複雑であることにより、高いものとなっている。これらのコストは、生産のあらゆる面を改善することによって低下してきてはいるが、それらが最先端の治療として広く採用されるには、依然としてコストが極めて高額である場合がある。製造工程のいずれかに関連するコストを削減することにより、結果的に最終的なコストを削減することができる。
【0005】
生物学的製剤の製造に関連する商品コストに大きく貢献するものの1つが、細胞培養培地及び必要とされる様々なサプリメントである。そのようなサプリメントの1つが、インスリン様増殖因子1(IGF-1)である。
【0006】
インスリン様増殖因子は、インスリン様増殖因子受容体に結合することによって細胞内シグナル伝達を開始し、細胞増殖、繁殖及び分化を調節する増殖因子である。IGF-1は細胞を増殖させる役割を有するため、細胞培養培地に補充されることが多いが、組換えタンパク質をラージスケールで商業的に製造するには高価な成分である。
【0007】
そのため、宿主細胞からの組換えタンパク質の生産に関連するコストを削減する必要がある。この目的を達成するための1つの方法としては、IGF-1などの特定の細胞培養培地のサプリメントの必要性を低減又は排除することにより、商品コストを削減することである。細胞培養培地を血小板由来増殖因子BBで補充することにより、間葉系幹細胞でインスリン様増殖因子1受容体(IGF1R)の発現が増強されたことが確認されている。米国特許出願公開第20200245388号明細書を参照されたい。しかしながら、このことは生物学的製剤のラージスケール生産には適用されておらず、依然として別の増殖因子を補充することが必要とされている。
【0008】
増殖及び生産性に及ぼす影響が最小限の組換えタンパク質を産生する、培地にIGF-1を補充する必要性が低減した、又は必要性のない宿主細胞株が依然として求められている。このような細胞株は、生物学的製剤のプロセス開発に有益である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許出願公開第20200245388号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Lalonde et al.,2017,J Biotechnol 251:128-140
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示は、哺乳類細胞培養プロセスから目的のタンパク質を発現させる方法であって、細胞培養培地中で哺乳類細胞を培養することを含み、哺乳類細胞は、構成的に活性なインスリン様増殖因子受容体1(IGF1R)変異体をコードする核酸を含み、目的のタンパク質をコードする異種核酸をさらに含む方法を提供する。
【0012】
特定の実施形態では、細胞培養培地は、0.03mg/L未満のインスリン様増殖因子(IGF-1)を含む。特定の実施形態では、細胞培養培地は、
IGF-1を含まない。
【0013】
特定の実施形態では、IGF1R変異体は、哺乳類細胞のゲノムに安定的に組み込まれる核酸によってコードされている。特定の実施形態では、IGF1R変異体は、編集された内在性IGF1R配列である。
【0014】
特定の実施形態では、哺乳類細胞は、0.1mg/LのIGF-1を含む細胞培養培地中で、IGF1R変異体を含まない同系統の哺乳類細胞と同等の増殖率を有する。
【0015】
特定の実施形態では、IGF1R変異体は、配列番号2、4、6、8、10、14、又は16のいずれかのアミノ酸配列を含む。特定の実施形態では、IGF1R変異体は、配列番号2又は配列番号4のアミノ酸配列を含む。特定の実施形態では、IGF1R変異体は、配列番号2、4、6、8、10、14、又は16のいずれかのアミノ酸配列を含む。特定の実施形態では、IGF1R変異体は、配列番号2又は配列番号4のアミノ酸配列を含む。特定の実施形態では、IGF1Rは、配列番号1、3、5、7、9、11、13、又は15のいずれかのヌクレオチド配列を含む核酸配列によってコードされている。特定の実施形態では、IGF1Rは、配列番号1又は配列番号3のヌクレオチド配列を含む核酸配列によってコードされている。
【0016】
本明細書に記載される方法を使用する特定の実施形態では、目的の発現タンパク質の力価は、培養の10日目で少なくとも50mg/Lである。
【0017】
特定の実施形態では、目的のタンパク質は、抗原結合タンパク質である。特定の実施形態では、目的のタンパク質は、モノクローナル抗体、二重特異性T細胞エンゲージャー、免疫グロブリン、Fc融合タンパク質及びペプチボディからなる群から選択される。
【0018】
特定の実施形態では、哺乳類細胞培養プロセスは、流加培養プロセス、灌流培養プロセス、及びそれらの組み合わせを利用する。
【0019】
特定の実施形態では、哺乳類細胞培養は、0.03mg/L以下のIGF-1を含む無血清培養培地中の少なくとも0.5×10~3.0×10細胞/mLを、少なくとも100Lのバイオリアクターに播種することによって構築される。
【0020】
特定の実施形態では、哺乳類細胞はチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である。特定の実施形態では、CHO細胞は、ジヒドロ葉酸レダクターゼを欠損している(DHFR)か、又はグルタミンシンテターゼノックアウト(GSKO)である。
【0021】
特定の実施形態では、方法は、目的のタンパク質の回収工程をさらに含む。特定の実施形態では、回収された目的のタンパク質が精製され、薬学的に許容される製剤中で製剤化される。
【0022】
本開示はまた、本明細書に記載される方法を用いて調製された、精製され、製剤化された目的のタンパク質を提供する。
【0023】
本開示はまた、1)構成的に活性なIGF1R分子を発現するIGF1R変異体をコードするヌクレオチド配列を含む第1の異種核酸と、2)目的のタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む第2の異種核酸とを含む、遺伝子改変された哺乳類細胞を提供する。
【0024】
特定の実施形態では、IGF1R変異体をコードするヌクレオチド配列は、配列番号1又は配列番号3のヌクレオチド配列を含む。
【0025】
特定の実施形態では、第1の異種核酸が、宿主ゲノムに安定的に組み込まれる。特定の実施形態では、第1の異種核酸は、編集された内在性IGF1R配列である。
【0026】
特定の実施形態では、哺乳類細胞はチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である。特定の実施形態では、CHO細胞は、ジヒドロ葉酸レダクターゼを欠損している(DHFR)か、又はグルタミンシンテターゼノックアウト(GSKO)である。
【0027】
特定の実施形態では、細胞株は、0.03mg/L以下のIGF-1を含む細胞培養培地中で増殖することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1A】(A)delL1及び(B)H905CのpPT1.34.7GGのIGF1R構築物マップの概略図である。
図1B】(A)delL1及び(B)H905CのpPT1.34.7GGのIGF1R構築物マップの概略図である。
図2】IGF1R変異体delL1(上部パネル)又はH905C(下部パネル)を含むCS9 CHO細胞の回復率を示す。IGF-1なし(黒);IGF-1を併用したピューロマイシン(濃い灰色);IGF-1なし(薄い灰色)。
図3】CS9プラットフォーム宿主(黒)と比較した、IGF1R変異体delL1(濃い灰色)又はH905C(薄い灰色)を含むCS9 CHO細胞の倍加時間を示す。倍加時間は、細胞株が回復した時点における3継代の平均を基準とする。
図4】IGF-1のみでIGF1R変異体delL1(上部パネル)又はH905C(下部パネル)を含むCHO GSKO細胞の回復率を示す。CHO GSKO宿主EG9、EG10及びSR3-E1は濃い色で、CHO GSKO宿主11S及び15-3E宿主は薄い色で示す。
図5】CHO GSKOプラットフォーム宿主(黒)と比較した、IGF1R変異体delL1(濃い灰色)又はH905C(薄い灰色)を含むCHO GSKO細胞の倍加時間を示す。倍加時間は、細胞株が回復した時点における2~3継代の平均を基準とする。
図6A】A)CS9バックグラウンドにおけるBiTE及びmAb、並びにB)GSKOバックグラウンドにおけるBiTE及びIgGscFvの試験分子をトランスフェクトした細胞を含むIGF1R変異体の回復曲線を示す。対照(黒線)、H905C変異体(薄い灰色)、delL1変異体(濃い灰色)。
図6B】A)CS9バックグラウンドにおけるBiTE及びmAb、並びにB)GSKOバックグラウンドにおけるBiTE及びIgGscFvの試験分子をトランスフェクトした細胞を含むIGF1R変異体の回復曲線を示す。対照(黒線)、H905C変異体(薄い灰色)、delL1変異体(濃い灰色)。
図7A】A)CS9バックグラウンドにおけるIGF1R変異体試験分子トランスフェクト細胞株の平均10D流加によるVCD及び生存率。B)IGF1R変異体試験分子トランスフェクト細胞株の力価。C)IGF1R変異体試験分子トランスフェクト細胞株のQp。H905C変異体(薄い灰色);対照細胞株(黒)。
図7B】A)CS9バックグラウンドにおけるIGF1R変異体試験分子トランスフェクト細胞株の平均10D流加によるVCD及び生存率。B)IGF1R変異体試験分子トランスフェクト細胞株の力価。C)IGF1R変異体試験分子トランスフェクト細胞株のQp。H905C変異体(薄い灰色);対照細胞株(黒)。
図7C】A)CS9バックグラウンドにおけるIGF1R変異体試験分子トランスフェクト細胞株の平均10D流加によるVCD及び生存率。B)IGF1R変異体試験分子トランスフェクト細胞株の力価。C)IGF1R変異体試験分子トランスフェクト細胞株のQp。H905C変異体(薄い灰色);対照細胞株(黒)。
図8A】A)GSKOバックグラウンドにおけるIGF1R変異体試験分子トランスフェクト細胞株の平均10D流加によるVCD及び生存率。B)IGF1R変異体試験分子トランスフェクト細胞株の力価及びQp。H905C変異体(薄い灰色);delL1(濃い灰色);対照細胞株(黒)。
図8B】A)GSKOバックグラウンドにおけるIGF1R変異体試験分子トランスフェクト細胞株の平均10D流加によるVCD及び生存率。B)IGF1R変異体試験分子トランスフェクト細胞株の力価及びQp。H905C変異体(薄い灰色);delL1(濃い灰色);対照細胞株(黒)。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、受容体を構成的に活性な状態に維持するIGF1Rにおける変異により、培地に高レベルのIGF-1を補充する必要がなくなるという発見に部分的に基づくものである。IGF-1は、IGF1R経路のシグナル伝達を通じて細胞増殖をサポートするタンパク質サプリメントである。IGF-1を補充することなく生存し増殖することのできる改変CHO細胞により、組換えタンパク質をラージスケールで生産する際にIGF-1の補充にかかる高いコストを削減することができる。delL1及びH905Cと命名された、2つの構成的に活性なIGF1R変異体(Kavran et al.,2014,eLife,3:e03772を参照されたい)をCHO細胞株に過剰発現させると、IGF-1補充の必要性が低減した、又は必要性がないということが分かった。
【0030】
本発明は、IGF-1を欠く細胞培養培地中で目的のタンパク質を商業的に生産するのに特に有用であることが分かった。本発明において使用される細胞株(「宿主細胞」とも呼ばれる)は、IGF1R変異体を安定的に発現するように遺伝子操作されている。特定の実施形態では、細胞株はまた、商業的又は科学的な目的のタンパク質も発現する。細胞株は、典型的には時間が制限されずに培養で維持され得る初代培養から生じる系統に由来する。細胞株の遺伝子操作には、宿主細胞にIGF1R変異体を発現させるように、細胞を組換えポリヌクレオチド分子でトランスフェクト、形質転換若しくは形質導入すること、及び/又は別の方法で改変すること(例えば、相同組換え及び遺伝子活性化、又は組換え細胞と非組換え細胞との融合によって)を含む。例えばIGF1R変異体を発現するように細胞及び/又は細胞株を遺伝子操作するための方法及びベクターは当業者によく知られており、例えば、種々の技術が、Current Protocols in Molecular Biology,Ausubel et al.,eds(Wiley & Sons,New York,1988、及び四半期アップデート);Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(Cold Spring Laboratory Press,1989);Kaufman,R.J.,Large Scale Mammalian Cell Culture,1990,pp.15-69に説明されている。
【0031】
本願で使用する用語法は、当該技術分野内で標準的であるが、特定の用語の定義は、特許請求の範囲の意味において明快さ及び明確さを保証するために本明細書において提供される。単位、接頭辞、及び記号は、SI(国際単位系)で認められた形式で表記され得る。本明細書で列記される数値範囲は、範囲を定義する数を含み、定義された範囲内の各整数を含み、それを支持する。別段の指示がない限り、本明細書に記載される方法及び手法は、一般に、当該技術分野においてよく知られる従来の方法に従って実施され、こうした方法及び手法は、本明細書を通して引用され且つ論じられる様々な一般の参考文献及び特定性の高い参考文献に記載されるものである。例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,3rd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(2001)及びAusubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology,Greene Publishing Associates(1992)、並びにHarlow and Lane Antibodies:A Laboratory Manual Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(1990)を参照されたい。
【0032】
本明細書で使用する場合、「1つの(a)」及び「1つの(an)」という用語は、特に別段の指示がない限り、1つ以上を意味する。さらに、文脈上異なる解釈を要する場合を除き、単数形の用語は、複数形を含むものとし、複数形の用語は、単数形を含むものとする。一般に、細胞及び組織培養、分子生物学、免疫学、微生物学、遺伝学並びに本明細書に記載されるタンパク質及び核酸の化学及びハイブリダイゼーションに関連して使用される命名法及び技術は、当技術分野でよく知られ、且つ一般に使用されているものである。
【0033】
特許、特許出願、論文、書籍及び学術論文が挙げられるが、これらに限定されない、本願で引用される全ての文献又は文献の一部は、参照により本明細書に明示的に組み込まれる。本発明の一実施形態に記載されているものは、本発明の他の実施形態と組み合わせることができる。
【0034】
本開示は、「目的のタンパク質」を発現させる方法を提供するものであり、「目的のタンパク質」には、天然に存在するタンパク質、組換えタンパク質、及び改変タンパク質(例えば、天然に存在せず、ヒトによって設計及び/又は作製されているタンパク質)が含まれる。目的のタンパク質は、治療に関連することが知られているか、又はそのように思われているタンパク質であり得るが、そうである必要はない。目的のタンパク質の特定の例としては、抗原結合タンパク質(本明細書に記載及び定義される)、ペプチボディ(すなわち、ペプチド部分が所望の標的に特異的に結合し、ペプチドがFc領域に融合され得るか、若しくはFcループに挿入され得る、抗体のFcドメインなどの他の分子に直接若しくは間接的に融合されたペプチドを含む分子、又は、例えばその全体が本明細書に参照として組み込まれる米国特許出願公開第2006/0140934号明細書に記載されているような改変Fc分子)、融合タンパク質(例えば、Fcフラグメントがペプチボディを含むタンパク質又はペプチドに融合されているFc融合タンパク質)、サイトカイン、増殖因子、ホルモン及び他の天然に存在する分泌タンパク質、並びに天然に存在するタンパク質の変異型が挙げられる。
【0035】
本明細書で使用する場合、「ポリペプチド」及び「タンパク質」という用語(例えば、目的のタンパク質又は目的のポリペプチドの文脈で使用されるような)は、本明細書において互換的に用いられ、アミノ酸残基のポリマーを指す。これらの用語はまた、1個以上のアミノ酸残基が、対応する天然に存在するアミノ酸の類似体又は模倣体であるアミノ酸ポリマーと同様に、天然に存在するアミノ酸ポリマーにも適用される。これらの用語はまた、例えば、糖タンパク質を形成するための炭水化物残基の付加、又はリン酸化によって修飾されたアミノ酸ポリマーも包含し得る。ポリペプチド及びタンパク質は、天然に存在する非組換え細胞によって産生され得るか、又はポリペプチド及びタンパク質は、遺伝子操作された細胞又は組換え細胞によって産生され得る。ポリペプチド及びタンパク質は、天然タンパク質のアミノ酸配列を有する分子、又は天然配列の1つ以上のアミノ酸の欠失、付加、及び/若しくは置換を有する分子を含み得る。
【0036】
「ポリペプチド」及び「タンパク質」という用語は、天然に存在するアミノ酸だけから構成される分子と同様に、天然に存在しないアミノ酸から構成される分子も包含する。天然に存在しないアミノ酸の例(所望により、本明細書に開示される任意の配列に見られる任意の天然に存在するアミノ酸と置換することができる)としては、4-ヒドロキシプロリン、γ-カルボキシグルタメート、ε-N,N,N-トリメチルリジン、ε-N-アセチルリジン、O-ホスホセリン、N-アセチルセリン、N-ホルミルメチオニン、3-メチルヒスチジン、5-ヒドロキシリジン、σ-N-メチルアルギニン、並びに他の類似のアミノ酸及びイミノ酸(例えば、4-ヒドロキシプロリン)が挙げられる。本明細書で使用されるポリペプチド表記法では、標準的な使用法及び慣例に従って、左手方向がアミノ末端方向であり、右手方向がカルボキシル末端方向である。
【0037】
タンパク質若しくはポリペプチド配列に挿入され得る、又はタンパク質若しくはポリペプチド配列の野生型残基に対して置換され得る天然に存在しないアミノ酸の例の非限定なリストには、β-アミノ酸、ホモアミノ酸、環状アミノ酸及び側鎖が誘導体化されたアミノ酸が含まれる。例としては、以下のものが含まれる(L-型又はD-型;括弧内のように省略される):シトルリン(Cit)、ホモシトルリン(hCit)、Nα-メチルシトルリン(NMeCit)、Nα-メチルホモシトルリン(Nα-MeHoCit)、オルニチン(Orn)、Nα-メチルオルニチン(Nα-MeOrn又はNMeOrn)、サルコシン(Sar)、ホモリジン(hLys又はhK)、ホモアルギニン(hArg又はhR)、ホモグルタミン(hQ)、Nα-メチルアルギニン(NMeR)、Nα-メチルロイシン(Nα-MeL又はNMeL)、N-メチルホモリジン(NMeHoK)、Nα-メチルグルタミン(NMeQ)、ノルロイシン(Nle)、ノルバリン(Nva)、1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン(Tic)、オクタヒドロインドール-2-カルボン酸(Oic)、3-(1-ナフチル)アラニン(1-Nal)、3-(2-ナフチル)アラニン(2-Nal)、1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン(Tic)、2-インダニルグリシン(IgI)、パラ-ヨードフェニルアラニン(pI-Phe)、パラ-アミノフェニルアラニン(4AmP又は4-アミノ-Phe)、4-グアニジノフェニルアラニン(Guf)、グリシルリジン(「K(Nε-グリシル)」又は「K(グリシル)」又は「K(gly)」と省略)、ニトロフェニルアラニン(ニトロphe)、アミノフェニルアラニン(アミノphe又はアミノ-Phe)、ベンジルフェニルアラニン(ベンジルphe)、γ-カルボキシグルタミン酸(γ-カルボキシglu)、ヒドロキシプロリン(ヒドロキシpro)、p-カルボキシル-フェニルアラニン(Cpa)、α-アミノアジピン酸(Aad)、Nα-メチルバリン(NMeVal)、N-α-メチルロイシン(NMeLeu)、Nα-メチルノルロイシン(NMeNle)、シクロペンチルグリシン(Cpg)、シクロヘキシルグリシン(Chg)、アセチルアルギニン(アセチルarg)、α,β-ジアミノプロピオン酸(Dpr)、α,γ-ジアミノ酪酸(Dab)、ジアミノプロピオン酸(Dap)、シクロヘキシルアラニン(Cha)、4-メチル-フェニルアラニン(MePhe)、β,β-ジフェニル-アラニン(BiPhA)、アミノ酪酸(Abu)、4-フェニル-フェニルアラニン(又はビフェニルアラニン;4Bip)、α-アミノ-イソ酪酸(Aib)、ベータ-アラニン、ベータ-アミノプロピオン酸、ピぺリジン酸、アミノカプロン酸、アミノヘプタン酸、アミノピメリン酸、デスモシン、ジアミノピメリン酸、N-エチルグリシン、N-エチルアスパラギン、ヒドロキシリジン、アロ-ヒドロキシリジン、イソデスモシン、アロ-イソロイシン、N-メチルグリシン、N-メチルイソロイシン、N-メチルバリン、4-ヒドロキシプロリン(Hyp)、γ-カルボキシグルタメート、ε-N,N,N-トリメチルリジン、ε-N-アセチルリジン、O-ホスホセリン、N-アセチルセリン、N-ホルミルメチオニン、3-メチルヒスチジン、5-ヒドロキシリジン、ω-メチルアルギニン、4-アミノ-O-フタル酸(4APA)及び他の類似のアミノ酸、並びにこれらの具体的に列挙されるいずれかの誘導体化形態。
【0038】
本明細書で使用する場合、核酸に関連して使用される「異種」という用語は、宿主細胞内に天然に存在しない核酸を有することを意味する。この用語には、変異配列、例えば、天然に存在する配列とは異なる配列が含まれ得る。この用語には、他種由来の配列が含まれ得る。また、宿主細胞内に自然に存在するのではなく、ゲノム上の異なる位置に配列を有することも含み得る。一般に、宿主細胞で発生する可能性のある自然変異は含まれない。例えば、発現カセットを安定的に組み込むことによって目的のタンパク質をコードする異種核酸を既に含む細胞は、異種核酸配列を含むものとみなされる。明確にするために、抗原結合タンパク質をコードする核酸を有するCHO細胞又はその誘導体(例えば、dhfr-又はGSノックアウト)は、異種核酸を有するものとみなされる。本開示は、以下の両方を想定するものである:(1)例えば、マスターセルバンク又はワーキングセルバンクを作製するために、本明細書に記載されるような変異型IGF1Rをコードする核酸配列を組み込むように最初に改変され、次いで、例えば抗体をコードする核酸配列を組み込むようにさらに改変された宿主細胞(例えば、CHO細胞);及び(2)目的の異種タンパク質、例えば抗体をコードする核酸を既に有し、次いで本明細書に記載されるような変異型IGF1Rをコードする核酸配列を組み込むようにさらに改変された細胞、例えばマスターセルバンク又はワーキングセルバンク。
【0039】
本明細書で使用する場合、「抗原結合タンパク質」という用語は、最も広い意味で用いられ、抗原又は標的に結合する部分と、任意選択により、抗原結合部分が抗原と結合するのを促進する立体構造を取ることが可能な足場又はフレームワーク部分とを含むタンパク質を意味する。抗原結合タンパク質の例としては、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、組換え抗体、単鎖抗体、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、Fabフラグメント、F(ab’)フラグメント、IgD抗体、IgE抗体、IgM抗体、IgG1抗体、IgG2抗体、IgG3抗体、又はIgG4抗体、及びそのこれらのフラグメントが挙げられる。抗原結合タンパク質は、例えば、グラフト化CDR又はCDR誘導体を有する代替のタンパク質足場又は人工の足場を含み得る。そのような足場としては、例えば、抗原結合タンパク質の三次元構造を安定化するために導入される変異を含む抗体に由来する足場だけでなく、例えば、生体適合性ポリマーを含む完全な合成足場も含まれるが、これらに限定されない。例えば、Korndorfer et al.,2003,Proteins:Structure,Function,and Bioinformatics,53(1):121-129;Roque et al.,2004,Biotechnol.Prog.20:639-654を参照されたい。加えて、ペプチド抗体模倣体(「PAM」)、並びに足場としてフィブロネクチン成分を用いる抗体模倣体に基づく足場が使用され得る。
【0040】
抗原結合タンパク質は、例えば、天然に存在する免疫グロブリンの構造を有し得る。「免疫グロブリン」は、四量体分子である。天然に存在する免疫グロブリンにおいて、各四量体は、各対が1つの「軽」鎖(約25kDa)及び1つの「重」鎖(約50~70kDa)を有する2つの同一の対のポリペプチド鎖から構成される。各鎖のアミノ末端部分は、抗原認識に主に関与する約100~110個以上のアミノ酸の可変領域を含む。各鎖のカルボキシ末端部分は、主にエフェクター機能に関与する定常領域を規定する。ヒト軽鎖は、カッパ軽鎖及びラムダ軽鎖に分類される。重鎖は、ミュー、デルタ、ガンマ、アルファ、又はイプシロンとして分類され、抗体のアイソタイプはIgM、IgD、IgG、IgA、及びIgEとそれぞれ定義される。
【0041】
天然に存在する免疫グロブリン鎖は、相補性決定領域又はCDRとも呼ばれる3つの超可変領域によって連結された比較的保存されたフレームワーク領域(FR)の同じ一般構造を示す。N末端からC末端まで、軽鎖及び重鎖の両方が、ドメインFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3及びFR4を含む。各ドメインへのアミノ酸の割り当ては、Kabat et al.in Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.,US Dept.of Health and Human Services,PHS,NIH,NIH Publication no.91-3242,(1991)の定義に従って行うことができる。必要に応じて、Chothiaのような代替的な命名スキームに従ってCDRを再定義することもできる(Chothia & Lesk,1987,J.Mol.Biol.196:901-917;Chothia et al.,1989,Nature 342:878-883又はHonegger & Pluckthun,2001,J.Mol.Biol.309:657-670を参照されたい)。
【0042】
本開示の文脈では、抗原結合タンパク質は、解離定数(K)が≦10-8Mである場合に、その標的抗原に「特異的に結合する」又は「選択的に結合する」と言われる。抗体は、Kが≦5×10-9Mである場合は「高い親和性」で抗原と特異的に結合し、Kが≦5×10-10Mの場合は「極めて高い親和性」で抗原と特異的に結合する。
【0043】
「抗体」という用語は、特に指定のない限り、任意のアイソタイプ若しくはサブクラスのグリコシル化及び非グリコシル化免疫グロブリンの両方、又は特異的結合についてインタクトな抗体と競合するその抗原結合領域への言及を含む。加えて、「抗体」という用語は、特に指定のない限り、インタクトな免疫グロブリン、又は特異的結合についてインタクトな抗体と競合するその抗原結合部分を指す。抗原結合部分は、組換えDNA技術、又はインタクト抗体の酵素的若しくは化学的切断によって生成することができ、目的のタンパク質のエレメントを形成することができる。抗原結合部分には、特に、Fab、Fab’、F(ab’)、Fv、ドメイン抗体(dAbs)、相補性決定領域(CDR)を含むフラグメント、単鎖抗体(scFv)、キメラ抗体、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、及び特異的抗原結合をポリペプチドに付与するのに十分な免疫グロブリンの少なくとも一部を含むポリペプチドが含まれる。
【0044】
FabフラグメントはV、V、C及びC1ドメインを有する一価フラグメントであり、F(ab’)フラグメントはヒンジ領域でジスルフィド架橋により連結される2つのFabフラグメントを有する二価フラグメントであり、FdフラグメントはV及びC1ドメインを有し、Fvフラグメントは抗体のシングルアームのV及びVドメインを有し、dAbフラグメントは、Vドメイン、Vドメイン、又はV若しくはVドメインの抗原結合フラグメントを有する(米国特許第6,846,634号明細書、同第6,696,245号明細書、米国特許出願公開第2005/0202512号明細書、同第2004/0202995号明細書、同第2004/0038291号明細書、同第2004/0009507号明細書、同第2003/0039958号明細書、Ward et al.,1989,Nature 341:544-546)。
【0045】
単鎖抗体(scFv)は、V及びV領域がリンカー(例えば、アミノ酸残基の合成配列)を介して結合されて、連続的なタンパク質鎖を形成する抗体であり、リンカーは、タンパク質鎖がそれ自体折り畳まれ、且つ一価抗原結合部位を形成することを可能にするのに十分な長さである(例えば、Bird et al.,1988,Science 242:423-26及びHuston et al.,1988,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879-83を参照されたい)。ダイアボディは、2つのポリペプチド鎖から構成される二価抗体であり、各ポリペプチド鎖は、同じ鎖上の2つのドメイン間で対合することが可能となるには短すぎるリンカーによって結合されたV及びVドメインから構成されており、これによって各ドメインは別のポリペプチド鎖上の相補的なドメインと対合することが可能となる(例えば、Holliger et al.,1993,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6444-48;及びPoljak et al.,1994,Structure 2:1121-23を参照されたい)。ダイアボディの2つのポリペプチド鎖が同一である場合、それらの対合によって得られるダイアボディは、同一の2つの抗原結合部位を有することになる。異なる配列を有するポリペプチド鎖を使用すると、2つの異なる抗原結合部位を有するダイアボディを作製することができる。同様に、トリアボディ及びテトラボディは、それぞれ3本及び4本のポリペプチド鎖から構成され、それぞれ同一でも異なっていてもよい3つ及び4つの抗原結合部位を形成する抗体である。
【0046】
1つ以上のCDRを共有結合的又は非共有結合的に分子に組み込み、これを抗原結合タンパク質としてもよい。抗原結合タンパク質は、より大きなポリペプチド鎖の一部としてCDRを組み込むことができ、そのCDRを別のポリペプチド鎖に共有結合させることができ、又はそのCDRを非共有結合により組み込むことができる。このCDRによって、抗原結合タンパク質を特定の目的の抗原に特異的に結合させることが可能となる。
【0047】
抗原結合タンパク質は、1つ以上の結合部位を有し得る。2つ以上の結合部位が存在する場合、結合部位は互いに同一であってもよく、又は異なっていてもよい。例えば、天然に存在するヒト免疫グロブリンは、典型的には2つの同一の結合部位を有するが、「二重特異性」又は「二機能性」抗体は、2つの異なる結合部位を有する。
【0048】
明確にするために、また、本明細書に記載するように、抗原結合タンパク質はヒト由来(例えば、ヒト抗体)であってよいが、そうである必要はなく、場合によっては非ヒトタンパク質、例えばラット又はマウスタンパク質から構成され、他の場合では抗原結合タンパク質はヒトタンパク質と非ヒトタンパク質とのハイブリッド(例えば、ヒト化抗体)から構成されてもよいことに留意する。
【0049】
目的のタンパク質は、ヒト抗体を含み得る。「ヒト抗体」という用語は、ヒト免疫グロブリン配列に由来する1つ以上の可変領域及び定常領域を有する全ての抗体を含む。一実施形態では、可変ドメイン及び定常ドメインの全てが、ヒト免疫グロブリン配列に由来する(完全ヒト抗体)。このような抗体は、Xenomouse(登録商標)、UltiMab(商標)、又はVelocimmune(登録商標)系に由来するマウスなどの、ヒト重鎖及び/又は軽鎖をコードする遺伝子由来の抗体を発現するように遺伝子改変されたマウスの対象となる抗原で免疫化することによるものを含む、様々な方法で調製することができる。ファージベースの手法を用いることもできる。
【0050】
或いは、目的のタンパク質は、ヒト化抗体を含み得る。「ヒト化抗体」は、1つ以上のアミノ酸置換、欠失、及び/又は付加により、非ヒト種由来の抗体の配列とは異なる配列を有する。そのため、ヒト化抗体は、ヒト対象に投与した場合、非ヒト種抗体と比較して免疫応答を誘導する可能性が低くなり、且つ/又はそれほど重篤でない免疫応答を誘導する。一実施形態では、非ヒト種抗体のフレームワーク内、並びに重鎖及び/又は軽鎖の定常ドメイン内の特定のアミノ酸を変異させて、ヒト化抗体を生成する。別の実施形態では、ヒト抗体由来の定常ドメインを非ヒト種の可変ドメインに融合させる。ヒト化抗体を作製する方法の例は、米国特許第6,054,297号明細書、同第5,886,152号明細書及び同第5,877,293号明細書に見出され得る。
【0051】
「Fc」領域は、この用語を本明細書で使用する場合、抗体のC2ドメイン及びC3ドメインを含む2つの重鎖フラグメントから構成されている。2つの重鎖フラグメントは、2つ以上のジスルフィド結合及びC3ドメインの疎水性相互作用によって結合されている。抗原結合タンパク質及びFc融合タンパク質を含む、Fc領域から構成される目的のタンパク質は、本開示の別の態様を構成する。
【0052】
「ヘミボディ」とは、完全な重鎖と、完全な軽鎖と、完全な重鎖のFc領域と対合する第2の重鎖Fc領域とを含む免疫学的に機能的な免疫グロブリン構築物である。重鎖Fc領域と第2の重鎖Fc領域を結合するためにリンカーを使用することができるが、必ずしもそうである必要はない。特定の実施形態では、ヘミボディは、本明細書に開示される一価形態の抗原結合タンパク質である。他の実施形態では、荷電残基の対合を用いて一方のFc領域を第2のFc領域と結合させることができる。ヘミボディは、本開示の文脈における目的のタンパク質であり得る。
【0053】
本明細書で使用する場合、「バイオリアクター」という用語は、細胞培養物の増殖に有用なあらゆる容器を意味する。本開示の細胞培養物は、バイオリアクター内で増殖させることができ、このバイオリアクターは、バイオリアクター内で増殖する細胞によって生産される目的のタンパク質の用途に基づいて選択することができる。バイオリアクターは、細胞の培養に有用である限り、どのような大きさであってもよく、典型的にはその中で増殖させる細胞培養物の容積に適切な大きさである。典型的に、バイオリアクターは少なくとも1リットルであり、2、5、10、50、100、200、250、500、1000、1500、2000、2500、5000、8000、10000、12000リットル以上、又はその間の任意の容積であってよい。培養期間中に、pH及び温度を含むがこれらに限定されないバイオリアクターの内部条件を制御することができる。当業者であれば、関連する懸念事項に基づいて、本明細書で開示される方法を実施する際に使用するのに好適なバイオリアクターを認識し、選択することができる。
【0054】
本明細書で使用する場合、「細胞培養」又は「培養」は、多細胞生物又は組織の外部での細胞の増殖及び繁殖を意味する。哺乳類細胞に好適な培養条件は、当該技術分野において公知である。例えば、Animal cell culture:A Practical Approach,D.Rickwood,ed.,Oxford University Press,New York(1992)を参照されたい。哺乳類細胞は、懸濁液中で、又は固形培養基に付着させながら培養してもよい。流動床バイオリアクター、中空糸型バイオリアクター、ローラーボトル、振盪フラスコ、又は撹拌槽バイオリアクターを、マイクロキャリアの有無に関わらず使用することができる。一実施形態では、500L~2000Lのバイオリアクターが使用される。一実施形態では、1000L~2000Lのバイオリアクターが使用される。
【0055】
「細胞培養培地(cell culturing medium)」(「培養培地」、「細胞培養培地(cell culture media)」、「組織培養培地」とも呼ばれる)という用語は、増殖細胞、例えば、動物又は哺乳類細胞に使用される任意の栄養液を指し、一般に、以下に由来する少なくとも1つ以上の成分を提供するものである:エネルギー源(通常、グルコースなどの炭水化物の形態);全ての必須アミノ酸、及び一般に20種の基本的なアミノ酸とシステインのうちの1つ以上;典型的には低濃度で必要とされるビタミン及び/又は他の有機化合物;脂質又は遊離脂肪酸;並びに通常マイクロモル濃度範囲において典型的には非常に低濃度で必要とされる微量元素、例えば、無機化合物又は天然に存在する元素。
【0056】
栄養液は、培養される細胞の要件及び/又は所望の細胞培養パラメーターに応じて、細胞の増殖を最適化するための追加の任意選択的な成分、例えば、ホルモン及び他の増殖因子、例えばインスリン、トランスフェリン、上皮増殖因子、血清など;塩、例えばカルシウム、マグネシウム及びリン酸塩、並びに緩衝液、例えばHEPES;ヌクレオシド及び塩基、例えばアデノシン、チミジン、ヒポキサンチン;並びにタンパク質及び組織加水分解物、例えば加水分解された動物性又は植物性タンパク質(動物由来成分から得られる可能性のあるペプトン又はペプトン混合物、精製ゼラチン又は植物材料);抗生物質、例えばゲンタマイシン;Pluronic(登録商標)F68(Lutrol(登録商標)F68及びKolliphor(登録商標)P188とも称される)などの細胞保護剤又は界面活性剤;ポリオキシエチレン(ポリ(エチレンオキシド))の2つの親水性鎖に挟まれたポリオキシプロピレン(ポリ(プロピレンオキシド))の中央の疎水性鎖からなる非イオン性トリブロックコポリマー;ポリアミン、例えばプトレシン、スペルミジン及びスペルミン(例えば、国際公開第2008/154014号パンフレットを参照されたい)並びにピルベート(例えば、米国特許第8,053,238号明細書を参照されたい)で任意選択的に補充してもよい。
【0057】
細胞培養培地としては、以下に限定されないが、細胞の回分培養、拡張回分培養、流加培養及び/又は灌流培養若しくは連続培養などの任意の細胞培養プロセスにおいて典型的に利用され、且つ/又はそれとの使用に関して知られるものが挙げられる。
【0058】
「基礎」(又は回分)細胞培養培地は、典型的に、細胞培養を開始するのに使用され、細胞培養を補助するのに十分に完全である細胞培養培地を指す。
【0059】
「流加培養」とは、懸濁培養の一形態を指し、培養プロセスの開始時又はその後の時点で追加の成分が培養液に供給される細胞の培養方法を意味する。提供される成分は、典型的に、培養プロセス中に枯渇した細胞用栄養サプリメントを含む。加えて又は代替的に、追加の成分は、サプリメント成分(例えば、細胞周期阻害化合物)を含み得る。流加培養は、典型的に、ある時点で停止され、培地中の細胞及び/又は成分が回収され、任意選択により精製される。
【0060】
「増殖」細胞培養培地は、典型的に、指数増殖の期間である「増殖期」の間の細胞培養に使用され、この期の間の細胞培養を補助するのに十分に完全である細胞培養培地を指す。増殖細胞培養培地はまた、宿主細胞株に組み込まれた選択マーカーに耐性又は生存を付与する選択薬剤を含有してもよい。このような選択薬剤としては、ジェネテシン(G418)、ネオマイシン、ハイグロマイシンB、ピューロマイシン、ゼオシン、メチオニンスルホキシミン、メトトレキサート、グルタミンを含まない細胞培養培地、グリシン、ヒポキサンチン及びチミジンを欠くか、又はチミジンのみを欠く細胞培養培地が挙げられるが、これらに限定されない。
【0061】
「灌流」細胞培養培地は、典型的に、灌流又は連続培養法によって維持され、このプロセスの間に細胞培養を補助するのに十分に完全である細胞培養に使用される細胞培養培地を指す。灌流細胞培養培地配合物は、使用済み培地を除去するために使用される方法に対応するために、基礎細胞培養培地配合物よりも濃いか、又はより濃縮されていてもよい。灌流細胞培養培地は、増殖期及び生産期の両方で使用することができる。
【0062】
「生産」細胞培養培地は、典型的に、指数増殖が終了し、タンパク質の生産に置き換わるときに移行する間の「移行」期及び/又は「生産」期の細胞培養に使用され、この期の間の所望の細胞密度、生存率及び/又は生産力価を維持するのに十分に完全である細胞培養培地を指す。
【0063】
濃縮細胞培養培地は、細胞培養を維持するために必要な栄養素の一部又は全てを含むことができ、特に、濃縮培地は、細胞培養の生産期の過程の間に消費されることが確認されているか又は知られている栄養素を含み得る。濃縮培地は、ほとんどのあらゆる細胞培養培地配合物を基準としてもよい。このような濃縮フィード培地は、細胞培養培地の一部又は全ての成分を、例えば、それらの通常の量の約2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、12倍、14倍、16倍、20倍、30倍、50倍、100倍、200倍、400倍、600倍、800倍、或いは約1000倍で含み得る。
【0064】
細胞培養培地を調製するために使用する成分は、完全に粉砕して粉末培地配合物にしてもよく、必要に応じて細胞培養培地に添加した液体サプリメントと共に部分的に粉砕してもよく、又は完全に液体の形態で細胞培養液に添加してもよい。
【0065】
細胞培養液はまた、製剤化が困難であるか、又は細胞培養液中で速やかに枯渇する可能性のある、特定の栄養素の個々の濃縮フィードで補充することができる。そのような栄養素は、チロシン、システイン及び/又はシスチンなどのアミノ酸であってよい(例えば、国際公開第2012/145682号パンフレットを参照されたい)。例えば、チロシンの濃縮溶液を、チロシンを含有する細胞培養培地中で増殖させた細胞培養液に、細胞培養液中のチロシンの濃度が8mMを超えないように個々にフィードすることができる。別の例では、チロシン及びシスチンの濃縮溶液を、チロシン、シスチン又はシステインを欠く細胞培養培地中で増殖させた細胞培養液に個々にフィードする。個々のフィードは、生産期の前又は生産期が始まった時点で開始することができる。個々のフィードは、濃縮フィード培地と同日又は異なる日に細胞培養培地に流加することによって達成することができる。個々のフィードは、灌流培地と同日又は異なる日に灌流することもできる。
【0066】
「無血清」は、ウシ胎児血清などの動物血清を含まない細胞培養培地に適用される。定義された培養培地を含む様々な組織培養培地が市販されており、例えば、以下の細胞培養培地のいずれか1つ又はその組み合わせを使用することができる:特に、RPMI-1640培地、RPMI-1641培地、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、最小必須培地イーグル、F-12K培地、ハムF12培地、イスコフ改変ダルベッコ培地、マッコイ5A培地、ライボビッツL-15培地、及びEX-CELL(商標)300シリーズ(JRH Biosciences、Lenexa、Kansas)、MCDB 302(Sigma Aldrich Corp.、St.Louis、MO)などの無血清培地。そのような培養培地の無血清バージョンも利用可能である。細胞培養培地は、培養される細胞の要件及び/又は所望の細胞培養パラメーターに応じて、アミノ酸、塩、糖、ビタミン、ホルモン、増殖因子、緩衝液、抗生物質、脂質、微量元素などの成分を追加して、又はこれらの濃度を上昇させて補充してもよい。カスタマイズされた細胞培養培地を使用することもできる。
【0067】
「細胞密度」とは、培養培地の所与の容積中の細胞の数を指す。「生存細胞密度」とは、標準的な生存アッセイ(トリパンブルー色素排除法など)によって測定したときの培養培地の所与の容積中の生細胞の数を指す。
【0068】
「細胞生存」とは、培養中の細胞が、所定の一連の培養条件又は実験変動下で生存する能力を意味する。この用語はまた、特定の時点における培養液中の生細胞及び死滅細胞を合計した数に対して、その時点で生存している細胞の部分を指す。
【0069】
「増殖停止」は、「細胞増殖停止」と称することもあるが、細胞の数の増加が止まる時点、又は細胞周期がもはや進行しなくなる時点のことである。増殖停止は、細胞培養液の生存細胞密度を測定することによって監視することができる。増殖停止状態の一部の細胞は、サイズが大きくなっても数が増えないことがあるため、増殖が停止した培養液の充填細胞容積が増大する場合がある。増殖停止は、細胞の健康が悪化していなければ、増殖停止をもたらす条件を逆転させることにより、ある程度逆転させることができる。
【0070】
「充填細胞容積」(PCV)は、「充填細胞容積率」(%PCV)とも称され、細胞培養液の全容積に対して細胞が占める容積の比率であり、百分率で表される(Stettler et al.,2006,Biotechnol Bioeng.Dec 20:95(6):1228-33を参照されたい)。充填細胞容積は、細胞密度と細胞径の関数であり、充填細胞容積の増大は、細胞密度若しくは細胞径のいずれか又は両方が増大することによって生じ得る。充填細胞容積は、細胞培養液中の固形分の指標である。固形物は、回収及び下流の精製の間に取り除かれる。より多くの固形物があるほど、回収及び下流の精製工程中に所望の産物から固形材料を分離するためにより多くの労力が要求されることを意味する。また、所望の産物が固形物に捕捉され、回収プロセス中に失われる結果として、生産収量の低下がもたらされる可能性がある。宿主細胞のサイズにばらつきがあり、細胞培養液には死滅及び瀕死細胞、並びに他の細胞残屑も含まれているため、充填細胞容積は、細胞培養液内の固形分を表すのに細胞密度又は生存細胞密度よりも正確な方法である。例えば、50×10細胞/mlの細胞密度を有する2000Lの培養液は、細胞のサイズに応じて充填細胞容積が大きく異なることになる。加えて、増殖停止状態では、一部の細胞でサイズが大きくなるため、細胞のサイズが大きくなる結果としてバイオマスが増加することにより、増殖停止前と増殖停止後の充填細胞容積が異なる可能性がある。
【0071】
「力価」とは、所与の量の培地容積中で細胞培養によって生産される目的のポリペプチド又はタンパク質(天然に存在する又は組換え目的タンパク質であってもよい)の総量を意味する。力価は、培地1ミリリットル(又は他の容積の指標)当たりのポリペプチド又はタンパク質を、ミリグラム又はマイクログラムの単位で表すことができる。「累積力価」とは、培養の過程の間に細胞によって生産される力価のことであり、例えば、力価を毎日測定し、その値を用いて累積力価を算出することにより求めることができる。
【0072】
本明細書で使用する場合、「宿主細胞」という用語は、目的のポリペプチドを発現するように遺伝子操作された細胞を含むものと理解される。細胞の遺伝子操作には、宿主細胞に所望の組換えポリペプチドを発現させるように、細胞を組換えポリヌクレオチド分子(「目的の遺伝子」)をコードする核酸でトランスフェクト、形質転換若しくは形質導入すること、及び/又は別の方法で改変すること(例えば、相同組換え及び遺伝子活性化、又は組換え細胞と非組換え細胞との融合によって)を含む。目的のポリペプチドを発現するように細胞及び/又は細胞株を遺伝子操作するための方法及びベクターは当業者によく知られており、例えば、種々の技術が、Current Protocols in Molecular Biology.Ausubel et al.,eds.(Wiley & Sons,New York,1988、及び四半期アップデート);Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(Cold Spring Laboratory Press,1989);Kaufman,R.J.,Large Scale Mammalian Cell Culture,1990,pp.15-69に説明されている。この用語には、目的の遺伝子が存在する限り、元の親細胞と形態又は遺伝的構造が同一であるか否かに関わらず、親細胞の後代が含まれる。細胞培養液は、1つ以上の宿主細胞を含み得る。
【0073】
IGF1Rと関連して本明細書で使用する場合、「構成的に活性」とは、細胞膜内の受容体の領域が近接し、それによって受容体がIGF-1結合の不在下で活性化状態となる立体構造にあることを指す。
【0074】
構成的に活性なIGF1R変異体
IGF1R(インスリン様増殖因子1受容体)とは、哺乳類細胞の表面に見られるタンパク質であり、インスリン様増殖因子1(IGF-1)と呼ばれるホルモンによって活性化される膜貫通受容体である。IGF1Rは、チロシンキナーゼ受容体の大きなクラスに属する。IGF-1は、インスリンと分子構造が類似したポリペプチドタンパク質ホルモンである。加えて、IGF-1は、成体哺乳類の成長及び同化に重要な役割を果たしている。
【0075】
2つのαサブユニットと2つのβサブユニットによってIGF1Rが構成されている。αサブユニットとβサブユニットのどちらもが、単一のmRNA前駆体から合成される。次いで、前駆体がグリコシル化され、タンパク質分解的に切断され、システイン結合によって架橋されて機能的な膜貫通型のαβ鎖が形成される。Gregory et al.,2001,Recent Research Developments in Cancer;437-462を参照されたい。α鎖は細胞外に位置しているが、βサブユニットは膜にまたがっており、リガンドが刺激されると細胞内シグナル伝達に関与する。α鎖は5つの細胞外ドメイン(L1、CR、L2、Fn1、Fn2)に分けられ、その後に挿入ドメイン(ID)が続く一方で、β鎖は、細胞外のFn2ドメイン及びFn3ドメインから構成され、その後に膜貫通(TM)領域及びチロシンキナーゼドメインが続く。Kavran et al.,2014,eLife 3:e03772を参照されたい。
【0076】
IGR1RはATP結合部位を有し、この部位は自己リン酸化のためのリン酸を供給するために用いられる。チロシン残基1165及び1166の自己リン酸化複合体の構造が、IGF1Rキナーゼドメインの結晶内で同定されている。Xu et al.,2015,Science Signaling 8(405):rs13を参照されたい。
【0077】
α鎖は、リガンドの結合に応答してβ鎖のチロシン自己リン酸化を誘導する。この事象は、細胞型に特異的ではあるが、細胞内シグナル伝達のカスケードを引き起こし、多くの場合細胞生存及び細胞増殖を促進する。Jones et al.,1995,Endocrine Reviews 16(1):3-34及びLeRoith et al.,1995,Endocrine Reviews 16(2):143-63を参照されたい。
【0078】
組換えタンパク質のラージスケール生産において、細胞培養培地にIGF-1を補充することが一般的になっているのは、細胞増殖におけるこの効果によるものである。本開示により、IGF1Rを強制的に構成的に活性な状態にすることにより、同様の増殖率及び生産性を維持しながら、ラージスケールでの組換えタンパク質の製造にIGF-1を低減又は省略できることが発見された。
【0079】
本明細書に開示される方法及び細胞株では、構成的に活性な任意のIGF1R変異体を使用することができる。そのような変異体は、IGF-1の不在下で以下の特徴の1つ以上を有する:(1)各βサブユニットの膜貫通ドメインが互いに結合し、(2)受容体がリン酸化され、(3)シグナル伝達が開始する。構成的に活性なIGF1Rを生成するための方式としては、細胞外ドメイン全体を除去すること、L1ドメインなどの細胞外ドメインのより小さなフラグメントを除去すること、細胞外ドメインと膜貫通ドメインとの間のリンカーを長くすること、及びシステイン残基を挿入/欠失することによってα鎖内のジスルフィド結合を生成/除去することが含まれる。
【0080】
2つの例示的な変異が説明されている。Kavran et al.,2014,eLife 3:e03772を参照されたい。1つ目は、α鎖のL1領域全体の欠失であり、これによってTM領域を隔てるL1:FN2’-3’間のサブユニット間の相互作用が排除される。2つ目は、ECDとTMの間の細胞外膜近傍領域内に位置するH905C変異(ヒト配列内)である。
【0081】
これら2つの変異体のアミノ酸配列及びヌクレオチド配列を、それぞれ表1及び2に示す。
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【0084】
【表3】
【0085】
【表4】
【0086】
【表5】
【0087】
【表6】
【0088】
【表7】
【0089】
【表8】
【0090】
【表9】
【0091】
【表10】
【0092】
【表11】
【0093】
【表12】
【0094】
【表13】
【0095】
【表14】
【0096】
【表15】
【0097】
【表16】
【0098】
【表17】
【0099】
【表18】
【0100】
【表19】
【0101】
【表20】
【0102】
【表21】
【0103】
【表22】
【0104】
【表23】
【0105】
【表24】
【0106】
本開示は、上記のアミノ酸配列のいずれかに対して1つ以上のアミノ酸置換を有するさらなる変異型IGF1R配列を提供する。例えば、IGF1R変異体は、IGF1R変異体が構成的に活性である限り、少なくとも1つの変異、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10又はそれ以上の変異を含むことができる。
【0107】
本開示はまた、上記の配列のいずれかと少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、又は約90%超(例えば、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、又は約99%)の配列同一性を有するさらなる変異型IGF1R配列を提供する。
【0108】
本開示はまた、L1サブユニットが、L1の少なくとも1、2、3、4、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、70、75、80、85、90、95、100、105、110、115、120、125、130、135、140、145、150、155、160、165、170、175、180、185、190、195、又は200個のアミノ酸全体の欠失を含み、変異体が構成的に活性である、さらなるIGF1R欠失変異体を提供する。
【0109】
例示的な実施形態では、IGF1R変異体は、上記のアミノ酸配列のいずれかに対して少なくとも1つのアミノ酸置換を含むアミノ酸配列を含み、アミノ酸置換は保存的アミノ酸置換である。本明細書で使用する場合、「保存的アミノ酸置換」という用語は、あるアミノ酸を類似した性質、例えば、サイズ、電荷、疎水性、親水性、及び/又は芳香族性を有する別のアミノ酸に置換することを意味するものであり、以下の5つの群のうちの1つの範囲内における交換を含む:
I.小型で脂肪族の無極性又は微極性残基:Ala、Ser、Thr、Pro、Gly;
II.極性の負に帯電した残基、並びにそれらのアミド及びエステル:Asp、Asn、Glu、Gln、システイン酸及びホモシステイン酸;
III.極性の正に帯電した残基:His、Arg、Lys;オルニチン(Orn)
IV.大型で脂肪族の無極性残基:Met、Leu、Ile、Val、Cys、ノルロイシン(Nle)、ホモシステイン
V.大型の芳香族残基:Phe、Tyr、Trp、アセチルフェニルアラニン。
【0110】
例示的な実施形態では、IGF1R変異体は、上記のアミノ酸配列のいずれかに対して少なくとも1つのアミノ酸置換を含むアミノ酸配列を含み、アミノ酸置換は非保存的アミノ酸置換である。本明細書で使用する場合、「非保存的アミノ酸置換」という用語は、本明細書では、あるアミノ酸を異なる特性、例えば、サイズ、電荷、疎水性、親水性、及び/又は芳香族性を有する別のアミノ酸に置換することとして定義され、上記の5つの群以外の交換を含む。
【0111】
IGF1R変異体を含む哺乳類宿主細胞の生成
細胞内のIGF1R変異体の過剰発現(すなわち、細胞内の少なくとも1コピーの発現)は、一過性又は安定発現のいずれかによる周知の方法によって達成することができる(Davis et al.,Basic Methods in Molecular Biology,2nd ed.,Appleton & Lange,Norwalk,Conn.,1994;Sambrook et al.,Molecular Cloning;A Laboratory Manual,3rJ ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,2001)。一実施形態では、IGF1R変異体コード配列は、ゲノム標的領域の一方又は両方のアレルに安定的に組み込まれる。
【0112】
安定的に組み込むための方法は、当該技術分野においてよく知られている。要約すると、安定的な組み込みは、異種ポリヌクレオチド又は異種ポリヌクレオチドを含むベクターを宿主細胞に一過性に導入することによって一般に達成され、これによって前記異種ポリヌクレオチドの細胞ゲノムへの安定的な組み込みが促進される。典型的には、異種ポリヌクレオチドは、相同性アーム、すなわち、組み込み部位に対して上流及び下流領域に相同な配列と隣接している。それらを哺乳類宿主細胞に導入する前に、環状ベクターを線状にし、細胞ゲノムへの組み込みを容易にしてもよい。ベクターを細胞に導入するための方法は、当該技術分野においてよく知られており、ウイルス送達などの生物学的方法、カチオン性ポリマー、リン酸カルシウム、カチオン性脂質若しくはカチオン性アミノ酸を用いるような化学的方法;エレクトロポレーション若しくはマイクロインジェクションなどの物理的方法;又はプロトプラスト融合などの混合手法によるトランスフェクションが挙げられる。
【0113】
哺乳類細胞を安定的にトランスフェクトする場合、使用される発現ベクター及びトランスフェクション技法に応じて、ごくわずかな細胞のみで外来DNAをそのゲノムに組み込むことができることが知られている。こうした組み込み体を識別して選択するため、一般に、選択マーカー(例えば、抗生物質耐性のための)をコードする遺伝子が目的遺伝子と共に宿主細胞に導入される。好ましい選択マーカーとしては、G418、ハイグロマイシン及びメトトレキサートなどの薬物に対する耐性を付与するものが挙げられる。導入された核酸で安定的にトランスフェクトした細胞は、他の方法の中でも特に、薬物選択によって識別することができる(例えば、選択マーカー遺伝子が組み込まれた細胞は生存することになるが、他の細胞は死滅する)。
【0114】
ベクターは、情報をコードするタンパク質を宿主細胞及び/又は特定の位置及び/又は宿主細胞内の区画に移行させ、且つ/又は輸送するために使用するのに好適な任意の分子又は実体(例えば、核酸、プラスミド、バクテリオファージ、トランスポゾン、コスミド、染色体、ウイルス、ウイルスカプシド、ビリオン、ネイキッドDNA、複合体を形成したDNAなど)であってよい。ベクターは、ウイルス及び非ウイルスベクター、非エピソーム哺乳類ベクターを含んでもよい。ベクターは、発現ベクター、例えば、組換え発現ベクター及びクローニングベクターと呼ばれることが多い。ベクターを宿主細胞に導入してベクター自体の複製を可能にし、それによってその中に含有されるポリヌクレオチドのコピーを増幅させることができる。クローニングベクターは、複製起点、プロモーター配列、転写開始配列、エンハンサー配列及び選択マーカーが一般的に挙げられるが、これらに限定されない配列成分を含有し得る。これらのエレメントは、当業者により必要に応じて選択され得る。
【0115】
ベクターは、宿主細胞の形質転換に有用であり、そこに作動可能に連結された1つ以上の異種コード領域の発現を(宿主細胞と協働して)誘導及び/又は制御する核酸配列を含む。発現構築物は、転写、翻訳に影響するか、又はそれを制御し、イントロンが存在するのであれば、そこに作動可能に連結されたコード領域のRNAスプライシングに影響する配列を含み得るがこれに限定されない。「作動可能に連結される」は、この用語が適用される構成要素が、それらの固有機能を果たすことができる関係にあることを意味する。例えば、タンパク質コード配列に「作動可能に連結される」ベクター内の制御配列、例えばプロモーターは、この制御配列が正常に活性化することによってタンパク質コード配列の転写がもたらされ、コードされたタンパク質の組換え発現が生じるように配置される。
【0116】
ベクターは、用いられる特定の宿主細胞内で機能的となるように選択され得る(すなわち、ベクターは、宿主の細胞機構と適合し、遺伝子の増幅及び/又は発現を可能にし得る)。いくつかの実施形態では、ジヒドロ葉酸レダクターゼなどのタンパク質レポーターを使用するタンパク質断片相補アッセイを使用するベクターが使用される(例えば、米国特許第6,270,964号明細書を参照されたい)。好適な発現ベクターは、当該技術分野において公知であり、また市販されている。
【0117】
典型的には、宿主細胞に使用されるベクターは、プラスミドを維持するための配列と、外因性ヌクレオチド配列のクローニング及び発現のための配列とを含む。このような配列は、典型的には、以下のヌクレオチド配列のうちの1つ以上を含む:プロモーター、1つ以上のエンハンサー配列、複製起点、転写及び翻訳制御配列、転写終結配列、ドナー及びアクセプタースプライス部位を含む完全イントロン配列、グリコシル化又は収量を改善するための様々なプレ配列又はプロ配列、ポリペプチドを分泌するための天然又は異種シグナル配列(リーダー配列又はシグナルペプチド)、リボソーム結合部位、ポリアデニル化配列、内部リボソーム進入部位(IRES)配列、発現増強配列エレメント(EASE)、三連リーダー(tripartite leader)(TPL)及びアデノウイルス2型に由来するVA遺伝子RNA、発現されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを挿入するためのポリリンカー領域、並びに選択マーカーエレメント。ベクターは、市販のベクターなどの出発ベクターから構築してもよく、さらなるエレメントを個別に入手してベクターに連結してもよい。成分の各々を得るために使用される方法は、当業者によく知られている。
【0118】
ベクター成分は、同種(すなわち宿主細胞と同じ種及び/又は株に由来する)、異種(例えば宿主細胞種又は宿主細胞株以外の種に由来する)、ハイブリッド(すなわち2つ以上の供給源に由来する隣接配列の組み合わせ)、合成又は天然であり得る。ベクターにおいて有用な成分の配列は、マッピング及び/又は制限エンドヌクレアーゼによってこれまでに確認されたもののような、当該技術分野で周知の方法によって得ることができる。加えて、それらは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって、及び/又は好適なプローブでゲノムライブラリーをスクリーニングすることによって得ることができる。
【0119】
リボソーム結合部位は、通常、mRNAの翻訳開始に必要とされ、シャイン・ダルガノ配列(原核生物)又はコザック配列(真核生物)を特徴とするものである。このエレメントは、典型的には、プロモーターの3’側及び発現されるポリペプチドのコード配列の5’側に位置する。
【0120】
複製起点は、宿主細胞内のベクターの増幅を補助する。それらは、市販の原核生物ベクターの一部として含まれていてもよく、また、公知の配列に基づいて化学的に合成してベクターに連結してもよい。種々のウイルス起点(例えば、SV40、ポリオーマ、アデノウイルス、水疱性口内炎ウイルス(VSV)、又はHPV若しくはBPVなどのパピローマウイルス)が、哺乳類細胞でベクターをクローニングするのに有用である。
【0121】
哺乳類宿主細胞の発現ベクターのための転写及び翻訳制御配列は、ウイルスゲノムから切り出すことができる。一般に使用されるプロモーター及びエンハンサー配列は、ポリオーマウイルス、アデノウイルス2型、シミアンウイルス40(SV40)、及びヒトサイトメガロウイルス(CMV)に由来するものである。例えば、前初期遺伝子1のヒトCMVプロモーター/エンハンサーを使用することができる。例えば、Patterson et al.,1994,Applied Microbiol.Biotechnol.40:691-98を参照されたい。SV40ウイルスゲノム、例えば、SV40起点、初期及び後期プロモーター、エンハンサー、スプライス、並びにポリアデニル化部位から誘導されるDNA配列を使用して、哺乳類宿主細胞に構造遺伝子配列を発現させるための他の遺伝エレメントを提供することができる。ウイルス初期及び後期プロモーターは、どちらもウイルスゲノムからフラグメントとして容易に得られるものであり、また、ウイルス複製起点を含み得るため特に有用である(Fiers et al.,1978,Nature 273:113;Kaufman,1990,Meth.in Enzymol.185:487-511)。HindIII部位からSV40ウイルス複製起点の部位に位置するBglI部位に向かって伸びるおよそ250bpの配列が含まれているのであれば、より小さな又はより大きなSV40フラグメントも使用することができる。
【0122】
転写終結配列は、典型的には、ポリペプチドをコードする領域の末端に対して3’側に位置し、転写を終結させる役割を果たす。通常、原核細胞における転写終結配列は、G-Cリッチフラグメントとそれに続くポリT配列である。この配列は、ライブラリーから容易にクローニングされるか、又はさらにベクターの一部として商業的に購入されるが、当業者に公知の核酸合成方法を使用して容易に合成することもできる。
【0123】
選択マーカー遺伝子は、選択培養培地中で増殖させた宿主細胞の生存及び増殖に必要なタンパク質をコードする。典型的な選択マーカー遺伝子は、(a)原核生物宿主細胞に、抗生物質若しくは他の毒素、例えば、アンピシリン、テトラサイクリン、若しくはカナマイシンに対する耐性を付与し;(b)細胞の栄養要求性欠損を補完し;又は(c)複合培地若しくは規定培地から利用できない重要な栄養素を供給するタンパク質をコードする。特異的選択マーカーとしては、カナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、及びテトラサイクリン耐性遺伝子がある。有利なことに、ネオマイシン耐性遺伝子もまた、原核生物宿主細胞及び真核生物宿主細胞の双方における選択に使用することができる。
【0124】
他の選択遺伝子を使用して、発現される遺伝子を増幅してもよい。増幅は、増殖又は細胞生存にとって重要なタンパク質の産生に必要とされる遺伝子が、継続する世代の組換え細胞の染色体内でタンデムに繰り返されるプロセスである。哺乳類細胞に好適な選択マーカーの例としては、グルタミンシンターゼ(GS)/メチオニンスルホキシミン(MSX)系、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)及びプロモーターレスチミジンキナーゼ遺伝子が挙げられる。哺乳類細胞の形質転換体を、その形質転換体のみが唯一ベクターに存在する選択遺伝子によって生存するように適合されている選択圧下に置く。培地中の選択薬剤濃度を連続的に増加させる条件下で形質転換細胞を培養することによって選択圧をかけ、それによって選択遺伝子と目的のタンパク質をコードするDNAとの両方が増幅される。その結果、増幅されたDNAから多量の目的のポリペプチドが合成される。
【0125】
真核生物の宿主細胞発現系にグリコシル化が所望されるような場合、グリコシル化又は収量を向上させるために、種々のプレ配列又はプロ配列を操作してもよい。例えば、特定のシグナルペプチドのペプチダーゼ切断部位を改変するか、又はプロ配列を付加することができるが、これらもグリコシル化に影響し得る。最終タンパク質産物は、発現に付随する1つ以上のさらなるアミノ酸を-1位(成熟タンパク質の最初のアミノ酸に対して)に有し得るが、このアミノ酸は、完全に除去されていなくてもよい。例えば、最終タンパク質産物は、アミノ末端に結合した、ペプチダーゼ切断部位に見られる1つ又は2つのアミノ酸残基を有し得る。或いは、いくつかの酵素切断部位を使用すると、成熟ポリペプチド内のそのような領域で酵素によって切断された場合、わずかにトランケートされた形態の所望のポリペプチドが生じ得る。
【0126】
発現及びクローニングは、典型的には、宿主生物によって認識され、目的のタンパク質をコードする分子に作動可能に連結されたプロモーターを含む。プロモーターは、構造遺伝子(一般に、約100~1000bp以内)の開始コドンの上流(すなわち5’側)に位置し、構造遺伝子の転写を制御する非転写配列である。従来、プロモーターは、2つのクラス:誘導性プロモーター及び構成的プロモーターの一方に分類される。誘導性プロモーターは、栄養素の有無、又は温度の変化などの培養条件のなんらかの変化に応じて、その制御下でDNAからの転写レベルの上昇を引き起こす。一方、構成的プロモーターは、作動可能に連結されている遺伝子を一律に、すなわち遺伝子発現に対する制御をほとんど又は全く行わずに転写する。種々の潜在的な宿主細胞によって認識される多数のプロモーターが周知である。
【0127】
哺乳類宿主細胞と共に使用するのに好適なプロモーターはよく知られており、以下に限定されるものではないが、ポリオーマウイルス、鶏痘ウイルス、アデノウイルス(アデノウイルス2型など)、ウシパピローマウイルス、トリ肉腫ウイルス、サイトメガロウイルス、レトロウイルス、B型肝炎ウイルス、及びシミアンウイルス40(SV40)などのウイルスのゲノムから得られるものが含まれる。他の好適な哺乳類プロモーターとしては、異種哺乳類プロモーター、例えば熱ショックプロモーター及びアクチンプロモーターが挙げられる。
【0128】
対象となり得るさらなるプロモーターとしては下記のものが挙げられるが、これらに限定されない:SV40初期プロモーター(Benoist and Chambon,1981,Nature 290:304-310);CMVプロモーター(Thornsen et al.,1984、Proc.Natl.Acad.U.S.A.81:659-663)、ラウス肉腫ウイルスの3’側の長い末端反復に含まれるプロモーター(Yamamoto et al.,1980,Cell 22:787-797)、ヘルペスチミジンキナーゼプロモーター(Wagner et al.,1981,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.78:1444-1445);グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH);メタロチオニン遺伝子由来のプロモーター及び調節配列(Prinster et al.,1982,Nature 296:39-42);及びβ-ラクタマーゼプロモーターなどの原核生物プロモーター(Villa-Kamaroff et al.,1978,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.75:3727-3731);又はtacプロモーター(DeBoer et al.,1983,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.80:21-25)。また、対象となるのは、組織特異性を示し、且つトランスジェニック動物で利用されている以下の動物転写制御領域である:膵腺房細胞において活性なエラスターゼI遺伝子制御領域(Swift et al.,1984,Cell 38:639-646;Ornitz et al.,1986,Cold Spring Harbor Symp.Quant.Biol.50:399-409;MacDonald,1987,Hepatology 7:425-515);膵β細胞において活性なインスリン遺伝子制御領域(Hanahan,1985,Nature 315:115-122);リンパ球系細胞において活性な免疫グロブリン遺伝子制御領域(Grosschedl et al.,1984,Cell 38:647-658;Adames et al.,1985,Nature 318:533-538;Alexander et al.,1987,Mol.Cell.Biol.7:1436-1444);精巣、乳房、リンパ球及び肥満細胞において活性なマウス乳癌ウイルス制御領域(Leder et al.,1986,Cell 45:485-495);肝臓において活性なアルブミン遺伝子制御領域(Pinkert et al.,1987,Genes and Devel.1:268-276);肝臓において活性なαフェトプロテイン遺伝子制御領域(Krumlauf et al.,1985,Mol.Cell.Biol.5:1639-1648;Hammer et al.,1987,Science 253:53-58);肝臓において活性なα1-アンチトリプシン遺伝子制御領域(Kelsey et al.,1987,Genes and Devel.1:161-171);骨髄細胞において活性なβグロビン遺伝子制御領域(Mogram et al.,1985,Nature 315:338-340;Kollias et al.,1986,Cell 46:89-94);脳内のオリゴデンドロサイト細胞において活性なミエリン塩基性タンパク質遺伝子制御領域(Readhead et al.,1987,Cell 48:703-712);骨格筋において活性なミオシン軽鎖2遺伝子制御領域(Sani,1985,Nature 314:283-286);及び視床下部において活性な性腺刺激放出ホルモン遺伝子制御領域(Mason et al.,1986,Science 234:1372-1378)。
【0129】
高等真核生物による転写を増大させるために、エンハンサー配列をベクターに挿入してもよい。エンハンサーは、プロモーターに作用して転写を増大させる、通常約10~300bp長のDNAのシス作用性エレメントである。エンハンサーは、方向及び位置に比較的依存せず、転写単位に対して5’側及び3’側の両方の位置に見出される。哺乳類遺伝子から入手できるいくつかのエンハンサー配列が公知である(例えば、グロビン、エラスターゼ、アルブミン、αフェトプロテイン及びインスリン)。しかしながら、典型的には、ウイルス由来のエンハンサーが使用される。当該技術分野において公知のSV40エンハンサー、サイトメガロウイルス初期プロモーターエンハンサー、ポリオーマエンハンサー、及びアデノウイルスエンハンサーは、真核生物プロモーターを活性化するための例示的な増強エレメントである。エンハンサーは、ベクターにおいてコード配列の5’側又は3’側のいずれに位置してもよいが、典型的には、プロモーターからの5’側の部位に位置する。
【0130】
目的のタンパク質の細胞外分泌を促進するために、適切な天然又は異種シグナル配列(リーダー配列又はシグナルペプチド)をコードする配列を、発現ベクターに組み込むことができる。シグナルペプチド又はリーダーの選択は、目的のタンパク質を産生する宿主細胞型に依存し、異種シグナル配列を天然のシグナル配列に置き換えることができる。哺乳類宿主細胞内で機能するシグナルペプチドの例としては、以下のものが挙げられる: 米国特許第4,965,195号明細書に記載されているインターロイキン-7についてのシグナル配列;Cosman et al.,1984,Nature 312:768に記載されているインターロイキン-2受容体についてのシグナル配列;欧州特許第0367 566号明細書に記載されているインターロイキン-4受容体シグナルペプチド;米国特許第4,968,607号明細書に記載されているI型インターロイキン-1受容体シグナルペプチド;欧州特許第0 460 846号明細書に記載されているII型インターロイキン-1受容体シグナルペプチド。
【0131】
哺乳類発現ベクターからの異種遺伝子の発現を改善することが示されているさらなる制御配列としては、CHO細胞に由来する発現増強配列エレメント(EASE)(Morris et al.,in Animal Cell Technology,pp.529-534(1997);米国特許第6,312,951 B1号明細書、同第6,027,915号明細書、及び同第6,309,841 B1号明細書)並びに三連リーダー(tripartite leader)(TPL)及びアデノウイルス2型に由来するVA遺伝子RNA(Gingeras et al.,1982,J.Biol.Chem.257:13475-13491)のようなエレメントが含まれる。ウイルス起源の内部リボソーム進入部位(IRES)配列により、ジシストロン性mRNAを効率的に翻訳することが可能となる(Oh and Sarnow,1993,Current Opinion in Genetics and Development 3:295-300;Ramesh et al.,1996,Nucleic Acids Research 24:2697-2700)。
【0132】
構築後、1つ以上のベクターを増幅及び/又はポリペプチド発現に好適な細胞に挿入してもよい。選択された細胞への発現ベクターの形質転換は、トランスフェクション、感染、リン酸カルシウムによる共沈、エレクトロポレーション、ヌクレオフェクション、マイクロインジェクション、DEAE-デキストラン媒介性トランスフェクション、カチオン性脂質媒介性送達、リポソーム媒介性トランスフェクション、微粒子銃、受容体-媒介性遺伝子送達、ポリリジン、ヒストン、キトサン、及びペプチドによって媒介される送達を含む周知の方法によって行ってもよい。選択される方法は、部分的に、使用される宿主細胞型に応じることになる。これらの方法及び他の好適な方法は、当業者によく知られており、マニュアル及びその他の技術出版物、例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,3rd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(2001)に記載されている。
【0133】
「形質転換」という用語は、細胞の遺伝的特徴の変化を指し、細胞が新しいDNA又はRNAを含有するように改変された場合、細胞は形質転換されている。例えば、トランスフェクション、形質導入、又は他の技法によって新しい遺伝物質を導入することにより、細胞がその天然状態から遺伝子改変された場合、細胞は形質転換されている。トランスフェクション又は形質導入に続き、形質転換されたDNAは、細胞の染色体に物理的に組み込むことにより、その細胞のDNAで組換えられる可能性があるか、又はエピソームエレメントとして複製されることなく一過性に維持される可能性があるか、又はプラスミドとして独立して複製される可能性がある。形質転換DNAが細胞分裂しながら複製される場合、細胞は「安定的に形質転換」されているとみなされる。
【0134】
「トランスフェクション」という用語は、細胞による外来DNA又は外因性DNAの取り込みを指す。多くのトランスフェクション技法が当該技術分野で公知であり、また、本明細書で開示されている。例えば、Graham et al.,1973,Virology 52:456;Sambrook et al.,2001,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(上述);Davis et al.,1986,Basic Methods in Molecular Biology,Elsevier;Chu et al.,1981,Gene 13:197を参照されたい。
【0135】
「形質導入」という用語は、これによってウイルスベクターを介して外来DNAが細胞に導入されるプロセスを指す。Jones et al.,(1998).Genetics:principles and analysis.Boston:Jones&Bartlett Publを参照されたい。
【0136】
IGF1R変異体は、ゲノム編集又は遺伝子編集によって内在性IGF1Rを有する宿主細胞に導入することもできる。このようなゲノム編集技術としては、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)関連タンパク質9(Cas9)、PhiC3ファージインテグラーゼなどのインテグラーゼ、転写活性化因子様エフェクター(TALES)、配列特異的リコンビナーゼ、及びSleeping Beautyなどのトランスポゾン/トランスポザーゼ系が挙げられるが、これらに限定されない。例えば、米国特許出願公開第2015/0031132号明細書;国際公開第2018/098671号パンフレット;Ivies et al.,1997,Cell 91(4):501-510;Boch et al.,2009,Science 326(5959):1509-1512;Christian et al.,2010,Genetics 186(2):757-761;Wilber et al.,2011,Stem Cells Int;Vol:2011:Article number 717069;Yusa et al.,2011,Nature 478:391-396;Silva et al.,2011,Curr Gene Ther 11(1):11-27;Cong et al.,2013,Science 339(6121):819-823;Mali et al.,2013,Science 339(6121):823-826,Li et al.,2017,Molecular Therapy:Nucleic Acids Vol.8 September,64-76;及びIshida et al.,2018,Scientific Reports 8:310を参照されたい。
【0137】
宿主細胞は、内在性IGF1Rを含むあらゆる細胞であってよい。遺伝子編集によって生成された点変異に関しては、宿主細胞種とIGF1R配列が確実に一致するように注意する必要がある。例えば、ヒトに関して前述したH905C変異は、対応するマウス配列内のH906C変異に関連付けられる。しかしながら、異なる種に由来するIGF1R配列を異なる種の宿主細胞株で使用することができる。例えば、下記の実施例では、マウス(ハツカネズミ(Mus musculus))のIGF1R変異配列をCHO細胞(モンゴルキヌゲネズミ(Cricetulus)属)で使用した。
【0138】
培養での増殖に好適な多種多様な哺乳類細胞株が、American Type Culture Collection(Manassas、Va.)及び販売業者から入手可能である。業界で一般的に使用されている細胞株の例としては、SV40(COS-7、ATCC CRL 1651)で形質転換されたサル腎臓CV1株;ヒト胎児由来腎臓株(懸濁培養液中で増殖させるためにサブクローニングされた293又は293細胞(Graham et al.,1977,J.Gen Virol.36:59);ベビーハムスター腎臓細胞(BHK、ATCC CCL 10);マウスセルトリ細胞(TM4、Mather,1980,Biol.Reprod.23:243-251);サル腎臓細胞(CV1 ATCC CCL 70);アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO-76、ATCC CRL-1587);ヒト頸癌細胞(HELA、ATCC CCL 2);イヌ腎臓細胞(MDCK、ATCC CCL 34);バッファローラット肝臓細胞(BRL 3A、ATCC CRL 1442);ヒト肺細胞(W138、ATCC CCL 75);ヒト肝細胞癌細胞(Hep G2、HB 8065);マウス乳癌(MMT 060562、ATCC CCL51);TRI細胞(Mather et al.,1982,Annals N.Y Acad.Sci.383:44-68);MRC 5細胞又はFS4細胞;哺乳類骨髄腫細胞、及び多くの他の細胞株、並びにチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞が挙げられる。
【0139】
商業用途のタンパク質のラージスケール生産は、典型的には懸濁培養で行われる。従って、本明細書に記載される組換え哺乳類細胞を生成するために使用される哺乳類宿主細胞は、懸濁培養における増殖に適合させることができるが、そうである必要はない。懸濁培養における増殖に適合した様々な宿主細胞は公知であり、マウス骨髄腫NS0細胞、並びにCFIO-S、DG44、及びDXB11細胞株由来のCLIO細胞が挙げられる。他の適切な細胞株としては、マウス骨髄腫SP2/0細胞、ベビーハムスター腎臓BF1K-21細胞、ヒトPER.C6(登録商標)細胞、ヒト胎児由来腎臓F1EK-293細胞、及び本明細書に開示される細胞株のいずれかに由来するか、又はそれらから操作された細胞株が挙げられる。
【0140】
CHO細胞は、複雑な組換えタンパク質を生産するために広く使用されており、CHOK1細胞(ATCC CCL61)が含まれる。ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)欠損変異細胞株(Urlaub et al.,1980,Proc Natl Acad Sci USA 77:4216-4220)であるDXB11及びDG-44は、効率的なDHFR選択可能及び増幅可能遺伝子発現系により、これらの細胞に高レベルの組換えタンパク質を発現させることができるため、望ましいCHO宿主細胞株である(Kaufman R.J.,1990,Meth Enzymol 185:537-566)。また、グルタミンシンターゼ(GS)をベースとしたメチオニンスルホキシミン(MSX)選択を利用した、グルタミンシンターゼ(GS)ノックアウトCHOK1SV細胞株も含まれる。他の適切なCHO宿主細胞としては、以下のものが挙げられるが、これらに限定されない(括弧内はECACCアクセッション番号):CHO(85050302)、CHO(タンパク質フリー)(00102307)、CHO-K1(85051005)、CHO-K1/SF(93061607)、CHO/dhFr-(94060607)、CHO/dhFr-AC-フリー(05011002)、RR-CHOKI(92052129)。
【0141】
細胞培養プロセスについての説明
IGF1R変異体を用いた本明細書に記載される方法及び細胞株により、目的のタンパク質を製造するために使用される細胞培養培地中のIGF-1の量を減少させることができる。典型的には、細胞培養培地中のIGF-1の濃度は0.1mg/Lである。本明細書で開示される方法では、細胞培養培地中のIGF-1の濃度は、0.05、0.04、0.03、0.02、又は0.01mg/L未満まで低減させることができる。特定の実施形態では、IGF-1は細胞培養培地に必要とされず、すなわち細胞培養培地中のIGF-1の濃度は0mg/Lである。
【0142】
本明細書に記載される方法では、細胞は、0.1mg/LのIGF-1を含む細胞培養培地中で、IGF1R変異体を含まない同系統の細胞と同等の増殖率を有する。特定の実施形態では、増殖率は、生産の最初の5日間で1時間当たり0.015~0.04である。特定の実施形態では、増殖率は、シードトレインでは1時間当たり0.022~0.025である。特定の実施形態では、細胞は、23~35時間の倍加時間を有する。
【0143】
本明細書に記載される方法では、細胞は、0.1mg/LのIGF-1を含む細胞培養培地中で、IGF1R変異体を含まない同系統の細胞と同等の力価で目的の組換えタンパク質を生産する。特定の実施形態では、目的のタンパク質の力価は、培養の10日後において少なくとも50mg/L、100mg/L、150mg/L、200mg/L、250mg/L、300mg/L、350mg/L、400mg/L、450mg/L、500mg/L、550mg/L、又は600mg/Lである。
【0144】
本明細書に記載される方法では、低減した量のIGF-1を使用するか、又はIGF-1を全く使用しないことは、生産稼働の任意又は全ての段階で行うことができる。例えば、IGF-1は、種スケール、生産スケール(N)、又はその間のどの時点においても(例えば、N-1、N-2など)、0.03mg/L以下まで低減することができる。生産スケールでは、必要に応じて、初期細胞培養培地及び/又は灌流培地若しくは流加フィード培地中でIGF-1を低減させることができる。
【0145】
開示された方法は、撹拌槽リアクター(スピンフィルターを含んでもよいが、そうである必要はない従来の回分及び流加細胞培養を含む)、灌流システム(交互タンジェンシャルフロー(「ATF」を含む)培養、音響灌流システム、デプスフィルター灌流システム、及び他のシステムを含む)、中空糸型バイオリアクター(HFB、場合によっては灌流プロセスに用いてもよい)、並びに種々の他の細胞培養法(例えば、その全体が参考として本明細書に組み込まれる、Tao et al.,2003,Biotechnol.Bioeng.82:751-65;Kuystermans & Al-Rubeai,(2011)“Bioreactor Systems for Producing Antibody from Mammalian Cells” in Antibody Expression and Production,Cell Engineering 7:25-52,Al-Rubeai(ed)Springer;Catapano et al.,(2009)“Bioreactor Design and Scale-Up”in Cell and Tissue Reaction Engineering;Principles and Practice,Eibl et al.(eds)Springer-Verlagを参照されたい)において増殖させる付着培養又は懸濁培養に適用可能である。
【0146】
組換えタンパク質を生産する間、細胞を所望の密度まで増殖させ、次いで、細胞がより多くの細胞を作る代わりに目的の組換えタンパク質を生産するようにエネルギー及び培養基を使用する、増殖が停止した高生産状態に細胞の生理学的状態を切り替える制御されたシステムを有することが望ましい。この目的を達成するための様々な方法が存在しており、温度変化及びアミノ酸欠乏、並びに細胞死を引き起こすことなく細胞の増殖を停止させることができる細胞周期阻害剤又は他の分子の使用が含まれる。
【0147】
組換えタンパク質の生産は、培養プレート、フラスコ、チューブ、バイオリアクター又は他の適切な容器内でタンパク質を発現する細胞の哺乳類細胞生産培養を確立することから始まる。典型的にはより小型の生産バイオリアクターが使用され、一実施形態では、バイオリアクターは500L~2000Lである。別の実施形態では、1000L~2000Lのバイオリアクターが使用される。バイオリアクターの播種に用いられる種細胞密度は、生産される組換えタンパク質のレベルに良い影響を及ぼし得る。一実施形態では、無血清培養培地中に少なくとも0.5×10以下且つ3.0×10生存細胞/mL超でバイオリアクターに播種する。別の実施形態では、播種は、1.0×10生存細胞/mLである。
【0148】
次いで、哺乳類細胞は指数増殖期を経る。細胞培養は、所望の細胞密度が達成されるまで、追加のフィードを行わずに維持され得る。一実施形態では、追加のフィードに関わらず、細胞培養を最大で3日間維持する。別の実施形態では、短期間の増殖期を伴わずに生産期を開始させるように、所望の細胞密度で培養物を播種することができる。本明細書の実施形態のいずれかでは、増殖期から生産期への切り替えは、前述の方法のいずれかにより開始させることもできる。
【0149】
増殖期から生産期の間の移行時、及び生産期の間、充填細胞容積率(%PCV)は35%以下である。生産期の間に維持される所望の充填細胞容積は、35%以下である。一実施形態では、充填細胞容積は30%以下である。別の実施形態では、充填細胞容積は20%以下である。なお別の実施形態では、充填細胞容積は15%以下である。さらなる実施形態では、充填細胞容積は10%以下である。
【0150】
増殖期から生産期の間の移行時、及び生産期の間に維持される望ましい生存細胞密度は、プロジェクトに応じて様々であり得る。この望ましい生存細胞密度は、履歴データの対応する充填細胞容積に基づいて決定することができる。一実施形態では、生存細胞密度は、少なくとも約10×10生存細胞/mL~80×10生存細胞/mLである。一実施形態では、生存細胞密度は、少なくとも約10×10生存細胞/mL~70×10生存細胞/mLである。一実施形態では、生存細胞密度は、少なくとも約10×10生存細胞/mL~60×10生存細胞/mLである。一実施形態では、生存細胞密度は、少なくとも約10×10生存細胞/mL~50×10生存細胞/mLである。一実施形態では、生存細胞密度は、少なくとも約10×10生存細胞/mL~40×10生存細胞/mLである。別の実施形態では、生存細胞密度は、少なくとも約10×10生存細胞/mL~30×10生存細胞/mLである。別の実施形態では、生存細胞密度は、少なくとも約10×10生存細胞/mL~20×10生存細胞/mLである。別の実施形態では、生存細胞密度は、少なくとも約20×10生存細胞/mL~30×10生存細胞/mLである。別の実施形態では、生存細胞密度は、少なくとも約20×10生存細胞/mL~少なくとも約25×10生存細胞/mL、又は少なくとも約20×10生存細胞/mLである。
【0151】
生産期の間の充填細胞容積が少ないと、より高い細胞密度での灌流培養を妨げ得る溶存酸素のスパージングに関する問題を軽減することが助長される。また、充填細胞容積が少ないと、培地容積を少なくすることができ、これによってより小型の培地保存容器を使用することが可能となり、これをより遅い流量と組み合わせることができる。また、充填細胞容積が少ないと、より多量の細胞のバイオマス培養と比較して、回収及び下流プロセスに及ぼす影響も少なくなる。これらの全てにより、組換えタンパク質治療薬の製造に関連するコストが削減される。
【0152】
哺乳類細胞を培養することによって組換えタンパク質を生産するには、回分培養、流加培養、及び灌流培養という3つの方法が商業的なプロセスとして典型的に使用される。回分培養は、短期間で固定容積の培養培地中で細胞を増殖させた後に完全な回収を行う非連続的な方法である。回分法を用いて増殖させた培養物は、最大細胞密度に達するまで細胞密度の増大を経験し、その後、培地成分が消費され、且つ代謝副産物(乳酸及びアンモニアなど)のレベルが蓄積されるにつれて生存細胞密度が減少する。回収は、典型的には最大細胞密度に到達した時点で行われる(例えば、培地配合、細胞株などに応じて5×10細胞/mL以上)。回分プロセスは最も簡単な培養法であるが、生存細胞密度が栄養素利用性によって制限され、細胞が最大密度となった時点で培養物が減少し、生産が低下する。老廃物が蓄積し、栄養素が枯渇することによって培養物の急速な減少がもたらされるため、生産期を延長することはできない(典型的には約3~7日)。
【0153】
流加培養は、消費された培地成分を補充するためにボーラス培地又は連続培地のフィードを提供することによって、回分プロセスを改善するものである。流加培養は、稼働全体を通して追加の栄養素を受けるため、回分法と比較した場合に、高い細胞密度(培地配合、細胞株などに応じて>10~30×10細胞/ml)及び生産力価の増大を達成する可能性がある。回分プロセスとは異なり、フィード方式及び培地配合を操作することによって二相培養を生成及び維持し、所望の細胞密度を達成するための細胞増殖期間(増殖期)と細胞増殖の停止又は停滞期間(生産期)とを区別することができる。そのため、回分培養と比較して、流加培養では、より高い生産力価を実現する可能性がある。典型的には、増殖期の間に回分法が用いられ、生産期の間に流加法が用いられるが、プロセス全体を通じて流加フィード方式を用いることができる。しかしながら、回分プロセスとは異なり、バイオリアクターの容積が制限要因となり、これによってフィード量が制限される。また、回分法と同様に、代謝副産物が蓄積することによって培養物が減少し、これによって生産期の期間が約10~21日に制限される。流加培養は不連続的なものであり、典型的には代謝副産物のレベル又は培養物の生存率が所定のレベルに達したときに回収が行われる。フィードを行わない回分培養と比較した場合、流加培養では、より大量の組換えタンパク質を生産することができる。例えば、米国特許第5,672,502号明細書を参照されたい。
【0154】
灌流法は、新鮮な培地を添加し、それと同時に使用済み培地を除去することにより、回分法及び流加法と比較して改善の可能性を提供するものである。典型的なラージスケールでの商業用細胞培養方式では、リアクター容積のほぼ3分の1から2分の1以上がバイオマスとなる60~90(+)×10細胞/mLという高い細胞密度を達成することを目指している。灌流培養によって>1×10細胞/mLという極限の細胞密度が達成されており、さらに高い密度が予測されている。典型的な灌流培養は、1日又は2日間続く回分培養を開始することから始まり、その後、培養物の増殖期及び生産期全体を通して、細胞及びさらなる高分子量化合物、例えばタンパク質(フィルターの分画分子量に基づく)を保持しながら、新鮮なフィード培地を培養液に連続的、段階的、及び/又は間欠的に添加し、それと同時に使用済み培地を除去する。細胞密度を維持しながら使用済み培地を除去するために、沈降、遠心分離、又は濾過などの様々な方法が使用され得る。1日当たりわずかな作業容積から最大で1日当たり多くの複数の作業容積の灌流流量が報告されている。
【0155】
灌流プロセスの利点は、生産培養を回分培養法又は流加培養法よりも長期間維持することができることである。しかしながら、さらに多くの栄養素も必要となる、特に高い細胞密度を有する長期間の灌流培養を支えるためには、増加した培地の調製、使用、保管及び廃棄が必要となり、これら全てによって回分法及び流加法と比較して生産コストがさらに高くなる。加えて、細胞密度が高いと、溶存酸素レベルの維持などの製造期間中の問題及びより多くの酸素を供給してより多くの二酸化炭素を除去するなどのガス処理の増加に伴う問題が引き起される可能性があり、これによってより泡が生じやすくなり、消泡方式を変更する必要性が生じる;同様に、回収及び下流プロセスの間に、過剰な細胞物質を除去するために必要とされる労力によって生産物の損失がもたらされる可能性があり、これによって細胞量の増加に起因して力価が増加するという利点が打ち消される。
【0156】
また、増殖期の間の流加フィードの後に生産期の間の連続灌流を組み合わせるラージスケールでの細胞培養方式も提供される。本方法は、細胞培養物を35%以下の充填細胞容積で維持する生産期を目的とするものである。
【0157】
一実施形態では、増殖期の間に細胞培養を維持するために、ボーラスフィードによる流加培養が使用される。次いで、生産期の間に灌流フィードを使用することができる。一実施形態では、細胞が生産期に達したときに灌流を開始する。別の実施形態では、細胞培養の約3日目~約9日目に灌流を開始する。別の実施形態では、細胞培養の約5日目~約7日目に灌流を開始する。
【0158】
増殖期の間にボーラスフィードを使用すると、細胞を生産期に移行させることが可能となり、その結果、生産期を開始して制御する手段としての温度変化にそれほど依存しなくなるが、増殖期から生産期の間に約36℃~約31℃の温度変化が起こり得る。一実施形態では、この変化は36℃~32℃である。
【0159】
本明細書に記載されるように、無血清培養培地中に少なくとも0.5×10以下且つ3.0×10生存細胞/mL超、例えば、1.0×10生存細胞/mLでバイオリアクターに播種することができる。
【0160】
灌流培養では、細胞培養物が新鮮な灌流フィード培地を受け入れながら、同時に使用済み培地が除去される。灌流は、連続的、段階的、断続的であってよいか、又はこれらのいずれか若しくは全ての組み合わせであってよい。灌流速度は、1日当たりの作業容積未満から数作業容積であり得る。細胞は培養液中に保持され、除去される使用済み培地は細胞を実質的に含まないか、又は培養物よりも極めて少ない細胞を有する。細胞培養により発現させた組換えタンパク質もまた、培養液中に保持され得る。灌流は、遠心分離、沈降、又は濾過を含む多くの手段によって達成することができ、例えば、Voisard et al.,2003,Biotechnology and Bioengineering 82:751-65を参照されたい。濾過方法の一例としては、交互タンジェンシャルフロー濾過がある。交互タンジェンシャルフローは、中空繊維フィルターモジュールを通して培地をポンプ注入することにより維持される。例えば、米国特許第6,544,424号明細書;Furey,2002,Gen.Eng.News.22(7):62-63を参照されたい。
【0161】
「灌流流量」とは、バイオリアクターを通過した(添加及び除去された)培地の量であり、典型的には、所定時間内の一部又は複数の作業容積で表される。「作業容積」とは、細胞培養に使用されるバイオリアクターの容積の量を指す。一実施形態では、灌流流量は1日当たり1作業容積以下である。灌流フィード培地は、灌流栄養素濃度を最大化して、灌流速度を最小化するように配合することができる。
【0162】
細胞培養液に、細胞培養の生産期の過程の間に消費される栄養素及びアミノ酸などの成分を含む濃縮フィード培地を補充することができる。
【0163】
濃縮フィード培地は、ほとんどのあらゆる細胞培養培地配合物を基準にしてもよい。このような濃縮フィード培地は、細胞培養培地の成分の大部分を、例えばそれらの通常量の約5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、12倍、14倍、16倍、20倍、30倍、50倍、100倍、200倍、400倍、600倍、800倍、又はさらに約1000倍で含み得る。濃縮フィード培地は、多くの場合、流加培養プロセスで使用される。
【0164】
倍加期の培養プロセスにおける組換えタンパク質の生産を改善するために、本発明による方法を使用してもよい。倍加段階のプロセスでは、細胞は、2以上の異なる期で培養される。例えば、細胞は、最初に細胞繁殖及び生存率を最大化させる環境条件下で1以上の増殖期で培養され、次いでタンパク質の生産を最大化する条件下で生産期に移行され得る。哺乳類細胞によってタンパク質を生産するための商業的プロセスでは、最終的な生産培養に先行する異なる培養容器内で生じる、複数の、例えば少なくとも約2、3、4、5、6、7、8、9、又は10の増殖期が一般的である。
【0165】
増殖期及び生産期は、1以上の移行期に先行するか、又は1以上の移行期と隔てられていてもよい。倍加期プロセスでは、本発明による方法は、少なくとも商業用細胞培養の増殖期及び最終生産期の生産期の間に使用することができるが、増殖期に先行して使用することもできる。生産期は、ラージスケールで実施することができる。ラージスケールプロセスは、少なくとも約100、500、1000、2000、3000、5000、7000、8000、10,000、15,000、20,000リットルの容積で実施することができる。一実施形態では、生産は500L、1000L及び/又は2000Lのバイオリアクター内で実施される。
【0166】
増殖期は、生産期よりも高温で起こり得る。例えば、増殖期は、約35℃~約38℃の第1の温度で起こり得、生産期は、約29℃~約37℃、任意選択により約30℃~約36℃、又は約30℃~約34℃の第2の温度で起こり得る。加えて、例えば、カフェイン、ブチレート、及びヘキサメチレンビスアセトアミド(HMBA)などのタンパク質生産の化学的誘導物質を、温度変化と同時に、その前に、及び/又はその後に添加してもよい。誘導剤が温度変化の後に添加される場合は、それらを温度変化の1時間~5日後、任意選択により温度変化の1~2日後に添加することができる。細胞培養は、細胞に所望のタンパク質を生産させながら、数日又はさらに数週間維持することができる。
【0167】
当該技術分野において公知の分析技術のいずれかを使用して、細胞培養物由来の試料を監視及び評価することができる。組換えタンパク質並びに培地の品質及び特性を含む様々なパラメーターを培養期間に監視することができる。試料は、連続監視、リアルタイム又はほぼリアルタイムなどの望ましい頻度で断続的に採取し、監視することができる。
【0168】
典型的には、最終生産培養前の細胞培養(N-x~N-1)を用いて、生産バイオリアクターに播種するのに用いられる種細胞を生成する(N-1培養)。種細胞密度は、生産される組換えタンパク質のレベルに良い影響を及ぼし得る。生産レベルは、種密度が増加するにつれて高くなる傾向がある。力価の向上は、高い種密度と結び付けられるだけでなく、生産のために投入された細胞の代謝及び細胞周期の状態にも影響する可能性がある。
【0169】
種細胞は、任意の培養方法によって生成することができる。そのような方法の1つとしては、交互タンジェンシャルフロー濾過を用いた灌流培養がある。交互タンジェンシャルフロー濾過を使用してN-1バイオリアクターを稼働させ、生産バイオリアクターに播種するための高密度の細胞を提供することができる。N-1段階により、細胞を>90×10細胞/mLの密度まで増殖させることができる。N-1バイオリアクターは、ボーラス種培養液を生成するために使用することができ、又は複数の生産バイオリアクターに高い種細胞密度で播種するために維持することができる回転種ストック培養として使用することができる。生産物の増殖段階の期間は7日~14日の範囲であってよく、生産バイオリアクターの播種前に細胞を指数増殖状態に維持するように設計してもよい。細胞を増殖させるために、灌流速度、培地配合及びタイミングを最適化し、生産の最適化を最も促しやすい状態で細胞を生産バイオリアクターに送達する。種細胞密度を>15×10細胞/mLとすることによって、生産バイオリアクターの播種を達成することができる。播種時の種細胞密度を高くすることで、所望の生産密度に到達するために必要とされる時間を低減するか、又はさらにこのような時間を削減することが可能となる。
【0170】
特定の実施形態では、本開示の哺乳類宿主細胞及び方法は、高収量の目的のタンパク質を生成するために使用することができる。高収量、又は高容積生産性とは、細胞が高レベルの目的のタンパク質を生産する能力を指す。特定の収量は、目的のタンパク質に依存するものであり、哺乳類宿主細胞に好適なフィード培地を使用し、且つ、IGF-1を低減させた量を含むか又はIGF-1を欠きながら、アミノ酸、ビタミン、又は微量元素を含む流加又は灌流条件で増殖させた10日目の培養液中で少なくとも0.05g/L、少なくとも0.1g/L、少なくとも0.15g/L、少なくとも0.2g/L、少なくとも0.25g/L、少なくとも0.3g/L、少なくとも0.35g/L、少なくとも0.4g/L、少なくとも0.45g/L、少なくとも0.5g/L、少なくとも0.6g/L、少なくとも0.7g/L、少なくとも0.8g/L、少なくとも0.9g/L、少なくとも1g/L、少なくとも1.5g/L、少なくとも2g/L、又はそれ以上であり得る。特定の実施形態では、本開示の宿主細胞及び方法は、目的のタンパク質を発現し、上記に記載される培養条件下で増殖させた場合に、少なくとも0.5g/L、少なくとも0.6g/L、少なくとも0.7g/L、少なくとも0.8g/L、少なくとも0.9g/L、少なくとも1g/L、少なくとも1.5g/L、少なくとも2g/L、又はそれ以上、好ましくは最大で約3g/L、4g/L、5g/L、又は10g/Lを生産することが可能である。
【0171】
収量はまた、細胞株の特定の生産性の観点から測定することができ、1日当たりの細胞によって生産されるタンパク質の量に基づいて決定される(pg/細胞/日として表される)。本開示の哺乳類宿主細胞は、哺乳類宿主細胞に好適なフィード培地を使用し、且つ、IGF-1を低減させた量を含むか又はIGF-1を欠きながら、アミノ酸、ビタミン、又は微量元素を含む流加又は灌流条件で増殖させた10日目の培養液中で少なくとも1pg/細胞/日、少なくとも2pg/細胞/日、少なくとも3pg/細胞/日、少なくとも4pg/細胞/日、少なくとも5pg/細胞/日、少なくとも6pg/細胞/日、少なくとも7pg/細胞/日、少なくとも8pg/細胞/日、少なくとも9pg/細胞/日、少なくとも10pg/細胞/日、少なくとも11pg/細胞/日、少なくとも12pg/細胞/日、少なくとも13pg/細胞/日、少なくとも14pg/細胞/日、少なくとも15pg/細胞/日、少なくとも20pg/細胞/日、少なくとも25pg/細胞/日、又はそれ以上、好ましくは最大で50pg/細胞/日を生産することが可能である。特定の実施形態では、本開示の哺乳類宿主細胞は、目的のタンパク質を発現し、上記に記載される培養条件下で少なくとも10pg/細胞/日、少なくとも11pg/細胞/日、少なくとも12pg/細胞/日、少なくとも13pg/細胞/日、少なくとも14pg/細胞/日、少なくとも15pg/細胞/日、少なくとも20pg/細胞/日、少なくとも25pg/細胞/日、又はそれ以上、好ましくは最大で50pg/細胞/日の比生産性を有する。
【0172】
目的のタンパク質
目的のポリペプチド及びタンパク質は、タンパク質ベースの治療薬を含む科学的又は商業的な目的のものであってもよい。目的のタンパク質は、とりわけ、分泌タンパク質、非分泌タンパク質、細胞内タンパク質、又は膜結合型タンパク質を含む。目的のポリペプチド及びタンパク質は、細胞培養法を用いる組換え動物細胞株によって産生することができ、「組換えタンパク質」と称され得る。発現タンパク質は、細胞内で産生されもよいか、又は培養培地中に分泌されてもよく、そこから回収及び/又は収集することができる。「単離されたタンパク質」又は「単離された組換えタンパク質」という用語は、その治療的、診断的、予防的、研究又は他の使用を妨げるタンパク質若しくはポリペプチド又は他の汚染物質から精製される、目的のポリペプチド又はタンパク質を指す。目的のタンパク質は、特に、そこから誘導される標的、それらに関連する標的、及びそれらの改変を含む、とりわけ下記に列挙される標的に結合することによって治療効果を発揮するタンパク質を含む。
【0173】
目的のタンパク質は、「抗原結合タンパク質」を含む。抗原結合タンパク質は、結合する別の分子(抗原)に親和性を有する抗原結合領域又は抗原結合部分を含むタンパク質又はポリペプチドを指す。抗原結合タンパク質は、抗体、ペプチボディ、抗体フラグメント、抗体誘導体、抗体アナログ、融合タンパク質(単鎖可変フラグメント(scFv)、二重鎖(二価)scFv、及びIgGscFv(例えば、Orcutt et al.,2010,Protein Eng Des Sel 23:221-228を参照されたい)を含む)、ヘテロIgG(例えば、Liu et al.,2015,J Biol Chem 290:7535-7562を参照されたい)、ムテイン、並びにXmAb(登録商標)(Xencor,Inc.、Monrovia、CA)を包含する。また、二重特異性T細胞エンゲージャー(BiTE(登録商標))、半減期延長などの延長を有する二重特異性T細胞エンゲージャー、例えばHLE BiTE、HeteroIg BITEなど、キメラ抗原受容体(CAR、CAR T)、及びT細胞受容体(TCR)も含まれる。
【0174】
scFvは、共に連結された抗体の重鎖及び軽鎖の可変領域を有する単鎖抗体フラグメントである。米国特許第7,741,465号明細書及び同第6,319,494号明細書、並びにEshhar et al.,1997,Cancer Immunol Immunotherapy 45:131-136を参照されたい。scFvは、標的抗原と特異的に相互作用する親抗体の能力を保持している。
【0175】
「抗体」という用語は、任意のアイソタイプ若しくはサブクラスのグリコシル化及び非グリコシル化免疫グロブリンの両方、又は特異的結合についてインタクト抗体と競合するこれらの抗原結合領域への言及を含む。特に指定のない限り、抗体は、ヒト、ヒト化、キメラ、多特異性、モノクローナル、ポリクローナル、ヘテロIgG、二重特異性、及びそれらのオリゴマー又は抗原結合フラグメントを含む。抗体は、lgG1、lgG2、lgG3又はlgG4型を含む。また、Fab、Fab’、F(ab’)、Fv、ダイアボディ、Fd、dAb、マキシボディ、単鎖抗体分子、単一ドメインVH、相補性決定領域(CDR)フラグメント、scFv、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディなどの抗原結合フラグメント又は領域を有するタンパク質、及び標的ポリペプチドへの特異的抗原結合を付与するのに十分な免疫グロブリンの少なくとも一部を含むポリペプチドも含まれる。
【0176】
また、ヒトに投与した場合に著しく有害な免疫応答を生じない、ヒト、ヒト化、及び他の抗原結合タンパク質、例えばヒト及びヒト化抗体も含まれる。
【0177】
また、非共有結合、共有結合、又は共有結合と非共有結合の両方によって化学的に修飾されるタンパク質などの修飾タンパク質も含まれる。また、細胞改変システムによって生成され得る1つ以上の翻訳後修飾、又は酵素及び/若しくは化学的方法によってエクスビボで導入されるか若しくは他の方法で導入される修飾をさらに含むタンパク質も含まれる。
【0178】
目的のタンパク質はまた、例えば、ロイシンジッパー、コイルドコイル、免疫グロブリンのFc部分などの多量体化ドメインを含む組換え融合タンパク質を含んでもよい。また、分化抗原(CDタンパク質と呼ばれる)のアミノ酸配列の全て若しくは一部を含むタンパク質又はそれらのリガンド或いはこれらのいずれかと実質的に同様なタンパク質も含まれる。
【0179】
いくつかの実施形態では、目的のタンパク質は、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)などのコロニー刺激因子を含んでもよい。このようなG-CSF剤には、Neupogen(登録商標)(フィルグラスチム)及びNeulasta(登録商標)(ペグフィルグラスチム)が含まれるが、これらに限定されない。また、Epogen(登録商標)(エポエチンアルファ)、Aranesp(登録商標)(ダルベポエチンアルファ)、Dynepo(登録商標)(エポエチンデルタ)、Mircera(登録商標)(メトキシポリエチレングリコール-エポエチンベータ)、Hematide(登録商標)、MRK-2578、INS-22、Retacrit(登録商標)(エポエチンゼータ)、Neorecormon(登録商標)(エポエチンベータ)、Silapo(登録商標)(エポエチンゼータ)、Binocrit(登録商標)(エポエチンアルファ)、エポエチンアルファHexal、Abseamed(登録商標)(エポエチンアルファ)、Ratioepo(登録商標)(エポエチンシータ)、Eporatio(登録商標)(エポエチンシータ)、Biopoin(登録商標)(エポエチンシータ)、エポエチンアルファ、エポエチンベータ、エポエチンゼータ、エポエチンシータ、及びエポエチンデルタ、エポエチンオメガ、エポエチンイオタ、組織プラスミノーゲン活性化因子、GLP-1受容体アゴニスト、並びにそれらの分子又は変異体又は類似体及び前述のいずれかのバイオシミラーなどの赤血球生成促進剤(ESA)も含まれる。
【0180】
いくつかの実施形態では、目的のタンパク質は、1つ以上のCDタンパク質、HER受容体ファミリータンパク質、細胞接着分子、増殖因子、神経成長因子、線維芽細胞増殖因子、トランスフォーミング増殖因子(TGF)、インスリン様増殖因子、骨誘導性因子、インスリン及びインスリン関連タンパク質、凝固及び凝固関連タンパク質、コロニー刺激因子(CSF)、他の血液及び血清タンパク質、血液型抗原;受容体、受容体関連タンパク質、成長ホルモン、成長ホルモン受容体、T細胞受容体;神経栄養因子、ニューロトロフィン、リラキシン、インターフェロン、インターロイキン、ウイルス抗原、リポタンパク質、インテグリン、リウマチ因子、免疫毒素、表面膜タンパク質、輸送タンパク質、ホーミング受容体、アドレシン、調節タンパク質、並びにイムノアドヘシンに特異的に結合するタンパク質を含んでもよい。
【0181】
いくつかの実施形態では、目的のタンパク質は、単独で又は任意の組み合わせで、以下のうちの1つ以上に結合する:CD3、CD4、CD5、CD7、CD8、CD19、CD20、CD22、CD25、CD30、CD33、CD34、CD38、CD40、CD70、CD123、CD133、CD138、CD171、及びCD174を含むがこれらに限定されないCDタンパク質、例えばHER2、HER3、HER4を含むHER受容体ファミリータンパク質、及びEGF受容体であるEGFRvIII、細胞接着分子、例えばLFA-1、Mol、p150、95、VLA-4、ICAM-1、VCAM、及びαv/β3インテグリン、例えば、血管内皮増殖因子(「VEGF」)を含むがこれらに限定されない増殖因子;VEGFR2、成長ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、卵胞刺激ホルモン、黄体形成ホルモン、成長ホルモン放出因子、副甲状腺ホルモン、ミュラー抑制物質、ヒトマクロファージ炎症性タンパク質(MIP-1-α)、エリスロポエチン(EPO)、NGF-βなどの神経成長因子、血小板由来増殖因子(PDGF)、例えばaFGF及びbFGFを含む線維芽細胞増殖因子、上皮増殖因子(EGF)、Cripto、とりわけ、TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3、TGF-β4又はTGF-β5を含むTGF-α及びTGF-βを含むトランスフォーミング増殖因子(TGF)、インスリン様増殖因子-I及び-II(IGF-I及びIGF-II)、des(1-3)-IGF-I(脳内IGF-I)及び骨形成促進因子、インスリンA鎖、インスリンB鎖、プロインスリン及びインスリン様増殖因子結合タンパク質を含むがこれらに限定されないインスリン及びインスリン関連タンパク質、凝固及び凝固関連タンパク質、例えばとりわけ第VIII因子、組織因子、フォンウィルブランド因子、プロテインC、α-1-アンチトリプシン、ウロキナーゼ及び組織プラスミノーゲン活性化因子(「t-PA」)などのプラスミノーゲン活性化因子、ボンバジン、トロンビン、トロンボポエチン、及びトロンボポエチン受容体、とりわけ、M-CSF、GM-CSF及びG-CSFを含むコロニー刺激因子(CSF)、アルブミン、IgE及び血液型抗原を含むがこれらに限定されない他の血液及び血清タンパク質、例えば、flk2/flt3受容体、肥満(OB)受容体、成長ホルモン受容体及びT細胞受容体を含む受容体及び受容体関連タンパク質;骨由来神経栄養因子(BDNF)及びニューロトロフィン-3、-4、-5又は-6(NT-3、NT-4、NT-5又はNT-6)を含むがこれらに限定されない神経栄養因子;リラキシンA鎖、リラキシンB鎖及びプロレラキシン、例えば、インターフェロン-α、-β及び-γを含むインターフェロン、インターロイキン(IL)、例えば、IL-1~IL-10、IL-12、IL-15、IL-17、IL-23、IL-12/IL-23、IL-2Ra、IL1-R1、IL-6受容体、IL-4受容体及び/又はIL-13から受容体であるIL-13RA2又はIL-17受容体、IL-1RAP、AIDSエンベロープウイルス抗原を含むがこれらに限定されないウイルス抗原、リポタンパク質、カルシトニン、グルカゴン、心房性ナトリウム利尿因子、肺サーファクタント、腫瘍壊死因子-α及び-β、エンケファリナーゼ、BCMA、Igκ、ROR-1、ERBB2、メソセリン、RANTES(regulated on activation normally T-cell expressed and secreted)、マウスゴナドトロピン関連ペプチド、DNase、FR-α、インヒビン及びアクチビン、インテグリン、プロテインA若しくはD、リウマチ因子、免疫毒素、骨形成タンパク質(BMP)、スーパーオキシドディスムターゼ、表面膜タンパク質、崩壊促進因子(DAF)、AIDSエンベロープ、輸送タンパク質、ホーミング受容体、MIC(MIC-a、MIC-B)、ULBP 1~6、EPCAM、アドレシン、制御タンパク質、イムノアドヘシン、抗原結合タンパク質、ソマトロピン、CTGF、CTLA4、エオタキシン-1、MUC1、CEA、c-MET、クローディン-18、GPC-3、EPHA2、FPA、LMP1、MG7、NY-ESO-1、PSCA、ガングリオシドGD2、ガングリオシドGM2、BAFF、OPGL(RANKL)、ミオスタチン、Dickkopf-1(DKK-1)、Ang2、NGF、IGF-1受容体、肝細胞増殖因子(HGF)、TRAIL-R2、c-Kit、B7RP-1、PSMA、NKG2D-1、プログラム細胞死タンパク質1及びリガンド、PD1及びPDL1、マンノース受容体/hCGβ、C型肝炎ウイルス、メソセリンdsFv[PE38]コンジュゲート、レジオネラニューモフィラ(Legionella pneumophila)(lly)、IFNγ、インターフェロンγ誘導タンパク質10(IP10)、IFNAR、TALL-1、胸腺間質性リンパ球新生因子(TSLP)、プロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)、幹細胞因子、Flt-3、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)、OX40L、α4β7、血小板特異的血小板糖タンパクIib/IIIb(PAC-1)、トランスフォーミング増殖因子β(TFGβ)、透明帯精子結合タンパク質3(ZP-3)、TWEAK、血小板由来増殖因子受容体α(PDGFRα)、スクレロスチン並びに前述のいずれかの生物活性フラグメント又は変異体。
【0182】
別の実施形態では、目的のタンパク質は、アブシキシマブ、アダリムマブ、アデカツムマブ、アフリベルセプト、アレムツズマブ、アリロクマブ、アナキンラ、アタシセプト、バシリキシマブ、ベリムマブ、ベバシズマブ、ビオソズマブ、ブリナツモマブ、ブレンツキシマブベドチン、ブロダルマブ、カンツズマブメルタンシン、カナキヌマブ、セツキシマブ、セルトリズマブペゴル、コナツムマブ、ダクリズマブ、デノスマブ、エクリズマブ、エドレコロマブ、エファリズマブ、エプラツズマブ、エタネルセプト、エボロクマブ、ガリキシマブ、ガニツマブ、ゲムツズマブ、ゴリムマブ、イブリツモマブチウキセタン、インフリキシマブ、イピリムマブ、レルデリムマブ、ルミリキシマブ、イキセキズマブ(lxdkizumab)、マパツムマブ、モテサニブ二リン酸、ムロモナブ-CD3、ナタリズマブ、ネシリチド、ニモツズマブ、ニボルマブ、オクレリズマブ、オファツムマブ、オマリズマブ、オプレルベキン、パリビズマブ、パニツムマブ、ペムブロリズマブ、ペルツズマブ、パキセリズマブ、ラニビズマブ、リロツムマブ、リツキシマブ、ロミプロスチム、ロモソズマブ、サルグラモスチム、トシリズマブ、トシツモマブ、トラスツズマブ、ウステキヌマブ、ベドリズマブ、ビジリズマブ、ボロシキシマブ、ザノリムマブ、ザルツムマブ、及び前述のいずれかのバイオシミラーを含む。
【0183】
本発明による目的のタンパク質は、前述の全てを包含し、上述の抗体のいずれかの相補性決定領域(CDR)の1、2、3、4、5、又は6を含む抗体をさらに含む。また、目的のタンパク質の参照アミノ酸配列に対して70%以上、具体的には80%以上、より具体的には90%以上、さらにより具体的には95%以上、詳細には97%以上、より詳細には98%以上、さらにより詳細には99%以上のアミノ酸配列が同一である領域を含む変異体も含まれる。この点に関する同一性は、様々なよく知られ且つ容易に利用可能なアミノ酸配列分析ソフトウェアを使用して特定することができる。好ましいソフトウェアには、配列の検索及び整列に関する問題に対する満足な解決策と考えられている、スミス-ウォーターマンアルゴリズムを実装するものが含まれる。特に速度が重要な考慮事項である場合は、他のアルゴリズムを用いてもよい。この点に関して用いることができる、DNA、RNA及びポリペプチドのアライメント及び相同性マッチングに一般に用いられるプログラムには、FASTA、TFASTA、BLASTN、BLASTP、BLASTX、TBLASTN、PROSRCH、BLAZE及びMPSRCHが含まれ、後者は、MasParによって製造された超並列プロセッサ上で実行するためにスミス-ウォーターマンアルゴリズムが実装されている。
【0184】
目的のタンパク質には、キメラ抗原受容体(CAR又はCAR-T)及びT細胞受容体(TCR)などの遺伝子操作された受容体、並びにその標的抗原と相互作用する抗原結合分子を含む他のタンパク質も含まれ得る。CARは、その標的抗原と相互作用する抗原結合分子を組み込むことにより、抗原(細胞表面抗原など)に結合するように操作することができる。CARは、典型的には、1つ以上の共刺激(「シグナル伝達」)ドメイン及び1つ以上の活性化ドメインとタンデムに抗原結合ドメイン(scFvなど)を組み込むものである。
【0185】
好ましくは、抗原結合分子は、その抗体フラグメントであり、より好ましくは1つ以上の単鎖抗体フラグメント(「scFv」)である。scFvは、他のCAR成分と共に単鎖の一部として発現するように操作することができるため、キメラ抗原受容体に使用することが好ましい。Krause et al.,1988,J.Exp.Med.,188(4);619-626;Finney et al.,1998,J Immunol 161;2791-2797を参照されたい。
【0186】
キメラ抗原受容体は、その効能を高めるために、1つ以上の共刺激(シグナル伝達)ドメインを組み込んでいる。米国特許第7,741,465号明細書及び同第6,319,494号明細書、並びにKrause et al.and Finney et al.(上記)、Song et al.,2012,Blood 119:696-706;Kalos et al.,2011,Sci Transl.Med.3:95;Porter et al.,2011,N.Engl.J.Med.365:725-33,及びGross et al.,2016,Annu.Rev.Pharmacol.Toxicol.56:59-83を参照されたい。好適な共刺激ドメインは、供給源の中でもとりわけ、CD28、CD28T、OX40、4-1BB/CD137、CD2、CD3(α、β、δ、ε、γ、ζ)、CD4、CD5、CD7、CD8、CD9、CD16、CD22、CD27、CD30、CD 33、CD37、CD40、CD 45、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD154、PD-1、ICOS、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1(CD11a/CD18))、CD247、CD276(B7-H3)、LIGHT(腫瘍壊死因子スーパーファミリーメンバー14;TNFSF14)、NKG2C、Igα(CD79a)、DAP-10、Fcγ受容体、MHCクラスI分子、TNF、TNFr、インテグリン、シグナル伝達リンパ球活性化分子、BTLA、Tollリガンド受容体、ICAM-1、B7-H3、CDS、ICAM-1、GITR、BAFFR、LIGHT、HVEM(LIGHTR)、KIRDS2、SLAMF7、NKp80(KLRF1)、NKp44、NKp30、NKp46、CD19、CD4、CD8アルファ、CD8ベータ、IL-2Rベータ、IL-2Rガンマ、IL-7Rアルファ、ITGA4、VLA1、CD49a、ITGA4、IA4、CD49D、ITGA6、VLA-6、CD49f、ITGAD、CDl-ld、ITGAE、CD103、ITGAL、CDl-la、LFA-1、ITGAM、CDl-lb、ITGAX、CDl-lc、ITGBl、CD29、ITGB2、CD18、LFA-1、ITGB7、NKG2D、TNFR2、TRANCE/RANKL、DNAM1(CD226)、SLAMF4(CD244、2B4)、CD84、CD96(Tactile)、CEACAM1、CRT AM、Ly9(CD229)、CD160(BY55)、PSGL1、CD100(SEMA4D)、CD69、SLAMF6(NTB-A、Lyl08)、SLAM(SLAMF1、CD150、IPO-3)、BLAME(SLAMF8)、SELPLG(CD162)、LTBR、LAT、41-BB、GADS、SLP-76、PAG/Cbp、CD19a、CD83リガンド、又はこれらのフラグメント若しくは組み合わせに由来するものであり得る。共刺激ドメインは、細胞外部分、膜貫通部分及び細胞内部分の1つ以上を含み得る。
【0187】
また、CARには1つ以上の活性化ドメインが含まれる。CD3ゼータは、天然T細胞上のT細胞受容体のエレメントであり、CARにおいて重要な細胞内活性化エレメントであることが証明されている。
【0188】
CARは、細胞外ドメインを含み、典型的には目的の抗原を認識して結合することができる抗原結合タンパク質を含み、「ヒンジ」領域も含む膜貫通タンパク質である。加えて、膜貫通ドメイン及び細胞内(細胞質)ドメインがある。
【0189】
細胞外ドメインは、シグナル伝達に有用なものであり、且つ本明細書に記載される任意のタンパク質又はそれらの任意の組み合わせに由来する抗原に対してリンパ球が効率的に応答するのに有益なものである。細胞外ドメインは、合成の供給源又は天然の供給源のいずれか、例えば、本明細書に記載されるタンパク質に由来するものであってよい。細胞外ドメインは、ヒンジ部分を含むことが多い。ヒンジ部分は、細胞外ドメインの一部であり、「スペーサー」領域と称する場合がある。ヒンジは、標的細胞から所望の特定の距離を達成するような、本明細書に記載されるようなタンパク質、特に上記に記載した共刺激タンパク質、並びに免疫グロブリン(Ig)配列又は他の好適な分子に由来するものであってよい。
【0190】
膜貫通ドメインは、CARの細胞外ドメインに融合されていてもよい。同様に、CARの細胞内ドメインに融合されていてもよい。膜貫通ドメインは、合成の供給源又は天然の供給源のいずれか、例えば、本明細書に記載されるタンパク質、特に上記に記載した共刺激タンパク質に由来するものであってよい。
【0191】
細胞内(細胞質)ドメインは、膜貫通ドメインに融合されていてもよく、免疫細胞の正常なエフェクター機能の少なくとも1つの活性化をもたらすことができる。T細胞のエフェクター機能は、例えば、細胞溶解活性又はサイトカインの分泌を含むヘルパー活性であり得る。細胞内ドメインは、本明細書に記載されるタンパク質、特にCD3に由来するものであってよい。
【0192】
本発明によるポリヌクレオチド、ポリペプチド、ベクター、宿主細胞、免疫細胞、組成物などを作製するために、様々な公知の技法を利用することができる。
【0193】
本発明は、本発明の個々の態様の単一の説明として意図されている本明細書に記載される特定の実施形態によって範囲が限定されるものではなく、機能的に同等の方法及び構成要素が本発明の範囲内にある。実際に、本明細書に図示され記載されるものに加えて、本発明の様々な変更形態は、上述の説明及び添付図面から当業者に明らかになるであろう。そのような変更形態は、添付の特許請求の範囲内に含まれることが意図される。
【実施例
【0194】
実施例1:IGF1R変異細胞株の構築
CHO CS9及びCHO GSKO宿主細胞株のバックグラウンドでIGFR変異体を過剰発現する細胞株を、細胞培養培地にIGF-1リガンドを補充する必要のない、受容体を構成的に活性な状態に保持するIGR1Rの変異体を使用して構築した。delL1及びH905Cと命名されたこれら2つの変異体(Kavran et al.,2014,eLife 3;e03772を参照されたい)をベクターにクローニングし、CHO宿主細胞株で過剰発現させた。
【0195】
IGF1R変異体H905C(H906C)及びdelL1プラスミドの構築
2つのIGF1R変異配列は、NCBIアクセッション番号NM_010513から得られた野生型(wt)マウスIGR1Rのヌクレオチド配列に基づく。始まりから終わりまでの全配列を、クローニングと独立したライゲーションを容易にするためにフラグメント間に20塩基のオーバーラップを含む、ヌクレオチド1~2028からなるIGF1R-1とヌクレオチド2008~4110からなるIGF1R-2との2つのフラグメントとして合成した。delL1のヌクレオチド配列は、90塩基のIGF1R天然シグナルペプチドから始まり、wt配列の691塩基にジャンプしている。このことは、成熟IGF1Rタンパク質の最初の200アミノ酸(L1領域として同定されている)の欠失に相当する。ヒトIGF1Rで同定されたH905C変異は、マウス配列ではH906Cに相当する。H906Cの塩基配列では、wtのIGF1R配列の2806~2807位のヌクレオチドC及びAがそれぞれT及びGに変更されており、成熟タンパク質におけるH906Cのアミノ酸変化に相当する。H906Cは、全ての実験でH905Cと称される。合成したフラグメントからPCRフラグメントを増幅し、次いで組み込みベクターであるpPT1.34.7GG(例えば、米国特許第10,202,616号明細書を参照されたい)のSalI及びNotI部位の間にクローニングした。図1A~Bを参照されたい。
【0196】
CHO CS9及びGSKOプラットフォーム宿主へのIGF1R変異体のトランスフェクション及び細胞培養
delL1及びH905Cの線状化プラスミドを、CHO CS9 dhfr-宿主(Fomina-Yadlin et al.,2014,Biotechnol Bioeng 111:965-979を参照されたい)及びCHO GSKO(グルタミンシンテターゼノックアウト)宿主の両方にエレクトロポレーションを用いてトランスフェクトした。トランスフェクトのため、エレクトロポレーションキュベット内で混合した約2×10個の細胞及び約25μgのDNAを、Bio-Rad Laboratories装置(Hercules、CA)を用いて3175uF(静電容量)、200ボルト及び700オーム(抵抗)でエレクトロポレーションした。次いで、細胞を直ちにTフラスコ内の予熱した培地に移した。36℃及び5%のCOで3日間、9.5mMのグリシン、0.2mMのチミジン及び2mMのヒポキサンチン(CHO dhfr-)又は5mMのグルタミン(CHO GSKO)及びIGF-1のいずれかを補充した非選択増殖培地中で細胞を回復させた。細胞生存率は、製造業者の指示書に従って、ViCELL(商標)XR細胞生存率アナライザー(Beckman Coulter、Indianapolis、IN)を用いて測定した。
【0197】
ルーチン培養のため、細胞を選択培地中に懸濁状態にして培養した。培養は、125mL若しくは250mLの通気エルレンマイヤー振盪フラスコ(Corning Life Sciences、Lowell、MA)又は50mLの通気スピンチューブ(TPP、Trasadingen、Switzerland)のいずれかの中で、36℃、5%のCO及び相対湿度85%で維持した。エルレンマイヤーフラスコを大容量の自動COインキュベーター(Thermo Fisher Scientific、Waltham、MA)内で120rpm、軌道径25mmで振盪し、スピンチューブを大容量のISF4-Xインキュベーター(Kuhner AG、Basel、Switzerland)内で225rpm、軌道径50mmで振盪した。
【0198】
選択方式として、3つの異なる手法を採用した:培地からIGF-1のみを除去する、10μg/mlのピューロマイシンと0.1mg/mLのIGF-1を培地に添加する、又はIGF-1を除去し、且つ10μg/mlのピューロマイシンを添加する。トランスフェクトされた宿主細胞を、36℃及び5%のCOで>90%の生存率に回復するまで、3つの選択方式のうちの1つの非選択増殖培地中で3~4日ごとに継代した。ピューロマイシンを含む選択アームでは、細胞株が回復した時点でピューロマイシンを除去し、生存率が>90%になるまでIGF-1を含まない培地中で細胞を増殖させ、細胞をバンク化した。
【0199】
CHO dhfr-バックグラウンドにおけるIGF1R変異体過剰発現細胞株に関して、全3つの選択方式により、さらに特性決定するためのプールが得られた。細胞株は、どちらの変異体に関しても、ピューロマイシンを添加し、且つIGF-1を含まない最も厳しい条件の細胞株よりも、IGF-1を含まないか、又はIGF-1を併用したピューロマイシンのいずれかにおいてより早く回復した。H905変異体は、delL1変異体よりも早く回復した。図2を参照されたい。
【0200】
CHO CS9バックグラウンドで回復したIGF1R変異体過剰発現細胞株は、CHO CS9プラットフォーム宿主と同様の倍加時間であり、概して30時間未満であった。図3を参照されたい。
【0201】
CHO GSKOバックグラウンドにおけるIGF1R変異体過剰発現細胞株に関して、IGF-1を除去した選択方式のみを先に進め、さらに試験した。全ての宿主でのH905変異体は、全ての宿主でdelL1変異体よりも早く回復した。図4を参照されたい。
【0202】
CHO GSKOバックグラウンドで回復したIGF1R変異体過剰発現細胞株は、CHO GSKOプラットフォーム宿主と同様の倍加時間であり、H905C変異体の場合は概して30時間未満であり、対照と同様であるか、又はdelL1変異体の場合はわずかに高かった。図5を参照されたい。
【0203】
CHO CS9バックグラウンドにおけるIGF1R変異体過剰発現細胞株の標的遺伝子座増幅(TLA)
CHO CS9バックグラウンドにおけるIGF1R過剰発現変異細胞プールに対し、標的遺伝子座増幅(TLA)を用いてIGF1R変異遺伝子の組込みを確認し、CHO宿主細胞内のIGF1R変異体発現ベクターの組込み部位を特定した。要約すると、1×10個の細胞を1%のホルムアルデヒドで固定して溶解した。クロマチンを可溶化し、NlaIIIで消化した後、近接ライゲーションとDNAの逆架橋とを行った。続いて、プラスミドバックボーンの異なる領域に設計された2組のプライマーを用いて逆PCRを行うことによって、目的の領域を濃縮した。PCR産物を、MiSeq(商標)配列決定プラットフォーム(Illumina,Inc.、San Diego、CA)で配列決定した。組込み部位を特定するための分析を、BWA Aligner(Illumina,Inc.、San Diego、CA)、igvtools(Broad Institute、Cambridge、MA)、及びカスタムスクリプト(perl及びRで記述される)を使用して実行した。ある領域が組込み部位と呼ばれるには、2組の濃縮プライマーによって独立して検出されなければならない。全てのプールでIGF1R変異体構築物の組込みが確認された。
【0204】
実施例2:IGF1R変異細胞株における抗体構築物の発現
IGF-1を補充せずに増殖し、異なるモダリティから治療薬を発現するこれらのIGF1R変異体の能力を、トランスフェクション及び10D FB(10日間流加)生産実験で試験した。Berkeley Lights Platform(Berkeley Lights,Inc.、Emeryville、CA)又はc.sight(商標)(Cytena、a Cellink Company、Boston、MA)を使用して、CHO CS9宿主及びCHO GSKO宿主の両方に由来するIGF1R変異体過剰発現細胞プールで単一細胞クローニングを行った。
【0205】
CHO CS9及びCHO GSKOバックグラウンドにおける試験分子のIGF1R変異細胞株へのトランスフェクション及び細胞培養
CHO CS9バックグラウンドにおけるIGF1R変異細胞株に対して、代表的なmAb及び代表的なBiTE分子の線状化したスプリットDHFRプラスミドを、長時間のエレクトロポレーションプロトコルを使用してトランスフェクトした。トランスフェクトのため、エレクトロポレーションキュベット内で混合した約2×10個の細胞及び約25μgのDNAを、Bio-Rad Laboratories装置(Hercules、CA)を用いて3175uF(静電容量)、200ボルト及び700オーム(抵抗)でエレクトロポレーションした。次いで、細胞を直ちにTフラスコ内の予熱した培地に移した。トランスフェクトした細胞株を、IGF-1を含まない非選択培地中で、36℃及び5%のCOで3日間回復させた。トランスフェクトした宿主細胞を、36℃及び5%のCOで、>90%に回復するまでIGF-1を含まない選択増殖培地(-GHT)中で3~4日ごとに継代した。回復したら、細胞株を10Dの流加生産で稼働させ、発現を評価した。登録商標の既知組成の培地を使用して、細胞を24ディープウェルプレート(Axygen、Union City、CA)内で培養した。全ての条件で1ウェル当たり3.5mLの作業容積を使用し、培養液を5%のCOを含む加湿インキュベーター(Kuhner AG、Basel、Switzerland)内で培養した。細胞を8×10細胞/mlで播種し、3日目、6日目及び8日目にフィードした。細胞密度、生存率、及び細胞径を、Vi-Cell(商標)(Beckman Coulter、Fullerton、CA)を使用して測定した。使用済み培地試料の力価を分析した。力価は、Waters UPLC(Milford、MA)を使用して、アフィニティープロテインA POROS PA IDセンサーカートリッジによって測定した。細胞株にはMTX増幅を施さなかった。
【0206】
GSKOバックグラウンドにおけるIGF1R変異細胞株に対して、登録商標のILTトランスポザーゼを含有するプラスミドに加えて、代表的なmAb及び代表的なBiTE分子の環状pGS1.1PBプラスミドを、長時間のエレクトロポレーションプロトコルを使用してトランスフェクトした。トランスフェクトした細胞株を、IGF-1を含まない非選択培地中で、36℃及び5%のCOで3日間回復させた。トランスフェクトした宿主細胞を、36℃及び5%のCOで、>90%に回復するまでIGF-1を含まない選択増殖培地(-グルタミン)中で3~4日ごとに継代した。回復したら、細胞株を10Dの流加生産で稼働させ、発現を評価した。
【0207】
回復率のグラフを図6A~Bに示す。CHO CS9バックグラウンドでは、対照は概して4~5週間で回復し(図示せず)、変異体は同様の時間枠で回復し、H905C変異体はdelL1変異体よりも速く回復した。CHO GSKOバックグラウンドでは、BiTE、mAb及びIgGscFvの試験分子をトランスフェクトしたIGF1R変異細胞の回復曲線は、IGF1R変異細胞株が概して対照よりも遅く回復し、H905CがdelL1変異体よりも速く回復することを示している。
【0208】
流加生産細胞培養
CHO CS9又はCHO GSKOバックグラウンドのいずれかでIGF1R変異体を過剰発現する細胞株において、試験分子の増殖及び比生産性(Qp)を評価するために、10日間の流加生産を行った。IGF-1を含まない基礎生産培地中に、8×10細胞/mL(CS9ベース)又は1×10細胞/mL(GSKOベース)のいずれかで培養物を播種し、3日目、6日目及び8日目に追加の栄養剤をフィードした。培養物を10日目に回収した。流加の10日目に抗体価を測定した。力価は、上記で説明したようなWaters UPLCを使用して、アフィニティープロテインA POROS PA IDセンサーカートリッジによって測定した。
【0209】
流加生産試験において、細胞を上記の力価で生産培地に播種した。24ディープウェルプレート(Axygen Scientific、Union City、CA)では3mLの作業容積、又は125mLの通気振盪フラスコでは25mLの作業容積を使用した。3日目、6日目及び8日目に、初期培養容積の7%の単回のボーラスフィードを培養液に提供した。3日目、6日目及び8日目に、10g/Lを目標にグルコースをフィードした。遠心分離した馴化培地を、生産稼働の10日目に回収した。試料も同様に3日目、6日目、8日目に採取した。
【0210】
CHO CS9バックグラウンドでは、H905C変異体は、対照細胞株と比較して同等の増殖、同等以上の力価及び高いQpを有していた。図7A~Cを参照されたい。CHO GSKOバックグラウンドでは、H905C変異体は対照細胞株と同様の増殖を有していた。delL1及びH905C変異体の両方は、対照細胞株と比較して同等以上の力価及びQpを有していた。図8A~Bを参照されたい。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
【配列表】
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【国際調査報告】