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特表2023-548659細胞懸濁液への組織の処理のための一体化された微小流体システム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-20
(54)【発明の名称】細胞懸濁液への組織の処理のための一体化された微小流体システム
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/08 20060101AFI20231113BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20231113BHJP
   C12M 3/06 20060101ALI20231113BHJP
【FI】
C12M3/08
C12M1/00 A
C12M3/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023521720
(86)(22)【出願日】2021-10-11
(85)【翻訳文提出日】2023-06-07
(86)【国際出願番号】 US2021054440
(87)【国際公開番号】W WO2022081488
(87)【国際公開日】2022-04-21
(31)【優先権主張番号】63/090,497
(32)【優先日】2020-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】592110646
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ハウン,ジェレッド
(72)【発明者】
【氏名】ロンバルド,ジェレミー エイ.
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA09
4B029BB11
4B029CC01
4B029GB05
4B029HA10
(57)【要約】
組織試料を処理するための微小流体システムは、解離/濾過デバイスの入口に流体連結された出口を有する微小流体消化デバイスを含む。微小流体消化デバイスは、入口および出口ならびに複数の上流流体チャネルおよび複数の下流流体チャネルに連結する組織チャンバーを含む。微小流体解離/濾過デバイスは、入口、第1の出口、第2の出口、ならびにその長さに沿って配置された複数の拡大および縮小の領域を有する複数の分岐した解離チャネルを含み、1つまたは複数のフィルターが複数の分岐した解離チャネルの下流の流路に配置されている。消化デバイスおよび解離/濾過デバイスを通して緩衝剤および/または酵素を含む流体を送液するポンプが備えられている。組織は最初に消化デバイスで処理され、次いで解離/濾過デバイスに通過する。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入口および出口ならびに前記入口と前記出口との間に画定された流路を含み、前記流路が、組織試料を保持するように構成された組織チャンバーならびに前記流路の前記入口側において前記組織チャンバーと連通する複数の上流流体チャネルおよび前記流路の前記出口側において前記組織チャンバーと連通する複数の下流流体チャネルを含む、微小流体消化デバイス、
緩衝剤を含む流体および/または酵素を含む流体を前記微小流体消化デバイスの前記入口に送液するように構成された第1のポンプ、
入口、第1の出口、第2の出口、および前記入口と前記出口との間に画定された流路を含み、前記流路がその長さに沿って配置された複数の拡大および縮小の領域を有する複数の分岐した解離チャネルを含み、前記複数の分岐した解離チャネルの下流の流路に1つまたは複数のフィルターが配置されている、微小流体解離/濾過デバイス、
緩衝剤を含む流体またはその他の流体を前記微小流体解離/濾過デバイスの前記入口に送液するように構成された第2のポンプ
を含む、前記組織試料を処理するための微小流体システムであって、
前記微小流体消化デバイスの前記出口が前記微小流体解離/濾過デバイスの前記入口に流体連結されている、微小流体システム。
【請求項2】
前記微小流体消化デバイスの前記出口と前記微小流体解離/濾過デバイスの前記入口との間に介在する1つまたは複数のバルブをさらに含む、請求項1に記載の微小流体システム。
【請求項3】
前記第1の出口が前記第1の出口を閉じるためのバルブまたはキャップを含み、前記微小流体解離/濾過デバイスの前記第1の出口が閉じられた場合に、流体が流体を前記1つまたは複数のフィルターを含む流路を通って流れさせる、請求項1に記載の微小流体システム。
【請求項4】
前記第2の出口が前記第2の出口を閉じるためのバルブまたはキャップを含み、前記微小流体解離/濾過デバイスの前記第2の出口が閉じられた場合に、流体が前記1つまたは複数のフィルターを通過することなく、前記第1の出口を介して前記微小流体解離/濾過デバイスを流出する、請求項1に記載の微小流体システム。
【請求項5】
前記1つまたは複数のフィルターが、約50~100μmの範囲内の孔径を有する第1のフィルターおよび約15~50μmの範囲内の孔径を有する第2のフィルターを含む、請求項1に記載の微小流体システム。
【請求項6】
前記上流流体チャネルの数が前記下流流体チャネルの数と等しい、請求項1に記載の微小流体システム。
【請求項7】
前記上流および下流の流体チャネルが約250μm~750μmの範囲内の幅を有する、請求項6に記載の微小流体システム。
【請求項8】
前記微小流体消化デバイスに配置され前記組織チャンバーと連通するポートをさらに含む、請求項1に記載の微小流体システム。
【請求項9】
前記組織試料を前記微小流体消化デバイスの前記組織チャンバーに負荷するステップ、
前記緩衝剤を含む流体および/または酵素を含む流体を前記微小流体消化デバイスの前記入口に前記第1のポンプによって送液するステップ、
処理された組織試料を含む流体を前記微小流体解離/濾過デバイスに移送するステップ、
緩衝剤を含む流体またはその他の流体を前記微小流体消化デバイスからの前記処理された組織とともに前記第2のポンプによって前記微小流体解離/濾過デバイスの前記入口に送液するステップ、ならびに
前記微小流体解離/濾過デバイスの前記第2の出口から流出液を収集するステップ
を含む、請求項1に記載の微小流体システムを使用する方法。
【請求項10】
前記緩衝剤を含む流体および/または酵素を含む流体を前記微小流体消化デバイスの前記入口に前記第1のポンプによって送液するステップが、流体を前記微小流体消化デバイスに前記第1のポンプによって再循環するステップを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記酵素を含む流体がコラーゲナーゼを含む流体を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記緩衝剤を含む流体および/または酵素を含む流体の前記微小流体消化デバイスの入口への送液が、流出液がそれぞれのインターバルの終わりに前記微小流体消化デバイスから除去され、代替の酵素を含む流体が前記微小流体消化デバイスに送液されるインターバルで実施される、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記微小流体消化デバイスおよび前記微小流体解離/濾過デバイスにおける全処理時間が1分またはそれ以上である、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記微小流体消化デバイスおよび前記微小流体解離/濾過デバイスにおける全処理時間が15分またはそれ以上である、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記微小流体消化デバイスからの前記処理された組織が、前記第2の出口から出る前に、前記微小流体解離/濾過デバイスの中の前記複数の分岐した解離チャネルを通って複数回再循環される、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
前記微小流体解離/濾過デバイスが単一のフィルターを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項17】
前記微小流体解離/濾過デバイスが複数のフィルターを含む、請求項9に記載の方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、参照により本明細書に組み込まれる2020年10月12日出願の米国仮特許出願第63/090,497号の優先権を主張する。優先権は、35 U.S.C.第119条および適用可能な他の任意の法規に従って主張する。
【0002】
本技術分野は、組織検体または組織試料を細胞懸濁液に処理するために用いられる微小流体デバイスに関する。
【0003】
連邦支援の研究開発に関する声明
本発明は国立科学財団(National Science Foundation(NSF))によって授与されたグラント番号IIP-1362165の下の政府の援助によってなされた。政府は本発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0004】
組織は、多様な細胞サブタイプを含む高度に複雑なエコシステムである。活性化状態、遺伝的変異、遺伝子外の差異、確率論的事象、および微小環境因子における相違によって、所与のサブタイプの中で顕著な変動が生じることもある。このことは、細胞の不均一性を捕捉し、それにより、組織および器官の発達、正常な機能、および疾患の病因に関するより良い理解を得ることを試みる研究の急速な発展をもたらした。たとえば、がんに関して、腫瘍内不均一性は疾患の進行、転移、および薬物耐性の発現の重要な指標である。フローサイトメトリー、マスサイトメトリー、および単一細胞RNAシーケンシング(scRNA-seq)等の高スループット単一細胞解析法は、分子情報に基づく包括的な様式で単一細胞を同定するために理想的であり、これらの方法は既に、これまで未知であった細胞の型および状態の同定を可能にすることによって、複雑な組織に関する我々の理解を変換し始めている。
【0005】
しかし、これらの努力に対する重大な障壁は、最初に組織を単一細胞の懸濁液に処理する必要があることである。現在の方法には、細切、消化、脱凝集、および濾過が含まれ、これらは労働集約的であり、時間がかかり、非効率であり、極めて変わりやすい。したがって、組織についての単一細胞解析法の信頼性および広範囲の採用を保証するには、新規なアプローチおよび技術が極めて必要とされている。これは単一細胞診断を臨床状況におけるヒトの検体に置き換えるために特に重要であろう。さらに、組織の解離を改善することによって、エクスビボ薬物スクリーニング、操作された組織の構築、および幹/前駆細胞療法のための初代細胞の抽出がより迅速かつ容易になるであろう。薬物試験を個別化するために複雑な天然の組織の再現を目指す患者由来のオーガンオンチップ(organ-on-a-chip)モデルは、組織の解離を改善することによって可能になり得る特に刺激的な将来の方向である。
【0006】
scRNA-seqは、個別の細胞の完全なトランスクリプトームを提供する強力で広範囲に適合する解析手法として最近出現した。これによって、正常および疾患の組織についての包括的な細胞参照マップまたはアトラスの生成、ならびにこれまで未知であった細胞のサブタイプまたは機能的状態の同定が可能になった。たとえば、正常マウスの腎について最近生成されたアトラスによって、過渡的な表現型および予期しないレベルの細胞可塑性を有する新規な集合管細胞が発見された。さらに、初代ヒト乳房上皮のアトラスによって独特の上皮細胞集団が既知の乳がんサブタイプに関連付けられ、これらのサブタイプが異なる起源細胞から発現している可能性が示唆された。黒色腫については、転写として区別される3つの状態がscRNA-seqを用いて同定され、その1つは薬物感受性であり、計算によって最適化された治療スケジュールを用いて薬物耐性が遅延できることがさらに実証された。scRNA-seqは明らかに強力な診断手段であるが、組織を破壊して単一細胞にする機械的プロセスは、データの品質および信頼性に悪い影響を与える複雑な要因を導入する可能性がある。1つの要因は標準化の欠如であり、これは様々な研究グループおよび組織型にわたって実質的な変動をもたらす可能性がある。もう1つの顕著な懸念は、不完全な破壊が、より遊離しやすい細胞型へ結果を偏らせる可能性である。マウス腎試料を用いる単一核RNAシーケンシング(snRNA-seq)を利用した最近の研究によって、内皮細胞およびメサンギウム細胞がscRNA-seqデータの中で少なく見積もられていたことが見出された。最後に、長時間の酵素消化によって、トランスクリプトームのシグネチャーが変化し、応力応答が発生し、これらが細胞の分類に干渉することが示されている。これらの懸念に対処することは、scRNA-seqの刺激的な分野を組織のアトラス作成および疾患の診断のための未来に推進することの助けになるであろう。
【0007】
微小流体技術は、デバイスを細胞試料のスケールに小型化し、試料の正確な操作を可能にすることによって、生物学および医学の分野を発展させてきた。この仕事の大部分は単一細胞の操作および解析に注力されてきた。少数の研究のみが組織の処理に対処しており、さらに少ない研究が組織をより小さな成分に破壊することに注力している。たとえば、細胞凝集物を単一細胞に破壊することに特に注力した微小流体デバイスが開発されてきた。この解離デバイスは、サイズが約100μmまで徐々に減少する分岐したチャネルのネットワークを含み、剪断力を用いて凝集物を破壊するための繰り返し拡大縮小を含んでいた。そのようなデバイスに関する詳細は、Qiu,X.ら、Microfluidic device for mechanical dissociation of cancer cell aggregates into single cells,Lab Chip 15,339-350(2015)およびQiu,X.ら、Microfluidic channel optimization to improve hydrodynamic dissociation of cell aggregates and tissue,Nat.Sci.Reports 8,2774(2018)で見出すことができる。
【0008】
次いで、剪断力とタンパク質分解酵素の組合せを用いるオンチップ組織消化のためのデバイスが開発された。最後に、大きな組織断片を除去する一方、小さな細胞凝集物およびクラスターも解離させるナイロンメッシュ膜を含むフィルターデバイスが開発された。Qiu,X.ら、Microfluidic filter device with nylon mesh membranes efficiently dissociates cell aggregates and digested tissue into single cells,Lab Chip 18,2776-2786(2018)を参照されたい。微小流体消化、解離、およびフィルターデバイスは、独立に操作した場合にそれぞれ単一細胞の回収を増強した。しかし現在までに、これらの技術は、性能を最大化し、チップ上の完全な組織処理のワークフローを実行するように組み合わされていない。さらに、scRNA-seqを用いる微小流体処理された細胞懸濁液のバリデーションはなかった。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
一実施形態では、分解を増強し、下流の単一細胞解析およびその他の使用のために即時使用可能な単一細胞懸濁液を産生する3つの異なる組織処理技術(消化、脱凝集、および濾過)を含む微小流体プラットフォームまたはシステムが開示される。最初に、システムは、細切した組織を負荷し、使用者との最小の相互作用で操作することができる消化デバイスを使用する。次に、消化デバイスに流体連結された別個のデバイスで、組織の解離および濾過の技術が単一のユニットに一体化されまたは組み合わされる。2デバイスのプラットフォームは、マウス腎を用いて単一細胞を従来法より迅速かつ多数で産生するように最適化された。最適化されたプロトコルを用い、2つの単一細胞解析法を用いて様々な細胞型を評価した。マウスの腎および乳腺腫瘍の組織については、微小流体処理は、生存率に影響することなく、約2.5倍多い上皮細胞および白血球、ならびに5倍を超える内皮細胞を産生することができる。scRNA-seqを用いて、デバイスによって処理された試料は内皮細胞、線維芽細胞、および基底上皮が高度に富化されていることが示された。応力応答はいずれの細胞型においても誘起されず、短い処理時間を採用すれば低減さえできることも実証された。マウスの肝および心臓については、わずか15分後に、また1分の短時間でも顕著な数の単一細胞が得られた。興味あることに、離散した間隔で試料を回収した場合に実質的により多くの肝細胞および心筋細胞が得られることが見出され、これはおそらくこれらの細胞型が剪断力に影響されやすいためであろう。重要なことに、微小流体プラットフォームは生存率に影響することなく処理時間を顕著に短縮するか、全ての組織型の研究において単一細胞の回収を増強することができ、ある場合にはその両方を達成することができる。さらに、組織処理ワークフローの全体は、自動化され信頼性の高い様式で実施される。即ち、微小流体プラットフォームは、組織からの単一細胞の遊離を必要とする多様な用途を発展させる刺激的な可能性を有している。
【0010】
一実施形態では、組織を消化し、解離し、必要に応じて濾過する、組織試料を処理するための微小流体システムが開示される。このシステムは、入口および出口ならびに入口と出口との間に画定された流路を有する微小流体消化デバイスを含み、流路は、組織試料を保持するように構成された組織チャンバーならびに流路の入口側において組織チャンバーと連通する複数の上流流体チャネルおよび流路の出口側において組織チャンバーと連通する複数の下流流体チャネルを含む。第1のポンプが、緩衝剤を含む流体および/または酵素を含む流体を微小流体消化デバイスの入口に送液するように構成されている(この間、組織は組織チャンバーの中に存在する)。本システムは、入口、第1の出口、第2の出口、および入口と出口との間に画定された流路を含む微小流体解離/濾過デバイスをさらに含み、流路はその長さに沿って配置された複数の拡大および縮小の領域を有する複数の分岐した解離チャネルを含み、複数の分岐した解離チャネルの下流の流路に1つまたは複数のフィルターが配置されている。第1および第2の出口のいずれかは選択的に閉じられて、デバイスの解離領域のみを通る流れまたはデバイスの解離領域とデバイスのフィルター領域とを通る流れが可能になる。第2のポンプは、緩衝剤を含む流体を(微小流体消化デバイスからの処理された組織溶液とともに)微小流体解離/濾過デバイスの入口に送液するように構成されている。微小流体消化デバイスの出口は、微小流体解離/濾過デバイスの入口に流体連結されている。したがって、消化された組織を含む流体は、微小流体消化デバイスから微小流体解離/濾過デバイスへ通過する。
【0011】
一実施形態では、微小流体システムを使用する方法は、組織試料を微小流体消化デバイスの組織チャンバーに負荷する操作、緩衝剤を含む流体および/または酵素を含む流体を微小流体消化デバイスの入口に第1のポンプによって送液する操作、処理された組織試料を含む流体を微小流体解離/濾過デバイスに移送する操作、緩衝剤を含む流体を微小流体解離デバイスで処理された組織とともに微小流体解離/濾過デバイスの入口に送液する操作、および微小流体解離/濾過デバイスの第2の出口から流出液を収集する操作を含む。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1Aは、組織を処理するための微小流体システムを図式的に示す。組織の処理には、組織の消化、解離/脱凝集、および濾過が含まれる。システムは、細切された組織を最初に処理する消化デバイスを含む。第1のポンプは緩衝剤および/または酵素の溶液を消化デバイスに送液するために用いられ、一方細切された組織は消化デバイスの中の組織チャンバーに含まれる。流体チャネルが流体力学的剪断力およびタンパク質分解酵素を導く一方、細切された組織片をチャンバー内に保持する。解離/濾過デバイスはバルブ(V)を介して消化デバイスの流出物に流体連結されている。解離/濾過デバイスは、組織断片および細胞凝集物に剪断力を付与するための拡大/縮小領域とともに小さな寸法の分岐した(たとえば2つに分岐した)一連のチャネルを含む。解離/濾過デバイスは、流路中に位置して大きなサイズの組織断片および細胞凝集物を濾過して除去するための1つまたは複数のフィルター媒体(たとえば2つの濾過膜)をさらに含む。別のポンプがバルブ(V)を介して解離/濾過デバイスに連結されており、緩衝液またはその他の流体を消化デバイスの流出物とともに解離/濾過デバイスに送液する。単一細胞は、流出物を介する解離/濾過デバイスからの流出物である。図1Bは、消化デバイスの中に形成された解離チャネルを示す。解離チャネルの様々なステージが多層デバイスの様々な層で形成され得ることに注目されたい。拡大および縮小の領域を図示する。図1Cは、ペリスタポンプ、消化デバイス、解離/濾過デバイス、ならびにバルブおよびチューブを介する連結部を含む実験装置の写真を示す。この写真では、システムは消化デバイスを通して流体を再循環する。図1Dは、図1Cの実験装置の構成を図式的に示す。ここでは、システムは消化デバイスを通して流体を再循環するように構成されている。ストップコックバルブを用いて、流れを再循環のために迂回させてポンプに戻している。図1Eは、ペリスタポンプ、消化デバイス、解離/濾過デバイス、ならびにバルブおよびチューブを介する連結部を含む実験装置の写真を示す。この写真では、システムはインターバルの間、または運転の終了時に、試料を溶出させる。図1Fは、図1Eの実験装置の構成を図式的に示す。ここでは、システムは、消化デバイスおよび解離/濾過デバイスを通して流体を送るように構成されている。これは細胞を溶出させるために用いられる。新鮮な酵素溶液をインターバルのために用い、緩衝液を最終溶出のために用いた。
図2図2Aは、一実施形態による消化デバイスの概略図を示す。この設計には、2つの流体層、2つのビア層、ならびに上および下のエンドキャップを含む全部で6つの層が含まれている。組織はルアーポートを通って組織チャンバーの中に負荷される。図2Bは、組織チャンバーの概略図を示す。流体チャネルが流体力学的剪断力およびタンパク質分解酵素を導く一方、細切された組織片をチャンバー内に保持する。図2Cは、組み立てられた消化デバイスの写真を示す。図2Dは、一体化された解離/濾過デバイスの概略図を示す。消化デバイスからの組織断片および細胞凝集物は、拡大/縮小領域を有する分岐したマイクロチャネルおよびナイロンメッシュフィルターにおいて発生する流体力学的剪断力によってさらに破壊されることになる。図2Eは、組み立てられた解離/濾過デバイスの写真を示す。図2Fは、別の実施形態による消化デバイスの分解図を示す。
図3図3A図3Fは、マウス腎を用いるデバイスの最適化。(図3A)腎を収穫し、細切し、細切消化デバイスを流量10または20mL/分で15分または60分、用いて処理し、全ゲノムDNA(gDNA)を定量した。gDNAは対照から直接抽出し、したがってこれが最大回収を表す。流量20mL/分の結果が、特に短い時点で優れていた。(図3B)流量10(i)または20(ii)mL/分での15分または60分の処理の前および後の細切消化デバイスチャンバー内の組織の写真。10mL/分では顕著な組織が残存していた一方、20mL/分では組織は主として存在しなかった。(図3C)試料を細切消化デバイスで15分、30分、または60分処理した後で、単一のEpCAM+上皮細胞をフローサイトメトリーによって定量した。残存組織の処理を続けるためにより多くのコラーゲナーゼを加えて、様々なタイムインターバルにおける試料の回収も評価した。(図3D)上皮細胞の生存率は、全ての対照およびデバイス条件について約80%であった。(図3E)15分の消化デバイス処理に続いて、一体化された解離/濾過デバイスで試料を処理した。一体化されたデバイスを通るシングルパスによって最適の結果が得られた。(図3F)上皮細胞の生存率は、全ての条件について約85~90%であった。エラーバーは、少なくとも3回の独立した実験からの標準誤差を表す。同じ消化時間の対照に対して、*はp<0.05、**はp<0.01を示す。#は同じ消化時間の静的条件に対してp<0.05を示す。スケールバーは5mmを表す。
図4図4A図4Cは、マウス腎についての微小流体プラットフォームの結果。腎を収穫し、細切し、消化デバイスで異なる15分または60分処理し、一体化された解離/濾過デバイスに1回通過させ、得られた細胞懸濁液をフローサイトメトリーによって解析した。同じ組織試料からの1分、15分、および60分の時点におけるインターバル回収率を評価した。対照を細切し、15分または60分消化し、ピペッティング/ボルテックス処理し、細胞ストレーナーを通過させた。(図4A)単一のEpCAM+上皮細胞は、微小流体処理によって2.5倍増加した。インターバルの結果は静的な場合と同程度であり、1分のインターバルは15分の対照と同程度の細胞数を産生した。傾向は内皮細胞(図4B)および白血球(図4C)で同様であった。微小流体処理は内皮細胞について特に効果的であり、60分で対照より5倍を超えて多い細胞が得られた。内皮細胞は、1分のインターバルを除く全てのデバイス条件について対照に対して富化された。エラーバーは、少なくとも3回の独立した実験からの標準誤差を表す。同じ消化時間の対照に対して、*はp<0.05、**はp<0.01を示す。
図5図5A図5Cは、マウス腎のscRNA-seq。15分および60分のインターバルで微小流体プラットフォームから得られた細胞懸濁液ならびに60分の対照をFACSで選別して死細胞およびデブリを除去し、10Xクロミウムチップに負荷し、50,000リード超/細胞でシーケンシングした。(図5A)2つの異なる近位尿細管サブタイプ、内皮細胞、マクロファージ、Bリンパ球、Tリンパ球に対応する7つの細胞クラスターを呈示するUMAP。7番目のクラスターは、遠位尿細管(DCT)、ヘンレ係蹄(LOH)、集合管(CD)、およびメサンギウム細胞(MC)に対応する混合集団を含んでいた。(図5B)それぞれの細胞クラスターおよび処理条件についての集団分布。近位尿細管は主として15分のインターバルで微小流体プラットフォームから溶出した一方、内皮細胞およびマクロファージは60分のインターバルで富化された。(図5C)応力応答スコアは一般に15分のデバイスインターバルで低かった。
図6図6A図6Cは、マウス乳腺腫瘍についての微小流体プラットフォームの結果。MMTV-PyMTマウス由来の乳腺腫瘍を切除し、細切し、微小流体プラットフォームで処理し、フローサイトメトリーによって解析した。(図6A)EpCAM+上皮細胞は、両方の時点で約2倍高かった。(図6B)内皮細胞は微小流体プラットフォームによってさらに増強され、15分および60分後にそれぞれ5倍および10倍多い細胞が回収された。(図6C)白血球は15分および60分後にそれぞれ3倍および5倍増加した。インターバルフォーマットは、やや高かった内皮細胞を除いて、対応する静的時点に対して同様の全細胞数を産生した。デバイス処理によって、1分以外の全ての時点で内皮細胞と白血球の両方が富化された。エラーバーは、少なくとも3回の独立した実験からの標準誤差を表す。同じ消化時間の対照に対して、*はp<0.05、**はp<0.01を示す。同じ消化時間の静的条件に対して#はp<0.05、##はp<0.01を示す。
図7図7A図7Cは、マウス乳腺腫瘍のscRNA-seq。15分および60分のインターバルで微小流体プラットフォームから得られた細胞懸濁液ならびに60分の対照を処理し、腎と同様の条件を用いて解析した。(図7A)上皮細胞、マクロファージ、内皮細胞、Tリンパ球、線維芽細胞、および顆粒球に対応する6つの細胞クラスターを呈示するUMAP。(図7B)それぞれの細胞クラスターおよび処理条件についての集団分布。上皮細胞は主として15分のインターバルで微小流体プラットフォームから溶出した一方、内皮細胞および線維芽細胞は60分のインターバルで富化された。線維芽細胞は両方のプラットフォーム条件で富化された一方、顆粒球は枯渇した。(図7C)応力応答スコアは一般に、条件および細胞型にわたって同様であった。
図8図8A図8Eは、マウス肝についての微小流体プラットフォームの結果。(図8A、8B)肝を収穫し、細切し、細切消化デバイス単独および一体化された解離/濾過デバイスとの組合せで評価した。肝細胞はフローサイトメトリーによって同定し、定量した。(図8A)消化デバイスによって肝細胞の回収が15分で約4倍増加したが、消化の継続および一体化された解離/濾過デバイスの1回の通過により、おそらく肝細胞のサイズが大きいことと脆弱性によって、肝細胞の収率が低下した。(図8B)肝細胞の生存率は、60分の一体化条件を除く全ての条件について約75~80%であった。(C~F)短い消化時間および50μmのフィルターのみを含む解離/濾過デバイスによるシングルパスを用いた結果。(図8C)わずか5分の微小流体処理の後で、15分の対照より4倍多く、60分の対照よりわずかに少ない細胞が得られた。インターバル回収によって、肝細胞の収率は60分の対照および15分の静的条件に対して約2.5倍増強された。1分のインターバルが実質的に寄与し、60分の対照の約70%と多い肝細胞を産生した。インターバルの利点はさほど明白ではないが、内皮細胞(図8D)および白血球(図8E)でも同様の結果が観察された。微小流体処理は一般に白血球を富化したが、後のインターバルでは肝細胞へのシフトがあった。エラーバーは、少なくとも3回の独立した実験からの標準誤差を表す。同じ消化時間の60分の対照に対して、*はp<0.05、**はp<0.01を示す。同じ消化時間の静的条件に対して#はp<0.05、##はp<0.01を示す。
図9図9A図9Cは、マウス心臓についての微小流体プラットフォームの結果。心臓を切除し、細切し、微小流体プラットフォーム(50μmと15μmの両方の膜)で処理し、フローサイトメトリーによって解析した。心筋細胞の感受性のため、短い消化デバイス時点を採用した。(図9A)微小流体処理によって15分後に1mgあたり約12,000個の心筋細胞が産生され、これは60分の対照より約2倍多かった。インターバル回収によって再び最適の結果が得られ、15分の静的条件および60分の対照条件に対して約50%および約3倍増加した。内皮細胞(図9B)および白血球(図9C)の収率は、静的とインターバルの両方のフォーマットの下で60分の対照より有意に低かった。インターバル回収は確かに改善したが、60分の対照より約2分の1低いままであった。微小流体処理は一般に心筋細胞を富化した。エラーバーは、少なくとも3回の独立した実験からの標準誤差を表す。同じ消化時間の60分の対照に対して、*はp<0.05、**はp<0.01を示す。同じ消化時間の静的条件に対して#はp<0.05、##はp<0.01を示す。
図10図10A図10Fは、MCF-7細胞株による再循環研究。MCF-7乳がん細胞を、様々な流量および様々な時点で、ペリスタポンプ(図10A図10D)、細切消化デバイス(図10B図10E)、または解離/濾過デバイス(図10C図10F)を通して連続的に送液した。(図10A~10C)細胞計数を得て、対照に対して正規化した。細胞数は全ての条件下で、ポンプのみ(図10A)および消化デバイス(図10B)においてやや低下した。(図10C)解離デバイスは、10mL/分における長い時点および20mL/分における全ての時点で、細胞回収率を増加させた。(図10D~10F)細胞生存率は、5mL/分ではポンプのみ(図10D)、消化デバイス(図10E)、および解離デバイス(図10F)で高いままであった。しかし、流量の増大は、単一細胞の収率の増加と逆相関する様式で解離デバイスについての生存率を低下させた。エラーバーは、少なくとも3回の独立した実験からの標準誤差を表す。対照に対して、*はp<0.05、**はp<0.01を示す。
図11図11A図11Dは、マウス腎を用いる最適化研究からの白血球の結果。(図11A図11B)60分消化した対照と比較した静的およびインターバルのフォーマットの下の細切消化デバイスの最適化。(図11A)白血球の収率は消化デバイスの処理時間とともに約1000/mgまで増加し、対照を約30%上回った。インターバル回収は結果に影響しなかった。(図11B)生存率は対照についての約65%から全てのデバイス条件についての70%超まで増加した。(図11C図11D)消化デバイス中で15分処理した試料を用い、15分消化した対照と比較した、一体化された解離/濾過デバイスの最適化。(図11C)白血球の回収はシングルパスの後で同じままであり、再循環でやや減少した。(図11D)白血球の生存率は全ての条件について約85%~90%であった。エラーバーは、少なくとも3回の独立した実験からの標準誤差を表す。対照に対して、*はp<0.05、**はp<0.01を示す。同じ消化時間の静的条件に対して#はp<0.05を示す。
図12図12は、マウス腎についての赤血球の結果。大部分のRBCはデバイス処理について早期の時点で溶出した。わずか1分後の大きな回収のため、全ての組織についてのインターバルの研究にこの時点を加えた。エラーバーは、少なくとも3回の独立した実験からの標準誤差を表す。同じ消化時間の対照に対して、*はp<0.05を示す。
図13図13A図13Cはマウス腎を用いる最終の微小流体プラットフォーム研究からの細胞の生存率。(図13A)上皮細胞の生存率は全ての条件について約95%であった。内皮細胞(図13B)および白血球(図13C)の生存率は約60%~90%の範囲であり、60分の対照は両方の例で約70%であった。デバイスプラットフォーム処理は、1分のインターバルを除く全ての条件で内皮細胞について高い生存率をもたらし、白血球は15分の時点で(静的およびインターバル)増大した。エラーバーは、少なくとも3回の独立した実験からの標準誤差を表す。同じ消化時間の対照に対して、*はp<0.05、**はp<0.01を示す。同じ消化時間の静的条件に対して#はp<0.05を示す。
図14図14A図14Bは、腎細胞型の遺伝子スコアリング。7つの主要クラスター(図14A)およびサブクラスター(図14B)のそれぞれについてのマーカー遺伝子シグネチャーを比較するために用いた細胞スコアリングの結果。
図15図15Aは、DCT、LOH、CD、およびMCクラスターの中の4つのサブクラスターを示すUMAP表示。図15Bは、図15Aのそれぞれのサブクラスターについて得られた、全集団に対する分布。
図16図16A図16Dは、腎クラスターにおけるEpCAM、CD45、およびCD31の発現。(図16A~B)EpCAMは、DCT、LOH、CD、およびMCクラスター(図16A)ならびにそれぞれの個別のサブクラスター(図16B)の中で高度に発現した。(図16C)CD45はマクロファージ、Bリンパ球、およびTリンパ球のクラスターにおいて高度に発現した。(図16D)CD31は内皮細胞クラスターにおいて高度に発現した。
図17図17A図17Dは、マウス乳腺腫瘍を用いるデバイス最適化研究。(図17A図17B)様々な時点について操作した細切消化デバイス。(図17A)上皮細胞の収率は消化デバイスを用いることによって約2~2.5倍増加した。(図17B)生存率は15分の対照について約80%で時間とともにわずかに減少した一方、全てのデバイス条件で85%超であった。(図17C図17D)消化デバイス中で15分処理した試料を用いる一体化された解離/濾過デバイスの最適化。(図17C)上皮細胞の回収はシングルパスの後で30%増加した一方、再循環によって同様または少ない数が産生された。(図17D)生存率は解離/濾過処理の後でわずかに低下したが、変化は有意でなかった。エラーバーは、少なくとも3回の独立した実験からの標準誤差を表す。同じ消化時間の対照に対して、*はp<0.05を示す。
図18図18A図18Cは、マウス乳腺腫瘍を用いる最終の微小流体プラットフォーム研究からの細胞の生存率。(図18A)上皮細胞の生存率は全ての条件について約70~80%であった。(図18B)内皮細胞の生存率は一般に約50~60%で低かった。しかし、1分のデバイスインターバルは75%で高かった一方、60分の対照および15分のデバイスインターバルはそれぞれ50%および40%で低かった。(図18C)白血球の生存率は約60%であった60分の対照を除く全てで約80%のままであった。エラーバーは、少なくとも3回の独立した実験からの標準誤差を表す。同じ消化時間の対照に対して、*はp<0.05、**はp<0.01を示す。同じ消化時間の静的条件に対して#はp<0.05を示す。
図19図19A図19Cは、マウス乳腺腫瘍についての上皮細胞のサブクラスタリング。(図19A)上皮細胞クラスターは、内腔、基底、および増殖型内腔に対応する3つの区別できるサブクラスターを含んでいた。(図19B)それぞれのサブクラスターにおける集団分布。内腔細胞は15分のインターバルで富化された一方、基底細胞は60分で富化された。(図19C)サブクラスターは、一次的にKrt14(基底)、Krt18(内腔)、およびMki67(増殖型)遺伝子の発現に基づいて同定された。
図20図20A図20Dは、乳腺腫瘍クラスターにおけるEpCAM、CD45、およびCD31の発現。(図20A図20B)EpCAMは、上皮細胞クラスター(図20A)およびそれぞれのサブクラスター(図20B)の中で高度に発現した。(図20C)CD45はマクロファージ、Tリンパ球、および顆粒球のクラスターで高度に発現した。(図20D)CD31は内皮細胞クラスターにおいて高度に発現した。
図21図21A図21Bは、マウス肝を用いるデバイス最適化研究。肝を細切消化で15分処理し、改変した解離/濾過デバイス(50μmのフィルターのみ)を通過させた。(図21A)肝細胞は消化デバイスのみに対して30%、15分の対照に対してほぼ3倍、増加した。(図21B)肝細胞の生存率は全ての条件について85%超であった。エラーバーは、少なくとも3回の独立した実験からの標準誤差を表す。
図22図22A図22Cは、マウス肝を用いる最終の微小流体プラットフォーム研究からの細胞の生存率。(図22A)肝細胞の生存率は、約85%に減少した60分のインターバルを除く全ての条件について約90%のままであった。内皮細胞(図22B)および白血球(図22C)の生存率は一般に約70%~85%であり、デバイス処理によって早期の時点で増加した。エラーバーは、少なくとも3回の独立した実験からの標準誤差を表す。60分の対照に対して、*はp<0.05、**はp<0.01を示す。同じ消化時間の静的条件に対して#はp<0.05、##はp<0.01を示す。
図23図23A図23Bは、マウス心臓を用いるデバイス最適化研究。心臓を細切消化デバイスで15分処理し、元の(50μmおよび15μmのフィルター)または改変した(50μmのフィルターのみ)フォーマットで、一体化された解離/濾過を通過させた。心筋細胞の収率(図23A)および生存率(図23B)は全ての条件について同様であった。エラーバーは、少なくとも3回の独立した実験からの標準誤差を表す。
図24図24A図24Cは、マウス心臓を用いる最終の微小流体プラットフォーム研究からの細胞の生存率。(図24A)デバイス処理した試料についての心筋細胞の生存率は対照と一致するかそれを上回った。内皮細胞(図24B)および白血球(図24C)の生存率は、デバイスおよび対照の条件について一般に80%超であった。エラーバーは、少なくとも3回の独立した実験からの標準誤差を表す。60分の対照に対して、*はp<0.05、**はp<0.01を示す。
図25図25は、フローサイトメトリーのゲーティングスキーム。細胞懸濁液を蛍光プローブ(表1に列挙)で染色し、フローサイトメトリーによってシグナルを評価した。次いでシーケンシャルゲーティングスキームを用いてデータを解析した。ゲート1ではFSC-A対SSC-Aを用いてオリジン付近のデブリを排除した。ゲート2ではFSC-A対FSC-Hを用いて単一細胞を選択した。ゲート3ではCD45-BV510対TER119-AF647を用いて白血球(CD45+TER119-)と赤血球(CD45-TER119+)を識別した。ゲート4はCD45-TER119-サブセットに適用し、PEを用いてEpCAMを介して上皮細胞(腎および腫瘍)、ASGPR1を介して肝細胞(肝)、またはトロポニンTを介して心筋細胞(心臓)を同定した。ゲート5をEpCAM/ASGPR1/トロポニンT陰性細胞サブセットに適用し、CD31-AF488を用いて内皮細胞を同定した。最後に、ゲート6では7-AAD(腎、腫瘍、肝)またはZombie Violet(心臓)を用いて生細胞と死細胞を識別した。
図26図26A図26Bは、有足細胞マーカーを図示する。Nphs1(図26A)およびNphs2(図26B)の遺伝子発現。陽性発現は、主としてLOH、DCT、CD、およびMCクラスターに存在する少数の細胞のみで示された。
図27図27A図27Lは、それぞれの腎細胞クラスターについての選択した応力応答遺伝子の発現を図示する。Nr4a1(図27A)、Gadd45b(図27B)、Atf3(図27C)、Egr1(図27D)、Jun(図27E)、Junb(図27F)、Jund(図27G)、Fos(図27H)、Fosb(図27I)、Hsp90aa1(図27J)、Hspa8(図27K)、およびHspd1(図27L)を含む一般的な応力応答遺伝子についての平均遺伝子発現。
図28図28A図28Lは、それぞれの乳腺腫瘍細胞クラスターについての選択した応力応答遺伝子の発現を図示する。Nr4a1(図28A)、Gadd45b(図28B)、Atf3(図28C)、Egr1(図28D)、Jun(図28E)、Junb(図28F)、Jund(図28G)、Fos(図28H)、Fosb(図28I)、Hsp90aa1(図28J)、Hspa8(図28K)、およびHspd1(図28L)を含む一般的な応力応答遺伝子についての平均遺伝子発現。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1A図1D、および図1Fは、組織を処理するための微小流体システム10を図式的に示す。微小流体システム10は、細切された組織を最初に処理する消化デバイス12を含む。消化デバイス12は、入口14および出口16を含む。チューブ(たとえば本明細書に記載したチューブまたは導管24)が容易に固定され、流体が消化デバイス12に流入し、ならびに消化デバイス12から除去されるように、入口14および出口16に返しを位置させてもよい。図1Aを参照して、第1のポンプ18(たとえばペリスタポンプ)が緩衝剤および/または酵素の溶液を消化デバイス12に送液するために用いられ、一方細切された組織は消化デバイスの中の組織チャンバー20に含まれる。第1のポンプ18は、緩衝剤および/または酵素の溶液を含む流体源22にチューブまたは導管24を介して流体連結されている。ここで説明するように、図1C図1Fに示すような一部の実施形態では、単一のポンプ18のみが用いられる。図1Aに示すような他の実施形態では、第1のポンプ18および第2のポンプ44が用いられ、それらの操作は本明細書でさらに説明する。第1のバルブ26がチューブまたは導管24の途中に介在しており、これは本明細書で説明するように流体源22と消化デバイス12からの戻りの間に流体を切り替えるために用いられる。
【0014】
組織チャンバー20は、正方形または長方形の形状であってよい。組織チャンバー20の例示的な寸法は、長さ5mm、幅8mm、高さ1.5mmを有するチャンバーであってよい。他の実施形態では、組織チャンバー20はより大きな組織試料を収容するためにより大きくてもよい。たとえば、組織チャンバー30は長方形の形状で、組織の小片またはより大きな片を収容する寸法でもよい。組織チャンバー30は、数cm(たとえば約2~3cm)および約10cmまでもの長さを有してよい。第1のポンプ18は、図1Aに示すように、チューブまたは導管24を介して消化デバイス12に連結されていてよい。第1のポンプ18を介する消化デバイス12への流体流に応じて、流体チャネル28が流体力学的剪断力およびタンパク質分解酵素(流体中に含まれる場合)を導く一方、細切された組織片を組織チャンバー20の中に保持する。一実施形態では、上流の流体チャネル28の数は下流の流体チャネル28の数に等しい(たとえば、4つのそのような流体チャネル28が図1Aに示されている)。この実施形態では、上流の流体チャネル28は下流の流体チャネル28と対称である。他の数の流体チャネル28を用いてもよい。上流/下流の流体チャネル28の幅は一部の実施形態では同じであってよい。流体チャネル28の例示的な幅は約250μmであるが、本明細書で説明するように、他の寸法の流体チャネル28を用いてもよい。流体チャネル28の長さは数mm(たとえば4mm)であってよい。流体チャネル28は、信頼できる組み立ておよび一体性が保証されるように、互いに約1mm離れている。流体チャネル28は、これらが下部にあるビア層と連結される領域(即ちフレア)では拡大しており、これも目詰まりの防止を意図していた。
【0015】
流体チャネル28の数は、組織チャンバー20の寸法に応じて変動し得る。たとえば、図2Bは、4つの上流流体チャネル28と4つの下流流体チャネル28を示している。組織チャンバー20がより大きな体積または寸法を有する他の実施形態では、流体チャネル28の数は多くてよい。たとえば、細長いまたはより大きな組織片を組織チャンバー20に挿入する他の実施形態では、組織チャンバー20の上流側/下流側に10~20個の流体チャネル28があってもよい。同様に、流体チャネル28の幅も変動し得る。一部の実施形態については(たとえば大きな組織片を処理する場合)、流体チャネル28の幅は大きくてもよく、たとえば約500μm~約750μmの範囲の幅を有してもよい。
【0016】
組織試料(たとえば細切された組織)は、図1A図2A図2Cで見られるようにポート30(たとえばルアーポート)を介して、または以下に述べるように上層70g(図2F)を開けることによって、消化デバイス12に負荷される。ポート30は負荷の後で栓またはストップコックで閉じることができる。図1Aで見られるように、第1のポンプ18は、緩衝剤および/または酵素を消化デバイス12に送液する。第1のバルブ26は、緩衝液および/または酵素の消化デバイス12への流れを調節するために用いられる。消化デバイス12は、消化デバイス12の流出液が消化デバイス12を通してポンプで戻されるように、再循環モードで運転してもよい(即ち、出口16からの流出液は第1のポンプ18を介して入口14にポンプで戻される)。再循環モードでは、第1のバルブ26および第2のバルブ32は、流体の流れ(およびその中に含まれる含有物)が消化デバイス12を通って再循環することを可能にするように作動される。もちろん、消化デバイス12は、流れを消化デバイス12に戻して再循環させないモードで構成してもよい。この構成では、出口16の流出液は、以下に述べるように解離/濾過デバイス40に進む。この後者のモードでは、第2のバルブ32は、流れを解離/濾過デバイス40に導くように作動される。
【0017】
まだ図1Aを参照し、解離/濾過デバイス40は、消化デバイス12と解離/濾過デバイス40との間に介在する第3のバルブ42とともに、チューブまたは導管24を介して消化デバイス12の流出液に流体連結されている。第3のバルブ42は、消化デバイス12の出口16から、または第2のポンプ44から、流れが解離/濾過デバイス40に流入することを可能にするように作動される。解離/濾過デバイス40は、入口46、第1の出口48、および第2の出口50を含む。入口46、第1の出口48、および第2の出口50は、チューブまたは導管24をそれらに取り付けることを容易にするための返しのある端部を有してもよい。第1の出口48は、解離/濾過デバイス40の中で形成された一連の解離チャネル52からの解離力を受けたがさもなければ濾過されていない、処理された組織断片および細胞凝集物を通過させるために用いられる。解離チャネル52は、組織断片および細胞凝集物に剪断力を付与するためにその長さに沿って形成された拡大/縮小領域とともに流体流の方向における小さな寸法(たとえば幅)の一連の分岐した(たとえば二分岐した)チャネルによって形成されている。たとえば図1Bに見られるように、解離チャネル52は、分岐53において2つのチャネル52に分岐する単一のチャネル52を含んでよく、これは次に分岐53において4つのチャネル52に分岐し、これは次に分岐53において8つのチャネル52に分岐し、これは次に分岐53において16個のチャネル52に分岐する。この実施形態では、したがって5つのステージが存在する。分岐した解離チャネル52は、上流の解離チャネル52と比較して幅が低減している(1/2)。解離チャネル52の長さに沿って拡大領域54および縮小領域56があり、これらはこれを通過する組織断片および細胞凝集物に剪断応力を付与するように構成されている。拡大領域および縮小領域54、56は、好ましくは解離チャネル52の長さに沿って連続している。解離チャネル52における拡大領域および縮小領域54、56は、解離チャネル52の幅が増加し減少する交互領域である。拡大領域および縮小領域54、56は、変化する寸法スケールおよび規模の流体ジェットを発生し、流体力学的剪断力を用いて組織断片および細胞凝集物の破壊を補助する。拡大領域および縮小領域の設計によって段階的な脱凝集が可能になり、それにより、大きな細胞損傷を惹起することなく、細胞収率を最大化することができる。
【0018】
1つの好ましい実施形態では、特定のステージの中の拡大領域54の幅は、縮小領域56の幅の3倍である。したがって、一実施形態では、第1ステージ(単一の解離チャネル52)は2mmの縮小領域56の幅を有し、拡大領域54の幅は6mmである。第2ステージでは、縮小領域56の幅は1mmであり、拡大領域54の幅は3mmである。第3ステージでは、縮小領域56の幅は0.5mmであり、拡大領域54の幅は1.5mmである。第4ステージでは、縮小領域56の幅は0.25mmであり、拡大領域54の幅は0.75mmである。第5ステージでは、縮小領域56の幅は約0.125mmであり、拡大領域54の幅は約0.375mmである。解離チャネル52の最終ステージの後では、チャネルは流体を共通収集領域58に収集する。以下に論じるように、処理された組織を含む流体は、次に解離/濾過デバイス40の外に(濾過なしに)、または濾過のためのフィルター媒体を通して、導いてよい。
【0019】
まだ図1Aを参照し、解離/濾過デバイス40は、処理された組織断片および細胞凝集物を含む流体のための2つの流路を有する。第1の流路では、解離チャネル52を通過する処理された組織断片および細胞凝集物は第1の出口48を通過する。この流路では、流路中に介在する濾過媒体は存在しない。たとえば、処理された組織断片および細胞凝集物は第1の出口48を離れ、次いで第1のポンプ18および/または第2のポンプ44を用いて解離/濾過デバイス40に再循環してもよい。この第2のポンプ44は、緩衝剤源60から解離/濾過デバイス40を通して緩衝液を送液する(たとえば解離/濾過デバイス40を洗い流す)ためおよび/または処理された組織断片および細胞凝集物を入口46に戻して再循環するために用いられる。
【0020】
第2の流路では、処理された組織断片および細胞凝集物は、次に2つの異なるフィルター62、64(たとえばナイロンメッシュフィルター)に導かれる。第2の流路に沿う流れは、第1の出口48からの流れを栓またはキャップで塞ぎ、次いで第1のポンプ18および/または第2のポンプ44による送液に応じて第2の流路に沿って流れ(および含有物)を強制することによって達成される。流路中の第1のフィルター62は、大きな寸法の組織断片および細胞凝集物の第1の濾過およびそれに続く小さな孔径を有する小さなフィルターメッシュを可能にするために、流路中の第2のフィルター64(たとえば約15~50μm)より大きな孔径(たとえば約50~100μm)を有してよい。典型的には、細孔の寸法範囲は約5μm~約1,000μm、より好ましくは約10μm~約1,000μm、または約5μm~約100μmの範囲内である。一実施形態では、第1のフィルター膜62は直径dを有する細孔を有し、第2のフィルター膜64は直径dを有する細孔を有し、ここでd>dである。第2のポンプ44は導管またはチューブ24を介して解離/濾過デバイス44に連結されている。第4のバルブ66が、解離/濾過デバイス40からの流れの再循環および緩衝液またはその他の流体の解離/濾過デバイス40への添加を可能にするために備えられている。第2の出口50は、フィルター62、64を通過した流体を輸送する。この流体は、典型的には解離/濾過デバイス40からの流出液である単一細胞を含んでいる。
【0021】
図2Aは、一実施形態による消化デバイス12の概略図を示す。この設計には、2つの流体層70a、70b、2つのビア層70c、70d、ならびに上および下のエンドキャップ70e、70fを含む全部で6つの層が含まれている。組織はルアーポート30を通って組織チャンバー20の中に負荷される。図2Cは、組み立てられた消化デバイス12の写真を示す。図2Bは、流体層70aの中に位置する組織チャンバー20の概略図を示す。流体チャネル28が流体力学的剪断力を付与し、タンパク質分解酵素を運搬する流体を導く一方、細切された組織片を組織チャンバー20の中に保持する。図2Dは、一体化された解離/濾過デバイス40において用いられる層の分解図を示す。消化デバイス12からの組織断片および細胞凝集物は、拡大/縮小領域54、56を有する分岐した解離チャネル52およびナイロンメッシュフィルター62、64において発生する流体力学的剪断力によってさらに破壊される。
【0022】
図2Fは、消化デバイス12の別の実施形態を示す。この実施形態では、図2A図2Cに示すようにポート30を用いて組織を負荷するよりむしろ、組織チャンバー20は図2Fで見られるように開いており、除去可能な上層70gによってカバーされている。流体チャネル28および組織チャンバー20は層70aの中で形成され、上層70gは組織試料を負荷した後で組織チャンバー20をカバーおよびシールするために用いられる。層70aに対して上層70gを固定しシールするために、一対のファスナー71が用いられる。層70aに対して上層70gを固定する前に、裏側に接着剤を有する薄いプラスチック層を用いて組織チャンバー20をシールしてもよい。図2Eで見られるように、1つまたは複数の消化デバイス12を収容するための寸法を有する凹部73を含む基板72が備えられている。ねじ山のついたねじ等を含んでもよいファスナー71が、基板72の開口74に係合している。これに関して、消化デバイス12に組織を素早く負荷し、次いで使用のために組み立ててもよい。図2Fで見られるように、入口14および出口16が位置する上層70gの凹部に一対のOリング76が位置している。
【0023】
解離/濾過デバイス40は、多層80a~80g(たとえば7層)から形成されてもよい。図2Dで見られるように、これは本明細書に記載する任意選択のフィルター62、64のための流路に加えて、上層80a、下層80b、および解離チャネル52を含む中間流体チャネル層80c、80d、90eを含む。垂直流のための穴または開口ならびに第1のフィルター62および第2のフィルター64を含む流路も含むビア層80f、80gが備えられている。消化デバイス12および解離/濾過デバイス40は、硬いプラスチック(ポリメチルメタクリレート(PMMA)またはポリエチレンテレフタレート(PET))にレーザーマイクロマシン加工されたチャネルおよびビア機構とともに、市販のラミネートプロセスを用いて組み立てることができる。次いで全ての層およびその他の部品を位置合わせして、感圧接着剤を用いて接着することができる。組み立てられたデバイスの写真を、図2C(消化デバイス12)および図2E(解離/濾過デバイス40)に示す。
【0024】
システム10を用いるため、組織の試料を組織チャンバー20に入れる。処理される組織は、組織チャンバー20に入れる前に細切する(たとえば組織をメスで寸法約1mmの小片に細切する)のが好ましい。組織の試料は、たとえば腎、肝、心臓、乳腺組織を含む任意の型の哺乳動物組織を含んでよい。組織は健常でも疾患を有してもよい。次いで第1のポンプ18で消化デバイス12に緩衝剤および酵素を満たす。第1のポンプ18はペリスタポンプが好ましい。次いでポート30をストップコック等でシールし、次いで第1のポンプ18によって消化デバイス12を通して流体を再循環する。消化デバイス12を通る流量は変動し得るが、一般には約10~約100mL/分の範囲内である。再循環は、数分から1時間またはそれ以上まで行ってよい。一部の実施形態では、再循環流をこの全時間にわたって維持する(即ち静的流れ操作)。他の実施形態では、インターバル操作を用いて消化デバイス12を運転する。この場合には、組織を短時間処理し、細胞懸濁液を溶出させ、消化デバイス12の中の酵素(たとえばコラーゲナーゼ)を置き換え、次いで再循環を継続する。
【0025】
本明細書で開示する消化デバイス12はルアーポート30を使用しているが、他のポートを用いてもよい。さらに、まだ他の実施形態では、消化デバイス12の上層70aは、消化デバイス12の残りの部分に固定されて組織チャンバー20の中に組織を負荷することができる蓋またはキャップを含んでもよい。蓋またはキャップは、1つまたは複数のファスナー等を用いて固定してもよい。システム10のデバイス部品(たとえば微小流体消化デバイス12および解離/濾過デバイス40)は、光学的酵素活性を維持するために約37℃で、インキュベーターまたは温度制御された環境中でインキュベートされたままにしておくことが好ましい。
【0026】
試料がいったん消化デバイス12で処理されれば、ここで処理された試料は次に解離/濾過デバイス40に移動する。流体は出口16から出て、チューブまたは導管24を通過し、解離/濾過デバイス40の入口46に入る。再循環を意図する場合には、チューブまたは導管24は第1の出口48(即ち直交流出口)と第2のポンプ44とを連結する一方、第2の出口50はストップコックによって閉じられる。次いで流体は第2のポンプ44を用いて解離チャネル52を通って送液または再循環される。この第2のポンプ44はシリンジポンプまたはペリスタポンプを含んでよい。解離/濾過デバイス40を通る流量は変動し得るが、一般に約5~約50mL/分の範囲内である。試料の最終収集のため、または解離部品(即ち解離チャネル52)を通るシングルパスのみが利用される場合は、直交流出口48はストップコックバルブ(またはキャップ/栓)で閉じられ、試料は第2の出口50(即ち流出液出口)を通して送液され収集される。この流体または流出液は単一細胞を含んでいる。残存する細胞があればこれを流し出して収集するために、解離/濾過デバイス40を緩衝液で洗浄してよい。即ち、解離/濾過デバイス40については、解離チャネル52およびフィルター62、64を通り、第2の出口50を出るシングルパスを作製することができる。あるいは、消化デバイス12からの試料を、解離チャネル52を通して複数サイクルで再循環し、続いてフィルター62、64を通し、第2の出口50を通過させてもよい。
【0027】
微小流体消化デバイス12および解離/濾過デバイス40はチューブまたは導管24を介して流体連結されていてよい。同様に、チューブまたは導管24は、ポンプ18、44を微小流体消化デバイス12および解離/濾過デバイス40に連結している。バルブ26、32、42、66は、たとえば図1Aに示すように、導管またはチューブ24の中に介在している。これらのバルブ26、32、42、66、およびポンプ18、44は、制御ユニットまたはコンピューターデバイスを用いてコンピューター制御してよい。たとえば、制御ユニットまたはコンピューターデバイスは、ポンプ18、44の流量、ならびにバルブ26、32、42、66のタイミングおよび作動を制御してよい。
【実施例
【0028】
デバイスの設計および組み立て
細切した組織を、デバイス12の上部のポートを通して負荷する。次いでこのポートはキャップまたはストップコックを用いてシールすることができる。メスによる組織の約1mmの片への細切は広く行われており、したがってこのフォーマットは多様な組織型および解離プロトコルとの適合性がある。負荷ポート30、組織を適所に保持する組織チャンバー20、および流体剪断力を適用し、タンパク質分解酵素を送達する流体チャネル28を含む新たな細切組織消化デバイスの全体の設計レイアウトを図2Aに示す。これらの機構を、2つの流体チャネル層70a、70b、2つの「ビア」層70c、70d、ホース用の返しおよび負荷ポート30を有する上部エンドキャップ70e、および下部エンドキャップ70fを含む硬いプラスチックの6つの層、70a~70fにわたって配置した。組織チャンバー20は最上部の流体層70aの中、負荷ポート30および直径2.5mmのビアの直下にあり、詳細な図を図2Bに示す。負荷の間、組織が均一に分布できるよう、長さおよび幅が5mmの正方形の形状を採用した。組織チャンバー20の高さは1.5mmであり、試料の負荷およびデバイス12の操作の間の塞栓を防止するために、細切組織よりわずかに大きい。流体チャネル28は組織チャンバー20の上流および下流に設けられ、両方の場合に幅250μmの4つのチャネルを採用した。塞栓の防止を重視しているので、細切フォーマットには対称的なチャネル28のデザインを選択した。大きな組織片がずっと絞られるのを防止するため、チャネル長さは4mmに延長したが、下にあるビア層との連結を容易にするために末端を広げた。
【0029】
解離/濾過デバイス40は、消化デバイス12の組織チャンバー20を出るために十分小さな組織断片および細胞凝集物を処理する。これには、分岐したチャネルアレイ(即ち、解離チャネル52)の中で生じる剪断力およびナイロンメッシュフィルター62、64との物理的相互作用を介する脱凝集が含まれる。ここで、解離および濾過の機能が単一のデバイス40に一体化されて、ホールドアップ体積が最小化され、操作が単純化される。細切消化デバイスおよび一体化された解離/濾過デバイス12、40を、硬いプラスチック(PMMAまたはPET)にレーザーマイクロマシン加工されたチャネル機構とともに、市販のラミネートプロセスを用いて組み立てた。次いで全ての層およびその他の部品を位置合わせして、感圧接着剤を用いて接着した。組み立てたデバイスの写真を、図2Dおよび図2Eに示す。
【0030】
マウス腎を用いるプラットフォームの最適化
成体のマウス腎試料を用いて、消化デバイス12を評価した。腎は解剖学的にも機能的にも区別できる構造からなる複雑な臓器であり、成体の腎組織は、単一細胞に解離することが困難な密な細胞外マトリックスを有している。新たに切除した腎を、メスを用いて約1mmの片に細切し、ルアーポート30を通して細切消化デバイス12に負荷した。次いでデバイス12およびチューブ24に0.25%I型コラーゲナーゼ含有PBSを充填し、ストップコックを用いてルアー流入ポート30をシールし、ペリスタポンプ18を用いてデバイス12を通して流体を再循環した。流量10および20mL/分を試験した。15分または60分の再循環の後、試料を収集し、洗浄し、ゲノムDNA(gDNA)を抽出して、全細胞回収率を評価した。上限回収率を得るために対照を細切してgDNAを直接抽出した。10mL/分では、gDNAは15分後および60分後にそれぞれ対照の約15%および60%であった(図3A)。流量を20mL/分に増加すると、結果はそれぞれ約40%および85%に改善された。それぞれの実験の終了時に組織チャンバー20の画像を捕捉し、代表的な結果を図3Bに示す。組織は10mL/分で組織チャンバー20または隣接するチャネル28の中に残存していることが一貫して観察され、低いgDNA回収の結果が確証された。20mL/分で60分後に、少量の組織のみがチャネル/ビアの中で見出され、gDNAの回収が対照よりわずかに少ない理由の説明の助けになる。もう1つの可能性は、細胞が再循環の間に損傷または破壊されたということである。この懸念に対処するため、MCF-7乳がん細胞をシステム10に再循環し、細胞数および生存率を評価した(図10A図10Fを参照)。細胞の回収率は流量または時間に関わらず、消化デバイス12を通る再循環の後で約10%減少することが観察された。さらに、ペリスタポンプ18単独で再循環した後の結果も同様で、細胞の生存率は試験した全ての条件について高いままであった。これにより、試料の喪失は損傷ではなく、システム10の中のホールドアップまたは移送ステップに関連している可能性が最も高いことが確認される。組織チャンバー20を空にしてgDNAを単離するために20mL/分がより効果的であったので、残りの実験にはこの流量を用いた。
【0031】
次に、フローサイトメトリーを用いて単一細胞を解析した。表1に列挙したように、EpCAM(上皮細胞)、TER119(赤血球)、CD45(白血球)、および7-AAD(生/死)に特異的な抗体および蛍光プローブのパネルを用いて、細胞懸濁液を標識した。
【0032】
【0033】
単一上皮細胞の数は15分から60分への処理時間とともに増加し、約14,000細胞/mg組織まで産生することが見出された(図3C)。これは、一定の撹拌の下に60分消化し、続いて標準的な組織解離プロトコルに倣って繰り返しピペッティングおよびボルテックス処理をした対照に対して1.5倍の増加を表している。消化デバイス12においてわずか15分後に、上皮細胞は4倍長い時間消化した対照と統計的に同様であったことに注目されたい。短時間の処理、細胞懸濁液の溶出、消化デバイス12におけるコラーゲナーゼの置き換え、および再循環の継続を含むインターバル操作フォーマットも検討した。上皮細胞数はインターバル操作のそれぞれの時点で静的操作と同様に集積したことが観察された。これはインターバル収集が結果を損なわないことを実証しており、上皮細胞が長時間の再循環に耐えることを示唆している。上皮細胞の生存率は全ての対照およびデバイス条件について約80%であり、デバイス処理が細胞に悪影響を及ぼさないことがさらに確認された(図3D)。細胞数および生存率に関する結果は白血球についても同様であった(図11Aおよび図11B参照)。
【0034】
一体化された解離/濾過デバイス40が消化デバイス12の後で単一細胞収率をさらに増強できるか否かを次に検討した(図10A図10F)。MCF-7モデルを用いて最初の試験を実施し、20mL/分の再循環は短時間であっても低い生存率をもたらすことが見出された。10mL/分では、単一細胞は30秒の再循環の後に約20%増加し、生存率に変化はなかった。再循環時間が長いと単一細胞数が増強されたが、生存率は低下した。したがって、消化デバイスを用いて15分処理した細切腎を用いる10mL/分での短い再循環時間を選択した。最終ステップとして、フィルター62、64のナイロンメッシュ膜に10mL/分で試料を通過させた。単一の上皮細胞回収数を図3Eに提示する。消化デバイス12は、15分消化した対照より4倍多い単一細胞を産生した。一体化されたデバイス(消化デバイス2および解離/濾過デバイス40)を通るシングルパスによって、単一上皮細胞は対照より約5.5倍多い消化のみと比較して約40%増加した。分岐チャネルアレイを通る再循環は、シングルパスより少ない細胞を産生した。上皮細胞の生存率は全ての条件において約85~90%であった(図3F)。同様の結果が白血球について観察された(図11A図11Dを参照)。これらの結果に基づき、腎を用いる全ての研究について、一体化された解離/濾過デバイス40を通るシングルパス操作を選択した。一体化されたデバイスは、フローサイトメトリーに先立つ細胞のストレーナー処理ステップの必要性を除去することに注目されたい。
【0035】
マウス腎の単一細胞解析
完全な微小流体プラットフォームを用いる様々な消化時間の下に腎を評価した。内皮細胞(CD31を介する。表1)も、これらが従来の解離法では単離が困難であるため、フローサイトメトリーのパネルに加えた。細切した組織を消化デバイス12に負荷し、静的(15分または60分)またはインターバル(1分、15分、および60分)のフォーマットの下に処理し、次いで一体化された解離/濾過デバイス40を一回通過させた。対照を細切し、消化(15分または60分)し、ボルテックス/ピペッティングによって脱凝集し、細胞ストレーナーを用いて濾過した。上皮細胞についての結果を図4Aに提示する。これらは一般に最適化研究(図3C)と同様であるが、上皮細胞は約20,000/mg組織に増加した。これは一体化された解離/濾過デバイス40による最適化研究より約40%高く、全体として60分の対照の2倍を超えていた。驚くべきことに、1分のインターバルは約1500上皮細胞/mgを産生し、これは15分の対照と同様であった。この時点は、主として赤血球を除去するために選択した(図12参照)。デバイス処理は内皮細胞についてさらにより効果的であり(図4B)、これは60分の対照を5倍超、上回った。白血球についての知見(図4C)は一般に上皮細胞と同様であった。インターバルフォーマットで全ての細胞型について60分の静的条件に対して全細胞回収率のわずかな減少が観察されたが、これは統計的に有意ではなかった。このわずかな減少は、移送および/または充填のプロセスの間の試料の損失によるものであろう。あるいは、消化デバイスの中に留まっていればさもなければ崩壊していたかもしれない細胞クラスターが初期のインターバルで溶出した可能性もある。60分の対照に対して、内皮細胞は1分のインターバルを除く全てのデバイス条件で富化された。白血球は少なく見積もられた15分の対照を除いて同様のレベルで存在していた。興味あることに、変動係数(下の表2を参照)によって測定されるバッチ間の再現性は、それぞれの条件について処理時間とともに低下し、インターバルを用いる微小流体システム1について最低であった。デバイス処理の後の3種全ての細胞型についての生存率は、対照と同様または対照を上回っていた(図13A図13C参照)。
【0036】
【0037】
表2は、様々な処理条件における腎試料についての変動係数の値を示す。
【0038】
次にscRNA-seqを実施した。これは、マウス腎の中に存在する多様な細胞型の一覧表を作成し、アトラスを創成するために用いられている。システム10を用いて腎組織を処理し、60分の対照の評価とともに15分および60分のインターバルを収集した。蛍光活性化細胞ソーティング(FACS)を用いてデブリおよび死細胞から生きている単一細胞を単離し、液滴対応10Xクロミウムプラットフォームに負荷して、34,034個の細胞を約60,000リード/細胞の平均デプスでシーケンシングした。scRNA-seq品質評価指標を下の表3に示す。これらは条件にわたって同程度であった。
【0039】
【0040】
表3は、腎および乳腺腫瘍の試料についてのscRNA-seq評価指標を示す。
【0041】
濾過の後、Seuratを用いて7種の細胞クラスターを同定(図5A)およびアノテート(図14A図14Bを参照)した。これは、近位尿細管の2つのクラスター(渦巻き型、即ちS1、および直線状、即ちS2~S3)、内皮細胞、マクロファージ、Bリンパ球、およびTリンパ球を含んでいた。最終クラスターは不均一で、遠位渦巻き型尿細管(DCT)、ヘンレ係蹄(LOH)、および集合管(CD)に由来する細胞、ならびにメサンギウム細胞(MC)を含んでいた。対照およびデバイスの条件で7種全てのクラスターが表れた。それぞれのクラスターの細胞の相対数を図5Bに示す。近位尿細管が主要な細胞集団であり、対照の約53%を表し、これは最近公開されたマウス腎アトラスとよく一致していた。近位尿細管は15分のデバイス条件でさらに富化され、細胞懸濁液の約86%を占めた。その他の細胞集団は対照に対して最大2分の1に少なく見積もられたが、マクロファージについては8倍にも達した。しかし、これが回収率の低下によって生じたのか、単に近位尿細管による希釈によるのかは明らかではない。60分のデバイスインターバルのみが約29%の近位尿細管を含んでいたが、大部分は15分のインターバルで既に除去されていたことが推測された。内皮細胞は60分で明らかに富化され、懸濁液の約25%に増加した一方、残りの細胞型は対照値に近いままであった。DCT、LOH、DC、およびMCのサブクラスターの中で同様の傾向が観察された(図15A図15B参照)。scRNA-seq(図5B)およびフローサイトメトリーから得られた集団パーセンテージを比較するため、どの細胞集団がそれぞれのマーカーを発現しそうかについて考慮しなければならない。CD45およびCD31の遺伝子発現は適切なクラスターとよく相関した(図16A図16D参照)。EpCAMについてはDCTおよびCD細胞が高いレベルで発現することが示されている一方、近位尿細管およびLOH細胞は低いレベルから非検出レベルまでの範囲にあった。シーケンシング結果の検討により、EpCAMは少なくともDCT、LOH、CD、およびMCサブクラスターのサブセットによって高度に発現することが示された(図16A図16D参照)。興味あることに、近位尿細管は主としてEpCAM陰性であったが、これは低い基底発現および/または低いタンパク質ターンオーバー等の起こり得る二次的要因によって説明されよう。低レベルの発現を識別することを助けるため、最も明るい蛍光色素であるフィコエリスリン(PE)を用いてEpCAMを染色したが、一部の細胞近位尿細管が未検出のままであった可能性がある。全ての近位尿細管、DCT、LOH、CD、およびMCクラスターがEpCAM+であったと仮定すれば、計算された集団パーセンテージは、対照、15分のデバイス、および60分のデバイス条件について、それぞれ対照の約62、88、および40%であった。これは15分のデバイスの例においてはフローサイトメトリーによる結果と直接一致しているが、他については大幅に低い。EpCAMの発現が少ないためにフローサイトメトリーがこれらの細胞型のいずれかを見落としているとすれば、これは単に不一致を拡大するのみであることに注目されたい。その代わりに、特に全ての細胞亜集団について明らかに陽性のバイオマーカーが欠けている場合に、scRNA-seqによって細胞型が同定される包括的な方法がフローサイトメトリーより優れていることが提案される。フローサイトメトリーは細胞計数により良く適しているが、これらの結果に基づき、デバイス処理によって、60分の対照に対して15分で同程度の数の細胞が、また60分で少なくとも50%多い細胞が一貫して産生された。図5Bにおけるパーセンテージとともに、これらの推測値を重み付け因子(15分について1倍、60分について1.5倍)として用いて、凝集デバイスプラットフォームの収率を計算した(表4参照)。
【0042】
【0043】
表4.マウス腎におけるそれぞれのクラスターおよびサブクラスターについての重み付け集団値。図5Bにおける微小流体処理についての集団パーセンテージに重み付け(15分について1倍、60分について1.5倍)し、合計して全凝集微小流体プラットフォーム値を創成した。これらを対照によって正規化し、全凝集集団分布を計算するために用いた。
【0044】
全内皮細胞の回収率は対照より約4倍大きかった一方、他の細胞型は約2~2.5倍大きく、これらは全てフローサイトメトリーと一致した(図4A図4C)。真の重み付け因子はわずかに異なる可能性があるが、対照とデバイスプラットフォームとの間の相対的な数はフローサイトメトリーとscRNA-seqとの間で一致しているようである。しかし、細胞型にわたる相対数はかなり変動し、これはFACSの収集または10Xクロミウムシステムにおける液滴負荷の間の偏りに起因した可能性があり、これは既に報告されている。結果は、これらのステップの間の内皮細胞および白血球の優先的な選択を示唆している。それにも関わらず、微小流体システム10は、標準的な組織解離ワークフローを用いる場合に少なく見積もられることが示された内皮細胞を富化することによって、単離の間の腎組織の細胞特異的な偏りに対処することができる一方、他の全ての細胞サブタイプを同様の数に維持することができる。わずかな潜在的な有足細胞が対照またはデバイス試料で観察されたことは注目に値し(図26A図26B参照)、これは酵素消化にコラーゲナーゼを用いたという事実に起因すると考えられる。リベラーゼを用いて調製した腎アトラスも有足細胞を欠いていた一方、コラーゲナーゼとプロナーゼの組合せ、ならびに寒冷活性プロテアーゼは有足細胞のクラスターを生じた。これは、増強された機械力を用いる設定においても酵素の選択がやはり重要であることを示している。
【0045】
最後に、トランスクリプトームの情報を用いる細胞同定に干渉する可能性のある応力応答遺伝子を評価した。応力応答の誘起は、従来の組織解離プロトコルに関連付けられてきた。多数の遺伝子が関係していると考えられてきたので、以前のscRNA-seqの研究に基づいて応力応答スコアを計算し、結果を図5Cに提示する。最近報告されたように、応力応答スコアは細胞型に特異的であることが見出され、近位尿細管が最小の値を示した。応力応答スコアは、60分のインターバルおよび対照の例と比較して、15分のインターバル条件について一般に低かった。これは、酵素消化時間を短くすると解離によって誘起される転写のアーチファクトが低減するという以前の知見と一致している。重要なことに、消化デバイスの中で流体剪断応力に曝露すると任意の細胞型について応力応答が増大するという証拠は見出されなかった。これは、時間が主要な因子であり、微小流体プラットフォームにおいてインターバルの概念を用いることによってこれが軽減されることを示唆している。選択した応力応答遺伝子についての発現値を図27A図27Cに個別に示す。
【0046】
マウス乳腺腫瘍組織の処理および単一細胞解析
固形腫瘍は高度の腫瘍内不均一性を呈することがあり、これはがんの進行、転移、および薬物耐性の発現に直接関係しているとみなされてきた。この不均一性はscRNA-seqを用いて成功裡に捕捉されており、膠芽細胞腫における生存率、黒色腫における薬物耐性、および結腸直腸がんにおける予後に関連付けられてきた。さらに、個別治療を導くための分子および細胞の情報を提供する臨床状況におけるscRNA-seqの適用の拡大が早期に出現することが期待されている。しかし、異常な細胞外マトリックス組成および密度のために、腫瘍組織は解離が最も困難な上皮組織に含まれると考えられている。MMTV-PyMTトランスジェニックマウスにおいて自然に発生する乳腺腫瘍の微小流体処理を評価した。最初に、細切消化デバイス12および一体化された解離/濾過デバイス40を個別に最適化した。消化デバイス12は、15分~30分後に対照より約2倍多いEpCAM+上皮細胞を生じ、差は60分後に2.5倍に拡大した(図17A参照)。生存率は全ての時点でデバイス処理した試料について対照より高かった(図17B参照)。次に、一体化された解離/濾過デバイス40を試験し、再びシングルパスが最適であることを見出した(図17C図18D参照)。この場合には、1分および4分の再循環は同様の細胞数を生じたが、生存率は低かった。
【0047】
完全な微小流体デバイスシステム10についての結果を図6A図6Cに示す。これらは一般に腎と同様であったが、細胞数/mg組織は2分の1~3分の1、少なかった。しかし、システム10はやはり対照より有意に多い細胞を生じた。上皮細胞は両方の時点で約2倍多かった(図6A)。内皮細胞もデバイス処理によってより効率的に遊離し、15分後に5倍多い細胞、および60分後に10倍多い細胞が回収された(図6B)。白血球は15分後および60分後にそれぞれ3倍および5倍、増加した(図6C)。インターバルフォーマットは、対応する静的時点と比較して同様の全上皮細胞および白血球の数を生じた。しかし、インターバルから約30%多い内皮細胞が得られた。1分のインターバルで著しく多数の上皮細胞(15%超)が得られたことに注目されたい。デバイス処理によって、対照と同様のままであった1分の時点を除く全ての時点で内皮細胞および白血球が富化された。腎と同様に、微小流体処理は変動係数によって測定して大きなバッチ間再現性を伴っていた(下の表5参照)。3種全ての細胞型についての生存率は15分の対照と同様であり、60分の対照を上回った(図18A図18Cを参照)。したがって、微小流体システム10は腫瘍からより多くの単一細胞を遊離させた一方、細胞の生存率をより良く維持していた。
【0048】
【0049】
表5は、様々な処理条件における乳腺腫瘍試料についての変動係数値を示す。
【0050】
15分および60分のデバイスインターバルおよび60分の対照を用いて、scRNA-seqを再び実施した。全部で24,527個の細胞を、平均約45,000リード/細胞でシーケンシングした。上皮細胞、マクロファージ、内皮細胞、Tリンパ球、線維芽細胞、および顆粒球に対応する6つのクラスターを同定した(図7A)。上皮細胞が主要な細胞集団であり、対照細胞の62.0%に相当した(図7B)。上皮細胞のパーセンテージは15分のインターバルでわずかに増加し、60分のインターバルで減少した。Krt14、Krt18、およびMki67の発現に基づいて、それぞれ内腔、基底、および増殖型内腔の細胞に対応する3つのサブクラスターを上皮細胞集団の中で同定した(図19A図19Cを参照)。MMTV-PyMT腫瘍について予想されたように、内腔サブタイプが主要であった。基底亜集団がデバイス処理によって富化された一方、増殖型内腔亜集団は少なく見積もられた。これらの結果は、基底上皮細胞がより解離しにくいことを示唆している。EpCAM、CD45、およびCD31が全て予想された細胞型とよく相関したので、scRNA-seqとフローサイトメトリーとの細胞集団の比較はより容易であった(図20A図20Dを参照)。しかし、線維芽細胞はフローサイトメトリーによって検出されず、60分のデバイス条件のかなりの部分を占めている。腎と同様に、腫瘍上皮細胞のパーセンテージはフローサイトメトリーデータで有意に高く、細胞選別および/または液滴カプセル化の間の偏りをさらに示唆しているようである。図7Bの集団パーセンテージと腎について用いた同じ重み付け因子(15分について1倍、60分について1.5倍)を組み合わせれば、再び凝集デバイスプラットフォーム収率を計算することができる(表6参照)。
【0051】
【0052】
表6は、マウス乳腺腫瘍におけるそれぞれのクラスターおよびサブクラスターについての重み付けした集団値を示す。微小流体処理についての集団パーセンテージに重み付け(15分について1倍、60分について1.5倍)し、合計して全凝集微小流体プラットフォーム値を創成した。これらを対照によって正規化し、全凝集集団分布を計算するために用いた。
【0053】
対照に対するデバイス凝集の差異は、上皮細胞について約2倍、Tリンパ球およびマクロファージについて2.5~3倍であり、これらは全てフローサイトメトリーの結果と同様である(図6Aおよび図6C)。内皮細胞は微小流体システム10について約4倍大きく、これはフローシンメトリーからの10倍の差異(図6B)より小さい。注目すべきことに、デバイスプラットフォームを用いることによって、線維芽細胞は10倍富化された。この結果は、微小流体システム10による組織の処理によって、全ての細胞型の単離を少なくとも2.5倍、ならびに内皮細胞、線維芽細胞、および基底上皮細胞等の遊離させることが困難な細胞型の単離を4~10倍、改善することができることが確認される。
【0054】
最後に、腎について述べたように、応力応答スコアを決定した。JunおよびFosファミリーのメンバー等のいくつかの応答遺伝子が転移の進行および薬物耐性に関連付けられているので、応力応答の重要性を腫瘍について強調することができる。応力応答スコアは、腫瘍の全ての細胞型および条件にわたって同様であった(図7C)。腫瘍細胞は解離によって誘起される転写の変化への感受性がより高く、これらの応答を低減させるためにより短いインターバルでさえ必要である可能性がある。選択した応力応答遺伝子についての発現値を図28A図28Lに個別に示す。
【0055】
マウス肝からの肝細胞の単離
肝は薬物代謝において主要な役割を果たしており、薬物によって誘起される毒性について評価されることが多い。実際、肝の損傷は、承認された薬物の承認取り消しの主要な原因の1つである。したがって、初代肝組織に対する薬物のインビトロスクリーニングは、前臨床試験の重要な要素である。培養の状況における肝細胞の機能および活性をより良く維持し、患者由来の初代細胞についての個人化された試験を可能にするため、オーガンオンチップ(organ-on-a-chip)システムがますます採用されるようになっている。肝は柔軟で一般には解離が容易であるが、肝細胞は脆弱であることがよく知られており、したがって肝は特有の解離困難性を有している。したがって、肝には短いデバイス処理時間が有効であると仮定した。これらの実験のために、マウス肝を1mmの片に細切し、ASGPR1の発現に基づいて肝細胞を検出した。最初に細切消化デバイス12を15分または60分、用いて肝を処理した。15分後にデバイスについて肝細胞の回収は比較可能な対照より約4倍高かった(図8A)。対照の消化を継続すると、肝細胞の数がさらに増加した。直観には反するが、消化デバイス12で処理を継続すると、肝細胞の収率がほぼ半分に減少した。この知見は2つの因子の組合せによって惹起されたと考えられる。即ち柔軟な肝組織は早期の時点で効果的に破壊され、脆弱な肝細胞は再循環による損傷に対する感受性がより高い。一体化された解離/濾過デバイス40を通るシングルパスも試験し、肝細胞の回収率が低下することを見出した。これはおそらく15μmの膜64によって保持または損傷させる大きなサイズ(約30μm)の肝細胞によるものである。60分の消化デバイス処理および一体化されたデバイス40の通過の後の生存率が45%に低下した一方、他の全ての条件は約80%であった(図8B)ことから、損傷は加成的であると思われる。一体化された解離/濾過デバイス40から15μmのフィルター64を除去すると、肝細胞が消化デバイス12単独に対して30%、対照に対してほぼ3倍増加した一方、生存率は維持された(図21A図21B参照)。
【0056】
最初の最適化研究に基づいて、微小流体システム10は短い処理時間を利用し、50μmのフィルター62のみを有する改変された解離/濾過デバイス40を用いるべきであると結論した。消化デバイスによる5分の処理の後、約700個/mg肝組織の肝細胞を回収した(図8C)。これは15分の対照より4倍高く、60分の対照(約1000肝細胞/mg)よりわずかに少なかった。消化デバイス12の処理時間を15分に延長すると、肝細胞の回収率が60分の対照と同じレベルに40%増強された。最も特筆すべき結果はインターバルフォーマットの下で観察された。わずか1分後に、約700個の肝細胞/mg組織が回収された。5分および15分のインターバルを加えると、60分の対照と15分の静的条件の両方に対して約2.5倍の増強である約2400個の肝細胞/mgがもたらされた。肝細胞の生存率は対照および大部分のデバイス条件について90%のままであった(図22A参照)。内皮細胞(図8D)および白血球(図8E)について、1分のインターバルからの大幅な回収およびインターバルフォーマットを用いて増強された全細胞数を含む同様の傾向が観察された。内皮細胞については、インターバル操作は60分の対照および15分の静的デバイスの例より約1.5倍高かった。白血球については、静的デバイス操作によって60分の対照より2.5倍を超える細胞が産生され、インターバル操作は回収率を約3.5倍にさらに増強した。白血球によるデバイスプラットフォームの強い性能ならびに腎および腫瘍と比較して肝における相対的な量の多さを考慮して、細胞懸濁液は白血球について60分の対照と比較して富化された。これは静的な時点および1分のインターバルについて特に正しかった。興味あることに、3つのインターバル条件は肝細胞および白血球の極めて異なった発現量を含んでおり、もし望まれれば溶出時間の選択がある集団を他の集団からおおまかに選択する手段として働き得ることを示唆している。下の表7で見られるように、バッチ間の再現性は内皮細胞を除く全ての細胞でインターバルを用いる微小流体処理について最も高かった。内皮細胞および白血球についての生存率は、対照と同様または対照より大きいままであった(図22Bおよび図22Cを参照)。
【0057】
【0058】
表7は、様々な処理条件における肝試料についての変動係数値を示す。
【0059】
総合すれば、肝についての微小流体システム10の性能は、腎および腫瘍と比較して極めて独特であった。これは、組織を破壊するために流体剪断力が必要であるが、既に遊離したいくつかの細胞型が損傷され得るという事実によって惹起されると考えられる。全ての組織は、これらの効果の適正なバランスを必要とする。肝のような柔軟な組織では、特に傷つきやすい肝細胞についてバランスは破壊から保存の方向にシフトしなければならず、これはインターバル回収を用いることによって達成することができる。内皮細胞および白血球も、程度は低いが過度の処理に対していくらかの感受性を呈した。この知見が腎および腫瘍を含む他の組織に一般化できるか否かは明らかでない。肝の正弦波状内皮細胞は高度に専門化しており、卵円窓が豊富で下部基底膜がない。これらの特性によっても、正弦波状内皮細胞は特に損傷を受けやすくなっている可能性がある。白血球については、主としてクッパー細胞である肝内に起源のある細胞と、剪断にあまり敏感でない血液由来の細胞との間に区別はなかった。クッパー細胞ならびに肝星細胞を直接評価する将来の研究は、特に多数の細胞型を利用する複雑な肝モデルに向けて進歩するために極めて興味深い。
【0060】
マウス心臓からの心筋細胞の単離
心不全は市場からの薬物の撤退のもう1つの主な原因であり、肝不全と併せて撤退の約70%を占めている。したがって、前臨床薬物スクリーニングのための初代心筋細胞を用いるハートオンチップ(heart-on-chip)技術の開発には強固な興味がある。心筋細胞は機械的および酵素的な解離手法には極めて感受性が高いことが示されている。さらに、これらは一方向に不釣り合いに長く、100μmおよびそれ以上のオーダーの長さである。これらの実験のため、マウス心臓を1mmの片に細切し、トロポニンTの発現に基づいて心筋細胞を検出した。トロポニンTは細胞内マーカーであるので、7-AADの代わりに固定可能な生存色素であるZombie Violetを用いた。心筋細胞の大きさおよび形状に関するあり得る懸念を考慮して、一体化された解離/濾過デバイス40におけるフィルター孔径の影響を試験した。細切消化デバイス12による15分の処理の後、50μmと15μmの両方の孔径の膜62、64を有する元の一体化された解離/濾過デバイス40または50μmの膜62のみを有する改変されたバージョンに試料を通過させた。細胞の数および生存率は全ての条件について同様であり(図23A図23Bを参照)、両方の膜62、64を有する元のバージョンを心組織のために選択した。
【0061】
次に、完全な微小流体システム10を様々な消化時間で評価した。心筋細胞の感受性があり得るので、短い処理時間を用いた。消化デバイス12による5分の処理の後、心組織1mgあたり約2000個の心筋細胞が回収された(図9A)。これは15分および60分の対照よりそれぞれ約半分および3分の1、少なかった。消化デバイス処理を15分に延長すると、回収は約12,000細胞/mgに増加し、これは60分の対照より約2倍多かった。腎と同様に、インターバルフォーマットによって心筋細胞の回収は約18,000細胞/mgにさらに増加した。微小流体システム10からの内皮細胞(図9B)および白血球(図9C)の収率は、60分の対照より有意に少なかった。インターバルフォーマットは両方の場合において回収を確かに改善したが、60分の対照は内皮細胞について約2倍、白血球について約1.5倍、多いままであった。この回収率の相違に基づけば、デバイスプラットフォーム10による処理は、心筋細胞の顕著な富化をもたらした。バッチ間再現性はインターバルを用いる微小流体処理において最大であった(下の表8を参照)。
【0062】
【0063】
表8は、様々な処理条件における心臓試料についての変動係数値を示す。
【0064】
3種全ての細胞型についての生存率は対照と同様であった(図24A図24Cを参照)。全ての組織についての結果を総合的に考慮すると、心臓はおそらく腎/腫瘍と肝の両極端の間に位置している。組織はやはり破壊しにくく、これが早期の時点での回収が少なかった理由である。デスモソームおよびアドへリン接合部によって形成される強力な細胞内連結のために、心筋細胞についてそれ自体では消化が特に非効率的であったようであるが、微小流体システム10はこれらの連結を破壊し、心筋細胞を分離するために必要な剪断応力を提供した。しかし、機械的損傷に対する心筋細胞の感受性は状況を悪化させる因子であり、そのため、消化時間を長くして結果を改善することは考えにくい。内皮細胞は、血管ならびに心房腔および心室腔の壁を裏打ちする内膜から生じ得る。心房腔および心室腔にはコラーゲナーゼが容易に接近できるので、内膜は消化のみによって効果的に遊離されたと考えられる。しかし腎および腫瘍について見られたように、微小流体システム10を用いても、血管は内膜を効果的に放出させるために長い時間を必要とする。これは、結果が内膜に偏っていたこと、および回収が少なかったことは損傷が主な理由であったことを示唆している。心臓と肝の両方において評価した全ての細胞型についてインターバル回収が結果を改善したという事実は、このモードが最適な成績に重要であることを示している。実際、細胞の損傷を防止するには、おそらく時間分解能を増大させ、または理想的には継続させるべきである。それにも関わらず、本研究において現在構成し、操作している微小流体プラットフォームは、全細胞回収率の増大、処理時間の短縮、およびいくつかの場合にはその両方に基づいて、多様な細胞型に由来する単一細胞の回収を一貫して改善した。
【0065】
細切された検体の負荷および処理を容易にする消化デバイス12、ならびに単一細胞懸濁液が下流における解析または代替の用途に直ちに使用可能になるように解離ワークフローを完了する新たに一体化された解離/濾過デバイス40を含む新規な微小流体システム10が開示される。新たな細切消化デバイス12は組織の破壊を加速し、従来の方法より顕著に多い単一細胞を産生した一方、一体化された解離/濾過デバイス40は全て生存率に影響せずに収率をさらに増大させた。これは、広範囲の特性を示す多様な組織型、ならびに異なる2つの単一細胞解析法、即ちフローサイトメトリーおよびscRNA-seqについて決定した。微小流体消化の間の異なる時点での単一細胞の抽出を可能にするインターバル操作を含む新規な処理スキームを用いた。腎および腫瘍のような物理的に硬くより強固な組織について、微小流体処理は劇的に短い時間(15分対60分)で同様の細胞数および全体でほぼ2.5倍多い単一細胞を産生することが見出された。scRNA-seqによって、内皮細胞、線維芽細胞、および基底上皮細胞が微小流体システム19によって高度に富化され、それぞれ4倍~10倍、増加することがさらに確認された。さらに、いくつかの細胞型については短い消化時間が低い応力応答に付随しているが、さもなければいかなる場合でも微小流体処理は応力応答を増大しないことが見出された。これらの結果により、微小流体組織システム10が、細胞のサブタイプによる偏り、処理時間、および/または応力応答を低減することによってscRNA-seq研究を進歩させるための刺激的な可能性を有していることが明らかに確認される。肝および心臓のように柔軟で感受性のある細胞型を含む組織について処理時間が劇的に低減されること、および細胞の損傷を避け、回収率を最大にするためにインターバル操作が重要であることが見出された。これらの結果は組織工学および再生医療における目標を進歩させ、薬理学研究のための患者由来のオーガンオンチップ(organ-on-a-chip)モデルのために特に刺激的になり得る。細切された検体に着目することによって、微小流体組織処理システム10は、全てではないにしても大部分の器官および組織についての解離ワークフローの中に容易に組み込むことができる。組織の前処理を最小化することは有益であり、将来の研究において追求されよう。もう1つの将来の目標は、脆弱な細胞の保護、ある種の細胞サブタイプの意図的な富化、および応力応答の低減をさらに探索するためにインターバル回収の時点を低減させることであろう。理想的には、単一細胞が生成すれば直ちにこれをプラットフォームから溶出させることを可能にする細胞分離戦略が一体化される。微小流体システム10は、多様な組織特性および細胞サブタイプに用いることができる。さらに、低温活性プロテアーゼ等の代替のタンパク質分解酵素を用いてもよい。最後に、臨床応用のためのヒト組織に着目した細胞系診断および薬物試験のための完全に一体化されたポイントオブケア(point-of-care)技術を創成するために、微小流体細胞選別および検出の能力をシステム10に組み込んでもよい。
【0066】
材料および方法
デバイスの組み立て。微小流体細切消化デバイス12および一体化された解離/濾過デバイス40は、ALine,Inc.(Rancho Dominguez,CA)によって組み立てられた。簡単に述べると、流体チャネル、ビア、および膜のための開口、ルアーポート、ならびにホースの返しを、COレーザーを用いてPMMAポリエチレンテレフタレート(PET)層にエッチングした。ナイロンメッシュ膜(フィルター62、64)はAmazon Small Parts(孔径15および50μm;Seattle,WA)から大きなシートとして購入し、COレーザーを用いてサイズに切断した。次いでデバイス層およびその他の部品(ホース返し、ナイロンメッシュ膜)を組み立て、接着剤を用いて接着し、圧力ラミネートして一体のデバイスを形成した。
【0067】
マウス組織モデル。腎、肝、および心臓は、University of California,Irvine’s Institutional Animal Care and Use Committeeによって承認された探索研究の廃棄物と決定され、新たに犠牲死させたBALB/cまたはC57B/6マウス(Jackson Laboratory,Bar Harbor,ME)から収穫した(Angela G.Fleischman博士の好意)。乳腺腫瘍は、新たに犠牲死させたMMTV-PyMTマウス(Jackson Laboratory,Bar Harbor,ME)から収穫した。腎については、それぞれ髄質および皮質の組織学的に同様の部分を含む長さ約1cm×直径約1mmの組織片を、メスを用いて調製した。次いで組織片をメスでさらに約1mmの片に細切した。肝、乳腺腫瘍、および心臓は、メスで約1mmの片に均一に細切した。次いで細切した組織試料を秤量し、以下に述べるデバイスで処理した。対照をミクロ遠心管の中に入れ、振盪インキュベーター中、15分、30分、または60分、穏やかに振盪しながら37℃で消化し、ピペッティングおよびボルテックスを繰り返すことによって機械的に脱凝集した。0.25%のI型コラーゲナーゼ(Stemcell Technologies,Vancouver,BC)を対照とデバイス処理条件の両方に用いた。最後に、細胞懸濁液を100単位のDNアーゼI(Roche,Indianapolis,IN)と37℃で10分、処理し、遠心分離によってPBS+中で洗浄した。
【0068】
細切消化デバイスの操作。内径0.05インチのチューブ24(Saint-Gobain,Malvern,PA)をデバイス入口14および出口16のホース返しに固定することによって細切消化デバイス12を準備し、これを次に内径2.62mmのチューブ24(Saint-Gobain,Malvern,PA)でIsmatecペリスタポンプ18(Cole-Parmer,Werheim,Germany)に接続した。実験に先立って、チャネル壁への細胞の非特異的結合を低減するためにデバイス12、40、およびチューブ24をSuperBlock(PBS)ブロッキング緩衝液(Thermo Fisher Scientific,Waltham,MA)中、室温で15分、インキュベートし、PBS+で洗浄した。細切された組織片を、ルアー入口ポート30を通してデバイス組織チャンバー20に負荷した。次いでデバイス12およびチューブ24を0.25%のI型コラーゲナーゼ溶液(StemCell Technologies,Vancouver,BC)で満たし、ストップコックを用いてルアーポート30を閉鎖した。次いで最適の酵素活性を維持するために、デバイス12、チューブ24、およびペリスタポンプ18からなる実験装置を37℃のインキュベーターに入れた。流量10または20mL/分で特定した時間、ペリスタポンプ18を用い、デバイス12とチューブ24を通してコラーゲナーゼ溶液を再循環させた。
【0069】
細胞懸濁液から回収したDNAの定量。QIAamp DNA Mini Kit(Qiagen,Germantown,MD)を用い、メーカーの使用説明書に従って単離した後、Nanodrop ND-1000(Thermo Fisher,Waltham,MA)を用いて、消化された腎組織懸濁液の精製されたゲノムDNA(gDNA)の含量を評価した。デバイス処理された試料についてのgDNAは、操作後にデバイスから溶出した細胞内含量を表す一方、対照試料についてのgDNAは、これらの試料中に存在するgDNAの全量を表す。
【0070】
一体化された解離/濾過デバイスの操作。細切消化デバイス12による処理に続いて、図1Aおよび図1Fに見られるように、チューブ24を細切消化デバイス12の出口16から一体化された解離・濾過デバイス40の入口46まで接続した。最循環を意図した場合には、チューブ24を直交流出口からペリスタポンプ18まで接続し、一方、一体化されたデバイス40の出口48をストップコックで閉じた。次いで流体をポンプ44で解離/濾過デバイス40を通して流量10mL/分で送液した。試料の最終採取のため、または解離部品を通して1回のパスのみを利用する場合には、直交流出口をストップコックバルブで閉じ、試料を10mL/分で送液して流出液出口50から収集した。全ての実験に続いて、デバイス12、40を2mLのPBS+で洗浄して流し出し、残存する細胞があれば収集した。タイムインターバル回収については、それぞれのPBS+洗浄に続いてデバイス12、40およびチューブにコラーゲナーゼ溶液を再充填し、次の収集時期まで再循環を継続するために、細切消化デバイス12の出口16をペリスタポンプ18に再接続した。
【0071】
フローサイトメトリーを用いる細胞懸濁液の解析。表1に示す組織特異的フローサイトメトリーパネルを用いて、細胞懸濁液を解析した。腎による初期の研究のため、細胞懸濁液を5μg/mLの抗マウスCD45-AF488(クローン30-F11,BioLegend,San Diego,CA)、7μg/mLのEpCAM-PE(クローンG8.8,BioLegend,San Diego,CA)、および5μ/mLのTER119-AF647(クローンTER-119,BioLegend,San Diego,CA)モノクローナル抗体で30分、同時に染色した。次いで試料をPBS+による2回の遠心分離で2回洗浄し、3.33μg/mLの7-AAD生存色素(BD Biosciences,San Jose,CA)で、氷上、少なくとも10分、染色し、Novocyte 3000フローサイトメーター(ACEA Biosciences,San Diego,CA)によって解析した。フローサイトメトリーデータは、単一染色細胞試料または補正ビーズ(Invitrogen,Waltham,MA)を用いて補正した。それぞれの補正試料の中の陽性および陰性の亜集団を包含するゲートを用いて、FlowJo(FlowJo,Ashland,OR)における補正マトリックスを計算した。生存および死滅した単一の上皮細胞、白血球、および赤血球を同定するために、シーケンシャルゲーティングスキーム(図25参照)を用いた。シグナル陽性は適切なFluorescence Minus One(FMO)対照を用いて決定した。腎、腫瘍、および肝を用いる最終研究では、BV510とCD45(12.5μg/mL,BioLegend,San Diego,CA)を用い、内皮細胞については8μg/mLのCD31-AF488を組み込んだ。肝の実証では、肝細胞についてEpCAM-PEを10μg/mLのASGPR1-PE(クローン8D7,Santa Cruz Biotechnology,Dallas,TX)で置き換えた。心臓の実証では、生存率のために7-AADの代わりに1:1000希釈のZombie Violet(Biolegend,San Diego,CA)を用い、心筋細胞についてEpCAM-PEを0.15μg/mLのトロポニンT-PE(クローンREA400,Milentyi Biotec,San Diego,CA)で置き換えた。
【0072】
単一細胞RNAシーケンシング。これらの研究では12週齢のマウス(腎についてはC57BL/6、雄;乳腺腫瘍についてはMMTV-PyMT、雌、いずれもJackson Laboratory,Bar Harbor,ME)を用いた。これらをCO吸入によって安楽死させた。腎および乳腺腫瘍を切除し、約1mmの片に細切し、微小流体システム10について述べたように、0.25%のI型コラーゲナーゼを用いて(15分および60分の消化デバイス12インターバル、一体化された解離/濾過デバイス40を通るシングルパス)または対照(60分の消化)を調製した。回収した細胞を遠心分離(400×g、5分)し、100単位のDNアーゼIで37℃、5分、処理し、遠心分離によってPBS+中に洗浄した。次いで試料を氷上でRBC溶解緩衝液と5分インキュベートし、遠心分離し、PBS+中に再懸濁した。FACS(FACSAria Fusion,BD Biosciences,Franklin Lakes,NJ)に先立って死細胞および環境中のRNAを除去するために、細胞をSytoxBlue(Life Technologies,Carlsbad,CA,USA)で染色した。選別した生きている単一細胞(SytoxBlue陰性)を遠心分離し、0.04%BSA含有PBS中で1000細胞/μLの濃度で再懸濁した。次いで液滴対応scRNA-seqのために10Xクロミウムシステム(10xGenomics,Pleasanton,CA)を用いた。油、細胞、試薬、およびビーズを8チャネルの微小流体チップに負荷した。レーンには、試料のそれぞれから自動化セルカウンター(Countess II,Invitrogen,Carlsbad,CA)を用いて決定した約17,000細胞を負荷した。次いで、10x Genomics Single Cell Expression v3ケミストリーについてのライブラリー生成をメーカーの使用説明書に従って実施した。Illumina NovaSeq 6000プラットフォーム(Illumina,San Diego,CA)を用い、腎について約60,000リード/細胞および乳腺腫瘍について約45,000リード/細胞のデブスで試料をシーケンシングした。10x Genomics Cell Rangerソフトウェア(バージョン3.1.0)を用いてシーケンシングfastqファイルをインデックス付きmm10参照ゲノムと整列させた。Cell Ranger Aggrを用いて、それぞれのデータセットについてのライブラリーにわたる細胞のマッピングされたリードを正規化した。少なくとも3つの細胞で検出されなかった遺伝子は、さらなる解析から除外した。低い(200未満)または高い(腎について3000超、乳腺腫瘍について4000超)特有の遺伝子が発現した細胞も、これらはそれぞれ低品質またはダブレット細胞を表している可能性があるので、廃棄した。高いミトコンドリア遺伝子パーセンテージ(腎について50%超、乳腺腫瘍について25%超)を有する細胞も、これらも低品質または死滅しつつある細胞を表している可能性があるので、廃棄した。クラスター同定のためにSeuratパイプラインを用い、高度可変性の遺伝子を用いて主要成分解析(PCA)を実施し、グループを同定するために密度クラスタリングを実施し、グループ分けを可視化するためにUniform Manifold Approximation and Projection(UMAP)プロットを用いた。腎については、2つのアプローチを用いて細胞クラスターをアノテートした。第1に、それぞれのクラスターにおける上位の異なる遺伝子を検討し、既知のマーカー遺伝子(たとえばKap、Napsa、およびS2-S3近位尿細管についてのSlc27a2、S1近位尿細管についてのGpx3、内皮細胞についてのEmcn、ヘンレ係蹄についてのSlc12a1、遠位尿細管についてのSlc12a3等)の発現に基づいてクラスターの細胞型を決定した。第2に、マウス腎のよく確立されたアトラスが利用可能であるので、細胞スコアリング法を用いて、クラスターのそれぞれに由来するマーカー遺伝子シグネチャーを公開されたデータセットと比較し、クラスターのアノテーションを確認した(図14A図14Bを参照)。腫瘍については、それぞれのクラスターにおける上位の異なる遺伝子を検討し、既知のマーカー遺伝子(たとえば上皮細胞についてはEpCAM)の発現に基づいて細胞型を決定することによって、細胞クラスターをアノテートした。細胞の応力応答は、それぞれのクラスターに由来する応力応答遺伝子発現を既知の応力応答遺伝子の既に公開されたデータセットと比較する既に開発されたスコアリング法を用いて評価した。
【0073】
細胞凝集の研究。MCF-7ヒト乳がん細胞はATCC(Manassas,VA)から入手し、推奨されているように培養した。実験に先立って、コンフルエントな単層をトリプシン-EDTAで5分、簡単に消化した。これにより、かなりの数の凝集物とともに細胞が放出された。遠心分離および1%BSA含有PBS(PBS+)中の再懸濁によって、実験用に細胞懸濁液を調製した。次いでMCF-7細胞を、ペリスタポンプシステム単独、または本明細書に記載した方法を用いて取り付けられた消化デバイス12もしくは一体化された解離/濾過デバイス40を含むシステムを通して再循環させた。この初期の研究については、状況を悪化させる影響を避けるため、流れは一体化されたデバイス40の解離部分を通してのみ再循環させ、最終試料収集のための濾過部品のナイロンフィルター62、64を通過させなかった。これを達成するため、一体化されたデバイス40の流出液出口50は、ポンプ操作の間、ストップコックを用いて閉じておいた。3つ全ての実験については、5、10、または20mL/分の流量、および0.5分、1分、4分、および10分の再循環時間を用いた。実験に続いて、デバイス12、40、およびチューブ24を2mLのPBS+で洗浄して、残存する細胞があれば流し出して収集した。再循環の前と後の両方で、MF-S型カセット(Orfo,Hailey,ID)を有するMoxi Flowサイトメーターおよびヨウ化プロピジウム染色を用いて細胞数および生存率を得た。
【0074】
フローサイトメトリーのゲーティングプロトコル。消化されたマウスの腎、乳腺腫瘍、肝、および心臓の試料から得た細胞懸濁液を表1に列挙した蛍光プローブで染色し、フローサイトメトリーを用いて解析した。取得したデータを補正し、シーケンシャルゲーティングスキーム(図25)を用いて評価した。ゲート1はFSC-A対SSC-Aに基づき、起点付近のデブリを除外するために用いた。ゲート2はFSC-A対FSC-Hに基づいて単一細胞を選択するために用いた。ゲート3はCD45-BV510陽性シグナルおよびTER119-AF647陰性シグナルに基づいて白血球を識別した一方、赤血球はTER119-AF647陽性シグナルおよびCD45-BV510陰性シグナルに基づいて同定した。ゲート4はCD45(--)/TER119(--)細胞サブセットに適用し、陽性のEpCAM-PEシグナルに基づいて腎および腫瘍試料中の上皮細胞、陽性のASGPR1-PEシグナルに基づいて肝試料中の肝細胞、および陽性のトロポニンT-PEシグナルに基づいて心臓試料中の心筋細胞を同定するために用いた。ゲート5は、陽性のCD31-AF488シグナルに基づいて内皮細胞を同定するために、腎および腫瘍試料中のEpCAM(--)細胞サブセット、肝のASGPR1(--)細胞サブセット、および心臓組織中のトロポニンT(--)細胞サブセットに適用した。最後に、ゲート6は、陰性の7-AADまたはZombie Violet(心臓)シグナルに基づいて、上皮細胞、肝細胞、心筋細胞、白血球、および内皮細胞のサブセット中の生細胞を同定するために用いた。非特異的バックグラウンド染色を評価するために適切なアイソタイプ対照を最初に用い、陽性シグナルカットオフを決定してゲートを設定するために適切なフルオレッセンスマイナスワン(FMO)対照を用いた。対照試料は未染色のままとした。
【0075】
MCF-7細胞を用いるポンプおよびデバイス再循環の評価
MCF-7ヒト乳がん細胞株を用い、ペリスタポンプ18および細切消化デバイス12を通して細胞を繰り返し再循環することの効果を検討した。MCF-7は強力な凝集性のある細胞型であり、通常の細胞培養の後で顕著な数の凝集物を保持しているので、より強力な解離法が必要である。実験に先立って、コンフルエントな単層をトリプシン-EDTAによって簡単に消化し、遠心分離し、1%BSA含有PBS(PBS+)中に再懸濁した。次いで試料を、ポンプ18を通してループとするか、または細切消化デバイス12に連結したペリスタチューブ24に負荷した。様々な時間および様々な流量での再循環に続いて、Moxiフローサイトメーターを用いる単一細胞数および生存率(ヨウ化プロピジウムによる排除)の測定のために、試料を収集した。結果を図10A図10Fに提示する。細胞数は対照に対して正規化した。ポンプ18単独および細切消化デバイス12を通る再循環は、試験した全ての条件についていずれも約10~20%のわずかな減少を伴うことが見出され、これは多くの場合に有意であった(図10Aおよび図10B)。細胞の生存率は一貫して対照と同様の約80%であった(図10Dおよび図10E)。細胞数は凝集物の解離によって増加するか、または細胞の破壊によって減少する可能性があり、これらの因子の両方が流体力学的剪断応力とともに増大する可能性があることに注目されたい。全剪断力は流量および処理時間に関係する条件にわたってかなり変動するので、この結果は、観察された細胞数のわずかな減少がシステム内のホールドアップまたは移送ステップの間の細胞の損失に関連していることを示唆している。
【0076】
次に、分岐チャネル解離デバイス40を通る再循環を試験した。この技術による以前の研究は往復アプローチを利用しており、これはシリンジポンプを用いて達成した。ここでは、結果を悪化させることを避けるために、一体化された解離/濾過デバイス40は、解離部分を通してのみ再循環し、ナイロンフィルター62、64を通過しなかった流れとともに用いた。5、10、および20mL/分で、0.5分、1分、4分、および10分、再循環した後で得られた細胞数を図10Cに提示する。流量5mL/分では変化は観察されなかった。細胞数は10mL/分では短い再循環時間でわずかに増加することが見出されたが、長い再循環は単一細胞の回収率を2.5倍まで増強した。流量20mL/分では、それぞれの時点について2~4倍の増加がもたらされた。しかし、細胞生存率は、最大の単一細胞数の増加を提供する条件では急激に低下した(図10F)。短い再循環時間の10mL/分で観察された約20%のオーダーの細胞数のわずかな増加は、シリンジポンプおよび往復フォーマットを用いた以前の研究と一致している。さらに、単一細胞数の極めて大きな増加と低い生存率との相関は、以前に極めて小さな孔径(5および10μm)を用いた場合のフィルターデバイスで見られていた。これらの結果に基づいて、一体化された解離/濾過デバイス40のための最適流量として10mL/分を選択し、細胞の生存率を損なうことなく単一細胞の収率を増加させるために、短い処理時間を採用することに注力した。10mL/分は、フィルター62、64を伴う解離/濾過デバイス40において用いた流量でもある。
【0077】
マウス腎を用いるプラットフォーム最適化
マウス腎試料を用いて細切消化デバイス12と一体化された解離/濾過デバイス40を個別に最適化し、上皮細胞についての結果を図3Aおよび図3C図3Fに提示する。単一の白血球もCD45を介するフローサイトメトリーによって定量し、結果を図11A図11Dに提示する。消化デバイスの最適化研究から、白血球の収率(図11A)および生存率(図11B)は上皮細胞と同様の傾向に従うことが見出された。白血球は消化デバイス12における再循環時間とともに増加し、60分で対照を上回ったが、よりわずかな約30%であった。さらに、静的およびインターバルのフォーマットは同様の結果を生じた。白血球の生存率は、60分のインターバルを除く全てについて消化デバイス12処理でより高かった。次いで一体化された解離/濾過デバイス40が15分の消化デバイス処理の後で単一細胞の収率をさらに増強できるかを検討した。白血球については、回収率はシングルパスについては変化せず、再循環ではわずかに減少した(図11C)。15分の対照と比較して、微小流体デバイス処理は7倍多い細胞を産生した。白血球の生存率は、さらなる処理とともに上昇傾向を呈したが、差異は有意ではなかった(図11D)。
【0078】
マウス腎についての単一細胞解析
マウス腎試料を用いて完全な微小流体システム10またはプラットフォームを評価し、上皮細胞、内皮細胞、および白血球の数についての結果を図4A図4Cに提示する。単一のRBCもTER119を介するフローサイトメトリーによって定量し、結果を図12に提示する。RBCは一般にデバイス処理について早期の時点で溶出し、1分のインターバルでほぼ50%が回収された。これらのRBCのかなりの部分は、臓器の収穫および細切の間に放出された血液に起因する可能性がある。しかし、RBCは対照の消化時間とともにまだ増加し、消化デバイス12が未消化の組織の中から細胞および血液を急速に洗い出した可能性があることを示している。細胞の生存率は7-AAD染料を介するフローサイトメトリーによって評価し、結果を図13A図13Cに提示する。上皮細胞の生存率は全ての対照およびデバイス条件で約95%と最大であった(図13A)。内皮細胞(図13B)および白血球(図13C)の生存率は約60%~90%の範囲であり、60分の対照で両方の例について約70%であった。デバイス処理によって、1分のインターバルを除く全ての条件で内皮細胞について高い生存率がもたらされ、白血球は15分の時点で(静的およびインターバル)上昇した。
【0079】
腎試料についてscRNA-seqを実施し、図5A図5Cに提示して解析する7種の細胞クラスターを同定した。腎細胞クラスターのアノテーションを確認するため、主要な細胞クラスター(図14A)およびサブクラスター(図14B)のそれぞれに由来するマーカー遺伝子シグネチャーを確立されたデータセットと比較するSeuratからの「AddModuleScore」機能を実行することによる細胞スコアリング法を用いた。7種の細胞クラスターのそれぞれを、対照および両方の微小流体処理条件で表す。LOH、DCT、CD、およびMCクラスターを4つの異なる細胞型に分離することによって評価した。これらはヘンレ係蹄、遠位尿細管、集合管、およびメサンギウム細胞に対応し、これらをそれぞれUMAPダイアグラム(図15A)で呈示する。これらの細胞型のそれぞれについて得られた数を、全集団に対して図15Cに提示する。これらの細胞型のそれぞれは15分のプラットフォームインターバルが枯渇している一方、60分のプラットフォームインターバルは比例表示を含んでいた。LOH細胞のわずかな富化およびCD細胞の枯渇が、60分のインターバルで見出された。
【0080】
scRNA-seqとフローサイトメトリーの結果の間の相関を容易にするため、EpCAM、CD31、およびCD45の遺伝子発現を検討した。EpCAMは、細胞サブセットのそれぞれ(図16B)を含む主要なDCT、LOH、CD、およびMCクラスターにおいて主として高度に発現した(図16A)。近位尿細管はEpCAMについて主として陰性であり、おそらく基本的発現が低いことおよび低いタンパク質ターンオーバー等のあり得る二次的因子によるものであろう。予想されたように、CD45はマクロファージ、Bリンパ球、およびTリンパ球のクラスターで高度に発現し(図16C)、CD31は内皮細胞クラスターで高度に発現した(図16D)。定量的比較を行うため、2つの仮定を行った。第1に、図4A図4Cのフローサイトメトリーによって得られた細胞数を決定し、微小流体処理が60分の対照に対して15分のインターバルでほぼ同数の全細胞および60分のインターバルで約50%多い細胞を産生したことを推測した。第2に、全ての近位尿細管ならびに全てのDCT、LOH、CD、およびMCサブタイプがEpCAM陽性であると仮定した。これらの仮定に基づいて、図5Bの60分のデバイスインターバルについて得られた集団パーセンテージを1.5倍に重み付けし、これを15分値に加えて、微小流体プラットフォームの凝集値を推測した。結果を表2に提示する。これは60分の対照への正規化および凝集集団パーセンテージの計算も含んでいる。これらの推測は注意を必要とするが、これらは図4A図4Cのフローサイトメトリーの結果と密接に一致しており、微小流体プラットフォームで60分の対照に対して約2.5倍多い上皮細胞(近位尿細管、DCT、LOH、CD)、約2~2.5倍多い白血球(マクロファージ、BおよびTリンパ球)、および約4倍多い内皮細胞が産生された。さらに、微小流体処理についての凝集集団パーセンテージは、内皮細胞が富化されたという例外を除いて一般に、図5Bにおける60分の対照と同程度であった。
【0081】
マウス乳腺腫瘍組織の処理および単一細胞解析
マウス乳腺腫瘍モデル(トランスジェニックMMTV-PyMT)を用いて、細切消化デバイス12および一体化された解離/濾過デバイス40を個別に最適化した。細切消化デバイス12を用いて15分、30分、または60分、試料を処理し、同じ時点で対照より約2~2.5倍多い上皮細胞を生成した(図17A)。上皮細胞の生存率は、全ての消化時間においてデバイス条件より対照の方が低かった(図17B)。次に、消化デバイス12による15分の処理に続いて、一体化された解離/濾過デバイス40に試料を通過させた。腎と同様に、シングルパスが上皮細胞の収率(図17C)および生存率(図17D)に関して最適であることが見出された。
【0082】
次いで完全な微小流体システム10を評価し、上皮細胞、内皮細胞、および白血球の数についての結果を図6A図6Cに提示する。細胞の生存率も7-AAD染料を介するフローサイトメトリーによって評価し、結果を図18A図18Cに提示する。上皮細胞の生存率は、約70%に低下した60分の対照および15分のデバイスインターバルを除く全ての条件について約80%であった(図18A)。内皮細胞の生存率は一般に約60%と低かった(図18B)。しかし、1分のデバイスインターバルは75%と高い一方、60分の対照および15分のデバイスインターバルは、それぞれ50%および40%と低かった。白血球の生存率は、約60%であった60分の対照を除く全てで約80%を保っていた(図18C)。
【0083】
scRNA-seqも実施し、図7A図7Cに提示し解析する6つの細胞クラスターを同定した。上皮細胞が主要なクラスターであり、内腔、基底、および増殖型内腔の細胞に対応する3つのサブクラスターをさらに同定した(図19A)。これらのサブクラスターは、Krt14、Krt18、およびMki67遺伝子の発現に関連していた(図19B)。完全な集団に対する集団パーセンテージを図19Cに提示する。内腔サブタイプは15分のインターバルで富化され、基底サブタイプは60分のインターバルで富化され、増殖型内腔は両方の時点で少なく見積もられた。
【0084】
最後に、scRNA-seqの結果を、腎と同様にしてフローサイトメトリーと相関させた。ここでEpCAMは主要な上皮クラスター(図20A)ならびにそれぞれのサブクラスター(図20B)とよく相関した。CD45はマクロファージ、Tリンパ球、および顆粒球のクラスターで高度に発現した(図20C)一方、CD31は内皮細胞クラスターで高度に発現した(図20D)。次いで腎について述べたのと同じアプローチを用いて微小流体システム10の結果を統合し、60分のインターバルの結果に1.5の重み付けをして15分のインターバル値に加えて、結果を表3に提示する。これらの推測はそれぞれの細胞集団についてのフローサイトメトリーの結果と再び一致し(図6A図6C)、60分の対照に対して約2倍多い上皮細胞および約4倍多い内皮細胞が微小流体システム10によって産生された。対照に対する白血球の値は、マクロファージについて3倍多く、Tリンパ球について2.5倍多く、顆粒球について20%少なかった。注目すべきことに、微小流体処理によって、線維芽細胞(10倍超)および基底上皮細胞(6倍超)について実質的な増加が見出された。微小流体プラットフォームについての凝集集団パーセンテージは一般に、図7Bにおける60分の対照と同程度であったが、マクロファージ、内皮細胞、および線維芽細胞の顕著な富化を伴っていた。
【0085】
マウス肝からの肝細胞の単離
マウス肝を用いて細切消化デバイス12および一体化された解離/濾過デバイス40を個別に試験し、一体化されたデバイス40は肝細胞の収率(図8A)および生存率(図8B)を減少させることを見出した。孔径15μmの第2のフィルター64は、大きく脆弱な肝細胞には小さすぎることが仮定された。したがって、第2のフィルター64を省略した一体化された解離/濾過デバイス40の改変バージョンを創成した。細切消化デバイス12で肝を15分処理した後、改変された解離/濾過デバイス40に細胞懸濁液を1回通過させた。これにより肝細胞は消化デバイス12単独に対して30%、対照に対してほぼ3倍、増加した(図21A)。肝細胞の生存率は保存され、全ての条件について85%超を保っていた(図21B)。
【0086】
次いで完全な微小流体システム10(改変された単一フィルター62の構成を有する)を評価し、肝細胞、内皮細胞、および白血球の数についての結果を図8A図8Eに提示する。細胞の生存率は7-AAD染料を介するフローサイトメトリーによって評価し、結果を図22A図22Cに提示する。肝細胞の生存率は試験した大部分の条件で約90%を保っていた(図22A)。静的またはインターバルの処理条件でわずかな増加が観察されたが、値は対照と有意に相違しなかった。内皮細胞(図22B)および白血球(図22C)の生存率は肝細胞で見られたのと同様の傾向に従い、一般に約70%~85%であった。
【0087】
マウス心臓からの心筋細胞の単離
マウス心臓を用い、一体化された解離/濾過デバイス40ありおよびなしで、細切消化デバイスを試験した。これには、元の一体化されたデバイス40と、肝のために創成した15μmフィルター64のない改変されたデバイス40とが含まれていた。心組織を15分処理した後で、心筋細胞の数および生存率はそれぞれの場合について変化しなかったことが見出された(図23A図23B)。結果として、標準バージョンの一体化された解離/濾過デバイス40を50μmおよび15μmのフィルター62、64とともに心組織のために用いることを選択した。
【0088】
次いで完全な微小流体システム10を評価し、心筋細胞、内皮細胞、および白血球の数についての結果を図9A図9Cに提示する。細胞の生存率はZombie Violet染料を介するフローサイトメトリーによって評価し、結果を図24A図24Cに提示する。心筋細胞の生存率は対照について約70%であった一方、デバイス処理についての値は全て約75~85%であった(図24A)。内皮細胞(図24B)および白血球(図24C)についての生存率は、全てのデバイスおよび対照の条件について一般に80%超であった。
【0089】
統計。データは平均±標準誤差として表している。エラーバーは少なくとも3回の独立した実験からの標準誤差を表している。P値は、少なくとも3回の独立した実験からスチューデントt検定を用いて計算した。
【0090】
本発明の実施形態を示して説明したが、本発明の範囲から逸脱することなく、種々の改変を行うことができる。したがって本発明は以下の特許請求の範囲およびそれらの等価物を除いて限定されない。


図1-1】
図1-2】
図1-3】
図1-4】
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図3-1】
図3-2】
図4
図5-1】
図5-2】
図6
図7-1】
図7-2】
図8-1】
図8-2】
図9-1】
図9-2】
図10-1】
図10-2】
図11-1】
図11-2】
図12
図13-1】
図13-2】
図14-1】
図14-2】
図15
図16
図17-1】
図17-2】
図18-1】
図18-2】
図19-1】
図19-2】
図20
図21
図22-1】
図22-2】
図23
図24-1】
図24-2】
図25
図26
図27-1】
図27-2】
図28-1】
図28-2】
【国際調査報告】