(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-21
(54)【発明の名称】CASとDNAポリメラーゼとの会合による、予測可能かつテンプレートフリーの遺伝子編集の強化
(51)【国際特許分類】
C12N 15/62 20060101AFI20231114BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20231114BHJP
C07K 16/08 20060101ALI20231114BHJP
C12N 9/10 20060101ALI20231114BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20231114BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20231114BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20231114BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20231114BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20231114BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20231114BHJP
A61K 38/53 20060101ALI20231114BHJP
A61K 38/46 20060101ALI20231114BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20231114BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20231114BHJP
A61P 21/04 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
C07K19/00 ZNA
C07K16/08
C12N9/10
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N15/09 110
C12N15/63 Z
A61K38/53
A61K38/46
A61K31/7105
A61K48/00
A61P21/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023526987
(86)(22)【出願日】2021-11-04
(85)【翻訳文提出日】2023-06-13
(86)【国際出願番号】 US2021058135
(87)【国際公開番号】W WO2022098923
(87)【国際公開日】2022-05-12
(32)【優先日】2020-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500350265
【氏名又は名称】ニューヨーク ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】弁理士法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ロン,チョンズー
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,チアオイエン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA95Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BC01
4B065CA27
4B065CA44
4C084AA02
4C084AA07
4C084AA13
4C084BA02
4C084BA41
4C084CA01
4C084DC22
4C084DC28
4C084MA02
4C084NA14
4C084ZA94
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA03
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA94
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA01
4H045DA89
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
正確なゲノム編集のための組成物及び方法が提供される。この組成物は、T4 DNAポリメラーゼセグメントとMS2バクテリオファージコートタンパク質のセグメントとを含む融合タンパク質を含む。融合タンパク質は、Cas酵素及び1つ以上のガイドRNAと共に動作して、1つ以上のインデルを生成する。前記インデルは、DNA修復テンプレートを利用することなく生成される。インデルの製造方法も提供される。方法は、T4 DNAポリメラーゼセグメントとMS2バクテリオファージコートタンパク質のセグメントとを含む融合タンパク質、Cas酵素、及びMS2タンパク質結合部位を含むガイドRNAを細胞内に導入することを含む。ガイドRNAは、選択された染色体遺伝子座に、Cas酵素、T4 DNAポリメラーゼ及びMS2結合タンパク質を誘導してインデルを生成する。インデルは、前記の選択された染色体遺伝子座によってコードされるオープンリーディングフレーム中の変異を修正し得る。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
T4 DNAポリメラーゼセグメントと、MS2バクテリオファージコートタンパク質のセグメントとを含む融合タンパク質。
【請求項2】
少なくとも1つの核局在化シグナルをさらに含む、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項3】
前記T4 DNAポリメラーゼセグメント及び前記MS2タンパク質のセグメントが、第一のリンカー配列によって分離されている、請求項2に記載の融合タンパク質。
【請求項4】
前記MS2セグメントを第一の核局在化シグナルに連結する第一のリンカーアミノ酸配列と、前記T4 DNAポリメラーゼセグメントを第二の核局在化シグナルに連結する第二のリンカー配列とをさらに含む、請求項3に記載の融合タンパク質。
【請求項5】
二本鎖DNAテンプレート、Cas酵素、MS2バクテリオファージコートタンパク質結合部位を含むガイドRNA、T4 DNAポリメラーゼを含むタンパク質、及び、MS2結合タンパク質を含む複合体。
【請求項6】
MS2タンパク質結合配列を含むガイドRNAをさらに含む、請求項5に記載の複合体。
【請求項7】
前記Cas酵素がCas9である、請求項5に記載の複合体。
【請求項8】
請求項5に記載の複合体を含む細胞。
【請求項9】
請求項1~4のいずれか1項に記載の融合タンパク質を含む医薬製剤。
【請求項10】
細胞内の選択された染色体遺伝子座にインデルを生成する方法であって、請求項1~4のいずれか1項に記載の融合タンパク質、Cas酵素、及び、MS2タンパク質結合部位を含むガイドRNAを細胞内に導入することを含み、前記T4 DNAポリメラーゼ及び前記MS2結合タンパク質、前記Cas酵素、及び前記ガイドRNAが、選択された染色体遺伝子座においてインデルを生じさせる、方法。
【請求項11】
前記インデルが、前記の選択された染色体遺伝子座によってコードされるオープンリーディングフレーム中の変異を修正する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記の選択された染色体遺伝子座が、単一遺伝子疾患と相関する遺伝子に変異を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記単一遺伝子疾患が筋ジストロフィーであり、前記遺伝子が変異型ジストロフィンタンパク質をコードする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記インデルが、変異型ジストロフィンタンパク質をコードする遺伝子を修正する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記インデルが、1つ又は2つの塩基対挿入を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
請求項1~4のいずれか1項に記載の融合タンパク質、又は、前記融合タンパク質をコードする発現ベクターを含むキット。
【請求項17】
Cas酵素又はCas酵素をコードする発現ベクターをさらに含む、請求項16に記載のキット。
【請求項18】
ガイドRNA、又はガイドRNAをコードする発現ベクターをさらに含み、
ここで、前記ガイドRNAがMS2タンパク質結合配列を含み、且つ、前記ガイドRNAが、選択された染色体遺伝子座を標的とする配列を含む、請求項17に記載のキット。
【請求項19】
請求項1~4のいずれか1項に記載の融合タンパク質をコードする発現ベクター。
【請求項20】
請求項1~4のいずれか1項に記載の融合タンパク質をコードするcDNA。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
この出願は、2020年11月5日に出願された米国仮出願第63/109,909号に基づく優先権を主張し、その開示の全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
配列表
本願は、ASCII形式で電子的に提出された配列表を含み、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。2021年11月3日に作成されたASCIIコピーは、「SpCas9_ST25.txt」と題され、サイズは29,207バイトである。
【背景】
【0003】
クラスターを形成し規則正しい間隔を持つ短い回文配列リピート(CRISPR)/CRISPR-関連タンパク質(Cas)-ベースのゲノム編集は、配列特異的遺伝子編集のための最も強力なツールの1つとして出現した。しかしながら、一般的な遺伝子編集戦略は、しばしば、相同組換え修復媒介性ノックイン(これは、例えば、中枢神経系及び心臓の分裂終了細胞内では、非効率的又は実行不可能であり得る方法である)、又はより最近では、塩基編集アプローチ(これは、挿入及び欠失[インデル]によって引き起こされる疾患に対処することができない)を必要とする。最近では、複数のグループが、SpCas9-媒介性のテンプレート(鋳型)フリーのヌクレオチド挿入が、正確かつ予測可能であることを実証した。しかしながら、様々な目的のために、インデルを正確に生じさせるための改善された組成物及び方法に対する継続した満たされてないニーズが残っている。本開示は、このニーズに関連する。
【発明の概要】
【0004】
本開示は、正確なゲノム編集のための組成物及び方法を提供する。前記組成物は、T4 DNAポリメラーゼセグメントとMS2バクテリオファージコートタンパク質のセグメントとを含む融合タンパク質を含む。融合タンパク質は、1つ又は複数のインデルを生成するために、Cas酵素及び1つ又は複数のガイドRNAと共に動作する。複数の実施形態において、インデルは非相同末端結合(NHEJ)を使用して生成され、これは、本開示に包含されるゲノム編集システムのコンポーネントであるT4 DNAポリメラーゼによって少なくとも部分的に促進される。これにより、本開示は、DNA修復テンプレートフリーの様式でインデルを生成する。融合タンパク質は、細胞の核内でCRISPRシステムのコンポーネントとして機能する。したがって、本明細書に記載される任意のタンパク質は、少なくとも1つの核局在化シグナルを含み得る。融合タンパク質はまた、例えば、T4 DNAポリメラーゼとMS2とを分離する、及び/又は、核局在化シグナルから融合タンパク質のセグメントを分離する1つ以上のリンカーを含み得る。複数の実施形態において、融合タンパク質は、例えば、翻訳中にリボソームスキッピングを促進できる自己切断ペプチド配列を含む。したがって、融合タンパク質は、融合タンパク質のN末端又はC末端上の付加アミノ酸をコードするmRNAによってコードされてもよく、これらは、自己切断ペプチド配列の働きによって、T4 DNAポリメラーゼ及びMS2タンパク質セグメントを含む連続ポリペプチドの一部として翻訳されない。
【0005】
一態様では、本開示は、Cas酵素と、MS2バクテリオファージコートタンパク質結合部位を含むガイドRNAと、T4 DNAポリメラーゼを含むタンパク質と、MS2結合タンパク質とを含む複合体を含む。複合体は、さらに、MS2タンパク質結合配列を含むガイドRNAを含んでもよい。記載された融合タンパク質及び記載された複合体を含む細胞も含まれる。記載された融合タンパク質を含む医薬組成物も提供される。このような組成物はまた、ガイドRNA及びCas酵素を含んでもよい。記載された融合タンパク質及び複合体を含む細胞も含まれる。本開示はまた、記載された融合タンパク質をコードする発現ベクター及びcDNA、ならびに、それらを含む及び/又は追加の成分を含むキットも提供する。
【0006】
別の態様では、本開示は、細胞内の選択された染色体遺伝子座にてインデルを生じさせる方法を提供する。この方法は、記載された融合タンパク質、Cas酵素、及びMS2タンパク質結合部位を含むガイドRNAを細胞に導入することを含み、ここで、ガイドRNAは、Cas酵素、T4 DNAポリメラーゼ、及びMS2結合タンパク質を、選択された染色体遺伝子座に誘導し、それによってインデルを生成する。複数の実施形態において、インデルは、選択された染色体遺伝子座によってコードされるオープンリーディングフレーム中の変異を修正し、あるいは配列をオープンリーディングフレームに変換する。複数の実施形態において、選択された染色体遺伝子座は、単一遺伝子疾患(monogenic disease)と相関する遺伝子中の変異を含む。1つの非限定的な実施形態では、単一遺伝子疾患は筋ジストロフィーであり、ここで、選択された染色体遺伝子座は、変異したジストロフィンタンパク質を含む遺伝子を含む。したがって、一実施形態では、インデルは、変異したジストロフィンタンパク質をコードする遺伝子を修正する。ある例では、インデルは、1つ又は2つの塩基対挿入を含む。
【図面の簡単な説明】
【0007】
[図1A~H]CRISPR/Cas9-誘導T4 DNAポリメラーゼは、5'オーバーハングを有する突出DNA(staggered DNA)の平滑化(fill-in)を経て挿入の生成を促進する
[
図1A]
Cas9-誘導DSBの修復プロセス及び結果を示す概略図。DNAポリメラーゼは、Cas9によって生成された5'-一塩基オーバーハングをfill-inすることができ、このようにして、1-bp挿入の発生を促進する。エキソヌクレアーゼは、Cas9-誘導DSB末端にて末端切除を促進し、最終的に欠失の発生を促進する。
[
図1B]
151位におけるアデノシンの欠失(del151A)とガイドRNAの配列とを含むtdTomatoレポータープラスミドの例示。SpCas9の切断部位は矢頭で示されている。Del151Aに続くヌクレオチド配列は、配列番号1である。WT配列のための配列は、配列番号2である。tdTomato-sgRNA及びPAMのトップストランドの配列は、配列番号3である。tdTomato-sgRNA及びPAMのボトムストランドの配列は、配列番号4である。
[
図1C]
DNAポリメラーゼ発現ベクターの構造。EF1Aは伸長因子1-αのプロモーターであり;NLSは核局在化シグナルであり;MS2はMS2バクテリオファージコートタンパク質である。
[
図1D~1E]
tdTomato
+/EGFP
+集団(D)及びtdTomato
-/EGFP
+集団(E)における、tdTomato del151AサイトのCas9-誘導挿入プロファイル及び頻度。異なる細胞集団を、Cas9をトランスフェクトした、又はCas9とMS2-タグ付きDNAポリメラーゼとを共トランスフェクトしたtdTomato del151Aレポーター細胞から分類した。標的領域を増幅し、Sangerシーケンシング法によって配列決定した。すべてのシークエンシングファイルを、Synthego ICEソフトウェアツールを介して解析した。矢印は、2-bp挿入を指し示し、これは、他の処理細胞と比較して、T4 DNAポリメラーゼ発現細胞において、有意に増加した。
[
図1F]
Cas9をトランスフェクトした、又はCas9とT4 DNAポリメラーゼとを共トランスフェクトしたtdTomatoレポーター細胞において生じるインデルプロファイル及び頻度。標的領域を増幅し、ディープシークエンシングによって配列決定した。
[
図1G]
対照(Cas9のみ)細胞、及び、T4 DNAポリメラーゼとCas9の共トランスフェクション細胞における1-bp、2-bp及び3-bp挿入のパターン。
[
図1H]
Cas9又はCasPlus(+T4 Pol)によって誘発された293T細胞における3つの内因性ゲノム部位(Mybpc3-323-g3, LMNA-Ex3-g2, Mybpc3-323-g2)のインデルプロファイル及び頻度。Mybpc3-323-g3(PAM)の配列は配列番号5である。LMNA-Ex3-g2(PAM)の配列は配列番号6である。Mybpc3-323-g2(PAM)の配列は配列番号7である。
【0008】
[図2A-2G]CRISPR/Cas9-誘導T4 DNAポリメラーゼは、MMEJ修復経路を障害する
[
図2A]
T4 DNAポリメラーゼの存在下におけるCas9切断後のMMEJプロセス及び結果を示す概略図。MS2-タグ付きT4 DNAポリメラーゼは、DSB末端にて、エキソヌクレアーゼによって生じたギャップをfill-inすることにより、比較的長い範囲に及ぶ端部切除を阻止し、それゆえ小さな欠失又は挿入を有する生成物をもたらす。
[
図2B-2G]
Cas9(CTR)又はCasPlus(T4Pol)によって誘発される、293T細胞における6つの内因性ゲノム部位でのインデルプロファイル及び頻度を示す。Bにおける標的部位1:DMD-Ex51-g5(PAM)の配列は配列番号8である。Cにおける標的部位2:LMNA-Ex2-g2(PAM)の配列は配列番号9である。Dにおける標的部位3:LMNA-Ex2-g1(PAM)の配列は、配列番号10である。Eにおける標的部位4:DMD-Ex43-g1(PAM)の配列は、配列番号11である。Fにおける標的部位5:DMD-Ex51-g1(PAM)の配列は、配列番号12である。Gにおける標的部位6:DMD-Ex51-g2(PAM)の配列は、配列番号13である。
【0009】
[
図3A]
Cas9-DNAポリメラーゼ融合タンパク質の発現用ベクター。Cbh、サイトメガロウイルス(CMV)及びニワトリβ-アクチンハイブリッドプロモーター。
【0010】
[
図3B]
SpCas9、SpCas9-リンカー-Polλ、SpCas9-リンカー-Polμ、SpCas9-リンカー-Polβ、SpCas9-リンカー-Pol4、又はSpCas9-リンカー-T4 DNA Polで過剰発現させたtdTomato del151A細胞株におけるインデルプロファイル及び頻度。すべての処置において有意な差異は検出されなかった。
【0011】
[
図4]
MS2及びT4タンパク質との間の相互作用、Cas9、及び、シングルガイドRNA(sgRNA)であってMS2 sgRNA結合構造を有するもの、Cas9による切断、及びT4 fill-in及び連結による+1bpの挿入の生成を示す図。
【詳細な説明】
【0012】
別に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術的及び科学的用語は、本開示が関連する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0013】
特段の記載がない限り、本明細書全体を通して与えられるすべての最大の数値限定は、すべてのより低い数値限定を、そのようなより低い数値限定が本明細書に明示的に記載されているかのように含むことが意図される。本明細書全体を通して与えられるすべての最小の数値限定は、すべてのより高い数値限定を、そのようなより高い数値制限が本明細書に明示的に記載されているかのように含む。本明細書全体を通して与えられるすべての数値範囲は、そのような広い数値範囲内に入るすべてのより狭い数値範囲を、そのようなより狭い数値範囲がすべて本明細書に明示的に記載されているかのように含む。
【0014】
本開示は、本明細書に記載のすべてのポリヌクレオチド及びアミノ酸配列を含む。各RNA配列はそのDNA等価物を含み、各DNA配列はそのRNA等価物を含む。相補的かつ逆平行なポリヌクレオチド配列が含まれる。本明細書に開示されるポリペプチドをコードするすべてのDNA及びRNA配列は、本開示に包含される。すべてのタンパク質配列のアミノ酸及びそれらをコードするすべてのポリヌクレオチド配列も含まれており、配列アライメントによって含まれる配列を含むが、それらに限定されない。本開示の任意の配列(アミノ酸及びヌクレオチド配列)と、80.00%~99.99%同一の配列が含まれる。
【0015】
本開示は、データベース登録を介して本明細書で特定されるすべてのポリヌクレオチド配列及びすべてのアミノ酸配列を含む。そのような配列は、それらがこの出願又は特許の出願日にデータベースに存在するため、参照により本明細書に組み込まれる。
【0016】
複数の実施形態において、本開示は、本明細書において「CasPlus」と呼ばれるT4 DNAポリメラーゼ/Cas9システムを提供し、Cas9切断後に形成される、予測可能なインデルを生成することによって変異を正確にモデル化及び修正する。一実施形態では、Cas9はストレプトコッカス・ピオゲネスに由来する(SpCas9)。このシステムは、DNA修復テンプレートを利用しない様式で、インデルを生成する。複数の実施形態において、インデルは、システムのコンポーネントであるT4 DNAポリメラーゼによって少なくとも部分的に促進されるNHEJを使用して製造される。
【0017】
好ましいインデルを生成する確率を高めた本明細書に記載のCasPlusシステムを設計することによって、本開示は、従来のHDR法と比較して効率の高い、同質遺伝子的な患者細胞の生成を含む。現在提供されている結果は、切断効率及び遺伝子特異性を超える形質のために設計されたgRNAを用い、広範囲にわたるインデル系疾患のモデル化及び修正のために予測可能なインデル形成を利用する能力を有するCasPlusシステムの有用性を実証する。したがって、本開示は、染色体のガイドRNA標的セグメントにおける正確な挿入及び/又は欠失を生成するための組成物及び方法を提供する。したがって、特定の実施形態における開示は、インデルを生成するために使用される。インデルは、1、2、3、4、又は5ヌクレオチドの挿入又は欠失を含み、相補鎖の同時変化を伴い、ゆえに、1~10(包括的)の塩基対(bp)の挿入又は欠失をもたらす。インデルは、本明細書でさらに説明されるように、タンパク質複合体と組み合わせて1つ以上の適切なガイドRNAを用いることにより、任意の望ましい変化を含んでもよい。
【0018】
非限定的な実施形態では、インデルは、染色体のタンパク質コードセグメント内で、スプライスジャンクションにて、プロモーター内で、エンハンサーエレメント内で、又はインデルの生成が望ましい任意の他の位置にて生成され、ここで、適切なプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)は、インデルの位置の近位にある。複数の実施形態において、インデルは、病状又は障害に関連する変異を修正する。複数の実施形態において、インデルは、フレームシフト変異、ミスセンス変異、又はナンセンス変異を修正する。複数の実施形態において、インデルは、タンパク質コード配列中の少なくとも1つのアミノ酸のためのコドンを変化させ、それにより、エクソン内の変異を修正して正常(例えば、疾患に関連しない)エクソンとすることができる。複数の実施形態において、ホモ接合性インデルが生成されてもよい。複数の実施形態において、インデルは、例えば、単一遺伝子疾患(例えば、単一遺伝子内の変化に起因する疾患)のコンポーネントである有害な変異を修正する。複数の実施形態において、単一遺伝子疾患は、X連鎖障害である。非限定的な実施形態では、単一遺伝子疾患は、鎌状赤血球貧血、嚢胞性線維症、ハンチントン病、テイ・サックス病、フェニルケトン尿症、ムコ多糖症、リソソーム酸リパーゼ欠損症、糖原病、ガラクトース血症、血友病A、レット症候群、又は任意の形態の筋ジストロフィー(デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)等)のいずれかである。非限定的な実施形態では、インデルは、ヒトジストロフィン遺伝子の変異を修正する。複数の実施形態において、インデルは、ヒトジストロフィン遺伝子エクソン2-10又は45-55(それぞれ包括的)の1つ以上に含まれるヒトジストロフィン遺伝子における変異(欠失を含むが必ずしもそれに限定されない)を修正する。複数の実施形態において、インデルは、単一塩基対挿入を生じさせることによって、エクソン内の1つ又は複数のアウトフレーム変異を修正する。したがって、本開示は、エクソン再成形(例えば、アウトオブフレーム・リーディングフレームを再構成する)を含む。複数の実施形態において、インデルは、細胞中の機能性ジストロフィン発現(変異は修正されている)を回復させる。非限定的な複数の実施形態において、本開示は、ヒトジストロフィン遺伝子のエクソン43、45、49、又は51への一塩基対挿入の導入を提供する。ヒトジストロフィンのアミノ酸配列及びヒトジストロフィンをコードする遺伝子の配列は、当該技術分野において知られている(例えば、NCBI遺伝子ID:1756[その中のすべての受入番号を含む]、及びNCBI受入番号NG_012232)。
【0019】
複数の実施形態において、本開示は、T4 DNAポリメラーゼとCasヌクレアーゼとの会合を促進する融合タンパク質を提供する。複数の実施形態において、融合タンパク質は、MS2ドメイン及びT4 DNAポリメラーゼドメイン(その代表的な配列が本明細書に記載される)を含む。
【0020】
複数の実施形態において、本開示は、対照と比べてより頻繁なインデルの生成を提供する。複数の実施形態において、前記対照は、T4 DNAポリメラーゼではないDNAポリメラーゼに融合したMS2タンパク質、又は、ヌクレアーゼ活性を示さないタンパク質(検出可能なタンパク質等、その非限定的な例は、本明細書で提供され、緑色蛍光タンパク質(GFP)を含むが、mCherryなどの他のタンパク質を使用してもよい)を使用して得られるインデル生成値を含む。
【0021】
複数の実施形態において、本開示の融合タンパク質は、1つ以上のリボソームスキッピング配列を含んでもよく、これらは、当技術分野において、「自己切断型」アミノ酸配列とも呼ばれる。これらは、典型的には約18-22アミノ酸長である。任意の適切な配列を使用することができ、非限定的な例として、T2A(アミノ酸配列:EGRGSLLTCGDVEENPGP[配列番号14]を含む)、P2A(アミノ酸配列:ATNFSLLKQAGDVEENPGP[配列番号15]を含む)、E2A(アミノ酸配列:QCTNYALLKLAGDVESNPGP[配列番号16]を含む)、及びF2A(アミノ酸配列:VKQTLNFDLLKLAGDVESNPGP[配列番号17]を含む)が挙げられる。
【0022】
複数の実施形態において、融合タンパク質は、1つ以上のタンパク質ドメインを分離する連結アミノ酸(例えば、リンカー)を含む。リンカーは、典型的には少なくとも2つのアミノ酸長であり、GS配列を含んでもよいが、他の配列を使用してもよい。複数の実施形態において、リンカーは、3~100アミノ酸長である。複数の実施形態において、リンカー配列は、「GS」配列を含むか、又は「GS」配列からなる。複数の実施形態において、リンカーは、配列:SAGGGGSGGGGSGGGGSG(配列番号18)を含むか、又はそれからなる。
【0023】
複数の実施形態において、本開示の融合タンパク質は、1つ又は複数の核局在化シグナルを含み、その代表的及び非限定的な例が、本明細書に提供される。一般に、真核生物用では、核局在化シグナルは、正に荷電したリジン又はアルギニンの1以上の短い配列を含む。
【0024】
非限定的な実施形態において、本開示は、MS2セグメント及びDNAポリメラーゼセグメントを含む融合タンパク質を提供し、これは、前述の連結アミノ酸、核局在化シグナル、及びリボソームスキッピング/自己切断型配列を含んでもよい。セグメントとは、連続するアミノ酸配列を含む記載されたタンパク質のセクションを意味する。複数の実施形態において、セグメントは、記載された方法に関与するためにタンパク質の機能を保持するのに十分な長さであり、したがって、機能的セグメントである。複数の実施形態において、セグメントには、記載されたアミノ酸配列の80%~99%を連続的に含む、記載されたタンパク質の連続セグメントが含まれる。
【0025】
一実施形態において、DNAポリメラーゼは、T4 DNAポリメラーゼであるが、オーバーハングのfill-inを可能にする他のDNAポリメラーゼ(T7 DNAポリメラーゼ、及びRb69 DNAポリメラーゼなど)が使用されてもよい。我々は、以下のDNAポリメラーゼが、記載のシステムにおいて機能しないことを実証した:DNAポリメラーゼλ、DNAポリメラーゼμ、DNAポリメラーゼβ、酵母由来DNAポリメラーゼ4、細菌由来DNAポリメラーゼI、及びクレノウ断片は、すべて、適切な又は検出可能な機能を示さない(例えば、
図1D~1Eを参照)。
【0026】
一実施形態において、T4 DNAポリメラーゼは、以下の配列を含む:
【0027】
任意の適切なT4 DNAポリメラーゼを使用することができ、これには配列番号18と80~99.99%の配列同一性を有し、NHEJを促進するために必要なT4ポリメラーゼ活性を有する任意のT4 DNAポリメラーゼが含まれる。
【0028】
MS2バクテリオファージコートタンパク質に結合部位を提供する任意の適切なMS2配列を使用することができる[Seminars in Virology 8, 176-185 (1997), article No. VI970120:その開示は、参照により本明細書に組み込まれる]。一実施形態において、本開示の融合タンパク質は、以下の配列を含むMS2配列を含む:
【0029】
任意の適切なMS2バクテリオファージコートタンパク質配列が使用されてもよく、これには、配列番号19と80~99.99%の配列同一性を有し、MS2 RNAアプタマーに、必要な結合部位を提供する任意のMS2バクテリオファージコートタンパク質配列が含まれる。
【0030】
一実施形態において、融合タンパク質は、配列 SAGGGGSGGGGSGGGGSG(配列番号18)を含む第一のリンカー配列を含む。一実施形態において、融合タンパク質は、配列GSを含む第二のリンカー配列を含む。
【0031】
一実施形態において、融合タンパク質は、1つ以上の核局在化シグナルを含む。一実施形態において、1つ以上の核局在化シグナル(NLS)は、配列:GPKKKRKVAAA(配列番号21)を含む。
【0032】
一実施形態において、本開示のシステムは、融合タンパク質を含み、この融合タンパク質は、N->C末端方向に、MS2タンパク質セグメント、第一のリンカー、第一のNLS、T4 DNAポリメラーゼセグメント、第二のリンカー配列、及び第二のNLSを含む、連続したポリペプチドを含む。非限定的な実施形態において、本開示は、以下のアミノ酸配列を含むか、又はそれからなる融合タンパク質を提供する:
(上記配列中、MS2配列は太字で示され、リンカー配列はイタリック体で示され、NLS配列は拡大フォントで示され、T4 DNA配列は太字且つイタリック体で示される)
【0033】
配列番号21と80~99.99%の配列同一性を有する任意の適切なアミノ配列が含まれる(前記配列は、NHEJを促進するために必要なT4ポリメラーゼ活性を有し、必要とされる結合部位をMS2バクテリオファージコートタンパク質に提供する)。
【0034】
本発明において、任意の適切な核酸配列が使用されてもよく、この核酸配列は、配列番号21又は80~99.99%の配列同一性を有する上記のアミノ配列をコードするものであり、ここで、前記アミノ酸配列は、NHEJを促進するために必要なT4ポリメラーゼ活性を有し、必要とされる結合部位をMS2バクテリオファージコートタンパク質に提供する。
【0035】
一実施形態において、本開示は、以下の核酸配列を含むか、又は以下の核酸配列からなる配列によってコードされる融合タンパク質を提供する:
(上記配列中、MS2配列は太字で示され、リンカー配列はイタリック体で示され、NLS配列は拡大フォントで示され、T4 DNA配列は太字及びイタリック体で示されている)
【0036】
記載された融合タンパク質の有用性は、T4 DNAポリメラーゼをMS2タンパク質セグメントで「タグ付けすること」である。MS2タグ付けは、MS2タンパク質及びMS2が連結された別のタンパク質(Cas酵素など)を、テトラループ及びステムループ2を含むRNA配列(例えば、ガイドRNA)に、リクルートするために使用される。これらの特徴部は、Cas9-gRNAリボヌクレオタンパク質複合体の外側に突出し、Cas9アミノ酸側鎖と相互作用していない各ステムの遠位4塩基対(bp)を伴う。テトラループ及びステムループ2は、タンパク質-相互作用RNAアプタマーを付加することを可能にして、Cas9複合体へのエフェクタードメインのリクルートメントを促進する(例えば、[Nature volume 517, pages 583-588(2015)]:その開示は参照により本明細書に組み込まれる)。
【0037】
したがって、記載されたシステムは、T4 DNAポリメラーゼを、MS2結合ドメインを含むガイドRNA、及びCas酵素にリクルートするために使用される。この配置の代表的な図は、
図4に示されている。しかしながら、他のタンパク質リクルートシステムを使用してもよい(例えば、SunTag、複数のタンパク質コピーをポリペプチドスキャフォールドにリクルートするためのシステム)[Cell. 2014 Oct 23; 159(3): 635-646:その開示は参照により本明細書に組み込まれる]。
【0038】
複数の実施形態において、T4 DNAポリメラーゼは、5'->3'方向のDNA合成を触媒し、Cas酵素による切断後にインデルを生成する。複数の実施形態において、記載されたシステムは、マイクロホモロジー媒介性の末端結合を阻害する。複数の実施形態において、本開示は、5'オーバーハングを有する1-2塩基対突出末端の生成を提供し、PAMの上流の配列4-5塩基対と同一である1-2ヌクレオチドの正確かつ予測可能な挿入を可能にする(突出末端のT4-媒介性fill-inにより)。
【0039】
特定且つ非限定的な複数の実施形態において、Casには、ストレプトコッカス・ピオゲネスなどのCas9(SpCas9)が含まれる。Cas9の誘導体は、当技術分野で知られており、また、記載されたDNAポリメラーゼと共に使用されてもよい。そのような誘導体は、例えば、Cas9より小さな酵素であってもよく、及び/又は様々なプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)要求を有していてもよい。非限定的な実施形態において、Cas酵素は、Cpf1としても知られているCas12a、又はSpCas9-HF1、又はHypaCas9、又はxCas9、又はCas9-NG 、又はSpG、又はSpRYであってもよい。
【0040】
非限定的な実施形態において、DNAエンドヌクレアーゼは、トランスポゾン関連TnpB[Nature (2021)]であってもよい。
【0041】
S.ピオゲネスの参照配列は、GenBank受入番号:NC_002737の下で入手可能であり、854757-858863位にcas9遺伝子を有する。S.ピオゲネス Cas9アミノ酸配列は、NP_269215の下で入手可能である。これらの配列は、この出願又は特許の優先日に提供されたので、参照により本明細書に組み込まれる。
【0042】
Cas酵素には、1つ以上の適切なガイドRNAが提供され、これは、「ターゲティングRNA」と呼ばれることがある。ターゲティングRNAは、適切なMS2結合部位を含むように提供される。一実施形態において、適切なガイドRNAは、以下の配列を含む:
(上記配列中、太字の大文字は選択されたスペーサーを表し、太字の小文字はMS2ループを表し、そこにT4-MS2融合タンパク質が結合する)
【0043】
記載されたコンポーネントのいずれかは、任意の適切な経路及び形態を使用して細胞内に導入されてもよい。複数の実施形態において、本開示は、ターゲティングRNA及び/又は記載されたタンパク質をコードする1つ以上のプラスミド又は他の適切な発現ベクターの使用を提供する。複数の実施形態において、本開示は、RNA-タンパク質複合体、例えば、RNAPを提供する。
【0044】
複数の実施形態において、記載されたシステムのコンポーネントの1つ以上を導入するために、ウイルス発現ベクターが使用されてもよい。ウイルス発現ベクターは、ネイキッドポリヌクレオチドとして使用されてもよく、又はウイルス粒子を含んでもよい。複数の実施形態において、発現ベクターは、例えば、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、又はレトロウイルス(レンチウイルスベクターなど)に由来する改変ウイルスポリヌクレオチドを含む。複数の実施形態において、記載されたCasPlusシステムの1つ以上のコンポーネントは、例えば、組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを使用して、細胞に送達されてもよい。アデノ随伴ウイルス(AAV)は、複製欠損性のパルボウイルスであり、その一本鎖DNAゲノムは長さ約4.7kbであり、145ヌクレオチド逆位末端配列(ITR:inverted terminal repeat)を含む。AAV血清型2(AAV2)ゲノムのヌクレオチド配列は、「Ruffing el al., J Gen Virol, 75: 3385-3392 (1994)」に示されている。ウイルスDNA複製(rep)、カプシド形成/パッケージング及び宿主細胞染色体組み込みを指示するCis作用配列は、ITR内に含まれる。AAV複製、ゲノムカプシド形成及び組み込みを指示するシグナルは、AAVゲノムのITR内に含まれているので、内側の約4.3kbのゲノム(複製及び構造的カプシドタンパク質、rep-capをコードする)のいくらか又はすべては、発現カセットなどの外来DNAで置換されてもよく、rep及びcapタンパク質は、トランスで提供される。AAVベクターゲノムのITRとITRの間に位置する配列を、本明細書では「ペイロード(payload)」と呼ぶ。それゆえ、組換えAAV(rAAV)は、最大で約4.7kb、4.6kb、4.5kb又は4.4kbのユニークなペイロード配列を含んでもよい。標的細胞の感染に続く、ベクターからのタンパク質発現及び複製は、二本鎖ゲノムを形成するために、相補的DNA鎖の合成を必要とする。この第二の鎖の合成は、導入遺伝子発現における律速段階を表す。AAVベクターは、例えば、TAKARA BIO(登録商標)及び他の商業的ベンダーから商業的に入手可能であり、本開示の利益のもと、記載されたシステムと共に使用するために適合されてもよい。複数の実施形態において、AAVベクターを製造するために、プラスミドベクターは、周知のrep、cap及びアデノ-ヘルパーコンポーネントのすべて又はいくつかをコードしてもよい。特定の実施形態において、発現ベクターは、自己相補的アデノ随伴ウイルス(scAAV)である。scAAVベクターでは、ペイロードは、同じ導入遺伝子(トランスジーン)ペイロードの2つのコピーを、互いに逆向きに含み、すなわち、第一のペイロード配列、続いてその配列の逆相補体を含む。これらのscAAVゲノムは、ヘアピン構造(その中で相補的ペイロード配列が、互いに分子内でハイブリダイズする)、又は互いにハイブリダイズする2つのゲノム分子の二本鎖複合体のいずれかを採用することができる。このようなscAAVからの導入遺伝子発現は、従来のAAVよりはるかに効率的であるが、ベクターゲノムの有効なペイロードキャパシティは半分になる(ゲノムがペイロード配列の2つの相補的なコピーを保有する必要があるため)。適切なscAAVベクターは、例えば、CELL BIOLABS, INC(登録商標)から商業的に入手可能であり、本開示の利益の下、現在提供されている実施形態での使用に適合させることができる。
【0045】
本明細書において、「rAAVベクター」という用語は、一般に、任意の所定のペイロード配列の1つのコピーのみを有するベクターを指すために使用され(すなわち、rAAVベクターはscAAVベクターではない)、「AAVベクター」という用語は、rAAV及びscAAVベクターの両方を包含するために使用される。AAVベクターゲノム中のAAV配列(例えば、ITR)は、組換えウイルスが誘導され得る任意のAAV血清型に由来してもよく、これには、AAV血清型AAV-1、AAV-2、AAV-3、AAV-4、AAV-5、AAV-6、AAV-7、AAV-8、AAV-9、AAV-10、AAV-11及びAAV PHP.Bが含まれるが、これらに限定されない。AAV血清型のゲノムのヌクレオチド配列は、当該技術分野において既知である。例えば、AAV-1の完全なゲノムは、GenBank受入番号:NC_002077で提供されており、AAV-2の完全なゲノムは、GenBank受入番号:NC 001401及び「Srivastava et al.,J. Virol.,45: 555-564(1983)」で提供されており、AAV-3の完全ゲノムは、GenBank受入番号:NC_1829で提供されており、AAV-4の完全ゲノムは、GenBank受入番号:NC_001829で提供されており、AAV-5ゲノムは、GenBank受入番号:AF085716で提供されており、AAV-6の完全ゲノムは、GenBank受入番号:NC_00 1862で提供されており、AAV-7及びAAV-8ゲノムの少なくとも一部は、GenBank受入番号:AX753246及びAX753249でそれぞれ提供されており、AAV-9ゲノムは「Gao et al.,J. Virol.,78: 6381-6388(2004)」で提供されており、AAV-10ゲノムは「Mol. Ther.,13(1): 67-76(2006)」で提供されており、AAV-11ゲノムは「Virology, 330(2): 375-383(2004)」で提供されており、AAV PHP.Bは「Deverman et al.,Nature Biotech. 34(2), 204-209」に記載されており、その配列はGenBank受入番号:KU056473.1の下で寄託されている。
【0046】
複数の実施形態において、記載されたシステムのコンポーネントのうちの1つ以上を導入するために、非ウイルス性送達システムが使用されてもよい。非ウイルス性ツールには、ハイドロダイナミック注入、エレクトロポレーション及びマイクロインジェクションが含まれる。ハイドロダイナミック注入は、CasPlusを、標的化組織(肝臓を含むが、必ずしもこれに限定されない)に全身性に送達することができる。内皮及び実質細胞を透過するために、ハイドロダイナミック注入は、高い注入容量、速度及び圧力を必要とし、これらは中枢神経系の治療を制限する。エレクトロポレーション及びマイクロインジェクションは、生殖系列編集又は胚操作のために使用することができる。脂質及びナノ粒子などの化学ベクターは、送達のために広く使用されている。カチオン性脂質は、負に荷電したDNA及び細胞膜と相互作用し、DNA及び細胞エンドサイトーシスを保護する。DNAナノ粒子は、有望な送達戦略である。カチオン性エンドソーム破壊ポリマーと複合化された、金ナノ粒子結合DNA(CRISPR-gold)は、CasPlusを動物細胞に送達することができる。
【0047】
複数の実施形態において、発現ベクター、タンパク質、RNP、ポリヌクレオチド、及びそれらの組み合わせは、医薬製剤として提供されることができる。医薬品製剤は、記載されたコンポーネントを、任意の適切な医薬添加剤、緩衝剤などと混合することによって調製することができる。薬学的に許容される担体、賦形剤及び安定剤の例は、例えば、「Remington: The Science and Practice of Pharmacy (2005) 21st Edition, Philadelphia, PA. Lippincott Williams & Wilkins」に記載されており、その開示は参照により本明細書に組み込まれる。種々の治療用送達剤のいずれも用いることができ、治療用送達剤には、ナノ粒子、脂質ナノ粒子(LNP)、フソソーム(fusosome)、エクソソームなどが含まれるが、これらに限定されない。複数の実施形態において、生分解性材料を使用することができる。複数の実施形態において、ポリ(ラクチド-コ-ガラクチド)(PLGA)は、代表的な生分解性材料であるが、任意の生分解性材料(生分解性ポリマーを含むが、必ずしもこれに限定されない)でもよい。生分解性材料は、PLGAの代替として、ポリ(グリコリド)(PGA)、ポリ(L-ラクチド)(PLA)、又はポリ(β-アミノエステル)を含むことができる。複数の実施形態において、生分解性材料は、ヒドロゲル(ハイドロゲル)、アルギネート、又はコラーゲンであり得る。ある実施形態において、生分解性材料には、ポリエステル、ポリアミド、又はポリエチレングリコール(PEG)が含まれ得る。複数の実施形態において、脂質安定化ミクロ粒子及びナノ粒子を使用することができる。
【0048】
複数の実施形態において、タンパク質の組み合わせ、及び本明細書に記載の1つ又は複数のタンパク質及びポリヌクレオチドの組み合わせは、最初にインビトロで構築され、次いで、細胞又は生物に投与され得る。
【0049】
記載されたシステムが導入される細胞は、特に限定されず、HDRに抵抗性であると考えられる有糸分裂後生体組織を含んでもよい(例えば、心臓及び骨格細胞(skeletal cell)など)。本開示は、必ずしもこのような細胞に限定されるものではなく、例えば、全能性、多能性、複能性、又は寡能性(oligopotent)幹細胞とともに使用されてもよい。複数の実施形態において、細胞は神経幹細胞である。複数の実施形態において、細胞は造血幹細胞である。複数の実施形態において、細胞は白血球である。複数の実施形態において、白血球は、骨髄又はリンパ系統である。複数の実施形態において、細胞は胚性幹細胞又は成体幹細胞である。複数の実施形態において、細胞は表皮幹細胞又は上皮幹細胞である。複数の実施形態において、細胞は筋肉前駆細胞、例えば、静止状態のサテライト細胞など、又は筋芽細胞(骨格筋芽細胞及び心筋芽細胞を含むが、必ずしもそれらに限定されない)である。複数の実施形態において、本開示は、個体から細胞を取得することと、本明細書に記載されるようなシステムを使用して細胞をエクスビボで改変することと、細胞又はそれらの子孫を、病状、疾患又は障害の予防及び/又は治療のために、前記個体又は免疫学的に適合する個体に再導入することとを含む(上述のように)。複数の実施形態において、本明細書に記載のようにエクスビボで改変される細胞は、自己細胞である。複数の実施形態において、細胞は哺乳動物細胞である。このように、本開示は、広範囲のヒト、獣医学動物、実験動物、及び細胞培養用途に適している。
【0050】
以下の実施例は、本開示を例示するものであって、限定を意図するものではない。
【0051】
[実施例1]
CRISPR/Cas9-誘導T4 DNAポリメラーゼは、5'オーバーハングを有する突出DNAのfill-inを経て挿入の生成を促進する
【0052】
非相同末端結合[NHEJ]を経る、CRISPR/Cas9媒介性DNA二本鎖切断の修復から生成された変異プロファイルの解析は、CRISPR/Cas9が、切断部位に隣接する配列コンテキストに基づいて、正確、再現的及び予測可能なインデルを生じさせるとともに、多キロベースに及ぶ望ましくない大きな欠失も発生させることを明らかにした
1-4。一般に、Cas9によって作成されるほとんどのDSBは平滑末端であり、これらは末端処理され、欠失の生成をもたらす。いくつかのケースでは、Cas9は、5'オーバーハングを有する1-2塩基対突出末端の生成を可能にし、これは、PAMの上流の配列4-5塩基対と同一の1-2ヌクレオチドの正確かつ予測可能な挿入を可能にする(テンプレートドナーなしで)(
図1A)。Cas9媒介性挿入は、連結前の、ある種のDNAポリメラーゼによるオーバーハングのfill-inの結果として生じる
5,6。DNAポリメラーゼλ及びμ(その欠損は通常、誘導されるDSB付近の大きな欠失と関連している)は、哺乳動物細胞において、NHEJを介したDSB修復の過程で生成されるマップのfill-inに関与する2つの本質的なタンパク質である
7。我々は、操作されたCRISPR/Cas9システムによるDNAポリメラーゼの局所的な動員が、エンドヌクレアーゼによって処理される前に突出DNA末端をfill-inでき、それにより挿入の生成を促進するかどうか分析した。この可能性を探索するために、我々は、151A欠失を有するtdTomato遺伝子を安定的に組み込んだ293Tレポーター細胞株を確立し、その配列に基づいて151位にAを再挿入するための強いバイアスを有する20-nt gRNA(tdTomato-sgRNAと称される)を設計した(
図1B)。次に、MS2-タグ付きのDNAポリメラーゼλ、DNAポリメラーゼμ、DNAポリメラーゼβ、酵母由来DNAポリメラーゼ4、細菌由来DNAポリメラーゼIもしくはクレノウ断片(KF)、又は、バクテリオファージ由来T4 DNAポリメラーゼ(5'-3'エキソヌクレアーゼ活性なし)、並びに、CRISPR/Cas9及びtdTomato-sgRNAを発現するプラスミドを、それぞれ293Tレポーター細胞にトランスフェクトした。標的部位の約150bp上流及び下流を有するPCR産物を、tdTomato
+/GFP
+又はtdTomato
-/GFP
+細胞集団から増幅し、配列決定した。Sanger配列決定の結果の分析は、tdTomato
+/GFP
+集団では、すべての処置の間で明らかなインデルプロファイルの変化はないが、tdTomato
-/GFP
+集団では、2-bpの挿入が、他の処置と比べて、T4 DNAポリメラーゼをトランスフェクトした細胞において有意に増加したことを明らかにした(
図1C~1E)。ハイスループットの結果は、すべてのインデル中で2-bp挿入が、対照細胞において検出された2%と比べて、T4 DNAポリメラーゼを有する細胞において35%まで増加したことをさらに確認した(
図1F)。挿入パターンの分析は、標的部位付近にそれぞれ挿入された1つ又は2つのヌクレオチドの大部分がランダムではなく、テンプレート依存性であることを明らかにした(
図1G)。次に、l~2bp挿入の生成を可能にする3つの内因性標的部位に対するT4 DNAポリメラーゼの効果を検証した(
図1H)。まとめると、これらの結果は、CRISPR/Cas9-媒介性T4 DNAポリメラーゼが、5'オーバーハングを有する突出DNAのfill-inを介して挿入の生成を促進することを示唆する。
【0053】
フレキシブルリンクを介したSpCas9のカルボキシル末端へのDNAポリメラーゼの融合が、挿入の生成を促進するかどうかを調べるために、Cas9-DNAポリメラーゼ融合ベクターを、293T tdTomatoレポーター細胞にトランスフェクトした。しかしながら、ms2-タグ化T4 DNAポリメラーゼとは異なり、Cas9-融合T4 DNAポリメラーゼは、挿入を増強することができなかった(
図3A~3B)。
【0054】
[実施例2]
CRISPR/Cas9-誘導T4 DNAポリメラーゼは、MMEJ修復経路を阻害する
【0055】
マイクロホモロジー媒介末端結合は、代替の末端結合とも呼ばれ、DNA DSBに続いて生じるDNA損傷応答である。MMEJは、DNA末端切除後に開始される、HDRの代替的な修復経路である。DSBに隣接する配列相同性の十分な領域(約5~25bp)に基づいて、DSBは相同領域を一緒にアニーリングすることによって修復され、それによって、1つのリピート及び中間配列を削除する。微小重複及び配列リピートは、新生遺伝子疾患をもたらす一般的なDNA複製エラーである。これらのリピートに隣接する部位に標的化DSBを誘導することは、MMEJ DNA損傷応答を開始するための基準を満たし、それによって病原性微小重複及び配列リピートを野生型対立遺伝子に戻すポテンシャルを有する。MMEJ経路を介したCRISPR/Cas9誘導二本鎖切断(DSB)の修復結果は、マイクロホモロジー配列及び介在領域の正確かつ予測可能な欠失を可能にし、これは、微小重複によって引き起こされる病原性変異を修正するために利用されてきた
8。Cas9-誘導DNA修復産物のハイスループットアッセイは、検出されたインデルの半分が、マイクロホモロジー媒介欠失であることを示す。ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ1(PARP-1)の阻害剤は、MMEJを介したDNA修復を抑制し、それゆえ、より少ないマイクロホモロジー-依存欠失をもたらす。原理上は、エンドヌクレアーゼによってトリミングされる前に、T4 DNAポリメラーゼが、5'オーバーハングを有するSpCas9-誘導性突出DNA末端のfill-inを可能にするのであれば、それはfill-in効率の増加も可能にし、比較的長期のDNA切除を防止し、それにより、MMEJ修復を阻害し、より小さいインデル産物の生成を可能にすることが提案される(
図2A)。この可能性を確認するために、DNA修復のために主にMMEJに依存する6つの標的部位におけるMMEJ修復経路を破壊する、T4 DNAポリメラーゼの能力を試験した。ハイスループットの結果は、6つの異なる部位にわたってMH-依存性又はMH-非依存性の修復経路で生成された比較的大きな欠失(10bpを超える)の大部分が、T4 DNAポリメラーゼによって実質的に減少し、その一方で、1~2bpのインデルを有する産物が有意に増加したことを示した。まとめると、これらの結果は、CRISPR/Cas9-誘導T4 DNAポリメラーゼが、MMEJ修復経路を阻害し、MH-依存性又はMH-非依存性の大きな欠失を、l~2bpのインデルを有するより小さな産物に変換できることを示す。
【0056】
本開示において提示されるデータを得るために使用された代表的なガイドRNA配列は、以下の通りであり、各PAM配列は、右欄に示されている。
【表1】
【0057】
以下の参考文献リストは、参考文献が特許性の材料であることを示すものではない。
【配列表】
【国際調査報告】