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特表2023-549260膣におけるラクトバチルス属の数の減少に関連する状態の予防または処置における使用のための薬学的組成物
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  • 特表-膣におけるラクトバチルス属の数の減少に関連する状態の予防または処置における使用のための薬学的組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-22
(54)【発明の名称】膣におけるラクトバチルス属の数の減少に関連する状態の予防または処置における使用のための薬学的組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/716 20060101AFI20231115BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231115BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20231115BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20231115BHJP
   A61P 15/02 20060101ALI20231115BHJP
   A61P 15/06 20060101ALI20231115BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20231115BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20231115BHJP
   A61K 35/618 20150101ALI20231115BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20231115BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20231115BHJP
   A61K 9/00 20060101ALI20231115BHJP
【FI】
A61K31/716
A61P43/00 121
A61P31/00
A61P31/10
A61P15/02
A61P15/06
A61K47/38
A61K9/06
A61K35/618
A61K35/12
A61K45/00
A61K9/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023528656
(86)(22)【出願日】2021-11-17
(85)【翻訳文提出日】2023-06-28
(86)【国際出願番号】 GB2021052973
(87)【国際公開番号】W WO2022106819
(87)【国際公開日】2022-05-27
(31)【優先権主張番号】2018068.3
(32)【優先日】2020-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507299817
【氏名又は名称】ユーシーエル ビジネス リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】500532757
【氏名又は名称】キングス カレッジ ロンドン
【氏名又は名称原語表記】KINGS COLLEGE LONDON
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ロング, ポール
(72)【発明者】
【氏名】サトクリフ, アラステア
(72)【発明者】
【氏名】テュル, カトリーヌ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4C076AA09
4C076AA72
4C076AA99
4C076BB30
4C076CC04
4C076CC17
4C076CC32
4C076EE32
4C084AA19
4C084MA02
4C084MA28
4C084MA32
4C084MA56
4C084MA70
4C084NA14
4C084ZA811
4C084ZA812
4C084ZB111
4C084ZB112
4C084ZB311
4C084ZB312
4C084ZB351
4C084ZB352
4C084ZC412
4C084ZC75
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA20
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA28
4C086MA32
4C086MA56
4C086MA70
4C086NA14
4C086ZA81
4C086ZB11
4C086ZB31
4C086ZB35
4C086ZC41
4C086ZC75
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB16
4C087BB33
4C087CA14
4C087MA05
4C087MA28
4C087MA32
4C087MA56
4C087MA70
4C087NA14
4C087ZA81
4C087ZB11
4C087ZB31
4C087ZB35
4C087ZC41
4C087ZC75
(57)【要約】
本発明は、健常対象と比較した対象の膣におけるラクトバチルス属の数の減少に関連する状態の予防または処置における使用のための薬学的組成物を提供し、その組成物は、1.3質量/体積%~1.7質量/体積%のグリコーゲンおよび0.1質量/体積%未満の乳酸を含む。上記組成物は、乳酸を含まなくてもよく、必要に応じて94質量/体積%~97質量/体積%の水および2質量/体積%~5質量/体積%のセルロース誘導体を含み得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
健常対象と比較した対象の膣におけるラクトバチルス属の数の減少に関連する状態の予防または処置における使用のための薬学的組成物であって、1.3質量/体積%~1.7質量/体積%のグリコーゲンおよび0.1質量/体積%未満の乳酸を含む、薬学的組成物。
【請求項2】
乳酸を含まない、請求項1に記載の使用のための請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項3】
水およびセルロース誘導体をさらに含み、必要に応じて94質量/体積%~97質量/体積%の水および2質量/体積%~5質量/体積%のセルロース誘導体を含む、請求項1または請求項2に記載の薬学的組成物。
【請求項4】
1.3質量/体積%~1.7質量/体積%のグリコーゲンと、セルロース誘導体を含む水性ヒドロゲルと含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の使用のための請求項1~3のいずれか1項に記載の薬学的組成物。
【請求項5】
1.4質量/体積%~1.6質量/体積%のグリコーゲンを含み、必要に応じて約1.5質量/体積%のグリコーゲンを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の使用のための請求項1~4のいずれか1項に記載の薬学的組成物。
【請求項6】
前記グリコーゲンが動物源から入手可能であり、必要に応じて該グリコーゲンは牡蠣グリコーゲン、ムール貝グリコーゲンまたはウシグリコーゲンである、請求項1~5のいずれか1項に記載の薬学的組成物。
【請求項7】
前記セルロース誘導体がセルロースエーテルであり,必要に応じて該セルロースエーテルは、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、エチルセルロース(EC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(NaCMC)、またはそれらの組合せである、請求項3~6のいずれか1項に記載の使用のための請求項3~6のいずれか1項に記載の薬学的組成物。
【請求項8】
前記セルロースエーテルがヒドロキシプロピルメチルセルロースである、請求項7に記載の使用のための請求項7に記載の薬学的組成物。
【請求項9】
前記組成物のpHが5.7~6.7であり、必要に応じて該組成物のpHは6.0~6.2である、請求項1~8のいずれか1項に記載の使用のための請求項1~8のいずれか1項に記載の薬学的組成物。
【請求項10】
ヒドロゲルの形態である、請求項1~9のいずれか1項に記載の使用のための請求項1~9のいずれか1項に記載の薬学的組成物。
【請求項11】
膣ペッサリーである、請求項1~10のいずれか1項に記載の使用のための請求項1~10のいずれか1項に記載の薬学的組成物。
【請求項12】
粘膜付着性であり、必要に応じて粘膜付着性フィルム、粘膜付着性ゲルまたは粘膜付着性インサイチュゲル化液晶前駆体システムを含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の使用のための請求項1~11のいずれか1項に記載の薬学的組成物。
【請求項13】
1種または複数種の薬学的に受容可能な賦形剤をさらに含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の薬学的組成物。
【請求項14】
1種または複数種の追加の治療剤をさらに含む、請求項1~13のいずれか1項に記載の使用のための請求項1~13のいずれか1項に記載の薬学的組成物。
【請求項15】
前記1種または複数種の追加の治療剤が抗生物質、抗菌薬、抗真菌薬、抗寄生虫薬、抗ウイルス薬、防腐薬および抗炎症薬から選択される、請求項14に記載の使用のための請求項14に記載の薬学的組成物。
【請求項16】
健常対象と比較した対象の膣におけるラクトバチルス属の数の減少に関連する状態の予防または処置のための方法であって、それを必要とする対象に請求項1~15のいずれか1項において規定される薬学的組成物を投与する工程を含む、方法。
【請求項17】
前記使用または方法が、前記対象の膣における、前記状態を有する未処置対象と比較したラクトバチルス属の数の増加を提供する工程を含み、必要に応じて該ラクトバチルス属の数の増加は少なくとも48時間で達成される、請求項1~16のいずれか1項に記載の使用または方法のための薬学的組成物。
【請求項18】
前記使用または方法が、前記膣におけるラクトバチルス属の数を正常レベルに回復させる工程を含む、請求項1~17のいずれか1項に記載の使用または方法のための薬学的組成物。
【請求項19】
前記使用または方法が、前記対象の膣の正常pH3.8~4.5を達成する工程を含む、請求項1~18のいずれか1項に記載の使用または方法のための薬学的組成物。
【請求項20】
予防または処置される状態が、膣感染症、膣炎症、またはそれら由来の合併症、必要に応じて再発性膣感染症または再発性膣炎症である、請求項1~19のいずれか1項に記載の使用または方法のための薬学的組成物。
【請求項21】
前記合併症が、早産、死産、分娩後膣感染症または分娩後膣炎症である、請求項20に記載の使用または方法のための薬学的組成物。
【請求項22】
予防または処置される状態が、細菌性腟症、腟炎、外陰膣カンジダ症またはB群レンサ球菌感染症である、請求項1~21のいずれか1項に記載の使用または方法のための薬学的組成物。
【請求項23】
処置される対象が妊娠している、請求項1~22のいずれか1項に記載の使用または方法のための薬学的組成物。
【請求項24】
予防または処置される状態が、健常対象と比較した対象の膣における病原性細菌または病原性酵母の数の増加に関連し、必要に応じてGardnella vaginalisもしくはB群レンサ球菌細菌またはカンジダ属酵母の種、必要に応じてCandida albicansの数の増加に関連する、請求項1~23のいずれか1項に記載の使用または方法のための薬学的組成物。
【請求項25】
前記組成物が腟内投与に適している、請求項1~24のいずれか1項に記載の使用のための請求項1~24のいずれか1項に記載の薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、健常対象と比較した対象の膣におけるラクトバチルス属の数の減少に関連する状態、例えば、膣感染症または膣炎症(細菌性腟症、腟炎、外陰膣カンジダ症またはB群レンサ球菌感染症など)を予防または処置することにおける使用のための、グリコーゲンを含む薬学的組成物、あるいはその組成物を用いたそのような状態またはその結果生じる続発症の予防または処置のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
細菌性腟症(BV)は、世界的に生殖年齢の女性における最も一般的な膣感染症であり、後期流産または早産のリスクの増加(1、2)、分娩後子宮内膜炎(3)そしてまた性感染症(HIVなど)になる可能性が高くなること(4)を含む、著しい有害事象に関連する。報告された有病率は、研究された集団に依存して、どの時点でも10%~40%の範囲にある。しかし、最適ではない診断方法および高いパーセンテージの無症状患者は、BVの真の有病率はそれよりも非常に高い可能性があることを示唆する(5)。BVは、臭い魚臭を有する膣分泌物の体積増加に関連する。
【0003】
BVの正確な原因はほとんどの場合において依然として知られていないが、局所宿主免疫および生殖器微生物叢の両方の変化が、BVの発病に寄与しているようである(6)。正常状態下では、ラクトバチルス属細菌が、膣において優勢であり、過酸化水素と乳酸とを膣グリコーゲンから産生して膣酸性度をpH4とpH5との間で維持することによって他の微生物の増殖を制御すると考えられている。ラクトバチルス属は、グラム陽性で、通性嫌気性または微好気性で、桿状の、非芽胞形成細菌の属である。
【0004】
しかし、BVを有する女性において、通常の膣ラクトバチルスは、他の嫌気性菌の異常増殖によって置き換わられ、同時にラクトバチルス数が減少している。最近のデータは、BVにおける特異的でおそらく性感染する病原因子としてのGardnerella vaginalisの主要な役割(7~9)を示唆し、これは、1955年にGardnerおよびDukesによって最初に仮定された(10)とおりである。したがって、酸産生ラクトバチルスがBVを有する女性において見出され得る(11)が、それらの数は、Gardnerella vaginalisに打ち勝つほど十分ではない可能性があり、膣pHが約7.8~8.2に増加すると今度はGardnerella vaginalisが支配的微生物叢としてラクトバチルスに取って代わる(12)。反対に、多数の研究は、ラクトバチルス数の顕著な減少が存在しない場合でさえ、小さな減少が、カンジダ属の種などの酵母による異常増殖を可能にするのに十分であり得、それが、外陰膣カンジダ症の症状と矛盾しないpHの4未満への低下を引き起こすことを示した((27)~(32))。
【0005】
しばしば、BVの症状を経験している女性は、臭い魚臭および過剰な膣分泌物が十分に不愉快だと訴え、その結果、これらの女性は医学的処置を求める。伝統的処置は、慣行的に、処方箋が必要な抗生物質であるメトロニダゾールおよびクリンダマイシンを中心としてきた。7日間経口処置としてのメトロニダゾールは、1か月後に80%~90%の治癒率を有する。副作用としては、悪心、腹部疝痛および金気(metallic taste)が挙げられる。その患者は、それがアンタビュース効果(antabuse effects)を生じ得るので、アルコール摂取を控えなければならない。それは、妊娠初期においては推奨されない。メトロニダゾールはまた、膣用ジェル、例えば、METROGEL VAGINAL(登録商標)の状態で入手可能であるが、その一般的使用にもかかわらず、膣用ゲルはとうてい理想的ではない。有効であるためには、そのゲルは、通常は夜に、1日1回または1日2回、5日間にわたって塗布されなければならない。7日間経口処置としてのクリンダマイシンは、メトロニダゾールと等しい効果を有し、その副作用はもっと少ないが、下痢する可能性があり、クロストリジウム・ディフィシル腸炎に関する懸念が、広汎な使用を妨げてきた(13、14)。高い治癒率にもかかわらず、進行する処置が経口処置であったかまたは腟内処置であったかとは無関係に、かなりの割合の女性が、BVの再発および再燃に悩まされている(15、16)。例えば、二重盲検プラセボ対照交差試験は、0.75%(質量/体積)メトロニダゾールゲルを用いた腟内処置が、処置の1か月後に再発率約15%を生じたことを示した(17)。
【0006】
抗生物質は、BVに対する一時的処置である。抗生物質は、BVの原因となる細菌を除去し得るが、同時にまた、膣における細菌叢の天然のバランスを破壊もし、それは、長期間で破壊的であり得、他の感染症(カンジダ症を含む)をもたらし得る。
【0007】
Canesbalance(登録商標)およびBalance Activ(登録商標)は、BVの症状を減少すると主張する市販製品である。これらの製剤は、乳酸とグリコーゲンとを含んで構成されている。これらの製剤は酸性であるので、これらは、刺激および出血さえも引き起こし得る。これらの製剤の酸性度により、膣pHの急速な低下をもたらして病原性細菌の異常増殖を減少させ、酸耐性ラクトバチルスの再増殖を促進することになる。したがって、これらの製剤は、解決策ではなく、せいぜい、一部の女性において一時的な軽減をいくらか提供するに過ぎない。この再増殖は、最も酸耐性で増殖が速いラクトバチルス血清型(おそらく単一血清型またはごく少数の血清型が多数を占める)のみの再増殖であり、これは、経時的に持続しない可能性があり、病原性異常増殖による置き換えおよび症状の再発が生じ得る。
【0008】
多くの健康な女性は、BVの症状を、医学的問題ではなく適切な衛生の欠如を示すと考え、しばしば、医学的助言を求めるのではなく、処方箋なしで購入した膣洗浄器を使用する。悪臭がする分泌物を酸性の膣洗浄液で洗い落とすという考えは、単純化された訴求力を有し得る。しかし、医学的には、膣洗浄は反対されている。その理由は、研究によって、膣洗浄と、骨盤内炎症性疾患(PID)、子宮外妊娠、卵管性不妊症、および妊孕性減少との間の関係が実証された(18~21)からである。別の代替手段もまた勧められており、それには、ヨーグルト生菌製剤またはLactobacillus acidophilus生菌製剤が挙げられるが、現在までの研究は、プロバイオティクスの使用からの利点を未だ実証していない(15)。米国特許第6,440,949号において、酸性プレバイオティクス製剤における1種または複数種の糖質(グリコーゲンは除く)の使用が、膣pHを減少するための方法として示唆されている。デンマーク人に基づく臨床試験において、この特許は種々の濃度の糖質を試験したが、それらの濃度のいずれもpHの顕著な減少を示さず、さらに、それらの濃度のいずれも臭いの原因となる細菌を除去しなかった。
【0009】
EP1072269B1は、BVに対する処置としての乳酸ゲルにおけるグリコーゲン(2.5質量/体積%と17質量/体積%との間の濃度で単独で、および他の多糖と一緒に)の使用を開示するが、臨床的利点は乏しいと報告された。
したがって、BVは生殖年齢の女性において現在最も蔓延している形態の膣感染症であるいう事実を考慮すれば、現在利用可能なBV処置の欠点に対処する新規な組成物に対する真の当面の必要性が存在する。例えば、首尾良い処置過程後のBVの再発率を減少する膣内処置を、婦人科合併症(早産など)を減少するという追加の利点を伴って、利用可能にすることが望ましい。他の膣感染症または膣炎症に対する新規な処置を提供する必要性もまた、存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】欧州特許第1072269号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
(発明の概要)
本発明のある局面において、健常対象と比較した対象の膣におけるラクトバチルス属の数の減少に関連する状態の予防または処置における使用のための薬学的組成物が提供され、その組成物は、1.3質量/体積%~1.7質量/体積%のグリコーゲンおよび0.1質量/体積%未満の乳酸を含む。
【0012】
本発明者らは、本発明の組成物が、処置した対象の膣におけるラクトバチルス属の数の顕著な増加を引き起こし、多くの膣感染症または膣炎症、例えば、細菌性腟症、腟炎、外陰膣カンジダ症またはB群レンサ球菌の有効な処置をもたらすことを、驚くべきことに見出した。
【0013】
特に好ましい実施形態において、その組成物は、乳酸を含まず、すなわち、その組成物は、0質量/体積%の乳酸を含む。
【0014】
好ましい実施形態において、その薬学的組成物は、水およびセルロース誘導体、必要に応じて94質量/体積%~97質量/体積%の水および2質量/体積%~5質量/体積%のセルロース誘導体をさらに含む。代表的には、その薬学的組成物は、1.3質量/体積%~1.7質量/体積%のグリコーゲン、必要に応じて1.4質量/体積%~1.6質量/体積%のグリコーゲン、水およびセルロース誘導体を含む。代表的には、その薬学的組成物は、1.3質量/体積%~1.7質量/体積%のグリコーゲン、必要に応じて1.4質量/体積%~1.6質量/体積%のグリコーゲンと、セルロース誘導体を含む水性ヒドロゲルとを含む。
【0015】
特に好ましい実施形態において、その薬学的組成物は、約1.5質量/体積%のグリコーゲンを含む。
【0016】
その薬学的組成物において正しい量のグリコーゲンを提供することが、その治療効果を達成するために特に重要である。
【0017】
理論によって拘束はされないが、1.3質量/体積%~1.7質量/体積%、好ましくは1.4質量/体積%~1.6質量/体積%、最も好ましくは約1.5質量/体積%のグリコーゲンを含む薬学的組成物は、それがラクトバチルス属のための炭素源として作用するように最適濃度のグリコーゲンを提供し、ラクトバチルス属の増殖を支援することが、理解される。より低濃度(例えば、1質量/体積%のグリコーゲン)では、炭素濃度が、良好なラクトバチルス属増殖を支持するためには十分ではない。より高濃度(例えば、2質量/体積%のグリコーゲン、またはEP1072269B1において開示される2.5質量/体積%~17質量/体積%)は、実際には細菌増殖を阻害し得る。高糖質濃度での細菌増殖の阻害は周知であり、糖質は、保存剤として、例えばジャムにおいて使用され得る。
【0018】
代表的には、そのグリコーゲンは、動物源から入手可能であり、必要に応じて、そのグリコーゲンは、牡蠣グリコーゲン、ムール貝グリコーゲンまたはウシグリコーゲンである。
【0019】
代表的には、そのセルロース誘導体は、セルロースエーテルである。そのセルロースエーテルは、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、エチルセルロース(EC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(NaCMC)、またはそれらの組合せであり得る。好ましくは、そのセルロースエーテルは、ヒドロキシプロピルメチルセルロースである。
【0020】
その薬学的組成物のpHは、5.7~6.7であり得る。好ましくは、その薬学的組成物のpHは、6.0~6.2である。
【0021】
代表的には、その薬学的製品は、ヒドロゲルの形態である。
【0022】
その薬学的組成物は、膣ペッサリーであり得る。
【0023】
その薬学的組成物は、粘膜付着性であり得、例えば、それは、粘膜付着性フィルムもしくは粘膜付着性ゲルまたは粘膜付着性インサイチュゲル化液晶前駆体システム(mucoadhesive in situ gelling liquid crystalline precursor system)を含み得る。
【0024】
その薬学的組成物は、1種または複数種の薬学的に受容可能な賦形剤をさらに含み得る。
【0025】
その薬学的組成物は、1種または複数種の追加の治療剤をさらに含み得る。その1種または複数種の追加の治療剤は、抗生物質、抗菌薬、抗真菌薬、抗寄生虫薬、抗ウイルス薬、防腐薬および抗炎症薬から選択され得る。
【0026】
さらなる局面において、本発明は、健常対象と比較した対象の膣におけるラクトバチルス属の数の減少に関連する状態の予防または処置のための方法を提供し、その方法は、それを必要とする対象に上記で規定された薬学的組成物を投与する工程を含む。
【0027】
本発明の使用または方法のための薬学的組成物のある実施形態において、その使用または方法は、対象の膣における、上記状態を有する未処置対象と比較したラクトバチルス属の数の増加を提供する工程を含む。本発明の使用または方法のための薬学的組成物のある実施形態において、その使用または方法は、膣におけるラクトバチルス属の数を正常レベルに回復させる工程を含み、すなわち、膣マイクロバイオームの個別化された性質は、その薬学的組成物に対する反応を対象特異的にし、各患者に彼女たち自身の「個別化マイクロバイオーム治療」を与える。そのラクトバチルス属は、内在性ラクトバチルス属であり得、すなわち、健常である対象の膣に通常存在し得る。そのラクトバチルス属は、Lactobacillus gasseri、Lactobacillus acidophilus、Lactobacillus paracasei、Lactobacillus salivarius、Lactobacillus johnsoniiまたはそれらの組合せを含み得る。ラクトバチルス属による単一炭素源としてのグリコーゲンの発酵が、正常レベルへのラクトバチルス属の回復を可能にする栄養分を提供するだけでなく、その発酵の最終産物(乳酸、過酸化水素)が、pHの回復もまた引き起こす。細菌性腟症の場合、そのpHは、アルカリ性から弱酸性へ低下する。乳酸は、外陰膣カンジダ症の原因となるカンジダ属の種の増殖を阻害することが広く実証されている。したがって、ラクトバチルス属の数の回復は、膣における乳酸の濃度を増加させ、病原性カンジダ属の種の増殖を阻害する(33)。
【0028】
その予防または処置される状態は、代表的には、膣感染症、膣炎症、またはそれら由来の合併症であり、必要に応じて再発性膣感染症または再発性膣炎症である。その合併症は、早産、死産、分娩後膣感染症または分娩後膣炎症であり得る。
【0029】
本発明の好ましい実施形態において、その予防または処置される状態は、細菌性腟症、腟炎、外陰膣カンジダ症またはB群レンサ球菌感染症である。
【0030】
一実施形態において、その処置される対象は、妊娠している。
【0031】
好ましい実施形態において、その予防または処置される状態は、B群レンサ球菌感染症であり、その対象は、妊娠している。
【0032】
本発明の使用または方法のための組成物の実施形態において、その予防または処置される状態は、健常対象と比較した対象の膣における病原性細菌または病原性酵母(必要に応じてGardnella vaginalisもしくはB群レンサ球菌細菌またはカンジダ属酵母の種(必要に応じてCandida albicans))の数の増加に関連する。
【0033】
代表的には、その薬学的組成物は、腟内投与に適している。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1図1は、患者1由来の一定範囲のグリコーゲン濃度に対する平均コロニー数を示す。その患者由来の8個のコロニーを各々、0質量/体積%のグリコーゲンを含む培地において72時間増殖させた。その後、10μlのこの溶液を、各グリコーゲン濃度で96時間インキュベートし、その後、ラクトバチルス属選択寒天培地に三連のn=24でプレートした。各バーは、真の値(平均)からの偏差を示し、有意を示すサンプルにはアスタリスク(*)で印が付いている。
図2図2は、患者2由来の一定範囲のグリコーゲン濃度に対する平均コロニー数を示す。その患者由来の3個のコロニーを各々、0質量/体積%のグリコーゲンを含む培地において72時間増殖させた。その後、10μlのこの溶液を、各グリコーゲン濃度で72時間インキュベートし、その後、ラクトバチルス属選択寒天培地に三連のn=9でプレートした。
図3図3は、患者3由来の一定範囲のグリコーゲン濃度に対する平均コロニー数を示す。その患者由来の3個のコロニーを各々、0質量/体積%のグリコーゲンを含む培地において72時間増殖させた。その後、10μlのこの溶液を、各グリコーゲン濃度で72時間インキュベートし、その後、ラクトバチルス属選択寒天培地に三連のn=9でプレートした。
図4図4は、16S rRNAアンプリコン配列決定によって決定した、(A)本発明の組成物による処置前および(B)本発明の組成物による処置後の、患者の膣における細菌種の相対比率の円グラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
(詳細な説明)
本発明のある局面において、健常対象と比較した対象の膣におけるラクトバチルス属の数の減少に関連する状態の予防または処置における使用のための薬学的組成物が提供され、その組成物は、1.3質量/体積%~1.7質量/体積%のグリコーゲンおよび0.1質量/体積%未満の乳酸を含む。
【0036】
当業者は、健常対象と比較した対象の膣におけるラクトバチルス属の数の減少に関連する多くの状態、例えば膣感染症または膣炎症、特に、細菌性腟症、腟炎、またはB群レンサ球菌感染症を知っている。
【0037】
当業者はまた、対象の膣におけるラクトバチルス属の数を測定する方法を知っている。例えば、スワブが、その対象の膣から採取され得、ラクトバチルス属の増殖のために適切な培地に接種するために使用され得る。接種後、増殖した細菌は、次にラクトバチルス属特異的寒天プレート上に培養され、37℃にて適切な期間嫌気的にインキュベートされる。その後、細菌コロニーの数が、計数される。ラクトバチルス属の数は、代表的には、コロニー形成単位(CFU)で表される。ラクトバチルス属は、健常な閉経前女性において最も優勢であり、膣液1mL当たり10CFU~10CFUにて膣においてしばしば数が支配的な微生物である(Farage MA、Miller KW、Sobel JD、(2010)、Dynamics of the vaginal ecosystem-hormonal influences.、Infect Dis Res Treat、3:1~15、およびBoris S、Barbes C(2000)、Role played by lactobacilli in controlling the population of vaginal pathogens.、Microbes Infect、2:543~546を参照のこと)。CFUは、サンプルにおける生細菌の数を評価するために使用される単位である。生(生存可能)とは、制御された条件下で二分裂を経由して増殖する能力として定義される。コロニー形成単位での計数は、微生物を培養することを必要とし、生きていようと死んでいようと全ての細胞を計数する顕微鏡検査とは対照的に、生細胞のみを計数する。細胞培養におけるコロニーの視覚的出現は顕著な増殖を必要とし、コロニーを計数する場合には、そのコロニーが1つの細胞から生じたのかまたは細胞群から生じたかのかは不確かである。結果をコロニー形成単位として表すことは、この不確実性を反映する。代表的には、本発明の薬学的組成物は、膣のラクトバチルス属のCFUが健常対象と比較して顕著に減少している膣状態を処置する。本発明の薬学的組成物は、膣のラクトバチルス属の数の顕著な増加、すなわち、その膣状態に罹患している未処置対象と比較したラクトバチルス属のCFUの顕著な増加を、引き起こす。
【0038】
したがって、好ましい実施形態において、本発明は、膣感染症または膣炎症、必要に応じて細菌性腟症、腟炎、またはB群レンサ球菌感染症の、予防または処置における使用のための薬学的組成物に関し、その組成物は、1.3質量/体積%~1.7質量/体積%のグリコーゲンおよび0.1質量/体積%未満の乳酸を含む。
【0039】
本発明者らは、本発明の組成物が、処置した対象の膣におけるラクトバチルス属の数の顕著な増加を引き起こし、多くの膣感染症または膣炎症、例えば細菌性腟症または腟炎の有効な処置をもたらすことを、驚くべきことに見出した。膣上皮表面におけるラクトバチルス属は、グリコーゲンを食物源として使用して、より低いpHでその環境を維持し他の細菌型を阻止する、乳酸を産生することが、理解される。ヒト膣組織のグリコーゲン含有量は、Gregoire,A.T.ら、Fertility and Sterility、Vol.22、No.1、January 1971において考察されている。しかし、グリコーゲンを含む組成物が、膣の微生物叢を変化させることによる膣感染症(BVなど)の処置のために先行技術において開示されているが、グリコーゲンは、代表的には、別の活性成分(乳酸または別の糖質など)と組み合わせて使用されるか、あるいはグリコーゲンは、顕著に高い濃度で使用される。
【0040】
本薬学的組成物において正しい量のグリコーゲンを提供することが、その治療効果を達成するために特に重要である。
【0041】
理論によって拘束されないが、1.3質量/体積%~1.7質量/体積%、好ましくは1.4質量/体積%~1.6質量/体積%、最も好ましくは約1.5質量/体積%のグリコーゲンを含む薬学的組成物は、それがラクトバチルス属のための炭素源として作用するように最適濃度のグリコーゲンを提供し、ラクトバチルス属の増殖を支援することが、理解される。より低濃度(例えば、1質量/体積%のグリコーゲン)では、炭素濃度が、良好なラクトバチルス属増殖を支持するためには十分ではない。より高濃度(例えば、2質量/体積%のグリコーゲン、またはEP1072269B1において開示される2.5質量/体積%~17質量/体積%)は、実際には、細菌増殖を阻害し得る。高糖質濃度での細菌増殖の阻害は周知であり、糖質は、保存剤として、例えばジャムにおいて使用され得る。
【0042】
代表的には、そのグリコーゲンは、動物源から入手可能であり,必要に応じて、そのグリコーゲンは、牡蠣グリコーゲン、ムール貝グリコーゲンまたはウシグリコーゲンである。
【0043】
好ましい実施形態において、その薬学的組成物は、水およびセルロース誘導体、必要に応じて94質量/体積%~97質量/体積%の水および2質量/体積%~5質量/体積%のセルロース誘導体をさらに含む。
【0044】
代表的には、その薬学的組成物は、1.3質量/体積%~1.7質量/体積%のグリコーゲン、必要に応じて1.4質量/体積%~1.6質量/体積%のグリコーゲン、水およびセルロース誘導体を含むかまたはそれらからなる。例えば、好ましくは、その薬学的組成物は、1.3質量/体積%~1.7質量/体積%のグリコーゲン、必要に応じて1.4質量/体積%~1.6質量/体積%グリコーゲンと、セルロース誘導体を含む水性ヒドロゲルとを含むかまたはそれらからなる。
【0045】
特に好ましい実施形態において、その薬学的組成物は、約1.5質量/体積%のグリコーゲンを含む。
【0046】
本発明の重要な利点は、当然他の成分は存在し得るが、その薬学的組成物が、たった3種の重要成分であるグリコーゲン、セルロース誘導体および水だけを使用して形成され得、治療効果を達成し得ることである。この単純な組成物は、先行技術の組成物よりも少ない副作用(例えば、刺激および出血)しか提供しない可能性が高い。
【0047】
その薬学的組成物は、0.1質量/体積%未満の乳酸、必要に応じて0.05質量/体積%未満の乳酸を含む。その組成物は、微量の乳酸を含み得るが、最も好ましい実施形態において、その組成物は、乳酸を含まず、すなわち、それは、0質量/体積%の乳酸を含む。BVを処置するための乳酸を含む先行技術の組成物、例えば、EP1072269B1に記載される組成物、ならびに市販のCanesbalance(登録商標)製剤およびBalance Active(登録商標)製剤が、公知である。乳酸は、これらの製剤中に、その組成物のpHを減少させるために含まれている。患者に投与された場合、これらの製剤は、膣のpHの急速な低下をもたらし、病原性細菌の異常増殖を減少させ、酸耐性ラクトバチルス属の再増殖を促進する。しかし、これらの強酸性乳酸含有組成物は、患者において刺激および出血を引き起こし得る。さらに、これらの乳酸含有組成物は、代表的には、最も酸耐性で増殖が速いラクトバチルス血清型の再増殖を可能にするに過ぎず、これは、経時的には持続しない可能性があり、病原性細菌による置き換えおよび症状の再発が生じ得る。
【0048】
本発明の組成物は、強酸性ではなく、微量よりも多い乳酸を含まず、好ましくは乳酸を含まず、先行技術の酸性製剤によって引き起こされる刺激および出血を回避する。
【0049】
さらに、本発明の薬学的組成物は、先行技術のラクトバチルス属製剤よりも優れた安定性および有効期間を有する。
【0050】
そのグリコーゲンは、海洋生物、例えば牡蠣から、入手可能であり得る。そのグリコーゲンは、II型グリコーゲンであり得る。海洋生物源に由来するグリコーゲンは市販されており、例えば、牡蠣由来のII型グリコーゲンが、Sigma Aldrich(カタログ番号G8751)から入手可能である。そのグリコーゲンはまた、植物源は除く他の海産物源(例えば、種々のムール貝)または陸生動物源(哺乳動物の筋肉もしくは肝臓が挙げられる)にも由来し得る。グリコーゲンは、細菌(ならびにヒト、動物、および真菌)において一種のエレネルギー貯蔵庫として役立つ、グルコースの多分岐型多糖である。したがって、本発明の組成物において提供されるグリコーゲンは、ラクトバチルス属にエネルギー源または炭素源を提供し、ラクトバチルス属が成長するのを可能にすることが、理解される。グリコーゲンは、約8グルコース単位~約12グルコース単位の平均鎖長を有する、グルコース残基の直鎖からなる分岐型バイオポリマーである。グルコース単位は、ある1つのグルコースから次のグルコースへとα(1→4)グリコシド結合によって直鎖状に一緒に連結される。分岐がその鎖に連結され、その鎖から、新しい分岐の第1のグルコースと主鎖のグルコースとの間のα(1→6)グリコシド結合によって、分岐が枝分かれしている。
【0051】
そのセルロース誘導体は、セルロースを含む任意のポリマーであり得る。代表的には、そのセルロース誘導体は、セルロースエーテルである。そのセルロースエーテルは、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、エチルセルロース(EC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(NaCMC)、またはそれらの組合せであり得る。好ましくは、そのセルロースエーテルは、ヒドロキシプロピルメチルセルロースである。ヒドロキシプロピルメチルセルロースとメチルセルロースとの組合せもまた、使用され得る。セルロースエーテルは、市販されている(例えば、Shin EtsuからMetalose(登録商標)90SH-400)。そのセルロース誘導体はまた、セルロース表面(Ushercell)であり得る。
【0052】
その薬学的組成物のpHは、5.7~6.7であり得る。その組成物のpHは、6.0~6.5、または6.0~6.3であり得る。好ましくは、その薬学的組成物のpHは、6.0~6.2である。
【0053】
代表的には、その薬学的製品は、ヒドロゲルの形態である。ヒドロゲルは、親水性ポリマー(セルロースエーテルなど)の架橋ネットワークを含む。ヒドロゲルは、その三次元構造を維持しつつ、多量の水を吸収し膨張する能力を保有する。
【0054】
その薬学的組成物は、膣ペッサリー、代表的には、膣ヒドロゲルペッサリーであり得る。代替的実施形態において、その薬学的組成物は、錠剤、懸濁液または分散液、乾燥散剤、局所軟膏、クリーム剤、フォーム剤、ゲル剤、ポリマー性ナノ粒子、生体接着性ポリマー、速溶性フィルム剤、坐剤、またはエアロゾル剤であり得る。その薬学的組成物は、基材物質、例えば、綿物質またはガーゼ物質(タンポンなど)に塗布され得る。
【0055】
その薬学的組成物は、膣に直接投与されてもよく、または固体デバイス(例えば、アプリケータ)を使用して投与されてもよい。
【0056】
その薬学的組成物は、粘膜付着性であり得る。膣の状態を処置するための伝統的な市販の製剤は、膣の管の自浄作用が原因で比較的短期間しか膣腔において滞留しないことが知られており、望ましい治療効果を確実にするためには1日複数回の投与をしばしば必要とする。本発明の組成物は、好ましくは、粘膜付着性であり、すなわち、それは、膣粘膜に付着可能である。その組成物の粘膜付着性の性質は、膣腔におけるその薬学的組成物の滞留時間を長くする。セルロースエーテル(HPMCなど)は、代表的には、粘膜付着性ポリマーである。
【0057】
本発明の使用のための薬学的組成物は、粘膜付着性フィルム、粘膜付着性ゲルまたは粘膜付着性インサイチュゲル化液晶前駆体システム(mucoadhesive in situ gelling liquid crystalline precursor system)を含み得るかまたはそれらからなり得る。
【0058】
その使用のための薬学的組成物は、1種または複数種の薬学的に受容可能な賦形剤をさらに含み得る。本発明の薬学的組成物に含まれ得る薬学的に受容可能な賦形剤としては、例えば、生理的に許容可能な界面活性剤、溶媒、皮膚軟化剤、着色料、香料、ゲル化剤、乳化剤、緩衝剤、結合剤、抗酸化剤、崩壊剤、懸濁剤、キレート剤などが挙げられ、それらは、当該分野において周知である。可能性のある賦形剤が、「Compendium of Pharmaceutical Excipients for Vaginal Formulations」、S.Gargら、Pharmaceutical Technology Drug Delivery、2001の表IIにおいて提示されている。
【0059】
その薬学的組成物は、保存料を含まないものであり得、例えば、その組成物は、0.1質量/体積%未満の保存料を含み得る。
【0060】
その薬学的組成物は、1種または複数種の追加の治療剤をさらに含み得る。その1種または複数種の追加の治療剤は、抗生物質、抗菌薬、抗真菌薬、抗寄生虫薬、抗ウイルス薬、防腐薬および抗炎症薬から選択され得る。
【0061】
その1種または複数種の追加の治療剤は、以下から選択され得る:
抗菌薬(C31G、トリメトプリム、スルファメトキサゾール、およびクロロマイセチンなど);
防腐薬(クロルヘキシジングルコン酸塩など);
抗生物質(エリスロマイシン、ペニシリン系抗生物質、セファロスポリン系抗生物質およびそれらの誘導体、アンピシリン、メチシリン、およびドキシサイクリンなど);
抗炎症薬(ナプロキセン、インドメタシン、およびヒドロコルチゾンなど);
抗寄生虫薬(チアベンダゾールなど);
抗原虫薬(メトロニダゾール、および塩酸クロロキンなど);
抗ウイルス薬(デキストラン硫酸および他の硫酸化多糖類、スクアラミン、およびビダラビンなど);ならびに
抗真菌薬(ケトコナゾール、フルシトシン、イトラコナゾール、アムホテリシンB、ナイスタチン、硝酸ブトコナゾール、およびクロトリマゾールなど)。
【0062】
さらなる局面において、本発明は、健常対象と比較した対象の膣におけるラクトバチルス属の数の減少に関連する状態の予防または処置のための方法を提供し、その方法は、それを必要とする対象に、上記に規定される薬学的組成物を投与する工程を含む。
【0063】
その対象は、ヒトまたは非ヒト動物であり得る。
【0064】
本発明の使用または方法のための薬学的組成物のある実施形態において、その使用または方法は、その対象の膣における、その状態を有する未処置対象と比較したラクトバチルス属の数の増加を提供する工程を含む。一実施形態において、そのラクトバチルス属の数の増加は、少なくとも48時間で、必要に応じて72時間で、達成される。本発明の使用または方法のための薬学的組成物のある実施形態において、その使用または方法は、その膣におけるラクトバチルス属の数を正常レベルに回復させる工程、すなわち、その対象の膣におけるラクトバチルス属の数を健常対象において見出されるラクトバチルス属の数に回復させる工程を含む。健常対象におけるラクトバチルス属の数は、患者依存性であるが、健常な閉経前女性は、膣液1mL当たり10CFU~10CFUのラクトバチルス属を有し得る。
【0065】
膣におけるラクトバチルスの数を測定する方法は、上記で議論されており、当業者にとって公知である。例えば、スワブが、その対象の膣から採取され得、ラクトバチルス属の増殖のために適切な培地に接種するために使用され得る。接種後、増殖した細菌は、次にラクトバチルス属特異的プレート上に培養され、適切な期間インキュベートされる。その後、細菌コロニーの数が、計数される。ラクトバチルス属の数は、代表的には、コロニー形成単位(CFU)で表される。そのラクトバチルス属は、内在性ラクトバチルス属であり得、すなわち、健常である対象の膣に通常存在し得る。その膣微生物藻は、個体間で顕著に異なり得、膣腔に存在するラクトバチルス属および他の微生物の数および型には、個体間で顕著な差異が存在し得ることが、理解される。しかし、そのラクトバチルス属は、Lactobacillus gasseri、Lactobacillus acidophilus、Lactobacillus paracasei、Lactobacillus salivarius、Lactobacillus johnsoniiまたはそれらの組合せを含み得る。
【0066】
その予防または処置される状態は、代表的には、膣感染症、膣炎症、またはそれら由来の合併症である。その状態は、再発性膣感染症または再発性膣炎症であり得る。再発性膣感染症または再発性膣炎症は、症状の初期の減少または除去にもかかわらず症状が再発する、例えば、感染症または炎症の症状が、1か月後、2か月後もしくは3か月後に再発する、膣感染症または膣炎症である。感染症は、再発し得る。その理由は、病原性細菌集団が初期処置の後で顕著に減少されて、有益な細菌(ラクトバチルス属など)の再増殖が可能になるが、その病原性細菌は、完全には除去されず、経時的に再増殖して、その感染症の再発を引き起こすからである。
【0067】
本発明の組成物は、再発性感染症を処置するために特に適している。その理由は、本発明の組成物が、酸耐性であるラクトバチルス属(先行技術の乳酸含有薬学的組成物での処置後に見出されるラクトバチルス属など)だけでなく、あらゆるラクトバチルス属の再増殖を支持すると理解されるからである。より広範囲のラクトバチルス属の再増殖を支持することによって、病原性細菌または病原性酵母の再増殖が生じる可能性が低く、BVまたは外陰膣カンジダ症などの感染症の再発を予防する。
【0068】
その薬学的組成物は、膣感染症または膣炎症の合併症(早期分娩もしくは早産、死産、分娩後膣感染症または分娩後膣炎症など)を予防または処置するために使用され得る。膣感染症(BVなど)は、早期分娩、早産、死産、妊娠初期流産(必要に応じて、IVFを経験している女性における)、羊水感染症、絨毛羊膜炎、出産または流産後の子宮内膜炎、子宮摘出術後の感染症、骨盤内炎症性疾患、および分娩後の感染症/炎症のリスク増加を提供することが、周知である(例えば、Romero,R.ら、(2001)、「The role of infection in preterm labour and delivery」、Journal of Pediatric and Perinatal Epidemiology、15(2)、pp.41~56、Warr AJら、「Sexually transmitted infections during pregnancy and subsequent risk of stillbirth and infant mortality in Kenya:a prospective study」、BMJ、2018;0:1~7、doi:10.1136/sextrans-2018-053597、Baquiら、「Prevalence of and risk factors for abnormal vaginal flora and its association with adverse pregnancy outcomes in a rural district in north‐east Bangladesh」、Acta Obstet Gynecol Scand.、2018;1~11、およびPaavonen,J.ら、「Bacterial Vaginosis and Desquamative Inflammatory Vaginitis」、N Engl J Med、2018;379:2246~2254を参照のこと)。
【0069】
本発明の好ましい実施形態において、その予防または処置される状態は、細菌性腟症、腟炎、外陰膣カンジダ症またはB群レンサ球菌感染症である。
【0070】
本発明の使用または方法のための組成物の実施形態において、その予防または処置される状態は、健常対象と比較した対象の膣における病原性細菌(必要に応じてGardnella vaginalis細菌)、または病原性酵母の数の増加に関連する。病原性細菌または病原性酵母は、疾患または医学的状態の原因となり得るあらゆる細菌または酵母である。
【0071】
代表的には、その薬学的組成物は、腟内投与に適している。その薬学的組成物は、患者が仰臥位である間に、代表的には夜間に、投与され得る。
【0072】
さらなる局面において、本発明は、薬学的組成物を調製する方法を提供し、その方法は、以下を含む:
(a)水を約80℃に加熱する工程;
(b)その加熱した水に、セルロース誘導体を、2質量/体積%~5質量/体積%のそのセルロース誘導体を含む水溶液を提供する量で撹拌しながら徐々に添加する工程;
(c)その水溶液を冷却してゲルを形成する工程;
(d)1℃~5℃にてグリコーゲン水溶液を別に提供する工程;
(e)そのゲルをそのグリコーゲン水溶液と混合して薬学的成物を提供する工程であって、その薬学的組成物は、1.3質量/体積%~1.7質量/体積%のグリコーゲン(必要に応じて1.4質量/体積%~1.6質量/体積%、必要に応じて約1.5質量/体積%)を含む、工程。
【0073】
そのセルロース誘導体は、上記された任意のセルロース誘導体(例えばHPMC)であり得る。撹拌は、代表的には、溶液を、例えば磁気撹拌機で、かき混ぜることによって達成される。工程(e)において、その混合は、ゲルとグリコーゲン水溶液との、非常に遅い混合または漸進的混合である。
【0074】
その方法の直接の産物は、本発明の使用または処置の方法のための薬学的組成物において使用される組成物の好ましい実施形態である。
【0075】
本発明は、ここで実施例によってさらに記載され、それらの実施例は、当業者が本発明を実施するのを援助するのに役立つことを意図し、本発明の範囲をいかなる様式でも限定することは意図しない。
【実施例
【0076】
(実施例1)
この研究は、対象内変動に基づき、したがって、予診票の完了および同意の後に、ただ1人の患者をこの研究に登録した。Amselの基準のうちの3つ(臭気(whiff)検査陽性、灰白色の均一な分泌物、および糸玉状細胞の存在)を使用して、その患者をBVと診断した。
この方法は、当業者にとって周知である。スワブをその患者から採取し、炭素源をグリコーゲンで置換した人工膣液(AVF)中に接種した。
【0077】
(ゲルの製剤化)
以下の濃度のグリコーゲンを含むゲルを、100mlガラス培地瓶に調製した:0質量/体積%、0.5質量/体積%、1.0質量/体積%、1.5質量/体積%および5質量/体積%。冷たいゲル作製プロセスおよび熱いゲル作製プロセスの両方をこの方法において使用し、そのプロセスにおいて、60mLの水を80°Cに加熱し、その水に、半合成ポリマーであるヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)(Metolose(登録商標)90SH-400)を2.5g、その溶液を磁気ホットプレート撹拌機で継続して撹拌しながら徐々に添加した。グリコーゲンを20mL容積フラスコに相対量で添加し、これもまた磁気撹拌機に配置しながら冷水で補った。その後、製剤化したゲルを混合し、室温まで冷却させた。その後、溶解したグリコーゲンをそのゲルサンプルに添加し、残りの20mLの冷水もまた徐々に添加した。その後、全てのサンプルに標識を付け、オートクレーブ処理し、冷蔵庫に配置した。
【0078】
(細菌増殖培地の調製)
3L(144個の寒天培地)のRogosa寒天培地を調製し、その調製は、20.5gのその増殖培地を6個の500mLガラス培地瓶に添加し、それらの瓶に1.3mLの氷酢酸を添加し、その後で250mLになるまで蒸留水で補うことによった。その後、そのサンプルをオートクレーブ中に配置した後、滅菌条件下でプレートに注いだ。
【0079】
(人工膣液の調製)
2種の人工膣液(AVF)を調製し、1種は炭素を含み(対照)、1種は炭素を含まなかった。炭素を含まないAVFを300mL、表1に示される相対量の成分の添加と、蒸留水で300mLになるまで補うこととによって、調製した。同じ手順を、2種目のAVFに関して実施したが、100mL中に、表1に記載された炭素量を添加した。その後、両方の液をオートクレーブ中に配置した。滅菌したドラフト内で、10mLの対照AVFを8本のSterilin検体チューブに添加し、標識を付け、冷蔵庫中に配置した。その後、5mLの2種目のAVFもまた、ブランクを含む各濃度のグリコーゲンについて8本の別々のチューブに添加し、その後、5mLの対応する濃度の調製したゲルを添加し、標識を付け、冷蔵庫中に配置した。
【表1-1】
【表1-2】
【0080】
(細菌サンプルの継代培養)
Amselの基準のうちの3つ(臭気(whiff)検査陽性、灰白色の均一な分泌物、および糸玉状細胞の存在)を使用することによりBV陽性と診断した患者から回収したスワブを、1.5質量/体積%のグリコーゲンとグルコースとを含むブロス中で37℃にて嫌気的に3日間~4日間インキュベートして、ラクトバチルス属細菌株の増殖を促進させた。その後、10μLのサンプルを、ラクトバチルス属に特異的な3枚のプレート中に接種し、さらに3日間~4日間嫌気的にインキュベートした。
【0081】
(ゲルサンプル中への継代培養、プレート播種およびコロニー計数)
増殖した細菌コロニー由来の別々のコロニーを、炭素を含む対照ブロスの各々中に、10μL白金耳を使用して接種し、3日間嫌気的にインキュベートした。その増殖した細菌から、その後10μLを、ブランクを含む5個全てのゲルサンプルブロス中に接種し、4日間さらにインキュベートした。その後、その増殖した細菌を、各ゲル濃度について三連で設定したラクトバチルス属特異的プレートに培養し、3日間嫌気的にインキュベートした後で計数した。
【0082】
(細菌コロニー数)
増殖した細菌コロニー全てを、Stuart SC6コロニー計数器にて計数した。図1は、患者スワブから接種された8個のコロニーから取得された、各グリコーゲン濃度に対する細菌数の平均を示す。最高の細菌数であるグリコーゲン濃度は1.5質量/体積%であることが明らかであり、この結果は、8個全てのコロニーで一貫している。標準偏差エラーバーはまた、平均値(真の値)からの各細菌数の偏差を示す。
【0083】
分散分析(ANOVA)検定を実施して、数値間の偏差と、変数(ゲル濃度)が細菌数に対する影響を有するか否かを決定した。f値がf臨界値よりも大きい場合、帰無仮説を棄却する。帰無仮説は、この変数が細菌コロニー数に対して影響を有するということである。帰無仮説を棄却する場合、対立仮説を採択しなければならず、その対立仮説は、この変数がコロニー数に対して影響を有しないということである。コロニー1、コロニー2、コロニー3およびコロニー6について、f臨界値がf値よりも小さいことが見出され、帰無仮説を棄却し、ゲル濃度はコロニー数に対して影響を有しないという対立仮説を採択した。他方で、コロニー4、コロニー5、コロニー7およびコロニー8は全て、f臨界値がf値よりも大きいこと原因で帰無仮説を採択し、この変数とコロニー数との間に明白な相関関係が存在することを示唆した。
【0084】
(実施例2)
この研究を、さらなる2人の患者で繰り返した。その結果を図2および図3に示す。患者1と同じプロトコルを患者2および患者3について使用し、例外として、各患者由来の8個のコロニーではなく3個のコロニーを増殖させ、接種した対照ブロスを、より短い期間(3日間ではなく2日間)インキュベートした。さらに、試験した製剤は、0質量/体積%、0.5質量/体積%、1質量/体積%、1.5質量/体積%、2質量/体積%および2.5質量/体積%のグリコーゲンを含んだ。まとめると、増殖した細菌コロニー由来の別々のコロニーを、炭素を含む対照ブロスの各々中に、10μL白金耳を使用して接種し、(実施例1における3日間ではなく)2日間嫌気的にインキュベートした。その増殖した細菌から、その後10μLを、ブランクを含む5個全てのゲルサンプルブロス中に接種し、4日間さらにインキュベートした。その後、その増殖した細菌を、各ゲル濃度について三連で設定したラクトバチルス属特異的プレートに培養し、3日間嫌気的にインキュベートした後で計数した。
【0085】
実施例1および実施例2は、グリコーゲンを含む本発明の組成物が膣細菌叢を回復する能力を有し、1.5質量/体積%のグリコーゲンを含む組成物が、健常な女性における膣環境を代表的には支配する細菌種(ラクトバチルス属)の最高の数を達成することを、示す。この細菌種の回復は、BVの処置に関連し、したがって1.3質量/体積%~1.7質量/体積%のグリコーゲン(必要に応じて1.5質量/体積%グリコーゲン)を含む本発明の組成物は、BVならびに他の膣感染症および膣炎症の有効な非抗生物質処置を提供し得る。1.5質量/体積%のグリコーゲンを含む本発明の組成物は、0.5質量/体積%、1.0質量/体積%、2.0質量/体積%、2.5質量/体積%または5.0質量/体積%のグリコーゲンを含む特許請求の範囲の範囲外にある組成物よりも、かなり多いラクトバチルス属数を提供することが、図1図3から理解され得る。理論によって拘束されないが、1.5質量/体積%のグリコーゲンは、それがラクトバチルス属のための炭素源として作用するように最適濃度のグリコーゲンを提供し、ラクトバチルス属の増殖を支援することが、理解される。より低濃度(例えば、1質量/体積%のグリコーゲン)では、炭素濃度が、良好なラクトバチルス属増殖を支持するためには十分ではない。より高濃度(例えば、2質量/体積%のグリコーゲン、またはEP1072269において開示される2.5質量/体積%~17質量/体積%)は、実際には細菌増殖を阻害し得る。
【0086】
(実施例3-市販の組成物(Canesbalance(登録商標)BVゲルとの比較)
(材料および方法)
(インビトロでのペッサリー性能の微生物学的評価):2つの膣スワブを、各患者の膣の対側から採取した。その後、その2つの膣スワブを、10mLの模擬膣液(Vaginal Simulating Fluid)、または5mLの本発明のペッサリー組成物(1.5質量/体積%のグリコーゲンを含む、実施例1のゲル製剤)によって炭素源を置換した5mLの模擬膣液のいずれかに接種した。模擬膣液または人工膣液は、D.H.OwenおよびD.F.Katz、「A Vaginal Fluid Simulant」、Contraception、1999;59;91~95、ならびにM.S.J.TomasおよびM.E.Nader-Macias、「Effect of a medium simulating vaginal fluid on the growth and expression of beneficial characteristics of potentially probiotic lactobacilli」、Communicating Current Research and Educational Topics and Trends in Applied Microbiology、2007において以前に記載された。
【0087】
その模擬膣液(または人工膣液)は、グルコース(最終濃度1.5%に調整した)、ペプトン(10.0)、酵母エキス(5.0)、酢酸ナトリウム(5.0)、リン酸二カリウム(2.0)、硫酸アンモニウム(2.0)、硫酸マグネシウム(0.2)、硫酸マンガン(0.1)、Tween(登録商標) 80(1mL)、pH 4.5を含んだ。両方のブロスを、嫌気的に、撹拌せずに、37℃にて72時間インキュベートした。その後、それらのブロスを、ラクトバチルス属選択寒天培地(Rogosa寒天培地)に継代培養した。37℃にて96時間の嫌気的インキュベーションの後、寒天プレート上にある目に見えるコロニーの数を、比較した。ラクトバチルスだけが、そのRogosa寒天培地上で増殖し得る。これを、グラム染色したコロニーの光学顕微鏡法によって確認し、これは、ラクトバチルスと一致する形態を呈した。模擬膣液における最初のインキュベーション後に回収した細菌の数は、進行中のBV疾患の間に存在する残存ラクトバチルスの数の指標を提供する。本発明者らは、炭素源をペッサリーで置換した模擬膣液における最初のインキュベーション後に回収した細菌の数は、そのグリコーゲンがそのペッサリー製剤においてプレバイオティックスとして役割を果たしている場合に、Lactobacillus spp.の数の増加に向かう変化を示すであろうと、予期していた。
【0088】
(結果)
以下の表2は、人工膣液、本発明者らの製剤または市場のトップブランドであるCanesbalance(登録商標)における72時間のスワブの事前処理後の、ラクトバチルス特異的培地における96時間のインキュベーション後に回収した細菌の数を示す。
【0089】
その人工膣液は、単一炭素源としてグルコースを含み、したがって、患者からサンプル採取された全ての型の細菌(ラクトバチルスを含む)が増殖するのを可能にするはずである。本発明者らの製剤は、単一炭素源としてグリコーゲンを含み、残存ラクトバチルス集団の再増殖のみを、罹患した膣細菌藻にこの集団が存在する場合には促進するはずである。Canesbalance(登録商標)は、グリコーゲン(および乳酸)を含み、本発明者らの製剤と同様に、残存ラクトバチルスの再増殖を促進するプレバイオティクスとして作用するはずである。
【0090】
それらの結果は、本発明のグリコーゲンのみの製剤におけるスワブの事前インキュベーション後に、人工膣液と比較して、驚くべきことにCanesbalance(登録商標)比較しても顕著に(p<0.05)多い、回収されたラクトバチルスが存在したことを示す。これは、本発明の製剤が、疾患エピソード中に残存するラクトバチルスの顕著な再増殖を促進し得ることを示唆する。患者間での結果のわずかな差は、無作為に選択した患者集団から予期される程度であり、このことは、患者の大多数が、本発明者らの製剤を処置として使用した場合に同じように反応するだろうことを示唆した。
【表2】
【0091】
(実施例4-乳酸の添加はラクトバチルスの増殖を阻害する)
1.5質量/体積%のグリコーゲンを含むゲル製剤を、実施例1にしたがって調製した。1.5質量/体積%のグリコーゲンを含む比較ゲル製剤を、実施例1にしたがって調製したが、5mL当たり225mgの濃度で乳酸を添加した。その比較製剤は、pH3.5を有した。その比較製剤は、市販製品のCanesbalance(登録商標)と同じ乳酸濃度およびpHを有した。表3は、本発明の製剤への乳酸の添加がラクトバチルスの増殖を阻害することを示す。
【表3】
【0092】
(実施例5-細菌炭素源)
スワブを、模擬膣液、または本発明のゲル製剤(1.5質量/体積%のグリコーゲン)と組み合わせた模擬膣液のいずれか中でインキュベートし、ブロスを血液寒天培地上にプレートし、37℃にて72時間、嫌気的にインキュベートした(血液寒天培地は、BV関連細菌を含むほとんどの細菌を促進する。ラクトバチルスが増殖する可能性がないので嫌気性条件を使用したが、α溶血の徴候を示すあらゆるコロニーを、可能性のあるラクトバチルスとして数から排除した)。その細菌数が本発明の製剤について対照よりも多かった場合、これは、他の細菌が本発明の製剤を炭素源として使用してラクトバチルスを打ち負かしている(すなわち、ラクトバチルスによって阻害されていない)こと示唆する。これは該当しなかった。以下の表4は、細菌の平均数が本発明のゲル製剤の存在下で対照よりも少なかったことを示し、これは、ラクトバチルス以外の細菌が本発明の製剤を炭素源として使用していなかったことを意味する。
【表4】
【0093】
(実施例6-ラクトバチルスの再増殖を促進する本発明の製剤を示す物理化学的パラメータ)
表5は、1.5質量/体積%のグリコーゲンを含む本発明のゲル製剤の投与が、対照製剤の投与と比較して、膣のpH、乳酸濃度および過酸化水素濃度の改善をもたらすことを示す。
【表5】
【0094】
(実施例7-膣細菌集団の変化)
図4は、細菌16S rRNA遺伝子のV1/V2超可変領域(Ravel Jら、Vaginal microbiome of reproductive-age women(Proc Natl Acad Sci USA.、2011;108:4680~4687、doi:10.1073/pnas.1002611107)をアンプリコン配列決定することにより決定した、(A)本発明の組成物での処置前および(B)本発明の組成物の処置後の、患者の膣における細菌種の相対比率の円グラフを示す。ラクトバチルス属の比率が71.4%(処置前)から85.4%(処置後)に増加することが、理解され得る。エンテロコッカス属の比率は、24.7%(処置前)から12.9%(処置後)に減少する。
【0095】
(実施例8-妊娠患者におけるB群レンサ球菌感染症の処置)
B群レンサ球菌によって定着されていることが知られている妊娠患者を、募集した。B群レンサ球菌保有の検出のための方法は、下記表6において示されるとおり、UK Standards for Microbiology Investigations、Public Health England:Bacteriology B 58、発行番号3.1、発行日26.06.18に従った。
【0096】
LIMブロス+1.5質量/体積%のグリコーゲンと対比したLIM対照ブロスにおいてインキュベートしたスワブ由来のB群レンサ球菌(GBS)の培養依存性コロニー数の結果を、表7に提供する。コロニーを、発色性寒天培地におけるインキュベーション後に計数した。12人の患者のうちの10人に由来する結果は、1.5質量/体積%のグリコーゲンを含む本発明の製剤においてインキュベートしたスワブからの数の顕著な(p≦0.05)減少を示し、これは、本発明の製剤が処置として使用される場合に妊娠患者におけるGBS保有の減少が存在するだろう証拠を提供する。
【表6】
【表7】
【0097】
上記の明細書において言及された全ての公開物は、本明細書において参照により援用される。本発明の使用および方法のための記載された組成物の種々の改変および変化形は、本発明の範囲および趣旨から逸脱することなく当業者にとって明らかである。本発明が具体的な好ましい実施形態と組み合わせて記載されてきたが、特許請求される発明はそのような具体的な実施形態に過度に限定されるべきではないことが、理解されるべきである。実際、本発明を実施するための記載された形態に関する、薬学、医学または関連分野における当業者にとって自明である種々の改変は添付の特許請求の範囲の範囲内にあることが、意図される。
【0098】
(参考文献)
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】