(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-22
(54)【発明の名称】HGF活性化化合物による神経変性疾患の治療及び予防方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/365 20060101AFI20231115BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20231115BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20231115BHJP
A61K 31/215 20060101ALI20231115BHJP
【FI】
A61K31/365
A61P25/28
A61P25/16
A61K31/215
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023527973
(86)(22)【出願日】2021-11-01
(85)【翻訳文提出日】2023-06-30
(86)【国際出願番号】 US2021057502
(87)【国際公開番号】W WO2022094370
(87)【国際公開日】2022-05-05
(32)【優先日】2020-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-12-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523165488
【氏名又は名称】シナプトジェニクス,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】アルコン、ダニエル・エル.
【テーマコード(参考)】
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086CA03
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086MA65
4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZA15
4C086ZA16
4C206AA01
4C206AA02
4C206DB06
4C206DB43
4C206KA01
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA72
4C206MA85
4C206NA14
4C206ZA02
4C206ZA15
4C206ZA16
(57)【要約】
対象における神経変性疾患を治療又は予防する方法であって、治療有効量のHGF活性化化合物を投与して、対象においてHGFを活性化することにより、神経変性疾患を治療又は予防することを含む、方法。神経変性疾患は、例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症、認知症又は軽度認知障害であってもよい。この方法は、より一般的には、開示されたレジメンによる、認知能力の改善若しくは増強、認知障害の予防若しくは治療、神経変性疾患若しくは状態の予防若しくは治療、及び/又は、ニューロン若しくはシナプスの喪失に関連する疾患若しくは症状の予防若しくは治療も目的とすることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における神経変性疾患を治療又は予防する方法であって、治療有効量のHGF活性化化合物を投与して、前記対象においてHGFを活性化することにより、前記神経変性疾患を治療又は予防することを含む、方法。
【請求項2】
前記神経変性疾患は、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症、認知症及び軽度認知障害から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記HGF活性化化合物は大環状ラクトンである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記大環状ラクトンはブリオスタチン化合物である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ブリオスタチン化合物はブリオスタチン-1である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記大環状ラクトンはブリオログ化合物である、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記ブリオログ化合物の構造は
【化1】
(式中、Rは、t-ブチル、フェニル及び(CH
2)
3-p-Br-フェニルから選択される)
のいずれかである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記HGF活性化化合物は、多価不飽和脂肪酸、そのエステル、シクロプロパン化誘導体、エポキシ化誘導体又は薬学的に許容される塩である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記HGF活性化化合物は、以下の構造:
【化2】
(式中、Rはアルキル基である)
のシクロプロパン化多価不飽和脂肪酸エステルである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
患者に、50μg/m
2未満の前記HGF活性化化合物を投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
患者に、25μg/m
2未満の前記HGF活性化化合物を投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
患者に、約0.01~約20μg/m
2の前記HGF活性化化合物を投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
患者に、約1~約20μg/m
2の前記HGF活性化化合物を投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
患者に、約5~約20μg/m
2の前記HGF活性化化合物を投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記HGF活性化化合物を静脈内に投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記HGF活性化化合物を経口製剤として投与する、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
背景技術
神経変性(神経)疾患の衰弱作用はよく知られている。神経変性疾患は、一般に、中枢神経系(CNS)又は末梢神経系(PNS)におけるアミロイド前駆体タンパク質(APP)からのβ-アミロイド形成に関連している。これにより、ニューロンの喪失、ニューロンの変性、ニューロンの脱髄、グリオーシス(アストログリオーシス)、又は異常なタンパク質若しくは毒素(例.アミロイドβペプチド(Aβ))のニューロンにおける蓄積若しくはニューロン外での蓄積を含むがこれらには限定されない、ニューロン又はグリア細胞の欠損が生じる可能性がある。神経変性疾患のいくつかの例には、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症、認知症、ハンチントン病、軽度認知障害及びこれらの疾患の初期段階が含まれる。
【0002】
特に、アルツハイマー病(AD)は、一般に精神機能低下の進行を特徴とする神経変性障害である。より詳細には、ADは、臨床的には、徐々に深刻な精神変調をきたし最終的には死に至る、記憶、認知、推論、判断及び感情の安定性の進行性の喪失を特徴とする。ADの考えられるメカニズムには多くの仮説があるが、中心的な理論の1つは、有毒なβアミロイド(Aβ)ペプチドの過剰な形成と蓄積が、さまざまな細胞事象に直接的又は間接的に影響を及ぼし、ニューロンの損傷や細胞死につながるというものである。Selkoe, Neuron. 1991;6(4):487-98 1991;Selkoe, J. Clin Invest. 2002;110(10): 1375-81。ADに関連する認知症は、アルツハイマー病も併せてアルツハイマー型老人性認知症(SDAT)と呼ばれる。
【0003】
ADは進行性の疾患であり、臨床症状の発現から死亡までの平均の期間は約8~15年である。ADは、米国では死因順位が7位と考えられており、約500万人が罹患している。アルツハイマー病には一般的に、軽度(初期)、中等度(中期)及び重度(後期)の3つの病期がある。各段階は、神経学的な能力の悪化に関連している。初期(軽度)では、患者は独立して機能できるが、最近の出来事の記憶の喪失のような、認知機能に軽度な変化が生じる。中等度は、通常、最も長い段階であり、何年も続くことがあるが、記憶と思考に重大な影響を及ぼし、かつ、日常生活に支障をきたす、認知機能の低下が進行することを特徴とする。ADの重度(後期)では、コミュニケーション能力、周囲に反応する能力、及び運動や身体能力を制御する能力の喪失など、精神機能が更に低下することを特徴とする。
【0004】
プロテインキナーゼC(PKC)は、プロテインキナーゼの最大の遺伝子ファミリーの1つである。PKCα、PKCβ1、PKCβII、PKCδ、PKCε及びPKCγを含むいくつかのPKCアイソザイムが、脳で発現している。PKCは主にサイトゾルに存在するが、刺激によって膜に移行する。PKC活性化剤は、さまざまな疾患及び状態の予防及び処置と関係している。例えば、PKCは、ADに関連する多数の生化学的プロセスに関与していることが示されており、PKC活性化剤は、ADの動物モデルで神経保護活性を示す。PKCの活性化は、学習と記憶の増強で重要な役割を果たし、PKC活性化剤は、記憶力と学習力を増加させることが示されている。Sun and Alkon, Eur J Pharmacol. 2005;512:43-51;Alkon et al., Proc Natl Acad Sci USA. 2005;102:16432-16437。PKCの活性化は、ラットの海馬においてシナプス形成を誘導することが示されており、神経変性状態におけるPKC媒介抗アポトーシス及びシナプス形成の可能性が示唆される。Sun and Alkon, Proc Natl Acad Sci USA. 2008; 105(36): 13620-13625。実際、シナプス消失は、AD患者の認知症の程度と密接に相関する脳の病理学的所見と考えられる。さらに、PKCの活性化は、外傷による脳損傷が誘発する学習及び記憶障害を防ぐことが示され(Zohar et al., Neurobiology of Disease, 2011, 41: 329-337を参照)、脳卒中の動物モデルで神経保護活性を実証し(Sun et al., Eur. J. Pharmacol., 2005, 512: 43-51を参照)、うつ病の動物モデルで神経保護活性を示した(Sun et al., Eur. J. Pharmacol., 2005, 512: 43-51を参照)。
【0005】
ニューロトロフィン、特に脳由来神経栄養因子(BDNF)及び神経成長因子(NGF)は、損傷を受けたニューロン及びシナプスの修復及び再増殖を開始する重要な成長因子である。いくつかのPKCアイソフォーム、特にPKCε及びPKCαの活性化は、おそらくBDNFといったニューロトロフィンの産生を上方制御することによって、神経損傷を保護する。Weinreb et al., FASEB Journal. 2004;18: 1471- 1473)。PKCεの活性化は、シナプス形成の重要なマーカーである脳シナプス後肥厚アンカータンパク質(PSD-95)も増加させる。
【0006】
さらに、樹状突起スパインの密度の変化は、シナプス強度を増加させるシナプス構造における学習及び記憶に誘導される変化の基礎を形成する。樹状突起スパインの数と形状の異常は、注意欠陥多動性障害、統合失調症、自閉症、精神遅滞、脆弱X症候群などの多くの認知障害で観察されている。例えば、統合失調症患者や認知・気分障害の患者の脳では、これらの疾患に関連する脳の領域で樹状突起スパインの数が減少している。精神遅滞と自閉症では、樹状突起スパインの形状は長く、未熟に見える。
【0007】
神経変性疾患を治療する既存の選択肢が限られていることを考慮すると、神経変性疾患を治療し、予防し、又は発症を遅らせる新しい方法が必要である。これらの疾患に起因する神経生理学的悪化及び精神機能の低下を治療するだけでなく、これらの疾患の発症及び/又は進行に関係するメカニズムを妨害することで、進行を軽減又は停止する方法が特に必要とされている。
【発明の概要】
【0008】
この発明は、対象に治療有効量の肝細胞増殖因子(HGF)活性化化合物を投与して、神経変性疾患の症状を治療(例.軽減)又は予防することによる、神経変性疾患を治療又は予防する方法に関する。神経変性疾患は、例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症、認知症及び軽度認知障害といった、これまでに列挙した疾患のいずれのものであってもよい。HGF活性化化合物は、例えば、ブリオスタチン化合物やブリオログ化合物のような大環状ラクトンであってもよい。あるいは、HGF活性化化合物、例えば、多価不飽和脂肪酸、そのエステル、シクロプロパン化誘導体、エポキシ化誘導体又は薬学的に許容される塩であってもよい。
【0009】
注目すべきことに、従来の治療法とは対照的に、この方法は、対象のHGFを直接活性化し、(HGF活性化化合物の投与により)その受容体であるc-MetにおけるHGF活性を増強することによって作用する。PKC-α及びPKC-εアイソザイムは、HGFシグナル伝達の有効性も制御し、その逆もまた同様であることが知られている。したがって、HGFはPKC-αやPKC-εのすぐ下流にあると考えられ、これら2つのアイソザイムもHGFによって活性化され、PKC活性化剤として機能する(例.S. Kermogant, P. J. Parker, Cell Cycle, 4(3), 352-355;2005; Z. Xie et al., eNeuro, 3(4), 2016;S. Kermorgant et al., EMBO Journal, 23(19), 3721-3734, November 2004及びG. D. Sharmaa et al., Exp Eye Res., 85(2), 289-297, August 2007、これらの内容全てが参照によりこの明細書に組み込まれる)。ELAV(HUD)経路も知られており、PKCの活性化がHGFや他の成長因子を活性化する(例.J. Hongpaisan and D. L. Alkon, PNAS, 104(49), December 4, 2007)。Hongpaisan and Alkon, 2007(同上)は、ブリオスタチンによるPKCの活性化が連合学習を増強し、完全に成熟したマッシュルーム型スパインのシナプスの数を増加させることも示す。HGF-Met経路は、最終的にはPKCεを活性化するので、この明細書に記載の方法は、神経変性疾患、特にアルツハイマー病の開始及び/又は進行に関連するメカニズムに直接干渉することによって、神経変性性疾患を治療する別の方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
詳細な説明
この明細書では、単数形「a」、「an」及び「the」には複数が含まれる。
【0011】
この明細書では、用語「HGF活性化剤」は、HGFが触媒する反応の速度を増加させる物質を指す。HGFは、例えば、T. Nakamura et al., Proc., Jpn. Acad. Ser. B Phys. Biol. Sci., 86(6), 588-610, 2010.で説明されているように、当該技術分野で広く知られている。
【0012】
この明細書では、用語「脂肪酸」は、炭化水素鎖の末端に遊離の酸、その塩又はそのエステルを有する化合物を指す。特定しない場合、用語「脂肪酸」は、3つの形態全てを包含することを意味する。当業者は、特定の表現が同じ意味であることを理解する。例えば、「リノレン酸のメチルエステル」は「リノレン酸メチルエステル」と同じであり、「メチルエステルの形態のリノレン酸」と同じである。
【0013】
この明細書では、用語「シクロプロパン化」又は「CP」は、分子中の少なくとも1つの炭素-炭素二重結合がシクロプロパン基で置換されている化合物を指す。シクロプロピル基はシス又はトランスであってもよい。別段の記載がない限り、シクロプロピル基はシス配置であると理解されるべきである。複数の炭素-炭素二重結合を有する化合物には、多くのシクロプロパン化の形態がある。例えば、二重結合が1つだけシクロプロパン化されている多価不飽和化合物は、「CP1型」であるという。同様に、「CP6型」は6個の二重結合がシクロプロパン化されていることを示す。ドコサヘキサエン酸(DHA)メチルエステルは6個の炭素-炭素二重結合を有し、したがって1~6個のシクロプロパン環を有する。
【0014】
CP1及びCP6の形態を以下に示す。完全にシクロプロパン化されていない化合物(例.DHA-CP1)では、シクロプロパン基は炭素-炭素二重結合のいずれかに存在する可能性がある。
【0015】
【0016】
この明細書では、用語「コレステロール」は、コレステロールとその誘導体を指す。例えば、「コレステロール」は、ジヒドロコレステロール類を含んでいても、含んでいなくてもよい。
【0017】
この明細書では、単語「シナプス形成」は、シナプスの形成を含む過程を指す。
【0018】
この明細書では、単語「シナプスネットワーク」は、個々のニューロン間のシナプス結合及び多数のニューロンを指す。シナプスネットワークは、複数の相互作用を伴う広範な分岐を含んでいてもよい。シナプスネットワークは、例えば、共焦点顕微鏡による可視化、電子顕微鏡による可視化及び電気生理学的記録によって認識できる。
【0019】
「認識能力」及び「認識機能」というフレーズは、この出願では、同じ意味で使用され、例えば、推論、記憶、注意及び言語を包含する脳の活動を指す。これらのフレーズには、気づき、知覚、推論、判断などの精神的プロセスも含まれる。一例を挙げると、これらのフレーズは、学習、記憶、問題解決、注意など、最も単純なものから最も複雑なものまで、あらゆるタスクを実行するために必要な脳のスキルを指す。
【0020】
「薬学的に許容される」というフレーズは、生理学的に許容され、通常、対象に投与しても有害反応を引き起こさない分子及び組成物を指す。薬学的に許容される物質は、通常、動物、特にはヒトにおける使用について、規制当局によって承認されているか、又は、米国薬局方若しくは他の一般的に認められた薬局方に記載されている。用語「薬学的に許容される担体」は、一般に、活性成分を組み合わせることができ、組み合わせた後に、活性成分を対象に投与するために使用できる化学物質を指す。担体は、投与される化合物の、例えば、希釈剤、アジュバント、賦形剤又は媒体であってもよい。
【0021】
用語「治療有効量」は、測定可能な又は観察可能な治療的応答をもたらす治療薬の量をいう。治療的応答は、例えば、症状や臨床マーカーの改善を含む、治療に対する有効な応答として、妥当な医療行為を行う者(例.臨床家又は内科医)が認識できる応答である。したがって、治療的応答は、一般に、疾患又は状態の1つ以上の症状の、軽減、寛解又は抑制である。測定可能な治療的応答には、治療薬によって、症状又は疾患が、予防される、発症が遅らされる、あるいは、軽減されるという知見も含まれる。
【0022】
この明細書では、用語「対象」は、HGF活性化化合物による治療を必要とするヒト又は他の哺乳動物を指す。対象は、例えば、認知能力の増強若しくは改善、認知障害の予防若しくは治療、及び/又は、ニューロン若しくはシナプスの喪失に関連する疾患若しくは症状の予防若しくは治療を必要とするヒトであってもよい。ヒト以外の哺乳動物の例には、イヌ、ネコ、サル、類人猿が含まれる。
【0023】
この明細書では、用語「アルツハイマー病」は、軽度又は初期、中等度又は中期、及び重度又は後期といったアルツハイマー病の段階が含まれる。
【0024】
用語「およそ」及び「約」は、測定の性質又は精度を考慮した、測定された量に対する許容可能な程度の誤差を含む、これらの用語が付された数又は値とほぼ同じであることを意味する。この明細書では、用語「およそ」及び「約」は、一般に、特定の量、頻度又は値の±20%又は±10%を包含すると理解されるべきである。この明細書中の数値は、別段の記載がない限り近似値であり、これは、用語「約」又は「およそ」が、明示的に記載されていない場合に推論できることを意味する。例えば、用語「約20μg」は、正確に20gとして理解されることもあれば、16~24μg又は18~22μgとして理解されることもある。
【0025】
この明細書では、用語「投与する、投与(administer、administration又はadministering)」は、(1) 医療従事者若しくはその代理人により、又はその者の指示に従い、本願の組成物を、提供すること、与えること、投薬すること、及び/又は処方すること、(2) 患者又は本人によって、本願の組成物を摂取すること、を指す。この明細書では、組成物の「投与」は、経口、静脈内、皮下、腹腔内及び筋肉内を含む投与経路を含む。
【0026】
「週1回投与レジメン」というフレーズは、対象に、所定の連続する週数の間、毎週、ある用量の治療剤(薬)を投与する場合に使用される。例えば、対象は、連続する3週の間、毎週、治療薬が単回投与される。
【0027】
「間隔を空けたレジメン」及び「間欠的レジメン」というフレーズは、この明細書では同じ意味で使用され、規定の周期のオン/オフレジメンを指す。いくつかの態様では、HGF活性化化合物を対象に投与するために、間隔を空けたレジメン又は間欠的レジメンを使用できる。間隔を空けた又は間欠的レジメンは、例えば、HGF活性化剤を、対象に、週に1回、2又は3週間続けて投与し、その後、2又は3週間続けて投与又は投薬を停止してもよい。別の態様では、投与は、HGF活性化剤を、週に1回、2又は3週間続けて投与し、その後、2又は3週間続けて投与又は投薬を停止し、そして、この交互の間隔を約4月、約8月、約1年、約2年、約5年、又はHGF活性化剤による治療期間中、継続してもよい。
【0028】
HGF活性化剤は、適切な投与スケジュール又はレジメンに従って投与してもよい。いくつかの態様では、ブリオスタチン(例.ブリオスタチン-1)などのHGF活性化剤は、約0.01μg/m2~約100μg/m2で投与してもよい。別の態様では、投与量は、正確に、約、以上、又は以下という語句が付された、0.01μg/m2、0.05μg/m2、0.1μg/m2、0.5μg/m2、1μg/m2、5μg/m2、10μg/m2、15μg/m2、20μg/m2、25μg/m2、30μg/m2、35μg/m2、40μg/m2、45μg/m2、50μg/m2、55μg/m2、60μg/m2、65μg/m2、70μg/m2、75μg/m2、80μg/m2、85μg/m2、90μg/m2、95μg/m2若しくは100μg/m2という量であるか、又はこれらの量のいずれか2つによって境界が定められる範囲内の量、例えば、0.01~100μg/m2、0.1~100μg/m2、1~100μg/m2、5~100μg/m2、10~100μg/m2、0.01~50μg/m2、0.1~50μg/m2、1~50μg/m2、5~50μg/m2、10~50μg/m2、0.01~20μg/m2、0.1~20μg/m2、1~20μg/m2、5~20μg/m2若しくは10~20μg/m2である。特定の態様では、その量は、約10~50μg/m2、又はより具体的には、約15μg/m2、約20μg/m2、約25μg/m2、約30μg/m2、約35μg/m2、約40μg/m2、約45μg/m2若しくは約50μg/m2、若しくはこれらの量のいずれか2つによって境界が定められる範囲内の量であってもよい。なお、「μg/m2」として表される量はいずれも、マイクログラム(μg)又は体重50kg当たりのマイクログラム(μg/50kg)として理解されることもある。例えば、25μg/m2は、25μg又は25μg/50kgと理解してもよい。
【0029】
いくつかの態様では、HGF活性化剤は、用量が約0.01~100μg/m2/週で投与される。例えば、約0.01~約25μg/m2/週、約1~約20μg/m2/週、約5~約20μg/m2/週又は約10~約20μg/m2/週の用量を、毎週投与してもよい。特定の態様では、用量は、例えば、約5μg/m2/週、10μg/m2/週、15μg/m2/週、20μg/m2/週、25μg/m2/週又は30μg/m2/週以下であってもよい。これらの用量を、適切な期間、例えば、3週間、4週間(およそ1月)、2月、3月(およそ12又は13週間)、4月、5月、6月又は1年、投与してもよい。なお、「μg/m2」として表される量はいずれも、マイクログラム(μg)又は体重50kg当たりのマイクログラム(μg/50kg)として理解されることもある。
【0030】
いくつかの態様では、HGF活性化剤(例.ブリオスタチン)は、正確に又は約20μg、30μg又は40μg(20μg/m2、30μg/m2又は40μg/m2)の量が、毎週又は隔週、例えば、4週間(およそ1月)、5週間、6週間、8週間、10週間、12週間、4月、5月、6月又は1年、投与される。あるいは、初回は多い量(例.引き続く投与量よりも10%、15%、20%又は25%多い量)で投与を開始してもよい。例えば、いくつかの態様では、HGF活性化剤を、正確に又は約15μg、24μg又は48μgの量で、最初の1週間、又は、最初の2若しくは3週間投与し、その後、毎週、又は、2若しくは3週間ごとに、少なくとも4週間(およそ1月)、6週間、8週間、10週間、12週間、15週間、18週間又は、少なくとも3月、4月、5月、6月若しくは1年、それぞれ、12μg、20μg又は40μgを投与してもよい。この明細書では、用語「ごとに」は、HGF活性化剤が投与されていない期間を示す。例えば、「2又は3週間ごとに」は、それぞれ、定期的な1週間の非投与期間又は定期的な2週間の非投与期間を示し、この明細書では、それぞれ、「1オン/1オフ」及び「1オン/2オフ」レジメンとも呼ばれる。例えば、「2オン/1オフ」、「2オン/2オフ」、「1オン/3オフ」、「2オン/3オフ」、「3オン/3オフ」、「3オン/1オフ」及び「3オン/2オフ」を含む、他の交互投薬レジメンが可能である。なお、μgとして表される量はいずれも、μg/m2又は体重50kg当たりのマイクログラム(μg/50kg)として理解されることもある。
【0031】
別の側面では、BDNFの回復又は上方制御、シナプス後肥厚アンカータンパク質PSD-95の増加、及びPCK-εの下方制御の低下又は防止におけるHGF活性化剤のこのような間欠的投与の作用が開示されている。BDNFは、シナプス形成の誘導や、認知機能の改善に関与するペプチドである。ADにおけるBDNF多型の証拠は依然として確定していないが、シナプス喪失はADの唯一で最も重要な相関因子である。BDNF量の低下は、ADでは、多くのタイプの認知症に共通する非認知的症状である無気力に関連している(Alvarez et al., Apathy and APOE4 are associated with reduced BDNF levels in Alzheimer’s disease, J. Alzheimers Dis., 42:1347-1355, 2014)。BDNFの発現は少なくとも9つのプロモーターによって調節され(Aid et al., Mouse and rat BDNF gene structure and expression revisited, J. Neurosci. Res.; 85:525-535, 2007;Pruunsild et al., Dissecting the human BDNF locus: bidirectional transcription, complex splicing, and multiple promoters, Genomics, 90:397-406, 2007)、プロモーターIV(PIV)がニューロンの活性に最も反応する(Tao et al., Ca2 influx regulates BDNF transcription by a CREB family transcription factor-dependent mechanism, Neuron, 20:709-726, 1998)。ADで減少するPKCε(Hongpaisan et al., PKC epsilon activation prevents synaptic loss, Abeta elevation, and cognitive deficits in Alzheimer’s disease transgenic mice, J. Neurosci., 31:630-643, 2011;Khan et al., PKC-epsilon deficits in Alzheimer’s disease brains and skin fibroblasts, J. Alzheimers Dis., 43:491-509, 2015)もBDNFの発現を調節する(Lim and Alkon, 2012;Corbett et al., 2013;Hongpaisan et al., PKC activation during training restores mushroom spine synapses and memory in the aged rat, Neurobiol. Dis., 55:44-62, 2013;Neumann et al., Increased BDNF protein expression after ischemic or PKC epsilon preconditioning promotes electrophysiologic changes that lead to neuroprotection, J. Cereb. Blood Flow Metab., 35:121-130, 2015)。
【0032】
この発明の他の態様は、対象に治療有効量のHGF活性化剤を投与することを含む、対象の認知能力を改善し若しくは増強する、必要とする対象の認知障害を予防し若しくは治療する、必要とする対象の神経変性障害を治療し若しくは予防する、及び/又は、必要とする対象のニューロン若しくはシナプスの喪失に関連する疾患若しくは症状を予防若しくは治療する方法を目的とする。いくつかの態様では、治療有効量のHGF活性化剤を、明細書に記載の適切な投与スケジュール又はレジメンに従って投与する。いくつかの態様では、HGF活性化剤の投与により、連合学習が増強され、完全に成熟したマッシュルーム型スパインのシナプスの数が増加する。他の態様では、HGF活性化剤の投与は、例えば、脆弱X症候群のように、マッシュルーム型スパインのシナプスが変形している神経変性障害に罹患した対象における、成熟したマッシュルーム型スパイン又はマッシュルーム型スパインのシナプスの少なくとも部分的又は完全な回復をもたらす。
【0033】
対象は、神経変性障害(例えは、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症、認知症(例.前頭側頭型認知症又は血管性認知症)、軽度認知障害、慢性外傷性脳症、外傷性脳損傷、脆弱X、ニーマン-ピックC、うつ、双極性障害、統合失調症、心的外傷後ストレス障害、脳卒中、精神遅滞又は脳損傷)の治療を必要とする可能性がある。
【0034】
特定の態様では、この明細書に記載の方法は、アルツハイマー病(AD)又はADと直接若しくは間接的に関連する神経変性障害の治療又は予防に使用される。ある態様では、対象は、中等度から重度又は重度(すなわち、後期又は進行した)ADに罹患している。別の態様では、対象は初期のADである。別の態様では、対象はADとは診断されていないが、ADを発症する可能性がある特定の合理的な認知的変化又は障害を示すため、ADのリスクがあるとみなされる。この明細書に記載の方法は、これまでに説明した、さまざまな他の神経変性疾患の治療又は予防にも使用できる。この方法は、これらの神経変性疾患のリスクがあると判定された対象において、そのような神経変性疾患のいずれに対しても予防的に使用できる。
【0035】
別の態様では、HGF活性化剤は、大環状ラクトン、ブリオログ、ジアシルグリセロール、イソプレノイド、オクチルインドラクタム、グニジマクリン、インゲノール、イリパリダール、ナフタレンスルホンアミド、ジアシルグリセロール阻害剤、成長因子、多価不飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸、シクロプロパン化多価不飽和脂肪酸、シクロプロパン化一価不飽和脂肪酸、脂肪酸アルコール及び誘導体、並びに脂肪エステルから選択される。特定の態様では、HGF活性化剤は、ブリオスタチン及びネリスタチン(例.ネリスタチン-1)から選択される大環状ラクトンである。別の態様では、HGF活性化剤は、ブリオスタチン-1、ブリオスタチン-2、ブリオスタチン-3、ブリオスタチン-4、ブリオスタチン-5、ブリオスタチン-6、ブリオスタチン-7、ブリオスタチン-8、ブリオスタチン-9、ブリオスタチン-10、ブリオスタチン-11、ブリオスタチン-12、ブリオスタチン-13、ブリオスタチン-14、ブリオスタチン-15、ブリオスタチン-16、ブリオスタチン-17又はブリオスタチン-18といった、ブリオスタチンである。別の態様では、HGF活性化剤はブリオスタチン-1である。ある態様では、ブリオスタチン-1のようなHGF活性化剤の治療有効量は約25μg/m2である。
【0036】
いくつかの態様では、HGF活性化剤は大環状ラクトンである。大環状ラクトン類(マクロライドとしても知られている)は、一般に、14、15又は16員ラクトン環を有する。マクロライドは、天然産物のポリケチドに属する。大環状ラクトン類及びその誘導体は、例えば、米国特許第6,187,568号、第6,043,270号、第5,393,897号、第5,072,004号、第5,196,447号、第4,833,257号、第4,611,066号及び第4,560,774号に記載されており、それぞれ、全体が参照によりこの明細書に組み込まれる。これらの特許は、大環状ラクトン類のさまざまな化合物と、抗炎症剤又は抗がん剤としてのそれらの使用を含むさまざまな用途が記載されている。Szallasi et al. J. Biol. Chem. (1994), vol. 269, pp. 2118-2124;Zhang et al., Cancer Res. (1996), vol. 56, pp. 802-808;Hennings et al. Carcinogenesis (1987), vol. 8, pp. 1343-1346;Varterasian et al. Clin. Cancer Res. (2000), vol. 6, pp. 825-828;Mutter et al. Bioorganic & Med. Chem. (2000), vol. 8, pp. 1841-1860も参照、それぞれ、全体が参照によりこの明細書に組み込まれる。特定の態様では、大環状ラクトンは、ブリオスタチンである。ブリオスタチンには、例えば、ブリオスタチン-1、ブリオスタチン-2、ブリオスタチン-3、ブリオスタチン-4、ブリオスタチン-5、ブリオスタチン-6、ブリオスタチン-7、ブリオスタチン-8、ブリオスタチン-9、ブリオスタチン-10、ブリオスタチン-11、ブリオスタチン-12、ブリオスタチン-13、ブリオスタチン-14、ブリオスタチン-15、ブリオスタチン-16、ブリオスタチン-17及びブリオスタチン-18が含まれる。
【0037】
ある態様では、ブリオスタチンは、ブリオスタチン-1(以下に示す)である。
【0038】
【0039】
別の態様では、ブリオスタチンは、ブリオスタチン-2(以下に示す;R=COC7H11、R’=H)である。
【0040】
【0041】
別の態様では、大環状ラクトンは、ネリスタチン-1のようなネリスタチンである。別の態様では、大環状ラクトンは、24-オクタヘプタシクロノナコサン-25-オン(環状DHA-CP6)(以下に示す)のようなシクロプロパン化PUFAの大環状誘導体から選択される。
【0042】
【0043】
別の態様では、大環状ラクトンは、ブリオスタチンの類似体であるブリオログである。ブリオログは化学的に合成でき、また、特定の細菌が産生することもある。例えば、環A、B及びC(上記のブリオスタチン-1を参照)並びにさまざまな置換基で修飾された、各種ブリオログが存在する。一般的な概要として、ブリオログはブリオスタチンよりも特異性が低く、活性も低いと考えられているが、その製造は簡単である。
【0044】
表1に、いくつかのブリオログの構造的特徴とPKCに対する親和性(0.25nM~10μM)をまとめる。ブリオスタチン-1は2つのピラン環と1つの6員環状アセタールを有するが、ほとんどのブリオログではブリオスタチン-1のピラン環の1つが第2の6員アセタール環に置き換えられている。この修飾により、例えば強酸又は強塩基中でのブリオログの安定性が、ブリオスタチン-1と比較して低下する可能性があるが、生理的pHではほとんど意味がない。ブリオログは、ブリオスタチン-1(988g/mol)と比較して分子量が低い(約600g/mol~755g/mol)傾向があり、そのため、血液脳関門を通過する輸送が促進される可能性がある。
【0045】
【0046】
アナログ1は、PKCに対する親和性が最も大きい。Wender et al., Curr. Drug Discov. Technol. (2004), vol. 1, pp. 1-11;Wender et al. Proc. Natl. Acad. Sci. (1998), vol. 95, pp. 6624-6629;Wender et al., J. Am. Chem. Soc. (2002), vol. 124, pp. 13648-13649、それぞれ、全体が参照によりこの明細書に組み込まれる。アナログ1のみがPKCに対する親和性がブリオスタチン-1より大きい。ブリオスタチン-1のA環を欠くアナログ2は、PKCに対する高い親和性が維持された最も単純なアナログである。活性なブリオログに加えて、26位がアセチル化されているアナログ7dは、PKCに対する親和性を実質的に有していない。
【0047】
【0048】
この発明では、B環ブリオログも使用できる。これらの合成ブリオログの親和性は、低いナノモルオーダーである。Wender et al., Org Lett. (2006), vol. 8, pp. 5299-5302、全体が参照によりこの明細書に組み込まれる。B環ブリオログには完全に合成できるという利点があり、天然物からの精製を必要としない。
【0049】
【0050】
適切なブリオスタチン類似体の第3のクラスは、A環ブリオログである。これらのブリオログは、PKCに対する親和性がブリオスタチン-1よりわずかに小さく(ブリオログ3、4及び5で、それぞれ6.5nM、2.3nM及び1.9nM)、分子量が低い。A環の置換基は発がん性がないことにとって重要である。
【0051】
ブリオスタチン類似体は、例えば、米国特許第6,624,189号及び第7,256,286号に記載されている。認知能力を改善するために大環状ラクトンを使用する方法は、米国特許第6,825,229号にも記載されている。
【0052】
HGF活性化剤には、ジアシルグリセロール(DAG)の誘導体が含まれてもよい。例えば、Niedel et al., Proc. Natl. Acad. Sci. (1983), vol. 80, pp. 36-40;Mori et al., J. Biochem. (1982), vol. 91, pp. 427-431;Kaibuchi et al., J. BioI. Chem. (1983), vol. 258, pp. 6701-6704を参照。ジアシルグリセロール誘導体の脂肪酸置換基によって、活性の程度が決まる可能性がある。不飽和脂肪酸で置換されたジアシルグリセロールの活性が最も高いと考えられる。立体異性体の配置は重要であり;1,2-sn配置の脂肪酸は活性であるが、2,3-sn-ジアシルグリセロール及び1,3-ジアシルグリセロールはHGF又はPKCに結合しないかもしれない。シス不飽和脂肪酸は、ジアシルグリセロールと相乗作用を示す可能性がある。いくつかの態様では、DAG又はDAG誘導体は、HGF活性化剤に含まれない。
【0053】
HGF活性化剤にはイソプレノイドが含まれてもよい。例えば、ファルネシル チオトリアゾールは、PKCを活性化するKdが2.5μMの合成イソプレノイドである。例えば、ファルネシル チオトリアゾールは、活性がジオレオイルグリセロールと同等であり、加水分解を受ける脂肪酸エステルを有していない。Gilbert et al., Biochemistry (1995), vol. 34, pp. 3916-3920、全体が参照によりこの明細書に組み込まれる。ファルネシル チオトリアゾールとその関連化合物は、安定で、持続的なPKC活性化剤である。ファルネシル チオトリアゾールは、分子量が低く(305.5g/mol)、電荷を有する置換基がないため、容易に血液脳関門を通過する可能性がある。
【0054】
【0055】
さらに、他のHGF活性化剤には、オクチルインドラクタムV、グニジマクリン及びインゲノールが含まれる。オクチルインドラクタムVは、テレオシジンに関係する非ホルボール性のプロテインキナーゼC活性化剤である。オクチルインドラクタムV(特に(-)-エナンチオマー)の利点としては、優れた代謝安定性、高い有効性(EC50=29nM)、及び血液脳関門を通過する輸送を促進する低分子量であることが考えられる。Fujiki et al. Adv. Cancer Res. (1987), vol. 49 pp. 223-264;Collins et al. Biochem. Biophys. Res. Commun. (1982), vol. 104, pp. 1159-4166、それぞれ、全体が参照によりこの明細書に組み込まれる。
【0056】
【0057】
グニジマクリンは、マウスの白血病及び固形腫瘍に対し0.1nM~1nMで強力な抗腫瘍活性を示すダフナン型ジテルペンである。K562細胞では0.3nMでHGF又はPKC活性化剤として作用し、Cdc25Aの抑制とそれに続くサイクリン依存性キナーゼ2(Cdk2)の阻害(5ng/mlで100%阻害)により、G1/S期で細胞周期の進行を制御する可能性がある。グニジマクリンは、ブリオスタチン-1に似た複素環式天然物であり、分子量はやや低い(774.9g/mol)。
【0058】
イリパリダールは、アイリス パリダ(Iris pallida)から単離された二環式トリテルペノイドである。イリパリダールは、NCI60細胞株スクリーニングにおいて、マイクロモルからナノモルのGI50(増殖を50%阻害する濃度)で抗増殖活性を示す。高い親和性(Ki=75.6nM)でPKCαに結合する。RasGRP3依存的にErk1/2のリン酸化を誘導する可能性がある。分子量は486.7g/molである。イリパリダールはブリオスタチン-1の約半分のサイズで、電荷を有する置換基がない。
【0059】
【0060】
インゲノールはホルボールに関係するジテルペノイドであるが、その毒性は低い。その由来はmilkweed植物のチャボタイゲキ(Euphorbia peplus)である。例えば、インゲノール 3,20-ジベンゾエートは、PKCとの結合で[3H]ホルボール ジブチレートと競合する(Ki=240nM)。Winkler et al., J. Org. Chem. (1995), vol. 60, pp. 1381-1390、参照によりこの明細書に組み込まれる。インゲノール-3-アンゲレートは、局所的に使用して、扁平上皮がん及び黒色腫に対して抗腫瘍活性を示す。Ogbourne et al. Anticancer Drugs (2007), vol. 18, pp. 357-362、参照によりこの明細書に組み込まれる。
【0061】
【0062】
HGF活性化剤には、N-(n-ヘプチル)-5-クロロ-1-ナフタレンスルホンアミド(SC-10)及びN-(6-フェニルヘキシル)-5-クロロ-1-ナフタレンスルホンアミドといったナフタレンスルホンアミドが含まれてもよい。SC-10は、ホスファチジルセリンと同様のメカニズムでカルシウム依存的にPKCを活性化する可能性がある。Ito et al., Biochemistry (1986), vol. 25, pp. 4179-4184、参照によりこの明細書に組み込まれる。ナフタレンスルホンアミドはブリオスタチンとは別のメカニズムで作用し、ブリオスタチン又は他のHGF活性化剤と相乗効果を示す可能性がある。構造的には、ナフタレンスルホンアミドはカルモジュリン(CaM)アンタゴニストであるW-7と類似するが、CaMキナーゼには作用しないことが報告されている。
【0063】
HGF活性化剤には、PKCを間接的に活性化するジアシルグリセロールキナーゼ阻害剤が含まれてもよい。ジアシルグリセロールキナーゼ阻害剤の例として、6-(2-(4-[(4-フルオロフェニル)フェニルメチレン]-1-ピペリジニル)エチル)-7-メチル-5H-チアゾロ[3,2-a]ピリミヂン-5-オン(R59022)及び3-[2-[4-(ビス-(4-フルオロフェニル)メチレン)ピペリジン-1-イル]エチル]-2,3-ジヒドロ-2-チオキソ-4(1H)-キナゾリン(R59949)があるが、これらには限定されない。
【0064】
HGF活性化剤は、線維芽細胞成長因子18(FGF-18)及びインスリン成長因子などのPKC経路を通じて機能する成長因子であってもよい。FGF-18の発現は学習時に上方制御されており、インスリン成長因子の受容体は学習に関与していると考えられている。これらによる、又は他の成長因子によるPKCシグナル伝達経路の活性化は、PKCを活性化する追加の潜在的な手段を提供する。
【0065】
HGF活性化剤には、4-メチルカテコール酢酸(MCBA)などの4-メチルカテコール誘導体を含む、ホルモン及び成長因子活性化剤が含まれてもよく、これらは、NGFやBDNFといった成長因子の合成及び/又は活性化を刺激し、PKCだけでなく、シナプス形成及び/又は神経突起の分岐に関与する収束経路も活性化する。
【0066】
HGF活性化剤には、多価不飽和脂肪酸(PUFA)が含まれてもよい。これらの化合物は神経系の必須成分で、多くの健康上の利点がある。一般に、PUFAは膜の流動性を高め、急速に酸化されて生理活性の高い物質となり、さまざまな炎症作用やホルモン作用を引き起こし、急速に分解され、代謝される。炎症作用と急速な代謝は、活性な炭素-炭素二重結合の結果の可能性が高い。
【0067】
ある態様では、PUFAはリノール酸(以下に示す)から選択される。
【0068】
【0069】
HGF活性化剤は、PUFA又はMUFAの誘導体であってもよい。特定の態様では、PUFA又はMUFAの誘導体はシクロプロパン化誘導体である。DCPLA(2つの二重結合がシクロプロパン環となったリノール酸)などの特定のシクロプロパン化PUFAは、HGF又はPKC-εを選択的に活性化できる可能性がある。Journal of Biological Chemistry, 2009, 284(50): 34514-34521;米国特許出願公開第2010/0022645号を参照。それらの親分子と同様、PUFA誘導体は、PS部位に結合することでPKCを活性化すると考えられている。
【0070】
シクロプロパン化脂肪酸は毒性が低く、脳に容易に取り込まれ、半減期(t1/2)が長い。二重結合のシクロプロパン環への変換により、酸化と炎症性の副産物への代謝が防止され、HGF又はPKCの活性化が促進される可能性があるよりリジッドなU字型の三次元構造が形成される。さらに、このU字型構造によりアイソフォーム特異性が向上する可能性がある。例えば、シクロプロパン化脂肪酸は、HGF又はPKC-εの強力で選択的な活性化を示す可能性がある。
【0071】
Simmons-Smithシクロプロパン化反応は、二重結合をシクロプロパン基に変換する効率的な方法である。この反応はカルベノイド中間体を介して作用し、親分子のシス立体化学を保持する。したがって、HGF活性化特性が増加し、生体反応性のエイコサノイド、トロンボキサン又はプロスタグランジンといった他の分子への代謝が妨げられる。
【0072】
ω-3 PUFA誘導体は、HGF活性化脂肪酸の一種である。少なくとも1つの態様では、ω-3 PUFA誘導体は、シクロプロパン化ドコサヘキサエン酸、シクロプロパン化エイコサペンタエン酸、シクロプロパン化ルメレン酸、シクロプロパン化パリナリン酸及びシクロプロパン化リノレン酸から選択される(CP3型を以下に示す)。
【0073】
【0074】
ω-6 PUFA誘導体は、HGF活性化脂肪酸の別の種類である。少なくとも1つの態様では、ω-6 PUFA誘導体は、シクロプロパン化リノール酸(「DCPLA」、CP2型を以下に示す)
【0075】
【0076】
シクロプロパン化アラキドン酸、シクロプロパン化エイコサジエン酸、シクロプロパン化ジホモ-γリノレン酸、シクロプロパン化ドコサジエン酸、シクロプロパン化アドレン酸、シクロプロパン化カレンジン酸、シクロプロパン化ドコサペンタエン酸、シクロプロパン化ジャカル酸、シクロプロパン化ピノレン酸、シクロプロパン化ポドカルピン酸、シクロプロパン化テトラコサテトラエン酸及びシクロプロパン化テトラコサペンタエン酸から選択される。
【0077】
ベルノル酸は天然物である。しかし、それはリノール酸のエポキシ化誘導体であることから、この明細書では、ω-6 PUFA誘導体とみなされる。ベルノル酸に加え、シクロプロパン化ベルノル酸(以下に示す)もω-6 PUFA誘導体である。
【0078】
【0079】
ω-9 PUFA誘導体は、HGF活性化脂肪酸の別の種類である。少なくとも1つの態様では、ω-9 PUFA誘導体は、シクロプロパン化エイコセン酸、シクロプロパン化ミード酸、シクロプロパン化エルカ酸及びシクロプロパン化ネルボン酸から選択される。
【0080】
一価不飽和脂肪酸(MUFA)の誘導体は、HGF活性化脂肪酸の更に別の種類である。少なくとも1つの態様では、MUFAの誘導体は、シクロプロパン化オレイン酸(以下に示す)
【0081】
【0082】
及び、シクロプロパン化エライジン酸(以下に示す)
【0083】
【0084】
から選択される。
【0085】
HGF活性化MUFA誘導体には、トランス-9,10-エポキシステアリン酸(以下に示す)
【0086】
【0087】
などのエポキシ化化合物が含まれる。
【0088】
ω-5及びω-7 PUFA誘導体は、HGF活性化脂肪酸の別の種類である。少なくとも1つの態様では、ω-5及びω-7 PUFA誘導体は、シクロプロパン化ルーメン酸、シクロプロパン化α-エレオステアリン酸、シクロプロパン化カタルプ酸(catalpic acid)及びシクロプロパン化プニカ酸から選択される。
【0089】
シクロプロパン化PUFA及びMUFA脂肪アルコール(fatty alcohol)のような脂肪酸を還元したアルコールとその誘導体は、HGF活性化剤の別の種類である。これらのアルコールは、PS部位に結合することでPKCを活性化すると考えられている。これらのアルコールは、さまざまな脂肪酸に由来する。
【0090】
少なくとも1つの態様では、HGF活性化脂肪アルコールは、ω-3 PUFA、ω-6 PUFA、ω-9 PUFA及びMUFA、特に、上記脂肪酸に由来する。少なくとも1つの態様では、脂肪アルコールは、シクロプロパン化リノレニルアルコール(CP3型を以下に示す)
【0091】
【0092】
シクロプロパン化リノレイルアルコール(CP2型を以下に示す)
【0093】
【0094】
シクロプロパン化エライジックアルコール(以下に示す)
【0095】
【0096】
シクロプロパン化DCPLAアルコール、及びシクロプロパン化オレイルアルコールから選択される。
【0097】
HGF活性化剤の別の種類には、シクロプロパン化PUFA及びMUFA脂肪エステル(fatty ester)といった、脂肪酸エステル及びその誘導体が含まれる。少なくとも1つの態様では、シクロプロパン化脂肪エステルは、ω-3 PUFA、ω-6 PUFA、ω-9 PUFA、MUFA、ω-5 PUFA及びω-7 PUFAに由来する。これらの化合物は、PS部位に結合することでPKCを活性化すると考えられている。このようなエステルの利点の1つは、対応する遊離の酸よりも安定であると一般に考えられていることである。
【0098】
ある態様では、ω-3 PUFAに由来するHGF活性化脂肪酸エステルは、シクロプロパン化エイコサペンタエン酸メチルエステル(CP5型を以下に示す)
【0099】
【0100】
及び、シクロプロパン化リノレン酸メチルエステル(CP3型を以下示す)
【0101】
【0102】
から選択される。
【0103】
別の態様では、ω-3 PUFAエステルは、DHA-CP6と脂肪族及び芳香族アルコールのエステルから選択される。少なくとも1つの態様では、エステルは、シクロプロパン化ドコサヘキサエン酸メチルエステル(CP6型を以下に示す)
【0104】
【0105】
である。
【0106】
ある態様では、ω-6 PUFAに由来するHGF活性化脂肪エステルは、シクロプロパン化アラキドン酸エステル(CP4型を以下に示す)
【0107】
【0108】
シクロプロパン化ベルノル酸メチルエステル(CP1型を以下に示す)
【0109】
【0110】
及び、ベルノル酸メチルエステル(以下に示す)
【0111】
【0112】
から選択される。
【0113】
特定の態様では、HGF活性化化合物はDCPLA(CP6-リノール酸)のエステル誘導体である。ある態様では、DCPLAのエステルはアルキルエステルである。DCPLAアルキルエステルのアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状及び/又は環状であってもよい。アルキル基は飽和であっても不飽和であってもよい。アルキル基が不飽和環状アルキル基である場合、環状アルキル基は芳香族であってもよい。アルキル基は、例えば、メチル、エチル、プロピル(例.イソプロピル)及びブチル(例.tert-ブチル)エステルから選択されてもよい。メチルエステル型のDCPLA(DCPLA-ME)を以下に示す。
【0114】
【0115】
別の態様では、DCPLAのエステルはベンジルアルコール(非置換ベンジルアルコールエステルを以下に示す)から誘導される。更に別の態様では、DCPLAのエステルは、酸化防止剤として使用されるフェノールや学習促進作用を有する天然のフェノールなどの芳香族アルコールから誘導される。いくつかの具体例には、エストラジオール、ブチル化ヒドロキシトルエン、レスベラトロール、ポリヒドロキシル化芳香族化合物及びクルクミンが含まれる。
【0116】
【0117】
HGF活性化剤の別の種類には、シクロプロパン化MUFAに由来する脂肪エステルが含まれる。少なくとも1つの態様では、シクロプロパン化MUFAエステルは、シクロプロパン化エライジン酸メチルエステル(以下に示す)
【0118】
【0119】
及びシクロプロパン化オレイン酸メチルエステル(以下に示す)
【0120】
【0121】
から選択される。
【0122】
別の種類のHGF活性化剤には、PUFA、MUFA及びそれらの誘導体に由来する硫酸塩及びリン酸塩が含まれる。少なくとも1つの態様では、硫酸塩は、DCPLA硫酸塩及びDHA硫酸塩(CP6型を以下に示す)
【0123】
【0124】
から選択される。
【0125】
ある態様では、リン酸は、DCPLAリン酸及びDHAリン酸(CP6型を以下に示す)
【0126】
【0127】
から選択される。
【0128】
いくつかの態様では、HGF活性化剤は、大環状ラクトン、ブリオログ、ジアシルグリセロール、イソプレノイド、オクチルインドラクタム、グニジマクリン、インゲノール、イリパリダール、ナフタレンスルホンアミド、ジアシルグリセロール阻害剤、成長因子、多価不飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸、シクロプロパン化多価不飽和脂肪酸、シクロプロパン化一価不飽和脂肪酸、脂肪酸アルコール(fatty acid alcohol)及び誘導体、又は脂肪酸エステルから選択される。
【0129】
この発明のHGF活性化剤は、経口投与、非経口投与、経粘膜投与、鼻腔内投与、吸入又は経皮投与などの従来の方法によって、必要とする患者/対象に投与できる。非経口投与には、静脈内、細動脈内、筋肉内、皮内、皮下、腹腔内、脳室内、くも膜下腔内、ICV、大槽内注射又は注入、及び頭蓋内投与が含まれる。血液脳関門を通過できるように、適切な投与経路を選択してもよい。例えば、J. Lipid Res. (2001) vol. 42, pp. 678-685を参照。参照によりこの明細書に組み込まれる。
【0130】
HGF活性化剤は、医薬配合の一般原理によって、対象への投与に適した医薬組成物に配合できる。ある側面では、薬学的に許容される組成物は、HGF活性化剤及び薬学的に許容される担体を含む。
【0131】
この明細書に記載の組成物の製剤は、当該技術分野で知られている適切な方法によって調製できる。一般に、そのような調製方法には、少なくとも1つの活性成分と担体を結合させることが含まれる。必要であるか、望まれる場合、得られた製品は、所望の単回又は複数回投与単位に成形又は包装できる。
【0132】
この明細書で検討するように、担体には、賦形剤;界面活性剤;分散剤;不活性希釈剤;造粒及び崩壊剤;結合剤;潤滑剤;甘味料;香味料;着色料;保存料;ゼラチンなどの生理分解組成物;水性の媒体及び溶媒;油性の媒体及び溶媒;懸濁化剤;分散又は湿潤剤;乳化剤、粘滑剤;緩衝剤;塩;増粘剤;充填剤;乳化剤;酸化防止剤;抗生物質;抗真菌剤;安定化剤;及び薬学的に許容されるポリマー又は疎水性材料の1つ以上が含まれるが、これらには限定されない。本発明の組成物に含まれてもよい追加の成分は、当該技術分野で一般に知られており、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, Genaro, ed., Mack Publishing Co., Easton, Pa., 1985及びRemington's Pharmaceutical Sciences, 20th Ed., Mack Publishing Co. 2000(両者とも参照によりこの明細書に組み込まれる)に記載されている可能性がある。
【0133】
少なくとも1つの態様では、担体は水性又は親水性の担体である。別の態様では、担体は、水、生理食塩水又はジメチルスルホキシドであってもよい。更に別の態様では、担体は疎水性の担体である。疎水性の担体には、包接複合体、分散液(ミセル、マイクロエマルション、エマルションなど)及びリポソームが含まれる。代表的な疎水性の担体には、包接複合体、ミセル及びリポソームが含まれる。例えば、Remington's: The Science and Practice of Pharmacy 20th ed., ed. Gennaro, Lippincott: Philadelphia, PA 2003を参照。参照によりこの明細書に組み込まれる。さらに、例えば製剤を安定化させるために、疎水性担体又は溶液に他の化合物を含めてもよい。
【0134】
いくつかの態様では、この明細書に記載の組成物は、経口製剤に製剤化してもよい。経口投与の場合、組成物は、例えば結合剤(例.アルファ化トウモロコシデンプン、ポリビニルピロリドン又はヒドロキシプロピルメチルセルロース);充填剤(例.乳糖、結晶セルロース又はリン酸水素カルシウム);潤滑剤(例.ステアリン酸マグネシウム、タルク又はシリカ);崩壊剤(ジャガイモデンプン又はデンプングリコール酸ナトリウム);又は湿潤剤(ラウリル硫酸ナトリウム)などの担体を用い、従来の方法で調製される錠剤又はカプセル剤であってもよい。錠剤は、当該技術分野で一般に知られている方法でコーティングしてもよい。
【0135】
別の態様では、本明細書の組成物は液体製剤に製剤化される。このような製剤は、例えば、液剤、シロップ剤若しくは懸濁液であってもよく、又は使用前に水若しくは他の適切な媒体で再構成する乾燥製剤として提供されてもよい。このような液体製剤は、懸濁化剤(例.ソルビトールシロップ、セルロース誘導体又は食用硬化油);乳化剤(例.レシチン又はアラビアゴム);非水性媒体(例.アーモンド油、油性エステル、エチルアルコール又は分別植物油)及び保存料(例.p-ヒドロキシ安息香酸メチル若しくはプロピル、又はソルビン酸)といった薬学的に許容される担体を使用して従来の方法で調製してもよい。製剤は、必要に応じて、緩衝塩、香味料、着色料及び甘味料を含んでいてもよい。いくつかの態様では、液体製剤は経口投与に特化して設計される。
【0136】
この発明の別の態様では、本明細書の組成物は、ボーラス注射又は持続注入といった非経口投与剤形に製剤化してもよい。注射用製剤は、保存料と共に、単位剤形、例えばアンプル又は複数回投与用の容器に入れて提供できる。組成物は、油性又は水性媒体中の、懸濁液、溶液、分散液又はエマルションであってもよく、懸濁化剤、安定剤及び/又は分散剤などの添加物を含んでいてもよい。
【0137】
別の態様では、本明細書の組成物は、デポー製剤として製剤化してもよい。このような製剤は、(例えば、皮下又は筋肉内)移植又は筋肉内注射によって投与できる。例えば、組成物は、適切なポリマー若しくは疎水性材料(例えば、許容される油とのエマルションとして)若しくはイオン交換樹脂と共に、又は難溶性誘導体(例.難溶性塩)として製剤化してもよい。
【0138】
別の態様では、少なくとも1つのHGF活性化剤又はその組合せは、ミセル、リポソーム、又は人工低密度リポタンパク質(LDL)粒子などの小胞を使用して送達される。例えば、米国特許第7,682,627号を参照、この内容は参照によりこの明細書に組み込まれる。
【0139】
いくつかの態様では、少なくとも1つのHGF活性化剤又はHGF活性化剤の組合せは、最終製剤の約0.01重量%~約100重量%、約0.1重量%~約90重量%、約0.1重量%~約60重量%、約0.1重量%~約30重量%、又は約1重量%~約10重量%で医薬組成物中に存在してもよい。別の態様では、少なくとも1つのHGF活性化剤又はHGF活性化剤の組合せは、組成物中に約0.01%~約100%、約0.1%~約95%、約1%~約90%、約5%~約85%、約10%~約80%、及び約25%~約75%で存在してもよい。
【0140】
この発明はさらに、この発明のHGF活性化剤を対象に投与するために利用できるキットに関する。キットは、保存及び/又は投与のためのデバイスを有していてもよい。例えば、キットは、注射器、針、無針注射器、滅菌パッド、綿棒、バイアル、アンプル、カートリッジ、ボトルなどを有していてもよい。保存及び/又は投与デバイスは、例えば、容積の測定を可能にするように目盛りが付与されていてもよい。少なくとも1つの態様では、キットは、他の要素とは別の容器に入れられた少なくとも1つのHGF活性化剤を有する。
【0141】
キットは、局所麻酔薬などの1つ以上の麻酔薬を有していてもよい。少なくとも1つの態様では、麻酔薬は、すぐに使用できる製剤、例えば、注射可能な製剤(場合によっては、1つ以上の事前に装填されたシリンジに入っている)又は局所的に適用できる製剤である。麻酔薬の局所製剤は、パッド、綿棒、タオル、使い捨てナプキン、布、パッチ、包帯、ガーゼ、綿球、Q-tip(登録商標)、軟膏、クリーム、ゲル、ペースト、液体、又は他の局所適用物に含まれる麻酔薬であってもよい。この発明で共に使用する麻酔薬には、リドカイン、マルカイン、コカイン及びキシロカインが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0142】
キットは、少なくとも1つのHGF活性化剤又はその組合せの使用に関する説明書を有していてもよい。別の態様では、キットは、少なくとも1つのHGF活性化剤又はその組合せの製剤を、混合、希釈又は調製するための手順についての説明書を有していてもよい。説明書には、混合後で投与前に、所望のpH若しくはpHの範囲、活性及び/又はタンパク質濃度を得るために、少なくとも1つのHGF活性化剤又はその組合せの製剤を適切に希釈するための指示が記載されていてもよい。説明書には投与量に関する情報が記載されていてもよい。説明書には、少なくとも1つのHGF活性化剤又はその組合せによる治療で対象を選択する方法に関する資料が記載されていてもよい。
【0143】
HGF活性化剤は、各投与経路に適した従来の非毒性の薬学的に許容される担体、アジュバント及び媒体を有する適切な単位投与形態中に単独で製剤化できる。薬学的組成物は、神経変性疾患の治療、又は神経変性障害を発症するリスクの軽減のために承認されている他の治療的に活性な化合物を更に含んでいてもよい。
【0144】
この明細書で言及した全ての参考文献、特許及び刊行物は、参照によりその全体がこの出願に組み込まれる。
【0145】
以下の実施例は、この発明の特定の好ましい態様を更に説明するために例示として示すものであり、この発明を制限することは意図しない。
【実施例】
【0146】
マウスによる実験を、下記のプロトコルにより、上記のようにブリオスタチン-1又は他のHGF活性化化合物を用いて、実施できる。レジメンの評価には以下の指標が使用できる:脳シナプス後肥厚アンカータンパク質PSD-95の誘導、脳におけるBDNFの上方制御、脳におけるHGFの上方制御、PKC-εの最小限の下方制御、並びに、脳及び血漿中のブリオスタチン又は他のHGF活性化化合物の濃度の上昇。マウスを2~3匹の群に分け、承認された動物実験施設に収容してもよい。水は自由に与えてもよい。最初の実験では、マウスを3群に分け、各群に、1、2、3又は6週間連続して、週に1回投与した。各群には、同じ数のマウスの対照群がある。例えば、第1、第2及び第3の群のマウスには、それぞれ、用量が10μg/m2、15μg/m2及び25μg/m2のブリオスタチン又は他のHGF活性化化合物を静脈内(i. v.)注射する。それぞれの用量において、その群のマウスは、所定の連続する週の間、週に1回、ブリオスタチン又は他のHGF活性化化合物の単回注射を受ける。投与後マウスを屠殺し、各動物の血液及び脳を収集して分析する。
【0147】
10μg/m2のブリオスタチン又は他のHGF活性化化合物の3週又は6週間の投与(静脈内投与)では、脳内のBDNFは上昇しない可能性がある。15μg/m2の3週連続投与で、脳内BDNFの上昇が認められる可能性があり、脳内BDNFの最大の上昇は25μg/m2で認められる可能性がある。25μg/m2では、脳内BDNFは毎週の投与につれて増加する可能性があり、すなわち、脳内BDNFは連続する3週後に最大となる可能性がある。
【0148】
シナプス形成マーカーPSD-95に関しても同様の観察が可能である。25μg/m2のブリオスタチン又は他のHGF活性化化合物を週1回、静脈内に注射した3週間後の対象の脳及び血液の試料には、多くのPSD-95が含まれる可能性がある。さらに、3週間連続して週1回25μg/m2を投与した場合は、低用量を3週間連続して投与した場合よりも脳内におけるPKC-εの下方制御は生じない可能性がある。10μg/m2の週1回投与を更に連続3週間続けた(合計6週間)場合、下方制御が生じる可能性がある。
【0149】
3週間連続して週1回25μg/m2を投与した場合は、低用量を3週間連続して投与した場合よりも脳内におけるPKC-εの下方制御は生じない可能性があるが、この高用量の投与を続けると、「1オン/1オフ」及び「2オン/1オフ」レジメンでは下方制御が更に進む可能性がある。PKC-εはブリオスタチン又は他のHGF活性化化合物の標的であることから、このタンパク質の量の低下は、アルツハイマー病患者の認知機能の低下につながる可能性がある。いくつかの態様では、マウスにブリオスタチン又は他のHGF活性化化合物を、25μg/m2で3週間連続して週1回投与し、その後3週間連続して薬物投与を停止し、その後更に3週間連続して25μg/m2で2回目の投与を行う(すなわち、「3オン/3オフ/3オン」の投与レジメン)。他の態様では、マウスに、25μg/m2を「1オン/1オフ」レジメンで合計9週間投与する(例.ブリオスタチン又は他のHGF活性化化合物を、1、3、5、7及び9週目に1回投与し、2、4、6及び8週目は投与しない)。他の態様では、マウスに、25μg/m2を「2オン/1オフ」レジメンで開始し、次いで、「1オン/1オフ」レジメンで合計9週目まで投与する(すなわち、ブリオスタチン又は他のHGF活性化化合物を、1、2、4、6及び8週目に1回投与し、3、5、7及び9週目は投与しない)。休憩間隔(「オフ」の期間)を3週間に増やすと、PKCの下方制御が大幅に減少する可能性がある。つまり、「3オン/3オフ」投与レジメンは、他の投与レジメンよりもマウスの脳内PKC-εの量を増加させる可能性があり、その結果、最適な認知効果につながる。
【0150】
マウスの脳のBDNFは、ブリオスタチン又は他のHGF活性化化合物を25μg/m2で3週間連続して週1回投与した後に最高レベルに達し、更に3週間続けて投与せず、その後25μg/m2で更に3週間連続して週1回投与したに後に、上昇したままである可能性がある。BDNFはシナプス形成(新しいシナプスの形成)を誘導するペプチドであることから、「3オン/3オフ」レジメンはシナプス形成を最大化し、PKCの下方制御を最小限に抑える可能性がある。
【0151】
血液脳関門(BBB)を通過するブリオスタチン又は他のHGF活性化化合物、並びに、マウスの脳及び血漿中のブリオスタチン又は他のHGF活性化化合物の、定常状態における量について、更に評価してもよい。いくつかの態様では、静脈内に投与されたブリオスタチン又は他のHGF活性化化合物はBBBを通過する。その場合、マウスの脳内のブリオスタチン又は他のHGF活性化化合物の濃度は、血漿中の濃度よりも低い可能性がある。そして、脳内の濃度は、定常状態での同等の投与量における血漿中の濃度よりも2倍以上低い可能性がある。
【0152】
25μg/m2のブリオスタチン又は他のHGF活性化化合物を3週間連続して単回注射する週1回投与レジメンは、マウスの脳内でブリオスタチン又は他のHGF活性化化合物の濃度を高くする効果が、25μg/m2の「1オン/1オフ」又は「2オン/1オフ」投与よりも低い可能性がある。対照的に、ブリオスタチン又は他のHGF活性化化合物の血漿濃度は、薬剤を3週間連続単回投与した場合に高くなる可能性がある。ブリオスタチン又は他のHGF活性化化合物の血漿濃度は、25μg/m2の「1オン/1オフ」又は「2オン/1オフ」投与を受けたマウスでは低くなる可能性がある。特定の理論に束縛されるものではないが、間欠的レジメンが、BBBを通過するブリオスタチン又は他のHGF活性化化合物の輸送を促進するという仮説を立てることができる。
【0153】
これまで、本発明の好ましい態様と考えられるものを説明してきたが、当業者は、特許請求の範囲によって規定されるこの発明の範囲内でさまざまな変更及び修正を加えることができる。
【国際調査報告】