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特表2023-549005水性硬化型接着剤組成物及びその積層物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-22
(54)【発明の名称】水性硬化型接着剤組成物及びその積層物品
(51)【国際特許分類】
   C09J 133/04 20060101AFI20231115BHJP
   C09J 125/04 20060101ALI20231115BHJP
【FI】
C09J133/04
C09J125/04
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023515001
(86)(22)【出願日】2020-09-08
(85)【翻訳文提出日】2023-03-03
(86)【国際出願番号】 CN2020113911
(87)【国際公開番号】W WO2022051884
(87)【国際公開日】2022-03-17
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】502141050
【氏名又は名称】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
(71)【出願人】
【識別番号】590002035
【氏名又は名称】ローム アンド ハース カンパニー
【氏名又は名称原語表記】ROHM AND HAAS COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(72)【発明者】
【氏名】シュエ、イン
(72)【発明者】
【氏名】バイ、チェンイェン
(72)【発明者】
【氏名】チェン、ガオビン
(72)【発明者】
【氏名】チャオ、リャンジャン
(72)【発明者】
【氏名】ワン、チューイン
(72)【発明者】
【氏名】チャン、ウェイファン
【テーマコード(参考)】
4J040
【Fターム(参考)】
4J040DB041
4J040DF021
4J040DF041
4J040DF051
4J040DF101
4J040GA07
4J040HC04
4J040HC05
4J040JA03
4J040JA09
4J040KA38
4J040LA02
(57)【要約】
水性硬化型接着剤組成物は、水性ポリマー分散液と、少なくとも2つのアミノ基を有するポリアミン化合物とを含む。積層物品は、少なくとも2つの基材と、水性硬化型接着剤組成物とを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性硬化型接着剤組成物であって、
A)水性ポリマー分散液であって、前記ポリマーがモノマー混合物から重合され、前記モノマー混合物が、
(i)90~99.9重量%の1つ以上のエチレン性不飽和非イオン性モノマーと、
(ii)0.1~10重量%のエチレン性不飽和酸モノマーと、を含み、
パーセンテージは、前記モノマー混合物の総重量に基づいている、水性ポリマー分散液と、
B)少なくとも2つのアミノ基を有するポリアミン化合物と、を含み、
成分B)の含有量が、A)前記水性ポリマー分散液の固形分重量に基づいて0.5~10重量%である、水性硬化型接着剤組成物。
【請求項2】
前記エチレン性不飽和非イオン性モノマーが、(メタ)アクリル酸エステルモノマー、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、スチレン、置換スチレン、他のビニルモノマー、及びそれらの2つ以上の混合物から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記エチレン性不飽和非イオン性モノマーが、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルアクリレート、イソデシルアクリレート、ラウリルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ノニルメタクリレート、デシルメタクリレート、イソデシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、スチレン、置換スチレン、酢酸ビニル、酪酸ビニル、バーサチック酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、及びそれらの2つ以上の混合物から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記エチレン性不飽和酸モノマーが、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、リン含有酸モノマー、フマル酸、マレイン酸、モノメチルイタコネート、モノメチルフマレート、モノブチルフマレート、無水マレイン酸、2-アクリルアミド-2-メチル-l-プロパンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸のナトリウム塩、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸のアンモニウム塩、ビニルスルホン酸ナトリウム、アリルエーテルスルホネートのナトリウム塩、及びそれらの混合物から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記エチレン性不飽和酸モノマーが、アクリル酸、メタクリル酸、及びそれらの混合物から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記ポリマーのガラス転移温度が-60℃~30℃の範囲である、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
少なくとも2つのアミノ基を有する前記ポリアミン化合物が、少なくとも2つのアミン基を含むC~C16脂肪族ポリアミン、少なくとも2つのアミノ基を含むC~C15脂環式又は芳香族ポリアミン、少なくとも2つのアミノ基を含むC~C15芳香脂肪族ポリアミン、及びそれらの混合物から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記少なくとも2つのアミノ基を有するポリアミン化合物が、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、又はそれらの混合物から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
ポリアミン化合物B)の含有量が、A)前記水性ポリマー分散液の固形分重量に基づいて0.6~9.5重量%である、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
少なくとも2つの基材と、水性硬化型接着剤組成物とを含む積層物品であって、前記水性硬化型接着剤組成物が、
A)水性ポリマー分散液であって、前記ポリマーがモノマー混合物から重合され、前記モノマー混合物が、
(i)90~99.9重量%の1つ以上のエチレン性不飽和非イオン性モノマーと、
(ii)0.1~10重量%のエチレン性不飽和酸モノマーと、を含み、
パーセンテージは、前記モノマー混合物の総重量に基づいている、水性ポリマー分散液と、
B)少なくとも2つのアミノ基を有するポリアミン化合物と、を含み、
成分B)の含有量が、A)前記水性ポリマー分散液の固形分重量に基づいて0.5~10重量%である、積層物品。
【請求項11】
水性硬化型接着剤組成物を調製するための方法であって、
B)少なくとも2つのアミノ基を有するポリアミン化合物をA)水性ポリマー分散液とブレンドすることであって、前記ポリマーがモノマー混合物から重合され、前記モノマー混合物が、
(i)90~99.9重量%の1つ以上のエチレン性不飽和非イオン性モノマーと、
(ii)0.1~10重量%のエチレン性不飽和酸モノマーと、を含み、
パーセンテージは、前記モノマー混合物の総重量に基づいている、ことを含み、
成分B)の含有量が、A)前記水性ポリマー分散液の固形分重量に基づいて0.5~10重量%である、方法。
【請求項12】
A)水性ポリマー分散液を含む水性硬化型接着剤組成物の結合強度を改善するための方法であって、
B)少なくとも2つのアミノ基を有するポリアミン化合物をA)水性ポリマー分散液に添加することであって、前記ポリマーがモノマー混合物から重合され、前記モノマー混合物が、
(i)90~99.9重量%の1つ以上のエチレン性不飽和非イオン性モノマーと、
(ii)0.1~10重量%のエチレン性不飽和酸モノマーと、を含み、
パーセンテージは、前記モノマー混合物の総重量に基づいている、ことを含み、
成分B)の含有量が、A)前記水性ポリマー分散液の固形分重量に基づいて0.5~10重量%である、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水性硬化型接着剤組成物、特に積層用途のための水性硬化型接着剤組成物、並びに少なくとも2つの基材及び水性硬化型接着剤組成物を含む積層物品に関する。
【0002】
序論
食品、医薬品、及び産業用消耗品の包装用の積層フィルム(2層又は多層)の間には、可撓性の包装用積層用接着剤が塗布される。接着剤組成物に基づいて、積層用接着剤は、3つのカテゴリー:溶媒系(SB)、無溶媒(SL)、及び水系(WB)に分類することができる。その中で、WBアクリル系接着剤は、取り扱いが容易であること、環境に優しいことなどの利点のために最も一般的である。用途の拡大に伴い、性能、特にフィルム間の結合強度に対する要求が大幅に増大している。したがって、接合強度などの望ましい性能を有する新しいバインダー又は配合物を設計することが当技術分野において強く求められている。
【発明の概要】
【0003】
本開示は、結合強度などの望ましい性能を有する新規の水性硬化型接着剤組成物を提供する。
【0004】
第1の態様では、本開示は、水性硬化型接着剤組成物を提供し、当該水性硬化型接着剤組成物は、
A)水性ポリマー分散液であって、当該ポリマーがモノマー混合物から重合され、当該モノマー混合物が、
(i)90~99.9重量%の1つ以上のエチレン性不飽和非イオン性モノマーと、
(ii)0.1~10重量%のエチレン性不飽和酸モノマーと、を含み、
パーセンテージは、モノマー混合物の総重量に基づいている、水性ポリマー分散液と、
B)少なくとも2つのアミノ基を有するポリアミン化合物と、を含み、
成分B)の含有量は、A)水性ポリマー分散液の固形分重量に基づいて0.5~10重量%である。
【0005】
第2の態様では、本開示は、少なくとも2つの基材と、水性硬化型接着剤組成物とを含み、当該水性硬化型接着剤組成物は、
A)水性ポリマー分散液であって、当該ポリマーがモノマー混合物から重合され、当該モノマー混合物が、
(i)90~99.9重量%の1つ以上のエチレン性不飽和非イオン性モノマーと、
(ii)0.1~10重量%のエチレン性不飽和酸モノマーと、を含み、
パーセンテージは、モノマー混合物の総重量に基づいている、水性ポリマー分散液と、
B)少なくとも2つのアミノ基を有するポリアミン化合物と、を含み、
成分B)の含有量は、A)水性ポリマー分散液の固形分重量に基づいて0.5~10重量%である。
【0006】
第3の態様では、本開示は、水性硬化型接着剤組成物を調製するための方法を提供し、当該方法は、
B)少なくとも2つのアミノ基を有するポリアミン化合物をA)水性ポリマー分散液とブレンドすることであって、当該ポリマーがモノマー混合物から重合され、当該モノマー混合物が、
(i)90~99.9重量%の1つ以上のエチレン性不飽和非イオン性モノマーと、
(ii)0.1~10重量%のエチレン性不飽和酸モノマーと、を含み、
パーセンテージは、モノマー混合物の総重量に基づいている、ことを含み、
成分B)の含有量は、A)水性ポリマー分散液の固形分重量に基づいて0.5~10重量%である。
【0007】
第4の態様では、本開示は、A)水性ポリマー分散液を含む水性硬化型接着剤組成物の結合強度を改善するための方法を提供し、当該方法は、
B)少なくとも2つのアミノ基を有するポリアミン化合物をA)水性ポリマー分散液に添加することであって、当該ポリマーがモノマー混合物から重合され、当該モノマー混合物が、
(i)90~99.9重量%の1つ以上のエチレン性不飽和非イオン性モノマーと、
(ii)0.1~10重量%のエチレン性不飽和酸モノマーと、を含み、
パーセンテージは、モノマー混合物の総重量に基づいている、ことを含み、
成分B)の含有量は、A)水性ポリマー分散液の固形分重量に基づいて0.5~10重量%である。
【0008】
前述の一般的な説明及び以下の詳細な説明はいずれも、例示的かつ説明的なものにすぎず、特許請求される本発明を限定するものではないことを理解されたい。
【発明を実施するための形態】
【0009】
特に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術的及び科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって通常理解されるのと同じ意味を有する。また、本明細書で言及される全ての刊行物、特許出願、特許、及び他の参考文献は、参照により組み込まれる。
【0010】
本明細書に開示される場合、「組成物」、「配合物」、又は「混合物」という用語は、物理的な手段によって異なる成分を単に混合することによって得られる、異なる成分の物理的なブレンドを指す。
【0011】
本明細書に開示されるように、「ガラス転移温度」(T)という用語は、例えば、示差走査熱量測定(DSC)又はFoxの式を使用する計算を含む様々な技術によって測定することができる。
【0012】
この文書全体を通して、本開示における「アクリル(Acrylic)」とは、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、及びヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートなどのそれらの改質形態を含む。「(メタ)アクリル)」という語の断片は、「メタクリル」及び「アクリル」の両方を指す。例えば、(メタ)アクリル酸は、メタクリル酸及びアクリル酸の両方を指し、メチル(メタ)アクリレートは、メチルメタクリレート及びメチルアクリレートの両方を指し、(メタ)アクリアミドは、メタクリアミド及びアクリアミドの両方を指す。
【0013】
本明細書における「水性」組成物又は分散液は、粒子が水性媒体中に分散していることを意味する。本明細書において「水性媒体」とは、水、及び媒体の重量に基づく重量基準で0~30%の、例えば、アルコール、グリコール、グリコールエーテル、グリコールエステルなど水混和性化合物を意味する。
【0014】
「それらの混合物」は、列挙された物質又は材料の2つ以上の混合物を意味する。
【0015】
本開示の水性硬化型接着剤組成物は、A)水性ポリマー分散液を含み、水性ポリマー分散液中のポリマーは、ポリマーa)と呼ばれ、これはモノマー混合物から重合することができる。
【0016】
本開示において有用なポリマーa)を調製するためのモノマー混合物は、1つ以上のエチレン性不飽和非イオン性モノマーを含み得る。本明細書における「非イオン性モノマー」は、pH=1~14でイオン電荷を有しないモノマーを指す。好適なエチレン性不飽和非イオン性モノマーの例としては、(メタ)アクリル酸エステルモノマー、好ましくはアルキル(メタ)アクリレート、より好ましくはC1~18アルキル(メタ)アクリレート又はC1~12アルキル(メタ)アクリレート又はC1~6アルキル(メタ)アクリレート、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルアクリレート、イソデシルアクリレート、ラウリルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ノニルメタクリレート、デシルメタクリレート、イソデシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、又はそれらの混合物;ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、より好ましくはC2~18ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート又はC2~12ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート又はC2~6ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、例えば、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート又はそれらの混合物;(メタ)アクリルアミド、及び(メタ)アクリロニトリル、又はそれらの混合物が挙げられる。他の好適な非イオン性モノマー、例えば、スチレン及び置換スチレン、又は酢酸ビニル、酪酸ビニル、バーサチック酸ビニル及び他のビニルエステルなどの他のビニルモノマー、塩化ビニル、塩化ビニリデン、又はそれらの混合物が更に追加され得る。
【0017】
いくつかの好ましい実施形態では、エチレン性不飽和非イオン性モノマーは、モノマー混合物の重量に基づいて、30重量%以上、35重量%以上、40重量%以上、45重量%以上、50重量%以上、又は更には55重量%以上の(メタ)アクリル酸エステルモノマー、及び同時に、90重量%以下、80重量%以下、又は更には70重量%以下、65重量%以下、又は更には60重量%以下の(メタ)アクリル酸エステルモノマーを含む。いくつかの好ましい実施形態では、エチレン性不飽和非イオン性モノマーは、モノマー混合物の重量に基づいて、20重量%以上、25重量%以上、30重量%以上、35重量%以上、又は更には36重量%以上のスチレン及び置換スチレンモノマー、並びに同時に、80重量%以下、70重量%以下、又は更には60重量%以下、55重量%以下、50重量%以下、45重量%以下、又は更には40重量%以下のスチレン及び置換スチレンモノマーを含む。
【0018】
いくつかの好ましい実施形態では、エチレン性不飽和非イオン性モノマーは、モノマー混合物の重量に基づいて、30重量%以上、35重量%以上、40重量%以上、45重量%以上、50重量%以上、又は更には55重量%以上の(メタ)アクリル酸エステルモノマー、及び同時に、90重量%以下、80重量%以下、又は更には70重量%以下、65重量%以下、又は更には60重量%以下の(メタ)アクリル酸エステルモノマーを含み、モノマー混合物の重量に基づいて、20重量%以上、25重量%以上、30重量%以上、35重量%以上、又は更には36重量%以上のスチレン及び置換スチレンモノマー、並びに同時に、80重量%以下、70重量%以下、又は更には60重量%以下、55重量%以下、50重量%以下、45重量%以下、又は更には40重量%以下のスチレン及び置換スチレンモノマーを含む。好ましくは、A)水性ポリマー分散液は、アクリルポリマー分散液であり、より好ましくはRobond(商標)L-168Dである。
【0019】
本開示において有用なモノマー混合物は、モノマー混合物の重量に基づいて、90重量%以上、93重量%以上、又は更には96重量%以上のエチレン性不飽和非イオン性モノマー、及び同時に、99.9重量%以下、99.5重量%以下、99重量%以下、又は更には98重量%以下のエチレン性不飽和非イオン性モノマーを含み得る。
【0020】
好適なエチレン性不飽和酸モノマーの例としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、2-ホスホエチル(メタ)アクリレート、ビニルリン酸、及びアリルリン酸を含むリン酸二水素モノマーのようなリン含有酸モノマー、フマル酸、マレイン酸、モノメチルイタコネート、モノメチルフマレート、モノブチルフマレート、無水マレイン酸、2-アクリルアミド-2-メチル-l-プロパンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸のナトリウム塩、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸のアンモニウム塩、ビニルスルホン酸ナトリウム、アリルエーテルスルホネートのナトリウム塩、並びにそれらの混合物が挙げられる。いくつかの好ましい実施形態では、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、2-ホスホエチルメタクリレート、又はそれらの混合物が、エチレン性不飽和酸モノマーとして使用される。いくつかの好ましい実施形態では、アクリル酸、メタクリル酸、又はそれらの混合物が、エチレン性不飽和酸モノマーとして使用される。
【0021】
本開示において有用なモノマー混合物は、モノマー混合物の重量に基づいて、0.1重量%以上、0.5重量%以上、1重量%以上、1.5重量%以上、1.8重量%以上、又は2重量%以上のエチレン性不飽和酸モノマー、及び同時に、10重量%以下、8重量%以下、又は更には6重量%以下、5重量%以下、4重量%以下、又は3重量%以下、又は2.5重量%以下のエチレン性不飽和酸モノマーを含み得る。
【0022】
本開示の水性硬化型接着剤組成物は、多官能性カルボン酸ヒドラジドを実質的に含まない。好適な多官能性カルボン酸ヒドラジドの例としては、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ポリヒドラジド、プロピレンジアミン、シクロヘキシルジアミン、又はそれらの混合物が挙げられる。
【0023】
本開示の水性硬化型接着剤組成物は、エポキシ樹脂を実質的に含まない。
【0024】
「物質を実質的に含まない」とは、存在する場合、物質の濃度が、水性硬化型接着剤組成物の総重量に基づいて、0.2重量%以下、0.1重量%以下、若しくは0.05重量%以下、又は更には0.01重量%以下であり得ることを意味する。
【0025】
好ましい一実施形態では、水性ポリマー分散液A)又はポリマーa)は、エマルジョン重合によって調製され、したがって、エマルジョンポリマーである。
【0026】
エマルジョン重合の場合には、好適な界面活性剤系及び/若しくは保護コロイド、又は安定剤を使用する。
【0027】
好適な界面活性剤系の例は、当該技術分野において既知のものであり、アニオン性、非イオン性、カチオン性、又は両性乳化剤、及びそれらの混合物が含まれる。アニオン性界面活性剤の例としては、アルキルサルフェート、エトキシレートアルコールのサルフェート、アリールスルホネート、エトキシル化アルコールのホスフェート、スルホサクシネート、エトキシル化アルキルフェノールのサルフェート及びスルホネート、並びにそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。非イオン性界面活性剤の例としては、エトキシル化アルコール、エトキシル化アルキルフェノール、及びそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。カチオン性界面活性剤の例としては、エトキシル化脂肪族アミンが挙げられるが、これに限定されない。界面活性剤の典型的な重量は、モノマーの総重量に基づいて、0.1~5.0重量%、より好ましくは0.3~5.0重量%、最も好ましくは0.5~3.0重量%である。界面活性剤は、当技術分野でよく知られている従来の方法によって利用される。一実施形態では、組成物を調製するプロセスは、重合反応の前に、界面活性剤系を用いたモノマーミックスのエマルジョン化を含む。
【0028】
界面活性剤の商品名の例は、AEROSOL(登録商標)A-102、Disponil(登録商標)FES77、Dowfax(商標)2A1、Abex(登録商標)2535、及びRHODACAL(登録商標)DS-4である。
【0029】
エマルジョン重合のための水溶性開始剤は、例えば、ペルオキソ二硫酸のアンモニウム塩及びアルカリ金属塩、例えば、ペルオキソ二硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、又は有機過酸化物、例えば、tert-ブチルヒドロペルオキシドである。
【0030】
還元-酸化(レドックス)開始剤系として知られているものもまた好適である。
【0031】
レドックス開始剤系は、少なくとも1つの、通常は無機の還元剤、及び1つの有機又は無機の酸化剤から構成される。
【0032】
酸化用成分は、例えば、すでに前述したエマルジョン重合開始剤を含む。
【0033】
還元用成分は、例えば、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウムなどの、亜硫酸のアルカリ金属塩、二亜硫酸ナトリウムなどの、二亜硫酸のアルカリ金属塩、アセトン重亜硫酸塩などの、脂肪族アルデヒド及びケトンとの重亜硫酸塩付加化合物、又はヒドロキシメタンスルフィン酸及びその塩、若しくはアスコルビン酸などの、還元剤を含む。レドックス開始剤系は、その金属成分が複数の原子価状態で存在することができる可溶性金属化合物とともに使用することができる。
【0034】
通常のレドックス開始剤系の例としては、アスコルビン酸/硫酸鉄(II)/ペルオキソ二硫酸ナトリウム、tert-ブチルヒドロペルオキシド/二亜硫酸ナトリウム、及びtert-ブチルヒドロペルオキシド/Naヒドロキシメタンスルフィン酸が挙げられる。個々の成分、例えば還元用成分は、混合物、例えば、ヒドロキシメタンスルフィン酸のナトリウム塩と二亜硫酸ナトリウムとの混合物であってもよい。
【0035】
これらの化合物は、大部分が水溶液の形態で使用され、低濃度は分散液中で許容される水の量により決定され、高濃度はそれぞれの化合物の水への溶解度により決定される。濃度は、溶液に基づいて、一般に0.1~30重量%、好ましくは0.5~20重量%、特に好ましくは1.0~10重量%である。
【0036】
開始剤の量は、重合させるモノマーに基づいて、一般に0.1~10重量%、好ましくは0.3~5重量%である。エマルジョン重合に2つ以上の異なる開始剤を使用することも可能である。
【0037】
乳化重合は、一般に30~130℃、好ましくは60~95℃で行われる。重合媒体は、水のみ、又は水とメタノールなど水混和性液体との混合物のいずれかで構成され得る。好ましくは、水のみが使用される。エマルジョン重合は、バッチ操作として、あるいは段階式又は勾配式を含む供給プロセスの形態で実施してよい。好ましいのは、重合混合物の一部を、初期充填物として導入し、重合温度に加熱して、この初期充填物の重合を開始し、次に重合混合物の残部を、通常は2つ以上の空間的に分離された供給流(そのうちの1つ以上は、モノマーをそのままで、又はエマルジョン化した形態で含む)により重合領域に供給し、この添加は、連続的に、段階的に、又は濃度勾配下で行われ、そしてこの添加の間は重合が維持される、供給プロセスである。例えば、粒度をより効果的に調整するために、重合への初期充填物にポリマーシードを含めることも可能である。
【0038】
フリーラジカル水性エマルジョン重合の過程で、開始剤を重合容器に添加する方法は、熟練した研究者に既知である。開始剤は、その全部が重合容器への初期充填物中に含まれるか、あるいはフリーラジカル水性エマルジョン重合の過程で、消費される速度に応じて開始剤が連続的に又は段階的に導入されるかのいずれかであり得る。それぞれの特定の場合において、これは開始剤系の化学的性質と重合温度との両方に依存することになる。開始剤は一部を初期充填物中に含め、かつ開始剤が消費される速度に応じて残部を重合領域に供給することが好ましい。
【0039】
残留モノマーを除去するために、実際のエマルジョン重合の終了後、すなわち、少なくとも95%のモノマーの転化後にも開始剤を添加するのが一般的である。
【0040】
供給プロセスでは、個々の成分を、上部から、側部から、又は下部から、反応器の床を通して反応器に添加することができる。
【0041】
エマルジョン重合の場合、一般に15~80重量%、好ましくは30~70重量%、より好ましくは40~65重量%、更により好ましくは40~55重量%の固形分を有する水性ポリマー分散液が得られる。
【0042】
上記のモノマーの種類及びレベルは、積層用途に適したTを有するポリマーa)を提供するように選択され得る。
【0043】
ポリマーa)のガラス転移温度は、-60℃~30℃、-50℃~20℃、若しくは-40℃~10℃の範囲であり得るか、又は特に好ましくは-50~10℃、非常に特に好ましくは非常に特に好ましくは-45~5℃であり得る。
【0044】
ガラス転移温度は、示差熱分析又は示差走査熱量測定などの通常の方法で決定できる(例えば、ASTM 3418/82、中点温度を参照のこと)。
【0045】
本開示の接着剤組成物中の水性ポリマー分散液は、水性接着剤組成物の総重量に基づいて、15固形分重量%以上、20固形分重量%以上、25固形分重量%以上、35固形分重量%以上、又は更には40固形分重量%以上、及び同時に80固形分重量%以下、75固形分重量%以下、70固形分重量%以下、65固形分重量%以下、60固形分重量%以下、55固形分重量%以下、又は更には45固形分重量%以下の量で存在し得る。
【0046】
このように調製されたポリマーは、好ましくは、その水性分散液の形態で使用される。
【0047】
ポリマー分散液のpHは、好ましくは、4.5超のpH、特に5~10の間のpHに調節される。
【0048】
本開示の水性接着剤組成物は、B)少なくとも2つのアミノ基を有するポリアミン化合物を更に含む。
【0049】
B)少なくとも2つのアミノ官能基を有するポリアミン化合物の具体例としては、少なくとも2つのアミン基を含むC~C16脂肪族ポリアミン、例えば、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン;少なくとも2つのアミノ基を含むC~C15脂環式又は芳香族ポリアミン、例えばシクロヘキサンジアミン及びp-キシレンジアミン;少なくとも2つのアミノ基を含むC~C15芳香脂肪族ポリアミン;並びにそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。好ましい実施形態によれば、B)少なくとも2つのアミノ官能基を有するポリアミン化合物は、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、又はそれらの混合物である。別の実施形態では、少なくとも2つのアミノ官能基を有するポリアミン化合物は、エチレンジアミン又はヘキサメチレンジアミンである。
【0050】
ポリアミン化合物B)は、エマルジョン反応後に添加することができる。
【0051】
ポリアミン化合物B)の含有量は、A)水性ポリマー分散液の固形分重量に基づいて0.5~10重量%、又はA)水性ポリマー分散液の固形分重量に基づいて0.6~9.5重量%、特にA)水性ポリマー分散液の固形分重量に基づいて0.68~9重量%、及び又はA)水性ポリマー分散液の固形分重量に基づいて1~8重量%、又はA)水性ポリマー分散液の固形分重量に基づいて1.1~7重量%、又はA)水性ポリマー分散液の固形分重量に基づいて1.5~5重量%、又はA)水性ポリマー分散液の固形分重量に基づいて2~4重量%である。ポリアミン化合物B)の含有量は、A)水性ポリマー分散液の固形分重量に基づいて、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5及び10重量%といったエンドポイント値のいずれか2つを組み合わせることによって得られる数値範囲内であり得る。
【0052】
ポリマーa)、又は水性ポリマー分散液A)は、簡単な方法で化合物B)と混合することができる。得られた混合物は保存時に安定していた。
【0053】
水性硬化型接着剤組成物は、更なる添加剤、すなわち、増粘剤、消泡剤、湿潤剤、機械的安定剤、顔料、充填剤、凍結融解剤、中和剤、可塑剤、粘着付与剤(粘着付与樹脂)、接着促進剤、及びこれらの組み合わせを含み得る。
【0054】
粘着付与剤の例は、ロジン、並びにその不均化若しくは異性化、重合、二量化及び/又は水素化によって形成された誘導体などの天然樹脂である。これらは、その塩の形態で(例えば、一価又は多価の対イオン(カチオン)との塩の形態で)、又は好ましくは、そのエステル化形態で存在し得る。
【0055】
また、炭化水素樹脂、例えば、非水素化脂肪族C5樹脂、水素化脂肪族C5樹脂、芳香族修飾C5樹脂、テルペン樹脂、水素化C9樹脂、及びこれらの組み合わせが使用される。
【0056】
粘着付与剤としてますます使用されている他の化合物には、低モル重量を有するポリアクリレートが含まれる。このポリアクリレートは、好ましくは、30,000未満の重量平均分子量MWを有する。好ましい場合、ポリアクリレートは、少なくとも60重量%、特に少なくとも80重量%のC1~C8アルキル(メタ)アクリレートから構成される。
【0057】
好ましい粘着付与剤は、天然又は化学修飾したロジンである。ロジンは、主にアビエチン酸又はその誘導体から構成される。
【0058】
粘着付与剤の重量による量は、ポリマー100重量部当たり、好ましくは5~100重量部、特に好ましくは10~50重量部である(固体/固体)。
【0059】
水性硬化型接着剤組成物は、接着剤組成物の総重量に基づいて、0~5重量パーセントの増粘剤を含み得る。0~5重量パーセントの全ての個々の値及び部分範囲は、本明細書に含まれ、本明細書において開示される。例えば、増粘剤の重量%は、0、0.5、又は1重量パーセントの下限から1、3、又は5重量パーセントの上限までであり得る。増粘剤の例としては、The Dow Chemical Company(Midland,Michigan)から市販されているACRYSOL(商標)、UCAR(商標)、及びCELOSIZE(商標)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0060】
水性硬化型接着剤組成物は、接着剤組成物の総重量に基づいて、0~2重量パーセントの中和剤を含み得る。
【0061】
0~2重量パーセントの全ての個々の値及び部分範囲は、本明細書に含まれ、本明細書において開示される。例えば、中和剤の重量%は、0、0.3、又は0.5重量パーセントの下限から0.5、1、又は2重量パーセントの上限までであり得る。中和剤は、典型的に、pHを制御して、配合された接着剤組成物に安定性を提供するために使用される。中和剤の例としては、アンモニア水、アミン水溶液、及び他の水性無機塩が挙げられるが、これらに限定されない。
【0062】
水性硬化型接着剤組成物は、積層用途に使用することができる。
【0063】
本開示はまた、少なくとも2つの基材と、本明細書に開示される水性硬化型接着剤組成物とを含む積層物品を提供する。好ましくは、水性硬化型接着剤組成物の層は、基材の少なくとも1つの片面又は両面、好ましくは片面に塗布される。
【0064】
基材上に接着剤層を作製するために、基材は、従来どおりコーティングすることができる。通常の塗布量は、例えば、1~50g/m(固体、水なし)である。
【0065】
2つの基材は、同じであっても異なっていてもよい。
【0066】
基材は、例えば、紙、金属箔、好ましくは、二軸延伸ポリプロピレンフィルム(Boppフィルム)若しくはキャストポリプロピレンフィルム(CPPフィルム)など、二軸若しくは一軸延伸することができるポリエチレン及びポリプロピレンを含むポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン又はポリアミドからなるポリマーフィルムを含み得る。好ましい実施形態では、基材は、二軸延伸ポリプロピレンフィルム(Boppフィルム)又はキャストポリプロピレンフィルム(CPPフィルム)を含み得る。
【0067】
本開示の積層物品は、良好な性能特性、特に、改善された結合強度を有する。
【0068】
積層物品は、食品包装などの包装に使用することができる。
【実施例
【0069】
次に、本開示のいくつかの実施形態を以下の実施例において説明するが、全ての部及び百分率は、特に指定しない限り、重量による。
【0070】
原材料:
使用される略語:DI水=脱イオン水、SC=重量による固形分。
【0071】
A:アクリルポリマー水性分散液(すぐに使用できる市販製品、DOW Chemicalから):
【0072】
【表1】
【0073】
1.配合物
表2に示す配合に従って、硬化型水性組成物を得るために、上記の原料を15分間適切に撹拌して配合した。
【0074】
【表2】
【0075】
2.積層構造体の調製及び結合強度の試験
積層構造体を以下の手順で調製した。
1)接着剤配合物をそれぞれBOPPフィルム(Wenzhou Gettel Groupから入手可能)上に直接コーティングした。
2)右巻線バー(モデル番号:0、RK Print,U.K.から入手可能)を選択して、接着剤の乾燥コーティング重量を約2gsmに制御した。
3)接着剤を80℃で2分間乾燥させた。
4)工程3)で得られた生成物をCPPフィルム(Wenzhou Gettel Groupから入手可能)で積層し、ニップ温度は80℃であった。
5)積層体を室温で3日間コンディショニングし、その後、結合強度を測定した。
【0076】
積層体の結合強度を、Instron(Instron,U.S.から入手可能)で以下の条件を用いて試験した。
試料の幅:15mm
剥離速度:250mm/min(T-Peel)
単位:N/15mm
【0077】
結果を表3に示す。
【0078】
【表3】

表3:BOPP/CPP構造体上の配合物の結合強度
【0079】
本発明の配合物(本発明1~5)及び比較配合物の比較1(ブランク)の結果を比較することにより、ポリアミンの添加が積層構造体の結合強度を50%超改善し、最終結合強度が市販の対照試料に近くなり得ることが分かる。ポリアミンの添加レベルが低い場合(比較例2及び3)、改善は弱まる。
【国際調査報告】