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特表2023-548595多重特異性抗原結合ドメインの新規のリンカー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-17
(54)【発明の名称】多重特異性抗原結合ドメインの新規のリンカー
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/46 20060101AFI20231110BHJP
【FI】
C07K16/46 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023527324
(86)(22)【出願日】2021-11-09
(85)【翻訳文提出日】2023-06-26
(86)【国際出願番号】 US2021058669
(87)【国際公開番号】W WO2022103773
(87)【国際公開日】2022-05-19
(31)【優先権主張番号】63/112,119
(32)【優先日】2020-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500049716
【氏名又は名称】アムジエン・インコーポレーテツド
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ライリー,ティモシー
(72)【発明者】
【氏名】ガルセス,フェルナンド
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ジュウルン
(72)【発明者】
【氏名】エスティス,ブラム
(72)【発明者】
【氏名】ベイツ,ダレン・エル
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA75
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
複数の標的を同時に認識し得る単一の抗体ベースのコンストラクトを生成する能力は、多くの治療薬候補を臨床へと進めるのに最も重要である。これはしばしば、広範なタンパク質設計を行い、その成功の度合いは様々である。多重特異性抗体の場合には、Fab領域内のHC/LC対形成の駆動は、多重特異性設計の分野で最も困難な課題の1つを表す。ここで記載されるのは、多重特異性の生成をさらに可能にすることとなる、VL-CLドメインとVH-CH1ドメインとの間で新規のリンカーを利用する新しい単鎖Fabモジュールの発見である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの単鎖Fabを含む抗原結合タンパク質であって、前記単鎖Fabは:
VH-CH1ポリペプチドと、
VL-CLポリペプチドと
を含み、
前記VH-CH1ポリペプチド及び前記VL-CLポリペプチドは、配列番号1と少なくとも90%同一の配列からなるペプチドリンカーを介して連結されている、抗原結合タンパク質。
【請求項2】
前記ペプチドリンカーは、配列番号1と少なくとも94%同一の配列からなる、請求項1に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項3】
前記ペプチドリンカーは、配列番号1と少なくとも97%同一の配列からなる、請求項1に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項4】
前記ペプチドリンカーは、配列番号1と100%同一の配列からなる、請求項1に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項5】
前記VL-CLポリペプチドのC末端は、前記ペプチドリンカーのN末端に連結されており、前記VH-CH1ポリペプチドのN末端は、前記ペプチドリンカーのC末端に連結されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項6】
前記VH-CH1ポリペプチドは、そのC末端にて、ヒンジ-CH2-CH3ポリペプチドのN末端に連結されている、請求項1~5のいずれか一項に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項7】
前記ヒンジ-CH2-CH3ポリペプチドは、配列番号5及び配列番号6からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項6に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項8】
前記VL-CLポリペプチドのCL部分は、配列番号2及び配列番号3からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項9】
前記VH-CH1ポリペプチドのCH1部分は、配列番号4を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項10】
i)前記VH-CH1ポリペプチドはS183E変異を含み;
ii)前記VL-CLポリペプチドはS176K変異を含み;
アミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従う、請求項1~4のいずれか一項に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項11】
i)前記VH-CH1ポリペプチドはS183K変異を含み;
ii)前記VL-CLポリペプチドはS176E変異を含み;
アミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従う、請求項1~4のいずれか一項に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項12】
第1及び第2のポリペプチドを含む多重特異性抗原結合タンパク質であって、
前記第1のポリペプチドは、第1のペプチドリンカーのN末端に連結された第1のVL-CLポリペプチドを含み、前記第1のペプチドリンカーのC末端は、第1の抗体重鎖のN末端に連結されており、前記第1の抗体重鎖は、K/R409D及びK392Dの変異を含み;
前記第2のポリペプチドは、第2のペプチドリンカーのN末端に連結された第2のVL-CLポリペプチドを含み、前記第2のペプチドリンカーのC末端は、第2の抗体重鎖のN末端に連結されており、前記第2の重鎖は、D399K及びE356Kの変異を含み;
前記第1のペプチドリンカーは、配列番号1と90%、94%、97%、又は100%同一のアミノ酸配列からなり;
前記第2のペプチドリンカーは、配列番号1と90%、94%、97%、又は100%同一のアミノ酸配列からなり;
双方の重鎖内のアミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従い;
前記第1のVL-CLポリペプチド及び前記第1の抗体重鎖は、第1の抗原又はエピトープに結合し、前記第2のVL-CLポリペプチド及び前記第2の抗体重鎖は、第2の抗原又はエピトープに結合する、多重特異性抗原結合タンパク質。
【請求項13】
前記第1のVL-CLポリペプチドはS176K変異を含み;
前記第1の抗体重鎖はS183E変異を含み;
前記第2のVL-CLポリペプチドはS176E変異を含み;
前記第2の抗体重鎖はS183K変異を含み、
アミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従う、請求項12に記載の多重特異性抗原結合タンパク質。
【請求項14】
前記第2のVL-CLポリペプチドはS176K変異を含み;
前記第2の抗体重鎖はS183E変異を含み;
前記第1のVL-CLポリペプチドはS176E変異を含み;
前記第1の抗体重鎖はS183K変異を含み、
アミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従う、請求項12に記載の多重特異性抗原結合タンパク質。
【請求項15】
前記第1の抗体重鎖はさらに、K439D変異を含み、
アミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従う、請求項12~14のいずれか一項に記載の多重特異性抗原結合タンパク質。
【請求項16】
a)2本の抗体軽鎖と;
b)ペプチドリンカーのN末端に連結されたVL-CLポリペプチドを含む2つのポリペプチドと
を含む多重特異性抗原結合タンパク質であって:
前記ペプチドリンカーのC末端は、抗体重鎖のN末端に連結されており、前記抗体重鎖のC末端は、第2のVH-CH1ポリペプチドのN末端に連結されており;
前記抗体重鎖は、前記VL-CLポリペプチドと会合して第1の抗原結合部位を形成する第1のVH-CH1ポリペプチドを含み;
b)の前記2つのポリペプチドの前記第2のVH-CH1ポリペプチドは、a)の前記2本の抗体軽鎖と会合して第2の抗原結合部位を形成し;
前記ペプチドリンカーは、配列番号1と90%、94%、97%、又は100%同一のアミノ酸配列からなる、多重特異性抗原結合タンパク質。
【請求項17】
i)前記第1のVH-CH1ポリペプチドはS183E変異を含み;
ii)前記VL-CLポリペプチドはS176K変異を含み;
アミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従う、請求項16に記載の多重特異性抗原結合タンパク質。
【請求項18】
i)前記第1のVH-CH1ポリペプチドはS183K変異を含み;
ii)前記第1のVL-CLポリペプチドはS176E変異を含み;
アミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従う、請求項16に記載の多重特異性抗原結合タンパク質。
【請求項19】
i)前記第2のVH-CH1ポリペプチドはS183E変異を含み;
ii)前記軽鎖はS176K変異を含み;
アミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従う、請求項16に記載の多重特異性抗原結合タンパク質。
【請求項20】
i)前記第2のVH-CH1ポリペプチドはS183K変異を含み;
ii)前記軽鎖はS176E変異を含み;
アミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従う、請求項16に記載の多重特異性抗原結合タンパク質。
【請求項21】
i)前記第1のVH-CH1ポリペプチドはS183K変異を含み;
ii)前記第1のVL-CLポリペプチドはS176E変異を含み;
iii)前記第2のVH-CH1ポリペプチドはS183E変異を含み;
iv)前記軽鎖はS176K変異を含み;
アミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従う、請求項16に記載の多重特異性抗原結合タンパク質。
【請求項22】
i)前記第1のVH-CH1ポリペプチドはS183E変異を含み;
ii)前記第1のVL-CLポリペプチドはS176K変異を含み;
iii)前記第2のVH-CH1ポリペプチドはS183K変異を含み;
iv)前記軽鎖はS176E変異を含み;
アミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従う、請求項16に記載の多重特異性抗原結合タンパク質。
【請求項23】
前記抗体重鎖のC末端は、配列番号9~23からなる群から選択される第2のペプチドリンカーを介して、前記第2のVH-CH1ポリペプチドのN末端に連結されている、請求項16~22のいずれか一項に記載の多重特異性抗原結合タンパク質。
【請求項24】
a)2本の抗体軽鎖と;
b)抗体重鎖を含む2つのポリペプチドと
を含む多重特異性抗原結合タンパク質であって:
前記抗体重鎖のC末端は、VL-CLポリペプチドのN末端に連結されており、前記VL-CLポリペプチドのC末端は、ペプチドリンカーのN末端に連結されており、前記ペプチドリンカーのC末端は、第2のVH-CH1ポリペプチドのN末端に連結されており;
b)の前記2つのポリペプチドの前記抗体重鎖は、a)の抗体軽鎖と会合して第1の抗原結合部位を形成する第1のVH-CH1ポリペプチドを含み、
前記第2のVH-CH1ポリペプチドは、前記VL-CLポリペプチドと会合して第2の抗原結合部位を形成し;
前記ペプチドリンカーは、配列番号1と90%、94%、97%、又は100%同一のアミノ酸配列からなる、多重特異性抗原結合タンパク質。
【請求項25】
i)前記第1のVH-CH1ポリペプチドはS183E変異を含み;
ii)前記VL-CLポリペプチドはS176K変異を含み;
アミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従う、請求項24に記載の多重特異性抗原結合タンパク質。
【請求項26】
i)前記第1のVH-CH1ポリペプチドはS183K変異を含み;
ii)前記第1のVL-CLポリペプチドはS176E変異を含み;
アミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従う、請求項24に記載の多重特異性抗原結合タンパク質。
【請求項27】
i)前記第2のVH-CH1ポリペプチドはS183E変異を含み;
ii)前記軽鎖はS176K変異を含み;
アミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従う、請求項24に記載の多重特異性抗原結合タンパク質。
【請求項28】
i)前記第2のVH-CH1ポリペプチドはS183K変異を含み;
ii)前記軽鎖はS176E変異を含み;
アミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従う、請求項24に記載の多重特異性抗原結合タンパク質。
【請求項29】
i)前記第1のVH-CH1ポリペプチドはS183K変異を含み;
ii)前記第1のVL-CLポリペプチドはS176E変異を含み;
iii)前記第2のVH-CH1ポリペプチドはS183E変異を含み;
iv)前記軽鎖はS176K変異を含み;
アミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従う、請求項24に記載の多重特異性抗原結合タンパク質。
【請求項30】
i)前記第1のVH-CH1ポリペプチドはS183E変異を含み;
ii)前記第1のVL-CLポリペプチドはS176K変異を含み;
iii)前記第2のVH-CH1ポリペプチドはS183K変異を含み;
iv)前記軽鎖はS176E変異を含み;
アミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従う、請求項24に記載の多重特異性抗原結合タンパク質。
【請求項31】
前記抗体重鎖のC末端は、配列番号9~30からなる群から選択される第2のペプチドリンカーを介して、前記第2のVH-CH1ポリペプチドのN末端に連結されている、請求項24~22のいずれか一項に記載の多重特異性抗原結合タンパク質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる2020年11月10日出願の米国仮特許出願第63/112,119号明細書の利益を主張する。
【0002】
本出願は、電子フォーマットの配列表と共に出願されている。この配列表は、2021年11月2日に作成した、サイズが21.06KBであるA-2670-WO-PCT_SeqList_110221_ST25という名称のファイルとして提供されている。電子フォーマットの配列表における情報は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0003】
本発明は、バイオ医薬品の分野に関する。特に、本発明は、特定のリンカーを有する単鎖Fab(「scFab」)領域を含む抗原結合タンパク質に関する。当該抗原結合タンパク質は、単一特異性であり得るか、又は多重特異性であり得る。
【背景技術】
【0004】
多重特異性抗体及び抗体様コンストラクトは、治療用分子の開発者にとって魅力的ないくつかの特徴を持っている。二重特異性抗体及び三重特異性抗体のような同時に複数の標的を標的とする多重特異性抗体の臨床潜在性は、複合疾患を標的とするのに大いに有望である。しかしながら、この分子の生成は、大きな課題を示す。なぜならば、特に抗体の重鎖及び軽鎖の対形成の際に、単一細胞への形質移入時の、複数のポリペプチド鎖で構成されている新規の四次構造の対形成/折畳みが困難だからである。抗体Fab領域では、重鎖(HC)と軽鎖(LC)との間で、下記の2箇所での相互作用が存在している:HC内の可変領域(VH)とLC内の可変領域(VL)との間、及びFab HCの定常領域(CH1)とLCの定常領域(CL)との間。
【0005】
複数のHC及びLCが単一細胞中に同時に形質移入されて多重特異性分子(即ち、ヘテロIgG)が作製される場合に、HC/LC間の同族対形成を駆動するために、二量体界面を操作するための荷電対形成変異(charge-pairing mutation)(CPM)、又は大きな嵩高い残基(即ち、Trp及びTyr)の挿入、二量体形成を物理的に有利にするか不利にするためのノブインホール(KiH)のようなツールが配置されることが多い。しかしながら、そのような操作の成功は、HC/LC誤対形成に起因して、最適ではないことが多く、所望の分子の回収率が低くなる。
【0006】
ここに記載されるのは、広く応用可能なモジュール(scFabモジュールと称される)の発見であり、これは、製造容易性を平易にすることができ、不正確に対形成されて折り畳まれる種を最小限にすることができ、且つ広範な一価の、そして二価の多重特異性分子に広く応用可能である。scFabモジュール内に含まれるのは、軽鎖VL-CL領域をVH-CH1領域に連結する新規のリンカーである。
【0007】
100を超える二重特異性フォーマットが報告されてきたが、これらは多くの場合、具体的な設計目的を満たしていない。この新規のscFabモジュールは、多くの多重特異性フォーマットに応用されて、機能又は安定性に影響を与えることなく重-軽鎖対形成複雑性を減らすことができる。理想的な製造特性を有する治療学的候補を送達するようなツールが必要とされており、且つ重要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下を請求する:
一態様において、本発明は、少なくとも1つの単鎖Fabを含む抗原結合タンパク質に関し、当該単鎖Fabは:
VH-CH1ポリペプチドと、
VL-CLポリペプチドと
を含み、
VH-CH1ポリペプチド及びVL-CLポリペプチドは、配列番号1と少なくとも90%、94%、97%、又は100%同一の配列からなるペプチドリンカーを介して連結されている。
【0009】
一実施形態において、VL-CLポリペプチドのC末端は、ペプチドリンカーのN末端に連結されており、VH-CH1ポリペプチドのN末端は、ペプチドリンカーのC末端に連結されている。
【0010】
一実施形態において、VH-CH1ポリペプチドは、そのC末端にて、ヒンジ-CH2-CH3ポリペプチドのN末端に連結されている。一実施形態において、ヒンジ-CH2-CH3ポリペプチドは、配列番号5及び配列番号6からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0011】
一実施形態において、VL-CLポリペプチドのCL部分は、配列番号2及び配列番号3からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0012】
一実施形態において、VH-CH1ポリペプチドのCH1部分は、配列番号4を含む。
【0013】
一実施形態において、i)VH-CH1ポリペプチドはS183E変異を含み;
ii)VL-CLポリペプチドはS176K変異を含み;
アミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従う。
【0014】
一実施形態において、i)VH-CH1ポリペプチドはS183K変異を含み;
ii)VL-CLポリペプチドはS176E変異を含み;
アミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従う。
【0015】
別の態様において、本発明は、第1及び第2のポリペプチドを含む多重特異性抗原結合タンパク質に関し、
第1のポリペプチドは、第1のペプチドリンカーのN末端に連結された第1のVL-CLポリペプチドを含み、第1のペプチドリンカーのC末端は、第1の抗体重鎖のN末端に連結されており、第1の抗体重鎖は、K/R409D及びK392Dの変異を含み;
第2のポリペプチドは、第2のペプチドリンカーのN末端に連結された第2のVL-CLポリペプチドを含み、第2のペプチドリンカーのC末端は、第2の抗体重鎖のN末端に連結されており、第2の重鎖は、D399K及びE356Kの変異を含み;
第1のペプチドリンカーは、配列番号1と90%、94%、97%、又は100%同一のアミノ酸配列からなり;
第2のペプチドリンカーは、配列番号1と90%、94%、97%、又は100%同一のアミノ酸配列からなり;
双方の重鎖内のアミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従い;
第1のVL-CLポリペプチド及び第1の抗体重鎖は、第1の抗原又はエピトープに結合し、第2のVL-CLポリペプチド及び第2の抗体重鎖は、第2の抗原又はエピトープに結合する。
【0016】
一実施形態において、第1のVL-CLポリペプチドはS176K変異を含み;
第1の抗体重鎖はS183E変異を含み;
第2のVL-CLポリペプチドはS176E変異を含み;
第2の抗体重鎖はS183K変異を含み、
アミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従う。
【0017】
一実施形態において、第2のVL-CLポリペプチドはS176K変異を含み;
第2の抗体重鎖はS183E変異を含み;
第1のVL-CLポリペプチドはS176E変異を含み;
第1の抗体重鎖はS183K変異を含み、
アミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従う。
【0018】
一実施形態において、第1の抗体重鎖はさらに、K439D変異を含み、
アミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従う。
【0019】
別の態様において、本発明は:
a)2本の抗体軽鎖と;
b)ペプチドリンカーのN末端に連結されたVL-CLポリペプチドを含む2つのポリペプチドと
を含む多重特異性抗原結合タンパク質に関し、
ペプチドリンカーのC末端は、抗体重鎖のN末端に連結されており、抗体重鎖のC末端は、第2のVH-CH1ポリペプチドのN末端に連結されており;
抗体重鎖は、VL-CLポリペプチドと会合して第1の抗原結合部位を形成する第1のVH-CH1ポリペプチドを含み;
b)の2つのポリペプチドの第2のVH-CH1ポリペプチドは、a)の2本の抗体軽鎖と会合して第2の抗原結合部位を形成し;
ペプチドリンカーは、配列番号1と90%、94%、97%、又は100%同一のアミノ酸配列からなる。
【0020】
一実施形態において、i)第1のVH-CH1ポリペプチドはS183E変異を含み;
ii)VL-CLポリペプチドはS176K変異を含み;
アミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従う。
【0021】
一実施形態において、i)第1のVH-CH1ポリペプチドはS183K変異を含み;
ii)第1のVL-CLポリペプチドはS176E変異を含み;
アミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従う。
【0022】
一実施形態において、i)第2のVH-CH1ポリペプチドはS183E変異を含み;
ii)軽鎖はS176K変異を含み;
アミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従う。
【0023】
一実施形態において、i)第2のVH-CH1ポリペプチドはS183K変異を含み;
ii)軽鎖はS176E変異を含み;
アミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従う。
【0024】
一実施形態において、i)第1のVH-CH1ポリペプチドはS183K変異を含み;
ii)第1のVL-CLポリペプチドはS176E変異を含み;
iii)第2のVH-CH1ポリペプチドはS183E変異を含み;
iv)軽鎖はS176K変異を含み;
アミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従う。
【0025】
一実施形態において、i)第1のVH-CH1ポリペプチドはS183E変異を含み;
ii)第1のVL-CLポリペプチドはS176K変異を含み;
iii)第2のVH-CH1ポリペプチドはS183K変異を含み;
iv)軽鎖はS176E変異を含み;
アミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従う。
【0026】
一実施形態において、抗体重鎖のC末端は、配列番号9~23からなる群から選択される第2のペプチドリンカーを介して、第2のVH-CH1ポリペプチドのN末端に連結されている。
【0027】
別の態様において、本発明は:
a)2本の抗体軽鎖と;
b)抗体重鎖を含む2つのポリペプチドと
を含む多重特異性抗原結合タンパク質に関し、
抗体重鎖のC末端は、VL-CLポリペプチドのN末端に連結されており、VL-CLポリペプチドのC末端は、ペプチドリンカーのN末端に連結されており、ペプチドリンカーのC末端は、第2のVH-CH1ポリペプチドのN末端に連結されており;
b)の2つのポリペプチドの抗体重鎖は、a)の抗体軽鎖と会合して第1の抗原結合部位を形成する第1のVH-CH1ポリペプチドを含み、
第2のVH-CH1ポリペプチドは、VL-CLポリペプチドと会合して第2の抗原結合部位を形成し;
ペプチドリンカーは、配列番号1と90%、94%、97%、又は100%同一のアミノ酸配列からなる。
【0028】
一実施形態において、i)第1のVH-CH1ポリペプチドはS183E変異を含み;
ii)VL-CLポリペプチドはS176K変異を含み;
アミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従う。
【0029】
一実施形態において、i)第1のVH-CH1ポリペプチドはS183K変異を含み;
ii)第1のVL-CLポリペプチドはS176E変異を含み;
アミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従う。
【0030】
一実施形態において、i)第2のVH-CH1ポリペプチドはS183E変異を含み;
ii)軽鎖はS176K変異を含み;
アミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従う。
【0031】
一実施形態において、i)第2のVH-CH1ポリペプチドはS183K変異を含み;
ii)軽鎖はS176E変異を含み;
アミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従う。
【0032】
一実施形態において、i)第1のVH-CH1ポリペプチドはS183K変異を含み;
ii)第1のVL-CLポリペプチドはS176E変異を含み;
iii)第2のVH-CH1ポリペプチドはS183E変異を含み;
iv)軽鎖はS176K変異を含み;
アミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従う。
【0033】
一実施形態において、i)第1のVH-CH1ポリペプチドはS183E変異を含み;
ii)第1のVL-CLポリペプチドはS176K変異を含み;
iii)第2のVH-CH1ポリペプチドはS183K変異を含み;
iv)軽鎖はS176E変異を含み;
アミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従う。
【0034】
一実施形態において、抗体重鎖のC末端は、配列番号9~30からなる群から選択される第2のペプチドリンカーを介して、第2のVH-CH1ポリペプチドのN末端に連結されている。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】ヘテロIgG分子及びIgG-Fab分子、並びに一価及び二価の二重特異性を生成するためのscFabの応用の概略図を示す。
図2】5つの一価の二重特異性フォーマットを生成するための、scFabモジュールの種々の実施を示す。「v103」は、重荷電対変異(一方の重鎖におけるK392D、K409D、及びK439Dの置換、他方の重鎖におけるE356K及びD399Kの置換)を指す。「v503」は、重鎖/軽鎖荷電対形成変異(一方のHC/LC対についてHC1 S183K/LC1 S176E、及び他方のHC/LC対についてHC2 S183E/LC2 S176K)と組み合わせたv103変異を指す。v503について考える別の方法は、v103をv1と組み合わせるというものである。
図3】(GQ) scFab-ヘテロFcフォーマットへの3つの二重特異性プログラムの変換は、5~45mg/Lに及ぶ最終収率をもたらしたことを示す図である。(GQ) scFab-ヘテロFc(v103)について、最終収率(淡い青色)に僅かな利点がある。
図4】6つの二価の二重特異性フォーマットを生成するための、scFabモジュールの種々の実施を示す図である。「v1」は、重鎖/軽鎖荷電対形成変異(一方のHC/LC対についてHC1 S183K/LC1 S176E、及び他方のHC/LC対についてHC2 S183E/LC2 S176K)を指す。
図5】(GQ) scFab-Fc-Fabへの6つの二重特異性プログラムの変換は、二価二重特異性(GQ) scFab-Fc-FabフォーマットがCPMを必要とすることを実証していることを示す図である。全てのFabアームにおいてCPMを用いることにいくらかの利点はあるが、総収率への最も大きな利点は、scFabモジュールがCPMを含有して、Fabアームが含有しない場合にある。
図6】種々のリンカーは、scFabモジュールのTmに影響しないが、リンカーが長いほど(>(GQ))、scFab-ヘテロFcの一価の二重特異性の2Wk40C安定性に負に影響し得ることを示す図である。
図7】二価の二重特異性IgG-Fab又はscFab_v1-Fc-Fab_v1(GQ)中への2つのmAbの組合せは、各標的に対する結合親和性に影響しなかったことを示す図である。
図8】40Cにて2週後のコンストラクトの安定性データを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本明細書中で用いられる用語「抗原結合タンパク質」は、1種以上の標的抗原に特異的に結合するタンパク質を指す。抗原結合タンパク質は、抗体及びその機能的断片を含み得る。「機能的抗体断片」とは、完全長の重鎖及び/又は軽鎖内に存在するアミノ酸の少なくとも一部を欠くが、それでもなお抗体の抗原に特異的に結合することができる抗体の一部のことである。機能的抗体断片として、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)断片、Fv断片、Fd断片、相補性決定領域(CDR)断片、及びCDR断片の組合せが挙げられるが、これらに限定されない。これは、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、又はラクダ科動物等のあらゆる哺乳動物源に由来し得る。機能的抗体断片は、標的抗原の結合について、インタクトな抗体と競合し得、当該断片は、インタクトな抗体の修飾(例えば、酵素的若しくは化学的な開裂)によって生成され得るか、又は組換えDNA技術若しくはペプチド合成を用いて新規に合成され得る。
【0037】
また、抗原結合タンパク質として、単一のポリペプチド鎖又は複数のポリペプチド鎖中に組み込まれた1つ以上の機能的抗体断片を含むタンパク質が挙げられ得る。例えば、抗原結合タンパク質として、下記が挙げられ得るが、これらに限定されない:一本鎖Fv(scFv)、ダイアボディ(例えば、欧州特許第404,097号明細書、国際公開第93/11161号パンフレット;及びHollinger et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,Vol.90:6444-6448,1993参照);イントラボディ;ドメイン抗体(単一のVL若しくはVHドメイン、又はペプチドリンカーによって連結された2つ以上のVHドメイン;Ward et al.,Nature,Vol.341:544-546,1989参照);マキシボディ(Fc領域に融合した2つのscFv、Fredericks et al.,Protein Engineering,Design & Selection,Vol.17:95-106,2004及びPowers et al.,Journal of Immunological Methods,Vol.251:123-135,2001参照);トリアボディ;テトラボディ;ミニボディ(CH3ドメインに融合したscFv;Olafsen et al.,Protein Eng Des Sel.,Vol.17:315-23,2004参照);ペプチボディ(Fc領域に結合した1つ以上のペプチド、国際公開第00/24782号パンフレット参照);直鎖状抗体(相補的軽鎖ポリペプチドと共に一対の抗原結合領域を形成する一対のタンデムFdセグメント(VH-CH1-VH-CH1)、Zapata et al.,Protein Eng.,Vol.8:1057-1062,1995参照);小モジュラー免疫医薬(米国特許出願公開第20030133939号明細書参照);並びに免疫グロブリン融合タンパク質(例えば、IgG-scFv、IgG-Fab、2scFv-IgG、4scFv-IgG、VH-IgG、IgG-VH、及びFab-scFv-Fc)。
【0038】
「多重特異性」は、抗原結合タンパク質が、2種以上の異なる抗原に特異的に結合することができることを意味する。「二重特異性」は、抗原結合タンパク質が、2種の異なる抗原に特異的に結合することができることを意味する。本明細書中で用いられる抗原結合タンパク質は、類似の結合アッセイ条件下で、他の無関係なタンパク質に対する親和性と比較して、標的抗原に対してかなり高い結合親和性を有しており、その結果、標的抗原を識別することができる場合に、標的抗原に「特異的に結合する」。抗原に特異的に結合する抗原結合タンパク質は、平衡解離定数(K)が≦1×10-6Mであり得る。抗原結合タンパク質は、Kが≦1×10-8Mである場合に、「高い親和性」で抗原に特異的に結合する。
【0039】
親和性は、種々の技術を用いて判定され、その一例として、親和性ELISAアッセイがある。種々の実施形態において、親和性は、表面プラズモン共鳴アッセイ(例えば、BIAcore(登録商標)ベースのアッセイ)によって判定される。この方法論を用いて、会合速度定数(k、M-1-1)及び解離速度定数(k、s-1)を測定することができる。次いで、運動速度定数の比(k/k)から、平衡解離定数(K、M)を算出することができる。一部の実施形態において、親和性は、Rathanaswami et al.Analytical Biochemistry,Vol.373:52-60,2008に記載されるような結合平衡除外法(KinExA)等のキネティック法によって判定される。KinExAアッセイを用いて、平衡解離定数(K、M)及び会合速度定数(k、M-1-1)を測定することができる。これらの値から、解離速度定数(k、s-1)を算出することができる(K×k)。他の実施形態において、親和性は、平衡/溶液法によって判定される。特定の実施形態において、親和性は、FACS結合アッセイによって判定される。
【0040】
一部の実施形態において、本明細書中に記載される多重特異性抗原結合タンパク質は、k(解離速度定数)によって測定される結合親和力が、約10-2、10-3、10-4、10-5、10-6、10-7、10-8、10-9、10-10-1以下(値が低いほど結合親和力が高いことを示す)であり、且つ/又はK(平衡解離定数)によって測定される結合親和性が、約10-9、10-10、10-11、10-12、10-13、10-14、10-15、10-16M以下(値が低いほど結合親和性が高いことを示す)である等の望ましい特性を示す。
【0041】
本明細書中で用いられる用語、「結合ドメイン」と互換的に用いられる「抗原結合ドメイン」は、抗原と相互作用し、且つ当該抗原に対する特異性及び親和性を抗原結合タンパク質に付与するアミノ酸残基を含有する、抗原結合タンパク質の領域を指す。
【0042】
本明細書中で用いられる用語「CDR」は、抗体可変配列内の相補性決定領域(「最小認識単位」又は「超可変領域」とも称される)を指す。3つの重鎖可変領域CDR(CDRH1、CDRH2、及びCDRH3)及び3つの軽鎖可変領域CDR(CDRL1、CDRL2、及びCDRL3)が存在する。本明細書中で用いられる用語「CDR領域」は、単一の可変領域内に存在する3つのCDR(即ち、3つの軽鎖CDR又は3つの重鎖CDR)の群を指す。2本の鎖の各々におけるCDRは、典型的には、フレームワーク領域によってアラインされて、標的タンパク質上の特異的なエピトープ又はドメインと特異的に結合する構造を形成する。N末端からC末端へと、天然に存在する軽鎖可変領域及び重鎖可変領域は双方とも、典型的には、以下の順序の要素:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、及びFR4と一致する。これらのドメインの各々における位置を占めるアミノ酸に番号を割り当てるための付番方式が考案されている。この付番方式は、Kabat Sequences of Proteins of Immunological Interest(1987 and 1991,NIH,Bethesda,MD)、又はChothia & Lesk,1987,J.Mol.Biol.196:901-917;Chothia et al.,1989,Nature 342:878-883において定義されている。所与の抗体の相補性決定領域(CDR)及びフレームワーク領域(FR)が、この方式を用いて特定され得る。
【0043】
本発明の多重特異性抗原結合タンパク質の一部の実施形態において、結合ドメインは、Fab、Fab’、F(ab’)、Fv、一本鎖可変断片(scFv)、又はナノボディを含む。一実施形態において、双方の結合ドメインは、Fab断片である。別の実施形態において、一方の結合ドメインはFab断片であり、他方の結合ドメインはscFvである。
【0044】
抗体のパパイン消化により、「Fab」断片と呼ばれる2つの同一の抗原結合性断片(各々、単一の抗原結合部位を有する)と、残部の「Fc」断片(免疫グロブリン定常領域を含有する)とが生成される。Fab断片は、全ての可変ドメインと、軽鎖の定常ドメイン及び重鎖の第1の定常ドメイン(CH1)とを含有する。ゆえに、「Fab断片」は、1本の免疫グロブリン軽鎖(軽鎖の可変領域(VL)及び定常領域(CL))と、1本の免疫グロブリン重鎖のCH1領域及び可変領域(VH)とで構成される。Fab分子の重鎖は、別の重鎖分子とジスルフィド結合を形成し得ない。Fc断片は、炭水化物を示し、抗体のあるクラスを別のクラスから識別する多くの抗体エフェクタ機能(例えば、結合補体及び細胞受容体)を担う。「Fd断片」は、免疫グロブリン重鎖に由来するVHドメイン及びCH1ドメインを含む。Fd断片は、Fab断片の重鎖成分を表す。
【0045】
「Fab’断片」は、CH1ドメインのC末端にて、抗体ヒンジ領域に由来する1つ以上のシステイン残基を有するFab断片である。
【0046】
「F(ab’)断片」は、ヒンジ領域にて重鎖間のジスルフィド架橋によって連結されている2つのFab’断片を含む二価の断片である。
【0047】
「Fv」断片は、抗体由来の完全抗原認識及び結合部位を含有する最小の断片である。この断片は、緊密な非共有結合での、1つの免疫グロブリン重鎖可変領域(VH)及び1つの免疫グロブリン軽鎖可変領域(VL)の二量体からなる。この構成において、各可変領域の3つのCDRが相互作用して、VH-VL二量体の表面上で抗原結合部位が規定される。単一の軽鎖又は重鎖の可変領域(又は抗原に特異的な3つのCDRのみを含むFv断片の半分)は、VH及びVLの双方を含む結合部位全体よりも親和性が低いが、抗原を認識してこれに結合する能力を有する。
【0048】
「一本鎖可変抗体断片」又は「scFv断片」は、抗体のVH領域及びVL領域を含み、これらの領域は、単一のポリペプチド鎖内に存在しており、場合によっては、Fvが抗原結合のための所望の構造を形成することを可能にするペプチドリンカーを、VH領域とVL領域との間に含む(例えば、Bird et al.,Science,Vol.242:423-426,1988;及びHuston et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,Vol.85:5879-5883,1988参照)。
【0049】
特に、本発明の多重特異性抗原結合タンパク質の実施形態において、結合ドメインは、所望の抗原に特異的に結合する抗体又は抗体断片の免疫グロブリン重鎖可変領域(VH)及び免疫グロブリン軽鎖可変領域(VL)を含む。
【0050】
本明細書中で「可変ドメイン」と互換的に用いられる「可変領域」(軽鎖の可変領域(VL)、重鎖の可変領域(VH))は、抗体の、抗原への結合に直接関与する、免疫グロブリン軽鎖及び免疫グロブリン重鎖のそれぞれにおける領域を指す。上記のように、可変軽鎖領域及び可変重鎖領域は、同じ一般的構造を有しており、各領域は、4つのフレームワーク(FR)領域を含み、これらの配列は、広範に保存されており、3つのCDRによって連結されている。フレームワーク領域は、ベータ-シート構造を採用しており、CDRは、β-シート構造を連結するループを形成し得る。各鎖内のCDRは、フレームワーク領域によって三次元構造で保持され、そして他方の鎖由来のCDRと共に、抗原結合部位を形成する。
【0051】
標的抗原に特異的に結合する結合ドメインは、a)この抗原に対する既知の抗体に由来し得るか、或いはb)抗原タンパク質若しくはその断片を用いる新規の免疫化法によって、ファージディスプレイによって、又は他の常法によって得られる新規の抗体又は抗体断片に由来し得る。多重特異性抗原結合タンパク質の結合ドメインの起源である抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、組換え抗体、ヒト抗体、又はヒト化抗体であり得る。特定の実施形態において、結合ドメインの起源である抗体は、モノクローナル抗体である。これらの、又は他の実施形態において、抗体は、ヒト抗体又はヒト化抗体であり、IgG1型、IgG2型、IgG3型、又はIgG4型のものであり得る。
【0052】
本明細書中で用いられる用語「モノクローナル抗体」(又は「mAb」)は、実質的に均質な抗体の集団から得られる抗体を指す。即ち、集団を構成する個々の抗体は、僅かな量で存在し得る、可能性のある天然に存在する変異以外は、同一である。モノクローナル抗体は特異性が高く、典型的には、様々なエピトープに対して向けられる様々な抗体を含むポリクローナル抗体製剤とは対照的に、個々の抗原部位又はエピトープに対して向けられるものである。モノクローナル抗体は、当該技術分野において既知のあらゆる技術を用いて生成され得、例えば、免疫化スケジュールの完了後にトランスジェニック動物から収集した脾臓細胞を不死化することによって生成され得る。脾臓細胞は、当該技術分野において既知のあらゆる技術を用いて不死化され得、例えば、骨髄腫細胞と融合させてハイブリドーマを生成することによって不死化され得る。ハイブリドーマを生成する融合手順に用いられる骨髄腫細胞は、好ましくは非抗体産生性であり、融合効率が高く、且つ酵素が欠損しており、そのため、所望の融合細胞(ハイブリドーマ)のみの増殖を支持する特定の選択培地中で、増殖が不可能となる。マウス融合に用いるのに適した細胞株の例として、Sp-20、P3-X63/Ag8、P3-X63-Ag8.653、NS1/1.Ag 4 1、Sp210-Ag14、FO、NSO/U、MPC-11、MPC11-X45-GTG1.7、及びS194/5XXO Bulが挙げられる;ラット融合に用いられる細胞株の例として、R210.RCY3、Y3-Ag 1.2.3、IR983F、及び4B210が挙げられる。細胞融合に有用な他の細胞株として、U-266、GM1500-GRG2、LICR-LON-HMy2、及びUC729-6がある。
【0053】
2つ以上の核酸又はポリペプチド配列と関連する用語「同一の」及び「同一性」パーセントは、同じ2つ以上の配列又はサブ配列に言及する。「同一性パーセント」は、比較分子内のアミノ酸又はヌクレオチド間で残基が同一であるパーセントを意味し、比較されることとなる分子の中で最小のもののサイズに基づいて算出される。こうした計算では、アライメントにおけるギャップ(存在する場合)が、特定の数学モデル又はコンピュータプログラム(即ち「アルゴリズム」)によって扱われ得る。
【0054】
同一性パーセントの計算では、比較されることとなる配列は、配列間のマッチを最大化するようにアラインされる。同一性パーセントを求めるのに用いられるコンピュータプログラムは、GAPを含むGCGプログラムパッケージである(Devereux et al.,(1984)Nucl.Acid Res.12:387;Genetics Computer Group,University of Wisconsin,Madison,WI)。コンピュータアルゴリズムGAPは、配列同一性パーセントを求めることとなる2つのポリペプチド又はポリヌクレオチドをアラインするのに用いられる。配列は、それぞれのアミノ酸又はヌクレオチドが最適にマッチするようにアラインされる(アルゴリズムによって決定される「マッチスパン」)。ギャップオープニングペナルティ(3×平均対角(average diagonal)として算出され、「平均対角」は、用いられることとなる比較マトリックスの対角の平均であり;「対角」は、特定の比較マトリックスによって各完全アミノ酸マッチに割り当てられるスコア又は数である)及びギャップエクステンションペナルティ(通常、ギャップオープニングペナルティの1/10倍である)、並びにPAM 250又はBLOSUM 62等の比較マトリックスが、アルゴリズムと併せて用いられる。特定の実施形態において、標準比較マトリックス(PAM 250比較マトリックスについては、Dayhoff et al.,(1978)Atlas of Protein Sequence and Structure 5:345-352参照;BLOSUM 62比較マトリックスについては、Henikoff et al.,(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.89:10915-10919参照)もまたアルゴリズムによって用いられる。
【0055】
GAPプログラムを用いてポリペプチド又はヌクレオチド配列の同一性パーセントを求めるのに推奨されるパラメーターとして、以下のものがある:
アルゴリズム:Needleman et al.,1970,J.Mol.Biol.48:443-453;
比較マトリックス:Henikoff et al.,1992(前掲)のBLOSUM 62;
ギャップペナルティ:12(但し、エンドギャップに対するペナルティなし)
ギャップ長ペナルティ:4
類似性の閾値:0。
【0056】
一部の例において、動物(例えば、ヒト免疫グロブリン配列を有するトランスジェニック動物)を標的抗原により免疫化し;免疫化した動物から脾臓細胞を収集し;収集した脾臓細胞を骨髄腫細胞株に融合させることによって、ハイブリドーマ細胞を生成し、このハイブリドーマ細胞からハイブリドーマ細胞株を確立し、且つ標的抗原に結合する抗体を産生するハイブリドーマ細胞株を特定することによって、ハイブリドーマ細胞株を生成する。
【0057】
ハイブリドーマ細胞株によって分泌されたモノクローナル抗体は、当該技術分野において既知のあらゆる技術、例えば、プロテインA-Sepharose、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィ、ゲル電気泳動、透析、又はアフィニティクロマトグラフィを用いて精製され得る。ハイブリドーマ又はmAbは、さらにスクリーニングされて、標的抗原を発現する細胞に結合する能力、標的抗原リガンドの、それぞれの受容体への結合をブロックするか、若しくは妨害する能力、又は受容体のいずれも機能的にブロックする能力等の特定の性質を有するmAbが、例えば、cAMPアッセイを用いて特定され得る。
【0058】
一部の実施形態において、本発明の多重特異性抗原結合タンパク質の結合ドメインは、ヒト化抗体に由来してよい。「ヒト化抗体」は、領域(例えばフレームワーク領域)が、ヒト免疫グロブリン由来の対応する領域を含むように修飾されている抗体を指す。一般に、ヒト化抗体は、最初に非ヒト動物において増やされたモノクローナル抗体から生成され得る。典型的には抗体の非抗原認識部分に由来する、このモノクローナル抗体内のある特定のアミノ酸残基は、対応するアイソタイプのヒト抗体内の対応する残基と相同となるように修飾されている。ヒト化は、例えば、齧歯類可変領域の少なくとも一部をヒト抗体の対応する領域に置換することによる種々の方法を用いて、実行され得る(例えば、米国特許第5,585,089号明細書及び米国特許第5,693,762号明細書、Jones et al.,Nature,Vol.321:522-525,1986;Riechmann et al.,Nature,Vol.332:323-27,1988;Verhoeyen et al.,Science,Vol.239:1534-1536,1988参照)。別の種において生成された抗体の軽鎖可変領域及び重鎖可変領域のCDRは、コンセンサスヒトFRにグラフトされ得る。コンセンサスヒトFRを作り出すために、いくつかのヒト重鎖アミノ酸配列又はヒト軽鎖アミノ酸配列に由来するFRがアラインされて、コンセンサスアミノ酸配列が特定され得る。
【0059】
本発明の多重特異性抗原結合タンパク質の結合ドメインの起源となり得る標的抗原に対する、生成される新規の抗体は、完全ヒト抗体であり得る。「完全ヒト抗体」は、ヒト生殖系列の免疫グロブリン配列に由来するか、又はそれを示す可変領域及び定常領域を含む抗体である。完全ヒト抗体の生成を実施するために提供される具体的な一手段が、マウス体液性免疫系の「ヒト化」である。内因性のIg遺伝子が不活化されているマウス中にヒト免疫グロブリン(Ig)遺伝子座を導入することは、任意の所望の抗原により免疫化され得る動物であるマウスにおいて完全ヒトモノクローナル抗体(mAb)を生成する一手段である。完全ヒト抗体の使用により、マウスmAb又はマウス由来mAbをヒトに治療剤として投与することによって生じることがあり得る免疫原性及びアレルギー性の応答を最小化し得る。
【0060】
完全ヒト抗体は、内因性の免疫グロブリンを産生せずに、ヒト抗体のレパートリーを産生することができるトランスジェニック動物(通常はマウス)を免疫化することによって生成され得る。この目的のための抗原は、典型的に、6つ以上の連続アミノ酸を有しており、そして場合によってはハプテン等の担体にコンジュゲートされている。例えば、Jakobovits et al.,1993,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:2551-2555;Jakobovits et al.,1993,Nature 362:255-258;及びBruggermann et al.,1993,Year in Immunol.7:33参照。そのような方法の一例において、トランスジェニック動物は、マウスの免疫グロブリン重鎖及び免疫グロブリン軽鎖をコードする内因性マウス免疫グロブリン遺伝子座を無能化して、ヒト重鎖タンパク質及びヒト軽鎖タンパク質をコードする遺伝子座を含有するヒトゲノムDNAの大型断片をマウスゲノム中に挿入することによって生成される。次いで、ヒト免疫グロブリン遺伝子座の完全補体よりも少ない補体を有する部分的に修飾された動物が交雑されて、所望の免疫系修飾の全てを有する動物が得られる。免疫原が投与されると、このトランスジェニック動物は、当該免疫原に免疫特異性があるが、可変領域を含むマウスアミノ酸配列ではなくヒトアミノ酸配列を有する抗体を産生する。そのような方法のさらなる詳細に関しては、例えば、国際公開第96/33735号パンフレット及び国際公開第94/02602号パンフレット参照。ヒト抗体を作るためのトランスジェニックマウスに関連する追加の方法は、米国特許第5,545,807号明細書、米国特許第6,713,610号明細書、米国特許第6,673,986号明細書、米国特許第6,162,963号明細書、米国特許第5,939,598号明細書、米国特許第5,545,807号明細書、米国特許第6,300,129号明細書、米国特許第6,255,458号明細書、米国特許第5,877,397号明細書、米国特許第5,874,299号明細書、及び米国特許第5,545,806号明細書、PCT公報の国際公開第91/10741号パンフレット、国際公開第90/04036号パンフレット、国際公開第94/02602号パンフレット、国際公開第96/30498号パンフレット、国際公開第98/24893号パンフレット、並びに欧州特許第546073B1号明細書及び欧州特許出願公開第546073A1号明細書に記載されている。
【0061】
本明細書中で「HuMab」マウスと称される上記のトランスジェニックマウスは、内因性のミュー鎖遺伝子座及びカッパ鎖遺伝子座を不活化する標的変異と共に、再配列されていないヒト重鎖(ミュー及びガンマ)及びカッパ軽鎖免疫グロブリン配列をコードするヒト免疫グロブリン遺伝子ミニ遺伝子座(minilocus)を含有する(Lonberg et al.,1994,Nature 368:856-859)。したがって、当該マウスは、マウスIgM又はカッパの発現の低下を示し、且つ免疫化に応答し、そして導入されたヒト重鎖及び軽鎖導入遺伝子は、クラススイッチ及び体細胞変異を経て、高親和性ヒトIgGカッパモノクローナル抗体を生成する(Lonberg et al.,前掲;Lonberg and Huszar,1995,Intern.Rev.Immunol.13:65-93;Harding and Lonberg,1995,Ann.N.Y Acad.Sci.764:536-546)。HuMabマウスの作製は、Taylor et al.,1992,Nucleic Acids Research 20:6287-6295;Chen et al.,1993,International Immunology 5:647-656;Tuaillon et al.,1994,J.Immunol.152:2912-2920;Lonberg et al.,1994,Nature 368:856-859;Lonberg,1994,Handbook of Exp.Pharmacology 113:49-101;Taylor et al.,1994,International Immunology 6:579-591;Lonberg and Huszar,1995,Intern.Rev.Immunol.13:65-93;Harding and Lonberg,1995,Ann.N.Y Acad.Sci.764:536-546;Fishwild et al.,1996,Nature Biotechnology 14:845-851に詳細に説明されており、これらの文献は、全ての目的のためにそれらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。さらに、米国特許第5,545,806号明細書、米国特許第5,569,825号明細書、米国特許第5,625,126号明細書、米国特許第5,633,425号明細書、米国特許第5,789,650号明細書、米国特許第5,877,397号明細書、米国特許第5,661,016号明細書、米国特許第5,814,318号明細書、米国特許第5,874,299号明細書、及び米国特許第5,770,429号明細書、並びに米国特許第5,545,807号明細書、国際公開第93/1227号パンフレット、国際公開第92/22646号パンフレット、及び国際公開第92/03918号パンフレット(これらの全ての開示は、全ての目的のためにそれらの全体が参照により本明細書に組み込まれる)参照。このトランスジェニックマウスにおけるヒト抗体の産生を利用する技術は、国際公開第98/24893号パンフレット、及びMendez et al.,1997,Nature Genetics 15:146-156にも開示されており、これらの文献は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0062】
また、ヒト由来抗体は、ファージディスプレイ技術を用いて生成され得る。ファージディスプレイは、例えば、Dower et al.,国際公開第91/17271号パンフレット、McCafferty et al.,国際公開第92/01047号パンフレット、及びCaton and Koprowski,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,87:6450-6454(1990)において説明されており、これらの各文献は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。ファージ技術により生成される抗体は、通常、細菌において抗原結合断片(例えばFv又はFab断片)として産生されるので、エフェクタ機能を欠いている。エフェクタ機能は、下記の2つの戦略の1つによって導入され得る:この断片は操作されて、必要に応じて、哺乳動物細胞内での発現用の完全な抗体にすることも、エフェクタ機能をトリガーすることができる第2の結合部位を有する多重特異性抗体断片にすることも可能である。典型的には、抗体のFd断片(VH-CH1)及び軽鎖(VL-CL)は、PCRによって別々にクローニングされて、コンビナトリアルファージディスプレイライブラリにおいてランダムに組み換えられ、これが次いで、特定の抗原への結合について選択され得る。抗体断片は、ファージ表面上で発現し、そしてFv又はFab(したがって、抗体断片をコードするDNAを含有するファージ)の、抗原結合による選択が、パニングと称される手順である抗原結合及び再増幅を数ラウンド行うことにより達成される。抗原に特異的な抗体断片が富化されて、最終的に単離される。また、ファージディスプレイ技術が、「ガイデッドセレクション(guided selection)」と呼ばれる、齧歯類モノクローナル抗体のヒト化のためのアプローチに用いられ得る(Jespers,L.S.,et al.,Bio/Technology 12,899-903(1994)参照)。このために、マウスモノクローナル抗体のFd断片は、ヒト軽鎖ライブラリと組み合わせて提示され得、そして結果として生じたハイブリッドFabライブラリは次いで、抗原により選択され得る。これにより、マウスFd断片は、選択をガイドするテンプレートを提供する。続いて、選択されたヒト軽鎖は、ヒトFd断片ライブラリと組み合わされる。結果として生じたライブラリの選択により、完全なヒトFabが得られる。
【0063】
特定の実施形態において、本発明の多重特異性抗原結合タンパク質は、抗体である。本明細書中で用いられる用語「抗体」は、2本の軽鎖ポリペプチド(各々約25kDa)及び2本の重鎖ポリペプチド(各々約50~70kDa)を含む四量体免疫グロブリンタンパク質を指す。用語「軽鎖」又は「免疫グロブリン軽鎖」は、アミノ末端からカルボキシル末端へと、単一の免疫グロブリン軽鎖可変領域(VL)及び単一の免疫グロブリン軽鎖定常ドメイン(CL)を含むポリペプチドを指す。免疫グロブリン軽鎖定常ドメイン(CL)は、カッパ(κ)又はラムダ(λ)であり得る。用語「重鎖」又は「免疫グロブリン重鎖」は、アミノ末端からカルボキシル末端へと、単一の免疫グロブリン重鎖可変領域(VH)、免疫グロブリン重鎖定常ドメイン1(CH1)、免疫グロブリンヒンジ領域、免疫グロブリン重鎖定常ドメイン2(CH2)、免疫グロブリン重鎖定常ドメイン3(CH3)、及び場合によっては免疫グロブリン重鎖定常ドメイン4(CH4)を含むポリペプチドを指す。重鎖は、ミュー(μ)、デルタ(Δ)、ガンマ(γ)、アルファ(α)、及びイプシロン(ε)として分類されており、抗体のアイソタイプをそれぞれIgM、IgD、IgG、IgA、及びIgEと定義する。IgGクラス抗体及びIgAクラス抗体はさらに、サブクラス、即ち、それぞれIgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4、並びにIgA1及びIgA2に分けられる。IgG抗体、IgA抗体、及びIgD抗体内の重鎖は、3つのドメイン(CH1、CH2、及びCH3)を有するが、IgM抗体及びIgE抗体内の重鎖は、4つのドメイン(CH1、CH2、CH3、及びCH4)を有する。免疫グロブリン重鎖定常ドメインは、サブタイプを含むあらゆる免疫グロブリンアイソタイプ由来であり得る。CLドメインとCH1ドメインとの間(即ち、軽鎖と重鎖との間)、そして抗体重鎖のヒンジ領域間のポリペプチド間ジスルフィド結合を介して、抗体鎖は一緒に連結されている。
【0064】
特定の実施形態において、本発明の多重特異性抗原結合タンパク質は、ヘテロ二量体の抗体(本明細書中で「ヘテロ免疫グロブリン」又は「ヘテロIg」と互換的に用いられる)であり、これは、2本の異なる軽鎖及び2本の異なる重鎖を含む抗体を指す。
【0065】
ヘテロ二量体の抗体は、任意の免疫グロブリン定常領域を含み得る。本明細書中で用いられる用語「定常領域」は、可変領域以外の抗体の全てのドメインを指す。定常領域は、抗原の結合に直接関与しないが、種々のエフェクタ機能を発揮する。上記のように、抗体は、その重鎖の定常領域のアミノ酸配列に応じて、特定のアイソタイプ(IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgM)及びサブタイプ(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2)に分けられる。軽鎖定常領域は、例えば、5つの抗体アイソタイプ全てにおいて見出されるカッパ型又はラムダ型の軽鎖定常領域、例えばヒトのカッパ型又はラムダ型の軽鎖定常領域であり得る。
【0066】
ヘテロ二量体の抗体の重鎖定常領域は、例えば、アルファ型、デルタ型、イプシロン型、ガンマ型、又はミュー型の重鎖定常領域であり得、例えば、ヒトのアルファ型、デルタ型、イプシロン型、ガンマ型、又はミュー型の重鎖定常領域であり得る。一部の実施形態において、ヘテロ二量体の抗体は、IgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4免疫グロブリン由来の重鎖定常領域を含む。一実施形態において、ヘテロ二量体の抗体は、ヒトIgG1免疫グロブリン由来の重鎖定常領域を含む。別の実施形態において、ヘテロ二量体の抗体は、ヒトIgG2免疫グロブリン由来の重鎖定常領域を含む。
【0067】
一実施形態において、本開示の多重特異性抗体は、Duobody(商標)である。Duobodyは、DuoBody(商標)テクノロジープラットフォーム(Genmab A/S)によって、例えば、国際公開第2008/119353号パンフレット、国際公開第2011/131746号パンフレット、国際公開第2011/147986号パンフレット、及び国際公開第2013/060867号パンフレット、Labrijn A F et al.,PNAS,110(13):5145-5150(2013)、Gramer et al.,mAbs,5(6):962-973(2013)、並びにLabrijn et al.,Nature Protocols,9(10):2450-2463(2014)において説明されているように作製され得る。この技術を用いて、2本の重鎖及び2本の軽鎖を含有する第1の単一特異性抗体の半分と、2本の重鎖及び2本の軽鎖を含有する第2の単一特異性抗体の半分とを組み合わせることができる。結果として生じたヘテロ二量体は、第1の抗体に由来する1本の重鎖及び1本の軽鎖を、第2の抗体に由来する1本の重鎖及び1本の軽鎖と対にして含有する。双方の単一特異性抗体が、異なる抗原上の異なるエピトープを認識する場合には、結果として生じるヘテロ二量体は、多重特異性抗体である。
【0068】
DuoBody(商標)プラットフォームについて、各単一特異性抗体は、重鎖内に単一の点変異を有する重鎖定常領域を含む。これらの点変異により、結果として生じる多重特異性抗体内の重鎖間では、変異のない単一特異性抗体内のいずれの重鎖間よりも強い相互作用が可能になる。各単一特異性抗体内の単一の点変異は、重鎖定常領域の重鎖内の残基366位、368位、370位、399位、405位、407位、又は409位(EU付番)にてあり得る(国際公開第2011/131746号パンフレット参照)。さらに、単一の点変異は、一方の単一特異性抗体内の、他方の単一特異性抗体とは異なる残基にて位置する。例えば、一方の単一特異性抗体は、変異F405L(EU付番;残基405でのフェニルアラニンからロイシンへの変異)、又はF405A、F405D、F405E、F405H、F405I、F405K、F405M、F405N、F405Q、F405S、F405T、F405V、F405W、及びF405Yの変異のうち1つを含み得る一方、他方の単一特異性抗体は、変異K409R(EU付番;残基409でのリシンからアルギニンへの変異)を含み得る。単一特異性抗体の重鎖定常領域は、IgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4のアイソタイプ(例えば、ヒトIgG1アイソタイプ)であり得、DuoBody(商標)技術によって生成された多重特異性抗体は修飾されて、Fc媒介性エフェクタ機能を改変し(例えば低減させ)得、且つ/又は半減期を改善し得る。Duobody(商標)を生成する一方法は、下記を含む:(i)重鎖内に単一のマッチング点変異(即ち、K409R及びF405L(又はF405A、F405D、F405E、F405H、F405I、F405K、F405M、F405N、F405Q、F405S、F405T、F405V、F405W、及びF405Yの変異のうちの1つ)(EU付番))を含有する2つの親IgG1を別々に発現させること;(ii)インビトロにて許容酸化還元条件下で親IgG1を混合して、半分子の組換えを可能にすること;(iii)還元剤を除去して、鎖間ジスルフィド結合を再酸化させること;並びに(iv)クロマトグラフィベースの、又は質量分析(MS)ベースの方法を用いて、交換効率及び最終産物を分析すること(Labrijn et al.,Nature Protocols,9(10):2450-2463(2014)参照)。
【0069】
多重特異性抗体を生成する別の例示的な方法は、ノブイントゥーホール技術(Ridgway et al.,Protein Eng.,9:617-621(1996);国際公開第2006/028936号パンフレット)によるものである。多重特異性抗体を作製するのに主要な欠点であるIg重鎖の誤対形成の問題は、この技術において、IgG内で重鎖の界面を形成する選択されたアミノ酸を変異させることによって低減される。2本の重鎖が直接的に相互作用する重鎖内の位置にて、小さい側鎖(ホール)を有するアミノ酸が、一方の重鎖の配列中に導入され、大きい側鎖(ノブ)を有するアミノ酸が、他方の重鎖上のカウンターパート相互作用残基位置中に導入されている。一部の例において、本開示の抗体は、多重特異性抗体を優先的に形成するように2つのポリペプチド間の界面にて相互作用する選択されたアミノ酸を変異させることによって重鎖が修飾されている免疫グロブリン鎖を有する。多重特異性抗体は、同じサブクラス又は異なるサブクラスの免疫グロブリン鎖から構成され得る。一例において、gp120及びCD3に結合する多重特異性抗体は、T366W(EU付番)変異を「ノブ鎖」内に含み、T366S、L368A、Y407V(EU付番)の変異を「ホール鎖」内に含む。特定の実施形態において、例えば、Y349C変異を「ノブ鎖」中に導入し、且つE356C変異又はS354C変異を「ホール鎖」中に導入することによって、追加の鎖間ジスルフィド架橋が重鎖間に導入される。特定の実施形態において、R409D、K370Eの変異が「ノブ鎖」中に導入され、且つD399K、E357Kの変異が「ホール鎖」中に導入されている。他の実施形態において、Y349C、T366Wの変異が、一方の鎖内に導入され、E356C、T366S、L368A、Y407Vの変異がカウンターパート鎖内に導入されている。一部の実施形態において、Y349C、T366Wの変異が一方の鎖内に導入され、そしてS354C、T366S、L368A、Y407Vの変異がカウンターパート鎖内に導入されている。一部の実施形態において、Y349C、T366Wの変異が一方の鎖に導入され、そしてS354C、T366S、L368A、Y407Vの変異がカウンターパート鎖内に導入されている。さらに他の実施形態において、Y349C、T366Wの変異が一方の鎖内に導入され、そしてS354C、T366S、L368A、Y407Vの変異がカウンターパート鎖内に導入されている(全てEU付番)。
【0070】
多重特異性抗体を生成するさらに別の方法は、CrossMab技術である。CrossMabは、2種の完全長抗体の各半分で構成されるキメラ抗体である。この技術は、鎖を正確に対形成するために、下記の2つの技術を組み合わせている:(i)2本の重鎖間の正確な対形成に有利なノブイントゥーホール;及び(ii)軽鎖の誤対形成を回避する非対称を導入するための、2つのFabのうちの1つの重鎖と軽鎖間での交換。Ridgway et al.,Protein Eng.,9:617-621(1996);Schaefer et al.,PNAS,108:11187-11192(2011)参照。CrossMabは、2種以上の標的を標的化するために、又は1種の標的に対して2:1形式等の二価性を導入するために、2種以上の抗原-結合ドメインを組み合わせることができる。
【0071】
一実施形態において、一方の重鎖は、F405L、F405A、F405D、F405E、F405H、F405I、F405K、F405M、F405N、F405Q、F405S、F405T、F405V、F405W、又はF405Yの変異を含み、そして他方の重鎖は、K409Rの変異を含み、アミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従う。一実施形態において、一方の重鎖は、T366Wの変異を含み、そして他方の重鎖は、T366S、L368A、Y407Vの変異を含み、アミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従う。一実施形態において、一方の重鎖は、K/R409D及びK370Eの変異を含み、そして他方の重鎖は、D399K及びE357Kの変異を含み、アミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従う。一実施形態において、一方の重鎖は、K/R409D、K439D、及びK370Eの変異を含み、そして他方の重鎖は、D399K及びE357Kの変異を含み、アミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従う。
【0072】
特定の実施形態において、ヘテロ二量体の抗体は、392位及び409位にて負荷電アミノ酸(例えば、K392D及びK409Dの置換)を含む第1の重鎖と、356位及び399位にて正荷電アミノ酸(例えば、E356K及びD399Kの置換)を含む第2の重鎖とを含む。他の特定の実施形態において、ヘテロ二量体の抗体は、392位、409位、及び370位にて負荷電アミノ酸(例えば、K392D、K409D、及びK370Dの置換)を含む第1の重鎖と、356位、399位、及び357位にて正荷電アミノ酸(例えば、E356K、D399K、及びE357Kの置換)を含む第2の重鎖とを含む。
【0073】
他の実施形態において、ヘテロ二量体の抗体は、392位、409位、及び439位にて負荷電アミノ酸(例えば、K392D、K409D、及びK439Dの置換)を含む第1の重鎖と、356位及び399位にて正荷電アミノ酸(例えば、E356K及びD399Kの置換)を含む第2の重鎖とを含む。
【0074】
一実施形態において、一方の重鎖は、Y349C変異を含み、そして他方の重鎖は、E356C又はS354Cの変異のいずれかを含み、アミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従う。一実施形態において、一方の重鎖は、Y349C及びT366Wの変異を含み、そして他方の重鎖は、E356C、T366S、L368A、及びY407Vの変異を含み、アミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従う。一実施形態において、一方の重鎖は、Y349C及びT366Wの各変異を含み、そして他方の重鎖は、S354C、T366S、L368A、Y407Vの各変異を含み、アミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従う。
【0075】
特定の重鎖の、その同族の軽鎖との会合を促進するために、重鎖及び軽鎖は双方とも、相補的アミノ酸置換を含有してもよい。本明細書中で用いられる「相補的アミノ酸置換」は、一方の鎖内の正荷電アミノ酸(他方の鎖内の負荷電アミノ酸置換と対形成される)への置換を指す。例えば、一部の実施形態において、重鎖は、荷電アミノ酸を導入するような少なくとも1つのアミノ酸置換を含み、そして対応する軽鎖は、荷電アミノ酸を導入するような少なくとも1つのアミノ酸置換を含み、重鎖中に導入される荷電アミノ酸は、軽鎖中に導入されるアミノ酸の反対の荷電を有する。特定の実施形態において、1つ以上の正荷電残基(例えば、リシン、ヒスチジン、又はアルギニン)が、第1の軽鎖(LC1)中に導入され得、そして1つ以上の負荷電残基(例えば、アスパラギン酸又はグルタミン酸)が、LC1/HC1の結合界面にて、コンパニオン重鎖(HC1)中に導入され得る一方、1つ以上の負荷電残基(例えば、アスパラギン酸又はグルタミン酸)が、第2の軽鎖(LC2)中に導入され得、そして1つ以上の正荷電残基(例えば、リシン、ヒスチジン、又はアルギニン)が、LC2/HC2の結合界面にて、コンパニオン重鎖(HC2)中に導入され得る。静電相互作用は、界面にて反対に荷電した残基同士(極性)が引き合うので、LC1をHC1と対形成させ、且つLC2をHC2と対形成させるように誘導することとなる。界面にて同じ荷電残基(極性)を有する重鎖/軽鎖の対(例えば、LC1/HC2及びLC2/HC1)は反発し、結果として不所望のHC/LCの対形成が抑制されることとなる。
【0076】
これらの、そして他の実施形態において、重鎖のCH1ドメイン又は軽鎖のCLドメインは、野生型IgGアミノ酸配列とは、野生型IgGアミノ酸配列内の1つ以上の正荷電アミノ酸が、1つ以上の負荷電アミノ酸と置換されているように異なるアミノ酸配列を含む。これ以外にも、重鎖のCH1ドメイン又は軽鎖のCLドメインは、野生型IgGアミノ酸配列とは、野生型IgGアミノ酸配列内の1つ以上の負荷電アミノ酸が、1つ以上の正荷電アミノ酸と置換されているように異なるアミノ酸配列を含む。一部の実施形態において、F126、P127、L128、A141、L145、K147、D148、H168、F170、P171、V173、Q175、S176、S183、V185、及びK213から選択されるEU位置でのヘテロ二量体の抗体内の第1及び/又は第2の重鎖のCH1ドメインにおける1つ以上のアミノ酸が、荷電アミノ酸と置換されている。特定の実施形態において、負荷電又は正荷電のアミノ酸による置換に好ましい残基は、S183(EU付番方式)である。一部の実施形態において、S183が正荷電アミノ酸により置換されている。代替的な実施形態において、S183が負荷電アミノ酸により置換されている。例えば、一実施形態において、第1の重鎖において、S183が負荷電アミノ酸により置換されており(例えばS183E)、そして第2の重鎖において、S183が正荷電アミノ酸により置換されている(例えばS183K)。
【0077】
軽鎖がカッパ軽鎖である実施形態において、F116、F118、S121、D122、E123、Q124、S131、V133、L135、N137、N138、Q160、S162、T164、S174、及びS176から選択される位置(カッパ軽鎖におけるEU及びKabat付番)にて、ヘテロ二量体の抗体内の第1及び/又は第2の軽鎖のCLドメイン内の1つ以上のアミノ酸が、荷電アミノ酸により置換されている。軽鎖がラムダ軽鎖である実施形態において、T116、F118、S121、E123、E124、K129、T131、V133、L135、S137、E160、T162、S165、Q167、A174、S176、及びY178から選択される位置(ラムダ鎖におけるKabat付番)にて、ヘテロ二量体の抗体内の第1及び/又は第2の軽鎖のCLドメイン内の1つ以上のアミノ酸が、荷電アミノ酸により置換されている。一部の実施形態において、負荷電又は正荷電のアミノ酸による置換に好ましい残基は、カッパ軽鎖又はラムダ軽鎖のいずれかのCLドメインのS176(EU及びKabat付番方式)である。特定の実施形態において、CLドメインのS176は、正荷電アミノ酸により置換されている。代替的な実施形態において、CLドメインのS176は、負荷電アミノ酸により置換されている。一実施形態において、S176は、第1の軽鎖において正荷電アミノ酸(例えばS176K)により置換されており、そしてS176は、第2の軽鎖において負荷電アミノ酸(例えばS176E)により置換されている。
【0078】
CH1ドメイン及びCLドメインにおける相補的アミノ酸置換に加えて、又はその代替として、ヘテロ二量体の抗体内の軽鎖及び重鎖の可変領域は、荷電アミノ酸を導入するような1つ以上の相補的アミノ酸置換を含有してよい。例えば、一部の実施形態において、ヘテロ二量体の抗体の重鎖のVH領域又は軽鎖のVL領域は、野生型IgGアミノ酸配列とは、野生型IgGアミノ酸配列内の1つ以上の正荷電アミノ酸が、1つ以上の負荷電アミノ酸により置換されているように異なるアミノ酸配列を含む。これ以外にも、重鎖のVH領域又は軽鎖のVL領域は、野生型IgGアミノ酸配列とは、野生型IgGアミノ酸配列内の1つ以上の負荷電アミノ酸が、1つ以上の正荷電アミノ酸により置換されているように異なるアミノ酸配列を含む。
【0079】
VH領域内のV領域界面残基(即ち、VH領域及びVL領域のアセンブリを媒介するアミノ酸残基)には、Kabatの1位、3位、35位、37位、39位、43位、44位、45位、46位、47位、50位、59位、89位、91位、及び93位が含まれる。VH領域内のこれらの界面残基の1つ以上が、荷電(正荷電又は負荷電)アミノ酸により置換され得る。特定の実施形態において、第1及び/又は第2の重鎖のVH領域内のKabat39位のアミノ酸は、正荷電アミノ酸(例えばリシン)に置換されている。代替的な実施形態において、第1及び/又は第2の重鎖のVH領域内のKabat39位のアミノ酸は、負荷電アミノ酸(例えばグルタミン酸)に置換されている。一部の実施形態において、第1の重鎖のVH領域内のKabat39位のアミノ酸は、負荷電アミノ酸に置換されており(例えばG39E)、そして第2の重鎖のVH領域内のKabat39位のアミノ酸は、正荷電アミノ酸に置換されている(例えばG39K)。一部の実施形態において、第1の及び/又は第2の重鎖のVH領域内のKabat44位のアミノ酸は、正荷電アミノ酸(例えばリシン)に置換されている。代替的な実施形態において、第1及び/又は第2の重鎖のVH領域内のKabat44位のアミノ酸は、負荷電アミノ酸(例えばグルタミン酸)に置換されている。特定の実施形態において、第1の重鎖のVH領域内のKabat44位のアミノ酸は、負荷電アミノ酸に置換されており(例えばG44E)、そして第2の重鎖のVH領域内のKabat44位のアミノ酸は、正荷電アミノ酸に置換されている(例えばG44K)。
【0080】
VL領域内のV領域界面残基(即ち、VH領域及びVL領域のアセンブリを媒介するアミノ酸残基)には、Kabatの32位、34位、35位、36位、38位、41位、42位、43位、44位、45位、46位、48位、49位、50位、51位、53位、54位、55位、56位、57位、58位、85位、87位、89位、90位、91位、及び100位が含まれる。VL領域内の1つ以上の界面残基が、荷電アミノ酸により置換され得、好ましくは、同族の重鎖のVH領域中に導入されたものと反対の荷電を有するアミノ酸により置換され得る。一部の実施形態において、第1及び/又は第2の軽鎖のVL領域内のKabat100位のアミノ酸は、正荷電アミノ酸(例えばリシン)に置換されている。代替的な実施形態において、第1及び/又は第2の軽鎖のVL領域内のKabat100位のアミノ酸は、負荷電アミノ酸(例えばグルタミン酸)に置換されている。特定の実施形態において、第1の軽鎖のVL領域内のKabat100位のアミノ酸は、正荷電アミノ酸に置換されており(例えばG100K)、そして第2の軽鎖のVL領域内のKabat100位のアミノ酸は、負荷電アミノ酸に置換されている(例えばG100E)。
【0081】
特定の実施形態において、本発明のヘテロ二量体の抗体は、第1の重鎖及び第2の重鎖、並びに第1の軽鎖及び第2の軽鎖を含み、第1の重鎖は、アミノ酸置換を44位(Kabat)、183位(EU)、392位(EU)、及び409位(EU)にて含み、第2の重鎖は、アミノ酸置換を44位(Kabat)、183位(EU)、356位(EU)、及び399位(EU)にて含み、第1及び第2の軽鎖は、アミノ酸置換を100位(Kabat)及び176位(EU)にて含み、これらのアミノ酸置換により、前記位置にて荷電アミノ酸が導入されている。関連する実施形態において、第1の重鎖の44位(Kabat)のグリシンがグルタミン酸により置換されており、第2の重鎖の44位(Kabat)のグリシンがリシンにより置換されており、第1の軽鎖の100位(Kabat)のグリシンがリシンにより置換されており、第2の軽鎖の100位(Kabat)のグリシンがグルタミン酸により置換されており、第1の軽鎖の176位(EU)のセリンがリシンにより置換されており、第2の軽鎖の176位(EU)のセリンがグルタミン酸により置換されており、第1の重鎖の183位(EU)のセリンがグルタミン酸により置換されており、第1の重鎖の392位(EU)のリシンがアスパラギン酸により置換されており、第1の重鎖の409位(EU)のリシンがアスパラギン酸により置換されており、第2の重鎖の183位(EU)のセリンがリシンにより置換されており、第2の重鎖の356位(EU)のグルタミン酸がリシンにより置換されており、且つ/又は第2の重鎖の399位(EU)のアスパラギン酸がリシンにより置換されている。
【0082】
一態様において、本発明は、少なくとも1つの単鎖Fabを含む抗原結合タンパク質に関し、単鎖Fabは:
VH-CH1ポリペプチドと
VL-CLポリペプチドと
を含み、
VH-CH1ポリペプチド及びVL-CLポリペプチドは、配列番号1と少なくとも90%、94%、97%、又は100%同一の配列からなるペプチドリンカーを介して連結されている。
【0083】
一実施形態において、VL-CLポリペプチドのC末端は、ペプチドリンカーのN末端に連結されており、そしてVH-CH1ポリペプチドのN末端は、ペプチドリンカーのC末端に連結されている。
【0084】
一実施形態において、VH-CH1ポリペプチドは、そのC末端にて、ヒンジ-CH2-CH3ポリペプチドのN末端に連結されている。一実施形態において、ヒンジ-CH2-CH3ポリペプチドは、配列番号5及び配列番号6からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0085】
一実施形態において、VL-CLポリペプチドのCL部分は、配列番号2及び配列番号3からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0086】
一実施形態において、VH-CH1ポリペプチドのCH1部分は、配列番号4を含む。
【0087】
一実施形態において、i)VH-CH1ポリペプチドはS183E変異を含み;
ii)VL-CLポリペプチドはS176K変異を含み;
アミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従う。
【0088】
一実施形態において、i)VH-CH1ポリペプチドはS183K変異を含み;
ii)VL-CLポリペプチドはS176E変異を含み;
アミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従う。
【0089】
本明細書中で用いられる用語「Fc領域」は、インタクトな抗体のパパイン消化によって生成され得る免疫グロブリン重鎖のC末端領域を指す。免疫グロブリンのFc領域は、一般に、2つの定常ドメイン(CH2ドメイン及びCH3ドメイン)を含み、場合によってはCH4ドメインを含む。特定の実施形態において、Fc領域は、IgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4免疫グロブリン由来のFc領域である。一部の実施形態において、Fc領域は、ヒトIgG1又はヒトIgG2免疫グロブリン由来のCH2ドメイン及びCH3ドメインを含む。Fc領域は、C1q結合、補体依存性細胞傷害(CDC)、Fc受容体結合、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)、及び貪食等のエフェクタ機能を保持し得る。他の実施形態において、Fc領域は、本明細書中でさらに詳細に記載されるように、エフェクタ機能を引き下げるか、又は排除するように修飾され得る。
【0090】
本発明の抗原結合タンパク質の一部の実施形態において、Fc領域のカルボキシル末端にて位置する結合ドメイン(即ち、カルボキシル末端の結合ドメイン)は、scFvである。特定の実施形態において、scFvは、ペプチドリンカーによって連結された重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含む。可変領域は、scFv内で、VH-VL又はVL-VHの向きに向きを定められ得る。例えば、一実施形態において、scFvは、N末端からC末端まで、VH領域、ペプチドリンカー、及びVL領域を含む。別の実施形態において、scFvは、N末端からC末端まで、VL領域、ペプチドリンカー、及びVH領域を含む。scFvのVH領域及びVL領域は、1つ以上のシステイン置換を含有して、VH領域とVL領域との間のジスルフィド結合形成を可能にし得る。そのようなシステインのクランプは、2つの可変ドメインを抗原-結合配置で安定化させる。一実施形態において、VH領域内の44位(Kabat付番)及びVL領域内の100位(Kabat付番)は、各々、システイン残基により置換されている。
【0091】
特定の実施形態において、scFvは、そのアミノ末端にて、ペプチドリンカーを介してFc領域のカルボキシル末端(例えば、CH3ドメインのカルボキシル末端)に融合されているか、又は別の方法で連結されている。ゆえに、一実施形態において、結果として生じる融合タンパク質が、N末端からC末端まで、CH2ドメイン、CH3ドメイン、第1のペプチドリンカー、VH領域、第2のペプチドリンカー、及びVL領域を含むように、scFvはFc領域に融合されている。別の実施形態において、結果として生じる融合タンパク質が、N末端からC末端まで、CH2ドメイン、CH3ドメイン、第1のペプチドリンカー、VL領域、第2のペプチドリンカー、及びVH領域を含むように、scFvはFc領域に融合されている。「融合タンパク質」は、複数種の親タンパク質又はポリペプチドに由来するポリペプチド成分を含むタンパク質である。典型的には、融合タンパク質は、あるタンパク質由来のポリペプチド配列をコードするヌクレオチド配列が、異なるタンパク質由来のポリペプチド配列をコードするヌクレオチド配列と一緒にインフレームで加えられており、そして場合によっては後者のヌクレオチド配列からリンカーによって分離されている融合遺伝子から発現される。次いで、当該融合遺伝子は、組換え宿主細胞によって発現されて、単一の融合タンパク質を生成することができる。
【0092】
「ペプチドリンカー」とは、あるポリペプチドを別のポリペプチドに共有結合させる約2~約50個のアミノ酸のオリゴペプチドを指す。ペプチドリンカーを用いて、scFv内でVHドメインとVLドメインとを連結することができる。また、ペプチドリンカーを用いて、scFv、Fab断片、又は他の機能的抗体断片を、Fc領域のアミノ末端又はカルボキシル末端に連結して、本明細書中で説明される多重特異性抗原結合タンパク質を作り出すことができる。好ましくは、ペプチドリンカーは、少なくとも5個のアミノ酸長である。特定の実施形態において、ペプチドリンカーは、約5個のアミノ酸長~約40個のアミノ酸長である。他の実施形態において、ペプチドリンカーは、約8個のアミノ酸長~約30個のアミノ酸長である。さらに他の実施形態において、ペプチドリンカーは、約10個のアミノ酸長~約20個のアミノ酸長である。
【0093】
特許請求される本発明のscFabペプチドリンカーは、配列番号1と少なくとも90%、94%、97%、又は100%同一の配列からなる。したがって、配列番号1が35個のアミノ酸長であるので、特許請求される本発明のscFabペプチドリンカーは、配列番号1の35個のアミノ酸のうち32個、配列番号1の35個のアミノ酸のうち33個、配列番号1の35個のアミノ酸のうち34個、又は配列番号1の35個のアミノ酸のうち35個にわたって同一である。
【0094】
別の態様において、本発明は、第1及び第2のポリペプチドを含む多重特異性抗原結合タンパク質に関し、第1のポリペプチドは、第1のペプチドリンカーのN末端に連結された第1のVL-CLポリペプチドを含み、第1のペプチドリンカーのC末端は、第1の抗体重鎖のN末端に連結されており、第1の抗体重鎖は、K/R409D及びK392Dの変異を含み;第2のポリペプチドは、第2のペプチドリンカーのN末端に連結された第2のVL-CLポリペプチドを含み、第2のペプチドリンカーのC末端は、第2の抗体重鎖のN末端に連結されており、第2の重鎖は、D399K及びE356Kの変異を含み;第1のペプチドリンカーは、配列番号1と90%、94%、97%、又は100%同一のアミノ酸配列からなり;第2のペプチドリンカーは、配列番号1と90%、94%、97%、又は100%同一のアミノ酸配列からなり;双方の重鎖内のアミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従い;第1のVL-CLポリペプチド及び第1の抗体重鎖は、第1の抗原又はエピトープに結合し、第2のVL-CLポリペプチド及び第2の抗体重鎖は、第2の抗原又はエピトープに結合する。
【0095】
一実施形態において、第1のVL-CLポリペプチドはS176K変異を含み;第1の抗体重鎖はS183E変異を含み;第2のVL-CLポリペプチドはS176E変異を含み;第2の抗体重鎖はS183K変異を含み、アミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従う。
【0096】
一実施形態において、第2のVL-CLポリペプチドはS176K変異を含み;第2の抗体重鎖はS183E変異を含み;第1のVL-CLポリペプチドはS176E変異を含み;第1の抗体重鎖はS183K変異を含み、アミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従う。
【0097】
一実施形態において、第1の抗体重鎖はさらに、K439D変異を含み、アミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従う。
【0098】
別の態様において、本発明は:a)2本の抗体軽鎖と;b)ペプチドリンカーのN末端に連結されたVL-CLポリペプチドを含む2つのポリペプチドとを含む多重特異性抗原結合タンパク質に関し、ペプチドリンカーのC末端は、抗体重鎖のN末端に連結されており、抗体重鎖のC末端は、第2のVH-CH1ポリペプチドのN末端に連結されており;抗体重鎖は、VL-CLポリペプチドと会合して第1の抗原結合部位を形成する第1のVH-CH1ポリペプチドを含み;b)の2つのポリペプチドの第2のVH-CH1ポリペプチドは、a)の2本の抗体軽鎖と会合して第2の抗原結合部位を形成し;ペプチドリンカーは、配列番号1と90%、94%、97%、又は100%同一のアミノ酸配列からなる。
【0099】
一実施形態において、i)第1のVH-CH1ポリペプチドはS183E変異を含み;ii)VL-CLポリペプチドはS176K変異を含み;アミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従う。
【0100】
一実施形態において、i)第1のVH-CH1ポリペプチドはS183K変異を含み;ii)第1のVL-CLポリペプチドはS176E変異を含み;アミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従う。
【0101】
一実施形態において、i)第2のVH-CH1ポリペプチドはS183E変異を含み;ii)軽鎖はS176K変異を含み;アミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従う。
【0102】
一実施形態において、i)第2のVH-CH1ポリペプチドはS183K変異を含み;ii)軽鎖はS176E変異を含み;アミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従う。
【0103】
一実施形態において、i)第1のVH-CH1ポリペプチドはS183K変異を含み;ii)第1のVL-CLポリペプチドはS176E変異を含み;iii)第2のVH-CH1ポリペプチドはS183E変異を含み;iv)軽鎖はS176K変異を含み;アミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従う。
【0104】
一実施形態において、i)第1のVH-CH1ポリペプチドはS183E変異を含み;ii)第1のVL-CLポリペプチドはS176K変異を含み;iii)第2のVH-CH1ポリペプチドはS183K変異を含み;iv)軽鎖はS176E変異を含み;アミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従う。
【0105】
一実施形態において、抗体重鎖のC末端は、配列番号9~23からなる群から選択される第2のペプチドリンカーを介して、第2のVH-CH1ポリペプチドのN末端に連結されている。
【0106】
別の態様において、本発明は:a)2本の抗体軽鎖と;b)抗体重鎖を含む2つのポリペプチドとを含む多重特異性抗原結合タンパク質に関し、抗体重鎖のC末端は、VL-CLポリペプチドのN末端に連結されており、VL-CLポリペプチドのC末端は、ペプチドリンカーのN末端に連結されており、ペプチドリンカーのC末端は、第2のVH-CH1ポリペプチドのN末端に連結されており;b)の2つのポリペプチドの抗体重鎖は、a)の抗体軽鎖と会合して第1の抗原結合部位を形成する第1のVH-CH1ポリペプチドを含み、第2のVH-CH1ポリペプチドは、VL-CLポリペプチドと会合して第2の抗原結合部位を形成し;ペプチドリンカーは、配列番号1と90%、94%、97%、又は100%同一のアミノ酸配列からなる。
【0107】
一実施形態において、i)第1のVH-CH1ポリペプチドはS183E変異を含み;ii)VL-CLポリペプチドはS176K変異を含み;アミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従う。
【0108】
一実施形態において、i)第1のVH-CH1ポリペプチドはS183K変異を含み;ii)第1のVL-CLポリペプチドはS176E変異を含み;アミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従う。
【0109】
一実施形態において、i)第2のVH-CH1ポリペプチドはS183E変異を含み;ii)軽鎖はS176K変異を含み;アミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従う。
【0110】
一実施形態において、i)第2のVH-CH1ポリペプチドはS183K変異を含み;ii)軽鎖はS176E変異を含み;アミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従う。
【0111】
一実施形態において、i)第1のVH-CH1ポリペプチドはS183K変異を含み;ii)第1のVL-CLポリペプチドはS176E変異を含み;iii)第2のVH-CH1ポリペプチドはS183E変異を含み;iv)軽鎖はS176K変異を含み;アミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従う。
【0112】
一実施形態において、i)第1のVH-CH1ポリペプチドはS183E変異を含み;ii)第1のVL-CLポリペプチドはS176K変異を含み;iii)第2のVH-CH1ポリペプチドはS183K変異を含み;iv)軽鎖はS176E変異を含み;アミノ酸残基の付番は、Kabatに記載されているEUインデックスに従う。
【0113】
一実施形態において、抗体重鎖のC末端は、配列番号9~30からなる群から選択される第2のペプチドリンカーを介して、第2のVH-CH1ポリペプチドのN末端に連結されている。
【0114】
本明細書中に記載される多重特異性抗原結合タンパク質の重鎖定常領域又はFc領域は、抗原結合タンパク質のグリコシル化及び/又はエフェクタ機能に影響を及ぼす1つ以上のアミノ酸置換を含んでもよい。免疫グロブリンのFc領域の機能の1つは、免疫グロブリンがその標的に結合する際に免疫系に伝達することである。これは、一般に「エフェクタ機能」と称される。伝達は、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、抗体依存性細胞貪食(ADCP)、及び/又は補体依存性細胞障害(CDC)につながる。ADCC及びADCPは、免疫系の細胞の表面上のFc受容体へのFc領域の結合を介して媒介される。CDCは、補体系のタンパク質(例えばC1q)とのFcの結合を介して媒介される。一部の実施形態において、本発明の多重特異性抗原結合タンパク質は、定常領域内に、ADCC活性、CDC活性、ADCP活性を含むエフェクタ機能、及び/又は抗原結合タンパク質のクリアランス若しくは半減期を増強するような1つ以上のアミノ酸置換を含む。エフェクタ機能を増強し得る例示的なアミノ酸置換(EU付番)として、以下に限定されないが、E233L、L234I、L234Y、L235S、G236A、S239D、F243L、F243V、P247I、D280H、K290S、K290E、K290N、K290Y、R292P、E294L、Y296W、S298A、S298D、S298V、S298G、S298T、T299A、Y300L、V305I、Q311M、K326A、K326E、K326W、A330S、A330L、A330M、A330F、I332E、D333A、E333S、E333A、K334A、K334V、A339D、A339Q、P396L、又は上記のあらゆる組合せが挙げられる。
【0115】
他の実施形態において、本発明の多重特異性抗原結合タンパク質は、定常領域内に、エフェクタ機能を引き下げるような1つ以上のアミノ酸置換を含む。エフェクタ機能を引き下げ得る例示的なアミノ酸置換(EU付番)として、以下に限定されないが、C220S、C226S、C229S、E233P、L234A、L234V、V234A、L234F、L235A、L235E、G237A、P238S、S267E、H268Q、N297A、N297G、V309L、E318A、L328F、A330S、A331S、P331S、又は上記のあらゆる組合せが挙げられる。
【0116】
グリコシル化は、抗体(特にIgG1抗体)のエフェクタ機能に寄与し得る。ゆえに、一部の実施形態において、本発明の多重特異性抗原結合タンパク質は、該結合タンパク質のグリコシル化のレベル又はタイプに影響を及ぼす1つ以上のアミノ酸置換を含んでもよい。ポリペプチドのグリコシル化は、典型的には、N結合型又はO結合型のいずれかである。N結合とは、アスパラギン残基の側鎖への炭水化物部分の結合を指す。トリペプチド配列であるアスパラギン-X-セリン及びアスパラギン-X-トレオニン(式中、Xは、プロリンを除くあらゆるアミノ酸である)は、アスパラギン側鎖への炭水化物部分の酵素結合のための認識配列である。ゆえに、ポリペプチド内のこれらのトリペプチド配列のいずれかの存在は、潜在的なグリコシル化部位を作り出す。O結合型グリコシル化は、糖であるN-アセチルガラクトサミン、ガラクトース、又はキシロースのうちの1つの、ヒドロキシアミノ酸、最も一般的にはセリン又はトレオニンへの結合を指すが、5-ヒドロキシプロリン又は5-ヒドロキシリジンが用いられてもよい。
【0117】
特定の実施形態において、本明細書中に記載される多重特異性抗原結合タンパク質のグリコシル化は、1つ以上のグリコシル化部位を、例えば、結合タンパク質のFc領域に付加することによって増大する。抗原結合タンパク質へのグリコシル化部位の付加は、上記のトリペプチド配列のうち1つ以上を含有するようにアミノ酸配列を改変することによって、簡便に実現され得る(N結合型グリコシル化部位の場合)。また、改変は、1つ以上のセリン残基若しくはスレオニン残基の、開始配列への付加、又はこれによる開始配列への置換によってもなされ得る(O結合型グリコシル化部位の場合)。容易にするために、抗原結合タンパク質のアミノ酸配列は、DNAレベルでの変化により改変され得、特に、所望のアミノ酸に翻訳されることとなるコドンが生成されるように、標的ポリペプチドをコードするDNAを、予め選択された塩基にて変異させることによって改変され得る。
【0118】
また、本発明は、炭水化物構造が改変されて、エフェクタ活性が改変されている多重特異性抗原結合タンパク質分子(フコシル化がないか、又は引き下げられてADCC活性の向上を示す抗原結合タンパク質が挙げられる)の生成も包含する。フコシル化を引き下げるか、又は排除する種々の方法が、当該技術分野において既知である。例えば、ADCCエフェクタ活性は、抗体分子の、FcγRIII受容体への結合によって媒介され、これは、CH2ドメインのN297残基でのN結合型グリコシル化の炭水化物構造に依存することが示されている。非フコシル化抗体は、この受容体に高い親和性で結合して、FcγRIII媒介性エフェクタ機能を、天然のフコシル化抗体よりも効率的にトリガーする。例えば、アルファ-1,6-フコシルトランスフェラーゼ酵素がノックアウトされているCHO細胞における非フコシル化抗体の組換え産生により、ADCC活性が100倍増大した抗体が生じる(Yamane-Ohnuki et al.,Biotechnol Bioeng.87(5):614-22,2004参照)。同様の効果を、フコシル化経路におけるアルファ-1,6-フコシルトランスフェラーゼ酵素又は他の酵素の活性を低下させることにより、例えば、siRNA若しくはアンチセンスRNA処理、酵素をノックアウトするような細胞株の操作、又は選択的グリコシル化阻害剤を用いる培養により、達成され得る(Rothman et al.,Mol Immunol.26(12):1113-23,1989参照)。いくつかの宿主細胞株(例えば、Lec13又はラットハイブリドーマYB2/0細胞株)は、フコシル化レベルがより低い抗体を天然に産生する(Shields et al.,J Biol Chem.277(30):26733-40,2002及びShinkawa et al.,J Biol Chem.278(5):3466-73,2003参照)。また、例えば、GnTIII酵素を過剰発現する細胞における抗体の組換え産生による、二分された炭水化物レベルの増大が、ADCC活性を増大させることが判明している(Umana et al.,Nat Biotechnol.17(2):176-80,1999参照)。
【0119】
他の実施形態において、本明細書中に記載される多重特異性抗原結合タンパク質のグリコシル化は、例えば結合タンパク質のFc領域から、1つ以上のグリコシル化部位を除去することによって、低下しているか、又は排除されている。N結合型グリコシル化部位を排除するか、又は改変するアミノ酸置換により、抗原結合タンパク質のN結合型グリコシル化が引き下げられ得るか、又は排除され得る。特定の実施形態において、本明細書中に記載される多重特異性抗原結合タンパク質は、N297Q、N297A、又はN297G等のN297位(EU付番)での変異を含む。特定の一実施形態において、本発明の多重特異性抗原結合タンパク質は、N297G変異を有するヒトIgG1抗体由来のFc領域を含む。N297変異を含む分子の安定性を向上させるように、分子のFc領域はさらに操作されていてもよい。例えば、一部の実施形態において、Fc領域内の1つ以上のアミノ酸は、システインにより置換されて、ジスルフィド結合形成を二量体状態で促進する。ゆえに、IgG1 Fc領域のV259、A287、R292、V302、L306、V323、又はI332(EU付番)に対応する残基が、システインにより置換されていてよい。好ましくは、残基の特定の対が、互いとのジスルフィド結合を優先的に形成するようにシステインにより置換されているので、ジスルフィド結合のスクランブルが制限又は防止されている。好ましい対として、以下に限定されないが、A287C及びL306C、V259C及びL306C、R292C及びV302C、並びにV323C及びI332Cが挙げられる。特定の実施形態において、本明細書中に記載される多重特異性抗原結合タンパク質は、R292C及びV302Cにて変異を有するヒトIgG1抗体由来のFc領域を含む。そのような実施形態において、Fc領域はまた、N297G変異を含んでもよい。
【0120】
また、例えば、サルベージ受容体(salvage receptor)結合エピトープの組込み若しくは付加によって(例えば、適切な領域の変異によって、又はエピトープをペプチドタグ中に組み込んで、これをその後、例えばDNA若しくはペプチド合成によって、いずれかの末端にて、若しくは中央で、抗原結合タンパク質に融合させることによって;例えば、国際公開第96/32478号パンフレット参照)、又はPEG若しくは他の水溶性ポリマー、例えば、多糖ポリマー等の分子の付加によって、血清半減期を延長するような本発明の多重特異性抗原結合タンパク質の修飾が望ましい場合がある。サルベージ受容体結合エピトープは、好ましくは、Fc領域の1つ又は2つのループ由来のいずれか1つ以上のアミノ酸残基が、抗原結合タンパク質内の類似の位置に移入されている領域を構成する。さらにより好ましくは、Fc領域の1つ又は2つのループ由来の3つ以上の残基が移入されている。さらにより好ましくは、エピトープは、Fc領域(例えば、IgG Fc領域)のCH2ドメインから採取されて、抗原結合タンパク質のCH1、CH3、若しくはVH領域、又は複数のそのような領域に移入されている。これ以外にも、エピトープは、Fc領域のCH2ドメインから採取されて、抗原結合タンパク質のCL領域若しくはVL領域、又はその双方に移入されている。Fcバリアント、及びその、サルベージ受容体との相互作用の説明については、国際出願である国際公開第97/34631号パンフレット及び国際公開第96/32478号パンフレット参照。
【0121】
本発明は、本明細書中に記載される多重特異性抗原結合タンパク質及びその成分をコードする1つ以上の単離核酸を含む。本発明の核酸分子として、一本鎖及び二本鎖の双方の形態のDNA及びRNA、並びに対応する相補的配列が挙げられる。DNAとして、例えば、cDNA、ゲノムDNA、化学的に合成されたDNA、PCRによって増幅されたDNA、及びそれらの組合せが挙げられる。本発明の核酸分子として、完全長遺伝子又はcDNA分子、及びそれらの断片の組合せが挙げられる。本発明の核酸は、優先的にはヒト供給源に由来するが、本発明には、非ヒト種に由来するものも含まれる。
【0122】
目的の免疫グロブリン若しくはその領域(例えば、可変領域、Fc領域等)又はポリペプチド由来の関連するアミノ酸配列は、直接タンパク質配列決定法によって決定され得、そして適切なコードヌクレオチド配列は、普遍コドン表に従って設計され得る。これ以外にも、本発明の多重特異性抗原結合タンパク質の結合ドメインの起源となり得る、モノクローナル抗体をコードするゲノムDNA又はcDNAは、従来の手順を用いて(例えば、モノクローナル抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブを用いることによって)、そのような抗体を産生する細胞から単離且つ配列決定され得る。
【0123】
本明細書中で「単離ポリヌクレオチド」と互換的に用いられる「単離核酸」は、天然に存在する供給源から単離された核酸の場合には、核酸が単離された生物のゲノム内に存在する隣接遺伝子配列から分離されている核酸である。例えば、鋳型から酵素的に合成されたか、又はPCR産物、cDNA分子、又はオリゴヌクレオチド等の化学的に合成された核酸の場合には、そのようなプロセスから生じる核酸は、単離核酸であると理解される。単離核酸分子は、別個の断片の形態の核酸分子、又はより大きな核酸コンストラクトの成分としての核酸分子を指す。好ましい一実施形態において、核酸は、混入する内因性物質が実質的にない。核酸分子は、好ましくは、標準的な生化学的方法(例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,NY(1989)に概説されているもの)によって、実質的に純粋な形態で、且つその成分ヌクレオチド配列の特定、操作、及び回収を可能にする量又は濃度で少なくとも1回単離されたDNA又はRNAから誘導されたものである。そのような配列は、好ましくは、典型的には真核生物遺伝子内に存在する内部非翻訳配列又はイントロンによって中断されていないオープンリーディングフレームの形態で提供且つ/又は構築されている。非翻訳DNAの配列は、オープンリーディングフレームから5’側又は3’側に存在し得、この場合にはこれは、コード領域の操作又は発現を妨害しない。特に明記しない限り、本明細書中で論じられている任意の一本鎖ポリヌクレオチド配列の左側末端は5’末端であり、二本鎖ポリヌクレオチド配列の左側方向は5’方向と称される。新生RNA転写産物の5’から3’への生成の方向は、転写方向と称され、RNA転写産物の5’末端の5’側にあるRNA転写産物と同じ配列を有するDNA鎖上の配列領域は、「上流配列」と称され、RNA転写産物の3’末端の3’側にあるRNA転写産物と同じ配列を有するDNA鎖上の配列領域は、「下流配列」と称される。
【0124】
本明細書中に記載される抗原結合タンパク質のバリアントが、バリアントをコードするDNAを生成するための、カセット若しくはPCR変異誘発、又は当該技術分野において周知の他の技術を用いる、ポリペプチドをコードするDNA内のヌクレオチドの部位特異的変異誘発によって、そしてその後、本明細書中で概説するように、細胞培養物中で組換えDNAを発現させることによって、調製され得る。しかしながら、最大約100~150個の残基を有するバリアントCDRを含む抗原結合タンパク質が、確立された技術を用いるインビトロ合成によって調製され得る。バリアントは、典型的には、天然に存在する類似体と同じ定性的生物学的活性、例えば抗原への結合を示す。そのようなバリアントは、例えば、抗原結合タンパク質のアミノ酸配列内の残基の欠失及び/又は挿入及び/又は置換を含む。欠失、挿入、及び置換のあらゆる組合せを行って、最終コンストラクトに至る。但し、この最終コンストラクトは、所望の特性を保持するものとする。また、アミノ酸の変化は、グリコシル化部位の数又は位置を変化させる等、抗原結合タンパク質の翻訳後プロセスを改変し得る。特定の実施形態において、抗原結合タンパク質バリアントは、エピトープ結合に直接関与するアミノ酸残基を修飾する目的で調製される。他の実施形態において、本明細書中で論じられている目的のために、エピトープ結合に直接関与しない残基、又はエピトープ結合に何ら関与しない残基の修飾が望ましい。CDR領域及び/又はフレームワーク領域のいずれかにおける変異誘発が企図される。抗原結合タンパク質のアミノ酸配列における有用な修飾を設計するのに、当業者であれば共分散分析技術を使用し得る。例えば、Choulier,et al.,Proteins 41:475-484,2000;Demarest et al.,J.Mol.Biol.335:41-48,2004;Hugo et al.,Protein Engineering 16(5):381-86,2003;Aurora et al.,米国特許出願公開第2008/0318207A1号明細書;Glaser et al.,米国特許出願公開第2009/0048122A1号明細書;Urech et al.,国際公開第2008/110348A1号パンフレット;Borras et al.,国際公開第2009/000099A2号パンフレット参照。共分散分析によって決定されるそのような改変により、抗原結合タンパク質の効力、薬物動態学、薬力学、及び/又は製造可能性の特性が向上し得る。
【0125】
本発明はまた、本発明の多重特異性抗原結合タンパク質の1つ以上の成分(例えば、可変領域、軽鎖、重鎖、修飾重鎖、及びFd断片)をコードする1つ以上の核酸を含むベクターも含む。用語「ベクター」は、タンパク質コード情報を宿主細胞中に移入するのに用いられるあらゆる分子又は実体(例えば、核酸、プラスミド、バクテリオファージ、又はウイルス)を指す。ベクターの例として、以下に限定されないが、プラスミド、ウイルスベクター、非エピソーム哺乳動物ベクター、及び発現ベクター、例えば組換え発現ベクターが挙げられる。本明細書中で用いられる用語「発現ベクター」又は「発現コンストラクト」は、特定の宿主細胞において作動可能に連結されているコード配列の発現に必須の、所望のコード配列及び適切な核酸制御配列を含有する組換えDNA分子を指す。発現ベクターは、転写、翻訳に影響を及ぼすか、又はそれらを制御し、且つ、イントロンが存在する場合には、これに作動可能に連結されたコード領域のRNAスプライシングに影響を及ぼす配列を含み得るが、これに限定されない。原核生物での発現に必須の核酸配列として、プロモータ、場合によってはオペレータ配列、リボソーム結合部位、及びことによると他の配列が挙げられる。真核細胞は、プロモータ、エンハンサ、並びに終結シグナル及びポリアデニル化シグナルを利用することが知られている。また、分泌シグナルペプチド配列は、場合によっては、発現ベクターによってコードされて、目的のコード配列に作動可能に連結されることが可能であり、これにより、所望の場合には、細胞から目的のポリペプチドがより容易に単離されるように、組換え宿主細胞によって発現ポリペプチドを分泌させることができる。特定の実施形態において、シグナルペプチドは、MDMRVPAQLLGLLLLWLRGARC(配列番号24)、MAWALLLLTLLTQGTGSWA(配列番号25)、MTCSPLLLTLLIHCTGSWA(配列番号26)、MEAPAQLLFLLLLWLPDTTG(配列番号27)、MEWTWRVLFLVAAATGAHS(配列番号28)、METPAQLLFLLLLWLPDTTG(配列番号29)、METPAQLLFLLLLWLPDTTG(配列番号30)、MKHLWFFLLLVAAPRWVLS(配列番号31)、及びMEWSWVFLFFLSVTTGVHS(配列番号32)からなる群から選択される。
【0126】
典型的には、本発明の多重特異性抗原タンパク質を生成するために宿主細胞に用いられる発現ベクターは、プラスミド維持のための配列、並びに当該多重特異性抗原結合タンパク質の成分をコードする外因性ヌクレオチド配列のクローニング及び発現のための配列を含有することとなる。集合的に「フランキング配列」と称されるような配列は、特定の実施形態において、典型的には、下記のヌクレオチド配列:プロモータ、1つ以上のエンハンサ配列、複製起点、転写終結配列、ドナー及びアクセプタスプライス部位を含有する完全イントロン配列、ポリペプチド分泌のためのリーダー配列をコードする配列、リボソーム結合部位、ポリアデニル化配列、発現されるべきポリペプチドをコードする核酸を挿入するためのポリリンカー領域、並びに選択マーカーエレメントの1つ以上を含むこととなる。これらの配列の各々を、以下で論じる。
【0127】
場合によっては、ベクターは、「タグ」コード配列、即ち、ポリペプチドコード配列の5’末端又は3’末端に位置するオリゴヌクレオチド分子を含有し得、当該オリゴヌクレオチドタグ配列は、ポリHis(例えばヘキサHis)、FLAG、HA(ヘマグルチニンインフルエンザウイルス)、myc、又は市販の抗体が存在する別の「タグ」分子をコードする。このタグは、典型的には、ポリペプチドが発現すると、ポリペプチドに融合されて、宿主細胞からのポリペプチドの親和性精製又は検出のための手段としての役目を果たすことができる。親和性精製は、例えば、タグに対する抗体を親和性マトリックスとして用いるカラムクロマトグラフィによって達成され得る。場合によっては、タグはその後、ある特定の開裂用ペプチダーゼを用いる等の種々の手段によって、精製されたポリペプチドから除去することができる。
【0128】
フランキング配列は、同種性(即ち、宿主細胞と同じ種及び/又は株に由来)、異種性(即ち、宿主細胞の種又は株以外の種に由来)、ハイブリッド(即ち、複数種の供給源に由来するフランキング配列の組合せ)、合成、又は天然であり得る。したがって、フランキング配列の供給源は、あらゆる原核生物若しくは真核生物、あらゆる脊椎動物若しくは無脊椎動物、又はあらゆる植物であり得る。但し、当該フランキング配列が、宿主細胞機構において機能し、且つ宿主細胞機構によって活性化され得るものとする。
【0129】
本発明のベクターに有用なフランキング配列を、当該技術分野において周知のいくつかの方法のいずれかによって得ることができる。典型的には、本明細書において有用なフランキング配列は、マッピング及び/又は制限エンドヌクレアーゼ消化によって事前に特定されているであろうから、適切な制限エンドヌクレアーゼを用いて、適切な組織供給源から単離することができる。場合により、フランキング配列の全ヌクレオチド配列が既知であり得る。この場合、フランキング配列は、核酸合成又はクローニングの常法を用いて合成され得る。
【0130】
フランキング配列の全てが既知であるか、又はその一部のみが既知であるかを問わず、ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)を用いて、且つ/又は同じ若しくは別の種に由来するオリゴヌクレオチド及び/若しくはフランキング配列断片等の適切なプローブによりゲノムライブラリをスクリーニングすることによって、フランキング配列を得ることができる。フランキング配列が不明である場合には、フランキング配列を含有するDNAの断片が、例えば、コード配列又は別の遺伝子すら含有し得るDNAのより大きな断片から単離され得る。単離は、制限エンドヌクレアーゼ消化によって適切なDNA断片を生成し、続いてアガロースゲル精製、Qiagen(登録商標)カラムクロマトグラフィ(Chatsworth,CA)、又は当業者に既知の他の方法を用いて単離することによって達成され得る。この目的を達成するのに適した酵素の選択は、当業者であれば容易に分かるであろう。
【0131】
複製起点は、典型的には、市販の原核生物発現ベクターの一部であり、当該起点は、宿主細胞内でのベクターの増幅に役立つ。選択したベクターが複製起点部位を含有しなければ、既知の配列に基づいて化学的に合成して、ベクター中にライゲートしてもよい。例えば、プラスミドpBR322(New England Biolabs,Beverly,MA)に由来する複製起点は、ほとんどのグラム陰性菌に適しており、種々のウイルス性の起点(例えば、SV40、ポリオーマ、アデノウイルス、水疱性口内炎ウイルス(VSV)、又はパピローマウイルス、例えば、HPV若しくはBPV)が、哺乳動物細胞におけるベクターのクローニングに有用である。一般に、複製起点成分は、哺乳動物発現ベクターには必要でない(例えば、SV40起点は、ウイルス初期プロモータをも含有するという理由でのみ、用いられることが多い)。
【0132】
転写終結配列は、典型的には、ポリペプチドコード領域の3’末端側に位置決めされており、転写を終結させる働きをする。通常、原核細胞における転写終結配列は、G-Cリッチ断片とそれに続くポリT配列である。当該配列は、ライブラリから容易にクローニングされるか、又はベクターの一部として市販すらされているが、既知の核酸合成方法を用いて容易に合成することもできる。
【0133】
選択マーカー遺伝子は、選択培養培地中で増殖する宿主細胞の生存及び増殖に必須のタンパク質をコードする。典型的な選択マーカー遺伝子は、(a)原核生物の宿主細胞に、抗生物質若しくは他の毒素、例えば、アンピシリン、テトラサイクリン、若しくはカナマイシンに対する耐性を付与するタンパク質;(b)細胞の栄養要求性欠損を補完するタンパク質;又は(c)複合培地若しくは限定培地から入手できない重要な栄養素を供給するタンパク質をコードする。特異的選択マーカーは、カナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、及びテトラサイクリン耐性遺伝子である。有利なことには、ネオマイシン耐性遺伝子もまた、原核生物の宿主細胞及び真核生物の宿主細胞の双方における選択に用いられ得る。
【0134】
他の選択遺伝子を用いて、発現されることとなる遺伝子を増幅してもよい。増幅は、増殖又は細胞生存に重要なタンパク質の生成に必要とされる遺伝子が、組換え細胞の累代の染色体内でタンデムに反復されるプロセスである。哺乳動物細胞に適した選択マーカーの例として、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)及びプロモータレスチミジンキナーゼ遺伝子が挙げられる。哺乳動物細胞形質転換体が、当該形質転換体のみが唯一、ベクター内に存在する選択遺伝子によって生存するように適合されている選択圧下に置かれる。選択圧が、培地中の選択剤の濃度が連続的に増大する条件下で形質転換された細胞を培養することによって課されることによって、選択遺伝子と、本明細書中に記載される多重特異性抗原結合タンパク質の1つ以上の成分等の別の遺伝子をコードするDNAとの双方の増幅を導く。その結果、増幅されたDNAから多量のポリペプチドが合成される。
【0135】
リボソーム結合部位は、通常、mRNAの翻訳開始に必須であり、シャイン・ダルガーノ配列(原核生物)又はコザック配列(真核生物)によって特徴付けられる。当該エレメントは、典型的には、プロモータの3’側、及び発現されることとなるポリペプチドのコード配列の5’側に位置決めされる。特定の実施形態において、1つ以上のコード領域が、内部リボソーム結合部位(IRES)に作動可能に連結され得、単一のRNA転写産物からの2つのオープンリーディングフレームの翻訳が可能になる。
【0136】
真核生物の宿主細胞発現系においてグリコシル化が所望される等の場合には、グリコシル化又は収率を向上させるために、種々のプレ配列又はプロ配列が操作されてもよい。例えば、特定のシグナルペプチドのペプチダーゼ開裂部位を改変してもよいし、プロ配列を付加してもよく、これもまたグリコシル化に影響を及ぼし得る。最終タンパク質産物は、-1位(成熟タンパク質の第1のアミノ酸に対して)において、発現に付随する1つ以上の追加のアミノ酸を有する場合があり、これは、完全には除去されていなくてもよい。例えば、最終タンパク質産物は、アミノ末端に結合した、ペプチダーゼ開裂部位内に見出される1つ又は2つのアミノ酸残基を有し得る。これ以外にも、いくつかの酵素開裂部位を用いることにより、酵素が成熟ポリペプチド内のそのような領域にて切断するならば、所望のポリペプチドが僅かにトランケートされた形態が生じ得る。
【0137】
本発明の発現ベクター及びクローニングベクターは、典型的には、宿主生物によって認識され、且つポリペプチドをコードする分子に作動可能に連結されたプロモータを含有することとなる。本明細書中で用いられる用語「作動可能に連結された」は、所与の遺伝子の転写及び/又は所望のタンパク質分子の合成を指令することができる核酸分子が生成されるように、2つ以上の核酸配列が連結されていることを指す。例えば、タンパク質コード配列に「作動可能に連結された」ベクター中の制御配列は、タンパク質コード配列の発現が、制御配列の転写活性と適合する条件下で達成されるように、タンパク質コード配列にライゲートされている。より具体的には、プロモータ及び/又はエンハンサ配列(シス作用性転写制御エレメントのあらゆる組合せを含む)は、適切な宿主細胞又は他の発現系においてコード配列の転写を刺激又は調節するならば、コード配列に作動可能に連結されている。
【0138】
プロモータは、構造遺伝子の開始コドンの上流(即ち5’側;一般に、約100~1000bp以内)に位置決めされて、構造遺伝子の転写を制御する非転写配列である。通常、プロモータは、下記の2つのクラス:誘導性プロモータ及び構成的プロモータの一方に分類される。誘導性プロモータは、その制御下で、栄養素の有無又は温度の変化等の培養条件の何らかの変化に応じて、DNAからの転写レベルの増大を開始する。一方、構成的プロモータは、それが作動可能に連結されている遺伝子を均一に、即ち遺伝子発現に対する制御をほとんど又は全く行わずに転写する。種々の潜在的宿主細胞によって認識される多数のプロモータが周知である。供給源DNAから制限酵素消化によってプロモータを除去して、所望のプロモータ配列をベクター中に挿入することによって、適切なプロモータが、本発明の多重特異性抗原結合タンパク質の、例えば、重鎖、軽鎖、修飾重鎖、又は他の成分をコードするDNAに作動可能に連結されている。
【0139】
また、酵母宿主に用いるのに適したプロモータが、当該技術分野において周知である。酵母エンハンサが酵母プロモータに用いられるのが有利である。哺乳動物宿主細胞に用いるのに適したプロモータが周知であり、以下に限定されないが、ポリオーマウイルス、鶏痘ウイルス、アデノウイルス(アデノウイルス2型等)、ウシパピローマウイルス、トリ肉腫ウイルス、サイトメガロウイルス、レトロウイルス、B型肝炎ウイルス、及び最も好ましくはシミアンウイルス40(SV40)等のウイルスのゲノムから得られるものが挙げられる。他の適切な哺乳動物プロモータとして、異種哺乳動物プロモータ、例えば、熱ショックプロモータ及びアクチンプロモータが挙げられる。
【0140】
対象となり得る追加のプロモータとして:SV40初期プロモータ(Benoist and Chambon,1981,Nature 290:304-310);CMVプロモータ(Thornsen et al.,1984,Proc.Natl.Acad.U.S.A.81:659-663)、ラウス肉腫ウイルスの3’側の長い末端反復に含有されるプロモータ(Yamamoto et al.,1980,Cell 22:787-797)、ヘルペスチミジンキナーゼプロモータ(Wagner et al.,1981,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.78:1444-1445);メタロチオネイン遺伝子由来のプロモータ及び調節配列(Prinster et al.,1982,Nature 296:39-42);並びにベータ-ラクタマーゼプロモータ等の原核生物プロモータ(Villa-Kamaroff et al.,1978,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.75:3727-3731);又はtacプロモータ(DeBoer et al.,1983,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.80:21-25)が挙げられるが、これらに限定されない。また、対象となるのは、組織特異性を示し、且つトランスジェニック動物に利用されている以下の動物転写制御領域である:膵腺房細胞において活性であるエラスターゼI遺伝子制御領域(Swift et al.,1984,Cell 38:639-646;Ornitz et al.,1986,Cold Spring Harbor Symp.Quant.Biol.50:399-409;MacDonald,1987,Hepatology 7:425-515);膵ベータ細胞において活性であるインスリン遺伝子制御領域(Hanahan,1985,Nature 315:115-122);リンパ細胞において活性である免疫グロブリン遺伝子制御領域(Grosschedl et al.,1984,Cell 38:647-658;Adames et al.,1985,Nature 318:533-538;Alexander et al.,1987,Mol.Cell.Biol.7:1436-1444);精巣、乳房、リンパ球、及び肥満細胞において活性であるマウス乳房腫瘍ウイルス制御領域(Leder et al.,1986,Cell 45:485-495);肝臓において活性であるアルブミン遺伝子制御領域(Pinkert et al.,1987,Genes and Devel.1:268-276)、肝臓において活性であるアルファ-フェトプロテイン遺伝子制御領域(Krumlauf et al.,1985,Mol.Cell.Biol.5:1639-1648;Hammer et al.,1987,Science 253:53-58);肝臓において活性であるアルファ1-アンチトリプシン遺伝子制御領域(Kelsey et al.,1987,Genes and Devel.1:161-171);骨髄細胞において活性であるベータ-グロビン遺伝子制御領域(Mogram et al.,1985,Nature 315:338-340;Kollias et al.,1986,Cell 46:89-94);脳内のオリゴデンドロサイト細胞において活性であるミエリン塩基性タンパク質遺伝子制御領域(Readhead et al.,1987,Cell 48:703-712);骨格筋において活性であるミオシン軽鎖-2遺伝子制御領域(Sani,1985,Nature 314:283-286);並びに視床下部において活性である性腺刺激放出ホルモン遺伝子制御領域(Mason et al.,1986,Science 234:1372-1378)。
【0141】
エンハンサ配列をベクター中に挿入して、高等真核生物によって、多重特異性抗原結合タンパク質の成分(例えば、軽鎖、重鎖、修飾重鎖、Fd断片)をコードするDNAの転写を増大させてもよい。エンハンサは、プロモータに作用して転写を増大させる、通常、約10~300bp長のDNAのシス作用性エレメントである。エンハンサは、向き及び位置に比較的依存せず、転写単位に対して5’側及び3’側の双方の位置にて見出されている。哺乳動物遺伝子から入手可能ないくつかのエンハンサ配列が知られている(例えば、グロビン、エラスターゼ、アルブミン、アルファ-フェトプロテイン、及びインスリン)。しかしながら、典型的には、ウイルス由来のエンハンサが用いられる。当該技術分野において既知のSV40エンハンサ、サイトメガロウイルス初期プロモータエンハンサ、ポリオーマエンハンサ、及びアデノウイルスエンハンサは、真核生物プロモータの活性化のための例示的な増強エレメントである。エンハンサは、ベクターにおいてコード配列の5’側又は3’側のいずれに位置してもよいが、典型的には、プロモータから5’側の部位に位置決めされている。適切な天然又は異種性のシグナル配列(リーダー配列又はシグナルペプチド)をコードする配列を発現ベクター中に組み込んで、細胞外への抗体の分泌を促進することができる。シグナルペプチド又はリーダーの選択は、抗体が産生されることとなる宿主細胞の型に依存し、そして異種性のシグナル配列が、天然のシグナル配列に取って代わることができる。シグナルペプチドの例が、先に記載されている。哺乳動物宿主細胞において機能する他のシグナルペプチドとして、米国特許第4,965,195号明細書に記載されるインターロイキン-7(IL-7)のシグナル配列;Cosman et al.,1984,Nature 312:768に記載されるインターロイキン-2受容体のシグナル配列;欧州特許第0367 566号明細書に記載されるインターロイキン-4受容体シグナルペプチド;米国特許第4,968,607号明細書に記載されるI型インターロイキン-1受容体シグナルペプチド;欧州特許第0 460 846号明細書に記載されるII型インターロイキン-1受容体シグナルペプチドが挙げられる。
【0142】
提供される発現ベクターは、市販のベクター等の出発ベクターから構築され得る。そのようなベクターは、所望のフランキング配列の全てを含有してもよいし、含有しなくてもよい。本明細書中に記載されるフランキング配列の1つ以上がベクター内に最初から存在していない場合、それらが個々に取得されてベクター中にライゲートされてもよい。各フランキング配列を取得するために用いられる方法は、当業者に周知である。発現ベクターは、宿主細胞中に導入されることによって、本明細書中に記載される核酸によってコードされる融合タンパク質が挙げられるタンパク質を生成し得る。
【0143】
特定の実施形態において、本発明の多重特異性抗原結合タンパク質の異なる成分をコードする核酸が、同じ発現ベクター中に挿入されてもよい。そのような実施形態において、軽鎖及び重鎖が同じmRNA転写産物から発現されるように、内部リボソーム侵入部位(IRES)によって、且つ単一のプロモータの制御下で、2つの核酸が分離されていてもよい。これ以外にも、2つの核酸は、軽鎖及び重鎖が2つの別個のmRNA転写産物から発現されるように、2つの別個のプロモータの制御下にあってもよい。
【0144】
同様に、IgG-scFv多重特異性抗原結合タンパク質については、軽鎖をコードする核酸は、修飾重鎖(重鎖及びscFvを含む融合タンパク質)をコードする核酸と同じ発現ベクター中にクローニングされてもよく、その場合、2つの核酸は、単一のプロモータの制御下にあってIRESによって分離されているか、又は2つの核酸は、2つの別個のプロモータの制御下にある。IgG-Fab多重特異性抗原結合タンパク質については、3つの成分の各々をコードする核酸が、同じ発現ベクター中にクローニングされていてもよい。一部の実施形態において、IgG-Fab分子の軽鎖をコードする核酸、及び第2のポリペプチド(C末端のFabドメインの残りの半分を含む)をコードする核酸は、1つの発現ベクター中にクローニングされる一方、修飾重鎖(重鎖、及びFabドメインの半分を含む融合タンパク質)をコードする核酸は、第2の発現ベクター中にクローニングされている。特定の実施形態において、本明細書中に記載される多重特異性抗原結合タンパク質の全ての成分は、同じ宿主細胞集団から発現される。例えば、1つ以上の成分が、別個の発現ベクター中にクローニングされる場合でも、宿主細胞に双方の発現ベクターが同時形質移入されて、1つの細胞が多重特異性抗原結合タンパク質の全ての成分を生成するようになる。
【0145】
ベクターが構築されて、本明細書中に記載される多重特異性抗原結合タンパク質の成分をコードする1種以上の核酸分子が、1種以上のベクターの適切な部位中に挿入された後に、完成したベクターは、増幅及び/又はポリペプチド発現に適した宿主細胞中に挿入され得る。ゆえに、本発明は、多重特異性抗原結合タンパク質の成分をコードする1種以上の発現ベクターを含む単離宿主細胞を包含する。本明細書中で用いられる用語「宿主細胞」は、核酸により形質転換されているか、又は形質転換されることが可能であることによって、目的の遺伝子を発現する細胞を指す。当該用語には、目的の遺伝子が存在する限り、親細胞の後代の形態又は遺伝的構造が元の親細胞と同一であるか否かに拘わらず、親細胞の後代が含まれる。好ましくは、少なくとも1つの発現制御配列(例えば、プロモータ又はエンハンサ)に作動可能に連結された、本発明の単離核酸を含む宿主細胞が、「組換え宿主細胞」である。
【0146】
抗原結合タンパク質用の発現ベクターの、選択された宿主細胞中への形質転換は、形質移入、感染、リン酸カルシウム共沈、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、リポフェクション、DEAE-デキストラン媒介形質移入、又は他の既知の技術が挙げられる周知の方法によって達成され得る。選択される方法は、ある程度、用いられることとなる宿主細胞の型に応じることとなる。これらの方法及び他の適切な方法は、当業者に周知であり、例えば、前出のSambrook et al.,2001(前掲)に示されている。
【0147】
宿主細胞は、適切な条件下で培養されると、抗原結合タンパク質を合成し、これはその後、(宿主細胞が培地中に分泌するならば)培養培地から収集され得るか、又は(分泌されなければ)産生する宿主細胞から直接的に収集され得る。適切な宿主細胞の選択は、所望の発現レベル、活性(グリコシル化又はリン酸化等)に望ましいか、又は必須であるポリペプチド修飾、及び生物学的に活性な分子への折畳みの容易さ等の種々の要因によって決まることとなる。
【0148】
例示的な宿主細胞として、原核生物、酵母、又は高等真核生物細胞が挙げられる。原核生物の宿主細胞として、グラム陰性微生物又はグラム陽性微生物等の真正細菌、例えば、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)、例えば、エシェリキア属(Escherichia)、例えば大腸菌(E.coli)、エンテロバクター属(Enterobacter)、エルウィニア属(Erwinia)、クレブシエラ属(Klebsiella)、プロテウス属(Proteus)、サルモネラ属(Salmonella)、例えばネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)、セラチア属(Serratia)、例えばセラチア・マルセッセンス(Serratia marcescans)、及びシゲラ属(Shigella)、並びにバチルス属(Bacillus)、例えば、枯草菌(B.subtilis)及びB.リケニフォルミス(B.licheniformis)、シュードモナス属(Pseudomonas)、及びストレプトミセス属(Streptomyces)が挙げられる。真核生物の微生物、例えば、糸状菌又は酵母が、組換えポリペプチドに適したクローニング宿主又は発現宿主である。サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、又は一般的なパン酵母が、下等真核生物宿主微生物の中で最も一般的に用いられている。しかしながら、ピキア属(Pichia)、例えばP.パストリス(P.pastoris)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、クルイベロミセス属(Kluyveromyces)、ヤロウイア属(Yarrowia)、カンジダ属(Candida)、トリコデルマ・レーシア(Trichoderma reesia)、アカパンカビ(Neurospora crassa)、シュワニオミセス属(Schwanniomyces)、例えばシュワニオミセス・オクシデンタリス(Schwanniomyces occidentalis)、並びに糸状菌、例えば、ニューロスポラ属(Neurospora)、ペニシリウム属(Penicillium)、トリポクラジウム属(Tolypocladium)、並びにアスペルギルス属(Aspergillus)宿主、例えば、A.ニデュランス(A.nidulans)及びA.ニガー(A.niger)等のいくつかの他の属、種、及び株が、本明細書において一般に利用可能であり、且つ有用である。
【0149】
グリコシル化された抗原結合タンパク質の発現のための宿主細胞は、多細胞生物に由来し得る。無脊椎動物細胞の例として、植物細胞及び昆虫細胞が挙げられる。多数のバキュロウイルスの株及びバリアント、並びにツマジロクサヨトウ(Spodoptera frugiperda)(イモムシ)、ネッタイシマカ(Aedes aegypti)(蚊)、ヒトスジシマカ(Aedes albopictus)(蚊)、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)(ミバエ)、及びカイコ(Bombyx mori)等の宿主由来の、対応する昆虫の許容宿主細胞が同定されている。そのような細胞の形質移入用の種々のウイルス株、例えば、オートグラファ・カリフォルニカ(Autographa californica)NPVのL-1バリアント、及びカイコ(Bombyx mori)NPVのBm-5株が公に入手可能である。
【0150】
脊椎動物宿主細胞もまた適切な宿主であり、そのような細胞からの抗原結合タンパク質の組換え生成は、常法となっている。発現用の宿主として利用可能な哺乳動物細胞株は、当該技術分野において周知であり、以下に限定されないが、American Type Culture Collection(ATCC)から入手可能な不死化細胞株、例えば、以下に限定されないが、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、例えば、CHOK1細胞(ATCC CCL61)、DXB-11、DG-44、及びチャイニーズハムスター卵巣細胞/-DHFR(CHO、Urlaub et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:4216,1980);SV40によって形質転換されたサル腎臓CV1株(COS-7、ATCC CRL 1651);ヒト胚腎臓株(293細胞、又は懸濁培養での増殖用にサブクローニングされた293細胞)(Graham et al.,J.Gen Virol.36:59,1977);ベビーハムスター腎臓細胞(BHK、ATCC CCL 10);マウスセルトリ細胞(TM4、Mather,Biol.Reprod.23:243-251,1980);サル腎臓細胞(CV1 ATCC CCL 70);アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO-76、ATCC CRL-1587);ヒト頸癌細胞(HELA、ATCC CCL 2);イヌ腎臓細胞(MDCK、ATCC CCL 34);バッファローラット肝臓細胞(BRL 3A、ATCC CRL 1442);ヒト肺細胞(W138、ATCC CCL 75);ヒト肝癌細胞(Hep G2、HB 8065);マウス乳房腫瘍(MMT 060562、ATCC CCL51);TRI細胞(Mather et al.,Annals N.Y Acad.Sci.383:44-68,1982);MRC 5細胞又はFS4細胞;哺乳動物骨髄腫細胞、及びいくつかの他の細胞株が挙げられる。別の実施形態において、それ自体の抗体は作製しないが、異種性抗体を作製して分泌する能力を有するB細胞系統由来の細胞株が選択され得る。一部の実施形態において、CHO細胞が、本発明の多重特異性抗原結合タンパク質を発現するのに好ましい宿主細胞である。
【0151】
多重特異性抗原結合タンパク質の生成用の宿主細胞が、上記の核酸又はベクターにより形質転換又は形質移入されて、プロモータの誘導、形質転換体の選択、又は所望の配列をコードする遺伝子の増幅に適するように改変された従来の栄養培地中で培養される。加えて、選択マーカーによって分離された複数コピーの転写単位を有する新規のベクター及び形質移入細胞株が、抗原結合タンパク質の発現に特に有用である。ゆえに、本発明はまた、本明細書中に記載される多重特異性抗原結合タンパク質を調製する方法であって、本明細書中に記載される1種以上の発現ベクターを含む宿主細胞を、当該1種以上の発現ベクターによってコードされる多重特異性抗原結合タンパク質の発現を可能にする条件下で培養培地中で培養することと、当該培養培地から多重特異性抗原結合タンパク質を回収することとを含む方法を提供する。
【0152】
本発明の抗原結合タンパク質を生成するのに用いられる宿主細胞は、種々の培地中で培養され得る。ハムF10(Sigma)、最小必須培地(MEM、Sigma)、RPMI-1640(Sigma)、及びダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、Sigma)等の市販の培地が、宿主細胞を培養するのに適している。加えて、Ham et al.,Meth.Enz.58:44,1979;Barnes et al.,Anal.Biochem.102:255,1980;米国特許第4,767,704号明細書;米国特許第4,657,866号明細書;米国特許第4,927,762号明細書;米国特許第4,560,655号明細書;若しくは米国特許第5,122,469号明細書;国際公開第90103430号パンフレット;国際公開第87/00195号パンフレット;又は米国再発行特許第30,985号明細書に記載される培地のいずれも、宿主細胞用の培養培地として用いられ得る。これらの培地はいずれも、必要に応じて、ホルモン及び/又は他の成長因子(例えば、インスリン、トランスフェリン、又は上皮成長因子)、塩(例えば、塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、及びリン酸塩)、緩衝液(例えばHEPES)、ヌクレオチド(例えば、アデノシン及びチミジン)、抗生物質(例えば、ゲンタマイシン(商標)薬物)、微量元素(通常はマイクロモル範囲の最終濃度にて存在する無機化合物として定義される)、並びにグルコース又は同等のエネルギー源が補充され得る。また、他の必須のあらゆる栄養補助物質が、当業者に知られている適切な濃度にて含まれ得る。温度及びpH等の培養条件は、発現のために選択された宿主細胞に以前に用いられているものであり、当業者に明らかであろう。
【0153】
宿主細胞を培養すると、多重特異性抗原結合タンパク質は、細胞内、細胞周辺腔内で産生されること、又は培地中に直接分泌されることが可能である。抗原結合タンパク質が細胞内で産生されるならば、第1のステップとして、粒状の破片である宿主細胞又は溶解断片が、例えば、遠心分離又は限外濾過によって除去される。多重特異性抗原結合タンパク質は、例えば、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィ、陽イオン又は陰イオン交換クロマトグラフィ、或いは好ましくは、親和性リガンドとして目的の抗原又はプロテインA若しくはプロテインGを用いるアフィニティクロマトグラフィを用いて精製され得る。プロテインAを用いて、ヒトγ1、γ2、又はγ4重鎖に基づくポリペプチドを含むタンパク質が精製され得る(Lindmark et al.,J.Immunol.Meth.62:1-13,1983)。プロテインGは、全てのマウスアイソタイプ及びヒトγ3に推奨されている(Guss et al.,EMBO J.5:15671575,1986)。親和性リガンドが結合するマトリックスは、ほとんどの場合、アガロースであるが、他のマトリックスも利用可能である。制御細孔ガラス(controlled pore glass)又はポリ(スチレンジビニル)ベンゼン等の機械的に安定なマトリックスは、アガロースにより達成され得るよりも、流速を速くし、且つ処理時間を短くすることが可能である。タンパク質がCH3ドメインを含む場合には、Bakerbond ABX(商標)樹脂(J.T.Baker,Phillipsburg,N.J.)が、精製に有用である。回収されるべき特定の多重特異性抗原結合タンパク質に応じて、エタノール沈殿、逆相HPLC、クロマトフォーカシング、SDS-PAGE、及び硫酸アンモニウム沈殿等のタンパク質精製のための他の技術もまた可能である。
【実施例
【0154】
多重特異性アセンブリのための新規のモジュールは、軽鎖(LC)のC末端を、その同族重鎖(HC)のN末端に連結するリンカーを活用する。単鎖Fab(scFab)モジュールは、従来の多重特異性開発に勝るいくつかの利点を実証している。例えば、軽鎖を重鎖と共有結合させることによって、当該モジュールは、多重特異性アセンブリに必要とされるポリペプチド鎖の総数を効果的に引き下げる。加えて、scFvへのFab変換と対照的に、ほとんどのFabを、安定性も標的結合も引き下げずに、scFabに変換することができる。
【0155】
さらに、荷電対変異(CPM)の使用をさらに組み込んで、正確なアセンブリを駆動し、且つ単一細胞内で発現全体を最大にすることができる。ゆえに、scFabモジュールは、治療計画の特定の必要に合わせて調整することができる一般的な使用「プラグアンドプレイ」ツールを提供する。
【0156】
様々な文脈においてscFabモジュールを含有する分子をHEK293細胞内で発現させてから、ツーステップProA/CEXタンパク質精製を続けて、>90%の純度を満たした。
【0157】
一価の二重特異性をもたらすために、種々の長さのGQ及びGS反復を有する探索したフレキシブルリンカーを、ヘテロIgGスカフォールド(「scFab-ヘテロFc」)中に導入して、ポリペプチド鎖の総数を4から2まで引き下げた(図1及び2)。
【0158】
正確な重-軽鎖対形成をさらに駆動するようなCPMの使用は、scFab-ヘテロ-Fc分子において各軽鎖がその同族重鎖に共有結合する場合に、収率を向上させなかった。当該分子は、HEK 293-6E細胞内で発現されて、ProA及びイオン交換によって精製された場合に、最大45mg/Lの収率をもたらした(図3)。
【0159】
二価の二重特異性をもたらすために、発明者らは、N末端及びC末端の双方にて複数の反復を有するフレキシブルG4Qリンカーを探索して、IgG-Fabスカフォールドの鎖を、3つの異なるポリペプチド鎖(総数6)から2つの異なる鎖(総数4)まで引き下げた。(図1及び4)。
【0160】
しかしながら、上述のscFab-ヘテロ-Fcフォーマットとは異なり、このscFab-Fc-Fabフォーマットでは、scFabモジュールは単独で、重鎖-軽鎖誤対形成を妨げるほどではない。ゆえに、遊離軽鎖が溶液中に存在する場合、CPMが、誤対形成駆動凝集を妨げるのに必要とされる(図5)。しかしながら、CPMは、C末端Fabアーム上に必要とされない。scFabモジュール単独へのCPMの組込みにより、HEK 293 6E細胞内で発現させて、ProA及びイオン交換によって精製した場合に、最大80mg/Lの総収率がもたらされた(図5)。この結果は、多重特異性抗原結合タンパク質がどの2つの抗原に結合するかに拘らず、有効である。
【0161】
scFabモジュールは、一価の二重特異性scFab-ヘテロFcフォーマットの文脈において、組み込まれた分子のTm又は2Wk40C安定性に有意に影響しなかった(図6及び図8)。
【0162】
続いて、分子を、候補標的毎の結合について試験した。(G4Q)7リンカーを有するscFabモジュールも、C末端Fabも、試験したあらゆる標的抗原への結合を引き下げなかった(図7)。
【0163】
(GQ)
(配列番号1)
GGGGQGGGGQGGGGQGGGGQGGGGQGGGGQGGGGQ
カッパCL
(配列番号2)
RTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC
ラムダCL
(配列番号3)
GQPKAAPSVTLFPPSSEELQANKATLVCLISDFYPGAVTVAWKADSSPVKAGVETTTPSKQSNNKYAASSYLSLTPEQWKSHRSYSCQVTHEGSTVEKTVAPTECS
共通のCH1
(配列番号4)
ASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKV
共通のヒンジ-CH2-CH3
(配列番号5)
【化1】
共通のヒンジ-CH2-CH3(K590G)
(配列番号6)
【化2】
共通のCH1-ヒンジ-CH2-CH3
(配列番号7)
【化3】
共通のCH1-ヒンジ-CH2-CH3(K590G)
(配列番号8)
【化4】
(配列番号9)
GGSGGGGS
(配列番号10)
GGSGGGS
(配列番号11)
GGGSGGGS
(配列番号12)
GGGGSGGGGS
(配列番号13)
GGGSGGGSGGGS
(配列番号14)
GGGGSGGGGSGGGGS
(配列番号15)
GGGSGGGSGGGSGGGS
(配列番号16)
GGGGSGGGGSGGGGSGGGGS
(配列番号17)
GGGSGGGSGGGSGGGSGGGS
(配列番号18)
GGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGS
(配列番号19)
GGGSGGGSGGGSGGGSGGGSGGGS
(配列番号20)
GGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGS
(配列番号21)
GGGGQGGGGQ
(配列番号22)
GGGGQGGGGQGGGGQ
(配列番号23)
GGGGQGGGGQGGGGQGGGGQ
(配列番号24)
MDMRVPAQLLGLLLLWLRGARC
(配列番号25)
MAWALLLLTLLTQGTGSWA
(配列番号26)
MTCSPLLLTLLIHCTGSWA
(配列番号27)
MEAPAQLLFLLLLWLPDTTG
(配列番号28)
MEWTWRVLFLVAAATGAHS
(配列番号29)
METPAQLLFLLLLWLPDTTG
(配列番号30)
METPAQLLFLLLLWLPDTTG
(配列番号31)
MKHLWFFLLLVAAPRWVLS
(配列番号32)
MEWSWVFLFFLSVTTGVHS
(配列番号33)
GGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGS
(配列番号34)
GGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGS
(配列番号35)
GGGGQGGGGQGGGGQGGGGQGGGGQGGGGQGGGGQGGGGQ
(配列番号36)
GGGGQGGGGQGGGGQGGGGQGGGGQGGGGQ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
2023548595000001.app
【国際調査報告】