(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-17
(54)【発明の名称】細胞のゲノム改変用組成物及び方法ならびにその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20231110BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20231110BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20231110BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20231110BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20231110BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231110BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20231110BHJP
【FI】
C12N15/09 100
C12N15/62 Z ZNA
C12N15/09 110
C12N5/10
A61K48/00
A61K35/17
A61P35/00
A61P35/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023526200
(86)(22)【出願日】2021-10-29
(85)【翻訳文提出日】2023-06-05
(86)【国際出願番号】 US2021057457
(87)【国際公開番号】W WO2022094348
(87)【国際公開日】2022-05-05
(32)【優先日】2020-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523069854
【氏名又は名称】アーセナル バイオサイエンシズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】クーパー アーロン
(72)【発明者】
【氏名】ボローズ アンジェラ
(72)【発明者】
【氏名】スー ペイ-ケン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC20
4B065BA03
4B065CA24
4B065CA44
4C084AA13
4C084NA14
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZB271
4C084ZB272
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB43
4C087NA14
4C087ZB26
4C087ZB27
(57)【要約】
本明細書では、外因性導入遺伝子を発現し、内因性遺伝子の発現が回復または継続する、ゲノム編集された細胞を産生するための、組成物及び方法を提供する。対象の疾患を治療または予防するためにゲノム編集された細胞を使用する方法も提供される。
【選択図】
図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞の内因性遺伝子の3’部分と同等のコード能力を有する配列と外因性導入遺伝子とを含む核酸の標的指向化挿入のための組成物であって、
前記内因性遺伝子を標的とするガイドRNA(gRNA);
前記gRNAと複合体を形成するRNA誘導型ヌクレアーゼ;及び
前記RNA誘導型ヌクレアーゼと複合体を形成し、かつ、前記内因性遺伝子と相同な1つ以上の領域(複数可)をコードする配列と、前記内因性遺伝子の3’部分と同等のコード能力を有する前記配列と、前記導入遺伝子とを含む、核酸
を含み、
前記RNA誘導型ヌクレアーゼが、前記細胞内の前記内因性遺伝子を特異的に切断して挿入部位を作製し、前記核酸の、前記内因性遺伝子の3’部分と同等のコード能力を有する配列と前記導入遺伝子とが、前記挿入部位に挿入され、前記核酸の、前記内因性遺伝子の3’部分と同等のコード能力を有する配列及び前記導入遺伝子の前記挿入が、前記細胞において前記内因性遺伝子の発現の回復または継続、及び前記導入遺伝子の発現をもたらす、
前記組成物。
【請求項2】
外因性導入遺伝子をコードする配列と細胞の内因性遺伝子の5’部分と同等のコード能力を有する配列とを含む核酸の標的指向化挿入のための組成物であって、
前記内因性遺伝子を標的とするガイドRNA(gRNA);
前記gRNAに作動可能に連結されたRNA誘導型ヌクレアーゼ;及び
前記RNA誘導型ヌクレアーゼと複合体を形成し、かつ、前記内因性遺伝子と相同な1つ以上の領域(複数可)をコードする配列と、前記導入遺伝子と、前記内因性遺伝子の5’部分と同等のコード能力を有する前記配列とを含む、核酸
を含み、
前記RNA誘導型ヌクレアーゼが、前記細胞内の前記内因性遺伝子を特異的に切断して挿入部位を作製し、前記核酸の、前記導入遺伝子と前記内因性遺伝子の5’部分と同等のコード能力を有する配列とが、前記挿入部位に挿入され、前記核酸の、前記導入遺伝子及び前記核酸の前記内因性遺伝子の5’部分と同等のコード能力を有する配列の前記挿入が、前記細胞において前記内因性遺伝子の発現の回復または継続、及び前記導入遺伝子の発現をもたらす、
前記組成物。
【請求項3】
前記内因性遺伝子が、T細胞受容体アルファ鎖定常部(TRAC)、T細胞受容体ベータ鎖定常部(TRBC)、CD3γ鎖、CD3δ鎖、CD3ε鎖、CD3ξ鎖、IL-2Rα鎖、IL-2Rβ鎖、及びIL-2Rγ鎖(IL2RG)からなる群から選択される、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記内因性遺伝子が、TRACである、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記内因性遺伝子が、IL2RGである、請求項3に記載の組成物。
【請求項6】
前記内因性遺伝子が、ベータアクチン(Actb)、ATPシンターゼH+輸送、ミトコンドリアF0複合体サブユニットB1(Atp5f1)、ベータ-2ミクログロブリン(B2m)、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(Gapdh)、グルクロニダーゼベータ(Gusb)、ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Hprt)、ホスホグリセリン酸キナーゼI(Pgk1)、ペプチジルプロリルイソメラーゼA(Ppia)、リボソームタンパク質S18(Rps18)、TATAボックス結合タンパク質(Tbp)、トランスフェリン受容体(Tfrc)、チロシン3-モノオキシゲナーゼ/トリプトファン5-モノオキシゲナーゼ活性化タンパク質ゼータポリペプチド(Ywhaz)、Nanogホメオボックス(Nanog)、ジンクフィンガータンパク質42(Rex1)、及びPOUドメインクラス5転写因子1(Oct4)からなる群から選択される遺伝子を含む、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項7】
前記導入遺伝子が、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする配列を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記細胞が、免疫細胞、任意選択でT細胞である、請求項1~7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記T細胞が、CD4+T細胞またはCD8+T細胞である、請求項8記載の組成物。
【請求項10】
前記RNA誘導型ヌクレアーゼが、Cas9である、請求項1~9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
前記gRNAが、単一ガイドRNA(sgRNA)またはcrRNA:トランス活性化RNA(tracrRNA)である、請求項1~10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
核酸を含む細胞であって、前記核酸が、5’から3’に、
(1)前記細胞の内因性遺伝子の5’部分をコードする配列、
(2)前記細胞の前記内因性遺伝子の3’部分と同等のコード能力を有する配列、
(3)外因性導入遺伝子をコードする配列、及び
(4)前記細胞の前記内因性遺伝子の3’部分をコードする配列
を含み、前記細胞が、
(a)(1)及び(2)によってコードされる前記内因性遺伝子、ならびに
(b)(3)によってコードされる前記導入遺伝子
のそれぞれを発現する、前記細胞。
【請求項13】
核酸を含む細胞であって、前記核酸が、5’から3’に、
(1)前記細胞の内因性遺伝子の5’部分をコードする配列、
(2)外因性導入遺伝子をコードする配列、
(3)前記細胞の前記内因性遺伝子の5’部分と同等のコード能力を有する配列、及び
(4)前記細胞の前記内因性遺伝子の3’部分をコードする配列
を含み、前記細胞が、
(a)(2)によってコードされる前記導入遺伝子、ならびに
(b)(3)及び(4)によってコードされる前記内因性遺伝子
のそれぞれを発現する、前記細胞。
【請求項14】
前記内因性遺伝子が、T細胞受容体アルファ鎖定常部(TRAC)、T細胞受容体ベータ鎖定常部(TRBC)、CD3γ鎖、CD3δ鎖、CD3ε鎖、CD3ξ鎖、IL-2Rα鎖、IL-2Rβ鎖、及びIL-2Rγ鎖(IL2RG)からなる群から選択される、請求項12または13に記載の細胞。
【請求項15】
前記内因性遺伝子が、TRACである、請求項14に記載の細胞。
【請求項16】
前記内因性遺伝子が、IL2RGである、請求項14に記載の細胞。
【請求項17】
前記内因性遺伝子が、ベータアクチン(Actb)、ATPシンターゼH+輸送、ミトコンドリアF0複合体サブユニットB1(Atp5f1)、ベータ-2ミクログロブリン(B2m)、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(Gapdh)、グルクロニダーゼベータ(Gusb)、ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Hprt)、ホスホグリセリン酸キナーゼI(Pgk1)、ペプチジルプロリルイソメラーゼA(Ppia)、リボソームタンパク質S18(Rps18)、TATAボックス結合タンパク質(Tbp)、トランスフェリン受容体(Tfrc)、チロシン3-モノオキシゲナーゼ/トリプトファン5-モノオキシゲナーゼ活性化タンパク質ゼータポリペプチド(Ywhaz)、Nanogホメオボックス(Nanog)、ジンクフィンガータンパク質42(Rex1)、及びPOUドメインクラス5転写因子1(Oct4)からなる群から選択される遺伝子を含む、請求項12または13に記載の細胞。
【請求項18】
前記導入遺伝子が、キメラ抗原受容体(CAR)を含む、請求項12~17のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項19】
前記細胞が、免疫細胞、任意選択でT細胞である、請求項12~18のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項20】
前記T細胞が、CD4+T細胞またはCD8+T細胞である、請求項19記載の細胞。
【請求項21】
細胞のゲノムを編集する方法であって、
前記細胞内の内因性遺伝子を標的とするガイドRNA(gRNA);
前記gRNAと複合体を形成するRNA誘導型ヌクレアーゼ;及び
前記RNA誘導型ヌクレアーゼと複合体を形成し、かつ、前記内因性遺伝子と相同な1つ以上の領域(複数可)をコードする配列と、前記内因性遺伝子の3’部分と同等のコード能力を有する配列と、外因性導入遺伝子とを含む、核酸
を前記細胞に導入することを含み、
前記RNA誘導型ヌクレアーゼが、前記細胞内の前記内因性遺伝子を特異的に切断して挿入部位を作製し、前記核酸の、前記内因性遺伝子の3’部分と同等のコード能力を有する配列と前記外因性導入遺伝子とが、前記挿入部位に挿入され、前記核酸の、前記内因性遺伝子の3’部分と同等のコード能力を有する配列及び前記外因性導入遺伝子の挿入が、前記細胞において前記内因性遺伝子の発現の回復または継続、及び前記導入遺伝子の発現をもたらす、
前記方法。
【請求項22】
細胞のゲノムを編集する方法であって、
前記細胞内の内因性遺伝子を標的とするガイドRNA(gRNA);
前記gRNAと複合体を形成するRNA誘導型ヌクレアーゼ;及び
前記RNA誘導型ヌクレアーゼと複合体を形成し、かつ、前記内因性遺伝子と相同な1つ以上の領域(複数可)をコードする配列と、外因性導入遺伝子と、前記内因性遺伝子の5’部分と同等のコード能力を有する配列とを含む、核酸
を前記細胞に導入することを含み、
前記RNA誘導型ヌクレアーゼが、前記細胞内の前記内因性遺伝子を特異的に切断して挿入部位を作り、前記核酸の、前記外因性導入遺伝子と前記内因性遺伝子の5’部分と同等のコード能力を有する配列とが、前記挿入部位に挿入され、前記核酸の、前記外因性導入遺伝子及び前記核酸の前記内因性遺伝子の5’部分と同等のコード能力を有する配列の挿入が、前記細胞において前記内因性遺伝子の発現の回復または継続、及び前記導入遺伝子の発現をもたらす、
前記方法。
【請求項23】
前記内因性遺伝子が、T細胞受容体アルファ鎖定常部(TRAC)、T細胞受容体ベータ鎖定常部(TRBC)、CD3γ鎖、CD3δ鎖、CD3ε鎖、CD3ξ鎖、IL-2Rα鎖、IL-2Rβ鎖、及びIL-2Rγ鎖(IL2RG)からなる群から選択される、請求項21または22に記載の方法。
【請求項24】
前記内因性遺伝子が、TRACである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記内因性遺伝子が、IL2RGである、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記内因性遺伝子が、ベータアクチン(Actb)、ATPシンターゼH+輸送、ミトコンドリアF0複合体サブユニットB1(Atp5f1)、ベータ-2ミクログロブリン(B2m)、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(Gapdh)、グルクロニダーゼベータ(Gusb)、ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Hprt)、ホスホグリセリン酸キナーゼI(Pgk1)、ペプチジルプロリルイソメラーゼA(Ppia)、リボソームタンパク質S18(Rps18)、TATAボックス結合タンパク質(Tbp)、トランスフェリン受容体(Tfrc)、チロシン3-モノオキシゲナーゼ/トリプトファン5-モノオキシゲナーゼ活性化タンパク質ゼータポリペプチド(Ywhaz)、Nanogホメオボックス(Nanog)、ジンクフィンガータンパク質42(Rex1)、及びPOUドメインクラス5転写因子1(Oct4)からなる群から選択される、請求項21または22に記載の方法。
【請求項27】
前記導入遺伝子が、キメラ抗原受容体(CAR)を含む、請求項21~26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記細胞が、免疫細胞、任意選択でT細胞である、請求項21~27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記T細胞が、CD4+T細胞またはCD8+T細胞である、請求項28記載の方法。
【請求項30】
前記RNA誘導型ヌクレアーゼが、Cas9である、請求項21~29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記gRNAが、単一ガイドRNA(sgRNA)またはcrRNA:トランス活性化crRNA(tracrRNA)である、請求項21~30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記細胞への導入が、非ウイルス導入である、請求項21~31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記細胞への非ウイルス導入が、電気穿孔を介して行われる、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
対象の疾患を治療または予防する方法であって、
請求項12~20のいずれか1項に記載の細胞を得ること、及び
前記対象に前記細胞を投与すること
を含む、前記方法。
【請求項35】
前記疾患が、がんである、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記細胞が、前記対象から得られる、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記細胞が、T細胞、任意選択でCD4+T細胞またはCD8+T細胞である、請求項36に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年10月29日に出願された米国仮特許出願第63/107,401号の利益及び優先権を主張するものであり、その開示内容は、あらゆる目的のために全体として参照により本明細書に援用する。
【0002】
配列表
本出願は、ASCII形式で電子的に提出され、本明細書の一部を構成するものとして、その全内容を援用する配列表を含む。2021年10月29日に作成された当該ASCIIコピーは、名称がANB-204WO SL ST25.txtであり、そして、サイズは、368,991バイトである。
【0003】
発明の分野
本発明は、一般に、養子細胞療法に適用される、細胞への導入遺伝子の挿入のための組成物及び方法に関する。
【背景技術】
【0004】
背景
遺伝子操作された免疫細胞療法は、数十年にわたって開発されており、特定のがんの治療に有効であることが証明されている。ウイルス遺伝子改変法のランダムな統合から標的化された非ウイルス統合への進化は、細胞免疫療法の可能性をさらに解き放つと大きく見込まれる。ただし、標的化された導入遺伝子組み込みに特有の重要なエンジニアリングの課題が残っている。導入遺伝子組み込みの効率は、常に100%未満であり、導入遺伝子が組み込まれた細胞を選択及び/または濃縮するための現在の方法は、親和性精製または抗生物質耐性の付与を可能にする導入遺伝子産物の発現に大きく基づいている。
【0005】
例えば、導入遺伝子は、抗体試薬に露出する細胞表面タンパク質をコードする遺伝子を含むように操作することができ、蛍光活性化細胞分類(FACS)を可能にするために蛍光標識するか、磁気ビーズに結合して磁気ベース濃縮を可能にし得る。あるいは、蛍光タンパク質(例えば、緑色蛍光タンパク質)を発現するように細胞を操作してFACSを可能にし得る。別の例において、抗生物質耐性マーカー(例えば、ピューロマイシン耐性遺伝子)を導入遺伝子に組み込み、当該導入遺伝子から発現させることができる。これにより、導入遺伝子の組み込みが成功した細胞は、抗生物質耐性である一方、組み込みが成功しなかった細胞は、抗生物質治療に敏感になり得る。これらの標準方法は効果的であるが、細胞表面タンパク質である場合、導入遺伝子自体の選択試薬を作製できない限り、外来タンパク質の発現が比較的長くなる必要がある。
【0006】
別のアプローチにおいて、導入遺伝子をヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)などの遺伝子座に組み込むことができる。HPRTは、2-チオグアニンの細胞毒性代謝産物への変換を触媒する。導入遺伝子をHPRT遺伝子座に挿入すると、HPRTの発現が破壊され、組み込まれる細胞は、細胞を2-チオグアニンで処理することによって選択し得る。部位特異的に導入遺伝子を挿入するこの方法及び他の方法は、多くの場合、宿主細胞の生存または機能に不可欠な遺伝子で行われ、挿入は、通常、当該挿入部位で遺伝子を不活性化する。従って、細胞の生存及び機能を促進するために遺伝子破壊を修正しながら導入遺伝子の挿入を同時に達成する方法は、養子免疫細胞療法の開発及び応用に有益である。
【発明の概要】
【0007】
本開示は、細胞の健康及び生存に利益をもたらす遺伝子座産物の発現を維持しながら、細胞のゲノムに部位特異的導入遺伝子を挿入するための組成物及び方法を対象とする。
【0008】
本明細書では、細胞内の内因性遺伝子の3’部分と同等のコード能力を有する配列と外因性導入遺伝子とを含む核酸の標的指向化挿入のための組成物を提供する。いくつかの実施形態において、当該組成物は、
内因性遺伝子を標的とするガイドRNA(gRNA);
gRNAと複合体を形成するRNA誘導型ヌクレアーゼ;及び
RNA誘導型ヌクレアーゼと複合体を形成し、かつ、内因性遺伝子と相同な1つ以上の領域(複数可)をコードする配列と、内因性遺伝子の3’部分と同等のコード能力を有する配列と、導入遺伝子とを含む、核酸
を含む。いくつかの実施形態において、当該RNA誘導型ヌクレアーゼは、細胞内の内因性遺伝子を特異的に切断して挿入部位を作製し、核酸の、当該内因性遺伝子の3’部分と同等のコード能力を有する配列と当該導入遺伝子とが、挿入部位に挿入され、核酸の、当該内因性遺伝子の3’部分と同等のコード能力を有する配列及び当該導入遺伝子の挿入は、細胞において内因性遺伝子の発現の回復または継続、及び導入遺伝子の発現をもたらす。
【0009】
別の実施形態において、当該組成物は、
内因性遺伝子を標的とするガイドgRNA;
gRNAと複合体を形成するRNA誘導型ヌクレアーゼ;及び
RNA誘導型ヌクレアーゼと複合体を形成し、かつ、内因性遺伝子と相同な1つ以上の領域(複数可)をコードする配列と、外因性導入遺伝子と、内因性遺伝子の5’部分と同等のコード能力を有する配列とを含む、核酸
を含む。いくつかの実施形態において、当該RNA誘導型ヌクレアーゼは、細胞内の内因性遺伝子を特異的に切断して挿入部位を作製し、核酸の、当該導入遺伝子と当該内因性遺伝子の5’部分と同等のコード能力を有する配列とが、挿入部位に挿入され、核酸の、当該導入遺伝子及び当該内因性遺伝子の5’部分と同等のコード能力を有する配列の挿入は、細胞において内因性遺伝子の発現の回復または継続、及び導入遺伝子の発現をもたらす。
【0010】
また、本明細書では、5’から3’に、(1)細胞の内因性遺伝子の5’部分をコードする配列、(2)当該細胞の内因性遺伝子の3’部分と同等のコード能力を有する配列、(3)外因性導入遺伝子をコードする配列、及び(4)当該細胞の内因性遺伝子の3’部分をコードする配列を含む核酸を含む細胞であって、(1)及び(2)によってコードされる内因性遺伝子及び(3)によってコードされる導入遺伝子のそれぞれを発現する、当該細胞を提供する。
【0011】
別の実施形態において、本明細書では、5’から3’に、(1)当該細胞の内因性遺伝子の5’部分と同等のコード能力を有する配列、(2)外因性導入遺伝子をコードする配列、(3)当該細胞の内因性遺伝子の5’部分をコードする配列、及び(4)当該細胞の内因性遺伝子の3’部分をコードする配列を含む核酸を含む細胞であって、(2)によってコードされる導入遺伝子ならびに(3)及び(4)によってコードされる内因性遺伝子のそれぞれを発現する、当該細胞を提供する。
【0012】
別の実施形態において、本明細書では、細胞のゲノムを編集する方法であって、
内因性遺伝子を標的とするgRNA;
gRNAと複合体を形成するRNA誘導型ヌクレアーゼ;及び
RNA誘導型ヌクレアーゼと複合体を形成し、かつ、内因性遺伝子と相同な1つ以上の領域(複数可)をコードする配列と、内因性遺伝子の3’部分と同等のコード能力を有する配列と、外因性導入遺伝子とを含む、核酸
を細胞に導入すること含む、当該方法を提供する。いくつかの実施形態において、当該RNA誘導型ヌクレアーゼは、細胞内の内因性遺伝子を特異的に切断して挿入部位を作製し、核酸の、当該内因性遺伝子の3’部分と同等のコード能力を有する配列と当該外因性導入遺伝子とが、挿入部位に挿入され、核酸の、当該内因性遺伝子の3’部分と同等のコード能力を有する配列及び当該外因性導入遺伝子の挿入は、細胞において内因性遺伝子の発現の回復または継続、及び導入遺伝子の発現をもたらす。
【0013】
さらに別の実施形態において、本明細書では、細胞のゲノムを編集する方法であって、
内因性遺伝子を標的とするgRNA;
gRNAと複合体を形成するRNA誘導型ヌクレアーゼ;及び
RNA誘導型ヌクレアーゼと複合体を形成し、かつ、内因性遺伝子と相同な1つ以上の領域(複数可)をコードする配列と、外因性導入遺伝子と、内因性遺伝子の5’部分と同等のコード能力を有する配列とを含む、核酸
を細胞に導入すること含む、当該方法を提供する。いくつかの実施形態において、当該RNA誘導型ヌクレアーゼは、細胞内の内因性遺伝子を特異的に切断して挿入部位を作製し、核酸の、当該外因性導入遺伝子と当該内因性遺伝子の5’部分と同等のコード能力を有する配列とが、挿入部位に挿入され、核酸の、当該外因性導入遺伝子及び当該内因性遺伝子の5’部分と同等のコード能力を有する配列の挿入は、細胞において内因性遺伝子の発現の回復または継続、及び導入遺伝子の発現をもたらす。
【0014】
いくつかの実施形態において、gRNA、RNA誘導型ヌクレアーゼ、及び核酸は、非ウイルス送達を介して細胞に導入される。例えば、いくつかの実施形態において、gRNA、RNA誘導型ヌクレアーゼ、及び核酸は、電気穿孔を介して細胞に導入される。いくつかの実施形態において、gRNA、RNA誘導型ヌクレアーゼ、及び/または核酸は、ウイルス送達を介して細胞に導入される。例えば、いくつかの実施形態において、gRNA、RNA誘導型ヌクレアーゼ、及び/または核酸は、アデノ随伴ウイルス(例えば、AAV6)を介して細胞に導入される。
【0015】
いくつかの実施形態において、内因性遺伝子は、T細胞受容体アルファ鎖定常部(TRAC)、T細胞受容体ベータ鎖定常部(TRBC)、CD3γ鎖、CD3δ鎖、CD3ε鎖、CD3ξ鎖、IL-2Rα鎖、IL-2Rβ鎖、及びIL-2Rγ鎖(IL2RG)からなる群から選択される。例えば、いくつかの実施形態において、内因性遺伝子はTRACである。例えば、別の実施形態において、内因性遺伝子はIL2RGである。
【0016】
いくつかの実施形態において、内因性遺伝子は、ベータアクチン(Actb)、ATPシンターゼH+輸送、ミトコンドリアF0複合体サブユニットB1(Atp5f1)、ベータ-2ミクログロブリン(B2m)、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(Gapdh)、グルクロニダーゼベータ(Gusb)、ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Hprt)、ホスホグリセリン酸キナーゼI(Pgk1)、ペプチジルプロリルイソメラーゼA(Ppia)、リボソームタンパク質S18(Rps18)、TATAボックス結合タンパク質(Tbp)、トランスフェリン受容体(Tfrc)、チロシン3-モノオキシゲナーゼ/トリプトファン5-モノオキシゲナーゼ活性化タンパク質ゼータポリペプチド(Ywhaz)、Nanogホメオボックス(Nanog)、ジンクフィンガータンパク質42(Rex1)、及びPOUドメインクラス5転写因子1(Oct4)のうちの1つ以上である。いくつかの実施形態において、内因性遺伝子はGapdhである。
【0017】
いくつかの実施形態において、導入遺伝子は、キメラ抗原受容体(CAR)を含む。
【0018】
いくつかの実施形態において、細胞は、免疫細胞であり、任意選択でT細胞である。例えば、いくつかの実施形態において、T細胞はCD4+またはCD8+T細胞である。いくつかの実施形態において、細胞は人工多能性幹細胞(iPSC)である。いくつかの実施形態において、細胞は、iPSC由来のナチュラルキラー細胞(iNK)である。いくつかの実施形態において、免疫細胞は、多能性幹細胞などの免疫細胞前駆細胞である。
【0019】
いくつかの実施形態において、RNA誘導型ヌクレアーゼはCas9である。
【0020】
いくつかの実施形態において、gRNAは、単一ガイドRNA(sgRNA)またはcrRNA:トランス活性化RNA(tracrRNA)である。
【0021】
別の態様において、対象における疾患を治療する方法であって、本明細書に記載の核酸を含む細胞を得ること、及び当該細胞を対象に投与することを含む、当該方法が提供される。いくつかの実施形態において、疾患はがんである。いくつかの実施形態において、細胞は、対象から得られる。例えば、特定の実施形態において、細胞はT細胞であり、任意選択で、CD4+またはCD8+T細胞である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】ガイドRNA(gRNA)、RNA誘導型ヌクレアーゼ(例えば、Cas9)、及び外因性導入遺伝子(例えば、キメラ抗原受容体(CAR))をコードする核酸の例示的な導入を示す概念図である。細胞(例えば、T細胞受容体アルファ鎖定常部(TRAC))の内因性遺伝子の5’部分または3’部分と同等のコード能力を有する配列は、外因性導入遺伝子及び内因性遺伝子の両方の発現をもたらす。
【0023】
【
図2A】RNA誘導型ヌクレアーゼによって切断された細胞内の内因性遺伝子の二本鎖切断への、内因性遺伝子の3’部分と同等のコード能力を有する配列及び外因性導入遺伝子の例示的な挿入を示す概念図である。
【
図2B】遺伝子回路挿入を伴う及びそれを伴わないIL2RGの非ウイルス標的化によるT細胞の編集に対する例示的な結果を示す概念図である。
【0024】
【
図3】
図3は、プラスミド修復鋳型を用いてTRAC遺伝子座を標的とするCRISPRリボ核タンパク質(RNP)で電気穿孔したT細胞のフローサイトメトリードットプロットを示す。
図3Aは、CRISPR RNP、ならびにCAR及び切断型EGFR導入遺伝子をコードするプラスミド修復鋳型で電気穿孔したT細胞のフローサイトメトリードットプロットを示す。
図3Bは、CRISPR RNP、ならびにCAR、切断型EGFR導入遺伝子、及びCRISPR標的切断部位の以後のTRACの全てのコード配列をコードするプラスミド修復鋳型で電気穿孔したT細胞のフローサイトメトリードットプロットを示す。
図3Cは、BのEGFR陽性細胞のフローサイトメトリードットプロットを示す。
【0025】
【
図4】プラスミド修復鋳型を用いてTRAC遺伝子座を標的とするCRISPR RNPで電気穿孔し、CD3/CD28ビーズで刺激したT細胞におけるCARを発現する細胞の割合の増加倍数を示すグラフである。
【0026】
【
図5】Prime及びCAR受容体ならびにMycタグを有する回路をコードする外因性導入遺伝子を発現させるプラスミド修復鋳型を有するIL2RG遺伝子座を標的とするCRISPRリボ核タンパク質(RNP)で電気穿孔した2人のドナーから得られたT細胞の、電気穿孔後9日目及び14日目のフローサイトメトリードットプロットを示す。
【0027】
【
図6A】Prime及びCAR受容体ならびにMycタグ(pS6651)を有する回路をコードする外因性導入遺伝子を発現させるプラスミド修復鋳型を有するIL2RG遺伝子座を標的とするCRISPRリボ核タンパク質(RNP)で電気穿孔した4人のドナーから得られたT細胞のうち、電気穿孔後9日目及び14日目に、IL2RG及び外因性導入遺伝子の両方を発現する細胞の割合を示すグラフである。
【0028】
【
図6B】Prime及びCAR受容体ならびにMycタグ(pS6651)を有する回路をコードする外因性導入遺伝子を発現させるプラスミド修復鋳型を有するIL2RG遺伝子座を標的とするCRISPRリボ核タンパク質(RNP)で電気穿孔した4人のドナーから得られたT細胞のうち、電気穿孔後9日目及び14日目に、IL2RGがノックアウトされ、導入遺伝子が組み込まれていない細胞の割合を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
詳細な説明
本発明は、細胞内の内因性遺伝子内の標的部位に核酸を標的指向化挿入するための組成物及び方法であって、核酸が外因性導入遺伝子及び内因性遺伝子の一部を含み、核酸の挿入が、細胞内の外因性導入遺伝子の発現をもたらし、且つ内因性遺伝子の発現を回復または継続させる、当該組成物及び方法を提供する。細胞の内因性遺伝子の発現を回復または継続させることは、細胞の健康及び生存に有益であり、及び/または治療用細胞の作製に有利であり得る。
【0030】
本発明の理解を容易にするために、多数の用語及び語句を下記に定義する。
【0031】
本明細書で使用されるとき、「a」及び「an」という用語は、「1つ以上」を意味し、文脈が不適切でない限り複数形を含む。
【0032】
「核酸」、「ヌクレオチド」、または「オリゴヌクレオチド」という用語は、一本鎖または二本鎖形態のデオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)及びそのポリマーを指す。特に限定されない限り、この用語は、参照核酸と同様の結合特性を有し、天然に存在するヌクレオチドと同様の方法で代謝される天然ヌクレオチドの既知の類似体を含む核酸を包含する。特に示さない限り、特定の核酸配列は、明示的に示された配列だけでなく、保存的に修飾されたその変異体(例えば、縮退コドン置換)、対立遺伝子、オルソログ、SNP、及び相補的配列も暗黙のうちに包含する。具体的には、縮退コドン置換は、1つ以上の選択された(または全ての)コドンの3番目の位置が混合塩基及び/またはデオキシイノシン残基で置換された配列を生成することによって達成され得る(Batzer et al.,Nucleic Acid Res.19:5081(1991)、Ohtsuka et al.,J.Biol.Chem.260:2605-2608(1985)、及びRossolini et al.,Mol.Cell.Probes 8:91-98(1994))。
【0033】
「遺伝子」という用語は、ポリペプチド鎖の産生またはコードすることに関与するDNA断片を指す場合がある。「遺伝子」という用語は、コード領域の前後の領域(リーダー及びトレーラー)と、個々のコード断片(エクソン)の間にある介在配列(イントロン)を含む。あるいは、「遺伝子」という用語は、rRNA、tRNA、ガイドRNA(gRNA)、短干渉RNA(siRNA)、またはマイクロRNA(miRNA)などの非翻訳RNAの産生またはコードすることに関与するDNA断片を指す場合がある。
【0034】
本明細書で使用される場合、核酸、例えば細胞内の遺伝子またはタンパク質に関する「内因性」という用語は、自然界に見られる特定の細胞内、例えば、その自然なゲノム位置または遺伝子座で発生する核酸またはタンパク質を指す。さらに、核酸またはタンパク質を「内因的に発現する」細胞は、その核酸またはタンパク質が自然界に見られるとおりに発現する。
【0035】
「プロモーター」は、核酸の転写を指示する1つ以上の核酸制御配列(複数可)として定義される。本明細書で使用される場合、「プロモーター」は、ポリメラーゼIIタイププロモーターの場合においては、TATA要素等の、転写の開始部位の近くで核酸配列を含む。プロモーターはまた、任意選択で、転写の開始部位から数千塩基対と同程度の距離に位置する、遠位エンハンサーまたはリプレッサー要素を含む。
【0036】
核酸は、それが別の核酸配列と機能的な関係性に置かれるとき、「操作可能に連結」されている。例えば、プロモーターまたはエンハンサーは、それがコード配列の転写に影響を及ぼす場合、その配列に操作可能に連結しているか、あるいはリボソーム結合部位は、それが翻訳を促進するように配置されている場合、コード配列に操作可能に連結されている。
【0037】
本明細書で使用される場合、「同等のコード能力を有する配列」という用語は、別の参照核酸と機能的に同等である核酸配列を指す。同等のコード能力を有する配列は、同じ一次ヌクレオチド配列を有していてもよく、同じ一次ヌクレオチド配列を有していなくてもよい。例えば、発現されたポリペプチドをコードする参照核酸について、同等のコード能力を有する配列は、同じ発現されたポリペプチドを機能的にコードすることが可能であり、参照核酸と同一の一次ヌクレオチド配列を含んでもよく、または参照核酸に比べ、1つ以上の代替コドン(複数可)を含んでもよい。例えば、ポリペプチドをコードする内因性核酸配列は、コドン最適化を介して変更されて、同一のポリペプチドをコードする配列を生じ得る。コドン最適化配列は、ポリペプチドの活性、発現、及び/または安定性を改変するために、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド中のコドンが置換されたものであり得る。例えば、コドン最適化を用いて、内因性遺伝子のタンパク質産物をコードする能力を保持しながら、内因性遺伝子配列と比較して同等のコード能力を有する配列の配列類似性の程度を変えることができる。
【0038】
「ポリペプチド」、「ペプチド」、及び「タンパク質」は、アミノ酸残基のポリマーを指すために互換的に使用される。本明細書で使用される場合、上記の用語は、アミノ酸残基が共有ペプチド結合によって連結されている、全長タンパク質を含む任意の長さのアミノ酸鎖を包含する。
【0039】
本明細書で使用される場合、「相補的」または「相補性」という用語は、ヌクレオチドまたは核酸間の特定の塩基対形成を指す。相補的ヌクレオチドは、一般に、A及びT(またはA及びU)、ならびにG及びCである。本明細書に記載のガイドRNA(gRNA)は、配列、例えば、ゲノム配列に対して完全に相補的または実質的に相補的である(例えば、1~4のミスマッチを有する)DNAターゲティング配列を含み得る。
【0040】
本明細書で使用する場合、「標的指向化ヌクレアーゼ」という用語は、DNAの特定の配列を認識して結合し、特定の切断部位に一本鎖または二本鎖の切断を導入するエンドヌクレアーゼを指す。標的ヌクレアーゼには、RNA誘導型ヌクレアーゼ、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、及びメガTALが含まれるが、これらに限定されない。
【0041】
本明細書で使用される場合、「RNA誘導型ヌクレアーゼ」という用語は、ガイドRNA(例えば、sgRNAまたはcrRNA:tracrRNA)と複合体を形成する標的ゲノム編集を行うために使用し得るエンドヌクレアーゼを指す。
【0042】
本明細書で使用される場合、「標的切断部位」という用語は、エンドクレアーゼが特異的に切断して一本鎖または二本鎖の切断を行うゲノム部位を指す。
【0043】
「CRISPR/Cas」システムは、外来核酸に対する防御のための細菌システムの広範なクラスを指す。CRISPR/Casシステムは、広範囲の真正細菌生物及び古細菌生物において見出される。CRISPR/Casシステムには、I型、II型、及びIII型サブタイプが含まれる。野生型II型CRISPR/Casシステムは、ガイドRNA及び活性化RNAと複合体を形成するRNA誘導型ヌクレアーゼ、例えばCas9を利用して、外来核酸を認識及び切断する。ガイドRNA及び活性化RNAの両方の活性を有するガイドRNAも当技術分野において公知である。いくつかの場合において、そのような二重活性ガイドRNAは、単一ガイドRNA(sgRNA)と呼ばれる。
【0044】
Cas9相同体は、広範な真正細菌で見出され、以下の分類群の細菌を含むが、これらに限定される訳ではない:アクチノバクテリア(Actinobacteria)、アクウィフェクス門(Aquificae)、バクテロイデス門(Bacteroidetes)-クロロビウム門(Chlorobi)、クラミジア(Chlamydiae)-ベルコミクロビア(Verrucomicrobia)、クロロフレクサス門(Chlroflexi)、シアノバクテリア(Cyanobacteria)、ファーミキューテス(Firmicutes)、プロテオバクテリア(Proteobacteria)、スピロヘータ(Spirochaetes)、及びテルモトガ門(Thermotogae)。例示的なCas9タンパク質は、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)のCas9タンパク質である。さらなるCas9タンパク質及びその相同体は、例えば、Chylinksi,et al.,RNA Biol.2013 May 1、10(5):726-737、Nat.Rev.Microbiol.2011 June、9(6):467-477;Hou,et al.,Proc Natl Acad Sci U S A.2013 Sep 24;110(39):15644-9;Sampson et al.,Nature.2013 May 9;497(7448):254-7、及びJinek,et al.,Science.2012 Aug 17;337(6096):816-21に記載されている。本明細書で提供されるCas9ヌクレアーゼのいずれかの変異体は、宿主細胞における効率的な活性または安定性の増強のために最適化することができる。従って、操作されたCas9ヌクレアーゼも考えられる。例えば、Slaymaker et al.,Rationally engineered Cas9 nucleases with improved specificity,Science 351(6268):84-88(2016)を参照されたい。
【0045】
本明細書で使用される場合、「Cas9」という用語は、RNA誘導型ヌクレアーゼ(例えば、細菌もしくは古細菌起源の、またはそれらに由来する)を指す。例示的なRNA誘導型ヌクレアーゼには、前述のCas9タンパク質及びその相同体が含まれる。別のRNA誘導型ヌクレアーゼには、Cpf1(例えば、Zetsche et al.,Cell,Volume 163,Issue 3,p759-771,22 October 2015を参照)及びその相同体が含まれる。
【0046】
本明細書で使用される場合、「リボヌクレオタンパク質」などの用語は、標的指向化ヌクレアーゼ、例えば、Cas9タンパク質とsgRNA、Cas9タンパク質とcrRNA、Cas9タンパク質とトランス活性化crRNA(tracrRNA)、Cas9タンパク質とガイドRNA、またはそれらの組み合わせ(例えば、Cas9タンパク質、tracrRNA、及びcrRNAガイドRNAを含有する複合体)の複合体を指す。本明細書に記載のいくつかの実施形態において、Cas9ヌクレアーゼをCpf1ヌクレアーゼまたは任意の他の誘導型ヌクレアーゼと置換可能であることに理解されたい。
【0047】
本明細書で使用される場合、「複合体を形成する」という用語は、非共有相互作用を介して物理的に会合する2つ以上の分子を指す。例えば、gRNAと複合体を形成するRNA誘導型ヌクレアーゼの場合、ヌクレアーゼが、非共有相互作用を介してgRNAと機能的に会合し、gRNAが標的とするゲノム遺伝子座へのヌクレアーゼの動員を促進する。同様に、核酸と複合体を形成するRNA誘導型ヌクレアーゼの場合、ヌクレアーゼが、非共有相互作用を介して核酸と機能的に会合し、例えば相同組換え修復(HDR)のための鋳型として機能し得る標的ゲノム遺伝子座への核酸の動員を促進にする。
【0048】
本明細書で使用される場合、細胞のゲノムを編集または改変するという文脈における「編集」または「改変」という用語は、標的ゲノム領域でゲノム配列の構造変化を誘導することを指す。例えば、編集または改変は、ヌクレオチド配列を細胞のゲノムに挿入する形態を取り得る。例えば、ポリペプチドをコードする外因性導入遺伝子は、T細胞のT細胞受容体(TCR)遺伝子座のゲノム配列に挿入され得る。本出願全体に使用される場合、「TCR遺伝子座」は、TCRαサブユニット、TCRβサブユニット、TCRγサブユニット、またはTCRδサブユニットをコードする遺伝子が位置するゲノム内の位置である。このような編集改変は、例えば、二本鎖切断を標的ゲノム領域内に誘導することにより、または一対の一本鎖ニックを対向する鎖上に誘導し、標的ゲノム領域に隣接させることにより実施することができる。標的ゲノム領域の位置にまたは標的ゲノム領域内に一本鎖または二本鎖切断を誘導する方法は、標的ゲノム領域に向けられた、Cas9ヌクレアーゼドメインまたはその誘導体、及びガイドRNA(例えば、sgRNAまたはcrRNA:tracrRNA)またはガイドRNAの対の使用を含む。
【0049】
本明細書で使用される場合、核酸または核酸を含む複合体、例えばRNP-DNA鋳型複合体を導入するという文脈での「導入する」という用語は、細胞の外側から細胞の内側への核酸配列またはRNP-DNA鋳型複合体の移行を指す。いくつかの場合において、導入とは、細胞の外側から細胞の核の内側への核酸または複合体の移行を指す。電気穿孔、ナノワイヤまたはナノチューブとの接触、受容体媒介性の内部移行、細胞透過性ペプチドを介した移行、リポソーム媒介性の移行などを含むが、これらに限定されない、そのような移行の様々な方法が企図される。
【0050】
本明細書で使用される場合、「外因性」という用語は、自然界では通常見られないものを指す。例えば、「外因性遺伝子」という用語は、自然界の所与の細胞では、通常見られない遺伝子を指す。
【0051】
本明細書で使用される場合、「導入遺伝子」という用語は、細胞のゲノムに人工的に導入された外因性遺伝子、または細胞のゲノムの非天然遺伝子座に人工的に導入された内因性遺伝子を指す。導入遺伝子は、ポリペプチド鎖の産生またはコードすることに関与するDNA断片を指す場合がある。導入遺伝子は、コード領域の前後の領域(リーダー及びトレーラー)と、個々のコード断片(エクソン)の間にある介在配列(イントロン)を含み得る。あるいは、導入遺伝子は、rRNA、tRNA、gRNA、siRNA、またはmiRNAなどの非翻訳RNAの産生またはコードすることに関与するDNA断片を指す場合がある。
【0052】
本明細書で使用される場合、「ハウスキーピング遺伝子」という用語は、基本的な細胞機能に必要であり、様々な生理学的条件及び実験条件で構成的かつ安定的に発現される遺伝子を指す。ハウスキーピング遺伝子の例としてはGapdhが挙げられる。
【0053】
本明細書で使用される場合、「細胞」は、真核細胞、原核細胞、動物細胞、植物細胞、真菌細胞などであり得る。場合によって、細胞は哺乳動物細胞、例えばヒト細胞である。いくつかの場合において、細胞は、免疫細胞である。例えば、いくつかの実施形態において、細胞は、ヒトT細胞(例えば、CD4+またはCD8+T細胞)、またはTCR受容体分子を発現するT細胞に分化し得る細胞である。これらには、造血幹細胞及び造血幹細胞に由来の細胞が含まれる。いくつかの実施形態において、細胞は人工多能性幹細胞(iPSC)である。いくつかの実施形態において、細胞は、iPSC由来のナチュラルキラー細胞(iNK)である。
【0054】
本明細書で使用される場合、「選択可能なマーカー」という用語は、マーカーを含む宿主細胞、例えばT細胞の選択を可能にする遺伝子を指す。選択可能マーカーには、蛍光マーカー、発光マーカー、及び薬物選択可能マーカー、細胞表面受容体などが含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、選択は正の選択であり得る。すなわち、マーカーを発現する細胞を集団から単離し、例えば、選択可能マーカーを発現する細胞の濃縮集団を作製する。分離は、使用する選択可能マーカーに適した任意の便利な分離技術により行われ得る。例えば、蛍光マーカーを使用する場合、細胞は、蛍光活性化細胞分類(FACS)によって分離可能であるが、細胞表面マーカーが挿入されている場合、アフィニティー分離技術、例えば、磁気分離、アフィニティークロマトグラフィー、固体マトリックスに結合したアフィニティー試薬による「パニング」、FACS、または他の便利な技術によって、細胞を不均一集団から分離し得る。
【0055】
本明細書で使用される場合、「造血幹細胞」という用語は、血液細胞を生じさせることができるが可能であるタイプの幹細胞を指す。造血幹細胞は、骨髄系もしくはリンパ系、またはそれらの組み合わせの細胞を生じさせることが可能である。造血幹細胞は、主に骨髄に見られるが、末梢血またはその分画から分離することも可能である。様々な細胞表面マーカーを使用して、造血幹細胞を識別、選別、または精製し得る。いくつかの場合において、造血幹細胞は、c-kit+及びlin-として識別される。いくつかの場合において、ヒト造血幹細胞は、CD34+、CD59+、Thy1/CD90+、CD38lo/-、C-kit/CD117+、lin-として識別される。いくつかの場合において、ヒト造血幹細胞は、CD34-、CD59+、Thy1/CD90+、CD38lo/-、C-kit/CD117+、lin-として識別される。いくつかの場合において、ヒト造血幹細胞は、CD133+、CD59+、Thy1/CD90+、CD38lo/-、C-kit/CD117+、lin-として識別される。いくつかの場合において、マウス造血幹細胞は、CD34lo/-、SCA-1+、Thy1+/lo、CD38+、C-kit+、lin-として識別される。いくつかの場合において、造血幹細胞は、CD150+CD48-CD244-である。
【0056】
本明細書において「造血細胞」という表現は、造血幹細胞由来の細胞を指す。造血細胞は、生物、系、器官、または組織(例えば、血液、またはその画分)からの単離によって入手または提供され得る。あるいは、造血細胞は、造血幹細胞を単離し、幹細胞を分化させることによって入手または提供され得る。造血細胞には、さらなる細胞型への分化する可能性が制限されている細胞が含まれる。そのような造血細胞には、これらに限定されるものではないが、複能性前駆細胞、系統拘束性前駆細胞、骨髄球系共通前駆細胞、顆粒球マクロファージ前駆細胞、または巨核球赤芽球前駆細胞が含まれる。造血細胞には、リンパ球、赤血球、顆粒球、単球、及び血小板などのリンパ球系及び骨髄球系系列の細胞が含まれる。いくつかの実施形態において、造血細胞は、T細胞、B細胞、マクロファージ、ナチュラルキラー(NK)細胞、または樹状細胞などの免疫細胞である。いくつかの実施形態において、細胞は、自然免疫細胞である。
【0057】
本明細書で使用される場合、「T細胞」という用語は、TCR分子を発現するリンパ細胞を指す。T細胞には、ヒトアルファベータ(αβ)T細胞及びヒトガンマデルタ(γδ)T細胞が含まれる。T細胞には、これらに限定されるものではないが、ナイーブT細胞、刺激または活性化されたT細胞、初代T細胞(例えば、培養されていない)、培養T細胞、不死化T細胞、ヘルパーT細胞、細胞傷害性T細胞、メモリーT細胞、制御性T細胞、ナチュラルキラーT細胞、それらの組み合わせ、またはその亜集団が含まれる。T細胞は、CD4+、CD8+、またはCD4+且つCD8+であり得る。T細胞はまた、CD4-、CD8-、またはCD4-且つCD8-であり得る。T細胞は、ヘルパー細胞、例えばTH1、TH2、TH3、TH9、TH17、またはTFH型のヘルパー細胞であり得る。T細胞は、細胞傷害性T細胞であり得る。Tregは、FOXP3+またはFOXP3-であり得る。T細胞は、アルファ/ベータT細胞またはガンマ/デルタT細胞であり得る。いくつかの場合において、T細胞は、CD4+CD25hiCD127loTregである。いくつかの場合において、T細胞は、1型制御性(Tr1)、TH3、CD8+CD28-、Treg17、及びQa-1拘束性T細胞、またはその組み合わせもしくは亜集団からなる群から選択されるTregである。いくつかの場合において、T細胞は、FOXP3+T細胞である。いくつかの場合において、T細胞は、CD4+CD25loCD127hiエフェクターT細胞である。いくつかの場合において、T細胞は、CD4+CD25loCD127hiCD45RAhiCD45RO-ナイーブT細胞である。T細胞は、遺伝子操作された組換えT細胞であり得る。
【0058】
本明細書で使用される場合、初代細胞という文脈における「初代」という用語は、形質転換も不死化もされていない細胞である。そのような初代細胞は、限られた数の回数で培養、二次培養、または継代(例えば、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20回培養する)することが可能である。いくつかの場合において、初代細胞は、in vitro培養条件に適応する。いくつかの場合において、初代細胞は、生物、系、器官、または組織から単離され、任意で選別されて、培養または二次培養することなく直接的に利用される。いくつかの場合において、初代細胞は刺激され、活性化され、または分化される。例えば、初代T細胞は、CD3アゴニスト、CD28アゴニスト、IL-2、IFN-γ、またはそれらの組み合わせとの接触(例えば、それらの存在下での培養)によって活性化し得る。
【0059】
本明細書で使用される場合、「相同組換え修復」またはHDRという用語は、DNA鎖の切断端またはニックが入った端が、相同鋳型核酸からの重合によって修復される、細胞プロセスを指す。従って、元の配列が鋳型の配列と置換される。いくつかの場合において、外因性鋳型核酸、例えばDNA鋳型を導入し、標的部位における配列の特定のHDR誘導変化を得ることができる。このようにして、特定の変異を切断部位、例えば標的指向化ヌクレアーゼによって作製された切断部位に導入することができる。一本鎖DNA鋳型または二本鎖DNA鋳型は、例えばHDRによって細胞のゲノムを編集または改変するための鋳型として細胞によって使用され得る。一般に、一本鎖DNA鋳型または二本鎖DNA鋳型は、標的部位と相同な領域を少なくとも1つ有する。いくつかの場合において、一本鎖DNA鋳型または二本鎖DNA鋳型は、標的の切断部位または挿入部位に挿入されるDNA鋳型を含む領域に隣接している2つの相同領域、例えば、5’末端及び3’末端を有する。
【0060】
本明細書で使用される場合、「標的指向化挿入」という用語は、細胞内の特定の部位への分子(例えば、核酸)の組み込みを指す。核酸の場合、標的指向化挿入とは、例えば、HDRを介して、細胞のゲノムDNAの特定の位置で一本鎖または二本鎖の切断に核酸を組み込むことを指し、その結果、連続したゲノムDNA鎖が得られる。
【0061】
ポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列という文脈において使用される場合、「実質的同一性」または「実質的に同一」という用語は、参照配列に対して少なくとも60%の配列同一性を有する配列を指す。あるいは、同一性百分率は、60%~100%の任意の整数であり得る。例示的な実施形態は、本明細書に記載のプログラムを使用し、好ましくは、以下に説明するように、標準パラメータを用いたBLASTを使用した参照配列と比較して、少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%を含む。当業者は、コドン縮退、アミノ酸類似性、リーディングフレーム位置決めなどを考慮して、これらの値を適切に調整し、2つのヌクレオチド配列によってコードされるタンパク質の対応する同一性を決定できることを認識するであろう。
【0062】
配列比較のため、典型的には、1つの配列が基準配列の役割を果たし、これと試験配列が比較される。配列比較アルゴリズムを使用する場合、試験配列及び参照配列をコンピュータに入力し、必要に応じてサブシーケンス座標を指定し、配列アルゴリズムプログラムパラメータを指定する。デフォルトのプログラムパラメータを使用することができ、または代替的なパラメータを指定することができる。その後、配列比較アルゴリズムは、プログラムパラメータに基づいて、参照配列に対する試験配列の配列同一性百分率を算出する。
【0063】
配列同一性及び配列同一性百分率を決定するために好適なアルゴリズムは、BLAST及びBLAST 2.0アルゴリズムであり、これらは、それぞれAltschul et al.(1990)J.Mol.Biol.215:403-410及びAltschul et al.(1977)Nucleic Acids Res.25:3389-3402に記載されている。BLAST解析を行うためのソフトウェアは、国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)ウェブサイトで公的に入手可能である。このアルゴリズムは、まず、データベース配列における同じ長さのワードと整列するときに何らかの正値の閾値スコアTと一致するかまたはそれを満たす、問い合わせ配列における長さの短いワードWを特定することによって、高スコアの配列対(HSP)を特定することを伴う。Tは、近傍のワードスコア閾値と称される(Altschul et al,supra)。これらの最初の近傍のワードヒットは、それらを含むより長いHSPを見出すために検索を開始するためのシード値として機能する。ワードヒットは、累積整列スコアが増加することができる限り、各配列に沿って両方向に延びる。累積スコアは、ヌクレオチド配列については、パラメータM(マッチする残基の対に対するリワードスコア;常に0超)及びN(ミスマッチの残基に対するペナルティスコア;常に0未満)を使用して算出する。アミノ酸配列については、スコア化マトリックスを使用して累積スコアを算出する。ワードヒットの各方向への延長は、累積整列スコアがその最大の実績値から量Xだけ減少する場合、累積スコアが、1つ以上の負のスコアの残基整列の蓄積に起因してゼロ以下になる場合、またはいずれかの配列の終端に達する場合に停止する。BLASTアルゴリズムパラメータW、T、及びXは、整列の感度及び速度を決定する。BLASTNプログラム(ヌクレオチド配列について)は、28のワード長(W)、10の期待値(E)、M=1、N=-2、及び両方の鎖の比較をデフォルトで使用する。アミノ酸配列については、BLASTPプログラムは、3のワード長(W)、及び10の期待値(E)、ならびにBLOSUM62スコア化マトリックス(Henikoff&Henikoff,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:10915(1989))をデフォルトで使用する。
【0064】
BLASTアルゴリズムはまた、2つの配列間の類似性の統計的分析を行う(例えば、Karlin&Altschul,Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA 90:5873-5787(1993)を参照)。BLASTアルゴリズムが提供する類似性の1つの測定は、最小合計確率(P(N))であり、これは、2つのヌクレオチドまたはアミノ酸配列の間の一致が偶然に起こり得る確率の指標を提供する。例えば、核酸は、試験核酸と参照核酸とを比較した際の最小合計確率が約0.01未満、より好ましくは約10-5未満、最も好ましくは約10-20未満である場合に、参照配列に類似していると見なされる。
【0065】
本明細書で使用される場合、「がん特異的抗原」という用語は、がん細胞に固有であるか、または非がん細胞よりもがん細胞でより豊富に発現される抗原を指す。いくつかの実施形態において、がん特異的抗原は、腫瘍特異的抗原である。
【0066】
本明細書で使用される場合、「対象」及び「患者」という用語は、本明細書に記載の方法及び組成物によって治療される生物を指す。そのような生物は、好ましくは哺乳動物(例えば、ネズミ、サル、ウマ、ウシ、ブタ、イヌ、ネコなど)を含むが、これらに限定されず、より好ましくはヒトを含む。
【0067】
この説明を通して、組成物が特定の構成要素を有する、含む、もしくは備えると説明されるか、またはプロセス及び方法が特定のステップを有する、含む、もしくは備えると説明される場合、それに加えて、記載される構成要素から本質的になるか、もしくはそれからなる本発明の組成物が存在すること、ならびに記載されるプロセスステップから本質的になるか、もしくはそれからなる本発明によるプロセス及び方法が存在することが企図される。
【0068】
I.組成物
本明細書では、細胞内の内因性遺伝子の3’部分または5’部分と同等のコード能力を有する配列及び外因性導入遺伝子を含む核酸の標的指向化挿入のための組成物を提供する。いくつかの実施形態において、組成物は、(A)ガイドRNA(gRNA)、(B)標的指向化ヌクレアーゼ、及び(C)核酸(例えば、DNA修復のための鋳型)を含む。別の実施形態において、組成物は、(A)標的指向化ヌクレアーゼ、及び(B)核酸(例えば、DNA修復のための鋳型)を含む。
【0069】
A.ガイドRNA
本明細書で使用される場合、ガイドRNA(gRNA)は、部位特異的ヌクレアーゼまたは標的指向化ヌクレアーゼと相互作用し、細胞のゲノム内の標的核酸に特異的に結合またはハイブリダイズする核酸であり、gRNA及びヌクレアーゼと複合体を形成し、細胞のゲノムにおける標的核酸と共局在化する。いくつかの実施形態において、gRNAは、ゲノムにおける標的DNA配列に特異的に結合またはハイブリダイズする、長さが約10~50ヌクレオチドのDNAターゲティング配列またはプロトスペーサー配列を含む。例えば、いくつかの実施形態において、DNAターゲティング配列は、長さが約10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、または50ヌクレオチドである。いくつかの実施形態において、gRNAは単一ガイドRNA(sgRNA)を含む。いくつかの実施形態において、gRNAは、crRNA配列及びトランス活性化crRNA tracrRNA配列(crRNA:tracrRNA)を含む。いくつかの実施形態において、gRNAはtracrRNA配列を含まない。
【0070】
いくつかの実施形態において、DNAターゲティング配列は、標的DNA配列を相補する(例えば、完全に相補する)または実質的に相補するように設計される。いくつかの場合において、DNAターゲッティング配列は揺らぎ塩基または縮退塩基を組み込み、複数の遺伝要素を結合させ得る。いくつかの場合において、結合領域の3’末端または5’末端にある19ヌクレオチドは、標的の遺伝要素または複数の遺伝要素と完全に相補的である。いくつかの場合において、安定性を高めるために結合領域を改変することができる。例えば、非天然ヌクレオチドを組み込み、分解に対するRNA耐性を増加させることができる。いくつかの場合において、結合領域は、結合領域における二次構造の形成を回避または低減するように変更または設計することができる。いくつかの場合において、結合領域は、G-C含有量を最適化するように設計することができる。いくつかの場合において、G-C含有量は、好ましくは約40%~約60%(例えば、40%、45%、50%、55%、60%)である。
【0071】
いくつかの実施形態において、DNAターゲティング配列は、細胞内の内因性遺伝子に相補的または実質的に相補的である。例えば、いくつかの実施形態において、DNAターゲティング配列は、T細胞受容体アルファ鎖定常部(TRAC)、T細胞受容体ベータ鎖定常部(TRBC)、CD3γ鎖、CD3δ鎖、CD3εをコードする内因性遺伝子に相補的または実質的に相補的である。IL-2Rα鎖、IL-2Rβ鎖、またはIL-2Rγ鎖(IL2RG)。特定の実施形態において、DNAターゲティング配列は、内因性I TRACに相補的または実質的に相補的であり、配列AAGTCTCTCAGCTGGTACA(配列番号1)を含む。
【0072】
B.標的指向化ヌクレアーゼ
いくつかの実施形態において、組成物は、これらに限定するものではないが、RNA誘導型ヌクレアーゼ、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、またはメガTALを含む標的指向化ヌクレアーゼを含む。例えば、いくつかの実施形態において、標的指向化ヌクレアーゼは、gRNAと複合体を形成し、gRNAによって細胞のゲノムにおける標的領域に誘導されるRNA誘導型ヌクレアーゼであり、そこで一本鎖または二本鎖切断をゲノムDNAに導入する。例えば、特定の実施形態において、標的指向化ヌクレアーゼはRNA誘導型ヌクレアーゼである。いくつかの実施形態において、RNA誘導型ヌクレアーゼはCas9ヌクレアーゼである。
【0073】
特定の実施形態において、Cas9タンパク質は、gRNAとの複合体の一部として、及び/または核酸との複合体(例えば、DNA鋳型)の一部として標的核酸に結合した場合、二本鎖切断が標的核酸中に導入されるように、活性エンドヌクレアーゼ形態であり得る。本明細書で提供される組成物及び方法では、Cas9ポリペプチドまたはCas9ポリペプチドをコードする核酸を細胞に導入することができる。二本鎖切断は、HDRによって修復され、DNA鋳型が細胞のゲノムに挿入される。本明細書に記載の方法では、様々なCas9ヌクレアーゼを利用することができる。例えば、ガイドRNAが標的領域のすぐ3’にあるNGGプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を必要とするCas9ヌクレアーゼを利用することができる。このようなCas9ヌクレアーゼは、例えば、NGG配列を含むTRACのエクソン1またはTRABのエクソン1の領域を標的とすることができる。別の例として、直交性PAMモチーフ必要条件を有するCas9タンパク質を利用して、隣接NGG PAM配列を有さない配列を標的とすることができる。直交性PAM配列特異性を有する例示的Cas9タンパク質として、それに限定されるものではないが、Esvelt et al.,Nature Methods 10:1116-1121(2013)に記載されているものが挙げられる。
【0074】
いくつかの場合において、Cas9タンパク質はニッカーゼであり、これによって、gRNAとの複合体の一部として標的核酸に結合している場合には、一本鎖切断またはニックが標的核酸中に導入される。それぞれ構造的に異なるgRNAに結合した一対のCas9ニッカーゼは、標的ゲノム領域の2つの近位部位に標的化され、標的ゲノム領域、例えば、TRAC遺伝子のエクソン1またはTRBC遺伝子のエクソン1中に一対の近位一本鎖切断を導入し得る。オフターゲット効果は、一般に塩基除去修復機序による損傷を伴わずに修復される単一ニックをもたらす可能性が高いので、ニッカーゼ対は、特異性の増強を提供できる。例示的Cas9ニッカーゼとして、D10AまたはH840A突然変異を有するCas9ヌクレアーゼが挙げられる。(例えば、Ran et al.「Double nicking by RNA-guided CRISPR Cas9 for enhanced genome editing specificity」,Cell 154(6):1380-1389(2013)を参照)。
【0075】
別の実施形態において、標的指向化ヌクレアーゼは、TALEN、ZFN、またはmegaTALであり得る(例えば、Merkert and Martin「Site-Specific Genome Engineering in Human Pluripotent Stem Cells」,Int.J.Mol.Sci.18(7):1000(2016)を参照)。
【0076】
C.核酸
いくつかの実施形態において、組成物は、RNA誘導型ヌクレアーゼと複合体を形成する核酸をさらに含み、核酸は、細胞の内因性遺伝子と相同な1つ以上の領域(複数可)と、内因性遺伝子の5’部分または3’部分と同等のコード能力を有する配列、及び外因性導入遺伝子を含む。いくつかの実施形態において、核酸は、HDRなどのDNA修復機序の鋳型として機能する。例えば、いくつかの実施形態において、本明細書で提供される核酸は、細胞内の内因性遺伝子の標的切断部位に隣接する少なくとも1つの領域と相同な1つ以上の部分と、内因性遺伝子の5’コード部分または3’コード部分と同等のコード能力を有する配列と、外因性導入遺伝子とを含み、内因性遺伝子の5’コード部分または3’コード部分と同等のコード能力を有する配列及び外因性導入遺伝子は、細胞の内因性遺伝子内の標的切断部位に挿入される。
【0077】
例えば、一実施形態において、核酸は、5’から3’の順に、(i)細胞内の内因性遺伝子の5’部分と配列相同性または実質的な配列相同性を有する5’相同性アーム、(ii)内因性遺伝子のタンパク質産物のカルボキシ末端部分をコードする終止コドン及びポリアデニル化配列を有する、細胞内の内因性遺伝子の3’部分と同等のコード能力を有する配列、(iii)外因性導入遺伝子、及び(iv)細胞内の内因性遺伝子の3’部分と配列相同性または実質的な配列相同性を有する3’相同性アームを含む。細胞に導入されると、5’相同性アーム及び3’相同性アームが核酸を標的の内因性遺伝子に整列させ、内因性遺伝子のタンパク質産物のカルボキシ末端部分をコードする細胞内の内因性遺伝子の3’部分と同等のコード能力を有する配列及び外因性導入遺伝子は、DNA修復機構(例えば、相同組換え修復(HDR))を介して、内因性遺伝子内の標的切断部位(例えば、標的指向化ヌクレアーゼによって導入される)に挿入される。内因性遺伝子の3’部分と同等のコード能力を有する配列及び外因性導入遺伝子の挿入は、内因性遺伝子産物の発現の回復または継続、及び外因性導入遺伝子の発現をもたらす。
【0078】
別の実施形態において、核酸は、5’から3’の順に、(i)細胞内の内因性遺伝子の5’部分と配列相同性または実質的な配列相同性を有する5’相同性アーム、(ii)外因性導入遺伝子、(iii)内因性遺伝子のタンパク質産物のアミノ末端部分をコードする、細胞内の内因性遺伝子の5’部分と同等のコード能力を有する配列、及び(iv)細胞内の内因性遺伝子の3’部分と配列相同性または実質的な配列相同性を有する3’相同性アームを含む。細胞に導入されると、5’相同性アーム及び3’相同性アームが核酸を標的の内因性遺伝子に整列させ、外因性導入遺伝子及び内因性遺伝子のタンパク質産物のアミノ末端部分をコードする細胞内の内因性遺伝子の5’部分と同等のコード能力を有する配列は、DNA修復機構(例えば、HDR)を介して、内因性遺伝子内の標的切断部位(例えば、標的指向化ヌクレアーゼによって導入される)に挿入される。外因性導入遺伝子、及び内因性遺伝子の5’部分と同等のコード能力を有する配列の挿入は、外因性導入遺伝子の発現、及び内因性遺伝子産物の発現の回復または継続をもたらす。
【0079】
標的指向化ヌクレアーゼを用いて、細胞の生存または増殖に関与するタンパク質(例えば、Gapdh、IL2RG、またはTRAC)をコードする遺伝子内の切断部位を送達し、生存遺伝子の3’部分または5’部分と同等のコード能力を有する配列を所望の外因性導入遺伝子(例えば、CARまたは遺伝子回路)と共に導入するという概念は、細胞生存に関与する全てのタンパク質に一般化され得る。特定の態様において、標的ヌクレアーゼ活性を受ける細胞は、重要なタンパク質発現の回復のため、所望の導入遺伝子と組み込むか、または組み込まない。挿入を受けない細胞の組は、対応するタンパク質(例えば、IL2RGまたは他のハウスキーピング遺伝子)を欠き、生存することができなくなる。組み込まない細胞は、通常、時間の経過とともに培養液が枯渇する。一方、所望の導入遺伝子を受けた細胞は、対応するタンパク質の発現も回復し、一般に、培養及び作製の際に培養物中に濃縮される。この方法を用いると、外因性導入遺伝子(例えば、CARまたは遺伝子回路)の組み込みが成功した細胞は、一般に優先的な生存及び濃縮される。いくつかの実施形態において、導入遺伝子は、目的の細胞に所望の機能を加えるためのCAR、遺伝子回路、または任意の他のペイロードであり得る。標的遺伝子は、例えば、作製中の細胞の生存または増殖に関与する任意のタンパク質をコードすることができる。T細胞の場合、TCR信号伝達複合体、サイトカイン受容体、及びその下流の信号伝達分子を構成する1つ以上の遺伝子、及び/またはT細胞の生存または増殖に関与する任意のハウスキーピング遺伝子、例えば、TRAC、IL2RG、またはGapdhが含まれる。
【0080】
本明細書に記載のいくつかの実施形態において、内因性遺伝子と相同な1つ以上の領域(複数可)のそれぞれは、長さが少なくとも約50、100、150、200、250、300、350、400、または450ヌクレオチドである。いくつかの実施形態において、内因性遺伝子と相同な1つ以上の領域(複数可)は、内因性遺伝子に対して少なくとも80%、90%、95%、99%、または100%相補的である。いくつかの実施形態において、1つ以上の相同領域(複数可)は、ヒト免疫細胞、例えばT細胞におけるゲノム配列と相同である。いくつかの実施形態において、1つ以上の相同領域(複数可)は、TRAC、TRBC、CD3γ鎖、CD3δ鎖、CD3ε鎖、CD3ξ鎖、IL-2Rα鎖、IL-2Rβ鎖、またはIL-2Rγ鎖(IL2RG)と相同である。
【0081】
例えば、いくつかの実施形態において、内因性遺伝子の相同領域は、長さが少なくとも約50、100、150、200、250、300、350、400、または450ヌクレオチドであり、相同領域の長さにわたって表1の任意の内因性遺伝子配列に、少なくとも80%、90%、95%、99%、または100%相補的であり得る。
【0082】
【0083】
いくつかの実施形態において、1つ以上の相同領域(複数可)は、1つ以上の内因性ハウスキーピング遺伝子のゲノム配列と相同である。いくつかの実施形態において、1つ以上の相同領域(複数可)は、ベータアクチン(Actb)、ATPシンターゼH+輸送、ミトコンドリアF0複合体サブユニットB1(Atp5f1)、ベータ-2ミクログロブリン(B2m)、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(Gapdh)、グルクロニダーゼベータ(Gusb)、ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Hprt)、ホスホグリセリン酸キナーゼI(Pgk1)、ペプチジルプロリルイソメラーゼA(Ppia)、リボソームタンパク質S18(Rps18)、TATAボックス結合タンパク質(Tbp)、トランスフェリン受容体(Tfrc)、チロシン3-モノオキシゲナーゼ/トリプトファン5-モノオキシゲナーゼ活性化タンパク質ゼータポリペプチド(Ywhaz)、Nanogホメオボックス(Nanog)、ジンクフィンガータンパク質42(Rex1)、またはPOUドメインクラス5転写因子1(Oct4)と相同である。
【0084】
例えば、いくつかの実施形態において、内因性ハウスキーピング遺伝子の相同領域は、長さが少なくとも約50、100、150、200、250、300、350、400、または450ヌクレオチドであり、相同領域の長さにわたって表2の任意の内因性遺伝子配列に、少なくとも80%、90%、95%、99%、または100%相補的であり得る。
【0085】
【0086】
いくつかの実施形態において、核酸は、相同組換え修復(HDR)鋳型及び1つ以上のRNA誘導型ヌクレアーゼ標的配列(複数可)を含む。いくつかの実施形態において、核酸は、1つのRNA誘導型ヌクレアーゼ標的配列及び1つ以上のプロトスペーサー隣接モチーフ(複数可)(PAM)を含む。RNA誘導型ヌクレアーゼ、gRNA、及び核酸を含む複合体は、RNA誘導型ヌクレアーゼ標的配列を切断することなく、HDR鋳型を所望の細胞内位置(例えば、核)に移動させ、HDR鋳型が内因性遺伝子の切断された標的部位に組み込まれ得る。いくつかの実施形態において、RNA誘導型ヌクレアーゼ標的配列及びPAMは、HDR鋳型の5’末端に位置する。特に、いくつかの実施形態において、PAMは、RNA誘導型ヌクレアーゼ標的配列の5’末端に位置することができる。別の実施形態において、PAMは、RNA誘導型ヌクレアーゼ標的配列の3’末端に位置することができる。いくつかの実施形態において、RNA誘導型ヌクレアーゼ標的配列及びPAMは、HDR鋳型の3’末端に位置する。特に、いくつかの実施形態において、PAMは、RNA誘導型ヌクレアーゼ標的配列の5’末端に位置することができる。別の実施形態において、PAMは、RNA誘導型ヌクレアーゼ標的配列の3’末端に位置する。いくつかの実施形態において、核酸は、2つのRNA誘導型ヌクレアーゼ標的配列及び2つのPAMを含む。特に、いくつかの実施形態において、第1のRNA誘導型ヌクレアーゼ標的配列及び第1のPAMは、HDR鋳型の5’末端に位置し、第2のRNA誘導型ヌクレアーゼ標的配列及び第2のPAMは、HDR鋳型の3’末端に位置する。いくつかの実施形態において、第1のPAMは、第1のRNA誘導型ヌクレアーゼ標的配列の5’末端に位置し、第2のPAMは、第2のRNA誘導型ヌクレアーゼ標的配列の5’に位置する。別の実施形態において、第1のPAMは、第1のRNA誘導型ヌクレアーゼ標的配列の5’末端に位置し、第2のPAMは、第2のRNA誘導型ヌクレアーゼ標的配列の3’に位置する。さらに別の実施形態において、第1のPAMは、第1のRNA誘導型ヌクレアーゼ標的配列の3’末端に位置し、第2のPAMは、第2のRNA誘導型ヌクレアーゼ標的配列の5’に位置する。さらに別の実施形態において、第1のPAMは、第1のRNA誘導型ヌクレアーゼ標的配列の3’末端に位置し、第2のPAMは、第2のRNA誘導型ヌクレアーゼ標的配列の3’に位置する。
【0087】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の核酸は、細胞内の内因性遺伝子の3’部分と同等のコード能力を有する配列を含む。特定の実施形態において、3’部分と同等のコード能力を有する配列は、内因性遺伝子のタンパク質産物のカルボキシ末端部分をコードする。いくつかの実施形態において、内因性遺伝子の3’部分と同等のコード能力を有する配列は、終止コドン及びポリアデニル化配列を含む。いくつかの実施形態において、内因性遺伝子の3’部分と同等のコード能力を有する配列は、標的切断部位のコード配列3’の全てを含む。例えば、内因性遺伝子における標的切断部位に挿入されると、3’部分と同等のコード能力を有する挿入された配列は、標的切断のすぐ5’に位置する内因性遺伝子の5’部分と連続したオープンリーディングフレームを形成し、内因性プロモーターの制御下で、内因性遺伝子によってコードされるタンパク質産物の発現を回復または継続させる。いくつかの実施形態において、内因性遺伝子の3’部分と同等のコード能力を有する配列は、標的切断部位のすぐ3’に位置する内因性遺伝子の3’部分と同一の配列を含む。いくつかの実施形態において、内因性遺伝子の3’部分と同等のコード能力を有する配列は、標的切断部位のすぐ3’に位置する内因性遺伝子の3’部分と同一の配列及び1つ以上の代替コドン(複数可)を含む。
【0088】
いくつかの実施形態において、内因性遺伝子の3’部分と同等のコード能力を有する配列の長さは、約1~2500ヌクレオチドの長さである。例えば、内因性遺伝子の3’部分と同等のコード能力を有する配列の長さは、約1~100、1~200、1~300、1~400、1~500、1~600、1~700、1~800、1~900、1~1000、100~2500、200~2500、300~2500、400~2500、500~2500、600~2500、700~2500、800~2500、900~2500、1000~2500、1100~2500、1200~2500、1300~2500、1400~2500、1500~2500、1600~2500、1700~2500、1800~2500、1900~2500、2000~2500、2100~2500、2200~2500、2300~2500、2500~2500、100~2000、200~2000、300~2000、400~2000、500~2000、600~2000、700~2000、800~2000、900~2000、1000~2000、1100~2000、1200~2000、1300~2000、1400~2000、1500~2000、1600~2000、1700~2000、1800~2000、1900~2000、100~1500、200~1500、300~1500、400~1500、500~1500、600~1500、700~1500、800~1500、900~1500、1000~1500、1100~1500、1200~1500、1300~1500、1400~1500、100~1250、200~1250、300~1250、400~1250、500~1250、600~1250、700~1250、800~1250、900~1250、1000~1250、1100~1250、1200~1250、100~1000、200~1000、300~1000、400~1000、500~1000、600~1000、700~1000、800~1000、または900~1000ヌクレオチドの長さである。
【0089】
いくつかの実施形態において、3’部分と同等のコード能力を有する配列は、3’部分の長さにわたる内因性遺伝子に対して、約80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一である。
【0090】
いくつかの実施形態において、内因性遺伝子の3’部分と同等のコード能力を有する配列は、TRAC、TRBC、CD3γ鎖、CD3δ鎖、CD3ε鎖、CD3ξ鎖、IL-2Rα鎖、IL-2Rβ鎖、またはIL-2Rγ鎖(IL2RG)の3’部分であり得る。例えば、3’部分と同等のコード能力を有する配列は、表1に記載の配列のいずれかの3’部分に対して、約80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有し得る。
【0091】
いくつかの実施形態において、内因性遺伝子の3’部分と同等のコード能力を有する配列は、Actb、Atp5f1、B2m、Gapdh、Gusb、Hprt、Pgk1、Ppia、Rps18、Tbp、Tfrc、Ywhaz、Nanog、Rex1、またはOct4の3’部分であり得る。例えば、3’部分と同等のコード能力を有する配列は、表2に記載の配列のいずれかの3’部分に対して、約80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有し得る。
【0092】
別の実施形態において、本明細書に記載の核酸は、細胞内の内因性遺伝子の5’部分と同等のコード能力を有する配列を含む。特定の実施形態において、5’部分と同等のコード能力を有する配列は、内因性遺伝子のタンパク質産物のアミノ末端部分をコードする。いくつかの実施形態において、内因性遺伝子の5’部分と同等のコード能力を有する配列は、標的切断部位のコード配列5’の全てを含む。例えば、内因性遺伝子における標的切断部位に挿入されると、5’部分と同等のコード能力を有する挿入された配列は、標的切断のすぐ3’に位置する内因性遺伝子の3’部分と連続したオープンリーディングフレームを形成し、内因性遺伝子によってコードされるタンパク質産物の発現を回復または継続させる。いくつかの実施形態において、内因性遺伝子によってコードされるタンパク質産物の発現は、内因性プロモーターの制御下で、回復されるか、または継続される。別の実施形態において、外因性プロモーターは、標的切断部位に挿入され、内因性遺伝子の5’部分と同等のコード能力を有する配列と作動可能に連結されて細胞内での内因性遺伝子のタンパク質産物の発現を駆動する。いくつかの実施形態において、内因性遺伝子の5’部分と同等のコード能力を有する配列は、標的切断部位のすぐ5’に位置する内因性遺伝子の5’部分と同一の配列を含む。いくつかの実施形態において、内因性遺伝子の5’部分と同等のコード能力を有する配列は、標的切断部位のすぐ5’に位置する内因性遺伝子の5’部分と同一の配列及び1つ以上の代替コドン(複数可)を含む。
【0093】
いくつかの実施形態において、内因性遺伝子の5’部分と同等のコード能力を有する配列の長さは、約1~2500ヌクレオチドの長さである。例えば、内因性遺伝子の5’部分と同等のコード能力を有する配列の長さは、約1~100、1~200、1~300、1~400、1~500、1~600、1~700、1~800、1~900、1~1000、100~2500、200~2500、300~2500、400~2500、500~2500、600~2500、700~2500、800~2500、900~2500、1000~2500、1100~2500、1200~2500、1300~2500、1400~2500、1500~2500、1600~2500、1700~2500、1800~2500、1900~2500、2000~2500、2100~2500、2200~2500、2300~2500、2500~2500、100~2000、200~2000、300~2000、400~2000、500~2000、600~2000、700~2000、800~2000、900~2000、1000~2000、1100~2000、1200~2000、1300~2000、1400~2000、1500~2000、1600~2000、1700~2000、1800~2000、1900~2000、100~1500、200~1500、300~1500、400~1500、500~1500、600~1500、700~1500、800~1500、900~1500、1000~1500、1100~1500、1200~1500、1300~1500、1400~1500、100~1250、200~1250、300~1250、400~1250、500~1250、600~1250、700~1250、800~1250、900~1250、1000~1250、1100~1250、1200~1250、100~1000、200~1000、300~1000、400~1000、500~1000、600~1000、700~1000、800~1000、または900~1000ヌクレオチドの長さである。
【0094】
いくつかの実施形態において、5’部分と同等のコード能力を有する配列は、5’部分の長さにわたる内因性遺伝子に対して、約80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一である。
【0095】
いくつかの実施形態において、内因性遺伝子の5’部分と同等のコード能力を有する配列は、TRAC、TRBC、CD3γ鎖、CD3δ鎖、CD3ε鎖、CD3ξ鎖、IL-2Rα鎖、IL-2Rβ鎖、またはIL-2Rγ鎖(IL2RG)の5’部分であり得る。例えば、5’部分と同等のコード能力を有する配列は、表1に記載の配列のいずれかの5’部分に対して、約80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有し得る。
【0096】
いくつかの実施形態において、内因性遺伝子の3’部分と同等のコード能力を有する配列は、Actb、Atp5f1、B2m、Gapdh、Gusb、Hprt、Pgk1、Ppia、Rps18、Tbp、Tfrc、Ywhaz、Nanog、Rex1、またはOct4の5’部分であり得る。例えば、5’部分と同等のコード能力を有する配列は、表2に記載の配列のいずれかの3’部分に対して、約80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有し得る。
【0097】
本明細書に記載の核酸は、外因性導入遺伝子をさらに含む。いくつかの実施形態において、外因性導入遺伝子は、細胞内の内因性遺伝子における標的切断部位に挿入され、導入遺伝子を発現させる。いくつかの実施形態において、外因性プロモーターが標的切断部位に挿入され、外因性導入遺伝子と作動可能に連結されて細胞内での導入遺伝子の発現を駆動する。
【0098】
いくつかの実施形態において、外因性導入遺伝子は、細胞内で発現される1つ以上のポリペプチドをコードする配列を含む。例えば、いくつかの実施形態において、外因性導入遺伝子は、細胞膜の表面で発現される1つ以上のタンパク質をコードする配列を含む。いくつかの実施形態において、外因性導入遺伝子は、膜貫通タンパク質またはその断片をコードする配列を含む。例えば、いくつかの実施形態において、外因性導入遺伝子は、キメラ受容体、CD28、CD45、CD2、CD4、CD5、CD7、CD8、CD9、CD16、CD22、CD27、CD28、CD30、CD33、CD37、CD40、CD64、CD80、CD83、CD86、CD127、CD134、CD137、CD154、CIITA、4-1BBL、PD-1、PD-1L、LIGHT、DAP10、DAP12、ICAM-1、LFA-1、LCK、TNFR2、ICOS、NKG2C、HLA-E、B7-H3、またはベータ2-ミクログロブリンをコードする1つ以上の配列を含む。いくつかの実施形態において、外因性導入遺伝子は、細胞のゲノムへの導入遺伝子の挿入に成功した細胞の選択可能マーカーとして使用できる細胞表面マーカーをコードする配列を含む。例えば、いくつかの実施形態において、外因性導入遺伝子は、抗EGFR抗体及びフローサイトメトリーを使用して容易に検出することができる、上皮成長因子受容体(EGFR)またはその切断断片をコードする配列を含む。例えば、いくつかの実施形態において、外因性導入遺伝子は、表3の配列番号16に従うヌクレオチド配列を有する切断型EGFRをコードする配列を含む。
【0099】
【0100】
いくつかの実施形態において、外因性導入遺伝子は、細胞のゲノムへの導入遺伝子の挿入に成功した細胞の選択可能マーカーとして使用できる蛍光タンパク質(例えば、GFPまたはmCherry)をコードする配列を含む。
【0101】
いくつかの実施形態において、外因性導入遺伝子は、合成抗原受容体をコードする配列を含み、合成抗原受容体は、キメラ抗原受容体(CAR)またはSynNotch受容体である。例えば、Sadelain et al.,Cancer Discov.3(4):388-398(2013)、Srivastava Trends Immunol.36(8):494-502(2015)、Toda et al.Science 361(6398):156-162(2018)、及びCho et al.Scientific Reports 8:3846(2018)regarding CAR and SynNotch design and usesを参照されたい。特定の実施形態において、外因性導入遺伝子は、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする配列を含む。いくつかの実施形態において、外因性導入遺伝子は、CD19、BCMA、CD20、CD22、CD30、CD33、CD123、CD133、CEA、EGFR、EGFRvIII、EphA2、ErbBファミリー、GPC3、HER2、FAP、FRα、FD2、Igχ、IL-13α2、メソテリン、Muc1、PSMA、ROR1、VEGFR2、B7-H3、B7H6、CD5、CD23、CD70、CSPG4、EpCAM、GD3、HLA-A1+MAGE、IL-11Rα、Lewis-Y、Muc16、NKG2Dリガンド、PSCA、またはTAG72などのがん細胞関連標的を特異的に認識するCARを含む。例えば、いくつかの実施形態において、外因性導入遺伝子は、CD19-CD28-CD3ξCAR、CD19-4-1BB-CD3ξCAR、MSLN-CD28-CD3ξCAR、またはMSLN-4-1BB-CD3ξCARをコードする配列を含む。
【0102】
いくつかの実施形態において、外因性導入遺伝子は、細胞の機能を変更する1つ以上のタンパク質をコードする。例えば、T細胞のゲノムに挿入されたCARをコードする外因性導入遺伝子の場合、CARの発現によってT細胞の特異性及び機能が変化し得る。
【0103】
別の実施形態において、外因性導入遺伝子は、1つ以上の細胞質タンパク質、細胞内タンパク質、または可溶性タンパク質をコードする。いくつかの実施形態において、外因性導入遺伝子は、治療用タンパク質をコードする。いくつかの実施形態において、外因性導入遺伝子は、サイトカインまたはその機能的断片をコードする。いくつかの実施形態において、外因性導入遺伝子は、転写因子をコードする。いくつかの実施形態において、外因性導入遺伝子は、免疫チェックポイント阻害剤をコードする。
【0104】
別の実施形態において、外因性導入遺伝子は、rRNA、tRNA、gRNA、siRNA、またはmiRNAなどの非翻訳RNAをコードする配列を含み得る。
【0105】
いくつかの実施形態において、核酸は、線状DNA鋳型として細胞に導入される。いくつかの実施形態において、核酸は、二本鎖DNA鋳型として細胞に導入される。別の実施形態において、DNA鋳型は、一本鎖DNA鋳型である。いくつかの実施形態において、DNA鋳型は、二本鎖または一本鎖プラスミドである。
【0106】
いくつかの実施形態において、核酸は、2つ以上のタンパク質産物の同時翻訳を促進するために、1つ以上の2A配列(複数可)を含む。例えば、いくつかの実施形態において、1つ以上の2A配列(複数可)は、表4の配列番号14または配列番号15に従う配列であり得る。
【0107】
【0108】
例えば、いくつかの実施形態において、核酸は、表5の配列番号12、配列番号13、または配列番号33に従う配列を有するプラスミドであり得る。
【0109】
【0110】
II.細胞
本開示はまた、細胞の内因性遺伝子の5’部分、内因性遺伝子の3’部分、内因性遺伝子の5’部分または内因性遺伝子の3’部分と同等のコード能力を有する外因性配列、及び外因性導入遺伝子を含む核酸を含む細胞であって、内因性遺伝子及び外因性導入遺伝子のそれぞれを発現する当該細胞を提供する。いくつかの実施形態において、本明細書に開示される細胞は、gRNA、標的指向化ヌクレアーゼを含む前述の組成物及び核酸を細胞に導入することによって産生される。
【0111】
いくつかの実施形態において、本明細書に開示される細胞は、5’から3’に、(1)細胞の内因性遺伝子の5’部分をコードする配列、(2)細胞の内因性遺伝子の3’部分と同等のコード能力を有する配列、(3)外因性導入遺伝子をコードする配列、及び(4)細胞の内因性遺伝子の3’部分をコードする配列を含む核酸を含み、当該細胞は、(1)及び(2)によってコードされる(a)内因性遺伝子及び(3)によってコードされる(b)外因性導入遺伝子のそれぞれを発現する。
【0112】
別の実施形態において、本明細書に開示される細胞は、5’から3’に、(a)細胞の内因性遺伝子の5’部分をコードする配列、(2)外因性導入遺伝子をコードする配列、(3)細胞の内因性遺伝子の5’部分と同等のコード能力を有する配列、及び(4)細胞の内因性遺伝子の3’部分をコードする配列を含む核酸を含み、当該細胞は、(2)によってコードされる(a)外因性導入遺伝子ならびに(3)及び(4)によってコードされる(b)内因性遺伝子のそれぞれを発現する。
【0113】
特定の実施形態において、3’部分と同等のコード能力を有する配列は、内因性遺伝子のタンパク質産物のカルボキシ末端部分をコードする。いくつかの実施形態において、内因性遺伝子の3’部分と同等のコード能力を有する配列は、標的切断部位のコード配列3’の全てを含む。例えば、3’部分と同等のコード能力を有する配列が連続し、内因性遺伝子の5’部分と作動可能に連結される場合、細胞は内因性プロモーターの制御下で、内因性遺伝子によってコードされるタンパク質産物を発現する。いくつかの実施形態において、内因性遺伝子の3’部分と同等のコード能力を有する配列は、標的切断部位のすぐ3’に位置する内因性遺伝子の3’部分と同一の配列を含む。いくつかの実施形態において、内因性遺伝子の3’部分と同等のコード能力を有する配列は、標的切断部位のすぐ3’に位置する内因性遺伝子の3’部分と同一の配列及び1つ以上の代替コドン(複数可)を含む。
【0114】
いくつかの実施形態において、内因性遺伝子の3’部分と同等のコード能力を有する配列の長さは、約1~2500ヌクレオチドの長さである。例えば、内因性遺伝子の3’部分と同等のコード能力を有する配列の長さは、約1~100、1~200、1~300、1~400、1~500、1~600、1~700、1~800、1~900、1~1000、100~2500、200~2500、300~2500、400~2500、500~2500、600~2500、700~2500、800~2500、900~2500、1000~2500、1100~2500、1200~2500、1300~2500、1400~2500、1500~2500、1600~2500、1700~2500、1800~2500、1900~2500、2000~2500、2100~2500、2200~2500、2300~2500、2500~2500、100~2000、200~2000、300~2000、400~2000、500~2000、600~2000、700~2000、800~2000、900~2000、1000~2000、1100~2000、1200~2000、1300~2000、1400~2000、1500~2000、1600~2000、1700~2000、1800~2000、1900~2000、100~1500、200~1500、300~1500、400~1500、500~1500、600~1500、700~1500、800~1500、900~1500、1000~1500、1100~1500、1200~1500、1300~1500、1400~1500、100~1250、200~1250、300~1250、400~1250、500~1250、600~1250、700~1250、800~1250、900~1250、1000~1250、1100~1250、1200~1250、100~1000、200~1000、300~1000、400~1000、500~1000、600~1000、700~1000、800~1000、または900~1000ヌクレオチドの長さである。
【0115】
いくつかの実施形態において、3’部分と同等のコード能力を有する配列は、3’部分の長さにわたる内因性遺伝子に対して、約80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一である。
【0116】
いくつかの実施形態において、内因性遺伝子の3’部分と同等のコード能力を有する配列は、TRAC、TRBC、CD3γ鎖、CD3δ鎖、CD3ε鎖、CD3ξ鎖、IL-2Rα鎖、IL-2Rβ鎖、またはIL-2Rγ鎖(IL2RG)の3’部分であり得る。例えば、3’部分と同等のコード能力を有する配列は、表1に記載の配列のいずれかの3’部分に対して、約80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有し得る。
【0117】
いくつかの実施形態において、内因性遺伝子の3’部分と同等のコード能力を有する配列は、Actb、Atp5f1、B2m、Gapdh、Gusb、Hprt、Pgk1、Ppia、Rps18、Tbp、Tfrc、Ywhaz、Nanog、Rex1、またはOct4の3’部分であり得る。例えば、3’部分と同等のコード能力を有する配列は、表2に記載の配列のいずれかの3’部分に対して、約80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有し得る。
【0118】
特定の実施形態において、5’部分と同等のコード能力を有する配列は、内因性遺伝子のタンパク質産物のアミノ末端部分をコードする。いくつかの実施形態において、内因性遺伝子の5’部分と同等のコード能力を有する配列は、標的切断部位のコード配列5’の全てを含む。例えば、5’部分と同等のコード能力を有する配列が連続し、内因性遺伝子の3 ’部分と作動可能に連結される場合、細胞は内因性プロモーターの制御下で、内因性遺伝子によってコードされるタンパク質産物を発現する。別の実施形態において、内因性遺伝子のタンパク質産物は、外因的に導入されたプロモーターの調節下で発現する。いくつかの実施形態において、内因性遺伝子の5’部分と同等のコード能力を有する配列は、標的切断部位のすぐ5’に位置する内因性遺伝子の5’部分と同一の配列を含む。いくつかの実施形態において、内因性遺伝子の5’部分と同等のコード能力を有する配列は、標的切断部位のすぐ5’に位置する内因性遺伝子の5’部分と同一の配列及び1つ以上の代替コドン(複数可)を含む。
【0119】
いくつかの実施形態において、内因性遺伝子の5’部分と同等のコード能力を有する配列の長さは、約1~2500ヌクレオチドの長さである。例えば、内因性遺伝子の5’部分と同等のコード能力を有する配列の長さは、長さが約1~100、1~200、1~300、1~400、1~500、1~600、1~700、1~800、1~900、1~1000、100~2500、200~2500、300~2500、400~2500、500~2500、600~2500、700~2500、800~2500、900~2500、1000~2500、1100~2500、1200~2500、1300~2500、1400~2500、1500~2500、1600~2500、1700~2500、1800~2500、1900~2500、2000~2500、2100~2500、2200~2500、2300~2500、2500~2500、100~2000、200~2000、300~2000、400~2000、500~2000、600~2000、700~2000、800~2000、900~2000、1000~2000、1100~2000、1200~2000、1300~2000、1400~2000、1500~2000、1600~2000、1700~2000、1800~2000、1900~2000、100~1500、200~1500、300~1500、400~1500、500~1500、600~1500、700~1500、800~1500、900~1500、1000~1500、1100~1500、1200~1500、1300~1500、1400~1500、100~1250、200~1250、300~1250、400~1250、500~1250、600~1250、700~1250、800~1250、900~1250、1000~1250、1100~1250、1200~1250、100~1000、200~1000、300~1000、400~1000、500~1000、600~1000、700~1000、800~1000、または900~1000ヌクレオチドである。
【0120】
いくつかの実施形態において、5’部分と同等のコード能力を有する配列は、5’部分の長さにわたる内因性遺伝子に対して、約80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一である。
【0121】
いくつかの実施形態において、内因性遺伝子の5’部分と同等のコード能力を有する配列は、TRAC、TRBC、CD3γ鎖、CD3δ鎖、CD3ε鎖、CD3ξ鎖、IL-2Rα鎖、IL-2Rβ鎖、またはIL-2Rγ鎖(IL2RG)の5’部分であり得る。例えば、5’部分と同等のコード能力を有する配列は、表1に記載の配列のいずれかの5’部分に対して、約80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有し得る。
【0122】
いくつかの実施形態において、内因性遺伝子の3’部分と同等のコード能力を有する配列は、Actb、Atp5f1、B2m、Gapdh、Gusb、Hprt、Pgk1、Ppia、Rps18、Tbp、Tfrc、Ywhaz、Nanog、Rex1、またはOct4の5’部分であり得る。例えば、5’部分と同等のコード能力を有する配列は、表2に記載の配列のいずれかの3’部分に対して、約80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有し得る。
【0123】
本明細書に開示される細胞は、外因性導入遺伝子をさらに含む。いくつかの実施形態において、外因性導入遺伝子は、内因性プロモーターの制御下で発現する。別の実施形態において、外因性導入遺伝子は、外因的に導入され且つ作動可能に連結されたプロモーターの調節下で発現する。
【0124】
いくつかの実施形態において、外因性導入遺伝子は、細胞内で発現される1つ以上のポリペプチドをコードする配列を含む。例えば、いくつかの実施形態において、外因性導入遺伝子は、細胞膜の表面で発現される1つ以上のタンパク質をコードする配列を含む。いくつかの実施形態において、外因性導入遺伝子は、膜貫通タンパク質またはその断片をコードする配列を含む。例えば、いくつかの実施形態において、外因性導入遺伝子は、D28、CD45、CD2、CD4、CD5、CD7、CD8、CD9、CD16、CD22、CD27、CD28、CD30、CD33、CD37、CD40、CD64、CD80、CD83、CD86、CD127、CD134、CD137、CD154、CIITA、4-1BBL、PD-1、PD-1L、LIGHT、DAP10、DAP12、ICAM-1、LFA-1、LCK、TNFR2、ICOS、NKG2C、HLA-E、B7-H3、またはベータ2-ミクログロブリンをコードする1つ以上の配列を含む。いくつかの実施形態において、外因性導入遺伝子は、細胞のゲノムへの導入遺伝子の挿入に成功した細胞の選択可能マーカーとして使用できる細胞表面マーカーをコードする配列を含む。例えば、いくつかの実施形態において、外因性導入遺伝子は、抗EGFR抗体及びフローサイトメトリーを使用して容易に検出することができる、上皮成長因子受容体(EGFR)またはその切断断片をコードする配列を含む。
【0125】
いくつかの実施形態において、外因性導入遺伝子は、合成抗原受容体をコードする配列を含み、合成抗原受容体は、キメラ抗原受容体(CAR)またはSynNotch受容体である。例えば、Sadelain et al.,Cancer Discov.3(4):388-398(2013)、Srivastava Trends Immunol.36(8):494-502(2015)、Toda et al.Science 361(6398):156-162(2018)、及びCho et al.Scientific Reports 8:3846(2018)regarding CAR and SynNotch design and usesを参照されたい。特定の実施形態において、外因性導入遺伝子は、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする配列を含む。いくつかの実施形態において、外因性導入遺伝子は、CD19、BCMA、CD20、CD22、CD30、CD33、CD123、CD133、CEA、EGFR、EGFRvIII、EphA2、ErbBファミリー、GPC3、HER2、FAP、FRα、FD2、Igχ、IL-13α2、メソテリン、Muc1、PSMA、ROR1、VEGFR2、B7-H3、B7H6、CD5、CD23、CD70、CSPG4、EpCAM、GD3、HLA-A1+MAGE、IL-11Rα、Lewis-Y、Muc16、NKG2Dリガンド、PSCA、またはTAG72などのがん細胞関連標的を特異的に認識するCARを含む。例えば、いくつかの実施形態において、外因性導入遺伝子は、CD19-CD28-CD3ξCAR、CD19-4-1BB-CD3ξCAR、MSLN-CD28-CD3ξCAR、またはMSLN-4-1BB-CD3ξCARをコードする配列を含む。
【0126】
いくつかの実施形態において、外因性導入遺伝子は、細胞の機能を変更する1つ以上のタンパク質をコードする。例えば、T細胞のゲノムに挿入されたCARをコードする外因性導入遺伝子の場合、CARの発現によってT細胞の特異性及び機能が変化し得る。
【0127】
別の実施形態において、外因性導入遺伝子は、1つ以上の細胞質タンパク質、細胞内タンパク質、または可溶性タンパク質をコードする。いくつかの実施形態において、外因性導入遺伝子は、治療用タンパク質をコードする。いくつかの実施形態において、外因性導入遺伝子は、サイトカインまたはその機能的断片をコードする。いくつかの実施形態において、外因性導入遺伝子は、転写因子をコードする。いくつかの実施形態において、外因性導入遺伝子は、免疫チェックポイント阻害剤をコードする。
【0128】
別の実施形態において、外因性導入遺伝子は、rRNA、tRNA、gRNA、siRNA、またはmiRNAなどの非翻訳RNAをコードする配列を含み得る。
【0129】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の細胞は、哺乳動物細胞である。例えば、いくつかの実施形態において、哺乳動物細胞は、ヒト細胞である。いくつかの実施形態において、ヒト細胞は、多能性幹細胞または人工多能性幹細胞(iPSC)である。いくつかの実施形態において、ヒト細胞は、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、骨髄細胞、マクロファージ、樹状細胞、造血幹細胞、または他の免疫細胞である。いくつかの実施形態において、T細胞は、制御性T細胞、エフェクターT細胞、またはナイーブT細胞である。いくつかの実施形態において、エフェクターT細胞は、CD8+T細胞またはCD4+T細胞である。いくつかの実施形態において、エフェクターT細胞は、CD8+CD4+T細胞である。いくつかの実施形態において、T細胞は、TCR受容体を発現するT細胞であるか、またはTCR受容体を発現するT細胞に分化するT細胞である。いくつかの実施形態において、ヒト細胞は、iPSC由来のNK細胞である。いくつかの実施形態において、細胞は、初代細胞である。いくつかの実施形態において、細胞は、対象から得られる。例えば、いくつかの実施形態において、細胞は、対象から得られ、本明細書に記載の組成物を導入することによってex vivoで改変される。
【0130】
III.ゲノム編集方法
本明細書ではまた、細胞のゲノムを編集する方法であって、細胞の内因性遺伝子の3’部分または5’部分とコードする配列及び外因性導入遺伝子を含む核酸の標的指向化挿入のための組成物を細胞に導入することを含む当該方法を提供する。いくつかの実施形態において、細胞のゲノムを編集する方法は、(A)ガイドRNA(gRNA)、(B)標的指向化ヌクレアーゼ、及び(C)核酸(例えば、DNA修復のための鋳型)を含む組成物を細胞に導入することを含む。別の実施形態において、細胞のゲノムを編集する方法は、(A)標的指向化ヌクレアーゼ及び(B)核酸(例えば、DNA修復のための鋳型)を含む組成物を細胞に導入することを含む。
【0131】
いくつかの実施形態において、本明細書に開示された細胞のゲノムを編集する方法は、
細胞内の内因性遺伝子を標的とするgRNA;
gRNAと複合体を形成するRNA誘導型ヌクレアーゼ;及び
RNA誘導型ヌクレアーゼと複合体を形成し、かつ、内因性遺伝子と相同な1つ以上の領域(複数可)と、内因性遺伝子の3’部分と同等のコード能力を有する配列と、外因性導入遺伝子とを含む、核酸
を細胞に導入すること含む。いくつかの実施形態において、RNA誘導型ヌクレアーゼは、細胞内の内因性遺伝子を特異的に切断して挿入部位を作製し、挿入部位に、内因性遺伝子の3’部分と同等のコード能力を有する配列と外因性導入遺伝子とが挿入されて、細胞において内因性遺伝子の発現の回復または継続、及び外因性導入遺伝子の発現をもたらす。
【0132】
別の実施形態において、本明細書に開示された細胞のゲノムを編集する方法は、
細胞内の内因性遺伝子を標的とするgRNA;
gRNAと複合体を形成するRNA誘導型ヌクレアーゼ;及び
RNA誘導型ヌクレアーゼと複合体を形成し、かつ、内因性遺伝子と相同な1つ以上の領域(複数可)と、外因性導入遺伝子と、内因性遺伝子の5’部分と同等のコード能力を有する配列とを含む、核酸
を細胞に導入すること含む。いくつかの実施形態において、RNA誘導型ヌクレアーゼは、細胞内の内因性遺伝子を特異的に切断して挿入部位を作製し、挿入部位に、外因性導入遺伝子と内因性遺伝子の5’部分と同等のコード能力を有する配列とが挿入されて、細胞において内因性遺伝子の発現の回復または継続、及び外因性導入遺伝子の発現をもたらす。
【0133】
いくつかの実施形態において、gRNA、RNA誘導型ヌクレアーゼ、及び核酸は、非ウイルス送達を介して細胞に導入される。例えば、いくつかの実施形態において、gRNA、RNA誘導型ヌクレアーゼ、及び核酸は、電気穿孔を介して細胞に導入される。いくつかの実施形態において、gRNA、RNA誘導型ヌクレアーゼ、及び/または核酸は、ウイルス送達を介して細胞に導入される。例えば、いくつかの実施形態において、gRNA、RNA誘導型ヌクレアーゼ、及び/または核酸は、ウイルス形質導入(例えば、レトロウイルス、アデノウイルス、レンチウイルス、またはアデノ随伴ウイルス)を介して細胞に導入される。いくつかの実施形態において、gRNA、RNA誘導型ヌクレアーゼ、及び/または核酸は、アデノ随伴ウイルス(例えば、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、またはAAV13)を介して細胞に導入される。
【0134】
例えば、いくつかの実施形態において、gRNA、標的指向化ヌクレアーゼ(例えば、RNA誘導型ヌクレアーゼ)、及び核酸配列は、リボ核タンパク質複合体(RNP)-DNA複合体として細胞に導入され、RNP-DNA複合体は、(i)RNA誘導型ヌクレアーゼ(例えば、Cas9)及びgRNAを含むRNP、及び(ii)DNA鋳型として機能する核酸を含む。
【0135】
いくつかの実施形態において、核酸に対するRNPのモル比は、約3:1~約100:1であり得る。例えば、モル比は、約5:1~10:1、約5:1~約15:1、5:1~約20:1、5:1~約25:1、約8:1~約12:1、約8:1~約15:1、約8:1~約20:1、または約8:1~約25:1であり得る。
【0136】
いくつかの実施形態において、RNP-DNA鋳型複合体中の核酸の濃度は、約2.5pM~約25pMである。いくつかの実施形態において、核酸の量は、約1μg~約10μgである。
【0137】
いくつかの実施形態において、RNP-DNA複合体は、約20℃~約25℃の温度で、約1分~約30分未満の間に、RNPを核酸とインキュベートすることによって形成する。いくつかの実施形態において、RNP-DNA複合体及び細胞は、RNP-DNA複合体を細胞に導入する前に混合される。
【0138】
いくつかの実施形態において、核酸配列またはRNP-DNA複合体は、電気穿孔によって細胞に導入される。細胞を電気穿孔してRNP-DNA複合体を導入する方法、組成物、及び装置には、本明細書の実施例に記載されているものが含まれ得る。細胞を電気穿孔してRNP-DNA複合体を導入する追加のまたは代替の方法、組成物、及び装置には、WO/2006/001614またはKim,J.A.et al.Biosens.Bioelectron.23,1353-1360(2008)に記載されたものが含まれ得る。細胞を電気穿孔してRNP-DNA複合体を導入する追加のまたは代替の方法、組成物、及び装置には、米国特許公開第2006/0094095号、第2005/0064596号、または第2006/0087522号に記載されたものが含まれ得る。細胞を電気穿孔してRNP-DNA複合体を導入する追加のまたは代替の方法、組成物、及び装置には、Li,L.H.et al.Cancer Res.Treat.l,341-350(2002)、米国特許第6,773,669号、第7,186,559号、第7,771,984号、第7,991,559号、第6485961号、第7029916号、ならびに米国特許公開第2014/0017213号及び第2012/0088842号に記載されたものが含まれ得る。細胞を電気穿孔してRNP-DNA複合体を導入する追加のまたは代替の方法、組成物、及び装置には、Geng,T.et al..J.Control Release 144,91-100(2010)及びWang,J.,et al.Lab.Chip 10,2057-2061(2010)に記載されたものが含まれ得る。いくつかの実施形態において、RNPは、アニオン性ポリマーの存在下で細胞に送達される。いくつかの実施形態において、アニオン性ポリマーは、アニオン性ポリペプチドまたはアニオン性多糖である。いくつかの実施形態において、アニオン性ポリマーは、アニオン性ポリペプチド(例えば、ポリグルタミン酸(PGA)、ポリアスパラギン酸、またはポリカルボキシグルタミン酸)である。いくつかの実施形態において、アニオン性ポリマーは、アニオン性多糖類(例えば、ヒアルロン酸(HA)、ヘパリン、ヘパリン硫酸、またはグリコサミノグリカン)である。いくつかの実施形態において、アニオン性ポリマーは、ポリ(アクリル酸)(PAA)、ポリ(メタクリル酸)(PMAA)、ポリ(スチレンスルホン酸)、またはポリリン酸塩である。いくつかの実施形態において、アニオン性ポリマーは、少なくとも15kDa(例えば、15kDa~50kDaの間)の分子量を有する。いくつかの実施形態において、アニオン性ポリマー及びRNA誘導型ヌクレアーゼは、それぞれ10:1~120:1のモル比(例えば、10:1、20:1、30:1、40:1、50:1、60:1、70:1、80:1、90:1、100:1、110:1、または120:1)を有する。いくつかの実施形態において、gRNA:RNA誘導型ヌクレアーゼのモル比は、0.25:1から4:1の間である(例えば、0.25:1、0.5:1、1:1、1.2:1、1.4:1、1.6:1、1.8:1、2:1、2.2:1、2.4:1、2.6:1、2.8:1、3:1、3.2:1、3.4:1、3.6:1、3.8:1、または4:1)。
【0139】
いくつかの実施形態において、核酸またはRNP-DNA複合体は、約1×105~約100×106個の細胞(例えば、T細胞)に導入される。例えば、核酸またはRNP-DNA複合体は、約1×105個の細胞~約5×105個の細胞、約1×105個の細胞~約1×106個の細胞、1×105個の細胞~約1.5×106個の細胞、1×105個の細胞~約2×106個の細胞、約1×106個の細胞~約1.5×106個の細胞、または約1×106個の細胞~約2×106個の細胞に導入される。
【0140】
本明細書に開示される方法のいくつかの実施形態において、細胞への導入の際に、RNP-DNA複合体は、細胞内の内因性遺伝子の遺伝子座に移動し、そこで標的指向化ヌクレアーゼ(例えば、RNA誘導型ヌクレアーゼ9)がgRNAのDNAターゲティング配列によって誘導され、標的切断部位でゲノムDNAの二本鎖切断を導入する。特定の実施形態において、細胞の内因性遺伝子と相同な1つ以上の領域(複数可)が、核酸を細胞の内因性遺伝子と整列させ、HDRを介して、内因性遺伝子のタンパク質産物のカルボキシ末端部分をコードする細胞内の内因性遺伝子の3’部分と同等のコード能力を有する配列及び外因性導入遺伝子を、内因性遺伝子内の標的切断部位に挿入させる。いくつかの実施形態において、3’部分と同等のコード能力を有する挿入された配列は、標的切断のすぐ5’に位置する内因性遺伝子の5’部分と連続したオープンリーディングフレームを形成し、内因性プロモーターの制御下で、内因性遺伝子によってコードされるタンパク質産物の発現を回復または継続させる。いくつかの実施形態において、外因性導入遺伝子を挿入し、導入遺伝子によってコードされるタンパク質産物(例えば、CAR)を発現させる。いくつかの実施形態において、細胞内の外因性導入遺伝子は、内因性プロモーターの制御下で発現する。いくつかの実施形態において、外因性プロモーターが外因性導入遺伝子と作動可能に連結され、外因性導入遺伝子と共に標的切断部位に挿入され、細胞内での導入遺伝子の発現を駆動する。
【0141】
本明細書に開示される方法の別の実施形態において、細胞への導入の際に、RNP-DNA複合体は、細胞内の内因性遺伝子の遺伝子座に移動し、そこで標的指向化ヌクレアーゼ(例えば、RNA誘導型ヌクレアーゼ)がgRNAのDNAターゲティング配列によって誘導され、標的切断部位でゲノムDNAの二本鎖切断を導入する。特定の実施形態において、細胞の内因性遺伝子と相同な1つ以上の領域(複数可)が、核酸を細胞の内因性遺伝子と整列させ、HDRを介して、外因性導入遺伝子、及び内因性遺伝子のタンパク質産物のアミノ末端部分をコードする細胞内の内因性遺伝子の5’部分と同等のコード能力を有する配列を、内因性遺伝子の標的切断部位に挿入させる。いくつかの実施形態において、5’部分と同等のコード能力を有する挿入された配列は、標的切断のすぐ3’に位置する内因性遺伝子の3’部分と連続したオープンリーディングフレームを形成し、内因性遺伝子によってコードされるタンパク質産物の発現を回復または継続させる。いくつかの実施形態において、外因性導入遺伝子を挿入し、導入遺伝子によってコードされるタンパク質産物(例えば、CAR)を発現させる。いくつかの実施形態において、外因性導入遺伝子は、細胞内の内因性遺伝子の内因性プロモーターの制御下で発現する。別の実施形態において、外因性プロモーターが外因性導入遺伝子と作動可能に連結され、外因性導入遺伝子と共に標的切断部位に挿入され、細胞内での導入遺伝子の発現を駆動する。いくつかの実施形態において、細胞内の内因性遺伝子は、内因性プロモーターの制御下で発現する。別の実施形態において、外因性プロモーターは、内因性遺伝子の5’部分と同等のコード能力を有する配列と作動可能に連結され、内因性遺伝子の5’部分と同等のコード能力を有する配列と共に標的切断部位に挿入され、細胞内の内因性遺伝子の発現を駆動する。
【0142】
いくつかの実施形態において、細胞のゲノムを編集する方法は、本明細書に開示される組成物を哺乳動物細胞に導入することを含む。例えば、いくつかの実施形態において、哺乳動物細胞は、ヒト細胞、例えば、免疫細胞である。特定の実施形態において、免疫細胞はT細胞であり、例えば、CD4+またはCD8+T細胞である。いくつかの実施形態において、細胞のゲノムを編集する方法は、外因性導入遺伝子をTRAC、TRBC、CD3γ鎖、CD3δ鎖、CD3ε鎖、IL-2Rα鎖、IL-2Rβ鎖、またはIL-2Rγ鎖(IL2RG)のゲノム遺伝子座に挿入することを含む。例えば、特定の実施形態において、外因性導入遺伝子は、TRAC内の標的切断部位に挿入される。いくつかの実施形態において、細胞のゲノムを編集する方法は、外因性導入遺伝子の挿入によって発現が中断される内因性遺伝子の発現を回復または継続させることを含む。例えば、本明細書に開示される方法は、TRAC、TRBC、CD3γ鎖、CD3δ鎖、CD3ε鎖、IL-2Rα鎖、IL-2Rβ鎖、またはIL-2Rγ鎖の発現を回復または継続させることができる。
【0143】
いくつかの実施形態において、細胞のゲノムを編集する方法は、Actb、Atp5f1、B2m、Gapdh、Gusb、Hprt、Pgk1、Ppia、Rps18、Tbp、Tfrc、Ywhaz、Nanog、Rex1、またはOct4のうちの少なくとも1つのゲノム遺伝子座に外因性導入遺伝子を挿入することを含む。いくつかの実施形態において、細胞のゲノムを編集する方法は、外因性導入遺伝子の挿入によって発現が中断される内因性遺伝子の発現を回復または継続させることを含む。例えば、本明細書に開示される方法は、Actb、Atp5f1、B2m、Gapdh、Gusb、Hprt、Pgk1、Ppia、Rps18、Tbp、Tfrc、Ywhaz、Nanog、Rex1、またはOct4の発現を回復または継続させることができる。
【0144】
代替の実施形態において、本明細書に開示された細胞のゲノムを編集する方法は、
TALEN、ZFN、またはmegaTALから選択される標的指向化ヌクレアーゼ;及び
標的指向化ヌクレアーゼと複合体を形成し、かつ、内因性遺伝子と相同な1つ以上の領域(複数可)と、内因性遺伝子の3’部分と同等のコード能力を有する配列と、外因性導入遺伝子とを含む、核酸
を細胞に導入すること含む。いくつかの実施形態において、標的指向化ヌクレアーゼは、細胞内の内因性遺伝子を特異的に切断して挿入部位を作製し、挿入部位に、内因性遺伝子の3’部分と同等のコード能力を有する配列と外因性導入遺伝子とが挿入されて、細胞において内因性遺伝子の発現の回復または継続、及び外因性導入遺伝子の発現をもたらす。
【0145】
さらに別の実施形態において、本明細書に開示された細胞のゲノムを編集する方法は、
TALEN、ZFN、またはmegaTALから選択される標的指向化ヌクレアーゼ;及び
標的指向化ヌクレアーゼと複合体を形成し、かつ、内因性遺伝子と相同な1つ以上の領域(複数可)と、外因性導入遺伝子と、内因性遺伝子の5’部分と同等のコード能力を有する配列とを含む、核酸
を細胞に導入すること含む。いくつかの実施形態において、標的指向化ヌクレアーゼは、細胞内の内因性遺伝子を特異的に切断して挿入部位を作製し、挿入部位に、外因性導入遺伝子と内因性遺伝子の5’部分と同等のコード能力を有する配列とが挿入されて、細胞において内因性遺伝子の発現の回復または継続、及び外因性導入遺伝子の発現をもたらす。
【0146】
IV.治療方法
また、本開示では、本明細書に開示される方法によって細胞のゲノムを編集すること、及び/または本明細書に開示される細胞を対象に投与することを含む、対象の疾患を治療または予防する方法も提供される。
【0147】
例えば、いくつかの実施形態において、対象の疾患を治療または予防する方法は、核酸を含む細胞であって、細胞の内因性遺伝子の5’部分、内因性遺伝子の3’部分、内因性遺伝子の5’部分または3’部分と同等のコード能力を有する配列、及び外因性導入遺伝子を含む当該細胞を得ることと、当該細胞を対象に投与することとを含む。
【0148】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の方法及び組成物を使用し、免疫細胞、例えば、T細胞のゲノムを編集することができる。いくつかの態様において、免疫細胞(例えば、T細胞)は、疾患を有しているか、または疾患を有するリスクのある対象から得られる。例えば、いくつかの実施形態において、本明細書に記載の方法及び組成物を使用して編集されたゲノムを有する免疫細胞(例えば、T細胞)を対象に投与し、対象におけるがん、感染症、自己免疫疾患、移植拒絶、移植片対宿主病、または他の炎症性障害などの疾患を治療または予防することができる。いくつかの実施形態において、外因性導入遺伝子に発現より、細胞が対象の疾患を治療及び/または予防するように、細胞の特異性及び/または機能性が変化する。例えば、いくつかの実施形態において、T細胞(例えば、CD4+またはCD8+T細胞)を対象から得、そのゲノムを編集してCARを発現させ、がんの治療のために、CARを発現するT細胞を対象に投与する。特定の実施例において、本明細書に開示される方法は、対象におけるがんの治療または予防のためのものであり、CARががん特異的抗原(例えば、腫瘍特異的抗原または新生抗原)を認識する。特定の実施例において、本明細書に開示される方法は、対象における自己免疫疾患の治療または予防のためのものであり、CARが自己免疫疾患に関連する抗原を認識する。
【0149】
特定の実施形態において、本明細書に開示される方法は、対象におけるがんの治療または予防に使用することができ、当該がんは、膀胱癌、乳癌、子宮頸癌、結腸直腸癌、食道癌、胃癌、頭頸部癌、肝細胞癌、白血病、肺癌、リンパ腫、中皮腫、黒色腫、骨髄腫、卵巣癌、子宮内膜癌、前立腺癌、膵臓癌、腎細胞癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、脳腫瘍、肉腫、神経芽細胞腫、または頭頸部の扁平上皮癌である。
【0150】
いくつかの実施形態において、本明細書に開示される方法は、対象における自己免疫疾患の治療または予防のために使用することができる。特定の実施形態において、自己免疫疾患は、多発性硬化症、I型糖尿病、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、炎症性腸疾患、セリアック病、バセドウ病、橋本病の自己免疫性甲状腺炎、白斑、リウマチ熱、悪性貧血・萎縮性胃炎、円形脱毛症、免疫性血小板減少性紫斑病、側頭動脈炎、潰瘍性大腸炎、クローン病、強皮症、抗リン脂質症候群、自己免疫性肝炎1型、原発性胆汁性肝硬変、シェーグレン症候群、アジソン病、疱疹状皮膚炎、川崎病、交感神経性眼炎、HLA-B27関連急性前部ブドウ膜炎、原発性硬化性胆管炎、円板状エリテマトーデス、結節性多発動脈炎、CREST症候群、重症筋無力症、多発性筋炎・皮膚筋炎、スティル病、自己免疫性肝炎2型、ウェゲナー肉芽腫症、混合性結合組織病、顕微鏡的多発血管炎、自己免疫性多腺性症候群、フェルティ症候群、自己免疫性溶血性貧血、慢性炎症性脱髄性多発神経障害、ギラン・バレー症候群、ベーチェット病、自己免疫性好中球減少症、水疱性類天疱瘡、本態性混合型クリオグロブリン血症、線状モルフェア、自己免疫性多腺性症候群1(APECED)、後天性血友病A、バッテン病/神経セロイドリポフスチン症、自己免疫性膵炎、橋本脳症、グッドパスチャー病、尋常性天疱瘡、自己免疫性播種性脳脊髄炎、再発性多発軟骨炎、高安動脈炎、Churg-Strauss症候群、後天性表皮水疱症、瘢痕性類天疱瘡、葉状天疱瘡、自己免疫性副甲状腺機能低下症、自己免疫性下垂体炎、自己免疫性内耳疾患、自己免疫性リンパ増殖性症候群、自己免疫性卵巣炎、自己免疫性睾丸炎、自己免疫性多腺性症候群、コーガン症候群、嗜眠性脳炎、二回性紅斑、エバンス症候群、免疫調節不全多発性内分泌障害、腸疾患 X連鎖(IPEX)、アイザックス症候群/後天性神経筋緊張症、ミラーフィッシャー症候群、モーバン症候群、パンダス、ポエムズ症候群、ラスムッセン脳炎、スティフパーソン症候群、Vogt-Koyanagi-Harada症候群、視神経脊髄炎、移植片対宿主病、自己免疫性ぶどう膜炎からなる群から選択される。
【0151】
いくつかの実施形態において、細胞を対象から得られ、細胞のゲノムを編集して外因性導入遺伝子及び内因性遺伝子を発現させ、疾患の治療または予防のために対象に投与する前にex vivoで増殖させる。例えば、いくつかの実施形態において、腫瘍浸潤性リンパ球、不均一でがん特異的なT細胞集団は、がん対象から得られ、ex vivoで増殖される。特定の実施形態において、対象のがんの特徴によって、調整された細胞修飾の組(例えば、細胞に挿入される外因性導入遺伝子)が決定され、これらの修飾は、本明細書に記載の方法のいずれかを使用して腫瘍浸潤リンパ球に適用される。
【0152】
上記の説明は、本発明の複数の態様及び実施形態を説明している。本特許出願は、態様及び実施形態の全ての組み合わせ及び順列を明確に企図する。
【実施例】
【0153】
ここに概して説明される本発明は、以下の実施例を参照することによってより容易に理解され、それらは、単に本発明の特定の態様及び実施形態の例示の目的のために含まれ、本発明を限定することを意図するものではない。
【0154】
実施例1-TRACへのCAR導入遺伝子の挿入
本明細書では、T細胞のTRAC遺伝子内の標的部位に、外因性導入遺伝子(例えば、CARをコードする)を挿入する非ウイルスゲノム編集方法が記載される。外因性導入遺伝子及びTRACの3’部分と同等のコード能力を有する配列の挿入が成功した細胞は、外因的に導入されたCAR及び機能的なTCR複合体の両方を発現し、TCRα鎖の発現を回復または継続させる。
【0155】
T細胞の分離及び活性化
T細胞は、EasySep Human T-Cell Isolation Kit(STEMCELL Technologies)を使用し、正常なドナー Leukopaks(STEMCELL Technologies)からLymphoprep(STEMCELL Technologies)を使用して調製した末梢血単核細胞(PBMC)から濃縮した。続いて、3%のヒトAB血清(Gemini Bio)及び12.5ng/mlのヒトIL-7及びIL-15(Miltenyi、プレミアムグレード)を添加したTexMACS培地(Miltenyi、130-197-196)中のT-Cell TransAct、ヒト(Miltenyi、130-111-160)でT 細胞を活性化し、電気穿孔を行う前に、37℃、5%のCO2で48時間成長させた。
【0156】
T細胞遺伝子編集
CRISPR RNPは、120μMのsgRNA(Synthego)標的DNA配列AAGTCTCTCAGCTGGTACA(配列番号1)、62.5μMのsNLS-SpCas9-sNLS(Aldevron)、100ng/mlのポリ-L-グルタミン酸(Sigma P4761-25MG)、及びP3バッファー(Lonza)を5:1:3:6の比率で組み合わせて調製した。5μgのプラスミドDNA(すなわち、配列番号11、配列番号12、または配列番号13に従う配列を有するプラスミド)を17.5μlのRNPと混合した。T細胞をカウントし、90×Gで10分間の遠心分離にかけ、5×106細胞/94μlのP3に添加剤(Lonza)を加えて再懸濁した。94μlのT細胞懸濁液をDNA/RNP混合物に加え、Lonza電気穿孔キュベットに移し、コードEH-115のLonza Xユニットでパルスした。細胞を室温で10分間静置した後、12.5ng/mlのヒトIL-7及びIL-15(Miltenyi、プレミアムグレード)を添加したTexMACS培地中の24ウェルG-Rexプレート(Wilson Worf)に移した。いくつかの条件では、前述の培地組成にCTS Dynabeads(CD3/CD28)(Thermo Fisher)を1:1比率で混合して細胞を回収した。
【0157】
フローサイトメトリー
導入遺伝子の発現は、抗EGFR抗体(BioLegend、クローンAY13)で染色して検出し、Attune NxTのフローサイトメーターで分析した。TCRアルファ/ベータ複合体の発現は、CD3E抗体(BD、クローンUCHT1)及びTCRアルファ/ベータ抗体(BioLegend、クローンIP26)で検出した。
【0158】
CAR及びTCRα鎖を発現するためのT細胞のゲノム編集
T細胞は、TRAC遺伝子座を標的とするCRISPR RNPの電気穿孔を介し、プラスミド修復鋳型を用いてゲノム編集され、切断型EGFR表面マーカー遺伝子に結合したCD19-4-1BB-CD3ξ-CAR 2Aをコードする外因性導入遺伝子を発現した。
図3Aに示すように、TRAC遺伝子座の特定の標的切断部位がTRACのコード配列を妨害することで、細胞は配列番号11に従う配列を有するプラスミドで電気穿孔され、TCRα鎖タンパク質を発現せず、外因性CAR導入遺伝子を発現することが、フローサイトメトリーによるCD3ε及びTCRα/β(データは示されていない)検出の欠如によって示されるように、TCR複合体表面発現の損失によって証明された。
図3A及び3Bは、外因性導入遺伝子が、EGFR抗体で染色され、フローサイトメトリーによって分析された電気穿孔された細胞において容易に検出されることを示している。
図3B及び3Cに示すように、細胞は、配列番号12に従う配列を有するプラスミドで電気穿孔され、プラスミド修復鋳型が、TRAC中のCRISPR標的切断部位の後に来る3’コード配列と、2A配列とを含み、CAR及びEGFR導入遺伝子の同時翻訳により、導入遺伝子に加えて完全なTCRα鎖コード配列を有するTRAC遺伝子座が得られる。これらの細胞は、CD3(
図3B)及びTCRα/β(
図3C)の存在から示されるように、細胞表面上に検出可能なTCR複合体を発現する。
図4に示すように、TRACのCRISPR標的切断部位の後に来る3’コード配列を含むプラスミド(すなわち、配列番号12及び配列番号13に従う配列を有するプラスミド)で電気穿孔されたT細胞は、TCR複合体を発現し、TRACのCRISPR標的切断部位の後に来る3’コード配列を欠くプラスミド(すなわち、配列番号11に従う配列を有するプラスミド)で電気穿孔したT細胞と比較して、CD3/CD28 DynabeadsによるTCR刺激に対する応答性を示す。
【0159】
実施例2-IL2RGへのCAR導入遺伝子の挿入
本明細書では、T細胞のIL2RG遺伝子内の標的部位に、外因性遺伝子回路(例えば、CARをコードする)を挿入する非ウイルスゲノム編集方法が記載される。外因性導入遺伝子及びIL2RGの3’部分と同等のコード能力を有する配列の挿入が成功した細胞は、外因的に導入されたCAR及び機能的なIL2RG複合体の両方を発現し、IL-2受容体γ鎖の発現を回復または継続させる。
【0160】
T細胞の単離及び活性化
PMBCからのT細胞濃縮及びT細胞TransActによる活性化は、実施例1に記載のように行った。
【0161】
T細胞遺伝子の編集
CRISPR RNPは、36μMのsgRNA(Synthego)標的DNA配列GTGTGTATTTCTGGCTGGAA(配列番号32)及び62.5μMのsNLS-SpCas9-sNLS(Aldevron)を16.5:1の比率で組み合わせて調製した。0.25μgのプラスミドDNA(すなわち、配列番号33に従う配列を有するプラスミド)を3.5μlのRNPと混合した。T細胞をカウントし、90×Gで10分間の遠心分離にかけ、1×106細胞/14.5μlのP3に添加剤(Lonza)を加えて再懸濁した。20μlのT細胞懸濁液をDNA/RNP混合物に加え、Lonza384ウェル電気穿孔プレートに移し、コードEH-115AAのLonza HTでパルスした。細胞を室温で15分間静置した後、12.5ng/mlのヒトIL-7及びIL-15(Miltenyi、プレミアムグレード)を添加したTexMACS培地中の96ウェルプレート(Sarstedt)に移した。
【0162】
フローサイトメトリー
導入遺伝子の発現は、抗Myc抗体(Cell Signaling Technology、クローン9B11)で染色し、Intellicyt iQue3機器で分析することにより検出した。IL2RG発現は、CD132抗体(Biolegend、クローンTUGh4)で検出した。
【0163】
回路及びIL2RG鎖を発現するためのT細胞のゲノム編集
T細胞は、IL2RG遺伝子座を標的とするCRISPR RNPの電気穿孔を介し、プラスミド修復鋳型を用いてゲノム編集され、Prime及びCAR受容体ならびにMycタグを備えた回路をコードする外因性導入遺伝子を発現した。
図5は、外因性導入遺伝子(Mycタグ付きPrime受容体)が、抗Myc抗体で染色され、フローサイトメトリーによって分析された電気穿孔された細胞において容易に検出されることを示している。
図5に示すように、細胞は、配列番号33に従う配列を有するプラスミドで電気穿孔され、プラスミド修復鋳型が、IL2RG中のCRISPR標的切断部位に続く3’コード配列と、回路を含むPrime及びCAR受容体とを含むことにより、導入遺伝子に加えて全長IL-2受容体γ鎖コード配列を発現するIL2RG遺伝子座が得られる。これらの細胞は、CD132(
図5)の存在から示されるように、細胞表面上に検出可能なIL2RG複合体を発現する。
図6Aに示すように、ps6651、IL2RG sgRNA、及びCAS9で電気穿孔され、フローサイトメトリーを介してアッセイされた4人のドナー由来の細胞は、電気穿孔後9日目から電気穿孔後14日目までIL2RG及び外因性導入遺伝子の両方を発現する細胞の割合が増加したことを示している。さらに、
図6Bに示すように、IL2RG遺伝子がノックアウトされ、導入遺伝子が組み込まれていない細胞集団は、IL2RG発現の欠如による経時的な枯渇を示した。
【0164】
実施例3
異種移植マウスモデルにおける固形腫瘍のin vivo治療
腫瘍抗原特異的CARを発現するT細胞は、本明細書に記載のゲノム編集法によって産生される。初代ヒト固形腫瘍細胞は、免疫低下状態のマウスで成長させる。固形がん細胞の例としては、The Cancer Genome Atlas(TCGA)及び/またはthe Broad Cancer Cell Line Encyclopedia(CCLE、Barretina et al.,Nature 483:603(2012)を参照)で提供される固形腫瘍細胞株が挙げられる。固形がん細胞の例としては、肺癌、卵巣癌、黒色腫、結腸癌、胃癌、腎細胞癌、食道癌、神経膠腫、尿路上皮癌、網膜芽細胞腫、乳癌、非ホジキンリンパ腫、膵臓癌、ホジキンリンパ腫、骨髄腫、肝細胞癌、白血病、子宮頸癌、胆管癌、口腔癌、頭頸部癌、または中皮腫から単離された原発性腫瘍細胞が挙げられる。これらのマウスは、ヒト腫瘍異種移植モデルにおける外因性CAR導入遺伝子及び機能性TCR複合体を発現するT細胞の有効性を試験するために使用される。1×105~1×107個の腫瘍細胞を皮下移植または注射した後、治療開始前に腫瘍を200~500mm3まで成長させる。次に、外因性CAR導入遺伝子と機能性TCR複合体を発現するようにゲノム編集されたT細胞をマウスに導入する。腫瘍サイズのキャリパー測定、またはfflucを発現する腫瘍細胞が発するルシフェラーゼタンパク質(ffluc)信号の強度を追跡することによって、腫瘍が外因性CAR導入遺伝子と機能性TCR複合体を発現するようにゲノム編集されたT細胞による治療に応答して縮小したかを評価できる。
【0165】
参照による援用
本明細書において参照される特許資料及び科学論文の各々のすべての開示は、あらゆる目的のために参照により援用される。
【0166】
均等物
本発明は、その精神または本質的特徴から逸脱することなく、他の特定の形態で具現化され得る。従って、前述の実施形態は、本明細書に説明される本発明を限定するものではなく、あらゆる点において例示的であると見なされるべきである。従って、本発明の範囲は、前述の説明によってではなく添付の特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲の意味及び均等の範囲内に入る全ての変更は、その中に含まれることが意図される。
【配列表】
【国際調査報告】