(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-20
(54)【発明の名称】緩衝液中のポリビニルスルホネート(PVS)を検出するための滴定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 31/16 20060101AFI20231113BHJP
G01N 31/00 20060101ALI20231113BHJP
C12Q 1/68 20180101ALN20231113BHJP
【FI】
G01N31/16 Z
G01N31/00 V
C12Q1/68 100Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023522430
(86)(22)【出願日】2021-10-15
(85)【翻訳文提出日】2023-06-07
(86)【国際出願番号】 US2021055116
(87)【国際公開番号】W WO2022081938
(87)【国際公開日】2022-04-21
(32)【優先日】2020-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-02-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500049716
【氏名又は名称】アムジエン・インコーポレーテツド
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ソト,ロバート・ジョーセフ
【テーマコード(参考)】
2G042
4B063
【Fターム(参考)】
2G042AA01
2G042BA03
2G042BA04
2G042BA08
2G042BD15
2G042BD18
2G042CB03
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2G042FA11
2G042GA05
4B063QA01
4B063QQ01
4B063QQ13
4B063QQ79
4B063QR90
4B063QS40
4B063QX01
(57)【要約】
本開示は、錯滴定又は滴定に基づく技術により、緩衝液などの流体中のポリビニルスルホネートなどのポリアニオンのレベルを検出するための、自動化された方法を含む方法を提供する。このようなポリアニオン性化合物は、生物学的製剤及びバイオシミラーなど、細胞培養から得られるタンパク質の純度を監視する取組みを混乱させる、PCRに関与する酵素を阻害することが示されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体中のポリアニオン性酵素阻害物質を検出するための滴定方法であって、
(a)流体を既知量のポリカチオン性化合物と接触させることと;
(b)(a)の材料を指示化合物と接触させることであって、前記指示化合物は、ポリカチオン性化合物と複合体形成した場合、その形態と比較して遊離形態において変化した特性を示し、複合体形成がない場合、前記指示化合物の前記遊離形態を検出するために十分な指示化合物が添加される、接触させることと;
(c)(a)を繰り返すことと;
(d)滴定点で前記指示化合物の前記遊離形態を検出し、それにより前記ポリアニオン性酵素阻害物質を検出することと
を含む、方法。
【請求項2】
前記流体が、緩衝液を含むか又はそれからなる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記緩衝液の複数の試料が調製され、各緩衝液試料が、異なる濃度の緩衝化合物を有し、それにより前記緩衝液の希釈系列を生成する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ポリビニルスルホネート(PVS)の検出限界が、緩衝溶液の1.5百万分率、緩衝溶液の0.25百万分率又は緩衝溶液の0.16μg/mLである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
滴定の終点が、試料の吸光度が初期の試料の吸光度と定常状態の吸光度との間の中間である点であるか、又は試料の吸光度曲線の一次導関数の極大値である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
遊離指示化合物が、電気化学的又は分光学的に検出される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
分光法による前記検出が、比色検出、光度検出、蛍光検出、ラマン又はFTIR分光法を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ポリアニオン性酵素阻害物質が、ポリビニルスルホネート(PVS)又はその誘導体である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記ポリアニオン性酵素阻害物質が、ポリビニルスルホネート(PVS)である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ポリカチオン性化合物が、pH非依存性ポリカチオン性化合物又はpH依存性ポリカチオン性化合物である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記pH非依存性ポリカチオン性化合物が、第四級アンモニウム系ポリマーである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記pH依存性ポリカチオン性化合物が、ポリアミンである、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記第四級アンモニウム系ポリマーが、臭化ヘキサジメトリン(HDBr)、ポリ(ジアリル)ジメチルアンモニウムクロリド(pDADMAC)又はメチルグリコールキトサンである、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記第四級アンモニウム系ポリマーが、臭化ヘキサジメトリン(HDBr)である、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
合計で総流体量の少なくとも0.1%の複数のHDBrアリコートが、前記流体に添加される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記第四級アンモニウム系ポリマーが、ポリ(ジアリル)ジメチルアンモニウムクロリド(pDADMAC)である、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
前記指示化合物が、染料である、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記染料が、アゾ染料である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記アゾ染料が、エリオクロムブラックT(ECBT)、エリオクロムブルーブラックR(カルコン)又はスルホナゾナトリウム塩である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記アゾ染料が、エリオクロムブラックT(ECBT)である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
既知量の前記ポリカチオン性化合物を含む前記流体1mLあたり0.8~1.7μgのECBTが添加される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記緩衝液が、グッド緩衝液である、請求項2~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記グッド緩衝液が、エタンスルホン酸誘導体又はプロパンスルホン酸誘導体を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記グッド緩衝液が、MES、ビス-トリスメタン、ADA、ビス-トリスプロパン、PIPES、ACES、MOPSO、コラミンクロリド、MOPS、BES、AMPB、HEPES、DIPSO、MOBS、アセトアミドグリシン、TAPSO、TEA、POPSO、HEPPSO、EPS、HEPPS、トリシン、トリス、グリシンアミド、グリシルグリシン、HEPBS、ビシン、TAPS、CHES、CAPSO、AMP、CAPS又はCABSである、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記ポリアニオン性酵素阻害物質を滴定するために必要とされるポリカチオン性化合物の量から前記ポリアニオン性酵素阻害物質の濃度を決定することをさらに含む、請求項1~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
結果を、前記ポリアニオン性酵素阻害物質の標準曲線で得られた結果と比較し、それにより前記流体中の前記ポリアニオン性酵素阻害物質の濃度を決定することをさらに含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
自動化されている、請求項1~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
流体中のポリアニオン性酵素阻害物質を検出するための自動化された滴定方法であって、
(a)流体と指示化合物とを合わせることであって、前記指示化合物は、ポリカチオン性化合物と複合体形成した場合、その形態と比較して遊離形態において変化した特性を示し、複合体形成がない場合、前記指示化合物の前記遊離形態を検出するために十分な指示化合物が添加される、合わせることと;
(b)(a)の材料を既知量のポリカチオン性化合物と接触させることと;
(c)滴定器具を使用して、前記指示化合物及びポリカチオン性化合物を含む前記流体の吸光度を測定することと;
(d)(b)及び(c)を自動的に繰り返すことと
を含み、前記指示化合物の前記遊離形態の検出は、前記ポリアニオン性酵素阻害物質を検出する、方法。
【請求項29】
前記流体が、緩衝液を含むか又はそれからなる、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記緩衝液が、グッド緩衝液である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記滴定器具が、前記ポリカチオン性化合物及び前記流体と流体連通する、シリンジポンプ又はインテリジェントドージングドライブなどのポンプを含む、請求項30に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2020年10月16日に出願された米国仮特許出願第63/093,124号明細書、2021年2月2日に出願された米国仮特許出願第63/144,744号明細書及び2021年10月1日に出願された米国仮特許出願第63/251,465号明細書に対する優先権を主張し、これらは、全体として参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、概して、化学分野に関し、より具体的には、流体中の化合物の濃度を決定又は滴定する分野に関する。
【背景技術】
【0003】
生物学的製剤及びバイオシミラーは、ヒト及び他の動物の疾患及び状態を治療するための重要な治療クラスになっている。結合能を保持する様々な形態の抗体及びその断片などの組換えタンパク質を含むこれらの製品は、典型的には、細胞培養から得られる。結果として、これらの治療薬は、細胞培養過程に固有の汚染物質、例えば培養における細胞増殖に付随する、不必要であり且つ場合により有毒性のタンパク質、脂質、炭水化物及び他の小分子から精製する必要がある。治療用の生物学的製剤及びバイオシミラーは、これらの培養汚染物質から単離することによって徐々に精製されるため、治療薬は、緩衝化溶液中で安定化される。さらに、精製が進むにつれて、治療薬が使用のための安全性を維持していることを確実にするために、精製レベルを監視する必要がある。細胞培養から治療薬を精製するときに見られる重大な汚染物質の1つは、宿主細胞DNAの断片である。宿主細胞DNAの残留量は、厳格な精製過程を生き残り、精製された治療薬の有害な汚染物質として残存する場合がある。ヒト患者などの動物に投与されるタンパク質製剤、例えば生物学的製剤又はバイオシミラーに含まれる残留宿主細胞DNAは、望ましくない免疫反応を誘発するか、又は癌のリスクを増加させる可能性がある。そのため、各国政府は、ヒト投与用の製剤に含まれる宿主細胞DNAの濃度に制限を課している。例えば、世界保健機関(WHO)及び欧州連合(EU)では、最大で10ng/用量の残留宿主細胞DNAの量を認めているが、米国食品医薬品局では100pg/用量以下が認められている。
【0004】
ヒトに投与することが意図される治療製剤に許容される宿主細胞DNAのレベルが低いことを考慮すると、そのような製剤中の宿主細胞DNAのレベルを決定するための感度がよく正確な方法が必要となる。試料中の低レベルの核酸を定量化する1つの手法は、qPCRを使用してリアルタイムで核酸レベルを監視するなど、ポリメラーゼ連鎖反応を用いることによるものである。PCRは、酵素ポリメラーゼに依拠して低レベルの核酸を増幅して、それらの検出を容易にする、酵素をベースとした技法である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、試料、例えばMESなどのグッド緩衝液を含む試料中のポリアニオンのレベルを決定又は滴定するための方法を提供する。試料は、グッド緩衝液(例えば、グッド緩衝液の原材料又は製造ロット)を含み、生物学的製剤又は小分子などの治療化合物をさらに含み得る。例示的なポリアニオンは、多くの場合、回収及び精製の様々な段階でグッド緩衝液又は生物学的製剤の試料中に様々な量で存在するポリビニルスルホネート(すなわちPVS)である。これらのポリアニオン、特にPVSは、ポリメラーゼなどのRNA及び/又はDNA酵素を含む様々な酵素を阻害することが分かっている。試料中のPVSレベルを検出するための方法が本明細書に開示される。試料は、生物学的製剤などのタンパク質を含み得るか、又は生成、回収若しくは精製の様々な段階の他の治療化合物、例えば低分子治療薬を含み得るか、或いはその両方であり得る。当技術分野で公知の方法では、このような試料中の低レベルのPVSを検出することができず、生物学的製剤などの治療化合物にPVSによる汚染が生じていた。このような汚染により、ヒトにおける用途の認可が妨げられ、このPVSの阻害効果によって宿主核酸などの製品製剤中の他の不純物を監視するための取組みを混乱させる可能性がある。PVSのようなポリアニオンは、PCR、例えばqPCRなどの標準的な核酸アッセイに使用される酵素を阻害し、これにより汚染された宿主核酸の測定に不正確性がもたらされる。滴定により、グッド緩衝液を含む試料(タンパク質試料など)中のRNA酵素の公知の阻害物質であるPVSのレベルを測定するための、感度よく正確且つ精密な方法が本明細書に開示される。本開示による滴定方法は、1.5桁の動的検出範囲を示し、MESと比較してPVSに高い選択性があり、変曲点又は等価点を含む単純な読み出しが得られ、この読み出しにより、生体試料などのタンパク質試料の宿主細胞の核酸汚染を監視するのに用いられることを考慮した、MES緩衝液ロットに対して簡単な合格/不合格の出力が提供される。この方法により、自動化された電気化学的又は分光学的(例えば、比色、光度、蛍光、ラマン又はFTIR分光法)終点検出プローブが合理的なコストで提供され、且つ標準的な手動滴定構成に依拠した安価な実施形態も提供される。
【0006】
より詳細には、本開示は、流体中のポリアニオン性酵素阻害物質を検出するための滴定方法であって、(a)流体を既知量のポリカチオン性化合物と接触させることと;(b)(a)の材料を指示化合物と接触させることであって、指示化合物は、ポリカチオン性化合物と複合体形成した場合、その形態と比較して遊離形態において変化した特性を示し、複合体形成がない場合、指示化合物の遊離形態を検出するために十分な指示化合物が添加される、接触させることと;(c)(a)を繰り返すことと;(d)滴定点で指示化合物の遊離形態を検出し、それによりポリアニオン性酵素阻害物質を検出することとを含む滴定方法を対象とする。指示化合物は、ポリアニオン性指示化合物を含むが、これに限定されないアニオン性指示薬を含むか又はそれからなり得る。いくつかの実施形態では、流体は、緩衝液を含むか、それから本質的になるか又はそれからなる。(b)指示化合物を流体に添加することは、(a)を最初に繰り返す前、それと同時又はその後に実施され得ることが想定されるが、その後、指示化合物を添加する場合、指示化合物は、(a)を繰り返す前に添加されることが理解されるであろう。いくつかの実施形態では、緩衝液の複数の試料が調製され、各緩衝液試料は、異なる濃度の緩衝化合物を有し、それにより緩衝液の希釈系列を生成する。いくつかの実施形態では、ポリビニルスルホネート(PVS)の検出限界は、緩衝溶液の1.5百万分率、緩衝溶液の0.25百万分率又は緩衝溶液の0.16μg/mLである。いくつかの実施形態では、ポリビニルスルホネート(PVS)の検出限界は、緩衝化合物の1.5百万分率、緩衝化合物の0.25百万分率である。例えば、本明細書に記載されるような自動化された方法は、緩衝化合物の0.25百万分率の検出限界でPVSを同定することができる。いくつかの実施形態では、滴定終点は、試料の吸光度が初期の試料の吸光度と定常状態の吸光度との間の中間である点であるか、又は試料の吸光度曲線の一次導関数の極大値である。いくつかの実施形態では、遊離した指示化合物は、電気化学的又は分光学的に検出される。いくつかの実施形態では、分光法による検出は、比色検出、光度検出、蛍光検出、ラマン又はFTIR分光法を含む。いくつかの実施形態では、ポリアニオン性酵素阻害物質は、ポリビニルスルホネート(PVS)又はその誘導体である。いくつかの実施形態では、ポリアニオン性酵素阻害物質は、ポリビニルスルホネート(PVS)である。いくつかの実施形態では、ポリカチオン性化合物は、pH非依存性ポリカチオン性化合物又はpH依存性ポリカチオン性化合物である。いくつかの実施形態では、pH非依存性ポリカチオン性化合物は、第四級アンモニウム系ポリマーである。いくつかの実施形態では、pH依存性ポリカチオン性化合物は、ポリアミンである。いくつかの実施形態では、第四級アンモニウム系ポリマーは、臭化ヘキサジメトリン(HDBr)、ポリ(ジアリル)ジメチルアンモニウムクロリド(pDADMAC)又はメチルグリコールキトサンである。いくつかの実施形態では、第四級アンモニウム系ポリマーは、臭化ヘキサジメトリン(HDBr)である。いくつかの実施形態では、合計で総流体量の少なくとも0.1%の複数のHDBrアリコートが流体に添加される。いくつかの実施形態では、第四級アンモニウム系ポリマーは、ポリ(ジアリル)ジメチルアンモニウムクロリド(pDADMAC)である。
【0007】
アニオン性指示薬などの多くの好適な指示化合物が本明細書の実施形態で使用され得る。いくつかの実施形態では、指示化合物は、アゾ染料などの染料である。いくつかの実施形態では、アゾ染料は、エリオクロムブラックT(ECBT)、エリオクロムブルーブラックR(カルコン)又はスルホナゾナトリウム塩である。いくつかの実施形態では、アゾ染料は、エリオクロムブラックT(ECBT)である。いくつかの実施形態では、既知量のポリカチオン性化合物を含む流体1mLあたり0.8~1.7μgのECBTが添加される。いくつかの実施形態では、緩衝液は、グッド緩衝液である。いくつかの実施形態では、グッド緩衝液は、エタンスルホン酸誘導体又はプロパンスルホン酸誘導体を含む。いくつかの実施形態では、グッド緩衝液は、MES、ビス-トリスメタン、ADA、ビス-トリスプロパン、PIPES、ACES、MOPSO、コラミンクロリド、MOPS、BES、AMPB、HEPES、DIPSO、MOBS、アセトアミドグリシン、TAPSO、TEA、POPSO、HEPPSO、EPS、HEPPS、トリシン、トリス、グリシンアミド、グリシルグリシン、HEPBS、ビシン、TAPS、CHES、CAPSO、AMP、CAPS又はCABSである。本方法のいくつかの実施形態は、ポリアニオン性酵素阻害物質を滴定するために必要とされるポリカチオン性化合物の量からポリアニオン性酵素阻害物質の濃度を決定することをさらに含む。本方法のいくつかの実施形態は、結果を、ポリアニオン性酵素阻害物質の標準曲線で得られた結果と比較し、それにより流体中のポリアニオン性酵素阻害物質の濃度を決定することをさらに含む。例えば、一連の複数のポリアニオン(例えば、PVS)の較正標準(例えば、3~5個の標準)の終点量を算出し得、標準曲線を生成し得る。試料の終点値に基づいて試料中のポリアニオンの濃度を算出するために、標準曲線を使用し得る。本方法のいくつかの実施形態は、「限界試験」を実施することをさらに含み、ブランク(PVSなどのポリアニオンを含まない)及び指定限界のポリアニオン(例えば、PVS)の濃度を含有する試料の終点量が算出される。試料の終点量を決定し、試料中のポリアニオンの濃度が指定限界の範囲内であるか否かに基づいて「合格/不合格」の分析的な判断を行い得る。いくつかの実施形態では、方法は、自動化されている。
【0008】
本開示の別の態様は、流体中のポリアニオン性酵素阻害物質を検出するための自動化された滴定方法であって、(a)流体と指示化合物とを合わせることであって、指示化合物は、ポリカチオン性化合物と複合体形成した場合、その形態と比較して遊離形態において変化した特性を示し、複合体形成がない場合、指示化合物の遊離形態を検出するために十分な指示化合物が添加される、合わせることと;(b)(a)の材料を既知量のポリカチオン性化合物と接触させることと;(c)滴定器具を使用して、指示化合物及びポリカチオン性化合物を含む流体の吸光度を測定することと;(d)(b)及び(c)を自動的に繰り返すこととを含み、指示化合物の遊離形態の検出は、ポリアニオン性酵素阻害物質を検出する、自動化された滴定方法に関する。(a)ポリカチオン性化合物を含む流体と指示化合物とを合わせることは、(b)を最初に繰り返す前、それと同時又はその後に実施され得ることが想定されるが、その後、指示化合物が組み合わされる場合、指示化合物は、(b)を繰り返す前に添加されることが理解されるであろう。いくつかの実施形態では、流体は、緩衝液を含むか、それから本質的になるか又はそれからなる。いくつかの実施形態では、緩衝液は、グッド緩衝液である。いくつかの実施形態では、方法は、滴定器具で実行される。いくつかの実施形態では、滴定器具は、ポリカチオン性化合物及び流体と流体連通する、シリンジポンプ又はインテリジェントドージングドライブなどのポンプを含む。本明細書に記載される方法及びシステムに好適な吸光波長は、使用される指示化合物に基づいて選択され得る。例えば、ECBTの指標化合物の場合、660~665nmの波長が好適である。
【0009】
いくつかの態様には、流体中のポリアニオン性酵素阻害物質を検出するための自動化された滴定システムが含まれる。自動化された滴定システムは、ポンプなどの流体送達システムを含み得る。自動化された滴定システムは、本明細書に記載されるような方法を自動的に実行するように構成され得る。例として、自動化された滴定システムは、滴定装置を含み得る。例えば、本明細書に記載される方法及びシステムに好適な滴定装置は、Metrohm社のTITRANDOの一連の器具として商業的に入手可能である。任意選択により、滴定装置は、シリンジポンプ又はインテリジェントドージングドライブポンプなど、流体連通させるための(例えば、ポリカチオン性化合物を流体と流体連通して配置するための)ポンプを含み得る。
【0010】
本開示の他の特徴及び利点は、図面を含めて以下の詳細な説明から明らかになるであろう。しかしながら、本開示の趣旨及び範囲内の様々な変更形態及び修正形態は、詳細な説明から当業者に明らかになるため、詳細な説明及び具体的な実施例は、実施形態を示してはいるものの、単に例として提供されていることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】(a)酸形態として示される2-(N-モルホリノ)-エタンスルホン酸(すなわちMES)及び塩基形態としてのMES水和物である、MESナトリウム塩の化学構造。(b)RNA酵素などの核酸で活性化する酵素を阻害する可能性のある化合物をもたらす化学反応。
図1(b)は、Smith,et al.J.Biol.Chem.278:20934-20938(2003)の図から引用したものである。
【
図2】(a)ポリビニルスルホネート(PVS)の濃度を0~1.0ppmで変動させることにより、Sigma-Aldrichから入手し、30重量%の水溶液として提供された2つの異なるロットのPVS標準の直線較正曲線が明らかとなった。PVSの濃度は、ロット間で著しく変動することが分かった。しかしながら、特定のロットの濃度を希釈することで調整し、適切な標準とすることが想定される。(b)PVSを滴定するために臭化ヘキサジメトリン(HDBr)を使用する滴定曲線を0~1.0ppmのPVS濃度の範囲にわたって作成した。約1.5桁の線形範囲が見出された。
【
図3】(a)分光学的に終点を検出することによる、HDBrでのPVSの滴定による定量化の概略図。反応スキームは、誘引性の静電相互作用によって引き起こされるPVS及びHDBr間の複合体形成を示す。滴定の終点では、指示化合物(nD
-)は、隣接するHDBrの電荷部位と結合すると、吸光特性に変化を起こす。
図3(a)の青色の円形の「プラス」及び「マイナス」の記号は、溶液中のバックグラウンド塩を意味する。(b)HDBrを溶液に徐々に滴定したときの卓上型吸光分光計で測定されたブランク試料(すなわちEBT指示化合物を補充した50mMのホウ酸塩緩衝液、pH8.5)の溶液の吸光の発生を示すプロット。HDBrの濃度を増加させると、吸光度最大値が約630nmから593nmにシフトするのに伴い、指示薬の665nmの吸光度が低下する。
【
図4】PVS標準溶液の系列に関する、正規化し、量を補正した665nmの吸光度をプロットした滴定曲線。
【
図5】(a)MESマトリックスブランク中で調製した3つの異なるPVS標準に関する、HDBr(滴定剤)質量に対し、量を補正した溶液の665nmの吸光度のプロット。(b)50mMのホウ酸ナトリウム中(緑色の三角形)及び50mMのホウ酸ナトリウムと混合したMES(黒色の四角形)中で調製したPVS標準間の滴定曲線の変曲点の比較。
【
図6】MESマトリックスブランク(黒い四角形)、MESの陰性対照ロット(青色の菱形)及びqPCR無効アッセイの原因となったMESロット(ロット番号I;赤色の円形)中で調製したPVS標準に関する、滴定曲線の変曲点の比較。
【
図7】0.04mg/mLのHDBrによるブランク標準(1.25μg/mLのEBT指示薬を補充した100mMの炭酸塩緩衝液)の滴定に関する代表的なプロファイル(黒線)及びそれに対応する一次導関数(赤線)。
【
図8】(a)100mMの炭酸塩緩衝液中に溶解した50mMのMESに添加されたPVSの濃度に対する滴定終点量のプロット。(b)100mMの炭酸塩緩衝液中で調製した標準試料に関する、PVSの濃度に対する滴定終点量のプロット。
【
図9】100mMの炭酸塩緩衝液中に0(A)又は0.75(B)μg/mLで調製した(A、B)PVS標準溶液及び100mMの炭酸塩緩衝液中で調製した50mMのMESに0(C)又は0.70(D)μg/mLで添加された(C、D)PVS(表2の試料H)の代表的な滴定曲線。
【
図10】PVSの濃度に対する滴定終点量のプロットを示す。A)は、100mMの炭酸塩緩衝液中で調製した標準試料に関する、PVSの濃度に対する滴定終点量のプロットである。B)は、100mMの炭酸塩緩衝液中に溶解した50mMのMESナトリウム塩に添加されたPVSの濃度に対する滴定終点量のプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
ポリ(ビニルスルホネート)(PVS)などのポリアニオン性化合物は、MES緩衝液などのグッド緩衝液中のポリマー不純物である。これらのポリアニオン性化合物、例えばPVSは、MESなどの緩衝化合物と比較して百万分率の範囲の低レベルでこのような緩衝液中に存在している。このような緩衝液は、治療用タンパク質の製造に使用されており、これらの不純物、特にPVSが定量PCR(qPCR)のDNAの検出を妨害する可能性のある強力なポリメラーゼ阻害物質であるため、グッド緩衝液中にこれらの不純物が存在することは重大な懸念事項となる。培養物から精製された治療用タンパク質の製剤又は他の治療化合物の製剤中の宿主細胞核酸(例えばDNA)を測定することは、ヒトに投与することが意図される治療薬の安全性を評価するために日常的に必要とされている。治療製剤中の宿主細胞核酸を検出し定量化するためにPCRベースの技術を使用するにあたっての大きい課題は、生物学的製剤及びバイオシミラーなどのタンパク質を細胞培養から精製するのに使用される緩衝液(例えばグッド緩衝液)の多くに核酸酵素阻害物質が存在することである。これらの製剤中の宿主細胞核酸のレベルを検出し定量化するPCRベースの方法の速度、精度及び再現性から、PCRに関与する核酸酵素、例えばRNA酵素の阻害物質を同定し除去することは、当技術分野において大きいニーズとなっている。従って、MESなどのグッド緩衝液中にPVSなどのポリアニオン性化合物が存在すると、宿主細胞DNAのqPCR検出を妨害することにより、治療用タンパク質又は他の治療化合物のバッチがヒト投与用の基準に受け入れられない原因となる可能性がある。
【0013】
分析物(例えばPVS)を逆の電荷をもつ高分子量の滴定剤で複合体形成することに基づいた、滴定に関する方法が本明細書に開示される。この相互作用により、極めて高い平衡結合定数(K
a)が得られ、終点を電気化学的又は分光学的に検出することができる(例えば、比色、光度、蛍光、ラマン又はFTIR分光法)。例示的な滴定剤である臭化ヘキサジメトリン(HDBr)を用いた、PVSの滴定に適用される検出スキームの概要を
図3に示す。
【0014】
9ロットの市販のMES緩衝液を入手し、本明細書に開示されるPVSを検出及び測定するための滴定方法を用いて分析を行った。これらのロットのMES緩衝液の比較評価を、PVSを検出及び測定する、開示された滴定方法を使用して且つqPCRを使用して行った。実験データが示すように、本方法によって低レベルのPVSを感度よく検出することができ、PVSレベルのロット間の変動を正しく正確に検出することが可能となる。このような分析により、MES緩衝液の市販のロット(ロット番号I)は、高レベルのPVSを著しく含んでいることが明らかとなり、このことは、PCR(例えばqPCR)を使用した、生体試料の宿主細胞の核酸で汚染された緩衝液に関連する阻害がロット間で変動するという観察結果と一致するものである。
【0015】
以下の実施例で提供されるデータは、臭化ヘキサジメトリン(すなわちHDBr)などのポリカチオン性化合物を用いて試料中のPVSを検出及び測定する滴定方法が、MESと比較してPVSに高い選択性がある(Ka,PVS>>Ka,MESであり、Kaは滴定剤(HDBr)とPVS(Ka,PVS)又はMES(Ka,MES)のいずれかとの間の複合体形成反応に関する平衡結合定数を示す)ことを立証するものである。本明細書に開示される結果から、開示される滴定方法は再現性があり(正確であり)、約100~200ng/mLの定量限界(すなわちLOQ)で、MESなどのグッド緩衝液中の低レベルのポリアニオン、例えばPVSを検出することができることが明らかになった。
【0016】
本明細書に開示される手順は、2-(N-モルホリノ)-エタンスルホン酸(MES)緩衝液などのグッド緩衝液中のポリ(ビニルスルホネート)(PVS)などのポリアニオンを定量化するためのポリマー電解質の滴定手法を説明するものである。この方法論は、ビニルスルホン酸から製造される他のグッド緩衝液(例えばHEPES)にも拡大適用することが可能である。PVSの検出の根底にある機序は、ポリカチオン種である臭化ヘキサジメトリン(HDBr)との結合に基づくものである。結合反応の概略を
図3aに示す。この手法は、PVSと、モノアニオンであるMESと比較して選択性のあるHDBrとの間の高い平衡結合定数(Ka)を利用するものである。実際に、ポリカチオンとポリアニオン間のKaは、電荷部位の数と共に急激に増大する(ポリマー分子量と正の相関がある)。滴定の終点では、過剰なHDBrがアニオン性指示化合物であるエリオクロムブラックT(ECBT)と結合し、指示薬の紫外-可視吸光プロファイルにシフトが生じる(
図3b)。滴定の進行を単一波長(すなわち665nm)で追跡し、
図2に示すように、例えば、得られたシグモイド曲線の変曲点を算出することにより、試料中のPVSの濃度と関連付けることが可能となる。
【実施例】
【0017】
実施例1
材料及び方法
約30重量%のポリ(ビニルスルホン酸)(PVS)ナトリウム塩をSigma-Aldrich(#278424)及びAlfa Chemistry(#ACM25053274)から購入し、希釈して0.1~20μg/mLの範囲の既知濃度のPVS標準を調製した。従来技術を使用して50mMのホウ酸塩緩衝液(pH8.5)を調製した。炭酸ナトリウム(Sigma-Aldrich #223484)及び炭酸水素ナトリウム(Sigma-Aldrich #S6014)から、100mMの炭酸塩緩衝液(pH10.0)を調製した。この炭酸塩及び重炭酸塩の緩衝液に、約0.1mMのエチレンジアミン四酢酸(EDTA;MP Biomedicals #06133713)を補充した。1,5-ジメチル-1,5-ジアザウンデカメチレンポリメトブロミド(臭化ヘキサジメトリン;HDBr)をSigma-Aldrich(107689)及びCarbosynth(#FH165280)から購入した。エリオクロムブラックT(EBT又はECBT)は、Sigma-Aldrich(#858390)から購入した。すべての溶液は、18MΩ-cmの最小抵抗率となるように精製された水を用いて調製した。100mMのMES水和物の溶液を、0.2μmのPosidyne(登録商標)フィルター(表面積2.8cm2)で濾過することでPVSを除去し、実施例1の試料ブランクとした。
【0018】
上記に記載された手順に従った方法で調製したアッセイ緩衝液により、塩酸によってpHを8.5に調整した50mMのホウ酸ナトリウムを含む緩衝液Aと、pH10.0の溶液を生成するように配合した100mMの混合炭酸ナトリウム塩及び重炭酸塩を含む緩衝液Bとを得た。指示化合物、すなわち染料溶液、例えばエリオクロムブラックT(ECBT;55重量%)を指示化合物とした。指示化合物がECBTである場合、この材料の固形アリコートを室温で保存した。例示的なECBT染料溶液を調製するために、125mgのECBTを25mLのメスフラスコに添加し、実際の質量を記録した。ECBTを25mLの脱イオン(すなわちDI)水に溶解し、使用するまで1.6mLのポリプロピレン製マイクロ遠心チューブ中の1mLのアリコートとして2~8℃で保存した。開示される方法のポリカチオン性化合物は滴定剤であり、例示的な滴定溶液を、HDBrを使用して作製した。この材料を2~8℃で保存した。溶液を調製するために、18.7mgのHDBrをガラス製バイアルに直接秤量し、3.74mLの水に溶解して5mg/mLのストック溶液を得た。次いで、5mg/mLのHDBr溶液を、0.1mMのEDTAで補充した50mMのホウ酸塩緩衝液中にそれぞれ1:20又は1:100に希釈することにより、0.05μg/mLのHDBr滴定剤を調製した。この溶液を、本明細書に開示されるアッセイ法の滴定溶液として使用した。HDBr滴定溶液は、15mLのポリプロピレン製遠心チューブ中に10mLの溶液として調製し、2~8℃で保存した。
【0019】
標準的な調製
ストック溶液を水で連続希釈することにより、市販のポリ(ビニルスルホネート)(PVS)ストック溶液を使用してアッセイ標準を調製した(Alfa Chemistry、25重量%、ナトリウム塩、ロット番号A19X05191)。次いで、表1のPVS溶液を50mMのホウ酸塩緩衝液(0.1mg/mLのEDTAを補充した)に添加し、既知のPVS濃度の標準を調製した。
【0020】
【0021】
ストック溶液及び標準溶液を2~8℃で保存した。
【0022】
試料の調製
pHを7.00±0.05に調整したMES水和物(ロット番号I及びII)の100mM溶液を以下のように調製した。2.132gのMES水和物を95mLの水に溶解し、NaOH水溶液を使用してpHを調整し、その後、溶液を水で100mLの最終体積となるように調整した。従来のpHメーターを使用してpHを測定した。溶液を2~8℃で保存した。
【0023】
アッセイ手順
下記に記載される簡単な手順を用いて滴定実証実験を実施したが、このような実験は、光度滴定器具を使用して自動化することにより、本明細書に記載されるステップを自動化することができる。分光計の電源を入れることにより、分光計の紫外線ランプ及び可視光線ランプを使用前に少なくとも20分間温めた。各アッセイ前に、標準溶液又は試料溶液のいずれかを用いて分光計をブランクにした。開示されたアッセイに使用した標準セルは、10mmの1.5mL石英キュベットであった。標準は、アッセイ緩衝液で希釈したPVSからなる。例示的なグッド緩衝液としての100mMのMESを、アッセイ緩衝液と混合することによって試料を調製する。例示的なECBT指示化合物が6~7のpH値に対して色変化を起こす一方で、7を超えるpH値ではMESの緩衝領域より高くなるため、このステップが実行される。従って、ECBT指示薬が確実に脱プロトン化するように、上記で説明したようにMESを塩基性緩衝液、すなわちA又はBと混合した。
【0024】
最初の実験では、緩衝液AとMESとを1:1の比率で混合した。異なる体積比でMESと混合された、より塩基性の緩衝液(例えば、B及びC)では、アッセイ性能が向上することが予期される。
【0025】
一度分光計をブランクにしてから、標準/試料に少量のECBT溶液を添加した。最初に、995μLの標準/試料を5μLのECBT(5mg/mL)と混合し、25μg/mLの最終ECBT濃度とした。全波長の吸光度スキャンを得た。キュベットに少量(10~100μL)のHDBr溶液0.050mg/mLを添加することで標準/試料溶液を滴定し、各々のHDBrを添加する間に試料の吸光度を測定した。200μLのピペットを使用して溶液を混合し、この溶液を約1分間静置した後に吸光度を測定した。HDBrの量を滴定の過程にわたって徐々に増加させた。例えば、滴定の初期に吸光度プロファイルが劇的に変化した場合、最初は少量(例えば10μL)の添加を行った。吸光度の変化が希釈によってさらに顕著に影響を受ける場合、滴定の後により多くの量を添加した。
【0026】
いくつかの例では(例えば、より高濃度のPVSを含む溶液の場合)、より高濃度のHDBr溶液0.25mg/mLを使用した。次いで、分光光度計をブランクにし、標準/試料に少量の染料溶液を添加する先行ステップを試料ごとに繰り返した。
【0027】
データ解析
紫外-可視スペクトルから、添加したHDBrの質量(μg)に対して665nmで吸光度をプロットした。吸光度は、希釈を考慮に入れて溶液量の変化を補正する必要があるが、この補正は、総溶液量(すなわち溶液の本来の量[1.000mL]に加えて、添加された滴定溶液の累積量)でA665nmを乗じることにより達成した。
【0028】
図4及び
図5は、評価の結果をまとめたものである。
図4は、3つの異なるPVSのレベルで添加されたアッセイ緩衝液のHDBr滴定剤の質量に対して、量を補正した溶液の665nmにおける吸光度を表している。
【0029】
図5aは、3つの異なるPVSのレベルで添加されたMESマトリックスブランクのHDBr滴定剤の質量に関する、量を補正した溶液の665nmにおける吸光度を表している。0ppmのPVS標準及び試料ブランク(すなわちMESブランク)のいずれも滴定剤を添加することによって最初にA
665の低下が引き起こされ、溶液に約5.00μgのHDBrを添加した後に安定化した。商業的に供給されるPVSを溶液に添加することによって調製された、残りのPVS標準及び試料は、定常状態の吸光度に達するまでにより多くの量の滴定剤が必要であった。例えば、7.5ppmの試料(
図5a)は、40μg超のHDBrを添加した後にはじめて安定したA
665を達成した。まとめると、これらのデータにより、試料溶液中のPVSの量に関して滴定曲線に明確な違いがあることが示された(
図4及び
図5a)。
図5bは、50mMのホウ酸塩緩衝液(pH8.5)中で調製したPVS標準溶液(緑色の三角形)又はPVSが添加されており、その後50mMのホウ酸塩緩衝液(pH8.5)と混合して溶液のpHを調整したMES(黒い四角形)に関して算出された変曲点をプロットすることにより、この関係性をまとめたものである。2つのデータセットの傾きは同等であり、高濃度(100mM)のMESが存在してもPVSの定量化が妨害されなかったことを示している。さらに、これらのデータは、100mMのMES溶液中では1.5ppm(μg/mL)、アッセイ緩衝液中では0.3ppmもの低い濃度でPVSが検出されることを裏付けるものである。
【0030】
滴定手順の性能をさらに評価するために、2つの別々のロットのMESをPVS標準と共に評価した。いくつかの製品で無効なqPCR結果が得られたMES水和物のロット(試料I)を、qPCRアッセイにより最小量のPVSを有する別のMES試料(すなわち
図5の試料ブランクを生成するのに使用したものと同じ材料)と比較した。
図6に示されるこの評価の結果により、MES試料Iには測定可能な量のPVSが存在したが、陰性対照のMES材料には存在せず、PVSを除去したマトリックスブランクと区別がつかなかったことが示された。これらの結果は、開示された方法論は、適切でないPVSのレベルを有するMES水和物材料を正確に同定できることを立証するものである。さらに、PVSを含まないMES水和物又はqPCRを妨害することのない中間レベルのPVSを含むMES水和物が、好適でないMES材料と区別される。
【0031】
実施例2
自動化された滴定
インテリジェントドージングドライブ(#2.800.0010)及び20mLの体積容量のドージングユニット(#6.303.2200)を備えたMetrohm 907 Titrando器具を使用して、PVS標準溶液及びMES試料溶液の自動化された滴定を実施した。100mLの標準溶液又は試料溶液を、滴定する直前に、(例えば、0.5~1.0mg/mLのEBTストック中に添加することによって)0.8~1.7μg/mLのEBT指示薬で補充した。試料を50~150μLの量のHDBrで増分しながら単調に滴定し、投与増分の間に光度プローブからのシグナルを安定させることにより、得られた溶液をアッセイした。浸漬光度プローブ(Optrode、#6.1115.000)を使用して試料溶液の660nmの吸光度を連続的に測定することによって滴定の進行を監視し、滴定曲線の一次導関数の最大dU/dVを用いて滴定終点を求めた。
【0032】
ブランク標準の代表的な滴定プロファイルを
図7に示し(黒線)、対応する一次導関数と共に示す(赤線)。一次導関数の最大値が生じるときの量(すなわち
図7では約0.55mLのV
Titrant)が滴定終点に相当するものであり、PVS濃度の決定に使用される。
【0033】
試料溶液のpHは、PVS分析物のアニオンの電荷密度に影響を及ぼすか、又は間接的には指示化合物をプロトン化し、HDBrと複合体形成するときに吸光度に変化を起こさない一価のアニオン(H2In-)を形成することにより、PVSを測定するのに重要な役割を果たす。実施例1の上記に記載された実験により、調製されたMES溶液をアルカリ性緩衝液と混合することが試料の適切なpHを確実にするための有効な手法となることが示された。自動化滴定実験におけるこの手法(すなわち100mMの炭酸塩緩衝液中50mMのMESでMES試料を溶解することによる)の使用について、MES試料溶液中のPVS添加回収率を評価することによって検証した。この評価では、MES水和物試料溶液(試料H;表2を参照されたい)に様々な濃度の10ppmのPVSストック溶液を添加した。試料にさらなるPVSを添加せずに滴定することでアッセイしたときに、この材料でブランク標準と区別がつかない終点量が得られたが、このことは、PVSのレベルが本方法の検出限界未満であったことを示している。
【0034】
4つの異なるPVSレベル(それぞれ3回アッセイする)のPVSの濃度に対して滴定終点量をプロットした、添加回収評価の結果を
図8aに示す。比較のため、100mMの炭酸塩緩衝液のみで調製されたPVS標準の結果を
図8bに示す。両方のデータセットについて、滴定終点量とPVS濃度間の線形回帰で同様の傾き(0.99及び0.95mL/(μg/mL))が得られ、適切な線形決定係数(R
2=0.99)であった。加えて、PVS標準(
図9A及び9B)と添加回収試料(
図9C及び9D)に関して
図9に示される代表的な滴定曲線を目視検査すると、低いpH又は50mMのMESの存在が滴定プロファイルに及ぼす影響は認識できないものであることが示された。まとめると、これらの結果は、試料の低いpH又は50mMのMESの存在が、測定されたPVSレベルに明らかに影響しないことを示している。
【0035】
滴定手順の展開過程にわたり、50mMのMES(100mMの炭酸塩緩衝液中に溶解させた)を0.10mg/mLのHDBrで滴定することにより、いくつかのMES水和物ロットのPVS含有量を評価した。滴定終点をPVS標準溶液の系列で生じた結果と比較した。これらの評価の結果を表2に示す。これらの試料の中で、あるMES水和物のロット(試料I)が、いくつかの治療用タンパク質のバッチに対してqPCRアッセイを失敗させる原因となっていた。試料Iでは、滴定によって測定されたPVSレベルが、MES水和物1グラムあたり71±4μgのPVSであり、この値は試験した他の試料のいずれかで測定されたPVSレベルよりも著しく大きく、このことは、不適切なPVSのレベルのMES材料を選別するのに滴定が有用であることを裏付けるものであった。一部のMES水和物ロット(すなわちE.1及びE.2、F.1及びF.2並びにH.1及びH.2)について、異なる繰り返しの滴定手順が示されていることに留意する。例えば、E.1は単一反復に基づく繰り返しを表し、E.2は3回の繰り返しに基づく繰り返しを表している。
【0036】
【0037】
実施例3
検出方法の比較
タンパク質試料(例えば、生体試料)中のPVSなどのポリカチオンを検出及び測定するためのいくつかの方法を評価した。比濁検出による、PVSによるポリイオン性レポーターの対イオンの誘導凝集に関与するイオン配位方法は、それほど複雑ではない簡単な方法であるが、この方法では、高レベルのPVSを有するMES緩衝液のロットを確実に検出することはできなかった。蛍光の励起及び検出によってPVS水溶液の直接的な検出に関与する蛍光に基づく方法は、それほど複雑でない別の簡単な方法であったが、この方法は、溶液中のPVSが蛍光を発しない一方で、乾燥させたPVS試料に関連する蛍光が乾燥試料に関連したPVS非特異的アーチファクトであると判断されたため、PVSの検出には実現可能でないことが証明されている。蛍光レポーター分子のPVSによって誘導される消光に関与する別の蛍光に基づく方法は、より複雑で、MESに対してPVSを選択的に検出する能力が限定的であるため、有望であるように見えなかった。グッド緩衝液に見られるポリアニオンの物理的特性に基づく方法には、荷電化粒子検出を伴うサイズ排除クロマトグラフィー(すなわちSEC-CAD)がある。この方法は、MES緩衝液中のPVSを検出することができたが、他の方法よりもかなり複雑である。もう1つのイオン配位方法が評価されたが、この方法は、ポリマー電解質の複合体形成及び紫外-可視波長の吸光度検出を用いた滴定に関与するものであり、表3に示すグッド緩衝液を含むが、これに限定されないグッド緩衝液中のPVSの正確で精密且つ感度のよい検出及び定量化を提供するという、予想外に優れた結果をもたらすことが判明した。滴定方法として本明細書に開示されるこの方法は、正確さ、精密さ及び感度のよさという利点を提供することに加えて、それほど複雑でなくコストも高くない簡単な方法である。
【0038】
【0039】
実施例4
調製されたMESナトリウム塩水溶液中のPVSの定量化
MES水和物共役酸の溶液よりもかなりアルカリ性(例えば、100mMの炭酸塩緩衝液中の50mMのMESナトリウム塩及びMES水和物の溶液のpHでそれぞれ約10.0及び約8.5)のMESナトリウム塩の水溶液は、実施例2に示されたものと同様の滴定手順を用いたPVSの決定にも適応させることができる。
図10(B)では、100mMの炭酸塩緩衝液中で調製し、PVS標準を添加した50mMのMESナトリウム塩溶液に関する、660nmで光度的に決定された滴定終点がプロットされている。比較のため、
図10(A)では、100mMの炭酸塩緩衝液のみで調製した標準に関するPVS濃度の関数として滴定終点量がプロットされている。両方のデータセットについて、滴定終点量とPVS濃度間の線形回帰で同様の傾き(1.04及び1.09mL/(μg/mL))が得られ、線形決定係数(R
2)は1.00であった。重要なことに、MES水和物試料とMESナトリウム塩試料との両方の添加回収率の傾きの大きさは、本方法の典型的な実験誤差の範囲内であった(すなわち2つの試料の種類間で分析反応に明らかな違いがなかった)。
【0040】
それぞれの引用特許又は他の刊行物は、文脈から当業者に明らかなように、その全体又は関連する部分が本明細書に参照として明示的に援用され、その援用は、例えば、本明細書に開示される情報に関連して使用され得るこのような刊行物に記載される方法論を有効に説明及び開示するものである。
【国際調査報告】