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特表2023-549454併用免疫療法のためのモジュール式デンドロンミセル
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-27
(54)【発明の名称】併用免疫療法のためのモジュール式デンドロンミセル
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/60 20170101AFI20231117BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20231117BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20231117BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231117BHJP
   A61K 9/51 20060101ALI20231117BHJP
   A61K 45/06 20060101ALI20231117BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20231117BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20231117BHJP
   A61K 31/337 20060101ALI20231117BHJP
【FI】
A61K47/60
A61K47/10
A61K47/34
A61P35/00
A61K9/51
A61K45/06
A61K9/107
A61K38/17
A61K31/337 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023524322
(86)(22)【出願日】2021-10-26
(85)【翻訳文提出日】2023-06-16
(86)【国際出願番号】 US2021056547
(87)【国際公開番号】W WO2022093744
(87)【国際公開日】2022-05-05
(31)【優先権主張番号】63/106,070
(32)【優先日】2020-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506097988
【氏名又は名称】ウィスコンシン アルムニ リサーチ ファンデイション
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ホン,センピョ
(72)【発明者】
【氏名】ウィーラー,デリク エル.
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA65
4C076AA95
4C076BB01
4C076BB11
4C076BB24
4C076BB31
4C076CC27
4C076EE24
4C076EE59
4C076FF70
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA24
4C084BA44
4C084MA05
4C084MA16
4C084MA27
4C084MA34
4C084MA52
4C084MA55
4C084MA58
4C084MA63
4C084MA66
4C084NA13
4C084ZB261
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA02
4C086MA03
4C086MA04
4C086MA05
4C086NA13
4C086ZB26
(57)【要約】
自己集合型免疫療法用デンドロンミセルは、第1の両親媒性デンドロンコイルと、第2の両親媒性デンドロンコイルと、第3の両親媒性デンドロンコイルとを含む。第1及び第2の両親媒性デンドロンコイルは、それにコンジュゲートされた免疫療法用ペプチドを有する。デンドロンミセルを含有する医薬組成物、デンドロンミセルを作製する方法、及びそれを必要とする対象にデンドロンミセルを投与することを含む免疫療法の方法も含まれる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己集合型免疫療法用デンドロンミセルであって、
第1の両親媒性デンドロンコイルと、第2の両親媒性デンドロンコイルと、第3の両親媒性デンドロンコイルと、を含み、
前記第1の両親媒性デンドロンコイルは、第1のポリ(エチレングリコール)(PEG)部分に共有結合した第1のポリエステルデンドロンに共有結合した第1の非ペプチジル疎水性コア形成成分を含み、前記第1のPEG部分は第1のコンジュゲート化免疫療法用ペプチドを含み、
前記第2の両親媒性デンドロンコイルは、第2のポリ(エチレングリコール)(PEG)部分に共有結合した第2のポリエステルデンドロンに共有結合した第2の非ペプチジル疎水性コア形成成分を含み、前記第2のPEG部分は第2のコンジュゲート化免疫療法用ペプチドを含み、
前記第3の両親媒性デンドロンコイルは、第3のポリ(エチレングリコール)(PEG)部分に共有結合した第3のポリエステルデンドロンに共有結合した第3の非ペプチジル疎水性コア形成成分を含み、前記第3のPEG部分はコンジュゲート化免疫療法用ペプチドを含まない、自己集合型免疫療法用デンドロンミセル。
【請求項2】
カプセル化された化学療法薬、抗炎症薬、又は放射線増感分子を更に含む、請求項1に記載の自己集合型免疫療法用デンドロンミセル。
【請求項3】
第4のポリ(エチレングリコール)(PEG)部分に共有結合した第4のポリエステルデンドロンに共有結合した第4の非ペプチジル疎水性コア形成成分を含む第4の両親媒性デンドロンコイルを更に含み、前記第4のPEG部分は、第3のコンジュゲート化免疫療法用ペプチド、イメージング造影剤又は化学療法薬を含む、請求項1又は2に記載の自己集合型免疫療法用デンドロンミセル。
【請求項4】
前記第1のコンジュゲート化免疫療法用ペプチドは第1の細胞発現受容体に結合し、前記第2のコンジュゲート化免疫療法用ペプチドは第2の細胞発現受容体に結合し、前記第1及び第2の細胞発現受容体は前記免疫療法用デンドロンミセルに対する同じ又は異なるタイプの標的細胞上にある、請求項1~3のいずれか一項に記載の自己集合型免疫療法用デンドロンミセル。
【請求項5】
前記第1及び第2の細胞発現受容体は、免疫チェックポイント受容体、成長因子受容体、細胞表面受容体、及び細胞内受容体から選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の自己集合型免疫療法用デンドロンミセル。
【請求項6】
前記第1の細胞発現受容体は免疫チェックポイント受容体であり、前記第2の細胞発現受容体は増殖因子受容体である、請求項1~5のいずれか一項に記載の自己集合型免疫療法用デンドロンミセル。
【請求項7】
前記免疫チェックポイント受容体は、PD-L1、PD-1、OX40、TIGIT、CTLA-4、CD137(4-1BB)、CD28、又はCD27を含む、請求項4~6のいずれか一項に記載の自己集合型免疫療法用デンドロンミセル。
【請求項8】
前記成長因子受容体は、上皮成長因子受容体(EGFR)、インスリン様成長因子受容体(IGFR)、トランスフォーミング成長因子ベータ受容体(TGF-βR)、ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)、血管内皮成長因子受容体(VEGFR)、血小板由来成長因子受容体(PDGFR)、又は線維芽細胞成長因子受容体(FGFR)を含む、請求項4~6のいずれか一項に記載の自己集合型免疫療法用デンドロンミセル。
【請求項9】
前記第1及び第2の非ペプチジル疎水性コア形成成分は、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ(乳酸)(PLA)、ポリ(グリコール酸)(PGA)及びポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)、具体的にはポリ(ε-カプロラクトン)から選択される、請求項1~8のいずれか一項に記載の自己集合型免疫療法用デンドロンミセル。
【請求項10】
前記第1及び第2の非ペプチジル疎水性コア形成成分は、0.5kDa~約20kDaの分子量を有し、前記第1及び第2の非ペプチジル疎水性コア形成成分の分子量は、同じであるか、又は異なり、好ましくは異なる、請求項1~9のいずれか一項に記載の自己集合型免疫療法用デンドロンミセル。
【請求項11】
前記第1及び第2のポリエステルデンドロンは、アセチレン又はカルボキシレートコアを有する第3世代~第5世代のデンドロン、具体的には第3世代のポリエステル-8-ヒドロキシル-1-アセチレンビス-MPAデンドロンを含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の自己集合型免疫療法用デンドロンミセル。
【請求項12】
前記第1及び第2のPEG部分は、独立して、メトキシPEG(mPEG)部分、アミン末端PEG(PEG-NH)部分、アセチル化PEG(PEG-Ac)部分、カルボキシル化PEG(PEG-COOH)部分、チオール末端PEG(PEG-SH)部分、N-ヒドロキシスクシンイミド活性化PEG(PEG-NHS)部分、NH-PEG-NH部分又はNH-PEG-COOH部分を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の自己集合型免疫療法用デンドロンミセル。
【請求項13】
前記第1及び第2のPEG部分はそれぞれ、約0.2kDa~約5kDaの分子量を有する、請求項1~12のいずれか一項に記載の自己集合型免疫療法用デンドロンミセル。
【請求項14】
癌細胞結合リガンド(例えば、葉酸、黄体形成ホルモン放出ホルモン、レチノイド、トランスフェリン、RGDペプチド、ハーセプチン、前立腺特異的膜抗原(PSMA)標的化アプタマー、卵胞刺激ホルモン(FSH)、上皮成長因子(EGF)、レクチン又は抗体)等のリガンド、又はイメージング剤、又は放射線増感分子を更に含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の自己集合型免疫療法用デンドロンミセル。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか一項に記載の自己集合型免疫療法用デンドロンミセルと、薬学的に許容され得る賦形剤とを含む、医薬組成物。
【請求項16】
自己集合型免疫療法用デンドロンミセルを作製する方法であって、
第1の非ペプチジル疎水性コア形成成分を第1のポリエステルデンドロンに共有結合させ、前記第1のポリエステルデンドロンを第1のポリ(エチレングリコール)(PEG)部分に共有結合させ、第1の治療用ペプチドを前記第1のPEG部分にコンジュゲートさせることによって、第1の両親媒性デンドロンコイルを合成することと、
第2の非ペプチジル疎水性コア形成成分を第2のポリエステルデンドロンに共有結合させ、前記第2のポリエステルデンドロンを第2のポリ(エチレングリコール)(PEG)部分に共有結合させ、第2の治療用ペプチドを前記第2のPEG部分にコンジュゲートさせることによって、第2の両親媒性デンドロンコイルを合成することと、
第3の非ペプチジル疎水性コア形成成分を第3のポリエステルデンドロンに共有結合させ、前記第3のポリエステルデンドロンを第3のポリ(エチレングリコール)(PEG)部分に共有結合させることによって、第3の両親媒性デンドロンコイルを合成することであって、前記第3のPEG部分が、コンジュゲート化免疫療法用ペプチドを含まない、合成することと、
前記自己集合型免疫療法用デンドロンミセルの自己集合のための条件下で、前記第1の両親媒性デンドロンコイル、前記第2の両親媒性デンドロンコイル、及び任意に、前記第3の両親媒性デンドロンコイルをインキュベートすることと、を含む、方法。
【請求項17】
前記第1及び第2の両親媒性デンドロンコイルは、5~80wt%の前記自己集合型免疫療法用デンドロンミセルを含み、前記第3の両親媒性デンドロンコイルは、20~95wt%の前記自己集合型免疫療法用デンドロンミセルを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
免疫療法の方法であって、治療有効量の請求項1~14のいずれか一項に記載の自己集合型免疫療法用デンドロンミセルを、それを必要とする対象に投与することを含む、方法。
【請求項19】
前記対象は癌の治療を必要としており、前記癌はトリプルネガティブ乳癌、頭頸部扁平上皮癌、黒色腫、結腸直腸癌、前立腺癌、腎細癌、又は膀胱癌である、請求項18に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2020年10月27日に出願された米国仮出願第63/106,070号の優先権を主張し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
本開示は、併用免疫療法のための薬物送達システムに関する。
【背景技術】
【0002】
乳癌は、米国人女性の中で最も一般的に診断される癌であり(毎年260,000例超)、米国では癌による死亡の主な原因の一つである(年間40,000例超)。特に、トリプルネガティブ乳癌(TNBC)は、全乳癌のおよそ10~15%を占め、これは典型的には、乳癌の他のサブタイプよりも不良な臨床転帰に関連する。パクリタキセルは、TNBCに対して一般的に使用されるアジュバント化学療法薬の1つであり、腫瘍細胞上に発現されるプログラム死リガンド1(PD-L1)等の免疫チェックポイントを標的とする新たに登場した免疫療法は、臨床試験において有望な結果を示している。しかしながら、両方の治療の主な障害は、腫瘍細胞に対する特異性が欠如しているか、又は良くても制限されており、望ましくない副作用を引き起こすことである。
【0003】
頭頸部扁平上皮癌(HNSCC)は、世界中で6番目に多い一般的な癌であり、毎年600,000を超える新規症例が診断される。HNSCC患者のため標準治療の処置には、手術、放射線及び化学療法が含まれる。さらに、抗上皮増殖因子受容体(EGFR)モノクローナル抗体セツキシマブ(CTX)は、これらの治療様式と組み合わせて使用されることが多く、新たに登場したプログラム細胞死タンパク質1(PD1)/PDリガンド1(PD-L1)チェックポイント阻害剤であるニボルマブ及びペンブロリズマブは、転移状況において現在承認されている。これらの治療薬による臨床的応答にもかかわらず、これらの治療を標的細胞に適切に送達することは依然として課題である。
【0004】
必要とされているのは、TNBC及びHNSCC等の癌を治療するための化学療法剤を送達する新規な方法及び組み合わせである。
【発明の概要】
【0005】
或る態様では、自己集合型免疫療法用デンドロンミセルは、第1の両親媒性デンドロンコイルと、第2の両親媒性デンドロンコイルと、第3の両親媒性デンドロンコイルとを含み、第1の両親媒性デンドロンコイルは、第1のポリ(エチレングリコール)(PEG)部分に共有結合した第1のポリエステルデンドロンに共有結合した第1の非ペプチジル疎水性コア形成成分を含み、第1のPEG部分は第1のコンジュゲート化免疫療法用ペプチドを含み、第2の両親媒性デンドロンコイルは、第2のポリ(エチレングリコール)(PEG)部分に共有結合した第2のポリエステルデンドロンに共有結合した第2の非ペプチジル疎水性コア形成成分を含み、第2のPEG部分は第2のコンジュゲート化免疫療法用ペプチドを含み、第3の両親媒性デンドロンコイルは、第3のポリ(エチレングリコール)(PEG)部分に共有結合した第3のポリエステルデンドロンに共有結合した第3の非ペプチジル疎水性コア形成成分を含み、第3のPEG部分はコンジュゲート化免疫療法用ペプチドを含まない。
【0006】
別の態様では、医薬組成物は、上記の自己集合型免疫療法用デンドロンミセルを含む。
【0007】
治療有効量の上記の自己集合型免疫療法用デンドロンミセルを投与することを含む免疫療法方法も含まれる。
【0008】
別の態様では、自己集合型免疫療法用デンドロンミセルを作製する方法は、第1の非ペプチジル疎水性コア形成成分を第1のポリエステルデンドロンに共有結合させ、第1のポリエステルデンドロンを第1のポリ(エチレングリコール)(PEG)部分に共有結合させ、第1の治療用ペプチドを第1のPEG部分にコンジュゲートさせることによって、第1の両親媒性デンドロンコイルを合成することと、第2の非ペプチジル疎水性コア形成成分を第2のポリエステルデンドロンに共有結合させ、第2のポリエステルデンドロンを第2のポリ(エチレングリコール)(PEG)部分に共有結合させ、第2の治療用ペプチドを第2のPEG部分にコンジュゲートさせることによって、第2の両親媒性デンドロンコイルを合成することと、第3の非ペプチジル疎水性コア形成成分を第3のポリエステルデンドロンに共有結合させ、第3のポリエステルデンドロンを第3のポリ(エチレングリコール)(PEG)部分に共有結合させることによって、第3の両親媒性デンドロンコイルを合成することであって、第3のPEG部分が、コンジュゲート化免疫療法用ペプチドを含まない、合成することと、自己集合型免疫療法用デンドロンミセルの自己集合のための条件下で、第1の両親媒性デンドロンコイル、第2の両親媒性デンドロンコイル、及び第3の両親媒性デンドロンコイルをインキュベートすること、とを含む。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、PCLとG3デンドロンとの間のクリックケミストリー、その後のPEG化コンジュゲーションによって合成されたPDCからのDMの調製の概略図である。
【0010】
図2図2は、提案された多官能性デンドロンミセルの予想される標的化及び治療作用を示す:i)EGFR標的化;ii)PD-L1標的化及び免疫チェックポイント遮断;並びにiii)腫瘍細胞へのパクリタキセル放出。
【0011】
図3A図3A図3Dは、デンドロン系ブロックコポリマーの多段階合成を示す。図3Aは、PCL、G3デンドロン、及びPEGのコンジュゲーションの化学スキームを示す。
図3B図3Bは、各合成工程を確認する1H-NMRスペクトルを示す。
図3C図3Cは、各ポリマーのコンジュゲーション時の分子量の増加を示すGPCクロマトグラムを示す。
図3D図3Dは、約2,200cm-1のアジド基の消失を観察することによって、PCL-デンドロンコンジュゲーションを確認するFT-IRスペクトルを示す。
【0012】
図4図4は、(●)PDC及び(■)線形ブロックコポリマーについてのCMCとHLBとの間の線形関係を示す。
【0013】
図5A図5A図5Bは、分子動力学を使用して構造をシミュレートした。図5Aは、PDCから形成されたデンドロンミセル構造を示す。
図5B図5Bは、線形コポリマーから集合したミセルを示す。
【0014】
図6図6は、インドメタシンを含有する種々のDMの薬物放出プロフィールを示す。PCLブロックの分子量が増加すると、薬物放出が遅くなることに留意されたい。
【0015】
図7図7は、遊離aPD-L1対デンドリマー-aPD-L1コンジュゲートの解離定数(KD)を示す。SPR、表面プラズモン共鳴;BLI、バイオレイヤー干渉法(BLI);AFM、原子間力顕微鏡。
【0016】
図8図8は、遊離デンドリマー(G7)、遊離抗体(aPD-L1)及びG7-aPD-L1コンジュゲートで処理した腫瘍細胞とのインキュベーション時のJurkat T細胞からのIL-2分泌を示す。
【0017】
図9図9は、A)G7-aPD-L1、B)G7-IgG及びC)遊離aPD-L1で治療した後の4T1異種移植片を有するbalb/cマウスを示す。白い矢印は腫瘍部位を示す。D)腫瘍部位での各物質の量の定量分析は、遊離aPD-L1と比較して4倍超高いG7-aPD-L1の蓄積を示す。*はp=0.025を示す。
【0018】
図10図10は、G7-aEGFRコンジュゲート対遊離デンドリマーのIn vitro及びin vivo試験を示す:A)G7-aEGFR及びB)遊離デンドリマーで治療したMDA-MB-468細胞;C)G7-aEGFR及びD)遊離G7を注射した後のMOC1異種移植片を有するC57BL/6マウス。
【0019】
図11A図11A図11Cは、ペプチド及び抗体を比較する様々なアッセイ結果を示す。11A)デンドリマー-pPD-1(G7-βH2_mt)、遊離aPDL1及び遊離pPD-1(βH2_mt)のSPRセンソグラム。デンドリマー-ペプチドコンジュゲートは、遊離ペプチドよりも5桁強い全抗体(aPD-L1)に匹敵するKDを示す。
図11B】11B)高PD-L1発現786O細胞との特異的相互作用を示すデンドリマー-ペプチドコンジュゲート(下の画像)。
図11C】11C)aEGFR、EG1、EG2及びEG1/2混合物で固定化した表面からの細胞保持アッセイ。EG1/2混合物は、aEGFRの細胞保持と同等の細胞保持を示すことに留意されたい。
【0020】
図12図12は、様々な多官能性デンドロンミセルを調製するためのミックスアンドマッチアプローチ(mix-and-match approach)を示す。DM1(パクリタキセルを含むEGFR標的化DM)、DM2(パクリタキセルを含むPD-L1標的化DM)及びDM3(パクリタキセルを含む二重標的化DM)を調製し、評価する。
【0021】
図13図13は、様々な生物活性分子で官能化された様々なPDCの合成経路を示す。
【0022】
図14図14は、ラット脳における薬物曝露後の脂質発現の違いを区別するためのMALDI-MSI技術を示す。
【0023】
図15図15は、計画されたin vivo実験の概略図を示す。
【0024】
上記及び他の特徴は、以下の詳細な説明、図面、及び添付の特許請求の範囲から当業者によって正しく認識され、理解されるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本明細書に記載されるのは、2つ以上の免疫療法用ペプチド、及び任意に化学療法薬又は抗炎症薬等の薬物を組み込む併用送達系である。癌細胞に特異的ではない治療からの副作用を考慮すると、例えば、癌標的化、免疫療法、及び化学療法を統合することができる薬物送達システムは、治療有効性を実質的に高めるための有望なアプローチである。この必要性に対処するために、本明細書に記載のモジュール式送達システムは、毒性のバイスタンダー効果を最小限に抑えながら治療有効性を最大にするために、免疫療法薬及び化学療法薬を癌細胞に特異的に運ぶことができる。この目的を実現するために、本明細書に記載のナノ粒子系は、治療用ペプチド(腫瘍細胞及び/又は免疫細胞に選択的なペプチド)及び任意に薬物カーゴ(腫瘍及び/又は化学療法薬に対して免疫系をブーストする薬剤)を含む。ナノ粒子系は、超分岐デンドロン、線形疎水性ポリマー、及びポリ(エチレングリコール)(PEG)コロナに基づく。
【0026】
トリプルネガティブ乳癌(TNBC)は、全乳癌のおよそ10~15%を占め、これは典型的には、乳癌の他のサブタイプよりも不良な臨床転帰に関連する。パクリタキセルは、TNBCに対して一般的に使用されるアジュバント化学療法薬の1つであり、腫瘍細胞上に発現されるプログラム死リガンド1(PD-L1)等の免疫チェックポイントを標的とする新たに登場した免疫療法は、臨床試験において有望な結果を示している。さらに、TNBCの大部分によって過剰発現される上皮成長因子受容体(EGFR)は、ナノキャリアを使用したそのような治療薬の特異的送達のための特有の機会となる。しかしながら、EGFR標的化、PD-L1阻害、及び化学療法の統合は依然として解明されていない。これに対処するために、EGFR及びPD-L1過剰発現TNBC細胞を二重特異的に標的化することによって化学療法剤及び免疫療法剤を同時に送達するための新規なナノスケール送達系が本明細書に記載される。
【0027】
頭頸部扁平上皮癌(HNSCC)は、世界中で6番目に多い一般的な癌であり、毎年600,000を超える新規症例が診断される。抗上皮増殖因子受容体(EGFR)モノクローナル抗体セツキシマブ(CTX)は、従来の治療様式(化学療法薬)と組み合わせて使用されることが多く、PD-1/PD-L1チェックポイント阻害剤ニボルマブ等の新たに登場した免疫療法は、転移状況において現在承認されている。これらの治療薬による臨床的応答にもかかわらず、HNSCCを有効に治療することは依然として困難である。これらの治療選択肢を相乗的に利用するために、EGFR及びPD-L1過剰発現HNSCC細胞を二重特異的に標的化することによって化学療法剤及び免疫療法剤を同時に送達するためのナノスケール送達系が本明細書に記載される。複数の薬剤の容易な統合は、ミックスアンドマッチアプローチによって多官能化することができるデンドロンミセル(DM)によって達成される。
【0028】
具体的には、本明細書では、ミックスアンドマッチアプローチを介してモジュール式多官能化することができるデンドロンミセル(DM)を介した複数の薬剤の容易な統合について説明する。提案されたDM系は、PEG化デンドロンコポリマー(例えば、PEG-ポリエステルデンドロンポリ-e-カプロラクトン、又はPDC)の自己集合によって調製される。PEG化デンドロンコポリマーは、疎水性コアに封入された任意の化学療法薬(例えば、パクリタキセル又はドセタキセル)と共に、i)PD-1模倣ペプチド(pPD-1)及び/又はii)EGF模倣ペプチド(EG1及びEG2)等の治療用ペプチドとコンジュゲートされる。ナノスケール送達系は、EGFR及びPD-L1過剰発現TNBC細胞を非常に特異的な様式で二重特異的に標的化することによって、化学療法剤及び免疫療法剤を同時に送達することができる。
【0029】
クリックケミストリーによって合成されたデンドロンミセルの調製、並びに多官能性デンドロンミセルの提案される標的化及び治療作用を図1及び図2に示す。第1に、デンドロンによって課される事前に組織化された円錐構造は、最小限の(プリペイド)エントロピーコストのために、優れた熱力学的安定性を有する自己集合を可能にする。第2に、デンドロンの超分岐構造は、標的化リガンドの結合速度論を劇的に改善する多価結合効果を促進する(例えば、対応する抗体の結合強度のレベル(又はそれより高いレベル)までのペプチド)。第3に、高密度ポリ(エチレングリコール)(PEG)外層は、より長い血漿循環のための最大ステルス効果、並びに細胞相互作用に対するPEG配置効果に対するモジュール式制御を提供する。最後に、生分解性生体適合性ポリマー成分(コア形成ポリ-カプロラクトン(PCL)及びポリエステルデンドロン)は、DMのコアにカプセル化された薬物分子の制御放出を可能にし、毒性の懸念を軽減する。DMのこれらの特徴は、ミセル内に組み込まれた分子の官能性に直接影響する。熱力学的安定性は、注入時の循環中のDMの構造的完全性を改善する。多価結合は、EGFR結合ペプチド及びPD-L1結合ペプチドの結合速度論を最大化し(図1(i)及び(ii))、PD-1とPD-L1との間の結合の標的化有効性及び阻害を実質的に増加させる。制御された生分解により、パクリタキセルを長期間にわたってゆっくりと放出させることができる(図2(iii))。
【0030】
有利には、治療用ペプチドを自己集合したデンドロンミセルに組み込むことによって、異なるペプチド間の空間的距離を維持することができ、これは細胞上の異なる標的への結合を促進し、それらの生物学的効果(例えば、疾患細胞に対する免疫療法の有効性又は特異性)を最大化する。
【0031】
2つ以上の化学的に異なる両親媒性デンドロンコイル(DC)を含む自己集合デンドロンミセルが本明細書に記載される。各両親媒性デンドロンコイルは、ポリ(エチレングリコール)(PEG)部分に共有結合したポリエステルデンドロンに共有結合した非ペプチジル疎水性コア形成成分を含む。デンドロンコイルの疎水性コア形成成分は非ペプチジルであり、すなわち、疎水性コア形成ブロックはペプチドではない。或る態様では、DCのPEG部分は、β-ヘアピンペプチド等の治療用ペプチドにコンジュゲートされる。したがって、或る態様では、自己集合したデンドロンミセルの化学的に異なるDCの各々は、β-ヘアピンペプチド等の異なるコンジュゲート化治療用ペプチドを含む。
【0032】
或る態様では、自己集合型免疫療法用デンドロンミセルは、第1の両親媒性デンドロンコイルと、第2の両親媒性デンドロンコイルと、第3の両親媒性デンドロンコイルとを含み、第1の両親媒性デンドロンコイルは、第1のポリ(エチレングリコール)(PEG)部分に共有結合した第1のポリエステルデンドロンに共有結合した第1の非ペプチジル疎水性コア形成成分を含み、第1のPEG部分は第1のコンジュゲート化免疫療法用ペプチドを含み、第2の両親媒性デンドロンコイルは、第2のポリ(エチレングリコール)(PEG)部分に共有結合した第2のポリエステルデンドロンに共有結合した第2の非ペプチジル疎水性コア形成成分を含み、第2のPEG部分は第2のコンジュゲート化免疫療法用ペプチドを含み、第3の両親媒性デンドロンコイルは、第3のポリ(エチレングリコール)(PEG)部分に共有結合した第3のポリエステルデンドロンに共有結合した第3の非ペプチジル疎水性コア形成成分を含み、第3のPEG部分はコンジュゲート化免疫療法用ペプチドを含まない。
【0033】
或る態様では、第1及び第2の免疫療法用ペプチドは異なるペプチドであるが、同じ細胞標的に結合することができる。或る態様では、第1及び第2の免疫療法用ペプチドはそれぞれ、異なる細胞標的に結合する。
【0034】
或る態様では、第3の両親媒性デンドロンコイルは、本明細書に記載の薬物、リガンド又は標識を含むことができる。
【0035】
或る態様では、免疫療法用ペプチドを含む第1及び第2の両親媒性デンドロンコイルは、5~80wt%の自己集合型免疫療法用デンドロンミセルを含み、一方、第3の両親媒性デンドロンコイルは、20~95wt%の自己集合型免疫療法性デンドロンミセルを含む。コンジュゲートペプチドを含まない第3の両親媒性デンドロンコイルは、ミセルの基底構造を提供し、ミセルの有効性を改善し得る免疫療法用ペプチド間の間隔を提供する。
【0036】
或る態様では、自己集合型免疫療法用デンドロンミセルは、第4のポリ(エチレングリコール)(PEG)部分に共有結合した第4のポリエステルデンドロンに共有結合した第4の非ペプチジル疎水性コア形成成分を含む第4の両親媒性デンドロンコイルを更に含み、第4のPEG部分は、第3のコンジュゲート化免疫療法用ペプチド、イメージング造影剤、又は化学療法薬若しくは免疫療法薬を含む。
【0037】
DCの例示的な非ペプチジル疎水性コア形成成分は、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ(乳酸)(PLA)、ポリ(グリコール酸)(PGA)、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)、又はそれらの組み合わせを含む。或る態様では、非ペプチジル疎水性コア形成成分は、ポリ(ε-カプロラクトン)等のPCLである。或る態様では、非ペプチジル疎水性コア形成成分は、約0.5kDa~約20kDaの分子量を有する。特定の態様では、非ペプチジル疎水性コア形成成分は、約3.5kDaの分子量を有するポリ(ε-カプロラクトン)又は14kDaの分子量を有するポリ(ε-カプロラクトン)である。
【0038】
両親媒性デンドロンコイルの例示的なポリエステルデンドロンは、アセチレン又はカルボキシレートコアのいずれかを有するポリエステルデンドロンを含む第3世代~第5世代[すなわち、第3世代(G3)、第4世代(G4)又は第5世代(G5)]のポリエステルデンドロンが挙げられるが、これらに限定されない。特定の態様では、ポリエステルデンドロンは、第3世代ポリエステル-8-ヒドロキシル-1-アセチレンビス-MPAデンドロンである。デンドロンを調製及び特性評価する方法は当技術分野で周知であり、様々なポリエステルデンドロンを商業的実体から購入してもよい。
【0039】
両親媒性デンドロンコイルの例示的なPEG部分には、メトキシPEG(mPEG)部分、アミン末端PEG(PEG-NH)部分、アセチル化PEG(PEG-Ac)部分、カルボキシル化PEG(PEG-COOH)部分、チオール末端PEG(PEG-SH)部分、N-ヒドロキシスクシンイミド活性化PEG(PEG-NHS)部分、NH-PEG-NH部分及びNH-PEG-COOH部分が含まれる。或る態様では、PEG部分は、それだけに限らないが、約0.2kDa~約5kDaの分子量を含む分子量を有する。いくつかの実施形態では、PEG部分は、約2kDaの分子量を有するmPEG部分である。特定の態様では、PEG部分は、約5kDaの分子量を有するmPEG部分である。
【0040】
或る態様では、第1のコンジュゲート化免疫療法用ペプチドが第1の細胞発現受容体に結合し、第2のコンジュゲート化免疫療法用ペプチドが第2の細胞発現受容体に結合し、第1及び第2の細胞発現受容体が免疫療法用デンドロンミセルの同じ又は異なるタイプの標的細胞上にある。例えば、一方の治療用ペプチドはT細胞発現受容体を標的とすることができ、他方の治療用ペプチドは腫瘍細胞発現受容体を標的とすることができる。
【0041】
或る態様では、治療用ペプチドは、免疫チェックポイント受容体、成長因子受容体、細胞表面受容体、細胞内受容体、又は細胞外マトリックスに対して高い親和性を有するペプチドを含む。
【0042】
例示的な免疫チェックポイント受容体には、PD-L1、PD-1、OX40、TIGIT、CTLA-4、CD137(4-1BB)、CD28及びCD27が含まれる。
【0043】
免疫チェックポイント阻害剤β-ヘアピンペプチドは、免疫チェックポイント受容体表面と高い親和性で相互作用する免疫チェックポイント阻害剤リガンドペプチド、例えば表面ペプチドを同定することによって同定することができる。例えば、PD-L1と高親和性で相互作用する表面β-ヘアピンPD-1ペプチドが本明細書において同定されている。本明細書で使用される場合、高親和性は、0.1~1,000nMのKを意味する。そのようなペプチドは、5~50アミノ酸長を有することができ、免疫チェックポイント阻害剤全体に対応しない。
【0044】
例示的なβ-ヘアピンPD-1ペプチドには、以下が含まれる:
配列番号1:TYLCGAISLAPKLQIKESLRA(βH-wt配列)
配列番号2:TYVCGVISLAPRIQIKESLRA(βH-変異体配列)
配列番号3:VLNWYRMSPSNQTDRKAA(βH-wt配列)
配列番号4:HVVWHRESPSGQTDTKAA(βH変異体配列)
【0045】
或る態様では、治療用ペプチドは成長因子受容体に結合する。例示的な成長因子受容体としては、上皮成長因子受容体(EGFR)、インスリン様成長因子受容体(IGFR)、トランスフォーミング成長因子β受容体(TGF-βR)、ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)、血管内皮成長因子受容体(VEGFR)、血小板由来成長因子受容体(PDGFR)、及び線維芽細胞成長因子受容体(FGFR)が挙げられる。
【0046】
上皮増殖因子受容体(EGFR)ファミリーは、細胞表面に発現し、チロシンキナーゼ活性を示す4つの受容体タンパク質、すなわちErbB-1/EGFR-1~-4(HER1~4とも呼ばれる)を包含する。これらのタンパク質は類似の構造を有し、3つのドメイン、すなわち、リガンド結合部位を有する細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、及びキナーゼ活性を有する細胞内ドメインで構成される。
【0047】
インスリン様成長因子受容体(IGFR)ファミリーは、2つの細胞膜受容体、IGF1R及びIGF2Rからなる。IGF1R(インスリン受容体[IR]とヘテロ二量体も形成する)は、より高い親和性でインスリン様成長因子1(IGF1)に結合し、比較的低い親和性でIGF2に結合して、胎児及び出生後の発達に必要な成長シグナルを誘発する。
【0048】
トランスフォーミング成長因子-ベータ受容体(TGF-βR)ファミリーは、多様なタイプの細胞で発現され、TGF-βリガンド結合時に伝達されるシグナルによって異なる細胞機能を調節する3つの膜受容体(TβRI、TβRII及びTβRIII)を含む。
【0049】
ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)受容体は、いくつかのヒト癌の病因において中心的な役割を果たす。それらは、複数のシグナル伝達経路を介して細胞増殖、生存及び分化を調節し、細胞増殖及び分化に関与する。ファミリーは、4つの主要メンバー:HER-1、HER-2、HER-3、及びHER-4で構成され、ErbB1、ErbB2、ErbB3、及びErbB4とも呼ばれる。
【0050】
血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)ファミリーは、主に内皮細胞上に発現される3つの膜受容体(VEGFR 1~3)と、少数の追加の細胞型とからなる。VEGFRは、細胞外部位に7つの免疫グロブリン(Ig)様ドメインを有し、細胞内部位に2つの分割チロシンキナーゼドメインを有する一回貫通タンパクである。
【0051】
血小板由来成長因子受容体(PDGFR)ファミリーは、2つの異なる遺伝子によってコードされ、異なる細胞型の膜上に発現される2つの受容体(PDGFR-α及びβ)を含む。これらの一本鎖受容体タンパク質は、5つのIg様細胞外ドメインと、チロシンキナーゼドメインとを有する。
【0052】
線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)ファミリーは、4つの密接に関連する膜貫通タンパク質(FGFR1~4)と、FGFR mRNAの差次的スプライシングによりリガンド特異性が変化したそれらの異なるアイソフォームとからなる。これらの一本鎖受容体は、リガンド結合能を有する3つの免疫グロブリンリピート(Ig I~III)を有する1つの細胞外ドメイン、1つの膜貫通ドメイン及びカルボキシ末端にキナーゼ活性を有する1つの細胞内ドメインを含む。
【0053】
細胞表面受容体に結合する腫瘍標的化ペプチドである例示的な治療用ペプチドには、RGD結合モチーフを有するαvβ3インテグリン、並びに結腸、肝臓、卵巣、膵臓及び扁平上皮の癌細胞の表面に発現されるαvβ6インテグリン等のインテグリンに結合するペプチドが含まれる。腫瘍標的化ペプチドの更なる標的としては、アミノペプチダーゼN、ペプチドトランスポーター1、上皮成長因子受容体、前立腺特異的膜抗原、ムチン1、ウロキナーゼプラスミノーゲン活性化因子受容体、胃放出ペプチド受容体、ソマトスタチン受容体、コレシストキニン受容体、ニューロテンシン受容体、トランスフェリン受容体、血管内皮成長因子受容体、インスリン、エフリン受容体等が挙げられる。
【0054】
細胞内受容体に結合する治療用ペプチドには、BCR/ABL、慢性骨髄性白血病(CML)の慢性期を担う病原性融合タンパク質、サイクリンA、CDK、ミトコンドリア等に結合するペプチドが含まれる。
【0055】
細胞外マトリックスを標的とする治療用ペプチドには、フィブロネクチン、線維芽細胞増殖因子、マトリックスメタロプロテイナーゼ、前立腺特異的抗原、カテプシン(cathepsis)等に結合するペプチドが含まれる。
【0056】
或る態様では、ミセルは、1つ以上の薬物をカプセル化するか、又は言い換えれば、1つ以上の薬物が充填される。薬物には、化学療法剤とも呼ばれる癌薬物(すなわち、癌を治療するために使用される薬物)が含まれる。いくつかの実施形態では、薬物は、インドメタシンを含むがこれに限定されない抗炎症薬である。
【0057】
「薬物」は、治療有効量で患者(ヒト又は他の動物を含むが、これらに限定されない)に投与すると、患者に治療上の利益を提供する化合物である。
【0058】
或る態様では、治療剤は化学療法剤である。化学療法剤としては、以下のクラスが含まれるが、これらに限定されない:アルキル化剤、代謝拮抗物質、アントラサイクリン、植物アルカロイド、トポイソメラーゼ阻害剤、モノクローナル抗体、及び他の抗腫瘍剤。上記の化学療法薬、すなわちドキソルビシン、パクリタキセルに加えて、他の適切な化学療法薬としては、チロシンキナーゼ阻害剤メシル酸イマチニブ(Gleeve(登録商標)又はGlivec(登録商標))、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、メクロエタミン、シクロホスファミド、クロラムブシル、アザチオプリン、メルカプトプリン、ピリミジン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビノレルビン、ビンデシン、ポドフィロトキシン(L01CB)、エトポシド、ドセタキセル、トポイソメラーゼ阻害剤(L01CB及びL01XX)イリノテカン、トポテカン、アムサクリン、エトポシド、リン酸エトポシド、テニポシド、ダクチノマイシン、ロニダミン、及びモノクローナル抗体、とりわけ、例えばトラスツズマブ(Herceptin(登録商標))、セツキシマブ、ベバシズマブ及びリツキシマブ(Rituxan(登録商標))が挙げられる。
【0059】
ミセル中に存在する薬物の量は、広範囲にわたって変化し得る。薬物は、ミセルの総質量(ここで、薬物の質量はミセルの総質量に含まれる)の約1%~約30%(重量/重量)であり得る。いくつかの態様では、薬物は、ミセルの総質量(同じ基準)の約2%~約25%w/wであり得る。いくつかの態様では、薬物は、ミセルの総質量(同じ基準)の約3%~約20%w/wであり得る。
【0060】
或る態様では、ミセルは、1つ以上のPEG部分にコンジュゲートした1つ以上のリガンドを更に含む。例示的なリガンドは、葉酸である。
【0061】
「リガンド」という用語は、特定の標的器官、組織又は細胞に対して結合選択性を示す化合物を指す。或る態様では、リガンドは癌細胞に結合する。リガンドの一例はビタミンである葉酸(FA)であり、これはヒト卵巣癌のおよそ90%で過剰発現される葉酸受容体に結合する。黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)は、別の例示的なリガンドである。LHRHは比較的小分子(MW 1,182Da)であり、受容体は乳癌細胞、卵巣癌細胞及び前立腺癌細胞によって過剰発現される。別の例示的なリガンドは、レチノイド、例えばレチノール、レチナール、レチノイン酸、レチノイド、又はそれらの誘導体若しくは類縁体である。更なるリガンドとしては、トランスフェリン、RGDペプチド、ハーセプチン、前立腺特異的膜抗原(PSMA)標的化アプタマー、卵胞刺激ホルモン(FSH)、上皮成長因子(EGF)等が挙げられるが、これらに限定されない。他のリガンドとしては、様々な抗体、例えば、抗CD19、抗CD20、抗CD24、抗CD33、抗CD44、ルイスY抗体、シアリルルイスX抗体、LFA-1抗体、リツキシマブ、ベバシズマブ、抗VEGF mAb、及びそれらの断片、二量体、及び他の修飾形態が挙げられる。他の態様では、リガンドは免疫細胞を標的とする。免疫細胞を標的化するために、リガンドは、例えばT細胞表面受容体のリガンドであり得る。レクチンを、ムチン及び粘膜細胞層を標的とするリガンドとして使用することができる。レクチンには、トウアズキ(Abrus precatroius)、ツクリタケ(Agaricus bisporus)、ダイズ(Glycine max)、トマト(Lysopersicon esculentum)、マイコプラズマ・ガリセプティクム(Mycoplasma gallisepticum)、及びナジャ・モザンビーク(Naja mocambique)から単離されたもの、並びにコンカナバリンA及びスクシニル-コンカナバリンA等のレクチンが含まれる。
【0062】
或る態様では、リガンドは、特定の標的器官、組織又は細胞へのミセルの選択的送達を増加させる。標的器官には、例えば、肝臓、膵臓、腎臓、肺、食道、喉頭、骨髄及び脳が含まれ得る。いくつかの態様では、選択的送達の増加は、標的化剤を欠く他の点では同等の組成物のそれと比較して少なくとも約2倍であり得る。いくつかの態様では、標的器官、組織又は細胞へのリガンドを含有するミセルの送達は、リガンドを欠く他の点で同等の組成物の送達と比較して、少なくとも10%又は25%増加する。
【0063】
ミセル中に存在するリガンドの量は、広範囲にわたって変化し得る。いくつかの態様では、リガンドは、ミセルの総質量(リガンドの質量はナノコアの総質量に含まれる)の約1%~約80%(重量/重量)、具体的には約10%~約50%w/w、より具体的には約20%~約40%w/wであり得る。
【0064】
態様では、リガンドは、PEGへの共有結合を介してミセルにコンジュゲートされ得る。当技術分野で公知の様々な機構(例えば縮合反応)を使用して、リガンドとPEGとの間に共有結合を形成することができる。1つ以上のリガンドをPEGに直接結合させるための更なる方法は、当技術分野において公知である。化学としては、チオエーテル、チオエステル、マレイミド(malimide)及びチオール、アミン-カルボキシル、アミン-アミン、及び有機化学マニュアルに列挙されているその他のものが挙げられるが、これらに限定されない。リガンドは、架橋試薬[例えば、グルタルアルデヒド(GAD)、二官能性オキシラン(OXR)、エチレングリコールジグリシジルエーテル(EGDE)、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、及び水溶性カルボジイミド、例えば1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)]を使用してPEGに付着させることもできる。本明細書の組成物は、治療剤と足場及び/又は標的化剤と足場との間に少なくとも1つの加水分解性リンカーを更に有することができる。
【0065】
或る態様では、ミセルは、1つ以上のイメージング剤又は放射線増感分子を含むことができる。イメージング剤として潜在的に使用される常磁性イオンの非限定的な例としては、クロム(III)、マンガン(II)、鉄(III)、鉄(II)、コバルト(II)、ニッケル(II)、銅(II)、ネオジム(III)、サマリウム(III)、イッテルビウム(III)、ガドリニウム(III)、バナジウム(II)、テルビウム(III)、ジスプロシウム(III)、ホルミウム(III)及びエルビウム(III)が挙げられ、ガドリニウムが特に好ましい。X線撮像等の他の状況で有用なイオンとしては、ランタン(III)、金(III)、鉛(II)、特にビスマス(III)が挙げられるが、これらに限定されない。イメージング剤又は治療剤としての潜在的な使用の放射性同位体としては、アスタチン211、炭素14、クロム51、塩素36、コバルト57、コバルト58、銅52、銅64、銅67、フッ素18、ガリウム67、ガリウム68、水素、ヨウ素123、ヨウ素124、ヨウ素125、ヨウ素131、インジウム111、鉄52、鉄59、ルテチウム177、リン32、リン33、レニウム186、レニウム188、及びセレン75、I125がいくつかの実施形態で使用され、インジウム111は、その低エネルギー及び長領域検出への適合性のためにいくつかの実施形態でも使用される。
【0066】
いくつかの態様では、イメージング剤は、発色基質と接触すると着色生成物を生成する二次結合リガンド又は酵素(酵素タグ)である。酵素の例としては、ウレアーゼ、アルカリホスファターゼ、(西洋ワサビペルオキシダーゼ)水素ペルオキシダーゼ、及びグルコースオキシダーゼが挙げられる。二次結合リガンドは、ビオチン及びアビジン又はストレプトアビジン化合物である。このような標識の使用は当技術分野で周知である。
【0067】
いくつかの態様では、イメージング剤は蛍光標識である。光検出可能な標識の非限定的な例としては、ALEXA FLUOR(登録商標)350、ALEXA FLUOR(登録商標)430、AMCA、アミノアクリジン、BODIPY 630/650、BODIPY 650/665、BODIPY-FL、BODIPY-R6G、BODIPY-TMR、BODIPY-TR、5-カルボキシ-4,5’-ジクロロ-2,7-ジメトキシフルオレセイン、5-カルボキシ-2’,4’,5’,7’-テトラクロロフルオレセイン、5-カルボキシフルオレセイン、5-カルボキシローダミン、6-カルボキシローダミン、6-カルボキシテトラメチルアミノ、カスケードブルー、Cy2、Cy3、Cy5、6-FA、塩化ダンシル、フルオレセイン、HEX、6-JOE、NBD(7-ニトロベンゼン-2-オキサ-1,3-ジアゾール)、オレゴングリーン488、オレゴングリーン500、オレゴングリーン514、パシフィックブルー、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、クレジルファーストバイオレット、クレジルブルーバイオレット、ブリリアントクレジルブルー、パラ-アミノ安息香酸、エリスロシン、フタロシアニン、アゾメチン、シアニン、キサンチン、スクシニルフルオレセイン、希土類金属クリプテート、ユーロピウムトリスビピリジンジアミン、ユウロピウムクリプテート又はキレート、ジアミン、ジシアニン、ラホヤブルー色素、アロピコシアニン、アロコシアニンB、フィコシアニンC、フィコシアニンR、チアミン、フィコエリスロシアニン、フィコエリトリンR、REG、ローダミングリーン、ローダミンイソチオシアネート、ローダミンレッド、ROX、TAMRA、TET、TRIT(テトラメチルローダミンイソチオール)、テトラメチルローダミン、Edans及びTEXAS REDが挙げられる。これら及び他の発光標識は、Molecular Probes(オレゴン州ユージーン)及びEMD Biosciences(カリフォルニア州サンディエゴ)等の商業的供給源から得ることができる。
【0068】
化学発光剤としては、ルミノール、イソルミノール、芳香族アクリジニウムエステル、イミダゾール、アクリジニウム塩及びシュウ酸エステル、又はルシフェリン、ルシフェラーゼ及びエクオリン等の生物発光化合物が挙げられる。診断用コンジュゲートは、例えば、術中、内視鏡、又は血管内の腫瘍若しくは疾患の診断において使用され得る。
【0069】
いくつかの態様では、ミセルの外表面が修飾される。そのような修飾の一例は、長時間循環する薬剤、例えばグリコサミノグリカンによるミセルの外表面の修飾である。グリコサミノグリカンの例としては、ヒアルロン酸が挙げられる。ミセルはまた、又は代替的に、凍結保護剤、例えば糖(トレハロース、スクロース、マンノース、グルコース又はHA等)で修飾されてもよい。「凍結保護剤」という用語は、脱水-再水和、凍結-解凍、又は凍結乾燥-再水和に供された脂質粒子を小胞の融合及び/又は小胞内容物の漏出から保護する薬剤を指す。
【0070】
本明細書に記載のミセルを含む医薬組成物も含まれる。
【0071】
本明細書で使用される場合、「医薬組成物」は、希釈剤、防腐剤、可溶化剤、乳化剤、及びアジュバント等の薬学的に許容され得る賦形剤と共に治療有効量のナノ粒子を意味する。本明細書で使用される場合、「薬学的に許容され得る賦形剤」は当業者に周知である。
【0072】
経口投与のための錠剤及びカプセルは、単位用量形態であり得、結合剤、例えばシロップ、アカシア、ゼラチン、ソルビトール、トラガカント又はポリビニルピロリドン;充填剤、例えばラクトース、糖、トウモロコシデンプン、リン酸カルシウム、ソルビトール又はグリシン;打錠潤滑剤、例えばステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール又はシリカ;崩壊剤、例えばジャガイモデンプン、又はラウリル硫酸ナトリウム等の許容され得る湿潤剤等の従来の賦形剤を含有し得る。錠剤は、通常の製薬実務において周知の方法に従ってコーティングされ得る。経口液体製剤は、例えば、水性又は油性の懸濁液、溶液、エマルジョン、シロップ若しくはエリキシルの形態であってもよく、又は使用前に水若しくは他の適切なビヒクルで再構成するための乾燥製品として提供されてもよい。そのような液体調製物は、懸濁化剤、例えばソルビトール、シロップ、メチルセルロース、グルコースシロップ、ゼラチン水素化食用脂肪;乳化剤、例えばレシチン、ソルビタンモノオレエート、又はアカシア;非水性ビヒクル(食用油を含み得る)、例えばアーモンド油、分留ヤシ油、グリセリン、プロピレングリコール又はエチルアルコール等の油性エステル;防腐剤、例えばp-ヒドロキシ安息香酸メチル若しくはプロピル、又はソルビン酸、並びに所望であれば従来の香味剤又は着色剤等の従来の添加剤を含有し得る。
【0073】
皮膚への局所適用の場合、ミセルをクリーム、ローション又は軟膏に構成することができる。ミセルに使用され得るクリーム又は軟膏製剤は、当技術分野で周知の従来の製剤である。局所投与には、パッチ等の経皮製剤が含まれる。
【0074】
眼への局所適用の場合、ミセルは、適切な滅菌水性又は非水性ビヒクル中の溶液又は懸濁液に構成され得る。添加剤、例えば、メタ重亜硫酸ナトリウム又はエデト酸(edeate)二ナトリウム等の緩衝液;酢酸水銀フェニル又は硝酸塩、塩化ベンザルコニウム又はクロルヘキシジン等の殺菌剤及び殺真菌剤、並びにヒプロメロース等の増粘剤を含む防腐剤も含まれ得る。
【0075】
ミセルはまた、滅菌注射用水性又は油性懸濁液の形態で、滅菌媒体中で非経口的に、皮下若しくは静脈内、又は筋肉内若しくは胸骨内に、又は注入技術によって投与され得る。使用されるビヒクル及び濃度に応じて、ミセルをビヒクル中に懸濁させることができる。有利には、アジュバント、例えば局所麻酔薬、防腐剤及び緩衝剤をビヒクルに溶解することができる。
【0076】
医薬組成物は、単位剤形で好都合に提供され得、薬学の分野で周知の方法のいずれかによって調製され得る。「単位投与量」又は「単位用量」という用語は、示された活性又は状態を治療するのに有効となるのに十分な有効成分の所定量を意味する。各タイプの医薬組成物を製造することは、活性化合物を担体及び1つ以上の任意の補助成分と会合させる工程を含む。一般に、製剤は、活性化合物を液体又は固体の担体と均一かつ密接に会合させ、次いで、必要に応じて、生成物を所望の単位剤形に成形することによって調製される。
【0077】
或る態様では、自己集合型免疫療法用デンドロンミセルを作製する方法は、第1の非ペプチジル疎水性コア形成成分を第1のポリエステルデンドロンに共有結合させ、第1のポリエステルデンドロンを第1のポリ(エチレングリコール)(PEG)部分に共有結合させ、第1の治療用ペプチドを第1のPEG部分にコンジュゲートさせることによって、第1の両親媒性デンドロンコイルを合成することと、第2の非ペプチジル疎水性コア形成成分を第2のポリエステルデンドロンに共有結合させ、第2のポリエステルデンドロンを第2のポリ(エチレングリコール)(PEG)部分に共有結合させ、第2の治療用ペプチドを第2のPEG部分にコンジュゲートさせることによって、第2の両親媒性デンドロンコイルを合成することと、第3の非ペプチジル疎水性コア形成成分を第3のポリエステルデンドロンに共有結合させ、第3のポリエステルデンドロンを第3のポリ(エチレングリコール)(PEG)部分に共有結合させることによって、第3の両親媒性デンドロンコイルを合成することであって、第3のPEG部分が、コンジュゲート化免疫療法用ペプチドを含まない、合成することと、自己集合型免疫療法用デンドロンミセルの自己集合のための条件下で、第1の両親媒性デンドロンコイル、第2の両親媒性デンドロンコイル、及び第3の両親媒性デンドロンコイルをインキュベートすること、とを含む。
【0078】
或る態様では、第1、第2及び/又は第3の両親媒性デンドロンコイルを、疎水性コア形成成分とポリエステルデンドロンとの間のクリックケミストリーを使用して合成することができる。他の当技術分野で公知の化学を使用してもよい。
【0079】
或る態様では、第1及び第2の治療用ペプチドのコンジュゲート化は、NH-PEG-tBOCコンジュゲーションと、それに続くTFAによる脱保護とを含む。他の当技術分野で公知の化学を使用してもよい。
【0080】
別の態様では、免疫療法方法は、対象、例えばヒト対象に、本明細書に記載のナノ粒子系を投与することを含む。例示的なヒト対象としては、癌患者、並びに多発性硬化症及び関節リウマチ等の免疫障害を有する患者が挙げられる。ナノ粒子は、T細胞、癌細胞及び/又は抗原提示細胞と相互作用することによって免疫系を標的とすることができる。
【0081】
治療用ペプチドが免疫チェックポイント阻害剤ペプチドである場合、本明細書に記載の組成物及び方法は、トリプルネガティブ乳癌、頭頸部扁平上皮癌、黒色腫、結腸直腸癌、前立腺癌、腎細胞癌、又は膀胱癌を含む全ての癌に適用可能である。
【0082】
本明細書に記載の方法は、放射線療法、化学療法、外科手術、及びそれらの組み合わせ等の追加の癌治療法と更に組み合わせることができる。
【0083】
本発明は、以下の非限定的な実施例によって更に説明される。
【実施例
【0084】
実施例1:DMの合成及び調製
一連のPEG化デンドロンコイル(PDC)を、PCL、G3デンドロン及びPEGからなるモジュール式薬物送達ビヒクルとして設計した。PCL(3.5及び14kDa)及びmPEG(2及び5kDa)の2つの異なる分子量(MW)を使用して、得られたPDCの親水性親油性バランス(HLB)を変化させた。PDCの合成経路及び特性を図3に要約する。PCLの末端ヒドロキシル基を、その後のデンドロンとのクリックケミストリーのため最初にアジド基(PCLN3)に変換し、H-NMRを使用して確認した(図3B)。
【0085】
焦点にアセチレン基を有するG3デンドロンを「クリックケミストリー」によってPCL-N3と反応させて、PCL-G3コポリマー(図3B/D)を得た。次いで、p-ニトロフェニルクロロホルメート(p-NPC)によるデンドロンの表面ヒドロキシル基の活性化に続いて、PCL-G3コポリマーをメトキシ末端PEG(mPEG)とコンジュゲート化した。図3Cに示すように、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を使用して、全ての中間生成物及び最終生成物のMW及び分子量分布(MWD=Mw/Mn、1.0は完全に単分散であることを意味する)を測定した。並行して、デンドロンを含まない同じMWポリマーを有する線形コポリマー対応物も、PCL上のヒドロキシル基のp-NPC活性化、続いてmPEGコンジュゲーションを使用する同様のプロトコルによって調製した。8種類全ての両親媒性コポリマー(4種類のデンドロン系及び4種類の線形)を、低MWD(1.4未満)での合成に成功した。
【0086】
フルオロフォアとしてローダミン及びモデル標的化剤として葉酸(FA)を含有する官能化PDCも合成した。簡潔には、PCL14K-G3をモル過剰(20×)のPEGジアミンと反応させて、PCL-G3-PEG-NH2を得た。次いで、当該分野で公開されている化学を使用して、コポリマーをn-スクシンイミジルエステル(NHS)官能化ローダミン(Rho)又はFAのいずれかとコンジュゲートさせた。2つのコポリマーの合成を、H-NMR及びUV/Visを使用して確認し、PCL-G3-PEG-Rho及びPCL-G3-PEG-FAが、当該分野で記載されるように、PDCあたりそれぞれ約1個のRho及び約2個のFA分子を含有したことを明らかにした。
【0087】
実施例2:低CMC、高PEG表面被覆率、及びDMの制御された薬物放出
様々なMWを有するPDCの自己集合挙動を調べるために、それらの臨界ミセル濃度(CMC)値を測定し(図4)、TEMを使用してそれらの自己集合構造を観察し、これを線形コポリマー対応物のものと比較した。低CMCは、血流中への注射時の即時希釈係数のために、薬物送達ビヒクルの重要な要件である。図4は、両方のセットのコポリマーについて観察された、CMCと親油性バランス(hypophilic lipophilic balances)(HLB)との間のほぼ線形の相関を示す。同じポリマーブロックから構成される線形コポリマーのCMCの文献値を含めて、PDCのCMCが同じHLBの線状コポリマーのCMCよりも1~2桁低いことが観察された。これらのデータは、デンドロンを介して化学的に組み合わされた複数のPEG及び単一のPCLの事前に組織化された分子構造が、大きな親水性割合を有する著しく安定なPDC自己集合体の形成を促進するという堅固な証拠を提供する。
【0088】
図5に示すように、分子動力学(MD)を用いて構造をシミュレートした場合にも、PDC由来のミセルと線形コポリマーとの間に明確な差が見られた。DM(図5A)の表面は、デンドロンがPEG表面密度を最大にするため、PEG層によってほぼ完全に覆われている。しかしながら、線形コポリマーから集合したミセルは、疎水性部分が露出している(図5B)。PEG層によるナノキャリアの全表面被覆率は、細網内皮クリアランス(RES)等の非特異的相互作用を最小限に抑えながら体内循環時間を最大化する「ステルス効果」を利用するために重要である。
【0089】
様々なDMからのインドメタシン(モデル薬物として)の放出プロファイルも測定した。図6に示すように、DMは、7日間にわたって持続的に薬物分子を放出した。最初の12時間では、放出動態はより線形であり、続いて2~8日目までに更に遅い放出が起こり、PCLのMWによって制御される遅い放出プロファイルが達成された。
【0090】
実施例3:デンドリマーによって送達されるaPD-L1及びaEGFRのin vitro/in vivo検証
次いで、EGFR又はPD-L1に結合する抗体をin vitro及びin vivoの両方で試験した。このために、第7世代のポリアミドアミン(G7 PAMAM)デンドリマーを使用して、DMナノキャリアの樹状構造を介して課され得る多価結合の効果を調べた。G7 PAMAMデンドリマーを、当技術分野からの改変されたプロトコルを使用してaPD-L1とコンジュゲートさせた。簡潔には、最初に無水酢酸を用いて約50%の第一級アミン基をアセチル化し、続いてAlexaFluor(登録商標)647とコンジュゲートした。次いで、蛍光標識デンドリマーを無水コハク酸との反応によって完全にカルボキシル化し、続いて1:5のデンドリマー:aPD-L1の比でaPD-L1とコンジュゲートさせた。最終的なG7-aPD-L1コンジュゲートは、デンドリマー分子あたりおよそ3.8個のaPD-L1を有すると分析された。図7に要約されるように、表面プラズモン共鳴(SPR)、バイオレイヤー干渉法(BLI)及び原子間力顕微鏡法(AFM)を使用して、解離速度論(KD)に関してコンジュゲートを遊離aPD-L1と比較した。3つの独立した測定は全て、G7-aPD-L1コンジュゲートが、遊離aPD-L1と比較して、2桁の有意に増強された結合動態を達成したことを明らかにした。デンドリマーコンジュゲートの結合動態の増強は、細胞(腫瘍細胞と共インキュベート-786O対MCF-7)をデンドリマーコンジュゲートで処理した場合にJurkat T細胞からの最も高いインターロイキン-2(IL-2)分泌が観察されるin vitro結果に首尾よく変換された(図8)。実験は、当技術分野で以前に公開された実験条件に従って実施した。in vivo試験のため、BALB/cマウス(7~8週齢;雌)をEnvigo Laboratories(米国インディアナ州インディアナポリス)から購入した。マウスにTNBC細胞株4T1(2.0×10細胞)を注射した。腫瘍が成長して300mmに達すると、aPD-L1、G7-IgG又はG7-aPD-L1(全てAlexaFluor(登録商標)647又はAF647とコンジュゲート)のいずれかを尾静脈から注射した。蛍光強度に基づいて正規化した後、aPD-L1及びG7-aPD-L1の濃度(128nM、50μL)を決定した。画像(図9)を注射後48時間の時点で撮影した。結果は、デンドリマーコンジュゲート(G7-aPD-L1、図9A)が遊離aPD-L1及びG7-IgGよりも優先的に腫瘍部位に到達したことを明確に示している(図9B及びC)。蛍光強度の定量的測定はまた、4倍を超える量のG7-aPD-L1が遊離aPD-L1よりも腫瘍部位に蓄積されたことを示した(図9D)。
【0091】
aEGFRの場合、得られたコンジュゲートを、AF647とのコンジュゲーション後にG7:aEGFRの比がおよそ1:10となるように調製した。EGFRを過剰発現するMDA-MB-468を使用してin vitro特異性を測定した。図10A/Bに示すように、G7-aEGFR(10A)は細胞との有意な相互作用を示したが、G7(10B)自体は示さず、特異性がaEGFRを介して方向付けられたことを示している。in vivo結果はまた、G7-aEGFRコンジュゲートから得られる一貫した特異性を明らかにした(図10C)。簡潔には、C57BL/6マウス(7~8週齢;雌)をEnvigo Laboratoriesから入手した。マウスTNBC細胞株4T1(5.0×10細胞)をマウスに接種し、続いて遊離デンドリマー又はG7-aEGFRのいずれかを尾静脈を通して静脈内注射した。
【0092】
実施例4:抗体を置き換えるためのペプチド
それぞれEG1/EG2及びbH2_mtと示されるEGFR及びPD-L1に結合するペプチドを、当技術分野のプロトコルに従って合成した。PD-L1結合ペプチド(bH2_mt)については、文献から最適化された次のペプチド配列:HVVWHRESPSGQTDTLAA配列番号5を使用した。EGFR結合ペプチドについて、2つのペプチド配列:YHWYGYTPQNVI(EG1)配列番号6及びLARLLT(EG2)配列番号7を試験した。上記のように、ペプチドを使用する主な課題は、それらの小さいMW、及びより良好に操作される柔軟性/能力に起因する利点にもかかわらず、それらの対応する抗体に対するそれらの劣った結合動態である。ペプチドのPAMAMデンドリマーへのコンジュゲーションが、以前に公開されたプロトコルに従って、多価結合効果を介してそれらの結合動態を有意に増強するかどうかを試験した。SPR結果(図11A)に示すように、デンドリマー-ペプチドコンジュゲート(G7-βH2_mt)は、遊離ペプチド(βH2_mt)よりも5桁有意に強い完全抗体(aPD-L1)の解離定数(KD)に匹敵するKDを達成した。デンドリマー-ペプチドコンジュゲート(図11B、右下パネル)はまた、PD-L1発現が低いMCF-7細胞との明らかな相互作用がないのとは対照的に、PD-L1発現細胞(786O)への選択的結合を示した(図11B、右上パネル)。EGFR結合ペプチドを、EGFR過剰発現MDA-MB-468細胞を使用して細胞保持に関して、表面固定化した後にも試験した。細胞を、aEGFR又はペプチドのいずれかを含む官能化表面上で30分間インキュベートし、続いて25s-1の剪断速度で20分間洗浄した。図11Cに示されるように、EG1及びEG2の混合物を有する表面は、全抗体(aEGFR)と同様のレベルの細胞保持能力を示し、2つのペプチドの混合物の使用がより強い結合を達成することを示した。
【0093】
このデータは、i)PDCの合成及びそれらのDMへの自己集合;ii)aPD-L1及びaEGFRの選択性の増強;並びにiii)ペプチドの合成及び多価結合効果によるそれらの有意に増強された結合速度論を実証する。
【0094】
実施例5:一連の官能化PDCを調製し、それらの結合速度論及び自己集合をDMに操作する
官能価の数に基づいてグループ化された一連のPDCを調製する。このアプローチは、最も単純なグループから始まって、より複雑な物質に進み、提案された研究の各段階の成功の可能性を高める。以下のPDCを合成する:アセチル化PDC(PCL-G3-PEG-Ac)(図12のI)、EG1/2コンジュゲートPDC(PCL-G3-PEG-EG1/2)(図12のII、図13)、PD-L1結合ペプチド(pPD1)とコンジュゲートしたPDC(PCL-G3-PEG-pPD1)(図12のIII、図13)、及びAlexa Fluor(登録商標)647を有するPDC(PCLG3-PEG-AF)(図12のIV、図13)。
【0095】
PDCの各ポリマー成分のMWの選択:各ポリマーブロックの分子量(MW)は、得られるPDCの物理的及び生物学的特性に大きく影響する。結果に基づいて、実験は、3.5kDaのPCL、II及びIIIについては2kDaのPEG、並びにI及びIVについては600DaのPEG、並びにG3デンドロン(870Da)から開始する。PEGのMWは、テザリングされた構成がDM上の標的化リガンドと細胞表面との間の最大特異的相互作用を助けることから重要であり得る。以前の研究は、標的化リガンド及びPEG0.6KでテザリングされたPEG2Kから自己集合したDMが特異的相互作用を有意に増幅することを明らかにした。G3ポリエステルデンドロンは、複数(8個)の官能性末端基を提供するのに十分大きいが、MWDを最小に維持するのに十分小さいため選択される。初期結果に応じて、MWを変化させて放出プロファイル及びHLBを制御する。
【0096】
ペプチド合成:合計4つのペプチド配列を合成する。PD-L1結合ペプチドについては、最近の研究に使用されたヒト配列に加えて、マウス配列:IYLCGAISLHPKAKIEESPGA配列番号8をその後のin vivoマウスモデル研究のために調製する。マウスとヒトとの間の89%の重複を考慮すると、同じEG 1/EG2ペプチドをin vitro及びマウスin vivoの両方に使用する。これらのペプチドは、9-フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)ベースの固相合成技術及びRink Amide MBHA樹脂LL上の標準的なアミノ酸保護基を使用して合成される。合成後、ペプチドを、切断カクテル[トリフルオロ酢酸(TFA)/トリイソプロピルシラン(TIS)/水=95:2.5:2.5]の3時間の処理によって樹脂から切断する。次いで、tert-ブチルメチルエーテル(TBME)を用いて混合物を沈殿させる。粗ペプチド溶液を、C18セミ分取カラムを用いた逆相HPLCを用いて精製する。HPLC条件は以下の通りである:溶離液(溶媒A、0.1%TFAを含む水;溶媒B、0.1%TFAを含むアセトニトリル)、流速(2mL/分)、及びUV検出のための波長(230nm)。ペプチドの分子量は、α-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸(CHCA)マトリックスとの共結晶化後に、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析(MALDI-TOF MS)によって確認される。それらの濃度は、トリプトファン(5690M-1cm-1)及びチロシン(1280M-1cm-1)のモル吸光係数を使用しながら、水/アセトニトリル(1:1)中での分光光度測定によって決定される。
【0097】
PDCと機能性薬剤とのコンジュゲーション:官能化PDCの合成経路を図13に示す。簡潔には、p-NPC活性化PCL-G3(MW5,690Da)をNH2-PEG-tBOCとコンジュゲートさせ、続いてTFAで脱保護し、PCL-G3-PEG-NH2を得る。アミン基は、EG1/2及びpPD-1ペプチド並びにイメージング剤AF647(AF)等の様々な生物活性剤に対する反応部位を提供する。ペプチド及びAFとのコンジュゲーションは、当技術分野で公開されているのと同じ化学を利用する。全てのコンジュゲーション反応の後、残りのアミン基はアセチル化されて、潜在的な非特異的相互作用を保護する。完全なアセチル化は、非特異的相互作用なしに特異的標的化を達成するために重要である。対照群として、PDCと同一のMWを有する線形ブロックコポリマー(PCL-PEG)も調製して、結合及び生物学的挙動に対するデンドロンの役割を調べる。
【0098】
自己集合によるDM形成:図12及び図13に示すように、様々なタイプのPDCがミセルに自己集合する。定量的蛍光分析のため、PCL-G3-PEG-AF(PDC_FL)の含有量を5%に固定し、他の全ての機能的成分を最小(5%)から最大(30%)まで様々な比で混合する。パクリタキセルを用いないDMの場合、種々の比の20mgのPDCを2mLのジメチルホルムアミド(DMF)に溶解する。溶液を蒸留水に対して1日間透析し(MWCO 3.5K)、2日間凍結乾燥させる。パクリタキセルのカプセル化のため、同じ様々な比の20mgのPDCを2~4mgのパクリタキセルと共に4mLのDMFに溶解する。次いで、PDC-薬物溶液を透析膜に移し、2Lの蒸留水に対して24時間透析し、2日間凍結乾燥して薬物担持ミセルを生成する。全てのミセルを、AFM、TEM、及びDLSを使用して、それらの形態、サイズ、及び表面電荷に関して特性評価する。CMC及びカプセル化効率も、当技術分野の方法を使用して測定される。
【0099】
EG1/2及びpPD-1結合速度論の最適化:ミセルあたりのPCL-G3-PEG-EG1/2(PDC_EG1/2)及びPCL-G3-PEG-pPD-1(PDC_pPD-1)の混合比は、当技術分野で公知の方法に従って、BIAcore(商標)X(GE Healthcare)、BLI、AFM(Asylum MFP-3D BioInfinity)を使用してSPRによって測定された結合速度論によって最適化される。簡潔には、EGFR及びPD-L1を個々に又は一緒に基質上に固定化し、様々な量のPDC_EG1/2、PDC_pPD-1、又はその両方(総含有量で5~30%)を含有するDMの結合挙動を測定する。結合パラメータ(ka、kd、KA、及びKD)を定量的に計算し、その値をin vitro細胞取り込みと比較して、最大多価結合効果のためのPDCと標的化ペプチドとの最適比を最終決定する。
【0100】
PDC及びDMの調製及び特性評価:調製された全てのPDCの化学構造を確認した後、PDCの大きなライブラリを確立する。理論上のMWから10%の偏差内のPDCを使用し、それらの分子量分布(MWD)は1.2未満に維持される。MW及びMWDの両方における厳密な閾値は、バッチ間の変動及びPDCの構造的不均一性を最小限に抑える。調製されたDMは、直径が約50nmのサイズを有し、PEG外層による90%超の表面被覆率と共に少なくとも10wt%のパクリタキセルを含有する。
【0101】
官能基の数:予備研究に基づいて、PDCの構造的規則性を維持するために、官能基bをデンドロンあたり3分子(ペプチド)未満に維持することが好ましい。
【0102】
実施例6:in vitro及びin vivoでの化学療法のためのEGFR標的化の利点の検証
in vitro放出及び選択性試験を行い、続いて、DM1を用いた広範なin vivo試験(図12で定義される)を行う。図11Cに示す本発明者らの予備データに基づいて、EG1及びEG2ペプチドの混合物をDM1製剤に使用すると、EG1/2混合物は、別々に使用するよりも有意に改善された細胞保持能力を示したことに留意されたい。
【0103】
パクリタキセルの放出動態及びDMのin vitro特異性:パクリタキセルを含有するDMを、当技術分野で記載されているように、血清の存在下で透析方法を使用してそれらの放出動態に関して試験する。簡潔には、パクリタキセル(1mg/mL)を含む1.5mLのDMを1.5mLのFBSと混合し、透析膜(MW CO 3.5kDa)に入れて、穏やかに振盪しながら(100rpm)37°Cで50%FBS27mLに対して透析し、続いて様々な時点で透析液を収集する。収集された試料中のパクリタキセル含有量を、UV/Vis検出によって定量する。DM1のin vitro選択性及び細胞傷害性を、EGFR陽性(4T1、MDA-MB-231、及びMDA-MB-468)及びEGFR陰性(MDA-MB-435及びSUM52)のTNBC細胞株を使用して、EG1/2ペプチドを含まないDMと比較して試験する。
【0104】
DM1のin vivo腫瘍保持特性:この実験の目的は、DM1が腫瘍でより長い保持を示すかどうかを決定することである。この実験を実施するため、BALB/cマウスに異種移植されたマウスTNBC細胞株4T1を使用する。様々なDMをAF及びパクリタキセルと集合させて、in vivo実験を通して化学的性質を一定に保つ。パクリタキセルを含まない空のDMをアスタリスク*(DM*)で示す。簡潔には、4T1腫瘍細胞を調製し、100μL中1.5~2×10個の生細胞をマウスの背側腹部に注射する。腫瘍を、Vernierノギスを用いて週に2回測定し、V=(π/6)(大径)×(小径)の式に従って計算する。平均腫瘍体積が100~200mmに達すると、マウスを3つの群(n=12、単一腫瘍/マウス)に無作為化する:1)治療無し、2)DM*、3)DM1。10mg/kgの各DMを50~100μLで尾静脈によって送達する。主要エンドポイント:IVIS Spectrumシステム(UW Small Animal Imaging Facility)を使用して、注射後0時間、6時間、12時間、24時間、3日間、5日間及び7日間に腫瘍を撮像する。IVIS Spectrum SeriesのLiving Image Softwareを使用して、取り込み及び保持のための全放射効率を測定及び定量する。
【0105】
DM1及びパクリタキセルのin vivo体内分布:この実験の目標は、DM1が、標準的な遊離パクリタキセルと比較して、物理的腫瘍へのパクリタキセルの優れた送達を有するかどうかを決定することである。同じ4T1異種移植BALB/cマウスを使用する。平均腫瘍体積が100~200mmに達すると、マウスを4つの群(n=12、単一腫瘍/マウス)に無作為化する:1)治療無し、2)遊離パクリタキセル、3)パクリタキセルを含むDM、及び4)DM1。22.5mg/kgのパクリタキセルを送達する50~100μLの各DMを尾静脈によって送達する。パクリタキセルのDM送達の体内分布及びin vivo運命を決定するために、従来の蛍光に基づく技術に加えて、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析イメージング(MALDI-MSI)を使用する。MALD-MSIを利用して、組織切片のプロテオームをin situで決定して、組織における示差的なタンパク質発現を示す画像を生成することができる(図14)。MALDI-MSIは標識不要であり、優れた感度、定量及び化学特異性で組織試料中の多数の分子の同時マッピングを可能にする。MALDI-MSIは、その高い化学特異性、空間分解能及び感度のために、送達された薬物化合物、薬物代謝産物、及び可能性のある薬物標的の空間分布をマッピングすることができる偏りのないハイスループット技術である。腫瘍及び組織(血液、肝臓、肺、脳及び腎臓)を収集し、それに応じてMALDI-MSI定量分析の準備として固定する。
【0106】
遊離パクリタキセルと比較したDM1のin vivo有効性:この実験は、DM1から放出されたパクリタキセルが、パクリタキセルの標準的な送達と比較してより良好な腫瘍増殖制御をもたらすことができるかどうかを調べるために設計されている。同じ4T1異種移植BALB/cマウスを使用する。4T1細胞の接種後、腫瘍を上記のように測定する。ここでも、平均体積が100~200mmに達すると、マウスを5つの群(n=16、単一腫瘍/マウス)に無作為化する:1)治療無し、2)DM*、3)遊離パクリタキセル、4)パクリタキセルを含むDM、及び5)DM1。同じ用量(22.5mg/kgのパクリタキセル)を4~5週間にわたって週に2回尾静脈によって送達する。主要エンドポイント:腫瘍成長が主要エンドポイントとなる。腫瘍を毎週3回測定し、プロットし、続いて有意性について統計分析する。
【0107】
本発明者らは、DM1が、非標的DMと比較して、選択的な細胞相互作用(EGFR+細胞のみに対する)、並びに改善されたin vivo腫瘍蓄積及びより長い保持を示すと予想する。さらに、DM1は、遊離パクリタキセル及び非標的DMと比較して、より高い濃度のパクリタキセルを腫瘍に送達し、より少ない量を正常組織に送達し、より大きな腫瘍制御をもたらす。
【0108】
実施例7:in vitro及びin vivoでの併用免疫療法及び化学療法のためのEGFR及びPD-L1標的化の相乗的利点の検証
種々のDMの選択性及び細胞傷害性のin vitro確認研究を行い、続いて、同じマウスモデルを用いた広範なin vivo研究を行って、DM1~3の有効性を比較する。
【0109】
様々なDMのin vitro選択性及び細胞傷害性:PD-L1及びEGFRを過剰発現する3つのTNBC細胞株、例えばMDA-MB-231及びMDA-MB-468、低レベルのPD-L1及びEGFRのみを発現するTNBC細胞株、例えばMDA-MB-435を使用する。DM2及びDM3のin vitro特異性は、当該分野で公知のプロトコルを使用して、蛍光顕微鏡法及びフローサイトメトリーを使用して確認される。様々な製剤の細胞傷害性も細胞に対して試験し、顕微鏡観察に加えて、LDH及びMTTアッセイ等の酵素アッセイを使用して測定する。
【0110】
DM2及びDM3のin vivo腫瘍保持特性:この実験の目的は、DM1及びDM2と比較して、DM3が腫瘍でより長い保持を示すかどうかを決定することである。この実験はまた、図15に示すように、同じ4T1異種移植BALB/cマウスを使用して実施される。簡潔には、同じ数の4T1腫瘍細胞(100μL中1.5~2×10個の生細胞)をマウスの背側腹部に注射する。腫瘍を100~200mmに達するまで測定する。次いで、マウスを5つの群(n=12、単一腫瘍/マウス)に無作為化する:1)治療無し、2)DM(標的化剤なし)、3)DM1、4)DM2、及び5)DM3。10mg/kgの各DMを50~100μLで尾静脈によって送達する。上記の腫瘍保持実験の時点で、IVISシステムを使用して腫瘍を撮像する。
【0111】
遊離パクリタキセルと比較したDM2及びDM3のin vivo体内分布:この実験は、DM3が、1)標準的な遊離パクリタキセル、2)DM1及び3)DM2と比較して、物理的腫瘍へのパクリタキセルの優れた送達を有するかどうかを決定するように設計されている。実験手順は、平均腫瘍体積が100~200mmに達するまで上記の手順と同一である。マウスを6つの群(n=12、単一腫瘍/マウス)に無作為化する:1)治療無し、2)遊離パクリタキセル、3)DM、4)DM1、5)DM2、及び6)DM3。同じ用量の22.5mg/kgのパクリタキセルを静脈内に送達する。MALDI-MSIは、上記のような従来の蛍光ベースの技術に加えて、様々なDMを介したパクリタキセル送達の体内分布及び腫瘍蓄積に使用される。
【0112】
DM1、DM2及び遊離パクリタキセルと比較したDM3のin vivo有効性:この実験の目標は、PD1/PDL1遮断 DM3)と組み合わせたパクリタキセル送達が、DM送達パクリタキセル単独(DM1)又はEGFR標的化なしのDM(DM2)よりも優れているかどうかを調べることである。同じ実験条件を使用する。平均体積が100~200mmに達すると、マウスを6つの群(n=16、単一腫瘍/マウス)に無作為化する:1)治療無し、2)遊離パクリタキセル、3)DM1、4)DM2、5)DM1/DM2混合物、6)DM3。DM1/DM2の物理的混合物をこの実験に含めて、単一のナノ粒子内に全ての成分を組み込んだDM3が真に相乗効果を示すかどうかを調べる。同じ用量のパクリタキセルを4~5週間にわたって週に2回尾静脈によって送達する。腫瘍成長が主要エンドポイントとなる。腫瘍を毎週3回測定し、プロットし、続いて有意性について統計分析する。
【0113】
DM3は、非標的DM、DM1及びDM2と比較して、選択的な細胞相互作用(EGFR+/PD-L1+細胞のみに対する)、並びに改善されたin vivo腫瘍蓄積及びより長い保持を示すと予想される。重要なことに、他の製剤及び遊離パクリタキセルと比較して、有意に増加した腫瘍蓄積、治療指数及び全マウス生存率がDM3から予想される。増強された結果は、同時に免疫チェックポイントを遮断してパクリタキセルを送達するDMに起因すると考えられる。
【0114】
実施例8:HNSCCを治療するためのDMの確認
実施例5と同様に、DMは、パクリタキセルの代わりにドセタキセルをカプセル化して作製される。(図12及び図13を参照)。FaDu及びMOC1等のPD-L1及びEGFRを過剰発現し、RPMI2650等の低レベルのEGFRのみを発現する3つのHNSCC細胞株を使用する。DM1-3のin vitro特異性を、蛍光顕微鏡法及びフローサイトメトリーを使用して確認する。様々な製剤の細胞傷害性も細胞に対して試験し、顕微鏡観察に加えて、LDH及びMTTアッセイ等の酵素アッセイを使用して測定する。
【0115】
一連のin vivo実験を行って、DM1及びDM2と比較して、DM3が腫瘍でより長い保持及び治療有効性の増強を示すかどうかを決定する。この実験を、MOC1異種移植された同系BALB/cマウスを使用して行う。簡潔には、MOC1腫瘍細胞(100μL中1.5~2×10個の生細胞)をマウスの背側腹部に注射する。腫瘍を100~200mmに達するまで測定する。マウスを6つの群(n=6、単一腫瘍/マウス)に無作為化する:1)治療無し、2)遊離ドセタキセル、3)DM1、4)DM2、5)DM1/DM2混合物、及び6)DM3。マウス及び治療群の数を、SPORE Statsコアに相談した後に確認する。DM1/DM2の物理的混合物をこの実験に含めて、単一のナノ粒子内に全ての成分を組み込んだDM3が真に相乗効果を示すかどうかを調べる。同じ用量のドセタキセルを4~5週間にわたって週に2回尾静脈によって送達する。腫瘍成長が主要エンドポイントとなる。IVISシステムを使用して腫瘍を画像化し、週に3回測定し、プロットし、続いて有意性について統計分析する。
【0116】
調製された全てのPDCの化学構造を確認した後、PDCの大きなライブラリが確立される。理論上のMWから10%の偏差内のPDCを使用し、それらの分子量分布(MWD)は1.2未満に維持される。MW及びMWDの両方における厳密な閾値は、バッチごとの変動及びPDCの構造的不均一性を最小限に抑える。調製されたDMは、直径が約50nmのサイズを有し、PEG外層による90%超の表面被覆率と共に少なくとも10wt%のドセタキセルを含有する。DM3は、非標的DM、DM1、DM2、及びDM1/DM2混合物と比較して、選択的な細胞相互作用(EGFR+/PD-L1+細胞のみに対する)、並びに改善されたin vivo腫瘍蓄積及びより長い保持を示すと予想される。重要なことに、DM3からの有意に増加した腫瘍蓄積、治療指数及び全マウス生存率が予想される。
【0117】
「1つの(a)」及び「1つの(an)」及び「その(the)」という用語、並びに同様の指示対象(特に以下の特許請求の範囲の文脈における)の使用は、本明細書で特に指示されない限り、又は文脈と明らかに矛盾しない限り、単数及び複数の両方を包含すると解釈されるべきである。本明細書で使用される場合、第1、第2等の用語は、特定の順序を示すことを意味するのではなく、単に便宜上、複数の、例えば層を示すことを意味する。「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」、及び「含有する(containing)」という用語は、特に明記しない限り、非限定的な用語(すなわち、「~を含むが、限定されない」を意味する)として解釈されるべきである。本明細書で使用される場合、「約」又は「およそ」は、記載された値を含み、問題の測定値及び特定の量(すなわち、測定システムの制限)の測定に関連する誤差を考慮して、当業者によって決定される特定の値の許容可能な偏差範囲内を意味する。例えば、「約」は、1つ以上の標準偏差の範囲内、又は記載された値の±10%若しくは5%の範囲内を意味することができる。値の範囲の列挙は、本明細書に別段の指示がない限り、その範囲内に入る各別個の値を個別に参照する簡略方法として役立つことを意図しているにすぎず、各別個の値は、あたかもそれが本明細書に個別に列挙されているかのように本明細書に組み込まれる。全ての範囲の端点は、範囲内に含まれ、独立して組み合わせることができる。本明細書に記載の全ての方法は、本明細書に別段の指示がない限り、又は文脈と明らかに矛盾しない限り、適切な順序で実施することができる。任意の及び全ての例又は例示的な言語(例えば、「等」)の使用は、単に本発明をよりよく説明することを意図しており、別段の請求がない限り、本発明の範囲を限定するものではない。本明細書のいかなる言語も、本明細書で使用される本発明の実施に不可欠な特許請求されていない要素を示すと解釈されるべきではない。
【0118】
例示的な実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明の範囲から逸脱することなく、様々な変更を行うことができ、その要素を等価物で置き換えることができることが当業者には理解されよう。さらに、本発明の本質的な範囲から逸脱することなく、特定の状況又は材料を本発明の教示に適合させるために多くの修正を行うことができる。したがって、本発明は、本発明を実施するために企図される最良の形態として開示された特定の実施形態に限定されず、本発明は、添付の特許請求の範囲内に入る全ての実施形態を含むことが意図される。その全ての可能な変形における上述の要素の任意の組み合わせは、本明細書で特に指示されない限り、又は文脈と明らかに矛盾しない限り、本発明に包含される。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図11C
図12
図13
図14
図15
【配列表】
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【国際調査報告】