(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-22
(54)【発明の名称】転写因子-化学的誘導近接(TF-CIP)による遺伝子発現の調節方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/00 20060101AFI20231115BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20231115BHJP
C12N 5/09 20100101ALI20231115BHJP
A61K 47/50 20170101ALI20231115BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231115BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20231115BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20231115BHJP
C07K 14/72 20060101ALN20231115BHJP
【FI】
C12N15/00
C12Q1/02 ZNA
C12N5/09
A61K47/50
A61P35/00
C12N15/113 P
C12N15/12
C07K14/72
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023527379
(86)(22)【出願日】2021-11-05
(85)【翻訳文提出日】2023-07-04
(86)【国際出願番号】 US2021058231
(87)【国際公開番号】W WO2022098989
(87)【国際公開日】2022-05-12
(32)【優先日】2020-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515158308
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】クラブトリー ジェラルド アール.
(72)【発明者】
【氏名】ゴウリサンカル サイ
(72)【発明者】
【氏名】クロコーティン アンドレイ
(72)【発明者】
【氏名】チャン チョン-イン
(72)【発明者】
【氏名】ウェンデルスキ ウェンディ クリスティーン
(72)【発明者】
【氏名】キム サミュエル ヒジュ
(72)【発明者】
【氏名】グレー ナサニエル
(72)【発明者】
【氏名】リュー シャオファン
(72)【発明者】
【氏名】リ チェンニアン
(72)【発明者】
【氏名】チャン ティンフー
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C076
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QR32
4B063QR48
4B063QR66
4B063QS28
4B063QS36
4B063QX02
4B065AA90X
4B065AC20
4B065BD03
4B065CA44
4C076AA99
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE59
4C076FF70
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA50
4H045EA20
4H045FA10
4H045FA74
(57)【要約】
細胞内(インビトロ又はインビボであり得る)の標的遺伝子の転写を調節する方法が提供される。本方法の態様は、細胞における標的遺伝子の転写を調節、例えば増強又は低減するために、転写因子-近接性化学誘導因子(TF-CIP)システムを用いる。本方法の実施形態は、標的遺伝子のプロモーターに結合する第1の内因性アンカー転写因子と第2の内因性転写調節因子(例えば、転写因子又は転写抑制因子)とを連結する近接性化学誘導因子(CIP)を細胞内で提供することを含み、アンカー転写因子と転写調節因子とのCIP媒介連結は、細胞内の標的遺伝子の転写を調節する。本発明の方法の実践に使用される組成物も提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞における標的遺伝子の転写を調節する方法であって、
前記標的遺伝子のプロモーターに結合する第1の内因性アンカー転写因子と第2の内因性転写調節因子とを連結する近接性化学誘導因子(CIP)を前記細胞内で提供すること
を含み、前記アンカー転写因子と前記転写調節因子とのCIP媒介連結が、前記細胞内の前記標的遺伝子の転写を調節する、方法。
【請求項2】
前記CIPが、
前記転写調節因子に特異的に結合する第2のリガンドに共有結合的に連結した、前記アンカー転写因子に特異的に結合する第1のリガンド
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記CIPが、300~1200g/モルの範囲の分子量を有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記標的遺伝子の転写の前記調節が、前記標的遺伝子の転写を増強することを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記標的遺伝子が、コード遺伝子である、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記標的遺伝子が、アポトーシス促進遺伝子である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記転写調節因子が、転写因子である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記転写因子が、発がん性転写因子を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記発がん性転写因子が、ホルモン受容体を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ホルモン受容体が、エストロゲン受容体、アンドロゲン受容体、及びプロゲステロン受容体からなる群から選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記標的遺伝子が、治療用タンパク質をコードする、請求項5に記載の方法。
【請求項12】
前記治療用タンパク質が、律速酵素である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記標的遺伝子が、前記細胞内でハプロ不全である、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記標的遺伝子の転写の前記調節が、前記標的遺伝子の転写を低減することを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記転写調節因子が、転写因子を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記転写調節因子が、転写抑制因子を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記標的遺伝子が、がん遺伝子を含む、請求項14~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記標的遺伝子が、過剰発現遺伝子を含む、請求項14~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記標的遺伝子が、非コード遺伝子である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記標的遺伝子が、非コードRNA、エンハンサーRNA又はマイクロRNAへと転写される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記細胞がインビトロである、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記細胞がインビボである、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
細胞におけるアポトーシス促進遺伝子の転写を増強する方法であって、
前記アポトーシス促進遺伝子のプロモーターに結合する第1の内因性アンカー転写因子と第2の内因性発がん性転写因子とを連結する近接性化学誘導因子(CIP)を前記細胞内で提供すること
を含み、前記アンカー転写因子と前記発がん性転写因子とのCIP媒介連結が、前記細胞内の前記アポトーシス促進遺伝子の転写を増強する、方法。
【請求項24】
前記発がん性転写因子が、ホルモン受容体を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記ホルモン受容体が、エストロゲン受容体である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記ホルモン受容体が、プロゲステロン受容体である、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
前記ホルモン受容体が、アンドロゲン受容体である、請求項24に記載の方法。
【請求項28】
前記発がん性転写因子が、発がん性駆動因子を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項29】
前記発がん性転写因子が、転座融合がん遺伝子を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項30】
前記発がん性転写因子が、細胞周期エントリを調節する転写因子を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項31】
前記CIPが、
前記発がん性転写因子に特異的に結合する第2のリガンドに共有結合的に連結した、前記アンカー転写因子に特異的に結合する第1のリガンド
を含む、請求項23~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記発がん性転写因子への前記第2のリガンドの結合が、前記発がん性転写因子の前記転写活性を実質的に低減させない、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記アポトーシス促進遺伝子が、TP53、PUMA(BBC3)、BIM(BCL2L11)、BID、BAX、BAK、BOK、BAD、HRK、BIK、BMF、及びNOXAからなる群から選択される、請求項23~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記アンカー転写因子が、BLC6、FOXO3A、TFAP2A、TFAP2C、SP3、TFDP1、ELK3、SREBF1、SREBF2、THRA、SMAD2、TFDP1、TCF3、USF1、USF2、VEZF1、PBX1、HIF1A、RARA、FOXO3A、MAZ、E2F1、E2F2、PAX9、STAT1、SPDEF、CREB3L1、BATF、XBP1、SIX4、AR、LEF1、MYB、RUNX1、及びPPARGからなる群から選択される、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記細胞が、インビトロである、請求項23~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記細胞が、インビボである、請求項23~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
発がん性受容体媒介性腫瘍性疾患について対象を治療する方法であって、
アポトーシス促進遺伝子のプロモーターに結合する第1の内因性アンカー転写因子と第2の内因性発がん性転写因子とを連結する近接性化学誘導因子(CIP)を前記対象に投与すること
を含み、前記アンカー転写因子と前記発がん性転写因子とのCIP媒介連結が、前記発がん性受容体媒介性腫瘍性疾患について前記対象を治療するために、前記細胞内の前記アポトーシス促進遺伝子の転写を増強する、方法。
【請求項38】
前記発がん性受容体が、ホルモン受容体である、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記ホルモン受容体が、エストロゲン受容体である、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記ホルモン受容体が、プロゲステロン受容体である、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
前記ホルモン受容体が、アンドロゲン受容体である、請求項38に記載の方法。
【請求項42】
前記CIPが、
前記発がん性転写因子に特異的に結合する第2のリガンドに共有結合的に連結した、前記アンカー転写因子に特異的に結合する第1のリガンド
を含む、請求項37~41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
前記発がん性転写因子への前記第2のリガンドの結合が、前記発がん性転写因子の前記転写活性を実質的に低減させない、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記アポトーシス促進遺伝子が、TP53、PUMA(BBC3)、BIM(BCL2L11)、BID、BAX、BAK、BOK、BAD、HRK、BIK、BMF、及びNOXAからなる群から選択される、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記アンカー転写因子が、BLC6、FOXO3A、TFAP2A、TFAP2C、SP3、TFDP1、ELK3、SREBF1、SREBF2、THRA、SMAD2、TFDP1、TCF3、USF1、USF2、VEZF1、PBX1、HIF1A、RARA、FOXO3A、MAZ、E2F1、E2F2、PAX9、STAT1、SPDEF、CREB3L1、BATF、XBP1、SIX4、AR、LEF1、MYB、RUNX1、及びPPARGからなる群から選択される、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記対象が、哺乳動物である、請求項37~45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
前記哺乳動物が、ヒトである、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
細胞におけるがん遺伝子の転写を低減する方法であって、
前記がん遺伝子のプロモーターに結合する第1の内因性アンカー転写因子と第2の内因性転写調節因子とを連結する近接性化学誘導因子(CIP)を前記細胞内で提供すること
を含み、前記アンカー転写因子と前記転写調節因子とのCIP媒介連結が、前記細胞内の前記がん遺伝子の転写を低減する、方法。
【請求項49】
前記転写調節因子が、転写抑制因子を含む、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記転写抑制因子が、ヘテロクロマチンタンパク質1(HP1)タンパク質又はKRABリプレッサータンパク質を含む、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記がん遺伝子が、融合タンパク質を含む、請求項48~50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項52】
前記がん遺伝子が、転写因子又はその融合体を含む、請求項48~50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項53】
前記がん遺伝子が、調節性GTPaseを含む、請求項48~50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項54】
前記がん遺伝子が、細胞質セリン/スレオニンキナーゼ又はその調節サブユニットを含む、請求項48~50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項55】
前記がん遺伝子が、野生型又は変異型のいずれかの細胞質チロシンキナーゼを含む、請求項48~50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項56】
前記がん遺伝子が、野生型又は変異型のいずれかの受容体チロシンキナーゼを含む、請求項48~50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項57】
前記がん遺伝子が、正常形態又は変異形態のいずれかの成長因子及び/又はその受容体を含む、請求項48~50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項58】
前記CIPが、
前記転写調節因子に特異的に結合する第2のリガンドに共有結合的に連結した、前記アンカー転写因子に特異的に結合する第1のリガンド
を含む、請求項48~57のいずれか一項に記載の方法。
【請求項59】
前記細胞が、インビトロである、請求項48~58のいずれか一項に記載の方法。
【請求項60】
前記細胞が、インビボである、請求項48~48のいずれか一項に記載の方法。
【請求項61】
細胞内の治療用タンパク質をコードする標的遺伝子の転写を増強する方法であって、
治療用遺伝子のプロモーターに結合する第1の内因性アンカー転写因子と第2の内因性調節転写因子とを連結する近接化学誘導因子(CIP)を前記細胞内で提供すること
を含み、前記アンカー転写因子と前記調節転写因子とのCIP媒介連結が、前記細胞内の前記治療用遺伝子の転写を増強する、方法。
【請求項62】
前記CIPが、
前記調節転写因子に特異的に結合する第2のリガンドに共有結合的に連結した、前記アンカー転写因子に特異的に結合する第1のリガンド
を含む、請求項61に記載の方法。
【請求項63】
前記CIPが、300~1200g/モルの範囲の分子量を有する、請求項61又は62に記載の方法。
【請求項64】
前記治療用タンパク質が、TPH2及びTH等の律速酵素である、請求項61~63のいずれか一項に記載の方法。
【請求項65】
前記標的遺伝子が、ARID1B等の細胞内のハプロ不全遺伝子である、請求項61~63のいずれか一項に記載の方法。
【請求項66】
前記細胞が、インビトロである、請求項61~65のいずれか一項に記載の方法。
【請求項67】
前記細胞が、インビボである、請求項61~65のいずれか一項に記載の方法。
【請求項68】
標的遺伝子の転写を調節するための近接性化学誘導因子(CIP)であって、
内因性転写調節因子に特異的に結合する第2のリガンドに連結成分によってつながれた、内因性アンカー転写因子に特異的に結合する第1のリガンド
を含む、CIP。
【請求項69】
前記連結成分が、前記第1のリガンドを前記第2のリガンドに共有結合的に連結するリンカーを含む、請求項68に記載のCIP。
【請求項70】
分子接着剤を含む、請求項68に記載のCIP。
【請求項71】
300~1200g/モルの範囲の分子量を有する、請求項68~70のいずれか一項に記載のCIP。
【請求項72】
前記内因性転写調節因子が、転写因子を含む、請求項68~71のいずれか一項に記載のCIP。
【請求項73】
前記標的遺伝子が、アポトーシス促進遺伝子である、請求項68~72のいずれか一項に記載のCIP。
【請求項74】
前記標的遺伝子が、有益な治療用遺伝子である、請求項68~72のいずれか一項に記載のCIP。
【請求項75】
前記標的遺伝子が、TPH2又はTH等の律速酵素をコードする、請求項74に記載のCIP。
【請求項76】
標的遺伝子が、ARID1B等のハプロ不全遺伝子である、請求項74に記載のCIP。
【請求項77】
前記内因性転写調節因子が、転写抑制因子を含む、請求項68~71に記載のCIP。
【請求項78】
前記標的遺伝子が、過剰発現遺伝子である、請求項77に記載のCIP。
【請求項79】
前記過剰発現遺伝子が、がん遺伝子である、請求項78に記載のCIP。
【請求項80】
以下:
標的遺伝子の転写を調節するための近接性化学誘導因子(CIP)であって、
内因性転写調節因子に特異的に結合する第2のリガンドに連結成分によってつながれた、内因性アンカー転写因子に特異的に結合する第1のリガンド
を含む、CIPと、
送達ビヒクルと
を含む、医薬組成物。
【請求項81】
前記連結成分が、前記第1のリガンドを前記第2のリガンドに共有結合的に連結するリンカーを含む、請求項80に記載のCIP。
【請求項82】
分子接着剤を含む、請求項80に記載のCIP。
【請求項83】
300~1200g/モルの範囲の分子量を有する、請求項80~82のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項84】
前記内因性転写調節因子が、転写因子を含む、請求項80~83のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項85】
前記標的遺伝子が、アポトーシス促進遺伝子である、請求項80~84のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項86】
前記標的遺伝子が、有益な治療用遺伝子である、請求項80~84のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項87】
前記標的遺伝子が、TPH2又はTH等の律速酵素をコードする、請求項86に記載の医薬組成物。
【請求項88】
標的遺伝子が、ARID1B等のハプロ不全遺伝子である、請求項86に記載の医薬組成物。
【請求項89】
前記内因性転写調節因子が、転写抑制因子を含む、請求項80又は83に記載の医薬組成物。
【請求項90】
前記標的遺伝子が、過剰発現遺伝子である、請求項89に記載の医薬組成物。
【請求項91】
前記過剰発現遺伝子が、がん遺伝子である、請求項90に記載の医薬組成物。
【請求項92】
がん細胞におけるプログラム細胞死誘導活性について候補TF-CIP分子を評価する方法であって、
(a)前記候補TF-CIPを、以下:
(i)複数の細胞死遺伝子の転写因子の複数の転写因子結合部位を含む、細胞死遺伝子転写因子結合ドメイン;
(ii)前記細胞死遺伝子転写因子結合ドメインの下流のプロモーター;および
(iii)検出可能な生成物をコードする、前記プロモーターの下流のレポーター配列
を動作可能な構成で含むレポーター構築物を含むがん細胞と接触させることと、
(b)前記がん細胞を前記検出可能な生成物の存在について評価して、プログラム細胞死誘導活性についての前記候補TF-CIP分子を評価することと
を含む、方法。
【請求項93】
前記細胞死遺伝子転写因子結合ドメインが、複数の細胞死遺伝子の転写因子結合部位を5~15個含む、請求項92に記載の方法。
【請求項94】
前記結合部位が、長さ25~40ntの範囲である、請求項92又は93に記載の方法。
【請求項95】
前記結合部位が、転写因子認識部位の両側に隣接部位を含む、請求項94に記載の方法。
【請求項96】
前記隣接部位が、5~15ntの長さの範囲である、請求項95に記載の方法。
【請求項97】
前記転写因子が、BCL6又はFOXO3Aである、請求項92~96のいずれか一項に記載の方法。
【請求項98】
前記転写因子が、BCL6である、請求項97に記載の方法。
【請求項99】
前記転写因子が、FOXO3Aである、請求項97に記載の方法。
【請求項100】
前記複数の細胞死遺伝子が、TP53、PUMA、Bim、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される細胞死遺伝子を含む、請求項92~99のいずれか一項に記載の方法。
【請求項101】
プロモーターが、最小限のプロモーターを含む、請求項92~100のいずれか一項に記載の方法。
【請求項102】
前記検出可能な生成物が、蛍光タンパク質を含む、請求項92~101のいずれか一項に記載の方法。
【請求項103】
前記蛍光タンパク質が、緑色蛍光タンパク質(GFP)又はmCherry蛍光タンパク質を含む、請求項102に記載の方法。
【請求項104】
前記がん細胞が、がん細胞株、患者由来の原発性がん細胞、又は患者由来のオルガノイドを含む、請求項92~103のいずれか一項に記載の方法。
【請求項105】
前記検出可能な生成物の存在が、前記候補TF-CIP分子がプログラム細胞死誘導活性を含むことを示す指標として使用される、請求項92~104のいずれか一項に記載の方法。
【請求項106】
前記候補TF-CIP分子が、
前記内因性転写調節因子に特異的に結合する第2のリガンドに連結成分によってつながれた、内因性アンカー転写因子に特異的に結合する第1のリガンド
を含む、請求項92~104のいずれか一項に記載の方法。
【請求項107】
前記連結成分が、前記第1のリガンドを前記第2のリガンドに共有結合的に連結するリンカーを含む、請求項106に記載の方法。
【請求項108】
前記候補TF-CIPが、分子接着剤を含む、請求項106に記載の方法。
【請求項109】
前記候補TF-CIPが、300~1200g/モルの範囲の分子量を有する、請求項106~108のいずれか一項に記載の方法。
【請求項110】
請求項92~109のいずれか一項に記載のがん細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府の権利
本発明は、米国国立衛生研究所によって授与された契約CA163915の下で政府の支援を受けて行われた。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【0002】
関連出願の相互参照
米国特許法第119条(e)に従って、本出願は、2020年11月6日に出願された米国仮特許出願第63/110,575号の出願日に対する優先権を主張し、その出願の開示は参照により本明細書に組み込まれる。
【0003】
序論
遺伝子発現の制御調節の方法は、遺伝子治療、合成生物学、設備管理、環境浄化、細菌及び微生物管理、並びに合成遺伝子回路を含むがこれらに限定されない幅広い分野でますます重要になっている。遺伝子発現の制御は、治療法、動物モデル、及びバイオテクノロジープロセスに革命をもたらす大きな可能性を秘めており、細胞ベースの治療及び動物モデル開発のための複数の入力シグナルを統合するのに有用である。近年の急速な進歩にもかかわらず、転写因子等の生物学的成分間の意図しない相互作用に起因する予測不可能性のため、遺伝子発現の正確な制御は依然として課題である。細胞工学の基本的な目標は、所望のレベルで正確な制御下で遺伝子を予測可能かつ効率的に発現することである。そのような遺伝子操作された細胞は、治療法、診断法、動物モデル、及びバイオテクノロジープロセスの進歩に極めて有望である。
【0004】
これまで、細胞における遺伝子発現を調節するための様々な異なる遺伝子調節技術が開発されてきた。そのような遺伝子調節技術には、RNA干渉、DNA編集及び発現、並びに遺伝子発現を抑制、増強、又は修飾する化合物が含まれる。これらは、RNA、DNA、又はタンパク質の形態であり得、培地への直接適用、リポフェクション、エレクトロポレーション、又はウイルス形質導入によって、培養中の細胞に導入され得る。
【0005】
しかしながら、研究及び治療用途の両方への遺伝子調節の広範な適用可能性のゆえに、細胞における標的遺伝子の転写を調節するための新たな手法、特に遺伝子修飾なしで遺伝子の発現を調節するための新たな手法の開発に継続的な関心がある。
【発明の概要】
【0006】
概要
遺伝子修飾を伴わない、細胞内の標的遺伝子の転写を調節する方法が提供され、本方法はインビトロ又はインビボであり得る。本方法の態様は、細胞における標的遺伝子の転写を調節、例えば増強又は低減するために、転写因子-近接性化学誘導因子(TF-CIP)システムを用いる。本方法の実施形態は、標的遺伝子のプロモーターに結合する第1の内因性アンカー転写因子と第2の内因性転写調節因子(例えば、転写因子又は転写抑制因子)とを連結する近接性化学誘導因子(CIP)を細胞内で提供することを含み、アンカー転写因子と転写調節因子とのCIP媒介連結は、遺伝子修飾の必要なしに細胞内の標的遺伝子の転写を調節する。本発明の方法の実践に使用される組成物も提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】転写のTF-CIP媒介調節の一般的な概要を提供する。アンカー転写因子結合リガンドAは、化学的に誘発された近接性によって、リガンドBに結合して、標的遺伝子又は複数の遺伝子の転写を活性化又は抑制し、治療効果をもたらす第2の転写因子を動員又はハイジャックする。
【
図2】TF-CIPの実施形態の一般的な化学構造を示す。図示されるように、実施形態によるTF-CIPは、化学リンカーによって連結された1つの転写調節因子を、ゲノム局在化を提供するアンカー転写因子に結合する第2の部分に結合する部分を含む。この構造は、異なる長さ及び組成のリンカーを含む。例示されるように、TF-CIPはまた、「分子接着剤」として構成されてもよく、ここで、A部分及びB部分は、2つのタンパク質間の相互作用を使用して相互作用を補助する分子接着剤に組み込まれる。
【
図3】合理的設計によるTF-CIPの構築の説明を提供する。
図3は、ER陽性乳がん細胞又はAR陽性前立腺がん細胞を死滅させるためにBCL6をハイジャックするTF-CIPの設計を示す。BCL6は、エピジェネティック抑制因子、BCOR、NCOR、及びSMRT(PMID18280243、15531890、10898795)に結合することによって、乳がん細胞を含む様々ながん細胞の死を予防する転写因子及びがん遺伝子である。BCL6の抑制機能のいくつかの阻害剤は、BCOR、NCOR、及びSMRTのBCL6の二量体表面によって形成される部位への結合を防止する他の群によって生成されている(PMID15531890)が、これらの阻害剤は治療的に使用されるのに十分に活性ではなかった(PMID30335946)。BI3812(PMID33208943)等のBCL6阻害剤の、TP53、PUMA、BIM等の細胞死(アポトーシス促進)プロモーターに結合し、近接性を誘導するエストロゲン化合物への化学結合は、細胞死の阻害剤を、細胞死の強力な活性化因子に変換する。
【
図4】例えば
図3に示されるような、BCL6の抑制活性をハイジャックし、それを細胞死の活性化因子に変換するように設計された、TF-CIP及びそれらの構成要素の化学構造を提供する。リンカー対照である化合物1及び4を除き、
図4に示される各構造は、前述の分子BI3812(PMID33208943)に基づいて、化学リンカーによってBCL6阻害剤に連結されたエストロゲン受容体結合部分を含む。また、前述の分子BI3812(PMID33208943)に基づいて、BCL6阻害剤に連結されたアンドロゲン類似体を使用する同様の戦略を使用する構造も示される。また、BCL6阻害剤とリンカー効果を制御するためのリンカーとを含有する構造も示される。
【
図5A】脱阻害されたBCL6タンパク質又はアポトーシス促進タンパク質FOXO3Aによる細胞死又はアポトーシス促進経路の活性化のためのレポーターの開発を示す。
図5A:BCL6レポーターは、TP53、PUMA、BIM等を含む、異なるアポトーシス促進遺伝子から採取されたBCL6結合部位のアレイからなる。これらの遺伝子は、単純に過剰発現したときに細胞を死滅させる能力を有する(PMID:11463391)。実際のヒトBCL6結合部位の両側に10個の塩基対が含まれ、これは、転写特異性がエンハンサーソーム内のタンパク質の協調結合によるものであるという事実を利用する(PMID:9510247、18206362)。したがって、レポーター系は多重化され、多くの異なる細胞型におけるアポトーシス応答を定義するのに有用である。FOXO3Aレポーターは、TP53、PUMA、BIM等を含む、異なるアポトーシス促進遺伝子から採取されたFOXO3A結合部位のアレイからなる。これらの遺伝子は、単純に過剰発現したときに細胞を死滅させる能力を有する。実際のヒトFOXO3A結合部位の両側に10個の塩基対が含まれ、これは、転写特異性がエンハンサーソーム内のタンパク質の協調結合によるものであるという事実を利用する(PMID9510247、18206362)。したがって、レポーター系は多重化され、多くの異なる細胞型におけるアポトーシス応答を定義するのに有用である。
【
図5B】脱阻害されたBCL6についてのレポーターのDNA配列を提供する。
【
図5C】FOXO3Aの活性化のためのレポーターのDNA配列を提供する。
【
図6】ER-TF-CIPは、BCL6脱抑制によって、BCL6レポーターを活性化し、BI3812よりも効果的に細胞死を誘導するように作用する。パネルA:ER-TF-CIP2の添加は、BCL6レポーターによるGFP発現を約1マイクロモルで活性化し、これは、BI3812よりも強力であることを示す。濃度がより高いと、両方の結合部位(PMID:8752278、PMID:21406691)、この場合、BCL6タンパク質及びエストロゲン受容体を飽和させるため、二官能性分子の「フック効果」特性と一致するレポーターの活性化の低減をもたらすことに留意されたい。パネルB。ER-TFCIP6は、BI3812よりも効果的に、増幅BCL6(Karpas 442)を有するER陽性細胞の細胞死を誘導する。パネルC。ER-TFCIP6は、HEC293細胞における細胞死を誘導する。パネルD及びEは、ER-TF-CIP6が2つの異なるER陰性乳がん細胞株を死滅させず、したがって、細胞死は、乳がんで生じるような高レベルのエストロゲン受容体発現に依存することを実証している。PrestoBlue HS(レサズリン)アッセイを使用して、生細胞の生存率を測定した(培地中1:10の比率及び1時間のインキュベーション)。
【
図7A】目的の特定の細胞型において発現される特定の標的遺伝子の転写因子対を選択する方法の段階的な図を提供する。
図7Aは、転写因子及び活性化転写因子を定義し、アンカーするために使用され得る細胞型特異的転写因子対を選択する一般的な方法を示し、それぞれが、目的の組織において選択的発現を有する。
【
図7B-1】特定の標的遺伝子のプロモーターに結合する、乳がんの治療のためのアンカー転写因子が示されている。
【
図7C】転写因子の組み合わせ使用が、特定の組織に対するTF-CIP効果を標的とすることの例示を提供する。
【
図8】例えば
図7A~7Cに例示されるプロトコルを使用して識別されるように、転写因子についてTF-CIPで使用されるリガンドを選択するためのプロトコルを提供する。アンカーTF内のポケットの選択には、例えばサイトマップ(PMID:19434839)の使用が含まれるが、他のプログラムも使用することができる。ポケットへのドッキング及びヒットのスコアリングは、PMID:17034125及びPMID:15027866に記載されている。リガンドを選択する他の方法としては、目的のタンパク質を用いたDNAコード化ライブラリスクリーニング(PMID28094476)が挙げられる。リガンドを選択する更に別の方法は、蛍光偏光又は結合を測定する他の直接的な方法を使用して、小分子のライブラリをスクリーニングすることによるものである。
【
図9】
図5Aに導入されたレポーターを使用した、分子接着剤として機能するTFCIPのスクリーニング。「分子接着剤」(PMID33417864)は、リンカーが2つの結合部分間のより直接的な結合で置き換えられているという事実により、
図2に示されるような「二官能性分子」と区別される。FK506等の分子接着剤は、しばしば良好な薬理学的挙動を有する。最も重要なことは、がん駆動因子等の標的タンパク質と、高度に生物学的に特異的なエンハンサーソーム(PMID:9510247、18206362)内のいくつかのタンパク質との間の相互作用を促進することによって、いくつかのタンパク質を一度に関与させることができる(PMID 33417864)。スクリーニングのレポーターを
図6A及びBに示す。
【
図10】DNAに隣接する近位ポケットに結合するFOXO3Aのリガンドのための構造を提供する。これらのリガンドの一般的な発見方法を
図8に示す。
【
図11】DNAの結合に干渉しないように、DNA結合ドメインの「背部」上の、DNAの遠位部位に結合するFOXO3Aのリガンドのための構造を提供する。これらのリガンドの一般的な発見方法を
図8に示す。
【
図12】がん駆動因子を、細胞死に関与するアポトーシス促進遺伝子のプロモーターの状態にする、TF-CIPの合成に使用され得る、HIF1aの既知のリガンドの構造を提供する。これらのリガンドは、PMID:19950993 PMCID:PMC2819816 DOI:10.1021/ja9073062PMID:19129502 PMCID:PMC2626723 DOI:10.1073/pnas.0808092106に記載されている。
【
図13】ppar-ガンマのためのリガンドの構造を提供し、これは、アポトーシス促進遺伝子のプロモーターに結合し、がん駆動因子を、細胞死に関与するアポトーシス促進遺伝子のプロモーターの状態にする、TF-CIPを合成するために使用され得る。これらのリガンドは、PMID:24272485 DOI:10.1158/0008-5472.CAN-13-1836PMID:11900961 DOI:10.1016/s0739-7240(01)00117-5に記載されている。
【
図14】転写因子のDNA結合ドメインと、転座パートナーからの別のドメイン又は配列とを含有するハイブリッドタンパク質又は融合タンパク質を作製するような、1つの染色体領域と別のものとの融合から生じる発がん性融合転写因子の例を提供する。PMID:33634124から。
【
図15】活性化及び転座FLI1融合タンパク質を、遺伝子を活性化し、それ自身の駆動因子でがん細胞を死滅させるアポトーシス促進遺伝子のプロモーターに動員する又は近接を誘導するTF-CIPを構築するために使用され得るFLI1リガンドの例を提供する。
【
図16】活性化及び転座ERG融合タンパク質を、遺伝子を活性化し、それ自身の駆動因子でがん細胞を死滅させるアポトーシス促進遺伝子のプロモーターに動員する又は近接を誘導するTF-CIPを構築するために使用され得るERG1リガンドの例を提供する。
【
図17】ヒトの脳の背側縫線においてセロトニンを作製し、セロトニン合成のための律速酵素、TPH2の産生を制御するニューロンにおいてのみ発現するETSファミリー転写因子、FEVのリガンドを提供する。セロトニン産生を増加させるTF-CIPを作製するために、これらのリガンドは、標的ニューロン集団においても選択的に発現される好適な転写活性化因子のためのリガンドに連結される。リガンドは、
図8に例示されるステップによって特定した。これらのリガンドのいくつかはまた、表面プラズモン共鳴によってERGタンパク質に結合する。
【
図18】mycリガンドのうちの1つ、化学リンカー、及びアポトーシス促進遺伝子のプロモーターに結合するBCL6又はFOXO3AのリガンドからなるTF-CIPを使用することによって、発がん性駆動因子であるmycを細胞死遺伝子のプロモーターの状態にするTF-CIPを合成するために使用され得るmycリガンドの例を提供する。これは、これらの遺伝子を活性化し、それ自身の駆動因子でがん細胞を死滅させる。
【
図19】
図3に示されるように、抑制因子を動員するためのアンカーとして機能し得るか、又は活性化因子を細胞死遺伝子のプロモーターへと動員する手段として他の実施形態でも機能し得る、E2F転写因子のためのリガンドの例を提供する。
【
図20】
図4に示されるものと同様のTF-CIPを構築して、がん駆動因子をER陽性乳がん細胞内の細胞死遺伝子又は他の遺伝子のプロモーターの状態にすることで、腫瘍の駆動メカニズムに応答して、それらの発現を変化させるか、又は活性化させ、細胞死を誘導するために使用され得るエストロゲン類似体の例を提供する。これは、この特定の例ではエストロゲン受容体である。これらのエストロゲン類似体に関する参考文献は、以下を含む:PMID:12656587 DOI:10.1021/ja0293305PMID:15101754 DOI:10.1021/ol0497537PMID:2362442 DOI:10.1016/0022-4731(90)90123-aPMID:1780954DOI:10.1016/0039-128x(91)90070-cPMID:3702438DOI:10.1016/0022-4731(86)90117-2PMID:12794859DOI:10.1002/cbic.200200499PMID:2738897 DOI:10.1021/jm00127a040PMID:2064992 DOI:10.1016/0960-0760(91)90090-rPMID:12236347 DOI:10.1021/ac020088u。
【
図21】アンドロゲン受容体を、アンドロゲン受容体の増幅及び過剰発現を伴う前立腺がんにおける細胞死遺伝子のプロモーターの状態にするために使用され得る、アゴニストリガンドの例を提供する。これらのリガンドの合成及びそれらの特性は、PMID:30271980 PMCID:PMC6123676 DOI:10.1038/s42003-018-0105-8PMID:10077001 DOI:10.1210/mend.13.3.0255PMID:16159155 PMCID:PMC2096617 DOI:10.1021/cr020456uPMID:24909511 PMCID:PMC4571323 DOI:10.1038/aps.2014.18に記載されている。
【
図22】プロゲステロン受容体を細胞死(アポトーシス促進)遺伝子のプロモーターの状態にするために使用され得る、プロゲステロン受容体のリガンドの例を提供する。これらは、PMID:17013809 DOI:10.1002/med.20083PMID:26153859 PMCID:PMC4650274 DOI:10.1038/nature14583に記載されている。
【
図23】TF-CIPに組み込まれた場合に、SCCにおいて特異的に細胞死遺伝子を活性化するために使用され得るBAF53aリガンドの例を提供する。これらのリガンドはまた、ポリコームエビクション及び系統を定義する遺伝子からの発達抑制の除去によって発達障壁を横断するために使用されるTF-CIPの一部として使用され得る。他の好適なリガンドの特定方法を
図8に示す。
【
図24A】TF-CIPを合成するために使用され得る化学リンカー成分の例。これらの成分は、アンカー転写因子の間隔及び第2の転写因子への提示を提供するために使用され得る。リンカーは、TF-CIP化合物に溶解性を提供するために、これら及び他の公開された成分から選択及び構築することができる。
【
図25】遺伝子の非変異コピーの転写を増加させることによって、TF-CIPを使用してハプロ不全遺伝子の機能を回復させる。活性化転写因子は、好適なリガンドの可用性に基づいて選択することができる。
【
図26】パネルA。FIRE Cas9系(PMID 28916764)を使用してヒト神経前駆体内のBAF250Bのレベルを復元し、転写因子を、ハプロ不全BAF250B(Arid1B)遺伝子の1つの変異していない対立遺伝子のプロモーターの状態にする。パネルB。CIPの添加後、転写は、野生型神経前駆細胞のレベルまで増加される。ここに示されている2倍の転写の救済は、疾患症状を逆転させるはずである。
【
図27】TPH2の活性化及びヒトの脳の背側縫線の細胞におけるセロトニン産生の増強のためのTF-CIPを作製するための化学合成スキーム。各合成方法は、FEVのリガンド、例えば
図17に示されるものから始まり、次いで、化学リンカーをBrd4のリガンドとともに結合させて、TPH2遺伝子又はTPH2を制御する遺伝子のうちの1つに変異を有する細胞においてセロトニン産生を活性化することができる二官能性FEV-TF-CIPを生成する。他の活性化転写因子は、
図9に分子接着剤について記載されるようにスクリーニングすることによって選択することができる。
【
図29】本発明の一実施形態による、セロトニン(パネルA)及びドーパミン(パネルB)合成の発現を活性化するTF-CIPの図を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
詳細な説明
細胞内(インビトロ又はインビボであり得る)の標的遺伝子の転写を調節する方法が提供される。本方法の態様は、(
図1に例示されるように)細胞における標的遺伝子の転写を調節、例えば増強又は低減するために、転写因子-近接性化学誘導因子(TF-CIP)を用いる。本方法の実施形態は、標的遺伝子のプロモーターに結合する第1の内因性アンカー転写因子を第2の内因性転写調節因子(例えば、転写因子又は転写抑制因子)に連結する近接性化学誘導因子(CIP)を、細胞内で提供することを含み、アンカー転写因子と転写調節因子とのCIP媒介連結は、細胞内の標的遺伝子の転写を制御する。本発明の方法の実践に使用される組成物も提供される。
【0009】
本発明がより詳細に説明される前に、本発明は、説明される特定の実施形態に限定されるものではなく、したがって、もちろん、変化し得ることが理解されるべきである。また、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されることになるため、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態のみを説明する目的のためのものであり、限定することが意図されるものではないことも理解されるべきである。
【0010】
値の範囲が提供される場合、文脈が明確に別段の指示をしない限り、その範囲の上限と下限との間の、下限の単位の10分の1までの各中間値、及びこの記載の範囲内の任意の他の記載される値又は中間値が本発明に包含されることが理解される。これらのより小さい範囲の上限及び下限は、個別により小さい範囲に含まれてもよく、記載の範囲において任意の具体的に除外された限界に従って、同様に本発明に包含される。記載された範囲が限界の一方又は両方を含む場合、それらの含まれる限界のいずれか又は両方を除外する範囲も、同様に本発明に含まれる。
【0011】
本明細書では、数値の前に「約」という用語が付けられて、特定の範囲が提示される。本明細書では、「約」という用語は、それが先行する正確な数、及びその用語が先行する数に近い、又は近似する数について文字通りの支持を提供するために使用される。ある数が具体的に列挙された数に近いか、又は近似するかどうかを判定するとき、その近い又は近似する列挙されない数は、それが提示されている文脈において、具体的に列挙されている数の実質的な等価物を提供する数であり得る。
【0012】
別途定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する当業者によって一般に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと類似又は同等の任意の方法及び材料もまた、本発明の実践又は試験にも使用され得るが、代表的で例示的な方法及び材料が、以下に記載される。
【0013】
本明細書で引用されるすべての刊行物及び特許は、あたかも各個々の刊行物又は特許が参照によって組み込まれるように具体的かつ個々に示されているかのように、参照によって本明細書に組み込まれ、参照によって本明細書に組み込まれることによって、それらの刊行物が引用される関連した方法及び/又は材料を開示及び記載する。いかなる刊行物の引用も、本出願日以前のその開示に関するものであり、本発明が以前の発明によってそのような刊行物に先行する資格を与えられないことを容認するものとして解釈されるべきではない。更に、提供された公開日は、実際の公開日とは異なる場合があり、個別に確認される必要がある場合がある。
【0014】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、冠詞「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」は、別途文脈が明確に指示しない限り、複数の指示対象を含むことに留意されたい。特許請求の範囲は、あらゆる任意選択的要素を除外するように起草され得ることに更に留意されたい。したがって、この記述は、特許請求要素の列挙に関連した「もっぱら(solely)」及び「のみ(only)」等の排他的用語の使用のための、又は「消極的な」限定の使用のための先行詞として機能することが意図される。
【0015】
本開示を読めば当業者には明らかであるように、本明細書に記載及び例証される別個の実施形態の各々は、本発明の範囲又は趣旨から逸脱することなく、他のいくつかの実施形態のいずれかの特徴から容易に分離され得るか、又はこれらと組み合わされ得る別個の構成要素及び特徴を有する。任意の列挙された方法は、列挙された事象の順序、又は論理的に可能な任意の他の順序で実行され得る。
【0016】
装置及び方法は、機能的な説明を伴う文法的流動性のために記載されている、又は記載されるが、特許請求の範囲は、米国特許法第112条下で明示的に策定されない限り、「手段」又は「ステップ」制限の構築によって必ずしも制限されるものと解釈されるべきではなく、同等物の法制定基礎原則の下で特許請求の範囲によって提供される定義の意味及び同等物の完全な範囲を付与されるべきであり、特許請求の範囲が米国特許法第112条下で明示的に策定される場合、米国特許法第112条下で完全な法定同等物が付与されるべきであることを明示的に理解されたい。
【0017】
方法及び近接性化学誘導因子(CIP)
上に要約されるように、本発明の態様は、細胞内の標的遺伝子の転写を調節する方法を含む。この方法は、標的遺伝子の転写を調節する誘導可能な方法とみなすことができる。方法が誘導可能であるため、標的遺伝子の転写の調節は、構成的ではなく、代わりに、適用された刺激、例えば、以下でより詳細に説明されるようなCIPの提供に応答して生じる。方法は、標的遺伝子の転写を誘導的に調節する方法であるため、標的遺伝子の転写を何らかの方法で変化させる方法、例えば、標的遺伝子の転写を強化する方法、又は標的遺伝子の転写を低減する方法である。(好適な対照に対する、例えば、CIPが存在しないが同一のシステムに対する)転写の変化の大きさは変動し得、いくつかの場合において、変化の大きさ、例えば強化又は低減は、2倍以上、例えば5倍以上、例えば10倍以上である。
【0018】
上に要約されるように、本発明の態様は、標的遺伝子の転写を調節する方法を含む。遺伝子という用語は、タンパク質生成物に翻訳され得る非コードRNA、マイクロRNA、エンハンサーRNA、又はRNAを含む、機能的RNAをコードするゲノム領域を指す。遺伝子という用語は、例えば、イントロンによって分離されたエクソンの形態のコード配列だけでなく、調節配列、例えば、エンハンサー/サイレンサー、プロモーター、ターミネーター、非コードRNA、マイクロRNA等を含む、染色体の領域又はドメインを指すために、従来の意味で使用される。
【0019】
所与の方法の焦点である特定の標的遺伝子は、変動し得る。いくつかの場合において、標的遺伝子は、発現が増強される遺伝子、例えば、アポトーシス促進遺伝子(例えば、PUMA(BBC3)、BIM(BCL2L11)、BID、BAX、BAK、BOK、BAD、HRK、BIK、BMF、及びNOXA(PMAIP1)、又は活性が阻害される遺伝子、例えば、抗アポトーシス遺伝子BCL6、有益な治療用遺伝子(例えば、律速酵素(TPH2等)、ハプロ不全遺伝子(ARID1B等)等である。いくつかの場合において、標的遺伝子は、その発現が低減されるべき過剰発現遺伝子、例えば、がん遺伝子(MYC等)、トリソミー遺伝子(染色体21遺伝子等)、又は増幅遺伝子等である。
【0020】
上記の遺伝子のカテゴリは、主題の方法の標的遺伝子であり得る遺伝子のタイプの単なる例示である。標的遺伝子の追加の例としては、これらに限定されないが、発達遺伝子(例えば、接着分子、サイクリンキナーゼ阻害剤、サイトカイン/リンホカイン及びそれらの受容体、成長/分化因子及びその受容体、神経伝達物質及びその受容体);がん遺伝子(例えば、ABLI、BCLI、BCL2、BCL6、CBFA2、CBL、CSFIR、ERBA、ERBB、EBRB2、ETSI、ETS1、ETV6、FOR、FOS、FYN、HCR、HRAS、JUN、KRAS、LCK、LYN、MDM2、MLL、MYB、MYC、MYCLI、MYCN、NRAS、PIM1、PML、RET、SRC、TALI、TCL3、及びYES);腫瘍抑制遺伝子(例えば、APC、BRCA1、BRCA2、MADH4、MCC、NF1、NF2、RB1、TP53、及びWTI);酵素(例えば、ACCシンターゼ及びオキシダーゼ、ACPデサチュラーゼ及びヒドロキシラーゼ、ADP-グルコースピロホリラーゼ、ATPase、アルコールデヒドロゲナーゼ、アミラーゼ、アミログルコシダーゼ、カタラーゼ、セルラーゼ、カルコーンシンターゼ、キチナーゼ、シクロオキシゲナーゼ、デカルボキシラーゼ、デキストリナーゼ、DNA及びRNAポリメラーゼ、ガラクトシダーゼ、グルカナーゼ、グルコースオキシダーゼ、顆粒結合デンプンシンターゼ、GTPase、ヘリカーゼ、ヘミセルラーゼ、インテグラーゼ、イヌリナーゼ、インバーターゼ、イソメラーゼ、キナーゼ、ラクターゼ、Upase、リポキシゲナーゼ、lyso/yme、ノパリンシンターゼ、オクトピンシンターゼ、ペクチンエステラーゼ、ペルオキシダーゼ、ホスファターゼ、ホスホリパーゼ、ホスホリラーゼ、フィターゼ、植物成長調節因子シンターゼ、ポリガラクツロナーゼ、プロテイナーゼ及びペプチダーゼ、プラナーゼ、リコンビナーゼ、逆転写酵素、RUBISCO、トポイソメラーゼ、及びキシラナーゼ);ケモカイン(例えばCXCR4、CCR5)、テロメラーゼのRNA成分、血管内皮成長因子(VEGF)、VEGF受容体、腫瘍壊死因子核因子カッパB、転写因子、細胞接着分子、インスリン様成長因子、形質転換成長因子ベータファミリーメンバー、細胞表面受容体、RNA結合タンパク質(例えば、小核内皮RNA、RNA輸送因子)、翻訳因子、テロメラーゼ逆転写酵素)等が挙げられる。
【0021】
図1は、本発明の実施形態による、TF-CIPを使用して治療用遺伝子の転写を調節する一般的な実施形態の例示を提供する。
図1に示されるように、TF-CIP(A-リンカー-B)は、アンカー転写因子に特異的に結合するリガンドAと、標的遺伝子の転写を調節するために動員される(すなわち、ハイジャック又は再配線される)調節因子、例えば活性化因子、転写因子に特異的に結合するリガンドBとを含む。TF-CIPの調節転写因子及びアンカー転写因子の両方への結合は、化学リンカーによって結合された2つの結合部分A及びBによる結合複合体の産生及び標的治療用遺伝子の転写の活性化をもたらす。
図1はまた、本発明の実施形態による、TF-CIPを使用して治療用遺伝子の転写を抑制する一般的な実施形態の例示を提供する。
図1に示されるように、標的遺伝子の転写を制御するアンカー転写因子に特異的に結合するリガンドAと、転写抑制因子に特異的に結合するリガンドBとを含むTF-CIP(A-リンカー-B)。TF-CIPの転写抑制因子及びアンカー転写因子の両方への結合は、標的遺伝子の転写を抑制する結合複合体の産生をもたらす。
【0022】
近接性化学誘導因子(CIP)
上記で概説したように、方法の実施形態は、近接性化学誘導因子(CIP)を使用する。CIPは、細胞内条件下で、標的遺伝子のプロモーターに結合する第1の内因性アンカー転写因子と、第2の内因性転写調節因子との近接性を誘導する化合物である。本発明のCIPは、少なくとも1つの内因性転写因子と別の内因性転写調節因子(例えば、転写因子又は転写抑制因子)との近接性を誘導するため、本発明のCIPは、転写因子-近接性化学誘導因子(TF-CIP)と称され得、
図2及び3に一般的に示される。「近接性を誘導する」とは、第1及び第2の内因性因子が、CIP化合物(PMID:29590011)によって媒介される結合イベントを通して互いに空間的に会合すること意味し、CIP化合物は、両方の内因性因子に同時に結合するように構成され、それにより、CIP化合物は二官能性化合物又は分子接着剤(PMID:33417864)としてみなされ得る。空間的会合は、CIP、第1の内因性アンカー転写因子、第2の内因性転写調節因子(例えば、転写因子、転写抑制因子、クロマチン制御因子、エピジェネティック制御因子、及び/又はがん駆動因子)を含む結合複合体の存在によって特徴付けられる。結合複合体において、結合複合体の各メンバー又は成分は、複合体の少なくとも1つの他のメンバーに結合される。この結合複合体において、様々な成分間の結合は、変動し得る。例えば、CIPは、第1及び第2の内因性因子のドメインに同時に結合し得、それによって結合複合体及び所望の空間的会合を生成し得、これは最終的に、標的遺伝子の所望の転写調節をもたらす。この結合複合体は、3つの別個の非共有結合成分、すなわち、内因性アンカー転写因子、内因性転写調節因子、及びTF-CIPからなる三部分複合体と称され得る。
【0023】
CIPとして機能する任意の便利な化合物が使用され得る。天然物質及び合成物質の両方を含む多種多様な化合物が、CIPとして使用され得る。CIPを選択するための適用可能かつ容易に観察可能又は測定可能な基準は、以下を含む:(A)リガンドが、生理学的に許容される(すなわち、それが使用される細胞又は動物に対して過度の毒性を有さない)、(B)合理的な治療用量範囲を有する、(C)必要に応じて細胞膜及び他の膜を横断することができる、並びに(D)内因性アンカー転写因子及び内因性転写調節因子の標的ドメインに結合する。したがって、望ましい基準は、化合物が比較的生理学的に不活性であるが、そのCIP活性のためのものであることである。いくつかの場合では、リガンドは、非ペプチド及び非核酸である。いくつかの用途では、経口的に摂取することができる化合物(例えば、胃腸系において安定であり、血管系に吸収され得る化合物)が興味深い。
【0024】
目的のCIP化合物は、小分子を含み、非毒性である。小分子とは、5000g/モル(ダルトン)以下、例えば2500g/モル(ダルトン)以下、例えば1000g/モル(ダルトン)以下、例えば500g/モル(ダルトン)以下の分子量を有する分子を意味する。いくつかの場合において、本発明の実施形態で使用されるCIPは、250~1500g/モル、例えば300~1200g/モルの範囲の分子量を有する。非毒性とは、誘導因子が、あるとしても、1g以上/kg体重、例えば2.5g以上/kg体重、例えば5g以上/kg体重の濃度で実質的に毒性を示さないことを意味する。
【0025】
本発明の実施形態で使用されるCIP化合物は、転写調節因子に特異的に結合する第2のリガンドに共有結合されるアンカー転写因子に特異的に結合する第1のリガンドを含む。換言すれば、CIP化合物は、アンカー転写因子に共有結合する第1のリガンドと転写調節因子に特異的に結合する第2のリガンドとを連結させる、結合又は連結部分であり得るリンカー成分を含む。「特異的結合」、「特異的に結合する」等の用語は、細胞内の他の分子又は部分に比べて、第1及び第2のリガンドが、対応するアンカー及び転写調節因子に優先的に直接結合する能力を指す。ある特定の実施形態では、結合複合体内で互いに特異的に結合している場合の所与のリガンドとその対応する因子との間の親和性は、10-5M以下、10-6M以下、10-7M以下、10-8M以下、10-9M以下、10-10M以下、10-11M以下、10-12M以下、10-13M以下、10-14M以下、又は10-15M以下のKD(解離定数)によって特徴付けられる(ある特定の実施形態では、これらの値は、本明細書の他の場所で言及される他の特定の結合対相互作用に適用され得ることに留意されたい)。
【0026】
CIP化合物の第1及び第2のリガンド、並びにリンカー成分の性質は、変動し得る。所与のCIP化合物において、第1及び第2のリガンドは、それらの対応するアンカー及び転写調節因子の性質に基づいて選択され、それら及びそれらの対応するリガンドの例が以下に提供される。特定の細胞型に関する活性の特異性は、所望の細胞又は条件的特異性を提供する様式でアンカー転写因子及び転写調節因子を動員するように構成され得る、CIPの第1及び第2のリガンドの選択によって提供され得る。例えば、CIPは、CIPがその細胞に対して高度に選択的な活性を示すように、主に目的の標的細胞に存在するアンカー転写因子及び転写調節因子の近接性を誘導するように操作され得る。所与のCIPの選択性は、以下の式により説明され得る。
(アンカー転写因子の発現の選択性)x(転写調節因子の発現の選択性)x(アンカー転写因子のゲノム特異性)=誘導活性の選択性
【0027】
既存の成分を使用した合理的設計によるTF-CIPの生成
図3は、既存の成分を使用した合理的設計によるTF-CIPの構築方法を示す。
図3に示されるように、ER陽性乳がん細胞又はAR陽性前立腺がん細胞を死滅させるためにBCL6をハイジャックするように構成されたTF-CIPの設計。BCL6は、細胞死遺伝子のプロモーター上のエピジェネティック抑制因子BCOR、NCO、及びSMRT(PMID:30335946)を結合させることによって、乳がん細胞を含む様々ながん細胞の死を防止する転写因子及びがん遺伝子である。BCOR、NCOR、及びSMRTがBCL6の二量体表面によって形成される部位へ結合するのを防止するBCL6の抑制機能のいくつかの阻害剤が生成されている(PMID:18280243)が、これらの阻害剤は、治療的に使用されるのに十分に活性ではなかった(PMID:30335946)。
【0028】
TP53、PUMA、及びBIM等の細胞死(アポトーシス促進)プロモーターに結合し、近接性を誘導するエストロゲン化合物への、BI3812(PMID32275432)等のBCL6阻害剤の化学結合は、細胞死の阻害剤を、乳がん細胞等のエストロゲン受容体の濃度が高い細胞における細胞死の活性化因子に変換する。上記プロトコルによって合成され、BCL6の抑制活性をハイジャックし、それを細胞死の活性化因子に変換するように設計されたTF-CIPの例を
図4に示す。化合物の合成の詳細は、下記の実施例1のセクションHに提供される。各構造は、以前に説明された分子BI3812(PMID32275432)に基づいて、化学リンカーによってBCL6阻害剤に接続されたエストロゲン受容体結合部分を含む。これらの種類の分子は、ER陽性乳がんの治療における使用が見出され得る。
【0029】
また、以前に説明された分子BI3812(PMID32275432)に基づいて、BCL6阻害剤に連結されたアンドロゲン類似体を使用する同様の戦略を使用する構造の例も示される。後の種類の分子は、AR遺伝子が増幅又は過剰発現される前立腺がんの治療における使用が見出され得る。
【0030】
図5A~5Cは、リンカー及びリガンドの化学的最適化を可能にするために、TF-CIPの効果をどのように測定するかの例を提供する。図示される実施形態では、レポーターは、TP53、PUMA、BIM等を含む、異なるアポトーシス促進遺伝子から採取されたBCL6結合部位のアレイを含む。これらの遺伝子は、単純に過剰発現したときに細胞を死滅させる能力を有する(PMID11463391)。実際のヒトBCL6結合部位の両側に10個の塩基対が含まれ、これは、転写特異性がエンハンサーソーム内のタンパク質の協調結合によるものであるという事実を利用する(PMID:9510247、PMID:33957125、PMID1179502)。したがって、レポーター系は多重化され、多くの異なる細胞型におけるアポトーシス応答を定義及び定量化するのに有用である。第1のレポーターの特異性及び作用に関するメカニズム的情報を提供するために使用され、また細胞死プロセスの異なる群を定量的に評価することが可能である第2のレポーターは、TP53、PUMA、BIM等を含む異なるアポトーシス促進遺伝子から採取されたFOXO3A結合部位のアレイを含む。これらの遺伝子は、単純に過剰発現したとき、又はFOXO3Aが過剰発現したときに細胞を死滅させる能力を有する(PMID11463391)。実際のヒトFOXO3A結合部位の両側に10個の塩基対が含まれ、これは、転写特異性がエンハンサーソーム内のタンパク質の協調結合によるものであるという事実を利用する(PMID:9510247、PMID:18206362)。したがって、このレポーター系は多重化され、多くの異なる細胞型におけるアポトーシス応答を定義するのに有用である。
【0031】
これらのレポーター系及びがん細胞死滅の直接測定値を使用して、
図4に例示される合理的設計によって作製されたTF-CIP分子を評価した。TF-CIPの評価結果及び相対的効力及び作用機序を
図6に示す。パネルAに示されるように、ER-TF-CIP6の添加は、約1~10マイクロモルのEC50で、BCLレポーターによるGFP発現を活性化する。これは、公開された研究で表現型を生成するために必要な親化合物であるBI3812の濃度よりも実質的に低い濃度である。濃度がより高いと、両方の結合部位(PMID:8752278、PMID:21406691)、この場合、BCL6タンパク質及びエストロゲン受容体を飽和させるため、二官能性分子の「フック効果」特性と一致するレポーターの活性化の低減をもたらすことに留意されたい。パネルBは、ER-TF-CIP6が、活性化された再配列BCL6遺伝子及び軽度に過剰発現されたエストロゲン受容体(この場合、Karpas 422)を含有するがん細胞の死を、BI3812よりも効果的に誘導することを示す。パネルCは、ER-TF-CIP6がHEK293細胞における細胞死を誘導することを実証している。パネルD及びEは、エストロゲン受容体を発現しないか、又は低レベルでそれを発現する乳がん細胞株が、ER-TF-CIP6によって死滅されないことを示している。これらの研究は、
図4に示されるER-TF-CIP6及び他のTF-CIPが、エストロゲン受容体を脱阻害BCL6に動員して、その後細胞を死滅させるアポトーシス促進遺伝子を活性化することを示す。PrestoBlue HS(レサズリン)アッセイを使用して、生細胞の生存率を測定した(培地中の1:10の比率及び1時間のインキュベーション)。
【0032】
ER-TF-CIPの治療有効性は、いくつかの手法で改善することができる。第一に、エストロゲン類似体は、エストロジオールよりもエストロゲン受容体に対して高い親和性を有するものを含む、多くの公表されたエストロゲン類似体から選択することができる(DOI:10.1002/cbic.200200499;PMID:12794859;PMID:15300835;PMID:2064992 PMID;2362442;PMID:3702438)。後者は、閉経後ではなく、ER-TFCIPと競合し得る高レベルのエストロゲンを有する女性を治療する上で一定の利点を有するであろう。ER-TFCIPの治療有効性は、異なるリンカーを使用することによって改善することができ、これらは、本出願の後半でより詳細に考察され、例示される。異なるリンカーは、エストロゲン受容体をBCL6タンパク質に対してより効果的に位置付けることができるか、又はER-TF-CIPに優れた薬理学的特徴を与えることができる。ER-TFCIPの治療有効性は、異なるBCL6リガンドの使用によって改善することができ、そのうちのいくつかは、以下の刊行物に示されている:(PMID:32275432;PMID:30335946;PMID:28930682;PMID:27482887)。
【0033】
新規成分を使用した合理的設計によるTF-CIPの生成
上記の項で説明された研究は、既存の成分から作製されたTF-CIPを構築及び評価する方法を教示している。アンカー及び調節転写因子の既存の成分又はリガンドが利用できない場合、これらの新規のリガンドを検出及び評価するための以下の方法が使用され得る。
図7Aは、目的の標的組織内で選択的に発現される転写因子の対を選択する方法の段階的な図を提供する。この分析から、目的の特定の標的遺伝子のアンカー転写因子が、
図7Bの段階的な説明を使用して特定される。この代表的な例では、乳がんの治療のためのアンカー転写因子が示されている。アンカー転写因子の最終選択の考慮事項は、標的組織内の発現の特異性、増強又は抑制される生物学的プロセス内の立証された役割、並びに転写因子に対する結合部位の重要性の明確な表示を含む。これらの主因子の適用は、目的の標的組織内で選択的に発現される活性化又は抑制転写因子、並びに目的の標的組織内で同様に発現される1つ以上の候補アンカー転写因子の両方を提供し、これらは次いでリガンドの選択に使用され得る。
【0034】
アンカー転写因子について、TC-CIPで使用されるリガンドを選択するためのプロトコルが、
図8に例示されるプロトコルを使用して提供される。アンカーTF内のポケットの選択には、例えばサイトマップPMID:19434839の使用が含まれるが、他のプログラムも使用することができる。ポケットへのドッキング及びヒットのスコアリングは、PMID:17034125及びPMID:15027866に記載されている。リガンドを選択する他の方法としては、目的のタンパク質を用いたDNAコード化ライブラリスクリーニング(PMID:28094476)が挙げられる。リガンドを選択する更に別の方法は、蛍光偏光又は結合を測定する他の直接的な方法を使用して、小分子のライブラリをスクリーニングすることによるものである。リガンドを検出する更に別の方法は、nanoBRET(PMID30972335)を使用することである。
【0035】
まったく新しいTF-CIPを小分子のライブラリ内で検出することができる追加の方法は、
図9に示されるレポーターの使用を伴う。
図9に記載されるのは、
図5A~5Cに導入されたレポーターを使用して分子接着剤として機能するTF-CIPのスクリーニングである。「分子接着剤」は、2つの結合部分間のより直接的な結合によりリンカーが置き換えられているという事実により、
図2に見られるような「二官能性分子」とは区別される。FK506又はラパマイシン(PMID:33436864)等の分子接着剤は、しばしば良好な薬理学的挙動を有する。最も重要なことは、がん駆動因子等の標的タンパク質と、高度に生物学的に特異的なエンハンサーソーム(PMID:9510247)内のいくつかのタンパク質との間の相互作用を促進することによって、
図9に示されるようにいくつかのタンパク質を一度に関与させることができる。BCL6の阻害剤(上部パネル)及びFOXO3Aの活性化因子(下部パネル)の検出に使用するためのレポーターが示されている。分子接着剤として作用する分子は、所与の細胞型、例えば、乳がん細胞、前立腺がん細胞、又はリンパ腫におけるGFP又はmCherry発現を活性化する能力のおかげで、化合物の大きなライブラリから選択することができる。
【0036】
TF-CIPの生成:追加の設計考慮事項
いくつかの場合において、CIPの第1及び第2のリガンドは小分子であり、いくつかの場合において、それぞれ50ダルトン~1000ダルトン、例えば400~800ダルトンの範囲の分子量を有する。第1及び第2のリガンドの化学構造は広く変化し得、第1及び第2のリガンドは、標的アンカー転写又は転写調節因子への所望の特異的結合を提供するように選択され得る。第1及び第2のリガンドは、それらが結合するように構成されている内因性因子、例えば、アンカー転写因子又は転写調節因子の活性に、あるとしてもほとんど影響を及ぼさないように選択され得る。
【0037】
したがって、所与の標的遺伝子に関して、TF-CIPで用いられ得るアンカー転写因子及びリガンドは、任意の好都合なプロトコルを使用して特定され得る。いくつかの場合において、
図7A~7Cに記載のプロトコルを使用して、目的の標的遺伝子のアンカー転写因子を特定することができる。したがって、好適な転写因子が特定されると、TF-CIPで使用され得るリガンドは、
図8に記載されるプロトコルを使用して特定され得る。
【0038】
上記のように、CIPの第1及び第2のリガンドは、結合によって、又は連結部分、すなわちリンカーを介して互いに結合され得る。用いられる場合、第1と第2のリガンドを互いに連結するために、任意の便利なリンカーが用いられ得る。目的のリンカーは、第1及び第2のリガンドが細胞内のそれぞれの内因性因子に特異的に結合することができるように、第1及び第2のリガンドの安定な会合を提供するリンカーである。リンカーが第1及び第2のリガンドを互いに安定して会合させることを提供するため、第1及び第2のリガンドは、細胞条件、例えば、細胞の表面の条件、細胞の内部の条件等の下で互いに解離しない。リンカーは、共有結合又は非共有結合等の任意の好都合な結合を使用して、第1のリガンド及び第2のリガンドの安定した会合のために提供されてもよく、いくつかの場合において、リンカー成分は、第1のリガンド及び第2のリガンドの両方に共有結合される。
【0039】
CIPが第1及び第2のリガンドに共有結合したリンカーを含む場合、リンカーとリガンドの各々との間に共有結合を形成するための任意の好都合なプロトコルが使用されてもよく、目的の連結プロトコルとしては、他の種類の結合形成反応の中でも、付加反応、除去反応、置換反応、ペリ環状反応、光化学反応、酸化還元反応、ラジカル反応、カルベン中間体を介した反応、メタセシス反応が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、リンカーは、反応性連結化学を使用し、例えば、反応性リンカー対(例えば、リガンド及びリンカー上の部分によって提供される)は、限定されないが、マレイミド/チオール;チオール/チオール;ピリジルジチオール/チオール;ヨウ素酢酸スクシンイミジル/チオール;N-スクシンイミジルエステル(NHSエステル)、スルホジクロロフェノールエステル(SDPエステル)、若しくはペンタフルオロフェニルエステル(PFPエステル)/アミン;ビスクシンイミジルエステル/アミン;イミドエステル/アミン;ヒドラジン若しくはアミン/アルデヒド、ジアルデヒド若しくはベンズアルデヒド;イソシアネート/ヒドロキシル若しくはアミン;炭化水素-過ヨウ素酸塩/ヒドラジン若しくはアミン;ジアジリン/アリールアジド化学;ピリジルジチオール/アリールアジド化学;アルキン/アジド;カルボキシ-カルボジイミド/アミン;アミン/スルホ-SMCC(スルホスクシンイミジル4-[N-マレイミドメチル]シクロヘキサン-1-カルボキシレート)/チオール及びアミン/BMPH(N-[β-マレイミドプロピオン酸]ヒドラジド.TFA)/チオール;アジド/トリアリールホスフィン;ニトロン/シクロオクチン;アジド/テトラジン及びホルミルベンズアミド/ヒドラジノ-ニコチンアミドを含む。ある特定の実施形態では、リンカーは、環化付加反応、例えば、[1+2]-環化付加、[2+2]-環化付加、[3+2]-環化付加、[2+4]-環化付加、[4+6]-環化付加、又はケレオトロピック(cheleotropic)反応を使用し、1,3-双極性環化付加(例えば、アジド-アルキンHuisgen環化)、ディールス-アルダー反応、逆電子需要ディールス-アルダー環化付加、エン反応、又は[2+2]光化学環化付加反応を生じるリンカーを含む。いくつかの実施形態において、リンカーは、アルキル鎖、アルコキシ鎖、アルケニル鎖、又はアルキニル鎖を含み得、鎖内の炭素原子の数は、いくつかの場合において、2~25、例えば、5~20の範囲で変動し得、1個以上の炭素原子は、共有結合のための反応性官能基としてNH又はCH3-Nで置き換えられる。
【0040】
いくつかの場合において、リンカーは、以下を含む基から選択され、式中、nは、炭素又は存在し得る炭素置換原子の総数を指し、k、m、及び/又はpによってサブカウントされる:
a)1個以上の炭素原子がNH又はCH
3-Nで置き換えられた場合を含む、Cnアルキル鎖、L
b)1個以上の炭素原子がNH又はCH
3-Nで置き換えられた場合を含む、Cnアルコキシ鎖、L
c)1個以上の炭素原子がNH又はCH
3-Nで置き換えられた場合を含む、Cnアルケニル又はアルケニルオキシ鎖、L
d)1個以上の炭素原子がNH又はCH
3-Nで置き換えられた場合を含む、Cnアルキニル又はアルキニルオキシ鎖、L
e)L
1-Ar-L
2又はL
1-Het-L
2(式中、L1及びL
2は、結合、炭素又は任意に置換された窒素である1~10個の原子のアルケニル、アルキニル、アルキニルオキシ、アルケニルオキシ、アルコキシ、又はアルキル鎖、例えば、CH
2N(H)CH
2、CH
2OCH
2、C
5H
10OCH
2等(
図4を参照されたい)であってもよく;Arは、任意選択で置換された6員アリールであり;Hetは、4~6員ヘテロシクロアルキル、又は9~10員スピロ環式二環式ヘテロシクロアルキル、又は3~6員の任意選択で置換されたヘテロアリールである)。
【0041】
リンカー分子の構造及び非包括的な選択された例を、
図24A及び24Bに示す。本発明の実施形態で使用され得る特定のリンカーには、以下に示されるものが含まれるが、これらに限定されない。
【0042】
内因性アンカー転写因子
上記で要約したように、本発明の実施形態で使用されるCIPは、例えば
図1及び2に示され、上記で説明されるように、標的遺伝子のプロモーターに結合する内因性アンカー転写因子に特異的に結合する第1のリガンドを含む。「転写因子」という用語は、例えば、DNA結合ドメインと転写因子結合部位又は応答エレメントとの相互作用を介して、特定のDNA配列に結合することによって、DNAから転写されたRNA産物、例えば、メッセンジャーRNA、非コードRNA等への遺伝情報の転写速度を制御するタンパク質を指すために、従来の意味で使用される。転写因子は、配列特異的DNA結合因子とも呼ばれ得る。
【0043】
本発明のアンカー転写因子は、細胞の標的遺伝子の転写因子結合部位又は応答エレメントに結合し、その転写を調節、例えば増強又は抑制する転写因子である。アンカー転写因子は内因性であるため、それらは細胞から発生し、細胞に対して異種ではない。したがって、本発明の方法が行われる細胞のアンカー転写因子は、染色体遺伝子によってコードされるものであり、ここで、染色体遺伝子は、細胞に対して異種ではなく、すなわち、遺伝子は、例えば、ウイルスベクター等のベクターによって、細胞の染色体中に導入されていないか、又はいずれにせよ遺伝子修飾されている。
【0044】
内因性アンカー転写因子は、所望の特定の標的遺伝子の性質及び調節の種類、例えば、転写増強又は低減に応じて広く変動し得る。本発明の実施形態で使用され得るアンカー転写因子の例としては、限定されないが、例えば、TFIIA、TFIIB、TFIID、TFIIE、TFIIF、及びTFIIH等の事前開始複合体の形成に関与する一般的な転写因子、並びに転写を刺激又は抑制するために開始部位の上流のどこかに結合するタンパク質等の上流転写因子が挙げられる。本発明の所与の実施形態で使用される内因性アンカー転写因子は、Lambert et al.,“The Human Transcription Factors,”Cell(February 8,2018)172:650-665及びその補足資料に列挙されているもの、並びにhttp://humantfs.ccbr.utoronto.ca/に記載されている転写因子のいずれであってもよい。本発明の例示的な用途における使用が見出される特定のアンカー転写因子を、以下でより詳細に検討する。
【0045】
内因性転写調節因子
上記で要約したように、本発明の実施形態で使用されるCIPは、例えば
図1及び2に示され、上記で概して説明されるように、内因性転写調節因子に特異的に結合する第2のリガンドを含む。内因性転写調節因子は、内因性アンカー転写因子に関して上述したように、細胞に対して内因性であり、天然以外で遺伝子修飾されないタンパク質である。内因性転写調節因子は、CIP及びアンカー転写因子との結合複合体に存在する場合、標的遺伝子の転写を所望の方法で調節する、例えば標的遺伝子の転写を増強又は低減するタンパク質である。例えば、転写調節因子は様々であり得、その例は、上記のように、転写調節因子、並びにDNAに直接結合しない転写調節タンパク質を含む。本発明の実施形態で使用され得るDNAに直接結合しない転写調節タンパク質には、ヒストンメチル化又は脱メチル化、DNAメチル化又は脱メチル化、ヌクレオソーム架橋、ヒストンアセチル化又は脱アセチル化、ヒストンリン酸化又は脱リン酸化、ヒストンユビキチン化又は脱ユビキチン化、DNAとヒストンとの間の接触等のメディエーター等のヘテロクロマチン形成メディエーターが含まれるが、これらに限定されない。目的の特定のメディエーターとしては、限定されないが、HP1タンパク質、例えば、HP1α及びcs HP1α、ヒストンH3K9メチラーゼ、ヒストンH3K9デメチラーゼ、ヒストンH3K27メチラーゼ、ヒストンH3K27デメチラーゼ、MLL等のヒストンH3K4メチラーゼ、ヒストンH3K4デメチラーゼ、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ、ヒストンデアセチルトランスフェラーゼ等が挙げられる。いくつかの例では、DNAに結合しない転写調節因子は、転写抑制因子タンパク質、例えば、ヘテロクロマチンタンパク質1(HP1)抑制因子タンパク質、KRAB抑制因子タンパク質等である。本発明の例示的な用途における使用が見出される特定の転写調節因子を、以下でより詳細に検討する。他の場合では、転写調節物質は、BAF若しくはmSWI/SNF、PBAF、INO80若しくはLSH1等のATP依存性クロマチン調節物質、又はそれらの複合体とともに含有される任意のサブユニットであり得る。いくつかの場合では、本発明の実施形態において、BRG1(SMARCA 4)又はBRM(SMARCA2)又はそれらのサブユニット及び関連タンパク質に類似する、哺乳動物ゲノムにコードされる約30のATP依存性クロマチン調節因子のうちの1つを動員に使用して、ポリコーム抑制複合体又は他のクロマチン特徴を特異的に変更し得る。
【0046】
細胞
上記で要約したように、本発明の方法の態様は、標的遺伝子の転写が調節される細胞においてCIPを提供することを含む。CIP化合物が提供される細胞は、実行される特定の用途に応じて変動し得る。目的の細胞としては、真核細胞、例えば、動物細胞が挙げられ、ここで、特定の種類の動物細胞としては、限定されないが、酵母、昆虫、蠕虫又は哺乳動物細胞が挙げられる。例として、ウマ、ウシ、ヒツジ、イヌ、ネコ、マウス、非ヒト霊長類及びヒト細胞を含む様々な哺乳動物細胞が使用され得る。様々な種の中で、造血、神経、グリア、間葉系、皮膚、粘膜、間質、筋肉(平滑筋細胞を含む)、脾臓、網状内皮、上皮、内皮、肝臓、腎臓、胃腸、肺、線維芽細胞、及び他の細胞型等の様々な型の細胞が使用され得る。目的の造血細胞には、赤血球系、リンパ系、又は骨髄単球系統、並びに筋芽細胞及び線維芽細胞に関与し得る有核細胞のいずれかが含まれる。また、興味深いのは、造血、神経、間質、筋肉、肝臓、肺、胃腸、及び間葉系幹細胞、例えばES細胞、epi-ES細胞、並びに人工多能性幹細胞(iPS細胞)等の幹細胞及び前駆細胞である。上記で要約したように、CIP化合物が提供される細胞は、少なくとも内因性アンカー転写因子及び内因性転写調節因子を含有する。したがって、細胞は、アンカー転写因子及び転写調節因子を自然に含む細胞であり、これらの因子を含むように操作されていない。所望のように、細胞は、インビトロ又はインビボであってもよい。いくつかの場合において、標的遺伝子の転写が調節される細胞は、多細胞生物の一部である。
【0047】
方法ステップ
本発明の態様は、例えば上記のようなアンカー転写因子及び転写調節因子の近接性を誘導するのに十分な様式で、例えば上述のように細胞内にCIPを提供することを含む。細胞内にCIPを提供するための任意の好都合なプロトコルが用いられ得る。使用される特定のプロトコルは、例えば、標的細胞がインビトロであるか、又はインビボであるかに応じて変動し得る。ある特定の場合では、CIPは、細胞をCIPと接触させることによって細胞内に提供される。インビトロプロトコルの場合、CIP化合物と標的細胞との接触は、任意の好都合なプロトコルを使用して達成され得る。例えば、標的細胞が好適な培地中で維持され得、図面に具体的に記載されるようにCIP化合物が培地中に導入される。
【0048】
インビボプロトコルの場合、任意の好都合な投与プロトコルが用いられ得る。CIP化合物の結合親和性、所望の応答、投与様式、半減期、存在する細胞の数に応じて、様々なプロトコルが用いられ得る。したがって、CIPは、治療的投与のために、様々な製剤、例えば、薬学的に許容されるビヒクル(本明細書では、薬学的送達ビヒクル又は担体とも称される)に組み込むことができる。より具体的には、本発明のCIPは、適切な医薬的に許容される担体又は希釈剤との組み合わせによって医薬組成物へと製剤化することができ、錠剤、カプセル、粉末、顆粒、軟膏(例えばスキンクリーム)、溶液、座薬、注射剤、吸入剤及びエアロゾル等の固体、半固体、液体又は気体型の調製物へと製剤化することができる。したがって、薬剤の投与は、経口、口腔、直腸、非経口、腹腔内、皮内、経皮、気管内等の投与を含む様々な手法で達成され得る。医薬剤形では、CIPは、単独で、又は他の医薬的に活性な化合物と適切に関連付けて、及び組み合わせて投与され得る。以下の例は例示であって、限定的ではない。
【0049】
経口調製物については、薬剤は、単独で、又は適切な添加剤と組み合わせて使用して、例えば、乳糖、マンニトール、トウモロコシデンプン又はジャガイモデンプン等の従来の添加剤とともに、結晶性セルロース、セルロース誘導体、アカシア、トウモロコシデンプン又はゼラチン等の結合剤とともに、トウモロコシデンプン、ジャガイモデンプン又はカルボキシメチルセルロースナトリウム等の崩壊剤とともに、タルク又はステアリン酸マグネシウム等の潤滑剤とともに、並びに必要に応じて、希釈剤、緩衝剤、湿潤剤、保存剤及び香味剤とともに、錠剤、粉末剤、顆粒剤又はカプセル剤を作製することができる。
【0050】
薬剤は、植物性又は他の類似の油、合成脂肪酸グリセリド、高級脂肪酸のエステル又はプロピレングリコール等の水性又は非水性溶媒中に溶解、懸濁、又は乳化することにより、注射用の調製物へと製剤化することができ、必要に応じて、可溶化剤、等張剤、懸濁化剤、乳化剤、安定化剤、及び保存剤等の従来の添加剤を使用することができる。
【0051】
薬剤は、吸入を介して投与されるエアロゾル製剤に利用することができる。本発明の化合物は、ジクロロジフルオロメタン、プロパン、窒素等の加圧された許容可能な推進剤中に製剤化することができる。
【0052】
更に、乳化基剤又は水溶性基剤等の様々な基剤と混合することにより、薬剤を座薬とすることができる。本発明の化合物は、座薬を介して直腸投与することができる。座薬には、体温で融解するが、室温で固化するカカオバター、カルボワックス、及びポリエチレングリコール等のビヒクルを含めることができる。
【0053】
シロップ、エリキシル剤、及び懸濁液等の経口又は直腸投与のための単位剤形が提供されてもよく、各剤形単位、例えば、小さじ1杯、大さじ1杯、錠剤又は座薬は、1つ以上の阻害剤を含有するあらかじめ決定された量の組成物を含有する。同様に、注射又は静脈内投与のための単位剤形は、滅菌水、生理食塩水又は別の医薬的に許容される担体中の溶液として組成物中に阻害剤を含み得る。
【0054】
本明細書で使用する際の「単位剤形」という用語は、ヒト及び動物対象に対する単位投薬量として好適な物理的に別個の単位を指し、各単位は、医薬的に許容され得る希釈剤、担体又はビヒクルと関連して所望の効果を生じるために十分な量で、計算された本発明の化合物のあらかじめ決定された量を含有する。本発明の新規の単位剤形の仕様は、使用される特定の化合物及び達成される効果、並びに宿主における各化合物に関連する薬力学に依存する。
【0055】
ビヒクル、アジュバント、担体、又は希釈剤等の薬学的に許容される賦形剤は、公に容易に入手可能である。更に、pH調整剤及び緩衝剤、張性調整剤、安定剤、湿潤剤等の薬学的に許容される補助物質は、公に容易に入手可能である。
【0056】
当業者は、用量レベルが、特定の化合物、送達ビヒクルの性質等に応じて変動し得ることを容易に理解するであろう。所与の化合物の好ましい投薬量は、様々な手段によって当業者によって容易に決定可能である。
【0057】
有効量の活性薬剤が生体対象に投与されるこれらの実施形態において、量又は投薬量は、所望の治療効果を示すように、好適な期間、例えば1週間以上、例えば2週間以上、例えば3週間以上、4週間以上、8週間以上等の期間にわたって投与される場合に有効である。例えば、有効用量は、少なくとも約1週間、場合によっては約2週間、又はそれ以上、最大約3週間、4週間、8週間、又はそれ以上の期間等の好適な期間にわたって投与される場合、所望の治療効果をもたらす用量である。いくつかの場合では、有効量又は用量の活性剤は、疾患状態の進行を遅くするか、又は停止させるだけでなく、状態の逆転を誘導する、すなわち状態の1つ以上の症状の改善を引き起こす。例えば、いくつかの場合では、有効量は、好適な期間、通常は少なくとも約1週間、及び場合によっては約2週間、又はそれ以上、最大約3週間、4週間、8週間、又はそれ以上の期間にわたって投与される場合、疾患状態に罹患している対象の1つ以上の症状を改善する量であり、改善の大きさ(例えば、関連する対照とともに好適なプロトコルを使用して測定されるように)は変動し得、例えば1.5倍、2倍、3倍、4倍、5倍、いくつかの場合では6倍、7倍、8倍、9倍、又は10倍以上であり得る。ある特定の実施形態では、方法は、CIPを提供した後、ある時点で細胞からCIPを除去することを含む。細胞からのCIPの除去は、任意の好都合なプロトコルを使用して、例えば、細胞が存在する培地からCIPを除去することによって、細胞を含む動物へのCIPの投与を停止することによって、細胞をCIP誘導近接の阻害剤と接触させることによって、CIPを置換し、内因性アンカー転写又は転写調節因子のうちの1つのみに結合する分子と細胞を接触させることによって、達成され得る。TF-CPの作用の1つの特定種類の阻害剤は、リンカー又は他の部分のない、アンカー又はハイジャックされた転写因子のいずれかのリガンドからなる片側分子であろう。
【0058】
上で要約したように、本発明の態様は、標的遺伝子の転写を誘導的に調節する方法を更に含む。そのような方法は、例えば、上記のように、標的遺伝子の転写を調節するのに十分な条件下で、内因性アンカー転写因子及び内因性転写調節因子を含有する細胞(例えば、真核細胞)に近接性化学誘導因子(CIP)を提供することを含む。CIP及び細胞は、上記の通りであってもよい。転写調節は様々であり得る。いくつかの場合では、調節は、遺伝子の転写を増強すること、例えば、遺伝子が疾患状態に関して有益である場合、例えば、細胞内の所望の活性を増強することによって、そのような細胞の死が所望されるアポトーシス促進遺伝子の発現を増加させること、そのような遺伝子の生成物の量の増加が所与の疾患状態に関して有益である場合、治療上有益な遺伝子の発現を増加させること等を含む。そのような場合では、増強の大きさは様々であり得、その例は、実質的にゼロからいくらかの発現までを含み、いくつかの場合では、大きさは、2倍以上、例えば5倍以上、例えば10倍以上であり得る。いくつかの場合では、調節は、例えば遺伝子が有害である場合、例えばc-myc又はトリプレット拡張遺伝子、例えばハンチントン等である場合、標的遺伝子の転写を低減することを含む。そのような場合では、低減の大きさは様々であり得、その例は、いくらかの発現から、存在するとしても実質的にゼロの発現を含み、いくつかの場合では、低減の大きさは、2倍以上、例えば5倍以上、例えば10倍以上であり得る。
【0059】
いくつかの場合では、細胞は、疾患状態に罹患している対象の細胞、すなわち、そのような対象から得られる細胞又はそのような対象の一部である細胞である。対象が罹患している可能性のある疾患状態は様々であり得、そのような疾患状態の例としては、限定されないが、腫瘍性疾患状態、例えば、がん、神経学的状態、免疫障害、胃腸疾患、心血管疾患等が挙げられる。
【0060】
主題の方法は、宿主における標的遺伝子転写の調節が所望される、多様な異なる状態の治療での使用が見出される。治療とは、宿主を苦しめる状態に関連する症状のうちの1つ以上の少なくとも改善が達成されることを意味し、改善は、治療される状態に関連するパラメータ、例えば症状の大きさの少なくとも低減を指すために広義で使用される。したがって、治療はまた、病理学的状態、又はそれに関連する少なくとも症状が、宿主がもはやその状態、又は少なくともその状態を特徴付ける症状に罹患しないように、完全に阻害される、例えば生じるのが防止される、又は停止される、例えば終了される状況を含む。
【0061】
方法が、状態に関して対象を治療する方法である場合、方法は、例えば所与のCIPが状態に関して対象を治療する際の使用に好適であることを確認するために、対象が所与の状態を有することを評価することを更に含み得る。所与の状態に適切な任意の好都合な診断プロトコルが採用されてもよく、そのようなプロトコルの選択は、治療される特定の状態に必然的に依存する。
【0062】
様々な対象は、主題の方法に従って治療可能である。いくつかの場合では、対象は、「哺乳類」又は「哺乳動物」であり、これらの用語は、肉食動物(例えば、イヌ及びネコ)、げっ歯類(例えば、マウス、モルモット、及びラット)、並びに霊長類(例えば、ヒト、チンパンジー、及びサル)を含む、哺乳類に属する生物を説明するために広く使用される。場合によっては、被験者はヒトである。
【0063】
以下の項は、本発明の方法の例示的な実施形態に関する更なる詳細を提供する。
【0064】
アポトーシス促進遺伝子の転写の増強
本発明の実施形態は、例えば、
図3に示すように、細胞内のアポトーシス促進遺伝子の転写を増強する方法を含む。アポトーシス促進遺伝子の転写を増強することは、アポトーシス促進遺伝子の転写を増加させることを意味する。転写の増加の大きさは、様々であり得る。アポトーシス促進遺伝子の転写が好適なアッセイによって検出できない場合、方法の実施形態は、例えばアポトーシス促進遺伝子の発現産物又はその活性、例えばアポトーシス又はその指標を検出することによって転写が検出可能であるように転写の増強をもたらす。検出可能な転写の基準レベルが存在する場合、増加の大きさは様々であり得、いくつかの例では、1.5倍以上、2倍以上、例えば5倍以上、例えば10倍以上であり得る。
【0065】
方法は、様々な異なるアポトーシス促進遺伝子の転写の増強をもたらし得る。アポトーシス促進遺伝子は、その発現産物がアポトーシスを、すなわち、多細胞生物に生じるプログラム細胞死を促進又は引き起こす遺伝子であり、これは、出血、細胞縮小、核分裂、クロマチン縮合、染色体DNA断片化、及び全体的なmRNA崩壊、及び死等の様々な細胞変化によって特徴付けられ得る。本発明の実施形態で増強され得る転写のための目的の特定のアポトーシス促進遺伝子としては、限定されないが、PUMA(BBC3)、BIM(BCL2L11)、BID、BAX、BAK、BOK、BAD、HRK、BIK、BMF、及びNOXA等が挙げられる。単に過剰発現したときに乳がん細胞を死滅させるそれらの相対的能力を、表1に示す。これらの測定値は、BMF及びHRK等の特定の有効なアポトーシス促進遺伝子にTF-CIPをターゲティングするための転写因子及びリガンドを選択するのに有用である。
【0066】
(表1)がん駆動因子を内因性細胞死経路へとハイジャックするためのアポトーシス促進遺伝子の選択方法の有益な例
*右側に示される値は、MCF7 ER陽性乳がんの発現誘導後に見られる実際の実験値である(実験の項を参照されたい)
【0067】
アポトーシス促進遺伝子は、抗アポトーシス遺伝子のバランスをとるレベルで発現され、このバランスのとれた定常状態によって細胞が生き残ることを可能にするため、特に興味深い。
【0068】
これらの実施形態の方法の態様は、例えば上記のようなプロトコルによって、アポトーシス促進遺伝子のプロモーターに結合する第1の内因性アンカー転写因子と第2の内因性発がん性転写因子とを連結する近接性化学誘導因子(CIP)を細胞内で提供することを含み、アンカー転写因子と発がん性転写因子とのCIP媒介連結は、細胞内のアポトーシス促進遺伝子の転写を増強する。いくつかの場合において、これらの実施形態で使用されるCIPは、概して上記の通りであり、アンカー転写因子に特異的に結合する第1のリガンド、及び発がん性転写因子に特異的に結合する第2のリガンドを含み、これらの第1及び第2のリガンドは、例えば上記のように結合に好適なリンカーによってつながれる。
【0069】
これらの実施形態の方法では、様々な異なるアンカー転写因子が用いられ得る。
図7は、任意の標的遺伝子に一般化可能であり、所与のアポトーシス促進遺伝子を標的とする目的の転写因子を特定するために用いられ得るアンカー転写因子を定義する系統的な手法を提供する。
図7に示されるように、プロトコルは、ATAC-又はDNAse-seq等の既存のリソースを使用して、TF結合のために利用可能な(すなわちアクセス可能な)標的遺伝子内の領域を定義することから開始する。次いで、特定されたアクセス可能な領域は、例えば、Human Protein Altas(https://www.proteinatlas.org)又は類似のリソースを使用することによって、目的の細胞型が豊富な転写因子について評価され、これは、TF-CIP機能に対する特異性及び治療特異性を提供する。
図7の下部パネルには、乳がん細胞内で濃縮され、細胞死(アポトーシス促進)遺伝子のアクセス可能な領域に結合する転写因子が示されている。目的のアンカー転写因子としては、BCL6、TFAP2A、TFAP2C、SP3、TFDP1、ELK3、SREBF1、SREBF2、THRA、SMAD2、TFDP1、TCF3、USF1、USF2、VEZF1、PBX1、HIF1A、RARA、FOXO3A、MAZ、E2F1、E2F2、PAX9、STAT1、SPDEF、CREB3L1、BATF、XBP1、SIX4、AR、LEF1、MYB、RUNX1、及びPPARGが挙げられるが、これらに限定されない。
【0070】
これらの実施形態のTF-CIPにおいて、これらのアンカー転写因子のための任意の好都合なリガンドが用いられてもよく、好適なリガンドは、アンカー転写因子が標的DNA結合部位に結合する能力に対するいかなる関連した負の影響も受けることなく、標的アンカー転写因子に特異的に結合することができる小分子リガンドを含む。これらのリガンドの分子量は、いくつかの場合において、50ダルトン~1200ダルトン、例えば200~500ダルトンの範囲で変動し得る。そのようなTF-CIPで使用するための好適なリガンドを特定するための一般的な方法を
図8に提供する。アンカー転写因子に好適なリガンドは、以下に記載されるような、インシリコスクリーニングプロトコル等の任意の好都合なプロトコルを使用して選択され得る。例えば、アンカー転写因子がFOXO3Aである場合、好適なリガンドには、
図10及び11に示されるものが含まれるが、これらに限定されず、DNAの近くの部位に結合するFOXO3Aのリガンドが
図10に示され、DNAの遠位部位に結合するリガンドが
図11に示されている。アンカー転写因子がHIF1Aである場合、好適なリガンドとしては、限定されないが、
図12に示されるものが挙げられる。アンカー転写因子がppar-ガンマ(PPARG)である場合、好適なリガンドとしては、限定されないが、
図13に示されるものが挙げられる。アンカー転写因子がE2Fファミリーである場合、好適なリガンドの例が
図19に示されているが、このリガンドは、例えば
図3に示すように、抑制因子を動員するためのアンカーとして機能し得るか、又は他の実施形態では、細胞死遺伝子のプロモーターに活性化因子を動員する手段としても機能し得る。
【0071】
アンカー転写因子リガンドに加えて、これらの実施形態で使用されるCIPは、発がん性転写因子のためのリガンドも含む。この実施形態は、がんの治療において特に重要であり、TF-CIPは、がん細胞をそれ自体の駆動因子で自殺させる。発がん性転写因子は、その活性が腫瘍性、例えばがん性疾患状態に寄与する転写因子である。発がん性転写因子は、例えば、治療される疾患状態の特定の性質に応じて様々であり得、発がん性転写因子の例としては、限定されないが、ホルモン受容体(例えば、エストロゲン、アンドロゲン及びプロゲステロン受容体等)、発がん性遺伝子駆動因子(例えば、MYC、MLL融合タンパク質、ETS融合タンパク質、SS18-SSX融合タンパク質等)、転座融合発がん性遺伝子、及び細胞周期エントリを制御するタンパク質(例えば、E2Fファミリーメンバー等)等が挙げられる。
図14は、本発明の実施形態において、TF-CIPによって標的とされ得る発がん性転写因子の例を提供する(PMID:33634124)。
【0072】
例示的ながん駆動因子又は調節因子のためのリガンドは、
図16~19に示されており、多くの成長因子受容体及びそれらに関連するシグナル分子における発がん性変異に起因する増殖を駆動する、ERG融合及びFli融合がん遺伝子、FEV転写活性化因子及びMycのためのリガンドを含む。
【0073】
いくつかの場合では、発がん性転写因子は、ホルモン受容体である。本発明の実施形態において発がん性転写因子として用いられ得るホルモン受容体としては、限定されないが、例えば
図20に提供されるもの等のエストロゲン受容体(ER)、例えば
図21に提供されるもの等のアンドロゲン受容体(AR)、例えば
図22に提供されるもの等のプロゲステロン受容体(PR)等が挙げられる。エストロゲン受容体及びアンドロゲン受容体のためにリガンドを使用するTFCIPの例を
図4に示し、それらのがん細胞に対する効果を
図6に示す。これらのホルモン受容体のための任意の好都合なリガンドが使用され得、好適なリガンドは、CIPによってアンカー転写因子と複合体化されたときに標的アポトーシス促進遺伝子の転写、すなわち発がん性転写因子の転写活性を増強するホルモン受容体の能力に対するいかなる関連した負の影響も受けることなく、標的ホルモン受容体に特異的に結合することができる小分子リガンドを含む。これらのリガンドの分子量は、いくつかの場合において、150ダルトン~500ダルトン、例えば250ダルトン~400ダルトンの範囲で変動し得る。アンカー転写因子に好適なリガンドとしては、BI3812等のBCL6阻害剤が挙げられる。他には、乳がん及び他のがんにおけるいくつかのアポトーシス促進遺伝子に結合及びその発現を活性化するFOXO3A(
図11及び12)が含まれる(PMID15084260)。他は、
図8に詳細に記載されるような、インシリコスクリーニングプロトコル等の任意の好都合なプロトコルを使用して選択され得る。
【0074】
いくつかの場合では、発がん性転写因子は、BAF53a(ACTL6aとしても知られる)である。BAF53aは、ゲノム上のポリコーム媒介抑制に対抗するBAF又はmSWI/SNFクロマチン調節複合体(PMID:9845365)のサブユニットであり(PMID:27941796)、発達抑制遺伝子の活性化に重要な役割を果たす(PMID:20110991)。これらのがんでは、BAF53aは開始及び増殖の両方を駆動し、高度かつ特異的に発現される。本発明の特定の実施形態において、TF-CIPは、扁平上皮がん(SCC)に適用され得る。したがって、過剰発現したBAF53aを使用してSCCを死滅させることは、SCCに対する特異的な処置である。
図8に定義される系統的アプローチを使用して、
図23に例示されるBAF53aリガンドを特定した。TF-CIPの場合、これらのBAF53aリガンドは、例えば、上記のように、好都合なリンカーに化学的に結合してもよく、これらは一方で、FOXO3A等のアポトーシス促進遺伝子のプロモーターに結合するか、又は上記のもの等のBCL6の阻害剤等の抗アポトーシス遺伝子を阻害するTFのリガンドに化学的に結合してもよい。正常細胞はBAF53aの増幅を有さないため、得られるTF-CIPは、正常細胞ではなく、SCCの特異的死滅に指向され得る。
【0075】
上記の方法の実施形態で使用されるCIPの第1と第2のリガンドは、任意の好都合なリンカーによって互いに連結され得る。上記で検討したように、目的のリンカーは、第1及び第2のリガンドが細胞内のそれぞれの内因性因子に特異的に結合することができるように、第1及び第2のリガンドの安定な会合を提供するリンカーである。リンカーが第1及び第2のリガンドを互いに安定して会合させることを提供するため、第1及び第2のリガンドは、細胞条件、例えば、細胞の表面の条件、細胞の内部の条件等の下で互いに解離しない。リンカーは、共有結合又は非共有結合等の任意の好都合な結合を使用して、第1のリガンド及び第2のリガンドの安定した会合のために提供されてもよく、いくつかの場合において、リンカー成分は、第1のリガンド及び第2のリガンドの両方に共有結合される。いくつかの実施形態では、リンカーは、アルキル鎖、アルコキシ鎖、アルケニル鎖、又はアルキニル鎖であってもよく、鎖内の炭素原子の数は、いくつかの場合において、2~25、例えば、5~20の範囲で変動し得、1個以上の炭素原子は、第1及び第2のリガンドへの共有結合を提供するためにNH又はCH
3-Nで置き換えられる。リンカーは、それぞれの内因性因子に結合するリガンドの能力に悪影響を及ぼさない位置で第1及び第2のリガンドに結合され得る。いくつかの実施形態では、別個のリンカーはなく、標的遺伝子のプロモーター上のアンカー転写因子への標的転写因子の近接性を誘導する分子である連結成分が存在する。そのような連結成分の例としては、例えば、
図2に示されるように、単一分子の2つの異なる側面がそれぞれ別個の転写因子に結合する分子接着剤が挙げられる。
【0076】
アポトーシス促進遺伝子の転写を増強する方法は、例えば、発がん性転写因子が媒介する腫瘍性疾患状態、例えば、がんの治療おける使用が見出される。本発明の実施形態を使用して治療され得るがんには、発がん性受容体(例えば、エストロゲン、プロゲステロン及びアンドロゲン受容体等のホルモン受容体)媒介性がん、発がん性駆動因子(例えば、myc)媒介性がん、転座融合がん遺伝子(例えば、
図15に示されるもの)媒介性がん、細胞周期エントリ転写因子媒介性がん等が含まれる。本発明の実施形態に従って治療され得る目的の特定のがんとしては、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、副腎皮質がん、エイズ関連がん(例えば、カポジ肉腫、リンパ腫等)、肛門がん、虫垂がん、星細胞腫、非定型畸形/ラブドイド腫瘍、基底細胞がん、胆管がん(肝外)、膀胱がん、骨がん(例えば、ユーイング肉腫、骨肉腫及び悪性線維性組織細胞腫等)、脳幹神経膠腫、脳腫瘍(例えば、星細胞腫、中枢神経系胚性腫瘍、中枢神経系生殖細胞腫瘍、頭蓋咽頭腫、上衣腫等)、乳がん(例えば、女性乳がん、男性乳がん、小児乳がん等)、気管支腫瘍、バーキットリンパ腫、カルチノイド腫瘍(例えば、小児期、胃腸等)、不明な原発性がん、心臓(心)腫瘍、中枢神経系(例えば、非定型畸形/ラブドイド腫瘍、胚性腫瘍、生殖細胞腫瘍、リンパ腫等)、子宮頸がん、小児がん、脊髄腫、慢性リンパ性白血病(CLL)、慢性骨髄性白血病(CML)、慢性骨髄増殖性腫瘍、結腸がん、結腸直腸がん、頭蓋咽頭腫、皮膚T細胞リンパ腫、ダクト(例えば、胆管、肝外等)、腺管上皮内がん(DCIS)、胚性腫瘍、子宮内膜がん、上衣腫、食道がん、感覚神経芽腫、ユーイング肉腫、頭蓋外生殖細胞腫瘍、性腺外生殖細胞腫瘍、肝外胆管がん、眼がん(例えば、眼内黒色腫、網膜芽細胞腫等)、骨の線維性組織細胞腫(例えば、悪性、骨肉腫等)、胆嚢がん、胃がん、胃腸カルチノイド腫瘍、胃腸間質腫瘍(GIST)、生殖細胞腫瘍(例えば、頭蓋外、鼻腔外、卵巣、精巣等)、妊娠栄養芽球性疾患、神経膠腫、毛様細胞性白血病、頭頸部がん、心臓がん、肝細胞(肝臓)がん、組織球増加症(例えば、ランゲルハンス細胞等)、ホジキンリンパ腫、下咽頭がん、眼内黒色腫、膵島細胞腫瘍(例えば、膵臓神経内分泌腫瘍等)、カポジ肉腫、腎臓がん(例えば、腎細胞、ウィルムス腫瘍、小児腎臓腫瘍等)、ランゲルハンス細胞組織球増加症、喉頭がん、白血病(例えば、急性リンパ芽球性(ALL)、急性骨髄性(AML)、慢性リンパ球性(CLL)、慢性骨髄性(CML)、毛様細胞等)、口唇及び口腔がん、肝臓がん(原発性)、上皮内小葉がん(LCIS)、肺がん(例えば、非小細胞、小細胞等)、リンパ腫(例えば、エイズ関連、バーキット、皮膚T細胞、ホジキン、非ホジキン、原発性中枢神経系(CNS)等)、マクログロブリン血症(例えば、ワルデンストローム等)、男性乳がん、骨及び骨肉腫の悪性線維性組織球腫、黒色腫、メルケル細胞がん、中皮腫、不顕性原発性転移性扁平頸部がん、NUT遺伝子を伴う中間幹線がん、口腔がん、多発性内分泌腫瘍症候群、多発性骨髄腫/形質細胞腫瘍、菌状息肉症、骨髄異形成症候群、骨髄異形成/骨髄増殖性腫瘍、骨髄性白血病(例えば、慢性(CML)等))、骨髄性白血病(例えば、急性(AML)等)、骨髄増殖性腫瘍(例えば、慢性等)、鼻腔及び副鼻腔がん、鼻咽頭がん、神経芽細胞腫、非ホジキンリンパ腫、非小細胞肺がん、口のがん、口腔がん(例えば、唇等)、中咽頭がん、骨肉腫及び骨の悪性線維性組織細胞腫、卵巣がん(例えば、上皮細胞腫瘍、生殖細胞腫瘍、低悪性度腫瘍等)、膵臓がん、膵臓神経内分泌腫瘍(膵島細胞腫瘍)、乳頭腫症、副神経節腫、副鼻腔がん、副甲状腺がん、陰茎がん、咽頭がん、褐色細胞腫、下垂体腫瘍、胸膜肺芽腫、原発性中枢神経系(CNS)リンパ腫、前立腺がん、直腸がん、腎細胞(腎)がん、腎臓骨盤及び尿管がん、移行性細胞がん、網膜芽細胞腫、横紋腫、唾液腺がん、肉腫(例えば、ユーイング、カポジ、骨髄腫瘍、横紋筋腫瘍、軟部組織、子宮等)、セザリー症候群、皮膚がん(例えば、小児期、黒色腫、メルケル細胞がん、非黒色腫等)、小細胞肺がん、小腸がん、軟部組織肉腫、扁平上皮がん、扁平上皮頸部がん(例えば、不顕性原発性、転移性等を有する)、胃がん、T細胞リンパ腫、精巣がん、喉頭がん、胸腺腫及び胸腺がん、甲状腺がん、腎臓骨盤及び尿管の移行細胞がん、尿道及び腎臓骨盤がん、尿道がん、子宮がん(例えば、子宮内膜がん等)、子宮肉腫、膣がん、外陰がん、ワルデンストローム・マクログロブリン血症、ウィルムス腫瘍等が挙げられるが、これらに限定されない。治療され得るがんとしては、上皮がん、例えばがん腫、例えば腺房がん(acinar carcinoma)、腺房細胞がん、腺房がん(acinous carcinoma)、腺嚢胞がん、腺様嚢胞がん、腺扁平上皮がん、付属器がん、副腎皮質がん、肺胞がん、黒色芽球がん、アポクリンがん、基底細胞がん、気管支肺胞がん、気管支がん、胆管がん、絨毛がん、透明細胞がん、膠様がん、篩状がん、腺管上皮内がん、胎芽性がん、鎧状がん、子宮類内膜がん、類表皮がん、混合腫瘍由来がん、多形腺腫由来がん、甲状腺濾胞がん、肝細胞がん、上皮内がん、導管内がん、Hurthle細胞がん、乳房の炎症性がん、大細胞がん、浸潤性小葉がん、小葉がん、上皮内小葉がん(LCIS)、髄質がん、髄膜がん、メルケル細胞がん、粘膜がん、粘膜表皮がん、鼻咽頭がん、非小細胞がん、非小細胞肺がん(NSCLC)、燕麦細胞がん、乳頭がん、腎細胞がん、硬膜がん、脂腺がん、単純がん、印環細胞がん、小細胞がん、小細胞肺がん、紡錘細胞がん、有棘細胞がん、末端管がん、移行上皮がん、管状腺がん、いぼ状がん等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0077】
方法の実施形態は、腫瘍性疾患に罹患している対象が特定の種類のがんを有するかどうかを評価することを含み得る。例えば、対象が乳がんを有する場合、方法は、乳がんがER及び/又はPR陽性であるかどうかを評価することと、次いで特定のがんを治療するために適切なTFCIPを用いることとを含み得る。例えば、乳がんがER陽性である場合、ERαに結合するリガンドを有するCIPが用いられ得る。別の例は、転座したETSファミリーメンバーによって、ETS融合タンパク質の高レベル発現を駆動する遺伝子に駆動される前立腺がんである。ここで、ETS融合タンパク質は、例えば、
図8に記載されるように選択されるか、又は
図6に示される死滅活性を示す、
図3及び4に示されるER-TF-CIPSを作製するために使用される戦略と同様のBCL6阻害剤BI3812又は他のもの(例えば、上記のもの)に連結される既知のERG結合分子(例えば、
図17に示される)からとられるERG結合リガンドによってハイジャックされ得る。別の例は、過剰発現したアンドロゲン受容体又はその調節領域(PMID:30033370)によって駆動される前立腺がんである。ここで、
図4に示されるように、アンドロゲン結合部分は、BCL6抗アポトーシスタンパク質の阻害リガンドに化学的に連結され得る。AR-TF-CIPは、細胞死を活性化する遺伝子のプロモーターに結合したBCL6タンパク質に対する活性化ARの近接性を誘導する(例えば、上記の表1)。
【0078】
過剰発現遺伝子、例えば、がん遺伝子、トリソミー遺伝子及び増幅遺伝子の発現の低減
本発明の実施形態は、過剰発現が病理学的プロセスに寄与する特定の遺伝子の転写を低減する方法を含む。例としては、そのDNAの増幅に起因する病原性のがん遺伝子(例えば、扁平上皮がんにおけるBAF53a、トリソミー(例えば、ダウン症候群)の結果として過剰発現される遺伝子、様々な理由で過剰発現され、疾患状態につながる遺伝子(例えば、関節炎における腫瘍壊死因子)、及びトリプレット反復を含有する対立遺伝子が挙げられるが、これらに限定されない。一般的なアプローチを上述の
図1に示す。遺伝子、例えばがん遺伝子の転写を低減することは、遺伝子、例えばがん遺伝子の転写を制限又は抑制すること、例えば阻害することを意味する。これらの方法の実施形態の態様は、標的遺伝子、例えばがん遺伝子のプロモーターに結合する第1の内因性アンカー転写因子と第2の内因性転写調節因子とを連結する近接性化学誘導因子(CIP)を細胞内で提供することを含み、アンカー転写因子と転写調節因子とのCIP媒介連結は、細胞内の標的遺伝子、例えばがん遺伝子の転写を低減する。転写の減少の大きさは、様々であり得る。いくつかの場合では、減少の大きさは、2倍以上、例えば5倍以上、例えば10倍以上であり得る。いくつかの場合において、これらの実施形態で使用されるCIPは、概して上記の通りであり、アンカー転写因子に特異的に結合する第1のリガンド、及び転写調節因子に特異的に結合する第2のリガンドを含み、これらの第1及び第2のリガンドは、例えば上記のように結合又は好適なリンカーによってつながれる。標的遺伝子ががん遺伝子である場合、そのような場合における標的がん遺伝子は様々であり得る。転写が低減され得るがん遺伝子の例としては、HER-2/neu、RAS、MYC、SRC、hTERT、抗アポトーシスタンパク質、例えばBCL-2、Ret、PI3キナーゼ、BRAF、EGFR、CTNNB1等が挙げられるが、これらに限定されない。標的とされ得る追加のがん遺伝子としては、限定されないが、Bailey et al,“Comprehensive Characterization of Cancer Driver Genes and Mutations,”Cell.2018 Aug 9;174(4):1034-1035. doi:10.1016/j.cell.2018.07.034に記載されているものが挙げられる。これらの実施形態で使用されるアンカー転写因子は、標的がん遺伝子の転写因子結合部位又は応答エレメントに結合するものである。したがって、アンカー転写因子は、標的がん遺伝子に応じて変動し得る。本発明の実施形態で使用され得るこれらのがん遺伝子の発現を促進する転写因子としては、PMID:32728250、PMID:32728217及びPMID:32814038に記載されるものが挙げられるが、これらに限定されない。これらのアンカー転写因子のための任意の好都合なリガンドが用いられてもよく、好適なリガンドは、アンカー転写因子が標的DNA結合部位に結合する能力に対するいかなる関連した負の影響も受けることなく、標的アンカー転写因子に特異的に結合することができる小分子リガンドを含む。これらのリガンドの分子量は、いくつかの場合において、200~1200ダルトン、例えば300~500ダルトンの範囲で変動し得る。アンカー転写因子に好適なリガンドは、小分子結合スクリーニング又はインシリコスクリーニングプロトコル等の任意の好都合なプロトコルを使用して選択され得る。E2F及びMycでの使用に好適なリガンドとしては、限定されないが、
図18及び19に記載されているものが挙げられる。
【0079】
アンカー転写因子リガンドに加えて、これらの実施形態で使用されるCIPは、細胞内の標的遺伝子、例えばがん遺伝子の転写を低減する転写調節因子のためのリガンドも含み得る。CIPを介してアンカー転写因子と複合体化した場合に細胞内のがん遺伝子の転写を低減する転写調節因子は様々であり得、転写抑制因子を含み得る。転写抑制因子の例としては、限定されないが、ヘテロクロマチンタンパク質1(HP1)抑制因子タンパク質、KRAB抑制因子タンパク質、H3K9メチルトランスフェラーゼ、ヒストンデアセチラーゼ等が挙げられる。これらの転写調節因子のための任意の好都合なリガンドが用いられてもよく、好適なリガンドは、CIPによってアンカー転写因子と複合体化した場合に、標的がん遺伝子の転写を低減する因子の能力に対するいかなる関連した負の影響も受けることなく、標的転写調節因子に特異的に結合することができる小分子リガンドを含む。これらのリガンドの分子量は、いくつかの場合において、75~1000ダルトン、例えば200~400ダルトンの範囲で変動し得る。そのようなリガンドの例としては、アゴニスト及びアンタゴニストの両方が挙げられる。アンカー転写因子に好適なリガンドは、以下に記載されるような、インシリコスクリーニングプロトコル等の任意の好都合なプロトコルを使用して選択され得る。
【0080】
上記の方法の実施形態で使用されるCIPの第1及び第2のリガンドは、任意の好都合なリンカー成分によって互いに連結され得る。上記で検討したように、上記のもの等の目的のリンカー成分は、第1及び第2のリガンドが細胞内のそれぞれの内因性因子に特異的に結合することができるように、第1及び第2のリガンドの安定な会合を提供する。リンカー成分が第1及び第2のリガンドを互いに安定して会合させることを提供するため、第1及び第2のリガンドは、細胞条件、例えば、細胞の表面の条件、細胞の内部の条件等の下で互いに解離しない。リンカー成分は、共有結合又は非共有結合等の任意の好都合な結合を使用して、第1のリガンド及び第2のリガンドの安定した会合のために提供されてもよく、いくつかの場合において、リンカー成分は、第1のリガンド及び第2のリガンドの両方に共有結合される。いくつかの実施形態では、リンカーは、アルキル鎖、アルコキシ鎖、アルケニル鎖、又はアルキニル鎖であってもよく、鎖内の炭素原子の数は、いくつかの場合において、2~25、例えば、5~20の範囲で変動し得、1個以上の炭素原子は、NH又はCH3-Nで置き換えられる。リンカーは、それぞれの内因性因子に結合するリガンドの能力に悪影響を及ぼさない位置で第1及び第2のリガンドに結合され得る。他の場合では、第1及び第2のリガンドは、1つの両面分子又は分子接着剤内に含まれる。分子接着剤の例としては、FK506、ラパマイシン、及びシクロスポリンA等が挙げられる。
【0081】
がん遺伝子の転写を低減する方法は、例えば、がん遺伝子媒介性腫瘍性疾患状態、例えばがんの治療に使用され、そのようながんの例としては、上記のものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0082】
本発明の実施形態は、対立遺伝子を含有する変異伸長ヌクレオチド反復(NR)の転写を低減することも含む。例えば、NR含有遺伝子が単一対立遺伝子である場合、方法の実施形態は、NR含有対立遺伝子に結合するアンカー転写因子を用いることによって、NR含有単一対立遺伝子の発現を抑制することを含み得る。そのような実施形態では、標的遺伝子は、TNR等の変異伸長NRを含む遺伝子であり、ここで、変異伸長ヌクレオチド反復ドメインは、正常型の遺伝子には存在しない。変異伸長ヌクレオチド反復(NR)とは、2つ以上のヌクレオチドの単位の複数の隣接する反復を含む遺伝子のドメイン(すなわち領域)であり、ヌクレオチドの所与の反復単位は、いくつかの場合において、2~10個のヌクレオチド、例えば3~6個のヌクレオチドの範囲で長さが変動し得、反復単位長の例としては、2個のヌクレオチド(例えば、変異伸長ヌクレオチド反復がジヌクレオチド反復である場合)、3個のヌクレオチド(例えば、変異伸長ヌクレオチド反復がトリヌクレオチド反復である場合)、4個のヌクレオチド(例えば、変異伸長ヌクレオチド反復がテトラヌクレオチド反復である場合)、5個のヌクレオチド(例えば、変異伸長ヌクレオチド反復がペンタヌクレオチド反復である場合)、又は6個のヌクレオチド(例えば、変異伸長ヌクレオチド反復がヘキサヌクレオチド反復である場合)が挙げられる。所与のドメイン内で、ドメインは、ドメインを構成する反復単位の性質に関して均質又は不均質であってもよい。例えば、所与のドメインは、単一型の反復単位で構成されてもよく、すなわち、ドメインの反復単位は、それが均質な変異NRドメインであるように、同じ(すなわち同一の)ヌクレオチド配列を共有する。代替的に、所与のドメインは、それが不均一な変異NRドメインであるように、2つ以上の異なるタイプの反復単位、すなわち異なる配列を有する反復単位から構成され得る。変異伸長ヌクレオチド反復ドメインは、標的遺伝子のコード領域又は非コード領域に存在し得る。いくつかの場合では、伸長ヌクレオチド反復ドメインは、標的遺伝子のコード領域に存在する。いくつかの場合では、伸長ヌクレオチド反復ドメインは、標的遺伝子の非コード領域に存在する。変異伸長ヌクレオチド反復の長さ及び特定の配列は、様々であり得る。
【0083】
いくつかの場合では、変異伸長ヌクレオチド反復は、変異伸長トリヌクレオチド反復である。変異伸長トリヌクレオチド反復とは、同じ3つのヌクレオチドの複数の隣接する反復を含む遺伝子のドメイン(すなわち領域)を意味し、変異伸長トリヌクレオチド反復の長さ及び特定の配列は様々であり得、変異伸長トリヌクレオチド反復ドメインは、正常型の遺伝子には存在しない。伸長トリヌクレオチド反復ドメインは、標的遺伝子のコード領域又は非コード領域に存在し得る。いくつかの場合では、伸長トリヌクレオチド反復ドメインは、標的遺伝子のコード領域に存在する。いくつかの場合では、伸長トリヌクレオチド反復ドメインは、標的遺伝子の非コード領域に存在する。実施形態では、変異反復ドメインは、筋緊張性ジストロフィー(DM)につながる、筋緊張性異栄養症-タンパク質キナーゼ遺伝子の3’非翻訳領域に位置するCTG拡張等、標的遺伝子の非コード領域に存在する。いくつかの場合では、変異反復ドメインは、標的遺伝子のコード領域内に存在し、したがって、いくつかの場合では、標的遺伝子内のその存在は、遺伝子によってコードされる生成物内の対応するドメイン又は領域(例えば、ポリQドメイン)をもたらす。本方法のいくつかの場合では、変異伸長TNRドメインは、CTG反復ドメインである。ある特定の場合では、変異伸長トリヌクレオチド反復ドメインは、26個以上のCTG反復(例えば、30個以上、35個以上等)を含む。
【0084】
変異伸長トリヌクレオチド反復は、ヌクレオチド組成及び長さの点で変動し得る。目的の特定のトリヌクレオチドとしては、限定されないが、CAG、CTG、CGG、GCC、GAA等が挙げられる。いくつかの場合では、変異伸長トリヌクレオチド反復ドメインは、CAG反復ドメインである。反復ドメイン(例えばCAG反復ドメイン)の特定の長さは、有害な活性をもたらす限り、特定の標的遺伝子に関して変動し得、いくつかの場合では、25回以上の反復、例えば26回以上の反復、30回以上の反復、35回以上の反復、40回以上の反復、50回以上の反復、又は更には60回以上の反復である。目的の特定の標的遺伝子及び発現タンパク質、それに関連する疾患、並びに目的の伸長CAG反復の反復配列の特定の長さは、以下の表に提供されるものを含む(ただしこれらに限定されない)。
【0085】
【0086】
示される病原性反復長は、近似であり、病原性反復長の最も一般的な範囲を表す。各病原性反復長について示される2つの数値のうちの低い方は、拡張の病原性効果が発生し始める長さを示す。NR疾患に関与する常染色体遺伝子の両方の細胞コピーは、NRドメインを含有し得るが、一般的に、標的遺伝子の一方のコピーは、拡張NRセグメントを有するように変異され、一方、他方のコピー(すなわち対立遺伝子)は、拡張されていないNRを含有する。
【0087】
治療上有益な遺伝子の転写の増強
本発明の実施形態は、例えば、
図1に一般に示されるように、細胞内の治療上有益な遺伝子の転写を増強する方法を含む。治療上有益な遺伝子の転写を増強することは、治療上有益な遺伝子の転写を増加させることを意味する。転写の増加の大きさは、様々であり得る。治療上有益な遺伝子の転写が好適なアッセイによって検出できない場合、方法の実施形態は、例えば治療上有益な遺伝子の発現産物又はその活性、例えば治療上有益な遺伝子の発現産物の欠損に関連する疾患状態の1つ以上の症状の改善を検出することによって転写が検出可能であるように、転写の増強をもたらす。検出可能な転写の基準レベルが存在する場合、増加の大きさは様々であり得、いくつかの例では、2倍以上、例えば5倍以上、例えば10倍以上であり得る。
【0088】
方法は、ハプロ不全遺伝子であってもそうでなくてもよい様々な異なる治療上有益な遺伝子の転写の増強をもたらし得る。治療上有益な遺伝子は、その発現産物が所与の疾患状態に関して有益である遺伝子である。治療上有益な遺伝子は、その発現生成物の量の増加が、その遺伝子の発現生成物の低い量、例えば、正常対照の発現生成物の量よりも低い量に関連する疾患状態の1つ以上の症状の改善をもたらす遺伝子であり得る。
図25に例示されるように、用量依存性遺伝子の1つの対立遺伝子における機能変異の喪失によって生成される疾患の治療は、各用量依存性遺伝子に特異的であり得る、本発明の実施形態によるTF-CIPで治療され得る。本発明の実施形態において転写が増強され得る目的の特定の治療上有益な遺伝子としては、限定されないが、例えば、トリプトファンヒドロキシラーゼ(TPH2、セロトニン産生用)、チロシンヒドロキシラーゼ(TH、パーキンソン病におけるドーパミン合成用)、ヘム合成におけるプロテインC、プロテインS、因子8、5’-アミノレブリン酸シンターゼ(ALA-S)等の律速酵素をコードする遺伝子;ハプロ不全遺伝子、例えばARID1B(BAF250b)、TBR1、CHD8、BCL11a、及び他のハプロ不全遺伝子が挙げられる。本発明の実施形態において標的とされ得るハプロ不全遺伝子の補正されたリストは、Clinical Genome Resource https://search.clinicalgenome.org/kb/curationsに見出され得る。発現の低減によって社会的機能障害を生じ、本発明の実施形態において標的とされ得る自閉症遺伝子は、Simons Foundation for Autism Reasech(https://gene.sfari.org/database/human-gene/)により補正されたリストに見出され得る。これらの遺伝子のいくつかは、この疾患が成人においても治療され得ることを示す、背側縫線の成人ニューロンにおいて作用することが示されている(PMID:34239048;32568072)。これは、自閉症の社会的特徴の一時的な逆転が、セロトニン効果を調節するがヒトでの実際の使用には毒性が高すぎる小分子によってもたらされ得ることを示す公表された研究によって裏付けられている(PMID34239048)。
【0089】
これらの実施形態の方法の態様は、例えば上記のようなプロトコルによって、治療上有益な遺伝子のプロモーターに結合する第1の内因性アンカー転写因子と第2の内因性転写調節因子、例えば転写因子とを連結する近接性化学誘導因子(CIP)を細胞内で提供することを含み、アンカー及び転写調節因子のCIP媒介連結は、細胞内の治療上有益な遺伝子の転写を増強する。いくつかの場合において、これらの実施形態で使用されるCIPは、概して上記の通りであり、アンカー転写因子に特異的に結合する第1のリガンド、及び転写調節因子に特異的に結合する第2のリガンドを含み、これらの第1及び第2のリガンドは、例えば上記のように結合又は好適なリンカーによってつながれる。
【0090】
これらの実施形態の方法では、様々な異なるアンカー転写因子が用いられ得、アンカー転写因子は、特定の治療上有益な遺伝子及びその転写因子に基づいて容易に選択され得る。例えば、有益な治療用遺伝子がTPH2である場合、その任意の転写因子をアンカー転写因子として用いることができ、そのような転写因子の例としては、限定されないが、FEV、EN1、GATA2、GATA3、LMX1B、POU3F2、INSM1、ESR2、CTCF、NR3C1、及びREST等が挙げられる。背側縫線のセロトニン作動性細胞において選択的に発現される転写因子の対の選択を、
図7Aに示す。TPH2について、使用され得る転写因子は、TPH2遺伝子のプロモーター(PMID:10575032)に結合するFEVである。FEVの喪失は、セロトニン産生の低減につながる(PMID:12546819)。FEVのリガンドを、
図8のように仮想スクリーニング及び生化学分析によって特定したが、これを
図17に示す。これらのリガンドは、
図24A及び24Bに記載されるように、リンカー、並びに脳の背側縫線で選択的に発現される他の転写因子のリガンドに結合させて、セロトニン産生の細胞型特異的かつ回路選択的発現をもたらすことができる。TPH2は、セロトニン合成に対して律速であるため、これは、例えば、気分障害、うつ病、自閉症、及び他のセロトニン関連疾患を治療するためのセロトニン産生の増加をもたらすであろう(
図29、パネルA)。FEVに結合することによって活性化因子BRD4をTPH2遺伝子のプロモーターに動員するTF-CIPを生成する合成方法を、
図27及び28に示す。
【0091】
平行戦略を使用して、
図29、パネルBに示すように、ドーパミン作動性細胞が完全に失われていない初期パーキンソン病の黒質における律速酵素チロシンヒドロキシラーゼの産生を刺激することによって、ドーパミン合成を増加させることができる。黒質ドーパミン作動性ニューロンにおけるドーパミン合成を増加させるための論理的根拠は、これらのニューロンがパーキンソン病(PD)の初期段階でドーパミンの産生を停止することである(Heo et al.,2020 PMID:31928877)。これらの「休眠」ドーパミン作動性ニューロンは、ニューロン死の前のPD症状と関連している。重要なことに、Heoらは、PDげっ歯類モデルにおける黒質ドーパミンニューロンの活性を増加させることが、ドーパミン産生及び運動制御を救済したことを見出した。彼らの結果は、早期PDの黒質におけるドーパミン産生を回復させることが運動機能を救済し、それによって、現在存在しないPDの治療的介入としての役割を果たす可能性があることを示唆している。
図29、パネルBに示すように、ドーパミン合成のための律速酵素、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)の転写を増加させるように設計されたTF-CIPを使用して、ドーパミン産生を増強することができる。
【0092】
細胞特異性をTF-CIPにコードする一般的な戦略として、
図7A及び7Cに例示されるように、目的の細胞型において選択的に共発現される転写因子対が標的とされる。黒質のドーパミン作動性ニューロンを例として使用して、黒質から解剖された単一のヒトドーパミン作動性ニューロンにわたって有意に共発現された転写因子の対(r>0.5及びp<0.05又はオーバーラップ分析p<0.05でのピアソン相関)(Agarwal et al.,2020 https://doi.org/10.1038/s41467-020-17876-0)を特定した。次いで、すべてのヒト組織にわたる単一細胞におけるドーパミン作動性転写因子対の発現(Human Protein Atlas;Karlsson et al.,2021 DOI:10.1126/sciadv.abh2169)を調査した。ドーパミン作動性ニューロンの外側に共発現を示した転写因子対を除外し、PDを治療するためのTF-CIPの標的として使用され得る14個のドーパミン作動性ニューロン選択的転写因子対を得た。これらの組は次の通りである:RORA:SOX6、RORA:AEBP2、AEBP:LCORL、PBX1:SETBP1、PBX1:PIAS1、PBX1:ZEB1、FOXP2:ZEB1、FOXP2:KLF12、MYT1L:ZNF91、ZFHX3:ZNF91、ZFHX3:ZNF420、ZNF91:ZNF420、AFF3:THRB、及びTAX1BP1:TCF25。
【0093】
有益な治療用遺伝子がARID1Bである別の例では、アンカー転写因子は、
図7Bに記載される系統的プロセスを使用して選択され得る。そのような転写因子の例としては、限定されないが、TBR1、OTX2、GATA2、GATA3、FEV、ETS1、KLF5、LMX1B、PAX5等が挙げられる。TBR1は、ARID1bの発現を制御し、TBR1変異マウスは、低減したARID1Bの産生を有する(PMID:27325115 PMID:25356899 PMID:28584888)。これらのアンカー転写因子のためのリガンドは、
図8に例示されるプロセスによって定義され得る。これらのリガンドの分子量は、いくつかの場合において、75~1000ダルトン、例えば200~400ダルトンの範囲で変動し得る。アンカー転写因子に好適なリガンドは、
図8に示すように、インシリコスクリーニングプロトコル等の任意の好都合なプロトコルを使用して選択又は発見され得る。
【0094】
アンカー転写因子リガンドに加えて、これらの実施形態で使用されるCIPはまた、転写調節因子のためのリガンドを含み、これは例えば、いくつかの場合では、標的細胞を保持する組織型、例えば背側縫線(セロトニン産生のためのTPH2の増強用)又はヒト脳(ARID1B用)で発現される第2の内因性転写因子である。転写調節因子は、例えば、治療される疾患状態の特定の性質及び転写調節が所望される細胞に応じて変動し得る。例えば、標的となる有益な治療用遺伝子がTPH2である場合、使用され得る転写調節因子としては、限定されないが、FEV、BRD4、P300/CBP、PAX5、POU6F2、KLF5、SOX14、POU3F3、SATB2、nBAF等が挙げられる。標的となる有益な治療用遺伝子がARID1Bである別の例では、使用され得る転写調節因子としては、限定されないが、人体の定量的プロテオームマップ(PMID32916130)並びに
図7B及び8に記載される手順を使用して細胞型特異性を最適化するために選択されるTBR1等が挙げられる。
【0095】
これらの転写因子のための任意の好都合なリガンドが使用され得、好適なリガンドは、CIPによってアンカー転写因子と複合体化されたときに標的となる有益な治療用遺伝子の転写、すなわち転写因子の転写活性を増強する転写因子の能力に対するいかなる関連した負の影響も受けることなく、標的転写因子に特異的に結合することができる小分子リガンドを含む。リガンドを選択するための系統的プロセスを
図8に示す。これらのリガンドの分子量は、いくつかの場合において、70~1100ダルトン、例えば300~600ダルトンの範囲で変動し得る。そのようなリガンドの例としては、アゴニスト及びアンタゴニストの両方が挙げられる。上記の方法の実施形態で使用されるCIPの第1及び第2のリガンドは、上記のような任意の好都合なリンカーによって互いに連結され得る。上記で検討したように、目的のリンカーは、第1及び第2のリガンドが細胞内のそれぞれの内因性因子に特異的に結合することができるように、第1及び第2のリガンドの安定な会合を提供するリンカーである。リンカーが第1及び第2のリガンドを互いに安定して会合させることを提供するため、第1及び第2のリガンドは、細胞条件、例えば、細胞の表面の条件、細胞の内部の条件等の下で互いに解離しない。リンカーは、共有結合又は非共有結合等の任意の好都合な結合を使用して、第1のリガンド及び第2のリガンドの安定した会合のために提供されてもよく、いくつかの場合において、リンカー成分は、第1のリガンド及び第2のリガンドの両方に共有結合される。いくつかの実施形態では、例えば
図24A及び24Bに示されるように、リンカーは、アルキル鎖、アルコキシ鎖、アルケニル鎖、又はアルキニル鎖であってもよく、鎖内の炭素原子の数は、いくつかの場合において、2~25、例えば、5~20の範囲で変動し得、1個以上の炭素原子は、NH又はCH
3-Nで置き換えられる。リンカーは、それぞれの内因性因子に結合するリガンドの能力に悪影響を及ぼさない位置で第1及び第2のリガンドに結合され得る。
【0096】
これらの実施形態の方法は、有益な治療用遺伝子の転写の増加が所望される任意の疾患状態の治療における使用が見出される。そのような疾患状態の例としては、限定されないが、うつ病、不安、パニック障害、強迫性障害、注意欠陥多動性障害、睡眠及び概日リズム障害、過敏性腸症候群、PMS/ホルモン機能障害、線維筋痛症、肥満、アルコール依存症、攻撃性、ハイパーセロトネミア(hyperserotonemia)、社会障害、自閉症スペクトラム障害、言語障害等のような改変された脳セロトニンを特徴とする疾患状態における、TPH2等の律速酵素の異常発現に関連した疾患状態が挙げられる(PMID、30552318、32883965、22826343、22698760、14675805)。加えて、ハプロ不全疾患状態、例えば、知的障害、自閉症スペクトラム障害等を引き起こすARID1B;CHARGE症候群を引き起こすCHD7遺伝子;鎖骨頭蓋異骨症を引き起こすRUNX2遺伝子;Ehlers-Danlos症候群を引き起こすADAMTS2、COL1A1、COL1A2、COL3A1、COL5A1、COL5A2、PLOD1、FKBP14、TNXB、COL12A1、B4GALT7、B3GALT6、CHST14、DSE、C1R、C1S、SLC39A13、ZNF469、PRDM5;A20のハプロ不全を引き起こすTNFAIP3、Marfan症候群を引き起こすFBN1;22q13欠失症候群を引き起こすSHANK3、Dravet症候群を引き起こすSCN1A。投薬量が50%低減された場合にヒト疾患を生成し、本発明の実施形態によって治療され得る補正された遺伝子のリストは、Clinical Genome Resource(https://search.clinicalgenome.org/kb/curations)から入手可能である。
【0097】
併用療法
本開示の態様は、併用療法を更に含む。ある特定の実施形態では、主題の方法は、治療有効量の1種以上の追加の活性剤を、本発明のCIPと組み合わせて投与することを含む。併用療法は、単一の疾患又は状態を治療するために、CIPを別の治療剤と組み合わせて使用することができることを意味する。代替的に、第1のCIPに対する薬物誘発性耐性を克服するため、又は第1のCIPのアポトーシス活性を高めるために、第2のTF-IPを使用することができる。これは、アポトーシス遺伝子プロモーター/エンハンサーのうちの1つ以上に結合する別のアンカー転写因子へのリガンドを使用することによって達成され得る。いくつかの実施形態では、本開示のCIP化合物は、本開示の化合物を含む組成物の成分として、又は異なる組成物の成分として投与することができる別の治療剤の投与と同時に投与される。ある特定の実施形態では、本開示の化合物を含む組成物は、別の治療剤の投与の前又は後に投与される。主題の化合物は、様々な治療用途で他の治療剤と組み合わせて投与され得る。併用療法のための目的の治療用途としては、上記の用途が挙げられる。
【0098】
上記で検討したように、いくつかの場合では、CIPは、腫瘍性状態を治療するために使用される。したがって、そのような実施形態のCIPは、抗がん剤及び抗腫瘍剤等の腫瘍性状態の治療に有用な任意の薬剤と併せて使用することができる。そのような場合に主題のCIS化合物と併せて使用することができる目的の薬剤としては、例えば以下でより詳細に説明するように、がん化学療法剤、細胞増殖を低減させるように作用する薬剤、代謝拮抗剤、薬剤に影響を与える微小管、ホルモン調節剤及びステロイド、天然産物、及び生物学的応答修飾剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0099】
がん化学療法剤としては、がん細胞の増殖を低減し、細胞毒性剤及び細胞抑制剤を包含する非ペプチド(すなわち非タンパク質性)化合物が挙げられる。化学療法剤の非限定的な例としては、アルキル化剤、ニトロソウレア、代謝拮抗剤、抗腫瘍抗生物質、植物(ビンカ)アルカロイド、及びステロイドホルモンが挙げられる。ペプチド化合物もまた使用され得る。好適ながん化学療法剤としては、ドラスタチン及びその活性類似体及び誘導体、並びにアウリスタチン及びその活性類似体及び誘導体(例えば、モノメチルアウリスタチンD(MMAD)、モノメチルアウリスタチンE(MMAE)、モノメチルアウリスタチンF(MMAF)等)が挙げられる。例えば、WO96/33212、WO96/14856、及びU.S.6,323,315を参照されたい。例えば、ドラスタチン10又はオーリスタチンPEは、本開示の抗体-薬物コンジュゲートに含まれ得る。また、好適ながん化学療法剤としては、マイタンシン及びその活性類似体及び誘導体(例えば、EP1391213、及びLiu et al(1996)Proc.Natl.Acad.Sci.USA93:8618-8623を参照されたい)、デュオカルマイシン及びその活性類似体及び誘導体(例えば、合成類似体KW-2189及びCB1-TM1を含む)、並びにベンゾジアゼピン及びその活性類似体及び誘導体(例えば、ピロロベンゾジアゼピン(PBD))が挙げられる。細胞増殖を低減するように作用する薬剤は、当該技術分野において既知であり、広く使用されている。そのような薬剤としては、アルキル化剤、例えば窒素マスタード、ニトロソウレア、エチレンイミン誘導体、アルキルスルホネート、及びトリアゼンが挙げられ、これらに限定されないが、メクロレタミン、シクロホスファミド(Cytoxan(商標))、メルファラン(L-サルコリシン)、カルムスチン(BCNU)、ロムスチン(CCNU)、セムスチン(メチル-CCNU)、ストレプトゾシン、クロロゾトシン、ウラシルマスタード、クロルメチン、イホスファミド、クロラムブシル、ピポブロマン、トリエチレンメラミン、トリエチレンチオホスホラミン、ブスルファン、ダカルバジン、及びテモゾミドが含まれる。代謝拮抗剤としては、葉酸類似体、ピリミジン類似体、プリン類似体、及びアデノシンデアミナーゼ阻害剤が挙げられ、これらに限定されないが、シタラビン(CYTOSAR-U)、シトシンアラビノシド、フルオロウラシル(5-FU)、フロキシウリジン(FudR)、6-チオグアニン、6-メルカプトプリン(6-MP)、ペントスタチン、5-フルオロウラシル(5-FU)、メトトレキサート、10-プロパルギル-5,8-ジデアザホレート(PDDF、CB3717)、5,8-ジデアザテトラヒドロ葉酸(DDATHF)、ロイコボリン、フルダラビンホスフェート、ペントスタチン、及びゲムシタビンが含まれる。好適な天然産物及びそれらの誘導体(例えば、ビンカアルカロイド、抗腫瘍抗生物質、酵素、リンホカイン、及びエピポドフィロトキシン)としては、これらに限定されないが、Ara-C、パクリタキセル(Taxol(登録商標))、ドセタキセル(Taxotere(登録商標))、デオキシコホルマイシン、マイトマイシンC、L-アスパラギナーゼ、アザチオプリン;ブレキナー;アルカロイド、例えばビンクリスチン、ビンブラスチン、ビノレルビン、ビンデシン等;ポドフィロトキシン、例えばエトポシド、テニポシド等;抗生物質、例えばアントラサイクリン、ダウノルビシン塩酸塩(ダウノマイシン、ルビドマイシン、セルビジン)、イダルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン及びモルホリノ誘導体等;フェノキシゾンビスシクロペプチド、例えばダクチノマイシン;塩基性グリコペプチド;例えばブレオマイシン;アントラキノングリコシド、例えばプリカマイシン(ミトラマイシン);アントラセンジオン、例えばミトキサントロン;アジリノピロロインドレジオン、例えばマイトマイシン;大環状免疫抑制剤、例えばシクロスポリン、FK-506(タクロリムス、プログラフ)、ラパマイシン等が挙げられる。他の抗増殖性細胞傷害性薬剤は、ナベルベン、CPT-11、アナストラゾール、レトラゾール、カペシタビン、レロキサフィン、シクロホスファミド、イホスアミド、及びドロロキサフィンである。抗増殖活性を有する微小管影響剤もまた使用に好適であり、これらに限定されないが、アロコルヒチン(NSC406042)、ハリコンドリンB(NSC609395)、コルヒチン(NSC757)、コルヒチン誘導体(例えば、NSC33410)、ドルスタチン10(NSC376128)、マイタンシン(NSC153858)、リゾキシン(NSC332598)、パクリタキセル(Taxol(登録商標))、タキソール(登録商標)誘導体、ドセタキセル(Taxotere(登録商標))、チオコルヒチン(NSC361792)、トリチルシステリン、ビンブラスチン硫酸塩、ビンクリスチン硫酸塩、天然及び合成エポチロンが挙げられ、限定されないが、エポチロンA、エポチロンB、ディスコデルモリド;エストラムスチン、ノコダゾール等が含まれる。使用に好適なホルモン調節剤及びステロイド(合成類似体を含む)としては、これらに限定されないが、アドレノコルチコステロイド、例えばプレドニゾン、デキサメタゾン等;エストロゲン及びプレゲスチン、例えばヒドロキシプロゲステロンカプロエート、メドロキシプロゲステロンアセテート、メゲストロールアセテート、エストラジオール、クロミフェン、タモキシフェン等;並びに副腎皮質抑制剤、例えばアミノグルテチミド;17α-エチニルエストラジオール;ジエチルスチルベストロール、テストステロン、フルオキシメステロン、ドロモスタノロンプロピオネート、テストラクトン、メチルプレドニゾロン、メチルテストステロン、プレドニゾロン、トリアムシノロン、クロロトリアニセン、ヒドロキシプロゲステロン、アミノグルテチミド、エストラムスチン、メドロキシプロゲステロンアセテート、ロイプロリド、フルタミド(ドロゲニル)、トレミフェン(ファレストン)及びZoladex(登録商標)が挙げられる。エストロゲンは、増殖及び分化を刺激する。したがって、エストロゲン受容体に結合する化合物は、この活性を遮断するために使用される。コルチコステロイドは、T細胞増殖を阻害し得る。他の好適な化学療法剤としては、金属錯体、例えばシスプラチン(cis-DDP)、カルボプラチン等;尿素、例えばヒドロキシ尿素;及びヒドラジン、例えばN-メチルヒドラジン;エピドフィロトキシン;トポイソメラーゼ阻害剤;プロカルバジン;ミトキサントロン;ロイコボリン;テガフール等が挙げられる。目的の他の抗増殖剤としては、免疫抑制剤、例えば、ミコフェノール酸、サリドマイド、デスオキシスペルグアリン、アザスポリン、レフルノマイド、ミゾリビン、アザスピラン(SKF105685)、Iressa(登録商標)(ZD1839、4-(3-クロロ-4-フルオロフェニルアミノ)-7-メトキシ-6-(3-(4-モルホリニル)プロポキシ)キナゾリン)等が挙げられる。タキサンが使用に好適である。「タキサン」は、パクリタキセル、並びに任意の活性タキサン誘導体又はプロドラッグを含む。「パクリタキセル」(本明細書では、例えばドセタキセル、TAXOL(商標)、TAXOTERE(商標)(ドセタキセルの製剤)、パクリタキセルの10-デスアセチル類似体、及びパクリタキセルの3’N-デスベンゾイル-3’N-t-ブトキシカルボニル類似体等の類似体、製剤及び誘導体を含むように理解されるべきである)は、当業者に知られている技術を利用して容易に調整され得る(WO94/07882、WO94/07881、WO94/07880、WO94/07876、WO93/23555、WO93/10076;米国特許第5,294,637号;同第5,283,253号;同第5,279,949号;同第5,274,137号;同第5,202,448号;同第5,200,534号;同第5,229,529号;及びEP590,267も参照されたい)か、又は、例えばSigma Chemical Co.、St.Louis、Mo.を含む様々な商業的供給源から入手可能である(タキサス・ブレビフォリアからのT7402;又はタキサス・ヤナネンシスからのT-1912)。パクリタキセルは、一般的な化学的に入手可能な形態のパクリタキセルだけでなく、類似体及び誘導体(例えば、上記のようにTaxotere(商標)ドセタキセル)並びにパクリタキセル複合体(例えば、パクリタキセル-PEG、パクリタキセル-デキストラン、又はパクリタキセル-キシロース)も指すと理解されるべきである。「タキサン」という用語には、親水性誘導体及び疎水性誘導体の両方を含む、様々な既知の誘導体も含まれる。タキサン誘導体としては、これらに限定されないが、国際特許出願第WO99/18113号に記載のガラクトース及びマンノース誘導体;WO99/14209に記載のピペラジノ及び他の誘導体;WO99/09021、WO98/22451、及び米国特許第5,869,680号に記載のタキサン誘導体;WO98/28288に記載の6-チオ誘導体;米国特許第5,821,263号に記載のスルフェンアミド誘導体;並びに米国特許第5,415,869号に記載のタキソール誘導体が挙げられる。それは、更に、これらに限定されないが、WO98/58927、WO98/13059、及び米国特許第5,824,701号に記載のものを含むパクリタキセルのプロドラッグを含む。使用に好適な生物学的応答修飾剤としては、これらに限定されないが、(1)チロシンキナーゼ(RTK)活性の阻害剤、(2)セリン/スレオニンキナーゼ活性の阻害剤、(3)腫瘍抗原に特異的に結合する抗体等の腫瘍関連抗原アンタゴニスト、(4)アポトーシス受容体アゴニスト、(5)インターロイキン-2、(6)IFN-α、(7)IFN-γ、(8)コロニー刺激因子、及び(9)血管新生の阻害剤が挙げられる。
【0100】
いくつかの場合では、本発明のCIPは、免疫療法剤と組み合わせて使用される。免疫療法の例としては、抗PD-1/PD-L1治療アンタゴニスト等の抗PD-1/PD-L1免疫療法が挙げられ、このようなアンタゴニストとしては、例えば、これらに限定されないが、OPDIVO(登録商標)(ニボルマブ)、KEYTRUDA(登録商標)(ペンブロリズマブ)、Tecentriq(商標)(アテゾリズマブ)、デュルバルマブ(MEDI4736)、アベルマブ(MSB0010718C)、BMS-936559(MDX-1105)、CA-170、BMS-202、BMS-8、BMS-37、BMS-242等が挙げられる。ニボルマブ(OPDIVO(登録商標))は、がんを治療するために使用されるヒト化IgG4抗PD-1モノクローナル抗体である。以前はMK-3475、ランブロリズマブ等として知られていたペンブロリズマブ(KEYTRUDA(登録商標))は、PD-1受容体を標的とするがん免疫療法で使用されるヒト化抗体である。アテゾリズマブ(Tecentriq(商標))は、PD-L1タンパク質に対するIgG1アイソタイプの完全にヒト化された操作されたモノクローナル抗体である。デュルバルマブ(MedImmune)は、PD-L1を標的とする治療用モノクローナル抗体である。アベルマブ(MSB0010718Cとしても知られる;Merck KGaA、Darmstadt、Germany&Pfizer)は、アイソタイプIgG1の完全ヒトモノクローナルPD-L1抗体である。BMS-936559(MDX-1105としても知られる;Bristol-Myers Squibb)は、PD-L1に結合し、PD-1への結合を防止することが示されている遮断抗体である(例えば、U.S.NIH臨床試験番号NCT00729664を参照されたい)。CA-170(Curis,Inc.)は、小分子PD-L1アンタゴニストである。BMS-202、BMS-8、BMS-37、BMS-242は、PD-1に結合する小分子PD-1/PD-L1複合体アンタゴニストである(例えば、Kaz et al.,(2016)Oncotarget 7(21)を参照されたい;その開示は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。本明細書に記載の方法において有用な、例えば抗体を含む抗PD-L1アンタゴニストとしては、これらに限定されないが、例えば、米国特許第7,722,868号、同第7,794,710号、同第7,892,540号、同第7,943,743号、同第8,168,179号、同第8,217,149号、同第8,354,509号、同第8,383,796号、同第8,460,927号、同第8,552,154号、同第8,741,295号、同第8,747,833号、同第8,779,108号、同第8,952,136号、同第8,981,063号、同第9,045,545号、同第9,102,725号、同第9,109,034号、同第9,175,082号、同第9,212,224号、同第9,273,135号及び同第9,402,888号に記載されるものが挙げられ、これらの開示は、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。本明細書に記載の方法において有用な、例えば抗体を含む抗PD-1アンタゴニストとしては、これらに限定されないが、例えば、6,808,710、7,029,674、7,101,550、7,488,802、7,521,051、8,008,449、8,088,905、8,168,757、8,460,886、8,709,416、8,951,518、8,952,136、8,993,731、9,067,998、9,084,776、9,102,725、9,102,727、9,102,728、9,109,034、9,181,342、9,205,148、9,217,034、9,220,776、9,308,253、9,358,289、9,387,247及び9,402,899に記載されるものが挙げられ、これらの開示は、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。
【0101】
医薬調製物
CIP化合物の医薬調製物もまた提供される。CIP化合物は、対象への投与のために様々な製剤に組み込むことができる。より具体的には、本発明のCIP化合物は、適切な医薬的に許容される担体又は希釈剤との組み合わせによって医薬組成物へと製剤化することができ、錠剤、カプセル、粉末、顆粒、軟膏、溶液、座薬、注射剤、吸入剤及びエアロゾル等の固体、半固体、液体又は気体型の調製物へと製剤化することができる。製剤は、経口、口腔、直腸、非経口、腹腔内、皮内、経皮、気管内、静脈内等の投与を含むいくつかの異なる経路を介して投与するように設計され得る。医薬剤形では、化合物は、単独で、又は他の医薬的に活性な化合物と適切に関連付けて、及び組み合わせて使用され得る。以下の方法及び賦形剤は単なる例示であり、決して限定的ではない。
【0102】
活性成分を含有する医薬組成物は、例えば、錠剤、トローチ、ロゼンジ、水性若しくは油性懸濁液、分散性粉末若しくは顆粒、乳剤、硬質若しくは軟質カプセル、又はシロップ若しくはエリキシルとして、経口使用に好適な形態であり得る。経口使用を意図する組成物は、医薬組成物の製造のための当業者に既知の任意の方法に従って調製されてもよく、そのような組成物は、薬学的に洗練された口当たりの良い調製物を提供するために、甘味剤、香味剤、着色剤、及び保存剤からなる群から選択される1種以上の薬剤を含有してもよい。錠剤は、錠剤の製造に好適な非毒性の薬学的に許容される賦形剤と混合して活性成分を含有する。これらの賦形剤は、例えば、不活性希釈剤、例えば炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、乳糖、リン酸カルシウム又はリン酸ナトリウム;粒状化剤及び崩壊剤、例えばトウモロコシデンプン又はアルギン;結合剤、例えばデンプン、ゼラチン又はアカシア;並びに潤滑剤、例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸又はタルクであってもよい。錠剤は、コーティングされていなくてもよく、又はそれらは、胃腸管における崩壊及び吸収を遅らせ、それによって、より長い期間にわたって持続的な作用を提供するために、既知の技術によってコーティングされてもよい。例えば、モノステアリン酸グリセリル又はジステアリン酸グリセリル等の時間遅延材料が用いられ得る。それらはまた、米国特許第4,256,108号、同第4,166,452号、及び同第4,265,874号に記載される技術によってコーティングされて、制御放出のための浸透圧治療錠を形成してもよい。経口使用のための製剤はまた、活性成分が不活性固体希釈剤、例えば炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、若しくはカオリンと混合される硬質ゼラチンカプセルとして、又は活性成分が水若しくは油媒体、例えばピーナッツ油、液体パラフィン、若しくはオリーブ油と混合される軟質ゼラチンカプセルとして提示され得る。
【0103】
水性懸濁液は、水性懸濁液の製造に好適な賦形剤と混合して活性物質を含有する。そのような賦形剤は、懸濁化剤、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントガム、及びアカシアガムであり、分散剤又は湿潤剤は、天然に存在するホスファチド、例えばレシチン、又はアルキレンオキシドと脂肪酸との縮合生成物、例えばポリオキシエチレンステアレート、又はエチレンオキシドと長鎖脂肪族アルコールとの縮合生成物、例えばヘプタデカエチレンオキシセタノール、又はエチレンオキシドと脂肪酸及びヘキシトール由来の部分エステルとの縮合生成物、例えばポリオキシエチレンソルビトールモノオレエート、又はエチレンオキシドと脂肪酸及びヘキシトール無水物由来の部分エステルとの縮合生成物、例えばポリエチレンソルビタンモノオレエートであってもよい。水性懸濁液はまた、1種以上の保存剤、例えばエチル、又はn-プロピル、p-ヒドロキシ安息香酸塩、1種以上の着色剤、1種以上の香味剤、並びにスクロース、サッカリン、又はアスパルテーム等の1種以上の甘味剤を含有してもよい。
【0104】
油性懸濁液は、植物油、例えば、アラキス油、オリーブ油、ゴマ油、又はココナッツ油、又は液体パラフィン等の鉱物油中に活性成分を懸濁させることによって製剤化され得る。油性懸濁液は、増粘剤、例えば、ミツロウ、硬質パラフィン、又はセチルアルコールを含有し得る。上記のもの等の甘味剤、及び香味剤を添加して、口当たりの良い経口調製物を提供することができる。これらの組成物は、アスコルビン酸等の抗酸化剤の添加によって保存され得る。
【0105】
水の添加による水性懸濁液の調製に好適な分散性粉末及び顆粒は、分散剤又は湿潤剤、懸濁剤、及び1種以上の保存剤と混合して活性成分を提供する。好適な分散剤又は湿潤剤及び懸濁化剤は、上記で既に言及されたものによって例示される。追加の賦形剤、例えば、甘味剤、香味剤、及び着色剤も存在し得る。
【0106】
本発明の医薬組成物はまた、水中油型エマルションの形態であってもよい。油相は、植物油、例えばオリーブ油若しくはアラキス油、又は鉱物油、例えば液体パラフィン、又はこれらの混合物であってもよい。好適な乳化剤は、天然に存在するホスファチド、例えば、大豆、レシチン、並びに脂肪酸及び無水ヘキシトールから誘導されるエステル又は部分エステル、例えば、ソルビタンモノオレート、並びに当該部分エステルとエチレンオキシドとの縮合生成物、例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレートであってもよい。エマルションはまた、甘味剤及び香味剤を含有してもよい。
【0107】
シロップ及びエリキシルは、甘味剤、例えば、グリセロール、プロピレングリコール、ソルビトール又はスクロースとともに製剤化され得る。そのような製剤はまた、消化剤、保存剤、及び香味剤及び着色剤を含有してもよい。医薬組成物は、無菌注射用水性又は油性懸濁液の形態であってもよい。この懸濁液は、上記の好適な分散剤又は湿潤剤及び懸濁化剤を使用して、既知の技術に従って製剤化され得る。無菌注射用調製物はまた、例えば1,3-ブタンジオール中の溶液として、非毒性の非経口的に許容される希釈剤又は溶媒中の無菌注射用溶液又は懸濁液であってもよい。利用できる許容可能なビヒクル及び溶媒には、水、リンゲル液、及び等張塩化ナトリウム溶液がある。加えて、無菌の固定油は、溶媒又は懸濁媒体として従来から利用されている。この目的のために、合成モノ又はジグリセリドを含む、任意の刺激の少ない固定油を利用することができる。加えて、オレイン酸等の脂肪酸は、注入剤の調製における使用が見出される。
【0108】
化合物は、植物性又は他の類似の油、合成脂肪酸グリセリド、高級脂肪酸のエステル又はプロピレングリコール等の水性又は非水性溶媒中に溶解、懸濁、又は乳化することにより、注射用の調製物へと製剤化することができ、必要に応じて、可溶化剤、等張剤、懸濁化剤、乳化剤、安定化剤、及び保存剤等の従来の添加剤を使用することができる。化合物は、吸入を介して投与されるエアロゾル製剤に利用することができる。本発明の化合物は、ジクロロジフルオロメタン、プロパン、窒素等の加圧された許容可能な推進剤中に製剤化することができる。
【0109】
更に、乳化基剤又は水溶性基剤等の様々な基剤と混合することにより、化合物を座薬とすることができる。本発明の化合物は、座薬を介して直腸投与することができる。座薬には、体温で融解するが、室温で固化するカカオバター、カルボワックス、及びポリエチレングリコール等のビヒクルを含めることができる。局所投与で活性である本発明の化合物及びそれらの薬学的に許容される塩は、経皮組成物又は経皮送達デバイス(「パッチ」)として製剤化することができる。そのような組成物には、例えば、裏材、活性化合物リザーバ、制御膜、ライナー、及び接触接着剤が含まれる。そのような経皮パッチを使用して、制御された量で本発明の化合物を連続的又は非連続的に注入することができる。医薬品の送達のための経皮パッチの構築及び使用は、当該技術分野において周知である。例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第5,023,252号(1991年6月11日発行)を参照されたい。そのようなパッチは、医薬品の連続的、パルス的、又はオンデマンド送達のために構築され得る。
【0110】
任意選択で、医薬組成物は、他の医薬的に許容される成分、例えば、緩衝液、界面活性剤、酸化防止剤、粘度調整剤、保存剤等を含有してもよい。これらの成分のそれぞれは、当該技術分野で周知である。例えば、その開示が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,985,310号を参照されたい。本発明の製剤における使用に好適な他の成分は、Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mace Publishing Company,Philadelphia,Pa.,17th ed.(1985)に見出すことができる。一実施形態では、水性シクロデキストリン溶液は、デキストロース、例えば、約5%デキストロースを更に含む。
【0111】
1日当たり約0.01mg~約140mg/kg体重のオーダーの用量レベルは、代表的な実施形態において有用であるか、又は代替的に、1日当たり患者当たり約0.5mg~約7gである。例えば、炎症は、1日当たり体重1キログラム当たり約0.01~50mgの化合物、又は1日当たり患者当たり約0.5mg~約3.5gの化合物を投与することによって効果的に治療され得る。当業者は、用量レベルが、特定の化合物、症状の重症度、及び副作用に対する対象の感受性に応じて変動し得ることを容易に理解するであろう。所与の化合物の投薬量は、様々な手段によって当業者によって容易に決定可能である。
【0112】
単一の剤形を生成するために担体材料と組み合わせてもよい活性成分の量は、治療される宿主及び特定の投与様式に応じて変動する。例えば、ヒトの経口投与を意図する製剤は、総組成物の約5%~約95%で変動し得る適切かつ好都合な量の担体材料と配合された0.5mg~5gの活性剤を含有してもよい。投薬単位形態は、一般に、約1mg~約500mgの活性成分、典型的には25mg、50mg、100mg、200mg、300mg、400mg、500mg、600mg、800mg、又は1000mgを含有する。
【0113】
しかしながら、任意の特定の患者の特定の用量レベルは、年齢、体重、一般的健康、性別、食事、投与時間、投与経路、排泄速度、薬物の組み合わせ、及び治療を受ける特定の疾患の重症度を含む様々な因子に依存することが理解されるであろう。したがって、シロップ、エリキシル剤、及び懸濁液等の経口又は直腸投与のための単位剤形が提供されてもよく、各剤形単位、例えば、小さじ1杯、大さじ1杯、錠剤又は座薬は、1つ以上の阻害剤を含有するあらかじめ決定された量の組成物を含有する。同様に、注射又は静脈内投与のための単位剤形は、滅菌水、生理食塩水又は別の医薬的に許容される担体中の溶液として組成物中に阻害剤を含み得る。本明細書で使用する際の「単位剤形」という用語は、ヒト及び動物対象に対する単位投薬量として好適な物理的に別個の単位を指し、各単位は、医薬的に許容され得る希釈剤、担体又はビヒクルと関連して所望の効果を生じるために十分な量で、計算された本発明の化合物のあらかじめ決定された量を含有する。本発明の新規の単位剤形の仕様は、使用される特定のペプチド模倣化合物及び達成される効果、並びに宿主における各化合物に関連する薬力学に依存する。
【0114】
キット及びシステム
上記のように説明されるもの等の方法の実施形態で使用されるキット及びシステムもまた提供される。本明細書で使用される場合、「システム」という用語は、主題の方法を実践する目的で一緒にされる、単一の組成物中に存在する、又は異種の組成物中に存在する2種以上の異なる活性剤の集合を指す。「キット」という用語は、パッケージ化された活性剤(複数種可)を指す。例えば、主題の方法を実践するためのキット及びシステムは、1種以上の医薬製剤を含み得る。したがって、ある特定の実施形態では、キットは、1つ以上の単位剤形として存在する単一の医薬組成物を含み得、組成物は、1種以上の発現/活性阻害剤化合物を含み得る。更に他の実施形態において、キットは、それぞれ異なる活性化合物を含有する2種以上の別個の医薬組成物を含み得る。
【0115】
上記の構成要素に加えて、主題のキットは、主題の方法を実践するための命令を更に含み得る。これらの命令は、様々な形態で主題のキット中に存在し得、そのうちの1つ以上は、キット中に存在し得る。これらの説明書が存在し得る1つの形態は、キットのパッケージ中、添付文書等の中の、好適な媒体又は基板上の印刷情報、例えば、情報が印刷される1枚又は複数枚の紙として存在し得る。更なる別の手段は、情報が記録されているコンピュータ読み取り可能媒体、例えばディスケット、CD、ポータブルフラッシュドライブ等である。存在し得る更に別の形態は、隔たった場所で情報にアクセスするために、インターネットを介して使用され得るウェブサイトアドレスである。任意の好都合な手段がキットに存在してもよい。
【実施例】
【0116】
以下の実施例は、例示として提示されるものであって、限定として提示されるものではない。
【0117】
実験
以下の実施例は、当業者に、本発明の作製及び使用方法の完全な開示及び説明を提供するために提示されるものであり、発明者が発明とみなす範囲を限定することを意図せず、また、以下の実験が、行われるすべて又は唯一の実験であることを表すことを意図するものではない。使用される数字(例えば、量、温度等)に対する正確性を確保する努力がなされているが、ある程度の実験誤差及び偏差が考慮されるべきである。別様に示されない限り、部とは重量部であり、分子量は重量平均分子量であり、温度は摂氏であり、圧力は大気圧又はほぼ大気圧である。
【0118】
I.発がん性駆動因子をハイジャックすることによるER陽性乳がんの治療のためのCIP化合物
A.序論
米国では、乳がんは年間4万人以上の死亡の原因となっている。女性の約8人に1人が乳がんを発症し、39人に1人がそのがんで死亡している。手術ががんの治癒に有効でない場合、ホルモン療法、HER2モノクローナル抗体、及び免疫療法を含むいくつかの治療法が使用される。これらのそれぞれは、乳がんの効果的な治療に貢献しているが、アントラサイクリン等の使用される薬物の多くは、その抗腫瘍作用において非特異的であり、したがって、致命的であり得る広範な毒性を有する。したがって、この分野は、治療のためのより特異的な経路を模索している。ここでは、他の細胞と比較してがん細胞のより特異的な死をもたらし、したがって副作用が少ないより良い治療法をもたらす新たな方法について説明する。
【0119】
B.概要
本発明者らは、がん駆動因子をハイジャックして細胞死経路を活性化し、それによって、駆動変異を引き起こすがん細胞を死滅させる、一般的な方法を考案した。乳がんの特定の場合では、エストロゲン受容体(ER)及び/又はプロゲステロン受容体(PR)をハイジャックして、PUMA、BIM、及び他の細胞死遺伝子を活性化する。これを行うために、本発明者らは、PUMA、BAX、BIM及びBID及びNOXA遺伝子等の細胞死遺伝子の調節領域に通常結合する転写因子のリガンドにC17又はC7位で連結されたエストロゲン様化合物を有する、小分子近接性化学誘導因子(CIP)を発明した。したがって、通常腫瘍を駆動するエストロゲンは、代わりに一連の遺伝子を活性化し、プログラム細胞死をもたらす。これは、増殖を駆動する乳がん経路が、がん細胞を特異的に殺すためにハイジャックされることを意味する。
【0120】
多くの乳がんは、ER陽性及びPR陽性である。これらのホルモン応答性がんは、しばしばこれらの受容体に対するアンタゴニストを使用して治療され、それによってがんの成長を低減又は遅延させる。しかしながら、がんは、治療が中止されると単純に再発するため、がんの成長速度を単純に低減する薬剤によってうまく治療されることはほとんどない。したがって、がん細胞を死滅させるためにがんの増殖原動力をそらすことが有用である。本発明者らは、C17におけるエストロゲン様分子を小さなリンカーに化学的に結合させ、次いで、アポトーシス又はプログラム細胞死を誘導する遺伝子、例えば、PUMA、BIM、BAX、BID及びNOXA遺伝子を制御する転写因子のためのリガンドに結合させる、一連の分子(CIP)を発明した。これらの遺伝子は、DNA損傷が発生したときに細胞死を開始するために、p53の下流で機能する。このようにして、これらの遺伝子はがんの形成を抑制し、これはp53の腫瘍抑制経路の主要なエフェクターの1つである。多くの乳がんはp53が不活性化されているため、がんの発生時にがんを排除し得るDNA損傷シグナルに応答することができない。以下に説明する実施形態では、PUMA、BIM、及びBAX遺伝子を制御する転写因子FOXO3aが選択されている。アンカー転写因子を定義するための手段を
図7に示す。BIMを用いたアプローチを説明するが、他の10個のアポトーシス促進遺伝子について並列実験を行った。
【0121】
そのような実施形態で使用され得るTF-CIPの特定の例は、プログラム細胞死遺伝子を活性化する転写因子の小分子結合剤に連結されたエストラジオールである。本発明の他の実施形態では、プロゲステロン、いくつかのアポトーシス促進遺伝子のいずれか、並びに以下の乳がん選択的転写因子:1)FOXO3A、2)PPARガンマ、3)HIF1A、4)E2F1、5)RUNX1及びMAZのいずれか1つを使用し、これらは、PUMA、及びBIM等の他のキラー遺伝子のプロモーターに結合する。通常、エストロゲンはエストロゲン受容体に結合し、増殖を誘導する。本発明の本実施形態では、ER陽性乳がんの新たな療法として、キラー遺伝子に結合して調整的に活性化する転写因子(TF)にエストロゲン受容体を結合させる小分子を用いる。
【0122】
C.がんにおけるTF-CIPの特異性
がん駆動因子経路をハイジャックして細胞死経路を活性化するこのアプローチの多くの利点の1つは、転写因子の組み合わせ特異性を利用して、キラー遺伝子及びがん駆動因子自体の特異性を特異的に活性化することを可能にすることである。これは
図7Cに概して示されており、方法は
図7A及びBに詳述される。次いで、特異性の増強は以下の通りである。
(TF-Aの発現の選択性)x(がん駆動因子の発現の選択性)x(TF-Aのゲノム特異性)=細胞死滅の選択性
【0123】
ホルモン療法、HER2モノクローナル抗体及び免疫療法を含む、ヒト乳がんを治療するために使用される多くの薬物及び治療があり、それらの各々は、腫瘍に対してある程度の特異性を有する。また、がん細胞に対する特異性がほとんど又はまったくない、ほぼすべての転移性乳がんに使用される多数の薬物が存在する。これらの多くは、がん細胞及び他の細胞の成長を止めるだけである。
【0124】
本発明者らのアプローチの利点は、がん独自の駆動メカニズムを利用して、ER陽性乳がん細胞を死滅させる転写因子を活性化することである。本発明者らのアプローチの更なる利点は、それががん細胞に非常に特異的であるように調整され得ることである。例えば、エストロゲン受容体が、乳がん細胞内で6.5:1の選択的レベルで発現され、細胞死遺伝子に結合した転写因子が、10:1の選択的レベルで発現された場合、乳がん細胞は、65倍の特異性で死滅され、それによって、有効な治療ウィンドウを確立するであろう。治療ウィンドウは、以下のように予測され得る:
式中、
[A1]は、細胞型1における駆動因子タンパク質の濃度であり、
[A2]は、細胞型2における駆動因子タンパク質の濃度であり、
[B1]は、細胞型1におけるアンカーTFの濃度であり、
[B2]は、細胞型2におけるアンカーTFの濃度である。
【0125】
D.転写因子の特定
細胞死遺伝子の発現を活性化することができる転写因子を特定するために、本発明者らは乳がん細胞株を死滅させるのに最も効果的であった細胞死遺伝子を定義することから始めた。本発明者らは、ドキシサイクリン誘導性発現を用いて、表1に示される細胞死遺伝子のそれぞれを調べ、いくつかが、細胞の50%以上を急速に死滅させ有効であることを見出した。標的細胞内でのみこれらの遺伝子を選択的に活性化するために使用され得る転写因子対を特定するために、本発明者らは、
図7A、7B、及び7Cに概説される手順を使用した。
【0126】
次いで、本発明者らは、BIM TSS周辺の±1kb領域内の結合モチーフを有する転写因子(TF)の特定を試みた。この領域は、TCGA(Cancer Genome Atlas)のBRCA(Breast Invasive Carcinoma)コホートからランダムに選択された2人の患者のATAC-seqデータの分析によって明らかにされるように、TF結合にアクセス可能なクロマチンを有する。本発明者らの転写因子特定方法は、
図7に段階的に記載され、337 TFに対する潜在的な結合モチーフの存在を検出した。BIM、BAX、及びBIDの調節因子領域は、乳がん細胞においてもアクセス可能であり、重複するTF群に結合し、アポトーシス促進遺伝子が協調的に機能することを示し、これは、単一のTFが活性化される場合に堅調な細胞死を提供する。したがって、乳がん細胞内のいくつかのキラー遺伝子は、転写ハイジャックに対して脆弱である。
【0127】
本発明者らは、公的に入手可能なRNA-seqデータセットを用いて、5つのがん細胞株における選択された337 TFの発現を分析した。がん細胞株全体で一貫して高発現を示すTFのリストには、YBX1、ATF4、HIF1A、MAZ、NFE2L2、TGIF1、SMAD2、TFDP1、MYC、DDIT3、STAT3、PNRC2、HES1、FOXO3A、RUNX1、及びPPARGが含まれる。これらのTFの中で、RUNX1、HIF1A、PAX9及びPPARGは、乳房組織に非常に特異的である(Human Protein Atlasに従う)。HIF1Aは、低酸素症に対する適応応答のマスター転写調節因子であり、腫瘍血管新生及び低酸素症誘導細胞死において重要な役割を果たす。
【0128】
E.アンカー転写因子のためのリガンドの開発
TFをアンカーするためのリガンドを開発する本発明者らの方法は、
図8の段階的アプローチで説明され、
図10及び11に示されるFOXO3Aの2つのクラスのリガンドの特定をもたらした。
【0129】
F.エストロゲン様ER結合剤-リンカー(n)-FOXO3a結合剤の合成
以下に示すTF-CIP、すなわち、エストロゲン様ER結合剤-リンカー(n)-FOXO3a結合剤を、下記のように合成する。3つの部分(A-L-Bハイジャッカー)からなる本発明の第1の成分は、
図20に示されるものを含むがこれらに限定されないエストロゲン様分子である。これらの化合物は、C17でリンカーを収容し、活性及びER結合を保持する能力に基づいて選択されている。C11メトキシは、その有利な結合及びエストロゲン活性が報告されているため、分子の一部に使用される。
【0130】
3つの部分(A-L-Bハイジャッカー)からなるCIPの第2の成分は、ERと転写因子との間の距離を架橋するように設計されたn個の炭素原子のリンカー(L)である(この特定の例ではFOXO3a)。上記のもの等の好適なリンカーが用いられる。
【0131】
3つの部分(A-L-Bハイジャッカー)からなるCIPの第3の成分は、細胞死遺伝子:PUMA、BAX、BID、BIMの発現を調節するTFに結合する小分子である。
図8では、重要な転写因子、この場合はFOXO3Aのリガンドを特定するための系統的で段階的なアプローチを提供する。このアプローチによって選択されたリガンドを
図10及び11に示す。上記分子は、FOXO3aの剛性結晶構造(PDB:2uzk)に対して亜鉛ライブラリからの約800万個の柔軟性リガンド薬物様化合物のシュレディンガーグライドを使用した構造ベースの仮想(インシリコ)スクリーニングからなる段階的プロセスの生成物である。スクリーニングは、FOXO3aの結晶構造から非柔軟性ポケットを選び、このポケットをスクリーニングに使用することで実行した。潜在的に毒性のある分子及び好ましくない薬理学的特性を有すると予測される分子は、
図8に記載されるように、手動補正によって除去した。
【0132】
一般的構造A-L-Bの分子は、MCF7及びMCF10乳がん細胞株等のエストロゲン依存性細胞株においてプログラム細胞死を引き起こす能力について試験される。FOXO3Aリガンド(
図10及び11)、リンカー(例えば上記のように)、及びエストロゲン類似体(
図20)の数百の組み合わせを作製し、それらの有効性について試験することができるが、以下に、二官能性分子の10の例を示す。
【0133】
図4に示されるTF-CIPを用いて、
図6に示されるように、これらの細胞の駆動発がん性経路が細胞を死滅させるために迂回されていることを意味する、エストロゲン受容体依存性細胞死滅が観察される。細胞死滅は、PUMA、BAX、BIM、NOXA及び/又はBIDの誘導に依存すると決定付けられる。加えて、小分子は、乳がん細胞株MDA-MB-231、腎細胞株HEK293、及びリンパ球細胞株Jurkat等のエストロゲンに依存しないがん細胞において、エストロゲン依存性である細胞を選択的に死滅させる能力について試験される。エストロゲン受容体は、原発性乳がん細胞において約6.5倍高いレベルで発現されるため、がん死滅は、エストロゲン依存性であり、比較的特異的であることが観察される。細胞死滅の特異性は、アドリオマイシン、エトポシド及び他のアントラサイクリンを含むTopoII阻害剤、シクロホスファミド等の乳がんを治療するために使用される他の薬剤と比較される。
【0134】
この同アプローチは、1)MAZ;2)PPARガンマ;3)HIF2;4)RUNX1;5)E2F1、並びにBIM、BAX、及びBIDを含む細胞死遺伝子に結合して活性化することができる
図8に例示される他のものに結合する小分子に結合した合成エストロゲンからなる小分子に対して繰り返される。
【0135】
G.薬剤耐性の発達の予測
本発明者らは、いくつかの理由で抵抗が生じる可能性があると予想している。例えば、アンカーTFの結合部位が変異され得るか、又はTFがもはやアンカーとして機能しないように変異され得る。この場合、
図7に提供される方法を使用して第2のアンカーを選択し、
図8に記載される方法を使用してアンカーのリガンドを定義する。次いで、これらのリガンドを使用して、確立された医薬品化学を用いてエストロゲン又はプロゲステロン類似体(
図11及び12)を有する別のTF-CIPを構築し、耐性が発達する場合、第2のライン療法として使用することができる。エストロゲン受容体遺伝子が、腫瘍発達の選択的プロセスの一部としての治療に応答して不活性化され得ることもまた可能である。これは、別の駆動因子が出現した場合にのみ発生し得るため(例えば、
図14に示されているドライバの1つ)、本発明者らは新しいドライバをハイジャックするためにTF-CIPを構築する。
【0136】
この可能性のある合併症に対処する方法としてTF-CIPを使用する別の例は、TF-CIPを構築して、高酸性ドメインを有するタンパク質をPUMA TSSに動員することを伴う。酸性ドメインは、転写を活性化する能力で知られている。乳房腫瘍に極めて特異的な酸性タンパク質を特定するために、本発明者らは以下の基準を使用した:(1)等電点が5未満であること、(2)タンパク質は、核又は細胞質のいずれかであること(後者の場合、核への効率的な輸送を可能にするために、500未満のアミノ酸を有するべきである)、及び(3)腫瘍における平均タンパク質発現は、正常組織における発現を少なくとも4倍超えること。この比較では、BRCA TCGA患者からの1085サンプルと健康な個人からの291サンプルからなる遺伝子発現データベースを使用した。以下の28のタンパク質が3つの基準をすべて満たしていることが判明した:CENPF、CTXN1、DBNDD1、EPN3、ESRP1、FOXA1、GPRC5A、HN1、IFI6、KRT8、LMNB1、MCM4、MUC1、PKIB、PRC1、PRR15、PYCR1、RACGAP1、S100P、SDC1、SLC9A3R1、SPP1、STARD10、TFF1、TNNT1、TPD52、UBE2S、ZWINT。
【0137】
ER陰性がんの治療では、プロゲステロン受容体は、キラー遺伝子をハイジャックするプロゲステロン類似体に基づく類似の分子群を使用して標的とされる。
【0138】
H.ER-TF-CIPのための合成方法
スキーム1
ステップ1.中間体1の調製
1-(5-クロロ-4-((8-メトキシ-1-メチル-3-(2-(メチルアミノ)-2-オキソエトキシ)-2-オキソ-1,2-ジヒドロキノリン-6-イル)アミノ)ピリミジン-2-イル)ピペリジン-4-カルボン酸(10mg、0.02mmol、文献1に従う)t-Boc-N-アミド-PEG3-アミン及び(30mg、0.1mmol)、HATU(21mg、0.05mmol)及びDIPEA(50uL、0.4mmol)のDMF(0.25mL)中の溶液を、室温で1時間撹拌した。粗反応物をHPLCによって精製して、化合物中間体1(16mg、95%)を得た。MS観測[(M+H)+]:805.9
【0139】
ステップ2.化合物1の調製
中間体1(16mg、0.02mmol)の溶液をDCM(1mL)に溶解し、TFA 0.2mLを添加し、室温で0.5時間撹拌した。粗反応物をHPLCによって精製して、化合物1(10mg、50%)を白色固体として得た。MS観測[(M+H)+]:705.8。
【0140】
スキーム2
ステップ1.中間体2の調製
2-((((13S,E)-3-ヒドロキシ-13-メチル-6,7,8,9,11,12,13,14,15,16-デカヒドロ-17H-シクロペンタ[a]フェナントレン-17-イリデン)アミノ)オキシ)酢酸(20mg、0.06mmol、文献1に従う)t-Boc-N-アミド-PEG3-アミン及び(17mg、0.06mmol)、HATU(33mg、0.09mmol)及びDIPEA(33uL、0.2mmol)のDMF(0.5mL)中の溶液を、室温で1時間撹拌した。粗反応物をフラッシュクロマトグラフィーによって精製して、カップリング生成物中間体2(20mg、70%)を白色固体として得た。
【0141】
ステップ2.中間体3の調製
中間体-3(60mg、0.1mmol)を1mLのDCMに溶解し、0.2mLのTFAに室温で0.5時間供した。粗反応物をHPLCによって精製して、化合物中間体3(30mg、60%)を得た。MS観測[(M+H)+]:518.7
【0142】
ステップ3.化合物2の調製
中間体3(30mg、0.06mmol)、及び1-(5-クロロ-4-((8-メトキシ-1-メチル-3-(2-(メチルアミノ)-2-オキソエトキシ)-2-オキソ-1,2-ジヒドロキノリン-6-イル)アミノ)ピリミジン-2-イル)ピペリジン-4-カルボン酸(30mg、0.06mmol、WO2018/108704A1に従って調製)、HATU(38mg、0.1mmol)、及びDIPEA(50uL、0.3mmol)のDMF(1mL)中の溶液を、室温で1時間撹拌した。粗反応物をHPLCによって精製して、化合物2(10mg、50%)を白色固体として得た。MS観測[(M+H)+]:1031.1。
【0143】
スキーム3
3-(2-(2-(1-(5-クロロ-4-((8-メトキシ-1-メチル-3-(2-(メチルアミノ)-2-オキソエトキシ)-2-オキソ-1,2-ジヒドロキノリン-6-イル)アミノ)ピリミジン-2-イル)ピペリジン-4-カルボキサミド)エトキシ)エトキシ)プロパン酸(7mg、0.009mmol)、DHT(6mg、0.018mmol)、EDCI(6mg、0.04mmol)、DMAP(5mg、0.018)、HOAt(5mg、0.009mmol)のDMF0.25mL中の溶液を室温で1時間撹拌した。粗反応物をHPLCによって精製して、化合物3(2mg、30%)を白色固体として得た。MS観測[(M+H)+]:963.1。
【0144】
化合物4
化合物4を、スキーム1の手順に従って調製した。
MS観測[(M+H)+]:699.8。
【0145】
化合物5
化合物5を、スキーム2の手順に従って調製した。
MS観測[(M+H)+]:1075.2。
【0146】
化合物6
化合物6を、スキーム2の手順に従って調製した。
MS観測[(M+H)+]987.1:
【0147】
化合物7
化合物7を、スキーム2の手順に従って調製した。
MS観測[(M+H)+]:1025.3。
【0148】
化合物8
化合物8を、スキーム2の手順に従って調製した。
MS観測[(M+H)+]:955.1。
【0149】
スキーム4.
2-((((13S,E)-3-ヒドロキシ-13-メチル-6,7,8,9,11,12,13,14,15,16-デカヒドロ-17H-シクロペンタ[a]フェナントレン-17-イリデン)アミノ)オキシ)酢酸(15mg、0.06mmol、文献1に従う)N-(2-(2-(2-(2-アミノエトキシ)エトキシ)エトキシ)エチル)-1-(5-クロロ-4-((8-メトキシ-1-メチル-3-(2-(メチルアミノ)-2-オキソエトキシ)-2-オキソ-1,2-ジヒドロキノリン-6-イル)アミノ)ピリミジン-2-イル)-N-メチルピペリン-4-カルボキサミド(15mg、0.02mmol、スキーム1に従う)、HATU(20mg、0.05mmol)及びDIPEA(50uL、0.3mmol)のDMF(0.25mL)中の溶液を、室温で1時間撹拌した。粗反応物をHPLCによって精製して、9(2mg、15%)を白色固体として得た。MS観測[(M+H)+]:1045.2。
【0150】
II.セロトニン合成のための律速酵素TPH2の発現を調節するためのCIP化合物
ニューロンの異なる集団内の細胞プロセスを調節するための方法は、分子メカニズム、回路、及び挙動間の関係を解明し、神経障害のための細胞型又は回路選択的治療を開発するために必要である。本発明者らは、ニューロンのサブセットにおける遺伝子発現を調節するために、内因性転写因子の細胞型特異性及び回路特異性を利用する、新規の、非遺伝的、小分子ベースの方法-転写因子-化学的誘導近接(TF-CIP)-を提供する。TF-CIPは、二官能性小分子を利用して、標的遺伝子に天然で結合する「アンカー」転写因子と、標的遺伝子の転写を増強又は抑制する「ハイジャックされた」転写因子とを一緒に引き出す。細胞型特異性は、各転写因子の発現の交差によって決定される。TF-CIPアプローチは、任意の生物に適合させることができ、転写因子が十分に保存されているため、同じTF-CIP小分子を動物種にわたるニューロンプロセスを調節するために使用することができることを期待することは合理的である。本発明者らは、セロトニン作動性ニューロンのサブセットからのセロトニン神経伝達を調整する手段として、セロトニン合成のための律速酵素、TPH2の発現を調節するためにTF-CIPを使用する(
図29、パネルA)。セロトニン作動性ニューロンの集団は比較的小さいが、これらのニューロンは脳全体に投射を送り、気分、不安、及び社会的行動を調節する重要な役割を果たす(
図29、パネルA)。セロトニン調節性小分子に対する回路レベルの特異性を達成することは、中枢及び末梢神経系におけるセロトニンシグナル伝達の無差別な標的化のためにしばしば望ましくない副作用を有する現在の治療法に対する改善である。TPH2発現は、ストレス、性ホルモン、及びいくつかの転写因子によって調節される。本発明者らは、この知識を、最近発表されたセロトニン作動性ニューロンの単細胞RNA配列決定及び投射マッピングデータとともに、候補TF-CIP転写因子のリソースとして活用している。回路特異的神経調節のための遺伝子コードされたツールと比較して、小分子TF-CIP法は、ヒトにおける細胞型及び回路特異的神経調節に比較的容易に適合され得る。
【0151】
一例として、脳セロトニン合成のための律速酵素であるTPH2の発現を調節するための細胞及び動物におけるTF-CIPの構築及び試験を詳述する。簡単に述べると、このアプローチは、
図7及び9に例示されるステップを使用して、TPH2プロモーターにおけるアンカー転写因子のセロトニン産生ニューロンにおいてのみ発現される転写因子(FEV)を選択することを伴う。次いで、
図8に記載される方法を使用して、FEVについて
図17に示されるリガンドを選択する。仮想スクリーニングから選択された分子は、表面プラズモン共鳴(SPR)を使用した測定によって、FEVタンパク質への、いくつかの場合では他のETSタンパク質への有意な結合を有する。これらは一方で、上記に記載され、
図24A及び24Bに例示されるように、リンカーに化学的に結合し、一方で、有糸分裂後ニューロン特異的BAF53b(ACTL6B)、及びPAX5、BRD4等の回路選択的転写因子によって主に定義されるnBAF複合体を含み得る転写活性化因子又は抑制因子のリガンドに結合する。FEVの喪失は、TPH2(PMID:12546819)の発現の極めて選択的な喪失をもたらし、FEVは、中枢セロトニン産生ニューロン(PMID:10575032)に限定されているため、結果として生じるTF-CIPは、脳におけるセロトニン産生に対して極めて選択的である。更なる詳細は、2020年11月6日に出願された優先権仮出願第63/110,575号の付録Aに見出すことができ、その開示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0152】
III.ハプロ不全遺伝子ARID1Bの発現を増強するためのCIP化合物
ARID1B(BAF250b)変異は、デノボ知的障害の最も一般的な原因であり、しばしば自閉症スペクトラム障害原因である(PMID:30349098)。ARID1Bは、用量感受性であり、1つの対立遺伝子における機能変異の喪失は、知的障害、自閉症スペクトラム障害、及び/又はCoffin-Siris症候群を引き起こし得る。したがって、ARID1B発現を2倍増加させることは、治療的であろう。本発明者らは、ある対立遺伝子及び別の正常対立遺伝子における機能変異の喪失を有するCoffin-Siris患者から採取されたヒト人工多能性幹細胞(iPS)で、これを行うことができることを示した。ARID1B遺伝子のプロモーターに転写活性化因子を動員することによって、IPS細胞を神経前駆体に分化させ、ARID1Bの正常発現をもたらした(
図26)。このアプローチは、影響を受けたヒトニューロンにおけるARID1Bの発現に障壁がなく、転写因子をそのプロモーターにもたらすことが、ARID1Bハプロ不全障害を有する個体における知的障害又は自閉症を治癒又は軽減することを実証する。
【0153】
ARID1Bの発現を2倍に増加させるTF-CIPを開発するために、本発明者らは、ARID1Bが、ARID1B調節領域に結合し、この遺伝子の転写を制御する別の自閉症転写因子、TBR1によって制御されることを見出した(PMID:27325115)。
図8に提供されるステップを使用して、TBR1のためのリガンドを開発する。TBR1は、極めてニューロン特異的な遺伝子であり、ニューロンに対する選択性を与え、それによって標的副作用を回避し、治療ウィンドウを強化する。TBR1のためのリガンドは、上記のように、リンカーに結合される。これらは一方で、当該技術分野の当業者によく知られている化学結合を使用して、BRD4、nBAF、PAX5等の転写活性化因子のための既知のリガンドに結合する。
【0154】
IV.細胞特異的活性を有するTF-CIPを設計するための方法論
細胞特異的活性を有する小分子製薬を設計することは、医学における中心的な課題である。細胞特異的医薬品の相対的な欠如は、多くの治療薬が望ましくなく、時には生命を脅かす副作用を有する理由の1つである。細胞特異的活性でそれらを生じさせることができるCIP分子の特別な特徴は、それらが両方の標的タンパク質に同時に優先的に結合することである。例えば、CIP分子ラパマイシンは、その標的タンパク質、FRB及びFKBPの両方に対して、FRB単独よりも20,000倍高い親和性で結合する(PMID:15796538)。このため、CIP分子は、標的タンパク質の1つのみを発現する細胞では機能しない可能性が高い。したがって、CIP分子は、2つの標的タンパク質の発現の交差から細胞特異性を本質的にコードする。
【0155】
この例では、単一細胞遺伝子発現データ及び統計的重複及び相関分析を使用して、細胞特異的CIPの転写因子標的を特定する方法を説明する(
図7Aを参照されたい)。まず、目的の組織を解剖し、単一細胞に分離する。単一細胞からのRNAを抽出し、cDNAに変換し、バーコード化し、次世代シーケンサー上で配列決定する。配列決定の後、配列をゲノムにマッピングし、定量化する。個々の細胞は、それらの遺伝子発現プロファイルの関連性に従ってクラスター化される。いくつかの実施形態では、所望の細胞タイプは、内因性細胞特異的マーカー遺伝子の発現によって示され(例えば、FEVは、セロトニン作動性ニューロンのマーカーとして使用され得る)、一方、他の実施形態では、Creリコンビナーゼ、蛍光タンパク質、又はウイルス遺伝子発現のようなトランスジェネティックマーカー(例えば、投射特異的ニューロンの逆行標識と同様に)が、標的細胞塊を示すために使用され得る。他の実施形態では、標的細胞は、単一細胞RNA配列決定の前に(例えば、蛍光活性化細胞選別によって)精製されてもよい。
【0156】
標的細胞における共発現転写因子を特定するために、(1)ピアソン相関及び(2)統計的重複分析の2つの直交アプローチが使用される。Pearson相関マトリックスは、個々の標的細胞にわたる転写因子の対間の発現関係を表す。陽性(r>0.5)及び有意(P<0.05)相関を示す転写因子対は、Coexpressed_Target_TFsと呼ばれるリストに含まれる。重複分析を行うために、所与の転写因子を発現する細胞のリストを生成し、次いで、R中のgeneOverlapパッケージを用いて分析し(Shen L,Sinai ISoMaM(2021).GeneOverlap:遺伝子重複の試験及び可視化。Rパッケージバージョン1.30.0、http://shenlab-sinai.github.io/shenlab-sinai/)、すべての転写因子対についてオッズ比(重複の強度を測定)及びジャカード指数(2つのリスト間の類似性を測定)を表す行列を生成する。発現において有意な(P<0.05)重複を示す転写因子対も、Target_TFs listに追加される。
【0157】
次いで、非標的細胞における共発現を示す転写因子対が除外される。この分析には、ヒト組織全体からの単細胞RNA発現データが使用される(例えば、Human Protein Atlasから公的に入手可能なSingle-Cell Atlas)。該当する場合、標的細胞型からの単一細胞発現データは、この分析から除外される。非標的細胞のこのサブデータセットから、標的細胞内で発現される転写因子のそれぞれの単一細胞発現データを抽出し、上記のように、ピアソン相関及び重複分析によって分析する。有意に相関しておらず、非標的細胞におけるそれらの発現において重複しない転写因子対を、リストNontarget_TFsに追加する。Target_TFs及びNontarget_TFsのリストが交差しているため、細胞特異的転写因子対のリストが低減する。転写因子対が除外され得る追加のパラメータは、a)設定された閾値を下回る転写因子の発現レベル、b)転写因子対を発現する標的細胞のパーセント、及びc)いずれかの転写因子の結合モチーフが、標的遺伝子の近くの調節領域に存在するかどうか、である。この方法に従って、本発明者らは、ヒト黒質のドーパミン作動性ニューロンにおいて選択的共発現を示す以下の14対の転写因子を特定した:RORA:SOX6、RORA:AEBP2、AEBP:LCORL、PBX1:SETBP1、PBX1:PIAS1、PBX1:ZEB1、FOXP2:ZEB1、FOXP2:KLF12、MYT1L:ZNF91、ZFHX3:ZNF91、ZFHX3:ZNF420、ZNF91:ZNF420、AFF3:THRB、及びTAX1BP1:TCF25。これらの転写因子は、以前の実施形態に記載されるように、初期パーキンソン病患者におけるドーパミン合成を増強するための細胞特異的CIPの標的として機能し得る。
【0158】
前述の実施形態の少なくともいくつかでは、ある実施形態で使用される1つ以上の要素は、かかる置き換えが技術的に実現可能でない限り、別の実施形態で互換的に使用することができる。特許請求された主題の範囲から逸脱することなく、上記の方法及び構造に対して様々な他の省略、追加及び修正がなされ得ることが、当業者によって理解されるであろう。かかるすべての修正及び変更は、添付の特許請求の範囲によって規定される主題の範囲内であることが意図される。
【0159】
一般に、本明細書で、及び、特に、添付の特許請求の範囲(例えば、添付の特許請求の範囲の本文)で使用される用語は、概して、「オープン」用語として意図されること(例えば、「含んでいる(including)」という用語は、「含んでいるが、それに限定されない」と解釈されるべきであり、「有する(having)」という用語は、「少なくとも有する」と解釈されるべきであり、「含む(includes)」という用語は、「含むが、それに限定されない」と解釈されるべきである、等)が当業者によって理解されるであろう。特定の数の導入された特許請求列挙が意図される場合、そのような意図は特許請求項に明示的に列挙されるであろうし、そのような列挙がない場合、そのような意図は存在しないことが、当業者によって更に理解されるであろう。例えば、理解の補助として、以下の添付の特許請求の範囲は、特許請求記載を導入するために、導入句「少なくとも1つ」及び「1つ以上」の使用を含むことがある。しかしながら、同じ特許請求項が「1つ以上」又は「少なくとも1つ」という導入句、及び「1つの(a)」又は「1つの(an)」のような不定冠詞を含む場合であっても、そのような句の使用は、不定冠詞「1つの(a)」又は「1つの(an)」による特許請求記載の導入が、そのような導入された特許請求記載を含む任意の特定の特許請求項を、そのような記載を1つだけ含む実施形態に限定することを意味するように解釈されるべきではなく(例えば、「1つの(a)」及び/又は「1つの(an)」は、「少なくとも1つ」又は「1つ以上」を意味すると解釈されるべきである)、クレーム記載を導入するために使用される定冠詞の使用についても同じことが当てはまる。加えて、特定の数の導入された特許請求列挙が明示的に列挙されていても、当業者であれば、そのような列挙は、少なくとも列挙された数を意味すると解釈されるべきことを認識するであろう(例えば、他の修飾語を含まない「2つの列挙」のベアな列挙は、少なくとも2つの列挙、又は2つ以上の列挙を意味する)。更に、「A、B、及びC等のうちの少なくとも1つ」に類似する慣例が使用される場合、概して、そのような構文は、当業者なら慣例を理解するであろうという意味で意図される(例えば、「A、B、及びCのうちの少なくとも1つを有するシステム」は、以下に限定されないが、A単独、B単独、C単独、A及びBともに、A及びCともに、B及びCともに、並びに/又はA、B、及びCともに等を有するシステムを含む)。「A、B、又はCのうちの少なくとも1つ、等」に類似する慣例が使用される場合、概して、そのような構文は、当業者なら慣例を理解するであろうという意味で意図される(例えば、「A、B、又はCのうちの少なくとも1つを有するシステム」は、以下に限定されないが、A単独、B単独、C単独、A及びBともに、A及びCともに、B及びCともに、並びに/又はA、B、及びCともに等を有するシステムを含む)。明細書、特許請求の範囲、又は図面のいずれであろうと、2つ以上の代替用語を提示する実質的に任意の離接語及び/又は離接句は、用語のうちの1つ、用語のいずれか、又は両方の用語を含む可能性を意図すると理解されるべきことが、当業者には更に理解されるであろう。例えば、「A又はB」という語句は、「A」若しくは「B」又は「A及びB」の可能性を含むと理解されるであろう。加えて、本開示の特徴又は態様がマークッシュグループの観点から記載される場合、当業者であれば、本開示が、それによって、マークッシュグループの任意の個々のメンバー、又はマークッシュグループのメンバーの任意のサブグループの観点からも記載されることを認識するであろう。
【0160】
当業者には理解されるように、書面による説明を提供すること等、ありとあらゆる目的のために、本明細書に開示されるすべての範囲はまた、ありとあらゆる可能なサブ範囲、並びにそのサブ範囲の組み合わせも包含する。任意のリストされた範囲は、同じ範囲が、少なくとも等しい2分の1、3分の1、4分の1、5分の1、10分の1等に分解されることを十分に示し、分解されることを可能にするものとして容易に認識され得る。非限定的な例として、本明細書で考察される各範囲は、容易に、下側の3分の1、真ん中の3分の1、及び上側の3分の1等に分解され得る。当業者に同様に理解されるように、「最大」、「少なくとも」、「より大きい」、「より少ない」等のすべての用語は、記載される数を含み、上述のようにサブ範囲に後に分解され得る範囲を指す。最後に、当業者に理解されるように、範囲は各個々のメンバーを含む。したがって、例えば、1~3個の物品を有する群は、1個、2個、又は3個の物品を有する群を指す。同様に、1~5個の物品を有する群は、1個、2個、3個、4個、又は5個の物品を有する群を指す、等々。
【0161】
上記の発明は、明確な理解のために例示及び例によって多少詳しく説明されてきたが、当業者であれば、本発明の教示に照らして、添付の特許請求の範囲の趣旨又は範囲から逸脱することなく、それらの発明に対して特定の変更及び修正が行われ得ることは、容易に明らかである。
【0162】
したがって、上記は単に本発明の原理を例示するにすぎない。当業者は、本明細書に明示的に記載又は示されていないが、本発明の原理を具現化し、その精神及び範囲内に含まれる様々な配置を考案することができることが理解されるであろう。更に、本明細書に列挙されるすべての例及び条件付き言語は、主に、読者が本発明の原理及び当該技術を更に進めるために発明者が寄与する概念を理解するのを助けることを意図しており、そのような具体的に列挙される例及び条件に限定されないと解釈されるべきである。更に、本発明の原理、態様、及び実施形態を記載する、本明細書のすべての記述、並びにそれらの具体例は、それらの構造的及び機能的等価物の両方を包含することが意図されている。追加的に、そのような等価物は、構造に関係なく、現在知られている等価物と、将来開発される等価物との両方、すなわち、同じ機能を実行するように開発された任意の要素を含むことが意図される。更に、本明細書に開示されるいかなるものも、そのような開示が特許請求の範囲において明示的に記載されているかどうかにかかわらず、公に献呈するように意図されない。
【0163】
したがって、本発明の範囲は、本明細書に示され、説明された例示的な実施形態に限定されることを意図されていない。むしろ、本発明の範囲及び精神は、添付の特許請求の範囲によって具現化される。特許請求の範囲において、米国特許法第112条(f)又は米国特許法第112条(6)は、特許請求の範囲におけるそのような制限の開始時に正確な語句「のための手段」又は正確な語句「のためのステップ」が列挙されるときにのみ、特許請求の範囲における制限のために引用されるものとして明示的に定義され、そのような正確な語句が特許請求の範囲における制限で使用されない場合、米国特許法第112条(f)又は米国特許法第112条(6)は引用されない。
【手続補正書】
【提出日】2023-07-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
【国際調査報告】