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特表2023-548770酸素発生触媒、その製造および使用、膜電極アセンブリ、ならびに燃料電池または電解セル
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  • 特表-酸素発生触媒、その製造および使用、膜電極アセンブリ、ならびに燃料電池または電解セル 図1
  • 特表-酸素発生触媒、その製造および使用、膜電極アセンブリ、ならびに燃料電池または電解セル 図2
  • 特表-酸素発生触媒、その製造および使用、膜電極アセンブリ、ならびに燃料電池または電解セル 図3A
  • 特表-酸素発生触媒、その製造および使用、膜電極アセンブリ、ならびに燃料電池または電解セル 図3B
  • 特表-酸素発生触媒、その製造および使用、膜電極アセンブリ、ならびに燃料電池または電解セル 図4
  • 特表-酸素発生触媒、その製造および使用、膜電極アセンブリ、ならびに燃料電池または電解セル 図5
  • 特表-酸素発生触媒、その製造および使用、膜電極アセンブリ、ならびに燃料電池または電解セル 図6
  • 特表-酸素発生触媒、その製造および使用、膜電極アセンブリ、ならびに燃料電池または電解セル 図7A
  • 特表-酸素発生触媒、その製造および使用、膜電極アセンブリ、ならびに燃料電池または電解セル 図7B
  • 特表-酸素発生触媒、その製造および使用、膜電極アセンブリ、ならびに燃料電池または電解セル 図7C
  • 特表-酸素発生触媒、その製造および使用、膜電極アセンブリ、ならびに燃料電池または電解セル 図7D
  • 特表-酸素発生触媒、その製造および使用、膜電極アセンブリ、ならびに燃料電池または電解セル 図8
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-21
(54)【発明の名称】酸素発生触媒、その製造および使用、膜電極アセンブリ、ならびに燃料電池または電解セル
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/90 20060101AFI20231114BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20231114BHJP
   B01J 23/46 20060101ALI20231114BHJP
   B01J 35/10 20060101ALI20231114BHJP
   B01J 23/648 20060101ALI20231114BHJP
   H01M 4/92 20060101ALI20231114BHJP
   H01M 4/96 20060101ALI20231114BHJP
   C25B 11/054 20210101ALI20231114BHJP
   C25B 11/065 20210101ALI20231114BHJP
   C25B 11/081 20210101ALI20231114BHJP
   C25B 11/093 20210101ALI20231114BHJP
   C25B 11/097 20210101ALI20231114BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20231114BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20231114BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20231114BHJP
【FI】
H01M4/90 B
B01J37/08
B01J23/46 M
B01J35/10 301J
B01J23/46 301M
B01J23/648 M
H01M4/90 X
H01M4/92
H01M4/96 B
C25B11/054
C25B11/065
C25B11/081
C25B11/093
C25B11/097
C25B1/04
C25B9/00 A
H01M8/10
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023522507
(86)(22)【出願日】2021-10-07
(85)【翻訳文提出日】2023-06-07
(86)【国際出願番号】 EP2021077752
(87)【国際公開番号】W WO2022078874
(87)【国際公開日】2022-04-21
(31)【優先権主張番号】102020126795.9
(32)【優先日】2020-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516186234
【氏名又は名称】グリナリティ・ゲーエムベーハー
【住所又は居所原語表記】Industriegebiet Sud E11, 63755 Alzenau, Germany
(71)【出願人】
【識別番号】523081579
【氏名又は名称】テヒニシュ ウニヴェルズィテート ミュンヘン
【氏名又は名称原語表記】Technische Universitat Munchen
【住所又は居所原語表記】Arcisstrase 21 80333 Munich Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ファティ トヴィニ,ムハンマド
(72)【発明者】
【氏名】ズッフスランド,イェンス-ペーター
(72)【発明者】
【氏名】エルサイエド,ハニー
(72)【発明者】
【氏名】ダミヤノヴィッチ,アナ マリヤ
(72)【発明者】
【氏名】ハッシュ,フェデリック
(72)【発明者】
【氏名】ガスタイガー,フーベルト
(72)【発明者】
【氏名】スペダー,ヨーゼフ
【テーマコード(参考)】
4G169
4K011
4K021
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169BA04A
4G169BA04B
4G169BA08A
4G169BA08B
4G169BB06A
4G169BB06B
4G169BC32A
4G169BC33A
4G169BC55A
4G169BC55B
4G169BC56A
4G169BC60A
4G169BC69A
4G169BC70A
4G169BC70B
4G169BC74A
4G169BC74B
4G169CB81
4G169CC32
4G169DA05
4G169EC02X
4G169EC02Y
4G169EC03X
4G169EC04X
4G169EC05X
4G169EC25
4G169EC27
4G169FA01
4G169FB07
4G169FB30
4K011AA04
4K011AA23
4K011AA33
4K011BA07
4K011DA01
4K021AA01
4K021BA02
4K021DB18
5H018AA06
5H018BB01
5H018BB06
5H018BB11
5H018BB12
5H018BB13
5H018EE06
5H018EE12
5H018HH02
5H018HH05
5H018HH08
5H018HH10
5H126BB06
(57)【要約】
本発明は、酸素発生反応触媒(11、12)に関し、当該酸素発生反応触媒(11、12)は、少なくとも1種のバルブ金属酸化物(8)および少なくとも1種の貴金属酸化物(7)から構成される混晶(10)を含み、バルブ金属酸化物(8)は、チタンの酸化物、ニオブの酸化物、タングステンの酸化物、およびタンタルの酸化物から選択され、貴金属酸化物(7)は、イリジウムの酸化物、ルテニウムの酸化物、および/またはそれらの混合物、および/またはそれらの合金から選択され、混晶(10)のBET比表面積は、10m/gより大きく、酸素発生反応触媒(11、12)は、アルゴン中において3.3体積%の水素流に80℃の温度で12時間曝露したときに、2重量%未満の重量損失を示す、ことを特徴とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素発生反応触媒(11、12)であって、
少なくとも1種のバルブ金属酸化物(8)および少なくとも1種の貴金属酸化物(7)の固溶体(10)を含み、
前記バルブ金属酸化物(8)は、チタンの酸化物、ニオブの酸化物、タングステンの酸化物、およびタンタルの酸化物から選択され、
前記貴金属酸化物(7)は、イリジウムの酸化物、ルテニウムの酸化物、および/またはそれらの混合物、および/またはそれらの合金から選択され、
前記固溶体(10)のBET比表面積は、10m/gより大きく、
前記酸素発生反応触媒(11、12)は、アルゴン中において3.3体積%の水素流に80℃の温度で12時間曝露したときに、2重量%未満の重量損失を示す、ことを特徴とする酸素発生反応触媒(11、12)。
【請求項2】
前記固溶体(10)のBET比表面積が20m/gより大きい、ことを特徴とする請求項1に記載の酸素発生反応触媒(11、12)。
【請求項3】
前記酸素発生反応触媒(12)が、担持材料(13)に担持されており、前記担持材料(13)が、特に炭素系担持材料、特に黒鉛化炭素である、ことを特徴とする請求項1または2に記載の酸素発生反応触媒(12)。
【請求項4】
燃料電池用の陽極であって、
少なくとも1種のバルブ金属酸化物(8)および少なくとも1種の貴金属酸化物(7)の固溶体(10)を含む酸素発生反応触媒(11、12)を有し、
前記バルブ金属酸化物(8)は、チタンの酸化物、ニオブの酸化物、タングステンの酸化物、およびタンタルの酸化物から選択され、
前記貴金属酸化物(7)は、イリジウムの酸化物、ルテニウムの酸化物、および/またはそれらの混合物、および/またはそれらの合金から選択され、
前記酸素発生反応触媒(11、12)は、アルゴン中において3.3体積%の水素流に80℃の温度で12時間曝露したときに、2重量%未満の重量損失を示す、ことを特徴とする燃料電池用の陽極。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか一項に記載の酸素発生反応触媒(11、12)を含む、電気化学セル用の陽極。
【請求項6】
少なくとも1つの水素酸化触媒、特に白金系の水素酸化触媒をさらに含み、
前記水素酸化触媒は、担持材料、特に炭素系の担持材料、特に黒鉛化炭素に担持されているか、または
前記酸素発生反応触媒(11、12)が担持材料(13)、特に炭素系担持材料、特に黒鉛化炭素に担持され、かつ、前記水素酸化触媒が前記酸素発生反応触媒および/または前記担持材料上に堆積される、ことを特徴とする請求項4または5に記載の陽極。
【請求項7】
請求項4から6のいずれか一項に記載の陽極を備える膜電極アセンブリ。
【請求項8】
請求項5に記載の陽極を備える水電解セル。
【請求項9】
請求項4から6のいずれか一項に記載の陽極を備えた燃料電池。
【請求項10】
請求項1に記載の酸素発生反応触媒(11、12)を製造するためのプロセスであって、
a)イリジウムの酸化物および/またはルテニウムの酸化物(7)および/またはこれらの酸化物の混合物、および/またはこれらの合金、および、チタンの酸化物、ニオブの酸化物、タングステンの酸化物、およびタンタルの酸化物から選択される少なくとも1種のバルブ金属酸化物(8)を、少なくとも1種のバルブ金属酸化物(8)および少なくとも1種の貴金属酸化物(7)の固溶体(9)を得るべく、少なくとも900℃の温度で熱処理する工程と、
b)得られた前記固溶体(9)を粉砕する工程と、
c)粉砕された固溶体(10)を250℃から500℃の範囲の温度で熱処理する工程と
を備えるプロセス。
【請求項11】
前記ステップc)における熱処理が、350℃から450℃の温度で行われ、および/または、
前記ステップb)における粉砕が、ボールミルまたは遊星ボールミルを用いて行われ、および/または
ステップa)における熱処理の後、ステップb)における粉砕の前に、ステップa1)をさらに含み、ステップa1)は、得られた前記固溶体(9)を急冷することからなり、ステップa2)が、特にステップa1)の後に行われ、ステップa2)は、得られた前記固溶体(9)の機械的混合を行うことからなり、ステップa)、a1)およびa2)は、特に、ステップb)に進む前に少なくとも3度繰り返され、および/またはステップc)の前に、前記酸素発生反応触媒(12)を担持材料(13)上に担持するステップb1)を含み、前記担持材料(13)は特に炭素系の担持材料、特に黒鉛化炭素である、ことを特徴とする請求項10に記載のプロセス。
【請求項12】
少なくとも1つのバルブ金属酸化物(8)および少なくとも1つの貴金属酸化物(7)の固溶体(10)を含む酸素発生反応触媒(11、12)の使用であって、
前記バルブ金属酸化物(8)は、チタンの酸化物、ニオブの酸化物、タングステンの酸化物、およびタンタルの酸化物から選択され、
前記貴金属酸化物(7)は、イリジウムの酸化物、ルテニウムの酸化物、および/またはそれらの混合物、および/またはそれらの合金から選択され、
前記酸素発生反応触媒(11、12)は、アルゴン中において3.3体積%の水素流に80℃の温度で12時間曝露したときに、燃料電池用の陽極または水電解セル用の陽極において、2重量%未満の重量損失を示す、ことを特徴とする酸素発生反応触媒(11、12)の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素発生反応触媒、その製造及び使用、並びにこの酸素発生反応触媒を含む膜電極アセンブリ、燃料電池及び電気分解セルに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池の動作中、燃料の量が不足し、同時に一定の電流が要求されると、膜電極アセンブリ(MEA)の陽極に例えば1.4V以上の高電位が発生し、燃料電池の電圧が反転することがある。この現象は、一般に「燃料切れ」または「セル反転」と呼ばれる。このような高電位下では、触媒の担体として陽極に使用される炭素が酸化し(腐食し)、MEAが劣化する。
【0003】
燃料切れの間の炭素酸化反応(COR)は、酸素発生反応触媒(OER触媒)の添加によって陽極で回避できることも知られており、これは、燃料切れの間に水からの酸素発生が炭素酸化よりも有利になることを保証するからである。現在、二酸化イリジウム(IrO)と二酸化ルテニウム(RuO)は、酸性媒体中で最も優れたOER触媒と考えられている。しかし、IrOおよびRuOの欠点は、これらの貴金属酸化物の水素による還元が燃料電池の動作温度で自発的に起こり得るため、燃料電池の陽極の条件下でこれらが容易に金属イリジウムおよび金属ルテニウムに還元されることである。動作温度は、通常、80℃の範囲である。また、金属イリジウムやルテニウムが溶解してカチオン性化合物を形成することもある。したがって、燃料電池におけるCORを回避するためのOER触媒の使用は、OER触媒の溶解、したがって、特にスタートアップ/シャットダウン(SUSD)動作条件下での膜および陰極触媒層のイオン汚染、ならびに燃料切れにつながり、したがってMEAの出力密度の減少をもたらすことがある。この出力密度の低下は、水素によるIrOおよびRuOの低下に起因している。
【0004】
さらに、先行技術には、例えば二酸化チタン、酸化ニオブ、酸化タングステンおよび酸化タンタルなどのバルブ金属酸化物を含むOER触媒が記載されており、これらはPEMFCの動作条件下では還元性がなく、酸性媒体に不溶である。しかし、酸化イリジウムや酸化ルテニウムと組み合わせた場合、これらのOER触媒は水素に対して十分に高い還元安定性を示さない。これは、酸化イリジウムや酸化ルテニウムがバルブ金属酸化物に担持または共蒸着され、複合構造または部分固溶体となっている触媒構造に起因するものと考えられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この先行技術に鑑み、本発明の目的は、高い触媒活性と相まって、水素による還元に対して非常に優れた安定性を特徴とする酸素発生反応触媒を提供することである。本発明のさらなる目的は、酸素発生反応触媒を製造するためのプロセスおよびその使用、膜電極アセンブリおよびこの酸素発生反応触媒を含む燃料電池および電気分解セルを提供することであり、MEAおよび燃料電池および電気分解セルは、燃料切れの場合またはスタートアップ/シャットダウン条件下でも持続的に高い出力密度を特徴とする。
【0006】
目的は、独立請求項の主題によって解決される。従属請求項は、本発明の有利な展開を構成する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
それゆえ、この目的は、少なくとも1つのバルブ金属酸化物と少なくとも1つの貴金属酸化物の固溶体を含む酸素発生反応触媒によって達成される。本発明によれば、固溶体は、先行技術で知られているような部分的な固溶体だけでなく、完全な、すなわち本当の固溶体を意味すると理解される。その違いは、固溶体の結晶性にあり、X線回折によって確認することができる。言い換えれば、本発明による固溶体の結晶構造は、先行技術による固溶体とは異なっている。特に、XRDパターンは、バルブ金属酸化物自体のピークも貴金属酸化物自体のピークも示さない。専ら固溶体のピークが得られ、そのピークパターンからだけでなく、出発化合物とは異なる角度から明らかである。本発明による真の固溶体は、以下で詳細に解明されるように、X線回折によって部分固溶体と容易に区別することができる。
【0008】
固溶体を製造するために、相図に従って決定されたバルブ金属酸化物(複数可)と貴金属酸化物(複数可)の混合物が採用され、これもX線回折スペクトルの取得中に特徴的なX線回折ピークを有する実際の固溶体の形成を促す。
【0009】
本発明によれば、バルブ金属酸化物は、チタンの酸化物、ニオブの酸化物、タングステンの酸化物及びタンタルの酸化物から選択され、貴金属酸化物は、イリジウムの酸化物、ルテニウムの酸化物及び/又はこれらの混合物及び/又は合金から選択される。
【0010】
さらに、本発明によれば、固溶体のBET比表面積は、10m/gより大きい。比表面積は、窒素吸着(BET法)により決定される。本発明によれば、「固溶体のBET比表面積」は、OER触媒の触媒活性物質のBET比表面積を意味すると理解される。言い換えれば、BET比表面積は、OER触媒に存在する固溶体にのみ関係し、いかなる担持材料または担持OER触媒にも明示的に関係しない。本発明によれば、BET比表面積は、m 固溶体/g固溶体で測定される。BET比表面積は、Quantachrome Autosorb社製iQ装置を用いて測定される。サンプルは120℃で一晩脱気され、N吸着は77Kで測定される。比表面積(BET比表面積)は、ソフトウェアAsiQwinの「mircopore BET assistant」を用いてBrunauer-Emmett-Teller(BET)理論に従って測定される。本発明による酸素発生反応触媒のBET比表面積の上限は、特に限定されないが、その製造が簡便であるという理由から、好ましくは150m/g以下である。
【0011】
酸素発生反応触媒が、アルゴン中の3.3体積%の水素流に80℃の温度で12時間曝露したときに、2重量%未満の重量減少を示すことは、本発明にさらに従うものである。これは言い換えれば、本発明によるOER触媒は、水素含有雰囲気での還元に対して高い安定性を示すという特徴を有することを意味する。本発明によれば、本発明による触媒は、還元性環境におけるその安定性のために、スタートアップ/シャットダウン事象中に生じるような電位サイクル下でも、例えば燃料電池陽極における使用中にそのOER活性を保持する。この特性により、OER触媒の良好なOER活性は変化せず、燃料電池は望ましくないセル反転事象中の炭素腐食から効率的に保護される。
【0012】
本発明によるOER触媒の還元安定性は、高温での水素流の影響下でのOER触媒の質量減少/重量減少を測定することによって決定される。この目的のために、熱重量分析(TGA)が還元性雰囲気中で実施される。OER触媒粉末の熱重量分析は、Mettler Toledo社製TGA/DSC1装置を用いて実施される。粉末状のOER触媒約10から12mgをコランダムるつぼ(容量:70μL)に入れ、穴の開いたコランダム蓋で密閉し、TGA炉に直接入れる。熱重量分析に使用したガスはすべて純度5.0のもので、Westfalen AG社から入手可能である。セルキャリアガスには、水素の他にアルゴン(20mLmin-1)を使用した。
【0013】
各TGA測定は以下のステップに分かれている:
i)酸化性雰囲気でのイン・サイチュ乾燥ステップと
ii)還元雰囲気での金属酸化物還元ステップ。
【0014】
イン・サイチュ乾燥ステップは、OER触媒粉末の表面に吸着した全ての水分子と有機分子を脱着させ、ステップii)における重量損失が貴金属酸化物の還元のみに起因することを確実にするために使用される。バルブ金属酸化物は、この反応条件下では還元に対して安定である。
【0015】
イン・サイチュ乾燥ステップは以下のように行われる。最初はTGA炉を25℃の温度において5分間アルゴンでパージし(100mLmin-1)、続いて温度をO(100mLmin-1)中で25℃から200℃(10Kmin-1)へ上昇させる。200℃の温度は、O(100mLmin-1)中で10分間保持される。その後、O(100mLmin-1)中で200℃から25℃(-10Kmin-1)まで冷却し、最後にTGA炉をアルゴン(100mLmin-1)でパージし、25℃で5分間保持する。
【0016】
金属酸化物還元ステップ(貴金属酸化物還元ステップ)は、a)温度ランプモードとb)等温モードの2つの異なるモードに従って行われ、温度ランプモードは等温モードの結果を確認するために用いられ、等温モードは実際の還元安定性を決定する。
【0017】
採用された貴金属(イリジウムおよび/またはルテニウム)に応じて、温度ランプモードでのステップ実行時に異なる温度ランプが実行される。炉の温度は、貴金属としてイリジウムが存在する場合は25℃から500℃まで上昇し、イリジウムが存在せず貴金属としてルテニウムが存在する場合は25℃から800℃まで上昇し、いずれの場合も、3.3体積%H/Ar(40mLmin-1)中で5Kmin-1の加熱速度で加熱し、続いて、アルゴン(100mLmin-1)中で25℃まで炉を冷却する(冷却速度:-20Kmin-1)。
【0018】
等温モードでステップを実行する場合、炉は、アルゴン(100mLmin-1)中、5Kmin-1の加熱速度で25℃から80℃まで加熱され、その後、3.3体積%H/Ar(40mLmin-1)へのガス切り替えが行われ、80℃に12時間保持する。その後、Ar(100mLmin-1)中で80℃から25℃まで冷却する(冷却速度:-20Kmin-1)。本発明によるOER触媒の還元安定性を決定するために、b)による金属酸化物還元ステップ、すなわち等温モードが、上記で規定されたように実行される。等温モードに従って得られた結果を確認するために、同じ結果を与える温度ランプモード(temperature ramp experiment)を使用することができる。
【0019】
上述の方法によれば、2重量%未満の重量損失によって特段に高い還元安定性が達成され、10m/g以上の高いBET比表面積が同時に得られるため、永続的に高い触媒活性が得られる。
【0020】
OER触媒の非常に優れた還元安定性により、OER触媒の貴金属酸化物は、燃料電池の動作中に水素によって金属貴金属に還元されず、それに応じて、スタートアップ/シャットダウンサイクルおよび/またはセルの反転条件において汚染する貴金属化合物に溶解または変換を示さない。この安定性は2つの結果をもたらす。すなわち、一方で、OER活性は電気化学セルの動作中に保持され、したがってMEAの完全な寿命にわたってセル反転耐性を保持し、他方では、還元安定性は金属貴金属の形成および結果としてMEAを汚染し得る貴金属イオンの形成を防ぎ、したがって持続的に優れた電力密度を保持する。
【0021】
同時に、本発明によるOER触媒の非常に高いBET比表面積は、触媒の十分に高いOER活性を保証し、OER活性は、燃料切れ中のセル反転の場合に生じる高電位による炭素腐食を防止する。
【0022】
OER触媒の触媒活性を向上させるために、固溶体のBET比表面積は20m/g以上とする。
【0023】
本発明の有利な展開として、酸素発生反応触媒は、可能な限り高い触媒活性を得るべく、BET比表面積を安定化するために担持材料に担持されることが挙げられる。酸素発生反応触媒を担持することにより、触媒の凝集を防止することができる。適切な担持材料としては、特に導電性担持材料、例えば、特に黒鉛化炭素またはアセチレン系の炭素を含む炭素系の担持材料が挙げられる。
【0024】
また、本発明に従って説明するのは燃料電池用の第1の陽極であって、当該第1の陽極は、少なくとも1つのバルブ金属酸化物と少なくとも1つの貴金属酸化物の固溶体を含む酸素発生反応触媒を有し、バルブ金属酸化物がチタンの酸化物、ニオブの酸化物、タングステンの酸化物およびタンタルの酸化物から選択され、貴金属酸化物がイリジウムの酸化物、ルテニウムの酸化物および/またはその混合物および/または合金から選択される。酸素発生反応触媒は、アルゴン中の3.3体積%の水素流に80℃の温度で12時間曝露したときに、2重量%未満の重量減少を示す。
【0025】
固溶体および還元安定性の定義および測定に関して、本発明によるOER触媒に関連して、上記説明を参照されたい。
【0026】
また、本発明に従う、OER触媒を含む第2の陽極について説明する。
【0027】
第1の陽極および第2の陽極におけるそれぞれのOER触媒の使用により、第1の陽極および第2の陽極は、燃料切れの場合のセルの反転に対する非常に優れた安定性および非常に優れた耐性、ならびにスタートアップ/シャットダウン条件における高い劣化安定性も特徴とする。
【0028】
有利な展開において、特に本発明による陽極が燃料電池の陽極として使用される場合、陽極は有利に少なくとも1つの水素酸化触媒を含んでいる。水素酸化触媒は、好ましくは、その貴金属の特性のために非常に良好な耐腐食性を示す白金系の水素酸化触媒である。
【0029】
OER触媒は、原則として、担持または非担持の形態で本発明に従う陽極中に存在することができる。これは、水素酸化触媒にも当てはまる。さらに有利な展開として、水素酸化触媒は、担持材料上及び/又は酸素発生反応触媒上に担持される。第一の場合、これは、水素酸化触媒と酸素発生反応触媒の両方が、特に炭素系担持材料、特に黒鉛化炭素などの担持材料上に配置されることを意味する。それぞれの担持材料は、同じであっても異なっていてもよい。OER触媒と水素酸化触媒は、好ましくは、同じ担持材料に担持される。この目的のために、本発明によるOER触媒は、例えば、担持材料に担持され、その後、水素酸化触媒とブレンドされ得る。これにより、水素酸化触媒は、担持材料上に既に堆積されたOER触媒上に優先的に堆積されることになり得る。さらに、OER触媒と水素酸化触媒を互いにブレンドし、その後、担持材料に担持させることもできる。これにより、OER触媒と水素酸化触媒の両方が担持材料に担持される。これにより、触媒活性物質に対して少量の担持材料を使用することができるため、耐食性およびセル反転耐性に好影響を与えることができるという利点がある。また、2つの触媒は、同一または異なる担持材料上に互いに独立して担持された形態で存在することができる。また、一方の触媒がそれぞれの他方の触媒の上に存在することも可能である。最終的な構造は、採用する触媒の混合比と量比に依存する。
【0030】
また、本発明に従う、膜電極配置、水電解セルおよび燃料電池が説明される。これらは、上述の第1および/または第2の陽極を含み、陽極に存在するOER触媒のために、同様に、特に腐食の傾向が低減されているという理由で、特に良好で永続的に高い出力密度を特徴とする。スタートアップ/シャットダウンサイクルの条件下でも水素還元に対する耐性があり、燃料切れの条件下でもセルの反転に対する耐性が非常に高い。
【0031】
また、本発明に従う、酸素発生反応触媒を製造するためのプロセスが説明される。このプロセスは、最初に、イリジウムの酸化物および/またはルテニウムの酸化物および/またはこれらの酸化物の混合物および/または合金と、チタンの酸化物、ニオブの酸化物、タングステンの酸化物およびタンタルの酸化物から選択される少なくとも1つのバルブ金属酸化物を少なくとも900℃の温度で熱処理し、少なくとも1つのバルブ金属酸化物と少なくとも1つの貴金属酸化物の固溶体を得る工程a)を含む。この固溶体は、結晶相としてバルブ金属酸化物または貴金属酸化物が付加的に存在しないという特徴を有し、これはX線回折実験によって決定可能である。したがって、それは、バルブ金属酸化物が固体金属酸化物中に完全に溶解しており、その組成が採用された酸化物の相図から導出可能な、リアルな固溶体である。バルブ金属酸化物と貴金属酸化物の組み合わせは、水素による還元に対して非常に優れた安定性を有する高性能なOER触媒を実現する。
【0032】
このプロセスステップで採用される温度の上限は、貴金属としてイリジウムを使用する場合は約1100℃まで、イリジウムの不在下でルテニウムを使用する場合は約1450℃までとすることができる。しかし、それ以上の温度では、酸化イリジウム/酸化ルテニウムは分解する傾向がある。したがって、酸化イリジウム含有系では900℃以上1050℃以下、酸化ルテニウム含有系では900℃以上1300℃以下が、バルブ金属酸化物および貴金属酸化物の還元安定な固溶体をできるだけ低いエネルギーコストで得るという点で特に有利となる。
【0033】
上記の熱処理により、バルブ金属酸化物および貴金属酸化物の部分的な固溶体だけでなく、リアルな固溶体が得られるが、その比表面積は、例えば燃料電池のような効率的なOER触媒としての用途には不十分である。これは、特に、粒子の成長および関連する微細構造の崩壊に起因する。本発明によるプロセスは、それゆえ、得られた固溶体を粉砕するステップb)を提供する。この粉砕は、比較的硬い固溶体の粉砕を可能にし、固溶体の凝集物の脱凝集をもたらすだけではない、適切な粉砕プロセスによって実施されなければならない。したがって、粉砕は、特に高エネルギー粉砕によって行われる。粉砕は、固溶体のBET比表面積を増加させ、したがって固溶体の触媒活性を顕著に増加させる。粉砕を行うのに適した装置は、特に、例えば粉砕メディアミルのような、100nm未満の平均粒径を生成するものである。これらには、例えばボールミル、攪拌メディアミル、スターラーミル、アトライター及び特定のローラーミルが含まれる。
【0034】
このようにして、研削により、触媒用途に必要なBET比表面積を得ることができる。研削後のBET比表面積は、特に10m/g以上、好ましくは20m/g以上である。本発明に従う酸素発生反応触媒の研削の程度、従ってBET比表面積の上限は特に制限されないが、このような表面積の製造を簡略化する理由から、好ましくは150m/g以下とする。
【0035】
続くステップc)の熱処理により、水素に対する還元安定性をさらに向上させることが可能となる。これは、第2の熱処理ステップにおいて、固溶体が非常に高度に粉砕されることに起因すると考えられている。この粉砕された固溶体の再熱処理は、250℃から500℃の範囲の温度で行われる。粉砕後の凝集や凝結はもはや起こらないため、この第3の工程における比較的適度な温度は、触媒の表面積を犠牲にすることなく、水素に対する還元安定性を再び顕著に向上させることができる。
【0036】
本発明によるプロセスは、非常に良好な触媒性能と、酸素発生反応触媒をアルゴン中で3.3体積%の水素流に80℃の温度で12時間曝露した際の2重量%未満の重量損失とを特徴とする酸素発生反応触媒をもたらす。
【0037】
一つの有利な展開は、ステップc)の熱処理が350℃から450℃の温度で行われることを特徴とする。この結果、優れた触媒性能と相まって特に高い水素還元安定性を有するOER触媒が得られる。
【0038】
BET比表面積は、ボールミルを用いた、または遊星ボールミルを用いた粉砕によって特に容易に調整可能である。これらの粉砕装置は、固溶体の粉砕に特に適している非常に高いエネルギー入力を有する。
【0039】
貴金属酸化物及び/又はバルブ金属酸化物の結晶性共相を含まない「リアルな」固溶体の形成に関して、プロセスは、有利には、ステップa)の熱処理の後、ステップb)の研削の前に、ステップa1)を含み、ステップa1)は、得られた固溶体を急冷することからなる。「急冷」とは、空気中、特に室温(約20℃から25℃)までの強い冷却を意味すると理解される。
【0040】
ステップa1)の後にステップa2)が実行されるとさらに有利であり、ステップa2)は、固溶体の均質性に有利な効果を有する、得られた固溶体の機械的混合を実行することからなる。
【0041】
上記の利点に鑑みて、ステップb)に進む前に、ステップa)、a1)及びa2)は、特に少なくとも3回繰り返される。
【0042】
プロセスは、さらに有利には、酸素発生作用触媒を担持材料上に担持するステップを含み、ここで、担持材料は、特に炭素系の担持材料、特に黒鉛化炭素またはアセチレン系の炭素である。担持するステップは、特に工程ステップb)の実行中または実行後に実行される。
【0043】
また、本発明に従って説明すると、酸素発生反応触媒の使用であって、酸素発生反応触媒は、少なくとも1つのバルブ金属酸化物と少なくとも1つの貴金属酸化物の固溶体を含み、バルブ金属酸化物は、チタンの酸化物、ニオブの酸化物、タングステンの酸化物およびタンタルの酸化物から選択され、貴金属酸化物はイリジウムの酸化物、ルテニウムの酸化物および/またはその混合物および/または合金から選択される。酸素発生反応触媒は、アルゴン中の3.3体積%の水素流に80℃の温度で12時間曝露したときに、2重量%未満の重量損失を示す。本発明による使用は、燃料電池用の陽極におけるOER触媒の使用を提供する。
【0044】
本発明の更なる詳細、利点、及び特徴は、図面を参照した例示的な実施形態の以下の説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1図1は、OER触媒の製造プロセスを示す。
図2図2は、TGAランプ実験の試験結果を示す。
図3A図3Aは、TGAランプ実験の試験結果を示す。
図3B図3Bは、TGAランプ実験の試験結果を示す。
図4図4は、TGAランプ実験の試験結果を示す。
図5図5は、等温モードによる試験結果を示す。
図6図6は、XRDパターンを示す。
図7A図7Aは、TGAランプ実験の試験結果および等温モードによる実験結果を示す。
図7B図7Bは、TGAランプ実験の試験結果および等温モードによる実験結果を示す。
図7C図7Cは、TGAランプ実験の試験結果および等温モードによる実験結果を示す。
図7D図7Dは、TGAランプ実験の試験結果および等温モードによる実験結果を示す。
図8図8は、MEAの性能損失を示す。
【発明を実施するための形態】
【0046】
図1は、OER触媒を製造するための3つの異なる工程を詳細に示している。ルートAは従来のプロセスを示しており、典型的には貴金属前駆体1(例えばイリジウム塩)を担持体としてのバルブ金属酸化物2上に堆積させ、次に約300℃から500℃の範囲の低温で熱処理する。こうして、例えば酸化イリジウムなどの貴金属3は、バルブ金属酸化物2の表面を覆う。しかしながら、ルートAに従って得られたOER触媒4は、貴金属、本実施例では酸化イリジウム、およびバルブ金属酸化物が2つの別々の相の形態で存在するために、水に対する十分に高い還元安定性を特徴としない。
【0047】
ルートBも同様に従来のプロセスであり、貴金属前駆体1とバルブ金属酸化物前駆体5との共沈を示し、その後の熱処理も約300℃から500℃の範囲の低温で行う。複合構造6を有する、または部分固溶体の形態のOER触媒が得られる。
【0048】
ルートCは、本発明の一実施形態に従う工程を表す。これは、イリジウムの酸化物および/またはルテニウムの酸化物および/またはこれらの酸化物の混合物および/または合金と、チタンの酸化物、ニオブの酸化物、タングステンの酸化物およびタンタルの酸化物から選択される少なくとも一つのバルブ金属酸化物8との混合物を少なくとも900℃の温度で加熱する工程a)を含む。これにより、少なくとも1つのバルブ金属酸化物8と少なくとも1つの貴金属酸化物7との固溶体9が形成される。続いて、工程b)において、得られた固溶体9を、特に、粉砕メディアミル、例えばボールミル、攪拌媒体ミル、攪拌ミル、アトライターまたは特定のローラーミルを用いた高エネルギー粉砕を行う。これにより、10m/gを超える高いBET比表面積を有する固溶体10が得られる。次いで、これを工程ステップc)において250℃から500℃の範囲の温度で再熱処理に付し、純粋なOER触媒11を得ることができる。
【0049】
代替のプロセスモードでは、プロセスステップb2)において、適切な、通常は炭素系の、担持材料13に担持されたOER触媒12を得るための担持を、ステップc)の前に実施することができる。これは、同様に、非常に良好な還元安定性および非常に高い触媒活性を特徴とする担持OER触媒12を形成する。
【0050】
実施例
本発明によるOER触媒の特性を説明するために、以下のOER触媒を製造し、以下に規定するように特性評価した、ここで、特性評価において、添付の図およびその説明を参照されたい。特に断らない限り、報告された量は重量%である。
【0051】
水素による還元に対する高い安定性と高いBET比表面積を有するOER触媒の製造
実施例1:固溶体Ti-IrOOER触媒の製造(Ir:Ti=8:2)
IrOは、IrClxHOから、室温(RT)での緩慢な塩基性加水分解により製造した。加水分解は、IrClxHO(Alfa Aesar社製、金属基準99.8重量%)のpH12溶液を24時間撹拌することにより実施し、溶液のpHはLiOHを添加することにより調整した。反応が終了したら、沈殿物を沸騰水で4回洗浄し、濾過して70℃のオーブンで乾燥させた。この粉末を合成空気中で700℃、2時間焼成し、熱処理したIrOを得た。
【0052】
その後、化学量論比のIrOおよびTiO(Alfa Aesar社製、99.7重量%金属系)を製造し、乳鉢を用いて手動で混合し、アセトン:水(50:50体積%)溶液中に超音波を用いて分散させた。得られた懸濁液をRTで12時間撹拌した後、遠心分離し、得られたペーストをオーブン中において70℃で乾燥した。得られた粉末をペレット状にプレスし、純IrO粉末で覆った後、合成空気を流しながら1000℃に予熱したチューブ炉に入れた。
【0053】
2時間後、混合物を管状炉から取り出し、空気でRTまで冷却(急冷)した。次いで、ペレットを、最初は手で、次いで、均質化のために、乳鉢で粉砕した。
【0054】
ペレット製造、熱処理、手動混合のサイクルを3回繰り返し、TiOとIrOの固溶体(ssTi-IrO)を得ることができた。
【0055】
得られた固溶体は、固溶体粉末と水の粘性ペーストとZrOボールを遊星攪拌機付きZrO容器で、得られた固溶体のBET比表面積が25から35m/gになるまで混合することにより粉砕した。
【0056】
得られた粉末を350℃から450℃の温度範囲の温度で再熱処理を行い、最終的に高比表面積のOER触媒(HA-ssTi-IrO)を得ることができた。
【0057】
実施例2:固溶体Ti-IrOOER触媒(Ir重量%、モル比Ir:Ti=8:2)の製造
実施例1と同様にしてTi-IrO固溶体(ssTi-IrO)を製造した。粉砕後、黒鉛化バルカンカーボンを有する粉砕粉末の対応量をアセトン/水溶液(50:50体積%)に加え、超音波浴で分散させた。得られた懸濁液をRTで12時間撹拌した後、遠心分離し、得られたペーストを70℃のオーブンで乾燥した。
【0058】
得られた粉末を350℃から450℃の温度範囲の温度で再熱処理を行い、最終的に高比表面積のOER触媒(HA-ssTi-IrO)を得ることができた。
【0059】
実施例3:固溶体Ti-IrOOER触媒の製造(モル比Ir:Ti=9:1)
IrClxHOをRTでゆっくり塩基性加水分解することにより、実施例1と同様にしてIrOを製造した。得られたIrOとTiO(Alfa Aesar社製、金属基準99.7重量%)の化学量論比を混合し、実施例1と同様に熱処理を行い、TiO-IrO固溶体(ssTi-IrO)を得た。得られた固溶体を、固溶体粉末と水との粘性ペーストとZrOボールとを、ZrO容器内で遊星攪拌機を用いて、得られた粉砕固溶体のBET比表面積が25から35m/gとなるまで混合することにより湿式粉砕した。
【0060】
実施例4:固溶体Ti-IrOOER触媒(Ir重量%、モル比Ir:Ti=9:1)の製造
実施例3と同様にTi-IrO固溶体(ssTi-IrO、モル比Ir:Ti=9:1)を製造した。粉砕後、黒鉛化バルカンカーボンを有する粉砕粉末の対応量をアセトン/水溶液(50:50体積%)に加え、超音波浴中で分散させた。得られた懸濁液をRTで12時間撹拌した後、遠心分離し、得られたペーストをオーブン中において70℃で乾燥した。
【0061】
得られた粉末を350℃から450℃の温度範囲の温度で再熱処理を行い、最終的に高比表面積のOER触媒(HA-ssTi-IrO/C)を得た。
【0062】
実施例5:固溶体Ti-RuOOER触媒の製造(モル比Ru:Ti:表1参照)
化学量論比のRuO(Alfa Aesar社製、重量金属基準99.95%)とTiO(Alfa Aesar社製、重量金属基準99.7%)を製造し、乳鉢を用いて手動で混合し、アセトン:水(50:50体積%)溶液中に超音波を用いて分散させた。得られた懸濁液をRTで12時間撹拌した後、遠心分離し、得られたペーストをオーブン中において70℃で乾燥した。得られた粉末をペレット状にプレスし、純粋なRuO粉末で覆った後、合成空気を流しながら1300℃に予熱したチューブ炉に入れた。
【0063】
時間後、混合物を管状炉から取り出し、空気でRTまで冷却(急冷)した。次いで、ペレットを、最初は手で、次いで、均質化のために、乳鉢で粉砕した。
【0064】
ペレット製造、熱処理、手動混合のサイクルを3回繰り返し、TiOとRuOの固溶体(ssTi-RuO)を得ることができた。
【0065】
得た固溶体は、固溶体粉末と水の粘性ペーストとZrOボールをZrO容器に入れ、遊星攪拌機を用いて、粉砕した固溶体の得られるBET比表面積が25から45m/gとなるまで混合することにより湿式粉砕した。
【0066】
得られた粉末を350℃から450℃の温度範囲の温度で再熱処理を行い、最終的に高比表面積のOER触媒(HA-ssTi-RuO)を得ることができた。
【0067】
実施例6:固溶体Nb-RuOOER触媒の製造(モル比Ru:Nb:表1参照)
化学量論比のRuO(Alfa Aesar社製、重量金属基準99.95%)とNbO(Alfa Aesar社製、重量金属基準99.9985%)を製造し、乳鉢を用いて手動で混合し、アセトン:水(50:50体積%)溶液中に超音波を用いて分散させた。得られた懸濁液をRTで12時間撹拌した後、遠心分離し、得られたペーストをオーブン中において70℃で乾燥した。得られた粉末をペレット状にプレスし、純粋なRuO粉末で覆った後、合成空気を流しながら1300℃に予熱したチューブ炉に入れた。
【0068】
2時間後、混合物を管状炉から取り出し、空気でRTまで冷却(急冷)した。次いで、ペレットを、最初は手で、次いで、均質化のために、乳鉢で粉砕した。
【0069】
ペレット製造、熱処理、手動混合のサイクルを3回繰り返し、Nb2OとRuOの固溶体(ssNb-RuO)を得ることができた。
【0070】
得られた固溶体は、固溶体粉末と水の粘性ペーストとZrOボールとを、ZrO容器内で遊星攪拌機を用いて、得られた粉砕固溶体のBET比表面積が25から45m/gとなるまで混合することにより湿式粉砕した。
【0071】
得られた粉末を350℃から450℃の温度範囲の温度で再熱処理し、最終的に高比表面積のOER触媒(HA-ssNb-RuO)を得ることができた。
【0072】
図7および表1は、異なるRuO-系の固溶体の仕様および特性安定性情報を示す。
【0073】
表1は、RuO固溶体サンプルと、TGAによって測定されたH雰囲気におけるその特徴的な安定性の要約である(安定性に関するさらなる解明については、図7Aを参照)。HAサンプルは、粉砕し、本発明に従って熱処理を施した。
【0074】
【表1】
【0075】
表1は、RuO固溶体サンプルと、TGAによって測定されたH雰囲気におけるその特徴的な安定性の要約である(安定性に関するさらなる解明については、図7Aを参照)。HAサンプルは、粉砕し、本発明に従って熱処理を施した。
【0076】
粉砕したOER触媒試料約5mgを粘着テープ上に静かに広げ、サンプルホルダー穴の中央に固定した。XRDパターンは、2θ角で、20°から90°の範囲で0.127°ステップで、1ステップあたり20秒の保持時間で記録した。
【0077】
熱重量測定(TGA)
還元性雰囲気(3.3体積%H/Ar)での熱重量分析を用いて、OER触媒の還元安定性を測定した。ここで、Hによる酸化物の還元は、以下に従う。
IrO2(S)+2H2(g)→Ir(S)+2H(g)または
RuO2(S)+2H2(g)→Ru(S)+2H(g)
は、TGA実験中のサンプルの重量損失を記録することでモニターした。
【0078】
本発明によれば、触媒の還元安定性は、高温での水素流を使用して、以下に示すモード(温度ランプ実験および等温モード)に従ってOER触媒の質量損失/重量損失を測定することによって決定した。この目的のために、熱重量分析(TGA)は、還元性雰囲気中で行った。等温実験は、模擬PEMFC陽極条件(T=80℃)で触媒の還元までの時間を測定するために実施した。
【0079】
OER触媒粉末の熱重量分析は、Mettler Toledo社製TGA/DSC1装置を用いて実施した。約10から12mgのOER触媒粉末をコランダムるつぼ(容量:70μL)に入れ、穴の開いたコランダム蓋で密閉し、TGA炉に直接入れた。熱重量分析に使用したガスはすべて純度5.0のもので、Westfalen AG社から入手可能であった。水素に加え、アルゴン(20mLmin-1)をセルキャリアガスとして使用した。
【0080】
各TGA測定は、以下のステップに分けられる。
i)酸化性雰囲気でのイン・サイチュ乾燥ステップと、
ii)還元性雰囲気での金属酸化物還元ステップ。
【0081】
イン・サイチュ乾燥ステップは、ステップii)における重量減少が酸化イリジウムの還元のみに起因することを確実にするために、OER触媒粉末の表面に吸着したすべての水分子と有機分子を脱着するために使用された。
【0082】
イン・サイチュ乾燥ステップは以下のように行った。最初はTGA炉を25℃の温度におてい5分間アルゴンでパージし(100mLmin-1)、続いて温度を25℃から200℃までO(100mLmin-1)中でランプアップする(10Kmin-1)。200℃の温度は、O(100mLmin-1)中で10分間保持される。その後、O(100mLmin-1)中で200℃から25℃(-10Kmin-1)まで冷却し、最後にTGA炉をアルゴン(100mLmin-1)でパージし、25℃で5分間保持した。
【0083】
金属酸化物還元ステップは、2つの異なるモード、すなわちa)温度ランプモードおよびb)等温モードに従って実行された。
【0084】
採用された貴金属(イリジウムおよび/またはルテニウム)に応じて、温度ランプモードでの性能の場合に、異なる温度ランプを実行した。炉の温度は、イリジウムが貴金属として存在する場合は25℃から500℃まで、イリジウムが存在せずルテニウムが貴金属として存在する場合は25℃から800℃まで上昇し、炉の温度はそれぞれの場合において、3.3体積%H/Ar(40mLmin-1)中で5Kmin-1の加熱速度で上昇し、その後にアルゴン(100mLmin-1)中で炉を25℃(冷却速度:-20Kmin-1)に冷却した。
【0085】
等温モードでの性能の場合、炉は、アルゴン(100mLmin-1)中で5Kmin-1の加熱速度で25℃から80℃まで加熱され、その後、3.3体積%H/Ar(40mLmin-1)へのガス切替えを行い、80℃で12時間保持した。その後、Ar(100mLmin-1)中で80℃から25℃まで冷却した(冷却速度:-20Kmin-1)。
【0086】
TGA実験中の重量減少は、以下の反応に従って、HによってIrO/RuOが金属Ir/Ruに還元されることに起因していた。
IrO2(s)+2H2(g)→Ir(s)+2H(g)
RuO2(s)+2H2(g)→Ru(s)+2H(g)
【0087】
本発明によるプロセスのステップa)における熱処理およびその結果としての固溶体の製造が、得られたOER触媒の水素による還元に対する安定性を顕著に増大させることが実証された。
【0088】
BET表面積は、Quantachrome Autosorb社製iQ装置を用いて測定した。試料を120℃で一晩脱気し、77KでN吸着を測定し、比表面積(BET比表面積)は、ソフトウェアAsiQwinの「mircopore BET assistant」を用いてBrunauer-Emmett-Teller(BET)理論に従って決定した。
【0089】
エクス・サイチュOER活性測定
基準電極として可逆性水素電極(RHE)を用いた水ジャケット式3電極セルを用いて、エクス・サイチュOER活性測定を実施した。高表面積の金線を対極として用い、直径5mmのPTFEボディに担持された多結晶金ディスクからなる回転リングディスク電極(RRDE)を、電解質として0.1MのHSO水溶液中の作用電極として使用した。
【0090】
CCMの製造
触媒被覆膜(CCM)は、0.05mgPt/cmの白金装填を有する黒鉛化炭素上に20重量%の白金を含む陽極触媒層と、0.30mgPt/cmの白金装填を有する50重量%のPt/C触媒を含む陰極触媒層から製造した。次に、デカールプロセス(標準デカール転写プロセス)を用いて、厚さ15μmのパーフルオロスルホン酸(PFSA)アイオノマー膜を、陽極層と膜の反対側で陽極層と反対側の陰極層との間に配置した触媒被覆膜(CCMC)を製造した。両触媒層の活性面積は71mm×62mmで、膜サイズは110mm×110mmであった。表2は、CCMの組成をまとめたものである。
【0091】
比較例1(陽極にOER触媒を使用しない場合)
Pt/C触媒20重量%を水、溶媒およびPFSAアイオノマー分散液に混合して、陽極触媒インクを製造した。この陽極触媒インクを、ボールミル(粉砕メディア:直径1mmのZrOボール)で120分間粉砕した。この触媒インクを基材上に塗布、乾燥して陰極触媒層を作製した。
【0092】
Pt/C触媒50重量%、水、溶剤、およびPFSAアイオノマー分散液を混合することにより、陰極触媒インクを製造した。この陰極触媒インクをボールミル(粉砕メディア:直径1mmのZrOボール)中で120分間粉砕した。この触媒インクを基板上に塗布、乾燥して、陽極触媒層を作製した。
【0093】
触媒層は、標準的なデカールプロセスを使用して、CCMを得るために膜と組み合わされた。両方の触媒層の活性領域は71mm×62mmであり、膜のサイズは110mm×110mmであった。
【0094】
比較例2(従来のOER触媒を陽極に用いた場合)
Pt/C触媒酸化物20重量%とイリジウム粉末(PtとIrの重量比:1:1)を混合して、陽極触媒インクを製造した。使用した酸化イリジウム粉末は、市販の触媒粉末であるUmicore社のElyst Ir75 0480であり、IrOがTiOに担持されている。このOER触媒をPt/C触媒分散液と混合し、ボールミルで120分間徹底的に粉砕した(粉砕メディア:直径1mmのZrOボール)。
【0095】
比較例1と同様にして、陰極触媒層を製造した。
【0096】
触媒層は、標準的なデカールプロセスを使用して、CCMを得るために膜と組み合わされた。両方の触媒層の活性領域は71mm×62mmであり、膜のサイズは110mm×110mmであった。
【0097】
実施例7
Pt/C触媒と酸化イリジウム粉末(Pt/Ir重量比:1:1)を混合して、陽極触媒層を製造した。製造された酸化イリジウム粉末をPt/C触媒分散液と混合し、ボールミルで120分間徹底的に粉砕した(粉砕メディア:直径1mmのZrOボール)。
【0098】
比較例2と同様にして、陰極触媒層を製造した。
【0099】
触媒層は、標準的なデカールプロセスを使用して、CCMを得るために膜と組み合わされた。両方の触媒層の活性領域は71mm×62mmであり、膜のサイズは110mm×110mmであった。
【0100】
表2は、製造されたCCM組成物の概要を示している。
【0101】
【表2】
【0102】
燃料電池試験
グラファイト化した蛇行流板を取り付けた38cmのPEM単セルを用いて電気化学的な試験を実施した。単セルは熱制御されており、加熱には耐熱性のヒーティングプレートが、空冷にはベンチレーターが使用された。ガスはバブラーで加湿した。単セルは、向流で運転した。
【0103】
製造されたすべてのCCMは、膜電極ユニット(CCM)の両側で炭素系のガス拡散層を備えていた。すべてのCCMサンプルは、非圧縮性のガラス繊維強化PTFEシールを備え、その結果、GDLの10体積%の圧縮をもたらした。MEAサンプルの性能試験を行う前に、単セルを水素/空気中で1A/cm、1.5barabsの圧力で8時間コンディショニングした。単セルの温度Tcellは80℃、加湿器の温度は80℃(陽極)および80℃(陰極)であった。
【0104】
水素/空気IV偏光測定は、寿命開始時(BOL)、スタートアップ/シャットダウンサイクル試験中、および試験終了時(EOT)、具体的には以下の条件下で実施した。すなわち、Tcell=80℃、加湿器温度=80℃(両側)、圧力=1.5barabs、陽極化学量論=1.5、陰極化学量論=2であった。
【0105】
腐食試験
燃料電池は、変動する条件下で高電位にさらされることがある。このような条件には、空気/空気のスタートアップ/シャットダウン(電流の反転)、燃料切れ(セルの反転)などがあり、以下の試験でシミュレーションした。
【0106】
スタートアップ/シャットダウンサイクル試験(SUSD)
SUSDサイクルは、水素/空気フロントの滞留時間を定義したガス交換実験においてシミュレーションされた。単電池の陽極側には、乾燥空気と加湿水素の切り替えが可能な三方弁が設置されていた。起動をシミュレートするために、陽極流れ場は最初乾燥空気で満たされ、その後加湿された水素で置換され、H/空気フロントを形成した。一方、シャットダウン時には、加湿された水素で満たされた陽極の流れ場が乾燥空気でパージされ、空気/Hフロントが形成された。
【0107】
SUSD実験中、両方のコンパートメントで動作条件を一定に保った(1.01barabs、アウトレット、100%相対湿度RH)。単セル内のH/空気フロントの滞留時間は、流れ場の体積(cm)をSUSD条件(35℃、1.01barabs、アウトレット)での加湿ガスの体積流量で割ったものと定義し、0.3秒に設定された。また、起動から停止までの時間は55秒とした。MEAのコンディショニング直後、および10、40、50、100、300、500回のSUSDサイクルの各セット後に分極曲線を記録し、基準条件である80℃での電圧損失を観察した。
【0108】
燃料切れ試験(セル反転)
燃料電池を陰極側に空気、陽極側に窒素を入れた状態で運転しながら、0.2A/cmの電流を流す(これは燃料切れの場合を模倣している)、拡張電圧反転試験を施した。セル電圧の平均値が-1.5V以下になった時点で試験終了とした。1.5Vに達するまでに要した時間を、拡張反転許容時間として計算した。
【0109】
電気化学的試験の結果を図8および表3に示す。
【0110】
表3は、CCMの機能性の詳細な概要を示している。
【0111】
【表3】
【0112】
表3から明らかなように、すべてのCCMは寿命開始時(BOL)に同じ性能を有するので、OER触媒はこれらの値に影響を与えない。
【0113】
しかし、経時劣化は明らかである。特に比較例では劣化が激しい。
【0114】
CRT時間損失は、MEAがSUSD試験に供された後のMEA反転試験時間の損失率を示す。従来のOER触媒を含むMEAは、SUSD試験中にOER触媒が溶解した結果、そのCRT能力の大部分を失った。本発明によるMEA(実施例7)は、そのCRT能力のほとんどを保持していた。
【0115】
図2は、図1からのルートA、BおよびCに従って製造されたIrOおよびTiO混合物の安定性を決定するための3.3体積%H/Ar中でのTGA温度傾斜実験の結果を示す。IrO/TiO(ドイツのUmicore社製Elyst Ir75 0480からのIr75重量%)は、ルートAに従って製造された市販のOER触媒である。IrO-TiO、X(Ti)=0.1は、ルートBに従って製造されたOER触媒で、X(Ti)はTi/(Ti+Ir)として計算されたチタンのモル比率を表す。HA-ssTi-IrO/Cは、実施例4(ルートC)に従って製造されたOER触媒であり、HA-ssTi-IrOは、実施例3(ルートC)に従って製造されたOER触媒である。HA-ssTi-IrOおよびHA-ss-Ti-IrO/CにおけるTiOとIrOの効率的な相互作用は、IrOの非再現性に大きな影響を与え、図1からの異なるルートに従って製造したすべてのサンプルの中で還元雰囲気において最も安定な触媒がこのように得られた。
【0116】
図3Aは、X(Ti)を有するIrO-TiO混合物の安定性を説明するために3.3体積%H/Ar中での温度ランプ実験の結果を示し、ここでX=0.1、0.5および0.8は、混合物が図1のルートBに従って製造されており、X(Ti)はTi/(Ti+Ir)として算出されるチタンのモル比率を表す。還元性雰囲気における試料の安定性と、試料中のTiOの量との間に直接的な相関があったことが明らかである。この理由の一つとして、IrOがTiOによって覆われていることが考えられる。
【0117】
本発明による固溶体OER触媒の典型的な特性も図3Aに示されている(HA-ssTi-IrO/C、例4)。X(Ti)=0.8のIrO-TiO試料でさえ、HA-ssTi-IrO/Cと比較して比較的に良好な還元安定性を示さなかった。
【0118】
図3Bは、RDEによって測定されたOER分極曲線を示す。IrO-TiOX(Ti)=0.8におけるTiOによるIrOの可能な物理的被覆のために、このサンプルのOER活性は、IrO/TiOおよびHA-ssTi-IrOサンプルと比べて比較的に低い活性を示しているので苦しんだ。IrO-TiOX(Ti)=0.8のOER活性は、それに応じてPt/C触媒と同等であり、したがって、燃料切れ用途の効率的な触媒ではなかった。
【0119】
図4は、実施例1の手順に従って製造された、本発明による合成固溶体、ssTi-IrO(X(Ti)=0.1、0.2、0.8、0.9および0.95)について3.3体積%のH/Ar中でTGA温度ランプ実験の結果を示す。図4から明らかなように、すべてのリアルな固溶体が同じ温度(約250℃)で還元を受け始め、同じ温度(1000℃)で純粋な焼成IrOに対して同じ量の向上した安定性を示したので、還元雰囲気におけるリアルな固溶体の安定性は初期混合物のTiO量に依存しなかった。
【0120】
図5は、PEMFC陽極の模擬化学環境における試料の安定性を説明するために、IrO/TiOおよびHA-ssTi-IrO(例3)の3.3体積%H/Ar中80℃での等温モード実験を示す。図5から明らかなように、12時間後にIrO/TiO触媒は3.2重量%の重量減少を示し、これはこのサンプルにおけるIrOの金属Irへの約24.8重量%の減少に相当する。一方、ssTi-IrO固溶体は、12時間の実験期間中、安定していた。
【0121】
図6は、TiO、IrOおよびHA-ssTi-IrO(モル比Ir:Ti=9:1)のXRDパターンを示す。HA-ssTi-IrOのパターンは、TiOの結晶反射を全く示さず、HA-ssTi-IrOのXRDパターンにおける全ての反射は、IrO反射に対応した。これは、TiOがホスト結晶構造であるIrOに完全に溶解していることを示し、リアルな固溶体の証拠である。本発明による固溶体形成後のHA-ssTi-IrOには、遊離のTiO結晶/粒子は存在しなかった。このことは、以下に示すルチル型IrOおよびTiO構造の(110)反射ピークの2θ値から明らかである。
IrO=27.92°
TiO=27.42°
HA-ssTi-IrO=27.80°
【0122】
図7Aは、実施例5および6の製造手順によって製造された、本発明に従って合成されたリアルな固溶体、ssTi-RuOおよびssNb-RuO(これらのサンプルの詳細は、表1に見出すことができる)に対する3.3体積%H/Arでの温度ランプ実験の結果を示す。R1は、空気中1300℃で2時間熱処理された純粋なRuOである。図7Aから明らかなように、固溶体は、RuO(R1)よりも還元性雰囲気において安定であった。表1において、試料が還元を示し、2重量%の重量減少を示した温度(破線参照)は、還元性雰囲気における試料の安定性の測定結果とみなすことができる。
【0123】
図7Bは、PEMFC陽極の模擬化学環境におけるサンプルの安定性を実証するために、3.3体積%H/Ar中80℃での等温モード実験の結果を示す。R2は、実施例5及び6に記載されているように、ボールミルによる粉砕及びその後の熱処理によってR1から製造された高比表面積を有するRuOである。図7Bから明らかなように、12時間後にR1は19.1重量%の重量減少を示し、これはこのサンプルにおいて採用したRuOが約80重量%減少して金属Ruになったことに相当する。R7はR2よりも安定で、12時間後にわずか1.6重量%の重量減少を示し、これはこのサンプルにおけるRuOの金属Ruへの約8重量%の減少に対応する。R14は、12時間の実験全体にわたって完全に安定であった。
【0124】
図7Cは、RuO、TiO、HA-ssTi-RuO(モル比Ru:Ti=95:5)及びHA-ssTi-RuO(モル比Ru:Ti=85:15)のXRDパターン、図7Dは、RuO、Nb、HA-ssNb-RuO(モル比Ru:Nb=80:20)及びHA-ssNb-RuO(モル比Ru:Nb=65:35)のXRDパターンを示す。HA-ssTi-RuOおよびHA-ssNb-RuO試料のXRDパターンは、TiOおよびNbからの反射を示さず、すべての反射はRuOに起因していた。これは、TiOとNbがホスト結晶構造であるRuOに完全に溶解していることを示し、リアルな固溶体を証明するものである。HA-ssTi-IrOおよびHA-ssNb-RuOには、本発明による固溶体形成後、フリーのTiOやNb結晶/粒子は存在しなかった。これは、以下に示すルチル型RuOおよびTiO構造の(110)反射ピークの2θ値から明らかである。
RuO=28.06°
TiO=27.42°
HA-ssTi-RuO(Ru:Ti=95:5)=27.99°
HA-ssTi-RuO(Ru:Ti=85:15)=27.96°
また、これは、以下に示すルチル型ssNb-RuO構造の(110)反射ピークの2θ値から明らかである。
HA-ssNb-RuO(Ru:Nb=80:20)=27.61°
HA-ssNb-RuO(Ru:Nb=65:35)=27.25°
また、これは、Nbの最強反射ピークの2θ値である23.72°から明らかである。
【0125】
図8は、SUSDサイクル試験中のMEA性能低下を示す図である。曲線1は比較例1(OER触媒なし)のMEAを示し、曲線2は比較例2(従来のOER触媒)のMEAを示し、曲線3は例7(本発明)のMEAを示す。図8から明らかなように、この試験では、従来のOER触媒を含むMEAは、より速く分解が進行した。SUSDサイクル試験中、不安定なOER触媒は溶解し、MEAの陰極毒である遊離Irを生成した。対照的に、本発明によるMEAは、OER触媒を使用しないMEAよりも分解に対する耐性がある。
【0126】
本発明の上記の明細書による説明に加えて、その補足的な開示のために、図1から図8の本発明の図表現が明示的に参照される。
【符号の説明】
【0127】
1 イリジウム化合物前駆体
2 バルブ金属酸化物
3 酸化イリジウム
4 OER触媒
5 バルブ金属酸化物前駆体
6 複合構造を有するOER触媒
7 Irの酸化物および/またはRuの酸化物の混合物
8 バルブ金属酸化物
9 固溶体
10 粉砕固溶体
11 OER触媒
12 OER触媒
13 担持材料
a), b), b2), c) プロセスステップ
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図8
【国際調査報告】