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特表2023-548339アデノ随伴ウイルス(AAV)試料中の不純物の特徴付け及びAAVを安定させるための製剤組成物
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  • 特表-アデノ随伴ウイルス(AAV)試料中の不純物の特徴付け及びAAVを安定させるための製剤組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-16
(54)【発明の名称】アデノ随伴ウイルス(AAV)試料中の不純物の特徴付け及びAAVを安定させるための製剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/70 20060101AFI20231109BHJP
   C12N 15/10 20060101ALI20231109BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20231109BHJP
   C12Q 1/34 20060101ALI20231109BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20231109BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20231109BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20231109BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20231109BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20231109BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20231109BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20231109BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20231109BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20231109BHJP
   C12N 15/864 20060101ALN20231109BHJP
   C12N 7/01 20060101ALN20231109BHJP
【FI】
C12Q1/70
C12N15/10 112Z
C12Q1/6869 Z
C12Q1/34
A61K35/76
A61K48/00
A61K31/7088
A61K47/26
A61K47/18
A61K47/10
A61K47/02
A61K47/22
A61K9/19
C12N15/864 100Z
C12N7/01
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023526505
(86)(22)【出願日】2021-11-01
(85)【翻訳文提出日】2023-06-21
(86)【国際出願番号】 US2021057587
(87)【国際公開番号】W WO2022094411
(87)【国際公開日】2022-05-05
(31)【優先権主張番号】63/108,480
(32)【優先日】2020-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507302748
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【弁理士】
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】リュウ ディンジャン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン ボーウェン
(72)【発明者】
【氏名】ツル フランコ
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C076
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA13
4B063QQ42
4B063QR14
4B063QS08
4B063QS17
4B063QX01
4B065AA95X
4B065AB01
4B065BD09
4B065BD14
4B065BD21
4B065CA24
4B065CA44
4C076AA29
4C076CC26
4C076DD07
4C076DD09
4C076DD23
4C076DD26Z
4C076DD38
4C076DD51
4C076DD60
4C076DD67
4C076GG06
4C076GG47
4C084AA13
4C084MA05
4C084NA03
4C084ZB21
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA03
4C086MA05
4C086NA03
4C086ZB21
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087MA05
4C087NA03
4C087ZB21
(57)【要約】
サイズ排除クロマトグラフィー及び分光光度法の使用を含む、アデノ随伴ウイルス(AAV)試料又はバイオ医薬品中のDNA不純物を特徴付けるための方法が提供される。糖、アミノ酸、界面活性剤、又はポリオールなどの賦形剤の使用を含む、AAVベクターからのパックされたDNAの漏出を最小限に抑えるための方法及び組成物も提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを含む試料中の核酸不純物を特定する方法であって、
アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを含有する試料をサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)カラムに接触させる段階と、
溶液を使用して前記SECカラムを洗浄し、少なくとも1つの溶離液を提供する段階と、
分光光度計を使用して、前記少なくとも1つの溶離液中の核酸不純物を特定する段階と
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記核酸不純物が、AAVの一本鎖DNAゲノムである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記核酸不純物を蛍光色素で処理する段階を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記分光光度計を使用して、280nmで、前記少なくとも1つの溶離液の吸光度を測定する段階を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記分光光度計を使用して、260/280nmで、前記少なくとも1つの溶離液の吸光度比を測定する段階を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記核酸不純物を、核酸標準曲線に基づいて定量化する段階を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記試料を前記SECカラムに接触させる前に、前記試料をDNAヌクレアーゼに接触させる段階を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記SECシステムが、サイズ排除超高速液体クロマトグラフィー(SE-UPLC)システムである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1つの溶離液を、次世代シーケンシング(NGS)に供する段階を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
少なくとも1つのアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター及び少なくとも1つの賦形剤を含む、組成物であって、
前記少なくとも1つの賦形剤が、糖、アミノ酸、界面活性剤、又はポリオールであり、前記少なくとも1つのAAVベクターが、パックされた(packed)核酸を含み、かつ
前記パックされた核酸を漏出させることから前記組成物中の前記少なくとも1つのAAVベクターを保護する、
前記組成物。
【請求項11】
前記少なくとも1つのAAVベクターが、少なくとも1つの凍結融解サイクルに曝露される、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記パックされた核酸が、AAVゲノム由来の一本鎖DNAであり、前記パックされた核酸が、AAVキャプシド内部に存在する、請求項10に記載の組成物。
【請求項13】
前記賦形剤が、約0.001%~約10%の濃度で存在し、前記組成物が、リン酸緩衝生理食塩水及び非イオン性界面活性剤を更に含む、請求項10に記載の組成物。
【請求項14】
前記糖が、スクロース、トレハロース、マンニトール、ラフィノース、ラクトース、グルコース、マルトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、又はマルトヘプタオースである、請求項10に記載の組成物。
【請求項15】
前記アミノ酸がプロリンである、請求項10に記載の組成物。
【請求項16】
前記界面活性剤がポロキサマー188である、請求項10に記載の組成物。
【請求項17】
前記界面活性剤が、非イオン性界面活性剤であり、前記界面活性剤が、約0.001%~約0.2%の濃度で存在する、請求項10に記載の組成物。
【請求項18】
前記組成物が、スクロース及びポロキサマー188を含む、請求項10に記載の組成物。
【請求項19】
前記スクロースが、2.5%~10%の濃度で存在し、かつ前記ポロキサマー188が、0.001%~0.2%の濃度で存在する、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
パックされた核酸を漏出させることからアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを保護するための方法であって、
前記方法が、
少なくとも1つのAAVベクターを含む試料を取得する段階と、
前記試料に安定化組成物を加えて、保護製剤を形成する段階と
を含み、
前記保護製剤が、パックされた核酸を漏出させることから前記少なくとも1つのAAVベクターを保護し、前記安定化組成物が、少なくとも1つの賦形剤を含み、かつ前記賦形剤が、糖、アミノ酸、界面活性剤、又はポリオールである、
前記方法。
【請求項21】
前記AAVベクターが、少なくとも1つの凍結融解サイクルに曝露される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記パックされた核酸が、AAVの一本鎖DNAゲノムであり、前記パックされた核酸が、AAVキャプシド内部に存在する、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記賦形剤が、前記保護製剤中に約0.001%~約10%の濃度で存在し、前記安定化組成物が、リン酸緩衝生理食塩水及び非イオン性界面活性剤を更に含む、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
前記糖が、スクロース、トレハロース、マンニトール、ラフィノース、ラクトース、グルコース、マルトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、又はマルトヘプタオースである、請求項20に記載の組成物。
【請求項25】
前記アミノ酸がプロリンである、請求項20に記載の方法。
【請求項26】
前記界面活性剤がポロキサマー188である、請求項20に記載の方法。
【請求項27】
前記界面活性剤が、非イオン性界面活性剤であり、前記界面活性剤が、前記保護製剤中に約0.001%~約0.2%の濃度で存在する、請求項20に記載の方法。
【請求項28】
前記安定化組成物が、スクロース及びポロキサマー188を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項29】
前記スクロースが、前記保護製剤中に2.5%~10%の濃度で存在し、かつ前記ポロキサマー188が、前記保護製剤中に0.001%~0.2%の濃度で存在する、請求項28に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照により本明細書に組み込まれる2020年11月2日出願の米国仮特許出願第63/108,480号の優先権及び利益を主張するものである。
【0002】
分野
本発明は、概して、サイズ排除クロマトグラフィー及び分光光度法を使用して、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを含む試料中の核酸不純物を特徴付けるための方法に関する。本出願はまた、AAVベクターからの、パックされた(packed)DNAの漏出を最小限に抑えるための方法及び組成物も提供する。
【背景技術】
【0003】
背景
遺伝子療法は、例えば、遺伝物質を宿主ゲノムに組み込むことによって、長期的な遺伝子発現を達成しながら、実質的な毒性なしに、適切な量の治療遺伝子を標的組織に送達することによって、治療効果を媒介する。遺伝子治療療法には、核酸、プラスミド、ウイルス、ベクター、又は遺伝子操作された微生物が含まれる。レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、及びAAVベクターを含む現在利用可能な全てのウイルスベクターのうち、AAVベクターが、遺伝子療法のための遺伝物質を送達するために広く使用されてきた。
【0004】
遺伝子療法製品の評価には、製造工程を評価して製品の安全性及び品質を確保し、製造、保管、及び流通の段階で製品を評価することが含まれる。遺伝子療法製品は、典型的には、凍結溶液として保存されるため、凍結融解サイクル及び撹拌ストレスをとおした遺伝子療法製品の安定性を実証することが重要である。AAVベクター系遺伝子療法製品は、凍結融解サイクル中に分解を受けて、分解されたウイルスタンパク質及びDNA不純物を含む分解生成物を産生することができる。ベクター内部のパックされたAAVゲノムは、凍結融解サイクル又は撹拌中に漏出し得る。このため、遺伝子療法製品の様々な製剤化戦略を調査して、製品の安定性を増加させ、製品の分解を最小限に抑えるために製剤を調製する必要がある。
【0005】
様々な保管条件中のそのような遺伝子療法製品中の核酸不純物を特徴付けるための方法に対する必要性が存在することが認識されよう。加えて、AAVベクターからのパックされたDNAの漏出を最小限に抑える治療遺伝子を有するAAVベクターを含む組成物又は製剤を提供する必要性も存在する。
【発明の概要】
【0006】
概要
本出願は、サイズ排除クロマトグラフィー及び分光光度測定法の使用を含む、AAVベクター又は遺伝子療法製品を含む試料中の核酸不純物を特徴付け及び特定するための方法を提供する。本出願はまた、製造、輸送、保管、及び投与中に生じ得る凍結融解サイクル及び撹拌ストレスなどの保管条件中のAAVベクターからの、パックされたDNAの漏出を最小限に抑えるための方法及び組成物を提供する。
【0007】
本開示は、AAVベクターを含む試料中の核酸不純物を特定する方法を提供する。いくつかの例示的な実施形態では、本開示は、AAVベクターを含む試料をサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)カラムに接触させる段階と、溶液を使用してSECカラムを洗浄し、少なくとも1つの溶離液を提供する段階と、分光光度計を使用して少なくとも1つの溶離液中の核酸不純物を特定する段階とを含む方法を提供する。一態様では、核酸不純物は、AAVの一本鎖DNA(ssDNA)ゲノムである。別の態様では、核酸不純物は、二本鎖DNA(dsDNA)である。別の態様では、本出願の方法は、分光光度計を使用して280nmでの少なくとも1つの溶離液の吸光度を測定する段階と、分光光度計を使用して260/280nmでの少なくとも1つの溶離液の吸光度比を測定する段階とを更に含む。一態様では、本出願の方法は、核酸標準曲線に基づいて核酸不純物を定量化する段階を更に含む。一態様では、本出願の方法は、核酸不純物を、ssDNAに特に結合する蛍光色素で処理する段階を更に含む。別の態様では、本出願の方法は、試料をSECカラムに接触させる前に、試料をDNAヌクレアーゼに接触させる段階を更に含む。更なる態様では、SECシステムは、サイズ排除超高速液体クロマトグラフィー(SE-UPLC)システムである。別の態様では、本出願の方法は、少なくとも1つの溶離液を次世代シーケンシング(NGS)に供する段階を更に含む。
【0008】
本開示は、少なくとも部分的に、パックされた核酸を漏出させることからAAVベクターを保護するための組成物を提供する。いくつかの例示的な実施形態では、本開示は、少なくとも1つのAAVベクター及び少なくとも1つの賦形剤を含む、組成物であって、少なくとも1つの賦形剤が、糖、アミノ酸、界面活性剤、又はポリオールであり、少なくとも1つのAAVベクターが、パックされた核酸を含み、パックされた核酸を漏出させることから組成物中の少なくとも1つのAAVベクターを保護する、組成物を提供する。
【0009】
一態様では、本出願の組成物中のAAVベクターは、少なくとも1つの凍結融解サイクルに曝露される。一態様では、パックされた核酸は、AAVのssDNAゲノムであり、パックされた核酸は、AAVキャプシド内部に存在する。一態様では、本出願の組成物の賦形剤は、約0.001%~約10%の濃度で存在し、本組成物は、リン酸緩衝生理食塩水及び非イオン性界面活性剤を更に含む。別の態様では、本出願の組成物中の糖は、スクロース、トレハロース、マンニトール、ラフィノース、ラクトース、グルコース、マルトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、又はマルトヘプタオースである。一態様では、本出願の組成物中のアミノ酸は、プロリンである。一態様では、本出願の組成物中の界面活性剤は、ポロキサマー188(Pluronic(登録商標)F68)である。一態様では、本出願の組成物中の界面活性剤は、非イオン性界面活性剤であり、界面活性剤は、約0.001%~約0.2%の濃度で存在する。別の態様では、本組成物は、スクロース及びポロキサマー188を含む。特定の態様では、本組成物は、2.5%~10%の濃度でスクロースを、0.001%~0.2%の濃度でポロキサマー188を含む。
【0010】
本開示は、少なくとも部分的に、パックされた核酸を漏出させることからAAVベクターを保護するための方法を提供する。いくつかの例示的な実施形態では、本方法は、少なくとも1つのAAVベクターを含む試料を取得する段階と、試料に安定化組成物を加えて、保護製剤を形成する段階とを含み、保護製剤は、パックされた核酸を漏出させることから少なくとも1つのAAVベクターを保護し、安定化組成物は、少なくとも1つの賦形剤を含み、賦形剤は、糖、アミノ酸、界面活性剤、又はポリオールである。一態様では、AAVベクターは、少なくとも1つの凍結融解サイクルに曝露される。一態様では、パックされた核酸は、AAVのssDNAゲノムであり、パックされた核酸は、AAVキャプシド内部に存在する。
【0011】
別の態様では、賦形剤は、保護製剤中に約0.001%~約10%の濃度で存在し、安定化組成物は、リン酸緩衝生理食塩水及び非イオン性界面活性剤を更に含む。一態様では、糖は、スクロース、トレハロース、マンニトール、ラフィノース、ラクトース、グルコース、マルトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、又はマルトヘプタオースである。更に別の態様では、アミノ酸はプロリンである。一態様では、界面活性剤は、ポロキサマー188(Pluronic(登録商標)F68)である。一態様では、本出願の組成物中の界面活性剤は、非イオン性界面活性剤であり、界面活性剤は、保護製剤中に約0.001%~約0.2%の濃度で存在する。別の態様では、安定化組成物は、スクロース及びポロキサマー188を含む。特定の態様では、安定化組成物は、スクロースを、保護製剤中の最終濃度2.5%~10%で含み、安定化組成物は、ポロキサマー188を、保護製剤中の最終濃度0.001%~0.2%で含む。
【0012】
本発明のこれら及び他の態様は、以下の説明及び添付の図面と併せて検討すると、よりよく認識され、理解される。以下の説明は、様々な実施形態及びその多数の具体的な詳細を示すものの、例示目的であり、限定するものではない。多くの置き換え、修正、追加、又は再配置が、本発明の範囲内で行われ得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】Venkatakrishnanらに従う、AAV1キャプシドVP3モノマーの結晶構造及びAAV1キャプシドの表面表現を含むAAV1ベクターの構造を示す。
図2】例示的な実施形態に従い、保護製剤がある場合とない場合とのAAVベクターの凍結融解の効果を例示する。
図3】例示的な実施形態に従う、280nmでのAAV8-GFP試料のSEC画分の吸光度を示す。例示的な実施形態に従い、異なる量のAAV8-GFP試料、例えば、1μL、5μL、10μL、15μL、又は20μLの試料を、SECカラムにロードした。
図4】例示的な実施形態に従う、280nmの励起及び350nmの発光でモニタリングしたAAV8-GFP試料のSEC画分の蛍光強度を示す。
図5】例示的な実施形態に従う、280nmでのAAV8-GFP試料のSEC画分の吸光度を示す。例示的な実施形態に従い、異なる濃度(力価)のAAV8-GFP試料をSECカラムにロードした。
図6】例示的な実施形態に従う、様々な回数の凍結融解サイクル及び撹拌処理後のAAV8-GFP試料中のssDNA濃度の定量化を示す。
図7】例示的な実施形態に従う、t=0(太線)での、及び10回の凍結融解(F/T)サイクル(点線)後のAAV8.GFPのSE-UPLCクロマトグラムを示す。
図8】例示的な実施形態に従う、ベンゾナーゼ処理あり(点線)及びなし(太線)のAAV8.GFPのSE-UPLCクロマトグラムを示す。
図9】Aは、例示的な実施形態に従う、10サイクルの凍結融解(F/T)後の様々な製剤中のAAV8.GFPのSE-UPLCクロマトグラム中のDNAピークの不純物のパーセントを示す。Bは、例示的な実施形態に従う、10サイクルの凍結融解(F/T)後の様々な製剤中のAAV8.GFPから漏出したssDNAの量を示す。
図10】Aは、例示的な実施形態に従う、Quant-iT ssDNAキットによって測定した、10サイクルの凍結融解(F/T)後にAAV2、AAV3b、AAV5、AAV7、及びAAVDJから漏出した遊離ssDNAの量を示す。Bは、例示的な実施形態に従う、10サイクルの凍結融解(F/T)後のAAV2、AAV3b、AAV5、AAV7、及びAAVDJ中のSE-UPLCクロマトグラムにおけるDNAピークの不純物のパーセントを示す。
図11】実施形態に従う、AAVキャプシドからのDNA漏出を低減するために異なる製剤を使用して様々な賦形剤をスクリーニングするためのDLSを使用するAAV8-GFP試料中のウイルス粒子の流体力学半径の分析を示す。例示的な実施形態に従い、AAV8-GFP試料中のDNA不純物を、10回の凍結融解(F/T)サイクルの処理の前後に特徴付けた。
図12】Aは、例示的な実施形態に従う、1、2、又は4サイクルの凍結融解(F/T)後の、異なる濃度のスクロース、プロピレングリコール、又はPluronic F68を伴う製剤中のAAV8.GFPから漏出した遊離ssDNAの量を示す。Bは、例示的な実施形態に従う、1、2、又は4サイクルの凍結融解(F/T)後の、異なる濃度のスクロース、プロピレングリコール、又はPluronic F68を伴う製剤中のAAV8.GFPのSE-UPLCクロマトグラム中のDNAピークの不純物のパーセントを示す。
図13】Aは、例示的な実施形態に従う、10サイクルの凍結融解(F/T)後のベース製剤(BF)又は最適化製剤(OF)中のAAV2、AAV3b、AAV5、AAV7、AAV8、及びAAVDJから漏出した遊離ssDNAの量を示す。Bは、例示的な実施形態に従う、10サイクルの凍結融解(F/T)後のベース製剤(BF)又は最適化製剤(OF)中のAAV2、AAV3b、AAV5、AAV7、AAV8、及びAAVDJのSE-UPLCクロマトグラム中のDNAピークの不純物のパーセントを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
詳細な説明
遺伝子療法により、患者の健康状態を改善するために、損傷した又は変異した遺伝子を改変、修復、又は代置する可能性が開かれた。アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターは、遺伝子送達のための理想的なツールであり、ヒト遺伝子療法のための卓越したベクターとなっている。AAVは、遺伝子療法用途のために核酸を送達する特定の機能を実行するように操作することができる。AAVの主な利点には、低免疫原性及び病原性、並びに全体的に高い安全性及び安定性が含まれる(Naso et al.,BioDrugs 31(4)(2017)317-334、During,Adv Drug Deliv Rev 27(1)(1997)83-94)。AAVは、活性細胞分裂にかかわらず、導入遺伝子発現の持続時間を延長する穏やかな免疫応答を誘発しながら、広範囲の細胞に感染することができる(During;Carter,Curr Opin Biotech 3(5)(1992)533-539、Daya and Berns,Clin Microbiol Rev 21(4)(2008)583-593)。加えて、AAVは、いずれの既知の疾患とも関連付けられていない(Naso et al.;During;Carter;Daya and Berns;Xiao et al.,Adv Drug Deliv Rev 12(3)(1993)201-215、Muzyczka,Viral Expression Vectors,Springer1992,pp.97-129)。遺伝子送達ビヒクルとしてのAAVの別の利点は、遺伝子機能を破壊し、挿入変異誘発を引き起こす可能性があるランダムなゲノム組み込みのリスクが低いことである(Goswami et al.,Front Oncol 9(2019)297、Nguyen et al.,Blood 134(Supplement_1)(2019)611-611、Lundstrom,Diseases 6(2)(2018)42)。
【0015】
AAVは、ディペンドウイルス属下パルボウイルス科の非エンベロープウイルス及び非病原性メンバーであり、感染のためにアデノウイルス又はヘルペスウイルスなどのヘルパーを必要とする(Venkatakrishnan et al.,Structure and Dynamics of Adeno-Associated Virus Serotype 1 VP1- Unique N-Terminal Domain and Its Role in Capsid Trafficking,Journal of Virology,May,2013,vol.87,no.9,4974-4984ページ)。AAVは、キャプシドウイルスタンパク質と呼ばれるタンパク質のシェルで作られる20面体キャプシド中のサイズ約4.8キロベース(kb)のssDNAゲノムをカプセル化する。図1は、AAV1キャプシドVP3モノマーの結晶構造及びAAV1キャプシドの表面表現を含むAAV1の構造を示す(Venkatakrishnanら)。外側のキャプシドシェルを形成することに加えて、キャプシドウイルスタンパク質は、細胞結合及び内在化に積極的に関与する。
【0016】
AAVは、3つのキャプシドタンパク質、VP1、VP2、及びVP3で構成され、一本鎖DNA(ssDNA)がキャプシドに封入されている(Agbandje-McKenna and Kleinschmidt,Adeno-Associated Virus,Springer2012,pp.47-92、Drouin and Agbandje-McKenna,Future virology 8(12)(2013)1183-1199)。細胞受容体に結合した後、AAVは続いてエンドサイトーシスを受け、エンドソームから放出された後、宿主核に向かって輸送され、脱コーティングされて、ssDNAをそれらのキャプシドから放出する。論理的には、形質導入効率は、少なくとも部分的に、放出部位に到達する前の封入されたssDNAゲノムの量及びAAVの完全性に依存する(Nonnenmacher and Weber,Gene Ther 19(6)(2012)649-658、Hauck et al.,J Virol 78(24)(2004)13678-13686、Thomas et al.,J Virol 78(6)(2004)3110-3122)。
【0017】
遺伝子送達ベクターとしての組換えAAVの品質及び効率をモニタリングするためには、純度、キャプシド属性、ベクター粒子力価、及びAAVバイオ医薬品の空/完全比をモニタリングすることが重要である。また、貯蔵(安定した温度貯蔵及び凍結融解サイクルなど)、希釈剤(pHが異なる血清及び溶質など)、及び投与の様々な条件下で、AAVバイオ医薬品の安定性を実証することも重要である。AAVバイオ医薬品のような遺伝子療法製品は、典型的には、凍結溶液として貯蔵される。その結果、製造、製品用量調製、及び投与中の凍結融解サイクルは避けられない。まれに、輸送中の温度変動又は貯蔵中の冷凍庫の誤動作により、生物製剤が追加の凍結融解サイクルにさらされる可能性がある。AAVバイオ医薬品は、貯蔵条件における凍結融解サイクル中に安定性が低下して分解を受け得る。
【0018】
学術研究室では、AAVを遺伝子送達ベクターとして設計及び開発するための多大な努力の後、研究者は、概して、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)などの一般的に使用される緩衝液中にベクターを貯蔵し、比較的高濃度のグリセロールを凍結保護剤として加え、AAV材料を-80℃で貯蔵する。これはいささか標準的なプロトコルとなっているが、これらの条件は、AAV機能に有害である可能性がある(Boyd,Gene Therapy Technologies,Applications and Regulations(1999)383、Croyle et al.Gene Ther 8(17)(2001)1281-1290)。いくつかの場合、これには、凍結保護剤の毒性を低下させるために、投与前に大規模な希釈が求められることがある(Lee et al.,Journal of Assisted Reproduction and Genetics 23(2)(2006)87-91、Armitage et al.,Cryobiology 50(1)(2005)17-20)。複数の凍結融解サイクル後にAAVの力価及び形質導入効率が減少することが研究によって示されているが、この挙動の原因及び凍結融解サイクル後のAAV分解の機序は、十分に理解されていない(Croyle et al.;Rodrigues et al.,Pharm Res,2019,36(2):29、Howard and Harvey,Human Gene Therapy Methods 28(1)(2017)39-48)。
【0019】
本開示は、AAV試料中の不純物を特徴付ける方法を説明する。本発明の方法を使用して、凍結融解サイクルに供されるAAV8試料を特徴付けると、凍結融解サイクルの数の増加により、サイズ排除超高速液体クロマトグラフィー(SE-UPLC)によって検出可能な産物関連不純物が増加することが発見された。これらのAAV8試料の更なる特徴付けにより、不純物が主にAAVキャプシドから漏出するゲノムDNAからなることが示された。同様の挙動は他のAAV血清型でも観察された。
【0020】
図2に示されるように、凍結融解サイクル中にAAVのキャプシドが損傷すると、キャプシド内部のパックされたssDNA AAVゲノムが漏出し得る。AAVバイオ医薬品中で遊離ssDNAの存在が観察されると、これは貯蔵中のAAVバイオ医薬品の安定性が低下したことを示す。様々な賦形剤を遺伝子送達製品に加えて、製品安定性を増加させ、製品の分解を最小限に抑えてもよい。賦形剤には、緩衝液、リオプロテクター(lyoprotector)、等張化剤、及び界面活性剤が含まれてもよい(Rodriguesら)。追加の製剤は、以下で詳述する。
【0021】
様々な貯蔵条件下で、AAV試料又はバイオ医薬品中のDNA不純物を特徴付けるための方法に対する必要性が存在する。加えて、貯蔵条件中のAAVベクターからの、パックされたDNAの漏出を最小限に抑えるために、AAVバイオ医薬品の組成物又は製剤の安定化をもたらすべきである。
【0022】
本出願は、DNA不純物をAAVベクターから分離させるためにSECを使用することを含む、AAV試料又はバイオ医薬品中のDNA不純物、例えば、AAVのssDNAゲノムを特定するための方法を提供する。続いて、分光光度計を使用してSEC画分をモニタリングする。本出願はまた、リン酸緩衝液、塩、及び非イオン性界面活性剤の存在下で賦形剤を使用することを含む、AAVベクターからのパックされたDNAの漏出を最小限に抑えるための方法及び組成物も提供する。
【0023】
AAVバイオ医薬品中の不純物を測定及びモニタリングするための、迅速で、信頼性が高く、感度が高く、かつスループットの高い方法を開発する必要がある。所望の産物でも、産物関連物質でも、意図された製剤賦形剤でもない、精製AAVバイオ医薬品中のいずれの成分も、不純物とみなされ得る。ベクター産物関連不純物の例としては、空のAAVキャプシド粒子、及び意図されない核酸断片をキャプシド化するAAV粒子が挙げられる。追加のDNA不純物には、精製中、精製後、又は貯蔵中にAAVのキャプシドから漏出するAAVゲノムのssDNAが含まれてもよい。不純物には、ベクター生成システムの生合成環境における組換え事象によって非意図的に生成され得るヘルパーウイルス依存性複製可能AAV粒子が含まれてもよい。
【0024】
更に、AAVバイオ医薬品中の不純物はまた、AAVを生成するために使用される細胞培養物に由来する残留レベルのタンパク質及び核酸を含んでもよい。豊富な残留タンパク質不純物には、宿主細胞タンパク質及びウシ血清アルブミンが含まれてもよい。豊富な残留核酸には、プラスミド又はウイルスなどのヘルパー成分からの宿主細胞DNA/RNA及びDNAが含まれてもよい。残留宿主細胞DNAは、ヌクレアーゼ感受性プロセス関連不純物及びヌクレアーゼ抵抗性産物関連不純物を含む2つの形態で存在し得る。ヌクレアーゼ感受性プロセス関連不純物には、所望のAAVベクター産物と非特異的に同時精製される核酸が含まれる。ヌクレアーゼ抵抗性産物関連不純物には、AAV粒子内にキャプシド化された核酸が含まれる。これらの異なる形態の残留宿主細胞DNAを最小限に抑えるには、異なる製造プロセス最適化戦略が求められる。(J.F.Wright,Product-related impurities in clinical-grade recombinant AAV vectors:characterization and risk assessment,Biomedicines,2014,2,80-97)ヌクレアーゼ処理を使用して、AAVベクター精製中にアクセス可能な核酸を除去するにしても、AAVバイオ医薬品中のDNA不純物の除去は複雑である。ベクター粒子の完全性に起因してヌクレアーゼ処理に抵抗性である望ましくないDNA断片がパッケージされてもよい。
【0025】
AAVキャプシドは、タンパク質、例えば、キャプシドウイルスタンパク質のシェルで作られる20面体キャプシドにssDNAゲノムをカプセル化するので、好適な宿主細胞が複製のためにAAVゲノムを放出するための細胞進入を開始するようになるまで、キャプシドは、AAVゲノムを保護するために安定でなければならない。AAVのウイルスキャプシドタンパク質のアセンブリは、ウイルス感染性及びベクター効力に対して顕著な影響を有し得る(Jin et al.,Direct liquid chromatography/mass spectrometry analysis for complete characterization of recombinant adeno-associated virus capsid proteins,Human gene therapy methods,2017,Vol.28,No.5,255-267ページ)。AAVのキャプシドウイルスタンパク質は、入力ゲノムの第2鎖合成と転写との両方の開始において役割を果たし得る(Salganik et al.,Adeno-associated virus capsid proteins may play a role in transcription and second-strand synthesis of recombinant genomes,Journal of Virology,January 2014,Vol.88,No.2,1071-1079ページ)。キャプシドタンパク質の分解は、AAVの感染性に有害であり得、これが、AAV ssDNAゲノムの漏出を生じさせ得る。AAV ssDNAゲノムはまた、キャプシドの破損なしに排出され得る(Bernaud,Julien,et al.Characterization of AAV vector particle stability at the single-capsid level.Journal of biological physics,2018,Vol.44,No.2,181-194ページ)。
【0026】
AAV ssDNAゲノムは、rep(複製)、cap(キャプシド)、及びaap(アセンブリ)を含む3つの遺伝子を含む。rep遺伝子は、ウイルスゲノム複製及びパッケージングに関係する。cap遺伝子は、キャプシドウイルスタンパク質をコードする。cap遺伝子の発現により、共通のC末端を有する交互にスプライシングされたmRNAから作製される、VP1、VP2、及びVP3を含むキャプシドウイルスタンパク質が産生される。VP3は約61kDaであり、キャプシドタンパク質含有量の約85%を構成する。VP2は約73kDaである。VP1は約87kDaである。VP1及びVP2は、ホスホリパーゼA2ドメイン及び核局在シグナルを含むN末端伸長(VP1u)を含む(Rayaprolu et al.,Comparative analysis of adeno-associated virus capsid stability and dynamics,Journal of Virology,December 2013,vol.87,No.24,p.13150-13160)。AAVのキャプシドは、VP1、VP2、及びVP3を含む60個のウイルスタンパク質モノマーからなる。VP3が主要なキャプシドタンパク質である。AAVキャプシドには、約50個のVP3コピーが存在する。AAVキャプシドには、約5個のVP1コピー及び5個のVP2コピーが存在する(Venkatakrishnanら)。
【0027】
本出願は、DNA不純物をAAVベクターから分離させるためにSECを使用することを含む、AAV試料又はバイオ医薬品中のDNA不純物を特徴付け、特定、及び/又は定量化するための方法を提供する。続いて、分光光度計を使用してSEC画分をモニタリングする。本出願はまた、PBS及び非イオン性界面活性剤の存在下で賦形剤を使用することを含む、AAVベクターからのパックされたDNAの漏出を最小限に抑えるための方法及び組成物も提供する。いくつかの例示的な実施形態では、本出願は、AAVベクターを含む試料中のDNA不純物を特定する方法を提供し、本方法は、試料をSECカラムに接触させる段階と、溶液を使用してSECカラムを洗浄し、溶離液を提供する段階と、分光光度計を使用して溶離液中の核酸不純物を特定する段階とを含む。AAVベクターを含む試料をSECカラムにロードする。分光光度計を使用して、SECカラムを通過する画分をモニタリングし、280nmでのSEC画分の吸光度を測定する。AAVベクターに対応する1つのメインピークが、SEC溶出プロファイルにおいてSEC画分中で観察され得る。このメインピークは、分光光度計を使用して検出して280nmでの有意な吸光度を有する。DNA不純物に対応する1つの小さなピークが、SEC溶出プロファイルにおいてSEC画分中で観察される。この小さなピークは、分光光度計を使用して検出して280nmでの吸光度を有する。
【0028】
一態様では、AAVベクターを含む試料中のDNA不純物は、AAVのssDNAゲノムである。一態様では、分光光度計を使用してSEC画分を分析し、核酸純度を評価するためにUV260/280nmでの吸光度比を測定する。一態様では、本出願の方法は、分光光度計を使用して280nmでの溶離液の吸光度を測定する段階と、260/280nmでの溶離液の吸光度比を測定する段階とを含む。一態様では、本出願の方法は、DNA不純物を蛍光色素で処理する段階と組み合わせた、核酸標準曲線に基づいてDNA不純物を定量化する段階を更に含む。
【0029】
いくつかの例示的な実施形態では、本出願は、凍結融解サイクル及び撹拌などの貯蔵条件中に、パックされた核酸を漏出させることからAAVベクターを保護するための方法及び安定化組成物を提供する。いくつかの態様では、AAVベクター及び賦形剤を含む安定化組成物は、糖、アミノ酸、界面活性剤、又はポリオールを含む。いくつかの態様では、パックされた核酸を漏出させることからAAVベクターを保護するための方法は、AAVベクターを安定化組成物と混合することを含む。
【0030】
一態様では、本出願の安定化組成物の賦形剤は、約0.001%~約10%の濃度で存在し、安定化組成物は、リン酸緩衝生理食塩水及び非イオン性界面活性剤を更に含む。一態様では、本出願の安定化組成物中の糖は、スクロース、トレハロース、マンニトール、ラフィノース、ラクトース、グルコース、マルトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、又はマルトヘプタオースである。別の態様では、本出願の安定化組成物中のアミノ酸は、プロリンである。更に別の態様では、本出願の安定化組成物中の界面活性剤は、Pluronic(登録商標)F68である。一態様では、本出願の安定化組成物中の界面活性剤は、非イオン性界面活性剤であり、界面活性剤は、約0.001%~約0.2%の濃度で存在する。
【0031】
遺伝子送達製品を評価して、製品の安全性及び品質を確保したいという要望は、様々な貯蔵条件の間のAAV試料又はバイオ医薬品中のDNA不純物を特徴付けたいという要望の増加をもたらした。加えて、AAVベクターからのパックされたDNAの漏出を最小限に抑えるための、AAVバイオ医薬品の組成物又は製剤を提供する必要性も存在する。本明細書に開示される例示的な実施形態は、長年にわたる必要を満たすための方法及び組成物を提供することによって、前述の要望を満たす。
【0032】
「a」という用語は、「少なくとも1つ」を意味すると理解されるべきであり、「約」及び「およそ」という用語は、当業者によって理解され得るとおり、標準的な変動を許容すると理解されるべきであり、範囲が提供される場合には、終点が含まれる。本明細書で使用される場合、「含む(include)」、「含む(includes)」、及び「含む(including)」という用語は、非限定的であることを意味し、それぞれ、「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、及び「含む(comprising)」を意味すると理解される。
【0033】
いくつかの例示的な実施形態では、本出願は、AAVベクターを含む試料中の核酸不純物を特定する方法を提供し、本方法は、AAVベクターを含む試料をサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)カラムに接触させる段階と、溶液を使用してSECカラムを洗浄し、少なくとも1つの溶離液を提供する段階と、分光光度計を使用して少なくとも1つの溶離液中の核酸不純物を特定する段階とを含む。
【0034】
本明細書で使用される場合、「ベクター」という用語は、インビトロ又はインビボのいずれかで宿主細胞に送達される核酸を担持する組換えプラスミド又はウイルスを指す。
【0035】
AAVに由来するベクターは、遺伝子材料の送達に特に魅力的であり、その理由は、(i)これらが、筋線維及びニューロンを含む多種多様な非分裂及び分裂細胞種を感染(形質導入)させることができるため、(ii)これらが、ウイルス構造遺伝子を含まないことにより、ウイルス観戦に対する天然の宿主細胞応答、例えば、インターフェロン媒介性応答を除去するため、(iii)野生型ウイルスが、ヒトにおけるいずれの病理にも関連付けられていないため、(iv)宿主細胞ゲノムに組み込まれることができる野生型AAVとは対照的に、複製欠損性AAVベクターは、概してエピソームとして存続し、このことにより、挿入変異誘発又はがん遺伝子の活性化のリスクが制限されるため、並びに(v)他のベクター系とは対照的に、AAVベクターは、顕著な免疫応答を誘発せず(ii参照)、このことにより、治療用導入遺伝子の長期発現がかなえられる(それらの遺伝子産物が拒絶されないことを条件とする)ためである。
【0036】
本明細書で使用される場合、「不純物」という用語は、所望の産物でも、産物関連物質でも、意図された製剤賦形剤でもない、精製AAV試料中の任意の成分を指す。DNA不純物には、精製中、精製後、又は貯蔵中にAAVのキャプシドから漏出するAAVゲノムのssDNAが含まれてもよい。不純物には、ベクター生成システムの生合成環境における組換え事象によって非意図的に生成され得るヘルパーウイルス依存性複製可能AAV粒子が含まれてもよい。AAVの精製後に残存する不純物には、AAVを生成するために使用される細胞培養物の成分に由来する残留レベルのタンパク質及び核酸が含まれてもよい。残留タンパク質不純物には、宿主細胞タンパク質及びウシ血清アルブミンが含まれてもよい。残留核酸には、プラスミド又はウイルスなどのヘルパー成分からの宿主細胞DNA/RNA及びDNAが含まれてもよい。残留宿主細胞DNAは、(1)ヌクレアーゼ感受性プロセス関連不純物、例えば、所望のAAVベクター産物と非特異的に同時精製された不純物、及び(2)ヌクレアーゼ抵抗性産物関連不純物、例えば、AAV粒子内にキャプシド化された不純物の2つの形態で存在し得る(J.F.Wright)。
【0037】
本明細書で使用される場合、「核酸」は、DNA又はRNA分子を指す。いくつかの例示的な実施形態では、「核酸」という用語は、DNA及びRNAの既知の塩基類似体のうちのいずれかを含む配列を包含し、これは、4-アセチルシトシン、8-ヒドロキシ-N6-メチルアデノシン、アジリジニルシトシン、シュードイソシトシン、5-(カルボキシヒドロキシ-メチル)ウラシル、5-フルオロウラシル、5-ブロモウラシル、5-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオウラシル、5-カルボキシメチル-アミノメチルウラシル、ジヒドロウラシル、イノシン、N6-イソペンテニルアデニン、1-メチルアデニン、1-メチルシュード-ウラシル、1-メチルグアニン、1-メチルイノシン、2,2-ジメチル-グアニン、2-メチルアデニン、2-メチルグアニン、3-メチル-シトシン、5-メチルシトシン、N6-メチルアデニン、7-メチルグアニン、5-メチルアミノメチルウラシル、5-メトキシ-アミノ-メチル-2-チオウラシル、ベータ-D-マンノシルキューオシン、5′-メトキシカルボニルメチルウラシル、5-メトキシウラシル、2-メチルチオ-N6-イソペンテニルアデニン、ウラシル-5-オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル-5-オキシ酢酸、オキシブトキソシン、シュードウラシル、キューオシン、2-チオシトシン、5-メチル-2-チオウラシル、2-チオウラシル、4-チオウラシル、5-メチルウラシル、-ウラシル-5-オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル-5-オキシ酢酸、シュードウラシル、キューオシン、2-チオシトシン、及び2,6-ジアミノプリンなどであるが、これらに限定されない。
【0038】
本明細書で使用される場合、「サイズ排除クロマトグラフィー」又は「SEC」という用語は、マトリックスをとおして濾過することによってサイズ(分子量など)に基づいて溶液中の分子を分離させることができるクロマトグラフィー法、例えば、分子ふるいクロマトグラフィーを指す。ゲルなどのマトリックスは、特定のサイズ分布を有する細孔を含む球状ビーズからなる。異なるサイズの分子がビーズ内に含まれるか又は細孔から除かれるとき、分子は、それらのサイズによって分離され得る。サイズのより小さい分子は細孔中に出ることができ、これにより、より小さな分子がSECカラムを通過するのに必要な期間が増加する。しかしながら、サイズの大きい分子は、細孔に入らない。大きな分子が細孔に入らないとき、それらはSECカラムの空隙体積中で溶出される。概して、大きな分子がSECカラムを通過する期間は、小さな分子の時間と比較して短い。このため、異なるサイズの分子がSECカラムを通過する期間が異なることを理由に、SECカラムをとおして分子をサイズによって分離させることができる。SECは、タンパク質複合体などの大きな分子又は高分子複合体を分離させるために使用することができる。一般に、SECで使用される緩衝剤は、生体分子の天然構造及び配座を溶液中で保存することで、その天然構造及び配座を妨害することなく生体分子の分離を可能にするように配合される。
【0039】
本明細書で使用される場合、「分光光度計」という用語は、吸光分光光度計などの、吸収された光の強度を波長の関数として定量的に測定することができる機器を含む。分光光度計には、所望の波長を含む光ビームを生成するための単色光分光器又はプリズムと、キュベット又はフローセルに出入りする際のそのビームの強度の比を測定する手段とが含まれている。UV可視分光光度計では、好適なUV及び/又は可視光源からの光のビームがプリズム又は回折格子単色光分光器を通過する。その後、光は、分析される試料通過した後、検出器に到達する。分光光度計はまた、SEC-HPLC/UPLCシステムの一部であってもよく、検出器であってもよい。
【0040】
例示的な実施形態
本明細書に開示される実施形態は、AAV試料又はバイオ医薬品中のDNA不純物を特徴付け、特定するための方法を提供する。本明細書に開示される実施形態はまた、AAVベクターからのパックされたDNAの漏出を最小限に抑えるための方法及び組成物も提供する。
【0041】
いくつかの例示的な実施形態では、本出願は、AAVベクターを含む試料中の核酸不純物を特定する方法を提供し、本方法は、AAVベクターを含む試料をSECカラムに接触させる段階と、溶液を使用してSECカラムを洗浄し、少なくとも1つの溶離液を提供する段階と、分光光度計を使用して少なくとも1つの溶離液中の核酸不純物を特定する段階とを含む。一態様では、核酸不純物は、AAVの一本鎖DNAゲノムである。
【0042】
いくつかの例示的な実施形態では、本出願は、パックされた核酸を漏出させることからAAVベクターを保護するための組成物を提供し、本組成物は、糖、アミノ酸、界面活性剤、又はポリオールを含む少なくとも1つの賦形剤を含む。一態様では、本出願の組成物の賦形剤は、約0.001%~約10%、約0.001%~約8%、約0.001%~約6%、約0.05%~約5%、約0.1%~約10%、約0.1%~約8%、約0.1%~約6%、約0.1%~約5%、約5%、約4%、約3%、約2.5%、約2%、約1.5%、約1%、約0.1%、約0.05%、又は約0.001%の濃度で存在する。
【0043】
一態様では、本組成物は、リン酸緩衝生理食塩水及び非イオン性界面活性剤を更に含む。別の態様では、本出願の組成物中の糖は、スクロース、トレハロース、マンニトール、ラフィノース、ラクトース、グルコース、マルトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、又はマルトヘプタオースである。別の態様では、本出願の組成物中のアミノ酸は、プロリンである。更に別の態様では、本出願の組成物中の界面活性剤は、Pluronic(登録商標)F68である。一態様では、本出願の組成物中の界面活性剤は、非イオン性界面活性剤であり、界面活性剤は、約0.001%~約0.2%、約0.1%、約0.05%、又は約0.001%の濃度で存在する。
【0044】
本システムは、前述のアデノ随伴ウイルス、サイズ排除クロマトグラフィー、分光光度計、ssDNA、AAVベクター、及び賦形剤のうちのいずれにも限定されないことが理解される。
【0045】
本明細書で提供される方法ステップの数字及び/又は文字による連続的な標識は、方法又はその任意の実施形態を特定の指示された順序に限定することを意味しない。特許、特許出願、公開された特許出願、アクセッション番号、技術論文及び学術論文を含む種々の刊行物が、本明細書全体を通して引用される。これらの引用された参考文献の各々は、その全体が全ての目的のために本明細書中に参考として援用される。別段記載されない限り、本明細書で使用される全ての技術及び科学用語は、本発明が属する技術分野における当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。本開示は、本開示をより詳細に説明するために提供される以下の実施例を参照することによって、より完全に理解されるであろう。それらは、例示することを意図しており、本開示の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例
【0046】
分光光度計:分光光度計を使用して、サイズ排除クロマトグラフィーカラムから得られた画分中のタンパク質及び核酸を検出しモニタリングした。タンパク質の検出は、280nmでの吸光度を使用して行った。DNA又はRNAの検出は、260nmでの吸光度を使用して行った。溶液中のタンパク質は、280及び200nmで最大となる吸光度で紫外線を吸収する。芳香環を伴うアミノ酸は、280nmで吸光度ピークを有する。核酸は、分光光度計を使用して、260nmで塩基によって吸収される紫外線放射の量を測定することによって定量化することができる。DNAヌクレオチドは、糖骨格、塩基、及びリン酸基を含む。塩基は窒素が豊富で、260nmで光を吸収する。1cmの光路長について、260nmでの光学密度(260nmでの吸光度、OD260)は、以下の溶液について1.0に等しい:50μg/mLの二本鎖DNA溶液、33μg/mLの一本鎖DNA溶液、20~30μg/mLのオリゴヌクレオチド溶液、又は40μg/mLのRNAの溶液。
【0047】
DNA試料は、260nmでの吸光度に影響を及ぼし得る不純物を含み得る。260/280nmでの吸光度比を分析して、核酸純度を評価した。純粋なDNAは、260/280nmで吸光度比が約1.8.~2.0である。純粋なRNAは、260/280nmで吸光度比が約2.0である。高品質のDNA又はRNA試料は、260/280nmで吸光度比が約1.7を上回るべきである。DNA又はRNA溶液の260/280nmで観察された吸光度比が低い場合、タンパク質又はフェノールによって引き起こされた汚染の可能性が示される。吸光度が280nmで最大であると、タンパク質汚染の可能性が示される。吸光度が230nmで最大であると、フェノラート又はチオシアネート汚染の可能性が示される。吸光度が340nmで最大であると、微粒子によって引き起こされた光の散乱が示される。
【0048】
試料調製.凍結融解試験のために、1mLのガラスバイアル中の100μLのAAV溶液を、-80℃で少なくとも1時間凍結させ、続いて、室温で少なくとも30分間解凍させて、1サイクルを完了させた。
【0049】
SE-UPLCピーク1に対するベンゾナーゼの効果を特徴付けるために、Benzonase(登録商標)(Millipore Sigma、Burlington,MA)をAAV8.GFP溶液に1:50の体積比で加え、SE-UPLC分析の前に十分に混合した。
【0050】
製剤スクリーニング試験のために、異なるAAV血清型を3.7×1012vg/mLのゲノム力価に調整した。次に、2倍濃縮製剤緩衝液を異なるAAV血清型試料と混合して標的製剤を得て、これらの試料を凍結融解サイクルに供した。分析は、t=0で、1、2、4、又は10回の凍結融解サイクル後に実施した。
【0051】
SE-UPLC.AAV8.GFP試料を、Waters ACQUITY UPLCシステム内で実行する、細孔サイズ500オングストロームのSepax SEC 5μm、4.6×300nmカラムを使用して分析した。1.83×1012vg/mLで1、5、10、15、及び20μLの標準を注入することによって、較正曲線を構築した。次に、10μLのAAV8試料を注入し、2倍DPBSを移動相として用いて0.5mL/分の流量で溶出させた。溶出をフォトダイオードアレイ検出器によってモニタリングし、更なる分析のために210~400nmの範囲のスペクトルを記録した。
【0052】
SE-UPLC溶出プロファイルにおいて異なる種を画分するために、Waters Fraction Manager-AnalyticalをACQUITY UPLCシステムに接続し、対応する保持時間で溶出した画分を収集するために使用した。数回の繰り返し注入を行い、複数回の注入からの画分を一緒にプールし、続いてAmicon Ultra-0.5遠心フィルタユニットで5倍まで濃縮(体積の減少)した。収集した画分を次世代シーケンシング(NGS)に供して、属性を確認した。
【0053】
次世代シーケンシング.Lecomteらによって説明されているプロトコルを若干修正して使用し、試料調製を行った(Lecomte et al.,Molecular Therapy-Nucleic Acids 4(2015)e260)。不純物ピーク(メイン溶出ピークの前のSE-UPLCプロファイルのピーク1)を特定するために、一切のDNase処理なしでDNA単離を行った。Nextera XT DNAライブラリ調製キットを製造業者の指示に従って使用し、Illuminaライブラリを調製した。最終プールを、150サイクルの中間出力キットを使用してNextSeq550においてシーケンシングした。社内のデータ分析パイプラインを使用して、シーケンシング読み取りを分析した。
【0054】
蛍光ベースの遊離DNAアッセイ.Quant-iT(商標)OliGreen(登録商標)ssDNA Assay Kit(Invitrogen(商標))を、Thermo Fisher Scientificから購入した。使用前に、200倍ストックQuant-iT OliGreen ssDNA試薬及び100μg/mLのオリゴヌクレオチド標準を室温まで温めた。20倍ストックTE緩衝液を、Milli-Q水で20倍に希釈して、作用濃度(10mMのTris-HCl、1mMのEDTA、pH7.5)にした。次に、ユーザーガイドに従って、TE緩衝液を使用して、試薬及びオリゴヌクレオチド標準を作用濃度に希釈した。AAV及びオリゴヌクレオチド標準試料を、ユーザーガイドにある比を使用して試薬と混合し、AAV試料中のssDNAを、異なる濃度(0、10、100、500、及び1000ng/mL)のオリゴヌクレオチド標準を含む5つの試料から生成された標準線形曲線を使用して補間した。試料を384ウェルプレート中に配置し、Synergy(商標)Neo2 Multi mode Reader(BioTek)を使用して分析した。励起波長及び発光波長を、それぞれ480nm及び520nmに設定した。
【0055】
実施例1.AAV試料中のDNA不純物の特徴付け
AAV血清型8(AAV8)をHEK-293細胞中で生成すると、0.001%のPluronic(登録商標)F68を伴うPBS中に少なくとも5×1012ゲノムコピー/mLを含むことが報告された。DNA不純物の分析のために、ペイロードGFP(緑色蛍光タンパク質)を含むAVV8、例えば、AAV8-GFPを使用した。異なる量のAAV8-GFP試料、例えば、1μL、5μL、10μL、15μL、又は20μLの試料を、SECカラムを使用して分析した。サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)カラムにAAV8-GFP試料をロードした。図3に示されるように、分光光度計を使用して、SECカラムを通過する画分をモニタリングし、280nmでのSEC画分の吸光度を測定した。図3では、Y軸は、吸光度単位(AU)における280nmでの吸光度を表し、X軸は、カラムを通過する画分の保持時間として表される。図3に示されるように、12~15分間の保持時間でのAAV8-GFPウイルス粒子に対応する1つのメインピークが、SEC溶出プロファイルにおけるSEC画分中で観察され、これは、分光光度計を使用して検出して、280nmで有意な吸光度を有した。8~11分間の保持時間で280nmでの吸光度を有する1つの小さなピーク、例えば、図3のピーク1が、SEC溶出プロファイルにおいて観察された。
【0056】
図4に示されるように、SEC画分の蛍光強度も、280nmの励起及び350nmの発光でモニタリングした。図4では、Y軸は、正規化された蛍光強度を表し、X軸は、SECカラムを通過する画分の保持時間として表される。図3のメインピークに対応する画分は、図4に示されるように、12~15分間の同じ保持時間で有意な蛍光強度を有する類似のピークとして現れた。図3のピーク1に対応する画分は、図4に示されるように、8~11分間の対応する保持時間で、検出可能な蛍光強度(280nmの励起及び350nmの発光)を示さなかった。
【0057】
更に、分光光度計を使用してSEC画分のピーク1及びメインピークを分析し、核酸純度を評価するためにUV260/280nmでの吸光度比を測定した。表1に示されるように、SEC画分のピーク1は、UV260/280nmについて1.7の読み取りを示し、タンパク質汚染のないDNAの良好な純度が示された。メインピークのSEC画分は、260/280nmでのUVについて1.3の読み取りを示し、タンパク質の存在が示された。バルクDS(AAVバイオ医薬品を含む原薬)のUV可視は、精製AAVベクターに対応する260/280nmでのUVについて1.3の読み取りを示した。AAV8-GFP試料をヌクレアーゼで処理すると、ピーク1の強度が有意に低下した。これらの結果により、ピーク1に対応するSEC画分がDNAを含むことが示された。更に、結果により、SEC画分のピーク1がAAVゲノムのssDNAを含み得ることが示された。
【0058】
(表1)SEC画分の260/280nmでの吸光度比
【0059】
ピーク1がタンパク質汚染のない高純度DNAを含んだことが結果により示されたため、SECと吸光度の測定との組み合わせを効果的に使用して、AAV試料中のssDNA不純物を定量化し得る。AAV試料をSECカラムにロードして、AAVベクターからDNA不純物を分離させ得る。SEC画分を吸光度280nmでモニタリングして、SEC溶出プロファイルにおけるDNA不純物及びAAVベクターを特定し得る。続いて、DNA不純物を含むSEC画分を、260nmでの吸光度を測定することによって定量化し得る。DNAの純度は、260/280nmでの吸光度比を測定することによって評価し得る。精製AAV試料中のDNA不純物は、凍結融解サイクル及び撹拌などの逸脱した貯蔵条件中にAAVキャプシドから漏出したssDNAを含んでもよい。
【0060】
実施例2.凍結融解サイクルの処理後のssDNA漏出の特徴付け
現在、AAV遺伝子療法薬物製品は、製品の品質及び安定性を保存するために凍結液体として貯蔵され、したがって、AAV粒子は、製造、輸送、貯蔵、及び投与中に複数回の凍結融解サイクルに供される。このため、AAV8製剤の安定性を理解し、可能性のある分解経路を決定するために、複数回の凍結融解サイクルを、特性評価及び安定性試験においてストレス条件のうちの1つとして選択した。
【0061】
GFPペイロードを含むAAV8を原料として使用し、凍結融解サイクルの処理後のssDNA漏出を特性評価した。pH7.4の0.001%のPluronic F68を伴うPBS中の8.34×1012vg/mLのAAV8-GFPを含む原料を、この分析に使用した。この原料を使用して、異なるAAV力価を含む試料を調製した。原料を、Amicon遠心フィルタを使用して濃縮し、2倍(濃縮2倍)、4倍、及び10倍での力価などの所望の標的濃度(より高い濃度)に到達させた。AAVベクターを含む試料を-80℃で1時間以上凍結させ、続いて室温で0.5時間以上解凍させることによって、凍結融解サイクルを実施した。別途記載のない限り、試料処理のために8回の凍結融解サイクルを実施した。
【0062】
図5のSECクロマトグラムに示されるように、原料(図5のAAV8.GFP)及び試料を異なる力価、例えば、2倍、4倍、及び10倍での力価で含むSECカラムに、8回の凍結融解サイクルで処理したAAV8-GFP試料をロードした。分光光度計を使用して、SECカラムを通過する画分をモニタリングし、280nmでのSEC画分の吸光度を測定した。図5では、Y軸は、280nm(UV)での正規化された吸光度を表し、X軸は、SECカラムを通過する画分の保持時間として表される。図5に示されるように、12~15分間の保持時間でのAAV8-GFPウイルス粒子に対応する1つのメインピークが、SEC溶出プロファイルにおけるSEC画分中で観察された。このメインピークは、分光光度計を使用して検出して280nmでの有意な吸光度を有した。図5のピーク1と表示される、8~11分間の保持時間で280nmでの吸光度を有する1つの小さなピークが、SEC溶出プロファイルにおいて観察された。
【0063】
SEC溶出プロファイルにおけるピーク1のサイズは、AAV8-GFP試料に対する8回の凍結融解サイクルの処理後に有意に増加した。ピーク1のサイズの増加は、AAV8-GFPの濃度、例えば、AAVの力価に依存していた。表2は、SEC溶出プロファイルにおける8回の凍結融解サイクルの処理前後のピーク1のサイズ変動を示す。これらの結果により、ピーク1のサイズが凍結融解処理後に有意に増加したことが示され、凍結融解処理後のウイルスキャプシドからのAAVゲノムのssDNAの放出が示された。更に、分光光度計を使用してSEC画分のピーク1及びメインピークを分析し、核酸純度を評価するためにUV260/280nmでの吸光度比を測定した。表3に示されるように、SEC画分のピーク1は、UV260/280nmについて2.1の読み取りを示し、タンパク質が最小限であるDNAの良好な純度が示された。SEC画分のメインピークは、UV260/280nmについて1.4の読み取りを示し、タンパク質の存在が示された。バルクDSのUV可視は、ウイルス粒子に対応する260/280nmでのUVについて1.3の読み取りを示した。
【0064】
加えて、動的光散乱(DLS)を使用して、試料中のAAVベクターについての球のサイズ分布プロファイルを決定した。表4は、DLSによって検出した、8回の凍結融解(F/T)サイクルの処理の前後のAAVベクターの流体力学半径(単位nm)を示す。
【0065】
(表2)凍結融解処理前後のピーク1のサイズ変動
【0066】
(表3)UV260/280nmでの画分のSEC吸光度比
【0067】
(表4)AAVベクターの流体力学半径
【0068】
凍結融解処理後のAAVウイルスキャプシドからのssDNAの放出を特性評価し、ssDNAに特に結合する蛍光色素を使用して定量化した。凍結融解(F/T)処理後、蛍光色素をAAV8-GFP試料にスパイクした。標準曲線を生成するために、異なる濃度の合成オリゴヌクレオチドを含む試料を標準として調製した。25μLのssDNA標準溶液を25μLの1倍色素溶液と混合して、10ng/mL~1000ng/mLの濃度範囲のssDNAを得ることによって、標準曲線を調製した。標準を分析して、384ウェルプレート中の50μL試料について励起480nm及び放出520nmで蛍光を検出した。
【0069】
5回の凍結融解サイクル(F/T 5回)又は10回の凍結融解サイクル(F/T 10回)など、複数回の凍結融解サイクルで処理した、又は48時間水平に振盪したAAV8-GFP試料を、ssDNA濃度について定量化した。図6は、凍結融解処理及び48時間の振盪後のAAV8-GFP試料中のssDNA濃度の定量化を示す。図6に示されるように、凍結融解処理及び振盪後に、AAV8-GFP試料中のssDNA量が増加した。図6のY軸は、ssDNA濃度をng/mL単位で表す。
【0070】
ssDNA漏出に対する凍結融解サイクルの影響を更に評価するために、SE-UPLCを使用して、凍結融解ストレスに起因するAAV8.GFP試料中のサイズ変動レベルの変化を測定した。図7に示されるように、t=0での未処理のAAV8.GFP試料のSE-UPLC溶出プロファイルは、保持時間7.9分前後でメインピークを示し、本明細書ではピーク1と称される早期溶出ピークはおよそ6.3分であった。興味深いことに、ピーク1は10回の凍結融解サイクル後にピーク面積及びピーク高さが増加した。ピーク1はSE-UPLCプロファイルにおけるメインピークよりも早く溶出したため、これに対する可能性のある説明は、6.3分前後でのピークがAAVキャプシドの凝集体などの高分子量種であることである。
【0071】
ピーク1種を更に特性評価するために、AAV8.GFP試料のSE-UPLCクロマトグラムから260nm及び280nmで収集したUVシグナルを分析した。概して、UV260/280比が0.6である試料は「純粋な」タンパク質とみなされ、UV260/280比が1.8である試料は「純粋な」DNAとみなされる(Wilfinger et al.,Biotechniques 22(3)(1997)474-481、Porterfield and Zlotnick,Virology 407(2)(2010)281-288)。SE-UPLCによって分析したAAV8試料について、ピーク1のUV260/280比は1.8であり、メインピークのUV260/280比は1.2であった(表5)。メインピークについて観察されたUV260/280比により、タンパク質とDNAとの両方からのUV吸光の寄与が示され、これは、ssDNAゲノムを封入するAAVキャプシドを表すメインピークと一致する。ピーク1で観察されたUV260/280比は、代わりに280nmでのタンパク質吸光度からの寄与に起因してUV260/280比がより低いAAV凝集体ではなく、DNA不純物を示唆している。
【0072】
(表5)AAV8.GFPのSE-UPLCクロマトグラムにおけるプレピーク及びメインピークのUV260/280比
【0073】
この不純物ピークの属性を確認するために、蛍光検出器に接続したSE-HPLC(SE-HPLC-FLR)、ヌクレアーゼ処理、及び次世代シーケンシング(NGS)を使用して、追加の特性評価を行った。まず、蛍光検出器を液体クロマトグラムシステムに接続し、励起280nm及び発光350nmで蛍光シグナルを収集した。蛍光検出器では、メインピークのみが観察され、UVクロマトグラムで見られるピーク1は存在しなかった。この観察により、タンパク質含有種としてではなく、DNAとしての不純物ピークの組成が更に確認された。第2に、ベンゾナーゼを使用して、AAV8.GFP試料を処理した。ベンゾナーゼは、DNAヌクレアーゼとして周知であり、様々な目的で試料中のDNAを消化するために広く使用されてきた(Sastry et al.,Human Gene Therapy 15(2)(2004)221-226、Antonioli et al.,Journal of Chromatography A 1216(17)(2009)3606-3612、Konz et al.,Biotechnology Progress 21(2)(2005)466-472)。図8に示されるように、約6.3分でのピーク1の強度は著しく(ほぼベースラインレベルに)減少し、同時にメインピークの高さも低下した。これらのデータにより、SE-UPLCの主要な種の前に溶出した不純物のピークは実にDNAであったことが示される。
【0074】
分子レベルでピーク1の属性を決定するために、これを、5.8~7.2分間溶出させた画分を収集し、得られたプール画分を5倍に濃縮することによって、Illuminaプラットフォームを使用したNGS分析用に選択的に濃縮した(表6)。濃縮プールを使用して、一本鎖DNAウイルスシーケンシング(SSV-Seq)のためのLecomteらのプロトコルに従って、NGSライブラリを調製した(Lecomte et al.,Adeno-Associated Virus Vectors,Springer2019,pp.85-106)。SSV-Seqプロトコルは、4つの実験ステップ:(ステップ1)AAVプールからのDNA抽出、(ステップ2)第2鎖DNA合成、(ステップ3)Illuminaシーケンシングライブラリの調製、及び(ステップ4)Illuminaプラットフォームに基づくハイスループットシーケンシングで構成される。データ分析は、社内の専用バイオインフォマティクスパイプラインを使用して行った。SSV-Seqは、(例えば、プライマーを生成するために必要とされるように)いずれの事前の知識もなくDNA種を検出し、特定することができるので、(例えば、qPCRとは対照的に)配列に依存しない技法である。
【0075】
(表6)AAV8.GFPのSE-UPLCクロマトグラムにおける濃縮プレピークのNGS結果
【0076】
ベンゾナーゼ処理により不純物ピークが除去されたことを観察したら、いずれのDNase処理も用いずにDNA単離を行った。読み取りを、以下の参照配列の各々に割り当てた:(i)CAG-eGFP bGHpAゲノムを含むITR、(ii)ベクタープラスミドの細菌骨格、(iii)Rep-Cap8プラスミド全体、(iv)ヘルパープラスミド全体、(v)HEK293パッケージング細胞株ゲノムに組み込まれたAd5ゲノムの断片、及び(vi)ヒトゲノム一次アセンブリGRCh38。
【0077】
NGSからの読み取りの大部分は、CAG-eGFPゲノム(約97%)にマッピングされ、続いて、より少量が、ベクタープラスミド骨格(約1.2%)、Rep-Cap8(約1~1.1%)、及びヘルパープラスミド(0.6%)に一致した。いずれの読み取りも、ヒトゲノムにはマッピングされなかった。これらの観察により、DNA不純物がAAVベクターゲノムとして明白に特定された。
【0078】
AAV試料中の遊離DNAの絶対量を定量化するために、十分に確立されたQuant-iT ssDNAアッセイを使用した。このアッセイでは、外部蛍光色素を試験試料に加えて、励起時にssDNAの蛍光シグナルを増幅した。様々な濃度のオリゴヌクレオチドによる標準曲線を確立し、未知の試料中のDNA濃度を計算するために使用した。図9に示されるように、Quant-iT ssDNA検出アッセイにより、10回の凍結融解サイクル後に、ベース製剤(1倍DPBS、0.001%のPluronic F68)中で、AAV8.GFP試料中の遊離ssDNAの絶対量が364ng/mLから1303ng/mLに3.6倍増加したことが示された。95℃で10分間加熱したベース製剤中のAAV8.GFPの対照試料は、34000ng/mLのssDNAを含んだ。95℃での熱処理により、封入されたssDNAの100%が放出されたと仮定すると、これらのデータにより、遊離ssDNAの濃度が、10回の凍結融解サイクル後に、AAV8.GFP試料中の全封入ssDNAの約1%から4%に増加したことが示された。最近になって、Beeらが、類似の色素ベースの方法により、凍結融解サイクル後にAAV8-X試料中で遊離DNAが増加したことを報告した(Bee et al.,Journal of Pharmaceutical Sciences,2021)。ポロキサマー188を含むDPBS緩衝液では、凍結融解サイクル当たりの遊離DNAの0.38%±0.08%の増加が観察された。Beeらは、初期試料中ほぼ1%の遊離DNA、及び5回の凍結融解サイクル後にほぼ3%の遊離DNAを観察し、これは、本明細書に記載の発明者らのデータと一致する。要約すると、SE-UPLCプロファイルにおいてプレピーク、ピーク1として提示される産物関連不純物は、AAVキャプシドから漏出したssDNAであった。
【0079】
実施例3.他のAAV血清型におけるssDNA漏出
ssDNA漏出がAAV8.GFPに固有であるかどうかを決定するために、前述の分析を異なるAAV血清型:AAV2、AAV3b、AAV5、AAV7、及びAAVDJのパネルに適用した。全ての試料を、同じベース製剤中のAAV8試料と同じ力価に調整した。次に、これらの試料を10回の凍結融解サイクルに供し、Quant-iTアッセイ及びSE-UPLCによって分析した。図10に示されるように、全ての試験されたAAV血清型は、当初、非常に低レベルの遊離DNAを示した。10回の凍結融解サイクルの後、AAV2を除く全ての試料において、ピーク1不純物のUVシグナル(SE-UPLC)及び蛍光シグナル(Quant-iTアッセイ)の有意な増加が観察された。凍結融解による全漏出ssDNAの絶対量は試料間で異なっていたが、AAV2を除く全てのAAV血清型についてssDNA漏出が検出された。この結果により、凍結融解ストレスに起因するAAV8キャプシドからのssDNA放出の機序が他の血清型にも適用可能であることが示唆される。
【0080】
AAVの様々な血清型にわたって、キャプシドタンパク質配列における主な違いは、それらが様々な効率で様々な種類の細胞に結合することを可能にする超可変表面領域にある(Snyder and Moullier,Adeno-associated virus:methods and protocols,Springer2011)。キャプシドタンパク質に関与する複製及び構造遺伝子は、概して、血清型にわたって高度に保存されており、このことが、それらを同様に凍結融解ストレスに対して感受性にしている可能性がある。したがって、凍結融解ストレス中のAAV安定性に対する賦形剤の影響は、これらのAAV血清型の各々に適用可能であり得る。
【0081】
実施例4.DNA漏出を低下させる賦形剤スクリーニング
封入されたssDNAの完全性及び送達成功は、AAVベースの遺伝子療法に不可欠であるため、凍結融解ストレスを含む様々な条件下でのAAVキャプシドからのssDNAの漏出を最小限に抑えることが重要である。タンパク質安定化賦形剤をAAV製剤に加えることは、凍結融解ストレスに対するAAV安定性を支援してもよく、またssDNA漏出機序の理解にも寄与し得る。したがって、キャプシドタンパク質を安定化することによって、凍結融解サイクル中のssDNA漏出を低下させることができるかどうかを試験するために、タンパク質安定化賦形剤を含む製剤を設計した。DPBS緩衝液は、生理学的条件との一貫性に起因してAAVに一般的に使用されるため、これをベース製剤として選択した。ポリオール(スクロース、トレハロース、マンニトール、グリセロール、プロピレングリコール、及びポリエチレングリコール)、アミノ酸(プロリン)、及び界面活性剤(Pluronic(商標)F68(ポロキサマー188))を含む賦形剤のいくつかの一般的なカテゴリーを選択して、それらが凍結融解ストレスに対してタンパク質の安定性(例えば、AAVキャプシドの完全性)を保護し、それによりssDNA漏出を低下させ得る能力を評価した。
【0082】
図9に示されるように、蛍光ベースの遊離DNAアッセイ及びSE-UPLC分析の結果により、ベース製剤(ベース)と比較して、設計された製剤が、10回の凍結融解サイクル後のssDNAの漏出を減少させたことが示された。例えば、図9A及び表7に示されるように、5%スクロース又は5%トレハロースを加えると、SE-UPLCによって検出して、ssDNAの漏出が4倍の増加から2倍未満の増加に低下した。図9B及び表8に示されるように、蛍光遊離DNAアッセイによって検出して、5%スクロース又は5%トレハロースを加えると、ssDNA漏出が3.6倍の増加から50%未満の増加に低下した。しかしながら、5%マンニトールは、ssDNA漏出を低下させる上で、スクロース及びトレハロースほど有効ではなかった。スクロース及びトレハロースと同様に、5%グリセロール、5%プロピレングリコール、又は5%ポリエチレングリコール400(PEG400)は、SE-UPLCによって検出して、ssDNA漏出を、4倍の増加から50%未満の増加に、蛍光遊離DNAアッセイによって検出して、3.6倍の増加から約50%の増加に低下させた。AAV産物製剤で使用されることが多い界面活性剤である0.1%のPluronic F68は、スクロース及びトレハロースに匹敵する、ssDNA漏出からAAVを保護する能力を示した。プロリンも、アミノ酸凍結保護剤として、蛍光遊離ssDNAアッセイ及びSE-UPLC分析に基づいて、ssDNA漏出に対する有意な保護効果を示した。加えて、図11及び表9に示されるように、DLSを使用して、試料中のウイルス粒子の流体力学半径を分析した。
【0083】
(表7)SECを使用したAAV8-GFP試料中のDNA不純物の特性評価
【0084】
(表8)蛍光色素標識を使用したAAV8-GFP試料中のssDNA不純物の定量化
【0085】
(表9)DLSを使用したAAV8-GFP試料中のウイルス粒子の流体力学半径の分析
【0086】
いくつかの賦形剤が、凍結融解サイクルの処理後にAAVキャプシドからのssDNAの漏出を最小限に抑えるのに有効であることが判明した。試験中にssDNA漏出を効果的に低下させることができる賦形剤には、スクロース、トレハロース、マンニトール、プロリン、グリセロール、Pluronic F68、及びプロピレングリコールが含まれる。これらの結果に基づいて、スクロース、プロピレングリコール、及びPluronic F68を、更なる分析のために選択した。AAV薬物製品の開発、製造、及び投与中の凍結融解サイクルの代表的な数を反映する、1、2、又は4回の凍結融解サイクル後の分析のために、様々な濃度のスクロース(2.5%、5%、及び10%)、プロピレングリコール(2.5%、5%、及び10%)、及びPluronic F68(0.001%、0.01%、及び0.1%)を含む製剤を選択した。図12に示されるように、F1中のAAVにより多くの凍結融解サイクルを適用したため、ssDNA漏出の増加が観察された。4回の凍結融解サイクルの後、スクロースとプロピレングリコールとの両方が、3つの試験濃度(2.5%、5%、及び10%)にわたってssDNA漏出に対する有意な保護及び同等の保護を呈した。より高い濃度のスクロース及びプロピレングリコールでは、わずかに少ないssDNA漏出が観察された。Pluronic F68は、スクロース及びプロピレングリコールよりもssDNA漏出の防止には効果的ではなかった。とはいえ、Pluronic F68濃度を増加させると、ssDNA漏出はますます低下した。
【0087】
凍結保護剤及び界面活性剤は、通常、様々な種類のストレスに対する保護を提供するために、生物学的製剤において一緒に使用される。凍結融解ストレスに対する組み合わせた賦形剤の効果を試験し、タンパク質安定化賦形剤が他の血清型においてssDNA漏出を低下させるかどうかを試験するために、スクロースとPluronic F68との両方を含む製剤を設計し、様々なAAV血清型で評価した。
【0088】
図13では、ベース製剤(BF)はDPBSであり、一方で最適化製剤(OF)は、DPBS中に10%スクロース及び0.1%Pluronic F68を含んだ。最適化製剤は、スクロース及びPluronic F68を含まないベース製剤と比較して、10回の凍結融解サイクル後に、AAV3b、AAV5、AAV7、AAV8、及びAAVDJについて、ssDNA漏出を劇的に阻害した。蛍光ベースの遊離DNAアッセイにより、ssDNA漏出の低減は10~20倍であり、SE-UPLCにより、ssDNA不純物ピーク面積の低減は、3~10倍の範囲であり、AAVDJについては40倍の低減が観察された。興味深いことに、AAV2については、保護効果はわずかであり、これは、凍結保護剤及び界面活性剤なしの遊離DNA漏出が他の血清型と比較して取るに足らなかったことを理由とする可能性が高い。これらの知見に基づくと、凍結保護剤及び界面活性剤を含む最適化製剤は、様々なAAV血清型を凍結融解ストレスから保護し得る。
【0089】
賦形剤は、それらの特性と、タンパク質安定化のための確立された機序とに基づいて選択する。ポリオールのサブタイプとしてのスクロース及びトレハロースは、タンパク質を安定させるために最も一般的に使用される糖ベースの賦形剤の1つである(Singh,Challenges in Protein Product Development,Springer2018,pp.63-95)。グリセロール、プロピレングリコール、及びポリエチレングリコール(これらの実験のためにはPEG 400)も、タンパク質分子のための従来のポリオール凍結保護剤である。凍結保護剤は、タンパク質表面からの優先的排除、タンパク質分子の周りにガラス状マトリックスを形成すること、又はタンパク質と水素結合を形成することを含む様々な機序により機能する(Timasheff,Annual Review of Biophysics and Biomolecular Structure 22(1)(1993)67-97、Corradini et al.,Scientific Reports 3(1)(2013)1-10、Markarian et al.,Cryobiology 49(1)(2004)1-9)。Pluronic F68は、製造及び輸送中の機械的ストレス及び凍結融解サイクル中の界面ストレスに対抗する界面活性剤としてAAV製剤に加えられ、これらの目的のためにタンパク質医薬品に一般的に使用される(Nail and Akers,Development and manufacture of protein pharmaceuticals,Springer Science & Business Media2012)。Pluronic F68は、非イオン性界面活性剤として、機械的撹乱及び凍結融解サイクルによって創出される界面での表面張力を低下させることができ、よって、界面活性剤との競合に起因して界面でのタンパク質の吸収を阻害する(Kasimbeg et al.,Journal of Pharmaceutical Sciences 108(1)(2019)155-161、Khan et al.,European Journal of Pharmaceutics and Biopharmaceutics 97(2015)60-67、Dixit et al.,Pharmaceutical Research 30(7)(2013)1848-1859)。これらの賦形剤がタンパク質構造の安定化及び安定性の維持に果たす役割を考えると、これらの知見はまた、AAVキャプシドにおけるssDNA漏出機序の解明を裏付ける。
【0090】
これらの安定性試験では、凍結融解サイクル後のAAV溶液中の遊離ssDNAのレベルの増加が観察された。凍結融解処理前のバルク原薬中の遊離ssDNAは、細胞培養又は精製から持ち越された残留DNAであり得るが、複数回の凍結融解サイクル後の増加したssDNAは、AAVキャプシドから漏出したことが示されたゲノムssDNAである。これは、NGSの特性評価結果によって裏付けられ、タンパク質安定化賦形剤が凍結融解後のssDNAの漏出を阻害したという観察と一致する。ssDNAの漏出がゲノム排出(すなわち、キャプシドが無傷の状態)をとおして生じたのかAAVキャプシドの分解を介して生じたのかを、以下で更に考察する。
【0091】
AAV8及びAAV9は、50~80℃でのインキュベーションなどの熱ストレス下での分解機序を探索するために、単一ウイルスキャプシドレベルで調査されている(Bernaud et al.,Journal of Biological Physics 44(2)(2018)181-194)。封入されたDNAゲノムを、無傷又は部分的に折り畳み解除されたキャプシドから排出し、これを原子間力顕微鏡法(AFM)によって視覚化した。仮に、排出がssDNA漏出の主な機序である場合、完全なキャプシドの力価は、時を同じくした空のキャプシドの力価の増加と共に減少するはずであり、完全なキャプシドと空のキャプシドとの合計は、ストレスの前後で一定のままであるはずである。あるいは、ssDNAの漏出がAAVの分解(すなわち、キャプシドの破裂)によって生じる場合、全キャプシド力価は、完全なキャプシドの力価の減少に起因して、ストレス後に減少するはずであり(空のキャプシドの力価は影響を受けないままであるはずである)。遊離ssDNAは、未処理のAAV試料中の全封入ssDNAの約1%であり、10回の凍結融解サイクル後に約5%に増加したため、完全/空のキャプシド力価の変化は、同程度のレベルであるはずである。
【0092】
残念ながら、キャプシド力価についての酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)アッセイにおける典型的な10~20%の変動係数(CV%)では、キャプシド力価の1%~5%の同時変化が、遊離ssDNAの1%~5%の変化と共に生じているかどうかを決定することは困難である。260nm及び280nmでのSE-UPLC分析は、方法の分散並びに近似及び推定の限界(例えば、ssDNA及びキャプシドタンパク質の消失係数及び分子量、並びにUV検出器内のフローセルの経路長)に起因して、分解機序の決定において同様に決定的ではなかった。SE-UPLCの代替方法として動的光散乱(DLS)を利用して、サイズ変動をモニタリングしたが、明らかなAAV凝集又は断片化は見られなかった。SE-UPLC溶出プロファイルを注意深く調べたところ、同じく、AAVキャプシド後のいずれの明らかなVPタンパク質ピークも明らかにならなかった。要約すると、DLS及びSE-UPLC方法(可能性としてはELISAも)の変動性により、AAVからのssDNA漏出の機序の決定的な解明が妨げられた。ssDNA漏出機序をよりよく理解するために、より正確かつ精密な力価方法による更なる調査が必要とされ得る。先に述べたように、AFMのような可視化ツールも、凍結融解サイクル後のキャプシド完全性の展望を提示し、機序の理解に寄与し得る。
【0093】
AAVベースの遺伝子療法薬物製品は、通常、製造、輸送、貯蔵、及び投与中に1回以上の凍結融解サイクルを受ける。DPBS緩衝液中のAAV8の本特性評価により、封入されたssDNAの一部が、1回の凍結融解サイクルの後でもAAV8から漏出したことが明らかとなった。漏出したssDNAの属性は、最初はキャプシドに封入されていたゲノムDNAであると確認された。ゲノム漏出の程度は、凍結融解サイクルの数が増えると共に増加した。ゲノム漏出は、AAV2、AAV3b、AAV5、AAV7、及びAAVDJを含む他の試験した血清型でも様々な程度で観察された。
【0094】
製剤スクリーニング試験により、AAVからのゲノムDNA漏出を阻害するのに有効である、ポリオール、アミノ酸、及び界面活性剤などの賦形剤が特定された。スクロース、プロピレングリコール、及びPluronic F68を用いた更なる研究により、ssDNA漏出に関するAAV安定性に対するそれらの効果のより良い理解が得られた。これらの結果は、凍結融解からのストレスを分解経路とする、AAVからのssDNA漏出に関する洞察を提供する。更に、これらの知見は、安定したAAV原薬及び薬物製品製剤の将来的な開発に役立つ。
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【国際調査報告】