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特表2023-548798ヒマカレン類に由来する生理活性ベンゾシクロヘプテン類縁化合物およびその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-21
(54)【発明の名称】ヒマカレン類に由来する生理活性ベンゾシクロヘプテン類縁化合物およびその用途
(51)【国際特許分類】
   C07C 311/16 20060101AFI20231114BHJP
   A61K 31/18 20060101ALI20231114BHJP
   C07D 307/93 20060101ALI20231114BHJP
   A61K 31/365 20060101ALI20231114BHJP
   C07D 209/70 20060101ALI20231114BHJP
   A61K 31/403 20060101ALI20231114BHJP
   C07D 221/18 20060101ALI20231114BHJP
   A61K 31/473 20060101ALI20231114BHJP
   A61K 31/10 20060101ALI20231114BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20231114BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20231114BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231114BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20231114BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20231114BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231114BHJP
   C07C 317/14 20060101ALI20231114BHJP
   C07C 317/10 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
C07C311/16
A61K31/18
C07D307/93 CSP
A61K31/365
C07D209/70
A61K31/403
C07D221/18
A61K31/473
A61K31/10
A61P3/10
A61P29/00
A61P35/00
A61P1/04
A61P25/00
A61P43/00 111
C07C317/14
C07C317/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023524171
(86)(22)【出願日】2021-10-19
(85)【翻訳文提出日】2023-06-16
(86)【国際出願番号】 IN2021050993
(87)【国際公開番号】W WO2022085023
(87)【国際公開日】2022-04-28
(31)【優先権主張番号】202011045582
(32)【優先日】2020-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】596020691
【氏名又は名称】カウンスィル オブ サイエンティフィック アンド インダストリアル リサーチ
【氏名又は名称原語表記】COUNCIL OF SCIENTIFIC & INDUSTRIAL RESEARCH
(74)【代理人】
【識別番号】100081318
【弁理士】
【氏名又は名称】羽切 正治
(74)【代理人】
【識別番号】100132458
【弁理士】
【氏名又は名称】仲村 圭代
(74)【代理人】
【識別番号】100165146
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 博喜
(72)【発明者】
【氏名】ダス、プラレイ
(72)【発明者】
【氏名】ヤ―ミニ
(72)【発明者】
【氏名】バーラティ、リカ
(72)【発明者】
【氏名】ラーム、シャンカール
(72)【発明者】
【氏名】バラドワージ、ビジェイ、クマール
(72)【発明者】
【氏名】ピュロヒト、リトゥラジ
(72)【発明者】
【氏名】シング、ダマンプリート
(72)【発明者】
【氏名】アーナンド、プリンス
(72)【発明者】
【氏名】パドワド、ヨーゲンドラ エス
【テーマコード(参考)】
4C086
4C206
4H006
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086BA17
4C086BC10
4C086BC28
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZA07
4C086ZA68
4C086ZB11
4C086ZB26
4C086ZC02
4C086ZC35
4C206AA01
4C206AA02
4C206AA03
4C206JA01
4C206JA13
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZA02
4C206ZA07
4C206ZA68
4C206ZB11
4C206ZB26
4C206ZC02
4C206ZC35
4H006AA01
4H006AA03
4H006AB20
4H006AB21
4H006AB22
4H006AB28
(57)【要約】
官能化されたベンゾシクロヘプテン類は、生物学的活性のさまざまな分野で研究されてきた二環式骨格の最も重要なクラスの一つである。特許請求される発明からは、ベンゾシクロヘプテン類縁化合物、PI3KおよびMK2の阻害剤、それらを含む医薬組成物の調剤と、治療におけるそれらの使用とが得られる。式I、II、III、IV、V、およびVIの化合物は、抗2型糖尿病剤、解熱剤、抗炎症剤、抗てんかん剤、抗がん剤、抗潰瘍剤、CNS刺激剤、およびCNS抑制剤として使用してもよい。これらのベンゾシクロヘプテン誘導体は、PI3KおよびMK2関連障害の治療に有用である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式I、II、III、IV、V、またはVI:
【化1】

の化合物、ならびにその医薬的に許容される塩類およびエナンチオマーであって、
式中、Yが、C、O、N、およびSからなる群から選択され;
Zが、H、C1-C6アルキル、C1-C6アリール、ハロゲン、酸素、窒素、および硫黄からなる群から選択され;
が、水素、ヒドロキシル、ベンジルアミンまたはアニリンから選択される窒素置換基、チオフェンから選択されるS含有基、プロパン酸から選択されるカルボン酸およびその誘導体、ならびにハロゲンからなる群から選択され;
が、H、C1-C6アルキル、C1-C6アリール、ハロゲン化物、C1-C6アミン、およびC1-C6カルボニル基からなる群から選択され;
が、H、C1-C6アルキル、C1-C6アリール、およびチオフェンから選択される硫黄含有基からなる群から選択され;
Xが、炭素、窒素、酸素、および硫黄からなる群から選択され;
が、H、C1-C6アルキル、C1-C6アリール、ハロゲン、およびアルデヒド置換ベンゼンスルホンアミドから選択されるカルボニル基からなる群から選択され;
が、H、C1-C6アルキル、C1-C6アリール、ハロゲン、およびC1-C6カルボニル基からなる群から選択され;
が、H、C1-C6アルキル、C1-C6アリール、およびC1-C6アミン基からなる群から選択される、
化合物、ならびにその医薬的に許容される塩およびエナンチオマー。
【請求項2】
式(I)の、請求項1に記載の化合物であって、
式中、Rが、H、OH、ベンジルアミンまたはアニリンから選択されるN置換基、プロパン酸から選択されるカルボン酸およびその誘導体、ならびにハロゲン類からなる群から選択され、
が、H、C1-C6アルキル、C1-C6アリール、ハロゲン化物、C1-C6アミン、およびC1-C6カルボニル基からなる群から選択され;
~Rがそれぞれ独立に、H、C1-C6アルキル、C1-C6アリール、ハロゲン、およびC1-C6カルボニル基からなる群から選択される、化合物。
【請求項3】
式(II)の、請求項1に記載の化合物であって、
式中、Rが、H、OH、ベンジルアミンまたはアニリンから選択されるN置換基、プロパン酸から選択されるカルボン酸およびその誘導体、ならびにハロゲンからなる群から選択され、
が、H、C1-C6アルキル、C1-C6アリール、ハロゲン化物、C1-C6アミン、およびC1-C6カルボニル基からなる群から選択され;
Yが、C、O、N、およびSからなる群から選択される、化合物。
【請求項4】
式(III)の、請求項1に記載の化合物であって、
式中、Rが、H、OH、ベンジルアミンまたはアニリンから選択されるN置換基、プロパン酸から選択されるカルボン酸およびその誘導体、ならびにハロゲンからなる群から選択され、
が、H、C1-C6アルキル、C1-C6アリール、ハロゲン化物、C1-C6アミン、およびC1-C6カルボニル基からなる群から選択され;
Zが、H、C1-C6アルキル、C1-C6アリール、ハロゲン、酸素、窒素、および硫黄基からなる群から選択される、化合物。
【請求項5】
式(IV)の、請求項1に記載の化合物であって、
式中、Rが、H、OH、ベンジルアミンまたはアニリンから選択されるN置換基、プロパン酸から選択されるカルボン酸およびその誘導体、ならびにハロゲンからなる群から選択され、
が、H、C1-C6アルキル、C1-C6アリール、ハロゲン化物、C1-C6アミン、およびC1-C6カルボニル基からなる群から選択され;
nが、5から6まで変化する、化合物。
【請求項6】
式(V)の、請求項1に記載の化合物であって、
式中、Rが、H、OH、ベンジルアミンまたはアニリンから選択されるN置換基、プロパン酸から選択されるカルボン酸およびその誘導体、ならびにハロゲンからなる群から選択され、
が、H、C1-C6アルキル、C1-C6アリール、ハロゲン化物、C1-C6アミン、およびC1-C6カルボニル基からなる群から選択され;
nが、5から6まで変化し;
が、H、C1-C6アルキル、C1-C6アリール、およびハロゲン基からなる群から選択される、化合物。
【請求項7】
式(VI)の、請求項1に記載の化合物であって、
式中、Rが、H、OH、ベンジルアミンまたはアニリンから選択されるN置換基、プロパン酸から選択されるカルボン酸およびその誘導体、ならびにハロゲンからなる群から選択され;
が、H、C1-C6アルキル、C1-C6アリール、ハロゲン化物、C1-C6アミン、およびC1-C6カルボニル基からなる群から選択され;
が、水素、C1-C6アルキル、ハロゲン化物、硫黄、C1-C6アミン、およびC1-C6アリール基からなる群から選択され;
が、H、C1-C6アルキル、C1-C6アリール、およびC1-C6アミン基からなる群から選択される、化合物。
【請求項8】
抗2型糖尿病剤、解熱剤、抗炎症剤、抗がん剤、抗潰瘍剤、CNS刺激剤、およびCNS抑制剤として使用される、請求項1~7のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか一項に記載の化合物を、薬学的に許容されるアジュバント、希釈剤、または担体とともに含んでなる医薬製剤。
【請求項10】
PI3KおよびMK2により媒介される活性の阻害剤として使用される、請求項1~7のいずれか一項に記載の化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、R、R、R、R、R、ならびにX、Y、およびZが本明細書で定義される通りである式(I)、(II)、(III)、(IV)、(V)、(VI)、および(VII)の新規化合物と、解熱剤、抗炎症剤、抗てんかん剤、抗がん剤、抗潰瘍性疾患剤、CNS刺激剤、およびCNS抑制剤としての使用に向けたPI3KおよびMK2関連障害の治療における、ならびにそのような治療のための医薬品/薬物の製造における、それらの用途とに関する。
【背景技術】
【0002】
ベンゾシクロヘプテンは、きわめて重要な変換の一つとしての環形成から構成される二環式骨格である[Y.Liu,J.Su,J.H.Xiao,S.B.Jiang,H.Lu,W.Zhong,L.L.Wang,X.H.and S.Li,Chinese Chem.Lett.,2008,19,428-430;W.Adam,M.Balci,Z.Ceylan and R.F.,Chem.Ber.,1991,124,383-386]。ベンゾシクロヘプテンおよびそれらの誘導体は、理論化学および薬科学、ならびに配位化学において魅力的な生物学的標的である[V.K.Tandon,K.A.Singh,A.K.Awasthi,J.M.Khanna,B.Lal and N.Anand,Bioorg.Med.Chem.Lett.,2004,14,2867-2870;M.Shiraishi,Y.Aramaki,M.Seto,H.Imoto,Y.Nishikawa,N.Kanzaki,M.Okamoto,H.Sawada,O.Nishimura,M.Baba and M.Fujino,J Med Chem.,2000 43,2049-2063;R.Wyrwa,O.Peters,R.Bohlmann,P.Droescher,K.Prellle,K.H.Fritzemeier,H.P.Muhn,米国特許第2009/0099250A1号明細書,2009]。ベンゾシクロヘプテンの中でも、アミン置換ベンゾシクロヘプテンは、その奥深い薬理学的可能性のゆえに注目されて精力的な研究活動が行われている。これらは、がん[M.Sriram,J.J.Hall,N.C.Grohmann,T.E.Strecker,T.Wootton,A.Franken, M.L.Trawick and K.G.Pinney,Bioorg.Med.Chem.,2008,16,8161-8171;H.Strobel,P.Wohlfart,米国特許第6759412B2号明細書,2004;Z.Chen,C.J.O’Donnell and A.Maderna,Tetrahedron Lett.,2012,53,64-66]、精神障害[M.Nakano,M.Minoguchi,T.Hanano,S.-I.Ono,H.Horiuchi,K.Teshima,米国特許第0120841A1号明細書,2010]、心臓血管[CV.Amsterdam,国際出願公開第2002/030422A1号,2002]、神経変性[K.Kato,J.Terauchi,H.Fukumoto,M.Kakihana,米国特許第7256204B2号明細書,2007]、抗うつ[L.Nedelec,A.Pierdet,C.Dumont,M-H.Kannengiesser,米国特許第4148919号明細書,1979]の治療用として報告されており、また抗不整脈剤[M.Baumgarth,I.Lues,K-O Minck,.N.Beier,米国特許第5495022号明細書,1996]、および抗パーキンソン症剤として働く。アリール化ベンゾスベレン誘導体は、コルヒチンおよびコンブレタスタチンCA4、CA1と構造的に類似しているゆえに、抗がん剤として医薬品化学において確立されている[G.R.Pettit,S.B.Singh,C.M.Hamel-Lin,D.S.Alberts and D.Garcia-Kendall,Experientia.,1989,45,209].ベンゾシクロヘプテン合成向けの主要な合成法は、面倒な反応条件[M.Sriram,J.J.Hall,N.C.Grohmann,T.E.Strecker,T.Wootton,A.Franken,M.L.Trawick and K.G.Pinney,Bioorg.Med.Chem.,2008,16,8161-8171.]、置換同族体の調製の難しさ、市販の出発材料[R.P.Tanpure,C.S.George,M.Sriram,T.E.Strecker,J.K.Tidmore,E.Hamel,A.K.Charlton‐Sevcika,D.J.Chaplin,M.L.Trawick and K.G.Pinney,Med.Chem.Commun.,2012,6,720]、および低収率[P.Y.Maximov,D.J.Fernandes,R.E.McDaniel,C.B.Myers,R.F.Curpan and V.C.Jordan,J.Med.Chem.,2014,57,4569]のようないくつかの欠点という問題を抱えていた。有機化学では、複素環化合物の化学は、ここ数十年来の興味深い研究分野である。酸素[Liu,R.S.PURE APPL CHEM.,2001,73,265-269]、リン[G.P.V.Reddy,Y.B.Kiran,S.C.Reddy and D.C.Reddy,Chem.Pharm.Bull.,2004,52,307-310]、硫黄、窒素[M.G.Valverde and T.Torroba,Molecules.,2005,10,318-320]、セレン[A.Hafez,Eur.J.Med.Chem.,2008,43,1971-1977]のようなさまざまなヘテロ原子を含有する複素環は、非常に注目を集めている。しかし、それらの中でも、N含有複素環化合物は、数十年にわたる有機合成の歴史的発展を通じて、研究者の興味を引き続けてきた。FDAデータベースによると、窒素系複素環は、薬物の設計と工学においてその構造的重要性を示しており、独自の低分子薬物の60%近くが含窒素複素環を有している[E.Vitaku,D.T.Smith and J.T.Njardarson,J.Med.Chem.、2014,57,10257-10274.]。さらに、ベンゾシクロヘプテン部分は、縮合した6員および7員環系を含有し、それらの誘導体は、静菌剤、解熱剤、抗炎症剤、抗潰瘍剤、CNS刺激剤、CNS抑制剤、および抗てんかん剤の潜在的な活性を有する[B.J.Crielaard,S.Van der Wal,T.Lammers,H.T.Le,W.E.Hennink,R.M.Schiffelers,G.Storm and M.H.A.M.Fens,Int.J.Nanomed.,2011,6,2697-2703]。ベンゾシクロヘプタ二環が窒素複素環誘導体に縮合したもののいくつかは、興味深い医薬活性を示す。例えば、6,11-ジヒドロ-5H-ベンゾ[5,6]シクロヘプタ-[1,2-b]ピリジンおよびN-置換ベンゾ[5,6]シクロヘプタ[1,2-b]インドールは、L1210マウス白血病およびHT29細胞株に対して、強力な抗腫瘍剤である[A.Afonso,J.M.Kelly,J.Weinstein,R.L.Wolin,S.B.Rosenblum,米国特許第6218401号明細書.2001,Chemical Abstract 134,295746;J.Benoit,D.Alagille,J.-Y.Merour and S.Leonce,Chem.Pharm.Bull.,2000,48,1872-1876]一方、ピペラジニルおよびピペリジニル誘導体は、ファルネシルタンパク質転移酵素(FPT)を阻害する[S.W.Remiszewski,R.J.Doll,C.Alvarez,T.Lalwani,米国特許第6211193号明細書,2001.Chemical Abstract 134,266206]。縮合複素環ベンゾシクロヘプテン誘導体の合成と、その合成された分子からの効率的な生理活性分子の実現は、医薬品化学の注目される課題である。スルホン類は貴重な合成標的であり[M.Noshi,A.El-awa,E.Torres and P.L.Fuchs,J.Am.Chem.Soc.,2007,129,11242-11247;J.N.Desrosiers and A.B.Charette,Angew Chem.Int.Ed.,2007,46,5955-5957;G.Pandey,K.N.Tiwari and V.G.Puranik,Org.Lett.,2008,10,3611-3614;K.Oh.Org.Lett.,2007,9,2973-2975]、これはスルホン部分の汎用性に起因する[T.Nishimura,Y.Takiguchi and T.Hayashi,J.Am.Chem.Soc.,2012,134,9086-9089;J.N.Desrosiers and W.S.Bechara,Org.Lett.,2008,10,2315-2318]。これは、天然に存在する生成物における、そして創薬における重要な成分である[U.Mahesh,K.Liu,R.C.Panicker and S.Q.Yao,Chem.Commun.,2007,1518-1520.J.J.Wang,X.Feng,Z.Xun,D.Q.Shi and Z.B.Huang,J.Org.Chem.,2015,80,8435-42.Forristal,I.J.Sulphur Chem.,2005,26,163.F.Hof,A.Schutz,C.Fah,S.Meyer,D.Bur,J.Liu,D.E.Goldberg,and E.Diederich,Angew.Chem.,Int.Ed.,2006,45,2138-2141]。スルホン基を含有する化合物は、関節炎、および慢性または急性の痛みを引き起こす他の類似した病状の治療に使用される非ステロイド性抗炎症剤(NSAID)であるロフェコキシブ(Rofecoxib)などの医薬品化学において非常に重要であり、スリンダク・スルホン(Sulindac sulfone)は、プロスタグランジンE2の産生を阻害する、腫瘍およびHCA-7細胞の治療に使用され[C.S.Williams,A.P.Goldman,H.Sheng,J.D.Morrow,and R.N.D.Bois,Neoplasia.,1999,1,170-176]、ビカルタミド(Bicalutamide)は、前立腺がんの治療に使用されている[P.F.Schnellhammer,Expert Opin.Pharmacother,2002,3,1313-1328]。他のスルホン誘導体は、抗菌剤、抗真菌剤、抗侵害受容剤、および抗炎症剤として高い可能性を有することに起因して薬物として使用されており、例えばラシックス(Lasix)、アクアジドh(Aquazide h)、スルファジミジン(Sulfadimidine)[K.Rais-Bahrami,M.Majd,E.Veszelovszky,and B.L.Short, Am.J.Perinatol.,2004,21,329-332.J.D.Duarte,and R.M.Cooper-DeHoff,Expert Rev Cardiovasc Ther.,2010,8,793-802.A.Romvary,and F.Simon,Acta Vet Hung.,1992,40,99-106.W.Billard ,H.Binch,K.Bratzler,L.-Y.,Chen,G.C.Jr,R.A.Duffy,S.Dugar,J.Lachowicz,R.,McQuade,P.Pushpavanam,V.B.Ruperto,L.A.Taylor,and J.W.Clader,Bioorg.Med.Chem.Lett.2000,10,2209-2212.V.Padmavathi,P.Thriveni,G.S.Reddy,and D.Deepti,Eur.J.Med.Chem.,2008,43,917-924.N.K.Konduru,S.Dey,M.Sajid,M.Owais,and N.Ahmed,.Eur.J.Med.Chem.,2013 59,23-30.P.A.Todd,and S.P.Clissold,Tenoxicam.Drugs.,1991,41,625-646.C.R.Lee,and J.A.Balfour,(
1994).Piroxicam-β-Cyclodextrin.Drugs.,1994,48,907-929.]、市販されている周知の薬物であるダプソン(Dapsone)およびプロマイン(Promine)[G.H.Faget,R.C.Pogge,F.A.Johansen,J.F.Dinan,B.M.Prejean,and C.G.Eccles,Int J Lepr Other Mycobact Dis.,1966,34,298-310.]である。また、スルホン部分は、除草剤として報告されているメソトリオン(Mesotrione)およびカフェンストロール(Cafenstrole)など、農薬分野でもその価値が認められている[G.Mitchell,D.W.Bartlett,T.E.M.Fraser,T.R.Hawkes,D.C.Holt,J.K.Townson,and R.A.Wichert,Pest Manag Sci.,2001,57,120-128.P.Boger.J Pest Sci.,2003,28,324]。
PI3KおよびMK2の背景:
【0003】
ホスホイノシチド3キナーゼ(PI3K)は、最も研究されているキナーゼの一つであり、さまざまな細胞過程の調節、ならびに炎症、がん、および糖尿病の病因において極めて重要な役割を果たしている。PI3Kファミリーのキナーゼは、個別にのみならず相乗的に、重要なシグナル伝達や代謝過程を調節している。様々な疾患の進行において、三つの異なるPI3Kクラス(I、II、III)とそのアイソフォームの基本的な重要性に対する認識が増しつつある[S.Jean,and A.A.Kiger,2014]。
【0004】
それら自体の間の基本的に重要なクロストーク、およびキナーゼが他のシグナル伝達経路を形成することに起因して、クラスIのPI3Kアイソフォームは、さまざまな疾患の管理における強力な創薬標的として常に創薬の中核となっており、クラスI関連治療法の探求に役立っている[A.Carracedo,and P.P.Pandolfi,Oncogene.,2008,27,5527]。
【0005】
PI3Kの役割:
炎症:これまでの研究で、クラスIのPI3Kアイソフォームは、炎症および免疫調節に非常に大きな意味を有することが見出されている[A.K.Stark,S.Sriskantharajah,E.M.Hessel,and K.Okkenhaug,Current opinion in pharmacology,2015,23,82-91][D.A.Fruman,and C.Rommel,Nature reviews Drug discovery,2014,13,14]。PI3K-p110αがあまねく存在することが、血管新生とインスリンシグナル伝達に必須である。PI3K-p110/120γおよびPI3K-p110δは、ほとんどが細胞表面受容体に依存しており、マクロファージ、樹状細胞、肥満細胞、T細胞、B細胞のような異なる免疫細胞中に見いだされ、シグナル伝達を通じて成長と分化を調節している。
【0006】
PI3Kキナーゼは、炎症、関節リウマチ、老化の基本的に主要なシグナル伝達および代謝経路に関与しているという事実が多くの研究によって確立されているので、炎症誘発性サイトカイン応答を調節不能にする疾患では、PI3Kキナーゼが有望な治療標的であり得るという事実を考慮する。
【0007】
がん:多くの研究では、ホスホイノシチド3キナーゼ(PI3K)経路が、受容体チロシンキナーゼ(RTK)、Gタンパク質共役受容体(GPCR)、ならびに細胞増殖、アポトーシス、および腫瘍生成を含むさまざまな基本的に重要な細胞機能に最終的に影響を与えるRASなどのがん遺伝子の活性化に結び付けられた。それに伴い、さまざまなヒト腫瘍試料の包括的なゲノム解析により、PI3Kシグナル伝達経路の構成要素に変異や変質が存在することが明らかになっている[R.K.Thomas,A.C.Baker,R.M.DeBiasi,W.Winckler,T.LaFramboise,W.M.Lin,M.Wang,W.Feng,T.Zander,L.E.MacConaill,and J.C.Lee,Nat Genet.,2007,39,347;Y.Samuels,Z.Wang,A.Bardelli,N.Silliman,J.Ptak,S.Szabo,H.Yan,A.Gazdar,S.M.Powell,G.J.Riggins,and J.K.Willson,Science.,2004,304,554-554]。包括的には、PI3Kは、大腸がん、脳腫瘍、胃がん、乳がん、および肺がんを含め、複数のがんに直接関係付けられている。[L.D.Wood,D.W.Parsons,S.Jones,J.Lin,T.Sjoblom,R.J.Leary,D.Shen,S.M.Boca,T.Barber,J.Ptak,and N.Silliman,Science.,2007,318,1108-1113;R.K.Thomas,A.C.Baker,R.M.DeBiasi,W.Winckler,T.LaFramboise,W.M.Lin,M.Wang,W.Feng,T.Zander,L.E.MacConaill,and J.C.Lee,Nat Genet.,2007,39,347;Cancer Genome Atlas Research Network,Nature.,2008,455,1061;L.Ding,G.Getz,D.A.Wheeler,E.R.Mardis,M.D.McLellan,K.Cibulskis,C.Sougnez,H.Greulich,D.M.Muzny,M.B.Morgan,and L.Fulton,Nature.,2008,455,1069;Y.Samuels,Z.Wang,A.Bardelli,N.Silliman,J.Ptak,S.Szabo,H.Yan,A.Gazdar,S.M.Powell,G.J.Riggins,and J.K.Willson,Science.,2004,304,554-554;A.Di Cristofano,M,De Acetis,A.Koff,C.Cordon-Cardo,and P.P.Pandolfi,Nat Genet.,2001,27,222;,D.W.Parsons,S.Jones,X.Zhang,J.C.H.Lin,R.J.Leary,P.Angenendt,P.Mankoo,H.Carter,I.M.Siu,G.L.Gallia,and A.Olivi,Science.,2008,321,1807-1812;P.Liu,H.Cheng,T.M.Roberts,and J.J.Zhao,Nat Rev Drug Discov.,2009,8,627]。
【0008】
関節リウマチ:最近の研究では、全身性エリテマトーデスのマウスモデルにおいてPI3Kアイソフォームを標的とすることにより、糸球体腎炎を軽減し、関節リウマチのマウスモデルの疾患進行を抑制することが示されている[C.Rommel,M.Camps and,H.Ji,Nature Reviews Immunology.,2007,7,191]。
【0009】
肺線維症および喘息:炎症と線維症の調節が、クラスIの四つのPI3Kによって支配されることが示されている[C.C.Campa,R.L.Silva,J.P.Margaria,T.Pirali,M.S.Mattos,L.R.Kraemer,D.C.Reis,G.Grosa,F.Copperi,E.M.Dalmarco,and R.C.Lima-Junior,.Nature communications.,2018,9,5232]。例えば、増殖、分化、遊走、および生存を含め、白血球の様々な機能が、PI3Kγおよびδによって制御されている。さらに、異なる肺細胞タイプの増殖が、PI3Kαおよびβによって支配されており、PI3Kγおよびβが、肺の炎症と、肺線維症および喘息に最終的につながる線維性リモデリングとに関与することが見出されている。[P.T.Hawkins,and L.R.Stephens,PI3K signalling in inflammation,Biochimica et Biophysica Acta (BBA)-Molecular and Cell Biology of Lipids,2015,1851,882-897;A.Ghigo,F.Damilano,L.E.Bioessays,32,185-196,R.C.E.Roffe,A.L.Souza,L.P.Sousa,M.Mirolo,A.Doni,and G.D,J.Leukoc.Biol.,2011,89,269-282]。
【0010】
糖尿病関連疾患:PI3Kは、AKTとヘキソキナーゼの下流活性化によって、細胞内のグルコース取り込みを調節する。グルコース取り込みの増加は、筋肉および脂肪細胞におけるインスリン駆動PI3Kシグナル伝達の即時効果であり、膜へのグルコース転位の増加と、トランスポーターをコードする遺伝子の上方制御とに帰される[[L.C.Cantley,and Z.Songyang,J Cell Sci,1994,121-126]。受容体チロシンキナーゼは、成長因子の刺激後に立体配座の変化を経て、自己リン酸化して活性化することが可能になる。次いで、AKT2がリン酸化され、RabGAPおよびAS160を阻害する結果、グルコーストランスポーターGLUT4が原形質膜に移動する[J.Yuasa-Kawada,M.Kinoshita-Kawada,Y.Rao,and J.Y.Wu,Proceedings of the National Academy of Sciences,2009,106,14530-14535;L.C.Cantley,.Science,2002,296,1655-1657]。
【0011】
MAPKAPK2
MAPKPAK2または、MK2は、MAPK経路におけるp-38 MAPKの下流基質であり、酸化ストレス、炎症、細胞周期の調節、腫瘍生成、および細胞遊走に極度に関与することが見出されている[Gurgis,Fadi Maged Shokry,William Ziaziaris,and Lenka Munoz,Mol Pharmacol.,2014,345-356;Maruyama,Junichi,et al.Curr Med Chem.,2009,1229-1235;Jackson,Robert M.,and Rolando Garcia-Rojas,Exp Lung Res.,2008,245-262]。基本的に重要な研究により、RBP(RNA結合タンパク質)を介した転写安定性の調節を通じた遺伝子発現、細胞増殖、およびアポトーシスにおける、転写後レベルでのその役割が解明されている[Pearson,Gray,et al.Endocr Rev.,2001,153-183;S.Soni,P.Anand,and Y.S.Padwad,J Exp Clin Cancer Res.,2019,38,121;S.Soni,M.K.Saroch,B.Chander,N.V.Tirpude,and Y.S.Padwad,J Exp Clin Cancer Res.,2019,38,175]。さらに、MK2は、酸化ストレス、炎症、感染、放射線、および遺伝毒性を含む胞外シグナルに応答して、さまざまな細胞過程を調節することが見出されている[S.J.Diaz-Cano,Re.Pomeranceら、J.Pathol.,2006,209,298-306;J.Pathol.,2006,210,133,A.Kotlyarov,Y.Yannoni,S.Fritz,K.Laass,J.B.Telliez,D.Pitman,L.L.Lin and M.Gaestel,Mol Cellular Biol.2002,22,4827-35]。
【0012】
p38-MAPKからの活性化時点で、核外搬出シグナル(NES)の助けを借りて、MK2の細胞質局在化が起こり[Pearson,Gray,et al.Endocrine reviews,2001,153-183;,S.Soni,P.Anand,and Y.S.Padwad,Journal of Experimental & Clinical Cancer Research.,2019,38,121,;S.J.Diaz-Cano,Re.Pomerance et al.J.Pathol,2006,209,298-306.J.Pathol.,2006,210,133]、そこでHsp27(ヒートショックプロテイン27(Heat Shock protein 27))のような重要な下流基質に直接作用し、細胞骨格のリモデリング、細胞遊走、細胞の浸潤、および転移をもたらす[F.M.Gurgis,W,Ziaziaris and L.Munoz,Mol Pharmacol.2014,85,345-356,Rogalla,Thorsten,et al.J Biol Chem.,1999,18947-18956]。加えて、MK2は、チェックポイントシグナル伝達を介したG2/M期停止の活性化を通じて化学療法後のDNA損傷を逆転させることによって、細胞の生存に有利に働き、最終的に治療プロトコルに対する耐性を課す[Cannell,Ian G.,et al.Cancer cell.,2015,623-637]。
【0013】
MK2の役割:
炎症:MK2は、TNFαの生合成、およびTNFα、IL-1β、IL-8、IL-6、インターフェロン-γ(IFNγ)、および他のサイトカイン類のような炎症性メディエーターの産生を広範囲に調節する[Rogalla,Thorsten,et al.J Biol Chem.,1999,18947-18956]。MK2は、サイトカインmRNAの安定性および翻訳のLPS誘発性上方制御を通じたサイトカイン生合成の刺激に、必須であることが分かっている。このことは、MK2欠損トランスジェニックマウスモデルにおいて、LPS誘発にもかかわらずTNFαの合成が大幅に減少したことによって裏付けられている[R.Winzen,M.Kracht,B.Ritter,A.Wilhelm,C.Y.A.Chen,A.B.Shyu,M.Muller,M.Gaestel,K.Resch,and H.Holtmann,The EMBO journal.,1999,18,4969-4980;Rogalla,Thorsten,et al.J Biol Chem.,1999,18947-18956]。MK2はまた、その細胞毒性およびアポトーシス活性、よって、炎症時のサイトカイン発現の増加を制限することによって、RIPK1阻害に関係付けられている[M.B.Menon,J.Gropengiesser,J.Fischer,L.Novikova,A.Deuretzbacher,J.Lafera,H.Schimmeck,N.Czymmeck,N.Ronkina,A.Kotlyarov,and M.Aepfelbacher,Nat Cell Biol.,2017,19,1248]。
【0014】
がん:膨大な数の研究で、細胞周期調節、RBPの調節、制御不能な細胞増殖、腫瘍生成、および転移におけるMK2の直接的な役割が報告されている。細胞周期のイベントにおいて、MK2は、CDC25ファミリーのメンバー(CDC25BおよびCDC25C)をリン酸化して、細胞周期の停止につながる14-3-3結合を促す[I.A.Manke,A.Nguyen,D.Lim,M.Q.Stewart,A.E.Elia,and M.B.Yaffe,Mol Cell.,2005,17,37-48]。MK2はまた、ユビキチンリガーゼHDM2の活性化を標的にして、DNA損傷後の細胞生存につながるp53の分解を促進しており[H.O.Weber,R.L.Ludwig,D.Morrison,A.Kotlyarov,M.Gaestel,and K.H.Vousden,Oncogene.,2005,24,1965]、そしてp53変異に起因するアポトーシスに対する耐性を課すことにも結び付けられている[F.M.Gurgis,W,Ziaziaris and L.Munoz,Mol Pharmacol.2014,85,345-56]。
【0015】
加えて、MK2は、Mdm2の活性化において役割をはたしており、その結果、Mdm2を介するp53の不活性化および分解をもたらし、これは、MK-/-細胞において低いMdm2レベルとは対照的にp53レベルの上昇によって確認されている[H.O.Weber,R.L.Ludwig,D.Morrison,A.Kotlyarov,M.Gaestel,and K.H.Vousden,Oncogene.,2005,24,1965]。これらの研究により、MK2は、従来のCHK1およびCHK2と並行して機能するDNA損傷チェックポイントキナーゼとして確立されている[Cannell,Ian G.,et al.Cancer cell.,2015,623-637,I.A.Manke,A.Nguyen,D.Lim,M.Q.Stewart,A.E.Elia,and M.B.Yaffe,Molecular cell,2005,17,37-48,M.B.Menon,J.Gropengiesser,J.Fischer,L.Novikova,A.Deuretzbacher,J.Lafera,H.Schimmeck,N.Czymmeck,N.Ronkina,A.Kotlyarov,and M.Aepfelbacher,Nat Cell Biol.,2017 19,1248]。MK2は、遺伝子のmRNA安定性だけでなく、外部刺激に応答して免疫応答[J.S.Erdem,V .Skaug,A.Haugen and S.Zienolddiny,J Cancer、 2016,7,512]、細胞周期[[F.M.Gurgis,W,Ziaziaris and L.Munoz,Mol Pharmacol.2014,85,345-56.]、細胞骨格リモデリング[Rogalla,Thorsten,et al.J Biol Chem.,1999,18947-18956;A.Kotlyarov,Y.Yannoni,S.Fritz,K.Laass,J.B.Telliez,D.Pitman,L.L.Lin and M.Gaestel,Mol Cellular Biol.,2002,22,4827-35.50;51.B.Kumar,S.Koul,J.Petersen,L.Khandrika,J.S.Hwa ,R.B.Meacham,S.Wilson and H.K.Koul ,Cancer Res.,2010,70,832-41.51]、アポトーシスの回避および細胞遊走[Rogalla,Thorsten,et al.J Biol Chem.,1999,18947-18956 40;F.M.Gurgis,W,Ziaziaris and L.Munoz,Mol Pharmacol.2014,85,345-56;B.Kumar,S.Koul,J.Petersen,L.Khandrika,J.S.Hwa,R.B.Meacham,S.Wilson and H.K.Koul,Cancer Res.,2010,70,832-41.]に関与する複数のタンパク質のリン酸化および発現を調整する。これらの刺激は、腫瘍微小環境に多く存在し、ほとんどの場合、MK2、次いで、Hsp27のようなその下流の基質の活性化を開始し、サイトカイン、ケモカイン、マトリックスメタロプロアーゼ(MMP)のレベルを調節し、その結果として最終的に腫瘍微小環境、新血管新生、および血管外遊出を促進する。
【0016】
この分野で行われたさまざまな重要な研究は、MK2およびその下流基質であるHsp27が、異なるがん、特に腸がん[A.Henriques,V.Koliaraki,G.Kollias,and Mesenchymal,Proc Natl Acad Sci.,U S A.2018,115,E5546-55,;H.R.Cheruku.,A.Mohamedali,D.I.Cantor,S.H.Tan,E.C.M.S.Nice.EuPA Open Proteom.,2015,8,104-15.]、皮膚がん[C.Johansen,C.Vestergaard,K.Kragballe,G.Kollias,M.Gaestel,and L.Iversen,Carcinogenesis.,2009,30,2100-8]、膀胱がん[B.Kumar,J.Sinclair,L.Khandrika,S.Koul,S.Wilson and H.K.Koul,Int J Oncol.,2009,34,1557-64.]、前立腺がん[S.A.Hayes,X.Huang,S.Kambhampati,L.C.Platanias and R.C.Bergan,Oncogene.,2003,22,4841.]、肺がん[B.Liu,L.Yang,B.Huang,M.Cheng,H.Wang,Y.Li,D.Huang,J.Zheng,Q.Li,X.Zhang,and W.Ji,Am J Hum Genet.,2012,91,384-390,J.S.Erdem,V.Skaug,A.Haugen,and S.Zienolddiny,J.Cancer.,2016,7,512]、および頭頚部のがん[S.Soni,M.K.Saroch,B.Chander,N.V.Tirpude,and Y.S.Padwad,J Exp Clin Cancer Res.2019,38,17535]などの病因に直接関与していることを具体的に裏付けている。
【0017】
アルツハイマー病および神経炎症:現在の証拠は、神経炎症に関連する重要な脳障害における様々な炎症性サイトカイン発現の調節におけるMK2の役割を裏付けている。例えば、MK2は、LPS IFF-ガンマで刺激されたミクログリア細胞で過剰発現していることが見出されている。MK2(-/-)マウスのエクスビボ培養ミクログリアは、MK2(+/+)野生型ミクログリアと比較して、TNFαおよびMIP-1α(マクロファージ炎症性タンパク質-1α)の放出が著しく阻害されることを示している。これに加えて、APP-PS1トランスジェニックアルツハイマー病マウスにおけるMK2の欠損は、オートファジー/マクロオートファジーを促進する。様々な研究から得られた証拠に基づいて、MK2がアルツハイマー病およびパーキンソン病の病態生理に寄与していることは明らかである[F.M.Gurgis,W,Ziaziaris and L.Munoz,Mol Pharmacol.2014,85,345-56,A.A.Culbert,S.D.Skaper,D.R.Howlett,N.A.Evans,L.Facci,P.E.Soden,Z.M.Seymour,F.Guillot,M.Gaestel,and J.C.Richardson,J Biol Chem.,2006,281,23658-23667,S.A.Correa,and K.L.Eales,Journal of signal transduction.,2012,J.Alam,and W.Scheper,Autophagy.,2016,12 ,2516-2520.]。
【0018】
肺損傷および肺線維症:MK2は、NADPHオキシダーゼの活性化、TNF-αレベルの調節、好中球のリクルートおよび細胞周期の停止を介して炎症に永らく関係付けられてきた。これらの機構は、急性肺障害、肺線維症、非小細胞肺がんの分子的な病因に関与していることが見出されている[F.Qian,J.Deng,G.,Wang,D Ye,R.and W Christman,Curr Protein Pept Sci.,2016,17,332-342]。MK2を介した炎症性サイトカインmRNAが増加する結果、アクチンの再編成、細胞接着特性の変化、α-SMA(α-平滑筋アクチン)タンパク質発現の増加、および筋線維芽細胞の分化が生じる。複合的に、これらすべてのイベントは細胞骨格構造の調節につながり、肺損傷や肺線維症を促進する[L.B.Lopes,E.J.Furnish,P.Komalavilas,C.R Flynn,P.Ashby,A.Hansen,D.P.Ly,G.P.Yang,M.T.Longaker,A.Panitch,and C.M.Brophy,J Invest Dermatol.,2009,129,590-598.61;R.K.Singh and A.K.Najmi,Curr Drug Targets.,2019,20,367-379,R.Vittal,A.Fisher,H.Gu,E.A.Mickler,A.Panitch,C.Lander,O.W.Cummings,G.E.Sandusky,and D.S.Wilkes,Am J Respir Cell Mol Biol.,2013,49,47-57.]。
【0019】
喘息:研究では、局在化したTh2型炎症を生じさせ、続いて実験的な喘息を発症させるには、MK2が必要であることが観察されている。MK2は、全身のTh2免疫には影響しないが、ケモカイン、接着分子の発現を低減させ、また内皮の透過性を減少させる。加えて、ケモカインおよび接着分子の転写発現が、NF-κBと関連することが見出されており、MK2およびその下流のHsp27がNF-κBの持続的産生に必須であることはよく知られている[M.M.Gorska,Q.Liang,S.J.Stafford,N.Goplen,N.Dharajiya,L.Guo,S.Sur,M.Gaestel,and R.Alam,J.Exp.Med.,2007,204,1637-1652]。
【0020】
関節リウマチ:TNF-アルファは、免疫調節および炎症反応を媒介することによって関節リウマチ(RA)において重要な役割を果たすことが示されている。MK2は永らく、転写後レベルでTNF-アルファの生合成に関係付けられており、これに基づく研究は、RAにおけるMK2の直接的な関与を裏付けている。このことは、DBA/1Lacjコラーゲン誘発関節炎(CIA)モデルマウスにおいて、MK2遺伝子の欠損によりCIAに対する防御が強化されることで確認されている[M.Hegen,M.Gaestel,C.L.Nickerson-Nutter,L.L.Lin,and J.B.Telliez,J.Immunol.,2006,177,1913-1917]。
【0021】
アテローム性動脈硬化症:研究では、高コレステロール血症におけるMK2の機能的役割およびアテローム形成が報告されている。活性化した形態のMK2が、高コレステロール血症LDL受容体欠損マウスの大動脈内の内皮およびマクロファージに富むプラーク領域に検出されている。逆に、高コレステロール血症のldlr(-/-)マウス(ldlr(-/-)/mk2(-/-))においてMK2を欠損させると、動脈硬化誘発食、および血漿リポタンパク質レベルの増加にもかかわらず、大動脈における脂質およびマクロファージの蓄積が減少する[K.Jagavelu,U.J.Tietge,M.Gaestel,H.Drexler,B.Schieffer,and U.Bavendiek,Circ Res.,2007,101,1104-1112]。
【0022】
したがって、PI3KおよびMK2関連障害の治療のための新規化合物が、当技術分野で要望されている。
発明の目的
【0023】
本発明の主な目的は、PI3KおよびMK2経路を通じて原因となる疾患の治療に有用である一般式Iのスルホンアミド縮合ベンゾシクロヘプテン類を提供することである。
【0024】
本発明のさらに別の目的は、疾患の治療にPI3KおよびMK2阻害剤として有用である一般式IIのフランおよびピロール置換ベンゾシクロヘプテン類を提供することである。
【0025】
本発明のさらに別の目的は、疾患の治療に、PI3KおよびMK2阻害剤として有用である一般式IIIのアルキルカルボニル置換ベンゾシクロヘプテン類を提供することである。
【0026】
本発明のさらに別の目的は、疾患の治療に、PI3KおよびMK2阻害剤として有用である一般式IVおよびVの多環縮合キノリノンおよびキノリノール置換ベンゾシクロヘプテン類を提供することである。
【0027】
本発明のさらに別の目的は、疾患の治療に、PI3KおよびMK2阻害剤として有用である一般式VIのスルホン置換ベンゾシクロヘプテン類を提供することである。
【0028】
本発明のさらに別の目的は、ケドルス・デオダラ(Cedrus deodara)油から採取したヒマカレン(himachalene)類から式I~VIのベンゾシクロヘプテン類縁化合物を調製する方法を提供することである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0029】
本発明の態様は、一般式I、II、III、IV、V、またはVI:
【0030】
【化1】

の化合物、ならびにその医薬的に許容される塩類およびエナンチオマーであって、
式中、Yが、C、O、N、およびSからなる群から選択され;
Zが、H、C1-C6アルキル、C1-C6アリール、ハロゲン、酸素、窒素、および硫黄からなる群から選択され;
が、水素、ヒドロキシル、ベンジルアミンまたはアニリンから選択される窒素置換基、チオフェンから選択されるS含有基、プロパン酸から選択されるカルボン酸およびその誘導体、ならびにハロゲンからなる群から選択され;
が、H、C1-C6アルキル、C1-C6アリール、ハロゲン化物、C1-C6アミン類、およびC1-C6カルボニル基からなる群から選択され;
が、H、C1-C6アルキル、C1-C6アリール、およびチオフェンから選択される硫黄含有基からなる群から選択され;
Xが、炭素、窒素、酸素、および硫黄からなる群から選択され;
が、H、C1-C6アルキル、C1-C6アリール、ハロゲン、およびアルデヒド置換ベンゼンスルホンアミドから選択されるカルボニル基からなる群から選択され;
が、H、C1-C6アルキル、C1-C6アリール、ハロゲン、およびC1-C6カルボニル基からなる群から選択され;
が、H、C1-C6アルキル、C1-C6アリール、およびC1-C6アミン基からなる群から選択される、
化合物、ならびにその医薬的に許容される塩類およびエナンチオマーを提供する。
【0031】
本発明の別の態様は、抗2型糖尿病剤、解熱剤、抗炎症剤、抗がん剤、抗潰瘍剤、CNS刺激剤、およびCNS抑制剤として使用するための式I~VIの化合物を提供する。
【0032】
本発明のさらに別の態様は、式I~VIの化合物を、薬学的に許容されるアジュバント、希釈剤、または担体といっしょに含んでなる医薬製剤を提供する。
【0033】
本発明のさらに別の態様は、PI3KおよびMK2により媒介される活性の阻害剤として使用するための式I~VIの化合物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1図1:画像は、PI3K(120y)への一般式IIの評価化合物の結合のオンレートおよびオフレートを図示する。解離速度定数kdに対して会合速度定数kaをプロットすると(ここでは対数目盛で)、親和性が対角線で表されるプロットが作成される。同一対角線上の化合物は、親和性が同じであるが速度論が異なる。
図2図2:PI3K(120y)への一般式IIの評価化合物の結合のオンレートとオフレートをグラフ表示したものである。
図3図3:グラフは、一般式IIの化合物によるPI3K(120y)の用量依存性の阻害を表す(5、7、8、9、12、および16)。
図4図4:画像は、MK2への一般式IIの評価化合物の結合のオンレートおよびオフレートを図示する。解離速度定数kdに対して会合速度定数kaをプロットすると(ここでは対数目盛で)、親和性が対角線で表されるプロットが作成される。同一対角線上の化合物は、親和性が同じであるが速度論が異なる。
図5図5:MK2への一般式IIの評価化合物の結合のオンレートとオフレートをグラフ表示したものである。
図6図6:市販のMK2阻害剤PF 3644022とともに一般式IIの化合物によるMK2の用量依存性の阻害(1、3、6、8、12、13、14、15、および17)を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明は、一般式I、II、III、IV、V、またはVI
【0036】
【化2】

の置換ベンゾシクロヘプテン類縁化合物であって、
式I~VI中、
が、H、OH、ベンジルアミンまたはアニリンから選択されるN置換基、チオフェンから選択されるS含有基、プロパン酸から選択されるカルボン酸およびその誘導体、ならびにハロゲンからなる群から選択され;
が、H、C1-C6アルキル、C1-C6アリール、ハロゲン化物、C1-C6アミン、およびC1-C6カルボニル基からなる群から選択され;
式I中、R~Rがそれぞれ独立に、H、C1-C6アルキル、C1-C6アリール、ハロゲン、およびC1-C6カルボニル基からなる群から選択され;
式II中、Yが、C、O、N、およびSからなる群から選択され;
式III中、Zが、H、C1-C6アルキル、C1-C6アリール、ハロゲン、酸素、窒素、および硫黄からなる群から選択され;
式IV中、nが、5から6まで変化し;
式V中、nが、5から6まで変化し、Rが、H、OH、ピリジンら選択されるN置換基、プロパン酸から選択されるカルボン酸およびその誘導体、ならびにハロゲンからなる群から選択され;
式VI中、Rが、H、ハロゲン化物、酸素、エナミノンから選択される窒素含有基、シクロヘキサン1,3-ジオン、C1-C6アルキル、およびC1-C6アリール基からなる群から選択され;Rが、C1-C6アルキル、C1-C6アリール、水素、およびチオフェンからなるヘテロ原子からなる群から選択される、
置換ベンゾシクロヘプテン類縁化合物を対象とする。
【0037】
本発明は、一般式I、II、III、IV、VまたはVI:
【0038】
【化3】

の化合物、ならびにその医薬的に許容される塩類およびエナンチオマーであって、
式中、
Yが、C、O、N、およびSからなる群から選択され;
Zが、H、C1-C6アルキル、C1-C6アリール、ハロゲン、酸素、窒素、および硫黄からなる群から選択され;
が、水素、ヒドロキシル、ベンジルアミンまたはアニリンから選択される窒素置換基、チオフェンから選択されるS含有基、プロパン酸から選択されるカルボン酸およびその誘導体、ならびにハロゲンからなる群から選択され;
が、H、C1-C6アルキル、C1-C6アリール、ハロゲン化物、C1-C6アミン、およびC1-C6カルボニル基からなる群から選択され;
が、H、C1-C6アルキル、C1-C6アリール、およびチオフェンから選択される硫黄含有基からなる群から選択され;
Xが、炭素、窒素、酸素、および硫黄からなる群から選択され;
が、H、C1-C6アルキル、C1-C6アリール、ハロゲン、およびアルデヒド置換ベンゼンスルホンアミドから選択されるカルボニル基からなる群から選択され;
が、H、C1-C6アルキル、C1-C6アリール、ハロゲン、およびC1-C6カルボニル基からなる群から選択され;
が、H、C1-C6アルキル、C1-C6アリール、およびC1-C6アミン基からなる群から選択される、
化合物、ならびにその医薬的に許容される塩類およびエナンチオマーを提供する。
【0039】
本発明の一実施形態では、式(I)の化合物であって、
式中、Rが、H、OH、ベンジルアミンまたはアニリンから選択されるN置換基、プロパン酸から選択されるカルボン酸およびその誘導体、ならびにハロゲン類からなる群から選択され、
が、H、C1-C6アルキル、C1-C6アリール、ハロゲン化物、C1-C6アミン、およびC1-C6カルボニル基からなる群から選択され;
~Rが、それぞれ独立に、H、C1-C6アルキル、C1-C6アリール、ハロゲン、およびC1-C6カルボニル基からなる群から選択される、化合物が提供される。
【0040】
本発明の別の実施形態では、式(II)の化合物であって、
式中、Rが、H、OH、ベンジルアミンまたはアニリンから選択されるN置換基、プロパン酸から選択されるカルボン酸およびその誘導体、ならびにハロゲンからなる群から選択され、
が、H、C1-C6アルキル、C1-C6アリール、ハロゲン化物、C1-C6アミン、およびC1-C6カルボニル基からなる群から選択され;
Yが、C、O、N、およびSからなる群から選択される、
化合物が提供される。
【0041】
本発明のさらに別の実施形態では、式(III)の化合物であって、
式中、Rが、H、OH、ベンジルアミンまたはアニリンから選択されるN置換基、プロパン酸から選択されるカルボン酸およびその誘導体、ならびにハロゲンからなる群から選択され、
が、H、C1-C6アルキル、C1-C6アリール、ハロゲン化物、C1-C6アミン、およびC1-C6カルボニル基からなる群から選択され;
Zが、H、C1-C6アルキル、C1-C6アリール、ハロゲン、酸素、窒素、および硫黄基からなる群から選択される、
化合物が提供される。
【0042】
本発明のさらに別の実施形態では、式(IV)の化合物であって、
式中、Rが、H、OH、ベンジルアミンまたはアニリンから選択されるN置換基、プロパン酸から選択されるカルボン酸およびその誘導体、ならびにハロゲンからなる群から選択され、
が、H、C1-C6アルキル、C1-C6アリール、ハロゲン化物、C1-C6アミン、およびC1-C6カルボニル基からなる群から選択され;
nが、5から6まで変化する、
化合物が提供される。
【0043】
本発明の別の実施形態では、式(V)の化合物であって、
式中、Rが、H、OH、ベンジルアミンまたはアニリンから選択されるN置換基、プロパン酸から選択されるカルボン酸およびその誘導体、ならびにハロゲンからなる群から選択され、
が、H、C1-C6アルキル、C1-C6アリール、ハロゲン化物、C1-C6アミン、およびC1-C6カルボニル基からなる群から選択され;
nが、5から6まで変化し;
が、H、C1-C6アルキル、C1-C6アリール、およびハロゲン基からなる群から選択される、
化合物が提供される。
【0044】
本発明のさらに別の実施形態では、式(VI)の化合物であって、
式中、Rが、H、OH、ベンジルアミンまたはアニリンから選択されるN置換基、プロパン酸から選択されるカルボン酸およびその誘導体、ならびにハロゲンからなる群から選択され;
が、H、C1-C6アルキル、C1-C6アリール、ハロゲン化物、C1-C6アミン、およびC1-C6カルボニル基からなる群から選択され;
が、水素、C1-C6アルキル、ハロゲン化物、硫黄、C1-C6アミン、およびC1-C6アリール基からなる群から選択され;
が、H、C1-C6アルキル、C1-C6アリール、およびC1-C6アミン基からなる群から選択される、化合物が提供される。
【0045】
本発明のさらに別の実施形態では、抗2型糖尿病剤、解熱剤、抗炎症剤、抗がん剤、抗潰瘍剤、CNS刺激剤、およびCNS抑制剤として使用するために、式I~VIの化合物が提供される。
【0046】
本発明の別の実施形態は、式I~VIの化合物を、薬学的に許容されるアジュバント、希釈剤、または担体とともに含んでなる医薬製剤を提供する。
【0047】
本発明のさらに別の実施形態では、PI3KおよびMK2により媒介される活性の阻害剤として使用するために、式I-VIの化合物が提供される。
【0048】
これらの置換ベンゾシクロヘプテン類縁化合物は、ケドルス・デオダラ油から抽出されたヒマカレン類から半合成される。
【0049】
本発明は、より少ないステップの、経済的で費用対効果の高い手法にしたがう、容易に入手可能で安価な天然前駆体、すなわちケドルス・デオダラ油を使用するベンゾシクロヘプテン化合物の合成を開示する。
【0050】
この調査の下、有機合成における困難なステップの数を最小限に抑え、高コストの試薬や化学物質を回避して全体的な製造コストを削減する半合成的手法を開発した。
【0051】
この調査の下、このタイプの有機合成における既存の課題を克服する異なる新規方法論を開発した。カラムクロマトグラフィーにより、高純度(>98~99%)の分子を実現した。
【0052】
この工程は、生物学的活性および将来の産業上の利点の評価にとって非常に重要な問題であるスケールアップ合成に適用することが容易である。
【0053】
これらのクラスの化合物は、さまざまな生物学的活性のゆえに知られており、したがって、新規工程にしたがう、異なる新規クラスのベンゾシクロヘプテン類縁化合物の合成に向けた容易な手法が開発され、さらにPI3KおよびMK2関連障害の治療に適用されている。
【0054】
さらに、天然類縁化合物の使用によって、毒性効果も低減され、その具体的な構造は、治療法開発のための生物学的活性の機会を高める。
【0055】
アルキル基を有する複雑な二環式骨格から構成される化合物は、導入が困難である。よって、そのコア構造は、製造、試薬のコストを削減させ全体として工程が経済的にする天然前駆体から誘導される。
【0056】
天然前駆体から構成される化合物は、自然界において毒性がより低く、さまざまな疾患の原因となるPI3KおよびMK2関連障害の治療のためのさまざまな用途を示した。
【実施例
【0057】
以下の実施例は、例示のために与えられるものであり、したがって、本発明の範囲を限定すると解釈されないのが望ましい。
【0058】
実験の部
すべての試薬と溶媒は、市販品の提供元(シグマアルドリッチ社(Sigma-Aldrich)、メルク・インディア社(Merck India Ltd))から購入した。反応は、0.2mmシリカゲル60 F254でコーティングされたTLCプレートによってモニタリングした。TLCプレートは、UV照射(254nm)およびヨウ素スプレーで可視化した。生成物は、60~120メッシュサイズのシリカゲル(メルク(Merck))を採用したカラムクロマトグラフィーによって精製した。Hおよび13C NMRスペクトルは、ブルカー(Bruker)のAM-300分光器を用い298Kで記録し;CDCl中で内部参照標準物質としてTMSを使用した。HRMSは、UHR-QTOF(超高分解能の四重極飛行時間型)を用いて実施した。IRスペクトルは、Nicolet 5700 FTIR(サーモ(Thermo)、米国)分光光度計の上で、KBrディスクを使用し4,000~400cm-1の領域で取得した。CEMのDiscover(商標)集束マイクロ波(2450MHz、300W)を使用した。反応フラスコの表面上の温度は、マイクロ波実験において内蔵の赤外線温度プローブを用いて測定した。結合定数(J)は、ヘルツ(Hz)の単位で報告してあり、信号の多重度を指定するために以下の略号を使用する:s=シングレット;d=ダブレット;t=トリプレット;m=マルチプレット;br=ブロードシングレット。
【0059】
実施例1
式Iの合成のための一般的手順
【0060】
【化4】
【0061】
【化5】

N-ベンジル-N-((8-ブロモ-3,5,5-トリメチル-6,7-ジヒドロ-5H-ベンゾ[7]アヌレン-9-イル)メチル)-4-メチルベンゼンスルホンアミドの合成:
DMF(3ml)中、8-ブロモ-9-(ブロモメチル)-3,5,5-トリメチル-6,7-ジヒドロ-5H-ベンゾ[7]アヌレン(0.279mmol、1.0当量)、N-ベンジル-4-メチルベンゼンスルホンアミド(0.41mmol、1.5当量)、KCO(0.55mmol、2当量)の混合物を、90℃で16時間、反応管(15mL)内に置いた。反応混合物を周囲温度まで冷却した後、水を加え、酢酸エチルで抽出した(10×3回)。一つに合わせた有機層を水で洗浄し、NaSO上で乾燥させ、真空蒸発させた。得られた粘性液体を、ヘキサン:EtOAc(80:20)の混合物を使用してシリカゲル(メッシュ60~120)上のカラムクロマトグラフィーによって精製し、所望の生成物を黄色の油状物として得た(45mg、30%)。
H NMR (CDCl,300 MHz,δ,ppm):1.08 (s,6H),1.94-1.89 (m,2H),2.32-2.24 (m,8H),4.33 (s,2H),4.36 (s,2H),6.96-6.94 (d,J= 7.8,1H),7.08-7.05 (d,3H),7.21-7.11 (m,5H),7.36-7.29 (m,3H);13C NMR (CDCl,75 MHz) δ,21.4,21.5,31.6,37.6,38.6,47.3,51.8,52.6,126.6,126.6,127.2,127.3,128.1,129.0,133.3,134.5,136.4,136.9,137.1,142.8,146.2.ESI- MS:C2932BrNOS [M + H]についての計算538.1410,検出538.0189.
【0062】
実施例2
式IIの合成のための一般的手順
【0063】
【化6】

6,6,8-トリメチル-1,4,5,6-テトラヒドロ-3H-ベンゾ[3,4]シクロヘプタル[1,2-c]フラン-3オンの合成:
比1:1(0.5:0.5ml)のDMFおよびt-アミルアルコール中、8-ブロモ-9-(ブロモメチル)-3,5,5-トリメチル-6,7-ジヒドロ-5H-ベンゾ[7]アヌレン(0.279mmol、1.0当量)、シュウ酸(1.67mmol、6当量)、PdCl2(0.013mmol、0.05当量)、dppe(0.013mmol、0.05当量)、TBACl(0.139mmol、0.50等量)の混合物を、通常の加熱(130℃)下で20時間、加圧反応管(5ml)内に置いた。周囲温度まで冷却した後、反応混合物に水を加え、酢酸エチルで抽出した(3×10ml)。一つに合わせた有機層を水で洗浄し、NaSO上で乾燥させ、減圧下で溶媒を除去した。得られた粘性液体を、ヘキサン:EtOAc(90:10)を使用してシリカゲル(60~120メッシュ)でのカラムクロマトグラフィーによって精製し、所望の生成物を白色固体として得た(97mg、40%)。
H NMR (CDCl,300 MHz,δ,ppm):1.35 (s,6H),2.15-2.11 (m,2H),2.37 (s,3H),2.51-2.47 (t,3H),4.63 (s,2H),7.11-7.08 (d,J=6.99Hz,1H),7.23 (s,1H),7.33-7.30 (d,J=7.86Hz,1H);13C NMR (CDCl,75 MHz,δ,ppm):20.1,22.2,27.5,34.2,36.6,69.2,125.1,125.5,125.7,125.9,139.1,150.2,151.6,173.6.ESI-MS:C1618 [M + H]についての計算243.1380,検出243.3711.
【0064】
実施例3
式IIの合成のための一般的手順
【0065】
【化7】

式II(a)
6,6,8-トリメチル-1,4,5,6-テトラヒドロベンゾ[3,4]シクロヘプタ[1,2-c]ピロール-3(2H)-オンの合成:
比1:1(0.5:0.5ml)のDMFおよびt-アミルアルコール中、8-ブロモ-9-(ブロモメチル)-3,5,5-トリメチル-6,7-ジヒドロ-5H-ベンゾ[7]アヌレン(0.279mmol、1.0当量)、カルバミン酸アンモニウム(1.1172mmol、4当量)、シュウ酸(1.67mmol、6当量)、PdCl(0.013mmol、0.05当量)、dppe(0.013mmol、0.05当量)、TBACl(0.139mmol、0.50当量)の混合物を、通常の加熱(130℃)下で20時間、加圧反応管(5ml)内に置いた。周囲温度まで冷却した後、反応混合物に水を加え、酢酸エチルで抽出した(3×10ml)。一つに合わせた有機層を水で洗浄し、NaSO上で乾燥させ、減圧下で溶媒を除去した。得られた粘性液体を、ヘキサン:EtOAc(70:30)を使用してシリカゲル(60~120メッシュ)でのカラムクロマトグラフィーによって精製し、所望の生成物を黄色固体として得た(20mg、30%)。
1H NMR (CDCl3,600 MHz,δ,ppm):1.25 (s,6H),1.76-1.74 (t,J = 6.66 Hz,2H),2.31 (s,3H),2.50-2.46 (m,2H),4.25 (s,2H),7.07-7.06 (d,J = 7.92 Hz,1H),7.27 (s,1H),7.38-7.37 (d,J = 7.98 Hz,1H);13C NMR (CDCl3,150 MHz,δ,ppm):21.5,24.1,28.9,36.4,38.0,47.9,126.7,127.2,128.2,128.3,133.4,138.4,146.6,150.5,174.1.ESI-MS:C1619NO [M + H]+についての計算242.1539,検出242.1002.
【0066】
式II(b)2-ベンジル-6,6,8-トリメチル-1,4,5,6-テトラヒドロベンゾ[3,4]シクロヘプタ[1,2-c]ピロール-3(2H)-オンの合成
【0067】
【化8】

比1:1(0.5:0.5ml)のDMFおよびt-アミルアルコール中、8-ブロモ-9-(ブロモメチル)-3,5,5-トリメチル-6,7-ジヒドロ-5H-ベンゾ[7]アヌレン(0.279mmol、1.0当量)、フェニルメタンアミン(1.1172mmol、1.2当量)、シュウ酸(1.67mmol、6当量)、PdCl(0.013mmol、0.05当量)、dppe(0.013mmol、0.05当量)、TBACl(0.139mmol、0.50当量)の混合物を、通常の加熱(130℃)下で20時間、加圧反応管(5ml)内に置いた。周囲温度まで冷却した後、反応混合物に水を加え、酢酸エチルで抽出した(3×10ml)。一つに合わせた有機層を水で洗浄し、NaSO上で乾燥させ、減圧下で溶媒を除去した。得られた粘性液体を、ヘキサン:EtOAc(70:30)を使用してシリカゲル(60~120メッシュ)でのカラムクロマトグラフィーによって精製し、所望の生成物を半固形物として得た(25%)。
1H NMR (CDCl3,600 MHz) δ 1.34 (s,6H),1.90 - 1.88 (t,J = 6.6 Hz,2H),2.36 (s,3H),2.77- 2.75 (t,J = 6.5 Hz,2H),4.19 (s,2H),4.73 (s,2H),7.01-7.00 (d,J = 7.3 Hz,1H),7.18-7.16 (d,J = 7.9 Hz,1H),7.32-7.28 (m,4H),7.38-7.35 (m,2H);13C NMR (CDCl3,150 MHz,) δ 22.01,24.94,29.38,36.68,38.57,46.68,52.70,127.23,127.34,127.91,128.04,128.21,128.56,129.27,134.08,137.4,137.91,139.20,144.77,151.25,172.68.ESI-MS:C2325NO [M+H]についての計算=332.2009,検出331.8708.
【0068】
実施例4
式IVの合成のための一般的手順
【0069】
【化9】
【0070】
【化10】

式IV(a)
3,5,5-トリメチル-5,6,7,9,10,11-ヘキサヒドロ-12H-ベンゾ[3,4]シクロヘプタル[1,2-b]ナフタレン-12-オンの合成:
2-メチルTHF(1.5ml)中、8-ブロモ-9-(ブロモメチル)-3,5,5-トリメチル-6,7-ジヒドロ-5H-ベンゾ[7]アヌレン(0.279モル、1.0当量)、3-アミノ-2-シクロヘキセン-1-オン/3-アミノシクロペント-2-エン-1-オン(0.33mmol、1.2等量)、Pd(OAc)2(0.055mmol、20mol%)、キサントホス(0.055mmol、20mol%)、KCO(0.55mmol、2等量)の混合物を、90℃で12時間、反応管(15mL)内に置いた。反応混合物を周囲温度まで冷却した後、水を加え、酢酸エチルで抽出した(10×3回)。一つに合わせた有機層を水で洗浄し、NaSO上で乾燥させ、真空蒸発させた。得られた粘性液体を、ヘキサン:EtOAc(80:20)の混合物を使用してシリカゲル(メッシュ60~120)でのカラムクロマトグラフィーによって精製し、所望の生成物を半固形物として得た(38mg、45%)。
H NMR (CDCl,600 MHz,δ,ppm):1.18 (s,6H),2.18-2.13 (m,4H),2.35 (s,3H),2.66-2.62 (m,2H),2.76-2.71 (t,J=7.0Hz,2H),3.12-3.08 (t,J=6.1 Hz,2H),7.11 (d,1H),7.21-7.16 (m,2H),8.10 (s,1H);13C NMR (CDCl,150 MHz,δ,ppm):22.07,22.7,29.6,31.7,35.5,37.6,38.5,47.3,126.7,127.1,127.3,130.6,134.3,137.3,138.03,145.8,161.5,164.5,198.2.ESI- MS:C2123NO [M + H]についての計算306.1852,検出306.1964.
【0071】
式IV(b)
3,5,5,10-テトラメチル-5,6,7,9,10,11-ヘキサヒドロ-12H-ベンゾ[3,4]シクロへプタ[1,2-b]キノリン-12-オンの合成
【0072】
【化11】

2-メチルTHF(1.5ml)中、8-ブロモ-9-(ブロモメチル)-3,5,5-トリメチル-6,7-ジヒドロ-5H-ベンゾ[7]アヌレン(0.279mmol、1.0当量)、3-アミノ-2-シクロヘキセン-1-オン/3-アミノ-6-メチルシクロヘクス-2-エン-オン(0.33mmol、1.2当量)、Pd(OAc)2(0.055mmol、20mol%)、キサントホス(0.055mmol、20mol%)、KCO(0.55mmol、2当量)の混合物を、90℃で12時間、反応管(15mL)内に置いた。反応混合物を周囲温度まで冷却した後、水を加え、酢酸エチルで抽出した(10×3回)。一つに合わせた有機層を水で洗浄し、NaSO上で乾燥させ、真空蒸発させた。得られた粘性液体を、ヘキサン:EtOAc(80:20)の混合物を使用してシリカゲル(メッシュ60~120)でのカラムクロマトグラフィーによって精製し、所望の生成物を半固形物として得た(48%)。
H NMR (CDCl,600 MHz,δ,ppm):1.23 (s,6H),1.24 (m,3H),2.27-2.24 (m,4H),2.45 (s,3H),2.91-2.79 (m,4H),3.27-3.24 (m,2H),3.12-3.08 (t,J=6.1 Hz,2H),7.20-7.19 (m,1H),7.28-7.27 (m,1H),8.18 (s,1H);13C NMR (CDCl,150 MHz,δ,ppm):21.3,21.6,29.5,31.7,35.6,37.6,40.6,46.7,47.3,126.5,126.7,127.4,130.6,132.6,134.3,137.2,138.0,145.8,161.0,164.6,198.3.ESI- MS:C2225NO [M + H]についての計算320.2009,検出320.1964.
【0073】
実施例5
式VIの合成のための一般的手順
【0074】
【化12】
【0075】
【化13】

式VI(a)
3,5,5-トリメチル-9-((フェニルスルホニル)メチル)-6,7-ジヒドロ-5H-ベンゾ[7]アヌレンの合成:
ACN:HO(1:1)中、2,9,9-トリメチル-5-メチレン-6,7,8,9-テトラヒドロ-5H-ベンゾ[7]アヌレン(0.25mmol、1.0当量)、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム(0.3mmol、1.2当量)、K(0.62mmol、2.5当量)、およびI(0.3mmol、1.2当量)の混合物を、室温で12時間、反応管(5mL)内に置いた。反応完了後、チオ硫酸ナトリウムの飽和溶液を反応混合物に加え、酢酸エチルで抽出した(10×3回)。一つに合わせた有機層を水で洗浄し、NaSO上で乾燥させ、真空蒸発させた。得られた粘性液体を、ヘキサン:EtOAc(80:20)の混合物を使用してシリカゲル(メッシュ60~120)でのカラムクロマトグラフィーによって精製して、所望の生成物を半固形物として得た(71mg、84%)。
H NMR (CDCl,600 MHz) δ 1.34 (s,6H),1.96-1.99 (t,J = 7.2 Hz,2H),2.10-2.12 (t,J = 6.9 Hz,2H),2.34 (s,3H),4.22 (s,2H),6.24-6.26 (t,J = 6.4 Hz,1H),6.95 (d,J = 7.8 Hz,1H),7.20 (d,J = 8.1 Hz,2H),7.51-7.53 (t,J = 7.8 Hz,2H),7.61-7.64 (m,1H),7.90 (d,J = 7.5 Hz,2H);13C NMR (CDCl,150 MHz) δ 21.3,27.0,30.8,38.0,46.5,63.7,126.4,126.5,128.1,128.3,128.4,129.0,133.4,134.4,136.6,137.0,139.7,148.0.ESI-MS:C2124S [M+H]についての計算341.1575,検出341.1565.
【0076】
式VI(b)
3,5,5-トリメチル-9-(トシルメチル)-6,7-ジヒドロ-5H-ベンゾ[7]アヌレンの合成:
【0077】
【化14】

ACN:HO(1:1)中、2,9,9-トリメチル-5-メチレン-6,7,8,9-テトラヒドロ-5H-ベンゾ[7]アヌレン(0.25mmol、1.0当量)、4-メチルベンゼンスルフィン酸ナトリウム(0.3mmol、1.2当量)、K(0.62mmol、2.5当量)、およびI(0.3mmol、1.2当量)の混合物を、室温で12時間、反応管(5mL)内に置いた。反応完了後、チオ硫酸ナトリウムの飽和溶液を反応混合物に加え、酢酸エチルで抽出した(10×3回)。一つに合わせた有機層を水で洗浄し、NaSO上で乾燥させ、真空蒸発させた。得られた粘性液体を、ヘキサン:EtOAc(80:20)の混合物を使用してシリカゲル(メッシュ60~120)でのカラムクロマトグラフィーによって精製し、所望の生成物を半固形物として得た(64mg、72%)。
1H NMR (CDCl,600 MHz) δ 1.35 (s,6H),1.97-2.00 (t,J = 7.2 Hz,2H),2.11-2.14 (m,2H),2.35 (s,3H),2.45 (s,3H),4.21 (s,2H),6.24-6.27 (t,J = 6.5 Hz,1H),6.96-6.97 (d,J = 7.3 Hz,1H),7.21-7.24 (t,J = 8.5Hz,2H),7.31-7.32 (d,J = 8.1 Hz,2H),7.78-7.79 (d,J = 8.2 Hz,2H);13C NMR (CDCl,150 MHz) δ 21.49,21.65,27.12,30.92,38.09,46.69,63.88,126.46,126.62,128.38,128.43,128.60,129.71,134.63,136.57,136.79,136.85,144.50,148.08.ESI-MS:C2226S [M+H]+についての計算355.1732,検出355.1720.
【0078】
式VI(c)
3,5,5-トリメチル-9-((メチルスルホニル)メチル)-6,7-ジヒドロ-5H-ベンゾ[7]アヌレンの合成
【0079】
【化15】

ACN:HO(1:1)中、2,9,9-トリメチル-5-メチレン-6,7,8,9-テトラヒドロ-5H-ベンゾ[7]アヌレン(0.25mmol、1.0当量)、メタンスルフィン酸ナトリウム(0.3mmol、1.2当量)、K(0.62mmol、2.5当量)、およびI(0.3mmol、1.2当量)の混合物を、室温で12時間、反応管(5mL)内に置いた。反応完了後、チオ硫酸ナトリウムの飽和溶液を反応混合物に加え、酢酸エチルで抽出した(10×3回)。一つに合わせた有機層を水で洗浄し、NaSO上で乾燥させ、真空蒸発させた。得られた粘性液体を、ヘキサン:EtOAc(60:40)の混合物を使用してシリカゲル(メッシュ60~120)でのカラムクロマトグラフィーによって精製し、所望の生成物を半固形物として得た(42mg、60%)。
H NMR (CDCl,600 MHz) δ 1.40 (s,6H),2.00-2.02 (t,J = 7.0 Hz,2H),2.20-2.23 (m,2H),2.37 (s,3H),2.71 (s,3H),4.19 (s,2H),6.40-6.42 (t,J = 6.2 Hz,1H),7.09 (d,J = 7.8 Hz,1H),7.27 (s,1H),7.32 (d,J = 7.8 Hz,1H);13C NMR (CDCl,150 MHz) δ 21.39,27.18,30.58,38.09,41.10,45.98,62.80,126.74,127.04,127.96,128.12,133.68,137.12,137.40,148.54.ESI-MS:C1622S [M+H]についての計算279.1419,検出279.1410.
【0080】
実施例6
式Vの合成のための一般的手順
【0081】
【化16】

3,5,5,10-テトラメチル-6,7-ジヒドロ-5H-ベンゾ[3,4]シクロへプタ[1,2-b]キノリン-12-オールの合成:
溶媒(1:1)中、3,5,5,10-テトラメチル-5,6,7,9,10,11-ヘキサヒドロ-12H-ベンゾ[3,4]シクロヘプタ[1,2-b]キノリン-12オン(1.0当量)、酸化剤(0.3mmol、2当量)の混合物を、12時間、反応管(5mL)内に置いた。反応混合物を周囲温度まで冷却した後、水を加え、酢酸エチルで抽出した(10×3回)。一つに合わせた有機層を水で洗浄し、NaSO上で乾燥させ、真空蒸発させた。得られた粘性液体を、ヘキサン:EtOAc(70:30)の混合物を使用してシリカゲル(メッシュ60~120)でのカラムクロマトグラフィーによって精製し、所望の生成物を得た。
【0082】
実験手順
I.PI3K(120y)に対する親和性および速度定数の決定
II.一般式I~VIのさまざまな化合物によるキナーゼPI3K(120y)の溶液アッセイにおける阻害を通じたPI3K(120y)阻害剤の親和性(KD/IC50)の決定
III.MAPKAPK2に対する親和性および速度定数の決定
IV.一般式I~VIのさまざまな化合物によるキナーゼMK2の溶液アッセイにおける阻害を通じたMK2阻害剤の親和性(IC50)の決定
【0083】
PI3K(120y)に対する親和性および速度定数の決定
PI3K(120y)について、固定化に好適なバッファーを見つけるために、固定化バッファーの探索を実行した。10mMの酢酸ナトリウムpH5.5のバッファーが固定化に最適であることを見出した。10μl/minの流量、1000秒の接触時間で、キナーゼ濃度5μg/mlを使用して、温度25℃でPI3K(120y)キナーゼの固定化を実行した。アミンカップリングにより、センサー表面CM5のフローセル4上に9191.2RUのキナーゼPI3K(120y)の固定化をうまく実現させることができた。
【0084】
固定化後、化合物とPI3K(120y)との結合に関する速度論的スクリーニングを、ビアコア・アッセイ・ハンドブック(Biacore Assay Handbook)に従って推奨されるプロトコルを用いて実行した(プロトコル:単一濃度の化合物を用いた速度論的スクリーニング、使用濃度:5%のDMSOを伴う1×PBS中50μM、ランニングバッファー:5%のDMSOを伴う1×PBS、温度:25℃、バッファーブランク:5%のDMSOを伴う1×PBS 使用ウィザード:Kinetics/Affinity)。5%のDMSOを伴う1×PBS中、50μM濃度で化合物Kを調製し、25℃で試料コンパートメント内に置いた。これらをフローセル1(参照-ブランク)および2(活性-キナーゼ固定化)に通して、25℃、30μl/minの流量でセンサー上を通過させた。Fc2(活性)、Fc1(参照)、Fc2-1(参照を引いたもの)について結合応答がリアルタイムで確認された。溶媒補正をDMSO(PBS中5%)について行った。データは、ビアコア(Biacore)のT200評価ソフトウェアv3.1を用いて解析し、1:1結合モデルを使用してフィッティングした。また、一般式Iの化合物について、詳細な速度論的特性評価を実行した。
【0085】
一般式IIの化合物は、図1図2、および表1に示されるとおり、有望な結合プロファイルおよび速度論的プロファイルを示した。図1は、PI3K(120y)への一般式IIの評価化合物の結合のオンレートおよびオフレートを図示している。解離速度定数kdに対して会合速度定数kaをプロットすると(ここでは対数目盛で)、親和性が対角線で表されるプロットが作成される。同一対角線上の化合物は、親和性が同じであるが速度論が異なる。図2は、PI3K(120y)への一般式IIの評価化合物の結合のオンレートとオフレートをグラフ表示したものである。
【0086】
表1は、PI3K(120y)への一般式Iの評価化合物の結合の数値(結合のオンレート、オフレート、親和性)を表す。KDは、結合の平衡定数をモル値で表す。
【0087】
【表1】
【0088】
PI3K(120y)への、選択した化合物(ピロロン縮合ベンゾシクロヘプテンである一般式IIを有する化合物)の結合に関する詳細な速度論的特性評価を、ビアコア・アッセイ・ハンドブックに準じて推奨されるプロトコルを用いて行った(プロトコル:シングル・サイクル・カイネティクス法による速度論的分析、使用濃度:5%のDMSOを伴う1×PBS中10、5、2.5、1.25、0.625μM、ランニングバッファー:5%のDMSOを伴う1×PBS、温度:25℃ バッファーブランク:5%のDMSOを伴う1×PBS、使用ウィザード:Kinetics/Affinity)。化合物(ピロロン縮合ベンゾシクロヘプテンである一般式IIを有する化合物)を、5%のDMSOを伴う1×PBS中、10μMの濃度に調製し、連続希釈して5、2.5、1.25、0.625μMの濃度とした。これらを25℃で試料コンパートメント内に置いた。シングル・サイクル・カイネティクス・インジェクション法を使用し、これらをフローセル1(参照-ブランク)と2(活性-キナーゼ固定化)に通して、25℃、30μl/minの流量でセンサー上を通過させた。Fc2(活性)、Fc1(参照)、Fc2-1(参照を引いたもの)について結合応答がリアルタイムで確認された。溶媒補正をDMSO(PBS中5%)について行った。データは、ビアコアのT200評価ソフトウェアv3.1を使用して解析した。データのフィッティングは1:1結合モデルを使用して行い、解離の平衡速度定数(KD)のみならず速度定数も決定している。
【0089】
一般式IIの化合物は、図3、および表2に提供されるとおり、IC50が2~2.5μMの範囲で、PI3K(120y)に対する有効な阻害可能性を示した。図3は、一般式IIの化合物(5、7、8、9、12、および16)によるPI3K(120y)の用量依存性の阻害を表す。表2:表は、グラフから得られた、PI3K(120y)に対する一般式Iの化合物の外挿IC50値を表す。
【0090】
【表2】
【0091】
実施例7
MK2の親和性および速度定数の決定
MK2について、固定化に好適なバッファーを見つけるために、固定化バッファーの探索を実行し、10mMの酢酸ナトリウムpH5.5のバッファーが固定化に最適であることを見出した。10μl/minの流量、1000秒の接触時間で、キナーゼ濃度10μg/mlを使用して、温度25℃でMK2キナーゼの固定化を実行した。アミンカップリングにより、センサー表面CM5のフローセル4上に11119.6RUのキナーゼMK2の固定化をうまく実現させることができた。
【0092】
固定化後、化合物とMK2との結合に関する速度論的スクリーニングを、ビアコア・アッセイ・ハンドブックに従って推奨されるプロトコルで実行した(プロトコル:単一濃度の化合物を用いた速度論的スクリーニング、使用濃度:5%のDMSOを伴う1×PBS中50μM、ランニングバッファー:5%のDMSOを伴う1×PBS、温度:25℃、バッファーブランク:5%のDMSOを伴う1×PBS 使用ウィザード:Kinetics/Affinity)。5%のDMSOを伴う1×PBS中、50μM濃度で化合物(ピロロン縮合ベンゾシクロヘプテンである一般式IIを有する化合物)を調製し、25℃で試料コンパートメント内に置いた。これらをフローセル3(参照-ブランク)および4(活性-キナーゼ固定化)に通して、25℃、30μl/minの流量でセンサー上を通過させた。Fc4(活性)、Fc3(参照)、Fc4-3(参照を引き算)について結合応答がリアルタイムで確認された。溶媒補正をDMSO(PBS中5%)について行った。データは、ビアコアのT200評価ソフトウェアv3.1を用いて解析し、フィッティングは、1:1結合モデルを使用して行った。
【0093】
一般式IIの化合物は、有望な結合プロファイルおよび速度論的プロファイルを示した。それらのうち、それらの結合プロファイルおよび速度論的プロファイルに基づいて、一般式IIの最も有望なリード化合物九つを、市販の一つのMK2阻害剤化合物(PF 3644022)とともに、さらなる溶液内阻害アッセイのために選択した。結果を、図4図5、および表3に示す。図4は、MK2への一般式IIの評価化合物の結合のオンレートおよびオフレートを図示する。解離速度定数kdに対して会合速度定数kaをプロットすると(ここでは対数目盛で)、親和性が対角線で表されるプロットが作成される。同一対角線上の化合物は、親和性が同じであるが速度論が異なる。図5は、MK2への一般式IIの評価化合物の結合のオンレートとオフレートをグラフ表示したものである。表3は、MK2に対する一般式IIの評価化合物の結合の数値(オンレート、オフレート、結合の親和性)を表す。KDは、結合の平衡定数をモル値で表す。
【0094】
【表3】
【0095】
MK2に結合する選択した化合物の詳細な速度論的特性評価を、ビアコア・アッセイ・ハンドブックで推奨されているプロトコルを用いて実行した(プロトコル:シングル・サイクル・カイネティクス法を使用する速度論的分析、使用濃度:5%のDMSOを伴う1×PBS中30、15、7.5、3.75、1.87μM、ランニングバッファー:5%のDMSOを伴う1×PBS、温度:25℃、バッファーブランク:5%のDMSOを伴う1×PBS、使用ウィザード:Kinetics/Affinity)。化合物を、5%DMSOを伴う1×PBS中、30μM濃度に調製し、連続希釈して15、7.5、3.75、1.87μMの濃度とした。これらを25℃で試料コンパートメント内に置いた。シングル・サイクル・カイネティクス・インジェクション法を使用し、これらをフローセル3(参照-ブランク)と4(活性-キナーゼ固定化)に通して、25℃、30μl/minの流量でセンサー上を通過させた。Fc4(活性)、Fc3(参照)、Fc4-3(参照を引いたもの)について結合応答がリアルタイムで観察された。溶媒補正をDMSO(PBS中5%)について行った。データは、ビアコアのT200評価ソフトウェアv3.1を使用して解析し、データのフィッティングは、1:1結合モデルを使用して行い、解離の平衡速度定数(KD)のみならず速度定数も決定した。
【0096】
一般式IIの化合物はMK2に対して有効な阻害能を示しており、それらのIC50は526~709nMの間であった。これらの値は、図6および表4に提供されるとおり、市販のMK2阻害剤のIC50値(585nM)と充分競合している。
【0097】
図6:グラフは、市販のMK2阻害剤PF 3644022とともに一般式II(1、3、6、8、12、13、14、15、および17)の化合物によるMK2の用量依存性の阻害を表す。表4は、グラフから得られた、MK2に対する一般式IIの化合物の外挿IC50値を表す。
【0098】
【表4】
【0099】
発明の利点
● ベンゾシクロヘプテンの主骨格は、天然の前駆体に由来する。
したがって、天然の前駆体を使用することで、化合物の合成のためのステップ数が削減される。
● 植物由来の前駆体を入手するコストは、その植物が自然界に豊富に存在するので非常に低く、よって、工程全体が経済的である。
● この工程はまた、分子の60~80%が天然の前駆体に由来し、合成の工程を通じて使用される分子は40~20%に過ぎないので、持続可能である。
● 一般式I-VIの化合物は、毒性が低い。
● 一般式I~VIの化合物は、PI3KおよびMK2関連疾患の治療に適用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】