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特表2023-548609神経変性疾患の治療及び予防における使用のためのポリペプチド
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-17
(54)【発明の名称】神経変性疾患の治療及び予防における使用のためのポリペプチド
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/10 20060101AFI20231110BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20231110BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20231110BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20231110BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20231110BHJP
   C07K 7/08 20060101ALN20231110BHJP
【FI】
A61K38/10 ZNA
A61K45/00
A61K39/395 N
A61K9/08
C12N15/12
C07K7/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023527708
(86)(22)【出願日】2021-11-02
(85)【翻訳文提出日】2023-06-28
(86)【国際出願番号】 IL2021051297
(87)【国際公開番号】W WO2022097136
(87)【国際公開日】2022-05-12
(31)【優先権主張番号】63/109,484
(32)【優先日】2020-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】523163956
【氏名又は名称】イミューン システム キー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】IMMUNE SYSTEM KEY LTD.
【住所又は居所原語表記】21 Havaad HaLeumi Street, Jerusalem, Israel
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】デヴァリー ヨラム
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA11
4C076CC01
4C076FF02
4C076FF04
4C084AA02
4C084AA19
4C084BA01
4C084BA09
4C084BA18
4C084BA23
4C084CA59
4C084MA02
4C084MA17
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA011
4C084ZA012
4C084ZA021
4C084ZA022
4C084ZA151
4C084ZA152
4C084ZA161
4C084ZA162
4C084ZC201
4C084ZC202
4C084ZC211
4C084ZC212
4C084ZC421
4C084ZC422
4C084ZC751
4C084ZC752
4C085AA14
4C085DD62
4C085EE03
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA01
4H045BA16
4H045EA21
4H045FA20
(57)【要約】
本開示は、神経変性疾患、認知低下及びそれに関連する任意の状態又は症状のうちの少なくとも1つの発症を予防、治療、改善するか、又は遅延させる際の使用のための、かつ認知機能、短期記憶、長期記憶、学習機能、グルコース代謝及びグルコース輸送のうちの少なくとも1つを改善するための、方法、組成物、及びキットを提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経変性疾患、認知低下及びそれに関連する任意の状態又は症状のうちの少なくとも1つの発症を予防、治療、改善するか、又は遅延させることを必要とする対象における、前記神経変性疾患、前記認知低下及びそれに関連する任意の前記状態又は前記症状のうちの少なくとも1つの発症を予防、治療、改善するか、又は遅延させるための方法であって、前記対象に有効量の配列番号1のアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチドあるいは前記単離されたポリペプチドの機能的断片若しくは誘導体又はその塩を投与することを含む、方法。
【請求項2】
前記方法は、神経変性疾患及び認知低下のうちの少なくとも1つに関連する少なくとも1つの状態若しくは症状の改善又は低減を必要とする対象における、前記神経変性疾患及び前記認知低下のうちの少なくとも1つに関連する少なくとも1つの前記状態若しくは前記症状の改善又は低減をもたらす、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記状態又は前記症状は、不安、短期記憶障害、長期記憶障害、認知機能障害、学習機能障害、グルコース代謝障害、酸化ストレス又はこれらの任意の組み合わせのうちの少なくとも1つである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記方法は、認知機能、短期記憶、長期記憶、学習機能、並びにグルコース代謝及びグルコース輸送のうちの少なくとも1つの改善を必要とする対象における、前記認知機能、前記短期記憶、前記長期記憶、前記学習機能、並びに前記グルコース代謝及び前記グルコース輸送のうちの少なくとも1つの改善をもたらす、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記神経変性疾患は、アルツハイマー病、パーキンソン病、認知症、タンパク質ミスフォールディングに関連する障害、認知低下、軽度認知障害(MCI)、MCIを伴うパーキンソン病、ハンチントン病、レビー小体病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、プリオン病、運動ニューロン疾患(MND)、脊髄小脳変性症(SCA)、脊髄性筋萎縮(SMA)、フリードライヒ運動失調症、多発性硬化症、特発性頭蓋内圧亢進症、脳神経障害、三叉神経痛、前頭側頭型認知症(FTD)、老年認知症(認知症NOS)、運動ニューロン疾患、又は双極性疾患である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記神経変性疾患はアルツハイマー病である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
認知低下の発症を予防、治療、改善するか、又は遅延させるための、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記機能的断片又は前記誘導体は、配列番号1によって示されるアミノ酸配列に対して少なくとも70%の同一性を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記ポリペプチドは、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ポリペプチドは、血液脳関門を透過することができる、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記方法は、前記対象の神経細胞における酸化ストレスからの保護をもたらす、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記ペプチドは、酸化ストレスからの保護に関連する少なくとも1つの遺伝子の発現を調節する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
少なくとも1つの前記遺伝子は、スーパーオキシドジスムターゼ1(SOD1)、脳由来神経栄養因子(BDNF)及びチロシンヒドロキシラーゼ(TH)のうちのいずれか1つである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記方法は、前記対象の神経細胞におけるグルコース代謝及び/又は輸送の増加をもたらす、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
ペプチドは、グルコース代謝及び/又は輸送に関連する少なくとも1つの遺伝子の発現を調節する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
少なくとも1つの前記遺伝子は、グルコース輸送体1(GLUT1)、グルコース輸送体3(GLUT3)及び腫瘍タンパク質P53(P53)のうちのいずれか1つである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記方法は、前記単離されたポリペプチドあるいは前記単離されたポリペプチドの機能的断片若しくは誘導体又はその塩を含む医薬組成物を投与することを含む、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記方法は、少なくとも1種の追加の治療剤を前記対象に投与することを更に含む、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
認知機能、短期記憶、長期記憶、学習機能、グルコース代謝及びグルコース輸送のうちの少なくとも1つを改善することを必要とする対象における、前記認知機能、前記短期記憶、前記長期記憶、前記学習機能、前記グルコース代謝及び前記グルコース輸送のうちの少なくとも1つを改善するための方法であって、前記対象に有効量の配列番号1のアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチドあるいは前記単離されたポリペプチドの機能的断片若しくは誘導体又はその塩を投与することを含む、方法。
【請求項20】
前記機能的断片又は前記誘導体は、配列番号1によって示されるアミノ酸配列に対して少なくとも70%の同一性を有する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記ポリペプチドは、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる、請求項19又は請求項20に記載の方法。
【請求項22】
神経変性疾患、認知低下及びそれに関連する任意の状態又は症状のうちの少なくとも1つの発症を予防、治療、改善するか、又は遅延させることを必要とする対象における、前記神経変性疾患、前記認知低下及びそれに関連する任意の前記状態又は前記症状のうちの少なくとも1つの発症を予防、治療、改善するか、又は遅延させる方法における使用のための、配列番号1によって示されるアミノ酸配列を含む単離されたペプチド若しくはその機能的誘導体又は前記単離されたペプチドの薬学的に許容される塩と、少なくとも1種の追加の治療薬と、を含む、併用療法。
【請求項23】
認知機能、短期記憶、長期記憶、学習機能、グルコース代謝及びグルコース輸送のうちの少なくとも1つを改善することを必要とする対象における、前記認知機能、前記短期記憶、前記長期記憶、前記学習機能、前記グルコース代謝及び前記グルコース輸送のうちの少なくとも1つを改善するのに使用するための、配列番号1によって示されるアミノ酸配列を含む単離されたペプチド若しくはその機能的誘導体又は前記単離されたペプチドの薬学的に許容される塩と、少なくとも1種の追加の治療薬と、を含む、併用療法。
【請求項24】
少なくとも1種の前記追加の治療薬は、コリンエステラーゼ阻害剤、グルタミン酸調節因子、コリンエステラーゼ阻害剤とグルタミン酸調節因子との組み合わせ、オレキシン受容体アンタゴニスト又はアデュカヌマブうちのいずれか1つである、請求項22又は請求項23に記載の使用のための併用療法。
【請求項25】
前記単離されたペプチド及び前記追加の治療薬は、同時に又は連続して投与される、請求項22~24のいずれか一項に記載の使用のための併用療法。
【請求項26】
神経変性疾患、認知低下及びそれに関連する任意の状態又は症状のうちの少なくとも1つの発症を予防、治療、改善するか、又は遅延させることを必要とする対象における、前記神経変性疾患、前記認知低下及びそれに関連する任意の前記状態又は前記症状のうちの少なくとも1つの発症を予防、治療、改善するか、又は遅延させるための方法における使用のための、配列番号1のアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチドあるいは前記単離されたポリペプチドの機能的断片若しくは誘導体又はその塩であって、前記方法は、前記対象に有効量の前記単離されたポリペプチド、前記単離されたポリペプチドの機能的断片若しくは誘導体又はその塩を投与することを含む、使用のための単離されたポリペプチド、その機能的断片若しくは誘導体又は塩。
【請求項27】
前記方法は、神経変性疾患及び認知低下のうちの少なくとも1つに関連する少なくとも1つの状態若しくは症状の改善又は低減を必要とする対象における、前記神経変性疾患及び前記認知低下のうちの少なくとも1つに関連する少なくとも1つの前記状態若しくは前記症状の改善又は低減をもたらす、請求項26に記載の使用のための単離されたポリペプチド、その機能的断片若しくは誘導体又は塩。
【請求項28】
前記状態又は前記症状は、不安、短期記憶障害、長期記憶障害、認知機能障害、学習機能障害、グルコース代謝障害、酸化ストレス又はこれらの任意の組み合わせのうちの少なくとも1つである、請求項27に記載の使用のための単離されたポリペプチド、その機能的断片若しくは誘導体又は塩。
【請求項29】
前記方法は、認知機能、短期記憶、長期記憶、学習機能、グルコース代謝及びグルコース輸送のうちの少なくとも1つの改善を必要とする対象における、前記認知機能、前記短期記憶、前記長期記憶、前記学習機能、前記グルコース代謝及び前記グルコース輸送のうちの少なくとも1つの改善をもたらす、請求項26~28のいずれか一項に記載の使用のための単離されたポリペプチド、その機能的断片若しくは誘導体又は塩。
【請求項30】
前記神経変性疾患は、アルツハイマー病、パーキンソン病、認知症、タンパク質ミスフォールディングに関連する障害、認知低下、軽度認知障害(MCI)、MCIを伴うパーキンソン病、ハンチントン病、レビー小体病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、プリオン病、運動ニューロン疾患(MND)、脊髄小脳変性症(SCA)、脊髄性筋萎縮(SMA)、フリードライヒ運動失調症、多発性硬化症、特発性頭蓋内圧亢進症、脳神経障害、三叉神経痛、前頭側頭型認知症(FTD)、老年認知症(認知症NOS)、運動ニューロン疾患、又は双極性疾患である、請求項26~29のいずれか一項に記載の使用のための単離されたポリペプチド、その機能的断片若しくは誘導体又は塩。
【請求項31】
前記神経変性疾患はアルツハイマー病である、請求項26~30のいずれか一項に記載の使用のための単離されたポリペプチド、その機能的断片若しくは誘導体又は塩。
【請求項32】
認知低下の発症を予防、治療、改善するか、又は遅延させるための、請求項26~31のいずれか一項に記載の使用のための単離されたポリペプチド、その機能的断片若しくは誘導体又は塩。
【請求項33】
前記機能的断片又は前記誘導体は、配列番号1によって示されるアミノ酸配列に対して少なくとも70%の同一性を有する、請求項26~32のいずれか一項に記載の使用のための単離されたポリペプチド、その機能的断片若しくは誘導体又は塩。
【請求項34】
前記ポリペプチドは、配列番号1によって示されるアミノ酸配列からなる、請求項26~32のいずれか一項に記載の使用のための単離されたポリペプチド、その機能的断片若しくは誘導体又は塩。
【請求項35】
前記ポリペプチドは、血液脳関門を透過することができる、請求項26~34のいずれか一項に記載の使用のための単離されたポリペプチド、その機能的断片若しくは誘導体又は塩。
【請求項36】
前記方法は、前記対象の神経細胞における酸化ストレスからの保護をもたらす、請求項26~35のいずれか一項に記載の使用のための単離されたポリペプチド、その機能的断片若しくは誘導体又は塩。
【請求項37】
前記ペプチドは、酸化ストレスからの保護に関連する少なくとも1つの遺伝子の発現を調節する、請求項36に記載の使用のための単離されたポリペプチド、その機能的断片若しくは誘導体又は塩。
【請求項38】
少なくとも1つの前記遺伝子は、SOD1、BDNF及びTHのうちのいずれか1つである、請求項37に記載の使用のための単離されたポリペプチド、その機能的断片若しくは誘導体又は塩。
【請求項39】
前記方法は、前記対象の神経細胞におけるグルコース代謝及び/又は輸送の増加をもたらす、請求項26~38のいずれか一項に記載の使用のための単離されたポリペプチド、その機能的断片若しくは誘導体又は塩。
【請求項40】
ペプチドは、グルコース代謝及び/又は輸送に関連する少なくとも1つの遺伝子の発現を調節する、請求項39に記載の使用のための単離されたポリペプチド、その機能的断片若しくは誘導体又は塩。
【請求項41】
少なくとも1つの前記遺伝子は、GLUT1、GLUT3及びP53のうちのいずれか1つである、請求項40に記載の使用のための単離されたポリペプチド、その機能的断片若しくは誘導体又は塩。
【請求項42】
前記方法は、前記単離されたポリペプチドあるいは前記単離されたポリペプチドの機能的断片若しくは誘導体又はその塩を含む、医薬組成物を投与することを含む、請求項26~41のいずれか一項に記載の使用のための単離されたポリペプチド、その機能的断片若しくは誘導体又は塩。
【請求項43】
前記方法は、少なくとも1種の追加の治療薬を前記対象に投与することを更に含む、請求項26~42のいずれか一項に記載の使用のための単離されたポリペプチド、その機能的断片若しくは誘導体又は塩。
【請求項44】
認知機能、短期記憶、長期記憶、学習機能、グルコース代謝及びグルコース輸送のうちの少なくとも1つを改善することを必要とする対象における、前記認知機能、前記短期記憶、前記長期記憶、前記学習機能、前記グルコース代謝及び前記グルコース輸送のうちの少なくとも1つを改善するための方法における使用のための、配列番号1のアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチドあるいは前記単離されたペプチドの機能的断片若しくは誘導体又はその塩であって、前記方法は、前記対象に有効量の前記単離されたポリペプチド、前記単離されたペプチドの機能的断片若しくは誘導体又はその塩を投与することを含む、単離されたポリペプチド、その機能的断片若しくは誘導体又は塩。
【請求項45】
前記機能的断片又は前記誘導体は、配列番号1によって示されるアミノ酸配列に対して少なくとも70%の同一性を有する、請求項44に記載の使用のための単離されたポリペプチド、その機能的断片若しくは誘導体又は塩。
【請求項46】
前記ポリペプチドは、配列番号1によって示されるアミノ酸配列からなる、請求項44に記載の使用のための単離されたポリペプチド、その機能的断片若しくは誘導体又は塩。
【請求項47】
神経変性疾患、認知低下及びそれに関連する任意の状態又は症状のうちの少なくとも1つの発症を予防、治療、改善するか、又は遅延させることを必要とする対象における、前記神経変性疾患、前記認知低下及びそれに関連する任意の前記状態又は前記症状のうちの少なくとも1つの発症を予防、治療、改善するか、又は遅延させる方法における使用のための、配列番号1のアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチドあるいは前記単離されたポリペプチドの機能的断片若しくは誘導体又はその塩と、少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤、担体又は希釈剤と、を含む、医薬組成物。
【請求項48】
認知機能、短期記憶、長期記憶、学習機能、グルコース代謝及びグルコース輸送のうちの少なくとも1つを改善することを必要とする対象における、前記認知機能、前記短期記憶、前記長期記憶、前記学習機能、前記グルコース代謝及び前記グルコース輸送のうちの少なくとも1つを改善するための方法における使用のための、配列番号1のアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチドあるいは前記単離されたポリペプチドの機能的断片若しくは誘導体又はその塩と、少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤、担体又は希釈剤と、を含む、医薬組成物。
【請求項49】
前記ポリペプチドは、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる、請求項47又は48に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項50】
前記神経変性疾患はアルツハイマー病である、請求項47又は請求項49に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項51】
神経変性疾患、認知低下及びそれに関連する任意の状態又は症状のうちの少なくとも1つの発症を予防、治療、改善するか、又は遅延させることのうちの少なくとも1つを必要とする対象における、前記神経変性疾患、前記認知低下及びそれに関連する任意の前記状態又は前記症状のうちの少なくとも1つの発症を予防、治療、改善するか、又は遅延させることのうちの少なくとも1つのための方法における使用のための、キットであって、
(a)配列番号1のアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチドあるいは前記単離されたポリペプチドの機能的断片若しくは誘導体又はその塩と、任意選択で、
(b)少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤、担体又は希釈剤と、
を含む、キット。
【請求項52】
認知機能、短期記憶、長期記憶、学習機能、グルコース代謝及びグルコース輸送のうちの少なくとも1つを改善することを必要とする対象における、前記認知機能、前記短期記憶、前記長期記憶、前記学習機能、前記グルコース代謝及び前記グルコース輸送のうちの少なくとも1つを改善するための方法における使用のための、キットであって、
(a)配列番号1のアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチドあるいは前記単離されたポリペプチドの機能的断片若しくは誘導体又はその塩と、任意選択で、
(b)少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤、担体又は希釈剤と、
を含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、全般的には、神経変性疾患及び神経変性状態の治療、予防並びに診断において有用なポリペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】
現在開示されている主題の背景として関連すると考えられる参考文献を以下に挙げる。
[1]国際公開第2006/046239号。
[2]国際公開第2007/122622号。
[3]国際公開第2007/091240号。
[4]国際公開第2008/075349号。
[5]Sandler,U.et al.,2010,Recent advances in clinical medicine,ISSN:1790-5125。
[6]Sandler,U.et al.,2010,J Experimental Therapeutics and Oncology 8:327-339。
[7]国際公開第2015/083167号。
[8]国際公開第2017/134668号。
【0003】
本明細書における上記の参考文献の認識は、これらが現在開示されている主題の特許性に何らかの形で関連していることを意味するものとして推論されるべきではない。
【0004】
神経変性疾患は、世界中で何百万もの人々に影響を及ぼしている。アルツハイマー病及びパーキンソン病は、最も一般的な神経変性疾患である。米国国立環境衛生科学研究所(National Institute of Environmental Health Sciences、NIH)によれば、2016年には、推定540万人の米国人がアルツハイマー病を患っていた。
【0005】
神経変性疾患は、脳又は末梢神経系の神経細胞が経時的に機能を失い、最終的に死滅するときに起こる。治療は、神経変性疾患に関連する身体的又は精神的症状のいくつかを軽減し得るが、現在、疾患進行を遅らせる方法はなく、公知の治癒もない。
【0006】
神経変性疾患の発症がそれらの臨床症状の10~20年前に始まることは広く受け入れられている。様々な神経変性疾患の背後にある分子機構は異なるが、多くのプロセス、例えば、神経突起退縮、シナプスの機能障害及び破壊、並びに最終的には神経細胞死は、一般に神経変性の特徴である。
【0007】
更に、神経変性疾患の後期段階における治療は、おそらく大量の神経細胞死のために無効であるようであり、したがって、早期検出及び予防的手段の重要性が強調される。
【0008】
「T101」と呼ばれるペプチドは、国際公開第2006/046239号(1)に報告されているように、以前に同定された。このペプチド及びその誘導体は、とりわけがんの治療のために示唆された。T101を使用することによるがんの治療はまた、国際公開第2007/122622号(2)において示唆され、これは、とりわけ、種々の型の腫瘍の発生に対するT101の効果を実証する。ペプチドT101はまた、とりわけ免疫疾患の治療に関する国際公開第2007/091240号(3)、並びにT1/ST2受容体を有する細胞が関与する疾患の治療又は予防に関する国際公開第2008/075349号(4)及びSandlerらによる刊行物(5及び6)に記載された。
【0009】
更に、すべてのアミノ酸残基がD配置であるT101の更なるペプチド誘導体は、がん転移に関連することが公知のタンパク質の分泌を減少させ、in vitroでがん細胞の遊走を直接阻害することが以前に報告されている(7)。このペプチド誘導体は、がんの治療のために、更なる抗がん剤と組み合わせて使用することが更に示唆された(8)。
【発明の概要】
【0010】
第1の態様では、本開示は、神経変性疾患、認知低下及びそれに関連する任意の状態又は症状のうちの少なくとも1つの発症を予防、治療、改善するか、又は遅延させることを必要とする対象における、神経変性疾患、認知低下及びそれに関連する任意の状態又は症状のうちの少なくとも1つの発症を予防、治療、改善するか、又は遅延させるための方法であって、当該対象に有効量の配列番号1のアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチドあるいは単離されたポリペプチドの機能的断片若しくは誘導体又はその塩を投与することを含む方法を提供する。
【0011】
第2の態様では、本開示は、認知機能、短期記憶、長期記憶、学習機能、グルコース代謝及びグルコース輸送のうちの少なくとも1つを改善することを必要とする対象における、認知機能、短期記憶、長期記憶、学習機能、グルコース代謝及びグルコース輸送のうちの少なくとも1つを改善するための方法であって、当該対象に有効量の配列番号1のアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチドあるいは単離されたポリペプチドの機能的断片若しくは誘導体又はその塩を投与することを含む方法を更に提供する。
【0012】
第3の態様では、本開示は、神経変性疾患、認知低下及びそれに関連する任意の状態又は症状のうちの少なくとも1つの発症を予防、治療、改善するか、又は遅延させることを必要とする対象における、神経変性疾患、認知低下及びそれに関連する任意の状態又は症状のうちの少なくとも1つの発症を予防、治療、改善するか、又は遅延させる方法における使用のための、配列番号1によって示されるアミノ酸配列を含む単離されたペプチド若しくはその機能的誘導体又は当該単離されたペプチドの薬学的に許容される塩と、少なくとも1種の追加の治療薬と、を含む、併用療法を提供する。
【0013】
第4の態様では、本開示は、認知機能、短期記憶、長期記憶、学習機能、グルコース代謝及びグルコース輸送のうちの少なくとも1つを改善することを必要とする対象における、認知機能、短期記憶、長期記憶、学習機能、グルコース代謝及びグルコース輸送のうちの少なくとも1つを改善するのに使用するための、配列番号1によって示されるアミノ酸配列を含む単離されたペプチド若しくはその機能的誘導体又は当該単離されたペプチドの薬学的に許容される塩と、少なくとも1種の追加の治療薬と、を含む、併用療法を提供する。
【0014】
更なる第5の態様では、本開示は、神経変性疾患、認知低下及びそれに関連する任意の状態又は症状のうちの少なくとも1つの発症を予防、治療、改善するか、又は遅延させることを必要とする対象における、神経変性疾患、認知低下及びそれに関連する任意の状態又は症状のうちの少なくとも1つの発症を予防、治療、改善するか、又は遅延させるための方法における使用のための、配列番号1のアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチドあるいは当該単離されたポリペプチドの機能的断片若しくは誘導体又はその塩を提供し、当該方法は、当該対象に有効量の当該単離されたポリペプチド、当該単離されたポリペプチドの機能的断片若しくは誘導体又はその塩を投与することを含む。
【0015】
別の第6の態様により、本開示は、認知機能、短期記憶、長期記憶、学習機能、グルコース代謝及びグルコース輸送のうちの少なくとも1つを改善することを必要とする対象における、認知機能、短期記憶、長期記憶、学習機能、グルコース代謝及びグルコース輸送のうちの少なくとも1つを改善するための方法における使用のための、配列番号1のアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチドあるいは当該単離されたペプチドの機能的断片若しくは誘導体又はその塩を更に提供し、当該方法は、当該対象に有効量の当該単離されたポリペプチド、当該単離されたペプチドの機能的断片若しくは誘導体又はその塩を投与することを含む。
【0016】
更に別に第7の態様では、本開示は、神経変性疾患、認知低下及びそれに関連する任意の状態又は症状のうちの少なくとも1つの発症を予防、治療、改善するか、又は遅延させることを必要とする対象における、神経変性疾患、認知低下及びそれに関連する任意の状態又は症状のうちの少なくとも1つの発症を予防、治療、改善するか、又は遅延させる方法における使用のための、配列番号1のアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチドあるいは当該単離されたポリペプチドの機能的断片若しくは誘導体又はその塩と、少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤、担体又は希釈剤と、を含む、医薬組成物を提供する。
【0017】
更なる第8の態様により、本開示は、認知機能、短期記憶、長期記憶、学習機能、グルコース代謝及びグルコース輸送のうちの少なくとも1つを改善することを必要とする対象における、認知機能、短期記憶、長期記憶、学習機能、グルコース代謝及びグルコース輸送のうちの少なくとも1つを改善するための方法における使用のための、配列番号1のアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチドあるいは当該単離されたポリペプチドの機能的断片若しくは誘導体又はその塩と、少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤、担体又は希釈剤と、を含む、医薬組成物を提供する。
【0018】
第9の態様では、本開示は、神経変性疾患、認知低下及びそれに関連する任意の状態又は症状のうちの少なくとも1つの発症を予防、治療、改善するか、又は遅延させることのうちの少なくとも1つを必要とする対象における、神経変性疾患、認知低下及びそれに関連する任意の状態又は症状のうちの少なくとも1つの発症を予防、治療、改善するか、又は遅延させることのうちの少なくとも1つのための方法における使用のための、
(a)配列番号1のアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチドあるいは当該単離されたポリペプチドの機能的断片若しくは誘導体又はその塩と、任意選択で、
(b)少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤、担体又は希釈剤と、を含む、キットを更に提供する。
【0019】
更なる第10の態様により、本開示は、認知機能、短期記憶、長期記憶、学習機能、グルコース代謝及びグルコース輸送のうちの少なくとも1つを改善することを必要とする対象における、認知機能、短期記憶、長期記憶、学習機能、グルコース代謝及びグルコース輸送のうちの少なくとも1つを改善するための方法における使用のための、
(a)配列番号1のアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチドあるいは当該単離されたポリペプチドの機能的断片若しくは誘導体又はその塩と、任意選択で、
(b)少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤、担体又は希釈剤と、を含む、キットを提供する。
【0020】
本明細書に開示されている主題をより良く理解し、実際にそれがどのように実行され得るかを例証するために、添付の図面を参照して、非限定的な例としてのみ、実施形態をここで説明する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1A】5%マンニトール溶液を注射したマウス脳におけるポリペプチドレベル(左の棒)と比較した、dTCApF(本明細書では「Nerofe」とも称される、全Dアミノ酸ポリペプチド)をi.p.注射したマウスの脳画分のポリペプチドdTCApFのレベル(右の棒)を示す棒グラフである。
図1B】5%マンニトール溶液を注射したマウス脳におけるポリペプチドのレベル(左の棒)と比較した、全Lアミノ酸残基配置のdTCApFをi.p.注射したマウス脳画分における、dTCApFの配列を有するが全Lアミノ酸残基配置のポリペプチドのレベル(右の棒)を示す棒グラフである。
図2】示された濃度(μg/mL)のdTCApFの存在下でインキュベートした細胞における、0.1μMの濃度(下のグラフ)及び0.01μMの濃度(上のグラフ)でのH傷害時の生存細胞の割合を示すグラフである。
図3】示された濃度のdTCApF(μg/mL)の存在下でインキュベートされたSH-SY5Y細胞における、様々な遺伝子の発現を示すグラフである。
図4】示された条件下でのSHSY5Y細胞におけるGlut3及びGlut1の発現レベルを示すウエスタンブロットアッセイの代表的な顕微鏡写真である(dTCApF濃度、μg/mL)。
図5A】ヒト神経芽細胞腫細胞細胞(SHSY5Y細胞)におけるタンパク質XBP1の発現レベルに対するdTCApF(「D-NF」と示される)の効果を示す。
図5B】ヒト神経芽細胞腫細胞細胞(SHSY5Y細胞)におけるタンパク質p53の発現レベルに対するdTCApF(「D-NF」と示される)の効果を示す。
図5C】ヒト神経芽細胞腫細胞細胞(SHSY5Y細胞)におけるタンパク質GLUT1の発現レベルに対するdTCApF(「D-NF」と示される)の効果を示す。
図6A】ヒト神経芽細胞腫細胞細胞(SHSY5Y細胞)におけるタンパク質XBP1の発現レベルに対する、全Lアミノ酸配列だがdTCApFのアミノ酸配列を有するポリペプチド(「NF」と示す)の効果を示す。
図6B】ヒト神経芽細胞腫細胞細胞(SHSY5Y細胞)におけるタンパク質p53の発現レベルに対する、全Lアミノ酸配列だがdTCApFのアミノ酸配列を有するポリペプチド(「NF」と示す)の効果を示す。
図6C】ヒト神経芽細胞腫細胞細胞(SHSY5Y細胞)におけるタンパク質GLUT1の発現レベルに対する、全Lアミノ酸配列だがdTCApFのアミノ酸配列を有するポリペプチド(「NF」と示す)の効果を示す。
図7】示された濃度(μg/mL)のdTCApF(上のグラフ)又はL-アミノaCTApF(下のグラフ)の存在においてインキュベートされた細胞における0.1mMの濃度のH傷害時の生存細胞の割合を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本開示は、ポリペプチドdTCApF(本明細書では「Nerofe」とも称される)について示された驚くべき神経保護効果及び治療効果に基づいており、これは、(配列番号1によって示されるような)全D配置のアミノ酸配列WWTFFLPSTLWERKを有する。
【0023】
以下の実施例に示されるように、マウスにおけるBBBの良好な透過性が、ポリペプチドdTCApFについて実証された。
【0024】
加えて、神経細胞機能及び分化のモデルとして(例えば、パーキンソン病の手段又は研究として)しばしば使用されるSH-SY5Y細胞を、dTCApFの効果を研究するための細胞モデルとして使用した。このモデルにおいて、dTCApFは、添付の実施例に詳述されるように、用量依存的に過酸化水素傷害からの保護効果を有することが示された。酸化ストレスに対する保護効果は、すべてのアミノ酸残基がすべてD配置であるポリペプチドdTCApFの方が、すべてのアミノ酸残基がL配置である対応するポリペプチドよりも良好であったことに留意されたい。
【0025】
更に、SH-SY5Y細胞における遺伝子発現に対するdTCApFの効果を調べたところ、スーパーオキシドジスムターゼ1(SOD1)遺伝子発現の上方制御が観察された。SOD1の遺伝子産物は、神経変性疾患及び障害の発症の徴候の1つである酸化ストレスに対する細胞保護を補助するので、上記の結果は、dTCApFによる細胞に対する保護効果に対する更なる証拠を提供する。
【0026】
ヒト神経細胞におけるグルコース輸送体の発現に対するdTCApFの効果も、漸増用量のdTCApFの存在下でSH-SY5Y細胞をインキュベートすることによって調べた。以下に詳述するように、グルコース輸送体1(Glucose Transporter、GLUT1)及びグルコース輸送体3(GLUT3)タンパク質のレベルは、dTCApF用量の増加と共に増加し、このことは、神経障害において劇的に減少する脳グルコース代謝及び輸送に対するポリペプチドの更なる有益な保護効果を示唆している。
【0027】
XBP1遺伝子の発現に対するdTCApFの効果を、SH-SY5Y細胞において更に試験した。XBP1は、ヒト脳における重要な転写因子であり、記憶及び認知能力に対する有益な効果があるとされている。驚くべきことに、XBP1タンパク質の発現は、dTCApFポリペプチドの存在下で高度に誘導された。
【0028】
更に、dTCApFポリペプチドの存在下での上記細胞のインキュベーションは、これらの細胞におけるp53発現を完全に下方制御した。p53の発現レベルを低下させることは、グルコース代謝の増加をもたらすので、有益な効果であるとみなされる。
【0029】
したがって、その第1の態様により、本開示は、神経変性疾患、認知低下及びそれに関連する任意の状態又は症状のうちの少なくとも1つの発症を予防、治療、改善又は遅延を必要とする対象における、神経変性疾患、認知低下及びそれに関連する任意の状態又は症状のうちの少なくとも1つの発症を予防、治療、改善するか、又は遅延させるための方法であって、当該対象に有効量の配列番号1のアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチドあるいは単離されたポリペプチドの機能的断片若しくは誘導体又はその塩を投与することを含む方法を提供する。
【0030】
いくつかの実施形態では、本開示による方法は、神経変性疾患及び認知低下のうちの少なくとも1つに関連する少なくとも1つの状態若しくは症状の改善又は低減を必要とする対象における、神経変性疾患及び認知低下のうちの少なくとも1つに関連する少なくとも1つの状態若しくは症状の改善又は低減をもたらす。
【0031】
様々な実施形態では、本開示による状態又は症状は、不安、短期記憶障害、長期記憶障害、認知機能障害、学習機能障害、グルコース代謝障害、酸化ストレス又はこれらの任意の組み合わせのうちの少なくとも1つである。
【0032】
いくつかの実施形態では、本開示による方法は、認知機能、短期記憶、長期記憶、学習機能、並びにグルコース代謝及びグルコース輸送のうちの少なくとも1つの改善を必要とする対象における、認知機能、短期記憶、長期記憶、学習機能、並びにグルコース代謝及びグルコース輸送のうちの少なくとも1つの改善をもたらす。
【0033】
いくつかの特定の実施形態では、本開示は、神経変性疾患、認知低下、及びこれらに関連する任意の状態又は症状のうちの少なくとも1つの発症を予防又は遅延することを必要とする対象における、神経変性疾患、認知低下、及びこれらに関連する任意の状態又は症状のうちの少なくとも1つの発症を予防又は遅延するための方法であって、当該対象に有効量の配列番号1のアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチドあるいは単離されたポリペプチドの機能的断片若しくは誘導体又はその塩を投与することを含む、方法を提供する。
【0034】
理解され得るように、本明細書で使用される「神経変性疾患」という用語は、中枢神経系又は末梢神経系の構造及び機能の進行性変性を特徴とする疾患の異種群を指す。
【0035】
任意の既知の神経変性疾患は、本開示に包含される。例えば、これらに限定されないが、数例を挙げると、アルツハイマー病、パーキンソン病、認知症(「主要神経認知障害」及び「軽度神経認知障害」としても知られる)、軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment、MCI)、MCIを伴うパーキンソン病、ハンチントン病、レビー小体病、筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic lateral sclerosis、ALS)、プリオン病、運動ニューロン疾患(Motor neuron disease、MND)、脊髄小脳変性症(Spinocerebellar ataxia、SCA)、脊髄性筋萎縮症(Spinal muscular atrophy、SMA)、フリードライヒ運動失調症又はタンパク質ミスフォールディングに関連する障害、記憶減退及び不安がある。
【0036】
神経変性に基づく精神障害も、本明細書で定義される神経変性疾患という用語に包含され、例えば、双極性障害が挙げられるが、これに限定されない。
【0037】
神経変性疾患の診断は、当技術分野で周知の方法に従って熟練した医師によって実施され得る。
【0038】
上記及び他の実施形態では、本開示による神経変性疾患は、アルツハイマー病、パーキンソン病、認知症、タンパク質ミスフォールディングに関連する障害、認知低下、軽度認知障害(MCI)、MCIを伴うパーキンソン病、ハンチントン病、レビー小体病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、プリオン病、運動ニューロン疾患(MND)、脊髄小脳変性症(SCA)、脊髄性筋萎縮(SMA)、フリードライヒ運動失調症、多発性硬化症、特発性頭蓋内圧亢進症、脳神経障害、三叉神経痛、前頭側頭型認知症(frontotemporal dementia、FTD)、老年認知症(認知症NOS)、運動ニューロン疾患、又は双極性疾患である。
【0039】
特定の実施形態では、本開示による神経変性疾患はアルツハイマー病である。
【0040】
当該技術分野で公知のアルツハイマー病(AD)は、とりわけ、脳細胞の損傷及び最終的な破壊において顕在化し、記憶喪失並びに認知及び他の脳機能の変化をもたらす進行性神経変性疾患に関する。より具体的には、ADは、診断後3~9年以内に死に至る記憶及び他の認知領域の悪化を伴う障害を指す。アルツハイマー病の主要な危険因子は年齢である。この疾患の発生率は、65歳以降5年毎に2倍になるが、この疾患を有するヒトの最大5%が、40歳又は50歳で現れ得る早期発症型AD(若年発症としても知られる)を有する。
【0041】
ADは進行性疾患であり、認知症の症状が数年にわたって徐々に悪化する。その初期段階では、記憶喪失は軽度であるが、後期段階のADでは、個人は、会話を続け、その環境に応答する能力を失う。AD患者は、その症状が他人に対して顕著になってから平均8年生存するが、年齢及び他の健康状態に応じて、生存期間は4~20年の範囲であり得る。
【0042】
ADの最も一般的な初期症状は、ADの変化が典型的には学習に影響を及ぼす脳の部分で始まるため、新たに学習した情報を記憶することが困難であることである。ADが脳内で進行するにつれて、それは、見当識障害、気分及び行動の変化、事象、時間及び場所についての混乱の深化、家族、友人及び専門の介護者についての根拠のない疑い、より深刻な記憶喪失及び行動の変化、並びに話すこと、飲み込むこと及び歩くことの困難性を含む、ますます重篤な症状をもたらす。
【0043】
認知症症状の悪化を一時的に遅らせるための対症療法に加えて、ADは現在治癒せず、現在の治療はADの進行を止めることができない。
【0044】
ADの診断は、熟練した医師によって実施され得、身体検査及び診断試験(例えば、ミニメンタルステート検査(Mini-Mental State Exam、MMSE))を含む。アルツハイマー病の初期の徴候及び症状としては、とりわけ、記憶障害、集中困難、計画困難又は問題解決困難、日常作業の終了に関する問題、混乱、言語問題(例えば、言葉発見問題又は会話若しくは筆記における語彙の減少)、気分の変化(例えば、うつ病又は他の行動及び人格変化)が挙げられる。
【0045】
本開示のポリペプチド又はその機能的断片若しくは誘導体、その塩、又はそれらを含む任意の医薬組成物は、任意の年齢で、任意の病期のADを治療するのに、かつそれに関連する任意の状態及び症状に好適であることを理解されたい。
【0046】
他の特定の実施形態では、上で詳述したように、本開示の方法は、とりわけパーキンソン病又は認知症に適用可能である。
【0047】
特定の実施形態では、本開示による神経変性疾患はパーキンソン病である。
【0048】
当技術分野で公知であるように、パーキンソン病は、運動に影響を及ぼす進行性神経系障害である。症状は徐々に始まり、時には、一方の手だけのほとんど目立たない震えから始まる。振戦が一般的であるが、この障害はまた、一般的に、硬直又は運動の減速を引き起こす。パーキンソン病の症状は、状態が経時的に進行するにつれて悪化する。現在、パーキンソン病に利用できる治療法はない。しかし、投薬は、症状を有意に改善し得る。
【0049】
パーキンソン病の徴候及び症状には、震え(又は揺れ、通常は肢で始まる)、運動の遅延(動作緩慢)、筋肉の硬直、姿勢及びバランスの障害、自動運動の喪失、発話の変化、筆記の変化が含まれ得る。
【0050】
更なる特定の実施形態では、本開示による神経変性疾患は認知症である。
【0051】
「認知症」という用語は、本明細書では広い意味で使用され、思考及び記憶する能力を長期にわたって、しばしば徐々に低下させ、日常機能に影響を及ぼす程度まで重度になる、広いカテゴリーの脳疾患を指すことを理解されたい。「認知症」という用語は、重度神経認知障害及び軽度神経認知障害も包含する。症状としては、感情的な問題、言語障害及びモチベーションの低下が挙げられる。認知症の診断は、ヒトの通常の精神機能からの変化及び加齢により予想されるよりも大きな低下を必要とし、熟練した医師によって行われる。
【0052】
いくつかの実施形態では、本明細書で定義される方法は、認知低下の発症を予防、治療、改善するか、又は遅延させるためのものである。
【0053】
当技術分野で公知であるように、本明細書で使用される「認知低下」という用語は、アルツハイマー病、認知症、うつ病又は物質乱用などの神経学的障害及び/又は心理学的障害による精神機能の漸進的な低下を指す。
【0054】
言い換えると、本開示は、認知低下及びそれに関連する任意の状態又は症状の発症を予防、治療、改善又は遅延を必要とする対象における、認知低下及びそれに関連する任意の状態又は症状の発症を予防、治療、改善するか、又は遅延させるための方法であって、当該対象に有効量の配列番号1のアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチドあるいは単離されたポリペプチドの機能的断片若しくは誘導体又はその塩を投与することを含む、方法を提供する。
【0055】
特定の実施形態では、本開示は、アルツハイマー病による認知低下に関する。
【0056】
上で詳述したように、本開示は、神経変性疾患、認知低下及びそれに関連する任意の状態又は症状のうちの少なくとも1つの発症を予防、治療、改善するか、又は遅延させることを必要とする対象における、神経変性疾患、認知低下及びそれに関連する任意の状態又は症状のうちの少なくとも1つの発症を予防、治療、改善するか、又は遅延させるための方法を提供する。
【0057】
本明細書で使用される「治療する」、「治療している」、「治療」という用語は、本明細書で定義される疾患又は障害を有する対象における疾患活性の1つ以上の臨床徴候を改善又は低減することを意味する。疾患の臨床的徴候の改善又は低減は、わずかであるか、又は有意であり得る。「疾患」、「障害」又は「状態」という用語は、正常な機能の障害が存在する状態を指す。
【0058】
本明細書で定義される「疾患」、「障害」又は「状態」の文脈における「少なくとも1つ」という用語は、本開示のポリペプチド、その誘導体若しくは断片、その塩、又はそれらを含む医薬組成物を投与することによって、本明細書で定義される少なくとも1つ、例えば2、3、4、5つ又はそれ以上の疾患、障害又は状態において有益な(治療又は予防)効果が達成され得ることを意味する。
【0059】
それを必要とする対象における、神経変性疾患及び認知低下のうちの少なくとも1つに関連する任意の状態又は症状は、本開示によって包含される。そのような症状(又は状態)としては、一般に、限定されないが、精神能力の低下(例えば、短期記憶及び長期記憶の低下、学習機能の障害)、行動及び精神医学的問題、協調の欠如、不安定な歩行、発話の変化、震え、時間又は場所の混乱、判断力の低下又は不十分さ、気分及び人格の変化が挙げられる。
【0060】
いくつかの実施形態では、本開示による方法は、神経変性疾患及び認知低下のうちの少なくとも1つに関連する少なくとも1つの状態若しくは症状の改善又は低減を必要とする対象における、神経変性疾患及び認知低下のうちの少なくとも1つに関連する少なくとも1つの状態若しくは症状の改善又は低減をもたらす。
【0061】
本明細書で使用される「改善」という用語は、少なくとも1つの神経変性疾患及び認知低下に関連する症状の少なくとも1つを低減、緩和、軽減、改善又は抑制することを必要とする対象における、少なくとも1つの神経変性疾患及び認知低下に関連する症状の少なくとも1つを、少なくとも約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%、40%、41%、42%、43%、44%、45%、46%、47%、48%、49%、50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は約100%、低減、緩和、軽減、改善又は抑制することを意味する。
【0062】
「改善する」及び「低減する」という用語は、本明細書において互換可能に使用される。
【0063】
特定の実施形態では、本開示による状態又は症状は、不安、短期記憶障害、長期記憶障害、認知機能障害、学習機能障害、グルコース代謝障害、酸化ストレス又はこれらの任意の組み合わせのうちの少なくとも1つである。
【0064】
当技術分野で公知であるように、時折不安を感じることは、通常の生活の一部である。しかしながら、不安(「不安障害」とも称される)を有するヒトは、頻繁に、毎日の状況についての激しい、過剰な、かつ持続性のある心配及び恐怖を有する。多くの場合、不安障害は、数分以内にピークに達する強い不安及び心配又は恐怖の突然の感情の反復エピソードを伴う(パニック発作)。不安障害の例としては、全般性不安障害、社交不安障害(社会恐怖症)、特定恐怖症及び分離不安障害が挙げられる。
【0065】
当技術分野で公知であるように、本明細書で使用される「短期記憶」という用語(「一次」又は「活性記憶」とも称される)は、頭の中の少量の情報を、アクティブで容易に利用可能な状態で短時間保持するが、操作しない能力を指す。例えば、短期記憶を使用して、今述べた電話番号を記憶することができる。
【0066】
当該技術分野で公知であるように、本明細書で使用される「短期記憶障害」は、ヒトが20年前の出来事を思い出すことができるが、20分前に起こった事柄の詳細について曖昧である状況を指す。それによって、ヒトは、今聞いた質問又は眼鏡をどこに置いたかを忘れる可能性がある。質問及び行動の反復は、しばしば、認知症における短期記憶障害の結果である。短期記憶喪失又は障害には多くの原因があり、いくつかは医学的状態の結果であり、他のものは傷害又は他の外的影響に関連する。短期記憶障害は、例えばアルツハイマー病の初期の症状の1つである。
【0067】
長期記憶(Long-term memory、LTM)は、有益な知識が無期限に保持される段階である。これは、約18~30秒しか持続しない短期及び作業記憶とは対照的に定義される。本明細書で定義され、当該技術分野で公知である長期記憶喪失又は障害は、対象が情報を必要なときに情報を想起する困難を経験しているときの状態に関する。長期記憶の弱化は、老化の正常な部分である。
【0068】
当該技術分野で公知であり、本明細書で定義される「認知機能」という用語は、記号的操作、知覚、記憶、イメージの作成、及び思考を含み、認知及び判断能力を包含する任意の精神プロセスに関することを意味する。「認知機能障害」は、ヒトが、例えば、ヒトの日常生活に影響を及ぼす、記憶すること、新しいことを学習すること、集中すること、又は決定を行うこととしての認知機能に困難を有する場合である。認知障害は軽度から重度の範囲である。軽度の障害では、ヒトは認知機能の変化に気づき始めることがあるが、それでも毎日の活動を行うことができる。重度の障害は、何かの意味又は重要性を理解する能力及び話す又は書く能力の喪失につながる可能性があり、独立して生活することができなくなる。
【0069】
いくつかの実施形態では、認知機能障害は学習機能障害を含む。本明細書で定義される「学習機能障害」という用語は、学習機能又は学習能力の減少又は低下を意味し、これは、例えば、言語的又は非言語的情報の獲得、組織化、保持、理解又は使用を伴うものとして定義され得る。学習機能障害は、知覚、思考、記憶又は学習に関連する1つ以上のプロセスにおける障害に起因し、組織的技能、社会的認知、社会的相互作用及びパースペクティブテイキングに伴う困難を伴い得る。
【0070】
本開示は、とりわけ、正常な加齢の予想される認知低下と認知症のより重篤な低下との間の段階である神経変性疾患軽度認知障害(MCI)を包含する。MCIは、記憶、言語、思考又は判断の問題を特徴とする。
【0071】
様々な実施形態では、本開示による方法は、認知機能、短期記憶、長期記憶、学習機能、グルコース代謝及びグルコース輸送のうちの少なくとも1つの改善を必要とする対象における、認知機能、短期記憶、長期記憶、学習機能、グルコース代謝及びグルコース輸送のうちの少なくとも1つの改善をもたらす。
【0072】
更に、本開示は、認知機能、短期記憶、長期記憶、学習機能、グルコース代謝及びグルコース輸送のうちの少なくとも1つを改善することを必要とする対象における、認知機能、短期記憶、長期記憶、学習機能、グルコース代謝及びグルコース輸送のうちの少なくとも1つを改善するための方法であって、当該対象に有効量の配列番号1のアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチドあるいは単離されたポリペプチドの機能的断片若しくは誘導体又はその塩を投与することを含む方法を提供する。
【0073】
本明細書で使用される「改善」という用語は、認知機能、短期記憶、長期記憶、学習機能、グルコース代謝及びグルコース輸送のうちの少なくとも1つの任意の回復、改善又は増強を必要とする対象における、認知機能、短期記憶、長期記憶、学習機能、グルコース代謝及びグルコース輸送のうちの少なくとも1つの、少なくとも約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%、40%、41%、42%、43%、44%、45%、46%、47%、48%、49%、50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は約100%の任意の回復、改善又は増強を意味する。
【0074】
「予防する」という用語は、「予防的治療」又は「予防的処置」を提供すること、すなわち、何か、特に本明細書で定義される状態又は疾患に対して保護的に作用し、防御し、又は予防することを意味する。
【0075】
当技術分野で公知であるように、本明細書で定義される疾患、障害又は状態は、罹患した個体の生活の質を著しく妨げるまで進行する。本明細書で定義される障害、疾患又は状態の文脈における「発症を延期する」という用語は、本明細書で定義される疾患又はそれに関連する症状の発現の任意の延期、停止、妨害又は遅延を意味する。
【0076】
他の実施形態では、本開示による単離されたポリペプチド(すなわち、配列番号1のアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチド)の機能的断片又は誘導体は、配列番号1によって示されるアミノ酸配列に対して少なくとも70%の同一性を有する。
【0077】
更なる実施形態では、本開示による単離されたポリペプチドは、配列番号1によって示されるアミノ酸配列からなる。
【0078】
更なる実施形態では、本開示による単離されたポリペプチドは、血液脳関門を透過することができる。
【0079】
いくつかの実施形態では、本開示による方法は、当該対象の神経細胞における酸化ストレスからの保護をもたらす。
【0080】
いくつかの更なる実施形態では、本開示によるペプチドは、酸化ストレスからの保護に関連する少なくとも1つの遺伝子の発現を調節する。
【0081】
いくつかのより具体的な実施形態では、本明細書に開示されるペプチドによって調節される少なくとも1つの遺伝子は、スーパーオキシドジスムターゼ1(Superoxide dismutase 1、SOD1)、脳由来神経栄養因子(Brain-Derived Neurotrophic Factor、BDNF)及びチロシンヒドロキシラーゼ(Tyrosine Hydroxylase、TH)のうちのいずれか1つである。
【0082】
いくつかの実施形態では、本開示による方法は、当該対象の神経細胞におけるグルコース代謝及び/又は輸送の増加をもたらす。
【0083】
いくつかの更なる実施形態では、本開示によるペプチドは、グルコース代謝及び/又は輸送に関連する少なくとも1つの遺伝子の発現を調節する。
【0084】
いくつかのより具体的な実施形態では、本明細書に開示されるペプチドによって調節される少なくとも1つの遺伝子は、GLUT1、GLUT3及びP53のうちのいずれか1つである。
【0085】
いくつかの実施形態では、対象の神経細胞において本明細書に開示されるペプチドによって遺伝子GLUT1及びGLUT3の発現が増加する一方で、P53遺伝子の発現が減少する。
【0086】
上で詳述したように、本開示による方法は、とりわけ、グルコース代謝及びグルコース輸送の改善を必要とする対象における、グルコース代謝及びグルコース輸送の改善をもたらす。
【0087】
本明細書で定義される「グルコース代謝」(「炭水化物代謝」とも称される)という用語は、一般に、生体組織における炭水化物の酸化、分解及び合成を指す。グルコース輸送体は、原形質膜を横切るグルコースの輸送を促進する膜タンパク質の広い群であり、このプロセスは、とりわけ、「促進拡散」として知られている。グルコースはすべての生命にとって重要なエネルギー源であるため、これらの輸送体はすべての門に存在する。したがって、本明細書で定義される「グルコース輸送」という用語は、生物における炭水化物の輸送又は移動に関連する実体を指す。
【0088】
グルコース代謝は、膵臓ベータ細胞からのインスリン分泌の欠陥によって、又はインスリンに対する細胞感受性の欠陥から損なわれ得る。グルコース代謝障害又はミトコンドリア機能不全が、AD、パーキンソン病(PD)又はハンチントン病(HD)を含む様々な神経変性疾患において観察される主要な病理学的変化の1つであることが十分に実証されており、したがって、グルコース代謝の調節及びミトコンドリア恒常性の維持が脳機能にとって重要であることが示唆される。
【0089】
「酸化ストレス」という用語は、反応性酸素種の全身的発現と、反応性中間体を容易に解毒するか、又は生じた損傷を修復する生物学的系の能力との間の不均衡を指す。細胞の正常な酸化還元状態における障害は、タンパク質、脂質、及びDNAを含む細胞のすべての成分を損傷する過酸化物及びフリーラジカルの産生を介して毒性効果を引き起こし得る。
【0090】
ヒトにおいて、酸化ストレスは、種々の疾患の発症に関与すると考えられており、その中には、注意欠陥多動障害(attention deficit hyperactivity disorder、ADHA)、がん、パーキンソン病、ラフォラ病、アルツハイマー病、アテローム性動脈硬化症、心不全、心筋梗塞などがある。
【0091】
更なる実施形態では、本明細書で定義される方法は、当該単離されたポリペプチドあるいは当該単離されたポリペプチドの機能的断片若しくは誘導体又はその塩を含む、医薬組成物を投与することを含む。
【0092】
上で詳述したように、本開示は、ポリペプチドdTCApF(本明細書では「Nerofe」と称される)について示される驚くべき神経保護及び治療効果に基づいて、配列番号1のアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチドあるいは単離されたポリペプチドの機能的断片若しくは誘導体又はその塩を投与する方法、その使用、及びそれを含む医薬組成物に関する。
【0093】
ポリペプチドdTCApF(Nerofe)のアミノ酸配列は、1文字コードではWWTFFLPSTLWERKであり、3文字コードではTrp Trp Thr Phe Phe Leu Pro Ser Thr Leu Trp Glu Arg Lysであり、ここで、すべてのアミノ酸残基はD配置である。ポリペプチドdTCApFのアミノ酸配列は、本明細書において配列番号1によって示される。ポリペプチドdTCApFは、以前に報告された「完全T101ペプチド」のC末端14全Dアミノ酸断片である。
【0094】
言い換えれば、本開示は、配列番号1のアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチド(本明細書において互換可能に「ペプチド」、「単離されたペプチド」又は「単離されたポリペプチド」と称される)若しくは単離されたポリペプチドの機能的断片若しくは誘導体又はその塩の使用に関する。
【0095】
当技術分野で公知であるように、「ポリペプチド」は、アミノ酸残基の分子鎖を指し、これは、例えば、マンノシル化、グリコシル化、アミド化(例えば、C末端アミド)、カルボキシル化又はリン酸化によって、そのアミノ酸残基の1つ以上において任意選択で修飾され得る。本開示のポリペプチドは、遺伝子操作法、宿主細胞における発現、又は当技術分野で公知の任意の他の好適な手段によって合成的に得ることができる。ペプチド又はポリペプチドを産生するための方法は、当技術分野で周知である。
【0096】
本明細書で使用される「アミノ酸」又は「アミノ酸残基」という用語は、天然及び合成アミノ酸残基、並びに天然アミノ酸と同様に機能するアミノ酸類似体及びアミノ酸模倣体を指す。天然アミノ酸は、遺伝子コードによってコードされるアミノ酸、並びに後に修飾されるアミノ酸(例えば、ヒドロキシプロリン、γ-カルボキシグルタミン酸、及びO-ホスホセリン)である。アミノ酸という用語は、L-アミノ酸及びD-アミノ酸を包含し、これらは、L-アミノ酸の鏡像であり、炭素アルファにおけるキラリティーが反転されている。特に、本開示によるポリペプチドdTCApFは、上で詳述したように、全Dアミノ酸残基ポリペプチドである。
【0097】
「アミノ酸配列」又は「ポリペプチド配列」という用語はまた、ペプチド結合によって連結されたアミノ酸残基がペプチド及びタンパク質の鎖中に存在する順序に関する。配列は一般に、遊離アミノ基を含有するN末端から遊離カルボキシル基を含有するC末端へと報告される。
【0098】
本開示は、当該単離されたポリペプチド又はペプチドの任意の薬学的に許容される塩を更に包含する。「単離された」という用語は、それらの自然環境から取り出され、単離されるか、若しくは分離された、本明細書に記載されるアミノ酸配列、ペプチド又はポリペプチドなどの分子を指す。
【0099】
「含む」という用語は、本開示による単離されたポリペプチドが、上で詳述した配列番号1によって示されるアミノ酸配列を含むが、ペプチドのN末端若しくはC末端又は両末端に追加のアミノ酸残基も含み得ることを意味する。
【0100】
更に、様々な実施形態では、本開示による単離されたポリペプチドは、配列番号1によって示されるペプチドのN末端及び/又はC末端が保護基を有する、配列番号1によって示されるアミノ酸配列を含むポリペプチドを包含する。保護(protective)(又は保護(protecting))基は当該技術分野で周知であり、とりわけ、アルコール保護基、アミン保護基、カルボニル保護基などが挙げられる。
【0101】
上記のように、本開示はまた、本明細書で定義される単離されたポリペプチドの機能的断片又は誘導体を包含する。
【0102】
本明細書で定義される「断片」という用語は、本開示によるポリペプチドからの少なくとも1つのアミノ酸残基の欠失によって得られる、本開示による単離されたポリペプチドよりも少なくとも1つのアミノ酸が短い任意のペプチド又はポリペプチドを指す。
【0103】
いくつかの実施形態では、本開示による単離されたポリペプチドの断片は、配列番号1の連続するアミノ酸部分を含むポリペプチドであり、これは、配列番号1によって示される配列よりも短い1、2、3、4、5個又はそれ以上のアミノ酸残基である。
【0104】
「誘導体(複数可)」という用語は、配列番号1によって示されるアミノ酸配列を含むが、それらの配列全体において1つ以上のアミノ酸残基が異なる、すなわち、配列全体内に欠失、置換(例えば、少なくとも1つのアミノ酸の別のアミノ酸による置換)、逆位又は付加を有するポリペプチドを含むことを意味する。この用語はまた、配列全体における少なくとも1つのアミノ酸残基の、そのそれぞれのLアミノ酸残基による置換を包含する。
【0105】
誘導体はまた、少なくとも1つのアミノ酸残基が合成アミノ酸残基、アミノ酸類似体又はアミノ酸模倣体によって置換される、配列番号1によって示されるアミノ酸配列を包含する。
【0106】
当技術分野において公知であるように、アミノ酸「置換」は、1つのアミノ酸を別のアミノ酸で、例えば、類似の構造的特性及び/又は化学的特性を有する別のアミノ酸で置き換えた結果である(保存的アミノ酸置換)。アミノ酸置換は、関与する残基の極性、電荷、溶解度、疎水性、親水性、及び/又は両親媒性における類似性に基づいて行うことができる。例えば、以下の8つの群のそれぞれは、互いに保存的置換であるアミノ酸を含む。
1)アラニン(A)、グリシン(G)、
2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、
3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q)、
4)アルギニン(R)、リシン(K)、
5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V)、
6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)、
7)セリン(S)、トレオニン(T)、及び
8)システイン(C)、メチオニン(M)。
【0107】
本明細書で定義される単離されたポリペプチドの断片又は誘導体は、元のポリペプチドの生物学的活性を変化させてはならないことが理解される。「機能的」という用語により、配列番号1によって示されるアミノ酸配列の任意の断片又は誘導体を包含することを意味し、これは、改変されていないポリペプチド(すなわち、配列番号1によって示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド)の生物学的活性と質的に類似する生物学的活性を保持する。本明細書で定義される断片又は誘導体の生物学的活性は、当技術分野で公知の任意の方法によって(例えば、本明細書中で定義されるポリペプチドをモデル細胞又は動物に投与する効果を監視することによって)決定され得る。
【0108】
特定の実施形態では、本開示は、配列番号1によって示されるアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチドの機能的断片又は誘導体に関し、当該機能的断片又は誘導体は、本開示の未改変の単離されたポリペプチドのアミノ酸配列、すなわち配列番号1によって示されるアミノ酸配列のうちの1つと少なくとも約70%、75%、80%、85%、90%、より好ましくは95%、特に96%、97%、98%又は99%同一であるアミノ酸配列を有する。
【0109】
特定の実施形態では、本明細書で定義されるポリペプチドの機能的断片又は誘導体は、配列番号1によって示されるアミノ酸配列に対して少なくとも70%の同一性を有する。更なる特定の実施形態では、本明細書で定義されるポリペプチドは、配列番号1によって示されるアミノ酸配列からなる。
【0110】
2つ以上のアミノ酸又は核酸配列の文脈において、「同一」又は「同一性」パーセントという用語は、比較ウィンドウにわたって最大一致のために比較及び整列された場合に、特定の領域にわたって同じであるか、又は特定の割合の同じアミノ酸残基若しくはヌクレオチドを有する(すなわち、約70%同一性、75%同一性、好ましくは80%、85%、90%又はそれ以上の同一性)2つ以上の配列を指すことが理解されるべきである。
【0111】
本開示のペプチドは、それ自体で、又は別の活性薬剤と組み合わせて投与され得る。
【0112】
したがって、様々な更なる実施形態では、本明細書で定義される方法は、少なくとも1種の追加の治療薬を当該対象に投与することを更に含む。
【0113】
本開示の文脈における「追加の治療薬」という用語により、神経変性疾患の治療又は予防のための熟練した医師に公知の任意の治療薬を指す。例えば、数例を挙げると、アリセプト(登録商標)、イクセロン(登録商標)、ラザダイン(登録商標)、メマンチン、ナメンダ(登録商標)又はレボドパは、以下に更に詳述されるように、それぞれの神経変性疾患の治療のための追加の治療薬として使用され得る。
【0114】
いくつかの実施形態では、本開示の方法に適した対象は、いかなるタイプのがんにも罹患していない。いくつかの具体的な実施形態では、対象は、脳腫瘍、例えば神経芽細胞腫に罹患していない。
【0115】
本開示による単離されたペプチドの使用、組成物及びキットに関する上記並びに更に下記のすべての実施形態は、本明細書に開示されるすべての異なる態様に関連する。
【0116】
第2の態様では、本開示は、認知機能、短期記憶、長期記憶、学習機能、グルコース代謝及びグルコース輸送のうちの少なくとも1つを改善することを必要とする対象における、認知機能、短期記憶、長期記憶、学習機能、グルコース代謝及びグルコース輸送のうちの少なくとも1つを改善するための方法であって、当該対象に有効量の配列番号1のアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチドあるいは単離されたポリペプチドの機能的断片若しくは誘導体又はその塩を投与することを含む方法を更に提供する。
【0117】
いくつかの実施形態では、本開示のペプチドは、薬学的に許容される賦形剤、担体、又は希釈剤と共に医薬組成物で投与され得る。
【0118】
本開示による単離されたポリペプチド又はその機能的断片若しくは誘導体、又は本開示による単離されたポリペプチド又はその機能的断片若しくは誘導体を含む医薬組成物の投与は、許容される経路うちのいずれか1つ、例えば、これらに限定されないが、経口投与、静脈内、筋肉内、腹腔内、髄腔内若しくは皮下注射、直腸内投与、鼻腔内投与、眼内投与又は局所投与によって行うことができる。
【0119】
上述のように、本開示による機能的断片又は誘導体は、配列番号1によって示されるアミノ酸配列に対して少なくとも70%の同一性を有する。
【0120】
いくつかのより具体的な実施形態では、ポリペプチドは、配列番号1によって示されるアミノ酸配列からなる。
【0121】
更なる態様では、本開示は、神経変性疾患、認知低下及びそれに関連する任意の状態又は症状のうちの少なくとも1つの発症を予防、治療、改善するか、又は遅延させることを必要とする対象における、神経変性疾患、認知低下及びそれに関連する任意の状態又は症状のうちの少なくとも1つの発症を予防、治療、改善するか、又は遅延させる方法における使用のための、配列番号1によって示されるアミノ酸配列を含む単離されたペプチド若しくはその機能的誘導体又は当該単離されたペプチドの薬学的に許容される塩と、少なくとも1種の追加の治療薬と、を含む、併用療法を提供する。
【0122】
別の態様では、本開示は、認知機能、短期記憶、長期記憶、学習機能、グルコース代謝及びグルコース輸送のうちの少なくとも1つを改善することを必要とする対象における、認知機能、短期記憶、長期記憶、学習機能、グルコース代謝及びグルコース輸送のうちの少なくとも1つを改善するのに使用するための、配列番号1によって示されるアミノ酸配列を含む単離されたペプチド若しくはその機能的誘導体又は当該単離されたペプチドの薬学的に許容される塩と、少なくとも1種の追加の治療薬と、を含む、併用療法を提供する。
【0123】
いくつかの実施形態では、少なくとも1種の追加の治療薬は、アルツハイマー病の治療又は予防のための熟練した医師に公知の任意の治療薬を指し得る。
【0124】
現在の薬物療法はアルツハイマー病を治癒することができないが、いくつかの治療は、根本的な生物学に対処する。他の薬剤は、記憶喪失及び混乱などの症状を軽減するのに役立ち得る。今日まで、米国食品医薬品局(U.S. Food and Drug Administration、FDA)は、2つのカテゴリー:アルツハイマー病を患っているヒトにおいて疾患の進行を変化させ得る薬物、及びアルツハイマー病のいくつかの症状を一時的に緩和し得る薬物に分類される薬剤を承認している。
【0125】
疾患の進行を変化させ得る薬物は、アルツハイマー病を患っているヒトにおける認知及び機能の両方に利益を提供し得る。例えば、アデュカヌマブ(Aduhelm(商標))は、アルツハイマー疾患のために承認された抗アミロイド抗体静脈内(IV)注入療法である。いくつかの実施形態では、少なくとも1種の追加の治療剤は、アデュカヌマブ(Aduhelm(商標))であり得る。
【0126】
症状を治療する薬物の中には、認知症状に対するものもあれば、非認知症状(記憶及び思考)に対するものもある。
【0127】
認知症状を治療する薬剤は、アルツハイマー病が脳細胞に引き起こす損傷を停止させないが、それらは、脳の神経細胞間の特定の化学物質に影響を及ぼすことによって、限られた時間にわたって症状を軽減又は安定化するのに役立ち得る。
【0128】
以下の薬剤は、記憶及び思考に関連する症状を治療するために処方される薬物の非限定的な例である。
【0129】
いくつかの実施形態では、少なくとも1種の追加の治療剤は、コリンエステラーゼ阻害剤であり得る。
【0130】
コリンエステラーゼ阻害剤は、記憶、思考、言語、判断及び他の思考プロセスに関連する症状を治療するために処方される。これらの薬剤は、記憶及び学習に重要な化学メッセンジャーであるアセチルコリンの分解を防止する。これらの薬物は、神経細胞間の伝達を支援する。
【0131】
本開示による適切なコリンエステラーゼ阻害剤の非限定的な例は、すべての病期のアルツハイマー病を治療するために承認されたドネペジル(アリセプト(登録商標))、軽度から中度のアルツハイマー病及びパーキンソン病に関連する軽度から中度の認知症のために承認されたリバスチグミン(イクセロン(登録商標))、並びに軽度から中度の病期のアルツハイマー病のために承認されたガランタミン(ラザダイン(登録商標))である。
【0132】
いくつかの実施形態では、少なくとも1種の追加の治療剤は、グルタミン酸調節因子であり得る。
【0133】
グルタミン酸調節因子は、記憶、注意、判断、言語及び単純な仕事を行う能力を改善するために処方される。このタイプの薬物は、異なる化学メッセンジャーであるグルタミン酸の活性を調節することによって作用する。例えば、メマンチン(ナメンダ(登録商標))は、中度から重度のアルツハイマー病に対して承認された。
【0134】
更に、更なる例示的な治療は、中度から重度のアルツハイマー病に対して承認されたドネペジル及びメマンチン(Namzaric(登録商標))などのコリンエステラーゼ阻害剤及びグルタミン酸調節因子の組み合わせであってもよい。
【0135】
アルツハイマー病の非認知症状、すなわち、睡眠障害、焦燥、幻覚及び妄想などの行動並びに精神症状を治療するための薬剤の例は、オレキシン受容体拮抗薬であり得る。スボレキサント(ベルソムラ(登録商標))などのオレキシン受容体拮抗薬は、認知症を患う個人の不眠を治療するために処方され、この薬物は、睡眠覚醒サイクルに関与する神経伝達物質の一種であるオレキシンの活性を阻害すると考えられ、軽度から中度のアルツハイマー病のために承認されている。
【0136】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されている併用療法に適した少なくとも1種の追加の治療薬は、コリンエステラーゼ阻害剤、グルタミン酸調節因子、コリンエステラーゼ阻害剤とグルタミン酸調節因子の組み合わせ、オレキシン受容体拮抗薬又はアデュカヌマブのうちのいずれか1つである。
【0137】
特定の実施形態では、単離されたペプチド及び当該追加の治療薬は、同時に又は連続して投与される。
【0138】
別の更なる追加の態様では、本開示は、神経変性疾患、認知低下及びそれに関連する任意の状態又は症状のうちの少なくとも1つの発症を予防、治療、改善するか、又は遅延させることを必要とする対象における、神経変性疾患、認知低下及びそれに関連する任意の状態又は症状のうちの少なくとも1つの発症を予防、治療、改善するか、又は遅延させるための方法における使用のための、配列番号1のアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチドあるいは当該単離されたポリペプチドの機能的断片若しくは誘導体又はその塩を提供し、当該方法は、当該対象に有効量の当該単離されたポリペプチド、当該単離されたポリペプチドの機能的断片若しくは誘導体又はその塩を投与することを含む。
【0139】
いくつかの実施形態では、本開示による使用のための単離されたポリペプチド、その機能的断片若しくは誘導体又は塩は、本方法が、神経変性疾患及び認知低下のうちの少なくとも1つに関連する少なくとも1つの状態若しくは症状の改善又は低減を必要とする対象における、神経変性疾患及び認知低下のうちの少なくとも1つに関連する少なくとも1つの状態若しくは症状の改善又は低減をもたらすものである。
【0140】
他の実施形態では、本開示による使用のための単離されたポリペプチド、その機能的断片若しくは誘導体又は塩は、状態又は症状が、不安、短期記憶障害、長期記憶障害、認知機能障害、学習機能障害、グルコース代謝障害、酸化ストレス又はこれらの任意の組み合わせのうちの少なくとも1つであるものである。
【0141】
更なる実施形態では、本開示による使用のための単離されたポリペプチド、その機能的断片若しくは誘導体又は塩は、本方法が、認知機能、短期記憶、長期記憶、学習機能、グルコース代謝及びグルコース輸送のうちの少なくとも1つの改善を必要とする対象における、認知機能、短期記憶、長期記憶、学習機能、グルコース代謝及びグルコース輸送のうちの少なくとも1つの改善をもたらすものである。
【0142】
いくつかの実施形態では、本開示による単離されたポリペプチドは、神経変性疾患、認知低下及びそれに関連する任意の状態又は症状のうちの少なくとも1つの発症を予防又は遅延することを必要とする対象における、神経変性疾患、認知低下及びそれに関連する任意の状態又は症状の少なくとも1つの発症を予防又は遅延するための方法における使用のためのものである。
【0143】
更なる実施形態では、本開示による使用のための単離されたポリペプチド、その機能的断片若しくは誘導体又は塩は、認知低下の発症を予防、治療、改善するか、又は遅延させるためのものである。
【0144】
上記のように、神経変性疾患は、アルツハイマー病、パーキンソン病、認知症、タンパク質ミスフォールディングに関連する障害、認知低下、軽度認知障害(MCI)、MCIを伴うパーキンソン病、ハンチントン病、レビー小体病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、プリオン病、運動ニューロン疾患(MND)、脊髄小脳変性症(SCA)、脊髄性筋萎縮(SMA)、フリードライヒ運動失調症、多発性硬化症、特発性頭蓋内圧亢進症、脳神経障害、三叉神経痛、前頭側頭型認知症(FTD)、老年認知症(認知症NOS)、運動ニューロン疾患、又は双極性疾患である。
【0145】
様々な実施形態では、本開示による使用のための単離されたポリペプチド、その機能的断片若しくは誘導体又は塩は、アルツハイマー病、パーキンソン病、認知症又は認知低下に適用可能である。
【0146】
いくつかの実施形態では、神経変性疾患はアルツハイマー病である。
【0147】
特定の実施形態では、本開示による使用のための単離されたポリペプチド、その機能的断片若しくは誘導体又は塩は、認知低下の発症を予防、治療、改善するか、又は遅延させるためのものである。
【0148】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示される単離されたペプチドの機能的断片又は誘導体は、配列番号1によって示されるアミノ酸配列に対して少なくとも70%の同一性を有する。
【0149】
特定の実施形態では、ポリペプチドは、配列番号1によって示されるアミノ酸配列からなる。
【0150】
いくつかの更なる実施形態では、ポリペプチドは、血液脳関門を透過することができる。
【0151】
上述のように、本明細書に開示される単離されたペプチドは、当該対象の神経細胞における酸化ストレスからの保護をもたらす方法における使用のためのものである。
【0152】
いくつかの特定の実施形態では、単離されたペプチドは、酸化ストレスからの保護に関連する少なくとも1つの遺伝子の発現を調節する。
【0153】
特定の実施形態では、少なくとも1つの遺伝子は、SOD1、BDNF及びTHのうちのいずれか1つである。
【0154】
上述のように、本明細書に開示される単離されたペプチドは、当該対象の神経細胞におけるグルコース代謝及び/又は輸送の増加をもたらす方法における使用のためのものである。
【0155】
いくつかの特定の実施形態では、単離されたペプチドは、グルコース代謝及び/又は輸送に関連する少なくとも1つの遺伝子の発現を調節する。
【0156】
特定の実施形態では、少なくとも1つの遺伝子は、GLUT1、GLUT3及びP53のうちのいずれか1つである。
【0157】
上記のように、本明細書に開示される単離されたペプチドは、当該単離されたポリペプチドあるいは当該単離されたペプチドの機能的断片若しくは誘導体又はその塩を含む、医薬組成物を投与することを含む方法における使用のためのものである。
【0158】
いくつかの更なる実施形態では、本明細書に開示される単離されたペプチドは、少なくとも1種の追加の治療薬を当該対象に投与することを更に含む方法における使用のためのものである。
【0159】
更なる態様では、本開示は、認知機能、短期記憶、長期記憶、学習機能、グルコース代謝及びグルコース輸送のうちの少なくとも1つを改善することを必要とする対象における、認知機能、短期記憶、長期記憶、学習機能、グルコース代謝及びグルコース輸送のうちの少なくとも1つを改善するための方法における使用のための、配列番号1のアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチドあるいは当該単離されたペプチドの機能的断片若しくは誘導体又はその塩を提供し、当該方法は、当該対象に有効量の当該単離されたポリペプチド、当該単離されたペプチドの機能的断片若しくは誘導体又はその塩を投与することを含む。
【0160】
いくつかの実施形態では上記のように、本明細書に開示される単離されたペプチドの機能的断片又は誘導体は、配列番号1によって示されるアミノ酸配列に対して少なくとも70%の同一性を有する。特定の実施形態では、ポリペプチドは、配列番号1によって示されるアミノ酸配列からなる。
【0161】
また更に本開示は、神経変性疾患、認知低下及びそれに関連する任意の状態又は症状のうちの少なくとも1つの発症を予防、治療、改善するか、又は遅延させることを必要とする対象における、神経変性疾患、認知低下及びそれに関連する任意の状態又は症状のうちの少なくとも1つの発症を予防、治療、改善するか、又は遅延させる方法における使用のための、配列番号1のアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチドあるいは当該単離されたポリペプチドの機能的断片若しくは誘導体又はその塩と、少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤、担体又は希釈剤と、を含む、医薬組成物を提供する。
【0162】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示される単離されたペプチドを含む医薬組成物は、神経変性疾患、認知低下及びそれに関連する任意の状態又は症状の少なくとも1つの発症を予防又は遅延することを必要とする対象における、神経変性疾患、認知低下及びそれに関連する任意の状態又は症状の少なくとも1つの発症を予防又は遅延するための方法における使用である。
【0163】
その更なる態様により、本開示は、認知機能、短期記憶、長期記憶、学習機能、グルコース代謝及びグルコース輸送のうちの少なくとも1つを改善することを必要とする対象における、認知機能、短期記憶、長期記憶、学習機能、グルコース代謝及びグルコース輸送のうちの少なくとも1つを改善するための方法における使用のための、配列番号1のアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチドあるいは当該単離されたポリペプチドの機能的断片若しくは誘導体又はその塩と、少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤、担体又は希釈剤と、を含む、医薬組成物を提供する。
【0164】
本明細書で定義される「医薬組成物」という用語は、一般に、活性薬剤として、本開示による単離されたポリペプチド(すなわち、配列番号1によって示されるアミノ酸配列を含むか又はそれからなる単離されたポリペプチド)若しくは単離されたポリペプチドの機能的断片若しくは誘導体又はその塩と、緩衝剤、その浸透圧を調節する薬剤のうちの少なくとも1つと、任意選択で、当技術分野で公知である少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤、担体、希釈剤及び/又は添加剤と、を含む。
【0165】
本明細書で使用される「薬学的に許容される賦形剤、担体、希釈剤及び/又は添加剤」という用語は、当技術分野で公知の任意の及びすべての溶媒、分散媒体、コーティング、抗菌剤及び抗真菌剤などを含む。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレングリコールなど)、これらの適切な混合物、及び植物油を含有する、溶媒又は分散媒であり得る。各担体は、他の成分と適合性であり、対象に対して有害でないという意味において、薬学的及び生理学的の両方で許容されるべきである。任意の従来の媒体又は薬剤が活性成分と不適合である場合を除いて、治療組成物におけるその使用は企図される。
【0166】
本発明による医薬組成物は、製薬業界で周知の従来技術に従って調製することができる。そのような技術は、活性成分を薬学的に許容される担体(複数可)、賦形剤(複数可)又は添加剤(複数可)と会合させるステップを含む。
【0167】
例えば、本明細書中で使用される「薬学的に許容される担体」という用語は、当技術分野で周知の任意の及びすべての溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤及び抗真菌剤を含む。各担体は、他の成分と適合性であり、患者に対して有害でないという意味で、薬学的及び生理学的の両方で許容されるべきである。
【0168】
薬学的に許容される担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレングリコールなど)、それらの適切な混合物、及び植物油を含有する、溶媒又は分散媒であり得る。
【0169】
補助的又は付加的な活性成分、例えば追加の抗がん剤もまた、本発明の医薬組成物に組み込むことができる。
【0170】
先に詳細に言及された成分に加え、製剤がまた、検討する製剤の種類を考慮して当該技術分野に従来ある他の薬剤を含み得ること、例えば、経口投与に好適なものが香味剤を含み得ることを理解されたい。
【0171】
本明細書で使用される「有効量」という用語は、所望の結果を達成するのに必要な量を意味する。有効量は、予防又は治療目的、投与経路及び患者の全身状態(年齢、性別、体重及び主治医に公知の他の考慮事項)と併せて、疾患又は状態の重症度及びタイプによって決定される。有効量は、動物モデルに基づいて決定することができ、熟練した医師によって決定される。
【0172】
本明細書で使用される「それを必要とする対象」又は「対象」という用語は、温血動物(例えば、ヒト、ラット、マウス、イヌ、ネコ、モルモット及び霊長類など)を含むことを意味する。特定の実施形態では、対象はヒトである。
【0173】
いくつかの実施形態では、本開示による対象は、熟練した医師によって、神経変性疾患又は認知低下を発症するリスクがあるとして診断される。いくつかの他の実施形態では、対象は、本明細書で定義される疾患、障害又は状態を有するとして診断される。本明細書において定義される疾患、障害又は状態の診断は、当技術分野において公知の手段及びステップによって、熟練した医師によって行われ得る。
【0174】
特定の実施形態では、本開示による使用のための医薬組成物のポリペプチドは、配列番号1によって示されるアミノ酸配列からなる。
【0175】
いくつかの特定の実施形態では、神経変性障害はアルツハイマー病である。
【0176】
別の態様では、本開示は、神経変性疾患、認知低下及びそれに関連する任意の状態又は症状のうちの少なくとも1つの発症を予防、治療、改善又は遅延させることのうちの少なくとも1つを必要とする対象における、神経変性疾患、認知低下及びそれに関連する任意の状態又は症状のうちの少なくとも1つの発症を予防、治療、改善又は遅延させることのうちの少なくとも1つのための方法における使用のための、
(a)配列番号1のアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチドあるいは当該単離されたポリペプチドの機能的断片若しくは誘導体又はその塩と、任意選択で、
(b)少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤、担体又は希釈剤と、を含む、キットを更に提供する。
【0177】
本開示の更なる態様は、認知機能、短期記憶、長期記憶、学習機能、グルコース代謝及びグルコース輸送のうちの少なくとも1つを改善することを必要とする対象における、認知機能、短期記憶、長期記憶、学習機能、グルコース代謝及びグルコース輸送のうちの少なくとも1つを改善するための方法における使用のための、
(a)配列番号1のアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチドあるいは当該単離されたポリペプチドの機能的断片若しくは誘導体又はその塩と、任意選択で、
(b)少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤、担体又は希釈剤と、を含む、キットを提供する。
【0178】
本開示によるキットは、使用説明書を更に含むことができる。
【0179】
本開示による単離されたポリペプチドあるいは単離されたポリペプチドの機能的断片若しくは誘導体又はその塩、及び少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤、担体又は希釈剤は、同じ容器又は異なる容器に含まれ得る。また更に本開示によるキットは、別個のキット構成要素を収容するための容器手段を含んでもよい。いくつかの実施形態では、本開示のキットは、当技術分野で公知の少なくとも1つの溶媒又は緩衝液を更に含む。
【0180】
本明細書で使用される「約」という用語は、言及された値よりも最大1%、より具体的には5%、より具体的には10%、より具体的には15%、場合によっては最大20%高く又は低く逸脱し得る値を示し、逸脱範囲は整数値を含み、適用可能な場合、非整数値も同様に連続範囲を構成する。本明細書で使用される「約」という用語は、±10%を指す。
【0181】
「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含む(includes)」、「含む(including)」、「有する(having)」及びそれらの活用形は、「含むが限定されない」ことを意味する。この用語は、「からなる」という用語を包含する。後続する本明細書及び実施例及び特許請求の範囲の全体において、文脈が別段に要請しない限り、「含む(comprise)」という語、並びに「含む(comprises)」及び「含む(comprising)」などの変化形は、言明された整数若しくはステップ又は整数若しくはステップの群の包含を含意するが、他の任意の整数若しくはステップ又は整数若しくはステップの群の除外は含意しないと理解される。
【0182】
上記で説明され、以下の特許請求の範囲の請求項で請求される本発明の様々な実施形態及び態様は、以下の実施例において実験的な裏付けを見出す。以下の実施例は、本発明の態様を実施する際に本発明者らによって使用される技術の代表例である。これらの技術は本発明の実施のための例示であるが、当業者は、本開示を考慮して、本発明の趣旨及び意図される範囲から逸脱することなく、多くの改変がなされ得ることを認識することが理解されるべきである。
【0183】
本明細書及び添付の特許請求の範囲において使用される場合、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈によってそうでない旨が明示されない限り、複数の指示物を含むことを留意しなければならない。
【実施例
【0184】
ここで以下の実施例を参照するが、これらの実施例は、上記の説明と共に、本発明のいくつかの実施形態を非限定的に例示するものである。
【0185】
実験手順
マウス
20~22グラムの初期体重を有するICR雌マウスを使用した(Envigo)。
【0186】
血液脳関門(BBB)透過アッセイ
6匹のマウスの対照群に5%マンニトール溶液を腹腔内(intraperitoneally、I.P.)注射し、6匹のマウスの別の群に5%マンニトール溶液中のポリペプチドdTCApF(本明細書ではNerofeとも呼ばれる、60mg/kg)をI.P.注射した。注射後(1時間)に髄液を採取し、以下に詳述するように、dTCApF(Nerofe)のELISA分析に供した。
【0187】
マウス脳脊髄液のELISA分析
マウスに60mg/kgのD-アミノ酸dTCApF(Nerofe)を注射し、脳脊髄液(約10μL)及び血清を1時間後に収集し、凍結した。以下の表1に示すように、PBS(Biological industries,02-023-5A)中のポリペプチドの連続希釈によって、較正曲線を作成した。
【0188】
次に、脳脊髄液試料を解凍し、氷上で維持し、次いで220μLのPBS中に希釈した。次に、Maxisorp96ウェルプレート(NUNC,F96 Maxisorp,442404)に各試料及び標準の100μLの複製物を充填することによって、試料充填を行った。プレートを密封し、穏やかに振盪しながら4℃で一晩インキュベートした。液体を除去し、マルチピペット又は自動洗浄機を使用して、PBS中0.05%TW-20(Amresco、0777-1L)300μLでプレートを4回洗浄することによって、プレートを洗浄した。5%BSA(MP biomedicals、160069)をPBSで希釈することによって、試料をブロックした。次いで、300μLのブロッキング緩衝液を各ウェルに充填し、プレートを穏やかに振盪しながら室温(room temperature、R.T.)で1時間インキュベートした。プレートを上記のように再度洗浄した。
【0189】
検出は、以下の表1に従って一次抗体を希釈剤(PBS中0.05%TW-20、0.1%BSA)中に希釈することによって行った。次いで、100μLの検出抗体を各ウェルに充填し、プレートを穏やかに振盪しながら室温で2時間インキュベートした。プレートを上で詳述したように再度洗浄した。次に、HRPコンジュゲートを、表1に従ってヤギ抗ウサギHRPコンジュゲート抗体(Cell signaling、7074)を希釈剤中に希釈することによって調製した。次いで、HRPコンジュゲート(100μL)を各ウェルに充填し、プレートを穏やかに振盪しながら室温で1時間インキュベートした。プレートを上で詳述したように再度洗浄した。
【0190】
発色は、100μLのTMB(Milipore、ES001-500ML)を各ウェルに添加し、青色の発色を待ってから、100μLの2N HSO(Frutarom、5552540)を添加することによって行った。450nmでウェルの吸光度をチェックすることにより、マイクロプレートリーダーでプレートの読み取りを行った。
【0191】
【表1】
【0192】
dTCApFペプチド及びそれを含む組成物の調製
本明細書においてdTCApF(又はNerofe、両方の用語は本明細書において互換可能に使用され、上記と同じペプチドを指す)と呼ばれるポリペプチドは、14アミノ酸残基長のペプチドであり、アミノ酸残基のすべてがD配置であり、Trp Trp Thr Phe Phe Leu Pro Ser Thr Leu Trp Glu Arg Lys(又は、1文字コードではWWTFFLPSTLWERK、配列番号1によって示される)のアミノ酸配列を有する。また、Trp Trp Thr Phe Phe Leu Pro Ser Thr Leu Trp Glu Arg Lys(又は、1文字コードではWWTFFLPSTLWERK、配列番号2によって示される)のすべてのアミノ酸残基がL配置であるペプチドを用いた。上記のD-アミノ酸ペプチドは、バルセロナのBCN peptide社でGMPに則り製造されたものであった。上記のL-アミノ酸ペプチドは、米国のAnaspec Inc.で製造された。
【0193】
dTCApF(Nerofe)で処理した細胞の細胞生存率アッセイ(レサズリン)
材料:
透明底96ウェル細胞培養プレート(Greiner60-65590)
細胞培地:
10%FBS(Biological industries、カタログ番号04-121-1A)
RPMI(Gibcoカタログ番号21875034)
100u/mLペニシリン及び100μg/mLストレプトマイシン(Biological Industries)
250ng/mLアンホテリシンB(Biological Industries)
細胞処理培地:細胞培地+5%マンニトール(マンニトール添加後の濾過)
細胞毒性アッセイキット(Colorimetric):ab112118abcam
細胞株
SH-SY5Y(ATCC(登録商標)CRL-2266(商標))
処理について:
2mg/mLのdTCApF(Nerofe)ストック溶液:100μLの20mg/mL dTCApF(Nerofe)を900μLの細胞処理培地で希釈する
4μ8C(sigma SML0949)。
環状ピフィスリン-α臭化水素酸塩(sigma P4236)
【0194】
【表2】
【0195】
手順
細胞を、100mLの増殖培地中、透明底の黒色96ウェルプレートに5,000細胞/ウェルで播種した。すべての未使用ウェルを100mLの培地で満たした。細胞を24時間インキュベートした。次に、培地を除去し、細胞を最初に50mLの処理培地中の阻害剤(すなわち、4μ8c及び環状ピフィスリン-α臭化水素酸塩)で処理した。次いで、細胞を4時間インキュベートした。次に、細胞を、dTCApF(Nerofe)を用いて、dTCApFを含む50mLの処理培地を添加することによって処理した(×2のdTCApFストックを調製し、各ウェルに適切に添加した)。対照ウェルを50mLの処理培地で満たした。細胞を24時間インキュベートした。次いで、培地を除去し、100mLのHを増殖培地中の各ウェルに添加した。次に、100mLの増殖培地を対照ウェルに添加した。細胞を24時間インキュベートした。
【0196】
最後に、20mLの細胞毒性アッセイキット(Colorimetric)ab112118を各ウェルに添加し、細胞を4時間インキュベートした。Biotek Synergy-HTプレートリーダーを使用して、励起530及び発光590、感度40で細胞を読み取った。結果を以下のように計算した:対照と比較した細胞生存率の割合を計算した。
【0197】
ヒト神経芽細胞腫細胞におけるタンパク質Glut1、XBP1及びp53の発現
XBP1、p53及びGlut1の発現レベルを、dTCApF(全D-アミノ酸残基ポリペプチド)及び対応するL-アミノ酸残基ポリペプチドで処理したSHSY5Y細胞のウエスタンブロットによって調べた。
【0198】
細胞増殖のための材料:
-増殖培地-
○ DMEM高グルコース、L-グルタミン(Gibco41965-039)
○ ピルビン酸ナトリウム11.0mg/mL(100mM)(Biological industriesカタログ番号03-042-1B)
○ 50mLのFBS(Biological industriesカタログ番号04-121-1A)。
○ 0.5mLのアンホテリシンB2500μg/mL(Biological industriesカタログ番号03-029-1)。
○ ペニシリン-ストレプトマイシン溶液(Biological Industriesカタログ番号03-031)
-処理培地-
○ 増殖培地
○ 5%マンニトール(Sigmaカタログ番号M4125-500G)
マンニトールを添加した後、培地を0.2μmフィルターで濾過する。
-トリプシンEDTA(Biological industriesカタログ番号03-052-1B)。
-175cm培養フラスコ
-マンニトール中20mg/mLの全D-アミノ酸残基dTCApF(Nerofe)又は対応する全L-アミノ酸残基ポリペプチド(アリコートを使用し、凍結融解サイクルの繰り返しを回避する)。
-SHSY5Y細胞株
【0199】
ウエスタンブロット分析のための材料:
-以下を含有する溶解緩衝液:
○ Ripa緩衝液(Sigma R0278)
○ プロテアーゼ阻害剤(Halt(商標)プロテアーゼ阻害剤カクテル、PIR-78410)。
○ ホスファターゼ阻害剤(Sigma P5726)
○ Benzonase(登録商標)ヌクレアーゼ、純度90%超(70746Millipore)25U/mL
-X4 LDS試料緩衝液(Invitrogenカタログ番号NP0007)
-試料還元剤(Invitrogenカタログ番号NP0009、10倍濃縮)
-4~20%トリス-グリシンゲル(NuSepカタログ番号NG21-420)
-10×TRIS/グリシン移動緩衝液(Bio-Rad1610734)
-PVDF膜(イモビロン-P0.45um)
-TBST緩衝液:TBS(J640 Amersco)+0.05%Tween-20
-TBST中5%スキムミルク
-TBST中5%スキムミルクで希釈した一次抗体:
○ 1:1,000に希釈した抗XBP1抗体(ab220783)
○ 1:1,000に希釈した抗P53抗体(ab28)
○ 1:10,000に希釈した抗Glut1抗体(ab115730)
-TBST中の5%スキムミルクで1:10,000に希釈した二次抗体:
○ 抗マウスIgG、HRP結合抗体#7076(細胞シグナル伝達)
○ 抗ウサギIgG、HRP結合抗体#7074(細胞シグナル伝達)
-SuperSignal(商標)West Femto Maximum Sensitivity Substrate(Thermo Scientific34095)
【0200】
細胞培養-継代:
細胞を、37℃、5%CO、100%湿度のインキュベーター中で、フラスコ上で70~80%(であるが、それ以上ではない)密度に達するまで増殖させた。ピペットを用いてフラスコを空にした。次いで、トリプシンEDTAを添加し、ほとんどの細胞がフラスコに付着していないことが観察されるまで(細胞の脱離を増加させるためにフラスコを軽くたたくことを避けながら)、フラスコをインキュベーター中に放置した。この手順は数分かかる。次いで、10mLの培地をトリプシンに添加し、培地及びトリプシンを2つのフラスコに分け、これに15mLの新鮮な培地を添加した。細胞を、70~80%に達するまで2~3日間増殖させ、継代手順を繰り返した。
【0201】
細胞処理:
細胞を、フラスコ上で70~80%(であるが、それ以上ではない)密度に達するまで増殖させた。上に詳述したトリプシンEDTA手順に従って、細胞をフラスコから分離した。培地及びトリプシン中の細胞を50mLの円錐管に移し、4℃で10分間、300gで遠心分離した。上清を捨て、15mLの新鮮な培地を細胞ペレットに添加し、ペレットを流動化した。次いで、細胞を計数し、30mLの増殖培地中に1.5Mの細胞/75CM2フラスコで播種した。細胞を一晩インキュベートした。
【0202】
翌日、細胞処理培地を以下のように調製した(培地は5%マンニトールを含む)。
● 対照
● 全D-アミノ酸残基dTCApF(配列番号1)20μg/mL
● 全D-アミノ酸残基dTCApF(配列番号1)30μg/mL
● 全D-アミノ酸残基dTCApF(配列番号1)40μg/mL
● 全D-アミノ酸残基dTCApF(配列番号1)50μg/mL
● dTCApF(配列番号2)に対応する全L-アミノ酸残基ポリペプチド20μg/mL
● dTCApF(配列番号2)に対応する全L-アミノ酸残基ポリペプチド30μg/mL
● dTCApFに対応する全L-アミノ酸残基ポリペプチド(dTCApFに対応する酸残基ポリペプチド)40μg/mL
● dTCApF(配列番号2)に対応する全L-アミノ酸残基ポリペプチド50μg/mL
【0203】
培地をフラスコから吸引し、各処理の30mLを対応するフラスコに加えた。次いで、細胞を48時間インキュベートしてから、以下に詳述するように、ウエスタンブロット分析のために回収した。
【0204】
ウエスタンブロット分析手順:
培地を廃棄し、細胞をPBSで2回洗浄した。PBS(5mL)を各フラスコに添加し、細胞を細胞スクレーパーで掻き取り、15mLの円錐管に回収し、これを300Gにて4℃で10分間遠心分離した。次いで、上清を廃棄し、90~200mLの溶解緩衝液を細胞ペレットに添加し、混合物を上下にピペッティングし、氷上で20分間インキュベートした。次いで、溶解した細胞を4℃で15分間、15KGで遠心分離し、上清を回収した。
【0205】
還元剤を各試料に添加し、次いで泳動用緩衝液(×4のLDS)を各試料に添加し、試料を5分間煮沸し、ボルテックスし、遠心分離した(Glut1については、試料を煮沸しなかった)。次に、30~50mLの試料を4~20%トリスグリシンゲル上に充填し、ゲルを、高速転写緩衝液を有する半乾燥湿式転写装置を使用して、20Vで20~60分間、PVDF膜上に転写した。膜を振盪しながらTBST中5%スキムミルクで1時間ブロッキングした。次いで、一次抗体を添加し、振盪しながら4℃で一晩インキュベートした。膜をTBSTで3回洗浄し、二次抗体を添加し、振盪しながら室温(R.T.)で1時間インキュベートした。発色は、振盪しながら室温で5分間、ECL基質を用いて行い、Lycor C-Digitデジタルリーダーを用いて読み取りを行った。
【0206】
実施例1
マウスにおけるdTCApFの血液脳関門(BBB)透過能力
脳機能に対するポリペプチドdTCApF(配列番号1によって示されるアミノ酸配列を有し、本明細書ではNerofeとも称される)の効果を研究するために、ポリペプチドの血液脳関門(BBB)透過能力をマウスにおいて調べた。
【0207】
したがって、対照群のマウスに5%マンニトール溶液を腹腔内(I.P.)注射し、別の群のマウスに5%マンニトール溶液中のポリペプチドdTCApF(60mg/kg)をI.P.注射し、次いで試験したマウス髄液を収集し、上で詳述したように分析に供した。
【0208】
図1Aの右の棒に示されるように、マウス脳におけるdTCApFのレベルは、対照群(5%マンニトール溶液を注射したマウス、左の棒)におけるdTCApFのレベルと比較して、dTCApF注射後に劇的に増加した。
【0209】
上記の結果は、dTCApFがマウスにおけるBBBの良好な透過能力を有することを示す。
【0210】
先の実験に加え、かつそれと比較して、上記の実験は、dTCApFのアミノ酸配列と同じアミノ酸配列を有するポリペプチドであって、アミノ酸残基のすべてがL配置であるポリペプチド(本明細書では配列番号2によって示される)をマウスに注射することによって実施した。図1Bに示される結果は、このポリペプチドが(図1Bの左の棒におけるポリペプチドのレベルによって判断されるように)マウス脳に天然に存在し、したがって、そのレベルが注射時にわずかに変化したことを示す。
【0211】
実施例2
酸化ストレスの存在下でのヒト神経細胞に対するdTCApFの効果
SH-SY5Yは、神経芽腫を有する4歳女性から採取された骨髄生検から最初に単離されたヒト由来細胞株である。SH-SY5Y細胞は、例えば、パーキンソン病及び脳細胞の他の特徴を研究するために、神経細胞機能及び分化のin vitroモデルとしてしばしば使用される。
【0212】
ヒトSH-SY5Y細胞モデルを使用して、dTCApFは、以下に詳述されるように、用量依存的に過酸化水素(H)傷害からヒト神経細胞を保護することが示された。
【0213】
この目的のために、SH-SY5Y細胞を、漸増用量のdTCApF(0、0.5、1、1.5及び2μg/mL)の非存在下又は存在下でHで24時間処理した。細胞生存率を、上で詳述したように、レサズリン試薬を使用して測定した。図2の上のグラフは、漸増用量のdTCApFの存在下で0.01μMのHで処理したSH-SY5Y細胞に関する。図2の下のグラフは、漸増用量のdTCApFの存在下で、より高濃度のH(0.1μM)で処理したSH-SY5Y細胞に関する。図2に見られるように、dTCApFの非存在下で、細胞生存率のレベルは、2つの異なる用量のHで処理した細胞において低かった(すなわち、0.1μMのHで処理した細胞において約65%、0.01μMのHで処理した細胞において約75%)。驚くべきことに、漸増用量のdTCApFは、Hの両方の試験用量において、用量依存的に細胞の生存率を増加させた。
【0214】
実施例3
ヒト神経細胞(SH-SY5Y細胞)における遺伝子発現に対するdTCApFの効果
理論に束縛されるものではないが、上記の結果は、dTCApFが、SOD1の発現を誘導することによって、酸化ストレスからのヒト神経細胞に対する保護効果を有することを示し得る。したがって、次に、SH-SY5Y細胞がdTCApFの存在下で酸化ストレスに対して耐性になる機構を調べた。
【0215】
逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(reverse-transcription polymerase chain reaction、RT-PCR)を使用して、酸化ストレスに対する保護に関連し得る異なる遺伝子のレベルを決定した。試験した遺伝子の中には、以下に詳述するように、SOD1、カタラーゼ及びその他があった。
【0216】
SOD1(スーパーオキシドジスムターゼ1(superoxide dismutase 1)としても公知のスーパーオキシドジスムターゼ)は、ヒトにおいてSOD1遺伝子によってコードされる酵素である。SOD1は、アポトーシス及び家族性筋萎縮性側索硬化症に関与する。当技術分野で公知であるように、SOD1は、酸化ストレス中に放出される活性酸素種である。
【0217】
遺伝子発現レベルアッセイを上で詳述したように行った。簡単に言えば、SH-SY5Y細胞を、漸増用量のdTCApF(すなわち、0、0.5、1、1.5及び2μg/mL)の存在下でインキュベートし、24時間のインキュベーション後、細胞を採取し、ヒトβ-アクチン、BDNF(脳由来神経栄養因子、図3の中央のグラフ)、SOD1(スーパーオキシドジスムターゼ、図3の上のグラフ)、カタラーゼ(図示せず)及びチロシンヒドロキシラーゼ(TH、図3の下のグラフ)である異なる遺伝子に対するRT-PCR分析に供した。異なる遺伝子の誘導を、ヒトβ-アクチンの発現レベルに対して較正した。
【0218】
BDNF(脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor)、又はアブリニューリン)は、ヒトにおいてBDNF遺伝子によってコードされるタンパクである。BDNFは、標準的な神経成長因子に関連する成長因子のニューロトロフィンファミリーのメンバーである。神経栄養因子は、脳及び末梢に見出される。
【0219】
図3に示すように、SOD1は、dTCApFによって用量依存的に強く誘導された。BDNF及びTHは、いくつかのdTCApFレベルでわずかに誘導された。これらの結果は、dTCApFが、例えば、神経変性疾患及び障害の発生の徴候の1つである酸化ストレスに対する細胞保護を補助するSOD1の発現を上方制御することによって、細胞に対する保護効果を誘導したことを示す。
【0220】
実施例4
ヒト神経細胞におけるグルコース輸送体に対するdTCApFの効果
体内の他の器官と同様に、脳は、エネルギー源としてグルコースに依存しており、血液脳関門及び神経細胞の原形質膜を横切るグルコースの通過を可能にするためにグルコース輸送タンパク質の発現を必要とする。神経細胞グルコース輸送に関与するグルコース輸送体の少なくとも2つのアイソフォーム、すなわちGLUT1及びGLUT3が知られている。
【0221】
上記グルコース輸送体(GLUT1及びGLUT3)の発現レベルに対するポリペプチドdTCApFの効果を研究するために、SH-SY5Y細胞を漸増用量のdTCApF(すなわち、1、5及び10μg/mL)の存在下でインキュベートし、インキュベーションの24時間後、細胞を回収し、異なる試料の総タンパク質量の等量をウエスタンブロット分析に供した。様々なタンパク質の発現レベルを監視したが、その中にはヒトβ-アクチン、Glut1及びGlut3があった。図4に示すように、Glut1及びGlu3タンパク質のレベルは、dTCApF用量の増加と共に増加した。
【0222】
酸化的損傷は、神経変性疾患の病因に対する重要な構成要素の1つであると以前に仮定されている。種々の神経変性状態(例えば、アルツハイマー病及び健忘性軽度認知障害)において、グルコース代謝は、おそらく、少なくとも部分的に、グルコース代謝に関与する酵素に対する酸化的損傷のために、劇的に減少する。その結果、認知機能に必要なプロセスが損なわれ、シナプス機能不全及び神経細胞死が生じる。
【0223】
dTCApFの存在下でのSH-SY5Y細胞のインキュベーションがGlut1及びGlut3タンパク質の発現を誘導したことを示す上記の結果を考慮すると、脳機能に対するポリペプチドの更なる有益な保護効果が示唆される。
【0224】
理論に束縛されるものではないが、上記で観察されたdTCApFの効果は、酸化ストレスを低下させ、グルコース代謝に明確に影響を及ぼすことによる脳に対する保護及び治療効果を示唆する。
【0225】
言い換えれば、ヒトSH-SY5Y細胞を用いて行われたin vitro実験は、ポリペプチドdTCApFが酸化ストレスから細胞を保護し、グルコース取り込みを増加させることを示す。更に、ヒトミクログリア細胞を用いて実施したin vitro実験は、dTCApF(Nerofe)が、IL-6、TNFα及び可溶性ST2などの炎症性サイトカインの分泌レベルを下方制御することができることを示す(データは示さず)。
【0226】
実施例5
ヒト神経細胞におけるタンパク質発現に対する、dTCApF及び全L配置の同じアミノ酸配列を有するポリペプチドの効果の比較
上で詳述したように、ヒト神経芽細胞腫細胞(SH-SY5Y細胞)は、アルツハイマー病(AD)の許容可能なin vitroモデルであると考えられる。これらの細胞に対するdTCApFポリペプチド(本明細書で配列番号1によって示されるアミノ酸配列を有する)の効果、及び平行して全Lアミノ酸配置のdTCApFのアミノ酸配列を有するポリペプチド(本明細書で配列番号2によって示されるアミノ酸配列を有する)の効果を調べるために、SH-SY5Y細胞を、上で詳述したように、上記ポリペプチドのそれぞれの存在下でインキュベートした。
【0227】
具体的には、これらの細胞におけるタンパク質グルコース輸送体1(GLUT1)、X-Box結合タンパク質1(X-box binding protein、XBP1)及び腫瘍タンパク質P53(P53)の発現レベルに対する上記ポリペプチドの効果を試験した。
【0228】
上で詳述したように、タンパク質Glut1は、ヒト脳における重要なグルコース輸送体である。XBP1(X-box結合タンパク質1)は、記憶及び認知能力の増加に関与するヒト脳における非常に重要な転写調節因子であり、p53は、脳におけるグルコース代謝の負の調節因子であり、シヌクレインプラークにおいて高度に発現される。
【0229】
図5Cに示されるように、全D-アミノ酸dTCApF(Nerofe)ポリペプチドは、L-アミノ酸ポリペプチドの存在下でこのタンパク質の発現レベルにほとんど影響がない(図6Cに示される)のとは対照的に、タンパク質Glut1の発現レベルを増加させるのに非常に効率的であった(図5Cに示されるように約3~9倍)。
【0230】
上で詳述したように、XBP1は、ヒト脳における重要な転写因子であり、記憶及び認知能力に対する有益な効果があるとされている。図5Aに示されるように、タンパク質XBP1の発現は、dTCApFポリペプチドの存在下で高度に誘導された(例えば、50μg/mLのdTCApFの存在下で約6倍、20μg/mLのdTCApFの存在下で最大14倍)のに対して、L-アミノ酸ポリペプチドの存在下ではこのタンパク質の発現レベルに対するかなり穏やかな効果であった(図6Aに示されるように、20又は50μg/mLポリペプチドの存在下で約2倍)。
【0231】
更に、dTCApFポリペプチドの存在下での上記細胞のインキュベーションは、全L-アミノ酸ポリペプチドの存在下で観察された中程度の下方制御(図6B)とは対照的に、これらの細胞におけるp53発現を濃度依存的に完全に下方制御した(図5B)。p53の発現レベルを低下させることは、グルコース代謝の増加をもたらすので、有益な効果であるとみなされる。
【0232】
実施例6
酸化ストレスの存在下でのdTCApF及び全L配置の同じアミノ酸配列を有するポリペプチドの効果の比較
ヒトSH-SY5Y細胞モデルを使用して、dTCApFは、以下に詳述されるように、用量依存的にL-アミノ酸CTApFよりも良好に、過酸化水素(H)傷害からヒト神経細胞を保護することが示された。
【0233】
この目的のために、SH-SY5Y細胞を、漸増用量のdTCApF又はL-アミノ酸CTApF(0、0.5、1、1.5及び2μg/mL)の非存在下又は存在下でHで24時間処理した。細胞生存率を、上で詳述したように、レサズリン試薬を使用して測定した。図7のグラフは、漸増用量のdTCApF又はL-アミノ酸CTApFの存在下で0.1mMのHで処理したSH-SY5Y細胞に関する。図7に見られるように、L-アミノ酸CTApFを使用した場合、細胞生存率のレベルは、dTCApFで処理した細胞よりも低かった。
【0234】
これらの結果は、それに関連する様々な細胞経路における影響を受けたタンパク質の関与を介した、dTCApFポリペプチドの有益な保護的及び治療的認知効果の更なる例を提供する。
【配列表フリーテキスト】
【0235】
配列番号1: 「dTCApF」と呼ばれる合成ペプチド、1位のXaaはD-Trpに等しい、2位のXaaはD-Trpに等しい、3位のXaaはD-Thrに等しい、4位のXaaはD-Pheに等しい、5位のXaaはD-Pheに等しい、6位のXaaはD-Leuに等しい、7位のXaaはD-Proに等しい、8位のXaaはD-Serに等しい、9位のXaaはD-Thrに等しい、10位のXaaはD-Leuに等しい、11位のXaaはD-Trpに等しい、12位のXaaはD-Gluに等しい、13位のXaaはD-Argに等しい、14位のXaaはD-Lysに等しい
配列番号2: 「dTCApF」のL-アミノ酸ペプチド
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図7
【配列表】
2023548609000001.app
【国際調査報告】