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特表2023-548345クリッピング率の低減した抗原結合ドメイン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-16
(54)【発明の名称】クリッピング率の低減した抗原結合ドメイン
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20231109BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20231109BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20231109BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20231109BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20231109BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20231109BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20231109BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20231109BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231109BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20231109BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C07K16/28
C12N15/63 Z
C12N5/10
C12N1/21
C12N1/19
C12N1/15
C12P21/08
A61P35/00
A61K39/395 T
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023526549
(86)(22)【出願日】2021-11-08
(85)【翻訳文提出日】2023-05-19
(86)【国際出願番号】 EP2021080880
(87)【国際公開番号】W WO2022096704
(87)【国際公開日】2022-05-12
(31)【優先権主張番号】63/110,840
(32)【優先日】2020-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.プルロニック
(71)【出願人】
【識別番号】500049716
【氏名又は名称】アムジエン・インコーポレーテツド
(71)【出願人】
【識別番号】513105328
【氏名又は名称】アムジェン リサーチ (ミュニック) ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブロズィー,ヨハンネス
(72)【発明者】
【氏名】ミュンツ,マルクス
(72)【発明者】
【氏名】ダイクストラ,アンドリュー
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B064DA05
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4C085AA14
4C085BB31
4C085CC23
4C085DD61
4C085EE01
4C085GG01
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA09
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA22
4H045GA26
(57)【要約】
本発明は、第1の標的抗原結合ドメインを含むポリペプチド又はポリペプチド構築物であって、当該第1の標的抗原結合ドメインが、ペプチドリンカーによって連結されたVH及びVL可変領域を含み、このペプチドリンカーが、S(G4X)n若しくは(G4X)nを含むか又はこれからなり、Xが、Q、T、N、C、G、A、V、I、L、及びMからなる群より選択され、nが、整数1~20から選択される整数である、ポリペプチド又はポリペプチド構築物に関する。本発明はまた、ポリペプチド又はポリペプチド構築物の安定性を改善するための方法にも関する。その上、本発明は、本発明のポリペプチド又はポリペプチド構築物をコードするポリヌクレオチド、当該ポリヌクレオチドを含むベクター、及び当該ポリヌクレオチド若しくは当該ベクターで形質転換された又は当該ポリヌクレオチド若しくは当該ベクターを移入された宿主細胞に関する。その上、本発明はまた、当該ポリペプチド又はポリペプチド構築物の製造のためのプロセス、及び本発明の当該ポリペプチド又はポリペプチド構築物を含む医薬組成物も提供する。さらに、本発明は、当該ポリペプチド又はポリペプチド構築物の医学的使用、及び当該ポリペプチド又はポリペプチド構築物を含むキットに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の標的抗原結合ドメインを含むポリペプチド又はポリペプチド構築物であって、前記第1の標的抗原結合ドメインが、ペプチドリンカーによって連結されたVH及びVL可変領域を含み、前記ペプチドリンカーが、S(G4X)n若しくは(G4X)nを含むか又はこれからなり、Xが、Q、T、N、C、G、A、V、I、L、及びMからなる群より選択され、nが、整数1~20から選択される整数である、ポリペプチド又はポリペプチド構築物。
【請求項2】
nが1、2、3、4、5又は6である、請求項1に記載のポリペプチド又はポリペプチド構築物。
【請求項3】
XがQである、請求項1又は2に記載のポリペプチド又はポリペプチド構築物。
【請求項4】
前記ペプチドリンカーがS(G4X)n又は(G4X)nであり、nが3であり、XがQである、請求項1~3のいずれか一項に記載のポリペプチド又はポリペプチド構築物。
【請求項5】
標的抗原に結合する少なくとも1つのさらなる結合ドメインを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のポリペプチド又はポリペプチド構築物。
【請求項6】
前記少なくとも1つのさらなる標的抗原結合ドメインが、前記第1の標的抗原結合ドメインと同じ構成要素を含む、請求項5に記載のポリペプチド又はポリペプチド構築物。
【請求項7】
各標的抗原結合ドメインが、1つの標的抗原に結合する、請求項5又は6に記載のポリペプチド又はポリペプチド構築物。
【請求項8】
前記ポリペプチド又はポリペプチド構築物が、以下:
結合ドメイン1(VH/VL-ペプチドリンカー-VH/VL)-リンカー-結合ドメイン2(VH/VL-ペプチドリンカー-VH/VL)
を含む、請求項5~7のいずれか一項に記載のポリペプチド又はポリペプチド構築物。
【請求項9】
前記ポリペプチド又はポリペプチド構築物が、以下:
結合ドメイン1(VH/VL-ペプチドリンカー-VH/VL)-リンカー-結合ドメイン2(VH/VL-ペプチドリンカー-VH/VL)-結合ドメイン3(VH/VL-ペプチドリンカー-VH/VL)
を含む、請求項8に記載のポリペプチド又はポリペプチド構築物。
【請求項10】
前記C末端結合ドメインがCD3に結合しており、前記残部のN末端結合ドメインが細胞表面抗原に結合している、請求項8~9のいずれか一項に記載のポリペプチド又はポリペプチド構築物。
【請求項11】
前記結合ドメインを連結する前記リンカーが、S(G4X)n若しくは(G4X)nを含むか又はそれからなり、Xが、Q、T、N、C、G、A、V、I、L、及びMからなる群から選択され、且つnが、整数1~20から選択される整数である、請求項8~10のいずれか一項に記載のポリペプチド又はポリペプチド構築物。
【請求項12】
前記リンカーがS(G4X)nであり、nが1であり、XがQである、請求項11に記載のポリペプチド又はポリペプチド構築物。
【請求項13】
半減期延長ドメインを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載のポリペプチド又はポリペプチド構築物。
【請求項14】
前記半減期延長ドメイン(HLEドメイン)が、ヒンジ、CH2ドメイン及びCH3ドメインを含む各モノマーを有する2つのポリペプチドモノマーを含むか、又はそれからなり、前記2つのポリペプチドモノマーが、アミノからカルボキシルに向かう順序で、ヒンジ-CH2-CH3-ペプチドリンカー-ヒンジ-CH2-CH3を含む、ペプチドリンカーを介して互いに融合している、請求項13に記載のポリペプチド又はポリペプチド構築物。
【請求項15】
前記ポリペプチド又はポリペプチド構築物が、アミノからカルボキシルに向かう順序で、結合ドメイン1(VH/VL-ペプチドリンカー-VH/VL)-リンカー-結合ドメイン2(VH/VL-ペプチドリンカー-VH/VL)-HLEドメインを含む、請求項8及び10~14のいずれか一項に記載のポリペプチド又はポリペプチド構築物。
【請求項16】
前記ポリペプチド又はポリペプチド構築物が、アミノからカルボキシルに向かう順序で、結合ドメイン1(VH/VL-ペプチドリンカー-VH/VL)-リンカー-結合ドメイン2(VH/VL-ペプチドリンカー-VH/VL)-リンカー-結合ドメイン3(VH/VL-ペプチドリンカー-VH/VL)-HLEドメインを含む、請求項9及び10~14のいずれか一項に記載のポリペプチド又はポリペプチド構築物。
【請求項17】
前記ポリペプチド又はポリペプチド構築物が、アミノからカルボキシルに向かう順序で、結合ドメイン1(VH/VL-ペプチドリンカー-VH/VL)-リンカー-結合ドメイン2(VH/VL-ペプチドリンカー-VH/VL)-リンカー-HLEドメイン-リンカー-結合ドメイン3(VH/VL-ペプチドリンカー-VH/VL)-リンカー-結合ドメイン4(VH/VL-ペプチドリンカー-VH/VL)を含み、
結合ドメイン1が、第1の細胞表面抗原に結合し、結合ドメイン2及び3が、CD3に結合し、結合ドメイン4が、第2の細胞表面抗原に結合する、請求項15に記載のポリペプチド又はポリペプチド構築物。
【請求項18】
前記結合ドメイン内の前記ペプチドリンカーが、(G4Q)3であり、前記HLEドメイン内の前記ペプチドリンカーが、(G4Q)6であり、前記結合ドメインを連結する前記リンカーが、S(G4Q)であり、且つ前記HLEドメインを前記結合ドメインに連結する前記リンカーが、G4リンカーである、請求項17に記載のポリペプチド又はポリペプチド構築物。
【請求項19】
前記HLEドメインを前記結合ドメインに連結する前記リンカーが、G4リンカーである、請求項14~16のいずれか一項に記載のポリペプチド又はポリペプチド構築物。
【請求項20】
前記細胞表面抗原が、腫瘍抗原である、請求項10~19のいずれか一項に記載のポリペプチド又はポリペプチド構築物。
【請求項21】
前記腫瘍抗原が、BCMA、CD123、CD19、CD20、CD22、CD33、CD70、CDH19、CDH3、CLL1、CS1、CLDN6、CLDN18.2、DLL3、EGFRvIII、FLT3、MAGEB2、MART1、MSLN、MUC17、PSMA、及びSTEAP1からなる群より選択される、請求項20に記載のポリペプチド又はポリペプチド構築物。
【請求項22】
請求項1~21のいずれか一項に記載のポリペプチド又はポリペプチド構築物をコードする、ポリヌクレオチド。
【請求項23】
請求項22に記載のポリヌクレオチドを含む、ベクター。
【請求項24】
請求項22に記載のポリヌクレオチド若しくは請求項23に記載のベクターで形質転換された、又はそれらを移入された、宿主細胞。
【請求項25】
請求項1~21のいずれか一項に記載のポリペプチド又はポリペプチド構築物の発現を可能にする条件下で、請求項に記載の宿主細胞を培養することと、前記産生されたポリペプチド又はポリペプチド構築物を前記培養物から回収することと、を含む、請求項1~21のいずれか一項に記載のポリペプチド又はポリペプチド構築物の製造のためのプロセス。
【請求項26】
請求項1~21のいずれか一項に記載のポリペプチド若しくはポリペプチド構築物を含む、又は請求項25に記載のプロセスによって製造された、医薬組成物。
【請求項27】
腫瘍性疾患の予防、処置又は改善における使用のための、請求項20若しくは21に記載の、又は請求項25に記載のプロセスによって製造された、ポリペプチド又はポリペプチド構築物。
【請求項28】
請求項20~21のいずれか一項に記載の、又は請求項25に記載のプロセスによって製造された、ポリペプチド又はポリペプチド構築物を、腫瘍性疾患の予防、処置又は改善を必要とする対象へ投与するステップを含む、腫瘍性疾患の予防、処置又は改善のための方法。
【請求項29】
請求項1~21のいずれか一項に記載の、若しくは請求項25に記載のプロセスによって製造されたポリペプチド又はポリペプチド構築物、請求項22に記載のポリヌクレオチド、請求項23に記載のベクター、及び/又は請求項24に記載の宿主細胞を含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1の標的抗原結合ドメインを含むポリペプチド又はポリペプチド構築物であって、当該第1の標的抗原結合ドメインが、ペプチドリンカーによって連結されたVH及びVL可変領域を含み、このペプチドリンカーが、S(G4X)n若しくは(G4X)nを含むか又はこれからなり、Xが、Q、T、N、C、G、A、V、I、L、及びMからなる群より選択され、nが、整数1~20から選択される整数である、ポリペプチド又はポリペプチド構築物に関する。本発明はまた、ポリペプチド又はポリペプチド構築物の安定性を改善するための方法にも関する。その上、本発明は、本発明のポリペプチド又はポリペプチド構築物をコードするポリヌクレオチド、当該ポリヌクレオチドを含むベクター、及び当該ポリヌクレオチド若しくは当該ベクターで形質転換された又は当該ポリヌクレオチド若しくは当該ベクターを移入された宿主細胞に関する。その上、本発明はまた、当該ポリペプチド又はポリペプチド構築物の製造のためのプロセス、及び本発明の当該ポリペプチド又はポリペプチド構築物を含む医薬組成物も提供する。さらに、本発明は、当該ポリペプチド又はポリペプチド構築物の医学的使用、及び当該ポリペプチド又はポリペプチド構築物を含むキットに関する。
【背景技術】
【0002】
組み立てて精製された生体分子、例えば、抗体、T細胞エンゲージャー抗体の、例えば、液体貯蔵中の、断片化としても公知のクリッピングは、広く観察されている不利なことである。クリッピングが生じる割合に応じて、液体製剤は、生体分子の安定性、それ故組成に関して損なうことなく実現可能ではない場合がある。このような妥協は、特に、例えば、機能的で均一で且つ安定した医薬品を提供することが最も重要である医薬産業などでの非常に規制された環境では、常に選択肢の1つであるとは限らない。生体分子は様々な形状、構造及び機能を有するので、クリッピング率、すなわちクリッピングが生じる割合を低下させる方法によって生体分子の安定性を改善する、継続的な必要性がある。クリッピングを低減させようとする1つの方法は、例えば、生体分子の凍結乾燥である。しかしながら、凍結乾燥製剤についての必要性は、商業上の生産の融通性に有意に影響することがあり、したがって製造品のコスト(COGM)がより高くなることがある。別の選択肢は、生体分子がクリッピングしにくくなり、とりわけ生体分子の液体製剤を可能にするように、生体分子自体を操作することである。生体分子対凍結乾燥の液体製剤は、例えば、凍結乾燥した材料の誤りがちな再構築プロセスについての必要性を排除し、それによって安全性及び取り扱いの快適性を高める。クリッピングはまた、特に、例えば、scFvなど、抗体由来結合ドメインを含むポリペプチド又はポリペプチド構築物においても生じる。このようなものとして、対応する生体分子のクリッピング率を低減させる継続的な必要性がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明は、第1の標的抗原結合ドメインを含むポリペプチド又はポリペプチド構築物であって、当該第1の標的抗原結合ドメインが、ペプチドリンカーによって連結されたVH及びVL可変領域を含み、このペプチドリンカーが、S(G4X)n若しくは(G4X)nを含むか又はこれからなり、Xが、Q、T、N、C、G、A、V、I、L、及びMからなる群より選択され、nが、整数1~20から選択される整数である、ポリペプチド又はポリペプチド構築物に関する。当該ペプチドリンカーは、当該VH及びVL可変領域を連結するS(G4S)n又は(G4S)nリンカーを置換し、ここで、当該置換は、好ましくは保存的置換であり、すなわちリンカー長は、置換された結合ドメイン及び非修飾結合ドメインにおいて同じままである。当該置換は、置換を伴う抗原結合ドメインのクリッピング率を、置換を伴わない、すなわちS(G4S)n又は(G4S)nリンカーを伴う当該抗原結合ドメインと比較して低減させる。クリッピング率は、当該技術分野で周知の方法、好ましくは本明細書の後述及び実施例の節において説明されるような還元的毛細管電気泳動法(rCE-SDS)によって分析して、クリッピング率についての読出しとして低分子量(LMW)種の量を評価することができる。
【発明を実施するための形態】
【0004】
「ポリペプチド構築物」(或いは本明細書では「化合物」とも称される)という用語は、パラトープを含む結合ドメイン自体を含む抗原結合(又はエピトープ結合)分子を指す。本発明の文脈において、ポリペプチド構築物は、天然には存在しないが操作された少なくとも1つの連続した非分枝アミノ酸鎖を含む有機ポリマーとして理解される。単一ポリペプチドであるポリペプチド構築物の例及びまた好ましい実施形態は、単一ポリペプチド鎖上に少なくとも1つの機能的標的抗原結合ドメインを少なくとも1つの完全な機能的CD3結合ドメインと一緒に含むコア構造を含むBITE(登録商標)分子であり、これらのドメインは、例えば、異なるポリペプチド鎖上に標的結合因子とCD3結合因子とを含むXmabとは異なり、いずれかの挿入ドメインなしで可撓性のあるペプチド(「リンカー」)によって直接連結されている。本発明と関連して、複数のアミノ酸鎖を含むこのようなポリペプチド構築物も同様に想定される。「ポリペプチド」という用語は、本発明の化合物の一本鎖形態と関係して使用されることが好ましいが、「ポリペプチド構築物」は、好ましくは、複数のポリペプチド鎖、例えば2本、3本、又は4本のポリペプチド鎖を含むポリペプチドも説明するのにより適切であり得る。しかしながら、本明細書で明示して指定されない限り、両方の用語は、本明細書では相互交換可能に使用される。好ましくは、本発明のポリペプチド又はポリペプチド構築物は、一本鎖ポリペプチド又はポリペプチド構築物である。加えて、「ポリペプチド構築物」という用語はまた、1つ以上の非アミノ酸系構成成分を含む本発明の化合物を説明するのにも適している。ポリペプチドのアミノ酸鎖は、典型的には少なくとも50個のアミノ酸を含み、好ましくは少なくとも100個、200個、300個、400個又は500個のアミノ酸を含む。また、本発明と関連して、ポリマーのアミノ酸鎖が、アミノ酸で構成されていない実体に連結していることもまた想定される。
【0005】
このポリペプチドは、抗体、例えば、完全長の免疫グロブリン分子の構造及び/又は機能に基づいた構造的及び/又は機能的な特徴を含む。この故に、ポリペプチド構築物は、その標的又は抗原に、より正確には当該標的又は標的抗原のエピトープに特異的且つ、好ましくは選択的に又は免疫特異的に結合し、抗体において天然に見られる重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含むか、又は当該抗体に由来するドメインを含む。したがって、当該構築物は、或いは、天然抗体又はその断片において見られるようなパラトープ状構造及びエピトープ結合構造を含むと見なされてもよい。本発明によるポリペプチド構築物は、免疫特異的標的結合を可能にする抗体、すなわち、特に指定しない限り、標的抗原上のエピトープを免疫特異的に又は免疫選択的に認識するパラトープの最小構造要件を含む。この最小要件は、例えば、少なくとも3つの軽鎖CDR(すなわち、VL領域のCDR1、CDR2及びCDR3であって、CDR-L1、CDRL2、及びCDR-L3とも称される)、並びに/又は3つの重鎖CDR(すなわち、VH領域のCDR1、CDR2及びCDR3であって、CDR-H1、CDR-H2及びCDR-H3とも称される)、好ましくは6つすべてのCDR、の存在によって定義され得る。この故に、ポリペプチド構築物は、結合ドメインにおける3つ又は、好ましくは、6つのCDRの存在を特徴とし得、当業者は、当該CDRが、パラトープ結合構造内で(どのような順序で)どこに位置するのかをわかっている。本発明に従って、及び当該ポリペプチド又はポリペプチド構築物の第1の標的抗原結合ドメインに関して、当該パラトープ結合構造は、この故にCDRを含むVH及びVL領域の存在を特徴とする標的抗原結合ドメインであると特定される。それ故、本発明によるポリペプチド/ポリペプチド構築物は、VH可変領域及びVL可変領域(CDRを有する)を含む標的抗原に選択的に、免疫特異的に及び/又は免疫選択的に結合する結合ドメインである少なくとも1つのパラトープ結合構造を含む。したがって、本発明によるポリペプチド/ポリペプチド構築物は、標的抗原に選択的に、免疫特異的に及び/又は免疫選択的に結合するパラトープを含む。本明細書で使用される「抗原結合構造」という用語は、抗原結合構造又は、特定の標的抗原に対して結合活性を有するいずれかの分子を含むいずれかのポリペプチド/ポリペプチド構築物を指す。当該抗原結合構造又は抗原結合分子は、生物に由来するものに限定されず、例えば、人工的に設計された配列から生じたポリペプチドであり得る。当該抗原結合構造又は抗原結合分子はまた、天然のポリペプチド、合成ポリペプチド、組換えポリペプチドなどのうちのいずれであってもよい。本発明に従った抗原結合構造は抗原の一部に特異的に結合するので、抗原(エピトープ)結合構造はまた、本明細書では広く「パラトープ構造」としても定義され得る。したがって、本発明によるポリペプチド/ポリペプチド構築物はまた、標的抗原/標的エピトープに好ましくは免疫特異的に又は免疫選択的に結合しているパラトープを含むドメインとしても定義され得、少なくとも1つのさらなるパラトープを含むある特定の実施形態では、さらなる、異なる又は同じ標的抗原/標的エピトープに好ましく免疫特異的に又は免疫選択的に結合する。それ故、本明細書が本発明の構築物又は分子のドメインに言及するときはいつでも、当該構築物は、本明細書で、特に添付の特許請求の範囲のいずれか1つによって特定されるように、好ましくはCD3及び/又は腫瘍抗原などの標的抗原を結合する少なくとも1つのパラトープ構造(又はパラトープ)を含む。ある特定の実施形態では、当該構築物は、本明細書で定義されるさらなる標的抗原を結合する少なくとも1つのさらなるパラトープ/結合ドメインを含む。
【0006】
本発明に従って使用される「抗体」という用語は、生物工学的又はタンパク質工学的方法又はプロセスによって生成されたラクダ抗体及び他の免疫グロブリンも含む完全長抗体を含む。これらの完全長抗体は、例えば、モノクローナル抗体、組換え抗体、キメラ抗体、脱免疫化抗体、ヒト化抗体及びヒト抗体、並びにマウス、ハムスター、ウサギ、ラット、ヤギ又は非ヒト霊長類などの他の種由来の抗体であり得る。
【0007】
本発明の「ポリペプチド/ポリペプチド構築物」は、結合ドメインのVH及びVL領域を連結する、好ましくはscFvをもたらすリンカーを含み、且つ/又は、他の実施形態では、パラトープを含む少なくとも1つのさらなる結合ドメインを含み、当該ポリペプチド/ポリペプチド構築物は、天然には存在せず、天然に存在する産物とはその機能が著しく異なっている。この故に、本発明のポリペプチド又はポリペプチド構築物は、scFv並びに/又は、いくつかの実施形態では、異なる特異性及び/若しくは選択性を有する別個のパラトープ/結合ドメインを含む、人工「複合」分子である。
【0008】
上述のように、本発明のポリペプチド/ポリペプチド構築物は、複数のポリペプチド鎖を含み得、すなわち、2本以上のポリペプチド鎖を含むポリペプチド、特に、少なくとも1つの標的抗原への免疫特異的結合を可能にする3次元タンパク質様構造を形成するポリペプチドも本発明の対象である。それ故、「ポリペプチド構築物」という用語の定義には、1つのポリペプチド鎖のみからなる分子と、2つ、3つ、4つ又はそれより多数のポリペプチド鎖であって、同一である(ホモ二量体、ホモ三量体又はホモオリゴマー)か又は異なる(ヘテロ二量体、ヘテロ三量体又はヘテロオリゴマー)かのいずれかであり得るポリペプチド鎖からなる分子とが含まれる。上述で特定された抗体及びその断片、変異体、誘導体並びにこれらに由来する構築物についての例は、とりわけ、Harlow and Lane,Antibodies:A laboratory manual,CSHL Press(1988);Kontermann and Duebel,Antibody Engineering,Springer,2nd ed.2010;並びにLittle,Recombinant Antibodies for Immunotherapy,Cambridge University Press 2009で説明されている。
【0009】
本発明の「ポリペプチド/ポリペプチド構築物」はまた、VH、VHH、VL、(s)dAb、Fv、軽鎖(VL-CL)、Fd(VH-CH1)、重鎖、Fab、Fab’、F(ab’)2又は「rIgG」(重鎖と軽鎖とからなる「半抗体」)などの完全長抗体の断片を含み得るが、ペプチドリンカーによって連結されたVH及びVL領域を含むと定義されているため、明らかに上述の断片のすべてが第1の標的結合ドメインに対して適用可能であるわけではないが、少なくとも1つのさらなる結合ドメインに関する実施形態には適用可能である。本発明によるポリペプチド/ポリペプチド構築物はまた、抗体変異体又は抗体誘導体とも呼ばれる、抗体の修飾断片も含み得る。例として、scFv、di-scFv若しくはビ(ス)-scFv、scFv-Fc、scFv-ジッパー、scFab、Fab2、Fab3、ダイアボディ、単鎖ダイアボディ、タンデムダイアボディ(Tandab)、タンデムジ-scFv、タンデムトリ-scFv、以下のような構造、すなわち、(VH-VL-CH3)2、(scFv-CH3)2、((scFv)2-CH3+CH3)、((scFv)2-CH3)又は(scFv-CH3-scFv)2、トリアボディ又はテトラボディなどのマルチボディ、並びに、VHH、VH又はVLであり得る、選択的且つ、好ましくは、他の可変領域若しくは可変ドメインとは無関係に抗原又は標的に特異的に結合する単に1つの可変領域を含むナノボディ又は単一可変ドメイン抗体などの単一ドメイン抗体である構造によって具現化される「ミニボディ」が挙げられるがこれらに限定されないものの、VH及びVL領域を含むと定義されているので、上述の断片のすべてが第1の標的抗原結合ドメインに対して適用可能であるわけではないが、少なくとも1つのさらなる結合ドメインに関する実施形態には適用可能である。本発明によるポリペプチド/ポリペプチド構築物において含まれるさらなる可能な形式は、クロスボディ、マキシボディ、ヘテロFc構築物、モノFc構築物及びscFc構築物である。これらの形式の例を本明細書において以下に説明する。
【0010】
さらに、「ポリペプチド構築物」という用語の定義には、二価及び多価(polyvalent)/多価(multivalent)のポリペプチド/ポリペプチド構築物、並びに異なる結合ドメインを介して2種、3種又はより多種の抗原構造(エピトープ)に選択的に且つ、好ましくは、特異的に結合する二重特異性及び多特異性/多重特異性ポリペプチド/ポリペプチド構築物が含まれる。例えば、ポリペプチド構築物が、ある標的(CD3イプシロン)に対する2つの結合ドメインと、別の標的、例えば、本明細書で後述するものに対する1つの結合ドメインとを有する場合、又はこの逆の場合、このポリペプチド構築物は、特異性よりも大きな結合価を有し得、いずれの場合においても、このポリペプチド構築物は、三価であり且つ二重特異性である。一般に、「二重特異性」という用語は、ポリペプチド構築物が少なくとも2つの異なる抗原、例えば、好ましくはCD3及びさらなる標的抗原、好ましくは腫瘍抗原、例えば本明細書で後に特定されるものに結合するという意味を含む。
【0011】
「パラトープ」、「抗原結合ドメイン」、「エピトープ結合ドメイン」、「結合ドメイン」、又は「~に結合するドメイン」という用語は、本発明と関連して、標的上の又は標的抗原上のエピトープに選択的に且つ、好ましくは、特異的に又は免疫特異的に結合する/当該エピトープと選択的に且つ、好ましくは特異的に又は免疫特異的に相互作用する/当該エピトープを選択的に且つ、好ましくは特異的に又は免疫特異的に認識する構築物のドメインを特徴付ける。「結合ドメイン」又は「~に結合するドメイン」又は「ドメイン」という用語は、本発明と関連して、標的上の又は標的抗原上のエピトープに免疫特異的に結合する/当該エピトープと免疫特異的に相互作用する/当該エピトープを免疫特異的に認識する構築物のドメインを特徴付ける。第1の結合ドメイン(さらなる、結果的に第2、第3などの結合ドメインを含むポリペプチド/ポリペプチド構築物の場合、第1の結合ドメインと称される)の構造及び機能、好ましくはいずれかのさらなる結合ドメイン(例えば、細胞表面抗原、好ましくは腫瘍抗原などの標的抗原に結合する)の構造及び/又は機能もまた、抗体、例えば、完全長免疫グロブリンポリペプチドの構造及び/又は機能に基づいている。それ故に、「結合ドメイン」又は「~に結合するドメイン」は、免疫特異的標的結合を可能にする抗体の最小限の構造要件を含み得る。第1の結合ドメインの構造要件は、1領域あたり対応する3つのCDRを有するVH及びVL領域を含むように指定されているが、いずれかのさらなる結合ドメインにおける当該最小構造要件は、例えば、少なくとも3つの軽鎖CDR(すなわち、VL領域のCDR1、CDR2及びCDR3)及び/又は3つの重鎖CDR(すなわち、VH領域のCDR1、CDR2及びCDR3)、好ましくは6つのCDRすべての存在によって定義され得る。「~に結合するドメイン」(又は「結合ドメイン」)は、典型的には、抗体軽鎖可変領域(VL)と抗体重鎖可変領域(VH)とを含み得るが、両方を含む必要はなく、他で定義されていない場合、VH又はVLの一方のみを含み得る。Fd断片は、例えば、インタクトな抗原結合ドメインの何らかの抗原結合機能を保持していることが多い。「パラトープ」、「抗原結合構造」及び「エピトープ結合構造」という用語は、本明細書で使用される場合、抗原又はその部分の全体又は一部分に特異的に結合し且つ当該全体又は一部分に相補的である領域を含む抗体(又は本発明による分子)の一部分も指し、すなわち、抗体は、抗原の特定の一部分にのみ結合することができる。特定の部分は、「エピトープ」と呼ばれる。抗原結合ドメインは、1つ以上の抗体可変ドメインから提供することができる。好ましくは、抗原結合ドメインは、抗体軽鎖可変領域(VL)及び抗体重鎖可変領域(VH)の両方を含む抗体可変領域を含有する。このような好ましい抗原結合ドメインとしては、例えば、「一本鎖Fv(scFv)」、「一本鎖抗体」、「Fv」、「単鎖Fv2(scFv2)」、「Fab」、及び「F(ab’)2」が挙げられる。本発明に従って、第1の結合ドメインは、scFvの形態をとる。
【0012】
「~に結合するドメイン」、「パラトープを含むドメイン」(又は「結合ドメイン」、「抗原結合構造」、「エピトープ結合構造」)の形式の例としては、別段の定義がない限り、下記が挙げられるが、これらに限定されない:完全長抗体、完全長抗体の断片(例えば、VH、VHH、VL)、(s)dAb、Fv、軽鎖(VL-CL)、Fd(VH-CH1)、重鎖、Fab、Fab’、F(ab’)2又は「r IgG」(「半抗体」)、抗体バリアント又は抗体誘導体、例えばscFv、di-scFv又はbi(s)-scFv、scFv-Fc、scFv-ジッパー、scFab、Fab2、Fab3、ダイアボディ、単鎖ダイアボディ、タンデムダイアボディ(Tandab)、タンデムdi-scFv、タンデムtri-scFv、「ミニボディ」((VH-VL-CH3)2、(scFv-CH3)2、((scFv)2-CH3+CH3)、((scFv)2-CH3)又は(scFv-CH3-scFv)2等の形式から選択される)、マルチボディ(例えば、トリアボディ又はテトラボディ)及び単一ドメイン抗体(例えば、VHH、VH又はVLであり得る1つの可変領域のみを含むナノボディ又は単一可変ドメイン抗体)。本明細書において、第1の結合ドメインは、上述の形式のいくつかが、本発明のポリペプチド又はポリペプチド構築物に含まれ得る少なくともさらなる結合ドメインにのみ関することができるように、scFvとして定義されるものとすることは理解される。「~に結合するドメイン」(又は「結合ドメイン」)の形式のさらなる例として、以下が挙げられる:(1)VL、VH、CL、及びCH1を含む抗体断片又は抗体バリアント(例えばFab);(2)2個の連結されたFab断片を含む抗体断片又は抗体バリアント(例えばF(ab’)2);(3)VH及びCH1を含む抗体断片又は抗体バリアント(例えばFd);(4)VL及びCLを含む抗体断片又は抗体バリアント(例えば軽鎖);(5)VL及びVHを含む抗体断片又は抗体バリアント(例えばFv);(5)VHドメインを有するdAb断片(Ward et al.,(1989)Nature 341:544-546);(6)重鎖及び/又は軽鎖の少なくとも3つの単離されたCDRを含む抗体バリアント;並びに(7)単鎖Fv(scFv)。本発明に係る構築物又は結合ドメインの実施形態についての例は、例えば、国際公開第00/006605号パンフレット、国際公開第2005/040220号パンフレット、国際公開第2008/119567号パンフレット、国際公開第2010/037838号パンフレット、国際公開第2013/026837号パンフレット、国際公開第2013/026833号パンフレット、米国特許出願公開第2014/0308285号明細書、米国特許出願公開第2014/0302037号明細書、国際公開第2014/144722号パンフレット、国際公開第2014/151910号パンフレット及び国際公開第2015/048272号パンフレットで説明されている。本発明に関連して、パラトープは、本明細書で説明されているポリペプチドの一部であり且つ抗原を認識してこの抗原に結合する抗原部位として理解される。パラトープは、典型的は、少なくとも約5つのアミノ酸の小さい領域である。本明細書で理解されるパラトープは、典型的には、抗体由来の重鎖(VH)及び軽鎖(VL)の配列の一部を含む。本発明に係るポリペプチドの各結合ドメインは、それぞれ3つが抗体由来のVH配列及びVL配列内に含まれる6つの相補性決定領域(CDRループ)のセットを含むパラトープを備えている。
【0013】
化合物、特に本発明の構築物について、a)構築物は単鎖ポリペプチド若しくは単鎖ポリペプチド構築物であり、b)第1の結合ドメインはscFvの形式であり、c)いずれかのさらなる、例えば第2の結合ドメイン及び/若しくは第3のドメインはscFvの形式であり、d)第1及び当該さらなる、例えば当該第2及び/若しくは第3のドメインは、リンカー、好ましくはペプチドリンカー、例えば本明細書で定義されるグリシン/グルタミンリンカーを介して結合しており、且つ/又はe)構築物は、血清半減期の延長を提供するドメイン、例えばFcベースのドメイン若しくはヒト血清アルブミン(HSA)を含むことが想定される。対応する化合物の具体的な形式は、本明細書において後述される。後者の場合、すなわち、その存在が好ましい実施形態であるHLEドメインに関して、「ポリペプチド構築物」という用語は、それが複数の単一のペプチド鎖を含み得ることを明らかにする。血清半減期を延長する好ましいFcベースのドメイン(「HLE」ドメインとも呼ばれる)は、各々がヒンジ、CH2ドメイン及びCH3ドメインを含む2つのポリペプチドモノマーを含み、当該2つのポリペプチドモノマーはペプチドリンカーを介して互いに融合しており、当該形式はN末端からC末端の順序で、ヒンジ-CH2-CH3-リンカー-ヒンジ-CH2-CH3である。
【0014】
本発明の構築物は、好ましくは、「インビトロ生成構築物」及び/又は「組換え構築物」である。本発明との関連において、「インビトロ生成」という用語は、結合ドメイン又は可変領域(例えば、少なくとも1つのCDR)のすべて又は部分がタンパク質チップ上の非免疫細胞選択、例えばインビトロファージディスプレイ又は候補アミノ酸配列をその抗原への結合能力に関して試験することのできるいずれかの他の方法で生成されている上述の定義による構築物を指す。したがって、この用語は、好ましくは、動物の免疫細胞におけるゲノム再編成によってのみ生成される配列を除外する。構築物の第1及び/又は第2のドメインは、既存の(モノクローナル)抗体からのCDR配列を足場に移植することによってではなく、ファージディスプレイ法又はライブラリースクリーニング法によって産生されるか、又はそれによって得ることができることが想定される。「組換え構築物」は、(とりわけ)組換えDNA技術又は遺伝子工学を用いて生成又は製造された構築物である。
【0015】
本発明の構築物は、モノクローナルであることが想定される。本明細書で使用される場合、「モノクローナル」(mAb)と称されるポリペプチド又は構築物は、実質的に均一な抗体/構築物の集団から得られ、すなわち、この集団に含まれる個々の抗体/構築物は、微量で存在し得る天然に存在する可能な変異及び/又は翻訳後修飾(例えば、異性化、アミド化)を除いて、(特にそのアミノ酸配列に関して)同一である。モノクローナル抗体/構築物は、高度に特異的であり、抗原内の単一のエピトープを対象としており、これは、典型的には異なる決定基(又はエピトープ)を対象とする異なる抗体を含むポリクローナル抗体調製物と対照的である。この特異性に加えて、モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ培養によって合成されるので、他の免疫グロブリンによる混入を受けない点で有利である。「モノクローナル」という修飾語は、実質的に均一な抗体集団から得られる抗体/構築物の特徴を示すのであって、いずれかの特定の方法による抗体の産生を必要とするものとして解釈されるものではない。
【0016】
モノクローナル抗体の調製には、連続細胞株培養によって産生された抗体を提供するいずれかの技術を使用することができる。例えば、使用されるモノクローナル抗体は、Koehler et al.,Nature,256:495(1975)によって最初に説明されたハイブリドーマ法によって作製され得るか、又は組換えDNA法(例えば、米国特許第4,816,567号明細書を参照されたい)によって作製され得る。ヒトモノクローナル抗体を産生するためのさらなる技術の例としては、トリオーマ技術、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術(Kozbor,Immunology Today 4(1983),72)及びEBV-ハイブリドーマ技術(Cole et al.,Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy,Alan R.Liss,Inc.(1985),77-96)が挙げられる。
【0017】
次に、ハイブリドーマは、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)及び表面プラズモン共鳴(BIACORE(商標))分析などの標準方法を用いてスクリーニングして、特定の抗原に選択的に且つ、好ましくは、特異的に又は免疫特異的に結合する抗体を産生する1つ以上のハイブリドーマを同定することができる。例えば、組換え抗原、その天然に存在する形態、いずれかの変異体又は断片、及びこれらの抗原性ペプチドなど、いずれかの形態の関連抗原が免疫原として使用され得る。BIAcore(商標)システムで採用されている表面プラズモン共鳴を使用して、標的抗原のエピトープにファージ抗体/構築物が結合する効率を高めることができる(Schier,Human Antibodies Hybridomas 7(1996),97-105;Malmborg,J.Immunol.Methods 183(1995),7-13)。
【0018】
構築物又は結合ドメインを作製する別の例示的方法としては、タンパク質発現ライブラリー、例えば、ファージディスプレイ又はリボソームディスプレイライブラリーのスクリーニングが挙げられる。ファージディスプレイについては、例えば、Ladner et al.、米国特許第5,223,409号明細書、Smith(1985)Science 228:1315-1317、Clackson et al.,Nature,352:624-628(1991)及びMarks et al.,J.Mol.Biol.,222:581-597(1991)で説明されている。
【0019】
ディスプレイライブラリーの使用に加えて、関連抗原を使用して、非ヒト動物、例えばげっ歯類(例えば、マウス、ハムスター、ウサギ又はラットなど)を免疫化することができる。一実施形態においては、非ヒト動物は、ヒト免疫グロブリン遺伝子の少なくとも一部を含む。例えば、マウス抗体産生が欠損したマウス系統を、ヒトIg(免疫グロブリン)遺伝子座の大きなフラグメントを用いて改変することが可能である。ハイブリドーマ技術を用いて、所望の特異性を有する遺伝子に由来する抗原特異的モノクローナル抗体を製造及び選択し得る。例えば、Xenomouse(商標)、Green et al.(1994)Nature Genetics 7:13-21、米国特許出願公開第2003-0070185号明細書、国際公開第96/34096号パンフレット及び国際公開第96/33735号パンフレットを参照されたい。
【0020】
モノクローナル抗体はまた、非ヒト動物から得られ、次いで、当該技術分野で公知の組換えDNA技術を使用して、修飾、例えば、ヒト化、脱免疫化、キメラ化などを行うことができる。修飾された構築物又は結合ドメインの例として、非ヒト抗体/構築物のヒト化変異体、「親和性成熟化した」構築物又は結合ドメイン(例えば、Hawkins et al.J.Mol.Biol.254,889-896(1992)及びLowman et al.,Biochemistry 30,10832-10837(1991)を参照されたい)及びエフェクター機能が変化した抗体変異体又は突然変異体(例えば、米国特許第5,648,260号明細書、前掲のKontermann and Duebel(2010)及び前掲のLittle(2009)を参照されたい)が挙げられる。
【0021】
免疫学において、親和性成熟とは、B細胞が免疫応答の過程の間に抗原に対する親和性が高まった抗体を産生する過程である。同じ抗原への反復曝露により、宿主は連続的により高い親和性の抗体を産生する。天然のプロトタイプと同様に、インビトロ親和性成熟は、突然変異及び選択の原理に基づいている。インビトロ親和性成熟は、抗体、抗体断片、抗体変異体、構築物又は結合ドメインを最適化するためにうまく使用されてきた。CDR内部のランダム突然変異は、放射線、化学的変異原又は誤りがちなPCRを用いて導入される。加えて、遺伝的多様性は、チェイン・シャッフリング法によって増大させることができる。ファージディスプレイのようなディスプレイ法を使用した2回又は3回の突然変異及び選択により、通常、低ナノモル濃度範囲の親和性の抗体、抗体断片、抗体変異体、構築物又は結合ドメインが得られる。
【0022】
本発明の構築物又は結合ドメインの好ましい種類のアミノ酸置換変異には、親抗体構造(例えば、ヒト化抗体又はヒト抗体構造)の超可変領域内の1つ以上の残基を置換することが関わる。概して、結果として得られた、さらなる開発のために選択された1つ又は複数の変異体は、その生成の元になった親抗体構造と比べて改善された生物学的特性を有する。そのような置換変異体を作製するための簡便な方法は、ファージディスプレイを使用した親和性成熟を含む。簡潔に言えば、超可変領域のいくつかの部位(例えば、6~7箇所の部位)を変異させて、各部位に可能なすべてのアミノ酸置換を生成する。このように生成された変異体を、各粒子内にパッケージングされたM13の遺伝子III産物との融合体として繊維状ファージ粒子から一価の状態で提示する。次いで、ファージにより提示された変異体を、本明細書に開示されるそれらの生物活性(例えば、結合親和性)についてスクリーニングする。抗原結合に大きく寄与する候補超可変領域部位(修飾のための候補)を同定するために、アラニンスキャニング突然変異誘発も実施することができる。代わりに又は加えて、抗原と構築物又は結合ドメインとの間の複合体の結晶構造の解析は、結合ドメインとその特異的抗原との間の接触点の同定に有益であり得る。そのような接触残基及び隣接残基は、本明細書中で詳述される技術による置換の候補である。そのような変異体が生成されると、変異体のパネルは、本明細書において説明されるようなスクリーニングに供され、1つ以上の関連するアッセイにおいて優れた特性を有する抗体、その抗原結合断片、構築物又は結合ドメインが、さらなる開発のために選択され得る。
【0023】
本発明の構築物及び結合ドメインは、「キメラ」バージョンを特に含み、このキメラバージョンでは、重鎖及び/又は軽鎖の一部が、特定の種に由来するか又は特定の抗体のクラス若しくはサブクラスに属する抗体中の対応する配列と同一であるか又は相同であり、この鎖の残部が所望の生物学的活性を示す限り、別の種に由来するか又は別の抗体のクラス若しくはサブクラスに属する抗体並びにそのような抗体の断片又はバリアント中の対応する配列と同一であるか又は相同である(米国特許第4,816,567号明細書、Morrison et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81:6851-6855(1984))。本明細書における目的のキメラ構築物又は結合ドメインには、非ヒト霊長類(例えば、旧世界ザル、類人猿等)に由来する可変ドメイン抗原結合配列とヒト定常領域配列とを含む「霊長類化」構築物が含まれる。キメラ抗体又は構築物を作製する種々の手法が記載されている。例えば、Morrison et al.,Proc.Natl.Acad.ScL U.S.A.81:6851,1985、Takeda et al.,Nature 314:452,1985、Cabilly et al.、米国特許第4,816,567号明細書;Boss et al.、米国特許第4,816,397号明細書;Tanaguchi et al.、欧州特許第0171496号明細書、欧州特許第0173494号明細書、及び英国特許第2177096号明細書を参照されたい。
【0024】
抗体、ポリペプチド構築物、抗体断片、抗体変異体又は結合ドメインは、例えば、国際公開第98/52976号パンフレット又は国際公開第00/34317号パンフレットに開示される方法を用いて、ヒトT細胞エピトープの特異的欠失(「脱免疫化」と呼ばれる方法)によっても修飾され得る。簡潔に言えば、MHCクラスIIに結合するペプチドに関して抗体、構築物又は結合ドメインの重鎖及び軽鎖可変領域を分析することができる。これらのペプチドは、潜在的T細胞エピトープに相当する(例えば、国際公開第98/52976号パンフレット及び国際公開第00/34317号パンフレットに定義される通り)。潜在的なT細胞エピトープの検出には、国際公開第98/52976号パンフレット及び国際公開第00/34317号パンフレットに記載される通り、「ペプチドスレッディング法」と呼ばれるコンピューターモデリング手法を適用することができ、加えて、ヒトMHCクラスII結合ペプチドのデータベースで、VH及びVL配列に存在するモチーフを検索することができる。これらのモチーフは、18の主要なMHCクラスIl DRアロタイプのいずれかに結合し、したがって潜在的なT細胞エピトープを構成する。検出された潜在的T細胞エピトープは、可変ドメイン又は可変領域内の少数のアミノ酸残基の置換によって又は好ましくは単一アミノ酸置換によって除去することができる。典型的には、保存的置換が行われる。限定されないが、多くの場合、ヒト生殖系列抗体配列中の位置に共通のアミノ酸が使用され得る。ヒト生殖細胞系配列については、例えば、Tomlinson,et al.(1992)J.Mol.Biol.227:776-798;Cook,G.P.et al.(1995)Immunol.Today Vol.16(5):237-242;及びTomlinson et al.(1995)EMBO J.14:14:4628-4638に開示されている。V BASEディレクトリ(www2.mrc-lmb.cam.ac.uk/vbase/list2.php)は、ヒト免疫グロブリン可変領域配列の包括的な要覧を提供する(Tomlinson,LA.et al.MRC Centre for Protein Engineering,Cambridge,UKによる編集)。これらの配列をヒト配列の供給源として、例えばフレームワーク領域及びCDRに使用することができる。例えば、米国特許第6,300,064号明細書に記載されるコンセンサスヒトフレームワーク領域を使用することもできる。
【0025】
「ヒト化」抗体、そのバリアント又は断片、構築物及び結合ドメインは、主としてヒト配列の免疫グロブリンをベースとし、これは、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小限の配列を含有する。ほとんどの場合、ヒト化抗体、そのバリアント又は断片、構築物及び結合ドメインは、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)をベースとし、このヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)では、超可変領域又はCDRからの残基が、所望の特異性、親和性、能力及び/又は生物学的活性を有する、げっ歯類(例えば、マウス、ハムスター、ラット又はウサギ)等の非ヒト種(ドナー抗体)の超可変領域又はCDRからの残基に置き換えられる。いくつかの例において、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク領域(FR)残基は、対応する非ヒト残基によって置き換えられる。さらに、本明細書で使用されている「ヒト化」抗体、その変異体又は断片、構築物及び結合ドメインは、レシピエント抗体でもドナー抗体でも見られない残基も含み得る。これらの修飾は、抗体の性能をさらに改良及び最適化するために行われる。ヒト化抗体、その変異体又は断片、構築物及び結合ドメインは、免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部分(例えば、Fc)も含み得、典型的にはヒト免疫グロブリンのものも含み得る。さらなる詳細については、Jones et al.,Nature,321:522-525(1986);Reichmann et al.,Nature,332:323-329(1988);及びPresta,Curr.Op.Struct.Biol.,2:593-596(1992)を参照されたい。
【0026】
ヒト化抗体、その変異体又は断片、構築物及び結合ドメインを、抗原結合に直接関与しない(Fv)可変領域の配列をヒト(Fv)可変領域からの均等な配列に置き換えることにより作成し得る。そのような分子を生成するための例示的な方法は、Morrison(1985)Science 229:1202-1207;Oi et al.(1986)BioTechniques 4:214、並びに米国特許第5,585,089号明細書、米国特許第5,693,761号明細書、米国特許第5,693,762号明細書、米国特許第5,859,205号明細書、及び米国特許第6,407,213号明細書によって提供される。これらの方法は、重鎖又は軽鎖の少なくとも一方からの免疫グロブリン(Fv)可変領域のすべて又は一部をコードする核酸配列を単離すること、操作すること及び発現させることを含む。そのような核酸は、上記のように、所定の標的に対する抗体を産生するハイブリドーマから、並びに他の供給源から得ることができる。次に、ヒト化抗体、そのバリアント若しくは断片、構築物又は結合ドメインをコードする組換えDNAを適切な発現ベクターにクローニングし得る。
【0027】
ヒト化抗体、そのバリアント又は断片、構築物及び結合ドメインを、ヒト重鎖及び軽鎖の遺伝子を発現するが、内因性マウス免疫グロブリン重鎖及び軽鎖の遺伝子の発現能を有しないトランスジェニック動物(例えば、マウス)を使用しても作製し得る。Winterは、本明細書に記載されるヒト化分子の調製に用い得る例示的CDRグラフト方法について記載している(米国特許第5,225,539号明細書)。所与のヒト配列のCDRがすべて、非ヒトCDRの少なくとも一部に置き換えら得るか、又はCDRの一部のみが非ヒトCDRに置き換えられ得る。ヒト化分子が所定の抗原に結合するのに必要な数のCDRを置き換えるのみで十分である。
【0028】
ヒト化抗体、そのバリアント若しくは断片、構築物又は結合ドメインを保存的置換、コンセンサス配列置換、生殖細胞系列置換及び/又は復帰変異の導入により最適化し得る。そのような変化した免疫グロブリン分子は、当該技術分野で公知のいくつかの技術のいずれかによって作製することができる(例えば、Teng et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,80:7308-7312,1983;Kozbor et al.,Immunology Today,4:7279,1983;Olsson et al.,Meth.Enzymol.,92:3-16,1982、及び欧州特許第239400号明細書)。
【0029】
ヒト抗マウス抗体(HAMA)応答により、業界はキメラ抗体又はその他のヒト化抗体/構築物を調製するに至った。しかしながら、特に抗体又は構築物の慢性又は多用量利用において、ある種のヒト抗キメラ抗体(HACA)反応が観察されるであろうことが予想される。したがって、HAMA又はHACA反応の懸念及び/又は影響をなくすために、標的に対するヒト結合ドメインを含む構築物を提供することが望ましいであろう。
【0030】
それ故、一実施形態によれば、ポリペプチド構築物は、当該結合ドメインが「ヒト」である、少なくとも1つのさらなる結合ドメインを有する。用語「ヒト抗体」、「ヒト構築物」及び「ヒト結合ドメイン」には、例えば、Kabat et al.(1991)(前掲)によって記載されているものを含む、当技術分野で公知のヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列に実質的に対応する、可変領域及び定常領域又はドメインなどの抗体由来領域をそれぞれ有する抗体、構築物及び結合ドメインが含まれる。本発明のヒト構築物又は結合ドメインは、ヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基(例えば、インビトロでランダム又は部位特異的突然変異誘発により導入されるか、又はインビボで体細胞突然変異により導入された突然変異)を、例えばCDR、特にCDR3に含み得る。ヒト構築物又は結合ドメインは、ヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基に置き換えられた少なくとも1、2、3、4、5つ又はそれを超える位置を有し得る。本明細書で使用される通りのヒト抗体、構築物及び結合ドメインの定義は、Xenomouseなどの技術又はシステムを用いて誘導し得るもののように、抗体の人工的及び/又は遺伝的に改変されていないヒト配列のみを含む完全ヒト抗体、構築物及び結合ドメインも企図する。
【0031】
少なくとも1つのヒト結合ドメインを含むポリペプチド/ポリペプチド構築物は、齧歯類(例えば、マウス、ラット、ハムスター、又はウサギ)などの非ヒト可変及び/又は定常領域を有する抗体又は構築物に伴う問題の一部を回避する。そのような齧歯類由来タンパク質が存在すると、抗体若しくは構築物の迅速なクリアランスをもたらす可能性があるか、又は患者による抗体若しくは構築物に対する免疫応答を生じさせる可能性がある。げっ歯類由来の構築物の使用を回避するため、げっ歯類が完全ヒト抗体を産生するようにげっ歯類にヒト抗体機能を導入してヒト化又は完全ヒト構築物を作製することができる。
【0032】
YACにおいてメガベースサイズのヒト遺伝子座をクローニング及び再構築する能力並びにそれらをマウス生殖細胞系列に導入する能力は、非常に大きいか又は粗くマッピングされた遺伝子座の機能的要素の解明並びにヒト疾患の有用なモデルの作出にとって強力な手法を提供する。さらに、マウス遺伝子座をそれらのヒト等価物で置換するためのそのような技術の使用は、発生中のヒト遺伝子産物の発現及び調節、他の系とのそれらのコミュニケーション、並びに疾患の誘導及び進行へのそれらの関与に対する特有の洞察を提供することができる。
【0033】
そのような戦略の重要な実際的応用は、マウス体液性免疫系の「ヒト化」である。内在性免疫グロブリン(Ig)遺伝子が不活性化されたマウスへのヒトIg遺伝子座の導入により、抗体のプログラムされた発現及び構築、並びにB細胞の発生におけるそれらの役割の基礎となる機構を研究する機会が得られる。さらに、このような戦略であれば、ヒト疾患における抗体療法の可能性を実現する上で重要なマイルストーンとなる完全ヒトモノクローナル抗体(mAb)の作製にとって理想的な供給源を得ることができるであろう。完全ヒト抗体又はそれに由来する構築物は、マウスmAb又はマウス由来mAbに固有の免疫原性及びアレルギー反応を最小化し、それによって投与される抗体/構築物の有効性及び安全性を増大させることが期待される。完全ヒト抗体又は構築物の使用により、化合物の反復投与を必要とする慢性及び再発性のヒト疾患、例えば炎症、自己免疫、及び癌の治療に実質的な利点が得られると予想され得る。
【0034】
この目標に向けた1つのアプローチは、そのようなマウスがマウス抗体の非存在下でヒト抗体の大きなレパートリーを産生することを見越して、ヒトIg遺伝子座の大きな断片を用いてマウス抗体産生が欠損したマウス系統を操作することであった。大きなヒトIg断片は、大きな可変遺伝子多様性並びに抗体産生及び発現の適切な調節を保存するであろう。抗体の多様化及び選択並びにヒトタンパク質に対する免疫寛容の欠如のためにマウス機構を利用することによって、これらのマウス株における再現されたヒト抗体レパートリーは、ヒト抗原を含む任意の目的の抗原に対する高親和性抗体を生じるはずである。ハイブリドーマ技術を使用して、所望の特異性を有する抗原特異的ヒトmAbを容易に産生及び選択することができた。この一般的な戦略は、最初のXenoMouseマウス系統の発生と関連して実証された(Green et al.Nature Genetics 7:13-21(1994)を参照されたい)。このXenoMouse系統は、可変領域及び定常領域のコア配列を含有したヒト重鎖遺伝子座及びカッパ軽鎖遺伝子座のそれぞれ245kb及び190kbサイズの生殖細胞系列配置断片を含有する酵母人工染色体(YAC)を用いて操作された。YACを含有するヒトIgは、抗体の再配列及び発現の両方についてマウス系と適合性であることが証明され、不活性化マウスIg遺伝子を置換することができた。これは、それらがB細胞の発生を誘導して、完全ヒト抗体の成体様ヒトレパートリーを産生し、抗原特異的ヒトmAbを産生する能力によって実証された。これらの結果はまた、多数のV遺伝子、追加の調節エレメント及びヒトIg定常領域を含有するヒトIg遺伝子座の大部分の導入が、感染及び免疫化に対するヒト液性応答を特徴とする実質的に完全なレパートリーを再現し得ることを示唆した。Green et al.の研究は、それぞれヒト重鎖遺伝子座及びκ軽鎖遺伝子座のメガベースサイズの生殖細胞系列配置YAC断片を導入することによる約80%超のヒト抗体レパートリーの導入にまで拡張された。Mendez et al.Nature Genetics 15:146-156(1997)及び米国特許出願公開第08/759,620号明細書を参照されたい。
【0035】
XenoMouseモデルの作製は、米国特許出願公開第07/466,008号明細書、同第07/610,515号明細書、同第07/919,297号明細書、同第07/922,649号明細書、同第08/031,801号明細書、同第08/112,848号明細書、同第08/234,145号明細書、同第08/376,279号明細書、同第08/430,938号明細書、同第08/464,584号明細書、同第08/464,582号明細書、同第08/463,191号明細書、同第08/462,837号明細書、同第08/486,853号明細書、同第08/486,857号明細書、同第08/486,859号明細書、同第08/462,513号明細書、同第08/724,752号明細書、同第08/759,620号明細書、並びに米国特許第6,162,963号明細書;同第6,150,584号明細書;同第6,114,598号明細書;同第6,075,181号明細書、及び同第5,939,598号明細書並びに日本特許第3068180B2号公報、同第3068506B2号公報、及び同第3068507B2号公報でさらに議論され詳述されている。また、Mendez et al.Nature Genetics 15:146-156(1997)及びGreen and Jakobovits J.Exp.Med.188:483-495(1998)、欧州特許第0463151B1号明細書、国際公開第94/02602号パンフレット、国際公開第96/34096号パンフレット、国際公開第98/24893号パンフレット、国際公開第00/76310号パンフレット、及び国際公開第03/47336号パンフレットも参照されたい。
【0036】
別のアプローチでは、とりわけ、GenPharm International,Inc.を含む他社が「小遺伝子座(minilocus)」アプローチを利用している。小遺伝子座法では、外来性Ig遺伝子座は、Ig遺伝子座からの小片(個々の遺伝子)を含めることを通じて模倣される。したがって、1つ以上のVH遺伝子、1つ以上のDH遺伝子、1つ以上のJH遺伝子、μ定常領域及び第2の定常領域(好ましくはγ定常領域)が動物への挿入用構築物として形成される。この手法は、Surani et al.に対する米国特許第5,545,807号明細書、並びにそれぞれLonberg及びKayに対する米国特許第5,545,806号明細書、同第5,625,825号明細書、同第5,625,126号明細書、同第5,633,425号明細書、同第5,661,016号明細書、同第5,770,429号明細書、同第5,789,650号明細書、同第5,814,318号明細書、同第5,877,397号明細書、同第5,874,299号明細書、及び同第6,255,458号明細書、Krimpenfort and Bernsに対する米国特許第5,591,669号明細書及び同第6,023.010号明細書、Berns et al.に対する米国特許第5,612,205号明細書、同第5,721,367号明細書及び同第5,789,215号明細書、並びにChoi and Dunnに対する米国特許第5,643,763号明細書、並びにGenPharm Internationalの米国特許出願公開第07/574,748号明細書、同第07/575,962号明細書、同第07/810,279号明細書、同第07/853,408号明細書、同第07/904,068号明細書、同第07/990,860号明細書、同第08/053,131号明細書、同第08/096,762号明細書、同第08/155,301号明細書、同第08/161,739号明細書、同第08/165,699号明細書、同第08/209,741号明細書に記載されている。また、欧州特許第0546073B1号明細書、国際公開第92/03918号パンフレット、国際公開第92/22645号パンフレット、国際公開第92/22647号パンフレット、国際公開第92/22670号パンフレット、国際公開第93/12227号パンフレット、国際公開第94/00569号パンフレット、国際公開第94/25585号パンフレット、国際公開第96/14436号パンフレット、国際公開第97/13852号パンフレット及び国際公開第98/24884号パンフレット、並びに米国特許第5,981,175号明細書も参照されたい。さらに、Taylor et al.(1992)、Chen et al.(1993)、Tuaillon et al.(1993)、Choi et al.(1993)、Lonberg et al.(1994)、Taylor et al.(1994)、及びTuaillon et al.(1995)、Fishwild et al.(1996)を参照されたい。
【0037】
Kirinもまた、ミクロセル融合によって大きな染色体片又は染色体全体が導入された、マウスからのヒト抗体の作製を実証した。欧州特許出願公開第773288号明細書及び同第843961号明細書を参照されたい。Xenerex Biosciencesは、ヒト抗体の潜在的な作製のための技術を開発している。この技術では、SCIDマウスをヒトリンパ細胞、例えばB細胞及び/又はT細胞で再構成する。次いで、マウスを抗原で免疫化し、抗原に対する免疫応答を生じさせることができる。米国特許第5,476,996号明細書、同第5,698,767号明細書、及び同第5,958,765号明細書を参照されたい。
【0038】
いくつかの実施形態では、本発明の構築物は、「単離された」又は「実質的に純粋な」構築物である。「単離された」又は「実質的に純粋な」は、本明細書に開示される構築物の記載に使用されるとき、その生産環境の成分から識別、分離及び/又は回収されている構築物を意味する。好ましくは、構築物は、その生産環境由来の他のすべての成分との関連がないか、又は実質的に関連がない。組換えトランスフェクト細胞から生じるものなど、その産生環境の夾雑成分は、構築物の診断又は治療使用を妨げ得る材料であり、酵素、ホルモン及び他のタンパク質性又は非タンパク質性化合物を挙げることができる。単離された又は実質的に純粋な構築物は、状況に応じて、所与の試料における全タンパク質/ポリペプチド含量の5重量%~99.9重量%を占め得ることが理解される。所望の構築物は、誘導性プロモーター又は高発現プロモーターを使用して、有意により高い濃度で製造され得る。当該定義は、当該技術分野において知られている多種多様な生物体及び/又は宿主細胞における構築物の産生を含む。ある特定の実施形態において、構築物は、(1)スピニングカップシークエネーターを用いることによりN末端又は内部アミノ酸配列の少なくとも15残基を得るのに十分な程度まで、又は(2)クマシーブルー又は好ましくは銀染色法を用いた非還元又は還元条件下でのSDS-PAGEによって均一になるまで精製されることになる。しかしながら、通常、単離された構築物は、少なくとも1つの精製工程により調製されることになる。
【0039】
一実施形態によれば、構築物全体及び/又は結合ドメインは、1つ以上のポリペプチドの形態又はタンパク質の形態である。タンパク質性部分に加えて、そのようなポリペプチド又はタンパク質は、非タンパク質性部分(例えば、化学的リンカー又は化学的架橋剤、例えばグルタルアルデヒド)を含み得る。
【0040】
ペプチドは、共有結合性ペプチド(アミド)結合によって連結されたアミノ酸モノマーの短鎖である。それ故に、ペプチドは、広範な化学的クラスの生物学的オリゴマー及びポリマーに分類される。ペプチド又はポリペプチド鎖の一部であるアミノ酸は「残基」と呼ばれ、連続して番号付けすることができる。環状ペプチドを除くすべてのペプチドは、ペプチドの一端にN末端残基を有し、他端にC末端残基を有する。オリゴペプチドは、ごく少数のアミノ酸からなる(通常、2~20個)。ポリペプチドは、より長く連続した非分枝ペプチド鎖である。ペプチドは、サイズに基づいてタンパク質と区別され、そして任意の基準として、およそ50個以下のアミノ酸を含有するものと理解され得る。タンパク質は、通常は生物学的に機能的な方法で配置された1個以上のポリペプチドからなる。ペプチドとポリペプチド及びタンパク質とに適用される実験技法の態様(例えば、電気泳動法、クロマトグラフィー等の詳細)が異なるが、ペプチドをポリペプチド及びタンパク質と区別するサイズ境界は、絶対的ではない。それ故、本発明の文脈において、「ペプチド」、「ポリペプチド」及び「タンパク質」という用語は相互交換可能に使用され得、「ポリペプチド」という用語がしばしば好ましい。
【0041】
ポリペプチドは、上述のように、2個以上のポリペプチド分子からなる二量体、三量体及びより高次のオリゴマー等の多量体をさらに形成し得る。このような二量体、三量体などを形成するポリペプチド分子は、同一であっても又は同一でなくてもよい。そのような多量体の対応する高次構造は、結果的に、ホモ二量体又はヘテロ二量体、ホモ三量体又はヘテロ三量体等と称される。ヘテロ多量体の例は、その天然に存在する形態において、2つの同一のポリペプチド軽鎖及び2つの同一のポリペプチド重鎖からなる抗体分子又は免疫グロブリン分子である。「ペプチド」、「ポリペプチド」及び「タンパク質」という用語はまた、修飾が、例えばグリコシル化、アセチル化、リン酸化などの翻訳後修飾によって達成される天然に修飾されたペプチド/ポリペプチド/タンパク質も指す。「ペプチド」、「ポリペプチド」又は「タンパク質」はまた、本明細書で言及される場合、ペグ化など、化学的に修飾されていてもよい。そのような修飾は当該技術分野で周知であり、本明細書で後述される。
【0042】
「選択的に」及び、「好ましくは、選択的に」、「~に(特異的に又は免疫特異的に)結合する」、「~を(特異的に又は免疫特異的に)認識する」又は「~と(特異的に又は免疫特異的に)反応する」という用語は、本発明に従って、構築物又は結合ドメインが、標的分子(抗原)、例えば、CD3上の所与のエピトープと選択的に相互作用するか又は(免疫)特異的に相互作用することを意味する。この選択的相互作用又は会合は、代替物質(非標的分子、例えば、本明細書ではCD3ガンマなど)と比べて、特定の標的(例えば、CD3イプシロン)上のエピトープに対してより頻繁に、より迅速に、より長い持続時間で、より高い親和性で、又はこれらのパラメータのいくつかの組み合わせで生じる。しかしながら、異なる種における相同タンパク質間の配列類似性のため、標的(例えば、ヒト標的)に選択的に且つ/又は免疫特異的に結合する構築物又は結合ドメインは、異なる種由来の(例えば、非ヒト霊長類由来の)相同標的分子と交差反応し得る。したがって、「~に選択的に結合する」、「特異的/免疫特異的結合」などという用語は、2個以上の種のエピトープ又は構造的に関連するエピトープへの構築物又は結合ドメインの結合を含み得る。本発明との関連において、本発明のポリペプチドは、そのそれぞれの標的構造に特定の様式で結合する。好ましくは、本発明に係るポリペプチドは、それぞれの標的構造「~に特異的に若しくは免疫特異的に結合する」か、「~を(特異的に若しくは免疫特異的に)認識する」か、又は「~と(特異的に若しくは免疫特異的に)反応する」1つの結合ドメイン当たり1つのパラトープを含む。これは、本発明に従って、ポリペプチド又はその結合ドメインが、標的分子(抗原)、例えばCD3イプシロン上の所与のエピトープと相互作用するか又は(免疫)特異的に相互作用することを意味し、ある特定の実施形態では、第2及び/又は第3の標的分子など、少なくとも1つのさらなる標的分子上の所与のエピトープと相互作用する。この相互作用又は会合は、代替物質(非標的分子)と比べて、特定の標的上のエピトープに対してより頻繁に、より迅速に、より長い持続時間で、より大きな親和性で、又はこれらのパラメータのいくつかの組み合わせで生じる。しかしながら、異なる種における相同タンパク質間の配列類似性のため、抗体構築物又は結合ドメインの標的(ヒト標的など)に免疫特異的に結合する抗体構築物又は結合ドメインは、異なる種(非ヒト霊長類など)由来の相同標的分子と交差反応し得る。したがって、用語「特異的な/免疫特異的な結合」は、複数の種中のエピトープ及び/又は構造的に関連するエピトープに対する抗体構築物又は結合ドメインの結合を含み得る。「(免疫)選択的に結合する」という用語は、1つの種内の構造的に関連するエピトープへの結合を除外する。
【0043】
本発明の文脈において、「エピトープ」という用語は、結合構造、すなわちパラトープによって選択的に認識される/免疫特異的に認識される抗原の部分又は領域を指す。「エピトープ」は抗原性であり、したがってエピトープという用語は、本明細書では「抗原構造」又は「抗原決定基」とも呼ばれることがある。エピトープに結合する結合ドメインの部分は、パラトープと呼ばれる。特異的結合は、結合ドメイン及び抗原のアミノ酸配列中の特異的モチーフによって達成されると考えられている。したがって、結合は、それらの一次構造、二次構造及び/又は三次構造のため、並びに当該構造の潜在的な二次修飾の結果として達成される。パラトープがその抗原決定基と特異的に相互作用すると、当該部位が抗原に単純に結合し得る。いくつかの場合、代わりに又は加えて、特異的相互作用により、例えば抗原の立体配座の変化の誘導、抗原のオリゴマー化などに起因してシグナルの開始がもたらされ得る。
【0044】
タンパク質抗原のエピトープは、その構造及びパラトープとの相互作用に基づいて、2つのカテゴリー、すなわち、立体配座エピトープ及び線状エピトープへと分類される。立体配座エピトープは、抗原のアミノ酸配列の不連続なセクションから構成される。こうしたエピトープは、抗原の三次元表面の特徴及び形状又は三次構造(折り畳み)に基づいてパラトープと相互作用する。エピトープの立体配座を決定する方法としては、X線結晶学、二次元核磁気共鳴(2D-NMR)分光法並びに部位特異的スピン標識及び電子常磁性共鳴(EPR)分光法があるが、これらに限定されない。対照的に、線状エピトープは、その一次構造に基づいて、パラトープと相互作用する。線状エピトープは、抗原由来のアミノ酸の連続配列によって形成され、典型的には、特有の配列内に少なくとも3つ又は少なくとも4つ、より一般的には少なくとも5つ又は少なくとも6つ又は少なくとも7つ、例えば約8~約10個のアミノ酸を含む。
【0045】
所与のヒト標的タンパク質についてのエピトープマッピングのための方法を以下に説明する。当該所与のヒト標的タンパク質内の所定の領域(連続したアミノ酸ストレッチ)は、標的タンパク質パラログの対応する領域と交換される/置き換えられる(結合ドメインが、使用されるパラログと交差反応しない限り)。これらのヒト標的/パラログキメラを宿主細胞(CHO細胞など)の表面上に発現させる。抗体又は構築物の結合は、FACS解析を介して試験することができる。このキメラ分子への抗体若しくは構築物の結合が完全になくなる場合又は大幅な結合の低下を観察する場合、このキメラ分子から取り除かれたヒト標的の領域が免疫特異的エピトープ-パラトープ認識に関連すると結論付けることができる。当該結合の低下は、ヒト(野生型)標的への結合と比較して、好ましくは少なくとも10%、20%、30%、40%又は50%、より好ましくは少なくとも60%、70%又は80%、最も好ましくは90%、95%又はさらに100%であり、それにより、ヒト標的への結合は100%であるよう設定される。或いは、上述のエピトープマッピング解析は、1つ又はいくつかの点突然変異をヒト標的の配列へと導入することによって改変することができる。これらの点突然変異は、例えば、ヒト標的とそのパラログとの間の差異を反映し得る。
【0046】
構築物又は結合ドメインによる認識に対する標的抗原の特定の残基の寄与を決定するさらなる方法は、解析される各残基を、例えば、部位特異的変異誘発によりアラニンに置き換えるアラニンスキャニング(例えば、Morrison KL & Weiss GA.Curr Opin Chem Biol.2001 Jun;5(3):302-7を参照されたい)である。アラニンが使用される理由は、アラニン以外のアミノ酸の多くが有する二次構造基準をそれでも模倣する、かさ高くなく、化学的に不活性なメチル官能基があるからである。突然変異した残基のサイズの保存が所望である場合には、バリン又はロイシンなどのかさ高いアミノ酸を使用することができる場合がある。
【0047】
結合ドメインと標的抗原のエピトープとの間の相互作用は、結合ドメインがエピトープ/標的抗原に対して認識可能な又は有意な親和性を呈し、概して標的抗原以外のタンパク質又は抗原に対して、上述で論議した、例えば他の種由来の相同標的との交差反応性があったとしても、有意な親和性を呈さないことを含意する。「有意な親和性」としては、≦10-6Mの親和性(解離定数(KD))での結合が挙げられる。好ましくは、結合は、結合親和性が≦10-7M、≦10-8M、≦10-9M、≦10-10M、又はさらに≦10-11M、若しくは≦10-12Mのとき、特異的と見なされる。結合ドメインが標的と(免疫)特異的に反応する又は当該標的に(免疫)特異的に結合するかどうかは、例えば、その所望の標的タンパク質又は抗原に対する当該結合ドメインの親和性を、非標的タンパク質又は抗原に対する当該結合ドメインの親和性と比較することにより、容易に試験することができる。好ましくは、本発明の構築物は、さらなる標的に対するいずれかのさらなる結合ドメインが本発明の構築物へと意図的に導入されない限り、標的抗原以外のタンパク質又は抗原に有意に結合せず、その場合、当該結合ドメインのその特異的標的への結合もまた本発明によって提供される。
【0048】
第1のドメインの親和性は、≦100nM、≦90nM、≦80nM、≦70nM、≦60nM、≦50nM、≦40nM、≦30nM、又は≦20nMであることが想定される。これらの値は、好ましくは、スキャッチャードアッセイなど、細胞ベースのアッセイで測定される。他の親和性決定方法も周知である。これらの値は、好ましくは、Biacoreアッセイなど、表面プラズモン共鳴アッセイで測定される。
【0049】
「有意に結合しない」及び「選択的に結合しない」という用語は、本発明の構築物又は結合ドメインが、細胞の表面上に発現する場合、当該標的抗原以外のタンパク質又は抗原に結合しないことを意味する。その故に、構築物は、当該標的抗原以外のタンパク質又は抗原と(当該タンパク質又は抗原が細胞の表面上に発現するときに)≦30%、好ましくは≦20%、より好ましくは≦10%、特に好ましくは≦9%、≦8%、≦7%、≦6%、≦5%、≦4%、≦3%、≦2%、又は≦1%の反応性を示し、それにより、当該標的抗原への結合をそれぞれ、100%であると設定する。「反応性」は、例えば、親和性値で表すことができる(上述を参照されたい)。
【0050】
本発明の構築物(より具体的には、当該第1の標的抗原に結合するパラトープ/結合ドメインを含むドメイン)は、標的抗原パラログに結合しないか、又は有意に結合しないことが想定される。また、構築物が標的細胞の表面上の(ヒト又はマカク/カニクイザル)標的抗原パラログに結合しないか又は有意に結合しないことも想定される。
【0051】
ペプチドリンカーは、S(G4X)n及び(G4X)nであり、式中、Xは、Q、T、N、C、G、A、V、I、L、及びMからなる群から選択され、nは、整数1~20から選択される整数である。好ましくは、Xは、極性非帯電側鎖を有するアミノ酸、すなわちQ、T、N、並びに疎水性側鎖を有するアミノ酸、すなわちA、V、I、L、及びMから選択される。別の好ましい実施形態では、Xは、Q、T及びNから選択される。整数nは、好ましくは、1~18、1~16、1~15、1~14、1~13、1~12、1~11、1~10、1~9、1~8、1~7、1~6、1~5、1~3、1~2の範囲のいずれかの整数、例えば整数1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、及び18、好ましくは整数1、3及び6から選択される。対応するリンカー配列は、配列番号2~77に定義されている。配列番号15、34、53、及び72の好ましいリンカーも本明細書で以下に概説される通りである。
【0052】
当該技術分野で標準的なペプチドリンカーとしてscFvの文脈で使用される、すなわちVH領域とVL領域とを連結する(G4S)n又はS(G4S)nリンカー(式中、nは本明細書で上述に列挙されるのと同じ定義を有する)は、クリッピングする傾向があり、それ故、これらの分子又は対応するscFvを含む分子の安定性を損なうことが観察された。当該G4Sリンカー、すなわち、当該(G4S)nリンカー又はS(G4S)nリンカーを、本明細書で定義されるリンカー、好ましくはS(G4Q)nリンカー又は(G4Q)nリンカーで置換することは、クリッピング率の低下に寄与する(実施例の節、例えば、実施例2、図5、表1を参照されたい)。リンカーによって連結されたVH及びVL領域を超える領域を含む、より大きな分子では、他のリンカー、例えば、ダイアボディ又は(scFv)2、例えばBiTE(登録商標)分子内の結合ドメインを連結するものも交換することができ、実施例の節に示すように、クリッピング率のさらなる低減につながり得る。より具体的には、BiTE(登録商標)分子についての分子評価データは、40℃で4週間のインキュベーション(4℃で2年間の液体貯蔵を模倣)の後、(クリッピング率を評価するための好ましい手段としての)還元的毛細管電気泳動(rCE-SDS)によって測定される低分子量(LMW)種の割合が、2つの例示的なBiTE(登録商標)分子について16.6%~24.1%の範囲であることを示した。得られたLMW断片に応じて、インビボでの観察された半減期又はBiTE分子の有効性及び安全性などのBiTE分子の薬物動態は、患者についての有用性を潜在的に低減させて影響を与え得る。観察されたクリッピングレベルに寄与する因子をよりよく理解するために、それぞれ例示的なBiTE分子(PSMA及びCD33を標的とする)を以下の修飾を用いて生成した:G4Qリンカー(標準BiTE HLE分子のG4Sリンカーに対する)、安定化CD3結合ドメイン(標準的なCD3結合ドメインに対する)、CD3結合ドメイン内への操作されたCysクランプの導入(Cysクランプなしに対する)、並びに/又はある特定の一本鎖Fc(scFc)D-P及びヒンジ部位の除去(標準scFcに対する)。効力に対する配列変異体の影響を決定するために、参照対照と比較して、すべての変異体をそれらのインビトロ活性について試験した。加えて、BiTE分子変異体を40℃で4週間インキュベートし、LMW種の全体の割合をrCE-SDSで監視した。ペプチドマッピングを使用して部位特異的クリッピングを監視した。導入された修飾は、全体的なクリッピングを有意に低下させることを示すことができた(G4Qリンカーの導入は、LMWの割合を7.1%低下させた)。これらの修飾の組み合わせは、熱分解後のBiTE分子の全体的なクリッピングが有意に低下することができることを示した。加えて、安定化したCD3結合ドメイン、G4Qリンカーの挿入、及びCD3 Cysクランプ修飾はすべて、リンカードメインにおけるクリッピングの低減に寄与する。したがって、本明細書で定義されるリンカー及びさらなる修飾は、クリッピングによるLMWの出現を低減させる、すなわちクリッピング率が低下することを実証することができた。このようなものとして、本発明のポリペプチド又はポリペプチド構築物の液体製剤は、クリッピング率の低減に起因して、有効な選択肢である。
【0053】
本明細書では後述で、どのリンカーが、scFv結合ドメインだけでなく、本発明のポリペプチド又はポリペプチド構築物の部分であり得る半減期延長ドメインも含む、クリッピング速度を低下させることによって所与のポリペプチド又はポリペプチドの安定性を改善するために、本明細書で定義されるリンカーの形態を有するべきかをさらに概説する。このようなものとして、言い換えれば、本発明は、第1の標的抗原結合ドメインを含む単一鎖のポリペプチド又はポリペプチド構築物であって、当該第1の標的抗原結合ドメインが、ペプチドリンカーによって連結されたVH及びVL可変領域を含み、このペプチドリンカーが、S(G4X)n及び(G4X)nを含むか又はこれからなり、Xが、Q、T、N、C、G、A、V、I、L、及びMからなる群より選択され、nが、整数1~20から選択される整数であり、且つ当該リンカーがS(G4S)n及び(G4S)nリンカーを置き換える、ポリペプチド又はポリペプチド構築物に関する。
【0054】
本発明のポリペプチド又はポリペプチド構築物の好ましい実施形態では、整数nは、1、2、3、4、5又は6である。整数nは、好ましくは2、3、4、5若しくは6、又は、より好ましくは1、3、若しくは6である。
【0055】
本発明に従って、S(G4X)n又は(G4X)nのXは、好ましくはQである。このようなものとして、ペプチドリンカーは、S(G4Q)n又は(G4Q)nである。本明細書に説明される本発明を通して、アミノ酸QはXに好ましいアミノ酸である。例えば、リンカーは、S(G4Q)、S(G4Q)3、S(G4Q)6又は(G4Q)、(G4Q)3又は(G4Q)6であり得る。
【0056】
好ましい実施形態では、本発明のポリペプチド又はポリペプチド構築物のペプチドリンカーは、S(G4X)n又は(G4X)nであり、nは3であり、XはQである。この故に、ペプチドリンカーは、(G4Q)3(配列番号15)又はS(G4Q)3の形式を有する。
【0057】
本発明に従って、本発明のポリペプチド又はポリペプチド構築物は、標的抗原に結合する少なくとも1つのさらなる結合ドメインを含み得る。上述で概説したように、本発明のポリペプチド又はポリペプチド構築物は、少なくとも1つのさらなる標的抗原結合ドメインを含み得、したがって少なくとも二重特異性分子である。一実施形態によれば、本発明のポリペプチド構築物は、「単鎖構築物」又は「単鎖ポリペプチド」である。さらなる結合ドメインの場合、第1の結合ドメイン若しくはさらなる結合ドメイン(「第2」とも呼ばれる)のいずれか、又は両方の結合ドメインが「一本鎖Fv」(scFv)の形式であり得ることも想定される。Fv断片の2つのドメインであるVL及びVHは、別々の遺伝子によりコードされるが、これらは、組換え法を使用して、VL及びVH領域が一価の分子を形成するように対をなす単一のタンパク質鎖としてこれらが作製されることを可能にする(本明細書の上述で説明されているような)人工リンカーにより結合することができ、例えば、Huston et al.(1988)Proc.Natl.Acad.Sci USA 85:5879-5883)を参照されたい。これらの抗体断片は、当業者に公知の従来技術を使用して得られ、当該断片は、完全長抗体又はIgGと同じ様式で、機能について評価される。それ故に、単鎖可変断片(scFv)は、通常、短いリンカーペプチドで連結された、免疫グロブリンの重鎖(VH)及び軽鎖(VL)の可変領域の融合タンパク質である。リンカーは、通常、可撓性にとってはグリシンが豊富であり、並びに溶解度にとってはセリン又はさらにトレオニンが豊富であり、VHのN末端をVLのC末端と結合させることができ、又はその逆も可能である。このタンパク質は、定常領域の除去及びリンカーの導入にもかかわらず、元の免疫グロブリンの特異性を保持する。
【0058】
二重特異性一本鎖分子は、当該技術分野で公知であり、国際公開第99/54440号パンフレット、Mack,J.Immunol.(1997),158,3965-3970、Mack,PNAS,(1995),92,7021-7025、Kufer,Cancer Immunol.Immunother.,(1997),45,193-197、Loeffler,Blood,(2000),95,6,2098-2103、Bruehl,Immunol.,(2001),166,2420-2426、Kipriyanov,J.Mol.Biol.,(1999),293,41-56で説明されている。単鎖構築物(とりわけ、米国特許第4,946,778号明細書、Kontermann and Duebel(2010),前掲、及びLittle(2009),前掲)を製造するために説明された技術は、選定した標的を選択的に、好ましくは特異的に認識する単鎖構築物を製造するように適合させることができる。
【0059】
形式(scFv)2を有する二価(bivalent)(二価(divalent)とも呼ばれる)又は二重特異性の単鎖可変断片(ビ-scFv又はdi-scFv)は、2個のscFv分子を連結することによって操作することができる(本明細書で説明されるようなリンカーを使用)。連結は、2つのVH領域と2つのVL領域とを有する単一ポリペプチド鎖を作製してタンデムscFvを生じさせることにより行うことができる(例えば、Kufer P.et al.,(2004)Trends in Biotechnology 22(5):238-244を参照されたい)。別の可能性は、2個の可変領域が一緒に折り畳まれるには短すぎるリンカーペプチド(例えば約5個のアミノ酸、12個未満のアミノ酸)を用いたscFv分子の作製であり、scFvを強制的に二量体化させる。この場合、結合ドメイン(第1の又はさらなる標的抗原のいずれかに結合)のVH及びVLは、ペプチドリンカーを介して直接接続してはいない。したがって、第1の標的抗原結合ドメインのVHが、例えば、本明細書で定義されるようなさらなる標的抗原結合ドメインのVLにペプチドリンカーを介して融合し得、さらなる標的抗原結合ドメインのVHがかかるペプチドリンカーを介して第1の結合ドメインのVLと融合している。このタイプはダイアボディとして知られている(例えば、Hollinger,Philipp et al.,(July 1993)Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 90(14):6444-8を参照されたい)。このようなシナリオでは、主な実施形態の第1の標的抗原結合ドメインは、当該第1の標的抗原に対する結合ドメインの片半分、例えばVH領域のみを含むのに対し、当該結合ドメインの残部は、少なくとも2つの結合ドメインを含むポリペプチド又はポリペプチド構築物に関するよう本発明と一致する、第2の標的抗原に対する結合ドメインの半分、例えば、VL領域を含み、当該結合ドメインは、本明細書で定義される通りであり、すなわちVH及びVL領域を有し、本明細書で定義されるVH及びVL領域を連結する少なくとも1つのペプチドリンカーを含み、すなわちペプチドリンカーは、S(G4X)n若しくは(G4X)nを含むか又はいずれかからなり、Xは、Q、T、N、C、G、A、V、I、L、及びMからなる群から選択され、nは、整数1~20から選択される整数であることが理解される。
【0060】
本発明に従って、少なくとも1つのさらなる標的抗原結合ドメインは、第1の標的抗原結合ドメインと同じ構成要素を含む。この実施形態に従って、ポリペプチド又はポリペプチド構築物は、各々VH/VL-ペプチドリンカー-VH/VLの形式を有する2つの結合ドメインを含む。本明細書で上述に概説したように、対応するポリペプチド又はポリペプチド構築物には、例えば、ダイアボディ及び(scFv)2分子が含まれる。本明細書において、VH/VL-ペプチドリンカー-VH/VLという表記は、両方の立体配置が包含されることを意味すると理解される。すなわち、アミノからカルボキシルの順序では、VH-ペプチドリンカー-VL及びVL-ペプチドリンカー-VHの形式が本発明によって包含される。
【0061】
本発明に従って、各標的抗原結合ドメインは1つの標的抗原に結合する。この実施形態では、各結合ドメインは、1つの標的抗原のみへの結合を可能にする構成要素をすべて含み、この故に、各結合ドメインはVH及びVL領域を含む。言い換えれば、1つの標的抗原結合ドメインのVH及びVL可変領域は標的に結合する一方、当該少なくとも1つのさらなる標的抗原結合ドメインのVH及びVL可変領域は標的に結合する。したがって、この実施形態は、2つのscFvが二量体化して、主要な実施形態で定義されるような2つのポリペプチド鎖の当該二量体化から結果的に生じる2つの結合ドメインを形成する二重特異性ダイアボディには及ばない。代わりに、本発明のポリペプチド又はポリペプチド構築物は、(scFv)2であることが好ましい。以下の実施形態は、本発明に従ってscFvベースのポリペプチド又はポリペプチド構築物の異なる形式に関する。これらの実施形態のすべてにおいて、及び本発明に従って、少なくとも1つの結合ドメインは、本明細書で定義されるリンカー、すなわち、S(G4X)n若しくは(G4X)nを含むか又はいずれかからなる当該ペプチドリンカーの存在であって、Xが、Q、T、N、C、G、A、V、I、L、及びMからなる群から選択され、nが、整数1~20から選択される整数である、ペプチドリンカーの存在を特徴とし、その好ましい実施形態は本明細書で上述に展開された通りである。また、本明細書で上述に展開されるように、当該S(G4X)n又は(G4X)nは、以下に説明されるscFvベースのポリペプチド又はポリペプチド構築物の当該異なる形式でS(G4S)n又は(G4S)nを置換する。その上、本発明のポリペプチド又はポリペプチド構築物に含まれる3つ以上、3つ、又はより好ましくはすべての結合ドメインが当該リンカーを含むことが好ましい。本明細書で上述に概説したように、本発明の対応するポリペプチド又はポリペプチド構築物は、最新技術のセリン/グリシンリンカーを用いた対応する、すなわち同じポリペプチド又はポリペプチド構築物と比較して、低減したクリッピング率を呈する。
【0062】
好ましい実施形態では、本発明のポリペプチド又はポリペプチド構築物は、以下を含む:結合ドメイン1(VH/VL-ペプチドリンカー-VH/VL)-リンカー-結合ドメイン2(VH/VL-ペプチドリンカー-VH/VL)。この実施形態は、2つの結合ドメインを含む単鎖ポリペプチドに関し、ここで、1つ又は両方のペプチドリンカーは、本明細書で上述に定義される通りであり、すなわち、当該ペプチドリンカーは、S(G4X)n若しくは(G4X)nを含むか又はいずれかからなり、Xは、Q、T、N、C、G、A、V、I、L、及びMからなる群から選択され、nは、整数1~20から選択される整数である。また、本明細書で上述に概説されるように、好ましくは、ペプチドリンカーは(G4Q)3であり、好ましくは、結合ドメイン内の両方のペプチドリンカーは(G4Q)3である。言い換えれば、結合ドメイン1及び/又は結合ドメイン2は、ペプチドリンカーによって連結されたVH及びVL可変領域を含み、このペプチドリンカーが、S(G4X)n若しくは(G4X)nを含むか又はこれからなり、Xが、Q、T、N、C、G、A、V、I、L、及びMからなる群より選択され、nが、整数1~20から選択される整数であり、すなわち、結合ドメインは、本明細書で上述に定義される通りである。本明細書で理解されるように、括弧内の特徴、すなわち(VH/VLペプチドリンカー-VH/VL)は、結合ドメインの構造を定義する。
【0063】
好ましくは、第1の結合ドメインだけでなく当該少なくとも1つのさらなる結合ドメインもまた、標的抗原として細胞表面抗原に結合する。本明細書で使用される「細胞表面抗原」という用語は、細胞の表面に提示される分子を示す。ほとんどの場合、この分子は、この分子の少なくとも部分が三次形態で細胞の外側からアクセス可能なままであるように、細胞の原形質膜の内部又は膜上に位置する。原形質膜の内部に位置する細胞表面分子の非限定的な例は、その三次立体配座において親水性及び疎水性の領域を含む膜貫通タンパク質である。ここで、少なくとも1つの疎水性領域は、細胞表面分子が細胞の疎水性原形質膜に包埋される又は挿入されることを可能にするが、親水性領域は原形質膜のいずれかの側で細胞質及び細胞外空間へとそれぞれ延在する。原形質膜上に位置する細胞表面分子の非限定的な例は、パルミトイル基を有するようにシステイン残基で修飾されたタンパク質、ファルネシル基を有するようにC末端システイン残基で修飾されたタンパク質、又はグリコシルホスファチジルイノシトール(「GPI」)アンカーを有するようにC末端で修飾されたタンパク質である。
【0064】
本明細書に説明するパラトープを含む結合ドメインの一実施形態によれば、VH領域はリンカーのN末端に位置し、VL領域はリンカーのC末端に位置する。言い換えれば、本明細書で説明されるパラトープを含む結合ドメインの一実施形態では、scFvは、N末端からC末端に向かって、VH-リンカー-VLを含む。本発明に従って、構築物の本明細書に説明のパラトープを含む結合ドメインは、本発明により本明細書で定義されるようなペプチドリンカーを介して結合している。構築物は、例えば、(N末端からC末端に向かって)1つの結合ドメイン-リンカー-さらなる結合ドメインの順にドメインを含み得る。逆の順序(さらなる結合ドメイン-リンカー-第1の結合ドメイン)もまた可能である。
【0065】
本発明に従って、当該ポリペプチド又はポリペプチド又はポリペプチド構築物は、結合ドメイン1(VH/VL-ペプチドリンカー-VH/VL)-リンカー-結合ドメイン2(VH/VL-ペプチドリンカー-VH/VL)-結合ドメイン3(VH/VL-ペプチドリンカー-VH/VL)を含む。
【0066】
本発明のポリペプチド又はポリペプチド構築物の好ましい実施形態では、C末端結合ドメインはCD3に結合しており、当該残部のN末端結合ドメインは細胞表面抗原に結合している。好ましくは、本発明のポリペプチド又はポリペプチド構築物は、T細胞エンゲージャーである。したがって、本発明のポリペプチド又はポリペプチド構築物は、本明細書で後述に定義されるような少なくともCD3結合ドメイン及び細胞表面抗原(好ましくは、腫瘍抗原)結合ドメインを含むことが好ましい。この故に、本発明に従って、当該ポリペプチド又はポリペプチド又はポリペプチド構築物は、(好ましくはアミノからカルボキシルに向かう順序で)以下を含む:結合ドメイン1(腫瘍抗原結合ドメイン:VH/VL-ペプチドリンカー-VH/VL)-リンカー-結合ドメイン2(CD3結合ドメイン:VH/VL-ペプチドリンカー-VH/VL)であって、結合ドメイン1は細胞表面抗原、好ましくは腫瘍抗原に結合し、結合ドメイン2はCD3、好ましくはヒトCD3、より好ましくはヒトCD3イプシロンに結合し、又は結合ドメイン1(VH/VL-ペプチドリンカー-VH/VL)-リンカー-結合ドメイン2(VH/VL-ペプチドリンカー-VH/VL)-結合ドメイン3(CD3結合ドメイン:VH/VL-ペプチドリンカー-VH/VL)であって、結合ドメイン1及び2は、同じ又は異なる細胞表面抗原、好ましくは同じ又は異なる腫瘍抗原に結合し、結合ドメイン3は、CD3、好ましくはヒトCD3、より好ましくはヒトCD3イプシロンに結合する。好ましくは、結合ドメイン2は、以下の形態をとる本明細書で定義されるようなリンカーを介して結合ドメイン3に連結される:結合ドメイン1(VH/VL-ペプチドリンカー-VH/VL)-リンカー-結合ドメイン2(VH/VL-ペプチドリンカー-VH/VL)-リンカー-結合ドメイン3(VH/VL-ペプチドリンカー-VH/VL)。
【0067】
本明細書で上述に展開されたように、本発明のポリペプチド構築物は、好ましくは、T細胞の表面上のCD3に結合する結合ドメインを含む。「CD3」(分化クラスター3)は、4つの鎖で構成されるT細胞共受容体である。哺乳動物では、CD3タンパク質複合体は、CD3γ(ガンマ)鎖、CD3δ(デルタ)鎖、及び2つのCD3ε(イプシロン)鎖を含有する。これらの4つの鎖がT細胞受容体(TCR)及びいわゆるζ(ゼータ)鎖と会合して、「T細胞受容体複合体」を形成し、Tリンパ球において活性化シグナルを生じる。CD3γ(ガンマ)、CD3δ(デルタ)及びCD3ε(イプシロン)鎖は、免疫グロブリンスーパーファミリーの高度に関連性のある細胞表面タンパク質であり、各々が単一の細胞外免疫グロブリンドメインを含有する。CD3分子の細胞内テールは、免疫受容体チロシン活性化モチーフ(ITAM)として知られる単一の保存モチーフを含有し、これは、TCRのシグナル伝達能に必須である。CD3イプシロン分子は、ヒトの第11染色体に存在するCD3イプシロン遺伝子によってコードされるポリペプチドである。本発明の文脈において、CD3は、細胞障害性T細胞(CD8+ナイーブT細胞)及びTヘルパー細胞(CD4+ナイーブT細胞)の両方の活性化に関与するタンパク質複合体及びT細胞共受容体として理解される。CD3は、典型的には、4つの異なる鎖から構成される。特に哺乳動物では、この複合体は、CD3γ鎖、CD3δ鎖、及び2つのCD3ε鎖を含有する。これらの鎖は、T細胞受容体(TCR)及びζ鎖(ゼータ鎖)と会合して、Tリンパ球において活性化シグナルを生じる。TCR、ζ鎖、及びCD3分子は一緒に、TCR複合体を構成する。
【0068】
T細胞上のCD3及び標的細胞上の標的タンパク質に結合する構築物によるT細胞の動員を介して向け直された標的細胞の溶解には、概して、細胞溶解性シナプス形成並びにパーフォリン及びグランザイムの送達が関わる。会合したT細胞は、一連の標的細胞溶解能力を有し、ペプチド抗原プロセシング及び提示又はクローナルなT細胞分化を妨げる免疫エスケープ機構の影響を受けず、例えば、国際公開第2007/042261号パンフレットを参照されたい。
【0069】
所与の腫瘍抗原×CD3構築物によって介在する細胞障害性は、様々な方法で測定することができる。「最大半量有効濃度」(EC50)は、本発明の構築物などの生物学的に活性のある分子の効力の尺度として一般に使用される。これは、モル濃度単位で表され得る。細胞障害性を測定するこの場合、EC50値は、ベースラインと最大値との中間の細胞障害性応答(標的細胞の溶解)を誘導する構築物の濃度を指す。細胞障害性アッセイにおけるエフェクター細胞は、例えば、刺激された濃縮(ヒト)CD8陽性T細胞又は刺激されていない(ヒト)末梢血単核細胞(PBMC)であり得る。EC50値は、典型的には、刺激された/濃縮されたCD8+ T細胞がエフェクター細胞として使用される場合、刺激されていないPBMCと比較して低いと予想され得る。標的細胞がマカク起源のものであるか、又は所与のマカク腫瘍抗原を移入されている場合、エフェクター細胞はまた、マカクT細胞株、例えば、4119LnPxなどのマカク起源のものでもあるものとする。標的細胞は、当該腫瘍抗原を細胞表面に発現するものとする。標的細胞は、当該腫瘍抗原を安定して又は一過性に移入された細胞株(CHOなど)であり得る。或いは、標的細胞は、ヒト癌株などの腫瘍抗原陽性天然発現細胞株であり得る。通常、EC50値は、より低い標的発現率を有する標的細胞と比較して、細胞表面上により高いレベルの当該腫瘍抗原を発現する標的細胞を使用する場合、より低いと予想される。
【0070】
細胞障害性アッセイにおけるエフェクター対標的細胞(E:T)比は、通常、約10:1であるが、当該比はまた、変動し得る。腫瘍抗原×CD3構築物の細胞障害活性は、51-クロム放出アッセイ(例えば、約18時間のインキュベーション時間を用いる)において、又はFACSベースの細胞障害性アッセイ(例えば、約48時間のインキュベーション時間を用いる)において測定することができる。インキュベーション時間(細胞障害性反応)の修正も想定される。他の細胞障害性測定方法は、周知であり、MTT又はMTSアッセイ、生物発光アッセイを含めたATPベースのアッセイ、スルホローダミンB(SRB)アッセイ、WSTアッセイ、クローン原性アッセイ及びECIS技術を含む。
【0071】
一実施形態によれば、本発明の腫瘍抗原×CD3構築物によって介在する細胞障害活性は、細胞ベースの細胞障害性アッセイにおいて測定される。これはまた、51-クロム放出アッセイにおいても測定され得る。本発明の構築物のEC50値は、≦300pM、≦280pM、≦260pM、≦250pM、≦240pM、≦220pM、≦200pM、≦180pM、≦160pM、≦150pM、≦140pM、≦120pM、≦100pM、≦90pM、≦80pM、≦70pM、≦60pM、≦50pM、≦40pM、≦30pM、≦20pM、≦15pM、≦10pM又は≦5pMであることが想定される。
【0072】
上述の所与のEC50値は、異なるアッセイにおいて異なる条件下で測定することができる。例えば、エフェクター細胞としてヒトPBMCが使用され、且つ標的細胞としてCHO細胞などの腫瘍抗原移入細胞が使用されるとき、腫瘍抗原×CD3構築物のEC50値は、≦500pM、≦400pM、≦300pM、≦280pM、≦260pM、≦250pM、≦240pM、≦220pM、≦200pM、≦180pM、≦160pM、≦150pM、≦140pM、≦120pM、≦100pM、≦90pM、≦80pM、≦70pM、≦60pM、≦50pM、≦40pM、≦30pM、≦20pM、≦15pM、≦10pM又は≦5pMであることが想定される。エフェクター細胞としてヒトPBMCが使用されるとき、且つ標的細胞が、などのCLDN6陽性細胞株であるとき、CLDN6×CD3構築物のEC50値は、≦300pM、≦280pM、≦260pM、≦250pM、≦240pM、≦220pM、≦200pM、≦180pM、≦160pM、≦150pM、≦140pM、≦120pM、≦100pM、≦90pM、≦80pM、≦70pM、≦60pM、≦50pM、≦40pM、≦30pM、≦20pM、≦15pM、≦10pM又は≦5pMであることが想定される。
【0073】
一実施形態によれば、本発明の腫瘍抗原×CD3ポリペプチド/ポリペプチド構築物は、溶解を誘導/溶解に介在しないか、又はCHO細胞などの細胞の表面に当該所与の腫瘍抗原を発現しない細胞(腫瘍抗原陰性細胞)の溶解を本質的に誘導しない/溶解に本質的に介在しない。「溶解を誘導しない」、「本質的に溶解を誘導しない」、「溶解に介在しない」又は「本質的に溶解に介在しない」という用語は、本発明の構築物が腫瘍抗原陰性細胞の30%超、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下、特に好ましくは9%、8%、7%、6%又は5%以下の溶解を誘導せず又は当該溶解に介在せず、それによって腫瘍抗原発現標的細胞(当該腫瘍抗原で形質転換された若しくは当該腫瘍抗原を移入された細胞又はヒト癌株などの天然の発現細胞株)の溶解が100%となるよう設定されていることを意味する。これは通常、最大500nMの構築物の濃度に当てはまる。細胞溶解測定は、ルーチンの技法である。その上、本明細書では、細胞溶解の測定方法の具体的な指示を教示する。
【0074】
個々の腫瘍抗原×CD3ポリペプチド/ポリペプチド構築物の単量体アイソフォームと二量体アイソフォームとの細胞障害活性の差は、「効力ギャップ」と称される。この効力ギャップは、例えば、その分子の単量体形態のEC50値と二量体形態のEC50値との間の比率として算出することができる。このギャップを決定する1つの方法では、後述する通り、精製構築物の単量体及び二量体を用いて、18時間の51-クロム放出アッセイ又は48時間のFACSベース細胞障害性アッセイが実施される。エフェクター細胞は、刺激された濃縮ヒトCD8+ T細胞又は非刺激ヒトPBMCである。標的細胞は、ヒト腫瘍抗原を移入されたCHO細胞である。エフェクター対標的細胞(E:T)比は、10:1である。本発明の腫瘍抗原×CD3構築物の効力ギャップは、好ましくは≦5、より好ましくは≦4、さらにより好ましくは≦3、さらにより好ましくは≦2、最も好ましくは≦1である。
【0075】
本発明のポリペプチド構築物の結合ドメインは、好ましくは、マカクなどの霊長類の哺乳動物目のメンバーに対して交差種特異的である。一実施形態によれば、さらなる結合ドメインは、ヒト腫瘍抗原への結合に加えて、(限定されないが)新世界霊長類(マーモセット(Callithrix jacchus)、ワタボウシタマリン(Saguinus Oedipus)又はリスザル(Saimiri sciureus)など)、旧世界霊長類(ヒヒ及びマカクなど)、テナガザル、オランウータン及び非ヒトのヒト科を含め、霊長類の当該腫瘍抗原にも結合することになる。本発明のT細胞の表面上のヒトCD3に結合するドメインは、少なくともマカクCD3にも結合することが想定される。好ましいマカクは、カニクイザル(Macaca fascicularis)である。アカゲザル(Macaca mulatta)(赤毛猿)も想定される。本発明のポリペプチド又はポリペプチド構築物は、T細胞の表面上のヒトCD3イプシロン及び少なくともマカクCD3に結合するドメインを含む。
【0076】
一実施形態において、(例えば、BiaCoreによって又はスキャッチャード解析によって決定されるような)マカクCD3と比べたヒトCD3を結合することについての本発明による構築物の親和性ギャップ[KD ma CD3:KD hu CD3]は、0.01~100、好ましくは0.1~10、より好ましくは0.2~5、より好ましくは0.3~4、さらにより好ましくは0.5~3又は0.5~2.5及び最も好ましくは0.5~1である。
【0077】
本明細書で先に詳述したように、本発明のポリペプチド又はポリペプチド構築物の当該結合ドメインは、ヒトCD3イプシロン(又はT細胞の表面上のヒトCD3イプシロン)に結合し、好ましくは、マーモセット(Callithrix jacchus)又はリスザル(Saimiri sciureus)のCD3イプシロンに結合する。より具体的には、当該ドメインは、ヒトCD3イプシロンの細胞外エピトープに結合する。当該ドメインがヒトの細胞外エピトープ及びマカクCD3イプシロン鎖に結合することも想定される。CD3イプシロンの当該細胞外エピトープは、ヒトCD3イプシロン細胞外ドメインのアミノ酸残基1~27内に含まれる(配列番号847、配列番号848のアミノ酸残基1~27を参照されたい)。さらにより詳細には、エピトープは、少なくともアミノ酸配列Gln-Asp-Gly-Asn-Gluを含む。マーモセット(Callithrix jacchus)は、マーモセット(Callitrichidae)科に属する新世界霊長類であるが、リスザル(Saimiri sciureus)は、オマキザル(Cebidae)科に属する新世界霊長類である。このような特性を有する結合剤は、国際公開第2008/119567号パンフレットに詳細に説明されている。
【0078】
(ヒト)CD3に対する、又は選択的に、及び好ましくは特異的にCD3イプシロンに対する抗体又は二重特異性構築物は当技術分野で公知であり、それらのCDR、VH配列及びVL配列は、本発明のポリペプチド構築物の結合ドメインの基礎として役立ち得る。例えば、Kung et al.は1979年に、ヒトT細胞上のCD3(具体的には、CD3のイプシロン鎖)を認識する最初のmAbであるOKT3(Ortho Kung T3)の開発を報告した。OKT3(ムロモナブ)は、ヒトにおける治療に利用可能になったマウス起源の最初のモノクローナル抗体であった。より新しい抗CD3モノクローナル抗体には、すべてCD3のイプシロン鎖を標的とするオテリキシズマブ(TRX4)、テプリズマブ(MGA031)、ホラルマブ及びビシリズマブが含まれる。(癌)標的及びCD3に対する二重特異性構築物も開発されており、(事前に)臨床試験されており、それらのCD3結合ドメイン(CDR、VH、VL)は、本発明の構築物の第2の結合ドメインの基礎として役立ち得る。例としては、限定されないが、ブリナツモマブ、ソリトマブ(MT110、AMG110)、カツマキソマブ、デュボルツキシズマブ、エルツマキソマブ、モスネツズマブ、FBTA05(Bi20、TPBs05)、CEA-TCB(RG7802、RO6958688)、AFM11及びMGD006(S80880)が挙げられる。CD3結合ドメインの他の例は、例えば、米国特許第7,994,289B2号明細書、米国特許第7,728,114B2号明細書、米国特許第7,381,803B1号明細書、米国特許第6,706,265B1号明細書に開示されている。
【0079】
CD3結合ドメインのVL領域のCDR-L1~L3配列の好ましい組み合わせ及びVH領域のCDR-H1~H3配列の好ましい組み合わせを以下の表に列挙する。
【0080】
【表1】
【0081】
好ましくは、上述に列挙されたCDR-L1~L3の組み合わせのいずれかは、ヒトCD3ε鎖の細胞外に結合する結合ドメインの部分として、上述に列挙されたCDR-H1~H3の組み合わせのいずれかと組み合わされる。換言すれば、VL領域は、CDR-L1、CDR-L2、CDR-L3配列としてこの順で、
GSSTGAVTSGYYPN、GTKFLAP、ALWYSNRWV;
RSSTGAVTSGYYPN、ATDMRPS、ALWYSNRWV;
GSSTGAVTSGNYPN、GTKFLAP、VLWYSNRWV;
ASSTGAVTSGNYPN、GTKFLVP、TLWYSNRWV;若しくは
RSSTGAVTTSNYAN、GTNKRAP、ALWYSNLWVを含むか又はいずれかからなり、且つ
VL領域は、CDR-H1、CDR-H2、CDR-H3配列として、この順で、
IYAMN、RIRSKYNNYATYYADSVKS、HGNFGNSYVSFFAY;
KYAMN、RIRSKYNNYATYYADSVKD、HGNFGNSYISYWAY;
SYAMN、RIRSKYNNYATYYADSVKG、HGNFGNSYLSFWAY;
RYAMN、RIRSKYNNYATYYADSVKG、HGNFGNSYLSYFAY;
VYAMN、RIRSKYNNYATYYADSVKK、HGNFGNSYLSWWAY;
KYAMN、RIRSKYNNYATYYADSVKS、HGNFGNSYTSYYAY;
GYAMN,RIRSKYNNYATYYADSVKE,HRNFGNSYLSWFAY;
VYAMN、RIRSKYNNYATYYADSVKK、HGNFGNSYISWWAY;
SYAMN、RIRSKYNNYATYYADSVKG、HGNFGNSYVSWWAY;
KYAIN、RIRSKYNNYATYYADQVKD、HANFGNSYISYWAY;若しくは
TYAMN、RIRSKYNNYATYYADSVKD、HGNFGNSYVSWFAYを含むか又はいずれかからなる。
【0082】
本発明に従って、CDR-H1、CDR-H2、CDR-H3、CDR-L1、CDR-L2、CDR-L3の順序で列挙されたVH領域及びVL領域の好ましいCDR配列の組み合わせは、配列番号82~87、88~93;94~99、100~105、106~111、112~117、118~123、124~129、130~135、136~141、142~147、148~153、154~159、160~165、166~171、172~177、178~183、184~189、190~195、196~201、202~207、208~213、214~219、及び220~225で定義された通りである。
【0083】
最も好ましいのは、VL領域が、CDR-H1、CDR-H2、CDR-H3、CDR-L1、CDR-L2、CDR-L3配列の順に列挙される配列番号106~111、112~117;118~123、124~129、178~183、184~189、190~195、196~201、202~207、208~213、214~219、及び220~225において示されるようなのと同じCDRの組み合わせとして含むことである。好ましくは、CDRの向きはVHからVLに向かってであり、すなわち可変領域の向きはN末端からC末端に向けてVHからVLである。
【0084】
本発明のポリペプチド又はポリペプチド構築物に含まれるCD3結合ドメインの好ましいVH領域配列及びVL領域配列の組み合わせは、配列番号(VH+VL配列の順序で列挙)に見出される:550+551、552+553、554+555、556+557、558+559、560+561、562+563、564+565、566+567、568+569、570+571、572+573、574+575、576+577、578+579、580+581、582+583、584+585、586+587、588+589、590+591、592+593、594+595、596+597。
好ましいCD3結合ドメインは、配列番号558+559、560+561、562+563、564+565、582+583、584+585、586+587、588+589、590+591、592+593、594+595、及び596+597から選択される。
【0085】
別の好ましい実施形態では、結合ドメインを連結するリンカー、本発明のポリペプチド又はポリペプチド構築物は、S(G4X)n若しくは(G4X)nを含むか又はいずれかからなり、Xは、Q、T、N、C、G、A、V、I、L、及びMからなる群から選択され、且つnは、整数1~20から選択される整数である。本明細書で上述に概説したように、本発明のポリペプチド又はポリペプチド構築物におけるリンカーの2つ以上が本明細書で上述に定義した通りであることは有利である。この故に、結合ドメインを結合させるリンカーも本明細書で上述に定義される通りであることが好ましい。結合ドメインを連結するリンカー並びに結合ドメイン内のVH可変領域及びVL可変領域を連結するリンカーは、本明細書で定義されるS(G4Q)n又は(G4Q)nリンカーであることが最も好ましく、当該リンカーは、グルタミンの代わりにセリンを含有するリンカーを置換する、すなわちS(G4S)nリンカー又は(G4S)nリンカーである。
【0086】
好ましくは、本発明のポリペプチド又はポリペプチド構築物の結合ドメインを連結する当該リンカーはS(G4X)nであり、nは1であり、XはQである。換言すれば、本発明のポリペプチド又はポリペプチド構築物の結合ドメインを好ましくはすべて連結するリンカーはS(G4Q)(配列番号34)である。
【0087】
さらに好ましい実施形態では、本発明のポリペプチド又はポリペプチド構築物は、半減期延長ドメインを含む。本発明のポリペプチド構築物は、当該標的抗原に結合するその機能に加えて(好ましくはポリペプチド又はポリペプチド構築物が、CD3結合ドメインと、腫瘍抗原に結合する少なくとも1つのさらなる結合ドメインとを含むとき)、さらなる機能を有することも想定される。この形式では、構築物は、腫瘍抗原結合を通じて標的細胞を標的化し、CD3結合を通じて細胞障害性T細胞活性に介在し、且つ血清半減期を亢進又は延長させる手段又はドメイン、エフェクター細胞の動員を通じて細胞障害性に介在する完全に機能性の又は修飾されたFc定常ドメイン、標識(蛍光等)、毒素又は放射性核種などの治療薬など、さらなる機能を提供することにより、三機能又は多機能構築物であり得る。
【0088】
本発明のポリペプチド/ポリペプチド構築物の血清半減期を延長する手段又はドメインの例としては、ポリペプチド/ポリペプチド構築物に融合するか又は他の方法で付着するペプチド、タンパク質又はタンパク質のドメインが挙げられる。ペプチド、タンパク質又はタンパク質ドメインの群は、血清アルブミン等の人体における好ましい薬物動態学的プロファイルを有する他のタンパク質に結合するペプチドを含む(国際公開第2009/127691号パンフレットを参照されたい)。そのような半減期延長ペプチドの代替概念には、新生児型Fc受容体(FcRn、国際公開第2007/098420号パンフレットを参照されたい)に結合するペプチドが含まれ、これも本発明の構築物において使用することができる。タンパク質のより大きなドメイン又は完全なタンパク質を付着させる概念には、ヒト血清アルブミン、ヒト血清アルブミン(国際公開第2011/051489号パンフレット、国際公開第2012/059486号パンフレット、国際公開第2012/150319号パンフレット、国際公開第2013/135896号パンフレット、国際公開第2014/072481号パンフレット、国際公開第2013/075066号パンフレットを参照されたい)又はそのドメインの変異体又は突然変異体の融合、並びに免疫グロブリン定常領域(Fcドメイン)及びその変異体の融合が含まれる。Fcドメインのそのような変異体は、Fcベースのドメインと呼ばれ、例えば、二量体又は多量体の所望の対形成を可能にするために、Fc受容体結合を無効にするために(例えば、ADCC又はCDCを回避するために)、又は他の理由で最適化され得る/修飾され得る。ヒト体内の物質又は分子の半減期を延長する当該技術分野で公知のさらなる概念は、(本発明の構築物などの)それらの分子のペグ化である。
【0089】
一実施形態では、本発明によるポリペプチド/ポリペプチド構築物は、例えば、構築物の血清半減期を延長するために、融合パートナー(例えば、タンパク質、ポリペプチド又はペプチドなど)と(例えばペプチド結合を介して)連結される。これらの融合パートナーは、ヒト血清アルブミン(「HSA」又は「HALB」)並びにその配列変異体、HSAに結合するペプチド、FcRnに結合するペプチド(「FcRn BP」)、又は(抗体由来)Fc領域を含む構築物から選択することができる。一般に、融合パートナーは、本発明による構築物のN末端又はC末端に直接(例えばペプチド結合を介して)か、又は(GGGGQ)n、(GGGGS)n又はGGGG(式中、「n」は、2以上の整数、例えば2又は3又は4である)などのペプチドリンカーを通じてかのいずれかで連結され得る。具体的な適切なペプチドリンカーについては上述で論議されている。
【0090】
好ましくは、当該半減期延長ドメイン(HLEドメイン)は、ヒンジ、CH2ドメイン及びCH3ドメインを含む各モノマーを有する2つのポリペプチドモノマーを含むか、又は当該ポリペプチドモノマーからなり、当該2つのポリペプチドモノマーは、アミノからカルボキシルに向かう順序で、ヒンジ-CH2-CH3-ペプチドリンカー-ヒンジ-CH2-CH3を含むペプチドリンカーを介して互いに融合している。当該HLEドメインの好ましいポリペプチドモノマーは、配列番号78若しくは79の配列を含むか又は当該配列からなり、HLEドメイン全体の配列が、配列番号849で定義されている。当該HLEドメインモノマーの配列は、好ましくは、N末端における「DKTHT」配列モチーフの欠失によって、及び/又は配列番号78若しくは79の位置55のアミノ酸Dのアミノ酸Eによる置換によって修飾される。好ましくは、すべての修飾、すなわちDKTHTモチーフの欠失、及び位置55における当該置換は、ペプチドリンカーを介して互いに融合している各HLEドメインモノマーにおいて存在する。当該ペプチドリンカーは、(GGGGQ)n又は(GGGGS)n(式中、「n」は2以上の整数、例えば2又は3又は4又は5又は6、好ましくは6である)であることが好ましい。特に好ましいリンカーは(G4Q)6である。後者の特徴/修飾の各々は、クリッピング率のさらなる低減に寄与する。それ故、N末端における「DKTHT」配列モチーフの欠失によって、及び配列番号78又は79の位置55のアミノ酸Dのアミノ酸Eによる置換によって修飾された当該HLEドメインモノマーを融合させるリンカーとしての(G4Q)6の組み合わせは、(配列番号80及び81のように)本発明の好ましい実施形態である。対応する好ましいHLEドメインは、配列番号850において定義される配列を含むか又は当該配列からなる。
【0091】
本発明に従って、当該ポリペプチド又はポリペプチド構築物は、アミノからカルボキシルに向かっていく順序で結合ドメイン1(VH/VL-ペプチドリンカー-VH/VL)-リンカー-結合ドメイン2(VH/VL-ペプチドリンカー-VH/VL)-HLEドメインを含む。HLEドメインは、好ましくは、(GGGGQ)n、(GGGGS)n又はGGGG(式中、「n」は2以上の整数、例えば2又は3又は4である)などのペプチドリンカーを介して、本発明のポリペプチド又はポリペプチド構築物に連結される。より好ましくは、リンカーはGGGGである。
【0092】
また、本発明に従って、当該ポリペプチド又はポリペプチド構築物は、アミノからカルボキシルに向かっていく順序で結合ドメイン1(VH/VL-ペプチドリンカー-VH/VL)-リンカー-結合ドメイン2(VH/VL-ペプチドリンカー-VH/VL)-リンカー-結合ドメイン3(VH/VL-ペプチドリンカー-VH/VL)-HLEドメインを含む。
【0093】
さらに、本発明に従って、当該ポリペプチド又はポリペプチド構築物は、アミノからカルボキシルに向かっていく順序で結合ドメイン1(VH/VL-ペプチドリンカー-VH/VL)-リンカー-結合ドメイン2(VH/VL-ペプチドリンカー-VH/VL)-リンカー-HLEドメイン-リンカー-結合ドメイン3(VH/VL-ペプチドリンカー-VH/VL)-リンカー-結合ドメイン4(VH/VL-ペプチドリンカー-VH/VL)を含み、ここで、結合ドメイン1は第1の細胞表面抗原に結合し、結合ドメイン2及び3はCD3に結合し、ここで、結合ドメイン4は第2の細胞表面抗原に結合する。結合ドメイン内のペプチドリンカーは(G4Q)3であり、HLEドメイン内のペプチドリンカーは(G4Q)6であり、当該結合ドメインを連結するリンカーはS(G4Q)であり、HLEドメインを結合ドメインに連結するリンカーはG4リンカーであることがさらに好ましい。HLEドメインが配列番号850の配列を含むか又は当該配列からなることが一層さらに好ましい。CD3に結合する結合ドメインは、配列番号582及び配列番号583、配列番号584及び配列番号585、配列番号586及び配列番号587、又は配列番号588及び配列番号589で定義されるようなVH及びVL配列を含むか、又はそれらからなることがさらに好ましい。
【0094】
本発明に従って、HLEドメインを結合ドメインに連結するリンカーは、本発明のポリペプチド又はポリペプチド構築物中のG4リンカーである。
【0095】
したがって、上述に従って、本発明によるポリペプチド又はポリペプチド構築物は、CD3に結合する少なくとも1つの結合ドメインと、細胞表面抗原、好ましくは腫瘍抗原に結合する少なくとも1つの結合ドメインと、場合によりHLEドメインとを有する少なくとも二重特異性である一本鎖ポリペプチドを含み、当該ポリペプチドは、N末端からC末端に向かって以下の順序で、
a)VL(細胞表面抗原結合ドメイン/パラトープの一部を含む)-(G4Q)3-VH(細胞表面抗原結合ドメイン/パラトープの一部を含む)-ペプチドリンカー(SG4Q)-VH(CD3イプシロン結合ドメイン/パラトープの一部を含む)-(G4Q)3-VL(CD3イプシロン結合ドメイン/パラトープの一部を含む)、
b)VH(細胞表面抗原結合ドメイン/パラトープの一部を含む)-(G4Q)3-VL(細胞表面抗原結合ドメイン/パラトープの一部を含む)-ペプチドリンカー(SG4Q)-VH(CD3イプシロン結合ドメイン/パラトープの一部を含む)-(G4Q)3-VL(CD3イプシロン結合ドメイン/パラトープの一部を含む);
c)VL(細胞表面抗原結合ドメイン/パラトープの一部を含む)-(G4Q)3-VH(細胞表面抗原結合ドメイン/パラトープの一部を含む)-ペプチドリンカー(SG4Q)-VH(CD3イプシロン結合ドメイン/パラトープの一部を含む)-(G4Q)3-VL(CD3イプシロン結合ドメイン/パラトープの一部を含む)-ペプチドリンカー(G4)-Fcモノマー(本明細書で上述の好ましいHLEドメインの一部)-(G4Q)6-Fcモノマー(本明細書で上述の好ましいHLEドメインの相補的部分)、
d)VH(細胞表面抗原結合ドメイン/パラトープの一部を含む)-(G4Q)3-VL(細胞表面抗原結合ドメイン/パラトープの一部を含む)-ペプチドリンカー(SG4Q)-VH(CD3イプシロン結合ドメイン/パラトープの一部を含む)-(G4Q)3-VL(CD3イプシロン結合ドメイン/パラトープの一部を含む)-ペプチドリンカー(G4)-Fcモノマー(HLEドメインの一部)-(G4Q)6-Fcモノマー(HLEドメインの一部)、
e)VH(第1の細胞表面抗原結合ドメイン/パラトープの一部を含む)-((G4Q)3-VL(第1の細胞表面抗原結合ドメイン/パラトープの一部を含む)-ペプチドリンカー(SG4Q)-VL(第2の細胞表面抗原結合ドメイン/パラトープの一部を含む)-(G4Q)3-VH(第2の細胞表面抗原結合ドメイン/パラトープの一部を含む)-ペプチドリンカー(SG4Q)-VH(CD3イプシロン結合ドメイン/パラトープの一部を含む)-(G4Q)3-VL(CD3イプシロン結合ドメイン/パラトープの一部を含む)-ペプチドリンカー(G4)-Fcモノマー(HLEドメインの一部)-(G4Q)6又は-Fcモノマー(HLEドメインの一部)、
f)VH(第1の細胞表面抗原結合ドメイン/パラトープの一部を含む)-(G4Q)3-VL(第1の細胞表面抗原結合ドメイン/パラトープの一部を含む)-ペプチドリンカー(SG4Q)-VH(第2の細胞表面抗原結合ドメイン/パラトープの一部を含む)-(G4Q)3-VL(第2の細胞表面抗原結合ドメイン/パラトープの一部を含む)-ペプチドリンカー(SG4Q)-VH(CD3イプシロン結合ドメイン/パラトープの一部を含む)-(G4Q)3-VL(CD3イプシロン結合ドメイン/パラトープの一部を含む)-ペプチドリンカー(G4)-Fcモノマー(HLEドメインの一部)-(G4Q)6又は-Fcモノマー(HLEドメインの一部)、
g)VL(第1の細胞表面抗原結合ドメイン/パラトープの一部を含む)-(G4Q)3-VH(第1の細胞表面抗原結合ドメイン/パラトープの一部を含む)-ペプチドリンカー(SG4Q)-VL(第2の細胞表面抗原結合ドメイン/パラトープの一部を含む)-(G4Q)3-VH(第2の細胞表面抗原結合ドメイン/パラトープの一部を含む)-ペプチドリンカー(SG4Q)-VH(CD3イプシロン結合ドメイン/パラトープの一部を含む)-(G4Q)3-VL(CD3イプシロン結合ドメイン/パラトープの一部を含む)-ペプチドリンカー(G4)-Fcモノマー(HLEドメインの一部)-(G4Q)6又は-Fcモノマー(HLEドメインの一部)、
h)VL(第1の細胞表面抗原結合ドメイン/パラトープの一部を含む)-(G4Q)3-VH(第1の細胞表面抗原結合ドメイン/パラトープの一部を含む)-ペプチドリンカー(SG4Q)-VH(第2の細胞表面抗原結合ドメイン/パラトープの一部を含む)-(G4Q)3-VL(第2の細胞表面抗原結合ドメイン/パラトープの一部を含む)-ペプチドリンカー(SG4Q)-VH(CD3イプシロン結合ドメイン/パラトープの一部を含む)-(G4Q)3-VL(CD3イプシロン結合ドメイン/パラトープの一部を含む)-ペプチドリンカー(G4)-Fcモノマー(HLEドメインの一部)-(G4Q)6又は-Fcモノマー(HLEドメインの一部)、若しくは
i)結合ドメイン1((VL(第1の細胞表面抗原結合ドメイン/パラトープの一部を含む)-(G4Q)3-VH(第1の細胞表面抗原結合ドメイン/パラトープの一部を含む))又は(VH(第1の細胞表面抗原結合ドメイン/パラトープの一部を含む)-(G4Q)3-VL(第1の細胞表面抗原結合ドメイン/パラトープの一部を含む)))-ペプチドリンカー(G4Q)-CD3結合ドメイン1(VH(第1のCD3イプシロン結合ドメイン/パラトープの一部を含む)-(G4Q)3-VL(第1のCD3イプシロン結合ドメイン/パラトープの一部を含む))-ペプチドリンカー(G4)-Fcモノマー(HLEドメインの一部)-(G4Q)6-Fcモノマー(HLEドメインの一部)-ペプチドリンカー(G4)-結合ドメイン2((VL(第2の細胞表面抗原結合ドメイン/パラトープの一部を含む)-(G4Q)3-VH(第1の細胞表面抗原結合ドメイン/パラトープの一部を含む))又は(VH(第2の細胞表面抗原結合ドメイン/パラトープの一部を含む)-(G4Q)3-VL(第2の細胞表面抗原結合ドメイン/パラトープの一部を含む)))-ペプチドリンカー(G4Q)-CD3結合ドメイン2(VH(第2CD3イプシロン結合ドメイン/パラトープの一部を含む)-(G4Q)3-VL(第2CD3イプシロン結合ドメイン/パラトープの一部を含む))を含むか又はそれからなる。
【0096】
上述から明らかなように、細胞表面抗原の結合ドメインのVH及びVL領域の配列の向きは、VH-VL又はVL-VHであり得る。好ましくは、細胞表面抗原は、本明細書で後に詳述する腫瘍抗原である。本明細書で詳述するFcモノマー及び連結リンカーで構成されるHLEドメイン配列は、好ましくはそれぞれ配列番号80、81、72で定義される配列から選択され、好ましいHLEドメイン配列は配列番号850で定義される通りである。項目i)のポリペプチド構築物の2つのCD3結合ドメインは好ましくは、同じCD3結合ドメイン、例えば、好ましくは、配列番号582+583、584+585、586+587、及び588+589のVH領域配列及びVL領域配列を有するCD3結合ドメイン、好ましくは、配列番号722~725において定義されるようなCD3結合ドメインであって、724及び725が、VH領域とVL領域とを連結する(G4Q)3リンカーを有するので一層より好ましい、CD3結合ドメインなど、同じCD3結合ドメインである。ペプチドリンカー(SG4Q)は示された位置で好ましいが、(G4Q)リンカー又はSG4Sリンカーによって置き換えることもできる。
【0097】
VL領域の前に本発明のポリペプチド又はポリペプチド構築物中の細胞表面抗原、好ましくは腫瘍抗原結合ドメイン中のVH領域が先行するさらに好ましい実施形態では、アミノ酸「EI」は、本発明のポリペプチド又はポリペプチド構築物のクリッピング率を低下させるさらなる手段として、VL領域に先立って且つVHをVL領域に連結するリンカーの前に存在することが好ましい。配列表は、対応する結合ドメインを単独で、又は本発明のより長いポリペプチド若しくはポリペプチド構築物の一部として含む。
【0098】
ポリペプチド/ポリペプチド構築物の共有結合修飾もまた、本発明の範囲内に含まれ、概して翻訳後に行われるが、必ずしもそうではない。例えば、構築物の特定のアミノ酸残基を、選択された側鎖又はN末端残基若しくはC末端残基と反応させることができる有機誘導体化作用因子と反応させることによって、構築物のいくつかのタイプの共有結合修飾が分子内へと導入される。二官能性作用因子による誘導体化は、種々の方法で使用するために、本発明の構築物を水不溶性支持体マトリックス又は表面に架橋するのに有用である。グルタミニル残基及びアスパラギニル残基は、しばしば、それぞれ対応するグルタミル残基及びアスパルチル残基に脱アミド化される。或いは、これらの残基は、弱酸性条件下で脱アミド化される。これらの残基のいずれの形態も、本発明の範囲内に収まる。他の修飾としては、プロリン及びリジンのヒドロキシル化、セリル残基又はスレオニル残基のヒドロキシル基のリン酸化、リジン側鎖、アルギニン側鎖、及びヒスチジン側鎖のα-アミノ基のメチル化(T.E.Creighton,Proteins:Structure and Molecular Properties,W.H.Freeman & Co.,San Francisco,1983,pp.79-86)、N末端アミンのアセチル化、並びにいずれかのC末端カルボキシル基のアミド化が挙げられる。
【0099】
本発明の範囲内に含まれる構築物の別の種類の共有結合修飾は、タンパク質のグリコシル化パターンを変化させることを含む。当該技術分野で公知のように、グリコシル化パターンは、タンパク質の配列(例えば、後述で論議される特定のグリコシル化アミノ酸残基の有無)、又はタンパク質が産生される宿主細胞若しくは生物の両方に依存し得る。特定の発現系を後述で論議する。ポリペプチドのグリコシル化は、典型的には、N結合型又はO結合型のいずれかである。N結合とは、アスパラギン残基の側鎖への炭水化物部分の結合を指す。トリペプチド配列であるアスパラギン-X-セリン及びアスパラギン-X-トレオニン(式中、Xはプロリンを除くいずれかのアミノ酸である)は、アスパラギン側鎖への炭水化物部分の酵素結合のための認識配列である。したがって、ポリペプチド中のこれらのトリペプチド配列のいずれかの存在は、潜在的なグリコシル化部位を作り出す。O結合型グリコシル化は、糖であるN-アセチルガラクトサミン、ガラクトース、又はキシロースのうちの1つがヒドロキシアミノ酸、最も一般的にはセリン又はトレオニンに結合することを指すが、5-ヒドロキシプロリン又は5-ヒドロキシリジンも使用され得る。
【0100】
構築物へのグリコシル化部位の付加は、(N結合型グリコシル化部位について)上述のトリペプチド配列の1つ以上を含有するようにアミノ酸配列を変化させることによって好都合に達成される。変化はまた、(O結合型グリコシル化部位について)出発配列への1つ以上のセリン残基又はトレオニン残基の付加又は置換によっても行われ得る。容易にするため、構築物のアミノ酸配列は、DNAレベルでの変化を通じて、特にポリペプチドをコードするDNAを予め選択された塩基で突然変異させて、それにより所望のアミノ酸に翻訳されることになるコドンを生じさせることによって変化し得る。
【0101】
構築物上の炭水化物部分の数を増加させる別の手段は、グリコシドのタンパク質への化学的又は酵素によるカップリングによるものである。これらの手順は、N結合型及びO結合型グリコシル化のためのグリコシル化能を有する宿主細胞におけるタンパク質の産生を必要としない点で有利である。使用されるカップリング様式に応じて、糖は、(a)アルギニン及びヒスチジン、(b)遊離カルボキシル基、(c)システインのものなど遊離スルフヒドリル基、(d)セリン、トレオニン若しくはヒドロキシプロリンのものなど遊離ヒドロキシル基、(e)フェニルアラニン、チロシン、若しくはトリプトファンのものなど芳香族残基、又は(f)グルタミンのアミド基に結合し得る。これらの方法は、国際公開第87/05330号パンフレット及びAplin and Wriston,1981,CRC Crit.Rev.Biochem.,pp.259-306に説明されている。
【0102】
出発構築物上に存在する炭水化物鎖の除去は、化学的に又は酵素で達成され得る。化学的脱グリコシル化は、化合物トリフルオロメタンスルホン酸又は同等の化合物へのタンパク質の曝露を必要とする。この処理は、ポリペプチドをインタクトのままにしながら、連結している糖(N-アセチルグルコサミン又はN-アセチルガラクトサミン)を除くほとんど又はすべての糖の切断をもたらす。化学的脱グリコシル化は、Hakimuddin et al.,1987,Arch.Biochem.Biophys.259:52によって、及びEdge et al.,1981,Anal.Biochem.118:131によって説明される。ポリペプチド上の糖鎖の酵素による切断は、Thotakura et al.,1987,Meth.Enzymol.138:350によって説明される通りの様々なエンドグリコシダーゼ及びエキソグリコシダーゼを使用することで達成することができる。潜在的なグリコシル化部位でのグリコシル化は、Duskin et al.,1982,J.Biol.Chem.257:3105によって説明される化合物ツニカマイシンを使用することで防止され得る。ツニカマイシンは、タンパク質-N-グリコシド結合の形成を遮断する。
【0103】
構築物の他の修飾もまた本明細書で企図される。例えば、構築物の別の種類の共有結合修飾は、米国特許第4,640,835号明細書、同第4,496,689号明細書、同第4,301,144号明細書、同第4,670,417号明細書、同第4,791,192号明細書、又は同第4,179,337号明細書に示されている様式で、ポリオールを含む様々な非タンパク質性ポリマーに構築物を連結することを含む。加えて、当該技術分野で公知のように、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)などのポリマーの付加を容易にするために、構築物内の様々な位置でアミノ酸置換を行ってもよい。
【0104】
いくつかの実施形態では、本発明の構築物の共有結合修飾は、1つ以上の標識の付加を含む。潜在的な立体障害を低減するために、様々な長さのスペーサーアームを介して標識基が構築物に連結され得る。タンパク質を標識するための様々な方法が当該技術分野で公知であり、本発明を実施する際に使用することができる。「標識」又は「標識基」という用語は、いずれかの検出可能な標識を指す。一般に、標識は、これが検出されることとなるアッセイに応じて、種々のクラスに分けられ、以下の例が挙げられるが、これらに限定されない。
a)放射性同位体又は放射性核種(例えば、H、14C、15N、35S、89Zr、90Y、99Tc、111In、125I、131I)などの放射性又は重同位体であり得る同位体標識
b)磁気標識(例えば、磁気粒子)
c)酸化還元活性部分
d)蛍光基(例えば、FITC、ローダミン、ランタニド蛍りん光体)、化学発光基、及び「小分子」蛍光体又はタンパク質性蛍光体のいずれかであり得る蛍光体などの光学染料(限定されないが、発色団、蛍りん光体及び蛍光体を含む)
e)酵素基(例えば、セイヨウワサビペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ)
f)ビオチン化基
g)二次レポーターによって認識される所定のポリペプチドエピトープ(例えば、ロイシンジッパー対配列、二次抗体のための結合部位、金属結合ドメイン、エピトープタグ、など)。
【0105】
「蛍光標識」とは、その固有の蛍光特性を介して検出され得るいずれかの分子を意味する。適切な蛍光標識には、フルオレセイン、ローダミン、テトラメチルローダミン、エオシン、エリスロシン、クマリン、メチル-クマリン、ピレン、マラサイトグリーン、スチルベン、ルシファーイエロー、Cascade BlueJ、テキサスレッド、IAEDANS、EDANS、BODIPY FL、LCレッド640、Cy 5、Cy 5.5、LCレッド705、オレゴングリーン、Alexa-Fluor色素(Alexa Fluor 350、Alexa Fluor 430、Alexa Fluor 488、Alexa Fluor 546、Alexa Fluor 568、Alexa Fluor 594、Alexa Fluor 633、Alexa Fluor 660、Alexa Fluor 680)、Cascade Blue、Cascade Yellow及びR-フィコエリトリン(PE)(Molecular Probes、Eugene、OR)、FITC、ローダミン及びTexas Red(Pierce、Rockford、IL)、Cy5、Cy5.5、Cy7 (Amersham Life Science、Pittsburgh、PA)が含まれるが、これらに限定されない。蛍光体を含む適切な光学染料は、Richard P.HauglandによるMolecular Probes Handbookに説明されている。
【0106】
適切なタンパク質性蛍光標識として、緑色蛍光タンパク質、例えば、Renilla、Ptilosarcus又はAequorea種のGFP(Chalfie et al.,1994,Science 263:802-805)、EGFP(Clontech Laboratories,Inc.,Genbank(登録商標)受託番号U55762)、青色蛍光タンパク質(BFP,Quantum Biotechnologies,Inc.1801 de Maisonneuve Blvd.West,8th Floor,Montreal,Quebec,Canada H3H 1J9、Stauber,1998,Biotechniques 24:462-471、Heim et al.,1996,Curr.Biol.6:178-182)、強化型黄色蛍光タンパク質(EYFP,Clontech Laboratories,Inc.)、ルシフェラーゼ(Ichiki et al.,1993,J.Immunol.150:5408-5417)、βガラクトシダーゼ(Nolan et al.,1988,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.85:2603-2607)、及びRenilla(国際公開第92/15673号パンフレット、国際公開第95/07463号パンフレット、国際公開第98/14605号パンフレット、国際公開第98/26277号パンフレット、国際公開第99/49019号パンフレット、米国特許第5,292,658号明細書;同第5,418,155号明細書;同第5,683,888号明細書;同第5,741,668号明細書;同第5,777,079号明細書;同第5,804,387号明細書;同第5,874,304号明細書;同第5,876,995号明細書;同第5,925,558号明細書)も挙げられるが、これらに限定されない。
【0107】
ロイシンジッパードメインは、それらが見出されるタンパク質のオリゴマー化を促進するペプチドである。ロイシンジッパーは元来、種々の異なるタンパク質において発見されて以来、いくつかのDNA結合タンパク質において同定された(Landschulz et al.,1988,Science 240:1759)。公知のロイシンジッパーの中には、天然に存在するペプチド及び二量化する又は三量化するその誘導体がある。可溶性オリゴマータンパク質を製造するのに適切なロイシンジッパードメインの例がPCT出願の国際公開第94/10308号パンフレットに説明されており、且つ肺サーファクタントタンパク質D(SPD)に由来するロイシンジッパーがHoppe et al.,1994,FEBS Letters 344:191に説明されている。それに融合した異種タンパク質の安定した三量化を可能にする修飾ロイシンジッパーの使用は、Fanslow et al.,1994,Semin.Immunol.6:267-78に説明されている。
【0108】
本発明のポリペプチド構築物はまた、例えば、分子の単離に役立つか、又は分子の適合した薬物動態特性に関する追加のドメインも含み得る。構築物の単離に役立つドメインは、単離方法、例えば単離カラム内で捕捉することができるペプチドモチーフ又は二次導入部分から選択され得る。そのような追加のドメインの非限定的な実施形態は、Myc-タグ、HAT-タグ、HA-タグ、TAP-タグ、GST-タグ、キチン結合ドメイン(CBD-タグ)、マルトース結合タンパク質(MBP-タグ)、Flag-タグ、Strep-タグ及びそれらの変異体(例えば、StrepII-タグ)並びにHis-タグとして公知のペプチドモチーフを含む。同定されたCDRを特徴とする本明細書に開示される構築物はすべて、分子のアミノ酸配列において連続するHis残基、例えば、5つのHis残基又は6つのHis残基(ヘキサ-ヒスチジン)のリピートとして一般に公知のHisタグドメインを含み得る。Hisタグは、例えば、構築物のN末端又はC末端に位置し得る。一実施形態では、本発明による構築物のC末端にペプチド結合を介してヘキサヒスチジンタグ(HHHHHH)が連結される。ヒスチジンタグ、特に6×Hisタグが好ましい。
【0109】
本発明によれば、本発明のポリペプチド又はポリペプチド構築物がさらなる結合ドメインを含む、すなわち少なくとも二重特異性である場合、標的抗原結合ドメインが結合する当該細胞表面抗原は腫瘍抗原であることが好ましい。好ましくは、本発明のポリペプチド又はポリペプチド構築物は、T細胞エンゲージャーである。したがって、本発明のポリペプチド又はポリペプチド構築物は、少なくともCD3結合ドメイン及び腫瘍抗原結合ドメインを含むことが好ましい。
【0110】
好ましい実施形態では、腫瘍抗原は、BCMA(B細胞成熟抗原)、CD123(インターロイキン-3受容体アルファ鎖(IL-3R))、CD19(Bリンパ球抗原CD19)、CD20(Bリンパ球抗原CD20)、CD22(分化クラスター-22)、CD33(Siglec-3)、CD70(分化クラスター70)、CDH19(カドヘリン19)、CDH3(カドヘリン3)、CLL1(C型レクチンドメインファミリー12メンバーA)、CS1(CCND3サブセット1)、CLDN6(クローディン-6)、CLDN18.2(クローディン18.2)、DLL3(Delta様リガンド3)、EGFRvIII(上皮成長因子受容体vIII)、FLT3(fms様キナーゼ3)、MAGEB2(黒色腫関連抗原B2)、MART1(T細胞によって認識される黒色腫抗原1)、MSLN(メソテリン)、MUC17(ムチン-17)、PSMA(前立腺特異的膜抗原)及びSTEAP1(メタロレダクターゼSTEAP1)からなる群より選択される。これらの腫瘍抗原は、腫瘍細胞上でのそれらの発現により、当該技術分野で周知である。
【0111】
本発明のポリペプチド又はポリペプチド構築物の結合ドメインとしてのBCMA結合ドメインについて好ましいCDR配列及びVH/VL領域配列並びにこれらの組み合わせ、並びに結合ドメインとしてBCMA結合ドメインを有する本発明に従ったポリペプチド又はポリペプチド構築物の二重特異性単鎖分子配列は、配列番号238~243、244~249、602+603、604+605、732、733、784、794において定義される。
【0112】
本発明のポリペプチド又はポリペプチド構築物の結合ドメインとしてのCD123結合ドメインについて好ましいCDR配列及びVH/VL領域配列並びにこれらの組み合わせ、並びに結合ドメインとしてCD123結合ドメインを有する本発明に従ったポリペプチド又はポリペプチド構築物の二重特異性単鎖分子配列は、配列番号250~255、256~261、608+609、735で定義される。
【0113】
本発明のポリペプチド又はポリペプチド構築物の結合ドメインとしてのCD19結合ドメインについて好ましいCDR配列及びVH/VL領域配列並びにこれらの組み合わせ、並びに結合ドメインとしてCD19結合ドメインを有する本発明に従ったポリペプチド又はポリペプチド構築物の二重特異性単鎖分子配列は、配列番号268~273、612+613、737、797で定義される。
【0114】
本発明のポリペプチド又はポリペプチド構築物の結合ドメインとしてのCD33結合ドメインについて好ましいCDR配列及びVH/VL領域配列並びにこれらの組み合わせ、並びに結合ドメインとしてCD33結合ドメインを有する本発明に従ったポリペプチド又はポリペプチド構築物の二重特異性単鎖分子配列は、配列番号286~291、298~303、304~309、618+619、622+623、624+625、740、742、743、786、799において定義される。
【0115】
本発明のポリペプチド又はポリペプチド構築物の結合ドメインとしてのCD70結合ドメインについて好ましいCDR配列及びVH/VL領域配列並びにこれらの組み合わせ、並びに結合ドメインとしてCD70結合ドメインを有する本発明に従ったポリペプチド又はポリペプチド構築物の二重特異性単鎖分子配列は、配列番号316~321、628+629、745、801において定義される。
【0116】
本発明のポリペプチド又はポリペプチド構築物の結合ドメインとしてのCDH19結合ドメインについて好ましいCDR配列及びVH/VL領域配列並びにこれらの組み合わせ、並びに結合ドメインとしてCDH19結合ドメインを有する本発明に従ったポリペプチド又はポリペプチド構築物の二重特異性単鎖分子配列は、配列番号328~333、632+633、747、803において定義される。
【0117】
本発明のポリペプチド又はポリペプチド構築物の結合ドメインとしてのCDH3結合ドメインについて好ましいCDR配列及びVH/VL領域配列並びにこれらの組み合わせ、並びに結合ドメインとしてCDH3結合ドメインを有する本発明に従ったポリペプチド又はポリペプチド構築物の二重特異性単鎖分子配列は、配列番号340~345、346~351、358~363、642+643、749、750、752、805、844、846において定義される。
【0118】
本発明のポリペプチド又はポリペプチド構築物の結合ドメインとしてのCLDN18.2結合ドメインについて好ましいCDR配列及びVH/VL領域配列並びにこれらの組み合わせ、並びに結合ドメインとしてCLDN18.2結合ドメインを有する本発明に従ったポリペプチド又はポリペプチド構築物の二重特異性単鎖分子配列は、配列番号370~375、646+647、754、812において定義される。
【0119】
本発明のポリペプチド又はポリペプチド構築物の結合ドメインとしてのCLL1結合ドメインについて好ましいCDR配列及びVH/VL領域配列並びにこれらの組み合わせ、並びに結合ドメインとしてCLL1結合ドメインを有する本発明に従ったポリペプチド又はポリペプチド構築物の二重特異性単鎖分子配列は、配列番号328~387、650+651、756、806において定義される。
【0120】
本発明のポリペプチド又はポリペプチド構築物の結合ドメインとしてのCLDN6結合ドメインについて好ましいCDR配列及びVH/VL領域配列並びにこれらの組み合わせ、並びに結合ドメインとしてCLDN6結合ドメインを有する本発明に従ったポリペプチド又はポリペプチド構築物の二重特異性単鎖分子配列は、配列番号394~399、654+655、758、810において定義される。
【0121】
本発明のポリペプチド又はポリペプチド構築物の結合ドメインとしてのCS1結合ドメインについて好ましいCDR配列及びVH/VL領域配列並びにこれらの組み合わせ、並びに結合ドメインとしてCS1結合ドメインを有する本発明に従ったポリペプチド又はポリペプチド構築物の二重特異性単鎖分子配列は、配列番号412~417、660+661、761、839、840において定義される。
【0122】
本発明のポリペプチド又はポリペプチド構築物の結合ドメインとしてのDLL3結合ドメインについて好ましいCDR配列及びVH/VL領域配列並びにこれらの組み合わせ、並びに結合ドメインとしてDLL3結合ドメインを有する本発明に従ったポリペプチド又はポリペプチド構築物の二重特異性単鎖分子配列は、配列番号424~429、664+665、763、814において定義される。
【0123】
本発明のポリペプチド又はポリペプチド構築物の結合ドメインとしてのEGFRvIII結合ドメインについて好ましいCDR配列及びVH/VL領域配列並びにこれらの組み合わせ、並びに結合ドメインとしてEGFRvIII結合ドメインを有する本発明に従ったポリペプチド又はポリペプチド構築物の二重特異性単鎖分子配列は、配列番号436~441、668+669、765、789において定義される。
【0124】
本発明のポリペプチド又はポリペプチド構築物の結合ドメインとしてのFLT3結合ドメインについて好ましいCDR配列及びVH/VL領域配列並びにこれらの組み合わせ、並びに結合ドメインとしてFLT3結合ドメインを有する本発明に従ったポリペプチド又はポリペプチド構築物の二重特異性単鎖分子配列は、配列番号448~453、672+673、767、818、843において定義される。
【0125】
本発明のポリペプチド又はポリペプチド構築物の結合ドメインとしてのMAGEB2結合ドメインについて好ましいCDR配列及びVH/VL領域配列並びにこれらの組み合わせ、並びに結合ドメインとしてMAGEB2結合ドメインを有する本発明に従ったポリペプチド又はポリペプチド構築物の二重特異性単鎖分子配列は、配列番号460~465、472~477、676+677、680+681、769、771、823、825において定義される。
【0126】
本発明のポリペプチド又はポリペプチド構築物の結合ドメインとしてのMSLN結合ドメインについて好ましいCDR配列及びVH/VL領域配列並びにこれらの組み合わせ、並びに結合ドメインとしてMSLN結合ドメインを有する本発明に従ったポリペプチド又はポリペプチド構築物の二重特異性単鎖分子配列は、配列番号484~489、490~495、502~507、684+685、686+687、690+691、773、774、776、827において定義される。
【0127】
本発明のポリペプチド又はポリペプチド構築物の結合ドメインとしてのMUC17結合ドメインについて好ましいCDR配列及びVH/VL領域配列並びにこれらの組み合わせ、並びに結合ドメインとしてMUC17結合ドメインを有する本発明に従ったポリペプチド又はポリペプチド構築物の二重特異性単鎖分子配列は、配列番号514~519、694~695、778、829において定義される。
【0128】
本発明のポリペプチド又はポリペプチド構築物の結合ドメインとしてのPSMA結合ドメインについて好ましいCDR配列及びVH/VL領域配列並びにこれらの組み合わせ、並びに結合ドメインとしてPSMA結合ドメインを有する本発明に従ったポリペプチド又はポリペプチド構築物の二重特異性単鎖分子配列は、配列番号532~537、538~543、544~549、700+701、702+703、781、782、783、790、831において定義される。
【0129】
本発明はまた、第1の標的抗原結合ドメインを含むポリペプチド又はポリペプチド構築物の安定性を改善するための方法であって、当該第1の標的抗原結合ドメインが、ペプチドリンカーによって連結されたVH及びVL可変領域を含み、ペプチドリンカーが、S(G4S)n及び(G4S)nを含むか又はそれらからなり、nが整数1~20から選択される整数であり、当該S(G4S)n又は(G4S)nリンカーをペプチドリンカーで置換する工程を含み、ペプチドリンカーが、S(G4X)n若しくは(G4X)nを含むか又はそれからなり、XがQ、T、N、C、G、A、V、I、L、及びMからなる群から選択され、nが整数1~20から選択される整数である、方法にも関する。本発明の方法の好ましい実施形態では、整数nは、1、2、3、4、5又は6である。本発明に従って、S(G4X)n又は(G4X)nのXは、好ましくはQである。このようなものとして、ペプチドリンカーは、S(G4Q)n又は(G4Q)nである。好ましい実施形態では、ペプチドリンカーは(G4X)nであり、nは3であり、且つXはQである。この故に、ペプチドリンカーは(G4Q)3の形式を有する。本発明のポリペプチド又はポリペプチド構築物に関して本明細書で上述に説明される好ましい実施形態はすべて、安定性を改善するための方法にも適用される。このようなものとして、本発明の方法は、当該ポリペプチド又はポリペプチド構築物が、S(G4S)nリンカー及び(G4S)nリンカーを含み、次いでそれが当該ペプチドリンカーで置換されている場合、本明細書に列挙されるポリペプチド又はポリペプチド構築物のいずれかの安定性を改善するために使用することができ、ペプチドリンカーは、S(G4X)n若しくは(G4X)nを含むか又はそれからなり、Xは、Q、T、N、C、G、A、V、I、L、及びMからなる群から選択され、且つnは、本発明の方法によって整数1~20から選択される整数である。より具体的には、本発明は、以下の形式のポリペプチド又はポリペプチドの安定性を改善するための方法に関する。結合ドメイン1(VH/VL-ペプチドリンカー-VH/VL)-リンカー-結合ドメイン2(VH/VL-ペプチドリンカー-VH/VL);結合ドメイン1(VH/VL-ペプチドリンカー-VH/VL)-リンカー-結合ドメイン2(VH/VL-ペプチドリンカー-VH/VL)-HLEドメイン(アミノからカルボキシルに向かった順序);結合ドメイン1(VH/VL-ペプチドリンカー-VH/VL)-リンカー-結合ドメイン2(VH/VL-ペプチドリンカー-VH/VL)-リンカー-結合ドメイン3(VH/VL-ペプチドリンカー-VH/VL)-HLEドメイン(アミノからカルボキシルに向かった順序)、又は結合ドメイン1(VH/VL-ペプチドリンカー-VH/VL)-リンカー-結合ドメイン2(VH/VL-ペプチドリンカー-VH/VL)-リンカー-HLEドメイン-リンカー-結合ドメイン3(VH/VL-ペプチドリンカー-VH/VL)-リンカー-結合ドメイン4(VH/VL-ペプチドリンカー-VH/VL)(アミノからカルボキシルに向かった順序)であり、VH領域とVL領域を連結するペプチドリンカー、結合ドメイン又はHLEドメイン内のリンカー(本明細書で上述に定義のHLEドメイン)は、S(G4S)n及び(G4S)nを含むか、又はそれらからなり、nは整数1~20から選択される整数であり、当該S(G4S)n又は(G4S)nリンカーをペプチドリンカーで置換する工程を含み、当該ペプチドリンカーは、S(G4X)n若しくは(G4X)nを含むか又はこれからなり、Xは、Q、T、N、C、G、A、V、I、L、及びMからなる群から選択され、nは、整数1~20から選択される整数である。本発明の方法の好ましい実施形態では、整数nは、1、2、3、4、5又は6である。本発明によれば、S(G4X)n又は(G4X)nのXは、好ましくはQである。したがって、ペプチドリンカーは、S(G4Q)n又は(G4Q)nである。ポリペプチド又はポリペプチド構築物の形式の異なる形式の各位置に対する好ましいリンカーは、この実施形態にも適用される本発明のポリペプチド又はポリペプチド構築物に関して本明細書で上述に説明されている。
【0130】
本明細書で使用される「安定性の改善」は、クリッピング率の低減に関する。この故に、方法はまた、第1の標的抗原結合ドメインを含むポリペプチド又はポリペプチド構築物のクリッピング率を低減させるための方法であって、当該第1の標的抗原結合ドメインが、ペプチドリンカーによって連結されたVH及びVL可変領域を含み、このペプチドリンカーが、S(G4S)n及び(G4S)nを含むか又はこれからなり、nが、整数1~20から選択される整数である、方法とも呼ばれることができる。クリッピング率を決定するための好ましい方法は、実施例に説明されている。
【0131】
本発明はまた、本発明のポリペプチド又はポリペプチド構築物をコードするポリヌクレオチドにも関する。核酸分子は、ヌクレオチドからなるバイオポリマーである。ポリヌクレオチドは、鎖中で共有結合した13個以上のヌクレオチドモノマーから構成されるバイオポリマーである。DNA(cDNA等)及びRNA(mRNA等)は、異なる生物学的機能を有するポリヌクレオチド/核酸分子の例である。ヌクレオチドは、DNA又はRNAのような核酸分子のモノマー又はサブユニットとして機能する有機分子である。本発明の核酸分子又はポリヌクレオチドは、二本鎖又は一本鎖、線状又は環状であり得る。核酸分子又はポリヌクレオチドはベクターに含まれることが想定される。さらに、そのようなベクターは、宿主細胞に含まれることが想定される。当該宿主細胞は、例えば、本発明のベクター又はポリヌクレオチド/核酸分子による形質転換又は形質移入後、構築物を発現することができる。この目的のために、ポリヌクレオチド又は核酸分子は、制御配列に作動可能に連結されている。
【0132】
遺伝暗号は、遺伝物質(核酸)内でコードされる情報がタンパク質へと翻訳される規則のセットである。生細胞中での生物学的解読は、アミノ酸を運搬し、mRNA中の3つのヌクレオチドを一度に読み取るtRNA分子を使用して、mRNAによって指定された順にアミノ酸を連結するリボソームによって達成される。この暗号は、コドンと呼ばれる三つ組のヌクレオチド配列が、タンパク質の合成時に次に付加されることになるアミノ酸をどのように指定するかを定義する。いくつかの例外があるが、核酸配列中の3ヌクレオチドのコドンは、1つのアミノ酸を指定する。大部分の遺伝子は、厳密に同じ暗号で暗号化されているため、この特定の暗号を基準遺伝暗号又は標準遺伝暗号と称する場合が多い。
【0133】
コドンの縮重は、アミノ酸を指定する3塩基対コドンの複数の組み合わせとして示される遺伝暗号の重複性である。縮重は、コード可能なアミノ酸と比べてコドンが多数であるために生じる。1つのアミノ酸をコードするコドン(複数)は、その3つの位置のいずれかにおいて異なり得るが、多くの場合、この差異は、2番目又は3番目の位置にある。例えば、コドンGAA及びGAGは両方ともグルタミン酸を指定し、冗長性を示すが、いずれも他のアミノ酸を特定しておらず、したがって曖昧性を示さない。異なる生物の遺伝暗号は、他のものよりも同じアミノ酸をコードするいくつかのコドンのうちの1個を使用することに偏っている可能性があり、すなわち、1個の頻度は偶然によって予想されるよりも高い。例えば、ロイシンは、6つの別個のコドンにより指定され、そのうちのいくつかは、ほとんど使用されない。ほとんどの生物についてのゲノムコドン使用頻度を詳述するコドン使用表が利用可能である。組換え遺伝子技術では、コドン最適化と称される技術を実施することによって、この効果がよく利用され、ここで、例えばタンパク質発現を増大させるために、それぞれの宿主細胞(例えば、ヒト、ハムスター起源の細胞、大腸菌(Escherichia coli)細胞、又はサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)細胞)によって優先されるコドンを使用して、ポリヌクレオチドを設計する。したがって、本開示のポリヌクレオチド/核酸分子はコドン最適化されていることが想定される。それにもかかわらず、本発明の構築物をコードするポリヌクレオチド/核酸分子は、所望のアミノ酸をコードする任意のコドンを使用して設計され得る。
【0134】
一実施形態によれば、本発明のポリペプチド構築物をコードする本発明のポリヌクレオチド/核酸分子は、1個の単一分子の形態又は2個以上の別個の分子の形態である。本発明の構築物が一本鎖構築物である場合、そのような構築物をコードするポリヌクレオチド/核酸分子はまた、単一分子の形態である可能性が最も高い。しかしながら、ポリペプチド構築物の異なる構成要素(例えば、異なるドメイン、例えば、細胞表面抗原に結合するパラトープ(抗原結合(エピトープ結合)構造)含有ドメイン、CD3に結合するパラトープ(抗原結合(エピトープ結合)構造)含有ドメイン、及び/又は抗体定常ドメインなどのさらなるドメイン)が別個のポリペプチド鎖上に位置することも想定され、その場合、ポリヌクレオチド/核酸分子は2つ以上の別個の分子の形態である可能性が最も高い。
【0135】
同じことは、本発明のポリヌクレオチド/核酸分子を含むベクターにも当てはまる。本発明の構築物が一本鎖構築物である場合、1個のベクターは、構築物をコードするポリヌクレオチドを1つの場所(1つのオープンリーディングフレームとして、ORF)に含み得る。1個のベクターはまた、(個々のORFを有する)別々の位置に2個以上のポリヌクレオチド/核酸分子を含み得、それらの各々は、本発明の構築物の異なる構成要素をコードする。本発明のポリヌクレオチド/核酸分子を含むベクターは、1個の単一ベクター又は2個以上の別個のベクターの形態であることが想定される。一実施形態では、構築物を宿主細胞で発現させる目的のために、本発明の宿主細胞は、構築物をコードするポリヌクレオチド/核酸分子、又はそのようなポリヌクレオチド/核酸分子を全体に含むベクターを含むべきであり、これは、構築物のすべての構成要素(単一分子としてコードされるか、又は別々の分子/位置にコードされるかにかかわらず)が翻訳後に集合し、本発明の生物学的に活性のある構築物を一緒に形成することを意味する。
【0136】
さらに、本発明は、本発明のポリヌクレオチド/核酸分子を含むベクターに関する。ベクターは、通常、遺伝材料の複製及び/又は発現を確保するために、(外来性)遺伝材料を細胞内へと移入するためのビヒクルとして使用される核酸分子である。「ベクター」という用語は、プラスミド、ウイルス、コスミド、及び人工染色体を包含するが、これらに限定されない。いくつかのベクターはクローニング用に特別に設計されており(クローニングベクター)、他のベクターはタンパク質発現用に設計されている(発現ベクター)。いわゆる転写ベクターは主として、そのインサートを増幅するために使用される。DNAの操作は、通常、大腸菌(E.coli)ベクターに対して行われ、当該ベクターは、大腸菌(E.coli)内でのその維持に必要な要素を含有する。しかしながら、ベクターはまた、それらが酵母、植物又は哺乳動物細胞等の別の生物において維持されることを可能にする要素を有してもよく、これらのベクターはシャトルベクターと呼ばれる。標的又は宿主細胞中へのベクターの挿入は、通常、細菌細胞について形質転換と呼ばれ、そして真核細胞について形質移入と呼ばれる一方、ウイルスベクターの挿入は、多くの場合、形質導入と呼ばれる。
【0137】
一般に、操作されたベクターは、複製起点、マルチクローニング部位、及び選択可能なマーカーを含む。ベクター自体は、一般に、インサート(導入遺伝子)と、ベクターの「骨格」としての役割を果たす、より大きな配列とを含むヌクレオチド配列、通常、DNA配列である。遺伝暗号は所与のコード領域のポリペプチド配列を決定するが、他のゲノム領域は、これらのポリペプチドがいつどこで生成されるかに影響を及ぼし得る。それ故、現代のベクターは、導入遺伝子インサート及び骨格の他に、以下の追加の特徴を包含し得る:プロモーター、遺伝子マーカー、抗生物質耐性、レポーター遺伝子、ターゲティング配列、タンパク質精製タグ。発現ベクター(発現構築物)と呼ばれるベクターは、具体的には、標的細胞における導入遺伝子の発現のためのものであり、一般に制御配列を有する。
【0138】
「制御配列」という用語は、特定の宿主生物における作動可能に連結されたコード配列の発現に必要なDNA配列を指す。原核生物に適した制御配列として、例えば、プロモーター、場合によってはオペレーター配列、及びリボソーム結合部位が挙げられる。真核細胞は、プロモーター、ポリアデニル化シグナル、コザック配列及びエンハンサーを利用することが公知である。
【0139】
核酸は、この核酸が別の核酸配列と機能的関連性に置かれる場合、「作動可能に連結されて」いる。例えば、プレ配列又は分泌リーダーのDNAは、このDNAがポリペプチドの分泌に関与するプレタンパク質として発現される場合、このポリペプチドのDNAに作動可能に連結されているか、プロモーター又はエンハンサーは、これが配列の転写に影響を及ぼす場合、コード配列に作動可能に連結されているか、又はリボソーム結合部位は、このリボソーム結合部位が翻訳を促進するために配置される場合、コード配列に作動可能に連結されている。概して、「作動可能に連結されている」とは、連結されているヌクレオチド配列が連続的であり、そして分泌リーダーの場合には、連続的であり、且つリーディングフェーズにあることを意味する。しかしながら、エンハンサーは、連続している必要はない。連結は、都合のいい制限部位でのライゲーションによって達成される。このような部位が存在しない場合、従来の慣例に従い、合成オリゴヌクレオチドアダプター又はリンカーを使用する。
【0140】
「形質移入」は、標的細胞内へ核酸分子又はポリヌクレオチド(ベクターを含む)を意図的に導入するプロセスである。この用語は主として、真核細胞における非ウイルス性の方法に用いられる。形質導入を使用して、核酸分子又はポリヌクレオチドのウイルス媒介性移入を説明することが多い。動物細胞の形質移入は、典型的に、細胞膜に一過性の細孔又は「穴」を開けて材料の取込みを可能にすることを伴う。形質移入は、生物学的粒子(例えば、ウイルス形質導入とも称されるウイルス形質移入)、化学物質ベースの方法(例えば、リン酸カルシウム、リポフェクション、Fugene、カチオン性ポリマー、ナノ粒子を使用するなど)、又は物理的処理(例えば、電気穿孔、マイクロインジェクション、遺伝子銃、細胞スクイージング、マグネトフェクション、静水圧、インペイルフェクション、音波処理、光学的形質移入、熱ショック)を使用して実行することができる。
【0141】
「形質転換」という用語は、細菌及び、植物細胞を含む非動物真核細胞への核酸分子又はポリヌクレオチド(ベクターを含む)の非ウイルス移入を説明するために使用される。それ故に、形質転換は、細胞膜を通じたその周辺からの直接的取込み、及びそれに続く外来性遺伝子材料(核酸分子)の組込みから生じる、細菌又は非動物真核細胞の遺伝的改変である。形質転換は、人為的手段によって達成することができる。形質転換が起こるには、細胞又は細菌がコンピテンスの状態でなければならず、これは、飢餓及び細胞密度等の環境条件に対する時間的に限られた応答として生じ得、そしてまた、人為的に誘導することもできる。
【0142】
その上、本発明は、本発明のポリヌクレオチド/核酸分子又は本発明のベクターにより形質転換又は形質移入された宿主細胞を提供する。
【0143】
本明細書で使用される場合、「宿主細胞」又は「レシピエント細胞」という用語は、本発明の構築物をコードするベクター、外来性核酸分子及び/又はポリヌクレオチドのレシピエントであり得るか又は当該レシピエントであったいずれかの個々の細胞又は細胞培養物、並びに/或いは構築物自体のレシピエントを含むことを意図している。細胞内への個々の材料の導入は、形質転換、形質移入、及び同類のものにより実行される(上述参照)。「宿主細胞」という用語はまた、単一細胞の継代又は潜在的な継代を含むことも意図する。後継世代において、自然発生的、偶発的、若しくは意図的な突然変異のいずれかに起因して、又は環境的影響に起因して、ある特定の修飾が生じる場合があるため、そのような継代は、実際には、(形態学的性質において、又はゲノムDNA若しくは総DNA補足因子において)親細胞と完全に同一ではない場合もあるが、依然として本明細書で使用される当該用語の範囲内に含まれる。適切な宿主細胞として、原核細胞又は真核細胞が挙げられ、そして、以下に限定されないが、細菌(大腸菌(E.coli)など)、酵母細胞、真菌細胞、植物細胞、及び動物細胞(例えば昆虫細胞、及び哺乳動物細胞、例えば、ハムスター、マウス、ラット、マカク、又はヒト)が挙げられる。
【0144】
原核生物に加えて、糸状菌又は酵母などの真核微生物が本発明の構築物に適したクローニング又は発現宿主である。サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、又は一般的なパン酵母は、下等真核生物宿主微生物の中で最も一般的に使用される。しかしながら、いくつかの他の属、種及び系統が一般に利用可能であり、且つ本発明において有用であり、例えばシゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、K.ラクチス(K.lactis)、K.フラジリス(K.fragilis)(ATCC 12424)、K.ブルガリクス(K.bulgaricus)(ATCC 16045)、K.ウィッカラミイ(K.wickeramii)(ATCC 24178)、K.ワルチイ(K.waltii)(ATCC 56500)、K.ドロソフィラルム(K.drosophilarum)(ATCC 36906)、K.サーモトレランス(K.thermotolerans)及びK.マルキサヌス(K.marxianus)などのクリベロマイセス属(Kluyveromyces)宿主;ヤロウイア属(yarrowia)(欧州特許第402226号明細書);ピキア・パストリス(Pichia pastoris)(欧州特許第183070号明細書);カンジダ属(Candida);トリコデルマ・レシア(Trichoderma reesia)(欧州特許第244234号明細書);ニューロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa);シュワニオミセス・オクシデンタリス(Schwanniomyces occidentalis)などのシュワニオミセス属(Schwanniomyces);並びに糸状菌、例えばニューロスポラ属(Neurospora)、ペニシリウム属(Penicillium)、トリポクラジウム属(Tolypocladium)及びアスペルギルス属(Aspergillus)宿主、例えばA.ニデュランス(A.nidulans)及びA.ニガー(A.niger)が挙げられる。
【0145】
グリコシル化された構築物の発現に適した宿主細胞は、多細胞生物に由来する。無脊椎動物細胞の例として、植物細胞及び昆虫細胞が挙げられる。多くのバキュロウイルス株及びバリアント並びにヨトウガ(Spodoptera frugiperda)(イモムシ)、ネッタイシマカ(Aedes aegypti)(蚊)、ヒトスジシマカ(Aedes albopictus)(蚊)、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)(ショウジョウバエ)及びカイコ(Bombyx mori)(家蚕)などの宿主由来の対応する許容される昆虫宿主細胞が同定されている。形質移入のための種々のウイルス株(例えば、オートグラファ・カリフォルニア(Autographa californica)NPVのL-1バリアント、及びカイコ(Bombyx mori)NPVのBm-5株)が公的に入手可能であり、そのようなウイルスは、本明細書で、本発明によるウイルスとして使用され得、特にヨトウガ(Spodoptera frugiperda)細胞の形質移入に使用され得る。
【0146】
綿、トウモロコシ、ジャガイモ、ダイズ、ペチュニア、トマト、シロイヌナズナ及びタバコの植物細胞培養物も宿主として使用することができる。植物細胞培養におけるタンパク質の産生に有用なクローニング及び発現ベクターは、当業者に公知である。例えば、Hiatt et al.,Nature(1989)342:76-78、Owen et al.(1992)Bio/Technology 10:790-794、Artsaenko et al.(1995)The Plant J 8:745-750及びFecker et al.(1996)Plant Mol Biol 32:979-986を参照されたい。
【0147】
しかしながら、最も高い関心が持たれてきたのは、脊椎動物細胞であり、培養下(細胞培養下)での脊椎動物細胞の増殖は日常的手順となっている。有用な哺乳動物宿主細胞株の例は、SV40によって形質転換されたサル腎臓CV1株(COS-7、ATCC CRL 1651など)、ヒト胚性腎臓株(293細胞又は懸濁培養物中での成長のためにサブクローニングした293細胞など、Graham et al.,J.Gen Virol.36:59(1977))、仔ハムスター腎細胞(BHK、ATCC CCL 10など)、チャイニーズハムスター卵巣細胞/-DHFR(CHOなど、Urlaub et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:4216(1980))、マウスセルトリ細胞(TM4など、Mather,Biol.Reprod.23:243-251(1980));サル腎細胞(CVI ATCC CCL 70など)、アフリカミドリザル腎細胞(VERO-76、ATCC CRL1587など)、ヒト子宮頸癌細胞(HELA、ATCC CCL 2など)、イヌ腎細胞(MDCK、ATCC CCL 34など)、バッファローラット肝細胞(BRL 3A、ATCC CRL 1442など)、ヒト肺細胞(W138、ATCC CCL 75など)、ヒト肝細胞(Hep G2、1413 8065など)、マウス乳腺腫瘍(MMT 060562、ATCC CCL-51など)、TRI細胞(Mather et al.,Annals N.Y Acad.Sci.(1982)383:44-68)、MRC 5細胞、FS4細胞、及びヒト肝細胞腫株(Hep G2など)である。
【0148】
さらなる実施形態では、本発明は、本発明のポリペプチド又はポリペプチド構築物の製造のための方法であって、本発明の構築物の発現を可能にする条件下で本発明の宿主細胞を培養することと、産生された構築物を培養物から回収することとを含む方法を提供する。
【0149】
本明細書で使用する場合、「培養すること」という用語は、培地中の適切な条件下での細胞のインビトロでの維持、分化、成長、増殖(proliferation)及び/又は増殖(propagation)を指す。細胞は、細胞成長培地中で、適切な温度及び混合気体にて成長し、維持される。培養条件は、各細胞型について幅広く異なる。典型的な成長条件は、約37℃の温度、約5%のCO2濃度及び約95%の湿度である。成長培地のためのレシピは、例えば、pH、炭素源(例えばグルコース)の濃度、成長因子の性質及び濃度、並びに他の栄養素(例えば、アミノ酸又はビタミン)の存在が異なり得る。補足培地に使用される成長因子は、多くの場合、動物血液の血清(例えば、胎仔ウシ血清(FBS)、仔ウシ血清(FCS)、ウマ血清、及びブタ血清)に由来する。細胞は、懸濁培養中で又は接着培養物としてのいずれかで成長させることができる。また、懸濁培養下で生存可能であるように修飾されているので、付着条件よりも高い密度に成長し得る細胞株が存在する。
【0150】
「発現」という用語は、転写、転写後修飾、翻訳、折り畳み、翻訳後修飾、特定の細胞内又は細胞外位置へのターゲティング、及び分泌を含むがこれらに限定されない本発明の構築物の製造に関与するいずれかの工程を含む。「回収する」という用語は、細胞培養物から構築物を単離することを意図した一連のプロセスを指す。「回収」又は「精製」のプロセスは、細胞培養物のタンパク質部分と非タンパク質部分とを分離し、最終的に所望の構築物を他のすべてのポリペプチド及びタンパク質から分離することができる。分離工程は、通常、タンパク質サイズ、物理化学的特性、結合親和性及び生物学的活性の違いを利用する。分取精製は、その後の使用のために比較的大量の精製タンパク質を生成することを目的とするが、分析精製は、様々な研究又は分析目的のために比較的少量のタンパク質を生成する。
【0151】
組換え技術を使用する場合、構築物は、細胞膜周辺腔において細胞内で産生され得るか、又は培地中に直接分泌され得る。構築物が細胞内で産生される場合、第1の段階として、例えば遠心分離又は限外濾過により、宿主細胞又は溶解した断片の粒子状の細片を除去する。本発明の構築物は、例えば、大腸菌(E.coli)等の細菌内で産生され得る。発現後、構築物を細菌細胞ペーストから可溶性画分で単離し、例えばアフィニティークロマトグラフィー及び/又はサイズ排除を介して精製することができる。最終的な精製は、哺乳動物細胞内で発現して培地中へと分泌された構築物を精製するたえのプロセスと同じように実行することができる。Carter et al.(Biotechnology(NY)1992 Feb;10(2):163-7)は、大腸菌(E.coli)の細胞周辺腔に分泌される抗体を単離する手順を説明する。
【0152】
抗体が培地中に分泌される場合、そのような発現系由来の上清は、概して初めに、市販のタンパク質濃縮フィルタ、例えば限外濾過ユニットを使用して濃縮される。
【0153】
宿主細胞から調製された本発明の構築物は、例えば、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、及びアフィニティークロマトグラフィーを使用して回収又は精製することができる。イオン交換カラムでの分画、混合モードイオン交換、HIC、エタノール沈殿、サイズ排除クロマトグラフィー、逆相HPLC、シリカでのクロマトグラフィー、ヘパリンセファロースでのクロマトグラフィー、アニオン又はカチオン交換樹脂(ポリアスパラギン酸カラム等)でのクロマトグラフィー、免疫親和性(プロテインA/G/L等)クロマトグラフィー、クロマトフォーカシング、SDS-PAGE、超遠心分離、及び硫酸アンモニウム沈殿等のタンパク質精製のための他の技術もまた、回収される構築物に応じて利用可能である。
【0154】
上述の工程のいずれでも、タンパク質分解を阻害するためにプロテアーゼ阻害薬が含まれ得、汚染物質の成長を防止するために抗生物質が含まれ得る。
【0155】
その上、本発明は、本発明のポリペプチド若しくはポリペプチド構築物又は本発明の方法によって産生されたポリペプチド若しくはポリペプチド構築物を含む医薬組成物又は製剤を提供する。本明細書で使用する場合、「医薬組成物」という用語は、患者、好ましくはヒト患者への投与に適切である組成物に関する。本発明の特に好ましい医薬組成物は、1つ又は複数の本発明の構築物を好ましくは治療有効量で含む。好ましくは、医薬組成物は、1つ以上の(医薬として有効な)担体、安定剤、賦形剤、希釈剤、可溶化剤、界面活性剤、乳化剤、保存剤及び/又はアジュバントの好適な製剤をさらに含む。組成物の許容可能な成分は、好ましくは、使用される投与量及び濃度でレシピエントに対して非毒性である。本発明の医薬組成物には、液体、凍結及び凍結乾燥組成物が含まれるが、これらに限定されない。
【0156】
当該組成物は、医薬として許容可能な担体を含み得る。一般に、本明細書で使用する場合、「医薬として許容され得る担体」は、医薬の投与、特に非経口投与に適合するすべての水性及び非水性溶液、滅菌溶液、溶媒、緩衝液、例えばリン酸緩衝塩類溶液(PBS)液剤、水、懸濁剤、油/水エマルションなどのエマルション、様々な種類の湿潤剤、リポソーム、分散媒体及びコーティングを意味する。医薬組成物におけるそのような媒体及び作用因子の使用は、当該技術分野で周知であり、そのような担体を含む組成物は、周知の従来法によって製剤化することができる。
【0157】
ある特定の実施形態は、本発明の構築物及びさらに1つ以上の賦形剤、例えば本節及び本明細書の他の箇所に例示的に説明されているものを含む医薬組成物を提供する。本発明では、賦形剤を多様な目的(例えば、製剤の物理的特性、化学的特性若しくは生物学的特性の調整(例えば、粘度の調整))のために使用し得、並びに/又は有効性を改善するために、且つ/若しくは例えば製造、出荷、貯蔵、使用前調製、投与及びその後に生じるストレスに起因する分解及び変質に対してそのような製剤及びプロセスを安定化させるために本発明のプロセスで使用し得る。賦形剤は、一般に、最も低い有効濃度で使用されるものとする。
【0158】
ある特定の実施形態では、医薬組成物は、pH、モル浸透圧濃度、粘度、透明度、色、等張性、臭気、無菌性、安定性、溶解速度又は放出速度、吸着又は浸透(Remington’s Pharmaceutical Sciences,18”Edition,1990,Mack Publishing Companyを参照されたい)等の組成物の特定の特性を改変、維持又は保存するための製剤材料を含有し得る。このような実施形態では、好適な製剤材料は、以下を含み得るが、これらに限定されない:
・アミノ酸
・抗菌薬及び抗真菌薬等の抗微生物薬
・酸化防止剤
・組成物を生理的pH又はそれよりわずかに低いpHで維持し、典型的には約5~約8又は9のpH範囲内に維持するために使用される緩衝液、緩衝液系及び緩衝剤
・非水性溶媒、植物油及び注射用有機エステル
・水等の水性担体、アルコール性/水性溶液、エマルション又は懸濁液、例えば生理塩類溶液及び緩衝媒体
・ポリエステル等の生分解性ポリマー
・増量剤
・キレート剤
・等張剤及び吸収遅延剤
・錯化剤
・充填剤
・炭水化物
・好ましくは、ヒト起源の(低分子量)タンパク質、ポリペプチド又はタンパク質性担体
・着色料及び着香料
・含硫還元剤
・希釈剤
・乳化剤
・親水性ポリマー
・塩形成対イオン
・保存剤
・金属錯体
・溶媒及び共溶媒
・糖類及び糖アルコール類
・懸濁剤
・界面活性剤又は湿潤剤
・安定促進剤
・等張増強剤
・非経口送達媒体
・静脈内送達媒体。
【0159】
医薬組成物の種々の構成成分が異なる効果を有し得ることは常識であり、例えば、アミノ酸は、緩衝液、安定剤及び/又は抗酸化剤としての役割を果たし得;マンニトールは、増量剤及び/又は等張化促進剤としての役割を果たし得;塩化ナトリウムは、送達媒体及び/又は等張化促進剤としての役割を果たし得る等である。
【0160】
本発明の文脈において、医薬組成物は、以下:
(a)本明細書に説明のポリペプチド又はポリペプチド構築物、
(b)少なくとも1種の緩衝剤、
(c)少なくとも1種の糖類、及び
(d)少なくとも1種の界面活性剤
を含み得、医薬組成物のpHは、3.5~6の範囲である。
【0161】
上述の組成物において、第1のドメインは、好ましくは、4~9.5の範囲の等電点(pI)を有し、第2のドメインは、8~10、好ましくは8.5~9.0の範囲のpIを有し、構築物は、それぞれがヒンジ、CH2ドメイン及びCH3ドメインを含む2個のポリペプチドモノマーを含む第3のドメインを場合により含み、当該2個のポリペプチドモノマーは、ペプチドリンカーを介して互いに融合されている。
【0162】
上述の組成物において、少なくとも1つの緩衝剤は、5~200mMの濃度範囲、より好ましくは10~50mMの濃度範囲で存在することがさらに想定される。少なくとも1つの糖類が、単糖類、二糖類、環状多糖類、糖アルコール、直鎖分岐デキストラン又は直鎖非分岐デキストランからなる群から選択されることも想定される。二糖は、スクロース、トレハロース及びマンニトール、ソルビトール、並びにそれらの組み合わせからなる群から選択されることも想定される。糖アルコールがソルビトールであることがさらに想定される。少なくとも1つの糖類は、1~15%(m/V)の範囲の濃度、好ましくは9~12%(m/V)の濃度範囲で存在することも想定される。構築物は、0.1~8mg/ml、好ましくは0.2~2.5mg/ml、より好ましくは0.25~1.0mg/mlの濃度範囲で存在することがさらに想定される。
【0163】
上述の組成物の一実施形態によれば、少なくとも1つの界面活性剤は、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート80、ポロキサマー188、プルロニックF68、トリトンX-100、ポリオキシエチレン、PEG 3350、PEG 4000及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。さらに、少なくとも1つの界面活性剤は、0.004~0.5%(m/V)の範囲、好ましくは0.001~0.01%(m/V)の範囲の濃度で存在することが想定される。組成物のpHは、4.0~5.0の範囲、好ましくは4.2であることが想定される。また、医薬組成物は、150~500mOsmの範囲のオスモル濃度を有することも想定される。さらに、医薬組成物は、1つ以上のポリオール及び1つ以上のアミノ酸からなる群から選択される賦形剤をさらに含むことが想定される。本発明の文脈において、当該1つ以上の賦形剤が0.1~15%(w/V)の濃度範囲で存在することが想定される。
【0164】
本発明はまた、(a)好ましくは0.1~8mg/ml、好ましくは0.2~2.5mg/ml、より好ましくは0.25~1.0mg/mlの濃度範囲の本明細書に説明する構築物、(b)10mMグルタマート又はアセタート、(c)9%(m/V)スクロース又は6%(m/V)スクロース及び6%(m/V)ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、(d)0.01%(m/V)ポリソルベート80、を含む医薬組成物であって、当該液体医薬組成物のpHが4.2である、医薬組成物も提供する。
【0165】
本発明の組成物は、本明細書で定義される本発明の構築物に加えて、組成物の使用目的に応じてさらなる生物学的に活性のある作用因子を含む場合があることが想定される。かかる薬剤は、胃腸系に作用する薬物、細胞増殖抑制剤として作用する薬物、高尿酸血症を予防する薬物、免疫応答を抑制する薬物、炎症反応を調節する薬物、循環系に作用する薬物及び/又は当該技術分野において公知のサイトカインなどの薬剤である可能性がある。また、本発明のポリペプチド構築物は、併用療法で、すなわち別の抗癌薬と併用して適用されることも想定される。
【0166】
これに関連して、本発明の医薬組成物(本明細書で上述により詳細に説明されるように、CD3結合ドメインと、細胞表面標的抗原、好ましくは標的細胞の表面上の腫瘍抗原に結合する少なくとも1つのさらなる結合ドメインとを含む構築物を含む)は、免疫チェックポイント経路のタンパク質(PD-1又はCTLA-4など)に、又は共刺激免疫チェックポイント受容体(4-1BBなど)に結合する作用因子、好ましくは抗体又は構築物をさらに含むことが想定される。本発明はまた、本発明によるポリペプチド構築物(本明細書で上述により詳細に説明されるように、CD3結合ドメインと、細胞表面標的抗原、好ましくは標的細胞の表面上の腫瘍抗原に結合する少なくとも1つのさらなる結合ドメインとを含む構築物を含む)と、免疫チェックポイント経路のタンパク質(PD-1又はCTLA-4など)又は共刺激免疫チェックポイント受容体(4-1BBなど)に結合する作用因子、好ましくは抗体又はポリペプチド構築物との組み合わせも指す。組み合わせの少なくとも2個の成分の性質、すなわちそれらの医薬活性のために、当該組み合わせは治療上の組み合わせとも称することができる。いくつかの実施形態では、組み合わせは、医薬組成物又はキットの形態であり得る。一実施形態によれば、医薬組成物又は組み合わせは、本発明の構築物及びPD-1に結合する抗体又は構築物を含む。この目的に有用な抗PD-1結合タンパク質は、例えば、参照により本明細書に組み込まれるPCT/US2019/013205号明細書に詳細に説明されている。
【0167】
ある特定の実施形態において、最適な医薬組成物は、例えば、意図される投与経路、送達形式及び所望の投薬量に応じて決まる。例えば、前掲のRemington’s Pharmaceutical Sciencesを参照されたい。ある特定の実施形態において、かかる組成物は、本発明の構築物の物理的状態、安定性、インビボ放出速度及びインビボクリアランス速度に影響し得る。ある特定の実施形態では、医薬組成物中の主なビヒクル又は担体は、実際は、水性又は非水性のいずれかであり得る。例えば、好適なビヒクル又は担体は、場合により非経口投与用組成物によく見られる他の材料が補充された注射用水又は生理塩類溶液であり得る。ある特定の実施形態において、本発明の構築物を含む組成物は、所望の程度の純度を有する選択された成物を、任意選択の製剤化作用因子(Remington’s Pharmaceutical Sciences,前掲)と混合することにより、凍結乾燥ケーク又は水溶液の形態で貯蔵のために調製され得る。さらに、ある特定の実施形態において、本発明の構築物は、適切な賦形剤を使用して凍結乾燥物として製剤化され得る。
【0168】
非経口投与が企図される場合、本発明における使用のための治療用組成物は、医薬として許容され得るビヒクル中に本発明の所望の構築物を含む、発熱物質非含有の非経口的に許容され得る水溶液の形態で提供され得る。非経口注射に特に好適なビヒクルは、滅菌蒸留水であり、この滅菌蒸留水中で、本発明の構築物は、適切に保存された滅菌等張溶液として製剤化される。ある特定の実施形態において、この調製には、デポー注射によって送達することのできる製剤の制御放出又は持続放出をもたらし得る薬剤又は循環中における有効時間の持続を促進し得る作用因子と共に所望の分子を製剤化することが関わり得る。ある特定の実施形態では、移植可能な薬物送達デバイスを使用して、所望の構築物を導入し得る。
【0169】
さらなる医薬組成物は、本発明の構築物を持続送達製剤又は制御送達製剤に含む製剤を含めて、当業者には明らかであろう。種々の持続送達手段又は制御送達手段を製剤化するための技法は、当業者に公知である。構築物はまた、例えば、コアセルベート技術又は界面重合によって、コロイド薬物送達系において、又はマクロエマルションにおいて調製されたマイクロカプセルに封入され得る。そのような技術は、前掲のRemington’s Pharmaceutical Sciencesに開示されている。
【0170】
インビボ投与に用いられる医薬組成物は、通常、滅菌製剤として提供される。滅菌は、滅菌濾過膜による濾過によって達成することができる。組成物を凍結乾燥させる場合、当該方法を使用する滅菌は、凍結乾燥及び再構成の前又は後に行われ得る。非経口投与用組成物は、凍結乾燥形態で又は溶液中で保存することができる。非経口組成物は、概して、滅菌アクセスポートを有する容器、例えば皮下注射針で穿刺可能な栓を有する静脈内注射用溶液バッグ又はバイアルに入れられる。
【0171】
本発明の別の態様は、本発明の構築物を含む自己緩衝製剤を含み、国際公開第2006/138181号パンフレットに説明される通り、これは、医薬組成物として使用することができるものである。タンパク質の安定化、並びにこれに関して有用な製剤材料及び方法について、Arawaka T.et al.,Pharm Res.1991 Mar;8(3):285-91、Kendrick et al.“Physical stabilization of proteins in aqueous solution”in:Rational Design of Stable Protein Formulations:Theory and Practice,Carpenter and Manning,eds.Pharmaceutical Biotechnology.13:61-84(2002)、及びRandolph and Jones,Pharm Biotechnol.2002;13:159-75など、様々な公表物が利用可能であり、特に、賦形剤及び自己緩衝タンパク質製剤のためのプロセス、特に獣医学及び/又はヒト医学での使用のためのタンパク質医薬品並びにプロセスに関する部分を参照されたい。
【0172】
塩は、本発明のある特定の実施形態に従って、例えば組成物若しくは製剤のイオン強度及び/若しくは等張性を調整するために、並びに/又は本発明に従った組成物の構築物若しくは他の成分の溶解度及び/若しくは物理的安定性を改善するために使用され得る。イオンは、タンパク質の表面上の帯電した残基へ結合することにより、且つタンパク質の帯電した基及び極性基を遮蔽し、その静電相互作用、引力、及び斥力相互作用の強度を低減させることにより、天然状態のタンパク質を安定化させることができる。イオンはまた、特にタンパク質の変性ペプチド結合(--CONH)に結合することによって変性状態のタンパク質を安定化することもできる。さらに、タンパク質中の帯電した基及び極性基とのイオン相互作用は、また、分子間静電相互作用を低減させることもでき、それによりタンパク質の凝集及び不溶化を防止又は低減することもできる。
【0173】
イオン種は、タンパク質に対するその効果が著しく異なる。本発明に従って医薬組成物を製剤化する際に使用することができるイオンのいくつかのカテゴリー順位及びタンパク質に対するそれらの効果が開発されている。一例は、イオン性溶質及び極性非イオン性溶質を溶液中のタンパク質の立体配座安定性に対する効果によって順位付けするホーフマイスターの系列である。安定化する溶質は、「コスモトロピック」と称される。不安定化する溶質は、「カオトロピック」と称される。コスモトロープは、一般に、溶液からタンパク質を沈殿させるため高濃度で使用される(「塩析」)。カオトロープは、一般に、タンパク質を変性させ及び/又は可溶化するために使用される(「塩溶」)。「塩溶」及び「塩析」に対するイオンの相対的な有効性により、ホーフマイスターの系列でのイオンの位置が定義される。
【0174】
遊離アミノ酸は、増量剤、安定剤及び酸化防止剤として、並びに他の標準的な使用のために、本発明の様々な実施形態による本発明の構築物を含む製剤又は組成物において使用することができる。ある特定のアミノ酸は、製剤中のタンパク質を安定化するために使用することができ、他のアミノ酸は、有効成分の正しいケーク構造及び特性を確実にするために凍結乾燥の間に有用である。いくつかのアミノ酸は、液体製剤及び凍結乾燥製剤の両方でタンパク質凝集を阻害するのに有用であり得、他のアミノ酸は酸化防止剤として有用である。
【0175】
ポリオール類は、コスモトロピックであり、液体製剤及び凍結乾燥製剤の両方で安定剤としてタンパク質を物理的及び化学的な分解過程から保護するのに有用である。ポリオール類はまた、製剤の張性を調整するためにも、及び輸送中の凍結融解ストレスから保護することのためにも、又は製造過程の間のバルク調製のためにも有用である。ポリオール類は、本発明の文脈において凍結保護物質としても機能することができる。
【0176】
本発明の構築物を含む製剤又は組成物のある特定の実施形態は、界面活性剤を含むことができる。タンパク質は、表面に吸着しやすく、変性しやすく、結果的に、気-液界面、固-液界面、及び液-液界面で凝集しやすい。これらの有害相互作用は、概してタンパク質濃度と逆比例して規模が増減し、典型的には、製品の配送及び取り扱いの間に生じるものなど、物理的動揺によって悪化する。界面活性剤は、表面吸着を防止するか、最小限にするか、又は低減するために日常的に使用されている。界面活性剤はまた、タンパク質の立体配座の安定性を制御するために通常使用される。これに関して、1つの特定の界面活性剤が典型的には一部のタンパク質を安定させ、他のタンパク質を不安定にするであろうことから、界面活性剤の使用は、タンパク質特異的である。
【0177】
本発明の構築物を含む製剤又は組成物のある特定の実施形態は、1つ以上の酸化防止剤を含むことができる。医薬製剤中のタンパク質の有害な酸化は、適切なレベルの周囲酸素及び周囲温度を維持することによって、且つ光への曝露を回避することによって、ある程度まで防止することができる。酸化防止賦形剤はまた、タンパク質の酸化分解を防止するために使用することもできる。本発明による治療用タンパク質製剤に使用するための酸化防止剤は水溶性であり、製品(構築物を含む組成物)の貯蔵寿命を通してそれらの活性を維持することができることが想定される。酸化防止剤はまた、タンパク質を損傷する可能性があり、この故に、とりわけ、酸化防止剤が製剤中の構築物又は他のタンパク質を損傷する可能性を排除する又は十分に低減する方法で選択されるべきである。
【0178】
本発明の構築物を含む製剤又は組成物のある特定の実施形態は、1つ以上の保存剤を含むことができる。保存剤は、例えば、同じ容器から2回以上取り出すことが関わる複数回用量非経口製剤を展開する場合に必要である。その主な機能は、製剤の貯蔵寿命又は使用期間に渡って微生物の成長を阻害し、製品の無菌性を確保することである。保存剤には、小分子非経口物質と共に使用されてきた長い歴史があるが、保存剤を含むタンパク質製剤の開発は難題であり得る。保存剤は、タンパク質に不安定効果(凝集)を及ぼすことが極めて多く、これは、複数回用量タンパク質製剤におけるその使用が制限される主因になっている。現在に至るまで、ほとんどのタンパク質薬は、単回使用向けとしてのみ製剤化されている。しかしながら、複数回用量製剤が可能である場合、患者の利便性及び高い市場性を実現するという利点が加わる。保存処理された製剤の開発により、より便利な複数回使用の注射ペンの提案が製品化につながったヒト成長ホルモン(hGH)は、その好例である。保存処理された剤形の製剤化及び開発の間は、いくつかの態様を考慮する必要がある。薬物製品中における有効保存剤濃度が最適化されていなければならない。これには、タンパク質安定性を損なうことなく抗微生物有効性を付与する濃度範囲に関して剤形における所与の保存剤を試験する必要がある。
【0179】
予想される通り、保存剤を含有する液体製剤の開発は、凍結乾燥製剤よりも困難である。フリーズドライ製品は、保存剤なしに凍結乾燥させ、使用時に保存剤を含有する希釈剤で再構成することができる。これにより、保存剤が構築物と接触している時間が短縮され、付随する安定性リスクが大幅に小さく抑えられる。液体製剤では、製品の全有効期間に渡って保存剤の有効性及び安定性が維持されるべきである。注意すべき重要な点として、保存剤の有効性は、活性薬物及びすべての賦形剤成分を含有する最終製剤において実証される必要がある。医薬組成物を製剤化した後、それを液剤、懸濁剤、ゲル剤、エマルション剤、固形剤、結晶剤として、又は脱水散剤若しくは凍結乾燥散剤として、無菌バイアル内に保存されてもよい。このような製剤は、使用準備済の形態又は投与前に再構成される(例えば、凍結乾燥)形態のいずれかで保存され得る。
【0180】
本明細書で定義される医薬組成物の生物活性は、例えば、以下の実施例において、国際公開第99/54440号パンフレットにおいて、又はSchlereth et al.(Cancer Immunol.Immunother.20(2005),1-12)によって説明されるように、インビトロ細胞障害性アッセイによって決定することができる。本明細書で使用される「有効性」又は「インビボ有効性」は、例えば、標準化されたNCI応答基準を使用した、本発明の製剤の医薬組成物による療法に対する応答を指す。本発明の医薬組成物を用いる療法の成功又はインビボ有効性は、その意図された目的、すなわち組成物がその所望の効果、すなわち病的細胞、例えば腫瘍細胞の激減を引き起こす能力に関する組成物の有効性を指す。インビボ有効性は、白血球数、分化、蛍光細胞分析分離、骨髄吸引を含むがこれらに限定されない、それぞれの疾患実体について確立された標準的な方法によって監視され得る。さらに、様々な疾患特異的臨床化学パラメータ及び他の確立された標準的な方法を使用することができる。さらに、コンピュータ支援断層撮影、X線、核磁気共鳴断層撮影、陽電子放射断層撮影走査、リンパ節生検/組織学的方法、及び他の確立された標準的な方法を使用することができる。
【0181】
本発明の医薬組成物等の薬物の開発における別の主要な課題は、薬物動態特性の予測可能な調節である。この目的のために、薬物候補の薬物動態プロファイル、すなわち所与の状態を治療する具体的な薬物の能力に影響を及ぼす薬物動態パラメータのプロファイルを確立することができる。ある種の疾患を処置するための薬物の能力に影響する薬物の薬物動態パラメータは、半減期、分布容積量、肝臓の初回通過代謝及び血清結合の程度が挙げられるが、これらに限定されない。所与の薬物の有効性は、上述のパラメータの各々によって影響を受ける可能性がある。
【0182】
「半減期」は、量がその初期値の半分まで低下するのに必要な時間である。医科学では、人体における物質又は薬物の半減期を指す。医学的に関連して、半減期とは、物質/薬物がその活性、例えば薬理学的、生理学的又は放射線学的活性の2分の1を失うまでにかかる時間を指し得る。半減期はまた、血漿/血清中の薬物又は物質(例えば、本発明の構築物)の濃度がその定常状態値の半分に達するのにかかる時間(「血清半減期」)を表し得る。典型的には、投与された物質/薬物の排除又は除去は、腎臓及び肝臓の機能も含む代謝、排泄等の生物学的プロセスを介した身体の洗浄を指す。「初回通過代謝」は、薬物が循環に到達する前にその濃度が低減する薬物代謝現象である。これは、吸収過程で失われた薬物の割合である。したがって、「肝臓初回通過代謝」とは、肝臓と最初に接触したとき、すなわち肝臓を最初に通過する間に薬物が代謝される傾向を意味する。「分布容積量」(VD)は、血漿よりもむしろ薬物が体組織に分布する程度を意味し、VDが高いほど組織分布の量が多いことを示す。薬物の滞留は、細胞内及び細胞外間隙、組織及び器官など、体の様々なコンパートメントに渡って起こり得る。「血清結合程度」は、薬物がアルブミンなどの血清タンパク質と相互作用してそれに結合することにより薬物の生物学的活性の低下又は消失につながる傾向を意味する。
【0183】
薬物動態パラメータには、投与された所与の量の薬物のバイオアベイラビリティ、遅延時間(T lag)、Tmax、吸収速度、及び/又はCmaxも含まれる。「バイオアベイラビリティ」は、全身循環(血液区画)に到達する薬物/物質の投与用量の割合を指す。医薬品が静脈内投与される場合、そのバイオアベイラビリティは100%であると考えられる。しかしながら、医薬品が他の経路(経口等)を介して投与される場合、そのバイオアベイラビリティは一般に低下する。「遅延時間」は、薬物の投与と、血液又は血漿中でのその検出及び測定可能性との間の時間遅延を意味する。Cmaxは、薬物がその投与後(及び第2の用量の投与前)に達成する最大血漿濃度である。Tmaxは、Cmaxに達する時間である。薬物の生物学的効果に必要な薬物の血液濃度又は組織濃度に達するまでの時間は、すべてのパラメータによって影響される。上述に概説したチンパンジー以外の霊長類における前臨床動物試験において決定され得る種間特異性を呈する構築物の薬物動態パラメータは、例えば、Schlereth et al.(前掲)を参照されたい。
【0184】
一実施形態は、医薬として使用するための、特に疾患、好ましくは腫瘍性疾患、より好ましくは新生物、癌又は腫瘍の予防、処置又は改善(好ましくは処置)に使用するための、本発明の構築物(又は本発明の方法によって製造された構築物)を提供する。別の実施形態は、疾患、好ましくは腫瘍性疾患、より好ましくは新生物、癌又は腫瘍の予防、処置又は改善のための医薬品の製造における本発明の構築物の(又は本発明の方法によって製造された構築物の)使用を提供する。疾患、好ましくは腫瘍性疾患、より好ましくは新生物、癌又は腫瘍の予防、処置又は改善のための方法であって、それを必要とする対象に本発明の構築物(又は本発明の方法に従って製造された構築物)を投与する工程を含む方法を提供することも想定される。「必要とする対象」、「患者」又は「処置を必要とする」ものという用語は、既に罹患している者、及び疾患が予防されるべき者を含む。この用語はまた、予防的処置又は治療的処置のいずれかを受けるヒト対象及び他の哺乳動物対象を含む。
【0185】
本発明のポリペプチド/ポリペプチド構築物及び本明細書に説明する製剤/医薬組成物は、それを必要とする患者において本明細書に説明する医学的容態の処置、改善及び/又は予防において有用である。「処置」という用語は、治療的処置及び予防的(prophylactic)又は予防的(preventative)手段の両方を指す。処置は、疾患、疾患の症状、又は疾患に対する素因を治癒する、癒す、緩和する、軽減する、変化させる、矯正する、和らげる、改善する、又は影響を及ぼす目的で、本明細書に記載の疾患/障害、そのような疾患/障害の症状、又はそのような疾患/障害に対する素因を有する患者又は必要とする対象からの身体、単離された組織、又は細胞へのポリペプチド/ポリペプチド構築物/医薬組成物の適用又は投与を含む。本明細書で使用される「改善」という用語は、本発明によるポリペプチド構築物をそのような患者又はそれを必要とする対象に投与することによる、患者の病状のあらゆる改善を指す。そのような改善は、患者の疾患の進行の遅延若しくは停止、及び/又は疾患症状の重症度の低下、疾患症状のない期間の頻度若しくは持続時間の拡大、又は疾患による機能障害若しくは障害の予防であり得る。本明細書で使用される「予防」という用語は、それを必要とする対象への本発明による構築物の投与による、本明細書で特定される疾患の発生又は再発の回避を意味する。
【0186】
「疾患」という用語は、本明細書に説明する構築物又は医薬組成物による治療から利益を得るいずれかの容態を指す。これには、哺乳動物を問題の疾患に罹りやすくする病理学的容態を含む慢性及び急性の障害又は疾患が含まれる。疾患は、好ましくは腫瘍性疾患、より好ましくは新生物、癌又は腫瘍である。疾患、新生物、癌又は腫瘍は、好ましくは腫瘍抗原、好ましくは本明細書で上述に定義されるものなどに対して陽性であり、すなわち、腫瘍抗原、好ましくは本明細書で上述に定義されるものなどの発現又は過剰発現を特徴とする。腫瘍抗原の過剰発現は、少なくとも10%、特に少なくとも25%、少なくとも50%、少なくとも100%、少なくとも250%、少なくとも500%、少なくとも750%、少なくとも1000%又はそれ以上の上昇があることを意味する。発現は、好ましくは、疾患組織でのみ見られるが、対応する健常な組織での発現は検出できないか、又は有意に検出できない。本発明によれば、腫瘍抗原を発現する細胞と関係する疾患、好ましくは本明細書で上述に定義されるものなどには、癌疾患が含まれる。さらに、本発明によれば、癌疾患は、好ましくは、癌細胞が腫瘍抗原を発現するものである。本発明に従って、疾患、好ましくは腫瘍性疾患、より好ましくは新生物、腫瘍又は癌は、好ましくはBCMA陽性、CD123陽性、CD19陽性、CD20陽性、CD22陽性、CD33陽性、CD70陽性、CDH19陽性、CDH3陽性、CLL1陽性、CS1陽性、CLDN6陽性、CLDN18.2陽性、DLL3陽性、EGFRvIII陽性、FLT3陽性、MAGEB2陽性、MART1陽性、MSLN陽性、MUC17陽性、PSMA陽性、又はSTEAP1陽性細胞の存在を特徴とする。換言すれば、腫瘍性疾患、より好ましい新生物、腫瘍又は癌は、好ましくは、BCMA陽性、CD123陽性、CD19陽性、CD20陽性、CD22陽性、CD33陽性、CD70陽性、CDH19陽性、CDH3陽性、CLL1陽性、CS1陽性、CLDN6陽性、CLDN18.2陽性、DLL3陽性、EGFRvIII陽性、FLT3陽性、MAGEB2陽性、MART1陽性、MSLN陽性、MUC17陽性、PSMA陽性、又はSTEAP1陽性細胞の存在に関係しており、それ故、腫瘍性疾患、より好ましい新生物、腫瘍又は癌は、BCMA陽性、CD123陽性、CD19陽性、CD20陽性、CD22陽性、CD33陽性、CD70陽性、CDH19陽性、CDH3陽性、CLL1陽性、CS1陽性、CLDN6陽性、CLDN18.2陽性、DLL3陽性、EGFRvIII陽性、FLT3陽性、MAGEB2陽性、MART1陽性、MSLN陽性、MUC17陽性、PSMA陽性又はSTEAP1陽性の新生物、腫瘍又は癌と呼ぶことができる。本明細書では、当該腫瘍抗原陽性新生物、腫瘍又は癌の各々は、当該新生物、腫瘍又は癌が関係している細胞によって発現する腫瘍抗原に対する結合ドメインを含む本発明によるポリペプチド又はポリペプチド構築物を使用して予防、処置又は改善することができることは理解される。BCMA陽性、CD123陽性、CD19陽性、CD20陽性、CD22陽性、CD33陽性、CD70陽性、CDH19陽性、CDH3陽性、CLL1陽性、CS1陽性、CLDN6陽性、CLDN18.2陽性、DLL3陽性、EGFRvIII陽性、FLT3陽性、MAGEB2陽性、MART1陽性、MSLN陽性、MUC17陽性、PSMA陽性、又はSTEAP1陽性の新生物、腫瘍又は癌は、BCMA(BCMA陽性新生物、腫瘍又は癌について)、CD123(CD123陽性新生物、腫瘍又は癌について)、CD19(CD19陽性新生物、腫瘍又は癌について)、CD20(CD20陽性新生物、腫瘍又は癌について)、CD22(CD22陽性新生物、腫瘍又は癌について)、CD33(CD33陽性新生物、腫瘍又は癌について)、CD70(CD70陽性新生物、腫瘍又は癌について)、CDH19(CDH19陽性新生物、腫瘍又は癌について)、CDH3(CDH3陽性新生物、腫瘍又は癌について)、CLL1(CLL1陽性新生物、腫瘍又は癌について)、CS1(CS1陽性新生物、腫瘍又は癌について)、CLDN6(CLDN6陽性新生物、腫瘍又は癌について)、CLDN18.2(CLDN18.2陽性新生物、腫瘍又は癌について)、DLL3(DLL3陽性新生物、腫瘍又は癌について)、EGFRvIII(EGFRvIII陽性新生物、腫瘍又は癌について)、FLT3(FLT3陽性新生物、腫瘍又は癌について)、MAGEB2(MAGEB2陽性新生物、腫瘍又は癌について)、MART1(MART1陽性新生物、腫瘍又は癌について)、MSLN(MSLN陽性新生物、腫瘍又は癌について)、MUC17(MUC17陽性新生物、腫瘍又は癌について)、PSMA(PSMA陽性新生物、腫瘍又は癌について)、及びSTEAP1(STEAP1陽性新生物、腫瘍又は癌について)それぞれに対する結合ドメインを含む、本発明によるポリペプチド又はポリペプチド構築物を用いて、予防、処置、又は改善することができる。
【0187】
「新生物」は、常にではないが通常は塊を形成する組織の異常な成長である。また、塊を形成する場合、それは通常、「腫瘍」と呼ばれる。新生物又は腫瘍は、良性、潜在的に悪性(前癌性)又は悪性(癌性)であり得る。悪性新生物/腫瘍は一般に癌と呼ばれる。それらは通常、周囲の組織に浸潤し、破壊し、転移を形成することがあり、すなわち、それらは身体の他の部分、組織又は器官に広がる。「原発腫瘍」は、腫瘍の進行が始まり、進行して癌性の塊を生じた解剖学的部位で成長する腫瘍である。ほとんどの癌は、それらの原発部位で発症するが、その後、進んで、身体の他の部分(例えば、組織及び器官)に転移し又は拡がる。これらのさらなる腫瘍は「続発性腫瘍」である。ほとんどの癌は、身体の他の部分に拡がった後でもその原発部位にちなんで呼ばれ続ける。
【0188】
リンパ腫及び白血病はリンパ系新生物である。本発明の目的のために、それらは「腫瘍」及び「癌」という用語にも包含される。本発明の目的のために、「新生物」、「腫瘍」及び「癌」という用語は互換的に使用され得、それらは原発性腫瘍/癌及び続発性腫瘍/癌(又は「転移」)の両方、並びに塊形成性新生物(腫瘍)及びリンパ性新生物(リンパ腫及び白血病等)、並びに最少残存病変(MRD)も含む。
【0189】
「最小残存病変」(MRD)という用語は、癌処置後、例えば患者が寛解している(疾患の症状又は徴候がない)ときに、患者に残存する少数の残存癌細胞の存在についての証拠を指す。癌を評価又は検出するために使用される標準的な試験はMRDを検出するのに十分な感度を有していないので、通常、ごく少数の残存癌細胞は日常的な手段によって検出することができない。最近では、フローサイトメトリー、PCR及び次世代シークエンシング等のMRD向けの極めて高感度の分子生物学的試験が利用可能である。これらの試験は、組織試料中の最小限のレベルの癌細胞、時には100万個の正常細胞中の1個の癌細胞ほどの低さを測定することができる。本発明の文脈において、癌の「予防」、「処置」又は「改善」という用語は、MRDが検出されたか否かにかかわらず、「MRDの予防、処置又は改善」も包含することが想定される。
【0190】
本発明の構築物は、一般に、とりわけバイオアベイラビリティ及び持続性の範囲において、特定の投与経路及び投与方法、特定の薬用量及び投与頻度、特定の疾患の特定の処置に合わせて設計されることとなる。組成物の材料は、好ましくは、投与部位に許容され得る濃度で製剤化される。したがって、製剤及び組成物は、本発明に従って、適切なあらゆる投与経路による送達に合わせて設計され得る。本発明の文脈において、投与経路には、局所経路、経腸経路及び非経口経路が含まれるが、これらに限定されない。
【0191】
医薬組成物が凍結乾燥されている場合、まず投与前に凍結乾燥材料を適切な液体で再構成する。凍結乾燥材料は、例えば注射用静菌水(BWFI)、生理塩類溶液、リン酸緩衝生理塩類溶液(PBS)、又は凍結乾燥前にタンパク質が存在した同じ製剤中で再構成され得る。本発明の医薬組成物及び抗体構築物は、非経口投与、例えば静脈内送達、例えば注射又は注入に特に有用である。医薬組成物は、医療機器を使用して投与され得る。医薬組成物を投与するための医療機器の例は、米国特許第4,475,196号明細書;同第4,439,196号明細書;同第4,447,224号明細書;同第4,447,233号明細書;同第4,486,194号明細書;同第4,487,603号明細書;同第4,596,556号明細書;同第4,790,824号明細書;同第4,941,880号明細書;同第5,064,413号明細書;同第5,312,335号明細書;同第5,312,335号明細書;同第5,383,851号明細書;及び同第5,399,163号明細書に説明されている。
【0192】
本発明の組成物は、例えば用量漸増試験で決定することができる適切な用量で対象に投与することができる。上述に示される通り、本明細書に説明される通りの異種間特異性を呈する本発明の構築物はまた、有利には、非チンパンジー霊長類での前臨床試験において使用することもできる。投与計画は、主治医が臨床的要因によって決定することになる。医学分野で周知の通り、任意の1人の患者に対する薬用量は、患者の大きさ、体表面積、年齢、投与する具体的な化合物、性別、投与時刻及び投与経路、全身レベルの健康状態、及び同時に投与される他の薬物を含め、多くの要因に依存する。
【0193】
「有効量」は、所望の効果を実現するか又は少なくとも部分的に実現するのに十分な治療薬の量である。「治療有効量」は、疾患に罹患している患者の疾患及びその合併症、徴候及び症状を治癒するか又は少なくとも部分的に抑止するのに十分な量である。この使用に有効な量又は用量は、治療しようとする疾患(対象疾患)、送達される構築物、治療の状況及び目的、疾患の重症度、前回の療法、患者の病歴及び治療薬に対する奏効、投与経路、患者のサイズ(体重、体表)及び/又は容態(年齢及び全身レベルの健康状態)及び患者自身の免疫系の全身の状態に依存することになる。最適な治療効果を得るため、適切な用量を主治医の判断に基づいて調整することができる。
【0194】
本発明の構築物の治療有効量は、好ましくは、疾患症状の重症度の低下、無疾患症状期間の頻度若しくは持続時間の増加又は疾患に起因する機能障害若しくは能力障害の予防をもたらす。腫瘍抗原発現腫瘍の処置において、当該腫瘍抗原に対する結合ドメインを含む本発明の構築物の治療有効量は、好ましくは、未処置患者と比較して少なくとも約20%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、又は少なくとも約90%の腫瘍細胞成長を阻害する。化合物が腫瘍成長を阻害する能力は、ヒト腫瘍における有効性の予測指標となる動物モデルでも評価され得る。
【0195】
さらなる実施形態において、本発明は、本発明の構築物、本発明の方法によって作製される構築物、本発明のポリヌクレオチド、本発明のベクター及び/又は本発明の宿主細胞を含むキットを提供する。本発明の文脈において、「キット」という用語は、そのうちの1つが本発明の構築物、医薬組成物、ポリヌクレオチド、ベクター又は宿主細胞に対応する、容器、レシピエント又はその他に一緒に包装された2つ以上の構成要素を意味する。したがって、キットは、単品として販売することができる特定の目的を達成するのに十分な製品及び/又は用具の一式であると説明することができる。
【0196】
本発明のキットのさらなる構成要素は、免疫チェックポイント経路のタンパク質(PD-1又はCTLA-4など)又は共刺激免疫チェックポイント受容体(4-1BBなど)に結合する薬剤、好ましくは抗体又は構築物であることが想定される。こうした作用因子は、本明細書において上述でさらに詳細に説明される。一実施形態によれば、キットは、本発明の構築物と、PD-1に結合する抗体又は構築物とを含む。この目的に有用な抗PD-1結合タンパク質は、例えば、PCT/US2019/013205号明細書に詳細に説明されている。ある特定の実施形態において、キットは、構成要素の同時及び/又は逐次投与を可能にする。
【0197】
キットは、投与に適した薬用量(上述を参照されたい)の本発明の構築物又は医薬組成物を含有する任意の適切な形状、サイズ及び材料(好ましくは防水性、例えばプラスチック又はガラス)の1つ以上の容器(例えば、バイアル、アンプル、コンテナ、注射器、ボトル、バッグ)を含み得る。キットには、さらに、使用説明書(例えば、小冊子又は取扱説明書の形式)、注射器、ポンプ、注入器又はこれらに類するものなど、本発明の構築物又は医薬組成物を投与するための手段、本発明の構築物を再構成するための手段、及び/又は本発明の構築物を希釈するための手段が入っていてもよい。
【0198】
本発明は、単回用量投与単位のためのキットも提供する。本発明のキットには、乾燥/凍結乾燥した構築物又は医薬組成物を含む第1の容器及び水性製剤を含む第2の容器が入っていてもよい。本発明のある特定の実施形態では、単一チャンバ及び複数チャンバを備えたプレフィルドシリンジが入ったキットが提供される。
【0199】
「構築物」という用語が本明細書内で使用されるときはいつでも、当該用語は、示されるような本発明の使用されるポリペプチド/ポリペプチド構築物又はその対照を指す。
【0200】
本明細書で使用される場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その(the)」には、文脈上特に明確に指示されない限り、複数形の言及が含まれる。したがって、例えば、「試薬」に対する言及は、1つ以上のそのような種々の試薬を含み、「方法」に対する言及は、本明細書に説明される方法のために改変され得るか又は当該方法と置換され得る、当業者に公知の等価のステップ及び方法に対する言及を含む。
【0201】
特に指示されない限り、一連の要素に先行する「少なくとも」という用語は、その一連の中にあるあらゆる要素に言及していると理解されるものとする。当業者であれば、本明細書中に説明される本発明のある特定の実施形態に対する多くの均等物を、単なるルーチン実験を使用して認識するか、又は確認することができるであろう。このような均等物は、本発明に包含されるものとする。
【0202】
本明細書で使用される場合、「及び/又は」という用語は、「及び」、「又は」及び「当該用語によって接続された要素のすべて又はいずれかの他の組み合わせ」の意味を含む。
【0203】
本明細書で使用される「約」又は「おおよそ」という用語は、所与の値又は範囲の±20%以内、好ましくは±15%以内、より好ましくは±10%以内、最も好ましくは±5%以内を意味する。また、これには、具体的な値も含まれ、例えば、「約50」は、値「50」を含む。
【0204】
本明細書及び特許請求の範囲の全体を通して、文脈上特に要求されない限り、「~を含む(comprise)」並びに「~を含む(comprises)」及び「~を含んでいる」等の変化形は、説明されている整数若しくは工程又は整数若しくは工程の群を含むが、いずれかの他の整数若しくは工程又は整数若しくは工程の群を除外しないことを含意すると理解されるであろう。本明細書で使用される場合、「~を含む(comprising)」という用語は、「~を含有する(containing)」若しくは「~を含む(including)」という用語で置換されることができ、又は本明細書で使用される場合には「~を有する(having)」という用語で置換することができる。
【0205】
本明細書で使用される場合、「~からなる」は、特許請求の範囲の要素において指定されていないいかなる要素、工程又は成分も除外する。本明細書で使用される場合、「~から本質的になる」は、特許請求の範囲の基本的な且つ新規の特徴に事実上影響を与えない材料又は工程を除外しない。
【0206】
本明細書における各例において、「~を含む」、「~から本質的になる」及び「~からなる」のいずれも、他の2つの用語のいずれかに置き換えられ得る。
【0207】
上述の説明及び以下の例は、例示的配置を提供するが、本発明は、本明細書で説明される具体的な方法論、技法、プロトコル、材料、試薬、物質等に限定されず、このようなものとして異なり得る。本明細書で使用される用語は、具体的な実施形態のみを説明するのに役立つ。本明細書で使用される用語は、本発明の範囲を制限するよう意図されておらず、特許請求の範囲によってのみ定義される。本発明の態様は、独立請求項で提供される。本発明の一部の任意選択的な特徴は、従属請求項で提供される。
【0208】
本明細書の本文を通して引用されたすべての公表物及び特許(すべての特許、特許出願、科学公表物、製造元の仕様書、説明書などを含む)は、上述であろうと又は後述であろうと、その全体が参照により本明細書により組み込まれる。本明細書中のいかなるものも、本発明が先行発明によってそのような開示に先行する権利がないことの承認として解釈されないものとする。参照により組み込まれる材料が本明細書と矛盾しているか又は一致していない限りにおいて、本明細書はいかなるそのような材料にも取って代わる。
【0209】
本発明及びその利点のより良い理解は、例示目的のためにのみ提供される以下の実施例から得られる。実施例は、決して本発明の範囲をいかなる方法においても限定するものであるとは解釈されないものとする。
【図面の簡単な説明】
【0210】
図1】ストレス試験なしでSDS-PAGEによって分析されたCD33 BiTE(登録商標)分子変異体中のG4Sリンカー対G4Rリンカーである。
図2】ストレス試験なしでSDS-PAGEによって分析されたPSMA BiTE(登録商標)変異体である。
図3】標的2 TDCCアッセイである。
図4】標的1 TDCCアッセイである。
図5】PSMA BiTE(登録商標)分子とBiTE分子の最適化された変異体との直接比較である。
図6】BiTE分子Z5Sで検出されたクリッピング部位及び導入された安定化の概略図である。
【実施例
【0211】
実施例1:材料及び方法
BiTE分子の生成及び発現
オープンリーディングフレームの個々のDNA断片を遺伝子合成として順序付けし、標準的なクローニング法によって哺乳動物発現ベクターへとサブクローニングした。発現ベクターは、細胞培養上清への分泌発現のためのIgG由来シグナルペプチドを含有していた。配列確認プラスミドクローンをCHO細胞へと移入し、7日後に安定細胞プールの細胞培養上清を回収した。タンパク質を精製するまで細胞培養液上清を-80℃で保存した。
【0212】
BiTE精製クロマトグラフィー分析
タンパク質精製を、プロテインA(Cytiva、Mab Select SuReカラム)アフィニティークロマトグラフィー、引き続いてサイズ排除クロマトグラフィー(HiLoad(登録商標)16/600 Superdex(登録商標)200pg GE Healthcare)によって行った。OD280nmシグナル(青色)によりピークをプールし、MWをSDS-PAGEによって分析した。タンパク質モノマーピークを10mMクエン酸塩、75mMリジン、4%トレハロース中に配合し、-80℃での貯蔵のために一定分量に分けた。
【0213】
SDS-PAGE分析
試料を95℃で5分間変性させ、非還元的(-DTT)又は還元的(+DTT)SDS-PAGEに適用した。その後、ゲルをインスタントブルーで染色/脱色してタンパク質バンドを可視化した。
【0214】
インビトロFACS結合解析
精製したBiTE(登録商標)抗体構築物をフローサイトメトリーに適用して、標的抗原移入CHO細胞又はヒトCD3陽性T細胞株(HPB-ALL)又は健常志願者のヒトPBMCへの結合を決定した。BiTE分子を、PE抗ヒトIgG(1:200)を使用して染色した。アッセイは、100/10/1/0.1nM BiTE(登録商標)分子で4℃で30分間実行した。染色は、二次抗ヒトFc特異的PE結合ポリクローナルAbによってのみ染色された細胞を基準とした。
【0215】
刺激されていないヒトPBMCによるFACSベース細胞障害性アッセイ
エフェクター細胞の単離
ヒト末梢血単核球(PBMC)を、輸血用血液を収集する血液バンクの副産物である濃縮されたリンパ球製剤(バフィーコート)からフィコール密度勾配遠心分離により調製した。バフィーコートは末梢血バンクにより供給され、血液収集の翌日にPBMCを調製した。フィコール密度遠心分離及びダルベッコPBS(Gibco)での徹底洗浄後、残存赤血球がPBMCから赤血球溶解緩衝液(155mM NH4Cl、10mM KHCO3、100μM EDTA)とのインキュベーションを介して除去された。残存リンパ球は、主にBリンパ球及びTリンパ球、NK細胞並びに単球を包含する。PBMCを、10%FCS(Gibco)含有のRPMI培地(Gibco)中37℃/5%CO2で培養下で維持した。
【0216】
汎T細胞の単離
ヒトT細胞を、Miltenyi Biotecヒト汎T細胞単離キット(130-096-535)をキットと共に提供されるプロトコルによって使用して、PBMCから単離した。次に、LSカラム(Milteny Biotec、#130-042-401)を使用し、T細胞を単離した。T細胞をRPMI完全培地、すなわち、10%FBS(Bio West、#S1810)、1×非必須アミノ酸(Biochrom AG、#K0293)、10mM Hepes緩衝液(Biochrom AG、#L1613)、1mMピルビン酸ナトリウム(Biochrom AG、#L0473)、及び100U/mLペニシリン/ストレプトマイシン(Biochrom AG、#A2213)を補充したRPMI1640(Biochrom AG、#FG1215)中で、インキュベーター内で必要とされるまで37℃で培養した。
【0217】
標的細胞標識
フローサイトメトリーアッセイにおける細胞溶解の分析のために、蛍光膜色素DiOC18(DiO)(Thermo Fisher,#V22886)を使用して、標的を移入したCHO細胞を標的細胞として標識し、それらをエフェクター細胞と区別した。簡潔には、細胞を採取し、PBSで1回洗浄し、2%(v/v)FBS及び膜色素DiO(5μL/10e6個の細胞)を含有するPBS中で10e6個の細胞/mLに調整した。37℃で3分間のインキュベーション後、細胞を完全RPMI培地で2回洗浄し、細胞数を1.25×10e5個/mLに調整した。Nucleocounter NC-250(Chemometec)並びにアクリジンオレンジ及びDAPI(Chemometec)を含有するSolution18色素を使用し、細胞の活性を測定した。
【0218】
フローサイトメトリーベースの解析
このアッセイを、カニクイザル(cyno)又はヒト標的を移入したCHO細胞の溶解を二重特異性抗体構築物の段階希釈物の存在下で定量するように設計した。等容積のDiO標識標的細胞及びエフェクター細胞(すなわち、CD14+細胞のないPBMC)を混合し、10:1のE:T細胞比を得た。この懸濁液160μlを、96ウェルプレートの各ウェルに移した。対応する標的×CD3二重特異性抗体構築物の40μLの連続希釈物及び陰性対照二重特異性(無関係な標的抗原を認識するCD3ベースの二重特異性抗体構築物)又は追加の陰性対照としてのRPMI完全培地を添加した。7%CO2の加湿インキュベーター内で、二重特異性抗体介在性の細胞障害性反応が48時間進行した。次に、細胞を新たな96ウェルプレートに移し、標的細胞膜の完全性の喪失を、ヨウ化プロピジウム(PI)を1μg/mLの終濃度で添加することにより監視した。PIは、通常、生細胞から排除される膜不透過性色素であるのに対し、死細胞は、それを取込み、蛍光発光により同定可能になる。
【0219】
試料を、iQue Plus(Intellicyt、現Sartorius)機器でのフローサイトメトリーにより測定し、Forecytソフトウェア(Intellicyt)により解析した。標的細胞を、DiO陽性細胞として同定した。PI陰性標的細胞は、生存標的細胞に分類した。細胞障害性の百分率を以下の式によって算出した。
【数1】
【0220】
GraphPad Prism 7.04ソフトウェア(Graph Pad Software、San Diego)を使用し、細胞障害性の百分率を、対応する二重特異性抗体構築物濃度に対してプロットした。用量応答曲線を、固定ヒル傾斜を有するシグモイド用量応答曲線の評価のための4つのパラメトリックロジスティック回帰モデルを用いて解析し、EC50値を算出した。
【0221】
試料のストレス試験
試料を製剤緩衝液中で40℃で4週間インキュベートすることによって熱分解を誘導した。リン酸緩衝塩類溶液(PBS)を用いて製剤中の試料をpH7.2に調整し、引き続いて37℃で4週間のインキュベーションで、生理学的pH分解(pHジャンプ)を誘導した。
【0222】
溶液調製
変性緩衝液(6MのグアニジンHCl、200mMのトリス、20mMのメチオニン、pH8.3)を、20mLの1Mの(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩酸塩(トリス)、pH8.3(Teknova、St.Louis、MO、P/N T1083)を87.5mLの8MのグアニジンHCl(Pierce、Rockford、IL、P/N 24115)に添加し、その後に299mgのL-メチオニン(J.T.Baker、P/N 2085-05)を添加することによって調製した。この溶液のpHを、1Nの塩酸(HCl)(Ricca、Arlington、TX、P/N R3700100-120A)又は1Nの水酸化ナトリウム(NaOH)(Merck、Kenilworth、NJ、P/N 1.09137.100)のいずれかを用いてpH8.3に調整した。体積は、HPLC等級の水を用いて100mLに調整した。還元溶液(500mMのDTT)は、7.7mgの事前に秤量したジチオトレイトール(DTT)(Pierce、Rockford、IL、P/N 20291)を100μLの変性緩衝液中に溶解させることによって調製した。アルキル化溶液(500mMのNaIAA)は、500mMのNaIAAを産生するために十分な容積の変性緩衝液中に15~65mgのヨウ化酢酸ナトリウム(NaIAA)(Sigma、St.Louis、MO、P/N I-9148)を溶解させることによって調製した。消化緩衝液(50mMのtris、20mMのメチオニン、pH7.8)は、10mLの1Mのtris、pH7.8中に299mgのL-メチオニンを溶解させ、100mLのHPLCグレード水を添加することによって調製した。この溶液のpHは、1Nの塩酸塩(HCl)(Ricca、Arlington、TX、P/N R3700100-120A)又は1Nの水酸化ナトリウム(NaOH)(Merck、Kenilworth、NJ、P/N 1.09137.100)のいずれかを用いてpH7.8に調整し、容積は、HPLC等級の水を用いて100mLに調整した。酵素溶液(1mg/mLのトリプシン、1mg/mLの好中球エラスターゼ)は、100μgのトリプシン(Roche、Basel、Switzerland、P/N 03708969001)又は100μgの好中球エラスターゼ(Elastin Products Company、Owensville、MO、P/N SE563)に100μLの消化緩衝液を添加することによって調製した。消化クエンチング溶液(8MのグアニジンHCl、250mMの酢酸塩、pH4.7)は、76.4gのグアニジンHCl(Sigma、St.Louis、MO、P/N 50933)及び1.0gの酢酸ナトリウム(Sigma、P/N 32319)を95mLのHPLC等級の水に溶解させることによって調製した。716μLの氷酢酸(Sigma、St.Louis、MO、P/N 320099)を次に添加し、HCl又はNaOHのいずれかを用いてpHをpH4.7に調整した。体積は、次にHPLC等級の水を用いて100mLに調整した。
【0223】
MWCOスピンフィルタ支援連続消化
200μLの変性緩衝液は、濾液収集のために遠心チューブ内に配置された膜ユニットから成る30kDaの分子量カットオフ回転装置に添加した。(Millipore、Billerica、MA、P/N MRCF0R030又はPall、Port Washington、NY、P/N OD030C34)。この装置は、Eppendorf 5430遠心分離機を使用して14,000×gで10分間に渡り回転させた。濾液を廃棄した。処方緩衝液中の100μgのサンプルをフィルタ装置に添加し、10分間に渡り14,000×gで回転させた。濾液を廃棄した。各試料に対し、3μLの還元溶液を37μLの変性緩衝液に添加し、この溶液40μLをフィルタ装置に添加した。37℃の水浴で30分間インキュベートすることによって試料を変性させ、還元した。各試料について、7μLのアルキル化溶液を33μLの変性緩衝液に添加し、この溶液40μLをフィルタ装置に添加した。試料を室温で暗所で20分間インキュベートすることによってアルキル化した。各試料について、4μLの変性溶液を36μLの変性緩衝液に添加し、この溶液40μLをフィルタ装置に添加してアルキル化をクエンチした。次に、試料を15分間に渡り14,000×gで回転させ、濾液を廃棄した。200μLの消化緩衝液をサンプルに添加し、フィルタ装置を15分間に渡り14,000×gで回転させ、濾液を廃棄し、これをさらに2回繰り返して変性剤、還元剤及びアルキル化剤を除去した。各試料について、5μLのトリプシン溶液を35μLの消化緩衝液に添加し、この溶液40μLをフィルタ装置へ添加した(1:20の酵素:基質比)。試料を37℃の水浴中で60分間インキュベートした。フィルタ装置を新たな収集チューブ(収集チューブ2)に移した。最初の収集チューブ(収集チューブ1)は、取り除いた。フィルタ装置は10分間に渡り14,000×gで遠心分離した。トリプシンペプチドを含有する濾液は、収集チューブ2の中に保持した。20μLの消化緩衝液をフィルタ装置に添加し、フィルタ装置(収集チューブ2内)を10分間に渡り14,000×gで回転させ、濾液は収集チューブ2内に保持し、これをさらに1回繰り返した。フィルタ装置を収集チューブ1に移し戻し、収集チューブ2を取り除いた。各試料について、5μLの好中球エラスターゼ溶液を35μLの消化緩衝液に添加し、40μLのこの溶液をフィルタ装置(ここでは収集チューブ1、1:20の酵素:基質比、出発材料に基づく)へ添加した。試料を30分間に渡り37℃の水浴中でインキュベートした。フィルタ装置は、収集チューブ2に移した。収集チューブ1を廃棄した。フィルタ装置を10分間に渡り14,000×gで遠心分離した。好中球エラスターゼ消化の結果として生じるペプチドを含有している濾液は、収集チューブ2内に(先行ステップからのトリプシンペプチドと一緒に)保持した。20μLの消化緩衝液をフィルタ装置に添加し、フィルタ装置(収集チューブ2内)を10分間に渡り14,000×gで回転させ、濾液は収集チューブ2内に保持し、これをさらに1回繰り返した。消化は、160μLの消化クエンチング緩衝液を収集チューブ2に添加することによってクエンチした。
【0224】
UPLC条件
全試料について、移動相Aは、水中の0.1%のギ酸から構成し、移動相Bは、アセトニトリル中の0.1%のギ酸から構成した。BEH C18 1.7μm、2.1×150mm UPLCカラム(Waters、Milford、MA、P/N 186003556)を使用してペプチドを分離した。UPLCの分離は、表1に概略した勾配を利用してThermo Scientific U-3000システム(Waltham、MA)、Waters Acquity H-Classシステム(Milford、MA)及び/又はAgilent 1290システム(Santa Clara、CA)のいずれかを使用して実施した。出発材料に基づいて、約3~4μgの試料をカラム上に装填した。
【0225】
MS条件
消化の結果として生じたペプチドは、Thermo Scientific Q Exactive(Waltham、MA)、Thermo Scientific Q Exactive Plus(Waltham、MA)又はThermo Scientific Q Exactive BioPharma(Waltham、MA)を使用して分析した。多数の機器を使用したので、データ収集パラメータは、機器に依存してわずかに変動した。機器は、200~2,000m/zの走査範囲に渡ってデータ依存方式(上位4~8)で作動させた。AGC標的は、MS1走査に対しては1E6に設定し、MSMS走査に対しては5E5に設定した。MS1走査は、35,000又は140,000いずれかの解像度で収集し、MS2走査は17,500の解像度で収集した。MSMS走査に対しては2~4m/zの単離窓を特定した。未使用の帯電状態及び8より大きな帯電状態は、MSMSから排除した。動的排除は、10秒間に設定した。m/z 391.28430のロックマスが可能になった。
【0226】
データ解析
ペプチド同定のため、MSデータは、MassAnalyzerを用いて検索した(データは、数か月間に渡り収集したので、複数の版のMassAnalyzerを使用した)。カルボキシメチル化は、静的修飾として特定した。実験に依存して、切断は、非特異的又はアミノ酸KRVITALアミノ酸のC末端のいずれかであると特定された。全検索のために、信号対雑音比は20に設定し、15ppmの質量精度を特定し、信頼は0.95に設定した。配列カバレッジマップのために、最少ピーク面積はベースピークの1%に設定し、相対ピーク面積閾値は17%に設定し、最少信頼は0.95に設定し、最高ペプチド質量は15,000に設定した。定量のために、MSデータをSkylineで処理した。Skylineのワークブックは、MassAnalyzerの検索結果で同定されたペプチドを使用して作成した。
【0227】
【表2】
【0228】
実施例2:結果
SDS-PAGE分析
生成したBiTE分子の精製モノマーを、非還元的及び/又は還元的条件下でSDS-PAGE分析に適用した。BiTE分子(W7V、W8I)を除いて、すべてのBiTE分子は、両条件下で予想分子量で1つの単一バンドを示した。BiTE分子の場合、G4Rリンカーリピートを含むW7V及びW8Iは、より低分子量の追加のバンドを観察することができ、熱ストレス試験なしの低分子量(LMW)断片を示唆している。
【0229】
細胞障害活性
分析したBiTE分子はすべて、標的抗原を移入したCHO細胞に対して細胞障害活性を示した。活性は、参照標準BiTE分子(標的2、図3)又は親のよりアフィンでない標的結合剤を含む標準BiTE分子(R5C/P2K、標的1、図4)のいずれかに匹敵した。
【0230】
熱ストレス試験
BiTE分子を40℃で4週間熱ストレスに適用し、続いて、説明したように未処理試料対照と比較して%LMW増加について分析した。
【0231】
抗CD3 scFv
BiTE分子(F8I対F1D、表1)中の安定化抗CD3 scFvによる標準物質抗CD3 scFvのG4Qリンカーリピートによる置換は、LMWを13.3%低下させた。標準物質抗CD3 scFv及び標準物質単鎖Fcドメインを、対応する安定化ドメインによって置換すると、LMWは、G4Qリンカーの状況において40.9%低下した(M5J対Q8I、表1)。
【0232】
リンカー
G4Sリンカーリピートの代わりにG4Qリンカーリピートを含むBiTE分子は、標準物質抗CD3 scFv、操作された抗CD3 scFvシス-クランプ及び標準物質scFcドメインを含むBiTE分子について、LMWの割合が35.8%低減したのを示した(11D対F8I、表1)。
【0233】
操作された抗CD3 scFvシス-クランプなしでは、G4Qリンカーリピートを含むBiTE分子は、G4Sリンカーを含むBiTE分子よりも32.3%低いLMWを示した(Z5S対Q6S、表1)。
【0234】
操作された抗CD3 scFvシス-クランプを含まない標準物質抗CD3 scFvを含むBiTE分子であるが、安定化したscFcドメインは、G4Sリンカーリピートと比較して、G4Qリンカーリピートの状況下でLMWの43.3%の低減を示した(J1X対X7D、表1)。
【0235】
scFcドメイン
G4Qリンカーリピートを含むBiTE分子についての標準物質対安定化一本鎖Fcドメイン、標準物質CD3結合剤及び操作された抗CD3 scFvシス-クランプは、LMWにおいて3.2%の低減を示した(F8I対M5J、表1)。
【0236】
安定化CD3結合剤及び操作された抗CD3 scFvシス-クランプと組み合わせて、修飾scFcは、LMWの割合を34.0%まで低減させた(F1D対Q8I)。
【0237】
操作された抗CD3 scFvシス-クランプを含まない標準物質抗CD3 scFvと組み合わせたG4Qリンカーリピートは、BiTE分子を含む安定化scFcに対して約37.5%低いLMWを示した(Q6S対X7D、表1)。同様に、標準物質G4Sリンカーリピートを含むBiTE分子中の安定化したscFcドメイン、操作されたシス-クランプを含まない標準物質抗CD3 scFvは、標準物質scFcドメインよりも約26.2%低いLMWを示した(Z5S対J1X、表1)。
【0238】
【表3】
【0239】
抗CD3 scFv操作されたシス-クランプ
抗CD3 scFvにおける操作されたシス-クランプの導入は、非CD3シス-クランプされたBiTE分子対応物と比較して、標準物質抗CD3 scFv、標準物質G4Sリンカーリピート及び標準物質scFcドメインを含む標準物質BiTE分子においてLMWの49.3%の増加につながった。
【0240】
安定化した抗CD3 scFv、G4Qリンカーリピート及び標準物質一本鎖Fcドメインを含むBiTE分子は、操作されたシス-クランプを有するBiTE変異体について、操作されたシス-クランプを有しない同じBiTE分子に対してLMWの2.1%の増加を示したに過ぎなかった。
【0241】
安定化した抗CD3 scFv及びG4Qリンカーを含むBiTE分子であるが、改変された一本鎖Fcドメインは、CD3で操作されたシス-クランプを含むBiTE分子についてLMWの2.6%の増加を示した。
【0242】
注目すべきことに、LMWの割合は、操作されたCD3シス-クランプを有するBiTE分子についてわずかであった。しかしながら、安定化ドメインを含むBiTE分子は、抗CD3 scFvシス-クランプとは無関係に、参照分子と比較して低いLMWの割合を示した(約15.5%のLMW対CD3 scFvシス-クランプのない29%、又はCD3 scFvシス-クランプのある場合のそれぞれ15.9%対43.3%)。
【0243】
組み合わせ
標的1結合分子について、BiTE分子S5Zは、その参照分子11Sと比較して最も低いLMWの割合を示した(15.5%対29%、図5)。詳細には、総LMWの46.6%の低減は、抗CD3 scFvリンカー、標的scFvリンカー、及びscFcドメインのクリッピングの低減によって説明される。
【0244】
標的2結合BiTE分子について、X7Dは、参照分子の22.1%のLMWと比較して合計で9.2%のLMWを示し、したがって、安定化は、G4SリンカーリピートをG4Qと、標準物質scFcドメインを安定化scFcドメインと置き換えることによって、LMWを58.2%まで低減させた。
【0245】
【表4】
【0246】
【表5】
【0247】
結論
これらの観察結果は、単一のドメイン又はリンカー(例えば、抗CD3 scFv、リンカー又はscFc)の安定化自体が、熱ストレス後のLMW%の低減に寄与することを示している。さらに、G4Qリンカー、安定化した抗CD3 scFv、及び安定化したBiTE分子の組み合わせは、総%LMWに対して相加的な効果を示した(図5、表2)。
【0248】
標準物質抗CD3 scFv、標準物質リンカー及び標準物質scFcドメインを含む試験したBiTE分子において、単一の修飾として操作されたCD3シス-クランプは、標準物質BiTE分子における上昇した%LMWレベル(43.3%対29.0%)を示した。しかしながら、安定化したドメインとの関係において、操作されたCD3シス-クランプは、その非シス-クランプ対応物と比較して低い上昇したLMW%レベルを示した(2.1%又は2.6%)。特に、熱ストレス後の%LMWの総レベルは、標準の対照分子11Dと比較して、及び抗CD3 scFvシス-クランプを含まない標準的なBiTE分子(11S)と比較して、CD3シス-クランプを含む安定化したBiTE分子において低減した。
【0249】
熱ストレス及び軽減後にクリッピングを示す他のモチーフ
BiTE分子の抗標的scFvにおいて、本発明者らは、アミノ酸配列:DIで出発するVLドメインのN末端でクリッピング部位を特定した。ここで、本発明者らは、このクリッピング部位を軽減するために単一のアミノ酸変化を導入する(例えば、D→E突然変異)。
【0250】
同様に、scFvサブユニットの1つにVL-リンカー-VHの順序を含むBiTE構築物では、VHの末端によって構築されるSSSモチーフ(VSS)及びSG4Xリンカーは、SSモチーフ、すなわち、(VSSGGGGX)を生成するためのリンカー配列(SG4×→G4X)中の1つのセリンの枯渇によって対処される高いクリッピングを示した。
【0251】
配列
【0252】
【表6】
【0253】
【表7】
【0254】
【表8】
【0255】
【表9】
【0256】
【表10】
【0257】
【表11】
【0258】
【表12】
【0259】
【表13】
【0260】
【表14】
【0261】
【表15】
【0262】
【表16】
【0263】
【表17】
【0264】
【表18】
【0265】
【表19】
【0266】
【表20】
【0267】
【表21】
【0268】
【表22】
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【表23】
【0270】
【表24】
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【表25】
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【表26】
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【表28】
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【表30】
【0277】
【表31】
【0278】
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【0280】
【表34】
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【表35】
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【表39】
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【表40】
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【表41】
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【表42】
【0289】
【表43】
【0290】
【表44】
【0291】
【表45】
【0292】
【表46】
【0293】
【表47】
【0294】
【表48】
【0295】
【表49】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
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【国際調査報告】