(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-21
(54)【発明の名称】レーザークラッディングによる熱間圧延ロールの製造方法
(51)【国際特許分類】
B21B 27/00 20060101AFI20231114BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20231114BHJP
B23K 35/30 20060101ALI20231114BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20231114BHJP
C22C 38/22 20060101ALI20231114BHJP
B22F 5/00 20060101ALI20231114BHJP
B22F 7/08 20060101ALI20231114BHJP
B22F 10/25 20210101ALI20231114BHJP
B22F 10/34 20210101ALI20231114BHJP
C21D 9/38 20060101ALI20231114BHJP
B23K 26/242 20140101ALI20231114BHJP
B23K 26/21 20140101ALI20231114BHJP
B23K 26/32 20140101ALI20231114BHJP
B23K 26/12 20140101ALI20231114BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20231114BHJP
【FI】
B21B27/00 A
B22F1/00 T
B22F1/00 U
B23K35/30 340D
C22C38/00 301L
C22C38/22
B22F5/00 E
B22F7/08 B
B22F10/25
B22F10/34
C21D9/38 A
B23K26/242
B23K26/21 N
B23K26/32
B23K26/21 W
B23K26/12
B23K26/00 N
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023522516
(86)(22)【出願日】2021-10-13
(85)【翻訳文提出日】2023-06-08
(86)【国際出願番号】 EP2021078329
(87)【国際公開番号】W WO2022079108
(87)【国際公開日】2022-04-21
(32)【優先日】2020-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520470383
【氏名又は名称】サントル・ドゥ・ルシェルシェ・メタリュルジク・アエスベエル-セントルム・フォール・リサーチ・イン・デ・メタルルージエ・フェーゼットヴェー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジゼル・ワルマグ
(72)【発明者】
【氏名】グレゴリー・エッサー
(72)【発明者】
【氏名】マリオ・シナイーヴ
【テーマコード(参考)】
4E016
4E168
4K018
4K042
【Fターム(参考)】
4E016CA08
4E016EA02
4E016EA03
4E016EA22
4E016FA04
4E016FA11
4E168BA21
4E168BA33
4E168BA43
4E168BA53
4E168BA83
4E168DA40
4E168FB03
4E168KB04
4K018AA32
4K018BA15
4K018BA16
4K018BC40
4K018CA44
4K018EA51
4K018FA09
4K018JA22
4K018JA27
4K018KA17
4K042AA20
4K042BA02
4K042CA06
4K042CA08
4K042DA02
4K042DC02
4K042DC03
(57)【要約】
本発明は、回転対称軸を有する再使用可能な鋼の軸基材に金属コーティング外層をレーザークラッディングすることによって熱間圧延ロールを製造する方法であって、前記金属コーティング外層が加工工具鋼の組成を有し、前記金属コーティング外層のための組成が、0.5~3.5%のC、2~18%のCr、0.5~7%のMo、0.5~8%のV、0.2~7%のW、0~5%のNb、0~1%のTi、0.5~2%のMn、0.2~3%のSi、及び0~3%のNiを含み、残部がFe及び不可避不純物であり;- 前記金属コーティング外層のための組成が、更に窒素を200~2500ppmの範囲内で含み;- Ti、Nb、及びVからなる群から選択されるMC炭化物形成元素の原子含有量(質量%)の合計+Mo、W、及びCrからなる群から選択されるM23C6及び/又はM2C形成元素の原子含有量(質量%)の合計の3/8が、格子間元素C及びNの原子含有量(質量%)の合計+0.01よりも小さいことを特徴とする、熱間圧延ロールを製造する方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転対称軸を有する再使用可能な鋼の軸基材に金属コーティング外層をレーザークラッディングすることによって熱間圧延ロールを製造する方法であって、前記金属コーティング外層が加工工具鋼の組成を有し、
再使用可能な基材をその回転対称軸の周りに回転させる工程;
レーザー光を用いて回転する基材の表面に溶融池を形成し、レーザーが誘発した溶融池に粉末材料を供給することによりコーティング層を付着させることによって、回転する基材にレーザークラッディングを実施する工程;
コーティングが施された基材を、クラッディング後の熱処理に供する工程;
を含み、
前記金属コーティング外層のための組成が、0.5~3.5%のC、2~18%のCr、0.5~7%のMo、0.5~8%のV、0.2~7%のW、0~5%のNb、0~1%のTi、0.5~2%のMn、0.2~3%のSi、及び0~3%のNiを含み、残部がFe及び不可避不純物であり;
基材の予熱が、誘導加熱をレーザークラッディング処理と組み合わせたコーティングヘッドによって行われ;
クラッディング速度が、2.35kg/h~18kg/hの範囲内であり;及び
前記コーティング外層が、複数の付加されたコーティング副層からなり、1~30mmの間に含まれる全体の厚さを有し、コーティング外層の副層のそれぞれの1層の厚さが、0.1~2.5mmの間に含まれ、更に、下記の工程:
耐摩耗性を高めるために、更に窒素を200~2500ppmの範囲内で含み、複数層コーティングの場合に均一な硬度を達成するために、Ti、Nb、及びVからなる群から選択されるMC炭化物形成元素の原子含有量(質量%)の合計+Mo、W、及びCrからなる群から選択されるM
23C
6及び/又はM
2C形成元素の原子含有量(質量%)の合計の3/8が、格子間元素C及びNの原子含有量(質量%)の合計+0.01よりも小さい、前記金属コーティング外層のための組成を選択する工程;
金属コーティング外層中で1ppmより低い最終的な水素含有量を得ることで、割れを抑制することを可能にするために、クラッディングに用いられる粉末を乾燥させる又は加熱する、周囲の湿度を厳密に制御する、及び制御された保護雰囲気下でクラッディング処理を行う工程
を含むことを特徴とする、熱間圧延ロールを製造する方法。
【請求項2】
前記金属コーティング外層のための選択された組成が、窒素を200~400ppmの範囲内で含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
クラッディングの間の周囲の露点が、-5℃~+15℃の間である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
制御された保護雰囲気が、N
2又はArから構成される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
レーザー出力が、10~80W/mm
2の範囲内で設定される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
再使用可能な基材の表面を洗浄する及び/又は機械加工することによって、再使用可能な基材を準備する予備工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
クラッディング前の基材の表面粗さが、1~8μmの間に含まれる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
高温クラッディングの間の煙の発生を低減し、更にコーティングの酸化を低減するために、表面脱脂がクラッディング前に施されて、1mg/m
2未満の表面有機炭素を得る、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記金属コーティング外層のための組成が、更に窒素を200~1500ppmの範囲内で含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
基材の予熱が、20℃~500℃の範囲内、好ましくは200℃~300℃の範囲内で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
クラッディング後の熱処理が、マルテンサイトを軟化させ、炭化物を析出させるために、制御された冷却、又は500~650℃の範囲内の温度まで加熱し、続いて、この温度で2~5時間の間に含まれる時間の間、保持することを含む焼戻し処理である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
鋼の軸材の組成が、0.2~0.5%のC及び0.5~5%のCr、0~1%のMo、0~1%のMn及び0~0.4%のSiを含み、残部がFe及び不可避不純物である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
鋼の軸材の組成が、0.4%のC及び1~2%のCrを含む、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間圧延機向け、好ましくはストリップ圧延機向けワークロールの製造の分野に関する。より具体的には、本発明は、レーザークラッディング方法によって得られるワークロールに関する。
【0002】
本出願は、特許EP3006124B1の改良に関し、その特許は参照により本特許出願に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
圧延機用ワークロールの製造業者は、彼らの顧客の高い生産性及び表面品質の要求を満たすため、ますます厳しくなる仕様に従う様々な材料を探索させられている。通常の熱間の運転条件下では、ワークロールのテーブルは、ロールの回転ごとに、その急速冷却及び再加熱の周期性によって引き起こされる摩耗及び高温熱疲労に耐える必要がある。そのようなロールは、延性のある芯部を有すると同時に、非常に強靭で耐摩耗性のある表面を有することが必要とされるが、様々な手法、中でも従来の方法である遠心鋳造(spin casting)若しくは遠心鋳造(centrifugal casting)、レーザークラッディング、又は鋼の芯部に構築した殻部の高温静水圧プレス成形による粉末冶金によって製造され得る。
【0004】
レーザークラッディングとは、レーザー光を用いて金属基材上に異なる性質の材料を堆積させることを含む表面処理技術である。クラッディングの消耗材は、基材の一部をコーティングするために、不活性ガスによって運ばれるワイヤー又は粉末の形態で堆積され、レーザー光の横方向又は同軸方向に溶融池に注入され、レーザーを用いて溶融され、一体化される。レーザークラッディングは、機械的特性を改善する、より高い耐摩耗性、耐熱性、若しくはより高い硬度を提供する、又は耐腐食性を高めるために、よく使用される。
【0005】
熱間ストリップ圧延機(HSM)用ワークロールは、通常、遠心鋳造法を用いて製造され、その後、熱処理が施される。ロールは、鋳造又は鍛造された鉄又は鋼の芯部、及び高合金鋼種の外殻部で構成され、その組成は、高炭素、Mn、Si、及び炭化物を生成する元素、例えばW、Mo、V、Cr、Co等を含む。
【0006】
文献EP0070773A1は、HSS粉末、即ち高速度鋼の粉末を、軟鋼の圧延ロールにレーザークラッディングする方法に関する。HSS粉末の一般的な組成(質量単位)は、0.5~2.6%のC、0.2~1.7%のMn、0.2~1.4%のSi、≦0.2%のS、2~14%のCr、≦12%のMo、≦20%のW、V:≦10%、≦16%のCoであって、W、V、Mo、Coの合計が≧3%である。典型的な元素範囲を有するその他の使用可能な種類のHSSが、この文献に開示されており、例えばCr-W鋼、Cr-Mo鋼、Cr-W-Mo鋼等である。典型的なコーティングの厚さは、例えば約15mmである。クラッディングの後、炭化物を析出させるために焼戻し処理(マトリックスの軟化、応力緩和)を行う。
【0007】
また、文献Scandella F.、「Developpement d’un acier rapide pour le revetement de cylindres de laminage a chaud」、Soudage et Technique Connexes、2010年3月-4月、35~46頁、及びEP0533929A1も、圧延ロール(熱間圧延ロール)のコーティング材として用いられる高速度鋼及び圧延用複合ロールの開発に言及している。
【0008】
文献EP3006124B1は、回転対称軸を有する再使用可能な鋼の軸基材に金属コーティング外層をレーザークラッディングすることによって圧延ロールを製造する方法であって、前記金属コーティング外層が加工工具鋼の組成を有し、
- 再使用可能な基材をその回転対称軸の周りに回転させる工程;
- レーザー光を用いて回転する基材の表面に溶融池を形成し、レーザーが誘発した溶融池に粉末材料を供給することによりコーティング層を付着させることによって、回転する基材にレーザークラッディングを実施する工程;
- マルテンサイトを軟化させ、炭化物を析出させるために、コーティングが施された基材を、500~650℃の範囲内の温度まで加熱し、続いて、この温度で2~5時間の間に含まれる時間の間、保持することを含む焼戻し処理からなる熱処理に供する工程
を含み;
前記金属コーティング外層のための組成が、0.5~3.5%のC、2~18%のCr、0.5~7%のMo、0.5~8%のV、0.2~5%のW、0~5%のNb、0~1%のTi、0.5~1%のMn、0.2~3%のSi、及び0~3%のNiからなり、残部がFe及び不可避不純物であり;
基材の予熱が、誘導加熱をレーザークラッディング処理と組み合わせたコーティングヘッドによって行われ;
クラッディング速度が、2.35kg/h~18kg/hの範囲内であり;及び
前記コーティング外層が、複数の付加されたコーティング副層(sublayer)からなり、1~30mmの間に含まれる全体の厚さを有し、コーティング外層の副層のそれぞれの1層の厚さが、0.1~2.5mmの間に含まれる、
圧延ロールを製造する方法を開示している。
【0009】
EP3006124B1に開示されているロールのコーティング組成は、Scandella F.(同前)のC、Si、Mn、Cr、Mo、Nb、及びVの元素範囲を有し、W及びTiの範囲について大幅に重複する一般的な合金組成、及びEP0533929A1のいくつかの実施例に開示されている組成と類似している。
【0010】
しかしながら、EP3006124B1の主題は、誘導補助レーザークラッディング、即ち、誘導加熱をレーザークラッディング処理と組み合わせたコーティングヘッドの使用を提案しており、基材を予熱することを可能とし、それによって、より高い堆積速度及び減少した焼戻し処理を有する、より効率的なレーザークラッディング処理を提供する点で、前の3つの文献で公知である方法とは相違する。
【0011】
文献Bruckner F.等、「Innovations in laser cladding and direct metal deposition」、High Power Laser Materials Processing: Lasers, Beam Delivery, Diagnostics, and Applications, SPIE, 1000 20th St. Bellingham WA, USA(2012)第8239巻、第1号、1~6頁には、大型円筒部品への最大18kg/hの高い堆積速度を有する誘導補助レーザークラッディングについて記載されている。しかしながら、この文献は、圧延ロールについては具体的に言及しておらず、単に、誘導補助レーザークラッディングの場合、Coベース(ステライト20)及びNiベース(インコネル625)のクラッディング合金に言及するに過ぎない。HSS鋼全般、又はEP3006124A1のクラッディング合金でさえも、この文献で開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】EP0070773A1
【特許文献2】EP0533929A1
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Scandella F.、「Developpement d’un acier rapide pour le revetement de cylindres de laminage a chaud」、Soudage et Technique Connexes、2010年3月-4月、35~46頁
【非特許文献2】Bruckner F.等、「Innovations in laser cladding and direct metal deposition」、High Power Laser Materials Processing: Lasers, Beam Delivery, Diagnostics, and Applications, SPIE, 1000 20th St. Bellingham WA, USA(2012)第8239巻、第1号、1~6頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、非常に高い健全性を(割れ、空洞、及び酸化の面で)有するクラッド層からなるコーティングを有する、熱間圧延機向けワークロールを提供することを目的とする。
【0015】
特に、本発明は、クラッディング速度及びコーティング品質(即ち、微細構造及び割れの大きさの面で)が同時に改善される、圧延ロールを製造する方法を提供することを目的とする。
【0016】
また、本発明は、ワークロールのための長時間のクラッディング方法とともに、レーザークラッド層の改善された機械的特性(例えば、熱疲労に対する耐性、及び表面劣化に対する耐性)を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、回転対称軸を有する再使用可能な鋼の軸基材に金属コーティング外層をレーザークラッディングすることによって熱間圧延ロールを製造する方法であって、前記金属コーティング外層が加工工具鋼の組成を有し、
- 再使用可能な基材をその回転対称軸の周りに回転させる工程;
- レーザー光を用いて回転する基材の表面に溶融池を形成し、レーザーが誘発した溶融池に粉末材料を供給することによりコーティング層を付着させることによって、回転する基材にレーザークラッディングを実施する工程;
- コーティングが施された基材を、クラッディング後の熱処理に供する工程;
を含み、
前記金属コーティング外層のための組成が、0.5~3.5%のC、2~18%のCr、0.5~7%のMo、0.5~8%のV、0.2~7%のW、0~5%のNb、0~1%のTi、0.5~2%のMn、0.2~3%のSi、及び0~3%のNiを含み、残部がFe及び不可避不純物であり;
基材の予熱が、誘導加熱をレーザークラッディング処理と組み合わせたコーティングヘッドによって行われ;
クラッディング速度が、2.35kg/h~18kg/hの範囲内であり;及び
前記コーティング外層が、複数の付加されたコーティング副層からなり、1~30mmの間に含まれる全体の厚さを有し、コーティング外層の副層のそれぞれの1層の厚さが、0.1~2.5mmの間に含まれ、更に、
- 耐摩耗性を高めるために、更に窒素を200~2500ppmの範囲内で含み、複数層コーティングの場合に均一な硬度を達成するために、Ti、Nb、及びVからなる群から選択されるMC炭化物形成元素の原子含有量(質量%)の合計+Mo、W、及びCrからなる群から選択されるM23C6及び/又はM2C形成元素の原子含有量(質量%)の合計の3/8が、格子間元素C及びNの原子含有量(質量%)の合計+0.01よりも小さい、前記金属コーティング外層のための組成を選択する工程;
- 金属コーティング外層中で1ppmより低い最終的な水素含有量を得ることで、割れを抑制することを可能にするために、クラッディングに用いられる粉末を乾燥させる又は加熱する、周囲の湿度を厳密に制御する、及び制御された保護雰囲気下でクラッディング処理を行う工程
を含むことを特徴とする、熱間圧延ロールを製造する方法に関する。
【0018】
本発明の好ましい実施形態によれば、本方法は、下記の特徴の1つ又は適切な組合せによって更に限定される:
- 前記金属コーティング外層のための組成は、窒素を200~400ppmの範囲内で含む;
- クラッディングの間の周囲の露点は、-5℃~+15℃の間である;
- 制御された保護雰囲気は、N2又はArから構成される;
- レーザー出力は、10~80W/mm2の範囲内で設定される;
- 本方法は、再使用可能な基材の表面を洗浄する及び/又は機械加工することによって、再使用可能な基材を準備する予備工程を含む;
- クラッディング前の基材の表面粗さは、1~8μmの間に含まれる;
- 高温クラッディングの間の煙の発生を低減し、更にコーティングの酸化を低減するために、表面脱脂がクラッディング前に施されて、1mg/m2未満の表面有機炭素を得る;
- 前記金属コーティング外層のための組成は、更に窒素を200~1500ppmの範囲内で含む;
- 基材の予熱は、20℃~500℃の範囲内、好ましくは200℃~300℃の範囲内で行われる;
- クラッディング後の熱処理は、マルテンサイトを軟化させ、炭化物を析出させるために、制御された冷却、又は500~650℃の範囲内の温度まで加熱し、続いて、この温度で2~5時間の間に含まれる時間の間、保持することを含む焼戻し処理である;
- 鋼の軸材の組成は、0.2~0.5%のC及び0.5~5%のCr、0~1%のMo、0~1%のMn及び0~0.4%のSiを含み、残部がFe及び不可避不純物である;
- 鋼の軸材の組成は、0.4%のC及び1~2%のCrを含む。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、鋼の軸(又はシャフト又はスピンドル)の基材を有するロールに、連続する副層から得ることができる、熱間又は冷間加工工具鋼の「層」の堆積物をコーティングするための改良されたレーザークラッディング方法に関する。用いられる工具鋼は、HSSワークロールの鋼種と同様である及び/又はより高い炭化物含有量を有するものである。
【0020】
本発明者らは、EP3006124B1に記載されている圧延ロールのレーザークラッディング製造方法の完全な工業的試運転及び改良を可能にするための様々な選択肢を広範囲にわたって検討した。
【0021】
多くのパラメータが、割れ、空洞、及び酸化が減少する(又はない)ことを特徴とする、レーザークラッド層の健全性に影響を及ぼしている。空洞は、ISO 16811:2012(en)(非破壊検査-超音波検査-感度及び範囲の設定)及びISO 5577:2017(en)(非破壊検査-超音波検査-語彙)に記載のDGS(距離・ゲイン・大きさ)法により測定した場合、遠心鋳造によって得られた製品のものより少なくなければならない。
【0022】
レーザークラッド層と基材との界面では、DGS(AVG)4mmより大きい欠陥は認められない。レーザークラッド層では、DGS(AVG)0.5mmより大きい欠陥は認められず、10cm×10cmの表面で<4mmの指示数が最大5である。
【0023】
本発明のいくつかの実施形態によれば:
- レーザークラッド層の水素含有量は、1ppm未満である;
- クラッディングに用いられる粉末の水素含有量は、粉末を事前に乾燥させる又は加熱することによって、1ppm未満である;
- クラッディングの間の周囲の露点は、-5~+15℃の間である;
- クラッディング後の冷却又は後熱は、制御される;
- 基材は、予熱される;
- レーザー出力は、10~80W/mm2の範囲内である。
【0024】
特に、水素の含有量は、すべての処理の間ずっと、可能な限り少なくしなければならない。この難溶接鋼の用途では、水素が、粒界における脆弱化を引き起こし、そのため、割れが発生する可能性があるが、本発明では回避され得る。
【0025】
水素は、水の痕跡中、又は雰囲気及びクラッディングの粉末の湿気中に存在する可能性がある。したがって、本発明によれば、クラッディングの粉末は、乾燥させられ又は加熱され、周囲の湿度は、厳密に制御され、更にクラッディング処理は、制御された保護雰囲気、好ましくはN2又はArから構成される保護雰囲気下で行われる。
【0026】
更に、いくつかのパラメータは、長時間のクラッディングに好ましい効果をもたらす値を有しなければならない。本発明のいくつかの実施形態によれば:
- 基材の表面粗さは、0.2~8μmの間に含まれる;
- 表面脱脂がクラッディング前に施されて、1mg/m2未満の表面有機炭素を得る。高温のクラッディングの間に煙が発生すると、コーティングの有害な酸化につながるかもしれないため、適切な脱脂は、非常に重要である。
【0027】
最後に、より詳細には、多くのパラメータがレーザークラッド層の機械的特性に影響を及ぼしている。本発明の必須の特徴は、コーティングのクラッド層の組成が、炭素(又はより一般的には格子間元素)/炭化物生成元素の比率に依存する特別な関係に従わなければならないということである。
【0028】
本発明のいくつかの実施形態によれば:
- 複数層コーティングの均一な硬度を達成するためには、格子間元素と炭化物形成元素との間に特定の関係(即ち、不等式)が満たされる必要がある。本発明によれば、MC炭化物形成元素(例えばTi、Nb、V、Ta等)の原子含有量(質量%)+M23C6及び/又はM2C形成元素(例えばMo、W、Cr等)の原子含有量(質量%)の3/8が、格子間元素(例えばC、N、B等)の原子含有量(%)+0.01よりも小さくなければならない;
- Mn含有量は、0~2%の間であり、W含有量は、0.2~7%の間である;
- 高められた耐摩耗性は、200~2500ppmの範囲内、好ましくは200~400ppmの範囲内の窒素の添加によってもたらされる。
【実施例】
【0029】
本発明によって得られた一連の11種のコーティング合金について、炭化物形成元素と格子間元素との上記関係をTable 1(表1)に示す。それぞれの場合について、硬度の均一性をチェックし、不等式を満たすか否かを比較した。硬度は、偏差が50HVより小さければ均一とみなした(EN ISO 6507-1~6507-4)。
【0030】
【0031】
本発明で用いられるレーザークラッディング方法の特徴は、以下の通りである:
- 強い冶金学的結合;
- 空洞が少ない又は全くない、及び冷却速度が速いことが非常に細かい微細組織につながるという利点;
- 均一な組成;
- コーティング厚さ;(副)層当たり0.1~2mm;
- 複数の層を付加することによって得られるより厚いコーティング、外層全体の厚さが1~30mmの間に含まれ、好ましくは約20mmである;
- 特殊ヘッド(誘導加熱とレーザークラッディング処理との組合せ)を用いることによる2.35kg/h~18kg/hのクラッディング速度;
- 必要であれば、基材の予熱;
- 後熱処理(例えば、焼戻し)。
【手続補正書】
【提出日】2023-06-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間圧延機向け、好ましくはストリップ圧延機向けワークロールの製造の分野に関する。より具体的には、本発明は、レーザークラッディング方法によって得られるワークロールに関する。
【0002】
本出願は、特許EP3006124B1の改良に関し、その特許は参照により本特許出願に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
圧延機用ワークロールの製造業者は、彼らの顧客の高い生産性及び表面品質の要求を満たすため、ますます厳しくなる仕様に従う様々な材料を探索させられている。通常の熱間の運転条件下では、ワークロールのテーブルは、ロールの回転ごとに、その急速冷却及び再加熱の周期性によって引き起こされる摩耗及び高温熱疲労に耐える必要がある。そのようなロールは、延性のある芯部を有すると同時に、非常に強靭で耐摩耗性のある表面を有することが必要とされるが、様々な手法、中でも従来の方法である遠心鋳造(spin casting)若しくは遠心鋳造(centrifugal casting)、レーザークラッディング、又は鋼の芯部に構築した殻部の高温静水圧プレス成形による粉末冶金によって製造され得る。
【0004】
レーザークラッディングとは、レーザー光を用いて金属基材上に異なる性質の材料を堆積させることを含む表面処理技術である。クラッディングの消耗材は、基材の一部をコーティングするために、不活性ガスによって運ばれるワイヤー又は粉末の形態で堆積され、レーザー光の横方向又は同軸方向に溶融池に注入され、レーザーを用いて溶融され、一体化される。レーザークラッディングは、機械的特性を改善する、より高い耐摩耗性、耐熱性、若しくはより高い硬度を提供する、又は耐腐食性を高めるために、よく使用される。
【0005】
熱間ストリップ圧延機(HSM)用ワークロールは、通常、遠心鋳造法を用いて製造され、その後、熱処理が施される。ロールは、鋳造又は鍛造された鉄又は鋼の芯部、及び高合金鋼種の外殻部で構成され、その組成は、高炭素、Mn、Si、及び炭化物を生成する元素、例えばW、Mo、V、Cr、Co等を含む。
【0006】
文献EP0070773A1は、HSS粉末、即ち高速度鋼の粉末を、軟鋼の圧延ロールにレーザークラッディングする方法に関する。HSS粉末の一般的な組成(質量単位)は、0.5~2.6%のC、0.2~1.7%のMn、0.2~1.4%のSi、≦0.2%のS、2~14%のCr、≦12%のMo、≦20%のW、V:≦10%、≦16%のCoであって、W、V、Mo、Coの合計が≧3%である。典型的な元素範囲を有するその他の使用可能な種類のHSSが、この文献に開示されており、例えばCr-W鋼、Cr-Mo鋼、Cr-W-Mo鋼等である。典型的なコーティングの厚さは、例えば約15mmである。クラッディングの後、炭化物を析出させるために焼戻し処理(マトリックスの軟化、応力緩和)を行う。
【0007】
また、文献Scandella F.、「Developpement d’un acier rapide pour le revetement de cylindres de laminage a chaud」、Soudage et Technique Connexes、2010年3月-4月、35~46頁、及びEP0533929A1も、圧延ロール(熱間圧延ロール)のコーティング材として用いられる高速度鋼及び圧延用複合ロールの開発に言及している。
【0008】
文献EP3006124B1は、回転対称軸を有する再使用可能な鋼の軸基材に金属コーティング外層をレーザークラッディングすることによって圧延ロールを製造する方法であって、前記金属コーティング外層が加工工具鋼の組成を有し、
- 再使用可能な基材をその回転対称軸の周りに回転させる工程;
- レーザー光を用いて回転する基材の表面に溶融池を形成し、レーザーが誘発した溶融池に粉末材料を供給することによりコーティング層を付着させることによって、回転する基材にレーザークラッディングを実施する工程;
- マルテンサイトを軟化させ、炭化物を析出させるために、コーティングが施された基材を、500~650℃の範囲内の温度まで加熱し、続いて、この温度で2~5時間の間に含まれる時間の間、保持することを含む焼戻し処理からなる熱処理に供する工程
を含み;
前記金属コーティング外層のための組成が、0.5~3.5%のC、2~18%のCr、0.5~7%のMo、0.5~8%のV、0.2~5%のW、0~5%のNb、0~1%のTi、0.5~1%のMn、0.2~3%のSi、及び0~3%のNiからなり、残部がFe及び不可避不純物であり;
基材の予熱が、誘導加熱をレーザークラッディング処理と組み合わせたコーティングヘッドによって行われ;
クラッディング速度が、2.35kg/h~18kg/hの範囲内であり;及び
前記コーティング外層が、複数の付加されたコーティング副層(sublayer)からなり、1~30mmの間に含まれる全体の厚さを有し、コーティング外層の副層のそれぞれの1層の厚さが、0.1~2.5mmの間に含まれる、
圧延ロールを製造する方法を開示している。
【0009】
EP3006124B1に開示されているロールのコーティング組成は、Scandella F.(同前)のC、Si、Mn、Cr、Mo、Nb、及びVの元素範囲を有し、W及びTiの範囲について大幅に重複する一般的な合金組成、及びEP0533929A1のいくつかの実施例に開示されている組成と類似している。
【0010】
しかしながら、EP3006124B1の主題は、誘導補助レーザークラッディング、即ち、誘導加熱をレーザークラッディング処理と組み合わせたコーティングヘッドの使用を提案しており、基材を予熱することを可能とし、それによって、より高い堆積速度及び減少した焼戻し処理を有する、より効率的なレーザークラッディング処理を提供する点で、前の3つの文献で公知である方法とは相違する。
【0011】
文献Bruckner F.等、「Innovations in laser cladding and direct metal deposition」、High Power Laser Materials Processing: Lasers, Beam Delivery, Diagnostics, and Applications, SPIE, 1000 20th St. Bellingham WA, USA(2012)第8239巻、第1号、1~6頁には、大型円筒部品への最大18kg/hの高い堆積速度を有する誘導補助レーザークラッディングについて記載されている。しかしながら、この文献は、圧延ロールについては具体的に言及しておらず、単に、誘導補助レーザークラッディングの場合、Coベース(ステライト20)及びNiベース(インコネル625)のクラッディング合金に言及するに過ぎない。HSS鋼全般、又はEP3006124A1のクラッディング合金でさえも、この文献で開示されていない。
【0012】
文献US2014/345353A1は、0.8~3.5質量%のC、0.1~2.5質量%のSi、0.1~2.5質量%のMn、1.2~15質量%のCr、1~5質量%のNi、及び1~10質量%のMo+0.5×Wを含み、残部が実質的にFe及び不可避不純物である組成を有する外層と、鉄基合金からなり、外層と一体的に融合された内層とを含み;外層は、複合ロールの初期径において67~82のショア硬度を有し;及び初期径から30mm以上深い範囲における外層の最大ショア硬度が、初期径における外層のショア硬度より1以上高い、熱間圧延用遠心鋳造複合ロールを開示している。
【0013】
文献JP2020022989Aでは、耐摩耗性及び耐肌荒れ性に優れた圧延用遠心鋳造複合ロールの外層材を提供すること、及び、外層材から構成される外層と内層とを溶着し、一体化することによって製造される、圧延用遠心鋳造複合ロールを提供することが目的とされている。したがって、1.50~2.70質量%のC、0.3~3質量%のSi、0.1~3質量%のMn、0.1~2.5質量%のNi、4.0~7.0質量%のCr、4.1~8.0質量%のMo、5.0~10.0質量%のV、0~0.4質量%のW、0.1~3.0質量%のNb、0.005~0.15質量%のN、0~0.05質量%のB、及び実質的にFe及び不可避不純物からなる残部からなるFe合金を含む、圧延用遠心鋳造複合ロールの外層材が提供され、それは、V含有量(質量%)のNb含有量(質量%)に対する比が、1~20.0であり、次の関係:C-bal=C%-0.2×V%-0.06×Cr%-0.063×Mo%-0.033×W%-0.13×Nb%で示されるC-balが、0~0.28であることを特徴とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】EP0070773A1
【特許文献2】EP0533929A1
【特許文献3】US2014/345353A1
【特許文献4】JP2020022989A
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Scandella F.、「Developpement d’un acier rapide pour le revetement de cylindres de laminage a chaud」、Soudage et Technique Connexes、2010年3月-4月、35~46頁
【非特許文献2】Bruckner F.等、「Innovations in laser cladding and direct metal deposition」、High Power Laser Materials Processing: Lasers, Beam Delivery, Diagnostics, and Applications, SPIE, 1000 20th St. Bellingham WA, USA(2012)第8239巻、第1号、1~6頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、非常に高い健全性を(割れ、空洞、及び酸化の面で)有するクラッド層からなるコーティングを有する、熱間圧延機向けワークロールを提供することを目的とする。
【0017】
特に、本発明は、クラッディング速度及びコーティング品質(即ち、微細構造及び割れの大きさの面で)が同時に改善される、圧延ロールを製造する方法を提供することを目的とする。
【0018】
また、本発明は、ワークロールのための長時間のクラッディング方法とともに、レーザークラッド層の改善された機械的特性(例えば、熱疲労に対する耐性、及び表面劣化に対する耐性)を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、回転対称軸を有する再使用可能な鋼の軸基材に金属コーティング外層をレーザークラッディングすることによって熱間圧延ロールを製造する方法であって、前記金属コーティング外層が加工工具鋼の組成を有し、
- 再使用可能な基材をその回転対称軸の周りに回転させる工程;
- レーザー光を用いて回転する基材の表面に溶融池を形成し、レーザーが誘発した溶融池に粉末材料を供給することによりコーティング層を付着させることによって、回転する基材にレーザークラッディングを実施する工程;
- コーティングが施された基材を、クラッディング後の熱処理に供する工程;
を含み、
前記金属コーティング外層のための組成が、0.5~3.5%のC、2~18%のCr、0.5~7%のMo、0.5~8%のV、0.2~7%のW、0~5%のNb、0~1%のTi、0.5~2%のMn、0.2~3%のSi、及び0~3%のNiを含み、残部がFe及び不可避不純物であり;
基材の予熱が、誘導加熱をレーザークラッディング処理と組み合わせたコーティングヘッドによって行われ;
クラッディング速度が、2.35kg/h~18kg/hの範囲内であり;及び
前記コーティング外層が、複数の付加されたコーティング副層からなり、1~30mmの間に含まれる全体の厚さを有し、コーティング外層の副層のそれぞれの1層の厚さが、0.1~2.5mmの間に含まれ、更に、
- 耐摩耗性を高めるために、更に窒素を200~2500ppmの範囲内で含み、複数層コーティングの場合に均一な硬度を達成するために、Ti、Nb、及びVからなる群から選択されるMC炭化物形成元素の原子含有量(質量%)の合計+Mo、W、及びCrからなる群から選択されるM23C6及び/又はM2C形成元素の原子含有量(質量%)の合計の3/8が、格子間元素C及びNの原子含有量(質量%)の合計+0.01よりも小さい、前記金属コーティング外層のための組成を選択する工程;
- 金属コーティング外層中で1ppmより低い最終的な水素含有量を得ることで、割れを抑制することを可能にするために、クラッディングに用いられる粉末を乾燥させる又は加熱する、周囲の湿度を厳密に制御する、及び制御された保護雰囲気下でクラッディング処理を行う工程
を含むことを特徴とする、熱間圧延ロールを製造する方法に関する。
【0020】
本発明の好ましい実施形態によれば、本方法は、下記の特徴の1つ又は適切な組合せによって更に限定される:
- 前記金属コーティング外層のための組成は、窒素を200~400ppmの範囲内で含む;
- クラッディングの間の周囲の露点は、-5℃~+15℃の間である;
- 制御された保護雰囲気は、N2又はArから構成される;
- レーザー出力は、10~80W/mm2の範囲内で設定される;
- 本方法は、再使用可能な基材の表面を洗浄する及び/又は機械加工することによって、再使用可能な基材を準備する予備工程を含む;
- クラッディング前の基材の表面粗さは、1~8μmの間に含まれる;
- 高温クラッディングの間の煙の発生を低減し、更にコーティングの酸化を低減するために、表面脱脂がクラッディング前に施されて、1mg/m2未満の表面有機炭素を得る;
- 前記金属コーティング外層のための組成は、更に窒素を200~1500ppmの範囲内で含む;
- 基材の予熱は、20℃~500℃の範囲内、好ましくは200℃~300℃の範囲内で行われる;
- クラッディング後の熱処理は、マルテンサイトを軟化させ、炭化物を析出させるために、制御された冷却、又は500~650℃の範囲内の温度まで加熱し、続いて、この温度で2~5時間の間に含まれる時間の間、保持することを含む焼戻し処理である;
- 鋼の軸材の組成は、0.2~0.5%のC及び0.5~5%のCr、0~1%のMo、0~1%のMn及び0~0.4%のSiを含み、残部がFe及び不可避不純物である;
- 鋼の軸材の組成は、0.4%のC及び1~2%のCrを含む。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、鋼の軸(又はシャフト又はスピンドル)の基材を有するロールに、連続する副層から得ることができる、熱間又は冷間加工工具鋼の「層」の堆積物をコーティングするための改良されたレーザークラッディング方法に関する。用いられる工具鋼は、HSSワークロールの鋼種と同様である及び/又はより高い炭化物含有量を有するものである。
【0022】
本発明者らは、EP3006124B1に記載されている圧延ロールのレーザークラッディング製造方法の完全な工業的試運転及び改良を可能にするための様々な選択肢を広範囲にわたって検討した。
【0023】
多くのパラメータが、割れ、空洞、及び酸化が減少する(又はない)ことを特徴とする、レーザークラッド層の健全性に影響を及ぼしている。空洞は、ISO 16811:2012(en)(非破壊検査-超音波検査-感度及び範囲の設定)及びISO 5577:2017(en)(非破壊検査-超音波検査-語彙)に記載のDGS(距離・ゲイン・大きさ)法により測定した場合、遠心鋳造によって得られた製品のものより少なくなければならない。
【0024】
レーザークラッド層と基材との界面では、DGS(AVG)4mmより大きい欠陥は認められない。レーザークラッド層では、DGS(AVG)0.5mmより大きい欠陥は認められず、10cm×10cmの表面で<4mmの指示数が最大5である。
【0025】
本発明のいくつかの実施形態によれば:
- レーザークラッド層の水素含有量は、1ppm未満である;
- クラッディングに用いられる粉末の水素含有量は、粉末を事前に乾燥させる又は加熱することによって、1ppm未満である;
- クラッディングの間の周囲の露点は、-5~+15℃の間である;
- クラッディング後の冷却又は後熱は、制御される;
- 基材は、予熱される;
- レーザー出力は、10~80W/mm2の範囲内である。
【0026】
特に、水素の含有量は、すべての処理の間ずっと、可能な限り少なくしなければならない。この難溶接鋼の用途では、水素が、粒界における脆弱化を引き起こし、そのため、割れが発生する可能性があるが、本発明では回避され得る。
【0027】
水素は、水の痕跡中、又は雰囲気及びクラッディングの粉末の湿気中に存在する可能性がある。したがって、本発明によれば、クラッディングの粉末は、乾燥させられ又は加熱され、周囲の湿度は、厳密に制御され、更にクラッディング処理は、制御された保護雰囲気、好ましくはN2又はArから構成される保護雰囲気下で行われる。
【0028】
更に、いくつかのパラメータは、長時間のクラッディングに好ましい効果をもたらす値を有しなければならない。本発明のいくつかの実施形態によれば:
- 基材の表面粗さは、0.2~8μmの間に含まれる;
- 表面脱脂がクラッディング前に施されて、1mg/m2未満の表面有機炭素を得る。高温のクラッディングの間に煙が発生すると、コーティングの有害な酸化につながるかもしれないため、適切な脱脂は、非常に重要である。
【0029】
最後に、より詳細には、多くのパラメータがレーザークラッド層の機械的特性に影響を及ぼしている。本発明の必須の特徴は、コーティングのクラッド層の組成が、炭素(又はより一般的には格子間元素)/炭化物生成元素の比率に依存する特別な関係に従わなければならないということである。
【0030】
本発明のいくつかの実施形態によれば:
- 複数層コーティングの均一な硬度を達成するためには、格子間元素と炭化物形成元素との間に特定の関係(即ち、不等式)が満たされる必要がある。本発明によれば、MC炭化物形成元素(例えばTi、Nb、V、Ta等)の原子含有量(質量%)+M23C6及び/又はM2C形成元素(例えばMo、W、Cr等)の原子含有量(質量%)の3/8が、格子間元素(例えばC、N、B等)の原子含有量(%)+0.01よりも小さくなければならない;
- Mn含有量は、0~2%の間であり、W含有量は、0.2~7%の間である;
- 高められた耐摩耗性は、200~2500ppmの範囲内、好ましくは200~400ppmの範囲内の窒素の添加によってもたらされる。
【実施例】
【0031】
本発明によって得られた一連の11種のコーティング合金について、炭化物形成元素と格子間元素との上記関係をTable 1(表1)に示す。それぞれの場合について、硬度の均一性をチェックし、不等式を満たすか否かを比較した。硬度は、偏差が50HVより小さければ均一とみなした(EN ISO 6507-1~6507-4)。
【0032】
【0033】
本発明で用いられるレーザークラッディング方法の特徴は、以下の通りである:
- 強い冶金学的結合;
- 空洞が少ない又は全くない、及び冷却速度が速いことが非常に細かい微細組織につながるという利点;
- 均一な組成;
- コーティング厚さ;(副)層当たり0.1~2mm;
- 複数の層を付加することによって得られるより厚いコーティング、外層全体の厚さが1~30mmの間に含まれ、好ましくは約20mmである;
- 特殊ヘッド(誘導加熱とレーザークラッディング処理との組合せ)を用いることによる2.35kg/h~18kg/hのクラッディング速度;
- 必要であれば、基材の予熱;
- 後熱処理(例えば、焼戻し)。
【国際調査報告】