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特表2023-549296材料の弾性を表す物理量を測定する非侵襲的方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-22
(54)【発明の名称】材料の弾性を表す物理量を測定する非侵襲的方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/00 20060101AFI20231115BHJP
   A61B 5/107 20060101ALI20231115BHJP
【FI】
A61B8/00
A61B5/107 800
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023550710
(86)(22)【出願日】2021-11-05
(85)【翻訳文提出日】2023-06-29
(86)【国際出願番号】 EP2021080851
(87)【国際公開番号】W WO2022096697
(87)【国際公開日】2022-05-12
(31)【優先権主張番号】2011409
(32)【優先日】2020-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500379381
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシャルシュ シアンティフィク
【氏名又は名称原語表記】Centre National de la Recherche Scientifique
【住所又は居所原語表記】3 rue Michel Ange, FR-75016 Paris, France
(71)【出願人】
【識別番号】521325374
【氏名又は名称】エコール サントラル ドゥ リヨン
【氏名又は名称原語表記】ECOLE CENTRALE DE LYON
(71)【出願人】
【識別番号】523165455
【氏名又は名称】エコール ナショナル デ トラヴォー ピュブリック ドゥ レタ
(74)【代理人】
【識別番号】100108143
【弁理士】
【氏名又は名称】嶋崎 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルジオリュ, ロベルト
(72)【発明者】
【氏名】ザウアニ, アッサン
(72)【発明者】
【氏名】ベルゲオー, アレクサンドル
【テーマコード(参考)】
4C038
4C601
【Fターム(参考)】
4C038VA04
4C038VB22
4C038VC20
4C601DD19
4C601DD23
4C601JB28
4C601JB34
4C601JB50
(57)【要約】
材料の弾性を表す物理量を測定する非侵襲的方法であって、測定軸に沿って材料の表面で発生した剪断波の様々な成分の基本モードの位相速度を、対のセットから算出する工程(86)であって、各対は、周波数fと、前記周波数fについて算出した前記基本モードの位相速度Vとで形成され、前記測定軸に平行な測定方向に前記基本モードの分散曲線を形成し、添え字「i」は、前記周波数f及び前記位相速度Vの次数である、工程と、前記分散曲線を深さに応じた位相速度のプロファイルに変換する工程(100)であって、所与の深さでの前記位相速度は、前記深さでの前記材料の弾性を表す物理量である、工程と、を含む。
【選択図】図3


【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料の弾性を表す物理量を測定する非侵襲的方法であって、前記方法は、
a)様々な周波数の成分を含む剪断波を発生させるために刺激器を使用して衝撃点で材料を変形させる工程であって、前記様々な成分は、前記材料の表面に伝播し、前記材料の表面の変位を引き起こす工程(72)と、
b)測定装置を使用して、前記材料の表面の前記変位を、測定軸に沿って前後に並んだ少なくとも3つの測定点で経時的に測定する工程(74)と、
を含み、
前記方法は、
c)前記測定軸に沿って発生した前記剪断波の前記様々な成分の基本モードの位相速度を、前記測定装置の前記測定値、対のセットから算出する工程であって、各対は、周波数fと、前記周波数fについて算出した前記基本モードの位相速度Vとで形成され、前記測定軸に平行な測定方向に前記基本モードの分散曲線を形成し、添え字「i」は、前記周波数f及び前記位相速度Vの次数である、工程(86)と、
d)前記分散曲線を深さに応じた位相速度のプロファイルに変換する工程であって、所与の深さでの前記位相速度は、前記深さでの前記材料の弾性を表す物理量である、工程(100)と、
をさらに含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記分散曲線を前記測定方向で位相速度のプロファイルに変換する工程(100)は、
1)前記分散曲線の各周波数fを、次の関係:λ=V/fを用いて対応する波長λに変換する動作(102)と、その後、
2)前記測定方向について次の関係:α=Zmax/λmaxを用いて係数αの値を計算する動作であって、式中、
- Zmaxは、前記測定軸に沿って最も離れている2つの測定点を隔てる距離の半分であり、
- λmaxは、前記測定方向について前記動作1)を実行した後に得られる前記波長λのうち最も大きい波長である、
動作(104)と、
3)動作1)を実行した後に得られる各波長λを、次の関係:p=αλを用いて対応する深さpに変換し、式中αは、前記動作2)で計算した前記係数である、動作(106)と、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記方法は、互いに角度を伴ってずれている少なくとも第1の測定軸と第2の測定軸に対して工程a)、b)、c)及びd)を実施し、第1の測定軸及び第2の測定軸は、同じ衝撃点を通過することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記基本モードの位相速度を算出する工程c)は、いくつかの異なる周波数fに対し、
- 各測定点について、
- 前記周波数fが中心にあって-3dB帯域幅が周波数fi-1とfi+1との間にある帯域通過フィルタを使用して、前記測定装置を用いて前記測定軸に沿って座標xの測定点で測定した信号u(x,t)をフィルタ処理して、フィルタ処理後の信号u(x,t)を得る動作(88)と、
- 前記フィルタ処理した信号u(x,t)が絶対最小値を通過する時点ti,m(x)を特定する動作(90)と、
その後、
- 前記最小値が前記測定軸に沿って伝播する前記速度Vを、前記最小値が起こる前記時点ti,m(x)及び前記位置xから計算する動作であって、このようにして計算した前記速度Vは、前記周波数fでの前記基本モードの位相速度である動作(92)と、
を繰り返すことを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程c)は、
- 一連の周波数fの中から、前記周波数fが以下の条件(1):
[数1]
を検証しなくなる下限である最低周波数fminを自動で同定する動作を
含み、式中、
- μi,1及びμi,0は、座標(x;ti,m(x))の点を最良の方法で近似する最小二乗法によって算出される直線の係数であり、
- xは、前記衝撃点に最も近い前記第1の測定点から数えてp番目の測定点の位置xであり、
- Pmaxは、前記測定軸に沿って分布する測定点の数であり、
- errmaxは、所定の定数であり、
- その後、前記周波数fmin以上の前記周波数fのみが分散曲線を形成するように保持される、
請求項4に記載の方法。
【請求項6】
工程c)は、
- 一連の周波数fの中から、周波数fが前記条件(1)を検証しなくなる上限である最高周波数fmaxを自動で同定する動作であって、前記周波数fmaxを自動で同定する前記動作は、いくつかの周波数fについて前記条件(1)を検証することによって実行される動作と、その後、
- 前記周波数fmax以下の前記周波数fのみが分散曲線を形成するように保持される動作と、
を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
周波数fはすべて1Hz~3,000Hzである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の方法を実施するための、材料の弾性を表す物理量を測定する非侵襲的器具であって、前記器具は、
- 様々な周波数の成分を含む剪断波を発生させるために材料を衝撃点で変形させることができる刺激器であって、前記様々な成分は、前記材料の表面で伝播し、前記材料の表面の変位を引き起こす、刺激器(8)と、
- 前記材料の表面の変位を、測定軸に沿って前後に並んだ少なくとも3つの測定点で経時的に測定できる測定装置(10)と、
を備える器具において、
前記器具は、
- 前記測定軸に沿って発生した前記剪断波の前記様々な成分の基本モードの位相速度を、前記測定装置の測定値、対のセットから算出でき、各対は、周波数fと、前記周波数fについて算出された前記基本モードの位相速度Vとで形成され、前記測定軸に平行な測定方向に前記基本モードの分散曲線を形成でき、添え字「i」は、前記周波数f及び前記位相速度Vの次数であり、
- 前記分散曲線を深さに応じて位相速度のプロファイルに変換でき、所与の深さでの前記位相速度は、前記深さでの前記材料の弾性を表す物理量である、
処理ユニット(12)を含むことを特徴とする、非侵襲的器具。
【請求項9】
前記処理ユニット(12)は、前記分散曲線を前記測定方向の位相速度のプロファイルに変換するために、以下の動作:
1)前記分散曲線の各周波数fを、次の関係:λ=V/fを用いて対応する波長λに変換し、その後、
2)前記測定方向について次の関係:α=Zmax/λmaxを用いて係数αの値を計算し、式中、
- Zmaxは、前記測定軸に平行に沿って最も離れている2つの測定点を隔てる距離の半分であり、
- λmaxは、前記測定方向について前記動作1)を実行した後に得られる前記波長λのうち最も大きい波長であり、
3)前記動作1)の後に得られた各波長λを、次の関係:p=αλを用いて対応する深さpに変換し、式中αは、前記動作2)で計算した係数であること
を実行するように構成される、請求項8に記載の器具。
【請求項10】
- 前記測定装置は、センサアレイ(62)を含み、各センサは、それぞれの測定点で前記材料の表面の変形の振幅を測定でき、前記アレイは、少なくとも3つのセンサを含み、各センサは、測定軸に沿って前後に並んだ3つの対応する測定点で、前記材料の表面の変形を測定し、
- 前記器具は、前記センサアレイが取り付けられているヒンジアーム(4)を含み、前記ヒンジアームは、前記センサアレイを回転軸周りに所定角度だけ回転させて、前記センサアレイの前記測定軸を第1の測定軸と同列にするのと、前記第1の測定軸から角度を伴ってずれている第2の測定軸と同列にするのとを交互に行うことができる、
請求項8又は9に記載の器具。
【請求項11】
前記センサアレイは、
- 各測定点から反射した光を感知する光学センサの列(62)と、
- 前記光学センサの列が感知した反射光で照らされた各測定点での前記材料の表面の変位を算出するように構成されたマイクロプロセッサ(64)と、
を含み、
- 前記測定装置は、前記測定軸に沿って並んだ各測定点を照らす光線の発光器(60)を含む、
請求項10に記載の器具。
【請求項12】
前記刺激器(8)は、前記材料の表面上に、前記材料を前記衝撃点で変形させる流体の噴流を投射できる、請求項8~11のいずれか一項に記載の器具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料の弾性を表す物理量を測定する非侵襲的方法及び装置に関する。
【0002】
本発明は、特に粘弾性材料及び/又は変形可能な材料又は基材の弾性を表す物理量を測定する非侵襲的方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0003】
例としては、皮膚の弾性などの機械的特性の測定は、例えば、何らかの皮膚病の診断を支援すること、皮膚に施した美容整形術の有効性及び結果を測定すること、in-vitroでの培養皮膚(バイオプリンティング)の弾性を測定すること、又はin-vitroでの培養皮膚(バイオプリンティング)の機械刺激の効果を測定すること、において役に立つ。
【0004】
そのような方法の公知例は、例えば、次の文献に記載されている。M. Ayadh et al: 「Methods for characterizing the anisotropic behavior of the human skin's relief and its mechanical properties in vivo linked to age effects」、 IOP Publishing, Surf. Topogr.: Metrol. Prop. 8 (2020) 014002, 19/03/2020。今後は、この文献を「Ayadh2020」として参照する。
【0005】
この公知の方法は、非侵襲的であるという点が有利である。したがって、患者の皮膚に実施するのは簡単である。この公知の方法により、皮膚表面でのレイリー速度を様々な方向で測定することが可能になる。レイリー速度は、皮膚の弾力性を表す位相速度に比例する。
【0006】
皮膚及び他の粘弾性材料又は変形可能な材料は、いくつかの側面で多層基材に似ていることがある。Ayadh2020に記載されている方法は、皮膚の表面層、とりわけ表皮の機械的特性に関する情報のみを提供している。一方、この表面層の下に位置している皮膚の層の機械的特性に関する情報は、この公知の方法を用いて得ることはできない。特に、この公知の方法では、真皮及び皮下組織などの副層(sub-layers)の機械的特性を測定することはできない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、材料の弾性を表す量を測定する方法であって、その材料の副層の弾性を表す物理量をさらに測定できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1つの対象は、材料の弾性を表す物理量を測定する非侵襲的方法であって、前記方法は、
a)様々な周波数の成分を含む剪断波(shear wave)を発生させるために刺激器を使用して衝撃点(impact point)で材料を変形させる工程であって、前記様々な成分は、前記材料の表面に伝播し、前記材料の表面の変位を引き起こす工程と、
b)測定装置を使用して、前記材料の表面の前記変位を、測定軸に沿って前後に並んだ少なくとも3つの測定点で経時的に測定する工程と、
を含み、
前記方法は、
c)前記測定軸に沿って発生した前記剪断波の前記様々な成分の基本モードの位相速度を、前記測定装置の前記測定値、対のセット(the set of pairs)から算出する工程であって、各対は、周波数fと、前記周波数fについて算出した前記基本モードの位相速度Vとで形成され、前記測定軸に平行な測定方向に前記基本モードの分散曲線を形成し、添え字「i」は、前記周波数f及び前記位相速度Vの次数である、工程と、
d)前記分散曲線を深さに応じた位相速度のプロファイルに変換する工程であって、所与の深さでの前記位相速度は、前記深さでの前記材料の弾性を表す物理量である、工程と、をさらに含む、方法である。
【0009】
測定される材料又は基材には、粘弾性材料及び/又は変形可能な材料などがあり、例えば、ヒトの皮膚、人工皮膚、魚の皮などの海洋生物の皮をはじめとする動物の皮、野菜又は果物の皮が含まれてよい。これらの材料は、合成皮革又は植物皮革のほか、例えば臓器ファントムに使用されるもののようないくつかのポリマーを含んでいてもよい。本方法は、織物又は路面などの塗装にも適用できる。
【0010】
本方法の実施形態は、以下の1つ又は複数の特徴を含むことができる。すなわち、
1)前記分散曲線を前記測定方向で位相速度のプロファイルに変換する工程は、
o1)前記分散曲線の各周波数fを、次の関係:λ=V/fを用いて対応する波長λに変換する動作と、その後、
o2)前記測定方向について次の関係:α=Zmax/λmaxを用いて係数αの値を計算する動作であって、式中、
- Zmaxは、前記測定軸に沿って最も離れている2つの測定点を隔てる距離の半分であり、
- λmaxは、前記測定方向について前記動作o1)を実行した後に得られる前記波長λのうち最も大きい波長である、
動作と、
o3)動作o1)を実行した後に得られる各波長λを、次の関係:p=αλを用いて対応する深さpに変換し、式中αは、前記動作o2)で計算した前記係数である、動作と、を含む。
2)前記方法は、互いに角度を伴ってずれている少なくとも第1の測定軸と第2の測定軸に対して工程a)、b)、c)及びd)を実施し、第1の測定軸及び第2の測定軸は、同じ衝撃点を通過することを含む。
3)前記基本モードの位相速度を算出する工程c)は、いくつかの異なる周波数fに対し、
- 各測定点について、
- 前記周波数fが中心にあって-3dB帯域幅が周波数fi-1とfi+1との間にある帯域通過フィルタを使用して、前記測定装置を用いて前記測定軸に沿って座標xの測定点で測定した信号u(x,t)をフィルタ処理して、フィルタ処理後の信号u(x,t)を得る動作と、
- 前記フィルタ処理した信号u(x,t)が絶対最小値を通過する時点ti,m(x)を特定する動作と、
その後、
- 前記最小値が前記測定軸に沿って伝播する前記速度Vを、前記最小値が起こる前記時点ti,m(x)及び前記位置xから計算する動作であって、このようにして計算した前記速度Vは、前記周波数fでの前記基本モードの位相速度である動作と、を繰り返すことを含む。
4)工程c)は、
- 一連の周波数fの中から、前記周波数fが以下の条件(1):
[数1]
を検証しなくなる下限である最低周波数fminを自動で同定する動作を
含み、式中、
- μi,1及びμi,0は、座標(x;ti,m(x))の点を最良の方法で近似する最小二乗法によって算出される直線の係数であり、
- xは、前記衝撃点に最も近い前記第1の測定点から数えてp番目の測定点の位置xであり、
- Pmaxは、前記測定軸に沿って分布する測定点の数であり、
- errmaxは、所定の定数であり、
- その後、前記周波数fmin以上の前記周波数fのみが分散曲線を形成するように保持される。
5)工程c)は、
- 一連の周波数fの中から、周波数fが前記条件(1)を検証しなくなる上限である最高周波数fmaxを自動で同定する動作であって、前記周波数fmaxを自動で同定する前記動作は、いくつかの周波数fについて前記条件(1)を検証することによって実行される動作と、その後、
- 前記周波数fmax以下の前記周波数fのみが分散曲線を形成するように保持される動作と、を含む。
6)周波数fはすべて1Hz~3,000Hzである。
【0011】
本発明の他の対象は、前述の方法を実施するための、材料の弾性を表す物理量を測定する非侵襲的器具であって、前記器具は、
- 様々な周波数の成分を含む剪断波を発生させるために材料を衝撃点で変形させることができる刺激器であって、前記様々な成分は、前記材料の表面で伝播し、前記材料の表面の変位を引き起こす、刺激器と、
- 前記材料の表面の変位を、測定軸に沿って前後に並んだ少なくとも3つの測定点で経時的に測定できる測定装置と、
を備える器具において、
前記器具は、
- 前記測定軸に沿って発生した前記剪断波の前記様々な成分の基本モードの位相速度を、前記測定装置の測定値、対のセットから算出でき、各対は、前記周波数fについて算出された前記基本モードの周波数fと位相速度Vとで形成され、前記測定軸に平行な測定方向に前記基本モードの分散曲線を形成でき、添え字「i」は、前記周波数f及び前記位相速度Vの次数であり、
- 前記分散曲線を深さに応じて位相速度のプロファイルに変換でき、所与の深さでの前記位相速度は、前記深さでの前記材料の弾性を表す物理量である、
処理ユニットを含む、非侵襲的器具である。
【0012】
前記器具の実施形態は、以下の1つ又は複数の特徴を含むことができる。すなわち、
1)
- 前記測定装置は、センサアレイ(an array of sensors)を含み、各センサは、それぞれの測定点で前記材料の表面の変形の振幅を測定でき、前記アレイは、少なくとも3つのセンサを含み、各センサは、測定軸に沿って前後に並んだ3つの対応する測定点で、前記材料の表面の変形を測定し、及び、
- 前記器具は、前記センサアレイが取り付けられているヒンジアームを含み、前記ヒンジアームは、前記センサアレイを回転軸周りに所定角度だけ回転させて、前記センサアレイの前記測定軸を第1の測定軸と同列にするのと、前記第1の測定軸から角度を伴ってずれている第2の測定軸と同列にするのとを交互に行うことができる。
2)
- 前記センサアレイは、
- 各測定点から反射した光を感知する光学センサの列と、
- 前記光学センサの列が感知した反射光で照らされた各測定点での前記材料の表面の変位を算出するように構成されたマイクロプロセッサと、を含み、
- 前記測定装置は、前記測定軸に沿って並んだ各測定点を照らす光線の発光器を含む。
3)前記刺激器は、前記材料の表面上に、前記材料を前記衝撃点で変形させる流体の噴流を投射できる。
【0013】
本発明に係る測定方法及び器具は、健康、医薬品産業、化粧品、品質管理などの様々な分野において、様々なアプリケーションで実施することができる。
【0014】
測定はとりわけ生体内で、又は例えば生検によって収集された、任意の種類の軟組織に対して実施できる。例によれば、様々な病理を監視し、分析できる。皮膚腫瘍の分析は、生体内又は組織採取後に実施できる。強皮症又は骨形成不全症などのコラーゲンの病状を分析できる。また、慢性創傷を含む創傷の治癒を監視できる。その他の例によれば、本発明による方法及び器具は、化粧品の効果の研究において、特にアンチエイジング製品を皮膚に塗布した後のコラーゲン繊維の刺激を観察することによって実装できる。
【0015】
本発明は、以下の説明を読むことで、よりよく理解されるであろう。以下の説明は、非限定的な例として挙げているにすぎず、図面を参照して記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】材料の弾性を表す物理量を測定する器具のアーキテクチャの概略図である。
図2図1の器具の刺激器及び測定装置の概略図である。
図3図1の器具を使用して材料の弾性を表す物理量を測定する方法の工程図である。
図4図2の器具により得られる変位の測定値を示す3次元のグラフである。
図5】剪断波の変位速度の計算を示すグラフである。
図6】周波数成分に対し、図2の器具により得られる変位の測定値を示す3次元のグラフである。
図7図6の周波数成分の位相速度の決定を示すグラフである。
図8図6の周波数成分の減衰を示すグラフである。
図9図1の器具を使用して決定した分散曲線を表すグラフである。
図10図1の器具を使用して決定した位相速度のプロファイルを示すグラフである。
図11図2の器具で構築された断層像を示すグラフである。
図12】深さに応じた図6の周波数成分の断層像を示すグラフである。
図13図3の方法を使用して測定した位相速度、及び位相速度を決定するための他の公知方法を使用して決定した位相速度を、同じグラフィック表示にて示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【実施例
【0017】
前記図面においては、同一の要素を言及するために同一の符号が使用されている。本明細書の以降において、当業者によく知られている特性及び機能については詳細に記載してはいない。
【0018】
本明細書においては、詳細な実施形態を図面を参照しつつ第1章で最初に述べる。次いで、この実施形態に対する代替案を第2章で述べる。最後に、別の実施形態の利点について第3章で述べる。
【0019】
第1章:例示的な実施形態
【0020】
これ以後に述べる例示的な実施形態においては、測定された材料はヒトの皮膚である。当然のことながら、記載される器具及び方法は他の材料の測定をするために使用することができる。
【0021】
図1は、皮膚の弾性を表す物理量を測定する非侵襲的器具2を表している。器具2は、
- ヒンジアーム4と、
- アーム4の遠位端に装着された、刺激器8及び測定装置10と、
- 刺激器8及び測定装置10に接続されている計算処理ユニット12と、
を含む。
【0022】
アーム4の近位端は、固定支持体14に自由度なしで装着される。アーム4は、いくつかのヒンジ20を有し、このヒンジにより、刺激器8と測定装置10の両方を投影軸22の周りで同時に回転させて動かすことが可能になる。図1では、軸22は垂直である。この場合、ヒンジ20により、刺激器8及び測定装置10を支持体14に対して6自由度で動かすことができる。
【0023】
刺激器8及び測定装置10を所望の位置に配置するためにアーム4を変形させると、アーム4は、刺激器8及び測定装置10をその位置で静止状態に保持する。ヒンジ20は、例えば使用者が手動で作動させるか、電気モータで作動する。アーム4は、刺激器8及び測定装置10を処理ユニット12に接続する導電体の支持体としての役割も果たす。
【0024】
刺激器8は、作動時に衝撃点でヒトの皮膚を変形させる。衝撃点は、投影軸22と皮膚表面との交点に位置する。刺激器8によって生じる皮膚の変形は、それが剪断波を発生させ、その後、該剪断波が皮膚表面に沿って伝播するようなものである。この剪断波は、いくつかの異なる周波数の周波数成分を含む。通常、ヒトの皮膚の場合、これらの成分の周波数は、1Hz~3,000Hzであり、通常は1Hz~1,000Hzである。
【0025】
装置10は、剪断波によって引き起こされた皮膚表面の変形を、測定軸に沿って前後に並んだいくつかの測定点で測定する。この測定軸は、本文中で「測定方向」と称する方向と平行に延在する。通常、装置10は、3、10又は100ヵ所を超える測定点を有する。ここでは装置10は、400ヵ所の測定点を有する。以下、測定軸に沿った測定点の位置は、原点Oから測定した横座標xで表記され、例えばmm又はμmで表される。ここでは、測定軸と投影軸22とは、実質的に直角に交差する。原点Oは、この2つの軸の交点とみなされる。
【0026】
衝撃点に最も近い測定点と衝撃点から最も遠い測定点との間の距離をLmaxと表記する。ここでは例示として、距離Lmaxは7mmである。この実施形態では、測定点は、測定軸に沿って均等に分布している。したがって、2つの連続する測定点の間の距離は、17.5μmである。
【0027】
処理ユニット12は、測定装置10に接続されて、この装置の測定値を取得する。さらに詳細には、ユニット12は、サンプリング周波数fで、各測定点で測定された変位を経時的に取得する。以下、横座標xの測定点で測定された時点での変位をu(x,t)と表記する。例えば、ここでは、周波数fは8kHzである。
【0028】
ユニット12は、このようにして取得した信号u(x,t)を処理して、そこから様々な深さでの皮膚の弾性を表す物理量を引き出すことができる。そのために、ユニット12は、中央処理装置30及び機械インターフェース32を有する。中央処理装置30は、
- 図3の方法を実行するための命令を含むメモリ34と、
- メモリ34に保存されている命令を実行できるプログラマブルマイクロプロセッサ(programmable microprocessor)36と、を含む。
【0029】
インターフェース32により、測定した皮膚の弾性を表す物理量を表示することが可能になる。通常はそのために、インターフェース32は、画面38を有する。ここではインターフェース32は、図3の測定方法の実行を引き起こすための制御を得るためにキーボード40も有する。
【0030】
図2は、刺激器8及び測定装置10をさらに詳細に示している。図2では、皮膚は、概略的に符号46で示され、皮膚46の表面には符号48が付されている。この図では、表面48は、刺激器8によって加えられた衝撃を受けた後に変形した形で示されている。皮膚表面の衝撃点には符号49が付されている。
【0031】
皮膚表面に伝播する剪断波を生み出すために、刺激器8は、この実施形態では、衝撃点49で皮膚に衝撃を与えるために空気の噴流を使用する。そのために、刺激器8は、
- 加圧空気タンク50と、
- タンク50に流体接続された減圧弁52と、
- 制御可能な電磁弁54と、
- 電磁弁54の出口に流体接続されたノズル56と
を含む。
【0032】
例えば、タンク50に入っている空気の圧力は、0.6又は0.8MPaより大きい。ここでは減圧弁52は、空気圧を下げる。例えば、減圧弁52の出口の空気圧は、0.1MPa~0.6MPa又は0.1~0.4MPaである。
【0033】
電磁弁54は、ユニット12の制御下で、開放位置から閉鎖位置へ、またその逆に動かすことができる。閉鎖位置では、電磁弁54は、空気がタンク50から逃げるのを防止する。逆に開放位置では、電磁弁54は、空気をタンク50から逃がす。タンク50から逃げる空気はその後、ノズル56によって案内され、軸22に沿って空気の噴流を形成し、衝撃点49で皮膚46の表面48に衝撃を与える。
【0034】
電磁弁(54)により、表面48上に投射される空気の噴流の継続時間を調整することが可能になる。通常、空気の噴流の継続時間は、20ms又は10ms未満である。ここでは、空気の噴流の継続時間は、5ms~10msである。
【0035】
ノズル56の少なくとも一部は、空気の噴流を軸22に沿って誘導するために軸22に沿って延在する。表面48に対面しているノズル56の端部は、使用中に器具2と表面48との間に直接の機械的接触がないように、この表面から機械的に離れている。
【0036】
測定装置10は、光学測定装置である。この実施形態では、測定装置はそのために、
- 各測定点を照らす光線の発光器60と、
- 各々の測定点から反射した光を感知する光学センサの列62、及び
各々の光学センサによって感知された反射光から、各々の測定点での表面48の変位を算出するようにプログラムされたマイクロプロセッサ64と、を含む。
【0037】
ここでは、装置10は、衝撃点49に最も近い測定点が、その衝撃点から0.5mm又は0.8mmより長く、かつ典型的には5mm未満の距離だけ離れているように刺激器8に対して配置される。好ましくは、衝撃点に最も近い測定点とこの衝撃点との間の距離は、0.7mm~1.3mm又は0.9mm~1.1mmである。ここでは、この距離は、1mmである。
【0038】
このような測定装置は、公知のもので、市販されている。例えば、この実施形態では、装置10は、株式会社KEYENCE(登録商標)から商品番号LJ-V7020として販売されている装置である。この場合、発光器60は、単色で平行化された光線を放出するレーザ源である。よって、装置10については、以下でこれ以上詳細に説明しない。
【0039】
器具2の動作については、図3を用いて、図4図13を参照して説明する。
【0040】
最初の工程68では、アーム4を変形させて、刺激器8及び測定装置10を、研究対象の皮膚で覆われた人体の一部に近づけて配置する。器具2により、人体のどの部分でも研究することが可能になる。例えば、ヒトの前腕に関しては、図4図13に示した実験結果が得られた。通常、刺激器8及び装置10は、皮膚の衝撃点49に垂直な方向に対して投影軸22が75°~110°、かつ好ましくは80°~100°の角度となるように、皮膚の表面48に対して配置される。
【0041】
表面48に対面しているノズル56の下方端部は、衝撃点49から1mm又は2mm又は5mmより長く、一般には20mm未満の距離だけ離れている。
【0042】
器具2を皮膚46に対して正しく配置すると、信号u(x,t)を取得する段階70が実行される。
【0043】
さらに詳細には、刺激器8及び装置10を表面48に対して正しく配置すると、工程72で、ユニット12は、刺激器8を制御して空気の噴流の放出を引き起こし、皮膚を変形させる。ここではユニット12は、電磁弁54を制御してこの空気の噴流を発生させる。するとこの空気の噴流は、衝撃点49で皮膚に衝撃を与える。これにより、この衝撃点49で表面48に短時間の変形が生じる。一方この表面48の変形で剪断波が発生し、この剪断波は、表面48に沿ってあらゆる方向に伝播するため、とりわけ装置10の測定軸に沿って伝播する。
【0044】
工程74では、装置10は、各々の測定点で、皮膚の表面を伝播する剪断波によってもたらされた表面48の変位を測定する。
【0045】
これと並行して工程76では、各サンプリング時点で、各測定点についてユニット12は装置10から測定値を取得する。よってユニット12は、各々の信号u(x,t)を取得する。
【0046】
図4は、取得した信号u(x,t)の一例を3次元グラフで表したものである。このグラフでは、
- 水平軸は、時間をミリ秒で表し、
- 垂直軸は、表面48の変位の振幅をミリメートルで表し、
- 深さ軸は、測定軸に沿った測定点の位置xをμmで表している。
【0047】
様々な信号u(x,t)を取得すると、取得段階70は終了し、信号u(x,t)を処理する段階80が始まる。段階80は、ユニット12によって実行される。
【0048】
工程82では、各信号u(x,t)について、ユニット12は、信号u(x,t)がその絶対最小値を通過する時点tmin(x)を検索し、同定する。
【0049】
次に、工程84では、ユニット12は、座標点(x;tmin(x))で形成される点群を最も近似する直線Dの式を算出する。直線の式は、以下の通りである:t=μx+μ。係数μ及びμは、最小二乗法を用いて得られた係数である。
【0050】
図5は、座標点(x;tmin(x))で形成された点群、及び最小二乗法で得られた直線Dを表している。
【0051】
皮膚46を伝播する剪断波は、分散波である。つまり、その位相速度は周波数によって異なる。したがって、位相速度は、この剪断波の各周波数成分で同じではない。位相速度とは、特に明記しない限り、ここでは剪断波の基本モードの位相速度を意味する。基本モードは、表面48の変位の振幅が最大であるモードに相当する。この位相速度を周波数fに対してVと表記し、添え字iは、周波数fを同定する次数である。ここでは周波数は、fと表記する最低周波数からfPmaxと表記する最高周波数まで順序付けされる。
【0052】
皮膚の場合、皮膚46を伝播する様々な周波数成分は、通常は1Hz~3,000Hzであり、最も多いのは、1Hz~1,000Hz又は1Hz~500Hz又は1Hz~400Hzであることが観察された。例示として、ここでは周波数fは、この1Hz~1、000Hzの範囲の区間で選択される。
【0053】
特に重要なのは、最低周波数であり、fminと表記され、それに対して位相速度がある。この最低周波数fminは、概して1Hz~10Hzであることが観察されている。よって、この方法では、区間[1Hz;10Hz]の周波数fのサンプリングピッチは、小さくなるように、つまり、ここでは2Hz又は1Hz未満になるように選択される。逆に、区間[10Hz、1000Hz]では、周波数fのサンプリングピッチは、それよりも大きくなるように選択される。例えば、この区間[10Hz;1,000Hz]では、サンプリングピッチは、5Hz又は10Hz又は20Hzより大きい。そのため、周波数fは、区間[1Hz;10Hz]では1Hzのピッチだけ互いに離れているが、区間[10Hz;1,000Hz]では5Hz又は10Hzより大きいピッチだけ互いに離れている。
【0054】
工程86では、ユニット12は、選択した各周波数fについて、必要であれば、対応する位相速度Vを算出する。
【0055】
そのために、動作88でユニット12は、周波数fを中心とする帯域通過フィルタを用いて各信号u(x,t)をフィルタ処理する。周波数fでフィルタ処理された信号u(x,t)を、以下、u(x,t)と表記する。この帯域通過フィルタの-3dB帯域幅は、周波数fi-1~fi+1である。通常、この帯域幅は、区間[10Hz;1,000Hz]の周波数fでは20Hz又は10Hz未満であり、区間[1Hz;10Hz]の周波数fでは2Hz未満である。
【0056】
図6は、図4の信号u(x,t)を20Hzの周波数でフィルタ処理して得た様々な信号u(x,t)を表している。このグラフは、信号u(x,t)ではなく、信号u(x,t)を表しているという点以外は図4のグラフと同じである。
【0057】
動作90では、ユニット12は、各信号u(x,t)について、その信号がその絶対最小値を通過する時点ti、m(x)を検索し、同定する。そのために、時点ti-1、m(x)又はti+1、m(x)がそれぞれ周波数fi-1又は周波数fi+1についてすでに同定されていれば、ユニット12は、この時点ti-1、m(x)又はti+1、m(x)を中心とする時間間隔で、時点ti、m(x)を最優先に検索する。
【0058】
時点ti-1,m(x)又はti+1,m(x)がそれまでに同定されていなければ、時点ti,m(x)は、工程82で同定した時点tmin(x)を中心とする時間間隔で検索される。
【0059】
動作92では、ユニット12は、信号u(x,t)から周波数fに対する位相速度Vを計算する。そのために、ユニット12は、座標点(x;ti,m(x))で形成された点群を最善の形で近似する直線Dの式を算出する。直線Dの式は、以下の通りである:ti,e(x)=μi,1x+μi,0。係数μi、1及びμi、0は、工程84について説明したように、最小二乗法を実施することによって得られる。
【0060】
図7は、座標(x,ti,m(x))の点群及び線Dを表している。
【0061】
直線Dの式が算出されると、ユニット12は、近似誤差、すなわち横座標が同じで、直線D上にある座標点(x;ti,m(x))と座標点(x;ti,e(x))との間の偏差も推定する。
【0062】
この誤差が所定の閾値errmaxを超えていれば、剪断波の周波数fの周波数成分のエネルギーがわずかなため、周波数fに対して位相速度がないとみなされる。ここでは例えば、近似誤差は、以下の関係(1)を用いて推定される。
【数2】
式中、
- μi,1及びμi,0は直線Dの係数であり、
- xは、衝撃点に最も近い最初の測定点から数えてp番目の測定点の位置xであり、
- Pmaxは、測定軸に沿って分布する測定点の数であり、
- errmaxは、所定の定数である。
【0063】
この近似誤差が閾値errmax以下である場合、位相速度Vは1/μi,1であるとみなされる。このようにして得られた位相速度Vは、周波数fでの基本モードの位相速度である。実際これは、信号u(x,t)の最小値から、すなわち変位の振幅が最大になる点からのみ得られる。
【0064】
動作94では、ユニット12は、周波数fの周波数成分の減衰A(x)も算出する。ここでは減衰A(x)は、動作90で同定された信号u(x,t)の最小値の振幅に等しいとみなされる。よって、この実施形態では、減衰A(x)は、u(x;ti、m(x))である。
【0065】
図8は、図4の信号u(x,t)の位置xに応じた減衰A(x)の変化を表している。
【0066】
工程88~工程94を各々の周波数fについて繰り返す。以下、位相速度Vが算出された周波数fのうち最小のものをfmin、最大のものをfmaxとそれぞれ表記する。座標点(V;f)のセットによって形成される曲線は、分散曲線と呼ばれる。図9は、図4のu(x,t)信号から得られた分散曲線を表している。
【0067】
剪断波の周波数成分の波長λが長いほど、その周波数成分は皮膚46の表面48の下を深く伝播する。そのため、波長λの周波数成分の速度Vは、深さpでの皮膚の機械的特性を表している。この時点で、位相速度Vは、以下の関係:V=(E/(2ρ(1+ν)))0.5によって、皮膚46の機械的特性に関連していることに留意されたい。式中、
- Eは、深さpでの皮膚のヤング率であり、
- ρは、深さpでの皮膚の密度であり、
- νは、深さpでの皮膚のポアソン係数である。
【0068】
よって、密度ρ及び係数νが公知の定数であることを考慮すると、速度Vは、深さpでのヤング率Eを直接表すものである。よって、速度Vは、深さpでの皮膚の弾性を表すものである。
【0069】
したがって、深さpに応じた速度Vのプロファイルは、測定軸に沿った、皮膚の機械的特性の断面図に相当する。
【0070】
工程100では、ユニット12は、分散曲線を深さpに応じた速度のプロファイルに変換する。
【0071】
そのために、動作102で、ユニット12は、各周波数fを、対応する波長λに変換する。実際、ユニット12は、次の関係(2):λ=V/fを用いる。
【0072】
次に、動作104で、ユニット12は、各波長λを、対応する深さpに変換する係数αの値を計算する。ここでは、深さpiは、皮膚の下に埋もれている点と皮膚の表面48とを隔てている距離である。この係数αは、次の関係(3):p=αλに従って、各波長λを、対応する深さpに関連付ける。
【0073】
この係数αは、所与の測定軸に対する定数である。対照的に、皮膚などの異方性・粘弾性材料の場合、係数αは、測定方向に応じて変化する。換言すると、係数αは、測定を行う方向によって異なる。
【0074】
ここでは、係数αは、ユニット12によって、次の関係(4):α=Zmax/λmaxを用いて計算され、式中、
- Zmaxは、距離Lmaxの半分であり、
- λmaxは、動作102の後に得られる波長λのうち最大のものである。
【0075】
係数αの値が計算されると、動作106で、ユニット12は、上記の関係(3)を用いて、各波長λを深さpに変換する。そのため、周波数fは波長λに対応し、この波長は深さpに対応する。各座標点(V;f)で、周波数fを、対応する深さpに置き換えることによって、器具2で測定された速度のプロファイルが得られる。速度のこのようなプロファイルの一例を図10に示している。
【0076】
ここで、工程68及び段階70及び80を数回繰り返し、各回で測定軸を所定角度だけ軸22周りに回転させる。そのために、工程68を新たに繰り返すたびに、アーム4を変形させて刺激器8及び測定装置10それ自体を回転させるようにする。この回転は、投影軸22の位置を変えるものではなく、よって衝撃点49の位置を変えるものではない。例えば、工程68を新たに繰り返すたびに、測定軸は、前回の位置から少なくとも1°又は5°、例えば10°又は20°の角度でずれる。
【0077】
取得したデータを処理する段階80を新たに繰り返すたびに、工程100が再度実行される。実際、前述したように、係数αの値は、ヒトの皮膚の場合、測定軸の方向に大きく左右される。
【0078】
最後に、工程110で、深さpに応じた皮膚の機械的特性が画面38に表示される。様々なグラフィック表示が可能である。例えば、図10に示したような速度プロファイルが画面38に表示される。ただし、好ましくは、様々な測定方向について得られた様々な速度プロファイルは、同じグラフ上に同時に表示されて、衝撃点49での皮膚46の断層像を形成する。このような断層像を図11に示している。この断層像では、縦軸は深さpを表している。軸22は、器具2の投影軸に相当する。様々な測定平面Pl~Plが示されている。これらの平面Pl~Plは、互いに角度を伴ってずれている。ここで、これらの測定平面は、各々が軸22を包含し、それぞれの測定方向に平行に延在する。各測定平面は、そのそれぞれの測定方向に平行な測定軸に沿って測定された速度プロファイルを包含する。よって、横軸は、測定された速度Vの座標Vix及びViyを表している。
【0079】
図12は、深さに応じた減衰A(x)を表している。また、横軸は、測定点の位置xを表している。縦軸は、深さpをミリメートル単位で表している。座標の各点(x;p)の色は、その深さpとその横座標xについての速度Vの減衰をコード化する。そのために、関係(3)を用いて深さを対応する波長λに変換し、その後、関係(2)を用いて、このようにして得た波長λを対応する周波数fに変換する。工程94では、位置xに応じた減衰A(x)は、すべての周波数fについてグラフ表示されているため、その深さpに対応する特定の周波数fについてグラフ表示される。これを図8のグラフに示している。図8のグラフには、横座標に対応する減衰A(x)がグラフ表示されている。図12のグラフの座標の点(x;p)で特定の色でコード化されるのは、この測定された減衰A(x)の値である。
【0080】
様々な位相速度Vは、例えばMASW(Multichannel Analysis of Surface Waves)として知られる方法などの他の方法で、信号u(x,t)から算出できる。MASW法により、各周波数fについて、基本モードの速度Vと、基本モードの次数より高い次数のモードの位相速度を算出することができる。
【0081】
図13は、図3の方法で算出した位相速度Vと、MASW法で算出した様々な位相速度とを同じグラフに表したものである。横軸は周波数fを表し、縦軸は、算出した位相速度の振幅を表している。図3の方法で算出した速度Vは、点線の曲線120で表されている。
【0082】
MASW法で算出される所与の周波数fの位相速度は、その位相速度の振幅が大きいほど暗い色でコード化される。周波数fが同じ場合、MASW法は、基本モードと他の高次モードのそれぞれに対応する複数の位相速度を算出する。算出したこれらの位相速度のうち、振幅が最も大きいものが基本モードの位相速度に相当する。このグラフに示したように、ほとんどの場合、図3の方法で算出した速度Vは、図13のグラフの最も暗い箇所を通過している。これは、2つの異なる方法で算出した基本モードの位相速度が一致していることを示している。
【0083】
対照的に、図13のグラフに楕円で囲んだ領域があるが、これは該当しない事例である。これは特に高周波、すなわち240Hzを超える周波数に当てはまるが、一部の低周波にも当てはまる。これらの領域では、MASW法で算出した基本モードの位相速度は、急激に低下し、その後再び同じように急激に上昇している。以下、基本モードの位相速度のこれらの突然の低下を「位相跳躍」(phase jumps)と称する。このような位相跳躍は、図13の90Hz付近で丸で囲まれている。逆に、図13の方法では、このような位相跳躍は発生しない。また、図13の方法により、MASW法を実施することで可能となるよりも、はるかに高い周波数で基本モードの位相速度を算出することが可能になる。そのため、図13の方法は、公知の方法よりも正確であると考えられる。
【0084】
第2章:代替案
【0085】
測定装置の代替案
【0086】
1つの特定の代替案では、前記装置は、皮膚又は他の材料の表面の変位を、互いに角度を伴ってずれているいくつかの測定軸に沿って同時に測定することができる。そのため、このような測定装置を用いると、投影軸22の周りにそれを回転させる必要がないか、実施する回転数が少なくなる。例えば、このような測定装置は、各測定軸に光学センサアレイを含む。
【0087】
別の実施形態では、前記測定軸は、衝撃点49を通過せずに、その衝撃点の横を通過する。
【0088】
装置10は、表面48の画像を高周波で取得するカメラを用いて実装してもよい。
【0089】
刺激器8の他の実施形態は可能である。例えば、1つの代替案としては、前記空気の噴流を、二酸化炭素のような他の気体の噴流、あるいは、水のような流体の噴流に置き換える。
【0090】
刺激器は、測定対象の材料又は基材の表面に剪断波を発生させるために必ずしも流体の噴流を放出する必要はない。このような剪断波は、器具を使用して材料に直接接触する刺激器によって発生させてもよい。例えば、刺激器は、材料を衝撃点49で叩くハンマーであってよい。刺激器は、衝撃点49で材料に衝撃を与えるために、軸22に沿って発射されるゴムボールなどの発射体であってもよい。
【0091】
前記測定装置は、必ずしも光学測定装置である必要はない。これは特に、器具2が表面積の大きい基材に適用される場合に当てはまることで、その場合、全体のサイズの制限が緩和される。例えば、信号u(x,t)は、各々の測定点に変位センサを直接配置することによって測定することもできる。このような用途に適していると思われる公知の変位センサが多数ある。例えば変位センサは、加速度計であってよい。
【0092】
別の実施形態では、特定の波長で電磁波を放射する要素又は電磁波を反射する要素が各々の測定点に配置される。測定装置のセンサは、測定点で放出又は反射された電磁放射線から、これらの測定点の各々で表面の変位を測定する。
【0093】
本方法の代替案
【0094】
基本モードの位相速度を深さに応じて構築するために、他の方法も可能である。例えば、図13に示したように、頭字語MASWで知られる方法を適用できるが、これは現在では精度が低いと考えられている。別の実施形態では、MASW法の1つの代替案が適用され、この代替案は、図13に観察された位相跳躍の問題を軽減するように修正したものである。最後に、MASW法以外の方法が、例えば地球物理学などの他の技術分野で開発されており、これらの方法が基本モードの位相速度を算出する限り、ここで置き換えることができる。
【0095】
他の方法としては、周波数fのサンプリングピッチは、分析区間全体にわたって同じである。例えば、前の例示的な実施形態では、サンプリングピッチは、1Hz~1000Hzの範囲の全区間にわたって同じである。
【0096】
時点ti,m(x)を検索して同定する他の方法も可能である。例えば、時点ti,m(x)は、検索を所定の時間間隔に限定することなく検索される。この場合、検索は、時点ti-1,m(x)又はti+1,m(x)又はtmin(x)を考慮せずに実施される。そのため、工程82及び84を省略できる。
【0097】
近似誤差は、別の方法で推定できる。特に、この近似誤差を計算するために多くの他の関係が可能である。例えば、関係(1)の代わりに以下の関係(5)を用いることができる。
【数3】
【0098】
別の実施形態では、係数αは、装置10によって測定された信号u(x,t)に応じて算出される。例えば、簡易化した実施形態では、所与の測定方向に対して用いられる係数αは、装置12の使用者が用意する。
【0099】
様々な測定方向で測定を行うために刺激器8自体を回転させる代わりに、測定方向を一定に保ち、衝撃点を直線に沿って動かして、材料又は基材の一部を徐々に走査することも可能である。
【0100】
同じ測定軸に沿った測定を様々な時点で繰り返して、これらの測定値の経時的な変化を見てよい。例えば、材料又は基材の機械的特性の経時的な変化、例えば、保湿製品を塗布した後の皮膚の機械的特性の経時的な変化を測定するためにこれを適用してよい。
【0101】
他の代替案
【0102】
当然のことながら、前述したように、ここに述べる器具2は、皮膚以外の粘弾性及び異方性材料に適用することができる。例えば、人工皮膚のような、同様のいかなる粘弾性材料に対しても適用することができる。
【0103】
器具2は、例えば、野菜や果物の皮のように、他の粘弾性材料に対しても適用することができる。
【0104】
器具2を皮膚以外の粘弾性材料に使用する場合、ユニット12が速度Vを計算するための周波数fの区間は、区間[1Hz;1,000Hz]とは異なっていてよい。同じように、器具2を使用する対象の粘弾性材料が異方性でなければ、係数αを第1の測定方向について計算でき、そして第1の測定方向から角度を伴ってずれている他の測定方向についてその係数αと同じ値を用いる。この場合、これらの他の測定方向については動作104を繰り返さない。
【0105】
異なる深さにおける材料又は基材のヤング率以外の他の機械的特性は、位相速度Vから推定することができる。例えば、粘度についても、速度Vから推定することができる。
【0106】
分散曲線を構築するための図3の方法は、基材の機械的特性を表す物理量を測定するための任意の非侵襲的な用途で実施できる。実際、上記に説明したように、この方法により、基本モードのより正確な位相速度を取得することが可能になる。例えば、図3の方法は、路面又は任意の多層構造などの基材の深さの機械的特性を測定するための非侵襲的器具で実施することもできる。このような基材の場合、互いに角度を伴ってずれているいくつかの異なる方向の速度プロファイルを測定する必要はない。また、各々の測定方向の係数αの値を算出する必要もない。最後に、基材が皮膚以外の場合、刺激器8及び測定装置10はその基材に適応される。例えば、路面の場合、刺激器8は、路面に衝撃を与える塊で形成される。路面の場合、装置10は、通常は7mmを超える距離にわたって剪断波を測定する。
【0107】
前記測定装置の測定値に応じた係数αの値の算出は、基本モードの位相速度のプロファイルから材料又は基材の機械的特性を測定する任意の他の器具で実施することもできる。実際、係数αの値を前述のように計算すると、分散曲線を速度プロファイルに変換する精度が向上する。
【0108】
第3章:記載した実施形態の利点
【0109】
ヒトの皮膚に対する前記測定器具及び方法の実施形態を説明してきたように、他の粘弾性及び/又は変形可能な材料又は基材に実施した場合には、以下に記載されている技術的利点及び効果は、本発明に係る器具及び方法に等しく適用される。
【0110】
本明細書に記載した測定方法により、剪断波の基本モードの位相速度を表面だけでなく様々な深さで測定することが可能になる。したがって、材料又は基材の機械的特性を、材料又は基材の表面だけでなく、表面下の様々な深さで明らかにすることが可能になる。さらに、器具2により、非侵襲性を維持しながら、すなわち材料又は基材を切断する必要なく、機械的特性を様々な深さで明らかにすることが可能になる。
【0111】
ヒトの皮膚を測定する場合、測定した信号u(x,t)から、さらに詳細には、分散曲線から係数αの値を計算することで、係数αの値を測定対象の皮膚及び選択した測定方向に自動で合わせることが可能になる。実際、他の基材とは対照的に、係数αの値はヒトによって大きく異なり、選択した測定方向によっても大きく異なることが観察されている。そのため、係数αの値を自動で計算することにより、位相速度のプロファイルの精度が向上する。そのため、観察深さの精度が向上する。
【0112】
互いに角度を伴ってずれているいくつかの方向について位相速度のプロファイルを構築することで、測定した皮膚又は材料の機械的特性の断層像を生成することが可能になる。このような断層像では特に、この機械的特性の異方性を測定方向に応じて観察することができる。そのため、測定した深さの全方向の張力を定量化することが可能で、この張力を3次元で表すことができる。例えば、細胞の活動を示す張力を測定することにより、創傷の治癒を分析し、監視することができる。
【0113】
信号u(x,t)の最小値が発生する時点ti,m(x)及び位置xから基本モードの位相速度を計算すると、周波数fで基本モードの位相速度を正確に算出することが可能になる。したがって、これにより、構築された位相速度のプロファイルの精度が向上し、それに伴い材料又は基板の機械的特性の測定の精度が向上する。
【0114】
周波数fminを自動で同定することで、測定方法の再現性を高めることが可能になる。なぜなら、この最小周波数は使用者が手動で算出するものではないからである。また、条件(1)を使用する場合、それによって波長λmaxをさらに正確に算出でき、係数αの値の算出精度も向上するため、最終的には位相速度のプロファイルの精度が向上する。
【0115】
周波数fmaxを自動で同定することで、存在しない剪断波、又はごくわずかな剪断波の周波数成分の位相速度を算出することを回避する。したがって、これにより、器具2によって構築される位相速度のプロファイルの精度が向上する。

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【国際調査報告】