(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-22
(54)【発明の名称】難聴の治療のためのバリアントアデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドポリペプチド、及びその遺伝子治療薬
(51)【国際特許分類】
A61K 35/76 20150101AFI20231115BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20231115BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20231115BHJP
C12N 15/35 20060101ALI20231115BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20231115BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20231115BHJP
C12N 15/44 20060101ALI20231115BHJP
A61P 27/16 20060101ALI20231115BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20231115BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20231115BHJP
【FI】
A61K35/76
C12N15/12
C12N15/864 100Z
C12N15/35
C12N15/62 Z
C12N7/01
C12N15/44
A61P27/16
A61K48/00
A61K31/7088
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023527351
(86)(22)【出願日】2021-11-05
(85)【翻訳文提出日】2023-06-23
(86)【国際出願番号】 US2021058255
(87)【国際公開番号】W WO2022099007
(87)【国際公開日】2022-05-12
(32)【優先日】2020-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-02-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】594197872
【氏名又は名称】イーライ リリー アンド カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100103182
【氏名又は名称】日野 真美
(72)【発明者】
【氏名】ペノック,スティーブン
(72)【発明者】
【氏名】ティマース,アドリアン,エム.
(72)【発明者】
【氏名】シアマン,マーク
(72)【発明者】
【氏名】バルトロメ,クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】ワン,シャオボー
(72)【発明者】
【氏名】メイサー,プラナフ,ディネシュ
(72)【発明者】
【氏名】ウリベ,フィリップ エム.
(72)【発明者】
【氏名】スゾボタ,ステファニー
(72)【発明者】
【氏名】ジャックス,ボニー,イー.
(72)【発明者】
【氏名】フォスター,アラン,シー.
(72)【発明者】
【氏名】ピウ,ファブリス
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93Y
4B065AA95X
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA01
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C084AA13
4C084NA13
4C084ZA34
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA13
4C086ZA34
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087ZA34
(57)【要約】
本明細書に記載されるのは、難聴の治療または予防に使用するためのバリアントアデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドポリペプチド、及びその遺伝子治療薬である。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子欠失に関連する難聴を治療または予防するための組成物であって、前記組成物は、
(i)任意選択で、非バリアントAAVカプシドポリペプチドと比較して、内耳組織または内耳細胞において増加した向性を示すバリアントAAVカプシドポリペプチドと、
(ii)前記遺伝子をコードする核酸配列を含むポリヌクレオチドと、を含む、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ビリオンを含む、前記組成物。
【請求項2】
前記バリアントAAVカプシドポリペプチドは、バリアントAAV1カプシドポリペプチド、バリアントAAV2カプシドポリペプチド、バリアントAAV3カプシドポリペプチド、バリアントAAV4カプシドポリペプチド、バリアントAAV5カプシドポリペプチド、バリアントAAV6カプシドポリペプチド、バリアントAAV7カプシドポリペプチド、バリアントAAV8カプシドポリペプチド、バリアントAAV9カプシドポリペプチド、バリアントrh-AAV10カプシドポリペプチド、バリアントAAV10カプシドポリペプチド、バリアントAAV11カプシドポリペプチド及びバリアントAAV12カプシドポリペプチドからなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記バリアントAAVカプシドポリペプチドはバリアントAAV2カプシドポリペプチドである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記バリアントAAVカプシドポリペプチドは、表1に列挙されたアミノ酸配列、または表1に列挙された前記アミノ酸配列に対して少なくとも約85%、90%、95%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、任意選択で、前記AAVカプシドは、VP1、VP2またはVP3カプシドポリペプチドからなる群から選択される、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記バリアントAAVカプシドポリペプチドは、野生型AAV2カプシドポリペプチド(配列番号1)に対して1つ以上のアミノ酸置換、挿入及び/または欠失を有するアミノ酸配列を含み、任意選択で、前記1つ以上のアミノ酸置換、挿入及び/または欠失は、Q263、S264、Y272、Y444、R487、P451、T454、T455、R459、K490、T491、S492、A493、D494、E499、Y500、T503、K527、E530、E531、Q545、G546、S547、E548、K549、T550、N551、V552、D553、E555、K556、R585、R588及びY730からなる群から選択されるアミノ酸残基において生じる、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記バリアントAAVカプシドポリペプチドは、Q263N、Q263A、S264A、Y272F、Y444F、R487G、P451A、T454N、T455V、R459T、K490T、T491Q、S492D、A493G、D494E、E499D、Y500F、T503P、K527R、E530D、E531D、Q545E、G546D、G546S、S547A、E548T、E548A、K549E、K549G、T550N、T550A、N551D、V552I、D553A、E555D、K556R、K556S、R585S、R588T及びY730Fからなる群から選択される、野生型AAV2カプシドポリペプチド(配列番号1)に対する1つ以上のアミノ酸置換を有するアミノ酸配列を含む、請求項4に記載の組成物。
【請求項7】
前記バリアントAAVカプシドポリペプチドは、
(i)配列番号27、29、31、33または35のいずれか1つのアミノ酸配列、
(ii)配列番号27、29、31、33または35のいずれか1つに対して少なくとも約85%、90%、95%または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列、または、
(iii)配列番号26、28、30、32または34のいずれか1つの核酸配列によってコードされるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記バリアントAAVカプシドポリペプチドは、配列番号27、29、31、33または35のうちのいずれか1つのアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記バリアントAAVカプシドポリペプチドは配列番号29のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記バリアントAAVカプシドポリペプチドは配列番号31のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記バリアントAAVカプシドポリペプチドは配列番号33のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
前記バリアントAAVカプシドポリペプチドは配列番号35のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
前記遺伝子はGJB2である、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
GJB2をコードする前記核酸配列は、天然に存在しない配列である、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
GJB2をコードする前記核酸配列は、哺乳動物GJB2をコードする、請求項13に記載の組成物。
【請求項16】
GJB2をコードする前記核酸配列は、ヒト、マウス、非ヒト霊長類、ミニブタまたはラットGJB2をコードする、請求項13に記載の組成物。
【請求項17】
GJB2をコードする前記核酸配列は、配列番号10を含む、請求項13に記載の組成物。
【請求項18】
GJB2をコードする前記核酸配列は、哺乳動物発現のために最適化されたコドンである、請求項13に記載の組成物。
【請求項19】
GJB2をコードする前記核酸配列は、配列番号11、配列番号12または配列番号13を含む、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
GJB2をコードする前記核酸配列は、ヒト、ラット、非ヒト霊長類、モルモット、ミニブタ、ブタ、ネコ、ヒツジまたはマウス細胞における発現のために最適化されたコドンである、請求項18に記載の組成物。
【請求項21】
GJB2をコードする前記核酸配列は、cDNA配列である、請求項13に記載の組成物。
【請求項22】
GJB2をコードする前記核酸配列は、作動可能に連結されたC末端タグまたはN末端タグを更に含む、請求項13に記載の組成物。
【請求項23】
前記タグはFLAGタグまたはHAタグである、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
GJB2をコードする前記核酸配列は、プロモーターに作動可能に連結されている、請求項13に記載の組成物。
【請求項25】
前記プロモーターは、遍在的活性CBA、小型CBA(smCBA)、EF1a、CASIプロモーター、蝸牛支持細胞プロモーター、GJB2発現特異的GFAPプロモーター、小型GJB2プロモーター、中型GJB2プロモーター、大型GJB2プロモーター、2~3個の個々のGJB2発現特異的プロモーターの連続した組み合わせ、または合成プロモーターである、請求項24に記載の組成物。
【請求項26】
前記プロモーターは、難聴を治療または予防するのに十分なGJB2発現を駆動するように最適化される、請求項24に記載の組成物。
【請求項27】
GJB2をコードする前記核酸配列は、作動可能に連結された3’UTR調節領域を更に含む、請求項13に記載の組成物。
【請求項28】
GJB2をコードする前記核酸配列は、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)を含む作動可能に連結された3’UTR調節領域を更に含む、請求項13に記載の組成物。
【請求項29】
GJB2をコードする前記核酸配列は、作動可能に連結されたポリアデニル化シグナルを更に含む、請求項13に記載の組成物。
【請求項30】
前記ポリアデニル化シグナルは、SV40ポリアデニル化シグナルまたはヒト成長ホルモン(hGH)ポリアデニル化シグナルである、請求項29に記載の組成物。
【請求項31】
前記ポリヌクレオチドは、高GJB2発現を駆動するために最適化された以下のプロモーターエレメントのうちの1つに作動可能に連結されている、:(a)遍在的活性CBA、小型CBA(smCBA)、EF1aまたはCASIプロモーター;(b)蝸牛支持細胞またはGJB2発現特異的1.68kb GFAP、小型/中型/大型GJB2プロモーター、2~3個の個々のGJB2発現特異的プロモーターの連続した組み合わせまたは合成プロモーター;後にSV40またはヒト成長ホルモン(hGH)ポリアデニル化シグナルのいずれかが続くウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)を含む3’-UTR調節領域に作動可能に連結されている、27ヌクレオチドのヘマグルチニンC末端タグまたは24ヌクレオチドのFlagタグを更に含む、請求項13に記載の組成物。
【請求項32】
前記ポリヌクレオチドはAAVゲノムカセットを更に含み、任意選択で、
(i)前記AAVゲノムカセットは、好ましくは約143塩基の長さの2つの配列変調逆方向末端反復と隣接しているか、または、
(ii)前記AAVゲノムカセットは、約113塩基のscAAV有効化ITR(ITRΔtrs)によって分離されかつ約143塩基の配列変調ITRと両端で隣接している、好ましくは2.4kb以下の2つの逆方向同一反復からなる自己相補的AAV(scAAV)ゲノムカセットと隣接している、請求項13に記載の組成物。
【請求項33】
前記ポリヌクレオチドは、好ましくは長さ約27ヌクレオチドの長さ、任意選択で約0.68キロベース(kb)のサイズのヘマグルチニンC末端タグもしくはFlagタグを含むかまたは含まない;高GJB2発現を駆動するように最適化された以下のプロモーター要素のうちの1つに作動可能に連結されている:(a)好ましくはサイズ約1.7kbの遍在的活性CBA、好ましくはサイズ約0.96kbの小型CBA(smCBA)、好ましくは約0.81kbサイズのEF1aまたは好ましくはサイズ約1.06kbのCASIプロモーター;(b)好ましくはサイズ約1.68kbの蝸牛支持細胞またはGJB2発現特異的GFAPプロモーター、好ましくはサイズ約0.13kbの小型GJB2プロモーター、好ましくはサイズ約0.54kbの中型GJB2プロモーター、好ましくはサイズ約1.0kbの大型GJB2プロモーター、または2~3個の個々のGJB2発現特異的プロモーターの連続した組み合わせ;後にSV40またはヒト成長ホルモン(hGH)ポリアデニル化シグナルのいずれかが続くウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)を含み、及びAAVゲノムカセット、または約113塩基のscAAV有効化ITR(ITRΔtrs)によって分離されかつ約143塩基の配列変調ITRと両端で隣接している、好ましくは2.4kb以下の2つの逆方向同一反復からなる自己相補的AAV(scAAV)ゲノムカセットと隣接する2つの約143塩基配列変調逆方向末端反復(ITR)のいずれかを更に含む、0.9kbの3’-UTR調節領域に作動可能に連結されている、コドン/配列最適化ヒトGJB2 cDNAを含む、請求項13に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本発明は、米国特許法第119条(e)に基づき、2020年11月6日に出願された米国仮出願第63/110,697号、及び2021年2月5日に出願された米国仮出願63/146,269号の利益を主張し、そのそれぞれの全内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本明細書に開示されるのは、難聴の治療または予防に使用するためのバリアントアデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドポリペプチド、及びその遺伝子治療薬である。
【発明の概要】
【0003】
一態様によれば、本開示は、遺伝子欠失に関連する難聴を治療または予防する方法を提供し、この方法は、それを必要とする対象に、(i)任意選択で非バリアントAAVカプシドポリペプチドと比較して、内耳組織または細胞において増加した向性を示すバリアントAAVカプシドポリペプチドと、(ii)遺伝子をコードする核酸配列を含むポリヌクレオチドと、を含む、有効量の組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ビリオンを投与することを含む。
【0004】
別の態様によれば、本開示は、難聴に関連する遺伝子をコードする拡散配列を内耳組織または細胞に送達する方法を提供し、この方法は、それを必要とする対象に、(i)非バリアントAAVカプシドポリペプチドと比較して、内耳組織または細胞において増加した向性を示すバリアントAAVカプシドポリペプチドと、(ii)遺伝子をコードする核酸配列を含むポリヌクレオチドと、を含む、有効量の組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ビリオンを投与することを含む。
【0005】
いくつかの実施形態によれば、内耳組織または細胞は、蝸牛組織もしくは細胞、または前庭組織または細胞である。特定の実施形態によれば、内耳組織または細胞は、蝸牛組織または細胞である。
【0006】
いくつかの実施形態によれば、バリアントAAVカプシドポリペプチドは、任意選択で、バリアントAAV1カプシドポリペプチド、バリアントAAV2カプシドポリペプチド、バリアントAAV3カプシドポリペプチド、バリアントAAV4カプシドポリペプチド、バリアントAAV5カプシドポリペプチド、バリアントAAV6カプシドポリペプチド、バリアントAAV7カプシドポリペプチド、バリアントAAV8カプシドポリペプチド、バリアントAAV9カプシドポリペプチド、バリアントrh-AAV10カプシドポリペプチド、バリアントAAV10カプシドポリペプチド、バリアントAAV11カプシドポリペプチド、バリアントAAV12カプシドポリペプチド及びバリアントAnc80カプシドポリペプチドからなる群から選択される任意のバリアントAAVカプシドポリペプチドである。特定の実施形態によれば、バリアントAAVカプシドポリペプチドは、バリアントAAV2カプシドポリペプチドである。
【0007】
いくつかの実施形態によれば、バリアントAAVカプシドポリペプチドは、表1に列挙されたアミノ酸配列、またはそれに対して少なくとも約85%、90%、95%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、任意選択で、AAVカプシドは、VP1、VP2またはVP3カプシドポリペプチドからなる群から選択される。
【0008】
いくつかの実施形態によれば、バリアントAAVカプシドポリペプチドは、表1に列挙されたアミノ酸配列、またはそれに対して少なくとも約85%、90%、95%もしくは99%の配列相同性を有するアミノ酸配列を含み、任意選択で、AAVカプシドは、VP1、VP2またはVP3カプシドポリペプチドからなる群から選択される。
【0009】
いくつかの実施形態によれば、バリアントAAVカプシドポリペプチドは、野生型AAV2カプシドポリペプチド(配列番号18)に対して1つ以上のアミノ酸置換、挿入及び/または欠失を有するアミノ酸配列を含み、任意選択で、1つ以上のアミノ酸置換、挿入及び/または欠失は、Q263、S264、Y272、Y444、R487、P451、T454、T455、R459、K490、T491、S492、A493、D494、E499、Y500、T503、K527、E530、E531、Q545、G546、S547、E548、K549、T550、N551、V552、D553、E555、K556、R585、R588及びY730からなる群から選択されるアミノ酸残基において生じる。特定の実施形態によれば、バリアントAAVカプシドポリペプチドは、Q263N、Q263A、S264A、Y272F、Y444F、R487G、P451A、T454N、T455V、R459T、K490T、T491Q、S492D、A493G、D494E、E499D、Y500F、T503P、K527R、E530D、E531D、Q545E、G546D、G546S、S547A、E548T、E548A、K549E、K549G、T550N、T550A、N551D、V552I、D553A、E555D、K556R、K556S、R585S、R588T及びY730Fからなる群から選択される野生型AAV2カプシドポリペプチド(配列番号18)に対して1つ以上のアミノ酸置換を有するアミノ酸配列を含む。
【0010】
いくつかの実施形態によれば、バリアントAAVカプシドポリペプチドは、(i)配列番号27、29、31、33または35のうちのいずれか1つのアミノ酸配列;(ii)配列番号27、29、31、33または35のうちのいずれか1つに対して少なくとも約85%、90%、95%または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列;または(iii)配列番号26、28、30、32または34のうちのいずれか1つの核酸配列によってコードされるアミノ酸配列を含む。特定の実施形態によれば、バリアントAAVカプシドポリペプチドは、配列番号27のアミノ酸配列を含む。特定の実施形態によれば、バリアントAAVカプシドポリペプチドは、配列番号29のアミノ酸配列を含む。特定の実施形態によれば、バリアントAAVカプシドポリペプチドは、配列番号31のアミノ酸配列を含む。特定の実施形態によれば、バリアントAAVカプシドポリペプチドは、配列番号33のアミノ酸配列を含む。特定の実施形態によれば、バリアントAAVカプシドポリペプチドは、配列番号35のアミノ酸配列を含む。
【0011】
いくつかの実施形態によれば、バリアントAAVカプシドポリペプチドは、任意選択で、非バリアントAAVカプシドポリペプチドと比較して、任意選択で、少なくとも約1倍、1.25倍、1.5倍、1.75倍、2倍、2.5倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、12倍、14倍、16倍、18倍、20倍の内耳組織または細胞におけるrAAV向性レベルの増加をもたらす。
【0012】
いくつかの実施形態によれば、バリアントAAVカプシドポリペプチドは、任意選択で、非バリアントAAVカプシドポリペプチドと比較して、任意選択で、少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または99%の内耳組織または細胞におけるrAAV向性レベルの増加をもたらす。
【0013】
いくつかの実施形態によれば、バリアントAAVカプシドポリペプチドは、任意選択で、非バリアントAAVカプシドポリペプチドと比較して、任意選択で、少なくとも約1倍、1.25倍、1.5倍、1.75倍、2倍、2.5倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、12倍、14倍、16倍、18倍、20倍の内耳組織または細胞におけるrAAV形質導入効率レベルの増加をもたらす。
【0014】
いくつかの実施形態によれば、バリアントAAVカプシドポリペプチドは、任意選択で、非バリアントAAVカプシドポリペプチドと比較して、任意選択で、少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または99%の内耳組織または細胞におけるrAAV形質導入効率レベルの増加をもたらす。
【0015】
いくつかの実施形態によれば、本方法は、任意選択で、遺伝子の通常の発現と比較して、任意選択で、少なくとも約1倍、1.25倍、1.5倍、1.75倍、2倍、2.5倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、12倍、14倍、16倍、18倍、20倍の内耳組織または細胞における遺伝子の発現の増加をもたらす。
【0016】
いくつかの実施形態によれば、本方法は、任意選択で、遺伝子の正常な発現と比較して、必要に応じて、少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または99%の内耳組織または細胞における遺伝子の発現の増加をもたらす。
【0017】
いくつかの実施形態によれば、本方法は、内耳組織または細胞におけるGJB2(コネキシン26)発現の過剰発現をもたらす。
【0018】
いくつかの実施形態によれば、本方法は、任意選択で、対照レベルと比較して、任意選択で、少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または99%のrAAV中和抗体(NAb)力価レベルの低下をもたらす。
【0019】
いくつかの実施形態によれば、本方法は、任意選択で、投与前の内耳炎症または毒性レベルと比較して、任意選択で、少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または99%の内耳炎症または毒性レベルの低下をもたらす。特定の実施形態によれば、内耳炎症または毒性レベルの低下は、非バリアントAAVカプシドポリペプチドと比較したものである。特定の実施形態によれば、内耳炎症または毒性レベルの低下は、難聴に関連する疾患または障害によって引き起こされるものと比較したものである。
【0020】
いくつかの実施形態によれば、本方法は、任意選択で、投与前の内耳炎症または毒性の進行と比較して、任意選択で、少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または99%の内耳炎症または毒性の進行の遅延をもたらす。
【0021】
いくつかの実施形態によれば、本方法は、任意選択で、投与前の有毛細胞の喪失、変性及び/または死滅レベルと比較して、任意選択で、少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または99%の有毛細胞の喪失、変性及び/または死滅レベルの低下をもたらす。
【0022】
いくつかの実施形態によれば、本方法は、任意選択で、投与前のらせん神経節細胞の喪失、変性及び/または死滅レベルと比較して、任意選択で、少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または99%のらせん神経節細胞の喪失、変性及び/または死滅レベルの低下をもたらす。
【0023】
いくつかの実施形態によれば、本方法は、任意選択で、投与前の聴覚脳幹反応(auditory brainstem response、ABR)閾値レベルと比較して、例えば、1kHz周波数、4kHz周波数、8kHz周波数及び/または16kHz周波数での、任意選択で、少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または99%のABR閾値の減少をもたらす。
【0024】
いくつかの実施形態によれば、本方法は、歪成分耳音響放射(Distortion Product Otoacoustic Emissions、DPOAE)プロファイルの改善をもたらす。特定の実施形態によれば、本方法は、DPOAEプロファイルの悪化の防止、遅延または減速をもたらす。
【0025】
いくつかの実施形態によれば、本方法は、改善された音声理解をもたらす。特定の実施形態によれば、本方法は、音声理解の悪化の防止、遅延または減速をもたらす。
【0026】
いくつかの実施形態によれば、対照レベルは、rAAVの投与前に対象から得られたレベル、任意選択で対象からの試料に基づく。
【0027】
いくつかの実施形態によれば、対照レベルは、バリアントAAVカプシドポリペプチドを含まないrAAVの投与から得られるレベルに基づき、任意選択で、バリアントAAVカプシドポリペプチドを含まないrAAVは、AAV2及びAnc80L65から選択されるrAAVカプシドポリペプチドを含む。
【0028】
いくつかの実施形態によれば、本方法は、側壁またはらせん靭帯の細胞、コルチ器の支持細胞、らせん靭帯の線維細胞、クラウジウス細胞、ベッチェル細胞、らせん隆起の細胞、前庭支持細胞、ヘンゼン細胞、ダイテルス細胞、柱細胞、内指節細胞、外指骨細胞、境界細胞、内蝸牛有毛細胞、外蝸牛有毛細胞、らせん神経節細胞、前庭有毛細胞、前庭支持細胞、及び/または前庭神経節細胞におけるGJB2などの難聴に関連する遺伝子をコードする核酸配列への送達及びその発現をもたらす。
【0029】
いくつかの実施形態によれば、本方法は、細胞側壁またはらせん靭帯の支持細胞、コルチ器の支持細胞、らせん靭帯の線維細胞、クラウジウス細胞、ベッチェル細胞、らせん突起の細胞、前庭支持細胞、ヘンゼン細胞、ダイテルス細胞、柱細胞、内指節骨細胞、外側指節細胞、境界細胞、内及び外蝸牛有毛細胞、らせん神経節細胞、前庭有毛細胞、前庭支持細胞、及び/または前庭神経節細胞の少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または99%のGJB2などの難聴に関連する遺伝子をコードする核酸配列への送達及びその発現をもたらす。
【0030】
いくつかの実施形態によれば、遺伝子はGJB2である。
【0031】
いくつかの実施形態によれば、GJB2をコードする核酸配列は、天然に存在しない配列である。いくつかの実施形態によれば、GJB2をコードする核酸配列は、哺乳動物GJB2をコードする。いくつかの実施形態によれば、GJB2をコードする核酸配列は、ヒト、マウス、非ヒト霊長類またはラットGJB2をコードする。いくつかの実施形態によれば、GJB2をコードする核酸配列は、配列番号10を含む。いくつかの実施形態によれば、GJB2をコードする核酸配列は、哺乳動物発現のために最適化されたコドンである。いくつかの実施形態によれば、GJB2をコードする核酸配列は、配列番号11、配列番号12または配列番号13を含む。いくつかの実施形態によれば、GJB2をコードする核酸配列は、ヒト、ラット、非ヒト霊長類、モルモット、ミニブタ、ブタ、ネコ、ヒツジまたはマウス細胞における発現のために最適化されたコドンである。いくつかの実施形態によれば、GJB2をコードする核酸配列はcDNA配列である。いくつかの実施形態によれば、GJB2をコードする核酸配列は、作動可能に連結されたC末端タグまたはN末端タグを更に含む。いくつかの実施形態によれば、タグはFLAGタグまたはHAタグである。
【0032】
いくつかの実施形態では、GJB2をコードする核酸配列は、プロモーターに作動可能に連結される。いくつかの実施形態によれば、プロモーターは、遍在的活性CBA、小型CBA(smCBA)、EF1a、CASIプロモーター、蝸牛支持細胞プロモーター、GJB2発現特異的GFAPプロモーター、小型GJB2プロモーター、中型GJB2プロモーター、大型GJB2プロモーター、2~3個の個々のGJB2発現特異的プロモーターの連続した組み合わせ、または合成プロモーターである。いくつかの実施形態によれば、プロモーターは、難聴を治療または予防するのに十分なGJB2発現を駆動するように最適化される。
【0033】
いくつかの実施形態によれば、GJB2をコードする核酸配列は、作動可能に連結された3’UTR調節領域を更に含む。いくつかの実施形態によれば、GJB2をコードする核酸配列は、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(Woodchuck Hepatitis Virus Postranscriptional Regulatory Element、WPRE)を含む作動可能に連結された3’UTR調節領域を更に含む。
【0034】
いくつかの実施形態によれば、GJB2をコードする核酸配列は、作動可能に連結されたポリアデニル化シグナルを更に含む。いくつかの実施形態によれば、ポリアデニル化シグナルはSV40ポリアデニル化シグナルである。いくつかの実施形態によれば、ポリアデニル化シグナルは、ヒト成長ホルモン(human growth hormone、hGH)ポリアデニル化シグナルである。
【0035】
いくつかの実施形態によれば、ポリヌクレオチドは、高GJB2発現を駆動するために最適化された以下のプロモーターエレメントのうちの1つに作動可能に連結されている、:(a)遍在的活性CBA、小型CBA(smCBA)、EF1aまたはCASIプロモーター;(b)蝸牛支持細胞またはGJB2発現特異的1.68kb GFAP、小型/中型/大型GJB2プロモーター、2~3個の個々のGJB2発現特異的プロモーターの連続した組み合わせまたは合成プロモーター;後にSV40またはヒト成長ホルモン(hGH)ポリアデニル化シグナルのいずれかが続くウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)を含む3’-UTR調節領域に作動可能に連結されている、27ヌクレオチドのヘマグルチニンC末端タグまたは24ヌクレオチドのFlagタグを更に含む。
【0036】
いくつかの実施形態によれば、ポリヌクレオチドは、AAVゲノムカセットを更に含み、任意選択で、(i)AAVゲノムカセットは、好ましくは約143塩基の長さの2つの配列変調逆方向末端反復と隣接しているか、または(ii)AAVゲノムカセットは、約113塩基のscAAV有効化ITR(ITRΔtrs)によって分離されかつ約143塩基の配列変調ITRと両端で隣接している、好ましくは2.4kb以下の2つの逆方向同一反復からなる自己相補的AAV(scAAV)ゲノムカセットと隣接している。
【0037】
いくつかの実施形態によれば、ポリヌクレオチドは、好ましくは長さ約27ヌクレオチドの長さ、任意選択で約0.68キロベース(kb)のサイズタグのヘマグルチニンC末端タグもしくは24ヌクレオチドのFlagタグを含むかまたは含まない;高GJB2発現を駆動するように最適化された以下のプロモーター要素のうちの1つに作動可能に連結されている:(a)好ましくはサイズ約1.7kbの遍在的活性CBA、好ましくはサイズ約0.96kbの小型CBA(smCBA)、好ましくは約0.81kbサイズのEF1aまたは好ましくはサイズ約1.06kbのCASIプロモーター;(b)好ましくはサイズ約1.68kbの蝸牛支持細胞またはGJB2発現特異的GFAPプロモーター、好ましくはサイズ約0.13kbの小型GJB2プロモーター、好ましくはサイズ約0.54kbの中型GJB2プロモーター、好ましくはサイズ約1.0kbの大型GJB2プロモーター、または2~3個の個々のGJB2発現特異的プロモーターの連続した組み合わせ;後にSV40またはヒト成長ホルモン(hGH)ポリアデニル化シグナルのいずれかが続くウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)を含み、及びAAVゲノムカセット、または約113塩基のscAAV有効化ITR(ITRΔtrs)によって分離されかつ約143塩基の配列変調ITRと両端で隣接している、好ましくは2.4kb以下の2つの逆方向同一反復からなる自己相補的AAV(scAAV)ゲノムカセットと隣接する2つの約143塩基配列変調逆方向末端反復(ITR)のいずれかを更に含む、0.9kbの3’-UTR調節領域に作動可能に連結されている、コドン/配列最適化ヒトGJB2 cDNAを含む。
【0038】
いくつかの実施形態によれば、難聴は遺伝的難聴である。いくつかの実施形態によれば、難聴はDFNB1難聴である。いくつかの実施形態によれば、難聴は、GJB2における突然変異によって引き起こされる。いくつかの実施形態によれば、難聴は、常染色体劣性GJB2突然変異体(DFNB1)によって引き起こされる。いくつかの実施形態によれば、難聴は、常染色体優性GJB2突然変異体(DFNA3A)によって引き起こされる。
【0039】
いくつかの実施形態によれば、投与は、蝸牛または前庭系への投与であり、任意選択で、送達は、正円窓膜(RWM)、卵円窓、もしくは半規管を介した蝸牛または前庭系への直接投与を含む。いくつかの実施形態によれば、直接投与は注射である。いくつかの実施形態によれば、投与は、静脈内、脳室内、蝸牛内、髄腔内、筋肉内、皮下またはこれらの組み合わせである。
【0040】
別の態様によれば、本開示は、遺伝子欠失に関連する難聴を治療または予防する方法で使用する組成物を提供し、この組成物は、(i)任意選択で非バリアントAAVカプシドポリペプチドと比較して、内耳組織または細胞において増加した向性を示すバリアントAAVカプシドポリペプチドと、(ii)遺伝子をコードする核酸配列を含むポリヌクレオチドと、を含む、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ビリオンを含む。
【0041】
別の態様によれば、本開示は、難聴に関連する遺伝子をコードする拡散配列を内耳組織または細胞に送達する方法で使用する組成物を提供し、この方法は、それを必要とする対象に、(i)任意選択で、非バリアントAAVカプシドポリペプチドと比較して、内耳組織または細胞において増加した向性を示すバリアントAAVカプシドポリペプチドと、(ii)ギャップ結合タンパク質ベータ2(gap junction protein beta2、GJB2)をコードする核酸配列を含むポリヌクレオチドと、を含む、有効量の組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ビリオンを投与することを含む。
【0042】
前述の組成物のいくつかの実施形態によれば、内耳組織または細胞は、蝸牛組織もしくは細胞、または前庭組織または細胞である。いくつかの実施形態によれば、内耳組織または細胞は、蝸牛組織または細胞である。
【0043】
前述の組成物のいくつかの実施形態によれば、バリアントAAVカプシドポリペプチドは、バリアントAAV1カプシドポリペプチド、バリアントAAV2カプシドポリペプチド、バリアントAAV3カプシドポリペプチド、バリアントAAV4カプシドポリペプチド、バリアントAAV5カプシドポリペプチド、バリアントAAV6カプシドポリペプチド、バリアントAAV7カプシドポリペプチド、バリアントAAV8カプシドポリペプチド、バリアントAAV9カプシドポリペプチド、バリアントrh-AAV10カプシドポリペプチド、バリアントAAV10カプシドポリペプチド、バリアントAAV11カプシドポリペプチド及びバリアントAAV12カプシドポリペプチドからなる群から選択される。いくつかの実施形態によれば、バリアントAAVカプシドポリペプチドは、バリアントAAV2カプシドポリペプチドである。いくつかの実施形態によれば、バリアントAAVカプシドポリペプチドは、表1に列挙されたアミノ酸配列、またはそれに対して少なくとも約85%、90%、95%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、任意選択で、AAVカプシドは、VP1、VP2またはVP3カプシドポリペプチドからなる群から選択される。いくつかの実施形態によれば、バリアントAAVカプシドポリペプチドは、表1に列挙されたアミノ酸配列、またはそれに対して少なくとも約85%、90%、95%もしくは99%の配列相同性を有するアミノ酸配列を含み、任意選択で、AAVカプシドは、VP1、VP2またはVP3カプシドポリペプチドからなる群から選択される。いくつかの実施形態によれば、バリアントAAVカプシドポリペプチドは、野生型AAV2カプシドポリペプチド(配列番号1)に対して1つ以上のアミノ酸置換、挿入及び/または欠失を有するアミノ酸配列を含み、任意選択で、1つ以上のアミノ酸置換、挿入及び/または欠失は、Q263、S264、Y272、Y444、R487、P451、T454、T455、R459、K490、T491、S492、A493、D494、E499、Y500、T503、K527、E530、E531、Q545、G546、S547、E548、K549、T550、N551、V552、D553、E555、K556、R585、R588及びY730からなる群から選択されるアミノ酸残基において生じる。いくつかの実施形態によれば、バリアントAAVカプシドポリペプチドは、Q263N、Q263A、S264A、Y272F、Y444F、R487G、P451A、T454N、T455V、R459T、K490T、T491Q、S492D、A493G、D494E、E499D、Y500F、T503P、K527R、E530D、E531D、Q545E、G546D、G546S、S547A、E548T、E548A、K549E、K549G、T550N、T550A、N551D、V552I、D553A、E555D、K556R、K556S、R585S、R588T及びY730Fからなる群から選択される野生型AAV2カプシドポリペプチド(配列番号1)に対して1つ以上のアミノ酸置換を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態によれば、バリアントAAVカプシドポリペプチドは、(i)配列番号27、29、31、33または35のうちのいずれか1つのアミノ酸配列;(ii)配列番号27、29、31、33または35のうちのいずれか1つに対して少なくとも約85%、90%、95%または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列;または(iii)配列番号26、28、30、32または34のうちのいずれか1つの核酸配列によってコードされるアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態によれば、バリアントAAVカプシドポリペプチドは、配列番号27のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態によれば、バリアントAAVカプシドポリペプチドは、配列番号29のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態によれば、バリアントAAVカプシドポリペプチドは、配列番号31のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態によれば、バリアントAAVカプシドポリペプチドは、配列番号33のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態によれば、バリアントAAVカプシドポリペプチドは、配列番号35のアミノ酸配列を含む。
【0044】
前述のいくつかの実施形態によれば、遺伝子はGJB2である。いくつかの実施形態によれば、GJB2をコードする核酸配列は、天然に存在しない配列である。いくつかの実施形態によれば、GJB2をコードする核酸配列は、哺乳動物GJB2をコードする。いくつかの実施形態によれば、GJB2をコードする核酸配列は、ヒト、マウス、非ヒト霊長類またはラットGJB2をコードする。いくつかの実施形態によれば、GJB2をコードする核酸配列は、配列番号10を含む。いくつかの実施形態によれば、GJB2をコードする核酸配列は、哺乳動物発現のために最適化されたコドンである。いくつかの実施形態によれば、GJB2をコードする核酸配列は、配列番号11、配列番号12または配列番号13を含む。いくつかの実施形態によれば、GJB2をコードする核酸配列は、ヒト、ラット、非ヒト霊長類、モルモット、ミニブタ、ブタ、ネコ、ヒツジまたはマウス細胞における発現のために最適化されたコドンである。いくつかの実施形態によれば、GJB2をコードする核酸配列はcDNA配列である。前述の組成物のいくつかの実施形態によれば、GJB2をコードする核酸配列は、作動可能に連結されたC末端タグまたはN末端タグを更に含む。いくつかの実施形態によれば、タグはFLAGタグまたはHAタグである。
【0045】
前述の組成物のいくつかの実施形態では、GJB2をコードする核酸配列は、プロモーターに作動可能に連結される。いくつかの実施形態によれば、プロモーターは、遍在的活性CBA、小型CBA(smCBA)、EF1a、CASIプロモーター、蝸牛支持細胞プロモーター、GJB2発現特異的GFAPプロモーター、小型GJB2プロモーター、中型GJB2プロモーター、大型GJB2プロモーター、2~3個の個々のGJB2発現特異的プロモーターの連続した組み合わせ、または合成プロモーターである。いくつかの実施形態によれば、プロモーターは、難聴を治療または予防するのに十分なGJB2発現を駆動するように最適化される。
【0046】
前述の組成物のいくつかの実施形態によれば、GJB2をコードする核酸配列は、作動可能に連結された3’UTR調節領域を更に含む。いくつかの実施形態によれば、GJB2をコードする核酸配列は、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)を含む作動可能に連結された3’UTR調節領域を更に含む。
【0047】
いくつかの実施形態によれば、GJB2をコードする核酸配列は、作動可能に連結されたポリアデニル化シグナルを更に含む。いくつかの実施形態によれば、ポリアデニル化シグナルはSV40ポリアデニル化シグナルである。いくつかの実施形態によれば、ポリアデニル化シグナルは、ヒト成長ホルモン(hGH)ポリアデニル化シグナルである。
【0048】
前述の組成物のいくつかの実施形態によれば、ポリヌクレオチドは、高GJB2発現を駆動するために最適化された以下のプロモーターエレメントのうちの1つに作動可能に連結されている、:(a)遍在的活性CBA、小型CBA(smCBA)、EF1aまたはCASIプロモーター;(b)蝸牛支持細胞またはGJB2発現特異的1.68kb GFAP、小型/中型/大型GJB2プロモーター、2~3個の個々のGJB2発現特異的プロモーターの連続した組み合わせまたは合成プロモーター;後にSV40またはヒト成長ホルモン(hGH)ポリアデニル化シグナルのいずれかが続くウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)を含む3’-UTR調節領域に作動可能に連結されている、27ヌクレオチドのヘマグルチニンC末端タグまたは24ヌクレオチドのFlagタグを更に含む。
【0049】
前述の組成物のいくつかの実施形態によれば、ポリヌクレオチドは、AAVゲノムカセットを更に含み、任意選択で、(i)AAVゲノムカセットは、好ましくは約143塩基の長さの2つの配列変調逆方向末端反復と隣接しているか、または(ii)AAVゲノムカセットは、約113塩基のscAAV有効化ITR(ITRΔtrs)によって分離されかつ約143塩基の配列変調ITRと両端で隣接している、好ましくは2.4kb以下の2つの逆方向同一反復からなる自己相補的AAV(scAAV)ゲノムカセットと隣接している。
【0050】
前述の組成物のいくつかの実施形態によれば、ポリヌクレオチドは、好ましくは長さ約27ヌクレオチドの長さ、任意選択で約0.68キロベース(kb)のサイズのヘマグルチニンC末端タグもしくは24ヌクレオチドのFlagタグを含むかまたは含まない;高GJB2発現を駆動するように最適化された以下のプロモーター要素のうちの1つに作動可能に連結されている:(a)好ましくはサイズ約1.7kbの遍在的活性CBA、好ましくはサイズ約0.96kbの小型CBA(smCBA)、好ましくは約0.81kbサイズのEF1aまたは好ましくはサイズ約1.06kbのCASIプロモーター;(b)好ましくはサイズ約1.68kbの蝸牛支持細胞またはGJB2発現特異的GFAPプロモーター、好ましくはサイズ約0.13kbの小型GJB2プロモーター、好ましくはサイズ約0.54kbの中型GJB2プロモーター、好ましくはサイズ約1.0kbの大型GJB2プロモーター、または2~3個の個々のGJB2発現特異的プロモーターの連続した組み合わせ;後にSV40またはヒト成長ホルモン(hGH)ポリアデニル化シグナルのいずれかが続くウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)を含み、及びAAVゲノムカセット、または約113塩基のscAAV有効化ITR(ITRΔtrs)によって区切られかつ約143塩基の配列調節ITRと隣接している、好ましくは2.4kb以下の2つの逆方向同一反復からなる自己相補的AAV(scAAV)ゲノムカセットと隣接する2つの約143塩基配列変調逆方向末端反復(ITR)のいずれかを更に含む、0.9kbの3’-UTR調節領域に作動可能に連結されている、コドン/配列最適化ヒトGJB2 cDNAを含む。
【0051】
別の態様によれば、本開示は、有効量の本明細書に記載の組成物をそれを必要とする対象に投与することを含む、難聴を治療または予防する方法を提供する。
【0052】
別の態様によれば、本開示は、有効量の本明細書に記載の組成物をそれを必要とする対象に投与することを含む、難聴に関連する遺伝子をコードする核酸配列を内耳組織または細胞に送達する方法を提供する。
【0053】
別の態様によれば、本開示は、有効量の本明細書に記載の組成物をそれを必要とする対象に投与することを含む、GJB2をコードする核酸配列を内耳組織または細胞に送達する方法を提供する。
【0054】
別の態様によれば、本開示は、本明細書に記載の組成物及び使用説明書を含む、キットを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【
図1A】蝸牛の解剖学的構造及び細胞型の概略図である。
【
図1B】支持細胞の詳細を示す。外有毛細胞(01、02、03)、内有毛細胞(IHC)、ヘンゼン細胞(h1、h2、h3、h4)、ダイテルス細胞(d1、d2、d3)、柱細胞(p)、内指節細胞(IPC)、外指節細胞/境界細胞(bc)を示す。
【
図1C】GJB2発現の領域を示す蝸牛解剖学的構造及び細胞型の概略図である。
【
図2】一本鎖(ss)AAV-GJB2及び自己相補的scAAV-GJB2のGJB2ベクター(ゲノム)構築物の概略図を示す。
【
図3】CBAプロモーターの核酸配列(配列番号1)を示す。
【
図4】EF1aプロモーターの核酸配列(配列番号2)を示す。
【
図5】CASIプロモーターの核酸配列(配列番号3)を示す。
【
図6】smCBAプロモーターの核酸配列(配列番号4)を示す。
【
図7】GFAPプロモーターの核酸配列(配列番号5)を示す。
【
図8】GJB2プロモーターの核酸配列(配列番号6)を示す。このプロモーターは3つの異なる反復:下線を引いた配列(128bp)、緑色の網掛け部分(539bp)、及び全配列(1000bp)を有し得る。
【
図9】以下のITR(AAV2)5’-3’:一本鎖(ss)及び自己相補的(sc)AAVゲノム(配列番号7);3’-5’:一本鎖(ss)AAVゲノムのみ(配列番号8);3’-5’:自己相補的(sc)AAVゲノムのみ(配列番号9)の核酸配列を示す。
【
図10】ヒト野生型GJB2(hGJB2wt)の核酸配列(配列番号10)を示す。
【
図11】ヒトコドン最適化GJB2(hGJB2co3)の核酸配列(配列番号11)を示す。
【
図12】ヒトコドン最適化GJB2(hGJB2co6)の核酸配列(配列番号12)を示す。
【
図13】ヒトコドン最適化GJB2(hGJB2co9)の核酸配列(配列番号13)を示す。
【
図14】HAタグの核酸配列(配列番号14)を示す。
【
図15】ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)の核酸配列(配列番号15)を示す。
【
図16】SV40ポリ(A)転写終結配列の核酸配列(配列番号16)を示す。
【
図17】bGHポリ(A)転写終結配列の核酸配列(配列番号17)を示す。
【
図18】FLAGタグの核酸配列(配列番号18)を示す。
【
図19】らせん板縁におけるOMY-906に対して正規化されたOMY-903、OMY-907、OMY-911、OMY-912、OMY-913、OMY-914、OMY-915、OMY-916、OMY-917、AAV2及びAnc80のGFPカバー度を比較する棒グラフ(灰色の棒)を示す。
【
図20】コルチ器におけるOMY-906に対して正規化されたOMY-903、OMY-907、OMY-911、OMY-912、OMY-913、OMY-914、OMY-915、OMY-916、OMY-917、AAV2及びAnc80のGFPカバー度を比較する棒グラフ(灰色の棒)を示す。
【
図21】らせん靭帯におけるOMY-906に対して正規化されたOMY-903、OMY-907、OMY-911、OMY-912、OMY-913、OMY-914、OMY-915、OMY-916、OMY-917、AAV2及びAnc80のGFPカバー度を比較する棒グラフ(灰色の棒)を示す。
【
図22】A~Bは、OMY-903、Anc80、OMY-912及び野生型AAV2で処理した後のらせん靭帯、コルチ器及びらせん板縁を含む、蝸牛の中央領域におけるGFPレポーター発現の代表的なZスタック画像を示す。
【
図23】2つの用量:2e9vg及び2e10vgでのOMY-912GFPカバー度を比較する蛍光画像を示す。
【
図24】2つの用量:2e9vg及び2e10vgでのOMY-915GFPカバー度を比較する蛍光画像を示す。
【
図25】2つの用量:2e9vg及び2e10vgでらせん板縁におけるOMY-912及びOMY-915GFPカバー度を比較する棒グラフを示す。
【
図26】2つの用量:2e9vg及び2e10vgでコルチ器におけるOMY-912及びOMY-915GFPカバー度を比較する棒グラフを示す。
【
図27】AAV誘導コネキシン26発現を示すラット蝸牛移植片の支持細胞におけるFLAG抗体染色の蛍光画像を示す。FLAG染色は、コネキシン26発現の領域と明らかに重複しており、FLAG標識タンパク質がコネキシン26発現の正常な部位を標的としていることを示す。FLAG抗体は緑色、コネキシン26は深紅色、DAPIによる核染色は青色で示される。左のパネルはすべての色がマージされていることを示し、中央のパネルはコネキシン26染色のみを示し、右のパネルはFLAG染色を示す。
【
図28】AAV誘導コネキシン26発現を示すAAV-GJB2-Flagの蝸牛内注射から2~6週間後のマウス蝸牛の支持細胞におけるFLAG抗体染色の蛍光画像を示す。蝸牛の基底(底)、中間(中間)及び先端(頂点)の順番の代表的な画像を示す。FLAG抗体は赤色で、DAPIによる核染色は青色で示される。
【
図29】AAV誘導コネキシン26発現を示すAAV-GJB2-Flagの蝸牛内注射後の成体マウス蝸牛の支持細胞におけるFLAG抗体染色の蛍光画像を示す。蝸牛の基底(底)、中間(中間)及び先端(頂点)の順番の代表的な画像を示す。FLAG抗体は赤色で、DAPIによる核染色は青色で示される。
【
図30】OMY-913の蝸牛内注射の12週間後に免疫組織化学によって評価された非ヒト霊長類(NHP)の蝸牛切片の画像を示す。GFP発現のDAB染色は疑似的に赤く着色されている。
図30(上のパネル)は蝸牛全体の低倍率画像を示し、正円窓膜注射を介して基部付近にOMY-913を1回注射した後、蝸牛全体にわたって基部から頂点まで一貫した発現を観察できることを実証している。
図30(下のパネル)は、OMY-913発現が、側壁(LW)、コルチ器(OC)支持細胞及びらせん板縁(SL)を含む、GJB2レスキューに関連する領域で観察されることを示す。
【
図31】生後30日目及び生後60日目に測定された、Cx26を発現する野生型(WT)マウス及びCx26ノックアウト(KO)を有する誘導性creマウスにおける異なる周波数にわたる聴覚脳幹反応(ABR)によって測定された聴覚閾値を有する折れ線グラフを示す。
【
図32】生後30日目に測定された、Cx26を発現する野生型(WT)マウス及びCx26ノックアウト(KO)を有する恒常的creマウスにおける異なる周波数にわたる聴覚脳幹反応(ABR)によって測定された聴覚閾値を有する折れ線グラフを示す。
【
図33】Aは、生後30日目に測定された、ビヒクル(黒色線)または治療薬A(青色線)で処理したCx26ノックアウト(KO)を有する誘導性creマウス、またはCx26を発現し、ビヒクル(緑色の線)で処理された野生型(WT)マウスにおける異なる周波数にわたる聴覚脳幹反応(ABR)によって測定された聴覚閾値を有する折れ線グラフを示す。Bは、ビヒクルまたは治療薬Aで処理されたCx26ノックアウト(KO)を有する誘導性creマウスにおけるCx26発現の棒グラフを示す。Cは、ビヒクルまたは治療薬Aで処理されたCx26ノックアウト(KO)を有する誘導性creマウスにおけるCx26発現の画像を示す。Dは、ビヒクルまたは治療薬Aで処理されたCx26ノックアウト(KO)を有する誘導性creマウスにおける蝸牛損傷(平坦な上皮)の棒グラフを示す。
【
図34】各FRAP試験についての光退色及び画像取得のタイムライン(上部パネル)、ならびに治療薬A及び治療薬A-FLAGが、形質導入されていないHeLa細胞よりも速く蛍光を回復することを示すグラフ(下部パネル)を示し、導入遺伝子駆動タンパク質が機能的ギャップ結合を形成する可能性が高いことを示す。
【
図35A】治療薬A-FLAG発現が蝸牛の長さ全体にわたって高レベルで存在し、内溝(A)において膜状のプラーク様構造を形成することを示す一連の画像である。
【
図35B】治療薬A-FLAG発現が蝸牛の長さ全体にわたって高レベルで存在し、クラウジウス細胞(B)において膜状のプラーク様構造を形成することを示す一連の画像である。
【
図35C】治療薬A-FLAG発現が蝸牛の長さ全体にわたって高レベルで存在し、他の支持細胞型(C)において膜状のプラーク様構造を形成することを示す一連の画像である。
【
図35D】治療薬A-FLAG発現が蝸牛の長さ全体にわたって高レベルで存在し、他の支持細胞型において膜状のプラーク様構造を形成することを示す一連の画像である。
【
図36】P30齢の成体C57BL/6Jマウスにおける後半規管の開窓による正円窓膜を介した治療薬Aまたは治療薬A-FLAGの蝸牛内注射が安全であり、手術後42日目の内有毛細胞または外有毛細胞に損傷を引き起こさなかったことを示す一連の画像である。
【
図37】成体(P30)C57BL/6Jマウスにおける治療薬A-FLAG投与後、手術後14日目の内溝、クラウジウス細胞及び側壁線維細胞におけるCX26-FLAG形質導入(緑色)を示す一連の画像である。
【
図38】成体(P30)C57BL/6Jマウスにおける治療薬A-FLAG投与後、手術後14日目の内溝、クラウジウス細胞及び側壁線維細胞におけるCX26-FLAG形質導入(緑色)を示す一連の画像である。
【
図39A】GJB2先天性難聴の誘導性マウスモデル(Rosa-cre)を示す。
【
図39B】GJB2先天性難聴の誘導性マウスモデル(Rosa-cre)を示す。
【
図39C】出生後の野生型マウスへの治療薬A-FLAGの蝸牛内注射が、CX26を天然に発現するすべての細胞型を含む広範な蝸牛カバー度を提供することを示す。蝸牛内注射は、Rosa-cre動物モデルでレスキュー研究を実施した年齢で行われた。
【
図39D】治療薬Aが、Rosa-cre動物モデルにおいて、複数の周波数にわたるABR閾値の実質的なレスキュー、CX26発現の回復、及び蝸牛形態の保存を実証したことを示す。
【
図39E】治療薬Aが、Rosa-cre動物モデルにおいて、複数の周波数にわたるABR閾値の実質的なレスキュー、CX26発現の回復、及び蝸牛形態の保存を実証したことを示す。
【
図40A】Cx26
loxp/loxpマウスを、内耳特異的プロモーターP0によって駆動されるCreを発現するマウス(P0-Cre)と交配することによる、GJB2の内耳欠失を有するマウスモデルを示す。
【
図40B】Cx26
loxp/loxpマウスを、内耳特異的プロモーターP0によって駆動されるCreを発現するマウス(P0-Cre)と交配することによる、GJB2の内耳欠失を有するマウスモデルを示す。
【
図40C】出生後の野生型マウスへの治療薬A-FLAGの蝸牛内注射が、CX26を天然に発現するすべての細胞型を含む広範な蝸牛カバー度を提供することを示す。蝸牛内注射は、P0-cre動物モデルでレスキュー研究を実施した年齢で行われた。
【
図40D】治療薬Aが、P0-cre動物モデルにおいて、複数の周波数にわたるABR閾値の実質的なレスキュー、CX26発現の回復、及び蝸牛形態の保存を実証したことを示す。
【
図40E】治療薬Aが、P0-cre動物モデルにおいて、複数の周波数にわたるABR閾値の実質的なレスキュー、CX26発現の回復、及び蝸牛形態の保存を実証したことを示す。
【
図41】治療薬A-FLAGの蝸牛内注射が、非ヒト霊長類(NHP)において高度の形質導入及び良好な向性を示すことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0056】
非症候性難聴及び聴覚消失(DFNB1;コネキシン26聴覚消失としても知られる)は、常染色体劣性遺伝であり、先天性非進行性の軽度から重度の感音難聴によって特徴付けられる。GJB2遺伝子は、有毛細胞の生存と機能及び正常な聴力に重要な役割を果たすカリウム勾配の制御を含む、蝸牛の恒常性にとって重要な細胞間コミュニケーションに関与するギャップ結合を形成する、蝸牛支持細胞で発現するコネキシン26をコードする。GJB2の突然変異は、ギャップ結合と蝸牛の恒常性を損ない、有毛細胞の機能不全及び難聴を引き起こす。
【0057】
NIDCDによると、米国では1,000人の子供のうち2~3人がある程度の難聴を持って生まれており、半数以上が遺伝的要因によるものである。ギャップ結合タンパク質であるコネキシン26(CX26)をコードするGJB2遺伝子の突然変異は、遺伝性難聴の最も一般的な形態であり、様々な民族群の症例の50%超を占めている。ほとんどの対象では、難聴の発症は言語修得前で中度から重度であるが、一部の対象では、CX26の喪失による難聴は軽度かつ進行性である。内耳では、CX26の発現は、支持細胞及び線維細胞を含む、様々な非感覚細胞型の機能に不可欠である。
【0058】
遺伝子検査を使用して、ギャップ結合ベータ-2タンパク質(コネキシン26)の発現を変化させる、配列バリアント及び上流のcis調節エレメントのバリアントを含む、GJB2の両アレル性病原バリアントを特定することにより、DFNB1を診断することができる。DFNB1の原因となるGJB2病原バリアントが罹患した家族で検出された場合、リスクのある近親者の保因者検査、リスクが高い妊娠の出生前検査、及び着床前の遺伝子診断が可能である。Smith&Jones.Nonsyndromic Hearing Loss and Deafness,DFNB1.1998.In:Adam,et al.Eds.GeneReviews.University of Washington,Seattle;Kemperman et al.Journal of the Royal Society of Medicine2002 95:171-177。本開示は、蝸牛が外科的にアクセス可能であり、比較的免疫保護された環境への局所適用が可能であること、及びウイルスベクターを使用する遺伝子治療が難聴の治療に有用であることを認識する。本開示はまた、内耳組織及び細胞における向性ならびに形質導入を増加させることができる遺伝子治療が、遺伝子の欠失に関連する難聴を効果的に治療できることを認識する。
【0059】
本開示は、例えば、非バリアントAAVカプシドポリペプチドと比較して、内耳組織または細胞において増加した向性を示すバリアントアデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドポリペプチドに関する。本明細書に記載のバリアントAAVカプシドポリペプチドは、rAAVベクター及び/またはrAAVビリオンに組み込むことができ、それを介して、遺伝子の常染色体変異(劣性または優性)を有する患者を含む、遺伝子の欠失に関連する難聴を患う患者への標的送達のために遺伝子をパッケージ化することができる。特定の実施形態では、遺伝子はギャップ結合タンパク質ベータ2(GJB2)である。GJB2の突然変異は、ギャップ結合と蝸牛の恒常性を損ない、蝸牛構造の破損、有毛細胞の機能不全及び難聴を引き起こす。本明細書に記載のGJB2遺伝子治療の目標は、機能的なギャップ結合を回復させ、有毛細胞を保存して聴力を改善することである。
【0060】
定義
別段の定義がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、当業者によって一般的に理解される意味を有する。以下の参考文献は、本開示で使用される多くの用語の一般的な定義を当業者に提供する。Singleton et al.Dictionary of Microbiology and Molecular Biology(2nd Ed.1994);The Cambridge Dictionary of Science and Technology(Walker ed.,1988);The Glossary of Genetics,5th Ed.,R.Rieger et al.(Eds.),Springer Verlag(1991);及びHale&Marham,The Harper Collins Dictionary of Biology(1991)。本明細書で使用される場合、以下の用語は、別段の指定がない限り、以下の用語に帰する意味を有する。
【0061】
冠詞「a」及び「an」は、本明細書では、冠詞の文法的対象の1つ以上(すなわち、少なくとも1つ)を指すように使用している。例として、「(an)要素」は、1つの要素または1つを超える要素を意味する。
【0062】
「含む」という用語は、本明細書では、「含むがこれに限定されない」という語句を意味し、それと互換可能に使用される。
【0063】
「または」という用語は、文脈が別段明確に示さない限り、「及び/または」という用語を意味するために本明細書で使用され、これと互換可能に使用される。
【0064】
「など」という用語は、本明細書では「などであるがこれに限定されない」という語句を意味するために使用され、これと互換可能に使用される。
【0065】
本明細書で使用される「投与する」、「投与すること」、「投与」などの用語は、所望の生物作用部位への治療薬または医薬組成物の送達を可能にするために使用される方法を指すことを意味する。
【0066】
本明細書で使用される「AAV」という用語は、アデノ関連ウイルスの略語であり、ウイルス自体またはその誘導体、例えば、AAVベクター、AAVウイルス粒子及び/またはAAVビリオンを指すために使用され得る。本用語は、他の点で要求される場合を除いて、すべてのサブタイプ、ならびに天然に存在する形態及び組換え形態の両方を包含する。いくつかの実施形態では、AAVは、そのカプシドポリペプチドによって、例えば、そのバリアントカプシドポリペプチドによって言及され得る。例えば、OMY-913バリアントカプシドポリペプチドを含むAAVは、本明細書において「OMY-913」と称され得る。
【0067】
本明細書で使用される「AAVビリオン」または「AAVウイルス」または「AAVウイルス粒子」または「AAVベクター粒子」という用語は、例えば、野生型AAVビリオン粒子などの完全なウイルス粒子を広く指すことを意味し、それは、AAVカプシドタンパク質にパッケージ化された一本鎖ゲノムDNAを含む。一本鎖核酸分子は、センス鎖またはアンチセンス鎖のいずれかであり、どちらの鎖も等しく感染性がある。「rAAVウイルス粒子」という用語は、組換えAAVウイルス粒子、すなわち、感染性であるが複製欠損のある粒子を指す。rAAVウイルス粒子は、AAVカプシドタンパク質にパッケージ化された一本鎖ゲノムDNAを含む。特定の実施形態では、AAVカプシドタンパク質は、例えば、非バリアントAAVカプシドタンパク質と比較して、内耳組織または細胞において増加した向性を示すバリアントAAVカプシドタンパク質である。例示的なバリアントAAVカプシドタンパク質のアミノ酸配列及びヌクレオチド配列を表1に提供する。
【0068】
本明細書で使用する「バイオリアクター」という用語は、細胞を培養する目的で使用できる任意の装置を広く指すことを意味する。
【0069】
本明細書で使用する「遺伝子」または「コード配列」という用語は、タンパク質をコードするDNA領域(転写領域)を広く指すことを意味する。コード配列は、プロモーターなどの適切な調節領域の制御下に置かれると、ポリペプチドに転写(DNA)及び翻訳(RNA)される。遺伝子は、プロモーター、5’-リーダー配列、コード配列、及びポリアデニル化部位を含む3’-非翻訳配列などのいくつかの作動可能に連結された断片を含み得る。「遺伝子の発現」という語句は、遺伝子がRNAに転写される、及び/または活性タンパク質に翻訳されるプロセスを指す。
【0070】
本明細書で使用される「目的の遺伝子(gene of interest、GOI)」という用語は、本明細書で使用される場合、AAV発現ベクターに導入される異種配列を広く指し、典型的には、ヒトまたは動物における治療用途のタンパク質をコードする核酸配列を指す。いくつかの実施形態では、GOIは難聴に関連する遺伝子である。特定の実施形態では、遺伝子はギャップ結合タンパク質ベータ2(GJB2)である。本明細書に記載の方法に従って使用することができる難聴(例えば、遺伝子欠失に関連する難聴)に関連する他の遺伝子は、当技術分野で知られており、例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、Shearer et al.,“Hereditary Hearing Loss and Deafness Overview”,2017に記載されている。難聴(例えば、遺伝子欠失に関連する難聴)に関連する遺伝子の例には、ACTG1、ADCY1、ADGRV1、AIFM1、BDP1、BSND、BTD、CABP2、CCDC50、CD164、CDC14A、CDH23、CEACAM16、CIB2、CLDN14、CLIC5、CLRN1、COCH、COL11A1、COL11A2、COL2A1、COL4A3、COL4A4、COL4A5、COL4A6、COL9A1、COL9A2、COL9A3、DCDC2、DIAPH1、DMXL2、DSPP、EDN3、EDNRB、ELMOD3、EPS8、EPS8L2、ESPN、ESRRB、EYA1、EYA4、FAM189A2、GIPC3、GJB2、GJB3、GJB6、GPSM2、GRHL2、GRXCR1、GRXCR2、GSDME、HARS1、HGF、HOMER2、ILDR1、KARS1、KCNE1、KCNQ1、KCNQ4、LHFPL5、LOXHD1、LRTOMT、MARVELD2、MCM2、MET、MIR96、MITF、MSRB3、MT-CO1、MT-RNR1、MT-TS1、MYH14、MYH9、MYO15A、MYO1A、MYO3A、MYO6、MYO7A、MYO7A、NARS2、NF2、OSBPL2、OTOA、OTOF、OTOG、OTOGL、P2RX2、PAX3、PCDH15、PEX7、PHYH、PJVK、PNPT1、POU3F4、POU4F3、PRPS1、PTPRQ、RDX、RIPOR2、ROR1、S1PR2、SERPINB6、SIX1、SIX5、SLC17A8、SLC22A4、SLC26A4、SLC26A5、SMPX、SOX10、STRC、SYNE4、TBC1D24、TECTA、TIMM8A、TJP2、TMC1、TMEM132E、TMIE、TMPRSS3、TPRN、TRIOBP、TSPEAR、USH1C、USH1G、USH2A、WBP2、WFS1及びWHRNが含まれるが、これらに限定されない。
【0071】
本明細書で使用される「難聴」という用語は、対象が通常聞く音に対する感度の低下を指すことを意味する。難聴の程度は、聴取者がそれを感知できる前に必要な通常レベルを超える音量の増加に従って分類される。いくつかの実施形態では、難聴は、個人が異なる周波数でトーンを知覚する閾値音量の増加によって特徴付けられ得る。特定の実施形態では、聴力はデシベル(dB)で測定することができる。特定の実施形態では、各周波数の閾値または0dBマークは、正常な対象、例えば、正常なヒト対象が50%の時間でトーンバーストを知覚するレベルを指す。特定の実施形態では、対象の閾値が正常閾値の15dB以内である場合、聴力は正常であるとみなされる。特定の実施形態では、難聴の程度は、軽度が26~40dB、中度が41~55dB、中重度が56~70dB、重度が71~90dB、最重度が90dBのように段階付けされる。特定の実施形態では、本明細書に記載の方法は、対象における難聴の進行を、あるレベル(例えば、軽度)から別のレベル(例えば、中度、中重度、重度及び/または最重度)に軽減及び/または遅延させることができる。特定の実施形態では、本明細書に記載の方法は、対象における難聴の進行を、あるレベル(例えば、中度、中重度、重度及び/または最重度)から別のレベル(例えば、軽度)に改善及び/または逆転させることができる。特定の実施形態では、難聴は遺伝子欠失に関連する。特定の実施形態では、難聴は、ACTG1、ADCY1、ADGRV1、AIFM1、BDP1、BSND、BTD、CABP2、CCDC50、CD164、CDC14A、CDH23、CEACAM16、CIB2、CLDN14、CLIC5、CLRN1、COCH、COL11A1、COL11A2、COL2A1、COL4A3、COL4A4、COL4A5、COL4A6、COL9A1、COL9A2、COL9A3、DCDC2、DIAPH1、DMXL2、DSPP、EDN3、EDNRB、ELMOD3、EPS8、EPS8L2、ESPN、ESRRB、EYA1、EYA4、FAM189A2、GIPC3、GJB2、GJB3、GJB6、GPSM2、GRHL2、GRXCR1、GRXCR2、GSDME、HARS1、HGF、HOMER2、ILDR1、KARS1、KCNE1、KCNQ1、KCNQ4、LHFPL5、LOXHD1、LRTOMT、MARVELD2、MCM2、MET、MIR96、MITF、MSRB3、MT-CO1、MT-RNR1、MT-TS1、MYH14、MYH9、MYO15A、MYO1A、MYO3A、MYO6、MYO7A、MYO7A、NARS2、NF2、OSBPL2、OTOA、OTOF、OTOG、OTOGL、P2RX2、PAX3、PCDH15、PEX7、PHYH、PJVK、PNPT1、POU3F4、POU4F3、PRPS1、PTPRQ、RDX、RIPOR2、ROR1、S1PR2、SERPINB6、SIX1、SIX5、SLC17A8、SLC22A4、SLC26A4、SLC26A5、SMPX、SOX10、STRC、SYNE4、TBC1D24、TECTA、TIMM8A、TJP2、TMC1、TMEM132E、TMIE、TMPRSS3、TPRN、TRIOBP、TSPEAR、USH1C、USH1G、USH2A、WBP2、WFS1及びWHRNからなる群から選択される遺伝子の欠失に関連する。特定の実施形態では、難聴は、本明細書に記載の遺伝子における置換、欠失、挿入及び/または重複などの突然変異に関連する。特定の実施形態では、難聴は、本明細書に記載の遺伝子における2つ以上の突然変異(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9または10以上の突然変異)に関連する。いくつかの実施形態では、2つ以上の突然変異は、同じ遺伝子または異なる遺伝子で起こり得る。いくつかの実施形態では、2つ以上の突然変異は、遺伝子の同じ対立遺伝子または異なる対立遺伝子で起こり得る。いくつかの実施形態では、難聴は、本明細書に記載の遺伝子におけるヘテロ接合変異に関連し得る。いくつかの実施形態では、難聴は、本明細書に記載の遺伝子におけるホモ接合変異に関連し得る。特定の実施形態では、難聴は症候性であり、聴覚障害と共に他の提示異常を伴う。特定の実施形態では、難聴は非症候性であり、難聴以外の個人に関連する他の問題がない場合に発生する。特定の実施形態では、優性難聴及び劣性難聴は、いくつかの遺伝子における対立遺伝子変異に起因し、症候性及び非症候性難聴は、同じ遺伝子における突然変異によって引き起こされ、劣性難聴は、異なる機能群からの異なる遺伝子における2つの突然変異の組み合わせによって引き起こされ得る。特定の実施形態では、難聴は遺伝性である。特定の実施形態では、難聴は、常染色体優性非症候性難聴である。特定の実施形態では、難聴は、常染色体劣性非症候性難聴である。特定の実施形態では、難聴は、X連鎖非症候性難聴である。特定の実施形態では、難聴は、ミトコンドリア症候性難聴である。特定の実施形態では、難聴は後天性難聴である。特定の実施形態では、難聴は進行性難聴である。特定の実施形態では、対象における難聴は、基礎疾患または障害、例えば、ワールデンブルグ症候群(WS)、鰓弓耳腎スペクトラム疾患、神経線維腫症2(NF2)、スティックラー症候群、アッシャー症候群I型、アッシャー症候群II型、アッシャー症候群III型、ペンドレッド症候群、ジャーベル・ランゲニールセン症候群、ビオチニダーゼ欠損症、レフサム病、アルポート症候群、及び/または聴覚消失・ジストニア・視神経細胞障害症候群(Mohr-Tranebjaerg症候群)に関連し得る。
【0072】
本明細書で使用される「ヘルペスウイルス」または「ヘルペスウイルス科」という用語は、比較的大きなゲノムを有するエンベロープ二本鎖DNAウイルスの一般的な科を広く指すことを意味する。この科は、広範囲の脊椎動物及び無脊椎動物の宿主、好ましい実施形態では、哺乳動物宿主、例えば、ヒト、ウマ、ウシ、マウス及びブタの核で複製する。ヘルペスウイルス科の例示的なメンバーには、サイトメガロウイルス(CMV)、単純ヘルペスウイルス1型及び2型(HSV1及びHSV2)ならびに水痘帯状疱疹(VZV)及びエプスタイン・バーウイルス(EBV)が含まれる。
【0073】
本明細書で使用される「異種」という用語は、比較される、またはその中で誘導されるかもしくは組み込まれる実体の残りのものとは遺伝子型が異なる実体に由来することを意味する。例えば、遺伝子工学技術によって異なる細胞型に導入されたポリヌクレオチドは、異種ポリヌクレオチドである(そして、発現された場合、異種ポリペプチドをコードすることができる)。同様に、ウイルスベクターに組み込まれる細胞配列(例えば、遺伝子またはその一部)は、ベクターに関して異種ヌクレオチド配列である。
【0074】
本明細書で使用される「感染」という用語は、ウイルスによる異種DNAの細胞への送達を広く指すことを意味する。本明細書で使用される「共感染」という用語は、2つ以上のウイルスによる「同時感染」、「二重感染」、「多重感染」または「逐次感染」を意味する。2つ(またはそれ以上)のウイルスによる産生細胞の感染は、「共感染」と称される。「トランスフェクション」という用語は、電気穿孔、リン酸カルシウム沈殿、または当技術分野で周知の他の方法によって細胞に導入される、プラスミドDNAなどの物理的または化学的方法によって異種DNAを細胞に送達するプロセスを指す。
【0075】
本明細書で使用される「内耳細胞」または「内耳の細胞」という用語は、内有毛細胞(IHC)及び外有毛細胞(OHC)、らせん神経節細胞、前庭有毛細胞、前庭神経節細胞、支持細胞、らせん血管条、らせん靭帯またはらせん板縁の細胞を指す。支持細胞とは、興奮性ではない耳の細胞、例えば、有毛細胞または神経細胞ではない細胞を指す。いくつかの実施形態では、内耳組織及び細胞には、側壁またはらせん靭帯の細胞、コルチ器の支持細胞、らせん靭帯の線維細胞、クラウジウス細胞、ベッチャー細胞、らせん突起の細胞、前庭支持細胞、ヘンゼン細胞、ダイタース細胞、柱細胞、内指節細胞、外指節細胞、及び/または境界細胞が含まれる。
【0076】
本明細書で使用される「逆位末端反復」または「ITR」配列という用語は、反対方向にあるウイルスゲノムの末端に見られる比較的短い配列を指すことを意味する。「AAV逆位末端反復(ITR)」配列は、当技術分野でよく理解されている用語であり、天然の一本鎖AAVゲノムの両末端に存在する約145ヌクレオチドの配列である。ITRの最も外側のヌクレオチドは、異なるAAVゲノム間及び単一のAAVゲノムの両端間に不均一性をもたらす、2つの代替方向のいずれかで存在し得る。
【0077】
本明細書で使用される「単離された」分子(例えば、単離された核酸またはタンパク質または細胞)という用語は、その天然環境の成分から同定及び分離され及び/または回収されたものである。
【0078】
本明細書で使用される「中耳」という用語は、鼓膜と内耳との間の空間を指すことを意味する。
【0079】
本明細書で使用する「最小調節エレメント」という用語は、標的細胞における遺伝子の効果的な発現に必要な調節エレメントを指すことを意味し、したがって導入遺伝子発現カセットに含まれるべきである。そのような配列は、例えば、プロモーターまたはエンハンサー配列、プラスミドベクター内へのDNA断片の挿入を促進するポリリンカー配列、ならびにmRNA転写物のイントロンスプライシング及びポリアデン化に関与する配列を含み得る。
【0080】
本明細書で使用される「天然に存在しない」という用語は、天然に存在しないタンパク質、核酸、リボ核酸、またはウイルスを広く指すことを意味する。例えば、それは、遺伝子改変バリアント、例えば、cDNAまたはコドン最適化核酸であり得る。
【0081】
本明細書で使用される場合、「核酸」または「核酸分子」は、例えば、DNA分子(例えば、cDNAまたはゲノムDNA)などの単量体ヌクレオチドの鎖からなる分子を指すことを意味する。核酸は、例えば、プロモーター、目的遺伝子もしくはその一部(例えば、GJB2遺伝子またはその一部)、または調節エレメントをコードし得る。核酸分子は、一本鎖または二本鎖であり得る。「GJB2核酸」とは、GJB2遺伝子もしくはその一部、またはGJB2遺伝子もしくはその一部の機能的バリアントを含む核酸を指す。遺伝子の機能的バリアントには、例えば、サイレント変異、一塩基多型、ミスセンス変異、及び遺伝子機能を有意に変化させない他の変異または欠失などの軽微な変異を伴う遺伝子のバリアントが含まれる。
【0082】
DNA及びRNA鎖の非対称末端は、5’(5プライム)及び3’(3プライム)末端と呼ばれ、5’末端は末端リン酸基を有し、3’末端は末端ヒドロキシル基を有する。5プライム(5’)末端は、デオキシリボースまたはリボースの糖環の5番目の炭素を末端に有する。核酸は、新しい鎖を組み立てるために使用されるポリメラーゼがホスホジエステル結合を介して3’-ヒドロキシル(-OH)基にそれぞれの新しいヌクレオチドを結合するため、in vivoで5’から3’方向に合成される。
【0083】
本明細書で使用される「作動可能に連結される」または「作動的に連結される」または「連結した」という用語は、遺伝要素の並列を指し、これらの要素は、それらが予想される様式で作動することを可能にする関係にある。例えば、プロモーターは、プロモーターがコード配列の転写を開始する助けとなる場合、コード領域に作動可能に連結され得る。この機能的関係が維持される限り、プロモーターとコード領域との間に介在残基が存在し得る。
【0084】
本明細書で使用される、参照ポリペプチド配列または核酸配列に関する「配列同一性パーセント(%)」は、配列をアライメントし、配列同一性最大パーセントを得るのに必要な場合はギャップを導入した後に、配列同一性の部分としていかなる保存的置換も考慮に入れずに、参照ポリペプチドまたは核酸配列におけるアミノ酸残基またはヌクレオチドと同一である、候補配列におけるアミノ酸残基またはヌクレオチドの割合として定義される。アミノ酸または核酸配列同一性パーセントを決定する目的のためのアライメントは、当技術分野における技術の範囲内である種々の方式で、例えば、Current Protocols in Molecular Biology(Ausubel et al.,eds.,1987),Supp.30,section7.7.18,Table7.7.1に記載されるもの、及びBLAST、BLAST-2、ALIGNまたはMegalign(DNASTAR)ソフトウェアを含む、公的に利用可能なコンピュータソフトウェアプログラムを使用して達成することができる。アライメントプログラムの例としては、ALIGN Plus(Scientific and Educational Software,Pennsylvania)がある。当業者は、比較される配列の全長にわたって最大のアライメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、アライメントを測定するための適切なパラメータを決定することができる。本明細書の目的のために、所与のアミノ酸配列Aの、所与のアミノ酸配列Bへの、それとの、またはそれに対するアミノ酸配列同一性の割合(これは、所与のアミノ酸配列Bへの、それとの、またはそれに対する特定のアミノ酸配列同一性の割合を有するかまたは含む、所与のアミノ酸配列Aとして代替的に言い換えることができる)は、分数X/Yの100倍、のように計算され、ここで、Xは、AとBのプログラムのアライメントにおいて配列アライメントプログラムにより同一一致としてスコア付けされたアミノ酸残基の数であり、Yは、B内のアミノ酸残基の総数である。アミノ酸配列Aの長さがアミノ酸配列Bの長さと等しくない場合、BへのAのアミノ酸配列同一性の割合は、AへのBのアミノ酸配列同一性の割合と等しくないことが理解されよう。本明細書の目的のために、所与の核酸配列Cの、所与の核酸配列Dへの、それとの、またはそれに対する核酸配列同一性の割合(これは、所与の核酸Dへの、それとの、またはそれに対する特定の核酸配列同一性の割合を有するかまたは含む、所与の核酸酸配列Cとして代替的に言い換えることができる)は、分数W/Zの100倍、のように計算され、Wは、CとDのプログラムのアライメントにおいて配列アライメントプログラムにより同一一致としてスコア付けされたヌクレオチドの数であり、Zは、D内のヌクレオチドの総数である。核酸配列Cの長さが核酸配列Dの長さと等しくない場合、DへのCの核酸配列同一性の割合は、CへのDの核酸配列同一性の割合と等しくないことが理解されよう。
【0085】
同様に、本明細書で使用される「配列相同性」はまた、2つの配列の関連性を決定する方法を指す。配列の相同性を決定するために、2つ以上の配列が上記のように最適に整列され、必要に応じてギャップが導入される。ただし、「配列同一性」とは対照的に、保存的アミノ酸置換は、配列相同性を決定する際に一致としてカウントされる。換言すれば、参照配列と95%の配列相同性を有するポリペプチドまたはポリヌクレオチドを得るために、参照配列中のアミノ酸残基またはヌクレオチドの95%が、別のアミノ酸もしくはヌクレオチドとの保存的置換と一致するか、またはそれらを含まなければならない、または、参照配列中の保存的置換を含まない全アミノ酸残基またはヌクレオチドの5%を上限とする数のアミノ酸またはヌクレオチドは、参照配列に挿入され得る。
【0086】
本明細書で使用される「医薬組成物」または「組成物」という用語は、本明細書に記載の組成物または薬剤(例えば、組換えアデノ随伴(rAAV)発現ベクター及び/またはrAAVビリオン)を指すことを意味し、任意選択で、限定されないが、担体、安定剤、希釈剤、分散剤、懸濁化剤、増粘剤、賦形剤などの少なくとも1つの薬学的に許容される化学成分と混合される。
【0087】
本明細書で使用される「ポリペプチド」及び「タンパク質」という用語は、本明細書では互換可能に使用され、アミノ酸残基の重合体を指し、最小の長さに限定されない。アミノ酸残基のそのようなポリマーは、天然または非天然のアミノ酸残基を含むことができ、アミノ酸残基のペプチド、オリゴペプチド、二量体、三量体及び多量体を含むが、これらに限定されない。完全長タンパク質及びその断片の両方は、定義に含まれる。この用語には、ポリペプチドの発現後修飾、例えば、グリコシル化、シアリル化、アセチル化、リン酸化なども含まれる。更に、本開示の目的のために、「ポリペプチド」は、タンパク質が所望の活性を維持する限り、天然配列に対する、欠失、付加及び置換(一般的に本質的に保存的)などの修飾を含むタンパク質を指す。これらの修飾は、部位特異的突然変異誘発などによる計画的なものであり得るか、またはタンパク質を生成する宿主の突然変異、もしくはPCR増幅によるエラーなどによる偶発的なものであり得る。
【0088】
本明細書で使用される場合、「プロモーター」は、特定の遺伝子の転写を促進するDNAの領域を指すことを意味する。転写プロセスの一部として、RNAポリメラーゼとして知られるRNAを合成する酵素は、遺伝子の近くのDNAに結合する。プロモーターには、RNAポリメラーゼとRNAポリメラーゼを動員する転写因子の初期結合部位を提供する、特定のDNA配列及び応答エレメントが含まれる。いくつかの実施形態によれば、プロモーターは、蝸牛における支持細胞発現に対して高度に特異的である。いくつかの実施形態によれば、プロモーターは内在性GJB2プロモーターである。いくつかの実施形態によれば、プロモーターは合成プロモーターである。いくつかの実施形態によれば、プロモーターは、CBAプロモーター、smCBAプロモーター、CASIプロモーター、GFAPプロモーター、及び伸長因子-1アルファ(EF1a)プロモーターからなる群から選択される。「ニワトリベータ-アクチン(CBA)プロモーター」とは、ニワトリベータ-アクチン遺伝子(例えば、GenBank Entrez遺伝子ID396526で表されるGallus gallusベータアクチン)に由来するポリヌクレオチド配列を指す。「smCBA」プロモーターは、ハイブリッドCMV-ニワトリベータ-アクチンプロモーターの小型バージョンを指す。「CASI」プロモーターは、CMVエンハンサーの一部、ニワトリベータ-アクチンプロモーターの一部、及びUBCエンハンサーの一部を含むプロモーターを指す。
【0089】
本明細書で使用される「組換え体」という用語は、(1)その天然の環境から取り出された、(2)遺伝子が天然に見出されるポリヌクレオチドの全部もしくは一部と関連していない、(3)天然では連結していないポリヌクレオチドと作動可能に連結された、または(4)天然に存在しない、生体分子、例えば、遺伝子もしくはタンパク質を指すことができる。「組換え体」という用語は、クローン化DNA単離体、化学的に合成されたポリヌクレオチド類似体、または異種系によって生物学的に合成されるポリヌクレオチド類似体、ならびにそのような核酸によってコードされるタンパク質及び/またはmRNAに関連して使用することができる。
【0090】
本明細書で使用される「組換えHSV」、「rHSV」及び「rHSVベクター」という用語は、ウイルスゲノムに組み込まれた異種遺伝子を含む、単離された遺伝子改変型単純ヘルペスウイルス1型(HSV)を広く指すことを意味する。「rHSV-rep2cap2」または「rHSV-rep2cap1」という用語は、AAV血清型1または2のいずれかに由来するAAV rep及びcap遺伝子がrHSVゲノムに組み込まれているrHSVを意味し、特定の実施形態では、目的の治療遺伝子をコードするDNA配列は、ウイルスゲノムに組み込まれている。
【0091】
本明細書で使用される場合、本開示の方法によって治療される「対象」または「患者」または「個体」は、ヒトまたは非ヒト動物のいずれかを指すことを意味する。いくつかの実施形態によれば、対象は子供である。いくつかの実施形態によれば、対象は乳児である。「非ヒト動物」には、任意の脊椎動物または無脊椎動物が含まれる。いくつかの実施形態では、対象は、GJB2遺伝子などの遺伝子欠失に関連する難聴を患っている。
【0092】
本明細書で使用される「導入遺伝子」という用語は、細胞内に導入されて、RNAに転写され、任意選択で適切な条件下で翻訳及び/または発現されることができるポリヌクレオチドを指すことを意味する。諸態様では、それは、それが導入された細胞に所望の特性を付与するか、さもなければ所望の治療または診断結果をもたらす。特定の実施形態では、細胞へのGJB2導入遺伝子の導入は、機能的なギャップ結合の形成をもたらす。
【0093】
本明細書で使用される場合、「導入遺伝子発現カセット」または「発現カセット」は、核酸ベクターが標的細胞に送達する遺伝子配列を含む。これらの配列には、目的の遺伝子(例えば、GJB2核酸またはそのバリアント)、1つ以上のプロモーター、及び最小限の調節エレメントが含まれる。
【0094】
本明細書で使用される、疾患または障害を「治療」または「治療する」という用語は、検出可能かまたは検出不可能かにかかわらず、疾患または障害の1つ以上の徴候または症状の軽減、疾患または障害の程度の低減、疾患または障害の状態の安定化(例えば、悪化しない)、疾患または障害の拡大の防止、疾患もしくは障害の進行の遅延または減速、疾患もしくは障害の状態の改善または緩和及び寛解(部分的または全体的)を指すことを意味する。例えば、GJB2などの目的の遺伝子は、有効量(または投与量)で発現させた場合、異常な生理学的反応を予防、修正及び/または正常化するのに十分であり、例えば、疾患または障害の臨床的に重要な特徴を少なくとも約30%、より好ましくは少なくとも50%、最も好ましくは少なくとも90%低減するのに十分な治療効果である。「治療」はまた、治療を受けていなかった場合に予想される生存期間と比較して、生存期間を延長することも指し得る。
【0095】
本明細書で使用される「ベクター」という用語は、in vitroまたはin vivoのいずれかで宿主細胞に送達される核酸を含む、組換えプラスミドまたはウイルスを指すことを意味する。
【0096】
本明細書で使用する「組換えウイルスベクター」という用語は、1つ以上の異種配列(すなわち、ウイルス起源でない核酸配列)を含む組換えポリヌクレオチドベクターを指すことを意味する。組換えAAVベクターの場合、組換え核酸は、少なくとも1つの逆方向末端反復配列(ITR)に隣接する。いくつかの実施形態では、組換え核酸は、2つのITRに隣接する。
【0097】
本明細書で使用される「組換えAAVベクター(rAAVベクター)」という用語は、少なくとも1つのAAV反転末端反復配列(ITR)に隣接する1つ以上の異種配列(すなわち、AAV起源ではない核酸配列)を含むポリヌクレオチドベクターを指すことを意味する。そのようなAAVベクターは、適切なヘルパーウイルスに感染し(または、適切なヘルパー機能を発現している)、AAV rep及びcap遺伝子産物(すなわち、AAV Rep及びCapタンパク質)を発現している宿主細胞内に存在する場合、感染性ウイルス粒子に複製及びパッケージ化され得る。rAAVベクターがより大きなポリヌクレオチド(例えば、染色体中、またはクローニングもしくはトランスフェクションに使用されるプラスミドなどの別のベクター中)に組み込まれる場合、rAAVベクターは、AAVパッケージング機能と適切なヘルパー機能の存在下での複製及びカプシド形成によって「レスキュー」され得る「プロベクター(pro-vector)」と称され得る。rAAVベクターは、脂質と複合体を形成し、リポソーム内に封入化され、ウイルス粒子、例えばAAV粒子内に封入化されたプラスミド、線状人工染色体を含むがこれらに限定されない、多数の形態のいずれかであり得る。rAAVベクターをAAVウイルスカプシドにパッケージ化し、「組換えアデノ随伴ウイルス粒子(rAAV粒子)」を生成することができる。特定の実施形態では、AAVウイルスカプシドは、本明細書に記載のバリアントAAVカプシドである。
【0098】
本明細書で使用される「rAAVウイルス」または「rAAVウイルス粒子」または「rAAVビリオン」という用語は、少なくとも1つのAAVカプシドタンパク質及びカプシド化rAAVベクターゲノムからなるウイルス粒子を指すことを意味する。特定の実施形態では、AAVカプシドタンパク質は、例えば、非バリアントAAVカプシドタンパク質と比較して、内耳組織または細胞において増加した向性を示すバリアントAAVカプシドタンパク質などのバリアントAAVカプシドタンパク質である。本明細書に記載の方法に従って使用することができる例示的なバリアントAAVカプシドタンパク質のアミノ酸配列及びヌクレオチド配列を表1に提供する。
【0099】
カプシドポリペプチドなどのポリペプチドに関する「バリアント」という用語は、非バリアントポリペプチド配列とも称される、親ポリペプチド配列とは少なくとも1つのアミノ酸が異なるポリペプチド配列を指す。いくつかの実施形態では、ポリペプチドはカプシドポリペプチドであり、バリアントは少なくとも1つのアミノ酸置換によって異なる。アミノ酸にはまたは、天然及び非天然のアミノ酸ならびにその誘導体も含まれる。アミノ酸にはまた、D型及びL型の両方が含まれる。
【0100】
「向性」と「形質導入」という用語は相互に関連しているが、違いはある。本明細書で使用される「向性」という用語は、AAVベクターまたはビリオンが1つ以上の特定の細胞型に感染する能力を指すが、1つ以上の特定の細胞型において細胞を形質導入するためにベクターがどのように機能するかを包含することもできる。すなわち、向性とは、AAVベクターまたはビリオンの特定の細胞または組織型(複数可)への優先的な侵入、及び/または特定の細胞または組織型への侵入を促進する細胞表面との優先的な相互作用、任意選択で及び好ましくは、その後の細胞内でAAVベクターまたはビリオンによって運ばれる配列の発現(例えば、転写及び任意選択で翻訳)、例えば、組換えウイルスの場合は、異種ヌクレオチド配列(複数可)の発現を指す。本明細書で使用される「形質導入」という用語は、AAVベクターまたはビリオンが1つ以上の特定の細胞型に感染する能力を指す。すなわち、形質導入は、AAVベクターまたはビリオンの細胞への侵入、及びベクターゲノムからの発現を得るようにAAVベクターまたはビリオン内に含まれる遺伝物質の細胞への移動を指す。場合によっては、すべての場合ではないが、形質導入と向性は相関し得る。特定の実施形態では、本明細書に記載のバリアントAAVカプシドポリペプチドは、例えば、非バリアントAAVカプシドポリペプチドと比較して、内耳組織または細胞において増加した向性を示す。特定の実施形態では、本明細書に記載のバリアントAAVカプシドポリペプチドは、例えば、非バリアントAAVカプシドポリペプチドと比較して、内耳組織または細胞において増加した形質導入を示す。特定の実施形態では、本明細書に記載のバリアントAAVカプシドポリペプチドは、例えば、非バリアントAAVカプシドポリペプチドと比較して、内耳組織または細胞において増加した向性及び/または形質導入を示す。特定の実施形態では、例えば、非バリアントAAVカプシドポリペプチドと比較して、内耳組織または細胞において増加した向性及び/または形質導入を示すバリアントAAVカプシドポリペプチドを、表1に提供する。
【0101】
核酸
本開示は、難聴、例えば、遺伝子欠失に関連する難聴の治療に使用できるプロモーター、発現カセット、ベクター、キット及び方法を提供する。いくつかの実施形態では、難聴は遺伝性難聴である。本開示の特定の態様は、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター及び/またはビリオンを投与することを含む、対象の内耳組織及び細胞に異種核酸を送達することに関する。いくつかの態様によれば、本開示は、本明細書に記載のrAAVベクター及び/またはrAAVビリオンを含む組成物を対象に送達することを含む、難聴、例えば、遺伝子欠失に関連する難聴を治療または予防する方法を提供し、ここで、rAAVベクター及び/またはrAAVビリオンは異種核酸(例えば、GJB2をコードする核酸)を含む。
【0102】
特定の実施形態では、rAAVベクターは、難聴に関連する遺伝子をコードする異種核酸を含む。難聴(例えば、遺伝子欠失に関連する難聴)に関連する遺伝子の例には、ACTG1、ADCY1、ADGRV1、AIFM1、BDP1、BSND、BTD、CABP2、CCDC50、CD164、CDC14A、CDH23、CEACAM16、CIB2、CLDN14、CLIC5、CLRN1、COCH、COL11A1、COL11A2、COL2A1、COL4A3、COL4A4、COL4A5、COL4A6、COL9A1、COL9A2、COL9A3、DCDC2、DIAPH1、DMXL2、DSPP、EDN3、EDNRB、ELMOD3、EPS8、EPS8L2、ESPN、ESRRB、EYA1、EYA4、FAM189A2、GIPC3、GJB2、GJB3、GJB6、GPSM2、GRHL2、GRXCR1、GRXCR2、GSDME、HARS1、HGF、HOMER2、ILDR1、KARS1、KCNE1、KCNQ1、KCNQ4、LHFPL5、LOXHD1、LRTOMT、MARVELD2、MCM2、MET、MIR96、MITF、MSRB3、MT-CO1、MT-RNR1、MT-TS1、MYH14、MYH9、MYO15A、MYO1A、MYO3A、MYO6、MYO7A、MYO7A、NARS2、NF2、OSBPL2、OTOA、OTOF、OTOG、OTOGL、P2RX2、PAX3、PCDH15、PEX7、PHYH、PJVK、PNPT1、POU3F4、POU4F3、PRPS1、PTPRQ、RDX、RIPOR2、ROR1、S1PR2、SERPINB6、SIX1、SIX5、SLC17A8、SLC22A4、SLC26A4、SLC26A5、SMPX、SOX10、STRC、SYNE4、TBC1D24、TECTA、TIMM8A、TJP2、TMC1、TMEM132E、TMIE、TMPRSS3、TPRN、TRIOBP、TSPEAR、USH1C、USH1G、USH2A、WBP2、WFS1及びWHRNが含まれるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、rAAVベクター及び/またはrAAVビリオンは、GJB2をコードする異種核酸を含む。
【0103】
遺伝性難聴(hereditary hearing impairment、HI)を持つ対象の間で最も一般的に変異している遺伝子であるGJB2は、支持細胞間の細胞間コミュニケーションと蝸牛液、内リンパ及び外リンパの恒常性の両方の根底にあるコネキシン-26(Cx26)ギャップ結合チャネルタンパク質をコードする。GJB2は、13q12のDFNB1遺伝子座にある。GJB2は5513bpの長さであり、3179bpのイントロンで区切られた2つのエクソン(それぞれ193bpと2141bpの長さ)を含む(Kiang et al.,1997)。転写は単一の開始部位から開始され、基準とみなされる2334ヌクレオチドのmRNA(GenBank NM_004004.5)の合成をもたらす。
【0104】
いくつかの実施形態によれば、目的の遺伝子(例えば、GJB2)は、野生型遺伝子(例えば、野生型GJB2)よりも発現(及び/または機能)において優れているように最適化され、更に野生型(例えば、野生型GJB2)から(DNA/RNAにおいて)識別する能力を有する。
【0105】
図2は、一本鎖(ss)AAV-GJB2及び自己相補的scAAV-GJB2の例示的なGJB2ベクター(ゲノム)構築物の概略図を示す。
【0106】
ヒト野生型GJB2は、正常な聴覚に必要な主要なギャップ結合タンパク質をコードする重要な要素である。GJB2の損失は、聴覚の発症に続く内耳の様々な細胞型の大量の細胞死を引き起こす。「GJB2核酸」とは、GJB2遺伝子もしくはその一部、またはGJB2遺伝子もしくはその一部の機能的バリアントを含む核酸を指す。遺伝子の機能的バリアントには、例えば、サイレント変異、一塩基多型、ミスセンス変異、及び遺伝子機能を有意に変化させない他の変異または欠失などの軽微な変異を伴う遺伝子のバリアントが含まれる。
【0107】
いくつかの実施形態によれば、本開示は、哺乳動物GJB2タンパク質をコードする核酸を提供する。いくつかの実施形態によれば、本開示は、野生型GJB2タンパク質をコードする核酸を提供する。いくつかの実施形態によれば、本開示は、野生型ヒト、マウス、非ヒト霊長類、またはラットGJB2タンパク質をコードする核酸を提供する。いくつかの実施形態によれば、本開示は、ヒト野生型GJB2タンパク質をコードする核酸を提供する。いくつかの実施形態によれば、ヒト野生型GJB2タンパク質をコードする核酸配列は、長さが678bpである。一実施形態によれば、ヒト野生型GJB2タンパク質をコードする核酸は、配列番号10を含む。一実施形態によれば、核酸は、配列番号10と少なくとも85%同一である。一実施形態によれば、核酸は、配列番号10と少なくとも90%同一である。一実施形態によれば、核酸は、配列番号10と少なくとも95%同一である。一実施形態によれば、核酸は、配列番号10と少なくとも99%同一である。一実施形態によれば、核酸は配列番号10からなる。
【0108】
図10は、ヒト野生型GJB2(hGJB2wt)の核酸配列(配列番号10)を示す。
【0109】
いくつかの実施形態によれば、本開示は、GJB2タンパク質をコードする核酸を提供し、ここで、核酸配列は、哺乳動物発現のために最適化されたコドンである。特定の実施形態によれば、本開示は、GJB2タンパク質をコードする核酸を提供し、ここで、核酸配列は、ヒト、ラット、非ヒト霊長類、モルモット、ミニブタ、ブタ、ネコ、ヒツジまたはマウス細胞における発現のために最適化されたコドンである。ヒトコドン最適化GJB2は、正常な聴覚に必要な主要なギャップ結合タンパク質をコードする重要な要素である。GJB2のタンパク質発現を増強するためにコドン最適化が行われる。
【0110】
いくつかの実施形態によれば、本開示は、GJB2タンパク質をコードする核酸配列を提供し、ここで、GJB2タンパク質をコードする核酸配列は、天然に存在しない配列である。
【0111】
いくつかの実施形態によれば、本開示は、ヒトコドン最適化GJB2タンパク質をコードする核酸を提供する。
【0112】
いくつかの実施形態によれば、ヒトコドン最適化GJB2タンパク質をコードする核酸配列は、長さが678bpである。一実施形態によれば、ヒトコドン最適化GJB2タンパク質をコードする核酸は、配列番号11を含む。一実施形態によれば、核酸は、配列番号11と少なくとも85%同一である。一実施形態によれば、核酸は、配列番号11と少なくとも90%同一である。一実施形態によれば、核酸は、配列番号11と少なくとも95%同一である。一実施形態によれば、核酸は、配列番号11と少なくとも99%同一である。一実施形態によれば、核酸は配列番号11からなる。
【0113】
図11は、ヒトコドン最適化GJB2(hGJB2co3)の核酸配列(配列番号11)を示す。
【0114】
いくつかの実施形態によれば、ヒトコドン最適化GJB2タンパク質をコードする核酸配列は、長さが678bpである。一実施形態によれば、ヒトコドン最適化GJB2タンパク質をコードする核酸は、配列番号12を含む。一実施形態によれば、核酸は、配列番号12と少なくとも85%同一である。一実施形態によれば、核酸は、配列番号12と少なくとも90%同一である。一実施形態によれば、核酸は、配列番号12と少なくとも95%同一である。一実施形態によれば、核酸は、配列番号12と少なくとも99%同一である。一実施形態によれば、核酸は配列番号12からなる。
【0115】
図12は、ヒトコドン最適化GJB2(hGJB2co6)の核酸配列(配列番号12)を示す。
【0116】
いくつかの実施形態によれば、ヒトコドン最適化GJB2タンパク質をコードする核酸配列は、長さが678bpである。一実施形態によれば、ヒトコドン最適化GJB2タンパク質をコードする核酸は、配列番号13を含む。一実施形態によれば、核酸は、配列番号13と少なくとも85%同一である。一実施形態によれば、核酸は、配列番号13と少なくとも90%同一である。一実施形態によれば、核酸は、配列番号13と少なくとも95%同一である。一実施形態によれば、核酸は、配列番号13と少なくとも99%同一である。一実施形態によれば、核酸は配列番号13からなる。
【0117】
図13は、ヒトコドン最適化GJB2(hGJB2co9)の核酸配列(配列番号13)を示す。
【0118】
特定の実施形態では、rAAVベクターは、バリアントAAVカプシドポリペプチドをコードする核酸配列を含む。いくつかの実施形態によれば、rAAVベクターは、例えば、非バリアントAAVカプシドポリペプチドと比較して、内耳組織または細胞において増加した向性を示すバリアントAAVカプシドポリペプチドをコードする核酸配列を含む。
【0119】
いくつかの実施形態によれば、rAAVベクターは、バリアントAAV1カプシドポリペプチド、バリアントAAV2カプシドポリペプチド、バリアントAAV3カプシドポリペプチド、バリアントAAV4カプシドポリペプチド、バリアントAAV5カプシドポリペプチド、バリアントAAV6カプシドポリペプチド、バリアントAAV7カプシドポリペプチド、バリアントAAV8カプシドポリペプチド、バリアントAAV9カプシドポリペプチド、バリアントrh-AAV10カプシドポリペプチド、バリアントAAV10カプシドポリペプチド、バリアントAAV11カプシドポリペプチド及びバリアントAAV12カプシドポリペプチドから選択されるバリアントAAVカプシドポリペプチドをコードする核酸配列を含む。いくつかの実施形態によれば、rAAVベクターは、バリアントAAV2カプシドポリペプチドをコードする核酸配列を含む。
【0120】
いくつかの実施形態によれば、rAAVベクターは、表1に列挙されるバリアントAAVカプシドポリペプチドをコードする核酸配列、またはそれに対して少なくとも約85%、90%、95%もしくは99%の配列同一性を有する核酸配列を含む。
【0121】
いくつかの実施形態によれば、rAAVベクターは、表1に列挙されるアミノ酸配列を含むバリアントAAVカプシドポリペプチドをコードする核酸配列、またはそれに対して少なくとも約85%、90%、95%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0122】
いくつかの実施形態によれば、rAAVベクターは、VP1、VP2またはVP3カプシドポリペプチドからなる群から選択されるAAVカプシドをコードする核酸配列を含む。
【0123】
いくつかの実施形態によれば、rAAVベクターは、野生型AAV2カプシドポリペプチド(配列番号18)に対して1つ以上のアミノ酸置換、挿入及び/または欠失を有するアミノ酸配列を含む、バリアントAAVカプシドポリペプチドをコードする核酸配列を含み、任意選択で、1つ以上のアミノ酸置換、挿入及び/または欠失は、Q263、S264、Y272、Y444、R487、P451、T454、T455、R459、K490、T491、S492、A493、D494、E499、Y500、T503、K527、E530、E531、Q545、G546、S547、E548、K549、T550、N551、V552、D553、E555、K556、R585、R588及びY730からなる群から選択されるアミノ酸残基において生じる。
【0124】
いくつかの実施形態によれば、rAAVベクターは、Q263N、Q263A、S264A、Y272F、Y444F、R487G、P451A、T454N、T455V、R459T、K490T、T491Q、S492D、A493G、D494E、E499D、Y500F、T503P、K527R、E530D、E531D、Q545E、G546D、G546S、S547A、E548T、E548A、K549E、K549G、T550N、T550A、N551D、V552I、D553A、E555D、K556R、K556S、R585S、R588T及びY730Fからなる群から選択される野生型AAV2カプシドポリペプチド(配列番号18)に対して1つ以上のアミノ酸置換を有するアミノ酸配列を含む、バリアントAAVカプシドポリペプチドをコードする核酸配列を含む。
【0125】
いくつかの実施形態によれば、rAAVベクターは、(i)配列番号27、29、31、33または35のうちのいずれか1つのアミノ酸配列;(ii)配列番号27、29、31、33または35のうちのいずれか1つに対して少なくとも約85%、90%、95%または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列;または(iii)配列番号26、28、30、32または34のうちのいずれか1つの核酸配列によってコードされるアミノ酸配列を含む、バリアントAAVカプシドポリペプチドをコードする核酸配列を含む。いくつかの実施形態によれば、rAAVベクターは、配列番号27のアミノ酸配列を含むバリアントAAVカプシドポリペプチドをコードする核酸配列を含む。いくつかの実施形態によれば、rAAVベクターは、配列番号29のアミノ酸配列を含むバリアントAAVカプシドポリペプチドをコードする核酸配列を含む。いくつかの実施形態によれば、rAAVベクターは、配列番号31のアミノ酸配列を含むバリアントAAVカプシドポリペプチドをコードする核酸配列を含む。いくつかの実施形態によれば、rAAVベクターは、配列番号33のアミノ酸配列を含むバリアントAAVカプシドポリペプチドをコードする核酸配列を含む。いくつかの実施形態によれば、rAAVベクターは、配列番号35のアミノ酸配列を含むバリアントAAVカプシドポリペプチドをコードする核酸配列を含む。
【0126】
プロモーター
様々なプロモーターは、本開示における使用のために想到される。
【0127】
いくつかの実施形態によれば、プロモーターは内因性GJB2プロモーターである。GJB2プロモーターは支持細胞特異的プロモーターであり、GJB2遺伝子を発現する内耳の細胞に形質導入できる。このプロモーターは、その短い長さを考えるとscAAVの産生に使用できる。いくつかの実施形態によれば、プロモーターは配列番号6を含む。いくつかの実施形態によれば、プロモーターは配列番号6からなる。
図8は、GJB2プロモーターの核酸配列(配列番号6)を示す。
【0128】
いくつかの実施形態によれば、プロモーターはCBAプロモーターである。CBAプロモーターは、内耳の複数の細胞型に形質導入できる強力なユビキタスプロモーターである。いくつかの実施形態によれば、プロモーターは配列番号1を含む。いくつかの実施形態によれば、プロモーターは配列番号1からなる。
図3は、CBAプロモーターの核酸配列(配列番号1)を示す。
【0129】
いくつかの実施形態によれば、プロモーターはEF1aプロモーターである。EF1aプロモーターは、内耳の複数の細胞型に形質導入することができる、哺乳動物由来の強力なユビキタスプロモーターであり、その短い長さを考えるとscAAVの産生に使用できる。いくつかの実施形態によれば、プロモーターは配列番号2を含む。いくつかの実施形態によれば、プロモーターは配列番号2からなる。
図4は、EF1aプロモーターの核酸配列(配列番号2)を示す。
【0130】
いくつかの実施形態によれば、プロモーターはCASIプロモーターである。CASIプロモーターは、内耳の複数の細胞型に形質導入することができる、強力なユビキタスプロモーターであり、その短い長さを考えるとscAAVの産生に使用できる。いくつかの実施形態によれば、プロモーターは配列番号3を含む。いくつかの実施形態によれば、プロモーターは配列番号3からなる。
図5は、CASIプロモーターの核酸配列(配列番号3)を示す。
【0131】
いくつかの実施形態によれば、プロモーターはsmCBAプロモーターである。smCBAプロモーターは、内耳の複数の細胞型に形質導入することができる、強力なユビキタスプロモーターであり、その短い長さを考えるとscAAVの産生に使用できる。いくつかの実施形態によれば、プロモーターは配列番号4を含む。いくつかの実施形態によれば、プロモーターは配列番号4からなる。
図6は、smCBAプロモーターの核酸配列(配列番号4)を示す。
【0132】
いくつかの実施形態によれば、プロモーターはGFAPプロモーターである。GFAPプロモーターは細胞特異的であり、内耳の支持細胞で活性を有する。いくつかの実施形態によれば、プロモーターは配列番号5を含む。いくつかの実施形態によれば、プロモーターは配列番号5からなる。
図7は、GFAPプロモーターの核酸配列(配列番号5)を示す。
【0133】
いくつかの実施形態によれば、プロモーターは合成プロモーターである。特定の実施形態では、合成プロモーターは、天然には存在せず、標的遺伝子、例えば、GJB2の遺伝子発現を制御するように設計されたDNAの配列である。
【0134】
逆方向末端反復
逆方向末端反復(ITR)配列は、2番目のDNA鎖の合成を可能にするヘアピン構造を形成する能力があるため、AAVゲノムの効率的な増殖に必要である。scAAV短縮型ITR(TRS)は分子内二本鎖DNAテンプレートを形成し、したがって、二本鎖合成の律速段階を取り除く。
【0135】
図9は、以下のITR(AAV2)5’-3’:一本鎖(ss)及び自己相補的(sc)AAVゲノム(配列番号7);3’-5’:一本鎖(ss)AAVゲノムのみ(配列番号8);3’-5’:自己相補的(sc)AAVゲノムのみ(配列番号9)の核酸配列を示す。
【0136】
難聴の遺伝子治療
本開示は、一般に、遺伝子構築物(例えば、GJB2遺伝子構築物)を含む組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ウイルス粒子を産生する方法、及び難聴、例えば、遺伝子欠失に関連する難聴のための遺伝子治療の方法におけるそれらの使用を提供する。本明細書に記載のAAVベクター及びAAVビリオンは、核酸(例えば、GJB2遺伝子構築物)を内耳組織及び細胞に送達するのに特に効率的である。GJB2などの遺伝子を発現及びその後の分泌のために細胞内に効率的に送達することができる組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)治療用ベクターを作成、評価及び利用する方法を、本明細書に記載する。難聴、例えば、遺伝子欠失に関連する難聴のための組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)に基づく遺伝子治療で使用するための、最適に改変された目的の遺伝子(GOI)cDNA及び関連する遺伝因子を、本明細書に記載する。より具体的には、DFNB1及びDFNA3A関連の先天性難聴の治療及び/または予防を含む、遺伝的難聴のための組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)に基づく遺伝子治療で使用するための、最適に改変されたGJB2/コネキシン26(Cx26)cDNA及び関連する遺伝因子を、本明細書に記載する。
【0137】
組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターは、標的遺伝子、例えば、GJB2標的遺伝子、及び関連する遺伝因子の両方を効率的に収容することができる。更に、そのようなベクターは、蝸牛の支持細胞などの治療的に関連する内耳組織及び細胞において遺伝子、例えば、GJB2を特異的に発現するように設計することができる。本開示は、目的の機能的遺伝子、例えば、GJB2遺伝子を患者に効率的に送達することができるrAAV治療用ベクター及びrAAVビリオンを作成、評価ならびに利用する方法を記載する。
【0138】
いくつかの実施形態では、GJB2遺伝子構築物は、(1)27ヌクレオチドヘマグルチニン(HA)C末端タグを含むかまたは含まないコドン/配列最適化0.68kbヒトGJB2 cDNA、(2)高GJB2発現を駆動するために最適化された以下のプロモーター要素のうちの1つ:(a)遍在的に活性な1.7kb CBA、0.96kb小型CBA(smCBA)、0.81kb EF1aまたは1.06kb CASIプロモーター;(b)蝸牛支持細胞、またはGJB2発現特異的1.68kb GFAP、0.13/0.54/1.0kb小型/中型/大型GJB2プロモーター、または2~3個の個々のGJB2発現特異的プロモーターの連続した組み合わせ、または合成プロモーター、(3)後にSV40またはヒト成長ホルモン(hGH)ポリアデニル化シグナルのいずれかが続くウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)を含む0.9kbの3’-UTR調節領域、(4)AAVゲノムカセット、または約113塩基のscAAV有効化ITR(ITRΔtrs)によって区切られかつ約143塩基の配列調節ITRと両端で隣接している2つの逆方向同一反復からなる自己相補的AAV(scAAV)ゲノムカセットと隣接する2つの約143塩基配列変調逆方向末端反復(ITR)のいずれか、及び(5)蝸牛への送達に最適化されたタンパク質カプシドバリアントを含む。いくつかの実施形態では、GJB2をコードする核酸配列は、FLAGタグまたはHAタグなどの作動可能に連結されたC末端タグまたはN末端タグを含み得る。
【0139】
HAタグはヒトインフルエンザヘマグルチニンであり、発現ベクターの一般的なエピトープタグとして使用される表面糖タンパク質であり、目的のタンパク質の検出を容易にする。FLAGタグ(ペプチド配列DYKDDDDK)は、発現ベクターで一般的なエピトープタグとして一般的に使用される短い親水性タンパク質タグであり、目的のタンパク質の検出を容易にする。ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)は、そのmRNAを安定させる三次構造を生成することにより、目的のタンパク質の発現を増強するDNA配列である。特定の実施形態によれば、他の調節配列を使用することができる。特定の実施形態では、本開示に従って使用され得る調節配列は、転写されると、GJB2などの標的遺伝子の発現を増強する三次構造を作成するDNA配列を含む。ポリ(A)配列は、RNAプロセッシングと転写産物の安定性を促進する重要な要素である。SV40及びbGHポリA配列は、転写単位の終わりを知らせる転写終結配列である。特定の実施形態によれば、他のポリA転写終結配列を使用することができる。
【0140】
いくつかの実施形態によれば、本明細書に記載のAAVベクター及びAAVビリオンは、蝸牛支持細胞を含む内耳組織または細胞にGJB2などの遺伝子を送達及び発現するのに特に適している。いくつかの実施形態によれば、本明細書に記載のAAVベクター及びAAVビリオンは、外部支持細胞及び/またはコルチ支持細胞の器官のうちの1つ以上において、GJB2などの遺伝子を送達及び発現するのに特に適している。いくつかの実施形態によれば、本明細書に記載のAAVベクター及びAAVビリオンは、GJB2などの遺伝子を、外有毛細胞、内有毛細胞、ヘンゼン細胞、ダイテルス細胞、柱細胞、内指節細胞及び/または外指節細胞/境界細胞のうちの1つ以上において送達及び発現するのに特に適している。
【0141】
アデノ随伴ウイルス(AAV)
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、非病原性の一本鎖DNAパルボウイルスである。AAVは、約20nmのカプシド直径を有する。一本鎖DNAゲノムの両端には逆方向末端反復配列(ITR)が含まれ、これは、ゲノムの複製とパッケージングに必要な唯一のシス作用エレメントである。AAVゲノムには、repとcapという2つのウイルス遺伝子がある。このウイルスは、複製に必要な4つのタンパク質(Rep78、Rep68、Rep52及びRep40)を生成するために、2つのプロモーターと選択的スプライシングを利用する。3番目のプロモーターは、選択的スプライシングと選択的翻訳開始コドンの組み合わせを介して、3つの構造ウイルスカプシドタンパク質1、2及び3(VP1、VP2及びVP3)の転写産物を生成する。Berns&Linden Bioessays1995;17:237-45。3つのカプシドタンパク質は同じC末端の533アミノ酸を共有するが、VP2とVP1は、それぞれ、65と202アミノ酸の追加のN末端配列を含む。AAVビリオンには、VP1、VP2及びVP3の合計60コピーが1:1:20の比率で含まれ、T-1正二十面体対称に配置されている。Rose et al.J Virol.1971;8:766-70。AAVは、その溶解ライフサイクルを完了させるために、ヘルパーウイルスとしてアデノウイルス(Ad)、単純ヘルペスウイルス(HSV)または他のウイルスを必要とする。Atchison et al.Science,1965;149:754-6;Hoggan et al.Proc Natl Acad Sci USA,1966;55:1467-74。ヘルパーウイルスの不存在下で、野生型AAVは、ITRと染色体の相互作用を通じてRepタンパク質の補助によって統合することにより、潜在を確立する。Berns&Linden(1995)。特定の実施形態では、本明細書に記載のAAVは、例えば、非バリアントAAVカプシドポリペプチドと比較して、内耳組織または細胞において増加した向性及び/または形質導入を示すバリアントAAVカプシドポリペプチドを含む。例示的なバリアントAAVカプシドポリペプチドを、表1に提供する。
【0142】
AAV血清型
AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAVrh8、AAVrh10、Anc80L65及びこれらの変異体またはハイブリッドを含む、多数の異なるAAV血清型が存在する。in vivo実験では、様々なAAV血清型が異なる組織または細胞向性を示すことが示される。例えば、AAV1とAAV6は、骨格筋の形質導入に効率的な2つの血清型である。Gao,et al.Proc Natl Acad Sci USA,2002;99:11854-11859;Xiao,et al.J Virol.1999;73:3994-4003;Chao,et al.Mol Ther.2000;2:619-623。AAV-3は、巨核球の形質導入に優れていることが示されている。Handa,et al.J Gen Virol.2000;81:2077-2084。AAV5とAAV6は、頂端気道細胞に効率的に感染する。Zabner,et al.J Virol.2000;74:3852-3858;Halbert,et al.J Virol.2001;75:6615-6624。AAV2、AAV4及びAAV5は、中枢神経系の様々なタイプの細胞に形質導入する。Davidson,et al.Proc Natl Acad Sci USA.2000;97:3428-3432。AAV8とAAV5は、AAV-2よりも一層、肝細胞に形質導入できる。AAV-5ベースのベクターは、特定の細胞型(培養気道上皮細胞、培養横紋筋細胞、及び培養ヒト臍帯静脈内皮細胞)にAAV2よりも高い効率で形質導入したが、AAV2とAAV5の両方は、NIH3T3、skbr3及びt-47D細胞株に対して低い形質導入効率を示した。Gao,et al.Proc Natl Acad Sci USA.2002;99:11854-11859;Mingozzi,et al.J Virol.2002;76:10497-10502。WO99/61601。AAV4は、最も効率的にラット網膜に形質導入することが判明し、AAV5とAAV1がそれに続いた。Rabinowitz,et al.J Virol.2002;76:791-801;Weber,et al.Mol Ther.2003;7:774-781。要約すると、AAV1、AAV2、AAV4、AAV5、AAV8及びAAV9は、CNS組織に対する向性を示す。AAV1、AAV8及びAAV9は、心臓組織に対する向性を示す。AAV2は、腎臓組織に対する向性を示す。AAV7、AAV8及びAAV9は、肝臓組織に対する向性を示す。AAV4、AAV5、AAV6及びAAV9は、肺組織に対する向性を示す。AAV8は、膵臓細胞に対する向性を示す。AAV3、AAV5及びAAV8は、視細胞に対する向性を示す。AAV1、AAV2、AAV4、AAV5及びAAV8は、網膜色素上皮(retinal pigment epithelium、RPE)細胞に対して向性を示す。AAV1、AAV6、AAV7、AAV8及びAAV9は、骨格筋に対する向性を示す。
【0143】
ウイルスへの更なる改変を行って、例えば、各血清型の向性を改善することにより、遺伝子導入の効率を高めることができる。1つの方法は、1つの血清型カプシドから別の血清型カプシドにドメインを交換し、それぞれの親から所望の品質を備えたハイブリッドベクターを作成することである。ウイルスカプシドは細胞受容体結合に関与しているため、結合に重要なウイルスカプシドドメイン(複数可)を理解することが重要である。結晶構造が利用可能になる前に行われたウイルスカプシド(主にAAV2)の変異研究は、ほとんどが外因性部分の吸着、ランダムな位置でのペプチドの挿入、またはアミノ酸レベルでの包括的な変異誘発によるカプシド表面の機能化に基づいていた。Choi,et al.Curr Gene Ther.2005June;5(3):299-310は、ハイブリッド血清型の様々なアプローチと考慮事項について説明する。
【0144】
他のAAV血清型からのカプシドは、特定のin vivo用途において、AAV2カプシドに基づくrAAVベクターよりも優れている。第1に、特定の血清型を有するrAAVベクターを適切に使用することにより、AAV2に基づくベクターによる感染が不十分であるか、またはまったく感染していない特定の標的細胞へのin vivoでの遺伝子送達の効率が高まり得る。第2に、rAAVベクターの再投与が臨床的に必要になった場合、他のAAV血清型に基づくrAAVベクターを使用することが有利であり得る。同じカプシドを含む同じrAAVベクターの再投与は、おそらくベクターに対して生成された中和抗体の生成により、無効であり得ることが実証されている。Xiao,et al.1999;Halbert,et al.1997。この問題は、カプシドが異なるAAV血清型からのタンパク質からなり、最初のrAAVベクターに対する中和抗体の存在によって影響を受けないrAAV粒子の投与によって回避され得る。Xiao,et al.1999。上記の理由から、AAV2を含みかつAAV2に加えて、血清型からのcap遺伝子を使用して構築された組換えAAVベクターが望ましい。rHSVと同様であるが、他のAAV血清型、例えば、AAV1、AAV2、AAV3、AAV5~AAV9からのcap遺伝子をコードする組換えHSVベクターの構築は、rHSVを産生するために本明細書に記載の方法を使用して達成可能であることが認識される。本明細書に記載の本開示の特定の好ましい実施形態では、異なるAAVからのcap遺伝子を使用して構築された組換えAAVベクターが、好ましい。これらの追加のrHSVベクターの構築の重要な利点は、rAAVの大規模生産に使用される代替方法と比較して、容易さと時間の節約である。特に、各異なるカプシド血清型に新しいrep及びcap誘導細胞株を構築するという困難なプロセスが回避される。
【0145】
本明細書に記載の本開示の特定の好ましい実施形態では、例えば、非バリアントAAVカプシドと比較して、内耳組織または細胞において向性及び/または形質導入の増加を示すバリアントAAVカプシドポリペプチドをコードするcap遺伝子を使用して構築された組換えAAVベクターが、好ましい。そのようなバリアントバリアントAAVカプシドポリペプチドは、本明細書に記載されている。例示的なバリアントAAVカプシドポリペプチドを表1に提供する。
【0146】
バリアントAAVカプシドポリペプチド
本開示は、一般に、例えば、非バリアントAAVカプシドポリペプチドと比較して、内耳組織または細胞において向性及び/または形質導入の増加を示すバリアントアデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドポリペプチド、及び難聴、例えば、遺伝子欠失に関連する難聴の治療または予防で使用するための方法を提供する。
【0147】
いくつかの実施形態によれば、バリアントAAVカプシドポリペプチドは、バリアントAAV1カプシドポリペプチド、バリアントAAV2カプシドポリペプチド、バリアントAAV3カプシドポリペプチド、バリアントAAV4カプシドポリペプチド、バリアントAAV5カプシドポリペプチド、バリアントAAV6カプシドポリペプチド、バリアントAAV7カプシドポリペプチド、バリアントAAV8カプシドポリペプチド、バリアントAAV9カプシドポリペプチド、バリアントrh-AAV10カプシドポリペプチド、バリアントAAV10カプシドポリペプチド、バリアントAAV11カプシドポリペプチド及びバリアントAAV12カプシドポリペプチドからなる群から選択される。いくつかの実施形態によれば、バリアントAAVカプシドポリペプチドは、バリアントAAV2カプシドポリペプチドである。
【0148】
いくつかの実施形態によれば、バリアントAAVカプシドポリペプチドは、表1に列挙されたアミノ酸配列、またはそれに対して少なくとも約85%、90%、95%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、任意選択で、AAVカプシドは、VP1、VP2またはVP3カプシドポリペプチドからなる群から選択される。
【0149】
いくつかの実施形態によれば、バリアントAAVカプシドポリペプチドは、野生型AAV2カプシドポリペプチド(配列番号18)に対して1つ以上のアミノ酸置換、挿入及び/または欠失を有するアミノ酸配列を含み、任意選択で、1つ以上のアミノ酸置換、挿入及び/または欠失は、Q263、S264、Y272、Y444、R487、P451、T454、T455、R459、K490、T491、S492、A493、D494、E499、Y500、T503、K527、E530、E531、Q545、G546、S547、E548、K549、T550、N551、V552、D553、E555、K556、R585、R588及びY730からなる群から選択されるアミノ酸残基において生じる。
【0150】
いくつかの実施形態によれば、バリアントAAVカプシドポリペプチドは、Q263N、Q263A、S264A、Y272F、Y444F、R487G、P451A、T454N、T455V、R459T、K490T、T491Q、S492D、A493G、D494E、E499D、Y500F、T503P、K527R、E530D、E531D、Q545E、G546D、G546S、S547A、E548T、E548A、K549E、K549G、T550N、T550A、N551D、V552I、D553A、E555D、K556R、K556S、R585S、R588T及びY730Fからなる群から選択される野生型AAV2カプシドポリペプチド(配列番号18)に対して1つ以上のアミノ酸置換を有するアミノ酸配列を含む。
【0151】
いくつかの実施形態によれば、バリアントAAVカプシドポリペプチドは、(i)配列番号27、29、31、33または35のうちのいずれか1つのアミノ酸配列;(ii)配列番号27、29、31、33または35のうちのいずれか1つに対して少なくとも約85%、90%、95%または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列;または(iii)配列番号26、28、30、32または34のうちのいずれか1つの核酸配列によってコードされるアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態によれば、バリアントAAVカプシドポリペプチドは、配列番号27のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態によれば、バリアントAAVカプシドポリペプチドは、配列番号29のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態によれば、バリアントAAVカプシドポリペプチドは、配列番号31のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態によれば、バリアントAAVカプシドポリペプチドは、配列番号33のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態によれば、バリアントAAVカプシドポリペプチドは、配列番号35のアミノ酸配列を含む。
【0152】
いくつかの実施形態によれば、バリアントAAVカプシドポリペプチドは、非バリアントAAVカプシドポリペプチドと比較して、任意選択で、少なくとも約1倍、1.25倍、1.5倍、1.75倍、2倍、2.5倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、12倍、14倍、16倍、18倍、20倍の内耳組織または細胞におけるrAAV向性レベルの増加をもたらす。特定の実施形態では、バリアントAAVカプシドポリペプチドは、側壁またはらせん靭帯の細胞、コルチ器官の支持細胞、らせん靭帯の線維細胞、クラウジウス細胞、ベッチャー細胞、らせん隆起の細胞、前庭支持細胞、ヘンゼン細胞、ダイタース細胞、柱細胞、内指節細胞、外指節細胞、及び/または境界細胞からなる群から選択される内耳組織または細胞におけるrAAV向性レベルの増加をもたらす。
【0153】
いくつかの実施形態によれば、バリアントAAVカプシドポリペプチドは、任意選択で、非バリアントAAVカプシドポリペプチドと比較して、任意選択で、少なくとも約1倍、1.25倍、1.5倍、1.75倍、2倍、2.5倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、12倍、14倍、16倍、18倍、20倍の内耳組織または細胞におけるrAAV形質導入効率レベルの上昇をもたらす。特定の実施形態では、バリアントAAVカプシドポリペプチドは、側壁またはらせん靭帯の細胞、コルチ器官の支持細胞、らせん靭帯の線維細胞、クラウジウス細胞、ベッチャー細胞、らせん隆起の細胞、前庭支持細胞、ヘンゼン細胞、ダイタース細胞、柱細胞、内指節細胞、外指節細胞、及び/または境界細胞、内蝸牛有毛細胞、外蝸牛有毛細胞、らせん神経節細胞、前庭有毛細胞、前庭支持細胞、及び/または前庭神経節細胞からなる群から選択される内耳組織または細胞におけるrAAV形質導入効率レベルの増加をもたらす。
【0154】
組換えAAV(rAAV)ベクターの作成
本開示のrAAVベクターの産生、精製及び特徴付けは、当技術分野で公知の多くの方法のいずれかを使用して実施することができる。いくつかの実施形態によれば、rAAVベクターは、例えば、非バリアントAAVカプシドポリペプチドと比較して、内耳組織または細胞において向性及び/または形質導入の増加を示す、本明細書(例えば、表1)に記載のAAVバリアントカプシドポリペプチドをコードする。実験室規模の産生方法の概説については、例えば、Clark RK,Recent advances in recombinant adeno-associated virus vector production.Kidney Int.61s:9-15(2002);Choi VW et al.,Production of recombinant adeno-associated viral vectors for in vitro and in vivo use.Current Protocols in Molecular Biology16.25.1-16.25.24(2007)(以下Choiら);Grieger JC&Samulski RJ,Adeno-associated virus as a gene therapy vector:Vector development,production,and clinical applications.Adv Biochem Engin/Biotechnol99:119-145(2005)(以下Grieger&Samulski);Heilbronn R&Weger S,Viral Vectors for Gene Transfer:Current Status of Gene Therapeutics,in M.Schafer-Korting(ed.),Drug Delivery,Handbook of Experimental Pharmacology,197:143-170(2010)(以下Heilbronn);Howarth JL et al.,Using viral vectors as gene transfer tools.Cell Biol Toxicol26:1-10(2010)(以下Howarth)を参照のこと。以下に記載される産生方法は、非限定的な例として意図されている。
【0155】
AAVベクターの産生は、パッケージングプラスミドの同時形質導入によって達成され得る。Heilbronn。細胞株は、削除されたAAV遺伝子のrepとcap及び必要なヘルパーウイルス機能を提供する。アデノウイルスヘルパー遺伝子、VA-RNA、E2A及びE4は、2つの別個のプラスミドまたは単一のヘルパー構築物のいずれかで、AAVのrep及びcap遺伝子と一緒に形質導入される。AAVカプシド遺伝子が導入遺伝子発現カセット(目的の遺伝子、例えば、GJB2核酸;プロモーター;及び最小調節エレメントを含む)で置換され、ITRによって挟まれた組換えAAVベクタープラスミドも形質導入される。これらのパッケージングプラスミドは通常、残りの必要なAdヘルパー遺伝子であるE1A及びE1Bを構成的に発現する、ヒト細胞株である293細胞に形質導入される。これにより、目的の遺伝子を運ぶAAVベクターの増幅とパッケージングが行われる。
【0156】
現在、12のヒト血清型とヒト以外の霊長類の100を超える血清型を含む、AAVの複数の血清型が特定されている。Howarth et al.Cell Biol Toxicol26:1-10(2010)。本開示のAAVベクターは、任意の既知の血清型のAAVに由来するカプシド配列を含み得る。本明細書で使用される場合、「既知の血清型」は、当技術分野で既知の方法を使用して生成できるカプシド変異体を包含する。そのような方法には、例えば、ウイルスカプシド配列の遺伝子操作、異なる血清型のカプシド領域の露出表面のドメイン交換、及びマーカーレスキューなどの技術を使用したAAVキメラの生成が含まれる。Bowles et al. Marker rescue of adeno-associated virus(AAV)capsid mutants:A novel approach for chimeric AAV production. Journal of Virology,77(1):423-432(2003)、及びそこで引用されている参考文献を参照のこと。更に、本開示のAAVベクターは、任意の既知の血清型のAAVに由来するITRを含み得る。好ましくは、ITRは、ヒト血清型AAV1~AAV12のうちの1つに由来する。本開示のいくつかの実施形態では、1つのITR血清型のゲノムが異なる血清型カプシドにパッケージ化される、シュードタイピング方法が使用される。
【0157】
いくつかの実施形態によれば、カプシド配列は、ヒト血清型AAV1~AAV12のうちの1つに由来する。いくつかの実施形態によれば、カプシド配列は血清型AAV2に由来する。いくつかの実施形態によれば、カプシド配列は、内耳組織または細胞、例えば、支持細胞(例えば、外有毛細胞、内有毛細胞、ヘンゼン細胞、ダイテルス細胞、柱細胞、内指節細胞、外指節細胞/境界細胞、内及び外蝸牛有毛細胞、らせん神経節細胞、前庭有毛細胞、前庭支持細胞ならびに前庭神経節細胞)を標的とする高い向性を有するAAV2バリアントに由来する。特定の実施形態では、バリアントAAVカプシドポリペプチドは、側壁またはらせん靭帯の細胞、コルチ器官の支持細胞、らせん靭帯の線維細胞、クラウジウス細胞、ベッチャー細胞、らせん隆起の細胞、前庭支持細胞、ヘンゼン細胞、ダイタース細胞、柱細胞、内指節細胞、外指節細胞、境界細胞、内蝸牛有毛細胞、外蝸牛有毛細胞、らせん神経節細胞、前庭有毛細胞、前庭支持細胞、及び/または前庭神経節細胞からなる群から選択される内耳組織または細胞におけるrAAV向性及び/または形質導入効率レベルの増加をもたらす。この目的に適したカプシドは、AAV2-tYF、AAV2-MeB、AAV2-P2V2、AAV2-MeBtYFTV、AAV2-P2V6ならびにAAV5、AAV8及びAnc80L65を含む、AAV2ならびにAAV2バリアントを含む。いくつかの実施形態によれば、バリアントAAVカプシドポリペプチドは、表1に列挙されるアミノ酸配列、またはそれに対して少なくとも約85%、90%、95%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0158】
いくつかの実施形態によれば、組換えAAVベクターは、特にAAV三次元構造のループアウト領域におけるウイルスカプシド配列の遺伝子操作によって、または異なる血清型のカプシド領域の露出表面のドメイン交換によって、またはマーカーレスキューなどの技術を使用してAAVキメラの生成によって直接標的とすることができる。Bowles et al. Marker rescue of adeno-associated virus(AAV)capsid mutants:A novel approach for chimeric AAV production. Journal of Virology,77(1):423-432(2003)、及びそこで引用されている参考文献を参照のこと。
【0159】
組換えAAV(rAAV)ベクターの産生、精製及び特徴付けのための可能なプロトコルの1つが、Choiらに提供されている。一般に、次の工程:導入遺伝子発現カセットの設計、特定の受容体を標的とするためのカプシド配列の設計、アデノウイルスを含まないrAAVベクターの産生、精製及び力価が含まれる。これらの工程を以下に要約し、Choiらで詳細に説明する。
【0160】
導入遺伝子発現カセットは、一本鎖AAV(ssAAV)ベクター、または偽二本鎖導入遺伝子としてパッケージ化された「二量体」もしくは自己相補的AAV(scAAV)ベクターであり得る。Choiら、Howarthら。従来のssAAVベクターを使用すると、一般に、一本鎖AAV DNAから二本鎖DNAへの変換が必要なため、遺伝子発現の開始が遅くなる(導入遺伝子発現がプラトーに達するまで数日から数週間)。対照的に、scAAVベクターは、静止細胞の形質導入後数日以内にプラトーになる、数時間以内に遺伝子発現の開始を示す。Heilbronn。いくつかの実施形態によれば、scAAVが使用され、scAAVは、一本鎖AAVと比較して急速な形質導入開始、及び増加した安定性を有する。あるいは、導入遺伝子発現カセットを2つのAAVベクターの間に分割し得、より長い構築物の送達を可能にする。例えば、Daya S.and Berns,K.I.,Gene therapy using adeno-associated virus vectors.Clinical Microbiology Reviews,21(4):583-593(2008)(以下、Dayaら)を参照のこと。ssAAVベクターは、適切なプラスミド(例えば、GJB2遺伝子を含むプラスミドなど)を制限エンドヌクレアーゼで消化してrep及びcap断片を除去し、AAVwt-ITRを含むプラスミド骨格をゲル精製することによって構築することができる。Choiら。続いて、所望の導入遺伝子発現カセットを適切な制限部位の間に挿入して、一本鎖rAAVベクタープラスミドを構築することができる。scAAVベクターは、Choiらに記載されているように構築できる。
【0161】
次に、rAAVベクター及び適切なAAVヘルパープラスミド及びpXX6 Adヘルパープラスミドの大規模なプラスミド調製物(少なくとも1mg)を、二重CsCl勾配分画によって精製できる。Choiら。適切なAAVヘルパープラスミドは、pXRシリーズ、pXR1~pXR5から選択され得、これらは、それぞれ、AAV2 ITRゲノムのAAV血清型1~5のカプシドへのクロスパッケージングを可能にする。適切なカプシドは、カプシドの目的の細胞、例えば、内耳組織または細胞への標的化の効率に基づいて選択することができる。ゲノム(すなわち、導入遺伝子発現カセット)の長さ及びAAVカプシドを変化させる既知の方法を使用して、特定の細胞型(例えば、網膜錐体細胞)への発現及び/または遺伝子導入を改善することができる。例えば、Yang GS, Virus-mediated transduction of murine retina with adeno-associated virus:Effects of viral capsid and genome size.Journal of Virology,76(15):7651-7660を参照のこと。いくつかの実施形態によれば、バリアントAAVカプシドポリペプチドは、表1に列挙されるアミノ酸配列、またはそれに対して少なくとも約85%、90%、95%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0162】
次に、293細胞に、pXX6ヘルパープラスミド、rAAVベクタープラスミド及びAAVヘルパープラスミドをトランスフェクトする。Choiら。その後、分画された細胞可溶化物は、rAAV精製の多段階プロセスを受け、続いてCsCl勾配精製またはヘパリンセファロースカラム精製のいずれかが行われる。rAAVビリオンの産生及び定量は、ドットブロットアッセイを使用して決定することができる。細胞培養におけるrAAVのin vitro形質導入は、ウイルスの感染性と発現カセットの機能を検証するために使用できる。
【0163】
Choiらに記載されている方法に加えて、AAVの産生のための様々な他のトランスフェクション方法が、本開示の文脈において使用され得る。例えば、リン酸カルシウム沈殿プロトコルに依存する方法を含む、一過性トランスフェクション方法が利用可能である。
【0164】
rAAVベクターを産生するための実験室規模の方法に加えて、本開示は、例えば、Heilbronn、Clement,Nらを含む、AAVベクターのバイオリアクター規模の製造のための当技術分野で公知の技術を利用することができる。ヘルペスウイルスベースの系を使用した大規模なアデノ随伴ウイルスベクターの産生は、臨床研究のための製造を可能にする。Human Gene Therapy,20:796-606。
【0165】
臨床グレードのRAAVベクターを大量に得られる拡張可能な生産系という望ましい目標の達成に向けて、rAAV産生に必要な遺伝要素を細胞に送達する手段としてトランスフェクションを利用する生産系で大きく前進してきた。例えば、汚染アデノウイルスヘルパーの除去は、第3のプラスミドがアデノウイルスヘルパータンパク質をコードする核酸配列を含む、3プラスミドトランスフェクション系において、アデノウイルス感染をプラスミドトランスフェクションに置き換えることによって回避されてきた(Xiao,et al.1998)。また、2プラスミドトランスフェクション系の改良により、製造工程が簡略化され、rAAVベクターの生産効率も向上した(Grimm,et al.1998)。
【0166】
培養された哺乳動物細胞からのrAAVの収量を改善するためのいくつかの戦略は、遺伝子工学によって作成された特殊な産生細胞の開発に基づいている。1つの方法では、細胞をヘルパーアデノウイルスまたはHSVに感染させることにより、挿入されたAAVゲノムを「レスキュー」できる遺伝子操作された「プロウイルス」細胞株を使用して、大規模なrAAVの生産が達成されている。プロウイルス細胞株は、単純なアデノウイルス感染によってレスキューすることができ、トランスフェクションプロトコルに比べて効率が向上する。
【0167】
細胞からのrAAVの収量を改善するための2番目の細胞に基づく方法には、AAVのrep遺伝子とcap遺伝子、または目的のrep-capとITR遺伝子の両方をゲノムに保有する、遺伝子操作された「パッケージング」細胞株の使用が含まれる(Qiao,et al.2002)。前者の方法では、rAAVを生成するために、パッケージング細胞株にヘルパー機能、及びAAV ITR-GOIエレメントを感染またはトランスフェクトする。後者の方法は、ヘルパー機能のみを持つ細胞の感染またはトランスフェクションを必要とする。通常、パッケージング細胞株を使用したrAAVの生産は、細胞を野生型アデノウイルスまたは組換えアデノウイルスに感染させることによって開始される。パッケージング細胞はrep及びcap遺伝子を含むため、これらの要素を外因的に供給する必要はない。
【0168】
パッケージング細胞株からのrAAV収量は、プロウイルス細胞株レスキューまたはトランスフェクションプロトコルによって得られる収量よりも高いことが示されている。
【0169】
rAAVの収量の改善は、組換えHSV増幅産物系を使用した単純ヘルペスウイルス(HSV)からのヘルパー機能の送達に基づく方法を使用して行われた。細胞あたり150~500ウイルスゲノム(vg)程度の適度なレベルのrAAVベクター収量が最初に移植されたが(Conway,et al.1997)、rHSV増幅産物ベースの系の最近の改良により、実質的により高い収量の細胞あたりのrAAV v.g.及び感染性粒子(ip)が提供された(Feudner,et al.2002)。増幅産物システムは本質的に複製欠損であるが、「ガッティド」ベクター、複製コンピテント(rcHSV)、または複製欠損rHSVを使用すると、依然として免疫原性HSV成分がrAAV生産系に導入される。したがって、これらの成分の適切なアッセイと、それらを除去するための対応する精製プロトコルが実行される。
【0170】
これらの方法に加えて、目的遺伝子のパッケージングを容易にするため、懸濁液中で増殖可能である哺乳動物細胞を、AAV逆方向末端反復で挟まれた、それぞれプロモーターに作動可能に連結したAAV rep及びAAV cap遺伝子をコードする核酸配列を含む第1の組換えヘルペスウイルスと、遺伝子、例えば、GJB2遺伝子、及び前記遺伝子、例えば、GJB2遺伝子に作動可能に連結されたプロモーターを含む第2の組換えヘルペスウイルスと、共感染させることと、哺乳動物細胞にウイルスを感染させ、哺乳動物細胞内で組換えAAVウイルス粒子を生成させることと、を含む、哺乳動物細胞において組換えAAVウイルス粒子を産生するための方法が、本明細書に記載される。いくつかの実施形態では、AAV cap遺伝子は、例えば、非バリアントAAVカプシドポリペプチドと比較して、内耳組織または細胞において増加した向性を示す、本明細書(例えば、表1)に記載のAAVバリアントカプシドポリペプチドをコードする。
【0171】
ヘルペスウイルスの複製を支持することができる任意の種類の哺乳動物細胞が、本明細書に記載の本開示の方法による使用に適している。したがって、哺乳動物細胞は、本明細書の方法に記載されているように、ヘルペスウイルスの複製のための宿主細胞とみなすことができる。細胞がヘルペスウイルスの複製を支持できる限り、宿主細胞として使用するための任意の細胞型が本開示によって想到される。適切な遺伝子改変されていない哺乳動物細胞の例には、HEK-293(293)、Vero、RD、BHK-21、HT-1080、A549、Cos-7、ARPE-19及びMRC-5などの細胞株が含まれるが、これらに限定されない。
【0172】
本開示の様々な実施形態で使用される宿主細胞は、例えば、ヒト胚腎臓細胞または霊長類細胞などの哺乳動物細胞に由来し得る。他の細胞型には、細胞がヘルペスウイルス許容性である限り、BHK細胞、Vero細胞、CHO細胞、または組織培養技術が確立されている任意の真核細胞が含まれるが、これらに限定されない。「ヘルペスウイルス許容性」という用語は、ヘルペスウイルスまたはヘルペスウイルスベクターが細胞環境内で細胞内ウイルスのライフサイクル全体を完了することができることを意味する。特定の実施形態では、記載される方法は、懸濁液中で増殖する哺乳動物細胞株BHKにおいて行われる。宿主細胞は、既存の細胞株、例えば、BHK細胞株に由来するか、または新規に開発されたものであり得る。
【0173】
本明細書に記載のrAAV遺伝子構築物の製造方法はまた、懸濁液中で増殖可能である哺乳動物細胞を、それぞれプロモーターに作動可能に連結したAAV rep及びAAV cap遺伝子をコードする核酸を含む第1の組換えヘルペスウイルスと、(ii)遺伝子、例えば、GJB2、及び前記遺伝子、例えば、GJB2遺伝子に作動可能に連結されたプロモーターを含む第2の組換えヘルペスウイルスと、共感染させて、哺乳動物細胞を感染させることと、それによって哺乳類細胞内で組換えAAVウイルス粒子を生産することと、を含む方法によって哺乳動物細胞で生産された組換えAAVウイルス粒子を含む。本明細書に記載されるように、ヘルペスウイルスは、サイトメガロウイルス(CMV)、単純ヘルペス(HSV)及び水痘帯状疱疹(VZV)及びエプスタインバーウイルス(EBV)からなる群から選択されるウイルスである。組換えヘルペスウイルスは複製欠損である。いくつかの実施形態によれば、AAV cap遺伝子は、変異体またはハイブリッド(例えば、2つ以上の血清型のカプシドハイブリッド)を含む、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAVrh8、AAVrh10、Anc80L65からなる群から選択される血清型を有する。いくつかの実施形態によれば、AAV cap遺伝子は、例えば、非バリアントAAVカプシドポリペプチドと比較して、内耳組織または細胞において増加した向性を示す、本明細書(例えば、表1)に記載のAAVバリアントカプシドポリペプチドをコードする。
【0174】
参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2007/0202587号は、rAAV産生系の必要な要素を記載している。組換えAAVは、産生細胞として公知の細胞に遺伝子構築物を導入することにより、in vitroで生成される。rAAVの生成のための公知の系は、3つの基本的な要素:(1)目的の遺伝子を含む遺伝子カセット、(2)AAVのrep及びcap遺伝子を含む遺伝子カセット、ならびに(3)「ヘルパー」ウイルスタンパク質の供給源を使用する。
【0175】
最初の遺伝子カセットは、AAVの逆方向末端反復配列(ITR)が隣接する目的の遺伝子で構築される。ITRは、目的の遺伝子を宿主細胞ゲノムに統合するように機能し、組換えゲノムのカプシド形成に重要な役割を果たす。Hermonat and Muzyczka,1984;Samulski et al.1983。2番目の遺伝子カセットには、rAAVの複製とパッケージングに必要なタンパク質をコードするAAV遺伝子である、repとcapが含まれる。rep遺伝子は、DNA複製に必要な4つのタンパク質(Rep78、68、52及び40)をコードする。cap遺伝子は、ウイルスカプシドを構成する3つの構造タンパク質(VP1、VP2及びVP3)をコードする。Muzyczka and Berns,2001。
【0176】
AAVは単独では複製しないため、3番目の要素が必要である。ヘルパー機能は、rAAVの効率的な複製とパッケージングを促進する細胞環境を作成するヘルパーDNAウイルスからのタンパク質産物である。従来、rAAVにヘルパー機能を提供するためにアデノウイルス(Ad)が使用されてきたが、ヘルペスウイルスも本明細書で説明するようにこれらの機能を提供できる。
【0177】
遺伝子治療のためのrAAVベクターの産生は、懸濁液中で増殖させたBHK細胞などの適切な産生細胞株を使用して、in vitroで実施される。本開示での使用に適した他の細胞株には、HEK-293(293)、Vero、RD、BHK-21、HT-1080、A549、Cos-7、ARPE-19及びMRC-5が含まれる。
【0178】
細胞がヘルペスウイルスの複製を支持できる限り、任意の細胞型を宿主細胞として使用することができる。当業者は、宿主細胞からのヘルペスウイルスの産生に使用できる広範囲の宿主細胞に精通しているであろう。適切な遺伝子改変されていない哺乳動物宿主細胞の例には、例えば、HEK-293(293)、Vero、RD、BHK-21、HT-1080、A549、Cos-7、ARPE-19及びMRC-5などの細胞株が含まれるが、これらに限定されない。
【0179】
宿主細胞は、懸濁培養での増殖に適合させることができる。宿主細胞は、ベビーハムスター腎臓(BHK)細胞であってもよい。懸濁液中で増殖するBHK細胞株は、接着BHK細胞株の適応に由来する。両方の細胞株は市販されている。
【0180】
rAAVの生成に必要なすべての要素を提供するための1つの戦略は、2つのプラスミドとヘルパーウイルスを利用する。この方法は、必要な遺伝子産物をコードする遺伝子カセットを含むプラスミドによる産生細胞のトランスフェクション、及びヘルパー機能を提供するためのAdによる細胞の感染に依存する。この系は、2つの異なる遺伝子カセットを有するプラスミドを採用する。1番目は、rAAVとしてパッケージ化される組換えDNAをコードするプロウイルスプラスミドである。2番目は、rep及びcap遺伝子をコードするプラスミドである。これらの様々な要素を細胞に導入するために、細胞にAdを感染させ、2つのプラスミドをトランスフェクトする。Adによって提供される遺伝子産物は、遺伝子E1a、E1b、E2a、E4orf6及びVaによってコードされる。Samulski et al.1998:Hauswirth et al.2000;Muzyczka and Burns,2001。あるいは、より最近のプロトコルでは、Ad感染工程を、VA、E2A及びE4遺伝子を含むアデノウイルス「ヘルパープラスミド」でのトランスフェクションに置き換えることができる。Xiao et al.1998;Matsushita,et al.1998。
【0181】
従来、rAAV産生のヘルパーウイルスとしてAdが使用されてきたが、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)などの他のDNAウイルスも同様に使用できる。AAV2の複製とパッケージングに必要なHSV-1遺伝子の最小セットが特定されており、初期遺伝子UL5、UL8、UL52及びUL29が含まれる。Muzyczka and Burns,2001。これらの遺伝子は、HSV-1コア複製機構の成分、すなわち、ヘリカーゼ、プライマーゼ、プライマーゼアクセサリータンパク質、及び一本鎖DNA結合タンパク質をコードする。Knipe,1989;Weller,1991。HSV-1のこのrAAVヘルパー特性は、rAAV産生に必要なヘルパーウイルス遺伝子産物を提供できる組換えヘルペスウイルスベクターの設計及び構築に利用されてきた。Conway et al.1999。
【0182】
遺伝子治療のためのrAAVベクターの産生は、懸濁液中で増殖させたBHK細胞などの適切な産生細胞株を使用して、in vitroで実施される。本開示での使用に適した他の細胞株には、HEK-293(293)、Vero、RD、BHK-21、HT-1080、A549、Cos-7、ARPE-19及びMRC-5が含まれる。
【0183】
細胞がヘルペスウイルスの複製を支持できる限り、任意の細胞型を宿主細胞として使用することができる。当業者は、宿主細胞からのヘルペスウイルスの産生に使用できる広範囲の宿主細胞に精通しているであろう。適切な遺伝子改変されていない哺乳動物宿主細胞の例には、例えば、HEK-293(293)、Vero、RD、BHK-21、HT-1080、A549、Cos-7、ARPE-19及びMRC-5などの細胞株が含まれるが、これらに限定されない。
【0184】
宿主細胞は、懸濁培養での増殖に適合させることができる。本開示の特定の実施形態では、宿主細胞はベビーハムスター腎臓(BHK)細胞である。懸濁液中で増殖するBHK細胞株は、接着BHK細胞株の適応に由来する。両方の細胞株は市販されている。
【0185】
rHSVベースのrAAV製造プロセス
懸濁液中で増殖する細胞における組換えAAVウイルス粒子の産生のための方法は、本明細書に記載される。いくつかの実施形態によれば、AAV粒子は、例えば、非バリアントAAVカプシドポリペプチドと比較して、内耳組織または細胞において向性及び/または形質導入の増加を示す、本明細書(例えば、表1)に記載のAAVバリアントカプシドポリペプチドを含む。連続的に確立された細胞株からの懸濁培養または非足場依存培養は、細胞及び細胞製品の大規模生産の最も広く使用されている手段である。発酵技術に基づく大規模な懸濁培養は、哺乳動物細胞製品の製造に明らかな利点を有する。温度、溶存酸素及びpHの正確な監視と制御を可能にし、培養の代表的な試料を確実に採取できるように、バイオリアクター内で均一な条件を提供できる。使用されるrHSVベクターは、組織培養フラスコとバイオリアクターの両方で許容細胞株で高力価まで容易に増殖し、臨床及び市場生産に必要なウイルス生産レベルの規模拡大に適した生産プロトコルを提供する。
【0186】
撹拌槽バイオリアクターでの細胞培養は、非常に高い容積比培養表面積を提供し、ウイルスワクチンの生産に使用されてきた(Griffiths,1986)。更に、撹拌槽バイオリアクターは、工業的に拡張可能であることが証明されている。その一例がマルチプレートCELL CUBE細胞培養システムである。感染性ウイルスベクターを生成する能力は、特に遺伝子治療の文脈において、製薬業界にとってますます重要になっている。
【0187】
本明細書に記載の方法による細胞の増殖は、本開示のヘルペスベクターに感染可能な完全に生物学的に活性な細胞の大規模生産を可能にするバイオリアクターで行うことができる。バイオリアクターは、懸濁液及び足場に依存する動物細胞培養の両方から生物学的産物を生産するために広く使用されてきた。ほとんどの大規模な懸濁培養は、操作と規模拡張が最も簡単であるため、バッチまたは流加プロセスとして行われる。ただし、ケモスタットまたは灌流の原理に基づく連続プロセスが利用可能である。バイオリアクターシステムは、培地交換を可能にするシステムを含むように設定することができる。例えば、フィルターをバイオリアクターシステムに組み込んで、使用済み培地から細胞を分離して培地交換を容易にすることができる。ヘルペスウイルスを産生するための本方法のいくつかの実施形態では、培地交換及び灌流は、細胞増殖の特定の日に開始して実施される。例えば、培地交換と灌流は、細胞増殖の3日目に開始できる。フィルターは、バイオリアクターの外部にあってもよいし、バイオリアクターの内部にあってもよい。
【0188】
組換えAAVウイルス粒子を産生するための方法は、懸濁細胞を、それぞれプロモーターに作動可能に連結したAAV rep及びcap遺伝子をコードする核酸を含む第1の組換えヘルペスウイルスと、遺伝子構築物、例えば、GJB2遺伝子構築物及び目的の前記遺伝子に作動可能に連結したプロモーターを含む第2の組換えヘルペスウイルスと共感染させることと、それによって組換えAAVウイルス粒子を生成することと、を含み得る。細胞は、HEK-293(293)、Vero、RD、BHK-21、HT-1080、A549、Cos-7、ARPE-19及びMRC-5であり得る。いくつかの実施形態によれば、cap遺伝子は、その変異体またはハイブリッド(例えば、2つ以上の血清型のカプシドハイブリッド)を含む、AAV1、AAV2、AAV-、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAVrh8、AAVrh10、Anc80L65からなる群から選択される血清型を有するAAVから選択され得る。いくつかの実施形態によれば、AAV cap遺伝子は、例えば、非バリアントAAVカプシドポリペプチドと比較して、内耳組織または細胞において向性及び/または形質導入の増加を示す、本明細書(例えば、表1)に記載のAAVバリアントカプシドポリペプチドをコードする。細胞は、3~14の間の結合感染多重度(MOI)で感染し得る。第1のヘルペスウイルス及び第2のヘルペスウイルスは、サイトメガロウイルス(CMV)、単純ヘルペス(HSV)及び水痘帯状疱疹(VZV)及びエプスタインバーウイルス(EBV)からなる群から選択されるウイルスであり得る。ヘルペスウイルスは複製欠損であり得る。共感染は、同時感染であり得る。
【0189】
哺乳動物細胞の組換えAAVウイルス粒子を産生するための方法は、懸濁細胞を、それぞれプロモーターに作動可能に連結したAAV rep及びcap遺伝子をコードする核酸を含む第1の組換えヘルペスウイルスと、遺伝子構築物、例えば、GJB2遺伝子構築物及び前記遺伝子構築物、例えば、GJB2遺伝子構築物に作動可能に連結したプロモーターを含む第2の組換えヘルペスウイルスと共感染させることと、細胞の増殖を可能にすることと、それによって組換えAAVウイルス粒子を生成することと、を含み得、ここで、産生されたウイルス粒子の数は、接着条件下で同数の細胞で増殖したウイルス粒子の数と同じか、またはそれ以上である。細胞は、HEK-293(293)、Vero、RD、BHK-21、HT-1080、A549、Cos-7、ARPE-19及びMRC-5であり得る。cap遺伝子は、その変異体またはハイブリッド(例えば、2つ以上の血清型のカプシドハイブリッド)を含む、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAVrh8、AAVrh10、Anc80L65からなる群から選択される血清型を有するAAVから選択され得る。いくつかの実施形態によれば、AAV cap遺伝子は、例えば、非バリアントAAVカプシドポリペプチドと比較して、内耳組織または細胞において増加した向性及び/または形質導入を示す、本明細書(例えば、表1)に記載のAAVバリアントカプシドポリペプチドをコードする。細胞は、3~14の間の結合感染多重度(MOI)で感染し得る。第1のヘルペスウイルス及び第2のヘルペスウイルスは、サイトメガロウイルス(CMV)、単純ヘルペス(HSV)及び水痘帯状疱疹(VZV)及びエプスタインバーウイルス(EBV)からなる群から選択されるウイルスであり得る。ヘルペスウイルスは複製欠損であり得る。共感染は、同時感染であり得る。
【0190】
治療用タンパク質をコードする核酸配列を懸濁細胞に送達する方法であって、前記方法は、BHK細胞を、それぞれプロモーターに作動可能に連結したAAV rep及びcap遺伝子をコードする核酸を含む第1の組換えヘルペスウイルスと、遺伝子構築物、例えば、GJB2遺伝子構築物(目的の遺伝子は配列を治療用タンパク質をコードする核酸を含む)及び前記遺伝子、例えば、GJB2遺伝子に作動可能に連結したプロモーターを含む第2の組換えヘルペスウイルスと共感染させることであって、ここで、前記細胞は、3と14の間の結合感染多重度(MOI)で感染する、共感染させることと、ウイルスが細胞に感染し、治療用タンパク質を発現することを可能にすることと、それにより治療用タンパク質をコードする核酸配列が細胞に送達されることと、を含む。細胞は、HEK-293(293)、Vero、RD、BHK-21、HT-1080、A549、Cos-7、ARPE-19及びMRC-5であり得る。例えば、米国特許第9,783,826号を参照のこと。いくつかの実施形態によれば、AAV cap遺伝子は、例えば、非バリアントAAVカプシドポリペプチドと比較して、内耳組織または細胞において増加した向性及び/または形質導入を示す、本明細書(例えば、表1)に記載のAAVバリアントカプシドポリペプチドをコードする。
【0191】
治療の方法
AAVと遺伝子治療
遺伝子治療とは、疾患の原因となる遺伝子を置換、変更または補足することによる、遺伝性疾患または後天性疾患の治療を指す。これは、一般にビヒクルまたはベクターを用いて、修正遺伝子(複数可)を宿主細胞に導入することによって達成される。いくつかの実施形態によれば、本明細書に記載のrAAVは、例えば、非バリアントAAVカプシドポリペプチドと比較して、内耳組織または細胞において増加した向性及び/または形質導入を示す、AAVバリアントカプシドポリペプチドを含む(例えば、表1)。
【0192】
いくつかの実施形態によれば、GJB2 AAV構築物は、DFNB1聴覚消失表現型の治療のための遺伝子治療ビヒクルを提供する。本明細書に記載のGJB2 AAV遺伝子治療構築物及び使用方法は、患者が利用できる遺伝子治療に基づく治療がないため、長い間必要性が対処されていない、DFNB1聴覚消失の治療を提供する。
【0193】
難聴の治療方法
本明細書では、対象の聴覚障害を治療するため、または難聴(または更なる難聴)を予防するために使用できる方法が提供される。本明細書に記載の核酸の1つ以上の内耳内、例えば、蝸牛の細胞(または、蝸牛の細胞または蝸牛細胞)への送達を使用して、典型的には部分難聴または完全な聴覚消失によって定義される聴覚障害を治療することができる。
【0194】
いくつかの実施形態によれば、先天性の進行性及び非進行性の軽度から重度の感音難聴によって特徴付けられる非症候性難聴ならびに聴覚消失を治療するためにGJB2 AAVベースの遺伝子治療を用いる方法が、本明細書で提供される。本明細書に記載のGJB2 AAV遺伝子治療構築物及び使用方法は、遺伝子補充によって先天性聴覚消失を矯正するための長期(例えば、生涯)治療の例を提供する。重要なことに、本明細書に記載のGJB2 AAV遺伝子治療構築物及び使用方法は、自然の聴力を維持するが、人工内耳はそうではない。
【0195】
本明細書に記載の方法は、哺乳動物細胞における組換えAAVウイルス粒子の産生を可能にし、これは、懸濁液中で増殖することができる哺乳動物細胞を、第1の組換えヘルペスウイルス、及び遺伝性聴覚消失の治療において治療価値を有するGJB2遺伝子構築物を含む第2の組換えヘルペスウイルスを共感染させることを含む。
【0196】
GJB2は、他のギャップ結合タンパク質と関連する主要なギャップ結合タンパク質であるコネキシン26(Cx26)をコードし、蝸牛の非感覚細胞間の細胞間結合を可能にする広範なネットワークを提供する。更に、GJB2/Cx26は、コルチ器のカリウム勾配恒常性を維持することにより、正常な聴力に必要なギャップ結合ネットワークの形成に重要な役割を果たすことができる。GJB2に常染色体劣性突然変異を有する個人はDFNB1聴覚消失表現型を示し、これは遺伝的難聴の全症例のほぼ半分を占め、1000人の出生ごとに約2~3人の有病率を示す。これらは、ホモ接合性または複合ヘテロ接合性の突然変異として現れる(del Castillo&del Castillo,Front Mol Neurosci.2017;10:428)。更に、加齢に関連する難聴が加速するリスクがあるヘテロ接合保因者がいる(del Castillo&del Castillo,Front Mol Neurosci.2017;10:428)。
【0197】
一態様では、本開示は、先天性聴覚消失の全症例の約45%を占める、GJB2突然変異による遺伝的難聴を治療または予防するための新規のrAAVベースの遺伝子治療に関する。更に、本開示は、ヘテロ接合変異に関連する難聴の治療または予防に関する。本開示で詳述されるrAAV構築物は、常染色体劣性GJB2突然変異体(DFNB1)及び常染色体優性GJB2突然変異体(DFNA3A)の両方の予防または治療のための言語修得前または言語後療法に対応し、蝸牛内送達に必要な任意の方法によって投与される。本明細書に記載の遺伝子構築物は、DFNB1聴覚消失を治療及び/または予防するための方法及び/または組成物において使用され得る。
【0198】
いくつかの実施形態によれば、GJB2 AAV遺伝子治療は、重大な難聴を既に発症している対象に投与される。いくつかの実施形態によれば、GJB2 AAV遺伝子治療は、対象が難聴を発症する前に投与される。いくつかの実施形態によれば、対象は、GJB2における難聴の原因となる突然変異を同定するための分子遺伝学的検査によってDFNB1と診断される。いくつかの実施形態によれば、対象は、非症候性難聴及び聴覚消失を有する家族を有する。いくつかの実施形態によれば、対象は子供である。いくつかの実施形態によれば、対象は乳児である。
【0199】
本明細書に記載のrAAV構築物は、内耳細胞及び組織、例えば、蝸牛細胞に、従来のAAVベクターよりも高い効率で形質導入する。いくつかの実施形態によれば、本明細書に記載の組成物及び方法は、内耳細胞、例えば、蝸牛細胞への核酸の非常に効率的な送達を可能にする。いくつかの実施形態によれば、本明細書に記載の組成物及び方法は、少なくとも30%(例えば、少なくとも30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%)の内耳細胞、例えば、蝸牛細胞への導入遺伝子の送達及び発現を可能にする。いくつかの実施形態によれば、本明細書に記載の組成物及び方法は、少なくとも50%(例えば、少なくとも50、55、60、65、70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%)の内耳細胞、例えば、蝸牛細胞への導入遺伝子の送達及び発現を可能にする。いくつかの実施形態によれば、本明細書に記載の組成物及び方法は、少なくとも70%(例えば、少なくとも70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%)の内耳細胞、例えば、蝸牛細胞への導入遺伝子の送達及び発現を可能にする。いくつかの実施形態によれば、本明細書に記載の組成物及び方法は、少なくとも90%(例えば、少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%)の内耳細胞、例えば、蝸牛細胞への導入遺伝子の送達及び発現を可能にする。
【0200】
本明細書に記載のrAAV構築物は、従来のAAVベクターよりも高い効率で、聴覚有毛細胞、例えば、内有毛細胞及び/または外有毛細胞に形質導入する。いくつかの実施形態によれば、本明細書に記載の組成物及び方法は、聴覚有毛細胞、例えば、内有毛細胞及び/または外有毛細胞への核酸の非常に効率的な送達を可能にする。いくつかの実施形態によれば、本明細書に記載の組成物及び方法は、少なくとも30%(例えば、少なくとも30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%)の内有毛細胞への導入遺伝子の送達及び発現、または少なくとも30%(例えば、少なくとも30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%)の外有毛細胞への導入遺伝子の送達及び発現を可能にする。いくつかの実施形態によれば、本明細書に記載の組成物及び方法は、少なくとも50%(例えば、少なくとも50、55、60、65、70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%)の内有毛細胞への導入遺伝子の送達及び発現、または少なくとも50%(例えば、少なくとも50、55、60、65、70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%)の外有毛細胞への導入遺伝子の送達及び発現を可能にする。いくつかの実施形態によれば、本明細書に記載の組成物及び方法は、少なくとも70%(例えば、少なくとも70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%)の内有毛細胞への導入遺伝子の送達及び発現、または少なくとも70%(例えば、少なくとも70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%)の外有毛細胞への導入遺伝子の送達及び発現を可能にする。いくつかの実施形態によれば、本明細書に記載の組成物及び方法は、少なくとも90%(例えば、少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%)の内有毛細胞への導入遺伝子の送達及び発現、または少なくとも90%(例えば、少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%)の外有毛細胞への導入遺伝子の送達及び発現を可能にする。
【0201】
本明細書に記載のrAAV構築物は、内耳支持細胞に、従来のAAVベクターよりも高い効率で形質導入する。いくつかの実施形態によれば、本明細書に記載の組成物及び方法は、内耳細胞支持細胞への核酸の非常に効率的な送達を可能にする。いくつかの実施形態によれば、本明細書に記載の組成物及び方法は、少なくとも30%(例えば、少なくとも30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%)の内耳支持細胞への導入遺伝子の送達及び発現を可能にする。いくつかの実施形態によれば、本明細書に記載の組成物及び方法は、少なくとも50%(例えば、少なくとも50、55、60、65、70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%)の内耳支持細胞への導入遺伝子の送達及び発現を可能にする。いくつかの実施形態によれば、本明細書に記載の組成物及び方法は、少なくとも70%(例えば、少なくとも70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%)の内耳支持細胞への導入遺伝子の送達及び発現を可能にする。いくつかの実施形態によれば、本明細書に記載の組成物及び方法は、少なくとも90%(例えば、少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%)の内耳支持細胞への導入遺伝子の送達及び発現を可能にする。
【0202】
いくつかの実施形態によれば、本明細書に記載の核酸配列は細胞内に直接導入され、ここで、核酸配列は発現され、コードされた産物を産生させた後、得られた組換え細胞をin vivoで投与する。これは、当技術分野で公知の多数の方法のいずれかによって、例えば、電気穿孔、リポフェクション、リン酸カルシウム媒介トランスフェクションなどの方法によって達成することができる。
【0203】
したがって、GJB2などの遺伝子の欠損に関連する難聴を治療または予防するための方法が本明細書で提供される。いくつかの実施形態では、方法は、それを必要とする対象に、(i)任意選択で、非バリアントAAVカプシドポリペプチドと比較して、内耳組織または細胞において増大した向性を示すバリアントAAVカプシドポリペプチド、及び(ii)遺伝子をコードする核酸配列を含むポリヌクレオチドを含む有効量の組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ビリオンを投与することを含む。
【0204】
更に、難聴に関連するGJB2などの遺伝子をコードする核酸配列を内耳組織または細胞に送達するための方法が本明細書で提供される。いくつかの実施形態では、方法は、それを必要とする対象に、(i)任意選択で、非バリアントAAVカプシドポリペプチドと比較して、内耳組織または細胞において増大した向性を示すバリアントAAVカプシドポリペプチド、及び(ii)遺伝子をコードする核酸配列を含むポリヌクレオチドを含む有効量の組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ビリオンを投与することを含む。
【0205】
本明細書で提供される方法は、内耳組織または細胞における遺伝子の発現の増加をもたらすことができる。いくつかの実施形態によれば、本方法は、任意選択で、遺伝子の通常の発現と比較して、遺伝子、例えば、GJB2の発現を少なくとも約1倍、1.25倍、1.5倍、1.75倍、2倍、2.5倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、12倍、14倍、16倍、18倍、20倍増加させる。いくつかの実施形態では、本方法は、内耳組織または細胞における遺伝子、例えば、GJB2の過剰発現をもたらすことができる。
【0206】
本明細書で提供される方法は、rAAV中和抗体(NAb)力価のレベルの低下をもたらし得る。いくつかの実施形態によれば、本明細書に記載の方法は、任意選択で、対照レベルと比較して、rAAV Nab力価のレベルを少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または99%低下させる。
【0207】
本明細書で提供される方法は、内耳の炎症及び/または毒性のレベルを低下させることができる。いくつかの実施形態によれば、本方法は、任意選択で、投与前の内耳炎症または毒性レベルと比較して、内耳炎症または毒性レベルを少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または99%低下させる。いくつかの実施形態では、本方法は、任意選択で、投与前の内耳炎症または毒性の進行と比較して、任意選択で、少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または99%の内耳炎症または毒性の進行の遅延をもたらす。特定の実施形態では、内耳炎症及び/または毒性のレベルは、非バリアントAAVカプシドを含むAAVビリオンの投与に関連する内耳炎症及び/または毒性のレベルである。特定の実施形態では、内耳炎症及び/または毒性のレベルは、対象における難聴により特徴付けられる基礎疾患及び/または障害に関連する内耳炎症及び/または毒性のレベルである。
【0208】
本明細書で提供される方法は、有毛細胞の喪失、変性及び/または死滅レベルの低下をもたらすことができる。いくつかの実施形態によれば、本方法は、任意選択で、投与前の有毛細胞の喪失、変性及び/または死滅レベルと比較して、有毛細胞の損失、変性及び/または死滅レベルを少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または99%低下させる。
【0209】
本明細書で提供される方法は、らせん神経節細胞の喪失、変性及び/または死滅レベルの低下をもたらすことができる。いくつかの実施形態によれば、本方法は、任意選択で、投与前のらせん神経節細胞の損失、変性及び/または死滅レベルと比較して、らせん神経節細胞の損失、変性及び/または死滅レベルを少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または99%低下させる。
【0210】
本明細書で提供される方法は、聴力の様々な改善をもたらすことができる。聴力の改善は、当技術分野で公知の多くの方法で評価することができる。例えば、生理学的検査は、聴覚系の機能状態を客観的に判断するために使用することができ、年齢を問わず実施することができる。生理学的検査の例としては、聴覚脳幹反応検査(ABR;BAER、BSERとも称される)、聴覚定常状態反応検査(ASSR)、誘発耳音響放射(EOAE)、イミタンス検査(ティンパノメトリー、音響反射閾値、音響反射減衰)を含む。
【0211】
聴性脳幹反応検査(ABR;BAER、BSERとも称される)は、刺激(クリック音または純音)を使用して、第8脳神経及び聴性脳幹に由来し、表面電極で記録される電気生理学的反応を誘発する。
【0212】
聴覚定常状態反応検査(ASSR)は、どちらも聴覚誘発電位であり、同様の方法で測定されるという点でABRに似ている。ASSRは、客観的な統計ベースの数学的検出アルゴリズムを使用して、聴覚閾値を検出及び定義する。ASSRは、広帯域または周波数固有の刺激を使用して取得でき、重度から最重度の範囲で聴覚閾値の区別を提供できる。それは、ABRが提供しない周波数固有の情報を提供するためによく使用される。500、1000、2000及び4000Hzの検査周波数が一般的に使用される。いくつかの実施形態では、本明細書で提供される方法は、ASSR応答の改善をもたらす。
【0213】
誘発耳音響放射(EOAE)は、マイクロフォンとトランスデューサを備えたプローブを使用して外耳道で測定される、蝸牛内で発生する音である。EOAEは主に、広い周波数範囲にわたる蝸牛の外有毛細胞の活動を反映し、40~50dB HLよりも優れた聴力を有する耳に存在する。いくつかの実施形態では、本明細書で提供される方法は、EOAE応答の改善をもたらす。
【0214】
イミタンス検査(ティンパノメトリー、音響反射閾値、音響反射減衰)では、中耳圧、鼓膜の可動性、耳管機能、中耳小骨の可動性を含む末梢聴覚系を評価する。いくつかの実施形態では、本明細書で提供される方法は、イミタンス検査応答の改善をもたらす。
【0215】
本明細書で提供される方法は、歪成分耳音響放射(DPOAE)プロファイルの改善をもたらすことができる。例えば、DPOAEは、外耳道内に提示される所与の周波数及び音圧レベルの2つのトーンに応答して蝸牛内で生成され得る。特定の実施形態では、DPOAEは、正常に機能する蝸牛外有毛細胞の客観的指標として役立ち得る。いくつかの実施形態によれば、本明細書に記載する方法は、DPOAEプロファイルの悪化の防止、遅延または減速をもたらす。
【0216】
本明細書で提供される方法は、改善された音声理解をもたらすことができる。いくつかの実施形態では、本方法の結果は、音声理解の低下を防止、遅延または減速をもたらすことができる。
【0217】
本明細書で使用する場合、対照レベルは、例えば、rAAVの投与前に、対象から得られたレベル、任意選択で、対象からの試料に基づくことができる。いくつかの実施形態では、対照レベルは、バリアントAAVカプシドポリペプチドを含まないrAAVの投与から得られるレベルに基づき、任意選択で、バリアントAAVカプシドポリペプチドを含まないrAAVは、AAV2及びAnc80L65から選択されるrAAVカプシドポリペプチドを含む。
【0218】
本方法は、側壁またはらせん靭帯の細胞、コルチ器の支持細胞、らせん靭帯の線維細胞、クラウジウス細胞、ベッチェル細胞、らせん隆起の細胞、前庭支持細胞、ヘンゼン細胞、ダイテルス細胞、柱細胞、内指節細胞、外指骨細胞、境界細胞、内蝸牛有毛細胞、外蝸牛有毛細胞、らせん神経節細胞、前庭有毛細胞、前庭支持細胞、及び/または前庭神経節細胞におけるGJB2などの目的の遺伝子をコードする核酸配列への送達及びその発現をもたらすことができる。特定の実施形態では、本方法は、細胞側壁またはらせん靭帯の支持細胞、コルチ器の支持細胞、らせん靭帯の線維細胞、クラウジウス細胞、ベッチェル細胞、らせん突起の細胞、前庭支持細胞、ヘンゼン細胞、ダイテルス細胞、柱細胞、内指節骨細胞、外側指節細胞、境界細胞、内及び外蝸牛有毛細胞、らせん神経節細胞、前庭有毛細胞、前庭支持細胞、及び/または前庭神経節の神経細胞の少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または99%のGJB2などの目的の遺伝子をコードする核酸配列への送達及びその発現をもたらす。
【0219】
医薬組成物
いくつかの態様によれば、本開示は、任意選択で、薬学的に許容される賦形剤中に、本明細書に記載のAAVのいずれかを含む医薬組成物を提供する。例えば、本開示は、(i)任意選択で、非バリアントAAVカプシドポリペプチドと比較して、内耳組織または細胞において増大した向性を示すバリアントAAVカプシドポリペプチド、及び(ii)目的の遺伝子、例えば、GJB2をコードする核酸配列を含むポリヌクレオチドを含む有効量の組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ビリオンを含む、様々な組成物を提供する。
【0220】
当技術分野で周知のように、薬学的に許容される賦形剤は、薬理学的に有効な物質の投与を容易にする比較的不活性な物質であり、液体溶液もしくは懸濁液として、エマルションとして、または使用前に液体に溶解もしくは懸濁するのに適した固体形態として供給することができる。例えば、賦形剤は、形態または一貫性を付与することができるか、または希釈剤として機能することができる。適切な賦形剤には、安定化剤、湿潤剤及び乳化剤、浸透圧を変えるための塩、封入剤、pH緩衝物質、ならびに緩衝剤が含まれるが、これらに限定されない。このような賦形剤には、過度の毒性なしに投与することができる耳(例えば、内耳)への直接送達に適した任意の医薬品が含まれる。薬学的に許容される賦形剤には、ソルビトール、様々なTWEEN化合物のうちのいずれか、ならびに水、生理食塩水、グリセロール及びエタノールなどの液体を含むが、これらに限定されない。薬学的に許容される塩、例えば、塩酸塩、水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩などの鉱酸塩、及び酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩、安息香酸塩などの有機酸塩をその中に含んでもよい。薬学的に許容される賦形剤の詳細な議論は、REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES(Mack Pub.Co.,NJ1991)で入手できる。
【0221】
いくつかの実施形態によれば、医薬組成物は、BSST、PBSまたはBSSのうちの1つ以上を含む。
【0222】
いくつかの実施形態によれば、医薬組成物は、ヒスチジン緩衝液を更に含む。
【0223】
必須ではないが、組成物は、正確な量の投与に適した単位剤形で任意選択で供給されてもよい。
【0224】
いくつかの実施形態によれば、組成物は、人工内耳の前に対象に投与される。
【0225】
投与方法
一般に、本明細書に記載の組成物は、耳への投与のために処方される。いくつかの実施形態によれば、組成物は、蝸牛のコルチ器(OC)の細胞への投与のために処方される。OCの細胞には、ヘンゼン細胞、ダイテルス細胞、柱細胞、内指節細胞及び/または外指節細胞/境界細胞が含まれる。OCには、2つの種類の感覚有毛細胞:音によって運ばれる力学的な情報を神経細胞構造に伝わる電気信号に変換する内有毛細胞(IHC)、及び複雑な聴覚機能に必要な蝸牛応答を増幅かつ調整する役割を担う外有毛細胞(OHC)が含まれる。いくつかの実施形態によれば、組成物は、IHC及び/またはOHCへの投与のために処方される。
【0226】
高カリウム内リンパ液で満たされた蝸牛管への注射は、有毛細胞への直接アクセスを提供する可能性がある。しかし、このデリケートな液体環境の変化は、蝸牛内電位を混乱させ、注射関連毒性のリスクを高める可能性がある。蝸牛管、鼓室階及び前庭階を取り囲む外リンパで満たされた空間には、楕円または正円窓膜を通してアクセスできる。内耳への非骨性開口部である正円窓膜は、多くの動物モデルでアクセス可能であり、この経路を使用したウイルスベクターの投与は十分に許容される。ヒトでは、人工内耳の留置は通常、正円窓膜を介した外科用電極の挿入に依存する。いくつかの実施形態によれば、組成物は、正円窓膜を介した注射によって投与される。いくつかの実施形態によれば、組成物は、鼓室階または中心階への注射によって投与される。いくつかの実施形態によれば、組成物は、外科手術中、例えば、人口内耳手術中または管手術中に投与される。
【0227】
いくつかの実施形態によれば、組成物は、蝸牛または前庭系へ投与され、任意選択で、送達は、正円窓膜(RWM)、卵円窓、もしくは半規管を介した蝸牛または前庭系への直接投与を含む。いくつかの実施形態では、直接投与は注射による。いくつかの実施形態では、投与は、静脈内、脳室内、蝸牛内、髄腔内、筋肉内、皮下またはこれらの組み合わせである。
【0228】
本明細書に記載の蝸牛細胞を安全かつ効果的に形質導入することにより、本開示の方法を使用して、例えば、ヒトなどの個体を治療することができ、ここで、形質導入された細胞は、聴力または前庭機能を長期間(例えば、数か月、数年、数十年、生涯)にわたって回復させるのに十分な量のGJB2を産生する。
【0229】
本開示の治療方法によれば、送達されるベクターの量は、対象の年齢など治療を受ける対象の特徴、及びベクターが送達される領域の容積に基づいて決定され得る。いくつかの実施形態によれば、注入される組成物の量は、約10μlと約1000μlの間、または約10μlと約50μlの間、または約25μlと約35μlの間、または約100μlと約1000μlの間、または約100μlと約500μlの間、または約500μlと約1000μlの間である。いくつかの実施形態によれば、注入される組成物の体積は、約1μl、2μl、3μl、4μl、5μl、6μl、7μl、8μl、9μl、10μl、15μl、20μl、25μl、30μl、35μl、40μl、45μl、50μl、75μl、100μl、200μl、300μl、400μl、500μl、600μl、700μl、800μl、900μlもしくは1mL、またはその間の任意の量のうちのいずれか1つ程度より多い。いくつかの実施形態によれば、注入される組成物の体積は、少なくとも約1μl、2μl、3μl、4μl、5μl、6μl、7μl、8μl、9μl、10μl、15μl、20μl、25μl、30μl、35μl、40μl、45μl、50μl、75μl、100μl、200μl、300μl、400μl、500μl、600μl、700μl、800μl、900μlもしくは1mL、またはその間の任意の量のうちのいずれか1つ程度である。いくつかの実施形態によれば、注入される組成物の体積は、約1μl、2μl、3μl、4μl、5μl、6μl、7μl、8μl、9μl、10μl、15μl、20μl、25μl、30μl、35μl、40μl、45μl、50μl、75μl、100μl、200μl、300μl、400μl、500μl、600μl、700μl、800μl、900μlもしくは1mL、またはその間の任意の量のうちのいずれか1つ程度である。
【0230】
本開示の治療方法によれば、投与されるベクターの濃度は、製造方法に応じて異なり得、特定の投与経路に対して治療上有効であると決定された濃度に基づいて選択または最適化され得る。いくつかの実施形態によれば、1ミリリットル当たりのベクターゲノムにおける濃度(vg/ml)は、約108vg/ml、約109vg/ml、約1010vg/ml、約1011vg/ml、約1012vg/ml、約1013vg/ml、及び約1014vg/mlからなる群から選択される。好ましい態様では、濃度は1010vg/ml~1013vg/mlの範囲である。
【0231】
本明細書に記載の組成物の有効性は、いくつかの基準によって監視することができる。例えば、本開示の方法を用いて対象を治療した後、対象は、例えば、疾患状態の1つ以上の徴候または症状の進行の改善及び/または安定化及び/または遅延について、本明細書に記載されているものを含む1つ以上の臨床パラメータによって評価され得る。このような試験の例は、当技術分野で公知であり、客観的及び主観的な(例えば、対象が報告した)尺度を含む。いくつかの実施形態によれば、これらの試験は、聴覚脳幹反応(ABR)測定、音声知覚、コミュニケーションモード、及び聴覚反応認識の主観的評価を含み得るが、これらに限定されない。
【0232】
いくつかの実施形態によれば、無症候性難聴及び聴覚消失(DFNB1)を示す対象を最初に試験し、可聴範囲にわたる対象の閾値聴力感度を決定した。次いで、対象は、本明細書に記載のrAAV組成物で治療された。dBで測定された周波数に応じて閾値聴力レベルの変化が決定される。いくつかの実施形態によれば、聴力の改善は、任意の周波数での少なくとも1つの耳における閾値聴力感度の5dB~50dBの改善として決定される。いくつかの実施形態によれば、聴力の改善は、任意の周波数での少なくとも1つの耳における閾値聴力感度の10dB~30dBの改善として決定される。いくつかの実施形態によれば、聴力の改善は、任意の周波数での少なくとも1つの耳における閾値聴力感度の10dB~20dBの改善として決定される。
【0233】
非限定的な実施形態
1.遺伝子欠失に関連する難聴を治療または予防する方法であって、前記方法は、それを必要とする対象に、
(i)任意選択で、非バリアントAAVカプシドポリペプチドと比較して、内耳組織または細胞において増加した向性を示すバリアントAAVカプシドポリペプチドと、
(ii)前記遺伝子をコードする核酸配列を含むポリヌクレオチドと、を含む、有効量の組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ビリオンを投与することを含む、前記方法。
【0234】
2.難聴に関連する遺伝子をコードする核酸配列を内耳組織または細胞に送達する方法であって、それを必要とする対象に、
(i)任意選択で、非バリアントAAVカプシドポリペプチドと比較して、内耳組織または細胞において増加した向性を示すバリアントAAVカプシドポリペプチドと、
(ii)前記遺伝子をコードする核酸配列を含むポリヌクレオチドと、を含む、有効量の組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ビリオンを投与することを含む、前記方法。
【0235】
3.前記内耳組織または前記内耳細胞は、蝸牛組織もしくは蝸牛細胞、または前庭組織もしくは前庭細胞である、実施形態1または2に記載の方法。
【0236】
4.前記内耳組織または前記内耳細胞は、蝸牛組織もしくは蝸牛細胞である、実施形態1または2に記載の方法。
【0237】
5.前記バリアントAAVカプシドポリペプチドは、任意選択で、バリアントAAV1カプシドポリペプチド、バリアントAAV2カプシドポリペプチド、バリアントAAV3カプシドポリペプチド、バリアントAAV4カプシドポリペプチド、バリアントAAV5カプシドポリペプチド、バリアントAAV6カプシドポリペプチド、バリアントAAV7カプシドポリペプチド、バリアントAAV8カプシドポリペプチド、バリアントAAV9カプシドポリペプチド、バリアントrh-AAV10カプシドポリペプチド、バリアントAAV10カプシドポリペプチド、バリアントAAV11カプシドポリペプチド、バリアントAAV12カプシドポリペプチド及びバリアントAnc80カプシドポリペプチドからなる群から選択される任意のバリアントAAVカプシドポリペプチドである、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0238】
6.前記バリアントAAVカプシドポリペプチドはバリアントAAV2カプシドポリペプチドである、先行実施形態のいずれか1つに記載の組成物。
【0239】
7.(i)前記バリアントAAVカプシドポリペプチドは、表1に列挙されたアミノ酸配列、またはそれに対して少なくとも約85%、90%、95%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、任意選択で、前記AAVカプシドは、VP1、VP2またはVP3カプシドポリペプチドからなる群から選択され、及び/または、
(ii)前記バリアントAAVカプシドポリペプチドは、表1に列挙されたアミノ酸配列、またはそれに対して少なくとも約85%、90%、95%もしくは99%の配列相同性を有するアミノ酸配列を含み、任意選択で、前記AAVカプシドは、VP1、VP2またはVP3カプシドポリペプチドからなる群から選択される、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0240】
8.前記バリアントAAVカプシドポリペプチドは、野生型AAV2カプシドポリペプチド(配列番号18)に対して1つ以上のアミノ酸置換、挿入及び/または欠失を有するアミノ酸配列を含み、任意選択で、1つ以上のアミノ酸置換、挿入及び/または欠失は、Q263、S264、Y272、Y444、R487、P451、T454、T455、R459、K490、T491、S492、A493、D494、E499、Y500、T503、K527、E530、E531、Q545、G546、S547、E548、K549、T550、N551、V552、D553、E555、K556、R585、R588及びY730からなる群から選択されるアミノ酸残基において生じる、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0241】
9.前記バリアントAAVカプシドポリペプチドは、Q263N、Q263A、S264A、Y272F、Y444F、R487G、P451A、T454N、T455V、R459T、K490T、T491Q、S492D、A493G、D494E、E499D、Y500F、T503P、K527R、E530D、E531D、Q545E、G546D、G546S、S547A、E548T、E548A、K549E、K549G、T550N、T550A、N551D、V552I、D553A、E555D、K556R、K556S、R585S、R588T及びY730Fからなる群から選択される野生型AAV2カプシドポリペプチド(配列番号18)に対して1つ以上のアミノ酸置換を有するアミノ酸配列を含む、実施形態8に記載の方法。
【0242】
10.前記バリアントAAVカプシドポリペプチドは、
(i)配列番号27、29、31、33または35のいずれか1つのアミノ酸配列、
(ii)配列番号27、29、31、33または35のいずれかに対して少なくとも約85%、90%、95%または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列、または、
(iii)配列番号26、28、30、32または34のいずれか1つの核酸配列によってコードされるアミノ酸配列を含む、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0243】
11.前記バリアントAAVカプシドポリペプチドは配列番号27のアミノ酸配列を含む、実施形態1~10のいずれか1つに記載の方法。
【0244】
12.前記バリアントAAVカプシドポリペプチドは配列番号29のアミノ酸配列を含む、実施形態1~10のいずれか1つに記載の方法。
【0245】
13.前記バリアントAAVカプシドポリペプチドは配列番号31のアミノ酸配列を含む、実施形態1~10のいずれか1つに記載の方法。
【0246】
14.前記バリアントAAVカプシドポリペプチドは配列番号33のアミノ酸配列を含む、実施形態1~10のいずれか1つに記載の方法。
【0247】
15.前記バリアントAAVカプシドポリペプチドは配列番号35のアミノ酸配列を含む、実施形態1~10のいずれか1つに記載の方法。
【0248】
16.前記バリアントAAVカプシドポリペプチドは、任意選択で、非バリアントAAVカプシドポリペプチドと比較して、任意選択で、少なくとも約1倍、1.25倍、1.5倍、1.75倍、2倍、2.5倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、12倍、14倍、16倍、18倍、20倍の前記内耳組織または前記内耳細胞におけるrAAV向性レベルの増加をもたらす、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0249】
17.前記バリアントAAVカプシドポリペプチドは、任意選択で、非バリアントAAVカプシドポリペプチドと比較して、任意選択で、少なくとも約1倍、1.25倍、1.5倍、1.75倍、2倍、2.5倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、12倍、14倍、16倍、18倍、20倍の前記内耳組織または前記内耳細胞におけるrAAV形質導入効率レベルの増加をもたらす、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0250】
18.前記方法は、任意選択で、前記遺伝子の 通常の発現と比較して、任意選択で、少なくとも約1倍、1.25倍、1.5倍、1.75倍、2倍、2.5倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、12倍、14倍、16倍、18倍、20倍の前記内耳組織または前記内耳細胞における前記遺伝子の発現の増加をもたらす、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0251】
19.前記方法は、前記内耳組織または前記内耳細胞におけるGJB2発現の過剰発現をもたらす、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0252】
20.前記方法は、任意選択で、対照レベルと比較して、任意選択で、少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または99%のrAAV中和抗体(NAb)力価レベルの低下をもたらす、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0253】
21.前記方法は、任意選択で、投与前の内耳炎症または毒性レベルと比較して、任意選択で、少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または99%の内耳炎症または内耳毒性レベルの低下をもたらす、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0254】
22.前記方法は、任意選択で、投与前の内耳炎症または毒性の進行と比較して、任意選択で、少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または99%の内耳炎症または内耳毒性の進行の遅延をもたらす、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0255】
23.前記方法は、任意選択で、投与前の有毛細胞の喪失、変性及び/または死滅レベルと比較して、任意選択で、少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または99%の有毛細胞の喪失、変性及び/または死滅レベルの低下をもたらす、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0256】
24.前記方法は、任意選択で、投与前のらせん神経節細胞の喪失、変性及び/または死滅レベルと比較して、任意選択で、少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または99%のらせん神経節細胞の喪失、変性及び/または死滅レベルの低下をもたらす、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0257】
25.前記方法は、任意選択で、投与前の聴覚脳幹反応(ABR)閾値レベルと比較して、任意の周波数での、任意選択で、少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または99%のABR閾値の減少をもたらす、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0258】
26.前記方法は、歪成分耳音響放射(DPOAE)プロファイルの改善をもたらす、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0259】
27.前記方法は、DPOAEプロファイルの悪化の防止、遅延または減速をもたらす、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0260】
28.前記方法は、音声理解及び/または音声明瞭の改善をもたらす、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0261】
29.前記方法は、音声理解及び/または音声明瞭の低下の防止、遅延または減速をもたらす、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0262】
30.前記制御レベルは、
前記rAAVの投与前に、前記対象から得られたレベル、任意選択で、前記対象からの試料に基づく、実施形態16~29のいずれか1つに記載の方法。
【0263】
31.前記制御レベルは、
前記バリアントAAVカプシドポリペプチドを含まないrAAVの前記投与から得られるレベルに基づき、任意選択で、前記バリアントAAVカプシドポリペプチドを含まないrAAVは、AAV2及びAnc80L65から選択されるrAAVカプシドポリペプチドを含む、実施形態16~29のいずれか1つに記載の方法。
【0264】
32.前記方法は、側壁またはらせん靭帯の細胞、コルチ器の支持細胞、らせん靭帯の線維細胞、クラウジウス細胞、ベッチェル細胞、らせん隆起の細胞、前庭支持細胞、ヘンゼン細胞、ダイテルス細胞、柱細胞、内指節細胞、外指骨細胞及び/または境界細胞におけるGJB2をコードする核酸配列への送達及びその発現をもたらす、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0265】
33.前記方法は、細胞側壁またはらせん靭帯の支持細胞、コルチ器の支持細胞、らせん靭帯の線維細胞、クラウジウス細胞、ベッチェル細胞、らせん突起の細胞、前庭支持細胞、ヘンゼン細胞、ダイテルス細胞、柱細胞、内指節骨細胞、外側指節細胞、境界細胞、内蝸牛有毛細胞、外蝸牛有毛細胞、らせん神経節細胞、前庭有毛細胞、前庭支持細胞、及び/または前庭神経節細胞の少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または99%のGJB2をコードする核酸配列への送達及びその発現をもたらす、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0266】
34.前記遺伝子はGJB2である、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0267】
35.GJB2をコードする前記核酸配列は、天然に存在しない配列である、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0268】
36.GJB2をコードする前記核酸配列は、哺乳動物GJB2をコードする、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0269】
37.GJB2をコードする前記核酸配列は、ヒト、マウス、非ヒト霊長類またはラットGJB2をコードする、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0270】
38.GJB2をコードする前記核酸配列は、配列番号10を含む、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0271】
39.GJB2をコードする前記核酸配列は、哺乳動物発現のために最適化されたコドンである、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0272】
40.GJB2をコードする前記核酸配列は、配列番号11、配列番号12または配列番号13を含む、実施形態39に記載の方法。
【0273】
41.GJB2をコードする前記核酸配列は、ヒト、ラット、非ヒト霊長類、モルモット、ミニブタ、ブタ、ネコ、ヒツジまたはマウス細胞における発現のために最適化されたコドンである、実施形態40に記載の方法。
【0274】
42.GJB2をコードする前記核酸配列は、cDNA配列である、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0275】
43.GJB2をコードする前記核酸配列は、作動可能に連結されたC末端タグまたはN末端タグを更に含む、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0276】
44.前記タグはFLAGタグまたはHAタグである、実施形態43に記載の方法。
【0277】
45.GJB2をコードする前記核酸配列は、プロモーターに作動可能に連結されている、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0278】
46.前記プロモーターは、遍在的活性CBA、小型CBA(smCBA)、EF1a、CASIプロモーター、蝸牛支持細胞プロモーター、GJB2発現特異的GFAPプロモーター、小型GJB2プロモーター、中型GJB2プロモーター、大型GJB2プロモーター、2~3個の個々のGJB2発現特異的プロモーターの連続した組み合わせ、または合成プロモーターである、実施形態45に記載の方法。
【0279】
47.前記プロモーターは、難聴を治療または予防するのに十分なGJB2発現を駆動するように最適化される、実施形態45または46に記載の方法。
【0280】
48.GJB2をコードする前記核酸配列は、作動可能に連結された3’UTR調節領域を更に含む、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0281】
49.GJB2をコードする前記核酸配列は、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)を含む作動可能に連結された3’UTR調節領域を更に含む、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0282】
50.GJB2をコードする前記核酸配列は、作動可能に連結されたポリアデニル化シグナルを更に含む、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0283】
51.前記ポリアデニル化シグナルは、SV40ポリアデニル化シグナルである、実施形態50に記載の方法。
【0284】
52.前記ポリアデニル化シグナルは、ヒト成長ホルモン(hGH)ポリアデニル化シグナルである、実施形態50に記載の方法。
【0285】
53.前記ポリヌクレオチドは、高GJB2発現を駆動するために最適化された以下のプロモーターエレメントのうちの1つに作動可能に連結されている、:(a)遍在的活性CBA、小型CBA(smCBA)、EF1aまたはCASIプロモーター;(b)蝸牛支持細胞またはGJB2発現特異的1.68kb GFAP、小型/中型/大型GJB2プロモーター、2~3個の個々のGJB2発現特異的プロモーターの連続した組み合わせまたは合成プロモーター;後にSV40またはヒト成長ホルモン(hGH)ポリアデニル化シグナルのいずれかが続くウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)を含む3’-UTR調節領域に作動可能に連結されている、27ヌクレオチドのヘマグルチニンC末端タグまたは24ヌクレオチドのFlagタグを更に含む、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0286】
54.前記ポリヌクレオチドはAAVゲノムカセットを更に含み、任意選択で、
(i)前記AAVゲノムカセットは、好ましくは約143塩基の長さの2つの配列変調逆方向末端反復と隣接しているか、または
(ii)前記AAVゲノムカセットは、約113塩基のscAAV有効化ITR(ITRΔtrs)によって分離されかつ約143塩基の配列変調ITRと両端で隣接している、好ましくは2.4kb以下の2つの逆方向同一反復からなる自己相補的AAV(scAAV)ゲノムカセットと隣接している、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0287】
55.前記ポリヌクレオチドは、好ましくは長さ約27ヌクレオチドの長さ、任意選択で約0.68キロベース(kb)のサイズのヘマグルチニンC末端タグもしくはFlagタグを含むかまたは含まない;高GJB2発現を駆動するように最適化された以下のプロモーター要素のうちの1つに作動可能に連結されている:(a)好ましくはサイズ約1.7kbの遍在的活性CBA、好ましくはサイズ約0.96kbの小型CBA(smCBA)、好ましくは約0.81kbサイズのEF1aまたは好ましくはサイズ約1.06kbのCASIプロモーター;(b)好ましくはサイズ約1.68kbの蝸牛支持細胞またはGJB2発現特異的GFAPプロモーター、好ましくはサイズ約0.13kbの小型GJB2プロモーター、好ましくはサイズ約0.54kbの中型GJB2プロモーター、好ましくはサイズ約1.0kbの大型GJB2プロモーター、または2~3個の個々のGJB2発現特異的プロモーターの連続した組み合わせ;後にSV40またはヒト成長ホルモン(hGH)ポリアデニル化シグナルのいずれかが続くウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)を含み、及びAAVゲノムカセット、または約113塩基のscAAV有効化ITR(ITRΔtrs)によって分離されかつ約143塩基の配列変調ITRと両端で隣接している、好ましくは2.4kb以下の2つの逆方向同一反復からなる自己相補的AAV(scAAV)ゲノムカセットと隣接する2つの約143塩基配列変調逆方向末端反復(ITR)のいずれかを更に含む、任意選択で0.9kbの3’-UTR調節領域に作動可能に連結されている、コドン/配列最適化ヒトGJB2 cDNAを含む、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0288】
56.前記難聴は遺伝的難聴である、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0289】
57.前記難聴はDFNB1難聴である、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0290】
58.前記難聴は、GJB2における突然変異によって引き起こされ、任意選択で、前記突然変異は、ホモ接合性突然変異またはヘテロ接合性突然変異である、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0291】
59.前記難聴は、常染色体劣性GJB2変異体(DFNB1)によって引き起こされる、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0292】
60.前記難聴は、常染色体優性GJB2突然変異体(DFNA3A)によって引き起こされる、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0293】
61.前記投与は、前記蝸牛系または前記前庭系への投与であり、任意選択で、前記送達は、前記正円窓膜(RWM)、前記卵円窓もしくは前記半規管を介した前記蝸牛系または前記前庭系への直接投与を含む、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0294】
62.前記直接投与は注射である、実施形態61に記載の方法。
【0295】
63.前記投与は、静脈内、脳室内、蝸牛内、髄腔内、筋肉内、皮下またはこれらの組み合わせである、実施形態1~60のいずれか1つに記載の方法。
【0296】
64.遺伝子欠失に関連する難聴を治療または予防することを必要とする対象における、前記遺伝子の欠乏に関連する前記難聴を治療または予防するのに使用するための組成物であって、前記組成物は、
(i)任意選択で、非バリアントAAVカプシドポリペプチドと比較して、内耳組織または内耳細胞において増加した向性を示すバリアントAAVカプシドポリペプチドと、
(ii)前記遺伝子をコードする核酸配列を含むポリヌクレオチドと、を含む、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ビリオンを含む、前記組成物。
【0297】
65.難聴に関連する遺伝子をコードする核酸配列を、前記核酸配列を必要とする対象の内耳組織または内耳細胞に送達するための組成物であって、前記組成物は、
(i)任意選択で、非バリアントAAVカプシドポリペプチドと比較して、内耳組織または内耳細胞において増加した向性を示すバリアントAAVカプシドポリペプチドと、
(ii)前記遺伝子をコードする核酸配列を含むポリヌクレオチドと、を含む、有効量の組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ビリオンを含む、前記組成物。
【0298】
66.前記内耳組織または前記内耳細胞は、蝸牛組織もしくは蝸牛細胞、または前庭組織もしくは前庭細胞である、実施形態64または65に記載の組成物。
【0299】
67.前記内耳組織または前記内耳細胞は、蝸牛組織もしくは蝸牛細胞である、実施形態64または65に記載の組成物。
【0300】
68.前記バリアントAAVカプシドポリペプチドは、バリアントAAV1カプシドポリペプチド、バリアントAAV2カプシドポリペプチド、バリアントAAV3カプシドポリペプチド、バリアントAAV4カプシドポリペプチド、バリアントAAV5カプシドポリペプチド、バリアントAAV6カプシドポリペプチド、バリアントAAV7カプシドポリペプチド、バリアントAAV8カプシドポリペプチド、バリアントAAV9カプシドポリペプチド、バリアントrh-AAV10カプシドポリペプチド、バリアントAAV10カプシドポリペプチド、バリアントAAV11カプシドポリペプチド及びバリアントAAV12カプシドポリペプチドからなる群から選択される、実施形態64~67のいずれか1つに記載の組成物。
【0301】
69.前記バリアントAAVカプシドポリペプチドはバリアントAAV2カプシドポリペプチドである、実施形態64~68のいずれか1つに記載の組成物。
【0302】
70.前記バリアントAAVカプシドポリペプチドは、表1に列挙されたアミノ酸配列、または表1に列挙された前記アミノ酸配列に対して少なくとも約85%、90%、95%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、任意選択で、前記AAVカプシドは、VP1、VP2またはVP3カプシドポリペプチドからなる群から選択される、実施形態64~69のいずれか1つに記載の組成物。
【0303】
71.前記バリアントAAVカプシドポリペプチドは、野生型AAV2カプシドポリペプチド(配列番号1)に対して1つ以上のアミノ酸置換、挿入及び/または欠失を有するアミノ酸配列を含み、任意選択で、前記1つ以上のアミノ酸置換、挿入及び/または欠失は、Q263、S264、Y272、Y444、R487、P451、T454、T455、R459、K490、T491、S492、A493、D494、E499、Y500、T503、K527、E530、E531、Q545、G546、S547、E548、K549、T550、N551、V552、D553、E555、K556、R585、R588及びY730からなる群から選択されるアミノ酸残基において生じる、実施形態64~70のいずれか1つに記載の組成物。
【0304】
72.前記バリアントAAVカプシドポリペプチドは、Q263N、Q263A、S264A、Y272F、Y444F、R487G、P451A、T454N、T455V、R459T、K490T、T491Q、S492D、A493G、D494E、E499D、Y500F、T503P、K527R、E530D、E531D、Q545E、G546D、G546S、S547A、E548T、E548A、K549E、K549G、T550N、T550A、N551D、V552I、D553A、E555D、K556R、K556S、R585S、R588T及びY730Fからなる群から選択される野生型AAV2カプシドポリペプチド(配列番号1)に対して1つ以上のアミノ酸置換を有するアミノ酸配列を含む、実施形態71に記載の組成物。
【0305】
73.前記バリアントAAVカプシドポリペプチドは、
(i)配列番号27、29、31、33または35のいずれか1つのアミノ酸配列、
(ii)配列番号27、29、31、33または35のいずれかに対して少なくとも約85%、90%、95%または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列、または、
(iii)配列番号26、28、30、32または34のいずれか1つの核酸配列によってコードされるアミノ酸配列を含む、実施形態64~72のいずれか1つに記載の組成物。
【0306】
74.前記バリアントAAVカプシドポリペプチドは配列番号27のアミノ酸配列を含む、実施形態64~73のいずれか1つに記載の組成物。
【0307】
75.前記バリアントAAVカプシドポリペプチドは配列番号29のアミノ酸配列を含む、実施形態64~73のいずれか1つに記載の組成物。
【0308】
76.前記バリアントAAVカプシドポリペプチドは配列番号31のアミノ酸配列を含む、実施形態64~73のいずれか1つに記載の組成物。
【0309】
77.前記バリアントAAVカプシドポリペプチドは配列番号33のアミノ酸配列を含む、実施形態64~73のいずれか1つに記載の組成物。
【0310】
78.前記バリアントAAVカプシドポリペプチドは配列番号35のアミノ酸配列を含む、実施形態64~73のいずれか1つに記載の組成物。
【0311】
79.前記遺伝子はGJB2である、実施形態64~78のいずれか1つに記載の組成物。
【0312】
80.GJB2をコードする前記核酸配列は、天然に存在しない配列である、実施形態64~79のいずれか1つに記載の組成物。
【0313】
81.GJB2をコードする前記核酸配列は、哺乳動物GJB2をコードする、実施形態64~80のいずれか1つに記載の組成物。
【0314】
82.GJB2をコードする前記核酸配列は、ヒト、マウス、非ヒト霊長類、ミニブタまたはラットGJB2をコードする、実施形態64~81のいずれか1つに記載の組成物。
【0315】
83.GJB2をコードする前記核酸配列は、配列番号10を含む、実施形態64~82のいずれか1つに記載の組成物。
【0316】
84.GJB2をコードする前記核酸配列は、哺乳動物発現のために最適化されたコドンである、実施形態64~83のいずれか1つに記載の組成物。
【0317】
85.GJB2をコードする前記核酸配列は、配列番号11、配列番号12または配列番号13を含む、実施形態84に記載の組成物。
【0318】
86.GJB2をコードする前記核酸配列は、ヒト、ラット、非ヒト霊長類、モルモット、ミニブタ、ブタ、ネコ、ヒツジまたはマウス細胞における発現のために最適化されたコドンである、実施形態84に記載の組成物。
【0319】
87.GJB2をコードする前記核酸配列は、cDNA配列である、実施形態64~86のいずれか1つに記載の組成物。
【0320】
88.GJB2をコードする前記核酸配列は、作動可能に連結されたC末端タグまたはN末端タグを更に含む、実施形態64~87のいずれか1つに記載の組成物。
【0321】
89.前記タグはFLAGタグまたはHAタグである、実施形態88に記載の組成物。
【0322】
90.GJB2をコードする前記核酸配列は、プロモーターに作動可能に連結されている、実施形態64~89のいずれか1つに記載の組成物。
【0323】
91.前記プロモーターは、遍在的活性CBA、小型CBA(smCBA)、EF1a、CASIプロモーター、蝸牛支持細胞プロモーター、GJB2発現特異的GFAPプロモーター、小型GJB2プロモーター、中型GJB2プロモーター、大型GJB2プロモーター、2~3個の個々のGJB2発現特異的プロモーターの連続した組み合わせ、または合成プロモーターである、実施形態90に記載の組成物。
【0324】
92.前記プロモーターは、難聴を治療または予防するのに十分なGJB2発現を駆動するように最適化される、実施形態90または91に記載の組成物。
【0325】
93.GJB2をコードする前記核酸配列は、作動可能に連結された3’UTR調節領域を更に含む、実施形態64~92のいずれか1つに記載の組成物。
【0326】
94.GJB2をコードする前記核酸配列は、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)を含む作動可能に連結された3’UTR調節領域を更に含む、実施形態64~93のいずれか1つに記載の組成物。
【0327】
95.GJB2をコードする前記核酸配列は、作動可能に連結されたポリアデニル化シグナルを更に含む、実施形態64~94のいずれか1つに記載の組成物。
【0328】
96.前記ポリアデニル化シグナルは、SV40ポリアデニル化シグナルである、実施形態95に記載の組成物。
【0329】
97.前記ポリアデニル化シグナルは、ヒト成長ホルモン(hGH)ポリアデニル化シグナルである、実施形態95に記載の組成物。
【0330】
98.前記ポリヌクレオチドは、高GJB2発現を駆動するために最適化された以下のプロモーターエレメントのうちの1つに作動可能に連結されている、:(a)遍在的活性CBA、小型CBA(smCBA)、EF1aまたはCASIプロモーター;(b)蝸牛支持細胞またはGJB2発現特異的1.68kb GFAP、小型/中型/大型GJB2プロモーター、2~3個の個々のGJB2発現特異的プロモーターの連続した組み合わせまたは合成プロモーター;後にSV40またはヒト成長ホルモン(hGH)ポリアデニル化シグナルのいずれかが続くウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)を含む3’-UTR調節領域に作動可能に連結されている、27ヌクレオチドのヘマグルチニンC末端タグまたは24ヌクレオチドのFlagタグを更に含む、実施形態64~97のいずれか1つに記載の組成物。
【0331】
99.前記ポリヌクレオチドはAAVゲノムカセットを更に含み、任意選択で、
(i)前記AAVゲノムカセットは、好ましくは約143塩基の長さの2つの配列変調逆方向末端反復と隣接しているか、または
(ii)前記AAVゲノムカセットは、約113塩基のscAAV有効化ITR(ITRΔtrs)によって分離されかつ約143塩基の配列変調ITRと両端で隣接している、好ましくは2.4kb以下の2つの逆方向同一反復からなる自己相補的AAV(scAAV)ゲノムカセットと隣接している、実施形態64~98のいずれか1つに記載の組成物。
【0332】
100.前記ポリヌクレオチドは、好ましくは長さ約27ヌクレオチドの長さ、任意選択で約0.68キロベース(kb)のサイズのヘマグルチニンC末端タグもしくはFlagタグを含むかまたは含まない;高GJB2発現を駆動するように最適化された以下のプロモーター要素のうちの1つに作動可能に連結されている:(a)好ましくはサイズ約1.7kbの遍在的活性CBA、好ましくはサイズ約0.96kbの小型CBA(smCBA)、好ましくは約0.81kbサイズのEF1aまたは好ましくはサイズ約1.06kbのCASIプロモーター;(b)好ましくはサイズ約1.68kbの蝸牛支持細胞またはGJB2発現特異的GFAPプロモーター、好ましくはサイズ約0.13kbの小型GJB2プロモーター、好ましくはサイズ約0.54kbの中型GJB2プロモーター、好ましくはサイズ約1.0kbの大型GJB2プロモーター、または2~3個の個々のGJB2発現特異的プロモーターの連続した組み合わせ;後にSV40またはヒト成長ホルモン(hGH)ポリアデニル化シグナルのいずれかが続くウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)を含み、及びAAVゲノムカセット、または約113塩基のscAAV有効化ITR(ITRΔtrs)によって分離されかつ約143塩基の配列変調ITRと両端で隣接している、好ましくは2.4kb以下の2つの逆方向同一反復からなる自己相補的AAV(scAAV)ゲノムカセットと隣接する2つの約143塩基配列変調逆方向末端反復(ITR)のいずれかを更に含む、任意選択で0.9kbの3’-UTR調節領域に作動可能に連結されている、コドン/配列最適化ヒトGJB2 cDNAを含む、実施形態64~99のいずれか1つに記載の組成物。
【0333】
101.有効量の実施形態64~100のいずれか1つに記載の組成物を、前記組成物を必要とする対象に投与することを含む、難聴を治療または予防する方法。
【0334】
102.有効量の実施形態64~100のいずれか1つに記載の組成物を、前記組成物を必要とする対象に投与することを含む、難聴に関連する遺伝子をコードする核酸配列を内耳組織または内耳細胞に送達する方法。
【0335】
103.有効量の実施形態64~100のいずれか1つに記載の組成物を、前記組成物を必要とする対象に投与することを含む、GJB2をコードする核酸配列を内耳組織または内耳細胞に送達する方法。
【0336】
104.前記対象は哺乳動物である、先行実施形態のいずれか1つに記載の組成物の方法。
【0337】
105.前記対象は霊長類である、先行実施形態のいずれか1つに記載の組成物の方法。
【0338】
次に、本開示の更なる実施形態は、以下の実施例を参照して説明される。本明細書に含有される実施例は、例示として示されており、いかなる限定のために示されているものではない。
【実施例】
【0339】
非限定的な実施例
実施例1.先天性難聴のためのGJB2遺伝子治療の送達のための新規AAVカプシドバリアントの特徴付け
遺伝子治療に最適なカプシドを特定するために、ラット及びマウスの内耳組織におけるex vivoならびに非ヒト霊長類(NHP)におけるin vivoでの発現について、新規及び以前に記載されたAAVカプシドバリアントを評価した。例示的なAAVカプシド配列を表1に提供する。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【表1-6】
【表1-7】
【表1-8】
【表1-9】
【表1-10】
【表1-11】
【表1-12】
【表1-13】
【表1-14】
【表1-15】
【表1-16】
【表1-17】
【0340】
方法
動物:P3-P5スプラーグドーリーラットの仔をすべての外植実験に使用した。カニクイザル(非ヒト霊長類、「NHP」)、年齢3~5歳をAAV中和抗体について事前にスクリーニングし、正円窓膜(RWM)を介して蝸牛に注入することにより、両側に(30μL容量で1010vg/耳)投与した。NHPを安楽死させ、蝸牛切片をAAV投与の12週間後に免疫組織化学によるGFPの発現について評価した。
【0341】
蝸牛外植片:0日目:解剖した蝸牛全体をCell-Takでコーティングしたメッシュインサート上に載せ、抗生物質を含む増殖培地で一晩インキュベートした。1日目:蝸牛を2%FBSを添加した抗生物質を含まない培地に移し、AAV(濃度範囲)で120時間連続処理した。6日目:蝸牛を4%PFAで一晩固定し、次いで、ファロイジン、抗GFP及びDAPIで免疫染色した。
【0342】
アデノ随伴ウイルス:すべてのカプシドバリアントは、CBAプロモーターを使用して緑色蛍光タンパク質(GFP)レポーター構築物の発現を駆動し、向性の迅速かつ容易に定量化可能な評価を可能にした。
【0343】
GFPの定量化:蝸牛の中央領域のZスタックを63倍で撮影し、Zeiss Zen Blackソフトウェアを使用してつなぎ合わせた。3つの関連領域(らせん靭帯、コルチ器、らせん板縁)の関心領域ボックスが描かれた。閾値を超えるGFP/抗GFPピクセル密度を、3つの領域のそれぞれについて測定した。ピクセル密度の測定単位は任意である。
【0344】
ラット外植片におけるカプシドバリアント向性の比較
蝸牛外植片の方法:P3-P5スプラーグドーリーラットの仔をすべてのex vivo実験に使用した。0日目:解剖した蝸牛全体をCell-Takでコーティングしたメッシュインサート上に載せ、抗生物質を含む増殖培地で一晩インキュベートした。1日目:蝸牛を10%FBSを添加した抗生物質を含まない培地に移し、2e10vgのAAVで120時間連続処理した。6日目:蝸牛を4%PFAで一晩固定し、以下:ファロイジン(1:500)、抗GFP(1:250)及びDAPI(1:1000)を使用して免疫組織化学的に処理し、抗退色搭載培地に載せた。GFP形質導入は、コルチ器、らせん板縁またはらせん靭帯の上に配置された3つの関心領域から測定された。閾値を超える抗GFPピクセル密度は、zシリーズの各領域について測定され、提示されたデータは任意の単位である。
【0345】
結果:
図19~
図21は、らせん板縁(
図19)、コルチ器(
図20)及びらせん靭帯(
図21)におけるOMY-906(灰色の棒)に対して正規化されたAAVカプシドバリアントGFPカバー度の比較を示す。すべてのカプシドバリアントは、2e10vgの用量で処理された。
図22A~
図22Bは、らせん靭帯、コルチ器支持細胞層及びらせん板縁を強調するためにブレンドされたzスタックとして代表的な画像を示す。カプシドOMY-911、OMY-912、OMY-914及びOMY-915は、全体的に優秀であった。
【0346】
全体として、これらのデータは、蝸牛外植片において、新規のAAVカプシドがAAV-Anc80及び野生型AAV2と比較して高レベルの形質導入を示すことを示す。
【0347】
異なる用量でのカプシドバリアント向性の比較
図23~
図26は、異なる投与量でのAAVカプシドバリアントGFPカバー度の比較を示す。
図23は、2つの用量:2e9vg及び2e10vgでのOMY-912カプシドバリアントGFPカバー度を比較する蛍光画像を示す。
図24は、2つの用量:2e9vg及び2e10vgでのOMY-915カプシドバリアントGFPカバー度を比較する蛍光画像を示す。
図25は、OMY-912とOMY-915カプシドバリアントGFPカバー度をらせん板縁で比較する棒グラフを示す。
図26は、コルチ器におけるOMY-912及びOMY-915カプシドバリアントGFPカバー度を比較する棒グラフを示す。これらのデータは、試験した両方の用量でOMY-915の全体的なGFPカバー度が高いことを示す。
【0348】
AAV-GJB2-Flagに曝露したラット蝸牛外植片におけるコネキシン26タンパク質の発現
方法:P2-P8ラットからの蝸牛外植片を、GJB2遺伝子のFLAG標識バージョンを持つAAVベクターを含有する培地で処理した。外植片は処理後48~96時間で固定され、コネキシン26及びFLAGに対する抗体で免疫染色された。組織はまた、核を標識するためにファロイジン及びDAPIで染色された。
【0349】
結果:
図27は、FLAG標識コネキシン26を発現するOMY-914カプシドバリアントに曝露された蝸牛外植片の代表的な画像を示し、これは、このウイルスが、コネキシン26タンパク質を、コルチ器、らせん板縁及びらせん靭帯などの蝸牛支持細胞の膜ならびにギャップ結合プラークに適切に送達することを示している。FLAG染色は、コネキシン26発現の領域と明らかに重複しており、FLAG標識タンパク質がコネキシン26発現の正常な部位を標的としていることを示す。これらのデータは、AAV-GJB2-Flagが、FLAG標識コネキシン26タンパク質をex vivoで蝸牛の支持細胞に正しく送達し、内因性コネキシン26発現と重複することを示す。
【0350】
AAV-GJB2-Flagをin vivoで幼若マウスまたは成体マウスに蝸牛内注射した後のコネキシン26タンパク質の発現
方法:深く麻酔した生後8日目(P8)または成体C57BL/6Jマウスに、GJB2遺伝子のFLAG標識バージョンを1e12vg/mLの力価で含む1.0μlのAAVを正円窓膜を通して蝸牛内注射した。注射後2~6週間でマウスを安楽死させ、蝸牛を固定し、コネキシン26及びFLAGに対する抗体で免疫染色した。組織はまた、核を標識するためにファロイジン及びDAPIで染色された。
【0351】
結果:
図28は、若年マウス(P8)における蝸牛内注射の代表例を示し、FLAG標識コネキシン26を含有するOMY-914カプシドバリアントは、この遺伝子治療生成物が、コネキシン26タンパク質を、コルチ器、らせん板縁及びらせん靭帯などの蝸牛支持細胞の膜ならびにギャップ結合プラークに適切に送達することを示している。
【0352】
図29は、成年マウス(2~3ヶ月齢)における蝸牛内注射の代表例を示し、FLAG標識コネキシン26を含有するOMY-914カプシドバリアントは、この遺伝子治療生成物が、コネキシン26タンパク質を、コルチ器、らせん板縁及びらせん靭帯などの蝸牛支持細胞の膜ならびにギャップ結合プラークに適切に送達することを示している。
【0353】
これらのデータは、AAV-GJB2-Flagが、コネキシン26タンパク質をin vivoで蝸牛の支持細胞に正しく送達することを示す。
【0354】
非ヒト霊長類におけるin vivoでのAAV送達と向性
非ヒト霊長類(NHP)向性実験の方法:カニクイザル(「NHP」)、年齢3~5歳をAAV中和抗体について事前にスクリーニングし、正円窓膜(RWM)を介して蝸牛に注入することにより、両側に(30μL容量で1010vg/耳)投与した。NHPを安楽死させ、蝸牛切片をAAV投与の12週間後に免疫組織化学によるGFPの発現について評価した。
【0355】
結果:非ヒト霊長類(NHP)の蝸牛を、AAVの蝸牛内注射の12週間後に免疫組織化学によって評価した(
図30)。
図30では、GFP発現のDAB染色は、赤色に疑似着色されている。
図30(上のパネル)は、蝸牛全体の低倍率画像を示し、正円窓膜(RWM)注射を介して基部付近に投与された単回AAV蝸牛内注射後に、蝸牛全体にわたって基部から頂点まで観察され得るOMY-913からの一貫した発現を実証する。
図30(下のパネル)は、OMY-913発現が、側壁(LW)、コルチ器(OC)支持細胞及びらせん板縁(SL)を含む、GJB2レスキューに関連する領域で観察されることを示す。
【0356】
全体として、これらのデータは、本明細書に記載のAAVが、いくつかの実施形態では、正円窓膜(RWM)を介した単回蝸牛内注射後に、NHP蝸牛全体にGJB2関連細胞を形質導入できることを実証している。
【0357】
これらの結果に基づき、いかなる特定の理論にも束縛されるものではないが、本明細書では、高用量で同様の形質導入効率を有するAAVカプシドバリアントが、低用量で異なる形質導入効率を示し得ることが想到された。更に、AAVカプシドバリアントは、AAV-Anc80と比較して、蝸牛外植片で高レベルのGFPカバー度を示す。Anc80は、マウスの外植片と比較して、ラットで異なる向性パターンを示す。更に、AAVカプシドバリアントは、単回RWM注射後に、コルチ器及びらせん板縁の支持細胞、ならびにらせん靭帯の線維細胞を含む、NHP蝸牛全体にGJB2関連細胞を形質導入することができた。
【0358】
実施例2:AAV媒介GJB2遺伝子治療は、コンディショナルなコネキシン26ノックアウトによって引き起こされる先天性難聴のマウスモデルにおける難聴及び蝸牛損傷をレスキューする
様々なマウス及びヒト実験の結果から、Cx26の変異が最終的に蝸牛有毛細胞のほぼ完全な変性につながる可能性があることが明らかになった。構成的ホモ接合性Cx26ノックアウトは胚性致死であるため、コンディショナルなノックアウトを利用して、内耳細胞でCX26タンパク質を失うことの影響を実験した。Cx26
loxp/loxpマウスを誘導性creマウス株または構成的creマウス株と交配することによって生成された2つの異なるコンディショナルなノックアウト株(Cx26 cKO)を利用した。誘導性cre株を使用して、時間的制御でCx26をノックアウトし、cre誘導の時間に応じて様々な程度の難聴と発育障害を観察した。生後早期のcre誘導は、生後30日目に評価した場合、Cx26 cKOマウスにおいて重度から最重度の難聴を引き起こしたが(
図31)、その後のcre誘導は、本質的に進行性の軽度から中度の難聴をもたらした。構成的cre Cx26 cKO動物は、内耳組織における胚性cre発現により、4、8、16、32及び48kHzの周波数にわたって重度から最重度の難聴を示した(
図32)。これらの様々なマウスモデルが利用可能になったことで、既知のヒト表現型を模倣する様々な難聴の重症度スペクトルにわたって、AAVを介したGJB2遺伝子治療を評価することができた。例示的なAAV-GJB2遺伝子治療(「治療薬A」)は、実施例3のトップAAVカプシドパフォーマーの1つ、配列番号1~6から選択されるプロモーター及び送達される遺伝子としてのGJB2co369を用いて構築された。
【0359】
Cx26 cKO表現型をレスキューする治療薬Aの能力を評価するために設計された実験では、出生後にCx26 cKOマウスの両方のモデルに治療薬Aまたはビヒクルの後半規管(PSCC)経路を介して蝸牛内注射を行った。ビヒクルと比較して、誘導性cre Cx26 cKO動物への治療薬Aの投与は、CX26発現を実質的に回復させ、ABRによって測定されるように複数の周波数にわたって聴力の顕著な改善をもたらした(
図33A)。更に、治療薬Aを注射したCx26cKOマウスは、ビヒクルを注射したものと比較して蝸牛の形態が大幅に改善され、ABRデータと一致した(
図33A~
図33D)。レスキューされた動物におけるCX26タンパク質の細胞内局在は正常であり、内溝、クラウジウス、ヘンゼン、柱及びダイテルス細胞、ならびにらせん隆起、ならびにらせん板縁及び側壁の線維細胞において明らかであり、これらの動物は、ビヒクルで処理された対照と比較して、生存する有毛細胞の数の増加を示した。
【0360】
実施例3.先天性難聴のためのGJB2遺伝子治療の送達のための新規AAVカプシドバリアントの更なる特徴付け
100以上の遺伝子の変異が難聴と因果関係があるとされている。アデノ随伴ウイルス(AAV)は、遺伝子治療の安全で効果的な送達ベクターであることが示されており、良好な臨床結果の実績がある。AAVカプシドは、向性に影響を与える重要な調節エレメントを表す。この実験では、GJB2遺伝子治療に最適なカプシドを特定するために、蝸牛外植片及び非ヒト霊長類(NHP)実験における理想的な向性について、新規及び以前に説明されたAAVカプシドバリアントを評価する。最適化されたカプシド、プロモーター及びヒトGJB2遺伝子要素(治療薬A)を備えたAAVベクターを設計し、蝸牛支持細胞及び線維細胞でCX26の優れた発現を提供する。また、ウイルスで発現したCX26の識別を可能にするFLAGタグで、CX26を発現する同一のAAVベクターを生成した(治療薬A-FLAG)。次に、最高性能のカプシドをGJB2導入遺伝子と共にパッケージ化し(治療薬A)、in vivo投与後にコネキシン26(CX26)タンパク質の薬力学を評価した。本明細書に記載されるように、通常はCX26を発現しないHeLa細胞を利用する細胞ベースのアッセイでは、治療薬A及び治療薬A-FLAGの両方が、細胞膜に正しく輸送されたCX26の発現を誘導した。更に、マウスの蝸牛への治療薬A-FLAGの注射は、蝸牛全体(基部から頂点まで)の目的の細胞でCX26-FLAGのほぼ完全な発現を提供した。
【0361】
治療薬AはHeLa細胞のFRAPシグナルを増強する
FRAPアッセイの方法:HeLa細胞を20,000細胞/ウェルの密度で96ウェルプレートに播種した。24時間後、細胞にAAVベクター(MOI=10,000)及びアデノウイルス血清型5(MOI=5)を形質導入した。導入遺伝子を発現させるために、更に48時間後にFRAPアッセイを行った。FRAPアッセイでは、細胞をカルセイン-AM(2.5uM)で30分間インキュベートし、HBSSで洗浄した後、Operettaハイコンテンツ撮像システムで撮像した。センターフィールドは、40倍の対物レンズと488nmの蛍光照明(5000ms×12回の繰り返し)への露出を使用して光退色した。その直後に、ウェルを10倍の倍率で30分間撮像した。蛍光回復は、光退色領域と周囲の未退色領域との間の488nm強度の差として測定され、キセノンアークランプ蛍光光源からの光強度の変動を考慮して、周囲の未退色領域に対して正規化された。
【0362】
以下の実験では、蝸牛内投与用の治療薬Aの緩衝溶液を使用する。治療薬A構築物には、任意選択で、FLAGタグを含めることができる。
【0363】
結果:CX26を自然に発現しないHeLa細胞を使用して、治療薬AによるCX26発現の機能性を評価した。光退色の前に、HeLa細胞を治療薬A及びAd5と共に5時間共培養し、その後48時間回復させて導入遺伝子を発現させた。カルセイン-AMは、細胞に取り込まれると加水分解し、蛍光を発し、膜不透過性になる。細胞内カルセイン色素は、機能的なギャップ結合を介して隣接する細胞に移動することが知られている。汎ギャップ結合阻害剤カルベノキソロン(CBX)を使用して、非ギャップ結合媒介蛍光回復の寄与を決定した。
図34(上部パネル)は、各FRAP試験の光退色及び画像取得のタイムラインを示す。光退色後30分間の蛍光回復を測定した。
図34(下のパネル)は、治療薬A及び治療薬A-FLAGの両方が、形質導入されていないHeLa細胞よりも速く蛍光を回復することを示しており、導入遺伝子駆動タンパク質が機能的ギャップ結合を形成している可能性が高いことを示している。カルベノキソロンの添加は、機能するギャップ結合が細胞から細胞への色素移動の主な原因であることを示す蛍光回復のほとんどを減少させる。
【0364】
全体として、これらのデータは、GJB2またはGJB2-FLAGの治療薬Aを介したHeLa細胞への送達(CX26を自然に発現しない)が、カルセインAM色素FRAPシグナルを増強し、GJB2導入遺伝子が機能的なギャップ結合を形成することを示している。
【0365】
P6仔マウスにおけるPSCC送達後の治療薬Aの向性
仔注射の方法:P6 C57BL/6J仔マウスを軽度の低体温で麻酔し、後半規管(PSCC)を介して1μLの治療薬A-FLAGを注射した。注射後25日目にマウスを屠殺し、灌流し、下流の免疫組織化学的処理のために蝸牛を採取した。FLAG抗体を用いてウイルス性発現CX26-FLAGの検出を行った。蝸牛は、以下の抗体または染色:ファロイジン(1:500)、抗FLAG(1:250)、抗CX26(1:250)及びDAPI(1:1000)で処理した。
【0366】
結果:
図35のA~Cは、P6仔マウスにおける後半規管(PSCC)を介した治療用A-FLAG(緑色)の蝸牛内注射が、内因性CX26発現(深紅色)と比較して高度の形質導入を示すことを示す。CX26-FLAG発現が蝸牛の長さ全体にわたって高レベルで存在し、内溝(A)、クラウジウス細胞(B)及び他の支持細胞型(C)において膜状のプラーク様構造を形成することを示す一連の画像である。CX26-FLAG発現はまた、らせん板縁及び側壁の線維細胞にも存在し、内因性CX26発現の形態及びパターンと一致する。
【0367】
全体として、これらのデータは、PSCC注射を介したP6仔マウスへの治療薬A-FLAGの蝸牛内直接送達により、CX26を天然に発現する細胞型で広範なCX26-FLAG形質導入が生じることを示す。
【0368】
P30成体マウスにおけるRWM+PSCC開窓蝸牛内送達後の治療薬Aの安全性及び向性プロファイル
成体注射の方法:成体(P30)C57BL/6Jマウスに、正円窓膜(RWM)を介して直接蝸牛内注射により、1μLの治療薬Aまたは治療薬A-FLAGを注射した。注射の前に、流体の流れを可能にするために、後半規管(PSCC)に開窓を作成した。マウスを屠殺し、注射後14日目または42日目に組織を固定するために4%PFAで心臓を灌流し、下流の免疫組織化学的処理のために蝸牛を採取した。蝸牛は、以下の抗体または染色:ファロイジン(1:500)、抗FLAG(1:250)、抗CX26(1:250)及びDAPI(1:1000)で処理した。
【0369】
結果:
図36は、P30齢の成体マウスの後半規管の開窓による正円窓膜を介した治療薬Aまたは治療薬A-FLAGの蝸牛内注射が安全であり、手術後42日目の内有毛細胞または外有毛細胞に損傷を引き起こさなかったことを示す。
図37及び
図38は、手術後14日目の内溝、クラウジウス細胞及び側壁線維細胞におけるCX26-FLAG形質導入(緑色)を示す。内溝及びクラウジウス細胞におけるCX26-FLAGの発現は膜状であり、内因性CX26と同様のプラーク様構造を形成する。
【0370】
全体として、これらのデータは、後半規管(PSCC)開窓を伴う正円窓膜(RWM)を介した直接蝸牛内注射による治療薬A-FLAGの成体蝸牛内送達が、クリーンな安全性プロファイルでCX26-FLAGの形質導入をもたらすことを示す。
【0371】
実施例4.GJB2先天性難聴の臨床的に関連する誘導性マウスモデルにおける難聴及び蝸牛変性のレスキュー
GJB2遺伝子変異は、ヒトの先天性非症候性聴覚消失の最も一般的な形態を引き起こす。GJB2は、支持細胞及び線維細胞などの非感覚細胞の機能のために内耳で必要とされるギャップ結合タンパク質コネキシン26(CX26)をコードする。一般に、難聴の発症は言語取得前で中度から重度だが、一部の対象では、CX26の喪失による難聴が軽度で進行性であり得る。ヒトの側頭骨実験では、GJB2変異蝸牛における有毛細胞及び支持細胞の変性が明らかになったが、らせん神経節細胞は主に影響を受けない。この実験では、AAVベースの遺伝子治療候補である治療薬Aが、GJB2欠損の誘導性マウスモデルで評価される。
【0372】
方法:ホモ接合性Cx26ノックアウトはマウスの胚致死性であるため、Cx26
loxp/loxpマウスとタモキシフェン誘導性cre(Rosa-cre
ER)マウス株を交配することによって生成されたCx26コンディショナルノックアウト(Cx26cKO)を利用して、
図39A及び
図39Bに示すように、内耳の細胞内のタンパク質Cx26を失うことの影響を実験した。Cx26フロックス動物では、エクソン2のコード領域は、イントロン1のloxP部位に隣接し、フロックス化されたneoカセットがエクソン2に挿入された。更に、本出願人は、様々なカプシド、プロモーター及び最適化されたGJB2コドンをスクリーニングした後、AAVベースの遺伝子療法候補(治療薬A)を開発した。また、FLAGタグCX26を発現する治療薬A-FLAGを作成し、野生型動物の蝸牛内(IC)経路を介して投与し、FLAG発現を追跡することにより、内耳におけるAAV由来のCX26の向性を決定した。遺伝子治療の有効性を実験するために、治療薬Aまたはビヒクルを出生後にIC経路を介してCx26 cKOマウスに投与した。生後(P)30日目に聴覚脳幹反応を測定し、蝸牛を組織学的に処理して、形態及びCX26発現を決定した。
【0373】
結果:タモキシフェン投与のタイミングを調整することで、Cx26ノックアウトの時間的制御が可能になり、その結果、cre活性化の時間に応じて様々な程度の難聴と蝸牛異常が生じた。Cx26 cKOマウスでは、出生後早期のcre活性化により、P30で重度から最重度の難聴が引き起こされたが、その後のcre活性化では進行性の軽度から中度の種類の難聴を引き起こした。組織学的検査では、Cx26 cKOマウスではCx26の発現がほとんどまたはまったくないことが明らかになった。
図39のCで示すように、出生後の野生型マウスへの治療薬A-FLAGの蝸牛内注射が、CX26を天然に発現するすべての細胞型を含む広範な蝸牛カバー度を提供する。ナイーブマウスへの治療薬A-FLAGの蝸牛内(IC)投与により、支持細胞及び線維細胞におけるAAV形質導入が確認された。
図39のD及びEに示すように、治療薬Aを注射したCx26 cKO動物は、ビヒクルを注射したCx26 cKOと比較して、複数の周波数にわたるABR閾値の実質的なレスキュー、CX26発現の回復、及び蝸牛の形態の保存を実証した。
【0374】
これらの結果に基づき、いかなる特定の理論にも束縛されるものではないが、本開示では、治療薬Aの蝸牛内投与が、ヒトGJB2患者に見られる聴覚欠損を部分的に模倣するCx26 cKOマウスモデルにおける聴力、関連する蝸牛細胞型におけるCX26の発現、及び蝸牛の形態の回復に成功したことが想到される。
【0375】
実施例5.GJB2先天性難聴の臨床的に関連するマウスモデルにおける難聴及び蝸牛変性のレスキュー
GJB2変異は、ヒトの遺伝的難聴の最も一般的な原因を表す。GJB2は、コネキシン26(CX26)をコードし、らせん板縁及びらせん靭帯の線維細胞、ならびにコルチ器内の支持細胞で天然に発現されるギャップ結合タンパク質である。マウスとヒトの実験の結果は、GJB2変異が聴覚脳反応(ABR)閾値の上昇と支持細胞及び有毛細胞の変性につながることを示す。このGJB2欠失表現型をレスキューするために、本出願人は、AAVの蝸牛内投与を介してGJB2の機能コピーを送達しようとした。最初に、CX26を天然に発現する蝸牛細胞型を効率的に形質導入するAAVカプシドの新しい種類を特定した。次に、新規のカプシド、プロモーター及びFlagタグ有無のヒトGJB2遺伝子要素(それぞれ、治療薬A-Flag及び治療薬A)をパッケージングすることにより、AAV構築物を更に最適化した。ここでは、GJB2難聴の構成的Creマウスモデルを利用して、治療薬Aの治療の可能性を評価した。
【0376】
方法:CX26欠失のin vivoレスキューを評価するために、本出願人は、Cx26
loxp/loxpマウスを、
図40A及び
図40Bに示すように、内耳特異的プロモーターP0(P0-Cre)によって駆動されるCreを発現するマウスと交配させることによって、GJB2の内耳欠失を有するマウスモデルを作製した。Cx26フロックス動物では、エクソン2のコード領域は、イントロン1のloxP部位に隣接し、フロックス化neoカセットがエクソン2に挿入されていた。P0-Creの発症は胎生期に起こり、これまでの実験では、このモデルではE14.5という早い時期にプラーク形成が阻害されることが報告されている。出生後のマウスに、後半規管を介して1μLの治療薬A、治療薬A-FLAGまたはビヒクルを注射し、その後、P30という早い時期に様々な有効性エンドポイントについて評価した。聴覚感度はABRによって測定され、その後、蝸牛が収集され、免疫組織化学的に抗CX26、抗FLAG及びファロイジンで処理され、向性及び蝸牛の形態を評価した。向性を評価するために、蝸牛及び側壁のホールマウントをZeiss LSM880共焦点顕微鏡で撮像し、FLAGまたはCX26のカバー度を定量化した。
【0377】
結果:
図40Cで示すように、出生後の野生型マウスへの治療薬A-FLAGの蝸牛内注射が、CX26を天然に発現するすべての細胞型を含む広範な蝸牛カバー度を提供する。P0-Creマウスは、CX26発現の実質的な減少と、有毛細胞と支持細胞の完全な喪失、重度から最重度の難聴がある平らな上皮表現型の存在を示す。
図40D及び
図40Eに示すように、P0-Creマウスへの治療薬Aの蝸牛内投与は、CX26発現を実質的に回復し、平坦な上皮表現型の発生を大幅に減少させ、存在する有毛細胞の数を増加させ、更に重要なことに、ABRを使用して測定された複数の周波数にわたる聴力の機能的改善を実証した。
【0378】
これらの結果に基づき、いかなる特定の理論にも束縛されるものではないが、本開示では、治療薬Aの蝸牛内注射がCX26欠失難聴及び蝸牛病態をレスキューすることができると想到する。
【0379】
実施例6.非ヒト霊長類における治療薬Aの送達及び向性
非ヒト霊長類(NHP)向性実験の方法:カニクイザル(「NHP」)、年齢3~5歳をAAV中和抗体について事前にスクリーニングし、正円窓膜(RWM)を介して蝸牛に注入することにより、両側に(30μL容量で1010vg/耳)投与した。NHPを安楽死させ、蝸牛切片を治療薬A-FLAG投与の12週間後に免疫組織化学によるCX26-FLAGの発現について評価した。蝸牛は、以下の抗体または染色:ファロイジン(1:500)、抗FLAG(1:250)、抗CX26(1:250)及びDAPI(1:1000)で処理した。
【0380】
結果:
図41は、治療薬A-FLAGの蝸牛内注射が、高度の形質導入を示すことを示す。CX26-FLAG発現は、側壁(LW)、コルチ器(OC)支持細胞及びらせん板縁(SL)を含む、GJB2レスキューに関連する領域で高いレベルで存在する。CX26-FLAG発現は、内因性CX26発現の形態及びパターンと一致する。
【0381】
これらの結果に基づいて、いかなる特定の理論にも束縛されるものではないが、本明細書では、治療薬A-FLAGは、蝸牛内投与後にNHP蝸牛全体にわたってGJB2関連細胞を形質導入することができると想到する。
【0382】
本開示を、理解の明確化を目的として、例示及び例としてある程度詳細に説明してきたが、特定の変更及び改変を添付の特許請求の範囲内で実施し得ることは理解されるべきである。前述の開示を考慮して理解されるか、または遺伝子治療、分子生物学、耳科学及び/または関連する分野の当業者に本開示の日常的な実践または実施によって明らかにされる、本開示を実行するための上記のモードの改変は、以下の特許請求の範囲内にあることを意図している。
【0383】
本明細書で述べられるすべての刊行物(例えば、非特許文献)、特許、特許出願公開、及び特許出願は、本開示が属する技術分野の当業者の技術レベルを示す。すべてのそのような刊行物(例えば、非特許文献)、特許、特許出願公開、及び特許出願は、それぞれ個々の公開、特許、特許出願公開、または特許出願が、参照により特異的かつ個々に組み込まれることが示されるのと同程度に、参照により本明細書に組み込まれる。
【0384】
前述の開示は、特定の好ましい実施形態に関連して説明されてきたが、それによって限定されるべきではない。
【国際調査報告】