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特表2023-548510治療用免疫細胞の有効性を増強するための方法及び組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-17
(54)【発明の名称】治療用免疫細胞の有効性を増強するための方法及び組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/113 20100101AFI20231110BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20231110BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20231110BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20231110BHJP
   C12N 9/12 20060101ALI20231110BHJP
   C12N 15/86 20060101ALI20231110BHJP
   A61K 35/15 20150101ALI20231110BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20231110BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20231110BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20231110BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231110BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20231110BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20231110BHJP
   A61K 9/00 20060101ALI20231110BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231110BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20231110BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20231110BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20231110BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20231110BHJP
【FI】
C12N15/113 Z ZNA
C12N5/10
C12N5/0783
C12N15/09 110
C12N9/12
C12N15/86 Z
A61K35/15
A61K35/17
A61K31/7088
A61K48/00
A61P43/00 121
A61K35/76
A61K9/127
A61K9/00
A61P35/00
A61P37/02
A61P31/00
A61P35/02
A61K45/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023526666
(86)(22)【出願日】2021-11-04
(85)【翻訳文提出日】2023-06-27
(86)【国際出願番号】 US2021058047
(87)【国際公開番号】W WO2022098864
(87)【国際公開日】2022-05-12
(31)【優先権主張番号】63/109,517
(32)【優先日】2020-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503115205
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】クリスタル エル.マッカル
(72)【発明者】
【氏名】キャサリン アン フレイタス
(72)【発明者】
【氏名】エレナ ソティロ-ピネイロ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA94X
4B065AB01
4B065BA03
4B065CA44
4C076AA19
4C076AA29
4C076AA95
4C076CC07
4C076CC27
4C076CC31
4C076FF70
4C084AA13
4C084AA19
4C084MA02
4C084MA24
4C084MA43
4C084NA05
4C084NA13
4C084NA14
4C084ZB07
4C084ZB26
4C084ZB27
4C084ZB32
4C084ZC75
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA02
4C086MA03
4C086MA04
4C086MA24
4C086MA43
4C086NA05
4C086NA13
4C086NA14
4C086ZB07
4C086ZB26
4C086ZB27
4C086ZB32
4C086ZC75
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB37
4C087BB65
4C087CA12
4C087MA02
4C087MA24
4C087MA43
4C087NA05
4C087NA13
4C087NA14
4C087ZB07
4C087ZB26
4C087ZB27
4C087ZB32
4C087ZC75
(57)【要約】
本開示は、概して、とりわけメディエーター複合体の1つ以上のサブユニットの発現量を低減するように改変された組換え免疫細胞に関し、特に、増強されたエフェクター機能を示す改変免疫細胞に関する。増強されたエフェクター機能を有する改変免疫細胞を生成するための方法、その医薬組成物、並びに健康状態の予防及び/又は治療を必要とする対象において、その健康状態を予防及び/又は治療するための方法及びキットも提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
増強されたエフェクター機能を有する改変免疫細胞を生成するための方法であって、前記免疫細胞中のメディエーター複合体サブユニットの発現量を低減させることができる核酸及び/又はポリペプチドを、前記免疫細胞に導入することを含む、方法。
【請求項2】
前記メディエーター複合体サブユニットが、前記メディエーター複合体のミドルモジュールサブユニット、テールモジュールサブユニット、及びサイクリン依存性キナーゼ8(CDK8)モジュールサブユニットから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記メディエーター複合体サブユニットが、CCNC、CDK8、CDK19、MED12、MED12L、MED13、MED13L、MED19、MED24、及びMED26からなる群から選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記メディエーター複合体サブユニットが、ミドルモジュールサブユニットである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ミドルモジュールサブユニットが、MED19又はMED26である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記メディエーター複合体サブユニットが、テールモジュールサブユニットである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記テールモジュールサブユニットが、MED15、MED16、又はMED24である、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記メディエーター複合体サブユニットが、CDK8モジュールサブユニットである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記CDK8モジュールサブユニットが、CCNC、CDK18、CDK19、MED12、MED12L、及びMED13Lからなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記核酸が、(i)CRISPR/Casゲノム編集系のガイドRNA(gRNA)、(ii)TALEN(転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ)ゲノム編集系、(iii)NgAgo(Natronobacterium gregoryi Argonaute)によるDNAガイドエンドヌクレアーゼゲノム編集、(iv)アンチセンス核酸分子、(v)二本鎖RNAi分子、及び(vi)mRNAの抑制又は分解を誘導することができるヘアピンRNA分子、のうちの1つ以上に組み込まれる、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記核酸が、前記メディエーター複合体サブユニットをコードする内因性ゲノム遺伝子座内の標的配列に対して十分な配列相補性を有するポリヌクレオチド配列を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記免疫細胞が、Tリンパ球、ナチュラルキラー(NK)細胞、又はマクロファージである、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記Tリンパ球が、
ナイーブCD8+T細胞、セントラルメモリーCD8+T細胞、エフェクターメモリーCD8+T細胞、エフェクターCD8+T細胞、CD8+幹メモリーT細胞、バルクCD8+T細胞からなる群から選択されるCD8+T細胞傷害性リンパ球細胞;又は
ナイーブCD4+T細胞、セントラルメモリーCD4+T細胞、エフェクターメモリーCD4+T細胞、エフェクターCD4+T細胞、CD4+幹メモリーT細胞、及びバルクCD4+T細胞からなる群から選択されるCD4+Tヘルパーリンパ球細胞である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記免疫細胞に1つ以上の組換え免疫受容体を導入することを更に含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記1つ以上の組換え免疫受容体が、キメラ抗原受容体(CAR)及び/又はT細胞受容体(TCR)を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
請求項1~14のいずれか一項に記載の方法によって産生される、改変免疫細胞。
【請求項17】
改変免疫細胞であって、前記免疫細胞におけるメディエーター複合体サブユニットの発現量を低減させることができる核酸及び/又はポリペプチドを含む、改変免疫細胞。
【請求項18】
前記メディエーター複合体サブユニットが、CCNC、CDK8、CDK19、MED12、MED12L、MED13、MED13L、MED19、MED24、及びMED26からなる群から選択される、請求項17に記載の改変免疫細胞。
【請求項19】
前記免疫細胞が、in vitro、ex vivo、又はin vivoである、請求項16~18のいずれか一項に記載の改変免疫細胞。
【請求項20】
前記免疫細胞が、Tリンパ球である、請求項16~19のいずれか一項に記載の改変免疫細胞。
【請求項21】
前記免疫細胞が、疲弊した免疫細胞又は疲弊していない免疫細胞である、請求項16~20のいずれか一項に記載の改変免疫細胞。
【請求項22】
請求項16~21のいずれか一項に記載の少なくとも1つの改変免疫細胞、及び培養培地を含む、細胞培養物。
【請求項23】
薬学的に許容される賦形剤と、
a)請求項16~22のいずれか一項に記載の改変免疫細胞;及び/又は
b)メディエーター複合体サブユニットをコードするゲノム遺伝子座内の標的配列に対して十分な配列相補性を有する配列を含む組換え核酸であって、前記メディエーター複合体サブユニットが、前記メディエーター複合体の前記ミドルモジュールサブユニット、前記テールモジュールサブユニット、及び前記サイクリン依存性キナーゼ8(CDK8)モジュールサブユニットから選択される、組換え核酸と、を含む、医薬組成物。
【請求項24】
前記メディエーター複合体サブユニットが、CCNC、CDK8、CDK19、MED12、MED12L、MED13、MED13L、MED19、MED24、及びMED26からなる群から選択される、請求項23に記載の医薬組成物。
【請求項25】
薬学的に許容される賦形剤と、請求項16~22のいずれか一項に記載の改変免疫細胞と、を含む、請求項23又は24に記載の医薬組成物。
【請求項26】
薬学的に許容される賦形剤と、前記メディエーター複合体サブユニットをコードする内因性ゲノム遺伝子座内の標的配列に対して十分な配列相補性を有する組換え核酸と、を含む、請求項23又は24に記載の医薬組成物。
【請求項27】
ウイルスカプシド、リポソーム、又は脂質ナノ粒子(LNP)に封入された核酸を含む、請求項26に記載の医薬組成物。
【請求項28】
健康状態の治療を必要とする対象において、前記健康状態を治療するための方法であって、前記対象に、
a)請求項16~22のいずれか一項に記載の改変免疫細胞;
b)メディエーター複合体サブユニットをコードする内因性ゲノム遺伝子座内の標的配列に対して十分な配列相補性を有する配列を含む組換え核酸であって、前記メディエーター複合体サブユニットが、前記メディエーター複合体の前記ミドルモジュールサブユニット、前記テールモジュールサブユニット、及び前記サイクリン依存性キナーゼ8(CDK8)モジュールサブユニットから選択される、組換え核酸;並びに/又は
c)請求項23~27のいずれか一項に記載の医薬組成物、を含む、組成物を投与することを含む、方法。
【請求項29】
前記メディエーター複合体サブユニットが、CCNC、CDK8、CDK19、MED12、MED12L、MED13、MED13L、MED19、MED24、及びMED26からなる群から選択される、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記健康状態が、増殖性疾患、自己免疫疾患、又は感染症である、請求項28又は29に記載の方法。
【請求項31】
前記対象が、哺乳動物対象である、請求項28~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記哺乳動物対象が、ヒト対象である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記対象が、増殖性疾患、自己免疫疾患、又は感染症を有するか、又は有する疑いがある、請求項28~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記増殖性疾患が、癌である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記癌が、白血病又は骨肉腫である、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記投与された組成物が、成長速度(増殖)、サイトカイン産生、標的細胞阻害(例えば、抗癌細胞傷害性)、マクロファージ活性化、T細胞活性化、NK細胞活性化、及びin vivo持続性(例えば、生存)からなる群から選択される増強されたエフェクター機能を付与する、請求項29~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記増強されたエフェクター機能が、インターフェロンガンマ(INFγ)、インターロイキン-2(IL-2)、及び/又は腫瘍壊死因子α(TNFα)の産生の増加を含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記増強されたエフェクター機能が、エフェクターメモリーT細胞表現型の増加を含む、請求項37~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記増強されたエフェクター機能が、酸素消費速度及び細胞外酸性化速度の増加を含む、請求項36~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記組成物が、個別に、又は第2の療法と組み合わせた第1の療法として前記対象に投与され、前記第2の療法が、化学療法、放射線療法、免疫療法、ホルモン療法、毒素療法、又は手術からなる群から選択される、請求項28~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
状態の予防及び/又は治療を必要とする対象において、前記状態を予防及び/又は治療するためのキットであって、
a)請求項16~22のいずれか一項に記載の改変免疫細胞;
b)メディエーター複合体サブユニットをコードする内因性ゲノム遺伝子座内の標的配列に対して十分な配列相補性を有する配列を含む組換え核酸であって、前記メディエーター複合体サブユニットが、前記メディエーター複合体の前記ミドルモジュールサブユニット、前記テールモジュールサブユニット、及び前記サイクリン依存性キナーゼ8(CDK8)モジュールサブユニットから選択される、組換え核酸;並びに/又は
c)請求項23~27のいずれか一項に記載の医薬組成物、
を含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦政府支援の研究開発に関する記述
本発明は、国立衛生研究所(National Institutes of Health)によって授与された契約CA232568及びCA049605に基づく政府の支援を受けて行われたものである。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年11月4日に出願された米国仮特許出願第63/109,517号の優先権を主張するものであり、その開示は、任意の図面を含め、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0003】
配列表の組み込み
本出願は、配列表を含み、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。「078430-527001WO_Sequence Listing_ST25.txt」という名称の添付の配列表テキストファイルは、2021年10月5日に作成されたものであり、3.4KBである。
【0004】
本開示は、概して、とりわけメディエーター複合体の1つ以上のサブユニットの発現量を低減するように改変された組換え免疫細胞に関し、特に、増強されたエフェクター機能を有する改変免疫細胞(engineered immune cell)に関する。増強されたエフェクター機能を有する改変免疫細胞を生成するための方法、その医薬組成物、並びに健康状態の予防及び/又は治療を必要とする対象においてその健康状態を予防及び/又は治療するための方法及びキットも提供される。
【背景技術】
【0005】
免疫細胞は、正常組織を温存しながら腫瘍細胞を標的にする潜在能力を有するため、免疫細胞は、強力かつ特異的な「生体薬物」になり得る。いくつかの臨床観察から、それらは主要な抗癌作用を有し得ることが示されている。この理由のため、遺伝子改変された免疫細胞の養子移入が、様々な悪性腫瘍に対する強力な療法として浮上してきた。例えば、養子T細胞療法の現在の様式には、キメラ抗原受容体(CAR)及び高親和性T細胞受容体(TCR)などの癌抗原に特異的な受容体を発現するように改変された細胞が含まれる。養子T細胞療法では、改変されたT細胞は、典型的には、in vitro又はex vivoで同族抗原に曝露することによって活性化され、増殖された後、個体に投与され、そこで増殖して細胞溶解活性を示し、かつ/又はシグナルを送って標的癌に対する免疫応答を開始する。
【0006】
近年、B細胞悪性腫瘍などの癌細胞上の適切な細胞表面分子にT細胞をリダイレクトすることに依るCAR改変自己T細胞(CART)使用療法が開発され、B細胞悪性腫瘍などの癌治療に免疫系の力を活用することが期待されている。例えば、B細胞悪性腫瘍に発現するCD19タンパク質に特異的なCAR-T細胞を用いた最近の臨床試験では、進行癌患者の一部で顕著な疾患の退縮が実証されている。この成功により、CD19-CAR T細胞治療薬であるaxicabtagene ciloleucel(YESCARTA(登録商標))及びtisagenlecleucel(KYMRIAH(登録商標))の2剤がFDAから承認され、他の療法も大B細胞リンパ腫(LBCL)及びB細胞急性リンパ芽球性白血病(B-ALL)の治療用薬剤として臨床開発段階にある。
【0007】
しかし、この療法を他の種類の癌、特に固形腫瘍に拡張するには、いくつかの課題がある。例えば、B細胞などの血液悪性細胞はCD19を発現しており、ほとんど腫瘍に限定された抗原を標的とするため、特異性が高く、治療の幅が広いのに対して、固形腫瘍は通常、リンパ管循環で容易にアクセスできない場所に存在し、免疫抑制性の白血球及びサイトカインを保有する密な間質及び腫瘍微小環境によって隔離されている。細胞傷害性T細胞(CTL)の遊走に対する障壁には、肺、肝臓及び脾臓などの非標的器官への優先性、異常な血管形成によって引き起こされる膠質浸透圧によるリンパ球の血管外遊出の制限、腫瘍血管系での接着分子の発現の下方制御、並びにリンパ球誘引ケモカインの放出の減少も含まれる。更に、固形腫瘍における腫瘍不均一性は、抗原選択に対する課題となる。更に、腫瘍微小環境は、養子細胞療法の有効性を低減させ得る多くの耐性及び免疫抑制のメカニズムを誘発する。更に、CAR-T細胞が標的細胞を認識して破壊する能力に加えて、治療用T細胞療法を成功させるには、増殖能力、長期にわたる持続能力、更に癌細胞の逃避をモニタリングする能力が必要である。T細胞の様々な表現型状態は、それがアネルギー、抑制又は疲弊の状態であるかどうかにかかわらず、CAR-T細胞の有効性に対して様々な効果を有することが報告されている。加えて、CAR-T細胞が効果を発揮するためには、投与後に存続(例えば、in vivoで生存)し、CARの抗原に応答して増殖する能力を維持する必要がある。
【0008】
したがって、養子細胞療法のための改善された治療用細胞を生成するための新しい組成物及び戦略が必要とされる。本開示の態様及び実施形態は、これらの必要性に対処し、他の関連する利点を提供する。
【発明の概要】
【0009】
本明細書で提供されるのは、とりわけ様々な健康状態の予防及び/又は治療のための、新規の方法及び組成物である。特に、本明細書に記載されるのは、例えば、癌療法のための増強された治療有効性を有する改変免疫細胞である。本開示のいくつかの実施形態は、メディエーター複合体の1つ以上のサブユニットの発現量を低減するように改変された免疫細胞に関する。いくつかの実施形態において、改変免疫細胞は、増強されたエフェクター機能を示す。増強されたエフェクター機能を有する改変免疫細胞の集団を生成するための方法、及び増強されたエフェクター機能を有するこのような改変免疫細胞の集団を含有する医薬組成物、並びに健康状態の予防及び/又は治療を必要とする対象において、その健康状態を予防及び/又は治療するための方法及びキットも提供される。
【0010】
一態様において、本明細書で提供されるのは、増強されたエフェクター機能を有する改変免疫細胞を生成するための方法であって、免疫細胞におけるメディエーター複合体サブユニットの発現量を低減させることができる核酸及び/又はポリペプチドを免疫細胞に導入することを含む、方法である。
【0011】
開示される方法の非限定的な例示的実施形態は、以下の特徴のうちの1つ以上を含み得る。いくつかの実施形態において、メディエーター複合体サブユニットは、メディエーター複合体のミドルモジュールサブユニット、テールモジュールサブユニット、及びサイクリン依存性キナーゼ8(CDK8)モジュールサブユニットから選択される。いくつかの実施形態において、メディエーター複合体サブユニットは、CCNC、CDK8、CDK19、MED12、MED12L、MED13、MED13L、MED19、MED24、及びMED26からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、メディエーター複合体サブユニットは、ミドルモジュールサブユニットである。いくつかの実施形態において、ミドルモジュールサブユニットは、MED19又はMED26である。いくつかの実施形態において、メディエーター複合体サブユニットは、テールモジュールサブユニットである。いくつかの実施形態において、テールモジュールサブユニットは、MED15、MED16、又はMED24である。いくつかの実施形態において、メディエーター複合体サブユニットは、CDK8モジュールサブユニットである。いくつかの実施形態において、CDK8モジュールサブユニットは、CCNC、CDK18、CDK19、MED12、MED12L、及びMED13からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、核酸は、(i)CRISPR/Casゲノム編集系のガイドRNA(gRNA)、(ii)TALEN(転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ)ゲノム編集系、(iii)NgAgo(Natronobacterium gregoryi Argonaute)によるDNAガイドエンドヌクレアーゼゲノム編集、(iv)アンチセンス核酸分子、(v)二本鎖RNAi分子、又は(vi)mRNAの抑制又は分解を誘導することができるヘアピンRNA分子、のうちの1つ以上に組み込まれる。いくつかの実施形態において、核酸は、メディエーター複合体サブユニットをコードする内因性ゲノム遺伝子座内の標的配列に対して十分な配列相補性を有するポリヌクレオチド配列を含む。
【0012】
いくつかの実施形態において、免疫細胞は、Tリンパ球、ナチュラルキラー(NK)細胞、又はナチュラルキラーT細胞(NKT)である。いくつかの実施形態において、Tリンパ球は、ナイーブCD8+T細胞、セントラルメモリーCD8+T細胞、エフェクターメモリーCD8+T細胞、エフェクターCD8+T細胞、CD8+幹メモリーT細胞、バルクCD8+T細胞からなる群から選択されるCD8+T細胞傷害性リンパ球細胞である。いくつかの実施形態において、Tリンパ球は、ナイーブCD4+T細胞、セントラルメモリーCD4+T細胞、エフェクターメモリーCD4+T細胞、エフェクターCD4+T細胞、CD4+幹メモリーT細胞、及びバルクCD4+T細胞からなる群から選択されるCD4+Tヘルパーリンパ球細胞である。
【0013】
いくつかの実施形態において、本開示の方法は、免疫細胞に、キメラ抗原受容体(CAR)又はT細胞受容体(TCR)などの1つ以上の組換え免疫受容体を導入することを更に含む。
【0014】
一態様において、本明細書で提供されるのは、免疫細胞におけるメディエーター複合体サブユニットの発現量を低減させることができる核酸及び/又はポリペプチドを含む、改変免疫細胞である。いくつかの実施形態において、メディエーター複合体サブユニットは、メディエーター複合体のミドルモジュールサブユニット、テールモジュールサブユニット、及びサイクリン依存性キナーゼ8(CDK8)モジュールサブユニットから選択される。いくつかの実施形態において、メディエーター複合体サブユニットは、CCNC、CDK8、CDK19、MED12、MED12L、MED13、MED13L、MED19、MED24、及びMED26からなる群から選択される。別の態様において、本明細書で提供されるのは、本開示の方法によって産生される改変免疫細胞である。本明細書に記載される改変免疫細胞の非限定的な例示的実施形態は、以下の特徴のうちの1つ以上を含み得る。いくつかの実施形態において、免疫細胞は、in vitro、ex vivo、又はin vivoである。いくつかの実施形態において、免疫細胞は、Tリンパ球である。いくつかの実施形態において、免疫細胞は、疲弊した免疫細胞又は疲弊していない免疫細胞である。関連する態様において、本開示の少なくとも1つの改変免疫細胞及び培養培地を含む、細胞培養物が本明細書で提供される。
【0015】
別の態様において、本明細書で提供されるのは、薬学的に許容される賦形剤と、a)本開示の改変免疫細胞;及び/又はb)メディエーター複合体サブユニットをコードするゲノム遺伝子座内の標的配列に対して十分な配列相補性を有する配列を含む核酸であって、メディエーター複合体サブユニットが、メディエーター複合体のミドルモジュールサブユニット、テールモジュールサブユニット、及びサイクリン依存性キナーゼ8(CDK8)モジュールサブユニットから選択される、核酸と、を含む、医薬組成物である。いくつかの実施形態において、メディエーター複合体サブユニットは、CCNC、CDK8、CDK19、MED12、MED12L、MED13、MED13L、MED19、MED24、及びMED26からなる群から選択される。
【0016】
本明細書に記載される医薬組成物の非限定的な例示的実施形態は、以下の特徴のうちの1つ以上を含み得る。いくつかの実施形態において、組成物は、本開示の少なくとも1つの改変免疫細胞、及び薬学的に許容される賦形剤を含む。いくつかの実施形態において、組成物は、メディエーター複合体サブユニットをコードするゲノム遺伝子座内の標的配列に対して十分な配列相補性を有する配列を含む核酸であって、メディエーター複合体サブユニットが、メディエーター複合体のミドルモジュールサブユニット、テールモジュールサブユニット、及びサイクリン依存性キナーゼ8(CDK8)モジュールサブユニットから選択される、核酸を含む。いくつかの実施形態において、メディエーター複合体サブユニットは、CCNC、CDK8、CDK19、MED12、MED12L、MED13、MED13L、MED19、MED24、及びMED26からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、核酸を含む組成物は、ウイルスカプシド、リポソーム、又は脂質ナノ粒子(LNP)に封入されている。
【0017】
別の態様において、本明細書で提供されるのは、健康状態の治療を必要とする対象において、その健康状態を治療するための方法であって、(a)本開示の改変免疫細胞と、b)メディエーター複合体サブユニットをコードするゲノム遺伝子座内の標的配列に対して十分な配列相補性を有する配列を含む核酸であって、メディエーター複合体サブユニットが、メディエーター複合体のミドルモジュールサブユニット、テールモジュールサブユニット、及びサイクリン依存性キナーゼ8(CDK8)モジュールサブユニットから選択される、核酸と、を含む、組成物を対象に投与することを含む、方法である。いくつかの実施形態において、メディエーター複合体サブユニットは、CCNC、CDK8、CDK19、MED12、MED12L、MED13、MED13L、MED19、MED24、及びMED26からなる群から選択される;並びに/又はc)本開示の医薬組成物。
【0018】
本明細書に記載される治療方法の非限定的な例示的実施形態は、以下の特徴のうちの1つ以上を含み得る。いくつかの実施形態において、健康状態は、増殖性疾患、自己免疫疾患、又は感染症である。いくつかの実施形態において、対象は、哺乳動物対象である。いくつかの実施形態において、哺乳動物対象は、ヒト対象である。いくつかの実施形態において、対象は、増殖性疾患、自己免疫疾患、又は感染症を有するか、又は有する疑いがある。いくつかの実施形態において、増殖性疾患は、癌である。いくつかの実施形態において、癌は、白血病又は骨肉腫である。いくつかの実施形態において、投与された組成物は、成長速度(増殖)、サイトカイン産生、標的細胞阻害(例えば、抗癌細胞傷害性)、マクロファージ活性化、T細胞活性化、NK細胞活性化、及びin vivo持続性(例えば、生存)からなる群から選択される増強されたエフェクター機能を付与する。いくつかの実施形態において、増強されたエフェクター機能は、インターフェロンガンマ(INFγ)、インターロイキン-2(IL-2)、及び/又は腫瘍壊死因子α(TNFα)の産生の増加を含む。いくつかの実施形態において、増強されたエフェクター機能は、エフェクターメモリーT細胞表現型の増加を含む。いくつかの実施形態において、増強されたエフェクター機能は、酸素消費速度及び細胞外酸性化速度を含む。いくつかの実施形態において、組成物は、個別に(単剤療法)、又は第2の療法と組み合わせた第1の療法として対象に投与され、第2の療法は、化学療法、放射線療法、免疫療法、ホルモン療法、毒素療法、又は手術からなる群から選択される。
【0019】
更に別の態様において、本明細書で提供されるのは、状態の予防及び/又は治療を必要とする対象において、その状態を予防及び/又は治療するためのキットであって、(a)本開示の改変免疫細胞;(b)メディエーター複合体サブユニットをコードする内因性ゲノム遺伝子座内の標的配列に対して十分な配列相補性を有する配列を含む核酸であって、メディエーター複合体サブユニットが、メディエーター複合体のミドルモジュールサブユニット、テールモジュールサブユニット、及びサイクリン依存性キナーゼ8(CDK8)モジュールサブユニットから選択される、核酸;及び/又はc)本開示の医薬組成物を含む、キットである。いくつかの実施形態において、メディエーター複合体サブユニットは、CCNC、CDK8、CDK19、MED12、MED12L、MED13、MED13L、MED19、MED24、及びMED26からなる群から選択される。
【0020】
前述の概要は、例示的なものにすぎず、決して限定することを意図するものではない。本明細書に記載される例示的な実施形態及び特徴に加えて、本開示の更なる態様、実施形態、目的及び特徴は、図面及び詳細な説明及び特許請求の範囲から完全に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】CAR-T細胞CRISPRノックアウトライブラリーの作製を概略的に示した図である。2人のヒトドナーからのT細胞を精製した。1遺伝子当たり10個のガイドで約20,000個のタンパク質コード遺伝子を標的としたCRISPRライブラリーを、レンチウイルスベクターを用いて低感染多重度(10%陽性)で2億個のT細胞に組み込んだ。精製されたCas9タンパク質を3日目にT細胞にエレクトロポレーションし、活性化後3日目及び4日目にレトロウイルスによってCARを組み込んだ。
【0022】
図2】CRISPRスクリーニングの実験計画を概略的に示した図である。遺伝子編集されたCAR-T細胞をin vitroで2週間培養した。持続性シグナル伝達CARの発現により、進行性のT細胞機能不全が誘導される。サイトカイン産生をスクリーニングするために、集団の一部を腫瘍細胞で刺激し、IL-2及びTNFαを高レベルで発現するT細胞についてFACSで選別した。増殖のスクリーニングのため、CAR-T標的を発現する腫瘍細胞とT細胞を更に7日間共培養した。
【0023】
図3】増殖スクリーニングから選択された遺伝子が、複製ドナー間で再現性を示すことを説明するために行われた実験結果をグラフにまとめた図である。ガイドRNAの存在量を0日目及び23日目に定量した。プロットは、各遺伝子を標的とする全てのガイドRNAの平均log(倍数変化)を示す。右上象限にプロットされた遺伝子は、欠失すると増殖が促進され、左下象限の遺伝子は、欠失すると増殖が減少する。
【0024】
図4A】統計的に有意な遺伝子を同定するゲノムワイドCRISPRスクリーニングを説明するために実施した実験結果をグラフにまとめた図である。MAGECKアルゴリズムを用いて、ガイドの相対的な存在量を解析し、各遺伝子の調整P値を算出した(Li 2014)。図4Aに示すように、サイトカイン産生スクリーニングでは、全15日の集団におけるガイドの存在量をサイトカイン高値の集団と比較する。図4Bに示すように、増殖スクリーニングでは、23日目と0日目の存在量を比較する。ゲノムの安全な非コード領域を標的とするガイドを対照として含め、安全な標的ガイドの平均log(倍数変化)を垂直の破線で示す。統計的有意性についての閾値は、水平の破線で示されている。サイトカイン産生スクリーニングでは、統計的に有意な遺伝子が1つ同定され、増殖アッセイでは、統計的に有意な遺伝子が複数同定された。
図4B】統計的に有意な遺伝子を同定するゲノムワイドCRISPRスクリーニングを説明するために実施した実験結果をグラフにまとめた図である。MAGECKアルゴリズムを用いて、ガイドの相対的な存在量を解析し、各遺伝子の調整P値を算出した(Li 2014)。図4Aに示すように、サイトカイン産生スクリーニングでは、全15日の集団におけるガイドの存在量をサイトカイン高値の集団と比較する。図4Bに示すように、増殖スクリーニングでは、23日目と0日目の存在量を比較する。ゲノムの安全な非コード領域を標的とするガイドを対照として含め、安全な標的ガイドの平均log(倍数変化)を垂直の破線で示す。統計的有意性についての閾値は、水平の破線で示されている。サイトカイン産生スクリーニングでは、統計的に有意な遺伝子が1つ同定され、増殖アッセイでは、統計的に有意な遺伝子が複数同定された。
【0025】
図5A】33個のメディエーター複合体サブユニット全てが増殖スクリーニングで検出可能であることを説明するために行った実験結果をグラフにまとめた図である。各遺伝子を標的とした全ガイドの平均log(倍数変化)をプロットしている。最初に、ドナー1及びドナー2を平均することによって、各ガイドの平均濃縮度を算出した。次いで、ガイド平均値を平均することによって、各遺伝子の平均濃縮度を算出した。エラーバーは、ガイドの標準偏差を示す。MED12及びCCNCは、ともにCDK8キナーゼモジュール(CKM)において見出される。CKMの全てのメンバーの喪失により、T細胞で発現していないMED12Lを除いて、増殖が増強された。ヘッド、バックボーン、及びミドルドメインに見られるメディエーターサブユニットの喪失により、MED26とMED19を除いて、増殖が低減しミドルドメインとCKMとの間の物理的接触を形成すると予測された。更に、テール領域のいくつかのメンバー(例えば、MED27、MED15、MED16、及びMED24)は、欠失すると増殖がわずかに増強された。
図5B】33個のメディエーター複合体サブユニット全てが増殖スクリーニングで検出可能であることを説明するために行った実験結果をグラフにまとめた図である。各遺伝子を標的とした全ガイドの平均log(倍数変化)をプロットしている。最初に、ドナー1及びドナー2を平均することによって、各ガイドの平均濃縮度を算出した。次いで、ガイド平均値を平均することによって、各遺伝子の平均濃縮度を算出した。エラーバーは、ガイドの標準偏差を示す。MED12及びCCNCは、ともにCDK8キナーゼモジュール(CKM)において見出される。CKMの全てのメンバーの喪失により、T細胞で発現していないMED12Lを除いて、増殖が増強された。ヘッド、バックボーン、及びミドルドメインに見られるメディエーターサブユニットの喪失により、MED26とMED19を除いて、増殖が低減しミドルドメインとCKMとの間の物理的接触を形成すると予測された。更に、テール領域のいくつかのメンバー(例えば、MED27、MED15、MED16、及びMED24)は、欠失すると増殖がわずかに増強された。
【0026】
図6A】MED12-ヌル及びCCNC-ヌルCAR T細胞がより多くのIL-2及びIFNγを産生することを説明するために行われた実験結果をグラフにまとめた図である。標的遺伝子CCNC及びMED12並びに対照遺伝子AAVS1を活性化後3日目に欠失させた。CD19-28ζ、HA-28ζ、及びHER2-4-1BBζ受容体を用いてCAR-T細胞を生成し、10日目又は15日目まで培養し、その後、それぞれNALM6、NALM6-GD2、又は143Bと共培養した。腫瘍細胞を添加してから24時間後に上清を採取した。サイトカインをELISAで定量した。偽形質導入T細胞は、CARを発現せず、陰性対照として含めた。棒グラフは、2つの技術的反復の平均を示し、エラーバーは標準偏差を示す。
図6B】MED12-ヌル及びCCNC-ヌルCAR T細胞がより多くのIL-2及びIFNγを産生することを説明するために行われた実験結果をグラフにまとめた図である。標的遺伝子CCNC及びMED12並びに対照遺伝子AAVS1を活性化後3日目に欠失させた。CD19-28ζ、HA-28ζ、及びHER2-4-1BBζ受容体を用いてCAR-T細胞を生成し、10日目又は15日目まで培養し、その後、それぞれNALM6、NALM6-GD2、又は143Bと共培養した。腫瘍細胞を添加してから24時間後に上清を採取した。サイトカインをELISAで定量した。偽形質導入T細胞は、CARを発現せず、陰性対照として含めた。棒グラフは、2つの技術的反復の平均を示し、エラーバーは標準偏差を示す。
図6C】MED12-ヌル及びCCNC-ヌルCAR T細胞がより多くのIL-2及びIFNγを産生することを説明するために行われた実験結果をグラフにまとめた図である。標的遺伝子CCNC及びMED12並びに対照遺伝子AAVS1を活性化後3日目に欠失させた。CD19-28ζ、HA-28ζ、及びHER2-4-1BBζ受容体を用いてCAR-T細胞を生成し、10日目又は15日目まで培養し、その後、それぞれNALM6、NALM6-GD2、又は143Bと共培養した。腫瘍細胞を添加してから24時間後に上清を採取した。サイトカインをELISAで定量した。偽形質導入T細胞は、CARを発現せず、陰性対照として含めた。棒グラフは、2つの技術的反復の平均を示し、エラーバーは標準偏差を示す。
図6D】MED12-ヌル及びCCNC-ヌルCAR T細胞がより多くのIL-2及びIFNγを産生することを説明するために行われた実験結果をグラフにまとめた図である。標的遺伝子CCNC及びMED12並びに対照遺伝子AAVS1を活性化後3日目に欠失させた。CD19-28ζ、HA-28ζ、及びHER2-4-1BBζ受容体を用いてCAR-T細胞を生成し、10日目又は15日目まで培養し、その後、それぞれNALM6、NALM6-GD2、又は143Bと共培養した。腫瘍細胞を添加してから24時間後に上清を採取した。サイトカインをELISAで定量した。偽形質導入T細胞は、CARを発現せず、陰性対照として含めた。棒グラフは、2つの技術的反復の平均を示し、エラーバーは標準偏差を示す。
図6E】MED12-ヌル及びCCNC-ヌルCAR T細胞がより多くのIL-2及びIFNγを産生することを説明するために行われた実験結果をグラフにまとめた図である。標的遺伝子CCNC及びMED12並びに対照遺伝子AAVS1を活性化後3日目に欠失させた。CD19-28ζ、HA-28ζ、及びHER2-4-1BBζ受容体を用いてCAR-T細胞を生成し、10日目又は15日目まで培養し、その後、それぞれNALM6、NALM6-GD2、又は143Bと共培養した。腫瘍細胞を添加してから24時間後に上清を採取した。サイトカインをELISAで定量した。偽形質導入T細胞は、CARを発現せず、陰性対照として含めた。棒グラフは、2つの技術的反復の平均を示し、エラーバーは標準偏差を示す。
図6F】MED12-ヌル及びCCNC-ヌルCAR T細胞がより多くのIL-2及びIFNγを産生することを説明するために行われた実験結果をグラフにまとめた図である。標的遺伝子CCNC及びMED12並びに対照遺伝子AAVS1を活性化後3日目に欠失させた。CD19-28ζ、HA-28ζ、及びHER2-4-1BBζ受容体を用いてCAR-T細胞を生成し、10日目又は15日目まで培養し、その後、それぞれNALM6、NALM6-GD2、又は143Bと共培養した。腫瘍細胞を添加してから24時間後に上清を採取した。サイトカインをELISAで定量した。偽形質導入T細胞は、CARを発現せず、陰性対照として含めた。棒グラフは、2つの技術的反復の平均を示し、エラーバーは標準偏差を示す。
【0027】
図7】MED12-ヌルCAR-T細胞が単細胞ベースでより多くのIL-2及びTNFαを産生することを実証するために行われた実験結果をグラフにまとめた図である。CD19-28ζ CAR-T細胞を、15日目にモネンシンの存在下で6時間、NALM6腫瘍細胞で刺激した。未刺激細胞(上パネル)及び刺激細胞(下パネル)を固定し、IL-2及びTNFαについて染色し、フローサイトメトリーで解析した。全CD4+細胞のうちのIL-2+TNFα+細胞のパーセンテージを各プロットの上に示す。
【0028】
図8】MED12-ヌル及びCCNC-ヌルCD19-28ζ CAR-T細胞が培養においてより増殖することを実証するために行われた実験結果をグラフにまとめた図である。標的遺伝子CCNC及びMED12並びに対照遺伝子AAVS1を活性化後3日目に欠失させ、28日目までIL-2と共に細胞を培養した。平均総生細胞数をプロットし、エラーバーは3回の技術的反復の標準偏差を示す。
【0029】
図9】MED12-ヌル及びCCNC-ヌルCD19-28ζ CAR-T細胞が生存のためにIL-2に依存していることを実証するために行われた実験結果をグラフにまとめた図である。9日目に、細胞を洗浄し、IL-2を含む又は含まない培地に播種した。細胞密度は、培地1mL当たり50万~100万個の細胞に維持した。細胞をアクリジンオレンジ及びヨウ化プロピジウムで染色し、CellacaMX細胞カウンターで生存率をモニタリングした。IL-2の非存在下では、いずれの条件においても28日目までに生存細胞は検出されなかった。
【0030】
図10A】MED12-ヌル及びCCNC-ヌルCD19-28ζ CAR-T細胞がin vivoで腫瘍クリアランスの増加を示すことを説明するために行われた実験結果をグラフにまとめた図である。ルシフェラーゼ導入遺伝子を発現する100万個のNALM6細胞を0日目に注入し、250,000個のCAR-T細胞又は偽形質導入T細胞を3日目に注入した。SII Lago(Spectral Instruments Imaging)を用いた生物発光イメージングで腫瘍量をモニタリングし、Aura Imagingソフトウェアで1秒当たりの光子(p/s)を定量した。30秒の露光は図10Aに示されており、飽和を避けるために定量にはより短い露光が用いられた(図10B及び図10C)。個々のマウスの値をBに、平均値をCに示す。エラーバーは標準偏差を示す。
図10B】MED12-ヌル及びCCNC-ヌルCD19-28ζ CAR-T細胞がin vivoで腫瘍クリアランスの増加を示すことを説明するために行われた実験結果をグラフにまとめた図である。ルシフェラーゼ導入遺伝子を発現する100万個のNALM6細胞を0日目に注入し、250,000個のCAR-T細胞又は偽形質導入T細胞を3日目に注入した。SII Lago(Spectral Instruments Imaging)を用いた生物発光イメージングで腫瘍量をモニタリングし、Aura Imagingソフトウェアで1秒当たりの光子(p/s)を定量した。30秒の露光は図10Aに示されており、飽和を避けるために定量にはより短い露光が用いられた(図10B及び図10C)。個々のマウスの値をBに、平均値をCに示す。エラーバーは標準偏差を示す。
図10C】MED12-ヌル及びCCNC-ヌルCD19-28ζ CAR-T細胞がin vivoで腫瘍クリアランスの増加を示すことを説明するために行われた実験結果をグラフにまとめた図である。ルシフェラーゼ導入遺伝子を発現する100万個のNALM6細胞を0日目に注入し、250,000個のCAR-T細胞又は偽形質導入T細胞を3日目に注入した。SII Lago(Spectral Instruments Imaging)を用いた生物発光イメージングで腫瘍量をモニタリングし、Aura Imagingソフトウェアで1秒当たりの光子(p/s)を定量した。30秒の露光は図10Aに示されており、飽和を避けるために定量にはより短い露光が用いられた(図10B及び図10C)。個々のマウスの値をBに、平均値をCに示す。エラーバーは標準偏差を示す。
【0031】
図11】MED12-ヌル及びCCNC-ヌルCD19-28ζ CAR-T細胞がin vivoでの増殖の増加を示すことを説明するために行った実験結果をグラフにまとめた図である。T細胞注入から10日後にマウスから血液を採取した(図10参照)。血液を等量のCountBright Absolute Counting Beads(Invitrogen)と混合し、ヒトCD45を染色し、BD FACS Lysing Solution(BD)で赤血球を溶血した。ヒトCD45+細胞をフローサイトメトリーによって定量した。
【0032】
図12】MED12-ヌルCD19-28ζ CAR-TがCAR-T細胞投与の生存効果を高めることを説明するために行われた実験結果をグラフにまとめた図である。マウスに100万個のNALM6腫瘍細胞を注入し、3日目に1×10、2.5×10、又は5×10T細胞を投与した。MED12-ヌルCAR-T細胞は生存を増加させ、CCNC-ヌルCAR-T細胞はAAVS1-ヌルCAR-T細胞と同等であった。
【0033】
図13】MED12-ヌル及びCCNC-ヌルHER2-4-1BBζ CAR-T細胞が、固形腫瘍成長を減少させ、CAR-T細胞投与の生存効果を高めることを説明するために行われた実験結果をグラフにまとめた図である。0日目に143B骨肉腫細胞100万個を筋肉内注射し、4日目にCAR-T細胞又は偽形質導入T細胞500万個を注入した。固形腫瘍をノギスで測定した。腫瘍径が17mm以上になった時点でマウスを屠殺した。
【0034】
図14】MED12エクソン2の2つの切断部位を標的とすることにより、遺伝子欠失頻度が増加することを説明するために行った実験結果をグラフにまとめた図である。Alt-R(登録商標)S.p.Cas9 Nuclease V3(IDT)をDuplex Buffer(IDT)で5mg/mLに希釈した。sgRNA(Synthego)をTE緩衝液で100μMに再懸濁した。1μLのCAS9及び1μLのsgRNAを合わせ、室温で30分間インキュベートした。2つのガイド条件については、各sgRNAを0.5μlずつ添加した。200万個のT細胞を18μLのP3緩衝液に再懸濁し、CAS9と混合し、P3 Primary Cell 4D-Nucleofector(商標)S Kit及び4D-Nucleofector(商標)System(Lonza)を用いてプロトコルEO115でパルスした。細胞を100μLの温培地で直ちに回収し、次いで、1mLの温培地に6時間かけて移した後、CARで形質導入した。3日目に編集を行い、11日目に遺伝子欠失を評価した。
【0035】
図15A-1】MED12又はCCNCの喪失が、CAR-T細胞又は非形質導入T細胞におけるサイトカイン産生を増加させることを説明するために行われた実験結果をグラフにまとめた図である。
図15A-2】MED12又はCCNCの喪失が、CAR-T細胞又は非形質導入T細胞におけるサイトカイン産生を増加させることを説明するために行われた実験結果をグラフにまとめた図である。
図15B】MED12又はCCNCの喪失が、CAR-T細胞又は非形質導入T細胞におけるサイトカイン産生を増加させることを説明するために行われた実験結果をグラフにまとめた図である。
【0036】
図16A】MED12の喪失がCAR-T細胞及びCARを発現しないT細胞の増殖を増加させることを説明するために行われた実験結果をグラフにまとめた図である。
図16B】MED12の喪失がCAR-T細胞及びCARを発現しないT細胞の増殖を増加させることを説明するために行われた実験結果をグラフにまとめた図である。
【0037】
図17】MED12又はCCNCの喪失がin vivoでの増殖を増加させることを説明するために行われた実験結果をグラフにまとめた図である。
【0038】
図18A】CCNC-ヌルHER2-4-1BBζ CAR T細胞による投与が腫瘍面積を減少させ、CAR投与マウスの生存を増加させることを説明するために行われた実験結果をグラフにまとめた図である。
図18B】CCNC-ヌルHER2-4-1BBζ CAR T細胞による投与が腫瘍面積を減少させ、CAR投与マウスの生存を増加させることを説明するために行われた実験結果をグラフにまとめた図である。
【0039】
図19A】CCNC-ヌルHER2-4-1BBζ CAR-T細胞を投与した後に、CAR投与マウスの生存が増加することを説明するために実施した実験結果をグラフでまとめた図である。
図19B】CCNC-ヌルHER2-4-1BBζ CAR-T細胞を投与した後に、CAR投与マウスの生存が増加することを説明するために実施した実験結果をグラフでまとめた図である。
図19C】CCNC-ヌルHER2-4-1BBζ CAR-T細胞を投与した後に、CAR投与マウスの生存が増加することを説明するために実施した実験結果をグラフでまとめた図である。
図19D】CCNC-ヌルHER2-4-1BBζ CAR-T細胞を投与した後に、CAR投与マウスの生存が増加することを説明するために実施した実験結果をグラフでまとめた図である。
【0040】
図20A】MED12の喪失がT細胞におけるIL2RAの発現を増加させることを説明するために行われた実験結果をグラフにまとめた図である。
図20B】MED12の喪失がT細胞におけるIL2RAの発現を増加させることを説明するために行われた実験結果をグラフにまとめた図である。
【0041】
図21A】MED12の喪失がエフェクターメモリーT細胞表現型を増加させることを説明するために行われた実験結果をグラフにまとめた図である。SCM:幹細胞様メモリーT細胞;CM:セントラルメモリーT細胞;EM:エフェクターメモリーT細胞;TE:最終分化T細胞。
図21B】MED12の喪失がエフェクターメモリーT細胞表現型を増加させることを説明するために行われた実験結果をグラフにまとめた図である。SCM:幹細胞様メモリーT細胞;CM:セントラルメモリーT細胞;EM:エフェクターメモリーT細胞;TE:最終分化T細胞。
【0042】
図22-1】MED12の欠損が、CD19-28z CAR-T細胞の活性化後15日目の酸素消費速度及び細胞外酸性化速度を増加させることを説明するために行った実験結果をグラフにまとめた図である。
図22-2】MED12の欠損が、CD19-28z CAR-T細胞の活性化後15日目の酸素消費速度及び細胞外酸性化速度を増加させることを説明するために行った実験結果をグラフにまとめた図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本開示は、概して、とりわけ様々な健康状態の予防及び/又は治療のための方法及び組成物に関する。特に、本明細書に記載されるのは、メディエーター複合体の1つ以上のサブユニットの発現量を緩和するように改変された免疫細胞であり、特に、増強されたエフェクター機能を示す改変免疫細胞に関する。増強されたエフェクター機能を有する改変免疫細胞の集団を生成するための方法、その医薬組成物、並びに健康状態の予防及び/又は治療を必要とする対象において、その健康状態を予防及び/又は治療するための方法及びキットも提供される。
【0044】
近年、B細胞悪性腫瘍などの癌細胞上の適切な細胞表面分子にT細胞をリダイレクトすることに依るCAR-T細胞使用療法が開発され、B細胞悪性腫瘍などの癌治療に免疫系の力を活用することが期待されている。養子T細胞療法では、改変されたT細胞は、典型的には、in vitro又はex vivoで同族抗原に曝露することによって活性化され、増殖された後、個体に投与され、そこで増殖して細胞溶解活性を示し、かつ/又はシグナルを送って標的癌に対する免疫応答を開始する。
【0045】
本明細書に提示される実験データは、メディエーター複合体サブユニットの発現及び/又は活性を下方制御することによって、免疫細胞における、例えばMED12又はCCNCにより、免疫細胞の活性化、サイトカイン分泌及び腫瘍死滅の増強がもたらされることを実証している。特に、メディエーター複合体のサイクリン依存性キナーゼモジュール(CKM)のサブユニットをコードする遺伝子がT細胞で遺伝的に破壊された場合、遺伝子改変されたT細胞は、増殖性がより高く、炎症性サイトカインをより多く産生し、抗癌細胞傷害性の増加を示した。以下により詳細に記載されるように、欠失した場合にこの効果を示す遺伝子としては、CCNC、MED12、MED13、CDK8、及びCDK19が挙げられる。更に、本明細書に記載の実験結果から、CKMとコアメディエーター複合体との間の物理的接触を形成するメディエーター複合体サブユニットをコードする遺伝子(MED19及びMED26)を欠失すると、T細胞機能に対し同じ効果が得られることが実証された。
【0046】
本開示に記載の知見は、CAR免疫細胞療法(T細胞、NK細胞及びNKT細胞を含む)、TCR改変T細胞又は腫瘍浸潤リンパ球(TIL)などの特異的な受容体の関与が必要で、腫瘍反応性細胞が腫瘍細胞と栄養を奪い合う養子免疫療法の状況において、大きな価値を持ち得る。特に、本明細書に記載のアプローチは、栄養素が制限された敵対的な腫瘍微小環境(TME)が記録されている固形腫瘍の治療において特に価値があり得る。更に、このアプローチは、製造プロセス全体を通して免疫細胞産物の増殖及び分裂を増加させるために適用することができる。
【0047】
以下に詳述するように、メディエーター複合体サブユニットをコードする遺伝子の欠失は、CRISPR/Cas系、又は相同組換え、又は任意の他の遺伝子工学的方法を用いて達成することができる。これらの遺伝子改変のいずれかを有するヒト初代T細胞を、キメラ抗原受容体(CAR)又は天然T細胞受容体(TCR)で形質転換して、CAR T細胞を作製することができ、これはその後、ヒトの癌の治療に使用することができる。あるいは、患者の腫瘍から採取した腫瘍浸潤リンパ球(TIL)をex vivoで増殖させ、癌患者に再注入することで、これらの遺伝子改変を行うことも可能である。これらの遺伝的変化は、養子細胞療法にも使用されるナチュラルキラー細胞又はマクロファージなどの他のリンパ球においても有用であり得る。別の言い方をすれば、本明細書に記載されるアプローチは、天然受容体を発現する免疫細胞、又はキメラ抗原受容体(CAR)、組換えTCRなどの抗原特異的受容体を発現するための改変免疫細胞が、それらの細胞傷害性機能、増殖及びin vivo持続性を改善するために、1つ以上のメディエーター複合体サブユニットの下方制御によって代謝的に再プログラムされ得ることを示す。
【0048】
更に、いかなる特定の理論にも拘束されるものではないが、CDK8又はCDK19の薬理学的阻害によりメディエーター複合体の触媒機能を阻害することで、サイクリン依存性キナーゼ8モジュール(CKM)のサブユニットをコードする遺伝子の遺伝子欠失と同様の効果が得られ得ることが企図される。更に、CDK8又はCDK19の触媒ドメイン内のアミノ酸を変異させ、キナーゼ活性を消失させることで、CKMの喪失によって生じる効果と同様の効果が得られることが企図される。更に、前述の遺伝子のRNAiノックダウン、又はコアメディエーターサブユニットの過剰発現若しくは追加の遺伝子改変など、CKMの機能を低下させる他の方法で同じ効果を得ることができる。例えば、メディエーター複合体のミドルドメイン内のサブユニットのタンパク質改変により、CKMとコアメディエーター複合体との会合を無効にすると、CKMの喪失によって引き起こされる効果と同じ効果を引き起こすことが予測される。このようなタンパク質改変は、CKMとコアメディエーターとの間の接触を形成するアミノ酸を変異させることによって達成できる。本明細書に提示される実験データは、重要な接触点がMED26及びMED19内にあることを示す。「阻害」という用語には、部分的な阻害及び完全な阻害が含まれる。例えば、メディエーター複合体の触媒機能は、1つ以上の薬理学的アプローチ、化合物、又は手段によって、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、又は少なくとも約90%阻害され得る。
【0049】
定義
別途定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語、表記、及び他の科学用語又は専門用語は、本開示が属する技術分野の当業者によって一般的に理解される意味を有することが意図される。いくつかの場合において、一般的に理解される意味を有する用語は、明確化のため、及び/又は、すぐに参照できるように本明細書で定義されており、このような定義を本明細書に含めることは、必ずしも、当該技術分野で概ね理解されているものと実質的に異なることを表すものと解釈されるべきではない。本明細書に記載又は参照される技術及び手順の多くは、当業者によく理解され、従来の方法論を用いて一般的に採用されているものである。
【0050】
単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」は、文脈上明らかに別段の定めがない限り、複数の指示対象を含む。例えば、用語「細胞(a cell)」は、その混合物を含む1つ以上の細胞を含む。「A及び/又はB」は、本明細書では、「A」、「B」、「A又はB」、及び「A及びB」の全ての選択肢を含むものとして使用される。
【0051】
用語「約」は、本明細書で使用される場合、およそというその通常の意味を有する。近似の程度が文脈から明らかでない場合、「約」は、提供された値のプラス若しくはマイナス10%以内であること、又は提供された値を含む全ての場合において、最も近い有効数字に四捨五入されたことを意味する。範囲が提供されている場合、それらには境界値が含まれる。いくつかの実施形態において、「約」という用語は、指定された値±10%まで、±5%まで、又は±1%までを示す。
【0052】
「投与」及び「投与する」という用語は、本明細書で使用される場合、経口、静脈内、動脈内、筋肉内、腹腔内、皮下、筋肉内、及び局所投与、又はこれらの組み合わせを含むがこれらに限定されない投与経路による生物活性組成物又は製剤の送達を指す。この用語には、医療専門家による投与及び自己投与が含まれるが、これらに限定されない。
【0053】
「癌」は、無制限な増殖、不死性、転移能、急速な成長及び増殖速度、並びに特定の特徴的な形態学的特徴などの、癌を引き起こす細胞に典型的ないくつかの特徴を有する細胞の存在を指す。癌細胞は、腫瘍などの塊に凝集することもあれば、対象内に単独で存在することもある。腫瘍は、固形腫瘍、軟部組織腫瘍、又は転移性病変であり得る。本明細書で使用される場合、「癌」という用語は、他の種類の非腫瘍癌も包含する。非限定的な例としては、白血病などの血液癌又は血液学的癌が挙げられる。癌には、悪性の癌だけでなく、前悪性の癌も含まれ得る。
【0054】
「細胞」、「細胞培養物」、及び「細胞株」という用語は、特定の対象細胞、細胞培養物、又は細胞株だけでなく、培養物中の転移又は継代の数に関係なく、このような細胞、細胞培養物、又は細胞株の子孫又は潜在的子孫も指す。全ての子孫が親細胞と厳密に同一であるわけではないことを理解する必要がある。これは、変異(例えば、意図的な変異又は意図しない変異)又は環境の影響(例えば、メチル化又は他のエピジェネティックな改変)のいずれかにより、特定の改変が後継世代で発生する場合があるため、子孫が実際には親細胞と同一ではない場合があるが、子孫が元の細胞、細胞培養物、又は細胞株と同じ機能を保持する限り、本明細書に使用する用語の範囲になお含まれる。
【0055】
用語「作動可能に連結された」は、本明細書で使用される場合、2つ以上の要素、例えば、ポリペプチド配列又はポリヌクレオチド配列の間の物理的又は機能的連結を示し、それらがそれらの意図された様式で作動することを可能にする。例えば、用語「作動可能に連結された」は、本明細書に記載される核酸分子又は核酸分子中のコード配列及びプロモーター配列の文脈において使用される場合、コード配列及びプロモーター配列が、転写因子又はRNAポリメラーゼによるそれぞれの結合の転写への影響を可能にするために、インフレームであり、適切な空間及び距離で離れていることを意味する。作動可能に連結された要素は、隣接していても隣接していなくてもよい(例えば、リンカーを介して互いに連結されていてもよい)ことを理解されたい。ポリペプチド構築物の文脈において、「作動可能に連結された」は、構築物の記載された活性を提供するための、アミノ酸配列(例えば、異なるセグメント、部分、領域、又はドメイン)間の物理的連結(例えば、直接的又は間接的連結)を指す。本明細書に開示されるポリペプチド又は核酸分子の作動可能に連結されたセグメント、部分、領域、及びドメインは、隣接していても隣接していなくてもよい(例えば、リンカーを介して互いに連結されていてもよい)。
【0056】
本明細書で使用される場合、「組換え」又は「改変」核酸分子、ポリペプチド、又は細胞という用語は、ヒトの介入によって改変された核酸分子、ポリペプチド、又は細胞を指す。
【0057】
本明細書で使用される場合、特に指定がない限り、薬剤の「治療有効量」又は「治療有効数」は、疾患、例えば癌の治療若しくは管理において治療的利益を提供するのに、又は疾患に関連する1つ以上の症状を遅延若しくは最小化するのに十分な量又は数である。化合物の治療有効量又は治療有効数は、疾患の治療又は管理において治療的利益を提供する、単独又は他の治療薬と組み合わせた治療薬の量又は数を意味する。「治療有効量」という用語は、疾患の全体的な治療を改善する、疾患の症状若しくは原因を軽減若しくは回避する、又は別の治療薬の治療有効性を増強する量又は数を包含し得る。「有効量」の例は、疾患の症状又は複数の症状の治療、予防、又は低減に寄与するのに十分な量であり、これは「治療有効量」とも呼ばれ得る。症状の「低減」とは、症状の重症度若しくは頻度が減少すること、又は症状が消失することを意味する。「治療有効量」を含む組成物の正確な量は、治療の目的によって異なり、当業者であれば公知の技術を用いて確認できるであろう(例えば、Lieberman,Pharmaceutical Dosage Forms(Vols.1-3,2010);Lloyd,The Art,Science and Technology of Pharmaceutical Compounding(2016);Pickar,Dosage Calculations(2012);及びRemington:The Science and Practice of Pharmacy,22nd Edition,2012,Gennaro,Ed.,Lippincott,Williams & Wilkins)を参照されたい)。
【0058】
本明細書で使用される場合、「対象」又は「個体」には、ヒト(例えば、ヒト対象)及び非ヒト動物などの動物が含まれる。いくつかの実施形態において、「対象」又は「個体」は、医師の管理下にある患者である。したがって、対象は、関心疾患(例えば、癌)及び/又はその疾患の1つ以上の症状を有するか、有するリスクがあるか、又は有する疑いがあるヒト患者又は対象であり得る。また、対象は、診断時又はそれ以降に関心状態のリスクがあると診断された対象であり得る。「非ヒト動物」という用語は、全ての脊椎動物、例えば哺乳動物、例えばげっ歯類、例えばマウス、非ヒト霊長類、及び他の哺乳動物、例えばヒツジ、イヌ、ウシ、ニワトリ、並びに非哺乳動物、例えば両生類、爬虫類等を含む。
【0059】
値の範囲が提供される場合、文脈上明確に別段の指示がない限り、下限値の単位の10分の1までの、その範囲の上限と下限の間の各介在値、及びその述べられた範囲内の他の述べられた値又は介在する値は、本開示内に包含されることが理解される。これらのより小さい範囲の上限及び下限は、独立してより小さい範囲に含まれる場合があり、記載された範囲において特に除外された制限を条件として、本開示内に包含されるものでもある。記載された範囲が制限値の一方又は両方を含む場合、それらの含まれる制限値のいずれか又は両方を除いた範囲も本開示に含まれる。
【0060】
特定の範囲は、「約」という用語が前に付いた数値で本明細書に提示される。「約」という用語は、本明細書では、それが先行する正確な数、並びにその用語が先行する数に近い又は近似する数について、文字通りの裏付けを与えるために使用する。ある数が具体的に列挙された数字に近いか近似しているかを判断する際、近い又は近似する未列挙の数字は、それが提示される文脈において、具体的に列挙された数字と実質的に同等のものを提供する数字であり得る。近似の程度が文脈から明らかでない場合、「約」は、提供された値を含む全ての場合において、提供された値のプラス若しくはマイナス10%以内であること、又は最も近い有効数字に四捨五入されたことを意味する。いくつかの実施形態において、「約」という用語は、指定された値±10%まで、±5%まで、又は±1%までを示す。
【0061】
本明細書に記載される本開示の態様及び実施形態は、態様及び実施形態「を含む(comprising)」、「からなる(consisting)」、及び「から本質的になる(consisting essentially of)」を含むことが理解される。本明細書で使用される場合、「含む(comprising)」は、「含む(including)」、「含有する(containing)」、又は「によって特徴付けられる(characterized by)」と同義であり、包括的又はオープンエンドであり、追加の列挙されていない要素又は方法の工程を除外しない。本明細書で使用される場合、「からなる(consisting of)」は、特許請求される組成物又は方法において指定されていない任意の要素、工程、又は成分を除外する。本明細書で使用される場合、「から本質的になる(consisting essentially of)」は、特許請求される組成物又は方法の基本的及び新規な特徴に実質的に影響を及ぼさない材料又は工程を除外しない。特に組成物の構成要素の説明又は方法の工程の説明における、用語「含む(comprising)」の本明細書における列挙はいずれも、列挙された構成要素又は工程から本質的になる、及びそれらからなる組成物及び方法を包含するものと理解される。
【0062】
見出し、例えば、(a)、(b)、(i)等は、単に明細書及び特許請求の範囲を読みやすくするために提示されている。本明細書又は特許請求の範囲における見出しの使用は、工程又は要素がアルファベット順若しくは数字順に、又はそれらが提示された順序で実行されることを要件とするものではない。
【0063】
明確にするために、別々の実施形態の文脈で説明されている本開示の特定の特徴は、単一の実施形態において組み合わせて提供されてもよいことが理解される。逆に、簡潔にするために、単一の実施形態の文脈で説明されている本開示の様々な特徴も、別々に、又は任意の適切な下位組み合わせで提供され得る。本開示に関連する実施形態の全ての組み合わせは、本開示によって具体的に包含され、ありとあらゆる組み合わせが個々に明示的に開示されている場合と同様に、本明細書に開示される。加えて、様々な実施形態及びその要素の全ての下位組み合わせもまた、本開示によって具体的に包含され、ありとあらゆるこのような下位組み合わせが、本明細書において個々に明示的に開示されている場合と同様に、本明細書において開示される。
【0064】
メディエーター複合体
メディエーター複合体は、タンパク質コードRNA遺伝子及びほとんどの非コードRNA遺伝子を含むほとんどのRNAポリメラーゼII(pol II)転写物の発現を調節するために必要であることが報告されているマルチサブユニットアセンブリである。メディエーター及びpol IIは、メディエーター複合体、pol II、TFIIA、TFIIB、TFIID、TFIIE、TFIIF及びTFIIHからなる開始前複合体(PIC)内で機能する。メディエーターは、PIC内の中心的な足場として機能し、まだ十分に解明されていない方法でpol II活性を調節するのに役立っている。メディエーターはまた、概して、発生又は環境の合図に応答して遺伝子発現プログラムを制御するように働く、配列特異的なDNA結合転写因子(TF)によって標的にもなる。基本的なレベルでは、メディエーター複合体は、TFからのシグナルを直接pol II酵素に中継することによって機能し、それによって遺伝子発現のTF依存性調節を促進する。
【0065】
したがって、メディエーターは、生物学的入力(TFによって伝達される)を生理学的応答(遺伝子発現の変化を介して)に変換するのに不可欠であると考えられる。この理由のため、メディエーター複合体は、遺伝子発現の全体的な調節因子と見なされ、そしてそれ自体、全般的な転写因子と見なされる。しかし、メディエーターを他の全般的な転写因子(TFIIDを例外とすることが可能)と区別するものは、その高度な構造的柔軟性、その可変的なサブユニット構成、及び活性化(例えば、エンハンサー駆動)転写に対する全般的な要件である。活性化された転写を刺激するその能力と一致して、メディエーターは、PIC内のDNA結合TFの主要な結合界面であるとみられる。これらの特徴は、全般的機能及び状況特異的機能の両方にとって重要であり、そのため、この「全般的な転写因子」は、異なる遺伝子又は異なる細胞型において、メカニズム的に異なる方法で作動し得る。
【0066】
メディエーターサブユニット及びモジュール
メディエーター複合体は、試験対象となった全ての真核生物において、少なくとも31個のサブユニットから構成される:MED1、MED4、MED6、MED7、MED8、MED9、MED10、MED11、MED12、MED13、MED13L、MED14、MED15、MED16、MED17、MED18、MED19、MED20、MED21、MED22、MED23、MED24、MED25、MED26、MED27、MED28、MED29、MED30、MED31、CCNC、及びCDK8。例えば、ヒトメディエーターの組成的に異なる形態は、安定な実体として単離することができ、最も一般的なものは、26サブユニットの「コア」複合体(Saccharomyces cerevisiae(サッカロマイセス・セレビシエ)における21サブユニット)及び29サブユニットの「CDK8-メディエーター」複合体(S.cerevisiaeにおける25サブユニット)である。ヒトコアメディエーター複合体のサブユニット組成には、MED1、MED4、MED6、MED7、MED8、MED9、MED10、MED11、MED14、MED15、MED16、MED17、MED18、MED19、MED20、MED21、MED22、MED23、MED24、MED25、MED26、MED27、MED28、MED29、MED30、及びMED31が含まれる。ヒトCDK8-メディエーター複合体のサブユニット組成には、CDK8、CCNC、MED12、及びMED13が含まれる。更に、Med2、Med3及びMed5と呼ばれる3つの真菌特異的な構成要素が存在する。
【0067】
構造的に、メディエーターは、ヘッドモジュール、ミドルモジュール、テールモジュール、及び一過性に結合したCDK8キナーゼモジュールの4つの主要部分に分けることができる。ヘッドモジュール及びミドルモジュールは、RNAポリメラーゼIIと直接相互作用し、細長いテールモジュールは、遺伝子特異的な調節タンパク質と相互作用する。CDK8モジュールを含むメディエーターは、転写活性化の支持において、このモジュールを欠くメディエーターよりも活性が低い。ヘッドモジュールには、MED6、MED8、MED11、SRB4/MED17、SRB5/MED18、SRB2/MED20及びSRB6/MED22が含まれる。ミドルモジュールには、MED1、MED4、NUT1/MED5、MED7、CSE2/MED9、NUT2/MED10、ROX3/MED19、SRB7/MED21、MED26、及びSOH1/MED31が含まれる。CSE2/MED9は、MED4と直接相互作用する。テールモジュールには、MED2、PGD1/MED3、MED5、GAL11/MED15、SIN4/MED16、MED23、MED24、MED25、MED27、MED28、及びMED30が含まれる。バックボーンはMED14から構成される。CDK8モジュールは、MED12(又はMED12L)、MED13(又はMED13L)、CCNC、及びCDK8(又はCDK19)を含有する。更に、1つ以上の異なるサブユニットを欠くメディエーター複合体の個々の調製物は、ARC、CRSP、DRIP、PC2、SMCC及びTRAPと様々に呼ばれている。ヒト及び他の真核生物におけるメディエーター複合体に関する更なる情報は、例えば、Poss Z.C.et al.(The Mediator complex and transcription regulation.Crit Rev Biochem Mol Biol.2013 Dec;48(6):575-608)及びAllen B.L.and Taatjes D.J.(The Mediator complex:a central integrator of transcription.Nat Rev Mol Cell Biol.2015 Mar;16(3):155-166)による総説に見出すことができ、これらはいずれも参照により本明細書に組み込まれる。
【0068】
増強されたエフェクター機能を有する改変免疫細胞を生成するための方法。
本明細書でより詳細に説明するように、本開示のいくつかの実施形態は、増強されたエフェクター機能を有する改変免疫細胞を生成するための様々な方法であって、免疫細胞中の1つ以上のメディエーター複合体サブユニットの量を調節することができる核酸及び/又はポリペプチドを免疫細胞に導入することを含む、様々な方法を提供する。メディエーター複合体サブユニットの量に関して「調節する」という用語は、メディエーター複合体サブユニットの発現量(例えば、転写及び/又は翻訳、少なくとも1つの生物学的活性量(例えば、その天然リガンドへの結合)の変更を指す。調節には、メディエーター複合体サブユニットの量の増加(例えば、誘導、刺激)及び減少(例えば、低減、阻害)をどちらも行うこと、又は他の方法で影響を与えることが含まれる。例えば、MED1過剰発現により、JUN、EGFR、及び他の増殖関連遺伝子の発現が増加する場合があることが報告されている。MED1は、乳癌の50%において過剰発現している。MED20及びMED31の過剰発現は骨肉腫において記載されており、一部のサブユニットの過剰発現が増殖を増加させる場合があるという考えを更に裏付けている。いくつかの実施形態において、本方法は、免疫細胞において1つ以上のメディエーター複合体サブユニットの発現量を誘導することができる核酸及び/又はポリペプチドを免疫細胞に導入することを含む。いくつかの実施形態において、本方法は、MED1、MED20、MED31、又はそれらのいずれかの組み合わせを誘導することができる核酸及び/又はポリペプチドを免疫細胞に導入することを含む。いくつかの実施形態において、本方法は、免疫細胞において1つ以上のメディエーター複合体サブユニットの発現量を低減(例えば、緩和)することができる核酸及び/又はポリペプチドを免疫細胞に導入することを含む。開示される方法の非限定的な例示的実施形態は、以下の特徴のうちの1つ以上を含み得る。いくつかの実施形態において、本方法は、免疫細胞において1つ以上のメディエーター複合体サブユニットをコードする1つ以上の内因性遺伝子の発現量の低減(例えば、発現の緩和)をもたらす核酸及び/又はポリペプチドを免疫細胞に導入することを含む。いくつかの実施形態において、核酸及び/又はポリペプチドを導入することにより、1つ以上のメディエーター複合体サブユニットの発現量が、対照(例えば、非改変免疫細胞又は非形質導入免疫細胞)と比較して、少なくとも約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、又は約95%低減する。いくつかの実施形態において、核酸及び/又はポリペプチドを導入することにより、対照(例えば、非改変免疫細胞又は非形質導入免疫細胞)と比較して、約95%、約96%、約97%、約98%、又は約99%、又は約100%の結果をもたらす。メディエーター複合体サブユニットの発現量が100%低減している免疫細胞の例としては、メディエーター複合体サブユニットをコードする内因性遺伝子がノックアウト又は欠失されている改変免疫細胞(例えば、ヌル変異体)が挙げられる。例えば、実施例3~12も参照されたい。
【0069】
適切なメディエーター複合体サブユニットとしては、コアメディエーター複合体、CDK8-メディエーターモジュール、ヘッドモジュール、ミドルモジュール、又はテールモジュールに属するメディエーター複合体サブユニットが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、本方法は、コアメディエーター複合体のサブユニット、例えば、MED1、MED4、MED6、MED7、MED8、MED9、MED10、MED11、MED14、MED15、MED16、MED17、MED18、MED19、MED20、MED21、MED22、MED23、MED24、MED25、MED26、MED27、MED28、MED29、MED30、及びMED31の発現量を低減させることができる核酸及び/又はポリペプチドを免疫細胞に導入することを含む。いくつかの実施形態において、メディエーター複合体サブユニットは、ヘッドモジュールに属し、MED6、MED8、MED11、SRB4/MED17、SRB5/MED18、SRB2/MED20及びSRB6/MED22からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、メディエーター複合体サブユニットは、バックボーンサブユニット、例えばMED14である。いくつかの実施形態は、メディエーター複合体サブユニットは、ミドルモジュールに属し、MED1、MED4、NUT1/MED5、MED7、CSE2/MED9、NUT2/MED10、ROX3/MED19、SRB7/MED21、MED26、及びSOH1/MED31からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、ミドルモジュールのサブユニットは、MED19である。いくつかの実施形態において、ミドルモジュールのサブユニットは、MED26である。いくつかの実施形態において、メディエーター複合体サブユニットは、テールモジュールに属し、MED2、PGD1/MED3、MED5、GAL11/MED15、SIN4/MED16、MED23、MED24、MED25、MED27、MED28、及びMED30からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、テールモジュールのサブユニットは、MED15である。いくつかの実施形態において、テールモジュールのサブユニットは、MED16である。いくつかの実施形態において、テールモジュールのサブユニットは、MED24である。いくつかの実施形態において、テールモジュールのサブユニットは、MED27である。
【0070】
いくつかの実施形態において、メディエーター複合体サブユニットは、CDK8モジュール(CKM)に属し、MED12(又はMED12L)、MED13(又はMED13L)、CCNC、及びCDK8(又はCDK19)からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、CKMのサブユニットは、MED12である。いくつかの実施形態において、CKMのサブユニットは、MED13である。いくつかの実施形態において、CKMのサブユニットは、CCNCである。いくつかの実施形態において、CDK8モジュールのサブユニットは、CDK8である。いくつかの実施形態において、CDK8モジュールのサブユニットは、CDK19である。
【0071】
いくつかの実施形態において、本明細書に開示される方法は、免疫細胞において1つ以上のメディエーター複合体サブユニットの発現量を低減(例えば、緩和)することができる核酸及び/又はポリペプチドを免疫細胞に導入することを含み、1つ以上のメディエーター複合体サブユニットは、メディエーター複合体のミドルモジュールサブユニット、テールモジュールサブユニット、及びサイクリン依存性キナーゼ8(CDK8)モジュールサブユニットから選択される。いくつかの実施形態において、メディエーター複合体サブユニットは、CCNC、CDK8、CDK19、MED12、MED12L、MED13、MED13L、MED19、MED24、及びMED26からなる群から選択される。
【0072】
いくつかの実施形態において、メディエーター複合体サブユニットは、ミドルモジュールサブユニットである。いくつかの実施形態において、ミドルモジュールサブユニットは、MED19又はMED26である。いくつかの実施形態において、メディエーター複合体サブユニットは、テールモジュールサブユニットである。いくつかの実施形態において、テールモジュールサブユニットは、MED15、MED16、又はMED24である。いくつかの実施形態において、メディエーター複合体サブユニットは、CDK8モジュールサブユニットである。いくつかの実施形態において、CDK8モジュールサブユニットは、CCNC、CDK18、CDK19、MED12、MED12L、及びMED13からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、CDK8モジュールサブユニットは、CCNCである。いくつかの実施形態において、CDK8モジュールサブユニットは、MED12である。
【0073】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の方法は、免疫細胞において1つ以上のメディエーター複合体サブユニットの発現量を低減させることができる核酸及び/又はポリペプチドを免疫細胞に導入することを含む。いくつかの実施形態において、核酸は、メディエーター複合体サブユニットをコードする内因性ゲノム遺伝子座内の標的配列に対して十分な配列相補性を有するポリヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態において、ポリヌクレオチド配列は、メディエーター複合体サブユニットをコードする内因性ゲノム遺伝子座内の標的配列に対して十分な配列相補性を有し、メディエーター複合体サブユニットをコードする内因性ゲノム遺伝子座内の標的配列へのポリヌクレオチド配列のハイブリダイゼーションを可能にする。いくつかの実施形態において、ポリヌクレオチド配列は、メディエーター複合体サブユニットをコードする内因性ゲノム遺伝子座内のその標的配列に対して、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有する。いくつかの実施形態において、ポリヌクレオチド配列は、メディエーター複合体サブユニットをコードする内因性ゲノム遺伝子座内の標的配列に対して、1つ、2つ、3つ、4つ、又は5つのミスマッチを除いて100%の配列同一性を有する。いくつかの実施形態において、標的配列は、内因性ゲノム遺伝子座のプロモーター領域内、例えば、転写開始部位の上流1kb内にある。いくつかの実施形態において、標的配列は、内因性ゲノム遺伝子座のコード領域内にある。
【0074】
例えば、いくつかの実施形態において、核酸は、関連するポリペプチド(例えば、部位指向性エンドヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼ)の活性を標的核酸内の特定の標的配列に指向させることができるゲノム標的化核酸に組み込まれる。いくつかの実施形態において、ゲノム標的化核酸は、RNAである。いくつかの実施形態において、ゲノム標的化RNAは、本明細書の「ガイドRNA」又は「gRNA」である。概して、ガイドRNAは、目的の標的核酸配列にハイブリダイズするスペーサー配列、及びCRISPR反復配列を少なくとも有する。例えば、II型系では、gRNAは、tracrRNA配列と呼ばれる第2のRNAも有する。II型ガイドRNA(gRNA)において、CRISPR反復配列及びtracrRNA配列は、互いにハイブリダイズして二重鎖を形成する。V型ガイドRNA(gRNA)において、crRNAは二重鎖を形成する。両方の系において、二重鎖は、部位指向性エンドヌクレアーゼと結合し、その結果、ガイドRNA及び部位指向エンドヌクレアーゼが複合体を形成する。ゲノム標的化核酸は、部位指向性エンドヌクレアーゼとの会合により、複合体に標的特異性を提供する。したがって、ゲノム標的化核酸は、部位指向性エンドヌクレアーゼの活性を指向する。以下により詳細に記載されるように、Cas9などのCRISPRエンドヌクレアーゼは、本開示の方法の様々な実施形態において使用することができる。エンドヌクレアーゼの他の適切な形態としては、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、ホーミングエンドヌクレアーゼ(hES)若しくはMegaTAL、又はヌクレアーゼの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0075】
いくつかの実施形態において、ゲノム標的化核酸は、二分子ガイドRNAである。いくつかの実施形態において、ゲノム標的化核酸は、一分子ガイドRNA(sgRNA)である。二分子ガイドRNA(dgRNA)は、2本のRNA鎖を有する。第1の鎖は、5’から3’の方向に、任意選択のスペーサー伸長配列、スペーサー配列及び最小CRISPR反復配列を有する。第2の鎖は、最小tracrRNA配列(最小CRISPR反復配列に相補的)、3’tracrRNA配列、及び任意選択のtracrRNA伸長配列を有する。II型系における一分子ガイドRNA(sgRNA)は、5’から3’方向に、任意選択のスペーサー伸長配列、スペーサー配列、最小CRISPR反復配列、一分子ガイドリンカー、最小tracrRNA配列、3’tracrRNA配列、及び任意選択のtracrRNA伸長配列を有する。任意選択のtracrRNA伸長は、ガイドRNAに対する追加の機能性(例えば、安定性)に寄与する要素を有し得る。一分子ガイドリンカーは、最小CRISPR反復配列及び最小tracrRNA配列を連結して、ヘアピン構造を形成する。任意選択のtracrRNA伸長は、1つ以上のヘアピンを有する。V型系における一分子ガイドRNA(sgRNA)は、5’から3’方向に、最小CRISPR反復配列及びスペーサー配列を有する。
【0076】
例として、CRISPR/Cas/Cpf1系において使用されるガイドRNA、又は他のより小さいRNAは、以下に例示され、当技術分野において記載されるような化学的手段によって容易に合成することができる。化学合成手順は絶えず拡大しているが、ポリヌクレオチドの長さが100程度のヌクレオチドを大幅に超えるにつれて、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)などの手順(PAGEなどのゲルの使用を回避する)によるこのようなRNAの精製は、より困難になる傾向がある。
【0077】
したがって、いくつかの実施形態において、核酸は、メディエーター複合体サブユニットをコードする内因性遺伝子座における1つ以上の分子変化(例えば、変異、欠失、挿入、In/Del、置換)の導入を誘導することができるCRISPR/Casゲノム編集系のガイドRNA(gRNA)に組み込まれる。
【0078】
いくつかの他の実施形態において、核酸は、免疫細胞内のメディエーター複合体サブユニットをコードする内因性遺伝子座に1つ以上分子変化を導入することができるTALEN(転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ)ゲノム編集系に組み込まれる。いくつかの他の実施形態において、核酸は、免疫細胞において、NgAgo(Natronobacterium gregoryi Argonaute)によるDNAガイドエンドヌクレアーゼゲノム編集に組み込まれる。いくつかの他の実施形態において、核酸は、免疫細胞においてメディエーター複合体サブユニットをコードする内因性遺伝子座の発現抑制を誘導することができるアンチセンス核酸分子に組み込まれる。いくつかの他の実施形態において、核酸は、免疫細胞においてメディエーター複合体サブユニットをコードする内因性遺伝子座の発現抑制を引き起こすことができる二本鎖RNAi分子に組み込まれる。いくつかの他の実施形態において、核酸は、ヘアピン構造を通知することができ、mRNAの抑制又は分解を誘導することができる一本鎖RNA分子に組み込まれる。
【0079】
2つ以上のDNA配列を一緒に作動可能に連結するための基本的な技術は、当業者によく知られており、このような方法は、標準的な分子生物学的改変のための多くのテキストに記載されている。これらの核酸分子を構築及び特徴付けることができる分子技術及び方法は、以下及び本明細書中の実施例においてより詳細に記載される。
【0080】
本開示のいくつかの実施形態において、核酸は、異種核酸配列に作動可能に連結される。いくつかの実施形態において、異種核酸配列は、転写制御要素又は選択マーカーのコード配列を含む。いくつかの実施形態において、メディエーター複合体サブユニットの内因性遺伝子座に相補的な十分な配列を有するポリヌクレオチド配列は、転写制御要素に作動可能に連結される。いくつかの実施形態において、転写制御要素は、プロモーター配列である。適切なプロモーターの非限定的な例は、最初期サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター配列である。このプロモーター配列は、それに作動可能に連結された任意のポリヌクレオチド配列の発現量を高くすることができる強力な構成的プロモーター配列である。しかし、サルウイルス40(SV40)初期プロモーター、MoMuLVプロモーター、トリ白血病ウイルスプロモーター、Epstein-Barrウイルス最初期プロモーター、マウス乳癌ウイルス(MMTV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の長い末端反復配列(LTR)プロモーター、Rous肉腫ウイルスプロモーター、延長因子-1αプロモーター、並びにヒト遺伝子プロモーター(例えば、アクチンプロモーター、ミオシンプロモーター、ヘモグロビンプロモーター、及びクレアチンキナーゼプロモーターが挙げられるが、これらに限定されない)を含むが、これらに限定されない他の構成的プロモーター配列もまた使用され得る。更に、本開示は、構成的プロモーターの使用に限定されるべきではない。誘導性プロモーターもまた、本開示の一部として企図される。誘導性プロモーターの使用は、このような発現が望まれる場合に作動可能に連結されたポリヌクレオチド配列の発現をオンにすることができる分子スイッチ、又は発現が望まれない場合に発現をオフにすることができる分子スイッチを提供する。誘導性プロモーターの例としては、メタロチオネインプロモーター、グルココルチコイドプロモーター、プロゲステロンプロモーター、及びテトラサイクリンプロモーターが挙げられるが、これらに限定されない。
【0081】
いくつかの実施形態において、メディエーター複合体サブユニットをコードする内因性遺伝子座内の標的配列に対して十分な配列相補性を有する核酸は、発現カセット又は発現ベクターに組み込むことができる。発現カセットは概して、コード配列と、in vivo及び/又はex vivoでの細胞内におけるコード配列の適切な転写及び/又は翻訳を指示するのに十分な調節情報とを含有する遺伝物質の構築物を含むことが理解されるであろう。概して、発現カセットは、所望の宿主細胞への標的化のためのベクターに、及び/又は所望の宿主細胞に、及び/又は個体に挿入することができる。したがって、いくつかの実施形態において、本開示の発現カセットは、本明細書に開示されるメディエーター複合体サブユニットの内因性遺伝子座に相補的な十分な配列を有するポリヌクレオチド配列を含み、これは、プロモーターなどの発現制御要素、及び任意選択で、コード配列の転写又は翻訳に影響を及ぼす他の核酸配列のいずれか又は組み合わせに作動可能に連結する。発現カセットは、1つ以上の核酸配列が機能的に作動可能な様式で、すなわち、作動可能に連結されている核酸分子を含む、ゲノム統合又は自律複製が可能な、任意の供給源に由来する、線状又は環状、一本鎖又は二本鎖、DNA又はRNAポリヌクレオチド分子として、プラスミド、コスミド、ウイルス、自律複製ポリヌクレオチド分子、ファージに挿入することができる。
【0082】
本明細書に記載されるメディエーター複合体サブユニットの内因性遺伝子座に相補的な十分な配列を有するポリヌクレオチド配列を含む1つ以上の核酸分子を含有するベクター、プラスミド、又はウイルスも本明細書において提供される。核酸分子は、例えば、ベクターで形質転換/形質導入された細胞において、それらの発現を指示することができるベクター内に含まれ得る。真核細胞及び原核細胞で使用するのに適したベクターは、当該分野で公知であり、そして市販されているか、又は当業者によって容易に調製される。例えば、Sambrook,J.,& Russell,D.W.(2012)Molecular Cloning:A Laboratory Manual(4th ed.).Cold Spring Harbor,NY:Cold Spring Harbor Laboratory and Sambrook,J.,& Russel,D.W.(2001).Molecular Cloning:A Laboratory Manual(3rd ed.).Cold Spring Harbor,NY:Cold Spring Harbor Laboratory(jointly referred to herein as”Sambrook”);Ausubel,F.M.(1987).Current Protocols in Molecular Biology.New York,NY:Wiley(2014年までの付録を含む);Bollag,D.M.et al.(1996).Protein Methods.New York,NY:Wiley-Liss;Huang,L.et al.(2005).Nonviral Vectors for Gene Therapy.San Diego:Academic Press;Kaplitt,M.G.et al.(1995).Viral Vectors:Gene Therapy and Neuroscience Applications.San Diego,CA:Academic Press;Lefkovits,I.(1997).The Immunology Methods Manual:the Comprehensive Sourcebook of Techniques.San Diego,CA:Academic Press;Doyle,A.et al.(1998).Cell and Tissue Culture:Laboratory Procedures in Biotechnology.New York,NY:Wiley;Mullis,K.B.,Ferre,F.& Gibbs,R.(1994).PCR:the Polymerase Chain Reaction.Boston:Birkhauser Publisher;Greenfield,E.A.(2014).Antibodies:A Laboratory Manual(2nd ed.).New York,NY:Cold Spring Harbor Laboratory Press;Beaucage,S.L.et al.(2000).Current Protocols in Nucleic Acid Chemistry.New York,NY:Wiley,(2014年までの付録を含む);及びMakrides,S.C.(2003).Gene Transfer and Expression in Mammalian Cells.Amsterdam,NL:Elsevier Sciences B.V.(その開示は参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい。
【0083】
DNAベクターは、従来の形質転換又はトランスフェクション技術によって真核細胞に導入することができる。細胞を形質転換又はトランスフェクトするための適切な方法は、Sambrook et al.(2012、前出)及び他の標準的な分子生物学実験マニュアルで見出すことができ、例えば、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE-デキストラン媒介トランスフェクション、トランスフェクション、マイクロインジェクション、カチオン性脂質媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、形質導入、スクレープローディング、バリスティック導入、ヌクレオポレーション、流体力学的ショック、及び感染がある。
【0084】
本開示において使用することができるウイルスベクターとしては、例えば、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、及びアデノ随伴ウイルスベクター、レンチウイルスベクター、ヘルペスウイルス、サルウイルス40(SV40)、及びウシパピローマウイルスベクターが挙げられる(例えば、Gluzman(Ed.),Eukaryotic Viral Vectors,CSH Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.を参照されたい)。例えば、本明細書に開示されるキメラ受容体は、哺乳動物細胞(例えば、COS細胞、NIH 3T3細胞、又はHeLa細胞)などの真核細胞において産生することができる。これらの細胞は、American Type Culture Collection(Manassas,VA)を含む多くの供給源から入手可能である。発現系を選択する際には、構成要素が互いに適合するように注意する必要がある。当業者であれば、このような判断が可能である。更に、発現系を選択する際にガイダンスが必要とされる場合、当業者は、P.Jones,「Vectors:Cloning Applications」,John Wiley and Sons,New York,NY,2009)を参考にすることができる。したがって、メディエーター複合体サブユニットの内因性遺伝子座に相補的な十分な配列を有するポリヌクレオチド配列を含む核酸配列を、ウイルスベクターに組み込むことができる。いくつかの実施形態において、ベクターは、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、バキュロウイルス、又はレトロウイルスに由来するウイルスベクターである。いくつかの実施形態において、核酸は、ガイドRNA指向性CRISPR媒介ノックイン手順、CRISPR/Cas9ゲノム編集、又はNgAgo(Natronobacterium gregoryi Argonaute)を用いたDNAガイドエンドヌクレアーゼゲノム編集、又はTALENゲノム編集(転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ)における使用のための核構築物に組み込まれる。
【0085】
提供される核酸分子は、天然に存在する配列、又は天然に存在する配列とは異なるが、遺伝子コードの縮重のために同じポリペプチド、例えば抗体をコードする配列を含有し得る。これらの核酸分子は、RNA若しくはDNA(例えば、ゲノムDNA、cDNA、又はホスホルアミダイトベースの合成によって産生されるものなどの合成DNA)、又はこれらの種類の核酸内のヌクレオチドの組み合わせ若しくは改変からなり得る。更に、核酸分子は、二本鎖又は一本鎖(例えば、センス鎖又はアンチセンス鎖のいずれか)であり得る。
【0086】
核酸分子は、ポリペプチド(例えば、抗体)をコードする配列に限定されない。また、コード配列(例えば、キメラ受容体のコード配列)の上流又は下流に位置する非コード配列の一部又は全部を含めることもできる。分子生物学の当業者は、核酸分子を単離するための日常的な手順に精通している。例えば、核酸分子は、ゲノムDNAを制限エンドヌクレアーゼで処理することによって、又はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行うことによって生成することができる。核酸分子がリボ核酸(RNA)である場合、分子は、例えば、in vitro転写によって産生され得る。
【0087】
いくつかの実施形態において、免疫細胞は、Tリンパ球、ナチュラルキラー(NK)細胞、ナチュラルキラーT細胞(NKT)、又はマクロファージである。いくつかの特定の実施形態において、免疫細胞は、Tリンパ球である。いくつかの実施形態において、Tリンパ球は、ナイーブCD8+T細胞、セントラルメモリーCD8+T細胞、エフェクターメモリーCD8+T細胞、エフェクターCD8+T細胞、CD8+幹メモリーT細胞、バルクCD8+T細胞からなる群から選択されるCD8+T細胞傷害性リンパ球細胞である。いくつかの実施形態において、リンパ球は、ナイーブCD4+T細胞、セントラルメモリーCD4+T細胞、エフェクターメモリーCD4+T細胞、エフェクターCD4+T細胞、CD4+幹メモリーT細胞、及びバルクCD4+T細胞からなる群から選択されるCD4+Tヘルパーリンパ球細胞である。いくつかの実施形態において、免疫細胞は、ex vivoである。いくつかの実施形態において、免疫細胞は、in vitroである。いくつかの実施形態において、免疫細胞は、in vivoである。いくつかの実施形態において、免疫細胞は、動物細胞である。いくつかの実施形態において、動物細胞は、哺乳動物細胞である。いくつかの実施形態において、動物細胞は、マウス細胞である。いくつかの実施形態において、動物細胞は、ヒト細胞である。いくつかの実施形態において、細胞は、非ヒト霊長類細胞である。いくつかの実施形態において、免疫細胞は、対象から得られたサンプルに対して行われる白血球アフェレーシスによって得られる。
【0088】
いくつかの実施形態において、本開示の方法は、キメラ抗原受容体(CAR)若しくはT細胞受容体(TCR)などの1つ以上の組換え免疫受容体、及び/又はそれをコードする核酸を、免疫細胞に導入することを更に含む。例えば、免疫細胞は、抗原特異的受容体、例えば、抗原又はそのエピトープを免疫学的に認識及び/又はそれに特異的に結合できる受容体を含みかつ/又は発現することができ、その結果、抗原特異的受容体と抗原又はそのエピトープとの結合が免疫応答を誘発する。いくつかの実施形態において、抗原特異的受容体は、癌抗原、例えば腫瘍特異的抗原(TSA)又は腫瘍関連抗原(TAA)に対する抗原特異性を有する。
【0089】
いくつかの実施形態において、抗原特異的受容体は、T細胞受容体(TCR)である。TCRは概して、TCRのα-鎖、TCRのβ-鎖、TCRのγ-鎖、TCRのδ-鎖、又はこれらの組み合わせなどの2つのポリペプチド(例えば、ポリペプチド鎖)を含む。このようなTCRのポリペプチド鎖は、当技術分野において公知である。抗原特異的TCRは、TCRが癌抗原又はそのエピトープなどの抗原に特異的に結合及び/又はそれを免疫学的に認識することができるという条件で、任意のアミノ酸配列を含み得る。いくつかの実施形態において、TCRは、内因性TCR、例えば、T細胞に対して内因性又はネイティブ(自然に存在する)であるTCRである。このような場合、内因性TCRを発現するT細胞は、特定の癌抗原を発現することが知られている哺乳動物から単離されたT細胞であり得る。例えば、いくつかの実施形態において、T細胞は、癌を有する哺乳動物から単離された初代T細胞である。いくつかの実施形態において、T細胞は、TIL又はヒト癌患者から単離されたT細胞である。
【0090】
いくつかの実施形態において、免疫細胞は、キメラ抗原受容体(CAR)を含み、かつ/又は発現する。概ね、CARは、膜貫通ドメイン及び細胞内ドメインに融合した抗原結合ドメイン、例えば抗体の単鎖可変フラグメント(scFv)を含む。この場合、CARの抗原特異性は、抗原又はそのエピトープに特異的に結合するscFvによってコードされ得る。CAR及びそれらを作製する方法は、当技術分野において公知である。
【0091】
いくつかの実施形態において、免疫細胞は、外因性(例えば、組換え)抗原特異的受容体をコードする1つ以上の核酸を含む。いくつかの実施形態において、このような外因性抗原特異的受容体、例えば、外因性TCR及びCARは、内因性TCRが天然で特異的である抗原を超えて、更なる抗原に対する特異性をT細胞に付与することができる。
【0092】
いくつかの実施形態において、1つ以上のメディエーター複合体サブユニットの発現量が低減することにより、例えば、参照対照細胞、例えば、メディエーター複合体サブユニットのネイティブな発現量を有する細胞におけるこれらの分子の産生と比較して、インターフェロンガンマ(IFNγ)、腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)、及び/又はインターロイキン-2(IL-2)の産生増加によって示されるように、CAR T細胞の機能が改善される。いくつかの実施形態において、1つ以上のメディエーター複合体サブユニットの発現が低減することにより、CAR T細胞の増殖能が高くなる。いくつかの実施形態において、1つ以上のメディエーター複合体サブユニットの発現が低減することにより、CAR T細胞のエフェクター機能が増強され、例えば、成長速度(増殖)、サイトカイン産生、標的細胞阻害(例えば、抗癌細胞傷害性)、マクロファージ活性化、T細胞活性化、NK細胞活性化、及びin vivo持続性(例えば、生存)が増加する。いくつかの実施形態において、1つ以上のメディエーター複合体サブユニットの発現が低減することにより、エフェクターメモリーT細胞表現型が増加する。いくつかの実施形態において、1つ以上のメディエーター複合体サブユニットの発現が低減することにより、酸素消費速度及び細胞外酸性化速度が増加する。
【0093】
一態様において、本明細書で提供されるのは、1つ以上のメディエーター複合体サブユニットの量を低減(例えば、緩和)するように改変された免疫細胞である。いくつかの実施形態において、メディエーター複合体サブユニットは、メディエーター複合体のミドルモジュールサブユニット、テールモジュールサブユニット、及びサイクリン依存性キナーゼ8(CDK8)モジュールサブユニットから選択される。いくつかの実施形態において、メディエーター複合体サブユニットは、CCNC、CDK8、CDK19、MED12、MED12L、MED13、MED13L、MED19、MED24、及びMED26からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、メディエーター複合体サブユニットは、ミドルモジュールサブユニットである。いくつかの実施形態において、ミドルモジュールサブユニットは、MED19又はMED26である。いくつかの実施形態において、メディエーター複合体サブユニットは、テールモジュールサブユニットである。いくつかの実施形態において、テールモジュールサブユニットは、MED15、MED16、又はMED24である。いくつかの実施形態において、メディエーター複合体サブユニットは、CDK8モジュールサブユニットである。いくつかの実施形態において、CDK8モジュールサブユニットは、CCNC、CDK18、CDK19、MED12、MED12L、及びMED13からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、メディエーター複合体サブユニットは、CCNCである。いくつかの実施形態において、メディエーター複合体サブユニットは、MED12である。本開示のいくつかの実施形態は、本明細書に記載の方法によって産生された、改変免疫細胞を提供する。いくつかの実施形態において、免疫細胞は、in vitroである。いくつかの実施形態において、免疫細胞は、ex vivoである。いくつかの実施形態において、免疫細胞は、in vivoである。いくつかの実施形態において、免疫細胞は、Tリンパ球である。いくつかの実施形態において、免疫細胞は、疲弊した免疫細胞又は疲弊していない免疫細胞である。したがって、本明細書に開示される少なくとも1つの改変免疫細胞及び培養培地を含む細胞培養物もまた、本出願の範囲内である。細胞培養物を生成及び維持するために適切な方法及び系は、当該分野で公知である。
【0094】
本開示の組成物
本開示の改変免疫細胞及び核酸は、医薬組成物を含む組成物に組み込むことができる。このような組成物は、概して、本開示の1つ以上の改変免疫細胞及び核酸を含み得る。したがって、一態様において、本開示のいくつかの実施形態は、a)本開示の改変免疫細胞;及び/又はb)1つ以上のメディエーター複合体サブユニットをコードするゲノム遺伝子座内の標的配列に対して十分な配列相補性を有する配列を含む核酸を含む、組成物に関する。いくつかの実施形態において、1つ以上のメディエーター複合体サブユニットは、CCNC、CDK8、CDK19、MED12、MED12L、MED13、MED13L、MED19、MED24、及びMED26からなる群から選択される。
【0095】
医薬組成物
本開示の改変免疫細胞及び核酸は、医薬組成物に組み込むことができる。このような組成物は、概して、本開示の1つ以上の改変免疫細胞及び核酸、並びに薬学的に許容される賦形剤、例えば、担体を含み得る。したがって、一態様において、本開示のいくつかの実施形態は、薬学的に許容される賦形剤と、a)本開示の改変免疫細胞;及び/又はb)1つ以上のメディエーター複合体サブユニットをコードするゲノム遺伝子座内の標的配列に対して十分な配列相補性を有する配列を含む核酸と、を含む、医薬組成物に関する。いくつかの実施形態において、1つ以上のメディエーター複合体サブユニットは、メディエーター複合体のミドルモジュールサブユニット、テールモジュールサブユニット、及びサイクリン依存性キナーゼ8(CDK8)モジュールサブユニットから選択される。いくつかの実施形態において、メディエーター複合体サブユニットは、CCNC、CDK8、CDK19、MED12、MED12L、MED13、MED13L、MED19、MED24、及びMED26からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、メディエーター複合体サブユニットは、ミドルモジュールサブユニットである。いくつかの実施形態において、ミドルモジュールサブユニットは、MED19又はMED26である。いくつかの実施形態において、メディエーター複合体サブユニットは、テールモジュールサブユニットである。いくつかの実施形態において、テールモジュールサブユニットは、MED15、MED16、又はMED24である。いくつかの実施形態において、メディエーター複合体サブユニットは、CDK8モジュールサブユニットである。いくつかの実施形態において、CDK8モジュールサブユニットは、CCNC、CDK18、CDK19、MED12、MED12L、及びMED13からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、メディエーター複合体サブユニットは、CCNCである。いくつかの実施形態において、メディエーター複合体サブユニットは、MED12である。
【0096】
本明細書に記載される医薬組成物の非限定的な例示的実施形態は、以下の特徴のうちの1つ以上を含み得る。いくつかの実施形態において、組成物は、1つ以上のメディエーター複合体サブユニットをコードする核酸分子、及び薬学的に許容される賦形剤を含む。いくつかの実施形態において、核酸分子は、発現カセット又は発現ベクターに組み込まれる。いくつかの実施形態において、発現ベクターは、ウイルスベクターである。いくつかの実施形態において、ウイルスベクターは、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、又はレトロウイルスベクターである。
【0097】
いくつかの実施形態において、核酸分子を、宿主免疫細胞、例えば、Tリンパ球、NK細胞、又はNKT細胞に導入して、核酸を含む組換え(例えば、改変)免疫細胞を産生することができる。いくつかの実施形態において、核酸分子は、それを必要とする対象に投与することができる。
【0098】
本開示の核酸分子の細胞への導入は、当業者に公知の方法、例えば、ウイルス感染、トランスフェクション、コンジュゲーション、プロトプラスト融合、リポフェクション、エレクトロポレーション、ヌクレオフェクション、リン酸カルシウム沈殿、ポリエチレンイミン(PEI)媒介トランスフェクション、DEAE-デキストラン媒介トランスフェクション、リポソーム媒介トランスフェクション、パーティクルガン技術、リン酸カルシウム沈殿、直接マイクロインジェクション、ナノ粒子媒介核酸送達などによって達成することができる。
【0099】
したがって、いくつかの実施形態において、核酸分子は、当該分野で公知のウイルス送達ビヒクル又は非ウイルス送達ビヒクルによって送達され得る。例えば、核酸分子は、宿主ゲノム中に安定に組み込まれ得るか、又はエピソーム的に複製され得るか、又は一過性発現のためのミニサークル発現ベクターとして宿主細胞中に存在し得る。したがって、いくつかの実施形態において、核酸分子は、エピソーム単位として宿主細胞中で維持及び複製される。いくつかの実施形態において、核酸分子は、宿主細胞のゲノムに安定に組み込まれる。安定な組み込みは、古典的なランダムゲノム組換え技術を用いて、又はガイドRNA指向性CRISPR/Cas9ゲノム編集、若しくはNgAgo(Natronobacterium gregoryi Argonaute)を用いたDNAガイドエンドヌクレアーゼゲノム編集、若しくはTALENゲノム編集(転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ)などのより正確な技術を用いて達成することができる。いくつかの実施形態において、核酸分子は、一過性発現のためのミニサークル発現ベクターとして宿主細胞中に存在する。いくつかの実施形態において、核酸分子は、メディエーター複合体サブユニットをコードする内因性ゲノム遺伝子座を標的として発現を抑制するアンチセンス核酸分子に組み込まれる。いくつかの実施形態において、核酸分子は、メディエーター複合体サブユニットをコードする内因性ゲノム遺伝子座を標的として発現を抑制する二本鎖干渉RNA(RNAi)分子に組み込まれる。いくつかの実施形態において、核酸分子は、メディエーター複合体サブユニットをコードするmRNAを標的とし分解することができるヘアピン構造を有するRNA分子に組み込まれる。
【0100】
核酸分子は、ウイルスカプシド、若しくはリポソーム、若しくは脂質ナノ粒子(LNP)に封入することができ、又はエレクトロポレーションなどの当技術分野で公知のウイルス若しくは非ウイルス送達手段及び方法によって送達することができる。例えば、細胞への核酸の導入は、ウイルス形質導入によって達成され得る。非限定的な例において、アデノ随伴ウイルス(AAV)は、ウイルス形質導入を介して標的細胞に核酸を送達するように改変される。いくつかのAAV血清型が記載されており、公知の血清型の全てが、複数の多様な組織型の細胞に感染し得る。AAVは、毒性を示すことなく、in vivoで広範な種及び組織に形質導入することができ、比較的穏やかな自然免疫応答及び適応免疫応答を生じさせる。
【0101】
レンチウイルス由来のベクター系もまた、ウイルス形質導入による核酸送達及び遺伝子治療に有用である。レンチウイルスベクターは、遺伝子送達ビヒクルとしていくつかの魅力的な特性を提供し、これには以下が含まれる:(i)宿主ゲノムへの安定なベクターの組み込みによる持続的な遺伝子送達、(ii)分裂細胞及び非分裂細胞の両方に感染する能力、(iii)重要な遺伝子及び細胞療法の標的細胞型を含む広範な組織向性、(iv)ベクター形質導入後にウイルスタンパク質を発現しないこと、(v)ポリシストロン性配列又はイントロン含有配列などの複雑な遺伝要素を送達する能力、(vi)潜在的により安全な組み込み部位プロファイル、並びに(vii)ベクター改変及び産生のための比較的容易な系。
【0102】
いくつかの実施形態において、組成物は、本開示の少なくとも1つの改変免疫細胞、及び薬学的に許容される賦形剤を含む。いくつかの実施形態において、少なくとも1つの改変免疫細胞は、対象に導入された場合に増強されたエフェクター機能を示す。改変免疫細胞において増強されるエフェクター機能の例としては、成長速度(増殖)、サイトカイン産生、標的細胞阻害(例えば、抗癌細胞傷害性)、マクロファージ活性化、T細胞活性化、NK細胞活性化、及びin vivo持続性(例えば、生存)が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、少なくとも1つの改変免疫細胞により、インターフェロンガンマ(INFγ)、インターロイキン-2(IL-2)、及び/又は腫瘍壊死因子α(TNFα)の産生が増加する。
【0103】
特定の実施形態において、本明細書に開示されるいくつかの実施形態による医薬組成物は、それを必要とする個体への投与前に、洗浄、処理、組み合わせ、補充、又は他の方法で変更することができる改変免疫細胞の培養物を含む。更に、投与は、様々な用量、時間間隔で、又は複数回投与であり得る。
【0104】
本明細書で提供される医薬組成物は、組成物が対象に投与されることを可能にする任意の形態であり得る。いくつかの具体的な実施形態において、医薬組成物は、ヒトへの投与に適している。本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される」という用語は、動物、より具体的にはヒトにおける使用について、連邦政府若しくは州政府の規制当局によって承認されているか、又は米国薬局方若しくは他の全般的に認められている薬局方に記載されていることを意味する。担体は、医薬組成物と共に投与される希釈剤、アジュバント、賦形剤、又はビヒクルであり得る。生理食塩水及びデキストロース水溶液及びグリセロール水溶液もまた、注射用溶液を含む液体担体として使用することができる。適切な賦形剤としては、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノールなどが挙げられる。適切な医薬担体の例は、「Remington’s Pharmaceutical Sciences」(E.W.Martin著)に記載されている。いくつかの実施形態において、医薬組成物は、個体への投与のために無菌的に製剤化される。いくつかの実施形態において、個体はヒトである。当業者であれば、製剤が投与様式に適合する必要があることを理解するであろう。
【0105】
いくつかの実施形態において、本開示の医薬組成物は、個体への意図された投与経路に適するように製剤化される。例えば、医薬組成物は、非経口投与、腹腔内投与、結腸直腸投与、腹腔内投与、及び腫瘍内投与に適するように製剤化することができる。いくつかの実施形態において、医薬組成物は、静脈内投与、経口投与、腹腔内投与、気管内投与、皮下投与、筋肉内投与、局所投与、又は腫瘍内投与用に製剤化され得る。
【0106】
注射用途に好適な医薬組成物は、滅菌水溶液(水溶性の場合)又は分散液、及び滅菌注射溶液又は分散液の即時調製のための滅菌粉末を含む。静脈内投与の場合、適切な担体としては、生理食塩水、静菌水、Cremophor EL(商標)(BASF,Parsippany,N.J.)、又はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)が挙げられる。全ての場合において、組成物は無菌である必要があり、容易に注射できる程度に流動的である必要がある。これは、製造及び貯蔵の条件下で安定であるべきであり、細菌及び真菌などの微生物の夾雑作用から保護する必要がある。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレングリコールなど)、及びそれらの好適な混合物を含有する溶媒又は分散媒であり得る。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用によって、分散液の場合には必要な粒径の維持によって、及び界面活性剤、例えば、ドデシル硫酸ナトリウムの使用によって、維持することができる。微生物の作用は、様々な抗菌剤及び抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどによって防止することができる。多くの場合、概して、等張剤、例えば、糖、マンニトール、ソルビトールなどのポリアルコール、及び/又は塩化ナトリウムを組成物中に含める。注射用組成物の持続的吸収は、吸収を遅延させる薬剤、例えばモノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンを組成物中に含めることによってもたらすことができる。
【0107】
滅菌注射溶液は、必要量の活性化合物を、必要に応じて上記に列挙した成分の1つ又は組合せと共に適切な溶媒中に組み込み、続いて濾過滅菌することによって調製することができる。概して、分散液は、塩基性分散媒及び上記に列挙したものからの必要な他の成分を含有する滅菌ビヒクル中に活性化合物を組み込むことによって調製される。
【0108】
いくつかの実施形態において、本開示の改変免疫細胞は、当業者に公知の技術を用いて対象への投与のために製剤化することができる。例えば、改変免疫細胞の集団を含む製剤は、薬学的に許容される賦形剤を含み得る。製剤中に含まれる賦形剤は、例えば、使用する改変免疫細胞及び投与様式によって目的が異なる。全般的に使用される賦形剤の例としては、限定されないが、生理食塩水、緩衝生理食塩水、デキストロース、注射用水、グリセロール、エタノール、及びこれらの組み合わせ、安定化剤、可溶化剤及び界面活性剤、緩衝剤及び保存剤、等張化剤、増量剤、並びに滑沢剤が挙げられる。改変免疫細胞を含む製剤は、非ヒト成分の非存在下で、例えば動物血清の非存在下で調製及び培養されたものであり得る。製剤は、改変免疫細胞の1つの集団、又は改変免疫細胞の2つ以上、例えば、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ以上の集団を含み得る。
【0109】
改変免疫細胞の集団を含む製剤は、当業者に公知の様式及び技術を用いて対象に投与することができる。例示的な様式としては、静脈内注射が挙げられるが、これに限定されない。他の様式としては、腫瘍内、皮内、皮下(S.C.、s.q.、sub-Q、Hypo)、筋肉内(i.m.)、腹腔内(i.p.)、動脈内、髄内、心臓内、関節内(関節)、滑液内(関節液領域)、頭蓋内、脊髄内、及び髄腔内(髄液)が挙げられるが、これらに限定されない。製剤の非経口注射又は注入に有用なデバイスを用いて、このような投与を行うことができる。
【0110】
治療方法
本明細書に記載される治療用組成物、例えば、改変免疫細胞、核酸、及び医薬組成物のいずれか1つの投与は、増殖性疾患(例えば、癌)、自己免疫疾患、及び微生物感染(例えば、ウイルス感染)などの関連する健康状態の治療において、患者の治療に用いることができる。いくつかの実施形態において、本明細書に記載の1つ以上の改変免疫細胞、核酸、及び医薬組成物は、増殖性疾患(例えば、癌)、自己免疫疾患、及び慢性感染症などの1つ以上の健康状態を有する対象、有する疑いがある対象、又はその発症のリスクが高い場合がある対象を治療する方法において使用するための治療薬に組み込むことができる。いくつかの実施形態において、個体は、医師の管理下にある患者である。
【0111】
したがって、一態様において、本開示のいくつかの実施形態は、健康状態の予防及び/又は治療を必要とする対象において、その健康状態を予防及び/又は治療するための方法に関する。いくつかの実施形態において、本方法は、対象に本開示の組成物を投与することを含む。いくつかの実施形態において、本方法は、本開示の改変免疫細胞を含む組成物を対象に投与することを含む。いくつかの実施形態において、本方法は、メディエーター複合体サブユニットをコードするゲノム遺伝子座内の標的配列に対して十分な配列相補性を有する配列を含む核酸を含む組成物を対象に投与することを含む。いくつかの実施形態において、核酸は、メディエーター複合体のミドルモジュールサブユニット、テールモジュールサブユニット、及びサイクリン依存性キナーゼ8(CDK8)モジュールサブユニットから選択されるメディエーター複合体サブユニットをコードするゲノム遺伝子座内の標的配列に対して十分な配列相補性を有する配列を含む。いくつかの実施形態において、メディエーター複合体サブユニットは、CCNC、CDK8、CDK19、MED12、MED12L、MED13、MED13L、MED19、MED24、及びMED26からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、メディエーター複合体サブユニットは、ミドルモジュールサブユニットである。いくつかの実施形態において、ミドルモジュールサブユニットは、MED19又はMED26である。いくつかの実施形態において、メディエーター複合体サブユニットは、テールモジュールサブユニットである。いくつかの実施形態において、テールモジュールサブユニットは、MED15、MED16、又はMED24である。いくつかの実施形態において、メディエーター複合体サブユニットは、CDK8モジュールサブユニットである。いくつかの実施形態において、CDK8モジュールサブユニットは、CCNC、CDK18、CDK19、MED12、MED12L、及びMED13からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、メディエーター複合体サブユニットは、CCNCである。いくつかの実施形態において、メディエーター複合体サブユニットは、MED12である。いくつかの実施形態において、本方法は、本明細書に記載される医薬組成物を対象に投与することを含む。
【0112】
いくつかの実施形態において、本方法は、治療有効量の本開示の組成物(例えば、改変免疫細胞、核酸分子、及び医薬組成物)を、それを必要とする対象に投与することを含む。本開示の対象の改変免疫細胞又は医薬組成物の「有効量」、「治療有効量」、又は「薬学的有効量」という用語は、概して、改変免疫細胞集団又は医薬組成物が存在しない場合と比較して、明示された目的を達成する(例えば、それが投与される効果の達成、疾患の治療、シグナル伝達経路の低減、又は疾患若しくは健康状態の1以上の症状の軽減)ために、改変免疫細胞の集団又は医薬組成物が十分である量又は数を指す。「有効量」の例は、疾患の症状又は複数の症状の治療、予防、又は低減に寄与するのに十分な量であり、これは「治療有効量」とも呼ばれ得る。症状の「低減」とは、症状の重症度若しくは頻度が減少すること、又は症状が消失することを意味する。「治療有効量」を含むT細胞集団又は組成物の正確な量は、治療の目的に依存し、当業者であれば公知の技術を用いて確認できるであろう(例えば、Lieberman,Pharmaceutical Dosage Forms(Vols.1-3,1992);Lloyd,The Art,Science and Technology of Pharmaceutical Compounding(1999);Pickar,Dosage Calculations(1999);and Remington:the Science and Practice of Pharmacy,20th Edition,2003,Gennaro,Ed.,Lippincott,Williams & Wilkinsを参照されたい)。
【0113】
本明細書に記載される治療方法の非限定的な例示的実施形態は、以下の特徴のうちの1つ以上を含み得る。いくつかの実施形態において、健康状態は、増殖性疾患又は感染症である。例示的な増殖性疾患としては、限定されないが、血管新生疾患、転移性疾患、腫瘍形成性疾患、腫瘍性疾患及び癌が挙げられ得る。いくつかの実施形態において、増殖性疾患は、癌である。いくつかの実施形態において、癌は、小児癌である。いくつかの実施形態において、癌は、膵臓癌、結腸癌、卵巣癌、前立腺癌、肺癌、中皮腫、乳癌、尿路上皮癌、肝臓癌、頭頸部癌、肉腫、子宮頸癌、胃癌、黒色腫、ぶどう膜黒色腫、胆管癌、多発性骨髄腫、白血病、リンパ腫、及び神経膠芽腫である。いくつかの実施形態において、癌は、白血病である。
【0114】
いくつかの実施形態において、癌は、多剤耐性癌又は再発性癌である。本明細書に開示される組成物及び方法は、非転移性癌及び転移性癌の両方に適していることが企図される。したがって、いくつかの実施形態において、癌は、非転移性癌である。いくつかの他の実施形態において、癌は、転移性癌である。いくつかの実施形態において、対象に投与される組成物は、対象における癌の転移を阻害する。いくつかの実施形態において、投与された組成物は、対象における腫瘍成長を阻害する。
【0115】
例示的な増殖性疾患としては、限定されないが、血管新生疾患、転移性疾患、腫瘍形成性疾患、腫瘍性疾患及び癌が挙げられ得る。いくつかの実施形態において、増殖性疾患は、癌である。「癌」という用語は、概して、異常細胞の急速かつ無制限な成長を特徴とする疾患を指す。異常細胞は、固形腫瘍を形成し得るか、又は血液学的悪性腫瘍を構成し得る。癌細胞は、局所的に、又は血流及びリンパ系を介して身体の他の部分に拡散し得る。本開示の組成物及び方法によって治療することができる癌に関して、特定の制限はない。適切な癌の非限定的な例としては、卵巣癌、腎癌、乳癌、前立腺癌、肝臓癌、脳癌、リンパ腫、白血病、子宮頸癌、皮膚癌、膵臓癌、結腸直腸癌、肺癌などが挙げられる。
【0116】
本開示の組成物及び方法で適切に治療され得る他の癌としては、急性骨髄芽球性白血病(AML)、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、慢性骨髄性白血病(CML)、副腎皮質癌、肛門癌、再生不良性貧血、胆管癌、膀胱癌、骨癌、骨転移、脳癌、中枢神経系(CNS)癌、末梢神経系(PNS)癌、乳癌、子宮頸癌、結腸及び直腸癌、子宮内膜癌、食道癌、ユーイングファミリーの腫瘍(例えば、ユーイング肉腫)、眼癌、移行上皮癌、腟癌、骨髄増殖性疾患、鼻腔及び副鼻腔癌、上咽頭癌、神経芽細胞腫、口腔及び中咽頭癌、骨肉腫、卵巣癌、膵臓癌、陰茎癌、下垂体腫瘍、前立腺癌、網膜芽細胞腫、胆嚢癌、消化管カルチノイド腫瘍、消化管間質腫瘍、妊娠性絨毛性疾患、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、小児非ホジキンリンパ腫、カポジ肉腫、腎臓癌、喉頭癌及び下咽頭癌、肝臓癌、肺癌、肺カルチノイド腫瘍、悪性中皮腫、多発性骨髄腫、骨髄異形成症候群、横紋筋肉腫、唾液腺癌、肉腫、黒色腫皮膚癌、非黒色腫皮膚癌、胃癌、精巣癌、胸腺癌、甲状腺癌、子宮癌(例えば、子宮肉腫)、移行上皮癌、腟癌、外陰癌、中皮腫、扁平上皮細胞若しくは類表皮癌、気管支腺腫、絨毛癌、頭頸部癌、奇形癌、又はワルデンシュトレームマクログロブリン血症が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、癌は、骨肉腫である。
【0117】
特に適切な癌としては、乳癌、卵巣癌、肺癌、膵臓癌、中皮腫、白血病、リンパ腫、脳癌、前立腺癌、多発性骨髄腫、黒色腫、膀胱癌、骨肉腫、軟部組織肉腫、網膜芽細胞腫、腎腫瘍、神経芽細胞腫、及び癌腫が挙げられるが、これらに限定されない。
【0118】
いくつかの実施形態において、癌は、多剤耐性癌又は再発性癌である。本明細書に開示される組成物及び方法は、非転移性癌及び転移性癌の両方に適していることが企図される。したがって、いくつかの実施形態において、癌は、非転移性癌である。いくつかの他の実施形態において、癌は、転移性癌である。いくつかの実施形態において、対象に投与される組成物は、対象における癌の転移を阻害する。例えば、いくつかの実施形態において、対象に投与される組成物は、対象における転移性結節を低減させることができる。いくつかの実施形態において、投与された組成物は、対象における腫瘍成長を阻害する。
【0119】
いくつかの実施形態において、増殖性疾患は、自己免疫疾患である。いくつかの実施形態において、自己免疫疾患は、関節リウマチ、インスリン依存性真性糖尿病、溶血性貧血、リウマチ熱、甲状腺炎、クローン病、重症筋無力症、糸球体腎炎、自己免疫性肝炎、多発性硬化症、円形脱毛症、乾癬、白斑、栄養障害型表皮水疱症、全身性紅斑性狼瘡、中等度から重度の尋常性乾癬、乾癬性関節炎、クローン病、潰瘍性大腸炎、及び移植片対宿主病からなる群から選択される。
【0120】
いくつかの実施形態において、投与された組成物は、標的癌細胞の増殖を阻害し、かつ/又は対象における癌の腫瘍成長を阻害する。例えば、標的細胞は、その増殖が低減する場合、その病理学的又は病原性挙動が低減する場合、標的細胞が破壊又は死滅する場合などで阻害されることがある。阻害には、測定された病理学的又は病原性挙動の少なくとも約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、又は約95%の低減が含まれる。いくつかの実施形態において、方法は、本明細書に開示される有効数の改変免疫細胞を個体に投与することを含み、改変免疫細胞は、改変免疫細胞を投与されていない対象における標的細胞の増殖及び/又は標的癌の腫瘍成長と比較して、対象における標的細胞の増殖を阻害し、及び/又は標的癌の腫瘍成長を阻害する。
【0121】
本明細書に記載される組成物、例えば、改変免疫細胞、核酸、及び医薬組成物の投与は、免疫応答の刺激において使用することができる。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される改変免疫細胞、核酸、及び/又は医薬組成物のうちの1つ以上は、化学療法による癌の寛解誘導後、又は自己若しくは同種造血幹細胞の移植後に個体に投与される。いくつかの実施形態において、本明細書に記載れる組成物は、本明細書に開示される治療用組成物のうちの1つを投与されていない対象におけるこれらの分子の産生と比較して、投与された対象におけるインターフェロンガンマ(IFNγ)、腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)、及び/又はインターロイキン-2(IL-2)の産生の増加を必要としている対象に投与される。
【0122】
いくつかの実施形態において、投与される組成物は、免疫細胞の増強されたエフェクター機能を付与する。改変免疫細胞において増強され得る免疫細胞のエフェクター機能の例としては、成長速度(増殖)、死滅速度、死滅速度の型、標的細胞阻害(細胞傷害性)、標的細胞死滅、標的細胞生存、分化クラスター変化、マクロファージ活性化、B細胞活性化、サイトカイン産生、in vivo持続性が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、投与された組成物は、増加したエフェクターメモリーT細胞表現型を付与する。いくつかの実施形態において、投与された組成物は、増加した酸素消費速度及び細胞外酸性化速度を付与する。いくつかの実施形態において、本開示の組成物を含む免疫細胞のエフェクター機能は、基準免疫細胞と比較して、少なくとも10%高い、例えば、約10%より少なくとも約10%より高い、少なくとも約20%より高い、少なくとも約30%より高い、少なくとも約40%より高い、少なくとも約50%より高い、少なくとも約60%より高い、少なくとも約70%より高い、少なくとも約80%より高い、少なくとも約90%より高い、少なくとも約2倍より高い、約3倍より高い、約4倍より高い、約5倍より高い、約6倍より高い、約7倍より高い、約8倍より高い、約9倍より高い、約20倍より高い、約50倍より高い、約100倍より高い、又は約200倍より高いレベルで増強される。いくつかの実施形態において、基準免疫細胞は、本開示の組成物を含まない。いくつかの実施形態において、投与された組成物は、免疫細胞における増加した解糖フラックスを付与する。いくつかの実施形態において、投与された組成物は、基準免疫細胞(例えば、非改変免疫細胞又は非形質導入免疫細胞)と比較して、少なくとも10%、例えば、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約2倍、約3倍、約4倍、約5倍、約6倍、約7倍、約8倍、約9倍、約20倍、約50倍、約100倍、又は約200倍増加した解糖フラックスを付与する。
【0123】
本明細書に記載される組成物、例えば、改変免疫細胞、核酸、及び/又は医薬組成物の有効量は、意図される目標、例えば、癌の退縮に基づいて判断することができる。例えば、既存の癌が治療されている場合、本明細書に開示される組成物の投与量は、組成物の投与が癌の予防のためである場合よりも多くなり得る。当業者は、本開示を考慮して、組成物の投与量及び投与頻度を判断することができるであろう。また、投与量は、投与回数及び用量の両方に応じて、投与される個体、個体の状態、及び望まれる保護により異なる。組成物の正確な量はまた、医師の判断に依存し、対象ごとに固有である。投与頻度は、医師の判断に応じて、1~2日から、2~6時間まで、6~10時間まで、1~2週間まで、又はそれ以上の範囲であり得る。
【0124】
組成物の投与量の判断は、当業者によって行われ、癌の程度及び重症度、並びに改変免疫細胞が既存の癌の治療又は癌の予防のために投与されるかどうかに部分的に依存する。例えば、予防を目的とする場合には、投与間隔を長くし、組成物の量を少なくすることが採用できる。例えば、1回当たりの組成物の投与量は、活動性疾患の治療において投与される用量の50%であり得、投与は週1回の間隔であり得る。当業者であれば、本開示に照らして、組成物の有効量及び投与頻度を判断することができるであろう。この判断は、存在する特定の臨床状況(例えば、癌の種類、癌の重症度)に部分的に依存する。
【0125】
いくつかの実施形態において、治療対象、例えば、患者に本明細書に開示される組成物の連続供給を提供することが望ましい場合がある。いくつかの実施形態において、関心領域(腫瘍等)の連続灌流が好適であり得る。灌流の期間は、特定の対象及び状況に対して臨床医によって選択されるが、時間は、約1~2時間から、2~6時間まで、約6~10時間まで、約10~24時間まで、約1~2日まで、約1~2週間まで、又はそれ以上の範囲であり得る。概して、連続灌流による組成物の用量は、単回又は複数回の注射によって与えられる用量と同等であり、用量が投与される期間に合わせて調整される。
【0126】
いくつかの実施形態において、投与は静脈内注入によるものである。本明細書に開示される改変免疫細胞、核酸、及び/又は医薬組成物の有効量は、意図される目標、例えば、腫瘍退縮に基づいて判断することができる。例えば、既存の癌が治療される場合、投与される細胞の数は、本明細書に開示される改変免疫細胞の投与が癌の予防のためである場合よりも多くなり得る。当業者であれば、本開示を考慮して、投与される細胞数及び投与頻度を判断することができるであろう。また、投与量は、投与回数及び用量の両方に応じて、投与される個体、個体の状態、及び望まれる保護により異なる。治療用組成物の正確な量もまた、医師の判断に依存し、個体ごとに固有である。投与頻度は、医師の判断に応じて、1~2日から、2~6時間まで、6~10時間まで、1~2週間まで、又はそれ以上の範囲であり得る。概して、連続灌流による治療用組成物の用量は、単回又は複数回の注射によって与えられる用量と同等であり、用量が投与される期間に合わせて調整される。
【0127】
改変免疫細胞の対象への投与
いくつかの実施形態において、本開示の方法は、本明細書で提供される有効量又は有効数の改変免疫細胞を、それを必要とする対象に投与することを伴う。この投与工程は、当該分野における任意の移植送達方法を用いて達成することができる。例えば、改変免疫細胞は、対象の血流に直接注入され得るか、又は他の方法で対象に投与され得る。
【0128】
いくつかの実施形態において、本明細書に開示される方法は、所望の効果が生じるように、所望の部位に導入された細胞の少なくとも部分的な局在化をもたらす方法又は経路によって、改変免疫細胞を個体に投与することを含み、この用語は、「導入する」、「埋め込む」、及び「移植する」という用語と互換的に使用される。改変免疫細胞又はそれらの分化した子孫は、投与された細胞又は細胞の構成要素の少なくとも一部分が生存したままである個体の所望の位置に送達する任意の適切な経路によって投与することができる。対象への投与後の細胞の生存期間は、数時間、例えば24時間という短いものから、数日、数年、又は更に個体の一生、例えば長期生着であり得る。
【0129】
予防的に提供される場合、本明細書に記載される改変免疫細胞は、治療される疾患又は健康状態のあらゆる症状の前に、対象に投与することができる。したがって、いくつかの実施形態において、改変免疫細胞集団の予防的投与は、疾患又は健康状態の症状の発生を予防する。
【0130】
いくつかの実施形態において治療的に提供される場合、改変免疫細胞は、疾患又は健康状態の症状又は徴候の発症時(又は発症後)に、例えば、疾患又は健康状態の発症時に提供される。
【0131】
本明細書に記載される様々な実施形態において使用するために、本明細書に開示される改変免疫細胞の有効量は、少なくとも10細胞、少なくとも5×10細胞、少なくとも10細胞、少なくとも5×10細胞、少なくとも10細胞、少なくとも5×10細胞、少なくとも10細胞、少なくとも2×10細胞、少なくとも3×10細胞、少なくとも4×10細胞、少なくとも5×10細胞、少なくとも6×10細胞、少なくとも7×10細胞、少なくとも8×10細胞、少なくとも9×10細胞、少なくとも1×10細胞、少なくとも2×10細胞、少なくとも3×10細胞、少なくとも4×10細胞、少なくとも5×10細胞、少なくとも6×10細胞、少なくとも7×10細胞、少なくとも8×10細胞、少なくとも9×10細胞、又はその倍数であり得る。
【0132】
いくつかの実施形態において、改変免疫細胞は、治療を必要とする対象にとって非自己細胞である。いくつかの実施形態において、養子細胞療法は、同種養子細胞療法である。例えば、いくつかの実施形態において、改変免疫細胞は、治療を必要とする対象に対して同種細胞である。同種養子細胞療法では、改変免疫細胞は、養子細胞療法を受ける個体に由来しない。同種細胞療法は、概して、免疫細胞を提供する個体(ドナー)が、細胞療法を受ける個体とは異なる(同じ種の)個体である療法を指す。例えば、個体に投与される改変免疫細胞の集団は、1人以上の血縁関係のないドナーに由来するか、又は1人以上の同一でない兄弟姉妹に由来する。したがって、改変免疫細胞は、1人以上のドナーに由来し得るか、又は自己供給源から得られ得る。いくつかの実施形態において、改変免疫細胞は、それを必要とする対象に投与する前に、培養において増殖される。
【0133】
いくつかの実施形態において、方法又は経路による対象への細胞組成物(例えば、本明細書に記載の細胞のいずれかによる複数の改変免疫細胞を含む組成物)を送達することにより、所望の部位における細胞組成物が少なくとも部分的に局在化する。改変免疫細胞を含む組成物は、対象において有効な治療をもたらす任意の適切な経路によって投与することができ、例えば、投与は、送達された組成物の少なくとも一部分、例えば、少なくとも1×10個の細胞が一定期間、所望の部位に送達される、対象における所望の部位への送達をもたらす。投与様式としては、注射、注入、点滴注入が挙げられる。「注射」には、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、心室内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経皮気管内、皮下、表皮下、関節内、被膜下、くも膜下、脊髄内、脳脊髄内、及び胸骨内の注射及び注入が含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、経路は静脈内である。細胞の送達では、注射又は注入による送達が標準的な投与様式と見なされることが多い。
【0134】
いくつかの実施形態において、改変免疫細胞は、例えば、注入又は注射を介して全身投与される。例えば、本明細書に記載される改変免疫細胞の集団は、対象の循環系に入ることにより代謝及び他の類似の生物学的プロセスに供されるように、標的部位、組織、又は器官に直接投与される以外の方法で投与される。
【0135】
疾患又は健康状態の予防又は治療のための、本明細書で提供される組成物のいずれかを含む治療の有効性は、熟練した臨床医によって判断することができる。しかし、当業者であれば、疾患の徴候又は症状又はマーカーのいずれか1つ又は全てが改善又は寛解される場合、予防又は治療が有効である見なされることを理解するであろう。有効性は、入院又は医学的介入の必要性の減少により評価された場合、対象が悪化し得ない(例えば、疾患の進行が停止するか、又は少なくとも遅くなる)ことによっても測定できる。これらの指標を測定する方法は、当業者に知られており、かつ/又は本明細書に記載されている。治療には、対象又は動物(いくつかの非限定的な例としては、ヒト又は哺乳動物が挙げられる)における疾患の任意の治療が含まれ、また、(1)疾患を阻害すること、例えば、症状の進行を停止すること若しくは遅らせること;又は(2)疾患を緩和すること、例えば、症状の退縮を引き起こすこと;及び(3)症状の発症を予防すること若しくはその可能性を低減することが含まれる。
【0136】
有効性の程度の測定は、治療される疾患及び経験した症状に関して選択されるパラメータに基づく。概して、疾患の程度又は重症度と相関することが知られているか又は認められているパラメータ、例えば、医学界において認められているか又は使用されているパラメータが選択される。例えば、固形癌の治療において、適切なパラメータは、転移の数及び/又はサイズの低減、無増悪生存期間の月数、全生存期間、疾患のステージ又はグレード、疾患進行速度、診断バイオマーカーの低減(例えば、限定されないが、循環腫瘍DNA又はRNAの低減、循環無細胞腫瘍DNA又はRNAの低減など)、及びこれらの組み合わせを含み得る。有効用量及び有効性の程度は、概して、単一の対象及び/又は対象の群若しくは集団に関連して判断されることが理解されるであろう。本開示の治療方法は、症状及び/又は疾患重症度及び/又は疾患バイオマーカーを、少なくとも約1、2、3、4、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、96、97、98、99又は100%低減する。
【0137】
上述のように、医薬組成物の治療有効量は、疾患又は健康状態を有するか、有する疑いがあるか、又はそのリスクがある人などの対象に投与したときに、特定の有益な効果を促進するのに十分な医薬組成物の量であり得る。いくつかの実施形態において、有効量は、疾患若しくは健康状態の症状の発症を予防若しくは遅延させる、疾患若しくは健康状態の症状の経過を変化させる(例えば、限定されないが、疾患の症状の進行を遅らせる)、又は疾患若しくは健康状態の症状を逆転させるのに十分な量を含む。任意の所与の場合について、適切な有効量は、日常的な実験を用いて当業者によって判断され得ることが理解される。
【0138】
追加療法
上述したように、本明細書に開示される組成物、例えば、改変免疫細胞及び医薬組成物のいずれか1つは、それを必要とする対象に、単一の療法(例えば、単剤療法)として投与することができる。加えて又はあるいは、本開示のいくつかの実施形態において、本明細書に記載の改変免疫細胞及び医薬組成物の1つ以上を、1つ以上の追加の療法、例えば、少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、又は5つの追加の療法と組み合わせて対象に投与することができる。本開示の組成物と組み合わせて施される適切な療法としては、化学療法、放射線療法、免疫療法、ホルモン療法、毒素療法、標的療法、及び手術が挙げられるが、これらに限定されない。他の適切な療法には、化学療法剤、抗癌剤、及び抗癌療法剤などの治療薬が含まれる。
【0139】
1つ以上の追加の療法「と組み合わせた」投与には、同時(並行)投与及び任意の順序での連続投与が含まれる。いくつかの実施形態において、1つ以上の追加の療法は、化学療法、放射線療法、免疫療法、ホルモン療法、毒素療法、及び手術からなる群から選択される。本明細書で使用される化学療法という用語は、抗癌剤を包含する。本明細書に開示される方法には、様々な種類の抗癌剤を適切に使用することができる。抗癌剤の非限定的な例としては、アルキル化剤、代謝拮抗剤、アントラサイクリン、植物アルカロイド、トポイソメラーゼ阻害剤、ポドフィロトキシン、抗体(例えば、モノクローナル又はポリクローナル抗体)、チロシンキナーゼ阻害剤(例えば、メシル酸イマチニブ(Gleevec(登録商標)又はGlivec(登録商標)))、ホルモン治療、可溶性受容体、及び他の抗悪性腫瘍薬が挙げられる。
【0140】
トポイソメラーゼ阻害剤もまた、本明細書で使用することができる別の種類の抗癌剤である。トポイソメラーゼは、DNAのトポロジーを維持する必須酵素である。I型又はII型トポイソメラーゼを阻害すると、適切なDNAのスーパーコイル化が乱れることにより、DNAの転写及び複製の両方に支障をきたす。一部のI型トポイソメラーゼ阻害剤には、イリノテカン及びトポテカンなどのカンプトテシンが含まれる。II型阻害剤の例としては、アムサクリン、エトポシド、リン酸エトポシド、及びテニポシドが挙げられる。これらは、American Mayapple(アメリカハッカクレン)(Podophyllum peltatum)の根に天然に存在するアルカロイドであるエピポドフィロトキシンの半合成誘導体である。
【0141】
抗悪性腫瘍薬としては、免疫抑制剤のダクチノマイシン、ドキソルビシン、エピルビシン、ブレオマイシン、メクロレタミン、シクロホスファミド、クロラムブシル、イホスファミドが挙げられる。抗悪性腫瘍化合物は、概して、細胞のDNAを化学的に修飾することによって作用する。
【0142】
アルキル化剤は、細胞内に存在する条件下で多くの求核性官能基をアルキル化することができる。シスプラチン及びカルボプラチン、並びにオキサリプラチンはアルキル化剤である。これらは、生物学的に重要な分子中のアミノ基、カルボキシル基、スルフヒドリル基、及びホスフェート基と共有結合を形成することにより、細胞機能を損なう。
【0143】
ビンカアルカロイドは、チューブリン上の特定の部位に結合し、チューブリンの微小管への集合を阻害する(細胞周期のM期)。ビンカアルカロイドとしては、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビノレルビン、及びビンデシンが挙げられる。
【0144】
代謝拮抗物質は、プリン(アザチオプリン、メルカプトプリン)又はピリミジンに似ており、これらの物質が細胞周期の「S」期にDNAに組み込まれるのを防ぎ、正常な発生及び分裂を停止させる。代謝拮抗物質はRNA合成にも影響を与える。
【0145】
植物アルカロイド及びテルペノイドは植物から得られ、微小管機能を妨げることによって細胞分裂をブロックする。微小管は細胞分裂に不可欠であるので、微小管なしでは、細胞分裂は起こり得ない。主な例は、ビンカアルカロイド及びタキサンである。
【0146】
ポドフィロトキシンは、消化を助けることが報告されている植物由来化合物であるだけなく、他の2つの細胞増殖抑制薬であるエトポシドとテニポシドの生成にも使用されている。これらは、細胞がG1期(DNA複製の開始)及びDNAの複製(S期)に入るのを妨げる。
【0147】
グループとしてのタキサンには、パクリタキセル及びドセタキセルが含まれる。パクリタキセルは、元々はタキソールとして知られていた天然物で、最初はタイヘイヨウイチイの樹皮から誘導された。ドセタキセルは、パクリタキセルの半合成類似体である。タキサンは微小管の安定性を高め、後期における染色体の分離を防ぐ。
【0148】
いくつかの実施形態において、抗癌剤は、レミケード、ドセタキセル、セレコキシブ、メルファラン、デキサメタゾン(Decadron(登録商標))、ステロイド、ゲムシタビン、シスプラチン、テモゾロミド、エトポシド、シクロホスファミド、テモダール、カルボプラチン、プロカルバジン、グリアデル、タモキシフェン、トポテカン、メトトレキサート、ゲフィチニブ(Iressa(登録商標))、タキソール、タキソテール、フルオロウラシル、ロイコボリン、イリノテカン、ゼローダ、CPT-11、インターフェロンアルファ、ペグ化インターフェロンアルファ(例えば、PEG INTRON-A)、カペシタビン、シスプラチン、チオテパ、フルダラビン、カルボプラチン、リポソームダウノルビシン、シタラビン、ドキセタキソール、パシリタキセル(pacilitaxel)、ビンブラスチン、IL-2、GM-CSF、ダカルバジン、ビノレルビン、ゾレドロン酸、パルミトロネート(palmitronate)、ビアキシン、ブスルファン、プレドニゾン、ボルテゾミブ(Velcade(登録商標))、ビスホスホネート、三酸化ヒ素、ビンクリスチン、ドキソルビシン(Doxil(登録商標))、パクリタキセル、ガンシクロビル、アドリアマイシン、エストラウスチンリン酸ナトリウム(Emcyt(登録商標))、スリンダク、エトポシド、及びこれらの任意の組み合わせから選択することができる。
【0149】
他の実施形態において、抗癌剤は、ボルテゾミブ、シクロホスファミド、デキサメタゾン、ドキソルビシン、インターフェロン-アルファ、レナリドミド、メルファラン、ペグ化インターフェロン-アルファ、プレドニゾン、サリドマイド、又はビンクリスチンから選択することができる。
【0150】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載される予防方法及び/又は治療方法は、免疫療法を更に含む。いくつかの実施形態において、免疫療法は、1つ以上のチェックポイント阻害剤の投与を含む。したがって、本明細書に記載される治療方法のいくつかの実施形態は、1つ以上の免疫チェックポイント分子を阻害する化合物の更なる投与を含む。免疫チェックポイント分子の非限定的な例としては、CTLA4、PD-1、PD-L1、A2AR、B7-H3、B7-H4、TIM3、及びこれらの任意の組み合わせが挙げられる。いくつかの実施形態において、1つ以上の免疫チェックポイント分子を阻害する化合物は、アンタゴニスト抗体を含む。本明細書に開示される組成物及び方法に適したアンタゴニスト抗体の例としては、イピリムマブ、ニボルマブ、ペンブロリズマブ、デュルバルマブ、アテゾリズマブ、トレメリムマブ、及びアベルマブが挙げられるが、これらに限定されない。
【0151】
いくつかの態様において、1つ以上の抗癌療法は、放射線療法である。いくつかの実施形態において、放射線療法は、癌細胞を死滅させるための放射線の投与を含み得る。放射線は、DNAなどの細胞内の分子と相互作用して、細胞死を誘導する。放射線はまた、細胞膜及び核膜、並びに他の細胞小器官にも損傷を与え得る。放射線の種類によって、DNA損傷のメカニズムが異なる場合があり、相対的な生物学的効果も異なる。例えば、重粒子(すなわち、陽子、中性子)はDNAを直接損傷し、相対的な生物学的効果が大きくなる。電磁放射線は、主に細胞内の水分がイオン化することによって生じる短寿命のヒドロキシルフリーラジカルを介して間接的にイオン化をもたらす。放射線の臨床応用は、外部ビーム放射線(外部線源から)及び近接照射療法(患者に移植又は挿入された放射線源を使用する)で構成される。外部ビーム放射線は、X線及び/又はガンマ線で構成され、近接照射療法では崩壊してアルファ粒子又はベータ粒子をガンマ線とともに放出する放射性核種を用いる。また、本明細書において企図される放射線には、例えば、癌細胞への放射性同位体の指向性送達が含まれる。本明細書では、マイクロ波及びUV照射などの他の形態のDNA損傷因子も企図される。
【0152】
放射線は、単回投与又は線量分割スケジュールで少量ずつ続けて投与することができる。本明細書で企図される放射線の量は、例えば、約5~約80、約10~約50Gy、又は約10Gyを含む、約1~約100Gyの範囲である。総線量は、分割レジメンで適用することができる。例えば、レジメンは、2Gyの分割された個別線量を含み得る。放射性同位体の線量範囲は多岐にわたり、同位体の半減期、並びに放出される放射線の強度及び種類によって異なる。放射線が放射性同位元素の使用を含む場合、同位体は、放射性ヌクレオチドを標的組織(例えば、腫瘍組織)に運ぶ治療用抗体などの標的化剤にコンジュゲートされ得る。
【0153】
本明細書に記載される手術は、癌性組織の全部又は一部が物理的に除去、施術、及び/又は破壊される切除を含む。腫瘍切除は、腫瘍の少なくとも一部を物理的に除去することを指す。腫瘍切除に加えて、手術による治療には、レーザー手術、凍結手術、電気手術、及び顕微鏡下手術(モース手術)が含まれる。前癌又は正常組織の除去もまた本明細書において企図される。
【0154】
したがって、いくつかの実施形態において、本開示の方法は、単一療法(例えば、単剤療法)として、本明細書に開示される組成物を対象に個別に投与することを含む。いくつかの実施形態において、本開示の組成物は、第2の療法と組み合わせた第1の療法として対象に投与される。いくつかの実施形態において、第2の療法は、化学療法、放射線療法、免疫療法、ホルモン療法、毒素療法、及び手術からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、第1の療法及び第2の療法は、同時に施される。いくつかの実施形態において、第1の療法は、第2の療法と同時に施される。いくつかの実施形態において、第1の療法及び第2の療法は、連続的に施される。いくつかの実施形態において、第1の療法は、第2の療法の前に施される。いくつかの実施形態において、第1の療法は、第2の療法の後に施される。いくつかの実施形態において、第1の療法は、第2の療法の前及び/又は後に施される。いくつかの実施形態において、第1の療法及び第2の療法は、交代で施される。いくつかの実施形態において、第1の療法及び第2の療法は、単一製剤で一緒に施される。
【0155】
キット
本明細書に記載の方法を実施するためのキットも本明細書で提供される。キットは、本明細書に記載及び提供される改変免疫細胞及び医薬組成物のうちの1つ以上を含み得る。例えば、本明細書で提供されるのは、いくつかの実施形態において、本開示の1つ以上の改変免疫細胞を含むキットである。いくつかの実施形態において、本明細書で提供されるのは、本開示の1つ以上の医薬組成物を含むキットである。いくつかの実施形態において、本開示のキットは、本開示の改変免疫細胞、核酸、及び医薬組成物を作製するための、並びにこれらを使用するための書面による指示書を更に含む。
【0156】
いくつかの実施形態において、本開示のキットは、提供される免疫細胞、核酸、及び医薬組成物のいずれか1つを、それを必要とする対象に投与するために使用される、1つ以上のシリンジ(プレフィルドシリンジを含む)及び/又はカテーテル(プレフィルドシリンジを含む)を更に含む。いくつかの実施形態において、キットは、所望の目的のために、例えば、細胞の活性を調節するため、標的癌細胞を阻害するため、又はそれを必要とする対象において、健康状態を治療するために、他のキット構成要素と同時に又は連続的に投与することができる1つ以上の追加の治療薬を有し得る。
【0157】
例えば、上記のキットのいずれも、1つ以上の追加の試薬を更に含むことができ、このような追加の試薬は希釈緩衝液、再構成溶液、洗浄緩衝液、対照試薬、対照発現ベクター、陰性対照T細胞集団、陽性対照T細胞集団、T細胞集団のex vivo産生用試薬から選択することができる。
【0158】
いくつかの実施形態において、キットの構成要素は、別々の容器に入れることができる。いくつかの他の実施形態において、キットの構成要素は、単一容器内で組み合わせることができる。
【0159】
いくつかの実施形態において、キットは、方法を実施するためにキットの構成要素を使用するための指示書を更に含み得る。本方法を実施するための指示書は、概して、適切な記録媒体に記録されている。例えば、指示書は、紙又はプラスチックなどの基材上に印刷することができる。指示書は、添付文書としてキット中に、キット又はその構成要素の容器のラベル中など(例えば、パッケージ又はサブパッケージに付随して)に存在することができる。指示書は、適切なコンピュータ可読記憶媒体、例えばCD-ROM、ディスケット、フラッシュドライブなどに存在する電子記憶データファイルとして存在することができる。場合によっては、実際の指示書はキット中に存在しないが、リモートソースから(例えば、インターネットを介して)指示書を得るための手段を提供することができる。この実施形態の例は、指示書を見ることができ、及び/又は指示書をダウンロードすることができるウェブアドレスを含むキットである。指示書と同様に、指示書を得るためのこの手段は、適切な基材上に記録することができる。
【0160】
本明細書に記載される態様及び実施形態の各々は、実施形態又は態様の文脈から明示的又は明確に除外されない限り、一緒に使用することができる。
【0161】
本開示で言及された全ての刊行物及び特許出願は、各々の個々の刊行物又は特許出願が参照により組み込まれることが具体的かつ個別に示されている場合と同程度に、参照により本明細書に組み込まれる。
【0162】
本明細書に引用されたいずれの参考文献も先行技術を構成すると認めるものではない。参考文献の考察は、それらの著者が主張することを述べており、本出願人は、引用された文書の正確さ及び妥当性に異議を申し立てる権利を留保する。本明細書では、科学雑誌論文、特許文書、及び教科書を含むいくつかの情報源が言及されているが、この参考文献は、これらの文書のいずれかが当技術分野における共通の全般知識の一部を形成することを認めるものではないことが明確に理解されるであろう。
【0163】
本明細書に示される全般的な方法の考察は、例示目的のみを意図している。他の代替方法及び代替物は、本開示を検討すれば当業者には明らかであり、本出願の趣旨及び範囲内に含まれるものである。
【実施例
【0164】
本発明の実施では、別段の指示がない限り、当業者に周知である分子生物学、微生物学、細胞生物学、生化学、核酸化学、及び免疫学の従来技術を用いる。このような技術は、Sambrook,J.,& Russell,D.W.(2012)Molecular Cloning:A Laboratory Manual(4th ed.).Cold Spring Harbor,NY:Cold Spring Harbor Laboratory and Sambrook,J.,& Russel,D.W.(2001).Molecular Cloning:A Laboratory Manual(3rd ed.).Cold Spring Harbor,NY:Cold Spring Harbor Laboratory(jointly referred to herein as”Sambrook”);Ausubel,F.M.(1987).Current Protocols in Molecular Biology.New York,NY:Wiley(2014年までの付録を含む);Bollag,D.M.et al.(1996).Protein Methods.New York,NY:Wiley-Liss;Huang,L.et al.(2005).Nonviral Vectors for Gene Therapy.San Diego:Academic Press;Kaplitt,M.G.et al.(1995).Viral Vectors:Gene Therapy and Neuroscience Applications.San Diego,CA:Academic Press;Lefkovits,I.(1997).The Immunology Methods Manual:the Comprehensive Sourcebook of Techniques.San Diego,CA:Academic Press;Doyle,A.et al.(1998).Cell and Tissue Culture:Laboratory Procedures in Biotechnology.New York,NY:Wiley;Mullis,K.B.,Ferre,F.& Gibbs,R.(1994).PCR:the Polymerase Chain Reaction.Boston:Birkhauser Publisher;Greenfield,E.A.(2014).Antibodies:A Laboratory Manual(2nd ed.).New York,NY:Cold Spring Harbor Laboratory Press;Beaucage,S.L.et al.(2000).Current Protocols in Nucleic Acid Chemistry.New York,NY:Wiley,(2014年までの付録を含む);及びMakrides,S.C.(2003).Gene Transfer and Expression in Mammalian Cells.Amsterdam,NL:Elsevier Sciences B.V.,などの文献で十分に説明されており、その開示は参照により本明細書に組み込まれる。
【0165】
更なる実施形態は、以下の実施例において更に詳細に開示され、これらは例示のために提供され、本開示又は特許請求の範囲の範囲を限定することを決して意図するものでない。
【0166】
実施例1.
全般的な実験手順
T細胞単離
全血バフィーコートは、スタンフォード血液センター(Stanford Blood Center)から41歳未満の応募者から入手した。RosetteSep(商標)Human T Cell Enrichment Cocktail(StemCell Technologies)を用いてT細胞を単離した。T細胞を、CryoStor(登録商標)細胞凍結保存培地CS10(Sigma Aldrich)を用いて液体窒素中で保存した。
【0167】
CRISPRスクリーニング
T細胞の活性化及び培養
【0168】
2億個のT細胞を0日目に解凍し、CD3/CD28 Dynabeads(Invitrogen)を用いて、T細胞1個当たり3ビーズの比率で活性化した。細胞を、5%FBS、HEPES、ペニシリン、ストレプトマイシン、及び10mg/LのIL-2を補充したAIM-V培地(Gibco)中で培養した。細胞を、T175フラスコ中、50万~100万/mLの密度で維持した。
【0169】
レンチウイルス形質導入
【0170】
Bassik Human CRISPR Knockout Libraryの9つ全てのプールをAddgeneから入手し、Endura ElectroCompetent Cells(Lucigen)で増幅した。LenTiX細胞(タカラバイオ)を、ポリ-D-リジン(Corning)でコーティングした150mmプレートに播種し、1プレート当たり18μgのREV、18μgのGAG/POL、7μgのVSVg、15μgのライブラリーベクター、3.38mLのOpti-MEM(Gibco)及び135μLのLipofectamine 2000(Invitrogen)でトランスフェクトした。10枚のプレートを各ドナーについて調製した。トランスフェクションの24時間後に培地を交換し、トランスフェクションの48時間後に上清を回収した。レンチウイルス上清をlentiX(タカラバイオ)で濃縮し、活性化の2日後にT細胞培養培地に添加した。3日目に、フローによってmCherry陽性について細胞を評価して、形質導入が8~12%であったことを確認した。
【0171】
CAS9エレクトロポレーション
【0172】
3日目に、100μlの反応物を、1000万個のT細胞、30μgのAlt-R(登録商標)S.p.Cas9 Nuclease V3(IDT)、90μlのP3緩衝液(Lonza)、及び7μLのDuplex Buffer(IDT)を用いて組み立てた。P3 Primary Cell 4D-Nucleofector(商標)Lキット及び4D Nucleofector(商標)System(Lonza)を用いて、プロトコルEO115で細胞をパルスした。細胞を1mLの温培地で直ちに回収し、次いで200mLの温培地に6時間かけて移した後、CARで形質導入した。
【0173】
レトロウイルス形質導入
【0174】
293GP細胞を、ポリ-D-リジン(Corning)でコーティングした150mmプレート上に播種し、1プレート当たり11μgのRD114、22μgのHA-28z CARencodingプラスミド、3.38mLのOpti-MEM(Gibco)及び135μLのLipofectamine 2000(Invitrogen)でトランスフェクトした。この実験で使用したHA-28z CARは、14g2a-E101K scFvをコードし、これは、腫瘍細胞に天然に発現するジシアロガングリオシドであるGD2に対してより高い親和性(HA)を示す(Lynn et al.,Nature,2019)。トランスフェクションの24時間後に培地を交換し、トランスフェクションの48時間後及び72時間後に上清を回収した。10枚のプレートを各ドナーについて調製した。2日目及び3日目に、非組織培養処理した12ウェルプレート(Falcon)をRetroNectin(タカラバイオ)でコーティングし、4℃で一晩インキュベートした。3日目及び4日目に、12ウェルプレートを2%BSAで5分間ブロックし、1ウェル当たり1mLのレトロウイルス上清で32℃、3200RPMで2時間インキュベートした。780μlの上清を除去し、1mLの培地中で各ウェルに100万個のT細胞を添加した。5日目に、磁気分離を用いてDynabeadsを除去した。7日目から10日目まで2.5μg/mLのピューロマイシンと共に細胞を培養して、ガイドを発現しない細胞を除去した。
【0175】
増殖スクリーニング
【0176】
CAR-T細胞ライブラリーを、T175フラスコで1日おきに継代しながら培養した。15日目に、1億個のNALM6-GD2細胞を1億個のT細胞に添加し、23日目まで共培養した。各継代で培養液量の50%を廃棄した。
【0177】
サイトカイン産生スクリーニング
【0178】
15日目に、1億個のCAR-T細胞と1億個のNALM6-GD2-GFP腫瘍細胞を200mLのeBioscience Monensin Solution(Invitrogen)で6時間共培養した。細胞内サイトカイン染色を、BD Cytofix/Cytoperm(商標)Fixation/Permeabilization Solution Kitを用いて実施した。Biolegendから購入した、CD4(クローンSK3)、CD8(クローンSK1)、TNF-α(クローンMAb11)、及びIL-2(クローンMQ1-17H12)に特異的な抗体、並びに固定可能な生存色素eFluor 506(eBioscience)で、細胞を染色した。Stanford Shared FACS Facilityにおいて、70μmノズルを備えたFACSAria IIで細胞選別を行った。TNFα+及びIL-2+の上位10%を、CD4+及びCD8+細胞についての個々のゲートを用いて選別した。CD4+及びCD8+サイトカイン高値の細胞をプールして、ゲノムDNA抽出を行った。
【0179】
ゲノムDNA抽出及び配列決定ライブラリー調製
【0180】
ゲノムDNA抽出、ライブラリー調製、及び配列決定のために、技術的な複製を行った。選別条件では各ドナーに対して1サンプルしか処理されず、各サンプルが約500万個の細胞であったことを除いて、各時点で2,000万~3,000万個の細胞を採取した。0日目では、レンチウイルスベクタープラスミドライブラリーのマキシプレップを、実験開始時のT細胞におけるガイドの相対的存在量を概算するためのプロキシとして使用し、マキシプレップDNAから複製配列決定ライブラリーを調製した。ゲノムDNAを、前述のようにプロテイナーゼKを含むSDS中で37℃にて、一晩溶血して細胞ペレットから抽出した。簡単に説明すると、タンパク質を酢酸アンモニウムで沈殿させ、ゲノムDNAをイソプロパノールで沈殿させた。回収したゲノムDNAの全てをPCRのテンプレートとして用いて、配列決定ライブラリーを作製した。Morgens et al.2017によって記載されているように、ライブラリーを調製した。カスタムプライマーを用いてIlluminaアダプターを付加し、lllumina NovaSeq 6000 PE150プラットフォーム上でディープ配列決定を実施した。Novogene(Sacramento,CA)によって、配列決定を行った。
【0181】
CRISPRスクリーニングデータ解析
【0182】
bcl2fastq2 Conversion Software v2.20を用いて、BCLファイルをFASTQファイルに変換した。ガイド配列をFASTQファイルから抽出し、カスタムRスクリプトを用いてBassikライブラリーインデックスと照合した。各ガイドの生カウントを、MAGECKアルゴリズム(Li 2014)への入力として提供した。増殖スクリーニングのために、「0日目」からの2つの複製を、23日目に採取した4つのサンプル(各ドナーから2つ)と比較した。サイトカイン産生スクリーニングでは、15日目に採取した4つのサンプル(各ドナーから2つ)を、サイトカイン高発現で選別した2つのサンプル(各ドナーから1つ)と比較した。MAGECKアルゴリズムにより、正規化を行い、ガイド及び遺伝子についてのlog倍数変化を算出し、調整p値を算出する。
【0183】
【表1】
【0184】
【表2】
【0185】
【表3】
【0186】
実施例2
CRISPR媒介ノックアウトCAR-T細胞ライブラリーの増殖スクリーニング
本実施例では、CRISPR媒介ノックアウトCAR-T細胞ライブラリーの増殖スクリーニングの実験計画及び結果を記載しており、多数のメディエーターサブユニットの喪失により、CAR-T細胞の増殖が低減することが見出された。
【0187】
図1は、本実験で使用したCAR-T細胞CRISPRノックアウトライブラリーの作製を概略的に示した図である。2人のヒトドナーからのT細胞を精製した。1遺伝子当たり10個のガイドで約20,000個のタンパク質コード遺伝子全てを標的としたCRISPRライブラリーを、レンチウイルスベクターを用いて低感染多重度(10%陽性)で2億個のT細胞に組み込んだ。精製されたCas9タンパク質を3日目にT細胞にエレクトロポレーションし、活性化後3日目及び4日目にレトロウイルスによってCARを組み込んだ。
【0188】
CRISPRスクリーニングの実験計画を図2に示す。このスクリーニングでは、遺伝子編集されたCAR-T細胞を2週間in vitroで培養し、持続性シグナル伝達CARの発現により進行性のT細胞機能不全が誘導された。サイトカイン産生をスクリーニングするために、培養集団の一部を腫瘍で刺激し、サイトカインIL-2及びTNFαを高レベルで発現する細胞についてFACSで選別した。増殖のスクリーニングのため、CAR-T標的を発現する腫瘍細胞とT細胞を更に7日間共培養した。スクリーニングの結果は図3に示されており、増殖スクリーニングから選択された遺伝子にノックアウト変異を有するCAR-T細胞が、複製ドナー間で再現性を示すことが観察された。これらの実験では、0日目及び23日目にガイドRNAの存在量を定量した。プロットは、各遺伝子を標的とする全てのガイドの平均log(倍数変化)を示す。右上象限にプロットされた遺伝子は、欠失すると増殖が促進されることが見出され(例えば、MED12及びCCNC)、左下象限にプロットされた遺伝子は、欠失すると増殖が減少することが見出された(例えば、MYC及びRHOA)。
【0189】
更に、ゲノムワイドCRISPRスクリーニングも実施して、統計的に有意な遺伝子を同定した。これらの実験では、MAGECKアルゴリズムを用いて、ガイドの相対的な存在量を解析し、各遺伝子の調整P値を算出した(Li 2014)。図4Aに示すように、サイトカイン産生スクリーニングでは、全15日の集団におけるガイドの存在量をサイトカイン高値の集団と比較した。図4Bに示すように、増殖スクリーニングでは、23日目と0日目の存在量を比較した。これらの実験では、ゲノムの安全な非コード領域を標的とするガイドを対照として含め、安全な標的ガイドの平均log(倍数変化)を垂直の破線で示す。統計的有意性についての閾値は、水平の破線で示されている。サイトカイン産生スクリーニングでは、統計的に有意な遺伝子が1つ同定され、増殖アッセイでは、統計的に有意な遺伝子が複数同定された。
【0190】
特に、図5A図5Bに示されるように、33個のメディエーター複合体サブユニット全てが、上記の増殖スクリーニングにおいて検出可能であった。これらの図では、各遺伝子を標的とした全ガイドの平均log(倍数変化)をプロットしている。最初に、ドナー1及びドナー2を平均することによって、各ガイドの平均濃縮度を算出した。次いで、ガイド平均値を平均することによって、各遺伝子の平均濃縮度を算出した。エラーバーは、ガイドの標準偏差を示す。MED12及びCCNCは、ともにCDK8キナーゼモジュール(CKM)において見出される。CKD8モジュール(CKM)の全てのメンバーの喪失により、T細胞で発現していないMED12Lを除いて、増殖が増強されることが観察された。ヘッドモジュール、バックボーン、及びミドルドメインに見られるメディエーターサブユニットの喪失により、MED26とMED19を除いて、増殖が低減することも観察された。いかなる特定の理論にも拘束されるものではないが、MED26及びMED19が、ミドルドメインとCKMとの間の物理的接触を形成し得ることが予測された。
【0191】
更に、テール領域のいくつかのメンバーが欠失すると、増殖がわずかに増強されることも観察された(例えば、MED15、MED16、MED24、及びMED27)。
【0192】
特に、本明細書に記載されるCRISPRスクリーニングは、改変T細胞におけるMED12発現の低減が、T細胞の優れた増殖及びサイトカイン産生をもたらすことを示している。MED12に関するこの結果は、2人の異なるヒトドナーで一貫していることが見出された。CCNCについても同様の結果が観察されており、MED12及びCCNCはともにCKMのサブユニットであることから、CKMがT細胞増殖の調節において重要な役割を有することが強く示唆される。更に、以下に更に詳述するように、全てのメディエーターサブユニットの試験は、T細胞増殖を調節する際のメディエーター複合体の本質的な役割を示す。
【0193】
実施例3
MED12又はCCNCサブユニットを欠く改変CAR-T細胞は、より多くのIL-2及びIFNγを産生する
本実施例は、MED12サブユニット又はCCNCサブユニットを欠く改変CAR-T細胞(MED12-ヌル及びCCNC-ヌルCAR-T細胞)が、IL-2及びIFNγによって例示されるサイトカインの産生増強を示すことを実証するために行われた実験結果について説明するものである。
【0194】
これらの実験では、標的遺伝子CCNC及びMED12並びに対照遺伝子AAVS1を活性化後3日目に欠失させた。CD19-28ζ、HA-28ζ、及びHER2-4-1BBζ受容体を用いてCAR-T細胞を生成し、10日目又は15日目まで培養し、その後、それぞれNALM6、NALM6-GD2、又は143B細胞株と共培養した。腫瘍細胞の添加から24時間後、上清を採取し、ELISAでサイトカインを定量した。偽形質導入T細胞は、CARを発現せず、陰性対照として含めた。棒グラフは、2つの技術的反復の平均を示し、エラーバーは標準偏差を示す。
【0195】
図6A図6Fに示されるように、MED12-ヌル及びCCNC-ヌルCAR-T細胞は、IL-2及びIFNγの産生を増強できることが観察された。
【0196】
実施例4
MED12-ヌルCAR-T細胞は、単細胞ベースでより多くのIL-2及びTNFαを産生する
本実施例は、MED12-ヌルCAR-T細胞が、単細胞ベースでより多くのIL-2及びTNFαを産生することを示すために行った実験結果について説明するものである。
【0197】
これらの実験では、CD19-28ζ CAR-T細胞を、15日目にモネンシンの存在下で6時間、NALM6腫瘍細胞で刺激した。未刺激細胞(上パネル)及び刺激細胞(下パネル)を固定し、IL-2及びTNFαについて染色し、フローサイトメトリーで解析した。全CD4+細胞のうちのIL-2+TNFα+細胞のパーセンテージを各プロットの上に示す。
【0198】
実施例3及び4に示される実験データは、CKMモジュールにおける機能喪失変異が、複数の炎症性サイトカインを分泌する能力を有するT細胞の数を増加させることを示している。INFγ及びTNFαは直接的な抗腫瘍効果があり、IL-2はT細胞増殖を促進する。いかなる特定の理論にも拘束されるものではないが、このサイトカイン分泌能力の向上は、CCNC-ヌル及びMED12-ヌルCAR-T細胞の増殖が増強され、腫瘍クリアランスが増加した理由を説明するのに役立つ。
【0199】
実施例5
MED12-ヌル及びCCNC-ヌルCD19-28ζ CAR-T細胞は、培養において増強された増殖を示す
本実施例は、MED12-ヌル及びCCNC-ヌルCD19-28ζ CAR-T細胞が培養においてより多く増殖することを示すために行った実験結果について説明するものである。
【0200】
これらの実験では、標的遺伝子CCNC及びMED12並びに対照遺伝子AAVS1を活性化後3日目に欠失させ、28日目までIL-2と共に細胞を培養した。平均総生細胞数をプロットし、エラーバーは3回の技術的反復の標準偏差を示す。図8に示されるように、MED12-ヌル及びCCNC-ヌルCD19-28ζ CAR-T細胞は、培養においてより多く増殖することが観察された。
【0201】
実施例6
MED12-ヌル及びCCNC-ヌルCD19-28ζ CAR-T細胞は、生存のためにIL-2に依存する
本実施例は、MED12-ヌル及びCCNC-ヌルCD19-28ζ CAR-T細胞が生存のためにIL-2に依存することを示す実験結果について説明するものである。
【0202】
これらの実験では、9日目に、細胞を洗浄し、IL-2を含む又は含まない培地に播種した。細胞密度は、培地1mL当たり50万~100万個の細胞に維持した。細胞をアクリジンオレンジ及びヨウ化プロピジウムで染色し、CellacaMX細胞カウンターで生存率をモニタリングした。IL-2の非存在下では、いずれの条件においても28日目までに生存細胞は検出されなかった。図9に示されるように、MED12-ヌル及びCCNC-ヌルCD19-28ζ CAR-T細胞は、生存のためにIL-2に依存することが観察された。
【0203】
上記の実施例5に示される実験データは、CRISPRスクリーニングの結果を検証し、MED12-ヌル及びCCNC-ヌルCAR-T細胞が、20日間の培養で増殖が5~10倍多いことを示している。実施例6に示される実験データは、MED12-ヌル及びCCNC-ヌルCAR-T細胞が、依然として生存のためにIL-2に依存しており、これらのT細胞が癌細胞に形質転換されないことを示している。MED12及びCCNC変異はいくつかの種類の癌に関与しているので、これは重要な観察である。特にCCNCは腫瘍抑制遺伝子として説明されているが、この実験では、CCNCの喪失のみでは形質転換に十分ではないことを実証している。MED12又はCCNCの喪失が、CAR-T細胞又は非形質導入T細胞におけるサイトカイン産生を増加させることを実証するために、追加の実験を行った。これらの実験では、5×10個のT細胞及び5×10個の腫瘍細胞を、丸底96ウェルプレート中のIL-2を含まない250μlの培地中で24時間共培養した。腫瘍細胞との24時間の共培養後に培養上清を採取し、サイトカインをELISA(例えば、図15A参照)又はCD3/CD28活性化ビーズ(例えば、図15B参照)によって定量した。IL-2及びIFNγをELISA MAXキット(Biolegend)で検出し、TNF-アルファをQuantikineキット(R&D Systems)で検出した。図15A図15Bに記載される実験はまた、上記の実施例3に記載されている。
【0204】
実施例7
MED12-ヌル及びCCNC-ヌルCD19-28ζ CAR-T細胞は、in vivoで腫瘍クリアランスの増加を示す
本実施例は、MED12-ヌル及びCCNC-ヌルCD19-28ζ CAR-T細胞がin vivoで腫瘍クリアランスの増加を示す実験結果について説明するものである。
【0205】
これらの実験では、ルシフェラーゼ導入遺伝子を発現するおよそ100万個のNALM6細胞を0日目に注入し、250,000個のCAR-T細胞又は偽形質導入T細胞を3日目に注入した。SII Lago(Spectral Instruments Imaging)を用いた生物発光イメージングで腫瘍量をモニタリングし、Aura Imagingソフトウェアで1秒当たりの光子(p/s)を定量した。図10Aは30秒間の露光を示し、飽和を回避するために、定量にはより短い露光を使用した(図10B及び図10C)。個々のマウスの値をBに、平均値をCに示す。エラーバーは標準偏差lを示す。MED12-ヌル及びCCNC-ヌルCD19-28ζ CAR-T細胞は、in vivoで腫瘍クリアランスの増加を示すことが観察された。
【0206】
注目すべきことに、実施例7では、MED12-ヌル及びCCNC-ヌルCAR-T細胞が、初期の時点で劇的かつ等しい腫瘍クリアランスを示すことが観察された。しかし、42日目には、CCNC-ヌルCAR-T細胞を投与したマウスは、CCNC-ヌルCAR-T細胞を投与したマウスよりも腫瘍量が顕著に大きくなっており、MED12の喪失が、in vivoで数週間にわたってT細胞により許容され得ることを示している。
【0207】
実施例8
MED12-ヌル及びCCNC-ヌルCD19-28ζ CAR-T細胞は、in vivoで増殖の増加を示す
本実施例は、MED12-ヌル及びCCNC-ヌルCD19-28ζ CAR-T細胞が、in vivoで増殖の増加を示す実験結果について説明するものである。
【0208】
これらの実験では、T細胞注入の10日後に、マウス(上記図10に示す)から血液を採取した。血液を等量のCountBright Absolute Counting Beads(Invitrogen)と混合し、ヒトCD45を染色し、BD FACS Lysing Solution(BD)で赤血球を溶血した。ヒトCD45+細胞をフローサイトメトリーによって定量した。図11に示されるように、MED12-ヌル及びCCNC-ヌルCD19-28ζ CAR-T細胞は、in vivoで腫瘍クリアランスの増加を示すことが観察された。
【0209】
追加の実験を行って、MED12の喪失がCAR-T細胞及びCARを発現しないT細胞の増殖を増加させることを実証した。これらの実験では、CD4及びCD8のT細胞をバフィーコートから単離し、抗CD3/CD28ビーズで活性化した。細胞を3日目にCRISPR編集し、23日目(例えば、図16A参照)又は12日目(例えば、図16B参照)までIL-2で培養した。これらの実験では、Cellaca Mx Automated Cell Counter(Nexcelom)を用いて、細胞数及び生存率の測定値を得た。細胞をアクリジンオレンジ及びヨウ化プロピジウムで染色して、生存率を評価した。各継代で培養液量の一部分を廃棄し、培養液中に維持された細胞の一部を用いて総細胞数を算出した。
【0210】
いかなる特定の理論にも束縛されることなく、実施例8に示されるデータは、腫瘍クリアランスが増強される理由についての説明を提供するものである。MED12-ヌル及びCCNC-ヌルCAR-T細胞の数の増加により、この時点における腫瘍焼失の減少を説明することができる。更に、この実施例は、IL-2又はIL-7などのT細胞支持サイトカインが投与されなかったので、特に関連性が高い。これらの細胞によりIL-2の産生が増加することで、in vivoでの増殖の増加が尤もなことと説明される。
【0211】
実施例9
MED12-ヌル及びCCNC-ヌルCD19-28ζ CAR-T細胞は、CAR-T細胞投与の生存効果を高める
本実施例は、MED12-ヌル及びCCNC-ヌルCD19-28ζ CAR-T細胞が、CAR-T細胞投与の生存効果を高めることを示す実験結果について説明するものである。
【0212】
これらの実験では、マウスに100万個のNALM6腫瘍細胞を注入し、3日目に1×10、2.5×10、又は5×10個のT細胞を投与した。図12に示すように、MED12-ヌルCAR-T細胞は生存を増加させ、CCNC-ヌルCAR-T細胞はAAVS1-ヌルCAR-T細胞と同等であった。
【0213】
実施例9及び10に示される実験データは、MED12-ヌル及びCCNC-ヌルCAR-T細胞が、液体腫瘍及び固形腫瘍の両方の進行を遅らせるのに有効であることを示している。更に、これらの実施例は、MED12/CCNCの喪失の効果が、異なる抗原を標的とし、異なる共刺激ドメインを利用するCARに一般化可能であることを示している。この結果は、この戦略が全てのCAR-T細胞療法に適用可能であることを示唆する。
【0214】
実施例10
MED12-ヌル及びCCNC-ヌルHER2-4-1BBζ CAR-T細胞は、固形腫瘍成長を減少させる
本実施例は、MED12-ヌル及びCCNC-ヌルHER2-4-1BBζ CAR-T細胞が、固形腫瘍成長を減少させ、CAR-T細胞投与の生存効果を高めることを示す実験結果について説明するものである。
【0215】
これらの実験では、約100万個の143B骨肉腫細胞を0日目に筋肉内注射し、500万個のCAR-T細胞又は偽形質導入T細胞を4日目に注入した。固形腫瘍をノギスで測定した。腫瘍径が17mm以上になった時点でマウスを屠殺した。図13に示されるように、MED12-ヌル及びCCNC-ヌルHER2-4-1BBζ CAR-T細胞は、固形腫瘍成長を減少させ(図1)、CAR-T細胞投与の生存効果を高める(図13B)ことが観察された。
【0216】
実施例11
MED12エクソン2の2つの切断部位を標的とすることにより、遺伝子欠失頻度が増加する
本実施例は、MED12エキソン2における2つの切断部位を標的とすることにより、遺伝子欠失頻度が増加することを示す実験結果について説明するものである。
【0217】
これらの実験では、Alt-R(登録商標)S.p.Cas9 Nuclease V3(IDT)をDuplex Buffer(IDT)で5mg/mLに希釈した。sgRNA(Synthego)をTE緩衝液で100μMに再懸濁した。1μLのCAS9及び1μLのsgRNAを合わせ、室温で30分間インキュベートした。2つのガイド条件については、各sgRNAを0.5μlずつ添加した。200万個のT細胞を18μLのP3緩衝液に再懸濁し、CAS9と混合し、P3 Primary Cell 4D-Nucleofector(商標)S Kit及び4D-Nucleofector(商標)System(Lonza)を用いてプロトコルEO115でパルスした。細胞を100μLの温培地で直ちに回収し、次いで、1mLの温培地に6時間かけて移した後、CARで形質導入した。3日目に編集を行い、11日目に遺伝子欠失を評価した。
【0218】
MED12又はCCNCの喪失がin vivoでの増殖を増加させることを実証するために、追加の実験を行った。腫瘍を有するマウスに注入して10日後に末梢血中のT細胞の頻度を評価した(例えば、図17参照)。これらの実験では、後眼窩静脈叢からEDTA入りMicrovette採血管(Fisher Scientific)に血液を採取した。全血を抗CD45(HI30、ThermoFisher)で標識し、製造業者の指示書に従ってFACS Lysing Solution(BD)で赤血球を溶血した。フローサイトメトリー解析の前に、サンプルをCountBright Absolute Countingビーズ(ThermoFisher)と混合した。
【0219】
実施例11に示される実験データは、高効率でMED12の欠失を効率的に最適化する方法を例示する。典型的なCRISPR改変プロトコルには、1つのガイドRNAの使用が含まれる。本実施例に記載の方法は、約50bpの間隔で2つのガイドの使用を含んでいた。このアプローチにより、単一ガイドを用いて生成された1bpインデル変異よりも高い頻度で生成された47bpインデルが得られた。
【0220】
実施例12
CCNC-ヌルHER2-4-1BBζ CAR-T細胞による投与は、腫瘍面積を減少させ生存を増加させる
本実施例は、CCNC-ヌルHER2-4-1BBζ CAR T細胞による投与が腫瘍面積を減少させ、CAR投与マウスの生存を増加させることを示す実験結果について説明するものである。
【0221】
これらの実験では、NSGマウスの腫瘍面積に1×10個の143B骨肉腫細胞を筋肉内注射し、4日後に5×10個のモック(偽)又はCCNC-若しくはMED12-ヌルHER2-4-1BBζ CAR-T細胞を投与した。腫瘍面積をノギスで測定した。Dunnettの多重比較検定による二元配置ANOVA検定。*P<0.01。図18Aに示されるように、腫瘍面積は、CCNC-ヌルHER2-4-1BBζ CAR-T細胞を投与したマウスで最も低かった。図18Bは、図18AにおけるCAR投与マウスについての生存率パーセントを示す図である。生存曲線をLog-rank Mantel-Cox検定で比較した。*P<0.01。
【0222】
細胞株:
【0223】
NALM-6白血病細胞及び143B骨肉腫細胞は、American Type Culture Collectionから入手した。細胞株にGFP及びホタルルシフェラーゼを安定的に形質導入した。Nalm6-GD2を、GD2シンターゼ及びGD3シンターゼを安定的に発現するように改変して、GD2ジシアロガングリオシドの表面発現を得た。GFP、ルシフェラーゼ、及びGD2が高発現するよう、単細胞クローンを選別した。10mMのHEPES、10%のFBS、及び1×ペニシリン-ストレプトマイシン-グルタミン補充物(Gibco)を補充したRPMI(Gibco)中で細胞株を維持した。
【0224】
マウス:
【0225】
免疫不全NOD scid IL2Rガンマヌル(NSG)マウスをJAXから購入し、無菌条件下で自社飼育した。マウスを1日1回モニタリングした。管理及び投与は、スタンフォード大学標準プロトコルに従った。白血病細胞及びCAR-T細胞を静脈内注射によって投与した。143B骨肉腫細胞を筋肉内注射によって投与した。いくつかの実験では、投与前に腫瘍量を評価し、投与群間で腫瘍量が等しくなるようにマウスを群に無作為化した。投与時間及び投与量を図に示す。研究者らは、T細胞の投与時に盲検化された。Lago SII(Spectral Instruments Imaging)を用いて、白血病の進行をモニタリングした。Auraソフトウェア(Spectral Instruments Imaging)を用いて、生物発光の定量を行った。注射された脚領域のノギス測定を用いて、固形腫瘍進行を追跡した。研究者はまた、固形腫瘍測定中、投与群に対して盲検化された。麻痺、運動障害、体調不良(スコアBC2-)が現れたとき、又は腫瘍径が17mmを超えた時点で、マウスを屠殺した。サンプルサイズは、これらのモデルに関する過去の経験に基づいて、1群当たり5例のマウスを選択した。全ての実験を、異なるドナーを用いて2回繰り返し、in vivo実験に使用したドナーは、スクリーニング実験とは異なった。
【0226】
実施例13
CCNC-ヌルHER2-4-1BBζ CAR-T細胞による投与は、生存を増加させる
本実施例は、CCNC-ヌルHER2-4-1BBζ CAR-T細胞による投与後に、CAR投与マウスの生存が増加することを示す実験結果について説明するものである。図19A図19Bは、CAR投与マウスの生存を示す。1群当たりのマウスの数を図の凡例に示す。腫瘍成長を生物発光イメージングによってモニタリングした。Dunnettの多重比較検定による二元配置ANOVA検定。*P<0.01。
【0227】
実験では、NSGマウスに1.0×10個のNALM6-GD2-Luc白血病細胞を静脈内注射し、腫瘍注入の9日後に2.0×10個のモック又はCCNC-若しくはMED12-ヌルHA-28ζ CAR-T細胞を投与した(n=5例のマウス)(例えば、図19C参照)。他の実験では、NSGマウスに1.0×10個のNALM6-Luc白血病を静脈内注射し、腫瘍注入の3日後に2.5×10個のモック又はCCNC-ヌル若しくはMED12-ヌルCD19-28ζ CAR-T細胞を投与した(n=5例のマウス)(例えば、図19D参照)。これらの実験において使用される細胞株及びマウスの更なる詳細は、上記の実施例12に提供されている。
【0228】
実施例14
MED12の喪失は、IL2RAの発現を増加させる
本実施例は、MED12の喪失がT細胞におけるIL2RAの発現を増加させることを示す実験結果について説明するものである。実験では、活性化後3日目に細胞をCRISPR編集し、続いてCD19-28z CARで形質導入した。IL2RAの発現を、活性化後15日目にフローサイトメトリーによって評価した。MED12欠損細胞が、増強されたエフェクター表現型を示すことが観察された。ATAC-seq解析によると、観察されたエフェクター表現型の増強は、IL2RAの下流にある転写因子STAT5の活性の増加に起因する場合がある。したがって、いかなる特定の理論にも拘束されるものではないが、IL2RA発現は、MED12欠損CAR-T細胞の重要な表現型特性であることが予想される。MED12非存在下でのIL2RA発現の増加が、非改変T細胞及びCAR-T細胞の両方において見出されたことは注目に値し、MED12喪失のメカニズムがCARの存在に依存しないことを示している。
【0229】
図20A及び図20Bは、これらの実験をグラフにまとめた図である。図20Aは、CD19-28z CAR構築物を発現するT細胞についての結果を示し、図20Bは、非形質導入T細胞についての結果を示す。これらの実験では、T細胞をFACS緩衝液(DPBSカルシウムなし、マグネシウムなし(Gibco)、2%FBS入り)で洗浄した。細胞を、細胞表面マーカーに特異的な抗体と共にFACS緩衝液中、氷上で20分間インキュベートした。細胞をFACS緩衝液で洗浄し、BD FACSDivaソフトウェアを備えたLSRFortessa(BD)で解析した。
【0230】
実施例15
MED12の喪失は、エフェクターメモリーT細胞表現型を増加させる
本実施例は、MED12の喪失がエフェクターメモリーT細胞表現型(CCR7低、CD45RO高)を増加させることを示す実験結果について説明するものである。
【0231】
これらの実験では、活性化の22日後にフローサイトメトリーによって細胞を評価した。図21Aは、CD19-28z CAR-T細胞のサイトメトリー結果を示し、この場合は以下の細胞型をゲーティングした:幹細胞様メモリーT細胞(SCM)、セントラルメモリーT細胞(CM)、エフェクターメモリーT細胞(EM)、及び最終分化T細胞(TE)。図21Bは、非形質導入T細胞について実施した並行実験結果を示す。
【0232】
実施例16
MED12欠損CD19-28z CAR-T細胞における酸素消費速度及び細胞外酸性化速度の増加
本実施例は、活性化の15日後のCD19-28z CAR-T細胞において、MED12の欠損が、酸素消費速度及び細胞外酸性化速度を増加させることを示すために行った実験結果について説明するものである。いかなる特定の理論にも拘束されるものではないが、酸素消費及び細胞外酸性化の上昇によって示される代謝活性の増加は、エフェクターT細胞の特徴と見なすことができ、これは、MED12の喪失がエフェクター表現型の増強を誘発するという仮説と一致する。
【0233】
Seahorse Assay(Agilent)を用いて、製造業者の指示書に従って、ミトコンドリアストレス試験を行った。図22は、ミトコンドリアストレス試験の結果を示す図である。これらの実験では、Seahorse Bioscience Analyzer XFe96を用いて代謝解析を行った。簡潔には、2×10個の細胞を、25mMのグルコース、2mMのグルタミン及び1mMのピルビン酸ナトリウムを補充したXFアッセイ培地に再懸濁し、Cell-Tak(Corning)でコーティングしたマイクロプレート上に播種して、CAR T細胞の接着を可能にした。ミトコンドリアストレス及び解糖パラメータを、それぞれ酸素消費速度(OCR)(pmol/分)及び細胞外酸性化速度(ECAR)(mPh/分)を介して、オリゴマイシン(1.5μM)、カルボニルシアニド-4(トリフルオロメトキシ)フェニルヒドラゾン(FCCP;1μM)、並びにロテノン及びアンチマイシン(ともに1μM)のリアルタイム注入を用いて測定した。呼吸パラメータを、製造業者の指示書(Seahorse Bioscience)に従って算出した。全ての化学物質は、特に明記しない限り、Agilentから購入したものである。
【0234】
本開示の特定の代替案が開示されているが、様々な修正及び組み合わせが可能であり、添付の特許請求の範囲の正確な趣旨及び範囲内で企図されることを理解されたい。したがって、本明細書に示される厳密な要約書及び開示に限定する意図はない。
参考文献
CRISPRライブラリー試薬の情報源
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DNA抽出及び配列決定方法
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その他の参考文献
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Lynn R.C.et al.c-Jun overexpression in CAR T cells induces exhaustion resistance.Nature.2019 Dec;576(7786):293-300.
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図6F
図7
図8
図9
図10A
図10B
図10C
図11
図12
図13
図14
図15A-1】
図15A-2】
図15B
図16A
図16B
図17
図18A
図18B
図19A
図19B
図19C
図19D
図20A
図20B
図21A
図21B
図22-1】
図22-2】
【配列表】
2023548510000001.app
【国際調査報告】