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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-16
(54)【発明の名称】乳癌の治療方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4439 20060101AFI20231109BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20231109BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231109BHJP
   C07K 14/72 20060101ALN20231109BHJP
【FI】
A61K31/4439
A61P15/00
A61P35/00
C07K14/72 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023526525
(86)(22)【出願日】2021-11-05
(85)【翻訳文提出日】2023-05-26
(86)【国際出願番号】 US2021058185
(87)【国際公開番号】W WO2022098953
(87)【国際公開日】2022-05-12
(31)【優先権主張番号】63/110,787
(32)【優先日】2020-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/110,800
(32)【優先日】2020-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/117,678
(32)【優先日】2020-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/195,505
(32)【優先日】2021-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506137147
【氏名又は名称】エーザイ・アール・アンド・ディー・マネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100126653
【弁理士】
【氏名又は名称】木元 克輔
(72)【発明者】
【氏名】グアルベルト, アントニオ
【テーマコード(参考)】
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086BC37
4C086GA07
4C086GA08
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA81
4C086ZB26
4H045AA10
4H045CA42
4H045DA50
4H045EA50
(57)【要約】
本発明は、化合物1又はその薬学的に許容可能な塩で乳癌患者を治療する方法に関する。一部の実施形態において、本発明は、突然変異体アレル頻度閾値に適合する患者を治療することに関する。
【化1】

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳癌の治療方法であって、0.5%以上の第1のERα突然変異体の第1の突然変異体アレル頻度(「MAF」)値を有する患者に化合物1又はその薬学的に許容可能な塩を投与することを含む方法。
【請求項2】
前記第1のERα突然変異体がY537Sである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記患者が第2のERα突然変異体の第2のMAF値を有し、前記第2のMAF値が0.5%未満である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第2のERα突然変異体がD538Gである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記第2のERα突然変異体が、L536H、L536P、L536Q、L536R、Y537C、Y537N、D538G、又はE380Qである、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記第1のERα突然変異体がD538Gである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記患者が第2のERα突然変異体の第2のMAF値を有し、前記第2の突然変異体アレル頻度値が0.5%未満である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記第2のERα突然変異体がY537Sである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記第2のERα突然変異体が、L536H、L536P、L536Q、L536R、Y537C、Y537N、Y537S、又はE380Qである、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記第1のMAF値が0.6%超である、請求項2又は6に記載の方法。
【請求項11】
前記第1のMAF値が0.7%超である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第1のMAF値が0.8%超である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記第1のMAF値が0.9%超である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記第1のMAF値が1.0%超である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記第2のMAF値が0.4%未満である、請求項3又は7に記載の方法。
【請求項16】
前記第2のMAF値が0.3%未満である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記第2のMAF値が0.2%未満である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記第2のMAF値が0.1%未満である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記患者がPgR陽性状態を示す、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
患者の癌を治療する方法であって、0.5%以上の第1のERα突然変異体の第1の突然変異体アレル頻度(「MAF」)値を有する患者に化合物1又はその薬学的に許容可能な塩を投与することを含む方法。
【請求項21】
前記第1のERα突然変異体がY537Sである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記患者が第2のERα突然変異体の第2のMAF値を有し、前記第2のMAF値が0.5%未満である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記第2のERα突然変異体がD538Gである、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記第2のERα突然変異体が、L536H、L536P、L536Q、L536R、Y537C、Y537N、D538G、又はE380Qである、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記第1のERα突然変異体がD538Gである、請求項20に記載の方法。
【請求項26】
前記患者が第2のERα突然変異体の第2のMAF値を有し、前記第2のMAF値が0.5%未満である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記第2のERα突然変異体がY537Sである、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
患者からの血液試料中のMAFが測定される、請求項1~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
患者からの血液試料からのcfDNA中のMAFが測定される、請求項1~28のいずれか一項に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2020年11月6日に出願された米国仮特許出願第63/110,787号明細書;2020年11月6日に出願された同第63/110,800号明細書;2020年11月24日に出願された同第63/117,678号明細書;及び2021年6月1日に出願された同第63/195,505号明細書の優先権の利益を主張するものであり、これらの各々の内容は、本明細書によって全体として参照により援用される。
【0002】
配列表
本願には、ASCII形式で電子的に提出された配列表が含まれ、これは本明細書によって全体として参照により援用される。2021年11月4日に作成された前記ASCII複製物は、名前が15647_0015-00304_SL.txtであり、9,309バイトのサイズである。
【0003】
実施形態は、乳癌患者、特に、エストロゲン受容体アルファ(ERα)タンパク質を発現する乳癌腫瘍を有する患者の治療方法に関する。
【背景技術】
【0004】
乳癌は、現代の女性の間で最もよく診断される悪性腫瘍であり、毎年米国では20万件近くの新規症例が診断されており、世界では170万件の新規症例が診断されている。乳房腫瘍の約70%がエストロゲン受容体アルファタンパク質(ERαタンパク質、ESR1遺伝子によってコードされる)-この腫瘍サブセットにおいて鍵となる発癌ドライバー-に関して陽性であるため、1)選択的エストロゲン受容体分解薬(SERD)、その一例はフルベストラントである、2)選択的エストロゲン受容体調節薬(SERM)、その一例はタモキシフェンである、及び3)全身エストロゲンレベルを低下させるアロマターゼ阻害薬を含め、ERα機能に拮抗する幾つかのクラスの治療法が開発されている。
【0005】
これらの治療法は、概して、臨床でERα+乳房腫瘍の発生及び進行を低減するのに有効性を示している。しかしながら、これらの種々の化合物クラスに付随したオンターゲット傾向がある。例えば、タモキシフェンは、子宮内膜のシグナル伝達活性を活性化させるため、臨床で子宮内膜癌のリスク増加につながることが示されている(Fisher et al.,(1994)J Natl Cancer Inst.Apr 6;86(7):527-37;van Leeuwen et al.,(1994)Lancet Feb 19;343(8895):448-52)。対照的に、フルベストラントは純粋なアンタゴニストであるため、骨を作るのにERα活性が決定的に重要であることに伴い、閉経後女性では骨密度の低下につながり得る。オンターゲット副作用に加え、これらのERαアンタゴニストクラスに対する臨床耐性もまた現れつつあり、次世代化合物の開発の必要性が浮き彫りになる。
【0006】
様々な内分泌療法に対する耐性のインビトロ及びインビボモデルを使用して、幾つかの耐性機構が同定されている。それらには、ERα/HER2「クロストーク」の増加(Shou et al.,(2004)J Natl Cancer Inst.Jun 16;96(12):926-35)、ERα共活性化因子/共抑制因子の発現異常(Osborne et al.,(2003)J Natl Cancer Inst.Mar 5;95(5):353-61)又はER非依存的成長を可能にするERαの完全な喪失(Osborne CK,Schiff R(2011)Annu Rev Med 62:233-47)が含まれる。
【0007】
臨床的に関連性のある耐性機構が同定されることを期待して、近年、患者から単離された内分泌療法耐性転移を遺伝学的に深く特徴付けることに多大な努力が費やされてきた。最近になって、幾つかの独立した研究室から、原発腫瘍と比べて耐性腫瘍に観察される多数の遺伝子病変が発表されている(Li et al.,(2013)Cell Rep.Sep 26;4(6):1116-30;Robinson et al.,(2013)Nat Genet.Dec;45(12):1446-51;Toy et al.,(2013)Nat Genet.2013 Dec;45(12):1439-45)。その中には、ESR1(ERαタンパク質をコードする遺伝子)のリガンド結合ドメインに高度に反復する突然変異があり、内分泌療法未処置腫瘍と比べると、耐性腫瘍の約20%でこれが有意に濃縮されていることが分かっており(Jeselsohn et al.,(2014)Clin Cancer Res.Apr 1;20(7):1757-67;Toy et al.,(2013)Nat Genet.2013 Dec;45(12):1439-45;Robinson et al.,(2013)Nat Genet. Dec;45(12):1446-51;Merenbakh-Lamin et al.,(2013)Cancer Res.Dec 1;73(23):6856-64;Yu et al.,(2014)Science Jul 11;345(6193):216-20;Segal and Dowsett(2014),Clin Cancer Res Apr 1;20(7):1724-6)、これらの突然変異が臨床耐性を機能的にドライブする可能性が示唆される。治療耐性腫瘍に観察されるESR1突然変異の濃縮と対照的に、他の癌関連遺伝子の突然変異では、そのようなロバストな濃縮を明らかにすることはできなかったため、耐性の促進におけるERα突然変異の重要性が強く含意される(Jeselsohn et al.,(2014)Clin Cancer Res.Apr 1;20(7):1757-67)。
【0008】
平均的なER+乳癌患者は、化学療法並びにタモキシフェン、フルベストラント及びアロマターゼ阻害薬などの様々な抗エストロゲン療法が含まれる独立した7療法で治療される。最近のゲノムプロファイリングでは、ERαに活性化型の突然変異が現れていることに伴い、耐性セッティングにおいてERα経路が依然として腫瘍成長の決定的に重要なドライバーであることが明らかになっている。従って、臨床セッティングで耐性に打ち勝つことのできる更に強力なER指向性療法を開発することが決定的に重要である。そのため、野生型(WT)腫瘍及びERα突然変異体陽性腫瘍の両方の成長を強力に抑制することのできる新規化合物及び治療に反応することが見込まれる患者へとかかる化合物を一層良好に標的化する方法が必要とされている。
【0009】
ER+乳癌患者の治療に有用であることが報告されている一つの化合物は、以下に化合物1として示す、(E)-N,N-ジメチル-4-((2-((5-((Z)-4,4,4-トリフルオロ-1-(3-フルオロ-1H-インダゾール-5-イル)-2-フェニルブタ-1-エン-1-イル)ピリジン-2-イル)オキシ)エチル)アミノ)ブタ-2-エンアミドである:
【化1】
【0010】
化合物1は、選択的な経口で使用できる小分子共有結合性エストロゲン受容体(ERα)アンタゴニストである。化合物1については、米国特許第9,796,683 B2号明細書、「Tetrasubstituted Alkene Compounds and Their Use」(これは、本明細書中に完全に書き直されたものとして全体が参照により援用される)に更に報告されている。化合物1は、Y537Sを含め、野生型及び構成的に活性な突然変異体の両方のERαタンパク質の530位におけるシステイン残基に共有結合的に結合することが報告されている。化合物1は、ESR1(ERαをコードする遺伝子)が突然変異したものを含め、複数のPDX乳癌モデルで有意な抗腫瘍活性を実証している。この化合物の薬学的に許容可能な塩もまた、ER+乳癌患者の治療に有用であると報告されている。例えば、化合物1は塩酸塩として使用されてもよく、これは、米国特許第10,640,483 B2号明細書(これは、本明細書中に完全に書き直されたものとして全体が参照により援用される)に記載されるとおり、結晶形態であってもよい。化合物1は、2020年5月15日に出願された、及び本明細書中に完全に書き直されたものとして全体が参照により援用される、特許協力条約に基づく特許出願PCT/US2020/033292号明細書に記載されるとおり、カプセル又は錠剤として製剤化されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
化合物1は、ER+乳癌患者の治療に有用であることが分かっているが、どの癌患者がより高い反応性を示すか、従って治療から利益を受ける可能性がより高いかをより良好に予測できれば、有用となるであろう。本開示の一態様は、患者の突然変異体アレル頻度を用いて、化合物1又はその薬学的に許容可能な塩による治療に好ましい反応を示す可能性をより良好に予測することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本明細書に開示される様々な実施形態は、必要としている患者の癌、特に乳癌を治療する方法であって、例えば、血液試料において、例えば、血液試料中のcfDNAにおいて0.5%以上の第1のESR1突然変異体の第1の突然変異体アレル頻度値を有する患者に、化合物1又はその薬学的に許容可能な塩を投与することを含む方法を提供する。一部の実施形態において、患者には、1つ以上の癌治療、例えば、1つ以上の乳癌治療が更に投与される。
【0013】
一部の実施形態において、第1のESR1突然変異体はY537にある。一部の実施形態において、第1のESR1突然変異体はY537Sである。一部の実施形態において、患者は第2のESR1突然変異体の第2の突然変異体アレル頻度値を有し、前記第2の突然変異体アレル頻度値は0.5%未満である。一部の実施形態において、第2のESR1突然変異体はD538にある。一部の実施形態において、第2のESR1突然変異体はD538Gである。一部の実施形態において、第2のESR1突然変異体は、L536H、L536P、L536Q、L536R、Y537C、Y537N、D538G、又はE380Qである。
【0014】
一部の実施形態において、第1のESR1突然変異体はD538にある。一部の実施形態において、第1のESR1突然変異体はD538Gである。一部の実施形態において、患者は第2のESR1突然変異体の第2の突然変異体アレル頻度値を有し、前記第2の突然変異体アレル頻度値は0.5%未満である。一部の実施形態において、第2のESR1突然変異体はY537にある。一部の実施形態において、第2のESR1突然変異体はY537Sである。一部の実施形態において、第2のESR1突然変異体は、L536H、L536P、L536Q、L536R、Y537C、Y537N、Y537S、又はE380Qである。
【0015】
一部の実施形態において、第1の突然変異体アレル頻度値は0.6%超である。一部の実施形態において、第1の突然変異体アレル頻度値は0.7%超である。一部の実施形態において、第1の突然変異体アレル頻度値は0.8%超である。一部の実施形態において、第1の突然変異体アレル頻度値は0.9%超である。一部の実施形態において、第1の突然変異体アレル頻度値は1.0%超である。
【0016】
一部の実施形態において、第2の突然変異体アレル頻度値は0.4%未満である。一部の実施形態において、第2の突然変異体アレル頻度値は0.3%未満である。一部の実施形態において、第2の突然変異体アレル頻度値は0.2%未満である。一部の実施形態において、第2の突然変異体アレル頻度値は0.1%未満である。
【0017】
一部の実施形態において、ERα突然変異は、腫瘍試料から直接測定される。そうした実施形態において、治療に選択された患者からの試料は、D537突然変異の存在又はD538突然変異の存在を指示し得る。
【0018】
一部の実施形態において、患者はPgR陽性状態を示す。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例1及び実施例2で考察するとおり、化合物1で治療したとき、クローナルD538G又はクローナルY537S ESR1突然変異を有する患者は無増悪生存(PFS)が長くなることを示す。
図2】クローナルD538G及びクローナルY537S ESR1突然変異を有する患者の合計PFS結果を他の患者と比較して示す。
図3】実施例3に報告されるとおり、PgR+腫瘍を有する患者では有効性が高くなる可能性があることを示す。挿入図中のテキストは、以下のとおり読む: PgR陽性(≧1%陽性細胞)、N=38、24事象、中央値(95%)=5.4(2.0,8.8)ヵ月。 PgR陰性(≦1%陽性細胞)、N=34、20事象、中央値(95%)=2.1(1.7,7.4)ヵ月。
図4】実施例3に報告されるとおりのESR1突然変異状態に基づく無増悪生存を示す。挿入図中のテキストは、以下のとおり読む: クローナルY537S、N=10、8事象、中央値(95%Cl)=7.3(0.8,11.2)ヵ月。 クローナルD538G、N=19、13事象、中央値(95%Cl)=5.4(1.7,7.2)ヵ月。 ポリクローナルY537S及びD538G、N=4、3事象、中央値(95%Cl)=3.5(1.7,5.4)ヵ月。 Y537S及びD538G陰性、N=61、33事象、中央値(95%Cl)=3.8(2.0,7.3)ヵ月。
図5】血中のESR1突然変異検出と腫瘍中のPgR発現レベルとの間の関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
特に定義されない限り、本明細書で使用される全ての科学技術用語は、本明細書に開示される主題が属する技術分野の当業者が一般に理解するのと同じ意味を有する。本明細書に開示される主題の実施又は試験においては、本明細書に記載されるものと同様の又は等価な任意の方法、装置、及び材料を使用することができるが、本明細書には、代表的な方法、装置、及び材料を記載する。
【0021】
特に指定されない限り、又は組み合わせが言及される文脈上、そうでない旨が明確に含意されない限り、本明細書で使用されるとおりの方法又はプロセスステップのあらゆる組み合わせを任意の順序で実施することができる。
【0022】
本開示の方法及び装置は、その構成成分を含め、本明細書に記載される実施形態の必須の要素及び限度、並びに本明細書に記載される又は他の有用な任意の追加的な又は任意選択の構成成分又は限度を含み、それからなり、又はそれから本質的になることができる。
【0023】
特に指示されない限り、本明細書及び特許請求の範囲において用いられる物理的寸法、成分の分量、反応条件などの特性などを表す数値は全て、全ての例が用語「約」で修飾されていると理解されるべきである。従って、そうでない旨が示されない限り、本明細書及び特許請求の範囲において示される数値パラメータは、本明細書に開示される主題によって達成されることが求められる所望の特性に応じて変わり得る近似値である。
【0024】
以下の定義が、本明細書に提示されるとおりの実施形態の理解に有用であり得る。
【0025】
本明細書で使用されるとき、用語「試料」は、1つ以上の目的の構成成分を含有する材料又は材料の混合物を指す。対象からの試料とは、インビボ又はインサイチューで入手され、到達され、又は収集された生体組織又は体液起源の試料を含め、対象から入手された試料を指す。試料は、前癌又は癌細胞又は組織を持つ対象の一領域から、又は対象の別の組織又は体液から入手することができる。かかる試料は、限定はされないが、哺乳類から取り出された臓器、組織、画分及び細胞であり得る。例示的試料としては、リンパ節、全血、部分的に精製された血液、血清、血漿、骨髄、及び末梢血単核球(「PBMC」)が挙げられる。試料は組織生検であってもよい。例示的試料としてはまた、細胞ライセート、細胞培養液、細胞株、組織、口腔組織、胃腸組織、臓器、細胞小器官、生体液、血液試料、尿試料、皮膚試料なども挙げられる。
【0026】
本明細書で使用されるとき、用語「対象」は哺乳類を指す。対象は、ヒト又は非ヒト哺乳類、例えば、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、マウス、ラット、ウサギ、又はこれらのトランスジェニック種などであってもよい。一部の実施形態において、対象はヒトである。
【0027】
cfDNA:本明細書で使用されるとき、「cfDNA」は、対象の血液循環中にある無細胞DNAを指し、血液細胞、ウイルス、実質臓器及び他の多くの供給源からのDNAが含まれ得る。Xia L.et al.は、健常人ではcfDNAの90%超が血液細胞残屑からのものであることを報告している(Xia,L.et al.,「健常人における循環無細胞DNA及び血液細胞の突然変異体アレル頻度レベルの統計的分析(Statistical analysis of mutant allele frequency level of circulating cell-free DNA and blood cells in healthy individuals)」,Scientific Reports 7:7526;DOI:10.1038/s41598-017-06106-1)。
【0028】
本明細書で使用されるとき、「ctDNA」は、癌患者の血漿中の循環腫瘍DNAを指す。Xia L.et al.は、癌患者では、腫瘍関連ctDNAが血漿cfDNAの0.1~0.01%を占めることを報告している。
【0029】
本明細書で使用されるとき、「野生型」又は「WT」は、ヌクレオチド又はアミノ酸配列が存在する優勢型を指す。優勢型は、対象からの試料中に同定することができ、及び/又は対象集団、例えばヒト集団で観察されるヌクレオチド又はアミノ酸配列の優勢型に基づいて決定することができる。例えば、ヒト集団のヌクレオチド配列の80%が特定の場所にアデノシン塩基を含み、残りの配列が当該位置にシトシン、チミン又はグアニンを含む場合、野生型は、当該位置にアデノシンを有すると言われる。同様に、ヒト集団のタンパク質配列の80%が特定の場所にグリシン残基を有し、残りの配列が他の何らかのアミノ酸残基を含む場合、グリシンが野生型残基であると言われる。
【0030】
対象又は対象からの試料は、ESR1遺伝子の複数のコピーを有し得る。それらのコピーは、野生型及び/又は突然変異体ERαタンパク質をコードし得る。本明細書で使用されるとき、ESR1突然変異を有する対象又は対象からの試料はまた、野生型ESR1遺伝子及び/又は野生型ERαタンパク質の1つ以上のコピーも有し得る。
【0031】
本明細書で使用されるとき、「突然変異体アレル頻度」又は「MAF」は、特定の場所において野生型配列と比べて特定の突然変異を担持している個別遺伝子リードの数を、同じ遺伝子座に包含される個別遺伝子リードの総数で除した小数値として表される比率である。例えば、特定の配列位置について、総シーケンシング深さが10,000であり、アデニン(A)塩基が9,900回の個別的な出現を占める場合、残りのシーケンシング上の個別的な出現は、例えば、同じ位置にチミン(T)塩基を有する23回の出現、同じ位置にシトシン(C)塩基を有する42回の出現、及び同じ位置にグアニン(G)塩基を有する35回の出現を含み得る。圧倒的多数の配列は当該位置にアデニン塩基を有するため(従って当該位置では「野生型」塩基としてアデニンを与えるため)、チミン(T)塩基を有する突然変異体アレル頻度は、(T)/(T+C+G+A)、即ちここでは23/10000=0.0023と計算される。当業者は遺伝子コードが冗長であることを理解しているため、突然変異体アレル頻度はまた、特定のタンパク質配列中の特定のアミノ酸をコードするコドンに基づいて計算することもできる。従って、アミノ酸突然変異を反映するMAF値は、同じ突然変異をコードする全ての核酸配列をまとめるものになり得る。当業者はまた、単一の遺伝子が異なる場所にあるアミノ酸突然変異をコードし得ることも認識している。従って、MAF値は、単一遺伝子において異なる場所にある複数のアミノ酸突然変異について計算されてもよい。
【0032】
本明細書で使用されるとき、「突然変異体ERαタンパク質」は、野生型と比べて少なくとも1つのアミノ酸突然変異を持つ非野生型ERαタンパク質である(このタンパク質は突然変異体「ESR1」とも称され得る)。本明細書で使用されるとき、「ESR1突然変異体」とは、ERαタンパク質をコードするESR1遺伝子にある少なくとも1つの突然変異を指す。「ERα MAF」又は「ESR1 MAF」は、突然変異体ERαタンパク質をコードするESR1突然変異体の頻度を指す。一部の実施形態において、野生型ESR1遺伝子は、配列番号2である。一部の実施形態において、野生型ERαタンパク質のアミノ酸配列は、配列番号1である。
【0033】
本明細書で使用されるとき、「構成的に活性な突然変異体」は、結合したリガンドを必要とすることなく活性な非野生型タンパク質、例えば、エストロゲンが存在しない場合であっても活性なERαタンパク質である。
【0034】
当業者は、MAFのアッセイに、次世代シーケンシング(NGS)及びドロップレットデジタルPCR(ddPCR)など、当該技術分野において公知の技法を含め、様々な方法及び技法を用い得ることを認識するであろう。例えば、一つの有用なツールは、Sysmex(登録商標)Inosticsリキッドバイオプシー(ONCOBEAM(商標))ctDNAバイオマーカー標準検査である(www.sysmex-inostics.com;https://cdn2.hubspot.net/hubfs/5871980/OncoBEAM_ctDNA_Testing_in_Clinical_Practice_NSCLC_web.pdf参照。このアッセイの更なる説明及び使用については、Oxnard,G.R.et al.J.Clin.Oncol.34(28):3375-3382(2016);Wu,Y.L.et al.MA08.03 J.Thorac.Oncol.12,S386(2017);Mok,T.S.et al.N.Engl.J.Med.376,629-640(2017);及びThress K.et al.Poster presented at:European Society for Medical Oncology 2014 Congress;2014 Sep 26-30;Madrid,Spain;#1270P;25.Murtaza M.et al.Nature.497,108-112(2013)を参照することができる)。この診断検査は、任意のESR1突然変異及びその対応するMAFを0.05%の低レベル感度限界で検出することができる。
【0035】
当業者は、異なるESR1突然変異により、以下のアミノ酸配列突然変異のうちの1つ以上:E380Q、L536H、L536P、L536Q、L536R、Y537S、Y537C、Y537N、D538G又は他の突然変異を含め、様々な突然変異を持つERαタンパク質が生じ得ることを認識するであろう。一部の実施形態において、ERαタンパク質配列中の特定の位置における突然変異、詳細には配列番号1のアミノ酸位置537位及び/又は538位にある突然変異についてのMAFが(核酸配列が改変されているが、ERαタンパク質内の所与の位置についてなおも野生型アミノ酸残基をコードするような位置のコドンにあるESR1遺伝子突然変異とは対照的に)、本明細書に開示される方法で評価される。
【0036】
本明細書で使用されるとき、患者は、特定のESR1 MAF(特定のERα突然変異をコードする)値が、例えば血液試料中で0.5%以上であるが、他の全てのESR1 MAF値(任意の他のERα突然変異をコードする)は0.5%未満であることがctDNA診断によって明らかになるとき、「クローナル」ERα突然変異を有すると言われる。そのため、例えば、Y537S突然変異をコードする患者のctDNAが0.5%以上のMAF値を有しつつ、他の全てのERα MAF値(限定はされないが、D538G、L536H、L536P、L536Q、L536R、Y537C、Y537N、及びE380Q MAFを含む)値が、それぞれ0.5%未満であると分かった場合、その患者はクローナルY537S ERα突然変異を有する。別の例において、D538G突然変異をコードする患者のctDNAが0.5%以上でありつつ、他の全てのERα MAF値(限定はされないが、Y537S、L536H、L536P、L536Q、L536R、Y537C、Y537N、及びE380Q MAFを含む)が、それぞれ0.5%未満であると分かった場合、その患者はクローナルD538G ERα突然変異を有する。
【0037】
対照的に、患者は、2つ以上の特定のERα MAF(2つ以上の特定のERα突然変異をコードする)値が各々0.5%以上であることがctDNA診断によって明らかになるとき、「ポリクローナル」ERα突然変異を有すると言われる。そのため、例えば、患者のctDNAにおいて、Y537S突然変異及びD538G突然変異をコードするMAFが0.5%以上である場合、その患者は、ポリクローナルERα突然変異を有する。
【0038】
本発明のある実施形態において、クローナルY537S ERα突然変異を有する患者は、化合物1及びその薬学的に許容可能な塩による治療の利益を優先的に受け得る。本発明の別の実施形態において、クローナルD538G ERα突然変異を有する患者は、化合物1及びその薬学的に許容可能な塩による治療の利益を優先的に受け得る。
【0039】
当業者は、化合物1による治療に反応性を示す可能性が最も高い患者を選択するため、患者のプロゲステロン受容体(PgR)状態もまた、例えばERα MAFと組み合わせて測定され得ることを認識するであろう。PgR状態は、免疫組織化学により、及び/又はシーケンシングにより検出し得る。本開示の一部の実施形態において、化合物1による治療の利益を受ける患者は、クローナルY537S突然変異又はクローナルD538G突然変異を有することに加え、PgR陽性である。
【0040】
本明細書で使用されるとき、「QTcF」は、フリデリシアの式を用いて心拍数補正した心電図QT間隔である。
【0041】
本明細書で使用されるとき、「MTD」は、最大耐量である。
【0042】
本明細書で使用されるとき、RP2Dは、第2相推奨用量である。
【0043】
当業者には、好適な均等物を使用して、本明細書に記載される方法の他の好適な変形及び適合が行われ得ることは容易に明らかであろう。ここでは本方法を詳細に記載したが、例示のために含まれるに過ぎない、限定することは意図しない以下の例を参照すれば、それは一層明確に理解されるであろう。
【実施例
【0044】
実施例1A-概要
局所進行又は転移性ER+、HER2陰性乳癌の女性におけるファースト・イン・ヒューマン第1/2相研究にて、化合物1を試験した。この多施設共同研究では、局所進行又は転移性ER+、HER2-乳癌を有する女性を、少なくとも1回のホルモン療法及び少なくとも1回の追加療法/レジメンで進行後に、28日間サイクルでQD、PO投与する化合物1により治療した。
【0045】
第1相の主要目的は、前治療歴のあるER+、HER2-転移性乳癌対象におけるMTD及びRP2Dを決定することであった。副次的目的には、安全性及び抗腫瘍活性が含まれた。第2相の主要目的は、客観的奏効率(ORR)、臨床的有用率(CBR)、及び無増悪生存(PFS)の点で本薬剤の有効性を推定することであった。副次的目的には、安全性が含まれた。本試験は、0.05の片側有意水準及び90%の検出力で5%のORRの下限を除外するように設計した。
【0046】
実施例1B-人口統計学的情報及び患者特性
30ヵ月間にわたり、130例の患者;本試験の第1相パートに47例及び第2相パートに83例が登録した。合計105例の対象が、450mgの対象73例を含め、奏効評価可能であった。表1に示されるとおり、年齢中央値は62歳(範囲:31~87歳)であり、82%が肝転移及び/又は肺転移を有した。
【0047】
【表1】
【0048】
転移性疾患に対する前治療歴数の中央値は3(範囲:1~10)であり、41%の患者が転移性セッティングで4つ以上の前治療を受けていた(表2)。それぞれ、87%、71%、及び54%の患者に、CDK4/6阻害薬、フルベストラント、及び化学療法の投与歴があった。血漿循環DNAアッセイ(Sysmex Inostics(登録商標)リキッドバイオプシーOncoBEAM(商標)ctDNAバイオマーカー標準検査;突然変異検出限界:0.05%突然変異体アレル頻度)を使用すると、75例の患者(58%)が検出可能なESR1突然変異を有する。
【0049】
【表2】
【0050】
実施例1C-安全性
第1相パートでは、100~600mgの1日1回用量を評価した。450mgの用量までは用量制限毒性(DLT)は観察されず、600mgコホートで7例中2例の対象に2件のDLT(グレード3の疲労及びグレード3の薬疹)が観察された。結果的に、450mgの用量をRP2Dとして選択した。
【0051】
対象の10%以上に報告されたグレード2以上の有害事象は、貧血(20%)、疲労(16%)、悪心(14%)、下痢(11%)及びAST増加(11%)であった。グレード4のAE(血清ビリルビン、尿路閉塞、及び低ナトリウム血症)が3症例報告され、全てが疾患進行に関連すると見なされた。35%にグレード1の洞徐脈(無症候性)が報告され、4%にグレード2(症候性、介入不要)が報告された。グレード2及び3のQTcF延長が、それぞれ2例及び3例の対象に報告された。治療関連の死亡はなかった。
【0052】
実施例1D-有効性
奏効評価可能群の対象では、450mg用量での11例のPR(15%、90%信頼限界:8.7%~23.7)を含め、13例の確定部分奏効(PR、12%。90%信頼限界:7.5%~19%)が観察され、従って本試験の主要目的が達成された(表3)。病勢安定(SD)及び臨床的有用率(23週間以上)は、450mgでそれぞれ45%及び33%、全用量でそれぞれ46%及び34%であった。多数の前治療歴を有する患者、内臓転移を有する患者並びに転移性セッティングでのフルベストラント、CDK4/6阻害薬、及び/又は化学療法の前投与歴のある患者で奏効を観察した。
【0053】
【表3】
【0054】
カプラン・マイヤー分析を用いると、450mg用量で開始した対象間では、PFS中央値は3.8ヵ月であると決定された(95%CI:3.2~6.2)。
【0055】
実施例2-クローナルY537S及びクローナルD538G ESR1突然変異の効果の発見
実施例1に報告される実験に続いて行った実験は、試験集団において化合物1の活性を駆動するパラメータの同定に関するものであった。2つのパラメータ:1)PgR状態、及び2)ESR1突然変異体の種類及びアレル頻度が、特に注目された。PFSは連続変数であるため、これらの分析にはPFSを用いた。ER受容体はPgRの発現を誘導することが公知であるため(PgR+は、ER活性があること、従ってER阻害薬について潜在的効果がより高いことを示す)、治療前のPgR陽性状態は、化合物1治療対象のより長いPFSに関連するものと予想された。特定のESR1突然変異体のベースライン循環ESR1の効果及びそのアレル頻度は不明であった。
【0056】
受信者動作特性(ROC)法を利用して、潜在的バイオマーカー/治療相互作用を探った。治療前の血中にESR1突然変異を検出する効果を他のESR1突然変異の有無とは無関係に調べたところ、Y537S ESR1突然変異がPFS中央値(3.8ヵ月)より良好なアウトカムを予測するように見え、ROC曲線下面積は0.857であった、p=0.007。最適基準は、3.8ヵ月を超えるPFSを観察するために、100%感度及び50%特異度で0.34%超の血中Y537S ESR1のMAFであった。両方のESR1突然変異Y537S及び/又はD538Gをまとめて考慮に入れると、ある傾向(AUC=738、p=0.13)もまた観察された。このROC分析において、他の突然変異では有意な効果は観察されなかった。
【0057】
次に、PgR陽性及びESR1突然変異Y537S及びD538Gの治療前の検出がPFS中央値に及ぼす効果をカプラン・マイヤー法を用いて調べた。ESR1突然変異のクローンが同時に存在するのは、極めて進行した又は複合的な疾患を指し示している可能性が高いため、ESR1クローン性の効果もまた調べた。注目すべきことに、異なるESR1突然変異体のアレル頻度は同一でなかったことから、同じ腫瘍ESR1遺伝子に複数の突然変異が存在するというよりむしろ、ある腫瘍に複数のクローンが存在していることが指摘される。これらの分析の目的上、クローナルY537Sとは、D538GのMAFが0.5%未満である一方で、治療前全血試料中に0.5%以上の突然変異体アレル頻度(MAF)で検出されるESR1 Y537S突然変異として定義した。逆に、クローナルD538Gとは、Y537SのMAFが0.5%未満である一方で、治療前全血試料中に0.5%以上のMAFで検出されるESR1 D538G突然変異として定義した。
【0058】
これらの分析では、450mg用量で開始した対象間で、PFS中央値は3.8ヵ月(95%CI:3.2~6.2)、及びクローナルESR1 Y537S又はクローナルD538G突然変異を有する対象で5.5ヵ月であった。PgR陽性及びクローナルESR1 Y537S又はクローナルD538G突然変異の有無の両方を考慮すると、対象の部分集団別のPFSは、表4及び図5に示されるとおりであった。ROC法を用いて、表4及び図5にあるとおり、対象の振り分け基準を作成した。ESR1突然変異体を一つずつ試した後、Y537Sが0.5%以上のMAF値を有した(及び他の突然変異体が0.5%を下回るMAF値を有した)とき、又はD538Gが0.5%以上のMAF値を有した(及び他の突然変異体が0.5%を下回るMAFを有した)ときに限り、ROC分析に従えば、この試験が実にその患者について好ましいアウトカムを予測した。腫瘍がPgR+で、且つクローナルESR1 Y537S又はクローナルD538G突然変異を保有した対象において、最も高い臨床的有益性が観察された。ESR1 Y537S及びD538G突然変異の両方を同時に保有した対象において、最も低いPFS中央値が観察された。
【0059】
【表4】
【0060】
図1は、上記で考察したとおり、クローナルD538G又はクローナルY537S ESR1突然変異が化合物1の活性に関連することを示している。図2は、クローナルD538G又はクローナルY537S ESR1突然変異を有する患者の総合的な結果を示す。両図とも、無増悪生存確率を患者集団の無作為化からの時間に対する無増悪率としてグラフ化している。これらの結果は、標準治療と見なし得るフルベストラントで治療した患者と比べたこれらの患者群における化合物1を使用した治療アウトカムの顕著な反応性を示している。Fribbens,C.et al.,J.Clin.Onc.,34(25):2961-2968。これらの同じ突然変異は、クローナルであれポリクローナルであれ、フルベストラントによる治療の正の予後因子ではない。同上。
【0061】
実施例3A-まとめ-更なる臨床データ分析
上記に記載したデータ分析の後、患者は実施例1に報告した第2相研究に残り、臨床データ収集が継続された。この研究の主要目的は、全ての対象並びにERα突然変異(ERαMUT)を有する及び有しない対象において、最良総合効果率(ORR)、奏効期間(DoR)、臨床的有用率、及び無増悪生存(PFS)の点で化合物1の有効性を推定することであった。
【0062】
実施例3B-人口統計学的情報及び患者特性
実施例1の第2相研究では、83例の患者を450mgで治療した。加えて、本試験の第1相パート(実施例1でも考察した)において450mgで治療した11例の患者をこれらの83例の第2相患者と一つにまとめ、本例で考察した。これにより、450mgで治療した患者が合計94例となった。患者は多数の前治療歴を有し、患者の85%にCDK4/6阻害薬の投与歴があった。
【0063】
【表5】
【0064】
実施例3C-有効性
多数の前治療歴を有する患者、内臓転移を有する患者、並びに転移性セッティングでのフルベストラント、CDK4/6阻害薬、及び/又は化学療法の前投与歴のある患者で奏効を観察した(表6を参照のこと)。
【0065】
【表6】
【0066】
クローナルESR1 Y537Sが主なERαドライバーであった10例の患者において、3例の部分奏効(30%)及び4例の病勢安定(40%)が観察された(表7を参照のこと)。
【0067】
94例の全患者及びクローナルESR1 Y537Sを有する10例の患者の無増悪生存中央値は、それぞれ、5.1ヵ月及び7.3ヵ月であった。
【0068】
プロゲステロン受容体陽性(PgR+)患者及びESR1 Y537Sを有する患者では、潜在的により高い活性が観察された(図3及び図4及び表7を参照のこと)。
【0069】
【表7】
【0070】
実施例3D-結論
実施例3のデータ分析の結果に基づき、本発明者らは、450mgの1日1回用量の化合物1単剤療法(即ち、化合物1単剤療法)が、多数の前治療歴を有するER+、HER2-、転移性乳癌患者で抗腫瘍活性を実証したと結論付けた。内臓疾患有り、ESR1突然変異有り、並びにフルベストラント、CDK4/6阻害薬、及び化学療法による前治療歴後の患者で確定奏効が観察された。データから、ESR1 Y537Sクローナル突然変異を有する患者及びPgR+腫瘍を有する患者における化合物1の潜在的に高い活性が示唆された。
【0071】
選択の配列:
ERαアミノ酸配列(配列番号1)
【化2】
【0072】
ESR1の野生型配列(配列番号2)
【化3】

【化4】

【化5】

図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
2023548340000001.app
【国際調査報告】