(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-21
(54)【発明の名称】CD7を標的にするキメラ抗原受容体及びその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20231114BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20231114BHJP
A61K 35/15 20150101ALI20231114BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231114BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20231114BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20231114BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20231114BHJP
C07K 14/705 20060101ALN20231114BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20231114BHJP
C07K 19/00 20060101ALN20231114BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20231114BHJP
【FI】
C12N5/10
A61K35/17
A61K35/15
A61P35/00
A61P35/02
C12N15/13 ZNA
C12N15/62 Z
C07K14/705
C07K16/28
C07K19/00
C12N15/12
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023526562
(86)(22)【出願日】2021-10-29
(85)【翻訳文提出日】2023-05-01
(86)【国際出願番号】 CN2021127567
(87)【国際公開番号】W WO2022095802
(87)【国際公開日】2022-05-12
(31)【優先権主張番号】202011209352.X
(32)【優先日】2020-11-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523087364
【氏名又は名称】バイオヘン セラピューティクス リミテッド
【氏名又は名称原語表記】BIOHENG THERAPEUTICS LIMITED
【住所又は居所原語表記】Suite #4-210, Governors Square, 23 Lime Tree Bay Avenue, PO Box 32311, Grand Cayman KY1-1209 (KY)
(74)【代理人】
【識別番号】100146374
【氏名又は名称】有馬 百子
(72)【発明者】
【氏名】周 亜麗
(72)【発明者】
【氏名】姜 小燕
(72)【発明者】
【氏名】陳 功
(72)【発明者】
【氏名】任 江涛
(72)【発明者】
【氏名】賀 小宏
(72)【発明者】
【氏名】王 延賓
(72)【発明者】
【氏名】韓 露
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
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4C087AA01
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4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
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4H045BA10
4H045CA40
4H045DA50
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
抗CD7抗体を含む抗原結合領域を含むキメラ抗原受容体を発現し、内因性CD7、少なくとも1種類のTCR/CD3遺伝子及び少なくとも1種類のMHCクラスII関連遺伝子の発現が抑制され又はサイレンシングする改変免疫細胞を提供する。CD7発現に関する疾患の治療における前記改変免疫細胞の使用をさらに提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
改変免疫細胞であって、(1)抗CD7抗体を含む抗原結合領域を含むキメラ抗原受容体を発現し、(2)内因性CD7、少なくとも1種類のTCR/CD3遺伝子及び少なくとも1種類のMHCクラスII関連遺伝子の発現が抑制され又はサイレンシングすることを特徴とする改変免疫細胞。
【請求項2】
前記キメラ抗原受容体は、抗CD7抗体、膜貫通ドメイン及び細胞内シグナル伝達ドメインを含むことを特徴とする請求項1に記載の改変免疫細胞。
【請求項3】
前記抗CD7抗体は、それぞれ配列番号1、2及び3で示されるCDR-L1、CDR-L2及びCDR-L3と、配列番号4、5及び6で示されるCDR-H1、CDR-H2及びCDR-H3とを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の改変免疫細胞。
【請求項4】
前記キメラ受容体の抗原結合領域は、第2抗原を標的にする抗体又はその機能的断片をさらに含み、前記第2抗原が、TSHR、CD19、CD123、CD22、BAFF-R、CD30、CD171、CS-1、CLL-1、CD33、EGFRvIII、GD2、GD3、BCMA、GPRC5D、Tn Ag、PSMA、ROR1、FLT3、FAP、TAG72、CD38、CD44v6、CEA、EPCAM、B7H3、KIT、IL-13Ra2、メソテリン、IL-l lRa、PSCA、PRSS21、VEGFR2、LewisY、CD24、PDGFR-β、SSEA-4、CD20、AFP、Folate受容体α、ERBB2(Her2/neu)、MUC1、EGFR、CS1、CD138、NCAM、Claudin18.2、Prostase、PAP、ELF2M、Ephrin B2、IGF-I受容体、CAIX、LMP2、gploo、bcr-abl、チロシナーゼ、EphA2、Fucosyl GMl、sLe、GM3、TGS5、HMWMAA、o-アセチル-GD2、Folate受容体β、TEM1/CD248、TEM7R、CLDN6、GPRC5D、CXORF61、CD97、CD179a、ALK、ポリシアル酸、PLAC1、GloboH、NY-BR-1、UPK2、HAVCR1、ADRB3、PANX3、GPR20、LY6K、OR51E2、TARP、WT1、NY-ESO-1、LAGE-la、MAGE-A1、ポッドプロテイン、HPV E6、E7、MAGE Al、ETV6-AML、精子タンパク質17、XAGE1、Tie 2、MAD-CT-1、MAD-CT-2、Fos関連抗原1、p53、p53変異体、前立腺特異的タンパク質、サバイビン及びテロメラーゼ、PCTA-l/Galectin 8、MelanA/MARTl、Ras変異体、hTERT、肉腫転座ブレークポイント、ML-IAP、ERG(TMPRSS2 ETS融合遺伝子)、NA17、PAX3、アンドロゲン受容体、Cyclin Bl、MYCN、RhoC、TRP-2、CYP1B1、BORIS、SART3、PAX5、OY-TES 1、LCK、AKAP-4、SSX2、RAGE-1、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素、RU1、RU2、腸内カルボキシルエステラーゼ、mut hsp70-2、CD79a、CD79b、CD72、LAIR1、FCAR、LILRA2、CD300LF、CLEC12A、BST2、EMR2、LY75、GPC3、FCRL5、IGLL1、PD1、PDL1、PDL2、TGFβ、APRIL、NKG2D、及びそれらの任意の組み合わせから選択されることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の改変免疫細胞。
【請求項5】
前記キメラ抗原受容体は、抗CD7抗体及び抗CD19抗体を含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の改変免疫細胞。
【請求項6】
前記膜貫通ドメインは、TCRα鎖、TCRβ鎖、TCRγ鎖、TCRδ鎖、CD3ζサブユニット、CD3εサブユニット、CD3γサブユニット、CD3δサブユニット、CD45、CD4、CD5、CD8α、CD9、CD16、CD22、CD33、CD28、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137及びCD154等のタンパク質の膜貫通ドメインから選択されることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の改変免疫細胞。
【請求項7】
前記細胞内シグナル伝達ドメインは、FcRγ、FcRβ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD3ζ、CD22、CD79a、CD79b及びCD66d等のタンパク質の細胞内領域から選択されることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の改変免疫細胞。
【請求項8】
前記キメラ抗原受容体は、TLR1、TLR2、TLR3、TLR4、TLR5、TLR6、TLR7、TLR8、TLR9、TLR10、CARD11、CD2、CD7、CD8、CD18(LFA-1)、CD27、CD28、CD30、CD40、CD54(ICAM)、CD83、CD134(OX40)、CD137(4-1BB)、CD270(HVEM)、CD272(BTLA)、CD276(B7-H3)、CD278(ICOS)、CD357(GITR)、DAP10、DAP12、LAT、NKG2C、SLP76、PD-1、LIGHT、TRIM、ZAP70及びそれらの組み合わせなどのタンパク質の細胞内領域から選択される1つ又は複数の共刺激ドメインをさらに含むことを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の改変免疫細胞。
【請求項9】
前記TCR/CD3遺伝子は、TRAC、TRBC、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD3ζ及びそれらの組み合わせから選択されることを特徴とする請求項1に記載の改変免疫細胞。
【請求項10】
前記MHCクラスII関連遺伝子は、HLA-DPA、HLA-DQ、HLA-DRA、RFX5、RFXAP、RFXANK、CIITA及びそれらの組み合わせから選択されることを特徴とする請求項1に記載の改変免疫細胞。
【請求項11】
前記改変免疫細胞の内因性CD7と、TRAC及びTRBCから選択される少なくとも1種類のTCR/CD3遺伝子と、RFX5、RFXAP、RFXANK及びCIITAから選択される少なくとも1種類のMHCクラスII遺伝子との発現は、抑制され又はサイレンシングすることを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載の改変免疫細胞。
【請求項12】
前記改変免疫細胞は、1つ又は複数のNK阻害性リガンド、膜貫通ドメイン及び共刺激ドメインを含むNK阻害性分子をさらに発現することを特徴とする請求項1から11のいずれか一項に記載の改変免疫細胞。
【請求項13】
前記NK阻害性リガンドは、NK阻害性受容体を標的にする抗体又はその機能的断片であり、前記NK阻害性受容体は、NKG2A、NKG2B、CD94、LIR1、LIR2、LIR3、LIR5、LIR8、KIR2DL1、KIR2DL2/3、KIR2DL5A、KIR2DL5B、KIR3DL1、KIR3DL2、KIR3DL3、CEACAM1、LAIR1、NKR-P1B、NKR-P1D、PD-1、TIGIT、CD96、TIM3、LAG3、SIGLEC7、SIGLEC9、Ly49A、Ly49C、Ly49F、Ly49G1、Ly49G4及びKLRG1から選択されることを特徴とする請求項12に記載の改変免疫細胞。
【請求項14】
前記NK阻害性リガンドは、HLA-E、HLA-F、HLA-G、カドヘリン、コラーゲン、OCIL、シアル酸、PD-L1/PD-L2、CTLA-4、CD155、CD112、CD113、Gal-9、FGL1、又はそれらに含まれるNK阻害性受容体結合領域であることを特徴とする請求項12に記載の改変免疫細胞。
【請求項15】
前記NK阻害性分子は、CD3ζ細胞内領域を細胞内シグナル伝達ドメインとしてさらに含むことを特徴とする請求項12に記載の改変免疫細胞。
【請求項16】
前記改変免疫細胞は、T細胞、マクロファージ、樹状細胞、単核細胞、NK細胞又はNKT細胞であることを特徴とする請求項1から15のいずれか一項に記載の改変免疫細胞。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか一項に記載の改変免疫細胞と、多種薬学的に許容される賦形剤とを含むことを特徴とする医薬組成物。
【請求項18】
CD7発現に関する疾患を治療するための薬剤の調製における、請求項1から16のいずれか一項に記載の改変免疫細胞又は請求項17に記載の医薬組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は免疫治療分野に属する。より具体的には、本発明は、CD7を標的にするキメラ抗原受容体、及び疾患の治療におけるキメラ抗原受容体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、癌免疫療法の技術が急速に発展し、特にキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)に関する免疫療法は、新しいタイプの養子免疫療法技術として、さまざまな固形腫瘍および血液腫瘍の治療において非常に顕著な臨床効果を示している。
【0003】
CAR-T細胞の構築に使用されるT細胞の供給源によって、自家CAR-T細胞と同種異系CAR-T細胞(ユニバーサルCAR-Tとも称される)に分けることができる。自家CAR-T細胞の利点としては、最初のT細胞がCAR-T療法を受ける患者自身に由来するため、免疫拒絶のリスクがないことであるが、その欠点も非常に明瞭であり、即ちコストが高く準備期間が長い。故に、ユニバーサルCAR-T細胞の開発に注目する研究がますます増えている。ユニバーサルCAR-Tは、健康なドナー末梢血から分離されたT細胞から調製されることができ、患者が治療を待つ時間を大幅に短縮できる。さらに、健康なドナーから得られたT細胞は、患者由来のT細胞よりも、活力と機能が優れ、CAR細胞の感染率を高め、治療効果を向上させることができる。
【0004】
CD7は細胞表面タンパク質であり、分子量が約40kDaであり、免疫グロブリンスーパーファミリーの一つである。CD7は、ほとんどのT細胞、NK細胞、骨髄細胞、T細胞急性リンパ芽球性白血病/リンパ腫、急性骨髄芽球性白血病及び慢性骨髄性白血病においていずれも発現される。報道によると、CD7分子は、そのリガンドK12/SECTM1との結合により、T細胞活性化期間において共刺激シグナルの作用を果たす。また、マウスT前駆細胞におけるCD7分子を破壊すると、相変わらず正常のT細胞発生とホメオスタシスが生じるが、これは、CD7は、T細胞の発生及び機能に重大な影響を与えることがなく、これによってT細胞急性リンパ芽球性白血病(T-ALL)の治療に非常に適当な治療標的となることが表明される。実際には、CD7は、白血病及びリンパ腫を治療する細胞毒性分子の標的として広く研究されている。
【0005】
CD7に対するCAR-T療法、特にユニバーサルCAR-T療法は、まだ非常に限られている。故に、本発明は、CD7を標的にする効率的なユニバーサルCAR-T細胞、及び疾患の治療における使用を提供することを目的とする。
【発明の概要】
【0006】
第1態様で、本発明は、(1)抗CD7抗体を含む抗原結合領域を含むキメラ抗原受容体を発現し、(2)内因性CD7、少なくとも1種類のTCR/CD3遺伝子及び少なくとも1種類のMHCクラスII関連遺伝子の発現が抑制され又はサイレンシングすることを特徴とする改変免疫細胞を提供する。
【0007】
一実施形態において、前記キメラ抗原受容体は、CD7抗体、膜貫通ドメイン及び細胞内シグナル伝達ドメインを含む。
【0008】
一実施形態において、前記抗CD7抗体は、それぞれ配列番号1、2及び3で示されるCDR-L1、CDR-L2及びCDR-L3と、配列番号4、5及び6で示されるCDR-H1、CDR-H2及びCDR-H3とを含む。好ましい一実施形態において、前記抗CD7抗体は、配列番号7、10、13、16及び19から選択されるもので示されるアミノ酸配列に少なくとも90%の同一性を有する軽鎖可変領域と、配列番号8、11、14、17及び20から選択されるもので示されるアミノ酸配列に少なくとも90%の同一性を有する重鎖可変領域と、を含む。好ましい一実施形態において、前記抗CD7抗体のアミノ酸配列は、配列番号9、12、15、18及び21から選択される。
【0009】
一実施形態において、前記キメラ受容体の抗原結合領域は、第2抗原を標的にする抗体をさらに含み、前記第2抗原が、TSHR、CD19、CD123、CD22、BAFF-R、CD30、CD171、CS-1、CLL-1、CD33、EGFRvIII、GD2、GD3、BCMA、GPRC5D、Tn Ag、PSMA、ROR1、FLT3、FAP、TAG72、CD38、CD44v6、CEA、EPCAM、B7H3、KIT、IL-13Ra2、メソテリン、IL-l lRa、PSCA、PRSS21、VEGFR2、LewisY、CD24、PDGFR-β、SSEA-4、CD20、AFP、Folate受容体α、ERBB2(Her2/neu)、MUC1、EGFR、CS1、CD138、NCAM、Claudin18.2、Prostase、PAP、ELF2M、Ephrin B2、IGF-I受容体、CAIX、LMP2、gploo、bcr-abl、チロシナーゼ、EphA2、Fucosyl GMl、sLe、GM3、TGS5、HMWMAA、o-アセチル-GD2、Folate受容体β、TEM1/CD248、TEM7R、CLDN6、GPRC5D、CXORF61、CD97、CD 179a、ALK、ポリシアル酸、PLAC1、GloboH、NY-BR-1、UPK2、HAVCR1、ADRB3、PANX3、GPR20、LY6K、OR51E2、TARP、WT1、NY-ESO-1、LAGE-la、MAGE-A1、ポッドプロテイン、HPV E6、E7、MAGE Al、ETV6-AML、精子タンパク質17、XAGE1、Tie 2、MAD-CT-1、MAD-CT-2、Fos関連抗原1、p53、p53変異体、前立腺特異的タンパク質、サバイビン及びテロメラーゼ、PCTA-l/Galectin 8、MelanA/MARTl、Ras変異体、hTERT、肉腫転座ブレークポイント、ML-IAP、ERG(TMPRSS2ETS融合遺伝子)、NA17、PAX3、アンドロゲン受容体、Cyclin Bl、MYCN、RhoC、TRP-2、CYP1B1、BORIS、SART3、PAX5、OY-TES 1、LCK、AKAP-4、SSX2、RAGE-1、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素、RU1、RU2、腸内カルボキシルエステラーゼ、mut hsp70-2、CD79a、CD79b、CD72、LAIR1、FCAR、LILRA2、CD300LF、CLEC12A、BST2、EMR2、LY75、GPC3、FCRL5、IGLL1、PD1、PDL1、PDL2、TGFβ、APRIL、NKG2D、及びそれらの任意の組み合わせから選択される。より好ましくは、前記第2抗原を標的にする抗体は、CD19を標的にする抗体である。好ましい一実施形態において、前記抗CD19抗体は、配列番号52及び55から選択されるもので示されるアミノ酸配列に少なくとも90%の同一性を有する軽鎖可変領域と、配列番号53及び56から選択されるもので示されるアミノ酸配列に少なくとも90%の同一性を有する重鎖可変領域と、を含む。好ましい一実施形態において、前記抗CD19抗体のアミノ酸配列は、配列番号54及び57から選択される。
【0010】
一実施形態において、前記膜貫通ドメインは、TCRα鎖、TCRβ鎖、TCRγ鎖、TCRδ鎖、CD3ζサブユニット、CD3εサブユニット、CD3γサブユニット、CD3δサブユニット、CD45、CD4、CD5、CD8α、CD9、CD16、CD22、CD33、CD28、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137及びCD154等のタンパク質の膜貫通ドメインから選択される。好ましくは、膜貫通ドメインは、CD8α、CD4及びCD28の膜貫通ドメインから選択される。
【0011】
一実施形態において、前記細胞内シグナル伝達ドメインは、FcRγ、FcRβ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD3ζ、CD22、CD79a、CD79b及びCD66dなどのタンパク質の細胞内領域から選択される。好ましくは、前記細胞内シグナル伝達ドメインはCD3ζ細胞内領域を含む。
【0012】
一実施形態において、前記キメラ抗原受容体は、TLR1、TLR2、TLR3、TLR4、TLR5、TLR6、TLR7、TLR8、TLR9、TLR10、CARD11、CD2、CD7、CD8、CD18(LFA-1)、CD27、CD28、CD30、CD40、CD54(ICAM)、CD83、CD134(OX40)、CD137(4-1BB)、CD270(HVEM)、CD272(BTLA)、CD276(B7-H3)、CD278(ICOS)、CD357(GITR)、DAP10、DAP12、LAT、NKG2C、SLP76、PD-1、LIGHT、TRIM、ZAP70及びそれらの組み合わせなどのタンパク質の細胞内領域から選択される1つ又は複数の共刺激ドメインをさらに含む。好ましくは、前記共刺激ドメインは、CD27、CD28、CD134、CD137又はCD278の細胞内領域又はそれらの組み合わせである。
【0013】
一実施形態において、前記TCR/CD3遺伝子は、TRAC、TRBC、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD3ζ及びそれらの組み合わせから選択される。
【0014】
一実施形態において、前記MHCクラスII関連遺伝子は、HLA-DPA、HLA-DQ、HLA-DRA、RFX5、RFXAP、RFXANK、CIITA及びそれらの組み合わせから選択され、好ましくは、RFX5、RFXAP、RFXANK、CIITA及びそれらの組み合わせから選択される。
【0015】
好ましい一実施形態において、本発明に記載の改変免疫細胞は、内因性CD7と、TRAC及びTRBCから選択される少なくとも1種類のTCR/CD3遺伝子と、RFX5、RFXAP、RFXANK及びCIITAから選択される少なくとも1種類のMHCクラスII遺伝子とを含み、それらの発現が抑制され又はサイレンシングする。より好ましくは、本発明に記載の改変免疫細胞は、内因性CD7と、TRAC及びTRBCから選択される少なくとも1種類のTCR/CD3遺伝子と、RFX5とを含み、それらの発現が抑制され又はサイレンシングする。
【0016】
一実施形態において、前記改変免疫細胞は、1つ又は複数のNK阻害性リガンド、膜貫通ドメイン及び共刺激ドメインを含むNK阻害性分子をさらに発現する。
【0017】
一実施形態において、前記NK阻害性リガンドは、NK阻害性受容体を標的にする抗体であり、前記NK阻害性受容体は、NKG2/CD94成分(例えばNKG2A、NKG2B、CD94)と、キラー細胞Ig様受容体(KIR)ファミリーメンバー(例えばKIR2DL1、KIR2DL2/3、KIR2DL5A、KIR2DL5B、KIR3DL1、KIR3DL2及びKIR3DL3)と、白血球Ig様受容体(LIR)ファミリーメンバー(例えばLIR1、LIR2、LIR3、LIR5及びLIR8)と、NK細胞受容体タンパク質1(NKR-P1)ファミリーメンバー(例えばNKR-P1B及びNKR-P1D)と、免疫チェックポイント受容体(例えばPD-1、TIGIT及びCD96、TIM3、LAG3)と、癌胎児性抗原関連細胞接着分子1(CEACAM1)と、シアル酸結合免疫グロブリン様レクチン(SIGLEC)ファミリーメンバー(例えばSIGLEC7及びSIGLEC9)と、白血球関連免疫グロブリン様受容体1(LAIR1)と、Ly49ファミリーメンバー(例えばLy49A、Ly49C、Ly49F、Ly49G1及びLy49G4)と、キラー細胞レクチン様受容体G1(KLRG1)から選択される。好ましくは、前記NK阻害性受容体は、NKG2A、NKG2B、CD94、LIR1、LIR2、LIR3、LIR5、LIR8、KIR2DL1、KIR2DL2/3、KIR2DL5A、KIR2DL5B、KIR3DL1、KIR3DL2、KIR3DL3、CEACAM1、LAIR1、NKR-P1B、NKR-P1D、PD-1、TIGIT、CD96、TIM3、LAG3、SIGLEC7、SIGLEC9、Ly49A、Ly49C、Ly49F、Ly49G1、Ly49G4及びKLRG1から選択される。より好ましくは、前記NK阻害性受容体は、NKG2A、NKG2B、CD94、LIR1、LIR2、LIR3、KIR2DL1、KIR2DL2/3、KIR3DL1、CEACAM1、LAIR1及びKLRG1から選択される。さらに、より好ましくは、前記NK阻害性受容体は、NKG2A、NKG2B、LIR1、KIR2DL1、KIR2DL2/3、KIR3DL1、CEACAM1、LAIR1及びKLRG1から選択される。
【0018】
一実施形態において、前記NK阻害性リガンドは、NK阻害性受容体の天然リガンド、又はそれに含まれるNK阻害性受容体結合領域である。好ましくは、前記NK阻害性リガンドは、HLA-E、HLA-F、HLA-G、カドヘリン、コラーゲン、OCIL、シアル酸、免疫チェックポイントリガンド(例えばPD-L1/PD-L2、CTLA4、CD155、CD112、CD113、Gal-9、FGL1等)、及びそれらに含まれるNK阻害性受容体結合領域から選択される。より好ましくは、前記NK阻害性リガンドは、HLA-E、HLA-F、HLA-G、カドヘリン、コラーゲン、OCIL、シアル酸、PD-L1/PD-L2、CTLA-4、CD155、CD112、CD113、Gal-9、FGL1、又はそれらに含まれるNK阻害性受容体結合領域から選択され、さらに好ましくは、HLA-E、HLA-F、HLA-G、カドヘリン、PD-L1、PD-L2、又はそれらに含まれるNK阻害性受容体結合領域から選択される。好ましい一実施形態において、前記NK阻害性リガンドは、HLA-E細胞外領域、HLA-G細胞外領域、E-カドヘリン細胞外領域、PD-L1細胞外領域及びPD-L2細胞外領域から選択される。好ましい一実施形態において、前記NK阻害性リガンドは、E-カドヘリン細胞外領域であり、EC1及びEC2を含み、より好ましくはEC1、EC2、EC3、EC4及びEC5を含む。好ましい一実施形態において、前記NK阻害性リガンドは、PD-L1又はPD-L2の細胞外領域である。好ましい一実施形態において、前記NK阻害性リガンドは、HLA-E細胞外領域である。好ましい一実施形態において、前記NK阻害性リガンドは、HLA-G細胞外領域である。
【0019】
一実施形態において、前記NK阻害性分子は、CD3ζ細胞内領域を細胞内シグナル伝達ドメインとしてさらに含む。
【0020】
一実施形態において、前記免疫細胞は、T細胞、マクロファージ、樹状細胞、単核細胞、NK細胞又はNKT細胞である。好ましくは、前記改変免疫細胞は、例えばCD4+/CD8+T細胞、CD4+ヘルパーT細胞(例えばTh1及びTh2細胞)、CD8+T細胞(例えば、細胞毒性T細胞)、腫瘍浸潤細胞、メモリーT細胞、ナイーブT細胞、γδ-T細胞、αβ-T細胞のようなT細胞である。
【0021】
一態様で、本発明は、本発明に記載の改変免疫細胞を活性剤として含有し、多種薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物をさらに提供する。
【0022】
一態様で、本発明は、被験者に対して本発明に係る改変免疫細胞又は医薬組成物を有効量だけ投与することを含む、CD7発現に関する疾患を有する被験者を治療する方法を更に提供する。故に、本発明は、CD7発現に関する疾患を治療するための薬剤の調製における改変免疫細胞の使用をさらにカバーする。
【0023】
別段の指示がない限り、本明細書で使用されるすべての科学技術用語は、当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。
キメラ抗原受容体
【0024】
第1態様で、本発明は、(1)抗CD7抗体を含む抗原結合領域を含むキメラ抗原受容体を発現し、(2)内因性CD7、少なくとも1種類のTCR/CD3遺伝子及び少なくとも1種類のMHCクラスII関連遺伝子の発現が抑制され又はサイレンシングすることを特徴とする改変免疫細胞を提供する。
【0025】
本明細書で使用されるように、「キメラ抗原受容体」又は「CAR」という用語とは、人工的に構築されたハイブリッドペプチドを指し、このハイブリッドペプチドは一般的に抗原結合領域(例えば抗体又はその抗原結合部分)、膜貫通ドメイン、任意の共刺激ドメイン及び細胞内シグナル伝達ドメインを含み、各ドメインの間にリンカーにより連結される。CARは、抗体の抗原結合特性を利用してMHC制限なしにT細胞と他の免疫細胞の特異性及び反応性を選択されたターゲットに新たにリダイレクトすることができる。非MHC制限抗原認識は、CARを発現する免疫細胞に抗原処理に関連しない抗原認識能力を付与するため、腫瘍逃避の主要なメカニズムを迂回する。
【0026】
一実施形態において、本発明で提供される改変免疫細胞が発現するCARは、CD7を標的にする抗体又はその抗原結合断片、膜貫通ドメイン及び細胞内シグナル伝達ドメインを含む。
【0027】
本明細書で使用されるように、「抗体」という用語は、当業者が理解する最も広い意味を有し、且つモノクローナル抗体(インタクト抗体が含まれる)、ポリクローナル抗体、多価抗体、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、及び所望の生物学的活性を示すことができる1つまたは複数のCDR配列を持つ抗体断片または合成ポリペプチドを含む。本発明に記載の抗体は、任意種類(例えばIgG、IgE、IgM、IgD、IgA等)又はサブクラス(例えばIgG1、IgG2、IgG2a、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2等)であってもよい。本発明の抗体は、組換え抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、マウス抗体、キメラ抗体及びその抗原結合部分も含む。
【0028】
本明細書で使用されるように、「抗体断片」又は「抗原結合部分」という用語とは、インタクト抗体の一部を指し、一般的にインタクト抗体の抗原結合部位を含み、これによって抗原に結合される能力を保留する。本発明における抗体断片の実例は、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fd断片、Fd′、Fv断片、scFv、ジスルフィド結合によるFv(sdFv)、抗体の重鎖可変領域(VH)又は軽鎖可変領域(VL)、線形抗体、2つの抗原結合部位を有する「ダブルボディ」、単一ドメイン抗体、ナノ抗体、前記抗原の天然リガンド又はその機能的断片等を含むが、それらに限定されない。故に、本発明の「抗体」は、上記定義した抗体の抗体断片又は抗原結合部分をカバーする。
【0029】
一実施形態において、本発明の抗CD7抗体は、抗CD7 scFvである。「シングルチェーン抗体」と「scFv」は本明細書で交互に使用可能で、抗体重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)がリンカーにより連結された抗体である。リンカーの最適長さ及び又はアミノ酸成分は、需要に応じて特定されてもよい。リンカーの長さは、scFvの可変領域の折り畳み及び相互作用の状況に明らかに影響をもたらす。実際に、短いリンカー(例えば5~10個のアミノ酸にある)を使用すると、鎖内折り畳みを防止することができる。リンカーの大きさ及び組成の選択について、例えば、Hollinger等,1993Proc Natl Acad.Sci.U.S.A.90:6444-6448、アメリカ専利出願公報番号2005/0100543、2005/0175606、2007/0014794、及びPCT公報番号WO2006/020258及びWO2007/024715を参照し、その全文が引用により本明細書に記載される。scFvは、例えばVH-リンカー-VL又はVL-リンカー-VHのような、任意の順序で連結されるVH及びVLを含んでもよい。
【0030】
一実施形態において、本発明のCARは、それぞれ配列番号1、2、及び3で示されるCDR-L1、CDR-L2及びCDR-L3と、配列番号4、5及び6で示されるCDR-H1、CDR-H2及びCDR-H3とを含む、CD7を標的にする抗体を含む。好ましくは、本発明のCD7を標的にする抗体は、配列番号7、10、13、16及び19から選択されるもので示されるアミノ酸配列に少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%、99%又は100%の配列同一性を有する軽鎖可変領域と、配列番号8、11、14、17及び20から選択されるもので示されるアミノ酸配列に少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%、99%又は100%の配列同一性を有する重鎖可変領域と、を含む。より好ましくは、本発明のキメラ抗原受容体は、抗CD7抗体を含み、そのアミノ酸配列が配列番号9、12、15、18又は21で示される。
【0031】
一実施形態において、本発明のキメラ抗原受容体に含まれる抗原結合領域は、CD7を標的にする抗体のほかに、第2抗原を標的にする抗体をさらに含み、前記第2抗原が、TSHR、CD19、CD123、CD22、BAFF-R、CD30、CD171、CS-1、CLL-1、CD33、EGFRvIII、GD2、GD3、BCMA、GPRC5D、Tn Ag、PSMA、ROR1、FLT3、FAP、TAG72、CD38、CD44v6、CEA、EPCAM、B7H3、KIT、IL-13Ra2、メソテリン、IL-l lRa、PSCA、PRSS21、VEGFR2、LewisY、CD24、PDGFR-β、SSEA-4、CD20、AFP、Folate受容体α、ERBB2(Her2/neu)、MUC1、EGFR、CS1、CD138、NCAM、Claudin18.2、Prostase、PAP、ELF2M、Ephrin B2、IGF-I受容体、CAIX、LMP2、gploo、bcr-abl、チロシナーゼ、EphA2、Fucosyl GMl、sLe、GM3、TGS5、HMWMAA、o-アセチル-GD2、Folate受容体β、TEM1/CD248、TEM7R、CLDN6、GPRC5D、CXORF61、CD97、CD179a、ALK、ポリシアル酸、PLAC1、GloboH、NY-BR-1、UPK2、HAVCR1、ADRB3、PANX3、GPR20、LY6K、OR51E2、TARP、WT1、NY-ESO-1、LAGE-la、MAGE-A1、ポッドプロテイン、HPV E6、E7、MAGE Al、ETV6-AML、精子タンパク質17、XAGE1、Tie 2、MAD-CT-1、MAD-CT-2、Fos関連抗原1、p53、p53変異体、前立腺特異的タンパク質、サバイビン及びテロメラーゼ、PCTA-l/Galectin 8、MelanA/MARTl、Ras変異体、hTERT、肉腫転座ブレークポイント、ML-IAP、ERG(TMPRSS2ETS融合遺伝子)、NA17、PAX3、アンドロゲン受容体、Cyclin Bl、MYCN、RhoC、TRP-2、CYP1B1、BORIS、SART3、PAX5、OY-TES 1、LCK、AKAP-4、SSX2、RAGE-1、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素、RU1、RU2、腸内カルボキシルエステラーゼ、mut hsp70-2、CD79a、CD79b、CD72、LAIR1、FCAR、LILRA2、CD300LF、CLEC12A、BST2、EMR2、LY75、GPC3、FCRL5、IGLL1、PD1、PDL1、PDL2、TGFβ、APRIL、NKG2D、及びそれらの任意の組み合わせから選択される。好ましくは、前記腫瘍抗原は、CD19、CD20、CD22、CD30、CD33、CD38、CD123、CD138、CD171、MUC1、AFP、Folate受容体α、CEA、PSCA、PSMA、Her2、EGFR、IL13Ra2、GD2、NKG2D、EGFRvIII、CS1、BCMA、メソテリン及びそれらの任意の組み合わせから選択される。当分野で既知される上記腫瘍抗原を標的にする抗体はいずれも本発明に適用可能である。
【0032】
好ましい一実施形態において、前記第2抗原を標的にする抗体は、CD19を標的にする抗体であり、配列番号52又は55で示されるアミノ酸配列に少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%、99%又は100%の配列同一性を有する軽鎖可変領域配列と、配列番号53又は56で示されるアミノ酸配列に少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%、99%又は100%の配列同一性を有する重鎖可変領域配列と、を含む。より好ましくは、本発明のキメラ抗原受容体は、CD7を標的にする抗体と、CD19を標的にする抗体とを含み、前記CD19を標的にする抗体のアミノ酸配列は配列番号54又は57で示される。
【0033】
「機能的バリアント」又は「機能的断片」という用語とは、基本的に親アミノ酸配列を含むという意味であるが、この親アミノ酸配列に比べて少なくとも1つのアミノ酸修飾(置換、欠失、挿入など)のバリアントを含有し、条件として前記バリアントが親アミノ酸配列の生物活性を保留することである。一実施形態において、前記アミノ酸修飾好ましくは保守的な修飾である。
【0034】
本明細書で使用されるように、「保守的な修飾」という用語とは、当該アミノ酸配列を含有する抗体又は抗体断片の結合特徴を明らかに影響又は変更しないアミノ酸修飾を指す。これらの保守的な修飾はアミノ酸置換、添加及び欠失を含む。修飾は、当分野での既知の標準技術、例えば部位特異的変異導入及びPCR仲介の変異導入により、本発明のキメラ抗原受容体に導入される。保守的なアミノ酸置換は、アミノ酸残基は、類似する側鎖を有するアミノ酸残基に置換されることである。類似する側鎖を有するアミノ酸残基ファミリーは当分野で定義され、塩基性側鎖(例えばリジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えばアスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えばグリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えばアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、ホルマジンチオニン、トリプトファン)、β-分岐側鎖(例えばスレオニン、バリン、イソロイシン)及び芳香族側鎖(例えばチロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を含む。保守的な修飾は、例えば極性、電荷、溶解度、疎水性、親水性及び/又は係わる残基の両親媒性の類似性に応じて選択されてもよい。
【0035】
従って、「機能的バリアント」又は「機能的断片」は、親アミノ酸配列に少なくとも75%、好ましくは少なくとも76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の配列同一性を有し、且つ親アミノ酸の生物活性、例えば結合活性を保留する。
【0036】
本明細書で使用されるように、「配列同一性」という用語は、2つの(ヌクレオチド又はアミノ酸)配列が比較において同一位置で同じ残基を有する度合を表し、且つ一般的にパーセンテージとして表される。好ましくは、同一性は、比較される配列の全体長さで決められる。従って、完全に同じ配列を有する2つのコピーは、100%の同一性を有する。当業者は、いくつかのアルゴリズムが標準パラメータを用いて配列同一性を特定することに用いられることができ、例えばBlast(Altschul等(1997)Nucleic Acids Res.25:3389-3402)、Blast2(Altschul等(1990)J.Mol.Biol.215:403-410)、Smith-Waterman(Smith等(1981)J.Mol.Biol.147:195-197)及びClustalWであると認識している。
【0037】
本明細書で使用されるように、「膜貫通ドメイン」という用語とは、キメラ抗原受容体を免疫細胞(例えばリンパ球、NK細胞又はNKT細胞)表面で発現させ、且つ免疫細胞の標的細胞に対する細胞応答をガイドするポリペプチド構造を指す。膜貫通ドメインは、天然又は合成のものであってもよいし、任意の膜結合タンパク質又は膜貫通タンパク質に由来してもよい。キメラ抗原受容体と標的抗原とが結合される場合に、膜貫通ドメインはシグナル伝達を行うことができる。特に本発明における膜貫通ドメインに適用され、例えばTCRα鎖、TCRβ鎖、TCRγ鎖、TCRδ鎖、CD3ζサブユニット、CD3εサブユニット、CD3γサブユニット、CD3δサブユニット、CD45、CD4、CD5、CD8α、CD9、CD16、CD22、CD33、CD28、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD154及びその機能的断片に由来してもよい。或いは、膜貫通ドメインは合成したものであってもよく、且つ主に疎水性残基、例えばロイシンとバリンを含んでもよい。好ましくは、前記膜貫通ドメインは、CD8α鎖又はCD28に由来し、配列番号22又は24で示されるアミノ酸配列に少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%又は99%又は100%の配列同一性を有し、又はそのコード配列が配列番号23又は25で示されるヌクレオチド配列に少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%又は99%又は100%の配列同一性を有する。
【0038】
一実施形態において、本発明のキメラ抗原受容体は、抗原結合領域と膜貫通ドメインとの間に位置するヒンジ領域を含んでもよい。本明細書で使用されるように、「ヒンジ領域」という用語は、一般的に膜貫通ドメインを抗原結合領域に連結するように機能する任意のオリゴペプチドまたはポリペプチドを指す。具体的には、ヒンジ領域は、抗原結合領域へより大きい柔軟性とアクセス性を提供するためのものである。ヒンジ領域は、最大300個のアミノ酸、好ましくは10~100個のアミノ酸、最も好ましくは25~50個のアミノ酸を含んでもよい。ヒンジ領域は、全部又は一部が天然分子に由来し、例えば全部又は一部がCD8、CD4又はCD28の細胞外領域に由来し、又は全部又は一部が抗体定常領域に由来してもよい。或いは、ヒンジ領域は、自然に発生するヒンジ配列に対応する合成配列であってもよいし、又は完全に合成したヒンジ配列であってもよい。好ましい実施形態において、前記ヒンジ領域は、CD8α鎖、CD28、FcγRIIIα受容体、IgG4又はIgG1のヒンジ領域部分を含み、より好ましくはCD8α、CD28又はIgG4からのヒンジであり、配列番号38、40又は42で示されるアミノ酸配列に少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%又は99%又は100%の配列同一性を有し、或いは、そのコード配列が配列番号39、41又は43で示されるヌクレオチド配列に少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%又は99%又は100%の配列同一性を有する。
【0039】
本明細書で使用されるように、「細胞内シグナル伝達ドメイン」という用語とは、エフェクター機能シグナルを形質導入し、細胞が所定機能を行うように指導するタンパク質部分を指す。細胞内シグナル伝達ドメインは、抗原結合領域が抗原に結合された一次細胞内シグナル伝達を担うことによって、免疫細胞及び免疫反応の活性化を招く。言い換えると、細胞内シグナル伝達ドメインは、CARを発現する免疫細胞の正常のエフェクター機能の少なくとも1種類を担う。例えば、T細胞のエフェクター機能は、細胞溶解活性又はヘルパー活性であってもよく、サイトカインの分泌を含む。
【0040】
一実施形態において、本発明のキメラ抗原受容体に含まれる細胞内シグナル伝達ドメインは、抗原受容体結合後に一緒に機能して一次シグナル伝達を誘導するT細胞受容体及び共受容体の細胞質配列と、これらの配列の任意のデリバティブ又はバリアントと、同一又は類似の機能を有する任意の合成配列であってもよい。細胞内シグナル伝達ドメインは、沢山の免疫受容体チロシン活性化モチーフ(Immunoreceptor Tyrosine-based Activation Motifs,ITAM)を含んでもよい。本発明の細胞内シグナル伝達ドメインの非限定的な例は、FcRγ、FcRβ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD3ζ、CD22、CD79a、CD79b及びCD66dの細胞内領域を含むが、それらに限定されない。好ましい実施形態において、本発明CARのシグナル伝達ドメインは、CD3ζ細胞内領域を含んでもよく、配列番号30又は32で示されるアミノ酸配列に少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%又は99%又は100%の配列同一性を有し、又はそのコード配列は、配列番号31又は33で示されるヌクレオチド配列に少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%又は99%又は100%の配列同一性を有する。
【0041】
一実施形態において、本発明のキメラ抗原受容体は、1つ又は複数の共刺激ドメインをさらに含む。共刺激ドメインは、共刺激分子からの細胞内機能的シグナル伝達ドメインであってもよく、前記共刺激分子の全体細胞内部分、又はその機能的断片を含む。「共刺激分子」とは、T細胞において共刺激リガンドに特異的に結合されることによって、T細胞の共刺激反応(例えば増殖)を仲介する同源結合配偶体を指す。共刺激分子は、MHCクラス1分子、BTLA及びTollリガンド受容体を含むが、それらに限定されない。本発明の共刺激ドメインの非限定的な例は、TLR1、TLR2、TLR3、TLR4、TLR5、TLR6、TLR7、TLR8、TLR9、TLR10、CARD11、CD2、CD7、CD8、CD18(LFA-1)、CD27、CD28、CD30、CD40、CD54(ICAM1)、CD83、CD134(OX40)、CD137(4-1BB)、CD270(HVEM)、CD272(BTLA)、CD276(B7-H3)、CD278(ICOS)、CD357(GITR)、DAP10、DAP12、LAT、NKG2C、SLP76、PD-1、LIGHT、TRIM、CD94、LTB及びZAP70、並びにそれらの組み合わせなどのタンパク質の細胞内領域を含むが、それらに限定されない。
【0042】
好ましい一実施形態において、前記共刺激ドメインは、DAP10、DAP12、CD27、CD28、CD134、4-1BB又はCD278などのタンパク質から選択されるもの1つ又は複数の細胞内領域を含む。例えば、一実施形態において、前記共刺激ドメインは、4-1BBの細胞内領域を含む。一実施形態において、前記共刺激ドメインは、CD28の細胞内領域を含む。一実施形態において、前記共刺激ドメインは、4-1BBの細胞内領域及びCD28の細胞内領域を含む。
【0043】
一実施形態において、4-1BBの細胞内領域は、配列番号28で示されるアミノ酸配列に少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%又は99%又は100%の配列同一性を有し、又はそのコード配列は、配列番号29で示されるヌクレオチド配列に少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%又は99%又は100%の配列同一性を有する。一実施形態において、CD28の細胞内領域は、配列番号26で示されるアミノ酸配列に少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%又は99%又は100%の配列同一性を有し、又はそのコード配列が配列番号27で示されるヌクレオチド配列に少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%又は99%又は100%の配列同一性を有する。
【0044】
一実施形態において、本発明のCARは、細胞、例えばT細胞で発現される場合に、新生タンパク質が小胞体まで導入されてから細胞表面まで導入されるように、シグナルペプチドを含んでもよい。シグナルペプチドのコアは、長い疎水性アミノ酸セグメントを含んでもよく、単一のα-螺旋を形成する傾向がある。シグナルペプチドの末端には、一般的にシグナルペプチダーゼによって認識、カットされたアミノ酸セグメントがある。シグナルペプチダーゼは、移行中又は完成後にカットされ、遊離シグナルペプチド及び成熟タンパク質が生成する。その後、遊離シグナルペプチドは特定のプロテアーゼに消化される。本発明に適用可能なシグナルペプチドは、当業者によって周知されるものであり、例えばCD8α、IgG1、GM-CSFRα、B2M等から派生されるシグナルペプチドである。一実施形態において、本発明に適用可能なシグナルペプチドは、B2M又はCD8αに由来し、配列番号34又は36で示されるアミノ酸配列に少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%又は99%又は100%の配列同一性を有し、又はそのコード配列は、配列番号35又は37で示されるヌクレオチド配列に少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%又は99%又は100%の配列同一性を有する。
【0045】
一実施形態において、本発明のCARは、CARの発現時間をコントロールするようにスイッチ構造をさらに含んでもよい。例えば、スイッチ構造は、二量体化ドメインの形式であってもよく、その対応するリガンドとの結合によりコンフォメーションの変化を引き起こし、細胞外の抗原結合領域を露出させることにより、それをターゲティング対象抗原に結合させてシグナル伝達通路を活性化する。或いは、スイッチドメインにより抗原結合領域とシグナル伝達ドメインをそれぞれ連結し、スイッチドメインが互いに結合される(例えば誘導化合物の存在下で)場合のみに、抗原結合領域及びシグナル伝達ドメインは、二量体によって連結されてシグナル通路を活性化するようにしてもよい。スイッチ構造は、マスキングペプチドの形式であってもよい。マスキングペプチドは、細胞外の抗原結合領域をマスクし、ターゲティング対象抗原との結合を阻止することができ、例えばプロテアーゼによってマスキングペプチドがカットされた後、細胞外の抗原結合領域を露出させて、1つの「通常」のCAR構造とする。当業者の知っている様々なスイッチ構造はいずれも本発明に適用できる。
【0046】
一実施形態において、本発明のCARは自殺遺伝子を含んでもよく、即ち、外因性物質によって誘導される1つの細胞死シグナルを発現させて需要時(例えば深刻な副作用を引き起こす時)にCAR細胞を除去する。例えば、自殺遺伝子は、插入されたエピトープの形式であってもよく、例えばCD20エピトープ、RQR8等であり、需要時に、これらのエピトープをターゲティングする抗体又は試薬を加入することでCAR細胞を除去することができる。自殺遺伝子は、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSV-TK)であってもよく、この遺伝子は、細胞がガンシクロビルの治療を受けて誘導されて死亡するようにできる。自殺遺伝子はiCaspase-9であってもよく、例えばAP1903、AP20187等のような化学誘発剤によりiCaspase-9を二量体化させるように誘導して、下流のCaspase3分子を活性化し、アポトーシスを引き起こす。当業者の知っている様々な自殺遺伝子はいずれも本発明に適用できる。
内因性遺伝子発現の抑制又はサイレンシング
【0047】
一実施形態において、本発明で提供される改変免疫細胞の内因性CD7、少なくとも1種類のTCR/CD3遺伝子、及び少なくとも1種類のMHCクラスII関連遺伝子の発現は抑制され又はサイレンシングする。
【0048】
CD7は、腫瘍細胞、例えばT細胞急性リンパ芽球性白血病/リンパ腫、急性骨髄芽球性白血病及び慢性骨髄性白血病において発現されるだけではなく、ほとんどの正常のT細胞及びNK細胞においても発現される。故に、CD7を標的にするCAR細胞間の相互認識及び殺傷を回避するために、CAR細胞の内因性CD7遺伝子の発現を抑制又はサイレンシングする必要がある。
【0049】
T細胞表面受容体(T cell receptor,TCR)は、すべてのT細胞表面の特徴的なマークであり、非共有結合でCD3に結合されてTCR/CD3複合体が形成されるとともに、抗原提示細胞表面における特異的なMHC-抗原ペプチド複合体に結合されることによって、特異抗原刺激シグナルが生成し、T細胞を活性化し、殺傷作用を果たす。故に、CAR-T細胞における内因性TCR/CD3遺伝子の発現を抑制又はサイレンシングするのは、それが患者体内の正常の細胞又は組織へ攻撃することを回避することができ、さらに移植片対宿主病(GvHD)の発症リスクを回避または低減する。TCRは、2本の異なるペプチド鎖からなるへテロダイマーであり、一般的にα/β型及びγ/δ型の2タイプに分けられ、ここで95%以上の末梢Tリンパ球は、いずれもTCRα/βを発現する。TCRα鎖は、TRAC遺伝子によってコードされ、β鎖はTRBC遺伝子によってコードされる。TCRの各本のペプチド鎖は、可変領域(Vエリア)、定常領域(Cエリア)、膜貫通領域及び細胞質領域を含み、ここで細胞質領域は非常に短く、抗原刺激シグナルを伝達する能力を持たない。TCR分子は、免疫グロブリンスーパーファミリーに属し、その抗原特異性がVエリアにあり、Vエリアは、それぞれ3つの超可変領域CDR1、CDR2、CDR3を有し、そのうち、CDR3の変異が最大であるので、そのままTCRの抗原結合特異性を決める。TCRがMHC-抗原ペプチド複合体を認識する場合に、CDR1、CDR2は、MHC分子を認識して結合される一方、CDR3はそのまま抗原ペプチドに結合される。CD3は、γ、δ、ε、ζという4種類のサブユニットを含み、通常に二量体εγ、εδ、ζζの形で存在する。この4種類のサブユニットは、いずれも保存された免疫受容体チロシン活性化モチーフ(Immunoreceptor tyrosine-based activation motif,ITAM)を含み、そのうち、2つのチロシン残基は、チロシンプロテインキナーゼによってリン酸化された後、T細胞へ活性化シグナルを伝達する。故に、一実施形態において、少なくとも1種類のTCR/CD3遺伝子は、TRAC、TRBC、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD3ζから選択される。
【0050】
発明者は、患者体内の末梢血リンパ球の構成を検出することによって、CD4+CD7-T細胞がCD3+T細胞の総量の20%ほどを占める(
図1)ことを発見した。CD7を標的にするCAR細胞は、CD4+CD7-Tのようなグループを認識できないため、このグループを効果的に殺傷することができない。逆に、CD4+CD7-T細胞は、MHCクラスII分子を認識することにより、さらに外因性のCAR細胞を殺傷する。故に、患者体内のCD4+CD7-T細胞による外因性CAR-T細胞への殺傷を回避するために、発明者は、CAR-T細胞における内因性MHCクラスII関連遺伝子の発現を抑制又はサイレンシングすることを考える。
【0051】
本発明で、MHCクラスII関連遺伝子は、MHCクラスII遺伝子そのものと、MHCクラスII遺伝子と互いに作用し又はその発現をコントロールする遺伝子と、を含む。
【0052】
主要組織適合複合体(major histocompatibility complex,MHC)は、最初に移植反応において主に機能するタンパク質として特徴付けられ、すべての高等脊椎動物的表面上に発現され、かつマウスにおいてH-2と称され、ヒト細胞においてHLAと称される。MHCは、主にクラスI及びクラスIIの2クラスがある。クラスIのMHCタンパク質は2種類のタンパク質のへテロダイマーであり、一方が、MHC I遺伝子によってコードされた膜貫通タンパク質α鎖であり、他方が、MHC遺伝子クラスター内に位置しない遺伝子によってコードされた細胞外タンパク質のβ2ミクログロブリン鎖である。α鎖は3つのドメインを含み、外来ペプチドは、N末端でも最も可変的な2つのドメインα1、α2に結合される。クラスIIのMHCタンパク質もへテロダイマーであり、MHC複合体内の遺伝子によってコードされた2つの膜貫通タンパク質を含む。クラスIのMHC/抗原複合体は、細胞毒性T細胞(例えばCD8+T細胞)と互いに作用する一方、クラスIIのMHCは、ヘルパーT細胞(例えばCD4+T細胞)へ抗原を提示する。また、クラスIのMHCタンパク質は、ほぼすべての有核細胞と血小板(およびマウスの赤血球)で発現される傾向がある一方、クラスIIのMHCタンパク質はより選択的に発現される。通常、クラスIIのMHCタンパク質は、B細胞、いくつかのマクロファージ及び単核細胞、活性化されたT細胞、ランゲルハンス細胞(Langerhans cell)及び樹状細胞で発現される。
【0053】
ヒトのクラスIIのHLAクラスターは、3つの主な遺伝子座DP、DQ及びDRを含む。クラスII分子は、いずれも膜にアンカーされたα鎖及びβ鎖からなるへテロダイマーであり、ここでα鎖は約33-35kDaで、5つのエキソンを含む。エキソン1はリーダーペプチドをコードし、エキソン2及び3は2つの細胞外ドメインをコードし、エキソン4は膜貫通ドメインをコードし、エキソン5は、細胞質尾部をコードする。故に、一実施形態において、MHCクラスII関連遺伝子は、HLA-DPA、HLA-DQ及びHLA-DRAから選択される。
【0054】
MHCクラスII遺伝子の発現は、例えばRFX複合体、CIITA等のような複数種類の重要なポジティブ調節タンパク質にも決められる。RFX複合体は、RFXANK(RFXBとも称される)、RFX5及びRFXヘルパータンパク質(RFXAPとも称される)という3つのサブユニットから構成される。RFX複合体は、他の転写因子とクラスIIのMHC分子のプロモーターとの結合を促進するとともに、プロモーターの結合の特異性を強化することによって、クラスIIのMHC分子の発現を促進する。CIITAはクラスIIのMHCが発現する主制御因子である。CIITAは、酸性アミノ酸が豊富なN端と、Pro、Ser、Thrが豊富なPST領域と、中央のGTP結合領域と、Leuリッチリピート(LRR)が豊富なC端と、を含み、ここで、N端の酸性領域及びPST領域は、転写活性化領域である。故に、一実施形態において、MHCクラスII関連遺伝子は、RFX5、RFXAP、RFXANK及びCIITAから選択される。
【0055】
故に、一実施形態において、MHCクラスII関連遺伝子は、HLA-DPA、HLA-DQ、HLA-DRA、RFX5、RFXAP、RFXANK及びCIITAから選択され、好ましくはRFX5、RFXAP、RFXANK及びCIITAから選択され、より好ましくはRFX5である。
【0056】
一実施形態において、CAR-T細胞における内因性MHC-Iクラス遺伝子(例えばHLA-A、HLA-B、HLA-C、B2M等)は機能的である。他の一実施形態において、CAR-T細胞における内因性MHC-Iクラス遺伝子の発現も抑制され又はサイレンシングする。
【0057】
一実施形態において、本発明に記載のCD7を標的にするキメラ抗原受容体を発現する改変免疫細胞は、内因性CD7、少なくとも1種類のTCR/CD3遺伝子及び少なくとも1種類のMHCクラスII関連遺伝子を含み、それらの発現が抑制され又はサイレンシングし、前記少なくとも1種類のTCR/CD3遺伝子は、TRAC、TRBC、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD3ζ及びそれらの組み合わせから選択され、前記少なくとも1種類のMHCクラスII関連遺伝子は、HLA-DPA、HLA-DQ、HLA-DRA、RFX5、RFXAP、RFXANK及びCIITAから選択される。好ましい一実施形態において、本発明に記載のCD7を標的にするキメラ抗原受容体を発現する改変免疫細胞は、内因性CD7と、TRAC及びTRBCから選択される少なくとも1種類のTCR/CD3遺伝子と、RFX5、RFXAP、RFXANK及びCIITAから選択される少なくとも1種類のMHCクラスII遺伝子とを含み、それらの発現が抑制され又はサイレンシングする。より好ましくは、本発明に記載のCD7を標的にするキメラ抗原受容体を発現する改変免疫細胞は、内因性CD7と、TRAC及びTRBCから選択される少なくとも1種類のTCR/CD3遺伝子と、RFX5とを含み、それらの発現が抑制され又はサイレンシングする。一実施形態において、前記改変免疫細胞におけるMHC-Iクラス遺伝子、例えばHLA-A、HLA-B、HLA-C及びB2Mの発現は機能的である。
【0058】
一実施形態において、CD7、MHCクラスII関連遺伝子及びTCR/CD3遺伝子のほかに、本発明の改変免疫細胞は、CD52、GR、dCK、及び例えばPD1、LAG3、TIM3、CTLA4、PPP2CA、PPP2CB、PTPN6、PTPN22、PDCD1、HAVCR2、BTLA、CD160、TIGIT、CD96、CRTAM、TNFRSF10B、TNFRSF10A、CASP8、CASP10、CASP3、CASP6、CASP7、FADD、FAS、TGFBRII、TGFRBRI、SMAD2、SMAD3、SMAD4、SMAD10、SKI、SKIL、TGIF1、IL10RA、IL10RB、HMOX2、IL6R、IL6ST、EIF2AK4、CSK、PAG1、SIT、FOXP3、PRDM1、BATF、GUCY1A2、GUCY1A3、GUCY1B2及びGUCY1B3のような免疫チェックポイント遺伝子から選択される少なくとも1種類の遺伝子を含み、それらの発現が抑制され又はサイレンシングするようにしてもよい。
【0059】
遺伝子の発現を抑制し、又は遺伝子をサイレンシングする方法は当業者にとってよく知っているが、例えば、メガヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALEヌクレアーゼ、またはCRISPRシステムのCas酵素によりDNA切断を仲介し、又はアンチセンスオリゴヌクレオチド、RNAi、shRNA等の技術により遺伝子を不活化することを含むが、それらに限定されない。
NK阻害性分子
【0060】
発明者は、また、CD7CARによって標的化、殺傷されることができないCD7-NK細胞の大きい割合(約20%)が患者体内に存在することを発見した(
図1)。そして、MHC-II遺伝子発現が抑制され又はサイレンシングする場合には、この部分の細胞は、CAR細胞を殺傷する可能性がある。
【0061】
故に、一実施形態において、患者体内のNK細胞によるCAR-T細胞への殺傷を抑制するために、前記改変免疫細胞は、1つ又は複数のNK阻害性リガンド、膜貫通ドメイン及び共刺激ドメインを含むNK阻害性分子をさらに発現する。例えば、前記NK阻害性分子は、1つまたは2つのNK阻害性リガンド、膜貫通ドメイン及び共刺激ドメインを含む。
【0062】
NK阻害性分子に含まれる膜貫通ドメイン及び共刺激ドメインの定義は、上記キメラ抗原受容体に含まれる膜貫通ドメイン及び共刺激ドメインの定義と同様である。
【0063】
一実施形態において、前記NK阻害性リガンドは、NK阻害性受容体を標的にする抗体であり、前記NK阻害性受容体は、NKG2/CD94成分(例えばNKG2A、NKG2B、CD94)と、キラー細胞Ig様受容体(KIR)ファミリーメンバー(例えばKIR2DL1、KIR2DL2/3、KIR2DL5A、KIR2DL5B、KIR3DL1、KIR3DL2及びKIR3DL3)と、白血球Ig様受容体(LIR)ファミリーメンバー(例えばLIR1、LIR2、LIR3、LIR5及びLIR8)と、NK細胞受容体タンパク質1(NKR-P1)ファミリーメンバー(例えばNKR-P1B及びNKR-P1D)と、免疫チェックポイント受容体(例えばPD-1、TIGIT及びCD96、TIM3、LAG3)と、癌胎児性抗原関連細胞接着分子1(CEACAM1)と、シアル酸結合免疫グロブリン様レクチン(SIGLEC)ファミリーメンバー(例えばSIGLEC7及びSIGLEC9)と、白血球関連免疫グロブリン様受容体1(LAIR1)と、Ly49ファミリーメンバー(例えばLy49A、Ly49C、Ly49F、Ly49G1及びLy49G4)と、キラー細胞レクチン様受容体G1(KLRG1)から選択される。好ましくは、前記NK阻害性受容体は、好ましくは、NKG2A、NKG2B、CD94、LIR1、LIR2、LIR3、LIR5、LIR8、KIR2DL1、KIR2DL2/3、KIR2DL5A、KIR2DL5B、KIR3DL1、KIR3DL2、KIR3DL3、CEACAM1、LAIR1、NKR-P1B、NKR-P1D、PD-1、TIGIT、CD96、TIM3、LAG3、SIGLEC7、SIGLEC9、Ly49A、Ly49C、Ly49F、Ly49G1、Ly49G4及びKLRG1から選択される。より好ましくは、前記NK阻害性受容体は、NKG2A、NKG2B、CD94、LIR1、LIR2、LIR3、KIR2DL1、KIR2DL2/3、KIR3DL1、CEACAM1、LAIR1及びKLRG1から選択される。さらに、より好ましくは、前記NK阻害性受容体は、NKG2A、NKG2B、LIR1、KIR2DL1、KIR2DL2/3、KIR3DL1、CEACAM1、LAIR1及びKLRG1から選択される。
【0064】
一実施形態において、NK阻害性リガンドは、NK阻害性受容体を標的にする抗体であり、前記抗体は、インタクト抗体、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv断片、scFv抗体断片、線形抗体、sdAb又はナノ抗体である。
【0065】
好ましい一実施形態において、NK阻害性リガンドは、NKG2Aを標的にする抗体である。より好ましくは、前記NKG2Aを標的にする抗体は、配列番号59、62又は77で示されるアミノ酸配列に少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%、99%又は100%の配列同一性を有する軽鎖可変領域配列と、配列番号58、61又は76で示されるアミノ酸配列に少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%、99%又は100%の配列同一性を有する重鎖可変領域配列と、を含む。より好ましくは、前記NKG2Aを標的にする抗体のアミノ酸配列は、配列番号60、63又は78で示される。当分野でNKG2Aを標的にする既知の他の抗体、例えばZ270(Immunotech,Franceから取得できる)、Z199(Beckman Coulter,USAから取得できる)、20D5(BD Biosciences Pharmingen,USAから取得できる)、P25(Morettaetal,Univ.Genova,Italyから取得できる)等も、本発明に適用可能である。
【0066】
好ましい一実施形態において、NK阻害性リガンドは、例えばKIR2DL1、KIR2DL2/3及びKIR3DL1のようなKIRを標的にする抗体である。より好ましくは、前記KIRを標的にする抗体は、配列番号65又は79で示されるアミノ酸配列に少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%、99%又は100%の配列同一性を有する軽鎖可変領域配列と、配列番号66又は80で示されるアミノ酸配列に少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%、99%又は100%の配列同一性を有する重鎖可変領域配列と、を含む。より好ましくは、前記KIRを標的にする抗体のアミノ酸配列は、配列番号67又は81で示される。当分野でKIRを標的にする既知の他の抗体、例えばGL183(KIR2DL2/L3を標的にし、Immunotech,France及びBeckton Dickinson,USAから取得できる)、EB6(KIR2DL1を標的にし、Immunotech,France及びBeckton Dickinson,USAから取得できる)、AZ138(KIR3DL1を標的にし、Morettaetal,Univ.Genova,Italyから取得できる)、Q66(KIR3DL2を標的にし、Immunotech,Franceから取得できる)、Z27(KIR3DL1を標的にし、Immunotech,France及びBeckton Dickinson,USAから取得できる)等も、本発明に適用可能である。
【0067】
好ましい一実施形態において、NK阻害性リガンドは、LIR1を標的にする抗体である。より好ましくは、前記LIR1を標的にする抗体は、配列番号68又は71で示されるアミノ酸配列に少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%、99%又は100%の配列同一性を有する軽鎖可変領域配列と、配列番号69又は72で示されるアミノ酸配列に少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%、99%又は100%の配列同一性を有する重鎖可変領域配列と、を含む。より好ましくは、前記LIR1を標的にする抗体のアミノ酸配列は、配列番号70又は73で示される。
【0068】
一実施形態において、前記NK阻害性リガンドは、NK阻害性受容体の天然リガンド、又はそれに含まれるNK阻害性受容体結合領域である。好ましくは、前記NK阻害性リガンドは、HLA-E、HLA-F、HLA-G、カドヘリン(Cadherin)、コラーゲン、OCIL、シアル酸、免疫チェックポイントリガンド(例えばPD-L1/PD-L2、CD155、CD112、CD113、Gal-9、FGL1等)、及びそれらに含まれるNK阻害性受容体結合領域から選択される。より好ましくは、前記NK阻害性リガンドは、HLA-E、HLA-F、HLA-G、カドヘリン、コラーゲン、OCIL、シアル酸、PD-L1/PD-L2、CTLA-4、CD155、CD112、CD113、Gal-9、FGL1、又はそれらに含まれるNK阻害性受容体結合領域から選択され、さらに好ましくは、HLA-E、HLA-F、HLA-G、カドヘリン、又はそれらに含まれるNK阻害性受容体結合領域から選択される。より好ましくは、前記NK阻害性リガンドは、HLA-E細胞外領域、HLA-G細胞外領域、E-カドヘリン(E-Cadherin)細胞外領域、PD-L1細胞外領域及びPD-L2細胞外領域から選択される。
【0069】
好ましい一実施形態において、前記NK阻害性リガンドは、E-カドヘリン細胞外領域であり、ドメインEC1及びEC2を含み、より好ましくはドメインEC1、EC2、EC3、EC4及びEC5を含む。好ましくは、前記E-カドヘリン細胞外領域は、配列番号44(ドメインEC1及びEC2を含む)又は配列番号48(ドメインEC1、EC2、EC3、EC4及びEC5を含む)で示されるアミノ酸配列に少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%、99%又は100%の配列同一性を有する。
【0070】
一実施形態において、NK阻害性リガンドは、PD-L1又はPD-L2の細胞外領域である。好ましくは、前記PD-L1細胞外領域は、配列番号45で示されるアミノ酸配列に少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%、99%又は100%の配列同一性を有し、前記PD-L2細胞外領域は、配列番号46で示されるアミノ酸配列に少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%、99%又は100%の配列同一性を有する。
【0071】
一実施形態において、NK阻害性リガンドは、HLA-E細胞外領域又はHLA-G細胞外領域である。好ましくは、前記HLA-E細胞外領域は、配列番号50(ワイルドタイプ)又は配列番号51(Y84C変異の変異体を含む)で示されるアミノ酸配列に少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%、99%又は100%の配列同一性を有し、前記HLA-G細胞外領域は、配列番号49で示されるアミノ酸配列に少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%、99%又は100%の配列同一性を有する。当分野で知られるように、非古典的なHLAクラスI分子(例えばHLA-E、HLA-G)は、B2Mとともに複合体を形成する限り、その機能を果たすことができる。故に、B2Mがノックアウトされる必要がある場合に、非古典的なHLAクラスI分子が正常に抑制機能を果たすために、遺伝子編集ツールによるノックアウトを回避するように、DNA配列同義変異B2Mを導入する必要がある。言い換えれば、B2Mがノックアウトされた細胞において、NK阻害性リガンドは、B2Mと、HLA-E細胞外領域又はHLA-G細胞外領域との融合分子である。
【0072】
他の一実施形態において、前記NK阻害性分子は、少なくとも2つのNK阻害性リガンドを含み、前記NK阻害性リガンドは、抗NKG2A scFv、抗KIR scFv、抗LIR1 scFv、HLA-E細胞外領域、HLA-G細胞外領域、E-カドヘリン細胞外領域、PD-L1細胞外領域及びPD-L2細胞外領域から選択され、より好ましくは、PD-L1細胞外領域及びHLA-E細胞外領域である。
【0073】
一実施形態において、前記NK阻害性分子は、細胞内シグナル伝達ドメインをさらに含む。一実施形態において、前記細胞内シグナル伝達ドメインは、FcRγ、FcRβ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD3ζ、CD22、CD79a、CD79b及びCD66dなどのタンパク質の細胞内領域から選択される。好ましくは、前記細胞内シグナル伝達ドメインはCD3ζの細胞内領域を含む。
【0074】
一実施形態において、前記NK阻害性分子は、シグナルペプチド、例えばPDL1又はB2Mからのシグナルペプチドを含んでもよい。一実施形態において、前記NK阻害性分子は、PD-L1シグナルペプチドを含み、それが配列番号44で示されるアミノ酸配列に少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%、99%又は100%の配列同一性を有する。当業者は、需要に応じて他の適当なシグナルペプチドを選択することができる。
改変免疫細胞
【0075】
本発明は、(1)抗CD7抗体及び任意の第2抗原領域を含む抗原結合領域を含むキメラ抗原受容体を発現し、(2)内因性CD7、少なくとも1種類のTCR/CD3遺伝子及び少なくとも1種類のMHCクラスII関連遺伝子の発現が抑制され又はサイレンシングすることを特徴とする改変免疫細胞をさらに提供する。一実施形態において、本発明の改変免疫細胞は、1つ又は複数のNK阻害性リガンド、膜貫通ドメイン及び共刺激ドメインを含むNK阻害性分子をさらに発現する。
【0076】
本明細書で使用されるように、「免疫細胞」という用語とは、1つ以上の種類のエフェクター機能(例えば、細胞傷害性細胞の活性への殺傷、サイトカインの分泌、ADCC及び/又はCDCの誘導)を有する免疫システムの任意の細胞を指す。例えば、免疫細胞は、T細胞、マクロファージ、樹状細胞、単核細胞、NK細胞及び/又はNKT細胞であってもよく、或いは、例えば成体幹細胞、胚性幹細胞、臍帯血幹細胞、前駆細胞、骨髓幹細胞、人工多能性幹細胞、全能性幹細胞又は造血幹細胞等の幹細胞から派生される免疫細胞であってもよい。好ましくは、免疫細胞はT細胞である。T細胞は、任意のT細胞であってもよく、例えば、原代T細胞のような体外培養のT細胞、或いはJurkat、SupT1等のようなT細胞インビトロで培養されたT細胞株からのもの、又は被験者から取得されたT細胞である。被験者の実例は、ヒト、イヌ、ネコ、マウス、ラット及びそれらの遺伝子組み換え種を含む。T細胞は、末梢血単核細胞、骨髓、リンパ節組織、臍帯血、胸腺組織、感染部位からの組織、腹水、胸水、脾臓組織、腫瘍の複数のソースから取得されることができる。T細胞は、濃縮され又は精製されてもよい。T細胞は、任意の発育段階にあってもよく、CD4+/CD8+T細胞、CD4+ヘルパーT細胞(例えばTh1及びTh2細胞)、CD8+T細胞(例えば、細胞傷害性T細胞)、腫瘍浸潤細胞、メモリーT細胞、ナイーブT細胞、γδ-T細胞、αβ-T細胞等を含むが、それらに限定されない。好ましい一実施形態において、免疫細胞は、ヒトT細胞である。当業者に既知される多種技術、例えばFicollを用いて被験者の血液を分離してT細胞を取得することができる。本発明で、免疫細胞は、キメラ抗原受容体を発現するとともに、内因性CD7、少なくとも1種類のTCR/CD3遺伝子及び少なくとも1種類のMHCクラスII関連遺伝子の発現を抑制し又はサイレンシングするように、改変される。
【0077】
当分野での既知の一般的な方法(例えば形質導入、トランスフェクション、形質転換等)を採用して、キメラ抗原受容体ポリペプチドをコードする核酸配列及び任意のNK阻害性分子のコード核酸配列を免疫細胞に導入する。「トランスフェクション」は、核酸分子又はポリヌクレオチド(ベクターを含む)を標的細胞に導入するプロセスである。一例としては、RNAトランスフェクションであり、即ち、RNA(例えばインビトロ転写のRNA,ivtRNA)を宿主細胞に導入するプロセスである。この用語は、主に真核細胞での非ウイルスアプローチに用いられる。「形質導入」という用語は一般的にウィルス仲介による核酸分子又はポリヌクレオチドの転移を説明するためのものである。動物細胞のトランスフェクションは、材料摂取を許容するように、一般的に細胞膜の一時的に開かれる孔または「穴」に係わる。リン酸カルシウムを用い、エレクトロポレーション、細胞押し出しにより、又カチオン性脂質と材料とを混合させて細胞膜に融合してそれらのキャリアを内部に沈着する脂質体が生成し、トランスフェクションを行うことができる。真核宿主細胞のトランスフェクションに用いる例示的技術は、脂質ベシクル仲介による取り込み、ヒートショック仲介による取り込み、リン酸カルシウム仲介によるトランスフェクション(リン酸カルシウム/DNA共沈)、マイクロインジェクション及びエレクトロポレーションを含む。「形質転換」という用語は、核酸分子又はポリヌクレオチド(ベクターを含む)が細菌中、非動物真核細胞(植物細胞を含む)中の非ウィルスへも転移することを説明するためのものである。従って、形質転換は、細菌又は非動物真核細胞の遺伝子変更であり、細胞膜によりその周囲から直接的に取り込んでから外因性の遺伝子材料(核酸分子)に組み込んで生成される。形質転換は、人工手段により実現されてもよい。形質転換の発生のために、細胞又は細菌は有能な状態であればならない。原核形質転換について、技術は、ヒートショック仲介による取り込み、完全細胞の細菌プロトプラストとの融合、マイクロインジェクション及びエレクトロポレーションを含む。
【0078】
核酸又はベクターを免疫細胞に導入すると、当業者は、一般的な技術により取得した免疫細胞を増幅、活性化することができる。
医薬組成物
【0079】
本発明は、本発明に記載の改変免疫細胞を活性剤として含有し、多種薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物をさらに提供する。
【0080】
本明細書で使用されるように、「薬学的に許容される賦形剤」という用語とは、被験者および有効成分と薬理学的および/または生理学的に適合する(即ち、何らかの希望しない局部又は全身の作用を果たすことがなく、所要の治療効果を果たす)ベクター及び/又は賦形剤を指し、本分野で周知される(例えばRemington’s Pharmaceutical Sciences.Edited by Gennaro AR,19th ed.Pennsylvania:Mack Publishing Company,1995参照)。薬学的に許容される賦形剤の実例は、充填剤、結合剤、崩壊剤、コーティング剤、吸着剤、粘着防止剤、流動促進剤、酸化防止剤、香料、着色剤、甘味料、溶媒、共溶媒、緩衝剤、キレート剤、界面活性剤、希釈剤、湿潤剤、防腐剤、乳化剤、コーティング剤、等張剤、吸収遅延剤、安定剤および等張化剤を含むが、それらに限定されない。当業者は、適当な賦形剤を選択して本発明の所望の医薬組成物を調製することを知っている。本発明に用いる医薬組成物における例示的賦形剤は、生理食塩水、緩衝生理食塩水、デキストロース、及び水である。通常、適当な賦形剤の選択は、特に使用される活性剤、治療対象の疾患及び医薬組成物の所望の剤型によって決められる。
【0081】
本発明に係る医薬組成物は、複数の経路による投与に適用である。一般的に、非経口で投与を完了する。非経口投与法は、局所、動脈内、筋肉内、皮下、髄内、くも膜下腔内、心室内、静脈内、腹腔内、子宮内、膣内、舌下、または鼻腔内で投与することを含む。
【0082】
本発明に係る医薬組成物は、例えば固体、液体、気体、凍結乾燥形態等の様々な形式で調製されることができ、特に軟膏、クリーム、経皮パッチ、ゲル、粉末、錠剤、溶液、エアゾール、顆粒、丸剤、懸濁液、乳液、カプセル、シロップ、エリキシル剤、エキス剤、チンキ剤、液体エキス剤抽出物の形態であってもよく、或いは、特に所要の投与方法に適用する形態である。本発明で既知の薬を製造するプロセスは、例えば、ルーチンの混合、溶解、造粒、糖衣製造、製粉、乳化、カプセル化、封入または凍結乾燥のプロセスを含んでもよい。例えば本明細書に記載の免疫細胞を含む医薬組成物は一般的に溶液の形態で提供され、且つ好ましくは薬学的に許容される賦形剤を含む。
【0083】
本発明に係る医薬組成物は、治療対象の疾患の治療及び/又は予防に適用する1つ以上の種類の他の薬剤と組み合わせて投与されることもできる。組み合わせに適用する薬剤の好ましい実例は、例えばシスプラチン、メイタンシン誘導体、ラチェルマイシン(rachelmycin)、カリケアマイシン(calicheamicin)、ドセタキセル、エトポシド、ゲムシタビン、イホスファミド、イリノテカン、メルファラン、ミトキサントロン、ソルフィマーポルフィリンナトリウムII(sorfimer sodiumphotofrin II)、テモゾロミド、トポテカン、グルクロン酸トリメトレキサート(trimetreate glucuronate)、アウリスタチンE(auristatin E)、ビンクリスチン及びアドリアマイシン等の既知の抗癌薬と、例えばリシン、ジフテリア毒素、シュードモナス外毒素A、DNA酵素及びRNA酵素等のペプチド細胞毒素と、例えばヨウ素131、レニウム186、インジウム111、イリジウム90、ビスマス210及び213、アクチニウム225及びアスタチン213等の放射性核種と、例えば抗体指向性酵素プロドラッグのプロドラッグと、例えば血小板因子4、黒色腫増殖刺激タンパク質等の免疫刺激剤と、例えば抗CD3抗体又はその断片のような抗体又はその断片と、補体活化剤と、ヘテロタンパク質ドメインと、ホモタンパク質ドメインと、ウイルス/細菌タンパク質ドメインと、ウィルス/細菌ペプチドと、を含む。また、本発明の医薬組成物は、例えば化学療法、放射線療法等の他の1つ以上の種類の治療方法と組み合わせて使用されてもよい。
治療への応用
【0084】
本発明は、被験者に対して本発明に記載の免疫細胞又は医薬組成物を有効量だけ投与することを含む、CD7発現に関する疾患を有する被験者を治療する方法を更に提供する。故に、本発明は、CD7発現に関する疾患を治療する薬剤の調製における前記改変免疫細胞及び医薬組成物の使用をさらにカバーする。
【0085】
一実施形態において、被験者に対して本発明の免疫細胞及び/又は医薬組成物を有效量だけ直接的に投与する。
【0086】
別の一実施形態において、本発明の治療方法は、生体外治療である。具体的には、この方法は、(a)免疫細胞を含むサンプルを提供するステップと、(b)生体外で、本発明のキメラ抗原受容体及び外因性遺伝子(例えばNK阻害性分子)を前記免疫細胞に導入し、前記免疫細胞における特定の遺伝子(例えば、内因性CD7、TCR/CD3遺伝子及びMHCクラスII関連遺伝子)の発現を抑制又はサイレンシングさせ、修飾された免疫細胞を取得するステップと、(c)前記修飾された免疫細胞を、それを必要とする被験者に投与するステップと、を含む。好ましくは、ステップ(a)で提供される免疫細胞は、マクロファージ、樹状細胞、単核細胞、T細胞、NK細胞及び/又はNKT細胞から選択され、且つ前記免疫細胞は、当分野での既知の一般的方法で被験者のサンプル(特に血液サンプル)から取得されることができる。しかし、本発明のキメラ抗原受容体を発現し、本明細書に記載の所要の生物効果機能を発揮することができる他の免疫細胞を使用してもよい。また、一般的に選択された免疫細胞は、被験者の免疫システムに適合し、即ち好ましくは前記免疫細胞は免疫原性応答を誘発しない。例えば、「ユニバーサル受容細胞」、即ち所要の生物効果機能を発揮する普遍的に適合する生体外培養及び増殖のリンパ球を使用してもよい。このような細胞の使用は、被験者自身のリンパ球を取得及び/又は提供する必要がなくなる。ステップ(c)の生体外導入は、エレクトロポレーションを介して本明細書に記載の核酸又はベクターを免疫細胞に導入し、又はウィルスベクターにより免疫細胞を感染することによって実施されることができ、前記ウィルスベクターは、上記したレンチウィルスベクター、アデノウィルスベクター、アデノ随伴ウィルスベクター又はレトロウィルスベクターである。想到できる他の方法は、トランスフェクション試剤(例えば脂質体)又は一過性RNAトランスフェクションの使用を含む。
【0087】
一実施形態において、前記免疫細胞は、自家又は同種異系の細胞であり、好ましくはT細胞、マクロファージ、樹状細胞、単核細胞、NK細胞及び/又はNKT細胞であり、より好ましくはT細胞、NK細胞又はNKT細胞である。
【0088】
本明細書で使用されるように、「自家」という用語とは、個体に由来する任意の材料が後に当該同一個体に再びに導入されるという意味である。
【0089】
本明細書で使用されるように、「同種異系」という用語とは、任意の材料が当該材料に導入された個体と同一物種の異なる動物又は異なる患者に由来するという意味である。1つ又は複数の遺伝子座の所在する遺伝子が異なる場合に、2つ又はより多い個体が互い同種異系のものであると認定される。いくつかの場合に、同一物種のそれぞれの個体の同種異系材料の遺伝子における相違によっては、抗原相互作用が発生する可能性が高い。
【0090】
本明細書で使用されるように、「被験者」という用語は、哺乳動物である。哺乳動物は、ヒト、人間以外の霊長類動物、マウス、ラット、犬、猫、馬又は牛であってもよいが、これらの実例に限定されない。人間以外の哺乳動物は、癌動物モデルを代表する被験者として有利的に用いられる。好ましくは、前記被験者はヒトである。
【0091】
一実施形態において、CD7発現に関連する疾患は、非固形腫瘍(例えば白血病及びリンパ腫のような血液腫瘍)と固形腫瘍を含む。血液腫瘍は、血液又は骨髄の癌であり、急性白血病(例えば急性リンパ芽球性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、急性骨髄性白血病及び骨髄芽球性、前骨髄性、顆粒単球型、単球性及び赤白血病)、慢性白血病(例えば慢性骨髄性(顆粒球性)白血病、慢性骨髄性白血病及び慢性リンパ芽球性白血病)、真性赤血球増加症、リンパ腫、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫(痛くないハイグレードなフォルム)、多発性骨髄腫、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症、骨髄異形成症候群、有毛細胞白血病、バーキットリンパ腫、びまん性大細胞型リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、Tリンパ芽球性リンパ腫(T-LBL)、早期プロTリンパ芽球性白血病(ETP-ALL)、節外NK/T細胞リンパ腫、小リンパ球性リンパ腫(SLL)及び骨髄形成異常を含むが、それらに限定されない。固形腫瘍は、通常、嚢胞または流体領域の組織を含まない異常な腫瘤であり、良性または悪性であってもよい。異なるタイプの固形腫瘍は、それらを形成した細胞タイプによって命名される(例えば肉腫、癌及びリンパ腫)。固形腫瘍の実例としては、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫中皮腫、膵臓癌、卵巣癌、腹膜、大網、及び腸間膜の癌、咽頭癌、前立腺癌、直腸癌、腎臓癌、皮膚癌、小腸癌、黒色腫、腎臓癌、咽喉癌、軟部組織癌、胃癌、精巣癌、結腸癌、食道癌、子宮頸癌、胞巣状横紋筋肉腫、膀胱癌、骨癌、脳癌、乳癌、肛門癌、眼癌、肝内胆管癌、関節癌、頸部癌、胆のう癌、胸膜癌、鼻癌、中耳癌、口腔癌、外陰癌、甲状腺癌及び尿管癌を含むが、それらに限定されない。
【0092】
一実施形態において、CD7発現に関連する疾患としては、好ましくは急性リンパ芽球性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、Tリンパ芽球性リンパ腫(T-LBL)、早期プロTリンパ芽球性白血病(ETP-ALL)及び節外NK/T細胞リンパ腫から選択される。
【0093】
以下、図面を参照しながら実例を合わせて本発明を詳細に説明する。説明すべきこととして、当業者は、本発明の図面及びその実施例が例示なものに過ぎず、本発明に対する任意の制限を構成しないと理解するはずである。矛盾しない場合、本出願における実施例及び実施例における特徴は互いに組み合わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【
図1】患者の末梢血リンパ球におけるCD7+細胞とCD7-細胞との比率を示す。
【
図2】CAR7-dKO T細胞及びCAR7-tKO T細胞におけるscFvの発現レベルを示す。
【
図3】CAR7-dKO T細胞及びCAR7-tKO T細胞による標的細胞への殺傷能力を示す。
【
図4】CAR7-dKO T細胞及びCAR7-tKO T細胞と標的細胞との共培養後のサイトカイン放出レベルを示す。
【
図5】NK阻害性分子によるNK細胞殺傷作用への抑制効果を示す。A:NK阻害性分子は抗KIR scFvを含む。B:NK阻害性分子は抗LIR scFvを含む。C:NK阻害性分子は抗NKG2A scFv、HLA-G細胞外領域、HLA-E細胞外領域又はE-Cad細胞外領域を含む。
【
図6】CD3ζのNK阻害性分子を含むCD4+T細胞(A)及びCD8+T細胞(B)によるNK細胞への殺傷作用を表す。
【
図7】CAR7-NKi-dKO T細胞及びCAR7-NKi-tKO T細胞におけるscFvの発現レベルを示す。
【
図8】CAR7-NKi-dKO T細胞及びCAR7-NKi-tKO T細胞のNK阻害性分子の発現レベルを示す。
【
図9】CAR7-NKi-dKO T細胞及びCAR7-NKi-tKO T細胞による標的細胞への殺傷能力を示す。
【
図10】CAR7-NKi-dKO T細胞及びCAR7-NKi-tKO T細胞と標的細胞との共培養後のサイトカイン放出レベルを示す。
【
図11】CAR7-E T細胞、CAR7-PDL1 T細胞及びCAR7-EPDL1 T細胞におけるscFv発現レベルを示す。
【
図12】CAR7-E T細胞におけるHLA-Eの発現レベル、及びCAR7-PDL1 T細胞におけるPDL1発現レベルを示す。
【
図13】CAR7-EPDL1 T細胞におけるHLA-E及びPDL1の発現レベルを示す。
【
図14】CAR7-E T細胞、CAR7-PDL1 T細胞及びCAR7-EPDL1 T細胞による標的細胞への殺傷能力を示す。
【
図15】CAR7-E T細胞、CAR7-PDL1 T細胞及びCAR7-EPDL1 T細胞と標的細胞との共培養後のサイトカイン放出レベルを示す。
【
図16】CAR7-19 T細胞におけるCD7 scFv及びCD19 scFvの発現レベルを示す。
【
図17】CAR7-19 T細胞による2種類の標的細胞への殺傷能力を示す。
【
図18】CAR7-19 T細胞と2種類の標的細胞との共培養後のサイトカイン放出レベルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0095】
実施例1.抗CD7のユニバーサルCAR T細胞の調製
CD8αシグナルペプチド(配列番号36)、抗CD7scFv(配列番号21)、CD8αヒンジ領域(配列番号38)、CD8α膜貫通領域(配列番号24)、4-1BB細胞内領域(配列番号28)、CD3ζ細胞内シグナル伝達ドメイン(配列番号30)等のタンパク質をコードする配列を合成し、それをpLVXベクター(Public Protein/Plasmid Library(PPL),商品番号:PPL00157-4a)に順にクローンするとともに、シーケンシングにより対象配列の正しい挿入を確認する。
【0096】
無菌管に3mlのOpti-MEM(Gibco,商品番号31985-070)に加入して上記プラスミドを希釈してから、プラスミド:ウイルス包装ベクター:ウイルスエンベロープベクター=4:2:1という比率で、包装ベクターpsPAX2(Addgene,商品番号12260)及びエンベロープベクターpMD2.G(Addgene,商品番号12259)を加入する。そして、120ulのX-treme GENE HP DNAトランスフェクション試剤(Roche,商品番号06366236001)を加入し、すぐに均一に混ぜて、室温で15分間インキュベートし、その後、プラスミド/ベクター/トランスフェクション試剤混合物を293T細胞の培養フラスコに一滴ずつ加入する。24時間及び48時間の後にウイルスを収集し、それを合わせた後に、超遠心分離して(25000g、4℃、2.5時間)濃縮レンチウイルスを取得する。
【0097】
DynaBeads CD3/CD28 CTSTM(Gibco,商品番号40203D)を用いて野生型T細胞を活性化し、37℃及び5%のCO2で引き続き1日間培養する。そして、CRISPRシステムを用いて野生型T細胞におけるTCR/CD3成分(具体的にTRAC遺伝子)、CD7遺伝子及び任意のMHCクラスII関連遺伝子(具体的にRFX5)をノックアウトして、TCR/CD7ダブルノックアウトのdKO-T細胞及びTCR/CD7/RFX5トリプルノックアウトのtKO-T細胞を取得する。遺伝子がノックアウトされない野生型T細胞(即ちNT細胞)を対照とする。
【0098】
FITC Mouse Anti-Human CD3(BD Pharmingen,商品番号555916)抗体、PE mouse anti-human CD7(biolegend商品番号395604)及びAPC anti-human DR,DP,DQ(biolegend,商品番号361714)抗体を用い、フローサイトメトリーによりT細胞におけるTCR/CD7/RFX5の遺伝子編集効率を検出し、結果を表1に示す。
【0099】
【0100】
表1からわかるように、本発明で調製されるdKO-T細胞及びtKO-T細胞における関連遺伝子の発現は、効果的に抑制され又はサイレンシングする。
【0101】
濃縮したレンチウイルスをdKO-T細胞及びtKO-T細胞に加入して、CAR7-dKO T細胞及びCAR7-tKO T細胞を取得する。Biotin-SP(long spacer)AffiniPure Goat Anti-human IgG,F(ab’)
2 Fragment Specific(min X Hu,Bov,Hrs Sr Prot)(jackson immunoresearch,商品番号109-065-097)を一次抗体とし、APC Streptavidin(BD Pharmingen,商品番号554067)又はPE Streptavidin(BD Pharmingen,商品番号554061)を二次抗体として用い、フローサイトメトリーによりCAR7-dKO T細胞及びCAR7-tKO T細胞におけるscFvの発現レベルを検出し、結果を
図2に示す。
【0102】
これによってわかるように、本発明で調製されるCAR T細胞におけるscFvは、いずれも効果的に発現されることができる。
実施例2:CAR T細胞による標的細胞への殺傷効果及びサイトカイン放出
2.1 CAR-T細胞による標的細胞への殺傷効果
【0103】
CAR-T細胞による標的細胞への殺傷能力を検出するために、まず1x10
4/孔でフルオレセイン遺伝子を持つJurkat標的細胞を96ウェルプレートに入れ、その後、0.5:1、0.25:1及び0.125:1のエフェクター:標的比(即ちエフェクターT細胞と標的細胞との比率)でCAR T細胞及びNT細胞を96ウェルプレートに入れて一緒に培養し、16~18時間の後にマイクロプレートリーダーを用いて蛍光値を測定する。計算式:(標的細胞蛍光平均値-サンプル蛍光平均値)/標的細胞蛍光平均値×100%に基づいて、殺傷効率を算出して取得し、結果を
図3に示す。
【0104】
これによって分かるように、NTに比べると、CAR7-dKO T細胞及びCAR7-tKO T細胞は、標的細胞に対していずれも特異的殺傷を有し、且つCAR7-tKO T細胞は、CAR7-dKO T細胞よりも殺傷能力が高い。
2.2 CAR-T細胞のサイトカイン放出
【0105】
T細胞が標的細胞を殺傷する場合に、標的細胞は、数が低減するとともに、サイトカインも放出する。下記のステップに従って、サンドイッチ法(ELISA)で本発明のCAR T細胞が標的細胞を殺傷するときのサイトカインIFNγの放出レベルを測定する。
(1)細胞共培養上澄み液の収集
【0106】
1x105/孔でJurkat標的細胞を96ウェルプレートに入れ、その後、0.125:1の比率でCAR T及びNT細胞(陰性対照)を標的細胞とともに一緒に培養し、18~24時間後に細胞共培養上澄み液を収集する。
(2)ELISAによる上澄みにおけるIFNγ分泌量の検出
【0107】
捕獲抗体Purified anti-human IFN-γAntibody(Biolegend,商品番号506502)を用いて96ウェルプレートを被覆させて4℃で1晩インキュベートす、その後、抗体溶液を除去し、2%BSA(sigma,商品番号V900933-1kg)含有の250μLのPBST(0.1%トゥイーン含有の1XPBS)溶液を加入し、37℃で2時間インキュベートする。そして、250μLのPBST(0.1%トゥイーン含有の1XPBS)を用いてプレートを3回洗浄する。各孔に50μLの細胞共培養上澄み液又は標準品を加入し、37℃で1時間インキュベートし、その後、250μLのPBST(0.1%トゥイーン含有の1XPBS)を用いてプレートを3回洗浄する。そして、各孔にそれぞれ50μLの検出抗体Anti-Interferon gamma抗体[MD-1](Biotin)(abcam,商品番号ab25017)を加入し、37℃で1時間インキュベートした後、250μLのPBST(0.1%トゥイーン含有の1XPBS)を用いてプレートを3回洗浄する。HRP Streptavidin(Biolegend,商品番号405210)を再加入して、37℃で30分間インキュベートした後、上澄み液を放棄し、250μLのPBST(0.1%トゥイーン含有の1XPBS)を加入し、5回洗浄する。各孔に50μLのTMB基質溶液を加入する。反応を室温で暗い場所で30分間発生させ、その後、各孔に50μLの1mol/L H
2SO
4を加入して反応を停止させる。反応の停止中の30分間において、マイクロプレートリーダーを用いて450nmにおける吸光度を検出し、標準曲線(標準品の読み取り値及び濃度に基づいて描いたもの)に基づいてサイトカインの含有量を算出し、結果を
図4に示す。
【0108】
これによってわかるように、CAR7-dKO T細胞及びCAR7-tKO T細胞による標的細胞のサイトカイン放出は、いずれも対照NT群よりも高く、且つCAR7-tKO T細胞はCAR7-dKO T細胞よりも放出レベルが高い。
【0109】
上記結果から分かるように、CAR7-tKO T細胞による標的細胞への殺傷能力及びサイトカインの放出レベルは、いずれもCAR7-dKO T細胞よりも高く、MHCクラスII遺伝子のノックアウトによってはCAR-T細胞の殺傷活性を強化したことが表明される。これは予想外であるが、既存の報告では、MHCクラスII遺伝子の発現が免疫拒絶に関連すると考えられるが、MHCクラスII遺伝子とCAR-T細胞自体の活性との関係についての報告がまだないからである。
実施例3.NK阻害性分子によるNK細胞殺傷作用への抑制効果
【0110】
B2mシグナルペプチド(配列番号34)、NK阻害性リガンド、CD28ヒンジ領域(配列番号40)、CD28膜貫通領域(配列番号24)等のタンパク質のコード配列を合成し、それをpLVXベクター(Public Protein/Plasmid Library(PPL),商品番号:PPL00157-4a)に順にクローンし、ここで、NK阻害性リガンドは、E-カドヘリンの細胞外領域(配列番号47,ECad0プラスミド対応)、B2MとHLA-E細胞外領域との融合分子(提示ペプチド(配列番号75)、B2M(配列番号74)及びHLA-E細胞外領域変異体(配列番号51)が含まれ、B2Mのコード配列である配列番号82に同義変異が含まれ、E0プラスミドに対応する)、或いはB2MとHLA-G細胞外領域との融合分子(B2M(配列番号74)及びHLA-G細胞外領域(配列番号49)が含まれ、B2Mのコード配列である配列番号82に同義変異が含まれ、G0プラスミドに対応する)である。ECad0、E0及びG0プラスミドには、さらにCD28共刺激ドメイン(配列番号26)が含まれ、それぞれECad28、E28及びG28プラスミドが取得される。シーケンシングにより対象配列の正しい挿入を確認する。
【0111】
B2mシグナルペプチド(配列番号34)、NK阻害性リガンド、IgG4ヒンジ領域(配列番号42)、CD8α膜貫通領域(配列番号22)、CD28共刺激ドメイン(配列番号26)等のタンパク質のコード配列を合成し、それをpLVXベクター(Public Protein/Plasmid Library(PPL),商品番号:PPL00157-4a)に順にクローンし、ここで、NK阻害性リガンドは、抗NKG2A scFv(配列番号63,A28プラスミド対応)、抗KIR scFv(配列番号67,KIRG4プラスミド対応)、又は抗LIR1 scFv(配列番号70,LIR1-1プラスミド対応)である。シーケンシングにより対象配列の正しい挿入を確認する。
【0112】
CD8αシグナルペプチド(配列番号36)、抗LIR1 scFv(配列番号73)、CD28ヒンジ領域(配列番号40)、CD28膜貫通領域(配列番号24)、4-1BB共刺激ドメイン(配列番号28)等のタンパク質のコード配列を合成し、それをpLVXベクター(Public Protein/Plasmid Library(PPL),商品番号:PPL00157-4a)に順にクローンし、LIR1-2プラスミドを取得する。シーケンシングにより対象配列の正しい挿入を確認する。
【0113】
無菌管に3mlのOpti-MEM(Gibco,商品番号31985-070)に加入して上記プラスミドを希釈してから、プラスミド:ウイルス包装ベクター:ウイルスエンベロープベクター=4:2:1という比率で、包装ベクターpsPAX2(Addgene,商品番号12260)及びエンベロープベクターpMD2.G(Addgene,商品番号12259)を加入する。そして、120ulのX-treme GENE HP DNAトランスフェクション試剤(Roche,商品番号06366236001)を加入し、すぐに均一に混ぜて、室温で15分間インキュベートし、その後、プラスミド/ベクター/トランスフェクション試剤混合物を293T細胞の培養フラスコに一滴ずつ加入する。24時間及び48時間の後にウイルスを収集し、それを合わせた後に、超遠心分離して(25000g、4℃、2.5時間)濃縮レンチウイルスを取得する。
【0114】
DynaBeads CD3/CD28 CTSTM(Gibco,商品番号40203D)を用いてT細胞を活性化し、37℃及び5%のCO2で1日間培養する。そして、濃縮したレンチウイルスを加入し、3日間連続培養後、NK阻害性分子を発現するT細胞、即ちUNKi-T細胞を取得する。
【0115】
そして、CRISPRシステムを用いて野生型T細胞(Mock T細胞,対照として用いられる)、及び前記UNKi-T細胞におけるTCR/CD3成分(具体的にTRAC遺伝子)及びMHC関連遺伝子(具体的にB2M及びRFX5)をノックアウトするとともに、フローサイトメトリーにより各遺伝子が効果的にノックアウトされることを確認する。
【0116】
そして、下記の方法に従って、本発明で調製されるUNKi-T細胞によるNK細胞の殺傷作用への抑制効果を検出し、即ちFar-Red(invitrogen,商品番号C34564)を用いて本発明で調製されるUNKi-T細胞及びMock-T細胞をマークする。そして、1x10
4個の細胞/孔の濃度で、マークされたUNKi-T細胞及びMock T細胞を96ウェルプレートに入れ、2:1のエフェクター:標的比でNK92細胞(HLA-E細胞外領域、HLA-G細胞外領域、抗NKG2A scFv、抗KIR scFv又は抗LIR1 scFvを発現するためのUNKi-T細胞及びMock T細胞)、又はNK92-KLRG1細胞(E-カドヘリン細胞外領域を発現するためのUNKi-T細胞であって、KLRG1遺伝子をNK92細胞に導入することによって調製する)を加入し、共培養を行う。16~18時間後、フローサイトメトリーを用いてカルチャーにおけるT細胞の比率を検出して、さらにNK細胞によるT細胞への殺傷効果を算出し、結果を
図5に示す。
【0117】
図5から分かるように、NK阻害性分子を発現しないMock T細胞に比べると、阻害性リガンド、例えば抗KIR scFv、抗LIR1 scFv、抗NKG2A scFv、HLA-G細胞外領域、HLA-E細胞外領域、E-カドヘリン細胞外領域を発現するUNKi-T細胞は、いずれもNK細胞によるT細胞への殺傷作用を顕著に低減させることができる。また、阻害性リガンド及び膜貫通ドメインのみ(即ち、共刺激ドメインが含まれない)を発現するT細胞(G0、E0、Ecad0)に比べると、共刺激ドメインの加入によっては、T細胞によるNK細胞殺傷への抑制(G28、E28、ECad28)を顕著に増加することができる。従って、本発明に記載の阻害性リガンド、膜貫通ドメイン及び共刺激ドメインを含むNK阻害性分子は、NK細胞によるUNKi-T細胞への殺傷作用を顕著に低減させて、HvGDリスクを効果的に低減させることができる。。
【0118】
また、ある場合には、NK細胞によるCAR-T細胞への殺傷を抑制する必要があるだけではなく、さらにT細胞がNK細胞を殺傷する必要もある。故に、発明者は、E28プラスミド及びA28プラスミド細胞を基にさらにCD3ζ細胞内シグナル伝達ドメイン(配列番号30)を含めるとともに、上記方法に従ってそれをレンチウイルスとしてパッケージ化し、そのうちのTCR/CD3成分(具体的にTRAC遺伝子)及びMHC関連遺伝子(具体的にB2M及びRFX5)が効果的にノックアウトされたT細胞を感染して、E28z-UNKi-T細胞核A28z-UNKi-T細胞を取得する。
【0119】
下記の方法によりUNKi-T細胞によるNK細胞への殺傷を検出し、即ち1x10
5個の細胞/孔の濃度で標的細胞(NK92細胞)を96ウェルプレートに入れ、その後、各孔に1:1の比率でMock T細胞、E28z-UNKi-T細胞及びA28z-UNKi-T細胞を加入すると同時に、10μlのPE-anti-human CD107a(BD Pharmingen,商品番号555801)を加入して、37℃、5%CO2の培養条件で共培養を行う。1時間後、Goigstop(BD Pharmingen,商品番号51-2092KZ)を加入して、引き続き2.5時間インキュベートする。そして、各孔に5μlのAPC-anti human CD8(BD Pharmingen,商品番号:555369)及び5μlのFITC-anti human CD4(BD Pharmingen,商品番号:561005)を加入し、37℃で30分間インキュベートし、フローサイトメトリーによりCD107aの発現状況を検出し、結果を
図6A(CD4+T細胞毒性)及び
図6B(CD8+T細胞毒性)に示す。
【0120】
これによって分かるように、NK阻害性分子を発現しないMock T細胞は、標的細胞に対して殺傷がほとんどない。これとは逆に、本発明で調製されるE28z-UNKi-T細胞及びA28z-UNKi-T細胞と、標的細胞との共培養後、CD107aの発現率が顕著に向上するが、本発明のUNKi-T細胞は、NK細胞を顕著に殺傷することができることが示される。
実施例4.NK阻害性分子を発現するユニバーサルCAR T細胞の調製
【0121】
CD8αシグナルペプチド(配列番号36)、抗CD7 scFv(配列番号21)、CD8αヒンジ領域(配列番号38)、CD8α膜貫通領域(配列番号22)、4-1BB細胞内領域(配列番号28)、CD3ζ細胞内シグナル伝達ドメイン(配列番号30)、F2A、E-カドヘリン細胞外領域(配列番号48)、CD28ヒンジ領域(配列番号40)、CD28膜貫通領域(配列番号24)及びCD28細胞内領域(配列番号26)等のタンパク質をコードする配列を合成し、それをMSCVベクターにクローンし、シーケンシングにより対象配列の正しい挿入を確認する。
【0122】
無菌管に3mlのOpti-MEM(Gibco,商品番号31985-070)に加入して上記プラスミドを希釈してから、プラスミド:ウイルス包装ベクター=3:1という比率で、包装ベクターpCL-Eco(上海禾午生物科技有限公司,商品番号P3029)を加入する。そして、120ulのX-treme GENE HP DNAトランスフェクション試剤(Roche,商品番号06366236001)を加入し、すぐに均一に混ぜて、室温で15分間インキュベートし、その後、プラスミド/ベクター/トランスフェクション試剤混合物を293GP細胞の培養フラスコに一滴ずつ加入する。72時間及び96時間の後にウイルスを収集し、それを合わせた後に、遠心分離し(2000rpm、4℃、10分間)、デフラグメンテーション後、レトロウイルス上澄み液を取得する。
【0123】
実施例1におけるノックアウト方式を参照し、TCR/CD7ダブルノックアウトのdKO T細胞及びTCR/CD7/RFX5トリプルノックアウトのtKO T細胞を調製する。遺伝子がノックアウトされない野生型T細胞(即ちNT細胞)を対照とする。
【0124】
24ウェルプレートをRetronectinでコーティングし4℃で1晩インキュベートし、その後、溶液を除去して、300μLの5%FBS(Gibco,商品番号)含有PBS溶液を加入し、室温で30分間置く。そして、上澄みを除去し、1mLのPBSでプレートを2回洗浄する。各孔に2mLのレトロウイルス上澄み液及び0.5M dKO-T細胞又はtKO-T細胞を加入し、2000g、32℃で2時間遠心分離した後、二酸化炭素インキュベーターに置いて培養し、CAR7-NKi-dKO T細胞及びCAR7-NKi-tKO T細胞を取得する。
【0125】
7日間培養した後、Biotin-SP(long spacer)AffiniPure Goat Anti-Mouse IgG,F(ab’)
2 Fragment Specific(min X Hu,Bov,Hrs Sr Prot)(jackson immunoresearch,商品番号115-065-072)を一次抗体とし、APC Streptavidin(BD Pharmingen,商品番号554067)又はPE Streptavidin(BD Pharmingen,商品番号554061)を二次抗体として用い、フローサイトメトリーによりCAR7-NKi-dKO T細胞及びCAR7-NKi-tKO T細胞のCD7 scFvの発現レベルを検出し、結果を
図7に示す。E-cadherin monoclonal antibody(invitrogen商品番号13-5700)及びGoat anti-Mouse IgG(H+L)Cross-Adsorbed Secondary Antibody,Alexa Fluor 488(Invitrogen,商品番号A-11001)を用いて、CAR T細胞におけるE-Cadherin発現を検出し、結果を
図8に示す。
【0126】
これによってわかるように、本発明で調製されるCAR T細胞における抗CD7 scFv及びNKi阻害性分子は、いずれも効果的に発現されることができる。
【0127】
実施例2の2.1に記載の方法に基づいてCAR7-NKi-dKO T細胞及びCAR7-NKi-tKO T細胞によるJurkat標的細胞への殺傷効果を検出し、結果を
図9に示す。これによってわかるように、2種類のCAR-T細胞は、各エフェクター:標的比でいずれも標的細胞を顕著に殺傷することができ、且つ0.125:1のエフェクター:標的比で、CAR7-NKi-tKO T細胞は、CAR7-NKi-dKO T細胞よりも殺傷効果が優れる。
【0128】
実施例2の2.2に記載的方法に基づいてCAR7-NKi-dKO T細胞及びCAR7-NKi-tKO T細胞のそれぞれとJurkat標的細胞との共培養後のサイトカイン放出レベルを検出し、結果を
図10に示す。これによってわかるように、本発明のCAR7-NKi-dKO T細胞及びCAR7-NKi-tKO T細胞のサイトカイン放出レベルは、いずれも対照であるNT細胞よりも顕著に高く、且つCAR7-NKi-tKO T細胞群は、CAR7-NKi-dKO T細胞群よりも放出レベルが顕著に高い。
実施例5.NK阻害性分子を発現するユニバーサルCAR T細胞の調製、及びその機能の検証
【0129】
CD8αシグナルペプチド(配列番号36)、抗CD7 scFv(配列番号21)、CD28ヒンジ領域(配列番号40)、CD8α膜貫通領域(配列番号22)、CD28細胞内領域(配列番号26)、CD3ζ細胞内シグナル伝達ドメイン(配列番号32)、F2A、PD-L1シグナルペプチド(配列番号44)、PD-L1細胞外領域(配列番号45)、CD28膜貫通領域(配列番号24)、4-1BB細胞内領域(配列番号28)などのタンパク質をコードする配列を合成し、それをMSCVベクターにクローンし、シーケンシングにより対象配列の正しい挿入を確認する(プラスミド名称:CAR7-PDL1)。
【0130】
CD8αシグナルペプチド(配列番号36)、抗CD7 scFv(配列番号21)、CD8αヒンジ領域(配列番号38)、CD28膜貫通領域(配列番号24)、4-1BB細胞内領域(配列番号28)、CD3ζ細胞内シグナル伝達ドメイン(配列番号32)、F2A、B2Mシグナルペプチド(配列番号34)、HLA-E細胞外領域(配列番号50)、CD28膜貫通領域(配列番号24)、CD28細胞内領域(配列番号26)等のタンパク質をコードする配列を合成し、それをMSCVベクターにクローンし、シーケンシングにより対象配列の正しい挿入を確認する(プラスミド名称:CAR7-E)。
【0131】
CD8αシグナルペプチド(配列番号36)、抗CD7 scFv(配列番号21)、CD8αヒンジ領域(配列番号38)、CD8α膜貫通領域(配列番号22)、4-1BB細胞内領域(配列番号28)、CD3ζ細胞内シグナル伝達ドメイン(配列番号32)、F2A、B2Mシグナルペプチド(配列番号34)、HLA-E細胞外領域(配列番号50)、連結ペプチド(配列番号64)、PD-L1細胞外領域(配列番号45)、CD28膜貫通領域(配列番号24)、CD28細胞内領域(配列番号26)等のタンパク質をコードする配列を合成し、それをMSCVベクターにクローンし、シーケンシングにより対象配列の正しい挿入を確認する(プラスミド名称:CAR7-EPDL1)。
【0132】
実施例3に記載の方法に従って上記プラスミドをレトロウイルスとしてパッケージ化し、tKO-T細胞を感染し、CAR7-E T細胞、CAR7-PDL1 T細胞及びCAR7-EPDL1 T細胞をそれぞれ取得する。
【0133】
7日間培養した後、Biotin-SP(long spacer)AffiniPure Goat Anti-human IgG,F(ab’)
2 Fragment Specific(min X Hu,Bov,Hrs Sr Prot)(jackson immunoresearch,商品番号109-065-097)を一次抗体とし、APC Streptavidin(BD Pharmingen,商品番号554067)又はPE Streptavidin(BD Pharmingen,商品番号554061)を二次抗体として用い、フローサイトメトリーにより3種類の細胞のscFvの発現レベルを検出し、結果を
図11に示す。PE mouse anti-human HLA-E(biolegend,商品番号342604)及びPE anti-human PDL1(biolegend,商品番号329706)を用いて、CAR T細胞におけるHLA-E及びPDL1の発現をそれぞれ検出し、結果を
図12及び
図13に示す。
【0134】
これによってわかるように、本発明で調製されるCAR T細胞における抗CD7 scFv及びNK阻害性分子(HLA-E及びPD-L1)は、いずれも効果的に発現されることができる。
【0135】
実施例2の2.1に記載の方法に基づいて上記3種類のCAR T細胞によるJurkat標的細胞への殺傷効果を検出し、結果を
図14に示す。これによってわかるように、3種類のCAR-T細胞は、いずれも標的細胞を顕著に殺傷することができる。
【0136】
実施例2の2.2に記載的方法に基づいて3種類のCAR-T細胞のそれぞれとJurkat標的細胞との共培養後のサイトカイン放出レベルを検出し、結果を
図15に示す。NT群に比べると、3種類のCAR-T細胞サイトカイン放出レベルはいずれも顕著に高くなる。
実施例6.二重標的CAR-T細胞の調製及びその機能の検証
【0137】
CD8αシグナルペプチド(配列番号36)、抗CD7 scFv(配列番号20)、連結ペプチド(配列番号64)、抗CD19 scFv(配列番号54)、CD8αヒンジ領域(配列番号38)、CD8α膜貫通領域(配列番号22)、4-1BB細胞内領域(配列番号28)、CD3ζ細胞内シグナル伝達ドメイン(配列番号32)等のタンパク質をコードする配列を合成し、それをpLVXベクター(Public Protein/Plasmid Library(PPL),商品番号:PPL00157-4a)に順にクローンし、シーケンシングにより対象配列の正しい挿入を確認する。
【0138】
実施例1の方法に従って上記プラスミドベクターをレンチウイルスとしてパッケージ化し、tkO-T細胞を感染し、CAR7-19 T細胞を取得する。修飾されていない野生型T細胞は、陰性対照(NT)として用いられる。
【0139】
Biotin-SP(long spacer)AffiniPure Goat Anti-Mouse IgG,F(ab’)
2 Fragment Specific(min X Hu,Bov,Hrs Sr Prot)(jackson immunoresearch,商品番号115-065-072)又はBiotin-SP(long spacer)AffiniPure Goat Anti-human IgG,F(ab’) 2Fragment Specific(min X Hu,Bov,Hrs Sr Prot)(jackson immunoresearch,商品番号109-065-097)を一次抗体とし、FITC Streptavidin(BD Pharmingen,商品番号554060)又はPE Streptavidin(BD Pharmingen,商品番号554061)を二次抗体として用い、フローサイトメトリーによりCAR7-19 T細胞のscFvの発現レベルを検出し、結果を
図16に示す。
【0140】
これからわかるように、本発明で調製されるCAR T細胞におけるCD7 scFv及びCD19 scFvは、いずれも効果的に発現されることができる。
【0141】
実施例2における方法に基づいて、それぞれCAR7-19 T細胞の殺傷功能及びサイトカイン放出レベルを検出し、結果をそれぞれ
図17及び
図18に示す。これによってわかるように、CAR7-19 T細胞は、Nalm6及びJurkatという2種類の標的細胞に対していずれも特異的殺傷、及び顕著に向上するサイトカイン放出がある。
【0142】
説明すべきこととして、上記は、本発明の好ましい実施例に過ぎなく、本発明を制限するものではなく、当業者にとって、本発明は様々の変更及び変化を行うことができる。当業者によって理解されるように、本発明の思想と原則で行われたいかなる修正、同等置換、改善などは、いずれも本発明の保護範囲内に含まれるべきである。
【配列表】
【国際調査報告】