(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-17
(54)【発明の名称】治療用放射性標識ナノ粒子およびその使用方法
(51)【国際特許分類】
A61K 51/12 20060101AFI20231110BHJP
A61K 9/51 20060101ALI20231110BHJP
A61K 47/54 20170101ALI20231110BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20231110BHJP
A61K 9/19 20060101ALI20231110BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20231110BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20231110BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20231110BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20231110BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20231110BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20231110BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231110BHJP
A61K 49/18 20060101ALI20231110BHJP
【FI】
A61K51/12 200
A61K9/51
A61K47/54
A61K9/20
A61K9/19
A61K9/10
A61K9/08
A61K47/36
A61K31/7088
A61P35/04
A61K45/00
A61P43/00 121
A61K49/18
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023527020
(86)(22)【出願日】2021-11-03
(85)【翻訳文提出日】2023-06-30
(86)【国際出願番号】 US2021057912
(87)【国際公開番号】W WO2022098768
(87)【国際公開日】2022-05-12
(32)【優先日】2020-11-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】592017633
【氏名又は名称】ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100131990
【氏名又は名称】大野 玲恵
(72)【発明者】
【氏名】ルゥー ファー,マリアン
(72)【発明者】
【氏名】ヨー,ビョンヒ
(72)【発明者】
【氏名】メダロヴァ,ズドラフカ
(72)【発明者】
【氏名】シュバエフ,セルゲイ
(72)【発明者】
【氏名】キャラバン,ピーター
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA11
4C076AA22
4C076AA30
4C076AA36
4C076AA65
4C076BB13
4C076BB14
4C076BB15
4C076BB16
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4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZC75
(57)【要約】
本明細書において、放射性標識と、治療用ナノ粒子および放射性標識に共有結合しているキレーターと、治療用ナノ粒子に共有結合している核酸分子とを含む治療用ナノ粒子が提供される。治療用ナノ粒子は、約10ナノメートル(nm)~約30nmの直径を有し、治療用ナノ粒子は磁性を有する。また、これらの治療用ナノ粒子を含む医薬組成物も提供される。また、本明細書では、癌を有する対象における癌細胞の浸潤または転移を低減させる方法、および対象へのこれらの治療用ナノ粒子の投与を必要とする、対象のリンパ節における転移性癌を治療する方法が提供される。また、本明細書では、対象における転移性癌組織を検出、診断、および/またはモニタリングする方法が提供される。また、本明細書には、これらの治療用ナノ粒子を調製する方法が提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療用ナノ粒子であって、
放射性標識;
前記治療用ナノ粒子および前記放射性標識に共有結合しているキレーター;ならびに
前記治療用ナノ粒子に共有結合している核酸分子を含み、
約10ナノメートル(nm)~約30nmの間の直径を有し、
磁性を有する治療用ナノ粒子。
【請求項2】
前記キレーターが、第二級アミンを含む化学部分を介して治療用ナノ粒子に共有結合している、請求項1に記載の治療用ナノ粒子。
【請求項3】
前記キレーターが、1,4,7-トリアザシクロノナン,1-グルタル酸-4,7-酢酸(NODAGA)を含む、請求項1または2に記載の治療用ナノ粒子。
【請求項4】
前記キレーターが、DOTA、DOTA-GA、p-SCN-Bn-DOTA、CB-TE2A、CB-TE1A1P、AAZTA、MeCOSar、p-SCN-Bn-NOTA、NOTA、HBED-CC、THP、MAS
3、DFOまたはその任意の組合せを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の治療用ナノ粒子。
【請求項5】
前記放射性標識が銅-64(Cu-64)を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の治療用ナノ粒子。
【請求項6】
前記放射性標識が、銅-67(Cu-67)、イットリウム-90(Y-90)、テルビウム-161(Tb-161)、ルテチウム-177(Lu-177)、ビスマス-231(Bi-213)、鉛-212(Pb-212)、アクチニウム-225(Ac-225)、ジルコニウム-89(Zr)、またはその任意の組合せを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の治療用ナノ粒子。
【請求項7】
前記核酸分子が、少なくとも1つの修飾ヌクレオチドを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の治療用ナノ粒子。
【請求項8】
前記少なくとも1つの修飾ヌクレオチドがロックドヌクレオチドである、請求項7に記載の治療用ナノ粒子。
【請求項9】
前記核酸分子がアンタゴミルである、請求項1~8のいずれか一項に記載の治療用ナノ粒子。
【請求項10】
前記アンタゴミルがマイクロRNA-10b(miR-10b)を阻害する、請求項9に記載の治療用ナノ粒子。
【請求項11】
前記核酸分子が、ジスルフィド結合を含む化学部分を介してナノ粒子に共有結合している、請求項1~10のいずれか一項に記載の治療用ナノ粒子。
【請求項12】
酸化鉄コアを含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の治療用ナノ粒子。
【請求項13】
ポリマーコーティングをさらに含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の治療用ナノ粒子。
【請求項14】
前記ポリマーコーティングがデキストランを含む、請求項13に記載の治療用ナノ粒子。
【請求項15】
請求項1~14のいずれかに記載の治療用ナノ粒子を含む医薬組成物。
【請求項16】
少なくとも1つの薬学的に許容される担体または希釈剤をさらに含む、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
注入剤、錠剤、凍結乾燥粉末、懸濁剤、またはその任意の組合せである剤形に製剤化されている、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項18】
癌を有する対象において癌細胞の浸潤または転移を低減させる方法であって、前記癌を有する対象に請求項1~14のいずれか一項に記載の治療用ナノ粒子を投与することを含み、前記治療用ナノ粒子が、前記対象において癌細胞の浸潤または転移を低減させるのに十分な量で投与される、方法。
【請求項19】
前記治療用ナノ粒子が、約0.014mg/kg未満である用量で前記対象に投与される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記癌細胞の転移が、前記対象における原発性腫瘍からリンパ節への転移であるか、または対象におけるリンパ節から二次組織への転移である、請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
前記癌細胞が、乳癌細胞、結腸癌細胞、腎臓癌細胞、肺癌細胞、皮膚癌細胞、卵巣癌細胞、膵臓癌細胞、前立腺癌細胞、直腸癌細胞、胃癌細胞、甲状腺癌細胞、および子宮癌細胞からなる群から選択される、請求項18~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記対象の組織をイメージングして、前記対象の癌細胞の位置もしくは数、または前記対象の治療用ナノ粒子の位置を決定することをさらに含む、請求項18~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記対象のリンパ節における転移性癌を治療する方法であって、転移性癌を有する対象のリンパ節に請求項1~14のいずれか一項に記載の治療用ナノ粒子を投与することを含み、前記治療用ナノ粒子が、前記対象の前記リンパ節における前記転移性癌を治療するのに十分な量で投与される、方法。
【請求項24】
前記転移性癌が原発性乳癌に起因するものである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記投与することが、前記対象における転移性腫瘍のサイズの減少もしくは安定化、またはリンパ節における転移性腫瘍の成長速度の減少をもたらす、請求項23または24に記載の方法。
【請求項26】
前記対象における転移性癌組織を検出、診断、および/またはモニタリングするための方法であって、
請求項1~14のいずれか一項に記載の治療用ナノ粒子を、前記転移性癌組織を有する前記対象に投与すること;および
前記治療用ナノ粒子をイメージングすることを含み、
前記治療用ナノ粒子が、前記対象において前記治療用ナノ粒子をイメージングするのに十分な量で投与される、方法。
【請求項27】
前記イメージングすることが、磁気共鳴画像法(MRI)、陽電子放射断層撮影法(PET)、単光子放射コンピュータ断層撮影法(SPECT)、コンピュータ断層撮影法(CT)、またはその任意の組合せによって実施される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記治療用ナノ粒子が、前記対象に2回以上の用量で投与される、請求項18、23、または26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記治療用ナノ粒子が対象に少なくとも1週間に1回投与される、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記治療用ナノ粒子が、静脈内、皮下、動脈内、筋肉内、または腹腔内投与によって前記対象に投与される、請求項18、23、または26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記対象が化学療法剤をさらに投与される、請求項18、23、または26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
請求項1~14のいずれか一項に記載の治療用ナノ粒子を調製するための方法であって、
前記磁性ナノ粒子を調製すること;
前記核酸分子を前記磁性ナノ粒子に共有結合させること;
前記磁性ナノ粒子を、磁性ナノ粒子あたり約40キレーター当量の比率で前記キレーターと反応させることにより、前記キレーターを前記磁性ナノ粒子に共有結合させること;
64CuCl
2の溶液を前記磁性ナノ粒子に添加すること;および
前記
64CuCl
2の溶液と磁性ナノ粒子との混合物を精製して、治療用ナノ粒子を得ることを含む方法。
【請求項33】
前記キレーターを前記磁性ナノ粒子に共有結合させることが、約0℃~約8℃の温度で行われる、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記
64CuCl
2の溶液と磁性ナノ粒子との混合物を約40℃~約65℃の温度で加熱することをさらに含む、請求項32または33に記載の方法。
【請求項35】
前記混合物が約10分~約30分間加熱される、請求項34に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互参照
本出願は、2020年11月3日に出願された米国仮出願第63/109,298号の利益を主張する。前記の内容全体は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
連邦政府の支援による研究または開発
本発明は、米国国立衛生研究所の国立癌研究所から授与されたグラント番号CA16346101に基づく政府の支援を受けて行われた。政府は、本発明に対して一定の権利を有する。
【0003】
本開示は、ポリマーコーティングおよび共有結合された阻害性核酸を含む治療用放射性標識ナノ粒子、これらの治療用ナノ粒子を含む組成物、これらの治療用ナノ粒子の使用方法、およびこれらの治療用ナノ粒子の調製方法に関するものである。
【背景技術】
【0004】
原発性腫瘍細胞を標的とする従来の治療法は、しばしば転移性細胞に影響を与えず、実際には転移を促進する可能性がある。このことは、起源の器官が同じである限局性がんを有する患者の予後が良好であるにもかかわらず、転移性疾患と診断された患者の予後が悪いことを説明している(Steeg P.S. Nat. Rev. Cancer. 2016; 16:201-218)。これらの理由から、転移性腫瘍細胞の固有の性質に特化した治療法が必要とされている。これらの細胞は、原発腫瘍塊から抜け出して循環を移動し、転移の過程で新しい重要な器官に定着する能力を有する。重要なことは、これらの細胞は、腫瘍塊の大部分の細胞とは遺伝的および表現型的に異なっており、それぞれの原発腫瘍から遺伝子発現プロファイルが分岐した転移性病変を生み出すということである。
【発明の概要】
【0005】
本開示の特定の局面は、放射性標識を含む治療用ナノ粒子;治療用ナノ粒子および放射性標識に共有結合しているキレーター;および治療用ナノ粒子に共有結合している核酸分子に関し、治療用ナノ粒子は約10ナノメートル(nm)~約30nmの直径を有し、治療用ナノ粒子は磁性である。
【0006】
いくつかの実施形態では、キレーターは、第二級アミンを含む化学部分を介して治療用ナノ粒子に共有結合される。いくつかの実施形態では、キレーターは、1,4,7-トリアザシクロノナン、1-グルタル酸-4,7-酢酸(NODAGA)を含む。いくつかの実施形態では、キレーターは、DOTA、DOTA-GA、p-SCN-Bn-DOTA、CB-TE2A、CB-TE1A1P、AAZTA、MeCOSar、p-SCN-Bn-NOTA、NOTA、HBED-CC、THP、MAS3、DFOまたはこれらの任意の組合せを含む。いくつかの実施形態では、放射性標識は、銅-64(Cu-64)を含む。いくつかの実施形態では、放射性標識は、銅-67(Cu-67)、イットリウム-90(Y-90)、テルビウム-161(Tb-161)、ルテチウム-177(Lu-177)、ビスマス-231(Bi-213)、鉛-212(Pb-212)、アクチニウム-225(Ac-225)、ジルコニウム-89(Zr)またはこれらの任意の組合せを含む。いくつかの実施形態では、核酸分子は、少なくとも1つの修飾ヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの修飾ヌクレオチドは、ロックドヌクレオチドである。いくつかの実施形態では、核酸分子は、アンタゴミル(antagomir)である。いくつかの実施形態では、アンタゴミルは、マイクロRNA-10b(miR-10b)を阻害する。いくつかの実施形態では、核酸分子は、ジスルフィド結合を含む化学部分を介してナノ粒子に共有結合する。いくつかの実施形態では、治療用ナノ粒子は、酸化鉄コアを含む。いくつかの実施形態では、ナノ粒子は、ポリマーコーティングをさらに含む。いくつかの実施形態では、ポリマーコーティングは、デキストランを含む。
【0007】
他の局面において、本開示は、本明細書に開示される治療用ナノ粒子のいずれかを含む医薬組成物に関する。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、少なくとも1つの薬学的に許容される担体または希釈剤をさらに含む。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、注入剤、錠剤、凍結乾燥粉末、懸濁剤、またはその任意の組合せである剤型に製剤化されている。
【0008】
他の局面において、本開示は、癌を有する対象における癌細胞の浸潤または転移を低減させるための方法であって、本明細書に開示される治療用ナノ粒子のいずれかを、癌を有する対象に投与することを含み、治療用ナノ粒子が、対象における癌細胞の浸潤または転移を低減させるのに十分な量で投与される方法に関する。
【0009】
いくつかの実施形態では、治療用ナノ粒子は、約0.014mg/kg未満の用量で対象に投与される。いくつかの実施形態では、癌細胞の転移は、対象における原発腫瘍からリンパ節への転移であるか、または対象におけるリンパ節から二次組織への転移である。いくつかの実施形態では、癌細胞は、乳癌細胞、結腸癌細胞、腎臓癌細胞、肺癌細胞、皮膚癌細胞、卵巣癌細胞、膵臓癌細胞、前立腺癌細胞、直腸癌細胞、胃癌細胞、甲状腺癌細胞、および子宮癌細胞からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、本方法は、対象の組織をイメージングして、対象における癌細胞の位置もしくは数、または対象における治療用ナノ粒子の位置を決定することをさらに含む。
【0010】
他の局面において、本開示は、対象のリンパ節における転移性癌を治療する方法であって、本明細書に開示される治療用ナノ粒子のいずれかを、転移性癌を有する対象のリンパ節に投与することを含み、治療用ナノ粒子が、対象のリンパ節における転移性癌を治療するために十分な量で投与される、方法に関する。
【0011】
いくつかの実施形態では、転移性癌は、原発性乳癌から生じる。いくつかの実施形態では、投与することは、転移性腫瘍のサイズの減少もしくは安定化、または対象におけるリンパ節中の転移性腫瘍成長速度の減少をもたらす。
【0012】
他の局面において、本開示は、対象における転移性癌組織を検出、診断、および/またはモニタリングするための方法に関する。方法は、転移性癌組織を有する対象に、本明細書に開示される治療用ナノ粒子のいずれかを投与すること;および治療用ナノ粒子をイメージングすることを含み、治療用ナノ粒子は、対象において治療用ナノ粒子をイメージングするのに十分な量で投与される。
【0013】
いくつかの実施形態では、イメージングは、磁気共鳴画像法(MRI)、陽電子放射断層撮影法(PET)、単光子放射コンピュータ断層撮影法(SPECT)、コンピュータ断層撮影法(CT)、またはその任意の組合せによって実施される。いくつかの実施形態では、治療用ナノ粒子は、対象に2回以上の用量で投与される。いくつかの実施形態では、治療用ナノ粒子は、対象に少なくとも1週間に1回投与される。いくつかの実施形態では、治療用ナノ粒子は、静脈内、皮下、動脈内、筋肉内、または腹腔内投与によって対象に投与される。いくつかの実施形態では、対象は、化学療法剤をさらに投与される。
【0014】
他の局面において、本開示は、本明細書に開示される治療用ナノ粒子のいずれかを調製するための方法であって、磁性ナノ粒子を調製すること;核酸分子を磁性ナノ粒子に共有結合すること;磁性ナノ粒子を磁性ナノ粒子あたり約40キレーター当量の比率でキレーターと反応させることによってキレーターを磁性ナノ粒子に共有結合すること;64CuCl2溶液を磁性ナノ粒子に添加すること;および64CuCl2溶液と磁性ナノ粒子との混合物を精製して、治療用ナノ粒子を得ることを含む方法に関する。
【0015】
いくつかの実施形態では、キレーターを磁性ナノ粒子に共有結合させることは、約0℃~約8℃の温度で行われる。いくつかの実施形態では、本方法は、64CuCl2溶液と磁性ナノ粒子との混合物を約40℃~約65℃の温度で加熱することをさらに含む。いくつかの実施形態では、混合物は、約10分~約30分間加熱される。
【0016】
「磁性」という用語は、磁場に反応する組成物を説明するために使用される。磁性組成物の非限定的な例(例えば、本明細書に記載のナノ粒子組成物のいずれか)は、常磁性、超常磁性、強磁性、または反磁性である材料を含み得る。磁性組成物の非限定的な例は、マグネタイト;フェライト(例えば、マンガン、コバルト、およびニッケルのフェライト);Fe(II)酸化物;およびヘマタイト、ならびにそれらの金属合金の群から選択される金属酸化物を含む。さらなる磁性材料は、本明細書に記載されており、当技術分野において公知である。
【0017】
用語「反磁性」は、1以下である相対的な透磁率を有し、磁場によって忌避される組成物を説明するために使用される。
【0018】
用語「常磁性」は、外部から印加される磁場の存在下でのみ磁気モーメントを発現する組成物を説明するために使用される。
【0019】
用語「強磁性」または「強磁性」は、磁場の影響を強く受け、外部から印加された磁場が除去された後に磁気特性(磁気モーメント)を保持することができる組成物を説明するために使用される。
【0020】
用語「ナノ粒子」は、約2nm~約200nm(例えば、10nm~200nm、2nm~100nm、2nm~40nm、2nm~30nm、2nm~20nm、2nm~15nm、100nm~200nm、および150nm~200nm)の直径を有する物体を意味する。ナノ粒子の非限定的な例としては、本明細書に記載のナノ粒子が挙げられる。
【0021】
用語「磁性ナノ粒子」は、磁性(本明細書で定義される)であるナノ粒子(例えば、本明細書に記載のナノ粒子のいずれか)を意味する。磁性ナノ粒子の非限定的な例は、本明細書に記載されている。さらなる磁性ナノ粒子は、当技術分野で公知である。
【0022】
用語「核酸」は、任意の一本鎖または二本鎖のポリヌクレオチド(例えば、DNAまたはRNA、cDNA、半合成、または合成起源)を意味する。核酸という用語は、少なくとも1つの修飾ヌクレオチド(例えば、塩基における修飾および/または糖における修飾を含む)および/または2つのヌクレオチドを連結するホスホジエステル結合における修飾を含むオリゴヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態では、核酸は、少なくとも1つのロックドヌクレオチド(LNA)を含み得る。核酸の非限定的な例は、本明細書に記載されている。核酸のさらなる例は、当技術分野で公知である。
【0023】
用語「修飾ヌクレオチド」は、その塩基に少なくとも1つの修飾を含む、および/またはその糖(リボースまたはデオキシリボース)に少なくとも1つの修飾を含む、DNAまたはRNAヌクレオチドを意味する。また、核酸配列中の隣接する2つのヌクレオチド間のホスホジエステル結合を形成する原子にも修飾を含むことができる。
【0024】
用語「ポリマーコーティング」は、三次元物体(例えば、金属酸化物等の磁性材料を含む三次元物体)の表面に塗布される少なくとも1つのポリマー(例えば、デキストラン)の少なくとも1つの(例えば、均質または非均質)分子層を意味する。ポリマーコーティングを生成するために使用することができるポリマーの非限定的な例は、本明細書に記載されている。ポリマーコーティングを生成するために使用することができるポリマーのさらなる例は、当技術分野で公知である。ポリマーコーティングを物体(例えば、磁性材料を含む三次元物体)に塗布するための方法は、本明細書に記載されており、当技術分野でも公知である。
【0025】
「癌細胞の浸潤」という語句は、対象の非癌性組織への癌細胞の遊走を意味する。癌細胞の浸潤の非限定的な例としては:リンパ節、リンパ、血管系(例えば、血管の外膜、中膜、または内膜)、または上皮組織または内皮組織への癌細胞の遊走が挙げられる。癌細胞の浸潤を検出および決定するための例示的な方法が、本明細書に記載されている。癌細胞の浸潤を検出および決定するためのさらなる方法は、当技術分野において公知である。
【0026】
用語「転移」は、原発性腫瘍に存在する癌細胞の、対象における二次非隣接組織への遊走を意味する。転移の非限定的な例としては:原発腫瘍からリンパ節(例えば、局所リンパ節)、骨組織、肺組織、肝臓組織、および/または脳組織への転移が挙げられる。また、転移という用語は、リンパ節で見つかった転移性癌細胞の二次組織(例えば、骨組織、肝臓組織、または脳組織)への遊走を含む。いくつかの非限定的な実施形態では、原発性腫瘍に存在する癌細胞は、乳癌細胞、結腸癌細胞、腎臓癌細胞、肺癌細胞、皮膚癌細胞、卵巣癌細胞、膵臓癌細胞、前立腺癌細胞、直腸癌細胞、胃癌細胞、甲状腺癌細胞、または子宮癌細胞である。転移のさらなる局面および例は、当技術分野で公知であるか、または本明細書に記載されている。
【0027】
用語「原発性腫瘍」は、腫瘍の進行が始まり、進行して癌性塊をもたらす解剖学的部位に存在する腫瘍を意味する。いくつかの実施形態では、医師は、対象における原発性腫瘍の部位を明確に識別できない可能性がある。
【0028】
用語「転移性腫瘍」は、対象の原発性腫瘍から転移した腫瘍細胞に由来する、対象の腫瘍を意味する。いくつかの実施形態では、医師は、対象における原発性腫瘍の部位を明確に特定できない場合がある。
【0029】
用語「リンパ節」は、Bリンパ球、Tリンパ球、およびマクロファージを含む様々な細胞を含む免疫系の小さな球形または楕円形の器官であって、リンパ管によってリンパ系に接続されている器官を意味する。哺乳動物には様々なリンパ節、例えば:腋窩リンパ節(例えば、側腺、前または大胸筋腺、後または肩甲下腺、中央または中間腺、または内側または鎖骨下腺)、センチネルリンパ節、顎下リンパ節、前頸部リンパ節、後頸部リンパ節、鎖骨上リンパ節、頤下リンパ節、大腿骨リンパ節、腸間膜リンパ節、縦隔リンパ節、鼠径リンパ節、亜区域リンパ節(subsegmental lymph node)、分節リンパ節、小葉リンパ節、葉間リンパ節、肺門リンパ節、滑車上腺(supratrochlear gland)、三角筋胸筋腺(deltoideopectoral gland)、表鼠径リンパ節、深鼠径リンパ節、上腕リンパ節、および膝窩リンパ節が存在するが、これらに限定されない。
【0030】
用語「イメージング」は、生物物理学的技術(例えば、電磁エネルギーの吸収および/または放出)を用いた対象の少なくとも1つの組織の可視化を意味する。イメージングの非限定的な実施形態には、磁気共鳴イメージング(MRI)、X線コンピュータ断層撮影、および光イメージングが含まれる。
【0031】
用語「対象」または「患者」は、本明細書で使用される場合、本開示の組成物または方法が、例えば、実験、診断、予防、および/または治療目的のために投与され得る任意の哺乳動物(例えば、ヒトまたは獣医学的対象、例えば、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、マウス、ラット、またはウサギ)を指す。対象は、特定の疾患または状態について、治療を求める、もしくは必要とするか、治療を要求するか、治療を受けているか、治療を受ける予定か、または訓練された専門家によるケア下にあってもよい。
【0032】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用されるように、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈上明らかに異なる指示がある場合を除いて、複数の参照語を含む。したがって、例えば、「ナノ粒子」への言及は、ナノ粒子の混合物を含み、「ナノ粒子」への言及は、2つ以上のそのようなナノ粒子の混合物等を含む。
【0033】
範囲は、本明細書において、ある特定の値の「約」から、および/または他の特定の値の「約」までとして表現され得る。このような範囲が表現される場合、他の実施形態は、1つの特定の値から、および/または他の特定の値までを含む。同様に、値が近似値として表現される場合、先行詞「約」の使用により、特定の値が他の実施形態を形成することは理解されるであろう。各範囲の終点は、他の終点との関係においても、他の終点から独立しても有意であることはさらに理解されよう。
【0034】
「化学療法剤」という用語は、対象(例えば、ヒト)において、癌細胞の成長速度を低下させるため、または癌細胞の死(例えば、ネクローシスまたはアポトーシス)を誘導または媒介するために使用することができる分子を意味する。非限定的な例では、化学療法剤は、低分子、タンパク質(例えば、抗体、抗体の抗原結合性断片、またはその誘導体もしくはコンジュゲート)、核酸、またはその任意の組合せであり得る。化学療法剤の非限定的な例としては:シクロホスファミド、メクロレタミン、クロラブシル、メルファラン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、ミトキサントロン、バルビシン、パクリタキセル、ドセタキセル、エトポシド、テニポシド、タフルポシド、アザシチジン、アクサチオプリン、カプシタビン、シタラビン、ドキシフルリジン、フルオロウラシル、ゲムシタビン、メルカプトプリン、メトトレキサート、チオグアニン、ブレオマイシン、カルボプラチン、シスプラチン、オキサリプラチン、オールトランスレチン酸、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビノレルビン、ベバシズマブ(またはその抗原結合性断片)が挙げられる。化学療法剤のさらなる例は、当技術分野で公知である。
【0035】
以下に開示される実施形態は、ポリマーコーティングおよび共有結合している阻害性核酸を含む治療用放射性標識ナノ粒子、これらの治療用ナノ粒子を含む組成物、これらの治療用ナノ粒子を使用する方法、およびこれらの治療用ナノ粒子を調製する方法を含む。本明細書に記載の治療用ナノ粒子、組成物、および方法のいくつかの実施形態は、以下の利点の1つまたは複数を提供し得る。
【0036】
第1に、本開示の特定の実施形態は、それを必要とする対象における疾患(例えば、癌)の治療、予防、診断、および/またはイメージングのために、ナノ粒子組成物のいずれかを使用する方法を含む。現在、治療および/または診断目的のために、転移組織に有意に蓄積することができる改善された治療薬が必要とされている。本開示の治療用ナノ粒子、組成物および方法は、この必要性に対処する。例えば、いくつかの実施形態では、本明細書に記載の治療用ナノ粒子は、転移組織において蓄積することができる。いくつかの実施形態では、治療用ナノ粒子は、治療用ナノ粒子のイメージングを(例えば、陽電子放射断層撮影(PET)を介して)可能にする放射性標識を含むことができる。いくつかの実施形態では、治療用ナノ粒子は、転移巣の完全かつ持続的な退縮を引き起こし得る阻害性核酸をさらに含むことができる。したがって、いくつかの実施形態では、本開示の治療用ナノ粒子は、転移組織を効果的に標的とすることができる。
【0037】
第2に、本明細書に記載のいくつかの実施形態は、ピコモル以下の範囲に近づく感度で放射性標識薬剤の濃度を決定するのに十分な感度(例えば、イメージング技術としてPETを使用)を提供し得る。したがって、いくつかの実施形態では、治療用ナノ粒子は、好都合には、1マイクログラム程度の用量を投与しながら検出および/またはイメージングすることができる。この特性は、薬剤開発の初期段階において大きな利点を有する。このような低用量は有害な副作用を誘発しないため、初期のヒト試験に対する米国食品医薬品局からの承認は、治療剤に必要とされるよりも迅速に、かつより限定された前臨床安全性および毒性学資料で得ることができる。
【0038】
第3に、本明細書に記載のいくつかの実施形態は、癌患者における治療用ナノ粒子の生体内分布を明らかにし得る。癌治療薬の開発が直面する主要な課題の1つは、標的器官への効果的な送達にある。転移巣への薬剤送達の場合、複雑化する要因としては、動物モデルと比較して病変のサイズが大きいこと、ヒト疾患の不均一性、および種間血行力学的変動による薬剤の薬物動態の差異が挙げられる。これらの差異に基づいて、前臨床の生体内分布と有効性データから、治療剤の臨床的実施の成功の証明を直接推定することは可能ではない。治療用マイクロドーズ乃至治療用マクロドーズの同等の生体内分布(例えば、
図11A~11Dを参照)に基づき、本明細書に記載の特定の実施形態は、約0.014mg/kgを超える用量を投与する必要なく治療用ナノ粒子の薬物動態挙動を明らかにし、治療中の投薬を確立するのに役立つ可能性があり、どの患者の転移が治療用ナノ粒子を蓄積するかに基づいて治療についての患者の選択を可能にし得る。
【0039】
本開示において値が範囲の観点から記載される場合、終点が含まれる。さらに、特定の数値または特定のサブレンジが明示的に記載されているかにかかわらず、そのような範囲内の全ての可能なサブレンジ、ならびにそのような範囲内に入る特定の数値の開示が記載に含まれることは理解されるべきである。
【0040】
本開示の特徴の様々な実施形態が本明細書で記載される。しかしながら、そのような実施形態は単に例示として提供され、本開示の範囲から逸脱することなく、当業者にしたがって多数の変形、変更、および置換が起こり得ることは理解されたい。また、本明細書に記載の特定の実施形態に対する様々な代替も、本開示の範囲内にあることも理解されたい。
【0041】
特に定義しない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野における当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。方法および材料は、本発明で使用するために本明細書に記載されているが、当技術分野で公知の他の、適切な方法および材料も使用することができる。材料、方法、および実施例は、例示的なものに過ぎず、限定することを意図していない。本明細書に言及された全ての刊行物、特許出願、特許、配列、データベースエントリ、および他の参考文献は、参照によりその全体が組み込まれる。矛盾がある場合、定義を含む本明細書が支配的となる。
【0042】
本発明の1つまたは複数の実施形態の詳細は、添付の図面および以下の説明に記載されている。本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明、図面、および特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】
図1Aは、デキストランコーティングおよびmiRNA-10bを標的とするアンチセンスLNAオリゴヌクレオチドを有する例示的な治療用磁性ナノ粒子(MN-抗miR10b)を示す図である。
図1Bは、MN-抗miR10bまたは抗miR10b核酸ではなくスクランブル核酸を含む対応する磁性ナノ粒子(MN-scr-miR)との48時間のインキュベーション後のヒト転移性乳癌細胞において、定量逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(qRT-PCR)により決定したmiR-10b発現レベルを示すグラフである。示されるデータは、平均±標準偏差として表される(n=3;
**、p<0.01)。
【
図2】
図2Aは、リン酸緩衝液生理食塩水(PBS)(陰性対照)、低用量のドキソルビシン単独(dox)、抗miR10b核酸ではなくスクランブル核酸を含む磁性ナノ粒子(MN-scr-miR)、スクランブル核酸と低用量のドキソルビシンを含む磁性ナノ粒子(MN-scr-miR+dox)、MN-抗miR10b、およびMN-抗miR10bと低用量のドキソルビシン(MN-抗miR10b+dox)での処理後48時間のヒト転移性乳癌細胞の細胞形態を示す6枚の顕微鏡写真のセットである。
図2Bは、前記の各条件におけるアポトーシス細胞のパーセントを示すグラフである。
図2Cは、前記の各条件についての細胞増殖のパーセントを示すグラフである。
図2Dは、前記の各条件についての、G
1前のアポトーシス細胞およびG
2/M停止細胞集団を示すヒト転移性乳癌細胞のフローサイトメトリーデータの6つのグラフのセットである。(データは平均±標準偏差を表す;両側t検定;n=3)。
【
図3】
図3Aは、miR-10bノックアウトを確認するゲル電気泳動の画像である。
図3Bは、ノックアウトベクターセット(TALEN L+R)によるトランスフェクションの24時間後および72時間後に撮影した腫瘍細胞の6枚の顕微鏡写真のセットである。
【
図4】
図4Aは、MN-抗miR10bの蓄積を示す転移を有する切除器官の生物発光イメージング(BLI)を用いて生成された7枚の巨視的画像のセット、および近赤外線蛍光(NIRF)イメージングを用いて生成された7枚の巨視的画像のセットである。
図4Bは、ヘマトキシリン・エオシン(H&E)で染色した切除器官の7枚の顕微鏡写真のセットと、Cy5.5で蛍光染色した切除器官の7枚の顕微鏡写真のセットである。
図4Cは、左側に、in vivoでの脳転移へのMN-抗miR10b送達のBLIおよびNIRF画像を示し;右側において、3枚の蛍光顕微鏡の顕微鏡写真はルシフェラーゼ発現腫瘍細胞におけるMN-抗miR10b(MN上のCy5.5)の蓄積を示す。
【
図5-1】
図5Aは、PBS(陰性対照)、抗miR10b核酸ではなくスクランブル核酸を含む磁性ナノ粒子(MN-scr-miR)、スクランブル核酸と低用量のドキソルビシンを含む磁性ナノ粒子(MN-scr-miR+dox)、MN-抗miR10b、およびMN-抗miR10bと低用量のドキソルビシン(MN-抗miR10b+dox)で処理した動物における転移性負担の生物発光画像のセットである。
【
図5-2】
図5Bは、ちょうど4週間の治療後の実験動物のリンパ節における転移性負担の完全な退縮を示す、全ての処理群からの転移性負担の定量分析を示すグラフである。バックグラウンドカウントは、腫瘍非保有動物から得られたものである。
図5Cは、MN-抗miR10b+doxで処理したマウスにおいて、検出可能なリンパ節または肺転移がないことを示す、ex vivo器官の生物発光画像および写真のセットである。対照処理は、PBS、MN-scr-miR、MN-scr-miR+dox、およびMN-抗miR10bを含む。
図5Dは、研究の時間経過を通して、マウスの体重を示すグラフである。
図5Eは、PBS、MN-scr-miR、MN-scr-miR+dox、MN-抗miR10b、およびMN-抗miR10b+doxで処理したマウスの生存確率を示すグラフである。(データは平均値±標準誤差を表す;対象内ANOVA:p<0.05。PBS、n=2;MN-scr-miR、n=6;MN-scrmiR+dox、n=10;MN-抗miR10b、n=7;MN-抗miR10b+dox、n=10)。
【
図6】
図6Aは、転移性負担を示すマウスの生物発光画像のセットである。
図6Bは、全ての処理群における相対的な転移性負担の定量分析を示すグラフである。
図6Cは、PBS、HD Dox、MN-scr-miR+dox、およびMN-抗miR10b+doxで処理したマウスの生存率を示すグラフである。
図6Dは、MN-抗miR10bで処理した動物において肺転移の証拠がないことを示す、壊死後の肺の3枚の画像のセットである。
【
図7】
図7は、
nat/64Cu-MN-抗miR10bの調製を示す概略図である:工程1.MN-NH
2とNODAGA-NHSとのカップリング反応によるNODAGA-MNの形成。工程2.ヘテロ二官能性リンカーであるSPDPによる官能化。工程3.ジスルフィド結合を介して抗miR10bアンタゴミルとのコンジュゲートによるNODAGA-MN-抗miR10bの形成。工程4.
natCuCl
2または
64CuCl
2との錯形成反応により
nat/64Cu-MN-抗miR10bをもたらす。
【
図8】
図8Aは、iTLCによって確認された放射化学的純度を示すグラフであり;(上)非標識Cu-64、(中)
64Cu-MN-抗miR10bおよび非標識Cu-64の分離、および(下)PD-10精製後の64Cu-MN-抗miR10b。
図8Bは、サイズ排除クロマトグラフィーを用いた
64Cu-MN-抗miR10bの高速液体クロマトグラフィー(HPLC)トレース(上)および254nmにおけるUVトレース(下)を示す。
図8Cは、Cu-MN-抗miR10bおよびnatCu-MN-抗miR10bの2つの透過電子顕微鏡(TEM)像のセットである。
図8Dは、TEMおよび動的光散乱(DLS)により特徴付けられるナノ粒子サイズを示すグラフである。
図8Eは、乳房腺癌細胞によるin vitro細胞取込みを示すグラフである。
図8Fは、標的会合(miR-10bの阻害)を示すqRT-PCRによって決定されたmiR-10b相対発現のレベルを示すグラフである。
natCuは、natCu-MN-抗miR10bの調製のために利用された(t-検定、n=3、
**P<0.01)。
【
図9】
図9は、MN-抗miR10bナノ粒子の放射性標識のための概略的な例示的合成経路である。
【
図10】
図10は、本開示の磁性放射性標識ナノ粒子を調製するために使用し得る例示的なキレーターのセットである。
【
図11】
図11Aは、
64Cu-MN-抗miR10bのマイクロドーズ投与後24時間および48時間に測定されたex vivo生体内分布(%ID/g)を示すグラフである。
図11Bは、
64Cu-MN-抗miR10bの治療担体添加マクロドーズの投与後24時間および48時間に測定されたex vivo生体内分布(%ID/g)を示すグラフである。挿入図は肝臓および脾臓における%ID/gの値を示す。
#はBLIで検出された転移のある器官を示す。エラーバーは、平均値の標準誤差を表す。
図11Cおよび11Dは、注入後24時間(
図11C)および48時間(
図11D)における、マイクロドーズ投与後に得られた非転移性器官の%ID/gとマクロドーズ投与後に得られた%ID/gとの相関を示すグラフである(
図11Cおよび11D ピアソン積率相関、破線は同一線に対応する)。
【
図12】
図12A、12B、および12Cは、
64Cu-MN-抗miR10bのマイクロドーズを投与されたマウス(n=3)の心臓(
図12A)、腎臓(
図12B)、および肝臓(
図12C)における注入後5分~48時間の陽電子放射断層(PET)画像から得られた時間-活性曲線を示すグラフである。エラーバーは、標準偏差を表す。
【
図13】
図13Aは、注入後24時間に測定された、マイクロドーズ及び標準治療用量(マクロドーズ)を注入された
64Cu-MN-抗miR10bの生体内分布を示すグラフである。
図13Bは、注入後48時間に測定された、マイクロドーズおよび標準治療用量(マクロドーズ)を注入された
64Cu-MN-抗miR10bの生体内分布を示すグラフである。
#はBLIにより検出された転移のある器官を示す。結果は、%ID/gで表現される。エラーバーは、標準偏差を表す。(t-検定、
*P<0.05、
**P<0.01)。
【
図14】
図14Aは、
64Cu-MN-抗miR10bのマイクロドーズまたはマクロドーズの注入から24時間後の転移性乳腺癌を有するマウスのin vivo PET-MRI最大強度投影(MIP)画像のセットである。黄色の矢印は、骨またはリンパ節(LN)転移を指す。
図14Bは、注入後24時間のin vivo PET画像から得られた転移性(Mets+)および非転移性(Mets-)器官における
64Cu-MN-抗miR10b蓄積の定量化を示すグラフである(%ID/cc)。非転移性器官と比較して、転移性器官のシグナル強度が高いことから、転移巣による治療薬の取込みが確認される。白丸はマイクロドーズを注入されたマウスを表し、黒丸はマクロドーズを注入されたマウスを表す。
図14Cは、骨およびリンパ節転移のex vivo PET-MRI画像のセットである。左から:転移性病変のin vivo BLI、ex vivo PET、およびex vivo白色光写真である。
図14Dは、マイクロドーズ注入の48時間後およびマクロドーズ注入の24時間後にPETによって可視化された
64Cu-MN-抗miR10bの生体内分布のex vivo画像のセットである。
【
図15】
図15は、転移性(Mets+)および非転移性(Mets-)骨(n=3)における
64Cu-MN-抗miR10bのマイクロドーズの注入後5分~48時間のPETイメージングから得られる時間-活性曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本明細書に記載の治療用ナノ粒子は、哺乳動物における癌転移を検出し、哺乳動物における癌細胞の浸潤および癌転移を低減させることが見出された。これらの活性を有する治療用ナノ粒子は、本明細書において、対象における癌細胞の浸潤または転移を低減させる方法、対象におけるリンパ節への転移癌を治療する方法、およびこれらの治療用ナノ粒子を投与することにより対象における転移性癌組織を検出、診断、および/またはモニタリングする方法と同様に提供される。本開示の治療用ナノ粒子を調製する方法もまた、本明細書に提供される。
【0045】
組成物
本明細書に提供されるのは、治療用ナノ粒子と放射性標識とに共有結合しているキレーターと、治療用ナノ粒子と共有結合している核酸分子とを含む治療用ナノ粒子である。
【0046】
キレーター
本明細書に記載の治療用ナノ粒子は、治療用ナノ粒子に共有結合している少なくとも1つのキレーターを含み得る。いくつかの実施形態では、キレーターは、放射性標識と安定な錯体を形成する。いくつかの実施形態では、キレーターは、放射性標識に結合する。
【0047】
いくつかの実施形態では、治療用ナノ粒子は、各治療用ナノ粒子に共有結合している約1個のキレーター~約15個のキレーター(例えば、約1個のキレーター~約11個のキレーター、約1個のキレーター~約12個のキレーター、約1個のキレーター~約13個のキレーター、約1個のキレーター~約14個のキレーター、約1個のキレーター~約15個のキレーター、約11個のキレーター~約12個のキレーター、約11個のキレーター~約13個のキレーター、約11個のキレーター~約14個のキレーター、または約11個のキレーター~約15個のキレーター)を含み得る。いくつかの実施形態では、治療用ナノ粒子は、各治療用ナノ粒子に共有結合している約13個のキレーターを含み得る。
【0048】
治療用ナノ粒子に共有結合し得る様々な異なるキレーターが、当技術分野で公知である。そのようなキレーターの非限定的な例としては、1,4,7-トリアザシクロノナン、1-グルタル酸-4,7-酢酸(NODAGA)、1,4,7,10-テトラザシクロドデカン1,4,7,10-テトライル)四酢酸(DOTA)、10-(2,6-ジオキソテトラヒドロー2Hピラン-3-イル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-トリイル)三酢酸(DOTA-GA)、2-[4,7,10-トリス(カルボキシメチル)-6-[(4-イソチオシアナートフェニル)メチル]-1,4,7,10-テトラザシクロドデカ-1-イル]酢酸(p-SCN-Bn)-DOTA,2,2’-(1,4,8,11-テトラアザビシクロ〔6.6.2]ヘキサデカン-4,11-ジイル)二酢酸(CB-TE2A)、CB-TE1A1P、1,4-ビス(カルボキシメチル)-6-[ビス(カルボキシメチル)]アミノ-6-メチルペルヒドロ-1,4-ジアゼピン(AAZTA)、5-(8-メチル-3,6,10,13,16,19-ヘキサアザビシクロ[6.6.6]イコサン-1-イルアミノ)-5-オキソペンタン酸(MeCOSar)、2-S-(4-イソチオシアナートベンジル)-1,4,7-トリアザシクロノナン-1,4,7-三酢酸(p-SCN-Bn)-NOTA、1,4,7-トリアザシクロノナン-1,4,7-三酢酸(NOTA)、N,N’-ビス-[2-ヒドロキシ-5-(カルボキシエチル)ベンジル]エチレンジアミン-N,N’-二酢酸)(HBED-CC)、トリス(ヒドロキシピリジノン)(THP)、MAS3、およびデスフェロキサミン(DFO)が挙げられる。
【0049】
さらなるキレーターも、Price and Ovig (Chem. Soc. Rev., 2014, 43, 260-290), Boros and Packard (Chem. Rev. 2019, 119, 2, 870-901), Barndt et al. (J. Nucl. Med., 2018, 59, 1500-1506), and Sneddon and Cornelissen (Curr. Opin. Chem. Biol., 2021, 63, 152-162)(それぞれは参照によってその全体が組み込まれる)に記載されている。
【0050】
いくつかの実施形態では、キレーターは、第一級アミン、第二級アミン、アミド、チオエステル、またはジスルフィド結合を含む化学部分を介して治療用ナノ粒子に結合する。キレーターを治療用ナノ粒子に共有結合させるために使用できるさらなる化学部分は、当技術分野で公知である。
【0051】
キレーターを治療用ナノ粒子に共有結合させるために、様々な異なる方法を使用することができる。いくつかの実施形態では、フルオロフォアは:アミン基(キレーター中または治療用ナノ粒子上に存在する)と活性エステル、カルボキシレート、イソチオシアネート、またはヒドラジン(例えば、キレーター中または治療用ナノ粒子上に存在する)の反応;カルボジイミドの存在下でのカルボキシル基(例えば、キレーター中または治療用ナノ粒子上に存在する)の反応;マレイミドの存在下でのチオール(例えば、キレーター中または治療用ナノ粒子上に存在する)の反応;マレイミドまたは臭化アセチルの存在下でのチオール(例えば、キレーター中または治療用ナノ粒子上に存在する)の反応;またはグルタルアルデヒドの存在下でのアジド(例えば、キレーター中または治療用ナノ粒子上に存在する)の反応を通して治療用ナノ粒子に結合する。キレーターを治療用ナノ粒子に結合させるためのさらなる方法は、当技術分野で公知である。
【0052】
いくつかの実施形態では、治療用ナノ粒子は、キレーターを含まない。いくつかの実施形態では、治療用ナノ粒子は、治療用ナノ粒子に直接会合される(例えば、共有結合される)放射性標識を含み得る。
【0053】
放射性標識
本明細書に記載の治療用ナノ粒子は、放射性標識を含む。いくつかの実施形態では、放射性標識は、ナノ粒子に会合することができる。例えば、いくつかの実施形態では、放射性標識は、リンカーを介して治療用ナノ粒子に共有結合または非共有結合で結合し得る。いくつかの実施形態では、放射性標識は、治療用ナノ粒子に直接、共有結合または非共有結合で結合させることができる。いくつかの実施形態では、放射性標識は、治療用ナノ粒子、または治療用ナノ粒子を取り囲む組成物もしくは部分と(例えば、ファンデルワールス力を介して)会合することができる。いくつかの実施形態では、放射性標識は、キレーターを使用せずに治療用ナノ粒子と会合することができる(例えば、治療用ナノ粒子がキレーター非含有である場合)。いくつかの実施形態では、放射性標識は、キレーターを用いて治療用ナノ粒子に会合し得る。いくつかの実施形態では、放射性標識は、キレーターと安定な錯体を形成する。
【0054】
いくつかの実施形態では、治療用ナノ粒子は、治療用ナノ粒子あたり、約1個の放射性標識原子~約15個の放射性標識原子(例えば、約1個の放射性標識原子~約11個の放射性標識原子、約1個の放射性標識原子~約12個の放射性標識原子、約1個の放射性標識原子~約13個の放射性標識原子、約1個の放射性標識原子~約14個の放射性標識原子、約1個の放射性標識原子~約15個の放射性標識原子、約13個の放射性標識原子の~約14個の放射性標識原子、約13個の放射性標識原子~約15個の放射性標識原子)を含み得る。いくつかの実施形態では、治療用ナノ粒子は、各ナノ粒子に(例えば、キレーターを介して)会合した約14個の放射性標識原子を含み得る。
【0055】
いくつかの実施形態では、放射性標識は、約550キロ電子ボルト(keV)~約3500keVの範囲(例えば、約550keV~約580keV、約550keV~約640keV、約550keV~約660keV、約550keV~約770keV、約550keV~約910keV、約579keV~約1200keV、約579keV~約1900keV、約579keV~約3500keV)の放出エネルギー(例えば、β+エネルギー)を有する。いくつかの実施形態では、放射性標識は、約656keVの放出エネルギーを有する。いくつかの実施形態では、放射性標識は、フッ素-18(F-18)の放出エネルギーと同等(例えば、±25keV)の放出エネルギーを有する。いくつかの実施形態では、放射性標識は、約656keVの放出エネルギーを有する。
【0056】
いくつかの実施形態では、放射性標識は、高分子および/または血液プール剤の遅い薬物動態の適切な評価を可能にする半減期を有する。いくつかの実施形態では、放射性標識は、約10分~約80時間(例えば、約10分~約13時間、約70分~約13時間、約110分~約13時間、約13時間~約26時間、約13時間~約80時間)の範囲の半減期を有する。いくつかの実施形態では、放射性標識は、約12.7時間の半減期を有する。
【0057】
治療用ナノ粒子に会合(例えば、共有結合または非共有結合)し得る様々な異なる放射性標識が、当技術分野で公知である。そのようなキレーターの非限定的な例としては、銅-64(Cu-64)、F-18、スカンジウム-44(Sc-44)、コバルト-55(Co-55)、ニオブ-90(Nb-90)、レニウム-188(Re-188)、タリウム-201(Tl-201)、銅-67(Cu-67)、イットリウム-90(Y-90)、テルビウム-161(Tb-161)、ルテチウム-177(Lu-177)、ビスマス-213(Bi-213)、鉛-212(Pb-212)、アクチニウム-225(Ac-225)およびジルコニウム-89(Zr)が挙げられる。いくつかの実施形態では、放射性標識は、Cu-64である。
【0058】
核酸
本明細書で提供される治療用ナノ粒子は、前駆体マイクロRNA-10b(miR-10b)の配列内に少なくとも10(例えば、少なくとも11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21または22)の連続ヌクレオチドを含むナノ粒子に共有結合した少なくとも1つの核酸分子を含む。いくつかの実施形態では、核酸分子は、前駆体miR-10bの配列を含む。いくつかの実施形態では、治療用ナノ粒子は、前駆体miR-10bの配列内の少なくとも10(例えば、少なくとも11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、または23)の連続ヌクレオチドに相補的である配列を含み得る。
【0059】
いくつかの実施形態では、治療用ナノ粒子中の核酸分子は、miR-21、miR-15、miR-16、miR-17、miR-18、miR-19a、miR-19b、miR-20、miR-92、miR-106、miR-191、miR-125b、miR-155、miR-569、miR-196b、またはその任意の組合せの配列(複数可)を含む。いくつかの実施形態では、治療用ナノ粒子に含まれる核酸は、成熟ヒトmiR-21、miR-15、miR-16、miR-17、miR-18、miR-19a、miR-19b、miR-20、miR-92、miR-106、miR-191、miR-125b、miR-155、miR-569、miR-196b、またはその任意の組合せに対して相補的な配列内に少なくとも10(例えば、少なくとも11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22または23)の連続したヌクレオチドの配列を含み得る。いくつかの実施形態では、治療用ナノ粒子は、成熟ヒトmiR-21、miR-15、miR-16、miR-17、miR-18、miR-19a、miR-19b、miR-20、miR-92、miR-106、miR-191、miR-125b、miR-155、miR-569、miR-196b、またはその任意の組合せの配列内に少なくとも10(例えば少なくとも11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、または23)の連続したヌクレオチドと相補的な配列を含み得る。
【0060】
結合した核酸は、一本鎖または二本鎖であり得る。いくつかの実施形態では、核酸は、前駆体miR-10bの配列の一部を含み、23ヌクレオチド~50ヌクレオチド(例えば、23~30ヌクレオチド、30~40ヌクレオチド、および40~50ヌクレオチド)の総長を有する。いくつかの実施形態では、核酸は、前駆体miR-10bの配列の少なくとも一部に相補的な配列を含み、22ヌクレオチド~50ヌクレオチド(例えば、22~30ヌクレオチド、30~40ヌクレオチド、および40~50ヌクレオチド)の総長を有する。いくつかの実施形態では、核酸は、アンチセンスRNA(例えば、アンタゴミル)であり得る。
【0061】
アンチセンス核酸分子は、本明細書に記載の治療用ナノ粒子に共有結合させることができる。例えば、いくつかの実施形態では、核酸分子は、成熟ヒトmiR-10bの配列に相補的な配列の少なくとも一部(例えば、少なくとも10ヌクレオチド)を含むことができ、いくつかの実施形態では、核酸分子は、成熟ヒトmiR-10bのマイナー型の配列に相補的な配列の少なくとも一部(例えば、少なくとも10ヌクレオチド)を含むことができる。いくつかの実施形態では、治療用ナノ粒子は、下方制御のためにヒトmiR-10bを標的とする核酸分子を含むことができる。
【0062】
いくつかの実施形態では、治療用ナノ粒子は、多数の適切なアンチセンス分子(例えば、成熟ヒトmiR-10bを標的とするアンチセンス分子)のいずれかを含むことができる。例えば、miR-10bを標的とするアンチセンス核酸は、当技術分野で公知のmiR-10bのための配列に存在する少なくとも10(例えば、少なくとも15または20)の連続したヌクレオチドに相補的な配列を含むことができる。
【0063】
アンチセンス核酸は、当技術分野で公知の手順を用いた化学合成および酵素ライゲーション反応を用いて構築することができる。例えば、アンチセンス核酸(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)は、天然に存在するヌクレオチドまたは分子の生物学的安定性を高めるように、またはアンチセンス核酸とセンス核酸との間に形成される二重鎖の物理的安定性を高めるように設計された修飾ヌクレオチド(例えば、本明細書に記載の修飾オリゴヌクレオチドのいずれか)を用いて、化学的に合成することができ、例えば、ホスホロチオエート誘導体およびアクリジン置換ヌクレオチドが使用可能である。あるいは、アンチセンス核酸は、核酸がアンチセンス配向でサブクローニングされた発現ベクターを用いて生物学的に産生することができる(すなわち、挿入された核酸から転写されたRNAは、目的の標的核酸に対してアンチセンス配向となる)。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のアンチセンス核酸分子は、従来のヌクレオチド相補性によって標的核酸にハイブリダイズし、安定な二重鎖を形成し得る。
【0064】
アンチセンス核酸分子は、α-アノマー核酸分子であり得る。α-アノマー核酸分子は、相補的なRNAと特異的な二本鎖ハイブリッドを形成し、その際、通常のβユニットとは異なり、鎖は互いに平行に走る(Gaultier et al., Nucleic Acids Res. 15:6625-6641, 1987)。アンチセンス核酸分子はまた、2’-O-メチルリボヌクレオチド(Inoue et al., Nucleic Acids Res., 15:6131-6148, 1987)またはキメラRNA-DNAアナログ(Inoue et al., FEBS Lett. 215:327-330, 1987)を含み得る。
【0065】
いくつかの実施形態では、核酸分子は、少なくとも1つの修飾ヌクレオチド(修飾塩基または糖を含むヌクレオチド)を含み得る。いくつかの実施形態では、核酸分子は、リン酸(ホスホジエステル)骨格に少なくとも1つの修飾を含むことができる。これらの修飾の導入は、核酸分子の安定性を高め、またはハイブリダイゼーションもしくは溶解性を向上させ得る。
【0066】
本明細書に記載の分子は、1つまたは複数(例えば、2つ、3つ、4つ、5つの)修飾ヌクレオチドを含み得る。修飾ヌクレオチドは、修飾塩基または修飾糖を含むことができる。修飾塩基の非限定的な例としては:8-オキソ-N6-メチルアデニン、7-デアザキサンチン、7-デアザグアニン、N4,N4-エタノシトシン、N6,N6-エタノ-2,6-ジアミノプリン、5-(C3-C6)-アルキニル-シトシン、シュードイソシトシン、2-ヒドロキシ-5-メチル-4-トリアゾロピリジン、イソシトシン、イソグアニン、5-フルオロウラシル、5-ブロモウラシル、5-クロロウラシル、5-ヨードウラシル、ヒポキサンチン、キサンチン、4-アセチルシトシン、5-(カルボキシヒドロキシルメチル)ウラシル、5-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオウリジン、5-カルボキシメチルアミノメチルウラシル、ジヒドロウラシル、ベータ-D-ガラクトシルケオシン、イノシン、N6-イソペンテニルアデニン、1-メチルグアニン、1-メチルイノシン、2,2-ジメチルグアニン、2-メチルアデニン、2-メチルグアニン、3-メチルシトシン、5-メチルシトシン、N6-アデニン、7-メチルグアニン、5-メチルアミノメチルウラシル、5-メトキシアミノメチル2-チオウラシル、ベータ-D-マンノシルケオシン、5’-メトキシカルボキシメチルウラシル、5-メトキシウラシル、2-メチルチオN6-イソペンテニルアデニン、ウラシル-5-オキシ酢酸(v)、ウィブトキソシン、シュードウラシル、クオシン、2-チオシトシン、5-メチル-2-チオウラシル、2-チオウラシル、4-チオウラシル、5-メチルウラシル、ウラシル-5-オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル-5-オキシ酢酸(v)、5-メチル-2-チオウラシル、3-(3-アミノ-3-N-2-カルボキシプロピル)ウラシル、(acp3)wおよび2,6-ジアミノプリンが挙げられる。
【0067】
修飾塩基のさらなる非限定的な例としては、米国特許第5,432,272号明細書および同第3,687,808号明細書(参照により本明細書に組み込まれる)、Freier et al., Nucleic Acid Res. 25:4429-4443, 1997; Sanghvi, Antisense Research and Application, Chapter 15, Ed. S. T. Crooke and B. Lebleu, CRC Press, 1993; Englisch, et al., Angewandte Chemie 30:613-722, 1991, Kroschwitz, Concise Encyclopedia of Polymer Science and Engineering, John Wiley & Sons, pp. 858-859, 1990; and Cook, Anti-Cancer Drug Design 6:585-607, 1991に記載の核酸塩基を含む。修飾塩基のさらなる非限定的な例としては、ユニバーサル塩基(例えば、3-ニトロピロールおよび5-ニトロインドール)が挙げられる。他の修飾塩基としては、ピレンおよびピリジルオキサゾール誘導体、ピレニル、ピレニルメチルグリセロール誘導体等が挙げられる。他の好ましいユニバーサル塩基は、ピロール、ジアゾール、またはトリアゾール誘導体を含み、当技術分野で公知のユニバーサル塩基が含まれる。
【0068】
いくつかの実施形態では、修飾ヌクレオチドは、その糖部分に修飾を含み得る。修飾糖を含む修飾ヌクレオチドの非限定的な例は、ロックドヌクレオチド(LNA)である。LNAモノマーは、国際公開第99/14226号パンフレットおよび米国特許出願公開第20110076675号明細書、同第20100286044号明細書、同第20100279895号明細書、同第20100267018号明細書、同第20100261175号明細書、同第20100035968号明細書、同第20090286753号明細書、同第20090023594号明細書、同第20080096191号明細書、同第20030092905号明細書、同第20020128381号明細書および同第20020115080号明細書(参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている。LNAのさらなる非限定的な例は、米国特許第6,043,060号明細書、米国特許第6,268,490号明細書、国際公開第01/07455号パンフレット、国際公開第01/00641号パンフレット、国際公開第98/39352号パンフレット、国際公開第00/56746号パンフレット、国際公開第00/56748号パンフレット、および国際公開第00/66604号パンフレット(参照により本明細書に組み込まれる)ならびにMorita et al., Bioorg. Med. Chem. Lett. 12(1):73-76, 2002; Hakansson et al., Bioorg. Med. Chem. Lett. 11(7):935-938, 2001; Koshkin et al., J. Org. Chem. 66(25):8504-8512, 2001; Kvaerno et al., J. Org. Chem. 66(16):5498-5503, 2001; Hakansson et al., J. Org. Chem. 65(17):5161-5166, 2000; Kvaerno et al., J. Org. Chem. 65(17):5167-5176, 2000; Pfundheller et al., Nucleosides Nucleotides 18(9):2017-2030, 1999; and Kumar et al., Bioorg. Med. Chem. Lett. 8(16):2219-2222, 1998に開示されている。いくつかの実施形態では、修飾ヌクレオチドは、国際公開第03/020739号パンフレットに記載されているもの等のオキシLNAモノマーである。
【0069】
修飾ヌクレオチドはまた、アンタゴミル(2’-O-メチル修飾、コレステロールコンジュゲート一本鎖RNAアナログ);ALN(α-L-LNA);ADA(2’-N-アダマンチルメチルカルボニル-2’-アミノLNA);PYR(2’-N-ピレニル-1-メチル-2’-アミノ-LNA);OX(オキセタン-LNA);ENA(2’-O,4’’-C-エチレン架橋核酸);AENA(2’-デオキシ-2’-N,4’-C-エチレン-LNA);CLNA(2’,4’-炭素環LNA);およびCENA(2’,4’-炭素環ENA);HM修飾DNA(4’-C-ヒドロキシメチル-DNA);2’-置換RNA(2’-O-メチル、2’-フルオロ、2’-アミノエトキシメチル、2’-アミノプロポキシメチル、2’-アミノエチル、2’-グアニジノエチル、2’-シアノエチル、2’-アミノプロピルによる);およびリボース糖環のラジカル修飾を有するRNA、例えば、アンロックド核酸(UNA)、アルトリトール核酸(ANA)およびヘキシトール核酸(HNA)を含み得る(Bramsen et al., Nucleic Acids Res. 37:2867-81, 2009参照)。
【0070】
本明細書に記載の分子はまた、ホスホジエステル骨格に修飾を含むことができる。例えば、分子内の任意の2つの連続する(隣接する)ヌクレオチド間の少なくとも1つの連結は:-CH2-、-O-、-S-、-NRH-、>C=O、>C=NRH、>C=S、-Si(R’’)2-、-SO-、-S(O)2-、-PO(BH3)-、-P(O,S)-、-P(S)2-、-PO(R’’)-、-PO(OCH3)-、および-PO(NHRH)-の群から選択される2~4個の基/原子を含む部分によって接続することができ、ここで、RHは水素およびC1-4-アルキルから選択され、R’’はC1-6-アルキルおよびフェニルから選択される。このような連結の例示的な例は、-CH2-CH2-CH2-、-CH2-CO-CH2-、-CH2-CHOH-CH2-、-O-CH2-O-、-O-CH2-CH2-、-O-CH2-CH=(後続モノマーへの連結として使用する場合にはR5を含む)、-CH2-CH2-O-、-NRH-CH2-CH2-、-CH2-CH2-NRH-、-CH2-NRH-CH2-、-O-CH2-CH2-NRH-、-NRH-CO-O-、-NRH-CO-NRH-、-NRH-CS-NRH-、-NRH-C(=NRH)-NRH-、-NRH-CO-CH2-NRH-、-O-CO-O-、-O-CO-CH2-O-、-O-CH2-CO-O-、-CH2-CO-NRH-、-O-CO-NRH-、-NRH-CO-CH2-、-O-CH2-CO-NRH-、-O-CH2-CH2-NRH-、-CH=N-O-、-CH2-NRH-O-、-CH2-O-N=(後続のモノマーへの連結として使用される場合にはR5を含む)、-CH2-O-NRH-、-CO-NRH-CH2-、-CH2-NRH-O-、-CH2-NRH-CO-、-O-NRH-CH2-、-O-NRH-、-O-CH2-S-、-S-CH2-O-、-CH2-CH2-S-、-O-CH2-CH2-S-、-S-CH2-CH=(後続のモノマーへの連結として使用する場合はR5を含む)、-S-CH2-CH2-、-S-CH2-CH2-O-、-S-CH2-CH2-S-、-CH2-S-CH2-、-CH2-SO-CH2-、-CH2-SO2-CH2-、-O-SO-O-、-O-S(O)2-O-、-O-S(O)2-CH2-、-O-S(O)2-NRH-、-NRH-S(O)2-CH2-、-O-S(O)2-CH2-、-O-P(O)2-O-、-O-P(O,S)-O-、-O-P(S)2-O-、-S-P(O)2-O-、-S-P(O,S)-O-、-S-P(S)2-O-、-O-P(O,S)-S-、-O-P(S)2-S-、-S-P(O)2-S-、-S-P(O,S)-S-、-S-P(S)2-S-、-O-PO(R’’)-O-、-O-PO(OCH3)-O-、-O-PO-(OCH2CH3)-O-、-O-PO(OCH2S-R)-O-、-O-PO(BH3)-O-、-O-PO(NHRN)-O-、-O-P(O)2-NRH-、-NRH-P(O)2-O-、-O-P(O,NRH)2-O-、-CH2-P(O)2-O-、-O-P(O)2-CH2-、および-O-Si(R’’)2-O-;とりわけ、-CH2-CO-NRH-、-CH2-NRH-O-、-S-CH2-O-、-O-P(O)2-O-、-O-P(O,S)-O-、-O-P(S)2-O-、-NRH-P(O)2-O-、-O-P(O,NRH)-O-、-O-PO(R’’)-O-、-O-PO(CH3)-O-、および-O-PO(NHRN)-O-であり、ここでRHは水素およびC1-4-アルキルから選択され、R’’はC1-6-アルキルおよびフェニルから選択される。さらなる例示的な例は、Mesmaeker et. al., Curr. Opin. Struct. Biol. 5:343-355, 1995; and Freier et al., Nucleic Acids Research 25:4429-43, 1997に示されている。ヌクレオシド間結合の左側は、3’-位置で置換基P*として5員環に結合し、一方、右側は先行するモノマーの5’-位置に結合している。
【0071】
いくつかの実施形態では、核酸のデオキシリボースリン酸骨格を修飾してペプチド核酸を生成することができる(Hyrup et al.,Bioorganic & Medicinal Chem. 4(1): 5-23, 1996参照)。ペプチド核酸(PNA)は、デオキシリボースリン酸骨格が擬似ペプチド骨格に置き換えられ、4つの天然核酸塩基のみが保持されている核酸模倣物、例えばDNA模倣物である。PNAの中性骨格によって、低イオン強度の条件下でDNAおよびRNAに特異的にハイブリダイゼーションすることが可能になる。PNAオリゴマーの合成は、標準的な固相ペプチド合成プロトコルを用いて行うことができ、例えば、Hyrup et al.,1996,上掲;Perry-'Keefe et al.,Proc. Natl.Acad. Sci.U.S.A. 93:14670-675,1996に記載されているように行うことができる。
【0072】
PNAは、例えば、PNAに親油性基もしくは他のヘルパー基を結合させることによって、PNA-DNAキメラの形成によって、またはリポソームもしくは当技術分野で公知の送達の他の技術の使用によって、その安定性または細胞取り込みを増強するために修飾され得る。例えば、PNA-DNAキメラは、PNAおよびDNAの好都合な特性を組み合わせることができるように生成することができる。そのようなキメラによって、DNA認識酵素、例えば、RNAse Hが、PNA部分が高い結合親和性および特異性を提供しながら、DNA部分と相互作用することが可能になる。PNA-DNAキメラは、塩基の積み重ね、核酸塩基間の結合の数、および配向の観点から選択された適切な長さのリンカーを用いて連結することができる(Hyrup,1996、上掲)。PNA-DNAキメラの合成は、Hyrup, 1996,上掲およびFinn et al., Nucleic Acids Res. 24:3357-63, 1996に記載されているように行うことができる。例えば、標準的なホスホラミダイトカップリング化学および修飾ヌクレオシドアナログを用いて、DNA鎖を固体支持体上で合成することができる。5’-(4-メトキシトリチル)アミノ-5’-デオキシ-チミジンホスホラミダイト等の化合物は、PNAと、DNAの5’末端との間の連結として使用できる(Mag et al., Nucleic Acids Res., 17:5973-88, 1989)。次いで、PNAモノマーを段階的にカップリングさせて、5’PNAセグメントと3’DNAセグメントとを有するキメラ分子を産生する(Finn et al.,Nucleic Acids Res. 24:3357-63, 1996)。あるいは、キメラ分子は、5’DNAセグメントおよび3’PNAセグメントを有するように合成し得る(Peterser et al.,Bioorganic Med. Chem. Lett. 5:1119-11124, 1975)。
【0073】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の核酸のいずれかは、3’末端または5’末端のいずれかで(核酸が治療用ナノ粒子に共有結合される方法に応じて)、当技術分野で公知の任意の種類の修飾により修飾することができる。例えば、いずれかの末端は、保護基でキャップされても、可撓性連結基に結合されても、または基質表面(ポリマーコーティング)への結合を助けるための反応性基に結合されてもよい。3’または5’ブロック基の非限定的な例としては、以下が挙げられる:2-アミノ-2-オキシエチル、2-アミノベンゾイル、4-アミノベンゾイル、アセチル、アセチルオキシ、(アセチルアミノ)メチル、3-(9-アクリジニル)、トリシクロ[3.3.1(3,7)]デカ-1-イルオキシ、2-アミノエチル、プロペニル、(9-アントラセニルメトキシ)カルボニル、(1,1-ジメチルプロポキシ)カルボニル、(1,1-ジメチルプロポキシ)カルボニル、[1-メチル-1-[4-(フェニルアゾ)フェニル]エトキシ]カルボニル、ブロモアセチル、(ベンゾイルアミノ)メチル、(2-ブロモエトキシ)カルボニル、(ジフェニルメトキシ)カルボニル、1-メチル-3-オキソ-3-フェニル-1-プロペニル、(3-ブロモ-2-ニトロフェニル)チオ、(1,1-ジメチルエトキシ)カルボニル、[[(1,1-ジメチルエトキシ)カルボニル]アミノ]エチル、2-(フェニルメトキシ)フェノキシ、(1=[1,1’-ビフェニル]-4-イル-1-メチルエトキシ)カルボニル、ブロモ、(4-ブロモフェニル)スルホニル、1H-ベンゾトリアゾール-1-イル、[(フェニルメチル)チオ]カルボニル、[(フェニルメチル)チオ]メチル、2-メチルプロピル、1,1-ジメチルエチル、ベンゾイル、ジフェニルメチル、フェニルメチル、カルボキシアセチル、アミノカルボニル、クロロジフルオロアセチル、トリフルオロメチル、シクロヘキシルカルボニル、シクロヘプチル、シクロヘキシル、シクロヘキシルアセチル、クロロ、カルボキシメチル、シクロペンチルカルボニル、シクロペンチル、シクロプロピルメチル、エトキシカルボニル、エチル、フルオロ、ホルミル、1-オキソヘキシル、ヨード、メチル、2-メトキシ-2-オキソエチル、ニトロ、アジド、フェニル、2-カルボキシベンゾイル、4-ピリジニルメチル、2-ピペリジニル、プロピル、1-メチルエチル、スルホおよびエテニル。5’および3’ブロック基のさらなる例は、当技術分野で公知である。いくつかの実施形態では、5’または3’ブロック基は、分子のヌクレアーゼ分解を防止する。
【0074】
いくつかの実施形態では、治療用ナノ粒子中の核酸分子は、低分子干渉RNA(siRNA)であり得る。RNAiは、RNAが宿主細胞で分解されるプロセスである。RNAの発現を減少させるために、標的RNA(例えば、成熟ヒトmiR-10b)の一部に対応する配列を含む二本鎖RNA(dsRNA)を細胞内に導入する。dsRNAは消化され、短鎖干渉RNA(またはsiRNA)と呼ばれる21~23ヌクレオチド長の二重鎖になり、これはヌクレアーゼ複合体に結合してRNA誘導サイレンシング複合体(またはRISC)として公知のものを形成する。RISCは、siRNA鎖の一方と内因性RNAの塩基対相互作用により、内因性標的RNAを標的とする。そして、siRNAの3’末端から約12ヌクレオチドの内因性RNAを切断する(Sharp et al., Genes Dev. 15:485-490, 2001,およびHammond et al., Nature Rev. Gen. 2:110-119, 2001を参照)。
【0075】
標準的な分子生物学技術を使用して、siRNAを生成することができる。短鎖干渉RNAは、化学的に合成するか、例えば、プラスミド等の鋳型DNAからRNAを発現させることによって組換え産生するか、またはDharmacon等の商業ベンダーから入手することができる。RNAiを媒介するために使用されるRNAは、ホスホロチオエートヌクレオチド等の修飾ヌクレオチド(例えば、本明細書に記載の修飾ヌクレオチドのうちのいずれか)を含み得る。成熟ヒトmiR-10bのレベルを減少させるために使用されるsiRNA分子は、多くの方法で変化し得る。例えば、それらは、3’ヒドロキシル基および21、22、または23の連続したヌクレオチドの鎖を含むことができる。それらは平滑末端であっても、または3’末端、5’末端のいずれか、または両端にオーバーハング末端を含んでいてもよい。例えば、RNA分子の少なくとも1つの鎖は、長さが約1~約6ヌクレオチド(例えば、1~5、1~3、2~4または3~5ヌクレオチド(ピリミジンまたはプリンヌクレオチドのいずれか))の3’オーバーハングを有し得る。両方の鎖がオーバーハングを含む場合、オーバーハングの長さは、各鎖について同じであっても異なっていてもよい。
【0076】
RNA二重鎖の安定性をさらに高めるために、3’オーバーハングは、分解に対して安定化され得る(例えば、アデノシンまたはグアノシンヌクレオチド等のプリンヌクレオチドを含む、またはピリミジンヌクレオチドを修飾ヌクレオチドに置き換えることによる(例えば、ウリジン2ヌクレオチド3’オーバーハングの2’-デオキシチミジンによる置換は許容され、RNAiの効率に影響を与えない))。目的の標的に十分な相同性を有するものであれば、任意のsiRNAを使用することができる。使用できるsiRNAの長さに上限はない(例えば、siRNAは、約21~50、50~100、100~250、250~500、または500~1000塩基対の範囲であり得る)。
【0077】
いくつかの実施形態では、治療用ナノ粒子中の核酸分子は、miRNA模倣物であり得る。miRNA模倣物の非限定的な例としては、let7、miR-34a、miR-200c、miR-221/222、miR-126、miR-29、またはその任意の組合せのmiRNA模倣物等が挙げられる。いくつかの実施形態では、治療用ナノ粒子中の核酸分子は、免疫刺激性核酸であり得る。いくつかの実施形態では、免疫刺激性核酸は、免疫刺激性RNA、および免疫刺激性DNA、またはその組合せである。
【0078】
本明細書に記載の核酸は、核酸を合成するための当技術分野で公知の任意の方法を用いて合成し得る(例えば、Usman et al.,J. Am. Chem. Soc.109:7845,1987;Scaringe et al.,Nucleic Acid Res.18:5433, 1990;Wincott et al., Methods Mol. Biol.74:59,1997;およびMilligan, Nucleic Acid Res.21:8783,1987を参照)。これらは典型的には、一般的な核酸保護基およびカップリング基を利用する。合成は、この目的のために設計された市販の装置、例えば、394 Applied Biosystems,Incの合成機器上で、製造者が提供するプロトコルを用いて行うことができる。本明細書に記載の分子を合成するためのさらなる方法は、当技術分野で公知である。あるいは、核酸は、オリゴヌクレオチドを合成する商業ベンダーに特別に注文することができる。
【0079】
いくつかの実施形態では、核酸は、その5’末端で治療用ナノ粒子に結合する。いくつかの実施形態では、核酸は、その3’末端で治療用ナノ粒子に結合する。いくつかの実施形態では、核酸は、核酸中に存在する塩基を介して治療用ナノ粒子に結合する。
【0080】
いくつかの実施形態では、核酸(例えば、本明細書に記載の核酸のいずれか)は、チオエーテル結合またはジスルフィド結合を含む化学部分を通じて治療用ナノ粒子(例えば、治療用ナノ粒子のポリマーコーティング)に結合する。いくつかの実施形態では、核酸は、アミド結合を含む化学的部分を通じて治療用ナノ粒子に結合する。核酸を治療用ナノ粒子に共有結合させるために使用できるさらなる化学部分は、当技術分野で公知である。
【0081】
核酸を治療用ナノ粒子に共有結合させるために、種々の異なる方法を使用することができる。核酸を磁性粒子に連結するために使用できる方法の非限定的な例は、欧州特許第0937097号明細書;米国再発行特許出願第41005号明細書;Lund et al.,Nucleic Acid Res. 16:10861, 1998; Todt et al., Methods Mol. Biol.529:81-100,2009;Brody et al.,J.Biotechnol. 74:5-13, 2000; Ghosh et al,Nucleic Acids Res. 15:5353-5372,1987;米国特許第5,900,481号明細書;米国特許第7,569,341号明細書;米国特許第6,995,248号明細書;米国特許第6,818,394号明細書;米国特許第6,811,980号明細書;米国特許第5,900,481号明細書;および米国特許第4,818,681号明細書(これらの各々は、参照によりその全体が組み込まれる)に記載されている。いくつかの実施形態では、カルボジイミドは、治療用ナノ粒子への核酸の末端結合のために使用される。いくつかの実施形態では、核酸は、その塩基の1つと治療用ナノ粒子の表面に存在する活性化部分との反応(例えば、求電子性塩基と治療用ナノ粒子の表面上の求核性部分との反応、または求核性塩基と治療用ナノ粒子の表面上の求電子性残基との反応)を通じて治療用ナノ粒子に結合する。いくつかの実施形態では、5’-NH2修飾核酸は、CNBr活性化ヒドロキシル基を含む治療用ナノ粒子に結合する(例えば、Lund et al.,上掲を参照)。アミノ修飾核酸を治療用ナノ粒子に結合させるためのさらなる方法は、以下に記載される。いくつかの実施形態では、5’-リン酸核酸は、カルボジイミドの存在下で、ヒドロキシル基を含む治療用ナノ粒子に結合される(例えば、Lund et al.,上掲を参照)。核酸を治療用ナノ粒子に結合させる他の方法には、5’-リン酸核酸の治療用ナノ粒子上のNH2基へのカルボジイミド媒介性結合、および5’-NH2核酸のカルボキシル基を有する治療用ナノ粒子へのカルボジイミド媒介性結合が含まれる(Lund et al.,上掲を参照)。
【0082】
例示的な方法において、反応性アミンまたは反応性チオール基を含む核酸を産生することができる。核酸中のアミンまたはチオールは、別の反応性基と連結することができる。この反応を行うための2つの一般的な戦略は、ホモ二官能性連結と呼ばれる類似の反応性部分に核酸を連結すること(アミンからアミン、またはチオールからチオール)、またはヘテロ二官能性連結として公知の反対の基に核酸を連結すること(アミンからチオール、またはチオールからアミン)である。いずれの技術も、核酸を治療用ナノ粒子に結合させるために使用し得る(例えば、Misra et al., Bioorg. Med.Chem.Lett. 18:5217-5221, 2008; Mirsa et al., Anal. Biochem. 369:248-255, 2007; Mirsa et al., Bioorg. Med. Chem. Lett. 17:3749-3753, 2007;およびChoithani et al., Methods Mol Biol. 381:133-163, 2007)。
【0083】
従来の結合技術、特にアミン基の結合は、ホモ二官能性連結に依存してきた。最も一般的な技術の1つは、グルタルアルデヒド等のビスアルデヒドの使用であった。Syngene(Frederick、MD)から合成核酸プローブ(SNAP)技術として市販されているDSS(ジスクシンイミジル基質)、または試薬のp-フェニレンジイソチオシアネートも、核酸と治療用ナノ粒子の間の共有結合を生成するために使用することができる。N,N’-o-フェニレンジマレイミドは、チオール基を架橋するために使用することができる。全てのホモ二官能性架橋剤で、核酸は最初に活性化され、その後治療用ナノ粒子に加えられる(例えば、Swami et al.,Int. J. Pharm. 374:125-138, 2009, Todt et al., Methods Mol. Biol.529:81-100,2009;およびLimanskii, Biofizika 51:225-235,2006を参照)。
【0084】
ヘテロ二官能性リンカーもまた、核酸を治療用ナノ粒子に結合させるために使用し得る。例えば、N-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオ)プロプリオネート(SPDP)は、最初に第一級アミンと結合してジチオール修飾化合物を生成する。これは、次に、チオールと反応して、ピリジルチオールを流入するチオールと交換することができる(例えば、Nostrum et al.,J. Control Release 15;153(1):93-102, 2011、およびBerthold et al.,Bioconjug. Chem. 21:1933-1938, 2010を参照)。
【0085】
チオール利用の代替アプローチは、チオール交換反応である。チオール化核酸をジスルフィド治療用ナノ粒子上に導入すると、ジスルフィド交換反応が起こり、それにより核酸がジスルフィド結合によって治療用ナノ粒子に共有結合される。アミンとチオールのヘテロ二官能性架橋のために、多数の潜在的架橋化学物質が利用可能である。一般的に、これらの手順は、チオール化ヌクレオチドを用いて使用されてきた。一般的に使用される試薬は、NHS(N-ヒドロキシスクシンイミドエステル)、MBS(m-マレイミドベンゾイル-N-スクシンイミドエステル)、およびSPDP(ピリジルジスルフィド系システム)であった。一般的に使用されるヘテロ二官能性リンカーは、アミノ化核酸に依存している。核酸を治療用ナノ粒子に共有結合させるためのさらなる方法は、当技術分野で公知である。
【0086】
ナノ粒子
いくつかの実施形態では、治療用ナノ粒子は、約2nm~約200nm(例えば、約10nm~約30nm、約5nm~約25nm、約10nm~約25nm、約15nm~約25nm、約20nm~約25nm、約25nm~約50nm、約50nm~約200nm、約70nm~約200nm、約80nm~約200nm、約100nm~約200nm、約140nm~約200nm、および約150nm~約200nm)の直径を有し得る。
【0087】
いくつかの実施形態では、治療用ナノ粒子は、放射性標識を含まないナノ粒子の直径よりも約18%~約28%(例えば、約18%~約23%、約20%~約23%、約23%~約25%、約23%~約28%)大きい直径を有することができる。いくつかの実施形態では、治療用ナノ粒子は、放射性標識を含まないナノ粒子の直径よりも約23%大きい直径を有し得る。いくつかの実施形態では、治療用ナノ粒子は、放射性標識を含まない転移性標的化ナノ粒子と同様の速度で対象の転移性組織内に蓄積することができる。いくつかの実施形態では、治療用ナノ粒子は、放射性標識を含まない転移性標的化ナノ粒子と比較して、対象の転移性組織においてほぼ同等の蓄積を示す。
【0088】
いくつかの実施形態では、本明細書で提供される治療用ナノ粒子は、球形または楕円形であっても、または非晶質形状を有していてもよい。いくつかの実施形態では、本明細書で提供される治療用ナノ粒子は、約2nm~約200nm(例えば、約10nm~約200nm、約2nm~約30nm、約5nm~約25nm、約10nm~約25nm、約15nm~約25nm、約20nm~約25nm、約50nm~約200nm、約70nm~約200nm、約80nm~約200nm、約100nm~約200nm、約140nm~約200nm、および約150nm~約200nm)の直径(治療用ナノ粒子の外部表面上の任意の2点間)を有することができる。いくつかの実施形態では、約2nm~約30nmの直径を有する治療用ナノ粒子は、対象のリンパ節に局在する。いくつかの実施形態では、約40nm~約200nmの間の直径を有する治療用ナノ粒子は、肝臓に局在化する。
【0089】
いくつかの実施形態では、治療用ナノ粒子は、磁性を有し得る(例えば、磁性材料のコアを含む)。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の治療用ナノ粒子のいずれかは、磁性材料のコアを含み得る(例えば、治療用磁性ナノ粒子)。いくつかの実施形態では、治療用ナノ粒子は、酸化鉄のコアを含み得る。いくつかの実施形態では、磁性材料または粒子は、磁場に反応する反磁性、常磁性、超常磁性、または強磁性材料を含み得る。治療用磁性ナノ粒子の非限定的な例は:マグネタイト;フェライト(例えば、マンガン、コバルト、およびニッケルのフェライト);Fe(II)酸化物、およびヘマタイト、ならびにその金属合金の群から選択される金属酸化物を含む磁性材料のコアを含む。磁性材料のコアは、当技術分野で公知の方法(例えば、Kieslich et al.,Inorg. Chem. 2011)を用いて、金属塩を金属酸化物に変換することによって形成することができる。いくつかの実施形態では、ナノ粒子は、シクロデキストリン金または量子ドットを含む。治療用磁性ナノ粒子を生成するために使用することができる方法の非限定的な例は、Medarova et al.,Methods Mol. Biol.555:1-13,2009;およびMedarova et al.,Nature Protocols 1:429-431,2006に記載されている。さらなる磁性材料および磁性材料の製造方法は、当技術分野で公知である。本明細書に記載の方法のいくつかの実施形態では、治療用磁性ナノ粒子の位置または局在を対象においてイメージングする(例えば、治療用磁性ナノ粒子の1回以上の用量の投与後に対象においてイメージングする)ことができる。
【0090】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の治療用ナノ粒子は、磁性材料を含まない。いくつかの実施形態では、治療用ナノ粒子は、部分的に、ポリマー(例えば、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸))を含むコアを含み得る。熟練した当業者は、ガム(例えば、アカシア、グアー)、キトサン、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、およびアルブミンを含むが、これらに限定されない、任意の数の技術公知の材料を使用してナノ粒子を調製することができることを理解できる。本明細書に記載の治療用ナノ粒子を生成するために使用することができるさらなるポリマーは、当技術分野で公知である。例えば、治療用ナノ粒子を生成するために使用できるポリマーとしては、セルロース系、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(N-ビニルピロリドン)、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アクリル酸)、ポリアクリルアミド、ポリ(エチレン-コ-酢酸ビニル)、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(メタクリル酸)、ポリラクチド(PLA)、ポリグリコリド(PGA)、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)(PLGA)、ポリ無水物、ポリオルトエステル、ポリシアノアクリレートおよびポリカプラクトンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0091】
熟練した当業者は、ナノ粒子の組成物に使用される材料、調製、コーティングのための方法、およびナノ粒子のサイズを制御するための方法は、実質的に変化し得ることを理解するであろう。しかし、これらの方法は、当業者には周知である。重要な問題には、ナノ粒子の生分解性、毒性プロファイル、および薬物動態学/薬力学が含まれる。ナノ粒子の組成および/またはサイズは、生物学的運命の重要な決定要因である。例えば、より大きなナノ粒子は一般的に肝臓に取り込まれ分解されるが、より小さなナノ粒子(直径30nm未満)は一般的に長時間循環し(ヒトでは24時間を超えることもある血中半減期)、リンパ節および腫瘍等の血管透過性が高い器官の間質に蓄積する。
【0092】
ポリマーコーティング
本明細書に記載の治療用ナノ粒子は、コア磁性材料の上に(例えば、磁性材料の表面上に)ポリマーコーティングを含む。ポリマー材料は、1つまたは複数の生物学的薬剤(例えば、本明細書に記載の核酸のいずれか)を結合またはカップリングさせるのに適したものであり得る。1つまたは複数の生物学的薬剤(例えば、核酸、フルオロフォア、または標的化ペプチド)は、化学カップリング(共有結合)によってポリマーコーティングに固定し得る。
【0093】
いくつかの実施形態では、治療用ナノ粒子は、磁性材料のコアを水中で比較的安定なポリマーでコーティングすることを含む方法によって形成される。いくつかの実施形態では、治療用ナノ粒子は、磁性材料をポリマーでコーティングすること、または磁性材料を、その上に還元基を有する熱可塑性ポリマー樹脂に吸収させることを含む方法によって形成される。コーティングはまた、米国特許第5,834,121号明細書、米国特許第5,395,688号明細書、第5,356,713号明細書、米国特許第5,318,797号明細書、米国特許第5,283,079号明細書、米国特許第5,232,789号明細書、米国特許第5,091,206号明細書、米国特許第4,965,007号明細書、米国特許第4,774,265号明細書、米国特許第4,770,183号明細書、米国特許第4,654,267号明細書、米国特許第4,554,088号明細書、米国特許第4,490,436号明細書、米国特許第4,336,173号明細書、米国特許第4,421,660号明細書;および国際公開第10/111066号パンフレット(これらの各開示は、参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている方法を用いて磁性材料に塗布することができる。
【0094】
酸化鉄ナノ粒子の合成方法は、例えば、物理的方法および化学的方法を含む。例えば、酸化鉄は、水溶液中のFe2+塩およびFe3+塩の共沈によって調製することができる。得られるコアは、マグネタイト(Fe3O4)、マグヘマイト(γ-Fe2O3)、または両者の混合物からなる。アニオン性塩含有量(塩化物、硝酸塩、硫酸塩等)、Fe2+とFe3+の比率、pH、および水溶液のイオン強度等は全て、サイズを制御する役割を果たす。窒素またはアルゴン等の不活性ガス下、酸素非含有環境で反応を行うことによって、合成したナノ粒子の酸化を防ぎ、磁気特性を保護することが重要である。酸化鉄ナノ粒子の微粒子への凝集を防ぐために、共沈プロセスでコーティング材料を添加することができる。熟練した当業者は、酸化鉄ナノ粒子を安定化させるために、任意の数の技術公知の表面コーティング材料を使用できることを理解するであろうが、とりわけ合成および天然ポリマー、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、デキストラン、ポリビニルピロリドン(PVP)、脂肪酸、ポリペプチド、キトサン、ゼラチンである。
【0095】
例えば、米国特許第4,421,660号明細書は、無機材料のポリマーコーティングされた粒子は、従来、(1)無機固体を酸、酸と塩基の組合せ、アルコールまたはポリマー溶液で処理し、(2)処理した無機固体の水性分散液中に付加重合性モノマーを分散させ、(3)得られた分散液をエマルジョン重合条件に供することによって調製されることを記載している。(1欄21行~27行)。米国特許第4,421,660号明細書は、無機ナノ粒子をポリマーでコーティングする方法であって、(1)無機固体の離散粒子の水性コロイド分散液中で疎水性の乳化重合性モノマーを乳化するステップと(2)得られたエマルジョンを乳化重合条件に供して疎水性モノマーの水不溶性ポリマーのマトリクスに分散された無機固体粒子の安定で流体の水性コロイド分散液を形成するステップを含む方法も開示している(1欄、42~50行)。
【0096】
あるいは、ポリマーコーティングされた磁性材料は、サイズの開始要件を満たすものを市販で入手することができる。例えば、市販の超小型超常磁性酸化鉄ナノ粒子としては、NC100150 Injection(Nycomed Amersham、Amersham Health)およびFerumoxytol(AMAG Pharmaceuticals、Inc.)が挙げられる。
【0097】
磁性材料のコアをコーティングするために使用することができる適切なポリマーとしては、限定されるものではないが:ポリスチレン、ポリアクリルアミド、ポリエーテルウレタン、ポリスルホン、フッ素化または塩素化ポリマー、例えばポリ塩化ビニル、ポリエチレン、およびポリプロピレン、ポリカーボネート、およびポリエステルが挙げられる。磁性材料のコアをコーティングするのに使用できるポリマーのさらなる例としては、ポリオレフィン、例えばポリブタジエン、ポリジクロロブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、ポリビニリデンハライド、ポリビニリデンカーボネート、およびポリフルオロ化エチレンが挙げられる。スチレン/ブタジエン、アルファ-メチルスチレン/ジメチルシロキサン、または他のポリシロキサンを含む多数のコポリマーも、磁性材料のコアをコーティングするために使用することができる(例えば、ポリジメチルシロキサン、ポリフェニルメチルシロキサン、およびポリトリフルオロプロピルメチルシロキサン)。磁性材料のコアをコーティングするために使用できるさらなるポリマーとしては、ポリアクリロニトリルまたはアクリロニトリル含有ポリマー、例えばポリアルファ-アクリロニトリルコポリマー、アルキドまたはテルペノイド樹脂、およびポリアルキレンポリスルホネートが挙げられる。いくつかの実施形態では、ポリマーコーティングは、デキストランである。
【0098】
医薬組成物
また、本明細書では、本明細書に記載の治療用ナノ粒子を含む医薬組成物が提供される。本明細書に記載の任意の種類の治療用ナノ粒子の2つ以上(例えば、2つ、3つ、または4つ)が、任意の組合せで医薬組成物中に存在することができる。医薬組成物は、当技術分野で公知の任意の方法で製剤化することができる。
【0099】
医薬組成物は、その意図する投与経路(例えば、静脈内、動脈内、筋肉内、皮内、皮下、または腹腔内)に適合するように製剤化されている。いくつかの実施形態では、本明細書で提供される組成物は、薬学的に許容される希釈剤(例えば、無菌希釈剤)を含み得る。いくつかの実施形態では、薬学的に許容される希釈剤は、滅菌水、滅菌生理食塩水、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールまたは他の合成溶媒、抗菌剤または抗真菌剤、例えばベンジルアルコールまたはメチルパラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサール等、抗酸化剤、例えばアスコルビン酸または重亜硫酸ナトリウム、キレート剤、例えばエチレンジアミン四酢酸、緩衝剤、例えば酢酸塩、クエン酸塩、またはリン酸塩、および等張剤、例えば糖(例えばデキストロース)、多価アルコール(例えば、マンニトールまたはソルビトール)、または塩(例えば、塩化ナトリウム)、またはその任意の組合せであり得る。
【0100】
いくつかの実施形態では、本明細書で提供される医薬組成物は、薬学的に許容される担体を含み得る。リポソーム懸濁液はまた、薬学的に許容される担体として使用し得る(例えば、米国特許第4,522,811号明細書参照)。組成物の調製物は、アンプル、使い捨てシリンジ、または複数回投与バイアルに製剤化および封入し得る。必要な場合(例えば、注入用製剤のように)、適切な流動性は、例えば、レシチン等のコーティング、または界面活性剤の使用によって維持し得る。治療用ナノ粒子の吸収は、吸収を遅延させる剤(例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチン)を含むことによって、延長することができる。あるいは、制御された放出は、インプラントおよびマイクロカプセル化送達システムによって達成することができ、これは、生分解性、生体適合性ポリマー(例えば、エチレンビニルアセテート、ポリアンヒドリド、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステルおよびポリ乳酸;Alza CorporationおよびNova Pharmaceutical, Inc.)を含むことができる。
【0101】
本明細書に記載の治療用ナノ粒子のいずれかを1つまたは複数を含む組成物は、投与単位形態(すなわち、投与の容易性および投与量の均一性のために所定量の活性化合物を含む物理的に離散した単位)で非経口(例えば、静脈内、動脈内、筋肉内、皮内、皮下または腹腔内)投与用に製剤化することができる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の治療用ナノ粒子のいずれかを1つまたは複数含む組成物は、注入剤、錠剤、凍結乾燥粉末、懸濁剤、またはその任意の組合せである剤形に製剤化することができる。
【0102】
組成物の毒性および治療効果は、細胞培養物または実験動物(例えば、サル)における標準的な薬学的手順によって決定することができる。例えば、LD50(集団の50%に致死である用量)およびED50(集団の50%に治療上有効な用量)を決定することができ:治療指数は、LD50:ED50の比率である。高い治療指数を示す剤が好ましい。剤が望ましくない副作用を示す場合、潜在的な損傷を最小化する(すなわち、望ましくない副作用を低減する)ように注意すべきである。毒性および治療効果は、他の標準的な薬学的手順によって決定することができる。
【0103】
細胞培養アッセイおよび動物試験から得られたデータは、対象(例えば、ヒト)に使用するための任意の所与の剤の適切な投与量を製剤化する際に使用し得る。1つまたは複数(例えば、1つ、2つ、3つ、または4つ)の治療用ナノ粒子(例えば、本明細書に記載の治療用ナノ粒子のいずれか)の治療的有効量は、対象(例えば、ヒト)において癌(例えば、乳癌)を有する対象において癌細胞の浸潤または転移を低減治療し、対象のリンパ節における転移性癌を治療し、対象のリンパ節における転移性腫瘍のサイズを減少または安定化し、対象のリンパ節における転移性腫瘍の成長速度を減少させ、対象(例えばヒト)におけるリンパ節における転移性癌の1つまたは複数の症状の重症度、頻度、および/または期間を減少させ、対象におけるリンパ節内の転移性癌の症状の数を減少させる(例えば、同じ疾患を有するが治療を受けていない対照の対象、または異なる治療、または治療前の同じ対象と比較)量である。
【0104】
本明細書に記載の治療用ナノ粒子のいずれかの有効性および投薬は、当技術分野で公知の方法を用いて、ならびに、対象(例えば、ヒト)におけるリンパ節における転移性癌の1つまたは複数の症状の観察によって医療従事者が決定することができる。特定の要因は、対象を効果的に治療するために必要な投与量およびタイミング(例えば、対象の疾患または障害の重症度、以前の治療、一般的な健康および/または年齢、ならびに他の疾患の存在)に影響し得る。
【0105】
例示的な用量は、対象の体重1キログラムあたりの、本明細書に記載の治療用ナノ粒子のいずれかのミリグラムまたはマイクログラムの量を含む。例えば、いくつかの実施形態では、治療用ナノ粒子は、約0.020mg/kg未満(例えば、約0.001mg/kg~約0.005mg/kg、約0.005~約0.010mg/kg、約0.010mg/kg~約0.015mg/kg、約0.011mg/kg~約0.015mg/kg、約0.012mg/kg~約0.015mg/kg、約0.013mg/kg~約0.015mg/kg、約0.012mg/kg~約0.016mg/kg、約0.013mg/kg~約0.017mg/kg、約0.013mg/kg~約0.018mg/kg、または約0.015mg/kg~約0.020mg/kg)の用量で対象に投与することができる。いくつかの実施形態では、治療用ナノ粒子は、約0.014mg/kg未満である用量で対象に投与し得る。いくつかの実施形態では、治療用ナノ粒子は、対象における転移性癌組織のイメージング、検出、診断、および/またはモニタリングのために、約0.014mg/kg未満である用量で対象に投与することができる。
【0106】
いくつかの実施形態では、治療用ナノ粒子は、約1mg/kg~約10mg/kg(例えば、約1mg/kg~約5mg/kg、約1~約7mg/kg、約2mg/kg~約7mg/kg、約2mg/kg~約8mg/kg、約2mg/kg~約9mg/kg、約2mg/kg~約10mg/kg、約3mg/kg~約5mg/kg、約3mg/kg~約6mg/kg、約3mg/kg~約7mg/kg、約3mg/kg~約8mg/kg、約3mg/kg~約9mg/kg、約3mg/kg~約10mg/kg、約4mg/kg~約5mg/kg、約4mg/kg~約6mg/kg、約4mg/kg~約7mg/kg、約4mg/kg~約8mg/kg、約4mg/kg~約9mg/kg、約4mg/kg~約10mg/kg、約5mg/kg~約6mg/kg、約5mg/kg~約7mg/kg、約5mg/kg~約8mg/kg、約5mg/kg~約9mg/kg、約5mg/kg~約10mg/kg、約6mg/kg~約7mg/kg、約6mg/kg~約8mg/kg、約6mg/kg~約9mg/kg、約6mg/kg~約10mg/kg、約7mg/kg~約8mg/kg、約7mg/kg~約9mg/kg、または約7mg/kg~約10mg/kg)の範囲の用量で対象に投与し得る。いくつかの実施形態では、治療用ナノ粒子は、約5mg/kg~約7mg/kgの用量で対象に投与し得る。いくつかの実施形態では、治療用ナノ粒子は、転移性癌を治療するため、および/または対象における細胞の浸潤もしくは転移を低減させるために、約5mg/kg~約7mg/kg未満の用量で対象に投与することができる。
【0107】
これらの用量は特定の範囲をカバーするが、当業者であれば、本明細書に記載の治療用ナノ粒子を含む治療剤はその効力が異なり、有効量は当技術分野で公知の方法によって決定できることを理解するであろう。典型的には、最初は比較的低い用量が投与され、主治医の医療従事者(治療適用の場合)または研究者(まだ開発段階での作業の場合)は、その後、適切な応答が得られるまで用量を徐々に増加させることができる。さらに、任意の特定の対象に対する特定の用量レベルは、使用される特定の化合物の活性、対象の年齢、体重、一般的な健康状態、性別、および食事、投与時間、投与経路、排出速度、および治療用ナノ粒子のin vivoでの半減期を含む様々な要因に依存することは理解される。
【0108】
医薬組成物は、投与のための説明書と共に、キット、容器、パック、またはディスペンサーに含めることができる。
【0109】
治療方法
本明細書に記載の治療用ナノ粒子は、癌細胞の浸潤を低減させ、癌細胞の転移を阻害することが見出された。この発見に鑑みて、本明細書において、対象における癌細胞の浸潤または転移を低減させる方法、対象のリンパ節における転移癌を治療する方法、および対象のリンパ節に存在する細胞へ核酸を送達する方法が提供される。これらの方法の特定の実施形態および様々な局面を以下に説明する。
【0110】
転移性癌を治療する方法
転移性癌は、対象の異なる組織に移動した原発性腫瘍の癌細胞に由来する癌である。いくつかの実施形態では、原発腫瘍からの癌細胞は、対象の血流またはリンパ系を移動することによって、対象内の異なる組織に移動し得る。いくつかの実施形態では、転移性癌は、対象内のリンパ節に存在する転移性癌である。
【0111】
対象が経験する転移性癌の症状は、転移性腫瘍形成の部位に依存する。対象の脳における転移性癌の非限定的な症状としては:頭痛、めまい、および目のかすみが挙げられる。対象の肝臓における転移性癌の非限定的な症状としては:体重減少、発熱、吐き気、食欲不振、腹痛、腹部の流体(腹水)、黄疸、足のむくみが挙げられる。対象の骨への転移性癌の非限定的な症状としては:軽傷または無傷の場合の痛みおよび骨の破損が挙げられる。対象の肺の転移性癌の非限定的な症状としては:非生産的な咳、血痰の出る咳、胸痛、および息切れが挙げられる。
【0112】
転移性癌は、当技術分野で公知の方法を用いて、医療従事者(例えば、医師、医師助手、看護師、または実験技術者)によって対象において診断し得る。例えば、転移性癌は、対象における転移性癌の少なくとも1つの症状(例えば、上記に列挙した症状のいずれか)の観察または検出によって、部分的に、対象において診断し得る。転移性癌はまた、様々なイメージング技術を(例えば、単独で、または対象における転移性癌の1つまたは複数の症状の観察との組合せで)使用して、対象において診断し得る。例えば、転移性癌(例えば、リンパ節における転移性癌)の存在は、コンピュータ断層撮影、磁気共鳴画像、陽電子放射断層撮影、およびX線を使用して、対象において検出し得る。転移性癌(例えば、リンパ節における転移性癌)はまた、対象からの組織の生検(例えば、対象からのリンパ節の生検)を行うことによって診断することができる。
【0113】
転移性腫瘍は、脳、肺、肝臓、骨、腹膜、副腎、皮膚、および筋肉を含むがこれらに限定されない、対象における様々な異なる組織で形成し得る。原発性腫瘍は、乳癌、結腸癌、腎臓癌、肺癌、皮膚癌、卵巣癌、膵臓癌、直腸癌、胃癌、甲状腺癌、または子宮癌を含むがこれらに限定されない、任意の種類の癌であり得る。
【0114】
本明細書に記載の治療用ナノ粒子のいずれか1つ以上は、転移性癌を有する対象に投与し得る。1つまたは複数の治療用ナノ粒子は、医療施設(例えば、病院または診療所)またはアシストケア施設において、対象に投与することができる。いくつかの実施形態では、対象は、癌(例えば、原発性癌)を有すると以前に診断されている。いくつかの実施形態では、対象は、転移性癌(例えば、リンパ節に転移した癌)を有すると以前に診断されている。いくつかの実施形態では、対象は、原発性癌に対する治療的処置を既に受けている。いくつかの実施形態では、対象の原発性腫瘍は、本明細書に記載の治療用ナノ粒子の1つによる治療前に外科的に除去されている。いくつかの実施形態では、少なくとも1つのリンパ節が、本明細書に記載の治療用ナノ粒子の1つによる治療の前に、対象から除去されている。いくつかの実施形態では、対象は、癌の寛解期にあってもよい。
【0115】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの治療用ナノ粒子の投与は、リンパ節に存在する転移性腫瘍のサイズの減少(例えば、有意または観察可能な減少)、リンパ節に存在する転移性腫瘍のサイズの安定化(例えば、サイズの有意または観察可能な変化なし)、または対象のリンパ節に存在する転移性腫瘍の成長速度の減少(例えば、検出可能または観察可能な減少)をもたらす。医療従事者は、コンピュータ断層撮影、磁気共鳴画像、陽電子放射断層撮影、およびX線を含むがこれらに限定されない様々な異なるイメージング技術を使用して、対象のリンパ節に存在する転移性腫瘍のサイズおよび/またはサイズにおける変化をモニタリングできる。例えば、対象のリンパ節に存在する転移性腫瘍のサイズは、治療に対する対象の転移性腫瘍のサイズに減少または安定化があったかどうかを決定するために、治療の前後で決定することができる。対象のリンパ節における転移性腫瘍の成長速度は、治療を受けていないか、または異なる治療を受けている他の対象または対象集団における転移性腫瘍の成長速度と比較することができる。対象のリンパ節における転移性腫瘍の成長速度の減少はまた、治療的処置(例えば、本明細書に記載の治療用ナノ粒子のいずれかによる処置)の前後の両方におけるリンパ節における転移性腫瘍の成長速度を比較することによって決定することができる。いくつかの実施形態では、転移性腫瘍(例えば、リンパ節における転移性腫瘍)の可視化は、転移性腫瘍の癌細胞に特異的に結合する標識プローブまたは分子(例えば、原発性癌細胞の表面に存在するエピトープに選択的に結合する標識化抗体)を利用するイメージング技術を用いて行うことができる。
【0116】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの治療用ナノ粒子を対象に投与することは、少なくとも1つの転移性腫瘍を既に有する対象(例えば、リンパ節に転移性腫瘍を既に有する対象)においてさらなる転移性腫瘍を発症するリスクの軽減(例えば、同様の転移性腫瘍を既に有するが治療を受けていない、または代替治療を受けている対象におけるさらなる転移性腫瘍を発症する割合と比較して)をもたらす。少なくとも1つの転移性腫瘍を既に有する対象におけるさらなる転移性腫瘍を発症するリスクの軽減はまた、治療を受けない、または代替形態の癌治療を受けている対象集団におけるさらなる転移性腫瘍を発症するリスクと比較することができる。
【0117】
いくつかの実施形態では、対象に治療用ナノ粒子を投与することは、原発性癌(例えば、原発性乳癌)を有する(例えば、有すると診断された)対象における転移性癌(例えば、リンパ節における転移性癌)を発症するリスクを軽減させる(例えば、同様の原発性癌を有するが、治療を受けていない、または代替治療を受けている対象における転移性癌を発症する割合と比較して)。原発性癌を有する対象における転移性腫瘍を発症するリスクの軽減はまた、治療を受けていない、または代替形態の癌治療を受けている対象の集団における転移性癌の形成率と比較することができる。
【0118】
医療従事者はまた、対象における転移性癌の症状の数の減少を観察することによって、または対象における転移性癌の1つまたは複数の症状の重症度、頻度、および/または期間の減少を観察することによって、転移性癌(例えば、対象のリンパ節における転移性癌)の治療的処置の有効性を評価できる。転移性癌の様々な症状は、当技術分野で公知であり、本明細書に記載されている。リンパ節における転移性癌の症状の非限定的な例としては:リンパ節の痛み、リンパ節の腫れ、食欲不振、および体重減少が挙げられる。
【0119】
いくつかの実施形態では、投与することは、(例えば、同様の原発性癌または同様の転移性癌を有するが、異なる治療的処置を受けている、または治療的処置を受けない対象集団と比較して)対象の原発性癌または転移性癌の生存確率の増加(例えば、有意な増加)をもたらし得る。いくつかの実施形態では、投与することは、(例えば、同様の原発性癌または同様の転移性癌を有するが、異なる治療的処置を受けている、または治療的処置を受けていない対象集団と比較して)原発性癌または転移性癌を有する対象の予後の改善をもたらし得る。
【0120】
癌細胞の浸潤または転移を低減させる方法
また、対象における癌細胞の浸潤または転移を低減させる(例えば、有意または観察可能な低減)方法であって、対象における癌細胞の浸潤または転移を低減させるのに十分な量で、本明細書に記載の少なくとも1つの治療用ナノ粒子を対象に投与することを含む方法が提供される。
【0121】
これらの方法のいくつかの実施形態では、癌細胞の転移は、対象における原発腫瘍(例えば、本明細書に記載の原発腫瘍のいずれか)から二次組織(例えば、リンパ節)への転移である。これらの方法のいくつかの実施形態では、癌細胞の転移は、対象におけるリンパ節から二次組織(例えば、本明細書に記載の二次組織のいずれか)への転移である。
【0122】
いくつかの実施形態では、癌細胞の浸潤は、原発性腫瘍に近接する組織への癌細胞の移動である。いくつかの実施形態では、癌細胞の浸潤は、原発性腫瘍からリンパ系への癌細胞の移動である。いくつかの実施形態では、癌細胞の浸潤は、リンパ節に存在する転移性癌細胞のリンパ系への移動、または二次組織に存在する転移性癌細胞の対象における隣接組織への移動である。
【0123】
対象における癌細胞の浸潤は、本明細書に記載のイメージング技術のいずれかを用いた可視化によって評価またはモニタリングすることができる。例えば、癌または転移性癌を有する対象の1つまたは複数の組織を、2つ以上の時点(例えば、癌と診断された直後の時点、および以降の時点)で可視化することができる。いくつかの実施形態では、対象における癌細胞浸潤の低減は、(原発性腫瘍の広がりが、当技術分野で公知の、または本明細書に記載のイメージング技術によって評価される場合)対象における特定の組織を介した原発腫瘍の広がりの低減を観察することによって検出し得る。いくつかの実施形態では、癌細胞の浸潤の低減は、対象の血液またはリンパにおける循環原発性癌細胞または循環転移性癌細胞の数の減少によって検出され得る。
【0124】
癌細胞の転移は、本明細書に記載の方法または当技術分野で公知の方法のいずれかを使用して検出することができる。例えば、癌細胞転移の低減の成功は、少なくとも1つの転移性腫瘍を既に有する対象(例えば、リンパ節に転移性腫瘍を既に有する対象)におけるさらなる転移性腫瘍の発症率の減少(例えば、同様の転移性腫瘍を既に有するが治療を受けていない、または代替治療を受けている対象または対象集団におけるさらなる転移性腫瘍の発生率と比較して)として観察することができる。癌細胞の転移の低減の成功はまた、原発性癌(例えば、原発性乳癌)を有する(例えば、有すると診断された)対象において少なくとも1つの転移性癌(例えば、リンパ節への転移性癌)を発症するリスクの(例えば、同様の原発性癌を有するが治療を受けていない、または代替治療を受けている対象もしくは対象集団における転移性癌を発症するリスクと比較して)軽減として観察し得る。
【0125】
転移性癌組織を検出、診断、および/またはモニタリングする方法
また、本明細書では、対象における転移性癌組織を検出、診断、および/またはモニタリングする方法であって、転移性癌組織を有する対象に、本明細書に開示される治療用ナノ粒子のいずれかを投与すること、および治療用ナノ粒子をイメージングすることを含む方法が提供される。
【0126】
これらの方法のいくつかの実施形態では、治療用ナノ粒子は、対象において治療用ナノ粒子をイメージングするのに十分な量で投与される。いくつかの実施形態では、対象における転移性癌組織を検出、診断、および/またはモニタリングするのに十分な治療用ナノ粒子量は、約0.020mg/kg未満(例えば、約0.001mg/kg~約0.005mg/kg、約0.005~約0.010mg/kg、約0.010mg/kg~約0.015mg/kg、約0.011mg/kg~約0.015mg/kg、約0.012mg/kg~約0.015mg/kg、約0.013mg/kg~約0.015mg/kg、約0.012mg/kg~約0.016mg/kg、約0.013mg/kg~約0.017mg/kg、約0.013mg/kg~約0.018mg/kg、または約0.015mg/kg~約0.020mg/kg)である。いくつかの実施形態では、対象における転移性癌組織を検出、診断、および/またはモニタリングするのに十分な治療用ナノ粒子量は、約0.001mg/kg未満である。いくつかの実施形態では、対象における転移性癌組織を検出、診断、および/またはモニタリングするのに十分な治療用ナノ粒子量は、約0.014mg/kg未満である。いくつかの実施形態では、対象における転移性癌組織を検出、診断、および/またはモニタリングするのに十分な治療用ナノ粒子量は、対象において薬剤副作用を誘発しない。
【0127】
いくつかの実施形態では、イメージングは、磁気共鳴画像法(MRI)、陽電子放射断層撮影法(PET)、単光子放射コンピュータ断層撮影法(SPECT)、コンピュータ断層撮影法(CT)、またはその任意の組合せによって実施される。いくつかの実施形態では、イメージングは、PET-MRIによって実施される。いくつかの実施形態では、本開示の治療用ナノ粒子は、転移性癌組織に蓄積することができ、したがって、(例えば、PETまたはPET-MRIによって)イメージングした際に転移性組織を強調するのに有効であり得る。
【0128】
投薬、投与、および組成物
本明細書に記載の方法のいずれかにおいて、治療用ナノ粒子は、医療従事者(例えば、医師、医師助手、看護師、または研究室もしくは診療所の職員)、対象(すなわち、自己投与)、または対象の友人もしくは家族によって投与し得る。投与することは、臨床環境(例えば、診療所または病院)、アシストリビング施設、または薬局で行うことができる。
【0129】
本明細書に記載の方法のいずれかのいくつかの実施形態では、治療用ナノ粒子は、癌を有する(例えば、原発性癌または転移性癌を有する)と診断された対象に投与される。いくつかの実施形態では、対象は、乳癌(例えば、転移性乳癌)を有すると診断されたことがある。いくつかの非限定的な実施形態では、対象は、男性または女性、成人、青少年、または子供である。対象は、癌または転移性癌(例えば、リンパ節における転移性癌)の1つまたは複数の症状を経験することができる。対象はまた、重度の癌または進行した癌(例えば、原発性癌または転移性癌)を有すると診断され得る。いくつかの実施形態では、対象は、少なくとも1つのリンパ節に存在する転移性腫瘍を有すると同定されたことがある。いくつかの実施形態では、対象は、リンパ切除術および/または乳房切除術を既に受けている可能性がある。
【0130】
本明細書に記載の方法のいずれかのいくつかの実施形態では、対象は、本明細書に記載の磁性粒子または医薬組成物のいずれかの少なくとも1つ(例えば、1つ、2つ、3つ、または4つ)を含む組成物の少なくとも1(例えば、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25または30)の用量を投与される。本明細書に記載の方法のいずれかにおいて、少なくとも1つの磁性粒子または医薬組成物(例えば、本明細書に記載の磁性粒子または医薬組成物のいずれか)は、対象に静脈内、動脈内、皮下、腹腔内、または筋肉内に投与し得る。いくつかの実施形態では、少なくとも磁性粒子または医薬組成物は、対象のリンパ節に直接投与(注入)される。
【0131】
いくつかの実施形態では、対象は、少なくとも1つの治療用ナノ粒子または医薬組成物(例えば、本明細書に記載の治療用ナノ粒子または医薬組成物のいずれか)および少なくとも1つのさらなる治療剤を投与される。少なくとも1つのさらなる治療剤は、化学療法剤(例えば、シクロホスファミド、メクロレタミン、クロラムブシル、メルファラン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、ミトキサントロン、バルビシン、パクリタキセル、ドセタキセル、エトポシド、テニポシド、タフルポシド、アザシチジン、アザチオプリン、カペシタビン、シタラビン、ドキシフルリジン、フルオロウラシル、ゲムシタビン、メルカプトプリン、メトトレキサート、チオグアニン、ブレオマイシン、カルボプラチン、シスプラチン、オキサリプラチン、ボルテゾミブ、カルフィルゾミブ、サリノスポラミドA、オールトランスレチン酸、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、およびビノレルビン)および/または鎮痛剤(例えば、アセトアミノフェン、ジクロフェナク、ジフルニサル、エトドラク、フェノプロフェン、フルルビプロフェン、イブプロフェン、インドメタシン、ケトプロフェン、ケトロラク、メクロフェナマート、メフェナム酸、メロキシカム、ナブメトン、ナプロキセン、オクサプロジン、フェニルブタゾン、ピロキシカム、スリンダク、トルメチン、セレコキシブ、ブプレノルフィン、ブトルファノール、コデイン、ヒドロコドン、ヒドロモルフォン、レブロファノール、メペリジン、メタドン、モルフィン、ナルブフィン、オキシコドン、オキシモルフォン、ペンタゾシン、プロキシフェン、トラメドール)であり得る。
【0132】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つのさらなる治療剤および少なくとも1つの治療用ナノ粒子(例えば、本明細書に記載の治療用ナノ粒子のいずれか)は、同じ組成物(例えば、同じ医薬組成物)中において投与される。いくつかの実施形態では、少なくとも1つのさらなる治療剤および少なくとも1つの治療用ナノ粒子は、異なる投与経路を用いて対象に投与される(例えば、経口投与によって送達される少なくとも1つのさらなる治療剤および静脈内投与によって送達される少なくとも1つの治療用ナノ粒子)。
【0133】
本明細書に記載の方法のいずれかにおいて、少なくとも1つの治療用ナノ粒子または医薬組成物(例えば、本明細書に記載の治療用ナノ粒子または医薬組成物のいずれか)および任意で、少なくとも1つのさらなる治療剤は、少なくとも週に1回(例えば、週に1回、週に2回、週に3回、週に4回、1日に1回、1日に2回または1日に3回)対象に投与し得る。いくつかの実施形態では、少なくとも2つの異なる治療用ナノ粒子は、同じ組成物(例えば、液体組成物)中において投与される。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの治療用ナノ粒子および少なくとも1つのさらなる治療剤は、同じ組成物(例えば、液体組成物)中において投与される。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの治療用ナノ粒子および少なくとも1つのさらなる治療剤は、2つの異なる組成物(例えば、少なくとも1つの治療用ナノ粒子を含む液体組成物および少なくとも1つのさらなる治療剤を含む固体経口組成物)中において投与される。いくつかの実施形態では、少なくとも1つのさらなる治療剤は、丸剤、錠剤、またはカプセル剤として投与される。いくつかの実施形態では、少なくとも1つのさらなる治療剤は、徐放性経口製剤中において投与される。
【0134】
いくつかの実施形態では、1つまたは複数のさらなる治療剤は、少なくとも1つの治療用ナノ粒子または医薬組成物(例えば、本明細書に記載の治療用ナノ粒子または医薬組成物のいずれか)を投与する前に対象に投与し得る。いくつかの実施形態では、1つまたは複数のさらなる治療剤は、少なくとも1つの治療用ナノ粒子または医薬組成物(例えば、本明細書に記載の磁性粒子または医薬組成物のいずれか)を投与した後に、対象に投与し得る。いくつかの実施形態では、1つまたは複数のさらなる治療剤および少なくとも1つの治療用ナノ粒子または医薬組成物(例えば、本明細書に記載の治療用ナノ粒子または医薬組成物のいずれか)は、対象における1つまたは複数のさらなる治療剤および少なくとも1つの治療用ナノ粒子(例えば、本明細書に記載の治療用ナノ粒子のいずれか)の生物活性期間に重複があるように、対象に投与される。
【0135】
いくつかの実施形態では、対象は、長期間にわたって(例えば、少なくとも1週間、2週間、3週間、1カ月、2カ月、3カ月、4カ月、5カ月、6カ月、7カ月、8カ月、9カ月、10カ月、11カ月、12カ月、1年、2年、3年、4年、5年、または10年の期間にわたって)少なくとも1つの治療用ナノ粒子または医薬組成物(例えば本明細書に記載の治療用ナノ粒子または医薬組成物のいずれか)を投与され得る。熟練した医療専門家は、治療の有効性を診断または追跡するために、本明細書に記載の方法のいずれかを使用して(例えば、上記の方法および当技術分野で公知の方法を使用して)、治療期間の長さを決定することができる。本明細書に記載されるように、熟練した医療専門家は、対象に投与される治療用ナノ粒子(および/または1つまたは複数のさらなる治療剤)の同一性および数を変更(例えば、増加または減少)し、治療の有効性の評価に基づいて対象に投与する少なくとも1つの治療用ナノ粒子(および/または1つまたは複数のさらなる治療剤)の用量または頻度を(例えば、本明細書および当技術分野で公知の方法のいずれかを用いて)調節(例えば、増加または減少)することもできる。熟練した医療専門家は、治療を中止するタイミング(例えば、対象の症状が有意に低減したとき)をさらに決定することができる。
【0136】
治療用ナノ粒子を調製する方法
また、本明細書では、本開示の治療用ナノ粒子のいずれかを調製する方法であって、(例えば、本明細書の他の箇所に記載される方法のいずれか1つを介して)磁性ナノ粒子を調製すること、核酸分子を磁性ナノ粒子に共有結合すること;磁性ナノ粒子を約40:1当量(eq.)の比率でキレーターと反応させることによってキレーターを磁性ナノ粒子(MN)に共有結合すること(すなわち、磁性ナノ粒子1当量に対してキレーター40当量)、磁性ナノ粒子に64CuCl2の溶液を添加し、64CuCl2の溶液と磁性ナノ粒子との混合物を精製して治療用ナノ粒子を得ることを含む方法が提供される。
【0137】
いくつかの実施形態では、方法は、約5:1キレーターeq.:MN~約60:1キレーターeq.:MN(例えば、約5:1のキレーターeq.:MN~約10:1のキレーターeq.:MN、約5:1キレーターeq.:MN~約12:1キレーターeq.:MN、約5:1キレーターeq.:MN~約15:1キレーターeq.:MN、約5:1キレーターeq.:MN~約20:1キレーターeq.:MN、約5:1キレーターeq.:MN~約25:1キレーターeq.:MN、約5:1キレーターeq.:MN~約30:1キレーターeq.:MN、約5:1キレーターeq.:MN~約35:1キレーターeq.:MN、約5:1キレーターeq.:MN~約40:1キレーターeq.:MN、約5:1キレーターeq.:MN~約45:1キレーターeq.:MN、約5:1キレーターeq.:MN~約50:1キレーターeq.:MN、約5:1キレーターeq.:MN~約55:1キレーターeq.:MN、または約5:1キレーターeq.:MN~約60:1キレーターeq.:MN、約10:1キレーターeq.:MN~約12:1キレーターeq.:MN、約10:1キレーターeq.:MN~約15:1キレーターeq.:MN、約10:1キレーターeq.:MN~約20:1キレーターeq.:MN、約10:1キレーターeq.:MN~約25:1キレーターeq.:MN、約10:1キレーターeq.:MN~約30:1キレーターeq.:MN、約10:1キレーターeq.:MN~約35:1キレーターeq.:MN、約10:1キレーターeq.:MN~約40:1キレーターeq.:MN、約10:1キレーターeq.:MN~約45:1キレーターeq.:MN、約10:1キレーターeq.:MN~約50:1キレーターeq.:MN、約10:1キレーターeq.:MN~約55:1キレーターeq.:MN、または約10:1キレーターeq.:MN~約60:1キレーターeq.:MN、約15:1キレーターeq.:MN~約20:1キレーターeq.:MN、約15:1キレーターeq.:MN~約25:1キレーターeq.:MN、約15:1キレーターeq.:MN~約30:1キレーターeq.:MN、約15:1キレーターeq.:MN~約35:1キレーターeq.:MN、約15:1キレーターeq.:MN~約40:1キレーターeq.:MN、約15:1キレーターeq.:MN~約45:1キレーターeq.:MN、約15:1キレーターeq.:MN~約50:1キレーターeq.:MN、約15:1キレーターeq.:MN~約55:1キレーターeq.:MN、または約15:1キレーターeq.:MN~約60:1キレーターeq.:MN、約20:1キレーターeq.:MN~約45:1キレーターeq.:MN、約25:1キレーターeq.:MN~約45:1キレーターeq.:MN、約30:1キレーターeq.:MN~約45:1キレーターeq.:MN、約35:1キレーターeq.:MN~約45:1キレーターeq.:MN、約40:1キレーターeq.:MN~約45:1キレーターeq.:MN、約35:1キレーターeq.:MN~約50:1キレーターeq.:MN、約38:1キレーターeq.:MN~約40:1キレーターeq.:MN、約38:1キレーターeq.:MN~約42:1キレーターeq.:MN、約38:1キレーターeq.:MN~約45:1キレーターeq.:MN、約40:1キレーターeq.:MN~約50:1キレーターeq.:MN、約40:1キレーターeq.:MN~約55:1キレーターeq.:MN、または約40:1キレーターeq.:MN~約60:1キレーターeq.:MN)の範囲の比率で磁性ナノ粒子をキレーターと反応させることを含む。
【0138】
いくつかの実施形態では、キレーターを磁性ナノ粒子に共有結合させることは、約0℃~約8℃の温度(例えば、約0℃~約4℃、約1℃~約4℃、約2℃~約4℃、約3℃~約4℃、約2℃~約6℃、約3℃~約7℃、約4℃~約5℃、約4℃~約6℃、約4℃~約7℃、または約4℃~約8℃)で行われる。いくつかの実施形態では、キレーターを磁性ナノ粒子に共有結合させることは、約4℃の温度で行われる。
【0139】
いくつかの実施形態では、これらの方法は、64CuCl2の溶液と磁性ナノ粒子との混合物を、約40℃~約65℃(例えば、約40℃~約65℃、約45℃~約65℃、約50℃~約65℃、約55℃~約65℃、約56℃~約65℃、約57°C~約65℃、約58℃~約65℃、約59℃~約65℃、約58℃~約62℃、約59℃~約61℃、約58℃~約63℃、約59℃~約63℃、約59℃~約60℃、約60℃~約61℃、又は約60℃~約62℃)の温度で加熱することをさらに含む。いくつかの実施形態では、これらの方法は、64CuCl2の溶液と磁性ナノ粒子との混合物を約60℃の温度で加熱することをさらに含む。
【0140】
いくつかの実施形態では、これらの方法は、64CuCl2の溶液と磁性ナノ粒子との混合物を約10分~約30分(例えば、約10分~約20分、約11分~約21分、約12分~約22分、約13分~約23分、約14分~約24分、約15分~約25分、約16分~約26分、約13分~約20分、約15分~約20分、約15分~約22分、約18分~約20分、約18分~約22分、約19分~約21分、約19分~約23分、約20分~約25分、または約20分~約30分)加熱することをさらに含む。いくつかの実施形態では、これらの方法は、64CuCl2の溶液と磁性ナノ粒子との混合物を約20分間加熱することをさらに含む。
【0141】
いくつかの実施形態では、これらの方法は、治療用ナノ粒子を、約65℃を超える温度にさらさない。いくつかの実施形態では、これらの方法は、治療用ナノ粒子を、約60℃を超える温度にさらさない。いくつかの実施形態では、放射性標識を治療用ナノ粒子に会合するためのキレーターの使用を含む本明細書に開示される方法は、核酸分子を潜在的に損傷する可能性のある過酷な条件(例えば、約20分より長い間約60℃を超える温度)を好都合なように回避する。
【実施例】
【0142】
本開示の特定の実施形態は、以下の実施例においてさらに説明されるが、これは、特許請求の範囲に記載される任意の実施形態の範囲を限定するものではない。
【0143】
[実施例1]
MN-抗miR10bのin vitro試験
20~35nmのデキストランコーティング治療用磁性ナノ粒子を、ヒトmiRNA-10bを標的とするアンチセンスロックド核酸(LNA)オリゴヌクレオチドで官能化した。得られた治療用磁性ナノ粒子(MN)は、以下、「MN-抗miR-10b」と称する。この治療用磁性ナノ粒子を試験するin vitro細胞試験は、以下に記載するように行った。
【0144】
21.6±0.5nmのデキストランコーティングした磁性ナノ粒子を、miRNA-10b、(Exiqon、Woburn、MA)を標的とする8±0.7 LNAアンタゴミルとコンジュゲートさせた(
図1A)。MN-抗miR10b治療薬は、ヒトリンパ節転移性MDA-MB-231-luc-D3H2LN細胞株(Perkin Elmer、Hopkinton MA)において機能的であった。効果のピークは、MN-抗miR10b(0.7nmole ASO/ml)と48時間インキュベートした後に達成され、その時点で、無関係なオリゴヌクレオチド(Exiqon、Woburn、MA)で官能化した不活性の治療薬MN-scr-miRと比較して、標的miRNA-10bの86.3±5.8%の有意な阻害であった(
図1B)。これらの結果は、送達方法および治療設計は、腫瘍細胞におけるmiRNA-10bを非常に効率的に阻害するために使用され得ることを示した。この方法論の治療可能性を評価するために、腫瘍細胞のアポトーシス、増殖、浸潤および移動に対するmiR-10b阻害の効果を調査した。
【0145】
本治療薬によるmiR-10b阻害は、有意なアポトーシス誘導、増殖阻害、浸潤および移動の低下をもたらすことが見出された(
図2)。また、低用量の細胞傷害性化学療法剤(例えば、ドキソルビシン)を共投与することで、治療薬の効果が増幅され、腫瘍の成長阻害だけでなく、転移の退縮、および場合によっては除去につながるという仮説が立てられた。本治療薬(0.5μM)と低用量のドキソルビシン(0.05μM、<IC10)による組合せ治療後、腫瘍細胞が紡錘形を獲得し、剥離し、死亡することが観察された(
図2A)。これは、アポトーシスの顕著な誘導(
図2B)および増殖の減少(
図2C)に相当する。細胞周期に対する組合せ治療の効果の分析により、ドキソルビシンと治療薬の間で観察された相乗効果の基礎となる潜在的機構が明らかになった。すなわち、ドキソルビシン単独または治療薬との組合せにより、倍数体形成およびG2/M停止が誘導された(
図2D)。このことは、記載されたシナリオにおいて、ドキソルビシンは、細胞周期を阻害し、腫瘍細胞の細胞分裂速度を減少させることにより、おそらく治療薬の高い局所濃度を確保することによりMN-抗miR10b治療薬のアポトーシス促進効果を増幅した。この仮説に沿って、低用量ドキソルビシンおよびMN-抗MiR10bを組み合わせると、G1アポトーシス前細胞およびG2/M停止細胞集団の両方が増加した(
図2D)。これらの試験は、記載された治療法を用いた、ドキソルビシン等の低用量の殺細胞剤と、miR-10b阻害を組み合わせることにより、腫瘍細胞死と浸潤特性の喪失によって終点で示される腫瘍細胞の表現型に明確な効果を媒介することが可能であることを示した。これらの結果は、miR-10bが腫瘍細胞生存に不可欠なメタスタミル(metastamir)であることを示しており、オンコミル(oncomir)中毒の機構に類似している。この仮説のさらなる証明は、MDA-MB-231-luc-D3H2LN細胞株由来のmiR-10bノックアウトサブラインを生成しようとした実験から得られた(
図3A)。ノックアウトベクターセット(TALEN L+R)をトランスフェクションしてから24時間以内に、細胞が紡錘形の立体構造を獲得し、剥離し始めることが観察された。トランスフェクションの72時間後までには、生存可能な細胞は存在しなくなった(
図3B)。この後者の結果は、ドキソルビシンの非存在下でも、より高用量のMN-抗miR10b治療薬単独での処理によって、強固な治療効果が達成される可能性があることを示した。
【0146】
[実施例2]
MN-抗miR10b治療薬はin vivoでの遠隔転移性腫瘍細胞に送達し得る
治療用ナノ粒子と低用量化学療法剤を用いたmiR-10bの標的化が、治療用シナリオにおいて重大な意味を持つことをin vitroで立証した後、観察された治療効果がin vivoで達成できるかどうかを決定した。第1のステップは治療薬が標的の転移性器官に送達されるかどうかを評価することであった。
【0147】
蛍光標識された治療薬(MN上のCy5.5で標識)を、マウス乳腺癌4T1-luc2細胞株を同所移植したbalb/cマウスに注入した。このモデルでは、同所移植した腫瘍は、腫瘍接種後3週間までに局所疾患からリンパ節、肺、および骨転移へと進行する。治療薬の静脈内注入から24時間後に行ったex vivo近赤外(NIRF)光学イメージングにより、リンパ節、肺、および骨の転移性病変による取込みが明らかになった(
図4A)。蛍光顕微鏡により、これらの器官における転移性腫瘍細胞による広範な取り込みが確認され(
図4B)、設計通りに治療薬が、遠隔器官に播種した癌を標的化できるという本発明者らの仮説を支持した。
【0148】
網状内皮系の器官では、MN-抗miR10bの低レベルの蓄積が予想された。そこでは、細胞によって取り込まれ、急速に分解された。酸化鉄コアの鉄は内因性鉄プールに入り、ナノ粒子コーティングのデキストランは腎臓から排出された。確立された脳転移巣を有する動物におけるin vivoイメージング(
図4C)が行われ、転移性病変による取込みが示された。このことは、このモデルにおける血液脳関門の破壊の程度が、治療薬の送達を可能にするのに十分であることを示していた。
【0149】
[実施例3]
MN-抗miR10bによる治療はリンパ節転移巣の退縮を引き起こすことができる
本治療アプローチの臨床応用を視野に入れ、低用量ドキソルビシン(4mg/kg、毎週、i.p.)とMN-抗miR10b治療薬(15mg/kg Fe、10mg/kg ASO、毎週、i.v.)を組み合わせて、リンパ節転移性乳癌を退縮させることを目的とした。具体的には、腫瘍の接種から4~5週間後、同所性のMDA-MB-231-luc-D3H2LN腫瘍を有するマウスは、リンパ節転移の確認後に原発性腫瘍を外科的に除去した。これは、現在の標準治療では、リンパ節転移性乳癌を有する患者において原発性腫瘍を外科的に除去することを伴うため、臨床シナリオをよりよく模倣するために行われたものである。
【0150】
処理は、腫瘍除去の週に開始した。MN-抗miR10bと低用量ドキソルビシンで処理した実験マウスでは、4週間の治療後にリンパ節転移巣の完全な退縮が見られた(
図5Aおよび
図5B)。一方、対照群では、転移の進行がみられた。実験マウスでは、4週目に転移の完全な退縮が観察された時点で、処理を中止した。試験の終点までに、再発は依然として観察されなかった(
図5Aおよび
図5B)。
【0151】
Ex vivo分析により、ドキソルビシンを用いるまたは用いない、PBSまたは不活性治療薬で処理した対照動物において、リンパ節転移巣の存在および肺への転移性播種が明らかになった(
図5C)。MN-抗miR10bのみで処理したマウスでは、リンパ節への転移の証拠があったが、肺への転移はなかった。対照的に、MN-抗miR10bとドキソルビシンで処理したマウスでは、肉眼的なリンパ節または肺への転移は検出されなかった(
図5C)。
【0152】
MN-抗miR10bおよび低用量ドキソルビシンによる治療の効果はまた、体重(
図5D)および生存率(
図5E)の有意な改善にも結びついた。対照群とは異なり、治療開始後14週目までに、実験動物(MN-抗miR10b/ドキソルビシン)はいずれも癌に屈しなかった。さらに、ドキソルビシンとMN-抗miR10bの組合せ療法は、治療薬の単独療法よりも優れていた(
図5A、5B、5C、および5E)。
【0153】
治療の15週目までに、実験動物と対照動物との差異が、単純な解剖学的観察によって明らかになった。MN-scr-miRおよびドキソルビシンで処理した対照動物は、肉眼的なリンパ節腫脹および悪液質を示した。MN-抗miR10bおよびドキソルビシンで処理した実験動物は、健康的に見えた。長期間の観察により、転移性疾患の寛解は永続的であり、この処理により動物の天然寿命についての有効な治癒がもたらされることが示された。
【0154】
有効性が証明された後、全身毒性という重要な問題に対処する必要があった。腎毒性、肝毒性等の指標を含む血液化学マーカーのパネルを分析した結果、治療薬の成分に起因し得る重大な影響は認められなかった。主要な器官の病理組織学的検査では、肉眼的な組織異常がないことが示された。
【0155】
[実施例4]
-MN-抗miR10bによる治療は遠隔転移巣の退縮を引き起こすことができる
遠隔転移に特に関連して、同所性の4T1-luc2乳房腫瘍を有する免疫適格性マウス(Balb/c)において、低用量ドキソルビシン(2mg/kg、毎週、i.p.)とMN-抗miR10b治療薬(15mg/kg Fe、10mg/kg ASO、毎週、i.v.)を組み合わせた。PBSで処理した対照マウスでは、転移巣が急速に進行し(
図6Aおよび
図6B)、5週目までに100%の動物死亡をもたらした(
図6C)。MN-scr-miR+doxで処理したマウスでは、転移巣はPBS対象よりもゆっくりと成長した(
図6Aおよび
図6B)。第7週までの癌死亡率は80%であった(
図6Aおよび
図6B)。対照的に、MN-抗miR10b+doxで処理したマウスでは、遠隔転移巣の退縮が、6週目までに観察され(
図6Aおよび6B)、この時点で処理を停止した(
図6Aの赤矢印)。動物は、実験過程の間、転移のない状態を維持した。退縮は動物の65%で達成されたが、動物の35%は、この群におけるmiR-10bの非効率的な阻害のために進行した(
図6C)。壊死後の肺の巨視的観察により、MN-抗miR10b+doxで処理した応答者に転移性病変がないことが確認された(
図6D)。
【0156】
[実施例5]
nat/64
Cu-MN-抗miR10bの合成および特徴付け
Cu-64(
64Cu)で放射性標識された抗miR10bおよび超小型酸化鉄磁性ナノ粒子(MN)、以下「
64Cu-MN-抗miR10b」と称する、の合成は、合成が以前に報告された(Yoo et al.,2014)20nmのアミン化デキストランコーティング酸化鉄ナノ粒子であるMNを改変することから始まった。ナノ粒子は、腫瘍および転移性病変の間質への剤の血管外遊出を高めるために最適化された(Yoo et al.,2017a)。MNナノ粒子は、アミノ基とNODAGAの活性化エステル部分との間のカップリング反応によって、キレートリガンドであるNODAGAで官能化した(
図7)。NODAGAキレーターは、in vivoでの放射性金属の解離とその後の体内滞留を防ぐために不可欠な、高度に安定な
64Cu錯体を迅速に形成する能力を有する。ナノ粒子あたりのNODAGAキレーターの数は、13±2として定量化された。Cu/ナノ粒子の比率は、
natCuCl
2を用いた錯体形成後、ICP-MSにより14±1として決定された。in vivo試験の前に、ナノ粒子をSPDPで処理し、ジスルフィド結合を介して抗miR-10bアンタゴミルで官能化した。ナノ粒子あたりのアンタゴミルの数は、以前に記載された手順(Yoo et al., 2014;Yoo et al., 2015)にしたがって7.4±0.2として特徴付けられた。これらの治療用磁性放射性標識ナノ粒子は、以下に記載するように生成および特徴付けされた。全ての反応物および試薬は、商業グレードであり、さらに精製することなく使用した。全ての溶液は、MilliQ水から調製した。放射性標識に使用した金属非含有緩衝溶液は、Chelex 100 Resin(100-200 mesh、BioRad)を用いて調製した。
【0157】
64Cu-MN-抗miR10bのin vivo生体内分布を評価するためには、効率的な標識および精製方法の開発が必要である。MN-抗miR10bの放射性標識は、pH6.8酢酸緩衝剤中、60℃で20分間で達成された。これらの条件は、ナノキャリアの完全性を維持しながらNODAGAキレーターを標識するのに好都合である。PD-10カラムで精製した後、
64Cu-MN-抗miR10bを放射化学的純度99%超で、比活性7.1mCi/mgの鉄で得た(
図8A)。放射化学的同一性は、サイズ排除クロマトグラフィーによって確認された(
図8B)。さらに、Cu-NODAGAキレートの存在がナノ粒子サイズおよび標的への会合に及ぼす影響を評価するために、
natCu-MN-抗miR10bを合成した。コアの酸化鉄結晶のサイズは、
natCu-MN-抗miR10bについて4.71±0.24nm、MNについて4.69±0.23nmと測定された。表面修飾は、透過型電子顕微鏡(TEM、
図8C)で示されるように、酸化鉄コアのサイズおよび結晶構造にいかなる大きな変化も生じさせなかった。デキストランコーティングした官能化ナノ粒子である、
natCu-MN-抗miR10bの流体力学的直径は27.1±0.9nmと測定され、これは親MNよりも5.1nm大きい。Cu-NODAGAおよび抗miR10bアンチゴミルの導入により、流体力学的直径が23%増加した(
図8D)。
【0158】
細胞あたりの元素鉄として表現される細胞取込みは、MN-抗miR10bでは9.33±2.42 pg Fe/細胞、
natCu-MN-抗miR10bでは11.34±3.62 pg Fe/細胞で、有意差はなかった(
図8E)。最後に、RNA濃縮細胞抽出物を分析し、qRT-PCRによるmiR10bの阻害を比較した。アンタゴミルを含まない親MNで処理した後のmiR10bの発現レベルと比較して、MN-抗miR10bまたは
natCu-MN-抗miR10bで処理した後のmiR10b発現は完全に阻害された(
図8F)。
【0159】
NODAGA-MN-抗miR10bの合成
nat/64Cu-MN-抗miR10bの合成のためのステップは、
図7に概説されている。アミン誘導体化酸化鉄ナノ粒子(MN)は、以前に記載されたようにエピクロロヒドリンおよび水酸化アンモニウムでの修飾を通じて、デキストランコーティング酸化鉄ナノ粒子から調製した(Yoo et al.,2014)。ナノ粒子は、100μlのPBS緩衝剤(100mM、pH7.4)中で1mlのMN(87μM、10mg Fe/ml、54NH
2/MN)を2.54mgのNODAGA-NHSエステル(3.47μmol、40 eq.対MN)と反応させることによってNODAGA-NHS(Chematech、France)にコンジュゲートした。反応を4℃で一晩実施した後、得られたNODAGAコンジュゲートナノ粒子(NODAGA-MN)を、ヌクレアーゼ非含有PBS緩衝剤を溶出液とするサイズ排除カラム(PD-10、GE Healthcare)を用いて精製した。NODAGA-MNを過剰量のSPDP(250eq.)で4℃で4時間処理してNODAGA-MN-SPDPを形成し、これを再び、ヌクレアーゼ非含有PBS緩衝剤を溶出液とするサイズ排除カラムで精製した。LNAアンタゴミルである抗miR10bは、GLPプロトコルにしたがってBiospring(Frankfurt、Germany)により合成され提供されている。抗miR10b LNAアンタゴミルは、5’-チオール-修飾剤C6ジスルフィド(5’-ThioMC6)で修飾されており、これはMNとのコンジュゲートに利用された。オリゴヌクレオチド上のジスルフィドは、3%トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP、Thermo Scientific Co.)で活性化した後、酢酸アンモニウム/エタノール沈殿処理で精製した後にMNにコンジュゲートさせた。TCEP活性化および精製の後、オリゴをヌクレアーゼ非含有水に溶解し、NODAGA-MN-SPDPと共に一晩インキュベートした。最終生成物であるNODAGA-MN-抗miR10bは、動物実験の前に新鮮な状態で調製した。
【0160】
非放射性
nat
Cu-MN-抗miR10bの調製
4T1細胞におけるmiR-10bの阻害効果を評価するために、非放射性natCu-MN-抗miR10bを調製した。NODAGA-MN-抗miR10bの0.6mg Feを酢酸緩衝剤(500μL、pH6.8、0.1M)に分散させ、続いてCuCl2(0.7mg、NODAGAに対して50当量Cu2+)を添加した。反応混合物を60℃で20分間撹拌し、EDTA(100μL、100mM、pH7.4)を混合物に添加し、標識されていない遊離Cu2+イオンを除去した後、ヌクレアーゼ非含有PBS緩衝剤を溶出液として用いるサイズ排除カラム(PD-10、GE Healthcare)で精製した。所望の生成物を含む画分を合わせ、natCu-MN-抗miR10bの濃度をICP-MSで決定した。
【0161】
放射性標識MN-抗miR10b(
64
Cu-MN-抗miR10b)の調製
放射性標識は、一般的に使用される手順(Desogere et al.,2017)にしたがって行った。簡単に言うと、PBS中のNODAGA-MN-抗miR10b 200μg(Feとして)を、酢酸ナトリウム緩衝剤(0.1M、pH6.8、500μL)中の64CuCl2(4mCi、148MBq、ウィスコンシン大学マディソン校、WI)の溶液に添加した。反応混合物を60℃で20分間加熱した後、ヌクレアーゼ非含有PBS緩衝剤を溶出液として用いるサイズ排除カラム(PD-10カラム)で精製し、各500μLの溶出液を画分として収集した。各画分の放射化学的純度は、放射性TLCイメージングスキャナー(AR-2000、Eckert & Ziegler、Berlin、Germany)を用いて、EDTA溶液を溶出液(50mM、pH5)とするiTLC(Agilent、iTLC-SG、サンタクララ、CA)で制御した。放射化学的純度99%超の画分を合わせ、in vivo動物実験に使用した。64Cu-MN-抗miR10bの最終溶液の放射化学的同一性は、サイズ排除カラム(TSK gel QC-PAK-300、均一、100%リン酸ナトリウム、0.1M pH7.4、20分間)およびシリコーンPINフォトダイオードと254nmの紫外線検出を備えたCaroll/Ramsey放射能検出器を備えた分析HPLC(Agilent 1100 HPLC system、サンタクララ、CA)により確認した。
【0162】
MN-抗miR10bおよび
nat
Cu-MN-抗miR10bの特徴付け
誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)分析(Agilent 8800-QQQシステム、サンタクララ、CA)を実施し、銅および鉄の濃度を決定した。全てのサンプルは重量で調製した。較正用標準は、認証された銅と鉄の標準(1000mg/L)を希釈することにより調製した。0.1~400ppbの範囲の5つの標準溶液から検量線を得た。ルテチウム(1ppm)は、サンプルの適切な導入を保証するための外部標準として使用した。流体力学的直径とゼータ電位は動的光散乱分光計(Zetasizer Nano、Malvern、UK)により測定し、酸化鉄コアのサイズは透過型電子顕微鏡(JEM 2100 TEM、Jeol、Tokyo、Japan)で決定した。MNあたりのNODAGAの数を定量化するために、MNあたりのアミン数をNODAGAとのコンジュゲート後のMNあたりのアミン数から差し引いた。MNあたりのアミンの数は、1対1の比率でアミン基にコンジュゲートしたSPDPから放出されるピリジン-2-チオン(343nm、8080M-1cm-1)により定量化した(ThermoFisher、Waltham、MA)。最後に、MNあたりのオリゴヌクレオチドの数を、濃度の異なる複数の標準を用いて分光光度計によって決定した。簡単に説明すると、MN-抗miR10bおよびnatCu-MN-抗miR10bは、磁気カラム(MACSカラム、Miltenyi、Cambridge、MA)を用いて精製し、未結合の抗miR10bオリゴを除去した。精製したナノ粒子は、分光光度法(Spectramax M2マイクロプレートリーダー、Molecular Devices、Sunnyvale、CA)により、鉄濃度(410nm)およびオリゴ濃度(260nm)を決定するためにアッセイされた。
【0163】
放射性標識
89
Zr-MN-抗miR10bの調製および特徴付け
89Zr-MN-抗miR10bの合成のステップは、
図9に概略を示す。デフェロキサミン(DFO)のイソチオシアネート誘導体(DFO-Bz-NCS、Macrocyclics、Plano、TX)をMN上のアミン基にコンジュゲートさせてチオ尿素結合を形成した(12、13)。MN-抗miR10b(5mg/mL)を0.1M NaHCO3(0.9% NaCl含有、pH8.9)に分散させ、5倍モル過剰のDFO-Bz-NCS(DFO-NCS、DMSO中1mg/mL)と反応させた。混合物を37℃で2時間ロッカーに静置し、1M トリスを加えてコンジュゲート反応を終了させた(トリスの最終濃度:15mM)。
89Zr-MN-抗miR10bの特徴付けは、上記で概説したMN-抗miR10bおよび
natCu-MN-抗miR10bの特徴付けと同じステップを踏んだ。例えば、MNあたりのDFOの数を定量化するために、MNあたりのアミンの数を、DFOとのコンジュゲート後のMNあたりのアミンの数から差し引いた。
図10は、本明細書に記載の治療用磁性放射性標識ナノ粒子の合成に適していてもよいさらなる例示的なキレーターを示す。
【0164】
細胞取込み
natCu-MN-抗miR10bの細胞取込みは、MN-抗miR10bおよび親MNのものと比較した。4T1-luc細胞を12ウェルプレートに播種し、natCu-MN-抗miR10b、MN-抗miR10b、およびMNと37℃で24時間インキュベートした。DPBSで洗浄後、細胞を溶解し(Cell lysis buffer、Sigma-Aldrich、St.Louis、MO)、ICP-MSで分析し、鉄の濃度を決定した。タンパク質濃度はBCAアッセイ(Sigma-Aldrich、St.Louis、MO)で測定した。ナノ粒子の細胞取込みは、総タンパク質で正規化した。
【0165】
リアルタイム定量逆転写-PCR
非標識MN-抗miR10bと比較してnatCu-MN-抗miR10bによる標的会合を評価するために、4T1-luc細胞をnatCu-MN-抗miR10b、MN-抗miR10bおよびMNと37℃で48時間インキュベートした。細胞溶解液から、miRNeasy mini kitを製造元のプロトコル(Qiagen Inc.、Hilden、Germany)にしたがって使用し、マイクロRNA濃縮画分を採取した。miR-10bの相対的発現は、リアルタイム定量逆転写PCR(qRT-PCR;Taqmanプロトコル)により決定し、内部ハウスキーピング遺伝子であるSNORD44に正規化した。Taqman分析は、ABI Prism 7700シーケンス検出システム(Applied Biosystems、Foster City、CA)を用いて実施した。プライマー(Hs-miR-10b-3 miScript Primer、Hs-SNORD44-11 miScript Primer)およびアッセイキット(miScript PCR Starter Kit、Qiagen、Hilden、Germany)を使用した。
【0166】
[実施例6]
64
Cu-MN-抗miR10bの生体内分布
次に、ルシフェラーゼ発現転移性乳腺癌(4T1-luc2)を有する合計13匹のマウスにおいて、
64Cu-MN-抗miR10bの生体内分布をPET-MRIおよびex vivoガンマ計数によって評価した。4T1-luc2細胞はルシフェラーゼを発現しており、非侵襲的生物発光イメージング(BLI)により検出することができる。2つの異なる濃度の
64Cu-MN-抗miR10bを調査した:1)マイクロドーズと呼ばれるトレーサーレベル用量の
64Cu-MN-抗miR10b(1mg Fe/kg、n=6)、および2)マクロドーズと呼ばれるMN-抗miR10bと共注入した
64Cu-MN-抗miR10bの治療用量(15mg Fe/kg、n=7)。マウスは、異なる時点でPET-MRIによりスキャンした。in vivoイメージング後、マウスは、ex vivo生体内分布評価のために、24時間p.i.(マイクロドーズ群ではn=3、およびマクロドーズ群ではn=4)および48時間p.i.(各群でn=3)で屠殺した(
図11A~11D)。PET画像から得られた肝臓、腎臓および心臓の時間-活性曲線(
図12A~12C)は、注入された用量のほとんどが肝臓に速やかに取り込まれることを示す。これは、以前に報告された研究(Briley-Saebo et al.,2004;Estevanato et al.,2012;Schlachter et al.,2011)に沿っている。
【0167】
これはまた、注入された用量のほとんどが肝臓と脾臓に存在し、肝臓の%ID/g値は61.2±6.5(24時間、マイクロドーズ)、53.4±7.1(24時間、マクロドーズ)、54.3±5.5(48時間、マイクロドーズ)および32.1±13.0(48時間、マクロドーズ)であったことを示すex vivo生体内分布分析からも支持される(
図11Aおよび11B、挿入図参照)。4より低い%ID/g値が、他の全ての採取された器官および組織で測定された。
64Cu-MN-抗miR10bは転移性病変に蓄積するため、リンパ節、脳、骨、および肺等の転移巣を有する器官において、より高い%ID/g値が観察された(
図11A、11B、13A、および13B、#は転移性病変を有する器官を表す)。また、リンパ節転移はマクロドーズ群で大きく、マイクロドーズ群に比べ高いID/g値が得られていることを説明している。注入後24時間および48時間では、マイクロドーズとマクロドーズの間で同等の生体内分布が観察された(
図11A、11B、13A、および13B、リンパ節、脳、肺、および骨における転移性病変の存在に留意されたい)。このことは、非転移性器官において、24時間および48時間p.i.でマイクロドーズ投与後に得られる%ID/gとマクロドーズ投与後に得られる%ID/gの間で観察される1に近い傾きの強い相関にも反映され、Pearson係数はそれぞれ0.91(p<0.0001、傾き=1.38)および0.78(p=0.004、傾き=1.05)である(
図11Cおよび11D)。
【0168】
動物モデルおよび
64
Cu-MN-抗miR10bの投与
8週齢の雌Balb/cマウス(The Jackson Laboratory; Bar Harbor, ME)に、4T1-Red-Fluc細胞株(0.5×106細胞)を右上第3乳腺脂肪板の下に同所性移植した。この細胞はルシフェラーゼを発現し、腫瘍負担の対応する分析のために非侵襲的生物発光イメージング(BLI)により検出することができる。全ての動物は、週に2回、転移の形成を追跡するためにBLIでスキャンされた。細胞接種の2週間後、マウスに64Cu-MN-抗miR10bを静脈内注入した。マイクロドーズ試験のために、上記のように調製した64Cu-MN-抗miR10bを、Feとして20μg、マウスあたり118-190μCi、n=6の用量で注入した。担体添加マクロドーズ試験のために、64Cu-MN-抗miR10bをNODAGA-MN-抗miR10bと混合し、Feとして300μg、マウスあたり127~135μCi、n=7の用量で注入した。注入された用量のアリコートを、%ID/g計算のために分析した。PET-MRイメージング後、注入後24時間(マイクロドーズ群n=3、およびマクロドーズ群n=4)および注入後48時間(各群n=3)にマウスを屠殺して、ex vivo生体内分布分析を行った。
【0169】
生物発光光学イメージング(BLI)
BLIは転移巣の同定に使用した。イメージングには、IVIS Spectrumイメージングシステム(Perkin Elmer, Hopkinton, MA)を使用して行った。麻酔したマウスに、画像取得の12分前にDPBS中のD-ルシフェリンカリウム塩(15mg/mLを200mL;Perkin Elmer、Hopkinton、MA)を腹腔内注入した。同一の画像取得設定(時間、約0.5~60秒;F-stop、2;ビニング、中)および同一のROIを使用して、全身にわたる全輝度(光子/秒/cm2/sr)を得た。BLIは最大輝度を得るために約6~15分間行った。全ての画像はLiving Image Software (ver 4.5, IVIS Spectrum、Perkin Elmer、Hopkinton、MA)を用いて処理した。シグナルの定量化には、生物発光の読み取り値からの全輝度を使用した。
【0170】
PET-MRイメージング
マウスは、PETインサート(Bruker、Billerica MA)を備えた4.7テスラMRIスキャナでイメージングした。マウスは、医療用空気中の1~2%イソフルランで麻酔された。マウスはエアヒーターシステムを用いて保温され、体温と呼吸数はイメージングセッション中、生理学的モニタリングシステム(SA Instruments Inc.、Stony Brook NY)でモニタリングした。マイクロドーズ試験では、64Cu-MN-抗miR10bの注入後1時間、動的PET取得を継続的に行った。その後、マウスをケージに戻し、注入後2時間、4時間、24時間、および48時間に、それぞれ30分、30分、60分、60分の期間、再度イメージングした。マクロドーズ試験では、64Cu-MN-抗miR10bの注入後24時間にマウスを60分間スキャンした。ex vivoイメージングでは、器官をプラスチック製ホルダーにセットし、15分間スキャンした。
【0171】
解剖学的MR画像はPET撮影と同時に取得し、T1-weighted 3D FLASH(Fast Low Angle Shot)シーケンスを、以下のパラメータ:エコー時間(TE)=3ms、繰り返し時間(TR)=20ms、画像解像度=0.25x0.25x0.5mm3/voxel、フリップ角=12度で含んでいた。
【0172】
PET-MRイメージングデータを解析し、64Cu-MN-抗miR10bの生体内分布とクリアランスを推定した。AMIDEソフトウェアパッケージ(Loening and Gambhir、2003)を用いて、心臓、肝臓、腎臓などの主要器官のMR画像上に関心領域(ROI)を描き、各PETフレームの放射活性を定量化するために使用した。転移巣とそれに対応する転移のない組織における64Cu-MN-抗miR10bの取込みは、BLIによって同定された転移性骨およびリンパ節、およびそれらの非転移性対側組織上のROIを用いて定量化した。結果は、組織1立方センチメートルあたりの注入用量のパーセント(%ID/cc)で表現された。
【0173】
Ex vivo生体内分布
注入後24時間および48時間に動物を屠殺した。以下の器官および組織を収集した:リンパ節、血液、尿、腎臓、肝臓、脾臓、膵臓、心臓、肺、脳、大腿骨、膀胱、および筋肉。切除およびex vivoスキャン後、器官の重量を測定し、各器官のカウントを測定し、ガンマカウンター(Wizard、Perkin Elmer)を用いて減衰を補正した。
【0174】
統計解析
データは平均値±s.d.で表現した。統計的比較は、GraphPad Prismソフトウェアを用いた両側t-testで行われた。0.05未満のp値は、統計的に有意であるとみなされた。
【0175】
[実施例7]
腫瘍および転移巣における
64
Cu-MN-抗miR10b蓄積のPET-MRI
同所性腫瘍細胞移植から2週間後、BLIで転移巣が確認されたら、マウスに64Cu-MN-抗miR10bを静脈内注入した。転移性器官はin-vivoおよびex-vivoのBLIで識別した。担体を添加しないマイクロドーズ(Feとして20μg、マウスあたり118~190μCi、n=6)または上記で規定するように担体を添加したマクロドーズ(Feとして300μg、マウスあたり127~135μCi、n=7)を注入した後、転移巣による64Cu-MN-抗miR10bの取込みをPET-MRIにより評価した。in vivo PET-MRイメージング後、ex vivo PET-MRイメージングのために、マウスを24時間および48時間p.i.で屠殺した。
【0176】
生体内分布試験の結果と同様に、肝臓と脾臓は非常に高いPETシグナルを示し、肝クリアランスを示した。腎臓と尿の高いPETシグナルによって示されるように、腎クリアランスは他の主要なクリアランス経路であった(
図11Aおよび
図11B)。骨とリンパ節の転移性病変は、一部には肝臓および脾臓から空間的に離れていることもあり、in vivo PET-MRIで識別することができた(
図14A)。
64Cu-MN-抗miR10bのマイクロドーズ注入後の転移性骨および非転移性骨からの時間-活性曲線は、転移巣によるより高い取込みを示した(
図15)。
64Cu-MN-抗miR10bのマイクロドーズまたはマクロドーズ注入後24時間で、BLIによって識別された転移性リンパ節および骨は、転移のない対応する器官よりも有意に高い%ID/ccを示した(
図14B)。
【0177】
64Cu-MN-抗miR10bのマイクロドーズを注入した後の骨転移性病変のBLI画像を
図14Cに示す。転移性病変による
64Cu-MN-抗miR10bの取込みは、ex vivo PET-MRIによってさらに確認された(
図14C)。転移性骨およびリンパ節は、in vivoのBLIによって識別することができた。これらの転移性病変は、非転移性病変よりも高いex vivo PETシグナルを示した。
【0178】
ex vivoの生体内分布およびin vivoのPET-MRIと一致して、ex vivoのイメージングでは、切除した肝臓および脾臓に関連する活性が、マクロドーズおよびマイクロドーズの両方の試験で最も高かったことが示された。高い活性は、リンパ節、骨、および肺等、腫瘍細胞が定着した器官でも見られた(
図14D)。
【0179】
合わせると、これらの観察結果は、MN-抗miR10bおよび他の類似のナノ治療薬の放射性標識およびイメージングのための方法論を支持するものである。これらの知見は、転移性病変における治療薬蓄積の臨床PET-MRIの実現可能性を、関連治療剤の技術移転への道のりの重要なステップとして示すものである。
【0180】
考察
microRNA-10bは以前、転移性腫瘍細胞の生存率のマスター制御因子として同定され、転移性癌の治療のために治療用miR-10b阻害剤、MN-抗miR10bが設計された(Ma et al.,2007;Yigit et al.,2013;Yoo et al.,2015)。MN-抗miR10bは、全身毒性の証拠がない乳癌モデルにおいて、局所リンパ節および遠隔転移巣の完全かつ持続的な退縮を引き起こすことが示された(Yoo et al., 2015; Yoo et al., 2017b)。
【0181】
本研究では、進行した転移性癌の患者におけるMN-抗miR10bの適用への道を開くことができる重要な技術移転実験が行われた。MN-抗miR10b治療薬の放射性標識誘導体である64Cu-MN-抗miR10bを開発した。この治療薬は、放射性標識化しても物理化学的特性に影響を与えず、in vitroでの細胞取込みにも影響を与えず、腫瘍細胞におけるmiR10bの完全阻害に基づき、標的への有効な会合を維持することが示された。次いで、PET-MRIのマイクロドーズは、治療用量の剤の生体内分布を適切に反映し、64Cu-MN-抗miR10bの取込みに基づいて、転移性組織を強調するのに有効であることが示された。
【0182】
本明細書に記載されたツールおよび方法は、臨床転移巣への治療薬の送達を実証することを可能にし、癌患者における剤の生体内分布を明らかにすることを可能にするものであろう。実際、類似の治療薬の開発が直面する大きな課題の1つは、標的器官への効果的な送達にある。転移巣への薬剤送達の場合、複雑化要因としては、動物モデルと比較して病変のサイズが大きいこと、ヒト疾患の不均一性、種間血行力学的の違いによる薬剤の薬物動態の差異などが挙げられる。これらの差異に基づいて、前臨床の生体内分布および有効性のデータから、治療剤の臨床実施の成功の証明を直接推定することは可能ではない。
【0183】
そのため、新薬の治験申請プロトコルのもとで、患者を対象としたマイクロドーズPET試験を実施できることは、臨床承認に向けた重要な一歩となる。PET技術は、放射性標識薬剤の濃度をサブピコモル範囲に近い感度で測定できる程度に高感度であるため、一般的には1マイクログラムほどの放射性標識薬剤は、ヒトで提案されるPET試験を実施するのに十分である。この特徴は、医薬品開発の初期段階において大きな利点となる。放射性標識薬剤の質量が小さいと薬効が発現しないため、治療薬に要求される前臨床安全性および毒性に関する資料よりも、より迅速に、より限定的な資料で米国食品医薬品局から最初のヒト試験の承認を得ることができる。
【0184】
本研究では、驚くべきことにマイクロドーズと治療用量の間で同じ挙動が観察されたことから、患者においてマイクロドーズ試験を進めることが妥当であることが示された。このような探索的なイメージング研究がもたらす影響は3つある。第1に、マウスで非常に有効なMN-抗miR10bが、ヒトの転移巣にも蓄積し得ることがあることが確立されるであろう。これは、薬物送達が実際に実現可能であることを示すため、治療薬の臨床開発のリスクを大きく軽減する。ナノ治療薬が失敗したのは、送達がうまくいかなかったことと、ヒトの腫瘍がマウスよりも大きく、表面積と体積の比率が異なることが原因である。第2に、提案された試験により、MN-抗miR10bの薬物動態挙動が明らかになり、これにより、治療中の投薬の確立が可能になり得る。第3に、MN-抗miR10bが臨床試験に到達すれば、放射性標識薬剤を、どの患者の転移巣に治療薬が蓄積されているかに基づいて、治療対象患者を選択するために使用し得る。
【0185】
64Cu-MN-抗miR10bの合成と試験の成功は、本明細書に例示したような酸化鉄の送達プラットフォームだけでなく、マルチモーダルな治療を提供する可能性を示す他のナノ粒子に基づく同様のナノ治療薬の試験の先例を作ったという点でも重要である。例えば、銅システアミン等の銅ベースのナノ医薬は、RNAベースの標的療法と、癌において有望視されている銅システアミンベースのX線誘導光線力学療法とを組み合わせるために採用し得る(Li et al.,2010;Ma et al.,2014;Shrestha et al.,2019)。
【0186】
RNAベースの治療薬に特に関連して、これらの剤の大部分は、多くの場合、脂質ナノ粒子(例えば、AlnylamのOnpattro、MedImmuneのMEDI1191、およびAstraZenecaのAZD8601)またはGalNAc(例えば、AlnylamのGivlaari、NovartisのInclisiran等)を含む送達ビヒクルに依存している。このような場合、臨床試験に至るまでに、関連する放射性標識およびイメージングプロトコルを採用することで、送達の成功を示すことで臨床開発のリスクを軽減するだけでなく、用量、スケジュール、または剤設計の機能としての標的会合についてさらなる洞察を得ることができる可能性がある。
【0187】
臨床マイクロドーズイメージング研究の価値は、完全な臨床試験を行うための関連コストをかけずに、医薬品開発への道筋で最も重要な問題の1つである標的器官部位への送達の問題に答えることにあると考えられる。全体として、本明細書に記載されたデータは、NODAGAおよび放射性64Cuを導入することにより、放射性標識MN-抗miR10b治療薬の開発に成功したことを示している。64Cu-MN-抗miR10bの生体内分布をマイクロドーズ注入後に調査したところ、全ての器官で治療用マクロドーズと同等の生体内分布が示された。本明細書に記載の放射性標識およびイメージングプロトコルは、剤の薬物動態挙動を解明し、将来の臨床試験のリスクを軽減し、どの患者の転移巣が治療薬を蓄積するかに基づいて、治療のための患者の選択を支援することによって、同様のナノ治療薬の臨床開発を進めることができる。
【0188】
他の実施形態
本発明をその詳細な説明と合わせて説明してきたが、前述の説明は、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲を例示することを意図しており、これを限定するものではないことを理解されたい。他の局面、利点、および改変は、以下の特許請求の範囲の範囲内にある。
【国際調査報告】