(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-24
(54)【発明の名称】ヒト化抗TrkA抗体及びその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20231116BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20231116BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20231116BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20231116BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20231116BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20231116BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20231116BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20231116BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20231116BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20231116BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20231116BHJP
A61K 35/13 20150101ALI20231116BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20231116BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20231116BHJP
A61P 25/04 20060101ALI20231116BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231116BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20231116BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20231116BHJP
A61P 19/00 20060101ALI20231116BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20231116BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231116BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/28 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K31/7088
A61K48/00
A61K39/395 N
A61K35/76
A61K35/13
A61P29/00
A61P25/00
A61P25/04
A61P35/00
A61P37/02
A61P15/00
A61P19/00
A61P35/02
A61P43/00 105
A61P17/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022555685
(86)(22)【出願日】2021-11-18
(85)【翻訳文提出日】2022-11-09
(86)【国際出願番号】 CN2021131343
(87)【国際公開番号】W WO2022105814
(87)【国際公開日】2022-05-27
(31)【優先権主張番号】202011307482.7
(32)【優先日】2020-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515014990
【氏名又は名称】サンシャイン・レイク・ファーマ・カンパニー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SUNSHINE LAKE PHARMA CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】Northern Industrial Area,Songshan Lake,Dongguan,Guangdong 523000,China
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジヘン・レン
(72)【発明者】
【氏名】ジュンジ・ドン
(72)【発明者】
【氏名】ジュアンディ・ヘ
(72)【発明者】
【氏名】ケジュ・ワン
(72)【発明者】
【氏名】ジエリアン・ル
(72)【発明者】
【氏名】シュシャン・リン
(72)【発明者】
【氏名】リャン・リウ
(72)【発明者】
【氏名】シアン・リ
(72)【発明者】
【氏名】クオ・ジャン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン・ジアン
(72)【発明者】
【氏名】シャオピン・リ
(72)【発明者】
【氏名】シャオフェン・チェン
(72)【発明者】
【氏名】ウェンジア・リ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C085
4C086
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC15
4B065BA02
4B065BA03
4B065BC01
4B065BD14
4B065CA25
4B065CA44
4C084AA13
4C084NA14
4C084ZA02
4C084ZA08
4C084ZA66
4C084ZA81
4C084ZA89
4C084ZA96
4C084ZB07
4C084ZB11
4C084ZB26
4C084ZB27
4C084ZC01
4C085AA14
4C085BB11
4C085EE01
4C086AA01
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZA08
4C086ZA66
4C086ZA81
4C086ZA89
4C086ZA96
4C086ZB07
4C086ZB11
4C086ZB26
4C086ZB27
4C086ZC01
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB65
4C087BC83
4C087CA12
4C087NA14
4C087ZA02
4C087ZA08
4C087ZA66
4C087ZA81
4C087ZA89
4C087ZA96
4C087ZB07
4C087ZB11
4C087ZB26
4C087ZB27
4C087ZC01
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
TrkAを特異的に認識することが可能なヒト化抗体又はその抗原結合性断片及びその使用が提供される。抗体は、配列番号2~8のうちのいずれか1つに示されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域及び配列番号10~13のうちのいずれか1つに示されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む。実施形態に従う上述の抗体は、TrkA受容体を特異的に標的化し且つこれに結合し、並びにNGFとTrkAとの結合を遮断することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
TrkAを特異的に認識することが可能なヒト化抗体又はその抗原結合性断片であって、
配列番号41に示されるVH-CDR1、配列番号42又は配列番号43に示されるVH-CDR2、及び配列番号44に示されるVH-CDR3を有する重鎖可変領域;並びに
配列番号45に示されるVL-CDR1、配列番号46又は配列番号47に示されるVL-CDR2、及び配列番号48に示されるVL-CDR3を有する軽鎖可変領域
を含む、ヒト化抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項2】
配列番号2~8のうちのいずれか1つに示されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、及び配列番号10~13のうちのいずれか1つに示されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む、請求項1に記載のヒト化抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項3】
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域及び配列番号10に示されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域;
(b)配列番号4に示されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域及び配列番号10に示されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域;又は
(c)配列番号4に示されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域及び配列番号11に示されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域
から選択される重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む、請求項1に記載のヒト化抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項4】
TrkAの細胞外領域を特異的に認識する、請求項1に記載のヒト化抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項5】
前記抗体が、重鎖定常領域及び軽鎖定常領域の少なくとも一方を含み、且つ該重鎖定常領域及び該軽鎖定常領域の両方がヒトIgG抗体又はそれらの突然変異体に由来する、請求項1に記載のヒト化抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項6】
前記抗体の軽鎖定常領域がヒトκ軽鎖定常領域に由来し;重鎖定常領域がヒトIgG4重鎖定常領域に由来する、請求項1に記載のヒト化抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項7】
前記抗体のFc領域が、ヒトIgG4野生型Fcと比較してS10P、F16A、L17A、R191K突然変異及び229K欠失突然変異を有し、該ヒトIgG4野生型Fcが配列番号16に示されるアミノ酸配列を有する、請求項6に記載のヒト化抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項8】
前記抗体の定常領域の全長配列が、配列番号14又は15に示される通りである、請求項6に記載のヒト化抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項9】
前記抗体が、配列番号17~23のうちのいずれか1つに示されるアミノ酸配列を有する重鎖及び配列番号24~27のうちのいずれか1つに示されるアミノ酸配列を有する軽鎖を含む、請求項1に記載のヒト化抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項10】
前記抗体が、以下の重鎖及び軽鎖:
(a)配列番号17に示されるアミノ酸配列を有する重鎖及び配列番号24に示されるアミノ酸配列を有する軽鎖;
(b)配列番号19に示されるアミノ酸配列を有する重鎖及び配列番号24に示されるアミノ酸配列を有する軽鎖;又は
(c)配列番号19に示されるアミノ酸配列を有する重鎖及び配列番号25に示されるアミノ酸配列を有する軽鎖
から選択される、請求項1に記載のヒト化抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項11】
前記抗体が、単鎖抗体、マルチマー抗体、又はCDR移植抗体である、請求項1に記載のヒト化抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項12】
前記単鎖抗体が、配列番号2~8のうちのいずれか1つに示されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域及び配列番号10~13のうちのいずれか1つに示されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含み、該重鎖可変領域のC末端が、連結ペプチドリンカーを介して該軽鎖可変領域のN末端に連結されているか、又は該軽鎖可変領域のC末端が、連結ペプチドリンカーを介して該重鎖可変領域のN末端に連結されている、請求項11に記載のヒト化抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項13】
前記抗原結合性断片が、Fab、Fab'、F(ab)2、F(ab')2、Fv、scFv-Fc融合タンパク質、scFv-Fv融合タンパク質、及び最小認識単位のうちの少なくとも1種を含む、請求項1に記載のヒト化抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか一項に記載のヒト化抗体又はその抗原結合性断片をコードする核酸分子。
【請求項15】
DNAである、請求項14に記載の核酸分子。
【請求項16】
配列番号30~36のうちのいずれか1つに示されるヌクレオチド配列を含むか、又は配列番号37~40のうちのいずれか1つに示されるヌクレオチド配列を含む、請求項15に記載の核酸分子。
【請求項17】
請求項14から16のいずれか一項に記載の核酸分子を担持する発現ベクター。
【請求項18】
真核生物発現ベクターである、請求項17に記載の発現ベクター。
【請求項19】
請求項14から16のいずれか一項に記載の核酸分子を担持するか、又は請求項1から13のいずれか一項に記載のヒト化抗体若しくはその抗原結合性断片を発現する、組み換え細胞。
【請求項20】
宿主細胞へと請求項17又は18に記載の発現ベクターを導入することにより得られる、請求項19に記載の組み換え細胞。
【請求項21】
前記発現ベクターが電気的形質導入により前記宿主細胞に導入される、請求項20に記載の組み換え細胞。
【請求項22】
真核細胞である、請求項19に記載の組み換え細胞。
【請求項23】
哺乳動物細胞である、請求項19に記載の組み換え細胞。
【請求項24】
請求項1から13のいずれか一項に記載のヒト化抗体若しくはその抗原結合性断片、請求項14から16のいずれか一項に記載の核酸分子、請求項17若しくは18に記載の発現ベクター、又は請求項19から23のいずれか一項に記載の組み換え細胞を含む、医薬組成物。
【請求項25】
疼痛、がん、炎症又は炎症性疾患、神経変性疾患、シェーグレン症候群、子宮内膜症、糖尿病性末梢神経障害、前立腺炎、骨盤痛症候群、骨再形成の不均衡調節に関連する疾患、及び結合組織増殖因子の異常なシグナル伝導により引き起こされる疾患の治療又は予防のための医薬の製造における、請求項1から13のいずれか一項に記載のヒト化抗体、請求項14から16のいずれか一項に記載の核酸分子、請求項17若しくは18に記載の発現ベクター、請求項19から23のいずれか一項に記載の組み換え細胞、又は請求項24に記載の医薬組成物の使用。
【請求項26】
前記医薬が、神経障害性疼痛、炎症性疼痛、がん関連疼痛、骨折関連疼痛、外科手術関連疼痛、炎症性肺疾患、間質性膀胱炎、膀胱痛症候群、炎症性腸疾患、炎症性皮膚疾患、レイノー症候群、特発性肺線維症、瘢痕(肥大、ケロイド型及び他の形態)、硬化、心内膜心筋線維症、心房線維症、骨髄線維症、進行性塊状線維症(肺)、腎性全身性線維症、強皮症、全身性硬化、関節線維症、目線維症、非小細胞肺がん、甲状腺乳頭がん、多形性膠芽腫、結腸直腸がん、黒色腫、胆管がん若しくは肉腫、急性骨髄性白血病、大細胞神経内分泌がん、神経芽細胞腫、前立腺がん、膵臓がん、黒色腫、頭頚部扁平上皮細胞癌又は胃がんを治療又は予防するために用いられる、請求項25に記載の使用。
【請求項27】
治療有効量の請求項1から13のいずれか一項に記載のヒト化抗体、請求項14から16のいずれか一項に記載の核酸分子、請求項17若しくは18に記載の発現ベクター、請求項19から23のいずれか一項に記載の組み換え細胞、又は請求項24に記載の医薬組成物を被験体に投与する工程を含む、被験体におけるNGFの異常発現、TrkAの異常発現、又はTrkAの異常活性により引き起こされる疾患を治療又は予防する方法。
【請求項28】
前記NGFの異常発現、TrkAの異常発現、又はTrkAの異常活性により引き起こされる疾患が、神経障害性疼痛、炎症性疼痛、がん関連疼痛、骨折関連疼痛、外科手術関連疼痛、炎症性肺疾患、間質性膀胱炎、膀胱痛症候群、炎症性腸疾患、炎症性皮膚疾患、レイノー症候群、特発性肺線維症、瘢痕(肥大、ケロイド型及び他の形態)、硬化、心内膜心筋線維症、心房線維症、骨髄線維症、進行性塊状線維症(肺)、腎性全身性線維症、強皮症、全身性硬化、関節線維症、目線維症、非小細胞肺がん、甲状腺乳頭がん、多形性膠芽腫、結腸直腸がん、黒色腫、胆管がん若しくは肉腫、急性骨髄性白血病、大細胞神経内分泌がん、神経芽細胞腫、前立腺がん、膵臓がん、黒色腫、頭頚部扁平上皮細胞癌又は胃がんを含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
被験体におけるNGFの異常発現、TrkAの異常発現、又はTrkAの異常活性により引き起こされる疾患の治療又は予防での使用のための、請求項1から13のいずれか一項に記載のヒト化抗体、請求項14から16のいずれか一項に記載の核酸分子、請求項17若しくは18に記載の発現ベクター、請求項19から23のいずれか一項に記載の組み換え細胞、又は請求項24に記載の医薬組成物。
【請求項30】
疾患の治療又は予防での使用のための請求項1から13のいずれか一項に記載のヒト化抗体、請求項14から16のいずれか一項に記載の核酸分子、請求項17若しくは18に記載の発現ベクター、請求項19から23のいずれか一項に記載の組み換え細胞、又は請求項24に記載の医薬組成物であって、NGFの異常発現、TrkAの異常発現、又はTrkAの異常活性により引き起こされる疾患が、神経障害性疼痛、炎症性疼痛、がん関連疼痛、骨折関連疼痛、外科手術関連疼痛、炎症性肺疾患、間質性膀胱炎、膀胱痛症候群、炎症性腸疾患、炎症性皮膚疾患、レイノー症候群、特発性肺線維症、瘢痕(肥大、ケロイド型及び他の形態)、硬化、心内膜心筋線維症、心房線維症、骨髄線維症、進行性塊状線維症(肺)、腎性全身性線維症、強皮症、全身性硬化、関節線維症、目線維症、非小細胞肺がん、甲状腺乳頭がん、多形性膠芽腫、結腸直腸がん、黒色腫、胆管がん若しくは肉腫、急性骨髄性白血病、大細胞神経内分泌がん、神経芽細胞腫、前立腺がん、膵臓がん、黒色腫、頭頚部扁平上皮細胞癌又は胃がんを含む、ヒト化抗体、核酸分子、発現ベクター、組み換え細胞、又は医薬組成物。
【請求項31】
請求項1から13のいずれか一項に記載のヒト化抗体を含む、TrkAを検出するためのキット。
【請求項32】
TrkAを検出するか又はTrkA関連疾患を診断するためのキットの調製における、請求項1から13のいずれか一項に記載のヒト化抗体、請求項14から16のいずれか一項に記載の核酸分子、請求項17若しくは18に記載の発現ベクター、又は請求項19から23のいずれか一項に記載の組み換え細胞の使用。
【請求項33】
請求項1から13のいずれか一項に記載のヒト化抗体、請求項14から16のいずれか一項に記載の核酸分子、請求項17若しくは18に記載の発現ベクター、又は請求項19から23のいずれか一項に記載の組み換え細胞を含むキットを用いる、被験体においてTrkAを検出するか又はTrkA関連疾患を診断する方法。
【請求項34】
TrkAを検出するか又はTrkA関連疾患を診断するためのキットの調製での使用のための、請求項1から13のいずれか一項に記載のヒト化抗体、請求項14から16のいずれか一項に記載の核酸分子、請求項17若しくは18に記載の発現ベクター、又は請求項19から23のいずれか一項に記載の組み換え細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その全体で参照により本明細書中に組み入れられる、2020年11月20日に中国国家知識産権局に出願された中国特許出願第202011307482.7号の優先権及び利益を主張する。
【0002】
本発明は、バイオテクノロジーの分野に関する。具体的には、本発明は、ヒト化抗TrkA抗体及びその使用に関する。より具体的には、本発明は、TrkAを特異的に認識することができる、ヒト化抗体又はその抗原結合性断片、核酸分子、発現ベクター、組み換え細胞、医薬組成物、薬学的使用及びTrkAを検出するためのキットに関する。
【背景技術】
【0003】
現在、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)等の非オピオイド鎮痛剤が、軽度から中等度疼痛に対して臨床的に主に使用され;オピオイド鎮痛剤が中等度から重度疼痛に対して主に使用される。しかしながら、NSAIDは、「天井効果」を有し、オピオイドは、非腫瘍性慢性疼痛のうちの30%未満しか効果的に軽減することができず、且つがん性疼痛を有する患者のうちの20%はオピオイド抵抗性を有する。加えて、NSAIDは、特に長期投薬中に、胃腸及び心臓血管安全性の隠れた危険性を有する。オピオイド鎮痛剤に関して、数年間の薬物改善実験が、その依存及び多数の他の副作用を効果的に低減することに失敗してきており、患者は、新たなより安全且つより効果的な薬物を期待している。
【0004】
神経成長因子(NGF)は、疼痛の病態生理学的プロセスに関与する。この分子は、高親和性チロシンキナーゼ(tyrosine-nase)(TrkA)受容体に結合することにより、主にNGF/TrKAシグナル伝達経路を活性化し、これが炎症性メディエーターの放出、イオンチャネルの開口及び神経線維の成長の促進に影響を及ぼし、それによって、疼痛の発生、伝導及び増感プロセスに関与する。NGF-TrkAシグナル伝達経路を遮断することにより、疼痛及び痛覚過敏を効果的に低減させることができ、且つNGF-TrkAシグナル伝達経路は、新規鎮痛剤の開発に対する効果的な標的であることが、研究により示されている。しかしながら、NGFは、様々な望ましくないアゴニスト特性を有し得る。TrkAモノクローナル抗体は、TrkA受容体を選択的に標的化し且つこれに結合し、NGFによるTrkAシグナル伝達経路の活性化を遮断し、疼痛シグナルの伝達を効果的に阻害できるのみならず、抗NGF抗体を用いることによるNGFの過剰な中和により引き起こされる骨関節壊死等の予測不可能な副作用を回避することもできる。したがって、NGF-TrkAを標的とするTrkA標的化鎮痛薬は、より良い治療オプションを代表し得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ヒトにおける動物由来モノクローナル抗体の治療的及び診断的応用は、特に、反復投与を必要とする治療レジメンに対して、基本的禁忌を有する。具体的には、マウスモノクローナル抗体は、比較的短い半減期を有し、且つ補体依存的細胞傷害性及び抗体依存的細胞媒介細胞傷害性等、ヒトにおいて用いる場合に、免疫グロブリンの一部の基本的な機能的特性を欠損する。加えて、非ヒトモノクローナル抗体は、患者に注入される場合、免疫原性アミノ酸配列を含む。いわゆるキメラ抗体(ヒト定常領域に連結された可変マウス領域)が幾分か肯定的な結果を生じてきたが、未だ免疫原性の問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本出願は、以下の問題点及び事実の本発明者等による発見に基づく:
【0007】
NGF-TrkAシグナル伝達経路は、新規鎮痛剤の開発に対する有効な標的である。TrkAモノクローナル抗体は、TrkA受容体を選択的に標的化し且つこれに結合する場合、NGFによるTrkAシグナル伝達経路の活性化を遮断し、疼痛シグナルの伝達を効果的に阻害できるのみならず、抗NGF抗体を用いることによるNGFの過剰な中和により引き起こされる骨関節壊死等の予測不可能な副作用を回避することもできる。しかしながら、TrkA分子は受容体膜タンパク質であるので、抗TrkAモノクローナル抗体の遮断に関してスクリーニングすることは、より困難である。加えて、遮断性TrkA受容体抗体を設計することは、抗体媒介免疫応答に起因する安全性のリスクを有する。したがって、TrkAに対するモノクローナル抗体を設計及び開発することは困難である。
【0008】
本出願の本発明者等は、長期作用性鎮痛作用を有する新規タイプの抗TrkAモノクローナル抗体を成功裏にスクリーニングしただけでなく、より重要なことに、本発明者等は、ヒト化モノクローナル抗体へと、スクリーニングにより見出されたマウス抗TrkAモノクローナル抗体をヒト化した。具体的には、ハイブリドーマ技術により、スクリーニングされたマウス抗TrkAモノクローナル抗体のFR領域及び定常領域を、ヒトのものに置き換え、マウス抗TrkAモノクローナル抗体の可変領域のCDRは保持され、TrkAに対する一連のヒト化モノクローナル抗体が得られた。本発明者等は、本出願において得られたヒト化抗体候補が、ヒト-マウスキメラ抗TrkAモノクローナル抗体23E12と基本的に同じin vivo及びin vitro活性を有し、TrkA受容体を特異的に標的化し且つこれに結合し、NGFとTrkAとの結合を遮断し、疼痛を効果的に阻害できたのみならず、ヒト-マウスキメラ抗TrkAモノクローナル抗体よりも低い免疫原性及び良好な薬物動態パラメータをも有したことを見出した。
【0009】
とりわけ、ヒト-マウスキメラ抗TrkAモノクローナル抗体23E12は、配列番号1に示されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域VH0及び配列番号9に示されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域VL0を有した。
【0010】
本発明の第1の態様では、本発明は、TrkAを特異的に認識することが可能なヒト化抗体又はその抗原結合性断片を提供する。本発明の実施形態に従えば、抗体又はその抗原結合性断片は、配列番号41に示されるVH-CDR1、配列番号42又は配列番号43に示されるVH-CDR2、及び配列番号44に示されるVH-CDR3を有する重鎖可変領域;並びに
配列番号45に示されるVL-CDR1、配列番号46又は配列番号47に示されるVL-CDR2、及び配列番号48に示されるVL-CDR3を有する軽鎖可変領域
を含む。
GYAFTNYWLG(配列番号41)。
DFYPRTGNTF(配列番号42)。
GFYPRTGNTF(配列番号43)。
ARAGTGFDY(配列番号44)。
ENVGGYVS(配列番号45)。
GASSRHT(配列番号46)。
GASSRAT(配列番号47)。
NYIYPFT(配列番号48)。
【0011】
本発明の実施形態に従えば、抗体又はその抗原結合性断片は、配列番号41に示されるVH-CDR1、配列番号42に示されるVH-CDR2及び配列番号44に示されるVH-CDR3を有する重鎖可変領域;並びに
配列番号45に示されるVL-CDR1、配列番号46に示されるVL-CDR2及び配列番号48に示されるVL-CDR3を有する軽鎖可変領域
を含む。
【0012】
本発明の実施形態に従えば、抗体又はその抗原結合性断片は、配列番号41に示されるVH-CDR1、配列番号43に示されるVH-CDR2及び配列番号44に示されるVH-CDR3を有する重鎖可変領域;並びに
配列番号45に示されるVL-CDR1、配列番号46に示されるVL-CDR2及び配列番号48に示されるVL-CDR3を有する軽鎖可変領域
を含む。
【0013】
本発明の実施形態に従えば、抗体又はその抗原結合性断片は、配列番号41に示されるVH-CDR1、配列番号42に示されるVH-CDR2及び配列番号44に示されるVH-CDR3を有する重鎖可変領域;並びに
配列番号45に示されるVL-CDR1、配列番号47に示されるVL-CDR2及び配列番号48に示されるVL-CDR3を有する軽鎖可変領域
を含む。
【0014】
本発明の実施形態に従えば、抗体又はその抗原結合性断片は、配列番号41に示されるVH-CDR1、配列番号43に示されるVH-CDR2、及び配列番号44に示されるVH-CDR3を有する重鎖可変領域;並びに
配列番号45に示されるVL-CDR1、配列番号47に示されるVL-CDR2及び配列番号48に示されるVL-CDR3を有する軽鎖可変領域
を含む。
【0015】
本発明の実施形態に従えば、抗体又はその抗原結合性断片は、配列番号2~8のうちのいずれか1つに示されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、及び配列番号10~13のうちのいずれか1つに示されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む。本出願では、可変領域は、マウスCDR及びヒトフレームワーク領域を含む。
【0016】
本出願では、配列番号2~8は、順に、VH1~VH7と称される。配列番号10~13は、順に、VL1~VL4と称される。
【0017】
【0018】
【0019】
とりわけ、下線部は、それぞれ、重鎖可変領域のCDR配列及び軽鎖可変領域のCDR配列である。
【0020】
本発明の実施形態に従えば、抗体又はその抗原結合性断片は、
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域及び配列番号10に示されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域;
(b)配列番号4に示されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域及び配列番号10に示されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域;又は
(c)配列番号4に示されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域及び配列番号11に示されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域
から選択される重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む。
【0021】
本発明の実施形態に従えば、抗体又はその抗原結合性断片は、TrkAの細胞外領域を特異的に認識する。
【0022】
本発明の実施形態に従えば、抗体は、重鎖フレームワーク領域配列及び軽鎖フレームワーク領域配列のうちの少なくとも一方を含み、且つ重鎖フレームワーク領域配列及び軽鎖フレームワーク領域配列の両方が、ヒトIgG抗体又はそれらの突然変異体に由来する。更に、抗体の免疫原性は、効果的に低減させることができる。
【0023】
本発明の実施形態に従えば、抗体の軽鎖定常領域はヒトκ軽鎖定常領域に由来し;重鎖定常領域はヒトIgG4重鎖定常領域に由来する。
【0024】
本発明の実施形態に従えば、抗体のFc領域は、ヒトIgG4野生型Fcと比較して、S10P、F16A、L17A、R191K突然変異及び229K欠失突然変異を有する。このとき、上述のアミノ酸位置の配置は、ヒトIgG4野生型Fc配列の配列番号16に示されるアミノ酸配列に基づく。例えば、S10Pとは、配列番号16に示されるアミノ酸配列の10番目のSがPに突然変異されている等である。本発明者等は、抗体のFc領域が上記の突然変異及び欠失を有した後、抗体の安全性及び安定性を顕著に改善することができ、且つ体内での抗体の半減期もまた顕著に延長されたことを見出した。
【0025】
【0026】
本発明の実施形態に従えば、抗体の定常領域の全長配列は、配列番号14又は15に示される通りである。
【0027】
【0028】
このとき、配列番号14に示される抗体の定常領域の全長配列は、IgG4軽鎖定常領域である。配列番号15に示される抗体の定常領域の全長配列は、IgG4重鎖定常領域及びFc領域を含み、このとき、IgG4重鎖定常領域配列は、
【0029】
【0030】
であり、Fc領域配列は、
【0031】
【0032】
である。
【0033】
本発明の実施形態に従えば、抗体は、配列番号17~23のうちのいずれか1つに示されるアミノ酸配列を有する重鎖及び配列番号24~27のうちのいずれか1つに示されるアミノ酸配列を有する軽鎖を含む。本出願では、配列番号17~23は、順に、H1~H7と称される。配列番号24~27は、順に、L1~L4と称される。加えて、ヒト-マウスキメラ抗TrkAモノクローナル抗体23E12は、配列番号28に示されるアミノ酸配列を有する重鎖H0及び配列番号29に示されるアミノ酸配列を有する軽鎖L0を有する。
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
配列番号49に示される抗体の定常領域の全長配列は、IgG1重鎖定常領域及びFc領域を含み、このとき、IgG1重鎖定常領域配列は、
【0038】
【0039】
であり、Fc領域配列は、
【0040】
【0041】
である。
【0042】
本発明の実施形態に従えば、抗体は、
(a)配列番号17に示されるアミノ酸配列を有する重鎖及び配列番号24に示されるアミノ酸配列を有する軽鎖;
(b)配列番号19に示されるアミノ酸配列を有する重鎖及び配列番号24に示されるアミノ酸配列を有する軽鎖;又は
(c)配列番号19に示されるアミノ酸配列を有する重鎖及び配列番号25に示されるアミノ酸配列を有する軽鎖
から選択される群より選択される重鎖及び軽鎖を含む。
【0043】
本出願では、IGHG4重鎖アイソタイプ及びκアイソタイプ軽鎖を有する上述のH1及びL1から構成されるヒト化モノクローナル抗体が、H1L1-IgG4と称され、IGHG4重鎖アイソタイプ及びκアイソタイプ軽鎖を有する上述のH3及びL1から構成される抗体が、H3L1-IgG4と称され、且つIGHG4重鎖アイソタイプ及びκアイソタイプ軽鎖を有する上述のH3及びL2から構成される抗体が、H3L2-IgG4と称され、IGHG1重鎖アイソタイプ及びκアイソタイプ軽鎖を有する上述のH1及びL1から構成されるヒト化モノクローナル抗体が、H1L1-IgG1と称される等である。
【0044】
本発明の実施形態に従えば、抗体は、単鎖抗体、マルチマー抗体、又はCDR移植抗体である。
【0045】
本発明の実施形態に従えば、単鎖抗体は、配列番号2~8のうちのいずれか1つに示されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域及び配列番号10~13のうちのいずれか1つに示されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含み、このとき、重鎖可変領域のC末端が、連結ペプチドリンカーを介して軽鎖可変領域のN末端に連結されているか、又は軽鎖可変領域のC末端が、連結ペプチドリンカーを介して重鎖可変領域のN末端に連結されている。本出願中に記載される単鎖抗体の「連結ペプチドリンカー」は、抗体の重鎖可変領域と軽鎖可変領域とを連結するために用いられる連結ペプチドであることを注記すべきである。連結ペプチドリンカーは、単鎖抗体の調製のための一般的に用いられる連結ペプチドリンカーであり得るか、又は科学の研究者により改変される連結ペプチドリンカーであり得る。一部の実施形態では、連結ペプチドは、Gリッチペプチドであり得、例えば、GGGGSGGGGSGGGGS等の、(G)3-S(すなわち、「GGGS」)、(G)4-S(すなわち、「GGGGS」)及び(G)5-S(すなわち、「GGGGGS」)から選択することができる。
【0046】
本発明の実施形態に従えば、抗原結合性断片は、Fab、Fab'、F(ab)2、F(ab')2、Fv、scFv-Fc融合タンパク質、scFv-Fv融合タンパク質、及び最小認識単位のうちの少なくとも1種を含む。
【0047】
本発明の第2の態様では、本発明は、核酸分子を提供する。本発明の実施形態に従えば、核酸分子は、上述の抗体又はその抗原結合性断片をコードする。本発明の実施形態に従う核酸分子によりコードされる抗体又は抗原結合性断片は、TrkAを特異的に標的化し且つこれに結合することができ、且つNGFとTrkAとの結合を遮断することができる。
【0048】
本発明の実施形態に従えば、上述の核酸分子は、以下の追加的な技術的特徴のうちの少なくとも1種を更に含むことができる:
【0049】
本発明の実施形態に従えば、核酸分子はDNAである。
【0050】
本発明の実施形態に従えば、核酸分子は、配列番号30~36のうちのいずれか1つに示されるヌクレオチド配列を含むか、又は配列番号37~40のうちのいずれか1つに示されるヌクレオチド配列を含む。
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
配列番号30~36に示されるヌクレオチド配列は、重鎖H1~H7をそれぞれコードし、配列番号37~40に示されるヌクレオチド配列は、軽鎖L1~L4をそれぞれコードする。下線部は、重鎖可変領域VH1~VH7、及び軽鎖可変領域VL1~VL4をそれぞれコードする。
【0060】
本発明の第3の態様では、本発明は、発現ベクターを提供する。本発明の実施形態に従えば、発現ベクターは、上述の核酸分子を担持する。本発明の実施形態に従う発現ベクターを好適なレシピエント細胞へと導入した後、調節系の媒介により、TrkAを特異的に認識するヒト化抗体又はその抗原結合性断片の発現を効果的に実現することができ、それにより、ヒト化抗体又は抗原結合性断片の大規模in vitro獲得が実現される。
【0061】
本発明の実施形態に従えば、上述の発現ベクターは、以下の追加的な技術的特徴のうちの少なくとも1種を更に含むことができる:
【0062】
本発明の実施形態に従えば、発現ベクターは真核生物発現ベクターである。更に、TrkAを特異的に認識する上述のヒト化抗体又はその抗原結合性断片は、CHO細胞等の真核細胞で発現させることができる。
【0063】
本発明の第4の態様では、本発明は、組み換え細胞を提供する。本発明の実施形態に従えば、組み換え細胞は、上述の核酸分子を担持するか、又は上述のヒト化抗体若しくはその抗原結合性断片を発現する。本発明の実施形態に従う組み換え細胞は、TrkAを特異的に認識する上述のヒト化抗体又はその抗原結合性断片のin vitro発現及び大規模獲得のために用いることができる。
【0064】
本発明の実施形態に従えば、上述の組み換え細胞は、以下の追加的な技術的特徴のうちの少なくとも1種を更に含むことができる:
【0065】
本発明の実施形態に従えば、組み換え細胞は、宿主細胞へと上述の発現ベクターを導入することにより得られる。
【0066】
本発明の実施形態に従えば、発現ベクターは、電気的形質導入により宿主細胞へと導入される。
【0067】
本発明の実施形態に従えば、組み換え細胞は真核細胞である。
【0068】
本発明の実施形態に従えば、組み換え細胞は哺乳動物細胞である。
【0069】
本発明の第5の態様では、本発明は、医薬組成物を提供する。本発明の実施形態に従えば、医薬組成物は、上述の抗体、上述の核酸分子、上述の発現ベクター又は上述の組み換え細胞を含む。本発明の実施形態に従う医薬組成物中に含まれるヒト化抗体又は発現されるヒト化抗体は、ヒト-マウスキメラ抗TrkAモノクローナル抗体23E12と同じin vivo及びin vitro活性を有する。ヒト化抗体は、TrkA受容体を特異的に標的化し且つこれに結合し、NGFとTrkAとの結合を遮断し、基本的に抗体依存的細胞媒介細胞傷害性(ADCC)の特徴を伴わずに、疼痛を効果的に阻害することができるのみならず、ヒト-マウスキメラ抗TrkAモノクローナル抗体23E12よりも低い免疫原性及び良好な薬物動態パラメータをも有する。
【0070】
本発明の第6の態様では、本発明は、疼痛、がん、炎症又は炎症性疾患、神経変性疾患、シェーグレン症候群、子宮内膜症、糖尿病性末梢神経障害、前立腺炎、骨盤痛症候群、及び骨再形成の不均衡調節に関連する疾患、並びに結合組織増殖因子の異常なシグナル伝導により引き起こされる疾患の治療又は予防のための医薬の製造における、上述の抗体、上述の核酸分子、上述の発現ベクター、上述の組み換え細胞、又は上述の医薬組成物の使用を提供する。
【0071】
本発明の実施形態に従えば、上述の使用は、以下の追加的な技術的特徴のうちの少なくとも1種を更に含むことができる:
【0072】
本発明の実施形態に従えば、医薬は、神経障害性疼痛、炎症性疼痛、がん関連疼痛、骨折関連疼痛、外科手術関連疼痛、炎症性肺疾患、間質性膀胱炎、膀胱痛症候群、炎症性腸疾患、炎症性皮膚疾患、レイノー症候群、特発性肺線維症、瘢痕(肥大、ケロイド型及び他の形態)、硬化、心内膜心筋線維症、心房線維症、骨髄線維症、進行性塊状線維症(肺)、腎性全身性線維症、強皮症、全身性硬化、関節線維症、目線維症、非小細胞肺がん、甲状腺乳頭がん、多形性膠芽腫、結腸直腸がん、黒色腫、胆管がん若しくは肉腫、急性骨髄性白血病、大細胞神経内分泌がん、神経芽細胞腫、前立腺がん、膵臓がん、黒色腫、頭頚部扁平上皮細胞癌又は胃がんを治療又は予防するために用いられる。
【0073】
本発明の第6の態様では、本発明は、治療有効量の上述の抗体、上述の核酸分子、上述の発現ベクター、上述の組み換え細胞、又は上述の医薬組成物を被験体に投与する工程を含む、被験体におけるNGFの異常発現、TrkAの異常発現、又はTrkAの異常活性により引き起こされる疾患を治療又は予防する方法を提供する。
【0074】
本発明の実施形態に従えば、NGFの異常発現、TrkAの異常発現、又はTrkAの異常活性により引き起こされる疾患としては、神経障害性疼痛、炎症性疼痛、がん関連疼痛、骨折関連疼痛、外科手術関連疼痛、炎症性肺疾患、間質性膀胱炎、膀胱痛症候群、炎症性腸疾患、炎症性皮膚疾患、レイノー症候群、特発性肺線維症、瘢痕(肥大、ケロイド型及び他の形態)、硬化、心内膜心筋線維症、心房線維症、骨髄線維症、進行性塊状線維症(肺)、腎性全身性線維症、強皮症、全身性硬化、関節線維症、目線維症、非小細胞肺がん、甲状腺乳頭がん、多形性膠芽腫、結腸直腸がん、黒色腫、胆管がん若しくは肉腫、急性骨髄性白血病、大細胞神経内分泌がん、神経芽細胞腫、前立腺がん、膵臓がん、黒色腫、頭頚部扁平上皮細胞癌又は胃がんが挙げられる。
【0075】
本発明の第6の態様では、本発明は、被験体におけるNGFの異常発現、TrkAの異常発現、又はTrkAの異常活性により引き起こされる疾患の治療又は予防での使用のための、上述の抗体、上述の核酸分子、上述の発現ベクター、上述の組み換え細胞、又は上述の医薬組成物を提供する。
【0076】
本発明の実施形態に従えば、本発明は、被験体におけるNGFの異常発現、TrkAの異常発現、又はTrkAの異常活性により引き起こされる疾患の治療又は予防での使用のための、上述の抗体、上述の核酸分子、上述の発現ベクター、上述の組み換え細胞、又は上述の医薬組成物を提供し、このとき、NGFの異常発現、TrkAの異常発現、又はTrkAの異常活性により引き起こされる疾患としては、神経障害性疼痛、炎症性疼痛、がん関連疼痛、骨折関連疼痛、外科手術関連疼痛、炎症性肺疾患、間質性膀胱炎、膀胱痛症候群、炎症性腸疾患、炎症性皮膚疾患、レイノー症候群、特発性肺線維症、瘢痕(肥大、ケロイド型及び他の形態)、硬化、心内膜心筋線維症、心房線維症、骨髄線維症、進行性塊状線維症(肺)、腎性全身性線維症、強皮症、全身性硬化、関節線維症、目線維症、非小細胞肺がん、甲状腺乳頭がん、多形性膠芽腫、結腸直腸がん、黒色腫、胆管がん若しくは肉腫、急性骨髄性白血病、大細胞神経内分泌がん、神経芽細胞腫、前立腺がん、膵臓がん、黒色腫、頭頚部扁平上皮細胞癌又は胃がんが挙げられる。
【0077】
本発明の第7の態様では、本発明は、TrkAを検出するためのキットを提供する。本発明の実施形態に従えば、キットは、上述の抗体のうちのいずれか1種を含む。上述のTrkA抗体は、TrkAを特異的に標的化し且つこれに結合することができる。本発明の実施形態に従うキットは、TrkAの特異的検出を実現することができる。例えば、抗体が蛍光基と結合している場合、蛍光検出デバイスを用いて、TrkAの局在化又はリアルタイム検出を実現することができる。
【0078】
本発明の第8の態様では、本発明は、TrkAを検出するか又はTrkA関連疾患を診断するためのキットの調製における、上述の抗体、上述の核酸分子、上述の発現ベクター又は上述の組み換え細胞の使用を提供する。
【0079】
本発明の第8の態様では、本発明は、上述の抗体、上述の核酸分子、上述の発現ベクター又は上述の組み換え細胞を含むキットを用いる、被験体においてTrkAを検出するか又はTrkA関連疾患を診断する方法を提供する。
【0080】
本発明の第8の態様では、本発明は、TrkAを検出するか又はTrkA関連疾患を診断するためのキットの調製における使用のための、上述の抗体、上述の核酸分子、上述の発現ベクター又は上述の組み換え細胞を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【
図1】本発明の実施形態に従う、SEC-HPLC純度検出方法により評価されたヒト化抗体の単量体の純度の結果を示す図である。
【
図2】本発明の実施形態に従う、フローサイトメトリーにより検出されたヒト化抗体とヒトTrKAとの結合能の実験結果を示す図である。
【
図3】本発明の実施形態に従う、フローサイトメトリーにより検出されたヒト化抗体とマウスTrKAとの結合能の実験結果を示す図である。
【
図4】本発明の実施形態に従う、フローサイトメトリーにより検出されたヒトNGFとヒトTrKAとの結合性に対するヒト化抗体の阻害作用の結果を示す図である。
【
図5】本発明の実施形態に従う、フローサイトメトリーにより検出されたマウスNGFとマウスTrKAとの結合性に対するヒト化抗体の阻害作用の結果を示す図である。
【
図6A】本発明の実施形態に従う、フローサイトメトリーにより検出された標的ヒトTrKAに対するヒト化抗体の結合性の特異性の結果を示す図である。
【
図6B】本発明の実施形態に従う、フローサイトメトリーにより検出された標的ヒトTrKAに対するヒト化抗体の結合性の特異性の結果を示す図である。
【
図6C】本発明の実施形態に従う、フローサイトメトリーにより検出された標的ヒトTrKAに対するヒト化抗体の結合性の特異性の結果を示す図である。
【
図6D】本発明の実施形態に従う、フローサイトメトリーにより検出された標的ヒトTrKAに対するヒト化抗体の結合性の特異性の結果を示す図である。
【
図7】本発明の実施形態に従う、ELISA法により評価されたマウスでのヒト化抗体のADAの結果を示す図である。
【
図8】本発明の実施形態に従う、ELISA法により評価されたマウスでのヒト化抗体の薬物動態の結果を示す図である。
【
図9】本発明の実施形態に従う、ルシフェラーゼレポーター遺伝子システムにより検出されたヒト化抗体のADCC活性の結果を示す図である。
【
図10】本発明の実施形態に従う、完全フロイントアジュバント誘導型炎症性疼痛モデルにより評価されたヒト化抗体のin vivo鎮痛活性の結果を示す図である。
【
図11】本発明の実施形態に従う、NIH-3T3-TrkA細胞モデルにより検出されたヒト化抗体のCDC活性の結果を示す図である。
【
図12】本発明の実施形態に従う、NIH-3T3-TrkA細胞モデルにより評価されたヒト化抗体のin vitro活性の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0082】
本発明の実施形態が、以下に詳細に記載される。実施形態の例は、添付の図面中に示され、図面では同じか又は類似の参照数字は、全体を通じて、同じか又は類似の要素、或いは、同じか又は類似の機能を有する要素を表す。図面を参照して以下に記載される実施形態は例示的であり、本発明を説明することが意図されるが、本発明を限定すると解釈されるべきではない。
【0083】
本発明を記載する過程において、本明細書中で用いる用語が説明される。これらの説明は、スキームを理解する便宜のみのためのものであり、本発明の保護スキームを限定すると見なされるべきではない。
【0084】
抗体
本明細書中で用いる場合、用語「抗体」は、特異的抗原に対して結合することが可能な免疫グロブリン分子である。抗体は、より軽い分子量を有する2本の軽鎖及びより重い分子量を有する2本の重鎖からなる。重鎖(H)及び軽鎖(L)は、ジスルフィド結合により連結されて、四ペプチド鎖分子を形成する。とりわけ、ペプチド鎖のアミノ末端(N末端)のアミノ酸配列は大幅に変化し、可変領域(V領域)と称される。カルボキシル末端(C末端)はわずかな変化を伴って比較的安定であり、定常領域(C領域)と称される。抗体の定常領域は、宿主組織又は因子に対する免疫グロブリンの結合性を媒介することができる。宿主組織又は因子としては、免疫系の様々な細胞(例えば、エフェクター細胞)及び古典的補体系の第1成分(C1q)が挙げられる。L鎖及びH鎖のV領域は、それぞれ、VL及びVHと称される。
【0085】
可変領域中では、特定の領域のアミノ酸組成及び配置順は、より高い程度の変動を有し、超可変領域(Hypervariable region、HVR)と称される。超可変領域は、抗原と抗体とが結合する部分であり、したがって、相補性決定領域(CDR)とも称される。CDRは、いわゆるフレームワーク領域(FR)のより多く保存された領域中に散在する。各VH及びVLは、3つのCDR及び4つのFR領域から構成することができ、これらは、アミノ末端からカルボキシ末端に向かって以下の順序で配列することができる:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、及びFR4。
【0086】
本発明は、免疫化を通して高特異性及び高親和性を有する抗TrkA Fab(抗原結合性断片)抗体断片を得るために、TrkAの細胞外セグメントを利用する。抗体断片は、TrkA抗原に特異的に結合することができ、疼痛又は腫瘍等の疾患の治療を標的化することができる。
【0087】
一部の実施形態では、本発明は、ヒト化抗体又は抗原結合性断片を提供し、このとき、ヒト化抗体又はその抗原結合性断片は、配列番号2~8のうちのいずれか1つに示されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、及び配列番号10~13のうちのいずれか1つに示されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む。本発明者等は、抗体配列アライメントデータベース(NCBI、IMGT)を通して、重鎖可変領域配列のCDR領域及び軽鎖可変領域配列のCDR領域を得ることができる。他の実施形態では、抗体又は抗原結合性断片の重鎖可変領域配列は、配列番号2~8に示されるアミノ酸配列と比較して、保存的アミノ酸置換を含む。一部の実施形態では、抗体又は抗原結合性断片の軽鎖可変領域配列は、配列番号10~13に示されるアミノ酸配列と比較して、保存的アミノ酸置換を含む。「抗原結合性断片」とは、抗原(ROR2)に特異的に結合する能力を保持する抗体断片を意味する。抗原結合性断片の例としては、限定するものではないが、Fv断片、ジスルフィド結合安定化Fv断片(dsFv)、Fab断片、(Fab)2断片、scFv-Fc融合タンパク質、scFv-Fv融合タンパク質、Fv-Fc融合タンパク質、抗原結合性断片から形成される多重特異的抗体、単一ドメイン抗体、ドメイン抗体、二価ドメイン抗体、又は最小認識単位のうちの少なくとも1種が挙げられる。「保存的アミノ酸置換」とは、別のアミノ酸に対して生物学的、化学的又は構造的に類似である残基を用いるアミノ酸の置換を意味する。当然、これらの保存的アミノ酸置換は、抗体又は抗原結合性断片の生物学的機能を変化させないであろう。一部の具体的様式では、これらの保存的アミノ酸置換は、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域中のCDR領域以外のアミノ酸に対して起こり得る。生物学的類似性とは、置換が、TrkA抗体又はTrkA抗原に伴う生物学的活性を破壊しないことを意味する。構造的類似性とは、アミノ酸が、アラニン、グリシン、若しくはセリン等、類似の長さの側鎖、又は類似のサイズの側鎖を有することを意味する。化学的類似性とは、アミノ酸が、同じ電荷を有するか、又は両方とも親水性若しくは疎水性であることを意味する。例えば、疎水性残基イソロイシン、バリン、ロイシン又はメチオニンが、互いに置換される。或いは、極性アミノ酸を互いに置換することができ、
例えば、リジンがアルギニンで置換され、アスパラギン酸がグルタミン酸で置換され、アスパラギンがグルタミンで置換され、トレオニンがセリンで置換される等である。
【0088】
用語「マウス抗体」とは、免疫化マウス由来のB細胞が骨髄腫細胞と融合されて、続いて、不死的に増殖し且つ抗体を分泌することができるマウスハイブリッド融合細胞がスクリーニングされ、且つ続いて、抗体がスクリーニングされ、調製及び精製されることを通常は意味する。
【0089】
用語「キメラ抗体」とは、非ヒト遺伝物質をヒト遺伝物質と組み合わせることにより得られる抗体を意味する。本明細書中の「キメラ抗体」又は「キメラ抗TrkA抗体」としては、可変領域配列が1つの生物種に由来し、且つ定常領域配列が別の生物種に由来する抗体が挙げられる。例えば、可変領域配列がマウス抗体に由来し、且つ定常領域配列がヒト抗体に由来する。
【0090】
用語「ヒト化抗体」とは、非ヒト生物種に由来するが、そのタンパク質配列が、ヒトの天然に存在する抗体に対するその類似性を増加させるために改変されている抗体を意味する。具体的には、ヒト化抗体とは、非ヒト生物種の免疫グロブリンに本質的に由来する抗原結合性部位を有する分子であって、分子の残余の免疫グロブリン構造が、ヒト免疫グロブリンの構造及び/又は配列に基づく分子を意味する。抗原結合性部位は、定常ドメインに融合した完全な可変ドメイン又は可変ドメイン中の適切なフレームワーク領域に移植された相補性決定領域(CDR)のみを含むことができる。抗原結合性部位は、野生型であるか、又は1箇所若しくは複数のアミノ酸置換により改変され得、例えば、ヒト免疫グロブリンに対してより類似するように改変が行われる。一部の形態のヒト化抗体は、全てのCDR配列を保持する(例えば、マウス抗体由来の全6個のCDRを含むヒト化マウス抗体)。他の形態は、元の抗体と比較して変化した1箇所又は複数のCDRを有する。
【0091】
一部の好ましい実施形態では、本発明は、ヒト化抗TrkA抗体を提供する。抗体は、配列番号17~23のうちのいずれか1つに示されるアミノ酸配列を有する重鎖及び配列番号24~27のうちのいずれか1つに示されるアミノ酸配列を有する軽鎖を有する。
【0092】
一部の好ましい実施形態では、本発明は、ヒト化抗TrkA単鎖抗体を提供する。単鎖抗体は、配列番号2~8のうちのいずれか1つに示されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域及び配列番号10~13のうちのいずれか1つに示されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含み、このとき、重鎖可変領域のC末端が、連結ペプチドリンカーを介して軽鎖可変領域のN末端に連結されているか、又は軽鎖可変領域のC末端が、連結ペプチドリンカーを介して重鎖可変領域のN末端に連結されている。
【0093】
核酸分子、発現ベクター、組み換え細胞
これらの抗体を調製する又は得るプロセスにおいて、これらの抗体を発現する核酸分子を、様々なベクターに連結し、続いて、様々な細胞中で発現させて、対応する抗体を得ることができる。
【0094】
この目的で、本発明はまた、上記の抗体又は抗原結合性断片をコードする単離された核酸分子を提供する。
【0095】
一部の実施形態では、単離された核酸分子は、配列番号30~36のうちのいずれか1つに示されるヌクレオチド配列を含むか又は配列番号37~40のうちのいずれか1つに示されるヌクレオチド配列を有する。
【0096】
一部の実施形態では、単離された核酸分子は、配列番号30~36に示されるヌクレオチド配列との少なくとも90%超の相同性を含み、好ましくは、95%超の相同性を有し、且つより好ましくは98%及び99%超の相同性を含む。少なくとも一部の実施形態では、単離されたポリヌクレオチドは、配列番号37~40に示されるヌクレオチド配列との少なくとも90%超の相同性を含み、好ましくは95%超の相同性を含み、且つより好ましくは98%及び99%超の相同性を含む。配列番号30~36又は配列番号37~40に示されるヌクレオチド配列との相同性を含むこれらの配列は、配列番号17~23又は配列番号24~27に対して類似のアミノ酸配列を発現することができ、それにより、TrkA抗原に特異的に結合して、抗体の標的化機能を達成することができる。
【0097】
一部の好ましい実施形態では、単離された核酸分子は、配列番号30~36に示される重鎖ヌクレオチド配列及び配列番号37~40に示される軽鎖ヌクレオチド配列を含む。これらのヌクレオチド配列は、生物種に対して最適化され、且つ哺乳動物細胞中でより容易に発現される。
【0098】
本発明はまた、上述の単離された核酸分子を含む発現ベクターも提供する。上述の単離されたポリヌクレオチドをベクターにライゲーションする場合、ポリヌクレオチドは、制御エレメントがポリヌクレオチドの翻訳及び発現を制御できる限り、ベクター上の制御エレメントに直接的又は間接的に連結することができる。当然、これらの制御エレメントは、ベクター自体から直接的に由来することができ、又は外因性、すなわち、ベクター自体に由来しないことができる。当然、ポリヌクレオチドは、制御エレメントに機能的に連結することができる。本明細書中の「機能的に連結された」とは、ベクターに対する外因性遺伝子の連結を意味し、それにより、転写制御配列及び翻訳制御配列等のベクター中の制御エレメントが、外因性遺伝子の転写及び翻訳を調節するその期待される機能を発揮できる。当然、抗体の重鎖及び軽鎖をコードするために用いられるポリヌクレオチドは、独立して異なるベクターへと挿入することができ、且つ、通常は同じベクターへと挿入される。一般的に用いられるベクターは、例えば、プラスミド、ファージ等であり得る。例えば、プラスミド-Xプラスミドである。
【0099】
本発明はまた、発現ベクターを含む組み換え細胞も提供する。発現ベクターは、哺乳動物細胞へと導入されて、組み換え細胞を得るために構築され得、続いて、これらの組み換え細胞を、本発明により提供されるヒト化抗体又は抗原結合性断片を発現させるために用いることができる。組み換え細胞を培養することにより、対応する抗体を得ることができる。これらの使用可能な哺乳動物細胞は、例えば、CHO細胞等であり得る。
【0100】
医薬組成物、キット及び薬学的使用並びにキットの調製における使用
本発明はまた、上記の抗体又は抗原結合性断片及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物も提供する。
【0101】
本明細書中に提供される抗TrkAヒト化抗体は、被験体への投与に好適な医薬組成物に組み込むことができる。一般的に、これらの医薬組成物は、本明細書中に提供される抗TrkAヒト化抗体並びに薬学的に許容される担体を含む。「薬学的に許容される担体」としては、生理学的に適合性である、一切の溶媒、分散媒、コーティング剤、抗微生物剤及び抗真菌剤、等張化剤及び遅延吸収剤等が挙げられる。具体例は、1種又は複数の水、生理食塩液、リン酸緩衝生理食塩液、グルコース、グリセロール、エタノール等、及びそれらの組み合わせであり得る。多くの場合に、医薬組成物は、糖、多価アルコール(マンニトール、ソルビトール等)、又は塩化ナトリウム等の等張化剤を含む。当然、薬学的に許容される担体はまた、抗体の保存寿命及び有効性を延長するための、微量の補助的物質、例えば、湿潤化剤若しくは乳化剤、保存料又は緩衝剤も含むことができる。
【0102】
例えば、本発明の抗体は、非経口投与(例えば、静脈内、皮下、腹腔内、筋内)のために好適な医薬組成物へと組み込むことができる。これらの医薬組成物は、様々な形態で調製することができる。例は、限定するものではないが、液体溶液剤(例えば、注入溶液及び輸液溶液)、分散又は懸濁液剤、錠剤、丸剤、散剤、リポソーム剤、及び坐剤を含む、液体、半固体、及び固体用量形態である。典型的な医薬組成物は、注入溶液又は輸液溶液の形態である。抗体は、静脈内輸液若しくは注入又は筋内内若しくは皮下注入により投与することができる。
【0103】
当然、本明細書中の抗TrkAヒト化抗体は、必要な場合、キット又は他の診断試薬の一部分にすることもできる。本発明の実施形態に従えば、本発明はまた、上述のTrkA抗体を含むキットも提供する。本発明により提供されるキットを用いることができ、例えば、キットは、TrkA抗原と抗体との特異的結合特性を用いる検出を含む、免疫ブロッティング、免疫沈降等のために用いることができる。これらのキットは、以下のうちのいずれか1種又は複数を含むことができる:アンタゴニスト、抗TrkAヒト化抗体又は薬物参照材料;タンパク質精製カラム;免疫グロブリン親和性精製バッファー;細胞アッセイ希釈剤;説明書又は文献等。抗TrkAヒト化抗体は、様々な疾患又は薬物、毒素若しくは他のタンパク質のin vitro又はin vivoでの存在の検出等の、様々なタイプの診断検査のために用いることができる。例えば、抗TrkAヒト化抗体は、被験体の血清又は血液を検査することにより、関連疾患を検査するために用いることができる。そのような関連疾患としては、疼痛、がん、炎症又は炎症性疾患、神経変性疾患、シェーグレン症候群、子宮内膜症、糖尿病性末梢神経障害、前立腺炎、骨盤痛症候群、及び骨再形成の不均衡調節に関連する疾患、並びに結合組織増殖因子の異常なシグナル伝導により引き起こされる疾患等のTrkA関連疾患が挙げられる。当然、本明細書中に提供される抗体はまた、上記の疾患の放射免疫検出及び放射免疫療法のために用いることもできる。
【0104】
具体的には、上述の疼痛、炎症又は炎症性疾患、神経変性疾患、シェーグレン症候群、子宮内膜症、糖尿病性末梢神経障害、前立腺炎、骨盤痛症候群、骨再形成不均衡の調節に関連する疾患及び結合組織増殖因子の異常なシグナル伝達により引き起こされる疾患としては、神経障害性疼痛、炎症性疼痛、がん関連疼痛、骨折関連疼痛、外科手術関連疼痛、炎症性肺疾患、間質性膀胱炎、膀胱痛症候群、炎症性腸疾患、炎症性皮膚疾患、レイノー症候群、特発性肺線維症、瘢痕(肥大、ケロイド型及び他の形態)、硬化、心内膜心筋線維症、心房線維症、骨髄線維症、進行性塊状線維症(肺)、腎性全身性線維症、強皮症、全身性硬化、関節線維症、目線維症が挙げられる。
【0105】
これらのがん又は腫瘍は、いずれかの非調節細胞増殖であり得る。具体的には、それは、非小細胞肺がん、甲状腺乳頭がん、多形性膠芽腫、結腸直腸がん、黒色腫、胆管がん若しくは肉腫、急性骨髄性白血病、大細胞神経内分泌がん、前立腺がん、神経芽細胞腫、膵臓がん、黒色腫、頭頚部扁平上皮細胞癌又は胃がん等であり得る。
【0106】
上述の疾患を治療するために本発明により提供される抗TrkAヒト化抗体を用いる場合、本発明により提供される抗TrkAヒト化抗体を、被験体に与えることができる。この目的で、本発明は、それを必要とする被験体へと本発明により提供される抗体又はその抗原結合性断片を投与する工程を含む、上述の疾患を治療するための方法を提供する。
【0107】
(実施例1)
マウス抗TrkAモノクローナル抗体23E12の可変領域のヒト化設計
B細胞エピトープ分析ソフトウェアAbEpiMaxを用いることにより、マウス抗TrKAモノクローナル抗体23E12の可変領域に対してB細胞エピトープの免疫原性分析を行い、強力なB細胞エピトープを有する抗体FR領域の配列を見出した。
【0108】
続いて、元の配列との高い3D構造相同性を有し、且つより弱いB細胞エピトープを有するヒト抗体FRライブラリーの配列を用いて、強力なB細胞エピトープを有する抗体FR領域の配列を置き換えた。マウス抗TrKAモノクローナル抗体23E12の重鎖及び軽鎖可変領域並びに23E12の改変された重鎖及び軽鎖可変領域の配列を、Table 1に示した。
【0109】
【0110】
(実施例2)
ベクターの構築
一連のヒト化抗体発現ベクター(H1L1-IgG4、H3L1-IgG4、H3L2-IgG4)を分子クローニングにより構築し、ヒト化抗体を、CHO発現系において組み換え的に発現させた。一連のヒト化モノクローナル抗体軽鎖及び重鎖(H1L1-IgG4、H3L1-IgG4、H3L2-IgG4)をコードするヌクレオチド配列を、GenScript Biotechnology社に委託することにより、化学合成を介して得た。配列を二重消化した後、真核生物発現ベクターの同じ制限部位の間に挿入し、一連のヒト化モノクローナル抗体発現ベクター(H1L1-IgG4、H3L1-IgG4、H3L2-IgG4)を構築した。続いて、一連の確認された正しい発現ベクターを、Invitrogen社プラスミド抽出キットにより抽出し、制限酵素を用いて線形化し、精製及び回収し、続いて、-20℃で保存した。
【0111】
(実施例3)
一連のヒト化抗体をコードするベクターのトランスフェクション及び細胞における発現
CHO宿主細胞を蘇生し、且つCD CHO培地を用いて培養した後、細胞の密度が約8×105細胞/mLであった時点で、トランスフェクションのために細胞を回収した。トランスフェクションされた細胞は約1×107細胞であり、ベクターは約40μgであり、トランスフェクション方法はエレクトロポレーションによる(Bio-Rad社、Gene pulser Xcell)。電気的ショック後、細胞を、20mL CD CHO培地中で培養した。培養の2日目に、遠心分離により細胞を回収し、MSXを最終濃度50μMまで添加した20mL CD CHO培地中に再懸濁した。細胞の密度が約0.6×106細胞/mLであった時点で、得られた混合クローンを、CD CHO培地を用いて継代し、細胞の密度を約0.2×106細胞/mLにした。細胞の生存率が約90%であった時点で、細胞培養液を回収した。
【0112】
(実施例4)
細胞培養培地の回収及びヒト化抗体の精製
一連のヒト化モノクローナル抗体を、翻訳レベルで試験した。回収された細胞培養液を、プロテインAクロマトグラフィーカラムにより精製し、吸収ピークを質量分析のために収集した。質量分析は、一連のキメラ抗体が約150KDの分子量を有することを検出し、これは理論的分子量と合致し、二量体の形態であった。同時に、収集したサンプルを、それぞれ還元後及び非還元後に、10%SDS-PAGE電気泳動により検出した。還元SDS-PAGE電気泳動パターンは、それぞれ約25KD及び50KDの2つのバンドを示した。非還元SDS-PAGE電気泳動パターンは、150KD付近の単一バンドを示した。電気泳動パターンのバンドサイズは理論値と合致した。精製後、pH7.0の0.01M PBSバッファーを用いて、4℃で一晩、サンプルを透析した。
【0113】
(実施例5)
SEC HPLC純度検出方法によるヒト化抗体の単量体の純度の評価
ヒト化抗体(H1L1-IgG4、H3L1-IgG4、H3L2-IgG4)サンプル及びキメラ抗体(H0L0-IgG4)サンプルを遠心分離した。約80μgの上清を得て、検出のためにHPLCへと注入した。ヒト化抗体の単量体ピーク面積パーセンテージを、SEC-HPLCにより検出した。ピーク面積パーセンテージが高い程、単量体の純度が高い。結果を
図1に示した。
図1の結果は、ヒト化抗体H1L1-IgG4、H3L1-IgG4、及びH3L2-IgG4の単量体ピーク面積パーセンテージが、それぞれ、99.847%、99.738%、及び99.836%であり、キメラ抗体H0L0-IgG4の単量体ピーク面積パーセンテージが99.621%であったことを示した。ヒト化抗体H1L1-IgG4、H3L1-IgG4、H3L2-IgG4及びキメラ抗体H0L0-IgG4が高い単量体純度を有することが示された。
【0114】
(実施例6)
フローサイトメトリーによるヒト化抗体とヒトTrKAとの結合能の評価
HEK293T-ヒトTrkA細胞モデルを構築するために、レンチウイルス技術を用いた。ヒト化抗体(H1L1-IgG4、H3L1-IgG4、H3L2-IgG4)サンプル及びキメラ抗体(H0L0-IgG4)サンプルを、11種類の濃度勾配(20μg/mL、10μg/mL、5μg/mL、2.5μg/mL、1.25μg/mL、0.625μg/mL、0.313μg/mL、0.156μg/mL、0.078μg/mL、0.039μg/mL、0.019μg/mL)へとPBSバッファーを用いて希釈した。HEK293T-ヒトTrKA細胞の表面上でのヒトTrKA受容体に対する各濃度勾配のヒト化抗体の結合を検出するためにフローサイトメトリーを用い、ヒトTrKAに対する各ヒト化抗体の結合能を細胞レベルで評価した。結果を
図2に示した。
図2では、EC50(結合性濃度の半分)値がヒトTrKAに対する抗体の結合能を反映し;EC50値が小さい程、ヒトTrKAに対する抗体の結合能が強く、且つ抗体の親和性が高い。高親和性抗体のEC50値は1.5μg/mLよりも低いと一般的に考えられた。
図2の結果は、ヒト化抗体H1L1-IgG4、H3L1-IgG4、及びH3L2-IgG4のEC50値が、それぞれ0.1307μg/mL、0.1268μg/mL、0.1683μg/mLであり、キメラ抗体H0L0-IgG4のEC50値が0.08669μg/mLであったことを示した。ヒト化抗体H1L1-IgG4、H3L1-IgG4、H3L2-IgG4及びキメラ抗体H0L0-IgG4がヒトTrKAに対する強い結合能を有し;キメラ抗体H0L0-IgG4と比較して、ヒトTrKAに結合するヒト化抗体H1L1-IgG4、H3L1-IgG4、H3L2-IgG4の親和性が基本的に変化しないままであったことが示された。
【0115】
(実施例7)
フローサイトメトリーによるヒト化抗体とマウスTrKAとの結合能の評価
HEK293T-マウスTrkA細胞モデルを構築するために、レンチウイルス技術を用いた。ヒト化抗体(H1L1-IgG4、H3L1-IgG4、H3L2-IgG4)サンプル及びキメラ抗体(H0L0-IgG4)サンプルを、11種類の濃度勾配へとPBSバッファーを用いて希釈した(20μg/mL、10μg/mL、5μg/mL、2.5μg/mL、1.25μg/mL、0.625μg/mL、0.313μg/mL、0.156μg/mL、0.078μg/mL、0.039μg/mL、0.019μg/mL)。HEK293T-マウスTrKA細胞の表面上でのヒトTrKA受容体に対する各濃度勾配のヒト化抗体の結合を検出するためにフローサイトメトリーを用い、マウスTrKAに対する各ヒト化抗体の結合能を細胞レベルで評価した。結果を
図3に示した。
図3では、EC50(結合性濃度の半分)値がマウスTrKAに対する抗体の結合能を反映し;EC50値が小さい程、マウスTrKAに対する抗体の結合能が強く、且つ抗体の親和性が高い。高親和性抗体のEC50値は1.5μg/mLよりも低いと一般的に考えられた。
図3の結果は、ヒト化抗体H1L1-IgG4、H3L1-IgG4、及びH3L2-IgG4のEC50値が、それぞれ0.1341μg/mL、0.1110μg/mL、0.1254μg/mLであり、キメラ抗体H0L0-IgG4のEC50値が0.1048μg/mLであったことを示した。ヒト化抗体H1L1-IgG4、H3L1-IgG4、H3L2-IgG4及びキメラ抗体H0L0-IgG4がマウスTrKAに対する強い結合能を有し;キメラ抗体H0L0-IgG4と比較して、マウスTrKAに結合するヒト化抗体H1L1-IgG4、H3L1-IgG4、H3L2-IgG4の親和性が基本的に変化しないままであったことが示された。
【0116】
(実施例8)
フローサイトメトリーにより検出されたヒトNGFとヒトTrKAとの結合性に対するヒト化抗体の阻害作用
ヒトNGFをビオチン化し、ヒトNGFはHEK293T-ヒトTrkA細胞上でヒトTrkAタンパク質の細胞外領域に結合でき、且つ抗TrkAモノクローナル抗体もまた、HEK293T-ヒトTrkA細胞上でヒトTrkAタンパク質の細胞外領域に結合することができた。フローサイトメトリーによりヒト化抗体(H1L1-IgG4、H3L1-IgG4、H3L2-IgG4)及びキメラ抗体(H0L0-IgG4)の様々な濃度(20μg/mL、10μg/mL、5μg/mL、2.5μg/mL、1.25μg/mL、0.625μg/mL、0.313μg/mL、0.156μg/mL、0.078μg/mL、0.039μg/mL、0.019μg/mL)の作用下におけるHEK293T-ヒトTrkA細胞上でのヒトTrkAタンパク質の細胞外領域に対するヒトNGFの結合を検出するために、並びにヒトNGFとヒトTrKAとの結合性に対する各ヒト化抗体の阻害作用を研究するために、競合実験を設計した。実験結果を
図4に示した。
図4では、親%値が、HEK293T-ヒトTrkA細胞上でヒトTrkAタンパク質の細胞外領域に結合したヒトNGFシグナルを反映した。読み取り値が低い程、HEK293T-ヒトTrkA細胞上でヒトTrkAタンパク質の細胞外領域に結合したヒトNGFシグナルが弱く、且つヒトNGFとヒトTrKAとの結合性の阻害での抗体の作用が大きく;
図4に示される通り、各ヒト化抗体(H1L1-IgG4、H3L1-IgG4、H3L2-IgG4)及びキメラ抗体(H0L0-IgG4)の濃度が増加するにつれ、親%値が、ゼロに近づくまで徐々に減少し、すなわち、ヒトTrkAタンパク質の細胞外領域に結合したヒトNGFシグナルが、ヒトTrkAタンパク質の細胞外領域に結合するヒトNGFがなくなるまで徐々に減少し、ヒトTrkAに対するヒトNGFの結合性が完全に阻害された。ヒト化抗体(H1L1-IgG4、H3L1-IgG4、H3L2-IgG4)のIC50は、それぞれ0.7963μg/mL、0.7405μg/mL、0.6653μg/mLであり、キメラ抗体(H0L0-IgG4)のIC50は0.8810μg/mLであり;各ヒト化抗体(H1L1-IgG4、H3L1-IgG4、H3L2-IgG4)及びキメラ抗体(H0L0-IgG4)が、一定濃度範囲内において細胞レベルでヒトNGFとヒトTrkAとの結合性を用量依存的に阻害でき;キメラ抗体(H0L0-IgG4)と比較して、ヒトNGFとヒトTrkAとの結合性に対するヒト化抗体(H1L1-IgG4、H3L1-IgG4、H3L2-IgG4)の阻害作用が基本的に変化しないままであったことが見て取れた。
【0117】
(実施例9)
フローサイトメトリーにより検出されるマウスNGFとマウスTrKAとの結合性に対するヒト化抗体の阻害作用
マウスNGFをビオチン化し、マウスNGFはHEK293T-マウスTrkA細胞上でマウスTrkAタンパク質の細胞外領域に結合でき、且つ抗TrkAモノクローナル抗体もまた、HEK293T-マウスTrkA細胞上でマウスTrkAタンパク質の細胞外領域に結合することができた。フローサイトメトリーによりヒト化抗体(H1L1-IgG4、H3L1-IgG4、H3L2-IgG4)及びキメラ抗体(H0L0-IgG4)の様々な濃度(20μg/mL、10μg/mL、5μg/mL、2.5μg/mL、1.25μg/mL、0.625μg/mL、0.313μg/mL、0.156μg/mL、0.078μg/mL、0.039μg/mL、0.019μg/mL)の作用下におけるHEK293T-マウスTrkA細胞上でのマウスTrkAタンパク質の細胞外領域に対するマウスNGFの結合を検出するために、並びにマウスNGFとマウスTrKAとの結合性に対する各ヒト化抗体の阻害作用を研究するために、競合実験を設計した。実験結果を
図5に示した。
図5では、親%値が、HEK293T-マウスTrkA細胞上でマウスTrkAタンパク質の細胞外領域に結合したマウスNGFシグナルを反映した。読み取り値が低い程、HEK293T-マウスTrkA細胞上でマウスTrkAタンパク質の細胞外領域に結合したマウスNGFシグナルが弱く、且つマウスNGFとマウスTrKAとの結合性の阻害での抗体の作用が大きく;
図5に示される通り、各ヒト化抗体(H1L1-IgG4、H3L1-IgG4、H3L2-IgG4)及びキメラ抗体(H0L0-IgG4)の濃度が増加するにつれ、親%値が、ゼロに近づくまで徐々に減少し、すなわち、マウスTrkAタンパク質の細胞外領域に結合したマウスNGFシグナルが、マウスTrkAタンパク質の細胞外領域に結合するマウスNGFがなくなるまで徐々に減少し、マウスTrkAに対するマウスNGFの結合性が完全に阻害された。ヒト化抗体(H1L1-IgG4、H3L1-IgG4、H3L2-IgG4)のIC50は、それぞれ0.3848μg/mL、0.2826μg/mL、0.2524μg/mLであり、キメラ抗体(H0L0-IgG4)のIC50は0.3959μg/mLであり;各ヒト化抗体(H1L1-IgG4、H3L1-IgG4、H3L2-IgG4)及びキメラ抗体(H0L0-IgG4)が、一定濃度範囲内において細胞レベルでマウスNGFとマウスTrkAとの結合性を用量依存的に阻害でき;キメラ抗体(H0L0-IgG4)と比較して、マウスNGFとマウスTrkAとの結合性に対するヒト化抗体(H1L1-IgG4、H3L1-IgG4、H3L2-IgG4)の阻害作用が基本的に変化しないままであったことが見て取れた。
【0118】
(実施例10)
ELISA法による標的ヒトTrKAに対するヒト化抗体結合性の特異性の評価
TrkA受容体ファミリーは、高い相同性を有するTrkA、TrkB、及びTrkCを含む受容体チロシンキナーゼ(RTK)に属する。TrkAは、神経成長因子(NGF)の受容体チロシンキナーゼであり、NGFに選択的に結合し、且つNGFに対する機能的受容体であった。高親和性受容体TrkAに加えて、NGFはまた、その低親和性受容体p75にも結合することができた。試験では、TrKA、TrKB、TrKC、及びP75に対する様々な濃度(20μg/mL、10μg/mL、5μg/mL、2.5μg/mL、1.25μg/mL、0.625μg/mL、0.313μg/mL、0.156μg/mL、0.078μg/mL、0.039μg/mL、0.019μg/mL)のヒト化抗体(H1L1-IgG4、H3L1-IgG4、H3L2-IgG4)及びキメラ抗体(H0L0-IgG4)の結合性を、それぞれELISA法により検出し、且つ標的ヒトTrKAに対する試験した抗体の結合性の特異性を評価した。結果を
図6に示した。
図6では、抗体の特定の濃度では、OD450値が、抗体とタンパク質との間の結合性の強度を反映した。読み取り値が大きい程、抗体とタンパク質との間の結合性が強い。実験結果は、ヒト化抗体(H1L1-IgG4、H3L1-IgG4、H3L2-IgG4)及びキメラ抗体(H0L0-IgG4)が、TrKA受容体に対して良好な結合性を有し(試験した抗体の濃度は0μg/mLから20μg/mLまで増加させ、OD450値は、約3に近接して安定に近づくまで徐々に増加した)、且つ基本的にTrKB、TrKC、P75に結合しなかった(試験した各抗体の濃度は0μg/mLから20μg/mLまで増加させ、OD450値は、0に近接して基本的に変化しなかった)ことを示した。標的ヒトTrKAに結合する試験した抗体の特異性が非常に良好であったことが見て取れた。
【0119】
(実施例11)
ELISA法により評価されたマウスでのヒト化抗体のADAの評価
試験では、5頭のマウスを、それぞれヒト化抗体(H1L1-IgG4、H3L1-IgG4、H3L2-IgG4)及びキメラ抗体(H0L0-IgG4)を用いて免疫化し、尾静脈血を投与後14日目に採取した。各ヒト化抗体(H1L1-IgG4、H3L1-IgG4、H3L2-IgG4)及びキメラ抗体(H0L0-IgG4)を、PBSを用いて1μg/mLコーティング済みマイクロプレートまで希釈し、そのうち100μLを各ウェルに添加し、4℃で一晩反応させ;プレートを、PBS溶液を用いて3回洗浄し、且つ5%ミルク-PBSを用いて室温で1時間ブロッキングし;続いて、プレートを、PBS溶液を用いて1回洗浄し:5%ミルク-PBSバッファーを用いてマウス尾静脈血を勾配希釈し(1:500、1:1000、1:5000、1:10000、1:50000)、マウス尾静脈血を室温で1時間置き、続いて、予め反応させた尾静脈血をウェル当たり100μLでマイクロプレートに添加した。陰性対照(NC)を設定した。混合物を室温で1時間反応させ、続いて、プレートを、PBS溶液を用いて3回洗浄し、軽くたたいて乾燥させた。1:2000希釈HRP標識ヤギ抗マウスIgG(Fc)二次抗体を添加し、室温で1時間反応させ;プレートを、PBS溶液を用いて5回洗浄し、且つ軽くたたいて乾燥させ、続いて、100μLの基質顕色溶液TMBを添加し、室温にて暗条件下で20分間反応させ;続いて、50μLの停止溶液を添加し、且つ混合後にマイクロプレートリーダー上でOD450値を読み取った。結果を以下の
図7に示した。
図7では、OD450値が、生成されたADAの強度を反映した。読み取り値が大きい程、生成されたADAが強い。実験結果は、キメラ抗体(H0L0-IgG4)と比較して、ヒト化抗体(H1L1-IgG4、H3L1-IgG4、H3L2-IgG4)が弱いADAを生成したことを示し;ヒト化抗体(H1L1-IgG4、H3L1-IgG4、H3L2-IgG4)が、キメラ抗体(H0L0-IgG4)よりも低い免疫原性を有したことが見て取れた。
【0120】
(実施例12)
ELISA法により評価されたマウスでのヒト化抗体の薬物動態の評価
12頭の雄性ICRマウスを4群且つ3頭のマウス/群へと無作為に分けた。キメラ抗体H0L0-IgG4及びヒト化抗体H1L1-IgG4を、1mg/kgで静脈内又は皮下的に注入した。投与の1、6、24、72、168、336、504、及び672時間後に血液を採取し、血漿を分離した(EDTA-K2抗凝固)。静脈内投与群では、追加の0.25時間、血液を採取した。間接ECLA法を用いて、各サンプル中のH0L0-IgG4又はH1L1-IgG4の濃度を分析した。血漿薬物濃度に基づいて、薬物動態パラメータを算出した。主要なPKパラメータ結果をTable 2に示し、薬物-時間曲線を
図8に示した。結果は、ICRマウスにおけるH0L0-IgG4又はH1L1-IgG4の静脈内注入後、平均血漿半減期はそれぞれ97時間及び143時間であり;H0L0-IgG4又はH1L1-IgG4の皮下注入後、平均ピーク時間は40時間及び56時間であり、平均Cmaxは6.61μg/mL及び9.49μg/mLであり、平均AUClastは2120μg・h/mL及び3020μg・h/mLであり、平均血漿半減期は75時間及び122時間であり、絶対バイオアベイラビリティはそれぞれ89%及び101%であったことを示した。ヒト化抗体H1L1-IgG4は、キメラ抗体H0L0-IgG4と比較して、マウスにおいて良好な薬物動態パラメータを有したことが見て取れた。
【0121】
【0122】
(実施例13)
ルシフェラーゼレポーター遺伝子システムにより検出されたヒト化抗体のADCC活性
抗体依存的細胞媒介細胞傷害性(ADCC)とは、IgG抗体がFabセグメントを介して標的細胞の表面上の抗原性決定基に特異的に結合する場合、そのFcセグメントが、FcγRキラー細胞(NK細胞、単球-マクロファージ、好中球)等のエフェクター細胞に結合して、エフェクター細胞の殺傷活性を惹起し、且つ標的細胞を直接的に死滅させることができることを意味する。実験では、Jurkat-NFAT-Luc-CD16ルシフェラーゼレポーター細胞株を、CD16受容体を用いて安定的にトランスフェクションし、元来のNFAT(活性化T細胞の核因子)反応を用いた。試験抗体のFabセグメントが標的細胞HEK293T-ヒトTrKA細胞上で抗原に結合した場合、抗体のFcセグメントがエフェクター細胞Jurkat-NFAT-ルシフェラーゼ-CD16細胞の表面上で(FcγRIIIA)に結合し、Jurkat-NFAT-ルシフェラーゼ-CD16細胞においてNFAT関連シグナル伝達経路の活性化を引き起こし、これが次にルシフェラーゼの発現レベルでの増加をもたらした。ヒト化抗体のADCC活性を、様々な濃度(100μg/mL、20μg/mL、4μg/mL、0.8μg/mL、0.16μg/mL、0.032μg/mL、0.0064μg/mL、0.00128μg/mL、0.000256μg/mL、0.0000512μg/mL)のヒト化抗体(H1L1-IgG4、H1L1-IgG1)の作用下においてエフェクター細胞Jurkat-NFAT-ルシフェラーゼ-CD16のルシフェラーゼの発現レベルを検出することにより評価した。結果を以下の
図9に示した。
図9では、平均値が、ルシフェラーゼの発現レベルを反映した。読み取り値が大きい程、発現レベルが高く且つ対応する抗体のADCC活性が強い。実験結果は、抗体の濃度が増加するにつれ、陰性対照融合タンパク質デュラグルチド-IgG4及びヒト化抗体H1L1-IgG4の平均値は、基本的に変化せず且つゼロに近接したままであるが、ヒト化抗体H1L1-IgG1の平均値は、プラトー値に達するまで徐々に増加し、且つピーク濃度の半値EC50は0.02281μg/mLであったことを示し;ヒト化抗体H1L1-IgG1は強いADCC活性を有し、且つH1L1-IgG4は基本的にはADCC活性を有しなかったことが見て取れた。
【0123】
(実施例14)
完全フロイントアジュバント誘導型炎症性疼痛モデルによるヒト化抗体のin vivo鎮痛活性の評価
完全フロイントアジュバント誘導型炎症性疼痛モデルは、マウスの手掌に完全フロイントアジュバントを注入することにより、骨関節炎に類似する慢性炎症性疼痛刺激及び応答の疼痛モデルを生成する疼痛モデルである。疼痛は、機械的疼痛試験により測定される。機械的刺激の強度が大きい程、動物は疼痛に対してより抵抗性である。実験では、18~25g雄性C57BL/6マウスを選択し、10μLのCFAを、マウスの右後肢の足の裏の中央に注入した。モデル化の24時間後、機械的痛覚過敏法を試験のために用い、0.5グラム重量未満の引き抜き閾値を有する動物をスクリーニングにより選んだ。疼痛感受性に基づいて、マウスを、溶媒対照群、ナプロキセン100mg/kg用量群、タネズマブ2mg/kg用量群、MNAC13 2mg/kg用量群、H1L1-IgG4 2mg/kg用量群に無作為に分けた。計5群、群当たりn=10とした。それらのうちで、タネズマブは抗NGFモノクローナル抗体であり、MNAC13は抗TrkAモノクローナル抗体であった。溶媒対照群、タネズマブ、MNAC13、及びH1L1-IgG4用量群は皮下注入により投与を受け、機械的痛覚過敏試験を、それぞれ42時間後及び96時間後に行った。ナプロキセン用量群は、試験の2時間前に胃内的に投与を受けた。結果を
図10に示した。縦座標は機械的刺激の強度を表した。マウス手掌引き抜きの圧力閾値が大きい程、鎮痛作用が良好である。陽性対照群ナプロキセンが100mg/kgの用量での経口投与の2時間後に試験され、C57BL/6マウスCFAモデルにより誘導された機械的痛覚過敏の阻害を示し;タネズマブが2mg/kgの用量での皮下投与の42時間後に試験され、C57BL/6マウスCFAモデルにより誘導された機械的痛覚過敏の阻害を示したが、投与の96時間後に試験されたタネズマブはそのような阻害を示さず;MNAC13は2mg/kgの用量で皮下投与の42時間後及び96時間後に試験され、それらのうちのいずれも、C57BL/6マウスCFAモデルにより誘導された機械的痛覚過敏の阻害を示さなかったことが、結果により示された。H1L1-IgG4は2mg/kgの用量で皮下投与の96時間後に試験され、C57BL/6マウスCFAモデルにより誘導された機械的痛覚過敏の阻害を示したが、投与の42時間後に試験されたH1L1-IgG4はそのような阻害を示さなかった。結論:H1L1-IgG4は、皮下投与の96時間後にC57BL/6マウスCFAモデルにより誘導された機械的痛覚過敏を顕著に阻害し、炎症性疼痛を軽減する活性を有した。
【0124】
(実施例15)
NIH-3T3-TrkA細胞モデルにより検出されたヒト化抗体のCDC活性
補体依存的細胞傷害性(CDC)とは、補体の、すなわち、補体の古典経路を活性化するための複合体を形成する、細胞膜表面上の対応する抗原との特異的抗体結合を介する細胞傷害作用を意味し、形成された膜攻撃複合体は、標的細胞に対する溶解作用を発揮する。実験では、標的細胞NIH-3T3-TrKAの細胞生存率を、様々な濃度(16.67μg/mL、5.56μg/mL、1.85μg/mL、0.62μg/mL、0.21μg/mL、0.069μg/mL、0.023μg/mL、0.008μg/mL、0.003μg/mL)のヒト化抗体(H1L1-IgG4、H1L1-IgG1)及び陰性対照融合タンパク質デュラグルチド-IgG4の作用下でCCK8法により検出し、ヒト化抗TrKA抗体のCDC活性を評価した。結果を
図11に示した。
図11の結果は、抗体濃度を増加させると、標的細胞NIH-3T3-TrKA細胞に対するヒト化抗体H1L1-IgG1の殺傷作用が徐々に増加し、ピーク濃度半値IC50は0.2219μg/mLであり;ヒト化抗体H1L1-IgG4及び陰性対照融合タンパク質デュラグルチド-IgG4が標的細胞NIH-3T3-TrKA細胞に対する殺傷作用を基本的に有しないことを示し;ヒト化抗体H1L1-IgG1は強力なCDC活性を有し、且つH1L1-IgG4は基本的にはCDC活性を有しなかったことが見て取れた。
【0125】
(実施例16)
NIH-3T3-TrkA細胞モデルによるヒト化抗体のin vitro活性の評価
NGF刺激下では、NIH-3T3-TrkA細胞膜上でのTrkAタンパク質チロシンリン酸化のレベルは上方調節され、TrkAの下流シグナル伝達経路が活性化される。ヒト化抗TrkA抗体は、NIH-3T3-TrkA細胞膜の表面上でTrkAタンパク質に結合し、NGF刺激を阻害し、且つTrkAタンパク質チロシンリン酸化のレベルを下方調節することができる。実験では、様々な濃度(1000μg/mL、333.33μg/mL、111.11μg/mL、37.04μg/mL、12.35μg/mL、4.12μg/mL、1.37μg/mL、0.45μg/mL、0.15μg/mL、0.05μg/mL、0.017μg/mL、0.005μg/mL)のヒト化抗体の作用下でのTrkAタンパク質チロシンリン酸化のレベルの下方調節を検出するためにAlphaLISA法を用い、試験した抗体のin vitro活性を評価した。p-TrkAの試験結果を、
図12に示した。実験結果は、ヒト化抗TrKA抗体H1L1-IgG4が、NGF-TrKAシグナル伝達経路を阻害し、且つ用量依存的様式でTrkAタンパク質チロシンリン酸化のレベルを下方調節することができたことを示した。IC50値は0.02072μg/mLであった。ヒト化抗TrKA抗体H1L1-IgG4が、NGFによるTrKAの下流シグナル伝達経路の活性化を阻害できたことが見て取れた。
【0126】
本発明の解決策が、実施例と併せて以下で説明されるであろう。当業者は、以下の実施例が本発明を例示するためだけに用いられ、且つ本発明の範囲を限定するものと見なされるべきではないことを理解するであろう。具体的な技術又は条件が実施例中に示されない場合、当技術分野において文献中に記載される技術若しくは条件又は製品説明が行われる。用いられる試薬又は器具が製造業者により特定されない場合、それらは全て市販の慣用的な製品である。
【配列表】
【国際調査報告】