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特表2023-548627良好なセタン価および良好な低温特性を有する再生可能な炭化水素組成物
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  • 特表-良好なセタン価および良好な低温特性を有する再生可能な炭化水素組成物 図1
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  • 特表-良好なセタン価および良好な低温特性を有する再生可能な炭化水素組成物 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-17
(54)【発明の名称】良好なセタン価および良好な低温特性を有する再生可能な炭化水素組成物
(51)【国際特許分類】
   C10L 1/08 20060101AFI20231110BHJP
【FI】
C10L1/08
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023535060
(86)(22)【出願日】2021-12-02
(85)【翻訳文提出日】2023-08-08
(86)【国際出願番号】 FI2021050839
(87)【国際公開番号】W WO2022123111
(87)【国際公開日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】20206282
(32)【優先日】2020-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505081261
【氏名又は名称】ネステ オサケ ユキチュア ユルキネン
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クロネン、マルック
(72)【発明者】
【氏名】キースキ、ウッラ
(72)【発明者】
【氏名】ノルチオ、イェンニ
(72)【発明者】
【氏名】ルオナカンガス、アッネ
(57)【要約】
C8~C30の炭素数を有する、単分岐イソパラフィン、2分岐イソパラフィン、3分岐イソパラフィン、多分岐イソパラフィン、およびn-パラフィンを含む新規な再生可能な炭化水素組成物が提供される。該再生可能な炭化水素組成物は、高いセタン価および優れた低温特性を有する。さらに、ディーゼル燃料またはディーゼル燃料成分としての新規な再生可能な炭化水素組成物の使用が提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディーゼル燃料としてまたはディーゼル燃料成分としての再生可能な炭化水素組成物の使用であって、前記再生可能な炭化水素組成物が、
前記炭化水素組成物の総計の重量の30wt%~50wt%である単分岐イソパラフィンであって、前記単分岐イソパラフィンのそれぞれが正確に1個のアルキル基を含む単分岐イソパラフィン、
合計で前記炭化水素組成物の総計の重量の40wt%~60wt%である2分岐イソパラフィンおよび3分岐イソパラフィンであって、前記2分岐イソパラフィンのそれぞれが正確に2個のアルキル基を含み、前記3分岐イソパラフィンのそれぞれが正確に3個のアルキル基を含む2分岐イソパラフィンおよび3分岐イソパラフィン、
合計で5wt%~15wt%である多分岐イソパラフィンであって、前記多分岐イソパラフィンのそれぞれが3個より多いアルキル基を含む多分岐イソパラフィン、ならびに
2wt%~20wt%であるn-パラフィン
を含み、
ここで、前記イソパラフィンおよびn-パラフィンは、C8~C30の炭素数を有し、ならびに、前記イソパラフィンおよびn-パラフィンの85~98wt%、好ましくは90~98wt%は、C15~C30の炭素数を有する使用。
【請求項2】
前記炭化水素組成物の総計の重量に対して少なくとも90wt-%、好ましくは少なくとも94wt-%、より好ましくは少なくとも98wt-%の前記イソパラフィンおよびn-パラフィンが、C10~C30の炭素数を有する請求項1記載の使用。
【請求項3】
60wt%より多い、好ましくは70wt%より多い、最も好ましくは94wt%より多い前記イソパラフィンのβ炭素が、少なくとも1つのアルキル置換基で置換されている請求項1または2記載の使用。
【請求項4】
90wt-%より多い、好ましくは94wt-%より多い、より好ましくは96wt-%より多い、最も好ましくは98wt-%より多い前記アルキル置換基が、メチル置換基およびエチル置換基、好ましくはメチル置換基から選択される請求項1~3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
95wt-%より多い、より好ましくは96wt-%より多い、最も好ましくは97wt-%より多い前記イソパラフィンのβ炭素が、少なくとも1つのアルキル基、好ましくは少なくとも1つのメチル置換基で置換されている請求項1~4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
前記イソパラフィンの総計のwt-%量に対する前記単分岐イソパラフィンのwt-%量の比が、0.3~0.9、好ましくは0.35~0.8、およびより好ましくは0.4~0.6である請求項1~5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
84wt-%より多い、好ましくは88wt-%より多い、より好ましくは92wt-%より多い、最も好ましくは97wt-%より多い2分岐、3分岐および多分岐イソパラフィンが、それぞれ、β炭素、(ω-1)炭素またはそれらの組み合わせから選択される位置において、少なくとも2つのメチル置換基で置換されている請求項1~6のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
前記組成物の曇点が、ASTM D 5771-2017に従って測定された場合で、-25~-40℃である請求項1~7のいずれか1項に記載の使用。
【請求項9】
前記組成物のセタン価が、EN 15195-2014に従って測定された場合で、74~84である請求項1~8のいずれか1項に記載の使用。
【請求項10】
前記組成物の15℃における密度が、EN ISO 12185に従って測定されて、770~790kg/m3の範囲内である請求項1~9のいずれか1項に記載の使用。
【請求項11】
前記組成物が、EN ISO 3405に従って測定されて、170℃~360℃の範囲の沸点を有する請求項1~10のいずれか1項に記載の使用。
【請求項12】
前記組成物の芳香族炭化水素の総計の含有量が、前記炭化水素組成物の総計の重量に関して、1500wt-ppm未満、好ましくは1300wt-ppm未満、より好ましくは500wt-ppm未満である請求項1~11のいずれか1項に記載の使用。
【請求項13】
再生可能な炭化水素組成物であって、
前記炭化水素組成物の総計の重量の30wt%~50wt%である単分岐イソパラフィンであって、前記単分岐イソパラフィンのそれぞれが正確に1個のアルキル基を含む単分岐イソパラフィン、
合計で前記炭化水素組成物の総計の重量の40wt%~60wt%である2分岐イソパラフィンおよび3分岐イソパラフィンであって、前記2分岐イソパラフィンのそれぞれが正確に2個のアルキル基を含み、前記3分岐イソパラフィンのそれぞれが正確に3個のアルキル基を含む2分岐イソパラフィンおよび3分岐イソパラフィン、
合計で5wt%~15wt%である多分岐イソパラフィンであって、前記多分岐イソパラフィンのそれぞれが3個より多いアルキル基を含む多分岐イソパラフィン、ならびに
2wt%~20wt%であるn-パラフィン
を含み、
ここで、前記イソパラフィンおよびn-パラフィンは、C8~C30の炭素数を有し、ならびに、前記イソパラフィンおよびn-パラフィンの85~98wt%、好ましくは90~98wt%は、C15~C30の炭素数を有し、
60wt%より多い前記イソパラフィンのβ炭素が、少なくとも1つのアルキル置換基で置換されている組成物。
【請求項14】
前記炭化水素組成物の総計の重量に対して少なくとも90wt-%、好ましくは少なくとも94wt-%、より好ましくは少なくとも98wt-%の前記イソパラフィンおよびn-パラフィンが、C10~C30の炭素数を有する請求項13記載の組成物。
【請求項15】
70wt%より多い、好ましくは94wt%より多い前記イソパラフィンのβ炭素が、少なくとも1つのアルキル置換基で置換されている請求項13または14記載の組成物。
【請求項16】
90wt-%より多い、好ましくは94wt-%より多い、より好ましくは96wt-%より多い、最も好ましくは98wt-%より多い前記アルキル置換基が、メチル置換基およびエチル置換基、好ましくはメチル置換基から選択される請求項13~15のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項17】
95wt-%より多い、より好ましくは96wt-%より多い、最も好ましくは97wt-%より多い前記イソパラフィンのβ炭素が、少なくとも1つのアルキル基、好ましくは少なくとも1つのメチル置換基で置換されている請求項13~16のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項18】
前記イソパラフィンの総計のwt-%量に対する前記単分岐イソパラフィンのwt-%量の比が、0.3~0.9、好ましくは0.35~0.8、およびより好ましくは0.4~0.6である請求項13~17のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項19】
84wt-%より多い、好ましくは88wt-%より多い、より好ましくは92wt-%より多い、最も好ましくは97wt-%より多い2分岐、3分岐および多分岐イソパラフィンが、それぞれ、β炭素、(ω-1)炭素またはそれらの組み合わせから選択される位置において、少なくとも2つのメチル置換基で置換されている請求項13~18のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項20】
前記組成物の曇点が、ASTM D 5771-2017に従って測定された場合で、-25~-40℃である請求項13~19のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項21】
前記組成物のセタン価が、EN 15195-2014に従って測定された場合で、74~84である請求項13~20のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項22】
前記組成物のが、EN ISO 12185に従って測定されて、770~790kg/m3である15℃における密度を有する請求項13~21のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項23】
前記組成物が、EN ISO 3405に従って測定されて、170℃~360℃の範囲の沸点を有する請求項13~22のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項24】
前記組成物の芳香族炭化水素の総計の含有量が、前記炭化水素組成物の総計の重量に関して、1500wt-ppm未満、好ましくは1300wt-ppm未満、より好ましくは500wt-ppm未満である請求項13~23のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般的に、再生可能な炭化水素組成物に関する。本発明の再生可能な炭化水素組成物は、生物学的起源のオイルおよび脂肪からまたは廃棄物材料から製造され得る。本開示は、特には、排他的でなく、良好なセタン価および低温特性を有し、したがってディーゼル燃料またはディーゼル燃料成分として使用される再生可能な炭化水素組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
環境問題への関心と、特にヨーロッパにおけるディーゼル燃料の需要増は、燃料メーカーに、入手可能な再生可能な資源をより重点的に使用するよう促している。生物学的原料に基づくディーゼル燃料の製造では、主な関心は、脂肪酸のトリグリセリドを含む植物オイルおよび動物性脂肪に集中している。脂肪酸の長い、直鎖状の、およびほぼ飽和の炭化水素鎖は、ディーゼル燃料に含まれる炭化水素に似ている。しかしながら、そのままの植物油は、劣った特性、特には極端な粘度、低い低温特性、および十分でない酸化安定性を示し、これは、輸送用燃料におけるそれらの使用を制限している。
【0003】
不要な酸素は、脂肪酸またはそれらのエステルから、水素処理によって除去され得る。水素処理、特には水素化脱酸素のあいだ、酸素含有基は、水素と反応し、そして、水の形成を介して除去され、およびそれゆえ、この反応は高い水素の消費に関連している。これらの反応の高い発熱性により、反応熱の制御は非常に重要である。不純物の多い植物性オイル/脂肪または動物性脂肪/オイル、高い反応温度、反応温度の不十分な制御、またはフィード流中での低い水素入手可能性は、例えば分解、重合、ケトン化、環化および芳香族化、ならびに触媒のコーキングなどの望ましくない副反応を引き起こす可能性がある。
【0004】
脂肪酸の組成、大きさ、飽和度は、種々の起源のフィードストックにおいて顕著に異なり得る。バイオオイルまたは脂肪の融点は主に飽和度の結果である。脂肪は液状オイルよりも飽和度が高く、この点で、二重結合の水素化に必要な水素が少ない。脂肪酸鎖中の二重結合はまた、例えばオリゴマー化/重合、環化/芳香族化および分解反応などなどの、触媒を不活性化するさまざまな種類の副反応を促進させ、水素消費量を増加させ、およびディーゼル収率を低下させる。
【0005】
トリグリセリドの加水分解は、部分的な加水分解生成物であるジグリセリドおよびモノグリセリドもまた製造する。ジグリセリドおよびモノグリセリドは表面活性化合物であり、これらは、エマルションを形成し得、および、水と油との液/液分離をより困難にし得る。生物学的起源のオイルおよび脂肪ならびに廃棄物材料はまた、それらの構造中にリンを含むリン脂質(例えばレシチン)のような他のグリセリド様表面活性不純物もまた含み得る。リン脂質はガム様物質であり、触媒にとって有害であり得る。天然のオイルおよび脂肪もまた、触媒に有害な他の種類の成分を含み、または、処理上の他の問題を引き起こす。
【0006】
フィードストックすなわち生物学的起源のオイルおよび脂肪ならびに廃棄物材料、ならびに水素処理における処理条件は、それから得られ得る生成物の炭化水素分布に影響を及ぼす。プロセスの最適化は、例えば特許文献1に記載されている。
【0007】
官能性および炭素数に依存して種々の炭化水素が、種々の製品特性に寄与する。異なる成分は相乗的または拮抗的な全体の特性を提供する可能性があるため、所望の特性の組み合わせを得るために炭化水素ブレンドを使用することが一般的である。
【0008】
これは、非特許文献1によって議論されている。彼らは、ディーゼル燃料に対応する沸点を有するn-パラフィンは、それらの分岐された異性体よりも高いセタン価を有するが、他方で、イソパラフィンはn-パラフィンよりも低い凝固点を有すると記載している。彼らは、パラフィンに富んだ燃料の品質における妥協点、すなわち、良好な燃焼特性または良好な低温特性のどちらか一方であって、両者を同時に得ることはできない、と結論づけている。
【0009】
特許文献2は、合成パラフィン系ディーゼル5~95vol%、バイオディーゼル5~95vol%、石油ディーゼル0~90vol%を含むブレンドを開示する。炭化水素の分岐および異性体分布について、水素化処理されたバイオ再生可能なフィードストック中のイソパラフィンの少なくとも80wt-%がモノメチル分岐パラフィンであり、および30wt-%未満が末端分岐(すなわち2-メチル分岐)であると報告している。
【0010】
したがって、改善された特性を有する再生可能な炭化水素組成物の必要性、特にはセタン価を損なうことなく低温特性を改善する必要性が依然として存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1741768号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2019/0218466号明細書
【0012】
【非特許文献1】Zemanら、Hydrotreated Vegetable Oil as a Fuel from Waste Materials(Zeman, P. & Hoenig, V. & Kotek, M. & Taborsky, J. & Obergruber, M. & Marik, J. & Hartova, V. & Pechout, M. (2019).Catalysts.9(4).337、16pp
【発明の概要】
【0013】
本発明の目的は、従来技術に存在している課題の少なくともいくつかを克服することである。
【0014】
本発明の特定の目的は、ディーゼル燃料に設定された要件、最も重要なことにはセタン価および曇点を満たす再生可能な炭化水素組成物を提供することである。
【0015】
良好なセタン価および低い曇点の両方を有する再生可能な炭化水素組成物を提供することが本発明の特定の目的である。
【0016】
本発明は、炭素数C8~C30のn-パラフィンおよびイソパラフィンを含む再生可能な炭化水素組成物のセタン価および曇点の両方の評価、特にはそれらのイソパラフィンの分岐および分布の研究における驚くべき知見に基づいている。請求項13で規定されるような再生可能な炭化水素組成物が、刊行されている値と比較して、驚くほど良好かつ予期できないセタン価および曇点の組み合わせを提供することが発見された。
【0017】
ディーゼル燃料またはディーゼル燃料成分として有用な再生可能な炭化水素組成物を提供することが別の特定の目的である。
【0018】
第一の実施態様にしたがい、ここで、請求項1に既定されるディーゼル燃料またはディーゼル燃料成分としての再生可能な炭化水素組成物の使用が提供される。
【0019】
第二の実施態様にしたがい、ここで、請求項13に既定される再生可能な炭化水素組成物が提供される。
【0020】
種々の非限定的な実施態様および実施形態が上記に例示されてきた。上述の実施形態は、種々の実施において利用され得る選択された態様またはステップを説明するためだけに使用される。いくつかの実施形態は、特定の実施態様を参照してのみ提示され得る。対応する実施形態は他の実施態様にも適用され得ることが理解されるべきである。
【0021】
いくつかの例示的な実施形態が、添付の図を参照して説明される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、異性化度の異なる一連のサンプルにおける曇点に対する異性化の影響を示す図である。異性体は、単分岐イソパラフィン、二分岐イソパラフィンおよび三分岐イソパラフィン、および多分岐イソパラフィンとして特徴付けられており、ならびに、総計の再生可能な炭化水素組成物に対するそれらの含有量が、温度(t、℃)を示すx軸に対して投影されている。
図2図2は、異性化度の異なる一連のサンプルにおけるセタン価に対する異性化の影響を示す図である。異性体は、単分岐イソパラフィン、二分岐イソパラフィンおよび三分岐イソパラフィン、および多分岐イソパラフィンとして特徴付けられており、ならびに、総計の再生可能な炭化水素組成物に対するそれらの含有量が、セタン価を示すx軸に対して投影されている。
図3図3は、本発明の再生可能な炭化水素組成物サンプル(丸)で観察された相乗効果を、曇点(x軸、℃)対セタン価(y軸)で投影した図である。参照として、本発明の仕様を満たしていない炭化水素組成物を四角で示している。
【発明を実施するための形態】
【0023】
再生可能な炭化水素組成物および関連する製造プロセスが以下に詳細に説明される。このような再生可能な炭化水素組成物に関連して説明される特性は、本明細書中で提供されるプロセスの生成物としての対応する組成物にも適用される。
【0024】
再生可能な炭化水素組成物
本開示の第1の態様として、ここで、
炭化水素組成物の総計の重量の30wt%~50wt%である単分岐イソパラフィンであって、単分岐イソパラフィンのそれぞれが正確に1個のアルキル基を含む単分岐イソパラフィン、
合計で炭化水素組成物の総計の重量の40wt%~60wt%である2分岐イソパラフィンおよび3分岐イソパラフィンであって、2分岐イソパラフィンのそれぞれが正確に2個のアルキル基を含み、3分岐イソパラフィンのそれぞれが正確に3個のアルキル基を含む2分岐イソパラフィンおよび3分岐イソパラフィン、
合計で5wt%~15wt%である多分岐イソパラフィンであって、多分岐イソパラフィンのそれぞれが3個より多いアルキル基を含む多分岐イソパラフィン、ならびに
2wt%~20wt%であるn-パラフィン
を含む再生可能な炭化水素組成物が提供され、
ここで、前記イソパラフィンおよびn-パラフィンは、C8~C30の炭素数を有し、ならびに、前記イソパラフィンおよびn-パラフィンの85~98wt%、好ましくは90~98wt%は、C15~C30の炭素数を有する。
【0025】
本発明者らは、再生可能な炭化水素組成物中のn-パラフィン系炭化水素および前記イソパラフィン系炭化水素の特定の組み合わせが、特に共に高品質のディーゼル燃料またはディーゼル燃料成分を特徴付けるものである向上されたセタン価および魅力的に低い曇点について、予期せぬ相乗効果を提供することを発見した。
【0026】
好ましい実施形態にしたがい、炭素数による炭化水素分布がさらに狭められ、および、本発明の再生可能な炭化水素組成物の前記パラフィン系炭化水素の大部分は、C10~C30の炭素数を有する。水素化処理、特に水素異性化によって再生可能なフィードストックから製造される場合、このような炭素数分布は、副反応へのおよび/または軽質炭化水素への損失が最小限である前記フィードの有効利用を反映する。したがって、組成物の前記イソパラフィンおよびn-パラフィンの、炭化水素組成物の総計の重量に対する少なくとも90wt%、好ましくは少なくとも94wt%、より好ましくは少なくとも98wt%は、C10~C30の炭素数を有する。
【0027】
本明細書中で使用される水素処理とは、水素分子を利用したあらゆる手段による有機材料の触媒処理と理解される。
【0028】
本明細書において、触媒プロセスとしての水素化処理は、典型的には硫化NiMOまたは硫化COMO触媒の影響下、有機酸素化合物から酸素を、水として除去(水素化脱酸素、HDO)または炭素酸化物CO/CO2として除去(脱炭酸および脱カルボニル)、有機硫黄化合物から硫黄を硫化二水素(H2S)として除去(水素化脱硫、HDS)、有機窒素化合物から窒素をアンモニア(NH3)として除去(水素化脱窒素、HDN)、芳香族化合物をシクロパラフィンへの変換として除去(水素化脱芳香族、HDA)、および、ハロゲン、例えば塩素を有機塩素化合物から塩酸(HCl)として除去(水素化脱塩素、HDCl)する。
【0029】
本明細書において、脱酸素とは、先に述べた任意の方法による、例えば脂肪酸誘導体、アルコール、ケトン、アルデヒドまたはエーテルなどの有機分子からの酸素の除去を意味すると理解される。
【0030】
本明細書において、水素化分解とは、高圧での、水素分子を用いた有機炭化水素材料の触媒的分解として理解される。
【0031】
本明細書において、水素化とは、触媒の影響下、水素分子を用いて炭素-炭素二重結合を飽和させることを意味する。
【0032】
本明細書において、再生可能とは、起源を指す。再生可能な材料とは、生物学的な、植物のもしくは動物の供給源、またはそれらを含む廃棄物および残渣に由来するものと理解される。再生可能な炭化水素組成物中の再生可能な含有量は、当業者が化石炭素と再生可能な炭素とを区別することを可能にする、14C同位体法によって決定され得る。この方法は、規格ASTM D6866(2020)、すなわち放射性炭素分析を用いて固体、液体および気体試料のバイオベース含有量を決定するための標準試験方法に詳細に記載されている。生物学または再生可能な供給源由来の炭素の含有量を分析するための適切な方法のさらなる例は、DIN 51637(2014)またはEN 16640(2017)である。
【0033】
再生可能起源の炭素原子は、化石起源の炭素原子に比べ、より多くの数の14C同位体を含む。したがって、12Cと14C同位体との比を分析することによって、再生可能な(バイオベースの)原料由来の炭素化合物と、化石(化石ベースの)原料由来の炭素化合物とを区別することが可能である。従って、前記同位体の特定の比は、再生可能な炭素化合物を同定し、および非再生可能な炭素化合物から区別するための「タグ」として使用され得る。同位体比は化学反応の過程で変化しない。したがって、同位体比は、再生可能な炭化水素組成物、およびそれに由来する製品を同定し、および、非再生可能なフィードおよび製品からそれらを区別するために使用され得る。本発明の目的のためには、ASTM D6866で測定されて、90%以上の現在の標準炭素(pMC)、例えば100%の現在の標準炭素を含む場合、例えばフィードストックまたは製品などの炭素含有材料は、生物学的、すなわち再生可能起源であると考えられる。
【0034】
本明細書において、再生可能な炭化水素組成物とは、再生可能な供給源または再生可能な複数の供給源に由来し、および、大きな割合のパラフィン(非環状アルカン)、直鎖状ノルマルパラフィン(n-パラフィン)および分岐状イソパラフィン(i-パラフィン)の両方を含む組成物を指す。ここで、n-パラフィンとは、ノルマルアルカンまたは側鎖を含まない直鎖状アルカンを意味する。前記イソパラフィンは、単分岐i-パラフィン、2分岐i-パラフィン、3分岐i-パラフィン、3個より多くの分岐を含むi-パラフィンの特定の組み合わせを含む。ここでいうイソパラフィンは、アルキル置換イソパラフィン、すなわち、側鎖または複数の側鎖すなわち分岐または複数の分岐がアルキル側鎖、好ましくは短鎖アルキル、メチルおよびエチルであるイソパラフィンである。理論的には、分岐の数は、まず骨格とも呼ばれる最長の炭素鎖を特定し、次に当該最長の炭素鎖に結合されている分岐を計算することにより、構造式から決定され得る。しかしながら、実際には、側鎖(分岐)の数は、例えば本出願の実施例に記載された分析法などの、任意の適切な分析法によって決定され得る。
【0035】
本明細書において、再生可能な炭化水素組成物は、水素化処理された植物オイル、水素化処理された動物性脂肪、水素化処理された魚脂肪、水素化処理された魚油、水素化処理された藻油、水素化処理された微生物油、水素化処理された木材および/または他の植物ベースのオイル、水素化処理されたリサイクル可能な廃棄物および/または残渣、またはそれらの組み合わせから得られる。好ましくは、再生可能な炭化水素組成物のための新鮮なフィードは、植物オイル/脂肪、動物脂肪/オイル、魚脂肪/オイル、遺伝子操作によって育種された植物に含まれる脂肪、食品産業のリサイクルされた脂肪、およびそれらの組み合わせから選択される。植物オイルまたは動物脂肪の水素化処理は、バイオベースのディーゼル燃料を製造するためのエステル化に代わるプロセスである。再生可能な中間留分燃料はまた、脂肪酸メチルエステル(FAME)のために確保されている「バイオディーゼル」の代わりに、「水素化処理植物オイル燃料」、「水素化処理再生可能ディーゼル」、「再生可能パラフィン系ディーゼル」、「再生可能ディーゼル」または「再生可能ディーゼル成分」とも呼ばれる。
【0036】
本明細書で使用される、化学的に水素化処理された再生可能な炭化水素組成物は、パラフィン系炭化水素の混合物であり、ならびに、非常に少量の硫黄および非常に低い含有量の不飽和炭化水素しか含まない。したがって、組成物に対する総計の芳香族炭化水素含有量は、炭化水素組成物の総計の重量に関して1500wt-ppm未満、好ましくは1300wt-ppm未満、より好ましくは500wt-ppm未満である。
【0037】
イソパラフィンの特性評価
本明細書において使用されるように、パラフィンは、飽和炭化水素、すなわちアルカンを指す。その結果、イソパラフィンまたはi-パラフィンは、一般的に、任意の開鎖および分岐のアルカンを指す。構造的には、イソパラフィンはその構造中に少なくとも1つの第3級または第4級炭素を含む。逆に、n-パラフィンは第一級炭素および第二級炭素のみで構成される。分岐(置換基とも称される)に関するバリエーションは広く、該分岐の数、位置およびタイプに関するバリエーションを含んでいることが理解されるべきである。しかしながら、単分岐、2分岐などの分岐のイソパラフィンに言及する場合、炭素骨格(主鎖)に対する置換基または分岐のみが、当該数の決定において考慮される。
【0038】
本開示において、再生可能な炭化水素組成物中のパラフィンの重量パーセントは、再生可能な炭化水素組成物の総計の重量に対して決定され、および、再生可能な炭化水素組成物中のイソパラフィンの重量パーセント(総計のイソパラフィンwt-%)およびノルマルパラフィンの重量パーセントは、それぞれ、再生可能な炭化水素組成物中のパラフィンの総計の重量に対して決定される。さらに、本開示において、単分岐イソパラフィン、2分岐および3分岐イソパラフィン、ならびに3個より多くの分岐を有するイソパラフィンの重量パーセントは、それぞれ、再生可能な炭化水素組成物の総計の重量に対して決定される。イソパラフィンの総計のwt-%量に対する、正確に1個の分岐を有するイソパラフィンのwt-%量の比は、本開示において、再生可能な炭化水素組成物の総計の重量に対して決定されるそれぞれの重量パーセントに基づいて決定される。
【0039】
本発明の組成物のイソパラフィンは、分岐度とも称されるそれらの置換の程度によって定義され得る。したがって、該単分岐イソパラフィンのそれぞれは、正確に1個のアルキル置換基を含み、該2分岐イソパラフィンのそれぞれは、正確に2個のアルキル置換基を含み、該3分岐イソパラフィンのそれぞれは、正確に3個のアルキル置換基を含み、および、該多分岐イソパラフィンのそれぞれは、3個より多いアルキル置換基を含む。一般に「イソパラフィン(isoparaffins)」と参照する場合、本明細書においては、すべてのアルキル置換パラフィンを包含することを意味しており、したがって、規定された炭素数範囲内の該単分岐イソパラフィン、2分岐イソパラフィン、3分岐イソパラフィンおよび多分岐イソパラフィンの合計の量を意味する。
【0040】
本明細書で使用されるように、単分岐イソパラフィンとは、分子の主炭素鎖中に1個より多くないかつ1個より少なくない分岐を含むアルカンを意味する。分岐はアルキル置換基を含む。それらは、代替的には、アルキルアルカンまたはモノアルキルアルカンと称され得る。本発明の組成物の単分岐イソパラフィンは、8~C30である炭素数を有するため、該主鎖は、典型的には、C7~C29の炭素鎖長を有するが、分岐の長さ(C1、C2、C3など)に応じて、例えばC6またはC5などのいくつかのより短い炭素骨格を含んでいてもよい。
【0041】
これに対応して、2分岐イソパラフィンとは、分子の主炭素鎖中に2個より多くないかつ2個より少なくない分岐を含むアルカンを指し、3分岐イソパラフィンとは、分子の主炭素鎖中に3個より多くないかつ3個より少なくない分岐を含むアルカンを指す。有機命名法の基本ルールによれば、最も長い鎖、主鎖が単一の化合物のアイデンティティを決定し、そしてそれに付加している分岐が言及される。本明細書において、2-および3分岐(それぞれ、ジアルキルまたはトリアルキル)イソパラフィンは、それらの総計の炭素数、C8~C30によって定義され、該アルキル分岐のそれぞれは、メチル、エチル、プロピル、ブチルからさらなるアルキル、またはそれぞれのイソアルキル置換基まで変化してもよいことを理解されたい。
【0042】
炭化水素組成物の総計の重量中のイソパラフィン分布に言及する場合、2-および3分岐イソパラフィンは、2-および3分岐イソパラフィンの合計量として考慮される。
【0043】
本発明の組成物は、分子の主炭素鎖中に3個より多い分岐を含むアルカンをさらに含み、および、本明細書において、多分岐イソパラフィンと称される。該多分岐イソパラフィンは、4、5、6、7、8、9、10またはそれ以上の分岐を含み得る。しかしながら、そのような個々の異性体の量は興味の対象ではなく、それらはむしろ多分岐イソパラフィンという定義の下で一緒にグループ化される。ここで、多分岐イソパラフィンは、ジアルキルおよびトリアルキルパラフィンと同様に、それらの総計の炭素数、C8~C30によって定義され、該アルキル分岐のそれぞれは、メチル、エチル、プロピル、ブチルからさらなるアルキル、またはそれぞれのイソアルキル置換基まで、および主炭素鎖中のそれらの位置に関して変化してもよいことを理解されたい。炭化水素組成物の総計の重量内のイソパラフィン分布に言及する場合、多分岐イソパラフィンは、テトラ、ペンタ、ヘキサ、ヘプタ、オクタ、ノナおよびデカ(またはそれ以上)のアルキルパラフィンの合計量として考慮され、そして、前記合計は、多分岐イソパラフィンの量と称される。
【0044】
置換は、好ましくは、イソパラフィン主鎖の末端位置または複数の末端位置で起こり、ここで、60wt%より多い、好ましくは70wt%より多い、最も好ましくは94wt%より多い該イソパラフィンのベータ炭素(β炭素)が、少なくとも1つのアルキル置換基で置換される。本明細書で使用される場合、β炭素は2-炭素を指し、これは実際には、アルキル置換基を有していてもよい最初の炭素である。アルカンの主鎖を1(アルファ、α)から始めて2(ベータ、β)へと続いてまでナンバリングしていく場合、該主鎖の最後の炭素はオメガ、ωと表記される。パラフィン系炭素鎖の最末端炭素での置換が好ましい一方、ほぼ同程度に、該最末端炭素の隣の炭素、すなわち3-炭素または4-炭素への、またはω-2またはω-3の位置への置換も有益である。
【0045】
これに対応して、アルキル置換基を有していてもよい、ナンバリングの順において最後である炭素の主鎖における位置は、本明細書において、ω-1と称される。換言すると、イソパラフィンの主鎖が他の末端でも分岐しているまたは置換されている場合、好ましい置換の位置は、「ω-1炭素」と称される。
【0046】
一実施形態において、84wt%より多い、好ましくは88wt%より多い、より好ましくは92wt%より多い、最も好ましくは97wt%より多い、本発明の組成物の二分岐、三分岐および多分岐イソパラフィンが、それぞれ、β炭素、(ω-1)炭素またはそれらの組み合わせから選択される位置において、少なくとも2つのメチル置換基で置換されている。2個のメチル置換基の場合、それらが両方ともβ炭素への置換基であってもよく、または、1つがβ炭素に、および1つが(ω-1)炭素への置換基であってもよいことが理解される。同様に、3個のメチル置換基の場合、それらのうちの2個がβ炭素への、または、1個がβ炭素へのおよび1個が(ω-1)炭素への、ならびに3個目がさらなる位置への置換基であってもよい。多分岐イソパラフィンの場合、2個の置換基が末端位置に位置されていれば十分であり、したがって、それらのうちの2個がβ炭素への置換基であるか、または少なくとも1個がβ炭素へのおよび1個が(ω-1)炭素への置換基であり、ならびに残りが同じ位置またはさらなる位置に分配されていてもよい。
【0047】
しかしながら、実質的に炭素鎖のあいだにおける置換は、本開示において発見された利点には寄与しないようである。理論に束縛されることなく、本発明者らは、炭素鎖の末端位置に分岐または複数の分岐を有するイソパラフィンが、セタン価に関してn-パラフィンにおいて見られる挙動を模倣すると同時に、優れた低温特性、すなわち低い曇点に寄与することを発見した。
【0048】
イソパラフィンの好ましい置換基は、最も短いアルキル基であり、したがって、90wt%より多い、好ましくは94wt%より多い、より好ましくは96wt%より多い、最も好ましくは98wt%より多い該アルキルが、メチル置換基およびエチル置換基から選択される。最も一般的なアルキル分岐または置換基はメチルである。したがって、有力な単分岐イソパラフィンは、メチル-アルカンとして特徴付けられ得、2分岐イソパラフィンは、ジメチル-アルカンとしてとして特徴付けられ得、3分岐イソパラフィンはトリジメチル-アルカンとして特徴付けられ得る。一実施形態において、本発明の組成物のイソパラフィンの置換基は、該イソパラフィンの95wt%より多い、より好ましくは96wt%より多い、最も好ましくは97wt%より多いβ炭素が、少なくとも1つのアルキル基、好ましくは少なくとも1つのメチル置換基で置換されていることを特徴とする。
【0049】
本発明の組成物は、直鎖アルカンとしても知られるn-パラフィンをさらに含む。n-パラフィンは、再生可能な炭化水素組成物の特性、特にセタン価に寄与し、したがって、炭化水素組成物の総計の重量の2wt%~20wt%の量での存在が有益である。
【0050】
単分岐イソパラフィン、特にはモノメチル置換イソパラフィンはまた、再生可能な炭化水素組成物のセタン価を促進する。したがって、再生可能な炭化水素組成物が、再生可能な炭化水素組成物の総計の重量の、少なくとも30wt-%、好ましくは少なくとも35wt-%、さらに好ましくは少なくとも40wt-%、より好ましくは少なくとも45wt-%、および50wt-%までの単分岐イソパラフィンを含むことが好ましい。本発明者らは、本発明の再生可能な炭化水素組成物の好ましい実施形態において、イソパラフィンの総計のwt-%量に対するモノイソパラフィンのwt-%量の比が、0.3~0.9、好ましくは0.35~0.8、およびより好ましくは0.4~0.6であることを発見した。実施された実験に基づき、単分岐イソパラフィンの顕著な含有量は、調べられた再生可能な炭化水素組成物サンプルについて測定された良好なセタン価に寄与する。
【0051】
再生可能な炭化水素組成物は、好ましくは高いパラフィン含有量を有する。高いパラフィン含有量は、高品質のディーゼル製品を促進する。したがって、ある実施形態において、再生可能な炭化水素組成物は、再生可能な炭化水素組成物の総計の重量の少なくとも75wt-%、好ましくは少なくとも80wt-%、より好ましくは少なくとも90wt-%、さらにより好ましくは少なくとも95wt-%のパラフィンを含み、ここで、前記パラフィンの79~95wt-%はイソパラフィンである。再生可能な炭化水素組成物中のパラフィンのwt-%量は、再生可能な炭化水素組成物の総計の重量の、約65wt-%、70wt-%、75wt-%、80wt-%、85wt-%、90wt-%、95wt-%および99wt-%から選択され得る。
【0052】
本発明の組成物のイソパラフィンおよびn-パラフィンは、C8~C30の炭素数を有する。該組成物の特徴は、比較的多い量のC15+の炭素数であり、換言すると、組成物の該イソパラフィンおよびn-パラフィンのうち、85~98wt%、好ましくは90~98wt%がC15~C30の炭素数を有する。
【0053】
好ましい実施形態において、組成物の該イソパラフィンおよびn-パラフィンの炭化水素組成物の総計の重量の少なくとも90wt-%、好ましくは少なくとも94wt-%、より好ましくは少なくとも98wt-%が、C10~C20の炭素数を有し、および同時に、85~98wt%、好ましくは90~98wt%が、C15~C30の炭素数を有する。
【0054】
実験の結果は、EN 15195-2014に従って測定された場合、本発明の組成物は74~84のセタン価を有することが示された。
【0055】
驚くべきことに、これらの良好なセタン価と共に、本発明の再生可能な炭化水素組成物は、ASTM D 5771-2017に従って測定された場合に、-25~-40℃の曇点を有していた。該曇点は、そのような高品質ディーゼルに設定された要件を満たし、および、多種多様なブレンド比におけるブレンド成分としての本発明の再生可能な炭化水素組成物の使用を可能にする。曇点を規定するための代替方法は、ASTM D2500、D5772、D5773、D7689、およびEN 23015による方法である。
【0056】
年間を通じての十分な低温性能はディーゼル燃料における必要不可欠な要件である。季節的および地理的な大きな気温変動に起因して、ディーゼル燃料は、燃料の粘度、その揮発性、および燃料フィルタを通過するためのその能力に影響を与える燃料の結晶化および固化などの寒冷気候のあいだの問題を最小限に抑えるためにブレントおよび調整される。
【0057】
燃料の低温作動性に関連する最も重要な特性は、曇点、流動点、および低温フィルタ目詰まり点である。ディーゼル燃料が冷却されると、曇点に達する。これは、パラフィンワックスが溶液から出てきて、燃料中でワックス結晶を形成し始める温度である。燃料の保管温度は、その曇点よりも高いものであることが推奨されている。燃料がさらに冷却されると、それはやがて流動点に達する。これは、燃料が流動しなくなる温度、または、燃料がゲル化するもしくは固体となる点である。
【0058】
測定された特性として、本発明の再生可能な炭化水素組成物は、EN ISO 12185に従って測定されて、770~790kg/m3である15℃における密度を有する。本発明の炭化水素組成物は、EN ISO 3405に従って測定されて、170℃~360℃の範囲の沸点を有する。
【0059】
本開示の第2の態様において、本明細書において、ディーゼル燃料としてまたはディーゼル燃料成分としての再生可能な炭化水素組成物の使用が提供される。前記使用の実施形態は、再生可能な炭化水素組成物に関連して示された詳細および利点に対応する以下の番号付けされた項目によって特徴付けられ得る。
【0060】
項目1 ディーゼル燃料としてまたはディーゼル燃料成分としての再生可能な炭化水素組成物の使用。
項目2 項目1に記載の使用であって、再生可能な炭化水素組成物が、
炭化水素組成物の総計の重量の30wt%~50wt%である単分岐イソパラフィンであって、単分岐イソパラフィンのそれぞれが正確に1個のアルキル基を含む単分岐イソパラフィン、
合計で炭化水素組成物の総計の重量の40wt%~60wt%である2分岐イソパラフィンおよび3分岐イソパラフィンであって、2分岐イソパラフィンのそれぞれが正確に2個のアルキル基を含み、3分岐イソパラフィンのそれぞれが正確に3個のアルキル基を含む2分岐イソパラフィンおよび3分岐イソパラフィン、
合計で5wt%~15wt%である多分岐イソパラフィンであって、多分岐イソパラフィンのそれぞれが3個より多いアルキル基を含む多分岐イソパラフィン、ならびに
2wt%~20wt%であるn-パラフィン
を含み、
ここで、前記イソパラフィンおよびn-パラフィンは、C8~C30の炭素数を有し、ならびに、前記イソパラフィンおよびn-パラフィンの85~98wt%、好ましくは90~98wt%は、C15~C30の炭素数を有する使用。
項目3 炭化水素組成物の総計の重量に対して少なくとも90wt-%、好ましくは少なくとも94wt-%、より好ましくは少なくとも98wt-%の前記イソパラフィンおよびn-パラフィンが、C10~C30の炭素数を有する、項目1または2に記載の使用。
項目4 60wt%より多い、好ましくは70wt%より多い、最も好ましくは94wt%より多い前記イソパラフィンのβ炭素が、少なくとも1つのアルキル置換基で置換されている、項目1~3のいずれか1項目に記載の使用。
項目5 90wt-%より多い、好ましくは94wt-%より多い、より好ましくは96wt-%より多い、最も好ましくは98wt-%より多い前記アルキル置換基が、メチル置換基およびエチル置換基、好ましくはメチル置換基から選択される、項目1~4のいずれか1項目に記載の使用。
項目6 95wt-%より多い、より好ましくは96wt-%より多い、最も好ましくは97wt-%より多い前記イソパラフィンのβ炭素が、少なくとも1つのアルキル基、好ましくは少なくとも1つのメチル置換基で置換されている、項目1~5のいずれか1項目に記載の使用。
項目7 イソパラフィンの総計のwt-%量に対する単分岐イソパラフィンのwt-%量の比が、0.3~0.9、好ましくは0.35~0.8、およびより好ましくは0.4~0.6である、項目1~6のいずれか1項目に記載の使用。
項目8 84wt-%より多い、好ましくは88wt-%より多い、より好ましくは92wt-%より多い、最も好ましくは97wt-%より多い2分岐、3分岐および多分岐イソパラフィンが、それぞれ、β炭素、(ω-1)炭素またはそれらの組み合わせから選択される位置において、少なくとも2つのメチル置換基で置換されている、項目1~7のいずれか1項目に記載の使用。
項目9 前記組成物の曇点が、ASTM D 5771-2017に従って測定された場合で、-25~-40℃である、項目1~8のいずれか1項目に記載の使用。
項目10 前記組成物のセタン価が、EN 15195-2014に従って測定された場合で、74~84である、項目1~9のいずれか1項目に記載の使用。
項目11 前記組成物の15℃における密度が、EN ISO 12185に従って測定されて、770~790kg/m3の範囲内である、項目1~10のいずれか1項目に記載の使用。
項目12 前記組成物が、EN ISO 3405に従って測定されて、170℃~360℃の範囲の沸点を有する、項目1~11のいずれか1項目に記載の使用。
項目13 前記組成物の芳香族炭化水素の総計の含有量が、炭化水素組成物の総計の重量に関して、1500wt-ppm未満、好ましくは1300wt-ppm未満、より好ましくは500wt-ppm未満である、項目1~12のいずれか1項目に記載の使用。
【0061】
再生可能な炭化水素組成物がディーゼル燃料またはディーゼル燃料成分として使用される場合、ディーゼル燃料またはディーゼル燃料成分は、従来のディーゼルと類似の蒸留特性によって特徴付けられる。したがって、該組成物は、少なくとも150℃、少なくとも160℃または少なくとも170℃の温度で蒸留が開始される。蒸留は、350℃以下、345℃以下または340℃以下で完了され得る。組成物の少なくとも95vol.%が360℃までの温度で蒸留されることが好ましい。EN15940は、ディーゼル燃料の350℃における最小留出量を85vol.%と規定している(試験方法 EN ISO 3405)。本明細書に記載の再生可能な炭化水素組成物は、当業者に公知の任意の手段によって得ることができる。例えば、再生可能な炭化水素組成物は、所定のパラフィン分布を満たすように公知の成分を混合することにより実験室で調製することができる。しかしながら、本発明者らは、有益な異性体特性を有する所望のn-パラフィンおよびイソパラフィン分布が、再生可能な炭化水素組成物を得るための、異性化度および炭素主鎖中のアルキル置換基の位置に関して好ましいプロセスを提供する次に詳細に規定するプロセスから回収される直接的な生成物として得られ得ることを発見した。
【0062】
再生可能な炭化水素組成物を製造するためのプロセス
本開示の別の態様として、本明細書中では、再生可能な炭化水素組成物を製造するためのプロセスが提供される。プロセスは、次で一般的に簡潔に記載され、その後、段階的なプロセスとして記載され、最後にその詳細、部分的なプロセス、およびそこにおける改変が説明される。
【0063】
本発明の再生可能な炭化水素組成物は、例えばオイル/脂肪/グリースなどの再生可能な供給源から、水素化処理工程および異性化工程を含むプロセスにより製造され得る。特に前記プロセスは、トリグリセリド、脂肪酸および脂肪酸誘導体またはそれらの組み合わせを含む出発材料のn-パラフィンへの変換、および、得られたn-パラフィンを異性化を用いて分岐アルカンへと変換することに関する。典型的には、水素化処理工程は、新鮮なフィードおよび少なくとも1つの希釈剤を含むフィードを水素化処理条件下で水素化処理触媒と接触させることによって行われ、および、次いで、得られた生成物が、異性化条件下で異性化触媒を用いて異性化される。特定の実施形態において、水素化処理および異性化は本質的に同時に行われてもよい。
【0064】
段階的プロセスとして示される場合、本開示の再生可能な炭化水素組成物を製造するためのプロセスは、
再生可能なフィードストックを提供する工程;
フィードストックを水素化処理および水素異性化反応に付す工程であって、前記水素異性化反応の条件が
モレキュラーシーブおよび貴金属触媒を含む触媒システム;
200~500℃、例えば280~400℃、例えば280~370℃、好ましくは300~370℃、例えば340~370℃の温度;
を含む工程;ならびに
添付の請求項においてより詳細に規定される、再生可能な炭化水素組成物の回収
を含む。
【0065】
生物学的起源のフィードストック
生物学的起源のフィードストック、すなわち再生可能なフィードストックとは、生物学的原料由来のフィードストックを指す。
【0066】
本発明のプロセスにおいて新鮮なフィードとして使用されるオイル、グリースおよび/または脂肪は、再生可能な供給源、例えば植物および/または野菜および/または動物および/または魚および/または藻類および/または微生物プロセスからの脂肪およびオイルおよびそれらに由来する化合物からの脂肪およびオイル(通常、脂肪酸またはグリセリドなどの脂質を含む)などを起源とする。フィードストックとして有用である典型的な植物または野菜または動物のオイル/脂肪/グリースの基本構造単位はトリグリセリドであり、これはグリセロールの3個の脂肪酸分子とのトリエステルである。
【0067】
適切な植物および野菜のオイル、グリースおよび脂肪、動物脂肪、魚油、およびそれらの混合物は、脂肪酸および/または脂肪酸エステル(モノ、ジ、およびトリグリセリドを含む)を含む。植物および/または野菜のオイルおよび/または微生物オイルとしては、ババス油、カリナタ油、大豆油、カノーラ油、ココナッツ油、菜種油、粗トール油(CTO)、トール油(TO)、トール油脂肪酸(TOFA)、トール油ピッチ(TOP)、パーム油(PO)、パーム油脂肪肪酸蒸留物(PFAD)、ジャトロファ油、パーム核油、ヒマワリ油、ヒマシ油、カメリナ油、古細菌油、細菌油、真菌油、原生動物油、藻類油、海藻油、好塩菌からの油、およびそれらの任意の2つ以上の混合物などが挙げられる。これらの油は、前処理のレベルならびに残渣のリンおよび金属の含有量に基づいて、粗製、脱ガム、およびRBD(精製され、漂白され、および脱臭された)グレードとして分類され得る。動物脂肪および/またはオイルとしては、非食用獣脂、食用獣脂、工業的獣脂、浮上分離獣脂、ラード、鶏脂、鶏油、魚脂、魚油、およびそれらの任意の2つ以上の混合物などが挙げられる。グリースとしては、イエローグリース、ブラウングリース、廃棄植物油、レストラン用グリース、例えば水処理施設などの自治体からのトラップグリース、および工業的加工食品業からの使用済み油、およびそれらの任意の2つ以上の混合物などが挙げられる。
【0068】
生物学的起源のオイル、グリースおよび/または脂肪は、単一種類のオイル、単一種類のグリース、単一種類の脂肪、種々のオイルの混合物、種々のグリースの混合物、種々の脂肪の混合物、オイル、グリースおよび脂肪の混合物、脂肪酸、グリセロール、および/または前述の混合物を含み得る。典型的には、廃棄物および残渣材料が使用される場合、それらは複数の成分の混合物を含む。
【0069】
新鮮なフィードとして適切なオイル、グリースおよび脂肪は、典型的には、C12~C24の脂肪酸および脂肪酸のエステル、グリセリドすなわち脂肪酸のグリセロールエステルを含むその誘導体を含む。グリセリドとしては、具体的には、モノグリセリド、ジグリセリドおよびトリグリセリドが挙げられ得る。脂肪酸または例えばエステルなどの脂肪酸誘導体は、オイル、グリースおよび/または脂肪の加水分解を介して、または、トリグリセリドの分留もしくはトランスエステル化反応によって製造され得る。
【0070】
多くの場合において、フィードストック、粗植物油または動物脂肪などは、高い不純物含量によりそのままでは処理に適さず、従って、フィードストックは、好ましくは、プロセスの水素化処理工程にそれを導入する前に、好適には1またはそれ以上の従来の精製手法を用いて精製される。いくつかの従来の手法の例は、植物オイル/脂肪および動物オイル/脂肪の脱ガム、精製、漂白、予備水素化、またはそれらの組み合わせを含む。
【0071】
前処理のレベルに依存して、脂肪、グリースおよびオイルは少しの量の不純物を含み得る。触媒の不活性化および望ましくない副反応を避けるために、フィードは、以下の要件:30w-ppm未満、好ましくは15w-ppm未満、および最も好ましくは5w-ppm未満のリン、ならびに、10w-ppm未満、好ましくは5w-ppm未満、および最も好ましくは1w-ppm未満の総計の金属(主にナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、鉄、銅)一部、好ましくはすべてに適合すべきである。
【0072】
再生可能な炭化水素組成物を製造するためのプロセスは、新鮮なフィードが5%-volより多い遊離脂肪酸、およびさらには10%-volより多い遊離脂肪酸を含む場合に特に有利である。従って、顕著な量の遊離脂肪酸を含む天然の脂肪およびオイルもまた、遊離脂肪酸の除去なしに処理され得る。
【0073】
以下では、水素化処理工程および水素異性化工程、またはそれらの組合せを含む本発明のプロセスにおいて任意に適用可能ないくつかのプロセスの詳細がより詳細に説明される。
【0074】
水素化処理
本発明において、脱酸素化の方法は特に限定されず、および任意の適切な方法が適用され得る。例えば、好適な方法としては、例えば水素化脱酸素(HDO)、接触脱酸素化(接触HDO)、接触分解(CC)などの水素化処理、またはこれらの組み合わせが挙げられる。他の適切な方法としては、単独または水素化処理と組み合わされた、脱炭酸反応および脱カルボニル反応が挙げられる。
【0075】
水素化処理は、典型的には、再生可能なフィードストックに含まれる脂肪酸、脂肪酸誘導体、および/またはグリセリドの脱酸素、脱窒素、および脱硫の処理として機能する。水素は、水の形態で有機酸素化合物から酸素を除去すること、硫化二水素(H2S)の形態で有機硫黄化合物から硫黄を除去すること、アンモニア(NH3)の形態で有機窒素化合物から窒素を除去すること、有機ハロゲン化合物からハロゲンを、例えば塩酸(HCl)の形態で塩素を除去することに寄与する。さらに、再生可能なフィードストックは、脱炭酸反応および脱カルボニル反応(すなわち、COxの形態での酸素の除去)に付されてもよい。本発明のプロセスにおいて新鮮なフィードとして使用されるオイル、グリース、および/または脂肪では、最も妥当な反応は、脂肪構造からの酸素ヘテロ原子の除去であり、それゆえ、主にn-パラフィンを形成する水素化脱酸素である。
【0076】
一実施形態において、水素化処理は、水素化脱酸素(HDO)、または接触脱酸素化(接触HDO)である。水素化処理は、好ましくは、1~15、2~12MPa、好ましくは3~10MPaの範囲から選択される圧力、および、200~400℃、好ましくは250~380℃、より好ましくは280~360℃の範囲から選択される温度で行われる。水素化処理は、周期表システムのVIII族および/またはVIB族からの金属を含む公知の水素化処理触媒の存在下で行われ得る。好ましくは、水素化処理触媒は、担持されたPD、Pt、Ni、NiMoまたはCoMo触媒であり、担体は、例えばフィンランド国特許発明第100248号明細書に記載されているような、アルミナおよび/またはシリカである。水素化脱酸素のための典型的な触媒の例は、アルミナまたはシリカに担持された、例えばNiMo、CoMo、CoNiMo、またはNiW触媒などのモリブデン含有触媒である。水素化脱酸素は、好ましくは、水素ガスの存在下、硫化NiMoまたは硫化CoMoまたはNiW触媒の影響下で行われる。典型的には、NiMo/Al23およびCoMo/Al23触媒が使用される。プロセスは、任意的なリアクター構成により、触媒床上での上述の反応および副反応形成から生じる温度上昇を制御して実施され得る。そして、水素化処理セクションは、連続した1または複数の触媒床、最初の触媒床の上部の希釈剤導入、および各触媒床の上部の新鮮なフィード、リサイクル液体および水素導入を備える。触媒床は同じ圧力容器内に配置されてもよく、また各床を別個の圧力容器内に配置することもできる。水素は化学量論的水素消費量を超えて供給され、および、フィードストックは各触媒床内で完全にまたはほぼ完全に変換される。これらの手法を用いることで、有害な部分的に変換された生成物中間体が回避され、反応開始に必要な温度が各触媒層の初期に達成され、反応熱の上昇が触媒床中で制御され、および、触媒寿命が顕著に改善される。
【0077】
トリグリセリドの水素化脱酸素は、制御されていない分解とは逆に、トリグリセリド分子の制御された分解を促進する。二重結合もまた、制御された水素化処理の間に水素化される。生成した軽質炭化水素およびガス、主にプロパン、水、CO2、CO、H2SおよびNH3は、水素化処理された生成物から除去される。
【0078】
水素化処理反応において生成したn-パラフィンの少なくとも一部は異性化へと付される。
【0079】
水素異性化
プロセスの異性化では、異性化反応が炭化水素鎖の分岐を導く。異性化条件の厳しさおよび触媒の選択が、形成されるメチル分岐の量および炭素骨格におけるそれらの互いからの距離を制御し、および、それによって、製造される再生可能な炭化水素組成物の例えば低温特性などの特性を制御する。
【0080】
本発明の再生可能な炭化水素組成物は、i-パラフィンを形成するため、および再生可能な炭化水素組成物を製造するために、水素化処理工程において形成されたn-パラフィンの少なくとも一部または全部を異性化処理に付すことによって提供され得る。好ましくは、再生可能なフィードストックから水素化処理工程において形成されたn-パラフィンを異性化処理に付すことは、主にメチル置換イソパラフィンを形成する。異性化工程は、例えば精製工程および/または分留工程などのさらなる中間工程を含んでいてもよい。精製工程および/または分留工程は、形成される再生可能な炭化水素組成物の特性のより良好な制御を可能にする。
【0081】
ある実施形態において、水素化処理工程で形成されたn-パラフィンの一部のみが異性化処理に付される。水素化処理工程で形成されたn-パラフィンの一部が分離され得、分離されたn-パラフィンがその後、i-パラフィンを形成するために異性化処理に付され得る。異性化処理に付された後、分離されたパラフィンは任意には残りのパラフィンと再統合される。代替的には、水素化処理工程で形成されたn-パラフィンの全てが、i-パラフィンを形成するために異性化処理に付されてもよい。
【0082】
異性化処理は、再生可能な炭化水素組成物のパラフィンを異性化するために主に役立つ工程である。大部分の熱的または触媒的変換(例えば水素化処理およびHDOなど)は、わずかな程度の異性化(通常、5wt-%未満)を結果としてもたらすが、本発明において適用される異性化工程は、再生可能な炭化水素組成物のイソパラフィン含有量における顕著な増加を導く工程である。分留および/または生成物の安定化の後、本発明の再生可能な炭化水素組成物は、2wt%~20wt%のn-パラフィンのみを含み得る。典型的には、炭素数分布は、異性化処理中に実質的に変化しない。従って、C3~C14の炭素数の範囲内のパラフィンのwt-%量は、異性化処理の過程で実質的に増加しない。これは、C15~C30の炭素数を有するイソパラフィンの異性化のあいだにおける軽質炭化水素への損失が最小であることを意味するため好ましい。
【0083】
再生可能な炭化水素組成物中のイソパラフィン含有量およびイソパラフィンの種類(分岐の数、位置および炭素数)は、異性化処理;例えば触媒、温度、圧力、滞留時間、触媒年齢、および異性化プロセスにおいて添加される水素量などによって主に制御される。ある実施形態において、再生可能な炭化水素組成物を提供することは、異性化処理から得られた再生可能な炭化水素組成物を分析すること、および、分析結果に基づいて、上述した要件を満たす再生可能な炭化水素組成物を選択することを含む。
【0084】
好ましくは、再生可能な炭化水素組成物を分析することは、再生可能な炭化水素組成物中のパラフィンのwt-%を決定すること、再生可能な炭化水素組成物中のイソパラフィンのwt-%を決定すること、再生可能な炭化水素組成物中のイソパラフィンの総計のwt-%量に対する、モノイソパラフィンのwt-%量の比を決定すること、および、再生可能な炭化水素組成物中のイソパラフィンの炭素数分布を決定することを含む。再生可能な炭化水素組成物を分析することは、再生可能な炭化水素組成物中のn-パラフィンのwt-%を決定すること、および/または、単分岐イソパラフィン、2分岐および3分岐イソパラフィン、および3個より多くの分岐を有するイソパラフィンの重量パーセントをそれぞれ決定することをさらに含む。パラフィン、イソパラフィン、n-パラフィン、ならびに、単分岐イソパラフィン、2分岐イソパラフィンおよび3分岐イソパラフィン、および3個より多い分岐を有するイソパラフィンの重量パーセントは、任意の適切な方法、例えば実施例に記載の分析方法などのGC-FID分析を例えば使用して決定され得る。
【0085】
製造プロセスにおいて、異性化リアクターへのフィードは、種々の炭素鎖長であるn-パラフィンの混合物であり、および、その組成は個々のオイル/脂肪/グリースの脂肪酸分布から予測され得る。
【0086】
異性化工程は、任意的なストリッピング工程を含んでいてもよく、ここで、水素化処理工程からの反応生成物は、水蒸気または例えば軽質炭化水素、窒素もしくは水素などの適切なガスによってストリッピングすることにより精製され得る。任意的なストリッピング工程は、ガスおよび液体が互いに接触される、異性化触媒の上流のユニットにおいて向流方式で行われる、または、向流原理を利用して別個のストリッピングユニット中で実際の異性化反応器の前で行われる。
【0087】
好ましくは水素異性化による異性化工程において、温度は、200~500℃、例えば280~400℃、例えば280~370℃、例えば300~370℃、例えば340~370℃の間で変えられる。特定の実施形態において、水素異性化は、300℃以上の温度、好ましくは300~370℃、例えば340~370℃で行われる。反応条件はさらに、2~15MPaの範囲、好ましくは2~10MPaのあいだの圧力;0.5~3h-1の範囲のWHSV、100~800nl H2/lフィードの範囲のH2フロー、またはそれらの組合せを含み得る。
【0088】
水素異性化触媒システム
異性化は、例えば、担体に担持された第VIII族金属を含む1または複数の触媒の存在下で行われ、ここで担体は、シリカ、アルミナ、クレー、酸化チタン、酸化ホウ素、ジルコニアから選択され、これらは単独でまたはそれらの混合物として使用され得、好ましくはシリカおよび/またはアルミナである。水素異性化触媒は、SAPO-11またはSAPO-41またはZSM-22またはZSM-23またはフェルネライト、および、Pt、PdまたはNiおよびAl23またはSiO2を含み得る。
【0089】
典型的な異性化触媒としては、例えば、Pt/SAPO-11/Al23、Pt/ZSM-22/Al23、Pt/ZSM-23/Al23、Pt/SAPO-11/SiO2などが挙げられる。触媒は単独または組み合わせて使用され得る。触媒の不活性化を低減するために、添加された水素の存在が特に好ましい。好ましい実施形態において、異性化触媒は、例えばPt-SAPOおよび/またはPt-ZSM-触媒などの貴金属二官能性触媒であり、これは水素と組み合わされて使用される。特に好ましい組み合わせは、Pt/SAPO-11/Al23を含む。
【0090】
特定の再生可能な炭化水素組成の形成は、脱水素化-水素化活性のための貴金属と、水素異性化活性に寄与するプロトンを形成するモレキュラーシーブとの両方を有する触媒システムの二官能性特性で説明され得る。反応温度が上昇すると、脱水素化-水素化平衡は脱水素化活性にシフトされる。これは、パラフィン活性化の開始およびカルベニウムイオン形成の促進を可能にする。カルベニウムイオンは、モレキュラーシーブ触媒のブレンステッド酸部位でさらに異性化される。異性化されたカルベニウムイオンは、イソパラフィンへと水素化される。脱水素化の増大が、より高い反応温度での増大された異性体収率の原因である。しかしながら、水素は、飽和イソパラフィンをもたらすためのカルベニウムイオン(異性化されていないものおよび異性化されたものの両方)の飽和に十分である。
【0091】
特定の実施形態において、水素化脱酸素工程および異性化工程の両方が、同じ反応器中、およびさらには同じ反応器床中で実施され得る。水素異性化触媒は、例えばPt含有の市販の触媒(例えばPt-SAPOもしくはPt-ZSM-触媒など)などの貴金属二官能性触媒、または、例えばNiWなどの例えば非貴金属触媒であり得る。水素化脱酸素工程および水素異性化工程は、水素化脱酸素および異性化の両方において、例えばNiW触媒などを使用して、同一の触媒床中で行われ得る。
【0092】
本発明者らは、触媒が、最小限度のある期間該反応条件下にあった場合にのみ、プロセス中における増大された異性体含有量が達成され得ることを発見した。触媒は、水素異性化プロセスにおいて「熟成(aged)」される。換言すると、本明細書において定義される所望の再生可能な炭化水素組成物は、「新鮮な触媒(fresh catalyst)」を用いては得られことができないと考えられる。該「新鮮な触媒」は、触媒プロセスに新たに導入された(0時点での)触媒を定義するために当該分野において使用される用語である。具体的には、単分岐、2分岐および3分岐および多分岐のイソパラフィンを含むn-パラフィンの所望の分布を生成するためには、反応条件は、少なくとも4日間、好ましくは8日間、より好ましくは10日間、水素化処理条件にあった、モレキュラーシーブおよび貴金属触媒を含む触媒システムを必要とする。
【0093】
これに対応して、多段階プロセスの直接的な生成物として、炭化水素組成物の総計の重量の30wt%~50wt%である単分岐イソパラフィンであって、単分岐イソパラフィンのそれぞれが正確に1個のアルキル基を含む単分岐イソパラフィン、合計で炭化水素組成物の総計の重量の40wt%~60wt%である2分岐イソパラフィンおよび3分岐イソパラフィンであって、2分岐イソパラフィンのそれぞれが正確に2個のアルキル基を含み、3分岐イソパラフィンのそれぞれが正確に3個のアルキル基を含む2分岐イソパラフィンおよび3分岐イソパラフィン、合計で5wt%~15wt%である多分岐イソパラフィンであって、多分岐イソパラフィンのそれぞれが3個より多いアルキル基を含む多分岐イソパラフィン、ならびに、2wt%~20wt%であるn-パラフィンを含み、ここで、前記イソパラフィンおよびn-パラフィンは、C8~C30の炭素数を有し、ならびに、前記イソパラフィンおよびn-パラフィンの85~98wt%、好ましくは90~98wt%がC15~C30の炭素数を有する再生可能な炭化水素組成物が回収され得る。
【0094】
実験の結果は、再生可能な炭化水素組成が、触媒が熟成され、およびそれによって異性化反応温度を上昇させることのできるプロセス条件から得られていることが確認された。
【実施例
【0095】
再生可能な炭化水素組成物は、生物学的起源のオイルおよび脂肪または廃棄物材料を含むフィードストックが水素化脱酸素反応および水素異性化反応に付されるプロセスによって製造された。触媒システムは、SAPO-11モレキュラーシーブおよびPt触媒の組み合わせを含んでいた。サンプルは、触媒システムが少なくとも4日間、典型的には10日間より長い間、前記反応プロセスおよび条件にあった連続プロセスから収集された。水素異性化反応条件は、さらに、約340℃の温度を含んでいた。
【0096】
再生可能な炭化水素組成のサンプルは、曇点(ASTM D 5771-2017による)およびセタン価(EN 15195-2014による)について分析された。
【0097】
再生可能な炭化水素組成物のサンプルは、ガスクロマトグラフィー(GC)によって分析された。再生可能な炭化水素組成物のサンプルは、そのままで、いかなる前処理もなしで分析された。この方法は、C2~C36の炭化水素に適している。非常に低い特定のイソパラフィン含量量をもつため、検出は、特定の炭素数内での種々のイソパラフィンタイプ間を区別するためには必ずしも十分ではなかったため、代わりに総計のイソパラフィン含有量として示された。n-パラフィンおよびイソパラフィンのグループ(C1-、C2-、C3-置換であり、かつ≧C3-置換)は、質量分析およびC2~C36の範囲の既知のn-パラフィンの混合物を使用して同定された。クロマトグラムは、n-パラフィンのピーク直後のクロマトグラムのベースラインにグループを組み込むことにより、3つのグループのパラフィン(C1-、C2-/C3-および≧C3-置換イソパラフィン/n-パラフィン)に分割された。n-パラフィンは、n-アルカンのピークを谷から谷へ接線方向に積分することにより≧C3-置換イソパラフィンから分離され、そして、化合物または化合物群は、すべての炭化水素に対する相対応答係数1.0を用いて正規化することで定量した。個々の化合物の定量限界は0.01wt-%であった。GCの設定を表1に示す。
【0098】
【表1】
【0099】
再生可能な炭化水素組成物中のn-パラフィンおよびイソパラフィンの重量パーセントがガスクロマトグラフィーによって測定され、および、1つのサンプルについての該値が例として表2に示されている。このサンプルは、触媒システムが該反応プロセスにおいて少なくとも10日間使用されていた連続プロセスから採取された。炭素数C11以上のパラフィンについて、再生可能な炭化水素組成物中のパラフィンの総計の重量に基づいて、n-パラフィン、単分岐i-パラフィン、2分岐および3分岐のi-パラフィン、ならびに3個より多くの分岐を有するi-パラフィンのwt-%量が測定された。このサンプルのASTMD7689-17に従って測定された曇点は、-36.4℃、およびEN 15195-2014に従って測定されたセタン価は、82.3であった。他のサンプルも同様に特徴付けられた。
【0100】
【表2】
【0101】
各サンプルのパラフィン系炭化水素の分布がガスクロマトグラフィーによって分析され、そして、結果が図1および2に示されている。図1は、炭化水素の曇点の関数としての炭化水素組成物の量を示している。図から、異性化度が高くなると、試料の曇点が低下し、および、n-パラフィンの量が減少することがわかる。異性化度の増加に伴い、1つのメチル分岐の炭化水素、したがって単分岐イソパラフィンの量が減少し、および、多分岐炭化水素の量が増加する。
【0102】
図2に、セタン価の関数としての炭化水素組成のパラフィン系分布が示されている。異性化度が高くすると、セタン価が低下し、多分岐炭化水素の量が増加し、ならびに単分岐イソパラフィンおよびn-パラフィンの量が減少する。
【0103】
曇点およびセタン価の両方を調整する場合(図3)、炭素数および置換基数に関する特定の分布が、必要とされる特性すなわち良好な低温特性および良好なセタン価を達成するために必要とされる。
【0104】
様々な実施形態が提示されている。本明細書において、含む(comprise)、含む(include)、および含む(contain)との語は、それぞれ、排他性を意図しないオープンエンドな表現として使用されていることが理解されるべきである。
【0105】
上述の説明は、特定の実施および実施形態の非限定的な例によって、本発明を実施するために本発明者らによって現在考えられているベストモードの完全および有益な説明を提供した。しかしながら、本発明は、上記に示した実施形態の詳細に限定されるものではなく、本発明の特徴から逸脱することなく、同等の手段を用いて他の実施形態において、または実施形態の種々の組み合わせにおいて実施できることは、当業者にとって明らかである。
【0106】
さらに、上記で開示された例示的な実施形態の特徴のいくつかは、他の特徴の対応する使用なしに有利に使用され得る。このように、上記説明は、本発明の原則の単なる例示として考えられるべきものであり、それを限定するものではない。したがって、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ制限される。
図1
図2
図3
【国際調査報告】