(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-22
(54)【発明の名称】プライム編集に基づく精密なゲノムの削除と置換方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20231115BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20231115BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12N15/113 Z ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023527355
(86)(22)【出願日】2021-11-04
(85)【翻訳文提出日】2023-07-07
(86)【国際出願番号】 US2021058079
(87)【国際公開番号】W WO2022098885
(87)【国際公開日】2022-05-12
(32)【優先日】2020-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】517075883
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ ワシントン
【氏名又は名称原語表記】University of Washington
【住所又は居所原語表記】4545 Roosevelt Way NE, Suite 400, Seattle, Washington 98105 US
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】シェンデュア, ジェイ アショク
(72)【発明者】
【氏名】チェン, ウェイ
(72)【発明者】
【氏名】チェ, ジュンホン
(57)【要約】
ゲノム編集のための方法及び関連組成物が開示される。一態様において、二本鎖DNA(dsDNA)を編集する方法は、それぞれdsDNA分子のセンス及びアンチセンス鎖上の第1及び第2標的配列に特異的な第1及び第2編集複合体を使用する。各編集複合体は、機能的ニッカーゼドメイン及び機能的逆転写酵素ドメインを含む融合エディタータンパク質に結合した伸長ガイドRNAを含む。それぞれのガイドRNAは、それらに結合した融合エディタータンパク質をdsDNAにガイドし、dsDNAの反対側の鎖上の一本鎖切断を実施する。それぞれの逆転写酵素ドメインは、3'オーバーハングを生成する。dsDNAの修復により、2つの一本鎖切断の間に配置されたdsDNAの部分が切除される。この方法の様々な構成及び応用が開示されており、遺伝子操作を実施するための柔軟で、容易で、効率的かつ正確な方法を提供する。
【選択図】
図1C
【特許請求の範囲】
【請求項1】
センス鎖とアンチセンス鎖を有する二本鎖DNA(dsDNA)分子の編集方法であって、
前記方法は、前記dsDNA分子を、前記dsDNA分子の前記センス鎖上の第1標的配列に特異的な第1編集複合体及び前記dsDNA分子の前記アンチセンス鎖上の第2標的配列に特異的な第2編集複合体と接触させるステップを含み、
前記第1編集複合体及び前記第2編集複合体は、それぞれ融合エディタータンパク質と、前記融合エディタータンパク質に結合した伸長ガイドRNA分子とを含み、前記融合エディターは、それぞれ機能的ニッカーゼドメイン及び機能的逆転写酵素ドメインを含み、
前記第1編集複合体の前記伸長ガイドRNA分子は、前記第1標的配列にハイブリダイズする第1配列を有する第1ガイドドメイン、及び3'端にある第1伸長ドメインを含み、
前記第2編集複合体の前記伸長ガイドRNA分子は、前記第2標的配列にハイブリダイズする第2配列を有する第2ガイドドメイン、及び3'端にある第2伸長ドメインを含み、
前記方法は、さらに
前記第1編集複合体の機能的ニッカーゼドメイン及び前記第2編集複合体の機能的ニッカーゼドメインが前記第1標的配列及び前記第2標的配列にある前記dsDNA分子の反対側の鎖に第1一本鎖切断及び第2一本鎖切断を形成できるようにするステップと、
前記第1編集複合体の機能的逆転写酵素ドメインが前記第1伸長ドメインをテンプレートとして使用して前記第1一本鎖切断から第1の3'オーバーハングを生成できるようにし、前記第2編集複合体の機能的逆転写酵素ドメインが前記第2伸長ドメインをテンプレートとして使用して前記第2一本鎖切断から第2の3'オーバーハングを生成できるようにするステップと、
もともと前記第1一本鎖切断と前記第2一本鎖切断との間に配置されるdsDNAの部分を切除してdsDNA分子を修復し、前記第1の3'オーバーハング及び第2の3'オーバーハングを修復されたdsDNA分子に組み込むステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記第1編集複合体の機能的ニッカーゼドメイン及び前記第2編集複合体の機能的ニッカーゼドメインは、それぞれ独立してCRISPR関連(Cas)酵素、ピロコッカス・フリオサス・アルゴノートなど、又はそれらに由来する機能的ニッカーゼドメインである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記Casは、Cas9、Cas12、Cas13、Cas3、CasΦなどである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1編集複合体の機能的逆転写酵素ドメイン及び前記第2編集複合体の機能的逆転写酵素ドメインは、それぞれ独立してM-MLV RT、HIV RT、グループIIイントロンRT(TGIRT)、SuperScript IVなど、又はそれらの機能的ドメインである、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1標的配列は、前記第2標的配列の逆相補配列よりも前記センス鎖における5'側の位置に配置される、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記第1標的配列は、前記第2標的配列の逆相補配列よりも前記センス鎖における3'側の位置に配置される、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の3'オーバーハング及び前記第2の3'オーバーハングは、互いに逆相補的であり、修復ステップにおいてハイブリダイズする、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の3'オーバーハングは、前記アンチセンス鎖における第2の3'オーバーハングのすぐ5'側に位置する配列に対応する配列を有する第1修復ドメインを含み、
前記第2の3'オーバーハングは、前記センス鎖における第1の3'オーバーハングのすぐ5'側に位置する配列に対応する配列を有する第2修復ドメインを含む、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の3'オーバーハングは、前記第1修復ドメインの5'側に位置する挿入配列をさらに含み、
前記第2の3'オーバーハングは、前記第2修復ドメインの5'側に位置する前記挿入配列の逆相補配列を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記第1の3'オーバーハングは、前記第2一本鎖切断のすぐ3'側に配置される配列に対応する配列を有する第1修復ドメインを含み、
前記第2の3'オーバーハングは、前記第1一本鎖切断のすぐ3'側に配置される配列に対応する配列を有する第2修復ドメインを含み、
前記修復ステップにより、もともと前記第1一本鎖切断と前記第2一本鎖切断との間に配置されるdsDNAの部分に対応する配列が反転する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記第1の3'オーバーハングは、挿入DNA断片の第1端ドメインに対応する配列を有する第1修復ドメインを含み、
前記第2の3'オーバーハングは、前記挿入DNA断片の第2端ドメインに対応する配列を有する第2修復ドメインを含み、
前記第1端ドメイン及び前記第2端ドメインは、前記挿入DNA断片の反対端に位置するか、又はより大きなdsDNA分子内の異なる部位に位置する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
もともと前記第1一本鎖切断と前記第2一本鎖切断との間に配置される、切除されるdsDNA分子の部分は、少なくとも5ヌクレオチド長である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
もともと前記第1一本鎖切断と前記第2一本鎖切断との間に配置される、切除されるdsDNA分子の部分は、約10ヌクレオチドから1,000,000ヌクレオチド長である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記第1編集複合体及び/又は前記第2編集複合体は、3'-オーバーハング生成の効率を向上させるように構成される追加の機能的ドメインを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記第1編集複合体及び/又は前記第2編集複合体の融合エディタータンパク質は、生成した3'オーバーハングを用いてDNA修復の効率を向上させるように構成される追加の機能的ドメインを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記第1ガイドドメイン及び前記第2ガイドドメインは、それぞれ独立して約20から約200ヌクレオチド長である、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記第1ガイドドメイン及び前記第2ガイドドメインは、それぞれ独立して約25から100ヌクレオチド長、約25から50ヌクレオチド長、又は約25から40ヌクレオチド長である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記第1ガイドドメイン及び前記第2ガイドドメインは、それぞれ前記第1編集複合体及び前記第2編集複合体と適合性があるように構成され、及び/又は
前記第1ガイドドメイン及び/又は前記第2ガイドドメインにおける1つ以上のヌクレオチド残基は、2'-O-メチル化、ロックされた核酸、ペプチド核酸、又は同様の機能的に修飾された核酸部分で修飾されている、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記第1伸長ドメイン及び前記第2伸長ドメインは、それぞれ独立して少なくとも約10ヌクレオチド長である、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記第1伸長ドメイン及び前記第2伸長ドメインは、それぞれ独立して約10ヌクレオチドから約40ヌクレオチド長である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記方法は、インビトロの細胞内で実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記方法は、インビボの細胞内で実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記方法は、ゲノム配列の削除、ゲノム配列の反転、染色体間再構成、及び/又はゲノムの標的領域若しくは部位への新しい配列の挿入を含む治療法である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記方法は、前記dsDNAを、複数ペアの第1及び第2編集複合体と接触させるステップを含み、ここで、各ペアの第1編集複合体及び第2編集複合体は、前記dsDNA内の異なるペアの第1標的配列及び第2標的配列を標的とする、請求項1から23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記接触は、複数のpegRNA又は前記pegRNAをコードする複数の核酸分子をプールし、前記dsDNA分子を含む細胞を、プールされた複数のpegRNA又は前記pegRNAをコードする複数の核酸分子と接触させるステップを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記細胞を、1つ以上の融合エディタータンパク質又は前記1つ以上の融合エディタータンパク質をコードする1つ以上の核酸分子と接触させ、前記融合エディタータンパク質が発現し及び/又は前記細胞内で複合できるようにするステップをさらに含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
細胞において1つ以上の二本鎖DNA(dsDNA)分子を編集する方法であって、
前記方法は、前記細胞を、1ペア以上の第1編集複合体及び第2編集複合体又は1ペア以上の第1複合体及び第2複合体のコンポーネントをコードする1つ以上の核酸と接触させ、前記コンポーネントが細胞内で発現し及び組み立てられるようにするステップを含み、
前記1ペア以上の第1編集複合体及び第2編集複合体の各ペアにおいて、
前記第1編集複合体は、前記dsDNA分子の前記センス鎖上の第1標的配列に特異的であり、前記第2編集複合体は、前記dsDNA分子の前記アンチセンス鎖上の第2標的配列に特異的であり、
前記第1編集複合体及び前記第2編集複合体は、それぞれ融合エディタータンパク質と、前記融合エディタータンパク質に結合した伸長ガイドRNA分子とを含み、前記融合エディターは、それぞれ機能的ニッカーゼドメイン及び機能的逆転写酵素ドメインを含み、
前記第1編集複合体の前記伸長ガイドRNA分子は、前記第1標的配列にハイブリダイズする第1配列を有する第1ガイドドメイン、及び3'端にある第1伸長ドメインを含み、
前記第2編集複合体の前記伸長ガイドRNA分子は、前記第2標的配列にハイブリダイズする第2配列を有する第2ガイドドメイン、及び3'端にある第2伸長ドメインを含み、
各ペアの前記第1編集複合体及び第2編集複合体は、
前記第1編集複合体の機能的ニッカーゼドメイン及び前記第2編集複合体の機能的ニッカーゼドメインが前記第1標的配列及び前記第2標的配列にある前記dsDNA分子の反対側の鎖に第1一本鎖切断及び第2一本鎖切断を形成できるようにし、
前記第1編集複合体の機能的逆転写酵素ドメインが前記第1伸長ドメインをテンプレートとして使用して前記第1一本鎖切断から第1の3'オーバーハングを生成できるようにし、前記第2編集複合体の機能的逆転写酵素ドメインが前記第2伸長ドメインをテンプレートとして使用して前記第2一本鎖切断から第2の3'オーバーハングを生成できるようにし、
もともと前記第1一本鎖切断と前記第2一本鎖切断との間に配置されるdsDNAの部分を切除してdsDNA分子を修復し、前記第1の3'オーバーハング及び第2の3'オーバーハングを修復されたdsDNA分子に組み込む、方法。
【請求項28】
前記細胞を、複数ペアの第1編集複合体及び第2編集複合体、又は複数ペアの第1編集複合体及び第2編集複合体のコンポーネントをコードする複数の核酸と接触させ、前記コンポーネントが前記細胞内で発現し組み立てられるようにするステップを含み、
ここで、各ペアの前記第1編集複合体及び第2編集複合体は、前記細胞における1つ以上のdsDNA分子上の異なる前記第1標的配列及び第2標的配列を標的とする、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
請求項1から20に記載の第1編集複合体及び第2編集複合体を含むキットであって、
前記センス鎖上の前記第1標的配列及び前記アンチセンス鎖上の前記第2標的配列は、介在配列によって区切られ、前記第1編集複合体及び前記第2編集複合体は、標的dsDNA分子において、前記介在配列を削除し、前記介在配列を反転し、及び/又は前記第1編集複合体及び前記第2編集複合体によって誘導された前記第1一本鎖切断及び/又は前記第2一本鎖切断に1つ以上の新しい配列を挿入するように構成される、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
【0002】
本出願は、2020年11月5日に出願された仮出願第63/110,304号の利益を主張し、その開示内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0003】
配列表に関する声明
【0004】
本願に添付の配列表は、紙のコピーの代わりにテキスト形式で提供され、ここに参照により本明細書に組み込まれる。配列表を含むテキストファイルの名前は、3915-P1162WOUW_Seq_List_FINAL_20211101_ST25.txtである。このテキストファイルは28KBで2021年11月1日に作成されたものであり、明細書の提出とともにEFS-Web経由で提出されている。
【0005】
政府ライセンス権に関する説明
【0006】
本発明は、国立衛生研究所から授与された助成金番号UM1 HG009408の下で政府の支援を受けて行われた。政府は本発明について一定の権利を有している。
【背景技術】
【0007】
ゲノムを精密に操作できることにより、遺伝子や調節エレメントなどの特定のゲノム配列の機能を研究することを可能になる。過去10年以内に、CRISPR-Cas9ベースのテクノロジーがこの点で革新的であることが証明され、編集又は摂動モダリティのレパートリーが急速に拡大し、ゲノム遺伝子座の精密なターゲティングが可能になった。これらの中でも、特定のゲノム配列を精密かつ無制限に削除することは、機能ゲノミクスと遺伝子治療の両方で使用例があり、特に重要である。
【0008】
現在、ゲノム削除をプログラムするための主要な方法では、それぞれプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列を標的とする1ペアのCRISPRシングルガイドRNA(sgRNA)を使用し、隣接する1ペアのDNA二本鎖切断(DSB)が発生する。2つの部位を同時に切断すると、細胞DNA損傷修復因子は多くの場合、非相同末端結合(NHEJ)を介して配列を介さずにゲノムの2つの末端を結合させる(
図1A)。このアプローチは、強力であるが、いくつかの制限がある。1)削除、特に比較的長い削除を誘導する場合、意図した削除の有無にかかわらず、一方又は両方のDSB付近に短い挿入又は削除(インデル、通常、10bp未満)が生じることがよくある。2)大規模な削除やより複雑な再構成などの他の意図しない変異は、頻繁に発生する可能性があり、技術的な理由により検出されません。3)DSBは、細胞毒性的な損傷である。4)この方法によってプログラムされたゲノム削除のジャンクションは、天然に存在するPAM部位の分布によって制限される。これらの制限にもかかわらず、様々な研究(例えば、遺伝子と調節エレメントの機能の調査及び遺伝子治療に向ける研究)ではこの方法を採用して大きな効果を得た。しかし、限られた精度、DSB毒性、及び任意の削除をプログラムできないことにより、機能ゲノミクス及び治療ゲノミクスにおけるCRISPR-Cas9誘導削除の有用性が損なわれている。
【0009】
最近、CRISPR-Cas9ゲノム編集ツールキットを様々な方法で拡張する「プライム編集」について説明された(https://paperpile.com/c/gGxRnW/t6ebl)。プライム編集では、逆転写酵素と融合したCas9ニッカーゼ(Cas9 H840A)であるPrime Editor-2酵素と3'伸長sgRNA(プライム編集sgRNA又はpegRNA)を利用する。Prime Editor-2酵素とpegRNA複合体は、ゲノムの1本の鎖にニックを入れ、pegRNA分子のテンプレートRNA配列に従って、ニックが入った部位に3'一本鎖DNAフラップを結合する。隣接する領域に相同な配列を含めることにより、DNA損傷修復因子は3'フラップ配列をゲノムに組み込むことができる。追加のsgRNAを使用することで取り込み率をさらに高めることができる。これにより、反対側の鎖にニックが入り、3'フラップ配列によるDNA修復が促進されるが、精度が低下する場合が多い(PE3/PE3bと呼ばれる戦略)(
図1B)。プライム編集の利点は、単一分子pegRNA内の標的部位と修復の性質の両方をコード化できることにある。PE3戦略は、単一のpegRNA/sgRNAペアを使用して、5~80bpの範囲の削除をプログラムすることができ、適切な精度(平均して、意図しないインデルの割合11%)で高い効率(52~78%)を達成できることを示している。しかし、PE3戦略でも、100bpを超える削除をプログラムする場合には大きな困難に直面している。さらに、20bpを超える削除では、効率が急激に低下することが観察された。
【0010】
従って、ゲノム編集技術の進歩にも関わらず、遺伝子操作(例えば、削除や挿入)を実施するための容易で効率的かつ精密な方法を開発する必要がある。本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものである。
【発明の概要】
【0011】
この概要は、以下の詳細な説明でさらに説明される概念の選択を簡略化した形式で紹介するために提供される。この概要は、請求された主題の主要な特徴を特定することを意図したものではなく、また、請求された主題の範囲を決定する際の補助として使用されることも意図したものではない。
【0012】
一態様では、本開示は、センス鎖及びアンチセンス鎖を有する二本鎖DNA(dsDNA)分子を編集する方法を提供する。この方法は、dsDNA分子をdsDNA分子のセンス鎖上の第1標的配列に特異的な第1編集複合体及びdsDNA分子のアンチセンス鎖上の第2標的配列に特異的な第2編集複合体と接触させるステップを含む。第1編集複合体及び第2編集複合体は、それぞれ融合エディタータンパク質及び融合エディタータンパク質に結合した伸長ガイドRNA分子を含む。融合エディターは、それぞれ機能的ニッカーゼドメイン及び機能的逆転写酵素ドメインを含む。第1編集複合体の伸長ガイドRNA分子は、第1標的配列にハイブリダイズした第1配列を有する第1ガイドドメイン、及び3'端にある第1伸長ドメインを含む。第2編集複合体の伸長ガイドRNA分子は、第2標的配列にハイブリダイズする第2配列を有する第2ガイドドメイン、及び3'端にある第2伸長ドメインを含む。前記方法は、第1編集複合体の機能的ニッカーゼドメイン及び第2編集複合体の機能的ニッカーゼドメインが、第1標的配列及び第2標的配列にあるdsDNA分子の反対側の鎖にそれぞれ第1一本鎖切断及び第2一本鎖切断を生成できるようにするステップをさらに含む。次に、前記方法は、第1編集複合体の機能的逆転写酵素ドメインが第1伸長ドメインをテンプレートとして使用して第1一本鎖切断から第1の3'オーバーハングを生成できるようにし、第2編集複合体の機能的逆転写酵素ドメインが第2伸長ドメインをテンプレートとして使用して第2一本鎖切断から第2の3'オーバーハングを生成できるようにするステップを含む。最後に、前記方法は、もともと第1一本鎖切断と第2一本鎖切断との間に配置されるdsDNAの部分を切除することでdsDNA分子を修復し、第1の3'オーバーハング及び第2の3'オーバーハングを修復されたdsDNA分子に組み込むステップを含む。
【0013】
いくつかの実施形態において、第1編集複合体の機能的ニッカーゼドメイン及び第2編集複合体の機能的ニッカーゼドメインは、それぞれ独立してCRISPR関連(Cas)酵素ピロコッカス・フリオサス・アルゴノートなど又はそれらに由来する機能的ニッカーゼドメインである。いくつかの実施形態において、Casは、Cas9、Cas12、Cas13、Cas3、CasΦなどである。いくつかの実施形態において、第1編集複合体の機能的逆転写酵素ドメイン及び第2編集複合体の機能的逆転写酵素ドメインは、それぞれ独立してM-MLV RT、HIV RT、グループIIイントロンRT(TGIRT)、SuperScript IVなど又はその機能的ドメインである。
【0014】
いくつかの実施形態において、第1標的配列は、第2標的配列の逆相補配列(Reverse Complement)よりもセンス鎖内の5'側の位置に配置される。いくつかの実施形態において、第1標的配列は、第2標的配列の逆相補配列よりもセンス鎖内の3'側の位置に配置される。いくつかの実施形態において、第1の3'オーバーハング及び第2の3'オーバーハングは、互いに逆相補的であり、修復ステップでハイブリダイズする。
【0015】
いくつかの実施形態において、第1の3'オーバーハングは、アンチセンス鎖における第2の3'オーバーハングのすぐ5'側に位置する配列に対応する配列を有する第1修復ドメインを含み、第2の3'オーバーハングは、センス鎖における第1の3'オーバーハングのすぐ5'側に位置する配列に対応する配列を有する第2修復ドメインを含む。いくつかの実施形態において、第1の3'オーバーハングは、第1修復ドメインの5'に配置される挿入配列をさらに含む。第2の3'オーバーハングは、第2修復ドメインの5'に配置される挿入配列の逆相補配列を含む。
【0016】
いくつかの実施形態において、第1の3'オーバーハングは、第2一本鎖切断のすぐ3'側に位置する配列に対応する配列を有する第1修復ドメインを含み、第2の3'オーバーハングは、第1一本鎖切断のすぐ3'側に位置する配列に対応する配列を有する第2修復ドメインを含む。これによって、修復ステップでは、もともと第1一本鎖切断と第2一本鎖切断との間に配置されるdsDNAの部分に対応する配列が反転する。
【0017】
いくつかの実施形態において、第1の3'オーバーハングは、挿入DNA断片の第1端ドメインに対応する配列を有する第1修復ドメインを含み、第2の3'オーバーハングは、挿入DNA断片の第2端ドメインに対応する配列を有する第2修復ドメインを含む。第1端ドメイン及び第2端ドメインは、挿入DNA断片の反対端に位置するか、又はより大きなdsDNA分子内の異なる部位にある。
【0018】
いくつかの実施形態において、もともと第1一本鎖切断と第2一本鎖切断との間に配置される、切除されるdsDNA分子の部分は、少なくとも5ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態において、切除されたもともと第1一本鎖切断と第2一本鎖切断との間に配置されるdsDNA分子の部分は、約10ヌクレオチドから1,000,000ヌクレオチド長である。
【0019】
いくつかの実施形態において、第1編集複合体及び/又は第2編集複合体は、3'-オーバーハング生成の効率を向上させるように構成される追加の機能的ドメインを含む。いくつかの実施形態において、第1編集複合体及び/又は第2編集複合体の融合エディタータンパク質は、生成した3'オーバーハングを用いたDNA修復の効率を向上させるように構成される追加の機能的ドメインを含む。
【0020】
いくつかの実施形態において、第1ガイドドメイン及び第2ガイドドメインは、それぞれ独立して約20から約200ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態において、第1ガイドドメイン及び第2ガイドドメインは、それぞれ独立して約25から100ヌクレオチド長、約25から50ヌクレオチド長、又は約25から40ヌクレオチド長である。
【0021】
いくつかの実施形態において、第1ガイドドメイン及び第2ガイドドメインは、それぞれ第1編集複合体及び第2編集複合体と互換性があるように構成され、及び/又は第1ガイドドメイン及び/又は第2ガイドドメインにおける1つ以上のヌクレオチド残基は、2'-O-メチル化、ロックされた核酸、ペプチド核酸又は同様の機能的に修飾された核酸部分で修飾される。
【0022】
いくつかの実施形態において、第1伸長ドメイン及び第2伸長ドメインは、それぞれ独立して少なくとも約10ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態において、第1伸長ドメイン及び第2伸長ドメインは、それぞれ独立して約10ヌクレオチドから約40ヌクレオチド長である。
【0023】
いくつかの実施形態において、前記方法は、インビトロで実施される。いくつかの実施形態において、前記方法は、インビボで実施される。いくつかの実施形態において、前記方法は、ゲノム配列の削除、ゲノム配列の反転、染色体間再構成、及び/又はゲノムの標的領域若しくは部位への新しい配列の挿入を含む治療法である。
【0024】
いくつかの実施形態において、この方法は、dsDNA分子内の複数の位置で編集を実行するために、複数ペアの第1及び第2編集複合体を含むように拡張される。この方法は、dsDNAを複数ペアの第1及び第2編集複合体と接触させることを含み得る。各ペアの第1及び第2編集複合体は、dsDNA内の異なるペアの第1及び第2標的配列を標的とする。
【0025】
いくつかの実施形態において、前記方法は、複数のpegRNA又はpegRNAをコードする複数の核酸分子をプールするステップ、並びにdsDNA分子を含む細胞を、複数のpegRNA又はpegRNAをコードする複数の核酸分子のプールと接触させるステップを含む。いくつかの実施形態において、前記方法は、をさらに含む。前記細胞を、1つ以上の融合エディタータンパク質又は1つ以上の融合エディタータンパク質をコードする1つ以上の核酸分子と接触させるステップ、並びに、融合エディタータンパク質が前記細胞内で発現及び/又は複合するようにするステップを含む。
【0026】
別の態様において、細胞において1つ以上の二本鎖DNA(dsDNA)分子を編集する方法を提供する。この方法は、細胞を、1ペア以上の第1及び第2編集複合体又は1ペア以上の第1及び第2複合体のコンポーネントをコードする1つ以上の核酸と接触させるステップ、並びに、前記コンポーネントが細胞内で発現し、組み立てられるようにするステップを含む。1ペア以上の第1及び第2編集複合体の各ペアについては、以下が適用される。
【0027】
第1編集複合体は、dsDNA分子のセンス鎖上の第1標的配列に特異的であり、第2編集複合体は、dsDNA分子のアンチセンス鎖上の第2標的配列に特異的である。
【0028】
第1編集複合体及び第2編集複合体は、それぞれ融合エディタータンパク質及びそれに結合した伸長ガイドRNA分子を含み、前記融合エディターは、それぞれ機能的ニッカーゼドメイン及び機能的逆転写酵素ドメインを含む。
【0029】
第1編集複合体の伸長ガイドRNA分子は、第1標的配列にハイブリダイズする第1配列を有する第1ガイドドメイン、及び3'端にある第1伸長ドメインを含む。
【0030】
第2編集複合体の伸長ガイドRNA分子は、第2標的配列にハイブリダイズする第2配列を有する第2ガイドドメイン、及び3'端にある第2伸長ドメインを含む。
【0031】
前記方法は、(各ペアの第1及び第2編集複合体)第1編集複合体の機能的ニッカーゼドメイン及び第2編集複合体の機能的ニッカーゼドメインが第1標的配列及び第2標的配列にあるdsDNA分子の反対側の鎖にそれぞれ第1一本鎖切断及び第2一本鎖切断を生成できるようにするステップと;第1編集複合体の機能的逆転写酵素ドメインが第1伸長ドメインをテンプレートとして使用して第1一本鎖切断から第1の3'オーバーハングを生成できるようにするステップと;第2編集複合体の機能的逆転写酵素ドメインが第2伸長ドメインをテンプレートとして使用して第2一本鎖切断から第2の3'オーバーハングを生成できるようにするステップと;もともと第1一本鎖切断と第2一本鎖切断との間に配置されるdsDNAの部分を切除することでdsDNA分子を修復し、第1の3'オーバーハング及び第2の3'オーバーハングを修復されたdsDNA分子に組み込むステップと;を含む。
【0032】
いくつかの実施形態において、前記方法は、細胞を、複数ペアの第1及び第2編集複合体又は複数ペアの第1及び第2複合体のコンポーネントをコードする複数の核酸と接触させるステップと;前記コンポーネントが前記細胞内で発現又は組み立てられるようにするステップと;を含む。各ペアの第1及び第2編集複合体は、前記細胞における1つ以上のdsDNA分子上の異なる第1及び第2標的配列を標的とする。
【0033】
別の態様において、本発明は、上記の第1編集複合体及び第2編集複合体を含むキットを提供する。センス鎖上の第1標的配列及びアンチセンス鎖上の第2標的配列は、介在配列によって区切られる。第1編集複合体及び第2編集複合体は、標的dsDNA分子において、介在配列を削除し、介在配列を反転し、及び/又は1つ以上の新しい配列を第1編集複合体及び第2編集複合体によって誘導された第1及び/又は第2一本鎖切断に挿入するように構成される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
本発明の前述の態様及び付随する利点の多くは、添付の図面と併せて以下の詳細な説明を参照することにより、それらがよりよく理解されるにつれて、より容易に理解されるであろう。
【0035】
【
図1】
図1Aから
図1Hは、PRIME-Delを用いた精密なエピソーム性削除である。
図1Aから
図1Cは、Cas9/sgRNAペア削除戦略(1A)、PE3(1B)及びPRIME-Del(1C)である。
図1CのPRIME-Delでは、1ペアのpegRNAは、反対側の鎖上の意図した削除の各端及び3'フラップにニックを入れる部位をコードする。図示の実施形態において、3'フラップは、他のpegRNAが標的とする領域に相補的な配列を含む。文字は、フラップがどのように標的のdsDNA配列とハイブリダイズするか、及び修復されかつ編集された配列に組み込まれるかを示す。
図1Dは、エピソーム的にコードされた化eGFP遺伝子内にプログラムされた削除の漫画表現(一定の縮尺で描かれていない)である。
図1Eは、HEK293T細胞における24bp、91bp及び546bpの削除実験について、PRIME-Del媒介削除の効率及びエラー頻度(意図的な削除の有無にかかわらず)を測定した(n=5回のトランスフェクション反復の平均)。シーケンシングリードは、インデル修飾なし(「編集なし」)、意図した削除を伴わないインデルエラー、意図した削除を伴うインデルエラー、及びエラーなしの正確な削除として分類された。
図1Fでは、3つの方法により546bp削除実験のPRIME-Del媒介削除効率を測定した(n=3回のトランスフェクション反復にわたる平均±SD)。
図1Gは、546bp削除実験からのシーケンシング全体の挿入、削除及び置換エラーの頻度を示す。リードは、削除なし(上)又は削除あり(下)のいずれかで参照配列にアラインメントされた。プロットは、シーケンシングエラーを減少させるためにUMIを折り畳んだシングルエンドリードからのものである。
図6Eは、追加の反復とエラークラス特異的スケールを示す。なお、2つの3'-DNAフラップのうち1つだけが、削除を欠くアンプリコン(「野生型」として標識)におけるシーケンシングリードによってカバーされる。
図1Hは、ペアエンドシーケンシングリードをマージした後の546bp削除実験からのアンプリコン全体の挿入、削除及び置換エラーの頻度を示す。
【0036】
【
図2】
図2Aから
図2Fは、PRIME-Delを用いた削除と挿入の同時プログラミングを示す。
図2Aは、切断部位間に配列を挿入するように構成された戦略PRIME-Delバリエーションの概略図である。コードされた3'フラップは、
図1Cのように、他のpegRNAが標的とする領域に相補的な配列を含むが、挿入される追加の配列も含む。追加の配列は、対応する3'フラップのペアに対応する逆相補的形式で提示され、修復ステップ中にアニールし、結果としてdsDNA配列が挿入される。対応する領域は文字で示され、具体的には、挿入配列はB/bで示される。
図2Bは、Cas9とsgRNAペアを用いた従来の削除戦略を示す。潜在的な削除ジャンクションは、PAM部位の自然な分布によって制限される。
図2Cでは、pegRNAペアは、eGFPにおける546bpの削除とともに、サイズが3~30bpの範囲の5つの挿入をコードするように設計された。
図2Dは、これらのpegRNAペアを使用してHEK293T細胞において削除と挿入を同時に誘導した場合の、推定削除効率とインデルエラー頻度(意図的な削除の有無にかかわらず)を示す(n=3回のトランスフェクション反復の平均)。
図2Eは、546bp削除と30bp挿入を同時に行った条件下でのシーケンシングリードにわたってプロットされた代表的な挿入、削除、置換エラーの頻度を示す。プロットは、UMI補正なしのシングルエンドリードからのものである。なお、2つの3'-DNAフラップのうち1つだけが、削除を欠くアンプリコン(「野生型」として標識)におけるシーケンシングリードによってカバーされる。
図2Fは、プログラムされた削除を含み、プログラムされた挿入も含むリードの割合を示す(n≧3回のトランスフェクション反復にわたる平均±SD)。
【0037】
【
図3】
図3Aから3Gは、PRIME-Delを用いた精密なゲノム削除を示す。
図3Aは、eGFP導入HEK293T細胞株の生成の概略図である。
図3Bは、PRIME-Delを用いてHEK293T細胞のゲノム的に組み込まれたeGFPに対して削除と挿入を同時に行った場合の推定削除効率とエラー頻度を示す(n=3回のトランスフェクション反復の平均)。
図3Cは、ゲノムに組み込まれたeGFP上の同時546bp削除と30bp挿入条件からのシーケンシングリード全体にわたってプロットされた代表的な挿入、削除及び置換エラーの頻度を示す。プロットは、UMI補正なしのシングルエンドリードからのものである。
図3Dは、HPRT1遺伝子内にプログラムされた削除の漫画表現である。
図3Eは、PRIME-Del又はCas9/sgRNAペア(Cas9と略称)戦略を用いたHEK293T細胞における118bp及び252bp削除について測定された削除効率、固有分子識別子(UMI)に基づくシーケンシングアッセイ又は液滴デジタルPCR(ddPCR)アッセイによる定量化を示す(n=3回のトランスフェクション反復にわたる平均±SD)。
図3Fは、Cas9/sgRNAペア戦略を用いた、HPRTエクソン1での118bp削除(左)と252bp削除(右)のシーケンシングリードにわたってプロットされた代表的な挿入、削除及び置換エラーの頻度を示す。異なるエラークラスは
図3Cと同じ色で表示される。
図3Gは、PRIME-Del戦略を用いた以外、
図3Fと同じである。
【0038】
【
図4】
図4Aから
図4Eは、ゲノム全体にわたるPRIME-Delの特徴付けを示す。
図4Aは、PRIME-Del(左)及びCas9/sgRNAペア法(右)におけるゲノム全体にわたる異なる削除の推定削除効率とインデルエラー頻度(n=3回のトランスフェクション反復の平均)を示す。UMIに基づくシーケンシングアッセイにより定量化した(FMR1*のGCリッチなアンプリコン(DMSOの添加によりUMI付加反応が妨げられた)を除き)。
図4Bは、Cas9/sgRNAペア媒介削除における既知のエラーモードである配列反転イベントの概略図である。
図4Cは、PRIME-Del(左)及びCas9/gRNAペア法(右)におけるゲノム全体にわたる異なる削除の推定反転頻度を示す(n=3回のトランスフェクション反復の平均)。なお、これらは、Cas9/sgRNAペア媒介削除の1つを除くすべてでかなりの頻度で観察されたのに対し、PRIME-Delでは、これら10個の削除のいずれについても反転が事実上観察されなかった。
図4Dは、HEK293T細胞におけるddPCRに基づくアッセイによりPRIME-Del(左)又はCas9/sgRNAペア(右)を用いたHPRT1での1kb及び10kb削除について測定した削除効率を示す(n=3回のトランスフェクション反復にわたる平均±SD)。
図4Eは、削除アンプリコンのシーケンシングにより、PRIME-Del(左)又はCas9/sgRNAペア(右)を用いたHPRT1遺伝子での1kb及び10kb削除について測定した精密な削除を持つリードの割合を示す(n=3回のトランスフェクション反復にわたる平均±SD)。
【0039】
【
図5】様々なゲノム編集応用にPRIME-Delを使用する潜在的な利点を示す。PRIME-Del戦略は、Cas9標的配列で短いインデルエラーを生成することなく、精密なゲノム削除をプログラムすることができる。精密な削除と、削除ジャンクションに短い任意の配列を挿入する機能を組み合わせることで、ナンセンス媒介崩壊(NMD)経路を引き起こす可能性がある時期尚早なインフレーム終止コドンを生成することなく、活性タンパク質ドメインの強力な遺伝子ノックアウトを可能にする。PRIME-Delは、10kbまでのゲノム領域をエピトープタグやRNA転写開始部位などの任意の配列に置換することもできる。複数の領域が並行して編集されて多重化が促進される場合、PRIME-Del中に生成される一本鎖切断は細胞に対する毒性が低くなる可能性がある。
【0040】
【
図6】
図6Aから
図6Eは、エピソーム的にコードされた化eGFPを標的とするPRIME-Del削除を伴うエラープロファイルを示す。
図6Aは、アンプリコンシーケンシングのためのサンプル調製の概略図である。削除の標的となるセグメントの周囲の領域は、2段階PCR増幅によりゲノムDNAから増幅され、2段階目でシーケンシングアダプターが付加される。
図6Bから
図6Dは、24bp削除(6B)、91bp削除(6C)及び546bp削除(6D)のシーケンシングリードにわたる挿入、削除及び置換エラーの頻度を示す。これらは、シングルエンドシーケンシングに基づいており、実験ごとに5つの反復が行われ、すべてが1回の実行でシーケンシングされ、オーバーレイされる。なお、24bp削除を除いて、削除を欠くアンプリコン(「野生型」として標識される)では、2つの3'-DNAフラップのうち1つだけがシーケンシングリードによってカーバーされる。Y軸のスケーリングは、プロットごとに異なる。
図6Eは、固有分子識別子(UMI)補正を可能にするために増幅を繰り返した後の546bp削除にわたるエラー頻度を示す。同じUMIを共有する最も頻度の高い配列を取得することにより、UMIによって識別されたPCR反復を単一のリードに折り畳んだ。これらは、シングルエンドシーケンシングに基づいており、実験ごとに3つの反復が行われ、すべてが1回の実行でシーケンシングされ、オーバーレイされる。Y軸のスケーリングは、プロットごとに異なる。
【0041】
【
図7】
図7Aから
図7Cは、エピソーム又はゲノム的にコードされたeGFPでの同時削除と挿入によるエラープロファイルを示す。
図7Aは、エピソーム的にコードされたeGFP(episomally encoded eGFP)を標的とする、同時546bp削除及び様々な挿入条件からのシーケンシングリードにわたってプロットされた挿入、削除及び置換のエラー頻度を示す。これらは、シングルエンドシーケンシングに基づいており、実験ごとに3つの反復が行われ、すべてが1回の実行でシーケンシングされ、オーバーレイされる。なお、削除を欠くアンプリコン(「野生型」として標識される)では、2つの3'-DNAフラップのうち1つだけがシーケンシングリードによってカーバーされる。削除結合部での挿入に対応するリード内の位置は、ニック部位(黒い点線)と挿入の終わり(赤い点線)の間で強調表示される。Y軸のスケーリングはプロットごとに異なる。
図7Bは、
図7Aと同じであるが、ゲノム的に組み込まれたeGFPのコピーを標的とする実験を示す。
図7Cは、プログラムされた削除を含み、プログラムされた挿入も含む読み取りの割合を示す。
図2Fと同じであるが、eGFPのゲノム的に組み込まれたコピーをターゲットとする実験を示す。エラーバーは、少なくとも3回のトランスフェクション反復の標準偏差を表す。
【0042】
【
図8】
図8Aから
図8Dは、ネイティブHPRT1遺伝子の削除効率とエラー頻度を定量化することを示す。
図8A及び
図8Bは、(8A)Cas9/gRNAペア戦略を用いたHPRT1上の118bp又は252bp削除;及び(B)PRIME-Del戦略を用いたHPRT1上の118bp又は252bp削除;からのシーケンシングリードにわたってプロットされた挿入、削除及び置換エラーの頻度を示す。HPRT1条件の「削除」参照に合わせたシーケンシングリードはペアエンドシーケンシングに基づくのに対し、他のすべての条件はシングルエンドシーケンシングに基づく。各実験には、1回の実行でシーケンシングされた3つの反復がある(オーバーレイ)。なお、2つの3'-DNAフラップのうち1つだけが、削除を欠くアンプリコン(「野生型」として標識される)のシーケンシングリードによってカバーされ、Y軸のスケーリングは、挿入、削除、置換のプロットごとに異なる。
図8C及び
図8Dは、(C)118bp削除及び(D)252bp削除のための液滴デジタルPCR(ddPCR)アッセイにおける液滴蛍光レベルを示す。FAM陽性液滴(精密な削除の検出、上図)とHEX陽性液滴(ゲノムDNA濃度の検出、下図)の比を、PRIME-Del(左側の3つのウェル)及びCas9/gRNAペア法(中央の3つのウェル)を用いた削除の効率の測定に使用した。各プローブセットについて、精密な削除からの特異的シグナルを確保するために陰性対照(NTC)を実行した。おそらく液滴内でのPCR増幅が非効率であるため、FAMチャネルではHEXチャネルに比べて分離が明確ではない(陰性レベルと陽性レベルの間で実質的な「雨」パターンが見られる)。この現象は、Cas9/gRNAペアサンプルでより顕著であり、おそらく上記のように短い(1bp)ミスマッチを持つ削除結合部へのFAMプローブのアニーリングが原因と考えられる(Watry et al. Rapid, precise quantification of large DNA excisions and inversions by ddPCR, Scientific Reports 2020)。
【0043】
【
図9】
図9Aから
図9Hは、HPRT1エクソン1のPRIME-Del編集時のまれな長い挿入を示す。
図9Aでは、削除ジャンクションを双方向でカバーし、15bpのUMI配列を使用してPCR反復の除去を促進するために、PRIME-Delで編集されたHPRT1遺伝子座に由来するアンプリコンのペアエンドシーケンシングを実行した。これにより、長い挿入が反復して存在することが明らかになり、GCリッチ端で繰り返した2つの3'フラップ配列のキメラのようである(紫色で強調表示)。ここに示されているのは、118bp削除条件での代表的な挿入である。配列識別子が示される。
図9から
図9Dは、Cas9/gRNAペアによるHPRT1の118bp削除(9B)、PRIME-DelによるHPRT1の118bp削除(9C)、又はPRIME-DelによるeGFPの546bp削除(9D)のための挿入配列長のヒストグラムである。赤い垂直線は平均挿入長を示す。
図9Eは、
図9Aと同じであるが、252bp削除条件下での代表的な挿入、及びGCリッチ端でオーバーラップした2つの3'フラップ配列のキメラを示す。配列識別子が示される。
図9F及び
図9Gは、PRIME-Del(9F)又はCas9/paired-gRNA(9G)によるHPRT1の252bp削除のための挿入配列長のヒストグラムを示す。
図9Hは、PRIME-Delによる長い挿入の潜在的なメカニズムを示す。pegRNAペアの3'フラップのGCリッチ端(118bp削除の場合はGCCCT、252bp削除の場合はCGGC)は、互いにアニールするか、又は別のGCリッチなストレッチにアニールし、これによって、修復時に挿入が生じる。
【0044】
【
図10】
図10Aから
図10E:PRIME-Delの効率と精度は、相同性アームの長さに依存する。
図10A:pegRNAペアは異なるRT テンプレート長で設計することでき、これにより相同性アームの長さを効果的に変更してPRIME-Delでの編集をガイドすることができる。
図10B及び
図10Cは、HPRT1エクソン1の(10B)118bp及び(10C)252bpの削除のために異なる相同アーム長を使用した場合の削除効率(標準設計(32bpのRTテンプレート;
図3A~3Gで使用)に正規化)を示す(n=3回のトランスフェクション反復にわたる平均±SD)。eGFP上での546bp削除の作製からの非相同性RTテンプレート配列(
図1Aから
図2Fで使用;30/30eGFPとして示す)を使用する場合、削除が生じない。
図10D及び
図10Eは、HPRT1エクソン1の(10D)118bp及び(10E)252bp削除のために異なる相同性アーム長を使用した場合のPRIME-Delにおける長挿入頻度(標準設計に正規化)を示す(n=3回のトランスフェクション反復にわたる平均±SD)。
【0045】
【
図11】
図11Aから
図11Cは、プールされたPRIME-Delを用いた削除を示す。
図11Aは、トランスフェクションのために一緒にプールされた、HPRT1遺伝子内にプログラムされた4つの削除の漫画表現を示す。
図11Bは、HEK293T細胞においてPRIME-Delを用いたHPRT1遺伝子上の3つのオーバーラップ削除(118、252及び469bps)の削除効率とエラー頻度を示す。3つのトランスフェクション反復は、別々にプロットされる。
図11Cは、単一削除(左側の3つのウェル)とプールされたPRIME-Del(中央の3つのウェル)の間で比較した1064bp削除効率を示す。プールされたPRIME-Delにおける1064bp削除の推定編集効率は、3回のトランスフェクション反復で1.7%、1.9%及び2.0%である。
【0046】
【
図12】
図12Aから
図12F:編集時間窓を延長することにより、プライム編集とPRIME-Delの効率が向上する。
図12Aは、2段階のゲノム組み込みを介してPrime Editor-2酵素とpegRNAの両方を安定して発現する概略図である。
図12B及び
図12Cは、K562(PE2)細胞(12B)又はHEK293T(PE2)細胞(12C)においてPRIME-Del(pegRNA構築物)を用いたゲノムHPRT1エクソン1での118bp及び252bp削除、又はプライム編集(単一pegRNA構築物)を用いたCTT挿入について測定された編集効率(pegRNAの最初の形質導入後の時間の関数として)を示す(n=3回のトランスフェクション反復にわたる平均±SD)。
図12Dは、PRIME-Del(pegRNA構築物)を用いたゲノムHPRT1エクソン1での118bp及び252bp削除、又はプライム編集(単一pegRNA構築物)を用いたCTT挿入について測定された編集効率(pegRNAの最初の形質導入後の時間の関数として)を示す。pegRNAペアとPrime Editor-2酵素を有するプラスミドを、Prime Editor-2酵素発現HEK293T細胞に3回トランスフェクトした(0、9、18日目;黄色で強調表示)(n=3回のトランスフェクション反復にわたる平均±SD)。
図12Eは、
図12Aと同じであるが、まず、0日目にpiggyBACトランスポゾンシステムを介してpegRNAをPE2発現HEK293Tに組み込み(緑色で強調表示)、続いて9日目と18日目にPrime Editor-2酵素のみを持つプラスミドをさらに2回トランスフェクトした(黄色で強調表示)(n=3回のトランスフェクション反復にわたる平均±SD)。
図12Fは、
図12Cに示される実験の2回目の反復を示し、ここで、PRIME-Del用いたHPRT1エクソン1での118bp及び252bpの削除について削除効率をpegRNAの最初の形質導入後の時間の関数として測定する(n=3回のトランスフェクション反復にわたる平均±SD)。
【0047】
【
図13】介在配列の除去後に切断部位間に配列を挿入するように構成されたPRIME-Delの実施形態を概略的に示す。3'フラップは、挿入される配列を有し、各フラップ(A及び a)は修復ステップでアニールし、修復ステップ後にdsDNA配列が挿入されるように逆相補的形式の配列を有する。対応する領域は、文字A/aで示される。
【0048】
【
図14】dsDNAの断片を環状化するように構成されたPRIME-Delの実施形態を模式的に示す。第1標的配列(上部鎖)は、アンチセンス鎖の第2標的配列(下部鎖)に対応するセンス鎖内の逆相補配列よりもセンス鎖に沿って3'側に配置される。本実施形態において、第1の3'オーバーハングフラップ(B)及び第2の3'オーバーハングフラップ(a)は、外側を向いており、互いに離れている。この方向において、修復した結果、一本鎖切断の両側のdsDNA断片が切除され、センス鎖の第1一本鎖切断と第2鎖の第2一本鎖切断の間に配置されるdsDNA配列の部分が保存される。この図示の実施形態では、
図2A及び13のように、追加の挿入配列を含むか又は完全に置換できるが、各3'フラップ(B及びa)は、
図1Cのように、他のpegRNAが標的とする保存されたdsDNA領域に相補的な配列を含む。
【発明を実施するための形態】
【0049】
ゲノム配列を削除する従来の方法は、CRISPR-Cas9及び複数ペアのシングルガイドRNA(sgRNA)に基づくものである。しかし、このような方法は、小さなインデル、及び意図しない大きな削除やより複雑な再配置などのエラーが発生することから非効率的かつ不精密になる可能性がある。本発明は、「PRIME-Del」と呼ばれるプライム編集に基づく方法を提供する。この方法は、反対側のDNA鎖を標的とする1ペアのプライム編集sgRNA(pegRNA)を用いて削除を誘導する。pegRNAは、ニックが入った部位だけでなく、修復の結果もプログラムする。後述のように、PRIME-Delは、最大10kbの削除のプログラミング(編集効率1-30%)において、CRISPR-Cas9及びsgRNAペアよりも著しく高い精度を達成する。PRIME-Delは、ゲノム削除と挿入を結合するために使用することもできる。これによって、ジャンクションがプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)部位に位置しない削除は可能となる。最後に、プライム編集コンポーネントの拡張発現により、精度を損なうことなく効率を大幅に向上させることができる。PRIME-Delは、信頼性が高く、精密かつ柔軟なゲノムの削除と挿入のプログラミング、エピトープのタグ付け、及びゲノムの再構成のプログラミングに広く有用である。
【0050】
上記に従って、一態様では、本発明は、二本鎖DNA(dsDNA)分子の編集方法を提供する。標的dsDNAは、互いに逆相補的な配列を有するセンス鎖及びアンチセンス鎖を有することを特徴とする。反対側の鎖はワトソンクリック塩基対形成を介して相互にハイブリダイズし、標準的な二重らせん構造におけるdsDNA分子の安定性をもたらす。本発明の方法は、任意のdsDNA分子を標的とすることができる。例示的なdsDNAは、任意の細胞、有機体又はウイルスからのゲノムDNAである。いくつかの実施形態において、dsDNAは、ヒト細胞からのゲノムDNAである。センス及びアンチセンスという用語は、いずれかの鎖に任意に割り当てることができ、特に明記しない限り、単に反対側の鎖を互いに区別するために使用される。
【0051】
本発明の方法は、dsDNA分子を少なくとも1ペアの編集複合体と接触されるステップを含む。1ペアにおける各編集複合体は、Anzalone et al.によって開示されたプライム編集構築物に基づいている(Search-and-replace genome editing without double-strand breaks or donor DNA. Nature 576, 149-157(2019) and Lin, Q. et al;Prime genome editing in rice and wheat. Nat. Biotechnol. 38, 582-585(2020);それぞれの内容は、参照によりその全体が明示的に本明細書に組み込まれる)。後述及び
図1Bに示されるように、プライム編集は、逆転写酵素と融合したニッカーゼ機能を持つエディター酵素を使用する。プライム編集構築物は、3'伸長sgRNA(プライム編集sgRNA又はpegRNAとも呼ばれる)をさらに含む。結合すると、pegRNAは標的配列に結合特異性を与え、融合エディターはdsDNA分子の1本の鎖にニックを入れる(即ち、隣接するヌクレオチドを結合するリン酸ジエステル結合の切断を引き起す)。3'一本鎖DNAフラップは、融合エディタータンパク質の転写酵素ドメインによるpegRNAの一部の逆転写によってニック部位に結合する。
【0052】
本発明の方法において、それぞれ反対側の鎖上のdsDNAの部分を特異的に標的とする1ペアの編集複合体が使用される。このアプローチのいくつかの実施形態を示す概要を
図1Cに示す。特に、dsDNAは、第1編集複合体及び第2編集複合体に接触する。第1編集複合体は、dsDNA分子のセンス鎖上の第1標的配列に特異的であり、第2編集複合体は、dsDNA分子のアンチセンス鎖上の第2標的配列に特異的である。「特異的」という用語は、編集複合体が、通常の条件下で標的配列に選択的に結合(例えば、ハイブリダイズ)できる構造要素(例えば、RNA配列)を含むことを意味する。第1編集複合体及び第2編集複合体は、それぞれ独立して融合エディタータンパク質及びそれに結合した伸長ガイドRNA分子を含む。
【0053】
なお、説明の便宜上、以下、編集複合体のコンポーネント、その実装、及び1ペアの編集複合体の一般的なコンテキストでの使用について説明する。しかし、本発明は、複数の編集複合体ペアの使用を含む実施形態も包含する。これらの実施形態では、各ペアの編集複合体は、他の編集複合体ペアと区別することができるため、異なるターゲティング機能及び/又は編集機能をもたらすことができる。例えば、編集複合体の特定のターゲティングを与える構造(後述)は、編集複合体ペアによって異なる。その結果、同じ環境(同じ細胞の異なる染色体など)内の同じdsDNA分子又は異なるdsDNA分子内の複数の標的位置で、複数の異なる編集が実行される。以下の説明を考慮すると、複数ペアの編集複合体を使用して多重化編集を実行するかが明らかになる。例えば、異なる伸長ガイドRNA分子(又は伸長ガイドRNA分子をコードする核酸配列)だけをプールして、それらが融合エディタータンパク質と複合体を形成できるようにする。ここで、融合エディタータンパク質は、すべて同じであっても異なっていてもよい。
【0054】
一般に、融合エディタータンパク質はそれぞれ、機能的能力を保持する限り、機能的ニッカーゼドメインと機能的逆転写酵素ドメインを相互に任意の向きで含む(後述)。理解できるように、第1及び第2の編集複合体に関して、それぞれの機能的ニッカーゼドメイン及び機能的逆転写酵素ドメインは、機能的能力を保持する限り、同じであっても異なっていてもよい。それぞれの伸長ガイドRNA分子の一般的な構成は、dsDNAにおける所望の標的配列にハイブリダイズする配列を含むガイドドメインと、編集されたDNAに組み込まれるか又は所望の修復モードを促進する所望の配列を有する3'端の伸長ドメインとを含む。いくつかの実施形態において、第1及び/又は第2伸長ドメインは、2つのサブドメインを含む。第1サブドメインは、ニックが入った鎖にハイブリダイズするプライマー結合配列(PBS)を含む。第1サブドメインは、伸長ドメインの3'端に位置する(通常、伸長ガイドRNA分子全体も同様)。第2サブドメインは、3'オーバーハングのテンプレートとして機能する逆転写テンプレート(RTT)を含み、これによって、RNAからDNAに逆転写して3'-オーバーハングを追加する。RTTは、PBSとガイドドメインとの間にある。RTT配列は、3'オーバーハングの逆相補配列である。
【0055】
いくつかの実施形態において、第1編集複合体及び第2編集複合体のそれぞれの伸長ガイドRNA分子は、それぞれの標的配列又は3'末端配列に応じて異なる配列を含む。より具体的には、第1編集複合体の伸長ガイドRNA分子は、第1標的配列にハイブリダイズする第1配列を有する第1ガイドドメインと、3'端にある第1伸長ドメインとを含む。第2編集複合体の伸長ガイドRNA分子は、第2標的配列にハイブリダイズする第2配列を有する第2ガイドドメインと、3'端にある第2伸長ドメインとを含む。
【0056】
第1編集複合体及び第2編集複合体がそれらのそれぞれのdsDNA分子における標的に特異的に結合した後、前記方法は、第1編集複合体の機能的ニッカーゼドメイン及び第2編集複合体の機能的ニッカーゼドメインが第1標的配列及び第2標的配列にあるdsDNA分子の反対側の鎖にそれぞれ第1一本鎖切断及び第2一本鎖切断(例えば、ニック)を形成できるようにするステップを含む。いくつかの実施形態において、第1編集複合体の機能的ニッカーゼドメインは、第1標的配列内(例えば、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列の上流約3塩基以内)のセンス鎖にニックを入れる。同様に、いくつかの実施形態において、第2編集複合体の機能的ニッカーゼドメインが第2標的配列内(例えば、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列の上流約3塩基以内)のアンチセンス鎖にニックを入れる。
【0057】
第1及び第2一本鎖切断がセンス及びアンチセンス鎖上の第1及び第2編集複合体(即ち、それぞれのニッケーゼドメイン)によって誘導された後、前記方法は、第1編集複合体の機能的逆転写酵素ドメインが第1伸長ドメインをテンプレートとして使用して第1一本鎖切断から第1の3'オーバーハングを生成できるようにするステップを含む。同様に、前記方法は、第2編集複合体の機能的逆転写酵素ドメインが第2伸長ドメインをテンプレートとして使用して第2一本鎖切断から第2の3'オーバーハングを生成できるようにするステップを含む。
【0058】
第1及び第2ニックで第1及び第2の3'オーバーハングが伸長した後、dsDNA分子は修復される。修復の結果は、第1配列と標的配列の相対位置に依存するため、第1及び第2切断の相対方向並びに第1及び第2の3'オーバーハングの最終的な位置に依存する可能性がある。これらの構成に対処するために、センス鎖の5'から3'軸に関連して相対位置を表現することができる。一実施形態において、第1の標的配列は、アンチセンス鎖の第2の標的配列に対応するセンス鎖内の逆相補配列よりもセンス鎖に沿って5'側の位置に配置される。本実施形態は、
図1Cに示される。本実施形態において、第1の3'オーバーハング及び第2の3'オーバーハングは、内側を向いており、互いの方向を向いている。この方向では、dsDNA修復により、もともとセンス鎖の第1一本鎖切断と第2鎖における第2一本鎖切断に配置されたdsDNAの部分が切除される。第1の3'オーバーハング及び第2の3'オーバーハングは、修復されたdsDNA分子に組み込まれる。この修復スキームの実施形態は、
図1Cに示される。いくつかの実施形態において、両方の3'オーバーハングは、このプロセスにおいて自然な細胞DNA損傷修復能力によりさらに伸長することができる。
【0059】
別の実施形態において、第1標的配列は、アンチセンス鎖の第2標的配列に対応するセンス鎖における逆相補配列よりもセンス鎖に沿って3'側の位置に配置される。本実施形態において、第1の3'オーバーハング及び第2の3'オーバーハングは、外側を向いており、互いに離れている。この方向では、修復により、一本鎖切断の両側のdsDNA断片が切除され、センス鎖の第1一本鎖切断と第2鎖の第2一本鎖切断との間に配置されるdsDNA配列の部分が保持される。第1の3'オーバーハング及び第2の3'オーバーハングは、修復されたdsDNA分子に組み込むことができる。これによって、センス鎖の第1一本鎖切断と第2鎖の第2一本鎖切断との間に配置されるdsDNA配列の部分が環状化される。
図14は、PRIME-delを使用したこの環状化プロセスの一実施形態を表す概略図である。
【0060】
いくつかの実施形態において、第1の3'オーバーハング及び第2の3'オーバーハングは、それぞれ互いに逆相補的でありかつ修復ステップでハイブリダイズする核酸配列を含む。この実施形態は
図13に示される。もともと2つの一本鎖切断点の間に存在したdsDNAの部分は、修復中に切除される。逆相補配列を有する2つの前記オーバーハングは、ハイブリダイズして二本鎖分子を形成し、切除された部分の代わりにdsDNAに機能的に挿入される。結果として、挿入配列は、第1一本鎖切断の「上流」の元のdsDNA分子配列と、第2一本鎖切断の「下流」(センス鎖の方向に対して)の元のdsDNA分子配列の間に配置されるようになる。
【0061】
他の実施形態において、第1の3'オーバーハングは、アンチセンス鎖における第2の3'オーバーハングのすぐ5'側でそれに隣接する配列に対応する配列を有する第1修復ドメインを含む。同様に、第2の3'オーバーハングは、センス鎖における第1の3'オーバーハングのすぐ5'側でそれに隣接する配列に対応する配列を有する第2修復ドメインを含む。本実施形態において、修復ステップにおいて、反対側の鎖における第1の3'オーバーハング及び第2の3'オーバーハングは、互いに到達し、反対側の切断点に隣接する残りのdsDNA部分にハイブリダイズする。この実施形態の1つのバージョンは
図1Cに示される。
【0062】
さらなる実施形態において、オーバーハング配列は、複数の配列(例えば、修復を促進するdsDNAの一部に対応する配列及び新しい配列として組み込まれる新しい配列を構成する配列)を含んでもよい。例えば、第1の3'オーバーハングは、第1修復ドメインの5'側に配置される挿入配列をさらに含み得る。同様に、第2の3'オーバーハングは、対応する挿入配列(即ち、第1の3'オーバーハングにおける挿入配列と逆相補的であるとともに、第2の3'オーバーハング内の第2修復ドメインの5'側に配置される配列)を含む。修復中において、2つの 挿入配列ドメインは、ハイブリダイズする。第1の3'オーバーハングの第1修復ドメインは、第2切断点に到達し、第2切断点に隣接する残りのdsDNA部分にハイブリダイズする。同様に、第2の3'オーバーハングの第2修復ドメインは、第1切断点に到達し、第1切断点に隣接する残りのdsDNA部分にハイブリダイズする。この実施形態の一例は、
図2Aに示される。
【0063】
この方法は、オーバーハング配列の設計によって実施できる他の変形を含む。例えば、この方法は、第1標的ドメインと第2標的ドメインとの間の不都合な配向順序を反転させる方法で実施することができる。一実施形態において、このような反転を実施するために、第1の3'オーバーハングは、第2一本鎖切断(例えば、アンチセンス鎖における)のすぐ3'側に位置する配列に対応する配列を有する第1修復ドメインを含む。同様に、第2の3'オーバーハングは、第1一本鎖切断(例えば、センス鎖における)のすぐ3'側に位置する配列に対応する配列を有する第2修復ドメインを含む。言い換えれば、3'オーバーハングは、それぞれ介入するdsDNA断片の反対側の端にハイブリダイズする配列を含む。結果として、修復ステップにより、もともと第1一本鎖切断と第2一本鎖切断との間に配置されるdsDNAの部分は反転する。いくつかの実施形態において、第1修復ドメインは、第2一本鎖切断のすぐ3'側に位置する配列と同一(又は実質的に同一)の配列を有する。同様に、いくつかの実施形態において、第2修復ドメインは、第1一本鎖切断のすぐ3'側に位置する配列と同一(又は実質的に同一)の配列を有する。
【0064】
いくつかの実施形態において、この方法は、標的dsDNA分子の第1標的ドメインと第2標的ドメインとの間に外因性供給源からのDNA断片(「挿入DNA断片」)を挿入するために使用することができる。挿入される前記挿入DNA断片は、線状DNA断片であってもよいか、又は環状DNA分子に由来してもよい。挿入を容易にするために、第1の3'オーバーハングは、挿入DNA断片の第1ドメインに対応する配列を有する第1修復ドメインを含む。同様に、第2の3'オーバーハングは、挿入DNA断片の第2ドメインに対応する配列を有する第2修復ドメインを含む。第1ドメイン及び第2ドメインは、挿入DNA断片の反対側の端部にある端部ドメインであってもよい。代替的には、第1ドメイン及び第2ドメインの一方又は両方は、異なる部位、例えば、最終的に挿入DNA断片を含むより大きなdsDNA分子内の内部部位にある。この代替的な実施形態において、第1ドメイン及び第2ドメインは、より大きな外因性dsDNA源分子内の挿入DNA断片の部分の端部を定義する。
【0065】
以下に示すように、本発明の方法の様々な実施形態を利用して、標的dsDNA分子から広範囲の内部dsDNA断片サイズを削除することができる。本発明の方法により、例えば、約5又は10ヌクレオチドの短いものから約100万ヌクレオチド以上の長いものまで、ほぼあらゆる長さの介在配列を削除することができる(なお、削除が長くなると、反応の効率が若干低下する可能性がある)。いくつかの実施形態において、もともと第1一本鎖切断と第2一本鎖切断との間に配置される切除されるdsDNAの部分は、約5ヌクレオチドから約100万ヌクレオチド、約10ヌクレオチドから約900,000ヌクレオチド、約10ヌクレオチドから約800,000ヌクレオチド、約10ヌクレオチドから約700,000ヌクレオチド、約10ヌクレオチドから約700,000ヌクレオチド、約10ヌクレオチドから約600,000ヌクレオチド、約10ヌクレオチドから約500,000ヌクレオチド、約10ヌクレオチドから約400,000ヌクレオチド、約10ヌクレオチドから約300,000ヌクレオチド、約10ヌクレオチドから約200,000ヌクレオチド、約10ヌクレオチドから約100,000ヌクレオチド、約10ヌクレオチドから約90,000ヌクレオチド、約10ヌクレオチドから約80,000ヌクレオチド、約10ヌクレオチドから約70,000ヌクレオチド、約10ヌクレオチドから約60,000ヌクレオチド、約10ヌクレオチドから約50,000ヌクレオチド、約10ヌクレオチドから約40,000ヌクレオチド、約10ヌクレオチドから約30,000ヌクレオチド、約10ヌクレオチドから約20,000ヌクレオチド、約10ヌクレオチドから約10,000ヌクレオチド、約10ヌクレオチドから約9,000ヌクレオチド、約10ヌクレオチドから約8,000ヌクレオチド、約10ヌクレオチドから約7,000ヌクレオチド、約10ヌクレオチドから約6,000ヌクレオチド、約10ヌクレオチドから約5,000ヌクレオチド、約10ヌクレオチドから約4,000ヌクレオチド、約10ヌクレオチドから約3,000ヌクレオチド、約10ヌクレオチドから約2,000ヌクレオチド、約10ヌクレオチドから約1,000ヌクレオチド、又はそれらの範囲内の任意範囲である。例えば、もともと第1一本鎖切断と第2一本鎖切断との間に配置される切除されるdsDNAの部分は、長さが少なくとも5ヌクレオチドであり、例えば、約5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、125、150、175、200、225、250、275、300、325、350、375、400、425、450、475、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、1000、1500、2000、2500、3000、3500、4000、4500、5000、5500、6000、6500、7000、7500、8000、8500、9000、9500、10,000、20,000、30,000、40,000、50,000、60,000、70,000、80,000、90,000、100,000、200,000、300,000、400,000、500,000、600,000、700,000、800,000、900,000、1,000,000若しくはそれ以上のヌクレオチド、又はその中の任意の数値又は範囲である。
【0066】
いくつかの実施形態において、第1ガイドドメイン及び第2ガイドドメインは、それぞれ独立して約15と約200ヌクレオチド長の間である。例示的な非限定的な例では、第1ガイドドメイン及び第2ガイドドメインは、それぞれ独立して約15と150ヌクレオチド長の間、約15と125ヌクレオチド長の間、約15と75ヌクレオチド長の間、約15と50ヌクレオチド長の間、約15と約40ヌクレオチド長の間、約15と30ヌクレオチド長の間、約15と25ヌクレオチド長の間、約15と20ヌクレオチド長の間、約20と200ヌクレオチド長の間、約20と175ヌクレオチド長の間、約20と150ヌクレオチド長の間、約20と125ヌクレオチド長の間、約20と100ヌクレオチド長の間、約20と75ヌクレオチド長の間、約20と50ヌクレオチド長の間、約20と40ヌクレオチド長の間、約20と30ヌクレオチド長の間、約20と25ヌクレオチド長の間、約25と50ヌクレオチド長の間、約25と40ヌクレオチド長の間、約25と30ヌクレオチド長との間、又はその中の任意の数値若しくは部分範囲である。例示的な長さは、約18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、125、150、175、200ヌクレオチド長を含む。
【0067】
いくつかの実施形態において、第1及び第2ガイドドメインの一方又は両方は、それぞれ第1及び第2編集複合体と適合性があるように構成される。ここで、「適合性」とは、編集複合体を形成するために融合エディタータンパク質によって認識されるガイドドメインの能力を指す。例えば、いくつかの実施形態において、ガイドドメインは、2'-O-メチル化、ロックされた核酸、ペプチド核酸、又は同様の機能的に修飾された核酸部分で修飾された1つ以上のヌクレオチド残基を含んでもよい。これらの例示的な修飾及び他の修飾は、プライム編集における融合エディタータンパク質の認識及び結合を促進することが知られており、本開示に包含される。
【0068】
第1伸長ドメイン及び第2伸長ドメインは、それぞれ独立して少なくとも約10ヌクレオチド長であってもよい。いずれかの伸長ドメインの長さに対する実際的な上限は、伸長ドメインテンプレートから3'オーバーハングを作成するプライム編集に基づくアプローチにおける機能的な逆転写ドメインの能力によって与えられる可能性がある。このような機能的な逆転写ドメインは、1000~2000ヌクレオチド長を容易に逆転写することができる。したがって、伸長ドメインは、長さ独立して約10から約2000ヌクレオチドであり得る。特定の応用では、伸長ドメインが範囲の短い端にあることがより一般的である可能性がある。例示的な非限定的な範囲は、約10と500ヌクレオチド長の間、約10と400ヌクレオチド長の間、約10と300ヌクレオチド長の間、約10と200ヌクレオチド長の間、約10と100ヌクレオチド長の間、約10と75ヌクレオチド長の間、約10と50ヌクレオチド長の間、約10と40ヌクレオチド長の間、約10と30ヌクレオチド長、約10と20ヌクレオチド長、又はその中の任意の長さ又は部分範囲を含む。例示的な長さは、約10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、125、150、175、200ヌクレオチド長を含む。
【0069】
いくつかの実施形態において、第1伸長ガイドRNA分子及び/又は第2伸長ガイドRNA分子は、追加の機能的ドメインを含むように操作され得る。例えば、(第1及び/又は第2)伸長ガイドRNA分子は、3'オーバーハング生成の効率を助けるドメインをさらに含むことができる。一実施形態において、伸長ガイドRNAは、構造化RNAモチーフを3'末端(即ち、本明細書に記載の伸長ドメイン)に組み込んでいることで、その安定性が向上し、3'伸長の分解が防止される。このような「抗分解」構造モチーフは、例えば、「Nelson, J.W., et al. Engineered pegRNAs improve prime editing efficiency. Nat Biotechnol pp. 1-9(2021)」(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に記載されており、修飾プレクオシン1-1リボスイッチアプタマー(evopreQ1; Roth, A. et al. A riboswitch selective for the queuosine precursor preQ1 contains an unusually small aptamer domain. Nat. Struct. Mol. Biol. 14, 308-317(2007); Anzalone, A. V., et al. Reprogramming eukaryotic translation with ligand-responsive synthetic RNA switches. Nat. Methods 13, 453-458(2016),それぞれの内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)及びシュードノット(例えば、モロニーマウス白血病ウイルス由来)を含む。
【0070】
機能的ニッカーゼドメインは、標的dsDNA配列において一本鎖切断を触媒する任意の機能的ドメインであり得る。本開示に含まれる機能的ニッカーゼドメインの例として、CRISPR関連(Cas)酵素、ピロコッカス・フリオサス・アルゴノートなど、又はそれらに由来する機能的ニッカーゼドメインが挙げられる。いくつかの実施形態において、ニッケーゼドメインは、二本鎖ヌクレアーゼ機能を除去するなど修飾された酵素に由来する。この態様で有用なCas酵素の非限定的な例として、Cas9(dCas9又はnCas9)、Cas12、Cas13、Cas3、CasΦなどが挙げられる(例えば、Pauch, P, et al., CRISPR-CasΦ from huge phages is a hypercompact genome editor, Science, 369(6501):333-337(2020);WO2020/191242ご参照、それぞれは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。有用なCas9(ニッカーゼ能力のためのH804A修飾を有する)及び5つの点変異を持つM-MLV-rtをコードするプラスミド配列は、Addgene寄託所からカタログ番号132775として入手できる。本開示に有用な他の有用なCas9配列、構造、及び最適化は当技術分野で知られている。Cas9ヌクレアーゼ配列及び構造は当業者によく知られている(例えば、Ferretti el al. Complete genome sequence of an Ml strain of Streptococcus pyogenes, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 98:4658-4663(2001);Deltcheva E., et al. CRISPR RNA maturation by trans-encoded small RNA and host factor RNAe III. Nature 471:602-607(2011); Jinek M., et al. A programmable dual-RNA-guided DNA endonuclease in adaptive bacterial immunity. Science 337:816- 821(2012)を参照。それぞれは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。さらに、Cas(例えば、Cas9)オルソログは、S.pyogenes及びS.Thermophilusを含むがこれらに限定されない様々な種で報告されている。上記のように、ニッカーゼドメインは、ドメインが二本鎖切断ではなく一本鎖切断を確実に生じさせる修飾を含むことができる。例示的な修飾には、酵素ドメイン内の(複数の)ヌクレアーゼドメインの1つ(例えば、Cas9ヌクレアーゼ)の不活性化し、一本鎖切断を与える能力のみを残すことが含まれる。
【0071】
融合エディタードメインには、機能的逆転写酵素(RT)ドメインも含まれる。機能的RTドメインは、逆転写反応を触媒する任意の機能的ドメインであり得る。「逆転写酵素」は一般に、RNA依存性DNAポリメラーゼとして特徴付けられるポリメラーゼのクラスを指す。歴史的には、逆転写酵素は主にmRNAをcDNAに転写するために使用されており、cDNAはその後、さらなる操作のためにベクターにクローン化される。多くのこのような酵素(及びその機能ドメイン)が知られており、本開示に含まれる。例えば、鳥骨髄芽球症ウイルス(AMV)逆転写酵素は、広く使用された最初のRNA依存性DNAポリメラーゼである(Verma, Biochem. Biophys. Acta 473:1(1977))。RNAe Hは、RNA-DNAハイブリッドのRNA鎖に特異的な進行性5'及び3'リボヌクレアーゼである(Perbal, A Practical Guide to Molecular Cloning, New York: Wiley & Sons(1984))。分子生物学で広く使用されている別の逆転写酵素は、モロニーマウス白血病ウイルス(M-MLV)に由来する逆転写酵素である(例えば、Gerard, G. R., DNA 5:271-279(1986);Kotewicz, M. L., et ah, Gene 35:249-258(1985)を参照)。RNAe H活性が実質的に欠如しているM-MLV逆転写酵素も記載されている(例えば、米国特許第5,244,797号を参照)。他の例示的で非限定的な実施形態において、機能的逆転写酵素ドメインは、HIV RT、グループIIイントロンRT(TGIRT)(InGex, St. Louis, MO)、SuperScript IV(ThermoFisher Scientific, Waltham, MA)など、又はそれらの機能的ドメインを含む。「Anzalone, A. V. et al.Search-and-replace genome editing without double-strand breaks or donor DNA. Nature 576, 149-157(2019)」(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)には、本発明に含まれる機能的ニッカーゼドメイン及びRTドメインを有する融合タンパク質が記載されている。例えば、野生型M-MLV RTドメイン及び操作されたM-MLV RTドメインは有用な実施形態となり得る。さらに、操作されたRTドメインは、本明細書に開示されるプライム編集及びプライム削除を改善することができる。WO2020/191242(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)には、有用なRTドメインの他の例が記載されている。本開示は、そのような逆転写酵素、バリアント、変異体又はその断片の使用を意図している。
【0072】
いくつかの実施形態において、融合エディタータンパク質は、追加の機能的ドメインを含んでもよい。例えば、追加の機能的ドメインは、DNA修復タンパク質ドメインなどの機能的酵素ドメインであり得る。融合エディタータンパク質にDNA修復ドメインを含めることにより、3'オーバーハング生成後のDNA修復の効率を高めることができる。このようなドメインの非限定的な例は、Rad15由来の機能的DNA結合ドメイン、又はそのホモログである(例えば、Song, M., et al. Generation of a more efficient prime editor 2 by addition of the Rad51 DNA-binding domain. Nat Commun 12, 5617(2021)を参照。参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。
【0073】
本発明の方法は、特異的に標的化されたdsDNA分子に対する多くの修飾を達成するために使用することができる(例えば、削除、挿入と組み合わせた削除、介在配列の反転、配列の転座(例えば、染色体間再構成)の達成;フレーム保持の配列へのプログラミング;適切なPAM配列ないため従来のCRISPRに基づくアプローチではアクセスできない削除境界へのアクセス)。開示された方法は、細胞内、例えば培養下に維持された細胞内で実施することができる。或いは、前述の方法はインビボで実行することもできる。例えば、この方法は、ゲノム配列の削除、ゲノム配列の反転、染色体間再構成及び/又はゲノムの標的領域又は部位への新しい配列の挿入を含む治療法であってもよい。治療的実施形態では、組成物は、当該技術分野における標準的かつ既知の実践に従って、適切な投与(例えば、全身投与)のために製剤化される。
【0074】
編集複合体は細胞に直接送達することができ、又は細胞送達及び発現に適したベクターに組み込まれたコード化核酸の形で送達/投与することができる。したがって、いくつかの実施形態において、この方法は、1つ以上の融合エディタータンパク質及び伸長ガイドRNA分子をコードするポリヌクレオチド(1つ以上のベクター、その1つ以上の転写物、及び/又はそこから転写された1つ以上のタンパク質に組み込まれた)を標的細胞に送達することを含む。適切なウイルスベクターシステム及び非ウイルスベクターシステムは既知であり、当業者であれば実施することができる。例えば、例示的な非ウイルスベクター送達システムは、DNAプラスミド、RNA(例えば、本明細書に記載のベクターの転写物)、裸の核酸、及びリポソームなどの送達ビヒクルと複合体を形成した核酸を含む。核酸の非ウイルス送達は、リポフェクション、ヌクレオフェクション、マイクロインジェクション、バイオリスティック、ウィロソーム、リポソーム、免疫リポソーム、ポリカチオン又は脂質核酸複合体、裸のDNA、人工ビリオン、及び薬剤により強化されたDNAの取り込みを含む。
【0075】
ウイルスベクター送達システムには、細胞への送達後にエピソーム性ゲノム又は統合ゲノムのいずれかを有するDNAウイルスとRNAウイルスが含まれる。核酸送達のためのRNA又はDNAウイルスに基づくシステムの使用は、ウイルスを体内の特定の細胞を標的とし、ウイルスペイロードを核に輸送するための高度に進化したプロセスを利用する。ウイルスベクターは、患者に直接投与することができ(インビボ)、インビトロで細胞を治療するために使用することもでき、必要に応じて改変細胞を患者に投与することもできる(エクスビボ)。従来のウイルスに基づくシステムには、遺伝子導入用のレトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、及び単純ヘルペスウイルスベクターが含まれる。宿主ゲノムへの組み込みは、レトロウイルス、レンチウイルス、及びアデノ随伴ウイルスの遺伝子導入法を使用することができ、多くの場合、挿入された導入遺伝子が長期間発現する。記載された編集複合体、又は融合エディター及び伸長ガイドRNAコンポーネント(又はコード化核酸)に関する本方法の実施に適した様々な送達及び製剤化戦略は、WO2020/191242に記載されている(その全内容は参照により本明細書に組み込まれる)。
【0076】
別の態様において、本発明は、キットを提供する。前記キットは、本明細書に記載の組成物の任意の組成を含む。いくつかの実施形態において、前記キットは、本明細書に記載の1ペアの異なる編集複合体(即ち、第1及び第2編集複合体)、第1及び第2融合エディタータンパク質をコードする1つ以上の核酸及び/又は第1及び第2伸長ガイドRNA分子、又は前記核酸を含む1つ以上のベクターを含む。上記のように、第1及び第2編集複合体は、それぞれ第1及び第2伸長ガイドRNA分子の第1及び第2ガイドドメインによって、標的dsDNA分子上の第1及び第2標的配列に特異的である。第1標的配列は、標的dsDNAのセンス鎖にあり、第2標的配列は、dsDNAのアンチセンス鎖にある。2つの標的配列は、介在配列によって区切られる。第1編集複合体及び第2編集複合体は、上記のように、介在配列を削除し、介在配列を反転させ、及び/又は標的dsDNA分子における第1編集複合体及び第2編集複合体によって誘導された第1及び/又は第2一本鎖切断に1つ以上の新しい配列を挿入するように構成される。前記キットは、本明細書に記載の反応を促進するために、必要に応じて、様々な緩衝液及び試薬を含んでもよい。例えば、キットは、dNTP、RNAe阻害剤、補因子(例えば、MgCl2)などを含むことができる。
【0077】
いくつかの実施形態において、前記キットは、本明細書に記載の基本的な方法を実行するための様々なコンポーネントを収容するための1つ以上の容器を含んでもよい。キットの各コンポーネントは、適用できる場合、液体の形態(例えば、溶液)又は固体の形態(例えば、粉末又は凍結乾燥)で提供することができる。いくつかの実施形態において、一部のコンポーネントは、例えば、適切な溶媒を添加することにより、再構成可能又は加工可能となる。
【0078】
いくつかの実施形態において、前記キットは、本明細書に記載の方法を如何に実施するかについての書面指示をさらに含む。
【0079】
追加の定義
【0080】
本明細書で具体的に定義されない限り、本明細書で使用される全ての用語は、本発明の当業者にとっては同じ意味を有する。専門家は、特に技術の定義と用語のためにSambrook J., et al.(eds.), Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd ed., Cold Spring Harbor Press, Plainsview, New York(2001); Ausubel, F.M., et al.(eds.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York(2010); Ran, F. A., et al., Genome engineering using the CRISPR-Cas9 system, Nature Protocols, 8:2281-2308(2013), Jiang, F. and Doudna, J. A., CRISPR-Cas9 Structures and Mechanisms, Annual Review of Biophysics, 46:505-529(2017)を対象にする。
【0081】
特許請求の範囲における用語「又は」の使用は、代替物のみを参照することを明示的に示さない限り、又は代替物が相互に排他的である場合を除き、「及び/又は」を意味するために使用されるが、本明細書の開示は、代替物と「及び/又は」のみを指す定義をサポートする。
【0082】
長年の特許法に従って、特許請求の範囲又は明細書中で「含む」という言葉と一緒に使用される場合、「a」及び「an」という言葉は、特に明記されていない限り、1つ以上のものを意味する。
【0083】
文脈から明らかに別の意味を要求されない限り、本明細書及び特許請求の範囲全体を通して、「含む」、「含有」等の語は、排他的又は徹底的な意味とは対照的に、包括的な意味で解釈される。つまり、「含むが、これに限定されない」という意味である。単数又は複数形の数を使用する単語は、それぞれ、複数形及び単数形の数を含む。さらに、「ここ」、「上」、「下」、及び同様の意味の単語は、本願で使用される場合、本願全体を指し、本願のいかなる特定の部分を指すものではない。「約」という語は、記載された参照数値の上又は下にある微小変化の範囲内の数値を示す。例えば、「約」は、記載された参照数値の上又は下の10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、又は1%の範囲内の数字を指すことができる。
【0084】
「対象」、「個体」、及び「患者」という用語は、本明細書では言い換え可能なものとして使用され、治療のために評価されている及び/又は治療されている哺乳類を指す。特定の実施形態では、哺乳類はヒトである。「対象」、「個体」、及び「患者」という用語は、限定されないが、がん又は遺伝子異常を含む疾患を有する個体を包含する。対象はヒトであってもよいが、この用語は、他の哺乳類、特に、ヒトの疾患の実験モデルとして有用な哺乳類、例えば、マウス、ラット、イヌ、非ヒト霊長類なども包含される。
【0085】
用語「治療する」及びその文法上の変形は、疾患又は状態(例えば、がん、感染症、自己免疫疾患)の治療又は改善又は予防における成功のあらゆる指標を指すことができ、例えば、症状の軽減、寛解、軽減又は患者がより耐えられる状態にすること、変性又は衰退の速度を遅くすること、又は変性の最終点をより衰弱させないことなどの客観的又は主観的なパラメータを含む。
【0086】
症状の治療や改善は、医師による検査結果を含む、客観的又は主観的なパラメータに基づいて行われる。従って、「治療する」という用語は、本明細書に開示の化合物又は薬剤を投与して防止若しくは遅延し、緩和し、臨床転帰を改善し、症状の発生を減少させ、生活の質を向上させ、疾患のない状態を延長させ、安定させ、生存期間を延長させ、疾患又は状態(例えば、がん又は遺伝性疾患)に関連する症状又は状態の発症を阻止又は阻害すること、又はこれらの組み合わせを含む。用語「治療効果」は、対象における疾患又は状態、疾患又は状態の症状、又は疾患又は状態の副作用の軽減、除去、又は予防を指す。
【0087】
本明細書で使用される用語「核酸」は、ヌクレオチドモノマー単位のポリマー又は「残基」を指す。核酸のヌクレオチドモノマーサブユニット又は残基は、それぞれ、窒素塩基(即ち、ヌクレオベース)、5炭糖、及びリン酸基を含む。各残基の同一性は、典型的には、各残基の核酸塩基(又は窒素塩基)構造の同一性を参照して本明細書に示される。カノニカル核酸塩基としては、アデニン(A)、グアニン(G)、チミン(T)、ウラシル(U)(RNAにおいてチミン(T)残基の代わりに)、及びシトシン(C)を含む。しかしながら、本明細書に開示される核酸は、当技術分野でよく知られているように、任意の修飾ヌクレオベース、ヌクレオベースアナログ、及び/又は非カノニカルヌクレオベースを含むことができる。核酸モノマー又は残基の修飾は、非カノニカルサブユニット構造をもたらす核酸モノマー又は残基の構造における任意の化学変化を包含する。そのような化学変化は、例えば、エピジェネティック修飾(例えば、ゲノムDNA又はRNAに対する)、又は放射線、化学的、又は他の手段に起因する損傷に起因し得る。修飾に起因し得る非カノニカルサブユニットの例示的かつ非限定的な例としては、ウラシル(DNA用)、5-メチルシトシン、5-ヒドロキシメチルシトシン、5-ホルメチルシトシン、5-カルボキシシトシンb-グルコシル-5-ヒドロキシ-メチルシトシン、8-オキソグアニン、2-アミノ-アデノシン、2-アミノ-デオキシアデノシン、2-チオチミジン、ピロロ-ピリミジン、2-チオシチジン、又はアベーシックリージョンを含む修飾に起因し得る。アベーシックリージョンは、デオキシリボース骨格に沿った位置にあるが、塩基を欠く。天然ヌクレオチドの既知のアナログは、ペプチド核酸(PNAs)やホスホロチオエートDNAなど、天然に存在するヌクレオチドと同様の方法で核酸にハイブリダイズする。
【0088】
配列同一性は、タンパク質配列などの2つのポリマー配列の類似性の程度をいう。配列同一性の決定は、受け入れられたアルゴリズム及び/及び技術を使用して当業者によって容易に達成され得る。配列同一性は通常、比較ウィンドウ上で2つの最適にアライメントされた配列を比較することによって決定され、比較ウィンドウ内のペプチド及びポリヌクレオチド配列の部分は、2つの配列の最適なアラインメントのための参照配列(付加及び削除を含まない)と比較して、付加及び削除(例えば、ギャップ)を含み得る。百分率は、2つの配列で同一のアミノ酸残基及び核酸塩基が存在する位置の数を決定し、一致した位置の数を生成し、一致した位置の数を比較ウィンドウ内の位置の総数で割り、その結果に100を掛けて、配列同一性の百分率を算出することによって計算される。そのような比較を実行するためのBLAST N及びBLAST Pなどの様々なソフトウェア駆動型アルゴリズムが容易に利用可能である。
【0089】
本明細に開示されたのは、本開示の方法及び組成物に使用でき、本開示の方法及び組成物と組み合わせて使用でき、本開示の組成物の製造に使用できる材料、組成物及びコンポーネントであり、又は本開示の方法及び組成物の製品である。理解できるように、これらの材料の組み合わせ、サブセット、相互作用、グループなどが開示される場合、これらの化合物のすべての単一の組み合わせ及び並べ替えに対する特定の言及が明示的に開示されていない場合でも、様々な個々の及び集合的な組み合わせのそれぞれが具体的に企図されている。この概念は、説明された方法のステップを含むがこれらに限定されず、本開示のすべての態様に適用される。したがって、上述した実施形態の特定の要素は、他の実施形態の要素と組み合わせるか、及び置き換えることができる。例えば、実行できる様々な追加のステップがある場合、理解できるように、これらの追加のステップのそれぞれは、開示された方法の任意の特定の方法ステップ及び方法ステップの組み合わせで実行することができ、このような各組み合わせ及び組み合わせのサブセットは、具体的に企図されており、開示されたものと見なされるべきである。さらに、本明細書に記載の実施形態は、本明細書の他の場所に記載されているもの及び当技術分野で知られているものなどの任意の適切な材料を使用して実施できることが理解される。
【0090】
本明細書で引用された刊行物及び引用された主題は、参照によりその全体が具体的に本明細書に組み込まれる。
【0091】
実施例
【0092】
以下の実施例は、当業者に本開示の様々な態様及び実施形態の生産方法及び使用方法の完全な開示及び説明を提供するために記載されており、本発明者らが本発明とみなす範囲を限定することを意図しておらず、また、以下の実験が実施された全ての実験又は唯一の実験であることを表すことを意図していない。
【0093】
実施例1
【0094】
本実施例は、2つの反対側のDNA鎖を標的とする1ペアのプライム編集gRNA(pegRNA)を使用して精密な削除を誘導するPRIME-Delと呼ばれるプライム編集に基づく方法の開発について説明する。
【0095】
序論
【0096】
1ペアのpegRNAはニックが入った部位の特定だけでなく修復の結果の特定にも適用できるかどうかを判断するために調査を行った。新しいアプローチの結果として、100bpを超える削除をプログラムできることが実証された(
図1C)。この戦略(PRIME-Delと呼ばれる)は、Cas9/sgRNAペア戦略又は既存のPE3戦略のいずれかで観察又は予想されるよりもはるかに高い精度で、長さ10kbまでの配列の効率的な削除を誘導することが実証されている。さらに、PRIME-Delは、削除部位での短い挿入を同時にプログラムできることが示されている。同時削除/挿入は、インフレーム削除を導入したり、削除と同時にエピトープタグを導入したり、より一般的には、PAM部位の内因性分布によって制限されない削除のプログラミングを促進にするために使用することができる。これらのギャップを埋めることで、PRIME-Delは、ゲノム配列の生物学的機能を単一ヌクレオチド分解能で調査するためのツールキットを拡張する。
【0097】
結果と考察
【0098】
PRIME-Delはエピソーム性DNAの精密な削除を誘導する。
【0099】
RIME-Del戦略の実現可能性は、エピソーム的にコードされた化eGFP遺伝子の削除をプログラムすることによって試験された。pCMV-PE2-P2A-GFPプラスミド(Addgene#132776)のeGFPコード領域内の24、91及び546bpの削除を指定するように複数ペアのpegRNAを設計した(
図1D)。各ペアのpegRNAを、別々のプロモーター(ヒトU6及びH1配列)を持つ単一のプラスミドにクローニングした(Gasperini, M. et al. CRISPR/Cas9-Mediated Scanning for Regulatory Elements Required for HPRT1 Expression via Thousands of Large, Programmed Genomic Deletions. Am. J. Hum. Genet. 101, 192-205(2017))。HEK293T細胞を、eGFPターゲティングペアpegRNA及びpCMV-PE2-P2A-GFPプラスミドでトランスフェクトした。トランスフェクションの4~5日後に細胞からDNA(ゲノムDNAと残留プラスミドの両方を含む)を採取し、PCRでeGFP領域を増幅した。次に、PCRアンプリコンの配列を決定して、プログラムされた削除の効率を定量化し、標的配列に対する意図しない編集を検出した。
【0100】
削除効率は、削除の有無にかかわらず、参照配列にアラインメントするリードの総数のうち、目的の削除の参照配列にアラインメントするリードの数として計算された。推定された削除効率は38%(24bp削除)~77%(546bp削除)の範囲であり、反復して一貫した(注:本実施例全体を通じて、「反復」という用語は独立したトランスフェクションを指すために使用される)(
図1E)。この結果は、
図1Cに概要を示したPRIME-Del戦略が機能できることを明確に示している。PCRとイルミナに基づくシーケンシングの両方で特に546bp削除の場合、より短く編集されたテンプレートが好まれるため、これらは効率を過大評価した可能性がある。アンプリコンサイズの差が最も大きいためである(野生型及び削除アンプリコンではそれぞれ766bp対220bp)。これに対処するために、546bpの削除実験から得たDNAに対して2ステップPCRで増幅を繰り返し、最初に線形増幅によって15bpの固有分子識別子(UMI)を追加した後、2番目の指数関数的フェーズを追加した。リニアPCRによるUMIの追加は、削除効率の推定におけるPCR及びシーケンシングのバイアスを最小限に抑えることを目的とした(Kivioja, T. et al. Counting absolute numbers of molecules using unique molecular identifiers. Nat. Methods 9, 72-74(2011))。PRIME-Delの効率は、同じUMIを用いてリードを折り畳んだ後のシーケンシングデータと生成物サイズ分布(Agilent TapeStation)に基づいて評価された。複排除後、削除効率のわずかな低下(73%から66%)が観察され、TapeStationで測定された効率70%に匹敵した(
図1F)。これらの結果は、効率の初期推定値がサイズ依存のバイアスによってわずかに影響されるだけであることを示唆している。
【0101】
これらのシーケンシングデータのほとんどでは、単一のリードのみが意図した削除部位を超えた。そのため、意図しない編集結果(ニック部位でのインデルなど)をPCR又はシーケンシングエラーと区別することが困難であった。これに部分的に対処するには、異なるクラスのエラー(置換、挿入、削除)の頻度を、シーケンシングリードの長さに沿って、未編集配列(
図1G、上側)又は意図した削除(
図1G、下側)のいずれかにアライメントする配列についてプロットした。3つの削除実験(
図6A~6E)のすべての反復について、これらのプロファイルでは、特に、UMIによる折り畳み後(
図1G及び6E)又はより長いペアエンドシーケンシングリードによるシーケンシングの繰り返し後(
図1H)に、置換とインデルの割合が低く、プロファイルはほぼ同一であり、Prime Editor-2酵素ニック部位の位置又は3'フラップ端のいずれの位置でも1%を超えるエラーのクラスの割合の一貫した増加は見られなかった。
【0102】
PRIME-Delを用いた同時削除と短挿入
【0103】
3'フラップにおける相同配列が削除をプログラムするため、PRIME-Delを使用して削除ジャンクションに短い挿入を同時に導入できる可能性があると推測された(
図2A)。所望の挿入は、逆相補的な方法で、削除を指定する相同性配列のちょうど5'で、1ペアのpegRNAにコード化される。削除をプログラムするための従来の戦略、つまりCas9と1ペアのsgRNAを使用する場合、削除ジャンクションはsgRNA標的によって決定され、その選択はPAM部位の自然な分布によって制限される(
図2B)。PRIME-Delによる同時の削除と短い(100bps未満)挿入は、この従来の戦略に比べて少なくとも3つの利点を提供する。第一に、1~3塩基の任意の挿入により、編集(例えば、タンパク質ドメインの除去を目的とした削除)後も読み取りフレームを維持することができる。第二に、任意の挿入を使用して、PAMによって決定された切断部位から一方又は両方の削除ジャンクションを効果的に移動させることができ、塩基対の精度で削除をプログラムする柔軟性が向上する。第三に、削除ジャンクションに機能配列を挿入することにより、PRIME-Delによるゲノム編集を他の実験目標(タンパク質のタグ付けや転写開始部位の挿入など)と組み合わせることができる。
【0104】
この概念を試験するために、eGFP内の546bpのプログラムされた削除のジャンクションで3~30bpの範囲の5つの挿入をコードするpegRNAペアを設計した(
図2C)。主な目的は、挿入長が削除効率に及ぼす影響を試験することであるが、3bpの挿入配列がインフレーム終止コドンを生成することを考慮して、分子生物学における重要性に基づいて挿入配列を選択した。6bpの挿入配列には、開始コドンと周辺のコザックコンセンサス配列が含まれる。12bpの挿入配列には、GGACATのm6A転写後修飾コンセンサス配列のタンデムリピートが含まれる(Dominissini, D. et al. Topology of the human and mouse m6A RNA methylomes revealed by m6A-seq. Nature 485, 201-206(2012))。21bpの挿入配列には、T7 RNAポリメラーゼプロモーター配列が含まれる。30bpの挿入配列は、翻訳時にインフレームのFLAGタグペプチド配列をコードする。HEK293T細胞のエピソーム性eGFP遺伝子内の短い挿入と削除を同時に行う推定効率は、546bpの削除のみの場合と同等であり、様々なプログラムされた挿入で83%~90%の範囲であった(
図2D)。また、削除ジャンクション及びプログラムされた挿入全体における挿入、削除及び置換のエラー率は、バックグラウンドのエラー頻度と同等であった(
図2E及び7A)。予想通り、プログラムされた削除を含むリードの大部分(>99%)には挿入も含まれる(
図2F)。これは、プログラムされたpegRNA配列の後に生成される3'-DNAフラップペアの全長が修復結果を指定することを示している(
図2A)。
【0105】
PRIME-Delは、ゲノムDNAの精密な削除を誘導する。
【0106】
エピソーム性DNAの編集に関するこれらの初期結果に勇気づけられて、次に、ゲノムに組み込まれたeGFP遺伝子のコピーでPRIME-Delを試験した。まず、レンチウイルス形質導入した後、フローソーティングによりGFP陽性細胞を選択することによってeGFP遺伝子を保有するポリクローナルHEK293T細胞を産生した(
図3A)。次に、同時の削除と挿入(削除ジャンクションでの短い挿入の有無にかかわらず、546bpの削除)をコードする同じpegRNAペアを、pegRNAとeGFPなしのPrime Editor-2酵素(pCMV-PE2;Addgene#132775)をこれらの細胞にトランスフェクトすることによって試験した。編集効率はエピソーム性eGFPと比較して大幅に低下したが(7~17%、
図3B)、編集に明らかに関連するエラーは検出できなかった(
図3C及び7B)。具体的には、ニック部位又は3'-DNAフラップの組み込み部位に蓄積するバックグラウンドレベルを超えるエラークラスの一貫したパターンはなかった。また、前述したように、546bp削除のあるリードの大部分には、プログラムされた挿入も含まれた(
図7C)。
【0107】
ネイティブ遺伝子でPRIME-Delを試験するために、HPRT1のエクソン1内の118及び252bpの削除をそれぞれ指定する2ペアのpegRNAを設計した(
図3D)。HPRT1遺伝子座全体にわたる削除スクリーニングのスキャンは、Cas9/sgRNAペア戦略を使用して以前に実行された(Gasperini, M. et al. CRISPR/Cas9-Mediated Scanning for Regulatory Elements Required for HPRT1 Expression via Thousands of Large, Programmed Genomic Deletions. Am. J. Hum. Genet. 101, 192-205(2017))。ゲノム削除のプログラミングにおいてPRIME-DelとCas9/sgRNAペアを直接比較するために、同じガイドを使用して同じ削除を試みたが、HEK293T細胞のトランスフェクションにおいてPrime Editor-2酵素をCas9に置き換えた。得られた削除効率は、2つの独立した方法により定量化された。第一に、線形PCRステップにより15bpの固有分子識別子(UMI)配列を付加する前述の戦略を使用した後、標準的なPCR及びシーケンシング読み出しを行った。得られたシーケンシングリードは、共有UMIによって折りたたまれ、PCR増幅及びシーケンシングクラスター生成ステップで導入される可能性のあるバイアスを最小限に抑える。第二に、ドロップレットデジタルPCR(ddPCR)を用い、即ち、PCR増幅の前にゲノムDNAをエマルション液滴に分割し、各液滴内のTaqManプローブの蛍光を読み出した。前記プローブは、削除ジャンクションで結合するように設計されており、削除の存在下で特異的に蛍光シグナルを生成する。レポータープローブの設計は、削除ジャンクションに導入されたエラーがPCR中にプローブの効率的な結合を誘導する可能性が低いため、精密な編集効率を定量化することを目的としている(Watry, H. L. et al. Rapid, precise quantification of large DNA excisions and inversions by ddPCR. Sci. Rep. 10, 14896(2020))。削除に由来のシグナルは、以前に特徴付けられており、ddPCRアッセイの標準としてよく使用されるRPP30遺伝子のコピー数の検出からの参照シグナルに対して正規化された(Watry, H. L. et al., Sci. Rep. 10, 14896(2020), supra)。HPRT1のエクソン1では、HEK293TのPRIME-Del戦略とCas9/sgRNAペア戦略で同等の削除効率が観察され、118bp及び252bpの削除では5%~30%の効率の範囲であった(
図3E)。注目すべきことに、UMIに基づくシーケンシングアッセイと比較して、ddPCRアッセイでは一貫して低い効率が観察された。これはUMIに基づくアプローチによる効率の過大評価が原因である可能性があるが、ddPCRアッセイでは、陽性液滴と陰性液滴間の蛍光強度が明確に区別されていないため、標的領域のPCR増幅が非効率である可能性がある(
図8C及び
図8D)。
【0108】
よく知られているように(例えば、Canver, M. C. et al. Characterization of genomic deletion efficiency mediated by clustered regularly interspaced short palindromic repeats(CRISPR)/Cas9 nuclease system in mammalian cells. J. Biol. Chem. 289, 21312-21324(2014); Byrne, S. M., et al. Multi-kilobase homozygous targeted gene replacement in human induced pluripotent stem cells. Nucleic Acids Res. 43; and Gasperini, M. et al. CRISPR/Cas9-Mediated Scanning for Regulatory Elements Required for HPRT1 Expression via Thousands of Large, Programmed Genomic Deletions. Am. J. Hum. Genet. 101, 192-205(2017))、Cas9/sgRNAペア戦略は、意図した削除の有無にかかわらず、エラー(ほとんどが短い削除)を引き起こすことがよくあった(
図3F、3G及び8A)。意図した118bp又は252bpの削除を欠くリードのうち、それぞれ12%又は12%には観察可能な標的部位に意図しないインデルも含まれた(これらは過小評価であり、2つの標的部位のうちの1つだけを占めるためである)(
図3F、上側)。意図した118bp又は252bpの削除を含むリードのうち、それぞれ38%又は34%は、削除ジャンクションに意図しないインデルを含んだ(
図3F、下側)。このような接合エラーは、NHEJによるエラーが発生しやすい修復の確立した結果である。対照的に、PRIME-Delでは、意図しないインデルは、一般的よりもはるかに少なかった(
図3G及び
図8B)。意図した118bp又は252bpの削除を欠くリードのうち、1.1%又は0.5%は、それぞれ観察可能な標的部位に意図しない短いインデルを含んだ(
図3G、上側)。意図した118bp又は252bpの削除を含むリードのうち、それぞれ12%又は2.7%は、削除ジャンクションに意図しないインデルをさらに含んだ(
図3G、下側)。Cas9/sgRNAペア戦略よりもPRIME-Delの精密な編集効率が高いパターンは、ddPCR測定によっても示唆されており、PRIME-Delは両方の削除についてほぼ2倍高い精密に編集された集団を報告した。
【0109】
PRIME-Delの場合、例えば、HPRT1の118bp削除では、意図した削除に関連した削除ジャンクションでのかなりの割合の挿入の観察(
図3Gの下側及び
図8B)は、eGFPでの以前の観察とは対照的であり、これらの率は一貫してバックグラウンドと同等であった。エラーモードをさらに調査したところ、これらのエラーは長い挿入に対応することが明らかになった(平均47bp+/-12bp、
図9A~9H)。118bpの削除ジャンクションで最も頻繁的な長挿入は、2つの32bpの3'-DNAフラップ配列の間のキメラ配列であり(55bp;「GCCCT」配列でオーバーラップする)、3'-DNAフラップのGCリッチ端のアニーリングに由来することを示唆している。同様のキメラ配列は、3'-DNAフラップにおいて「GCCG」でオーバーラップする252bp削除ジャンクションでの挿入として観察された。それにもかかわらず、これらの長い挿入があっても、PRIME-Delでは、インデルを含む全リードの82%と91%は意図した削除と精密に一致したのに対し、Cas9/sgRNAペア戦略では、僅か38%及び49%であった(
図4A)。Cas9/sgRNAペア戦略のインデルエラーは過小評価されている可能性がある。これは、このシーケンシング戦略では2つのCas9切断部位のうち1つだけでのエラーが捕捉されるためである。
【0110】
観察された挿入の構造と、PRIME-DelをeGFP遺伝子座に適用する際に同様のエラーが存在しないことから、この問題は、別のpegRNA設計によって解決できることが示唆されている。一つのアプローチとしては、両方のpegRNAのRTテンプレート部分を短縮又は延長させた。両方のpegRNAに32bpのRTテンプレート長を使用した118bp削除では、相同性アームは17bp及び25bp長に短縮されるか、又は42bp及び46bp長に延長された(
図10A)。相同性アームの延長及び短縮の両方により、削除効率は低下した(それぞれ短い及び長い相同性アームの標準設計で観察された効率の29%及び26%)(
図10B)。しかし、削除産物の中では、相同性アームを長くすると、長時間挿入エラーの頻度が減少する傾向があった(標準設計の30%まで)のに対し、相同性アームを短くすると、挿入エラーの頻度が増加した(標準設計の129%まで)(
図10D)。252bpの削除でも同様の傾向が観察された。相同性アームを短縮又は延長すると、削除効率が低下したが(
図10C)、相同性アームを長くすると、精度が向上した(
図10E)。さらなる対照として、RTテンプレートの配列を、eGFPで546bpの削除をプログラムするために使用した配列に置換することにより、HPRT1を標的とする118bp及び252bpの両方の構築物のための削除を誘導することができなかった(
図10B及び10C)。これは、PRIME-Del削除が相同性アーム配列によって誘導されるDNA修復に特異的であるという結論を補強している。
【0111】
PRIME-Delにより追加のネイティブ遺伝子座にゲノム削除をさらに実施し、合計7遺伝子座で10個の異なる削除を試験した(
図4A)。HEK293T細胞ですべての削除を実行し、UMIに基づくシーケンシングアッセイにより削除効率とエラー頻度を定量化し、PRIME-DelとCas9/sgRNAペア法を直接比較した(即ち、同じガイドを使用するが、Cas9に変更する)。削除サイズは、HPRT1エクソン1の118bpからe-NMU(NMU遺伝子のエンハンサー)遺伝子座の710bpまでの範囲であった。10例のすべてにおいて、Cas9/sgRNAペア法と比較して、PRIME-Delでは大幅に低いエラー率が観察された。10例中の5例において、Cas9/sgRNAペア法と比較して、PRIME-Delでは精密な削除がより効率的であることが観察され、一般的に精度が高くても削除効率が損なわれないことが示唆されている。この範囲(118~710bps)において、削除サイズと効率との強い関係は、どちらの方法でも観察されなかった。
【0112】
Cas9/sgRNAペア法を使用した場合の2つのDSB間の配列の反転は、十分に文書化された現象である(Canver, M. C. et al. Characterization of genomic deletion efficiency mediated by clustered regularly interspaced short palindromic repeats(CRISPR)/Cas9 nuclease system in mammalian cells. J. Biol. Chem. 289, 21312-21324(2014); Mandal, P. K. et al. Efficient ablation of genes in human hematopoietic stem and effector cells using CRISPR/Cas9. Cell Stem Cell 15, 643-652(2014))(
図4B)。PRIME-Delを用いた反転イベントの頻度を理解するために、2つのニック部位間の配列を反転することによって生成した参照に合わせてシーケンシングリードをアライメントした。PRIME-Delを実行した7遺伝子座の10個の削除にわたって、反転参照にアライメントされたリードが実質的に存在しないことが観察された(
図4C)のに対し、Cas9/sgRNAペア対照では、最大2%のリードで反転が検出された(
図4C)。
【0113】
PRIME-Delの長さの限界を評価するために、HPRT1遺伝子座で1,064bps(1kb)及び10,204bps(10kb)のサイズの2つの追加削除を設計した。シーケンシングに基づくアッセイは1kbを超えるアンプリコンの検出にはあまり適していないため、シーケンシングにより削除産物のエラー頻度のみを定量化し、ddPCRにより精密な削除効率を測定し、再度Prime Editor-2とCas9を並べて比較した。PRIME-DelとCas9/sgRNAペア法の削除効率は、HEK293T細胞では同等であったが(
図4D)、PRIME-Delはより短い削除を誘導しながら観察結果と一致してはるかに高い精度を達成することが観察された。1kb削除では、PRIME-DelとCas9/sgRNAペア法の両方で、ほぼ3%の削除効率を達成した。10kb削除では、PRIME-Del及びCas9/sgRNAペア法は、それぞれ0.8%と1.6%の削除効率を達成した。削除後のジャンクションに特異的なPCRに由来するアンプリコンのシーケンシングを行ったところ、1kb及び10kbの削除について、PRIME-Delではそれぞれリードの98%及び97%はジャンクションにインデルエラーがなかったのに対し、Cas9/sgRNAペア戦略では、リードの僅か47%及び42%はインデルエラーがなかった(
図4E)。
【0114】
PRIME-Delが「多重化」できるかどうかを試験するために、HPRT1遺伝子座の異なるがオーバーラップする4つの削除(118、252、469及び1064bps)をプログラムするpegRNAペアをコードするプラスミドをプールした。HEK293T細胞を、Prime Editor-2酵素をコードするプラスミドとともにこれらのプラスミドでトランスフェクトした。細胞を4日間インキュベートし、ゲノムDNAを抽出した後、シーケンシングに基づく定量化により118、252及び469bp削除の効率が5.1%、8.5%及び2.8%であると推定し、ddPCRにより1064bp削除の効率が2%であると推定した(
図11Aから11C)。合計すると、HPRT1遺伝子座の18%が4つのプログラムされた削除のうちの1つを有すると推定される。これは、pegRNAペアプラスミドの単一構築物を個別にトランスフェクトすることによって実行される4つの削除の平均効率(12%)に匹敵する。これらの結果は、PRIME-Delを使用して、Cas9/sgRNAペア法と同様にプールされたpegRNAペア構築物を使用して複数の削除を同時にプログラムできることを実証している。
【0115】
編集時間を延長することでプライム編集の効率が向上する。
【0116】
Cas9媒介DSBに続いてNHEJを行うのと対照的に、プライム編集とPRIME-Delはどちらも高い編集精度を有し、意図した編集を実現したり、元の編集可能な配列を保存したりすることができる。プライム編集とPRIME-Delの編集効率が細胞内のPE2/pegRNA分子の一時的な利用可能性によって制限される場合、安定したゲノム組み込み又は反復トランスフェクションを通じてPrime Editor-2酵素とpegRNAの発現を拡張することにより、特に、編集不可能な「行き止まり」の結果が同時に発生しない場合、時間の経過とともに編集の成功率が向上する。
【0117】
長期発現を促進するために、Prime Editor-2酵素を発現するモノクローナルHEK293T及びK562細胞株(それぞれHEK293T(PE2)及びK562(PE2)と呼ばれる)を生成し、pegRNAを有するレンチウイルスベクターで形質導入した(
図12A)。PRIME-Del(エクソン1での上記118bp及び252bpの削除)と、合成HEK3標的配列に3bp(CTT)を挿入する標準プライム編集により、HPRT1での2つの異なる削除を試験した(Anzalone, A. V. et al. Search-and-replace genome editing without double-strand breaks or donor DNA. Nature 576, 149-157(2019))。K562(PE2)では、プライム編集を用いたCTT挿入とPRIME-Delを用いた118又は252bpの削除の両方で、正しく編集された集団の安定した増加が時間の経過とともに観察された。CTT挿入のエンドポイントプライム編集効率は非常に高く、K562(PE2)細胞へのpegRNAの最初の形質導入後19日までに正しい編集で標的の90%に達した(
図12B)。PRIME-Delを用いた精密な削除率も、19日までに、118bp及び252bp削除ではそれぞれほぼ50%及び25%に達した。HEK293T(PE2)細胞では、最初の10日間はCTT挿入効率の低下が観察されたが、最終的には19日目までに80 ~90%に達した(
図12C)。予想外なことに、HEK293T(PE2)細胞では、PRIME-Del誘導削除がほぼ存在しないことが観察された(
図12C)。プライム編集における細胞型特異的な違いは排除できないが、Prime Editor-2酵素とpegRNAの発現レベルが編集効率に大きく影響を与えると考えられている。それは、HEK293T(PE2)細胞におけるその後の試みにより、時間の経過とともに削除が蓄積するためである(
図12D及び
図12F)。これらの結果は、プライム編集又はPRIME-Delコンポーネントの拡張発現により、プライム編集のより大きなオフターゲット効果を誘導する可能性があるが、効率を向上できることを確認している。
【0118】
PRIME-Delの応用
【0119】
この研究では、プライム編集のためのpegRNAペア戦略であるPRIME-Delを紹介し、プログラムされた短い挿入の有無にかかわらず、削除をプログラムするための高精度が達成されることが実証されている。エピソーム性遺伝子座、合成ゲノム遺伝子座、及び天然ゲノム遺伝子座で長さ20~10,000bpの範囲の削除を試験した。プライム編集又はPRIME-Delコンポーネントの長期高発現がK562細胞における編集効率を向上したことも観察されたが、HEK293T細胞における1回の一過性トランスフェクションによるネイティブ遺伝子の編集効率は1~30%の範囲であった。PRIME-Delで標的とされた7つのゲノム遺伝子座における12個の削除では、HPRT1エクソン1を除き、高い編集精度が観察され、削除ジャンクション(総リードの約5%)で長い挿入が観察されることがあった。HPRT1エクソン1で使用されるpegRNAペアの3'-DNAフラップ配列のGCリッチ端は、長い挿入の基礎となっているようである。pegRNA設計を最適化することによりこのエラーモードを排除することができ、これは、相同性アームを長くすることにより、長挿入エラーの頻度が減少する傾向があることを示している。この特定のエラーモードを容易に回避するために、PRIME-DelのpegRNAペア配列を設計するための付属のPythonに基づくWebツールを開発しており、設計されたpegRNAペアにそのような配列が存在する場合、ユーザーに通知する。
【0120】
しかし、これらの挿入エラーがあっても、PRIME-DelはCas9/sgRNAペア戦略よりも高い精度を一貫して示した。即ち、ここで試験した12個のゲノム削除のすべてについて、PRIME-Delの方が誤った結果がより少なかった。これらの12例について、PRIME-Delは、5例で著しく高い精密な削除効率を示し(係数2を超える)、5例(係数2以内)で同等の効率を示し、2例でCas9/sgRNAペア法よりも著しく低い効率を示した(半分以下)。全体として、これらの観察は、PRIME-Delが編集効率を損なうことなくCas9/sgRNAペア法よりも高い精度を達成するという知見を裏付けている。
【0121】
PRIME-Delの潜在的な設計関連の制限は、従来のCas9/sgRNAペア戦略と関連し、使用可能なゲノムプロトスペーサーペアを制約する。これは、ゲノムプロトスペーサーが互いに対向するPAM配列を有する反対側の鎖上に存在する必要があるためである(
図1C)。しかし、ほぼPAMがない(Walton, R. T., et al. Unconstrained genome targeting with near-PAMless engineered CRISPR-Cas9 variants. Science 368, 290-296(2020))プライム編集酵素(Kweon, J. et al. Engineered prime editors with PAM flexibility. Mol. Ther.(2021) doi:10.1016/j.ymthe.2021.02.022)の開発と最適化により、この制約が緩和される。さらなる制限は、より長い長さのため、1ペアのpegRNAをタンデムにクローニングすることがsgRNAペアのクローニングよりも困難であることである。ここで使用される各pegRNAは長さが135~140bpであるため、それらの独特なコンポーネントを単一の長いオリゴヌクレオチドとしてタンデムに合成することは、特にpegRNAペアライブラリーのアレイに基づく合成を必要とする目的では、従来のDNA合成技術の限界に近づく。
【0122】
これらの制限にもかかわらず、PRIME-Delは、いくつかの潜在的な応用分野にわたって代替案に比べて大きな利点を提供する(
図5)。最も簡単に言えば、PRIME-Delは、少なくとも10kbの削除を精密にプログラミングするために適用でき、まだ上限を設定する兆候がない。Cas9/sgRNAペア戦略と比較して、削除ジャンクションで観察されたインデルエラー率がはるかに低いことに加えて、ペアニックの誘導により、局所的な意図しない大規模な削除、ゲノム全体の再構成(クロモトリプシス;Leibowitz, M. L. et al. Chromothripsis as an on-target consequence of CRISPR-Cas9 genome editing. Nature Genetics(2021) doi:10.1038/s41588-021-00838-7)、又はオフターゲット編集が発生する可能性が低くなる(Kosicki, M., et al. Repair of double-strand breaks induced by CRISPR-Cas9 leads to large deletions and complex rearrangements. Nat. Biotechnol. 36, 765-771(2018), Anzalone, A. V. et al. Search-and-replace genome editing without double-strand breaks or donor DNA. Nature 576, 149-157(2019), Schene, I. F. et al. Nature communications 11.1(2020): 1-8, Owens, D. D. G. et al. Microhomologies are prevalent at Cas9-induced larger deletions. Nucleic Acids Res. 47, 7402-7417(2019), and Kim, D. Y. et al. Unbiased investigation of specificities of prime editing systems in human cells. Nucleic Acids Research(2020) doi:10.1093/nar/gkaa764)。これらの特性は、治療アプローチの開発に有利である。例えば、PRIME-Delは、近くの又は離れた配列に望ましくない混乱を与えることなくFMR1の5'-UTRにおけるCGGリピート拡張などの病原性領域を削除する(Khosravi, M. A. et al. Targeted deletion of BCL11A gene by CRISPR-Cas9 system for fetal hemoglobin reactivation: A promising approach for gene therapy of beta thalassemia disease. Eur. J. Pharmacol. 854, 398-405(2019), Dastidar, S. et al. Efficient CRISPR/Cas9-mediated editing of trinucleotide repeat expansion in myotonic dystrophy patient-derived iPS and myogenic cells. Nucleic Acids Res. 46, 8275-8298(2018))。
【0123】
PRIME-Delでは、効率や精度を実質的に損なうことなく、プログラムされた削除結合部に短い配列を同時に挿入することもできる。短い配列を挿入することで、ネイティブリーディングフレームを維持しながらタンパク質ドメインを精密に削除することができ、つまり、複雑なナンセンス媒介崩壊(NMD)応答を誘導する可能性がある中途終止コドンを回避することができる(El-Brolosy, M. A. et al. Genetic compensation triggered by mutant mRNA degradation. Nature 568, 193-197(2019), Ma, Z. et al. PTC-bearing mRNA elicits a genetic compensation response via Upf3a and COMPASS components. Nature 568, 259-263(2019))。さらに、削除する際に生物学的に活性な配列を挿入することは、PRIME-Delをテクノロジーと組み合わせるのに有利である可能性があり、即ち、編集されたゲノム遺伝子座内で分子ハンドルとして使用可能なエピトープタグ又はT7プロモーター配列を挿入する。
【0124】
さらに、従来のCas9/sgRNAペア戦略と比較して、プライム編集に基づくPRIME-DelによるDNA損傷に起因する毒性が少ないことが期待されており、これにより、scanDelやcrisprQTLなどのフレームワークのプログラムされたゲノム削除の多重化が促進される(Gasperini, M. et al. CRISPR/Cas9-Mediated Scanning for Regulatory Elements Required for HPRT1 Expression via Thousands of Large, Programmed Genomic Deletions. Am. J. Hum. Genet. 101, 192-205(2017), Gasperini, M. et al. A Genome-wide Framework for Mapping Gene Regulation via Cellular Genetic Screens. Cell 176, 1516(2019))。転写における非コード要素の研究では、約10kbまでの効率的かつ精密な削除は、標的領域周囲のエピジェネティック修飾の範囲を制御できないCRISPR干渉用の非活性化Cas9結合KRABドメイン(CRISPRi)の現在の使用を補完する。したがって、PRIME-Delは、塩基対の分解能でネイティブ遺伝要素を特徴付けるための大規模並列機能アッセイに広く適用できることが期待される。
【0125】
方法
【0126】
pegRNA/sgRNA設計
【0127】
pegRNA/sgRNAの設計では、CRISPOR(Concordet, J.-P. & Haeussler, M. CRISPOR: intuitive guide selection for CRISPR/Cas9 genome editing experiments and screens. Nucleic Acids Res. 46, W242-W245(2018))を最初に使用して特定の関心領域内の20bpのCRISPR-Cas9スペーサーを選択した。U6/H1ターミネーターやGCリッチ配列を含む非効率と注釈付きのスペーサーが回避され、予測効率(U6転写されたsgRNAのDoenchスコア(Doench, J. G. et al. Optimized sgRNA design to maximize activity and minimize off-target effects of CRISPR-Cas9. Nat. Biotechnol. 34, 184-191(2016))がより高いスペーサーが一般的に選択された。pegRNAのRTテンプレート部分の長さは、最初は30bpに設定され、G又はCで終わる場合、1~2bp延長された(Kim, Hui Kwon, et al. "Predicting the efficiency of prime editing guide RNAs in human cells." Nature Biotechnology 39.2, 198-206(2021), Anzalone, A. V. et al. Search-and-replace genome editing without double-strand breaks or donor DNA. Nature 576, 149-157(2019))。
【0128】
PRIME-DelのpegRNAペアを設計するためのWebツール
【0129】
PRIME-DelのpegRNAペアの設計を容易にするために、設計プロセスを自動化するPythonに基づくWebツールを開発した。このソフトウェアは、FASTA形式配列ファイルを入力とし、提供された領域内のすべての可能なPAM配列を特定し、最初にすべての潜在的なpegRNAペア配列を生成して削除をプログラムする。このソフトウェアは、選択的に、Flashfry(McKenna, A. & Shendure, J. FlashFry: a fast and flexible tool for large-scale CRISPR target design. BMC Biol. 16, 74(2018);https://paperpile.com/c/gGxRnW/aYp1b)、CRISPOR又はGPP sgRNAデザイナー(Concordet, J.-P. & Haeussler, M. CRISPOR: intuitive guide selection for CRISPR/Cas9 genome editing experiments and screens. Nucleic Acids Res. 46, W242-W245(2018))を使用して生成されたスコア付けされたsgRNAファイルを入力することもできる。これは、効果的なCRISPR-Cas9スペーサーを特定するために強く推奨される。FlashFry及びCRISPORでは、MIT特異性スコア(Hsu, P. D. et al. DNA targeting specificity of RNA-guided Cas9 nucleases. Nat. Biotechnol. 31, 827-832(2013))が50未満のsgRNAスペーサーは、CRISPORの推奨に従って除外される。ソフトウェアは、ユーザーが提供した追加の設計パラメータに基づいて、最初に生成されたpegRNAペアから関連するペアを選択する。例えば、ユーザーは削除サイズ範囲を定義することができる。ユーザーは、目的の削除の開始位置と終了位置を定義することもでき、ソフトウェアはそれらの座標を中心とするウィンドウを提示するpegRNAペアにフィルターをかける。ジャンクションがPAM部位に位置しない削除のpegRNAは、両方のpegRNAに挿入配列を追加して所望の編集を容易にするオプション「--precise」(-p)を使用して設計することができる。
【0130】
PRIME-Del設計ソフトウェアは、追加の設計制約を指定することもできる。pegRNA RTテンプレートの長さ(相同性アームとも呼ばれる)は、ユーザーが別途指定しない限り、デフォルトで30bpに設定される。ユーザーが別途指定しない限り、pegRNA PBSの長さはデフォルトでPE2ニック部位から13bpに設定される。PAM配列に対するニック位置は、事前に特定されたパラメーターを使用して予測される(Lindel(Chen, W. et al. Massively parallel profiling and predictive modeling of the outcomes of CRISPR/Cas9-mediated double-strand break repair. Nucleic Acids Research vol. 47, 7989-8003(2019)))。非正規の位置にニックが生成される予測可能性が25%を超える場合、それに応じてRT テンプレートの長さを調整する。RNAポリメラーゼIIIターミネーター配列(連続したTが4つを超える)を含むPegRNA配列を排除する。いずれかの3'-DNAフラップの5bpのうち4bp以上がG又はCの場合、ソフトウェアは警告メッセージを生成する。コードはgituhub(github.com/shendurelab/Prime-del)で入手でき、インタラクティブなWebページはprimedel.uc.r.appspot.com/で入手できる。
【0131】
pegRNAクローニング
【0132】
pegRNAペアを設計した後、Anzaloneらが概説したGolden-Gateクローニング戦略(Anzalone, A. V. et al. Nature 576, 149-157(2019))を実施し、3つのdsDNA断片と1つのプラスミドバックボーンを組み立てた。第1のdsDNA断片は、4bpの5'オーバーハングを持つ2つの相補的な合成一本鎖DNAオリゴヌクレオチド(IDT)からアニールされたpegRNA-1スペーサー配列を含む。第2のdsDNA断片は、4bpオーバーハングの端で5'端がリン酸化された2つのDNAオリゴヌクレオチドからアニールされたpegRNA-1 sgRNA足場配列を含む。第3のdsDNA断片は、pegRNA-1 RTテンプレート配列とプライマー結合配列(PBS)、pegRNA-1ターミネーター配列(6つの連続したT)、及びH1プロモーター配列を含むpegRNA-2配列を含む。これは、PCR増幅によって遺伝子断片(IDTからgBlockとして購入)の両端にpegRNA-1部分とpegRNA-2部分を付加することによって生成された。この遺伝子断片には、pegRNA-1ターミネーター配列、H1プロモーター配列、pegRNA-2スペーサー配列、及びpegRNA-2 sgRNA足場配列が含まれた。フォワードプライマーには、BsmBI又はBsaI制限部位、pegRNA-1 RTテンプレート配列及びPBSが含まれた。リバースプライマーには、pegRNA-2 RTテンプレート、PBS、及びBsmBI又はBsaI制限部位が含まれた。PCR断片(サイズが300~400bp)を1.0X AMPure(Beckman Coulter)を使用して精製し、Golden-Gateに基づくassembly mix(New England BiolabsからのBsmBI又はBsaI golden-gate assembly mix)のために、他の2つのdsDNA断片及び対応するオーバーハングを有する線状バックボーンベクターと混合した。pegRNAクローニングバックボーンには、GGアクセプタープラスミド(Addgene#132777)又はブラストサイジン耐性遺伝子を有するpiggyBAC-cargoベクターを使用した。各構築プラスミドを増幅のためにStblコンピテント大腸菌(NEB C3040H)に形質転換し、ミニプレップキット(Qiagen)を使用して精製した。サンガーシーケンシング法(Genewiz)によりクローニングを検証した。
【0133】
組織培養、トランスフェクション、レンチウイルス形質導入、及びモノクローナル株の生成
【0134】
HEK293T及びK562細胞は、ATCCから購入された。HEK293T細胞を、10%ウシ胎児血清(Rocky Mountain Biologicals)及び1%ペニシリン-ストレプトマイシン(GIBCO)を補充した高グルコース含有ダルベッコ改変イーグル培地(GIBCO)中で培養した。K562細胞を、10%ウシ胎児血清(Rocky Mountain Biologicals)及び1%ペニシリン-ストレプトマイシン(GIBCO)を補充したL-グルタミン(Gibco)を含むRPMI 1640中で培養した。HEK293T細胞とK562細胞を5%CO2、37℃で増殖させた。
【0135】
一過性トランスフェクションでは、約50,000個の細胞を24ウェルプレートの各ウェルに播種し、70~90%コンフルエンシーまで培養した。プライム編集では、ベンダーの推奨プロトコールに従って、375ngのPrime Editor-2酵素プラスミド(Addgene#132775)と125ngのpegRNA又はpegRNAペアプラスミドを混合し、トランスフェクション試薬(Lipofectamine 3000)で調製した。Cas9/sgRNAペアを用いた削除では、Prime Editor-2酵素プラスミドの代わりに375ngのCas9プラスミド(Addgene#52962)を使用した。特に明記しない限り、細胞を最初のトランスフェクション後に4~5日間培養し、そのゲノムDNAを、DNeasy Blood & Tissue Kit(Qiagen)を使用するか又はAnzaloneらの細胞溶解及びプロテアーゼプロトコール(Anzalone, A. V. et al. Nature 576, 149-157(2019))に従って収集した。
【0136】
レンチウイルス生成では、約300,000個の細胞を6ウェルプレートの各ウェルに播種し、70~90%コンフルエントまで培養した。ベンダーが推奨するプロトコールに従って、レンチウイルスプラスミドをViraPowerレンチウイルス発現システム(ThermoFisher)と共にトランスフェクトした。レンチウイルスを同じプロトコールに従って収集し、Peg-itウイルス沈降溶液(SBI)を使用して一晩濃縮し、凍結融解サイクルを行わずに1~2日以内にK562又はHEK293T細胞への形質導入に使用した。
【0137】
トランスポザーゼの組み込みでは、500ngのカーゴプラスミドと100ngのSuper piggyBACトランスポザーゼ発現ベクター(SBI)を混合し、ベンダーの推奨プロトコールに従ってトランスフェクション試薬(Lipofectamine 3000)で調製した。Prime Editor-2酵素を発現する単一細胞クローンを、piggyBACトランスポザーゼシステムを使用してPE2を組み込むことによって生成し、マーカー(ピューロマイシン耐性遺伝子)により選択し、フローソート装置を使用して単一細胞を96ウェルプレートに選別し、コンフルエントになるまで2~3週間培養し、CTT挿入pegRNAのみ(Addgene#132778)をトランスフェクトし、HEK3標的遺伝子座をシーケンシングすることにより、PE活性についてスクリーニングした。
【0138】
DNAシーケンシングライブラリーの準備
【0139】
プログラムされた削除効率とPRIME-Delによって生成される可能性のあるエラーを定量化するために、2段階のPCRにより精製DNA(長さ約200~ 約1000bp)から標的領域を増幅し、イルミナシーケンシングプラットフォーム(NextSeq又はMiSeq)を使用してシーケンシングした。精製された各DNAサンプルには野生型DNA分子と編集されたDNA分子が含まれており、各PCR反応を通じて同じペアのプライマーを使用して一緒に増幅された。PCR増幅では、各ゲノム遺伝子座(アンプリコン)ごとに1ペアのプライマーを設計した。ここで、PCR増幅、PCR産物の精製、及びシーケンシングフローセル上でのクラスター化における潜在的な問題を回避するために、削除の有無にかかわらず、アンプリコン全体のサイズは200bpを超えた。
【0140】
第1のPCR反応(KAPA Robust)には、最終反応容量50μL中に300ngの精製ゲノムDNA又は2μLの細胞溶解物、0.04~0.4μMのフォワード及びリバースプライマーが含まれた。第1のPCR反応は、1)95℃で3分間;2)95℃で15秒間;3)65℃で10秒間;4)72℃で45秒間、ステップ2~4を25~28サイクル繰り返し;及び5)72℃で1分間となるようにプログラムされた。プライマーは、3'端に、ゲノムDNAを増幅するPCR産物の両端に付加するシーケンシングアダプターを含んだ。第1のPCR反応の後に、生成物を6%TBEゲルで評価し、1.0X AMPure(Beckman Coulter)を使用して精製し、デュアルサンプルインデックスとフローセルアダプターを付加する第2のPCR反応に追加した。第2のPCR反応プログラムは、5~10サイクルを実行した以外、第1のPCRプログラムと同じであった。生成物を再度AMPureにより精製し、シーケンシング実行のために変性する前にTapeStation(Agilent)で評価した。サイズが200~300bpのアンプリコンを生成する長い削除の場合、Miseqシーケンシングプラットフォームは、クラスター密度300~400k/mm2を目指して、クラスター化中に長いアンプリコンを置き換える短いアンプリコンを最小限に抑えるために、低い(8pM)インプットDNA濃度で使用された。Illumina NextSeq又はMiSeq機器を使用してベンダーのプロトコルに従って変性ライブラリーをシーケンシングした。
【0141】
15bpの固有分子識別子(UMI)を追加するために、第1のPCR反応は2つのステップで実行された。第一に、KAPA Robustポリメラーゼを使用し、2回のPCRサイクルで0.04~0.4uMの単一フォワードプライマーの存在下でゲノムDNAを直線的に増幅した。UMI付加リニアPCR反応は、1)95℃で3分15秒;2)65℃で1分間;3)72℃で2分間、ステップ2と3を5サイクル繰り返し;4)95℃で15秒間;5)65℃で1分間;6)72℃で2分間、さらにステップ5と6を5サイクル繰りし;となるようにプログラムされた。この反応を1.5X AMPureを使用してクリーンアップし、フォワード及びリバースプライマーを使用した第2のPCRに使用した。この場合、フォワードプライマーはUMI配列の上流にアニールし、ゲノム遺伝子座に特異的ではない。PCR増幅後、生成物をクリーンアップし、他のサンプルと同様にデュアルサンプルインデックスとフローセルアダプターを付加する別のPCR反応に追加した。
【0142】
シーケンシングデータの処理と分析
【0143】
シーケンシングレイアウトは、各方向で削除ジャンクションから少なくとも50bp離れたところをカバーするように設計された(
図6A)。ペアエンドシーケンスの場合、PEAR(Zhang, J., et al. PEAR: a fast and accurate Illumina Paired-End reAd mergeR. Bioinformatics 30, 614-620(2014))を使用してペアエンドリードをデフォルトのパラメーター及び経験的な基本周波数を無効にする「-e」フラグとマージした。15bpのUMIがシーケンシングリードに存在する場合、カスタムPythonスクリプトを使用して同じUMIを共有するすべてのリードを検索した。これらのリードは、最も頻度の高い配列を持つ1つのリードに折り畳んだ。得られたシーケンシングリードを、一般的にCRISPResso2ソフトウェアを使用して2つの参照配列(削除の有無にかかわらず)にアライメントした(Clement, K. et al. CRISPResso2 provides accurate and rapid genome editing sequence analysis. Nat. Biotechnol. 37, 224-226(2019);https://paperpile.com/c/gGxRnW/2BRib)。CRISPResso2にデフォルトのアラインメントパラメーターを使用し、カット/ニック部位でのインデル挿入では、ギャップオープンペナルティ-20、ギャップ拡張ペナルティ-2、及びギャップインセンティブ値1であった。リードアライメントの最小相同性スコアは、様々なアンプリコンの長さについて50~95の間で調査された。カスタムPython及びRスクリプトを使用してCRISPResso2からのアライメント結果を分析した。
【0144】
同じ配列長の2つの参照配列(野生型及び削除)を使用してアライメントを実行し、それぞれの参照配列を含む2セットのリードを生成した。削除効率は、いずれかの参照にアラインメントするリードの総数に対する、削除を有する参照配列にアラインメントするリードの総数の割合として計算された。ゲノム編集には、置換、挿入、削除の3種類のエラーモードがある。各エラー頻度は、2つの参照配列にわたってプロットされ、各プロットにおいてCas9(H840A)ニック部位と3'-DNAフラップ組み込み部位が強調表示された。
【0145】
液滴デジタルPCR(ddPCR)アッセイ
【0146】
ddPCRプローブは、Bio-Rad Laboratoriesが推奨するパラメーターに従って設計された。RPP30遺伝子のためのあらかじめ混合された参照プローブ及びプライマーは、Bio-Rad Laboratoriesから購入された。プローブ及びPCRプライマーは、Integrated DNA Technologies(IDT)から購入された。プローブは、5'端がFAMで修飾され、ダブルクエンチャーを含む(IDT PrimeTime qPCRプローブ)。プローブ配列は、精密な削除産物を検出するために削除ジャンクションをカバーするように特別に設計された(Hsu, P. D. et al. DNA targeting specificity of RNA-guided Cas9 nucleases. Nat. Biotechnol. 31, 827-832(2013))。各削除を検出するために、50mM Tris-HCl緩衝液(室温でpH8.0)中の18uMフォワードプライマー、18uMリバースプライマー、及び5uMのFAM標識プローブからなる20Xプライマー混合物を調製した。25uLのddPCR反応混合物は、12.5uLの2X Supermix for Probes(no dUTP)(Bio-Rad Laboratories)、1.25uLの20X HEX修飾RPP30参照混合物(Bio-Rad Laboratories)、1.25uLの20X FAM修飾プライマー混合物、0.5uLのゲノムDNAを含む細胞溶解物、及び9.5uLのDNAseフリー水から構成された。20μLのddPCR反応混合物を70μLのプローブ用液滴生成オイルに添加し、QX200 Droplet generator(Bio-Rad Laboratories)を使用して液滴を生成した。液滴をddPCR 96ウェルプレート(Bio-Rad Laboratories)に移し、次のプログラムにより96ウェルサーモサイクラー(Eppendorf)で実行した。1)95℃で10分間;2)94℃で30秒間;3)50℃で1分間、ステップ2と3を41サイクル繰り返し;4)98℃で10分間;5)4℃に冷却してQX200 Droplet readerにロード。サーモサイクラーのすべてのステップで、温度勾配は1秒あたり1℃に制限された。QX200 Droplet readerとBio-Rad QuantaSoft Proソフトウェアを使用してddPCR実験を視覚化して分析した。削除効率は、FAM+(精密な削除)とHEX+(ゲノムDNAローディングのためのRPP30参照)イベントの比から取得された。
【0147】
データの可用性
【0148】
生シーケンシングデータは、Sequencing Read Archive(SRA)にアップロードされ、関連するBioProject ID PRJNA692623で一般公開された。ゲノム削除のプログラミングに使用される選択されたプラスミドは、Addgeneから入手できる(ID172655、172656、172657及び172658)。
【0149】
コードの可用性
【0150】
PRIME-Delのソースコードは、github.com/shendurelab/Prime-delで入手できる。PRIME-Del用のpegRNAを設計するためのインタラクティブなWebページは、primedel.uc.r.appspot.com/で入手できる。
【0151】
配列表
【0152】
表1:実験に使用されるpegRNAとgRNAの配列
【表1】
【0153】
表2:ゲノムDNA増幅に使用されるプライマーの配列
【表2】
【0154】
表3:液滴デジタルPCR(ddPCR)アッセイに使用されるプライマーとプローブの配列
すべてのプローブは、5'端がFAMで修飾された。
【表3】
【0155】
例示的な実施形態を図示及び説明してきたが、本開示の精神及び範囲から逸脱することなく様々な変更を加えることができることが理解されるであろう。
【0156】
排他的財産又は特権が主張される本発明の実施形態は、特許請求の範囲のように定義される。
【配列表】
【国際調査報告】