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特表2023-549060イオン交換膜およびイオン交換膜の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-22
(54)【発明の名称】イオン交換膜およびイオン交換膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/22 20060101AFI20231115BHJP
   C08F 257/02 20060101ALI20231115BHJP
   C08J 7/12 20060101ALI20231115BHJP
【FI】
C08J5/22 106
C08F257/02
C08J7/12 B CEQ
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023524967
(86)(22)【出願日】2021-11-01
(85)【翻訳文提出日】2023-06-16
(86)【国際出願番号】 EP2021080277
(87)【国際公開番号】W WO2022090545
(87)【国際公開日】2022-05-05
(31)【優先権主張番号】2017268.0
(32)【優先日】2020-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】321003751
【氏名又は名称】エナプター エス.アール.エル.
(74)【代理人】
【識別番号】100141173
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 啓一
(72)【発明者】
【氏名】アゴニージ ガブリエーレ
(72)【発明者】
【氏名】フィルピ アントニオ
(72)【発明者】
【氏名】カタノルチ ステファノ
(72)【発明者】
【氏名】モンティ アレッサンドロ
(72)【発明者】
【氏名】シュミット ヤンユストゥス
(72)【発明者】
【氏名】マルティネッリ エリーザ
(72)【発明者】
【氏名】ガッリ ジャンカルロ
【テーマコード(参考)】
4F071
4F073
4J026
【Fターム(参考)】
4F071AA12X
4F071AA75X
4F071AA77X
4F071AC12A
4F071AE22
4F071AF37
4F071AG01
4F071AH02
4F071BB02
4F071BC01
4F071FB02
4F073AA11
4F073BA04
4F073BB01
4F073EA01
4F073EA11
4F073EA62
4J026AA17
4J026AA68
4J026BA08
4J026BB01
4J026DB02
4J026DB15
4J026EA09
4J026FA08
4J026GA10
(57)【要約】
【解決手段】
陰イオン交換膜の製造方法は、以下の工程、TPE上に側鎖をグラフトする工程と、グラフト化TPEを精製する工程と、精製したグラフト化TPEをキャストする工程と、陽イオン部分を得るために、グラフト化TPEを官能化する工程と、を含む。陰イオン交換膜は、電解装置、燃料電池、またはコンプレッサを含む電気化学機器に使用することができ、ドライカソードで動作する陰イオン交換膜電解装置に特に適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性エラストマ(TPE)上に側鎖をグラフトする工程と、
前記グラフト化TPEを精製する工程と、
前記精製したグラフト化TPEをキャストする工程と、
陽イオン部分を得るために、前記グラフト化TPEを官能化する工程と、
を含む、
ことを特徴とする陰イオン交換膜の製造方法。
【請求項2】
以下の工程、
TPEを選択する工程と、
統計的に制御されたラジカルグラフト化TPEを合成する工程と、
例えば、所望されない副生物と反応体とを除去することにより、生成物を精製する工程と、
前記ラジカルグラフト化TPEのフィルムをキャストする工程と、
前記ラジカルグラフト化TPEの前記フィルムを四級化する工程と、
前記得られた膜を使用または保存のために調製する工程と、
を含む、
請求項1記載の陰イオン交換膜の製造方法。
【請求項3】
前記TPEは、スチレン-ブチレン-スチレン(SBS)である、
請求項1または2記載の陰イオン交換膜の製造方法。
【請求項4】
前記TPEは、ランダムコポリマおよびブロックコポリマのうちのいずれかであり、好ましくはブロックコポリマである、
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の陰イオン交換膜の製造方法。
【請求項5】
SBSは、前記TPEであり、スチレンの重量%は、20%と70%との間である、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の陰イオン交換膜の製造方法。
【請求項6】
グラフト分子またはグラフトモノマは、少なくとも4個の炭素原子、好ましくは少なくとも5個の炭素原子、より好ましくは少なくとも6個の炭素原子を有する、
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の陰イオン交換膜の製造方法。
【請求項7】
前記ラジカルグラフトに適する前記グラフト分子または前記グラフトモノマは、VBCである、
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の陰イオン交換膜の製造方法。
【請求項8】
前記グラフト分子は、単独でまたはスペーサーモノマと共に、前記TPE上にグラフトされる、
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の陰イオン交換膜の製造方法。
【請求項9】
前記ラジカルグラフト化TPEを合成する工程は、
溶媒を添加する工程と、
混合物を50℃と165℃との間で加熱する工程と、
を含む、
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の陰イオン交換膜の製造方法。
【請求項10】
前記ラジカルグラフト化TPEを合成する工程は、
ラジカル開始剤を導入する工程、
をさらに含み、
前記ラジカル開始剤は、好ましくは、BPOおよびAIBNのうちのいずれか一方である、
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の陰イオン交換膜の製造方法。
【請求項11】
前記ラジカルグラフト化TPEを精製する精製工程は、
不純物の混ざった混合物を溶解する工程と、
前記VBCグラフト化SBSを、溶媒:非溶媒の溶液中で析出させる工程と、
を含む、
請求項1乃至10のいずれか一項に記載の陰イオン交換膜の製造方法。
【請求項12】
前記溶媒:非溶媒は、アセトン:メタノールである、
請求項11記載の陰イオン交換膜の製造方法。
【請求項13】
前記精製工程は、少なくとも2回繰り返される、
請求項11または12記載の陰イオン交換膜の製造方法。
【請求項14】
前記溶媒:非溶媒は、9:1の比である、
請求項11、12、または13記載の陰イオン交換膜の製造方法。
【請求項15】
前記VBCまたは均等物は、前記ラジカルグラフト化TPEの5モル%と30モル%との間である、
請求項1乃至14のいずれか一項に記載の陰イオン交換膜の製造方法。
【請求項16】
前記膜をキャストする工程は、
前記精製されたVBCグラフト化SBSを、暗所で真空乾燥する工程、
を含む、
請求項1乃至15のいずれか一項に記載の陰イオン交換膜の製造方法。
【請求項17】
ラジカル開始剤は、アミノ化する工程の前に前記ポリマに添加される、
請求項1乃至16のいずれか一項に記載の陰イオン交換膜の製造方法。
【請求項18】
前記アミノ化する工程は、
前記キャストフィルムを、1または複数のアミンを含む溶媒中に浸漬する工程、
を含む、
請求項1乃至17のいずれか一項に記載の陰イオン交換膜の製造方法。
【請求項19】
ラジカルグラフト化TPEは、
・熱可塑性エラストマ(TPE)を選択する工程と、
・ラジカルニトロキシドグラフト化TPEを合成する工程と、
・ラジカルニトロキシドグラフト化TPEをVBCまたは均等物と反応させる工程と、
により得られる、
請求項1乃至18のいずれか一項に記載の陰イオン交換膜の製造方法。
【請求項20】
前記ニトロキシドラジカルは、TEMPOである、
請求項19記載の陰イオン交換膜の製造方法。
【請求項21】
TPEとニトロキシドラジカルとを、BPOを含むトルエンの溶液中で反応させる、
請求項19または20記載の陰イオン交換膜の製造方法。
【請求項22】
前記反応は、70℃と90℃との間で行われる、
請求項19、20、または21記載の陰イオン交換膜の製造方法。
【請求項23】
前記ニトロキシドラジカルグラフト化TPEを、溶媒中、100℃と160℃との間でVBCと反応させる、
請求項19乃至22のいずれか一項に記載の陰イオン交換膜の製造方法。
【請求項24】
・溶媒中に溶解する工程と、
・スチレンと共にVBCを溶液に添加する工程と、
・溶媒:非溶媒混合物中で、加熱後に、前記溶液を析出させる工程と、
・精製のために前記析出されたものを分離する工程と、
による前記ニトロキシドラジカルグラフト化TPEにより、スペーサーは導入される、
請求項1乃至23のいずれか一項に記載の陰イオン交換膜の製造方法。
【請求項25】
請求項1乃至24のいずれか一項に記載の陰イオン交換膜の製造方法に従って製造される膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陰イオン交換膜(AEM)とAEMの製造方法とに関する。AEMは、必ずしも限定されないが、電解装置などの電気化学機器において使用されることを意図するものである。
【背景技術】
【0002】
水の電気分解は周知であり、1800年代から行われている。液体アルカリ水電解装置とPEM電解装置とはより確立されており、AEM電解装置は、より持続可能な新興の手法であり、また本質的に腐食性の低い環境にある。しかし、AEM電解装置が開発初期であることに鑑みると、必要な特性を満たす膜はほとんど存在しない。
【0003】
電気化学機器としては、電解装置と、燃料電池と、電気化学圧縮機と、が挙げられ得る。AEMは、これらのデバイスのいずれでも使用され得る。あるいは、電気化学機器は、比較的より確立されたプロトン交換膜(PEM)を使用することもでき、PEMシステムは、異なる反応経路を利用している。
【0004】
AEMまたはPEMのどちらであっても、イオン交換膜は、ある特定のイオンのみを一方の側からもう一方の側へ通過させる半透過性である。電気化学機器の場合、これは、膜のカソード側からアノード側へ、またはその反対ということになる。AEMは、OHの移動を可能とする一方、PEMは、Hイオンの輸送を可能とする。したがって、PEMは、その構造中に陰イオンを含み、AEMは、陽イオンを含む。さらなる相違は、PEMシステムは、腐食性の高い酸性環境を必要とすることである。AEM電解装置の有益性は、相対的に腐食性が非常に低い穏和なアルカリ性環境を使用することができることである。
【0005】
電解装置などの機器で使用されるAEMに求められる特性は、機械的安定性と、低い水素クロスオーバーと、低い水取込と、良好な導電性と、である。
【0006】
AEMシステムは、AEMシステムが触媒として白金族金属(PGM)に依存していないことと、腐食性が低くなっているために、他の構成要素に対してより安価なおよび/またはより持続可能な材料を使用することができることと、を考慮すると、PEM電解装置や液体アルカリ水電解装置よりも本質的に持続可能である。
【0007】
AEMをよく表している特徴は、陰イオンの輸送を促進する能力である。多くの膜は、この能力を実現可能であるものの、導電性、耐久性、水保持力などの他の特徴も考慮する必要がある。最終的な構造が類似する膜を製造する異なる方法も存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、必ずしも限定されるものではないが、電気化学機器に使用するための、改良されたAEMと、前記AEMの製造方法と、を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、熱可塑性エラストマ(TPE)上に側鎖をグラフトする工程と、グラフト化TPEを精製する工程と、精製したグラフト化TPEをキャストする工程と、陽イオン部分を得るために、キャストしたグラフト化TPEを官能化する工程と、を含む、陰イオン交換膜の製造方法が提供される。例えば、陰イオン交換膜の製造方法は、以下の工程、
・熱可塑性エラストマ(TPE)を選択する工程と、
・統計的に制御されたラジカルグラフト化TPEを合成する工程と、
・例えば、所望されない副生物および反応体を除去することにより、生成物を精製する工程と、
・ラジカルグラフト化TPEのフィルムをキャストする工程と、
・ラジカルグラフト化TPEのフィルムを四級化する工程と、
・得られた膜を使用または保存のために調製する工程と、
を含み得る。
【0010】
本明細書に記載のとおり、グラフト化TPEを含む膜も提供される。膜は、好ましくは、本発明の方法を用いて製造される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
芳香環を含むまたは含まない様々なTPEが使用されてもよいが、好ましい実施形態において、スチレン-ブチレン-スチレン(SBS)などの芳香環を有するTPEが使用される。あるいは、芳香環は、スチレンまたはスチレン様でもよい。スチレン様代替物は、ポリフェニレンオキシド(PPO)など、必ずしもスチレンから誘導される必要はない。本明細書で使用されるとき、SBSおよびTPEへの言及は、交換可能に用いられてよく、場合に応じてSBSおよびTPEとして適宜読まれるものとする。選択されるTPEは、ラジカルグラフト反応を受けることができる必要がある。
【0012】
本明細書で使用されるとき、スチレン様とは、任意の芳香族含有単位を意味することを意図している。「スチレン」の使用は、スチレンまたはスチレン様代替物の両方を含むことを意図していることには留意されたい。
【0013】
本明細書で使用されるとき、ラジカルグラフト化とは、ラジカルグラフト化することができ、その後、本方法の後の方の工程において、四級アンモニウム塩に変換することなどにより、官能化することができる適切な任意の分子またはモノマを意味し得る。好ましい実施形態において、塩化ビニルベンジル(VBC)が使用される。本明細書におけるVBCへの言及は、ラジカルグラフト化を受け得る他のモノマまたは分子を除外することを意図するものではない。
【0014】
本明細書で使用される場合、統計的に制御される、とは、グラフト化ポリマ鎖の特性、好ましくはグラフト化ポリマ鎖の平均長さが、本明細書で定められる方法により微細に調整可能であることを意味する。
【0015】
最適な膜は、親水性と疎水性との2つの特性のバランスに依存する。親水性は、良好なイオン伝導性およびイオン交換を可能として、一方、疎水性は、膜の機械的安定性の手助けとなる。他の特性としては、気体透過性が挙げられる。
【0016】
本明細書で使用されるとき、四級化は、アミノ化を含むことを意図しており、これらの用語は交換可能に使用されてよく、四級化、アミノ化として解釈されてよい。
【0017】
TPEは、ポリマの周知のクラスである。TPEは、一般的にはコポリマであり、すなわち、2つ以上の異なる種類のモノマから誘導される。ランダムコポリマまたはブロックコポリマのいずれかがTPEに使用されてもよいことが想定される。好ましい実施形態において、ブロックコポリマが使用される。
【0018】
TPEがブロックコポリマである場合、TPEは、第1ポリマのブロックと第2ポリマのブロックとを含む。
【0019】
第1ポリマは、好ましくは、芳香族基を有する。第1ポリマは、好ましくは、交互にある炭素中心が芳香族基に結合した炭化水素骨格を有しており、すなわち、第1ポリマは、Arが芳香族基である構造-(CHCHAr)n-を有し得る。芳香族基の芳香環は、好ましくは炭化水素骨格に直接結合しているが、C1-5アルキル基などの連結基を介して結合される可能性もある。
【0020】
芳香族基は、好ましくは、5員環から10員環までの芳香環を含む。芳香環は、ヘテロ芳香環(例:ピリジンまたはベンゾオキサゾール)でもよいが、好ましくは、炭素環式環(例:ベンゼンまたはナフタレン)である。芳香族基は、好ましくは、所望に応じて置換されたフェニル基である。適切な置換基としては、C1-5アルキル基およびハロゲン(例:Cl、Br、I)が挙げられる。しかし、芳香族基は、好ましくは、無置換フェニル基であり、このため、第1ポリマは、ポリスチレンである。スチレンブロックを有するTPEは、スチレンブロックコポリマ(TPE-s)として知られている。
【0021】
好ましさは低下するが、他の適切な第1ポリマとしては、ポリフェニレンオキシドと、ポリブチレンテレフタレートと、ポリウレタンと、が挙げられる。
【0022】
第2ポリマは、好ましくは、グラフト化可能なポリマである。例えば、第2ポリマは、各繰り返し単位中に二重結合を有してよい。第2ポリマは、好ましくは、炭化水素であり、すなわち、第2ポリマは、炭素原子および水素原子のみから成る。
【0023】
第2ポリマは、C3-10繰り返し単位、好ましくはC4-8繰り返し単位、より好ましくはC4-6繰り返し単位を含んでよく、好ましくはこれらから構成されてもよい。第2ポリマは、ジエンから、好ましくは二重結合が共役であるジエンから誘導されてよい。適切なジエンとしては、ブタジエンと、ペンタジエンと、ヘキサジエンと、が挙げられる。好ましい第2ポリマは、ブタジエンから、好ましくは1,3-ブタジエン、1,2-ブタジエン、イソプレン、ハロプレン(例:クロロプレン)、およびこれらの混合物から、より好ましくは1,3-ブタジエン、1,2-ブタジエン、およびこれらの混合物から誘導される。
【0024】
特に好ましい第2ポリマは、1,3-ブタジエンから誘導されて、好ましくは1,3-ブタジエンのみから誘導される。以下でより詳細に説明するように、1,3-ブタジエンは、1,2-配置(すなわち、-(CH-CH(CHCH))-または1,4-配置(すなわち、-(CHCHCHCH-)でポリマ骨格に付加され得る。1,3-ブタジエンは、典型的には、支配的に1,4-配置で、例えば60重量%超、好ましくは70重量%超、より好ましくは80重量%超の1,4-配置で付加される。
【0025】
TPEは、少なくとも20重量%、好ましくは少なくとも25重量%、より好ましくは少なくとも30重量%の量で第1ポリマを含み得る。TPEは、60重量%以下、好ましくは50重量%以下、より好ましくは45重量%以下の量で第1ポリマを含み得る。したがって、TPEは、20重量%から60重量%まで、好ましくは25重量%から50重量%まで、より好ましくは30重量%から45重量%までの量で第1ポリマを含み得る。
【0026】
TPEは、少なくとも40重量%、好ましくは少なくとも50重量%、より好ましくは少なくとも55重量%の量で第2ポリマを含み得る。TPEは、80重量%以下、好ましくは75重量%以下、より好ましくは70重量%以下の量で第2ポリマを含み得る。したがって、TPEは、40重量%から80重量%まで、好ましくは50重量%から75重量%まで、より好ましくは55重量%から70重量%までの量で第2ポリマを含み得る。
【0027】
TPEは、周知の方法を用いて合成されてよく、またはTPEは、市販品から入手されてもよい。
【0028】
なおさらにより好ましくは、ブロックコポリマは、SBSである。ブロックコポリマは、膜内での十分なイオン伝導性に必須である比較的高濃度のイオン性基が確保されることから好ましいものである。加えて、親水性成分は、ミクロ相となって、陰イオンの移動を可能とするイオン性基の濃度が高い領域を形成することができ、疎水性ブロックも同様にミクロ相となって、飽和または飽和に近い状況であっても機械的に強固な性質である領域をもたらすことができる。
【0029】
SBSは、スチレンがブタジエンと比較して硬く、ブタジエンよりも高いガラス転移点(T)を有することから、好ましいTPEである。
【化1】
【0030】
SBSは、様々なスチレン/ブタジエン含有量比のものが市販されている。これと同様に、SBSポリマには、様々な1,2-ブタジエン/1,4-ブタジエン含有量比も存在し得る。1,2および1,4は、二重結合の位置ではなく、SBS中でポリマ骨格に連結しているブタジエンモノマ中の原子を表している。
【表1】
【0031】
SBSがTPEとして使用される場合、スチレンの重量%は、20重量%と70重量%との間であることが想定される。さらにより好ましくは、30重量%と60重量%との間である。
【0032】
本発明の方法によれば、側鎖をTPEにグラフトする。
【0033】
好ましい実施形態において、2つの官能基を含むグラフト分子をTPEにグラフトする。第1官能基は、好ましくは、TPEとの結合の形成を可能とする。第2官能基は、後の工程において陽イオン部分への官能化を可能とする。
【0034】
第1官能基は、好ましくは二重結合であり、より好ましくは末端二重結合である(すなわち、-CH=CH基)。グラフトされると、この基は、エタンジイル基(すなわち、-CH-CH-基)の形態を取る。
【0035】
第2官能基は、好ましくは、ハロゲン(例:Cl、Br、またはI)またはスルホネート(例:メシレートまたはトシレート)などの脱離基である。
【0036】
第1および第2官能基は、好ましくは、連結基を介して一緒に結合している。連結基は、C1-5アルカンジイル基、二価C1-5エステル、二価C1-5エーテル、または5員環から10員環までの芳香族環を含むアレンジイル基でもよい。好ましくは、連結基は、C1-5アルカンジイル基またはアレンジイル基であり、より好ましくは、連結基は、ベンジレン基(すなわち、-C-CH-)である。特に、グラフト分子は、好ましくは、脱離基に結合したビニルベンジル基である(すなわち、HC=CH-C-CH-脱離基)。
【0037】
TPEにグラフトすることができるグラフト分子の例としては、ハロブテン(例:クロロブテンまたはクロロプレン)と、メタクリレートエステル(例:クロロブチルメタクリレート)と、ビニルベンジルハライド(例:ビニルベンジルクロリド(VBC))と、が挙げられる。
【0038】
好ましくは、グラフト分子は、少なくとも4個の炭素、より好ましくは少なくとも5個の炭素、最も好ましくは少なくとも6個の炭素を有する。4個以下の炭素を有するグラフト分子は、自己重合を阻害する傾向にある。より長いグラフト鎖は、より良好な相分離および/またはより高い電荷密度をもたらすことができ、したがって、より良好な導電性をもたらす。グラフト分子として特に好ましいのは、VBCである。これらの分子は、モノマと称され得ることは理解されたい。
【0039】
グラフト分子は、TPE上に単独でまたはスペーサーモノマと一緒にグラフトされてもよい。後者の場合、グラフト分子とスペーサーモノマとは、好ましくは、TPE上にランダムコポリマの側鎖を形成する。スペーサー分子は、側鎖の電荷密度を変化させるために、特に薄めるために使用され得る。したがって、スペーサーモノマは、典型的には、本発明のプロセスの過程でイオン性種に変換される官能基を含まない。
【0040】
スペーサーモノマは、好ましくは、芳香族基を有する。スペーサーモノマは、好ましくは、芳香族基に結合したビニル基を有しており、すなわち、スペーサーモノマは、Arが芳香族基である構造CH-CHArを有し得る。芳香族基の芳香環は、好ましくはビニル基に直接結合しているが、C1-5アルキル基などの連結基を介して結合される可能性もある。
【0041】
芳香族基は、好ましくは、5員環から10員環までの芳香環を含む。芳香環は、ヘテロ芳香族環(例:ピリジンまたはベンゾオキサゾール)でもよいが、好ましくは、炭素環式環(例:ベンゼンまたはナフタレン)である。芳香族基は、好ましくは、所望に応じて置換されたフェニル基である。適切な置換基としては、C1-5アルキル基とハロゲン(例:Cl、Br、またはI)とが挙げられる。しかし、芳香族基は、好ましくは、無置換フェニル基であり、このため、スペーサーモノマは、スチレンである。
【0042】
TPEにグラフトされる側鎖は、少なくとも5000、好ましくは少なくとも7000、より好ましくは少なくとも10000の数平均分子量Mを有し得る。TPEにグラフトされる側鎖は、100000以下の、好ましくは70000以下の、より好ましくは50000以下の数平均分子量を有し得る。したがって、TPEにグラフトされる側鎖は、5000から100000までの、好ましくは7000から70000までの、より好ましくは10000から50000までの数平均分子量を有し得る。
【0043】
側鎖は、好ましくは、ラジカルグラフト化を用いてTPEにグラフトされる。したがって、方法の第1工程がTPEを選択することである場合、次の段階は、ポリマ骨格に官能性側鎖を付与するラジカルグラフト化されたTPEの合成である。フリーラジカル付加は、好ましくは、第2ポリマ上で発生して、したがって、TPEがSBSである場合、フリーラジカル付加は、SBS系のブタジエン単位上で発生する。反応性の高いラジカル種の形成は、2つの経路のうちの1つ、すなわち二重結合のラジカル活性化と、アリル水素の引抜きと、のうちの1つで発生することが想定される。
【0044】
2つのブタジエン異性体の反応性が僅かに異なり得ることには留意されたい。立体配置的考察および電子的考察の両方から、1,2-ブタジエンにある二重結合の方が、対応する異性体の1,4-ブタジエンにある二重結合よりも反応性が高い可能性があることが示唆される。ラジカル開始剤の種類も、反応経路に影響を与えることが知られている。最も一般的に行われている機構は、以下のように機能するものと理解される。
【化2】
【0045】
最終的な膜の特性は、膜に存在するイオン性基の数と分布と密度とに強く関連する。したがって、四級化/アミノ化により、存在するVBC単位当たり1つのイオン性基が可能となることから、この段階は、最終特性との相関性を有する。グラフト反応が行われる条件を制御することにより、統計的に制御されてグラフト化されたTPEを製造することができる。
【0046】
好ましい実施形態において、溶媒が添加される。溶媒は、反応混合物を希釈して、グラフトモノマまたはグラフト分子の制御されない重付加などのラジカルが開始する副反応を低減することを意図したものである。このことは、効率を高め、得られる膜の所望される特性を向上させる。
【0047】
結果に影響を与えるように調整することができる他の反応パラメータとしては、必ずしも限定されるものではないが、グラフト分子/TPE(例:VBC/SBS)の化学量論比と、反応させる時間と、温度と、ラジカル開始剤の量と、が挙げられる。
【0048】
グラフト反応は、少なくとも1:1、好ましくは少なくとも2:1、より好ましくは少なくとも3:1のグラフト分子:TPEの重量比を用いて行われ得る。グラフト反応は、10:1以下の、好ましくは8:1以下の、より好ましくは5:1以下のグラフト分子:TPEの重量比を用いて行われ得る。したがって、グラフト反応は、1:1から10:1までの、好ましくは2:1から8:1までの、より好ましくは3:1から5:1までのグラフト分子:TPEの重量比を用いて行われ得る。
【0049】
VBCなどの挿入されるグラフト分子のモル分率は、特に重要であり、なぜなら、クロリド部分をアンモニウム部分に変換するアミノ化反応が定量的であることからモル分率を官能化度と見なすことができるからである。VBCなどの挿入されるグラフト分子のモル%は、1%から50%までの、なおより好ましくは3%と40%との間の、さらになおより好ましくは5%と30%との間の、最も好ましくは9%と12%との間の範囲内であることが想定される。モル%が、グラフト分子のモル数/(グラフト分子のモル数+TPE[すなわち、SBSがTPEである場合はスチレン+ブタジエン]のモル数)を表すことは理解される。異なるグラフト分子の混合物が使用される場合、モル%は、添加されるグラフト分子の総モル%を表す。
【0050】
グラフト分子がVBCであり、TPEがSBSである場合、VBC:SBSの重量比は、1:1から10:1までの範囲内、またはなおより好ましくは3:1と5:1との間の範囲内でもよい。
【0051】
好ましい実施形態において、トルエンが好ましい溶媒であるが、適切な他の溶媒が使用されてもよい。例えば、他の溶媒としては、ジメチルホルムアミド(DMF)と、ジメチルスルホキシド(DMSO)と、テトラヒドロフラン(THF)と、炭酸ジメチル(DMC)、炭酸エチレン、および炭酸プロピレンなどの有機炭酸エステルと、ベンゼン、トルエン、キシレン、デュレン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、デカリン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの炭化水素溶媒と、これらの混合物と、が挙げられる。好ましい溶媒は、非プロトン性であり、より好ましくは、芳香族基を有する。
【0052】
所望される溶媒特性としては、室温よりも高い温度で、より好ましくは50℃と100℃との間で、なおより好ましくはおよそ80℃で反応を行うことを可能とする高い沸点が挙げられる。代替的方法では、105℃と165℃との間、またはなおより好ましくは130℃と140℃との間、なおさらにより一層好ましくは実質的に135℃であるより高い温度が必要とされる。グラフト反応は、好ましくは、溶媒の沸点よりも低い温度で行われる。
【0053】
溶媒は、グラフト分子の1mmolあたり少なくとも1mL、好ましくは少なくとも1.5mL、より好ましくは少なくとも2mLの量で使用され得る。溶媒は、グラフト分子の1mmolあたり10mL以下、好ましくは5mL以下、より好ましくは3mL以下の量で使用され得る。したがって、溶媒は、グラフト分子の1mmolあたり1mLから10mLまで、好ましくは1.5mLから5mLまで、より好ましくは2mLから3mLまでの溶媒の量で使用され得る。
【0054】
好ましい実施形態において、ジベンゾイルペルオキシド(BPO)が、ラジカル開始剤として使用される。代替物として、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)などのアゾ開始剤が挙げられるが、他のフリーラジカル開始剤が使用されてもよい。BPOは、主としてアリル水素引抜き剤として作用して、立体障害がより大きくラジカル付加に対する反応性がより低い1,4-ブタジエン単位の反応性を刺激する目的で、AIBNよりも好ましい。
【0055】
反応の継続時間は、少なくとも30分間と想定される。なおより好ましくは、反応は、少なくとも1時間にわたって行われるべきである。なおさらにより好ましくは、1時間から6時間までの範囲内である。なおさらにより一層好ましくは、2時間から5時間までの範囲内である。
【0056】
以下でより詳細に説明するように、ラジカルグラフトは、TEMPOなどのニトロキシドラジカル含有化合物の存在下で行われる場合もある。これにより、反応に対するより高い制御が得られる。これらの実施形態において、本発明の方法は、ニトロキシドラジカル含有化合物を、好ましくはラジカルグラフトを用いて、TPE上にグラフトして、続いてラジカルニトロキシドをグラフトしたTPEをグラフト分子(および所望に応じてスペーサーモノマ)と反応させてグラフト化TPEを形成することを含む。
【0057】
グラフト反応の後、グラフト化TPEは、好ましくは、例えば、グラフト化TPEを析出させる溶媒を添加することにより、析出される。適切ないかなる溶媒が使用されてもよい。特に適切な溶媒は、アセトン:メタノール混合物である。好ましくは、アセトン:メタノール混合物は、実質的に9:1である。あるいは、アセトン:メタノール混合物は、4:1から14:1までの範囲内のいずれでもよい。本明細書で開示される溶媒の量と比とは、本技術分野において慣習的であるとおり、体積基準で表される。析出されたグラフト化TPEは、好ましくは、遠心分離または沈降などの従来の技術を用いて溶媒から分離される。
【0058】
スペーサーモノマが使用される場合、スペーサーモノマは、グラフト分子の前にTPEにグラフトされ得る。グラフトモノマに関連する前述のとおりのグラフト条件が、スペーサーモノマのグラフトにも適用され得る。スペーサーモノマをグラフトしたTPEは、例えば、前述のとおりの条件を用いて、好ましくは析出されて、所望に応じて、例えば、後述のとおりの条件を用いて、精製される。その後、グラフト分子が、スペーサーモノマをグラフトしたTPEにグラフトされ得る。
【0059】
他の実施形態において、スペーサーモノマおよびグラフト分子は、両方の分子の存在下でグラフト反応を行うことにより、同時にTPEにグラフトされてもよい。この方法は、一般に、TPE上にランダムコポリマの側鎖を提供する。
【0060】
導入される方法にかかわらず、スペーサーモノマは、典型的には、グラフト分子に対して少なくとも1モル当量から5モル当量までの量で使用される。
【0061】
グラフト反応に続いて、生成物(すなわち、グラフト化TPE)は、精製される必要がある。精製は、典型的には、副生物および未反応の反応体などの不純物を除去することにより行われる。好ましくは、精製は、溶媒再結晶を用いて行われる。これは、典型的には、アモルファスの形態のポリマを与える。このため、精製は、溶媒析出を用いて行われると見なされ得る。溶媒を利用することで、不溶性の画分を除去するために濾過が必ずしも必要ないため、これまでの方法より改善される。
【0062】
精製は、グラフト化TPEを、いずれの不純物も含めて第1溶媒に溶解することにより行われ得る。次いで、グラフト化TPEを析出するために、第2溶媒が添加され得る。好ましくは、不純物は、第2溶媒中に溶解した状態で維持される。次いで、析出されたグラフト化TPEは、遠心分離または濾過などの従来の方法により、溶液から分離され得る。溶解と、再結晶と、分離と、の工程は、例えば、合計で少なくとも2回繰り返されて、より高純度のグラフト化TPEを提供し得る。精製工程が繰り返されるごとに、異なる第1溶媒および第2溶媒が使用されてもよい。
【0063】
グラフト化TPEの分離は、特にグラフト化TPEがVBCをグラフトしたSBSである場合、好ましくは、第1に、クロロホルムまたは他の適切な化合物中に反応混合物を溶解して、アセトン:メタノールの混合物中でグラフト化TPEを析出することにより実現される。好ましくは、アセトン:メタノール混合物は、実質的に9:1である。あるいは、アセトン:メタノール混合物は、4:1から14:1までの範囲内のいずれでもよい。アセトン:メタノール混合物は、副生物のPVBCおよび未反応VBCの実質的な残余分の除去を促進する。第2工程は、反応混合物をクロロホルムに溶解して、メタノール中で析出させることを含む。第2工程は、第1工程後に残った汚染物VBCを除去する。
【0064】
アセトン:メタノールの代替物として溶媒:非溶媒が用いられてもよいことが想定されて、アセトン:メタノールへのいかなる言及も、代替物を必ずしも除外することを意図するものではない。
【0065】
VBCグラフト化SBSの単離を、2つの連続する析出工程により最適化した。第1工程では、反応混合物をクロロホルムに溶解して、9/1のアセトン/メタノール混合物中で析出させて、PVBCと未反応VBCの大部分とを除去した。第2工程では、反応混合物をクロロホルムに溶解して、メタノール中で析出させた。
【0066】
本発明の特筆すべき有益性は、VBCの過剰度と、ラジカル開始剤の量と、反応時間と、に関して、類似の大規模な(in-bulk)修飾反応で一般的に使用されるよりも穏和な反応条件である。溶媒の存在は、簡単な下流での手順において、特にグラフトされていないPVBCの量と分子量とを低下させることにおいて、重要な役割を有している。このことにより、数ある有益性、例えば、グラフトされていないPVBCの分子量が低いと、グラフト反応時におけるVBCの付加重合が短くなる可能性があり、親水性ドメインの電荷密度が低くなるため、水取込が少なくなる(すなわち、より良好な機械特性)、などの数ある有益性の中でも、より単純な精製段階が可能となる。
【0067】
グラフト化TPEは、精製された後、キャストされる。フィルムをキャストする目的で、VBCグラフト化SBSなどの精製されたグラフト化TPEは、乾燥され得る。好ましい実施形態において、精製されたグラフト化TPEは、室温で真空乾燥されて、なおより好ましくは、乾燥は、暗所で行われる。フィルムをキャストするために、選択されたポリマーの一部を、クロロホルムなどの溶媒に、実質的に300mg/25mLの比で室温で溶解した。次いで、キャストフィルムは、通常、暗所において室温で保存される。
【0068】
保存の過程で、数週間後にはある程度の架橋が発生する可能性があることには留意されたい。このようなエージングプロセスを防止するために、少量(溶媒の20重量ppmから100重量ppmまで)のヒドロキノンモノメチルエーテルが、キャストを行う直前に溶媒に添加されてもよい。あるいは、ポリマのエージングに伴う不都合を防止するために、他のラジカル阻害剤が添加されてもよい。
【0069】
フィルムをポリマの精製直後にキャストしなかった場合には、その後のアミノ化プロセスの過程でいくつかの孔が発生することに気づいた。したがって、キャストは、好ましくは、精製の後1時間未満で、好ましくは30分間未満で、より好ましくは10分間未満で行われる。そのような問題は、ヒドロキノンモノメチルエーテルなどのラジカル阻害剤の化学物質が存在せず、アミノ化までにポリマが長期間保存されていた場合にも見られた。この問題は、架橋が原因であり得る。好ましい実施形態において、溶液を、テフロン(登録商標)製ペトリ皿または他の適切な容器にキャストする前に、例えば、フィルターペーパーを通して、濾過する。ペトリ皿を、少なくとも5時間、好ましくは8時間以上にわたって、ヒュームフード中、溶媒の蒸発速度を制御するためにビーカーをかぶせた状態で放置して、それにより均質なフィルムを形成した。好ましくは、フィルムは、50μmと120μmとの間の厚さであり、なおより好ましくは60μmと100μmとの間の厚さである。
【0070】
次の段階は、通常はフィルムの形態であるキャストしたグラフト化TPEを官能化することである。このプロセスは、ラジカルグラフト化TPE内に陽イオン部分を形成することを含む。適切な陽イオン種は、第四級アンモニウムと、イミダゾリウムなどのヘテロ環系と、グアニジニウムと、トリス(2,4,6-トリメトキシフェニル)ホスホニウムなどのホスホニウムと、トリアリールスルホニウムなどのスルホニウムと、金属系陽イオンを含み得る。好ましい実施形態において、陽イオン種は、第四級アンモニウム部分であり、第四級アンモニウム部分は、塩の形態でポリマ中に存在し得る。VBCをグラフトしたSBSのフィルムの好ましい実施形態において(または、第2官能基がクロリドなどのハライドである他の実施形態において)、クロリド基を第四級アンモニウム塩に変換するために、キャストフィルムは、トリメチルアミンが好ましい三級アミンを含む、好ましくはメタノールまたは水の溶液であるが他の溶媒が使用されてもよい溶液中に浸漬される。あるいは、モノアミン、ジアミン、他のポリアミン、または前述のアミンの混合物が使用されてもよい。同様の手法は、グラフト分子中の他の脱離基についても使用され得る。
【0071】
反応は、好ましくは、40℃の温度で、少なくとも24時間にわたって、またはより好ましくは30時間超にわたって、またはなおより好ましくは実質的に40時間以上にわたって行われる。時間と温度とは、所望されるキャストフィルムの厚さとプロセスで使用されるアミンと、相関関係にある。反応は、エルレンマイヤーフラスコなどの閉じられたフラスコを含む制御された環境中で完了されるべきである。これは、適宜スケール変更することができる。
【化3】
【0072】
反応の完了後、フィルムは、水とメタノールとで繰り返し洗浄されて、次いで室温で真空乾燥されて、使用または保存を見越して暗所で実質的に4℃で保存され得る。
【0073】
膜は、AEMを必要とするいかなるシナリオで使用されてもよいが、好ましい用途は、電解装置、燃料電池、またはコンプレッサを含む電気化学機器である。最も好ましくは、AEMは、ドライカソード(dry-cathode)で動作するAEM電解装置と共に使用される。
【0074】
本発明の別の実施形態によれば、以下の工程を含むラジカルグラフト化TPEを得る別の手段が提供される。
・熱可塑性エラストマ(TPE)を選択する工程
・ラジカルニトロキシドグラフト化TPEを合成する工程
・ラジカルニトロキシドグラフト化TPEをVBCと反応させる工程
・生成物を精製する工程/所望されない生成物と反応体とをVBCグラフト化TPEから除去する工程
【0075】
次いで、得られたラジカルグラフト化TPEは、使用前に前述の方法に従って処理され得る。この方法は、本明細書において、制御されたラジカル重合と称する。
【0076】
前述のとおり、好ましいTPEは、SBSであり、本明細書で使用される場合、これらは交換可能に使用されてよいが、芳香環を有するまたは有しない他のTPEが適する場合もある。
【0077】
前述のとおりのフリーラジカルグラフト重合は、主骨格にポリマ側鎖をグラフトする様々な方法のうちの1つの様式である。SBSコポリマは、ブタジエン単位の二重結合の反応性のために、この方法で容易に官能化することができる。反応系に溶媒を添加することで遊離PVBCの量とその分子量とが低減される場合であっても、実験条件を変えることにより、遊離PVBCの形成を完全に排除することと、主鎖上のグラフト部位の数、さらにはPVBCグラフト部の長さを制御することとは、非常に困難である。グラフトされていないPVBCの分子量が低いと、グラフト反応時におけるVBCの付加重合が短くなる可能性があり、親水性ドメインの電荷密度が低くなるため、水取込が少なくなる(すなわち、より良好な機械特性)、などの他の有益性が付与される。
【0078】
本明細書で述べる代替的な手法は、ニトロキシド媒介重合反応を使用することから成り、これにより、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル(TEMPO)ニトロキシドラジカルなどの添加した非成長ラジカル種で、成長するマクロラジカル種を捕捉することによる成長するマクロラジカル種の濃度の低下を理由に、ポリマグラフト側鎖の成長をより良く制御することができる。TEMPOは、近年合成されているラジカルニトロキシドの大ファミリーの親メンバーであり、このため、このファミリー内からの代替化合物が使用されてもよい。誘導されるアルコキシアミン結合の選択性と活性化温度とを調節するために、いくつかの官能基が挿入されてもよい。好ましい実施形態において、TEMPOは、最も一般的な市販品の候補として選択される。本明細書で使用される場合、TEMPOグラフト化は、いずれのニトロキシドが媒介する制御グラフトを意味するために使用されてもよく、必ずしもTEMPOだけに限定されるものではない。
【0079】
機構は、ニトロキシドフリーラジカルが他の炭素中心ラジカルと遭遇するときに形成されるアルコキシアミン結合の熱可逆性に依存している。ニトロキシドラジカルは、成長する鎖の末端を捕捉して、成長するラジカル種の濃度を低下させることで、所望されない停止反応を低減する。以下に示されるように、温度を上昇させることにより、アルコキシアミン結合は不安定となり、活性種および休止種の2つの形態が素早く相互変換する。
【化4】
【0080】
以下に示されるように、ニトロキシドで官能化された単位のみが、その後のVBCとのグラフト反応において成長ラジカルとして活性化することになるので、SBS骨格上に挿入できるTEMPOの量が推定される。
【化5】
【0081】
好ましい実施形態において、TEMPOによるSBSコポリマの官能化を、ラジカル開始剤としてBPOを用いてトルエン中で行った。上記で考察したとおり、代替的なTPE、溶媒、およびラジカル開始剤が用いられてもよい。
【0082】
好ましい実施形態において、反応は、70℃と90℃との間で、なおより好ましくは実質的に80℃で行われる。しかし、反応が50℃から120℃までの範囲内で行われてよいことも想定される。
【0083】
反応は1時間にわたって行われてよいが、少なくとも3時間にわたって行われることが好ましい。なおより好ましくは、12時間と84時間との間、さらになおより好ましくは、24時間と72時間との間である。
【0084】
反応の後、混合物を、クロロホルム溶液中のTEMPOグラフト化SBSをアセトン:メタノールで少なくとも1回析出させることにより精製したが、アセトン:メタノールの比は、前述のとおりの比とした。好ましくは、少なくとも2回繰り返して、より好ましくは、生成物の純度を確実にするために3回繰り返す。
【0085】
上記で考察したとおり、アセトン:メタノールの代替物として溶媒:非溶媒が用いられてもよいことが想定される。アセトン:メタノールへの言及は、代替物を必ずしも除外することを意図するものではない。
【0086】
次いで、マクロ開始剤であるTEMPOグラフト化TPEを、VBCなどのグラフト分子と反応させて、VBCグラフト化SBSなどのグラフト化TPEを得ることができる。好ましい実施形態において、VBCの挿入は、溶媒を用いてTEMPOグラフト化SBSとVBCとの溶液を調製して、次いで溶液を加熱することにより実現される。理想的には、溶液は、実質的に130℃に加熱されるが、100℃と160℃との間のいずれかが適切であり得ることも想定される。そのような温度では、アルコキシアミン結合は不安定となることから、VBCグラフト部の開始と成長とが可能となる。この合成プロトコルの主たる利点は、さらなるラジカル開始剤が不要であることから、VBCのホモ重合の速度が低下されることである。実際、PVBC形成の徴候は見られなかった。最終生成物中に実質的に30重量%のVBCの挿入が実現されたが、挿入されるVBCのモル%は、1%から50%まで、なおより好ましくは3%と40%との間、さらになおより好ましくは5%と30%との間、最も好ましくは7%と12%との間の範囲内であることが想定される。
【0087】
反応は、3時間から72時間まで、またはより好ましくは6時間から64時間までの範囲内である様々な時間の長さにわたって行われることができる。
【0088】
前述のとおり、本発明の変形例において、スチレンまたはスチレン様化合物などのスペーサーモノマを用いて電荷密度を薄めるランダムコポリマ側鎖を実現することができる。TEMPOグラフト化SBSを、トルエンなどの溶媒中に、好ましくは室温で溶解する。あるいは、溶解は、溶媒の沸点を超えない高温で行われてもよい。溶解後、VBCまたは適切なVBCの代替化合物をスチレンと共に添加してよい。スチレンの代替化合物としては、ラジカル重合を起こすことができるいずれかのモノマ、またはスペーサーとして作用することができる、すなわち、後の段階で陽イオン種を含有するように変換されることのない他のラジカルグラフトモノマが挙げられる。次いで、混合物を105℃と165℃との間まで、またはより好ましくは実質的に135℃まで、1時間超にわたって、好ましくは5時間にわたって加熱する。次いで、トルエンまたは別の溶媒を添加して、混合物を、他の段階で考察されるとおり、アセトン:メタノール混合物中で、または代替物中で析出させる。次いで、析出物を、好ましくは遠心分離により分離して、クロロホルムまたは代替溶媒中に再度溶解して、その後、メタノールまたはポリマーの析出を促進する他の非溶媒中で析出させる。この工程は、純粋なVBC-co-スチレングラフト化SBSを得るために2回または3回以上繰り返すことができる。疑義を回避するために、VBCには、陽イオン種に変換され得るいずれのモノマも含まれ、スチレン代替化合物には、いずれのスペーサーも含まれる。
【0089】
本発明の別の変形例では、TEMPOグラフト化SBSを、トルエンなどの溶媒中に、好ましくは室温で再度溶解するが、上記で考察したとおり、より高い温度で行ってもよい。溶解後、スチレンまたはスペーサー均等物を導入して、次いで混合物を、105℃と165℃との間まで、またはより好ましくは実質的に135℃まで、1時間超にわたって、好ましくは5時間にわたって加熱する。本明細書で使用されるスチレンまたはスペーサー均等物は、イオン性部分をまったく有するべきではなく、イオン性部分をポリマ骨格から離れた位置とすると同時に、機械的特性に影響を与え得る。このフェーズで挿入されるモノマは、ラジカル重合を通して反応し得るいかなる化学物質でもよい。次いで、トルエンまたは別の溶媒を添加して、混合物を、他の段階で考察されるとおり、アセトン:メタノール混合物中で析出させる。次いで、析出物を、好ましくは遠心分離により分離して、クロロホルムまたは代替溶媒中に再度溶解して、その後、メタノール中で析出させる。
【0090】
この時点で、前述のとおりに繰り返す代わりに、析出物をトルエンなどの溶媒に溶解して、VBCまたは均等物を添加して、その後105℃と165℃との間まで、またはより好ましくは実質的に135℃まで、1時間超にわたって、好ましくは5時間にわたって加熱する。次いで、実質的に純粋なVBC-co-Styグラフト化SBSを得るために、精製工程を前述のとおりに繰り返す。
【0091】
前述の変形例は、電荷密度を調整する手助けを、ランダムにまたは予測可能なブロックの様式で上記電荷の間隔を開けることで行うものである。さらに多くのスペーサーを導入することで最終的な膜の特性をさらに微細に調整するために、前述のプロセスが繰り返されてもよいことは想定される。
【0092】
多様な最終製品とするために異なる工程が取られてもよく、異なる工程としては、必ずしも限定されるものではないが、VBC挿入を調節するための、グラフト反応における反応時間、反応体の濃度、温度、VBCの量、供給するVBC/TEMPOモル比が挙げられる。
【0093】
制御されたラジカルグラフトの手法では、驚くべきことに、同等量のVBCを実現することができ、それにより、従来のラジカルグラフトにより得られる製品で実現されるものと同程度の官能化を有する膜の製造が可能となる。
【0094】
本発明によれば、前述の方法に従って作製される陰イオン交換膜が提供されて、膜は、
・ポリマ骨格である熱可塑性エラストマ(TPE)を含み、
・ポリマ骨格は、好ましくは4-ベンジルアンモニウム部分により、官能化されている。
【化6】
【0095】
最適な膜は、親水性と疎水性とを含む複数の特性のバランスに依存する。親水性は、良好なイオン伝導性とイオン交換とを可能として、一方疎水性は、膜の機械的安定性の手助けとなる。他の特性としては、気体透過性が挙げられ、これにより、AEM電解装置中で圧力下で水素を発生させる実施形態において、より純粋な生成物が可能となり、また、AEM燃料電池での混合電位も低下する。
【0096】
ランダムコポリマまたはブロックコポリマのいずれがTPEに使用されてもよいことが想定される。好ましい実施形態において、ブロックコポリマが使用される。なおさらにより好ましくは、ブロックコポリマは、SBSである。ブロックコポリマは、親水性相と疎水性相との間のナノ相分離を促進することにより、イオン伝導性チャネル間の経路の蛇行性を低下させることができることから、好ましい。このことは、膜内の十分なイオン伝導性のために必須である、比較的高濃度のイオン性基を確保するのに役立つ。
【0097】
本発明は、前述のとおりの実施形態の詳細に限定されることを意図するものではない。例えば、現時点で知られていないまたは本明細書に記載されていない代替的反応体、溶媒、または他の化合物が、本発明の態様から逸脱することなく使用されてもよい。
【0098】
本明細書で考察されるスケールは、実験室スケールであるが、スケールアップした生産が成され得ることは想定される。スケールの変更は、時間に影響を与える可能性があり、または本明細書で開示されていない撹拌など、方法に対する修正が必要となる場合もある。加えて、キャスト膜は、サイズを合わせるために切断されてよく、またはサイズを合わせてキャストされてもよい。
【実施例
【0099】
実施例1 - VBCグラフト化SBSコポリマの調製
市販のSBSコポリマ(2.025g)を、室温でトルエン(10mL)に溶解した。透明な溶液が得られた後、VBC(5.6mL、39.7mmol)とBPO(53mg、0.22mmol)とを溶液に添加して、混合物を80℃で加熱した。2時間後、加熱を停止して、クロロホルム(20mL)を添加した。次いで、混合物を、アセトン/メタノール(体積基準で9/1、400mL)中で析出させて、白色がかった析出物を遠心分離後に回収して得た。次いで、固体残渣を、クロロホルム(20mL)に再度溶解した。溶液をメタノール(200mL)にゆっくり滴下して、純粋なVBCグラフト化SBS(2.120g)を得た。
【0100】
実施例2 - VBCグラフト化TPEのキャスト
VBCグラフト化TPE(340mg)を、周囲温度でトルエン(25mL)に溶解した。フィルタペーパーで濾過した後、ヒドロキノンモノメチルエーテルのクロロホルム溶液の数滴(125mg/Lの溶液の0.15mL)を、撹拌しながら添加した。透明な溶液を5分間にわたって超音波処理して、次いで、ガラス製ペトリ皿(直径7cm)に注ぎ入れた。ペトリ皿を、溶媒をゆっくり蒸発させるためにビーカーをかぶせた状態でヒュームフード内に一晩放置した。
【0101】
実施例3 - 四級化
エルレンマイヤーフラスコ中で、トリメチルアミンの水溶液(6mL、45重量/体積%)をメタノール(100mL)に添加して、2.5重量/体積%の溶液を得た。VBCグラフト化TPEフィルムを溶液中に浸漬して、40℃で40時間にわたって加熱した。次いで、フィルムを水とメタノールとで繰り返し洗浄して、室温で真空乾燥した。1265cm-1のIR吸収帯がなくなったことで、反応が完了したことが示された。
【0102】
実施例4 - 陰イオン交換膜(AEM)の特性
実施例3に従って得たAEMは、AEMを電解装置に使用するのに非常に適するものとする以下の特性を呈した。
室温で32.85mS/cm-1の導電率(OH型)
92%の水取込率、および
0.97meq・g-1のIEC
【国際調査報告】