(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-24
(54)【発明の名称】キメラ抗原受容体T細胞および方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/62 20060101AFI20231116BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20231116BHJP
C07K 14/725 20060101ALI20231116BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20231116BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20231116BHJP
C12N 15/867 20060101ALI20231116BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20231116BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20231116BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20231116BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231116BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20231116BHJP
C12Q 1/04 20060101ALN20231116BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
C07K16/28 ZNA
C07K14/725
C12N15/13
C12N15/12
C12N15/867 Z
C12N5/10
C07K19/00
A61K35/17
A61P35/00
A61K39/00 H
C12Q1/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023552376
(86)(22)【出願日】2021-11-18
(85)【翻訳文提出日】2023-07-04
(86)【国際出願番号】 AU2021051374
(87)【国際公開番号】W WO2022104424
(87)【国際公開日】2022-05-27
(32)【優先日】2020-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523183459
【氏名又は名称】カリーナ バイオテック ピーティーワイ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】クームズ, ジャスティン テイラー
(72)【発明者】
【氏名】マッコール, ショーン ルース
(72)【発明者】
【氏名】バリー, サイモン チャールズ
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C085
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA14
4B063QA18
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QQ79
4B063QQ96
4B063QR48
4B063QS05
4B063QS33
4B063QS38
4B065AA90Y
4B065AA94X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BA05
4B065BB12
4B065BB19
4B065BB25
4B065BB34
4B065BC03
4B065BC07
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
4C085AA02
4C085BB01
4C085DD62
4C085EE01
4C085GG02
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB43
4C087BB64
4C087BB65
4C087MA55
4C087MA65
4C087NA14
4C087ZB26
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA50
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
癌などの増殖性疾患の免疫治療のための新規かつ代替の選択肢が必要とされている。この必要性は、癌幹細胞関連タンパク質Lgr5を認識する結合ドメインを含む細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、および細胞機能を活性化する細胞内シグナル伝達ドメインを有するキメラ抗原受容体を提供することによって対処し得る。そのようなCAR T細胞は、対象において癌細胞を死滅させ、癌を処置または予防するために使用され得る。したがって、本発明は、Lgr5を認識する結合ドメインを含む細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、および細胞機能を活性化する細胞内シグナル伝達ドメインを含むか、またはそれからなるキメラ抗原受容体を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Lgr5を認識する結合ドメインを含む細胞外ドメインと、
膜貫通ドメインと、
細胞機能を活性化する細胞内シグナル伝達ドメインと、
を含む、キメラ抗原受容体。
【請求項2】
前記結合ドメインが、Lgr5の凸面上のエピトープを認識する、請求項1に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項3】
前記結合ドメインが、Lgr5のロイシンリッチリピート6~9内のエピトープを認識する、請求項1または請求項2に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項4】
前記結合ドメインが、Lgr5に結合する抗体の可変重鎖、または前記可変重鎖の機能的変異体を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項5】
前記結合ドメインが、Lgr5に結合する抗体の可変軽鎖、または前記可変軽鎖の機能的変異体を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項6】
前記結合ドメインが、抗体18G7.1、18G7H6A1もしくは18G7H6A3、またはその機能的変異体の結合部分を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項7】
前記結合ドメインが、
配列番号37に示されるアミノ酸配列を有するか、または最大2個のアミノ酸修飾を有する配列番号37に示されるアミノ酸配列を有する重鎖CDR1と、
配列番号38に示されるアミノ酸配列を有するか、または最大2個のアミノ酸修飾を有する配列番号38に示されるアミノ酸配列を有する重鎖CDR2と、
配列番号39に示されるアミノ酸配列を有するか、または最大2個のアミノ酸修飾を有する配列番号39に示されるアミノ酸配列を有する重鎖CDR3と、
を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項8】
前記結合ドメインが、
配列番号40に示されるアミノ酸配列を有するか、または最大2個のアミノ酸修飾を有する配列番号40に示されるアミノ酸配列を有する軽鎖CDR1と、
配列番号41に示されるアミノ酸配列を有するか、または最大2個のアミノ酸修飾を有する配列番号41に示されるアミノ酸配列を有する軽鎖CDR2と、
配列番号42に示されるアミノ酸配列を有するか、または最大2個のアミノ酸修飾を有する配列番号42に示されるアミノ酸配列を有する軽鎖CDR3と、
を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項9】
前記結合ドメインが、Lgr5に結合する抗体のVHまたはVL鎖と同一の配列を含む単一ドメイン抗体(sdAb)と同一の配列を含むか、またはLgr5に結合する抗体に由来する断片抗原結合(Fab)と同一の配列を含むか、またはLgr5に結合する抗体のVH領域およびVL領域を含む一本鎖可変断片(scFv)と同一の配列を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項10】
前記結合ドメインが、可変軽(VL)鎖のN末端に連結された可変重(VH)鎖のC末端を含み、
前記VH鎖が、配列番号37の前記配列を有するCDR1、配列番号38の前記配列を有するCDR2、および配列番号39の前記配列を有するCDR3を含み、
前記VL鎖が、配列番号40の前記配列を有するCDR1、配列番号41の前記配列を有するCDR2、および配列番号42の前記配列を有するCDR3を含み、ならびに
各CDRが、最大2個のアミノ酸修飾を有し得る、請求項1~6のいずれか1項に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項11】
前記一本鎖可変断片が、前記可変軽(VH)鎖のN末端に連結された前記可変軽(VL)鎖のC末端を含み、
前記VL鎖が、配列番号40の前記配列を有するCDR1、配列番号41の前記配列を有するCDR2、および配列番号42の前記配列を有するCDR3を含み、
前記VH鎖が、配列番号37の前記配列を有するCDR1、配列番号38の前記配列を有するCDR2、および配列番号39の前記配列を有するCDR3を含み、ならびに
各CDRが、最大2個のアミノ酸修飾を有し得る、請求項1~6のいずれか1項に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項12】
前記結合ドメインが、配列番号49および/もしくは配列番号50、または配列番号49もしくは50と少なくとも90%の配列同一性を有するそれらの変異体を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項13】
前記結合ドメインが、配列番号53もしくは配列番号54、または配列番号53もしくは54と少なくとも90%の配列同一性を有するそれらの変異体を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項14】
前記細胞外ドメインが、前記結合ドメインを前記膜貫通ドメインに連結するリンカードメインを含む、請求項1~13のいずれか1項に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項15】
前記リンカードメインが、少なくとも12アミノ酸の長さであるか、または少なくとも約12アミノ酸の長さである、請求項14に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項16】
前記リンカードメインが、少なくとも119アミノ酸の長さであるか、または少なくとも約119アミノ酸の長さである、請求項14に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項17】
前記リンカードメインが、少なくとも229アミノ酸の長さであるか、または少なくとも約229アミノ酸の長さである、請求項14に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項18】
前記リンカードメインが、最長119アミノ酸の長さであるか、または最長約119アミノ酸の長さである、請求項15に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項19】
前記リンカードメインが、最長229アミノ酸の長さであるか、または最長約229アミノ酸の長さである、請求項16に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項20】
前記リンカードメインが、IgG4ヒンジの配列と同一のアミノ酸配列を含むか、または最大2個のアミノ酸修飾を有する、前記IgG4ヒンジの修飾型と同一の配列を含む、請求項14~19に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項21】
前記リンカードメインが、配列番号55、配列番号56もしくは配列番号57、もしくはそれらの機能的変異体から選択される配列を含むか、またはそれからなる、請求項14に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項22】
前記細胞外ドメインが、12個を超えるアミノ酸の長さ、少なくとも119アミノ酸の長さ、119個を超えるアミノ酸の長さ、または少なくとも229アミノ酸の長さのリンカーを含み、前記結合ドメインを前記膜貫通ドメインに連結し、前記リンカードメインが、VHドメインのC末端に連結している、請求項11に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項23】
前記細胞内シグナル伝達ドメインが、活性化受容体のシグナル伝達部分と同一のアミノ酸配列を有する部分またはその機能的変異体を含む、請求項1~22のいずれか1項に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項24】
前記活性化受容体が、CD3共受容体複合体の一員である、請求項23に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項25】
前記活性化受容体が、CD3-ζ(CD3ゼータ)である、請求項23に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項26】
前記シグナル伝達ドメインが、共刺激受容体のシグナル伝達部分と同一のアミノ酸配列を有する部分を含む、請求項1~25のいずれか1項に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項27】
前記共刺激受容体が、CD27、CD28、CD30、CD40、DAP10、OX40、4-1BB(CD137)およびICOSからなる群より選択される、請求項26に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項28】
前記共刺激受容体が、4-1BB(CD137)である、請求項26に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項29】
前記細胞内ドメインが、CD3-ζ(CD3ゼータ)の少なくともシグナル伝達部分と同一のアミノ酸配列と、4-1BBのシグナル伝達部分と同一のアミノ酸配列とを含む、請求項1~28のいずれか1項に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項30】
前記細胞内ドメインが、配列番号58および/または配列番号59を含む、請求項1~22のいずれか1項に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項31】
配列番号60、61、62、63、64および65、またはそれらの機能的変異体からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むか、またはそれからなる、キメラ抗原受容体。
【請求項32】
配列番号62、63、64および65またはそれらの機能的変異体からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるキメラ抗原受容体。
【請求項33】
請求項1~32のいずれか1項に記載の前記キメラ抗原受容体をコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子。
【請求項34】
請求項33に記載の核酸分子およびプロモーターを含む核酸構築物。
【請求項35】
前記プロモーターが、シミアンウイルス40(SV40)、サイトメガロウイルス(CMV)、P-アクチン、ユビキチンC(UBC)、伸長因子-1アルファ(EF1A)、ホスホグリセラートキナーゼ(PGK)およびCMV初期エンハンサー/ニワトリβアクチン(CAGG)からなる群から選択される、請求項34に記載の核酸構築物。
【請求項36】
前記プロモーターが、前記CMVプロモーターである、請求項34に記載の核酸構築物。
【請求項37】
前記核酸構築物が、ベクターである、請求項34~請求項36のいずれか1項に記載の核酸構築物。
【請求項38】
遺伝子改変細胞の調製に使用するための、請求項33に記載の核酸分子または請求項34~37のいずれか1項に記載の前記核酸構築物。
【請求項39】
遺伝子改変細胞の前記調製における、請求項33に記載の核酸分子または請求項34~37のいずれか1項に記載の核酸構築物の使用。
【請求項40】
請求項33に記載の核酸分子または請求項34~37のいずれか1項に記載の核酸構築物を含むウイルスベクター。
【請求項41】
ウイルスベクターが、レンチウイルスである、請求項40に記載のウイルスベクター。
【請求項42】
遺伝子改変細胞を調製する方法に使用するための、請求項40または請求項41に記載のウイルスベクター。
【請求項43】
遺伝子改変細胞を調製する方法における、請求項40または請求項41に記載のウイルスベクターの使用。
【請求項44】
Lgr5発現に関連する癌の処置のための医薬品またはLgr5を発現するもしくは異常発現する細胞の死滅のための医薬品の調製に使用するための、請求項40または請求項41に記載のウイルスベクター。
【請求項45】
Lgr5発現に関連する癌の処置のための医薬品またはLgr5を発現するもしくは異常発現する細胞の死滅のための医薬品の調製における請求項40または請求項41に記載のウイルスベクターの使用。
【請求項46】
請求項1~32のいずれか1項に記載のキメラ抗原受容体を含む細胞。
【請求項47】
請求項33に記載の核酸分子、または請求項34~37のいずれか1項に記載の核酸構築物、または前記核酸分子もしくは構築物のゲノムに組み込まれた形態を含む、遺伝子改変細胞。
【請求項48】
白血球、末梢血単核球(PBMC)、リンパ球、T細胞、ナチュラルキラー細胞またはナチュラルキラーT細胞である、請求項46に記載の細胞または請求項47に記載の遺伝子改変細胞。
【請求項49】
前記T細胞が、CD4+T細胞である、請求項48に記載の細胞または遺伝子改変細胞。
【請求項50】
前記T細胞が、CD8+T細胞である、請求項48に記載の細胞または遺伝子改変細胞。
【請求項51】
Lgr5を発現または異常発現する標的細胞を死滅させる方法であって、前記方法が、キメラ抗原受容体を発現する細胞または遺伝子改変細胞に前記標的細胞を曝露することを含み、前記キメラ抗原受容体が、Lgr5を標的とする、方法。
【請求項52】
前記細胞または遺伝子改変細胞が、請求項1~32のいずれか1項に記載のキメラ抗原受容体を含む、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記細胞または前記遺伝子改変細胞が、請求項46~50のいずれか1項に記載の細胞または遺伝子改変細胞である、請求項51に記載の方法。
【請求項54】
前記細胞または遺伝子改変細胞が、前記標的細胞に対して自己である、請求項51~53のいずれか1項に記載の方法。
【請求項55】
前記細胞または遺伝子改変細胞が、前記標的細胞に対して同種異系である、請求項51~53のいずれか1項に記載の方法。
【請求項56】
前記標的細胞が、対象の体内にある、請求項51~55のいずれか1項に記載の方法。
【請求項57】
前記標的細胞が、癌細胞である、請求項51~56のいずれか1項に記載の方法。
【請求項58】
前記癌細胞が、乳房、膵臓、前立腺、結腸、結腸直腸、胃腸、肺(NSCLC)、リンパ腫、卵巣またはB細胞リンパ腫のうちの1またはそれを超える種類から選択される、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
前記癌細胞が、結腸直腸癌、結腸癌または胃腸癌から選択される、請求項57に記載の方法。
【請求項60】
キメラ抗原受容体を発現する前記細胞または遺伝子改変細胞に前記標的細胞を曝露する前に、前記標的細胞上のLgr5の表面発現を分析することをさらに含む、請求項51~59のいずれか1項に記載の方法。
【請求項61】
前記標的細胞が、癌細胞であり、前記標的細胞上のLgr5の前記表面発現が、異常発現を同定するために同等の非癌性細胞と比較される、請求項60に記載の方法。
【請求項62】
Lgr5発現に関連する癌患者を予防または処置する方法であって、前記方法が、キメラ抗原受容体を発現する細胞に前記患者を曝露することを含み、前記キメラ抗原受容体が、Lgr5を標的とする、方法。
【請求項63】
前記患者に、請求項1~32のいずれか1項に記載のキメラ抗原受容体が投与される、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
前記患者に、請求項46~50のいずれか1項に記載の細胞または遺伝子改変細胞が投与される、請求項63に記載の方法。
【請求項65】
前記細胞または遺伝子改変細胞が、前記患者にとって自己である、請求項64に記載の方法。
【請求項66】
前記細胞または遺伝子改変細胞が、前記患者にとって同種異系である、請求項64に記載の方法。
【請求項67】
キメラ抗原受容体を発現する細胞に患者を曝露する前に、前記患者における癌幹細胞の存在を同定することをさらに含む、請求項62~66のいずれか1項に記載の方法。
【請求項68】
前記癌が、転移性癌であるか、または再発性癌である、請求項62~67のいずれか1項に記載の方法。
【請求項69】
請求項33に記載の核酸分子、請求項34~37のいずれか1項に記載の核酸構築物、請求項40~42のいずれか1項に記載のウイルスベクターまたは請求項46~50のいずれか1項に記載の細胞もしくは遺伝子改変細胞を含み、さらに薬学的に許容され得る担体、賦形剤または希釈剤を含む、医薬組成物。
【請求項70】
サイトカインをさらに含む、請求項69に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権主張
本出願は、オーストラリア仮出願第2020904256号の優先権を主張するものであり、その内容全体が本明細書に組み込まれる。
技術分野
【0002】
本発明は、キメラ抗原T細胞受容体、キメラ抗原T細胞受容体を発現する免疫細胞、キメラ抗原T細胞受容体を含む医薬組成物、癌などの増殖性疾患の予防および/または処置に使用するためにキメラ抗原T細胞受容体およびそのようなT細胞受容体を有するT細胞を使用する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
本発明の背景に関する以下の考察は、本発明の理解を容易にすることを意図している。しかしながら、考察は、言及された物質のいずれかが、本明細書の特許請求の範囲のいずれか1項の優先日に公開され、公知であり、または通常の一般的知識の一部であることの承認または了解ではないことを理解されたい。
【0004】
免疫系は、様々な日和見微生物による感染を予防し、新生細胞または前新生細胞などの異常な細胞増殖を予防することによって、対象の身体の完全性を能動的に維持する。免疫系の特異性および有効性のために、新生細胞を特異的に標的とするように適応免疫系を操作する多くの試みがなされてきた。これらの技術はまとめて免疫腫瘍学と呼ばれる。
【0005】
免疫腫瘍学は、抗体の使用、癌抗原ワクチン接種、サイトカイン処置および養子T細胞移入を含む多くの異なる技術を含む。おそらく、免疫腫瘍学の最も利用される形態は、腫瘍関連抗原に対する特異的モノクローナル抗体の開発である。抗体は、免疫腫瘍学の優れた選択肢となる様々な特性を実証する。一個体(ヒト)内では、それぞれ異なる抗原特異性および親和性を有する1011~1012個もの固有の抗体を作製し得ると推定される。したがって、抗体は、ほぼあらゆる表面抗原に対して生成され得る。さらに、抗体は、不死化ハイブリドーマ細胞株を使用してインビトロで容易に組換え生産され得る。これは、大量に製造され得ることを意味する。さらに、抗体は、長期間にわたって安定であるように製剤化(例えば、凍結乾燥)され得ることにより、容易な貯蔵および分配が可能になる。最後に、抗体の投与量は、応答性を高めるために、または副作用が発生した場合に副作用を低減するために容易に制御され得る。
【0006】
抗体は、抗体依存性細胞傷害(ADCC)を介して標的細胞を直接死滅させるために利用され得ることにより、標的への抗体の結合が抗体結合細胞の溶解を指示する。あるいは、抗体を使用して、癌細胞上に発現される受容体およびシグナル伝達分子の機能性を阻害し得る。
【0007】
上記の特性の結果として、抗体は免疫腫瘍学においてますます普及してきている。しかしながら、それらにはいくつかの制限がある。例えば、抗体のサイズは、不十分な血管新生であることが多い固形腫瘍内の細胞にアクセスする能力を低下させる。さらに、癌細胞は、日常的に、標的とされる抗原を低レベルで発現するか、または発現しないように適応する。したがって、抗体は、典型的には、患者を治癒させるのではなく、癌感染個体の生存を延長させる。
【0008】
近年、科学者および医師は、癌を処置するための適応免疫系の細胞アームの使用を探求し始めている。例えば、腫瘍浸潤白血球(TIL)として知られるT細胞は、切除された腫瘍から単離されている。これらのTILSは、個々の腫瘍関連抗原に対する応答性に基づいて選択的に増殖させ、患者に投与して戻され得る。いくつかの例では、追加の処置と共に投与された場合、これらのTILは患者を完全寛解させた(NIH(2018)’’New approach to immunotherapy leads to complete response in breast cancer patient unresponsive to other treatments’’)。他の最先端処置が失敗した場合の細胞処置の成功は、T細胞が能動的に腫瘍に浸潤し、免疫系の他の部分の応答を誘導および調整する能力に起因するかもしれない。
【0009】
しかしながら、これらの細胞処置の成功率は非常に変わりやすく、処置は、個々の腫瘍の固有の抗原特性の特徴付け、およびこれらの固有の抗原と反応する少数のTILの同定に大きく依存している。これは、極めて高額で、TILの生成に長期間かかり、場合によっては適切なTILを分離および増殖し得ない。
【0010】
したがって、癌などの増殖性疾患の免疫治療のための新規かつ代替の選択肢が必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明の概要
本発明は、一部には、腫瘍関連抗原であるLgr5を認識するキメラ抗原受容体(CAR)T細胞の開発に基づいている。
【0012】
ロイシンリッチリピート含有Gタンパク質共役受容体5(Lgr5)は、その同種リガンドによって結合されるとWntシグナル伝達を活性化する受容体である。Lgr5は、シグナル伝達の上昇が癌の発症および再発に関与している癌幹細胞のマーカーとして同定されている。
【0013】
したがって、本発明は、Lgr5を認識する結合ドメインを含む細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、および細胞機能を活性化する細胞内シグナル伝達ドメインを含むか、またはそれからなるキメラ抗原受容体を提供する。
【0014】
キメラ抗原受容体(CAR)は、細胞の表面上での発現時に抗原特異的細胞応答を誘導し得る人工的に構築されたタンパク質である。CARは、活性化されると宿主細胞内でシグナル伝達カスケードを引き起こす細胞内部分を利用する。キメラ抗原受容体は、CARの抗原特異性を決定する結合ドメインを有する細胞外ドメインをさらに含む。したがって、CARは、T細胞受容体などの抗原受容体の機能を模倣するが、カスタマイズ可能な抗原特異性およびカスタマイズ可能な細胞内シグナル伝達を有するように設計され得る。しかしながら、T細胞受容体とは異なり、CARは、ヒト白血球抗原(HLA)などの主要組織適合性(MHC)分子とは無関係に、細胞内部分の設計に応じて、追加のまたは外因性の共刺激とは無関係に、活性化されるように設計され得る。
【0015】
したがって、T細胞などの適切な宿主細胞で発現する場合、本発明のCARは、Lgr5を発現する細胞の死滅をもたらし得る細胞活性を誘導し得る。したがって、本発明のCARを使用して、Lgr5を発現する細胞を死滅させるか、またはその死滅を誘導し得る。
【0016】
Lgr5は、凸面および凹リガンド結合面の両方を有する馬蹄形を形成する17個のロイシンリッチリピートを含むソレノイドタンパク質ドメインを含む。一部の実施形態では、CARの結合ドメインは、Lgr5の凸面上のエピトープを認識する。一部の実施形態では、エピトープは、Lgr5のロイシンリッチリピート6~9内にある。
【0017】
Lgr5に結合する結合部分(CDRなど)を含む抗体が生成されている。これらには、18G7H6A3(BNC101)、18G7H6A1および18G7.1が含まれる。したがって、一部の実施形態では、結合ドメインは、少なくとも、18G7H6A3、18G7H6A1または18G7.1から選択される抗体の結合部分を含む。
【0018】
当技術分野で理解されるように、抗体は、可変重(VH)鎖および可変軽(VL)鎖によって定義される可変領域を含む。これらの可変領域の各々は、3つの相補性決定領域(CDR)による4つのフレームワーク領域の間隙を含み、合計6つのCDRをもたらす。しかしながら、抗体の一本鎖はエピトープに特異的に結合し得る。一次可変重鎖を使用して、単一ドメイン抗体(sdAb)を形成し得る。さらに、一本鎖可変断片(scFv)融合タンパク質が生成され得ることによって可変重鎖および可変軽鎖が融合ペプチド(融合リンカー)を介して一緒に融合される。あるいは、Fabとして知られる抗体の結合断片(断片抗原結合)を、抗体の酵素消化によって生成して、Fc断片をFab断片から分離し得る。消化は、抗体から2つのFabを作製するヒンジ領域で、または抗体ジスルフィド架橋によって連結された抗体の2つのFab領域を含むF(ab)2を作製するヒンジの下方でなされ得る。
【0019】
したがって、一部の実施形態では、本発明のCARの結合ドメインは、Lgr5に結合する抗体のVH鎖もしくはVL鎖と同一の配列、またはLgr5に結合する抗体のFab断片と同一の配列、またはLgr5に結合する抗体のVH領域およびVL領域を含む一本鎖可変断片(scFv)と同一の配列を含む単一ドメイン抗体である。
【0020】
一部の実施形態では、CARの結合ドメインは、Lgr5に結合する抗体の可変重鎖を少なくとも含む。しかしながら、単一ドメイン抗体の形態の可変軽鎖も抗原に特異的に結合し得る。したがって、一部の実施形態では、結合ドメインは、Lgr5に結合する抗体の可変軽鎖を少なくとも含む。
【0021】
開示されるように、各可変鎖は3つのCDRを含む。したがって、一部の実施形態では、CARの結合ドメインは、配列番号37に示されるアミノ酸配列を有するか、または1、2もしくは3個のアミノ酸修飾を有する配列番号37に示されるアミノ酸配列を有する重鎖CDR1と、配列番号38に示されるアミノ酸配列を有するか、または1、2もしくは3個のアミノ酸修飾を有する配列番号38に示されるアミノ酸配列を有する重鎖CDR2と、配列番号39に示されるアミノ酸配列を有するか、または1、2もしくは3個のアミノ酸修飾を有する配列番号39に示されるアミノ酸配列を有する重鎖CDR3とを含む。一部の実施形態では、結合ドメインは、配列番号37、配列番号38および配列番号39と同一のアミノ酸配列を含む。
【0022】
一部の実施形態では、CARの結合ドメインは、配列番号40に示されるアミノ酸配列を有するか、または1、2もしくは3個のアミノ酸修飾を有する配列番号40に示されるアミノ酸配列を有する軽鎖CDR1と、配列番号41に示されるアミノ酸配列を有するか、または1、2もしくは3個のアミノ酸修飾を有する配列番号41に示されるアミノ酸配列を有する軽鎖CDR2と、配列番号42に示されるアミノ酸配列を有するか、または1、2もしくは3個のアミノ酸修飾を有する配列番号42に示されるアミノ酸配列を有する軽鎖CDR3とを含む。
【0023】
結合ドメインが一本鎖可変断片である一部の実施形態では、可変重(VH)鎖のC末端は可変軽(VL)鎖のN末端に連結されている。一部の代替的な実施形態では、一本鎖可変断片は、VH鎖のN末端に連結されたVL鎖のC末端を含む。これらの実施形態の好ましい形態では、VH鎖は、配列番号37の配列を有するCDR1、配列番号38の配列を有するCDR2、および配列番号39の配列を有するCDR3を含み、VL鎖は、配列番号40の配列を有するCDR1、配列番号41の配列を有するCDR2、および配列番号42の配列を有するCDR3を含み、各CDRは、1、2または3個のアミノ酸修飾を有し得る。
【0024】
一部の実施形態では、結合ドメインは、配列番号95を有する重鎖CDR1、および配列番号38、39または96に示される重鎖CDR2またはCDR3のいずれかを含む。一部の実施形態では、結合ドメインは、配列番号96を有する重鎖CDR3、および配列番号37、95または38に示される重鎖CDR1またはCDR2のいずれかを含む。
【0025】
一部の実施形態では、CARの結合ドメインは、配列番号49および/もしくは配列番号50、または配列番号49もしくは50と少なくとも80%の配列同一性を有するそれらの変異体を含む。一部の実施形態では、結合ドメインの配列は、配列番号49または50と少なくとも90%の配列同一性を有する。一部の実施形態では、結合ドメインの配列は、配列番号49または50と少なくとも95%の配列同一性を有する。
【0026】
一部の実施形態では、VLおよびVHは、配列番号98の配列を含むか、または配列番号98の配列からなる融合ドメインによって連結される。したがって、一部の実施形態では、結合ドメインは、配列番号53もしくは配列番号54、または配列番号53もしくは54と少なくとも80%の配列同一性を有するそれらの変異体を含む。一部の実施形態では、結合ドメインの配列は、配列番号53または54と少なくとも90%の配列同一性を有する。
【0027】
CARの抗原認識ドメインは、膜貫通ドメインに直接連結され得る。しかしながら、抗原認識ドメインと膜貫通ドメインとの間にリンカードメインを提供することが有利な場合がある。CAR T細胞は、リンカードメインを含まずに機能するように設計および産生されており、したがって、この文脈では、リンカードメインはCARの機能に必須ではない場合がある。
【0028】
しかしながら、一部のCARは、リンカードメインの不在下では機能し得ないか、または最適に機能しない場合がある。したがって、CARの一部の実施形態では、細胞外ドメインは、結合ドメインを膜貫通ドメインに連結するリンカードメインを含む。
【0029】
リンカードメインの長さは、CARおよびCARを発現するT細胞の機能性を改変する場合がある。CARの一部の実施形態では、リンカードメインは、少なくとも12アミノ酸の長さである。一部の実施形態では、リンカードメインは、約12アミノ酸の長さであるか、または少なくとも約12アミノ酸の長さである。一部の実施形態では、リンカードメインは、119アミノ酸の長さであるか、または少なくとも119アミノ酸の長さである。一部の実施形態では、リンカードメインは、約119アミノ酸の長さであるか、または少なくとも約119アミノ酸の長さである。一部の実施形態では、リンカードメインは、229アミノ酸の長さであるか、または少なくとも229アミノ酸の長さである。一部の実施形態では、リンカードメインは、約229アミノ酸の長さであるか、または少なくとも約229アミノ酸の長さである。一部の実施形態では、リンカードメインは、12アミノ酸の長さ~229アミノ酸の長さである。一部の実施形態では、リンカードメインは、約12アミノ酸の長さ~約229アミノ酸の長さである。一部の実施形態では、リンカードメインは、119アミノ酸の長さ~229アミノ酸の長さである。一部の実施形態では、リンカードメインは、約119アミノ酸の長さ~約229アミノ酸の長さである。
【0030】
CARのリンカードメインを提供するために、様々なペプチド配列が利用され得る。本発明の一部の実施形態では、リンカードメインは、IgG4ヒンジなどの免疫グロブリンヒンジの配列と同一のアミノ酸配列を含む。一部の実施形態では、リンカー領域は、IgG4ヒンジの修飾型と同一の配列を含む。一部の実施形態では、IgG4ヒンジの修飾型は、1、2または3個のアミノ酸修飾、好ましくは1個のアミノ酸修飾を含む。
【0031】
一部の実施形態では、リンカードメインは、免疫グロブリンのCH3領域、例えばIgG4のCH3領域の配列と同一のアミノ酸配列を含む。一部の実施形態では、リンカードメインは、免疫グロブリンのCH2領域、例えばIgG4のCH2領域の配列と同一のアミノ酸配列を含む。一部の実施形態では、リンカードメインは、ヒンジ領域、CH3領域および/またはCH2領域の組み合わせを含む。
【0032】
一部の実施形態では、リンカードメインは、配列番号55、配列番号56もしくは配列番号57、もしくはそれらの機能的変異体から選択される配列を含むか、またはそれからなる。
【0033】
CARを発現するT細胞がその同種抗原を認識すると、CARの細胞内シグナル伝達ドメインはT細胞の活性化をシグナル伝達する。したがって、CARの細胞内シグナルは、細胞活性化の種類および規模に影響を及ぼし得る。
【0034】
一部の実施形態では、細胞内シグナル伝達ドメインは、活性化受容体のシグナル伝達部分と同一のアミノ酸配列を有する部分を含む。一部の実施形態では、活性化受容体はCD3共受容体複合体またはFc受容体の一員である。特に想定されるシグナル伝達ドメインには、少なくともCD3-ζ(CD3ゼータ)のシグナル伝達部分、またはFcεRIもしくはFcγRIのシグナル伝達部分と同一のアミノ酸配列が含まれる。
【0035】
一部の実施形態では、CARの細胞内シグナル伝達ドメインは、共刺激受容体のシグナル伝達部分と同一のアミノ酸配列を有する部分を含む。一部の実施形態では、共刺激受容体は、CD27、CD28、CD30、CD40、DAP10、OX40、4-1BB(CD137)およびICOSからなる群より選択される。一部の実施形態では、共刺激受容体は4-1BBである。
【0036】
一部の実施形態では、細胞内ドメインは、CD3-ζ(CD3ゼータ)の少なくともシグナル伝達部分と同一のアミノ酸配列、および4-1BBのシグナル伝達部分と同一のアミノ酸配列、またはその機能的変異体を含む。
【0037】
一部の実施形態では、細胞内ドメインは、配列番号58および/もしくは配列番号59と同一のアミノ酸配列、またはその機能的変異体を含む。
【0038】
一部の実施形態では、CARは、配列番号60、61、62、63、64もしくは65、またはそれらの機能的変異体からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むか、またはそれからなる。一部の好ましい実施形態では、CARは、配列番号62、63、64もしくは65、またはそれらの機能的変異体からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むか、またはそれからなる。
【0039】
上に開示されるようなCARをコードする核酸分子またはその核酸分子を含む核酸構築物がさらに提供される。一部の実施形態では、核酸構築物はベクターである。一部の実施形態では、核酸構築物中の核酸分子の発現は、転写制御配列の制御下にある。一部の実施形態では、転写制御配列は構成的プロモーターである。一部の実施形態では、プロモーターは、シミアンウイルス40(SV40)、サイトメガロウイルス(CMV)、P-アクチン、ユビキチンC(UBC)、伸長因子-1アルファ(EF1A)、ホスホグリセラートキナーゼ(PGK)およびCMV初期エンハンサー/ニワトリβアクチン(CAGG)からなる群から選択される。一部の実施形態では、プロモーターはCMVプロモーターである。
【0040】
本発明の核酸または核酸構築物は、遺伝子改変細胞を調製するのに使用するため、またはウイルスベクターを調製するのに使用するため、または医薬を調製するのに使用するためであり、または細胞を遺伝子改変する方法、または医薬のウイルスベクターを調製する方法に使用され得る。
【0041】
したがって、本明細書に記載のCARをコードおよび/または発現する核酸分子または核酸構築物を含むウイルスベクターも本明細書で提示される。一部の実施形態では、ウイルスベクターはレンチウイルスである。
【0042】
一部の実施形態では、ウイルスベクターは、遺伝子改変細胞を調製する方法で使用される。一部の実施形態では、ウイルスベクターは、癌の処置のための医薬、またはLgr5を発現または異常発現する細胞の死滅のための医薬の調製に使用するためのものである。
【0043】
本発明によってさらに提供されるのは、本明細書に記載のキメラ抗原受容体、または本明細書に記載の核酸分子もしくは構築物、または核酸分子もしくは構築物のゲノムに組み込まれた形態を含む、細胞または遺伝子改変細胞である。
【0044】
一部の実施形態では、遺伝子改変細胞は、白血球、末梢血単核球(PBMC)、リンパ球、T細胞、ナチュラルキラー細胞またはナチュラルキラーT細胞である。
【0045】
一部の実施形態では、T細胞はCD4+T細胞またはCD8+T細胞である。
【0046】
本開示はまた、Lgr5を発現または異常発現する標的細胞を死滅させる方法を提示し、本方法は、CARを発現する細胞または遺伝子改変細胞に標的細胞を曝露することを含み、CARは、Lgr5を標的とする。一部の実施形態では、CARは、本明細書に記載のいずれか1またはそれを超える特性を含む。
【0047】
一部の実施形態では、細胞または遺伝子改変細胞は、標的細胞に対して自己である。一部の実施形態では、細胞または遺伝子改変細胞は、標的細胞に対して同種異系である。一部の実施形態では、標的細胞は対象の体内にある。一部の実施形態では、標的細胞は癌細胞である。
【0048】
標的細胞を死滅させる方法の一部の実施形態では、本方法は、キメラ抗原受容体を発現する細胞または遺伝子改変細胞に標的細胞を曝露する前に、標的細胞上のLgr5の表面発現を分析することをさらに含む。標的細胞が癌細胞である一部の実施形態では、癌細胞上のLgr5の表面発現を同等の非癌性細胞と比較して、異常発現を同定する。
【0049】
本開示はまた、癌患者を予防または処置する方法も提示し、本方法は患者をCARに曝露することを含み、CARはLgr5を標的とする。好ましくは、CARは、本明細書に記載されるものなどの細胞または遺伝子改変細胞で発現される。したがって、一部の実施形態では、癌患者を予防または処置する方法は、本明細書に記載のCARを含むまたは発現する細胞に患者を曝露することを含む。一部の実施形態では、細胞は患者にとって自己である。一部の実施形態では、細胞は患者に対して同種異系である。一部の実施形態では、患者の癌を予防または処置する方法は、患者の癌幹細胞の存在を同定することをさらに含む。
【0050】
癌細胞を死滅させるための方法または癌を予防もしくは処置するための方法の一部の実施形態では、癌細胞は、乳房、膵臓、前立腺、結腸、結腸直腸、胃腸、肺(NSCLC)、リンパ腫、卵巣またはB細胞リンパ腫のうちの1またはそれを超える種類から選択される。一部の実施形態では、癌細胞は、結腸直腸癌、B細胞リンパ腫または卵巣癌のうちの1またはそれを超える種類から選択される。一部の実施形態では、癌は、結腸癌、結腸直腸癌または別の胃腸癌である。一部の実施形態では、癌は転移性癌であるか、または再発性癌である。
【0051】
CAR、核酸、ベクターまたは本明細書に記載の遺伝子改変細胞と、薬学的に許容され得る担体、賦形剤または希釈剤とを含む医薬組成物がさらに提供される。一部の実施形態では、医薬組成物はサイトカインを含む。
【0052】
本発明の範囲内に入る場合がある他の形態にもかかわらず、本発明の好ましい実施形態は、添付の図面を参照して単なる例として説明される。
図面の簡単な説明
【図面の簡単な説明】
【0053】
【
図1】
図1は、抗体18G7.1、18G7H6A1および本明細書に例示するキメラ抗原受容体の実施形態の重鎖および軽鎖のCDRのアラインメントである。
【0054】
【
図2】
図2は、抗体18G7.1および18G7H6A1の可変重鎖および可変軽鎖の領域と、本明細書に例示するキメラ抗原受容体の実施形態の可変重鎖および可変軽鎖とのアラインメントである。CDRは囲み枠で示されている。
【0055】
【
図3】
図3は、12(4a)、119(4b)および229(4c)アミノ酸の長さの3つの異なるリンカードメインを示す、本発明の実施形態によるキメラ抗原受容体(CAR)の概略図である。
【0056】
【
図4】
図4Aおよび
図4Bは、本発明によるCARの結合ドメインの2つの実施形態を示す概略図である。具体的には、Lgr5に対する2つのscFv融合タンパク質であって、融合ドメインによって連結された抗体可変重鎖(VH)および可変軽鎖(VL)を含む2つのscFv融合タンパク質が例示される。
【0057】
【
図5】
図5Aおよび
図5Bは、リンパ球(前方散乱および側方散乱ゲーティングに基づく)のフローサイトメトリーヒストグラムであり、CD4+、CD8+およびEGFR発現(CAR発現のプロキシマーカーとして)について染色され、
図5Aは、CNA3002、CNA3003およびCNA3004、ならびに形質導入されていないT細胞による形質導入の5日後のCAR発現を示す。
図5Bは、CNA3102、CNA3103およびCNA3104ならびに形質導入されていないT細胞による形質導入の5日後のCAR発現を示す。
【0058】
【
図6】
図6Aおよび
図6Bは、リンパ球のフローサイトメトリーヒストグラム(前方散乱および側方散乱ゲーティングに基づく)であり、CD4+、CD8+およびEGFR発現について(CAR発現のマーカーとして)染色される。
図6Aは、CNA3002、CNA3003およびCNA3004ならびに形質導入されていないT細胞による形質導入の15日後のCAR発現を例示する。
図6Bは、CNA3102、CNA3103およびCNA3104ならびに形質導入されていないT細胞による形質導入の15日後のCAR発現を例示する。
【0059】
【
図7】
図7は、野生型CHO細胞およびLgr5を過剰発現するCHO細胞におけるLgr5発現のフローサイトメトリーヒストグラムであり、これらは染色されなかったか、抗Lgr5抗体BNC101で染色された。
【0060】
【
図8】
図8Aおよび
図8Bは、Lgr5発現標的の溶解におけるCAR形質導入T細胞の有効性を示す。具体的には、
図8Aは、CNA3002、CNA3004、CNA3102、CNA3103およびCNA3104のうちの1つで形質導入されたT細胞が、10:1、3:1および1:1の標的細胞対エフェクター細胞比で、Lgr5を過剰発現するCHO細胞を効果的に溶解し得る一方で、形質導入されていないT細胞は、同じ標的細胞を最小限しか溶解しないことを実証する細胞傷害性(死滅)アッセイを示す。
図8Bは、同じ形質導入されたT細胞が、Lgr5を過剰発現しないCHO細胞に対して最小限の死滅のみをもたらすことを示す。
【0061】
【
図9】
図9A~
図9Gは、様々な癌細胞株を死滅させることにおけるCNA3002、CNA3003、CNA3004、CNA3102、CNA3103およびCNA3104の有効性を示す。アッセイされる癌細胞株には、(9A)LoVo細胞(転移性結腸上皮細胞癌)、(9B)LIM 1215細胞(結腸直腸上皮細胞癌腫)、(9C)Raji細胞(バーキットリンパ腫)、(9D)Namalwa細胞(バーキットリンパ腫)、(9E)OVCAR3(卵巣癌腫)、(9F)SHY-5Y-SY(神経芽腫)、および(9G)BE(2)-M17(神経芽細胞腫)が含まれる。これらのアッセイを、10:1、3:1および1:1のエフェクターCAR T細胞対標的癌細胞(E:T)比で行った。
【0062】
【0063】
【
図11】
図11は、10:1および1:1のエフェクター対標的細胞(E:T)比での原発性卵巣癌細胞の死滅におけるCNA3002、CNA3004、CNA3102、CNA3103およびCNA3104の有効性を示す。
【0064】
【
図12】
図12A~
図12Cは、LoVo標的細胞のCAR T細胞媒介性死滅におけるLgr5遮断抗体の効果を例示する。図は、具体的に、10:1および1:30のエフェクター対標的細胞(E:T)比での原発性卵巣癌細胞の死滅におけるCNA3002、CNA3004、CNA3102、CNA3103およびCNA3104の有効性を示す。
【0065】
【
図13】
図13Aは、癌のマウス異種移植モデルにおけるCNA3004、CNA3102、CNA3103およびCNA3104のインビボ有効性(腫瘍成長によって測定した場合)を示す。
【0066】
【
図14】
図14Aおよび
図14Bは、癌のマウス異種移植モデルにおける生存期間(14A)および無腫瘍日数(14B)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0067】
詳細な説明
ロイシンリッチリピート含有Gタンパク質共役受容体5(Lgr5)は、GPCRのクラスAロドプシン様ファミリーの7回膜貫通タンパク質である。Lgr5は、そのリガンドR-スポンジンに結合すると、Wnt受容体FrizzledおよびLPR5/6と相互作用して、Wnt/β-カテニンシグナル伝達を増強する(Carmon,K.S.ら、PNAS.,2011;108,11452-7)。
【0068】
Lgr5が活性化されると、β-カテニンは細胞のサイトゾルに蓄積し、核に移行し、そこでc-myc、サイクリンD1およびサバイビンを含むがん原性遺伝子を活性化する。正常条件下では、Lgr5は、成体幹細胞のいくつかの系統の胚発生ならびに細胞可塑性、増殖および分化に不可欠である。したがって、Lgr5は、乳腺組織、小腸および大腸ならびに毛包を含むいくつかの組織における成体幹細胞のマーカーである(Xu,Lら、Stem Cell Res Ther.,2019;10:219)。
【0069】
注目すべきことに、Lgr5は、腺癌、基底細胞癌腫、神経膠芽腫、肝細胞癌腫、結腸直腸癌、膵臓癌、B細胞悪性腫瘍、非小細胞肺癌腫(NSCLC)および卵巣癌を含む様々な種類の癌で上方制御されていると同定されている(Tanese Kら、Am J Pathol。2008;173(3):835-43、Carmon,K.S.ら、Proc Natl Acad Sci USA、2011;108,11452-7、Jiang XMら、Proc Natl Acad Sci USA.2013;110(31):12649-54、Gaoら、Transl Cancer Res.,2019;8(1):203-211およびMcClanahan Tら、Cancer Biol Ther。2006;5(4):419-26)。
【0070】
癌における主にLgr5の上方制御は、癌幹細胞の増殖および再生を刺激し、癌の移動性および腫瘍形成を促進することが実証されている。Lgr5はまた、乳癌で上皮から間葉への移行を促進することが示されている(Yang Lら、Stem Cells.2015;33(10):2913-24)。したがって、Lgr5は、癌転移および二次腫瘍形成において重要な役割を有し、癌幹細胞(CSC)上に発現する。
【0071】
本発明は、一部には、Lgr5に対するキメラ抗原受容体を発現する細胞が、Lgr5発現細胞を死滅させるという本発明者らによる認識に基づくものであり、したがって癌に罹患している患者のための代替処置を提供し得る。
【0072】
したがって、本発明は、Lgr5を認識する結合ドメインを含む細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、および細胞機能を活性化する細胞内シグナル伝達ドメインを含むか、またはそれからなるキメラ抗原受容体を提供する。
【0073】
本明細書を通して、本発明のCAR構築物(集合的にCNA CARファミリー構築物と呼ばれる)は、CNA30xxまたはCNA31xxと呼ばれ、末尾「xx」は連続番号(すなわち、02、03または04)である。したがって、本明細書に例示される6つのCNAは、CNA3002、CNA3003、CNA3004、CNA3102、CNA3103およびCNA3104である。接頭語のCNA30xxは、結合領域において可変軽鎖および可変重鎖の第1の配向を有するCARを指し、CNA31xxは逆の配向を有する。連続番号(「xx」)は、様々なリンカーの長さを指す。
【0074】
キメラ抗原受容体(CAR)は、細胞の表面上での発現時に抗原特異的細胞応答を誘導し得る人工的に構築されたタンパク質である。それらの最も基本的な形態では、CARは少なくとも3つのドメインを含む。第1のドメインは、抗原、またはより具体的には、抗原の1つのエピトープ部分または複数のエピトープ部分を特異的に認識する細胞外抗原認識ドメインである。第2のドメインは、細胞内シグナル伝達経路を誘導することができるか、または誘導に関与することができる細胞内シグナル伝達ドメインである。第3のドメインは、原形質膜を横切り、細胞外抗原認識ドメインと細胞内シグナル伝達ドメインとを架橋する膜貫通ドメインである。
【0075】
最初の2つのドメインの組み合わせは、CARの抗原特異性およびCARが所望の細胞応答を誘導する能力を決定し、後者はCARの宿主細胞にも依存する。例えば、Tヘルパー細胞で発現し、CD3活性化ドメインを含むシグナル伝達ドメインを有するCARの活性化は、その同種抗原によって活性化されると、CD4+Tヘルパー細胞を誘導して様々なサイトカインを分泌する場合がある。さらなる例では、同じCARは、CD8+細胞傷害性T細胞で発現した場合(同種抗原を発現する細胞によって活性化されると)、最終的に抗原発現細胞のアポトーシスの誘導をもたらす細胞毒素の放出を誘導する場合がある。
【0076】
第3のドメイン(膜貫通ドメイン)は、CARのシグナル伝達ドメインの一部を含んでもよいか、またはそれと会合してもよい。膜貫通ドメインは、典型的には、細胞の脂質二重層にまたがり、CARを細胞膜内に埋め込む1またはそれを超える疎水性ヘリックスである。CARの膜貫通ドメインは、細胞に関連する場合、CARの発現パターンにおける1つの決定因子であり得る。例えば、CD3共受容体に関連する膜貫通ドメインの使用は、とりわけ、ナイーブT細胞におけるCARの発現を可能にし得るが、CD4共受容体由来の膜貫通ドメインの使用は、Tヘルパー細胞におけるCARの発現を指示する場合がある。CD8共受容体膜貫通ドメインの使用は、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)における発現を指示する場合があるが、CD28膜貫通ドメインは、CTLおよびTヘルパー細胞の両方における発現を可能にする場合があり、CARの安定化を補助し得る。
【0077】
キメラ抗原受容体のさらなる構成要素または部分は、リンカードメインである場合がある。リンカードメインは、膜貫通ドメインの細胞外側から抗原認識ドメインに広がり、それによって抗原認識ドメインを膜貫通ドメインに連結する。典型的には、当技術分野では、いくつかのCARはリンカードメインなしで機能するため、リンカードメインは任意選択のドメインと見なされる。
【0078】
結合ドメイン
【0079】
本明細書を通して使用される場合、「認識する」という用語は(Lgr5に関して)、Lgr5の所望のエピトープまたはLgr5分子の任意の部分と会合する結合ドメインの能力を指す。好ましくは、この認識は、結合ドメインがLgr5に排他的にまたは主に結合するという点で選択的である。一部の実施形態では、結合ドメインは、Lgr5またはそのエピトープに直接結合する場合がある。一部の実施形態では、抗原認識ドメインは、Lgr5のプロセシングされた形態に結合する場合がある。この文脈で使用される場合、「プロセシングされた形態」という用語は、典型的には、主要組織適合遺伝子複合体(例えばヒト白血球抗原)上に提示されるLgr5の形態およびエピトープを含む細胞内プロセシングの結果として、切断または消化されたLgr5の形態に関する。
【0080】
CAR結合ドメインは、Lgr5またはそのエピトープを認識し得る任意の適切なドメインであり得る。本明細書を通して使用される場合、「結合ドメイン」という用語は、Lgr5に対するCARの特異性を提供するCARの部分を指す。結合ドメインは、本発明の状況では、CARの細胞外領域(またはエクトドメイン)の一部のみを含む。
【0081】
ロイシンリッチリピート含有Gタンパク質共役受容体5(配列番号1-Uniprotアクセッション番号O75473、NCBIアクセッション番号NP_003658.1およびNM_003667.2-同義のGPR49、GPR67、FEXおよびGPR HG38によっても知られている)は、907アミノ酸の長さの膜結合受容体である。Lgr5は、21アミノ酸シグナル伝達ドメインおよびアミノ酸67~446からの最大17個のロイシンリッチリピートを含む561アミノ酸の細胞外ドメインからなる。ロイシンリッチリピートは、細胞外ドメインに凸面と、RSPO1およびRNF43と相互作用する凹面とを有する弓状構造を形成する(Kumar K.ら、Protein Sci.2014;23(5):551-65 Chen P.ら、Genes Dev.,2013;27(12):1345-50)。Lgr5は、21アミノ酸の7つの膜貫通らせんドメインおよび84アミノ酸の細胞質側末端をさらに含む。細胞外ドメインの最もc末端の領域は、481~552にわたるヒンジドメインを含む。
【0082】
したがって、一部の実施形態では、結合ドメインは、残基22~561の間のエピトープを認識する。一部の実施形態では、結合ドメインは、Lgr5の凸面上のLgr5のエピトープを認識する。いくつかの態様において、結合ドメインは残基67~446の間のエピトープを認識する。
【0083】
CARの結合ドメインは、様々な結合分子を含み得る。これらには、抗体(重鎖抗体などの非従来型抗体を含む)、抗体断片、およびタンパク質結合足場が含まれる。
【0084】
一部の実施形態では、抗原結合ドメインは、Lgr5を認識する抗体の結合部分を含む。一部の実施形態では、結合ドメインは、Lgr5に結合する抗体の可変重鎖を含む。一部の実施形態では、結合ドメインは、Lgr5に結合する抗体の可変軽鎖を含む。
【0085】
Lgr5を認識する抗体は当技術分野で知られており、Huabio(ET1608-18)、LifeSpan BioSciences(LS-A1236)、mybiosource(MBS856950、MBS7113118およびMBS9604330)、Novus Biologicals(NLS1236)、Biorbyt(orb137136およびorb137177)、ProSci(23-394)、BioVision(A1007-100)、Cusabio(CSB-PA012906LA01HU)、StressMarq Biosciences Inc(SPC-764)、Biolegend(373803および373804)、R&D systems(MAB8240)、Bioss(bsm-52412R)、Biorad(AHP2742)、G0Biosciences(ITA3755)、RayBiotech(144-10545-50)、Atlas Antibodies(HPA012530)、OriGene Technologies(TA890013)、Elabscience(E-AB-63432)、GeneTex(GTX71143)、St John’s Laboratory(STJ112563)、ThermoFisher(MA5-32978およびMA5-32979)、NSJ Bioreagents(F48166)、Acam(ab219107)、Abnova(PAB30456およびPAB2591)、Miltenyi Biotec(130-111-390)、Sino Biological(100687-T04)、Abbexa Ltd(abx019126)、MBL International(MC-1236およびMC-1235)、BosterBio(M00239)、Signalway Antibody(21659およびC44974)、Wuhan Fine Biotech(FNab04765)、メルク(HPA012530)、Leading Biology(AMM03069G)、Neuromics(RA25071)、Antibody Research Corporation(111302)、Bon Opus Biosciences(BA111499)、Creative Diagnostics(L640)およびCreative Biolabs(NAB-1650-VHH)から入手可能な抗Lgr5抗体を含む。さらなる抗Lgr5抗体は、米国第20190248889号(抗体GEN89.LGR5.1-12および抗体GEN89.LGR5.26-1)に開示されている。
【0086】
一部の実施形態では、抗体はヒト化抗体である。好ましい実施形態では、Lgr5を認識する抗体は、WO第2015153916号(表題:lgr5に結合するヒト化抗体)およびWO第2018232164号(表題:lgr5に結合する抗体薬物複合体)に記載されている18G7H6A3または18G7H6A1(BNC101)である(その開示全体は全体が本明細書に組み込まれる)。したがって、一部の実施形態では、本発明のCARの結合ドメインは、抗体18G7H6A1または18G7H6A3の結合部分を含む。
【0087】
水素-重水素交換質量分析(Morris,1996’’Epitope Mapping Protocols,’’in Methods in Molecular Biology vol.66、Humana Press、Totowa、N.J.を参照されたい)を使用した抗体18G7H6A1および18G7H6A3とLgr5との相互作用のエピトープマッピングにより、重要なエピトープ残基がLgr5のT175、E176、Q180、R183、S186、A187、Q189、D247、E248、T251、R254、S257、N258およびK260として同定された(配列番号1)。これらの残基は、ロイシンリッチリピート6~9の凸面内にある。したがって、一部の実施形態では、CARの結合ドメインは、Lgr5のロイシンリッチリピート6~9内のエピトープを認識する。一部の実施形態では、CARの結合ドメインは、Lgr5の1またはそれを超えるエピトープ残基T175、E176、Q180、R183、S186、A187、Q189、D247、E248、T251、R254、S257、N258およびK260を認識する。
【0088】
抗体18G7H6A3または18G7H6A1は、マウス抗体18G7.1のヒト化型および親和性成熟型である。アラニンスキャニング変異誘発を行うことによって、重鎖CDR1ならびに軽鎖CDR1およびCDR3の個々の残基をアラニンに変異させ、HEK 293細胞にトランスフェクションし、得られた馴化培地をフローサイトメトリーによってLGR5抗原結合活性についてアッセイした。重鎖CDR3に対して飽和変異誘発を実施し、CDR3のすべての残基を、その位置での元のアミノ酸同一性を除いて、19個の天然アミノ酸のそれぞれに変異させた。各変異体をHEK 293細胞にトランスフェクションし、得られた馴化培地をフローサイトメトリーによってLGR5抗原結合活性についてアッセイした。重鎖および軽鎖のCD2配列に対して、同等の変異誘発が用いられ得る。
【0089】
図1は、18G7.1、18G7H6A1のCDR領域および本発明の本CAR構築物のCDRのアラインメントを示す。分かるように、18G7.1と本発明のCAR構築物との間の重鎖CDR1では、最大3個のアミノ酸残基が異なる。
【0090】
さらに、
図2は、CARの18G7.1、18G7H6A1およびCNA3xxxファミリーの重鎖可変領域のアラインメントを示す(リーダー配列なし)。分かるように、本発明の重鎖可変領域は、YからLへの置換を101番目に有する18G7H6A1とは異なる(
図2参照)。CNA3xxx CARの重鎖CDR3領域(配列番号39)と抗体18G7H6A1の重鎖CDR3領域(配列番号96)との比較は、この修飾が重鎖のCDR3領域内にあることを示す(
図1を参照のこと)。
【0091】
図1に示されるように、18G7.1、18G7H6A1およびCNA3xxxのCARの軽鎖CDR3領域は、18G7.1がNからAへの変異(配列番号97を参照)を4番目に含むことを示す。
【0092】
一部の実施形態では、結合ドメインは、配列番号37に示されるアミノ酸配列を有するか、または最大1、2もしくは3個のアミノ酸修飾を有する配列番号37に示されるアミノ酸配列を有する重鎖CDR1と、配列番号38に示されるアミノ酸配列を有するか、または最大1、2もしくは3個のアミノ酸修飾を有する配列番号38に示されるアミノ酸配列を有する重鎖CDR2と、配列番号39に示されるアミノ酸配列を有するか、または最大1、2もしくは3個のアミノ酸修飾を有する配列番号39に示されるアミノ酸配列を有する重鎖CDR3とを含む。
【0093】
一部の実施形態では、結合ドメインは、配列番号37、38および39に示されるアミノ酸配列を有する重鎖CDR1、CDR2およびCDR3を含む。
【0094】
一部の実施形態では、結合ドメインは、配列番号95を有する重鎖CDR1、および配列番号38、39または96に示される重鎖CDR2またはCDR3のいずれかを含む。
【0095】
一部の実施形態では、結合ドメインは、配列番号96を有する重鎖CDR3、および配列番号37、95または38に示される重鎖CDR1またはCDR2のいずれかを含む。
【0096】
一部の実施形態では、結合ドメインは、配列番号40に示されるアミノ酸配列を有するか、または最大1、2もしくは3個のアミノ酸修飾を有する配列番号40に示されるアミノ酸配列を有する軽鎖CDR1と、配列番号41に示されるアミノ酸配列を有するか、または最大1、2もしくは3個のアミノ酸修飾を有する配列番号41に示されるアミノ酸配列を有する軽鎖CDR2と、配列番号42に示されるアミノ酸配列を有するか、または最大1、2もしくは3個のアミノ酸修飾を有する配列番号42に示されるアミノ酸配列を有する軽鎖CDR3とを含む。
【0097】
一部の実施形態では、結合ドメインは、配列番号40、41および42に示されるアミノ酸配列を有する軽鎖CDR1、CDR2およびCDR3を含む。
【0098】
一部の実施形態では、結合ドメインは、配列番号97に示されるアミノ酸配列を有する軽鎖CDR3、ならびに配列番号41および42を有するCDR1およびCDR2を含む。
【0099】
抗体および抗体断片
上述のように、CARの結合ドメインは、抗体、または抗体の結合部分、または抗体に由来する結合部分を含む場合がある。抗体は、さらなる多様性を可能にする個体間の遺伝的変異を有する、単一個体において潜在的に1011~1012個もの固有分子を有する例示的な多様性を有するタンパク質結合分子である。インビボでの抗体多様性は、V(D)J連結における一連の遺伝子のランダムな組換えによって駆動される。
【0100】
抗体の結合は、主に、相補性決定領域(CDR)1、2および3と呼ばれる重鎖および軽鎖の3つの超可変領域によって決定される。したがって、各成熟抗体は、6つのCDR(可変重(VH)鎖CDR1、CDR2およびCDR3ならびに可変軽(VL)鎖CDR1、CDR2およびCDR3)を有する。これらの超可変領域は、三次元抗原結合ポケットを形成し、抗体の結合特異性はCDR、主にCDR3の特異的アミノ酸配列によって決定される。
【0101】
特定の分析物に対する抗体は、商業的に得られてもよく、または当技術分野で公知の方法によって生成されてもよい。例えば、特定の分析物に対する抗体は、HowardおよびKaser(Making and Using Antibodies:Practical Handbook,CRC Press,2007)によって一般的に開示されている方法を使用して調製されてもよい。
【0102】
対象内で生成された抗体の特異性、結合活性および親和性は、親和性成熟(例えば、Fujino Y.ら、Biochem Biophys Res Comm.,2012;428(3):395-400、Li,B.ら、MAbs.2014;6(2):pp.437-45およびHo MおよびPastan I,’’In vitro Antibody Affinity Maturation Targeting Germline Hotspots’’,Method Mol Biol.,2009;525:293-xivを参照)などのインビトロプロセスによって改変され得る。これらの技術には、(限定されるものではないが)部位特異的変異誘発およびPCR駆動変異誘発、ファージライブラリーの開発およびアフィニティースクリーニングが含まれる。例えば、(コード免疫グロブリンDNAに関して)A/G-G-C/T-A/T(RGYW)およびAG-C/T(AGY)配列によって定義されるホットスポット位置に隣接する変異は、産生された抗体の親和性を改変する可能性が高い。あるいは、インビトロ走査飽和変異誘発(Chen,Gら、Protein Eng Des Sel.、1999;(12)4:346-356)などのプロセスを使用して、CDR領域内のありとあらゆる改変を互いに可能性な変異で置き換え得る。次いで、各変異体を抗原親和性および特異性について評価した。したがって、インビボ由来抗体またはその結合断片をさらに改変して、異なるが系統的に関連する抗体を産生し得る。その結果、「抗体」(およびその断片)という用語は、インビボで生成された抗体と比較した場合に固有配列を有するように、CDR結合部位を改変する変異のプロセスを受けたインビボ由来抗体およびインビトロ由来分子を包含する。さらに、抗体の結合部分、特にCDRを、当技術分野で公知の技術を使用して親和性成熟および変異させ得る。
【0103】
抗体という用語はまた、ラクダ科動物、サメおよびアゴアマダイなどの種から産生される非従来型抗体を含む。したがって、抗体という用語は、ラクダ抗体、IgNARおよび可変リンパ球受容体(VLR)を含む重鎖抗体を含む。さらに、これらは、それらの結合部分(VNAR-IgNARの単一結合部分など)に断片化され得るか、または融合タンパク質に組換えで組み込まれ得る。そのような非従来型抗体を作製および適合させるための方法は、当技術分野で公知であり、例えば、Nuttall,S.,Methods Mol.Biol,2012;911:pp.27-36およびVincke C.ら、Methods Mol.Biol.2012;907:pp.145-76を参照のこと。
【0104】
Lgr5の特異的に同定されたエピトープ領域に結合する抗体を生成し得る。さらに、生存親和性(abiding affinity)および結合活性を最適化するために、そのような抗体を親和性成熟させ得る。したがって、一部の実施形態では、結合ドメインは、Lgr5に結合する抗体の結合領域と同一の配列を含むか、またはLgr5に結合する結合領域の親和性成熟形態に対応する配列を含む。親和性成熟結合領域は元の抗体結合領域と有意に異なり得るが、好ましい形態では、結合領域の親和性成熟形態は、Lgr5に結合する抗体に対して80%、85%、90%、95%、97%、98%または99%またはそれを超える配列同一性を有する。したがって、CARの結合ドメインは、Lgr5に結合する抗体に対して80%、85%、90%、95%、97%、98%または99%またはそれを超える配列同一性を有する配列を含んでもよい。
【0105】
抗体結合断片
【0106】
一部の実施形態では、結合ドメインは抗体結合断片である。抗体結合断片は、抗体に由来し得るか、または抗体もしくは抗体断片のCDRと同一の配列で組換え生成される場合がある。実際、これらのCDRは、親和性成熟抗体に由来する場合があるため、インビボ由来抗体と同一ではない場合がある。
【0107】
抗体は4本の鎖(2本の重鎖および2本の軽鎖)から構成され、Fc(分別結晶可能)ドメインとFab(分画抗原結合)ドメインに分離され得る。抗体のFc部分は、Fc受容体および補体系と相互作用する。したがって、Fc部分は、抗体の免疫機能にとって重要である。しかし、Fab部分は抗体の結合領域を含み、所望のエピトープに対する抗体の特異性にとって重要である。
【0108】
したがって、一部の実施形態では、結合ドメインは抗体のFab断片である。Fab断片は、個々のFab断片(すなわち、抗体断片は、連結ジスルフィド架橋の不在下で生成される)またはジスルフィド架橋を介して連結された抗体の2つのFab断片を含むF(ab’)2断片であり得る。これらの断片は、典型的には、ペプシンなどの消化酵素を使用して抗体を断片化することによって生成される。方法は当技術分野で公知であり、例えば、Sjogren,J.ら、Methods Mol Biol.2017;1535:pp.319-329を参照のこと。
【0109】
抗体の各Fab断片は、合計6つのCDRを有し、VH鎖およびVL鎖はそれぞれ3つのCDRを含む(4つのフレームワーク領域からなるフレームワーク内)。Fab断片の定常領域を除去して、抗体のVHおよびVL領域のみを残し得る。個々のVH鎖およびVL鎖(それぞれ3つのCDRのみを含む)は、高い親和性で特異的に結合することが示されている。典型的には、個々の結合領域は、単一抗体ドメイン(sdAb)として知られている。あるいは、VH鎖およびVL鎖をリンカーを介して連結して、一本鎖可変断片(scFv-二重特異性抗体としても知られる)として公知の融合タンパク質を形成し得る。Fabとは異なり、scFvは抗体から断片化されず、むしろ典型的には抗体のCDRおよびフレームワーク領域に基づいて組換え形成される。さらに、sdAbを組換え生産し、さらなる部分も含む場合があるより大きな融合タンパク質の結合構成要素を形成し得る。その結果、一部の実施形態では、結合ドメインは、scFvまたはsdAbであるか、またはそれらを含む。scFvは、ジscFvまたはトリscFvなどの多価scFvを形成するために互いに連結された複数のVH鎖およびVL鎖を含んでもよい。
【0110】
したがって、一部の実施形態では、結合ドメインは、Lgr5に結合する抗体の可変重鎖もしくは可変軽鎖と同一の配列、またはLgr5に結合する抗体の断片抗原結合(Fab)断片と同一の配列、またはLgr5に結合する抗体の可変重鎖領域および可変軽鎖領域を含む一本鎖可変断片(scFv)と同一の配列を含む単一ドメイン抗体(sdAb)である。
【0111】
一部の実施形態では、可変重鎖領域は、配列番号50のアミノ酸配列、または少なくとも80%もしくは90%の配列同一性を有するその変異体を有する。一部の実施形態では、可変軽鎖領域は、配列番号49のアミノ酸配列、または少なくとも80%もしくは90%の配列同一性を有するその変異体を有する。
【0112】
一部の実施形態では、結合ドメインは、VL鎖のN末端に連結されたVH鎖のC末端を含む一本鎖可変断片であり、VH鎖は、配列番号37の配列を有するCDR1、配列番号38の配列を有するCDR2、および配列番号39の配列を有するCDR3を含み、VL鎖は、配列番号40の配列を有するCDR1、配列番号41の配列を有するCDR2、および配列番号42の配列を有するCDR3を含み、各CDRは、1、2または3個のアミノ酸修飾を有し得る。
【0113】
一部の実施形態では、結合ドメインは、VH鎖のN末端に連結されたVL鎖のC末端を含む一本鎖可変断片であり、VL鎖は、配列番号40の配列を有するCDR1、配列番号41の配列を有するCDR2、および配列番号42の配列を有するCDR3を含み、VH鎖は、配列番号37の配列を有するCDR1、配列番号38の配列を有するCDR2、および配列番号39の配列を有するCDR3を含み、各CDRは、1、2または3個のアミノ酸修飾を有し得る。
【0114】
一部の実施形態では、可変軽鎖のCDR1およびCDR3領域は、最大1、2または3個の変異を含む。一部の実施形態では、重鎖のCDR1および/またはCDR3領域は、最大1、2または3個の変異を含む。一部の実施形態では、軽鎖のCDR3は、最大1、2、または3個の変異を含む。
【0115】
可変重鎖および可変軽鎖は、任意の適切な融合ドメインによって融合され得る。一部の実施形態では、融合ドメインは、配列番号98の配列を有する。したがって、一部の実施形態では、結合ドメインは、配列番号53または配列番号54に示される配列を含む。一部の実施形態では、結合ドメインは、配列番号53または54と少なくとも90%の配列同一性を有する配列番号53または配列番号54の変異体を含む。一部の実施形態では、結合ドメインは、配列番号53または54と少なくとも80%の配列同一性を有する配列番号53または配列番号54の変異体を含む。
【0116】
抗体、抗体の断片、または抗体由来配列を含有する融合タンパク質は、商業的に得られてもよく、または上記で考察したような当技術分野で公知の方法によって生成されてもよい。
【0117】
上記の文脈(および本明細書を通して使用される)において、「配列同一性」または「と同一の」などの用語は、アミノ酸または核酸の配列間の類似性の程度として解釈されるべきである。数値パーセンテージまたは数値範囲によって限定されない限り、これらの用語は、デフォルトでは、機能的配列同一性を必要とすると解釈されるべきである。すなわち、配列は、配列に機能的に影響を及ぼさない重複する修飾および変異を除外して同一であると解釈されるべきである。そのような変異は、本明細書に記載されている。
【0118】
本明細書を通して、「由来する」という用語は、ポリペプチドまたはヌクレオチド自体の供給源を指すのではなく、むしろ結合ドメインまたは細胞内シグナル伝達ドメインの一部または全体などのポリペプチドまたはヌクレオチドの一部を構成する配列情報の由来を指すことを理解されたい。したがって、「由来する」という用語は、それらが由来するペプチドまたは核酸と配列同一性を有する合成的、人工的または他の方法で作製されたポリペプチドまたはヌクレオチドを含む。
【0119】
タンパク質結合足場
【0120】
本発明のCARの抗原結合ドメインは、タンパク質足場であってもよく、またはタンパク質足場を含んでもよい。タンパク質結合足場は、多様な範囲の分子およびタンパク質と結合するための実行可能な分子として浮上している。タンパク質結合足場は、典型的には、結合ドメインの相対的な配置を変更することなく、指定された結合領域内のアミノ酸の修飾に耐え得る安定なタンパク質構造(足場)を含む。これらのタンパク質結合足場には、以下が含まれる(ただし、これらに限定されない):アドネクチン(Adnectins)、アフィリン(Affilins)(Nanofitins)、アフィボディ(Affibodies)、アフィマー(Affimer)分子、アフィチン(Affitins)、アルファボディ(Alphabodies)、アプタマー、アンチカリン(Anticalins)、アルマジロリピートタンパク質系足場、アビマー(Avimers)、設計アンキリンリピートタンパク質(DARPins)、フィノマー(Fynomers)、阻害剤シスチンノット(ICK)足場、クニッツ(Kunitz)ドメインペプチド、モノボディ(Monobodies)(AdNectins(商標))およびナノフィチン(Nanofitins)。
【0121】
アフィリンは、約20kDaの人工的に作製されたタンパク質である。それらは、ヒトユビキチンおよび脊椎動物ガンマ-Bクリスタリンに構造的に関連し、標的分析物に特異的に結合するように設計され得る8個の表面露出した操作可能なアミノ酸を有する足場を含む。アフィリン分子は、部位特異的変異誘発およびファージディスプレイライブラリーなどの技術を使用して、多種多様な分子に結合するように特異的に適合され得る。アフィリン分子を産生および選択するための方法は、当技術分野で公知であり、例えば、Lorey,S.ら、J Bio Chem.2014;289(12):pp.8493-507である。
【0122】
アフィボディは、IgGアイソタイプ抗体のZドメインのタンパク質足場を含む約6kDaのタンパク質であり、その2つのアルファ-ヘリックスの結合ドメインに位置する13個のアミノ酸残基のうちの1またはそれを超える残基に対する修飾を有する。アフィボディ分子を操作および産生するための方法は、当技術分野で公知であり、Feldwisch,J.およびTolmachev,V.’’Engineering of affibody molecules for therapy and diagnostics’’,Methods in Molecular Biology(2012);899:pp103-126を含む。
【0123】
アフィマー分子は、シスタチンのシステインプロテアーゼ阻害剤ファミリーに由来するタンパク質足場を利用する約12~14kDaのタンパク質である。アフィマー分子は、標的特異的結合に適合され得るN末端配列に加えて、2つのペプチドループ領域を含む。結合部位に1010のアミノ酸の組み合わせを有するアフィマー分子は、Hoffmann T.ら、Protein Eng.Des.Sel.2010;23(5):pp403-13などの当技術分野で公知のファージディスプレイライブラリーおよび技術を使用して生成され得る。
【0124】
アフィチンは66残基(約7kDa)のタンパク質であり、Sulfolobus acidocaldariusに見出されるDNA結合タンパク質Sac7dに由来するタンパク質足場を使用する。それらは、原核細胞培養物からインビトロで容易に産生され、3×1012を超える構造変異体を産生するように変異させ得る14個の結合残基を含む。アフィチンを産生するための技術は当技術分野で公知であり、Mouratouら、PNAS.2007;Nov 13;104(46):17983-17988を含む。表面プラズモン共鳴などのスクリーニング技術を使用して、これらの分子の特異的結合を同定し得る。
【0125】
アルファボディは、ほとんどの高分子とは異なり、細胞膜を貫通し得るため、細胞内および細胞外の分子に結合し得る、約10kDaの分子である。アルファボディの足場は、天然構造に類似していない3つのアルファ-ヘリックス(A、BおよびC)を有する計算的に設計されたコイルドコイル構造に基づいている。AおよびCアルファ-ヘリックス上のアミノ酸は、特異的抗原を標的とするように修飾され得る。アルファボディを生成し、標的分子へのそれらの結合をスクリーニングするための方法は、少なくともUS第20100305304号に記載されている。
【0126】
タンパク質を結合させるためのアプタマーとしては、特定の標的分子への結合についてスクリーニングされ得る様々な核酸(DNA、RNAおよびXNA)およびペプチドが挙げられる。核酸アプタマーのデータベース(例えば、Nucleic Acids Research,Volume 32,Issue suppl_1,1 January 2004,pp.95-100,https://doi.org/10.1093/nar/gkh094を参照のこと)は、インビトロで同定されたDNAアプタマーの選択を可能にする。ペプチドアプタマーは、一般に、安定なタンパク質足場フレーム内のループ構造(「フレーム上のループ」)に埋め込まれた短いアミノ酸配列からなる。典型的には、5~20残基のペプチドループが、標的分子への選択的結合の可変性の原因である。コンビナトリアルライブラリーおよび酵母-2ハイブリッドスクリーニングなどの技術を使用して、ペプチドアプタマーを生成およびスクリーニングし得る。タンパク質アプタマーを生成およびスクリーニングするための他の技術は公知であり、Reverdatto S.ら、Curr Top Med Chem.2015;15(12):pp1082-1101を含む文献に記載されている。
【0127】
アンチカリンタンパク質は、リポカリンに由来するタンパク質結合分子である。典型的には、アンチカリンは抗体よりも小さな分子に結合する。アンチカリンをスクリーニングおよび開発するための方法は、Gebauer,M.およびSkerra,A.,’’Anticalins:small engineered binding proteins based on the lipocalin scaffold’’,Methods Enzymology,503(2012),pp.157-188ならびにRichter,A.ら、FEBS Letters.2014;588(2):pp213-218を含む当技術分野で開示されている。
【0128】
アルマジロリピートタンパク質系足場は、それぞれ3つのα-ヘリックスで構成される反復単位のスーパーヘリックスに形成された、約42アミノ酸のタンデムアルマジロリピートで構成されるアルマジロドメインを特徴とする。保存された結合ドメイン内の残基の修飾は、標的特異的結合剤(例えばParmeggiani Fら、J Mol Biol.2008;376(5):pp1282-304)の選択に使用され得る様々なコンビナトリアルライブラリーの調製を可能にする。
【0129】
アビマー(結合活性多量体、マキシボディまたは低密度リポタンパク質受容体(LDLR)ドメインAとしても知られている)は、システインに富む細胞表面受容体タンパク質の範囲のAドメインに基づく少なくとも2つの連結された30~35アミノ酸の長さのペプチドを含む。Aドメインの修飾は、同一の標的上の、または複数の標的にわたる、様々なエピトープへの指令結合を可能にし、連結されたペプチドの数が、アビマーあたりの可能な標的の数を決定する。Creative Biolabsのライブラリーなどの市販のライブラリーを含む様々なアビマーファージディスプレイライブラリーが当技術分野で公知である。
【0130】
設計アンキリンリピートタンパク質(DARPin)は、アンキリンタンパク質に由来する操作された結合タンパク質である。DARPinをスクリーニングおよび同定するための方法は当技術分野で公知であり、例えば、Stumpp MTら、Drug Discov.Today 2008;13(15-16):pp695-701およびPluckthurn A.,Annu.Rev.in Pharmacol.Toxicol.,2015;55:pp489-511である。
【0131】
阻害剤シスチンノット(ICK)足場は、高い配列可変性を有する一連のループを連結する3つのジスルフィド架橋を含む安定した三次元構造を形成するミニタンパク質(30~50アミノ酸残基長)のファミリーである。阻害剤シスチンノットには、ノッチンである3つのファミリーメンバーが含まれる;シクロチドおよび成長因子システイン-ノット。配列、構造および機能などの既知のノッチンおよびシクロチドの特定の特性を開示するKNOTTINデータベース(www.dsimb.inserm.fr/KNOTTIN/)などのデータベースは、当技術分野で公知である。さらに、Moore,S.ら、Protein Engineering for Therapeutics,Part B-Chapter 9,Methods in Enzymology(2012),503;pp.223-251を含めて、ICKを作製するための方法および結合についてスクリーニングするための方法が知られている。
【0132】
モノボディ(商標名AdNectinsとしても知られる)は、多様で操作可能な可変基を有するFN3(フィブロネクチンIII型ドメイン)足場を利用する。アドネクチン(Adnectis)は、抗体可変ドメインおよびベータ-シートループを抗体と共有する。モノボディの結合和性は、mRNAディスプレイ、ファージディスプレイおよび酵母ディスプレイなどのインビトロ進化法によって多様化およびカスタマイズされ得る。モノボディをスクリーニングおよび産生するための方法は、Park SHら、PLoS One,2015;10(7)doi:10.1002/pro.3148およびLipovsek,D.,Protein Eng.Des.Sel.,2011;24(1-2):3-9を含む当技術分野で開示されている。
【0133】
リンカードメイン
【0134】
リンカードメインは、CARの膜貫通ドメインと抗原認識ドメインとを連結する。リンカードメインを含まずに機能するCAR T細胞が形成されており、したがって、この文脈では、リンカードメインは、すべてのCARの機能に一般に必須であるとは考えられていない。
【0135】
理論に拘束されることを望まないが、リンカードメインは、CARを発現するエフェクター細胞と標的細胞との間に正しい免疫学的シナプス距離を形成しながら、抗原認識ドメインによるエピトープの認識を可能にするために、CARのエクトドメイン(細胞外ドメイン)に適切な分子長を提供してもよい。さらに、リンカードメインは、抗原認識ドメインがそのエピトープを認識するために正しい様式で配向されるための適切な柔軟性を提供してもよい。
【0136】
したがって、一部の実施形態では、細胞外ドメインは、結合ドメインを膜貫通ドメインに連結するリンカードメインを含む。一部の実施形態では、連結ドメインは、少なくとも12アミノ酸の長さである。一部の実施形態では、連結ドメインは、少なくとも約12アミノ酸の長さである。一部の実施形態では、連結ドメインは12アミノ酸の長さを超える。一部の実施形態では、連結ドメインは、少なくとも119アミノ酸の長さである。一部の実施形態では、連結ドメインは、少なくとも約119アミノ酸の長さである。一部の実施形態では、連結ドメインは119アミノ酸の長さを超える。一部の実施形態では、連結ドメインは、少なくとも229アミノ酸の長さである。一部の実施形態では、連結ドメインは、少なくとも約229アミノ酸の長さである。一部の実施形態では、連結ドメインは229アミノ酸の長さを超える。
【0137】
一部の実施形態では、連結ドメインは、最長119アミノ酸の長さである。一部の実施形態では、連結ドメインは、最長約119アミノ酸の長さである。一部の実施形態では、連結ドメインは、最長229アミノ酸の長さである。一部の実施形態では、連結ドメインは、最長約229アミノ酸の長さである。
【0138】
適切なリンカードメインの選択は、(i)CAR発現細胞の「オフターゲット」活性化を最小限に抑える、Fc受容体(FcγおよびFcRn受容体など)に対する結合親和性の低減、および(ii)抗原結合領域の柔軟性を高めることによってCAR構築物の有効性を最適化し、免疫シナプス(例えば、立体障害の低減およびシナプス距離の最適化)の形成の空間的制約を低減することに基づいてもよい。
【0139】
一部の実施形態では、リンカードメインは、免疫グロブリン由来のヒンジ領域、またはT細胞シナプスの形成に関与する膜結合分子由来のヒンジもしくは細胞外領域と同一の配列を含む。例えば、リンカードメインは、CD4、CD8、CD3、CD7またはCD28由来のヒンジ領域に相同なアミノ酸配列を有する領域を含んでもよい。
【0140】
一部の実施形態では、リンカードメインは、免疫グロブリンの一部と同一の配列を含む。一部の実施形態では、その部分は、ヒンジ領域(例えば、IgG4ヒンジ領域またはその修飾型)、定常重(CH)1領域、CH2領域、CH3領域またはCH4領域のうちの1またはそれを超える領域である。一部の実施形態では、その部分は、免疫グロブリンのCH2領域、CH3領域もしくはヒンジ領域であるか、または当該CH領域と少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%もしくは99%の配列同一性を有する。一部の実施形態では、その部分は、免疫グロブリンのCH2領域またはCH3領域およびヒンジ領域である。一部の実施形態では、免疫グロブリンはIgGサブタイプから選択される。
【0141】
一部の実施形態では、リンカードメインは、IgG1、IgG2、IgG3もしくはIgG4 Fc領域、例えばIgG1ヒンジ領域およびIgG4のCH2もしくはCH3領域のうちの1またはそれを超える一部分に対する類似性を有する配列、または少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%もしくは99.5%の配列同一性を有するその機能的変異体を含む。
【0142】
一部の実施形態では、リンカードメインは、免疫グロブリンヒンジ領域の全部または一部を含む。当技術分野で理解されるように、免疫グロブリンのヒンジ領域を形成する特定の領域は、異なるアイソタイプで異なる。例えば、IgA、IgDおよびIgGアイソタイプ免疫グロブリンは、CH1領域とCH2領域との間にヒンジ領域を有するが、ヒンジ領域の機能は、IgEおよびIgMアイソタイプ免疫グロブリンのCH2領域によって提供される。
【0143】
本発明のCARの少なくとも一部の実施形態では、リンカードメインは、IgG4ヒンジの配列と同一のアミノ酸配列を含むか、またはIgG4ヒンジの修飾型と同一の配列を含み、好ましくは1、2または3個のアミノ酸修飾を有する。
【0144】
可変重鎖のN末端に連結された可変軽鎖のC末端によって形成された一本鎖可変断片を含む結合ドメインを含む一部の実施形態では、可変軽鎖は、配列番号49(またはその機能的変異体)を含むか、またはそれからなり、可変重鎖は、配列番号50(またはその機能的変異体)を含むか、またはそれからなり、リンカー領域は少なくとも119アミノ酸の長さであるか、または119アミノ酸の長さを超えるか、または少なくとも229アミノ酸の長さであり、結合ドメインを膜貫通ドメインに連結し、リンカードメインは可変重鎖のC末端に連結されている。
【0145】
一部の実施形態では、結合ドメインは、可変重鎖のN末端に連結された可変軽鎖のC末端を含み、可変軽鎖は、配列番号40(CDR1-ESVDSYGNSF)、配列番号41(CDR2-LTS)および配列番号42(CDR3-QQNAEDPRT)のアミノ酸配列を有するCDRまたはその機能的変異体を含み、可変重鎖は、配列番号37(CDR1-GYSFTAYW)、配列番号38(CDR2-ILPGSDST)および配列番号39(CDR3-ARSGLYGSSQY)のアミノ酸配列を有するCDRまたはその機能的変異体を含み、リンカー領域は、12アミノ酸、または少なくとも12アミノ酸の長さ、または約12アミノ酸の長さである。この実施形態の一部の形態では、リンカーは最大119アミノ酸、または最大約119アミノ酸である。この実施形態の一部の代替形態では、リンカーは最大229アミノ酸または最大約229アミノ酸である。誤解を避けるために、リンカーの長さは、12またはそれを超える、12~119、または12~229アミノ酸の長さであり得る。
【0146】
一部の実施形態では、結合ドメインは、可変重鎖のN末端に連結された可変軽鎖のC末端を含み、可変軽鎖は、配列番号40(CDR1)、配列番号41(CDR2)および配列番号42(CDR3)のアミノ酸配列を有するCDRまたはその機能的変異体を含み、可変重鎖は、配列番号37(CDR1)、配列番号38(CDR2)および配列番号39(CDR3)のアミノ酸配列を有するCDRまたはその機能的変異体を含み、リンカー領域は、119アミノ酸、または少なくとも119アミノ酸の長さ、または約119アミノ酸の長さである。この実施形態の一部の形態では、リンカーは最大229アミノ酸、または最大約229アミノ酸である。
【0147】
一部の実施形態では、結合ドメインは、可変重鎖のN末端に連結された可変軽鎖のC末端を含み、可変軽鎖は、配列番号40(CDR1)、配列番号41(CDR2)および配列番号42(CDR3)のアミノ酸配列を有するCDRまたはその機能的変異体を含み、可変重鎖は、配列番号37(CDR1)、配列番号38(CDR2)および配列番号39(CDR3)のアミノ酸配列を有するCDRまたはその機能的変異体を含み、リンカー領域は、229アミノ酸、または少なくとも229アミノ酸の長さ、または約229アミノ酸の長さである。
【0148】
一部の実施形態では、結合ドメインは、可変軽鎖のN末端に連結された可変重鎖のC末端を含み、可変重鎖は、配列番号37(CDR1)、配列番号38(CDR2)および配列番号39(CDR3)のアミノ酸配列を有するCDR、またはその機能的変異体を含み、可変軽鎖は、配列番号40(CDR1)、配列番号41(CDR2)および配列番号42(CDR3)のアミノ酸配列を有するCDR、またはその機能的変異体を含み、リンカー領域は、12アミノ酸であるか、少なくとも12アミノ酸の長さであるか、または約12アミノ酸の長さである。この実施形態の一部の形態では、リンカーは最大119アミノ酸、または最大約119アミノ酸である。この実施形態の一部の代替形態では、リンカーは最大229アミノ酸または最大約229アミノ酸である。誤解を避けるために、リンカーの長さは、12またはそれを超える、12~119、または12~229アミノ酸の長さであり得る。
【0149】
一部の実施形態では、結合ドメインは、可変軽鎖のN末端に連結された可変重鎖のC末端を含み、可変重鎖は、配列番号37(CDR1)、配列番号38(CDR2)および配列番号39(CDR3)のアミノ酸配列を有するCDR、またはその機能的変異体を含み、可変軽鎖は、配列番号40(CDR1)、配列番号41(CDR2)および配列番号42(CDR3)のアミノ酸配列を有するCDR、またはその機能的変異体を含み、リンカー領域は、119アミノ酸であるか、少なくとも119アミノ酸の長さであるか、または約119アミノ酸の長さである。この実施形態の一部の形態では、リンカーは最大229アミノ酸、または最大約229アミノ酸である。
【0150】
一部の実施形態では、結合ドメインは、可変軽鎖のN末端に連結された可変重鎖のC末端を含み、可変重鎖は、配列番号37(CDR1)、配列番号38(CDR2)および配列番号39(CDR3)のアミノ酸配列を有するCDR、またはその機能的変異体を含み、可変軽鎖は、配列番号40(CDR1)、配列番号41(CDR2)および配列番号42(CDR3)のアミノ酸配列を有するCDR、またはその機能的変異体を含み、リンカー領域は、229アミノ酸であるか、少なくとも229アミノ酸の長さであるか、または約229アミノ酸の長さである。
【0151】
リンカードメインに組み込まれてもよい配列の非網羅的なリストを以下の表1に示す。いくつかの実施形態では、本発明のリンカードメインは、表1に提示される構成要素のうちのいずれか1またはそれを超える構成要素を含んでもよい。一部の実施形態では、リンカードメインは、表1に提示されるリンカーのうちのいずれか1またはそれを超えるリンカーからなってもよい。さらに、リンカードメインは、ポリグリシン配列またはGGGGS(Gly
4Ser)配列のリピートなどの人工的に合成された配列(例えば、(Gly
4Ser)
3)であってもよい。
表1
可能なリンカードメイン構成要素
【表1-1】
【表1-2】
【0152】
一部の実施形態では、リンカードメインは、配列番号2~30から選択されるいずれか1またはそれを超える配列に記載の配列、または少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%もしくは99.5%の配列同一性を有する機能的変異体もしくはその一部を含む。
【0153】
一部の実施形態では、リンカードメインは、免疫グロブリンCH3ドメイン、免疫グロブリンCH2ドメイン、またはCH2ドメインとCH3ドメインの両方と同一の配列を含む。一部の実施形態では、リンカードメインは、免疫グロブリンヒンジ領域および1またはそれを超えるCH3ドメインまたはCH2ドメインと同一の配列を含む。一部の実施形態では、CH2および/またはCH3領域は、IgG抗体のIgG4サブクラスに由来する。
【0154】
一部の実施形態では、リンカードメインは、配列番号55、配列番号56もしくは配列番号57、または少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%もしくは99.5%の配列同一性を有するその機能的変異体もしくは部分からなる群より選択される配列を含むか、またはそれからなる。
【0155】
免疫グロブリン、特にIgGアイソタイプ抗体のヒンジ領域、CH2およびCH3領域は、Fcガンマ受容体およびFc新生児受容体などのFc受容体によって結合される場合がある。キメラ抗原受容体のリンカードメインの結合は、受容体の有効性を低下させ、オフターゲット死滅をもたらし得る。したがって、一部の実施形態では、リンカードメインは、Fc受容体と結合する能力が低いか、または結合する能力がないように設計される。一部の実施形態では、リンカードメインは、他の免疫グロブリンアイソタイプと比較して、Fc受容体と結合する能力が低下した免疫グロブリンと同一である。一部の実施形態では、キメラ抗原受容体のリンカードメインは、Fc受容体と実質的に結合するアミノ酸配列を含まない。
【0156】
Fc受容体が異なるIgGアイソタイプと結合する能力を以下の表2に示す。
表2
IgGサブタイプに結合するFc受容体
【表2】
【0157】
一部の実施形態では、リンカードメインが免疫グロブリンのFc領域と同一の部分を含む場合、その部分は、Fc受容体への結合を減少させるように修飾されてもよい。Fc受容体による結合を減少させるためにタンパク質を修飾する方法は、当技術分野で公知である。Fcガンマ受容体は、免疫グロブリン領域の下部ヒンジ領域およびCH2領域のn末端に主に結合し、新生児型Fc受容体は、CH2領域のC末端およびCH3領域のN末端のアミノ酸に主に結合する。IgG抗体へのFc受容体の結合に関する指針は、「’’Antibody Fc:Linking Adaptive and Innate Immunity’’ Ackerman and Nimmerjahn,Elsevier Science&Technology 2014」の第7章に見出され得る。したがって、これらの領域における修飾は、免疫グロブリンのFc部分と相同性を有するリンカードメインへのFc受容体の結合を変化させる場合がある。Fc-ガンマ受容体およびFcRn結合を減少させることが示されているヒトIgG1に対する変異の非網羅的な例示的リストとしては、E116P、L117V、L118A、G119欠失、P121A、S122A、I136A、S137A、R138A、T139A、E141A、D148A、S150A、S150A、E152A、D153A、E155A、N159A、D163A、H168A、N169A、K171A、K173A、R175A、E176A、Q178A、Y179F、N180A、S181A、R184A、V188A、T190A、L192A、Q194A、D195A、N198A、K200A、K205A、K209A、A210Q、A210S、A210G、P212A、P214A、E216A、K217A、S220A、K221A、A222T、K243A、Q245A、H251A、D259A、A261Q、E263A、E265A、V286A、S288A、K297A、S307A、E313A、H316A、N317A、H318A、Y319Aが含まれる(付番は、Uniprot参照番号P01857-1に記載の配列に対応する)。
【0158】
膜貫通ドメインおよび細胞内ドメイン
CARの膜貫通ドメインは、細胞外部分(エクトドメイン)を細胞内部分(エンドドメイン)に架橋し、その役割は主に構造的である。したがって、膜貫通ドメインは、細胞の脂質二重層を固定および貫通し得る任意の配列からなり得る。しかしながら、膜貫通ドメインの性質は、その局在化および発現に影響を及ぼし得る。
【0159】
好ましい実施形態では、膜貫通ドメインは、T細胞シナプス形成またはT細胞シグナル誘導に関与する分子の配列と相同性を有する。一部の実施形態では、本発明のキメラ抗原受容体は、CD3、CD4、CD8またはCD28の膜貫通ドメインの全部または一部と同一の配列を含む膜貫通ドメインを含む。一部の実施形態では、膜貫通ドメインは、CD8またはCD28の膜貫通ドメインの全部または一部に対して同一性を有する配列を含む。一部の実施形態では、膜貫通ドメインは、CD28の膜貫通ドメインの全部または一部に対して配列同一性を有する。一部の実施形態では、膜貫通ドメインは、配列番号72、またはDNAの機能的変異体もしくはコードされたアミノ酸配列と配列同一性を有する。
【0160】
抗原認識ドメイン、リンカードメインおよび膜貫通ドメインに加えて、本発明のキメラ抗原受容体は、シグナル伝達部分(シグナル伝達ドメイン)を含む細胞内(エンド)ドメインを含む。
【0161】
キメラ抗原受容体の細胞内シグナル伝達ドメインは、抗原認識ドメインによる抗原の認識の結果として、CARの活性化時に細胞内シグナル伝達カスケードを誘導できるか、またはその誘導に関与できる任意の適切なドメインであり得る。CARのシグナル伝達ドメインは、CARの活性化後の意図される細胞結果に応じて特異的に選択されるであろう。多くの可能なシグナル伝達ドメインが存在するが、免疫治療および癌治療で使用される場合、シグナル伝達ドメインは、それらが由来する受容体、すなわち活性化受容体および共刺激受容体に基づいて2つの一般的なカテゴリーに分類され得る(以下のさらなる詳細を参照)。したがって、一部の実施形態では、シグナル伝達ドメインは、活性化受容体のシグナル伝達部分と同一のアミノ酸配列を有する部分、またはその機能的変異体を含む。一部の実施形態では、シグナル伝達ドメインは、共刺激受容体のシグナル伝達部分と同一のアミノ酸配列を有する部分、または機能的変異体を含む。
【0162】
本明細書を通して使用されるように、「部分」という用語は、活性化受容体または共刺激受容体に関して使用される場合、受容体とその同種抗原またはリガンドとの相互作用後の細胞内シグナル伝達カスケードの開始/誘導に関与するまたは関わる配列を含む受容体の任意のセグメントに関する。CD3を介したT細胞受容体(TCR)の細胞内シグナル伝達カスケードの開始/誘導の例を以下に概説する。
【0163】
理論に拘束されることを望まないが、TCRの細胞外部分は、大部分が、クローン型TCRα鎖およびTCRβ鎖(TCRα/β受容体)またはTCRγ鎖およびTCRδ鎖(TCRγδ受容体)のいずれかのヘテロ二量体を含む。これらのTCRヘテロダイマーは、一般に、固有のシグナル伝達能力を欠き、したがって、それらは、CD3の複数のシグナル伝達サブユニット(主にCD3-ゼータ、-ガンマ、-デルタおよび-イプシロン)と非共有結合で会合している。CD3のガンマ、デルタおよびイプシロン鎖の各々は、単一の免疫受容体チロシン系活性化モチーフ(ITAM)を含む細胞内(細胞質)部分を有するが、CD3-ゼータ鎖は3つのタンデムITAMを含む。MHCの存在下でのその同種抗原によるTCRの会合、およびCD4またはCD8などの必須の共受容体の会合時に、CD3鎖の細胞内ITAM内の2つのチロシン残基をリン酸化するチロシンキナーゼ(すなわちLck)をもたらすシグナル伝達が開始される。続いて、第2のチロシンキナーゼ(ZAP-70-それ自体がLckリン酸化によって活性化される)が、ITAMを二リン酸化するために動員される。結果として、いくつかの下流の標的タンパク質が活性化され、最終的には細胞内の立体構造変化、カルシウム動員、およびアクチン細胞骨格の再編成をもたらし、これらが組み合わさると、最終的には転写因子の活性化およびT細胞免疫応答の誘導をもたらす。
【0164】
本明細書を通して使用される場合、「活性化受容体」という用語は、T細胞受容体(TCR)複合体の構成要素を形成するか、その形成に関与する受容体、または共受容体、または抗原性もしくは他の免疫原性刺激の認識の結果として免疫細胞の特異的活性化に関与する受容体に関する。
【0165】
そのような活性化受容体の非限定的な例としては、T細胞受容体-CD3複合体(CD3-ゼータ、-ガンマ、-デルタおよび-イプシロン)、CD4共受容体、CD8共受容体、Fc受容体またはナチュラルキラー(NK)細胞関連活性化受容体、例えばLY-49(KLRA 1)、天然細胞傷害性受容体(NCR、好ましくはNKp46、NKp44、NKp30もしくはNKG2またはCD94/NKG2ヘテロ二量体)の構成要素が挙げられる。したがって、本発明のCARの一部の実施形態では、シグナル伝達ドメインは、CD3共受容体複合体の一員(好ましくはCD3-ゼータ(ζ)鎖の少なくともシグナル伝達部分)、CD4共受容体、CD8共受容体、Fc受容体(FcR)のシグナル伝達部分(好ましくはFcεRIまたはFcγRIのシグナル伝達部分)またはNK関連受容体、例えばLY-49のうちのいずれか1またはそれを超える種類に由来する部分を含む。
【0166】
各CD3鎖の特異的な細胞内シグナル伝達部分は当技術分野で公知である。例として、CD3ζ鎖の細胞内細胞質領域は、配列番号31に示される配列のアミノ酸52~アミノ酸164に及び、3つのITAM領域は、配列番号31のアミノ酸61~89、100~128および131~159に及んでいる。さらに、CD3ε鎖の細胞内部分は、配列番号32に示される配列のアミノ酸153~207に及び、単一のITAM領域は、配列番号32のアミノ酸178~205に及んでいる。CD3γ鎖の細胞内部分は、配列番号33に示される配列のアミノ酸138~182に及び、単一のITAM領域は、配列番号33のアミノ酸149~177に及んでいる。CD3δの細胞内部分は、配列番号34に示される配列のアミノ酸127~171に及び、単一のITAM領域は、配列番号34のアミノ酸138~166に及んでいる。
【0167】
本発明の一部の実施形態では、シグナル伝達ドメインは、CD3(好ましくはCD3-ζ鎖またはその一部)に由来するか、またはCD3と配列相同性を有する部分を含む。一部の実施形態では、シグナル伝達ドメインは、CD3ゼータ(CD3-ζ)の細胞内ドメインの全部または一部と同一の配列を含む。一部の実施形態では、CD3-ζ共受容体複合体の部分は、配列番号58に示されるアミノ酸配列、または少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%もしくは99.5%の配列同一性を有するその機能的変異体を含む。
【0168】
代替的なシグナル伝達ドメインには、当該分野で公知のFc受容体の細胞内部分が含まれる。例えば、FcεR1の細胞内部分は、配列番号35に示される配列のアミノ酸1~59、118~130および201~244、またはその機能的変異体に及ぶ。さらに、FcγRIの細胞内部分は、配列番号36に示される配列のアミノ酸314~374、またはその機能的変異体に及ぶ。
【0169】
活性化受容体の部分の様々な組み合わせを利用して、CARの膜貫通(TM)部分および細胞内(IC)部分、例えば、CD3ζ TMおよびCD3ζ IC(Landmeier S.ら、Cancer Res.,2007;67:8335-43、Guest RD.ら、J Immunother.,2005,28:203-11、Hombach AA.ら、J Immunol.,2007;178:4650-7)、CD4 TMおよびCD3ζ IC(James SE.ら、J Immunol.,2008;180:7028-38)、CD8 TMおよびCD3ζ IC(Patel SD.ら、Gene Ther.,1999;6:412-9)、ならびにFcεRIγ TMおよびFcεRIγ IC(Haynes NM.ら、J Immunol.,2001;166:182-7、Annenkov AE.ら、J Immunol.,1998;161:6604-13)を形成し得る。
【0170】
上記のように、本発明のキメラ抗原受容体の一部の実施形態では、シグナル伝達ドメインは、共刺激受容体のシグナル伝達部分と同一のアミノ酸配列を有する部分を含む。
【0171】
本明細書を通して使用される場合、「共刺激受容体」という用語は、活性化受容体の抗原特異的誘導時に免疫細胞の活性化を補助する受容体または共受容体に関する。理解されるように、共刺激受容体は抗原の存在を必要とせず、抗原特異的ではないが、典型的には2つのシグナルのうちの一方であり、他方は免疫細胞応答の誘導に必要な活性化シグナルである。免疫応答の状況では、共刺激受容体は、典型的には、樹状細胞またはマクロファージなどの抗原提示細胞(APC)の表面上のその発現リガンドの存在によって活性化される。T細胞に関して具体的には、共刺激は、細胞の活性化、増殖、分化および生存をもたらすために必要である(これらはすべて、一般にT細胞活性化の傘下で言及される)一方、共刺激の不在下でのT細胞への抗原の提示は、アネルギー、クローン欠失および/または抗原特異的寛容の発達をもたらし得る。重要なことに、共刺激分子は、同時に遭遇する抗原に対するT細胞応答を伝え得る。一般に、「陽性」共刺激分子に関連して遭遇する抗原は、T細胞の活性化およびその抗原を発現する細胞を排除することを目的とした細胞性免疫応答をもたらす。一方、「陰性」共受容体に関連して遭遇する抗原は、同時に遭遇する抗原に対する寛容の誘導状態をもたらす。
【0172】
T細胞共刺激受容体の非限定的な例としては、CD27、CD28、CD30、CD40、DAP10、OX40、4-1BB(CD137)、ICOSが挙げられる。具体的には、CD27、CD28、CD30、CD40、DAP10、OX40、4-1BB(CD137)、およびICOSはすべて、T細胞応答の活性化を増強する「陽性」共刺激分子を表す。したがって、本発明の第1の態様の一部の実施形態では、シグナル伝達ドメインは、CD27、CD28、CD30、CD40、DAP10、OX40、4-1BB(CD137)およびICOSのうちのいずれか1またはそれを超える種類に由来する部分を含む。
【0173】
本発明の一部の実施形態では、シグナル伝達ドメインは、CD28、OX40または4-1BB共刺激受容体に由来する部分を含む。一部の実施形態では、シグナル伝達ドメインは4-1BBの一部を含む。一部の実施形態では、4-1BB共刺激受容体の部分は、配列番号59に記載のアミノ酸配列、またはその機能的変異体を含む。
【0174】
共刺激受容体の様々な部分を利用して、CARの膜貫通(TM)部分および細胞内(IC)部分を単独または組み合わせて形成し得る。組み合わせの例としては、CD8 TMおよびDAP10 ICまたはCD8 TMおよび4-1BB IC(Marin V.ら、Exp Hematol.,2007;35:1388-97)、CD28 TMおよびCD28 IC(Wilkie S.ら、J Immunol.,2008;180:4901-9、Maher J.ら、Nat Biotechnol.,2002;20:70-5)、ならびにCD8 TMおよびCD28 IC(Marin V.ら、Exp Hematol.,2007;35:1388-97)が挙げられる。
【0175】
上記の活性化および共刺激受容体の配列情報は、様々なデータベースで容易にアクセス可能である。例えば、これらの受容体のヒトアミノ酸、遺伝子およびmRNA配列の実施形態を表3に提示する。
表3
活性化および共刺激受容体配列情報の要約
【表3-1】
【表3-2】
【0176】
表3は、ヒト活性化および共刺激受容体を参照して提示されるが、各受容体の相同型およびオルソロガス型が哺乳動物および脊椎動物種の大部分に存在することは当業者によって理解されよう。したがって、上記の配列は、本発明の第1の態様のCARに含まれてもよい受容体配列の非限定的な例としてのみ提供され、任意の所望の種からの相同配列およびオルソロガス配列を使用して、所与の種に適したCARを生成してもよい。
【0177】
本発明の一部の実施形態では、膜貫通ドメインおよびシグナル伝達ドメインの一部は、同じ分子と相同性を共有する。例えば、膜貫通ドメインおよびシグナル伝達ドメインを含むCD3の一部が利用されてもよい。一部の実施形態では、膜貫通ドメインは、CD28の膜貫通ドメインの全部または一部と同一の配列を含むか、またはそれからなり、シグナル伝達ドメインは、CD28の細胞内ドメインの全部または一部と同一の配列を含むか、またはそれからなる。
【0178】
本発明の一部の実施形態では、シグナル伝達ドメインは、活性化受容体に由来する部分および共刺激受容体に由来する部分を含む。理論に拘束されることを望まないが、これに関連して、CARの抗原認識ドメインによる抗原の認識は、細胞内活性化シグナルと細胞内共刺激シグナルの両方を同時に誘導する。その結果、これは、共刺激リガンドを発現するAPCによる抗原の提示をシミュレートする。あるいは、CARは、活性化受容体または共刺激受容体のいずれかに由来する部分を含むシグナル伝達ドメインを有し得る。この代替形態では、CARは、活性化細胞内シグナル伝達カスケードまたは共刺激細胞内シグナル伝達カスケードのいずれかのみを誘導する。
【0179】
本発明の一部の実施形態では、シグナル伝達ドメインは、4-1BBおよびCD3-ζ鎖の細胞内ドメインの全部または一部と同一の配列を含むか、またはそれからなる。一部の実施形態では、本発明のCARは、配列番号59および配列番号58、またはそれらの機能的変異体を含む、またはそれらからなる細胞内ドメインを含む。
【0180】
一部の実施形態では、CARは、単一の活性化受容体の一部および複数の共刺激受容体の部分を含むシグナル伝達ドメインを有する。一部の実施形態では、CARは、複数の活性化受容体の部分および単一の共刺激受容体に由来する一部と同一の配列を含むシグナル伝達ドメインを有する。一部の実施形態では、CARは、複数の活性化受容体の部分および複数の共刺激受容体の部分と同一の配列を含むシグナル伝達ドメインを有する。一部の実施形態では、CARは、単一の活性化受容体の一部および2つの共刺激受容体の部分と同一の配列を含むシグナル伝達ドメインを有する。一部の実施形態では、CARは、単一の活性化受容体の一部および3つの共刺激受容体に由来する部分と同一の配列を含むシグナル伝達ドメインを有する。一部の実施形態では、CARは、2つの活性化受容体の部分と同一の配列を含むシグナル伝達ドメイン、および1つの共刺激受容体の一部を有する。一部の実施形態では、CARは、2つの活性化受容体の部分および2つの共刺激受容体の部分と同一の配列を含むシグナル伝達ドメインを有する。理解されるように、活性化受容体および共刺激受容体の数にはさらなるバリエーションがあり、上記の例は、本明細書に含まれる可能な組み合わせを限定するものではないと考えられる。
【0181】
本発明の一部の実施形態では、膜貫通ドメインの配列およびシグナル伝達ドメインの少なくとも一部は、異なる分子の部分と配列類似性を有する。一部の実施形態では、膜貫通ドメインは、CD28の膜貫通ドメインの全部または一部と同一の配列を含むか、またはそれからなり、シグナル伝達ドメインは、4-1BBおよびCD3-ζ鎖の細胞内ドメインの全部または一部と同一の配列を含むか、またはそれからなる。
【0182】
キメラ抗原受容体
【0183】
一部の実施形態では、CARは、Lgr5に特異的な抗原認識ドメイン、IgG4ヒンジ領域と配列同一性を有するリンカードメイン、CD28膜貫通配列と配列同一性を有する膜貫通領域、4-1BBのシグナル伝達領域と配列同一性を有する細胞内部分および/もしくはCD3ゼータのシグナル伝達部分と配列同一性を有する細胞内部分、または記載された部分、ドメインもしくは領域の機能的変異体を含む。
【0184】
一部の実施形態では、CARは、Lgr5に特異的な抗原認識ドメイン、IgG4 CH3領域と組み合わされたIgG4ヒンジ領域と配列同一性を有するリンカードメイン、CD28膜貫通配列と配列同一性を有する膜貫通領域、4-1BBのシグナル伝達領域と配列同一性を有する細胞内部分および/もしくはCD3ゼータのシグナル伝達部分と配列同一性を有する細胞内部分、または記載された部分、ドメインもしくは領域の機能的変異体を含む。
【0185】
一部の実施形態では、CARは、Lgr5に特異的な抗原認識ドメイン、IgG4 CH2領域およびIgG4 CH3領域と組み合わされたIgG4ヒンジ領域と配列同一性を有するリンカードメイン、CD28膜貫通配列と配列同一性を有する膜貫通領域、4-1BBのシグナル伝達領域と配列同一性を有する細胞内部分および/もしくはCD3ゼータのシグナル伝達部分と配列同一性を有する細胞内部分、または記載された部分、ドメインもしくは領域の機能的変異体を含む。
【0186】
本発明の一部の実施形態では、キメラ抗原受容体は、配列番号60、61、62、63、64もしくは65、またはそれらの機能的変異体からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むか、またはそれからなる。一部の実施形態では、キメラ抗原受容体は、配列番号62、63、64もしくは65、またはそれらの機能的変異体からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むか、またはそれからなる。
【0187】
当業者によって理解されるように、本明細書中に記載されるCAR受容体の修飾は、本発明の範囲から逸脱することなく行われ得る。例えば、配列番号60、61、62、63、64および65に関して、CARの好ましい機能は、Lgr5を認識し、CARを発現するT細胞の活性化をもたらす細胞内シグナルを誘導することである。当業者によって理解されるように、キメラ抗原受容体のアミノ酸配列の部分に対する変異は、CARの特異性および/またはCARを発現する細胞(T細胞など)の活性化を有意に改変することなく行われてもよい。そのような変異としては、限定されないが、キメラ抗原受容体のヒンジ領域の変異、膜貫通ドメインの変異、ならびにキメラ抗原受容体の細胞内ドメインを含む活性化受容体および/または共刺激受容体の部分の変異が挙げられる場合がある。そのような変異を行う場合、当業者は、機能するCARに到達することを意図して、知識および技能を利用するであろう。したがって、変異の範囲は、CARの機能の抑止をもたらすものとして当業者に直ちに認識され得るものを除外する。
【0188】
核酸構築物および細胞の遺伝子改変
【0189】
本明細書に記載されるCARは、当技術分野で公知の任意の手段によって産生され得るが、好ましくは組換えDNA技術を使用して産生される。キメラ受容体のいくつかの領域をコードする核酸を調製し、当技術分野で公知の分子クローニングの標準的技術(ゲノムライブラリースクリーニング、PCR、プライマー支援ライゲーション、部位特異的変異誘発など)によって都合の良いように完全なコード配列に組み立て得る。得られたコード領域は、好ましくは発現ベクターに挿入され、適切な発現宿主細胞株、好ましくはTリンパ球細胞株、最も好ましくは自己Tリンパ球細胞株を形質転換するために使用される。
【0190】
したがって、本発明はさらに、上記のキメラ抗原受容体をコードする核酸配列を含む、核酸分子または核酸分子を含む核酸構築物を提供する。
【0191】
さらに、核酸構築物は、上記キメラ抗原受容体をコードする核酸配列を含む発現ベクターを含む。
【0192】
一部の実施形態では、核酸分子は、配列番号60、61、62、63、64もしくは65に示されるアミノ酸配列、またはその機能的変異体をコードするヌクレオチド配列を含む。
【0193】
核酸分子は、任意のポリリボヌクレオチドまたはポリデオキシリボヌクレオチドを含んでもよく、これは、修飾されていないか、または修飾されたRNAまたはDNAであってもよい。例えば、核酸分子は、一本鎖および/または二本鎖DNA、一本鎖および二本鎖領域の混合物であるDNA、一本鎖および二本鎖RNA、ならびに一本鎖および二本鎖領域の混合物であるRNA、一本鎖またはより典型的には二本鎖または一本鎖および二本鎖領域の混合物であってもよいDNAおよびRNAを含むハイブリッド分子を含んでもよい。さらに、核酸分子は、RNAもしくはDNAまたはRNAとDNAの両方を含む三本鎖領域を含んでもよい。核酸分子はまた、1もしくはそれを超える修飾塩基または安定性もしくは他の理由のために修飾されたDNAもしくはRNA骨格も含んでもよい。DNAおよびRNAに対して様々な修飾がなされ得るため、「核酸分子」という用語は、化学的、酵素的、または代謝的に修飾された形態を包含する。
【0194】
本発明の一部の実施形態では、核酸分子は、配列番号66、67、68、69、70もしくは71に示されるヌクレオチド配列、またはその機能的変異体を含む。
【0195】
誤解を避けるために、配列番号66、67、68、69、70または71の機能的変異体は、1またはそれを超える異なる核酸を有する配列変異体を含むが、依然として同一のアミノ酸配列をコードすることを理解されたい。遺伝暗号の縮重のために、多数の核酸が任意の所与のタンパク質をコードし得る。例えば、コドンGCA、GCC、GCGおよびGCUはすべて、アミノ酸アラニンをコードする。当業者は、核酸配列(通常はメチオニンの唯一のコドンであるAUG、および通常はトリプトファンの唯一のコドンであるTGGを除く)の各コドンを修飾して、機能的に同一の分子を生じ得ることを認識するであろう。したがって、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の各サイレント変異は、記載された各配列に暗黙的である。
【0196】
本発明による核酸構築物は、1またはそれを超える宿主に対する複製起点、1またはそれを超える宿主で活性な選択マーカー遺伝子、および/または1またはそれを超える転写制御配列のうちの1またはそれを超える種類をさらに含んでもよいことが理解されるべきであり、核酸分子の発現は転写制御配列の制御下にある。
【0197】
本明細書で使用される場合、「選択マーカー遺伝子」という用語は、構築物でトランスフェクションまたは形質導入された細胞の同定および/または選択を容易にするために、それが発現される細胞に表現型を付与する任意の遺伝子を含む。
【0198】
「選択マーカー遺伝子」は、構築物で形質導入された細胞によって発現される場合、これらの形質導入細胞の同定および/または選択を容易にする表現型を細胞に付与する任意のヌクレオチド配列を含む。適切な選択マーカーをコードする様々なヌクレオチド配列は、当技術分野で公知である(例えば、Mortesen,RM.およびKingston RE.Curr Protoc Mol Biol,2009;Unit 9.5)。選択マーカーをコードする例示的なヌクレオチド配列には、アデノシンデアミナーゼ(ADA)遺伝子、シトシンデアミナーゼ(CDA)遺伝子、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)遺伝子、ヒスチジノールデヒドロゲナーゼ(hisD)遺伝子、ピューロマイシン-N-アセチルトランスフェラーゼ(PAC)遺伝子、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子、キサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(XGPRT)遺伝子または抗生物質耐性遺伝子、例えばアンピシリン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子、ブレオマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子およびアンピシリン耐性遺伝子、緑色、赤色、黄色または青色の蛍光タンパク質コード遺伝子などの蛍光レポーター遺伝子、および、とりわけ、蛍光活性化細胞選別(FACS)などの技術を使用して細胞の光学的選択を可能にするルシフェラーゼ遺伝子などの発光系レポーター遺伝子が含まれる。さらに、T細胞の細胞選択マーカーは、Barese,C.N.およびDunubar C.E.,Hum.Gene Ther.,2011;22(6):pp.659-68において具体的に論じられている。これらのマーカーには、ネオマイシン(NEO)耐性遺伝子、ΔNGFR(非シグナル伝達NGFR)、切断型CD34および切断型非シグナル伝達CD19(ΔCD19)が含まれる。本発明の実施形態(本明細書にさらに記載される)は、上皮増殖因子受容体(EGFRt)の切断型を利用する。修飾eDHFDを含むCAR T細胞をインビボで追跡するためのさらなる技術が開発されている(Sellmyer,M.A.ら、Mol.Ther.,2020;28(1):pp.42-51を参照)。
【0199】
さらに、選択マーカー遺伝子は、構築物における別個のオープンリーディングフレームであってもよく、または別のポリペプチド(例えばCAR)との融合タンパク質として発現されてもよいことに留意されたい。
【0200】
上記のように、核酸構築物はまた、1またはそれを超える転写制御配列を含んでもよい。「転写制御配列」という用語は、作動可能に連結された核酸の転写をもたらす任意の核酸配列を含むと理解されるべきである。転写制御配列は、例えば、リーダー、ポリアデニル化配列、プロモーター、エンハンサーまたは上流活性化配列、および転写ターミネーターを含んでもよい。典型的には、転写制御配列は、少なくともプロモーターを含む。本明細書で使用される「プロモーター」という用語は、細胞内の核酸の発現を付与、活性化または増強する任意の核酸を表す。
【0201】
一部の実施形態では、少なくとも1つの転写制御配列が、本発明の第2の態様の核酸分子に作動可能に連結される。本明細書の目的のために、転写制御配列は、転写制御配列が核酸分子の転写を促進、阻害、または他の方法で調節することができる場合、所与の核酸分子に「作動可能に連結されている」と見なされる。したがって、一部の実施形態では、核酸分子は、構成的プロモーターまたは誘導性プロモーターなどの転写制御配列の制御下にある。
【0202】
プロモーターは、発現が起こる細胞、組織または器官に関して、構成的にまたは示差的に、作動可能に連結された核酸分子の発現を調節する場合がある。したがって、プロモーターは、例えば、構成的プロモーターまたは誘導性プロモーターを含んでもよい。「構成的プロモーター」は、ほとんどの環境および生理学的条件下で活性なプロモーターである。「誘導性プロモーター」は、特定の環境または生理学的条件下で活性なプロモーターである。本発明は、目的の細胞において活性である任意のプロモーターの使用を意図する。したがって、幅広いプロモーターが当業者によって容易に確認されるであろう。
【0203】
哺乳動物の構成的プロモーターには、シミアンウイルス40(SV40)、サイトメガロウイルス(CMV)、P-アクチン、ユビキチンC(UBC)、伸長因子-1アルファ(E3A)、ホスホグリセラートキナーゼ(PGK)およびCMV初期エンハンサー/ニワトリβアクチン(CAGG)が含まれてもよいが、これらに限定されない。
【0204】
誘導性プロモーターには、化学的誘導性プロモーターおよび物理的誘導性プロモーターが含まれてもよいが、これらに限定されない。化学的誘導性プロモーターには、アルコール、抗生物質、ステロイド、金属イオンまたは他の化合物などの化学化合物によって調節される活性を有するプロモーターが含まれる。化学的誘導性プロモーターの例としては、とりわけ、テトラサイクリン制御プロモーター(例えば、米国特許第5,851,796号および米国特許第5,464,758号を参照)、糖質コルチコイド受容体プロモーター(例えば、米国特許第5,512,483号を参照)、エクジソン受容体プロモーター(例えば、米国特許第6,379,945号を参照)などのステロイド応答性プロモーター、およびメタロチオネインプロモーター(例えば、米国特許第4,940,661号、米国特許第4,579,821号および米国特許第4,601,978号を参照)などの金属応答性プロモーターが挙げられる。
【0205】
上述のように、制御配列はターミネーターも含んでもよい。「ターミネーター」という用語は、転写の終結をシグナル伝達する転写単位の末端のDNA配列を指す。ターミネーターは、一般にポリアデニル化シグナルを含有する3’非翻訳DNA配列であり、一次転写物の3’末端へのポリアデニル化配列の付加を促進する。プロモーター配列と同様に、ターミネーターは、それが使用されることが意図される細胞、組織または器官において操作可能である任意のターミネーター配列であってもよい。適切なターミネーターは当業者に公知であろう。
【0206】
理解されるように、本発明による核酸構築物は、さらなる配列、例えば発現、細胞質または膜輸送、および位置シグナルの増強を可能にする配列をさらに含み得る。具体的な非限定的な例としては、とりわけ、配列内リボソーム進入部位(IRES)、N末端インターロイキン-2シグナルペプチド(Moot R.ら、Mol Ther Oncolytics,2016;3:16026)、CSF2RA、IgEリーダー配列(WO第2017147458号)、インフルエンザヘマグルチニンシグナル配列(Quitterer,U.ら、Biochem.Biophys.Res.,2011:409(3):pp.544-579)が挙げられる。シグナルペプチドの総説は、Owki,H.ら、Eur.J.Cell Biol.,2018;97(6):pp.422-441で提示され、これは参照により本明細書に組み込まれる。
【0207】
本発明は、本質的に本明細書に記載されるすべての遺伝子構築物に及ぶ。これらの構築物は、真核生物における遺伝子構築物の維持および/もしくは複製、ならびに/または真核細胞のゲノムへの遺伝子構築物もしくはその一部の組み込みを意図したヌクレオチド配列をさらに含んでもよい。
【0208】
核酸構築物は、プラスミド、ファージ、トランスポゾン、コスミド、染色体、ベクターなどの形態などの任意の適切な形態であってもよく、これは、適切な制御エレメントと会合すると複製することができ、構築物内に含まれる遺伝子配列を細胞間で移入し得る。
【0209】
したがって、ベクターという用語は、クローニングおよび発現のビヒクル、ならびにウイルスベクターを含む。一部の実施形態では、核酸構築物はベクターである。一部の実施形態では、ベクターはウイルスベクターであり、したがって、本発明は、上記のCARをコードする核酸分子または核酸構築物を含むウイルスベクターを提供する。一部の実施形態では、ベクターはDNAベクターまたはmRNAベクターである。
【0210】
少なくとも一部の実施形態では、本発明は、遺伝子改変細胞の調製に使用するための、上記のCARをコードする核酸分子または核酸構築物を提供する。さらに、少なくとも一部の実施形態では、本発明は、細胞の形質転換、トランスフェクションまたは形質導入のためのベクターの調製における核酸分子の使用を提供する。好ましくは、細胞は、CD3、CD4またはCD8のうちの1またはそれを超える種類を発現するT細胞である。遺伝子改変に適した細胞は、異種または自己であり得る。
【0211】
一部の実施形態では、細胞は、癌の予防または処置のための方法または医薬の調製で使用される。したがって、一部の実施形態では、本発明は、癌の予防または処置のための医薬の調製におけるベクターの使用を提供する。
【0212】
核酸構築物などの外因性遺伝物質を真核細胞に意図的に導入(トランスフェクション/形質導入)する方法は、当技術分野で公知である。理解されるように、核酸構築物を所望の宿主細胞に導入するために最も適した方法は、核酸構築物のサイズ、宿主細胞のタイプ、トランスフェクション/形質導入の所望の効率、およびトランスフェクション/形質導入細胞の最終的な所望の生存率または必要とされる生存率などの多くの因子に依存する。そのような方法の非限定的な例としては、カチオン性ポリマー、リン酸カルシウムなどの化学物質、またはリポソームおよびデンドリマーなどの構造体による化学トランスフェクション、エレクトロポレーション(PotterおよびHeller.’’Transfection by Electroporation.’’ Curr.Prot.Mol.Bio.,ed.Frederick M.Ausubelら、2003:Unit-9.3を参照)、ソノポレーション(Wang,Mら、Sci.Reps.,2018;8:3885)、ヒートショックまたは光トランスフェクションなどの非化学的方法、「遺伝子銃」送達、マグネトフェクションまたはインペールフェクション、脂質ナノ粒子またはウイルス形質導入などの粒子系の方法が含まれる。
【0213】
哺乳動物細胞のための様々なウイルス形質導入技術が当技術分野で公知である。一般的なウイルスベクターには、レンチウイルスおよびレトロウイルスが含まれる。例示的なプロトコルは、Wang Lら、Proc.Natl.Acad.Sci.,2011;108:E803-12で提示される。代替ウイルスベクターとしては、HSV、アデノウイルスおよびAAV(Howarth Jら、Cell.Bio.&Toxic.,2010,vol.26,issue 1,pp 1-20)が挙げられる。
【0214】
一部の実施形態では、本発明は、本明細書に記載のキメラ抗原受容体をコードする核酸を含むレンチウイルスを提供する。さらに、本発明は、癌の予防もしくは処置のための、またはLgr5を発現するもしくはLgr5を異常発現する細胞の死滅のための遺伝子改変細胞または医薬の調製におけるウイルスベクター、好ましくはレンチウイルスまたはガンマレトロウイルスなどのレトロウイルスの使用を提供する。
【0215】
細胞の形質導入は、上記のCARをコードするDNAのゲノム組込みをもたらし得る。あるいは、DNAは、形質導入された細胞内で一過性に発現され得る。これらの各々は、陽性および陰性である。ゲノムに組み込まれたDNAは、細胞複製中に安定に発現され、子孫細胞に複製される。これにより、強い免疫応答およびインビボでのCAR発現T細胞の有意な増加が保証される。
【0216】
あるいは、一過性の形質導入(多くの場合、mRNAを用いた形質導入によって達成される)は、細胞における一時的なCAR発現をもたらす。これは通常、はるかに低い応答をもたらすが、必要に応じて「投与量」を増減するように医師により多くの制御を提供する。
【0217】
上記のように、一部の実施形態では、本発明は、細胞の遺伝子形質導入のためのウイルスベクターの調製におけるDNAベクターまたは組換えDNAの使用を提供する。細胞は任意の細胞であり得るが、適切な例を以下に提示する。
【0218】
核酸構築物は、トランスフェクション/形質導入の所望の方法に応じて選択される。一部の実施形態では、核酸構築物はウイルスベクターであり、核酸構築物を宿主細胞に導入する方法はウイルス形質導入である。T細胞などのPBMCにおいてCARの発現を誘発するためにウイルス形質導入を利用する方法(Parker,LL.ら、Hum Gene Ther.2000;11:2377-87)、より一般的には哺乳動物細胞の形質導入のためにレトロウイルス系を利用する方法(Cepko,C.およびPear,W.Curr Protoc Mol Biol.2001,unit 9.9)は、当技術分野で公知である。一部の実施形態では、核酸構築物は、プラスミド、コスミド、人工染色体などであり、当技術分野で公知の任意の適切な方法によって細胞にトランスフェクションされ得る。
【0219】
細胞サブセットの選択/単離のための技術は当技術分野で公知である。これらには、蛍光活性化細胞選別(Basu S.ら、J.Vis.Exp.2010;41:1546)、所望のマーカー(Zola H.ら、Blood,2005;106(9):3123-6)を発現する細胞を免疫磁気的に選択するための磁気細胞単離(MACS(登録商標))デバイスなどの基板上に固定化された抗体を利用する技術、またはマイクロ流体チップの使用が含まれる。一連の細胞マーカーは、免疫系の細胞を単離するために使用され得、BCR、CCR10、CD1a、CD1b、CD1c、CD1d、CD3、CD4、CD5、CD7、CD8、CD10、CD11b、CD11c、CD13、CD16、CD19、CD21、CD23、CD25、CD27、CD31、CD32、CD33、CD34、CD38、CD39、CD40、CD43、CD45、CD45RA、CD45RO、CD48、CD49d、CD49f、CD51、CD56、CD57、CD62、CD62L、CD68、CD69、CD62、CD62L、CD66b、CD68、CD69、CD73、CD78、CD79a、CD79b、CD80、CD81、CD83、CD84、CD85g、CD86、CD94、CD103 CD106、CD115、CD117、CD122、CD123、CD126、CD127、CD130、CD138、CD140a、CD140b、CD141、CD152、CD159a、CD160、CD161、CD163、CD165、CD169、CD177、CD178、CD183、CD185、CD192、CD193、CD194、CD195、CD196、CD198、CD200、CD200R、CD203c、CD205、CD206、CD207、CD209、CD212、CD217、CD218アルファ、CD229、CD244、CD268、CD278、CD279、CD282、CD284、CD289、CD294、CD303、CD304、CD314、CD319、CD324、CD335、CD336、CXCR3、デクチン-1、Tcイプシロル(epsilor)R1アルファ、Flt3、グランザイムA、グランザイムB、IL-9、IL-13アファ(apha)1、IL-21R、iNOS、KLRG1、MARCO、MHCクラスII、RAG、RORガンマT、Singlec-8、ST2、TCRアルファ/ベータ、TCRガンマ/デルタ、TLR4、TLR7、VEGF、ZAP70を含む(が、これらに限定されない)。
【0220】
特に注目すべきは、T細胞マーカーのCCR10、CD1a、CD1c、CD1d、CD2、CD3、CD4、CD5、CD7、CD8、CD9、CD10、CD11b、CD11c、CD13、CD16、CD23、CD25、CD27、CD31、CD34、CD38、CD39、CD43、CD45、CD45RA、CD45RO、CD48、CD49d、CD56、CD62、CD62L、CD68、CD69、CD73、CD79a、CD80、CD81、CD83、CD84、CD86、CD94、CD103、CD122、CD126、CD127、CD130、CD140a、CD140b、CD152、CD159a、CD160、CD161、CD165、CD178、CD183、CD185、CD192、CD193、CD194、CD195、CD196、CD198、CD200、CD200R、CD212、CD217、CD218アルファ、CD229、CD244、CD278、CD279、CD294、CD304、CD314、CXCR3、Flt3、グランザイムA、グランザイムB、IL-9、IL-13アルファ1、IL-21R、KLRG1、MHCクラスII、RAG、RORガンマT、ST2、TCRアルファ/ベータ、TCRガンマ/デルタ、ZAP70である。T細胞選択のための特に好ましい細胞マーカーとしては、TCRガンマ、TCRデルタ、CD3、CD4およびCD8が挙げられる。
【0221】
次いで、単離された細胞を培養して、細胞活性を改変し、増殖または活性化させ得る。細胞を増殖および活性化させるための技術が当技術分野で公知である(Wang X.およびRiviere I.Mol.Thera.Oncolytics.2016;3:16015)。これらには、抗CD3/CD28マイクロビーズ(Miltenyi BiotecまたはThermofisher Scientific-製造者の説明書の通り)または固定化CD3/CD28活性化抗体の他の形態を使用することが含まれる。次いで、活性化/遺伝子改変細胞をサイトカイン(例えば、IL-2、IL-12、IL-15またはIL-17)の存在下でインビトロで増殖させ、次いで凍結保存され得る。CAR T細胞を増殖させるための方法の概要は、WangおよびRiviera(同書)に提示されている。
【0222】
本発明はさらに、上記のキメラ抗原受容体、核酸分子または核酸構築物を含む遺伝子改変細胞を提供する。一部の実施形態では、遺伝子改変細胞は、核酸分子または構築物のゲノムに組み込まれた形態を含む。一部の実施形態では、遺伝子改変細胞は白血球である。一部の実施形態では、遺伝子改変細胞は末梢血単核細胞(PBMC)である。一部の実施形態では、遺伝子改変細胞は骨髄系細胞である。一部の実施形態では、遺伝子改変細胞は単球である。一部の実施形態では、遺伝子改変細胞はマクロファージである。一部の実施形態では、遺伝子改変細胞はリンパ球である。一部の実施形態では、遺伝子改変細胞はT細胞である。一部の実施形態では、遺伝子改変細胞は、アルファベータ(αβ)T細胞である。一部の実施形態では、遺伝子改変細胞はガンマデルタ(γδ)T細胞である。一部の実施形態では、遺伝子改変細胞は、CD3+T細胞(ナイーブCD3+T細胞またはメモリーCD3+T細胞など)である。一部の実施形態では、T細胞はCD4+T細胞(ナイーブCD4+T細胞またはメモリーCD4+T細胞など)である。一部の実施形態では、T細胞はCD8+T細胞(ナイーブCD8+T細胞またはメモリーCD8+T細胞など)である。一部の実施形態では、遺伝子改変細胞はナチュラルキラー細胞である。一部の実施形態では、遺伝子改変細胞はナチュラルキラーT細胞である。
【0223】
キメラ抗原受容体を発現する細胞の使用。
【0224】
本明細書に記載のCAR T細胞などの遺伝子改変細胞は、Lgr5を発現する細胞を標的化するために使用され得、(細胞型に応じて)Lgr5を発現する細胞または異常に発現するLgr5の死滅を補助するか、または導く場合がある。一部の実施形態では、本発明は、Lgr5を発現する細胞、またはLgr5を異常発現する細胞を死滅させる方法を提供し、本方法は、Lgr5を発現する細胞を、キメラ抗原受容体を有する遺伝子改変細胞(例えば、上記のCAR T細胞)に曝露することを含み、キメラ抗原受容体は、Lgr5に対するものである。
【0225】
一部の実施形態では、遺伝子改変細胞は、Lgr5を発現する細胞に対して自己である。一部の実施形態では、Lgr5を発現または異常発現する細胞は、対象の体内にある。一部の実施形態では、Lgr5を発現または異常発現する細胞は、癌細胞である。一部の実施形態では、対象はヒトである。
【0226】
したがって、本発明は、癌を予防または処置するための上記の遺伝子改変細胞の使用を提供する。したがって、本発明は、癌患者を予防または処置する方法を提供し、本方法は、キメラ抗原受容体を発現する細胞に患者を曝露することを含み、キメラ抗原受容体は、Lgr5を標的とする。好ましくは、患者は、キメラ抗原受容体を発現する細胞または遺伝子改変細胞を投与される。
【0227】
さらに、本発明は、Lgr5を発現する細胞を死滅させる方法を提供し、本方法はLgr5を発現する細胞を上記のCARを発現する細胞と接触させることを含む。一部の実施形態では、Lgr5を発現または異常に発現する細胞は癌細胞である。
【0228】
一部の実施形態では、Lgr5を発現または異常発現する細胞を死滅させる方法、および患者を予防または処置する方法は、標的細胞または癌細胞上のLgr5の表面発現を分析することをさらに含む。一部の実施形態では、標的細胞および癌細胞上のLgr5の表面発現は、同等の非癌性細胞と比較される。これらの同等の細胞は、自己または異種であり得る。本方法は、インビトロまたはインビボで実施されてもよい。
【0229】
一部の実施形態では、Lgr5の表面発現の分析は、標的細胞または癌細胞を、キメラ抗原受容体を発現する細胞または遺伝子改変細胞に曝露する前に行われる。
【0230】
一部の実施形態では、標的細胞を死滅させる方法は、標的細胞が癌細胞であり、非癌性細胞と比較した場合にLgr5を異常発現する場合に行われる。患者の癌を処置する方法の一部の実施形態では、CARを発現する細胞は、癌細胞が同等の非癌性細胞と比較してLgr5を過剰発現する場合に投与される。
【0231】
一部の実施形態では、患者の癌を予防または処置する方法は、キメラ抗原受容体を発現する細胞または遺伝子改変細胞に患者を曝露する前に、患者の癌幹細胞の存在を同定することを含む。
【0232】
癌幹細胞のマーカーには、以下が含まれる(しかし、これらに限定されない)。ABCB5、ALDH1A1、CD200、CD133、CD44、CD34、CD24、EpCAMおよびLgr5
【0233】
様々な癌型における癌幹細胞を同定するためのマーカーの使用は、当技術分野で公知である。その例には、乳癌(Ferro de Beca F.ら、J Clin Pathol,2013;66(3):187-91)、結腸直腸癌(Munro M.ら、J Clin Pathol.,2018;71(2):110およびCherciu I.Curr Health Sci J.,2014;40(3):153-161)、リンパ腫(Kim S.ら、Korean J Hematol.,2011;46(4):211-213およびSong S.ら、J Cancer.,2020;11(1):142-152)、胃腸癌(Ahmad R.ら、Biochem Pharmacol.,2016;5(2):202)、肺癌(Templeton A.ら、Stem Cell Investig.,2014;1(9)およびHuang Z.ら、J Cancer.,2017;8(16):3190-3197)、神経膠芽腫(Lathia J.ら、Genes Dev.2015;29(12):1203-17)、膵臓癌(Gzil A.ら、Mol Biol Rep.,2019;46:6629-45)、および肝臓癌(Sun J.ら、World J Gastroenterol.,2016;7(22):3547-57)が含まれる。
【0234】
一部の実施形態では、癌は固形癌である。一部の実施形態では、癌は、膀胱癌、脳癌、乳癌、子宮頸癌、結腸癌、子宮内膜癌、上皮癌、食道癌、肺癌、口腔癌、卵巣癌、腎臓癌、肝臓癌、白血病、リンパ腫、骨髄腫、膵臓癌、前立腺癌、直腸癌、皮膚癌、胃癌、精巣癌、甲状腺癌および舌癌からなる群から選択される。
【0235】
一部の実施形態では、癌は、乳房、膵臓、前立腺、結腸、結腸直腸、肺(NSCLC)、リンパ腫、卵巣、胃腸またはB細胞リンパ腫からなる群から選択される。一部の実施形態では、癌は、結腸直腸癌、結腸癌、B細胞リンパ腫、卵巣癌または胃腸癌からなる群から選択される。一部の実施形態では、癌は転移性癌である。一部の実施形態では、癌は、III期癌であるか、またはIV期癌である。
【0236】
一部の実施形態では、癌は血液癌である。一部の実施形態では、癌は、白血病、リンパ腫および/または骨髄腫からなる群から選択される。一部の実施形態では、白血病は、急性リンパ性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性リンパ性白血病(CLL)または慢性骨髄性白血病(CML)である。一部の実施形態では、リンパ腫はホジキンリンパ腫であるか、または非ホジキンリンパ腫である。一部の実施形態では、骨髄腫は、IgG、IgA、IgM、IgDまたはIgEである。一部の実施形態では、骨髄腫は軽鎖骨髄腫または非分泌性骨髄腫である。
【0237】
一部の実施形態では、本発明によるCARは、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)で発現される場合、30:1もしくはそれを超える、10:1もしくはそれを超える、3:1もしくはそれを超える、または1:1もしくはそれを超えるCAR形質導入CTL:標的細胞の比で、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%または少なくとも50%、または少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または少なくとも95%のLgr5を発現するか、または異常発現する標的細胞に対してインビトロで細胞傷害性を誘導する。主にCTLはCD8を発現する(すなわち、CD8+)が、CD4発現細胞のサブセットは細胞傷害特徴を有することが実証されている(Takeuchi,A.およびSaito,T,Front.Immunol.2017;8:art.194)。したがって、一部の実施形態では、CTLはCD8+である。一部の実施形態では、CTLはCD4+である。
【0238】
一部の実施形態では、本発明によるキメラ抗原受容体は、CD4+Tヘルパー細胞で発現される場合、Lgr5を発現するか、または異常発現する標的細胞と共培養されると、IL-2、TNFアルファおよび/またはIFNガンマの産生を増加させる。一部の実施形態では、増大は統計学的に有意な増大である。一部の実施形態では、統計学的に有意な増加は、0.05、0.01または0.001のP値に対するものである。
【0239】
本発明はさらに、免疫細胞で発現される場合、癌を処置するための本明細書に記載されるようなキメラ抗原受容体の使用を提供する。適切な免疫細胞には、上記に開示される遺伝子改変細胞が含まれる。
【0240】
本発明はまた、上記のキメラ抗原受容体、核酸分子または核酸構築物を含む遺伝子改変細胞と、1またはそれを超える薬学的に許容され得る担体、賦形剤または希釈剤とを含む医薬組成物を提供する。
【0241】
本明細書で使用される場合、「担体」、「賦形剤」または「希釈剤」は、任意の溶媒、分散媒、ビヒクル、コーティング、希釈剤、抗菌剤および/または抗真菌剤、等張剤、吸収遅延剤、緩衝剤、懸濁剤、コロイドなどを含む(ただし、これらに限定されない)。医薬活性物質のためのそのような媒体および/または薬剤の使用は、当技術分野で周知である。遺伝子改変細胞と適合しない任意の従来の培地または薬剤は、医薬組成物における使用のために企図される。補助活性成分も組成物に組み込まれ得る。「薬学的に許容され得る」とは、生物学的に望ましくないのではなく、または望ましくない反応性もしくは毒性ではない任意の物質、望ましくない生物学的作用を引き起こさずに、または含有される医薬組成物の他の構成要素のいずれかと有害な様式で相互作用することなく、キメラ抗原受容体を発現する遺伝子改変細胞と共に個体に投与されてもよい任意の物質を意味する。一部の実施形態では、医薬組成物は、同時に、協同的にまたは相乗的に作用するさらなる活性成分を含む。一部の実施形態では、医薬組成物はサイトカインを含む。
【0242】
医薬組成物は、好ましい投与経路に適合した様々な形態で製剤化されてもよい。したがって、組成物は、例えば、非経口(例えば、皮内、経皮、皮下、筋肉内、静脈内、腹腔内など)を含む公知の経路を介して投与され得る。医薬組成物はまた、持続放出または遅延放出を介して投与され得る。キメラ抗原受容体を発現する遺伝子改変細胞を含む医薬組成物は、溶液、懸濁液、エマルジョン、スプレー、エアロゾル、または任意の形態の混合物を含むが、これらに限定されない任意の適切な形態で提供されてもよい。
【0243】
一部の実施形態では、医薬組成物は、1週間に約1~約5回投与されてもよい。一部の実施形態では、医薬組成物は1回投与される。一部の実施形態では、医薬組成物は2回投与される。一部の実施形態では、医薬組成物は3回投与される。一部の実施形態では、医薬組成物は4回投与される。
【0244】
一部の実施形態では、医薬組成物は、少なくとも5×108個の細胞を含む。一部の実施形態では、医薬組成物は、少なくとも3×108個の細胞を含む。一部の実施形態では、医薬組成物は、少なくとも2.5×108個の細胞を含む。一部の実施形態では、医薬組成物は、少なくとも1×108個の細胞を含む。一部の実施形態では、医薬組成物は、少なくとも5×107個の細胞を含む。一部の実施形態では、医薬組成物は、少なくとも2.5×107個の細胞を含む。一部の実施形態では、医薬組成物は、少なくとも1×107個の細胞を含む。一部の実施形態では、医薬組成物は、少なくとも5×106個の細胞を含む。一部の実施形態では、医薬組成物は、少なくとも2.5×106個の細胞を含む。一部の実施形態では、医薬組成物は、少なくとも1×106個の細胞を含む。
【0245】
一部の実施形態では、医薬組成物は、少なくとも5×108個の細胞を提供するために投与される。一部の実施形態では、医薬組成物は、少なくとも3×108個の細胞を提供するために投与される。一部の実施形態では、医薬組成物は、少なくとも2.5×108個の細胞を提供するために投与される。一部の実施形態では、医薬組成物は、少なくとも1×108個の細胞を提供するために投与される。一部の実施形態では、医薬組成物は、少なくとも5×107個の細胞を提供するために投与される。一部の実施形態では、医薬組成物は、少なくとも2.5×107個の細胞を提供するために投与される。一部の実施形態では、医薬組成物は、少なくとも1×107個の細胞を提供するために投与される。一部の実施形態では、医薬組成物は、少なくとも5×106個の細胞を提供するために投与される。一部の実施形態では、医薬組成物は、少なくとも2.5×106個の細胞を提供するために投与される。一部の実施形態では、医薬組成物は、少なくとも1×106個の細胞を提供するために投与される。
【0246】
一般に、医薬組成物は、任意の程度まで、癌の症状または臨床徴候を減少させるか、その進行を制限するか、改善するか、または解消するのに有効な量および投与レジメンで対象に投与される。本明細書で使用される場合、「改善する」とは、癌の症状または臨床徴候の程度、重症度、頻度および/または可能性の任意の減少を指す。「症状」とは、疾患または患者の症状の任意の主観的根拠を指す。「兆候」または「臨床兆候」とは、特定の症状に関する客観的な身体所見を指す。癌の状況では、組成物は、1またはそれを超える腫瘍の成長を制限する、1またはそれを超える腫瘍のサイズ、体積もしくは重量を減少させる、癌の転移速度もしくは転移数を減少させる、癌細胞の増殖を減少させる、または対象の平均余命を延長するのに有効な量および投与レジメンで対象に投与される。
【0247】
定義および必要条件
本明細書で言及されるヌクレオチドおよびポリペプチドの配列は、配列識別子番号(配列番号)によって表される。配列識別子の概要を表4に示す。配列表も本明細書の一部として提供される。
表4
配列記載
【表4-1】
【表4-2】
【表4-3】
【表4-4】
【0248】
本明細書で考察されるように、上記の配列は、配列中に修飾および変異を有してもよい機能的変異体を含む。当業者には理解されるように、「機能的変異体」は、配列の元のタンパク質または核酸の機能の一部または全部を依然として維持する。したがって、機能的変異体は、例えば、上記に提示された配列番号の1つと比較して、1またはそれを超えるアミノ酸の挿入、欠失または置換を有してもよい。または、核酸の場合、機能変異体は、コードされたタンパク質が最初にコードされたタンパク質の機能変異体である限り、1またはそれを超える同義変異を含み、それによって依然として同じアミノ酸配列をコードしてもよく、または1またはそれを超える非同義変異を含んでもよい。
【0249】
例として、抗体の機能的変異体または抗体の結合部分は、同じまたは類似の特異性を提供する任意の変異体であり得る。抗体に関して、抗体の機能は、その使用の状況で考慮されなければならない。例えば、抗体の結合部分の機能性は、エピトープを認識するその能力である。しかしながら、任意の抗体は、その全体が、補体の活性化またはエフェクター細胞の活性化などの免疫応答を誘導するようにも機能する場合がある。
【0250】
一部の実施形態では、機能的変異体または変異体は、本明細書に記載し列挙した配列番号のいずれか1つと少なくとも50%のアミノ酸配列同一性、少なくとも55%のアミノ酸配列同一性、少なくとも60%のアミノ酸配列同一性、少なくとも65%のアミノ酸配列同一性、少なくとも70%のアミノ酸配列同一性、少なくとも75%のアミノ酸配列同一性、少なくとも80%のアミノ酸配列同一性、少なくとも85%のアミノ酸配列同一性、少なくとも90%のアミノ酸配列同一性、少なくとも91%のアミノ酸配列同一性、少なくとも92%のアミノ酸配列同一性、少なくとも93%のアミノ酸配列同一性、少なくとも94%のアミノ酸配列同一性、少なくとも95%のアミノ酸配列同一性、少なくとも96%のアミノ酸配列同一性、少なくとも97%のアミノ酸配列同一性、少なくとも98%のアミノ酸配列同一性、少なくとも99%のアミノ配列同一性、または少なくとも99.1%、99.2%、99.3%、99.4%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%、もしくは99.9%のアミノ酸配列同一性を含んでもよい。一部の実施形態では、機能的変異体は、元のペプチド/タンパク質の機能の50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%または99.9%を維持する。
【0251】
本明細書で使用される場合、「異常発現する」は、同等の細胞の正常な発現から逸脱する任意の発現に関する。一部の実施形態では、異常発現するとは、Lgr5の変異形態またはLgr5の機能不全形態もしくは非機能性形態を発現することを意味する。一部の実施形態では、異常発現するとは、正常細胞と比較したLgr5の過剰発現を意味する。一部の実施形態では、過剰発現とは、同等の正常細胞と比較した場合、発現の少なくとも10%の上昇、または発現の少なくとも20%の上昇、または発現の少なくとも30%の上昇、または発現の少なくとも40%の上昇、または発現の少なくとも50%の上昇、または発現の少なくとも60%の上昇、または発現の少なくとも70%の上昇、または発現の少なくとも80%の上昇、または発現の少なくとも90%の上昇、または発現の少なくとも100%の上昇、または発現の少なくとも125%の上昇、または発現の少なくとも150%の上昇、または発現の少なくとも175%の上昇、または発現の少なくとも200%の上昇、または発現の少なくとも250%の上昇、または発現の少なくとも300%の上昇、または発現の少なくとも350%の上昇、または発現の少なくとも400%の上昇、または発現の少なくとも450%の上昇、または発現の少なくとも500%の上昇を意味する。
【0252】
本明細書を通して、文脈上他の解釈を必要としない限り、「含む(comprise)」という単語、または「含む(comprises)」もしくは「含む(comprising)」などの変形は、記載された要素もしくは整数、または要素もしくは整数の群を含むが、任意の他の要素もしくは整数、または要素もしくは整数の群を除外しないことを意味すると理解される。
【0253】
「含む(comprise)」などの用語、または「含む(comprises)」もしくは「含む(comprising)」などの変形は、本発明に直接関係する他の要素を除外する本発明のバージョンをそれらの範囲内で(限定されない)本質的に含むことをさらに理解されたい。したがって、「からなる(consisting of)」または「から本質的になる(consisting essentially of)」などの用語は、「含む(comprise)」、「含む(comprises)」または「含む(comprising)」などの用語と置き換えられ得、本発明の範囲を具体的に列挙された要素に限定する効果を有する。特に、本発明が網羅的に考慮されることが明示的に意図される場合、そのような制限は、本明細書に開示された発明概念のみに関連すると見なされるべきであり、本発明概念の範囲外にある他の特性が追加され得る。そのような特性または要素には、「からなる」または「から本質的になる」などの用語によって除外されるべきではない賦形剤、製剤、添加剤、希釈剤、包装、アジュバントおよび並置された特性が含まれてもよいが、これらに限定されない。
【0254】
核酸配列を比較する場合、配列は、核酸の長さによって決定されるか、または他の方法で指定される比較ウィンドウにわたって比較されるべきである。例えば、表4に列挙された配列のいずれか1つの少なくとも20残基、少なくとも50残基、少なくとも75残基、少なくとも100残基、少なくとも200残基、少なくとも300残基、少なくとも残基、少なくとも500残基、少なくとも600残基、または全長にわたる比較ウィンドウ。比較ウィンドウは、2つの配列の最適なアラインメントのために、参照配列(付加または欠失を含まない)と比較して、約20%、約18%、約16%、約14%、約12%、約9%、約8%、約6%、約4%または約2%またはそれ未満の付加または欠失を含んでもよい。比較ウィンドウを整列させるための配列の最適なアラインメントは、例えば、Altschulら、Nucl.Acids Res.1997;25:3389-3402により開示されるようなプログラムのBLASTファミリーなどのアルゴリズムのコンピューター実装により実行されてもよい。グローバルアライメントプログラムを使用して、ほぼ等しいサイズの類似配列をアライメントしてもよい。グローバルアライメントプログラムの例には、EMBOSSパッケージ(Rice Pら、Trends Genet.,2000;16:276-277)の一部であるNEEDLE(www.ebi.ac.uk/Tools/psa/emboss_needle/で入手可能)、およびFASTAパッケージ(Pearson WおよびLipman D,1988,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,85:2444-2448)の一部であるGGSEARCHプログラム(fasta.bioch.virginia.edu/fasta_www2/fasta_www.cgi?rm=compare&pgm=gnwで入手可能)が含まれる。これらのプログラムは両方とも、それらの全長に沿った2つの配列の最適なアラインメント(ギャップを含む)を見つけるために使用されるNeedleman-Wunschアルゴリズムに基づく。配列分析の詳細な考察は、Ausubelら編のUnit 19.3にも見出され得る(’’Current Protocols in Molecular Biology’’ John Wiley&Sons Inc,Chapter 19,2003)。
【0255】
「置換」という用語は、親ペプチドまたはタンパク質配列における特定の位置のアミノ酸を別のアミノ酸で置換することを指す。置換を行って、得られたタンパク質のアミノ酸を非保存的様式(例えば、特定のサイズまたは特徴を有するアミノ酸の分類に属するアミノ酸を別の分類に属するアミノ酸に変更することによって、例えば、親水性アミノ酸を疎水性アミノ酸で置換すること)または保存的様式(例えば、特定のサイズまたは特徴を有するアミノ酸の分類に属するアミノ酸を同じ分類に属するアミノ酸に変更することによって、例えば、親水性アミノ酸を親水性アミノ酸で置換すること)で変化させ得る。そのような保存的変化は、一般に、修飾ペプチド/タンパク質の立体構造および機能変化の減少をもたらす。以下は、アミノ酸の様々な分類の例である。1)非極性R基を有するアミノ酸:アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、メチオニン、2)非荷電極性R基を有するアミノ酸:グリシン、セリン、トレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、グルタミン、3)荷電極性R基を有するアミノ酸(pH6.0で負に帯電):アスパラギン酸、グルタミン酸、4)塩基性アミノ酸(pH6.0で正に帯電):リジン、アルギニン、ヒスチジン(pH6.0)。別の分類は、フェニル基を有するアミノ酸:フェニルアラニン、トリプトファンおよびチロシンであってもよい。
【0256】
当業者は、任意のアミノ酸が化学的に(機能的に)類似のアミノ酸で置換され、ポリペプチドの機能を保持し得ることを認識するであろう。そのような保存的アミノ酸置換は、当技術分野で周知である。表5および表6の以下の群は、いくつかの保存的アミノ酸を提示する。
表5
例示的なアミノ酸保存的置換
【表5】
表6
保存的アミノ酸のグループ
【表6-1】
【表6-2】
【0257】
「挿入」という用語は、配列の内部にアミノ酸を付加することを指す。「付加」とは、配列の末端へのアミノ酸の付加を指す。「欠失」とは、配列からのアミノ酸の除去を指す。
【0258】
理解されるように、「修飾」または「変異」という用語は、アミノ酸配列または核酸配列に対する任意の付加、欠失、挿入または置換を含む。
【0259】
本発明に包含される基本的な技術を実施するための方法を含む分子生物学の標準的な教科書を参照する。例えば、Green MRおよびSambrook J,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(4th edition),Cold Spring Harbor Laboratory Press,2012を参照されたい。
【0260】
本明細書に記載されるすべての方法は、本明細書に別段の指示がない限り、または文脈と明らかに矛盾しない限り、任意の適切な順序で実行し得る。ありとあらゆる例または例示的な言語(例えば、「など」、「すなわち」)の使用は、単に例示された実施形態をよりよく明らかにすることを意図しており、明示的に特許請求されない限り、特許請求される発明の範囲を限定するものではない。本明細書におけるいかなる言語も、特許請求されていない要素を必須として示すと解釈されるべきではない。
【0261】
本明細書で提示される説明は、共通の特徴および特性を共有する場合がある一部の実施形態に関するものである。一実施形態の1またはそれを超える特性は、他の実施形態の1またはそれを超える特性と組み合わせる場合があることを理解されたい。さらに、実施形態の単一の特性または特性の組み合わせは、追加の実施形態を構成する場合がある。
【0262】
本明細書で使用される見出し語は、読者の参照を容易にするためにのみ含まれ、本開示または特許請求の範囲を通して見出される主題を限定するために使用されるべきではない。見出し語は、特許請求の範囲または特許請求の範囲の限定を解釈する際に使用されるべきではない。
【0263】
当業者は、本明細書に記載される本発明が、具体的に記載されたもの以外の変形および改変を受けやすいことを理解するであろう。本発明は、すべてのそのような変形および改変を含むことを理解されたい。本発明はまた、個々にまたは集合的に、本明細書で言及されるかまたは示されるステップ、特性、組成物および化合物のすべて、ならびに任意の2またはそれを超えるステップまたは特性の任意のおよびすべての組み合わせを含む。
【0264】
また、本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈が既に他を指示していない限り、複数の態様を含むことに留意されたい。
【0265】
本発明は、明確さおよび理解のために本明細書に詳細に記載されているが、本明細書に開示された発明概念の範囲から逸脱することなく、本明細書に記載された実施形態および方法に対して様々な修正および変更を行ってもよいことは当業者には明らかであろう。
【0266】
【実施例】
【0267】
実施例
本発明を以下の実施例でさらに説明する。実施例は、特定の実施形態を説明することのみを目的としており、上記の説明に関して限定することを意図するものではない。
【0268】
実施例1-抗Lgr5キメラ抗原受容体の設計調製および発現
【0269】
本発明の実施形態によるキメラ抗原受容体を設計および発現するプロセスを詳述する例示的なプロトコルを以下に詳述する。
【0270】
図3に示すように、抗体軽鎖リーダー配列(CNA30xx-配列番号85)または重鎖リーダー配列(CNA31xx-配列番号87)のいずれかであるリーダー配列2、Lgr5に対する抗原結合ドメイン3(CNA30xx-配列番号53およびCNA31xx-配列番号54)、およびCD28膜貫通ドメイン5(配列番号72)に連結された3つのリンカードメイン4a~c(配列番号55、56および57)のうちの1つとを含む細胞外ドメイン1と、4-1BBのシグナル伝達部分7(配列番号59)、CD3-ゼータ鎖の細胞内シグナル伝達部分8(配列番号58)、T2A自己切断部位9(配列番号79)、および細胞内シグナル伝達ドメインを欠く切断型のEGFR受容体(EGFRt)10(配列番号81)を含む細胞内シグナル伝達ドメインを含むエンドドメイン6とからなるCAR構築物(まとめてCNA CARファミリー構築物と呼ばれる)を調製した。その結果、EGFRtの表面発現を、CAR構築物による形質導入効率を測定するための代理として使用し得る。
【0271】
図3に例示されるように、細胞外ドメイン1および膜貫通ドメイン5は、下記の3つのリンカードメインのうちの1つによって連結された。
4a.IgG4ヒンジ領域(配列番号55)の変異型を含む、12アミノ酸のリンカードメイン。これらのCARは、連続末尾(xx)番号02で示される。
4b.IgG4ヒンジ領域およびIgG4 CH3領域(配列番号83)の変異型を含み、配列番号56に記載のアミノ酸配列を有するリンカードメインを提供する、119アミノ酸のリンカードメイン。このリンカーを有するCARは、連続末尾(xx)番号03で示される。ならびに
4c.配列番号57に記載のアミノ酸配列を有するリンカードメインを提供するための、IgG4ヒンジ領域、IgG4 CH2領域(L235DおよびN297Qの変異を有する配列番号84)の変異型を含む、229アミノ酸のリンカードメイン。このリンカーを有するCARは、連続末尾(xx)番号04およびIgG4 CH3領域で示される。
【0272】
図4Aおよび
図4Bに例示されるように、エクトドメイン1の抗原結合ドメイン3は、2つの融合タンパク質(接頭語CNA30xxおよび接頭語CNA31xxで示され、末尾は、上記で考察される「xx」連続番号のうちの1つである)のうちの1つからなった。具体的には、2つの一本鎖変異断片(scFv)融合タンパク質を形成した。これらは、18アミノ酸融合ドメイン13(配列番号98)によって融合された可変重(VH)鎖11(配列番号50)および可変軽(VL)鎖12(配列番号49)を含んでいた。
図4Aは、VL鎖のC末端が融合ドメイン13によってVH鎖のN末端に連結されている第1の結合ドメイン(CNA30xx-配列番号53)を示す。第2の結合ドメイン(CNA31xx-配列番号54)が
図4Bに示されており、VH鎖のC末端は融合ドメイン13によってVL鎖のN末端に連結されている。前述のように、CARの可変ドメインの順序がCARの表面発現および活性に影響を及ぼす場合があるため、scFvの2つの異なる配向が生成された(Burnsら、Cancer Res:2010,70,3027-3033)。
【0273】
その結果、3つのリンカー領域および2つの結合ドメインのうちの1つを有する6つの異なるCARを設計した。これらの6つのCARを以下に要約する。
・CNA3002-VL-VH-IgG4ヒンジ(短いヒンジ-12アミノ酸):アミノ酸配列-配列番号60
・CNA3003-VL-VH-IgG4ヒンジ-CH3(中間のヒンジ-119アミノ酸):アミノ酸配列-配列番号61
・CNA3004-VL-VH-IgG4ヒンジ-CH2-CH3(長いヒンジ-229アミノ酸):アミノ酸配列-配列番号62
・CNA3102-VH-VL-IgG4ヒンジ(短いヒンジ-12アミノ酸):アミノ酸配列-配列番号63
・CNA3103-VH-VL-IgG4ヒンジ-CH3(中間のヒンジ-119アミノ酸):アミノ酸配列-配列番号64
・CNA3104-VH-VL-IgG4ヒンジ-CH2-CH3(長いヒンジ-229アミノ酸):アミノ酸配列-配列番号65
【0274】
6つのCAR構築物の各々は、最適化されたヒトコドン使用頻度であった。各構成要素をコードするそれぞれの配列を以下の表7に示す。合計6つのCAR DNAコード配列を合成した(配列番号66、配列番号67、配列番号68、配列番号69、配列番号70および配列番号71は、それぞれCNA3002、CNA3003、CNA3004、CNA3102、CNA3103およびCNA3104に対応する)。これらをGeneBlock(商標)二本鎖DNA断片として合成し、NEB HiFiアセンブリ反応を使用して、消化されたepHIV-7.2レンチウイルスDNAベクター骨格にクローニングして、6つのベクターを得た。
表7
CAR構成要素のためのタンパク質およびコードDNA
【表7-1】
【表7-2】
【0275】
実施例2-レンチウイルスベクターの調製。
【0276】
239 T細胞を、CARのCNAファミリーを含有するベクターで一過性にトランスフェクションして、レンチウイルスを作製した。
【0277】
293T細胞を、5%血清が補充されたOpti-MEM GlutaMAX培地に播種し、細胞をフラスコに付着させるために5% CO2とともに37℃でインキュベーションした。
【0278】
DNAプラスミド、ウイルスパッケージングプラスミド、リポフェクタミン3000試薬(Invitrogen)、P3000エンハンサー試薬をコードするCARを293T細胞と共に培地中でインキュベーションすることによって、6つの異なるCNA CAR用のウイルスを産生した。
【0279】
上清を回収し、回転させて細胞片を除去した。次いで、上清を濾過し(0.45μM)、ウイルスを遠心分離によって濾過した上清から濃縮し、-80℃で保存した。
【0280】
実施例3-T細胞の単離および形質導入。
【0281】
CD3+T細胞を、RosettesepヒトT細胞濃縮カクテル(StemCell)を製造者のプロトコルに従って使用して全血から単離した。
【0282】
単離されたCD3+T細胞を、単離後1時間、CD3/CD28 Dynabeads(Thermo Fischer Scientific)で刺激した(37℃、5% CO2)。その後、刺激された細胞に、CNA3002、CNA3003、CNA3004、CNA3102、CNA3103またはCNA3104 CAR含有ウイルスのうちの1つを形質導入した。形質導入されていない試料を対照として利用した。単離された細胞を、磁気分離によってdynabeadsを除去する前に、ポリブレンを含有する完全培地で37℃、5% CO2で培養した。細胞を、IL-21、IL-7およびIL-15を含有する完全培地でさらに培養した。細胞を定期的な培地交換によって維持し、日常的に分裂して増殖を維持した。
【0283】
IL-21、IL-7およびIL-15を含む完全培地中で、照射されたPBMC細胞およびCD3抗体を使用して、6つのCAR形質導入T細胞ならびに形質導入されていない対照細胞のそれぞれ1×106個に第2の刺激を与えた。この期間中、細胞を、インビトロ細胞溶解アッセイ(下記を参照のこと)に使用する前に、または将来の使用のために凍結する前に、上記のように培養し、分裂させた。
【0284】
上記のように、CAR構築物は、T2A自己切断ペプチドに連結されたEGFRtを含む。CAR構築物の発現時に、EGFRtは、成熟キメラ抗原受容体ポリペプチドから切断され、細胞表面上に別々に発現される。その結果、切断型EGFR(EGFRt)の表面発現を用いて、T細胞における形質導入効率を測定した。
【0285】
CD3細胞の形質導入効率を、形質導入された細胞を抗CD3抗体、抗CD4抗体、抗CD8抗体および抗EGFR抗体(eBiosciences)で染色し、フローサイトメトリーによって表面発現を分析することによって、形質導入後5日目(
図5Aおよび
図5B)および形質導入後15日目(
図6Aおよび
図6B)に決定した。
【0286】
図5Aおよび
図5Bに見られるように、形質導入後5日目に、形質導入されたCD3+T細胞の6つの群すべてが90%を超えるEGFR発現を示し、関連するCARの発現を示した。具体的には、CNA3002 CAR構築物で形質導入されたCD3+リンパ球の95.3%がEGFRを発現し、CNA3003 CAR構築物で形質導入されたCD3+リンパ球の94.7%がEGFRを発現し、CNA3004 CAR構築物で形質導入されたCD3+リンパ球の92.2%がEGFRを発現し、CNA3102 CAR構築物で形質導入されたCD3+リンパ球の94.5%がEGFRを発現し、CNA3103 CAR構築物で形質導入されたCD3+リンパ球の95.5%がEGFRを発現し、CNA3104 CAR構築物で形質導入されたCD3+リンパ球の94.0%がEGFRを発現した。比較すると、形質導入されていないCD3+細胞の0.21%のみが抗EGFR抗体で染色された。しかしながら、15日目までに(
図6Aおよび
図6B)、EGFR発現は低下した。
【0287】
実施例4-CAR T細胞エフェクター機能。
【0288】
抗Lgr5 CAR発現T細胞の活性を評価するために、インビトロ死滅アッセイを行った。
【0289】
FFルシフェラーゼを発現するように改変されたCHO細胞(対照)およびLgr5を過剰発現し、FFルシフェラーゼを発現するCHO細胞を、モデル標的細胞として利用した。
図7は、Alexa Fluor 647に結合した抗Lgr5抗体BNC101によるCHO細胞(野生型およびLgr5過剰発現)の染色を示す。簡潔には、2×10
5個のCHO細胞をPBSで洗浄し、BNC101抗体を各チューブに400ug/ulの最終濃度で50ulのPBSの総体積で添加した。CHO細胞をBNC101抗体の存在下で4℃で30分間インキュベーションした後、PBSで洗浄し、再懸濁し、フローサイトメーターで分析した。
【0290】
図7に見られるように、Lgr5を過剰発現するCHO細胞は、野生型CHO細胞と比較してLgr5の発現増加を明確に示し、CNA CAR構築物に対する標的細胞としてのそれらの適合性を示した。
【0291】
上記のCHO標的細胞を、丸底96ウェルプレート中50ulの培地/ウェルで1×104細胞の濃度で播種した。各試験を3回実施し、結果を平均した。非形質導入T細胞を対照として使用した。
【0292】
6つのCAR構築物のうちの5つで形質導入されたT細胞(CNA3002、CNA3004、CNA30102、CNA3103およびCNA3104)ならびに形質導入されていない(UT)T細胞を、10:1、3:1および1:1のT細胞対標的比で、5% CO2、37℃で18時間、標的癌細胞株と共培養した。
【0293】
製造業者の指示に従って、共培養における標的細胞の溶解を測定するために、Bright-Glo(商標)ルシフェラーゼ系アッセイシステムを使用した。
【0294】
図8Aに見られるように、5つの試験抗Lgr5 CAR構築物はすべて、Lgr5を過剰発現するCHO標的細胞の有意な溶解(70%を超える)を示したが、形質導入されていないT細胞は20%未満の溶解を有した。比較すると、野生型CHO細胞は、CAR発現T細胞のいずれによっても有意に溶解されなかった(
図8B)。
【0295】
実施例5-腫瘍細胞株に対する抗Lgr5 CAR T細胞活性。
【0296】
モデル標的細胞に対するCAR発現T細胞の有効性が確立されたため、それらをCellBank Australiaから供給された以下の癌細胞株に対してインビトロ試験した。LoVo(転移性結腸上皮細胞癌)、LIM1215(結腸直腸上皮細胞癌腫)、Raji(バーキットリンパ腫)、Namalwa(バーキットリンパ腫)、OVCAR-3(卵巣癌腫)、SHY-5Y-SY(神経芽細胞腫)およびBE(2)-M17(神経芽細胞腫)。
【0297】
様々な細胞株(ルシフェラーゼレポーターを安定に発現する)を、96ウェル丸底プレートの50ul/ウェルで1×104細胞で播種した。各比および試験したT細胞処置について3回の測定を行った。形質導入されていないT細胞を対照細胞に使用した。
【0298】
6つのCAR-T細胞集団および形質導入されていないT細胞の各々を、標的癌細胞株と、10:1、3:1および1:1のE:T比で18時間共培養した。BrightGloルシフェラーゼ系アッセイシステムを上記のように使用して、5つの異なる癌細胞株に対するCD3 CAR-T細胞の細胞溶解能を測定した。
【0299】
図9A~
図9Gは、上記で特定された7つの癌細胞株に対する抗Lgr5 CAR発現T細胞の有効性を示す。
【0300】
分かるように、CNA3004(VL-VH-長いヒンジ)ならびにCNA3102(VH-VL-短いヒンジ)、CNA3103(VH-VL-中間のヒンジ)およびCNA3104(VH-VL-長いヒンジ)はすべて、LoVo、LIM1215細胞、Namalwa、SHY-5Y-SYおよびBE(2)-M17細胞の有効な溶解を示した。さらに、CNA3102、CNA3103およびCNA3104は、特に10対1のエフェクター細胞対標的細胞(E:T)比でRaji細胞の有効な溶解を示し、CNA103およびCNA104が最も効果的であった。さらに、抗Lgr5 CAR T細胞は、OVCAR3細胞を効果的に溶解し、CNA3102、CNA3103およびCNA3104は、OVCAR3を標的化するのに最も有効であった。
【0301】
抗Lgr5 CAR T細胞が、10:1、3:1および1:1のエフェクター対標的細胞比でLoVoおよびLIM1215を溶解するのに有効であることを実証したため、標的細胞に対するエフェクターのさらにより小さい比(1:3、1:10、1:30)を試験した(
図10)。
【0302】
図10Aおよび
図10Bに見られるように、エフェクター対標的比が1:10であっても、抗Lgr5 CAR T細胞は癌細胞を効果的に溶解することができた。
【0303】
実施例6-原発性腫瘍細胞に対する抗Lgr5 CAR T細胞活性。
【0304】
抗Lgr5 CAR T細胞が、Lgr5を過剰発現するCHO細胞および癌細胞株を溶解し得ることを確立したため、原発性卵巣癌細胞に対する抗Lgr5 CAR T細胞の有効性を評価した。
【0305】
腹水由来の原発性卵巣癌細胞(n=8)を、患者のインフォームドコンセントおよびRoyal Adelaide Hospital Human Ethics Committeeの承認を得て、進行期漿液性卵巣癌患者から収集した。培養方法は既に記載されている(Carmon,K.S.ら、PNAS.,2011,108,11452-7 and Ricciardelli,C.ら、Cancer Lett.,2018,421,51-58)。簡潔には、腹水からの腫瘍細胞を、2 mM GlutaMAX(Life Technologies)、10% FBSおよびPSF抗生物質を補充したadvanced RPMI-1640培地(Life Technologies,Thermo Fisher Scientific、米国マサチューセッツ州ウォルサム)で培養した。原発性卵巣癌細胞株を使用するまで液体窒素中で保存した。これらの細胞を、FFルシフェラーゼを発現するように改変した。
【0306】
単離された原発性卵巣癌細胞1×104個を、96ウェル丸底プレートのウェルの50μlの培地に播種し、様々な比の抗Lgr5 CAR T細胞と共インキュベーションした。標的細胞の溶解を評価するために、上記のように、BrightGloルシフェラーゼ細胞溶解アッセイを行った。
【0307】
図11に見られるように、抗Lgr5 CAR T細胞は、1:1(エフェクター対標的比)という低い比で原発性卵巣癌細胞を効果的に溶解した。
【0308】
実施例7-Lrg5遮断抗体はCAR T細胞溶解を阻害する
【0309】
CNA CAR-T細胞が抗原特異的に標的細胞を溶解することを確認するために、抗体BNC101を用いてLgr5上の標的エピトープをブロックした(上記参照)。
【0310】
図9および
図10で実証されるように、LoVo結腸直腸癌細胞は、CNAファミリーCAR T細胞によって溶解され得る。したがって、抗原特異的溶解を評価するために、LoVo細胞をBNC101抗体と4時間インキュベーションし、続いてPBSで洗浄し、続いて完全XVIVO培地に懸濁し、96ウェルプレートに1×10
4細胞/ウェルで播種した。
【0311】
陰性対照については、同数の標的細胞もまた、PBSまたは完全XVIVO培地で4時間インキュベーションした後、PBSで洗浄し、上記のように完全XVIVO培地に播種した。
【0312】
4つの抗Lgr5 CAR-T細胞(CNA3004、CNA3102、CNA3103およびCNA3104)を、播種されたLoVo細胞と共インキュベーションして、10:1、3:1、1:1、1:3、1:10および1:30のエフェクター対標的細胞比を生じた。CAR T細胞の添加後、さらなるBNC 101抗体(2mg/ml)を処置群(抗体前処置群)に添加した。次いで、プレートを37℃、5% CO2で16時間インキュベーションした。16時間のインキュベーションの完了時に、標的細胞の溶解を評価するために、(上記のように)BrightGloルシフェラーゼ細胞溶解アッセイを行った。
【0313】
図12Aおよび
図12Bに見られるように、CNAファミリーのCAR T細胞(すなわち、CNA3004、CNA3102、CNA3103およびCNA3104)によって、抗体とインキュベーションしなかった(すなわち、XVIVO培地のみまたはPBSのいずれかとインキュベーションした)細胞を、1:10および1:30という低いエフェクター対標的比でさえ、効果的かつ広範囲に死滅させた。
【0314】
比較すると、
図12Cは、標的LoVo細胞をプレインキュベーションし、抗Lgr5抗体BNC101と共インキュベーションした場合、試験したCNAファミリーCAR T細胞による標的細胞の溶解が、対照XVIVOおよびPBSでインキュベーションした標的細胞と比較して、かなり減少したことを実証している。
【0315】
実施例8-CNA CAR T細胞はインビボで腫瘍成長を効果的に低下させる
【0316】
CNAファミリーCAR T細胞がインビボでの癌細胞増殖の防止または低減に有効であるか否かを評価するために、マウス異種移植片癌モデルを以下に記載されるように利用した。
【0317】
動物
【0318】
5~6週齢の雄の免疫不全NOD.Cg-Prkdcscid Il2rgtm1Wjl/SzJ(NSG)マウスをAnimal Resource Centre(西オーストラリア州パース)から購入した。マウスを12時間の明/暗サイクルで病原体のない条件に収容し、少なくとも1週間順化させた。すべての実験は倫理的承認の下で行った。
【0319】
組織培養
【0320】
ヒト結腸直腸腺癌LoVo細胞株を、10%熱不活性化ウシ胎児血清(FCS;コーニング)および100 U/mlペニシリン/ストレプトマイシン(Life Technologies)を補充したRPMI(Gibco)中で増殖および維持し、37℃、5% CO2で培養した。滅菌PBSでフラスコをすすぎ、37℃で約4分間トリプシン/EDTAを含むPBS(Gibco)で細胞を解離することによって、細胞を2~3日ごとに継代した。
【0321】
CAR-Tの製造
【0322】
CD3+Lgr5標的化CAR-T細胞を上記のように作製した。具体的には、CNA3004(長いリンカーを有する軽鎖-重鎖配向)、CNA3102(短いリンカーを有する重鎖-軽鎖配向)、CNA3103(中程度のリンカーを有する重鎖-軽鎖配向)およびCNA3104(長いリンカーを有する重鎖-軽鎖配向)をこのモデルで試験した。
【0323】
異種移植マウスモデル
【0324】
6~7週齢のNSGマウスの下腹部に、滅菌PBSに再懸濁した2×106個のLoVoヒト結腸直腸腺癌細胞を皮下注射した。各群は5~7匹のマウスからなっていた。
【0325】
合計2×107個の生抗Lgr5 CAR T細胞(具体的には、CNA3004、CNA3102、CNA3103およびCNA3104)を含む滅菌ダルベッコPBSを、癌細胞の注射の3日後にマウスに静脈内注射した。形質導入されていないT細胞(2×107個)を陰性対照としてマウスに投与し、第2の対照群はPBSのみを投与したマウスからなった。
【0326】
腫瘍サイズは、デジタルキャリパーを使用して、最長距離を長さとして、垂直距離を幅として測定することにより、7日目から2日ごとに測定された。腫瘍面積を長さ×幅として計算した。注射、腫瘍測定およびモニタリングを含むインビボ手順を盲検実験として行った。
【0327】
マウスの健康状態を毎日モニタリングし、腫瘍が潰瘍化し、腫瘍の長さが15mmまたはそれを超え、腫瘍面積が100mm2またはそれを超える場合、またはマウスが以下(乱れた毛、猫背、動きたがらない、呼吸困難、初期体重の10%またはそれを超える体重減少および/または行動もしくは歩行の変化)のいずれかを含む疾患症状の組み合わせを示した場合に、マウスをCO2によって安楽死させた。さらに、マウスにおいて生存および腫瘍のない日を最長100日間モニタリングした。
【0328】
統計分析
【0329】
すべての統計分析は、GraphPad Prismを用いて行った。統計は、ボンフェローニの事後検定を用いた二元配置分散分析検定を使用して行った。****=p≦0.0001、またはログランク分析(Mantel-Cox)を図に示す有意値で行った。
【0330】
図13Aに見られるように、4つすべてのCNA CAR T細胞が、CNA CAR T細胞を投与されたマウスにおいて、21日目までに腫瘍サイズを統計学的に有意に減少させ、21日目には腫瘍は全くまたはほとんど検出されなかった。したがって、CNA CAR T細胞は、インビボで機能性を示すマウス癌モデルにおいて、癌腫瘍形成を予防または低減するようにインビボで機能する。
【0331】
図14Aおよび
図14Bに見られるように、4つすべてのCNA CAR T細胞は、CNA CAR T細胞を投与されたマウスにおいて、21日目までに腫瘍サイズを統計学的に有意に減少させ、21日目には腫瘍は全くまたはほとんど検出されず、CNA3102およびCNA3103は、100日目までのマウスの生存(
図14A)および腫瘍のない日(
図14B)の両方に関してCNA3104およびCNA3004よりも優れていた。
【配列表】
【国際調査報告】