(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-22
(54)【発明の名称】還元型酸化グラフェンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/198 20170101AFI20231115BHJP
【FI】
C01B32/198
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023528421
(86)(22)【出願日】2020-11-13
(85)【翻訳文提出日】2023-07-03
(86)【国際出願番号】 IB2020060682
(87)【国際公開番号】W WO2022101663
(87)【国際公開日】2022-05-19
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523150211
【氏名又は名称】ベルディシオ・ソリューションズ・ア・イ・エ
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブー,ティ・タン
(72)【発明者】
【氏名】アレナス・ビボ,アナ
(72)【発明者】
【氏名】ノリエガ・ペレス,ダビド
(72)【発明者】
【氏名】スアレス・サンチェス,ロベルト
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AD19
4G146AD40
4G146BA02
4G146BB03
4G146CA02
4G146CA16
4G146CB13
4G146CB21
4G146CB26
4G146CB32
4G146CB34
4G146CB36
4G146CB37
(57)【要約】
本発明は、キッシュグラファイトを提供し、キッシュグラファイトと過硫酸塩及び酸とを室温でインターカレートして、インターカレートされたキッシュグラファイトを得、インターカレートされたキッシュグラファイトを室温で膨張させ、膨張したキッシュグラファイトを得、膨張ステップ中に発生したガスが少なくとも部分的に存在する間に、膨張したキッシュグラファイトと少なくとも酸及び酸化剤とを混合して、膨張したキッシュグラファイトが同時に酸化、剥離及び還元されて、還元型酸化グラフェンになるようにすることを含む、キッシュグラファイトからの還元型酸化グラフェンの製造方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キッシュグラファイトからの還元型酸化グラフェンの製造方法であって、以下、すなわち、
- キッシュグラファイトを提供し、
- キッシュグラファイトと過硫酸塩及び酸とを室温でインターカレートして、インターカレートされたキッシュグラファイトを得、
- インターカレートされたキッシュグラファイトを室温で膨張させ、膨張したキッシュグラファイトを得、
- 膨張ステップ中に発生したガスが少なくとも部分的に残存する間に、膨張したキッシュグラファイトと少なくとも酸及び酸化剤とを混合して、膨張したキッシュグラファイトが同時に酸化、剥離及び還元されて、還元型酸化グラフェンになるようにすることを含む方法。
【請求項2】
膨張ステップ中に発生するガスがO
2を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記膨張したキッシュグラファイトを少なくとも酸及び酸化剤と混合する前に洗浄しない、請求項1又は2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
前記膨張が閉鎖容器内で行われる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記膨張が開放容器内で行われる、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
膨張ステップ開始後8時間未満に、前記膨張したキッシュグラファイトを少なくとも酸及び酸化剤と混合する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
膨張ステップの開始後1時間未満に、前記膨張したキッシュグラファイトを少なくとも酸及び酸化剤と混合する、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記膨張したキッシュグラファイトが少なくとも酸及び酸化剤と混合されるときに、膨張ステップ中に発生するガスの体積における最大量の少なくとも5体積%が膨張したキッシュグラファイト中に残存する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記膨張したキッシュグラファイトが少なくとも酸及び酸化剤と混合されるときに、膨張ステップ中に発生するガスの体積における最大量の少なくとも30体積%が膨張したキッシュグラファイト中に残存する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記膨張したキッシュグラファイトをまず酸と混合し、次いで酸化剤を徐々に添加する、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
酸化剤の添加が30~180秒継続する、請求項11に記載の方法。
【請求項12】
前記還元型酸化グラフェンをH
2O
2と混合して、残りの酸化剤を除去する追加のステップを含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記還元型酸化グラフェンをHCl、H
2SO
4、HNO
3又はそれらの混合物と混合して、膨張したキッシュグラファイトの酸化中に形成された副生成物を除去する追加のステップを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記還元型酸化グラフェンを水ですすぐ追加のステップを含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膨張したキッシュグラファイトからの還元型酸化グラフェンの製造方法に関する。特に、還元型酸化グラフェンは、鋼、アルミニウム、ステンレス鋼、銅、鉄、銅合金、チタン、コバルト、金属複合体、ニッケル工業を含む金属工業において、例えば、コーティングとして又は冷却試薬としての用途を有する。
【背景技術】
【0002】
キッシュグラファイトは、製鋼プロセス、特に溶鉱炉プロセス又は製鉄プロセス中に発生する副生成物である。実際、キッシュグラファイトは、その冷却中に溶鉄の自由表面上で通常生成される。それは1300~1500℃での溶鉄に由来し、これは、トピードカーで輸送されたときには0.40℃/分~25℃/時の間の冷却速度で、又は、取鍋輸送の間はより高い冷却速度で冷却される。膨大なトン数のキッシュグラファイトが鋼プラントで毎年生産されている。
【0003】
キッシュグラファイトは、通常50重量%を超える多量の炭素を含むので、グラフェンベースの材料を製造するのに良い候補である。通常、グラフェンベースの材料には、グラフェン、酸化グラフェン及び還元型酸化グラフェンが含まれる。
【0004】
酸化グラフェン(GO)中の酸素含量を低下させることにより還元型酸化グラフェン(rGO)を生成することが知られている。還元型酸化グラフェンは、酸化グラフェンよりも酸素官能基が少ない1層又は数層のグラフェンシートから構成される。高い熱伝導率、高い電気伝導率、疎水性、高い比表面積などのその興味深い特性のおかげで、還元酸化グラフェンには多くの用途がある。
【0005】
例えば、還元型酸化グラフェンは、ヒドラジン、アスコルビン酸、尿素、NaOHのような還元剤を用いる化学的プロセスによって、又は不活性雰囲気中の高温での熱還元によって生成することができる。しかし、低酸素含有率、すなわち10重量%未満の酸素含有率のrGOを得ることは非常に困難である。エポキシ基のようないくつかの酸素基はこれらのプロセスで還元するのが非常に困難である。さらに、得られたrGOには欠陥が多く含まれているため、非常に低い電気伝導度を呈する。
【0006】
また、以下のステップを含むハマーズ(Hummers)法に従って処理されたキッシュグラファイトから還元型酸化グラフェンを得ることが知られている。
- キッシュグラファイトを硝酸ナトリウム(NaNO3)、硫酸(H2SO4)及び過マンガン酸ナトリウム又は過マンガン酸カリウム(KMnO4)で酸化するステップ、
- 酸化グラフェンを還元して、酸化グラフェンを得るステップ。
【0007】
特許出願WO2018178845号には、以下を含む、キッシュグラファイトから還元酸化グラフェン
A. キッシュグラファイトを提供するステップ、
B. 以下の連続するサブステップを含む、該キッシュグラファイトの前処理ステップ、
i. キッシュグラファイトが以下のようにサイズによって分類される篩分けステップ、
a) 50μm未満のサイズを有するキッシュグラファイト、
b) 50μm以上のサイズを有するキッシュグラファイト、50μm未満のサイズを有するキッシュグラファイトの画分a)を除去するサブステップ、
ii. 50μm以上のサイズを有するキッシュグラファイトの画分b)の浮選ステップ、
iii. (酸の量)/(キッシュグラファイトの量)の重量比が0.25~1.0の間になるように酸を加える酸濾過ステップ、
iv. 任意に、キッシュグラファイトを洗浄して乾燥させるステップ、
C. 酸化グラフェンを得るために、ステップB)の後に得られた前処理されたキッシュグラファイトの酸、硝酸ナトリウム及び酸化剤による酸化ステップ、及び
D. 還元型酸化グラフェンへの酸化グラフェンの還元ステップ。
【0008】
それにもかかわらず、酸化ステップを硝酸ナトリウム(NaNO3)で行うと、有毒ガスが生成され、汚染法につながる。また、酸化時間は非常に長い(約3時間)。
【0009】
特許出願WO2019220228号には、以下を含む、キッシュグラファイトから還元型酸化グラフェンを製造する方法が開示されている。
A. キッシュグラファイトを提供するステップ、
B. 以下の連続するサブステップを含む、該キッシュグラファイトの前処理ステップ、
i. キッシュグラファイトが以下のようにサイズによって分類される篩分けステップ、
a) 50μm未満のサイズを有するキッシュグラファイト、
b) 50μm以上のサイズを有するキッシュグラファイト、50μm未満のサイズを有するキッシュグラファイトの画分a)を除去するサブステップ、
ii. 50μm以上のサイズを有するキッシュグラファイトの画分b)の浮選ステップ、
iii. (酸の量)/(キッシュグラファイトの量)の重量比が0.25~1.0の間になるように酸を加える酸濾過ステップ、
C. 酸、硝酸アンモニウム及び酸化剤による、前処理されたキッシュグラファイトの酸化ステップ及び酸化グラフェンへの得られた酸化黒鉛の剥離、
D. 還元型酸化グラフェンへの酸化グラフェンの還元ステップ。
【0010】
しかし、NH4NO3を用いる方法はNaNO3を用いる方法よりも汚染が少ないが、さらに汚染の少ない方法を提供し、エネルギー消費を減らす必要がある。
【0011】
さらに酸化時間は、NaNO3を用いる方法の酸化時間、すなわち3時間と比較して、NH4NO3を用いる方が短い、すなわち1時間及び30分であるが、依然として、プロセス期間を短縮し、したがって還元型酸化グラフェンの合成の生産性を改善する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第2018/178845号
【特許文献2】国際公開第2019/220228号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、本発明の目的は、可能な限り短時間で良質の還元型酸化グラフェンを得るための工業的方法を提供することである。さらに、本発明の目的は、先行技術の方法と比較してキッシュグラファイトからの還元酸化グラフェンの製造のためのより汚染の少ない方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
これは、以下を含む、キッシュグラファイトからの還元型酸化グラフェンの製造方法を提供することによって達成される。
- キッシュグラファイトを提供し、
- キッシュグラファイトと過硫酸塩及び酸とを室温でインターカレートして、インターカレートされたキッシュグラファイトを得、
- インターカレートされたキッシュグラファイトを室温で膨張させ、膨張したキッシュグラファイトを得、
- 膨張ステップ中に発生したガスが少なくとも部分的に残存する間に、膨張したキッシュグラファイトと少なくとも酸及び酸化剤とを混合して、膨張したキッシュグラファイトが同時に酸化、剥離及び還元されて、還元型酸化グラフェンになるようにすること。
【0015】
本発明による方法はまた、個別に又は組み合わせて考えられる以下に挙げる任意の特徴を有することができる。
- 膨張ステップ中に発生するガスがO2を含み、
- 膨張したキッシュグラファイトが、少なくとも酸及び酸化剤と混合する前に洗浄されず、
- 膨張が閉鎖容器内で行われ、
- 膨張が開放容器内で行われ、
- 膨張ステップ開始後8時間未満で、膨張したキッシュグラファイトが少なくとも酸及び酸化剤と混合され、
- 膨張ステップ開始後1時間未満で、膨張したキッシュグラファイトが少なくとも酸及び酸化剤と混合され、
- 膨張ステップ中に発生するガスの体積における最大量の少なくとも5体積%が膨張したキッシュグラファイトを少なくとも酸及び酸化剤を混合したときに、膨張したキッシュグラファイト内に残存しており、
- 膨張ステップ中に発生するガスの体積における最大量の少なくとも30体積%が膨張したキッシュグラファイトを少なくとも酸及び酸化剤を混合したときに、膨張したキッシュグラファイト内に残存しており、
- 膨張したキッシュグラファイトがまず酸と混合され、次いで酸化剤が徐々に添加され、
- 酸化剤の添加は30~180秒続き、
- 本発明による方法は、還元型酸化グラフェンをH2O2と混合して酸化剤の残りを排除する追加ステップを含み、
- 本発明による方法は、還元型酸化グラフェンをHCl、H2SO4、HNO3又はそれらの混合物と混合して、膨張したキッシュグラファイトの酸化中に形成された副生成物を除去する追加ステップを含み、
- 本発明による方法は、還元型酸化グラフェンを水ですすぐ追加ステップを含む。
【0016】
本発明による方法は、迅速な方法で還元型酸化グラフェンを製造することを可能にする。特に、膨張ステップの間に発生するガスの保持は酸化ステップの動態を変化させ、酸化、剥離及び還元が同時に起こることを可能にする。このように、膨張したキッシュグラファイトと酸及び酸化剤との混合後に、分離した剥離ステップ及び還元ステップは存在しない。また、この方法は、室温でのインターカレート、室温での膨張及び塩を用いない酸化を特に含むので、工業規模で実施するのが容易であり、先行技術の方法よりも汚染が少ない。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の他の特徴及び利点は、以下の説明においてより詳細に記載されるが、これは、純粋に説明の目的のために提供され、少しも制限的であることを意図しない。
【0018】
以下の用語を定義する。
- 黒鉛は、3次元で互いに平行に積み重ねられ、結晶性、長距離秩序のグラフェン層からなる、元素炭素の同素体形態を意味する。
- 酸化黒鉛は、底面の広範な酸化修飾によって調製された化学修飾黒鉛を意味する。
- 酸化グラフェンとは、ケトン基、カルボキシル基、エポキシ基及び水酸基を含む酸素官能基を含む1層又は数層のグラフェンを意味する。プレートレット又は虫様構造のようないくつかの形態的変異の形成をとることができる。
- 還元型酸化グラフェンは、酸化グラフェンの酸素含有率が減少した形態である。プレートレット、しわ様構造、虫様構造などのいくつかの形態的変異の形態をとることができる。
- プリスチングラフェンは、グラフェンが本来の状態、すなわち理想的であり、全く欠陥を有さないことを意味する。
- 室温は、冷却又は加熱によって温度を調節することなく化学反応を行うことを意味する。換言すれば、反応の温度を制御する試みは行われない。室温は、大気圧で好ましくは0~45℃の間、より好ましくは1~30℃の間、さらにより好ましくは15~25℃の間である。
【0019】
本発明による方法の第1ステップ(ステップA)において、未加工のキッシュグラファイトが提供される。
【0020】
好ましくは、キッシュグラファイトは、製鋼プロセスの残留物である。これは溶鉱炉からタップ(tap)された後、溶鉄表面に集まる。タップおよび鉄鋼ショップに運ばれる間に鉄が冷えるので、溶鉄は過飽和になり、炭素は鉄の表面に浮遊する黒鉛の薄片として溶液から出てくる。黒鉛は塩基性酸素炉に供給された溶鉄からすくい取ることができる。これは、黒鉛(過飽和鉄から析出した)、石灰に富んだスラグ(脱硫操作に由来)、及び幾分かの鉄(黒鉛及びスラグと共にすくい取られた)の混合物からなる。鉄の大きな塊はリサイクルのために回収され、残りのキッシュはいつでも他の用途に使えるようになっている。
【0021】
本発明による黒鉛の変形例によれば、キッシュグラファイトは、好ましくは、90%を超えるようにその純度を上げるために前処理される(ステップB)。
【0022】
キッシュグラファイトの前処理は、好ましくは以下の連続するサブステップを含む。
i. キッシュグラファイトが以下のようにサイズによって分類される篩分けステップ
a. 50μm未満のサイズを有するキッシュグラファイト
b. 50μm以上のサイズを有するキッシュグラファイト
50μm未満のサイズを有するキッシュグラファイトの画分a)は除去される。
ii. 50μm以上のサイズのキッシュグラファイトの画分b)を用いた浮選ステップ
iii. 酸をキッシュグラファイトに対して0.25~1.0の重量比で加える酸濾過ステップ
iv. 任意に、キッシュグラファイトの洗浄及び乾燥
【0023】
ステップB.i)では、篩分けステップを篩分け機で行うことができる。
【0024】
篩分け後、50μm未満のサイズを有するキッシュグラファイトの画分a)は除去される。実際、いかなる理論にも拘束されるつもりはないが、50μm未満のサイズを有するキッシュグラファイトは、典型的には10%未満の非常に少量の黒鉛を含むと考えられる。好ましくは、55μm未満のサイズを有するキッシュグラファイトの画分a)が除去される。より好ましくは、60μm未満のサイズを有するキッシュグラファイトの画分a)が除去される。
【0025】
ステップB.i)及びステップB.ii)において、キッシュグラファイトの画分b)は、300μm以下であることが好ましく、275μm以下であることがより好ましく、250μm以下であることがさらにより好ましい。したがって、300μm又は275μm又は250μmを超えるサイズを有するキッシュグラファイトのあらゆる画分はステップB.ii)の前に除去される。
【0026】
好ましくは、浮選ステップB.ii)は、水溶液中の浮選試薬を用いて行われる。例えば、浮選試薬は、メチルイソブチルカルビノール(MIBC)、松油、ポリグリコール、キシレノール、S-ベンジル-S’-n-ブチルトリチオカルボネート、S,S’-ジメチルトリチオカルボネート及びS-エチル-S’-メチルトリチオカルボネートの中から選択される発泡剤である。有利には、浮選ステップは浮選装置を用いて行われる。
【0027】
ステップB.ii)において、酸とキッシュグラファイトとの重量比は0.25~1.0の間であり、0.25~0.9の間が有利であり、0.25~0.8の間がより好ましい。0.25未満では、キッシュグラファイトが十分に精製されないおそれがある。0.8を超えると、膨大な量の化学廃棄物が発生するおそれがある。
【0028】
好ましくは、酸は、塩酸、リン酸、硫酸、硝酸及びそれらの混合物から選択される。
【0029】
好ましくは、未加工のキッシュグラファイトの前処理は、上記のB.i~B.ivの連続したサブステップからなる。
【0030】
本発明による方法のステップB)後に得られた前処理されたキッシュグラファイトは、高純度、すなわち、少なくとも90%の純度を有する。また、従来の方法と比較して結晶度が改善され、より高い熱伝導率及び電気伝導率、したがってより高い品質が可能になる。
【0031】
キッシュグラファイトが提供され、任意に前処理されると、それは室温で過硫酸塩及び酸でインターカレートされ、インターカレートされたキッシュグラファイトを得る(ステップC)。
【0032】
いかなる理論にも拘束されるつもりはないが、過硫酸塩は酸化剤のように作用して、キッシュグラファイト層の縁を酸化すると考えられる。過硫酸塩は重要な酸素供与体であるため、2つのグラフェン層間のギャップはさらに膨張し、酸がグラフェン層間に入りやすくなる。同時に、ある一定量の過硫酸塩は、グラフェン層間の酸によって引き込まれ得る。グラフェン層間に引き込まれた過硫酸塩は分解し、O2及びSO3を放出し、グラフェン層間に瞬間的な圧力を引き起こし、室温で黒鉛の急激な膨張をもたらすと考えられる。
【0033】
好ましくは、キッシュグラファイトに対する過硫酸塩の重量比は、1~8の間、より好ましくは1~6の間、及び有利には1~5の間である。これによりインターカレーションはさらに改善される。
【0034】
好ましくは、キッシュグラファイトに対する酸の重量比は2~8の間、より好ましくは4~8の間である。実際、キッシュグラファイトに対する酸の比率が2未満であれば、キッシュグラファイトの一部のみが膨張するおそれがある。キッシュグラファイトに対する酸の比率が8を超えると、膨張が非常にゆっくり起こり、体積膨張が減少するおそれがある。過剰な酸は過硫酸塩がキッシュグラファイト層間に引き込まれるのを妨げると考えられる。したがって、それは過硫酸塩の分解に起因する酸素の放出、ひいてはキッシュグラファイトの急激な膨張を妨げる。
【0035】
好ましくは、過硫酸塩は、ペルオキシジスルフェートアニオンS2O8
2-を含有するものから選択される。より好ましくは、過硫酸塩は、過硫酸ナトリウム(Na2S2O8)、過硫酸アンモニウム((NH4)2S2O8)及び過硫酸カリウム(K2S2O8)及びそれらの混合物から選択される。
【0036】
好ましくは、酸は強酸である。より好ましくは、酸は、H2SO4、HCl、HNO3、H3PO4、C2H2Cl2O2(ジクロロ酢酸)、HSO2OH(アルキルスルホン酸)及びそれらの混合物から選択される。
【0037】
好ましくは、まずキッシュグラファイトを酸と混合し、次いで過硫酸塩を加える。キッシュグラファイトと酸との混合は、機械的かき混ぜ又は撹拌によって行い、混合物の均一性をさらに改善させることができる。混合を5~20分継続することが好ましい。過硫酸塩は徐々に加えることが好ましい。
【0038】
好ましくは、酸及び過硫酸塩の添加後、混合物を機械的に撹拌して、混合物を均質化する。撹拌を、好ましくは2~10分間、より好ましくは3~7分間継続させる。
【0039】
ステップC)を、好ましくは2~30分、より好ましくは2~10分の間継続させる。
【0040】
キッシュグラファイトがインターカレートされると、それを膨張させる(ステップD)。
【0041】
好ましくは、この膨張は、キッシュグラファイト、過硫酸塩及び酸の混合物を室温に放置することによって自然に行われる。
【0042】
膨張の間、ガスが生成される。問題のガスは、硫酸及び過硫酸アンモニウムの場合に図示されるように、酸と過硫酸塩との間の反応に起因するO2及びSO3を含む。
(NH4)2S2O8+2H2SO4→H2S2O8+2NH4HSO4
温度が65℃に達すると、2H2S2O8→2H2SO4+2SO3+O2
【0043】
本発明の変形例においては、膨張中に発生するガスがより容易に保持されるように、膨張は閉鎖容器内で実施される。
【0044】
別の変形例では、拡張は開放容器内で行われる。ガスは黒鉛の層間に十分にインターカレートし、混合物からのガスの急速な放出を避けると考えられる。
【0045】
ステップD)の終了時に、膨張したキッシュグラファイトは洗浄しないことが好ましい。このような洗浄は、膨張ステップ中に発生するガスの放出の一因となるであろう。
【0046】
好ましくは、ステップD)は、次のステップの反応物を膨張したキッシュグラファイトへ添加することによって停止する。開放容器内で膨張が行われる場合、これらの反応物の添加のタイミングは、膨張ステップの間に発生する多すぎるガスの放出を制限するように適合される。好ましくは、膨張したキッシュグラファイトは、膨張ステップの開始後8時間未満、より好ましくは膨張ステップの開始後1時間未満、さらにより好ましくは膨張ステップの開始後30分未満で反応物と混合される。膨張が閉鎖容器内で行われる場合、次のステップの反応物の添加のタイミングは特に制限されない。容器の閉鎖により、グラフェン層間にガスを十分に維持することが可能となり、任意の時点で次のステップを開始することが可能となる。とはいえ、閉鎖容器内のガス圧を制限するために、膨張ステップ開始後8時間未満、より好ましくは膨張ステップ開始後1時間未満で膨張したキッシュグラファイトを次のステップの反応物と混合することが好ましい。
【0047】
本発明の1つの変形例によれば、インターカレーションのステップC)及び膨張のステップD)が同時に行われる。
【0048】
キッシュグラファイトが膨張されると、それを室温で少なくとも酸及び酸化剤と混合して、酸化黒鉛への膨張したキッシュグラファイトの酸化を開始する(ステップE)。
【0049】
インターカレートされたキッシュグラファイトの膨張中に発生するガスが完全に放出されない間に酸化ステップを開始すると、反応の動態が変化し、酸化、還元及び剥離が同時に起こることが可能になることが驚くべきことに観察された。このようなプロセスステップの数及び処理時間の減少は、先行技術のプロセスに対する大きな改善である。
【0050】
いかなる理論にも拘束されるつもりはないが、グラフェン層の間に捕捉されたガス、特にO2の存在により、酸化剤が添加された時に温度上昇が加速されるというのが発明者らの理解である。その結果、酸化黒鉛は自己剥離し、還元される。
【0051】
本発明の場合、「少なくとも部分的に存在する」とは、膨張ステップの間に発生したガスの一部がグラフェン層の間に捕捉されたままであり、雰囲気中に放出されないことを意味する。好ましくは、それは、膨張ステップの間に生成されるガスの体積における最大量の少なくとも5体積%を表す。上記の化学等式に従って、過硫酸塩の100%が酸と反応してH2S2O8を形成し、その100%が分解すると仮定し、O2及びSO3が理想的なガスであると仮定して、O2の体積及びSO3の体積を合計することによって、体積におけるこの最大量が計算される。より好ましくは、膨張ステップの間に生成され、かつグラフェン層の間に捕捉されたガスの部分は、膨張ステップの間に生成されるガスの体積における最大量の、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%又は少なくとも90%に相当する。膨張したキッシュグラファイトのグラフェン層間に捕捉されたガスが多くなるほど、それらはステップEにおける酸化、剥離、還元を同時に活性化する。
【0052】
放出されたガスの体積、及びその結果のグラフェン層の間に捕捉されたガスの、膨張ステップの間に発生する最大量のガスの体積におけるパーセンテージは、閉鎖容器内の室温での膨張の間に、容器をガスシリンジ又は質量分析計に接続することによって測定することができる。後者の方がより正確であるために好ましい。
【0053】
好ましくは、酸は、H2SO4、HCl、HNO3、H3PO4、C2H2Cl2O2(ジクロロ酢酸)、HSO2OH(アルキルスルホン酸)及びそれらの混合物から選択される。好ましくは、キッシュグラファイトに対する酸(濃縮物)の重量の比は、25~75の間である。
【0054】
好ましくは、酸化剤は過マンガン酸カリウム(KMnO4)、H2O2、O3、H2S2O8、H2SO5、KNO3、NaClO及びそれらの混合物の中から選択される。より好ましくは、酸化剤は過マンガン酸カリウムである。好ましくは、キッシュグラファイトに対する酸化剤の重量比は、2~10の間である。
【0055】
本発明の実施形態によれば、塩をさらにキッシュグラファイト、酸及び酸化剤の混合物に添加する。好ましくは、塩は、NaNO3、NH4NO3、KNO3、Ni(NO3)2、Cu(NO3)2、Zn(NO3)2、Al(NO3)3及びそれらの混合物の中から選択される。好ましくは、キッシュグラファイトに対する塩の重量比は、0.2~2の間である。とはいえ、塩を用いない膨張したキッシュグラファイトの酸化は、より短い酸化時間を可能にすると思われる。酸化ステップから塩を除去する能力は、汚染を著しく抑制する。したがって、好ましくは、膨張したキッシュグラファイトは、塩を用いないで、酸及び酸化剤と混合される。換言すれば、ステップE)の混合物は、膨張したキッシュグラファイト、酸及び酸化剤からなることが好ましい。
【0056】
好ましくは、膨張したキッシュグラファイトをまず酸と混合し、次いで酸化剤を添加する。好ましくは、過度の温度上昇を避けるために、酸化剤を徐々に添加する。添加は30~180秒継続するのが好ましい。
【0057】
酸及び酸化剤が膨張したキッシュグラファイトに添加されると、混合物は、好ましくは、酸化、剥離及び還元が起こるまで撹拌される。撹拌は、好ましくは5~50分、より好ましくは20~40分継続する。
【0058】
ステップE)は5分~60分、より好ましくは15~45分の間継続する。このような持続時間は、先行技術のプロセスに対する大きな改良である。
【0059】
反応が完了するとステップE)は終了する。
【0060】
好ましい実施形態では、得られた還元型酸化グラフェンを処理して、酸化剤の残りを除去する(ステップF)。H2O2は、過マンガン酸カリウムの場合に以下に示すように好ましく使用される。
2KMnO4+H2O2+3H2SO4→2MnSO4+O2+K2SO4+4H2O
【0061】
次いで、酸化/剥離/還元ステップの間に形成されるMn2O7及びMnO2のような副生成物を排除するために、HCl、H2SO4、HNO3及びそれらの混合物のような酸を加えることができる。
【0062】
還元型酸化グラフェンが得られたら、中性pHに達するように、これを非脱イオン水又は脱イオン水で任意にすすぐ(ステップG)。
【0063】
還元酸化グラフェンが得られたら、それを任意に乾燥させる(ステップH)。乾燥は、特に、空気により、凍結乾燥、真空乾燥、フリーズドライなどにより行われる。フリーズドライは、それがrGOフレークの分離をさらに有利にするため、好ましい。
【0064】
本発明による方法を適用することにより、10~25重量%の間の酸素を有する1層又は数層のグラフェンを含む還元型酸化グラフェン(rGO)が得られる。
【0065】
本発明の変形例によれば、rGOはマイクロ波還元型酸化グラフェン(MW-rGO)にさらに還元される(ステップJ)。
【0066】
好ましくは、ステップJにおいて、触媒は、プリスチングラフェン、グラフェンナノプレートレット、黒鉛又は黒鉛ナノプレートレットから選択される。より好ましくは、触媒はプリスチングラフェンである。いかなる理論にも束縛されるつもりはないが、プリスチングラフェンの性質、形態及び特性により、プリスチングラフェンはマイクロ波の形態で電磁場をより良好に吸収できると考えられる。実際、プリスチングラフェンは六角形のハニカム格子で結合した炭素からなる単層の黒鉛である。それは、マイクロ波が誘引され、容易に吸収できるsp2結合原子の面の構造における炭素の同素体である。
【0067】
好ましくは、触媒に対するrGOの重量比は、50~1000の間に含まれる。有利には、触媒に対するrGOの重量比は75~125の間である。このような比率のおかげで、rGOのMW-rGOへの還元はさらに改善され、さらにより少ない酸素基を有するMW-rGOが得られる。
【0068】
好ましくは、マイクロ波周波数は、300MHz~100GHzの間、好ましくは1~5GHzの間、例えば、2.45GHzである。
【0069】
好ましくは、ステップJ)は、マイクロ波周波数加温装置を用いて実施される。好ましくは、それは電子レンジである。
【0070】
有利には、マイクロ波周波数加熱装置は、100W~100KWの間、より好ましくは100~2000Wの間の出力を有する。
【0071】
好ましくは、マイクロ波による加熱は、少なくとも2秒間、より好ましくは2~3600秒間行われる。これにより、酸化グラフェンの還元がさらに改善される。
【0072】
このようにして、10重量%未満、より好ましくは7重量%未満の酸素を有する1層又は数層のグラフェンを含むマイクロ波還元型酸化グラフェン(MW-rGO)を得ることができる。
【0073】
好ましくは、還元型酸化グラフェンは、金属基材の耐食性などのいくつかの特性を改善するために金属基材上に堆積される。
【0074】
別の好ましい実施形態では、還元型酸化グラフェンを冷却試薬として使用する。実際、還元酸化グラフェンは冷却流体に加えることができる。好ましくは、冷却流体は、水、エチレングリコール、エタノール、油、メタノール、シリコーン、プロピレングリコール、アルキル化芳香族化合物、液体Ga、液体In、液体Sn、ギ酸カリウム及びそれらの混合物の中から選択することができる。この実施形態では、金属基材を冷却するために冷却流体を使用することができる。
【0075】
例えば、金属基材は、アルミニウム、鋼、ステンレス鋼、銅、鉄、銅合金、チタン、コバルト、金属複合材、ニッケルの中から選択される。
【0076】
本発明は、ここで、情報のためにのみ実施された例に基づいてさらに詳細になる。それらは限定的ではない。
【実施例】
【0077】
製鋼からキッシュグラファイトを得た。次いで、キッシュグラファイトを篩分け、サイズ別に以下のように分類した。
a) 63μm未満のサイズを有するキッシュグラファイト、及び
b) 63μm以上のサイズを有するキッシュグラファイト
【0078】
63μm未満のサイズを有するキッシュグラファイトの画分a)を除去した。
【0079】
63μm以上のサイズを有するキッシュグラファイトの画分b)による浮選ステップを行った。浮選ステップは発泡剤としてMIBCを用いるHumboldt Wedag浮選機で行った。以下の条件を適用した。セル容積(l):2、ロータ速度(rpm):2000、固形分濃度(%):5~10、発泡剤、種類:MIBC、発泡剤、添加(g/T):40、調整時間(秒):10、水の条件:自然のpH、室温。
【0080】
次いで、キッシュグラファイトを0.5という酸/キッシュグラファイトの重量比で水溶液中の塩酸で濾過した。その後、それを脱イオン水で洗浄し、空気中で、90℃で乾燥させた。前処理したキッシュグラファイトの純度は95%であった。
【0081】
次いで、開放容器内の30mLの98%H2SO4に10gのキッシュグラファイトを加えた。反応混合物を室温で15分間持続的にかき混ぜ、均質な混合物を得た。次いで、さらに室温で、30gの過硫酸アンモニウム((NH4)2S2O8)をインターカレーションのために徐々に混合物に加えた。その後、5分間攪拌して混合物を均質化した。
【0082】
その後、この混合物を開放容器内で、室温で30分間放置し、その間に膨張させた。
【0083】
その後、さらに室温で、250mLの98%H2SO4を、膨張したキッシュグラファイトを含む混合物に加え、続いて35gのKMnO4を0.5g.s-1で徐々に添加し、酸化プロセス、剥離及び還元を同時に開始した。
【0084】
KMnO4の段階的添加の終了時に、混合物を、酸化/剥離/還元ステップを完了するために、さらに室温で30分間機械的にかき混ぜた。
【0085】
次いで、50mLの35%H2O2を添加し、残りのKMnO4を排除した。続いて、酸化/剥離/還元ステップの間に形成されたMn2O7及びMnO2を除去するために、100mLの36%HClを添加した。
【0086】
最後に、混合物を脱イオン水でpH7に中和し、フリーズドライさせて粉末形態のrGOを得た。
【0087】
得られた還元型酸化グラフェンを走査電子顕微鏡(SEM)、X線回折分光法(XRD)、透過型電子顕微鏡(TEM)、元素分析及びRaman分光法によって分析した。
【0088】
これらの分析は、本発明によるプロセスの終了時に得られた生成物が、16重量%のO及びC/Oの重量比4.95の還元型酸化グラフェンであり、先行技術のプロセスによって得られた還元型酸化グラフェンと非常に類似していることを確認した。
【0089】
また、透過型電子顕微鏡検査による分析から、この還元型酸化グラフェンはナノプレートレット、すなわち、1つの外寸がナノスケールで、他の2つの外寸が著しく大きいナノ対象物の形態であることが明らかになった。特に厚さは2つのグラフェン層のオーダーで、幅及び長さはマイクロメートルであった。これらの結果は、先行技術に比べて本発明に従った方法では、剥離が良好に進み、格子の歪みが低いことを示唆している。
【国際調査報告】