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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-24
(54)【発明の名称】注意欠陥/多動性障害の新規な治療
(51)【国際特許分類】
   C07D 403/12 20060101AFI20231116BHJP
   A61K 31/513 20060101ALI20231116BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231116BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20231116BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20231116BHJP
   A61P 25/20 20060101ALI20231116BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20231116BHJP
   A61K 31/4458 20060101ALI20231116BHJP
   A61K 31/137 20060101ALI20231116BHJP
   A61K 31/155 20060101ALI20231116BHJP
   A61K 31/165 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
C07D403/12 CSP
A61K31/513
A61P43/00 105
A61P43/00 121
A61P25/00
A61P25/14
A61P25/20
A61P25/18
A61K31/4458
A61K31/137
A61K31/155
A61K31/165
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023528637
(86)(22)【出願日】2021-11-12
(85)【翻訳文提出日】2023-06-22
(86)【国際出願番号】 EP2021081567
(87)【国際公開番号】W WO2022101435
(87)【国際公開日】2022-05-19
(31)【優先権主張番号】2017858.8
(32)【優先日】2020-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】2103400.4
(32)【優先日】2021-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523176196
【氏名又は名称】スリールセータ エーハゥーエッフ
【氏名又は名称原語表記】3Z EHF
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】カールソン,カール エーギル
(72)【発明者】
【氏名】ソルスタインソン,ハラルドゥル
【テーマコード(参考)】
4C063
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C063AA01
4C063BB09
4C063CC29
4C063DD25
4C063EE01
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086BC21
4C086BC42
4C086GA07
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA52
4C086MA55
4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZA05
4C086ZA15
4C086ZA18
4C086ZC41
4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206FA09
4C206FA10
4C206GA19
4C206GA28
4C206HA31
4C206MA02
4C206MA04
4C206MA72
4C206MA75
4C206NA14
4C206ZA02
4C206ZA05
4C206ZA15
4C206ZA18
4C206ZC41
4C206ZC75
(57)【要約】
本発明は、注意欠陥/多動性障害(ADHD)の治療又は予防に使用するための、本明細書でより具体的に定義される式(I)に記載の化合物、又はその薬学的に許容される塩若しくは溶媒和物を提供する。本発明はまた、本発明の化合物を含む薬学的組成物、及び本発明の化合物を使用する治療方法を提供する。
【化1】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
注意欠陥/多動性障害(ADHD)の治療又は予防に使用するための、式(I)に記載の化合物
【化1】
(式中、
、R、及びRが、独立して、H、ハロゲン、C1~4アルキル、C1~4アルキルチオ-、C1~4アルキルオキシ-、及び3~5員の非芳香族炭素環から選択され、前記炭素環が、1つ以上のC1~4アルキルで任意選択的に置換され、
が、H、C(O)H及びC(O)C1~4アルキルから選択され、
但し、R、R、R、及びRが全てHではない)
又はその互変異性体、又はその薬学的に許容される塩若しくは溶媒和物、又はその互変異性体の薬学的に許容される塩若しくは溶媒和物。
【請求項2】
が、メトキシ又はエトキシであり、Rが、F又はClであり、Rが、メチル又はエチルであり、RがHである、請求項1に記載の使用のための化合物。
【請求項3】
前記化合物が、
【化2】
であるか、又はその互変異性体、又はその薬学的に許容される塩若しくは溶媒和物、又はその互変異性体の薬学的に許容される塩若しくは溶媒和物である、請求項1又は2に記載の使用のための化合物。
【請求項4】
前記化合物が、約1μg~1000μg(任意の対イオン又は溶媒の質量を除く)の用量で投与される、請求項1、2、又は3に記載の使用のための化合物。
【請求項5】
前記化合物が、100μg~600μg(任意の対イオン又は溶媒の質量を除く)の用量で投与される、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項6】
前記化合物の用量が、200μg、300μg、400μg、500μg、又は600μg(任意の対イオン又は溶媒の質量を除く)の1日1回用量として投与される、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項7】
前記化合物の用量が、100μg、150μg、200μg、250μg、又は300μg(任意の対イオン又は溶媒の質量を除く)、1日に2回、3回、又は4回の用量で投与される、請求項1~6のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項8】
前記化合物が、1つ以上の更なる療法的介入、例えば、食事療法的介入、心理学的介入、及び/又は薬理学的介入と同時に、連続的に、又は別個に投与される、請求項1~7のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項9】
前記化合物が、メチルフェニデート、デキサンフェタミン、リスデキサンフェタミン、アトモキセチン、及びグアンファシンから選択される1つ以上の更なる薬理学的介入と同時に、連続的に、又は別個に投与される、請求項8に記載の使用のための化合物。
【請求項10】
前記化合物が、ADHDの治療又は予防のための別の医薬を以前に受けている対象に投与され、前記医薬が、睡眠関連の有害事象に起因して中断されたか、又は減薬された、請求項1~8のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項11】
前記化合物が、注意のレベルの障害を伴わない、衝動性及び多動性の挙動を特徴とするADHD(すなわち、「衝動型/多動型」ADHD)を有することが知られているか、若しくは有する疑いがある対象、又は多動性及び衝動性の挙動を伴う、注意のレベルの低下を特徴とするADHD(すなわち、「複合型」ADHD)を有することが知られているか、若しくは有する疑いがある対象に投与される、請求項1~10のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項12】
ADHDの治療又は予防のための方法であって、請求項1、2、又は3に記載の用量の化合物を、ADHDを有することが知られているか、ADHDを有することが疑われるか、又はADHDを発症するリスクがある患者に投与するステップを含む、方法。
【請求項13】
前記患者が、ADHDの治療又は予防のための別の医薬を以前に受けている患者であり、前記医薬が、睡眠関連の有害事象に起因して中断されたか、又は減薬された、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記患者が、注意のレベルの障害を伴わない、衝動性及び多動性の挙動を特徴とするADHD(すなわち、「衝動型/多動型」ADHD)を有することが知られているか、若しくは有する疑いがあるか、又は多動性及び衝動性の挙動を伴う、注意のレベルの低下を特徴とするADHD(すなわち、「複合型」ADHD)を有することが知られているか、若しくは有する疑いがある、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
ADHDの治療又は予防のための医薬の製造のための、請求項1、2、又は3に記載の化合物の使用。
【請求項16】
請求項1、2、又は3に記載の化合物と、1つ以上の更なる薬理学的介入と、食事療法的介入のための説明書及び/又は心理学的介入のための説明書と、を含む、キット。
【請求項17】
ADHDの治療又は予防に使用するための、請求項16に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注意欠陥/多動性障害(ADHD)の治療及び/又は予防に関する。本発明はまた、ADHDの治療及び/又は予防において有用性を見出す投薬レジメン及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
注意欠陥/多動性障害(ADHD)は、注意、多動性、若しくは衝動性のレベルの障害、又はそれらの組み合わせを特徴とする。この状態は、世界中の18歳未満の個人のおよそ5%に影響を及ぼし、症例のおよそ65%が成人期まで症状が持続する。成人におけるADHDの有病率は、世界中でおよそ2.5%であると推定されている(非特許文献1)。
【0003】
ADHDの病因は複雑であり、完全には理解されていない。しかしながら、ドーパミン作動性神経伝達の障害は、ADHD患者の共通の特徴であると考えられている。近年の研究はまた、Latrophilin 3(LPHN3、ADGRL3とも称される)遺伝子における遺伝子変異が、ADHDと強く関連していることも見出している(非特許文献2)。ゼブラフィッシュにおける更なる研究は、ゼブラフィッシュLPHN3ホモログであるlatrophilin3.1(lphn3.1)の下方調節が、多動性を引き起こすことを示している(非特許文献3及び非特許文献4)。これらの研究はまた、lphn3.1の下方調節が異常なドーパミン作動性神経伝達に関連していることを示唆している。
【0004】
ADHDのための確立された治療としては、精神刺激薬(例えば、メチルフェニデート、デキサンフェタミン及びリスデキサンフェタミン)、ノルエピネフリン再取り込み阻害薬(例えば、アトモキセチン)、並びにα2-アドレナリンアゴニスト(例えば、グアンファシン及びクロニジン)等の薬理学的治療が挙げられる。ADHDの治療には、単剤療法として、又は薬理学的治療と組み合わせてのいずれかの非薬理学的療法の使用も含まれ得る。ADHDを有する患者に有益となり得る非薬理学的治療の例としては、認知行動療法(CBT)、食事治療(例えば、補助脂肪酸、及び人工食品色素の除外)、並びに運動プログラムが挙げられる。
【0005】
UK National Institute for Health and Care Excellence(NICE)ガイドライン等の臨床ガイドラインは、小児又は青年期におけるADHDの治療にはメチルフェニデート、アトモキセチン及びデキサンフェタミンの使用を推奨し、成人におけるADHDの治療にはリスデキサンフェタミン又はメチルフェニデートを推奨する。しかしながら、ADHDのためのこのような治療の承認された使用にもかかわらず、それらの限られた有効性及び/又は有害作用に起因して、依然として論争の的となっている(非特許文献5)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Thapar & Cooper,The Lancet,2016,387(10024),1240-1250
【非特許文献2】Arcos-Burgos et al.,2010,Molecular Psychiatry,15,1053-1066
【非特許文献3】Lange et al.Mol Psychiatry 2012,17,946-954
【非特許文献4】Lange et al.,2018,Prog Neuropsychopharm Biol Psych,84,181-189
【非特許文献5】Cortese et al.,2018,The Lancet,Psychiatry,5(9),727-738
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、良好な臨床的忍容性を示す一方で、臨床上の利益を提供するADHDのための更なる治療に対する必要性が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、注意欠陥/多動性障害(ADHD)の治療又は予防に使用するための、式(I)に記載の化合物
【0009】
【化1】
(式中、
、R、及びRが、独立して、H、ハロゲン、C1~4アルキル、C1~4アルキルチオ-、C1~4アルキルオキシ-、及び3~5員の非芳香族炭素環から選択され、上述の炭素環が、1つ以上のC1~4アルキルで任意選択的に置換され、
が、H、C(O)H及びC(O)C1~4アルキルから選択され、
但し、R、R、R、及びRが全てHではない)
又はその互変異性体、又はその薬学的に許容される塩若しくは溶媒和物、又はその互変異性体の薬学的に許容される塩若しくは溶媒和物を提供する。
【0010】
本発明は更に、ADHDの治療又は予防のための方法であって、ある用量の式(I)の化合物を、ADHDを有することが知られているか、ADHDを有することが疑われるか、又はADHDを発症するリスクがある患者に投与するステップを含む、方法を提供する。
【0011】
本願発明者らは、ADHDのゼブラフィッシュ(Danio rerio)モデルにおいて、式(I)の化合物が、Lphn3.1ノックアウトゼブラフィッシュ幼生における多動性及び運動衝動性等のADHD症状を減少させるのに驚くほど効果的であることを見出した。本願発明者らはまた、マウスにおけるスコポラミン誘導性認知機能障害モデルにおいて、式(I)の化合物が、注意及び作業記憶の低下等のADHDと関連する認知障害の改善に驚くほど効果的であることを見出した。本願発明者らはまた、式(I)の化合物が、睡眠断片化、睡眠比、睡眠中の速度、覚醒エピソードの持続時間及び睡眠エピソードの持続時間等の睡眠パラメータに影響を及ぼすことなく、ADHD症状の減少に著しく効果的であることを見出した。
【0012】
本発明はまた、ADHDの治療及び/又は予防のための医薬の製造のための、式(I)に記載の化合物の使用を提供する。
【0013】
本発明は、式(I)に記載の化合物と、1つ以上の更なる薬理学的介入と、食事療法的介入のための説明書及び/又は心理学的介入のための説明書と、を含む、キットを更に提供する。本発明のキットは、ADHDの治療又は予防における用途を見出す。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】Lphn3.1遺伝子のホモ接合性ノックアウトを有するゼブラフィッシュ幼生(本明細書では「Lphn3.1 HOM」と称される)及び野生型Lphn3.1遺伝子を有するゼブラフィッシュ幼生(本明細書では「Lphn3.1 WT」と称される)の速度(mm/秒)の24時間の記録のスペクトログラムを示す。両方の幼生群に、ビヒクル対照(すなわち、試験化合物を含まないDMSO)を投与した。スペクトログラムに示されている灰色の領域は、実験の消灯フェーズを示す(5回の30分間のフェーズ、第1のフェーズは、午後1時30分に開始し、その後、午後10時に開始し、明朝の午前8時に終了する、消灯された10時間の夜期間が続く)。
図2】5回の30分間の点灯フェーズ中にLphn3.1 HOM及びLphn3.1 WT幼生が移動した平均距離の差を示す棒グラフを示す。遺伝子型とビヒクル(すなわちDMSO)との間で、有意な相互作用は観察されなかった(f=1,003、df=1、p=0.317)。Lphn3.1 HOMとLphn3.1 WT幼生との間で、移動した距離に対する遺伝子型の有意な効果が観察された(f=117,67、df=1、p<0.001)。ナイーブ(すなわち、試験化合物又はビヒクル対照のいずれも受けなかった幼生)とDMSO治療された幼生との間で、ビヒクルの有意ではない効果が示された(f=0,222 df=1、p=0.638)。
図3】モキソニジン、アトモキセチン(図3ではトモキセチン塩酸塩と称される)、又はビヒクル対照(すなわち、DMSO)を受けたLphn3.1 HOM幼生が移動した距離の比較を示す。プロット上の破線は、ビヒクル対照による治療後の5回の点灯フェーズにわたってLphn3.1 HOM幼生が移動した平均距離を示す(n=189)。点線は、1μMアトモキセチン塩酸塩による治療後の5回の点灯フェーズにわたってLphn3.1 HOM幼生が移動した平均距離を示す(n=24)。点は、5回の点灯フェーズにわたってLphn3.1 HOM幼生が移動した平均距離に対する、1μM、10μM又は30μMの投薬量でのモキソニジンの効果を示す(n=24)(全てのデータは±SEMで示される)。モキソニジンで治療された幼生とビヒクル対照を受けた幼生との間で、統計的に有意な差が認められた(f=37,276、df=3、p<0.001、第2のラウンド:f=39,637、df=3、p<0.001)。
図4】スコポラミンへの曝露及びドネペジル、アトモキセチン、モキソニジン、又は生理食塩水による治療の後のT-迷路アッセイにおけるマウスの自発的交替(%)を示す。データは、実験群当たりn=10のマウスの平均±SEMとして表される。***P<0.001=ビヒクル/生理食塩水マウスと比較して、ビヒクル/スコポラミンマウスとは有意に異なる(ダネット事後検定を伴う一元配置ANOVA)。
図5】Lphn3.1遺伝子のホモ接合性ノックアウトを有するゼブラフィッシュ幼生(本明細書では「Lphn3.1 HOM」と称される)及び野生型Lphn3.1遺伝子を有するゼブラフィッシュ幼生(本明細書では「Lphn3.1 WT」と称される)の速度(mm/秒)の24時間の記録のスペクトログラムを示す。両幼生群に、10μMのモキソニジンを投与した。図において、治療後のLphn3.1 WT群を「WT 10μM」と称し、治療後のLphn3.1 HOM群を「HOM 10μM」と称する)。ビヒクルのみ(すなわち、試験化合物を含まないDMSO)で治療されたLphn3.1 HOM群を、この図で「HOM DMSO」と称する。スペクトログラムに示されている灰色の領域は、実験の消灯フェーズを示す(5回の30分間のフェーズ、第1のフェーズは、午後1時30分に開始し、その後、午後10時に開始し、明朝の午前8時に終了する、消灯された10時間の夜期間が続く)。
図6A】ゼブラフィッシュにおける睡眠断片化、睡眠比、睡眠中の速度、覚醒エピソードの持続時間及び睡眠エピソードの持続時間に対する1μM、10μM、又は30μMのモキソニジンの効果を示す。これらの図に示されるデータ点は、表1A~1Dに含まれる。
図6B】ゼブラフィッシュにおける睡眠断片化、睡眠比、睡眠中の速度、覚醒エピソードの持続時間及び睡眠エピソードの持続時間に対する1μM、10μM、又は30μMのクロニジンの効果を示す。これらの図に示されるデータ点は、表1A~1Dに含まれる。
図6C】ゼブラフィッシュにおける睡眠断片化、睡眠比、睡眠中の速度、覚醒エピソードの持続時間及び睡眠エピソードの持続時間に対する1μM、10μM、又は30μMのアトモキセチンの効果を示す。これらの図に示されるデータ点は、表1A~1Dに含まれる。
図6D】ゼブラフィッシュにおける睡眠断片化、睡眠比、睡眠中の速度、覚醒エピソードの持続時間及び睡眠エピソードの持続時間に対する1μM、10μM、又は30μMのグアンファシンの効果を示す。これらの図に示されるデータ点は、表1A~1Dに含まれる。
図7】既知の高度に選択的なI1-イミダゾリン受容体アゴニストを受けたか、又はアトモキセチン(図7ではトモキセチン塩酸塩と称される)、又はビヒクル対照(すなわち、DMSO)を受けたLphn3.1 HOM幼生が移動した距離の比較を示す。プロット上の破線は、ビヒクル対照による治療後の5回の点灯フェーズにわたってLphn3.1 HOM幼生が移動した平均距離を示す(n=189)。点線は、1μMアトモキセチン塩酸塩による治療後の5回の点灯フェーズにわたってLphn3.1 HOM幼生が移動した平均距離を示す(n=24)。点は、5回の点灯フェーズにわたってLphn3.1 HOM幼生が移動した平均距離に対する、0,1μM、1μM、10μM、30μM、又は100μMの投薬量での既知のI1-イミダゾリン受容体アゴニストの効果を示す(第1のラウンド:n=24、第2のラウンド:n=72)(全てのデータは±SEMで示される)。I1-イミダゾリン受容体アゴニストで治療された幼生とビヒクル対照を受けた幼生との間で、統計的に有意な差が認められた(F(5,132)=21.33、df=5、p<0.001、第2のラウンド:F(3,276)=44.40、df=3、p<0.001)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の発明者らは、式(I)に記載の化合物が、ADHDの治療又は予防に驚くほど効果的であることを見出した。
【0016】
以下でより詳細に考察されるように、本願発明者らは、モキソニジンが、ADHDのモデルにおいてゼブラフィッシュ幼生の活動の減少に驚くほど効果的であることを見出した。本願発明者らによって使用されるADHDモデルは、Latrophilin 3(lphn.3.1)遺伝子のホモ接合性ノックアウトを保有するゼブラフィッシュを使用する。ヒトにおける対応するlphn.3.1遺伝子(すなわち、LPHN3)における変異は、ヒトにおけるADHDのリスク要因として強く関与している(Arcos-Burgos et al.,2010,Mol Psychiatry 15,1053-1066、及びLange et al.,Prog Neuropsychopharmacol Biol Psychiatry,2018,84(A),181-189)。ゼブラフィッシュにおけるlphn.3.1遺伝子の機能は、ヒトにおいて観察された機能と相関関係にあることがわかっている。本願発明者らによって使用されるゼブラフィッシュモデルにおいて、ADHD様挙動表現型(例えば、多動性及び運動衝動性)は、lphn3.1遺伝子のホモ接合性ノックアウトを保有するゼブラフィッシュ幼生において観察される。ADHDのゼブラフィッシュモデルを使用して、本願発明者らは、モキソニジンが、多動性及び運動衝動性等のADHD挙動の減少に驚くほど効果的であると特定した。本願発明者らはまた、モキソニジンが、マウスにおけるスコポラミン誘導性認知機能障害モデルにおける認知機能の回復に効果的であることも見出している。ADHDは、それ自体が注意力及び作業記憶の低下等の認知障害として現れる可能性があるため、これらのデータは、ADHD症状を減少させるモキソニジンの有効性を更に示している。
【0017】
モキソニジンと構造的に類似しているか、又は重要ではない構造変動が異なる化合物は、本明細書に記載のADHDモデルにおいてモキソニジンと類似する特性を示すと予想される。
【0018】
したがって、本発明は、ADHDの治療又は予防に使用するための、式(I)に記載の化合物
【0019】
【化2】
又はその互変異性体、又はその薬学的に許容される塩若しくは溶媒和物、又はその互変異性体の薬学的に許容される塩若しくは溶媒和物を提供する。
【0020】
式(I)の化合物において、R、R、及びRは、独立して、水素、ハロゲン、C1~4アルキル、C1~4アルキルチオ-、C1~4アルキルオキシ-、及び3~5員の非芳香族炭素環から選択されてもよく、上述の炭素環は、1つ以上のC1~4アルキルで任意選択的に置換される。例えば、R、R、及びRは、それぞれ独立して、水素、F、Cl、Br及びI、メチル、エチル、-SCH、-SCHCH、メトキシ、エトキシ、シクロプロピル、シクロブチル、又はシクロペンチルであってもよい。好ましくは、R、R、及びRは、それぞれ独立して、水素、F、Cl、メチル、-SCH、メトキシ又はエトキシである。より好ましくは、R、R、及びRは、それぞれ独立して、F、Cl、メチル、エチル、メトキシ又はエトキシである。例えば、Rは、メトキシ又はエトキシであってもよく、Rは、F又はClであってもよく、Rは、メチル又はエチルであってもよい。
【0021】
式(I)の化合物において、Rは、水素、C(O)H及びC(O)C1~4アルキルから選択される。例えば、Rは、水素、C(O)H、C(O)CH、又はC(O)CHCHであってもよい。好ましくは、Rは、水素、C(O)H又はC(O)CHである。より好ましくは、Rは、水素である。
【0022】
式(I)の化合物において、R、R、R、及びRは全て水素ではない。例えば、R、R、R、及びRは、それぞれ独立して、ハロゲン、C1~4アルキル、C1~4アルキルチオ-、C1~4アルキルオキシ-、又は3~5員の非芳香族炭素環であってもよく、上述の炭素環は、1つ以上のC1~4アルキルで任意選択的に置換される。又は、例えば、Rは、ハロゲン、C1~4アルキル、C1~4アルキルチオ-、C1~4アルキルオキシ-、又は3~5員の非芳香族炭素環であってもよく、上述の炭素環は、1つ以上のC1~4アルキルで任意選択的に置換され、R、R、及びRは、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、C1~4アルキル、C1~4アルキルチオ-、C1~4アルキルオキシ-、又は3~5員の非芳香族炭素環であってもよく、上述の炭素環は、1つ以上のC1~4アルキルで任意選択的に置換される。又は、例えば、Rは、ハロゲン、C1~4アルキル、C1~4アルキルチオ-、C1~4アルキルオキシ-、又は3~5員の非芳香族炭素環であってもよく、上述の炭素環は、1つ以上のC1~4アルキルで任意選択的に置換され、R、R、及びRは、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、C1~4アルキル、C1~4アルキルチオ-、C1~4アルキルオキシ-、又は3~5員の非芳香族炭素環であってもよく、上述の炭素環は、1つ以上のC1~4アルキルで任意選択的に置換される。又は、例えば、Rは、ハロゲン、C1~4アルキル、C1~4アルキルチオ-、C1~4アルキルオキシ-、又は3~5員の非芳香族炭素環であってもよく、上述の炭素環は、1つ以上のC1~4アルキルで任意選択的に置換され、R、R、及びRは、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、C1~4アルキル、C1~4アルキルチオ-、C1~4アルキルオキシ-、又は3~5員の非芳香族炭素環であってもよく、上述の炭素環は、1つ以上のC1~4アルキルで任意選択的に置換される。又は、例えば、Rは、ハロゲン、C1~4アルキル、C1~4アルキルチオ-、C1~4アルキルオキシ-、又は3~5員の非芳香族炭素環であってもよく、上述の炭素環は、1つ以上のC1~4アルキルで任意選択的に置換され、R、R、及びRは、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、C1~4アルキル、C1~4アルキルチオ-、C1~4アルキルオキシ-、及び3~5員の非芳香族炭素環から選択されてもよく、上述の炭素環は、1つ以上のC1~4アルキルで任意選択的に置換される。
【0023】
好ましくは、式(I)の化合物において、R及びRは、それぞれ独立して、ハロゲン、C1~4アルキル、C1~4アルキルチオ-、C1~4アルキルオキシ-、又は3~5員の非芳香族炭素環であり、上述の炭素環は、1つ以上のC1~4アルキルで任意選択的に置換され、R及びRは、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、C1~4アルキル、C1~4アルキルチオ-、C1~4アルキルオキシ-、又は3~5員の非芳香族炭素環であり、上述の炭素環は、1つ以上のC1~4アルキルで任意選択的に置換される。例えば、式(I)の化合物において、Rは、ハロゲンであってもよく、Rは、C1~4アルキル、C1~4アルキルチオ-、C1~4アルキルオキシ-、又は3~5員の非芳香族炭素環であってもよく、上述の炭素環は、1つ以上のC1~4アルキルで任意選択的に置換され、R及びRは、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、C1~4アルキル、C1~4アルキルチオ-、C1~4アルキルオキシ-、又は3~5員の非芳香族炭素環であってもよく、上述の炭素環は、1つ以上のC1~4アルキルで任意選択的に置換される。又は、例えば、Rは、C1~4アルキル、C1~4アルキルチオ-、C1~4アルキルオキシ-、又は3~5員の非芳香族炭素環であってもよく、上述の炭素環は、1つ以上のC1~4アルキルで任意選択的に置換され、Rは、ハロゲンであってもよく、R及びRは、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、C1~4アルキル、C1~4アルキルチオ-、C1~4アルキルオキシ-、又は3~5員の非芳香族炭素環であってもよく、上述の炭素環は、1つ以上のC1~4アルキルで任意選択的に置換される。又は、例えば、R及びRは、それぞれ水素であり(例えば、R及びRは、それぞれ独立して、F、Cl、Br、又はIであり)、R及びRは、独立して、水素、ハロゲン、C1~4アルキル、C1~4アルキルチオ-、C1~4アルキルオキシ-、及び3~5員の非芳香族炭素環から選択され、上述の炭素環は、1つ以上のC1~4アルキルで任意選択的に置換される。
【0024】
好ましくは、Rは、C1~4アルキル、C1~4アルキルチオ-、C1~4アルキルオキシ-、又は3~5員の非芳香族炭素環であり、上述の炭素環は、1つ以上のC1~4アルキルで任意選択的に置換され、Rは、ハロゲンであり、R及びRは、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、C1~4アルキル、C1~4アルキルチオ-、C1~4アルキルオキシ-、及び3~5員の非芳香族炭素環であり、上述の炭素環は、1つ以上のC1~4アルキルで任意選択的に置換される。より好ましくは、Rは、メトキシ又はエトキシであり、Rは、F又はClであり、R及びRは、それぞれ独立して、水素、メチル又はエチルである。更により好ましくは、Rは、メトキシ又はエトキシであり、Rは、F又はClであり、Rは、メチル又はエチルであり、Rは、水素であり、例えば、Rは、メトキシであってもよく、Rは、F又はClであってもよく、Rは、メチルであってもよく、Rは、Hである。
【0025】
好ましい実施形態では、式(I)の化合物は、式(Ia)の化合物
【0026】
【化3】
であるか、又はその互変異性体、又はその薬学的に許容される塩若しくは溶媒和物、又はその互変異性体の薬学的に許容される塩若しくは溶媒和物である。本願発明者らは、式(Ia)の化合物(すなわち、モキソニジン)が、ADHDのゼブラフィッシュモデルにおける多動性及び運動衝動性等のADHD挙動を減少させるのに特に効果的であることを見出した。本願発明者らはまた、式(Ia)の化合物が、マウスにおけるスコポラミン誘導性認知機能障害モデルを使用して、ADHDと関連する認知障害の改善に驚くほど効果的であり、式(Ia)の化合物が、睡眠断片化、睡眠比、睡眠中の速度、覚醒エピソードの持続時間及び睡眠エピソードの持続時間等の睡眠パラメータに影響を及ぼさないことを示している。
【0027】
モキソニジンは、I1-イミダゾリン受容体の高度に選択的なアゴニストであることが知られている。いずれか1つの理論に拘束されることを望むものではないが、本願発明者らは、I1-イミダゾリン受容体に対するモキソニジンの高い選択性が、オフターゲット効果を減少させつつ、ADHDの効果的な治療をもたらし、したがって、確立された治療と比較して、モキソニジンをADHDに対するより忍容性の高い治療にすると考えられる。
【0028】
疑義を避けるために、本文書では、式(I)の化合物は、別段の記載がない限り、その全ての互変異性形態、塩、及び溶媒和物を含むことが意図される。
【0029】
本発明に従った使用のための化合物は、有機化学分野の当業者に既知の方法を使用して調製されてもよく、本発明に従う特定の化合物を調製するための特定の方法は、当該技術分野で既知である。例えば、参照により本明細書に組み込まれるUS4,323,570に記載されるように、本発明に従った使用のための様々な化合物は、好適な5-アミノピリミジンを好適な2-イミダゾリジノンと反応させることによって調製され得る。US4,323,570に記載される式(I)の化合物を調製するための1つの特定の方法は、塩化ホスホリル(POCl)等の脱水剤の存在下で、好適な5-アミノピリミジンを好適な2-イミダゾリジノンと反応させることを含む。好適な5-アミノピリミジン及び2-イミダゾリジノンは、当該技術分野で既知の方法を使用して容易に入手可能であり、多くの場合、市販の供給源から出発物質として入手することができる。
【0030】
本発明での使用に好適な式(Ia)の化合物の薬学的調製物は、市販の供給源から入手可能である。例えば、式(Ia)の化合物の薬学的調製物は、PHYSIOTENS(登録商標)の名称で上市される。式(Ia)の化合物のジェネリック薬学的調製物も利用可能である。
【0031】
式(I)の化合物中に存在する置換基に応じて、化合物は、塩又は溶媒和物を形成し得る。本発明での使用に好適な式(I)の化合物の塩は、対イオンが薬学的に許容されるものである。しかしながら、薬学的に許容されない対イオンを有する塩は、例えば、式(I)の化合物及びその薬学的に許容される塩、並びに生理学的に機能的な誘導体の調製において中間体として使用するために、本発明の範囲内である。本発明に従った使用に好適な塩としては、有機酸又は無機酸で形成されたものが挙げられる。具体的には、本発明に従って酸で形成される好適な塩には、鉱酸、非置換若しくは(例えば、ハロゲンによる)置換である1~4個の炭素原子のアルカンカルボン酸等の強力な有機カルボン酸、例えば、飽和若しくは不飽和ジカルボン酸、例えば、ヒドロキシカルボン酸、例えば、アミノ酸で形成される塩、又は有機スルホン酸、例えば、非置換若しくは(例えば、ハロゲンによる)置換である(C~C)-アルキル-若しくはアリール-スルホン酸で形成される塩が挙げられる。薬学的に許容される酸付加塩には、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、クエン酸、酒石酸、酢酸、リン酸、乳酸、ピルビン酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、コハク酸、過塩素酸、フマル酸、マレイン酸、グリコール酸、乳酸、サリチル酸、シュウ酸、オキサロ酢酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ギ酸、安息香酸、マロン酸、ナフタレン-2-スルホン酸、ベンゼンスルホン酸、イセチオン酸、アスコルビン酸、リンゴ酸、フタル酸、アスパラギン酸、並びにグルタミン酸、リジン、及びアルギニン酸から形成される酸付加塩が含まれる。塩に存在し得る好適なカチオンとしては、アルカリ金属カチオン、特にナトリウム、カリウム及びカルシウム、並びにアンモニウム又はアミノカチオンが挙げられる。
【0032】
有機化学の当業者は、多くの有機化合物が、溶媒と複合体を形成し、それらが反応するか、又はそこから沈殿若しくは結晶化し得ることを理解するであろう。これらの複合体は、「溶媒和物」として知られている。例えば、水との複合体は、「水和物」として知られている。複合体は、化学量論量又は非化学量論量で溶媒を組み込んでもよい。溶媒和物は、Water-Insoluble Drug Formulation,2nded R.Lui CRC Press,page 553、及びByrn et al Pharm Res 12(7),1995,945-954に記載されている。溶液中で構成される前に、式(I)の化合物は、溶媒和物の形態にあってもよい。本発明に従った医薬としての使用に好適な式(I)の化合物の溶媒和物は、会合する溶媒が薬学的に許容されるものである溶媒和物である。例えば、水和物は、薬学的に許容される溶媒和物である。
【0033】
レシピエントに投与されると、式(I)の化合物、又はその活性代謝産物若しくは残基に変換可能である化合物は、「プロドラッグ」として知られる。したがって、特定の実施形態では、式(I)の化合物は、プロドラッグの形態で提供され得る。プロドラッグは、例えば、体内で、例えば血液中での加水分解によって、医療効果を有するその活性形態に変換され得る。薬学的に許容されるプロドラッグは、T.Higuchi and V.Stella,Prodrugs as Novel Delivery Systems,Vol.14 of the A.C.S.Symposium Series(1976);“Design of Prodrugs”ed.H.Bundgaard,Elsevier,1985、及びEdward B.Roche,ed.,Bioreversible Carriers in Drug Design,American Pharmaceutical Association and Pergamon Press,1987に記載され、これらは参照により本明細書に組み込まれる。
【0034】
薬学的組成物
式(I)の化合物を単独で投与することが可能であるが、組成物中に、特に、薬学的組成物中に存在することが好ましい。本発明の薬学的組成物は、式(I)の化合物と、1つ以上の薬学的に許容される賦形剤と、を含む。
【0035】
薬学的組成物としては、経口、非経口(皮下、皮内、骨内注入、筋肉内、血管内(ボーラス若しくは注入)、及び髄内を含む)、腹腔内、経粘膜、経皮、直腸及び局所(皮膚、口腔、舌下及び眼内を含む)投与に好適なものが挙げられるが、最も好適な経路は、治療中の対象の特徴、例えば、人種、年齢、体重、性別、医学的状態、ADHDの特定の型(例えば、「衝動型/多動型」、「不注意型」及び「複合型」ADHD)及びその重症度、並びに他の関連する医学的要因及び物理的要因に依存し得る。
【0036】
非経口投与のための製剤としては、抗酸化剤、緩衝剤、バクテリオスタット、及び製剤を意図されるレシピエントの血液と等張にする溶質を含有し得る水性及び非水性の滅菌注射溶液、並びに懸濁剤及び増粘剤を含み得る水性及び非水性の滅菌懸濁液が挙げられる。製剤は、単位用量又は複数用量の容器、例えば、密封アンプル及びバイアル中に提示されてもよく、使用直前に、滅菌液体担体(例えば、生理食塩水又は注射用水)の添加のみを必要とする凍結乾燥(freeze-dried)(凍結乾燥(lyophilised))状態で保管することができる。即時注射溶液及び懸濁液は、前述の種類の滅菌粉末、顆粒及び錠剤から調製され得る。非経口投与のための例示的な組成物には、注射用の溶液又は懸濁液が含まれ、これには、例えば、好適な非毒性の非経口的に許容される希釈剤又は溶媒(例えば、マンニトール、1,3-ブタンジオール、水、リンゲル溶液、等張塩化ナトリウム溶液)、又は他の好適な分散剤若しくは湿潤剤及び懸濁剤(合成モノグリセリド若しくはジグリセリドを含む)、並びに脂肪酸(オレイン酸を含む)、又はCremaphorが含有され得る。
【0037】
経鼻投与、エアロゾル投与又は吸入投与のための組成物としては、生理食塩水中の溶液が含まれ、これには、例えば、ベンジルアルコール若しくは他の好適な防腐剤、バイオアベイラビリティを増強するための吸収促進剤、及び/又は当該技術分野で知られているもの等の他の可溶化剤若しくは分散剤が含有され得る。
【0038】
直腸投与用の製剤は、担体(例えば、ココアバター、合成グリセリドエステル、又はポリエチレングリコール)と共に、坐薬として提示されてもよい。このような担体は、典型的には、常温では固体であるが、直腸腔内で液化及び/又は溶解して、薬物を放出する。
【0039】
口内の局所投与(例えば、頬側投与又は舌下投与)のための製剤には、例えば、ロゼンジ(スクロース又はアカシア又はトラガカント等の風味付け基剤中に活性成分を含む)、及びパスティル(ゼラチン及びグリセリン又はスクロース及びアカシア等の基材中に活性成分を含む)が含まれる。局所投与のための例示的な組成物には、プラスチベース(ポリエチレンでゲル化した鉱油)等の局所担体が含まれる。
【0040】
経口投与に好適な薬学的組成物は、各々が所定量の活性成分を含有するカプセル、カシェ若しくは錠剤等の別個の単位として、粉末若しくは顆粒として、水性液体若しくは非水性液体の溶液若しくは懸濁液として、又は水中油の液体エマルション若しくは油中水の液体エマルションとして、提示され得る。式(I)の化合物はまた、ボーラス、舐剤、又はペーストとして提示され得る。薬学的組成物は、対象に投与されると、式(I)の化合物のゆっくりとした放出又は制御された放出をもたらす形態で任意選択的に存在し得る。様々な薬学的に許容される担体及びその製剤は、標準的な製剤化の論文、例えば、E.W.MartinによるRemington’s Pharmaceutical Sciencesに記載されている。また、Wang,Y.J.and Hanson,M.A.,Journal of Parenteral Science and Technology,Technical Report No.10,Supp.42:2S,1988も参照されたい。
【0041】
好ましい単位投薬量組成物は、探索用量若しくは治療用量、又はその適切な一部の式(I)の化合物を含有する組成物である。
【0042】
好ましい実施形態では、本発明に従った使用のための組成物は、式(I)の化合物と、少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤とから本質的になる。本発明に従った使用のための例示的な組成物は、クロスポビドン、ラクトース、ステアリン酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン(例えば、ポビドンK25)、ヒプロメロース、エチルセルロース、ポリエチレングリコール、タルク、赤色酸化鉄及び二酸化チタン等の薬学的に許容される賦形剤のうちの1つ以上を含む。本発明に従った使用のための更なる例示的な組成物は、コアとコーティングとを有する錠剤であり、コアは、クロスポビドン、ラクトース、ステアリン酸マグネシウム、ポビドンを含み、コーティングは、ヒプロメロース、ポリエチレングリコール、赤色酸化鉄、及び二酸化チタンを含む。
【0043】
特に上述の成分に加えて、本発明における使用のための製剤は、問題となる製剤のタイプを考慮して、当該技術分野の従来の他の薬剤を含み得ることを理解すべきである。
【0044】
本発明の組成物は、1つ以上の更なる治療剤を含んでもよい。本発明の組成物中に存在し得る更なる治療剤の例としては、限定されないが、メチルフェニデート、アンフェタミン(例えば、デキサンフェタミン)、リスデキサンフェタミン、アトモキセチン、ビロキサジン、クロニジン、及びグアンファシンが挙げられる。典型的には、1つ以上の更なる治療剤は、アンフェタミン、メチルフェニデート、及びリスデキサンフェタミン等の精神刺激薬である。
【0045】
注意欠陥/多動性障害(ADHD)
本願発明者らは、式(I)の化合物、及びその薬学的組成物が、ADHDを有することが知られているか、若しくは有する疑いがある対象においてADHDの症状を減少させること、又はその発生を遅らせること、ADHDを発症するリスクがあることが知られているか、若しくはその疑いがある対象においてADHDを予防することに特に効果的であることを見出した。
【0046】
したがって、本発明に従って使用するための式(I)の化合物、又はその薬学的組成物を、ADHDを有することが知られているか、若しくは有する疑いがある対象、又はADHDを発症するリスクがあることが知られているか、若しくはその疑いがある対象に投与し得る。対象は、ヒト対象、例えば、ヒト患者であり得る。ヒト対象は、小児(例えば、約10歳未満)、青年期(例えば、約10~19歳の年齢)であってもよく、成人(例えば、約18~21歳の年齢より上)であってもよい。
【0047】
ADHDを有することが知られているか、若しくは有する疑いがある対象は、注意のレベルの障害を伴わない、衝動性及び多動性の挙動を特徴とするADHD(すなわち、「衝動型/多動型」ADHD)を有し得る。又は、ADHDを有することが知られているか、若しくは有する疑いがある対象は、多動性又は衝動性を伴わない、注意のレベルの障害を特徴とするADHD(すなわち、「不注意型」ADHD)を有し得る。又は、ADHDを有することが知られているか、若しくは有する疑いがある対象は、多動性及び衝動性の挙動を伴う、注意のレベルの低下を特徴とするADHD(すなわち、「複合型」ADHD)を有し得る。
【0048】
ADHDを発症するリスクがあることが知られているか、若しくはその疑いがある対象は、ADHDの発症についての既知若しくは疑いがある遺伝的素因を有する対象であってもよく、例えば、対象は、Latrophilin 3(LPHN3)遺伝子中に変異を有していてもよい。ADHDに関与する更なる遺伝子変異の例が報告されており(例えば、参照により本明細書に組み込まれるFaraone and Larsson,Molecular Psychiatry,2019,24,562-575を参照されたい)、例えば、セロトニントランスポーター(5HTT)遺伝子、ドーパミントランスポーター(DAT1)遺伝子、D4ドーパミン受容体(DRD4)遺伝子、D5ドーパミン受容体(DRD5)遺伝子、セロトニン1B受容体遺伝子(HTR1B)、及びシナプトソーム関連タンパク質(SNAP25)遺伝子のうちの1つ以上の遺伝子の変異が挙げられる。加えて、又はその代わりに、ADHDを発症するリスクがあることが知られているか、若しくはその疑いがある対象は、妊産婦の妊娠前肥満、子癇前症、高血圧、アセトアミノフェン曝露、及び妊娠中の喫煙、及び小児アトピー性疾患等のADHDと関連する1つ以上の潜在的な環境リスク要因に曝露されている対象であり得る。
【0049】
加えて、ADHDを有することが知られているか、若しくは有する疑いがある対象、又はADHDを発症するリスクがあることが知られているか、若しくはその疑いがある対象は、うつ病、不安障害、反抗挑戦性障害(ODD)、行為障害、睡眠の問題(例えば、不眠症の入眠障害)、自閉スペクトラム症(ASD)、双極性障害、てんかん、トゥレット症候群、及び/又はディスレクシア等の傾斜困難(leaning difficulties)等の他の状態の徴候又は症状も有する場合がある。典型的には、対象は、Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders(DSM)又はInternational Classification of Diseases(ICD)に定められたADHDについての診断基準を満たす対象である。
【0050】
加えて、ADHDを有することが知られているか、若しくは有する疑いがある対象、又はADHDを発症するリスクがあることが知られているか、若しくはその疑いがある対象は、物質乱用障害、例えば、アンフェタミン等の精神刺激薬の中毒及び/又は乱用にも罹患している場合がある。例えば、本発明に従って使用するための式(I)の化合物、又はその組成物を、1つ以上の確立された精神刺激薬ベースのADHD治療(例えば、メチルフェニデート、デキサンフェタミン、及びリスデキサンフェタミン)が、物質乱用障害のリスクがある対象、その病歴を有する対象、又は現在罹患している対象であるために不適切であるとみなされる対象に投与し得る。
【0051】
本願発明者らは、ADHDのゼブラフィッシュモデルを使用して、式(Ia)の化合物が、多動性及び運動衝動性の減少に驚くほど効果的であることを示している。本願発明者らはまた、式(Ia)の化合物が、マウスにおけるスコポラミン誘導性認知機能障害モデルにおける認知機能の回復に驚くほど効果的であることを示している。したがって、特定の実施形態では、本発明に従って使用するための式(I)の化合物、又はその薬学的組成物を、注意のレベルの低下、多動性及び/又は衝動性の挙動を特徴とするADHD(すなわち、「衝動型/多動型」ADHD、「不注意型」ADHD、及び/又は「複合型」ADHD)を有することが知られているか、又は有する疑いがある対象に投与し得る。
【0052】
ADHDのゼブラフィッシュモデルにおける多動性及び運動衝動性の低減への式(Ia)の化合物の有効性は、式(I)の化合物を、多動性及び/又は衝動性の挙動を特徴とするADHD(すなわち、「衝動型/多動型」ADHD又は「複合型」ADHD)のための特に魅力的な治療にする。したがって、特定の実施形態では、本発明に従って使用するための式(I)の化合物、又はその薬学的組成物を、注意のレベルの障害を伴わない、衝動性及び多動性の挙動を特徴とするADHD(すなわち、「衝動型/多動型」ADHD)、又は多動性及び衝動性の挙動を伴う、注意のレベルの低下を特徴とするADHD(すなわち、「複合型」ADHD)を有することが知られているか、又は有する疑いがある対象に投与し得る。
【0053】
スコポラミン誘導性認知機能障害モデルにおける認知機能の回復への式(Ia)の化合物の有効性は、式(I)の化合物を、多動性又は衝動性を伴わない、注意のレベルの障害を特徴とするADHD(すなわち、「不注意型」ADHD)、又は多動性及び衝動性の挙動を伴う、注意のレベルの低下を特徴とするADHD(すなわち、「複合型」ADHD)のための特に魅力的な治療にする。したがって、特定の実施形態では、本発明に従って使用するための式(I)の化合物、又はその薬学的組成物を、多動性又は衝動性を伴わない、注意のレベルの障害を特徴とするADHD(すなわち、「不注意型」ADHD)、又は多動性及び衝動性の挙動を伴う、注意のレベルの低下を特徴とするADHD(すなわち、「複合型」ADHD)を有することが知られているか、又は有する疑いがある対象に投与し得る。
【0054】
本発明に従って使用するための式(I)の化合物、又はその組成物を、1つ以上の確立されたADHD治療(例えば、メチルフェニデート、デキサンフェタミン、リスデキサンフェタミン、アトモキセチン、ビロキサジン、グアンファシン、及びクロニジン)がADHDの症状及び/又は誘導された耐えがたい有害作用のうちの1つ以上の減少に効果的ではなかった対象に投与し得る。確立されたADHD治療によって引き起こされることが知られているか、又は引き起こされる疑いがある有害作用の例としては、睡眠障害、食欲不振、血圧上昇、発育阻害、概日リズムの破壊、及び神経毒性が挙げられる。
【0055】
入眠困難、夜間覚醒、朝の目覚めの困難さ、睡眠呼吸障害、過度の日中の眠気、及び睡眠スケジュールの変動等の睡眠の問題は、ADHDを有する患者において一般的であり、ADHDの多くの確立された治療は、既に存在する睡眠の問題を悪化させるか、又は患者において睡眠の問題を引き起こすことが報告されている。
【0056】
睡眠関連の有害作用は、特に長期的には、患者にとって管理が非常に困難な場合があり、患者の生活の質に劇的な悪影響を及ぼす場合もある。したがって、睡眠関連の有害作用は、注意のレベルの低下、多動性、及び衝動性挙動等のADHD症状の制御に有益であった治療を患者に中止させる場合がある。
【0057】
本願発明者らはまた、ADHDのゼブラフィッシュアッセイにおいて、式(Ia)の化合物が、睡眠断片化、睡眠比、睡眠中の速度、覚醒エピソードの持続時間及び睡眠エピソードの持続時間等の睡眠パラメータに影響を及ぼすことなく、ADHD症状の減少に著しく効果的であることを見出した。したがって、式(I)の化合物、又はその薬学的組成物は、ADHDのための他の治療、例えば、メチルフェニデート、デキサンフェタミン、リスデキサンフェタミン、アトモキセチン、グアンファシン、及びクロニジンと関連する睡眠関連の有害作用を経験した患者のためのセカンドライン治療として特に有用な場合がある。したがって、特定の実施形態では、本発明に従って使用するための式(I)の化合物、又はその薬学的組成物を、ADHDの治療又は予防のための別の医薬を以前に受けている対象に投与してもよく、上述の医薬は、睡眠関連の有害事象に起因して中断されたか、又は減薬された。
【0058】
式(Ia)の化合物が、睡眠パラメータに影響を及ぼすことなく、ADHD症状を減少させる能力はまた、ADHDと関連する睡眠の問題を有する患者において、又はADHDに加えて睡眠障害を罹患している患者において、これらの化合物を、ADHDのための有望な治療にする。したがって、特定の実施形態では、本発明に従って使用するための式(I)の化合物、又はその薬学的組成物を、ADHDを有することが知られているか、若しくは有する疑いがある対象、又はADHDを発症するリスクがあることが知られているか、若しくはその疑いがある対象、更にまた、睡眠の問題若しくは睡眠障害を有することが知られているか、若しくは有する疑いがある対象に投与し得る。
【0059】
本明細書に記載の式(I)の化合物及びその組成物は、ADHDを治療又は予防する方法において有用性を見出し、上述の方法は、式(I)の化合物及びその組成物を、ADHDを有することが知られているか、若しくは有する疑いがある患者、又はADHDを発症するリスクがあることが知られているか、若しくはその疑いがある患者に投与するステップを含む。
【0060】
式(I)の化合物はまた、ADHDの治療又は予防のための医薬の製造において用途を見出す。例示的な実施形態では、式(I)の化合物を、注意のレベルの障害を伴わない、衝動性及び多動性の挙動を特徴とするADHD(すなわち、「衝動型/多動型」ADHD)、又は多動性及び衝動性の挙動を伴う、注意のレベルの低下を特徴とするADHD(すなわち、「複合型」ADHD)、又は多動性又は衝動性を伴わない、注意のレベルの障害を特徴とするADHD(すなわち、「不注意型」ADHD)の治療又は予防のための医薬の製造に使用してもよい。更なる例示的な実施形態では、式(I)の化合物を、ADHDの治療又は予防のための医薬の製造に使用してもよく、上述の医薬は、睡眠関連の有害事象に起因して中断されたか、又は減薬されたADHDの治療又は予防のための別の医薬を以前に受けている対象に使用するためのものである。更なる例示的な実施形態では、式(I)の化合物を、ADHDの治療又は予防のための医薬の製造に使用してもよく、上述の医薬は、ADHDを有することが知られているか、若しくは有する疑いがある対象、又はADHDを発症するリスクがあることが知られているか、若しくはその疑いがある対象、更にまた、睡眠の問題若しくは睡眠障害を有することが知られているか、若しくは有する疑いがある対象に使用するためのものである。
【0061】
投薬レジメン
治療効果を達成するために必要とされる式(I)の化合物の量は、特定の投与経路、及び治療中の対象の特徴、例えば、人種、年齢、体重、性別、医学的状態、ADHDの特定の型(例えば、「衝動型/多動型」、「不注意型」及び「複合型」ADHD)及びその重症度、並びに他の関連する医学的要因及び物理的要因に応じて変化する。通常の熟練した医師は、ADHDの治療又は予防に必要な式(I)の化合物の有効量を容易に決定し、投与することができる。
【0062】
式(I)の化合物は、対象及び治療されるADHDの特徴に応じて、毎日(1日数回を含む)、2日毎又は3日毎、毎週、2週間毎、3週間毎、又は4週間毎、あるいは更なる多くの単回用量として投与され得る。
【0063】
式(I)の化合物(任意の対イオン又は溶媒の質量を除く)は、投与当たり約1μg~1000μgの量で投与され得る。例えば、少なくとも1μg、少なくとも5μg、少なくとも10μg、少なくとも15μg、少なくとも20μg、少なくとも25μg、少なくとも40μg、少なくとも50μg、少なくとも60μg、少なくとも70μg、少なくとも80μg、少なくとも90μg、少なくとも100μg、少なくとも110μg、少なくとも120μg、少なくとも130μg、少なくとも140μg、少なくとも150μg、少なくとも200μg、少なくとも300μg、少なくとも400μg、少なくとも500μg、少なくとも600μg、少なくとも700μg、少なくとも800μg、少なくとも900μg、又は1000μgが対象に投与され得る。
【0064】
典型的には、式(I)の化合物は、100μg、200μg、300μg、400μg、500μg、又は600μg(任意の対イオン又は溶媒の質量を除く)の1日1回用量として投与される。代替的に、式(I)の化合物は、100μg、150μg、200μg、250μg、又は300μg(任意の対イオン又は溶媒の質量を除く)、1日に2回、3回、又は4回の用量として投与される。例えば、1日当たり100μgの1日用量は、50μgの2回の別個の用量として投与されてもよく、1回目の用量は、午前中に投与され、2回目の用量は、午後に投与される(例えば、午後6時以降)。又は、例えば、1日当たり200μgの1日用量は、100μgの2回の別個の用量として投与されてもよく、1回目の用量は、午前中に投与され、2回目の用量は、午後に投与される。又は、例えば、1日当たり300μgの1日用量は、2回の別個の用量として投与されてもよく、100μgの1回目の用量は、午前中に投与され、200μgの2回目の用量は、午後に投与される。又は、例えば、1日当たり400μgの1日用量は、2回の別個の用量として投与されてもよく、200μgの1回目の用量は、午前中に投与され、200μgの2回目の用量は、午後に投与される。
【0065】
特定の実施形態では、式(I)の化合物は、組成物として投与される。好ましくは、組成物は、本発明に従った使用のための薬学的組成物である。
【0066】
式(I)の化合物を本発明において唯一の活性成分として使用してもよいが、それを1つ以上の更なる療法的介入と組み合わせて使用することも可能であり、このような組み合わせの使用は、本発明の一実施形態を提供する。更なる療法的介入の例としては、薬理学的介入、食事療法的介入、及び心理学的介入が挙げられる。
【0067】
更なる薬理学的介入は、ADHDの治療若しくは予防に有用な治療剤、又は他の薬理学的に活性な物質であり得る。そのような薬剤は、当該技術分野において既知である。本発明で使用するための更なる治療剤の例としては、本明細書に記載されるものが挙げられる。典型的には、更なる治療剤は、アンフェタミン、メチルフェニデート、及びリスデキサンフェタミン等の精神刺激薬である。好適な食事療法的介入の例としては、例えば、補助脂肪酸、及び食事からの人工食品色素の除外が挙げられる。好適な心理学的介入の例として、例えば、認知行動療法(CBT)が挙げられる。
【0068】
1つ以上の更なる療法的介入を、式(I)の化合物の投与と同時に、連続的に、又は別個に使用し得る。そのような組み合わせの個々の構成要素は、療法の経過中の異なる時間に別個に、又は分割された組み合わせ形態若しくは単一の組み合わせ形態で同時に、投与され得る。通常の熟練した医師は、所望の治療効果を有するために必要な1つ以上の療法的介入の有効量を容易に決定し、投与することができる。
【0069】
本発明に従った使用のための好ましい単位投薬量組成物は、有効用量、又はその適切な一部の式(I)の化合物を含有するものである。特定の組成物からの式(I)の化合物の放出はまた、例えば、組成物が好適な制御放出賦形剤を含有する場合、持続型であってもよい。
【0070】
キット
本発明は、式(I)の化合物と、1つ以上の薬学的に許容される賦形剤と、任意選択的に、ADHDの治療又は予防に有用な1つ以上の更なる治療剤と、を含むキットを提供する。そのような更なる治療剤の例としては、本発明での使用に好適であり、任意選択的に更なる治療剤として本発明の薬学的組成物中に存在するものが挙げられる。
【0071】
本発明のキットはまた、ADHDに好適な食事療法的介入のための説明書及び/又は心理学的介入のための説明書を含有し得る。例えば、キットは、治療を受ける対象に好適な栄養計画のための説明書を含んでいてもよく、及び/又はキットは、認知行動療法(CBT)のための説明書/ガイダンスを含んでいてもよい。
【0072】
本発明のキットは、ADHDの治療及び予防における使用を見出す。
【0073】
疑義を避けるために、本発明に従ったキット中に存在する式(I)の化合物は、本発明に従った使用に好適な形態及び量である。好適な薬学的組成物及び製剤が本明細書に記載される。当業者は、本発明のキットに含まれ、本発明に従った使用に好適な式(I)の化合物の量を容易に決定することができる。
【0074】
均等物
本発明は、本明細書において広範かつ包括的に説明されている。当業者は、本明細書に記載されている全てのパラメータ、寸法、材料、及び構成が、例示的であることを意図しており、実際のパラメータ、寸法、材料、及び/又は構成が、本発明の教示が使用される特定の1つ又は複数の用途に依存するであろうことを容易に理解するであろう。当業者であれば、通常範囲を超えない実験を使用して、本明細書に記載の本発明の特定の実施形態に対する多くの均等物を認識するか、又は確定することができるであろう。したがって、前述の実施形態は、単なる例として提示され、添付の特許請求の範囲及びそれと均等物の範囲内で、本発明は、具体的に記載されるか、特許請求されるもの以外で実施されてもよいことを理解されたい。本発明は、本明細書に記載の各個々の特徴、システム、物品、材料、キット、及び/又は方法に関する。加えて、2つ以上のこのような特徴、システム、物品、材料、キット、及び/又は方法の任意の組み合わせは、このような特徴、システム、物品、材料、キット、及び/又は方法が、相互に矛盾しない場合、本発明の範囲内に含まれる。更に、包括的な開示に含まれる、より狭い種及び亜属の群の各々も、本発明の一部を形成する。これは、除去された材料が本明細書に具体的に記載されているかどうかにかかわらず、その属から任意の主題を除去する但し書き又は負の制限を伴う本発明の包括的な明細書を含む。
【0075】
参照による組み込み
本明細書で言及又は引用される文献、特許、及び特許出願、並びに他の全ての文書及び電子的に入手可能な情報の内容は、各個々の刊行物が参照により組み込まれることが具体的かつ個別に示されるのと同じ程度に、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。出願人らは、任意のそのような文献、特許、特許出願、又は他の物理的文書及び電子的文書からのありとあらゆる資料及び情報を本出願に物理的に組み込む権利を留保する。
【0076】
以下の実施例は、本発明を例示する。
【実施例
【0077】
Danio rerioは、生物学的精神医学での人気を得ている。その豊富な挙動レパートリー、十分に確立された挙動及び自動化された挙動アッセイの利用可能性は、ゼブラフィッシュを様々なヒト脳障害の有用なモデルにする。脳生理学に関与する神経経路は、全ての主要な神経伝達物質系及び高い遺伝的相同性を含め、高度に保存されている。遺伝子編集技術は、ヒトの障害の正確なモデリングを可能にする。本明細書に記載のADHDのlphn3.1ノックアウトモデルは、ヒトADHDの特徴、すなわち、多動性、既知のドーパミンアゴニストに対する過敏症、及び既知のADHD化合物の投与後の表現型のレスキューを強固に示す。
【0078】
材料及び方法:
Latrophilin3(Lphn3.1)遺伝子のノックアウトを保有するゼブラフィッシュ幼生を、CRISPR-Cas9によって生成した。ゼブラフィッシュは、3L又は10Lのマルチタンク定流システム(Aquatic Habitats、Apopka,FL,USA)中、14:10の明:暗サイクルに維持した。挙動解析のために、Lphn3.1遺伝子のホモ接合性ノックアウトを保有する総数881の受精後(dpf)6日の胚を試験に使用した。Lphn3.1遺伝子のホモ接合性ノックアウトを保有する成体ゼブラフィッシュ、及び野生型Lphn3.1遺伝子を有する成体ゼブラフィッシュに、TetraMinフレーク(Tetra Holding GmbH、Melle,Germany)及び生きているアルテミアといった様々な餌を1日に3回与えた。水温を28.5℃の一定に保持し、1日当たり10%の率で交換した。卵は午前10時00分~午前12時00分の間に収集され、2Lタンクに入れられた。次の日に、死亡した卵を除去し、タンクを清掃した。卵を、メチレンブルーと混合した系の水中、28.5℃で4日間インキュベートした。本試験の全ての手順は、National Bioethics Committee of Icelandの規則(規則460/2017)に厳密に準拠して実施され、承認された。
【0079】
遺伝子型決定
ウエスタンブロットを使用して、Lphn3.1遺伝子のノックダウンについて株を検証した。
【0080】
挙動記録
5dpfで、幼生を、水系中の96マイクロウェルプレート(Nunc、Roskilde,Denmark)の個々のウェルに配置した。マイクロウェルプレートを、24個の赤外線カメラ(Ikegami,ICD-49E、Ikegami Tsushinki Co,Japan)が取り付けられ、28.5℃に熱制御され、日光から遮断され、下方から白色光(255lx、明フェーズ)及び赤外光(0lx、暗フェーズ)を照射される特注の活動モニタリングシステムに移した。幼生の挙動を、5Hzで、二次元で追跡した。幼生を、記録前の24時間前、活動モニタリングシステムに放置して順応させた。除外基準は、幼生が追跡されなかった記録中の試料の割合に基づいていた。閾値を10%に設定したため、総記録時間の90%未満しか追跡されなかった幼生を試験から除外した。
【0081】
運動アッセイ
24時間の順応期間の後、挙動記録を行った。運動活動を、30分間の間隔で提示された交互の明条件及び暗条件の間に、6dpfで午後1時00分~午後6時00分の間に記録した。この期間に、幼生が移動した平均距離(mm)を、明条件に移行直後の5回の別個の30分間隔中の総遊泳距離の平均として計算した。
【0082】
実施例1:ADHDのゼブラフィッシュモデルにおける、アトモキセチンと比較したモキソニジンの有効性
Lphn3.1遺伝子のホモ接合性ノックアウトを有するゼブラフィッシュ幼生(本明細書では「Lphn3.1 HOM」と称される)及び野生型Lphn3.1遺伝子を有するゼブラフィッシュ幼生(本明細書では「Lphn3.1 WT」と称される)を、挙動記録が開始される前に、市販のADHD薬物アトモキセチン塩酸塩(トモキセチン塩酸塩)、モキソニジン(Prestwick、67400 Illkirch,France)、又はビヒクル対照に曝露した。
【0083】
記録当日に、薬物の調製を行った。蒸留水(Invitrogen、Paisley,PA4 9RF,UK)を使用して、ストック溶液から薬物を希釈した。各薬物の3つの異なる濃度1μM、10μM及び30μMを使用した。加えて、ビヒクル対照群に対して、0.03% DMSO(Sigma-Aldrich、St.Louis,USA)溶液を調製した。記録当日の午前11時30分~午後12時30分の間に、薬物及びビヒクル対照をマイクロウェルに追加した。
【0084】
データを、EthoVision XT(Version 11.5.2016、Noldus)を使用して取得し、解析のためにMicrosoft Excelにエクスポートした。統計解析は、IBM SPSS Statistics for Windows,version 26(IBM corp.、Armonk,N.Y.,USA)を使用して行った。Microsoft Excel及びGraphPad Prism Software(Version 5.01、GraphPad Software Inc.)を使用して図を製作した。データは、平均±平均の標準誤差(s.e.m)として示される。Lphn 3.1ナイーブ(すなわち、試験化合物又はビヒクル対照を受けていない未治療幼生)及びDMSO幼生(すなわち、DMSOビヒクル対照のみを受けている幼生)の解析のために、二元配置ANOVAを使用して、統計的差異を評価した。モキソニジンで治療されたLphn 3.1幼生の解析のために、ダネット両側事後解析を伴う一元配置ANOVAを使用して、統計的差異を評価した。P<0.05は、統計的に有意と考えられた。
【0085】
結果:
記録の24時間後、Lphn3.1 HOM幼生は、顕著な多動性表現型を示すことが明らかになった。Lphn3.1 HOM幼生について、消灯後のより高いピーク速度(ゼブラフィッシュの活動の典型的な短い増加を引き起こす)、及び点灯期間中のより高い総平均速度が観察された(図1)。図1では、Lphn3.1 HOM幼生の活動が、上側の線で示され、Lphn3.1 WT幼生の活動が、下側の線で示されている。幼生の全体的な活動パターンは、あらゆる期間を統計解析のために選択することができることを示唆していた。
【0086】
点灯期間の平均速度を使用して、第1に、ホモ接合型幼生が、野生型と比較して、実際に統計的に有意に高運動性であること、第2に、ビヒクル(DMSO)が、挙動に影響を与えなかったことを示した(図2)。
【0087】
アトモキセチン及びモキソニジンの両方が、野生型幼生において速度を増加させることがわかった。モキソニジンの効果を、最適用量のアトモキセチンと比較した(図3を参照されたい)。ビヒクル対照を投与されたLphn3.1 HOM幼生と比較して、全ての用量のモキソニジンが、ビヒクル対照及び未治療幼生とは有意に異なることが明らかになった(用量依存性の様式で)。これらのデータは、モキソニジンが、Lphn3.1 HOM幼生においてADHD様表現型の減少に効果的であることを示す。
【0088】
更に、モキソニジンは、図5のスペクトログラムによって示されるように、Lphn3.1 HOM幼生においてADHD様表現型を特定の様式で減少させることがわかり、10μMの用量のモキソニジンは、Lphn3.1 HOM幼生の挙動欠陥を修正するが、野生型幼生の挙動パラメータに影響を及ぼさないことを示す。
【0089】
実施例2:認知機能障害モデルにおける、ドネペジル及びアトモキセチンと比較したモキソニジンの有効性
ゼブラフィッシュ幼生での実験は、モキソニジンによる治療後に、多動性の有意な低下を示す。ADHDは、それ自体が注意力及び作業記憶の低下等の認知障害として更に現れるにつれて、モキソニジンの効果を、マウスにおけるスコポラミン誘導性認知機能障害モデルを使用した認知アッセイで試験した。
【0090】
4~5週齢の雄CD-1マウスを、T-迷路に割り当て、Andriambeloson et al.,2014(Pharma Res Per,2(4),2014,e00048、参照により本明細書に含まれる)に記載されるように、T-迷路交替試験を行った。簡潔に言うと、各マウスを、基部及び2本のアームからなるT-迷路に配置した。この実験は、自発的交替の数を評価するための1回の「強制選択(forced-choice)」試行と14回の「自由選択(free-choice)」試行からなっていた。一元配置ANOVAは、スコポラミンへの曝露及び3つの異なる薬物による治療後の群間で有意差を示した(f=17.08、df=6、p<0.0001)。ダネットの多重比較事後検定から、生理食塩水に曝露されたマウスと比較して、認知障害を確認するスコポラミンへの曝露後の自発的交替の有意な減少が認められた(p<0.0001)。この効果は、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤ドネペジル(p<0.0001)及び既知のADHD薬物アトモキセチン(p<0.0001)による治療によってレスキューされた。この試験では、モキソニジン(0.1mg/kg、0.3mg/kg及び1mg/kg)について、自発的交替の用量依存的な有意な増加が観察され、0.3mg/kg(p<0.001)及び1mg/kg(p<0.0001)であり、このことは、スコポラミンに曝露されたマウスと比較して、自発的交替の有意な増加を示している(図4を参照されたい)。
【0091】
実施例3:睡眠行動に対するモキソニジンの効果
モキソニジンは、他の部分的なα2-アドレナリンアゴニストと比較して、より低いレベルの鎮静をもたらすことが以前に示されている。特に、Tan et al.,(Proc Natl Acad Sci USA.2002 Sep 17;99(19):12471-6)は、ロータロッドアッセイにおいて、モキソニジンが、クロニジン及びブリモニジンと比較して、より少ない鎮静をもたらすことを観察した。このアッセイは、筋力低下及び/又は運動協調性の尺度を提供し、これらは特定の睡眠状態と共に起こるが、睡眠と無関係に起こる場合もある。ロータロッドアッセイは、睡眠挙動の尺度を提供しない。したがって、睡眠挙動に対するモキソニジンの効果を評価するために、モキソニジン、比較化合物、又は陰性対照(すなわち、生理食塩水若しくはビヒクル対照)による治療後の自由に移動するゼブラフィッシュ(Lphn3.1 HOM幼生)における睡眠挙動を、Levitas-Djerbi et al.,(Curr Opin Neurobiol.2017;44:89-93)及びSorribes et al.,(Front Neural Circuits.2013 Nov 13;7:178)によって記載される基準に沿って評価した。
【0092】
簡潔に言うと、睡眠挙動を96ウェルプレート中で記録し、消灯期間(22:00~08:00)中に解析した。まず、全ての挙動を、移動又は非移動の1sのビン(bin)に二分した。以前、3名の独立した評価者によるフレーム毎の詳細なビデオ解析により、幼生ゼブラフィッシュの移動の閾値として、1.0mm/秒の速度が採用された。その閾値よりも遅い全ての活動は、非移運として計算された。したがって、移動又は非移動のいずれかの挙動の二分化された記録をレンダリングする。次に、二分化された記録を、睡眠及び覚醒のビンに変換した。以前に成体で確立され、幼生魚に適応させた睡眠基準(Yokogawa et al.,PLoS Biol.2007;5(10):2379-97、Sorribes et al.,Front Neural Circuits.2013;7:178、及びSigurgeirsson et al.,Behav Brain Res.2013;256:377-90)に従って、非移動の6以上の連続した1sビンを睡眠としてカウントし、他の全てを覚醒としてカウントした。すなわち、7番目の秒及びそれより上の秒は、睡眠として分類され、他の全てのエピソードは、覚醒として分類された。睡眠エピソード及び覚醒エピソードの数が計算されると、5つの異なる睡眠パラメータ(すなわち、睡眠断片化、睡眠比、睡眠中の速度、覚醒エピソードの持続時間、及び睡眠エピソードの持続時間)を評価した。睡眠断片化は、1時間当たりの睡眠エピソードと覚醒エピソードとの間の移行の数として定義された。睡眠比は、魚が眠っているとみなされた総夜間時間の割合として計算された。睡眠中の速度(mm/秒)は、夜間の平均速度として定義された。覚醒エピソードの持続時間は、覚醒エピソードの平均長さとして定義された。睡眠エピソードの持続時間は、睡眠エピソードの平均長さとして定義された。
【0093】
結果:
モキソニジン、クロニジン、アトモキセチン、又はグアンファシンによる治療の後の各睡眠パラメータについての読み取りは、以下の表1A~1Dに含まれる。
【表1A】
【表1B】
【表1C】
【表1D】
【0094】
全ての睡眠パラメータを比較すると、モキソニジンと、3つの他の抗ADHD化合物(クロニジン、アトモキセチン、及びグアンファシン)との間には、明らかな対比がみられた。高用量のモキソニジンは、速度のみをわずかに増加させたが、一方で、比較薬物は、試験された用量の大部分で全ての睡眠パラメータを劇的に変化させた(図6A~6Dを参照されたい)。
【0095】
実施例4:ADHDのゼブラフィッシュモデルにおけるモキソニジンの効果と、高度に選択的なI1-イミダゾリン受容体アゴニストの効果との比較
本明細書に記載のADHDのゼブラフィッシュモデルにおいて、既知の高度に選択的なI1-イミダゾリン受容体アゴニストがADHD様表現型を減少させる能力を評価し、モキソニジンと比較した。図7に示すように、既知のI1-イミダゾリン受容体アゴニストは、ADHDモデルにおいてモキソニジンと同様の活性を示すため、ADHDモデルにおけるモキソニジンの効果の中心的なものであるモキソニジンによるα2-アドレナリン作動性受容体の部分的な活性化ではなく、I1-イミダゾリン受容体でのモキソニジンのアゴニスト活性であることを示している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図7
【国際調査報告】