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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-22
(54)【発明の名称】選択的ホスフェートの抽出
(51)【国際特許分類】
   C01B 25/22 20060101AFI20231115BHJP
   C01B 25/28 20060101ALI20231115BHJP
   C01B 25/222 20060101ALI20231115BHJP
【FI】
C01B25/22 Z
C01B25/28 C
C01B25/222
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023528100
(86)(22)【出願日】2021-11-09
(85)【翻訳文提出日】2023-06-28
(86)【国際出願番号】 NL2021050686
(87)【国際公開番号】W WO2022098241
(87)【国際公開日】2022-05-12
(31)【優先権主張番号】2026857
(32)【優先日】2020-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523167806
【氏名又は名称】サスホス・ベー・フェー
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】スヒッペル,ビレム・ヨハン
(72)【発明者】
【氏名】アジャオ,フィクトル・オルソラ
(57)【要約】
本発明は、リン酸の製造方法、方法によって得られるリン酸、リン酸アンモニウム塩の製造、及びアンモニウム塩の使用に関する。リン酸の製造方法であって、i)リン含有材料を有機溶媒なしで酸と反応させ、それによってリン酸を含む反応混合物を形成し、酸が3.5以下のpKaを有するステップ、及びii)有機溶媒を反応混合物に添加することによって、反応混合物からリン酸を抽出し、それによってリン酸溶液を形成するステップを含み、反応混合物の全重量に対して20重量%以下の自由水が反応混合物に添加され、リン含有材料はホスフェートを含む二次原材料を含む、方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸の製造方法であって、
i)リン含有材料を有機溶媒なしで酸と反応させ、それによってリン酸を含む反応混合物を形成し、酸が3.5以下のpKaを有するステップ、及び
ii)有機溶媒を反応混合物に添加することによって、反応混合物からリン酸を抽出し、それによってリン酸溶液を形成するステップ
を含み、反応混合物の全重量に対して、20重量%以下の自由水が反応混合物に添加され、リン含有材料がホスフェートを含む二次原材料を含む、方法。
【請求項2】
リン含有材料と酸を合わせたものが、それらを合わせた全重量に対して20重量%以下の量の自由水を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
自由水の量が10重量%以下、好ましくは5重量%以下、より好ましくは2重量%以下である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
10重量%以下、好ましくは5重量%以下、より好ましくは2重量%以下の自由水が反応混合物に添加される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
反応混合物が、反応混合物の全重量に対して、少なくとも30重量%、好ましくは少なくとも50重量%の結晶骨格に由来する水を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
有機溶媒が、前記有機溶媒の大気圧における沸点より低い温度の反応混合物に添加され、好ましくは温度は35℃~100℃である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
リン含有材料が、アパタイト、リン酸カルシウム、ストルバイト(struvite)、藍鉄鉱、下水汚泥灰、肉骨粉の灰、及び肥料灰から選択される1種以上、好ましくはストルバイト、藍鉄鉱、下水汚泥灰、肉骨粉の灰、リン酸カルシウム、及び肥料灰から選択される1種以上を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
リン含有材料が、ストルバイトを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
リン含有材料が、下水汚泥灰を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
酸が、2.2以下、好ましくは-1.0以下のpKaを有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
酸が、1種以上の無機酸、好ましくは硫酸、リン酸、硝酸及び塩酸から選択される1種以上、より好ましくは硫酸を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
有機溶媒が水混和性である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
有機溶媒が、1種以上の、アルコール、エーテル、ニトリル及び/又はケトン、好ましくはC~C18アルキル及びアルキレンの、モノアルコール及びポリアルコール、ケトン並びにエーテルの群から選択される1種以上を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
有機溶媒が、アセトン、メタノール、エタノール、イソプロパノール及びジイソプロピルエーテルから選択される1種以上、好ましくはイソプロパノール、アセトン、メタノール及びエタノールから選択される1種以上を含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
有機溶媒がアセトンを含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
リン酸が、リン含有材料と酸の間の自然な発熱反応によって形成される、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
プロトンとして計算される酸と、Pとして計算されるリン含有材料中のリンの間のモル比が、1:1以上、好ましくは1:1~15:1である、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
モル比が3:1~12:1である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
ステップi)及び/又はステップii)にリン酸を添加するステップをさらに含む、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
リン酸溶液から溶媒を除去し、それによってリン酸を得るステップをさらに含む、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
リン酸溶液をアンモニア処理して、リン酸アンモニウム塩を形成するステップをさらに含む、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
リン酸が、リン酸の全重量に対して少なくとも50重量%のPの強度を有する、請求項20に記載の方法によって得られるリン酸。
【請求項23】
強度が75重量%以上のPである、請求項22に記載のリン酸。
【請求項24】
請求項21に記載の方法によって得られるリン酸アンモニウム塩の、肥料材料、難燃剤、飼料添加物、又は酵母栄養分としての使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸及びホスフェートの製造の分野である。本発明は、商業的に興味深い方法を提供するので、ホスフェート製造産業において統合することができる。特に、本発明は、リン酸及び誘導体塩の製造及び使用、とりわけ廃棄物流れなどの二次ホスフェートからの製造に関する。本発明は、リン酸の製造方法、及び方法によって得られるリン酸に関する。本発明は、さらにリン酸アンモニウム塩の製造、及び例えば、肥料材料、難燃剤、飼料添加物又は酵母栄養分としての塩の使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
リンは、生命にとって不可欠な元素であり、肥料、難燃剤及び他の多くの化学製品で使用される。リンは、鉱山からほぼ独占的に調達され、リン製品の大部分は、使用後に、土壌に結合して埋め立て処分に終わる、又は水路若しくは他の廃液に終わり、再利用されない。これは持続可能なアプローチではない。
【0003】
一般に、リン酸肥料の基本原料であるリン酸は、リン鉱石に対する酸攻撃(硫酸、又は例外的に塩酸)を通して得られる(ウルマンの技術百科事典)。この技術は1世紀以上前から知られており、リン酸及びほとんどの誘導体リン酸塩含有化合物、主として肥料であるが、工業用、飼料用及び食品用グレードのホスフェートの基礎を形成している。
【0004】
ホスフェートが(希釈)リン酸の形態で存在する場合、これは有機溶媒を使用して抽出することができることが知られている(IN201647036270)。水混和性溶媒を使用してホスフェートを抽出し、精製されたリン酸を製造する、岩石からのリン酸の製造について多くが知られている(とりわけ、GB-A-1345710、及びUS05/881087)。
【0005】
ホスフェート抽出用の二相システムも実証されており、有機画分中にホスフェートをもたらしている。有機画分からリン酸を抽出することができると、高濃度の酸が得られ、多くの場合精製された形態になる可能性がある。特定の場合、ホスフェートは有機画分から沈殿して不溶性リン酸塩をもたらす。
【0006】
循環経済に備え、かつ一次供給源、すなわちリン鉱山の資源が乏しくなっても、ホスフェート及び誘導体の安定供給を継続するために、廃棄物のリサイクル、特にホスフェートを含有する廃棄物のリサイクルに目を向ける必要がある。比較的多量のリンを含有する、ある特定の廃棄物材料が存在する。例としては、ストルバイト(struvite)、藍鉄鉱、骨粉灰、下水汚泥灰他が挙げられる。これらの供給源が、ホスフェート製品の有用で、経済的に実現可能な供給源になるためには、廃棄物から貴重なホスフェートを選択的に得る、単純で効率が高く費用対効果の高い方法が必要である。
【0007】
これらの二次ホスフェートに従来の湿式方法を使用するのは、多くの課題がある。本質的にリン酸カルシウム(アパタイト)であるリン鉱石から出発する従来の方法は、硫酸カルシウムが水及びリン酸中でほぼ不溶性であることに依存している。
【0008】
例えば、FR-1.480.663は、リン酸を製造方法を開示しており、これは従来のリン鉱石を酸性化することを含んでいる。この方法は、産業界によって大規模に行われている、通常の水ベースのリン酸製造の延長である。加熱が含まれない場合に手順の有効性が容認し難く低いと、FR-1.480.663の実施例で立証されているように、この方法はリン鉱石の予熱が必要である。大量のホスフェート供給源の加熱は、投資コスト及び運転コストに関する限りコストがかかる。故に、大規模にホスフェート供給源を加熱するのは特に望ましくない。例えば、粉末状ホスフェートの場合、こうした材料は相当程度までオフガス流れへ運ばれる傾向があり、効率の低下をもたらす。その結果、ホスフェートが周囲に分散しプロセスから失われるのを防ぐために、サイクロン及びバグフィルターなどのコストのかかる装置を設置する必要がある。
【0009】
リン鉱石が主としてリン酸カルシウムを含む場合、ストルバイト、藍鉄鉱及び下水汚泥灰などの二次ホスフェートは、鉄、アルミニウム、マグネシウム及び/又はアンモニウムのホスフェートなどの他の成分を含有する。鉄、アルミニウム、マグネシウム及びアンモニウムの硫酸塩は、水及びリン酸に著しく可溶であり、したがって、形成されたリン酸からの沈澱によるこれらの成分の意味のある分離を防ぐ。リン酸からそれらを除去するのは簡単ではなく、大きな資本コスト及び運転コストが伴う。
【0010】
ホスフェートを有用な製品へリサイクルするために、多くの方法が提案されてきた。
【0011】
例えば、EP-A-3266742はストルバイト、下水汚泥灰などの二次材料から、電気分解によってリン酸を製造する方法を開示している。しかし、この方法は、高価で複雑な装置を必要とし、かなりの量の電力を使用し、工業用強度に達するために濃縮する必要がある薄いリン酸を製造する。
【0012】
WO-A-2019/125293は、ストルバイトを塩酸に溶解させ、続いて非混和性有機抽出剤によって抽出する方法を記述している。当業者には公知なように、こうした方法は、ミキサーセトラー、パルスカラム、撹拌カラム、非撹拌カラム、インラインミキサー、遠心接触装置などの使用を含む。これによって、こうした方法を構築し運転するのに費用がかかる。さらに、こうした方法が、例えば入力パラメータの変化によってもたらされる混乱に敏感なことも、よく知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】IN 201647036270
【特許文献2】英国特許出願公開第1345710号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第05/881087号明細書
【特許文献4】仏国特許出願公開第1.480.663号明細書
【特許文献5】欧州特許出願公開第3266742号明細書
【特許文献6】国際公開第2019/125293号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、従来技術で直面した不利点の1つ以上に取り組むことである。本発明のさらなる目的は、二相抽出系の代替案を提供し、付加的な複雑さを回避することである。他の目的としては、ホスフェートの抽出時間の低減及びリン含有材料を粉砕する必要性を省くことが挙げられる。特別の目的は、効率的で低コストであるリン酸の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、リン含有材料を直接酸性化し、反応の固有発熱性を使用することによって、これらの目的の1つ以上に少なくとも部分的に合致できることを見出した。
【0016】
したがって、リン酸の製造方法であって、
i)リン含有材料を有機溶媒なしで酸と反応させ、それによってリン酸を含む反応混合物を形成し、前記酸は3.5以下のpKaを有するステップ、及び
ii)有機溶媒を反応混合物に添加することによって、反応混合物からリン酸を抽出し、それによってリン酸溶液を形成するステップ
を含み、好ましくは、反応混合物の全重量に対して、20重量%以下の自由水が反応混合物に添加される、方法が提供される。
【発明の効果】
【0017】
リン酸を製造するための公知の方法(method)及びプロセス(process)と比較して、本発明は、リン含有材料、特に二次ホスフェート供給源の高速、高収率、単純な変換を提供する新しく革新的なアプローチをとり、高純度で高度に濃縮されたリン酸製品及び副生物を与える。本発明の革新的な抽出方法は、例えば、肥料に必要なリン酸を製造するのに理想的に適合した、直接的で経済的に興味深い抽出方法を提供するための、ホスフェートの単相性抽出に関する。本発明により、製品及び副生物は複雑でない方法で分離される。従来の湿式方法で遭遇する分離問題は、例えば、リン酸は可溶性であるが、本開示で言及した成分、例えば、カルシウム、鉄、アルミニウム及びマグネシウムの硫酸塩などの他の副生物は、わずかしか溶けない又は不溶性である有機溶媒を使用することによって、克服される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の第1の態様では、リン酸の製造方法であって、
i)リン含有材料を有機溶媒なしで酸と反応させ、それによってリン酸を含む反応混合物を形成し、前記酸は3.5以下のpKaを有するステップ、及び
ii)有機溶媒を反応混合物に添加することによって、反応混合物からリン酸を抽出し、それによってリン酸溶液を形成するステップ、
を含み、反応混合物の全重量に対して、20重量%以下の自由水が反応混合物に添加され、リン含有材料がホスフェートを含む二次原材料を含む、方法が提供される。
【0019】
本発明のさらなる態様では、本発明の第1の態様の方法によるプロセスによって得られるリン酸が提供される。この方法は、リン酸溶液から溶媒を除去してリン酸を得るステップをさらに含む。リン酸は、リン酸の全重量に対して少なくとも50重量%、好ましくは75重量%以上のPの強度を有する。
【0020】
まださらなる本発明の態様では、本発明の第1の態様の方法によるプロセスによって得られるリン酸アンモニウム塩の、肥料材料、難燃剤、飼料添加物、又は酵母栄養分としての使用が提供される。この方法は、リン酸溶液へ、リン酸と反応してリン酸アンモニウム塩を形成する(すなわち、アンモニアと化合する)反応物を添加するステップをさらに含む。
【0021】
一般的な意味において、本発明は、リン含有材料、特に二次ホスフェート供給源から、効率的で直接的な方法によりホスフェートを抽出するための賢明な洞察に基づいている。本開示に記述されているように、有機溶媒がなく、低重量パーセントの自由水の存在下で、リン含有材料を酸性化することによって、高濃度のリン酸に到達することができ、それによって驚くほど商業的に興味深い方法としている。本発明は、例えば、下水汚泥焼却灰などの廃棄物流れに見出される、鉄及び/又はアルミニウムを含む二次ホスフェート供給源を含むリン含有(廃棄物)材料から、選択的に貴重なホスフェートを抽出し、例えば、90重量%以下のP濃度を有するリン酸をもたらす、単純で、しかも、効率的な方法を提供する。このリン酸は直接販売したり、又は商業的に興味深いリン酸塩に転換することができる。
【0022】
単数形で名詞(例えば、リン酸アンモニウム塩、酸、溶媒など)に言及する場合、複数が含まれるという意味である、又は文脈から単数のみを指すべきとわかる。
【0023】
本開示で使用する「結晶骨格」という用語は、例えば、塩の結晶骨格を指すことを意味する。結晶骨格は、少なくとも部分的に、リン含有材料に由来することができる。水は、結晶骨格に見出すことができる。こうした水は、例えば、結晶骨格を加熱又は可溶化することによって、結晶骨格から除去することができる。故に、「結晶骨格に由来する水」という表現である。化合物の水含有量は、熱重量分析、核磁気共鳴分光法、及びさらにX線回折結晶学により決定することができる。
【0024】
本開示で使用する「自由水」という用語は、水が、例えば、本開示に記述されている結晶骨格又はリン含有材料などの固形物に拘束されていない状態に由来する、水を指すという意味である。特に、この用語は、それ自体として及び/又は溶液の一部として添加される水を指す。従来の湿式方法と異なり、好ましくは、プロセス(例えば、反応混合物)に非常にわずかしか(すなわち、20重量%以下)又は全く水が添加されず、そのため本開示に記述されているように、生成したリン酸は高濃度で高純度である。特に、リン含有材料及び/又は酸によって、プロセスへ、20重量%以下の自由水などの非常にわずかな自由水が導入される、又は全く自由水が導入されない可能性がある。
【0025】
本開示で使用する「リン酸」という用語は、リンオキソ酸を指す意味である。特に、この用語は、各リン原子が4つの酸素原子に結合し、酸素原子の1つは二重結合を通して結合し、酸素原子は隅に配置されて、四面体型の分子を形成するリン酸を指すために使用される。リンは、+5の酸化状態を有し得る。加えて、リン酸は、1つ以上のPO四面体を含むことができ、それによって直鎖又は分岐鎖、サイクル、又はより複雑な構造を形成する。こうしたリン酸の例は、オルトリン酸、ピロリン酸、三リン酸などのオリゴリン酸、スーパーリン酸及びポリリン酸である。
【0026】
本開示で使用する「有機溶媒のない」という表現は、有機溶媒は存在しない又は微量で存在することを示す意味である。特に、有機溶媒の量は、反応混合物の全重量に対して4重量%以下、3重量%以下、2重量%以下、又は約1重量%以下など、約5重量%以下であってもよい。好ましくは、反応混合物中の有機溶媒の量は、反応混合物の全重量に対して0.25重量%以下、又は0.1重量%以下など、0.5重量%以下である。より好ましくは、反応混合物は有機溶媒が(本質的に)ない。
【0027】
本発明は、例えば、ホスフェートを含む二次原材料、及びリン鉱石からのホスフェートの抽出に適用することができる。本発明は、遠方の可能性があり供給の確保が難しい鉱山に依存することなく、本開示で定義される高純度で濃縮されたリン酸及びホスフェート誘導体の供給を地域の市場に提供することができる。本発明は、例えば、ストルバイト及び/又は下水汚泥灰などのリサイクルされたリンの大量の供給源を、ホスフェートの抽出のために処理することを可能にする。
【0028】
本発明は、リン酸の製造のための単相性抽出方法を提供する。この方法は、リン含有材料を酸と反応させるステップを含む。特に、リン含有材料は、酸を材料に添加することによって直接酸性化される。酸性化、又は酸攻撃中に、リン含有材料の構造を少なくとも部分的に(化学的及び/又は物理的に)破壊することができる。直接リン含有材料を酸性化することによって、短時間のスパンで反応をさらに前に促進する高い反応温度に到達することができる。これが、反応混合物の低い自由水含有量(例えば、20重量%以下)と組み合わせて、反応を著しく前に促進する。リン含有材料のこうした破壊は、酸とリン含有材料の成分の間の一連の反応によって、表現することができる。例えば、酸が硫酸を含む場合、リン酸カルシウムなどのリン酸塩は、硫酸カルシウム及びリン酸に少なくとも部分的に変換される。
【0029】
驚くべきことに、リン含有材料、特に、本開示で定義される水含有量で、特に水のない、下水汚泥灰などの、例えば、鉄及び/又はアルミニウムを含む二次ホスフェート(ホスフェートを含む二次原材料)を酸性化することによって、自生的加熱が起こり、これが材料のリン酸への高収率変換を可能にするのに十分であることを、本発明者らは発見した。その後、本開示で定義される溶媒を使用して、リン酸を選択的に抽出することができる。その結果、本発明は、本開示で言及した従来技術に記述されているものなどの、従来の方法の複雑さ及びコストを回避する。
【0030】
リン含有材料は、ホスフェート及び/又はリン鉱石含む二次原材料を含んでもよい。特に、リン含有材料は、ホスフェートを含む二次原材料を含む。リン含有材料は、ホスフェートを含む二次原材料であってもよい。ホスフェートを含む二次原材料は、さらに使用するための、農業食品産業界からの廃棄物、スラッジ等などの、ホスフェートを含む任意の好適な低品質の、使用済の、拒絶された及び/又は消耗した材料であってもよい。例えば、二次ホスフェート含有材料は、ホスフェート回収操作から提供されてもよい。特に、リン含有材料は、アパタイト、リン酸カルシウム、ストルバイト、藍鉄鉱、下水汚泥灰、肉骨粉の灰、及び肥料灰からなる群から選択される1種以上を含む。好ましくは、材料は、ストルバイト、藍鉄鉱、下水汚泥灰、肉骨粉の灰、リン酸カルシウム、及び料灰から選択される1種以上を含む。より好ましくは、材料はストルバイト及び/又は下水汚泥灰を含む。
【0031】
酸は、多くても3.5のpKaを有することによって特徴づけられる。本開示でpKa値に言及されて、多塩基酸の場合には、pKa値はそのpKa値のいずれであってもよく、好ましくは第1のイオン化定数(pKa)である。pKa値が低いほど、酸が強い。特に、酸は、2.5以下、2.2以下、2.0以下、1.5以下、1.0以下、0.5以下、又はさらに約0.0若しくはそれ以下など、3.0以下のpKaを有する。好ましくは、酸は、-1.0以下、-1.5以下、-2.0以下、又は-3.0以下など、-0.5以下のpKaを有する。
【0032】
特に、酸は1種以上の無機酸を含む。例示的な無機酸としては、硫酸、硝酸、塩酸、リン酸、過塩素酸等が挙げられる。硫酸は、特に少なくとも約60%、好ましくは約96%又は98%など、少なくとも約80%の、任意の濃度を有して選択することができる。硝酸は、約68%以上の濃度を有し得る。任意の濃度、特に約34%以上など、少なくとも約30%の塩酸を選択することができる。約75~85%の範囲など、任意の濃度のリン酸を選択することができる。任意の濃度、特に約70%以上など、約60%以上の過塩素酸を選択することができる。好ましくは、酸は、硫酸、リン酸、硝酸及び塩酸から選択される1種以上を含む。より好ましくは、酸は、約96~98%の濃度を有する硫酸など、硫酸を含む。
【0033】
リン含有材料と酸の間の反応により、リン酸を含む反応混合物が形成される。本開示に記述されているように、反応は有機溶媒なしで行われる。例えば、反応混合物は反応混合物の全重量に対して、2重量%以下の有機溶媒を含んでもよい。好ましくは、反応は有機溶媒の不在下で行われる。
【0034】
リン含有材料と酸の間の反応は、典型的には自然な発熱反応である。故に、反応が起こる温度は、反応投入混合物に依存する。反応は、典型的には積極的な加熱を必要としない。反応が進行する温度は、とりわけ、開始温度、反応時に発生する熱及び反応に外部から加えられる冷却/加熱手段に依存する。温度は、リン含有材料を効率的に変換して、リン酸を形成するのに十分であるべきである。それに対して、反応混合物を積極的に加熱してもよい。反応が起こる温度は、約90~210℃など約50℃~約250℃であり得る。50℃より低い温度では、反応はゆっくり起こり、完了に達しない恐れがある。反応の後、反応混合物の温度は典型的には下がり、それによって例えば、高くても約100℃の温度に達する。
【0035】
方法は、抽出の前に反応混合物を冷却するステップをさらに含んでもよい。好ましくは、冷却するステップは外部冷却を含む。冷却ステップにより、溶解した塩は結晶化することができ、その結果沈澱物のろ過がより容易になる、及び/又は蒸発による抽出を意図した溶媒のかなりの部分を失うことなく、有機溶媒と反応混合物の混合が可能になる。
【0036】
方法は、反応混合物に有機溶媒を添加することによって、反応混合物からリン酸を抽出するステップをさらに含む。特に、有機溶媒はリン酸混和性である。好ましくは、有機溶媒は水混和性である。つまり、有機溶媒及び水は、混合すると均一混合物を形成することができる。
【0037】
有機溶媒は、必ずではないが、典型的には、有機溶媒の大気圧における沸点より低い温度の反応混合物に添加される。有機溶媒は、例えば1~18個の炭素原子を有する、酸素含有有機溶媒であってもよい。有機溶媒は、1種以上の、アルコール、エーテル、ニトリル、及び/又はケトンを含んでもよい。アルコール及びケトンは、溶媒として特に有用である。特に、有機溶媒は、C~C18アルキル及びアルキレンの、モノアルコール及びポリアルコール、ケトン並びにエーテルからなる群から選択される1種以上のメンバーを含む。有機溶媒は、アセトン、ブタノン、メチルイソブチルケトン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジイソプロピルエーテル、アセトニトリル、メチルt-ブチルエーテル、及びメチルエーテルケトンから選択される1種以上を含んでもよい。有機溶媒の大気圧における沸点は、少なくとも35℃、好ましくは100℃以下であり得る。したがって、溶媒は、アセトン、ブタノン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、アセトニトリル、メチルt-ブチルエーテル、及びメチルエーテルケトンから選択される1種以上を含んでもよい。特に、溶媒の沸点は50~90℃である。故に、有機溶媒は、好ましくはアセトン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、及び/又はジイソプロピルエーテルを含む。好ましくは、溶媒の沸点は55~85℃である。より好ましくは、有機溶媒は、アセトン、イソプロパノール、メタノール及び/又はエタノールを含む。水と共沸混合物を形成しない溶媒を使用して、特によい抽出結果が得られた。例えば溶媒の蒸留によって、プロセス内での溶媒の再使用を行ってもよい。例えば、反応物の1つの固有の水含有量によって、水がプロセスに添加される場合、水と共沸混合物を形成する溶媒は、次のサイクルで制御されない方法でプロセスへ水を添加することになり、これは望ましくない。故に本開示に記述されている有機溶媒は、好ましくは水と共沸混合物を形成しない。したがって、さらにより好ましくは、有機溶媒はアセトンを含む。
【0038】
特に、このプロセスによれば、反応混合物の全重量に対して20重量%以下の自由水が、反応混合物に添加される。反応混合物に添加される自由水の量は、14重量%以下、13重量%以下、12重量%以下、11重量%以下、又は10重量%以下など、15重量%以下であってもよい。好ましくは、反応混合物に添加される自由水の量は、4重量%以下又は3重量%以下など、5重量%以下である。より好ましくは、反応混合物に添加される自由水の量は、1重量%など、2重量%以下である。さらにより好ましくは、本質的に自由水は反応混合物に添加されない(すなわち、反応混合物の約0重量%)。理論に拘束されるものではないが、反応混合物に添加される少量の自由水は、可溶性のリン酸及び/又はホスフェート化合物を本開示に記述されているように、高収率及び高純度で得ることに寄与すると考えられる。反応混合物に20重量%以下の自由水を添加する理由の1つは、本開示に記述されているように、高濃度でリン酸を得ることが望ましいということであり、高濃度のリン酸は、例えば、最小限の費用で輸送することができる。加えて、こうした少量の自由水を反応混合物に添加することによって、抽出ステップは、とりわけ、望ましいより少量の水含有量を有する次のサイクルのための再使用可能な溶媒をもたらす。
【0039】
自由水に加えて、例えば、結晶骨格に初めから存在して、水が反応混合物に存在してもよい。例えば、リン含有材料の組成に応じて、結晶骨格に由来する水の量は変動し得る。したがって、反応混合物は、例えば、下水汚泥の場合には、反応混合物の全重量に対して、ほぼゼロ重量パーセント、又はそれ以上、例えば、少なくとも30重量%の結晶骨格に由来する水を含んでもよい。特に、反応混合物は、45重量%以上又は50重量%以上など、40重量%以上の結晶骨格に由来する水を含んでもよい。
【0040】
自由水は、さらにリン含有材料にも存在することができる。リン含有材料及び/又は酸は、自由水を含んでもよい。どちらの場合も、自由水の量は、リン含有材料及び/又は酸の組成に応じて変動する可能性がある。特に、リン含有材料と酸を合わせたものは、リン含有材料と酸を合わせた全重量に対して、20重量%以下の自由水を含んでもよい。リン含有材料と酸を合わせたものは、13重量%以下又は11重量%など、15重量%以下の自由水を含んでもよい。好ましくは、リン含有材料と酸を合わせたものにおける自由水の量は、9重量%以下、8重量%以下、7重量%以下、又は6重量%以下など、10重量%以下である。より好ましくは、リン含有材料と酸を合わせたものにおける自由水の量は、4重量%以下、3重量%以下、又は2重量%以下など、5重量%以下である。さらにより好ましくは、リン含有材料と酸を合わせたものにおける自由水の量は、それらの合わせた全重量に対して、1重量%以下である。リン含有材料と酸を合わせたものにおけるこうした量の自由水は、リン含有材料の直接酸性化及び前記材料と酸の間の発熱反応に寄与すると考えられる。そのため、酸性化反応を促進するのに必要な熱は、より少ない又は必要でさえない。故に、リン含有材料と酸を合わせたものにおける自由水の量を低く保つことによって、前記材料と酸の間の反応は、自然な及び/又は発熱性となることがある。
【0041】
プロセスは、リン酸を添加するステップをさらに含んでもよい。リン酸は、ステップi)など、抽出ステップii)の前に、例えば、ステップi)の下の反応混合物に;ステップi)とii)の間に;並びに/又は反応混合物へ有機溶媒を添加する前、有機溶媒を添加するのと同時、及び/若しくは有機溶媒を添加した後などの、抽出ステップii)の途中に、添加することができる。特に、リン酸は、リン含有材料及び/若しくは反応混合物など、ステップi)に;並びに/又はステップi)とii)の間に添加することができる。リン酸は、プロセスによって形成されたリン酸を全部又は部分的に含んでもよい。例えば、リン酸は、リン酸の全重量に対して、10重量%以上、15重量%以上、20重量%以上、25重量%以上、又は30重量%以上など、5重量%以上の形成されたリン酸を含んでもよい。リン酸は、リン酸の全重量に対して、90重量%以下、85重量%以下、80重量%以下、75重量%以下、又は70重量%以下など、95重量%以下の形成されたリン酸を含んでもよい。特に、リン酸は、20~80重量%又は30~70重量%など、10~90重量%の形成されたリン酸を含む。プロセスへリン酸を添加することによって、例えば、本開示に記述されているものなど、反応混合物中における固体と液体の比は都合好く影響される可能性があり、それによって反応混合物の均質性及び/又はリン酸の抽出を改善する。
【0042】
プロセスにより、プロトンとして計算される酸と、Pとして計算されるリン含有材料中のリンの間のモル比は、1:1以上であり得る。特に、酸とリン含有材料の間のモル比は、約1:1~約15:1である。好ましくは、モル比は、約3:1~約12:1である。
【0043】
プロセスは、リン酸溶液から溶媒を除去して、本開示に記述されているように、リン酸を得るステップをさらに含んでもよい。溶媒は、分別蒸留又は共沸蒸留などの蒸留、分子ふるいなどによって、溶液から除去することができる。
【0044】
リン酸が反応混合物から抽出された後、リン酸溶液は依然としてさらに少量の硫酸塩を含有している可能性がある。抽出後にリン酸溶液に存在し得る固形物は、リン含有材料に見出される少量の他の不純物とともに、主として硫酸カルシウムから構成されている可能性がある。任意の従来のろ過装置を使用して、固形物からリン酸を含有する溶液を分離することができる。連続洗浄ステップをさらに行って、固形物からの溶解したリン酸の最適な分離を可能にすることができる。高純度のリン酸を生成することが望ましい。溶液中の硫酸塩の量は、溶媒の部分的蒸発によって低減される可能性がある。その手順により硫酸塩が沈澱し、次いで、さらなるろ過によってそれを除去することができる。しかし、溶液中の硫酸塩の量が微量である可能性があるので、全ての目的のためのさらなる精製ステップは必要ではない。抽出プロセスの選択性が高いので、マグネシウム、鉄、カルシウム、アンモニウム、病原体及びバクテリアを含むリン含有材料中に存在するほとんどの他の成分は、それほどの量は抽出されず、一次ろ過ステップで硫酸塩と一緒に固形物としてろ過されるか、又はプロセスで破壊される。
【0045】
本発明により、特に酸性化反応中の水含有量が本開示の量に保たれると、高度に濃縮されたリン酸の製造が可能になる。高度に濃縮されたリン酸としては、例えば、スーパーリン酸及びポリリン酸が挙げられる。こうしたリン酸を生成する従来の方法は、通常のリン酸から水を追い出すために典型的にはかなりの量の熱エネルギーを必要とするか、又はエネルギー集約的な黄リン合成ルートを通して作られる五酸化リンの添加を必要とする。溶液からリン酸を得るために、溶媒を蒸発させ、次の使用のために回収することが好ましい。溶媒を蒸留又は蒸発させると、異なる濃度の五酸化リン(P)のリン酸が生じる可能性がある。少なくとも35重量%P、例えば、約35重量%P~約90重量%Pなど、約35重量%P~約100重量%Pを有するリン酸を得ることができる。リン酸は、45重量%以上、50重量%以上、55重量%以上、若しくは60重量%以上など40重量%以上、及び/又は、例えば、100重量%以下、95重量%以下、90重量%以下、80重量%以下、75重量%以下、若しくは70重量%以下など85重量%以下のP濃度を有し得る。例えば、リン酸は、55~85重量%、60~80重量%、又は50~70重量%など、40~90重量%のP濃度を有し得る。好ましくは、リン酸は、70重量%以上、75重量%以上、80重量%以上、又は85重量%以上など、65重量%以上のPを有する。より好ましくは、リン酸は、80重量%以上、例えば75~100重量%又は80~95重量%など、75重量%以上のPを有する。リン酸の濃度は、とりわけ反応混合物に添加される又は存在する水の量に依存する。リン酸は、例えば、酸を加熱して水を追い出すことによって、容易にさらに濃縮することができる。
【0046】
代わりに、リン酸はリン酸溶液から沈殿させて、塩を形成することができる。沈澱物は、容易に利用可能な技術によって溶液から分離することができる。溶液のアンモニア処理(アンモニア及び/又はその誘導体による処理)により、純粋なリン酸アンモニウム沈澱物の形成をもたらすことができ、これはろ過によって容易に取り出すことができる。沈澱物をさらに乾燥する、又は洗浄して乾燥して、溶媒を回収し、商業的販売に適した固形物を生成することができる。この水溶性化合物は、例えば、非常に価値のある肥料である。本開示に記述されているように、有機溶媒中でリン酸アンモニウムが高度に不溶性であることが、こうした沈澱を、リン酸アンモニウムが高度に可溶性であり、大量の水を蒸発させることによって結晶化させる必要がある、従来から使用される水システムでの沈澱とは、著しく異なるものにしている。従来の水系システムによるリン酸アンモニウムの沈澱は、エネルギー非効率(エネルギー集約的)であるが、本発明ではリン酸アンモニウムを高純度で容易に沈殿することができる。加えて、従来の水系システムによるリン酸アンモニウムの沈澱は、純粋なリン酸アンモニウムを生成するために使用することも、その価値に起因して廃棄することもできない、かなりの量のホスフェートを含む、高度に汚染された母アルカリ液(mother lye)をもたらす。
【0047】
カルシウムイオンの供給源の形態で、カルシウム化合物を有機溶媒へ添加して、リン酸カルシウムを沈殿させることによって、動物用飼料を提供することができる。抽出溶媒の水酸化ナトリウム中和によって、リン酸ナトリウムの沈澱をもたらすことができ、リン酸ナトリウムは相当に商業的関心のある製品である。水酸化カリウムなどのカリウム化合物による中和によって、リン酸カリウムの沈澱物をもたらすことができ、リン酸カリウムは工業用途及び食品用途に有用であり得る。したがって、リン酸は、例えば、蒸発及び/又は沈澱により、溶液から塩の形態で容易に分離することができると見ることができる。
【0048】
故に、方法は、上述の反応物のいずれかなど、リン酸と反応してリン酸塩を形成する反応物を、リン酸溶液に添加するステップをさらに含んでもよい。反応物は、カルシウム化合物;ナトリウム化合物;及び/又はカリウム化合物から選択することができ、好ましくは本開示に記述されているいずれかの化合物である。例えば、方法は、リン酸溶液をアンモニア処理して、リン酸アンモニウム塩を形成するステップをさらに含んでもよい。したがって、方法によって得られるリン酸アンモニウム塩も提供され、方法は、リン酸溶液をアンモニア処理して、リン酸アンモニウム塩を形成するステップをさらに含む。
【0049】
リン酸アンモニウムは、リン酸中に見出すことができるものなど、例えば、アルミニウム、マグネシウム、鉄及びカルシウムなどの金属、フッ素、未反応のリン酸、溶媒、酸などを含む不純物を含む可能性がある。特に、リン酸アンモニウムは、リン酸アンモニウムの全重量に対して20重量%以下の不純物を含む。好ましくは、リン酸アンモニウムは、5重量%以下など、10重量%以下の不純物を含む。より好ましくは、リン酸アンモニウムは、2重量%以下、又はさらに1重量%以下など、3重量%以下の不純物を含む。
【0050】
本発明の方法の好ましい実施形態では、リン含有材料は、ストルバイト及び/又は下水汚泥灰を含み、酸は、無機酸、好ましくは本開示に記述されているように硫酸を含み、有機溶媒は、アセトン、イソプロパノール、メタノール、エタノールから選択される1種以上を含み、好ましくはアセトンを含む。加えて、好ましくは5重量%以下など10重量%以下の自由水が、反応混合物に添加される。
【0051】
リン酸アンモニウム塩の製造方法が、さらに提供される。この方法は、本発明の方法と同じステップを含んでもよい。方法は、
i)好ましくはホスフェートを含む二次原材料を含むなど、本開示で定義されるリン含有材料を、好ましくは本開示で定義される酸と有機溶媒なしで反応させ、それによってリン酸を含む反応混合物を形成し、前記酸は3.5以下のpKaを有するステップ、
ii)好ましくは本開示で定義される有機溶媒を反応混合物に添加することによって、反応混合物からリン酸を抽出し、それによってリン酸溶液を形成するステップ、及び
iii)好ましくは本開示で定義される、例えばアンモニアを含む反応物をリン酸溶液に添加し、それによってリン酸アンモニウム塩を形成するステップ、
を含み、好ましくは反応混合物の全重量に対して20重量%以下の自由水が反応混合物に添加される。
【0052】
例えば、反応物又は反応物の組み合わせに応じて、前述の方法により、リン酸一アンモニウム塩及び/又はリン酸二アンモニウム塩を生成することができる。故に、本開示に記述されているリン酸アンモニウム塩は、リン酸一アンモニウム塩及び/又はリン酸二アンモニウム塩である又はそれを含んでもよい。
【0053】
本発明は、本開示で定義される方法によって得られる、リン酸をさらに提供する。特に、前記方法は、本発明の第1の態様の方法と一致し、リン酸溶液から溶媒を除去し、それによってリン酸を得るステップをさらに含む。リン酸は、リン酸の全重量に対して、90重量%以下のPなど、約100重量%もの高さ以下のPであり得る、少なくとも35重量%のPの強度を有する。特に、リン酸は、45重量%以上、50重量%以上、55重量%以上、60重量%以上など40重量%以上、及び/又は、例えば、95重量%以下、90重量%以下、85重量%以下、80重量%以下、75重量%以下、若しくは70重量%以下など100重量%以下のPを含む。例えば、前記方法によって得られるリン酸は、40~90重量%、55~85重量%、60~80重量%、又は50~70重量%など35~100重量%のP濃度を有し得る。好ましくは、リン酸は、70重量%以上、75重量%以上、80重量%以上、又は85重量%以上など65重量%以上のPの濃度を有する。より好ましくは、リン酸は、80重量%以上、例えば75~100重量%又は80~95重量%など、75重量%以上のPを有する。リン酸は、金属、例えば、アルミニウム、マグネシウム、鉄及びカルシウム;フッ素;溶媒;酸;その他を含む、リン酸中に見出すことができるものなど、本開示に記述されているように、少量の不純物をさらに含んでもよい。少量の不純物は、リン酸の全重量に対して、10重量%以下であり得る。特に、リン酸は、5重量%以下又は3重量%以下など、7重量%以下の不純物を含む。好ましくは、リン酸は、1重量%以下など2重量%以下の不純物を含む。
【0054】
本発明は、本開示で定義される方法によって得られるリン酸アンモニウム塩の、肥料材料、難燃剤、飼料添加物、又は(例えば、ワイン醸造用)酵母栄養分としての使用もさらに提供する。方法は、本発明の第1の態様の方法と一致することができ、リン酸と反応してリン酸アンモニウム塩を形成する反応物を、リン酸溶液に添加するステップをさらに含む。方法は、本開示で提供されるリン酸アンモニウム塩の製造方法と一致することができる。特に、リン酸一アンモニウム塩及び/又はリン酸二アンモニウム塩を肥料材料として使用することができるが、リン酸二アンモニウム塩は、ポリリン酸アンモニウムなどの難燃剤を生成する前駆体として、又は難燃剤として使用することができる。
【0055】
本発明は、様々な実施形態及び方法を参照することによって記述してきた。当業者は、様々な実施形態及び方法の特徴を、互いに組み合わせることができることを理解している。
【0056】
本開示で引用された全ての参考文献は、あたかも各参考文献が、参照により個別及び特別に組み込まれることが示され、本開示でその全体が明記されるのと同じ程度に、参照により本明細書に完全に組み込まれる。
【0057】
本発明を記述する文脈において(特に特許請求の範囲の文脈において)、「a」「an」及び「the」という用語並びに同様の指示対象の使用は、本開示で特に断りのない限り又は文脈によって明白に否定されない限り、単数及び複数の両方を包含すると解釈すべきである。「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」、「含有する(containing)」という用語は、特に明記しない限り、非制限的用語(すなわち、「含むが、限定されるものではない」ことを意味する)として解釈すべきである。本明細書における値の範囲の記述は、本開示で特に断りのない限り、範囲内にある各個別の値を個別に参照する略記法として機能することを単に意図しており、各個別の値は、あたかもそれが本開示で個別に列挙されたかのように、本明細書に組み込まれる。本開示で提供される一部及び全ての例、又は例示的言語(例えば、「など(such as)」)の使用は、単に本発明をよりよく説明することを意図しており、特に要求しない限り本発明の範囲に制限を課すものではない。本明細書のいかなる言語も、特許請求されていない要素を本発明の実施に不可欠なものと解釈すべきではない。本明細書及び添付の特許請求の範囲の目的に対して、特に断りのない限り、量(amount)、量(quantity)、パーセントなどを表現する全ての数は、全ての場合において「約」という用語によって修飾されるものと理解すべきである。さらに、全ての範囲は開示された最大点と最小点の任意の組み合わせを含み、その中の任意の中間範囲を含み、本開示において具体的に列挙されていても、列挙されていなくてもよい。
【0058】
本発明の好ましい実施形態を、本開示に記述する。それらの好ましい実施形態の変形は、前の記述を読めば、当業者には明白となる。本発明者らは、当業者がこうした変形を適宜用いることを期待し、本発明者らは、本開示に具体的に記述されている以外の方法で本発明が実行されることを意図している。したがって、本発明は、準拠法によって許可される、添付の特許請求の範囲で詳述された主題の全ての修正及び等価物を含む。そのうえ、本開示で特に断りのない限り、又は文脈によって明白に否定されない限り、上述の要素の全ての可能な変形において、要素のいかなる組み合わせも本発明によって包含される。特許請求の範囲は、従来技術によって許容される程度まで、代わりの実施形態を含むと解釈すべきである。
【0059】
明瞭で簡潔な記述の目的で、本開示において特徴は同じ又は別の実施形態の一部として記述されているが、本発明の範囲は、記述された特徴の全て又は一部の組み合わせを有する実施形態を含み得ることが認識される。
【0060】
以下に、具体的実施例によって本発明をより詳細に説明する。しかし、本発明は多くの異なる形態で具体化することができ、本開示で明記される実施形態に限定されると解釈すべきではない。むしろ、これらの例示的実施形態は、この記述が十分で完全なものとなり、当業者に本発明の範囲を完全に伝えるために提供される。
【実施例
【0061】
自由水を添加しない、ストルバイトからのリン酸の合成
294.5gの乾燥ストルバイト(1.2モル)を混合機に添加し、その後100.5mlのHSO(96%、1.88モル)をゆっくり添加した。反応物を1~2分間混合し、プロセス中に反応混合物の温度は、(混合機の断熱レベル次第で)85~98℃に上昇した。シロップ状の、半透明な液体を得た。混合機を停止し、混合機カップを40℃未満まで氷中で冷却した。600mlのアセトンを部分的に凝固した冷却反応混合物に添加し、1分間混合し、有機溶媒へリン酸を抽出した。混合物を3.5リットルの反応器に移し、毎分600回転で混合した。さらに400mlのアセトンを混合機に添加し、混合し、反応器に移した。得られた反応混合物は、固形残留物及びアセトンに溶解したリン酸を含有した。ろ過によって、固形残留物を溶媒から分離した。さらなる抽出及び洗浄ステップとして、さらに500ml及び200mlのアセトンを反応器に連続的に添加し、ろ過した。全てのろ過ステップからろ液を合わせて、アセトン中に合計で6.5%のHPOを得た。アセトンを溶媒蒸発装置で蒸発させ、純粋な無溶媒リン酸を得た。純粋なリン酸の全収率は、(出発物質中のリン含有量に対するリンとして計算して)96%であった。
【0062】
少量の水を添加した、ストルバイトからのリン酸の合成
294.5gの乾燥ストルバイト(1.2モル)を混合機に添加した。17.7mlのHO(0.98モル)を最初に添加し、その後、100.5mlのHSO(96%、1.88モル)をゆっくり添加した。反応物を1~2分間混合し、プロセスの間に、反応混合物の温度は(混合機の断熱レベル次第で)80~95℃に上昇した。その後混合機を40℃未満まで氷中で冷却した。600mlのアセトンを部分的に凝固した冷却反応混合物に添加し、1分間混合し、リン酸を有機溶媒に抽出した。混合物を3.5リットルの反応器に移し、毎分600回転で混合した。さらに400mlのアセトンを混合機に添加し、混合し、反応器に移した。得られた反応混合物は、固形残留物及びアセトンに溶解したリン酸を含有した。ろ過によって、固形残留物を溶媒から分離した。さらなる抽出ステップとして、さらに500ml及び200mlのアセトンを反応器に連続的に添加し、ろ過した。全てのろ過ステップからろ液を合わせて、アセトン中に合計で5.8%のHPOを得た。アセトンを溶媒蒸発装置で蒸発させ、より濃縮されたリン酸を得た。純粋なリン酸の全収率は、(出発物質中のリン含有量に対するリンとして計算して)98%であった。
【0063】
異なる溶媒を使用した抽出
酸性化プロセスの後に異なるタイプの溶媒を使用して、リン酸の抽出を実行した(表1)。全ての実験において、294.5gの乾燥ストルバイト(1.2モル)を混合機に添加した。17.7mlのHO(0.98モル)を最初に添加し、その後に100.5mlのHSO(96%、1.88モル)をゆっくり添加した。反応物を1~2分間混合し、プロセスの間に、反応混合物の温度は(混合機の断熱レベル次第で)80~95℃に上昇した。その後混合機を40℃未満まで氷中で冷却した。600mlの有機溶媒を部分的に凝固した冷却反応混合物に添加し、1分間混合して、溶媒へリン酸を抽出した。混合物を3.5リットル反応器に移し、毎分600回転で混合した。さらに400mlの溶媒を混合機に添加し、混合し、反応器に移した。得られた反応混合物は、固形残留物及び溶媒に溶解したリン酸を含有した。ろ過によって、固形残留物を溶媒から分離した。さらなる抽出ステップとして、さらに500ml及び200mlの溶媒を反応器に連続的に添加し、ろ過した。ろ過ステップからのろ液を合わせて、結果を表1に示す。
【0064】
【表1】
【国際調査報告】