(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-22
(54)【発明の名称】作動型血栓除去デバイス
(51)【国際特許分類】
A61B 17/22 20060101AFI20231115BHJP
A61M 25/00 20060101ALI20231115BHJP
【FI】
A61B17/22
A61M25/00 540
A61B17/22 510
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023549962
(86)(22)【出願日】2021-10-25
(85)【翻訳文提出日】2023-04-20
(86)【国際出願番号】 US2021056513
(87)【国際公開番号】W WO2022087539
(87)【国際公開日】2022-04-28
(32)【優先日】2020-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523151230
【氏名又は名称】ヴィコラ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】デュシャルム、リチャード
【テーマコード(参考)】
4C160
4C267
【Fターム(参考)】
4C160EE21
4C160MM33
4C267BB42
4C267CC09
4C267CC12
4C267CC19
4C267CC21
4C267GG02
4C267JJ05
(57)【要約】
カテーテルの遠位端の先端部は、血栓を破壊するために激しく振動するように設計されている。破壊された血栓は「コルキング」を回避するため、カテーテルに直接吸引される。都合のよい位置に形成された小さな切開を通して切除されるべき臓器へのアクセスが達成される低侵襲手術のデバイスとは異なり、血管空間内の場所へのアクセスは、多くの場合、長さ100cm以上の可撓性を有する長いカテーテルを介して達成される。遠位端の先端部の電気活性ポリマー(EAP)は、カテーテルの実質的に全長にわたって機械的作用を伝達することなく、血栓を破壊する振動をカテーテルの近位端から作動させる。
【選択図】
図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カテーテルであって、
1以上の電気信号を受信するべく駆動電子回路に接続するように構成された近位端と、
前記電気信号に応答して振動運動するように構成された電気活性ポリマーのアクチュエータを備える先端部を有する遠位端と、
前記近位端と前記遠位端との間で前記電気信号を送るための配線を含む、前記近位端に接続されたシャフトと、を有するカテーテル。
【請求項2】
前記電気活性ポリマーのアクチュエータは、フッ化ビニリデン(VDF)、トリフルオロエチレン(TrFE)、1,1-クロロフルオロエチレン(CFE)、及びクロロトリフルオロエチレン(CTFE)のうちの1以上を含む材料を有する、請求項1に記載のカテーテル。
【請求項3】
前記電気活性ポリマーのアクチュエータは、P(VDF-TrFE-CTFE)及びP(VDF-TrFE-CFE)のうちの1以上を含む材料を有する、請求項1に記載のカテーテル。
【請求項4】
前記電気信号が20~200ボルト/μmmの電界を提供するときに、前記電気活性ポリマーのアクチュエータは3%を超える電気歪みを示す、請求項1に記載のカテーテル。
【請求項5】
前記振動運動は、前記先端部の共振周波数に実質的に同調する周波数を有する、請求項1に記載のカテーテル。
【請求項6】
前記電気信号のうちの1つが50ボルトから250ボルトの間の振幅を有する、請求項1に記載のカテーテル。
【請求項7】
前記電気信号のうちの1つがDCオフセットを有する、請求項6に記載のカテーテル。
【請求項8】
前記シャフトは、前記配線が設けられる非導電性のブレードまたはコイルを有する、請求項1に記載のカテーテル。
【請求項9】
前記非導電性のブレードまたはコイルは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)またはポリエーテルエーテルケトン(PEEK)から形成される、請求項8に記載のカテーテル。
【請求項10】
前記遠位端の前記先端部は、前記振動運動によって破壊された血栓を吸い込むための開口部をさらに有する、請求項1記載のカテーテル。
【請求項11】
前記血栓を吸い込むための圧力を提供するための吸引器に接続されるように構成されている、請求項10に記載のカテーテル。
【請求項12】
前記電気活性ポリマーのアクチュエータは複数のキャパシタを有し、前記複数のキャパシタのそれぞれは第1の電極と第2の電極との間に設けられた電気活性ポリマー層を有する、請求項1に記載のカテーテル。
【請求項13】
前記電気活性ポリマー層は、2.0~20.0μmの厚さを有する、請求項12に記載のカテーテル。
【請求項14】
前記電気活性ポリマー層は、極性溶媒に溶解した前記電気活性ポリマーの溶液中でディップコーティングを行うことによって形成される、請求項12に記載のカテーテル。
【請求項15】
前記極性溶媒は、ジエチルホルムアミド(DMF)及びメチルエチルケトン(MEK)のうちの1以上を含む、請求項14に記載のカテーテル。
【請求項16】
前記第1の電極及び前記第2の電極のそれぞれは、導電性電気インクを用いたスパッタリング、ディップコーティング、パッド印刷、またはスプレーコーティングによって形成された材料を有する、請求項12に記載のカテーテル。
【請求項17】
前記第1の電極及び前記第2の電極は、互いに間隔をあけて同軸上に配置されたコイルを形成するように編まれている、請求項12に記載のカテーテル。
【請求項18】
前記コイルはそれぞれ、0.0127~0.0254mm(0.5~1.0ミル)の直径を有する細いワイヤから形成されている、請求項17に記載のカテーテル。
【請求項19】
前記第1の電極及び前記第2の電極はそれぞれ、3軸の編組パターンの導電性ワイヤを有する、請求項12に記載のカテーテル。
【請求項20】
前記電気活性ポリマーのアクチュエータは、3次元アレイに配置された複数の統合型アクチュエータのうちの1つである、請求項1に記載のカテーテル。
【請求項21】
前記電気信号の1つが正弦波である、請求項1に記載のカテーテル。
【請求項22】
前記電気信号の1つが矩形波を有する、請求項1に記載のカテーテル。
【請求項23】
前記電気活性ポリマーのアクチュエータは、コンパクトな形態に巻かれたEAP材料の2以上の層を有する、請求項22に記載のカテーテル。
【請求項24】
前記電気活性ポリマーのアクチュエータは、中空コアを有する円筒形構造として形成される、請求項23に記載のカテーテル。
【請求項25】
前記EAP材料の各層は、導電性材料によって片面がコーティングされている、請求項23に記載のカテーテル。
【請求項26】
前記導電性材料は金属を含む、請求項25に記載のカテーテル。
【請求項27】
前記電気活性ポリマーのアクチュエータは平行板キャパシタ構成を有し、導電性コーティングによって電極が提供される、請求項25に記載のカテーテル。
【請求項28】
前記電気活性ポリマーのアクチュエータは、20.0~500.0Hzの周波数の前記電気信号によって駆動されると、振動応答を提供する、請求項27に記載のカテーテル。
【請求項29】
前記電気信号が高スルーレート波形を有する、請求項27に記載のカテーテル。
【請求項30】
波形が50.0~250.0ボルトのピークツーピーク振幅を有する、請求項27に記載のカテーテル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気活性ポリマー(「EAP」、例えば圧電ポリマー)によって実現される医療機器に関する。特に、本発明は、EAPに基づく血栓除去術のための手術器具に関する。
【背景技術】
【0002】
心臓発作、肺塞栓症、及び脳卒中は、血栓が血管内のある場所に形成され、または移動することで血管を詰まらせることによって引き起こされる疾患の例の1つである。これらの急性疾患は、薬学的処置と、「機械的血栓除去術」として知られる機械的処置との両方によって治療される。例えば、
図1Aは、血栓を機械的に回収するために使用されているステントリトリーバ(例えば、Medtronic Neurovascular社のSolitaire X)を示している。別の例として、
図1Bは、カテーテル(例えば、カリフォルニア州アラメダ所在のPenumbra,Inc.社から入手可能なPenumbra(登録商標)システム)を用いた直接吸引による血栓の除去を示している。これらの技術はそれぞれ、単独で、あるいは互いに組み合わせて行われる。残念なことに、特に脳卒中の場合には、これらの処置の成功率は低く、通常、試行の40~50%でしか血栓が除去されない。したがって、手術の有効性と患者の良好な転帰との両方を改善する必要がある。
【0003】
機械的血栓除去処置では、血栓へのアクセスは、通常、血管系を通る蛇行した経路を通される長さ約100cmのカテーテルを使用して達成される。処置の最後に、カテーテルは同一の経路に沿って逆方向に引き抜かれる。吸引では、血栓がカテーテルの先端で頻繁に詰まり、カテーテルへの吸い込みを妨げる。その結果、引き抜く間に血栓がばらばらになることが多く、血栓が(i)元の場所に戻る「Embolism Distal Territory(EDT)」として知られる状態、または(ii)新たな場所に移動する「Embolism New Territory(ENT)」として知られる状態、のいずれかになる。
【0004】
現在の傾向として、血管系内のさらに遠位の位置にアクセスするための血栓除去デバイスが求められている。しかしながら、一般的な機械的血栓除去デバイスは、直径2mm未満の血管を追跡するにはかさばりすぎている。同様に、吸引カテーテルもそのサイズによって制限される。より狭い血管に適合できるようにするために吸引カテーテルの直径を小さくすると、吸引圧力が一定の場合には、吸引器が血栓に加える力も急速に低下する。
【0005】
したがって、前述の従来技術のデバイスの制限を克服する新たな機械的血栓除去デバイスに対する長年の必要性が感じられている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態によれば、カテーテルは、(a)1以上の電気信号を受信するべく駆動電子回路に接続するように構成された近位端と、(b)電気信号に応答して振動運動するように構成された電気活性ポリマーのアクチュエータを備える先端部を有する遠位端と、(c)近位端と遠位端との間で電気信号を送るための配線を含む、近位端に接続されたシャフトと、を有する。電気活性ポリマーのアクチュエータは、フッ化ビニリデン(VDF)、トリフルオロエチレン(TrFE)、1,1-クロロフルオロエチレン(CFE)、及びクロロトリフルオロエチレン(CTFE)のうちの1以上を含む材料を有する。例えば、電気活性ポリマーのアクチュエータは、P(VDF-TrFE-CTFE)及びP(VDF-TrFE-CFE)のうちの1以上を含む材料を有する。電気信号が20~200ボルト/μmmの電界を提供するときに、電気活性ポリマーのアクチュエータは3%を超える電気歪みを示す。振動運動は、先端部の共振周波数に実質的に同調する周波数を有する。
【0007】
一実施形態ではシャフトは、配線が設けられる非導電性のブレードまたはコイルを有する。非導電性のブレードまたはコイルは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)またはポリエーテルエーテルケトン(PEEK)から形成される。遠位端は、振動運動によって破壊された血栓を吸い込むための開口部をさらに有する。
【0008】
本発明の一実施形態によれば、電気活性ポリマーのアクチュエータは複数のキャパシタを有し、複数のキャパシタのそれぞれは第1の電極と第2の電極との間に設けられた電気活性ポリマー層を有する。電気活性ポリマー層は、2.0~20.0μmの厚さを有し、極性溶媒(例えば、ジエチルホルムアミド(DMF)またはメチルエチルケトン(MEK))に溶解した電気活性ポリマーの溶液中でディップコーティングを行うことによって形成される。電極は、導電性電気インクを用いたスパッタリング、ディップコーティング、パッド印刷、またはスプレーコーティングによって形成される。
【0009】
本発明の別の実施形態によれば、第1の電極及び第2の電極は、互いに間隔をあけて同軸上に配置されたコイルを形成するように編まれている。コイルはそれぞれ、0.0127~0.0254mm(0.5~1.0ミル(すなわち、1インチの1000分の1))の直径を有する細いワイヤから形成されている、あるいは、第1及び第2の電極は、3軸(Tri-Axe)の編組パターンの導電性ワイヤから形成されていてもよい。
【0010】
本発明のさらに別の実施形態によれば、電気活性ポリマーのアクチュエータは、3次元アレイに配置された多数の統合型アクチュエータのうちの1つである。
【0011】
本発明は、添付の図面とともに以下の詳細な説明を考慮することにより、よりよく理解される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1A】血栓を機械的に回収するために使用されているステントリトリーバを示す図。
【
図1B】カテーテルを介した直接吸引による血栓の除去を示す図。
【
図2A】本発明の一実施形態による、カテーテル100の遠位端における振動可能な先端部101(「アクチュエータ」)及びカテーテルシャフト104を示す上面図。
【
図2B】カテーテル100の遠位端におけるアクチュエータ(先端部101)の電極層108及び電気活性ポリマー層(EAP層109)を示す、
図2Aの断面を横断する断面図。
【
図3】本発明の一実施形態による、カテーテルシャフト104内の戻り電極106bに接続されたカテーテル100の遠位端の内側コイル201を(概念的に)示す図。
【
図4A】Tri-Axeワイヤの編組パターン400におけるTri-Axeワイヤ401を示す図。
【
図4B】本発明の一実施形態による、カテーテル100の遠位端におけるアクチュエータ(先端部101)の中のTri-Axeワイヤから形成された電極の第1及び第2の組を示す図。
【
図5B】本発明の実施形態による振動可能な先端部101の断面図。
【
図5C】本発明の実施形態による振動可能な先端部101の軸方向図。
【
図6A】本発明の一実施形態によるアクチュエータ600を形成するための1つの方法を示す図。
【
図6B】本発明の一実施形態による、アクチュエータ600を形成するための1つの方法を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、遠位端に設けられ、激しく振動することにより血栓を破壊する先端部を有する吸引カテーテルを提供する。破壊された血栓は「コルキング」を回避するため、カテーテルに直接吸引される。都合のよい位置に形成された小さな切開を通して切除されるべき臓器へのアクセスが達成される低侵襲手術のデバイスとは異なり、血管空間内の場所へのアクセスは、多くの場合、長さ100cm以上の可撓性を有する長いカテーテルを介して達成される。遠位端の先端部の電気活性ポリマー(EAP)は、カテーテルの実質的に全長にわたって機械的作用を伝達することなく、血栓を破壊する振動をカテーテルの近位端から作動させる。適切な電気活性ポリマーには、フッ化ビニリデン(VDF)、トリフルオロエチレン(TrFE)、1,1-クロロフルオロエチレン(CFE)、及びクロロトリフルオロエチレン(CTFE)の様々な組み合わせが含まれる。例えば、ターポリマーP(VDF-TrFE-CTFE)及びP(VDF-TrFE-CFE)は、Piezotech社(フランス、パリ所在、Arkema S.A.社の子会社)から市販されている。様々な電気活性特性を有するこれらのターポリマーは、20~200V/μm(例えば、約50V/μm)の電界下で大きな電気歪み(>3%)を示す。
【0014】
図2Aは、本発明の一実施形態による、カテーテル100の遠位端における振動可能な先端部101及びカテーテルシャフト104を示す上面図である。振動可能な先端部101は、それ自体がアクチュエータであってもよく、あるいは、電気的に制御された運動がそれぞれ可能な1以上のアクチュエータを含んでもよい。カテーテル100は、カテーテル100の遠位端における振動可能な先端部101の共振周波数に最適化された電気信号(例えば、20~200Hz)を受信するための電子駆動回路に対し水密に接続された近位端(図示せず)を有するので、血栓を破砕することと、吸引によって血栓のデブリを吸い込むこととの両方に適している。意図された動作のために、電気信号は、例えば、DCオフセットの有無にかかわらず、50.0~250.0ボルトの振幅を有する。
【0015】
カテーテルシャフト104は従来の機械的設計であってもよく、例えば、カテーテルシャフト104の機械的完全性及びねじれ抵抗を提供するブレード(編組)またはコイルの形態のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の内側層を有しているとよい。PTFE内側層は、リフロー可能な材料(例えば、カテーテルシャフト104の長さにわたってデュロメータが変化するPebax(登録商標))の外側層によって囲まれているとよい。さらに、カテーテルシャフト104は、互いに電気的に絶縁されたアクティブ電極106a及び戻り電極106bの両方を収容し、アクティブ電極106a及び戻り電極106bは、それぞれカテーテルシャフト104の全長に沿って延びる。これらの電極は、任意の適切な導電性ワイヤから形成される。そのようなワイヤは、カテーテル100の全長に沿って延びる非導電性のブレードまたはコイル(例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)から構築される)に埋め込まれていてもよい。これらのブレードまたはコイルは、例えば、Steeger USA社、US Biodesign,Inc.社、及びAdmedes,Inc社から様々なパターンで販売されている。あるいは、アクティブ電極106a及び戻り電極106bのための電気的に絶縁されたワイヤを有する全金属ブレードであってもよい。しかしながら、電極を非導電性ブレードまたはコイルに埋め込むことが、短絡を回避するために好ましい。純粋に例示を目的として、アクティブ電極106a及び戻り電極106bのみが
図1に示されているが、任意の適切な数のアクティブ電極及び戻り電極が使用されてよい。
【0016】
カテーテル100の遠位端における振動可能な先端部101は、血栓に係合するように構成されている。振動可能な先端部101は、血栓を吸い込むための開口部を最大限に利用するように、面一または傾斜した先端形状を有する。EAPの層は、振動可能な先端部101の内部に埋め込まれている。電界が各EAP層を横切ると、各EAP層は歪む(なお、より大きな電界ではより大きな歪みが達成されるが、歪みと電界との関係は一般に非線形である)。
図2Aに示すように、EAP層はそれぞれ、薄く可撓性を有する電極の層の間(例えば、電極102と電極102の下にある電極103との間)に設けられる。電極102及び電極103はそれぞれ、アクティブ電極106aまたは戻り電極106bのいずれかに電気的に接続される。このように、移動はカテーテル100の遠位端における振動可能な先端部101でのみ発生し、カテーテルシャフト104内のアクティブ電極106a及び戻り電極106bを移動する際にエネルギーが失われることはない。一実施形態では、各EAP層は、2~20μmの厚さである。
【0017】
本発明の一実施形態によれば、各EAP層はディップコーティングによって形成される。例えば、カテーテル100の遠位端における振動可能な先端部101は、ジエチルホルムアミド(DMF)またはメチルエチルケトン(MEK)などの極性溶媒中のEAPの溶液に浸漬される。このようにして、同軸の20~200μmの厚さのEAP層が、連続的な浸漬によって振動可能な先端部101内に形成される。各EAP層を形成した後、例えば、導電性電気インク、または粒子を含まない金属錯体導電性インク(例えば、Electroninks社またはLiquidX社から入手可能な導電性インクなど)を使用したスパッタリング(例えば、金またはアルミニウム)、ディップコーティング(例えば、銀埋め込みウレタン)、パッド印刷またはスプレーコーティングによって、EAP層の露出表面上に電極層が形成される。EAP層と電極層の組み合わせの形成ステップは、複数回繰り返されてもよい。このように形成された電極層は、アクティブ電極106aまたは戻り電極106bのいずれかに接続され、反対の極性の電極がEAP層の両側に形成され、効果的にキャパシタを形成する。
図2Bは、振動可能な先端部101の電極層108及びEAP層109を示す、
図2Aの断面を横切る断面図である。所望の機械的特性に応じて、各EAP層は、任意の厚さを有していてよい。追加の非EAP層(図示せず)が含まれてもよい。
【0018】
本発明の別の実施形態によれば、カテーテル100の遠位端における振動可能な先端部101内の電極層は、電気的短絡を回避するために互いに間隔をあけて同軸上に配置された2つのコイルを形成するように編組されてもよい。
図3は、本発明の一実施形態による、カテーテルシャフト104内の戻り電極106bに接続されたカテーテル100の遠位端における振動可能な先端部101内の内側コイル201を(概念的に)示す図である。内側コイル201は、アクティブ電極106aに接続された外側コイル202と同軸に配置され、外側コイル202によって囲まれている。
図3は概念図であり、純粋に説明を目的として、内側コイル201内の単一ワイヤの6つのターンを示している。現実的な実装では、より多くのターン及びより多くのワイヤの編組コイルが想定される。例えば、平型ワイヤの場合は(0.0005″x0.002″)まで、円形ワイヤの場合は0.0005″までのサイズの最大288ワイヤの編組コイル(例えば、Steeger USA社から入手可能であり、https://steegerusa.corn/product/medical-braidersを参照されたい)。EAPは、内側コイル201と外側コイル202との間の空間を覆って充填することができ、コイル間に電圧差が確立されると、その空間に電界が生成される。各コイルは、0.0127~0.0254mm(0.5~1.0ミル(すなわち、1インチの1000分の1))の直径を有する細いワイヤから形成される。本実施形態は、EAPを1回塗布または浸漬するだけでよく、製造時間が短縮され、カテーテル100の全体を通って既に設けられているワイヤを使用することにより電極接続を簡略化できるという利点がある。
【0019】
本発明の第3の実施形態によれば、振動可能な先端部101の電極は、Tri-Axe編組パターンの「Tri-Axe」ワイヤによって、カテーテル100の遠位端における振動可能な先端部101に設けられている。
図4Aは、Tri-Axeワイヤ編組パターン400におけるTri-Axeワイヤ401を示している。Tri-Axeワイヤ編組パターンは、Tri-Axe編組パターン(例えば、Tri-Axeワイヤ編組パターン400)内に囲まれて真っ直ぐに配線された単一のワイヤ(例えば、1つのワイヤ401)からなる。
図4Aに示すように、Tri-Axeワイヤ編組パターン400では、Tri-Axeワイヤ自体(例えば、Tri-Axeワイヤ401)は編組されていない。このようなTri-Axeワイヤは、最大負荷の半分の容量まで使用できるので、一体化して電極として使用することができる多くの「Tri-Axe」ワイヤが提供される。一般に、ワイヤの数が多く、サイズが小さいほど、電気機械的応答が向上する。
図4Bは、本発明の一実施形態による、カテーテル100の遠位端における振動可能な先端部101内のTri-Axeワイヤから形成された電極の第1のセット及び第2のセットを示す。Tri-Axe編組パターンの残りの部分は、
図4Bから省略されている。電極の第1のセット及び第2のセットは、それぞれが0.0127mm(0.5ミル)の細さの円形または平型のワイヤによって提供され、最大288個の電極を提供することができる。
【0020】
上記の実施形態では、電極及び1以上のEAP層が別々に提供される。しかしながら、本発明の一実施形態によれば、市販されているEMPアクチュエータ(「統合型アクチュエータ」)が存在する。これらの統合型アクチュエータは、特徴的な電気機械的特性を有し、カテーテル100の遠位端における振動可能な先端部101内で展開するために、任意の所望の形状に巻かれる。したがって、1以上の統合型アクチュエータは、カテーテル100の遠位端における振動可能な先端部101に(例えば、統合型アクチュエータの3次元アレイとして)組み込まれる。
図5Aは、市販のEAPアクチュエータを示す。このような各アクチュエータは、同一の、または異なる周波数またはパターンで機能し得る。
【0021】
上記の実施形態はそれぞれ、駆動電子回路によって駆動される。振動可能な先端部101が独立して制御される複数のアクチュエータを有するように設計されている場合、2以上の波形がアクティブ電極のそれぞれに提供される。上記のほとんどの実施形態では、駆動回路は、例えば、50.0~250.0ボルト(ピークツーピーク)の駆動波形を提供し得る。駆動波形は、最大の加速度または振動を提供するために、正弦波、三角波、矩形波、または任意の所望の波形(好ましくは、方形波)であってよい。例えば、Microchip HV 56020またはMicrochip HV 56022を使用して、適切な駆動回路を提供することができる。
【0022】
本発明の別の実施形態によれば、カテーテル100の振動可能な先端部101は、円筒形シャフトの凹部に巻き付けられた2層以上のEAPフィルムから形成されたアクチュエータを有する。
図5B及び
図5Cは、本発明のこの実施形態による振動可能な先端部101の断面図及び軸方向図をそれぞれ表す。
図5Bに示されるように、カテーテル100は、実質的にその全長にわたってカテーテル100の軸に沿って延びるルーメン601を有する。
図5Bは、カテーテル100の長手軸を通る断面図であり、カテーテルシャフト104の一部と振動可能な先端部101とを示している。カテーテルシャフト104内のカテーテル材料602は、振動可能な先端部101内に延在している。振動可能な先端部101の長手軸に沿って長さ2.0~5.0mmの部分にわたって、カテーテル材料602の直径が小さくなることにより、振動可能な先端部101に凹部が設けられている。環状断面を有する管状(すなわち、中空コアを有する円筒状)のアクチュエータ600は、凹部に取り付けられ、巻き付けられ、または他の方法で一体化されている。
図5Cは、振動可能な先端部101を通る直交する平面断面における軸方向の図であり、アクチュエータがカテーテル材料602を取り囲み、カテーテル材料602がルーメン601を取り囲むことを示している。
【0023】
図6A及び
図6Bは、本発明の一実施形態による、アクチュエータ600を形成するための1つの方法を示す。
図6Aに示すように、EAPフィルム604は、EAPフィルム605の上に重ねられ、短い距離(d)だけオフセットされて複合シート603を形成する。各フィルムの片面には、導電性材料(例えば、銅膜などの金属コーティング)がコーティングされている。複合シート603において、EAPフィルム604は、EAP材料604a及び導電性コーティング604bを含む。同様に、EAPフィルム605は、EAP材料605a及び導電性コーティング605bを含む。EAP材料604a及びEAP材料605aはそれぞれ、例えばターポリマーであるとよい。
図6Aに示すように、導電性コーティング604b及び導電性コーティング605bは、複合シート603の相互の表面に設けられ、それによって、導電性コーティング604bと導電性コーティング605bとの間に、EAP材料604a及びEAP材料605aからなるEAP層が平行板キャパシタ構成で提供される。この構成では、導電性コーティング604b及び導電性コーティング605bは、複合シート603の外側に配置されることにより、複合シート603の電極として機能して、複合シート603がルーメン601内に提供され得る電気リードを介して信号を受信できるようにする。電気リードは、複合シート603を、カテーテル100の遠位端105に設けられた電子回路または電気回路に対して電気的に接続する。
【0024】
アクチュエータ600を形成するために、複合シート603は、
図6Bに示されるように、円筒状のマンドリル607の周囲に複数回巻き付けられる。これらの
図6A及び
図6Bでは、複合シート603の厚さは、EAP材料604a及びEAP材料605a並びに導電性コーティング604b及び導電性コーティング605bを明確に示すために強調されている。実際の実装では、複合シート603は非常に薄く(例えば、数十分の一ミクロン(μmm)または数ミリメートルに)形成され、これにより、複合シート603はマンドリル607の周囲に何回も巻き付けられ、複合シート603の電気機械的応答の制御を向上させるための大きな表面積(すなわち、コンパクトな形態)が提供される。次に、マンドリル607を引き抜くと、残ったアクチュエータ600が中空のコアを有する円筒形になる。次に、アクチュエータ600を、カテーテル100の振動可能な先端部101の凹部に取り付ける。次に、露出した電気コーティング(導電性コーティング604b)及び電気コーティング(導電性コーティング605b)に電気リードを取り付けることにより、カテーテル100の遠位端に設けられる制御回路に対して複合フィルム(複合シート603)を電気的に接続することができる。複合シート603のオフセット(距離d)により、取り付けが容易になる。
【0025】
アクチュエータ600内の複合シート603の導電層(導電性コーティング604b)及び導電層(導電性コーティング605b)に電圧が印加されると、EAP材料604a及びEAP材料605a内のEAP材料は、体積的に膨張または収縮し(すなわち、歪み応答)、アクチュエータ600の円周方向の歪み応答を提供する。その結果、適切な周波数(例えば、20.0~500.0Hz)での一連の電気パルス(例えば、方形波)は、振動可能な先端部101において望ましい周方向振動を生成する。アクチュエータ600において、-50.0ボルトから50.0ボルトの間で交互に変化する波形は、0.0ボルトから50.0ボルトの間で交互に変化する波形と実質的に同一の電気機械的応答を任意の所定の周波数に対して提供するので、極性の向きはデバイスの性能にほとんど影響を与えないことに留意されたい。導電性コーティング504b及び導電性コーティング504dにわたって急速に変化する電界を提供する任意の高スルーレート波形も使用され得る。
【0026】
上記の詳細な説明は、本発明の特定の実施形態を例示するために提供されたものであり、本発明を限定することを意図したものではない。本発明の範囲内で多数の変形及び修正が可能である。本発明は、添付の特許請求の範囲に記載されている。
【手続補正書】
【提出日】2022-03-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カテーテルであって、
1以上の電気信号を受信するべく駆動電子回路に接続するように構成された近位端と、
前記電気信号に応答して振動運動するように構成された電気活性ポリマーのアクチュエータを備える先端部を有する遠位端
であって、前記電気活性ポリマーのアクチュエータは複数の重なり合うキャパシタを有し、前記キャパシタはそれぞれ、第1の電極と第2の電極との間に設けられ、前記電気信号の1つを受信するように構成された電気活性ポリマー層を有し、前記キャパシタのそれぞれの前記電気活性ポリマー層が、受信した前記電気信号に応じて体積変形することで、前記振動運動に寄与する、該遠位端と、
前記近位端と前記遠位端との間で前記電気信号を送るための配線を含む、前記近位端と前記遠位端との間に結合された管状のシャフトと、を有するカテーテル。
【請求項2】
前記電気活性ポリマー
層はそれぞれ、フッ化ビニリデン(VDF)、トリフルオロエチレン(TrFE)、1,1-クロロフルオロエチレン(CFE)、及びクロロトリフルオロエチレン(CTFE)のうちの1以上を含む材料を有する、請求項1に記載のカテーテル。
【請求項3】
前記電気活性ポリマー
層はそれぞれ、フッ化ビニリデン(VDF)、トリフルオロエチレン(TrFE)、1,1-クロロフルオロエチレン(CFE)、及びクロロトリフルオロエチレン(CTFE)のうちの1以上を含む材料を有する、請求項1に記載のカテーテル。
【請求項4】
前記電気信号が20~200ボルト/μmの電界を提供するときに、前記電気活性ポリマー
層はそれぞれ3%を超える電気歪みを示す、請求項1に記載のカテーテル。
【請求項5】
前記振動運動は、前記先端部の共振周波数に実質的に同調する周波数を有する、請求項1に記載のカテーテル。
【請求項6】
前記電気信号のうちの1つが50ボルトから250ボルトの間の振幅を有する、請求項1に記載のカテーテル。
【請求項7】
前記電気信号のうちの1つがDCオフセットを有する、請求項6に記載のカテーテル。
【請求項8】
前記シャフトは、前記配線が設けられる非導電性のブレードまたはコイルを有する、請求項1に記載のカテーテル。
【請求項9】
前記非導電性のブレードまたはコイルは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)またはポリエーテルエーテルケトン(PEEK)から形成される、請求項8に記載のカテーテル。
【請求項10】
前記遠位端の前記先端部は、前記振動運動によって破壊された血栓を吸い込むための開口部をさらに有する、請求項1記載のカテーテル。
【請求項11】
前記血栓を吸い込むための圧力を提供するための吸引器に接続されるように構成されている、請求項10に記載のカテーテル。
【請求項12】
前記電気活性ポリマー層は
それぞれ、2.0~20.0μmの厚さを有する、請求項1に記載のカテーテル。
【請求項13】
前記電気活性ポリマー層は
それぞれ、極性溶媒に溶解した前記電気活性ポリマーの溶液中でディップコーティングを行うことによって形成される、請求項11に記載のカテーテル。
【請求項14】
前記極性溶媒は、ジエチルホルムアミド(DMF)及びメチルエチルケトン(MEK)のうちの1以上を含む、請求項13に記載のカテーテル。
【請求項15】
前記第1の電極及び前記第2の電極のそれぞれは、導電性電気インクを用いたスパッタリング、ディップコーティング、パッド印刷、またはスプレーコーティングによって形成された材料を有する、請求項1に記載のカテーテル。
【請求項16】
前記第1の電極及び前記第2の電極は、互いに間隔をあけて同軸上に配置されたコイルを形成するように編まれている、請求項1に記載のカテーテル。
【請求項17】
前記コイルはそれぞれ、0.0127~0.0254mm(0.5~1.0ミル)の直径を有する細いワイヤから形成されている、請求項16に記載のカテーテル。
【請求項18】
前記第1の電極及び前記第2の電極はそれぞれ、3軸の編組パターンの導電性ワイヤを有する、請求項1に記載のカテーテル。
【請求項19】
前記電気活性ポリマーのアクチュエータは、3次元アレイに配置された複数の統合型アクチュエータのうちの1つである、請求項1に記載のカテーテル。
【請求項20】
前記電気信号の1つが正弦波である、請求項1に記載のカテーテル。
【請求項21】
前記電気信号の1つが矩形波を有する、請求項1に記載のカテーテル。
【請求項22】
前記電気活性ポリマー
層はそれぞれ、コンパクトな形態に巻かれたEAP材料の2以上の層を有する、請求項1に記載のカテーテル。
【請求項23】
前記電気活性ポリマーのアクチュエータは、中空コアを有する円筒形構造として形成される、請求項22に記載のカテーテル。
【請求項24】
前記EAP材料の各層は、導電性材料によって片面がコーティングされている、請求項22に記載のカテーテル。
【請求項25】
前記導電性材料は金属を含む、請求項24に記載のカテーテル。
【請求項26】
各キャパシタは平行板キャパシタ構成を有し、導電性コーティングによって電極が提供される、請求項24に記載のカテーテル。
【請求項27】
前記電気活性ポリマーのアクチュエータは、20.0~500.0Hzの周波数の前記電気信号によって駆動されると、振動応答を提供する、請求項26に記載のカテーテル。
【請求項28】
前記電気信号が高スルーレート波形を有する、請求項26に記載のカテーテル。
【請求項29】
波形が50.0~250.0ボルトのピークツーピーク振幅を有する、請求項26に記載のカテーテル。
【国際調査報告】