(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-27
(54)【発明の名称】活性化された免疫細胞の細胞表面抗原およびその多様な用途
(51)【国際特許分類】
C12N 15/12 20060101AFI20231117BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20231117BHJP
A61K 35/15 20150101ALI20231117BHJP
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A61P 11/06 20060101ALI20231117BHJP
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C12Q 1/686 20180101ALI20231117BHJP
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G01N 33/15 20060101ALI20231117BHJP
【FI】
C12N15/12
A61K35/17 ZNA
A61K35/15
A61P37/02
A61P37/06
A61P11/06
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A61P29/00
A61P29/00 101
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A61P1/04
A61P5/00
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A61P9/10
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A61P25/14
A61P25/16
C07K14/705
C07K16/28
C07K16/46
C12N5/078
C12Q1/02
C12Q1/6813 Z
C12Q1/6851 Z
C12Q1/686 Z
G01N33/53 M
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023524461
(86)(22)【出願日】2021-10-21
(85)【翻訳文提出日】2023-04-20
(86)【国際出願番号】 KR2021014765
(87)【国際公開番号】W WO2022086197
(87)【国際公開日】2022-04-28
(31)【優先権主張番号】10-2020-0137432
(32)【優先日】2020-10-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518426066
【氏名又は名称】グッド ティー セルズ、 インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム、ポム ソク
(72)【発明者】
【氏名】キム、チュン ホ
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4B065
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
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4H045AA10
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4H045DA75
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4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、免疫細胞の表面に特異的に存在する細胞表面抗原であるLrig1(leucine-rich and immunoglobulin-like domains 1)タンパク質とその多様な用途に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Lrig1タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子からなる、活性化された免疫細胞の細胞表面抗原。
【請求項2】
前記免疫細胞は、T細胞、B細胞、NK細胞、リンパ球細胞(Innate lymphoid cell)、樹状細胞(Dendritic cell)、好中球(Neutrophil)、好酸球(Eosinophil)、好塩基性顆粒球(Basophil)、大食細胞(Macrophage)および肥満細胞(mast cell)からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の活性化された免疫細胞の細胞表面抗原。
【請求項3】
Lrig1タンパク質;またはこれを暗号化する遺伝子を含む免疫細胞を有効成分として含む免疫関連疾患の予防または治療用薬学組成物。
【請求項4】
前記免疫細胞は、T細胞、B細胞、NK細胞、リンパ球細胞、樹状細胞、好中球、好酸球、好塩基性顆粒球、大食細胞および肥満細胞からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項3に記載の薬学組成物。
【請求項5】
前記免疫関連疾患は、自己免疫疾患、移植片対宿主疾患、臓器移植拒絶反応、喘息、アトピー、および急性または慢性の炎症疾患からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項3に記載の薬学組成物。
【請求項6】
前記自己免疫疾患は、リウマチ性関節炎、全身性強皮症、全身性エリテマトーデス、アトピー皮膚炎、乾癬、円形脱毛症、喘息、クローン病、ベーチェット病、シェーグレン症侯群、ギラン・バレー症侯群、慢性甲状腺炎、多発性硬化症、多発性筋炎、強直性脊椎炎、線維筋痛症および結節性多発性動脈炎からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項5に記載の薬学組成物。
【請求項7】
Lrig1タンパク質;またはこれを暗号化する遺伝子を含む免疫細胞を有効成分として含む癌の予防または治療用薬学組成物。
【請求項8】
前記免疫細胞は、T細胞、B細胞、NK細胞、リンパ球細胞、樹状細胞、好中球、好酸球、好塩基性顆粒球、大食細胞および肥満細胞からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項7に記載の薬学組成物。
【請求項9】
前記癌は、胃癌、肝臓癌、膠細胞腫、卵巣癌、大腸癌、頭頸部癌、膀胱癌、腎細胞癌、乳癌、転移癌、前立腺癌、膵臓癌、黒色腫および肺癌からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項7に記載の薬学組成物。
【請求項10】
Lrig1タンパク質;またはこれを暗号化する遺伝子を含む免疫細胞を有効成分として含む神経退行性疾患または神経炎症性疾患の予防または治療用薬学組成物。
【請求項11】
前記免疫細胞は、T細胞、B細胞、NK細胞、リンパ球細胞、樹状細胞、好中球、好酸球、好塩基性顆粒球、大食細胞および肥満細胞からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項10に記載の薬学組成物。
【請求項12】
前記神経退行性疾患または神経炎症性疾患は、脳卒中、認知症、アルツハイマー病(Alzheimer’s disease)、パーキンソン病(Parkinson’s disease)、ハンチントン病(Huntington’s disease)、ニーマン・ピック病(Niemann-Pick disease)、プリオン病(prion disease)、クロイツフェルト・ヤコブ病(Creutzfeldt-Jakob disease)、前頭側頭型認知症、レビー小体型認知症、筋萎縮性側索硬化症(AlzAmyotrophic lateral sclerosis)、傍腫瘍性神経症候群(Paraneoplastic syndrome)、皮質基底核変性症、多系統萎縮病、進行性核上麻痺、神経系自己免疫疾患、脊髄小脳変性症(spinocerebellar ataxia)、炎症性および神経病症性痛症、脳血管疾患、脊髄損傷(spinal cord injury)およびタウオパチー(tauopathy)からなる群より選択される、請求項10に記載の薬学組成物。
【請求項13】
免疫細胞の表面に存在するLrig1タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子の発現レベルを測定する製剤を含む免疫関連疾患の診断用組成物。
【請求項14】
前記免疫細胞は、T細胞、B細胞、NK細胞、リンパ球細胞、樹状細胞、好中球、好酸球、好塩基性顆粒球、大食細胞および肥満細胞からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項13に記載の診断用組成物。
【請求項15】
請求項13および14のいずれか1項に記載の診断用組成物を含む免疫関連疾患の診断用キット。
【請求項16】
目的とする個体から分離された生物学的試料において免疫細胞のLrig1タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子の発現レベルを測定するステップを含む免疫関連疾患を診断するための情報提供方法。
【請求項17】
免疫細胞の表面に存在するLrig1タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子の発現レベルを測定する製剤を含む癌の診断用組成物。
【請求項18】
前記免疫細胞は、T細胞、B細胞、NK細胞、リンパ球細胞、樹状細胞、好中球、好酸球、好塩基性顆粒球、大食細胞および肥満細胞からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項17に記載の診断用組成物。
【請求項19】
請求項17および18のいずれか1項に記載の診断用組成物を含む癌の診断用キット。
【請求項20】
目的とする個体から分離された生物学的試料において免疫細胞のLrig1タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子の発現レベルを測定するステップを含む癌を診断するための情報提供方法。
【請求項21】
免疫細胞の表面に存在するLrig1タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子の発現レベルを測定する製剤を含む神経退行性疾患または神経炎症性疾患の診断用組成物。
【請求項22】
前記免疫細胞は、T細胞、B細胞、NK細胞、リンパ球細胞、樹状細胞、好中球、好酸球、好塩基性顆粒球、大食細胞および肥満細胞からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項21に記載の診断用組成物。
【請求項23】
請求項21および22のいずれか1項に記載の診断用組成物を含む神経退行性疾患または神経炎症性疾患の診断用キット。
【請求項24】
目的とする個体から分離された生物学的試料において免疫細胞のLrig1タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子の発現レベルを測定するステップを含む神経退行性疾患または神経炎症性疾患を診断するための情報提供方法。
【請求項25】
Lrig1に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片;および免疫細胞表面マーカーに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片を含む二重特異抗体を有効成分として含む免疫関連疾患の予防または治療用薬学組成物。
【請求項26】
Lrig1に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片;および免疫細胞表面マーカーに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片を含む二重特異抗体を有効成分として含む癌の予防または治療用薬学組成物。
【請求項27】
Lrig1に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片;および免疫細胞表面マーカーに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片を含む二重特異抗体を有効成分として含む神経退行性疾患または神経炎症性疾患の予防または治療用薬学組成物。
【請求項28】
Lrig1および免疫細胞表面マーカーに特異的に結合する二重特異抗体または抗原結合断片;および薬物を含む抗体-薬物結合体を有効成分として含む免疫関連疾患の予防または治療用薬学組成物。
【請求項29】
Lrig1および免疫細胞表面マーカーに特異的に結合する二重特異抗体または抗原結合断片;および薬物を含む抗体-薬物結合体を有効成分として含む癌の予防または治療用薬学組成物。
【請求項30】
Lrig1および免疫細胞表面マーカーに特異的に結合する二重特異抗体または抗原結合断片;および薬物を含む抗体-薬物結合体を有効成分として含む神経退行性疾患または神経炎症性疾患の予防または治療用薬学組成物。
【請求項31】
分離された生物学的試料においてLrig1タンパク質;またはこれを暗号化する遺伝子の発現レベルを測定するステップを含む活性化された免疫細胞を分離する方法。
【請求項32】
分離された生物学的試料においてLrig1タンパク質;またはこれを暗号化する遺伝子の発現レベルを測定して活性化された免疫細胞を分離するステップと、
前記活性化された免疫細胞を培養するステップと、を含む活性化された免疫細胞を培養する方法。
【請求項33】
分離された生物学的試料の兔疫細胞において、Lrig1タンパク質;またはこれを暗号化する遺伝子の発現レベルを測定するステップを含む免疫関連疾患の細胞治療剤をスクリーニングする方法。
【請求項34】
分離された生物学的試料の兔疫細胞において、Lrig1タンパク質;またはこれを暗号化する遺伝子の発現レベルを測定するステップを含む癌の細胞治療剤をスクリーニングする方法。
【請求項35】
分離された生物学的試料の兔疫細胞において、Lrig1タンパク質;またはこれを暗号化する遺伝子の発現レベルを測定するステップを含む神経退行性疾患または神経炎症性疾患の細胞治療剤をスクリーニングする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性化された免疫細胞、例えば、エフェクターT細胞のような他の種類の免疫細胞に対する抑制機能が活性化された免疫細胞の表面に存在する細胞表面抗原であるLrig1(leucine-rich and immunoglobulin-like domains 1)タンパク質とその多様な用途に関する。
【背景技術】
【0002】
癌は、現在全世界的に最も多くの死亡者を出している疾病の一つであって、平均寿命の延長と癌発生年齢の低下により癌発生率は増加し続ける傾向にある。韓国の国立癌センター(National Cancer Center)で提供する2013年の統計資料によれば、2010年に癌登録統計課に登録された韓国の癌発生患者は計202,053人であり、引き続き増加傾向にある。
【0003】
前記癌が固形臓器に発生した場合には伝統的に外科的切除術によって治療している。しかし、患部があまりにも大きかったり、固形臓器でない部位に癌が発生した場合には外科的切除術が不可能で、経口または注射剤などを用いた抗癌化学療法(Chemotherapy)が使用された。前記抗癌化学療法に使用される抗癌剤は、癌が主に細胞シグナル伝達体系に含まれたリン酸活性因子タンパク質の過発現などによって細胞シグナル伝達体系を撹乱させるタンパク質に効果的に結合して、タンパク質の活性を抑制する用途で開発されて使用された。しかし、このような方式の抗癌化学療法は、髪の毛のような細胞周期の早い正常細胞の成長を阻害したり、口腔乾燥、口内炎、悪心、嘔吐、下痢、好中球減少症などのような多様な副作用を引き起こしうるという問題点が存在する。これによって、癌に関連する多様な生体内分子を同定し、これを標的とする薬物を開発する努力が進められてきており、このような薬物の一部を組み合わせて癌治療効果を増進させようとする努力が試みられている。したがって、癌に関連する転写因子のような標的分子を追加的に発掘する努力は非常に重要といえる。
【0004】
一方、すべての正常個体において最も重要な特性は、自己(self)を構成している抗原物質に対しては有害に反応しないのに対し、非-自己(non-self)抗原に対してはこれを認識し除去できる能力を有することである。このように自己抗原に対する生体の無反応を免疫学的無反応性(immunologic unresponsiveness)または寛容(tolerance)という。自己寛容は、自己抗原の特異的な受容体を有するかも知れないリンパ球を除去することにより、または自己抗原に接した後、自ら反応する機能が不活性化されることにより発生する。自己寛容を誘導したり維持し続ける上で問題が生じると自己抗原に対して免疫反応が起こり、これによってもたらされる疾患を自己免疫疾患(autoimmune disease)という。
【0005】
かつてはアルツハイマー病(Alzheimer’s disease;AD)、パーキンソン病(Parkinson’s disease;PD)、筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic lateral sclerosis;ALS)のような神経系退行性疾患の病理所見上観察される神経膠細胞(neuroglial cell)の増殖と免疫-炎症に関連する細胞および免疫媒介物質の浸潤などは、神経細胞の破壊による非特異的二次的現象としてのみ受け入れられてきた。しかし、分子生物学の発展により免疫-炎症機序(immune-inflammatory mechanism)に重要な役割を果たす細胞の表皮指標に対する同定が可能になり、免疫-炎症媒介物質の正体および機能が究明されたことにより、免疫-炎症機序が神経系損傷に対する非特異的二次的反応だけでなく、神経系退行性疾患の進行経過中の初期から関与することもでき、病理現象の緩急を調節し、神経細胞の生存および死滅に積極的に関与するという証拠が提示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の一つの目的は、免疫細胞の細胞表面抗原を提供しようとする。
【0007】
本発明の他の目的は、免疫細胞、好ましくは、活性化された免疫細胞の細胞表面抗原であるLrig1(leucine-rich and immunoglobulin-like domains 1)遺伝子によって暗号化されるタンパク質;またはその細胞外ドメインを含む免疫細胞を有効成分として含む多様な疾患の予防、改善または治療用組成物を提供しようとする。
【0008】
本発明のさらに他の目的は、免疫細胞、好ましくは、活性化された免疫細胞の細胞表面抗原であるLrig1遺伝子;またはこれによって暗号化されるタンパク質の発現レベルを測定できる製剤を用いて多様な疾患を診断する方法を提供しようとする。
【0009】
本発明のさらに他の目的は、Lrig1に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片;および免疫細胞の表面マーカーに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片を含む二重特異抗体を有効成分として含む多様な疾患の予防または治療用薬学組成物を提供しようとする。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、本発明による前記抗体またはその抗原結合断片;および薬物を含む抗体-薬物結合体を有効成分として含む多様な疾患の予防または治療用薬学組成物を提供しようとする。
【0011】
本発明のさらに他の目的は、Lrig1タンパク質;またはこれを暗号化する遺伝子の発現レベルの変化を確認して、免疫細胞、好ましくは、活性化された免疫細胞を分離する方法を提供しようとする。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、活性化された免疫細胞を培養する方法を提供しようとする。
【0013】
本発明のさらに他の目的は、兔疫細胞においてLrig1タンパク質;またはこれを暗号化する遺伝子の発現レベルの変化を確認して、多様な疾患の予防、改善または治療のための細胞治療剤をスクリーニングする方法を提供しようとする。
【0014】
しかし、本発明が解決しようとする技術的課題は以上に言及した課題に制限されず、言及されていないさらに他の課題は以下の記載から当業界における通常の知識を有する者に明確に理解されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0015】
1.細胞表面抗原
本発明の一実施形態によれば、Lrig1(leucine-rich and immunoglobulin-like domains 1)の免疫細胞の細胞表面抗原に関する。
【0016】
具体的には、本発明の前記細胞表面抗原は、Lrig1タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子からなる、活性化された免疫細胞の細胞表面抗原である。
【0017】
本発明の前記免疫細胞は、T細胞、B細胞、NK細胞、リンパ球細胞(Innate lymphoid cell)、樹状細胞(Dendritic cell)、好中球(Neutrophil)、好酸球(Eosinophil)、好塩基性顆粒球(Basophil)、大食細胞(Macrophage)および肥満細胞(mast cell)からなる群より選択される少なくとも1つであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0018】
本発明の前記T細胞は、エフェクターT細胞であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0019】
本発明の前記エフェクターT細胞は、Th1、Th2、Th17およびTh22からなる群より選択される少なくとも1つであってもよい。
【0020】
本発明において、前記「Lrig1」は、活性化された免疫細胞、例えば、抑制活性が活性化された多様な免疫細胞の表面に存在できる1091個のアミノ酸からなる膜貫通タンパク質であって、細胞外あるいはルーメン側のロイシン反復配列(leucine-rich repeat(LRR))と3つの免疫グロブリン様ドメイン(immunoglobulin-like domains)、細胞膜貫通配列および細胞質尾部から構成されている。LRIG遺伝子ファミリーは、LRIG1、LRIG2とLRIG3が存在し、これらの間のアミノ酸は非常に保全的に構成されている。前記LRIG1遺伝子は、正常皮膚で高く発現しており、基底および毛嚢細胞に発現して上皮幹細胞の増殖を調節することができる。したがって、表皮の恒常性の維持に重要な役割を果し、不存在の時、乾癬や皮膚癌に発展しうる。LRIG1が位置した染色体3p14.3部分が切断される場合には、癌細胞に発展する可能性があることが報告されており、実際に、腎臓癌(renal cell carcinoma)と扁平上皮癌(cutaneous squamous cell carcinoma)ではLRIG1の発現が非常に減少していることが確認された。
【0021】
本発明の目的上、前記Lrig1タンパク質は、ヒトまたはネズミに存在するタンパク質であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0022】
本発明において、前記Lrig1タンパク質は、ヒト由来の配列番号1で表されるポリペプチドであるか、マウス由来の配列番号3で表されるポリペプチドであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0023】
本発明において、前記配列番号1で表されるLrig1タンパク質は、配列番号2で表されるポリヌクレオチドによって暗号化されるものであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0024】
本発明において、前記配列番号3で表されるLrig1タンパク質は、配列番号4で表されるポリヌクレオチドによって暗号化されるものであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0025】
本発明において、前記Lrig1は、前記免疫細胞、例えば、エフェクターT細胞のような他の種類の免疫細胞に対する抑制機能が活性化された免疫細胞の表面に特異的に存在する抗原で、好ましくは、Lrig1が発現した免疫細胞では、制御性T細胞(Regulatory T cell;Treg)におけるような抑制効果が発揮されるものであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0026】
本発明の前記「Th1細胞」は、CD4+細胞の類型で、適応免疫システムに重要な役割を果たす。具体的には、標的細胞の行動を変化させるサイトカインを放出することにより、他の免疫細胞の活動を補助する細胞を意味する。本発明の目的上、Th1細胞の表面にLrig1が発現した場合、Th1細胞は、固有の機能を脱して、制御性T細胞のように他のエフェクターT細胞を抑制する抑制機能が活性化されたものであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0027】
本発明の前記「Th2細胞」は、CD4+T細胞のうち、刺激によってインターロイキン(IL)4、IL-5、IL-6、IL-13などを分泌し、TH1ヘルパーT細胞が分泌するインターフェロンγ、IL-2などのサイトカインを分泌しないヘルパーT細胞の亜集団を意味する。本発明の目的上、Th2細胞の表面にLrig1が発現した場合、Th2細胞は、固有の機能を脱して、制御性T細胞のように他のエフェクターT細胞を抑制する抑制機能が活性化されたものであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0028】
本発明の前記「Th17細胞」は、炎症前のヘルパーT細胞中でインターロイキン17を生成する集団を意味する。このようなTh17細胞は、病原体から身を守る適応免疫において重要な役割を果し、他のヘルパーT細胞と同じく、病原体に反応するにあたり、B細胞、例えば、CXCL13ケモカインシグナル伝達によりB細胞の補強に関連づけられ、Th17細胞の活性は、抗体の形成に役立つことができる。特に、前記Th17細胞は、サイトカインの微細環境および炎症状況に依存的に可塑性(plasticity)が存在して、その表現型と機能が変化可能である。
【0029】
本発明の前記「Th17細胞」は、分子レベルで、作動因子サイトカイン、IL-17A、IL-17F、IL-26、IL-22、IL-21およびTNFαの個別プロファイルの生成によって特徴化され、その発展、生存および増殖においてIL-23に依存する。このようなサイトカインは、ケラチノサイトのような異なる類型の細胞を活性化させて、その過増殖および前炎症性サイトカイン、ケモカインおよび抗菌性ペプチドの追加的な生成を引き起こし、これは炎症性皮膚において他の免疫細胞を順に募集および活性化させて、炎症性反応の増幅を引き起こす。さらに、IL-17AおよびIL-17Fは、Th17細胞の分化を促進および維持すると見なされるIL-17生成の自己分泌調節を引き起こす(Wei et al.2007,J Biol.Chem.,September20)。IL-17はまた、基質細胞内のTh17細胞の特徴化された受容体のリガンドであるCCL20の上方調節を誘導して、追加的な細胞を炎症性組織に導くことを可能にする。Th17細胞への純粋なCD4 T細胞分化のシグナル化経路は、TGFb-1とIL-21、IL-lbおよびIL-23またはIL-lb、IL-23およびIL-6との組み合わせが要求され、これはTh17細胞の分化を促進し、次いで、IL-17AおよびIL-17Fの発現を上方調節する2つの転写因子である、レチノイド-関連オーファン受容体(RORC)およびレチノイド酸-関連オーファン受容体アルファ(RORA)の発現を誘導する(Chung Y et al.Critical regulation of early Th17 cell differentiation by interleukin-1 signaling.Immunity2009;30:576-87,Veldhoen M、Hocking RJ,Atkins CJ,Locksley RM,Stockinger B.and Immunity2006Feb;24(2):179-89)。本発明の目的上、前記Th17細胞の表面にLrig1が発現した場合、Th17細胞は、固有の機能を脱して、制御性T細胞のような他のエフェクターT細胞を抑制する抑制機能が活性化されたものであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0030】
本発明の前記「Th22細胞」は、ヘルパーT細胞サブセットであって、IL-22を特徴的に生産する機能を行う。特に、Th22細胞は、IL-17およびINF-gammmaが存在しない場合に特異的にIL-22を発現できるようにする特徴を有する。本発明の目的上、Th22細胞の表面にLrig1が発現した場合、Th22細胞は、固有の機能を脱して、制御性T細胞のように他のエフェクターT細胞を抑制する抑制機能が活性化されたものであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0031】
本発明の前記「細胞表面抗原」とは、細胞の表面に存在する分子であって、細胞を特異的に同定したり、その細胞固有の機能を発揮するのに受容体を活性化させる分子として作用できることを意味する。このような細胞表面抗原の例としては、多様な細胞表面抗原の群(cluster of differentiation;CD)が存在し、本発明の前記細胞表面抗原は、単独または前記CDと共にまたは単独で免疫細胞、例えば、エフェクターT細胞のような他の種類の免疫細胞に対する抑制機能が活性化されている免疫細胞に存在するものであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0032】
2.細胞治療剤
本発明の2.細胞治療剤において、免疫細胞およびLrig1タンパク質に関連する内容は、上記の1.細胞表面抗原に記載されたものと同一であって、以下、その記載を省略する。
【0033】
本発明の前記「細胞治療剤」は、患者に直接注入する治療方法に使用される生きた細胞であって、生きた自己細胞、同種細胞または異種細胞を体外で培養、増殖したり選別するなどの物理的、化学的または生物学的方法で操作して製造する医薬品を意味する。
【0034】
本発明の前記「予防」は、動物の病理学的細胞の発生または細胞の損傷、消失の程度の減少を意味する。予防は、完全、または部分的であり得る。この場合には、個体内の病理学的細胞の発生または異常な免疫作用などが以下に記載される多様な疾患の予防および治療用組成物を使用しない場合と比較して減少する現象を意味することができる。
【0035】
本発明の前記「治療」は、治療しようとする対象または細胞の天然過程を変更させるために臨床的に介入するすべての行為を意味し、臨床病理状態が進行する間またはこれを予防するために行うことができる。目的とする治療効果は、疾病の発生または再発を予防したり、症状を緩和させたり、疾病によるすべての直接または間接的な病理学的結果を低下させたり、転移を予防したり、疾病の進行速度を減少させたり、疾病状態を軽減または一時的緩和させたり、予後を改善させることを含むことができる。すなわち、前記治療は、前記組成物によって、以下に記載される多様な疾患の症状が好転または完治するすべての行為を包括すると解釈される。
【0036】
本発明の前記細胞は、1×107~1×108、1×108~2×108、2×108~4×108、4×108~6×108、6×108~8×108、8×108~1×109、1×109~2×109、2×109~4×109、4×109~1×1010、2×108~6×108、6×108~1×109、1×108~2×108、2×108~2×109、1×107~1×108、1×108~1×109、1×109~1×1010または1×107~1×109個のいずれか1つの細胞/kgの投与量で投与できるが、これに限定されるものではない。
【0037】
本発明の前記薬学組成物は、カプセル、錠剤、顆粒、注射剤、軟膏剤、粉末または飲料形態であることを特徴とし、前記薬学組成物は、ヒトを対象にすることを特徴とする。
【0038】
本発明の前記薬学組成物はこれらに限定されるものではないが、それぞれ通常の方法によって、散剤、顆粒剤、カプセル、錠剤、水性懸濁液などの経口型剤形、外用剤、坐剤および滅菌注射溶液の形態に剤形化して使用できる。本発明の薬学組成物は、薬学的に許容可能な担体を含むことができる。薬学的に許容される担体は、経口投与時には、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、賦形剤、可溶化剤、分散剤、安定化剤、懸濁化剤、色素、香料などが使用され、注射剤の場合には、緩衝剤、保存剤、無痛化剤、可溶化剤、等張剤、安定化剤などが混合されて使用され、局所投与用の場合には、基剤、賦形剤、潤滑剤、保存剤などが使用されてもよい。本発明の薬学組成物の剤形は、上述のような薬剤学的に許容される担体と混合して多様に製造可能である。例えば、経口投与時には、錠剤、トローチ、カプセル、エリキシル(elixir)、サスペンション、シロップ、ウエハなどの形態に製造することができ、注射剤の場合には、単位投薬アンプルまたは複数回投薬形態に製造することができる。その他、溶液、懸濁液、錠剤、カプセル、徐放型製剤などに剤形化することができる。
【0039】
一方、製剤化に適した担体、賦形剤および希釈剤の例としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、デンプン、アカシアガム、アルギネート、ゼラチン、カルシウムホスフェート、カルシウムシリケート、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、マグネシウムステアレートまたは鉱物油などが使用できる。また、充填剤、抗凝集剤、潤滑剤、湿潤剤、香料、乳化剤、防腐剤などを追加的に含むことができる。
【0040】
本発明の前記薬学組成物の投与経路はこれらに限定されるものではないが、口腔、静脈内、筋肉内、動脈内、骨髓内、硬膜内、心臓内、経皮、皮下、腹腔内、鼻腔内、腸管、局所、舌下または直腸が含まれ、例えば、経口または非経口投与であってもよい。
【0041】
本発明の前記「非経口」とは、皮下、皮内、静脈内、筋肉内、関節内、滑液包内、胸骨内、硬膜内、病巣内および頭蓋骨内注射または注入技術を含む。本発明の目的上、前記薬学組成物は、腎臓に直接注射される方式で投与できるが、これに限定されるものではない。
【0042】
本発明の前記薬学組成物は、使用された特定化合物の活性、年齢、体重、一般的な健康、性別、定式、投与時間、投与経路、排出率、薬物配合および予防または治療される特定疾患の重症を含んだ様々な要因によって多様に変化可能であり、前記薬学組成物の投与量は、患者の状態、体重、疾病の程度、薬物形態、投与経路および期間によって異なるが、当業者によって適宜選択可能であり、1日0.0001~50mg/kgまたは0.001~50mg/kg投与することができる。投与は、1日に1回投与してもよく、数回分けて投与してもよい。前記投与量は、いかなる面でも本発明の範囲を限定するものではない。本発明による医薬組成物は、丸剤、糖衣錠、カプセル、液剤、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁剤に剤形化可能である。
【0043】
2-1.免疫関連疾患の予防または治療用薬学組成物
本発明の他の実施形態によれば、Lrig1タンパク質;またはこれを暗号化する遺伝子を含む免疫細胞を有効成分として含む免疫関連疾患の予防または治療用薬学組成物に関する。
【0044】
本発明で提供するLrig1タンパク質;またはこれを暗号化する遺伝子を含む免疫細胞は、固有の機能を脱して、他のエフェクターT細胞(effector T cells)に対する抑制能に優れて免疫関連疾患を効果的に予防または治療することができる。
【0045】
本発明において、前記「免疫関連疾患」は、多様な免疫細胞および炎症細胞の過度化された活性化および発現により誘導される疾患で、例えば、自己免疫疾患;移植片対宿主疾患;臓器移植拒絶反応;喘息;アトピー;または急性または慢性の炎症疾患などであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0046】
また、本発明において、前記「自己免疫疾患」は、リウマチ性関節炎、全身性強皮症、全身性エリテマトーデス、アトピー皮膚炎、乾癬、円形脱毛症、喘息、クローン病、ベーチェット病、シェーグレン症侯群、ギラン・バレー症侯群、慢性甲状腺炎、多発性硬化症、多発性筋炎、強直性脊椎炎、線維筋痛症および結節性多発性動脈炎からなる群より選択できるが、これに限定されるものではない。
【0047】
2-2.癌の予防または治療用薬学組成物
本発明のさらに他の実施形態によれば、Lrig1タンパク質;またはこれを暗号化する遺伝子を含む免疫細胞を有効成分として含む癌の予防または治療用薬学組成物に関する。
【0048】
本発明の前記Lrig1タンパク質;またはこれを暗号化する遺伝子を含む免疫細胞は、固有の機能を脱して、他のエフェクターT細胞の活性を調節することにより、多様な癌細胞の成長を効果的に抑制することができる。
【0049】
本発明の前記「癌」は、哺乳類において典型的に調節されない細胞の成長で特徴づけられた生理的状態を示すか、指す。本発明の前記予防、改善または治療の対象になる癌は、例えば、固形臓器(solid organ)で異常に細胞が成長して発生した塊からなる固形癌(solid tumor)であってもよく、固形臓器の部位によって、胃癌、肝臓癌、膠細胞腫、卵巣癌、大腸癌、頭頸部癌、膀胱癌、腎細胞癌、乳癌、転移癌、前立腺癌、膵臓癌、黒色腫および肺癌からなる群より選択される少なくとも1つであってもよいし、好ましくは、黒色腫または大腸癌であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0050】
2-3.神経退行性疾患または神経炎症性疾患の予防または治療用薬学組成物
本発明のさらに他の実施形態によれば、Lrig1タンパク質;またはこれを暗号化する遺伝子を含む免疫細胞を有効成分として含む神経退行性疾患または神経炎症性疾患の予防または治療用薬学組成物に関する。
【0051】
本発明で提供するLrig1タンパク質;またはこれを暗号化する遺伝子を含む免疫細胞は、他のエフェクターT細胞(effector T cells)の抑制能に優れて神経退行性疾患または神経炎症性疾患を効果的に予防または治療することができる。
【0052】
本発明において、前記「神経退行性疾患または神経炎症性疾患」は、脳卒中、認知症、アルツハイマー病(Alzheimer’s disease)、パーキンソン病(Parkinson’s disease)、ハンチントン病(Huntington’s disease)、ニーマン・ピック病(Niemann-Pick disease)、プリオン病(prion disease)、クロイツフェルト・ヤコブ病(Creutzfeldt-Jakob disease)、前頭側頭型認知症、レビー小体型認知症、筋萎縮性側索硬化症(AlzAmyotrophic lateral sclerosis)、傍腫瘍性神経症候群(Paraneoplastic syndrome)、皮質基底核変性症、多系統萎縮病、進行性核上麻痺、神経系自己免疫疾患、脊髄小脳変性症(spinocerebellar ataxia)、炎症性および神経病症性痛症、脳血管疾患、脊髄損傷(spinal cord injury)およびタウオパチー(tauopathy)からなる群より選択できるが、これに限定されるものではない。
【0053】
3.診断用組成物
本発明の3.診断用組成物において、免疫細胞およびLrig1タンパク質に関連する内容は、上記の1.細胞表面抗原に記載されたものと同一であって、以下、その記載を省略する。
【0054】
3-1.免疫関連疾患の診断用組成物
本発明のさらに他の実施形態によれば、免疫細胞の表面に存在するLrig1タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子の発現レベルを測定する製剤を含む免疫関連疾患の診断用組成物に関する。
【0055】
本発明において、前記Lrig1タンパク質の発現レベルを測定する製剤は特に限定しないが、例えば、前記タンパク質に特異的に結合する抗体、オリゴペプチド、リガンド、PNA(peptide nucleic acid)およびアプタマー(aptamer)からなる群より選択された1種以上を含むことができる。
【0056】
本発明において、前記「抗体」は、抗原と特異的に結合して抗原-抗体反応を起こす物質を指す。本発明の目的上、抗体は、前記Lrig1タンパク質に対して特異的に結合する抗体を意味する。本発明の抗体は、多クローン抗体、単クローン抗体および組換え抗体をすべて含む。前記抗体は、当業界に広く公知の技術を利用して容易に製造できる。例えば、多クローン抗体は、前記バイオマーカータンパク質の抗原を動物に注射し、動物から採血して抗体を含む血清を得る過程を含む当業界に広く公知の方法により生産できる。このような多クローン抗体は、ヤギ、ウサギ、ヒツジ、サル、ウマ、ブタ、ウシ、イヌなどの任意の動物から製造できる。また、単クローン抗体は、当業界に広く公知のハイブリドーマ方法(hybridoma method;KohlerおよびMilstein(1976)European Journal of Immunology6:511-519参照)、またはファージ抗体ライブラリー技術(Clackson et al,Nature,352:624-628,1991;Marks et al,J.Mol.Biol.,222:58,1-597,1991参照)を利用して製造できる。前記方法で製造された抗体は、ゲル電気泳動、透析、塩沈殿、イオン交換クロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィーなどの方法を用いて分離、精製される。また、本発明の抗体は、2個の全長の軽鎖および2個の全長の重鎖を有する完全な形態だけでなく、抗体分子の機能的な断片を含む。抗体分子の機能的な断片とは、少なくとも抗原結合機能を保有している断片を意味し、Fab、F(ab’)、F(ab’)2およびFvなどがある。
【0057】
本発明において、前記「PNA(Peptide Nucleic Acid)」は、人工的に合成された、DNAまたはRNAに似た重合体を指し、1991年、デンマークコペンハーゲン大学のNielsen、Egholm、BergとBuchardt教授によって初めて紹介された。DNAは、リン酸-リボース糖骨格を有するのに対し、PNAは、ペプチド結合によって連結されたリピートされたN-(2-アミノエチル)-グリシン骨格を有し、これによってDNAまたはRNAに対する結合力と安定性が大きく増加して、分子生物学、診断分析およびアンチセンス治療法に使用されている。PNAは、文献[Nielsen PE,Egholm M,Berg RH,Buchardt O(December 1991).“Sequence-selective recognition of DNA by strand displacement with a thymine-substituted polyamide”.Science254(5037):1497-1500]に詳細に開示されている。
【0058】
本発明において、前記「アプタマー」は、オリゴ核酸またはペプチド分子であり、アプタマーの一般的な内容は、文献[Bock LC et al.,Nature355(6360):5646(1992);Hoppe-Seyler F,Butz K“Peptide aptamers:powerful new tools for molecular medicine”.J Mol Med.78(8):42630(2000);Cohen BA,Colas P,Brent R.“An artificial cell-cycle inhibitor isolated from a combinatorial library”.Proc Natl Acad Sci USA.95(24):142727(1998)]に詳細に開示されている。
【0059】
本発明において、前記Lrig1タンパク質を暗号化する遺伝子(すなわち、LRIG1)の発現レベルを測定する製剤は、前記遺伝子に特異的に結合するプライマー、プローブおよびアンチセンスヌクレオチドからなる群より選択された1種以上を含むことができる。
【0060】
本発明において、前記「プライマー」は、標的遺伝子配列を認知する断片であって、正方向および逆方向のプライマー対を含むが、好ましくは、特異性および敏感性を有する分析結果を提供するプライマー対である。プライマーの核酸配列が試料中に存在する非-標的配列と不一致する配列であるので、相補的なプライマー結合部位を含有する標的遺伝子配列のみ増幅し、非特異的増幅を誘発しないプライマーの時、高い特異性が付与できる。
【0061】
本発明において、前記「プローブ」は、試料中の検出しようとする標的物質と特異的に結合できる物質を意味し、前記結合により特異的に試料中の標的物質の存在を確認できる物質を意味する。プローブの種類は、当業界にて通常使用される物質として制限はないが、好ましくは、PNA(peptide nucleic acid)、LNA(locked nucleic acid)、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、RNAまたはDNAであってもよいし、最も好ましくは、PNAである。より具体的には、前記プローブは、バイオ物質として生物に由来するかこれに類似のものまたは生体外で製造されたものを含むもので、例えば、酵素、タンパク質、抗体、微生物、動植物細胞および器官、神経細胞、DNA、およびRNAであってもよいし、DNAは、cDNA、ゲノムDNA、オリゴヌクレオチドを含み、RNAは、ゲノムRNA、mRNA、オリゴヌクレオチドを含み、タンパク質の例としては、抗体、抗原、酵素、ペプチドなどを含むことができる。
【0062】
本発明において、前記「LNA(Locked nucleic acids)」とは、2’-O、4’-Cメチレンブリッジを含む核酸アナログを意味する[J Weiler,J Hunziker and J Hall Gene Therapy(2006)13,496.502]。LNAヌクレオチドは、DNAとRNAの一般的核酸塩基を含み、Watson-Crick塩基対の規則により塩基対を形成することができる。しかし、メチレンブリッジによる分子の「locking」によって、LNAは、Watson-Crick結合において理想的形状を形成できなくなる。LNAがDNAまたはRNAオリゴヌクレオチドに含まれると、LNAはより迅速に相補的ヌクレオチド鎖と対をなして二重螺旋の安定性を高めることができる。
【0063】
本発明において、前記「アンチセンス」は、アンチセンスオリゴマーがワトソン・クリック塩基対の形成によってRNA内の標的配列と混成化されて、標的配列内で典型的にmRNAとRNA:オリゴマーヘテロ二重体の形成を許容する、ヌクレオチド塩基の配列およびサブユニット間のバックボーンを有するオリゴマーを意味する。オリゴマーは、標的配列に対する正確な配列相補性または近似相補性を有することができる。
【0064】
本発明によるLrig1タンパク質や、これを暗号化する遺伝子(LRIG1)の情報は知られているので、当業者であれば、これに基づいて前記タンパク質を暗号化する遺伝子に特異的に結合するプライマー、プローブまたはアンチセンスヌクレオチドを容易にデザインすることができる。
【0065】
本発明において、前記「免疫関連疾患」は、多様な免疫細胞および炎症細胞の過度化された活性化および発現により誘導される疾患で、例えば、自己免疫疾患;移植片対宿主疾患;臓器移植拒絶反応;喘息;アトピー;または急性または慢性の炎症疾患などであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0066】
また、本発明において、前記「自己免疫疾患」は、リウマチ性関節炎、全身性強皮症、全身性エリテマトーデス、アトピー皮膚炎、乾癬、円形脱毛症、喘息、クローン病、ベーチェット病、シェーグレン症侯群、ギラン・バレー症侯群、慢性甲状腺炎、多発性硬化症、多発性筋炎、強直性脊椎炎、線維筋痛症および結節性多発性動脈炎からなる群より選択できるが、これに限定されるものではない。
【0067】
3-2.癌の診断用組成物
本発明のさらに他の実施形態によれば、免疫細胞の表面に存在するLrig1タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子の発現レベルを測定する製剤を含む癌の診断用組成物に関する。
【0068】
本発明の3-2.癌の診断用組成物において、タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子の発現レベルを測定する製剤に関連する内容は、上記の3-1.免疫関連疾患の診断用組成物に記載されたものと同一であって、以下、その記載を省略する。
【0069】
本発明の前記「癌」は、哺乳類において典型的に調節されない細胞の成長で特徴づけられた生理的状態を示すか、指す。本発明の前記予防、改善または治療の対象になる癌は、例えば、固形臓器(solid organ)で異常に細胞が成長して発生した塊からなる固形癌(solid tumor)であってもよく、固形臓器の部位によって、胃癌、肝臓癌、膠細胞腫、卵巣癌、大腸癌、頭頸部癌、膀胱癌、腎細胞癌、乳癌、転移癌、前立腺癌、膵臓癌、黒色腫および肺癌からなる群より選択される少なくとも1つであってもよいし、好ましくは、黒色腫または大腸癌であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0070】
3-3.神経退行性疾患または神経炎症性疾患の診断用組成物
本発明のさらに他の実施形態によれば、免疫細胞の表面に存在するLrig1タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子の発現レベルを測定する製剤を含む神経退行性疾患または神経炎症性疾患の診断用組成物に関する。
【0071】
本発明の3-3.神経退行性疾患または神経炎症性疾患の診断用組成物において、タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子の発現レベルを測定する製剤に関連する内容は、上記の3-1.免疫関連疾患の診断用組成物に記載されたものと同一であって、以下、その記載を省略する。
【0072】
本発明において、前記「神経退行性疾患または神経炎症性疾患」は、脳卒中、認知症、アルツハイマー病(Alzheimer’s disease)、パーキンソン病(Parkinson’s disease)、ハンチントン病(Huntington’s disease)、ニーマン・ピック病(Niemann-Pick disease)、プリオン病(prion disease)、クロイツフェルト・ヤコブ病(Creutzfeldt-Jakob disease)、前頭側頭型認知症、レビー小体型認知症、筋萎縮性側索硬化症(AlzAmyotrophic lateral sclerosis)、傍腫瘍性神経症候群(Paraneoplastic syndrome)、皮質基底核変性症、多系統萎縮病、進行性核上麻痺、神経系自己免疫疾患、脊髄小脳変性症(spinocerebellar ataxia)、炎症性および神経病症性痛症、脳血管疾患、脊髄損傷(spinal cord injury)およびタウオパチー(tauopathy)からなる群より選択できるが、これに限定されるものではない。
【0073】
4.診断用キット
本発明の3.診断用組成物において、免疫細胞およびLrig1タンパク質に関連する内容は、上記の1.細胞表面抗原に記載されたものと同一であって、以下、その記載を省略する。
【0074】
4-1.免疫関連疾患の診断用キット
本発明のさらに他の実施形態によれば、本発明で提供する免疫関連疾患の診断用組成物を含む免疫関連疾患の診断用キットに関する。
【0075】
本発明において、前記キットは、RT-PCRキット、DNAチップキット、ELISAキット、タンパク質チップキット、ラピッド(rapid)キットまたはMRM(Multiple reaction monitoring)キットであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0076】
本発明の診断用キットは、分析方法に適した1種類またはそれ以上の他の構成成分組成物、溶液または装置をさらに含むことができる。
【0077】
例えば、本発明の診断用キットは、逆転写重合酵素反応を行うために必要な必須要素をさらに含むことができる。逆転写重合酵素反応キットは、マーカータンパク質を暗号化する遺伝子に対して特異的なプライマー対を含む。プライマーは、前記遺伝子の核酸配列に特異的な配列を有するヌクレオチドであって、約7bp~50bpの長さ、より好ましくは、約10bp~30bpの長さを有することができる。また、対照群遺伝子の核酸配列に特異的なプライマーを含むことができる。その他、逆転写重合酵素反応キットは、テストチューブまたは他の適切な容器、反応緩衝液(pHおよびマグネシウム濃度は多様)、デオキシヌクレオチド(dNTPs)、Taq-ポリメラーゼおよび逆転写酵素のような酵素、DNase、RNase抑制剤DEPC-水(DEPC-water)、滅菌水などを含むことができる。
【0078】
また、本発明の診断用キットは、DNAチップを行うために必要な必須要素を含むことができる。DNAチップキットは、遺伝子またはその断片に相当するcDNAまたはオリゴヌクレオチド(oligonucleotide)が付着している基板、および蛍光標識プローブを作製するための試薬、製剤、酵素などを含むことができる。また、基板は、対照群遺伝子またはその断片に相当するcDNAまたはオリゴヌクレオチドを含むことができる。
【0079】
さらに、本発明の診断用キットは、ELISAを行うために必要な必須要素を含むことができる。ELISAキットは、前記タンパク質に対して特異的な抗体を含む。抗体は、マーカータンパク質に対する特異性および親和性が高く他のタンパク質に対する交差反応性がほとんどない抗体で、単クローン抗体、多クローン抗体または組換え抗体である。なお、ELISAキットは、対照群タンパク質に特異的な抗体を含むことができる。その他、ELISAキットは、結合された抗体を検出可能な試薬、例えば、標識された二次抗体、発色団(chromophores)、酵素(例:抗体とコンズゲートされる)およびその基質または抗体と結合可能な他の物質などを含むことができる。
【0080】
4-2.癌の診断用キット
本発明のさらに他の実施形態によれば、本発明で提供する癌の診断用組成物を含む免疫関連疾患の診断用キットに関する。
【0081】
本発明の4-2.癌の診断用キットにおいて、タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子の発現レベルを測定する製剤に関連する内容は、上記の3-1.免疫関連疾患の診断用組成物に記載されたものと同一であり、キットに関連する内容は、上記の4-1.免疫関連疾患の診断用キットに記載されたものと同一であって、以下、その記載を省略する。
【0082】
4-3.神経退行性疾患または神経炎症性疾患の診断用キット
本発明のさらに他の実施形態によれば、本発明で提供する神経退行性疾患または神経炎症性疾患の診断用組成物を含む免疫関連疾患の診断用キットに関する。
【0083】
本発明の4-3.神経退行性疾患または神経炎症性疾患の診断用キットにおいて、タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子の発現レベルを測定する製剤に関連する内容は、上記の3-1.免疫関連疾患の診断用組成物に記載されたものと同一であり、キットに関連する内容は、上記の4-1.免疫関連疾患の診断用キットに記載されたものと同一であって、以下、その記載を省略する。
【0084】
5.診断方法
本発明の3.診断用組成物において、免疫細胞およびLrig1タンパク質に関連する内容は、上記の1.細胞表面抗原に記載されたものと同一であって、以下、その記載を省略する。
【0085】
5-1.免疫関連疾患を診断するための情報提供方法
本発明のさらに他の実施形態によれば、目的とする個体から分離された生物学的試料において免疫細胞のLrig1タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子の発現レベルを測定するステップを含む免疫関連疾患を診断するための情報提供方法に関する。
【0086】
本発明において、前記「目的とする個体」とは、当該疾患の発病の有無が不確実な個体で、疾患の発病の可能性が高い個体を意味する。
【0087】
本発明において、前記「生物学的試料」は、個体から得られたり、個体に由来する任意の物質、生物学的体液、組織または細胞を意味するもので、例えば、全血(whole blood)、白血球(leukocytes)、末梢血液単核細胞(peripheral blood mononuclear cells)、白血球軟膜(buffy coat)、血漿(plasma)および血清(serum)を含む血液、喀痰(sputum)、涙(tears)、粘液(mucus)、洗鼻液(nasal washes)、鼻腔吸引物(nasal aspirate)、呼吸(breath)、尿(urine)、精液(semen)、唾(saliva)、腹腔洗浄液(peritoneal washings)、骨盤液(pelvic fluid)、嚢胞液(cystic fluid)、脳髄膜液(meningeal fluid)、羊水(amniotic fluid)、腺液(glandular fluid)、膵臓液(pancreatic fluid)、リンパ液(lymph fluid)、胸水(pleural fluid)、乳頭吸引物(nipple aspirate)、気管支吸引物(bronchial aspirate)、滑液(synovial fluid)、関節吸引物(joint aspirate)、器官分泌物(organ secretions)、細胞(cell)、細胞抽出物(cell extract)または脳脊髄液(cerebrospinal fluid)を含むことができるが、これに限定されるものではない。
【0088】
本発明の免疫関連疾患を診断するための情報提供方法において、前記Lrig1タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子の発現レベルを測定する製剤は、前記免疫関連疾患の診断用組成物に記載されたものと重複し、以下、その記載を省略する。
【0089】
本発明において、前記Lrig1タンパク質の発現レベルを測定または比較分析する方法としては、タンパク質チップ分析、免疫測定法、リガンドバインディングアッセイ、MALDI-TOF(Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization Time of Flight Mass Spectrometry)分析、SELDI-TOF(Sulface Enhanced Laser Desorption/Ionization Time of Flight Mass Spectrometry)分析、放射線免疫分析、放射免疫拡散法、オクタロニー免疫拡散法、ロケット免疫電気泳動、組織免疫染色、補体固定分析法、2次元電気泳動分析、液相クロマトグラフィー-質量分析(liquid chromatography-Mass Spectrometry、LC-MS)、LC-MS/MS(liquid chromatography-Mass Spectrometry/Mass Spectrometry)、ウェスタンブロッティングまたはELISA(enzyme linked immunosorbentassay)などがあるが、これらに限定されるものではない。
【0090】
本発明において、前記Lrig1タンパク質を暗号化する遺伝子の存在の有無と発現程度を確認する過程で、前記遺伝子の発現レベルを測定する分析方法としては、逆転写重合酵素反応(RT-PCR)、競争的逆転写重合酵素反応(Competitive RT-PCR)、リアルタイム逆転写重合酵素反応(Real-time RT-PCR)、RNase保護分析法(RPA;RNase protection assay)、ノーザンブロッティング(Northern blotting)またはDNAチップなどがあるが、これらに限定されるものではない。
【0091】
本発明において、目的とする個体の生物学的試料に対して測定された前記免疫細胞のLrig1タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子の発現レベルが正常対照群に比べて増加または減少した場合、免疫関連疾患の発病の可能性が高いと予測するステップを含むことができる。
【0092】
より具体的には、本発明において、目的とする個体の生物学的試料に対して測定された前記免疫細胞のLrig1タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子の発現レベルが正常対照群に比べて減少した場合、免疫関連疾患の発病の可能性が高いと予測することができる。
【0093】
一歩進んで、本発明において、前記のように目的とする個体の生物学的試料に対して測定された前記Lrig1タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子の発現レベルを測定して免疫関連疾患の発病の可能性が高いと予測または診断する場合、前記目的とする個体に対してその疾患に対する薬剤投与を行うステップを追加的に含むことができる。
【0094】
6.二重特異抗体
本発明の6.二重特異的抗体において、免疫細胞およびLrig1タンパク質に関連する内容は、上記の1.細胞表面抗原に記載されたものと同一であって、以下、その記載を省略する。
【0095】
6-1.免疫関連疾患の予防または治療用薬学組成物
本発明のさらに他の実施形態においては、Lrig1および免疫細胞の表面マーカーに特異的に結合する二重特異抗体を有効成分として含む免疫関連疾患の予防または治療用薬学組成物を提供する。
【0096】
本発明の前記二重特異抗体は、Lrig1に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片;および免疫細胞表面マーカーに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片を含む。
【0097】
本発明の前記免疫細胞は、T細胞、B細胞、NK細胞、リンパ球細胞、樹状細胞、好中球、好酸球、好塩基性顆粒球、大食細胞および肥満細胞からなる群より選択される少なくとも1つであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0098】
本発明の前記T細胞は、エフェクターT細胞であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0099】
本発明の前記エフェクターT細胞は、Th1、Th2、Th17およびTh22からなる群より選択される少なくとも1つ以上であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0100】
本発明の前記二重特異抗体の場合、Lrig1タンパク質と免疫細胞に特異的に発現する表面マーカーを二重標的とするため、周辺の微細環境によってその機能や性質が変貌しうる活性化されたエフェクターT細胞にのみ特異的に結合することにより、免疫細胞固有の機能だけでなく、制御性T細胞が行う免疫抑制機能も効果的に調節して免疫関連疾患を非常に効果的に予防または治療することができる。
【0101】
本発明の前記「二重特異的抗体」は、任意の好適なフォーマット、例えば、全文が本願に参照により引用された文献(参照:Kontermann MAbs2012,4(2):182-197)に記載のフォーマットで提供される。例えば、二重特異的抗体または二重特異的抗原結合断片は、二重特異的抗体接合体(例:IgG2、F(ab’)2またはCovX-ボディ)、二重特異的IgGまたはIgG-型分子(例:IgG、scFv4-Ig、IgG-scFv、scFv-IgG、DVD-Ig、IgG-sVD、sVD-IgG、または2イン(in)1-IgG、mAb2、またはTandemab common LC)、非対称性二重特異的IgGまたはIgG-型分子(例:kih IgG、kih IgG common LC、CrossMab、kih IgG-scFab、mAb-Fv、電荷対またはSEED-ボディ)、小型二重特異的抗体分子(例:ダイアボディ(Db)、dsDb、DART、scDb、tandAbs、タンデムscFv(taFv)、タンデムdAb/VHH、トリプルボディ、トリプルヘッド、Fab-scFv、またはF(ab’)2-scFv2)、二重特異的FcおよびCH3融合タンパク質(例:taFv-Fc、ジ-ダイアボディ、scDb-CH3、scFv-Fc-scFv、HCAb-VHH、scFv-kih-Fc、またはscFv-kih-CH3)、または二重特異的融合タンパク質(例:scFv2-アルブミン、scDb-アルブミン、taFv-毒素、DNL-Fab3、DNL-Fab4-IgG、DNL-Fab4-IgG-サイトカイン2)であってもよい。特に、文献(参照:Kontermann MAbs2012,4(2):182-19)の
図2を参照する。当業者は、本発明による二重特異的抗体および二重特異的抗原結合断片を設計し製造することができる。
【0102】
本発明において、前記二重特異的抗体を生産する方法は、例えば、全文が本願に参照により引用された文献(参照:Segal and Bast,2001.Production of Bispecific Antibodies.Current Protocols in Immunology.14:IV:2.13:2.13.1-2.13.16)に記載されたように、還元性ジスルフィドまたは非還元性チオエーテル結合と抗体または抗体断片の化学的架橋結合を含む。例えば、N-スクシンイミジル-3-(-2-ピリジルジチオ)-プロピオネート(SPDP)は、ジスルフィド連結された二重特異的F(ab)2ヘテロダイマーを生成するために、例えば、ヒンジ領域SH-グループを介してFab断片を化学的に架橋結合させるのに使用できる。
【0103】
また、本発明において、前記二重特異的抗体を生産するための他の方法は、例えば、文献(参照:D.M.and Bast,B.J.2001.Production of Bispecific Antibodies.Current Protocols in Immunology.14:IV:2.13:2.13.1-2.13.16)に記載されたように、二重特異的抗体を分泌できるクアドローマ細胞を生成するために抗体-生産ハイブリドーマを、例えば、ポリエチレングリコールと融合させる過程を含む。
【0104】
本発明において、前記二重特異的抗体および二重特異的抗原結合断片はさらに、例えば、両方とも全文が本願に参照により引用された文献(参照:Antibody Engineering:Methods and Protocols,Second Edition(Humana Press,2012),at Chapter40:Production of Bispecific Antibodies:Diabodies and Tandem scFv(Hornig and Farber-Schwarz)、またはFrench,How to make bispecific antibodies,Methods Mol.Med.2000;40:333-339)に記載されたように、例えば、抗原結合分子のためのポリペプチドを暗号化する核酸作製物から発現により組換えで生産できる。例えば、2つの抗原結合ドメイン(すなわち、PD-1に結合可能な抗原結合ドメインのための軽鎖および重鎖可変ドメイン、および他の標的タンパク質に結合可能な抗原結合ドメインのための軽鎖および重鎖可変ドメイン)のための軽鎖および重鎖可変ドメインを暗号化し、抗原結合ドメイン間の好適なリンカーまたは二量体化ドメインを暗号化する配列を含むDNA作製物は、分子クローニング技術によって製造できる。組換え二重特異的抗体は、以後、好適な宿主細胞(例:哺乳類宿主細胞)中で作製物の発現(例:試験管内)により生産され、次いで、発現した組換え二重特異的抗体は任意に精製される。
【0105】
本発明において、前記抗体は、非変形の親抗体と比較して、抗原に対する抗体の親和度が改善された変形された抗体が生成される親和度成熟工程によって生成できる。親和度成熟抗体は、当該技術分野、例えば、文献(参照:Marks et al.,Rio/Technology10:779-783(1992);Barbas et al.Proc Nat.Acad.Sci.USA91:3809-3813(1994);Schier et al.Gene169:147-155(1995);Yelton et al.J.Immunol.155:1994-2004(1995);Jackson et al.,J.Immunol.154(7):3310-159(1995);およびHawkins et al,J.Mol.Biol.226:889-896(1992))に公知の手順により生産できる。
【0106】
本発明の前記「抗体」は、免疫系内で抗原の刺激によって作られる物質を意味するものであって、生体内で生成されたもの、組換え的に生成されたもの、または人工的に合成されたものであってもよいし、その種類は特に限定されない。本発明において、抗体は、動物抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、またはヒト抗体をすべて含む。また、本発明において、抗体とは、抗原結合能を保有した抗体の抗原結合断片も含む。
【0107】
本発明の前記「抗原結合断片」は、前記相補性決定領域を1つ以上含む抗体断片、例えば、scFv、(scFv)2、scFv-Fc、Fab、Fab’およびF(ab’)2からなる群より選択されるものであってもよい。
【0108】
本発明の前記Lrig1に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片は、
(a)配列番号5で表される重鎖CDR1、配列番号6で表される重鎖CDR2、および配列番号7で表される重鎖CDR3を含む重鎖可変領域;
(b)配列番号11で表される重鎖CDR1、配列番号12で表される重鎖CDR2、および配列番号13で表される重鎖CDR3を含む重鎖可変領域;
(c)配列番号17で表される重鎖CDR1、配列番号18で表される重鎖CDR2、および配列番号19で表される重鎖CDR3を含む重鎖可変領域;
(d)配列番号23で表される重鎖CDR1、配列番号24で表される重鎖CDR2、および配列番号25で表される重鎖CDR3を含む重鎖可変領域;
(e)配列番号29で表される重鎖CDR1、配列番号30で表される重鎖CDR2、および配列番号31で表される重鎖CDR3を含む重鎖可変領域;
(f)配列番号35で表される重鎖CDR1、配列番号36で表される重鎖CDR2、および配列番号37で表される重鎖CDR3を含む重鎖可変領域;
(g)配列番号41で表される重鎖CDR1、配列番号42で表される重鎖CDR2、および配列番号43で表される重鎖CDR3を含む重鎖可変領域;並びに
(h)配列番号47で表される重鎖CDR1、配列番号48で表される重鎖CDR2、および配列番号49で表される重鎖CDR3を含む重鎖可変領域;からなる群より選択される重鎖可変領域;および
【0109】
(i)配列番号8で表される軽鎖CDR1、配列番号9で表される軽鎖CDR2、および配列番号10で表される軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域;
(j)配列番号14で表される軽鎖CDR1、配列番号15で表される軽鎖CDR2、および配列番号16で表される軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域;
(k)配列番号20で表される軽鎖CDR1、配列番号21で表される軽鎖CDR2、および配列番号22で表される軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域;
(l)配列番号26で表される軽鎖CDR1、配列番号27で表される軽鎖CDR2、および配列番号28で表される軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域;
(m)配列番号32で表される軽鎖CDR1、配列番号33で表される軽鎖CDR2、および配列番号34で表される軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域;
(n)配列番号38で表される軽鎖CDR1、配列番号39で表される軽鎖CDR2、および配列番号40で表される軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域;
(o)配列番号44で表される軽鎖CDR1、配列番号45で表される軽鎖CDR2、および配列番号46で表される軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域;並びに
(p)配列番号50で表される軽鎖CDR1、配列番号51で表される軽鎖CDR2、および配列番号52で表される軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域;からなる群より選択される軽鎖可変領域;を含むものであってもよい。
【0110】
本発明の前記免疫細胞の表面マーカーは、それぞれの免疫細胞の表面に特異的に発現して、他の免疫細胞と自己を区分できるマーカーであればすべて含まれる。
【0111】
本発明の前記「Th1細胞の表面マーカー」は、Th1細胞の表面に特異的に発現して、他の細胞とTh1細胞を区分できるマーカーであって、例えば、CD94、CD119(IFNγR1)、IFNγR2、CD183(CXCR3)、CD186(CXCR6)、CD191(CCR1)、CD195(CCR5)、CD212(IL-12Rβ1)、IL-12Rβ2、CD218a(IL-18Rα)、IL-27Rα、CD254(RANKL)またはCD366(TIM3)であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0112】
本発明の前記「Th2細胞の表面マーカー」は、Th2細胞の表面に特異的に発現して、他の細胞とTh2細胞を区分できるマーカーであって、例えば、CD184(CXCR4)、CD193(CCR3)、CD194(CCR4)、CD198(CCR8)、CD294(CRTH2)、CD365(TIM1)、IL-25R(IL-17RB)、IL-33R(ST2、IL-4RまたはTSLPRであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0113】
本発明の前記「Th17細胞の表面マーカー」は、Th17細胞の表面に特異的に発現して、他の細胞とTh17細胞を区分できるマーカーであって、例えば、CD121a(IL-1RI)、CD126(IL-6Rα)、CD161、CD194(CCR4)、CD196(CCR6)、IL-23R、CD360(IL-21R)、CD212(IL-12Rβ1)またはTGF-βRIIであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0114】
本発明の前記「Th22細胞の表面マーカー」は、Th22細胞の表面に特異的に発現して、他の細胞とTh22細胞を区分できるマーカーであって、例えば、CD194(CCR4)、CD196(CCR6)、CCR10、IL-6Rα、TGF-βRIIまたはTNFRIであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0115】
本発明の前記二重特異抗体において、重鎖CDRおよび軽鎖CDR部位、または重鎖可変領域および軽鎖可変領域を除いた残りの部位は、すべてのサブタイプの兔疫グロブリン(例えば、IgA、IgD、IgE、IgG(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)、IgMなど)に由来するものであってもよく、例えば、前記すべてのサブタイプの兔疫グロブリンの軽鎖不変領域および/または重鎖不変領域に由来するものであってもよい。
【0116】
本発明の前記「相補性決定領域(Complementarity-determining regions、CDR)」というのは、抗体の可変領域中で抗原との結合特異性を付与する部位を意味する。
【0117】
6-2.癌の予防または治療用薬学組成物
本発明のさらに他の実施形態において、Lrig1および免疫細胞の表面マーカーに特異的に結合する二重特異抗体を有効成分として含む癌の予防または治療用薬学組成物を提供する。
【0118】
本発明の6-2.癌の予防または治療用薬学組成物において、Lrig1および免疫細胞の表面マーカーに特異的に結合する二重特異抗体、抗体またはその結合断片に関連する内容は、上記の6-1.免疫関連疾患の予防または治療用薬学組成物に記載されたものと同一であって、以下、その記載を省略する。
【0119】
6-3.神経退行性疾患または神経炎症性疾患の予防または治療用薬学組成物
本発明のさらに他の実施形態においては、Lrig1および免疫細胞の表面マーカーに特異的に結合する二重特異抗体を有効成分として含む神経退行性疾患または神経炎症性疾患の予防または治療用薬学組成物を提供する。
【0120】
本発明の6-3.神経退行性疾患または神経炎症性疾患の予防または治療用薬学組成物において、Lrig1および免疫細胞の表面マーカーに特異的に結合する二重特異抗体、抗体またはその結合断片に関連する内容は、上記の6-1.免疫関連疾患の予防または治療用薬学組成物に記載されたものと同一であって、以下、その記載を省略する。
【0121】
6-4.併用投与
本発明の薬学組成物は、他の免疫関連疾患、癌または神経退行性疾患または神経炎症性疾患の治療剤とも追加的に併用投与することができる。
【0122】
本発明の免疫関連疾患の治療剤は、免疫調節剤、例えば、サイトカイン、幹細胞成長因子、リンパ毒素、造血因子、コロニー刺激因子(CSF)、インターフェロン(IFN)、エリスロポエチンおよびトロンボポエチン;または抗炎症剤、例えば、ステロイドまたは非-ステロイド性抗炎症剤であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0123】
本発明の前記癌治療剤、すなわち、抗癌剤としては、ナイトロジェンマスタード、イマチニブ、オキサリプラチン、リツキシマブ、エルロチニブ、ネラチニブ、ラパチニブ、ゲフィチニブ、バンデタニブ、ニロチニブ、セマサニブ、ボスチニブ、アキシチニブ、セジラニブ、レスタウルチニブ、トラスツズマブ、ゲフィチニブ、ボルテゾミブ、スニチニブ、カルボプラチン、ベバシズマブ、シスプラチン、セツキシマブ、ヴィスクム・アルブム、アスパラギナーゼ、トレチノイン、ヒドロキシカルバミド、ダサチニブ、エストラムスチン、ゲムツズマブ・オゾガマイシン、イブリツモマブ・チウキセタン、ヘプタプラチン、メチルアミノレブリン酸、アムサクリン、アレムツズマブ、プロカルバジン、アルプロスタジル、硝酸ホルミウムキトサン、ゲムシタビン、ドキシフルリジン、ペメトレキセド、テガフール、カペシタビン、ギメラシン、オテラシル、アザシチジン、メトトレキサート、ウラシル、シタラビン、フルオロウラシル、フルダラビン、エノシタビン、フルタミド、デシタビン、メルカプトプリン、チオグアニン、クラドリビン、カルモフール、ラルチトレキセド、ドセタキセル、パクリタキセル、イリノテカン、ベロテカン、トポテカン、ビノレルビン、エトポシド、ビンクリスチン、ビンブラスチン、テニポシド、ドキソルビシン、イダルビシン、エピルビシン、ミトキサントロン、マイトマイシン、ブレオマイシン、ダウノルビシン、ダクチノマイシン、ピラルビシン、アクラルビシン、ペプロマイシン、テムシロリムス、テモゾロミド、ブスルファン、イホスファミド、シクロホスファミド、メルファラン、アルトレタミン、ダカルバジン、チオテパ、ニムスチン、クロラムブシル、ミトラクトール、レウコボリン、トレトニン、エキセメスタン、アミノグルテチミド、アナグレリド、ナベルビン、ファドロゾール、タモキシフェン、トレミフェン、テストラクトン、アナストロゾール、レトロゾール、ボロゾール、ビカルタミド、ロムスチンおよびカルムスチンからなる群より選択された1種以上を使用することができるが、これに限定されるものではない。
【0124】
本発明の神経退行性疾患または神経炎症性疾患の治療剤は、AchE抑制剤、NMDA受容体拮抗制、ドーパミン代替剤、ドーパミン作用物質、MAO阻害剤、COMT阻害剤のような低分子治療薬物、遺伝子治療剤、単クローン抗体治療剤、免疫療法、iPSCなどであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0125】
7.二重特異抗体-薬物結合体
本発明の7.二重特異的抗体-薬物結合体において、免疫細胞およびLrig1タンパク質に関連する内容は、上記の1.細胞表面抗原に記載されたものと同一であって、以下、その記載を省略する。
【0126】
また、7.二重特異抗体-薬物結合体において、併用投与に関連する内容は、上記の6-4.併用投与に記載されたものと同一であって、以下、その記載を省略する。
【0127】
7-1.免疫関連疾患の予防または治療用薬学組成物
本発明のさらに他の実施形態においては、Lrig1および免疫細胞の表面マーカーに特異的に結合する二重特異抗体または抗原結合断片;および薬物を含む抗体-薬物結合体を有効成分として含む免疫関連疾患の予防または治療用薬学組成物を提供する。
【0128】
本発明の前記「抗体-薬物結合体(Antibody-Drug Conjugate、ADC)」とは、抗体と薬物の生物学的活性を低下させることなく薬物と抗体とを化学的に連結した形態を指す。本発明において、前記抗体-薬物結合体は、抗体の重鎖および/または軽鎖のN-末端のアミノ酸残基に薬物が結合した形態、具体的には、抗体の重鎖および/または軽鎖のN-末端、α-アミン基に薬物が結合した形態をいう。
【0129】
本発明において、前記「薬物」は、細胞に特定の生物学的活性を有する任意の物質を意味することができ、これはDNA、RNAまたはペプチド(Peptide)を含む概念である。前記薬物は、α-アミン基と反応して架橋可能な反応基を含む形態であってもよいし、α-アミン基と反応して架橋可能な反応基を含むリンカーが連結されている形態も含む。
【0130】
本発明において、前記α-アミン基と反応して架橋可能な反応基の例としては、抗体の重鎖または軽鎖のN-末端のα-アミン基と反応して架橋できればその種類は特に限定されず、当業界にて公知のアミン基と反応する種類をすべて含む。その例として、イソチオシアネート(Isothiocyanate)、イソシアネート(Isocyanates)、アシルアジド(Acyl azide)、NHSエステル(NHS ester)、スルホニルクロライド(Sulfonyl chloride)、アルデヒド(Aldehyde)、グリオキサール(Glyoxal)、エポキシド(Epoxide)、オキシラン(Oxirane)、カーボネート(Carbonate)、アリールハライド(Aryl halide)、イミドエステル(Imidoester)、カルボイミド(Carbodiimide)、アンハイドライド(Anhydride)およびフルオロフェニルエステル(Fluorophenyl ester)のいずれか1つであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0131】
7-2.癌の予防または治療用薬学組成物
本発明のさらに他の実施形態においては、Lrig1および免疫細胞の表面マーカーに特異的に結合する二重特異抗体または抗原結合断片;および薬物を含む抗体-薬物結合体を有効成分として含む癌の予防または治療用薬学組成物を提供する。
【0132】
本発明の7-2.癌の予防または治療用薬学組成物において、Lrig1および免疫細胞の表面マーカーに特異的に結合する抗体-薬物結合体に関連する内容は、上記の7-1.免疫関連疾患の予防または治療用薬学組成物に記載されたものと同一であって、以下、その記載を省略する。
【0133】
7-3.神経退行性疾患または神経炎症性疾患の予防または治療用薬学組成物
本発明のさらに他の実施形態においては、Lrig1および免疫細胞の表面マーカーに特異的に結合する二重特異抗体または抗原結合断片;および薬物を含む抗体-薬物結合体を有効成分として含む神経退行性疾患または神経炎症性疾患の予防または治療用薬学組成物を提供する。
【0134】
本発明の7-3.神経退行性疾患または神経炎症性疾患の予防または治療用薬学組成物において、Lrig1および免疫細胞の表面マーカーに特異的に結合する抗体-薬物結合体に関連する内容は、上記の7-1.免疫関連疾患の予防または治療用薬学組成物に記載されたものと同一であって、以下、その記載を省略する。
【0135】
8.免疫細胞を分離する方法
本発明のさらに他の実施形態においては、活性化された免疫細胞の分離方法を提供する。
【0136】
本発明の8.免疫細胞を分離する方法において、免疫細胞およびLrig1タンパク質に関連する内容は、上記の1.細胞表面抗原に記載されたものと同一であって、以下、その記載を省略する。
【0137】
本発明の前記分離方法は、分離された生物学的試料においてLrig1タンパク質;またはこれを暗号化する遺伝子の発現レベルを測定するステップを含む。
【0138】
本発明の前記「分離された生物学的試料」は、健康な正常対照群、または免疫治療を受けようとする個体から分離された生物学的試料であってもよい。具体的には、前記個体から得られたり、個体に由来する任意の物質、生物学的体液、組織または細胞を意味するもので、例えば、全血(whole blood)、白血球(leukocytes)、末梢血液単核細胞(peripheral blood mononuclear cells)、白血球軟膜(buffy coat)、血漿(plasma)、血清(serum)、喀痰(sputum)、涙(tears)、粘液(mucus)、洗鼻液(nasal washes)、鼻腔吸引物(nasal aspirate)、呼吸(breath)、尿(urine)、精液(semen)、唾(saliva)、腹腔洗浄液(peritoneal washings)、骨盤液(pelvic fluid)、嚢胞液(cystic fluid)、脳髄膜液(meningeal fluid)、羊水(amniotic fluid)、腺液(glandular fluid)、膵臓液(pancreatic fluid)、リンパ液(lymph fluid)、胸水(pleural fluid)、乳頭吸引物(nipple aspirate)、気管支吸引物(bronchial aspirate)、滑液(synovial fluid)、関節吸引物(joint aspirate)、器官分泌物(organ secretions)、細胞(cell)、細胞抽出物(cell extract)または脳脊髄液(cerebrospinal fluid)を含むことができるが、これに限定されるものではない。
【0139】
本発明の免疫細胞の分離方法において、前記Lrig1タンパク質;またはこれを暗号化する遺伝子が発現したり、その発現レベルが正常対照群に比べて増加したり、または平均免疫細胞からより発現レベルが増加した免疫細胞を分離することができる。
【0140】
本発明の前記方法により分離された活性化された免疫細胞は、免疫関連疾患、癌または神経退行性疾患または神経炎症性疾患が発病したり、発病の可能性が高い個体にその疾患の予防、改善または治療のために投与できる。ここで、前記免疫細胞が投与される個体は、前記生物学的試料に由来する個体と同一または異なっていてもよい。
【0141】
9.免疫細胞を培養する方法
本発明のさらに他の実施形態においては、活性化された免疫細胞を培養する方法を提供する。
【0142】
本発明の9.免疫細胞を培養する方法において、免疫細胞およびLrig1タンパク質に関連する内容は、上記の1.細胞表面抗原に記載されたものと同一であって、以下、その記載を省略する。
【0143】
本発明の前記培養する方法は、分離された生物学的試料においてLrig1タンパク質;またはこれを暗号化する遺伝子の発現レベルを測定して活性化された免疫細胞を分離するステップと、前記活性化された免疫細胞を培養するステップと、を含む。
【0144】
本発明の前記培養する方法において、活性化された免疫細胞を分離するステップは、前記8.免疫細胞を分離する方法に記載されたものと同一であって、その記載を省略する。
【0145】
本発明の前記培養するステップにおいて、「培養」とは、細胞の任意の試験管内の培養を意味する。本発明の培養は、細胞培養培地を用いることができ、細胞培養培地は、細胞を培養する環境で用いるすべての種類の培地を意味し、例えば、アミノ酸、エネルギー源として少なくとも1つの炭水化物、微量元素、ビタミン、塩および可能な追加成分(例:細胞の成長、生産性、または生産物の品質に影響を及ぼすため)を含むことができるが、これに限定されるものではない。
【0146】
10.細胞治療剤をスクリーニングする方法
本発明の前記10.細胞治療剤において、免疫細胞およびLrig1タンパク質に関連する内容は、上記の1.細胞表面抗原に記載されたものと同一であって、以下、その記載を省略する。
【0147】
10-1.免疫関連疾患の細胞治療剤をスクリーニングする方法
本発明のさらに他の実施形態においては、免疫関連疾患の細胞治療剤をスクリーニングする方法を提供する。
【0148】
本発明の前記スクリーニングする方法は、分離された生物学的試料の兔疫細胞において、Lrig1タンパク質;またはこれを暗号化する遺伝子の発現レベルを測定するステップを含む。
【0149】
本発明の前記スクリーニングする方法において、分離された生物学的試料の兔疫細胞においてLrig1タンパク質;またはこれを暗号化する遺伝子の発現レベルが対照群と比較して増加または減少した場合、免疫関連疾患の細胞治療剤として選別することができる。
【0150】
本発明の前記スクリーニングする方法において、細胞治療剤、生物学的試料、タンパク質;またはこれを暗号化する遺伝子の発現レベルを測定する方法および免疫関連疾患などに関連する内容は、上記の記載されたものと同一であって、その記載を省略する。
【0151】
10-2.癌の細胞治療剤をスクリーニングする方法
本発明のさらに他の実施形態においては、癌の細胞治療剤をスクリーニングする方法を提供する。
【0152】
本発明の前記スクリーニングする方法は、分離された生物学的試料の兔疫細胞において、Lrig1タンパク質;またはこれを暗号化する遺伝子の発現レベルを測定するステップを含む。
【0153】
本発明の前記スクリーニングする方法において、分離された生物学的試料の兔疫細胞においてLrig1タンパク質;またはこれを暗号化する遺伝子の発現レベルが対照群と比較して増加または減少した場合、癌の細胞治療剤として選別することができる。
【0154】
本発明の前記スクリーニングする方法において、細胞治療剤、生物学的試料、タンパク質;またはこれを暗号化する遺伝子の発現レベルを測定する方法および癌などに関連する内容は、上記の記載されたものと同一であって、その記載を省略する。
【0155】
10-3.神経退行性疾患または神経炎症性疾患の細胞治療剤をスクリーニングする方法
本発明のさらに他の実施形態においては、神経退行性疾患または神経炎症性疾患の細胞治療剤をスクリーニングする方法を提供する。
【0156】
本発明の前記スクリーニングする方法は、分離された生物学的試料の兔疫細胞において、Lrig1タンパク質;またはこれを暗号化する遺伝子の発現レベルを測定するステップを含む。
【0157】
本発明の前記スクリーニングする方法において、分離された生物学的試料の兔疫細胞においてLrig1タンパク質;またはこれを暗号化する遺伝子の発現レベルが対照群と比較して増加または減少した場合、神経退行性疾患または神経炎症性疾患の細胞治療剤として選別することができる。
【0158】
本発明の前記スクリーニングする方法において、細胞治療剤、生物学的試料、タンパク質;またはこれを暗号化する遺伝子の発現レベルを測定する方法および神経退行性疾患または神経炎症性疾患などに関連する内容は、上記に記載されたものと同一であって、その記載を省略する。
【発明の効果】
【0159】
本発明の免疫細胞は、抑制機能が活性化されているものであって、活性化されている免疫細胞のLrig1タンパク質は、免疫抑制剤、癌疾患または神経退行性または炎症性疾患などの新しいターゲットとして使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0160】
【
図1】本発明の一実施例によるTh17細胞による抑制効果を確認した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0161】
以下、本発明を下記の実施例によって詳細に説明する。ただし、下記の実施例は本発明を例示するものに過ぎず、本発明の内容が下記の実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0162】
[準備例]T細胞亜型細胞の培養
【0163】
Th17細胞のエフェクターT細胞の抑制効果を確認するために、T細胞の亜型(subset)であるTh0、Th1、Th2、Th17およびiTregを用意した。前記iTregは、自然的に分離したnTregとは異なり、下記の組成を含む培地で分化を人工的に誘導した細胞を意味する。
【0164】
T細胞の亜型は、まず、MACSを用いて、通常の方法により、ネズミの脾臓からナイーブ(naive)T細胞を分離した後、ウシ胎児血清(FBS;hyclone、logan、UT)10%を含むRPMI1640(Invitrogen Gibco、Grand Island、NY)栄養培地に下記表1の成分をそれぞれさらに含むようにして、37℃、5%CO2培養器内で72時間培養によりそれぞれの細胞に分化誘導した。
【0165】
【0166】
[実施例]エフェクターT細胞の抑制効果の確認
前記準備例で分化された細胞を、蛍光活性細胞分類器(Fluorescence-Activated Cell Sorter;FACS)を用いて、Lrig1の発現レベルが高い細胞(Th17 L1+またはiTreg L1+)およびLrig1の発現レベルが低い細胞(Th17 L1-またはiTreg L1-)に分類した。
【0167】
その後、エフェクターT細胞の抑制効果を確認するために、抗原提示細胞(antigen presenting cells;APC)とナイーブCD4+ T細胞をPBSで2回洗浄して血清を完全に除去した。CFSEラベリングのために、前記ペレットをPBS1mlで溶解した時、2×10
7細胞の場合、PBS1mlに5mMのCFSE0.25μlの混合物を1ml入れて、1:1の比率で混合した。ただし、細胞数が2×10
7以下の場合は、PBS500μlで溶解し、前記CFSE+PBS混合物を500μlで混合した。以後、前記混合物を37℃で10分間培養した。APC分裂を抑制するために、PBS1mlに細胞が5×10
7の時、マイトマイシンC(mitomycin C)(0.5mg/ml)を100μlのボリュームだけ入れて、37℃で20分間培養した。予め冷やした培地を入れて15mlを満たし、アイスで5分間保管した後、培養培地で2回洗浄し、細胞を計数した。Th17L+細胞、Th17L-細胞、iTreg L+細胞およびiTregL-細胞は、CD4+ T細胞に対して2:1、1:1、1:2の量で入れて、タンパク質および抗-CD3抗体(0.5ug/ml)を添加し、3日後にCFSE-FL4を用いてエフェクターT細胞の増殖抑制程度を確認して、その結果を
図1に示した。
【0168】
図1に示すように、Lrig1の発現レベルが低い場合と比較して、Lrig1の発現レベルが高いTh17細胞における2:1、1:1および1:2の比率のすべての場合においてエフェクターT細胞の抑制効果が発揮された。
【0169】
以上、本発明の特定の部分を詳細に記述したが、当業界における通常の知識を有する者にとってこのような具体的な記述は単に好ましい実施形態に過ぎず、これに本発明の範囲が制限されないことは明らかである。したがって、本発明の実質的な範囲は添付した請求項とその等価物によって定義される。
【配列表】
【国際調査報告】