(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-27
(54)【発明の名称】遠位吸引カテーテルおよび方法
(51)【国際特許分類】
A61B 17/22 20060101AFI20231117BHJP
【FI】
A61B17/22
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023528351
(86)(22)【出願日】2021-11-12
(85)【翻訳文提出日】2023-07-12
(86)【国際出願番号】 US2021072385
(87)【国際公開番号】W WO2022104374
(87)【国際公開日】2022-05-19
(32)【優先日】2020-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517416374
【氏名又は名称】マイクロベンション インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】MICROVENTION, INC.
【住所又は居所原語表記】35 Enterprise, Aliso Viejo, California 92656 (US)
(74)【代理人】
【識別番号】100109634
【氏名又は名称】舛谷 威志
(74)【代理人】
【識別番号】100129263
【氏名又は名称】中尾 洋之
(72)【発明者】
【氏名】ドラキア,ロナク
(72)【発明者】
【氏名】ランワラ,フセイン
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160EE21
4C160MM36
(57)【要約】
遠位吸引カテーテルが、中央ルーメンを有するカテーテル本体と、少なくとも1つの遠位開口と、少なくとも1つの遠位開口に対して遠位側に配置された遠位先端とを備える。吸引源が、中央ルーメンの近位端/ルアーハブに取り付けられるように構成されている。吸引源が作動されると、静的吸引力がかけられることにより、血管に詰まった凝固塊/塞栓が、カテーテル本体の少なくとも1つの遠位開口内に部分的に取り込まれる。吸引源は、部分的に取り込まれた凝固塊に対して凝固塊疲労を誘発するために前方圧力流によって周期的吸引力を作用させてよい。疲労した凝固塊はカテーテルの遠位先端内に集めることができ、遠位吸引カテーテルを一度通すだけで凝固塊を完全に除去することができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カテーテル本体と、
前記カテーテル本体内で前記カテーテル本体の近位部と前記カテーテル本体の遠位部との間に配置された第1ルーメンと、
前記カテーテル本体の前記遠位部に位置する遠位先端と、
前記第1ルーメンに開口し、前記遠位先端の近位端付近に位置する遠位開口と、を備える凝固塊除去装置。
【請求項2】
前記遠位先端内に配置され前記第1ルーメンに連通する凝固塊保持空洞をさらに備える、請求項1の凝固塊除去カテーテル。
【請求項3】
前記第1ルーメンに接続され、高吸引力と低吸引力/吸引力無しとを交互に提供する周期的吸引を行うように構成された吸引源をさらに備える、請求項1の凝固塊除去カテーテル。
【請求項4】
前記遠位開口と前記遠位先端とが、前記カテーテルの長手方向軸を挟んで反対側に配置されている、請求項1の凝固塊除去装置。
【請求項5】
前記少なくとも1つの遠位開口が、前記カテーテル本体の長手方向軸に対して15度から315度の範囲で角度をつけて配置されている、請求項1の凝固塊除去装置。
【請求項6】
前記遠位開口が、半円形、矩形、正方形、またはオーバル形の形状を備える、請求項1の凝固塊除去装置。
【請求項7】
前記遠位先端が、円錐形、円筒形、三角形、矩形、螺旋状、または渦巻状の形状を備える、請求項1の凝固塊除去装置。
【請求項8】
前記遠位開口が複数の遠位開口を備える、請求項1の凝固塊除去カテーテル。
【請求項9】
前記複数の遠位開口が、前記カテーテルの外面内の流路内に配置されている、請求項7の凝固塊除去カテーテル。
【請求項10】
前記遠位開口の縁に沿って配置されたX線不透過性マーカーをさらに備える、請求項1の凝固塊除去カテーテル。
【請求項11】
カテーテル本体と、
前記カテーテル本体の近位部と前記カテーテル本体の遠位部との間に延在する吸引ルーメンと、
前記カテーテル本体の前記遠位部に連結された遠位先端と、
前記カテーテル本体の前記遠位部に配置され、前記吸引ルーメンに開口する、少なくとも1つの遠位開口と、
前記カテーテル本体の前記近位部で前記吸引ルーメンに接続された吸引源と、を備える、凝固塊除去カテーテルシステム。
【請求項12】
前記カテーテル本体の前記遠位部内で前記少なくとも1つの遠位開口より遠位側に内部空洞をさらに備える、請求項11の凝固塊除去カテーテル。
【請求項13】
前記内部空洞が少なくとも部分的に前記遠位先端内に位置している、請求項12の凝固塊除去カテーテル。
【請求項14】
前記吸引源が、静的吸引または高吸引力と低吸引力/吸引力無しとを交互に提供する周期的吸引をかけるように構成されている、請求項13の凝固塊除去カテーテル。
【請求項15】
前記少なくとも1つの遠位開口が前記遠位先端よりも近位側に配置されている、請求項14の凝固塊除去カテーテル。
【請求項16】
前記少なくとも1つの遠位開口が、凝固塊を前記内部空洞内に誘導するように遠位側方向に向かうにつれて径方向内側に向かって傾斜した低下面を備える陥没領域を備える、請求項13の凝固塊除去カテーテル。
【請求項17】
少なくとも1つの遠位開口が、長手方向に関して同じ位置または長手方向に関して互いに異なる位置に配置された複数の遠位開口を備える、請求項13の凝固塊除去カテーテル。
【請求項18】
前記少なくとも1つの遠位開口が、半円形、矩形、正方形、円形、またはオーバル形の形状を備える、請求項13の凝固塊除去カテーテル。
【請求項19】
前記少なくとも1つの遠位開口が、前記カテーテル本体の軸に対して0度から90度の間にある、請求項13の凝固塊除去カテーテル。
【請求項20】
前記遠位部が、前記遠位先端を前記凝固塊除去カテーテルの前記カテーテル本体に接続するテーパ状の中間部をさらに含む、請求項19の凝固塊除去カテーテル。
【請求項21】
前記遠位先端が、渦巻状、螺旋状、または円錐螺旋状の形状を備える、請求項13の凝固塊除去カテーテル。
【請求項22】
凝固塊の近傍にカテーテルの遠位端を進入させることと、
前記凝固塊を疲労させることと、
前記凝固塊を前記カテーテルの遠位開口に少なくとも部分的に取り込むことと、
前記カテーテルの吸引ルーメンを介して周期的吸引を実施することと、
前記カテーテルの先端内の遠位内部空洞内に前記凝固塊を集めることとを備える、患者の血管から凝固塊を除去する方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本出願は、2020年8月21日に出願された「Distal Aspiration Catheter And Methods」という名称の米国仮特許出願第63/113,757号、および2020年10月1日に出願された「Aspiration Thrombectomy Devices And Methods」という名称の米国仮特許出願第63/086,200号に対する優先権の利益を主張するものであり、その全内容をここに参照により組み込む。
【背景技術】
【0002】
多くの疾患は、血管内および心腔内に望ましくない物質、特には凝固塊または血栓が存在することによるものである。血管内の凝固塊は、血液細胞、コラーゲン、コレステロール、プラーク、脂質、石灰化プラーク、気泡、動脈組織、タンパク質の集合体(例:フィブリン)、および/または、その他種々の小片もしくはこれらの組み合わせから形成され得る。凝固塊は、例えば、主要臓器に供給を行う血管の狭窄部分を詰まらせ、それによりその周囲の組織に酸素を豊富に含む血液が流れなくなり、結果として局所的な細胞壊死または微小梗塞を起こすおそれがある。微小脳梗塞は、通常、意識障害、言語障害、麻痺、視覚障害、バランス障害を起こし死に至ることもある虚血性脳卒中である。心臓では、凝固塊によって心筋梗塞すなわち心臓発作が起こることがある。凝固塊が治療されず放置されると潜在的に生命を脅かす危険性があるため、血管内に凝固塊がある場合は迅速な医療の介入を必要とする。
【0003】
凝固塊は、通常、生物学的介入、外科的介入、またはこれら2つの組み合わせを利用して治療または除去可能である。生物学的治療法には、カテーテルによって直接凝固塊に作用剤を送達して、凝固塊を溶解する、または身体が凝固塊を排出できるまで少なくとも安定させるという方法がある。しかしながら、生物学的作用剤を用いる凝固塊の治療法の欠点は、身体の大部分がこの作用剤の影響を受け、命にかかわる出血性合併症を起こすおそれがある点である。
【0004】
これに代えて、またはこれに加えて、機械的手段を使用して患者の血管から凝固塊を取り除くことができる。機械的治療法には、通常、血管内の凝固塊の吸引、粉砕、および圧縮、そして最終的に、侵襲的手術によって、または吸引源(例えばポンプまたはシリンジ)に接続された吸引カテーテルを用いるなどの非侵襲的手段によって、凝固塊を除去することが挙げられる。侵襲的または非侵襲的な機械的治療法の明白な利点は、生物学的作用剤とは異なり、凝固塊に直接働きかけて身体の健常部分に影響を及ぼさずに血管閉塞を解消する点である。
【0005】
機械的・非侵襲的な凝固塊除去治療は、一般に血栓回収術に関連し、特には深部静脈血栓症(DVT)治療または頭蓋内遠位吸引などの抹消血栓回収術および静脈血栓回収術に関連する。
【0006】
血管吸引塞栓摘出術による急性虚血性脳卒中治療は、吸引によって凝固塊をカテーテルに引き込む吸引法を含み、血栓を捕捉・回収するために自己拡張性のステント状捕捉デバイスを展開するステントリトリーバを用いた機械的血栓回収療法と同程度に効果的であることが証明されている。吸引塞栓摘出術は、その技法の容易性および費用効率性の高さにより、神経内科医の大部分から支持を得てきた。
【0007】
吸引塞栓摘出術では、遠位吸引カテーテル(DAC)を使用して血管から凝固塊または塞栓が除去される。この技法の第1段階でカテーテルの遠位端が凝固塊の近傍に配置され、その後、ポンプまたは大容量シリンジを使用して、カテーテル内のルーメンを介して陰圧がかけられる。シリンジまたはポンプにより使用される吸引力によって、塞栓がDACの遠位部内に部分的に取り込まれるか引き込まれる。このような場合、すなわち、塞栓が部分的に取り込まれた場合、血管を再開通させるために、デバイスを繰り返し通過させなければならないことがある。
【0008】
しかしながら、吸引塞栓摘出術を受ける患者の良好な臨床転帰は、「ファーストパス効果」に一部依存することがある。「ファーストパス効果」は、初回の試みで塞栓を完全に除去することで、塞栓摘出デバイスを一度通すだけで対象の血管が完全にまたはほぼ完全に再開通することである。
【0009】
しかしながら血管内では、血栓が、フィブリンなどのタンパク質の架橋によって柔らかいゲル状の赤/紫色の凝固塊が固く白っぽい凝固塊に変容する器質化と言われる過程をたどることがある。また、凝固塊は、時間の経過とともに血流の順行方向圧力を受けて硬化体を形成することもある。硬くなった凝固塊は、時間の経過とともに、取り付けられたポンプまたは吸引シリンジキットで静的吸引(static suction)をかけた際に従来のDAC内に完全に取り込むことが困難になり得る、可撓性の低い大きな塊状の強固に根付いた成熟血栓に成長する可能性がある。したがって、従来のDACの静的吸引によって血栓/塞栓が部分的に取り込まれると、ファーストパス効果を得られる可能性が低くなり、血栓/塞栓を完全に除去するには従来のDACを再度挿通する必要がでてくる。
【0010】
さらには、除去中に、強固に根付いた成熟血栓/塞栓が砕け、その破片が血管内の他の部分に運ばれてしまう可能性もある。従来のDACを使用して大きな塊状の強固に根付いた成熟血栓を除去する際の上記のリスク要素は、「ファーストパス効果」の可能性を低減し、患者の臨床転帰にマイナスの影響を及ぼす。
【0011】
また、Solumbraテクニックとして知られる、ステントリトリーバと従来のDACとを組み合わせて使用する方法が、急性虚血性脳卒中に対する機械的血栓回収療法の一般的な手法となってきている。しかしながら、Solumbraテクニックが吸引塞栓摘出術単独よりもファーストパス効果が高まるということは示されていない。
【0012】
したがって、特に、強固に根付いた成熟血栓を除去し、DACデバイスを一度通すだけで血管を完全に再開通させて患者の臨床転帰を改善するために、静的吸引を使用する従来のDACに関する上述した問題点を少なくとも解決できる改良されたDACが求められている。
【発明の概要】
【0013】
本発明は、凝固塊を血管から完全に除去できるように凝固塊を疲労させるための、吸引カテーテルおよびその使用方法に関する。これらのカテーテルデバイス及び方法は、他では除去工程中に困難をきたすであろう、硬くかつ/または強固に根付いた凝固塊の場合に、特に有用なことがある。症例によっては、これらの実施形態および方法でカテーテルを一度通すだけで血管の再開通につながり得る。
【0014】
一実施形態では、吸引カテーテルが、凝固塊を疲労させるために使用可能なカテーテル先端を有するカテーテル本体と、カテーテル挿入後に内部に凝固塊を配置可能な、凝固塊保持空洞、凝固塊保持室、または凝固塊保持ルーメンとを備える。一例では、カテーテル先端がカテーテルの遠位端に位置し、凝固塊保持ルーメンが、少なくとも部分的にカテーテル先端内に位置する。凝固塊保持ルーメンが、カテーテルの近位端と遠位端との間に延在する主吸引ルーメンに接続または連通されており、少なくとも1つの遠位開口がカテーテル先端の遠位端より近位側に配置されて、凝固塊がカテーテル内に引き込まれ凝固塊保持ルーメン内に配置されることが可能である。
【0015】
カテーテル先端は比較的滑らかなものとすることができ、螺旋渦巻形状など、凝固塊の貫通または軟化を補助するように構成された形状を有することができる。一または複数の遠位開口は、カテーテル先端の中心から径方向にずれた単一の開口、またはカテーテルの遠位部周りに放射状に配置された複数の開口とすることができる。
【0016】
一般に、カテーテル先端をまず凝固塊内またはその近傍に前進でき、この凝固塊をカテーテルの遠位開口内から凝固塊保持ルーメン内に誘導するために吸引を実施することができる。一例では、カテーテルの主吸引ルーメンを介して遠位開口に向けて静的吸引が行われて、凝固塊が遠位開口内に少なくとも部分的に移動される。凝固塊の疲労または弱体化、およびカテーテルの主吸引ルーメン内への凝固塊のさらなる移動を補助するために、周期的吸引が実施できる。周期的吸引は、吸引開始時には近位側方向の力、停止時には逆の遠位側方向の小さな力を作用させる傾向があるため、周期的吸引によって凝固塊を少なくとも部分的にカテーテル先端内の凝固塊保持ルーメンに移動させやすくなることがある。凝固塊が部分的にまたは完全にカテーテルに取り込まれてから、カテーテルと凝固塊の両方を患者から除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
本発明の実施形態の可能な、上記および他の、態様、特徴、および利点が、以下の本発明の実施形態の説明から明らかになろう。添付の図面を参照する。
【0018】
【
図1】従来のDACを用いた急性虚血性脳卒中の治療としての吸引塞栓摘出術の斜視図であり、吸引力をかけて凝固塊が部分的に取り込まれている状態を示す。
【0019】
【0020】
【
図3】本発明のDACの実施形態の遠位部の側面立面図。
【0021】
【
図4】本発明のDACの実施形態の遠位部の端面図。
【0022】
【
図5A】本発明による、塞栓摘出術実施のためのDACの実施形態の使用方法のステップを示す図。
【0023】
【
図5B】本発明による、塞栓摘出術実施のためのDACの実施形態の使用方法のステップを示す図。
【0024】
【
図5C】本発明による、塞栓摘出術実施のためのDACの実施形態の使用方法のステップを示す図。
【0025】
【0026】
【
図7】本発明のDACの実施形態の遠位部の斜視図。
【0027】
【0028】
【0029】
【
図10】本発明による、塞栓摘出術実施のためのDACの実施形態の使用方法のステップを示す図。
【0030】
【
図11】本発明による、塞栓摘出術実施のためのDACの実施形態の使用方法のステップを示す図。
【0031】
【0032】
【詳細な説明】
【0033】
以下、添付の図面を参照しつつ、本発明の詳細な実施形態を説明する。しかしながら、本発明は多くの異なる形態で実現されてもよく、ここに記載する実施形態に限定されると解釈されるべきではない。これらの実施形態はむしろ、本開示が十分かつ完全なものとなるよう、また本発明の範囲が当業者に十分に伝えられるように提供される。添付の図面に示される実施形態の詳細な説明で使用される用語は、本発明を限定することを意図しない。図面において、類似の符号は類似の要素を指す。様々な実施形態が記載されるが、各実施形態の特徴は、記載された他の実施形態と相互に入れ替えて使用可能である。すなわち、各実施形態のいかなる特徴も互いに組み合わせることができ、実施形態は、図示または記載された特徴のみを含むと厳密に解釈される必要はない。
【0034】
凝固塊、血栓、および塞栓という用語は、本明細書内で相互に入れ替えて使用できる。これらの用語は一般に、血液細胞、コラーゲン、コレステロール、プラーク、脂質、石灰化プラーク、気泡、動脈組織、タンパク質の集合体(例:フィブリン)、および/またはその他種々の断片もしくはこれらの組み合わせの、塊状体または結合集団を意味する。
【0035】
上述したように、静的吸引力のみを使用する既存の吸引カテーテル法は、特に、吸引カテーテルを一度通すだけでは凝固塊を完全に吸引カテーテル内に引き込めないため、大型の強固に根付いた凝固塊を血管内部から除去するのに効果的でないことがある。例えば、大型凝固塊10を血管内部から除去するために使用される従来の遠位アクセスカテーテル(DAC)20を
図1に示す。DAC20は、通常、1.3(4F)mmから4(12F)mmの範囲の内径断面を有すると考えられる。本例では、凝固塊10が中大脳動脈に詰まって大規模な血管閉塞と急性虚血性脳卒中を起こしている。除去処置中、DAC20の遠位端が凝固塊10の近傍に配置され、取り付けられたポンプまたは吸引シリンジによってルーメンの近位端で陰圧がかけられて、凝固塊がDAC20の遠位部のルーメンに部分的に取り込みまたは吸引される。
【0036】
凝固塊10が強固に根付いている、かつ/または、DAC20の径より大きい場合、陰圧をかけるだけでは凝固塊10を完全に除去し血管を再開通させるのに効果的でない場合がある。つまり、デバイス20を一度通すだけでは凝固塊10を完全に除去できない場合がある。大径のDACを用いることおよび/またはより強力な陰圧をかけることも可能かもしれないが、大断面のDACは、遠位の頭蓋内血液循環を実現するために進入させる難易度が高く、血管腔に損傷を与え解離や血管痙攣を起こす可能性がある。
【0037】
本発明の一態様は、処置中にDACを一度通すだけで凝固塊を除去するべく既存のデバイスの欠点に対処しようとするものである。ここに記載する実施形態のうちいくつかは、凝固塊を疲労させること、凝固塊をカテーテル内へ移動させること、かつ/または患者からの安全な回収のために凝固塊をDAC内に確実に捕捉することを目的とした周期的吸引に関連して用いられる特定の構造的特徴を含み得るDAC(より一般的にはカテーテルとも称する)に関する。
【0038】
「凝固塊疲労」という用語は、一般に、凝固塊に機械的負荷をかけてその剛性、寸法、および/または粘着力を変更または低減して、凝固塊を部分的にまたは完全に崩壊させるプロセスと定義される。凝固塊を疲労させる処置を実施することで、凝固塊のカテーテル内への吸引および患者からの回収が特に容易になり得る。
【0039】
本発明のDACは、凝固塊の除去および血管閉塞の治療のためにあらゆる種類の血管に使用可能である。例えば、本発明のDACは、急性虚血性脳卒中、末梢動脈血栓症、肺塞栓症(例えば肺動脈)、深部静脈血栓症、体静脈循環(例えば、頸静脈、S状静脈洞、横静脈洞、上矢状および下矢状静脈洞、大静脈、骨盤静脈、大腿静脈、または鎖骨下静脈)、または動脈循環(例えば、大動脈またはその大分流や中分流)等の血管閉塞の治療のために使用可能である。
【0040】
いくつかの実施形態では、DACが、その吸引ルーメンの遠位開口より遠位側に延在する遠位先端を備える。遠位先端は、吸引ルーメンの一または複数の遠位開口内への凝固塊の物理的誘導を扶助するように、かつ/または、物理的接触により凝固塊疲労を誘発するように、構成されている。例えば、遠位先端の形状は、比較的滑らかな円錐形状、扁平円錐形状(例えば、概ねオーバルの断面)、吸引ルーメンの遠位開口に向かって軸方向に延在する凹部を備えた円錐形状、三角形状、比較的矩形の形状、螺旋形状、円錐螺旋形状、吸引ルーメンの一または複数の遠位開口に向かって軸方向に延在する複数の軸方向流路を備えた円錐形状、円筒形状、またはこれらの組み合わせもしくは類似の変種があり得る。
【0041】
DACは、その吸引ルーメンの一または複数の遠位開口を含むことができる。一または複数の遠位開口は、遠位先端より近位側に位置することができる(例えば、遠位先端の最遠位端から約5mmから25mm)。単一の遠位開口の例では、遠位開口は、遠位方向に、横方向に、または遠位方向と横方向の両方に関して角度(例えば、DACの軸に対して約45度)をつけることができる。一例では、単一の遠位開口が、軸から外れてまたは非放射対称位置に配置されてよい。言い換えると、遠位開口は、DACの一方側寄りに配置されてよく、その場合、任意選択的に遠位先端がDACの他方側寄りに配置可能でよい。
【0042】
別の例では、DACの吸引ルーメンに複数の遠位開口が含まれることが可能である。例えば、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、またはそれを超える数の開口が含まれ得る。これらの開口はすべて、周方向に異なるが長手方向に同じ位置、または、周方向にそれぞれ異なり長手方向に関して2つ以上の異なる位置(すなわち、いくつかの開口が他の開口よりも近位側にある)に配置可能である。
【0043】
一または複数の開口は、オーバル形、正方形、矩形など、様々な異なる形状を有してよい。さらに、これらの開口は、外側DAC壁の均一部分によって包囲可能である。あるいは、これらの遠位開口の一または複数の開口への凝固塊部分の誘導を扶助するように構成された、外側DAC壁の凹部または流路内に配置可能である。
【0044】
本明細書のいずれの実施形態でも、DACは、遠位先端の長さの少なくとも一部に沿って延在する谷部または長手方向凹部を含んでよい。この谷部または長手方向凹部も、内部空洞または吸引ルーメンに開口する一または複数の開口を含んでよい。これらの開口によって、凝固塊を先端に当接させて遠位開口内に引き込むことが促進されてよい。開口が複数の場合、これらが長手方向凹部の長さに沿って長手方向に配置されてよい。これらの開口の径はすべて同一であっても異なっていてもよく、例えば、凝固塊を遠位開口に引き込みやすくするために、近位側方向に向かうにつれて径が大きくなってもよい。あるいは、谷部または長手方向凹部が含まれなくてもよく、その代わりに、複数の開口が遠位先端の表面に沿って、吸引ルーメンに通じる遠位開口と並んで、または少なくともその付近に配置されてよい。
【0045】
吸引ルーメンは、一般に、遠位開口を含むDACの遠位端とDACの近位端(例えば、DACのカテーテルハブ上のポート)との間の流路を備える。シリンジまたはモータ駆動の吸引装置などの吸引源が、吸引ルーメンの近位端に接続または連通可能であり、これにより、吸引ルーメンに選択的吸引をかけることができる。
【0046】
吸引源、特にはモータ駆動の吸引装置は、処置中に吸引ルーメンに周期的吸引をかけるように構成可能である。周期的吸引は、一般に、吸引または掃引レベルを比較的すばやく連続的に増減させることを含み得る。例えば、吸引レベルを開始と停止で変化させること、またはそれに代えて、弱いレベルと強いレベルの間で変化させることができる。別の例では、吸引の周期を0.5秒から3秒の間の間隔(例えば、0.5、1、1.5、2、2.5、または3、そしてこれらの組み合わせ)で行うことができる。
【0047】
さらに周期的吸引に関して、DACは、周期的吸引で使用される場合にDAC内に凝固塊を包含または捕捉することを扶助する一または複数の特徴を含んでよい。例えば、DACの遠位部が部分的にまたは完全に空洞でよく、遠位部は、吸引増加時に凝固塊を吸引ルーメンに取り込みやすくし吸引の減少または停止時に凝固塊を遠位部の内部ルーメンまたは内部空洞に放出しやすくする複数の表面を含んでよい。したがって、凝固塊がDACの遠位部の内部空洞に「捕らえ」られてよく、これにより、DACが患者から抜去される際に凝固塊が流失または落下しにくい。
【0048】
DAC100の具体的な一実施形態が
図2~
図5Cに見られ、遠位先端102を備えるDAC100の遠位部140と、DAC100の吸引ルーメン101の遠位開口120とを含むことができる。後述するように、遠位先端102および遠位開口120が、遠位先端102を使用して任意選択的に凝固塊を疲労させ凝固塊の遠位開口120内への誘導を扶助できるように、DAC100の長手方向軸の両側に配置されている。さらに、遠位先端102は、吸引ルーメン101と連通し特に周期的吸引を用いる際に凝固塊を内部に部分的にまたは完全に引き込み可能な、DAC100内のルーメンまたは内部空洞110を含むことができる。内部空洞110は、内部凝固塊保持空洞と称されてもよい。
【0049】
遠位先端102は、一般に、DAC100の遠位部140の端部の最遠位構造体を構成する。本実施形態では、遠位先端102は、DAC100の長手方向軸からずれて、DAC100の一方側寄りに配置されている。このオフセット位置により、遠位先端102は、凝固塊が遠位開口120に対面配置されやすいように凝固塊の周辺またはその側方に円滑に進むことができることがある。丸みを帯びた遠位端102Aと遠位開口120に隣接する傾斜遷移領域102Bとによってさらに、吸引ルーメン101を介した吸引の前またはその最中に凝固塊を遠位開口120に対面配置しやすい場合がある。
【0050】
しかし代替的には、遠位先端102の形状によっては、遠位先端102が、DAC100の長手方向軸の周りに、または部分的にその周りに、概ね放射対称的に(すなわちデバイスの中央に)配置されてもよい。
【0051】
本実施形態の遠位先端102は、丸みを帯びた閉止端102Aで終端する概ね円錐または円筒の形状を有する。しかし代替的には、遠位先端は、扁平円錐形状(例えば、概ねオーバルの断面)、吸引ルーメン101の遠位開口120に向かって軸方向に延在する外表面内の凹部または谷部を備えた円錐形状、三角形状、比較的矩形の形状、螺旋形状、円錐螺旋形状、円筒形状、またはこれらの組み合わせもしくは類似の変種の形状を有してもよい。遠位先端の長さは、約1mmから5mmの範囲内でよい。
【0052】
いくつかの実施形態では、遠位部140が内部/内側のルーメン/室/空洞110を含むことができる。内部空洞110は、少なくとも部分的に遠位開口120より遠位側に位置し、吸引ルーメン101と連通しており、それにより、特に本明細書で後述するように周期的吸引が使用された場合に、内部空洞110を使用して少なくとも部分的に凝固塊を捕捉することができる。例示的な本実施形態では、
図5A~
図5Cに点線で示すように、内部空洞110が、少なくとも部分的に中空の遠位先端102内に位置しており、吸引ルーメン101と連続的な流路を形成している。内部空洞110は、遠位先端102の長さ全体に亘って、またはその長さの一部のみに沿って延在することができる。内部空洞は比較的均等な円筒または円錐形状として図示されているが、オーバル断面形状などの他の形状も可能である。さらに、内部空洞110の内側表面は、凸部や、環状体、波状体、フック、ピン、または所定位置についた凝固塊を係留するのに役立つ同様の特徴を有してよい。
【0053】
吸引ルーメン101の遠位開口120は、遠位先端102の近位端の付近に配置可能である。本実施形態では、遠位開口120がDAC100の一方側寄りに、DAC100の長手方向軸からずれて、遠位先端102とは反対側に配置されている。しかし代替的には、遠位先端102の位置および形状によっては、遠位開口120が、DAC100の長手方向軸の周りに概ね放射対称的に(すなわち、デバイスの中央で遠位先端の一部周囲または全周に)配置されてもよい。
【0054】
遠位開口120は、その寸法を最大化しやすいように概ね半円形にできるが、円形やオーバル形など、異なる形状やこれより小さいまたは大きい寸法も可能である。
【0055】
また、遠位開口120は、その開口部がDAC100の長手方向軸に対して様々な角度で構成されてよい。本実施形態では、遠位開口120は、DAC100の長手方向軸に対して約45度でバイアス・カットされているかこの角度の平面122を構成している(
図3において最もよく見ることができる)。
図2に示す遷移領域102Bが、遠位開口120と同様の、またはそれより大きいもしくは小さい角度の面を構成してよい。また、90度(すなわち直角)、315度(
図2の角度と反対の角度)、15度、25度、75度、またはこれらの値から10パーセント以内のあらゆる角度など、他の角度の遠位開口120も可能である。
【0056】
図3の45度の遠位開口120、または近位側に向かうにつれて高くなる同様の角度の開口であれば、凝固塊を遠位開口120により良好に対向配置するために凝固塊に当接して滑り込みやすくなることがある。315度など近位側に向かうにつれてDAC100の断面中心方向内側に向かう傾斜の角度であれば、少なくとも部分的に遠位先端102に平行かつ対向して延在して凝固塊を両側で確保できることがある。
【0057】
図12に見られるように、いくつかの実施形態では、DAC100が、遠位先端102の長さの少なくとも一部に沿って延在する、谷部または長手方向凹部を含んでよい。また、この谷部または長手方向凹部が、内部空洞110または吸引ルーメン101に開口する一または複数の開口121を含んでよい。これらの開口121により、凝固塊を遠位先端102に当接させて遠位開口120内に引き込みやすくなることがある。開口121が複数の場合は、複数の開口121が長手方向凹部の長さに沿って長手方向に配置されてよい。これらの開口121の径はすべて同一であっても異なっていてもよく、例えば、凝固塊を遠位開口120に引き込みやすくするために、近位側方向に向かうにつれて径が大きくなってもよい。あるいは、谷部または長手方向凹部が含まれなくてもよく、その代わりに、複数の開口121が遠位先端102の表面に沿って、吸引ルーメン101に通じる遠位開口120と並んで、または少なくともその付近に配置されてよい。
【0058】
DAC100は、遠位開口120とDAC100の近位端(例えば、DAC100のカテーテルハブ上のポート、図示せず)との間に延在する吸引ルーメン101を形成する外側管状壁160を少なくとも有するように、既知のカテーテルの製造方法にしたがって作製可能である。DAC100は、その遠位端側ほど近位端よりも可撓性が高くなることが望ましい場合がある。これは、カテーテル壁160の各部を異なる材料で構成することにより実現できる。例えば、近位壁部160Bが遠位壁部160よりも剛性の高い材料を含んでよく、遠位先端102および/または丸みを帯びた遠位端102Aがさらに可撓性の高い材料で構成されてよい。
【0059】
このような異なる剛性を実現するための方法の1つは、
図7に見られるように、近位壁部160Bを作製するための第1硬度の第1材料の管体を、遠位壁部160Aを作製するための第2材料からなる別の管体に融着することである。近位部160の径と遠位部140の径とを同様または同一にして、近位壁部160Bを面150で遠位壁部160Aに融着可能である。DAC100の遠位部160Aは、PeBaxまたは他の熱可塑性樹脂など、DAC100の耐久性に妥協することなく進入中に捻じれにくくしなやかな、いかなる材料でも作製できる。DAC100の近位部160Bは、PTFEなど、近位部160の剛性を高めるための編組ポリマーまたは強化ポリマーを含んでよく、それにより、剛性が高められ、近位壁部160Bにハンドル(図示せず)が良好に取り付けられてよい。
【0060】
任意選択的に、本明細書のどのDACにも、X線不透過性マーカーを含むことができる。これらのマーカーは、DACの最遠位端またはその付近、遠位開口の周りまたはその付近、および、遠位開口より近位側の一または複数の位置に配置可能である。DAC100の実施形態に戻ると、
図6に、遠位先端102の遠位端部分102Aまたはその内部に配置された第1X線不透過性マーカー104を示す。これに代えて、またはこれに加えて、遠位先端102に沿った他の位置にマーカー104を配置可能である。
【0061】
DAC100の遠位開口120は、
図6に見られるように、遠位開口120の縁にまたはこの縁に沿って配置されたX線不透過性マーカー124を含むことができる。これにより、医師が、開口の角度およびX線不透過性マーカー104からの相対距離を確認できてよい。代替的には、マーカー124は、遠位壁部160Aのうち遠位開口120の遠位端または近位端付近に配置されるまたは埋め込まれることが可能である。X線不透過性マーカー帯104、124は、X線不透過性材料、プラチナ、タンタル、または同様の金属から構成されてよい。
【0062】
本明細書の各DACは、凝固塊10を完全に除去し凝固塊が詰まった血管を再開通させるために、静的吸引(すなわち一定の吸引陰圧)、周期的吸引力(すなわち、高吸引力と低吸引力/吸引力無しとを繰り返す吸引力)、またはこれらの組み合わせで使用可能である。
【0063】
周期的吸引の場合は、一般に「ウォーターハンマー効果」と言われる現象が実現され得る。通常、ウォーターハンマー効果とは、運動中の流体がその方向の転換または急停止を強いられた際の、配管システムに広がる液体導管における圧力急上昇または高圧力衝撃波のことである。本発明に関しては、このような圧力急上昇または衝撃波によって、吸引ルーメン内の流体が、ごく短時間、吸引とは反対の方向に移動することがある。換言すると、吸引中は流体が吸引ルーメン内で吸引源に向かって近位側に移動することになるが、吸引が急に停止または減少されると、圧力衝撃波によって凝固塊(および場合によっては少量の流体)が遠位側方向に押し戻されることがある。
【0064】
ウォーターハンマー効果の結果どうなるかが、
図5A~5CのDAC100の実施形態において最もよく分かる。
図5Aでは、吸引が開始されて、凝固塊10が少なくとも部分的に遠位開口120内に移動するまで凝固塊が近位側に移動されている。吸引が急に停止または減少されると、圧力衝撃波が
図5Cの矢印のように生成される。これにより、凝固塊が遠位先端102の内部空洞110内に押し込まれる。このウォーターハンマー効果を実現するための吸引周期は、一度だけ必要とされてもよく、あるいは、凝固塊10を内部空洞110内の所望の位置に配置するために、複数回(例えば、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、またはそれより多い回数)実施されてもよい。このように内部空洞110内に凝固塊10を配置することで、凝固塊10がより確実に捕捉される可能性があるため、DAC100が患者から抜去される際に凝固塊10がDAC100から滑落するのをより防止できる可能性がある。
【0065】
このウォーターハンマー圧力波に代わるものとして、少なくとも凝固塊を内部空洞110に移動する目的では、初めに一定時間近位側方向の吸引をかけてから遠位側方向に遠位側圧力を短時間かける(吸引ルーメン101内での逆流)ことでも実現できる可能性があることに留意されたい。
【0066】
完全を期すため、
図2~
図7のDAC100を用いた方法を以下にさらに記載する。しかしながら、この方法は、本明細書に記載の実施形態および/または変形形態のいずれでも実施可能であることを理解されるべきである。
【0067】
ガイドワイヤおよび/または搬送シース(DAC100の図面には図示せず)が、まず、これらによってDAC100の遠位先端102が凝固塊10の付近に配置されるように、患者の体内に展開されてよい。例えば、DAC100が、ガイドワイヤに被せられた状態で(例えば、吸引ルーメン101または別のガイドワイヤルーメンに通して)対象の血管に挿入され、凝固塊10に向けて前進されてよい。あるいは、遠位端が凝固塊10の付近に配備されるように配置されたシース内をDAC100が前進されることも可能である。DAC100のX線不透過性マーカー帯104、124を使用して、凝固塊10に対してDAC100が適切に配置されたことを確認することができる。
【0068】
図5Aに見られるように、遠位先端102が凝固塊10の側方に配置されるようにDAC100がさらに遠位側に前進される。これに代えて、またはこれに加えて、遠位先端102の形状に応じて、遠位先端102が凝固塊10の内部にまたはこれを貫通して配置されてもよい。任意選択的に、凝固塊を物理的に移動させて凝固塊疲労を誘発するために、遠位先端102を(近位側方向、遠位側方向、または横方向に)動かしてもよい。
【0069】
凝固塊10が遠位開口120の付近またはこれに当接して位置すると、凝固塊10がDAC100の吸引ルーメン101内に少なくとも部分的に取り込まれるように(
図5Bに示すように)、吸引ルーメン101の近位端に接続された吸引源が作動される。
【0070】
これは、静的吸引または周期的吸引によって実現されてよい。特に、凝固塊が遠位開口120を通過しにくい大きさや構成である場合、この時に周期的吸引をかけることで、凝固塊10の疲労が促進される場合がある。とりわけ、周期的吸引から生じるウォーターハンマー圧力波によって、凝固塊疲労が誘発されるような0-1Nの範囲の、凝固塊に対する動的垂直抗力が生成されやすくなることがある。一般に、0.5Nを超える力が多くの場合に適切だと考えられる。このような値の圧力が静的な力ではなく、むしろ瞬間的に、ウォーターハンマー圧力波に特徴づけられる動的/急激な傾斜の形態でかけられることに留意することが重要である。したがって、初めの一定時間、凝固塊10を疲労させる圧力波を生成するために周期的吸引を実施し、その後、凝固塊10の少なくとも一部を吸引ルーメン101内に吸引するために、一定時間静的吸引をかけることが望ましい場合がある。
【0071】
凝固塊10が少なくとも部分的に吸引ルーメン101に取り込まれた後(
図5B)、周期的吸引が一定時間追加で行われてもよい。
図5Cに見られるように、周期的吸引で生成されたウォーターハンマー圧力波によって、凝固塊10の一部または全部が遠位側前方に押され、遠位先端102の内部空洞110内に押し込まれることがある。このように内部空洞110内に凝固塊10が配置されることで、凝固塊を所定位置に保持または確保しやすくなり、このことが、DAC100が患者の血管から近位側方向に抜去される際に特に有益な場合がある。状況によっては、凝固塊の一部がDAC100外に残っている場合や遠位側吸引がDAC100の近位側移動によって起こる場合には、この抜去動作によって凝固塊10への力が生成される可能性がある。
【0072】
DAC100の抜去後、血管の再開通がなされたかどうか確認するために、造影剤が注入されてもよい。
【0073】
上述したように、DACの先端は様々な異なる形状を有することができ、DACの吸引ルーメンに通じる遠位開口を複数有することができる。
図8及び
図9は、そのようなDAC200を示す。DAC200は、構造および機能の点で上述したDAC100と概ね同様であるが、DAC200の遠位部204は、渦巻(スパイラル)形状を含む遠位先端202を含むことができる。さらに、カテーテル本体206の吸引ルーメン212に通じる複数の遠位開口220を含むことができる。
【0074】
遠位先端202は、概ね渦巻形状または螺旋形状であり、DAC200の最遠位端に配置されている。換言すると、遠位先端202は、遠位先端202の長さに沿って螺旋状に渦を巻くスパイラル溝またはネジ山を備えた概ね円錐形である。一例では、遠位先端は約2mmから約10mmの間とすることができる。遠位先端202は、患者の血管の損傷を低減または防止する、ある程度柔らかい材料で構成されることが好ましい。
【0075】
遠位先端202は、小径の遠位先端202と大径のカテーテル本体206との間の比較的均一な連結インターフェースを形成する中間円錐部208に連結されている。前述したDAC100と同様に、中間円錐部208はその内部かつ遠位開口220より遠位側に、内部に凝固塊10を配置できる内側/内部空洞210を形成してよい(この内部空洞210を図中に点線で示す)。円錐部208の長さは、約3mmから約15mmの間とすることができる。
【0076】
内部空洞210は、遠位先端202の長さ全体に亘って、またはその長さの一部のみに沿って延在することができる。内部空洞は比較的均等な円筒または円錐形状として図示されているが、オーバル断面形状などの他の形状も可能である。さらに、内部空洞210の内側表面は、凸部や、環状体、波状体、フック、ピン、または所定位置についた凝固塊を係留するのに役立つ同様の特徴を有してよい。
【0077】
本実施形態では、遠位先端202が中間円錐部208およびカテーテル本体206に対して相対回転しない構成とされている。場合によっては、凝固塊10の係留および遠位開口220に向けた移動を行いやすくするためにDAC200全体を少なくとも部分的に回転させることが有用であることがある。しかし、遠位先端202が中間円錐部208および/またはカテーテル本体206に対して相対回転するようにDAC200が構成されてもよい。このような実施形態では、シャフトが遠位先端202に連結されカテーテル本体206の近位端まで延在してよく、この近位端で、シャフトが手動で回転可能またはモータ駆動の回転機構に接続可能である。
【0078】
複数の遠位開口220がカテーテル本体206の吸引ルーメン212に開口し、これらを介して凝固塊10を少なくとも部分的に吸引することができる。本実施形態では3つの遠位開口220が含まれるが、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、またはそれを超える数の遠位開口220も可能である。本実施形態の遠位開口220はすべてカテーテル本体206の遠位部204において長手方向に関して同じ位置に配置されているが、これらの遠位開口220のうち一または複数の開口が他の開口よりも長手方向に関して遠位側または近位側に配置されてよいことが意図されている。
【0079】
本実施形態のDAC200の遠位開口220は概ね矩形形状であるが、他の形状も可能である。例えば、円形、オーバル形、正方形、および同様の形状が可能である。比較的大型の凝固塊10を取り込むためには、各遠位開口が比較的大きな寸法であることが望ましい。複数の遠位開口220でこれを実現する方法の1つは、各遠位開口220のDAC200の軸方向長さをDAC200の周に沿った幅に対して長く構成することである。これにより、比較的大型の凝固塊を受け入れまたは取り込み可能にしつつ、より多くの開口220をDAC200の周の周りに備えることができる。
【0080】
このような対蹠的形状に加えて、他の形状や設計特徴も、所望の態様での凝固塊10の吸引ルーメン212内への移動を補助する遠位開口220の一部として含むことができる。例えば、本実施形態の遠位開口220が、低下面220Aを備える陥没領域または溝を形成する。低下面220Aは、陥没領域の遠位端の吸引ルーメン212に通じる開口に向かって遠位側方向に向かうにつれて径方向内側に向かうように角度をつけることができる。この点、このように遠位側ほど低くなる低下面220Aでは、周期的吸引が行われてウォーターハンマー圧力波が生成された際に凝固塊10が中間円錐部208の内部空洞210内により良好に移動されるように、凝固塊10が吸引ルーメン212内へ遠位側方向に誘導されやすくなることがある。代替的には、複数の遠位開口220が吸引ルーメン212に直接開口してもよい。
【0081】
図13に見られるように、いくつかの実施形態では、低下面220Aを備える陥没領域または溝も、内部空洞210または吸引ルーメン212に開口する一または複数の開口221を含んでよい。これらの開口221によって、凝固塊が低下面220Aへ、さらには吸引ルーメン212内へ引き込まれやすくなることがある。開口221が複数の場合は、開口221が低下面220Aの長さに沿って長手方向に配置されてよい。これらの開口121の径はすべて同一であっても異なっていてもよく、例えば、凝固塊を吸引ルーメン212内に引き込みやすくするために、近位側方向に向かうにつれて径が大きくなってもよい。あるいは、これに代えて、複数の開口221が、円錐部208の表面に沿って、吸引ルーメン212に通じる遠位開口220と並んで、または少なくともその付近に配置されてよい。
【0082】
図中には、カテーテル本体206の円筒側面に複数の遠位開口220が描かれている。しかしながら、一または複数の開口が、中間円錐部208など円錐の遠位側表面に配置されてもよい。
【0083】
前述の実施形態のように、X線不透過性マーカーを、遠位先端202の近傍またはその内部、あるいは複数の遠位開口220の付近に含むことができる。
【0084】
完全を期すため、DAC200の使用方法を以下にさらに記載し、
図10及び
図11に示す。しかしながら、この方法は、本明細書に記載の実施形態および/または変形形態のいずれでも実施可能であることを理解されるべきである。
【0085】
ガイドワイヤおよび/または搬送シース(DAC200の図面には図示せず)が、まず、これらによってDAC200の遠位先端202が凝固塊10の付近に配置されるように、患者の血管30内に展開されてよい。例えば、DAC200が、ガイドワイヤに被せられた状態で(例えば、吸引ルーメン201またはDAC200の別のガイドワイヤルーメンに通して)対象の血管30に挿入され、凝固塊10に向けて前進されてよい。あるいは、遠位端が凝固塊10の付近に配備されるように配置されたシース内をDAC200が前進されることも可能である。X線不透過性マーカー帯(上記実施形態で示したようなもの)を使用して、凝固塊10に対してDAC200が適切に配置されたことを確認することができる。
【0086】
図10に見られるように、遠位先端202が凝固塊10内に少なくとも部分的に位置するようにDAC200がさらに遠位側に前進される。任意選択的に、DAC200を回転するか、DAC200内のシャフト(含まれる場合)を介して遠位先端202を回転させて、遠位先端202を少なくとも部分的に回転させて凝固塊10内にねじ込んでもよい。
【0087】
凝固塊10がさらに遠位開口220に向けて移動されてDAC200の吸引ルーメン212内に少なくとも部分的に取り込まれるように(
図11に示すように)、吸引ルーメン212の近位端に接続された吸引源が作動される。
【0088】
これは、静的吸引または周期的吸引によって実現されてよい。特に、凝固塊が遠位開口220を通過しにくい大きさや構成である場合、この時に周期的吸引をかけることで、凝固塊10のさらなる疲労が促進される場合がある。とりわけ、周期的吸引から生じるウォーターハンマー圧力波によって、凝固塊疲労が誘発されるような凝固塊10への力が生成されやすくなることがある。したがって、初めの一定時間、凝固塊10を疲労させる圧力波を生成するために周期的吸引を実施し、その後、凝固塊10の少なくとも一部を吸引ルーメン212内に吸引するために、一定時間静的吸引をかけることが望ましい場合がある。
【0089】
凝固塊10が少なくとも部分的に吸引ルーメン212に取り込まれた後(
図11)、周期的吸引が一定時間追加で行われてもよい。周期的吸引で生成されたウォーターハンマー圧力波によって、凝固塊10の一部または全部が遠位側前方に押され、中間円錐部208の内部空洞210内に押し込まれることがある。このように内部空洞210内に凝固塊10が配置されることで、凝固塊を所定位置に保持または確保しやすくなり、このことが、DAC200が患者の血管から近位側方向に抜去される際に特に有益な場合がある。状況によっては、凝固塊の一部がDAC200外に残っている場合や遠位側吸引がDAC200の近位側移動によって起こる場合には、この抜去動作によって凝固塊10への力が生成される可能性がある。
【0090】
DAC200の抜去後、血管の再開通がなされたかどうか確認するために、造影剤が注入されてもよい。
【0091】
特定の実施形態およびこれらの実施形態の特徴を開示したが、本明細書に記載された特徴のいずれも、いかなる組み合わせでも使用可能であることを理解されたい。したがって、特定の実施形態を例として記載したが、本明細書に記載の特徴はいかなる態様でも混合および組み合わせが可能であることが意図されている。
【0092】
本発明を特定の実施形態および用途に関して記載したが、当業者は、この教示を踏まえて、特許請求の範囲に記載された本発明の精神から離れることなくまたその範囲を超えることなく、追加の実施形態および変形形態を生成することができる。したがって、これらの図面および明細書は、本発明の理解を容易にするために例として提供され、その範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【手続補正書】
【提出日】2023-07-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カテーテル本体と、
前記カテーテル本体内で前記カテーテル本体の近位部と前記カテーテル本体の遠位部との間に配置された第1ルーメンと、
前記カテーテル本体の前記遠位部に位置
し、前記第1ルーメンと流体連通する中空空洞を有する、閉止された遠位先端と、
前記第1ルーメンに開口し、前記遠位先端の近位端付近に位置する遠位開口と、を備える凝固塊除去
カテーテル。
【請求項2】
前記第1ルーメンに接続され、高吸引力と低吸引力/吸引力無しとを交互に提供する周期的吸引を行うように構成された吸引源をさらに備える、請求項1の凝固塊除去カテーテル。
【請求項3】
前記遠位開口と前記遠位先端とが、前記カテーテル
本体の長手方向軸を挟んで反対側に配置されている、請求項1の凝固塊除去
カテーテル。
【請求項4】
前
記遠位開口が、前記カテーテル本体の長手方向軸に対して15度から315度の範囲で角度をつけて配置されている、請求項1の凝固塊除去
カテーテル。
【請求項5】
前記遠位開口が、半円形、矩形、正方形、またはオーバル形の形状を備える、請求項1の凝固塊除去
カテーテル。
【請求項6】
前記遠位先端が、円錐形、円筒形、三角形、矩形、螺旋状、または渦巻状の形状を備える、請求項1の凝固塊除去
カテーテル。
【請求項7】
前記遠位開口が複数の遠位開口を備える、請求項1の凝固塊除去カテーテル。
【請求項8】
前記複数の遠位開口が、前記カテーテル
本体の外面内の流路内に配置されている、請求項
7の凝固塊除去カテーテル。
【請求項9】
前記遠位開口の縁に沿って配置されたX線不透過性マーカーをさらに備える、請求項1の凝固塊除去カテーテル。
【請求項10】
前
記遠位開口が、凝固塊を前記
中空空洞内に誘導するように遠位側方向に向かうにつれて径方向内側に向かって傾斜した低下面を備える陥没領域を備える、請求項
1の凝固塊除去カテーテル。
【請求項11】
前記複数の遠位開口が、長手方向に関して同じ位置または長手方向に関して互いに異なる位置に配置され
ている、請求項
7の凝固塊除去カテーテル。
【請求項12】
前記
複数の遠位開口が、前記カテーテル本体の軸に対して0度から90度の間にある、請求項
7の凝固塊除去カテーテル。
【請求項13】
前記遠位開口の高さが近位側に向かうにつれて高くなる、請求項1の凝固塊除去カテーテル。
【請求項14】
前記カテーテル本体に形成され前記遠位先端から近位側にずれた陥没領域をさらに備える、請求項1の凝固塊除去カテーテル。
【請求項15】
前記陥没領域が、前記第1ルーメンに開口する一または複数の開口を備える、請求項14の凝固塊除去カテーテル。
【国際調査報告】