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特表2023-548942ベンズブロマロンを含む傷または瘢痕の予防または治療用薬学組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-21
(54)【発明の名称】ベンズブロマロンを含む傷または瘢痕の予防または治療用薬学組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/343 20060101AFI20231114BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20231114BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231114BHJP
【FI】
A61K31/343
A61P17/02
A61P43/00 111
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023528711
(86)(22)【出願日】2021-11-29
(85)【翻訳文提出日】2023-06-19
(86)【国際出願番号】 KR2021017723
(87)【国際公開番号】W WO2022114881
(87)【国際公開日】2022-06-02
(31)【優先権主張番号】10-2020-0163975
(32)【優先日】2020-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Witepsol
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】522117820
【氏名又は名称】イノボ テラピュティクス インク
【氏名又は名称原語表記】INNOVO THERAPEUTICS INC.
【住所又は居所原語表記】507,38,Mapo-daero,Mapo-gu,Seoul 04174,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】イム,ドン チョル
(72)【発明者】
【氏名】パク,ジョン ギュ
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA06
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA05
4C086NA14
4C086ZA89
4C086ZC41
(57)【要約】
本発明は、ベンズブロマロンを有効成分として含む傷または瘢痕の予防または治療用の薬学組成物を提供する。本発明によって、ベンズブロマロンがHSP47(Heat shock protein 47)タンパク質の機能を抑制することが確認されており、コラーゲン過多生成細胞を減少させてコラーゲンの蓄積を抑制することで、傷または瘢痕の予防または治療に使用可能であることが明らかになった。これによって、本発明のベンズブロマロンを有効成分として含む組成物は、傷または瘢痕の予防または治療用として医薬、薬学分野で有用に使用可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベンズブロマロンを有効成分として含む傷または瘢痕の予防または治療用の薬学組成物。
【請求項2】
前記傷または瘢痕の治療がHSP47抑制によることを特徴とする、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項3】
前記傷または瘢痕の治療がコラーゲン生合成抑制によることを特徴とする、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項4】
前記傷が、慢性創傷、急性創傷、外科手術創傷、整形外科創傷、外傷、火傷及び戦闘創傷からなる群より選択された一つ以上であることを特徴とする、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項5】
前記瘢痕が、ケロイド瘢痕、肥厚性瘢痕、萎縮性瘢痕及びストレッチマークからなる群より選択された一つ以上であることを特徴とする、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項6】
前記傷または瘢痕の治療が、傷または瘢痕の面積減少であることを特徴とする、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項7】
薬学的に許容可能な希釈剤または担体をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項8】
ベンズブロマロンを傷または瘢痕の予防または治療の目的で使用する用途。
【請求項9】
ベンズブロマロンを患者に治療容量で投与する段階を含む、傷または瘢痕の予防または治療方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔技術分野〕
本発明は、傷または瘢痕の予防または治療用の薬学組成物に関し、より詳しくは、ベンズブロマロンを含む傷または瘢痕の予防または治療用の薬学組成物に関する。
〔背景技術〕
ケロイド(keloid)は、赤く盛り上がり、痒疹を伴う局所病変であって、攻撃的な成長性を有し、細胞外基質の過度な蓄積、特に皮膚におけるコラーゲン過剰生産を伴う線維症である。数多い治療方法がケロイドに適用されてきたが、未だに一貫した効能を示す治療方法は開発されていない。
【0002】
一方、皮膚瘢痕(skin scar)は、過度なコラーゲンの蓄積によって盛り上がった瘢痕であり、ケロイドより弱い形態で発生する。ケロイドと同様に、ニキビ、ピアシング、切り傷及び火傷部位でよく形成される。瘢痕の大きさを減らすための手術的除去及びレーザー施術などの方法が適用されており、薬物的にはステロイドと抗癌剤の注射療法があるが、標準的な治療法としては使用されていない。
【0003】
小胞体に存在するコラーゲンの特異的なHSP47(Heat shock protein 47)タンパク質は、線維化と密接な連関があることが明らかになった。HSP47は、コラーゲン前駆体からコラーゲンを形成する段階及び運び過程に関連する。HSP47は、コラーゲンの特異的な基質として看做されており、肝硬化、肺線維化及び糸球体硬化症のように多様な組織の線維症で発現が増加することが報告された。HSP47に対するオリゴヌクレオチド(oligonucleotide)は実験的に糸球体硬化症、肝硬化及び肺線維症に効果があることが報告された。
【0004】
なお、HSP47は、癌細胞からも発現されることが報告されており、HSP47の発現量の増加は、多くの癌細胞の転移を容易にして死亡率を高めるということが報告されている。遺伝学的な方法でHSP47の発現を抑制したときに癌の進行を抑制するということも報告された(Parveen A et. al.,2019)。
〔発明の概要〕
〔発明が解決しようとする課題〕
本発明は、HSP47とコラーゲンの過度な蓄積は密接な関係があり、ケロイドと皮膚瘢痕においても過度なコラーゲンの蓄積とHSP47の高い発現があることを認識し、このような結果からHSP47の阻害が、ケロイド、肥厚性瘢痕、傷などの治療に効果的かつ特異的な治療ターゲットになり得ることに着眼して、HSP47の阻害活性を基準にして、ケロイド、皮膚瘢痕、傷の治療活性物質を導き出すことを目的とする。
【0005】
但し、本発明が解決しようとする技術的課題は、前述の課題に制限されず、言及していないさらに他の課題は、下記する発明の説明から当業者にとって明確に理解されるであろう。
〔課題を解決するための手段〕
上記の課題を達成するため、本発明の一面によって、ベンズブロマロンを有効成分として含む傷または瘢痕の予防または治療用の薬学組成物が提供される。
【0006】
一具現例において、前記傷または瘢痕の治療は、HSP47(Heat shock protein 47)抑制によることであり得る。
【0007】
一具現例において、前記傷または瘢痕の治療がコラーゲン生合成抑制によることであり得る。
【0008】
一具現例において、前記傷は、慢性創傷、急性創傷、外科手術創傷、整形外科創傷、外傷、火傷及び戦闘創傷からなる群より選択された一つ以上であり得る。
【0009】
一具現例において、前記瘢痕は、ケロイド瘢痕(keloid scar)、肥厚性瘢痕(hypertrophic scar)、萎縮性瘢痕(atrophic scar)及びストレッチマーク(stretch marks)からなる群より選択された一つ以上であり得る。
【0010】
一具現例において、前記傷または瘢痕の治療は、傷または瘢痕の面積の減少であり得る。
【0011】
一具現例において、前記薬学組成物は、薬学的に許容可能な希釈剤または担体をさらに含み得る。
【0012】
なお、本発明の他面によって、ベンズブロマロンを傷または瘢痕の予防または治療の目的で使用する用途が提供される。
【0013】
本発明のさらに他面によって、ベンズブロマロンを患者に治療容量で投与する段階を含む、傷または瘢痕の予防または治療方法が提供される。
〔発明の効果〕
本発明によって、ベンズブロマロンがHSP47(Heat shock protein 47)タンパク質の機能を抑制することが確認されており、コラーゲン過多生成細胞を減少させてコラーゲンの蓄積を抑制することで、傷または瘢痕の予防または治療に使用可能であることを見出した。
【0014】
したがって、本発明のベンズブロマロンを有効成分として含む組成物は、傷または瘢痕の予防または治療用として、医薬及び薬学分野において有用に使用可能である。
【0015】
本発明の効果は上述した効果に制限されず、本発明の詳細な説明または特許請求範囲に記載の発明の構成から推測可能な全ての効果を含むことに理解されるべきである。
〔図面の簡単な説明〕
図1〕ベンズブロマロンの濃度別にHSP47タンパク質機能抑制率(%inhibition)を測定した結果である。
【0016】
図2〕(a)は、肝星細胞LX-2にTGF-β1を10ng/ml加えて線維化を誘導した結果であり、(b)は、ベンズブロマロン(BBR,30μM)を共に処理した細胞のシリウスレッド染色写真である。
【0017】
図3〕肝星細胞LX-2にTGF-β1を10ng/ml加えて線維化を誘導し、ベンズブロマロン(BBR,30μM,10μM)を処理した結果である。
【0018】
図4〕(a)は、肝星細胞T6にTGF-β1を10ng/ml加えて線維化を誘導した結果であり、(b)は、ベンズブロマロン(BBR,30μM)を共に処理した細胞のシリウスレッド染色写真である。
【0019】
図5〕肝星細胞T6にTGF-β1を10ng/ml加えて線維化を誘導し、ベンズブロマロン(BBR,30μM)を処理した結果である。
【0020】
図6〕(a)は、肺上皮細胞A549にTGF-β1を10ng/ml加えて線維化を誘導した結果であり、(b)は、ベンズブロマロン(BBR,30μM)を共に処理した細胞のシリウスレッド染色写真である。
【0021】
図7〕肺上皮細胞A549において線維化抑制率[OD(570nm)]をベンズブロマロン濃度別に測定した結果である。
【0022】
図8〕(a)は、ケロイド患者から分離したKEL FIB細胞にTGF-β1を10ng/ml加えて線維化を誘導した結果であり、及び(b)は、ベンズブロマロン(BBR,30μM)を共に処理した細胞のシリウスレッド染色写真である。
【0023】
図9〕ケロイド患者から分離したKEL FIB細胞において線維化抑制程度をベンズブロマロン濃度別に測定した結果である。
【0024】
図10〕四塩化炭素(CCl)によって誘導された肝線維化モデルマウスの(a)血漿のアラニンアミノ基転移酵素(alanine aminotransferase;ALT)及び(b)ビリルビン数値の分析結果である。
【0025】
図11〕四塩化炭素によって誘導された肝線維化モデルマウスの各群[正常、肝線維化誘導、肝線維化誘導+OCA(オベチコール酸)、肝線維化誘導+BBR QD(1日1回)、肝線維化誘導+BBR BID(1日2回)]の肝に対するシリウスレッド(Sirius Red)染色結果である。
【0026】
図12〕四塩化炭素によって誘導された肝線維化モデルマウスの各群[正常(Normal Control;正常群)、肝線維化誘導(Vehicle Control;対照群)、肝線維化誘導+OCA(オベチコール酸30mg/kg)、肝線維化誘導+BBR QD(INV-001a 30mg/kg QD)、肝線維化誘導+BBR BID(INV-001a 30mg/kg BID)]の肝に対する線維化面積の分析結果である。
【0027】
図13〕四塩化炭素によって誘導された損傷した肝組織中のコラーゲンに含まれた4-ヒドロキシプロリンの含量を分析した結果である[正常(正常群)、肝線維化誘導(対照群)、肝線維化誘導+OCA(オベチコール酸30mg/kg)、肝線維化誘導+BBR QD(INV-001a 30mg/kg QD)、肝線維化誘導+BBR BID(INV-001a 30mg/kg BID)]。
【0028】
図14〕(a)は、火傷によって誘導されたミニブタの瘢痕部位を撮影した写真(n=3)であり、(b)は、各瘢痕部位の面積をcm単位で測定した結果である。
【0029】
図15〕(a)は、図14の火傷によって誘導されたミニブタの瘢痕部位の組織をスライドとして製作した後、ヘマトキシリン・エオシン(Hematoxylin&Eosin,H&E)染色してスキャンした写真であり、(b)は、瘢痕部位の組織の厚さをミリメートル(mm)単位で測定したグラフであって、真皮層の肥大化を確認した結果である。
〔発明を実施するための形態〕
本発明は、ベンズブロマロンを有効成分として含む傷または瘢痕の予防または治療用の薬学組成物を提供する。
【0030】
ベンズブロマロン(Benzbromarone,BBR,INV-001a)は、下記の化学式1の構造を有する物質であって、IUPAC名は、(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシフェニル)-(2-エチル-1-ベンゾフラン-3-イル)メタノン[(3,5-dibromo-4-hydroxyphenyl)-(2-ethyl-1-benzofuran-3-yl)methanone](分子量423.91)である。
【0031】
【化1】
【0032】
ベンズブロマロンのHSP47(Heat shock protein 47)活性抑制に対して評価した結果、IC50 132.7μMを示したことから、ベンズブロマロンがHSP47抑制活性を示すことを確認した。組織細胞における線維化抑制に関わり、ベンズブロマロンは肝星細胞及び肺上皮細胞の線維化を抑制し、特に、皮膚線維芽細胞の線維化を抑制して皮膚の傷及び瘢痕の面積を減少させることで、傷または瘢痕の治療に活性があることが確認された。肝線維化が誘導された動物モデルにおいて線維化による疾患症状に関わり、ベンズブロマロンは、血漿の肝数値(ALT)及びビリルビンを有意に減少させ、組織染色学的に肝組織の線維化を抑制することが確認されており、肝組織中の4-ヒドロキシプロリンの含量を減少させることで線維化によるコラーゲン沈着を減少させることが確認されることから、ベンズブロマロンがコラーゲン生合成抑制効果を奏することを確認した。
【0033】
なお、本発明は、ベンズブロマロンを傷または瘢痕の予防または治療の目的として使用する用途を提供する。
【0034】
また、本発明は、ベンズブロマロンを患者に治療容量で投与することを含む、傷または瘢痕の予防または治療方法を提供する。
【0035】
HSP47は、癌細胞においても発現することが報告されており、HSP47の発現量の増加は、癌細胞成長に必要なコラーゲンの蓄積によって癌細胞の転移を容易にすることが知られている。A549肺上皮細胞の癌においてベンズブロマロン処理によってHSP47を抑制することでコラーゲンの蓄積を阻害する結果を確認した(図6及び図7)。
【0036】
本発明において、前記傷は、慢性創傷、急性創傷、外科手術創傷、整形外科創傷、外傷、火傷及び戦闘創傷からなる群より選択された一つ以上であり得る。
【0037】
本発明において、前記瘢痕は、傷が付いた後に形成されるケロイド瘢痕(keloid scar)、肥厚性瘢痕(hypertrophic scar)、萎縮性瘢痕(atrophic scar)及びストレッチマーク(stretch marks)からなる群より選択された一つ以上であり得る。
【0038】
一具現例において、前記傷または瘢痕治療とは、傷または瘢痕の面積減少であり得る。
【0039】
一具現例において、前記薬学組成物は、薬学的に許容可能な希釈剤または担体をさらに含み得る。
【0040】
具体的には、本発明の薬学組成物は、薬剤学的に許容可能な担体を含むことができ、各々通常の方法によって、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン、シロップ、エアロゾールなどの経口剤、外用剤、坐剤及び滅菌注射溶液の形態に製剤化し得る。前記薬剤学的に許容可能な担体は、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、でん粉、アカシアゴム、アルジネート、ゼラチン、カルシウムホスフェート、カルシウムシリケート、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、マグネシウムステアレート及び鉱物油などを含む。また、充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤などの希釈剤または賦形剤を含む。経口用の固形製剤は、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤などを含み、このような固形製剤は、少なくとも一つ以上の賦形剤、例えば、でん粉、カルシウムカーボネート(calcium carbonate)、スクロース(sucrose)またはラクトース(lactose)、ゼラチンなどを含み、マグネシウムステアレート、タルクのような潤滑剤などを含み得る。経口用液状製剤は、懸濁剤、内溶液剤、乳剤、シロップ剤などを含み、水、リキッドパラフィンなどの希釈剤、湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤などを含み得る。非経口用製剤は、滅菌された水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤、坐剤を含み、非水性溶剤、懸濁剤としては、プロピレングリコール(propylene glycol)、ポリエチレングリコール、オリーブオイルのような植物性油、エチルオレートのような注射可能なエステル類などを含む。坐剤の基剤としては、ウイテプソール(witepsol)、マクロゴ-ル、ツイン(tween)61、カカオ脂、ラウリン脂、グリセロゼラチンなどが使用され得る。
【0041】
本発明の薬学組成物に含有されるベンズブロマロンの投与量は、患者の状態及び体重、疾病の程度、薬物形態、投与経路及び期間によって変わるが、関連分野における通常の技術者によって適切に選択され得る。例えば、前記ベンズブロマロンは、1日に0.0001~1,000mg/kg、望ましくは0.01~1,000mg/kgの容量で投与可能であり、前記投与は一日に一回または数回に分けて投与し得る。また、本発明の薬学組成物は、組成物の総重量に対して前記ベンズブロマロンを0.001~90%の重量百分率で含み得る。
【0042】
本発明の薬学組成物は、レット、マウス、家畜、ヒトなどの哺乳動物に対して多様な経路で、例えば、開口、腹腔、直腸または静脈、筋肉、皮下、子宮内硬膜または脳室内(intracerebroventricular)に注射によって投与され得る。
【0043】
以下、本発明の実施例を挙げて詳しく説明する。しかし、下記の実施例は本発明の例示するためのものであり、本発明の範囲がこれに制限されることではない。
<実施例>
1.実験
(1)試験物質
下記化学式1の構造を有するベンズブロマロン(Benzbromarone)、IUPAC名(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシフェニル)-(2-エチル-1-ベンゾフラン-3-イル)メタノン[(3,5-dibromo-4-hydroxyphenyl)-(2-ethyl-1-benzofuran-3-yl)methanone](分子量423.91,TCI[JP]から購入)に対して、実験を行った。
【0044】
【化2】
【0045】
(2)HSP47の活性評価
酸性溶液に溶かしたコラーゲン(collagen solution,UK)20μlにPBS(phosphate-buffered saline;リン酸緩衝生理食塩水,pH7.4)溶液180μlを添加してフィブリル(fibril)を形成し、それを340nmの波長で測定した。HSP47 タンパク質(GenScript US)を9.45μg/mlの濃度で添加してフィブリル形成を抑制する程度としてHSP47活性を評価した。試験物質を100μM~1μMの濃度で含ませてHSP47阻害程度を百分率で示した。
(3)シリウスレッド分析(Sirius red assay)
肝星細胞LX-2(Elabscience CH)、肺上皮細胞(Lung epithelial A549,ATCC US)、肝星細胞(Liver stellate T6,Elabscience,CH)または皮膚KEL FIB(ATCC,US)細胞を24-well組織培養プレートに18時間培養した後、TGF-beta 10ng/mlを処理した後、試験化合物と共に24時間培養した。細胞をPBSで洗浄した後、ブアン液(Bouin’s solution)で固定した後、蒸留水を用いて二回洗浄した。固定された細胞を2時間の間にシリウスレッド(Sirius red)で染色した後、細胞形態の変化を観察した後、0.01NのHCl溶液で洗浄して0.1NのNaOH溶液でコラーゲンと結合したシリウスレッドを抽出した後、570nmの波長で定量した。各化合物のコラーゲン生成抑制効能を百分率で表した。
(4)四塩化炭素によって誘発された肝線維化マウスモデル試験
四塩化炭素(CCl)をマウス当たり50μL(1:1のcorn oil)を一週に3回ずつ4週間腹腔投与し、試験物質に0.5%のメチルセルロース(Methylcellulose)を添加して懸濁した後、毎日5ml/kg容量で経口投与した。対照薬物としては、オベチコール酸(obeticholic acid,Medkoo,US)を30mg/kg容量で投与した。試験期間中に毎週一回体重を測定した。CClを投与してから28日後にエーテル(ether)で吸入麻酔して、麻酔確認後に開腹して後大静脈から注射器を用いて採血を行った後、腹大動脈及び後大静脈を切断して放血致死させた。採血した血液は、血清を分離して血液生花学的検査を行った。肝は摘出して重量を測定し、肝の右葉は10%中性緩衝ホルマリン溶液に固定し、左葉は半分に分けて液体窒素を用いて急速冷凍した。急速冷凍した検体は、-70℃以下に設定されている超低温冷凍庫に保管し、4-ヒドロキシプロリン(4-Hydroxyproline)分析に用いた。
【0046】
固定された組織は、切り出し、脱水、パラフィン包埋、薄切などの通常の組織処理過程を経て組織病理学的検査のための検体を製作した後、ヘマトキシリン・エオシン(Hematoxylin & Eosin,H&E)、ピクロシリウスレッド(Picrosirius red)染色を行い、光学顕微鏡(Olympus BX53,Japan)を用いて組織病理学的変化を観察し、線維化面積分析を行った。
(5)火傷誘発皮膚の瘢痕抑制効能評価
8時間以上節食させたユカタンミニブタを塩酸キシラジン(xylazine hydrochloride)、ミダゾラム(Midazolam)及びプロポフォール(propofol)を用いて麻酔した。胴体などの毛を除去した後、ポビドンヨード溶液(povidone iodine solution)で実験対象の患部を消毒した。400gのステンレス分銅を用いて40秒間患部に接触させて火傷を誘導された。脊椎から2cm、火傷誘発部位は4cmの間隔で火傷を誘導された。火傷部位は、動物の全体面積の3.5%を超えないようにした。火傷を誘発してから15日後、痂皮を除去して試験薬物を1日1回傷部位に塗布した。火傷誘導45日目に剖検を行って傷部位をホルマリン溶液で固定してH&E染色を行って真皮層の厚さを測定した。
【0047】
試験薬物は、プロピレングリコール(propylene glycol,Yakuri pure chemicals,Japan)に懸濁して超音波洗浄機を用いて均質の懸濁液に作り、それをラノリン(Merck,USA)とワセリン(Merck,USA)に60℃湯煎で希釈して軟膏剤に製造した。製造した軟膏剤の各々の構成成分は、試験物質1%(w/w)、プロピレングリコール20%(w/w)、ラノリン(lanolin)15%(w/w)、ワセリン(vaseline)64%(w/w)である。
2.結果
(1)HSP47タンパク質機能抑制
コラーゲンをPBS緩衝液(pH7.4)に入れて37℃でフィブリル(fibril)を形成したときに測定したODを100%にし、HSP47とコラーゲンを共に入れてフィブリルを形成するようにしたものを0%基準にした。試験物質を濃度別に入れてHSP47タンパク質の作用を阻害した程度を百分率で表した。IC50数値は、Prism software(Graphpad,USA)を用いて算出した。ベンズブロマロンでHSP47タンパク質抑制程度を測定した結果、IC50 132.7μMを得た(図1)。
(2)肝星細胞LX-2の線維化抑制
肝星細胞LX-2にTGF-β1(Gibco,US)10ng/mlを加えて線維化を誘導し、ベンズブロマロン(BBR)処理群にはTGF-β1とベンズブロマロン(BBR)を共に処理した。線維化抑制程度は、細胞を固定し、コラーゲン特異的な染色法であるシリウスレッド染色を行って外形的変化を観察し(図2)、0.1NのNaOH溶液でシリウスレッドを抽出して定量化した(図3)。シリウスレッド染色結果(図2)に示したように、ベンズブロマロン(BBR)30μMを処理した肝星細胞LX-2で線維化が減少したことを確認することができ、TGF-β1処理群に比べて線維化程度が有意に減少したことが分かる(図3)。
(3)肝星細胞T6の線維化抑制
肝星細胞T6にTGF-β1を10ng/ml加えて線維化を誘導し、試験物質を共に処理した。線維化抑制程度は、細胞を固定し、コラーゲン特異的な染色法であるシリウスレッド染色を行って外形的変化を観察し(図4)、0.1NのNaOH溶液でシリウスレッドを抽出して定量化した(図5)。シリウスレッド染色結果(図4)に示したように、ベンズブロマロン(BBR)30μMを処理した肝星細胞T6で線維化が減少したことを確認することができ、TGF-β1処理群に比べて線維化程度が有意に減少したことが分かる(図5)。
(4)肺上皮細胞A549の線維化抑制
肺上皮細胞A549にTGF-β1を10ng/ml加えて線維化を誘導し、試験物質を共に処理した。線維化抑制程度は、細胞を固定し、コラーゲン特異的な染色法であるシリウスレッド染色を行って外形的変化を観察し(図6)、0.1NのNaOH溶液でシリウスレッドを抽出して定量化した(図7)。シリウスレッド染色結果(図6)に示したように、ベンズブロマロン(BBR)30μMを処理した肺上皮細胞A549で線維化が減少したことを確認することができ、肺上皮細胞A549における線維化抑制程度をベンズブロマロン(BBR)の濃度別に測定した結果、4.25μMのIC50を得た(図7)。
(5)皮膚線維芽細胞KEL FIBの線維化抑制
ケロイド患者から分離したKEL FIB細胞(ATCC,USA)にTGF-β1を10ng/ml加えて線維化を誘導し、試験物質を共に処理した。線維化抑制程度は、細胞を固定し、コラーゲン特異的な染色法であるシリウスレッド染色をして外形的変化を観察し(図8)、0.1NのNaOH溶液でシリウスレッドを抽出して定量化した(図9)。シリウスレッド染色結果(図8)に示したように、ベンズブロマロン(BBR)30μMを処理したKEL FIB細胞で線維化が減少したことを確認することができ、KEL FIB細胞における線維化抑制程度をベンズブロマロン(BBR)の処理濃度別に測定した結果、3μMから線維化抑制効果を示し始め、10μMからは有意に抑制することが示された(図9)。
(6)血漿の肝数値(ALT)及びビリルビン(bilirubin)分析
四塩化炭素によって誘導された肝組織損傷程度と肝機能を把握するために、剖検時に採血した血漿のアラニンアミノ基転移酵素(alanine aminotransferase;ALT)とビリルビン数値を血液生化学分析装置(7180 Hitachi,Japan)を用いて分析を行った。1日2回のBBR投与群で統計的に有意にALTとビリルビンが減少した(図10)。
(7)肝線維化組織標本分析
肝組織の線維化程度を判断するために、線維化の面積分析を行った結果(図11及び図12)、1日2回のBBR投与群でオベチコール酸(OCA)と類似な水準の線維化抑制程度を示した。
(8)肝組織中の4-ヒドロキシプロリン(4-hydroxy proline)分析
肝線維化が進んで肝組織中のコラーゲンが沈着する。四塩化炭素によって誘導された損傷した肝組織中のコラーゲンに含まれた4-ヒドロキシプロリンの含量を分析して線維化程度を把握した。1日2回の30mg/kgのBBR投与群で統計的に有意に4-ヒドロキシプロリンの含量が減少した(図13)。
(9)傷または瘢痕の減少効能評価
火傷が誘導されたミニブタの瘢痕部位を火傷誘導45日目に撮影して図14の(a)に示した。図14の(a)に示されたように、BBR処理群(1%のBBR)の瘢痕サイズ及び傷の程度は、対照群(Vehicle)に比べて確実に減少したことを確認することができ、陽性対照群であるステロイド製剤トリアムシノロン処理群(Triamcinolone,0.1%,Dongkwang Pharm Co.,Ltd.)に比べて瘢痕の程度が減少したことを確認することができた。また、前記瘢痕サイズをcm単位で面積を求めて図14の(b)に示した。BBR処理群(BBR1%)の瘢痕サイズ及び傷の減少効果が数値的としても明確に示されることを確認した。
【0048】
また、前記瘢痕組織をスライドに製作してスキャンした結果を図15の(a)に示しており、BBR処理群(BBR1%)の真皮層の肥大程度が他の群よりも低いことが分かる。また、真皮層の肥大化の数値測定結果を図15の(b)に示しており、その結果、BBR処理群(BBR1%)において真皮層の肥大化が最も底いことが分かった。
【0049】
上述した本発明の説明は例示のためのものであり、本発明が属する技術分野における通常の知識を持つ者は、本発明の技術的思想や必須の特徴を変更することなく他の具体的な形態に容易に変形可能であるということを理解することができるであろう。したがって、上述した実施例は全ての面で例示的であり、限定的ではないことに理解せねばならない。例えば、単一型として説明されている各構成要素は分散して実施されることが可能であり、同様に、分散して説明されている構成要素も、結合した形態で実施され得る。
【0050】
本発明の範囲は後述する特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲の意味及び範囲、そしてその均等概念から導き出される全ての変更または変形は、本特許請求の範囲に含まれることに解釈されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1】ベンズブロマロンの濃度別にHSP47タンパク質機能抑制率(%inhibition)を測定した結果である。
図2】(a)は、肝星細胞LX-2にTGF-β1を10ng/ml加えて線維化を誘導した結果であり、(b)は、ベンズブロマロン(BBR,30μM)を共に処理した細胞のシリウスレッド染色写真である。
図3】肝星細胞LX-2にTGF-β1を10ng/ml加えて線維化を誘導し、ベンズブロマロン(BBR,30μM,10μM)を処理した結果である。
図4】(a)は、肝星細胞T6にTGF-β1を10ng/ml加えて線維化を誘導した結果であり、(b)は、ベンズブロマロン(BBR,30μM)を共に処理した細胞のシリウスレッド染色写真である。
図5】肝星細胞T6にTGF-β1を10ng/ml加えて線維化を誘導し、ベンズブロマロン(BBR,30μM)を処理した結果である。
図6】(a)は、肺上皮細胞A549にTGF-β1を10ng/ml加えて線維化を誘導した結果であり、(b)は、ベンズブロマロン(BBR,30μM)を共に処理した細胞のシリウスレッド染色写真である。
図7】肺上皮細胞A549において線維化抑制率[OD(570nm)]をベンズブロマロン濃度別に測定した結果である。
図8】(a)は、ケロイド患者から分離したKEL FIB細胞にTGF-β1を10ng/ml加えて線維化を誘導した結果であり、及び(b)は、ベンズブロマロン(BBR,30μM)を共に処理した細胞のシリウスレッド染色写真である。
図9】ケロイド患者から分離したKEL FIB細胞において線維化抑制程度をベンズブロマロン濃度別に測定した結果である。
図10】四塩化炭素(CCl)によって誘導された肝線維化モデルマウスの(a)血漿のアラニンアミノ基転移酵素(alanine aminotransferase;ALT)及び(b)ビリルビン数値の分析結果である。
図11】四塩化炭素によって誘導された肝線維化モデルマウスの各群[正常、肝線維化誘導、肝線維化誘導+OCA(オベチコール酸)、肝線維化誘導+BBR QD(1日1回)、肝線維化誘導+BBR BID(1日2回)]の肝に対するシリウスレッド(Sirius Red)染色結果である。
図12】四塩化炭素によって誘導された肝線維化モデルマウスの各群[正常(Normal Control;正常群)、肝線維化誘導(Vehicle Control;対照群)、肝線維化誘導+OCA(オベチコール酸30mg/kg)、肝線維化誘導+BBR QD(INV-001a 30mg/kg QD)、肝線維化誘導+BBR BID(INV-001a 30mg/kg BID)]の肝に対する線維化面積の分析結果である。
図13】四塩化炭素によって誘導された損傷した肝組織中のコラーゲンに含まれた4-ヒドロキシプロリンの含量を分析した結果である[正常(正常群)、肝線維化誘導(対照群)、肝線維化誘導+OCA(オベチコール酸30mg/kg)、肝線維化誘導+BBR QD(INV-001a 30mg/kg QD)、肝線維化誘導+BBR BID(INV-001a 30mg/kg BID)]。
図14】(a)は、火傷によって誘導されたミニブタの瘢痕部位を撮影した写真(n=3)であり、(b)は、各瘢痕部位の面積をcm単位で測定した結果である。
図15】(a)は、図14の火傷によって誘導されたミニブタの瘢痕部位の組織をスライドとして製作した後、ヘマトキシリン・エオシン(Hematoxylin&Eosin,H&E)染色してスキャンした写真であり、(b)は、瘢痕部位の組織の厚さをミリメートル(mm)単位で測定したグラフであって、真皮層の肥大化を確認した結果である。
図1
図2(a)】
図2(b)】
図3
図4(a)】
図4(b)】
図5
図6(a)】
図6(b)】
図7
図8(a)】
図8(b)】
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
【手続補正書】
【提出日】2023-06-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベンズブロマロンを有効成分として含む傷または瘢痕の予防または治療用の薬学組成物。
【請求項2】
前記傷または瘢痕の治療がHSP47抑制によることを特徴とする、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項3】
前記傷または瘢痕の治療がコラーゲン生合成抑制によることを特徴とする、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項4】
前記傷が、慢性創傷、急性創傷、外科手術創傷、整形外科創傷、外傷、火傷及び戦闘創傷からなる群より選択された一つ以上であることを特徴とする、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項5】
前記瘢痕が、ケロイド瘢痕、肥厚性瘢痕、萎縮性瘢痕及びストレッチマークからなる群より選択された一つ以上であることを特徴とする、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項6】
前記傷または瘢痕の治療が、傷または瘢痕の面積減少であることを特徴とする、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項7】
薬学的に許容可能な希釈剤または担体をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項8】
または瘢痕の予防または治療用の薬学組成物の製造における、ベンズブロマロンの使用。
【手続補正書】
【提出日】2023-07-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベンズブロマロンを有効成分として含む、ケロイド瘢痕または肥厚性瘢痕の予防または治療用の薬学組成物。
【請求項2】
前記ケロイド瘢痕または肥厚性瘢痕の治療がHSP47(Heat shock protein 47)抑制によることを特徴とする、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項3】
前記ケロイド瘢痕または肥厚性瘢痕の治療がコラーゲン生合成抑制によることを特徴とする、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項4】
薬学的に許容可能な希釈剤または担体をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項5】
ベンズブロマロンを有効成分として含む、皮膚瘢痕の面積減少のための、薬学組成物。
【請求項6】
薬学的に許容可能な希釈剤または担体をさらに含むことを特徴とする、請求項5に記載の薬学組成物。
【国際調査報告】