(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-24
(54)【発明の名称】治療学的酵素融合タンパク質のファブリー病に起因する又は伴う腎臓疾患の予防及び治療用途
(51)【国際特許分類】
A61K 38/47 20060101AFI20231116BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20231116BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20231116BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20231116BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20231116BHJP
C12N 9/40 20060101ALI20231116BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20231116BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
A61K38/47
A61K47/68
A61P13/12
A61K39/395 Y
A61P37/06
C12N9/40 ZNA
C07K19/00
C07K16/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023525999
(86)(22)【出願日】2021-11-15
(85)【翻訳文提出日】2023-04-27
(86)【国際出願番号】 KR2021016630
(87)【国際公開番号】W WO2022103221
(87)【国際公開日】2022-05-19
(31)【優先権主張番号】10-2020-0152247
(32)【優先日】2020-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515022445
【氏名又は名称】ハンミ ファーマシューティカル カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】チェ ジェ ヒュク
(72)【発明者】
【氏名】キム ジン ヨン
(72)【発明者】
【氏名】パク チョ ロン
(72)【発明者】
【氏名】キム サン ユン
(72)【発明者】
【氏名】キム ジョン ア
(72)【発明者】
【氏名】ジャン ドゥ ソ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA11
4C076AA16
4C076BB11
4C076CC07
4C076CC17
4C076CC41
4C084AA02
4C084BA41
4C084CA53
4C084DC22
4C084MA16
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA81
4C084ZB08
4C085AA34
4C085AA35
4C085BB42
4C085CC22
4C085EE01
4C085GG01
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA75
4H045DA89
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、治療学的酵素と免疫グロブリンFc領域の融合タンパク質のファブリー病に起因する又は伴う腎臓疾患の予防または改善用途に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(1)で表される、酵素融合タンパク質を含むファブリー病に起因する又は伴う腎臓疾患の予防または治療用薬学的組成物:
【化1】
ここで、X及びX’はアルファガラクトシダーゼであり;
L及びL’はリンカーで、それぞれ独立に同一または異なる種類のリンカーであり;
Fは免疫グロブリンFc領域の一つのポリペプチド鎖であり;
|は共有結合であり;
:は共有または非共有結合である。
【請求項2】
前記酵素は、XとX’が互いに逆平行(anti-parallel)で二量体を形成したものである、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項3】
前記免疫グロブリンFc領域は、非グリコシル化されたものである、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項4】
前記免疫グロブリンFc領域は、配列番号31のアミノ酸配列を有するヒンジ領域を含むものである、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項5】
前記免疫グロブリンFc領域は、配列番号8のアミノ酸配列で2番目のアミノ酸がプロリンで置換されたもの;71番目のアミノ酸がグルタミンで置換されたもの;または2番目のアミノ酸はプロリンで、71番目のアミノ酸はグルタミンで置換されたものである、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項6】
前記リンカーは、1個~100個のアミノ酸からなることを特徴とするペプチドリンカーである、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項7】
前記ペプチドリンカーは、[GS]x、[GGGS]xまたは[GGGGS]xのアミノ酸配列からなり、ここで、xは自然数1~20のうちの一つであることを特徴とする、請求項6に記載の薬学的組成物。
【請求項8】
前記ペプチドリンカーは、配列番号11のアミノ酸配列であることを特徴とする、請求項7に記載の薬学的組成物。
【請求項9】
前記腎臓疾患は、腎臓炎、糸球体腎炎(glomerulonephritis)、ネフローゼ症候群(nephrotic syndrome)、腎盂腎炎(nephropyelitis)、腎線維症(kidney fibrosis)、慢性腎不全(Chronic kidney disease)、腎不全(renal failure)、及び腎障害(renal impairment)からなる群から選択される少なくとも一つの疾患である、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項10】
前記腎線維症は、腎性全身性線維症(nephrogenic systemic fibrosis,NSF)、または嚢胞性線維症(cystic fibrosis)を含む、請求項9に記載の薬学的組成物。
【請求項11】
前記薬学的組成物は、投与された個体において下記特性のいずれか一つ以上の特性を示すものである、請求項9に記載の薬学的組成物:
(i) lyso-Gb3またはGb3の腎臓組織内レベルの減少;
(ii)TIMP-1(tissue inhibitor of metalloproteinase-1)の腎臓組織内レベルの減少;
(ii)collagen type1 α1の腎臓組織内レベルの減少;
(iv)α-SMA(alpha-smooth muscle actin)の腎臓組織内レベルの減少;及び
(v)腎臓組織内の可溶性コラーゲン(soluble collagen)及び不溶性コラーゲン(insoluble collagen)含量の減少。
【請求項12】
前記腎線維症は、炎症を伴うか、炎症に起因する、請求項9に記載の薬学的組成物。
【請求項13】
前記薬学的組成物は、投与された個体において下記特性のいずれか一つ以上の特性を示す、請求項9に記載の薬学的組成物:
(i)TNF-αの腎臓組織内レベルの減少;
(ii)IL-6の腎臓組織内レベルの減少;
(iii)RANTESの腎臓組織内レベルの減少及び
(iv)TNFR1の血中濃度の減少。
【請求項14】
前記酵素融合タンパク質は、腎臓に対する組織標的性が融合タンパク質ではなく酵素に比べて増加したものである、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項15】
前記酵素融合タンパク質は、これを必要とする個体に投与される回数が融合タンパク質ではなく酵素に比べて減少したものである、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項16】
前記薬学的組成物は、2週に1回または1カ月に1回個体に投与される、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項17】
前記酵素融合タンパク質は、配列番号13のアミノ酸配列を含む単量体を含む、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項18】
前記X及びX’は、それぞれ同一または異なるアミノ酸配列を含む酵素である、請求項1に記載の薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療学的酵素を含む酵素融合タンパク質のファブリー病に起因する又は伴う腎臓疾患の予防及び治療用途に関する。
【背景技術】
【0002】
リソソーム蓄積疾患(Lysosomal Storage Disorders,LSDs)は、遺伝的代謝疾患の一種であり、リソソームの機能が失われて現れる。リソソーム蓄積疾患は、脂質、タンパク質、多糖類などの物質を分解する酵素の欠乏により現れるが、通常、100,000人に1人の割合で現れ、劣性疾患で遺伝される。リソソーム蓄積疾患は、このように分解作用をする特定酵素が欠乏したり、その量が非常に少ない時に現れ、このように分解酵素が欠乏した時に過量の物質が分解されずに蓄積され、結局、細胞の機能にも問題を起こす。
【0003】
リソソーム蓄積疾患の一つとして知られているファブリー病(Fabry’s disease)は、リソソームに存在する加水分解酵素であるアルファガラクトシダーゼ(alpha-galactosidase)の酵素活性の欠乏または不足による結果として現れる先天性代謝異常の一種である。ファブリー病は性染色体の劣性で遺伝し、アルファガラクトシダーゼの異常により血管壁と身体の多様な部位、例えば、皮膚、腎臓、心臓、神経系にGb3(globotriaosylceramide)及びlyso-Gb3が非正常に蓄積され、血流と栄養供給の減少に影響を与えることが知られている。先端知覚異常症、激しい痛み、血管角化腫、心臓虚血、心筋梗塞症、腎臓異常などの症状が現れ、結局、腎臓が本来の機能を果たせなくなって死亡するに至る。
【0004】
アルファガラクトシダーゼは、Gb3(globotriaosylceramide)及び1yso-Gb3をラクトシルセラミド(lactosylceramide)に分解する酵素であり、前記酵素の異常により血管壁と身体の多様な部位にGb3及びlyso-Gb3が非正常に蓄積されることにより、ファブリー病が発病することが知られている。
【0005】
ファブリー病をはじめとするリソソーム蓄積疾患の治療のための方法として、酵素補充療法(ERT:enzyme-replacement therapy)が主に研究されている(Frances M. Platt et al., J Cell Biol. 2012 Nov 26; 199(5):723-34)。特に、ファブリー病は、アルファガラクトシダーゼの欠陥により生じる疾病であるため、アルファガラクトシダーゼの補充治療が必須である。
【0006】
しかし、このような治療効果を奏するタンパク質は、一般に、安定性が低く容易に変性し、血液内タンパク質加水分解酵素により分解されるため、血中濃度及び活性を維持するためには、患者に頻繁に投与しなければならない。しかし、血中濃度を維持するために頻繁に注射を打つことは患者にとてつもない苦痛を引き起こす。このような問題を解決するために、酵素補充療法に用いられる治療剤の血中安定性を増加させ、血中薬物濃度を長い間、高く持続させながらタンパク質の活性が維持される治療剤の開発が必要である。
【0007】
一方、ファブリー病は、腎臓を含む臓器にGb3及びlyso-Gb3が蓄積されて臓器の損傷をもたらし、特に腎臓はGb3及びlyso-Gb3の蓄積による炎症反応と、さらに線維化を経て慢性腎臓疾患及び腎不全症につながり、これにより患者が死亡に至ることが知られている。ファブリー病のさらなる進行を防ぎ、効果的な治療のために初期段階で腎臓の炎症反応及び線維化を抑制し、改善することが重要であるが、まだ酵素補充療法に使われる治療剤として腎臓の炎症反応及び線維化の抑制及び改善効果を奏する治療剤の開発は不備な実情である。
【0008】
よって、体内で高い持続性を有しながらも腎臓の炎症及び線維化を抑制し、改善することにより腎臓疾患に効果的な治療剤の開発の重要性が台頭している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際特許公開第WO97/34631号
【特許文献2】国際特許公開第96/32478号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Frances M. Platt et al., J Cell Biol. 2012 Nov 26; 199(5):723-34
【非特許文献2】Pearson et al (1988)[Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85]:2444
【非特許文献3】Rice et al., 2000, Trends Genet. 16: 276-277
【非特許文献4】Needleman and Wunsch, 1970, J. Mol. Biol. 48: 443-453
【非特許文献5】Devereux, J., et al, Nucleic Acids Research 12: 387 (1984)
【非特許文献6】Atschul, [S.] [F.,] [ET AL, J MOLEC BIOL 215]: 403 (1990)
【非特許文献7】Guide to Huge Computers, Martin J. Bishop, [ED.,] Academic Press, San Diego,1994
【非特許文献8】[CARILLO ETA/.](1988) SIAM J Applied Math 48: 1073
【非特許文献9】Smith and Waterman, Adv. Appl. Math (1981) 2:482
【非特許文献10】Schwartz and Dayhoff, eds., Atlas Of Protein Sequence And Structure, National Biomedical Research Foundation, pp. 353-358 (1979)
【非特許文献11】Gribskov et al(1986) Nucl. Acids Res. 14: 6745
【非特許文献12】van der Neut Kolfschoten, et at., Science, 317:1554-1557. 2007
【非特許文献13】H.Neurath, R.L.Hill, The Proteins, Academic Press, New York, 1979
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
腎臓の炎症及び線維化を抑制し、改善することにより、腎臓疾患に効果的な治療剤を開発することが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一つの目的は、下記化学式(1)で表される、酵素融合タンパク質を含むファブリー病に起因する又は伴う腎臓疾患の予防または治療用薬学的組成物を提供することにある:
【0013】
【0014】
ここで、X及びX’はアルファガラクトシダーゼであり;
L及びL’はリンカーで、それぞれ独立に同一または異なる種類のリンカーであり;
Fは免疫グロブリンFc領域の一つのポリペプチド鎖であり;
|は共有結合であり;
:は共有または非共有結合である。
【0015】
本発明のもう一つの目的は、前記酵素融合タンパク質またはこれを含む組成物をこれを必要とする個体に投与する段階を含むファブリー病に起因する又は伴う腎臓疾患の予防または治療方法を提供することにある。
【0016】
本発明のもう一つの目的は、ファブリー病に起因する又は伴う腎臓疾患の予防または治療のための前記酵素融合タンパク質またはこれを含む組成物の用途を提供することにある。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、治療学的酵素を含む融合タンパク質のファブリー病に起因する又は伴う腎臓疾患の予防または改善用途に関し、前記酵素融合タンパク質は、増加した持続時間により患者に有用に用いられ得るだけでなく、ファブリー病に起因する又は伴う腎臓疾患の治療に効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】アルファガラクトシダーゼ-Fc融合タンパク質(α-galactosidase-Fc)及びアガルシダーゼベータの組織分布性を比較した結果である。
【
図2】アルファガラクトシダーゼ-Fc融合タンパク質(α-galactosidase-Fc)及びアガルシダーゼベータのlyso-Gb3の減少量を比較した結果である。
【
図3】アルファガラクトシダーゼ-Fc融合タンパク質(α-galactosidase-Fc)及びアガルシダーゼベータの炎症改善効果を比較した結果である。
【
図4】アルファガラクトシダーゼ-Fc融合タンパク質(α-galactosidase-Fc)及びアガルシダーゼベータの線維症改善効果を比較した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明を具現する一つの様態は、治療学的酵素と免疫グロブリンFc領域が融合された酵素融合タンパク質を含むファブリー病に起因する又は伴う腎臓疾患の予防または治療用薬学的組成物である。
【0020】
一つの具体例による薬学的組成物として、前記酵素融合タンパク質は、下記化学式(1)で表される、酵素融合タンパク質であることを特徴とする。
【0021】
【0022】
ここで、X及びX’はアルファガラクトシダーゼであり;
L及びL’はリンカーで、それぞれ独立に同一または異なる種類のリンカーであり;
Fは免疫グロブリンFc領域の一つのポリペプチド鎖であり;
|は共有結合であり;
:は共有または非共有結合である。
【0023】
前述した具体例のいずれか一つによる薬学的組成物であって、前記酵素はXとX’が互いに逆平行(anti-parallel)で二量体を形成したことを特徴とする。
【0024】
前述した具体例のいずれか一つによる薬学的組成物であって、前記免疫グロブリンFc領域は非グリコシル化されたことを特徴とする。
【0025】
前述した具体例のいずれか一つによる薬学的組成物であって、前記免疫グロブリンFc領域は配列番号31のアミノ酸配列を有するヒンジ領域を含むことを特徴とする。
【0026】
前述した具体例のいずれか一つによる薬学的組成物であって、前記免疫グロブリンFc領域はIgG、IgA、IgD、IgEまたはIgMに由来したことを特徴とする。
【0027】
前述した具体例のいずれか一つによる薬学的組成物であって、前記免疫グロブリンFc領域はIgGFc領域に由来したことを特徴とする。
【0028】
前述した具体例のいずれか一つによる薬学的組成物であって、前記免疫グロブリンFc領域はIgG4 Fc領域に由来したことを特徴とする。
【0029】
前述した具体例のいずれか一つによる薬学的組成物であって、前記免疫グロブリンFc領域はヒトIgG4由来の非グリコシル化されたFc領域に由来したことを特徴とする。
【0030】
前述した具体例のいずれか一つによる薬学的組成物であって、前記免疫グロブリンFc領域は、(a)CH1ドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン及びCH4ドメイン;(b)CH1ドメイン及びCH2ドメイン;(c)CH1ドメイン及びCH3ドメイン;(d)CH2ドメイン及びCH3ドメイン;及び(e)CH1ドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン及びCH4ドメインの1個または2個以上のドメインと免疫グロブリンヒンジ領域またはヒンジ領域の一部との組合わせで構成された群から選択されることを特徴とする。
【0031】
前述した具体例のいずれか一つによる薬学的組成物であって、前記免疫グロブリンFc領域は配列番号8のアミノ酸配列を有する免疫グロブリンFc領域の2番目のアミノ酸がプロリンで置換されたもの;71番目のアミノ酸がグルタミンで置換されたもの;または2番目のアミノ酸はプロリンで、71番目のアミノ酸はグルタミンで置換されたものであることを特徴とする。
【0032】
前述した具体例のいずれか一つによる薬学的組成物であって、前記免疫グロブリンFc領域は配列番号9のアミノ酸配列を有する単量体を含むことを特徴とする。
【0033】
前述した具体例のいずれか一つによる薬学的組成物であって、前記リンカーは1個~100個のアミノ酸からなることを特徴とする。
【0034】
前述した具体例のいずれか一つによる薬学的組成物であって、前記ペプチドリンカーは[GS]x、[GGGS]xまたは[GGGGS]xのアミノ酸配列からなり、ここで、xは自然数1~20のうちの一つであることを特徴とする。
【0035】
前述した具体例のいずれか一つによる薬学的組成物であって、前記ペプチドリンカーは配列番号11のアミノ酸配列であることを特徴とする。
【0036】
前述した具体例のいずれか一つによる薬学的組成物であって、前記腎臓疾患は腎臓炎、糸球体腎炎(glomerulonephritis)、ネフローゼ症候群(nephrotic syndrome)、腎盂腎炎(nephropyelitis)、腎線維症(kidney fibrosis)、慢性腎不全(Chronic kidney disease)、腎不全(renal failure)、及び腎障害(renal impairment)からなる群から選択される少なくとも一つの疾患であることを特徴とする。
【0037】
前述した具体例のいずれか一つによる薬学的組成物であって、前記腎線維症は、腎性全身性線維症(nephrogenic systemic fibrosis,NSF)、または嚢胞性線維症(cystic fibrosis)を含むことを特徴とする。
【0038】
前述した具体例のいずれか一つによる薬学的組成物であって、前記薬学的組成物は投与された個体において下記特性のいずれか一つ以上の特性を示すことを特徴とする:
【0039】
(i)lyso-Gb3またはGb3の腎臓組織内レベルの減少;
(ii)TIMP-1(tissue inhibitor of metalloproteinase-1)の腎臓組織内レベルの減少;
(iii)collagen type1 α1の腎臓組織内レベルの減少;
(iv)α-SMA(alpha-smooth muscle actin)の腎臓組織内レベルの減少;及び
(v)腎臓組織内の可溶性コラーゲン(soluble collagen)及び不溶性コラーゲン(insoluble collagen)含量の減少。
【0040】
前述した具体例のいずれか一つによる薬学的組成物であって、前記腎線維症は炎症を伴うか、炎症に起因することを特徴とする。
【0041】
前述した具体例のいずれか一つによる薬学的組成物であって、前記薬学的組成物は投与された個体において下記特性のいずれか一つ以上の特性を示すことを特徴とする:
【0042】
(i)TNF-αの腎臓組織内レベルの減少;
(ii)IL-6の腎臓組織内レベルの減少;
(iii)RANTESの腎臓組織内レベルの減少;及び
(iv)TNFR1の血中濃度の減少。
【0043】
前述した具体例のいずれか一つによる薬学的組成物であって、前記酵素融合タンパク質は腎臓に対する組織標的性が融合タンパク質ではなく酵素に比べて増加したことを特徴とする。
【0044】
前述した具体例のいずれか一つによる薬学的組成物であって、前記酵素融合タンパク質はこれを必要とする個体に投与される回数が融合タンパク質ではなく酵素に比べて減少したことを特徴とする。
【0045】
前述した具体例のいずれか一つによる薬学的組成物であって、前記薬学的組成物は2週に1回または1カ月に1回個体に投与されることを特徴とする。
【0046】
前述した具体例のいずれか一つによる薬学的組成物であって、前記酵素融合タンパク質は配列番号13のアミノ酸配列を含む単量体を含むことを特徴とする。
【0047】
前述した具体例のいずれか一つによる薬学的組成物であって、前記酵素融合タンパク質は一分子のアルファガラクトシダーゼと一分子の免疫グロブリンFc領域がペプチドリンカーを介して連結された単量体が二量体を形成したことを特徴とする。
【0048】
前述した具体例のいずれか一つによる薬学的組成物であって、前記X及びX’は、それぞれ同一または異なるアミノ酸配列を含む酵素であることを特徴とする。
【0049】
本発明を具現するもう一つの様態は、前記酵素融合タンパク質またはこれを含む組成物をこれを必要とする個体に投与する段階を含む、ファブリー病に起因する又は伴う腎臓疾患の予防または治療方法である。
【0050】
本発明を具現するもう一つの様態は、ファブリー病に起因する又は伴う腎臓疾患の後遺症の予防または治療のための薬剤の製造において前記酵素融合タンパク質またはこれを含む組成物の用途である。
【0051】
本発明を具現するもう一つの様態は、ファブリー病に起因する又は伴う腎臓疾患の予防または治療のための前記酵素融合タンパク質またはこれを含む組成物の用途である。
【0052】
本発明を実施するための具体的な内容を説明すると次の通りである。一方、本願で開示されるそれぞれの説明及び実施形態は、それぞれの異なる説明及び実施形態にも適用され得る。即ち、本願で開示された多様な要素の全ての組合わせが本発明の範疇に属する。また、下記の具体的な記述により本発明の範疇が制限されるとは見られない。
【0053】
また、当該技術分野の通常の知識を有する者は、通常の実験のみを用いて本出願に記載された本発明の特定様態に対する多数の等価物を認知または確認することができる。また、このような等価物は、本発明に含まれることが意図される。
【0054】
本明細書全体を通して、天然に存在するアミノ酸に対する通常の1文字及び3文字コードが用いられるだけでなく、Aib(α-アミノイソ酪酸)、Sar(N-methylglycine)などの他のアミノ酸に対して一般に許容される3文字コードが用いられる。また、本明細書において略語で言及したアミノ酸は、IUPAC-IUB命名法に従って記載したものである。
【0055】
【0056】
本発明を具現する一つの様態は、下記化学式(1)で表される、酵素融合タンパク質を含むファブリー病に起因する又は伴う腎臓疾患の予防または治療用薬学的組成物を提供する:
【0057】
【0058】
ここで、X及びX’はアルファガラクトシダーゼであり;
L及びL’はリンカーで、それぞれ独立に同一または異なる種類のリンカーであり;
Fは免疫グロブリンFc領域の一つのポリペプチド鎖であり;
|は共有結合であり;
:は共有または非共有結合である。
【0059】
一つの具現例として、前記薬学的組成物は、薬学的に許容される賦形剤と前記化学式(1)で表される酵素融合タンパク質を薬学的有効量で含む薬学的組成物であってもよい。本発明において、「薬学的有効量」とは、前記酵素融合タンパク質がファブリー病に起因する又は伴う腎臓疾患に対して予防または治療効果を奏しながらも患者に毒性や副作用を示さない安全な投与用量を意味するが、これに制限されない。
【0060】
本発明において用語、「酵素融合タンパク質」は、治療学的酵素に免疫グロブリンFc領域が融合されたものであり、免疫グロブリンFc領域の融合により、免疫グロブリンFc領域と融合されていない治療学的酵素に比べて、治療学的酵素の活性は維持されながらも、リソソーム受容体に対する結合力が減少し、血中半減期が増加するものであってもよい。本発明の酵素融合タンパク質は、酵素補充療法(enzymatic replacement therapy,ERT)の薬物として用いられる。前記酵素補充療法は、疾患の原因となる欠乏または不足酵素を補充することにより、低下した酵素機能の回復を通じて疾病を予防または治療できる。
【0061】
本発明者らは、治療学的酵素の血中半減期を増加させるために、免疫グロブリンFc領域との融合タンパク質を製作した。本発明の酵素融合タンパク質に含まれるFc領域は、糖化を抑制するために潜在的な糖化配列を置換させ、さらにIgG4 Fcのヒンジ配列を置換させて鎖交換(chain exchange)が抑制されたIgG4 Fc領域であってもよいが、これに制限されない。
【0062】
前記化学式(1)において、Fである免疫グロブリンFc領域(例えば、ヒンジ配列が置換されたIgG4 Fc領域)は、リンカーを介して治療学的酵素と連結されて単量体を形成することができ、前記単量体は、他の免疫グロブリンFc領域及び治療学的酵素を含む単量体と二量体を形成できる。この時、前記二量体は、免疫グロブリンFc領域同士の共有結合、治療学的酵素同士の共有または非共有結合で二量体を形成するものであってもよいが、これに制限されない。特に、前記免疫グロブリンFc領域と融合される治療学的酵素が二量体、特に逆平行の(anti-parallel)形態で連結された二量体を形成する場合、酵素の活性を維持しながらも体内持続性が増加することを確認し、従って、本発明の酵素融合タンパク質は、Fc領域が融合されていない治療学的酵素に比べて安定性が増加する長所がある。
【0063】
本発明の用語、「治療学的酵素」とは、酵素の不足、欠乏、機能異常などにより発病する疾病を治療するための酵素であり、酵素補充療法(enzyme replacement therapy)、投与などを通じて前記疾病を有する個体を治療できる酵素を意味する。本発明の酵素融合タンパク質に含まれ得る治療学的酵素は特に制限されず、融合されていない形態の治療学的酵素より生体内持続時間を増やして利点が得られる治療学的酵素であれば、本発明の酵素融合タンパク質に含まれ得る。本発明の一実施形態において酵素融合タンパク質は、治療学的酵素の融合タンパク質である。
【0064】
本発明において、前記治療学的酵素は、アルファガラクトシダーゼであってもよい。
【0065】
本発明の酵素融合タンパク質に含まれる治療学的酵素は、非共有結合を通じて二量体を形成するものであってもよいが、これに制限されない。具体的には、前記治療学的酵素は、融合タンパク質が形質転換体で発現されて免疫グロブリンFc領域が二量体(dimer)を形成する時、治療学的酵素も二量体(dimer)を形成するものであってもよい。
【0066】
このような治療学的酵素の二量体は、互いに同一の2個の酵素が二量体を形成したものであってもよく、または互いに相違する2個の酵素が二量体を形成したものであってもよく、前記二量体を構成する酵素は、体内で目的とする活性を有する以上、具体的な種類に制限されない。
【0067】
一方、前記二量体を構成する治療学的酵素は、互いに連結される方向に応じて、平行二量体(parallel dimer)または逆平行の二量体(anti-parallel dimer)であってもよいが、これに制限されるものではない。具体的な例示として、前記化学式(1)において、前記酵素は、XとX’が互いに逆平行(anti-parallel)で二量体を形成したものであってもよいが、これに制限されない。
【0068】
本発明の実施例では、治療学的酵素であるアルファガラクトシダーゼが免疫グロブリンFc領域と融合されて発現された融合タンパク質を製造し、前記融合タンパク質の免疫グロブリンFc領域が二量体(dimer)を形成しながらアルファガラクトシダーゼが非共有結合を通じて逆平行の二量体を形成することを確認した(実施例1)。
【0069】
本発明の用語、「平行二量体(parallel dimer)」とは、それぞれの単量体が二量体を形成する時にそれぞれの単量体のアミノ酸配列のN末端とC末端が同じ方向に二量体を形成することを意味する。この時、二量体の形成は、非共有結合または共有結合であってもよいが、これに制限されるものではない。
【0070】
本発明の用語、「逆平行の二量体(anti-parallel dimer)」とは、それぞれの単量体が二量体を形成する時、それぞれの単量体のアミノ酸配列のN末端とC末端が互いに異なる方向に二量体を形成することを意味する。この時、二量体の形成は、非共有結合または共有結合であってもよいが、これに制限されるものではない。
【0071】
言い換えれば、本発明の酵素融合タンパク質において、(i)一つの治療学的酵素(X)のN末端ともう一つの治療学的酵素(X’)のN末端が同じ方向に二量体を形成したり、(ii)一つの治療学的酵素(X)のC末端ともう一つの治療学的酵素(X’)のC末端が同じ方向に二量体を形成したり、(iii)一つの治療学的酵素(X)のN末端ともう一つの治療学的酵素(X’)のC末端が同じ方向に二量体を形成したり、または(iv)一つの治療学的酵素(X)のC末端ともう一つの治療学的酵素(X’)のN末端が同じ方向に二量体を形成できる。前記(i)及び(ii)の場合を平行二量体、前記(iii)及び(iv)の場合を逆平行の二量体といい、前記二量体の形成は、共有結合(covalent bond)または非共有結合(non-covalent bond)によるものであってもよいが、これに制限されるものではない。
【0072】
具体的には、前記二量体の形成において、平行または逆平行の二量体の形成は、免疫グロブリンFc領域が二量体を形成することにより、これに連結された単量体のアルファガラクトシダーゼが共有または非共有結合を通じて二量体を形成するものであってもよい。
【0073】
本発明の酵素融合タンパク質に含まれる酵素は、アルファガラクトシダーゼ(alpha-galactosidase)であってもよい。本発明の目的上、酵素融合タンパク質は、二量体の治療学的酵素を含み、具体的には、アルファガラクトシダーゼが二量体を形成するものであってもよく、または、アルファガラクトシダーゼと異なる治療学的酵素が二量体を形成するものであってもよいが、これに制限されるものではない。本発明の融合タンパク質の一例として、前記化学式(1)において、X及びX’はアルファガラクトシダーゼであってもよく、XとX’のアミノ酸配列は同一または異なってもよい。例えば、X及びX’がいずれも天然型アルファガラクトシダーゼであってもよく、または、X及びX’のいずれか一つは天然型アルファガラクトシダーゼであり、もう一つは天然型アルファガラクトシダーゼにおいて一部の配列が変形された変異体であってもよいが、これに制限されない。または、X及びX’は互いに異なる配列を有するアルファガラクトシダーゼの変異体であってもよいが、これに制限されない。
【0074】
本発明の用語、アルファガラクトシダーゼ(alpha galactosidase,α-GAL)またはアルファガラクトシダーゼA(α-GAL A)は、脾臓、脳、肝臓などのリソソームに存在する酵素であり、糖脂質と糖タンパクにおいて末端アルファガラクトシル(galactosyl)部分を加水分解する酵素であり、ホモダイマーの(homodimeric)糖タンパクである。具体的には、前記アルファガラクトシダーゼは、セラミドtrihexosideを加水分解し、ガラクトースとブドウ糖にmelibioseの加水分解を触媒することが知られており、特に、リソソーム蓄積疾患であるファブリー病(Fabry’s disease)と関連することが知られている。ファブリー病の原因であるアルファガラクトシダーゼの欠陥及び不足を本発明の酵素融合タンパク質を利用した酵素補充療法(ERT)で補うことができるため、ファブリー病に起因する又はファブリー病に伴う様々な腎臓疾患の治療に効果を奏することができる。
【0075】
本発明において、前記アルファガラクトシダーゼは、組換え形態であるアガルシダーゼアルファ(agalsidase alpha)またはアガルシダーゼベータ(agalsidase beta)を含み、これと同等の活性及び治療効果を奏する酵素である限り、配列や由来、製法などに制限なく本発明の範疇に含まれ得る。具体的には、前記アルファガラクトシダーゼは、配列番号5のポリヌクレオチド配列によりコードされてもよく、配列番号6のアミノ酸配列を含んでもよく、(必須で)構成されるものであってもよいが、これに制限されない。または、本発明のアルファガラクトシダーゼは、天然型アルファガラクトシダーゼまたは配列番号6のアミノ酸配列と60%、70%、80%以上、90%以上、より具体的には、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むものであってもよいが、これに制限されない。
【0076】
本願において特定の配列番号で「構成される」ペプチドと記載されていても、当該配列番号のアミノ酸配列からなるペプチドと同一もしくは相当する活性を有する場合であれば、当該配列番号のアミノ酸配列前後の無意味な配列の追加または自然に発生し得る突然変異、またはそのサイレント突然変異(silent mutation)を除外することではなく、このような配列の追加もしくは突然変異を有する場合であっても、本願の範囲内に属することが自明である。即ち、一部の配列の差があるとしても、一定水準以上の相同性を示し、天然型アルファガラクトシダ ーゼと同等または類似の活性を示すと、本発明の範囲に属することができる。
【0077】
本出願において、用語「相同性(homology)」または「同一性(identity)」とは、2つの与えられたアミノ酸配列または塩基配列と相互に関連した程度を意味し、百分率で表すことができる。
【0078】
用語の相同性及び同一性はしばしば互換的に使用することができる。
【0079】
任意の2つのペプチド配列が相同性、類似性または同一性を有するかどうかは、例えば、Pearson et al (1988)[Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85]: 2444でのようなデフォルトパラメータを用いて「FASTA」プログラムなどの既知のコンピュータアルゴリズムを使用して決定されてもよい。または、EMBOSSパッケージのニードルマンプログラム(EMBOSS:The European Molecular Biology Open Software Suite, Rice et al., 2000, Trends Genet. 16: 276-277)(バージョン5.0.0または以降のバージョン)で行われるような、ニードルマン-ウンシュ(Needleman-Wunsch)アルゴリズム(Needleman and Wunsch, 1970, J. Mol. Biol. 48: 443-453)を使用して決定されてもよい(GCGプログラムパッケージ(Devereux, J., et al, Nucleic Acids Research 12: 387 (1984)), BLASTP, BLASTN, FASTA (Atschul, [S.] [F.,] [ET AL, J MOLEC BIOL 215]: 403 (1990); Guide to Huge Computers, Martin J. Bishop, [ED.,] Academic Press, San Diego,1994,及び[CARILLO ETA/.](1988) SIAM J Applied Math 48: 1073を含む)。例えば、国立生物工学情報データベースセンターのBLASTまたはClustalWを用いて相同性、類似性または同一性を決定することができる。
【0080】
ポリペプチドの相同性、類似性または同一性は、例えば、Smith and Waterman, Adv. Appl. Math (1981) 2:482において公知となっているように、例えば、Needleman et al. (1970), J Mol Biol. 48:443のようなGAPコンピュータプログラムを用いて配列情報を比較することにより決定されてもよい。要約すると、GAPプログラムは、2つの配列中、より短いものにおける記号の総数であり、類似の配列された記号(すなわち、アミノ酸)の数を除した値と定義する。GAPプログラムのためのデフォルトパラメータは、(1)一進法比較マトリックス(同一性のために1、そして非同一性のために0の値を含む)、及びSchwartz and Dayhoff, eds., Atlas Of Protein Sequence And Structure, National Biomedical Research Foundation, pp. 353-358 (1979)により開示されているように、Gribskov et al(1986) Nucl. Acids Res. 14: 6745の加重比較マトリックス(またはEDNAFULL(NCBI NUC4.4のEMBOSSバージョン)置換マトリックス);(2)各ギャップのための3.0のペナルティ及び各ギャップにおいて各記号のための追加の0.10ペナルティ(またはギャップ開放ペナルティ10、ギャップ延長ペナルティ0.5);(3)末端ギャップのための無ペナルティを含むことができる。従って、本発明で用いられたものとして、用語「相同性」または「同一性」は配列間の関連性(relevance)を示す。
【0081】
前記治療学的酵素またはこの誘導体の配列及びこれをコードする塩基配列の情報はNCBIなど、公知のデータベースから得ることができる。
【0082】
本発明の治療学的酵素は、天然型酵素であってもよく、前記天然型酵素の一部で構成された断片、あるいは一部のアミノ酸の置換(substitution)、追加(addition)、除去(deletion)、修飾(modification)及びこれらの組合わせからなる群から選択された変形が起こった、治療学的酵素のアナログ(analog)も天然型治療学的酵素と同等の活性を有する限り、本発明に制限なく含まれる。
【0083】
本発明の用語、「断片」とは、天然型治療学的酵素または天然型治療学的酵素のアナログのアミノ末端あるいはカルボキシ末端に一つまたはそれ以上のアミノ酸が除去された形態をいう。治療学的酵素の活性を有する限り、断片の大きさや除去されるアミノ酸の種類に関係なく本発明の範疇に含まれる。
【0084】
また、前記治療学的酵素のアナログは、天然型治療学的酵素のアミノ及び/又はカルボキシ末端に一つまたはそれ以上のアミノ酸が追加されたことをいずれも含む。
【0085】
また、前記治療学的酵素のアナログは、天然型治療学的酵素の配列において一つ以上のアミノ酸残基が置換されるか、追加されたものであってもよく、前記置換されるか、付加されるアミノ酸としては、ヒトタンパク質において通常観察される20種のアミノ酸だけでなく、異常又は非自然発生アミノ酸を用いることができる。異常アミノ酸の市販元には、Sigma-Aldrich、ChemPep、Genzyme pharmaceuticalsが含まれる。これらのアミノ酸が含まれるペプチドと定型的なペプチド配列は、民間のペプチド合成会社、例えば米国のAmerican peptide companyやBachem、又は韓国のAnygenにおいて合成及び購入が可能であるが、特にこれに制限されない。
【0086】
前記治療学的酵素アナログは、当該治療学的酵素のバイオシミラーとバイオベター形態を含むが、バイオシミラーの例としては、公知の治療学的酵素と発現宿主の差、糖化の様相と程度の差、特定位置の残基が当該酵素の基準配列に照らしてみると、100%の置換ではない場合、その置換程度の差も本発明の酵素融合タンパク質で用いることができるバイオシミラー酵素に該当する。前記治療学的酵素は、当業界において知られている方法で準備または製造することができ、具体的には、遺伝子組換えを通じて動物細胞、大腸菌、酵母、昆虫細胞、植物細胞、生きている動物などから生産でき、生産方法はこれに限定されず、商業的に利用可能な治療学的酵素を購入して用いることができるが、これに制限されない。
【0087】
前記治療学的酵素は、当業界において知られている方法で準備または製造することができ、具体的には、動物細胞発現ベクターを挿入した動物細胞を培養し、培養物から精製することができ、または商業的に利用可能な酵素を購入して用いることができるが、これに制限されない。
【0088】
本発明の酵素融合タンパク質は、治療学的酵素と免疫グロブリンFc領域がペプチドリンカーを介して融合されたものであってもよい。即ち、前記化学式(1)のLまたはL’はペプチドリンカーであってもよいが、免疫グロブリンFc領域と治療学的酵素を融合できる限り、特に制限されるのではない。
【0089】
前記ペプチドリンカーは1個以上のアミノ酸を含み、例えば、1個~1000個、1個~500個、1個~100個、または1個~50個のアミノ酸を含み、当業界において知られた任意のペプチドリンカー、その例として[GS]xリンカー、[GGGS]xリンカー及び[GGGGS]xリンカーなどを含み、ここで、xは1以上の自然数(例えば、1、2、3、4、5、またはそれ以上)であってもよく、具体的な例として、前記xは、自然数1~20のうちの一つであってもよいが、これに制限されない。具体的には、本発明のペプチドリンカーは、10~50個、より具体的には、20~40個のアミノ酸配列で構成されてもよく、配列番号11のアミノ酸配列で構成されるものであってもよい。
【0090】
本発明の目的上、治療学的酵素の活性を維持しながら治療学的酵素と免疫グロブリンFc領域を連結できる限り、ペプチドリンカーが治療学的酵素及び免疫グロブリンFcに融合される位置は制限されない。具体的には、治療学的酵素及び免疫グロブリンFc領域の両末端、より具体的には、治療学的酵素のC末端、免疫グロブリンFc領域のN末端であってもよいが、これに制限されない。
【0091】
本発明の用語、「N末端」または「C末端」とは、それぞれタンパク質のアミノ末端及びカルボキシル末端を意味することであり、その例として、これに制限されないが、N末端またはC末端の最末端のアミノ酸残基だけでなく、N末端またはC末端周囲のアミノ酸残基をいずれも含み得、具体的には、最末端から最初~20番目のアミノ酸残基を含み得る。
【0092】
本発明の一実施例では、治療学的酵素であるアルファガラクトシダーゼとリンカー-IgG4を遺伝子の水準で融合されるように合成し、治療学的酵素のC末端にIgG4 Fc領域のN末端が融合された融合タンパク質(配列番号13)を製造し、前記融合タンパク質が形質導入された形質転換体で発現されることを確認した(実施例1)。
【0093】
本発明の酵素融合タンパク質の具体的な一例として、アルファガラクトシダーゼが免疫グロブリンFc領域が共有結合でペプチドリンカーを介して連結されて形成された単量体を含み、2個の単量体の免疫グロブリンFc領域間に共有結合、治療学的酵素間に共有または非共有結合により二量体を形成したものであってもよいが、これに制限されない。
【0094】
他の具体例として、本発明の酵素融合タンパク質は、配列番号13のアミノ酸配列を含んでもよく、(必須で)構成された単量体を含むものであってもよく、または、前記単量体が形成した二量体の構造を有するものであってもよいが、これに制限されない。
【0095】
本発明において、前記ペプチドリンカーは、単量体の免疫グロブリンFc領域が形成する二量体免疫グロブリンFc領域にそれぞれ連結されるものであってもよく、各免疫グロブリンFc領域に連結されるリンカーは互いに同一または異なる種類であってもよい。
【0096】
本発明の用語「免疫グロブリンFc領域」とは、免疫グロブリンの重鎖と軽鎖可変領域を除いた、重鎖定常領域2(CH2)及び/又は重鎖定常領域3(CH3)部分を含む部位を意味する。本発明の目的上、このようなFc領域は変異されたヒンジ領域を含めてもよいが、これに制限されない。具体的には、前記免疫グロブリンFc領域は、天然型免疫グロブリンFc領域で少なくとも一つ以上のアミノ酸で置換(substitution)、追加(addition)、除去(deletion)、修飾(modification)及びこれらの組合わせからなる群から選択された変形が起こったものであってもよいが、これに制限されない。
【0097】
また、本発明において、前記化学式(1)の酵素融合タンパク質のFはIgG、具体的にはIgG4 Fc領域に由来した免疫グロブリンFc領域であってもよく、非グリコシル化されたものあってもよいが、これに制限されない。また、ヒトIgG4 Fc領域において一つ以上のアミノ酸が置換された免疫グロブリンFc領域であってもよいが、これに制限されない。
【0098】
前記化学式(1)の酵素融合タンパク質において、前記Fは免疫グロブリンFc領域の一つのポリペプチド鎖であってもよいが、これに制限されない。
【0099】
前記化学式(1)のFの具体的な例として、配列番号8のアミノ酸配列を有する免疫グロブリンFc領域の2番目のアミノ酸がプロリンで置換されたもの;71番目のアミノ酸がグルタミンで置換されたもの;または2番目のアミノ酸はプロリンで、71番目のアミノ酸はグルタミンで置換された単量体を含むもの;もしくは配列番号9の単量体を含むものであってもよいが、これに制限されない。
【0100】
免疫グロブリンFc領域は、薬物を製造するにおいてキャリアとして用いられる物質であり、タンパク質を安定化して腎臓から除去されることを防止するために、最近は、免疫グロブリンFc領域を用いた融合タンパク質研究が活発に行われている。
【0101】
免疫グロブリンは、血液の主要構成成分としてIgG、IgM、IgA、IgD、IgEのように5種類があるが、融合タンパク質の研究に頻繁に用いられる種類はIgGであり、これは、IgG1~4の4種類のsubtypeに分類される。免疫グロブリンFc領域を用いた融合タンパク質は、タンパク質の大きさを増加させて腎臓から除去されることを防止し、FcRn受容体と結合して細胞内にendocytosis及びrecyclingを通じて血中半減期を増加させる役割をする。
【0102】
本発明において、Fc領域と言えば、免疫グロブリンのパパイン消化から得る天然型配列だけでなくその誘導体、例えば、天然配列中の一つ以上のアミノ酸残基が欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、又はそれらの組み合わせにより置換されて天然のものとは異なる配列など変形体も含まれる。
【0103】
前記誘導体、置換体、変形体はFcRnに結合する能力を有することを前提とする。本発明において、Fはヒト免疫グロブリン領域であってもよいが、これに制限されない。
【0104】
本発明による化学式(1)の酵素融合タンパク質において、Fは一つのポリペプチド鎖を含む単量体の免疫グロブリンFc領域であり、前記ポリペプチド鎖はジスルフィド結合により2個のポリペプチド鎖の二量体を形成し、本発明の酵素融合タンパク質は二量体の免疫グロブリンFc領域を含む構造であってもよい。特に、前記2つの鎖のうち1つの鎖の窒素原子を介してのみ連結されている構造であるが、これに限定されるものではない。前記窒素原子を介する連結は、リシンのεアミノ原子やN末端のアミノ基に還元的アミノ化により連結されるものであってもよい。
【0105】
還元的アミノ化反応とは、反応物のアミン基又はアミノ基が他の反応物のアルデヒド(すなわち、還元的アミノ化が可能な官能基)と反応してアミンを生成し、次いで還元反応によりアミン結合を形成する反応を意味し、当該技術分野で周知の有機合成反応である。
【0106】
一つの具体例として、前記免疫グロブリンFc領域は、N末端プロリンの窒素原子を通じて互いに連結されたものあってもよいが、これに制限されない。
【0107】
また、本発明の免疫グロブリンFc領域は、天然のものと実質的に同等又は向上した効果を有するものであれば、免疫グロブリンの重鎖と軽鎖の可変領域を除き、一部又は全部の重鎖定常領域1(CH1)及び/又は軽鎖定常領域1(CL1)を含む拡張されたFc領域であってもよい。さらに、CH2及び/又はCH3に相当する非常に長い一部のアミノ酸配列が欠失した領域であってもよい。
【0108】
本発明の免疫グロブリンFc領域は、1)CH1ドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン及びCH4ドメイン、2)CH1ドメイン及びCH2ドメイン、3)CH1ドメイン及びCH3ドメイン、4)CH2ドメイン及びCH3ドメイン、及び5)CH1ドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン及びCH4ドメインの少なくとも1つのドメインと免疫グロブリンヒンジ領域(又はヒンジ領域の一部)との組合わせであってもよい。しかし、これに制限されるものではない。より具体的には、前記免疫グロブリンFc領域はヒンジ領域、CH2ドメイン及びCH3ドメインからなるものあってもよいが、これに制限されるものではない。
【0109】
本発明において、前記化学式(1)のF(免疫グロブリンFc領域)は単量体(monomer)の形態であってもよいが、これに制限されない。具体的には、前記免疫グロブリンFc領域は、同一の起源のドメインからなる単鎖免疫グロブリンを含むものであってもよいが、これに制限されない。
【0110】
本発明において、前記化学式(1)においてFである免疫グロブリンFc領域は、単量体の形態でペプチドリンカーを介して単量体の治療学的酵素と融合発現されるものであってもよい。前記単量体の免疫グロブリンFc領域が二量体を形成することにより、前記免疫グロブリンFc領域に融合された治療学的酵素も非共有結合により二量体を形成できるが、これに制限されるものではない。
【0111】
このような免疫グロブリンFc領域は、重鎖定常領域にヒンジ(hinge)領域を含んでもよく、前記ヒンジ領域により単量体である免疫グロブリンFc領域が二量体を形成できるが、これに制限されるものではない。
【0112】
本発明の用語、「ヒンジ配列」は、重鎖に位置してジスルフィド結合(inter disulfide bond)を通じて免疫グロブリンFc領域の二量体を形成する部位を意味する。
【0113】
一つの例として、前記ヒンジ領域は、下記アミノ酸配列を有するヒンジ配列中の一部が欠失または変異されたものであってもよい。
【0114】
Glu-Ser-Lys-Tyr-Gly-Pro-Pro-Cys-Pro-Ser-Cys-Pro(配列番号14)
【0115】
具体的には、前記ヒンジ領域の一部が欠失し、一つのシステイン(Cys)残基のみを含むように変異されたものであってもよく、鎖交換(chain exchange)に関与するセリン(Ser)残基をプロリン(Pro)残基で置換されたものであってもよい。より具体的には、前記ヒンジ配列の2番目のセリン残基がプロリン残基で置換されたものであってもよいが、これに制限されない。
【0116】
一例として、本発明のヒンジ領域は、Pro-Pro-Cys-Pro(配列番号31)の配列を含んでもよく、(必須で)構成されたものであってもよく、免疫グロブリンFc領域は、前記配列番号31のヒンジ領域配列を含んでもよいが、これに制限されない。
【0117】
本発明の免疫グロブリンFc領域は、天然型ヒンジ領域または変異されたヒンジ領域を含むことにより、一分子の免疫グロブリンFc領域が共有結合を通じて二量体を形成できるが、これに制限されない。
【0118】
薬物のキャリアとして用いられる免疫グロブリンFc領域は、意図していない免疫反応を引き起こす短所があることが知られている。例えば、抗体依存的細胞傷害(ADCC,antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity)または補体依存的細胞傷害(CDC,complement-dependent cytotoxicity)のようなエフェクター機能(effector function)を有するようになる。このような機能は免疫グロブリンFc領域のFc受容体との結合、補体結合、またはFc領域のグリコシル化(glycosylation)を通じて生じるようになる。また、Fcそのものの生体内の不安定性が発生しやすい。
【0119】
本発明者らは、免疫グロブリンFc領域内ヒンジ領域の配列を置換することにより、このような問題を解決しようとした。具体的には、本発明の免疫グロブリンFc領域は、糖化を調節するために潜在的糖化配列が置換されたものであってもよく、または、鎖交換に関与する配列が置換されたものであってもよく、または、2つの場合の両方に該当してもよい。より具体的には、本発明の酵素融合タンパク質の免疫グロブリンFc領域は、鎖交換が起こらないものであってもよい。
【0120】
具体的には、本発明の免疫グロブリンFc領域は、鎖交換及びN-グリコシル化を防止するために、配列番号8の免疫グロブリンFc領域の2番目のアミノ酸及び/又は71番目のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたものであってもよい。より具体的には、配列番号8の免疫グロブリンFc領域の1)2番目のアミノ酸(セリン)がプロリンで置換されたり、2)71番目のアミノ酸(アスパラギン)がグルタミンで置換されたり、または3)2番目のアミノ酸はプロリンで、71番目のアミノ酸はグルタミンで置換されたものであってもよく、具体的には、配列番号9のアミノ酸配列で表される免疫グロブリンFc領域であってもよいが、これに制限されない。前記言及された変異以外にも治療学的酵素の安定性を増大させる、薬物のキャリアとして適した変異を含有し得る。
【0121】
具体的には、前記免疫グロブリンFc領域は、免疫グロブリンIgG4 Fcのヒンジ領域がIgG1ヒンジ領域で置換されたものあってもよいが、これに制限されない。
【0122】
本発明の一実施例では、免疫グロブリンFcの2番目のアミノ酸はプロリンで、71番目のアミノ酸はグルタミンで置換し、鎖交換及びN-グリコシル化が減少するようにした(実施例1)。
【0123】
本発明の用語、「鎖交換(chain exchange)」とは、IgG4 Fcをタンパク質融合体のキャリアとして使用時に、生体内に存在するIgG4とハイブリッドを形成したり単量体として存在して本来の構造を変更させて治療学的に低い活性を有する構造を有するようになる問題を意味することであり、タンパク質が融合された融合タンパク質である、タンパク質融合体を治療用目的で使用時に大きな困難があることが報告された(van der Neut Kolfschoten, et at., Science, 317:1554-1557. 2007)。
【0124】
また、他の具体的な様態において、本発明の免疫グロブリンFc領域は、天然型アミノ酸配列だけでなくこの配列誘導体を含む。アミノ酸配列誘導体とは、天然アミノ酸配列中の一つ以上のアミノ酸残基が置換(substitution)、追加(addition)、除去(deletion)、修飾(modification)及びこれらの組合わせからなる群から選択された変異が起きたことを意味する。
【0125】
例えば、IgG Fcの場合、結合に重要であることが知られている214~238、297~299、318~322又は327~331番目のアミノ酸残基が修飾に適した部位として用いられてもよい。
【0126】
また、ジスルフィド結合を形成する部位が除去された誘導体、天然FcからN末端のいくつかのアミノ酸が欠失された誘導体、天然FcのN末端にメチオニン残基が付加された誘導体など、様々な誘導体が用いられる。さらに、エフェクター機能をなくすために、補体結合部位、例えばC1q結合部位が除去されてもよく、ADCC(antibody dependent cell mediated cytotoxicity)部位が除去されてもよい。このような免疫グロブリンFc領域の配列誘導体を作製する技術は、国際特許公開第WO97/34631号、国際特許公開第96/32478号などに開示されている。
【0127】
分子の活性を全体的に変化させないタンパク質及びペプチドにおけるアミノ酸交換は、当該分野で公知である(H.Neurath, R.L.Hill, The Proteins, Academic Press, New York, 1979)。最も一般的な交換は、アミノ酸残基Ala/Ser、Val/Ile、Asp/Glu、Thr/Ser、Ala/Gly、Ala/Thr、Ser/Asn、Ala/Val、Ser/Gly、Thy/Phe、Ala/Pro、Lys/Arg、Asp/Asn、Leu/Ile、Leu/Val、Ala/Glu、Asp/Gly間の交換である。場合によっては、リン酸化(phosphorylation)、硫酸化(sulfation)、アクリル化(acrylation)、グリコシル化(glycosylation)、メチル化(methylation)、ファルネシル化(farnesylation)、アセチル化(acetylation)、アミド化(amidation)などにより修飾(modification)されてもよい。
【0128】
また、前述したFc誘導体は、本発明のFc領域と同等の生物学的活性を示し、Fc領域の熱、pHなどに対する構造的安定性を向上させたものであってもよい。
【0129】
また、このようなFc領域は、ヒトや、ウシ、ヤギ、ブタ、マウス、ウサギ、ハムスター、ラット、モルモットなどの動物の生体内から分離した天然のものから得てもよく、形質転換された動物細胞もしくは微生物から得られた組換えたもの又はその誘導体であってもよい。ここで、天然のものから得る方法は、全免疫グロブリンをヒト又は動物の生体から分離し、その後タンパク質分解酵素で処理することにより得る方法であってもよい。パパインで処理するとFab及びFcに切断され、ペプシンで処理するとpF’c及びF(ab)2に切断される。これらは、サイズ排除クロマトグラフィー(size-exclusion chromatography)などを用いてFc又はpF’cを分離することができる。より具体的な実施形態において、ヒト由来のFc領域は、微生物から得られた組換え免疫グロブリンFc領域である。
【0130】
また、免疫グロブリンFc領域は、天然糖鎖、天然のものに比べて増加した糖鎖、天然のものに比べて減少した糖鎖、又は糖鎖が除去、または非グリコシル化された形態であってもよい。このような免疫グロブリンFc糖鎖の増減又は除去には、化学的方法、酵素学的方法、微生物を用いた遺伝工学的手法などの通常の方法が用いられてもよい。ここで、Fcから糖鎖が除去された免疫グロブリンFc領域は、補体(c1q)との結合力が著しく低下し、抗体依存性細胞傷害又は補体依存性細胞傷害が低減又は除去されるので、生体内で不要な免疫反応を誘発しない。このようなことから、糖鎖が除去されるか、非グリコシル化された免疫グロブリンFc領域は、薬物のキャリアとしての本来の目的に適する。
【0131】
本発明の用語「糖鎖の除去(Deglycosylation)」とは、酵素で糖を除去したFc領域を意味し、非グリコシル化(Aglycosylation)とは、原核生物、より具体的な実施形態においては大腸菌で産生されてグリコシル化されていないFc領域を意味する。
【0132】
一方、免疫グロブリンFc領域は、ヒト起源、又はウシ、ヤギ、ブタ、マウス、ウサギ、ハムスター、ラット、モルモットなどの動物起源であってもよく、より具体的な実施形態においてはヒト起源である。
【0133】
また、免疫グロブリンFc領域は、IgG、IgA、IgD、IgE、IgM由来のものであってもよく、それらの組み合わせ(combination)又はそれらのハイブリッド(hybrid)によるFc領域であってもよい。より具体的な実施形態においては、ヒト血液に最も豊富なIgG又はIgM由来のものであり、さらに具体的な実施形態においては、リガンド結合タンパク質の半減期を延長させることが知られているIgG由来のものである。より具体的な実施形態において前記免疫グロブリンFc領域はIgG4 Fc領域であり、一層具体的な実施形態において、前記免疫グロブリンFc領域はヒトIgG4由来の非グリコシル化されたFc領域であり、最も具体的な実施形態において、前記免疫グロブリンFc領域のアミノ酸配列は配列番号9であり、これをコードするポリヌクレオチド配列は配列番号7であってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0134】
一方、本発明において「組み合わせ(combination)」とは、二量体又は多量体を形成する時、同一起源の単鎖免疫グロブリンFc領域をコードするポリペプチドが相違する起源の単鎖ポリペプチドと結合を形成することを意味する。即ち、IgG Fc、IgA Fc、IgM Fc、IgD Fc及びIgEのFc断片からなるグループから選択された2個以上の断片から二量体又は多量体の製造が可能である。
【0135】
また、本発明の治療学的酵素または酵素融合タンパク質はN末端及び/又はC末端が変形されていないものであってもよいが、生体内のタンパク質切断治療学的酵素から保護し、安定性を増加させるために、そのN末端及び/又はC末端などが化学的に修飾されたり有機基で保護されたり、またはペプチド末端などにアミノ酸が追加されて変形された形態も本発明による治療学的酵素または酵素融合タンパク質の範疇に含まれる。C末端が変形されていない場合、本発明による治療学的酵素または酵素融合タンパク質の末端はカルボキシル基を有するが、特にこれに制限されるものではない。
【0136】
特に、化学的に合成したタンパク質の場合、N及びC末端が電荷を帯びているため、このような電荷を除去するために、N末端をアセチル化(acetylation)及び/又はC末端をアミド化(amidation)できるが、特にこれに制限されない。
【0137】
本発明の用語、「N末端」とは、タンパク質またはポリペプチドのアミノ末端を意味することであり、アミノ末端の最末端、または最末端から1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個または10個以上のアミノ酸まで含むものであってもよい。本発明の免疫グロブリンFc領域は、ヒンジ配列をN末端に含んでもよいが、これに制限されない。
【0138】
本明細書において特に指すところがなければ、本発明による「酵素」または「融合タンパク質」に関する明細書の詳細な説明や請求の範囲の技術は、当該酵素または融合タンパク質はもちろん、当該酵素または融合タンパク質の塩(例えば、前記融合タンパク質の薬学的に許容可能な塩)、またはこの溶媒和物の形態をいずれも含む範疇にも適用される。従って、明細書に「酵素」または「融合タンパク質」とだけ記載されていても当該記載内容はその特定塩、その特定溶媒和物、その特定塩の特定溶媒和物にも同様に適用される。このような塩形態は、例えば、薬学的に許容される任意の塩を用いた形態であってもよい。前記塩の種類は特に制限されない。ただし、個体、例えば、哺乳類に安全で効果的な形態であることが好ましいが、特にこれに制限されるものではない。
【0139】
前記用語「薬学的に許容される」とは、医薬学的判断の範囲内で、過度な毒性、刺激、又はアレルギー反応などを誘発することなく所望の用途に効果的に使用可能な物質を意味する。
【0140】
本発明の用語「薬学的に許容される塩」とは、薬学的に許容される無機酸、有機酸、又は塩基から誘導された塩を含む。適した酸の例としては、塩酸、臭素酸、硫酸、硝酸、過塩素酸、フマル酸、マレイン酸、リン酸、グリコール酸、乳酸、サリチル酸、コハク酸、トルエン-p-スルホン酸、酒石酸、酢酸、クエン酸、メタンスルホン酸、ギ酸、安息香酸、マロン酸、ナフタレン-2-スルホン酸、ベンゼンスルホン酸などを挙げることができる。適した塩基から誘導された塩はナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、マグネシウムなどのアルカリ土類金属、及びアンモニウムなどを含んでもよい。
【0141】
また、本発明の用語「溶媒和物」とは、本発明による酵素、融合タンパク質又はその塩が溶媒分子と複合体を形成したことをいう。
【0142】
本発明の酵素融合タンパク質は、当業界の公知となった方法で製造されてもよい。
【0143】
本発明の酵素融合タンパク質を製造する一つの例としては、治療学的酵素であるアルファガラクトシダーゼ(alpha-galactosidase)をペプチドリンカー-免疫グロブリンFcと融合された形態で発現する組換えベクターを製造し、これを細胞株で発現させることであってもよいが、これに制限されず、本明細書で記述された方法以外にも、公知となった他の方法により製造されてもよい。本発明の酵素融合タンパク質は、配列番号13のアミノ酸配列を含んでもよいが、これに制限されるものではない。
【0144】
本発明による酵素融合タンパク質は、治療学的酵素と免疫グロブリンFc領域を融合させ、治療学的酵素の活性を維持しながら、体内安定性を高めることにより治療学的酵素の半減期を増加させることができる。特に、変異された免疫グロブリンFc領域と融合された治療学的酵素は、鎖交換及びグリコシル化が弱化し、Fc領域と融合されていない治療学的酵素に比べてリソソーム受容体に対する結合力が低く、高い持続性を有することができ、これは、目的とする疾患の治療において、有用な効果を奏することである。
【0145】
以上の内容は、本発明の他の具体例あるいは他の様態にも適用され得るが、これに制限されるものではない。
【0146】
本発明の薬学的組成物は、前記酵素融合タンパク質を薬理学的有効量で含み、選択的に、薬学的に許容される賦形剤をさらに含む、ファブリー病に起因する又は伴う腎臓疾患の予防または治療用薬学的組成物であってもよい。
【0147】
本発明による組成物は、治療学的酵素の生体内持続性及び安定性が増加したことを特徴とする。
【0148】
本発明のアルファガラクトシダーゼを含む酵素融合タンパク質は、アルファガラクトシダーゼの欠陥により腎臓組織で蓄積されるlyso-Gb3の水準を減少させることができ、これにより本発明の酵素融合タンパク質がlyso-Gb3蓄積による腎臓疾患(例えば、腎炎、線維症、腎不全など)の治療に利用できることを確認した。
【0149】
本発明による薬学的組成物は、ファブリー病に起因する又は伴う腎臓疾患に対する予防または治療効果を奏するものであってもよい。
【0150】
アルファガラクトシダーゼの欠陥または不足によりファブリー病患者で現れる腎臓内のGb3及びlyso-Gb3の蓄積とそれにより発生する多様な腎臓疾患に対し、本発明によるアルファガラクトシダーゼを含む融合タンパク質の投与により予防、改善、または治療効果を得ることができる。具体的には、本発明の酵素融合タンパク質は、腎臓内のlyso-Gb3含量の減少、炎症及び線維化抑制効果を有するため、Gb3及びlyso-Gb3蓄積、炎症及び線維化により発病する腎臓疾患に対して予防、改善、または治療効果を奏することができる。
【0151】
本発明において、腎臓疾患は腎臓細胞または組織、または腎臓関連器官が様々な原因により損傷し、機能を喪失することを意味し、本発明ではファブリー病に起因する又は伴う、またはファブリー病に起因して伴う腎臓疾患を意味することであってもよく、具体的には、アルファガラクトシダーゼの欠陥または不足によるGb3及びlyso-Gb3蓄積により発生する腎臓疾患を意味することであってもよいが、これに限定されない。腎臓疾患の具体的な例としては、腎臓炎、糸球体腎炎(glomerulonephritis)、ネフローゼ症候群(nephrotic syndrome)、腎盂腎炎(nephropyelitis)、腎線維症(kidney fibrosis)、慢性腎不全(Chronic kidney disease)、腎不全(renal failure)、及び腎障害(renal impairment)を挙げることができるが、これに限定されない。
【0152】
本発明の酵素融合タンパク質は、腎臓で発生する炎症を抑制し、改善することにより、予防または治療効果を奏するものであってもよい。本発明の実施例では、本発明の酵素融合タンパク質によりlyso-Gb3またはGb3の腎臓組織内のレベルが減少することを確認しただけでなく、炎症のマーカーであるTNF-α、IL-6、RANTES、及び/またはTNFR1の発現が減少したり、分泌が抑制されることを確認したため、炎症が発生した個体において、本発明による酵素融合タンパク質は、抗炎効果、特にファブリー病に起因する又は、ファブリー病に伴う炎症に対する抑制効果を有する(実施例4)。特に、腎臓で発生した炎症に対する抑制効果を奏することができるが、サイトカインの発現及び/又は分泌の減少を通じて抗炎効果を奏する限り、特定の組織や臓器などに制限されるものではない。
【0153】
本発明において用語「炎症(inflammation)」とは、Gb3及びlyso-Gb3の蓄積によるものであり、リポ多糖(LPS)を認識して活性化されるTLR4媒介性炎症反応が主流を成している。ファブリー病により蓄積されるGb3及びlyso-Gb3はLPSと構造的に類似してTLR4を活性化させることが知られており、臓器に蓄積されたGb3及びlyso-Gb3によりTLR4媒介性炎症反応が誘導されて炎症性サイトカインを発現する。
【0154】
腎臓で発生する炎症による疾病の具体的な例としては、腎臓炎、糸球体腎炎、ネフローゼ症候群、腎盂腎炎などが挙げられるが、ファブリー病に起因する又は伴う腎臓で発生する炎症である限り、これに制限されるものではない。
【0155】
本発明の薬学的組成物は、前記酵素融合タンパク質を含みファブリー病に起因する又は伴う腎臓線維症の予防または治療効果を奏するものであってもよい。
【0156】
本発明において用語「線維症(fibrosis)」とは、人体内で組織が様々なストレス(感染、化学的刺激、放射線など)による炎症反応により損傷を受けた後、創傷治癒(wound healing)の過程中に正常な統制が不可能な状態であり、再生(reparative)や反応過程で、器官や組織に過度な線維性結合組織が形成されることを意味し、器官や組織で形成される正常な線維組織の形成とは対照的である。本願において「線維症」は「線維化」と混用され得る。本発明において、線維症はファブリー病に起因する又は、ファブリー病に伴って現れる腎臓線維症であってもよい。ファブリー病の患者では、アルファガラクトシダーゼの欠陥によりlyso-Gb3が分解されずに蓄積されることにより、腎臓で線維化が現れることが知られている。
【0157】
本発明の酵素融合タンパク質は、酵素補充療法の治療に用いられるところ、アルファガラクトシダーゼの結合によるファブリー病に起因する又は、または伴う腎線維症の予防または治療的効果を奏することができる。
【0158】
前記腎線維症は、腎性全身性線維症(nephrogenic systemic fibrosis,NSF)、及び嚢胞性線維症などがこれに属するが、本発明の組成物で予防または治療される腎線維症は制限なく含まれる。
【0159】
本発明において用語「腎線維症(kidney fibrosis)」とは、腎臓組織で発生する過多な炎症反応、上皮細胞の線維細胞化のような原因により腎臓組織が線維化されて腎臓機能を喪失する症状を意味する。本発明による酵素融合タンパク質は炎症及び線維化を抑制できるため、腎線維症に対する予防または治療効果を奏することができる。本発明の目的上、前記腎線維症は腎臓に蓄積されるGb3及びlyso-Gb3を一つの原因とすることができるが、これに制限されない。
【0160】
具体的には、本発明の酵素融合タンパク質またはこれを含む薬学的組成物は、投与時に下記特性中の一つ以上を有するものであってもよい。
【0161】
(i)lyso-Gb3またはGb3の腎臓組織内レベルの減少;
(ii)TIMP-1(tissue inhibitor of metalloproteinase-1)の腎臓組織内レベルの減少;
(ii)collagen type1 α1の腎臓組織内レベルの減少;
(iv)α-SMA(alpha-smooth muscle actin)の腎臓組織内レベルの減少;及び
(v)腎臓組織内の可溶性コラーゲン(soluble collagen)及び不溶性コラーゲン(insoluble collagen)含量の減少。
【0162】
TIMP-1、collagen type1 α1、及びα-SMAはいずれも線維化水準を示す指標であり、酵素融合タンパク質の投与によりその発現水準が減少したことは、酵素融合タンパク質の線維化抑制効果を意味する。また、酵素融合タンパク質の投与により腎臓組織内の可溶性コラーゲン及び不溶性コラーゲン含量が減少した事実も線維化反応を抑制することを意味するため、腎線維症の予防または改善効果を意味する。
【0163】
本発明において、前記腎線維症は炎症を伴うか、炎症に起因するものであってもよいが、これに制限されない。組織の線維化は、反復的な炎症反応が主な原因であるため、本発明の腎線維症は炎症に起因する又は炎症を伴い得る。
【0164】
具体的には、本発明の酵素融合タンパク質またはこれを含む薬学的組成物は、投与時に下記特性中の一つ以上を有するものであってもよい。
【0165】
(i)TNF-αの腎臓組織内レベルの減少;
(ii)IL-6の腎臓組織内レベルの減少;
(iii)RANTESの腎臓組織内レベルの減少及び
(iv)TNFR1の血中濃度の減少。
【0166】
TNF-α、IL-6、RANTES、及びTNFR1は全て炎症を確認する指標であり、本発明の酵素融合タンパク質の投与による前記指標の減少は、酵素融合タンパク質の炎症改善または抗炎効果を意味する。
【0167】
このように、本発明による酵素融合タンパク質またはこれを含む組成物は、腎臓で炎症改善または抗炎効果を奏しながら線維症改善効果を同時に奏し得るため、抗炎及び線維症予防または改善効果を有するだけでなく、炎症及び線維化が共に現れる疾患を有する個体でも優れた治療効果を奏することができる。
【0168】
特に、ファブリー病は病気の進行により腎臓で炎症及び線維化が起きるため、本発明による酵素融合タンパク質の投与により初期段階のファブリー病を治療し、病気の進行を防ぐことができる治療剤として利用できる。特に、本発明の一実施例によると、公知となったファブリー病の治療剤(アガルシダーゼベータ)に比べて優れた炎症及び線維化抑制効果を奏するため、本発明の酵素融合タンパク質はファブリー病に起因する又は伴う線維症の有用な治療剤として活用できる(実施例4及び5)。
【0169】
一方、腎臓における炎症と線維化により慢性腎臓疾患、腎障害、腎不全などにつながり、深刻な腎臓機能の損傷が引き起こされることが知られている。本発明の酵素融合タンパク質は炎症及び線維化抑制を通じて慢性腎臓疾患、腎不全などにつながるファブリー病の後期段階への進行を防ぐことができる利点がある。
【0170】
本発明の腎臓疾患は腎臓の炎症及び線維化による腎臓疾患、具体的には、腎不全、腎障害などを含むことができるが、これに制限されるものではない。
【0171】
本発明において用語「腎不全(renal failure)」は腎臓が損傷し、機能を喪失する疾患であり、慢性と急性に区別できる。慢性腎不全(慢性腎疾患、Chronic kidney disease(CKD))は、長期間にわたって腎臓機能が消失して回復が困難な疾患であり、腎臓の炎症及び線維化が長く続き、腎臓損傷及び機能低下により発症し得る。本発明の酵素融合タンパク質は、炎症及び線維化を抑制することにより腎不全の予防または治療効果を奏することができる。
【0172】
本発明において、「腎障害」は腎機能障害を有する状態を意味し、深刻な程度により軽症腎障害(mild renal impairment)、中等度腎機能障害(moderate renal impairment)、または重症腎障害(severerenal impairment)に区別できるが、これに制限されるものではない。本発明の酵素融合タンパク質は、炎症及び線維化を抑制することにより、腎機能の回復を助け、腎障害の予防または治療効果を奏することができる。
【0173】
本発明において用語「予防」とは、前記酵素融合タンパク質またはこれを含む組成物の投与によりファブリー病に起因する又は伴う腎臓疾患を抑制または遅延させる全ての行為を意味し、「治療」とは、前記酵素融合タンパク質またはこれを含む組成物の投与によりファブリー病に起因する又は伴う腎臓疾患の症状が好転したり有益になった全ての行為を意味する。
【0174】
本発明において用語「投与」とは、任意の適切な方法で患者に所定の物質を導入することを意味し、前記組成物の投与経路は特にこれに制限されないが、前記組成物が生体内標的に到達できる任意の一般的な経路を通じて投与され、例えば、腹腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、経口投与、局所投与、鼻内投与、肺内投与、直腸内投与などになり得る。しかし、経口投与時にペプチドは消化されるため、経口用組成物は、活性薬剤をコーティングしたり胃腸における分解から保護されるように剤形化することが好ましい。具体的には、注射剤の形態で投与されてもよい。また、薬学的組成物は、有効成分が標的細胞に移動できる任意の装置により投与されてもよい。
【0175】
本発明の組成物の総有効量は、単回投与量(single dose)で患者に投与してもよく、複数回投与量(multiple dose)で長期間投与する分割治療方法(fractionated treatment protocol)により投与してもよい。本発明の薬学的組成物は、疾患の程度に応じて有効成分の含有量を変えてもよい。具体的には、本発明の融合タンパク質の総用量は、1日体重1kg当たり約0.0001mg~500mgであることが好ましい。しかし、前記融合タンパク質の用量は、薬学的組成物の投与経路及び治療回数だけでなく、患者の年齢、体重、健康状態、性別、疾患の重症度、食餌、排泄率などの様々な要因を考慮して患者に対する有効投与量が決定されるので、これらを考慮すると、当該分野における通常の知識を有する者であれば、前記本発明の組成物の特定の用途に応じた適切な有効投与量を決定することができるであろう。本発明による薬学的組成物は、本発明の効果を奏するものであれば、その剤形、投与経路及び投与方法が特に限定されるものではない。
【0176】
本発明の酵素融合タンパク質の実際の投与量は、治療する疾患、投与経路、患者の年齢、性別及び体重、及び疾患の重症度などの種々の関連因子とともに、活性成分である治療学的酵素の種類に応じて決定される。本発明の酵素融合タンパク質は血中持続性と生体内活性に非常に優れるため、本発明の酵素融合タンパク質を含む薬学的組成物の投与量、投与回数及び頻度を顕著に減少させることができる。
【0177】
具体的には、本発明の酵素融合タンパク質は安定性が高く、持続性が増加したものであり、融合タンパク質の形態ではなく酵素に比べて長い時間酵素活性を維持できる。本発明の一実施例では、前記酵素融合タンパク質は投与後に長時間臓器で維持できるだけでなく、特に腎臓組織に長く分布できることを確認した(実施例2)。これにより、本発明による酵素融合タンパク質は、腎臓組織の標的性が融合タンパク質ではなく酵素に比べて増加したものであってもよく、治療のために目標とする標的組織において持続的な露出を通じて優れた薬理効果を奏することができる。
【0178】
本発明による酵素融合タンパク質は投与後、長時間組織で一定水準以上の濃度を維持できるだけでなく、特定組織、特に腎臓で高い分布度を示し、当該組織を標的とする疾患の治療に有用に利用できる。本発明の一実施例でも投与回数を減らしてアルファガラクトシダーゼ遺伝子欠損マウスに酵素融合タンパク質を投与した場合に、融合タンパク質ではなく、酵素と同等であるか、またはさらに優れた治療効果を奏することを確認した。これについて、前記酵素融合タンパク質は、これを必要とする個体に投与される回数が融合タンパク質ではなく酵素に比べて減少したものであってもよいが、これに制限されない。
【0179】
前記融合タンパク質の形態ではない酵素は、本発明の酵素融合タンパク質とは異なって、キャリア(例えば、免疫グロブリンFc領域)が結合していない酵素そのものを意味し得、その例としてはFabrazyme(登録商標)(アガルシダーゼベータ)を挙げることができるが、これに制限されない。
【0180】
具体的には、本発明による酵素融合タンパク質は、患者体重1kg当たり約0.0001μg~500mg、具体的には患者体重1kg当り、約0.001mg~100mg、具体的には0.01mg~50mg、より具体的に約0.1mg~10mgであり、1週に1回、2週に1回、4週に1回、または1カ月に1回投与されるものであってもよく、投与間隔が増えても体内で酵素融合タンパク質の薬理活性が維持されるため、患者の利便性を高めることができる。
【0181】
本発明による薬学的組成物は、薬学的に許容可能な担体、賦形剤または希釈剤をさらに含み得る。このような担体は、非自然的に存在するものであってもよい。
【0182】
本発明において用語「薬学的に許容可能な」とは、治療効果を発揮する程度の十分な量と副作用を起こさないことを意味し、疾患の種類、患者の年齢、体重、健康状態、性別、薬物に対する感受性、投与経路、投与方法、投与回数、治療期間、配合、または同時用いられる薬物などの医学分野における公知の要素により当業者が容易に決定することができる。
【0183】
薬学的に許容される担体は、経口投与時には、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、賦形剤、可溶化剤、分散剤、安定化剤、懸濁化剤、色素及び香料などを用いることができ、注射剤の場合には、緩衝剤、保存剤、無痛化剤、可溶化剤、等張化剤及び安定化剤などを混合して用いることができ、局所投与用の場合には、基剤、賦形剤、潤滑剤及び保存剤などを用いることができる。
【0184】
本発明の薬学的組成物の剤形は、上述したような薬学的に許容される担体と混合して多様に製造され得る。例えば、経口投与時には、錠剤、トローチ、カプセル、エリキシル、サスペンション、シロップ及びウェハなどの形態に製造することができ、注射剤の場合には、単位投薬アンプルまたは多数回投薬の形態に製造することができる。それ以外にも溶液、懸濁液、錠剤、丸薬、カプセル及び徐放型製剤などに剤形化することができる。
【0185】
一方、製剤化に適した担体、賦形剤及び希釈剤の例としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、澱粉、アカシア、アルギネート、ゼラチン、カルシウムホスフェート、カルシウムシリケート、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、マグネシウムステアレートまたは鉱物油などが用いられる。また、充填剤、抗凝集剤、潤滑剤、湿潤剤、香料、乳化剤及び防腐剤などをさらに含んでもよい。
【0186】
また、前記酵素融合タンパク質は、生理食塩水や有機溶媒のように薬剤に許容される様々な担体(carrier)と混合して用いることができ、安定性や吸収性を向上させるために、グルコース、スクロース、デキストランなどの炭水化物、アスコルビン酸(ascorbic acid)、グルタチオンなどの抗酸化剤(antioxidants)、キレート剤、低分子タンパク質、他の安定化剤(stabilizers)などを薬剤として用いることができる。
【0187】
これに制限されないが、本発明の前記薬学的組成物は、前記成分(有効成分)を0.01~99%重量対体積で含有することができる。
【0188】
本発明を具現するもう一つの様態は、前記酵素融合タンパク質またはこれを含む組成物を個体に投与する段階を含むファブリー病に起因する又は伴う腎臓疾患の予防または治療方法を提供する。
【0189】
前記酵素融合タンパク質、組成物、腎臓疾患、予防及び治療については、前述した通りである。
【0190】
本発明の酵素融合タンパク質は、ファブリー病に起因する又は伴う腎臓疾患を予防または治療できる治療学的酵素を含むため、酵素融合タンパク質、または前記酵素融合タンパク質を含有する薬学的組成物の投与により、ファブリー病に起因する又は伴う腎臓疾患が疑われる個体で予防または治療することができる。
【0191】
本発明の用語、「個体」とは腎臓疾患が疑われる個体であり、前記腎臓疾患の疑いのある個体は、当該疾患が発病しているか、または発病し得るヒトを含むラット、家畜などを含むほ乳動物を意味するが、本発明の酵素融合タンパク質あるいはこれを含む前記組成物で治療可能な個体は制限なく含まれる。特に、前記個体はファブリー病が発病しているか、またはファブリー病の発病リスクが高い個体であってもよいが、ファブリー病と関連して腎臓疾患が発病しているか、または発病し得る個体であれば、制限なく本発明の範疇に含まれる。
【0192】
本発明の方法は、酵素融合タンパク質を含む薬学的組成物を薬学的有効量で投与することを含んでもよい。適した総1日使用量は正しい医学的判断の範囲内で処置医により決定され、1回又は数回に分けて投与できる。しかし、本発明の目的上、特定患者に対する具体的な治療的有効量は、達成しようとする反応の種類と程度、場合によって他の製剤が用いられるかどうかをはじめとする具体的な組成物、患者の年齢、体重、一般健康状態、性別及び食事、投与時間、投与経路及び組成物の分泌率、治療期間、具体的な組成物と共に用いられたり同時に用いられる薬物をはじめとする多様な因子と医薬分野によく知られている類似因子により異なって適用することが好ましい。
【0193】
投与経路、投与用量及び用法については、前述した通りである。
【0194】
一方、これに制限されないが、前記線維症の予防または治療方法は、一つ以上の腎臓疾患に対する治療的活性を有する化合物または物質を投与することをさらに含む併用療法であってもよい。
【0195】
本発明の用語「併用」は、同時、個別または順次投与を示すことと理解されなければならない。前記投与が順次または個別の場合、2次成分の投与の間隔は、前記併用の有益な効果を失わないようにするものでなければならない。
【0196】
本発明を具現する他の様態は、前記酵素融合タンパク質、またはこれを含む組成物のファブリー病に起因する又は伴う腎臓疾患の予防または治療用途を提供する。
【0197】
前記酵素融合タンパク質、組成物、腎臓疾患、予防及び治療については、前述した通りである。
【0198】
本発明を具現する他の様態は、前記酵素融合タンパク質、またはこれを含む組成物のファブリー病に起因する又は伴う腎臓疾患に対する予防または治療用薬剤(あるいは薬学的組成物)を製造するための用途を提供する。
【0199】
前記酵素融合タンパク質、組成物、腎臓疾患、予防及び治療については、前述した通りである。
【0200】
本発明を具現するもう一つの態様は、前記酵素融合タンパク質を含む抗炎組成物であってもよい。
【0201】
前記酵素融合タンパク質、組成物、腎臓疾患、予防及び治療については、前述した通りである。
【0202】
本発明の酵素融合タンパク質は、(i)TNF-αの腎臓組織内レベルの減少;(ii)IL-6の腎臓組織内レベルの減少;(ii)RANTESの腎臓組織内レベルの減少;及び/または(iv)TNFR1の血中濃度の減少により炎症を緩和、改善する抗炎症効果を有することができるが、これに限定されない。
【0203】
本発明の酵素融合タンパク質は、腎臓内のGb3及びlyso-Gb3の蓄積により発生する炎症反応を抑制することにより、抗炎効果を奏することができる。
【0204】
具体的には、本発明による酵素融合タンパク質を含む抗炎組成物は、ファブリー病に起因する又は伴う炎症を予防または治療するための薬学的組成物であってもよいが、これに制限されない。
【0205】
酵素融合タンパク質、及びこれによる抗炎症効果、及び薬学的組成物は前述した通りである。
【0206】
本発明を具現するもう一つの態様は、前記酵素融合タンパク質またはこれを含む組成物をこれを必要とする個体に投与する段階を含む、ファブリー病に起因する又は伴う炎症の予防または治療方法を提供する。
【0207】
前記酵素融合タンパク質又はこれを含む組成物、及び炎症については、前述した通りである。
【0208】
本発明において用語「予防」とは、前記酵素融合タンパク質又はこれを含む組成物の投与によりファブリー病に起因する又は伴う炎症を抑制又は遅延させる全ての行為を意味し、「治療」とは、前記酵素融合タンパク質又はこれを含む組成物の投与によりファブリー病に起因する又は伴う炎症が好転したり有益となった全ての行為を意味する。
【0209】
本発明において用語「投与」とは、任意の適切な方法で患者に所定の物質を導入することを意味し、前記組成物の投与経路は特にこれに制限されないが、前記組成物が生体内標的に到達できる任意の一般的な経路を通じて投与され、例えば腹腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、経口投与、局所投与、鼻内投与、肺内投与、または直腸内投与などが挙げられる。
【0210】
本発明において前記個体とは、炎症が疑われる個体であり、前記炎症の疑いのある個体は、当該疾患が発病しているか、または発病し得るヒトを含むラット、家畜などを含む哺乳動物を意味するが、本発明の酵素融合タンパク質あるいはこれを含む前記組成物で治療可能な個体は制限なく含まれる。特に、前記個体はファブリー病が発病しているか、またはファブリー病の発病危険が高い個体であってもよいが、ファブリー病と関連して炎症が発病しているか、または発病し得る個体であれば、制限なく本発明の範疇に含まれる。
【0211】
本発明の方法は、酵素融合タンパク質を含む薬学的組成物を薬学的有効量で投与することを含んでもよい。適した総1日使用量は正しい医学的判断の範囲内で処置医により決定され、1回又は数回に分けて投与できる。しかし、本発明の目的上、特定患者に対する具体的な治療的有効量は、達成しようとする反応の種類と程度、場合によって他の製剤が用いられるかどうかをはじめとする具体的な組成物、患者の年齢、体重、一般健康状態、性別及び食事、投与時間、投与経路及び組成物の分泌率、治療期間、具体的な組成物と共に用いられたり同時に用いられる薬物をはじめとする多様な因子と医薬分野によく知られている類似因子により異なって適用することが好ましい。前記酵素融合タンパク質の投与用量及び用法については、前述した通りである。
【0212】
本発明を具現するもう一つの態様は、前記酵素融合タンパク質またはこれを含む組成物のファブリー病に起因する又は伴う炎症の予防または治療用途である。
【0213】
本発明を具現するもう一つの態様は、前記酵素融合タンパク質またはこれを含む組成物のファブリー病に起因する又は伴う炎症の予防または治療用薬剤(あるいは薬学的組成物)を製造するための用途である。
【0214】
前記酵素融合タンパク質又はこれを含む組成物、炎症の予防及び治療については、前述した通りである。
【0215】
以下、実施例を通じて本発明をより詳細に説明する。これら実施例は、専ら本発明をより具体的に説明するためのものであり、本発明の範囲がこれら実施例により制限されるものではない。
【0216】
実施例1:アルファガラクトシダーゼFc融合タンパク質(α-galactosidase-Fc)の製作
本発明者らは、逆平行の(anti-parallel)二量体の治療学的酵素を含むアルファガラクトシダーゼ-Fc融合タンパク質(以下、酵素融合タンパク質と混用される)を生産するために、天然型アルファ-ガラクトシダーゼ(alpha-galactosidase)とリンカー(配列番号10)、Fc免疫グロブリン領域(配列番号7)を遺伝子の水準で融合し、発現ベクターに合成した。
【0217】
構築された酵素融合タンパク質の配列中、Fc領域で鎖交換とN-グリコシル化部位(N-glycosylation site)を除去するために、部位特異的変異PCR技法を用いた。
【0218】
具体的には、配列番号1、2のプライマーを用いて鎖交換に関与するFc領域(配列番号8)の2番目のアミノ酸であるセリンをプロリンに代替し、配列番号3、4のプライマーを用いてN-グリコシル化がなされるFc領域の71番目のアミノ酸であるアスパラギンをグルタミンで置換した。
【0219】
【0220】
合成されたアルファガラクトシダーゼFc融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、発現ベクターであるXOGCベクターに制限酵素を用いて挿入した。BamHIとXhoIの制限酵素は、アルファガラクトシダーゼとFc免疫グロブリン領域をいずれも切断しない制限酵素である。前記制限酵素で切断されたアルファガラクトシダーゼ-Fcを同一の制限酵素で切断されたXOGCベクターに挿入してアルファガラクトシダーゼ-Fc融合タンパク質を発現するベクターを完成した。アルファガラクトシダーゼは、免疫グロブリンFc領域が二量体を形成する時、逆平行の二量体を形成するようになる。
【0221】
アルファガラクトシダーゼ-FcのDNA及びタンパク質配列は、下記表2の通りである。下記表2のタンパク質配列において下線は信号配列を、ボールドはアミノ酸が置換された部分を、そしてイタリック体はリンカーを示す。
【表2】
【0222】
前記実施例で製造された酵素融合タンパク質発現ベクターをアルファガラクトシダーゼ-Fcと命名した。
【0223】
実施例2:アルファガラクトシダーゼFc融合タンパク質(α-galactosidase-Fc)の組織分布の確認
アルファガラクトシダーゼ遺伝子欠損マウス(α-Gal AKO, Jackson laboratory Stock No.0035)でアルファガラクトシダーゼ-Fc融合タンパク質(α-galactosidase-Fc)の投薬後、組織内分布図を評価した。
【0224】
具体的には、群1:アルファガラクトシダーゼ-Fc融合タンパク質6.0mg/kg(皮下投与)、群2:アルファガラクトシダーゼA(アガルシダーゼベータ)3.0mg/kg(静脈投与)で準備し、それぞれ注射した後、24、168、240、336、408、504、672時間にそれぞれ臓器を摘出した後、(n=3)酵素活性測定方法により組織(腎臓、脾臓)における物質濃度を測定及び比較した。
【0225】
各組織における酵素活性を測定するために、アルファガラクトシダーゼの基質として知られる4-Methylumbelliferyl α-D-galactopyranoside(4-MU-α-Gal)を37℃で30分間温度安定化させて準備し、その後、基質溶液と組織サンプルを37℃で60分間反応させた。最終的に生成される4-Methylumbelliferone(4-MU)に対する蛍光度を測定することにより、アルファガラクトシダーゼ-Fc融合タンパク質の酵素活性を評価した。統計処理は独立標本T検定(unpaired T test)(**~***p<0.01~0.001)を使用して対照群と試験群間の統計的な有意性を比較した。
【0226】
その結果、アルファガラクトシダーゼ-Fc融合タンパク質投薬グループは、皮下投与後504時間まで組織で投薬された酵素が検出され、特に腎臓でアガラクトシダーゼベータは24時間以降検出されなかったが、アルファガラクトシダーゼ-Fc融合タンパク質は408時間まで安定的な分布を示した(
図1)。
【0227】
群間の組織分布は、腎臓で最大の検出程度の差を示した。腎臓で本発明によるアルファガラクトシダーゼ-Fc融合タンパク質は顕著に高濃度で検出されたが、アガルシダーゼベータは検出されなかった。
【0228】
アルファガラクトシダーゼ-Fc融合タンパク質の組織分布結果を要約すると、下記表3の通りである。
【0229】
【0230】
前記のような実験結果は、アルファガラクトシダーゼ-Fc融合タンパク質が腎臓に高い分布性を示しながら長い時間維持できることを意味する。したがって、アルファガラクトシダーゼ-Fc融合タンパク質の体内組織への伝達後、持続的で長期的な酵素露出によりファブリー病に影響を受ける重要臓器で優れた治療的効力を示すことを示唆する。
【0231】
実施例3:アルファガラクトシダーゼ-Fc融合タンパク質(α-galactosidase-Fc)の投与による生体内(in vivo)効能の確認
アルファガラクトシダーゼ遺伝子欠損マウスでアルファガラクトシダーゼ-Fc融合タンパク質(α-galactosidase-Fc)の投与による効能を確認するために、マウスを4グループで用意した。最初のグループで野生型(WT)マウス(n=6)はアルファガラクトシダーゼ-Fc融合タンパク質賦形剤を投与し、2番目のグループからはアルファガラクトシダーゼ遺伝子欠損マウス(ファブリー疾患マウス;n=7)試験群で、グループ-2:アルファガラクトシダーゼ-Fc融合タンパク質賦形剤の投与、グループ-3:アガルシダーゼベータ1.0mg/kg(2週間1回、静脈投与)、グループ-4:アルファガラクトシダーゼ-Fc融合タンパク質2.0mg/kg(4週間1回、皮下投与)をそれぞれ投与した。20週間の投与が終わった後、腎臓で中性グリコスフィンゴリピド、lyso-Gb3(globotriaosylceramide)の含量を測定し、腎臓組織のタンパク量を測定してlyso-Gb3含量を補正した。
【0232】
腎臓組織でlyso-Gb3の測定のために、腎臓組織ホモジネート(tissue homogenate)の上層液を前処理した後、液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析計(liquid Chromatography Tandem Mass Spectrometer)を用いて定量し、相互比較した。統計処理は、一元配置分散分析(one-way ANOVA)(***p<0.001)を使用し、賦形剤群(対照群)及び試験群間の統計的な有意性を比較した。
【0233】
lyso-Gb
3の含量を測定した結果、
図2で見られるように、アルファガラクトシダーゼ-Fc融合タンパク質群は20週間繰り返し投与後、腎臓組織におけるlyso-Gb
3の減少量が有意に減少することを確認した。lyso-Gb
3の含量減少を通じて、蓄積されたlyso-Gb
3による疾患に対する治療効果を有することを示唆する。
【0234】
実施例4:アルファガラクトシダーゼ-Fc融合タンパク質(α-galactosidase-Fc)の抗炎効果の確認
アルファガラクトシダーゼ-Fc融合タンパク質(α-galactosidase-Fc)の20週間投与による炎症改善効果を確認した。このために、前記実施例3で使用した正常及びファブリー疾患マウス(20週間繰り返し投与)の腎臓組織を利用して炎症反応マーカーTNF-α、IL-6、RANTESのmRNA水準を確認した。具体的には、腎臓組織からRNA抽出キット(Qiagen)を使用してRNAを収穫した後、cDNA合成キットを使用してcDNA合成し、合成されたcDNAを使用して逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)を行った。RT-PCRは、次の特定プライマーで行われた。:
【0235】
【0236】
また、採血を通じて取った血清試料から炎症マーカーであるTNFR1の血中濃度測定をTNFR1エライザ(ELISA)キット(R&D systems)メーカーの指示通りに使用して定量した。統計処理は、一元分散分析(one-way ANOVA)(*~***p<0.05~0.001)または独立標本t検定(unpaired t-test)(#~###p<0.05~0.001)を使用し、賦形剤群(対照群)及び試験群間の統計的な有意性を比較した。
【0237】
その結果、アルファガラクトシダーゼ-Fc融合タンパク質を20週間繰り返し投与時に、対照群であるアルファガラクトシダーゼ遺伝子欠損マウスグループで増加した腎臓組織の炎症が有意に減少したことが確認できた(
図3)。
【0238】
実施例5:アルファガラクトシダーゼ-Fc融合タンパク質(α-galactosidase-Fc)の線維化改善効果の確認
前記の実施例4で確認した炎症改善効果に基づいてアルファガラクトシダーゼ-Fc融合タンパク質を通じた、ファブリー疾患で腎臓の線維化予防効果を評価した。このため、前記実施例3で使用した正常及びファブリー疾患マウス(20週間繰り返し投与)の腎臓組織で線維化マーカーであるTIMP-1、collagen type1 α1及びα-SMA(alpha-smoothmuscle actin)のmRNAの水準を確認した。具体的には、腎臓組織でRNA抽出キット(Qiagen)を使用してRNAを収穫した後、cDNA合成キットを使用してcDNA合成し、合成されたcDNAを使用してRT-PCRを行った。RT-PCRは、次の特定プライマーで行われた。
【0239】
【0240】
また、腎臓組織を利用して可溶性コラーゲン(soluble collagen)と不溶性コラーゲン(insoluble collagen)の含量測定をコラーゲンアッセイキット(Biocolor)マニュアル通りに進めて定量した。統計処理は、一元配置分散分析(one-way ANOVA)(*~***p<0.05~0.001)を使用し、賦形剤群(対照群)及び試験群間の統計的有意性を比較した。
【0241】
その結果、アルファガラクトシダーゼ-Fc融合タンパク質の繰り返し投与時、賦形剤対照群及びファブリー病治療剤として知られたアガルシダーゼベータ投与群に比べ、優れた腎臓組織内線維化の予防及び治療効能を確認することができた(
図4)。
【0242】
前記のような実験結果は、本発明の酵素融合タンパク質であるアルファガラクトシダーゼ-Fc融合タンパク質の高い持続性及び組織標的性によりファブリー病に起因する又は伴う腎臓における炎症及び線維化改善効果に優れていることを示唆する。
【0243】
以上の説明から、本発明が属する技術分野の当業者であれば、本発明がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施されうることが理解できるだろう。これに関連し、以上で記述した実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本発明の範囲は前記詳細な説明よりは、後述する特許請求の範囲の意味及び範囲、そしてその等価概念から導かれるあらゆる変更または変形された形態が本出願の範囲に含まれるものと解釈すべきである。
【配列表】
【国際調査報告】