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▶ インターベット インターナショナル ベー. フェー.の特許一覧

<図1A>
  • 特表-バキュロウイルス発現ベクター 図1A
  • 特表-バキュロウイルス発現ベクター 図1B
  • 特表-バキュロウイルス発現ベクター 図2A
  • 特表-バキュロウイルス発現ベクター 図2B
  • 特表-バキュロウイルス発現ベクター 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-27
(54)【発明の名称】バキュロウイルス発現ベクター
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/86 20060101AFI20231117BHJP
   C12N 15/42 20060101ALI20231117BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20231117BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20231117BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20231117BHJP
   C12N 7/02 20060101ALI20231117BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20231117BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20231117BHJP
   A61K 39/135 20060101ALI20231117BHJP
   C12N 15/57 20060101ALN20231117BHJP
【FI】
C12N15/86 Z ZNA
C12N15/42
C12N5/10
C12P21/02 C
C12N7/01
C12N7/02
A61P37/04
A61P31/12 171
A61K39/135
C12N15/57
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023524369
(86)(22)【出願日】2021-10-21
(85)【翻訳文提出日】2023-06-14
(86)【国際出願番号】 EP2021079156
(87)【国際公開番号】W WO2022084426
(87)【国際公開日】2022-04-28
(31)【優先権主張番号】20203373.4
(32)【優先日】2020-10-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】510000976
【氏名又は名称】インターベット インターナショナル ベー. フェー.
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100172683
【弁理士】
【氏名又は名称】綾 聡平
(74)【代理人】
【識別番号】100219265
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 崇大
(74)【代理人】
【識別番号】100203208
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】セラーノ・ガルシア,アマヤ
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C085
【Fターム(参考)】
4B064AG32
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA45
4B065CA46
4C085AA03
4C085BA54
4C085CC08
4C085CC21
4C085DD62
4C085EE01
4C085GG01
(57)【要約】
本発明は、プロモーターの制御下でFMDVカプシド前駆体タンパク質を組換え発現させるためのバキュロウイルス発現ベクターに関し、発現ベクターは、FMDVカプシド前駆体タンパク質をコードする核酸配列と、翻訳エンハンサーSyn21およびp10UTRとを含む。本発明は、バキュロウイルス発現ベクターを含む宿主細胞、FMDVウイルス様粒子(VLP)の産生方法、およびワクチンの生成方法にさらに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロモーターの制御下で口蹄疫ウイルス(FMDV)カプシド前駆体タンパク質を組換え発現させることができるバキュロウイルス発現ベクターであって、前記発現ベクターが、
(i)前記FMDVカプシド前駆体タンパク質をコードする核酸配列、
(ii)前記FMDVカプシド前駆体タンパク質をコードする前記核酸配列(i)の5’非翻訳領域(UTR)内に位置する翻訳エンハンサーSyn21、および、
(iii)前記FMDVカプシド前駆体タンパク質をコードする前記核酸配列(i)の3’UTR内に位置する翻訳エンハンサーP10UTR、
を含む、
バキュロウイルス発現ベクター。
【請求項2】
前記翻訳エンハンサーSyn21が、配列番号1の核酸配列に対応する核酸配列を有する、
請求項1に記載のバキュロウイルス発現ベクター。
【請求項3】
前記翻訳エンハンサーP10UTRが、配列番号2の核酸配列に対応する核酸配列を有する、
請求項1または2に記載のバキュロウイルス発現ベクター。
【請求項4】
前記FMDVがA血清型である、請求項1~3のいずれか一項に記載のバキュロウイルス発現ベクター。
【請求項5】
前記FMDVがO血清型である、請求項1~3のいずれか一項に記載のバキュロウイルス発現ベクター。
【請求項6】
前記カプシド前駆体タンパク質が、カプシド前駆体P1を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のバキュロウイルス発現ベクター。
【請求項7】
前記ベクターが、
(iv)前記カプシド前駆体タンパク質を1つ以上のカプシドタンパク質に切断することができるプロテアーゼをコードする核酸配列
をさらに含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のバキュロウイルス発現ベクター。
【請求項8】
前記カプシド前駆体タンパク質が、カプシド前駆体P1と2Aペプチドとを含み、そして、前記プロテアーゼが3Cである、請求項7に記載のバキュロウイルス発現ベクター。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載のバキュロウイルス発現ベクターを含む宿主細胞。
【請求項10】
昆虫細胞である、請求項9に記載の宿主細胞。
【請求項11】
(i)請求項1~6のいずれか一項に記載のバキュロウイルス発現ベクターを宿主細胞に感染させる工程と、
(ii)前記宿主細胞によって産生されたFMDVカプシド前駆体タンパク質を採取する工程と
を含む、FMDVカプシド前駆体タンパク質を産生する方法。
【請求項12】
(i)請求項7または8に記載のバキュロウイルス発現ベクターを宿主細胞に感染させる工程と、
(ii)前記宿主細胞によって産生されたFMDV VLPを採取する工程と
を含む、FMDVウイルス様粒子(VLP)を産生する方法。
【請求項13】
FMDVカプシド前駆体タンパク質の組換え発現のためのバキュロウイルス発現ベクターの使用であって、前記発現ベクターが、
(i)前記FMDVカプシド前駆体タンパク質をコードする核酸配列、
(ii)前記FMDVカプシド前駆体タンパク質をコードする前記核酸配列(i)の5’UTR内に位置する翻訳エンハンサーSyn21、および
(iii)前記FMDVカプシド前駆体タンパク質をコードする前記核酸配列(i)の3’UTR内に位置する翻訳エンハンサーP10UTR
を含む、使用。
【請求項14】
発現が、昆虫細胞内で達成される、請求項13に記載のバキュロウイルス発現ベクターの使用。
【請求項15】
(i)請求項12に記載の方法によってFMDV VLPを産生する工程と、
(ii)薬学的に許容される担体を加えることによって前記FMDV VLPをワクチンに組み込む工程と
を含む、ワクチンを生成する方法。
【請求項16】
FMDVによる感染から対象を保護する方法であって、該方法は、
宿主細胞内で請求項7または8に記載のバキュロウイルス発現ベクターからFMDVカプシド前駆体タンパク質を発現させてVLPを産生する工程、薬学的に許容される担体を加えることによって前記VLPをワクチンに組み込む工程、および、前記ワクチンを前記対象に投与する工程、
を含む、方法。
【請求項17】
FMDVによる感染から対象を保護するための医薬の製造に使用するための、請求項1~8のいずれか一項に記載のバキュロウイルス発現ベクター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロモーターの制御下で口蹄疫ウイルス(FMDV)カプシド前駆体タンパク質を組換え発現させるためのバキュロウイルス発現ベクターに関し、発現ベクターは、FMDVカプシド前駆体タンパク質をコードする核酸配列と、翻訳エンハンサーとを含む。本発明は、バキュロウイルス発現ベクターを含む宿主細胞、FMDVウイルス様粒子(VLP)の産生方法、およびワクチンの生成方法にさらに関する。
【背景技術】
【0002】
口蹄疫(FMD)は、偶蹄類、家畜および野生動物の高度に伝染性の急性ウイルス性疾患である。口蹄疫(FMD)は、国際連合食糧農業機関(FAO)によって越境家畜伝染病として分類されている。口蹄疫(FMD)はまた、届け出義務のある疾患である。口蹄疫は、アフリカ、南米、中東およびアジアの大部分で流行しており、世界的には家畜の最も経済的に重大な感染性疾患であり、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ならびに、バッファローおよびシカなどの他の偶蹄類種に発症する。FMDは、かつては世界中に広まっていたが、北米および西ヨーロッパを含むいくつかの地域では根絶されている。流行国では、FMDは、国際的な家畜取引に経済的制約をもたらし、厳しい予防措置が講じられていない限り、疾患のない地域に容易に再度広まり得る。FMDは家畜産業全体に影響を及ぼし、地域の農業従事者の収入が失われる。
【0003】
現在のワクチンは、不活化ウイルスから作製されている。ウイルスが不活化される前に、生FMDウイルスが高度封じ込め施設で産生され、FMDワクチンの生成は制限されている。FMDに対する効果的なワクチン接種は、免疫原性が不十分であることが証明されているカプシド構成要素ではなく、インタクトなFMDVカプシドの存在を必要とする(Doel and Chong,1982,Archives of Virology)。不活化FMDウイルスは、カプシド構成要素では、酸性pHまたは高温で容易に崩壊する脆弱な構造である。したがって、効果的なFMDワクチンを家畜飼育者に届けるためには、低温流通体系が必要である。
【0004】
現在の不活化ウイルスワクチンの欠点の多くを克服することができる市販のFMDワクチンのための新しいワクチン技術が必要とされている。
【0005】
ウイルス様粒子(VLP)技術は、現在、従来の不活化ワクチンの実行可能な代替物となる可能性を有する数少ない技術の1つと考えられている。現在の技術と比較したVLP技術の利点には、例えば、製品安定性が高まること、産生場所の柔軟性が増大すること(低度封じ込め産生)、および新たな株のアウトブレイクに対するさらに迅速な応答がある。VLPベースのワクチンは、典型的には、非構造タンパク質を除去するための生成工程を実施する必要性を軽減するマーカーワクチンとして設計される。
【0006】
FMDVゲノムは、12個の成熟ウイルスタンパク質にプロセシングされる前駆体ポリタンパク質を産生する単一のオープンリーディングフレーム(ORF)をコードする(図1A)(Balinda et al.Virology Journal 2010,7:199より)。P1ポリタンパク質中間体は、翻訳中にP1およびP2ポリタンパク質の非タンパク質分解的分離を引き起こしてP2からP1-2Aを放出する2Aタンパク質のすぐ上流に位置する4つのカプシド構造タンパク質VP1~VP4から構成される。その後、P1-2Aポリタンパク質は、FMDV 3Cプロテアーゼによって、2A、VP0(1ABとしても知られる)、VP3(1C)およびVP1(1D)にプロセシングされる。VP0タンパク質は、カプセル化中にVP4およびVP2に分離する。FMDVビリオンは、プロセシングされたウイルス構造タンパク質からの自己集合によって形成される。
【0007】
VLPベースのワクチンに使用するためのVLPは、FMDVビリオンの自己集合と同様に、好適な宿主細胞内でFMDV前駆体タンパク質を組換え発現させることによって産生することができる。FMDV VLPも同様に、プロセシングされたウイルス構造タンパク質からの自己集合によって形成される。
【0008】
VLPの熱安定性と低pHに対する感受性は、カプシドタンパク質間の共有結合、例えば、システイン架橋の導入によってまたは他の合理的に設計された変異の導入によって、改善することができる(Porta et al.(2013)PLoS Pathog)。
【0009】
細胞培養物1ミリリットル当たりのFMDV VLPの初期収率は典型的には低いため、一般的な成功した発現系を使用する場合であっても、発現レベルを増加させて、VLPベースのFMDワクチンを現在市販されている従来のFMDワクチンの費用対効果の高い代替物にする必要がある。そのため、バキュロウイルス発現ベクターを最適化してVLPの収率を改善し、抗原収率に関して従来のFMDワクチン生成プロセスと少なくとも同等またはさらにはそれを上回る大規模生成プロセスを達成した。
【0010】
バキュロウイルス発現ベクタープラットフォームは、現在、VLPの産生のための好ましいプラットフォームの1つとして使用されている。しかし、バキュロウイルス発現プラットフォームによってもたらされるFMDV VLPの比較的低い発現レベルは、VLPベースのFMDワクチンの開発を制限する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Doel and Chong,1982,Archives of Virology
【非特許文献2】Balinda et al.Virology Journal 2010,7:199
【非特許文献3】Porta et al.(2013)PLoS Pathog
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明では、驚くべきことに、バキュロウイルス発現系を介したFMDVカプシド前駆体タンパク質の発現が、2つの翻訳エンハンサー:Syn21およびP10UTRの組合せを使用することによって増強され得ることが見出された。驚くべきことに、これらの2つの翻訳エンハンサーの組合せが、当技術分野のバキュロウイルス発現系で使用される他の翻訳エンハンサーによって達成される発現収率よりも優れていることが示され得る。
【課題を解決するための手段】
【0013】
したがって、第1の態様では、本発明は、プロモーターの制御下でFMDVカプシド前駆体タンパク質を組換え発現させることができるバキュロウイルス発現ベクターを提供し、前記発現ベクターは、
(i)FMDVカプシド前駆体タンパク質をコードする核酸配列、
(ii)FMDVカプシド前駆体タンパク質をコードする核酸配列(i)の5’非翻訳領域(UTR)内に位置する翻訳エンハンサーSyn21、および
(iii)FMDVカプシド前駆体タンパク質をコードする核酸配列(i)の3’UTR内に位置する翻訳エンハンサーP10UTR、
を含む。
【0014】
本発明の第2の態様では、本発明のバキュロウイルス発現ベクターを含む宿主細胞が提供される。そのような宿主細胞は、組織培養ではインビトロで使用され得、宿主細胞は典型的には不死化細胞である。
【0015】
第3の態様では、本発明は、FMDV VLPを産生する方法であって、本明細書に記載のバキュロウイルス発現ベクターを宿主細胞に感染させる工程と、宿主細胞によって産生されたVLPを採取する工程とを含む方法を提供する。
【0016】
本発明は、FMDVカプシド前駆体タンパク質の組換え発現のためのバキュロウイルス発現ベクターの使用にさらに関する。
【0017】
本発明は、FMDV VLPを産生し、薬学的に許容される担体を加えることによってFMDV VLPをワクチンに組み込むことによってワクチンを生成する方法にさらに関する。
【0018】
本発明は、宿主細胞内で本発明のバキュロウイルス発現ベクターからFMDVカプシド前駆体タンパク質を発現させてVLPを産生し、薬学的に許容される担体を加えることによってVLPをワクチンに組み込み、そして、VLPを対象に投与することによって、FMDVによる感染から対象を保護する方法にさらに関する。
【0019】
本発明は、FMDVによる感染から対象を保護するのに使用するための、本発明の第1の態様によるバキュロウイルス発現ベクターにさらに関する。
【0020】
本発明は、FMDVによる感染から対象を保護するための医薬の製造に使用するための本明細書に記載のバキュロウイルス発現ベクターにさらに関する。
【0021】
発明の詳細な説明
用語の定義
用語「核酸配列」は、RNA配列またはDNA配列を含む。RNA配列またはDNA配列は、一本鎖または二本鎖であり得る。RNA配列またはDNA配列は、例えば、ゲノムmRNAまたはゲノムcDNA、組換えmRNAまたは組換えcDNAであり得る。
【0022】
「発現ベクター」(同義語「発現構築物」)は、通常、細胞内の組換え遺伝子発現のために設計されたプラスミドまたはウイルスである。ベクターは、特定の遺伝子を標的細胞に導入するために使用され、該遺伝子によってコードされる目的のタンパク質(POI)を産生するタンパク質合成のための細胞の機構を操作することができる。組換え遺伝子を発現させてPOIを産生するために、発現ベクターは、典型的には、遺伝子発現を開始させるための少なくとも1つのプロモーターを含み、1つ以上の翻訳エンハンサーをさらに含み得る。
【0023】
「バキュロウイルス発現ベクター」は、昆虫細胞などの宿主細胞内の組換え遺伝子発現に使用される、バキュロウイルスに基づく発現ベクターである。バキュロウイルス発現系は、当技術分野で確立されており、Bac-to-Bac発現系(ThermoFisher Scientific,Germany)など、市販されている。これらのバキュロウイルス発現系では、野生型バキュロウイルスゲノム内の天然に存在するポリヘドリン遺伝子は、典型的には組換え遺伝子またはcDNAによって置換されている。これらの遺伝子は、一般的にポリヘドリンまたはp10バキュロウイルスプロモーターの制御下にある。
【0024】
遺伝子発現に使用される最も一般的なバキュロウイルスは、オートグラファ・カリフォルニカ核多角体病ウイルス(Autographa californica nucleopolyhedrovirus)(AcNPV)である。AcNPVは、大きな(130kb)環状二本鎖DNAゲノムを有する。目的の遺伝子(GOI)は、非必須遺伝子座に由来するバキュロウイルスDNA、例えば、ポリヘドリン遺伝子が隣接するバキュロウイルスプロモーターを含有するトランスファーベクターにクローニングされる。GOIを含有する組換えバキュロウイルスは、トランスファーベクターと親ウイルス(AcNPVなど)のゲノムとの間の昆虫細胞における相同組換えによって産生される。
【0025】
「翻訳エンハンサー」は、翻訳を促進し、それによってタンパク質産生を増加させることができるエレメントを形成するヌクレオチド配列である。典型的に、翻訳エンハンサーは、mRNAの5’および3’非翻訳領域(UTR)に見出され得る。特に、GOIの開始ATGコドンのすぐ上流の5’-UTR内のヌクレオチドは、翻訳開始のレベルに大きな影響を及ぼし得る。
【0026】
ウイルス「カプシド」は、当技術分野では、典型的にはその遺伝物質を封入するウイルスのタンパク質シェルとして一般的に理解されている。
【0027】
「カプシド前駆体タンパク質」は、ウイルスカプシドまたはその構成要素の形成に関与する、カプシドタンパク質とも呼ばれる1つ以上の構造タンパク質の前駆体である。FMDVカプシド前駆体タンパク質は、典型的には、構造タンパク質P1を含む。タンパク質P1は、FMDV 3Cプロテアーゼ(3Cpro)によって成熟型のVP0、VP3およびVP1タンパク質にプロセシングされるため、P1タンパク質は、ポリタンパク質またはプロタンパク質とも呼ばれ得る。本発明に関連して、FMDVカプシド前駆体タンパク質は、典型的には、タンパク質VP1、VP2、VP3およびVP4を含む少なくともP1を含む。あるいは、FMDVカプシド前駆体タンパク質は、タンパク質VP1、VP2、VP3およびVP4のうちの1つ以上を含み得る。FMDVカプシド前駆体タンパク質はまた、タンパク質VP2およびVP4を含むタンパク質VP0を含み得る。最も好ましくは、FMDVカプシド前駆体タンパク質は、P1および2Aタンパク質を少なくとも含む(本明細書ではP1-2Aカプシド前駆体とも呼ばれる)。
【0028】
当技術分野では「空カプシド」とも呼ばれ得る「ウイルス様粒子」(VLP)は、ウイルスのタンパク質シェルを含むがRNAゲノムまたはDNAゲノムを欠く実体である。VLPは、同じ構造エピトープを保持するため、野生型ウイルスと同じように抗原性および免疫原性であるはずであるが、ウイルスゲノムの欠如のために感染を生じないはずである。
【0029】
FMDV VLPは、典型的には、P1-2Aカプシド前駆体から形成される。上記のように、2Aプロテアーゼは、そのC末端でそれ自体を切断して、P2からP1-2Aを放出する。P1-2Aカプシド前駆体のプロセシングは、3Cプロテアーゼによって影響を受けて、2Aならびにカプシドタンパク質VP0、VP3およびVP1を産生する。VLPは、これらのカプシドタンパク質からの自己集合によって形成される。
【0030】
本発明のバキュロウイルス発現系では、昆虫細胞に対して毒性の低い改変3Cプロテアーゼを使用してVLPを産生してもよい(Porta et al.(2013)J Virol Methods)。P1-2A-3C発現カセットでは、3C酵素の中間活性および非毒性活性により、VLPに集合する構造タンパク質VP0、VP1およびVP3へのP1-2A前駆体の組換え発現およびプロセシングが可能になる。VLPの産生は、当技術分野で公知の技術、例えば、スクロース密度遠心分離または電子顕微鏡法を使用して調査または検証され得る(Abrahams et al(1995))。空カプシドの構造および抗原性が保持されているかどうかを調査するために、野生型ウイルス上の立体配座エピトープに特異的なモノクローナル抗体を使用してもよい。
【0031】
本明細書で使用される用語「ワクチン」は、対象に投与された場合、防御免疫応答を誘導または刺激する調製物を指す。ワクチンは、生物を特定の疾患に対して免疫性にすることができる。
【0032】
「FMDVによる感染から動物を保護する」とは、FMDVによる病原性感染の予防、改善もしくは治癒を補助すること、またはその感染から生じる障害の予防、改善もしくは治癒を補助すること、例えば、FMDVによる処置後(すなわち、ワクチン接種後)感染から生じる1つ以上の臨床徴候を予防もしくは低減することを意味する。
【0033】
用語「予防(prevention)」または「予防すること(preventing)」は、予防的処置によってFMDV感染を回避する、遅延させる、妨げる、または妨害することを指すことを意図している。ワクチンは、例えば、感染性FMDVが細胞に入る可能性を予防または低減し得る。
【0034】
バキュロウイルス発現ベクター
本発明の第1の態様のバキュロウイルス発現ベクターは、プロモーターの制御下でFMDVカプシド前駆体タンパク質を組換え発現させることができる。発現ベクターは、FMDVカプシド前駆体タンパク質の組換え発現を増強する2つの翻訳エンハンサーSyn21およびp10UTRを含む。
【0035】
翻訳エンハンサー「Syn21」は、「B.D.Pfeiffer et al,PNAS(2012),Vol.109(17),p.6626-6631」に記載されているように、Cavenerコンセンサス配列をマラコソマ・ネウストリア(Malacosoma neustria)核多角体病ウイルス(MnNPV)ポリヘドリン遺伝子由来のエレメントと組み合わせることによって作製された、21ヌクレオチド(nt)のATリッチ合成配列である。Syn21翻訳エンハンサーの核酸配列は、核酸配列5’-AAC TTA AAA AAA AAA ATC AAA-3’(配列番号1)に対応する核酸配列を有し得る。本発明では、翻訳エンハンサーSyn21は、FMDVカプシド前駆体タンパク質をコードする核酸配列の5’非翻訳領域(UTR)内に位置する。好ましい実施形態では、Syn21配列は、FMDVカプシド前駆体タンパク質をコードする核酸配列のATG開始コドンの5’側に直接近接して位置する。
【0036】
翻訳エンハンサー「P10UTR」は、FMDVカプシド前駆体タンパク質をコードする核酸配列の3’UTR内に位置する。本明細書で使用される用語「P10UTR」は、「Y.Liu et al.,Biotechnol.Lett.(2015),Vol.37,p.1765-1771」に記載されているAcNPV p10遺伝子由来の3’UTRに関する。好ましくは、P10UTRは、配列番号2の核酸配列に対応する核酸配列を有する。
【0037】
用語「Syn21」および「P10UTR」には、配列番号1および2のものに対応するが、1つ以上の核酸の変異および/または自然変異などの保存的改変を含む核酸配列が包含される。改変は、1つ以上のヌクレオチドの欠失もしくは付加、または1つ以上の他のヌクレオチドによる1つ以上のヌクレオチドの置換であり得る。保存的改変は、典型的には、翻訳エンハンサーとしての配列の機能を実質的に変化させない改変であり、すなわち、改変された配列は、発現カセットのプロモーターの制御下で依然として発現を増強することができる。
【0038】
FMDVカプシド前駆体タンパク質は、好適なプロモーターの制御下で組換え発現される。プロモーターは特に限定されないが、バキュロウイルス発現系におけるFMDVカプシド前駆体タンパク質の組換え発現が可能な任意のプロモーターであり得る。本発明のバキュロウイルス発現系に使用するのに好ましいプロモーターは、AcNPVのポリヘドリン(polh)プロモーター(Ayres M.D.et al.,Virology(1994),Vol.2020,p.586-605に記載されている)およびp10プロモーター(Knebel D.et al.,EMBO J.(1985)Vol.4(5),1301-1306に記載されている)である。別の好ましいプロモーターは、S.エキシグア(S.exigua)核多角体病ウイルス(SeNPV)のorf46ウイルス遺伝子のプロモーター(M.Martinez-Solis et al.,PeerJ(2016),DOI 10.7717/peerj.2183に記載されている)である。
【0039】
タンパク質の組換え発現のためのバキュロウイルス発現系に使用するためのバキュロウイルス発現ベクターは市販されており、タンパク質およびウイルス様粒子の産生では当技術分野で広く使用されている。この系は、例えば、バキュロウイルス発現ベクターが増殖する大腸菌(E.coli)細胞または昆虫細胞などの細胞を形質転換するために使用される1つ以上のトランスファープラスミドを包含し得る。市販のバキュロウイルス発現ベクターには、限定するものではないが、Top-Bac(登録商標)ベクター(ALGENEX,Spain)、pFastBac(登録商標)ベクター(Thermo Fisher Scientific,Germany)、flashBAC(登録商標)ベクター(Oxford Expression Technologies Ltd,UK)およびBestBac(登録商標)ベクター(EXPRESSION SYSTEMS,CA)が含まれる。
【0040】
本発明のバキュロウイルス発現ベクターは、機能的プロモーターの制御下で宿主細胞内で発現されるFMDVカプシド前駆体タンパク質をコードする核酸配列を含み、Syn21およびP10UTR翻訳エンハンサーを含む発現カセットを含有する。
【0041】
したがって、本発明では、FMDVカプシド前駆体タンパク質の組換え発現のための発現カセットは、典型的には、図1Bに示す概略構造を有する。
【0042】
この構造は、本発明のバキュロウイルス発現ベクター内の翻訳エンハンサーSyn21およびp10UTRと組み合わせて使用され得る追加のエレメント、特に他のシス作用エレメント、例えば、追加の翻訳エンハンサーを含み得る。
【0043】
FMDVカプシド前駆体タンパク質をコードする核酸配列は、特に限定されず、任意のFMDV血清型、例えば、血清型A、O、Asia1、SAT1、SAT2、SAT3およびCであり得る。特に好ましい実施形態では、FMDVカプシド前駆体タンパク質は、AまたはO血清型に由来する。
【0044】
本発明のバキュロウイルス発現ベクターでは、カプシド前駆体タンパク質は、典型的には少なくともカプシド前駆体P1を含む。さらに好ましくは、カプシド前駆体タンパク質は、カプシド前駆体P1と、2Aペプチドとを含む。
【0045】
さらに好ましい実施形態では、本発明のバキュロウイルス発現ベクターは、FMDVカプシド前駆体タンパク質を切断することができるプロテアーゼをコードする核酸配列をさらに含む。プロテアーゼは、FMDV空カプシドを生成するために、カプシドの生成および集合の工程としてFMDVカプシド前駆体タンパク質を切断することができる任意のプロテアーゼであり得る。上述のように、FMDVでは、前駆体P1からVP0(VP2+VP4)、VP3およびVP1へのタンパク質分解プロセシングは、ウイルス3Cプロテアーゼまたはその前駆体3CDによって起こる。したがって、プロテアーゼは、FMDVの3Cプロテアーゼであることが好ましい。FMDV A型株由来のFMDV野生型3Cプロテアーゼの配列は当技術分野で記載されており、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる国際公開第2011/048353号に開示されている。3Cプロテアーゼはまた、そのタンパク質分解活性を低下させる1つ以上の変異、例えば、システイン142での変異を含む機能性誘導体であり得る。
【0046】
さらに好ましい実施形態では、第1の態様のバキュロウイルス発現ベクターは、(i)FMDVカプシド前駆体の核酸配列と、(ii)翻訳エンハンサーSyn21と、(iii)翻訳エンハンサーP10UTRと、(iv)プロテアーゼの核酸配列とを含むヌクレオチド配列であり得る。(i)FMDVカプシド前駆体および(iv)プロテアーゼのヌクレオチド配列は、好ましくは連続的に配置される。核酸配列(i)と(iv)との間に核酸配列が存在してもよい。参照によりその全体が本明細書に組み込まれる国際公開第2011/048353号に記載されているような制御エレメントなどの制御エレメントが、プロテアーゼの発現を制御するがカプシド前駆体タンパク質の発現を制御するかまたはそれに影響を与えないように、その配列に存在してもよい。
【0047】
カプシド前駆体タンパク質は、空カプシド(の一部)を形成するようにプロテアーゼによって切断可能であり得る。前駆体タンパク質は、空カプシドを形成するのに必要なあらゆるタンパク質を含み得る。
【0048】
カプシド前駆体タンパク質は、3CプロテアーゼによってVP0、VP3およびVP1に切断されるP1であり得る。あるいは、カプシド前駆体タンパク質はP1-2Aであり得る。2Aペプチドは、そのC末端でそれ自体を切断して、任意の下流タンパク質配列からP1-2Aを放出する。最も好ましくは、バキュロウイルス発現系は、P1-2A-3Cカセットを発現し、すなわち、タンパク質P1、2Aおよび3Cのコード領域を同時に発現する。P1-2A-3Cカセットでは、3C酵素の発現により、VLPに集合する構造タンパク質へのP1-2A前駆体の発現およびプロセシングが可能になる。カプシド前駆体タンパク質およびプロテアーゼは、個々のプロモーターの制御下または同じプロモーターの制御下で、発現され得る。例えば、カプシド前駆体タンパク質は、本明細書に記載の第1のプロモーターの制御下で発現され得、遺伝子発現は、Syn21およびp10UTR翻訳エンハンサーによって調節され、プロテアーゼは、第1のプロモーターとは異なり得る別個の(第2の)プロモーターの制御下で発現される。
【0049】
カプシド前駆体タンパク質またはVLPの切断は、当技術分野で公知の技術を使用して分析され得る。例えば、バキュロウイルス感染宿主細胞からの抽出物は、ゲル電気泳動によって分離され得、分離されたタンパク質は、ウエスタンブロッティングのためにニトロセルロースメンブランに転写され得る。タンパク質特異的抗体によるウエスタンブロッティングにより、プロテアーゼ媒介性切断の程度が明らかにされるはずである。例えば、FMDVの場合、プロセシングされていないカプシド前駆体タンパク質(P1-2A)は、約81kDaのバンドとして現れ、切断により、VP3-1(約47kDa)、VP0(約33kDa)、VP2(約22kDa)、VP3(約24kDa)および/またはVP1(約24kDa)が産生され得る。
【0050】
宿主細胞
第2の態様では、本発明は、本発明の第1の態様によるバキュロウイルス発現ベクターを含む宿主細胞を提供する。さらなる実施形態では、宿主細胞は、カプシド前駆体タンパク質を産生することができ、好ましくはFMDV VLPを産生することができる。
【0051】
宿主細胞は、例えば、細菌細胞、昆虫細胞、植物細胞または哺乳動物細胞であり得る。好ましくは、宿主細胞は、昆虫細胞、例えば、Sf9細胞(スポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)Sf21細胞のクローン単離物)またはTni細胞(イラクサギンウワバ(Trichoplusia ni)から単離された卵巣細胞)である。最も好ましくは、宿主細胞は、Tni細胞、またはTnao38細胞などのTni由来細胞株である。
【0052】
ウイルス様粒子の産生方法
第3の態様では、本発明は、FMDVカプシド前駆体タンパク質を産生する方法を提供する。あるいは、本発明は、FMDV VLPを産生する方法を提供する。第3の態様による方法は、
(i)第2の態様による宿主細胞に、第1の態様によるバキュロウイルス発現ベクターを感染させる工程、および
(iia)宿主細胞によって産生されたFMDVカプシド前駆体タンパク質を採取する工程、または
(iib)宿主細胞によって産生されたFMDV VLPを採取する工程、
を含む。
【0053】
したがって、方法は、カプシド前駆体タンパク質を産生するために、宿主細胞がバキュロウイルス発現ベクターからカプシド前駆体タンパク質を発現するのに適した条件下で宿主細胞を培養することを含む。上記のように、バキュロウイルス発現構築物がカプシド前駆体タンパク質の切断が可能なプロテアーゼをさらに発現する場合、FMDV VLPが宿主細胞によって産生され得る。VLPが宿主細胞によって放出される場合、それらは細胞培養培地から採取され得る。空のウイルスカプシドが宿主細胞の内部に保持されている場合、それらは、例えば、
(i)宿主細胞の溶解(例えば、凍結融解による);ならびに任意に、
(ii)濃縮(例えば、PEG沈殿による)、および/または
(iii)精製、
によって採取され得る。
【0054】
ワクチンおよびその生成
本発明は、ワクチンの生成に使用されるFMDV VLPの産生にさらに関する。
【0055】
したがって、本発明はまた、ワクチンを生成する方法であって、第3の態様による方法によってFMDV VLPを産生する工程と、例えば、薬学的に許容される担体を加えることによってFMDV VLPをワクチンに組み込む工程とを含む方法を提供する。
【0056】
薬学的に許容される担体は、当技術分野で周知である。単なる例として、そのような担体は、滅菌水、またはPBSなどの緩衝液と同じくらい単純であり得る。ワクチンは、単一の担体、または2つ以上の担体の組合せを含み得る。ワクチンはまた、1つ以上の薬学的に許容される希釈剤、アジュバントおよび/または賦形剤を含み得る。ワクチンはまた、別の活性剤、例えば、ワクチン接種実体によって誘導される適応免疫応答の前に早期保護を刺激し得るものを含み得るか、または発現させることができ得る。作用物質は、I型インターフェロンなどの抗ウイルス剤であり得る。代替的にまたはそれに加えて、作用物質は、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)であり得る。
【0057】
ワクチンは、既存のFMDV感染を処置するために(特にウイルスが流行している集団または地域で)処置的に使用され得るが、好ましくは、FMDV感染の可能性を阻止もしくは低減するため、および/または疾患を拡大する可能性を防止もしくは低減するために、予防的に使用される。
【0058】
多くの市販のFMDワクチンは、様々なFMD血清型に対する防御を提供するために多価である。同様に、本発明のワクチンは、各々が所与の血清型内の異なる血清型および/または異なるサブタイプを対象とする複数のワクチン接種実体を含み得る。
【0059】
処置
本発明はまた、本発明のワクチンの有効量の投与によってFMDVによる感染から対象を保護する方法を提供する。
【0060】
FMDでは、対象は、偶蹄類であり得る。FMDに感染しやすい動物には、家畜の中ではウシ、ヒツジ、ブタおよびヤギ、ならびにラクダ科動物(ラクダ、ラマ、アルパカ、グアナコおよびビクーニャ)が含まれる。一部の野生動物、例えば、ハリネズミ、ヌートリア、ならびに任意の野生の偶蹄類、例えば、シカ、およびゾウを含む動物園動物もFMDに感染しやすい。
【0061】
投与
本発明は、本発明によるワクチンの有効量の動物への少なくとも1回の投与を意図する。ワクチンは、任意の局所投与方法または全身投与方法を含む、当技術分野で公知の任意の方法で投与することができる。投与は、例えば、抗原を筋肉組織(筋肉内、IM)に、真皮(皮内、ID)に、皮膚の下(皮下、SC)に、粘膜の下(粘膜下、SM)に、静脈(静脈内、IV)に、体腔(腹腔内、IP)に投与すること、経口、肛門投与することなどによって行うことができる。現在のワクチンの場合、IM、IDおよびSC投与が好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0062】
図1】本発明に従って使用するためのDNA構造を概略的に示す。
図2】本発明を使用する場合の収率を様々な方法で表す。
図3】本発明を使用する場合の収率を示すウエスタンブロットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0063】
[実施例]
本発明は、以下の非限定的な実施例によってさらに説明され、これらの実施例は、本発明を実施する際に当業者を支援するのに役立つように意図されている。
【0064】
「Opt1」バキュロウイルス構築物
市販の標準的なバキュロウイルストランスファーベクターpFastBac(登録商標)(Thermo Fisher Scientific,Germany)では、目的の遺伝子(GOI)の転写は、ポリヘドリン(polh)プロモーターによって促進される。得られたmRNAは、SV40 3’UTRを含有する。
【0065】
このmRNAの翻訳が改善され得るかどうかを調査するために、SV40 3’UTRを、オートグラファ・カリフォルニカ核多角体病ウイルス(AcNPV)p10遺伝子(P10UTR)由来の3’-UTRに置換した。さらに、mRNAの5’UTRに、および、FMDVカプシド前駆体タンパク質をコードするオープンリーディングフレーム(ORF)のすぐ前に、Syn21翻訳エンハンサーを配置した。発現カセットの得られた改変を「Opt1」と命名した(図1B)。標準的な発現カセットからのFMDVカプシド前駆体タンパク質の発現と、「Opt1」発現カセットからのFMDVカプシド前駆体タンパク質の発現とを比較した。
【0066】
当技術分野で周知の標準的なクローニング手順によって、実施例1で使用した発現カセットO/TUR/5/09 VP2-S93Fおよび実施例2で使用した発現カセットA/IRN/7/13 VP2-H93Fのクローニングを行った。O/TUR/5/09 VP2-S93Fの発現カセットのヌクレオチド配列は、配列番号3の核酸配列に従う。発現カセットA/IRN/7/13 VP2-H93Fのヌクレオチド配列は、配列番号4の核酸配列に従う。
【0067】
[実施例1]
この実施例では、高収率を得るために、Opt1発現カセットからのO血清型のFMDVカプシド前駆体タンパク質の発現レベルと、標準的な発現カセットからの発現とを比較する。
【0068】
3.2×10細胞/mlのTni細胞を含有する100mlの三角フラスコに、O/TUR/5/09 VP2-S93Fに基づくP1-2A-3Cpro発現カセットを含有する組換えバキュロウイルスをMOI=1で感染させた。培養物を4dpiで採取し、細胞を遠心分離によって回収し、続いて、元の培養体積の1/10でTris-KCl pH8.0緩衝液中で超音波処理した。
【0069】
抗VP0モノクローナル抗体を使用するウエスタンブロッティングによって試料を分析した(Loureiro et al.,2018,https://wellcomeopenresearch.org/articles/3-88)。ウエスタンブロットの目視検査は、バキュロウイルスベクターのOpt1バージョンがFMDV関連タンパク質の収率に関して標準的なものよりもわずかに良好に機能することを示唆している。
【0070】
2つのバキュロウイルス構築物間の差を定量するために、インタクトなカプシド(75S/146S)、およびカプシドの五量体構成要素(12S)の両方を検出するモノクローナル抗体INT-FMA-01-08を使用してELISAを行った。このために、抗体によって4℃で一晩コーティングしたマイクロタイタープレート上で、連続希釈した試料を37℃で1時間インキュベートした。試料を除去し、PBS-Tweenを用いて3回洗浄した後、一定量のビオチン化INT-FMA-01-08抗体をプレートに加え、37℃で1時間インキュベートした。ビオチン化抗体を除去し、プレートをPBS-Tweenを用いて3回洗浄した後、ペルオキシダーゼコンジュゲートストレプトアビジンをプレートに加え、発色団検出を行った。
【0071】
ウエスタンブロッティングの結果を図2Aに示す。ELISAの結果を図2Bに示す。ELISAは、標準的な発現カセットと比較して、Opt1発現カセットではO血清型のFMDV関連タンパク質の1.4倍の発現の増加を示す。これは実質的ではないように思われる可能性があるが、産生操作に典型的には5日間かかるという事実を考慮すると、これは、他の発現カセットを使用する場合の約15日間(3回の操作)と比較して、Opt1発現カセットを使用して10日間(2回の操作)で同量の抗原を作製することができることを意味する。
【0072】
[実施例2]
この実施例では、Opt1発現カセットからのA血清型のFMDVカプシド前駆体タンパク質の発現レベルと、標準的な発現カセットからの発現とを比較する。
【0073】
A/IRN/7/13 VP2-H93Fに基づく発現カセットを使用したこと以外は、実施例1に記載した通りに細胞の感染と細胞培養とを行った。
【0074】
実施例1に記載されるように、ウエスタンブロッティングによって試料を分析した。ウエスタンブロットの目視検査は、バキュロウイルスベクターのOpt1バージョンが、FMDV関連タンパク質の収率に関して標準的なものよりも良好に機能することを示唆している。
【0075】
ウエスタンブロッティングの結果を図3に示す。バンド強度に基づいて、A血清型のFMDV関連タンパク質の発現の増加は、標準的な発現カセットと比較して、Opt1発現カセットでは3倍であると推定される。
【0076】
[実施例3]
この実施例では、Opt1発現カセット内のSyn21およびP10UTR翻訳エンハンサーから得られた発現レベルと、市販の系(TopBac(登録商標)、Algenex)とを比較した。TopBac(登録商標)発現ベクターでは、発現はポリヘドリン(polh)プロモーター、およびp10キメラプロモーターに機能的にシス連結された相同反復(hr)転写エンハンサー配列の制御下で達成される。TopBac(登録商標)発現ベクターは、標準的なバキュロウイルスベクターと比較して、組換えモデルタンパク質(緑色蛍光タンパク質、GFP)の産生収率の最大4倍の増加を達成すると記載された(Lopez-Vidal,J.et al,PLoS ONE 10(10):e0140039)。
【0077】
細胞の感染と細胞培養とを実施例1に記載されるように行った。
【0078】
実施例1に記載されるように、ウエスタンブロッティングによって細胞および上清を分析した。ウエスタンブロットの目視検査は、バキュロウイルスベクターのOpt1バージョンが、FMDV関連タンパク質の収率に関して市販のTopBac(登録商標)ベクターの両方よりも優れていることを示唆している。
【0079】
2つの構築物間の差をさらに良好に定量するために、実施例1に記載されるようにELISAを行った。
【0080】
ELISAデータにより、Opt1発現ベクターがTopBac(登録商標)ベクターよりも全体的に高いタンパク質収率をもたらすという点でウエスタンブロットの結果が確認された。実際に、TopBac(登録商標)ベクターは、GFPのような他の多くのタンパク質では成功しているが、Opt1発現ベクターのFMDV P1-2A-3Cproカセットの高レベルの発現を達成しない(以下の表1を参照)。
【0081】
【表1】
【0082】
結論
2つの異なる血清型OおよびAに属する2つのFMDV株では、標準的な発現系と比較して、Syn21およびP10UTR翻訳エンハンサーを含むOpt1バキュロウイルス構築物を使用することによって、FMDVタンパク質発現レベルの増加が得られた。驚くべきことに、Opt1バキュロウイルス発現ベクターを使用することによる発現レベルの増加は、他の翻訳エンハンサーを含有し、発現レベルおよびタンパク質収率の増加を達成することが当技術分野で記載されている市販の系と比較しても達成された。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
【配列表】
2023549460000001.app
【国際調査報告】